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疑問符とは 「疑問符」とは「?」のことである。 主に、ある事を問う時に使う符号。 関連 ! ? 感嘆符
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ぎもんふ 自作 記号「!」のことを漢字三文字で感嘆符と呼ぶのに対し、 記号「?」のことを漢字三文字で何というでしょう? タグ:言葉 Quizwiki 索引 あ~こ
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感嘆符と疑問符の両立(エターナルトリビア) アンコモン 水/自然 5 呪文 ■自分は何かをひとつ言う。それに対して相手がえぇー!?と言った場合、自分のシールドを見て、その中からカードを1枚選び、コストを支払わずにプレイしてもよい。(このカードの効果を相手に見せる前に自分は何か言う。) 作者:アポロヌス 代理作成:まじまん リアクション系カード好きなので。 評価
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当ページでは、橋爪大三郎と大澤真幸による『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書)に記述されている、疑問符のつく見解、および偏見としか思えない見解を扱う。 ※ 当ページ編集者は、「面白ければいいじゃないか」「解り易ければいいじゃないか」という価値観には拠らない。たとえば乗法計算が出来ない人に虚数・複素数を説明して「解り易い」と思わせているとしたら、それは「解らせた」ことにならない(予備校で同様のことをやっていたら詐欺行為)。理系でも文系でも、最低限求められるレベルというものがあるのは同じ。 ※ 橋爪も大澤も、「日本人が西洋を理解するのには、根底にあるキリスト教理解が不可欠」として本書を売っている。だったら当のキリスト教でどう理解されているのかを正確に語る必要があるだろうし読者もそれを期待するのだが、中身が一般にキリスト教の見方からかけ離れた「橋爪教」というのでは、一種の詐欺。 ※ 本ページにおける「参考文献」は、学術論文に使用出来るレベルのものとは限らない。一般向けにアクセスし易い便によって選定されることもある。 姉妹ページ 間違いだらけの「ふしぎなキリスト教」 (2012年7月18日現在、130個以上の誤りが指摘済み、さらに誤りが見付けられることも有り得る) 歴史篇(上記ページが容量オーバーになったため分割されたもの、以下同様) 聖書篇(総合・旧約) 聖書篇(新約その1) ・ (新約その2) 神学篇 他宗教篇(仏教・神道・イスラーム)(間違いだらけの惨状は他宗教の記述でも同様。これで比較が可能なのでしょうか?) 「ふしぎなキリスト教」以外の良い入門書(あるんです!)紹介 (誠実な著者による良書からこそ学びましょう^^) 疑問符のつく見解 目次 1 日本の神々はお友達 2 橋爪教では伝統的信仰内容は知ったことではありません(でも欧米の理解には役立つと宣伝します) 3 一神教=キレまくるエイリアン教です 4 ふしぎな独自の説が出される→それがもっとふしぎな疑問を生む→橋爪と大澤の二人でもっともっとふしぎがる=最もふしぎなループ。 5 無神経・偏見としか思えない見解 6 ウィキペディアだったら「誰」(誰がそんな事をどこで言っているのか?)タグがつけられます 7 社会学? 8 意味不明 9 思いつき 10 14刷で唐突に巻末に「主の祈り」と「使徒信条」を追加し、更にその説明が不適切 日本の神々はお友達 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p21 「日本語で「神」というと、どうしてもなれなれしいニュアンスがまぎれ込んでしまうので、以下、一神教の神をさすことをはっきりさせたい場合には、なるべく「God」ということにします。」 柳父章も示している見解ではある。しかしなぜ英語のGodなのか?散々他の箇所で「(ローマ教会も)本来なら、ギリシア語であるべきですね」(p258)などと述べて「キリスト教、特に東方教会と言えばギリシア語」という見解を披歴しているのに、日本語の「神」との比較対象が英語だけというのは矛盾してはいないか。ちなみに英語の"god"もギリシア語"θεος"も、複数形にしてそれぞれ"gods", "θεοί"として「神々」とする語義があり、一神教だけで使われる語彙ではない。英語もギリシア語も現代においては最初一文字を大文字にするか小文字にするかの違いはあるが、古典時代のギリシア語には小文字は無く、多神教の神々も"ΘΕΟΙ"と書いていた。つまり多神教で使われる語彙を一神教にも使うということ自体は、日本語の専売特許でも異常な現象でも何でも無い。日本語聖書の訳語について考察した著作としては柳父章の『ゴッドと上帝』は大いに参考になるが、柳父章も橋爪も、英語やギリシャ語でも多神教に適用される語彙がキリスト教にも使われているという事実には関心が薄いようだ。 Ὁμήρου Ὀδύσσεια Ραψωδία α' - Θεῶν ἀγορά. Ἀθηνᾶς παραίνεσις πρὸς Τηλέμαχον. Μνηστήρων εὐωχία.(ホメーロス『オデュッセイア』の実例) p20 「(日本の)神様は、ちょっと偉いかもしれないが、まあ、仲間なんですね。友達か、親戚みたいなもんだ。」 早良親王、菅原道真が「仲間」?男か女かも解らない金屋子神が「親戚」?道祖神が「友達」?橋爪氏の多神教についてのイメージは一面的に過ぎる。 橋爪教では伝統的信仰内容は知ったことではありません(でも欧米の理解には役立つと宣伝します) 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p21 「Godは、人間と、血のつながりがない。」 至聖三者(三位一体の神)のうち、父なる神・聖霊についてはそれでいいかもしれない。しかし受肉(藉身)した第二位格たるイエス・キリストは眞の神としてキリスト教で捉えられているのだから(表現方法について対立があるとはいえ、非カルケドン派に至るまで現代の伝統的キリスト教の大半から「イエス・キリストは神であり人(神性と人性)」という見解は認められている)、少なくとも至聖三者(三位一体の神)のうち、第二位格(イエス・キリスト)については「人の肉体をもって」おり、血のつながりどころの話ではない。「三位一体の神全部と血のつながりがあるわけではない」のなら何とか解るが。ちなみに右参考文献『キリスト教神学基本用語集』では受肉(incarnation)について「キリスト教を他の一神教から区別する重要な点の一つ」としているが、この「重要な点」を橋爪は全く押さえていない。尤も、橋爪は169頁でアリウス派異端的な誤解を披瀝しているから(というよりキリストの神性を認めていない)、こうした記述も橋爪にキリスト論の基本知識そのものが無いことによるものと思われる。橋爪がキリストの神性を認めようと認めまいとどうでも良いのだが、これを「キリスト教はこう信じています」とすれば、それは虚偽か誤りでしかない。 Justo L. Gonz´alez (原著), 鈴木 浩 (翻訳)『キリスト教神学基本用語集』p123 - p126 p23 「(Godと人間の)よそよそしい関係を打ち砕こうと、イエス・キリストは「愛」をのべて、大転換が起こるんです。」 イエスがこの世を生きた時代の律法学者の間でも、申命記6章5節「あなたは心をつくし、精神をつくし、力をつくして、あなたの神、主を愛さなければならない。」レビ記19:18「あなた自身のようにあなたの隣人を愛さなければならない。」が一番大事な教えだということは認識されていた。だからこそイエスの問いかけに対して律法学者がこの箇所を「律法の一番大事な部分」として答える場面が、「サマリヤ人のたとえ」の手前(ルカ福音10:27)にある。愛を説いたのはイエス・キリストが最初ではないし、旧約聖書で「愛」を探せばいくらでも出てくる。 むしろ大転換というのなら、モーセすら見ることのできなかった神(の第二位格)が、受肉(藉身)によって「見ることの出来る神・人になった」ことこそ挙げなければならないのだが、非カルケドン派が分裂した原因を「三位一体論」と述べてしまいキリスト論が分裂の原因であったことを知らない誤りから判る通り、橋爪は基本的なキリスト論(眞の神・眞の人)を全く認知していない。 口語訳聖書「愛」検索結果 新共同訳聖書「愛」検索結果 Justo L. Gonz´alez (原著), 鈴木 浩 (翻訳)『キリスト教神学基本用語集』p123 - p126 p47 「ユダヤ教には、原罪という考え方はない。」 他のところでも言える事だが、本書では見解が分かれる問題につき、あっさり断言する傾向が目立ち過ぎる。あくまで「ユダヤ教多数派には原罪という考え方は受け入れられて居ない」が、受け入れるユダヤ教神学者も居ないわけではない。なお、原罪はキリスト教全部に受け入れられると橋爪は考えているようだがこれも間違い。正教会は「原罪」という考え方から距離をとっている。 SIN - JewishEncyclopedia.com教え-罪と救い:日本正教会 The Orthodox Church in Japan p33 「バビロンには、天地創造の神話や大洪水の物語などがあって、それを取り入れた。聖書の冒頭の『創世記』もこうして出来あがった。」 そう信じていない人も少なくない。「モーセが書いた」という伝承をそのまま信じる人も居る、という断り書きが必須だろう。こうまで完全にキリスト教全部で信じられているかのように断言されると、なぜアメリカで公教育の場で進化論が問題になっているのかが解らないし、「一部の原理主義者が騒いでいる」位に誤解しかねない。実際には現代でも、「モーセが書いた」という伝承をそのまま伝えるか、もしくは「そういう伝承があることは、伝承として一応教える」教会は少なくない。 "The Orthodox Study Bible Ancient Christianity Speaks to Today s World" p1, Thomas Nelson Inc; annotated版 (2008/6/17) p94 橋爪「これを矛盾なく受け取るにはどうしたらいいか。私の提案ですが、人間は神に似ているが、神は人間に似ていない、と考えればいい。言っていること、わかります? たとえば神を、四次元の怪物みたいなものと考えるのです。それを三次元に射影すると、人間みたいなかたちになる。人間が神をみると三次元だから、自分とおんなじだと思うかもしれないが、神の存在そのものは、人間より次元が高いから、目がいくつもあって、ヒンドゥー教の神みたいな怪物のかたちでもおかしくない、どう?」大澤「なるほど、おもしろい解釈ですね」 ヒンドゥー教の神を「怪物みたいなかたち」と言うのはそもそもどうであろうか。問題ある発言ではないだろうか。「わたしの提案ですが」と断り、一般的な意見として紹介していないところは認めるにしても、創世記1章27節他に現れる「人間は神の似姿である」という、ユダヤ教理解にとってもキリスト教理解にとっても重要なテーマを、過去2000年以上に亘りユダヤ教徒やキリスト教徒によってなされた真剣なそして膨大な議論に全く触れずに、橋爪氏の理解のみ紹介するというのはどういうことであろうか。本書の目的は読者が「キリスト教を理解する」ためだったはずだが、実は橋爪氏を理解するためなのだろうか。 一神教=キレまくるエイリアン教です 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p21 「(Godって)エイリアンみたいだと思う。だって、知能が高くて、腕力が強くて、何を考えているかわからなくて、怒りっぽくて、地球外生命体だから。」 キリストの神性を認識していない橋爪にとっては、真の神であり真の人であると理解されるキリストも「地球外生命体」で「エイリアンみたい」なのか。すると、聖母マリア(生神女マリヤ)は「エイリアンを生んだ」と?「真の神・真の人」というキリスト論の理解が根底に無いことがここでも露呈している。 「怒りっぽいエイリアン」論では、イエス・キリストによる病人達の癒しの話や、異民族で仮想敵国の将軍ナアマンを癒した神の愛(列王記下5章)といった話が伝えられていることにつき説明がつかない。 結局、我田引水的に「こわーいエイリアンっぽい」要素だけを抜き出して列挙しただけ。橋爪論法は大体がこの調子。1、まず橋爪氏の思い込みによる結論を立てる、2、その思い込みに合致するものだけを列挙する。 Богочеловек(…ボゴチェロヴェク、神(Бог)+人(человек)、直訳すると「神人」。神性人性の両性論を前提とした、イエス・キリストを指すロシア語での表現。 p20 「すると、一神教がふしぎです。(中略)なぜ神様にあんなに怒られて、それでも神様に従おうとするんだろう?」 怒られても、それ以上の恩恵を受けていたら子どもは親の家にとどまることを考えれば、何が不思議なのか判らない。「生かされていること、奴隷の境遇から脱出させてもらったこと、病気を癒してくれたこと、神であり人であるキリストが人々の来世の命のために十字架で死んで復活してくれたこと」が信じられていることは一切スルーして「ふしぎです。」と言っているが…、これも「ふしぎ」という結論に合わせて、ふしぎな「キレまくるエイリアン」くらいにしか「キリスト教の神観」を書かないのだから、ふしぎ以外の結論が出よう筈も無い。そもそも多神教でも怖い神様は結構居て、日本では「祟り神」が、祟られることもあるにも関わらず信じられている(場合によってはそれを上回る御利益があるから)。結局橋爪氏は一神教だけでなく多神教もよく知らない。 口語訳聖書「恵み」検索結果 新共同訳聖書「恵み」検索結果 ふしぎな独自の説を出して、それがもっとふしぎな疑問を生み、二人でもっともっとふしぎがる、というふしぎループ。 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p23 「Godを信じるのは、安全保障のためなんです。(中略)(Godは怖いから)自分たちの安全のために信じる。」 詩篇には「願い事」「感謝」も沢山されているが、詩篇を一篇も読んだことが無いのだろうか?「怖いGodの言うとおりにして怒られないようにする」だけの理解では、聖書もキリスト教も「解り易くなる」どころか、かえって「何も解らなくなる」。 新共同訳「詩篇」で「ください」の検索結果 口語訳「詩篇」で「ください」の検索結果 p37 大澤「どれほど我慢強い人であっても、(相当ひどい目にあった)そのあたりでヤハウェとの安保条約を解消しても良さそうなものです。ところが、まさに、安保条約を破棄してもよさそうなその時期にこそ、ユダヤ教は磨きがかかり、ほぼ完成した。これはいったいなぜでしょうか?」 答え→p23橋爪「Godを信じるのは、安全保障のためなんです。」という断定がそもそも間違っているから、と考えればシンプルに解決。 p39 大澤「安全保障のために契約した神がちっとも安全を守ってくれなかったのに、なぜ信仰が衰えなかったのでしょう?」橋爪「(前略)いじめられっ子の心理。イスラエルの民は弱いので、いじめられる。(後略)」 「いじめられっ子の心理」というような偏見に満ちた表現を教育者でもある大学教授がしている時点で驚きであるが(それは下記の通りここ一カ所ではない)、問題はそれだけではない。ダビデ王朝はオリエント世界で例を見ないほど長命な王朝であったことを完全に橋爪氏も大澤氏も無視している。ダビデ王朝始祖であるダビデ王の治世が紀元前10世紀前半。南ユダ王国滅亡が前587年(年代はキリスト教大事典による)。実に400年以上、ダビデ王朝は存続している。このような長命王朝は単独王朝としてはオリエント世界に類例が無い。これはメソポタミア(アッシリア、バビロニア)とエジプトという両大国に挟まれた地域にある王朝としても特筆すべきことであり、このような困難な地域情勢にあってそれだけの長命政権が存続し得たことにより「神から守られている」と考えるというのは、必ずしも「ふしぎ」な事ではない。またオリエントだけでなく、400年以上存続した王朝が世界史上でどれだけあるかを鑑みれば、果たしてイスラエル・ユダヤ人を「弱者」とだけ片付ければ良いのかどうか、大枠でも疑問が出よう。「ローマ帝国滅亡後、しばらくして、全地公会議が開かれなくなった」といった、約400年を「しばらくして」と表現してしまう橋爪氏の姿勢にも表れているが、橋爪氏も大澤氏も「年代」についての把握が非常に苦手のようである。 山我 哲雄 (著), 佐藤 研 (著) 『旧約新約聖書時代史』p51, p99, 教文館 (1992/02) ISBN 4764279037『キリスト教大事典 改訂新版』 p1082 教文館(第4版) p94 橋爪氏は「人間の目の前をヤハウェが歩き回っている」「だいたい人間と同じ大きさ」と、「創世記を読んで受ける印象」をまとめた上で、「神がもともと姿もなく、世界の外にあって世界を創造した絶対の存在であることと、人間に姿が似ていて、エデンの園を歩き回ったりしていることは、矛盾しないか。」と述べている。 前提がどちらも間違っている。「人間の目の前をヤハウェが歩き回っている」「だいたい人間と同じ大きさ」そのような記述は創世記のどこにも無い。「主なる神の歩まれる音を聞いた」(創世記3 8)の記述を念頭に置いているのかもしれないが、ここでは「音」しか聞こえておらず、姿は見えていない(この「音」の単語・訳語を巡り解釈は割れており、瑣末な問題とは捉えられない)。