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モビーディック級 異層次元を航行する機能を有した汎用浮遊艦を指す。 着水・着陸はもちろん、宇宙空間や異層次元内でも問題なく運用できる。 イクリプスミッションにおいてATLASに次ぐ要。異層次元航行艦はもっぱらこの規格で作られている。 スズリが所属している部隊の艦の名は『イザヨイ』。
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A.D. 2043宇宙空間機動計画。機体開発プロジェクト発足。 計画名「RX-プロジェクト」リーダーは、ジム・クライアント博士。 2045汎用作業機械にR-エンジン3型TYPE-3を搭載。高出力慣性制御に問題。 2047推測停止プログラムを変更。 12個の機体安定用ロケットモーターを16個に増設し搭載。 RX-T1通称スケルトンが完成。その名の通りこの機体はテスト用のため外部装甲は無くまったく粗末なものであった。 2048 RX-T1を改良。外装を追加し、実用テストのため日本の宇宙ステーション「さくら」に試験投入。 2051 RX-T1実用化。正式名称R-1a。名称の頭文字 R はキャノピ-の形状(ラウンド)とプロジェクト名から引き継ぎ命名された。 2055新規格のRX-T2の開発に着手。 2063R-1は様々なマイナーチェンジによりR-1a~R-1j まで作成された。 2065 MMU(有人機動ユニット)の基礎技術統一化にともないR-1シリーズの製造を中止。 2067 R-2(RX-T2ベ-ス)シリーズ実用化。規格化によりMMU一般化する。 2075 R-エンジン双発化(RW-3型エンジンTYPE-1)のためR-2シリーズはR-2dまで製造されR-3シリ-ズに継承される(ユニットはMMU規格により互換性あり) 2083 R-3シリ-ズ実用化。双発エンジンにより高機動化を実現。 2088 R-ユニットの掘削作業用低出力力場解放型波動砲の開発に着手。 2098新理論に基づき開発作業が進められていた異層次元探査艇がロールアウト。 2102異層次元探査艇「フォアランナ」超長距離航行に出航。帰還予定は2120年6月27日。 2103 R-エンジンを小型化し外装内におさめる事に成功。低出力小型エンジン(RS-3型エンジンE-UNIT)完成。 2104 E-UNIT装備のR-4シリ-ズ実用化。 2108低出力力場解放型波動砲完成。特殊作業艇R-5シリーズの開発に着手。 2112探査艇フォアランナ航行座標からの特種生体エネルギー反応をキャッチ。異層次元でエネルギーの増殖を確認。 2115低出力波動砲アステロイドバスター装備のR-5シリ-ズ実用化。 (波動砲標準装備のため基本的には一般への供給はされなかった) 2120異層次元艇フォアランナ、超束積高エネルギー生命体「バイドの切れ端」を採取し帰還する。 2121対バイドミッション発令。対バイド兵器は選考の結果、R-シリーズに決定した。 2122 R-シリ-ズ兵器開発のため汎用型の製造はR-5fで中止となる。 2123高出力波動砲装備の無人テスト機(RX-6)開発に着手。 2125超束積高エネルギー生命体兵器化計画立案。木星の研究施設で開発が進められる事になった。 2127従来の波動砲に力場解放ブーストを追加したRX-6がテストに入る。 2129テストの結果、力場ブーストにエネルギーを供給する瞬間、力場に高負荷がかかりエネルギーのベクトルが不安定になる事が判明。レギュレーターを追加。 2134木星ラボからの通信が途絶える。 探査艇「スカイホープ」が調査の結果、直径6mの高エネルギー体「バイドの切れ端」を中心にラボを含む空間が半径3万mにわたり消失しているのを発見。エネルギー体を採取し帰還する。 2136高出力波動砲装備有人テスト機R-7ロールアウト。 2141超束積高エネルギー生命体の制御に成功(フォース) 2143有人機R-7(パイロット ミコヤン・グレゴビッチ大佐)によるフォースの実用化試験に失敗。 フォースを後方に装備し波動砲を使用した所、力場安定用レギュレーターが異常加熱。 エネルギーの蓄積座標が後方に引っぱられ閃光とともにR-7は蒸発してしまった。 エンジンがE-UNITだったために回避するのには出力不足だったのである。 フォースは無傷で回収された。 2144人工フォースの開発に着手(ビット) 2147 R-エンジン3型TYPE-4を3基及びE-UNITを2基搭載した無人機RX-8完成。 2151 RX-8波動砲テスト良好。フォースの実用化試験完了。 2153RX-8の有人実用化(R-9)の開発が決定。 2154高出力力場解放型波動砲完成。 R-5シリーズの波動砲から61年経ち最終的に算出された出力データは低出力波動砲の5.7倍にもなった。 