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SENSHI 鋼鉄の戦風 (空白、行間等修正) 青作戦 ドイツ軍東部戦線は多大な犠牲を出すもソ連軍の冬季攻勢から持ちこたえた。ヒトラ ーはソ連軍の継戦能力をそぎ取るためコーカサスの油田に次の目標を定め、この作戦を 「青作戦」と名付けた。6月28日ドイツ軍は攻勢開始時において敵大部隊を補足し包 囲せん滅する計画だったがソ連軍は既にドン河東岸へと撤退していた。ドイツ軍はドン 河を越え侵攻するもソ連軍は殆ど戦わず退却していった。ドイツ軍は当初の作戦内容を 変更しコーカサス攻略を担当するA軍集団とスターリングラード方面に退却したソ連軍 を担当するB軍集団に分けられ新作戦が開始された。A軍集団は抵抗を受けるも急速に 南下していき8月にはコーカサス山脈を越えたが、補給の不足から目標の直前で進撃が 止まった。 一方スターリングラードのB軍集団はスターリングラード市内に立てこもったソ連軍と 市街戦を繰り広げていた。ソ連軍は増援を繰り返し抵抗したが、10月末にはスターリ ングラードはほぼドイツ軍の手に落ちた。しかし11月中旬からソ連軍はドイツ軍の側 面に大攻勢をかけドイツ軍を圧倒し包囲した。ドイツ軍は包囲された友軍を救うために 「冬の嵐作戦」を発動した。救出部隊はスターリングラードの60キロ手前まで迫った が、ソ連軍の抵抗が激しく自らも包囲される危険が生じたため作戦は中止されスターリ ングラードのドイツ軍は翌年1943年2月に降伏した。 蘭印攻略 マレー・シンガポール攻略・フィリピン攻略と南方作戦を進めていった日本軍の最終 目標は蘭印(現インドネシア)を占領しその豊富な資源を得ることだった。1942年 1月から蘭印攻略戦は始まった。次々とそれぞれの島を攻略していき2月末にはジャワ 島を残すのみとなった。ジャワ島上陸は3月1日に実行された。その直前に連合軍の艦 隊がスラバヤ沖にて上陸阻止に向かってきたが日本軍の護衛艦隊により主力艦を撃沈さ れ退けられた。撃沈を免れた艦もバタビア沖で輸送船団を攻撃しようとして逆に撃沈さ れた。この「スラバヤ沖海戦」「バタビア沖海戦」の勝利により上陸部隊は予定通り上 陸に成功し3月10日にはバンドンを占領したことにより蘭印軍は降伏した。 珊瑚海海戦・ミッドウェイ海戦 南方作戦で成果を収めた後、軍令部と連合艦隊司令部では次の侵攻目標の選択で意見 が違っていた。 軍令部側はフィジー・サモア方面に進出して米豪遮断作戦を主張し、連合艦隊側はミッ ドウェイ島の攻略と同時に米機動部隊を誘い出し撃滅させると主張した。軍令部と連合 艦隊司令部の話し合いはまったく進展を見なかった。そのような状況下で1942年4 月18日、空母から飛び立ったB25爆撃機により東京初空襲が行われた。この空襲が 空母撃滅案の追い風となり5月5日「ミッドウェイ・アリューシャン作戦」が 発令されるのである。 このころ既に決定されていた海からのポートモレスビー攻略を実行すべく「翔鶴」「 瑞鶴」「祥鳳」の3隻の空母を中心とする部隊は目的地に向かった。日本海軍の暗号を 解読し日本軍のポートモレスビー攻略を知ったアメリカ海軍は「ヨークタウン」「レキ シントン」の2隻の空母を用意した。5月7日から8日にかけ両軍はお互いに空母を叩 きあった。その結果はアメリカ軍の被害は「レキシントン」撃沈「ヨークタウン」大破 、日本軍の被害は「翔鶴」大破「祥鳳」撃沈というものだった。戦いは正規空母1隻を 撃沈した日本軍の勝利に見えるが、航空機、人材の消耗が激しく空母の損傷も大きいた めポートモレスビー攻略は中止せざるを得なかった日本側の戦略的敗北であった。。さ らにミッドウェイ海戦に「翔鶴」「瑞鶴」の両空母を参加させられなくなったのも大き な損失だった。 5月下旬、日本からミッドウェイ攻略部隊が出港した。その内容は「赤城」「加賀」 「蒼龍」「飛龍」の4隻の空母を中心とした艦艇150隻以上の大艦隊であった。アメ リカ側は暗号解読により日本軍のミッドウェイ侵攻を知ったため「エンタープライズ」 「ホーネット」の2隻の空母と珊瑚海海戦で大破した「ヨークタウン」を2日で修理し 合計3隻の空母を配備した。 日本軍は6月5日第一次攻撃隊を発進させミッドウェイを爆撃した。その一方アメリ カ軍機動部隊を発見するために索敵機を発進させ、発見の場合は艦船攻撃用の装備をし た第二次攻撃隊が攻撃を行う予定であった。しかし第一次攻撃隊からミッドウェイへの 第二次攻撃の必要性が打電され、これまで敵艦隊発見の連絡が入っていなかったため司 令官の南雲中将は第二次攻撃隊に陸上攻撃用の装備に変換させるよう命令した。 このような状況の中、索敵機から敵艦隊発見の報を受け南雲中将は第二次攻撃隊の装備 を戻すように命令した。そこに一次攻撃隊の帰還が重なり作業が遅れ、第二次攻撃隊の 発艦準備が終わったときに米軍機が日本空母に襲いかかったのである。「赤城」「加賀 」「蒼龍」は即、餌食となり残った「飛龍」は攻撃機を発艦させ「ヨークタウン」にダ メージを与えるも、攻撃を受け大破し味方駆逐艦により処分された。 日本軍はこの戦いで空母4隻と多数の航空機とそのベテラン搭乗員を失い、太平洋での 制海権、制空権を二度と取り戻すことはできなかった。 ソロモン・ガダルカナルでの戦い 日本軍は米豪遮断作戦のためニューギニアから珊瑚海を挟んで東側にあるソロモン諸 島の一つガダルカナル島に飛行場を建設していた。7月末にはほぼ完成したのを見た連 合軍は速急に大軍を送り込んだのである。 1942年8月7日、2万名ものアメリカ軍上陸部隊がガダルカナル島に上陸した。3 00人程度の日本軍守備隊はなすすべもなくジャングルに逃げ込んだ。これに対し日本 軍はラバウルの第8艦隊を派遣した。第8艦隊はガナルカナル島海域で米艦隊と遭遇し 重巡洋艦4隻を撃沈するなど大きな戦果を挙げた。さらに日本軍はガナルカナル島を再 奪取すべく上陸部隊を送ったが全滅し、続いて行われる上陸作戦を成功させるべく空母 「翔鶴」「瑞鶴」軽空母「龍驤」を主力とする第3艦隊を増援に送った。アメリカ軍も 空母「サラトガ」「ワスプ」「エンタープライズ」の3隻を展開していた。両軍はお互 いに空母を叩きあい、日本側は「エンタープライズ」を中破させ、アメリカ側は「龍驤 」を撃沈した。このあと上陸部隊が上陸を試みたが航空機による攻撃を受け被害を出し 作戦は失敗した。日本軍は8月末増援の上陸に成功し飛行場奪取のための作戦を実行し たがアメリカ軍の強力な火力の前に敗北した。 日本軍はこの状況の打破のために大量兵力の輸送計画とその補給経路確保のための作 戦を繰り返した。 日本軍が制空権の確保のため空母4隻を主軸とする機動部隊を投入した南太平洋海戦で は米空母「ホーネット」を撃沈、「エンタープライズ」を大破したが、日本側も大きな 損害を受けた。さらに大量の兵員の上陸とその支援のために戦艦「霧島」「比叡」を中 心とする艦隊を派遣するも、アメリカ軍との激しい戦いで半数も上陸に成功しなかった 。上陸した部隊も圧倒的なアメリカ軍の火力の前に大損害を受けさらに補給の不足から 戦える状態にはなくなっていった。大本営は1942年12月8日、撤退を決定した。 日本軍の戦死者2万名、うち1万5千名が餓死または病死だといわれている。 1943年 アフリカ戦線 2月上旬までにロンメル率いるアフリカ軍団はチュニジアのマレトまで一気に後退し た。ドイツ・イタリア軍はこの時までにかなりの戦力を増強させており、反撃の機会を 狙っていた。2月14日、ドイツ・イタリア軍の反撃はカセリーヌ方面のアメリカ軍に 向けられた。17日にはガフサを占領した。さらにドイツ・イタリア軍はターラ方面に 兵を進めたが、連合軍は堅固な守備でこれを阻止し、2月22日にドイツ軍は撤退を始 めた。ロンメルはヒトラーにアフリカ軍団のヨーロッパへの撤退を提案するが、アフリ カ方面からの連合軍のヨーロッパ侵入を恐れこの提案は却下されロンメルは解任された 。3月後半から連合軍による大攻勢が始まりマレトからドイツ・イタリア軍はワジ・ア カリト陣地まで撤退した。補給線を断たれたドイツ・イタリア軍は連合軍の攻勢を防ぐ ことはできず、5月13日、アフリカ軍団は降伏した。 ハリコフ・クルスクの戦い 昨年冬からのソ連軍の大攻勢はスターリングラードにてドイツ軍を破り、各地のドイ ツ軍を後退させて、2月上旬にはハリコフを奪還した。それに対してドイツ軍は、兵力 をフランス方面から補充して反撃の機会をうかがっていた。ドイツ軍は2月19日ソ連 軍の攻勢が限界に達したと判断し反撃を開始しソ連軍を壊滅させハリコフを再占領する ことに成功した。そしてさらなる戦果をあげるためドイツ軍は進撃を続けたが、雪解け による泥濘がドイツ軍の行動を停止させた。その後ドイツ軍はソ連軍との決戦に備え戦 力を充実させていった。7月5日、ドイツ軍の作戦が開始され2500両以上の戦車が クルスクを包囲する形で南北からなだれ込んだ。 それに対するソ連軍は堅固な防衛ラ インを構築しており、ドイツ軍は前進のたびに大出血し、北上部隊、南下部隊ともに大 被害を被っており、7月13日には作戦の中止が決定されドイツ東部戦線ではこれ以上 の攻勢が行われることはなかった。物量の豊富なソ連軍はドイツに対する攻勢を続け、 消耗しきったドイツ軍を西へ西へと後退させていった。戦線はドイツ国境に近づき始め るのである。 日本の状況 1943年日本軍は前年の珊瑚海・ミッドウェイ・南太平洋海戦での機動部隊の損害 が激しく、この年はほとんど作戦に空母は参加させることができなかった。日本軍は2 月には南方連合軍の航空兵力及び艦隊を撃破するために残った航空戦力を南方基地に集 中させ攻撃を繰り返したが、増強されたアメリカ軍航空部隊の前に作戦は空振りに終わ った。さらに前線の激励・視察のために航空機に乗り移動中だった山本五十六連合艦隊 司令が暗号解読によりその行動を連合軍に知られ、その搭乗機を撃墜され戦死した。日 本は敗戦への坂を転がり落ちていくのである。 1944年 ノルマンディーの戦い 1944年6月初頭、東部戦線ではドイツ軍はソ連軍の攻勢に押され次々と後退して 行くばかりであった。 そして第2戦線として連合軍はノルマンディー上陸作戦を開始するのである。ドイツ軍 はこれを予想していたが、東部戦線の戦況の悪化のため有力部隊はほとんどフランスに は残されていなかった。6月4日ノルマンディーへの上陸が決定され、6月6日午前に まず空挺部隊がノルマンディーに降下し、つぎに海岸に上陸部隊が到達し侵攻を開始し た。ドイツ軍は混乱しており上陸部隊に対し効果的な反抗はできなかった。ドイツ軍は 午後になり混乱から回復し攻撃を開始するが連合軍の空軍力のために海岸方面に移動で きない有り様だった。しかし、内陸部に連合軍が進出するにつれドイツ軍の機甲部隊に よる攻撃は激しくなり連合軍の前進は遅れていった。 この状態の打破のために連合軍は7月25日、サン・ロー方面で攻勢をかけた。徹底的 な絨毯爆撃によりドイツ軍は壊滅し、連合軍はこの開いた突破口からなだれ込んだ。ド イツ軍は兵力を集中しこれに対処しようとしたが、またもや連合軍航空機のために満足 に反撃できなかった。さらに連合軍はファレーズまで兵を進め激しい攻防戦の末、ドイ ツ軍を包囲壊滅させた。ドイツ軍10万名のうち半数は包囲の不完全なうちに脱出に成 功したが、1万人が戦死し4万人が捕虜となったのである。 連合軍の東進 ノルマンディーに上陸した連合軍はその後進撃を続け、8月25日パリを解放した。 そして連合軍は敗走するドイツ軍を東へと追撃していった。しかしながらドイツ国境の 手前まで来たところで補給線が伸びきり、そこで連合軍の進撃は停止した。ドイツ軍は その間に国境の守備の強化を急いだ。そして連合軍の進撃が再開され、英国元帥モント ゴメリーの主張する「マーケット・ガーデン作戦」が行われた。この作戦は強化された ドイツ国境を避けオランダ方面から兵を進めるというものであった。作戦は9月17日 に川の多いオランダで多数の橋を確保するために史上最大規模の空挺部隊の降下から始 まった。空挺部隊はおおむねその目標を達した。そして地上軍の侵攻が始まったがドイ ツ軍は本国に戦場が近かったため、連合軍の予想を上回る兵力を投入することができ、 各地で連合軍は前進を阻まれ9月の下旬に入ると作戦の続行は不可能となった。 バルジの戦い ヒトラーは度重なる敗戦の中、最期の奇跡を呼び込もうとしていた。それは一度の大 勝利により連合軍の継戦意欲をそぐというものであった。ドイツ軍はかつての電撃戦の 出発地点アルデンヌにて攻勢を行った。連合軍はこの攻撃を全く予想しておらず混乱を 生じたが、ドイツ軍は練度が低い兵が大部分だったため、これに乗ずることはできなか った。ドイツ軍は体制を整え直した連合軍の前にほとんど前進することはできなく、奮 戦していた部隊も次々と来る連合軍の増援の前に破れ去り、翌年1945年1月上旬に はドイツ軍は後退し始めたのだった。 インパール作戦 1943年初春、ビルマを制圧した日本軍の戦線は比較的平穏だった。しかし300 0名の英印軍が突如中部ビルマに現れしばらく混乱が続いた。この部隊はインドからア ラカン山脈を越えてビルマに侵入したことが判明しこれを重大視した現地司令官牟田口 中将はその部隊の基地インパール占領を大本営に進言した。この作戦には補給上の問題 から否定的な意見があったため作戦開始が遅れたが、1944年3月作戦に実行される に至った。日本軍は1カ月ほどでインパール近くまで進出し包囲する形となったが、用 意した食料はほとんど尽き、補給線も伸びきっている状態であった。一方インパールに 立てこもる英印軍は空中補給により物資の不足はなかった。司令官牟田口中将は撤退を 進言する部隊長達を次々と更迭し自分は徹底抗戦を叫んでいた。作戦は7月にようやく 中止されたが、日本軍には撤退するための食料も存在しなく、撤退中に力つきるものが 続出した。この作戦で日本軍は6万5千名もの死者を出したのであった。 マリアナを失う 日本軍がソロモンで大量の戦力を失った後、太平洋はアメリカ軍の独壇場であった。 1944年5月、日本軍は南方に進出してくるアメリカ軍を動員しうえる最大限の戦力 をもって壊滅させるという「あ号作戦」が計画した。1944年5月末、アメリカ軍は 西ニューギニア方面に兵を進めてきた。日本軍はアメリカ軍主力がニューギニアの北パ ラオ方面に向かってくると考え、艦隊を派遣した。しかし、6月に入り今度は機動部隊 がサイパン・グアム方面に現れ空襲を繰り返し、6月15日にアメリカ軍がサイパンに 上陸を開始したことから、こちらがアメリカ軍の目標と判断し「あ号作戦」を発令する のである。日本軍は持てる限りの海上戦力をここに投入し、6月19日にアメリカ軍機 動部隊を発見し艦載機による攻撃を仕掛けた。しかし、アメリカ軍のレーダーに捕捉さ れ、大量の迎撃用戦闘機と強力な対空砲火により壊滅状態となった。そして、日本軍機 動部隊を発見したアメリカ軍は、260機の航空機で攻撃し日本軍機動部隊を叩きのめ したのである。これにより日本はマリアナ方面の守備力の全てを失い、マリアナ諸島を アメリカ軍に奪われるのである。 捷一号作戦 マリアナで機動部隊の航空戦力の大半を失った日本軍は、フィリピン防衛のために残 っている戦艦群で敵上陸部隊へ艦砲射撃を行う計画しかなかった「捷一号作戦」である 。当然、フィリピン方面の制空権はアメリカ軍の手の内にあり極めて自殺的な計画であ った。1944年10月17日、連合軍はフィリピンに上陸を始めた。日本軍は「捷一 号作戦」を発動し戦艦5隻を中心とした艦隊を派遣するのである。派遣された艦隊はフ ィリピン方面に向かうまでにアメリカ軍機動部隊に補足され航空機による攻撃を受け戦 艦「武蔵」を失うなどの被害を受けたが、やりすごしてフィリピンのレイテ湾突入をめ ざした。日本軍は栗田中将率いるこの艦隊をレイテ湾に無事突入させるために、小沢中 将率いる機動部隊をおとりにする事を計画し実行した。計画は成功し小沢艦隊がアメリ カ機動部隊に攻撃される中、栗田艦隊はレイテ湾に肉薄していった。だが栗田艦隊はサ マール沖でアメリカ艦隊と一戦を交えた後、レイテ湾に突入せず反転していったのであ る。これにより日本海軍の賭は大失敗に終わるのである。 1945年 ベルリン陥落 西からは連合軍がライン川を越えドイツ国内に侵入し、東からもソ連がポーランドを 越えドイツ国内に侵入した。そして連合軍間での取り決め通りベルリンへの制圧はソ連 が担当するのであった。4月16日ベルリンに対する総攻撃が開始されベルリン周辺の ドイツ軍は圧倒的な兵力を誇るソ連軍に排除され、4月25日にはベルリンは包囲され た。残存ドイツ軍はベルリンの救出を開始するが、いずれも散発的なものに終わった。 絶望を感じたヒトラーは4月30日妻のエバとともに自殺した。そしてヒトラーに新総 統に指名されたゲーニッツによって降伏へとドイツは動き始め5月7日降伏が成立し第 三帝国は終焉したのである。 終戦へ 日本軍はすでに敗戦を覚悟していた。そして最後の決戦で勝利し少しでも有利な講和 条件を得ようとするのだった。日本軍はその決戦のための時間稼ぎのため、小笠原諸島 、南西諸島、台湾などの守備を固めた。まずアメリカ軍はB29の中継基地とするため に小笠原諸島の南端の硫黄島攻略を決定した。 1945年2月19日にアメリカ軍は強力な艦砲射撃・航空爆撃のあと歩兵8個大隊と 戦車1個大隊が上陸に成功した。それに対する日本軍の守備隊は陸軍・海軍合わせて2 万2千名であった。日本軍は島の地下に広大な洞窟陣地を構築していたため、アメリカ 軍上陸前の艦砲射撃・爆撃にもほとんど被害はなかった。 上陸したアメリカ軍は狭い海岸で動きがとれず日本軍の攻撃のために3万名上陸したう ちの2400名もの戦死者をだした。日本軍は洞窟陣地を巧みに利用してアメリカ軍に 大きな損害を与えていったが、圧倒的なアメリカ軍戦力の前に3月25日硫黄島守備隊 は玉砕した。 次にアメリカ軍は4月1日に猛烈な艦砲射撃の後、沖縄に上陸を開始した。沖縄の日 本軍は当初、自らの位置を知られないように沈黙を守っており、アメリカ軍は4月18 日には島の北部をほぼ制圧した。 日本陸海軍航空隊はアメリカ軍の沖縄上陸に対し「菊水作戦」を開始した。この作戦は 多数の特攻機をふくむ延べ7000機もの航空攻撃を沖縄周辺の艦艇に行うというもの だった。しかし、損害と較べ成果は少なく作戦は失敗に終わった。この菊水作戦に同調 して海軍艦艇も残存艦艇で特攻的攻撃を実施した。戦艦「大和」と軽巡洋艦、駆逐艦を 含む艦隊が沖縄に向けて出港するが、アメリカ軍機動部隊の航空機による集中攻撃を受 け沖縄に着くことなく海中に没した。 一方アメリカ軍上陸部隊と日本軍は島の中央部で激しい戦闘を繰り返し、アメリカ軍の 前進は止まりがちになったが、5月半ばになるとアメリカ軍の物量攻撃に日本軍は耐え きれなくなり戦線は崩壊していった。 6月末 守備隊司令の牛島中将が自決し戦闘は終 了した。沖縄戦では日本側は約9万名の軍人、同じく約9万名の非戦闘員が犠牲となり 、アメリカ軍は8万5千名が犠牲となった。 ほとんどの抵抗力を失い、連合軍による本土空襲をも防げない日本に対し連合軍は7 月26日無条件降伏を求めるポツダム宣言をつきつけてきた。日本側はこれを黙殺した 。この日本の態度に対しアメリカ軍は日本の降伏を早めるべく8月6日広島に8月9日 長崎に原子爆弾を投下した。わずか一発で両市は壊滅した。これが日本の降伏への切り 札となり8月15日、日本は無条件降伏を受け入れ第二次世界大戦は終戦を迎えるので ある。
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SENSHI 鋼鉄の戦風 (空白、行間等修正) 青作戦 ドイツ軍東部戦線は多大な犠牲を出すもソ連軍の冬季攻勢から持ちこたえた。ヒトラ ーはソ連軍の継戦能力をそぎ取るためコーカサスの油田に次の目標を定め、この作戦を 「青作戦」と名付けた。6月28日ドイツ軍は攻勢開始時において敵大部隊を補足し包 囲せん滅する計画だったがソ連軍は既にドン河東岸へと撤退していた。ドイツ軍はドン 河を越え侵攻するもソ連軍は殆ど戦わず退却していった。ドイツ軍は当初の作戦内容を 変更しコーカサス攻略を担当するA軍集団とスターリングラード方面に退却したソ連軍 を担当するB軍集団に分けられ新作戦が開始された。A軍集団は抵抗を受けるも急速に 南下していき8月にはコーカサス山脈を越えたが、補給の不足から目標の直前で進撃が 止まった。 一方スターリングラードのB軍集団はスターリングラード市内に立てこもったソ連軍と 市街戦を繰り広げていた。ソ連軍は増援を繰り返し抵抗したが、10月末にはスターリ ングラードはほぼドイツ軍の手に落ちた。しかし11月中旬からソ連軍はドイツ軍の側 面に大攻勢をかけドイツ軍を圧倒し包囲した。ドイツ軍は包囲された友軍を救うために 「冬の嵐作戦」を発動した。救出部隊はスターリングラードの60キロ手前まで迫った が、ソ連軍の抵抗が激しく自らも包囲される危険が生じたため作戦は中止されスターリ ングラードのドイツ軍は翌年1943年2月に降伏した。 蘭印攻略 マレー・シンガポール攻略・フィリピン攻略と南方作戦を進めていった日本軍の最終 目標は蘭印(現インドネシア)を占領しその豊富な資源を得ることだった。1942年 1月から蘭印攻略戦は始まった。次々とそれぞれの島を攻略していき2月末にはジャワ 島を残すのみとなった。ジャワ島上陸は3月1日に実行された。その直前に連合軍の艦 隊がスラバヤ沖にて上陸阻止に向かってきたが日本軍の護衛艦隊により主力艦を撃沈さ れ退けられた。撃沈を免れた艦もバタビア沖で輸送船団を攻撃しようとして逆に撃沈さ れた。この「スラバヤ沖海戦」「バタビア沖海戦」の勝利により上陸部隊は予定通り上 陸に成功し3月10日にはバンドンを占領したことにより蘭印軍は降伏した。 珊瑚海海戦・ミッドウェイ海戦 南方作戦で成果を収めた後、軍令部と連合艦隊司令部では次の侵攻目標の選択で意見 が違っていた。 軍令部側はフィジー・サモア方面に進出して米豪遮断作戦を主張し、連合艦隊側はミッ ドウェイ島の攻略と同時に米機動部隊を誘い出し撃滅させると主張した。軍令部と連合 艦隊司令部の話し合いはまったく進展を見なかった。そのような状況下で1942年4 月18日、空母から飛び立ったB25爆撃機により東京初空襲が行われた。この空襲が 空母撃滅案の追い風となり5月5日「ミッドウェイ・アリューシャン作戦」が 発令されるのである。 このころ既に決定されていた海からのポートモレスビー攻略を実行すべく「翔鶴」「 瑞鶴」「祥鳳」の3隻の空母を中心とする部隊は目的地に向かった。日本海軍の暗号を 解読し日本軍のポートモレスビー攻略を知ったアメリカ海軍は「ヨークタウン」「レキ シントン」の2隻の空母を用意した。5月7日から8日にかけ両軍はお互いに空母を叩 きあった。その結果はアメリカ軍の被害は「レキシントン」撃沈「ヨークタウン」大破 、日本軍の被害は「翔鶴」大破「祥鳳」撃沈というものだった。戦いは正規空母1隻を 撃沈した日本軍の勝利に見えるが、航空機、人材の消耗が激しく空母の損傷も大きいた めポートモレスビー攻略は中止せざるを得なかった日本側の戦略的敗北であった。。さ らにミッドウェイ海戦に「翔鶴」「瑞鶴」の両空母を参加させられなくなったのも大き な損失だった。 5月下旬、日本からミッドウェイ攻略部隊が出港した。その内容は「赤城」「加賀」 「蒼龍」「飛龍」の4隻の空母を中心とした艦艇150隻以上の大艦隊であった。アメ リカ側は暗号解読により日本軍のミッドウェイ侵攻を知ったため「エンタープライズ」 「ホーネット」の2隻の空母と珊瑚海海戦で大破した「ヨークタウン」を2日で修理し 合計3隻の空母を配備した。 日本軍は6月5日第一次攻撃隊を発進させミッドウェイを爆撃した。その一方アメリ カ軍機動部隊を発見するために索敵機を発進させ、発見の場合は艦船攻撃用の装備をし た第二次攻撃隊が攻撃を行う予定であった。しかし第一次攻撃隊からミッドウェイへの 第二次攻撃の必要性が打電され、これまで敵艦隊発見の連絡が入っていなかったため司 令官の南雲中将は第二次攻撃隊に陸上攻撃用の装備に変換させるよう命令した。 このような状況の中、索敵機から敵艦隊発見の報を受け南雲中将は第二次攻撃隊の装備 を戻すように命令した。そこに一次攻撃隊の帰還が重なり作業が遅れ、第二次攻撃隊の 発艦準備が終わったときに米軍機が日本空母に襲いかかったのである。「赤城」「加賀 」「蒼龍」は即、餌食となり残った「飛龍」は攻撃機を発艦させ「ヨークタウン」にダ メージを与えるも、攻撃を受け大破し味方駆逐艦により処分された。 日本軍はこの戦いで空母4隻と多数の航空機とそのベテラン搭乗員を失い、太平洋での 制海権、制空権を二度と取り戻すことはできなかった。 ソロモン・ガダルカナルでの戦い 日本軍は米豪遮断作戦のためニューギニアから珊瑚海を挟んで東側にあるソロモン諸 島の一つガダルカナル島に飛行場を建設していた。7月末にはほぼ完成したのを見た連 合軍は速急に大軍を送り込んだのである。 1942年8月7日、2万名ものアメリカ軍上陸部隊がガダルカナル島に上陸した。3 00人程度の日本軍守備隊はなすすべもなくジャングルに逃げ込んだ。これに対し日本 軍はラバウルの第8艦隊を派遣した。第8艦隊はガナルカナル島海域で米艦隊と遭遇し 重巡洋艦4隻を撃沈するなど大きな戦果を挙げた。さらに日本軍はガナルカナル島を再 奪取すべく上陸部隊を送ったが全滅し、続いて行われる上陸作戦を成功させるべく空母 「翔鶴」「瑞鶴」軽空母「龍驤」を主力とする第3艦隊を増援に送った。アメリカ軍も 空母「サラトガ」「ワスプ」「エンタープライズ」の3隻を展開していた。両軍はお互 いに空母を叩きあい、日本側は「エンタープライズ」を中破させ、アメリカ側は「龍驤 」を撃沈した。このあと上陸部隊が上陸を試みたが航空機による攻撃を受け被害を出し 作戦は失敗した。日本軍は8月末増援の上陸に成功し飛行場奪取のための作戦を実行し たがアメリカ軍の強力な火力の前に敗北した。 日本軍はこの状況の打破のために大量兵力の輸送計画とその補給経路確保のための作 戦を繰り返した。 日本軍が制空権の確保のため空母4隻を主軸とする機動部隊を投入した南太平洋海戦で は米空母「ホーネット」を撃沈、「エンタープライズ」を大破したが、日本側も大きな 損害を受けた。さらに大量の兵員の上陸とその支援のために戦艦「霧島」「比叡」を中 心とする艦隊を派遣するも、アメリカ軍との激しい戦いで半数も上陸に成功しなかった 。上陸した部隊も圧倒的なアメリカ軍の火力の前に大損害を受けさらに補給の不足から 戦える状態にはなくなっていった。大本営は1942年12月8日、撤退を決定した。 日本軍の戦死者2万名、うち1万5千名が餓死または病死だといわれている。 1943年 アフリカ戦線 2月上旬までにロンメル率いるアフリカ軍団はチュニジアのマレトまで一気に後退し た。ドイツ・イタリア軍はこの時までにかなりの戦力を増強させており、反撃の機会を 狙っていた。2月14日、ドイツ・イタリア軍の反撃はカセリーヌ方面のアメリカ軍に 向けられた。17日にはガフサを占領した。さらにドイツ・イタリア軍はターラ方面に 兵を進めたが、連合軍は堅固な守備でこれを阻止し、2月22日にドイツ軍は撤退を始 めた。ロンメルはヒトラーにアフリカ軍団のヨーロッパへの撤退を提案するが、アフリ カ方面からの連合軍のヨーロッパ侵入を恐れこの提案は却下されロンメルは解任された 。3月後半から連合軍による大攻勢が始まりマレトからドイツ・イタリア軍はワジ・ア カリト陣地まで撤退した。補給線を断たれたドイツ・イタリア軍は連合軍の攻勢を防ぐ ことはできず、5月13日、アフリカ軍団は降伏した。 ハリコフ・クルスクの戦い 昨年冬からのソ連軍の大攻勢はスターリングラードにてドイツ軍を破り、各地のドイ ツ軍を後退させて、2月上旬にはハリコフを奪還した。それに対してドイツ軍は、兵力 をフランス方面から補充して反撃の機会をうかがっていた。ドイツ軍は2月19日ソ連 軍の攻勢が限界に達したと判断し反撃を開始しソ連軍を壊滅させハリコフを再占領する ことに成功した。そしてさらなる戦果をあげるためドイツ軍は進撃を続けたが、雪解け による泥濘がドイツ軍の行動を停止させた。その後ドイツ軍はソ連軍との決戦に備え戦 力を充実させていった。7月5日、ドイツ軍の作戦が開始され2500両以上の戦車が クルスクを包囲する形で南北からなだれ込んだ。 それに対するソ連軍は堅固な防衛ラ インを構築しており、ドイツ軍は前進のたびに大出血し、北上部隊、南下部隊ともに大 被害を被っており、7月13日には作戦の中止が決定されドイツ東部戦線ではこれ以上 の攻勢が行われることはなかった。