「だいたい人間と同じ大きさ」に至っては、一切記述がない。「かたちに似せて」作ったものであっても、等身大とは必ずしも限らないことは、世間にある人形、ぬいぐるみ、模型などを見ても明らかであろうが、橋爪氏には「似せて」=「等身大」というふしぎな思い込みがあるようである。また、「神が世界の外にあって」というのも典拠不明の珍説。少なくともキリスト教ではそのように教えられていない。橋爪氏は他の箇所でも「神が留守」「神が出て行った」という表現をしており、ここにも橋爪氏の大枠で一貫した誤解が示されている。→聖書篇(p75, p76)、神学篇(p312)も参照。勝手に、誰も言っても書いてもいない、自分の思い込みを二つ並べ「矛盾しているのでは?」と問いかける橋爪氏。誰も言っても書いても居ないふしぎな独自解釈を前提に、独自議論を展開してふしぎがる。ふしぎ拡大再生産。 Genesis 3 8 Then the man and his wife heard the sound of the LORD God as he was walking in the garden in the cool of the day, and they hid from the LORD God among the trees of the garden.創世記3章9節「あなたはどこにいるのか」の注解 無神経・偏見としか思えない見解 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p20 「(神様は友達みたいなものだ、だったら大勢いた方がいい、)友達がたった一人だけなんて、ろくなやつじゃない。」 友達が少ないいじめられている子どもは「ろくなやつじゃない」とも取られかねない無神経な発言です。ちなみに本書には様々な箇所で「いじめ」に無神経な言葉が沢山出て来ます。大学教授も教育者の筈なんですが。 p44 「イスラム教は勝ち組の一神教。ユダヤ教は負け組の一神教。どちらが本物かというと、負け組のユダヤ教だと思う。(中略)(国家が消滅しても信仰を持続させた)ユダヤ教の戦略の正しさを(イスラエル建国が)証明していると言えるのです。」 「勝ち組」「負け組」という問題が多い二項対立を「宗教社会学者」が宗教の分類に使うという時点で驚き。更に、ユダヤ教が「本物」だとすると、イスラム教は「偽物」「まがい物」であると言いたいのだろうか。ムスリムの方に対して大変失礼な言い方である。また、シオニズムは19世紀後半になってから様々な要因で起きたもの。「イスラエル建国」が「ユダヤ教の戦略の正しさを証明している」と捉えては、イスラエル建国に懐疑的だったユダヤ人達の存在を理解出来なくなる。 p328 大澤「ソ連時代に東方正教はたいへんな被害を受けるわけだけど、それは逆に言うと、マルクス主義があったのでちょうどよかったのかもしれない。正教が排除された空きポストに同じようなものが入ったみたいなところが、ほんとうはあるんじゃないかな。」 何が「ちょうどよかった」のだろうか?意味不明。大澤氏によれば「正教を弾圧する」→「精神面の空隙」→「マルクス主義が入り込む」というように、時系列上の間に「空隙」があるかのようだが、そのような事実は無い。また、かなり無神経な発言でもある。たとえば「中華人民共和国ではチベット仏教はたいへんな被害を受けるわけだけど、それは逆に言うと、マルクス主義があったのでちょうどよかったのかもしれない。チベット仏教が排除された空きポストに同じようなものが入ったみたいなところが、ほんとうはあるんじゃないかな。」などと何の断り書きも無く発言すれば、関係各所から猛烈な抗議が来るに違いない。「たいへんな被害」と一口に片づけた後で、「マルクス主義があったからちょうどよかったのかも」などという能天気な発言からは、どれほどの「被害」があったのか完全に無知なのが知れる。ソ連では1918年から1930年までにかけてだけで30万人(!)の聖職者が殺され、1937年と38年には残っていた52人の主教のうち40人が銃殺されている。なお、この数字は聖職者だけのものであり、膨大な数の一般信徒は含まれていない(つまりさらに犠牲者は多い)。修道女も大虐殺の憂き目に遭った。 高橋保行『迫害下のロシア教会―無神論国家における正教の70年』p125 - p126, 教文館 (1996/01) ウィキペディアだったら「誰」(誰がそんな事をどこで言っているのか?)タグがつけられます 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p22 大澤「宇宙と人間を「創造した」Godが、人間にとってはエイリアン、地球外生命体のようなものであるなら、そんな怖いGodといかに付き合うかが一神教の重大なテーマになりますね?」橋爪「はい。」 誰がどこでこのような考え方を「重大なテーマ」と言っているのか?学者が「重大」というからには根拠がある筈だが。まさか大澤と橋爪の二人だけにとって「重大」という意味では無いだろうが。 社会学? 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p146 橋爪氏:イエスが「わずかな食糧で大勢を食べさせた奇蹟」は、「社会学的に言えば」「実際に起こりうることだと思う」。それは、人びとが隠し持っていた食糧を「イエスがうまく、みんなで分け合うように誘導した。それで、みんな食べられた、というわけです」。 人びとが、自分のために隠し持っていた食糧を云々という解釈は、社会学的な見解でも何でもない。このような解釈は、例えば聖書学者であるV. TaylorがThe Gospel according to St. Mark, London, 1963, p.321に記している(ただし、Taylorはこの解釈を退けている)。一読者としては、このような奇蹟物語がどうして生まれ、何故伝承されていったのかを「社会学的に」考察して欲しかった。 意味不明 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p250 「公会議では、意見の対立があるから、それを決着するんです。」「公会議は多数決。多数決ですらない場合もある。」 多数決なのか多数決で無いのか、どちらなのか? 思いつき 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p17 「イエスの出現は、旧約聖書の預言者がやがてメシアがやってくると、預言していたものです。(中略)特に、『イザヤ書』の真ん中より少し後ろ(第二イザヤの預言と言われる部分)にそのことが書いてある」 メシアの到来が、イザヤ書の第二イザヤが記したと言われている個所に書かれているというのは正しい(イザヤ書52章13節から53章12節)。とは言え、橋爪氏の他の著作にも言えることだが、彼は第二イザヤのメシア預言をのみもっぱら取り上げ、他の箇所をあまり取り上げないのはどうであろうか。例えば、有名な「処女懐胎」をマタイ福音書が語る際、預言として引用している旧約聖書の個所は第二イザヤではなく、第一イザヤが記したとされるイザヤ書7章、所謂「インマヌエル預言」(もっとも、ここの「おとめ」が処女が、ただの若い女かは議論があるが。なお、この個所はルーテル教会などをはじめとして、教会ではクリスマスには必ず読まれるはずの箇所でもある)であるのだから(マタイ1:23はイザヤ7:14の引用。更に、マタイ4:15もイザヤ8:23、9:1の引用)。なるほど、新書という点で分量に制限があるから多くの個所に言及することは出来ないであろうが、そうであったとしても、一般の読者に馴染みがないであろうし説明も為されていない「第二イザヤ」などという言葉を用いず、「イザヤ書」とだけ語り、他の文書、たとえば「詩篇」なども挙げておくのが適切であると考えられる。 Catholic Encyclopedia Isaias p277 「新大陸の発見は、大航海時代をもたらした。でも、大航海と言えば、中国人だってイスラム教徒だって、航海の能力をもっていた。問題は、航海の能力ではなく、新大陸に移住する動機を持っていたかどうかです。なぜキリスト教徒だけが、新大陸に大挙移住したのか。それは、旧大陸でいじめられたから。宗教改革は、キリスト教にふたたび亀裂をうみ、不寛容と宗教戦争をひき起こした。戦争では、勝ち組と負け組みができる。負け組は居場所がない。ボート・ピープルになって新大陸を目指すしかないんです。旧大陸でそこそこ安楽な暮らしができれば、誰が好んで新大陸に行きますか? だから中国人もインド人もアラビア人も、新大陸に向かう積極的な動機を持たなかった。キリスト教徒だけがその動機を持ったのです」 もちろん動機も大切である。しかし橋爪氏の頭の中には、地理的な有利不利という考えはないのだろうか。ヨーロッパと中国とインドとアラビア、どこが最もアメリカ大陸に近いか、その物理的距離がアメリカ大陸の発見と人々のアメリカ移住にどれだけ有利であるか、読者の皆様は考えられたし。更に、大航海時代の中国やインドやアラビアに住む人々が「そこそこ安楽な暮らし」ができた、と考える根拠も不明である。なお、橋爪氏はアメリカ大陸を「新大陸」と呼ぶが、現在ではこれはヨーロッパ中心主義あるいは植民地主義の言葉であるとの批判がある。 世界地図 p326 「ヘーゲルの弁証法はもっとあからさまに、キリスト教の論理を取り込んだものになっている。三位一体を下敷きにしたものだと思います。ドイツ語には再帰動詞というものがある。『自らを○○する」のような、自動詞でも他動詞でもない第三の動詞なのですが、この動詞の用法が弁証法のロジックとシンクロしている。ルターのドイツ語訳が、この組み合わせを生み出したのだとすると、ヘーゲルも、マルクスも、その残響の中で仕事をしている」 不明である。ヘーゲルの弁証法がどのように「三位一体を下敷きにした」のか説明が無いために、まったく不明である。なるほど、ドイツ語の再帰動詞の「用法が弁証法のロジックとシンクロしている」と橋爪氏は説明しているが、三位一体とドイツ語の再帰動詞と弁証法とがどのような関係にあってどのような意味で「シンクロしている」のか、一切説明せずに、読者の想像力にまかせている点で、何も言っていないに等しい。そもそも、ドイツ語以外にも再帰動詞があるのに、何故ドイツ語だけが「弁証法のロジックとシンクロ」したのか、全く不明であるし、再帰動詞が自動詞と他動詞の関係が、どのような意味で「命題」「反命題」「統合」の関係であるのか、不明である(そんな説明をする言語学者はいない)。要素が3つあれば三位一体だ、というのは、何の説明でもない。 14刷で唐突に巻末に「主の祈り」と「使徒信条」を追加し、更にその説明が不適切 頁数 疑問符のつく記述の引用 指摘 参考文献 p343 「※主の祈りは、福音書(マタイ6章、ルカ11章)でイエスがこうして祈れと教えた祈りで、キリスト教徒に共通の祈祷である。教会・教派ごとに表現のちがいはある。ここに載せた日本語は、よくあるものを選んだ。なお、最終行は福音書にない、付加部分。「罪」とあるのは原罪ではなく、咎や過ちの意味である」として、ルーテル教会式文の「主の祈り」の訳と、King James Version Matthew 6 9-13)として英語版のLord s Prayerを掲載 1. なぜ14刷になって、本文中に言及もなかった「主の祈り」を追加したのか2. 「日本語は、よくあるものを選んだ」として、出典をきちんと書かないのは学者として不誠実である3. ルーテル教会式文における「主の祈り」の翻訳は日本キリスト教協議会統一訳と漢字表記が違うだけのものである上、「キリスト教徒に共通の祈祷である」のは確かである。これも真正な「主の祈り」の訳である。しかしなぜ、基本的にルーテル教会限定のみで用いられているルーテル教会式文から引用したのか疑問 4. 英語訳を付加した理由が不明。そもそも原文は英語ではなくギリシア語コイネーである。5. すでに指摘済みであり、繰り返しになるが "King James Version Matthew 6 9-13"として欽定訳聖書から引用しているが、これと「最終行は福音書にない、付加部分」という注釈が致命的に食い違っている。福音書にないのではなく、後代の付加である、というのが正しい。欽定訳聖書のマタイ福音書6章9節以下の主の祈りを引用しているが、そこには「福音書にない、付加部分」と橋爪氏が呼ぶ個所が記されている("For thine is the kingdom, and the power, and the glory, for ever. Amen")。これを橋爪氏はどのように説明するのか。KJVに含まれているマタイ福音書は福音書ではない、と主張するのか。6. この橋爪大三郎の説明を敷衍して考えると、欽定訳聖書だけでなく、同様の箇所を含むルター訳聖書などのマタイ福音書も福音書ではないことになり、日本語の聖書の新改訳聖書などのマタイ福音書も福音書ではないことになる。}7. 橋爪大三郎は日本福音ルーテル教会の信徒ながら、『ふしぎなキリスト教』本文中において「イエス・キリスト=神の子」という概念をふしぎがっているが、キリスト教の基本においてキリストだけが「神の子」であるわけではない。十字架の恵みと聖霊の注ぎによりキリスト教徒すべてが罪人のままあがなわれ、「神の子」として扱われる。その約束のもとに、創造主なる神を「天にまします我らの父よ」と呼ぶことができる、という理解である。これはルターの小教理問答にも書かれている、多くの教派に共通した基本的な理解である。橋爪大三郎のこの著書、および他の著作を読んでも、彼がこの「主の祈り」の一行目すら理解できていないのはふしぎである。また、そのような基本教理の説明もなしに、「主の祈り」を、ふしぎな言い訳のように掲載するのもふしぎである。 ルター 小教理問答 日本福音ルーテル教会カトリック教会のカテキズムによる主の祈り デルコル神父訳 祈り 私祈祷 日本正教会 ウエストミンスター信仰基準 日本基督改革派教会訳 問187-196 p443 「※使徒信条は、カトリック、プロテスタントに共通する信仰箇条(三位一体説を簡潔にまとめたもの)である。日本語はよくあるものを選んだ」として、ルーテル教会式文の「使徒信条」の訳とLutheran Service Bookからの英語訳を掲載 1. なぜ14刷になって、本文中に言及もなかった「使徒信条」を追加したのか2. 「日本語は、よくあるものを選んだ」として、出典をきちんと書かないのは学者として不誠実である3. ルーテル教会式文における「使徒信条」の翻訳は真正な訳である。しかしなぜ、基本的にルーテル教会限定のみで用いられているルーテル教会式文から引用したのか疑問4. 英語訳を付加した理由が不明。そもそも原文は英語ではなくラテン語である。5. 使徒信条は、カトリック、プロテスタントに共通する信仰箇条(三位一体説を簡潔にまとめたもの)とあるが、これは誤解を招く表現である。確かに、この信条による神の三つの位格への信仰告白は、三位一体への信仰告白としても理解される。ルターの小教理問答でもそこを強調している。しかし、三位の位格が「一体」であることの告白文としては弱い。なぜなら、そこがこの信条の主眼ではないからである。一般的な理解において厳密に言えば、三位一体をまとめた基本信条はアタナシオス信条である。5. 使徒信条は主に西方教会で用いられ、東方教会では用いられていない。使徒信条はせめて「西方教会の信ずべき事柄を簡潔にまとめたもの」という位置づけにするのが適切だろう。6. この文脈だと、カトリックでもプロテスタントでもない、正教会は三位一体を採らないように読めてしまうが、東方教会でも西方教会でも共通して使われているニカイア・コンスタンティノポリス信条にもみられる通り、正教会も三位一体を信仰している。そもそもアルメニア教会についての誤認(p256)がある段階で、橋爪氏も大澤氏も碌に東方教会につき調べていないのではと疑われる。幅広く使われているニカイア・コンスタンティノポリス信条を挙げずに、(ルーテル教会訳の)使徒信条を挙げたのはなぜなのか疑問。尤も、東西教会分裂の原因にフィリオクェ問題を挙げていない両氏の姿勢を鑑みれば、同信条を挙げようとしたところで、結局は「子からも」の有無の違いに言及することは出来ないかもしれず、そうなるとやはりいずれにせよ、東西教会の中立的観点は損なわれるが。7. Lutheran Service Bookにおけるこの「使徒信条」の英訳は宗教改革時、カトリックと対立した際に「聖なる公同の教会」にあたる "sanctam Ecclesiam catholicam"という語句を「カトリック(普遍的な・公同の)」の語を避けて"the holy Christian church"と訳したものであり、教派色が強い訳文である。カトリック、聖公会、改革派・長老派、メソジストなどでは"the holy catholic church"という訳を用いる。ELCAなどルーテル派でもエキュメニカル版の使徒信条を作成しており、その訳文では"the holy catholic church"という訳を用いる。8. 著者が大学教授ならば当然理解しているはずだと信じるが、ある特定のテクストを選ぶ際、その選択はある種の主張の表明ともなりうる。日本福音ルーテル教会の信徒である著者がルーテル派の教派色の強い「使徒信条」のこの訳をこの本に掲載したということは、著者はルーテル派の立場に立っている(あるいは代表している)、という主張の表明とみなしてよいのだろうか? ルーテル教会の信仰 日本福音ルーテル教会 ルター 小教理問答 日本福音ルーテル教会Apostles' Creed Catholic EncyclopediaThe Three Ecumenical or Universal Creeds - Book of ConcordThe Large Catechism The Apostles' Creed - Book of ConcordFaith -Emmanuel Lutheran Church, Missouri SynodThe Apostles' Creed - Evangelical Lutheran Church in AmericaApostles' Creed Westminster Presbyterian Church The Apostles' Creed - United Methodist Church 外部リンク 間違いだらけの『ふしぎなキリスト教』とそれを評価する傾向につき 誤りと誤解と偏見に満ちている本, 2011/7/13 映画瓦版の読書日誌 ふしぎなキリスト教 橋爪大三郎×大澤真幸『ふしぎなキリスト教』に対する批判まとめ一覧 - Togetter 橋爪大三郎×大澤真幸『ふしぎなキリスト教』に対する批判100- Togetter 最新 橋爪大三郎×大澤真幸『ふしぎなキリスト教』に対する批判1 - Togetter(2以降と別のまとめ製作者によるもの) 橋爪大三郎×大澤真幸『ふしぎなキリスト教』に対する批判2 - Togetter(2以降のまとめの始まり)