2160エネルギー生命体の人工的実体化に不安定ながらも成功。 2162低出力波動砲装備高機動巡回機「プロトタイプR-9」ロールアウト。 2163ザイオング慣性制御で艤装、高出力波動砲を装備し武装強化した「R-9」ロ-ルアウト。 ★第一次バイドミッション:R-9大隊により地球初の異層次元戦闘が行われる。 【R-TYPE】 ★エデン・パラドックス:ほぼ同時期、平行次元において完成した人工天体 エデン が暴走を開始。 鎮圧のために投入された機体は R-9(LEO) (誕生日戦争~バースディ・ウォー) 【R-TYPE LEO】 2164 1月 パイロットの神経系から直接信号を読み取り機体制御や攻撃を行うサイバーインターフェイスの対人実験開始。 ★デモンシード・クライシス:地球において何らかの原因により落着した「バイドの種子」により、巨大兵器の暴走事件が発生。 鎮圧にあたったのは軍ではなく、民営の武装警察。 使用された機体は R-11 【GALLOP】 ★サタニック・ラプソディー:同時刻、幾つかの都市で電子制御兵器暴走。 要塞に封印されていた殲滅ユニット・モリッツGの地上への投下確認。 第一級非常態勢となり、テスト機であるR9aII deltaまでもが作戦に駆り出された。 【R-TYPE⊿】 2165★第二次バイドミッション:異層次元において再生を始めたバイドの反応を受信。 ただちに殲滅に向かう。使用機体はR-9の直系アッパーバージョン「R-9カスタム」。 【R-TYPEII】 2167バイド太陽系戦線。太陽系外周においてバイド攻撃体が確認される。最新鋭の「R-9S」が応戦するも全滅。 2169★第三次バイドミッション:R-9カスタム直系アッパーバージョン R-90(ゼロ) ロールアウト。 OPRETION CODE-THIRD LIGHTNING 発動。 【R-TYPEIII】 ……2XXX★ラスト・ダンス:戦いに終止符を打つべく、対バイド最終兵器開発に着手。 作戦名 Last Dance 発動。 【R-TYPE FINAL】
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振動。 出撃シークエンスの起動を告げる機械音声と共に、重力偏向カタパルトへと機体の運搬が開始される。 機体下部の磁力固定装置もそのままに、パイロット・インターフェースを通じて視界内へと直接投射される外部映像が、全体的に上方へと移動。 オートリフトが下降を始め、然して間を置かずに水平移動へと移行した。 リフトには機体の物理的固定を行う機構も搭載されてはいるのだが、出撃シークエンス時には磁力固定のみを用いるのが慣例となっている。 正規のシークエンスでは、リフトがカタパルト内に到達・停止した時点で両固定装置が解除される事となっているのだが、実際には各艦独自にプログラムの改変が為され、物理固定装置のみがパイロット・インターフェースの接続と同時に解除されるよう再設定されていた。 これはパイロット達の要請を他の乗組員達が受け入れた事により実現されたものであり、今では司令部ですら黙認せざるを得ない不文律と化している。 出撃シークエンス実行時に於ける、敵性体からの攻撃。 それによって致命的な損傷を受け艦の動力が停止、若しくはバイド汚染体による艦体への侵蝕が開始された場合、艦内に固定されたままのR戦闘機群は、脱出すら不能なまま艦と運命を共にする事となる。 跡形も無く吹き飛ぶのならば未だしも、R戦闘機群が汚染されバイドと化すなど、悪夢以外の何ものでもない。 よってパイロット達は、物理固定を解除しての出撃シークエンス実行を要求した。 磁力固定の場合、物理固定とは異なり、非常時には強制的にシステムが解除される。 つまりR戦闘機群は、艦内にてその束縛を解かれる事となるのだ。 その後にパイロット達がする事はひとつ。 「脱出」である。 R戦闘機群は艦体を内部より破壊し、外部空間へと脱出する。 宛ら内部捕食性寄生体の如く、宿主たる艦の外殻を食い破り、その生命を奪いつつ自らを襲う脅威から逃れるのだ。 無論、そんな事を実行すれば艦内の人間は全滅するであろうし、非常用固有動力にて稼動しているであろう各種センサーが艦体の損傷拡大を察知すれば、汚染を避ける為に非常処理プログラムを発動させるだろう。 艦内に存在する全ての核弾頭が強制介入により起爆シークエンスを発動させ、20秒後には人工の恒星が誕生する事となる。 パイロット達は独自の判断で、核爆発の範囲外へと離脱を図るのだ。 自爆行動に核を用いるのは、とある艦載兵器を確実に破壊する為である。 「次元消去弾頭」。 単発にて恒星系に匹敵する極広域空間消滅を引き起こし、小規模異層次元ならば数百発、極大規模異層次元であっても数千発を一斉起爆させれば、当該次元そのものを完全に消滅させる事すら可能とする、対異層次元汚染空間破壊用戦略兵器。 