物量の豊富なソ連軍はドイツに対する攻勢を続け、 消耗しきったドイツ軍を西へ西へと後退させていった。戦線はドイツ国境に近づき始め るのである。 日本の状況 1943年日本軍は前年の珊瑚海・ミッドウェイ・南太平洋海戦での機動部隊の損害 が激しく、この年はほとんど作戦に空母は参加させることができなかった。日本軍は2 月には南方連合軍の航空兵力及び艦隊を撃破するために残った航空戦力を南方基地に集 中させ攻撃を繰り返したが、増強されたアメリカ軍航空部隊の前に作戦は空振りに終わ った。さらに前線の激励・視察のために航空機に乗り移動中だった山本五十六連合艦隊 司令が暗号解読によりその行動を連合軍に知られ、その搭乗機を撃墜され戦死した。日 本は敗戦への坂を転がり落ちていくのである。 1944年 ノルマンディーの戦い 1944年6月初頭、東部戦線ではドイツ軍はソ連軍の攻勢に押され次々と後退して 行くばかりであった。 そして第2戦線として連合軍はノルマンディー上陸作戦を開始するのである。ドイツ軍 はこれを予想していたが、東部戦線の戦況の悪化のため有力部隊はほとんどフランスに は残されていなかった。6月4日ノルマンディーへの上陸が決定され、6月6日午前に まず空挺部隊がノルマンディーに降下し、つぎに海岸に上陸部隊が到達し侵攻を開始し た。ドイツ軍は混乱しており上陸部隊に対し効果的な反抗はできなかった。ドイツ軍は 午後になり混乱から回復し攻撃を開始するが連合軍の空軍力のために海岸方面に移動で きない有り様だった。しかし、内陸部に連合軍が進出するにつれドイツ軍の機甲部隊に よる攻撃は激しくなり連合軍の前進は遅れていった。 この状態の打破のために連合軍は7月25日、サン・ロー方面で攻勢をかけた。徹底的 な絨毯爆撃によりドイツ軍は壊滅し、連合軍はこの開いた突破口からなだれ込んだ。ド イツ軍は兵力を集中しこれに対処しようとしたが、またもや連合軍航空機のために満足 に反撃できなかった。さらに連合軍はファレーズまで兵を進め激しい攻防戦の末、ドイ ツ軍を包囲壊滅させた。ドイツ軍10万名のうち半数は包囲の不完全なうちに脱出に成 功したが、1万人が戦死し4万人が捕虜となったのである。 連合軍の東進 ノルマンディーに上陸した連合軍はその後進撃を続け、8月25日パリを解放した。 そして連合軍は敗走するドイツ軍を東へと追撃していった。しかしながらドイツ国境の 手前まで来たところで補給線が伸びきり、そこで連合軍の進撃は停止した。ドイツ軍は その間に国境の守備の強化を急いだ。そして連合軍の進撃が再開され、英国元帥モント ゴメリーの主張する「マーケット・ガーデン作戦」が行われた。この作戦は強化された ドイツ国境を避けオランダ方面から兵を進めるというものであった。作戦は9月17日 に川の多いオランダで多数の橋を確保するために史上最大規模の空挺部隊の降下から始 まった。空挺部隊はおおむねその目標を達した。そして地上軍の侵攻が始まったがドイ ツ軍は本国に戦場が近かったため、連合軍の予想を上回る兵力を投入することができ、 各地で連合軍は前進を阻まれ9月の下旬に入ると作戦の続行は不可能となった。 バルジの戦い ヒトラーは度重なる敗戦の中、最期の奇跡を呼び込もうとしていた。それは一度の大 勝利により連合軍の継戦意欲をそぐというものであった。ドイツ軍はかつての電撃戦の 出発地点アルデンヌにて攻勢を行った。連合軍はこの攻撃を全く予想しておらず混乱を 生じたが、ドイツ軍は練度が低い兵が大部分だったため、これに乗ずることはできなか った。ドイツ軍は体制を整え直した連合軍の前にほとんど前進することはできなく、奮 戦していた部隊も次々と来る連合軍の増援の前に破れ去り、翌年1945年1月上旬に はドイツ軍は後退し始めたのだった。 インパール作戦 1943年初春、ビルマを制圧した日本軍の戦線は比較的平穏だった。しかし300 0名の英印軍が突如中部ビルマに現れしばらく混乱が続いた。この部隊はインドからア ラカン山脈を越えてビルマに侵入したことが判明しこれを重大視した現地司令官牟田口 中将はその部隊の基地インパール占領を大本営に進言した。この作戦には補給上の問題 から否定的な意見があったため作戦開始が遅れたが、1944年3月作戦に実行される に至った。日本軍は1カ月ほどでインパール近くまで進出し包囲する形となったが、用 意した食料はほとんど尽き、補給線も伸びきっている状態であった。一方インパールに 立てこもる英印軍は空中補給により物資の不足はなかった。司令官牟田口中将は撤退を 進言する部隊長達を次々と更迭し自分は徹底抗戦を叫んでいた。作戦は7月にようやく 中止されたが、日本軍には撤退するための食料も存在しなく、撤退中に力つきるものが 続出した。この作戦で日本軍は6万5千名もの死者を出したのであった。 マリアナを失う 日本軍がソロモンで大量の戦力を失った後、太平洋はアメリカ軍の独壇場であった。 1944年5月、日本軍は南方に進出してくるアメリカ軍を動員しうえる最大限の戦力 をもって壊滅させるという「あ号作戦」が計画した。1944年5月末、アメリカ軍は 西ニューギニア方面に兵を進めてきた。日本軍はアメリカ軍主力がニューギニアの北パ ラオ方面に向かってくると考え、艦隊を派遣した。しかし、6月に入り今度は機動部隊 がサイパン・グアム方面に現れ空襲を繰り返し、6月15日にアメリカ軍がサイパンに 上陸を開始したことから、こちらがアメリカ軍の目標と判断し「あ号作戦」を発令する のである。日本軍は持てる限りの海上戦力をここに投入し、6月19日にアメリカ軍機 動部隊を発見し艦載機による攻撃を仕掛けた。しかし、アメリカ軍のレーダーに捕捉さ れ、大量の迎撃用戦闘機と強力な対空砲火により壊滅状態となった。そして、日本軍機 動部隊を発見したアメリカ軍は、260機の航空機で攻撃し日本軍機動部隊を叩きのめ したのである。これにより日本はマリアナ方面の守備力の全てを失い、マリアナ諸島を アメリカ軍に奪われるのである。 捷一号作戦 マリアナで機動部隊の航空戦力の大半を失った日本軍は、フィリピン防衛のために残 っている戦艦群で敵上陸部隊へ艦砲射撃を行う計画しかなかった「捷一号作戦」である 。当然、フィリピン方面の制空権はアメリカ軍の手の内にあり極めて自殺的な計画であ った。1944年10月17日、連合軍はフィリピンに上陸を始めた。日本軍は「捷一 号作戦」を発動し戦艦5隻を中心とした艦隊を派遣するのである。派遣された艦隊はフ ィリピン方面に向かうまでにアメリカ軍機動部隊に補足され航空機による攻撃を受け戦 艦「武蔵」を失うなどの被害を受けたが、やりすごしてフィリピンのレイテ湾突入をめ ざした。日本軍は栗田中将率いるこの艦隊をレイテ湾に無事突入させるために、小沢中 将率いる機動部隊をおとりにする事を計画し実行した。計画は成功し小沢艦隊がアメリ カ機動部隊に攻撃される中、栗田艦隊はレイテ湾に肉薄していった。だが栗田艦隊はサ マール沖でアメリカ艦隊と一戦を交えた後、レイテ湾に突入せず反転していったのであ る。これにより日本海軍の賭は大失敗に終わるのである。 1945年 ベルリン陥落 西からは連合軍がライン川を越えドイツ国内に侵入し、東からもソ連がポーランドを 越えドイツ国内に侵入した。そして連合軍間での取り決め通りベルリンへの制圧はソ連 が担当するのであった。4月16日ベルリンに対する総攻撃が開始されベルリン周辺の ドイツ軍は圧倒的な兵力を誇るソ連軍に排除され、4月25日にはベルリンは包囲され た。残存ドイツ軍はベルリンの救出を開始するが、いずれも散発的なものに終わった。 絶望を感じたヒトラーは4月30日妻のエバとともに自殺した。そしてヒトラーに新総 統に指名されたゲーニッツによって降伏へとドイツは動き始め5月7日降伏が成立し第 三帝国は終焉したのである。 終戦へ 日本軍はすでに敗戦を覚悟していた。そして最後の決戦で勝利し少しでも有利な講和 条件を得ようとするのだった。日本軍はその決戦のための時間稼ぎのため、小笠原諸島 、南西諸島、台湾などの守備を固めた。まずアメリカ軍はB29の中継基地とするため に小笠原諸島の南端の硫黄島攻略を決定した。 1945年2月19日にアメリカ軍は強力な艦砲射撃・航空爆撃のあと歩兵8個大隊と 戦車1個大隊が上陸に成功した。それに対する日本軍の守備隊は陸軍・海軍合わせて2 万2千名であった。日本軍は島の地下に広大な洞窟陣地を構築していたため、アメリカ 軍上陸前の艦砲射撃・爆撃にもほとんど被害はなかった。 上陸したアメリカ軍は狭い海岸で動きがとれず日本軍の攻撃のために3万名上陸したう ちの2400名もの戦死者をだした。日本軍は洞窟陣地を巧みに利用してアメリカ軍に 大きな損害を与えていったが、圧倒的なアメリカ軍戦力の前に3月25日硫黄島守備隊 は玉砕した。 次にアメリカ軍は4月1日に猛烈な艦砲射撃の後、沖縄に上陸を開始した。沖縄の日 本軍は当初、自らの位置を知られないように沈黙を守っており、アメリカ軍は4月18 日には島の北部をほぼ制圧した。 日本陸海軍航空隊はアメリカ軍の沖縄上陸に対し「菊水作戦」を開始した。この作戦は 多数の特攻機をふくむ延べ7000機もの航空攻撃を沖縄周辺の艦艇に行うというもの だった。しかし、損害と較べ成果は少なく作戦は失敗に終わった。この菊水作戦に同調 して海軍艦艇も残存艦艇で特攻的攻撃を実施した。戦艦「大和」と軽巡洋艦、駆逐艦を 含む艦隊が沖縄に向けて出港するが、アメリカ軍機動部隊の航空機による集中攻撃を受 け沖縄に着くことなく海中に没した。 一方アメリカ軍上陸部隊と日本軍は島の中央部で激しい戦闘を繰り返し、アメリカ軍の 前進は止まりがちになったが、5月半ばになるとアメリカ軍の物量攻撃に日本軍は耐え きれなくなり戦線は崩壊していった。 6月末 守備隊司令の牛島中将が自決し戦闘は終 了した。沖縄戦では日本側は約9万名の軍人、同じく約9万名の非戦闘員が犠牲となり 、アメリカ軍は8万5千名が犠牲となった。 ほとんどの抵抗力を失い、連合軍による本土空襲をも防げない日本に対し連合軍は7 月26日無条件降伏を求めるポツダム宣言をつきつけてきた。日本側はこれを黙殺した 。この日本の態度に対しアメリカ軍は日本の降伏を早めるべく8月6日広島に8月9日 長崎に原子爆弾を投下した。わずか一発で両市は壊滅した。これが日本の降伏への切り 札となり8月15日、日本は無条件降伏を受け入れ第二次世界大戦は終戦を迎えるので ある。
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シナリオ攻略 2章 『ワープ航路分断作戦』 難易度 地形適応 出撃母艦 部隊編成 クリア報酬 初回報酬 総出撃 強制出撃 グループ 資金 EC 資金 EC Lv12 --宇 マクロス・クォーター 12 0 0/4 +6800 +85 +8800 +120 クリア条件 敵ユニットの全滅 敗北条件 「マクロス・クォーター」の撃墜 フローチャート 初期 初期味方 マクロス・クォーター要塞艦型 ジェフリー 選択出撃 ×12 初期敵 レスリオン級宇宙戦艦 ×1 ブレイバー ×6 ファッティー ×3 ファッティー〔ハードブレッドガン〕 ×3 敵の全滅ステージクリア。 敵データ 機体名 パイロット Lv HP 最大射程(P) 改造段階 サイズ 獲得資金 特殊能力スキル 武器特性 備考 機 武 レスリオン級宇宙戦艦 バララント士官 13 41500 5 (5) 1 1 7L 10000 艦船 Lv1底力 Lv2 対艦 Lv1扇形MAP、ビーム兵器 Lv1対艦 Lv1、ビーム兵器 Lv1 ブレイバー グラドス兵 12 3500 4 (4) 2 2 S 800 一般兵 押出 Lv1ビーム兵器 Lv1 ファッティー バララント兵 12 2900 4 (4) 2 2 SS 600 一般兵 ファッティー〔ハードブレッドガン〕 バララント兵 12 2900 5 (5) 2 2 SS 800 一般兵 押出 Lv1対艦 Lv1、対大型 Lv1 コンテナ 出現箇所・条件 取得物 なし - レベル、改造段階制限 EC獲得イベント 戦闘前会話初戦闘 : 仁、真吾、カミーユ、刹那、シモンorカミナ、エイジ 攻略アドバイス 前ステージと似たような構成。包囲された状態から始まるが、ザコばかりなので脅威ではないはず。 隣接シナリオ ISTO艦隊← →黒のオーガノイド
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第283話 海上交通路遮断作戦(前編) 1486年(1946年)1月1日 午前0時5分 シェルフィクル沖南西390マイル地点 「ハッピーニューイヤー!」 「イェア!めでたい年明けだ!!」 狭い艦内のあちこちで、新年を迎えた事に歓声を上げる声が響き渡る。 配置についていた強面の兵曹が、淹れたてのコーヒーの入ったカップを部下に手渡し、はにかみながら新年の挨拶をしていく光景は、 なんとも微笑ましい。 潜水艦キャッスル・アリス(S-431)の艦長であるレイナッド・ベルンハルト中佐は心中でそう思い、横目でその光景を見つめながら クスリと笑った。 「皆も、無事に新年を迎えられた事を喜んでいるようですな」 ベルンハルト艦長の隣にいた、副長のリウイー・ニルソン少佐が話しかけてくる。 「そりゃそうだ。乗員の中には、万が一にも撃沈されたら……と考える奴もいる。それだけに、生きて新年を迎えられる事は実に喜ばしいもんだ」 「艦長の言う通りです」 ニルソン副長は相槌を打ってから、右手を差し出す。 「コーヒーのおかわりを頼みますか?」 「うむ、頼むよ」 ベルンハルト艦長は頷きながら、空のコーヒーカップをニルソン副長に手渡した。 ベルンハルト艦長は、ドイツから移民した父と母の間に生まれたドイツ系アメリカ人である。 頭の金髪は短く刈り揃えられており、顔つきは堀がやや深い物の、理知的ながら、柔和な雰囲気を醸し出している。 今年で35歳になるベルンハルト艦長は、開戦時には潜水艦学校の教官として後進の育成に当たっていたが、1942年4月からはガトー級潜水艦 2番艦であるグリーンリンクの艦長に任命され、43年初旬まで大西洋方面の哨戒任務に従事し、43年初旬から44年12月までは太平洋方面で 哨戒任務に当たった。 この間、ベルンハルト艦長のグリーンリンクは5隻の艦艇を撃沈している他、敵駆逐艦の攻撃を何度も受けたが、その度に生き延びてきた。 44年12月からは、本土で休養を取った後、翌年1月には最新鋭の潜水艦であるアイレックス級5番艦、キャッスル・アリスの初代艦長に任命され、 それから4カ月の完熟訓練を経て、艦の特性や、その独特の癖を掴む事ができた。 キャッスル・アリスの第1回哨戒任務は1945年7月より始まり、それ以降は3度の哨戒任務に就いている。 12月初旬の第2次レビリンイクル沖海戦時には、キャッスル・アリスはリーシウィルムの浮きドックにて機関部の修理を行っていたため、 この大海戦に参加する事はできなかった。 12月14日に修理を終えたキャッスル・アリスは、2日間の試験公開の後、所属部隊である第64任務部隊司令部より、シホールアンル帝国北西海岸から、 ルキィント、ノア・エルカ列島間の哨戒任務を命ぜられ、各種消耗品を慌ただしく積み込んだ後に、未だ足を踏み入れた事のない新海域へと向けて出撃した。 そして、出撃から2週間が経った今日……ベルンハルト艦長と、彼の指揮するキャッスル・アリスのクルー達は無事、1946年を迎えるに至った。 (この世界では1486年であるが) 「艦長、コーヒーです」 部下の水兵が淹れたコーヒーを、ニルソン副長が受け取り、それをベルンハルト艦長に渡す。 「ありがとう」 ベルンハルトはにこやかに笑みを浮かべてから、カップを手に取り、ミルクコーヒーを一口啜る。 片手にカップを持ったまま、彼は後ろの海図台で海図を見据えながら部下と話す航海長の背後に近付いた。 「やあレニー」 「これは艦長。あけましておめでとうございます」 「おめでとう。去年は何とかくたばらずに済んだな」 「はは。今年も去年と同様、無事に生き残りたいものです」 キャッスル・アリス航海長を務めるレニー・ボールドウィン大尉は、伸びた無精ひげを撫でながらベルンハルトに答えた。 「今はどの辺だ?」 「この辺りですな」 ボールドウィンは、海図の一点をコンパスで指す。 キャッスル・アリスは、シェルフィクル沖を通り過ぎ、西に向かって航行しつつある。 位置はシェルフィクルより方位260度、南西390マイル。 目標海域であるポイントDまでは、あと400マイル(640キロ)はある。 キャッスル・アリスは、昼間は潜行し、夜間は浮上しながら航行しているため、一日に平均200キロ。調子の良い時には、300キロほどは移動している。 このまま何事もなく進み続ければ、早くて明後日。遅くても4日以内には作戦海域に到達できるであろう。 「シホットの連中は、主力部隊が壊滅したとはいえ、警戒用の哨戒艦や駆逐艦はたんまり残っているようで哨戒網は未だに厚いですが、シェルフィクルを 過ぎた辺りからは警戒も手薄になっていますな」 「敵はどうやら、シェルフィクルから東側付近を重点的に警戒しとるようだ。哨戒艦の数からして、第5艦隊所属の空母機動部隊への警戒か、あるいは、 俺達潜水艦部隊に対する対潜哨戒だろう。沿岸航路は是が非でも守り通さんと行かんからな」 「とはいえ、敵さんも遠洋哨戒を行うほど余裕が無いのか……沿岸から300マイル近く離れた沖には哨戒艦がおりませんね」 「情報によると、シホールアンル海軍は少なからぬ数の哨戒艦艇を北方航路沿いに東海岸へ向けて回航したとあった。沖まで哨戒網を張ろうにも、 艦艇不足で満足に哨戒出来ない事は、確かにあり得る話だ」 「出航前に伝えられた敵状報告では、12月15日から16日未明にかけて、駆逐艦を主体とした小型艦多数がシェルフィクル沖を通過し、シュヴィウィルグ運河へ 向けて航行中とあります。シホールアンル海軍の意図は不明ではありますが、敵はその数日前に、第3艦隊所属の空母機動部隊によってシギアル港所属の艦艇に 多大な損害を受けているため、その補填として本土領西岸部に駐留する海軍部隊の一部を、東海岸防衛に転用した事は容易に想像できますな」 ボールドウィン航海長が言うと、ベルンハルト艦長も無言で頭を頷かせた。 「とは言え、油断は禁物だ。今まで通り、警戒を厳としつつ、目的地に向かうぞ」 ベルンハルトが自分を戒めるかのようにそう言った時、背後から別の士官に声を掛けられた。 「これは艦長。明けましておめでとうございます」 「やあ飛行長。無事に新年を迎える事ができたな」 振り向いたベルンハルトは、キャッスル・アリスの飛行長を務めるウェイグ・ローリンソン大尉にそう返した。 「機体の調子はどうだね?」 「今の所、異常はありません。パイロット達も無事に年を越す事ができて喜んでおりますよ」 「ふむ。意気軒高といったところか」 ベルンハルトはローリンソン大尉に返事を送りつつ、2名の艦載機搭乗員の顔を思い出した。 キャッスル・アリスが搭載するSO3Aシーラビットを操る2名のクルーはいずれも若く、実戦経験も豊富だ。 今度の哨戒作戦では、キャッスル・アリスと、同型艦であるシー・ダンプティの艦載機が重要な役割を担う事になる。 作戦開始時期が近い事もあって、次第に士気も高まりつつあるようだ。 「遅くても、明後日には作戦海域に達するだろう。その時には、よろしく頼むぞ」 「承知しております。うちのクルーは必ず成し遂げますよ」 ローリンソン大尉は自信満々に答えた。 「飛行長がああ言うのならば、次の作戦は楽勝でしょうな」 「そうなるといいんだがね」 ベルンハルトがそう言うと、ローリンソンとボールドウィンは互いに顔を見合わせて苦笑し合った。 「潜水艦乗りは常に慎重に……だ。何しろ、防御力に関しては最も脆いからな。慎重に過ぎる事はないさ」 「その通りですな」 艦長の戒めの言葉に対し、ボールドウィンが相槌を打った。 「おっと…年始早々無駄に緊張させてすまんな。そういえば、飛行長の所の部下達は今どうしてるかね?」 「飛行科員は総出で新年の祝いをやっとる所です。耳をすませば聞こえてきますよ」 ローリンソンは、耳を傾ける仕草を交えながらベルンハルトに答えた。 「皆、概ね楽しんどるようだな」 「酒が飲めん事に関して、少しばかり不満を言っていましたが、それ以外は充分に満足しているようです」 「そこは仕方ないさ。合衆国海軍は禁酒だからな。今ある物で我慢してもらおう」 ベルンハルトはそう言うと、海図台から離れた。 「ひとまず、飛行科員の宴席に顔を出してみるか」 彼はニヤリと笑みを浮かべつつ、飛行科員のいる居住区画に向けて足を進めていった。 1月3日 午前9時40分 ノア・エルカ列島ロアルカ島沖東方60マイル地点 第109駆逐隊の属する駆逐艦フロイクリは、同じ隊に所属する僚艦3隻と、輸送船30隻、他の護衛艦8隻と共に 帝国本土西岸部にあるホーントゥレア港に向けて8リンル(16ノット)の速力で航行していた。 フロイクリ艦長ルシド・フェヴェンナ中佐は艦長席に座って、副長と会話を交わしていた。 「今の所、本土西岸部は天候不順のままのようですな」 「こっちとしては好都合の状況と、言いたいではあるが……空母機動部隊に襲われなくても、海中の敵潜水艦からの 攻撃は十二分に考えられる。私としては、もっと多くの護衛艦が必要だと思うのだがな」 「やはり、12隻では足りませんか?」 副長のロンド・ネルス少佐は眉をひそめながら聞いてくる。 「足りんな。アメリカ軍の潜水艦は、同盟国の魔法技術のお陰で隠密性に優れている。その影響でこちらの生命反応探知装置が 役立たずになってしまった。そうなると、護衛艦を増やして海の見張りを強化する必要がある。30隻の輸送船を護衛するなら…… せめて、護衛艦は16隻。欲を言って20隻は欲しいところだ」 「本国では、新式の金属探知魔法の開発に成功し、順次実戦配備が予定されているようですが」 「前線に行き渡るには、最低でもあと半年か1年は必要と言われているぞ。急場には間に合わんよ」 「半年か1年ですか……」 「とにかく、俺達は今ある物でやっていくしかない。出航前にも言ったが、特に対潜警戒は厳となせ」 「はっ。重ねて通達いたします」 副長はそう答えてからフェヴェンナの傍を離れた。 「それにしても……レーミア湾海戦から今日に至るまで、よく生き残れたと思ったが……こうして見ると、生き残れた事が 良かったかどうか分からなくなるな」 駆逐艦フロイクリは、1483年12月にスルイグラム級駆逐艦の14番艦として竣工し、以降は竜母機動部隊の護衛に従事した後 、昨年1月のレーミア湾海戦では第109駆逐隊の一員として米駆逐艦部隊と激しい砲撃戦を行った後、撤退中の味方戦艦部隊の 援護を行い、追撃するアイオワ級戦艦2隻を相手に、僚艦と共にシホールアンル海軍初となる水上艦による統制雷撃を行い、魚雷を 複数命中させて2隻とも大破させるという戦果を挙げた。 その後は再編に取り掛かった第4機動艦隊の護衛艦として任務をこなし続けたが、第2次レビリンイクル沖海戦が始まる前、機動部隊と 共に出航する直前になって機関不調となり、フロイクリは修理のため港に留まった。 その後、第4機動艦隊はアメリカ第5艦隊との決戦に敗北し、港には傷ついた竜母や護衛艦群が帰ってきた。 12月16日に、機関の修理が完了したフロイクリは、僚艦と共にノア・エルカ列島-本土西岸の航路護衛の任を受け、一路ロアルカ島に 向けて出港した。 同駆逐隊は12月20日にロアルカ島のリヴァントナ港に入港した後、護衛対象である輸送艦がロアルカ島に集結し、同島にて生産された 各種物資を積み込むまで洋上にて訓練を行った。 第109駆逐隊は、第2時レビリンイクル沖海戦で壊滅した同部隊を再建したものであり、元々は最新鋭のスルイグラム級で構成されていたが、 海戦後はガテ級駆逐艦やマブナル級駆逐艦といった比較的旧式の駆逐艦と共に隊を編成しているため、文字通り寄せ集めの部隊となっている。 このため、艦隊運動に関しては幾分不安が残っており、敵の攻撃を受けた場合、効果的に迎撃できるか分からなかった。 とはいえ、各艦とも就役してから数年は経ち、実戦経験も積んでいるため、連携さえ取れれば何とか任務をこなせると考える者も居る。 第109駆逐隊の旗艦である駆逐艦メリヌグラムに座乗するタパリ・ラーブス大佐はそう確信しているが、フェヴェンナ中佐はそれでも 不安を拭えなかった。 「しかし、敵さんは今後、この航路にも多数の潜水艦を派遣するかもしれませんな」 「ラーブス司令は出港前の会議で、敵潜水艦の襲撃は、少なくとも1月中旬までは行われないであろうから、それまでは気楽に護衛任務を こなせられるが、それ以降は気を引き締めてかかろうと言われていた」 ネルス副長に対して、フェヴェンナ艦長は眉間に皴を寄せながら言う。 「だが、司令は楽観的過ぎると私は思っとるよ」 「そういえば、司令は今回がこの戦争での初の実戦でしたな……」 「一応、実戦経験が無い訳ではないのだが、それも北大陸統一戦の頃の経験だ。ラーブス司令はアメリカが戦争に加わる直前になって本国の 地上勤務に転属され、それが昨年の12月中旬までずっと続いていた。対米戦に関して言えばただの新米に等しい。着任前には色々と資料を 見て勉強したようだが、私からしてみれば全く足りんと思うな」 フェヴェンナ艦長はそう言うと、深く溜息を吐く。 「既に海軍の主力部隊を失った帝国は北岸以外、すべての制海権を敵に奪取されたに等しい。それはつまり、敵はいつでも、各地の航路を 襲撃できる態勢を整えたという事だ。この航路だって、敵の潜水艦部隊が進出を終えて俺達を待ち伏せているかもしれんぞ」 ネルス副長は艦長の言葉を聞いた後、しばし黙考してから口を開く。 「確かにそうでしょうが……潜水艦の襲撃だけで済みますかね」 「………済まんだろうな」 フェヴェンナは自虐めいた笑みを浮かべながら、副長に返した。 帝国本土西岸部の制海権を失った以上、潜水艦の襲撃のみで済むはずがない。 むしろ、潜水艦の襲撃は破局の手始めに過ぎず、その後は、主力部隊を葬った敵の高速機動部隊が周辺海域に跳梁し、航路を往来する護送船団を 片端から食らい尽くしていくであろう。 「せめて……残りの竜母が使えればな」 「第4機動艦隊の残存竜母に戦闘ワイバーンを満載してくれれば、せめて防衛だけは出来そうなものですが。上層部はいったい何をしているんですかね」 ネルス副長は眉をひそめながら不平を言うが、フェヴェンナは頭を振りながらそれを否定する。 「竜母はあっても、使えるワイバーンと竜騎士が絶対的に足りんのだ」 フェヴェンナは人差し指を上げながら言う。 「12月の決戦前、第4機動艦隊のワイバーンは960騎あったが、海戦後は270騎にまで減らされている。その損失を首都や後方に 待機していた予備部隊で補う筈だったが、その予備の一部が首都攻防戦でほぼ壊滅して、第4機動艦隊のワイバーン戦力は400騎しかおらん。 そして、海軍全体で保有しているワイバーンは、育成中の個体も含めて800騎にも満たない。そして何より……」 彼は人差し指を収めた後、両腕でバツ印を描いた。 「練度が圧倒的に足りない。今や、海軍ワイバーン隊はその大半が素人で、玄人なんかほんの一握りしか残っておらん。腕のいい奴は、 大半が戦死したか、再起不能にされてしまったよ」 「と言う事は……出したくても出せないという訳ですな」 「そういう事さ」 フェヴェンナは諦観の念を表しながらそう返す。 「それに、残存竜母が総力出撃し、全力で護衛してくれたとしても……強大なアメリカ機動部隊の事だ。圧倒的な艦載機数でもって味方竜母を 全滅させようとし、現に全滅するだろう」 「……負け戦ここに極まれり、ですか」 「認めたくないが、そうなってしまっているな。でなきゃ、艦隊型駆逐艦として作られたフロイクリが、輸送艦の護衛に付くはずがない。 船団護衛には哨戒艦で事足りる事だ」 フェヴェンナは再びため息を吐きながら、ネルスにそう語った。 「とはいえ……任務はこうして与えられた訳だ。敵はこうしている間にも、手ぐすね引いて待っているかもしれん。愚痴を言っている場合ではなさそうだ」 「確かに……あ、そう言えば」 ネルスは何かを思い出した。 「航海長が今後の道程について意見を申し述べたいと言っておりました」 「ふむ……航海長はいつもの場所か?」 「はい」 「よろしい。会って話をするか」 フェヴェンナは艦長席から立つと、航海艦橋に向かった。 程なくして、彼は海図台の上で航路を確認する航海長に声を掛けた。 「航海長」 「艦長……副長からお話は聞いたようですな」 駆逐艦フロイクリ航海長を務めるハヴァクノ・ホインツァム大尉はあっけらかんとした表情でフェヴェンナの顔を見据えた。 ホインツァム大尉は今年で29歳になる海軍士官だ。 顔は年齢の割に皴が多く、目が細くて小さいため、傍目では常に目を閉じていると思われている。 しかし、実際には柔和な表情を浮かべる事が多く、実戦経験も豊富なため、とても頼りになる士官でもある。 「今後の事で相談があるようだな」 「ええ。