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http //www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200812100381.html 制服組優位に疑問符 田母神論文で文民統制揺らぎ 08/12/10 【解説】制服組の権限強化を打ち出した防衛省改革の「基本的考え方」(基本方針)は、首相官邸に設置された防衛省改革有識者会議の七月の報告書に基づいて作成された。だが報告書はシビリアンコントロール(文民統制)が機能しているとの前提に立っており、田母神俊雄前航空幕僚長の論文問題で文民統制の揺らぎが指摘される中、制服組優位の改革案の妥当性には疑問符を付けざるを得ない。 基本方針によると、防衛省設置法と防衛省組織令が規定する「自衛隊の行動の基本に関する」事項を運用企画局から統合幕僚監部に移す。これにより武器使用基準など自衛隊行動の立案や、ほかの府省や与野党幹部との調整、米国や国連との協議で、制服組が主導権を握ることが予想される。 「業務の重複を合理化するため運用企画局は廃止」とした有識者会議の報告書は「防衛省・自衛隊は文民統制を重視している」「自衛隊は文民統制を内面化した」と、文民統制の定着を評価する内容となっている。 田母神問題が起きて以降、防衛省内局では「前提そのものが誤っていたのに、このまま組織再編が国会の理解を得られるのか」「唯一の武力組織である自衛隊の運用を制服組に任せていいのか」(背広組幹部)との声も上がったが、流れを変えるに至っていない。関連法案が二〇一〇年の通常国会に提出された場合、慎重な審議が不可欠だ。 「偉そうな軍人さんは嘘をつく」庫
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第214話 疑問符の戦果(後編) 1485年(1945年)1月17日 午後6時 リリャンフィルク沖北西90ゼルド地点 この日、ヒーレリ領リリャンフィルク近郊で一時的に休息を取っていた第618空中騎士隊は、昼頃より続けられているアメリカ機動部隊に 対する航空攻撃に、第5次攻撃隊として参加していた。 第618空中騎士隊指揮官であるウィルグバ・トルンキヲ少佐は、58騎のワイバーンを従えながら、偵察ワイバーンが発見した敵機動部隊に 向かっていたが、陽もすっかり落ちた今、洋上は完全に真っ暗となっていた。 「なんてこった……これじゃ敵を見つけられんかも知れないぞ。」 トルンキヲ少佐は不安げな表情を浮かべながらそう呟いた。 昼頃から続けられているアメリカ機動部隊に対する攻撃は、既に4波500騎以上にも及び、午後4時の時点で敵空母6隻撃沈破、戦艦1撃沈、 巡洋艦またはその他を6隻撃沈、または大中破させたと言われている。 トルンキヲ少佐は、攻撃を仕掛けた敵機動部隊とは南に10ゼルドの位置に居た別の敵機動部隊を叩く為、同僚部隊である614空中騎士隊と 共に敵を探し求めているのだが、彼の内心は、これまでに経験した事の無い不安で満たされていた。 「俺の空中騎士隊は、今回が初めての実戦だからな。偵察ワイバーンの話では、敵機動部隊は3群居て、そのうち2群に損害を与えたと言うから、 敵の夜間戦闘機の迎撃は無いか、あったとしても小規模と言われているが……この難しい夜間攻撃で、なるべく被害を受けずに戦果を上げられる といいが……」 彼はそう呟きながら、軍司令官から聞かされた、15日の夜半から続く一連の航空戦の結果を思い出す。 去る1月15日。ヒーレリ領に一時的に駐屯していたレスタン領増援部隊は、本国からの指令で急遽、ヒーレリ領西岸を航行している アメリカ機動部隊を攻撃する事となった。 まず、15日の夜半には第31空中騎士軍がアメリカ機動部隊に夜間攻撃を行い、敵空母3隻撃沈、2隻撃破、戦艦1隻撃破、 巡洋艦、駆逐艦6隻撃破という大戦果を上げたが、代償として出撃数220騎中140騎を失っている。 翌16日には、リリャンフィルク南方の物資集積所を襲撃した敵機動部隊に対して、同じく増援部隊であった第28空中騎士軍が 薄暮攻撃を仕掛け、空母2隻撃沈、2隻撃破、巡洋艦1隻撃沈、駆逐艦2隻撃破という戦果を上げたものの、第28空中騎士軍も 出撃した200騎のワイバーンの内、98騎が未帰還となっており、2個空中騎士隊が壊滅判定を受けてしまった。 これだけの大損害を与えたにもかかわらず、17日にはリリャンフィルクと、その北方のワイバーン基地に艦載機を送り込み、 同地の味方部隊に少なからぬ損害を与えている。 しかし、15日以来の損害がかなり効いているのか、この2方面にはそれぞれ200機前後の艦載機が1度だけ空襲を受けただけで済んでいる。 ヒーレリ領空中騎士軍統括司令部は、この報告を本国に送った後、僅か15分後に弱った敵機動部隊に大規模な追い討ちをかけよとの命令を受け取った。 現地の空中騎士軍司令官であるバフォンド・ピルッスグ大将は、レスタン領増援部隊が敵機動部隊の攻撃を続行すれば、更に大損害を被り、 当初予定されていたレスタン領の航空作戦に影響が出ると返信を送ったが、本国はピルッスグの忠告を無視する形で、改めて攻撃を命じた。 ピルッスグ大将は、やむを得ず、出撃できるワイバーン隊を総動員して、“弱体化”した敵機動部隊に追い討ちをかけた。 航空攻撃は昼頃から始まり、午後4時までに588騎のワイバーンが敵機動部隊攻撃に出撃し、空母だけでも6隻撃沈破というこの航空作戦で 最も大きな戦果を得る事が出来た。 だが、敵機動部隊の反撃も激烈であり、午後4時までに出撃した4波もの攻撃隊は、その全てが大損害を被り、未帰還機だけでも半数に迫る 勢いだと言う。 「今日の作戦では、ヒーレリ領にもともと駐屯していたワイバーン隊も100騎が攻撃に参加したが、帰って来たのは42騎しか居なかった という有様だったからな。幾ら弱体化しているとはいえ、俺達も大出血を覚悟しないといけないな。」 トルキンヲ少佐は、悲壮な決意を呟きつつ、目標に到達するまでひたすら洋上を飛び続けた。 それから30分後、3ゼルド先を行く先導隊から報告が入った。 「敵機動部隊と思しき生命反応を探知!」 「了解!遂に見つけたか。しっかり誘導してくれよ!」 トルキンヲ少佐は、敵艦艇の生命反応を探知した先導隊に感謝のこもった口調で返信するが、心中では当てが外れたかと呟いていた。 彼は、昨日の航空攻撃で、薄暮攻撃のみならず、夜間攻撃も行われたものの、夜間の攻撃を担当した部隊は敵機動部隊を発見できず、 虚しく引き返した事を覚えている。 (その際、攻撃隊は8騎の未帰還騎を出していた) トルキンヲ少佐は、どうせならこの航空攻撃が空振りに終わって、翌日のレスタン領への移送が始まる事を期待していた。 だが、運命の女神は、彼の不届きな(米機動部隊攻撃を命じられた者には、ある意味当然な)思いを受けて罰を与えたのであろう。 トルキンヲ少佐の部隊は、結局、敵機動部隊と一戦交える事となってしまった。 「見つけたからには叩くしかないな。敵を叩けば、その分味方も楽出来るし、新米共も、今日の経験を次回に生かす事が出来るだろう。」 彼はそう呟いた後、自嘲的な笑みを浮かべた。 「もっとも……次と言う機会を味わう人間は少なくなるかも知れんが。」 午後8時30分 ヒーレリ領リーシウィルム ヒーレリ領空中騎士軍統括司令官である、バフォンド・ピルッスグ大将は、司令部内にある作戦室で、苦り切った顔つきを浮かべながら 地図を眺めていた。 「攻撃を担当した第34空中騎士軍からの暫定報告は以上になります。」 「ううむ……空母2隻撃沈、1隻大破……戦艦1隻撃沈、その他の艦艇5隻撃沈破……か。一応、報告の中には、敵空母1ないし2に 大火災とあったから、この情報は確かかもしれんが。」 「第34空中騎士軍司令部からは、ワイバーン隊の生き残りから聞いた戦果情報を精査した結果であると伝えられていますが。」 「精査しただと?帰還して1時間も経っていないのに精査なぞできるか。」 ピルッスグは、忌々しげにそう吐き捨てた。 「私としては、どうも気になるのだ。」 「気になる、といいますと?」 「君は分からんのかね。」 ピルッスグは、地図の下に置かれている絵……エセックス級空母のイラストを指差しながら魔道参謀に言った。 「アメリカ軍が保有しているエセックス級空母は、あまりやわな艦ではない。過去の戦いで、皮肉にも我が軍がそれを証明している。 エセックス級は、1隻を沈めるのに最低でも2、300騎のワイバーンを集中せねばならん。なのに、15日から続くこの航空戦で、 不思議な事に、我が軍は総計で11隻もの敵空母を撃沈し、5隻を撃破している。攻撃に使用したワイバーンは、レビリンイクル 沖海戦の半数以下なのに、どうしてなのだ?」 「もしかして、敵正規空母の防御力が意外にも脆かった、という事は考えられませんか?」 「それはどういう事かね?」 「はっ。我が軍は、昨年9月のレビリンイクル沖海戦から、飛空挺やワイバーンに搭載できる魚雷を大々的に使用しております。 あの海戦で、我が軍は敵の空母5隻、戦艦1隻撃沈という戦果を上げています。今回の航空作戦でも、対艦攻撃役のワイバーンの 半数以上は魚雷を抱いていました。あの海戦で、我々は敵空母が、対爆弾防御には優れている物の、対魚雷防御はそれほどでは 無いと理解する事が出来ました。今回の航空作戦で敵空母の撃沈破が16隻にも上ったのは、恐らく、魚雷攻撃によって致命傷を 受けた艦が多かった……つまり、敵艦の対魚雷防御の不備を衝いたため、戦果の拡大に繋がった、と言う事も考えられます。」 「魔道参謀の言われる事は最もかと思われますが、敵空母を攻撃したと思われる時間が、視界の悪い夜間と夕方にも行われた事と、 戦果報告に曖昧な部分が多い事を忘れてはいけませんぞ。」 航空参謀がすかさず横から発言して来た。 「今回の作戦で、我々は確かに大戦果を挙げたかも知れません。ですが、私としてはこの戦果に幾らか疑問が残ります。そもそも、 竜騎士達の報告だけで、敵空母の撃沈をしたかどうかを判断するのは異例の事です。」 「仕方がなかろう。戦果を確認しようにも、攻撃時期が夜間や薄暮であるし、今日の昼間攻撃でも、戦果確認役のワイバーンが 少なからず、敵艦載機に撃ち落とされている。」 参謀長が苛立ったような口ぶりで航空参謀に言う。 「戦果確認の手段が少ない以上、竜騎士達の報告でどれほど戦果を挙げたか調べるしかないだろう。」 「……お言葉ですが参謀長閣下。私は、それだけで済ますのが危ないと思うのです。竜騎士達が、1年前のように頼れる者ばかりなら 別にそれでも良いかもしれません。ですが、今回の作戦に参加した竜騎士達は、全体の半数以上……空中騎士隊によっては、大半が 実戦も参加していないどころか、技量に不安が残る新米ばかりです。彼らの報告を鵜呑みにて、本当に宜しいのでしょうか?」 「君!苦労して戦果を挙げた竜騎士達の苦労を無にする気か!?」 「いえ、そうは言っておりません。ただ、私はもう少し、敵情を確認した上で戦果の判定をするべきではないのかと申したいだけです。 今の戦果報告では、未だに戦果の重複が行われているような気がするのです。ここは少しばかり、時間を費やしてから戦果の確認を 行うのが良いと考えますが。」 「馬鹿者!時間が無いのに、そんな悠長な事が出来るか!?」 参謀長は顔を赤くしながら航空参謀に怒鳴った。 「本国総司令部からは、20日までに増援部隊をレスタンに送れと言っておるのだぞ!今すぐ準備に取り掛からねば、レスタン領に 応援を送る事が出来なくなる!」 「うむ……参謀長の言う通りだな。」 ピルッスグ大将が頷きながら言う。 「レスタン領には、先陣の第41、42空中騎士軍の500騎が到達したばかりで、航空戦力は未だに揃い切っていない。レスタン領 各地では、15日からアメリカ軍の基地航空隊が連日、激しい爆撃を繰り返していると聞いている。残りの部隊を早急に送らなければ、 現地の迎撃戦闘も厳しくなるだろう。」 「残りを送る、でありますか……エルグマド閣下は何と思うでしょうか。」 航空参謀は、顔を暗くしながらピルッスグに言う。 「レスタン領向かう筈であった、800騎の航空戦力のうち、残った戦力は半数程度です。」 「恐らく、レスタン領軍集団司令部から抗議文が送られて来るだろう……」 ピルッスグは苦笑しながら航空参謀に向けて喋る。 「今回の作戦で、貴重な決戦兵力を大幅に減らしてしまった以上、レスタン領は大丈夫だろうか……もし、この大戦果の通り、敵機動部隊が 損害を受けていても……果たして、第4機動艦隊は勝てるかな。」 「そこの所は、何とも言えませんが。ともかく、我々としては、地上部隊が敵の大攻勢を撥ね退けてくれる事を祈るしかありません。 今日の航空戦で、使用できる航空戦力の7割を消耗した我々には、そうするしかないでしょう。」 「だな。」 航空参謀の言葉を聞いたピルッスグは深く頷く。 (こう言う時、あの弟ならば何と答えただろうかな。ワイバーン500騎以上の喪失と引き換えに、敵空母16隻を撃沈破したのならば、 それは安い買い物であるとでも言うのかな) 彼は心中で、今は亡き弟の事を思いながらそう呟いた。 唐突に会議室のドアが開かれた。 「失礼します。」 若い魔道士官が軽く挨拶をしながら入室し、魔道参謀に2枚の紙を渡した。 「司令官、ヒーレリ領海軍司令部と、本国総司令部より魔法通信が入ったようです。」 「ふむ……海軍側から届けられた物から読んでくれ」 「はっ。」 魔道参謀は軽く頭を下げてから、紙に書かれている内容を読み始めた。 「本日午後8時20分。リリャンフィルク北西沖に展開していたレンフェラルが、西南西に高速で向かう敵機動部隊を発見せり。 詳細は不明なれど、敵の針路からして戦線離脱の公算、極めて大なり」 「アメリカ機動部隊が高速で西南西に向かう……か。一応、アメリカ軍も何らかの損害を受けていたのか。」 「敵機動部隊の針路が大陸を背にしている格好になっておりますから、恐らく、海軍側の見方は正しいと思われます。」 「航空参謀。君はどう思うかね?」 ピルッスグは航空参謀に話を振る。 「この敵機動部隊の戦線離脱が、大損害のための離脱なのか、それとも……ただ単に、一時的に休息するだけの離脱なのか。君は、どっちだと思う?」 「……私としましては、はっきりとお答えは出来ませんが……恐らくは一時的な休息だけのために過ぎないと思われます。」 「どうしてそう言えるのだね?」 航空参謀の言葉を聞いた参謀長がむっとなった表情を浮かべながら、すかさず質問する。 「敵は空母を大量に失っていると思われるのだぞ。こんな大損害を受けた以上、これ以上の作戦行動は不可能になるのではないかね?」 「私は、それも踏まえた上で申しています。」 「何ぃ?」 参謀長が目を細める。 「航空参謀、大損害を受けても、君はアメリカの機動部隊が尚も作戦行動を続行できる、と言いたいのかね?」 「可能でしょう。例え、今回の作戦で空母を16隻も撃沈破されても、アメリカ軍にはまだ10隻以上もの空母が残っています。」 「……その10隻の空母は、レーフェイル戦線から送り込まれた予備も含んでの事だな?」 「それもありますが、私はこれに、新鋭の空母が加わると考えています。我が帝国がアメリカと戦争を始めて3年以上になりますが、 アメリカの国力は強大であると同時に、非常に脅威です。参謀長、我が国が、この3年の間に揃えた竜母は何隻だと思いますか?」 「20隻近く、だろうか。」 「大雑把にいえばそうです。では、海軍が確認した新しいアメリカの空母は何隻だと思います?」 「そこまでは知らんが……我々よりも10隻多い方だろう。」 「……それだけで済めばどれだけ幸せだったか。」 航空参謀は、参謀長の無知ぶりに呆れてしまった。 参謀長は半年前まで、帝国北部のワイバーン基地で勤務しており、前線勤務は5年ぶりとなる。 かつては、勇猛なワイバーン隊の指揮官として名を馳せて来た参謀長だが…… 航空参謀は、そんな英雄でさえも、知るべき情報を知らなければ、途端に役立たずになるのかと思い知らされていた。 (いや、この情報自体があまり出回っていないからな。俺のように、つい最近まで前線で血みどろの戦いを経験し、中枢にも縁がある奴しか、 この情報を知っている者はいないからな) 航空参謀は心中でため息を吐きながら、参謀長に説明を続ける。 「83年から85年の1月までに増援としてやって来たアメリカ軍の空母は、確認できただけでも58隻です。」 