22世紀の地球人類が生み出した、バイドに次ぐといっても過言ではない、最悪の大量破壊兵器。 当然ながら、バイドはこの兵器の存在のみならず、その技術理論すら把握しているだろう。 26世紀に於いて、バイドそのものを異層次元の果てへと放逐した兵器こそ、この次元消去弾頭なのだから。 しかし22世紀の地球では、既に完成されていたこの兵器理論に対し、更にR戦闘機群の開発途上にて得られた数々の技術を導入。 結果としてこの兵器体系は、高位空間構造の破壊による対象の異層次元への強制転送のみならず、空間そのものの破壊による対象の完全消滅を可能とするに到った。 その結果に、軍は狂喜したものだ。 新型弾頭はすぐさま実戦運用され、バイド汚染星系を丸ごと消去するという、当初の想定を上回る戦果を齎した。 終わりの見えない対バイド戦線に僅かな希望を見出した軍は、汚染の確認されている複数の異層次元に対し、計27000発もの次元消去弾頭を投入、それらの空間を跡形もなく消滅させる事に成功。 しかし此処にきて、複数の異層次元の消滅による広域空間汚染を隠蔽、意図的に無視していた代償が回ってくる事となる。 各異層次元の位相特定不能、太陽系を含む通常空間内に於ける航法すら覚束ないまでの多重空間歪曲同時乱発生。 カイパーベルト内資源採掘コロニーを目指す輸送船団は木星重力圏内へと偶発転送され地表へ衝突し、M45・プレアデス星団域中継ステーションは至近距離に転送された恒星中心核により蒸発。 太陽と地球のラグランジュポイント・L1に存在したリヒトシュタイン都市群は、都市を構成する14基のコロニー全てが突如として発生した空間歪曲により異層次元へと取り込まれ、内6基・9000万もの住民及び防衛艦隊がバイド汚染、 2年後に第8異層次元航行艦隊により発見・殲滅される事態となった。 極め付けは、第3深宇宙遠征艦隊がM33にて使用した2発の次元消去弾頭の内1発が、空間歪曲により地球と月のラグランジュポイント・L4へと転送された事件だ。 227基のコロニー群から僅か2000kmの地点に出現した、既に起爆シークエンスを起動した次元消去弾頭。 出現から7分後、弾頭はR-9Dの小隊による地球軌道上からの波動砲一斉射により破壊され事なきを得たが、この事件が地球文明圏に与えた衝撃は大きかった。 すぐさま弾頭の使用を規制する法令が組まれ、しかし艦隊司令に於いては独自の判断に基づく使用を許可するとの決定が下されるに至る。 以降、弾頭使用時には、入念な調査とシミュレーションが義務付けられる事となった。 第19世代量子コンピューター8基を用いてなお、完了までに15分もの時間を要する程の、桁外れの情報量でのシミュレートを行うのだ。 空間消滅の余波が他の異層次元へと及ぼす影響を徹底的に洗い出し、太陽系を含むオリオン腕への空間汚染が発生しないと確認された時点で初めて、弾頭起爆シークエンスが起動可能となる。 それ程までに危険で、正に破滅的としか云い様のない兵器が、新たに22世紀の地球が生み出した次元消去弾頭であった。 しかし弾頭の実用化から3年後、第三次バイドミッション終了直後に、とある事実が発覚する。 次元消去弾頭は、バイドに対し有効たり得ない。 31もの星系を破壊し、50を超える異層次元を消滅させた結果として導き出された答えが、それだった。 考えてみれば当然の事だ。 26世紀の地球は既に次元消去弾頭を開発していたにも拘らず、何故バイドという惑星級星系内生態系破壊兵器を創造したのか? 銀河系中心域に確認された、明らかに敵意を持った外宇宙生命体との接触に備えて建造されたという事実は、回収されたバイド体を調査する中で判明していた。 しかし何故、彼等はその「敵」に対し、次元消去弾頭を用いなかったのか? その答えは、異層次元にて大量に拿捕された、26世紀の地球に於ける汎用巡洋艦「マッキャロン級」管制のログから判明した。 彼等は「使わなかった」のではなく、「使えなかった」のだ。 地球人類は外宇宙の脅威に対してではなく、同文明圏内での国家間戦争に於いて、無数の異層次元に亘り数十万発もの次元消去弾頭を使用、既に取り返しが付かないまでの空間汚染を引き起こしていた。 それこそ最早、たった1発の次元消去弾頭の使用で、銀河系を含む通常空間全域が崩壊するまでに。 22世紀と同様、炸裂時に発生する空間汚染を意図的に無視し、無思慮に使用を続けた結果がそれだった。 だからこそ彼等は、次元消去弾頭に代わる局地限定殲滅兵器を必要としたのだ。 それだけ大々的に弾頭を使用すれば、当然ながら「敵」もそれを観測し、同等の兵器を開発・配備していたであろう。 即ちバイドには建造当初から、対次元消滅回避機能が搭載されていた。 26世紀に於いては、80時間にも亘る核兵器及び波動兵器の波状攻撃を受け、機能基幹部に障害が生じた際を狙っての次元消去弾頭使用により、強制的に空間歪曲の彼方へと葬られたが、正常であれば大規模空間変動を感知した時点で他の異層次元へと空間跳躍を実行していた筈だ。 