そうです」 ホインツァム航海長は、ずれた略帽を直しながら、海図上にペン先を向けた。 「現在、我が船団は帝国本土西岸部にあるホーントゥレア港に向けて8リンル(16ノット)の速度でジグザグ航行をしております。 現在の速度で行くなら、予定では4日後の1月7日夜半にホーントゥレア港に到達できます。ただし、それは……敵潜水艦の妨害を 受ける事無く、順調に進んだ場合の話です」 ホィンツアム航海長は、無言でペン先を右に走らせる。 そして、航路の中間海域で止め、そこに大きな丸い円を描いた。 「もし敵の潜水艦が進出した場合、恐らくは、この辺りの海域まで進出し、網を張っている可能性があります」 「…この辺までか。となると、明日の夜半頃からは対潜警戒を厳にして備えるべきか」 フェヴェンナはそう言いつつ、顔をホィンツアム航海長に向ける。 「それで、君は私に意見を申し述べたいそうだな。となると、私に艦隊の針路を変えるよう、意見具申を行うようにと言いたいのかね?」 「いえ、私が懸念しておりますのは、もっと別の問題です」 「別の問題……それはどういう事だね?」 ホィンツアムは目線を海図に移しながら質問に答え始める。 「我々は、海の中だけではなく、空も警戒するべきではないでしょうか」 「空……だと?」 「艦長は出港前におっしゃられていましたな。アメリカ海軍は、偵察機を搭載した新型潜水艦を就役させたと海軍情報部から前線部隊に 通達があった……と」 「ああ……確かにそう言ったが」 フェヴェンナは、ロアルカ島の西方方面艦隊司令部で行われた出港前の会議で、司令部の魔道参謀より米海軍の動向や敵新型艦の 配備状況などを一通り聞かされた。 その中に、 「米海軍は航空機搭載の新型潜水艦を複数就役させ、完熟訓練を行っている模様」 と、素っ気ない一文が混ざっていた。 それをフェヴェンナは艦の主要幹部らにも伝えたが、フェヴェンナ自身は通達しただけで、その未知の新型艦の存在をすっかり忘れていた。 「だが、例の新型艦は前線で発見されたという報告が上がっていないと聞く。それに、新型艦は完熟訓練の真っ最中のようだから、俺達が その艦の心配をする必要はないと思うが」 「本当にそう思われているのですか……正直申しまして、私はその情報を真に受ける事はできませんな」 ホィンツアムは険しい表情を浮かべながら、艦長の言葉を否定した。 「海軍情報部は時折、情報分析が満足にできていない事があります。艦長も知っとるでしょう?リプライザルショックの事を」 「それなら無論知っているよ。エセックス級のガワだけ大きくしたと思われていた新型空母が、実際はガワだけではなく、戦艦顔負けの 驚異的な防御力を有していた事。そして、それを知った竜騎士の一部が出撃を拒否した事もな」 「表には出ていませんが、竜騎士達の衝撃と憤慨ぶりは凄まじい物だったと聞き及んでおります。そんな情報部がもたらした情報を完璧に 信じ込むのは危ないのではありませんか?」 「しかしだな、航海長。情報部も常に間違った情報を伝えている訳ではないのだ。そう目くじらを立てる事もあるまい」 「……確かに、そうでしょうな」 ホィンツアムは顔を頷かせてそう返すが、尚も言葉を続ける。 「ですが、その新型艦が前線に出ていないとしても……そういった類の新型艦は存在するのです。航空掩護の無い護送船団にとって、 これは非常にきつい事だと思いませんか?」 「……言われてみれば。確かに」 フェヴェンナは、ホィンツアムの言わんとしている事を理解し始めた。 「元々、護送船団を監視する潜水艦は、海中からこちら側の陣容を確認しているようですが、それは潜水艦が襲撃地点に到達するやや前の海域で 行われる事。それはつまり、直前までこちらの数は把握できていないという事です。ですが……航空偵察が事前に行われてしまえばどうなります? 敵は襲撃を行う遥か前から、航空偵察によって船団の艦数をほぼ正確に突き止める事が可能になり、それによってある船団は駆逐艦が多いから 襲わなくていい。ある船団は護衛が少ないから襲撃に最適……と言う事を予め判断できるのです。これは大事ですよ」 「ああ……よくよく考えてみたら、とんでもない事になるな」 「しかも、これは敵が制空権を持っていない海域でも、こちら側に航空掩護が全く無ければ、その新型艦1隻混じるだけで、先ほど言った事が 間違いなく可能になります。今日のように、複数の護衛艦を付けて船団を形成する事を、我が帝国は毎時のようにできる訳ではありません。 時には護送船団を送り出す傍ら、輸送艦数隻だけで同時に外洋へ送り出す事もありますから……」 ホィンツアムは無意識のうちに頭を抱えていた。 「下手すると、敵機動部隊が暴れ込むまでもなく、輸送艦は片端から沈められてしまう恐れがあります」 彼はそう言いながら、持っていたペンの後ろで海図を数度叩く。 「この航路は、敵の新型艦の性能を試すには最適な航路と言っても過言ではありません。もし敵が新型艦を実戦投入していた場合、我が軍の 対潜作戦はより厳しい物になります」 「潜水艦に偵察機を搭載……か。まったく、とんでもない国と戦争をおっぱじめやがったもんだ」 フェヴェンナは渋面を浮かべたまま、顔を海図に近付ける。 「……航海長。もし、敵が新型潜水艦を投入していた場合、我が艦隊はどの辺りから対空警戒を行った方がいいかね?」 「すぐに行うべきです。今から1分後……いや、1秒後にでも」 ホィンツァムは、海図上に書き込んだ敵潜水艦の予想位置を中心に、コンパスで円を描いた。 「敵潜水艦が搭載している艦載機の性能は判明しておりませんが、機体の形状からして敵機動部隊が搭載しているアベンジャーやヘルダイバーを ベースにして作られていた場合、航続距離もそれと同等か、やや劣る程度と考えた方がよろしいでしょう。となりますと……この円の中範囲内が 敵偵察機の行動半径内であると推定できます」 「半径250ゼルド(700キロ)……護送船団は、間もなく敵の索敵範囲内に入る、と言う事か」 「そうなります。私が即座に対空警戒を行うべきと申したのも、こういう推測に基づいているからです。艦長……」 ホィンツァムはフェヴェンナの横顔をまじまじと見つめる。 「ラーブス司令に意見具申を」 「しかしだな、航海長。君の意見も理解できる。だが、敵新型潜水艦は前線に投入されたという情報は入っておらんのだ。もしかしたら、 この情報は敵の欺瞞工作であり、見えぬ新型艦の情報を流して我が方を混乱させることを考えているかもしれない」 「情報部が新型潜水艦の実戦投入に気付けていない可能性もあり得ますぞ」 フェヴェンナはホィンツアムに翻意を促そうとするが、ホィンツアムは頑として譲らない。 「我々は満足に敵状把握を行えず、煮え湯を飲まされ続けてきています。そして、それは今も続いているかもしれないのですぞ。恐れながら…… 司令に意見具申を行い、全艦に対空警戒を促す事が、これから予想される敵潜水艦部隊の襲撃を回避、あるいは、損害軽減に繋がるかと、私は思います」 「………」 ホィンツアムの口調は異様に鋭い。 フェヴェンナはしばしの間黙考する。 (ホィンツアムは、開戦以来、アメリカ海軍と戦い続けた数少ない猛者の1人だ。これまでの経験でホィンツアムの培った勘が、この護送船団に 危機が迫っていると確信させているのだろう。最も、多少怯えすぎのようにも思えるが……) 「艦長……意見具申はできませんか?」 フェヴェンナは、ホィンツアムの怜悧な声で思考を止めた。 「そこまで言うのであれば、いいだろう」 「では……」 ホィンツアムの引きつり気味であった表情がやや緩んだ。 「ラーブス司令に、私の名で意見具申を行おう」 「ありがとうございます!」 フェヴェンナが了承すると、ホィンツアムは張りのある声音で礼を言った。 だが、そこでフェヴェンナは右手を上げた。 「ただし……司令が私の具申を聞き入れてくれるかは分からんぞ。もしかしたら、その必要はなしとして一蹴されるかもしれん。私もやれるだけ やって見るが」 「聞き入れてくれないのならば、致し方ありません。そこは覚悟の上です」 「よろしい。それでは、私は旗艦に意見具申を行う事にする。あとは任せろ。引き続き頼むぞ」 「はっ!」 フェヴェンナはホィンツアムの肩を軽く叩き、ホィンツアムも短く返事をしてから、元の任務に戻った。 魔導士に自ら起草した通信文を送らせた後、フェヴェンナは艦橋に戻りながら、航海長が海図に記した円を思い出していた。 「敵の潜水艦部隊が航路の中間地点に居座った場合……例の新型潜水艦……航空潜水艦と呼ぶのが正しいだろうが、そいつが同行していれば、 半径250ゼルドの範囲が敵索敵期の範囲内に収まる。それはつまり、450ゼルドに渡る本土との連絡線、その半分以上が敵航空機の監視下に 置かれるという事か……」 フェヴェンナは、その冷徹な現実の前に、本気で憂鬱になりかけていた。 海中の潜水艦部隊も恐ろしい。 そして、圧倒的な破壊力を有する敵機動部隊は更に恐ろしい。 だが……一番恐ろしいのは、数少ない安寧の航路さえも、たった1機の偵察機で白日の下に曝け出す例の新型潜水艦ではないのだろうか。 安全海域だと思い、安心して航行していた輸送船は、唐突に表れた偵察機にその素性を調べられ、その情報を基に、敵潜水艦部隊は、より自由に活動できる。 そして、敵潜水艦の魔の手は、いずれは北岸付近にも及んでしまうかもしれない。 彼はそう思うと、背筋が凍り付いてしまった。 「それでも……それでも続けねばならんのか。この戦争を…」 フェヴェンナの諦観の混じった声は、艦体に吹き上がった波しぶきの音で?き消された。 1月5日 午前6時30分 ノア・エルカ列島東方600マイル地点 ベルンハルト艦長は、潜望鏡で周囲の海域を慎重に眺め回していた。 やがて、周囲に敵影が無い事を確認すると、ベルンハルトは頷きながら潜望鏡を収めさせた。 「浮上する!メインタンク・ブロー!」 「メインタンク・ブロー、アイ・サー!」 ベルンハルトの指示の下、クルーが手慣れた動きで各種機器を操作し、キャッスル・アリスの艦体を海面へと誘っていく。 海面に長い艦首が現れると、そこから瞬く間に艦体が波飛沫を受けながら洋上に姿を現す。 キャッスル・アリスはその黒い船体を完全に浮かび上がらせると、10ノットの速度で洋上を走り始めた。 艦橋に装備されている対空レーダーと対水上レーダーはひっきりなしに電波を飛ばし、視認範囲外に脅威となる物が居ないか探る。 甲板には我先にと見張り員が躍り出て、艦橋や甲板に陣取って索敵を始めた。 「艦長。対空レーダー、対水上レーダー、共に敵の姿は映っておりません」 報告を聞いたベルンハルト艦長は、微かに頷く。 「よし。索敵機を出そう。飛行科員は直ちに発艦準備にかかれ!」 ベルンハルトが命令を下すと、飛行科員が待ってましたとばかりに、航空機格納庫に取り付く。 程無くして、格納庫の扉が左右に開け放たれ、中から折り畳まれた水上機が、カタパルトの上に押し出された。 小振りながらも、ほっそりとした機体に、5名の機付き整備員が機体の各所を点検していく。 点検が一通り終わると、ある者は燃料タンクに燃料を入れ、ある者は機銃弾を装填していく。 操縦席に座った整備員はエンジンを始動し、暖機運転を始めた。 アイレックス級潜水艦の艦載機であるSO3Aシーラビットは、胴体の燃料だけで最大1800キロの飛行が可能だが、今回は両翼に2個の 増槽タンクを取り付けている。 増槽を取り付けて飛行した場合、航続距離は2400キロまで伸びるため、パイロットは余裕をもって索敵に専念できる。 浮上から2分後に、艦橋に上がったベルンハルトは、空と洋上の波を交互に見て満足そうな表情を浮かべた。 「ほほう、これは絶好の索敵日和ですなぁ」 すぐ後ろに付いてきたローリンソン飛行長が、顔に満面の笑みを表しながらベルンハルトに言った。 「多少は荒れた天気が続くかと思っていたが、素晴らしいほどの冬晴れだ。空気がかなり冷たい事を除けば、満点の天気と言えるだろう」 「これなら、索敵もやりやすいでしょう。お、来たか」 ローリンソン大尉は、艦橋のハッチから上がってきた2人の飛行服姿の部下に顔を向ける。 部下2人は、ベルンハルト艦長とローリンソン飛行長に対して敬礼を行う。 「うむ、ご苦労」 ベルンハルトは、短くそう返してから答礼する。 「ロージア少尉、クライトン兵曹長。待ちに待った出番だ。今日はしっかり働いてもらうぞ」 「「はい!」」 キャッスル・アリス搭載機の機長を務めるニュール・ロージア少尉と、パイロットを務めるトリーシャ・クレイトン兵曹長は、気合いの 籠った口調で返事をする。 「先ほど、僚艦であるシー・ダンプティも艦載機の発艦準備を終えつつあると通信が入った。諸君らは、先の打ち合わせ通り、母艦から 西方300マイル(480キロ)まで進出し、洋上を航行していると思しきシホールアンル軍輸送船団を発見し、その詳細を母艦に伝えて 貰いたい。万が一、敵船団に竜母が居た場合、または、機位を見失った場合は即座に索敵を中止し、母艦へ戻って貰う。機体に何らかの トラブルが発生し、索敵に支障が来す場合も同様である。いいか……必ず帰還するんだ。決して、変な気は起こすなよ?」 「無論です!何しろ、このロージアが指揮しますからな。飛行長……そして艦長。必ずや、敵船団を発見し、母艦へ戻ります」 「私も、機長と同じであります」 ローリンソンから出撃前の訓示を受けた2人の搭乗員は、自信に満ちた口調でローリンソンとベルンハルトに強く誓った。 「よろしい。では、かかれ!」 2人は無言で敬礼を行うと、足早に艦橋を下り、整備員に取り囲まれた愛機に向かっていった。 整備員から機体の状況を確認したロージア少尉とクレイトン兵曹長は、何度か顔を頷かせてから機体に乗り込んでいく。 ロージア少尉は偵察員席に、クレイトン兵曹長は操縦席に座ると、機付き整備員が一斉に離れ、整備班長がローリンソンに合図を送った。 カタパルト上のシーラビットが、エンジン音をがなり立てる。 整備の行き届いた機首の1350馬力エンジンは快調な音を鳴らしていた。 「いやぁ、遂に発艦ですか」 唐突に、後ろから別の声が聞こえてきた。 振り返ると、フード帽を被った臙脂色の服を着た男性士官が立っていた。 「やぁロイノー少尉。君も艦載機の発艦を見に来たのかね?」 「それだけならまだ良かったんですが」 ロイノー少尉は頭のフード帽を取る。すると、そこから白い犬耳が湧き出てきた。 フィリト・ロイノー少尉は、カレアント海軍から送られてきた魔導士で、相棒のサーバルト・フェリンスク少尉と共にキャッスル・アリスに 搭載されている生命反応探知妨害装置の管理と操作を任されている。 年は22歳と若く、その長い白髪とカレアント人特有の獣耳はキャッスル・アリス乗員にとってある種の癒しとなっているが、本人はいたって 生真面目であり、暇な時は他の乗員の手伝いもするため、頼りになる居候という地位も確立していた。 ベルンハルトは、ロイノー少尉の含みある言葉が気になり、すぐに問い質そうとしたが、 「艦長、発艦準備完了しました!」 飛行長の報告で、ロイノー少尉との会話が途切れてしまった。 「OK。風も良し、波も良し。発艦に必要な条件は全て揃ったな」 ベルンハルトは、周囲を見回しながらそう呟く。 キャッスル・アリスの艦首に波が飛び散り、前部甲板が濡れるが、波はさほど高くなく、揺れも許容範囲内だ。 「索敵機、発艦せよ!」 ベルンハルトは命令を下した。 甲板にいた飛行科員がフラッグを振る。その次の瞬間、小さな爆発音と共にカタパルト上のシーラビットが前部甲板を駆け抜ける。 一瞬のうちにシーラビットは大空に舞い上がり、機体を載せていた滑車台が甲板前縁部よりやや離れた位置に落下して水しぶきを上げた。 発艦を終えたシーラビットは、キャッスル・アリスの上空をゆっくりと旋回する。 両翼の下と、胴体下部に付けられた大小3つのフロートが、シーラビットの飛行する姿をより一層、優雅な物へと引き立たせていた。 「これはまた……気持ちよさそうに飛びますねぇ」 発艦風景を見つめていたロイノー少尉は思わず感嘆し、無意識のうち尻尾を左右に振っていた。 「いいだろう、飛行機ってモンは」 ローリンソン飛行長が、ロイノー少尉に向けて自慢気に語り掛けた。 「飛行長の言われる通りですよ。自分もまた乗ってみたいものです」 「お、そう言えばロイノー君」 ふと、先ほどの含みある言葉を思い出したベルンハルトが、ロイノー少尉に顔を向けながら問い質す。 「ここには、発艦風景を見守る目的で来た訳ではないだろう?」 「ああ、そうでした。危うく忘れる所だった……」 彼はすまなさそうに頭を下げてから、ベルンハルトに話し始めた。
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第284話 海上交通路遮断作戦(中編) 1486年(1946年)1月5日午前7時40分 ノア・エルカ列島東方540マイル地点 潜水艦キャッスル・アリスより発艦したSO-3Aシーラビットは、高度4000メートル付近を時速200マイルの 巡航速度で順調に飛行を続けていた。 「機長!機上レーダーの調子はどんな感じですか?」 キャッスル・アリス搭載機の機長を務めるニュール・ロージア少尉は、機体の左側下方の海域に目を凝らしていた所を、 ペアであるトリーシャ・クレイトン兵曹長に声を掛けられた。 ロージア少尉は顔をレーダースコープに向ける。 「バッチリ作動している。故障の心配は無いぞ」 「いいですね。このまま作動し続けて欲しいもんです」 クレイトン兵曹長の言葉に無言で頷いたロージア少尉は、レーダー範囲内に艦船の反応が無いか確認する。 彼らの機に搭載されている機上レーダーはAN-APS7と呼ばれる物で、米海軍の索敵機には標準装備となっている。 探知範囲は、水上目標なら最大で40キロ、航空目標なら最大で14キロとなっており、索敵範囲は前方160度方向に定められている。 ロージア機の任務は、機上レーダーも用いて、水上を航行しているであろう、シホールアンル軍護送船団を視認し、敵船団の編成を確認する事である。 敵船団索敵には、キャッスル・アリスの北方300マイルに位置するシー・ダンプティから発艦したシーラビットも参加しており、2機の索敵機が 南北から同時に獲物を探し求めている形になっている。 索敵範囲はキャッスル・アリスより方位230度方向の南西部を300マイルほど飛行した後、方位0度方向に反転し、100マイル北上。 その後、キャッスル・アリスが待機している元の海域まで飛行する。 総計700マイル(1260キロ)の長い索敵行であり、発艦から帰還に至るまでの経過時間は、最短でも3時間半、長ければ5時間はかかる予定だ。 とはいえ、これまでの経験でそれ以上の飛行時間を経験している2人には、慣れた索敵行であった。 「それにしても機長……2機のシーラビットで本当に敵の船団は見つけられますかね?」 「さあなぁ……俺としては、空振りに終わるように思える」 クレイトンの質問に、ロージアはさり気ない口調で答えていく。 「俺もお前も、このシーラビットに乗る前は母艦航空隊で経験を積んできているが、空母機動部隊が一度に放つ索敵機の数は、少なくとも10機以上だ。 ある時は、一度の索敵線に2機の索敵機を同時に飛ばして敵艦隊を探すこともあった。だが、時には索敵に失敗する事もある。10機以上の索敵機が 30隻以上の大艦隊を発見できん時もあるんだぜ?それを2機でやれと言うんだから、無茶にも程があるよ」 「機長の言う通りですね」 クレイトンは苦笑交じりの声でそう答えた。 「その索敵線の少なさを補うために、本国ではアイレックス級の同型艦が複数建造中と聞いています」 「今の所、公式には10隻のアイレックス級を揃える予定と言われているが……俺の知り合いから聞いた話だと、それより多い数の同型艦が 追加発注されたらしい」 「追加発注ですか……どれぐらいの数ですか?」 「さあ、正確にはわからんよ。知り合いも、同じく分からんと言って来たよ。だが……」 ニュールは頬を掻きながら言葉を続ける。 「俺達の国の事だ。最低でも20隻……いや、40隻作れと言っていても驚かんね」 「40隻ですか……アイレックス級はこれまでの潜水艦と違って建造工程が幾分複雑化してて、量産向きではないと聞いてますけど」 「それでも、量産しちまうのがこのアメリカだよ。エセックス級しかり、キトカン・ベイ級しかりだ」 「はぁ……」 クレイトンは生返事を返しつつ、実際にやりそうだと心中で思った。 「まぁ、実際に量産化されれば、潜水艦部隊の索敵範囲もぐんと広まりますし、作戦の幅も広がりそうですね」 「理にかなってはいるな。おっと、知り合いからはこんな話も聞いたな……なんでも、新型の巡洋艦が発注されたとか」 「えぇ……新しい戦闘艦がもう開発されるんですか?」 「ああ。なんでも、ウースター級をより強化した巡洋艦のようだな。手こずっていた新式主砲の開発が完了したから、それを主兵装にする 巡洋艦を早くも建造するらしい。」 「もしかして……デモイン級より強い巡洋艦ですか?」 「いや、主砲のパンチ力はデモイン級以下、それでいてウースター級以上とあるから、軽巡だとは思うがな」 「ふむ……あと、ウースターって、あの頭のいかれた対空艦ですよね。それの後継艦がもう……?」 「我が合衆国海軍は、先を読んでいるのかもしれんな」 ニュールの言葉を聞いたクレイトンは頭を捻りながら言葉を返す。 「先を読むにしても…わざわざ新しい軍艦を作る必要はあるんですかね」 「その辺りはお偉方しか分からん。造船所は船を作れと言われたら作り、俺たちのような下っ端は命令があれば、それらの兵器を操る。 それぐらいしか出来んさ」 「なにせ軍人だから……という事ですね」 「お、こいつ!俺の決め台詞をパクりやがって!」 ニュールは拳を振り上げて、目の前の防弾版を小突いた。 その音を聞いたクレイトンは笑い声をあげて、内心でしてやったりと喝采を上げていた。 取り留めのない会話を交わす2人だが、その間、彼らの目線は盛んに周囲に向けられる。 雑談を交わしつつも、2人は決して気を緩める事などはせず、針路上の敵護送船団を探し求めていた。 午前11時45分 ノア・エルカ列島東方540マイル地点 洋上に停止していた潜水艦キャッスル・アリスは、艦の右舷側に回り込んだ艦載機の着水を待っていた。 キャッスル・アリス艦長レイナッド・ベルンハルト中佐は、飛行長のウェイグ・ローリンソン大尉を隣に従えながらシーラビットの着水をじっと見守る。 シーラビットは充分に速度を落とすと、緩やかにフロートを海水に付け、1度は軽くバウンドするが、そのまま白波を蹴立てながらするすると減速していく。 やがて、シーラビットはキャッスル・アリスの右舷艦首側5メートルほどまで近づいてから洋上に停止した。 「何度見ても見事な着水だ」 「クレイトンは優秀な搭乗員ですからな。いつ見ても安心できますよ」 ベルンハルト艦長がそう評価すると、ローリンソンも幾分誇らしげな口調で相槌を打つ。 一見、愉快そうな口調で話す彼らだが、心の中ではやや不満足に感じていた。 「収容急げ!」 ローリンソン飛行長が指示を飛ばし、飛行科員がそれに従い、艦の乗員と共に艦載機の収容作業に取り掛かった。 格納庫から収容クレーンが出され、接舷したシーラビットを吊り上げるべく、機体の指定された箇所にワイヤーを括りつけていく。 準備が終わると、シーラビットはクレーンに吊り上げられ、慎重な動作でカタパルトの台座上へと運ばれて行った。 午後0時30分 キャッスル・アリス艦内 「ご苦労だった。下がっていいぞ」 ローリンソンはクレイトン兵曹長とロージア少尉から一通り報告を聞いた後、2人を下がらせた。 「飛行長、どう思うかね?」 ローリンソンは右隣に立っていたベルンハルトに声を掛けられると、溜息を吐きながら首を横に振った。 「予定された事ではあります。とはいえ……こうもあっさり空振りに終わると、ちと悔しい物がありますな」 ローリンソンは、海図台に置かれた海図を見据えながらベルンハルトにそう答えた。 「飛ばせる飛行機の数が多ければ、索敵の効率も上がるのですが」 「ま、案の定と言った所だな。それに、最初から敵船団が見つかる訳ではない。戦争をしているんだ……これも、結果の一つとして受け入れんと行かんさ」 「確かに」 ローリンソンはそう返しつつ、心中ではやれやれと呟いていた。 キャッスル・アリスとシー・ダンプティが行った航空偵察は、目標としていた敵護送船団を発見する事無く幕を閉じた。 2機のシーラビットは予定の航路を飛行したものの、目標は発見できぬまま母艦に戻ってきたのである。 「しかし……シー・ダンプティの艦載機が途中、機上レーダーの故障を起こしたのは痛いですな。おまけに、シー・ダンプティ機の針路上には 予想していなかった多量の雲が続いていたとも聞いています。もしかしたら」 「君の言いたい気持ちは分かる。だが、シー・ダンプティの艦載機は途中から雲の下まで高度を下げて偵察している。しかし、目標はそれでも 見つからなかった。やるべき事はやっているさ。だが……第1次索敵は誰が見ても失敗だよ」 「……索敵線を変更致しましょうか?」 「変更か……どれぐらいかね」 ベルンハルトが聞き返すと、ローリンソンは海図上に書かれた索敵線をやや北にずらした。 「第1段索敵ではこの針路上に敵影は見つかりませんでした。なので、北に50マイルほどずらし、第2段索敵でこの針路上を索敵してはどうでしょうか」 「ふむ……悪くない考えではある。だが、シー・ダンプティ機の索敵範囲はどうなるんだ?」 「シー・ダンプティ機は、偵察高度を変えて先程とほぼ同じ範囲を偵察させてはどうでしょうか。シー・ダンプティ機が飛行高度を変えたのは偵察行の 半ばを過ぎてからです。針路上の天候が先程と同様ならば、雲の下を飛ばして偵察させればよいと思います」 「そうは言うがな……シー・ダンプティの飛行科将校の考えもあるし、第一、こっちは命令する側ではない。出来るとすれば、君の言った案を伝えることぐらいだな」 「……では、シー・ダンプティ機の第2段索敵の飛行計画がどのようになっているか問い質してみましょう。無論、こちらの索敵計画も伝えてからですが」 「それがいいだろう。早速打ち合わせに入るとしようか……俺達の背後にいる僚艦8隻に任務をこなして貰う為にもな」 2人はそう決めると、通信員を呼んで索敵計画の打ち合わせに入った。 午後1時20分 キャッスル・アリス艦内 打ち合わせが一段落した後、ベルンハルトは通信室の近くにあるこじんまりとした一室を訪ねた。 室内の小さなテーブルの上に置かれた魔法石を前に、険しい表情を浮かべながら会話を交わす2人のカレアント人士官は、ベルンハルトを見るなり 席から立ち上がった。 「これは艦長」 「ああ、そのままでいい……して、どうだね。魔法石の具合は?」 ベルンハルトが問うと、右側の白い犬耳の魔導士官……カレアント海軍所属の魔導将校であるフィリト・ロイノー少尉が口を開いた。 「魔法石の出力は、ひとまず安定の数値を出しているのですが、唐突に出力が不安定になる事が多くなっています。一応、このまま使うのならば、 2時間の連続使用には耐えられるでしょうが……」 「一応、持ってきた予備の魔法石が1つありますので、それを代わりに使う事も考えましたが、機能停止状態の魔法石は、活性化するまでに1日半の 時間を要すと、ミスリアル側から説明されています」 ロイノー少尉の隣にいる、茶色と黒が混じったまだら模様の長い猫耳のカレアント人士官、サーバルト・フェリンスク少尉も会話に加わった。 「恐れながら……小官としましては、不安要素を取り除くには、不具合のある魔法石は使用せず、予備の魔法石に取り換えてから作戦を継続するのが よろしいのではないかと思いますが」 「……ロイノー少尉も同じ意見かね?」 ベルンハルトは真顔でロイノー少尉を見つめる。 「私も同じです。先ほどお話を聞きましたが、まだシホールアンル軍護送船団は発見できていないようですな。僭越ながら申し上げます。ここは フェリンスク少尉の言う通り、魔法石を変えて、万全な体制で臨まれた方が良いと、私も思います」 「……参ったな」 ベルンハルトは渋面を浮かべ、左手で自らの後頭部を掻いた。 敵船団襲撃は、2隻のアイレックス級潜水艦と16隻の通常型潜水艦と共同して行う予定だが、事前の打ち合わせでは、シー・ダンプティを基幹とする 第1群とキャッスル・アリスを基幹とする第2群、それぞれ9隻に別れており、個別で敵船団を攻撃する事になっている。 この2個潜水艦隊は南北に300マイル離れており、群旗艦を務める司令潜水艦が定期的に連絡を取り合っていた。 キャッスル・アリスは、第2群の目として航空偵察を行い、敵船団を発見した場合は後方40マイルに展開している潜水艦8隻を付近に呼び寄せ、敵船団を 視認範囲内まで近づけた後は、キャッスル・アリスがまず敵船団に雷撃を行い、敵護衛艦の注意を引き付けたうえで、第2群本隊8隻で波状雷撃を掛けて 敵船団の漸減を図るという計画が立てられていた。 なぜこのような計画が立てられたのか。 それは、生命反応探知妨害装置の不足に起因していた。 