「……君。何を出鱈目な事を言っているのだね?」 「デタラメではありません。これは真実です。」 「真実だと?そんな馬鹿な話がある筈が無い!!」 「参謀長、落ち着きたまえ。航空参謀、話を続けてくれ。」 航空参謀はピルッスグの助け船に感謝しつつ、言葉を続ける。 「この58隻のうち、半数以上は後方支援用として使われている小型空母ですが、残りは、我々が戦った敵の主力機動部隊です。 このうち、主力であるエセックス級空母は14、5隻程は居るでしょう。」 「エセックス級が14、5隻……我が国が、2年がかりでホロウレイグ級、プルパグント級を合わせて、9隻揃えたというのに。」 「参謀長。この方面だけでもこの数だ。恐らく、レーフェイル方面にもエセックス級は6、7隻程は回っていただろう。」 「司令官閣下!そのような言葉を信じるのですか!?」 「信じるな、とでも言うのかね?」 ピルッスグは、冷たい口調で参謀長に言う。 「毎度の如く、洋上に堂々たる大機動部隊を浮かべている敵が居るのに、信じるなと言うのかね?参謀長、それは間違いだな。」 「……話は戻りますが、もし、今度の作戦で敵が16隻の空母を撃沈破された場合、敵機動部隊の稼働空母は20隻から4隻程度に 激減すると思われます。ですが、敵が予備を控えていた場合、稼働空母は回復するでしょう。抜け目の無いアメリカ軍の事です。 既に、レンフェラル隊の死地ともなっているマルヒナス運河の近くには、集められるだけの空母群を集めて待機させている事でしょう。 レーフェイル戦線の予備と、新たな新鋭空母も含めれば、敵機動部隊は再び、空母14、5隻を有する大艦隊になるでしょう。」 「航空参謀!君は……君は……!」 「この作戦の勝利は結局、無意味だ、とでも言いたいのかね?」 怒りの余り、言葉に窮した参謀長に変わって、ピルッスグが質問する。 「非常に申し上げにくい事ですが……私個人としては、そう考えても差し支えは無いかと思います。例え、過大評価というそしりを受けようとも。」 航空参謀は、静かながらも、断固たる口調でそう言い放った。 「フライングフォートレス、リベレーターのみならず、手負いとはいえ、スーパーフォートレスをも撃墜し、1年前には、敵空母にも 爆弾を命中させた君からそのような言葉が出るとはな。」 「臆病になった、とでも思われましたか?司令官閣下。」 航空参謀は苦笑する。 「……私のように、戦場を駆け巡る度に部下が全滅する、という事を経験すれば、誰だって臆病になります。例え、大昔の英雄であった、 恐れ知らずのマレナリイド姫であっても。」 「ふむ……さて、話が脱線してしまったが、ともかく、ヒーレリ領近海からアメリカ機動部隊が離脱しつつあると言う事はわかった。 敵機動部隊の離脱が長期的なのか、一時的なのかわからんが、少なくとも、数日はこのヒーレリ領は静かになると言う訳だな。では、 海軍側からの報告は、そう結論付けるとして。総司令部からの通信を聞いてみよう。魔道参謀!」 「は。続いて、本国総司令部からの通信です。」 魔道参謀は、改まった口調で紙に書かれた内容を読み取っていく。 「15日から本日までの、敵機動部隊攻撃の総合戦果を、翌朝までに報告されたし。以上です。」 「なんだ、たったそれだけか。」 参謀長は呆気にとられた口調で魔道参謀に言う。 「はい。私も、もう少し長い文が来ると思っていたのですが……」 「翌朝まで、か。どうも、総司令部は焦っているような気がするな。」 「総司令部の気持ちも、分からぬのではないのですが……しかし、本当に宜しいのでしょうか?」 航空参謀が不安げな口調で言う。 「一応、戦果のまとめは出来ました。しかし、先程も申した通り、これは搭乗員の報告を鵜呑みにしたような物で、この通りに報告するのは いかがな物かと……」 「航空参謀の言う事も分かるが、確認のしようが無い。それに、報告が遅れると、本国から苦情が来るかもしれん。司令官閣下、 ここはひとまず、翌朝まで竜騎士達に聞き取りを行うなどして再度情報を整理し、それを総司令部に報告してはどうでしょうか?」 「………」 ピルッスグは、2分ほど黙り込んでいたが、最後には渋々と頭を下げた。 翌朝、ピルッスグはこれまでの総合戦果を本国司令部に送ったが、彼は司令部への 送信文に、 「なお、この戦果は信憑性に欠ける部分があるため、さらなる確認の必要がある」 と追加していた。 同日 午後9時30分 リリャンフィルク西北西沖110マイル地点 ヒーレリ領の空中騎士軍司令部が憂鬱な空気で包まれているのに呼応してか、第5艦隊旗艦である巡洋戦艦アラスカ内部にある 作戦室でも、浮かない雰囲気に満ち満ちていた。 第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将は、机に広げられた地図の上に置かれた、第5艦隊各任務群の編成図を見つめ ながら思案にふけっていた。 「……いつもなら、この時間帯に眠っている私も、今回ばかりはそうもいかないようだな。」 スプルーアンスは思考を止めた後、冗談混じりの言葉を言い放った。 彼の珍しいジョークを聞いた幕僚達が小さく笑った。 「長官。15日から続く一連の航空戦で、各任務群のパイロット達は疲労しています。また、それに加え、この3日間の空襲で艦隊にも 少なからぬ損害が出ています。特に、戦闘機専用空母が足りないのは非常に厄介です。」 航空参謀のジョン・サッチ中佐がスプルーアンスに進言する。 「来るべき決戦に備える為にも、マルヒナス沖で待機しているオリスカニーとグラーズレット・シーを至急、呼び寄せた方が良いかと思われますが。」 第58任務部隊は、15日から17日にかけて、ヒーレリ領沿岸部を艦載機で荒らし回ったが、それは同地に点在するシホールアンル軍 航空部隊の大規模な反撃を招いてしまった。 15日には、TG58.4のアンティータムと、TG58.5のハンコックが被弾し、アンティータムは大破して戦線離脱を余儀なくされた。 ハンコックもまた、飛行甲板に2発の直撃弾と、右舷に魚雷1本を受けたが、飛行甲板は応急修理で対応できるレベルであり、魚雷も幸か不幸か、 爆発威力が通常よりも低かった為、何とか作戦を続行出来た。 16日に行われた敵の薄暮攻撃では、TG58.5とTG58.6が襲われ、この空襲で昨夜は何とか前線に踏みとどまる事が出来たハンコックが、 飛行甲板に爆弾4発を受けて遂にリタイヤとなってしまい、この他にも輪形陣外輪部を守っていた駆逐艦1隻が、魚雷を抱いた敵ワイバーンの体当たりを 受けて撃沈された。 TG58.6では、戦艦ニュージャージーに爆弾1発が命中したが、被害は軽微であった。 17日には、昼間からシホールアンル側の大規模な空襲が行われ、TF58は全力でこの空襲を迎え撃った。 昼間から夜間にかけて行われたこの空襲で、TF58は新たに空母フランクリンと軽空母フェイト、軽巡洋艦デンバー、戦艦アイオワが損傷した。 軽空母フェイトとデンバーは、先の夜間空襲でそれぞれ魚雷1発ずつを受けて大破したため、戦線を離脱せざるを得なかったが、フランクリンと アイオワは被弾こそあれども損傷は軽微であり、敵の空襲が終わった後も、作戦続行は可能であった。 TF58は、攻撃を受ける一方で、迎撃戦闘で少なからぬワイバーンを撃墜しており、戦果は暫定ながら、約380騎と推定されている。 この連続する航空戦の結果、シホールアンル側は約900騎近いワイバーンを投入したにもかかわらず、米側が実質的に失った艦は駆逐艦1隻のみであり、 戦線離脱となった正規空母2隻と軽空母1隻、軽巡洋艦1隻は修理すればまた使える。 視点を空中戦に移せば、こちらもまた一方的にな結果となっている。 このヒーレリ領事前空襲と、艦隊の迎撃戦で生じた航空機の喪失は総計で150。実際に撃墜されたのはそれの半数以下である。 それに対して、アメリカ軍は戦闘機の迎撃と艦隊の対空砲火で、敵ワイバーン500機以上を撃墜したと言われており、話半分で見ても、まず200機以上 撃墜した事はほぼ確実である。 また、今回の連続する防空戦では、明らかに技量未熟と思えるワイバーン隊も相当数含まれており、口さがない戦闘機パイロットからは、ヒーレリ沖の 七面鳥撃ちと揶揄されるほどの一方的な空戦が展開された事も幾らかあった。 結果的に見れば、TF58の完勝といえた。 だが、問題は別の所にあった。 敵の執拗な空襲を受けたにもかかわらず、喪失が駆逐艦1隻のみに留まった事は特筆すべき事であるが、幸か不幸か、シホールアンル軍航空部隊は 立派に仕事をこなしていた。 大破炎上し、戦線離脱を余儀なくされた正規空母ハンコックとアンティータム、軽空母フェイトは、戦闘機専用空母であった。 アメリカ海軍の空母機動部隊は、レビリンイクル沖海戦の教訓として、1個の空母群に2隻、または3隻に戦闘機中心の航空団を乗せ、防空戦闘機を 増やしている。 戦闘機専用空母案を採用した結果は、後の実戦で遺憾なく発揮され、今回の航空戦でも、多数の戦闘機を用いて、敵攻撃隊の戦力減殺に大きく貢献していた。 だが、シホールアンル軍航空部隊は、その防空戦の主役ともいうべき戦闘機専用空母を相次いで戦線離脱に追い込んだ。 TF58は、数字の面では戦いを完勝に導いた物の、迎撃の要ともいうべき戦闘機専用空母を次々と狙い撃ちにされたため、戦闘機の数が減っていた。 特に、戦闘機専用空母の役割を担っていたエセックス級空母が、大破炎上して戦線から脱落したTG58.4とTG58.5は、防空戦闘機が100機単位で 丸ごと失われた為、敵機動部隊との決戦で敵ワイバーン隊の集中攻撃を受けた場合、両任務群は甚大な損害を被る可能性が高い。 空母の喪失をゼロに抑えた事は確かに特筆すべき事であったが、肝心な戦闘機専用空母を3隻も脱落させられた点も考えれば、この航空戦は決して、完勝と 呼べる代物では無かった。 アメリカ太平洋艦隊司令部は、事前攻撃を行うTF58に万が一の場合が起きた事に備えて、就役したばかりの2隻の正規空母、オリスカニーと グラーズレット・シーを急遽呼び寄せ、マルヒナス運河の沖合に待機させていた。 脱落した空母は3隻だが、補充に使える空母はまだ2隻ある。 数は合わないが、脱落した空母の内、軽空母フェイトは、搭載機数が45機(場合によっては40機以下しか積めないが)のインディペンデンス級空母であり、 正規空母の数は元に戻る。 決して、悪い話では無かった。 「私も、航空参謀の案に賛成です。至急、オリスカニーとグラーズレット・シーを会合地点に向かわせるべきです。」 参謀長のカール・ムーア少将も同意する。だが、作戦参謀のジュスタス・フォレステル大佐はこれに異議を唱えた。 「私はそれに反対です。」 「む?どうしてだね?」 ムーア少将が怪訝な表情を浮かべて、フォレステル大佐を問い質す。 「脱落した空母3隻の内、2隻はいずれもエセックス級だ。そして、補充に来る空母も同じく、エセックス級だ。悪い話では無いと思うが。」 「表面上は確かに賢明な判断です。しかし、オリスカニーとグラーズレット・シーは4カ月の慣熟訓練を終えたとはいえ、就役してまだ日が浅く、同時に、 搭載する航空団のパイロットも、大半は実戦経験が未熟か、皆無の者ばかりです。それに加えて、この2隻の空母は戦闘機専用空母では無く、通常編成の 航空団を積んでいます。この2空母が加われば、攻撃力は保たれるでしょうが、艦隊に必要な戦闘機は減ったままになります。オリスカニーとグラーズレット・シー を投入するのはなるべく、避けた方が宜しいかと思われます。」 「しかしだな。TG58.4とTG58.5は共に正規空母を1隻ずつ戦列から失い、3隻しか居なくなっている。それに加えて、戦闘機の数も 大きく目減りしたままだ。確かに、君の言う事も分からんではないが、それでも、戦闘機の数は大きく目減りした状態から、幾らか減った状態になるし、 何よりも、敵にこちらがまだまだ、備えを蓄えていると知らしめる事が出来る。私は、オリスカニーとグラーズレット・シーを連れて来るべきだと思うがな。」 「ですが参謀長!この2空母は就役してまだ1週間足らずです。当然、この2空母にもダメコンチームは乗り組んでおり、ある程度の被弾にも耐えられるかも しれませんが、彼らはまだ実戦経験しておらず、対処を誤れば、許容範囲内と思われるダメージを取り返しのつかぬダメージに変える恐れがあります。 彼らの腕が充分になると思われる2月頃までは、前線に出さない方が得策かと。」 フォレステル大佐はそう言って、オリスカニーとグラーズレット・シーの回航を諦めさせようとするが、ムーア少将は譲らなかった。 「君は合衆国海軍のダメコンチームを甘く見ているのかね?確かに、実戦経験の差は如何ともしがたいだろうが、そんな彼らも戦力には変わりない。ここは、 技量の不足に目をつむってでも、オリスカニーとグラーズレット・シーは出すべきだ。」 それにフォレステル大佐は顔を赤くして反論しようとした。 そこに、サッチ中佐が割って入った。 「まあまあ、ここで言い合いをしても始まりません。今はひとまず、長官の判断を仰ぐのが最適かと……」 サッチは穏やかな口調でフォレステルとムーアに言った。 「長官は、どう判断されますか?」 ムーアが顔を向いてから、スプルーアンスに判断を仰いだ。 スプルーアンスの返事は早かった。 「やはり、補充の空母は加えない方が良いだろう。」 「な……!」 「長官。」 ムーアとフォレステルは、それぞれ正反対の表情を浮かべた。 「君達の意見は良く分かる。空母が減ったままでは、艦隊の対空防御力は低下したままだ。かといって、空母を補充したとしても、その空母の乗員や パイロットの技量に疑問符が残るとあっては、いざ実戦と言う時にリスクを増やす事になる。この2つを考えた上で、私はあえて、補充の空母は 加えない事に決めた。」 「長官、その理由をお聞かせ願いたいのですが……」 ムーアがすかさず質問して来た。 スプルーアンスは、待ってましたとばかりに深く頷く。 「艦隊というものは、古来より、陣形をいかに上手く形成できるかによって、敵と戦う時の被害が、どれほど抑えられるか大きく左右して行く。 これは、空母が主役となった現代の海空戦でも同じ事だ。航空参謀、確か、戦闘機専用空母が脱落した任務群はTG58.4と58.5の2つかね?」 「フェイトも含めれば、TG58.3も含まれますが、TG58.3には、まだボクサーとラングレーが残っています。」 「と言う事は、戦闘機の数が著しく減っている任務群はTG58.4とTG58.3だけになるな。ならば、こうすればいい。」 スプルーアンスは、すぐ側にあった鉛筆と大きめの紙を手に取り、何かを描き始めた。 彼は、3分ほど黙々と絵を描き続けた後、それを幕僚達に見せた。 「長官……これは。」 「強い者で弱った者を守る。要するに、巨大な輪形陣を作れば良いだけだ。」 スプルーアンスが紙に書いた陣形図を、幕僚達は1人1人がじっくりと見て行く。 スプルーアンスは、TF58が決戦時に構成する陣形図を紙に描いていた。 彼の考えた陣形図は、単純明快であった。 まず、陣形の外側には、右側にTG58.1、左側にTG58.2、前方にTG58.3を置いている。 その内側に、空母が3隻に減ったTG58.4とTG58.5を置き、機動部隊のしんがりは、戦艦中心のTG58.6が務める。 戦闘機専用空母が残る3個任務群と戦艦中心の打撃部隊で、戦闘機専用空母が欠けた2個任務群を包み込むようにして守る形だ。 各任務群の距離は約20マイル程であり、これだけの距離ならば、攻撃を受けた任務群に対して、迅速に相互支援を行う事が出来る。 「各任務群が、必ずしも単一に進むだけでは無い。このように、弱った任務群を守る陣形を作る事も手であると私は思う。この陣形なら、 例え外側の任務群が相次ぐ攻撃で消耗したとしても、無傷のままで残された内側の任務群で反撃を行う事も可能だ。それ以前に、この陣形を 取れば各任務群から発艦した攻撃隊の空中集合も、今までより容易に行う事が出来るかも知れんし、相互支援によって自然に防御力も高まる。」 スプルーアンスはそう言いながら、机の前に置かれた紙を逆に回す。 「また、航空攻撃だけで敵艦隊や敵の地上施設を壊滅しきれなかった場合、艦隊を一斉反転させて、戦艦部隊を先頭に突っ込ませる事も可能だ。 この陣形なら、戦艦部隊も迅速に敵地に向かう事が出来るだろう。」 「なるほど、そう言う手があったとは。」 ムーアが感心したようにそう言い放った。 「まっ、私のつたない思考力をフルに使った案だが……ひとまず、これで急場を凌げるだろう。」 「この方法は後の戦いでも使えそうですな。」 サッチ中佐も顔に微笑みを浮かべながら、スプルーアンスに言う。 「迎撃戦闘機の集中運用を行う点に付いても、この大輪形陣戦法はメリットが大きそうです。」 「この方法は、技量優秀な艦が集まっていないとなかなかに難しい代物だが、今まで幾度となく実戦を積んで来たTF58なら難無くやれるだろうと思う。 最も、今まで速度30ノットに合わせて来た機動部隊は、ノースカロライナ級やサウスダコタ級の歩調に合わせないと言うデメリットも出てくるが、 それは相互支援の大幅な強化で打ち消せるだろう。」 「わかりました。では、至急、このような陣形を取るように、ミッチャー司令官に指示を送りましょう。」 「うむ、そうしてくれ。」 スプルーアンスは頷いた後、それで今日の役目は終わったとばかりに、作戦室から退出して行った。 1485年(1945年)1月20日 午前8時 レスタン領ハタリフィク 「……一体、この数は何だ!?」 レスタン領軍集団司令官ルィキム・エルグマド大将は、その文書を読み終えるなり、怒声を上げた。 「航空参謀!これが、わしらの手元に送り届けられた、残りのワイバーンの総数なのかね?」 「は……報告の上ではそうなっておりますが ……」 「話が全然違うではないか!」 エルグマドは頭を抱えながら、文書に書かれているある一文を睨みつけた。 