22世紀に於いて開発された次元消去弾頭は、26世紀のそれと比較し更に破滅的なものと化しているが、それでも数度の使用を経て解析され、新たに対処機能が備わっている事は間違いない。 次元消去弾頭は、汚染空間の破壊については極めて有効であるが、異層次元航行能力を持つバイド体そのものを排除するには、余りに相性の悪い兵器だった。 それはR戦闘機を初めとする、異層次元間移動を容易に実行する兵器群に対しても同様であり、それらに対する弾頭の使用が為されたとして、他の異層次元への退避、または弾頭そのものの破壊など、容易に対処される事は明らかである。 昨今の対バイドミッションに於ける地球文明圏及びバイド、両勢力にて運用される兵器体系のほぼ全てが異層次元航行能力を備えている事もあり、次元消去弾頭の戦略的価値は益々低下する一方であった。 しかし極広域空間破壊という、対バイド汚染生態系ミッションに於いてはこれ以上ない程に適した特性を有する事もあり、当然ながら軍がその技術を手放す事を良しとする筈もない。 結局、汚染生態系の完全破壊を目的とし、各艦隊は弾頭の独自運用権を与えられるに至った。 R戦闘機群により敵主力及び大規模汚染生命体を殲滅し、後に次元消去弾頭により作戦領域そのものを消滅させる。 それが現在の対バイド戦線に於ける基本戦略であり、事実、第三次バイドミッション「THIRD LIGHTNING」終了直後、最終作戦領域となった電界25次元に対し軍は40発の次元消去弾頭を投入、当該次元を完全に破壊した。 異層次元航行能力を持たない大多数の汚染生命体、そして汚染状況下に於いて形成された特異環境に対する殲滅・破壊行動に当たって次元消去弾頭は、最大の効率で以って最大の戦果を上げる事のできる、最良の兵器としての地位を確固たるものとしているのだ。 因みに、バイド殲滅の為とはいえ、深刻な空間汚染状況下に於いて次元消去弾頭を使用した26世紀の地球文明圏が如何なる結末を迎えたのかについては、未だ明らかになってはいない。 否、判明しているのかもしれないが、少なくとも公表されてはいないのだ。 真相がどうであれ、バイド消失から2週間後のログを最後に、26世紀に於ける地球文明圏についての記録は途絶えている。 それ以降のログを持つ存在が回収されたという記録は、一切存在しない。 「敵」が確認されたという銀河系中心域についても調査が為されたが、汚染された26世紀の地球軍艦隊とバイド生命体以外には、特にこれといった発見も無かった。 既にバイドによって侵蝕されたのか、それとも初めから何も無かったのか。 真相は、今や闇の中である。 そして皮肉な事に、地球文明圏の殲滅を目的とするバイドが、解析した技術理論で以って次元消去弾頭を製造・使用する事は、決してない。 空間汚染を回避しつつ「敵」を殲滅せんが為に建造された生態兵器は、自身が極広域空間汚染を用いての侵蝕・殲滅を実行する存在と化した今なお、自己戦略に基づく次元消去弾頭の使用が「バイド」という兵器の存在意義を脅かすものとする、 26世紀に於いて基幹部へと組み込まれたプログラムを打破できずにいるのだ。 それは22世紀の地球にとっては幸運な事であったが、しかし何時破られるとも知れない制約であった。 よって、軍はバイドによる弾頭の奪取を防ぐ為、各艦艇に非常処理プログラムの搭載を義務付けたのだ。 近隣、または同一異層次元内に於ける、救援可能な友軍艦艇の不在。 艦艇指揮官による非常プログラム実行許可。 シミュレーションに於ける、状況離脱可能率15%未満。 その他、複数の条件が満たされた状況下に於いて、非常処理プログラムは核弾頭のシステムへと強制介入、起爆シークエンスを起動。 艦体汚染状況下ではプロセスは更に簡略化され、侵蝕率が40%を上回るか、動力炉もしくは中枢防御ラインへの侵蝕域到達を以って、弾頭の即時起爆を実行する。 そしてその際、艦艇内に存在するR戦闘機群は艦体を破壊し、独自に脱出を図るのだ。 この非情とも云える決定に対し、異議を唱える声はごく僅かだった。 それすらも外部の人間より発せられたものであり、軍内部からの反発は皆無。 当事者たる艦艇乗組員ですら、当然の決定として非常プログラムの搭載、そしてパイロット達の要請を受け入れた。 彼等にしてみれば、バイドとの交戦状況下に於いて艦を失うという事態はそのまま、自らの生存が絶望的なものとなる事を意味しているのだ。 脱出艇に乗り込もうが、最小限の武装しか搭載していない小型艇では、異層次元での生存確率は極めて低い。 それどころか、艦体汚染状況下であれば脱出自体が不可能であるか、そうでなくとも脱出直後に汚染される可能性が非常に高い。 どのみちR戦闘機だけでも脱出させる事が、当該状況下に於いて最も合理的な選択なのだ。 反発する理由など、何処にもありはしない。 