ミスリアル側から貸与された生命反応探知妨害装置は、敵対潜艦の追尾を振り切れる画期的な魔法兵器であるが、生産数が少ないのと、魔法石の各種調整には 同盟国の魔導士が共に乗り組む必要があるため、一部の潜水艦にしか配備されていなかった。 アイレックス級は全艦が、同盟国の支援の甲斐あって探知妨害装置を搭載する事ができたため、同級に属するシー・ダンプティとキャッスル・アリスは、 今回の作戦では敵船団攻撃後に、護衛艦を一部なりとも誘引して本隊の負担を軽減する事が求められていた。 しかし、それを完璧にこなす為には、探知妨害装置が入力された魔法石が、予定通りに探知妨害魔法を発し続ける事が求められる。 もし、敵の生命反応探知魔法を妨害できなければ、キャッスル・アリスは複数の敵護衛艦に追い回され、最悪の場合撃沈されるであろう。 「魔法石がしっかり働いてくれないとまずいんだがなぁ……何しろ、この辺りの水深は何故か、あまり深くないから、深深度に潜って攻撃を回避する事も難しい。 魚雷も本隊の搭載している電池魚雷と違って、従来の尾を引きまくる奴を使っているからな……どうしたものか」 2人のカレアント軍士官は、目の前で渋面を浮かべ、喉を唸らせながら苦悩しているベルンハルトを見て、自然と悪い事をしてしまったと、心中で感じていた。 「……艦長、我らが付いていながらこのような様になってしまい、深く……お詫び申し上げます」 ロイノーはそう言いながら、相棒のフェリンスクと共に頭を下げる。 それを見たベルンハルトは、さり気ない動作で右手を振った。 「いや、別に貴官らが悪い訳ではあるまい。貴官らはよくやってくれているよ。普段から魔法石のチェックも欠かさず行い、本分を尽くしているばかりか、 うちの手伝いまでやってくれているからな。別段、謝る必要は無いぞ」 ベルンハルトは、快活さを感じさせる口調でひとしきり言った後、少しばかり表情を歪めながら魔法石を指差した。 「責があるとすれば、こんな危なっかしいモノを手渡したミスリアル側の責任者だろうな。これで事が起きたら、そいつをうちの艦に呼んでから、 魚雷発射管に詰め込んでやるさ」 「エルフを魚雷発射管に詰め込むのですか……それはまた……怖いですなぁ」 さらりと言ってのけたベルンハルトに対し、2人は顔をやや引き攣らせた。 「おっと……ここは笑う所だぞ?」 ベルンハルトが苦笑しながら言うと、2人も表情を和ませた。 「ひとまず、魔法石の状況は掴めた。引き続き、魔法石の監視と調整を行ってくれ」 「はっ。何かありましたら、すぐにお伝えします」 フェリンスクがベルンハルトにそう返答し、隣のロイノーはベルンハルトの顔を見ながら無言で頷いた。 同日 午後2時 キャッスル・アリス艦内 「飛行長、機体の状況はどうなっている?第2段索敵は出来そうか」 ベルンハルトは海図台の側で航海長とひとしきり話し合った後、目の前に現れたローリンソンを見るなり、おもむろに声を掛けた。 「機体の状況は万全です。帰還後に整備を行いましたからな。燃料補給も間もなく終わります」 「そうか。本日2回目の航空偵察は準備を終えつつあるな」 ベルンハルトは満足気に頷く。 「ところで艦長。群司令からは何か言われましたか?」 「ああ、魔法石の話か……」 ベルンハルトは、魔法石の状況を確認した後に、後方の潜水艦ベクーナに座乗する第2群司令ローレンス・ダスビット大佐に一連の報告と、 今後の動向についての指示を仰いでいた。 「司令からは、魔法石の動作が完全に停止する恐れが無いのならば、作戦を続行せよと命じられたよ。つまり、魔法石の交換はやらずに任務に当たれという事さ」 「それはまた……大丈夫でしょうか?」 「不安しか感じんが……まぁ、やってやれん事はないだろう」 ベルンハルトは腕組しながら、ローリンソンに言う。 「それに、万が一魔法石が使えなくなったとしても、戦えん訳ではない。あの便利な兵器が出る前は、もっと悪い環境で敵と戦った事もある。 その時の経験を活かして立ち回るだけさ」 「……いやはや、艦長は慎重なのか、大胆なのか分かりませんなぁ」 あっけらかんとした口調で言うベルンハルトに対し、ローリンソンは唖然としながらそう言い放った。 「まぁ……私の親戚がUボート乗りだったからな。爆雷攻撃に遭遇しやすい血筋を受け継いでいるのかもしれん」 「うちらクルーからしてみれば最悪な血筋かもしれませんな。潜水艦乗りにとって、爆雷攻撃を食らう事は死の一歩手前か……その先に直結するかの、 2つに1つですから」 傍で聞いていたボールドウィン航海長が、毒のある言葉で返した。 「言いたい事を言える部下を持てて幸せだよ」 ベルンハルトは苦笑交じりに、ボールドウィンへそう言った。 「艦長……時間ですな」 ローリンソンは腕時計を確認してから、艦載機発艦の時間が迫っている事を伝える。 「もうそんな時間か。よし、上がろう」 ベルンハルトは頷くと、ローリンソンと共に艦橋に上がっていった。 彼らが艦橋に上がるまでの間、キャッスル・アリスの甲板上では、早朝と同じように整備と燃料の補給を終えた艦載機がカタパルト上に引き出され、 暖機運転を開始していた。 艦橋に上がったベルンハルトは、上空を見渡してから、顔に渋面を浮かべた。 キャッスル・アリスの上空には雲が張っており、所々切れ間が見えてはいるのだが、航空偵察にはあまり不向きな天候に思えた。 「飛行長、どう思うね?」 彼は、空に指差しながらローリンソンに聞く。 「雲の量が多くなってますなぁ……朝と比べると、状況は幾分悪くなってます」 「……わが合衆国海軍気象部の予報官によれば、この海域の天候は2月辺りまで良好の見込みと言っていたが」 「この異世界の天候予測なんぞ、はなから当てにしとりませんぜ。何しろ、気象データの蓄積がまだまだ足りん上に、前にいた世界よりも天候の 変わり具合が異様ですから」 それを聞いたベルンハルトは、苦笑しながら肩を竦めた。 「ああ、まさにそれだ。晴れ間が見える分、天候は良好…と、言えなくもないがね」 「まぁ……そうとも取れますな」 ローリンソンも苦笑いしながら空を見上げた。 心なしか、風もやや強くなっているようであり、艦首方向からふぶく風の音も幾分大きくなっているように思えた。 程無くして、しばしの休息を終えた2名の搭乗員が艦橋に上がってきた。 「飛行長!」 「おう、ご苦労」 ローリンソンとロージア少尉、クレイトン兵曹長が互いに敬礼をする。 「これから第2段索敵に行ってもらうが、索敵の手順、飛行経路は先ほど話した通りだ。無事に帰還する事を祈っているぞ。艦長からも何かありますか?」 ローリンソンはベルンハルトに顔を向け直して言う。 「いや、私からは特にないが……私も飛行長と同じく、諸君らが無事に帰還する事を祈っている。よろしく、頼む」 「無論であります。それでは、行ってまいります」 ロージア少尉は、さり気ない口調でベルンハルトにそう返すと、敬礼を送ってから甲板に降りた。 そして、クレイトン兵曹長と共に艦載機に乗り、朝と同じようにカタパルトから射出された。 シーラビットはキャッスル・アリスの周囲を旋回した後、未だに見ぬ敵護送船団を求めて、一路、西方へ向かっていった。 同日 午後2時20分 ノア・エルカ列島東方沖150ゼルド(280マイル)地点 小休止のため、艦内の食堂に下がっていたネルス少佐は、小走りで艦橋に上がり、艦長席に座っていた駆逐艦フロイクリ艦長、ルシド・フェヴェンナ中佐に やんわりと声を掛けた。 「艦長、今戻りました」 「やや遅めの昼飯は美味かったかな?」 フェヴェンナ中佐は、微かに笑みを浮かべながらネルス副長に聞く。 「ええ、美味でしたよ。空きっ腹には程よく効きましたな。本当なら、もう少し早い時間に昼食を済ませていたはずですが……」 「いきなり来たからな。ヤツが」 フェヴェンナ艦長は、右手の親指を上に向けながら言った。 今から5時間前……午前9時頃の出来事であった。 それまで、護送船団は5リンル(10ノット)の速力で東に向けて航行していた。 対潜警戒を行いながらの航海であるから、どの艦も一定の緊張を保ちながら航行を続けていたが、この海域にはまだ米潜水艦が跳梁していない事もあって、 ある程度のんびりとした雰囲気がどの艦でも流れていた。 しかし、その軽やかな空気は、船団の一番北側を航行していた第51駆逐隊の駆逐艦ギョナスチの緊急信によって瞬時に吹き飛んだ。 「緊急!船団の北東方面の空域に敵機らしきものを確認せり!敵機は現在、雲の中に隠れた模様!」 全艦に飛び込んだこの緊急信によって、護送船団の空気は一気に張り詰めたものとなった。 駆逐艦ギョナスチからは、更に 「敵機らしき物、再度視認!距離、10000グレル!(2万メートル)」 という通信が入り、その後も2度、敵機視認の報告が飛び込んできた。 最初の通信が伝えられてから5分後、護送船団旗艦から速力を12リンル(24ノット)に上げ、南東方面に一斉回頭せよとの命令が伝わり、 船団は針路を南東寄りに変えた。 最初の敵機視認の報が伝えられてから15分後、ギョナスチからの追加報告は入らなくなった。 この時点で、敵機と思しき機影は、東の彼方に向けて飛び去っており、船団の視認範囲内にはいないと判断された。 それから5時間ほどが経った今……護送船団の各艦艇では、殆どの乗員が緊張に顔を引きつらせており、このフロイクリの艦内でもピリピリとした 空気に包まれていた。 「副長。やはり、みんな緊張しとるな」 フェヴェンナは眉間にしわを寄せながら、ネルスに話しかける。 「無理もありません。我が艦隊は敵機に発見されたのですから」 「発見か……」 フェヴェンナは顎を撫でながら、喉を唸らせる。 「……どうも腑に落ちんな」 「と、言われますと……?」 艦長の発した意外な言葉を聞いたネルスが、すかさず問い質す。 「なぜ、敵機は船団の上空で旋回しなかったのだ?」 「旋回……ですか」 「そうだ。偵察機は、目標を見つけた時は、その目標の詳細をなるべく正確に母艦に伝える必要がある。そのためには、まずは船団にもっと接近し、 必要とあれば上空を旋回して規模と編成を確認するはずだ」 「そういえば……これまでに会った米軍の偵察機は、よく雲の外に出て、我が方の編成を調べていましたな」 ネルスは過去の経験を思い出しながら、艦長にそう返した。 竜母機動部隊の護衛艦として活動した時期が長いフロイクリは、よく輪形陣の外郭に配備されており、そこから米軍の艦上偵察機が偵察飛行を行う様子を 幾度となく視認している。 敵の偵察機は、護衛のワイバーンが迎撃に向かえばすぐに退散していったが、いずれもが雲の外に出て、念入りに艦隊の編成を調べていた。 偵察機がすぐ逃げるのは、長居すれば護衛のワイバーンに撃墜されるからであり、別の戦域では、護衛機を持たない船団が敵の偵察機に四六時中 張り付かれたという情報もある。 「敵が船団を見つけていれば、必ず雲の外に出て来ただろう。何しろ……丸裸なのだからな。でも……敵機は雲の外から出てこなかった」 「もしかして……敵機は船団を発見していない……と?」 「過去の経験から照らし合わせれば、必然とそうなる」 フェヴェンナは空を見据えた。 「ギョナスチから伝えられた情報では、雲と雲の間を飛行していた敵機をたまたま視認し、それがあたかも、船団が敵機に見つかったという誤解を 生んでいるのかもしれん」 「しかし艦長……こちらが敵機を見つけたのならば、敵機もこちらを見つけたのではないでしょうか?」 「雲と雲の間を飛行しているだけで、船団の詳細が分かる筈がない。ましてや、敵機と船団の距離は、10000グレル(2万メートル)を割った 事が無く、最後の報告では15000グレル(3万メートル)まで離れていたと伝えられている」 フェヴェンナは顔をネルスに向けた。 「これは、“獲物を見つけた狩人”の動きではない」 「では……船団の存在は敵にまだ知られていない、という事ですか」 「そうなるな」 ネルスに対し、フェヴェンナはそう断言した。 「とはいえ、敵が第2の索敵を行う可能性もある。もしそうなれば、現針路を航行していたままの船団は、敵の第2次索敵で発見されてしまうだろう。 旗艦から命じられた進路変更は正しい判断だ」 「なるほど……では、船団は難を逃れたという訳ですな」 ネルスは安堵の表情を浮かべながらそう言ったが、フェヴェンナは真顔のまま言葉を返す。 「そうであると、いいのだがな」 午後4時 ノア・エルカ列島東方沖300マイル地点 キャッスル・アリスから発艦したシーラビットは、洋上に雲が多い事を考慮し、高度2500メートル付近を飛行していたが、目標である護送船団を 発見できぬまま往路の偵察行を終え、反転して母艦に引き返しつつあった。 「……まだ見つからんか」 後部席でレーダーに視線を送ったロージアは、依然として船らしき反応を捉えない事にやや苛立っていた。 「機長、やはり見つかりませんか?」 「ああ。レーダーにも反応が無い」 クレイトンにそう返したロージアは、無意識のうちに舌打ちする。 「母艦まであと240マイルか……あと1時間半以下の距離だな」 ロージアはそう言いながら、チャートに印を入れていく。 第2次索敵は、第1次索敵のよりも北側へ索敵範囲をずらして行われている。 これは、第1次索敵で機器の故障などにより、予定通りの索敵を行えなかったシー・ダンプティ機の補填として計画され、実行したものだが、 今の所、キャッスル・アリス機はこの範囲内で敵らしき船を発見できていない。 「参ったな……」 ロージアは眉間に皴を寄せながらも、目線は周囲を見回していく。 雲の下を飛行している水上機は、周囲に海を見渡せる事ができる。 だが、その四方には未だに、敵らしき船の影すらない。 今しも無線機から、シー・ダンプティ機が敵を発見したという朗報が入るかと期待するが、その期待が叶う事は、未だに無いままだ。 クレイトンとロージアが、悶々とした気分に苛まれながらも、時間は無情にも過ぎていく。 2人の搭乗員は、それでも完璧な動作で索敵を続ける。 しばらく時間が経ち、ロージアはレーダーから目を離し、目視で周囲の索敵を行っていく。 一通り、辺りを見回してから、レーダーに目線を移す。 機上レーダーには、依然として反応は映らない。 「機長。母艦まであと200マイルです」 耳元のレシーバーに、クレイトンの定時報告が入る。 チャートに目を移し、手書きで機位を記していく。 「あと1時間か……こりゃ、第2次索敵も空振りに終わるかもしれんな」 記入を終えると、彼はレーダーに目を移す。 レーダースコープには相変わらず影も形もなく、端にシミのような物が映った時には、目線を機の左側に向けており、そこから後方、右側と 視線を巡らせていく。 「機長、やはり……索敵は失敗ですかね」 「ああ。失敗だな。やはり……偵察機は多く揃えんと効率が悪いな」 クレイトンの質問に、ロージアは溜息混じりの声で答える。 ロージアは気持ちを改めるため、深呼吸をしてから索敵を続けようとした。 その時、彼の脳裏に先ほどの光景が思い起こされた。 レーダーから目を離した時……スコープが端に着いた時、一瞬だけシミのような光点が見えていた。 その後、ロージアは周囲を索敵した後に再度レーダーを見たが、反応は無かった。 (そう……“シミ”すら無かった……!?) ロージアは心中でそう呟いた直後、急に目を見開き、機の左側……北の方角に顔を向ける。 北側の海域は一瞬、何も見えないように思えるが、よく目を凝らしてみると、その方角には、雲がより一層低く垂れ込んでいる。 周囲の雲は、大体3000メートルから4000メートルの間に浮いているが、その方角の雲は3000メートルから2000メートル付近まで降りているように見える。 「……クレイトン!燃料はあとどれぐらいだ?」 「いつも通り、増槽タンクのみならず、胴体の燃料タンクも満タンで出撃しましたから、あと500マイル(800キロ)は飛行できますが……どうかしましたか?」 「すまんが、北に針路を変えてくれ。方位は340度。急げ!」 「……!アイ・サー!」 先ほどから打って変わったロージアの口調に、何かを察したクレイトンは、言われるがままに機首を北に向けた。 「もしかしたら、目の錯覚かもしれん。だが……今まではあの微かな“シミ”すら無かった。燃料にはまだ余裕がある。例え何も無かったとしても、 母艦に帰れるだけの燃料は残る筈だ」 ロージアはそう呟きつつも、期待に胸を膨らませながら、その時が来るのを待った。 それから10分ほどが経った。 午後4時30分、機上レーダーが明確な反応を映し始めた。 「捉えたぞ。方位335度、距離25マイル!」 「機長、こっちも視認しました!雲の下に隠れてますぜ!」 高度2000メートルまで降下したキャッスル・アリス機は、前方の洋上を行く敵護送船団の姿を目視で確認していた。 「敵の数は……3隻ほど見えます!」 「レーダーの反応は既に10隻ほど捉えている。もっと近付くぞ!」 ロージアの指示に従い、クレイトンは速度を上げて、敵護送船団との距離を詰めていく。 敵船団との距離を詰める中、ロージアは敵船団発見の報告を母艦に伝え始めていた。 それからしばらくして、キャッスル・アリス機は敵船団の全容が明らかになる位置まで接近を果たした。 「機長、護衛艦が発砲してきました!」 「近付きすぎるな!撃ち落とされるぞ!」 ロージアは切迫した声でクレイトンに注意を促した。 敵弾はキャッスル・アリス機から300メートル離れた右側下方で炸裂し、黒煙が沸いた。 距離は敵船団の外周から13000メートルほどを開けているが、念のため、15000メートル付近まで下がる事にした。 敵艦は盛んに対空砲弾を放ってくるが、キャッスル・アリス機の至近で炸裂する弾は1発も無かった。 クレイトンは、敵船団との距離を保ちながら、ゆっくりと外周を回っていく。 最初は敵竜母が護衛に付いていると思われたが、見た所、敵船団には護衛艦と輸送艦しかいないため、敵ワイバーンの存在を気にする事無く、 敵船団の詳細を確認する事ができた。 「敵船団は駆逐艦、輸送艦総計40隻前後。そのうち、護衛艦は12隻、残りは輸送艦の模様。母艦との距離は200マイル、方位300度。 速力は約20ノット。敵船団は同針路を依然として航行中なり」 ロージアは、敵船団の編成と針路、推定速度を事細かく報告していく。 程無くして、報告を終えたキャッスル・アリス機は船団の上空を1周してから帰途に就こうとした。 「機長、やりましたね!」 「ああ。ビンゴだ。失敗に終わるかと思ったが……どうやら、運に見放されていなかったようだ」 「報告も終わりましたし、帰還しますか?」 「ああ……少し待て」 ロージアは即答しようとしたが、この時、頭の中で何かが閃いた。 しばし考えてから、彼はクレイトンに次の指示を飛ばし始めた。 午後4時50分 ノア・エルカ列島沖東方170ゼルド(318マイル)地点 「敵機、北東方面に遠ざかります」 駆逐艦フロイクリの艦橋では、フェヴェンナ艦長とネルス副長は、緊張に顔を強張らせながら顔を向け合った。 「副長、最悪の事態だな」 「ええ……旗艦からはまだ何もいって来んようですが」 フェヴェンナは眉を顰めながら、旗艦のいる方角に顔を向ける。 「なるべく早く命令を出して欲しい所だが……まぁ、司令も心中穏やかではないのだろう。昨今の経験が浅いのなら、今の心理状態で素早く 命令を下すのは、容易な事ではあるまい」 フェヴェンナは憮然とした表情のままネルスにそう返した。 この時、魔導士官が艦橋に入室してきた。 「艦長!旗艦より通信であります!」 フェヴェンナは手渡された紙を一読してから、複雑そうな表情を浮かべた。 「艦長、旗艦の司令は何と言われているのです?」 「全艦、別命あるまで現在の針路、並びに、速度を維持せよ、との命令だ」 「それは……」 ネルスもまた、眉間に皴を寄せつつ、艦長から差し出された通信文を手に取った。 「恐らく、敵の偵察機は水上機だ。そして、水上機という事は……例の航空機搭載の潜水艦がいるに違いない。これが敵の空母なら、偵察機の 下腹にあんなアシが付いている筈がない」 「船団の針路や航行速度を変更するように意見具申してはどうでしょうか?今のままだと、敵に先回りされる危険が大いにあるかと」 「一応、私もそうするつもりだ。だが……敵の偵察機は北東方面に向けて帰還していった。それはつまり、午前中に遭遇した同じ偵察機が 索敵範囲を変えて、こちらを追って来たという事になる。とはいえ、距離からして、敵もあまり近くにいるとは思えない」 「では……船団は……?」 「司令は北東に居る敵潜水艦部隊の追跡を逃れるため、1日程は南下を続けるかもしれんな」 フェヴェンナはネルスにそう言った後、一呼吸おいてから言葉を付け加えた。 「高速輸送艦様々と言った所ではある。偽装対空艦の元となった船体だ。こういった所で速さが生かせるのは流石だな」 「最高速力は13リンル(26ノット)まで出ますからね。おまけに量産向きの船体ですから数も多い」 「80隻の高速輸送艦は、この海上交通路維持には欠かせない存在と言える。最も……」 フェヴェンナは真顔のまま前方を見据える。 「敵にとってはただの餌にしか見えんだろうな」 「ひとまず、南下を続ければ敵潜水艦は振り切れそうですな」 「速度はこっちが速いからね」 ネルスにそう返答した後、フェヴェンナは艦長席を立ち、ゆっくりとした足取りで左舷側の張り出し通路に歩み出た。 通路には、冬の冷たい海風が強く吹いており、防寒着を着ているとはいえ、体が少しばかり震えた。 上空の太陽は、現在の時刻が夕方に近いとあって早くも傾きつつある。 「今日の日没は午後5時30分となっています」 「ふむ……それにしても、今日の夜も冷えそうだな」 後ろから声を掛けてきたネルスに、フェヴェンナは単調な声音で答えた。 「しかし、このまま現針路を維持してもいいのでしょうか。敵は潜水艦部隊のみではないような気がします」 「エセックス級空母を擁する敵機動部隊が近くにいるかもしれない、と思っているのだな?」 「このような大船団を一気に叩き潰すのであれば、空母機動部隊で殴り込む方が、効率が良いですからな」 それを聞いたフェヴェンナは頭を2度、横に振った。 「ま、成るように成れ、さ」 その後、船団は南下し続けたが、午後6時には偽装針路を取るため、一路南東方面に転舵し、10リンル(20ノット)の速力で航行し続けた。 午後6時20分 ノア・エルカ列島沖東方530マイル地点 護送船団を発見したキャッスル・アリス機は、一時北東方面に離脱したが、離脱から40分後には針路を母艦へ向けていた。 その頃には日が落ち、辺りは真っ暗闇となった。 母艦であるキャッスル・アリスは、艦載機を誘導するために電波を発信したため、クレイトンとロージアの乗る偵察機は、誘導電波に沿って母艦へ戻る事ができた。 午後6時には、機上レーダーがキャッスル・アリスを探知し、クレイトンはその艦影を目標に飛行を続けた。 「機長、前方下方に明かりが見えます!母艦です!」 「OK。こっちからも見えたぞ」 クレイトンが喜びの声を上げるのを耳で聞きつつ、ロージアは平静さを保ちながら次の指示を下していく。 「夜間着水になる。訓練通りに、慎重にやってくれよ」 「勿論です。では、行きますよ!」 クレイトンの掛け声とともに、機体が母艦の近くに向けて速度を上げていく。 程無くして、母艦上空に到達すると、クレイトンは愛機の速度を緩めつつ、上空を旋回する。 2度、3度と旋回を繰り返すうちに、速度は更に緩まり、クレイトンは慎重に期待を操りながら、着水準備に入った。 エンジンのスロットルを絞り、機体を水平に保ちながら、ゆっくりと下降していく。 着水の瞬間は最も緊張する時だ。 着水事故が起きた時のために、2人は風防ガラスを開ける。 外から冬の冷たい風が容赦なく吹き込み、2人の体が急速に冷えていく。 「今回も、上手く行ってくれよ」 ロージアは寒さに震えつつも、小声で着水成功を願う。 空母に乗っていた時は、着艦時に着艦フックがワイヤーを捉えてくれれば、強制的に減速する事ができた。 しかし、水上機は、常にうねりを伴い、安定しているとは言えない海上に降りなければならないため、着水は非常に難しい。 訓練中に、僚機が着水に失敗して全損事故を起こしたのを見ているロージアは、空母艦載機とは違った難しさがある事を、真に理解していた。 機体の右手に、母艦が見えてきた。 真っ暗闇の中にサーチライトで位置を知らせるキャッスル・アリスの姿は、心の底から頼もしいように思えた。 「着水します!」 クレイトンからそう伝えられると、ロージアは万が一の時に備えて、体を身構えた。 唐突に機体下部から突き上げるような衝撃が伝わる。周囲からは、フロートが海水を切り裂く音が響いて来る。 ドスンという衝撃が伝わると、次は機体が一瞬だけ浮いて軽やかな浮遊感を感じたが、すぐにまた下部から衝撃が伝わり、そこからこすり続けるような音と 振動が機体を震わせ続ける。 フロートから水しぶきが上がり、海水の一部は操縦席や後部席にまで振りかかってきた。 着水からそう間を置かぬ内に、2人の機体はキャッスル・アリスのほぼ右真横の位置で停止した。 シーラビットが艦の右側20メートルの位置に停止すると、ベルンハルト艦長が矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。 「艦載機収容急げ!見張り員、周囲の警戒を怠るな!ここで敵に襲われたらあっという間にやられるぞ!」 ベルンハルトの指示に急き立てられるかのように、艦載機の収容は順調に行われ、程無くして、シーラビットは艦内に収容された。 収容作業を見守ったベルンハルトは、艦橋から司令塔に降りた所で、通信員から1枚の紙を手渡された。 「艦長、群司令より命令であります」 「ご苦労」 ベルンハルトは、紙面に書かれた命令文を見た後、深く頷いた。 「さて、遂に本番か……この先どうなる事かな」 彼は、そうぽつりと呟いた後、艦内放送を行うため、マイクを手に取った。