「ヒーレリ領に待機していたワイバーンは800騎以上騎居た筈……なのに、レスタン領に来た増援部隊は、たったの380騎!余りにも 少なすぎるではないか!」 エルグマドは、紙に人差し指をトントンと当てながら、航空参謀に目を向ける。 「本国の連中は、ヒーレリ領沖の航空戦で生じた被害はワイバーン100騎程度と報告して来たぞ!それでも許し難い物だが、蓋を開けてみれば、 被害は100騎どころではない!半数以上だぞ!」 「はぁ……」 怒り狂うエルグマドに対して、航空参謀はただ、生返事をするしかなかった。 「ヒーレリ領沖で400騎以上ものワイバーンを失うとは……!決戦兵力として用意された戦力の内、実に3割だ!3割を肝心な決戦の前に、 むざむざ失うとは!」 エルグマドは、怒りで顔を真っ赤にしたまま、両手で顔を覆い尽くした。 いつもは飄々としているエルグマドが見せる激情の前に、航空参謀はただ、唖然とするしかなかった。 「これで、戦果も教えてくれれば、まだ気持ちは収まると言うものの、本国の奴らは失ったワイバーンの数だけは教えて、戦果は全く教えない…… 航空参謀、君は、本国の連中が、わしらを馬鹿にしているとは思わんかね?」 「い……いえ、小官としましては、とてもそうは……それに、戦果を教えないと言う事は、きっと、まだ正確に戦果を確認できてはいないのかも しれません。」 「正確にか……どうしてそう思うのかね?」 「今回のヒーレリ領航空戦では、夜間空襲も用いた攻撃も複数回行われているようです。通常、夜間の戦闘は戦果の確認が容易ではない為、 確認作業に時間を取られる事が頻繁にあります。恐らく、戦果の発表が無いのは、その確認作業を行っている為ではないかと、私は思います。」 「ふむ……戦果の確認は重要じゃからな。間違った戦果を知らせたら偉い事になる……なるほど、被害報告だけを送ったのはそのためか。」 エルグマドはそう納得すると同時に、早々と頭に血が上ってしまった自分を恥じた。 「しかし、正直申しまして、決戦兵力として用意された戦力をこれ程までにすり潰すのは、明らかにやり過ぎではあります。」 「君もやはりそう思うか。」 航空参謀の言葉に反応したエルグマドは、我が意を得たりとばかりに深く頷く。 「うむ。やはりこれは許される事では無い。あれは、間近に迫った決戦のために用意された部隊だ。現に、レーミア沖には、敵の上陸支援部隊が 18日の未明から押し寄せて、連日、激しい爆撃と艦砲射撃を加えている。ヒーレリ領航空戦で大損失を出してしまった今、敵輸送船団並びに、 敵機動部隊に対する航空攻撃は困難になってしまった……」 敵の上陸地点と予想されたレーミア海岸には、1月18日から米戦艦部隊が多数の上空援護機と共に姿を現し、連日、海岸の防御陣地目掛けて 砲弾を浴びせている。 敵戦艦部隊が砲撃を開始した直後は、海岸要塞に取り付けられた重砲部隊や要塞砲部隊も反撃した他、内陸寄り飛び立ったワイバーン隊も迎撃に加わった。 この結果、コロラド級戦艦1隻と巡洋艦2隻を大破させ、小型空母2隻を航空攻撃で撃沈し、その他の艦艇12隻にも損傷を与えたが、出来たのはそれまでであった。 時間が経つにつれて、レーミア海岸上空に飛来する航空機は増え続け、19日の昼頃までには、海岸の制空権は確保できなくなっていた。 レーミア海岸地区の攻撃を担当している第9空中騎士軍と第12空中騎士軍は尚も健在であり、時機が許す限り制空戦闘を挑むのだが、無数にいる 小型空母から発艦した護衛機と、必ずと言っていいほど横やりを入れて来るアメリカ陸軍機の前に、常に苦戦を強いられていた。 不幸中の幸いとして、海岸の防備に付いている第47軍所属の第41軍団(2個歩兵師団・1個機動砲兵旅団で編成されている)がまだ戦闘能力を 維持し続けており、残りの各軍も臨戦態勢に入り、敵部隊が上陸すれば後詰めとして投入できる態勢が整っている。 (増援の航空戦力が大きく減ってしまった事は痛いが……決戦兵力が無い事は無い。それに、レスタン領に配備されたワイバーン隊はいずれも健在だ。 まだまだ、勝機はあるぞ) エルグマドはそう思う事で、荒れた心を落ち着かせた。 それから3時間後。魔道参謀からレーミア海岸での苦闘の様子を聞き入っていたエルグマドの下に、1人の若い魔道士が血相を変えて走り寄って来た。 「魔道参謀!エルグマド閣下!本国司令部より通信であります!」 「どうした?凄い慌てようだが……何かあったのかね?」 「はい!閣下、これで迎撃作戦はやりやすくなりますぞ!」 「おい、まずは落ち着け。どれ、それを見せてみろ。」 魔道参謀は、まるで子供のようにはしゃぐ若い士官を諌めながら、紙を受け取った。 そして、内容を一読した後、魔道参謀もまた満面の笑みを浮かべながら、その紙をエルグマドに手渡した。 同日 午前10時 リーシウィルム沖北西600マイル地点 スプルーアンスは、アラスカの敵信班が捉えた魔法通信の内容を呼んだ後、ムーア少将に視線を向けた。 「どう思うね?」 「明らかに誤報ですな。それも、デタラメな。」 ムーアはきっぱりと言い放つ。 「確かに、TF58は被害を受けました。ですが、我々は“壊滅”などしておりません。」 ムーアは苦笑しながら、シホールアンル側を嘲笑した。 午前9時50分、アラスカの敵信班は、シホールアンル側から発せられる魔法通信を傍受したが、その内容はとんでもない代物であった。 「我が陸軍ワイバーン部隊は、1月15日から17日夜半にかけて、ヒーレリ領沖を航行するアメリカ機動部隊に対して反復攻撃を実施し、 以下の戦果を収めた。 撃沈:空母11隻 戦艦2隻 巡洋艦3隻 駆逐艦9隻 撃破:空母5隻 戦艦1隻 巡洋艦または駆逐艦6隻 撃墜航空機390機 本戦闘によって、アメリカ機動部隊は壊滅的打撃を被り、17日夜半のうちに残存する敵機動部隊は、ヒーレリ領沖を撤退した模様なり。 なお、レスタン領地区にて、アメリカ軍部隊が上陸作戦を企図しているが、その敵部隊は、間も無く我が軍によって撃滅されるであろう。」 シホールアンル側が発表した、ヒーレリ領沖航空戦の戦果はこのような物であったが、第5艦隊の幕僚達は、始めから、この戦果発表が誤認、 もしくは嘘であると見抜いた。 第1に、TF58は貴重な戦闘機専用空母を3隻も失うと言う手痛い損害を受けているが、この3隻は沈んではない。 第2に、仮に、被弾した空母が全て沈められたとしても、TF58にはまだ19隻の高速空母が残されている。 にもかかわらず、シホールアンル側は、計16隻もの空母を撃沈破したと主張している。 第5艦隊司令部幕僚は、敵が何故、このような幻の大戦果を生み出してしまったのか、しばらくの間理解できなかったが、時間が経つにつれて、 その原因がわかって来た。 「長官。確か、敵は幾度か夜間攻撃を仕掛けてきた他、明らかに錬度不足と思える航空部隊を攻撃に差し向けてきましたね。」 航空参謀のサッチ中佐がスプルーアンスに言う。 「報告ではそうあったな。」 「シホールアンル側が、こんな馬鹿げた戦果を発表した理由が自分には理解できました。原因としては、視界が利かない夜間に攻撃を行った事と、 錬度不足のワイバーン隊にあると思います。恐らく、この2つの要素が折り重なった事で、あのような誇大戦果が生まれたのでしょう。」 「その可能性は高いな。」 フォレステル作戦参謀が納得したとばかりに頷く。 「特に、夜間は視界が利かない為、味方が爆散した閃光や、魚雷が自爆した水柱を敵艦への命中弾であると誤認し易い。15日に空襲を受けた アンティータムは、右舷に魚雷2本を受け、その後に、2本が艦から50メートル手前で早爆したと報告を送って来ている。アンティータムを 攻撃した側から見れば、これだけでも、敵正規空母1撃沈確実と思いこんでしまうだろう。あの時の敵は、かなり腕が良かったようだが、 ベテラン部隊でさえ誤認し易い夜間戦闘を、錬度不足のワイバーン隊が頻繁に繰り返す事は充分にあり得る。」 「昼間の戦闘でも、こちらが繰り出す戦闘機の迎撃や対空砲火によって、敵が戦果を確認しづらいだろうと思う部分は多々あります。確認手段が パイロットの口からだけ、と言う場合は特にそうです。我が方も敵竜母を撃沈した時、幾度か戦果が重複しかけた時がありますからな。」 「その点から推察すると……戦果誤認も仕方ない、と言う事になるが……」 スプルーアンスは、途中で言葉を濁しながら、改めて魔法通信の内容が描かれた紙を見つめる。 「幾ら何でも、この数字は酷過ぎるな。」 「きっと、シホールアンル上層部の連中は今頃、有頂天になっているでしょう。おい見ろ!アメリカ軍空母が紙船のように沈んでいくぞ!とばかりにね。」 ムーア参謀長がおどけた口調で言う。 「その熱を、今から冷ましてやらんとな。」 スプルーアンスが単調な口ぶりで言うと、幕僚達は一斉に笑い声を上げた。 「通信参謀。一応、太平洋艦隊司令部に送ろう。」 「わかりました。では、早速。」 通信参謀が作戦室から出て行こうとするのを、スプルーアンスは見届けようとしたが、扉を開けようとした時、彼は通信参謀を呼び止めた。 「通信参謀、少し待ってくれ。」 「は。どうされましたか?」 「……すまないが、報告文にこう付けて加えないかね。」 スプルーアンスは、手元に置いといたコーヒーを一口すすってから、追加分を言い始めた。 「なお、第5艦隊はこれより、海底より浮上し、通常通り任務遂行に励む物なり。以上だ。」 作戦室にどっと笑いが生じた。スプルーアンスもまんざらではなく、珍しく心地よさそうな笑みを浮かべた。 「了解しました!直ちに報告を送ります!」 通信参謀は爽やかな笑顔を見せた後、軽やかな動作で作戦室をあとにした。 SS投下終了です。 かなり今更ですが、先月投下した戦闘序列の中に誤りがありましたので訂正いたします。 TG58.3 戦艦アラバマ→戦艦ミズーリ しかし、戦闘序列を書く度にミスするとは……俺もまだまだじゃなイカorz 320 :ヨークタウン ◆x6YgdbB/Rw:2011/03/09(水) 09 51 13 ID 5x/ol6rU0 おっと、これを付け加えるのを忘れていました。 TG58.6 戦艦サウスダコタ→戦艦アラバマ 同じ任務部隊に同名の戦艦があるのはおかしいですからねぇ……
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第213話 疑問符の戦果(前篇) 1485年(1945年)1月15日 午前6時 ヒーレリ領リーシウィルム沖 「発艦始め!」 まだ夜が開け切らない、寒い冬の洋上で、凛とした声音が鳴り響いた。 飛行甲板上でエンジンを唸らせていた艦載機は、待っていましたとばかりに次々と発艦していく。 戦闘機、艦爆、艦攻で編成された第1次攻撃隊は、僅か20分で発艦を終えた。 第58任務部隊の旗艦である正規空母ランドルフの艦上で、第58任務部隊司令官マーク・ミッチャー中将は薄ら寒い艦橋の張り出し通路から、 艦橋の内部へ移動した。 「司令官。各任務群共に、第1次攻撃隊の発艦は完了したようです。」 参謀長のアーレイ・バーク少将は、今しがた通信参謀から受け取った報告を、ミッチャーに伝えた。 「今の所、予定通りだな。」 ミッチャーは単調な声音でバーク少将に返答する。 マーケット・ガーデン作戦の開始日は、1月21日と定められているが、マーケット作戦実行部隊の一翼を担う第58任務部隊は、 一足先にヒーレリ領を叩く事になっていた。 その最初の目標が、今まで無視して来たヒーレリ領有数の港湾施設、リーシウィルムである。 第5艦隊司令部からは、15日にリーシウィルム、16日と17日にリリャンフィルク周辺の鉄道、港湾施設、並びに手付かずのまま残されている 航空基地を叩くように命令を受け取っている。 攻撃隊の編成については第58任務部隊に任せると伝えられているため、ミッチャーは5つの空母任務群のうち、最初の第1次、第2次攻撃隊を TG58.1、TG58.2、TG58.3から発艦させ、後の第3次、第4次攻撃隊をTG58.4,TG58.5から発艦させようと考えていた。 第1次攻撃隊は、ファイタースイープと通常編成の攻撃隊を合同で編成している。 TG58.1からはF6F24機、F4U34機、SB2C24機、TBF24機、TG58.2からはF6F38機、F4U52機、SB2C18機、 TBF20機。TG58.3からはF4U60機、SB2C18機、TBF18機が出撃している。 戦闘機208機、艦爆60機、艦攻64機。総計332機の大編隊は、一路リーシウィルムに向かいつつあった。 「参謀長。予定通り第2次攻撃隊も発艦させよう。」 「アイアイサー。至急、各艦に伝えます。」 バーク参謀長はそう答えた後、通信参謀に、各艦に命令を伝えるように指示を下した。 やや間を置いてから、ランドルフの艦長が電話越しに飛行長へ 「第2次攻撃隊、発艦準備急げ!」 と、鋭い声音で指示を飛ばす。 5分も経たない内に、飛行甲板上には、第2次攻撃隊の戦闘機、艦爆、艦攻が次々とエレベーターに上げられ、順序良く敷き並べられていった。 午前7時50分 リーシウィルム港東2ゼルド地点 第5親衛石甲師団第509連隊第3大隊を乗せていた軍用列車がリーシウィルム付近に到達し始めたのは、午前8時をもう少しで迎えようかと 言う時であった。 この時、大隊のキリラルブス搭乗員は、全員が長旅の疲れで寝込んでいたが、突然の空襲警報に叩き起こされてしまった。 「空襲警報発令!空襲警報発令!」 車両の真ん中の通路を、血相を変えた大隊の伝令兵が口でそう叫びながら駆け抜けて行く。 座席に毛布を被って寝入っていたフィルス・バンダル伍長は、当然の空襲警報発令に、最初、これは夢でないかと思った。 「ああ?空襲警報発令だとぉ?あいつ、なに寝ぼけてやがんだ。」 フィルスは、眠気でぼやけた意識を晴らそうとしながら、突拍子の無い事を叫ぶ伝令兵を睨みつける。 その伝令兵は、あっという間に、後ろの車両に駆け込んでいった。 「……とにかく寝よう。」 フィルスは、伝令兵の言葉を気にする事無く、再び睡眠を取ろうとした。 だが、彼がうとうとしかけた時、再び伝令兵が空襲警報発令!と絶叫しながら彼の居る車両に駆け込んで来た。 「やかましいぞこの馬鹿野郎!こっちは疲れて眠ってるんだ!」 フィルスと同様に、伝令兵の絶叫に腹を立てていた者が居たのだろう。誰かが乱入して来た伝令兵に食ってかかった。 その時、前の車両から新たな人物が入って来た。 「おい!貴様らいつまで寝ている!?」 「ちゅ、中隊長殿!おはようござます!」 伝令兵に怒鳴り散らした搭乗員が、慌てた口調でその人物に挨拶をする。 「挨拶は後だ!それより、今は寝ている場合じゃない!さっさとこいつらを叩き起こせ!」 彼らのやり取りを聞いていた搭乗員達は、伝令兵に噛み付いた兵に起こされるまでも無く、全員が自分で起き上がった。 その時、誰かが窓の外を指さして叫んだ。 「お、おい!ワイバーン隊が飛んで来たぞ!」 フィルスは、咄嗟に窓辺に目を向ける。 最初は何も見えなかったが、しばらくして、軍用列車の上空を通り過ぎたワイバーンの編隊が、海がある方角に向けて飛んで行くのが見えた。 数は約50騎ほどである。 「先程、リーシウィルムの海軍部隊から魔法通信が入った!本日午前7時40分頃、洋上の監視艇が、リーシウィルムに向かう敵艦載機と 思われる大編隊を発見したようだ!」 彼の言葉を聞いた搭乗員達は、飛び上がらんばかりに驚いた。 「中隊長殿、それは本当ですか!?」 「昨日の情報では、敵機動部隊はリリャンフィルクの攻撃に向かっている筈じゃ無かったのですか?」 搭乗員達は、中隊長に対して次々に質問を浴びせて行く。 第5親衛石甲師団は、いち早く配置先に到着するため、最短コースを選んだのだが、この移動路は海岸線に線路が引かれている場所が多く、 特にヒーレリ領では、線路と海岸線との距離が2、3ゼルドしか離れていない箇所が多い。 第5親衛石甲師団の将兵は、噂になっているアメリカ機動部隊の艦載機に襲われやしないかと、常に不安に思っていた。 そのため、師団司令部では将兵の不安を少しでも和らげるため、海軍から敵機動部隊に関する情報を回して貰うように手配していた。 昨日の情報では、アメリカ機動部隊はリーシウィルム寄りの西方220ゼルドを北西に向かって進んでいると伝えられたため、将兵達は、 敵がリーシウィルムには来ないであろうと思い、安堵していた。 ところが、来ないと信じていた筈の敵機動部隊が、急にリーシウィルムに向けて、艦載機の大編隊を送り込んで来たのである。 驚かぬ者など居る筈が無かった。 「昨日までの情報によれば、確かに敵機動部隊はリリャンフィルクに向かっていたと思われていた。だが、敵の狙いはリリャンフィルクでは 無かったようだ。」 「敵艦載機はどれぐらい居るのですか?」 「それは、俺にも分からん。だが、少なく見積もっても200機近くは居るかも知れん。」 「200機……さっき飛んで行ったワイバーン隊はせいぜい50騎前後。これでは、とても防げませんよ!」 「中隊長!前方の機関室に行って、速度を上げるように言いましょう!10ゼルド南にあるリフィンの森に入れば、敵艦載機に襲われても 爆弾を浴びる可能性は低くなります!」 「既に、大隊長が機関室に行って指示を下している。」 中隊長がそう答えた時、後ろから通信員が報告を伝えに来た。 「中隊長。リーシウィルム港付近の監視艇から追加報告です。敵艦載機約300機は、リーシウィルム港に尚も接近中、間も無く味方ワイバーン隊と 交戦を開始する模様なり」 午前8時10分 リーシウィルム港西10マイル地点 第58任務部隊より発艦した第1次攻撃隊328機(途中で4機が不調で引き返した)は、制空隊のF6F、F4U100機を前方に押し出した 形で進撃を続けていた。 TG58.1に所属している空母イントレピッドは、12機の艦爆と12機の艦攻を攻撃機として発艦させている。 