尤も、非常処理プログラムの実行、そしてR戦闘機群による脱出行動を上回る速度にて侵蝕が進む例も多く、既に20を超える艦艇の完全な汚染が観測されている。 結局はこの決定も、遅きに失した対策であった。 『558、559、出撃完了。608、609、第4カタパルト到達』 『609、聴こえるか』 オペレーターから通信。 パイロット・インターフェースを通じて投影される複数のウィンドウを閉じ、彼は肉声で以って答えを返す。 「こちら609、感度良好」 『609、パイロット・インターフェースに異常は無いか?』 彼の視界の端に一瞬、赤い光が点った。 オートチェック・プログラム。 1秒にも満たない内に消えたそのウィンドウに表示された情報を、彼の脳は完全に読み取っている。 「問題ない、オールグリーン」 『609、その機体は以前のものとは違い、パイロットに対し処理面での多大な負担を掛ける。繰り返すが、ドースが80%を超え次第、B-303回路を遮断しろ』 「了解」 視界が開けると同時、機体は遥か前方へと延びる重力偏向カタパルトの内部にあった。 青い光を放ちつつ点滅を繰り返す無数の誘導灯が、機体を射出口の先に拡がる空間へと誘う。 『なお、出撃と同時、貴機は609のコールサインを解かれ、正式に単独遊撃機としてのコールサインを与えられる。任務を復唱せよ』 「惑星級人工天体内部に侵入、第88民間旅客輸送船団及び資源採掘コロニー「LV-220」までの侵入経路を確保。機動強襲連隊の侵入を以ってヨトゥンヘイム級「アロス・コン・レチェ」の座標特定及び次元消去弾頭の捜索・破壊へと移行」 『確認した。609、スタンバイ』 視界内に変化なし。 しかし機体後方より重力が加わり、ウィンドウの表示が次々に赤く染まる。 キャノピー内に外部からの力学的影響が伝わる事はないが、インターフェースを通じて機体と一体化していると云っても過言ではないパイロットにとっては、背後から突き飛ばされるかの様な不快感だ。 前回の出撃時に大破した愛機に代わり、新たに与えられた「R」。 数少ない生産機数の内1機がこの艦隊に配備されていたのは、正に奇遇としかいい様がない。 任務の傍らに実戦データを収集するべく配備されたのであろうが、元々「TEAM R-TYPE」に対し協力的とはいえないこの艦隊の事。 実際に運用される事もなく、長らくハンガーの一画を占有しているだけであった。 しかし、機体を失った彼が新たな乗機を求めた際、使用可能な機体はそれ以外に存在しなかった。 愛機の正当な後継機に当たる機体であるとは聞き及んでいたものの、碌にデータの蓄積も行われていない新型機で以って戦場へと舞い戻るのは気が進まなかったが、他に選択肢はない。 渋々ながら習熟訓練を開始し、しかし数日後にはその異常な性能に愕然としたものだ。 あらゆる面での性能が嘗ての愛機を凌駕し、しかもフォースまでが、それまでの常識では考えられないまでの総合性能を有していた。 通常の設計思想では有り得ない、良く言えば斬新、悪く言えば非常識な機体。 単独殲滅戦以外の用途など、とてもではないが考えられない過剰性能。 周囲の被害を顧みる事なく、只管に純粋な破壊のみを目的とした狂気の存在。 数度の実戦を経て、パイロットたる彼が下した評価は「正気じゃない」。 R戦闘機に対する評価としては、最大級の賛辞だった。 『609、射出』 「GO」との表示と共に、機体が爆発的な加速を開始する。 数瞬後、視界がカタパルトを後方へと置き去りにし、新たに通常宇宙空間にも似た隔離空間内の天体を映し出した。 メインノズル点火。 爆発的な推進力を得て、漆黒の機体が更に加速する。 進路変更。 木星の8倍以上の規模を持つ人工天体、地球文明圏・管理世界の両勢力艦艇及び、無数の巨大施設の残骸が集合して形成された、隔離空間内に浮かぶ鋼鉄の墓場。 無数の救難信号を発するそれらの中には、管理世界への侵入直前に消息を絶った第88民間旅客輸送船団と、メインベルトにて消失した資源採掘コロニー「LV-220」、木製軌道上にて消息を絶ったヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦「アロス・コン・レチェ」も含まれていた。 本来ならば核攻撃により纏めて殲滅したいところなのだが、万が一にも生存者が存在する可能性を無視する訳にもいかず、R戦闘機群による強行偵察及び侵入経路の確保を実行する事となったのだ。 そして生存者が確認されれば、後は機動強襲連隊の役目である。 閉鎖空間での戦闘に特化した彼等が生存者の救助に当たり、要救助者の確保、または全滅の確認を以って、R戦闘機群はアロス・コン・レチェの捜索・破壊任務へと移行。 彼はその先鋒として、他の数機と共に人工天体内部へと侵入するのだ。 『警告。隔離空間外縁部、時空管理局艦隊接近。総数204』 『ロック・ローモンドより全機、浅異層次元潜行開始。