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第285話 海上交通路遮断作戦(後編) 1486年(1946年)1月6日 午前3時 ノア・エルカ列島沖東方500マイル地点 潜水艦キャッスル・アリスの艦長を務めるレイナッド・ベルンハルト中佐は、艦長室で仮眠に入ってから、1時間足らずで部下に起こされた。 「艦長、起きて下さい」 「……む、来たか?」 ベルンハルトが目の前にいる部下に聞くと、部下はすぐに顔を頷かせた。 「よろしい。仕事の時間だな」 ベルンハルトはそう独語しつつ、ベッドから起き上がり、ハンガーにかけていた制帽を頭に被りながら、発令所に向けて歩いて行った。 急ぎ足で発令所に辿り着くと、平静な声音で副長に尋ねた。 「敵かね?」 「はい。2分ほど前に、水上レーダーが敵らしき反応を捉えました」 副長のリウイー・ニルソン少佐は、台の上に広げている海図に、持っていた赤鉛筆の先をなぞらせて、ある一点で止める。 「位置は本艦より北西、方位278度、距離は約20マイルです」 「速力は?」 「現在、16ノットで東に向かっております」 ベルンハルトは、海図上の自艦の位置と敵と思しき反応の位置を交互に見つめる。 敵の針路は、キャッスル・アリスの位置からちょうど北の辺りを通り過ぎる形になっていた。 キャッスル・アリスが幾らか北に進めば、敵を捕捉し、雷撃を敢行する事ができる。 「艦長、レーダー員から続報です。反応は今も増え続けており、スコープ上には6隻の艦影が映っているとの事です」 航海長のレニー・ボールドウィン大尉がベルンハルト艦長にそう伝える。 「6隻か……つまり、この反応はアタリという事だな」 彼はそう言うと、満足そうな笑みを浮かべてから両手を叩いた。 「通信長!旗艦に報告だ!」 「はっ!」 ベルンハルトから幾らか離れた場所にいた通信長が、返事をしながら体を振り向けた。 「我、敵船団をレーダーで探知せり。位置は本艦より北西、方位278度方向、距離は約20マイル。本艦はこれより、計画通り敵船団襲撃に向かう、 以上だ。すぐに送ってくれ」 「アイ・サー!」 通信長は、ベルンハルトから指示を受け取ると、すぐさま部下の通信員に、先ほどの報告文を送るように命じた。 「これより潜行する!」 「アイ・サー。潜行用意!甲板の見張り員は至急、艦内に戻れ!」 ボールドウィン航海長の声が艦内と甲板上に響き、甲板で見張りに当たっていたクルーは、大急ぎで艦内に戻っていく。 最後のクルーがハッチから艦内に入ると、いつも通りにハッチを固く閉め、それからハシゴを伝って艦内に降りてきた。 「急速潜行!深度40!」 ベルンハルトは次の命令を下し、艦のクルー達はそれに従って機敏に動いていく。 艦内に轟音が響き渡り、キャッスル・アリスは艦首を傾けつつ、急速に海面下に没していく。 艦の両舷から夥しい泡が立ち上がり、夜目にもわかる黒い艦隊が、波間に消えてゆく。 最初は艦首が没し、次に艦橋、そして、最後に艦尾部分がするすると、海面下に没していった。 潜行を開始してから20分後、キャッスル・アリスは潜望鏡深度まで浮上しつつあった。 「浮上停止、針路・速度そのまま」 潜望鏡深度である10メートルに達した事を確認すると、ベルンハルトは新たな指示を次々と飛ばし始めた。 「魚雷戦用意!生命反応探知妨害装置始動!始動確認後、潜望鏡を上げる」 ベルンハルトの指示はすぐさま、ロイノー少尉に伝わる。 探知妨害魔法装置の置かれた部屋で、2人の魔導士が魔法石に入力された術式を起動し、程無くして、キャッスル・アリスの周囲にうっすらと、 青い膜のような物が展開された。 「艦長!術式展開完了。探知妨害魔法は正常に起動しております」 「よろしい。潜望鏡上げ!」 ロイノー少尉の報告を受け取ったベルンハルトは、次の命令を下した。 駆動音と共に潜望鏡が海面に上げられていく。 程無くして、潜望鏡が上げ終わると、ベルンハルトはペリスコープに張り付いた。 周囲をゆっくりと見回していく。 洋上は、上空の月明かりのお陰で夜間にもかかわらず、思いの外明るいように思える。 うっすらと視界の上隅に見える二つ月の月光が、洋上を照らしているようだ。 「……お、居たぞ」 ベルンハルトは、夜闇にうごめく何かを見つけた。 闇の中で、月光に照らされている艦影は、はっきりとは見えない。 だが、その特徴的な艦影を見分ける分には苦労しなかった。 「先導駆逐艦を視認。距離……5000。速力14ないし、16ノット。敵の針路は北東、方位55度」 ベルンハルトは、駆逐艦の速力と針路を目測で確認してから、一旦は潜望鏡を下げさせる。 その後、水上レーダーを洋上に上げて最終確認を行った。 「こちらレーダー手。洋上の反応を再度確認しました。紛れもない敵護送船団です!」 ベルンハルトはレーダー手の側に駆け寄り、レーダースコープの反応をその目で確認した。 PPIスコープには、くっきりと敵護送船団の姿が浮かび上がっている。 外周には小型艦の反応があり、それらが輸送艦の周囲を取り囲んでいた。 敵船団は、キャッスル・アリスの前方を通過しつつある。 攻撃のチャンスは今であった。 「レーダーを下げ、潜望鏡を再び上げる。目標は、船団の外周にいる駆逐艦だ」 ベルンハルトは、再び潜望鏡を上げさせる。 海面上に潜望鏡が上がると、彼はペリスコープに取り付いて、目標の確認を行う。 「よし……いたぞ。敵駆逐艦が1……2……3……やはり多いな」 キャッスル・アリスから、距離5000から3000ほどの間にいる駆逐艦の数は意外と多いように思える。 敵は今、キャッスル・アリスに横腹を晒して航行しているが、駆逐艦は潜水艦の天敵だ。 何かの拍子でこちらが見つかれば、この駆逐艦群はすぐさま殺到し、キャッスル・アリスに爆雷の雨を降らせてくるだろう。 ベルンハルトは、胸の鼓動が幾分早くなるのを感じたが、平静な口調のまま指示を出し続ける。 「目標、船団先頭側の敵駆逐艦2隻。1番艦は距離4000。2番艦は距離3000。最初に1番艦を狙う……」 彼は、月明りに浮かぶ艦影を睨み据える。 「的速16ノット……距離4000。1番、3番、5番、発射用意!」 魚雷発射管室では、水雷科員が21インチ魚雷を慎重に動かしながら、発射管に魚雷を装填する。 重さが1トン以上もある魚雷の装填作業は、非常に難儀な物であるが、水雷科員の動作は、慎重ながらもキレを感じさせる物がある。 「水雷長より艦長へ、魚雷発射準備完了!2番、4番、6番発射管も装填完了!」 「了解!」 ベルンハルトは水雷長からの報告を聞いた後、最初の目標である敵1番艦へ狙いを定めていく。 「目標、敵1番艦。1、3、5番……発射!」 彼の命令が艦内に響き渡る。 直後、前部の魚雷発射管から魚雷が発射された。 1番、3番、5番と、魚雷が順繰りに海中へ躍り出る。 ベルンハルトは息つく暇もなく、次の目標に狙いを付ける。 「続いて敵2番艦をやる。的速16ノット……距離3000!2番、4番、6番、発射用意!」 駆逐艦フロイクリは、輪形陣右側外輪部の3番艦として、前方の2番艦タリマの後方500メートルを8リンル(16ノット)の速力で航行していた。 「輸送艦1隻が機関の故障を起こした影響で、船団の船足が遅いままですな」 艦橋で薄暗い洋上を見据えていたフロイクリ艦長ルシド・フェヴェンナ中佐は、後ろで報告書を1枚1枚読みながら、状況報告書を書いている ロンド・ネルス副長のぼやきを聞いていた。 「船足が早いとは言え、民間船用の質の悪い魔法石じゃ無理からぬことですね。全く、これだから足手まといの船は」 「副長。あの輸送船とて、今は海軍に編入され、乗員も我が海軍の将兵で固めた立派な海軍所属艦だ。あまり悪く言わんでも良かろうが」 「恐れながら……当方は事実を申したまでです」 副長の容赦ない口調に、フロイクリは小さく溜息を吐いたが、その言葉は嘘ではない。 民間船に動力機関として搭載される魔法石は、軍用の物と比べて幾分質が落ちる。 その質も、アメリカがこの異世界に召喚され、本土が戦略爆撃を受けるまでは、幾らか手荒く扱っても故障を起こす事は少なかった。 しかし、84年以降から始まった、米軍の帝国本土空襲によって本土内の魔法石精錬工場や魔法石鉱山が次々と狙い撃ちされてからは、状況は 大きく変わってしまった。 今護衛している輸送艦は、民間の造船所が帝国中枢の命を受けて1484年9月頃から建造を開始し、1485年10月以降に本土北海岸の各造船所にて 就役した新しい船である。 排水量15000ラッグ(10000トン)という比較的大型の船体に、最高速力13リンル(26ノット)という性能は、物資の高速輸送にはまさに うってつけであり、竣工した船は片端から海軍に編入され、主にルィキント、ノア・エルカ列島からの生産物資・補給品輸送に用いられた。 だが、この高速輸送艦が就役した時期は、ちょうど、米軍の所属するB-29による戦略爆撃が苛烈を極めている時期と重なっていた事もあり、当初は 輸送船に搭載される筈の魔法石は、南部領産の良質な物であったが、同地が度重なる戦略爆撃によって荒廃したため、急遽、帝国北部付近の魔法石鉱山より 精錬した魔法石が、この輸送船の動力源として使用される事になった。 だが、北部産の魔法石は、一部の鉱山を除いて良質とは言えない代物ばかりであった。 8リンルほどの巡航速度で航行するのならば、輸送艦は故障を起こすことなく航海を行う事ができるのだが、機関を全力発揮した場合、高確率で故障を起こしてしまう。 最大速力が発揮できなくなるのはまだマシな部類であり、12月初旬の輸送中には、機関停止を起こして、船団から落伍した船も現れる始末である。 これらの事から、輸送艦の艦長は、造船所の担当官から「機関に過度な負荷をかける事は極力避けるように」と、きつく言われる有様であった。 この事は、輸送艦を護衛する水上部隊の将兵にも伝わっており、副長のような口さがない将兵が、輸送艦を足手まといとののしる事は日常茶飯事だった。 「言いたい事は言っても、戦争は終わらんぞ。今は引き続き、対潜警戒を怠らんようにする事だ」 「は……乗員には改めて、そのようにお伝えします。しかし艦長……敵の潜水艦は北にいる筈です。この海域にはいないのではありませんか」 「いないと思った時に来るのが連中だぞ。ウェルバンルの例を見ても明らかだと思うが……?」 フェヴェンナは、言下に戒めの言葉を潜ませながら、くるりと顔を向けた。 「念には念を……と、言う事ですな」 「当然だ。しっかり警戒しておけ」 彼は副長にそう言ってから、顔を再び前方に向け直した。 その刹那、旗艦より緊急信が飛び込んできた。 「旗艦より通信!敵魚雷接近!」 直後、前方から白い閃光が煌めいた。 「……!?」 この瞬間、フェヴェンナは意識を切り替えた。 見えた閃光はすぐに消えたが、そのすぐ後に、腹に応えるような轟音が海上に轟いた。 「旗艦、魚雷を受けましたー!あ、2番艦タリマ、急速転舵!」 フェヴェンナは、月明りにうっすらと照らされた僚艦が、急回頭する様子を見て即座に反応した。 「面舵一杯!急げ!魚雷が来るぞ!!」 フェヴェンナは大音声で命令を発した。 彼の号令を受け取った航海員が操舵手に指示を下し、操舵手は素早く舵輪を回した。 フロイクリの小柄の艦体が右に曲がり始める。 その瞬間、前方のタリマが、右舷側から水柱を噴き上げた。 「タリマ被雷!」 見張りの絶叫めいた報告が艦橋内に響いてきた。 この時、タリマは右舷側後部付近に被雷し、艦後部の推進基軸室と後部兵員室を破壊され、そこで待機していた8名の応急要員は全員戦死した。 タリマの被雷はこれだけに留まらず、右舷側第1砲塔横にも魚雷が命中した。 魚雷の弾頭は、駆逐艦の薄い腹を串刺しにし、第1砲塔弾薬庫付近にまで達してから炸裂。 この瞬間、砲塔弾薬庫に収められていた大量の砲弾が誘爆し、タリマは艦首第1砲塔付近から火柱を噴き上げた。 「タリマ、大爆発を起こしました!弾薬庫の誘爆を起こした模様!」 その知らせを聞いたフェヴェンナは、悔しさの余り歯噛みする。 (タリマは致命傷負ってしまったか……!) 彼は心中でそう呟きつつ、伝声管越しに通信員へ向けて指示を飛ばした。 「通信士!旗艦との交信を行え!連絡がつき次第、敵潜水艦の追撃許可を取り付けよ!」 「了解!」 通信室の魔導士官は彼の命令を受け取るや、すぐさま旗艦へ魔法通信を飛ばす。 だが、旗艦メリヌグラムは被雷の影響で通信員に何らかの影響が出ているのか、返事はなかなか来なかった。 3分ほど待っても返事が来ない事に業を煮やしたフェヴェンナは、独断で動く事に決めた。 「事態は急を要する。第109駆逐隊の指揮は、ただ今より、このフェヴェンナが執る!通信士!第51駆逐隊旗艦に、我、第109駆逐隊の指揮を 継承せり。これより対潜先頭に入ると送れ!その後、僚艦キガルアに対潜戦闘、我に続けと送信せよ!」 「了解!」 フェヴェンナは通信士にそう送らせた後、返事を待つまでもなく、対潜戦闘に移った。 「対潜戦闘用意!機関全速!爆雷班、配置に付け!」 潜水艦キャッスル・アリスのソナー員であるリネロ・ウェルシュ1等兵曹は、ソナーから敵駆逐艦の物と思しき推進音が徐々に近づいて来る事に気が付いた。 「敵駆逐艦、近付きます!距離2800!」 「深度80まで潜行を続けろ」 その知らせに対し、ベルンハルトは驚く事も無く、冷たい口調で指示を下す。 「現在、深度30……32……34……」 計測員が艦の深度を刻々と伝える。 「魔法石はしっかり発動していると聞いている。ならば、敵はこちらの正確な位置を把握できんはずだ」 ベルンハルトは、心中で魔法石のおかげだと付け加える。 現在、キャッスル・アリスは敵船団の針路から反対方向へ抜ける形で避退しようとしているが、魚雷の流れた方向から大まかな位置を掴んだ シホールアンル駆逐艦が、海中に潜むキャッスル・アリスを討ち果たさんと、船団から離れて急行しつつある。 敵駆逐艦の発する生命探知魔法の効用範囲は、深度によって範囲が狭まって来るが、平均的な性能として、水深20メートル付近の探知範囲は、自艦から 半径2000メートルとなっており、そこから深くなるにつれて狭くなる。 最大探知深度である160メートルでは、探知範囲は半径800メートルに狭まるため、魚雷発射からどれだけ深く潜れるかによって、生存性が大きく変わって来る。 「敵駆逐艦、なお近付きます!速力、約30ノット。距離、2200!」 「毎度ながら思うが、敵側は音を直に聞くのではなく、魔法石の反応を“目視”しながら潜水艦を探すのだから、どれだけ速力を飛ばそうが探知に 支障を来さない。魚雷攻撃を受けてから迅速に反撃に移れる点で言えば、我が米海軍より優れていると言えるな」 ベルンハルトが半ば感嘆するように言うと、ボールドウィン航海長が頷く。 「まったくです。その点、我が合衆国海軍の駆逐艦は、音を聞かんといかんですから、あんな高速で走りまくるのはできません。いつもながら…… 足が速いというのは羨ましいものですよ」 「この戦争が開始されてから、我が潜水艦部隊の損失が相次いだのは、それを知らなかった事にもある。色々と、シホット共の事を馬鹿に関する輩が おるが……対潜能力に関しては、うちらと遜色ないだろうな」 彼はそう言いつつ、顔を上向かせた。 「ま、それも…探す相手が見つかればの話だ」 「敵駆逐艦、我が艦の後方を通り過ぎます!」 ソナー員の報告が発令所内に響く。 敵艦はキャッスル・アリスの後方600メートルの位置を、約30ノットほどの速力で突っ走って行った。 その直後、ソナーは別の音を捉えた。 「海面付近に着水音らしき物、複数!」 「爆雷だな」 ベルンハルトはぽつりと呟く。 しばし間を置いて、くぐもったような爆発音と、振動が艦に伝わって来た。 「敵艦は本艦の位置を掴んでいないためか、見当はずれの所に爆雷を落としていますな」 ボールドウィンがそう言うと、ベルンハルトも頷いてから言葉を返す。 「探知されぬという事は、実に素晴らしいものだ。あの探知妨害装置を全ての潜水艦に設置すれば、敵の水上部隊は何もできんようになるぞ」 彼は心の底から、探知妨害装置のありがたみを感じた。 爆雷の炸裂音は、20を数えた所で一旦鳴りやみ、その10秒後に再び炸裂音が響き始めた。 キャッスル・アリスには、2隻の敵駆逐艦が対応しているようだが、敵艦は闇雲に爆雷を叩き込んでいるだけだ。 「深度50……55……60……」 キャッスル・アリスは、潜行を続けながらも、敵船団との距離を徐々に離しつつある。 艦の後方から、未だに爆雷の炸裂音が響いているが、キャッスル・アリスの乗員達は、奇襲を受けた敵艦がパニックになって、デタラメに爆雷を 落としているのだと言ってせせら笑っていた。 「深度65……70……」 「艦長、敵艦1隻が針路を変えました。こちらに近付きつつあります!」 ソナー員からその報告を聞いた時、ベルンハルトは特に警戒もしていなかった。 「敵は、1隻ずつに別れて本艦の捜索に当たっているようだな」 「対潜水艦の索敵においては、悪くない判断かと思われます」 ボールドウィンは、敵側の判断を素直に評価した。 「敵艦、高速で後方より接近!」 ソナー員の報告が逐一艦内に響く。 各所で配置につく乗員達は、上空からうっすらと聞こえるスクリュー音に耳を傾けているが、誰一人として不安に思う物は居ない。 ある乗員などは、頭上付近を通過していく敵艦に中指を立てたり、挑発するような言動を発するほどだ。 通信室の隣に設置された臨時の魔法石監視室では、フィリト・ロイノー少尉とサーバルト・フェリンスク少尉が共に魔法石の作動状況を注視していた。 「始動から15分ほどが経ちますが、今の所異常見られませんね」 フェリンスク少尉は、その特徴ある長い耳をひくひくと動かしながら、笑顔でロイノー少尉に言う。 「まだ安心するな。今は作戦中だぞ」 楽観口調なフェリンスク少尉に対し、ロイノー少尉は憮然とした口調のまま、戒めの言葉を発する。 「昼間に確認された不具合の原因はまだ掴めていないんだ。今の所、この魔法石は仕事を果たしてくれているが、いつ、何時異常を発するかわからん。 何らかの兆候が現れるかもしれんから、魔法石から絶対に目を離すな」 「はっ!」 フェリンスク少尉は短く返答して、より一層注視する物の、内心ではそう肩肘張らなくてもいいじゃないか、とも思っていた。 敵の駆逐艦は、2人の乗る潜水艦の位置を全く掴めず、海上をうろうろするしかないようだ。 今しも、爆雷の炸裂音と思しきものが複数聞こえてくるが、音は離れており、艦には微かな振動しか伝わって来ない。 「先輩……潜水艦に乗ってて、爆雷攻撃を受けた事はありますか?」 「いや、俺が乗ってる時は、幸運にも敵艦から爆雷を食らう事は無かったな」 2人は、妖しい光を発する魔法石を眺めながら会話を交わしていく。 「ただ、艦の乗員からは、恐ろしい物だと聞かされてはいる。なんでも、凄まじい衝撃なので、体を艦内のあちこちにぶつけたりしてエライ目に遭うようだ」 「私が聞いた話では、爆雷攻撃後の浸水対策も過酷であると聞いていますが……」 「実際、過酷らしいな」 ロイノーは頷きながら言う。 「特に、この辺の海は非常に冷たい。浸水でもすれば、氷点下にまで冷やされた海水を浴びなければ行かんから、下手をすれば凍傷に なりかねんようだな」 「ただでさえ寒いのに……更に寒い海水を浴びながら浸水対策か……そんな事にはなって欲しくない物です」 「安心しろ。こいつが動いている限り、敵は俺達に指一本触れる事すらできんさ」 不安気になるフェリンスクを励ますように、ロイノーは不敵な笑みを浮かべながらそう返した。 ふと、艦の上から遠ざかっていたスクリュー音が再び近づいて来るのが聞こえた。 「……なんか、また近寄ってきますね」 「しかし、よく聞こえるもんだな」 ロイノーは、犬耳をかざしながらフェリンスクのずば抜けた聴覚に感心する。 「俺の種族も聴覚はいい方なんだが……ここからじゃさっぱりだな」 「サーバル族のウリですからな。最も、この艦に搭載されているソナーには大きく劣りますが」 フェリンスクは内心誇らしげに思いつつも、控えめな笑みを浮かべる。 彼の耳は時折ピクピクと動き、その大まかな進行方向を推測する事ができる。 この動作は、キャッスル・アリスの乗員からはなぜか人気があり、艦にカメラを持ち込んでいた兵からは、なぜか記念写真をせがまれた程である。 「まぁしかし、今回の話はなかなかの土産話になりそうだな。特に、君の兄思いの妹さんは目を輝かせて聞き入りそうだ」 「カリーナですか……あいつの過剰とも言えるようなはしゃぎっぷりには、毎度辟易とさせられてますよ。まぁ、喜びを表現するのは いい事なんですが……」 フェリンスクは、カリーナと呼ばれた2つ年下の妹の顔を思い出し、苦笑しながらそう答える。 どちらかというと、普段は物静かなサーバルトであるが、彼の妹は太陽のように明るいと言われるほどの性格の持ち主であり、所構わず はしゃぎ回るのが難点でもある。 だが、そんな天真爛漫な妹も、彼が戦地に行く前日には、涙ながらに彼の生還を望んできている。 「たまには、あいつが放つ「凄いよー!」が恋しくなったりもしますな」 「帰ったら、たっぷりと言わせてやればいい」 「はは、そうしますかな」 2人は互いに微笑みながら、心中ではこの作戦を終えた後の予定に思いを馳せていた。 頭上のスクリュー音が一際大きくなった時、唐突にロイノー少尉が立ち上がった 「フェリンスク……すまんが、俺は便所行って来る。すぐに戻るぞ」 「了解です」 彼は、ロイノーに小声でそう返すと、ロイノーは小さく頷いてから、速足で監視室を抜け出した。 フェリンスクは言われた通り、魔法石の監視を続けた。 ミスリアル製の魔法石は、薄い水色の光を発し続けている。 その妖しい光が、この艦の存在を敵から隠し通しているのだが、今の所は、昼間に危惧したような兆候は全く見られない。 艦の上方から聞こえてくるスクリュー音は、いつの間にか小さくなっており、敵艦も間もなく遠ざかっていくであろう。 ふと、腕時計に視線を送る。 「午前4時10分か……今日の朝飯は美味い物が出るかな」 彼は幾らかのんびりとした口調で呟く。 それから、先輩のトイレが思いの外長い事に気付き、フェリンスクは顔を出入り口に向けた。 「遅いな……さては、小便ではないのかな」 あの先輩でも緊張するんだなぁと、彼は心中で思い、顔を魔法石に振り向ける。 魔法石からは、一切の光が発せられていなかった。 「敵艦、更に遠ざかります。距離800……」 「付近にいる敵艦は1隻だけか。もう1隻はまだ、別の海域を探しているようだな」 ソナー員の報告を聞きながら、ベルンハルトは事務的な口調で呟いた。 キャッスル・アリスの周辺をうろつく敵駆逐艦は、相変わらず高速を維持したまま艦を離れつつある。 その一方で、上の敵艦の相方は、ここから3000メートル離れた海域でキャッスル・アリスを探し回っているようだが、肝心のキャッスル・アリスが 探知妨害魔法の効果で敵の探知から逃れているため、無駄な行動となっていた。 「敵船団は依然、16ノットのスピードで航行中か。あとは、本隊がどれだけ敵さんを沈めてくれるかだな」 「本艦の仕事はこれで終わりになりますかな?」 ボールドウィンの問いに、ベルンハルトは頷いた。 「ああ。探知妨害魔法に守られているとはいえ、長居は無用だ。手筈通り、一旦南方へ離脱する」 ベルンハルトはそう言ってから、新たなる命令を下そうとした。 その矢先に、ロイノー少尉が血相を変えて発令所に飛び込んできた。 「艦長!一大事です!!」 「何だ?」 ベルンハルトは相変わらず、平静な口調で尋ねたが、ロイノー少尉の発するただならぬ気配を感じ取った彼は、心中で魔法石絡みの事で トラブルが起きたかと確信した。 「魔法石が……動作を停止しました!」 「な……何ぃ!?」 仰天したボールドウィンが思わず声を上げてしまった。 ベルンハルトは無言のまま発令所から出ると、速足で通信室の隣に設けた魔法石監視室に向かった。 室内に入ると……そこには、ただの透明な水晶球が台の上に置かれていた。 本来ならば、その水晶からは光が発せられ、水晶自体が放つ探知妨害魔法はキャッスル・アリスを覆い、敵の生命反応探知魔法から位置を 隠してくれるはずである。 だが……その水晶は一切の光を発せず、ただの小綺麗な置物が台の上に載っているだけである。 「この艦は……普通の潜水艦となんら変わらん状態になっている、という事か」 ベルンハルトは、渋面を浮かべながらそう言うと、すぐさま発令所に戻っていった。 「限界深度まで潜行!」 彼は発令所に戻るなり、即座に命じた。 「艦長、限界深度までですか?」 ぎょっとなったボールドウィンが聞き返す。 「そうだ。今すぐにやれ!敵はすぐに戻って来るぞ!」 「アイ・サー!」 ベルンハルトの命令を聞いたクルー達がにわかに動き出した。 一度は深度80で維持していたキャッスル・アリスは、敵駆逐艦の再攻撃に備えて潜行を始める。 「艦長。魔法石が故障したタイミングですが、その時はちょうど、敵艦の有する探知魔法の限界範囲をギリギリで抜け出ていた可能性があります。 もしかすると……」 「敵はこちらを探知しとらんかもしれんな」 ベルンハルトは、楽観論を口にするボールドウィンにそう相槌を打つ。 「心の底から、そうあって貰いたいと祈るものだが……」 彼はため息交じりの口調で言いながら、頭上を見上げる。 そこにソナー員の切迫した声音が響いてきた。 「艦長!艦の左舷後方より推進音!近付きつつあります!」 「どうやら……敵さんの探知範囲内に引っ掛かっていたようだな」 顔を青くするボールドウィンに向けて、ベルンハルトは無機質な声音でそう言い放った。 駆逐艦フロイクリの艦橋に新たな報告が伝声管越しに伝えられた。 「こちら探知室!前方生命反応探知!距離360グレル(720メートル)、深度45グレル(90メートル)!」 「了解!奴を追い詰めるぞ。爆雷班、正念場だ!気合を入れて掛かれ!」 フェヴェンナ艦長は語調を強めながら、各部署に新たな指示を下していく。 それまで13レリンク(26ノット)のスピードで航行していたフロイクリが更に速度を上げる。 「敵艦、尚も潜行中。深度50グレル!」 「50グレルか・・・探知装置の限界探知深度は80グレル(160メートル)だから、そのまま素通りしていたら逃げられていたな」 その反応は、今から10分ほど前に確認された。 フロイクリは、僚艦2隻を瞬時に撃沈破した小癪な敵潜水艦を討ち取るため、続航してきた僚艦と共に二手に別れつつ、威嚇がてらに爆雷投射を 行いながら索敵していたが、敵艦は一向に探知できなかった。 敵の探知に失敗したと確信したフェヴェンナ艦長は、僚艦と共に船団の護衛に戻ろうとしたその矢先…… 探知範囲内ギリギリのところで、何がしかの反応を捉えたのだ。 その報せを聞いたフェヴェンナは即座に反転を命じ、それから程なくして、フロイクリは待望の敵潜水艦を探知するに至った。 艦首が海水を掻き分け、艦首甲板に冷たい水飛沫が振りかかる。 艦の動揺もそこそこ大きいが、フロイクリは15レリンク(30ノット)の高速で爆雷投下点へと近付いていく。 艦尾付近に待機する爆雷班は、既に投下準備を終えており、その時を今か今かと、手ぐすね引いて待っていた。 「艦長!敵潜水艦の魔上に到達しました!深度55グレル!(120メートル)」 「爆雷班!敵艦の深度55グレル!爆雷投下開始!」 フェヴェンナは即座に爆雷投下を命じた。 爆雷班の班長は大音声で投下を命じ、フロイクリの艦尾から2個ずつ爆雷が投下されて行った。 「海面に着水音!爆雷です!!」 ソナー員の報告を聞くや、ベルンハルトは渋面を張り付かせたまま口を開いた。 「爆雷が来るぞ!衝撃に備えろ!」 彼の発した言葉は、スピーカー越しにすぐさま全艦に伝わった。 艦内の各所で乗員達が壁に手を置いて踏ん張ったり、台にしがみついて衝撃に備えようとする。 ロイノーとフェリンスクも、手近にある固定されたテーブルに手をかけ、来たる衝撃に備えた。 「先輩……うちらは無事に生きて帰れますよね…?」 フェリンスクは顔を青ざめさせながらも、比較的軽い口調で先輩に話しかける。 「なーに、心配するな。この艦の乗員達もプロさ。任務を終えれば、のんびりとくつろぐ事もできる」 ロイノーはそう言ってから、フェリンスクの肩を軽く叩いた。 「心配は無用だ」 彼は自信ありげな口調で、部下に返答する。 その直後、艦の後方から爆発音と共に衝撃が伝わって来た。 腹に応える轟音が耳の奥にねじ込まれる。 「っ……!?」 フェリンスクは耳の奥に届く不快な音に、思わず顔を顰める。 衝撃で室内が揺れ、体がその揺れに流されようとするが、踏ん張って耐える。 「最初から爆発の位置が近い……」 ロイノーは敵艦の正確な狙いに感心を覚えつつも、心中では撃沈される恐怖感が徐々に大きくなり始めるのを感じていた。 次の爆発音が鳴るや、艦はさらに激しく揺れた。 まるで、樽の中に籠った時に、外から棍棒でぶん殴られているような衝撃だ。 2人の体は衝撃で更に揺さぶられ、テーブルにかけた手に痛みが走る。 更に爆雷が炸裂すると、その衝撃が2倍増しで襲って来た。 体の横から、飛んできた壁にぶち当たったような強い衝撃が伝わり、フェリンスクはそれに耐えきれず、テーブルから手を放してしまった。 (ま……まずい!) 彼は慌ててテーブルを掴もうとするが、新たな衝撃が艦を刺し貫く。 衝撃の余波をもろに受けたフェリンスクは、勢い良く弾き飛ばされ、室内の腰掛に真正面から飛び込んでしまった。 胸や腹に猛烈な痛みが走り、直後に体の右側から床に転倒し、更に右腕や肩にも激痛が走った。 「あ……がぁ…!!」 フェリンスクは体に伝わる痛みに悲痛な声を漏らし、思わず目を瞑ってしまった。 体に走る痛みは、これまでに体験した事のない物だった。 (体が……もしかしたら、骨が何本かやられたかもしれん……) 彼は自分が負傷した事を自覚するが、同時に先輩であるロイノーの状態も気になった。 (はっ…せ、先輩は……先輩は無事だろうか……?) フェリンスクはそう思うと、閉じていた目を開け、体の痛みに耐えながら先輩に目を向けようとした。 そこに新たな衝撃が走り、艦が大きく揺れ動く。 だが、先ほどの衝撃と比べると、それは小さく感じた。 「爆発の位置が遠ざかっているのか……」 フェリンスクは小声で呟きつつ、顔を動かしてロイノーを探し始めた。 「先……輩……あぁ……先輩!!!!」 ロイノーは、フェリンスクのすぐ傍に倒れていた。 彼は頭から血を流し、顔を血で真っ赤に染めていた。 うつ伏せになる形で倒れているロイノーは意識を失っており、顔の辺りにはうっすらと血だまりが出来つつある。 「先輩!しっかりしてください!」 フェリンスクはロイノーを揺り動かすが、反応はない。 「おいどうした!?」 唐突に、フェリンスクの背後から声がかかった。 振り向くと、そこにはニルソン副長が、顔を引き攣らせながら立っていた。 「先輩が負傷したんです!早く手当てしなければ……!」 「待て!ここではロクな治療ができん。医務室に運ぶぞ!」 「わ、わかりました」 フェリンスクは言われる通りにロイノーを運ぶため、体を起こして立ち上がろうとしたが、胸や腹から伝わる痛みに顔を歪めた。 「うっ…!?」 「おい……お前も負傷していないか?顔色が悪いぞ」 「自分はまだ大丈夫です……!それよりも」 フェリンスクは無理やり笑顔を作りながら、ニルソンにロイノーの脇を支えるように促す。 「ああ、わかった。俺は左側を持つ。そっちは右側を持ってくれ」 ニルソンはそう言ってから頷くと、フェリンスクと共にロイノー少尉を医務室に運んで行った。 「前部兵員室の浸水止まりません!応援をよこしてください!」 「了解!すぐに寄越すから待っていろ!」 ベルンハルトは艦内電話越しに報告を受けてから、ニルソンに早口で命令を伝える。 「副長!あと5人ほどかき集めて後部兵員室に送れ!」 「アイ・サー!」 ニルソンは発令所から飛び出し、応援の兵をかき集めてから前部兵員室に駆け込んでいった。 それから5分ほどたってから、ニルソンが発令所に駆け戻って来た。 「艦長!ロイノー少尉とフェリンスク少尉が負傷しました!」 「なに?あの2人が!?」 それまで平静さを装って来たベルンハルトだが、この予想外の報告には面喰ってしまった。 「はい。爆雷炸裂の衝撃で転倒したようです。ロイノー少尉は頭から血を流し、フェリンスク少尉は胸や腕を強打しとるようです」 「畜生!不良品を艦に持ち込んだのみでは飽き足らず、負傷して医務室に担ぎ込まれるとは。なんて奴らだ……!」 ボールドウィンが思わず罵声を放ちかけるが、ベルンハルトは片手を上げて制した。 