空母イントレピッド艦爆隊VB-12の一員として、第2小隊の2番機を操縦しているカズヒロ・シマブクロ1等飛行兵曹は、先発するエセックス隊の 前方で繰り広げられている空中戦を遠目で見ていた。 「カズヒロ!制空隊の連中はどうだ?上手くやっているか?」 後部座席に乗っているニュール・ロージア1等兵曹がカズヒロに聞いて来た。 「ああ。敵ワイバーンの動きを上手く抑えている。こっちに向かって来る敵は居ないようだぜ。」 カズヒロはそう返答しながら、やや遠くの空中戦を見続ける。 (状況からして、敵の方が、こっちの制空隊よりも少ない。あんな不利な状況だったら、俺ならさっさと逃げ出しそうやっさ…… でも、敵も頑張るやぁ……) 彼は、独特の口調でそう独語する。 制空隊は100機以上は居るのに対して、敵のワイバーン隊は50騎程度しかいない。 これでは、攻撃隊に襲い掛かる事もままならないばかりか、自分達の身を守る事で精一杯な筈だ。 だが、敵ワイバーン隊は数の上で不利であるにもかかわらず、屈しようとはしなかった。 (父ちゃんから聞いた、三山時代の南山王も……最後はああやって戦ったかも知れんなぁ) カズヒロは、父に小さい頃から聞かされてきた、故郷沖縄の歴史を心中で思い出していた。 制空隊は、敵ワイバーン隊の迎撃を上手く抑え込んだ為、攻撃隊は悠々とリーシウィルムに近付きつつあった。 「攻撃隊指揮官より各機へ!これより攻撃を開始する。各隊は割り当てられた目標を攻撃せよ!」 攻撃隊指揮官機を務めるエセックスの艦攻隊長から指示が伝わり、攻撃隊各機はそれぞれの目標に向かって進み始めた。 イントレピッド攻撃隊は、港湾部からやや内陸部にある敵の物資集積所を攻撃する手筈になっていた。 イントレピッド隊が進撃を続ける中、一足先にエセックス隊の艦爆、艦攻が港湾施設に向かって突進して行く。 リーシウィルム港周辺には対空火器が設置されていて、エセックスのヘルダイバー隊の周囲に、高射砲弾が炸裂するが、 経験豊富なパイロットで占められている艦爆乗り達は、それに臆する事無く、目標を正確に見定めて攻撃に移っていく。 程無くして、エセックス隊の突進を受けた港湾施設が、1000ポンド爆弾の直撃を次々に受けて、忽ちのうちに爆炎と黒煙に 包まれていく。 手痛い一撃を受けた港湾施設に、駄目押しとばかりにアベンジャー隊が水平爆撃を食らわせ、港湾施設に集中する倉庫等の目標が、 加速度的に破壊されていった。 倉庫や港の船舶を爆撃しただけでは飽き足らないのか、一部のアベンジャーやヘルダイバーは、これでもかとばかりに機銃掃射を仕掛けている。 「ふぅ、エセックス隊の連中、暴れに暴れているねぇ。」 エセックス隊のアベンジャー、ヘルダイバーの暴れっぷりを見ていたニュールが、苦笑いを浮かべながら喋った。 「エセックス・エアグループの搭乗員は荒っぽい奴がいるからな。飛行長のマッキャンベル中佐からしてその通りだし。」 「ハハ。あの上官にして、この部下ありって奴か。」 「だな。まっ、実際は良い奴が多いんだけどね。」 カズヒロはそう言ってから、ふと、目標である物資集積所の向こう側に、点在する林に隠れた線路らしき物が北から南に延びているのが見えた。 そして、その線路の上に、うっすらと何かが移動している姿も…… 「おいニュール。目標の向こう側に、線路らしき物を見つけたぜ。」 「線路か。どうせそれだけだろう?」 ニュールはどうでも良いと言わんばかりの口調でカズヒロに返す。 「いや……線路だけでは無い。こっちから見辛いが、何か列車らしき物が動いているみたいだ。」 カズヒロはそう言いながら、持っていた双眼鏡で、動いている物の正体を確かめる。 双眼鏡越しに見えたそれは、明らかに列車であった。 彼らの位置から列車までの距離は6キロ程離れていたが、パイロットであるカズヒロの視力は2.5と高く、彼の眼には客車らしき車両と、 その後ろに繋がっている幌つきの無数の貨車。そして、一番最後の車両に積まれている対空機銃と思し物が写っていた。 「ニュール。あれは敵の軍用列車だな。結構長いぞ。」 「軍用列車だと?本当か!?」 「ああ。こっからじゃ詳細は分からんけど、幌が付いている貨車がかなり多いから、前線に何か物資を運んでいるかも知れんぜ。」 カズヒロは双眼鏡を構えながら、その線路の先を見る。 軍用列車が走るその先には、濃い森林地帯があった。森の状況からして、線路が木々に覆われている事は容易に想像が付く。 もし軍用列車が森林地帯に逃げ込めば、いくらヘルダイバーとはいえ、急降下爆撃で仕留めるのは不可能になる。 攻撃するなら、今、やるしかない。 「カズヒロ!すぐに中隊長に報告しろ!あれは重要な兵器を運んでいるかも知れんぞ!」 「了解!」 カズヒロは即答すると、レシーバー越しに中隊長を呼び出した。 「中隊長!こちらは2番機。聞こえますか!?」 「こちら中隊長。よく聞こえる。何かあったのか?」 「目標より4キロ東に線路を見つけました。それに加えて、線路上を移動する軍用列車も見つけました!もしかしたら、レスタン領に 増援を運んでいるかもしれません!」 レシーバーの向こう側に居る中隊長は、すぐに答えなかった。 30秒ほど間を置いてから、返事が届く。 「確かに見えた。お前の言う通り、あれは敵の増援を運んでいるかも知れん。あそこの森林地帯までもう距離が無い。攻撃するなら、 今のうちだな。」 「中隊長、では、攻撃ですね?」 「ああ。物資集積所の攻撃は、第3小隊とアベンジャー隊に任せよう。第2小隊は俺の小隊と共同であの列車を叩くぞ!」 中隊長は命令するや否や、すぐさま増速して直率の小隊と共に前進し始めた。 カズヒロは第1小隊に属しているため、左斜めを飛ぶ中隊長機につられる形でスピードを速める。 第1小隊と第2小隊8機のヘルダイバーは、急速に軍用列車との距離を詰めて行く。 だが…… 「くそ!軍用列車と森林地帯の距離が近い!」 カズヒロは悪態をついた。 発見のタイミングが遅かったのか、軍用列車の先頭と森林地帯との距離は、指呼の間にまで迫っていた。 「第1小隊は貨車!第2小隊は客車が集中している部分を狙え!突撃!!」 中隊長はすかさず指示を下した。 降下を開始したのは、意外にも第2小隊からであった。 「第2小隊の奴ら、早々と降下を始めたな。焦ってるのかな?」 カズヒロは、横目で急降下に移っていく第2小隊を見つめながらそう呟いた。 前方の中隊長機が機を翻して急降下に入る。カズヒロも、手慣れた手つきで機体を捻らせた後、機首を下にして降下に移った。 カズヒロ達が冷静に攻撃を開始したのに対して、狙われた方の軍用列車。 第509連隊第3大隊が乗る軍用列車では、誰もが恐怖に顔を歪めていた。 「敵がこっちに急降下して来たぞぉ!!」 窓から顔を出して上空を見ていた兵士が、顔面を真っ青に染めながら絶叫した。 ウィーニ・エペライド軍曹は、耳に今まで聞いた事が無い、甲高い音が響き始めた事に気が付いた。 「この音は……もしや……!」 ウィーニは、徐々に大きくなって来る甲高い音が、噂に聞いている死の高笛なのかと思った。 死の高笛とは、アメリカ軍の急降下爆撃機が発する急降下音の事である。 米艦爆が発するダイブブレーキの轟音は、第3大隊の将兵達に計り知れない恐怖を与えていた。 唐突に、ウィーニの後ろに居た別のキリラルブスの射手が、大声を上げて窓から飛び出ようとした。 「おい!何をしているんだ!?」 「離してくれ!ここにいたら死んでしまう!!」 その伍長は、制止する仲間を振り払って、窓から体を乗り出そうとするが、2、3人の仲間が強引に伍長を取り押さえた。 甲高い轟音が極大に達したかと思った時、ウィーニは自然と、頭を抱えながら床に伏せていた。 その次の瞬間、車両の右側で物凄い轟音が鳴り響き、車両が線路から飛びあがらんばかりに激しく揺れ動いた。 爆発は1度だけでは無く、2度、3度、4度と連続した。 最後の爆発は、ウィーニが乗る車両から10メートルと離れていない場所で起きた。 その瞬間、凄まじい轟音が鳴り、爆風と破片が車両の左側のガラスを1枚残らず叩き割った。 爆風と共に煙が車内に吹き込み、ツンとした硝薬の匂いがあっという間に充満する。 「ぎゃああーーー!!やられたぁ!!!」 誰かが負傷したのだろう、車両の後ろ側で悲痛な叫びが上がった。 ウィーニは、誰が負傷したのか確認しようと、体を起こし掛けたが、その瞬間、彼女達が乗る車両から離れた後方で再び強い衝撃が伝わり 起き上がる事は叶わなかった。 またもや数度の爆発音が後方から伝わった後、車両が再び揺れ動いた。 上空を何かが轟音を唸らせながら、車両の真上を飛んで行く。ウィーニはふと、音が飛び去る方角に目を向ける。 そこには、黒っぽい色に染まったずんぐりとした形の飛空挺が居た。その飛空挺の胴体には、鮮やかな白い星が描かれている。 (あれが、ヘルダイバー……!) ウィーニは、その敵機が、空母艦載機のヘルダイバーである事に気付いた。 唐突に、視界が遮られた。 「良かった……無事に森林地帯に逃げられた。」 ウィーニの隣で、同じように伏せていたフィルスが、ホッとため息を吐きながらそう言った。 「台長。これで安心ですよ。上は森の木々がカバーしています。これなら、精密爆撃が得意なヘルダイバーも手出しは出来ませんよ。」 フィルスは、落ち着いた声音でウィーニに言い、にこやかな笑みを浮かべた。 そのフィルスの上を、衛生兵が数人の兵と共に大慌てで上手く飛び退きながら車両の後ろに駆け抜けて行く。 「おっと、そろそろ立たないと……」 フィルスはそう言うと、体を起こして立ち上がろうとする。だがどういう訳か、彼はなかなか立ちあがれない。 「あ、あれ?おかしいな、膝がガクガク動いて立てない。」 フィルスは苦笑しつつ、懸命に立ち上がろうとする。だが、それでも立てなかった彼は、仕方なく座席に座る事にした。 「台長、大丈夫ですか?手を貸しますよ。」 フィルスは、伏せたままの彼女に手を差し伸べる。ウィーニはその手を取って、起き上がろうとした。 その時、股間の辺りで違和感を感じた。 「……!」 一瞬、彼女の表情が強張った。 「ん?どうかしたんですか?」 「い……いや!何でも……ない。」 ウィーニはすぐに起き上がり、体を縮めこませながら座席に座った。 「台長?本当に大丈夫ですか?」 フィルスの言葉に、ウィーニは何も言わなかったが、代わりに2、3度頷いた。 彼は、ウィーニがしきりに股間を隠している事に気付き、それ以上は何も言わなかった。 2人が、爆撃のショックで体を小刻みに震わせている時、そのすぐ後ろで、衛生兵と同僚達のやり取りが聞こえて来る。 「どうだ?助かるか……?」 「……いや、もう、何もやる必要は無くなったよ。」 「……え?どういう事だ?」 「もう、亡くなっちまった。破片が胸を貫いているから、もうどうしようもなかったが……」 「なんてこった………こいつは、子供連中をいじめるだけの、うんざりした仕事からようやく解放されたって言ってたのに……」 後ろから流れて来る暗い空気は、すぐに車両全体に充満していき、それから5分と経たぬ内に、車両内部は、うすら寒く、重苦しい 空気に包まれていた。 同日 午後4時50分 ヒーレリ領リーシウィルム 米機動部隊による波状攻撃が終わりを告げたリーシウィルムは、再び静寂に包まれていたが、リーシウィルムから東に10ゼルド 離れた場所にある、ヒーレリ領南部航空軍司令部では、その静寂とは裏腹の状況が展開されていた。 「統括司令官殿!何度も申しますように、私はそのような命令は受け入れられません!」 第31空中騎士軍司令官であるワロッカ・ラバイダロス中将は、ヒーレリ領空中騎士軍統括司令官であるバフォンド・ピルッスグ大将に 向けて、きつい口調で言い放った。 「我が部隊は元々、レスタン領への増援として編成された部隊です!それなのに、いきなり、洋上の敵機動部隊への攻撃に向かえと 命じられては困ります!」 「何故困るのだね?」 痩身のピルッスグ大将は、ラバイダロス中将をじと目で見つめる。 「リーシウィルムの70ゼルド沖には、アメリカの機動部隊が不用心にも接近しておるのだぞ?このヒーレリ領南西部に、ワイバーン部隊の 大群が居るとも知らずにな。これは、敵が油断していると言う明らかな証拠だ。今を置いて、叩く機会は無いと考えるが。」 「今はもう、夜間ですぞ!?出撃できるワイバーン隊はあまりおりません!それ以前に、我々はレスタン領で戦う事を予定されて編成されたのですよ? こんな、場違いな所で戦う事は出来ません!」 「ふむ……貴官の主張も理解できる。だが、君は知らないのかね?」 ピルッスグ大将は、傲然と胸を逸らしながら言う。 「陸軍総司令部からは、好機あらば、あらゆる兵力を用いて、敵機動部隊の殲滅を計れと命令されておる。私は、ヒーレリ領空中騎士軍統括司令官だ。 確かに、君は一時的にヒーレリ領に居候している身に過ぎんのだろうが、同時に、“一時的に”私の部下でもある。つまり、君達のワイバーン部隊や 飛空挺部隊も、私の指揮下にあるのだよ。」 「そ……そんな命令聞いておりませんぞ!?」 「命令を聞いていない?それは……どういう事かな。」 「我々の部隊は秘匿部隊であるため、1月初旬頃から魔法通信の送受信を限り無く少なくしながら行動しておるのです。一応、重要な命令文は受信 するように命じられておりますが……その件については、私は何も知らされておりません!」 「なんと……知らされていないだと?2日前に発せられたばかりだぞ?」 「なっ……!?」 ラバイダロス中将は、思わず絶句してしまった。 彼には、そのような命令は全く知らされていなかった。 「で……では、我々は……」 「まぁ、私も鬼では無い。私としては、今日の報復を今すぐしてやりたいが、君達がそう言っている以上、無理に通す事は出来んだろう。よろしい、 本国の指示を仰いでみる。」 ピルッスグ大将は、穏やかな口調でラバイダロスにそう言った。 「魔道士官!すぐに本国に確認しろ!」 ピルッスグは、魔道士官に指示を下す。指示を受け取った魔道士官は、頷いてから確認作業に入った。 「はぁ……感謝いたします。」 「心配したかね?」 唐突に、ピルッスグ大将は質問をして来た。 「は……と、いいますと?」 「私が、このまま無茶な主張を押し通すと思ったかね?」 「はぁ……閣下のお家の事に付いては、いくつか聞き及んでおりましたので。」 「ふむ。馬鹿な弟を持つと、苦労するのはいつも、兄である私だな。」 ピルッスグ大将は苦笑しながら言う。 「ピルッスグ家が、多方面に関係を持っている事は確実だ。だが、それを成し遂げたのは私では無い。弟の方だよ。私はどちらかと言うと、 弟よりは役立たずの方でね。家では寂しい思いをしている物だ。」 ラバイダロスは、先ほどとは打って変わった、優しげなピルッスグに、内心驚いていた。 「私は先程、君に厳しく言ったが、あれはあくまで職責上の事さ。君が本国から何も聞いておらず、本国も君らに対して、何の指示もしないと 言うのであれば、私は君達に何もせずに、レスタン領に送り届けよう。万が一の場合は、我々の場所からも、援軍を送り届けて良いぞ。」 「援軍と申されましても……ヒーレリ領西部には、300騎ほどしかワイバーンが居ないのでは?」 「今日一日の防空戦で、300騎以下に減っている。だが、されど300騎以下だ。リーシウィルムは、約1000機近くの敵艦載機の猛攻に よって、確かに壊滅的打撃を受けた。被害はそれだけに留まらず、第5親衛石甲師団の部隊にも被害が生じている。だが、幸いにして航空戦力は まだ残っている。信じられるかね?この地方に駐屯していた私のワイバーン隊はたったの70騎足らずだ。70対1000。戦えば全滅するのは 目に見えている。だが、戦闘が終わってみれば、なんと、まだ34騎も残っている。無論、この状態では、部隊は壊滅したも同然だが、律儀に 敵の攻撃隊を迎撃し続けて、それでも34騎ものワイバーンが残っている。これは、まさに奇跡と思わんかね?」 「は……確かにそうですな。私の指揮下にある空中騎士隊とは大違いです。」 「私は噂話でしか聞いておらんのだが、君の指揮下にある部隊には、新米が多数いるようだな。」 「はい。1個空中騎士隊は、歴戦の部隊で、夜間戦闘もこなすのですが、残りの3個空中騎士隊は、錬度が完璧とは言えません。」 「編成上では、4個空中騎士隊のうち、3個が夜間戦闘も行えると聞いているが……そこの部分でもそうなのかね?」 「……正直申しまして、私が教官なら、半数以上は落第点スレスレか、確実に不合格です。残りも、夜間飛行はこなせるが、攻撃は難しいと 思える者しかおりません。一応、部隊としては存在しますが、実質的には、書類上の部隊と言っても過言ではありません。」 「そんなに酷いのか……私は、君になんて悪い事を言ってしまったのだろうか。」 今度は、ピルッスグが謝る番だった。 「いえ……統括司令官の言われる事も理解できます。閣下の立場からすれば、我々に出撃せよと申すのは当然の事です。」 ラバイダロスは、最初とは打って変わった、落ち着いた口調でピルッスグに言う。 最初は、いきなり部隊を出撃させる必要があると言って来たピルッスグに強い反発心を覚えた物だが、実際は心優しい人物であると分かり、 内心ホッとしていた。 (ピルッスグ家は、シホールアンル10貴族にも選ばれる大貴族と聞いていたから、色々とごり押しして来るんだろうと思っていたが…… この人は別なんだな) ラバイダロスは、目の前に居る心優しき上官に、そんな印象を抱き始めていた。 だが、彼の安心も束の間であった。 「閣下!本国の総司令部より通信です!」 「うむ。読め。」 ピルッスグは魔道士官に命じた。 「ヒーレリ領航空部隊は、敵機動部隊に対して、直ちに攻撃を開始せよ!兵力不足の場合は、レスタン領に展開予定の増援ワイバーン隊も 参加させよ!以上であります。」 「………」 「………」 予想外の言葉の前に、2人の将星は、言葉を失ってしまった。 午後7時30分 リーシウィルム沖西方70ゼルド地点 第503空中騎士隊は、寒い夜空の中、高度50グレル以下、速力200レリンクで敵機動部隊の予想位置を目指しながら前進を続けていた。 