管理局艦隊との接触は避けろ』 艦隊からの警告。 すぐさま機体を浅異層次元へと潜行させ、管理局艦艇のセンサー網を回避する。 潜行開始の一瞬、キャノピー外の光景が揺らぐが、間を置かずにシステムが揺らぎを修正、視界が正常化された。 機体は空間位相をずらし、通常異層次元空間からの探知は不可能となる。 正確には、異層次元航行能力を持つ存在ならば探知は容易なのだが、管理局艦艇が有する技術は同一異層次元内での通常航行能力のみ。 こちらから彼等を探知する事は可能だが、彼等がこちらを探知する術はない。 隔離空間へと接近する管理局艦隊の表示を眺めつつ、彼は魔導師と呼称される存在、その中でも特定の人物についての思考へと沈む。 管理局によって拘束されたパイロット達より齎された情報、その中から判明した3人の名前。 フェイト・T・ハラオウン。 ティアナ・ランスター。 ユーノ・スクライア。 彼の愛機と交戦し、これを大破せしめた3人。 意図的ではないにしろフォースを暴走させ、結果として「デルタ・ウェポン」によるドース解放を行わざるを得ない状況へと追い込んだ、魔導師と呼称される先天的特殊能力保有者達。 できる事ならば、二度と遭遇したくはない。 デコイ・ユニット顔負けの幻影を意のままに操る少女、R戦闘機を空間固定せしめる程の強度を誇る魔力鎖を自在に発生させる青年。 そして何より、大威力の砲撃と拘束誘導操作弾を乱発する、あの女性の姿を模った「人工生命体」。 情報によれば「あれ」は、遠距離に於いては雷撃を操作し、中距離に於いては高機動射撃戦を展開し、近距離に於いては大鎌の形態を取る固有武装を以って格闘戦を行う、正しくマルチロール・ファイターとも呼ぶべき「性能」を有しているという。 艦内では、その漆黒に近い濃紺青の服装も相俟って、嘗ての愛機を人型にした様なものだと言われた。 正しく同感だが、だからといってもう一度会いたいかと問われれば、答えは否だ。 態々、好き好んでそんな物騒な存在と戦り合う馬鹿は居ない。 警報。 目標天体まで30秒。 インターフェースを通じ、彼は周囲の汚染係数を確認する。 「15.28」。 明らかな異常値だ。 考えたくはない事態だが、やはりこの天体内部にバイド中枢が存在するのだろうか? 僅かな諦観を含みつつ、彼は艦隊へと目標到達を告げる。 新たな機体識別名称、そして2度目の使用と共に正式なものとなった、自身のコールサインと共に。 「「R-13B CHARON」、コールサイン「ベートーヴェン」、目標到達。侵入を開始する」 * * 「艦体外部圧力上昇、空間歪曲境界面突破まで20秒」 「バイド汚染係数、なおも増大中・・・魔力炉心への干渉なし。「AC-51Η」、魔力増幅中。システム内バイド係数、1.72」 ブリッジクルーからの報告を耳にしつつ、クロノは火器管制機構へと鍵を差し込む。 実体化した立方型プログラムが赤く染まり、戦略魔導砲アルカンシェルの発射準備が整った事を示した。 「境界面突破まで10秒」 「総員、衝撃に備えろ」 クロノの指示が飛んだ数秒後、艦体を僅かな衝撃が揺さ振る。 瞬間、暗黒に包まれていた外部映像が恒星の眩い光に覆われ、恒星を除く41の自然天体と1つの人工天体が、各種センサーへと捉えられた。 連絡を絶った各管理世界、そして無数の人口建造物により形成された不明天体だ。 「空間歪曲面突破。全艦艇、隔離空間内に侵攻」 「増速、第4戦速。各支局艦艇の目標点到達は?」 「各支局艦艇、目標点到達まで170秒」 管理局史上、類を見ない大規模艦隊行動。 総数204隻もの次元航行艦艇による、単一目標に対する一大攻勢作戦。 その第一段階が、魔力増幅機構による出力強化を以って実行される、各被災世界への長距離転送だった。 送り込まれるのは、4000名を超える魔導師により編制された攻撃隊。 彼等は500名ずつ、同時に8箇所の被災世界へと転送される。 主に人口密集地を中心に生存者の捜索を行い、捜索後は転送ポートが使用可能ならば、目標座標を支局艦艇に設定、脱出。 ポートが機能しなければ、艦艇による回収を待つ事となる。 これを繰り返し、41の世界に存在する生存者の救助を終えた後、バイド中枢の捜索・鎮圧・確保へと移行するのだ。 その間、他の艦艇は汚染艦隊を相手取り、大規模艦隊戦を繰り広げる事となる。 艦艇用大型魔力増幅機構「AC-51Η」による魔力炉心出力増大により、アルカンシェル本来の設計時想定運用が実行可能となった事を受けての決定である。 「支局艦艇、目標点到達。転送開始まで120秒」 8隻の支局艦艇、巨大な花弁の様なそれらが前進を止め、周囲に高出力防御結界を展開。 艦内より攻撃隊の長距離転送を行うべく、炉心出力の全てを防御結界と転送魔法機構へと回しているのだ。 攻撃隊には、旧機動六課の面々も含まれている。 