「おっと、これ以上は文句言わんでも良かろう」 「し、しかし艦長」 「ここは戦場だ。予想外の事が起こるのは致し方ない。今は味方の文句を言うより、俺達ができる事をしよう」 「は……」 ボールドウィンは罰の悪そうな顔を浮かべつつ、艦長の指示に従った。 「航海長。海底まではあと何メートルだ?」 「この辺は水深が比較的浅いので、あと50メートル潜れば海底に辿り着きます」 ベルンハルトは、艦が生き残る最善の方法を脳裏で考えていく。 「深度140!」 深度計を読み上げる声が発令所に響き渡る。 艦内にミシ、ミシ、という艦体が軋む音が響き渡り、それが今の実情と相俟ってより不快に感じさせる。 艦内電話のベルが鳴り、ベルンハルトはすかさず受話器を取る。 「こちら艦長!」 「こちらA班。前部兵員室の浸水止まりました!」 「OK!至急別の浸水箇所の対応に回れ!」 「アイ・サー!」 受話器を置くと、またもやベルが鳴る。 彼はすぐに受話器を取って、報告を聞いた。 「艦長!こちらB班です!後部機械室前の浸水収まりました!機器の損傷は今のところありません!」 「了解!」 ベルンハルトは素早い防水作業に満足気だったが、不安の種は尽きない。 「ソナー員より報告!海上の敵艦が反転して接近します!右舷前方、距離2500!」 「チッ!また来るぞ……!」 ボールドウィンが忌々しげに呟く中、ベルンハルトは無言のまま思案を続ける。 「艦長!別の敵艦が現れました!2隻目です!左舷後方、距離3000!」 ソナー員の新たな報告が伝わる。 1隻目の敵艦は、反転してキャッスル・アリスの右舷側前方から接近しつつあり、2隻目は艦の左舷側後方より迫りつつある。 キャッスル・アリスは完全に挟み撃ちにされつつあるのだ。 「深度150!」 その声が響くと同時に、艦体の軋み音がより大きく発せられる。 キャッスル・アリスは、無理をすれば深度200までは潜れる事ができるが、それは理論上の数値であり、実際はその手前で圧壊する可能性もある。 しかし、今は敵の駆逐艦2隻に追われ、執拗な攻撃を受け続けている。 情報部の分析によると、敵駆逐艦の搭載している生命反応探知装置は、効用範囲が深度160メートルである事が判明しており、最低でも170メートルは 潜らなければ安全とは言えない。 「水圧にやられるか、爆雷で叩きのめされるか……二つに一つと言いたいが、欲深い俺は、そこに三つ目を追加する事にするぞ」 ベルンハルトが小声でつぶやく。それを聞いたボールドウィンが、小声でベルンハルトに問う。 「その三つ目とは……?」 「このくそったれな危機を脱して、生きて帰る事さ」 ベルンハルトは、汗にまみれた顔に不敵な笑みを作りながら、ボールドウィンにそう答えた。 「右舷前方の敵艦、間もなく本艦直上に到達!あ、海上に着水音多数!」 ソナー員の報告が伝えられると、艦内に再び緊張が走る。 「シホットの連中、ここぞとばかりにばら撒いてやがる」 誰かが発した忌々し気な声がベルンハルトの耳に入り、彼も心中で同感だと答える。 海上より聞こえるスクリュー音が小さくなり始める。 「深度160!」 計測員が、震度計を読み上げると同時に、爆雷の炸裂音と振動がキャッスル・アリスを震わせる。 最初の爆雷は艦の前方遠くで炸裂したため、振動はさほど大きくない。 2度目の爆発も大したことないように感じられるが、振動は若干大きい。 3度目の爆発で艦の振動が大きくなり、誰もが足元を揺さぶられる。 4度目の爆発が起きた直後、キャッスル・アリスの艦体は衝撃に叩かれ、艦内の乗員は爆音に耳を打たれ、衝撃に体を揺り動かされた。 「!……シホットの糞ったれ共め!」 ベルンハルトの耳にボールドウィンの放つ罵声が飛び込んでくる。 彼もつられて罵声を放ちそうになるが、そこに5発目の爆雷が炸裂し、キャッスル・アリスの艦体が大きく揺り動かされた。 6発目、7発目、8発目と、他の爆雷もキャッスル・アリスの至近で次々と炸裂し、衝撃が艦を叩きのめす。 艦内の乗員は全員が衝撃に翻弄され、ある者は壁を背中に打ち付けて気絶し、ある者は頭を強打し、血を流しながら昏倒する。 テーブルに置いていたコーヒーカップが衝撃で床に落ち、音を立てて砕け散る。 計器のカバーガラスが耳障りな音を発して割れる。 9発目の爆雷も、衝撃波が艦体を叩いたが、振動の大きさは小さくなっているように感じられた。 それ以降は爆音も徐々に小さくなり、振動もさほどではなくなったが、危機はまだ去っていなかった。 艦の後方に遠ざかって行ったはずの炸裂音が、今度は後方より近付いてきた。 (2隻目の爆雷攻撃だな……!) ベルンハルトが心中でそう呟いた直後、真上から強烈な炸裂音が響き渡った。 艦体が、真上から巨大なバットに叩かれたらさもありなん、といった様相で強く揺さぶられる。 5回、6回、7回と、多数の爆雷が艦の上方で炸裂し、衝撃波がダメージを受けたキャッスル・アリスに更なる追い打ちを掛けていく。 艦の乗員は、誰もが引き攣った表情でこれに耐えているが、不思議にも、この爆雷攻撃は先の物より幾分マシなように思えた。 振動と爆音がひとしきり収まった後、発令所に各部署から報告が舞い込んできた。 「前部兵員室より報告!浸水あり!」 「機関室に浸水!現在防水中、各電池の損傷無し!」 「艦載機格納庫に浸水警報!」 「後部魚雷発射室に浸水!現在防水中です!」 損傷個所が先の爆雷攻撃より多い。 また、各部署からも負傷者が出ており、今報告に上がっただけでも10名の乗員が負傷したという。 敵駆逐艦はキャッスル・アリスに相当のダメージを与える事に成功したようだ。 「クソ!腹立たしいが、いい腕だ……」 ベルンハルトは、苛立ち紛れに呟きつつ、敵駆逐艦の腕前の良さに感心した。 キャッスル・アリスの受けた損傷は浅くは無く、手空きの乗員は総出で、予備のダメコン班と共に各浸水箇所の応援に向かった。 「現在の深度、175!」 計測員の報告が耳に入るが、先の声とは違う。 後ろを振り返ると、意識を失った水兵が同僚に医務室へ運ばれていく様が見える。 今まで艦の深度を伝えて来た計測員は、先の爆雷攻撃で体のどこかを打ち付けて負傷したため、交代要員が配置されたようだ。 「艦長!右舷燃料タンクの残量に異変が!」 「残量だと……?」 ベルンハルトは、すぐさまその水兵の所へ移動し、燃料タンクの残量計を見つめる。 「……まずいな。タンクの燃料が漏れているぞ」 残量計の指している値は、ゆっくりとだが減少しつつあった。 これは、キャッスル・アリスの艦体に穴が開き、そこから燃料が漏れているという事を示している。 現在、キャッスル・アリスは深度180メートル付近を潜行中で、尚も潜行を続けているが、艦体に穴が開いた状態ではこれ以上の潜行は無理であり、 また、漏れた燃料を敵が発見すれば、そこを目印に好き放題爆雷を叩き込める。 キャッスル・アリスは、自らの位置を敵に教えながら潜行を続けているのである。 潜水艦乗りにとっては、今の状況は最悪とも言えた。 ひとしきり強い衝撃が続いたが、それは程無く収まっていた。 「た、助かった……?」 医務室で手当てを受け、横に寝かされていたサーバルト・フェリンスク少尉は、恐る恐る目を開けた後、一言そう呟いた。 「酷い攻撃だ。これじゃ思うように怪我人を見れん!」 医務室の主であるリドロー・スコークス軍医大尉は、しかめっ面を浮かべながら忌々し気に叫んだ。 彼は起き上がろうとするフェリンスクを見ると、片手を上げて制した。 「おっと!肋骨にヒビが入っている。大人しくしておけ」 「は、はぁ……」 フェリンスクはスコークス軍医長の言われる通りに、そのまま横になろうとした。 彼は胸の辺りに白い包帯をきつく巻かれている。 先の爆雷攻撃で転倒した際、胸を強打したが、スコークス軍医大尉の診察によると、肋骨にヒビが入ったようだ。 (このまま動き回っても、ケガを悪化させるだけだ。悔しいが、ここは……) 彼は心中でそう呟きながら、体を床に横たえた。 その時だった。 彼の特徴である長い縞模様の耳は、どこからともなく聞こえてくる声と音を捉える。 (……助けてくれ……?) 男の声と、水が流れるような音。 フェリンスクは自分が今いる場所を眺め回すと、即座に体を起こした。 「お、おい!寝ていろと言っているだろう!」 スコークス軍医長は、負傷者の血に染まった右手をフェリンスクに向けて指すが、フェリンスクは気に留める事無く、顔に苦悶を表しながらも、 勢い良く立ち上がった。 「誰かが助けを呼んでいます!自分は負傷しましたが、体はこの通り動きます!」 彼はそう言うなり、胸を押さえながら医務室を飛び出していった。 「馬鹿野郎!貴様は怪我人なんだぞ!いいから戻るんだ!」 スコークス軍医長は尚も制止したが、フェリンスクはそれを無視して後部兵員室の辺りに向かっていった。 フェリンスクは通路に出てから、後部兵員室の前までたどり着いたが、その途中で艦の乗員が見当たらなかった。 なぜ見当たらなかったかは大方予想が付いたが、現場に着くや否や、フェリンスクはその光景を見るなり、思わず目を見開いてしまった。 兵員室の前には、1人の水兵が噴き出す海水を止めようと、必死の形相で分厚い布を浸水箇所に押し当てていた。 その水兵の周囲には、3名の同僚が壁にもたれかかったり、床で仰向けになって倒れている。 何が起きたかは明白だった。 「助けを呼んだのは君か!?」 フェリンスクはその水兵に近寄りながら尋ねた。 「あ、あんたは……」 「フェリンスクだ!」 「ああ、カレアントから来た助っ人さんか!丁度いい、その厚い木板と棒を取ってくれ!」 水兵は、片足をばたつかせて木板と棒の位置を示す。 「これか!」 フェリンスクは木板と棒を取ると、水兵の顔の前に掲げた。 「ああ、そうだ!今からこの布の上に木板を被せる。その後、木板を棒で抑えて他の奴が来るまで待つ!」 「他の奴って……ここの浸水報告はまだやってないのか?」 「そんな暇なかったんだ!とにかくこの木板を当ててくれ!」 フェリンスクは水兵の必死の訴えに応えるべく、浸水箇所である布のかかったパイプに木板を当てていく。 パイプから噴き出す海水の量は多く、フェリンスクはその水兵同様、あっという間に全身ずぶ濡れとなってしまった。 しかも、真冬の海水を全身に浴びているため、体が急激に冷えてガタガタと震え始める。 フェリンスクは木板を投げ出したい気持ちに駆られたが、それを心の中で抑えて、布の上に木板を当てた。 「当てたぞ!」 「OK!俺が棒で抑える。あんたも一緒に抑えてくれ!」 フェリンスクは水兵と共に浸水箇所の抑えにかかった。 パイプからの浸水は幾らか弱まったように思える。 しかし、体は冷たい海水を浴びて震えており、先ほど負傷した胸の辺りからも、鈍い痛みが伝わって非常に苦しくなる。 「畜生!こいつらがまともに動けてりゃ、もっと楽になったのに……!」 「今倒れている仲間は、先の爆雷攻撃でやられたのか?」 フェリンスクの質問に、水兵は浸水箇所を見据えながら答える。 「そうだ。別の浸水箇所の応援に向かっていたら、いきなりシホット共の爆雷が降って来てな。それでこの辺で踏ん張って耐えようとしたら、 衝撃であちこちに叩きつけられてね。それで、この様さ」 水兵は、半ば自虐めいた口調でフェリンスクに語った。 よく見ると、水兵は頭から血を流しており、顔の右半分が赤く染まっていた。 「君……怪我をして……」 「ああ。痛いよ!だが、今は俺の怪我の心配をしている場合じゃない。ここの浸水箇所を放置したら取り返しのつかない事になる。あんたは知らん だろうが、最初はとんでもない量の海水がここから噴き出してきやがったんだ。それを必死で抑えてたところに、あんたが来てくれた」 水兵は寒さで声を半ば震わせつつも、フェリンスクに顔を向けた。 「これで、俺達が生還できる確率は、5%上がったなと思ったね」 「5%か……なにも役に立たんよりはマシって事かな」 フェリンスクは水兵にそう返す。 それを聞いた水兵が、半ば顔を顰めながらも、微笑みを見せた。 この時、フェリンスクは更なる痛みを感じた。 「っ……ふ…!」 「おい、どうした!」 「いや……俺もドジを踏んでしまってね。肋骨の辺りをやってしまったんだ」 「ワオワオ……そんじゃ、今ここに居るのは手負いばかりって事か!」 「その通り。状況は良くないね」 フェリンスクは自嘲気味な口調でそう付け加えた。 体に鈍い痛みを感じ続けているせいか、両手で抑えている木板が鋼鉄の重しのように思い始めていた。 彼は力を振り絞り、木板を抑え続けるも、冷たい海水を浴び続けているせいもあってか、今度は両手の感覚が薄れ始めていた。 「手が……」 フェリンスクは悲痛めいた声を漏らす。 「なあ、あんた魔法使いなんだろ!?何か魔法を使ってこの状況を打開してくれ!」 水兵がそう要求するが、フェリンスクは首を左右に振る。 「無茶言わんでくれ……それ以前に、俺の両手はコイツを抑えるので精いっぱいだ!」 「ファック……このまま待ち続けるしかねえのか!」 水兵は罵声を漏らしながら、震える両手で木板を押し続ける。 他の浸水箇所で防水の目処が付けば、ここにも人手が回るのは確実だ。 だが、この個所の浸水報告はまだ行っておらず、更に、目処が付くまでにどれだけの時間がかかるのか見当もつかない。 今や、1秒は10分にも等しく、1分は1時間にも等しいと思えるほど、2人の体力は摩耗しきっていた。 そのまま時間は過ぎていく。 何分経ったか分からないが、フェリンスクはふと、抑えている木板がパイプの側から徐々に押されているように感じた。 「く……なんか、向こう側から押されている気が……」 彼はその違和感に負けじとばかりに、震える手で木板を抑え続けるが、冷たい海水を浴び続けて両手の感覚はとうに失われていた。 いや、両手どころか、体中が濡れているため、感覚が麻痺している。 そのため、2人は同じタイミングで浸水箇所の抑えを緩めてしまった。 その瞬間、抑えが無くなった浸水箇所から噴水のように海水が噴き出し、木板に強い圧力がかかった。 「あ…しまった!」 フェリンスクは、水圧に押しのけられ、背後に転倒しようとしている中で自らの失態を悟った。 同時に、これだけの噴出を、フェリンスクはたった1人で抑えていた水兵の努力と根性に感心もしたが、疲労困憊した2人がこの浸水を抑える事は、 もはや絶望的に思えた。 そして、そのまま背中から壁にぶつかろうとしていたフェリンスクは、不意に別の何かに受け止められると同時に、目の前に現れた2人の水兵が、 木板と棒を持って浸水箇所の抑えに掛かっていた。 その報せを聞いた時、ベルンハルトは半ば仰天してしまった。 「何?そこでも浸水が発生したのか!」 「はい。幸い、ダメコン班のブランチ一等水兵と、フェリンスク少尉が浸水を抑えていたお陰で、大事には至らなかったようです」 「フェリンスク少尉だと……どうして彼が?」 彼は首をかしげながら、報告を伝えて来たニルソンに質問を続ける。 「ブランチ一等水兵の話によりますと、彼の班は艦載機格納庫の浸水防止の応援に向かっていた所に爆雷攻撃を受けて人事不省に陥り、 必死に助けを呼びながら防水に努めていたところ、それを聞きつけたフェリンスク少尉が現れて作業に協力してくれたとの事です。 それから15分間、2人は浸水の拡大を最小限に抑え、力尽きてしまいましたが……そこに艦載機格納庫の浸水を止めて、様子を見に来た 兵員が現場に到着し、防水に当たったとの事です」 「後部兵員室前の浸水箇所は、浸水発生の報告が上がっていなかった。もしフェリンスク少尉がそこに来ていなかったら……」 「そのフェリンスク少尉ですが、ブランチ一等水兵は確かに助けを呼んだのですが、彼曰く、必死の防水に努めていたため、 あまり大きな声は出せず、せめて、近場に居る仲間が気付ければよいと思っていたそうです。そこにフェリンスク少尉の登場と相成った訳ですが、 フェリンスク少尉は医務室から後部兵員室前に来ています。医務室は発令所寄りの位置にあり、現場から離れているため、声は聞き辛い。ですが、 フェリンスク少尉はその声を聞いて、現場に駆け付けたと言っています」 ニルソンの説明を聞いたベルンハルトは、フェリンスクの体の特徴を思い出してから言葉を返し始めた。 「……もしかしたら、フェリンスク少尉は殊更耳が良かったのかもしれん」 「と、言いますと……?」 「フェリンスク少尉は恐らく、猫科系の獣人だ。しかも、あの耳の模様は、うちらの世界にいたサーバルキャットの柄とほぼ似ている。俺は以前、 アフリカに生息する猫科系の生態を調べていたんだが、サーバルキャットは耳が良くてな。遠くの異音でもすぐに聞きつけて行動を起こし、 ある時は地中に居る獲物を察知して捕らえる事もあるという。可愛らしい姿の生き物だが、根は立派なハンターさ」 「艦長……では……?」 ニルソンがベルンハルトに聞くと、彼は苦笑しながら自らの頭を指差した。 「俺達は、助っ人の耳に救われたのかもしれんな」 ベルンハルトは苦笑しながら、副長にそう言い放った。 「艦長。燃料の流出が止まりません」 そこに、燃料計を注視していた部下から再び報せが入る。 ベルンハルトは予め決めていたのか、即座に指示を下した。 「右舷側の燃料を放出しろ」 「え……放出でありますか?」 部下の兵曹は一瞬、ギョッとなった表情を浮かべて聞き返した。 「何度も言わせるな。右舷側燃料放出!急げ!!」 「あ、アイサー!」 兵曹はベルンハルトに促されて、部下に命令を伝えた。 彼の判断は、ニルソンとボールドウィンも驚かせていた。 「艦長、よろしいのですか?燃料を捨てれば、今後の哨戒活動に支障が出ますが……」 ボールドウィンは訝し気な表情を張り付かせながらベルンハルトに言うが、それに対して、ベルンハルトはあっさりとした口調で返す。 「目印を与えているのなら、消してしまうまでだ。生き残るのならば仕方かなかろう?」 「は、はぁ……」 「なに、命あっての元種だ。慎重でかつ、狡賢く……サブマリナーの基本だ」 その一言を聞いたニルソンが、何かを思い立ったのか、手を上げた。 「艦長、ひとつ提案したいのですが」 「何か妙案を思いついたようだな……聞こう」 「妙案かどうかは分かりません。ある意味、だましの基本のような物で、敵に見破られる可能性もありますが」 「生死がかかっとるんだ。試せる事は何でもやろう」 ベルンハルトは不敵な笑みを浮かべながら、副長に発言を促した。 駆逐艦フロイクリの艦橋からは、右舷側400グレル(800メートル)を反航する僚艦キガルアが見えていたが、その僚艦が突然、爆雷を投下し始めた。 唐突に、キガルアの後方から水柱が立ち上がった。 「キガルア爆雷攻撃開始!」 「なに?敵艦を探知したのか!?」 フェヴェンナ艦長は、キガルアが生命反応を捉えたのかと思ったが、頭の中ですぐに否定する。 敵潜水艦は既に、生命反応探知装置の索敵範囲内から脱しており、フロイクリとキガルアはあてどもなく、海上を彷徨うしかなかった。 敵艦が探知外に逃れる寸前に行った爆雷攻撃は、位置的に見て相当の打撃を与えたと確信しているが、どの程度の損害を与えたかははっきりとしておらず、 フェヴェンナは敵艦を逃がしたと思っていた。 そこに、キガルアが突然の爆雷攻撃を開始したのである。 「通信士!キガルアに状況を知らせよと伝えろ!」 フェヴェンナはそう指示を伝えながらも、頭の中ではキガルア艦長の判断が本当に正しいのか疑問に感じていた。 キガルアの艦長は、まだ29歳の若手艦長であり、勇猛果敢ではあるものの経験が不足している。 出港前にキガルア艦長とはひとしきり会話を交わしたが、正直、頼りにならないとフェヴェンナは確信していた。 キガルアからの返信はすぐに届いた。 「キガルアより返信!我、敵艦より流出した物と思しき黒い油を発見。目下、追撃中!」 「黒い油……敵艦の燃料か」 フェヴェンナはそう呟いてから、先の爆雷攻撃は敵艦の外郭に損傷を与えと確信した。 だが、最も気がかりな情報がその中には含まれていなかった。 「敵艦は探知したのか……正確な位置は分かっているのか……?」 彼は、キガルアが“黒い油のみ”を見つけて、そこに爆雷を叩き込んでいる事が非常に気になった。 キガルアは洋上に光を照らしながら、尚も爆雷攻撃を続けているが、よく見ると、油が見つかったと思しき場所をぐるぐると回っているだけだ。 それに加え、報告には油がどの方角に繋がっているかと言う情報も全く見受けられない。 「ええい、くそ!通信士!もう一度問い合わせろ!敵の油膜はどの方角に繋がっているか。敵艦の生命反応は探知しているのか。急ぎ送れ!!」 フェヴェンナはそう指示を下しながら、胸の内で不安を感じ続けている。 そもそも、彼ら護衛駆逐艦の役目は船団を守る事である。 今はこうして、敵の潜水艦を追い回しているが、本来ならばすぐに切り上げて、船団の護衛に戻らなければならない。 先の魚雷攻撃で僚艦2隻が撃沈され、1隻が乗員の救助に当たり、2隻が潜水艦の掃討に当たっているため、船団の護衛艦は現時点で7隻に減ってしまっている。 そろそろ頃合いだとフェヴェンナは思っているのだが、僚艦キガルアは敵の追撃に夢中になってしまい、全力で爆雷攻撃を敢行中だ。 「艦長、キガルアより返信。敵の位置は把握せり、心配ご無用なり……以上です」 「たったそれだけか!?あの若僧が、しっかり報告せんか!!」 フェヴェンナは苛立ちを募らせる。 キガルアの行動は、完全に頭に血が上った野獣の如しである。 「完全に視野が狭くなってますな……」 ネルス副長も半ば呆れながらフェヴェンナに言う。 「あんな様子じゃ、早死にするだけだ」 「艦長、そろそろ船団の護衛に戻らなければ……」 「俺もそうしたいが……キガルアを置いてはいけない。あいつは単艦にすると、すぐにやられるぞ」 フェヴェンナはそう返したが、内心ではキガルアを放置して戻りたい気持ちで一杯であった。 しかし、それは寸での所で彼は抑えている。 シホールアンル海軍の駆逐艦は、敵潜水艦の掃討に当たる時は、最低でも2隻1組で当たるように厳命されている。 なぜそのような命令が発せられたというと、実際に1隻のみで対潜掃討に当たると、複数展開している思われる米潜水艦群に返り討ちに遭い易い為だ。 そのため、フェヴェンナの率いるフロイクリはキガルアを置いて、船団護衛に戻れずにいた。 キガルアと共に戻るには、フェヴェンナがキガルアの艦長を説得するか、キガルアが敵潜水艦を撃沈するか……二つに一つだ。 フェヴェンナは、躊躇いなく前者を選んだ。 「通信士!キガルアに追申だ!」 「艦長、キガルアに何と……?」 「敵潜水艦の追撃を中止し、直ちに船団へ合流すべし、と送れ」 「え……キガルアは今、対潜戦闘中ですぞ!」 副長は仰天してしまった。戦闘中のキガルアにそれは無茶だと言わんばかりの口調だ。 「さっきから大雑把な位置をぐるぐると回って爆雷落としているだけの連中が、敵の潜水艦を沈められるとは思えん。ここで無駄に時間を使うよりは、 船団に戻って輸送艦群を護衛したほうがいい」 「は、はぁ……」 副長はフェヴェンナの断固とした口調に口を閉ざした。 フェヴェンナの指示は、キガルアに届いたが、その返答はフェヴェンナの苛立ちをさらに募らせた。 「フェヴェンナより返信!我、目下敵潜水艦を追撃中。船団への合流は貴艦のみで行われて結構である……」 「気違いめ!今、船団がどれだけ危うい状況なのか分らんのか……!」 彼は歯軋りしながら、指示に従わないキガルアに怒りを感じていた。 「重ねて指示する!至急、船団へ合流されたし!また、単艦行動は上層部より厳に戒められているため、貴艦の申し出は受け入れられず。今は損傷し、 姿を隠した敵潜水艦を追撃するよりも、船団の護衛に注力した方が良いと、当艦は確信する物なり!以上、送れ!」 フェヴェンナが怒りを交えた口調で、送信文を魔導士に伝えた時、見張り員が新たな報告を艦橋に伝えた。 「艦長、キガルアが爆雷攻撃を停止しました!」 「ほほう……艦長の指示に従うのですかな」 ネルス副長が感心したように言うが、フェヴェンナは首を左右に振った。 「それは分からん。まぁ、いずれにしろ、あちらも何か報告を伝えてくるだろう」 フェヴェンナがそう言ってから2分後……彼の言う通り、キガルアから報告が伝えられた。 「キガルアより通信。敵潜水艦のより流出した黒い油を更に発見。その量、極めて多し……また、油以外の多数の浮遊物も視認せり、であります」 「……撃沈したようですな」 「その多数の浮遊物とは一体なんだ?キガルアに問いかけろ」 ネルスの言葉を肯定する事無く、フェヴェンナは魔法通信で浮遊物の詳細を問おうとした。 そこに新たな通信が入る。 「キガルアより通信。浮遊物の中に敵が使用したと思しき書類や木の板、衣類など多数を視認。当艦は敵潜水艦の撃沈を確認せり」 「死体は?敵艦乗員の死体は見つからんのか?」 「……死体発見という文面はありませんが、衣類など多数とありますから、恐らくは」 「恐らくは、ではない。敵の潜水艦が撃沈されれば、必ず死体が上がってくるはずだ。キガルアに敵兵の死体の有無を確認させろ!」 「は……直ちに」 「艦長!船団より緊急信です!」 フェヴェンナが、最も肝心な事を問い質そうとした矢先に、別の魔導士が切迫した声音を張り上げながら報告を伝えて来た。 「別の敵潜水艦が護送船団に雷撃を敢行。輸送艦2被雷、大破との事です!」 この瞬間、フェヴェンナは護衛失敗を確信したのであった。 午前4時30分 帝国本土向け護送船団 輸送艦511号は、先頭を行く1番艦と2番艦が相次いで被雷し、急速に速度を落とす様子を目の当たりにしていた。 511号艦長であるラヴネ・ハイクォコ中佐は、即座に面舵を切って、前方の2番艦との衝突を回避した。 「魚雷警報―!見張り員は魚雷警戒を厳にせよ!」 ハイクォコ艦長は大音声でそう命じながら、心中では突然起きた魚雷攻撃に、ある不審な点を感じていた。 「副長!戦闘の輸送艦からは雷跡発見の報は入らなかったのか!?」 「先もお伝えした通り、魚雷発見の報告は伝わっておりません。いきなり水柱が立ち上がりましたから……」 「何だそれは……!」 ハイクォコ艦長は、今までに経験した事のない雷撃に困惑していた。 彼は今まで、3度ほど敵潜水艦の襲撃を経験した事があるが、いずれも魚雷の航跡を見張りが確認していた。 だが、今回はその報せも伝えられぬまま、いきなり僚艦が被雷したのである。 「艦長!」 困惑するハイクォコ艦長の背後から、野太い声が響いてきた。 振り返ると、そこには赤と緑の装飾で彩られた特性のローブに包んだ、小太り気味の魔導士が立っていた。 「いきなり別の船が魚雷攻撃を受けて沈んでおったが、この船団は今敵の攻撃を受けておるのか!?」 「その通りです、トミアヴォ導師」 ハイクォコ艦長は素直に答えると、トミアヴォと呼ばれた中年の魔導士は不快げに顔を歪めた。 「この船には重要物資を積んでおるのだ!何としてでも敵の攻撃を避けて貰いたい!!」 「無論、努力はいたします。重要機密品に指定されている物資を積んでいるとあっては、我々もできうる限りの事はします」 ハイクォコ艦長はそう言ってから、恭しげに頭を下げた。 トミアヴォ導師は、シホールアンルの中でも優秀な大貴族であるウリスト侯爵と、繋がりの深い魔導士の1人である。 昔から優秀で、腕の立つ魔導士として広く知られているが、性格は悪く、横暴であり、権力に物を言わせて物事を強引に解決する人物としても知られている。 トミアヴォはこの511号輸送艦に搭乗する際も、その身勝手なふるまいで乗員を多いに悩ませており、積荷に関しても重要機密品と伝えるだけで 詳細は知らせてくれず、物資を梱包した幾つもの木箱の周辺には、トミアヴォが共に連れて来たウリスト家の私兵が、厳重に張り付いて警戒し、 艦の乗員すら近づけない状態だ。 彼らの傲慢な態度は、乗員達を大いに怒らせていたが、ハイクォコ艦長は重要機密品を護衛しているのだから我慢しろと言い聞かせていた。 その責任者であるトミアヴォが、血相を変えてハイクォコ艦長のもとに現れたのである。 「艦長、このままでは他の輸送艦と一緒に狙われてしまう。ここはひとつ、船団から離脱して、独航で港に向かってはどうか?」 「導師。それはできません。ここで隊列を離れれば、それこそ敵の思う壺です」 ハイクォコ艦長はトミアヴォの提案をすぐに否定する。 すると、トミアヴォは怒りで顔を真っ赤に染め上げた。 「何を言っておる!貴官はこの船に重要物資を搭載している事を忘れたのか!?帝国の行く末がこの船に積んだ物資に掛かっておるのだぞ!?」 「導師の言う事はごもっともでしょう。ですが、そのお言葉には従えません」 ハイクォコがそう言うと、トミアヴォは更に怒声を上げかけた。 その瞬間、衝撃と共に大音響が鳴り響き、右舷側中砲部から高々と水柱が吹き上がる。 右舷側から伝わった強烈な衝撃のため、艦橋内の誰もが床を這わされ、ある者は壁に体を打ち付けて重傷を負う事となった。 潜水艦ベクーナに座乗する第2群司令ローレンス・ダスビット大佐は、艦内に伝わる爆発音を聞くなり、ベクーナ艦長を務める フリン・クォール中佐と共に顔を見合わせた。 「新たな爆発音を感知。魚雷命中、まだ続きます」 「司令、敵は今頃、大慌てでしょう」 クォール艦長は小さな声でダスビットに言うと、彼は満足気な表情を見せた。 