「先導騎!生命反応は捉えたか?」 第503空中騎士隊の指揮官であるレビス・ファトグ少佐は、攻撃隊の2ゼルド前方を飛んでいる先導騎の竜騎士に、魔法通信で尋ねる。 「いえ、今の所、敵らしき反応はありません!」 頭の中で返信を受け取ったファトグ少佐は舌打ちする。 「参ったな……レンフェラルからの情報では、この海域に敵機動部隊が居る筈なんだが……敵に逃げられたかな?」 ファトグ少佐は、敵が発見できない事に苛立つ半面、内心ではこれで良いかもしれないという、見敵必殺をモットーとするシホールアンル軍人 にしては珍しい思いを抱いていた。 (もし、敵がさっさと逃げてくれれば……後ろから付いて来ている奴らを、無為に失わなくて済む) 彼は心中で呟きながら、顔を後ろに振り向けた。 第503空中騎士隊は、68騎のワイバーンでもって出撃しているが、それとは別に、第601空中騎士隊と第602空中騎士隊から発進した、 160騎のワイバーンも出撃を終えている。 この3個空中騎士隊は、レスタン領に移動予定であった第31空中騎士軍に所属しており、日も暮れた午後6時頃に、軍司令官であるラバイダロス 中将から直々に出撃を命じられた。 3個空中騎士隊228騎の大編隊は、夜間戦闘のベテランである第503空中騎士隊を先導役に当てる形で前進を続けている。 この3個空中騎士隊の任務は、リーシウィルム沖を北に向かって北上し続ける米機動部隊に痛烈な打撃を与える事である。 だが、ファトグ少佐は、この戦力で、敵機動部隊に大損害を与える事は難しいと考えていた。 3個空中騎士隊の内、満足に戦闘をこなせそうな部隊は、経験豊富な兵ばかりを集めた第503空中騎士隊だけであり、残りの2個空中騎士隊は、 竜騎士の大半が新米という有様であり、更に錬度に関してもまだ不安が残っていた。 ファトグ少佐としては、せめて、第503空中騎士隊だけで敵機動部隊の攻撃に移りたかったが、3個空中騎士隊で攻撃せよとの命令が下った 以上は、実行するしかなかった。 (敵機動部隊と戦闘となったら、一体、どれだけのワイバーンと竜騎士が失われるのだろうか。俺達も危ないが、後ろの新米共は更に危ない。 どうせなら、もっと訓練を行わせてから、前線に出したかったのだが……) ファトグ少佐が思考に費やせる時間は、余り長くは無かった。 「隊長!2時方向に多数の生命反応を探知!距離は約12ゼルド!(36キロ)」 この時、ファトグ少佐の心中には、やっと見つかったかという思いと、まずい事になったという思いが複雑に絡み合っていた。 第58任務部隊旗艦である空母ランドルフのCICでは、TF58司令官のミッチャー中将が、対勢表示板上に描かれた敵騎群を険しい表情で 見つめていた。 「司令官。ピケットラインに配置した駆逐艦からは、敵編隊は100メートル以下の低高度で接近して来たとの報告が届いています。」 「まずいな……上空警戒のアベンジャーの交代する時に接近して来るとは。敵に悪運が強い奴が混じっているぞ。」 ミッチャーは、バーク参謀長の言葉に対して、眉をひそめながら答える。 「敵編隊は、このままのコースで行けばTG58.5かTG58.4に攻撃を仕掛ける可能性があります。」 「上空に上がっている夜間戦闘機は何機だ?」 「8機です。所属はハンコックとアンティータム。いずれもF4Uです。」 「他に飛ばせる機は?」 「このランドルフとボクサーからF6F4機、F4U4機を増援に向けられますが、残りは準備中の為、すぐには出撃出来ません。」 「ラングレー隊はどうなっている?VFN-91だけでも早く飛ばせんか?」 「今確認してみます。航空参謀!」 バーク少将は航空参謀を呼び付け、急いでラングレーに確認を取らせた。 2分後、ラングレーから返事が届いた。が……その返事は、ミッチャーの期待とは裏腹の物であった。 「目下、早急な発艦は不可能なり。発艦準備完了までは、あと20分掛かる見込み……か。」 「当分は、ハンコックとアンティータムのコルセアと、増援の8機に任せるしかありません。」 「参ったな……たった16機で、敵の大編隊を食い止める事はほぼ不可能だぞ。」 「不可能ではありますが、敵の数を減らす事は出来ます。それに、ハンコックとアンティータムのF4Uは、海兵隊の夜間戦闘機隊から 送られた物で、パイロットは既にエルネイル戦線でシホールアンル軍と夜間戦闘を経験済みです。ある程度は減らせますよ。」 ハンコックとアンティータムは、今回の作戦では戦闘機専用空母としての任務が与えられており、ハンコックはF6F48機、F4U34機を、 アンティータムはF4U72機を搭載している。 両艦は、それぞれTG58.4とTG58.5の防空任務の要となっているが、搭乗しているF4Uのパイロットは、半数以上が実戦を経験して 来た腕自慢のパイロットである。 機数は少ないとはいえ、敵編隊に少なからずダメージを与えられる事は期待できる。 「また、すり減った敵航空部隊は、機動部隊の対空砲火で対処できます。全部叩き落とす、と言う事は難しいですが。」 「どうせなら、いっそ、この間提出された案のように行けば、敵の撃墜比率も上がると思ったが……敵にもまだ“当てて来る奴が多い”以上、 そうもいかん。後は、各艦長の腕次第だな。」 先日提出された案……それは、機動部隊の防空戦闘時に関する意見書である。 この意見書には、防空戦闘時には、全艦が一定の速度、間隔を保ちつつ航行するという物である。 ミッチャーは、一月に一度行われる、各母艦の艦長達を招いた勉強会で、この意見書にあった案を採用したらどうかと言った。 防空戦闘時には、敵の攻撃をかわすために、各母艦も急回頭を行って爆弾や魚雷の回避に努めている。 だが、これでは輪形陣がばらつきやすくなる上、母艦の機銃員達も急回頭によって機銃や高角砲の照準を一時的とはいえ、狂わされる為、 少しばかりであるが、敵ワイバーンや飛空挺に対する弾幕が薄くなると言う問題があった。 それを解消するために、先の案が提出されている。 要するに、回避運動を行わず、機銃や高角砲がまともに狙い撃てる時間を極力増やし、圧倒的な弾幕で持って敵ワイバーンや飛空挺を片っ端から 叩き落とそうと言うのである。 だが、空母艦長達の大部分は、この案に反対であった。 「敵ワイバーンの竜騎士や、飛空挺パイロットの技量が落ちたとはいえ、依然として敵航空部隊は侮れない強敵である。敵にとって、空母は 涎が出そうなほどの獲物であり、もし直進ばかりを続けると気が付いたら、敵は1隻に対して5、60騎もの大群で襲い掛かって来るだろう。 そうなれば、我が太平洋艦隊は、大規模な航空戦がある度に、数があるとはいえ、高額な正規空母を1隻ないし、2隻ずつ失う事になりかねない。」 空母艦長達は、このような反対意見を述べ、頑として新戦法の採用を拒んだ。 ミッチャーはそれでも、この新戦法の有用性を説明し続け、以降の防空戦闘時に役立てようと考えたが、艦長達の言う事も理解できるため、 結局、この新戦法を取り入れるのは時期尚早と判断され、採用は見送られた。 (ミッチャーとしても、航空戦や海戦の度に、正規空母を複数失った提督と言われたくなかった) 「夜間戦闘隊、敵編隊と接触!間もなく交戦に入ります!」 レーダー員が、やや声を裏返しながらそう伝えて来る。 レーダー上に移っている光点は2つ。 1つめは、艦隊の南東方面から向かいつつある。その光点は数が多く、敵が相当数のワイバーンか飛空挺を動員している事を伺えさせる。 もう1つは、その光点に向かいつつある小さな光点だ。この光点が、頼みの綱の夜間戦闘機隊である。 やがて、大小2つの光点が重なり合った。 午後7時55分 TG58.4旗艦 空母シャングリラ TG58.4司令官であるフレデリック・ボーガン少将は、旗艦シャングリラのCICで、対勢表示板を見つめていたが、その時、予想していた 報告が耳に入って来た。 「敵編隊、夜間戦闘隊の防衛ラインを突破!我が任務群に向かって来ます!」 「敵編隊の数は?」 ボーガンはすかさず聞き返した。 「約60騎前後です!」 「まずいな……あまり数が減っていないぞ。」 彼は眉をひそめた。 最初、敵編隊の数は70騎前後であり、夜間戦闘機隊は、数こそは少なかったものの、最低でも敵を14、5騎は叩き落とすか、傷つけて 編隊から脱落させるだろうとボーガンは考えていた。 だが、夜間戦闘隊は思った以上に戦果を上げておらず、逆に敵の護衛騎に追い回され、今までに3機が犠牲となっていた。 敵編隊は、夜間戦闘機隊に襲われる前と同じ攻撃力をほぼ維持したまま、TG58.4に接近しつつある。 「敵編隊、艦隊より8マイルまで接近!間もなく外輪部の駆逐艦と戦闘に入ります!」 「ピケット艦より入電!艦隊より80マイル南東に新たな敵編隊!数は約200騎前後!」 ボーガンは、2つ目の報告を耳にするなり、険しい表情を浮かべた。 「200騎前後だと。畜生!敵の奴ら、本気でTF58を叩くつもりだぞ!」 ボーガンは悪態を交えながら、そう言い放った。 空母アンティータムの艦上では、配置に付いた機銃員や高角砲要員が眦を決しながら、戦闘開始の時を待ち続けていた。 ヴィンセント・バルクマン少尉は、艦橋前に配置されている2基の連装両用砲の内、2段目にある2番両用砲の指揮官を務めている。 彼は、砲塔中央にある観測用ハッチから顔を出し、敵編隊が迫っていると思われる輪形陣右側に顔を向けていた。 (畜生め。空母群は5つもあるのに、シホット共は何でTG58.4に向かって来るんだよ!あの人でなし共め!) 彼は内心で、このTG58.4を狙って来た敵編隊を呪いつつも、ヘルメットの下に付けた、両耳のレシーバーからは射撃管制官からの 指示を聞き続けていた。 「敵編隊約50騎、二手に別れながら依然、前進中。戦闘に備えろ。」 「こちら2番砲塔、了解した!」 バルクマン少尉は、緊張で上ずった口調で、口元のマイクに向けてそう返した。 輪形陣右側で発砲炎と思しき閃光が煌めき、その直後、上空に高角砲弾炸裂の光が暗闇の向こうに灯る。 光の明滅は無数に湧き起こっている。 (駆逐艦が高角砲を撃った!いよいよ戦闘開始だな!) バルクマン少尉は内心でそう叫びつつ、緊張を和らげるため、へその下を撫でた。 「射撃指揮所より両用砲へ!敵機約20騎前後が駆逐艦の上空を突破して本艦に向かいつつある!敵編隊は超低空より12騎、高度300メートル ほどから14、5騎だ。両用砲は超低空より接近する敵を撃て!」 「2番砲塔了解!」 バルクマン少尉は観測用ハッチから顔を引っ込め、砲塔内の部下達に指示を伝える。 「敵編隊が向かって来る!目標は超低空より接近する敵騎!恐らく雷撃隊かも知れん、内輪を突破して来たら狙い撃ちにしろ!」 彼はそう伝えた後、再びハッチから顔を出した。 アンティータムの右舷前方800メートルの位置に占位する戦艦マサチューセッツが、右舷の両用砲と機銃を撃ちまくる。 マサチューセッツに習うかのように、右舷後方の重巡ニューオーリンズも両用砲、機銃をここぞとばかりに撃ち放つ。 敵ワイバーン隊の姿は見え辛いものの、高角砲弾炸裂時の閃光で、一瞬ながらもハッキリとした姿を見る事が出来た。 敵編隊は、戦艦や重巡から5インチ両方砲弾や40ミリ弾、20ミリ弾の弾幕射撃を受けて、次々と撃ち落とされていく。 唐突に、ワイバーンが飛んでいた海面で強烈な閃光が煌めき、その直後には派手な水柱が噴き上がった。 撃墜されたワイバーンが海面に墜落した瞬間、腹に抱いていた魚雷に機銃弾か、高角砲弾の破片が命中して大爆発を起こしたのであろう。 敵ワイバーン隊は1騎、また1騎と叩き落とされていくが、それでも9騎程が迎撃を突破してアンティータムに突進してきた。 「撃て!」 バルクマン少尉がすかさず命じる。次の瞬間、2門の5インチ両用砲が火を噴いた。 軍艦の艦載砲としては小さな部類に入る5インチ砲だが、近い場所で聞くとその砲声と衝撃は侮れない物がある。 両用砲の射撃に加え、舷側の40ミリ、20ミリ機銃座も一斉に射撃を開始する。 敵ワイバーン隊は、前方のアンティータムと、後方のニューオーリンズ、マサチューセッツから挟み撃ちにされ、瞬く間に2騎が叩き落とされた。 「更に2騎撃墜!」 射撃指揮所から伝えられるその言葉を聞いて、バルクマンは敵を1騎残らず殲滅出来るかも知れないと思った。 だが、それは甘い考えだった。 「敵ワイバーン急速接近!降爆だ!!」 唐突に、射撃管制官から慌てふためいたような声が流れた。 バルクマン少尉は咄嗟に上空を見上げた。 高度300メートルから接近して来た敵ワイバーンは、全速力でアンティータムに向かっていた。 アンティータムに向けて突撃を開始する頃は、14騎居たワイバーンも、今では7騎に減ってしまったが、それでも竜騎士達は臆する事無く 相棒を突っ込ませた。 暖降下爆撃の要領で接近して来た7騎のワイバーンは、すぐさまアンティータムの機銃に狙い撃ちにされる。 更に2騎が撃墜されたが、あのワイバーン隊に指向出来た機銃は、雷撃隊も同時に相手していることも災いして、思いの外少なかった為、 撃墜できたのは2騎だけであった。 5騎のワイバーンが次々と爆弾を投下する前に、アンティータムは右に急回頭を行った。 5騎のワイバーンは、それぞれ2発の150リギル爆弾を搭載しており、総計で10発の爆弾がアンティータムに降り注いだが、爆弾の大半は アンティータムの左右両舷に降り注いで空しく水柱だけを噴き上げただけに留まったが、最後の3発が連続してアンティータムに命中した。 爆弾が命中した瞬間、バルクマン少尉は体が飛び上がり、背中を砲塔の側壁に打ち付けてしまった。 彼は一瞬だけ気を失い、気が付いた時には、砲塔内に夥しい煙と火災の熱気が籠っていた。 「くそ……一体どうしたって言うん」 彼は最後まで言葉を発せなかった。 唐突に、体が浮かびあがる様な猛烈な衝撃が伝わった。衝撃は、右舷前部から伝わり、非常に大きかった。 彼の体は再び飛び上がり、側壁に体をぶつけてしまった。 その揺れが収まらぬ内に、再び同じような衝撃が伝わり、バルクマン少尉はアンティータムが、海底から現れた巨大な獣に引っ掴まれて、 派手に振り回されているのではないか思った。 揺れが収まると、彼はよろめいた足取りで砲塔の外に歩み出た。 「何てこった……第1砲塔が……!」 彼の目の前には、無残にも変わり果てた第1両用砲座があった。 砲塔は、左半分が大きく破損し、2本あった砲塔は、1本が千切れており、もう1本があらぬ方向に折れ曲がっている。 砲塔の外には、2名の水兵が血まみれで横たわっており、戦死している事は明らかであった。 午後8時15分 ファトグ少佐は、ようやく部隊の終結を終え、帰還の途に付いていた。 「……敵正規空母1隻撃沈確実、1隻撃破。巡洋艦1隻撃破……か。」 ファトグは、洋上ゆらめく炎を見つめながら、自分達が上げた戦果を確認する。 彼が1個中隊を率いて雷撃したエセックス級空母には、右舷側に4本の水柱が立ち上がっており、それ以前に爆弾命中によって甲板上に 火災を起こしていた。 その敵空母は、火災煙を発しながら洋上に停止している。 敵の捕虜から得た情報では、エセックス級空母は爆弾に対する防御力は優れているが、魚雷に対する防御いま一つであり、片側に魚雷が 3本命中すれば致命傷となると伝えられている。 ファトグ隊は、計4本の水柱を確認している。 それに加えて、魚雷を当てた空母は火災を起こして停止しているため、致命傷を負った事は充分に考えられた。 また、別の正規空母にも、魚雷は命中させられなかったものの、爆弾を最低でも4、5発命中させているため、実質的に空母としての 機能を喪失させている。 それに加えて、護衛の巡洋艦1隻にも損傷を与えている。 68騎の空中騎士隊……護衛を除けば50騎程度の飛行隊が挙げた戦果としては、まさに大戦果と言える。 だが、同時に代償も大きかった。 「攻撃前には、50騎は居た攻撃騎が、今はたったの21騎か……やはり、アメリカ機動部隊の攻撃は、死地への旅出も同然だな。」 ファトグ少佐は小声でぼやきながら、生き残りのワイバーンを率いながら、戦闘海域を離れて行った。 そのファトグ隊と入れ替わりに、第601空中騎士隊と602空中騎士隊の攻撃隊はようやく、戦闘海域に到達した。 第602空中騎士隊第2中隊に所属するフェルビ・ジュベルドーナ伍長は、初めての実戦に興奮しつつも、仲間のワイバーンと共に暗い洋上を飛行していた。 「右前方に火災炎を視認!」 第602空中騎士隊の指揮官が、右前方洋上にゆらめく炎を見つけた。 「確か、俺達の前にはベテラン揃いの第501空中騎士隊が居たな。流石は、年季が入っているだけあって、きっちり仕事をこなしている……」 先輩達に続いて、俺達も頑張らないとな。 ジュベルドーナ伍長は、最後の部分は口中で呟いた。 彼は、昨年の9月にワイバーン竜騎士として軍務に付き始めたばかりで、それ以来はずっと、本国で訓練を行って来た。 年は19歳であり、第602空中騎士隊は、指揮官を除く大多数の竜騎士が同じような年齢の者ばかりである。 今回が初の実戦であるため、彼は極度に緊張しているが、訓練通りにやれば必ず、敵艦に魚雷を叩きこめると彼は信じていた。 第602空中騎士隊は、601空中騎士隊と共に順調に進み続け、火災炎を見つけてから20分後には、敵機動部隊まであと10ゼルドの 位置にまで接近していた。 「これより、敵機動部隊に向けて攻撃を開始する!事前の打ち合わせ通り、まだ無傷の空母群から攻撃する。601空中騎士隊はここから 南西の位置にある生命反応を辿れ。602空中騎士隊は、損傷空母のいる空母群のすぐ南に居る空母群を狙う。」 攻撃隊指揮官を兼ねる601空中騎士隊の飛行隊長が、魔法通信で命令を飛ばす。 ジュベルドーナ伍長も、ここで自らの生命反応探知魔法を使って前方の生命反応を探してみる。 彼の脳裏には、前方に大きく3つの生命反応が固まっているのが分かった。 3つの大きな生命反応は、それぞれが5ゼルド程間隔を開けながら航行しているのが分かる。 (こんなに纏まって行動するなんて、敵も馬鹿だな。) ジュベルドーナ伍長は、心中で米機動部隊の指揮官を嘲笑した。 「これより攻撃態勢に入る!」 601空中騎士隊指揮官の新たな声が頭の中に響いた。 その直後、上空から何かの轟音が響いて来た。 ジュベルドーナ伍長はハッとなってその音がする方向を見つめる。その方向は、真っ暗闇に覆われて何も見えない。 彼は素早く、暗視効果のある魔法を発動させ、その音の正体を確かめようとした。 うっすらとだが、真っ暗だった視界が明るくなる。 「あれは……ヘルキャット!」 ジュベルドーナは、驚愕の表情で、自分の目に映った敵機の名を叫ぶ。 上空から急降下して来たヘルキャットは、あっという間の内に602空中騎士隊の編隊に接近し、機銃掃射を仕掛けてきた。 ヘルキャットに狙われたワイバーンは、突然の奇襲に対応できなかったため、一瞬のうちに全身に機銃弾を浴びて撃墜されてしまった。 「敵だ!敵の戦闘機だ!!」 602空中騎士隊の指揮官が、慌てた口調で叫ぶ。 「護衛隊!敵の戦闘機を追い払え!!」 指揮官は、攻撃隊の周囲に張り付いていた、護衛役の24騎のワイバーンに命じた。 24騎のワイバーンは指示に従い、編隊から離れようとするが、その護衛隊に、新たな敵機がやはり急降下で襲い掛かって来た。 今度の敵機もやはりヘルキャットであり、両翼の12.7ミリ機銃を乱射しながら編隊の下方に飛び抜けて行く。 戦闘ワイバーン2機が致命傷を負い、海面に墜落して行った。 それから敵戦闘機とワイバーン隊との間で戦闘が続いた。 この時、602空中騎士隊に襲い掛かった戦闘機は、軽空母ラングレー所属のVFN-91のヘルキャット12機である。 海軍航空隊では珍しく、レスタン人パイロットで編成されたこの夜間戦闘機隊は、機動性にやや難があると言われているヘルキャットを 軽戦闘機のように使いこなし、次々とワイバーンを叩き落として行く。 これに対して、竜騎士の大半が新米であるシホールアンル側は、米夜間戦闘機の猛攻の前に、完全に後手に回っていた。 しかし、それでも数の多いシホールアンル側は、12機のヘルキャットを徐々に押し始めた。 空戦開始から15分後、VFN-91のヘルキャット隊は、1機の喪失も出していないにも関わらず、40機以上のワイバーンに取り囲まれ、 危機的状況に陥っていたが、彼らの運命は未だに決して居なかった。 VFN-91を追い詰めたワイバーン隊を、海兵隊のコルセア隊が側面から突き上げたため、形勢は逆転した。 それに加えて、護衛戦闘隊が全く居なくなった為、他の空母から飛び立ったヘルキャットやコルセアに襲撃され、601空中騎士隊と 602空中騎士隊は、完全に編隊を崩され、バラバラのまま敵機動部隊の輪形陣に突っ込んで行った。 602空中騎士隊は、ようやく米機動部隊の至近にまで辿り着いていたが、この時、56騎は居た攻撃ワイバーンは、今や41騎にまで目減りしていた。 編隊もバラバラであり、敵の機銃掃射で傷付いたワイバーンも少なくない。だが、彼らは新米であるにも関わらず、戦意は旺盛であった。 「やっと……やっと見つけたぞ!」 ジュベルドーナ伍長は、先頭隊の突入で迎撃の対空砲火を放っている米機動部隊を見つめながら、絶叫していた。 彼の第2中隊は、他の中隊と比べて比較的纏まった隊形を維持しながら、米機動部隊の輪形陣に突っ込んで行った。 ジュベルドーナの第2中隊は雷撃班であるため、生き残った9騎のワイバーンは横一列に並びながら、150レリンクの低速で輪形陣の突破を図る。 輪形陣外輪部の駆逐艦が猛烈に両用砲や機銃弾を放って来る。 (これが、敵機動部隊の対空砲火なのか!?) ジュベルドーナは、初めて目の当たりにする敵機動部隊の対空砲火に度肝を抜かされた。 駆逐艦の対空砲火は、1隻が放つ量はさほど多くない物の、思いの外近くで炸裂する両用砲弾や、至近距離ばかりを通り過ぎる機銃弾は脅威である。 また、駆逐艦の数は1隻だけでは無く、6、7隻と多く、しかも陣形の片側を完全にカバーしているため、飛んで来る両用砲弾や機銃弾の数はかなりの物である。 「もっとだ!もっと高度を下げろ!」 第2中隊の中では唯一、実戦経験がある中隊長が、魔法通信を使って部下達に伝えて来る。 高度は20メートルほどしかない。 一瞬でも相棒に間違った指示を送れば、確実に海面に接触するが、中隊長は、これよりも更に下げろと言う。 (無謀過ぎるが……やはりやるしかない!) ジュベルドーナは、相棒のワイバーンに、更に高度を下げろと、繋げた魔術回路を通じて命じる。 唐突に、前方遠くで眩い閃光が煌めく。位置からして、敵の空母か戦艦が居ると思われる方角だが、どの艦に何を命中させたかは判然としない。 だが、ジュベルドーナは、自然に味方部隊が敵艦に爆弾か魚雷を命中させたのだと確信していた。 第2中隊が敵駆逐艦の輪形陣を突破しようとした時、一番右端を飛んでいたワイバーンが対空砲火に撃墜された。 「8番騎の生命反応が消えた!」 ジュベルドーナは後ろに振り向こうかと思ったが、すぐに考え直した。 今は視界が極端に悪い夜間である。 せめて、味方の死に様ぐらいは見ようと思っても、真っ暗闇の中に消えて行く味方騎など、見える筈は無い。 (今は、任務に集中しなければ!) ジュベルドーナは、湧き起こる恐怖感を無理矢理抑え込みつつ、ワイバーンの高度と速度を維持する事に、意識を集中させた。 駆逐艦の陣形を突破した後は、巡洋艦がしばしの間、第2中隊の相手となる。 第2中隊の目の前には、大小3つの艦影が見えている。 3つの影のうち、最先頭を行く影は他の2つよりも形がかなり大きい。 「あれは……見た限りだと、敵の戦艦みたいだが……あれが噂のアイオワ級戦艦なのだろうか?」 ジュベルドーナは、その戦艦が、マオンド戦線で派手に大暴れしたという強力なアイオワ級なのかと思った。 その戦艦はアイオワ級では無く、アラスカ級巡洋戦艦の3番艦トライデントであり、兵装も艦の外見も大きく違っている。 だが、トライデントは、形式上は巡洋戦艦となっている物の、対空火力は5インチ連装両用砲8基16門、40ミリ4連装機銃19基76丁、 20ミリ機銃42丁と新鋭戦艦並みに強力であり、これを片舷だけでも5インチ砲8門、40ミリ機銃10基40丁、20ミリ機銃21丁と、 実に巡洋艦1隻分の火力を敵に使う事が出来る。 トライデントの他にも、後続する巡洋艦カンザスティとガルベストンは、共に新鋭のボルチモア級重巡洋艦とクリーブランド級軽巡洋艦であり、 5インチ砲だけでも最大8門ずつは第2中隊に向ける事が出来た。 3隻の戦艦、巡洋艦が両用砲と機銃を第2中隊に向けて撃ち放つ。 その猛烈な銃砲弾幕の前に、あっという間に2騎が叩き落とされた。 第2中隊は犠牲に顧みず、依然として突進を続け、遂に巡洋艦、戦艦の防御ラインを突破したが、それまでに中隊は3騎に減っていた。 「見えた……敵空母だ!!」 ジュベルドーナは、眼前に現れた敵空母を見るなり、歓喜の叫びを上げた。 目の前を航行している敵空母は、明らかにエセックス級の大型空母だ。 ジュベルドーナは、初陣にしてエセックス級空母を雷撃すると言う、滅多にない機会に恵まれたのである。 「今までに散った仲間の仇だ、腹の魚雷を叩き込んでやる!!」 彼は、かぁっと頭が熱くなるような感覚に囚われながらも、相棒に高度と速度の維持を伝え続ける。 距離は徐々に縮まっていく。敵空母からは、猛烈な対空砲火が注がれてくるのだが、不思議にも1発の機銃弾も命中しなかった。 「ぐぁ!後を頼む!!」 唐突に、魔法通信に仲間の声が聞こえたような気がするが、ジュベルドーナはそれに気を止める事も無く、投下地点まで相棒を前進させる事に 意識を集中する。 魚雷投下までの時間は、意外にも早く感じられた。 敵空母との距離が300グレルに迫った所で、ジュベルドーナは魚雷を投下した。 重い魚雷がワイバーンの腹から離れ、ワイバーンの体が一瞬浮き上がるが、ジュベルドーナはすかさず、相棒に高度を下げろと命じた為、 何とか高度10メートル程を維持できた。 ジュベルドーナは敵空母の右舷後部をかすめるように避退に移った。 至近距離をひっきりなしに機銃弾が駆け抜け、両用砲弾が周囲で炸裂する。 魚雷投下という任務を終えた後、ジュベルドーナはひたすら、米艦艇の猛攻に耐えるしかなかった。 「畜生!こんな所で、死んでたまるか!!」 今までに抑え込んでいた恐怖感が噴き出し掛けるが、ジュベルドーナは何とか抑え続ける。 その時、後方から重々しい爆発音が聞こえてきた。その直後には、何かの誘爆と思しき爆発音と、後方から差し込んで来たオレンジ色の閃光も確認できた。 ジュベルドーナは振り返らなかったが、爆発音からして、確実に敵空母を仕留めただろうと確信していた。 1月16日 午前7時 ヒーレリ領ヒレリイスルィ 第4機動艦隊司令官であるリリスティ・モルクンレル大将は、いつも通り朝7時に起きた後、軍服に着替えて朝食を取ろうと、部屋を 出ようとした時、突然、魔道参謀が血相を変えながら司令官公室に入って来た。 「失礼します!」 「おはよう……って、何かあったの?」 「司令官……ヒーレリ領南西部で、陸軍のワイバーン部隊が、アメリカ機動部隊との間で大規模な戦闘を行った模様です。」 「魔道参謀、それは既に聞いているけど……まさか、戦闘が起こった時間は夜間?」 「はい。」 「ちょ、ちょっと待って。」 リリスティは困惑する。 「ヒーレリ領のワイバーン部隊は、もう航空攻勢に移れるほどの戦力を有していない筈じゃ。」 「攻撃に使われたワイバーン隊は、ヒーレリ領に元々居た部隊ではありません。」 「……!?」 リリスティは、即座に事態の深刻さを悟った。 「そんな……冗談でしょう。」 彼女は頭を抱えてしまった。 「決戦用に用意された部隊を勝手に使ったと言うの?なんて……馬鹿な事を!!」 リリスティは怒りの余り、目の前に置かれていたゴミ箱を蹴り飛ばそうと思ったが、魔道参謀の手前、そうする事も出来ず、 ただ、天井を仰ぎ見るしか無かった。 「ねぇ……決戦部隊を勝手に使ったのは、現地のワイバーン隊司令官なのかな?」 「いえ、現地の司令官は、どうやら命令に従っただけのようです。」 「命令に従った?」 リリスティは魔道参謀に顔を向け、意外だと思わんばかりに目を丸くする。 「と言う事は……命令は、もっと上から出ている事なのね。」 「はい。報告書をお持ちしましたが、ご覧になりますか?」 リリスティは、無言で魔道参謀が持っていた報告書をひったくった。 「どれどれ……15日夜半に、第31空中騎士軍に攻撃を命じる……ハッ。何ともご立派な命令だ事。レスタン領での決戦兵力が、 これでどれだけ減ったのかな……」 彼女は、憎らしげな口調でそう吐き捨てながら、2枚目の紙に視線を移す。 「……え?ちょっと待って。」 リリスティは、急に不審な顔つきになりながら、2枚目の紙をはためかせながら魔道参謀に聞く。 「これはどういう事なの?誤報じゃないの?」 「は……私も最初は、自分の目を疑いましたが……どうやら、嘘ではないようです。」 「嘘じゃ……ない?」 リリスティは、納得がいかなかった。 「ワイバーン220騎を投入して……大型空母3隻撃沈、2隻撃破、戦艦1隻撃破、巡洋艦、駆逐艦各3隻撃破。我が方の喪失、 ワイバーン140騎。」 「ワイバーンの損害が大きいのは非常に痛い事ですが、事実であれば、敵機動部隊は1個空母群が壊滅したと思われます。」 「……昼間の戦闘でも、敵空母を沈めるのは意外と難しいのに、夜間戦闘でこれだけの戦果を上げた……じゃあ、昨年9月の戦闘はなんだったの?」 リリスティは、2枚目の紙を手で叩きながら言う。 「1800ものワイバーンと飛空挺を投入したけど、それでも空母5隻と戦艦1隻しか撃沈できなかったのよ?なのに、レビリンイクル沖海戦よりも 遥かに少ない数で、大型空母3隻撃沈だって?魔道参謀、あたしはハッキリ言う。」 リリスティはそう言いながら、魔道参謀に2枚の紙を押し付ける。 「今後、幾度かヒーレリ領沖で戦闘があるかもしれないけど、それに関係する、本国からの情報は余り信用しなくていい。」 「え?しかし……」 「冷静に考えて。視界の悪い夜間と、新米ばかりのワイバーン隊。この2つが合わされば何が起こるかは、ベテランのワイバーン乗りなら必ず分かるわよ。」 リリスティは魔道参謀に言いながら、過去に自分が犯した失敗を思い出す。 「あたしも経験がある。だから、この件に関しては、なるべく信用しない事ね。信用したとしても話半分……いや、話一割と考えた方が、丁度いいかもね。」 彼女はそう苦笑した後、ゆっくりとした足取りで司令官公室から出て行った。
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<verse1> ナイと思いつつ話せば一人 ムキになっちゃって揚げ足取り 反比例、口は何故アイロニー 歩く道歩く道果てなき通り雨 に打たれ情緒不安定 笑顔のフリしてちょっと辛くて アプローチ虚しく七転八倒 こんなすれ違い二次元かもね 「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 知らずに溜息ついた授業中 自分じゃ言わず誘いだけ待って 結局別れ後になってバッテン 友達はずっと貫き通す でも「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 "キリがないから" どうせ "しょうがないから" もう、そういう事でいいよ <hook> 絶対にそんな事はナイ? 言いながらも涙まじりの心は曇ってて 別にそれぐらいはマシって いつもダマしダマし 多くなる句読点 でも今は笑って君へのファンファーレ <verse2> 笑って過ごした登下校 でも別れた後はなんか寂しくて 呆れた顔して世話焼いちゃうけどそういう日々がかけがえない 「上手くいかない時もあるよ」なんてふらついた足の帰路確保 プラスマイナス0でいいんだよ?100%なんて望んでないけど 「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 神様頼み期待して勝負 半ば諦め素通りのつもりで 結果「やっぱり」涙つもり積もっていく さだめ割り切りクラス移動する でも「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 "別にいいけど" どうせ "分かってたけど" もう、そういう事でいいよ <hook> 絶対にそんな事はナイ? 言いながらも涙まじりの心は曇ってて 別にそれぐらいはマシって いつもダマしダマし 多くなる句読点 でも今は笑って君へのファンファーレ 絶対にそんな事はナイ? 言いながらも涙まじりの心は曇ってて 別にそれぐらいはマシって いつもダマしダマし 多くなる句読点 でも今は笑って君へのファンファーレ 原曲「柊かがみ / 100%ナイナイナイ」 Lyric by らっぷびと Mixed by らっぷびと
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<verse1> ナイと思いつつ話せば一人 ムキになっちゃって揚げ足取り 反比例、口は何故アイロニー 歩く道歩く道果てなき通り雨 に打たれ情緒不安定 笑顔のフリしてちょっと辛くて アプローチ虚しく七転八倒 こんなすれ違い二次元かもね 「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 知らずに溜息ついた授業中 自分じゃ言わず誘いだけ待って 結局別れ後になってバッテン 友達はずっと貫き通す でも「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 "キリがないから" どうせ "しょうがないから" もう、そういう事でいいよ <hook> 絶対にそんな事はナイ? 言いながらも涙まじりの心は曇ってて 別にそれぐらいはマシって いつもダマしダマし 多くなる句読点 でも今は笑って君へのファンファーレ <verse2> 笑って過ごした登下校 でも別れた後はなんか寂しくて 呆れた顔して世話焼いちゃうけどそういう日々がかけがえない 「上手くいかない時もあるよ」なんてふらついた足の帰路確保 プラスマイナス0でいいんだよ?100%なんて望んでないけど 「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 神様頼み期待して勝負 半ば諦め素通りのつもりで 結果「やっぱり」涙つもり積もっていく さだめ割り切りクラス移動する でも「なんで」「どうして」浮かぶ疑問符 "別にいいけど" どうせ "分かってたけど" もう、そういう事でいいよ <hook> 絶対にそんな事はナイ? 言いながらも涙まじりの心は曇ってて 別にそれぐらいはマシって いつもダマしダマし 多くなる句読点 でも今は笑って君へのファンファーレ 絶対にそんな事はナイ? 言いながらも涙まじりの心は曇ってて 別にそれぐらいはマシって いつもダマしダマし 多くなる句読点 でも今は笑って君へのファンファーレ
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第二次大戦後の東西対立といったそれこそ世界中を巻き込んでの大掛かりなウソといっても差し支えのない時代があった。 特に欧州に限ってとなるが東といえば共産圏で赤である。 しかしいわゆる資本主義圏の西側の色は何か決まっていただろうか。 赤の反対だから青だったか。そんな諸説はきいたことがない。ではいわゆる白か。そんな諸説もきいたことがない。 つまり一応どころかバリバリその資本主義圏とやらにて生きてきた私達のほぼ全てが色があったのか。そんな野暮な疑問符はこの文に一度たりとて疑問符を用いない以上抱いてはならないのかもしれない。