現在も生死の境を彷徨い続けるシグナム、そして第61管理世界にて消息が絶たれたままのエリオとキャロ、以上3名を除く隊長陣及びフォワード勢が、自らの意志により攻撃隊へと志願したのだ。 更には、破壊されたクラナガン西部区画、今では「第9・第10廃棄都市区画」と呼称されるその地での救助活動による功績を認められたナンバーズの面々が、やはり自らの意志で以って攻撃隊へと志願。 上層部としても、もはや出し惜しみをしている状況ではないと判断、彼女達の志願を受理した。 これが通常の任務であれば彼女達だけでも過剰戦力であろうが、今回の攻勢作戦に於いてはAランクオーバー1384名、Sランクオーバー53名と、異常極まる戦力が投入されている。 未だバイドが如何ほどの敵か判然とはしていない事、そして何よりR戦闘機群との交戦状態に陥る事態を想定しての判断だろう。 旧機動六課勢及びナンバーズの初期転送目標は、フェイトとティアナ、ヴァイスとディエチが第61管理世界、なのはとスバル、ギンガとノーヴェが第75管理世界、はやてとヴォルケンリッターが第122管理世界、残るナンバーズが第164観測指定世界となっている。 第61管理世界はその特異性の高い生態系から、優先的な救助活動及び汚染調査が必要とされ、他の世界に関しては人口が多い事から、残る4箇所の世界よりも優先的に高ランクの魔導師が多数配備されていた。 やがて、各支局艦艇より通信が入る。 攻撃隊は転送の準備が整い、後はプログラムの発動を待つばかりとの事だ。 安堵に微かな息を吐き、クロノは火器管制機構に差し込んだままの鍵から手を離した。 攻撃隊転送までの時間表示が、刻々とその数値を減らしゆく。 そのウィンドウを見やるクロノの耳に、奇妙な声が飛び込んだ。 「・・・何、これ?」 この場にそぐわない、小さな呟き。 ブリッジクルーの1人へと目を向けたクロノは、奇妙な光景を目にした。 通信担当のその女性は呆けた様な表情で、自らの手にある清涼飲料の入ったボトルを眺めているのである。 「どうした?」 「あ・・・艦長、これ・・・」 何事かと声を掛けたクロノに向かって、彼女は困惑した様にボトルを掲げてみせた。 その透明な容器は、半透明の液体によって半ばまで満たされている。 何を言っているのかと眉を顰めたのも束の間の事、クロノはすぐさまその異常性に気付き、瞠目した。 「水面が・・・!」 ボトル内部の水面が、艦の進行方向へと偏り、「傾いて」いた。 「回避行動、急げ!」 咄嗟に指示を下すクロノ。 その声も終わらぬ内、支局艦艇からの警告と共に複数の艦艇が回避行動を開始する。 直後、凄まじい衝撃がクラウディアを襲った。 巨大な見えざる鈍器によって殴打されたかの様なそれ。 クルーの悲鳴、そして警報音がブリッジを満たす。 艦長席から投げ出されそうになりながらも、クロノは鋭く声を発した。 「報告!」 「前方、空間歪曲反応多数! 揺らぎが大きく、精確な検出は不能!」 「先程の衝撃は!?」 「艦体に損傷なし。これといった攻撃は・・・」 軽く、それでいて空間に響き亘る音。 報告の声が止まる。 誰もが呆然と音の発生源を見つめ、その光景に意識を凍り付かせていた。 彼等の視線の先には、持ち主の手元から離れ落ち、今も内部の飲料を零し続けるボトル。 それだけならば、特に問題はない。 しかし異常なのは、ボトルの落ちている位置だ。 ブリッジクルーが座する位置から、実に5mほど前方。 クルーの持ち場とブリッジドームの最前部、そのほぼ中間にボトルが転がり、中身の清涼飲料を零し続けていた。 その零れた飲料もまた、ドーム前部へと引き寄せられるかの様に流れてゆく。 クロノの背筋に、冷たいものが走った。 「・・・まさか!」 瞬間、ボトルが音を立てて転がり出し、ドーム最前部の壁へとぶつかり跳ね返る。 同時にまたも艦体を衝撃が襲い、一同は体勢を崩した。 そして彼等は、状況が更なる悪化を始めている事実に気付く。 「・・・僕等もかッ!」 再度、悲鳴が上がった。 コンソールに両の手を着き、前方へと投げ出されそうになる身体を寸でのところで押し留めるクロノ。 それは他のクルーも同様であり、自らの担当であるコンソールへと寄り掛かる様にして、「落下」しそうになる身体を必死に押さえ込んでいた。 ハードコピーやその他の細々とした物が前方へと落下してゆき、巨大な空間ウィンドウを突き抜けて、外部映像が投射されたドーム内面へと叩き付けられる。 XV級のブリッジドームはL級と比較してかなり広大に造られているのだが、現状に於いてはそれが仇となってしまっていた。 ドーム最前部より、クルーのコンソールまで約10m、艦長席までは約30mである。 重力が前方へと偏向している現状でコンソールより落下すれば、魔導師であるクロノはともかく、クルーはほぼ確実に死傷するだろう。 しかし一体、この現象は何事なのか? 「艦長! 前方3400に反応! 高速移動体、接近中!」 そんな中、不自由な体勢にも拘らずコンソールの操作を続けていたクルーが、先程以上の緊迫した声で以って叫んだ。 