「敵の左右に展開した、潜水艦8隻の全力攻撃だ。しかも、こっちが撃った魚雷は新型のMk-20。今頃、敵の船団指揮官は 航跡の見えない魚雷を食らって大いに目を回してるに違いない」 Mk-20とは、アメリカ海軍が開発した新型の潜水艦搭載用魚雷である。 この魚雷は、今までの標準魚雷であったMk-14を元に再度設計されたもので、その大きな特徴は、電動推進式である事だ。 電動推進の魚雷は、1943年にMk-18がアメリカ海軍で最初の電動推進式の魚雷として開発されたが、開発当初は実用性に 乏しかったため実戦には投入されなかった。 ただ、その経験は後の開発に生かされることになり、1945年10月にMk-20魚雷が開発され、順次量産される事となった。 Mk-20は電動推進式であるため、通常の魚雷と違って速度が遅いという欠点があり、速力36ノットで4800メートル、 18ノットで7200メートルと、射程距離も短くなっている。 しかし、Mk-20は、これまでの燃料推進魚雷と違って、電動推進式で魚雷から排出する空気が非常に少ない為、航跡がほぼ出にくく、 夜間訓練時においては、敵役を担った艦が魚雷を視認できないため、ロクな回避運動を行えぬまま被雷判定を受けるなど、静粛性に極めて優れていた。 今回の作戦では、本隊を担うバラオ級、ガトー級潜水艦にこのMk-20が初めて搭載され、先の攻撃で使用されたが、その結果は大いに 満足できるものであった。 「魚雷命中音止まりました。確認できた爆発音は10回です」 「敵の護衛艦はどうなっている?こちらに向かってきているか?」 クォール艦長は、即座にソナー員へ聞き返す。 ベクーナを始めとする第2群の潜水艦8隻は、魚雷発射後、即座に現場海域から離脱を図っている。 「今の所、こちらに向かう敵艦らしき音は探知できません」 「命中音からして、少なくとも、5、6隻は食えたか」 ダスビット大佐が言うと、ベクーナ艦長は顔に笑みを見せた。 「不発魚雷もほぼ無いようです」 「うむ、素晴らしい事だ。それに、Mk-20の弾頭には300キロのトルペックス火薬が搭載されている。被雷した輸送艦は例外なく沈むかもしれん」 「これでまた、撃沈トン数を稼ぐ事ができますな」 クォール艦長が言うと、ダスビット大佐は深く頷いた。 「とは言え、この雷撃が成功したのは、一重にキャッスル・アリスが敵の護衛艦を複数誘引出来たお陰でもある。今の所、連絡が途絶えているが、 連絡が回復したら、連中にねぎらいの言葉をかけてやらねばな」 1486年(1946年)1月10日 シホールアンル帝国西部 ホーントゥレア港 駆逐艦フロイクリは、生き残った輸送艦と共にホーントゥレア港に入港した後、艦に収容した損傷艦の乗員を下艦させ、その作業をようやく終えていた。 「艦長、収容した乗員の下艦が終わりました」 「ご苦労だった……」 フェヴェンナ艦長は、いつも通りの平静な声音で返すと、制帽を取り、自らの頭をひとしきり掻いた。 目線を艦の右側に移す。 フロイクリの右側にある桟橋には、ロアルカ島から共に付いてきた輸送艦が、搭載した物資の荷下ろしをしているが、ロアルカ島出港時には30隻を 数えた輸送艦も、ホーントゥレア港到着時には12隻に減っていた。 残りの18隻は全て、敵潜水艦の雷撃によって撃沈された。 また、12隻居た護衛駆逐艦も、ホーントゥレア港に到達したのは8隻だけである。 4隻の駆逐艦もまた、敵艦の雷撃に撃沈されたのだ。 これに対し、シホールアンル側の戦果は、血気に逸ったキアルガが敵潜水艦を追い回した末に、米潜水艦1隻の撃沈を報告したのみだ。 いや、キアルガの通信には、敵艦乗員の死体を確認したという文面が入っていなかったため、取り逃がした可能性が高かった。 「完敗……だな」 フェヴェンナはポツリと呟く。 それを聞いた副長が、これまた小声で彼に問いかけて来た。 「艦長。ルィキント列島とノア・エルカ列島は今後、どうなるでしょうか」 「敵潜水艦が跳梁し始めたとあっては……早晩、維持されていた連絡線も遮断される。そうなれば、ルィキント、ノア・エルカは確実に孤立するだろう」 「孤立……ですか」 「なに。俺達は今まで同様、やれることをやるだけだ」 フェヴェンナはネルスにそう返すと、彼の左肩をポンと叩いてから、艦橋を後にした。 1486年(1946年)1月11日 午前8時 レビリンイクル沖西方220マイル地点 サーバルト・フェリンスク少尉は、久方ぶりに浮上した艦の後部で、彼方まで続く水平線をじっと見つめていた。 空は青く晴れており、時折冷たい風が吹く物の、気持ちの良い天気と言えた。 「やあ少尉、体の具合はどうだね?」 ふと、横合いから声を掛けられた。 フェリンスクは右横を振り返る。 「これはベルンハルト艦長」 「その様子だと、具合は良さそうだが」 「いえ、まだ胸が痛みます。軍医殿の診察によりますと、肋骨が折れているようですが……あとは打撲傷のみで、肋骨以外は大したことないと。 歩くぐらいなら何とか大丈夫です」 「ほう。何とか重傷で済んだか」 ベルンハルトは微笑みながらそう言うと、懐からタバコを2本取り出し、1本を差し出した。 「タバコは吸った事あるかね?」 「タバコですか……」 フェリンスクの反応を見たベルンハルトは、彼がまだタバコを吸ってないなと確信した。 ベルンハルトは時折、ロイノーとフェリンスクに声かけたが、2人ともタバコは吸わなかった。 理由としては、あまり好みじゃない匂いが付くと困る、との事だ。 「艦内で吸うと匂いがこもるが、ここで吸うなら匂いもすぐ晴れる。生き残れた記念にどうだい?」 「はぁ……」 フェリンスクは何故か、バツの悪そうな顔を浮かべていた。 「ふむ……やはり匂いが気に入らないか。普通の人と比べて、嗅覚の鋭い獣人だと、タバコはきついかね」 「実は」 ベルンハルトは、フェリンスクが懐からタバコを取り出すのを見て、一瞬顔が固まる。 その後、勢い良く背中を叩いた。 「こいつぁ驚いた!君も隅に置けんな!」 「いててて、艦長、痛いですよ」 「お、おお……傷に響いたか。これは失敬」 ベルンハルトは慌てて謝ったが、気を取り直して、胸ポケットからジッポライターを取り出す。 自分のタバコに火をつけると、フェリンスクに火を向けた。 「火を付けよう」 「あ、ありがとうございます」 フェリンスクは、半ばぎこちない動きでベルンハルトから火を貰った。 タバコに火が付くと、彼らはタバコを吸いこみ、紫煙を吐き出した。 「ふぅ……生きている味だな」 「ええ。こういうのも悪くないです」 ベルンハルトはフェリンスクの声を聞いて微笑み、タバコを咥えながら質問した。 「少尉、いつからタバコを吸うようになった?」 「はぁ……事が一通り収まり、艦が一旦浮上してからです。その時、軍医殿が差し出したタバコを貰いまして……それからちょくちょく吸っています」 フェリンスクはベルンハルトの質問に答えてから、タバコを口にくわえ、ゆっくりと紫煙を吐き出す。 心の底からリラックスしているのか、彼は和やかな表情を見せていた。 「いい吸いっぷりだ。その分なら、他の連中と一緒に喫煙場の会話を楽しめそうだな」 「そうかもしれませんが……問題もあります」 「ふむ。問題と言うと……?」 ベルンハルトが聞くと、フェリンスクは苦笑しながら答える。 「家族に文句を言われる事です。特に妹は、慣れないタバコの匂いに素っ頓狂な声を上げるでしょうな」 「くさーい!!とでも言われるのかね?」 「ええ、それとほぼ同じ口調で言われますよ」 フェリンスクがそう返すと、ベルンハルトは大きな声で笑った。 「まぁしかし……ロイノー少尉の怪我も大事に至らずに済んだし、乗員に死者が出なかったのは不幸中の幸いだった。探知妨害装置が故障した時は どうなるかと思ったが……幸運の女神は、俺達に微笑んでくれたようだ。もっとも、艦はドック入り確実だがな」 「その点に関しては、非常に申し訳なく思っております……」 「いや、君らは悪くないさ。悪いのは、不良品を押し付けたミスリアルの連中だな」 ベルンハルトの笑みが、不自然に爽やかな物へと変わった。 「帰還した後は、連中の責任者を呼び出して、親睦を深めることにするよ」 「は……はぁ」 フェリンスクは、その爽やかな笑みの内には、烈火の如き怒りが渦巻いている事を、密かに感じ取ったのであった。
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20 :641,642:2015/06/21(日) 20 05 45 17 申し訳有りませぬが同志書記長。コレ正直SSと言えるものなのか疑問符浮かび捲りの代物なのですが(´・ω・`) 戦後憂鬱世界でもしかしたら製作されるかもしれない何処かのゲーム会社発売(てか作って下さい誰かが何かするんで)・空想戦略戦術系海戦シナリオ 日本側視点 『ガダルカナル島争奪戦』 由々しき事態だ。我が軍が航空基地設営中のガダルカナル島に敵軍が上陸し、陸軍と交戦中とのことだ。目下友軍は防戦に当ってはいるが、アメリカ軍の物量の 差は流石に如何ともし難い様だ。又潜水艦からの偵察情報によれば、米軍は一気呵成に占領する為に多数の増援をこの海域に向かわせてきている。ポートモレスビーを 攻略し、米豪遮断作戦を成功させる為にもガダルカナル島は絶対に失陥する訳には行かない。米海軍の増援を撃破後にガダルカナル島に上陸している敵陸軍を撃破し、 MO作戦を完遂するのだ。 勝利条件 敵増援艦隊の撃退(撃滅に有らず)、及びガダルカナル島敵上陸部隊の撃滅 敗北条件 自艦隊の撤退、壊滅。ガダルカナル島防衛部隊の全滅 備考 ガダルカナル島防衛部隊は陸軍指揮下の為、海軍から命令を出す事は不可能。 敵艦隊には新鋭戦艦を含むと言う不確定情報有り。 戦艦『大和』が実戦投入可能。有効活用せよ。 『南太平洋海戦』 先のガダルカナル島防衛戦では我が軍の戦術的勝利に終わったものの、連合軍…と言うよりアメリカ軍は、その有り余る国力に任せて産み出した多数の戦力を用いての 南太平洋での消耗戦を企図している。このままでは国力的に圧倒的劣勢である我が国の戦力は確実に消耗して行くしかない。その為、MO作戦は中止となり、我が軍は 一部部隊を残しつつも『転進』する事になったのだが…アメリカ海軍は機動部隊を此方に差し向けて来ているとの一報が入った。ヤンキーどもは我らを何が何でもこの海域 での漁礁にしたい様だ。 今回の作戦は、この敵機動部隊の撃滅である。この部隊を撃滅すれば、この先の戦争は必ず楽になる筈だ。多少なりとも、では有るだろうが。 勝利条件 敵機動部隊所属の全航空母艦の撃沈。 敗北条件 自艦隊の撤退、壊滅。敵航空母艦の今作戦海域の離脱。 備考 敵艦隊の対空砲火は以前より飛躍的に強化されている様だ。 防空巡洋艦が配備されていると言う未確認情報あり。 21 :641,642:2015/06/21(日) 20 07 56 『マリアナ沖海戦 ~サクラ、華開ク時~』 再建されたアメリカ機動艦隊が進撃を開始した。その数『正規空母だけで15隻』だ。我が軍の一線級空母も数で言えば14隻に上るが、相手は開戦後に建造開始した艦艇が 殆どだ。未だに戦前からの艦艇が主体の我が軍よりも格段に高い戦闘力を備えていると考えるしかないだろう。我が軍も負けてはいない。『紫電』等の新型機に加え、一年の 猶予期間で鍛え上げた多数の航空部隊。それと、今回はアメリカに謀略を仕掛けて案外上手く行ったようで、敵軍の行動はある程度予測出来ている。だが、一手間違えれば 即座に我らが壊乱する可能性が極めて高いだろう。慎重かつ大胆に行動し、貴官より『勝利』の報告が齎される事を祈る。 『皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ』 勝利条件 敵機動部隊の航空母艦の殲滅 敗北条件 自艦隊の撤退、自艦隊航空母艦の多数撃沈。航空戦力の全滅 備考 敵艦隊の対空砲火は『南太平洋』よりもさらに強化されている。注意せよ。 敵軍の砲弾に新型信管が使用されている様だ。 敵機動部隊の艦載戦闘機は新型機に更新されている様だ。 敵潜水艦が今作戦海域に紛れ込んでいるとの未確認情報あり。注意せよ。 『レイテ沖海戦 ~鋼鉄、火薬、血霧…赤キ華ヨ、咲キ狂エ~』 マリアナ沖海戦における貴官の奮闘により、我が軍はアメリカ艦隊の航空母艦を多数撃沈破する事に成功した。…だが、アメリカ軍の進攻は『一機動部隊の壊滅』程度では 何ともなかった様子だ。『空母20隻、戦艦15隻』を主要戦力とするアメリカ軍がフィリピンへの進攻を開始している。もはや、今までの様に『艦隊決戦』に固執していたら、連合 艦隊はその『艦隊決戦』を一度実行して完全に消え去るばかりか、日本すらも歴史上の存在になる可能性すらある。南方航路を確保し、日本が生き残る最後の目を残す為 には、最早『伝統』だの何だのと四の五の言っている暇は無い。 貴艦隊の任務は『レイテ島に多数上陸した敵陸上部隊の撃滅』である。いかなる手段を取っても構わない。又連合艦隊が敵上陸部隊を撃滅後にフィリピンに駐屯している 陸軍が攻撃を仕掛ける段取りである。…必ず、勝利せよ。 勝利条件 敵フィリピン上陸部隊の殲滅 敗北条件 自艦隊の全滅、敵フィリピン上陸部隊の今作戦戦域からの離脱、乃至一定時間以上の経過。 備考 敵機動艦隊の連度は余り高くないようだ。 敵戦艦部隊に『アイオワ級』戦艦の姿を確認。 敵潜水艦の存在を各海域に多数確認 22 :641,642:2015/06/21(日) 20 10 37 『沖縄沖海戦 ~サクラチリ、フブキトナリテ~』 ミッドウェイでの一戦や、ソロモン等での小さな敗北を除けば、我が連合艦隊は常に勝ち続けてきた。特に、『マリアナ』と『フィリピン』での大勝利は、前線将兵の勇戦敢闘も 一因ではあるが、貴官の類い稀なる戦闘指揮により齎された物である。海軍…いや、日本軍を代表して、貴官に対し感謝の念を伝えたい。…そして、心苦しいが『連合艦隊の 最後の決戦』となるであろう今回の作戦指揮も、貴官にお願いしたい。アメリカ軍は、米国議会からの要求も有り、今戦争の早期終結を目論んで沖縄へと侵攻してきている。 現在沖縄防衛の任に就く陸軍が奮闘しているも、補給路を断たれた軍隊はどれほど精強であろうとも、何時かは崩壊し、壊滅する。それを防ぐ為の戦力は、今の日本には 貴艦隊しか存在しないのだ。 貴艦隊の最後の任務は『米国沖縄侵攻部隊の撃滅』である。現在、貴艦隊の沖縄への海路を切り開くために、海上護衛総隊所属の一部対潜部隊や、陸海軍航空部隊所属の 対艦攻撃部隊が多数出撃し、激戦を繰り広げている。既に賽は投げられた。日本に残存している優良艦艇、航空戦力全てを使用しても構わない。 …沖縄を、救ってくれ。 勝利条件 沖縄への到達、並びに米国沖縄上陸部隊、米艦隊の撃破 敗北条件 自艦隊の全滅 備考 自艦隊の支援に『連山』による対艦誘導弾『桜花』の援護攻撃有り。 英国機動艦隊に対する戦果は不問不要。主敵は米国である。 連合艦隊の沖縄到達時に、現地日本陸軍による大反攻が開始される。援護せよ。 例え残存艦艇が駆逐艦一隻、航空機一機になろうとも、損害に構わず沖縄に向うべし。 …ショート?ifシナリオ? 『南方航路対潜哨戒作戦』 阿部提督の尽力により、粗雑の極みだった航路防衛が何とかマトモに機能し始め、又敵潜水艦に対する戦果も少しずつ増加し始めているのに危機感を抱いたのか、 連合国軍が多数の潜水艦をこの南方航路を破壊する為に出撃させたとの一方が入った。間の悪い事に、丁度各種物資を満載にした大規模輸送船団が本土に向けて出港 したとの事だ。これより我らは、輸送船団が今海域を安全に通過出来るように『掃除』と『護衛』を行う。…この船団が本土に辿り着けば、我が国の戦力補充ペースもきっと 早まるだろう。 勝利条件 輸送船団の海域突破、若しくは敵潜水艦の殲滅 敗北条件 輸送船団の壊滅 備考 輸送船団が本土に辿り着けた隻数により、今後本土より前線に送られる増援の質量が変わるだろう。 増加試作型の新型対潜哨戒機が配備されている。有効活用せよ。 23 :641,642:2015/06/21(日) 20 13 08 『レイテ沖海戦 ~鬼武蔵ノ死ニ狂イ~』 米国陸上部隊の殲滅に成功した我が艦隊だが、戦艦『武蔵』を筆頭とした多数の艦艇が、米国艦艇からの度重なる襲撃により発生した損傷による速度低下は如何足掻いても 解消される事は無く、又先の殲滅戦で怒り心頭の米国打撃艦隊が直ぐ傍にまで接近してきている。艦隊速度的に逃げ切る事は先ず不可能であり、先に離脱した本隊を本土へ 生還させる為にも、我らは米国艦隊と必ず交戦しなければならない。恐らく損傷した艦艇の多くは確実に沈む。その中には『武蔵』の名も刻まれるだろう。…だが、我々はやり遂げ なければならない。我々が一分一秒でも時間を稼ぎ、敵艦に砲弾を一発でも撃ち込んで損傷を与えれば、それらは本隊の離脱に、ひいては日本本土を守る事に繋がるからだ。 …総員、我らが命を捨てがまり、死に華をヤンキーに、世界に見せつける時は今ぞ… 勝利条件 一定時間米国打撃艦隊を今作戦海域に足止めする。 敗北条件 一定時間が未経過の間に、米国打撃艦隊が作戦海域から離脱する 備考 今作戦では、艦艇の生存率は任務成功条件には含まれない。 米国打撃艦隊の足止めに成功後は、『武蔵』の撃沈、自艦隊の撤退、米国打撃艦隊の殲滅のいずれかの終了方法が有り。 戦艦『武蔵』が一定度以上の損傷を負わず、尚且つ護衛艦艇の損傷、損失如何により本土生還の可能性有り。 『レイテ沖海戦 if ~武蔵救出戦~』 レイテ島突撃艦隊からの報告により、米国上陸部隊の撃滅には成功したとの事だ。…だが、代わりに米軍から集中攻撃を受けた『武蔵』を筆頭とする多数の艦艇が『大和』を旗艦 とする本隊より遅れて撤退しており、米国打撃艦隊が『武蔵』目がけて突撃してきているとの事だ。『武蔵』たち損傷艦艇部隊は『捨てがまり』を実行する気のようだが、今後の戦争を 考えると、日本には巡洋艦のみならず駆逐艦一隻たりとも失う訳にはいかないのだ。特に『武蔵』の様な大型主力艦艇なら、余計に喪失する訳にはいかない。 …『武蔵』を、必ず救いだせ… 勝利条件 『武蔵』が生存した状態での作戦海域離脱成功 敗北条件 『武蔵』沈没 備考 戦闘に時間をかけすぎると、打撃艦隊のみならず機動部隊すらも襲撃してくる可能性有り。 米軍の通信を傍受した敵潜水艦が多数今海域に潜んでいるとの報告有。警戒せよ。 歴戦の伊号潜水艦が数隻、今海域に潜伏中との報告有り。上手く活用せよ。 24 :641,642:2015/06/21(日) 20 16 27 『パナマ運河爆撃作戦 if ~極東カラノ贈リ物~』 諸君、いよいよ待ちに待ったこの時が来た。これまでの偵察情報からは、アメリカ合衆国本土は未だに怠惰の微睡の中に有り、我々の存在に気付いてすらいない。だが、それも 我らの存在が知られるまでだろう。敵国本土には文字通り無数の機体や軽快艦艇が存在しており、仮に彼らが動き出したのなら、我ら『潜水機動艦隊』の動向は容易に知れ渡る だろう。だからこそ、勝機はこの一瞬、この一撃にしか存在せず、失敗は絶対に許されない。米軍の重要な補給線を形成しているこの運河を破壊すれば、今我が本土を付け狙って いる米軍に対する補給に多大なる混乱が生まれ、我が国が生き残る可能性が出て来るのだ。 …幸運を祈る。必ず、成功させてくれ… 勝利条件 パナマ運河の破壊成功 敗北条件 パナマ運河の破壊失敗、自艦隊、航空機の全滅 備考 米国哨戒部隊に発見されれば、米軍拠点から無数の航空機、艦艇が出撃し、任務達成に多大な支障が生まれる。警戒セヨ。 米海軍艦艇が撃沈されれば、当然米軍は警戒する。任務は『パナマ運河の破壊』であり、目の前の餌に飛びつくべからず。 『帝都防衛戦 if ~マチガエタミチノサキ~』 最悪だ。状況は最高に最悪だ。…状況を再度確認する。先日、連合国との講和に反抗する狂信的本土決戦主義者による関東地方での蜂起が発生した。何とか横須賀や厚木、 立川等海軍系や陸軍現実派の基地こそ『反乱軍』に占拠される事を防げたが、代わりに海軍省、陸軍省、首相官邸…それに、最悪な事に皇居が占領された。前触れ無しの 場当たり的奇襲蜂起だった為に、近衛軍の良識派が対応する間もなく殺害されたとの事だ。既に地方からの増援が反乱軍と睨み合い、説得に当っているが奴らは完全に 『本土決戦』の夢に狂い切っている。説得に当ろうとした東條陸相や鈴木首相が問答無用で『非国民』として射殺され、恐れ多くも陛下直々のお言葉すらもあの狂人共には 届いていない。さらに止めとして、沖縄戦での大敗で大恥掻かされた米軍が総力を挙げて、『今』この帝都に襲来してきている。恐らくだが、日本で反乱騒ぎが巻き起こっている のを知って好機と見たのだろう。 貴官の任務は、日本に残存する全艦艇、航空戦力を使用し、帝都に押し寄せてくる米軍を撃退、若しくは反乱軍が『消える』まで時間を稼ぐ事だ。…『マリアナ』『レイテ』『沖縄』と、 全ての負債を貴官に押し付けるのはとても心苦しく有るのだが、この絶望的状況で『奇跡』を引き出せるのは貴官しか、我が国には居ないのだ。 …戦果を挙げる必要は無い。必ず、生き残ってくれ。全てが終わったら、皆で宴会でも開こう。 勝利条件 米国東京攻略艦隊の撃退、若しくは敵部隊の上陸を一定時間防止する。 敗北条件 敵陸上部隊の日本本土上陸 備考 敵艦隊に未知の新鋭艦艇、新型艦載機の存在を確認。警戒されたし。 自軍側燃料に新規補充の目途無し。不要な移動、交戦、戦力の投入は可能な限り避けるべし。 本土配備の各種最新鋭機、熟練航空兵の戦線投入可能。活用せよ。 敵艦隊の数は…『蒼が3部、黒が7部』なり。 25 :641,642:2015/06/21(日) 20 18 50 ハイ、コレにて終了となりまする。変な所や各場面BGMは各自変更にて お願いいたします。(オイ) …後半の副題にセンスが感じられない。誰かもっち良い物有りませぬか?(´・ω・`) 26 :名無しさん:2015/06/21(日) 20 28 11 乙です。 最後のifはクリア後どんなエンディングになるんやねん!? 36 :名無しさん:2015/06/21(日) 21 15 54 26 敗北時は帝都沿岸部にて一時市街戦が発生するも、『陛下の御聖断』が流された事に より穏健派日本軍と米軍との間で停戦になるも、『御聖断』を『欺瞞放送』と断じて抗戦を 継続する反乱軍との市街戦が再発。皇族方こそご無事でしたが、代償に東京は文字通り 壊滅し、焼け出されたり、市街戦に巻き込まれた国民からの無言の視線を受け『如何して こうなった』と絶望するとある日本人でエンディングとなります。 そして勝利時にはですが…海戦に勝利して帰港した『貴官』(プレイヤーの分身)の元に二つの 手紙と選択肢が現れます。一つは穏健派からで、反乱軍を鎮圧し、日本を生存させようと言う 物。もう一方は反乱軍から『このまま勝利し続けて連合国から譲歩を引き出そう』と言う内容の 物。 前者を選択すれば、反乱軍を速攻で片した後に日本は条件付き講和。戦後憂鬱世界の『正史』 よりも遥かにボロボロになった米軍と、『正史』よりも更なる誇りを胸に抱いた日本との間に、 東京湾にて講和条約が締結され、その調印式に居た『貴官』が涙を一筋流す姿にてエンドロール。 後者の場合は…ムービーにて米軍の攻勢を全く押し止められないまま、硫黄島や再侵攻で陥落した 沖縄を拠点にB-29が日本全土の各都市を焼野原にしていき、日本軍機が全く対抗出来ずに、そもそも 飛ぶ事すら出来ずに嬲り殺されていく姿が『これでもか』と映され、最後にはソ連の宣戦布告からの ソ連、アメリカによる日本本土占領作戦が決行され、日本が東北の宮城県、山形県以北がソ連に、 その二県以南がアメリカによって占領されて終戦となる歴史が見られます。 そして『貴官』は『戦犯』として絞首刑に処せられ、最後の十三階段を上る間に『反乱軍に陛下に危害を 加える事を示唆され、従うより他無かった』的な回想が流されて、首に縄が掛けられ、足元の床が 開いて落下。嫌な音が響いて視界が暗転してエンド。 …こんな感じになりますね。正しく絶望の鬱ルート。 38 :641,642:2015/06/21(日) 21 16 40 36は自分です。何故に抜けたし
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533 :名無しさん:2014/11/16(日) 23 30 04 戦後憂鬱ネタでガダルカナルネタがあんまないので投下してみる、題名は適当いいのが思い浮かばなかった アイアン・ボトム・サウンド狂想曲 前篇 1945年5月、日本の条件付き降伏によって太平洋戦争は終結した。勝利の立役者となったアメリカ海軍であったが、 連合艦隊と太平洋艦隊の損害を見比べると、果たしてアメリカ海軍は勝者と言えるのか疑問である。 戦略的勝利はミッドウェー沖海戦のみであり、ガダルカナル、マリアナ、レイテ、沖縄においてはそれぞれ 二度の機動部隊壊滅、第7艦隊壊滅、最新鋭戦艦部隊壊滅と言う散々な結果であった、それ故、後世では 日本海軍の精強さが謳われ、アメリカ海軍は数に任せた軟弱と言われるようになる。果たしてそうだろうか? では何故こうもアメリカ海軍は被害を蒙ったのか?…全てはある島を巡る戦いが元凶だった。 ―――ガダルカナル ミッドウェー沖海戦で帝国海軍史上最悪の敗北を喫した連合艦隊は、ミッドウェー占領を足がかりにハワイを攻略し講和を求める案を廃棄して、オーストラリアとアメリカとの線を断ちきり、オーストラリアを戦争から脱落させアメリカを揺さぶる「米豪遮断」作戦を実行する。 そのキーポイントとなるガダルカナル島に飛行場を建設するも、アメリカ側はすぐに察知し海兵隊を上陸させ占領してしまう。これに対し日本側はすぐに第八艦隊を出撃させ、ガダルカナルをめぐりサボ島沖海戦が勃発する。結果は当時夜戦において第八艦隊は米豪連合艦隊の技量を上回っていたこと、運が味方したこと(メタだが三川軍一が転生者もあったこと)、さらに奇襲効果もあって重巡「加古」を失うだけで輸送船団と護衛船団を撃滅すると言うパーフェクトゲームを達成した。無論この損害に連合軍南太平洋艦隊は真っ青になる。重巡「ヴィンセンス」「クインシー」「アストリア」「キャンベラ」「オーストラリア」、軽巡「サンジュアン」「ホバート」、駆逐艦4隻撃沈、重巡「シカゴ」中破…人員に至ってはクラッチレー、リーフコール、スコットの3名もの将官を失い、オーストラリア海軍は主力どころを悉く喪失する羽目になった。 そして輸送船団と護衛艦隊の壊滅の隙を突き、日本軍は奪回の為の部隊を投入する。これに危機感を覚えたアメリカ海軍は現状打開の為に太平洋艦隊で稼働している虎の子の空母「サラトガ」「エンタープライズ」「ワスプ」の三隻を投入。一方ミッドウェーの復讐に燃える連合艦隊も機動部隊を派遣し、ラバウル航空隊や潜水艦との連携を以ってこれを撃滅せんとする。ここに東部ソロモン海海戦が勃発する。結果、日本側は軽空母「龍驤」を喪失するも、太平洋艦隊は空母「エンタープライズ」「ワスプ」を損失、「サラトガ」も大破してしまう。 二度の敗北で動揺するアメリカ海軍は「サラトガ」の復旧を急がせるとともに、大西洋艦隊唯一の正規空母「レンジャー」並びに護衛空母「ロングアイランド」「チャージャー」の回航を決定する。また輸送船団が壊滅した為に増援や物資を送り込むことが出来ず、やむを得ず駆逐艦による夜間輸送を行う「ワシントンエクスプレス」が行われることになった。無論日本海軍もそれを見逃すはずもなく第八艦隊は潜水艦等と協力して次々と撃沈していった。本来なら撤退するのがベストであったが(太平洋艦隊や海軍上層部は日本がガダルカナルを占領した所で維持は無理と認識していた)、オーストラリアの世論やそれに振り回される政治家達によって悪戯に優秀な駆逐艦乗り達を海の底に送りこむことになった。 535 :名無しさん:2014/11/16(日) 23 33 31 一方の日本側も当初目論んでいた「米豪遮断」から「米軍消耗」へと戦略を切り替えようとした。特に山本五十六お気に入りの樋端久利雄大佐がそれを熱心に訴えたのだ。 曰く、オーストラリアが脱落した所で英米が受ける影響は予想されるよりも少ない 曰く、仮にガダルカナルを占領した所で、維持するだけの戦力や物資が大きな負担になる 曰く、ガダルカナルに上陸している海兵隊を餌に米海軍に損耗を強いることが後の有利に繋がる 曰く、キルヤンキー!キルヤンキー!キルモアヤンキー! 樋端が異様な熱意に対し山本はそれに賛同し、「米豪分断」から「米軍消耗」へと切り替えることを選択。これが功を奏し、アメリカ海軍は多くの駆逐艦や巡洋艦を海の底に放り込みアイアン・ボトム・サウンドとしていった。ちなみに樋端もまた転生者であり、海軍甲事件の際には体調を崩したことで死なずにそのまま中央に配属された後は古賀、栗田、南雲の3羽鳥、高田利種等と共にマリアナ、レイテと本領を発揮することになる。余談であるが1943年4月18日一ヶ月前から「死んでたまるか!俺は死なんぞ!」とブツブツ呟いていたり、どうにかして体を不調にさせるような奇行を試みる樋端の姿が見られたと沖縄沖海戦で戦死した宇垣纏が死ぬ寸前に書き上げた「戦藻録」に記されている。 しかしサボ島沖海戦でアーレイ・バーク大佐率いる駆逐艦部隊が、戦力的に圧倒的な五島存知少将率いる日本海軍相手に対し果敢に挑み、レーダー性能の優勢と日本側が奢っていたこともあり、駆逐艦1隻の撃沈と引き換えに重巡「古鷹」、駆逐艦「初雪」「吹雪」撃沈、重巡「青葉」「衣笠」を大破と言う大勝利を挙げる。久々の大勝利に湧くアメリカ海軍、特にバーク大佐の「ワレ、31ノットデ追撃中」の電文は後世に語り継がれるほど有名である。しかしそれも局地的な勝利であり、連日のようにガダルカナルに嫌がらせのように艦砲射撃する日本海軍と海兵隊からの悲鳴のような救援要請に、度重なる失態から叩き出されたゴームレーに変わり南太平洋艦隊司令長官であるハルゼーは戦局逆転を図り、ガダルカナル救援並びに機動部隊撃破の為に投入可能な戦力を投入する。 空母「サラトガ」「ホーネット」「レンジャー」、護衛空母「ロングアイランド」「チャージャー」、戦艦「サウスダコタ」(「ノースカロライナ」は前の海戦で中破しており投入不可能)、投入可能な空母を全部投入してきたのだ(ボーグ級やサモンガン級も就役しているが流石に就役したてで戦線投入は不可能だった)。ノロマで装甲もぺらっぺらな2隻の護衛空母まで投入する程なのだから、アメリカ海軍はどれだけ真剣(追い詰められていたのか)だったのか分かるだろう…最もアメリカ海軍はとことん運に見放されていた。10月26日に繰り広げられた海戦の結果は「史上最悪の海軍記念日」と称される散々の結果で終わった。 海戦前に哨戒中の木梨艦長が乗る「伊19」が放った魚雷3本が第16任務部隊の空母「サラトガ」に命中する。当時世界最高峰の威力を誇る酸素魚雷と当たり所の悪さ、またダメコン失敗により「サラトガ」は沈没、おまけに一本の魚雷がサウスダコタの艦首に命中し損傷を負わせ離脱、そしてもう一本があろうことか艦隊防空期待を背負った「サンファン」に命中、しかも魚雷発射管真下に命中したことで魚雷が誘爆し轟沈する悲劇が起きたのだ。その後の航空戦では「飛鷹」が健在(これは転生者が色々やらかしてくれたお陰)であったこと、機動部隊を率いるのが復讐に燃える南雲忠一と「闘将」角田覚治であったことから、放たれた攻撃部隊は第16任務部隊を強襲、「サンファン」轟沈「サウスダコタ」離脱と言う防空戦力の要を失った 任務部隊は袋叩きを喰らい空母「レンジャー」沈没、重巡「ポートランド」大破、後方にいた第18任務部隊(史実にもいなかったCVEを基幹とする任務部隊)も補足され、護衛空母「ロングアイランド」「チャージャー」は装甲の薄さから爆撃で呆気なく沈み、第17任務部隊は2隻のアトランタ級巡洋艦の活躍もあったが、「ホーネット」は南雲・角田の猛攻を受けて最終的に総員退艦となり、日本海軍の駆逐艦に撃沈された。 537 :名無しさん:2014/11/16(日) 23 36 53 一方の米海軍の攻撃部隊は「翔鶴」「瑞鳳」「筑摩」を損傷させるが、「サラトガ」を早期に失った代償は大きく、1隻も沈めることが出来ないまま、空母「ホーネット」「サラトガ」「レンジャー」、護衛空母「ロングアイランド」「チャージャー」、重巡「ペンサコラ」(この時は史実とは違い第18任務部隊に所属していた)、軽巡「サンファン」「サンディエゴ」(被弾機の体当たり受けた後に魚雷をもろに喰らう)、駆逐艦「ポーター」「カッシング」「ヒューズ」「スミス」沈没、戦艦「サウスダコタ」重巡「ポートランド」大破、軽巡「ブルックリン」中破…文字通り大敗であった。日本側はミッドウェーの復讐が完了したことに大喝采を上げ、アメリカ海軍は稼働空母全てを喪失したことに唖然とし狂乱、ハルゼー更迭が叫ばれたが、ニミッツやスプルーアンスがハルゼーを庇ったこともあり、全ての責任が機動部隊指揮官のフレッチャー少将に被されて(本来ならキンケードだが復讐に燃えるフレッチャーが指揮官となっていた)有耶無耶となった。 ちなみにアメリカ本土ではかつてフィリピンでやったように、大敗を糊塗するかのような日本側の正規空母「ヒデヨシ」「イエヤス」戦艦「ノブナガ」撃沈と言う大本営発表をやっており、とある転生者達がその放送を聞いて「あらら~、米帝ちゅわぁん、ちょっといけていないんじゃない~」や「ブックス!」と言っていたらしい。 一定の戦果に満足していた連合艦隊だが、先の海戦で搭乗員の被害も膨大であったことから一度戦力を再編することになり、暫くは双方とも空母がいない状況に陥る。そして狂想曲の幕は上がる…第三次ソロモン海戦、戦艦「比叡」の艦橋のその男はいた。後に「ソロモンの悪夢」と呼ばれる男の姿が。 第18任務部隊 護衛空母 「ロングアイランド」「チャージャー」 重巡「ペンサコラ」 軽巡「ブルックリン」 駆逐艦「オバノン」「モンセン」「スタレット」「クラーク」「モーリス」 以上です、一応史実なぞった展開ですが、すこしだけ改変したネタになっていきます 南太平洋で米軍ボロ負けぶっこいたらキンケードはそのまま更迭されちゃうからフレッチャーに泥被ってもらいます
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{{Battlebox |battle_name=太平洋戦争 |partof= |image= |conflict=第二次世界大戦 |caption=真珠湾攻撃で炎上中の米戦艦 |date=1941年12月8日 – 1945年9月2日(または8月15日)国際的・法的な戦争終結日は、ミズーリ号上で降伏文書署名が行われた9月2日である。一方、天皇による玉音放送が行われた8月15日は、精神的・心理的な戦争終結日として日本国民やその占領下にあった国の人々に記憶されている。ただ、実際には、満州・沖縄・千島列島などにおける連合軍との戦闘状況や、本土に引き上げようとする日本国民への攻撃は、8月15日以降も続いていた。8月15日で戦争は終わったとする考え方は、そうした状況下にあった日本国民の苦難を忘れてしまいがちなことに注意がいる。[1] |place=太平洋、東アジア全域 |casus= |territory= |result=日本のポツダム宣言受託 |combatant1= アメリカ合衆国 /br イギリス 中華民国 /br オーストラリア /br ニュージーランド /br カナダ /br /br オランダ /br フランス(1945) /br ソビエト連邦 (1945) /br 他 |combatant2= 大日本帝国 /br タイ王国(1942) /br 満州国||commander1=Template flagicon? フランクリン・D・ルーズベルトTemplate flagicon?ハリー・トルーマン(1945) ウィンストン・チャーチル /br クレメント・アトリー(1945) /br 蒋介石 /br ジョン・カーティン /br ヨシフ・スターリン |commander2= 近衛文麿 (1937~) /br 東条英機 (1941~) /br 小磯国昭 (1944) /br 鈴木貫太郎 (1945) /br Template Flagicon? ピブン 張景恵 |strength1= |strength2= |casualties1= |casualties2= }} 太平洋戦争(たいへいようせんそう、英 Pacific War)は、第二次世界大戦の局面の一つで、1941年12月8日(大本営発表日)から1945年8月15日の玉音放送(ポツダム宣言受諾)を経て、9月2日に降伏調印の期間における、日本と、主にアメリカ・イギリス・オランダなど連合国との戦争である。 なお、「太平洋戦争」という呼称に関しても議論がある。呼称に関する議論については大東亜戦争を参照のこと。 戦争への経緯 1937年に勃発した日中戦争において、日本軍は、北京や上海などの主要都市を占領し、中国国民党の蒋介石総統率いる中華民国政府の首府である南京をも陥落させたが、アメリカやイギリス、ソ連からの軍需物資や人的援助を受けた蒋介石は首府を重慶に移し、国共合作により中国共産党とも連携して徹底した反日抵抗戦を展開した。日本軍は、豊富な軍需物資の援助を受け、地の利もある国民党軍の組織的な攻撃に足止めを受けた他、また中国共産党軍(八路軍と呼ばれた)はゲリラ戦争を駆使し、絶対数の少ない日本軍を翻弄し、各地で寸断され泥沼の消耗戦を余儀なくされた。 アメリカ、イギリスは日本に対して中国からの撤兵を求めた。アメリカは戦争継続に必要な石油と鉄鋼の輸出制限などの措置をとり、イギリスも仏印進駐をきっかけに経済制裁をはじめた。これらを自国に対する挑戦であると反発した日本はドイツ、イタリアと日独伊三国軍事同盟を締結し、発言力を強めようとしたが、かえって日独伊と英米などとの対立に拍車をかける結果となった。 1941年4月から日本の近衛文麿内閣は関係改善を目指してワシントンでアメリカと交渉を開始したが、7月に日本軍が南部仏印へ侵出すると、アメリカは在米日本資産の凍結、日本への石油輸出の全面禁止という厳しい経済制裁を発動した。 9月3日、日本では、大本営政府連絡会議において帝国国策遂行要領が審議され、「外交交渉に依り十月上旬頃に至るも尚我要求を貫徹し得る目途なき場合に於ては直ちに対米(英蘭)開戦を決意す」と決定された。だが10月16日、近衛文麿内閣はにわかに総辞職する。後を継いだ東条英機内閣は、11月1日の大本営政府連絡会議で改めて帝国国策遂行要領を決定し、要領は11月5日の御前会議で承認された。以降、大日本帝国陸海軍は、12月8日を開戦予定日として対米英蘭戦争の準備を本格化した。 11月6日、南方作戦を担当する各軍の司令部の編制が発令され、南方軍総司令官に寺内寿一大将、第14軍司令官に本間雅晴中将、第15軍司令官に飯田祥二郎中将、第16軍司令官に今村均中将、第25軍司令官に山下奉文中将が親補された。同日、大本営は南方軍、第14軍、第15軍、第16軍、第25軍、南海支隊の戦闘序列を発し、各軍及び支那派遣軍に対し南方作戦の作戦準備を下令した。 11月20日、日本はアメリカに対する交渉最終案を甲乙二つ用意して来栖三郎特命全権大使、野村吉三郎大使にハル国務長官に対し交付し以後の最終交渉に当たったが、蒋介石、イギリス首相チャーチルの働きかけもある中、アメリカ大統領ルーズベルトは、11月26日朝、アメリカ海軍から台湾沖に日本の船団の移動報告を受けた ref name=A 実際は輸送船でアメリカ海軍が故意に過大な報告をした。こともあり、ルーズベルトは両案とも拒否し、中華民国・インドシナからの軍、警察力の撤退や日独伊三国同盟の否定などの条件を含む、いわゆるハル・ノートを来栖三郎特命全権大使、野村吉三郎大使に提示した。これを日本に対する最後通牒と受け取った東条英機内閣は12月1日の御前会議において、日本時間12月8日の開戦を決定した。 最後通牒は日本時間で12月8日月曜日午前3時、ワシントン時間で12月7日午後1時に手交する予定であった。 12月6日午前6時30分の「第901号電」パイロット・メッセージから7日午前2時までに14部ある最後通牒と7日午前3時30分の「第907号電」(12月7日午後1時に手交の指令)はアメリカにある日本大使館に分割電送、指令により電信課の書記官2名が暗号解読タイプすることになった。 書記官室の寺崎英成書記官(終戦後に外務次官)転勤の送別会が終了した後(タイプの奥村勝蔵一等書記官は友人とトランプをした)、井口貞夫参事官の指示で当直もなく、午前10時に出勤した電信課により最後通牒が作成され、日本時間で12月8日月曜日午前4時20分、ワシントン時間12月7日午後2時20分に来栖三郎特命全権大使、野村吉三郎大使が米国務省のコーデル・ハル国務長官に「対米覚書」を手交した。 ref name=B 平成6年(1994年)11月20日公開された1946年調査の外務省の公文書『「対米覚書」伝達遅延事情に関する記録』による。。すなわち、日本は真珠湾を奇襲した後で対米最後通牒を手交したのである。このことは「日本によるだまし討ち」として米国民に広範な憤激を引き起こし、卑劣な国家としての日本のイメージを定着させる原因となるが、公開された公文書によると、既にアメリカは外務省の使用した暗号を解読しており、日本による対米交渉打ち切り期限を、3日前には正確に予想していた。対米覚書に関しても、外務省より手渡される30分前には全文の解読を済ませており、これが現在いわれる真珠湾攻撃の奇襲成功はアメリカ側による謀略であったという一部でいわれる説の根拠となっている。 戦争の経過 Template main2? 日本軍の攻勢(1941年 - 1942年前半) 200px|right|thumb|日本海軍機の攻撃を受け炎上するアメリカ海軍戦艦・[[ウエスト・ヴァージニア (戦艦)|ウエスト・ヴァージニア(BB-48)]] 1941年12月8日日本時間午前1時30分(ハワイ時間12月7日午前6時)、日本陸軍はアジアにおけるイギリスの拠点であるシンガポール攻略のために、当時イギリスの植民地であったマレー半島の、タイ王国国境に近いコタ・バルに上陸作戦を仕掛け、戦争が開始された。 ハワイ時間12月7日午前7時10分(日本時間12月8日午前2時40分)、アメリカ海軍駆逐艦ワードが、ハワイオアフ島真珠湾周辺のアメリカ領海内の航行制限区域に侵入していた日本海軍の特殊潜航艇を、砲撃および爆雷攻撃、撃沈した(ワード号事件)。 ハワイ時間12月7日午前7時49分(日本時間12月8日午前3時19分)、日本海軍第1航空艦隊は、アメリカ太平洋艦隊の基地であるハワイオアフ島の真珠湾に対し攻撃を行った(真珠湾攻撃)。山本五十六連合艦隊司令長官が考案した、後に一般的となった航空母艦を主力とした機動部隊による攻撃戦術であった。 攻撃によりアメリカ太平洋艦隊の戦艦部隊をほぼ壊滅させたものの、アメリカ空母機動部隊は出払っていたため損傷を免れ、これが原因でこの後の戦況に大きな影響を与えることになる。完全に撃沈したと思われた艦艇も後に引き上げられて戦線に投入された。また、2回行った航空攻撃では港湾施設と重油タンクへの攻撃はほとんど皆無で、3回目の航空攻撃を進言した部下の意見を南雲忠一第1航空艦隊司令長官は主攻撃目標であったはずのアメリカ空母機動部隊の所在が掴めなかったことと、燃料不足が理由で了承しなかった。 日本海軍の攻撃を知ったルーズヴェルト大統領は、攻撃を受けた翌日に議会において大日本帝国に対する宣戦布告決議を行い、宗教的理由で反対票を投じた議員1名を除く全会一致で可決した。さらに、12月11日に日本の同盟国のドイツとイタリアがアメリカに宣戦布告したことで、これまでヨーロッパ戦線においても虎視眈々と参戦の機会を窺っていたアメリカが連合軍の一員として正式に参戦し、これにより第二次世界大戦は名実ともに世界規模の大戦争となった。 12月10日、マレー沖海戦で日本海軍はイギリス海軍の最新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈した。航空機が戦闘航行中の戦艦を撃沈するのは史上初めてであり、この成功はその後の世界各国の戦争戦術に大きな影響を与えることとなる。後に当時のイギリス首相のウィンストン・チャーチルは、このことが「第二次世界大戦中にイギリスが最も大きな衝撃を受けた敗北だ」と語っている。 前年12月の開戦後も、東南アジアにおける唯一の独立国であるタイ王国は中立を吹聴していたが、12月21日大日本帝国の圧力などによりに日泰攻守同盟条約を締結し、事実上枢軸国の一国となったことで、この年の1月8日からイギリス軍やアメリカ軍がバンコクなど都市部への攻撃を開始。これを受けてタイ王国は1月25日にイギリスとアメリカに対して宣戦布告した。 日本陸軍は真珠湾攻撃と同時にマレー半島へ上陸。当初の計画を上回る驚異的な山下奉文陸軍大将率いる日本陸軍は2月15日にイギリスの東南アジアにおける最大の拠点であるシンガポールを陥落させた。また、3月に行われたバタビア沖海戦でも日本海軍は連合国海軍に圧勝し、相次ぐ敗北によりアジア地域の連合軍艦隊は大損害を受け、印蘭方面の制海権は潜水艦による連合軍の通商破壊が本格化する大戦末期まで日本海軍が保持することとなった。まもなくジャワ島に上陸した日本軍は疲弊したオランダ軍を制圧し同島全域を占領した。印蘭方面の制圧により、日本軍は南方作戦の最大目標であった戦争遂行に必要な資源獲得に成功した。 アメリカの植民地であったフィリピン占領は対米戦を勝ち抜く上では必須事項であった。日本海軍は零戦や一式陸攻の長大な航続力を武器に、台湾から直接フィリピンに航空攻撃をかけた。戦争準備が出来ていなかった在比米空軍は壊滅し、日本陸軍は容易にフィリピン侵攻を遂行することができた。バターン半島攻略に手こずり本来の予定よりは時間がかかったものの、5月には全土の占領に成功した。アメリカ軍の総司令官であったダグラス・マッカーサーは多くのアメリカ兵をフィリピンに残したままオーストラリアに脱出した。 マレー半島を制圧した日本陸軍は、援蒋ルートを遮断するためにビルマへ侵攻。終戦まで日本陸軍とイギリス軍の間で激戦が繰り広げられたビルマ戦役がここに幕を開けた。日本陸軍は破竹の勢いを維持したまま3月にイギリス領ビルマの首都であるラングーンを占領した。こうして、日本陸軍の南方作戦は先制攻撃であることを含めても当初の予想を大きく下回る損害で大成功に終わった。日本軍は開戦から僅か半年の間に、東南アジアから南太平洋一体にかけての広大な地域を占領下に置いた。国内では、相次ぐ勝利の報道により国民は歓喜した。 しかし、強固な装甲を持つ米軍のM3軽戦車への苦戦は、後にM4中戦車を主力とする大火力の米軍に圧倒される日本軍を予言していたし、広大な占領地域への兵站能力を持ち合わせていなかった日本軍は後に補給に苦しむこととなる。 4月、海軍の航空母艦を中心とした機動艦隊がインド洋に進出し、空母搭載機がイギリス領セイロン(現在のスリランカ)のコロンボ、トリンコマリーを空襲、さらにイギリス海軍の航空母艦ハーミーズ、重巡洋艦コーンウォール、ドーセットシャーなどに攻撃を加え多数の艦船を撃沈した(セイロン沖海戦)。これによりイギリスの東方艦隊は航空戦力に大打撃を受けて、日本海軍の機動部隊に対する反撃ができず、当時植民地下に置いていたアフリカ東岸のケニアのキリンディニまで撤退することになる。この攻撃に加わった潜水艦の一隻である伊号第三〇潜水艦は、その後8月に戦争開始後初の遣独潜水艦作戦(第一次遣独潜水艦)としてドイツ(正式にはドイツ占領下のフランス)へと派遣され、エニグマ暗号機などを持ち帰った。 この頃イギリス軍は、友邦フランスの植民地であったものの敵対するヴィシー政権側に付いたため、日本海軍の基地になる危険性のあったアフリカ東岸のマダガスカル島を南アフリカ軍の支援を受けて占領した(マダガスカルの戦い)。この戦いの間に、日本軍の特殊潜航艇がディエゴスアレス港を攻撃し、イギリス海軍の戦艦を1隻大破させる等の戦果をあげている。 また2月に、日本海軍の伊号第一七潜水艦が、アメリカ西海岸沿岸部のカリフォルニア州・サンタバーバラ市近郊のエルウッドにある製油所を砲撃し製油所の施設を破壊した。続いて同6月にはオレゴン州にあるアメリカ海軍の基地を砲撃し被害を出したこともあり、アメリカ合衆国は本土への日本軍の本格的な上陸に備えたもののTemplate 要出典?、短期決着による早期和平を意図していた日本海軍はアメリカ本土に向けて本格的に進軍する意図はなかった。しかし、これらのアメリカ本土攻撃がもたらした日本海軍のアメリカ本土上陸に対するアメリカ合衆国政府の恐怖心と、無知による人種差別的感情が、日系人の強制収容の本格化に繋がったとも言われる。Template 要出典? 日本海軍は、短期間の間に勝利を重ね、有利な状況下でアメリカ軍をはじめとする連合軍と停戦に持ち込むことを画策していたが、ハワイ諸島に対する上陸作戦は兵站上難しいことから実行には移されなかった。また、真珠湾攻撃の成功後、日本海軍の潜水艦約10隻を使用して、サンフランシスコやサンディエゴなどアメリカ西海岸の都市部に対して一斉砲撃を行う計画もあったものの、真珠湾攻撃によりアメリカ西海岸部の警戒が強化されたこともあり、この案が実行に移されることはなかった。Template 要出典? しかし、それに対してフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領以下のアメリカ政府首脳陣は、ハワイ諸島だけでなく本土西海岸に対する日本海軍の上陸作戦を本気で危惧し、ハワイ駐留軍の本土への撤退計画の策定やハワイ諸島で流通されているドル紙幣を専用のものに変更するなど、日本軍にハワイ諸島が占領され資産などが日本軍の手に渡った際の対策を早急に策定していただけでなく、本土西海岸へ上陸された際の中西部近辺への撤退計画とその後の反撃計画の策定まで行っていた。Template 要出典? 戦局の変化(1942年後半 - 1943年) 第一段作戦の終了後、日本軍は第二段作戦として、アメリカとオーストラリアの間のシーレーンを遮断しオーストラリアを孤立させる「米豪遮断作戦」(FS作戦)を構想した。これを阻止しようとする連合軍との間でソロモン諸島の戦い、ニューギニアの戦いが開始され、この地域で日本は戦争資源を消耗してゆくことになる。 1942年5月に行われた珊瑚海海戦では、日本海軍の空母機動部隊とアメリカ海軍を主力とする連合軍の空母機動部隊が激突し、歴史上初めて航空母艦同士が主力となって戦闘を交えた。この海戦でアメリカ軍は空母レキシントンを失ったが、日本軍も空母祥鳳を失い、翔鶴も損傷した。この結果、日本軍は海路からのポートモレスビー攻略作戦を中止した。日本軍は陸路からのポートモレスビー攻略作戦を推進するが、山脈越えの作戦は補給が途絶え失敗する。 4月、空母ホーネットから発進したB-25によるドーリットル空襲に衝撃を受けた海軍上層部は、アメリカ海軍機動部隊を制圧するためミッドウェー島攻略を決定する。その後6月に行われたミッドウェー海戦において、日本海軍機動部隊は作戦ミスと油断により主力正規空母4隻(赤城、加賀、蒼龍、飛龍)を一挙に失う大敗を喫する(米機動部隊は正規空母1隻ヨークタウン)を損失)。艦船の喪失だけではなく、多くの艦載機と熟練パイロットを失ったこの敗北は太平洋戦争のターニングポイントとなった。ミッドウェー海戦後、日本海軍の保有する正規空母は瑞鶴、翔鶴のみとなり、急遽空母の大増産が計画されるが、終戦までに完成した正規空母は3隻(大鳳、天城、雲龍)の3隻のみであった。対するアメリカは終戦までにエセックス級空母を14隻戦力化させている。この敗北によって、日本海軍機動部隊の命運は決していたといえよう。なお、大本営は、相次ぐ勝利に沸く国民感情に水を差さないようにするために、この海戦における事実をひた隠しにする。 また、アメリカ海軍機による日本本土への初空襲に対して、9月には日本海軍の伊一五型潜水艦伊号第二五潜水艦の潜水艦搭載偵察機である零式小型水上偵察機がアメリカ西海岸のオレゴン州を2度にわたり空襲し、火災を発生させるなどの被害を与えた(アメリカ本土空襲)。この空襲は、現在に至るまでアメリカ合衆国本土に対する唯一の外国軍機による空襲となっている。なお、アメリカ政府は、国民に対する精神的ダメージを与えないために、この爆撃があった事実をひた隠しにする。これに先立つ5月には、日本海軍の特殊潜航艇によるシドニー港攻撃が行われ、オーストラリアのシドニー港に停泊していたオーストラリア海軍の船艇1隻を撃沈した。 ミッドウェー海戦により、日本軍の圧倒的優位にあった空母戦力は拮抗し、アメリカ海軍は日本海軍の予想より早く反攻作戦を開始することとなる。8月にアメリカ海軍は日本海軍に対する初の本格的な反攻として、ソロモン諸島のツラギ島およびガダルカナル島に上陸し、完成間近であった飛行場を占領した。これ以来、ガダルカナル島の奪回を目指す日本軍と米軍の間で、陸・海・空の全てにおいて一大消耗戦が繰り広げることとなった(ガダルカナル島の戦い)。同月に行われた第一次ソロモン海戦ではアメリカ、オーストラリア海軍などからなる連合軍は日本海軍による攻撃で重巡4隻を失う敗北を喫する。しかし、日本軍が輸送船を攻撃しなかったため、ガダルカナル島での戦況に大きな影響はなかった。その後、第二次ソロモン海戦で日本海軍は空母龍驤を失い敗北し、島を巡る戦況は泥沼化する。10月に行われた南太平洋海戦では、日本海軍機動部隊が意地を見せ、アメリカ海軍の空母ホーネットを撃沈、エンタープライズを大破させた。先立ってサラトガが大破、ワスプを日本潜水艦の雷撃によって失っていたアメリカ海軍は、一時的にではあるが太平洋戦線における稼動可能空母が0という危機的状況へ陥った。日本は瑞鶴以下5隻の稼動可能空母を有し、数の上では圧倒的優位な立場に立ったが、度重なる海戦で熟練搭乗員が消耗してしまったことと補給戦が延びきったことにより、新たな攻勢に打って出ることができなかった。それでも、数少ない空母を損傷しながらも急ピッチで使いまわした米軍と、ミッドウェーのトラウマもあってか空母を出し惜しんだ日本軍との差はソロモン海域での決着をつける大きな要因になったといえる。その後行われた第三次ソロモン海戦で、日本海軍は戦艦2隻を失い敗北した。アメリカ海軍はドイツのUボート戦法に倣って、潜水艦による輸送艦攻撃を行い、徹底して兵糧攻め作戦を実行。日本軍の物資や資源輸送を封じ込めた。ガダルカナル島では補給が覚束なくなり、餓死する日本軍兵士が続出した。長引く消耗戦により、国力に劣る日本は次第に守勢に回ることとなる。 1943年1月、日本海軍はソロモン諸島のレンネル島沖で行われたレンネル島沖海戦でアメリカ海軍の重巡洋艦シカゴを撃沈する戦果を挙げたが、島の奪回は最早絶望的となっていた。2月に日本陸軍はガダルカナル島から撤退(ケ号作戦)した。半年にも及ぶ消耗戦により、日米両軍に大きな損害が生じたが、国力に限界がある日本にとっては取り返しのつかない損害であった。これ以降、ソロモン諸島での戦闘はまだ続いたものの、日本軍は物量に勝る連合軍によって次第に圧迫されていく。 4月18日には、日本海軍の連合艦隊司令長官の山本五十六海軍大将(戦死後海軍元帥となる)が、前線視察のため訪れていたブーゲンビル島上空でアメリカ海軍情報局による暗号解読を受けたロッキードP-38戦闘機の待ち伏せを受け、乗機の一式陸上攻撃機を撃墜され戦死した(詳細は「海軍甲事件」を参照)。しかし大本営は、作戦指導上の機密保持や連合国による宣伝利用の防止などを考慮して、山本長官の死の事実を1ヶ月以上たった5月21日まで伏せていた。しかし、この頃日本海軍の暗号の多くはアメリカ海軍情報局により解読されており、アメリカ軍は日本海軍の無線の傍受と暗号の解読により、撃墜後間もなく山本長官の死を察知していたことが戦後明らかになった。日本政府は「元帥の仇は増産で(討て)」との標語を作り、山本元帥の死を戦意高揚に利用する。 その後、7月にソロモン諸島で行われたコロンバンガラ島沖海戦で、日本海軍艦艇は巧みな雷撃により米艦隊に勝利するが、その頃になるとソロモン諸島での体勢は決していたため、戦況にはほとんど影響を与えなかった。また、ニューギニア島では日本軍とアメリカ、オーストラリア中心とした連合軍との激しい戦いが続いていたが、8月頃より少しずつ日本軍の退勢となり、物資補給に困難が出てきた。この年の暮れごろには、日本軍にとって同方面最大のラバウル基地は孤立化し始める。戦力を整えた米軍はこの年の後半からいよいと反攻作戦を本格化させ、南西太平洋方面連合軍総司令官のダグラス・マッカーサーが企画した「飛び石作戦(日本軍が要塞化した島を避けつつ、重要拠点を奪取して日本本土へと向かう)」を開始する。11月には南太平洋のマキン島とタラワ島における戦いで日本軍守備隊が玉砕し、同島がアメリカ軍に占領されることになる。 同月に日本の東条英機首相は、満州国やタイ王国、フィリピン、ビルマ、自由インド仮政府、南京国民政府などの首脳を東京に集めて大東亜会議を開き、大東亜共栄圏の結束を誇示しようとするが、実態は東条首相の独擅場に過ぎなかった。この年の年末になると、開戦当初の相次ぐ敗北から完全に態勢を立て直し、圧倒的な戦力を持つに至ったアメリカ軍に加え、ヨーロッパ戦線でドイツ軍に対して攻勢に転じ戦線の展開に余裕が出てきたイギリス軍やオーストラリア軍、ニュージーランド軍などの数カ国からなる連合軍と、中国戦線の膠着状態を打開できないまま、太平洋戦線においてさしたる味方もなく1国で戦う上、開戦当初の相次ぐ勝利のために予想しなかったほど戦線が延びたことで兵士の補給や兵器の生産、軍需物資の補給に困難が生じる日本軍の力関係は一気に連合国有利へと変わっていった。 これ以降は太平洋戦争-2参照 出典 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』_2008年1月22日 (火) 00 28。