クロノは瞬時に艦長席のコンソールを操作、新たにウィンドウを展開する。 外部映像、拡大解析。 クラウディアの遥か前方、隔離空間内の闇に、奇怪な影が浮かび上がる。 「・・・何だ、あれは?」 それは、言葉で表現するのなれば、「カプセル」としか云い様がなかった。 全長40m程の、巨大な卵型の物体。 一見してかなりの重装甲と分かる表層部には、まるで脈動の如く赤い光が明滅を繰り返している。 鈍色の外殻装甲、細部の構造から見ても明らかな人工物ではあるのだが、少なくとも外観からは武装を確認する事はできず、それが一体何なのかという事については見当も付かない。 進行方向を軸に、横方向へと回転しつつ迫り来る異形。 一体あれは何なのかと、クロノが対象の解析を指示しようとした、その時だった。 『こちら第8支局。攻撃隊の転送を続行する』 支局艦艇からの入電。 無茶だ、と叫びそうになる己を抑えつつ、クロノは歯噛みした。 突然の異常事態に浮き足立ち、転送を強行しようとしているのが丸分かりだ。 通常は前線に出る事のない支局艦艇。 そして大規模艦隊行動に慣れていない、単艦または少数艦艇での任務遂行が基本である管理局次元航行部隊。 単艦の能力こそ高いものの、大多数が連携しての作戦行動には致命的なまでに向いていない。 支局艦艇に至っては前線での緊急事態に対応し切れず、急かされる様に当初の作戦通りに事を進めようとしている。 確かにこの程度の重力異常では、転送に深刻な影響が出る事はないだろうが、それでも万全を期す為には目前の障害を取り除く事を優先すべきだ。 艦隊の安全も確保できないままに攻撃隊を送り出しては、彼等を死地に放り込む事となりかねない。 其処まで思考し、しかしクロノは内心、自身を諫めた。 それは自身の経験と推測に基づく、一極的な見解に過ぎない。 見方を変えれば、艦隊が致命的な状況へと陥る前に安定状況下で攻撃隊を転送すべき、そう考える事もできるのだ。 そして事実、支局艦艇内の局員達はその見解に基づき、攻撃隊の転送を実行しているのだろう。 何より、攻撃隊がその見解を支持しない限り、転送強行などという決定が下る筈がない。 「転送まで40秒!」 「偏向重力、更に増大! 現在1.6G!」 「重力遮断結界展開、偏向重力を緩和しろ!」 「高速移動体、更に接近! 距離1900!」 重力遮断結界の展開により、前方への偏向重力が和らぐ。 未だ違和感は抜け切らないものの、少なくとも艦内で墜落死する危険性は消えた。 クロノはウィンドウのひとつへと手を伸ばし、接近中の高速移動体を迎撃するべく指示を下す。 錯綜し、ブリッジドームへと響き渡る通信はそのどれもが、他の艦艇指揮官がクロノと同様の判断を下している事を表していた。 「転送まで20秒!」 そして種々の魔導兵装が迎撃態勢へと移行し、クロノが正面の大型ウィンドウへと視線を戻すと同時。 「高速移動体に異変!」 大型ウィンドウ上の高速移動体が、花の様にその身を開いた。 「な・・・」 誰もが息を呑み、次いでその急激な変貌に唖然とする。 卵型の外殻は4つに分かれ、花弁の様に四方へと解放されていた。 4枚の花弁の付け根には、紫の光を放つ「コア」らしき部位が存在し、更にその前面には回転しつつ青い光を放つ部位が、「コア」を防御するかの様に備えられている。 粘つく闇の中に咲いた、鋼鉄の花。 攻撃態勢か、と警戒したクロノが、迎撃開始の指示を下そうとした、その瞬間。 「高速移動体より空間歪曲発生!」 花弁の内より、無数の空間歪曲が「壁」となって撃ち出された。 「10秒前!」 『各艦、最大戦速! 支局艦艇を護れ!』 すぐさま、支局艦艇の周囲に位置する艦艇が動き出し、その盾となるべく加速を開始。 花弁より射出された空間歪曲は、ウィンドウ上に映像として視認できる程に具現化していた。 それらは闇色の光を発しつつ、凄まじい速度で支局艦艇群へと向かって突き進む。 「くそ・・・!」 「5秒!」 間に合わない。 支局艦艇からは距離があった為に援護に駆け付ける事もできず、クロノは支局艦艇群へと迫る空間歪曲の「壁」を見据える事しかできなかった。 他の艦艇より放たれる魔導弾幕を消滅させつつ、暗く淀んだ半透明の揺らぎとなって支局艦艇群へと襲い掛かるそれらは、不可視の死神を思わせる。 群がる次元航行艦の合間を擦り抜け、必死の防衛行動を嘲笑うかの様に目標へと迫る「壁」。 そして、遂に。 「3・・・2・・・1・・・」 「空間歪曲、接触!」 「壁」が、支局艦艇群へと喰らい付いた。 三度、衝撃が艦体を襲い、クロノ等の身体がコンソール上へと投げ出される。 即座に身を起こしたクロノの視界に飛び込んだ光景は、数瞬前とは明らかに異なる姿勢へと傾いた、巨大な8隻の支局艦艇。 クロノは、叫んだ。 「転送はどうなった!?」 同じく身を起こしたクルー等の指が、コンソール上を忙しなく踊り始める。 数秒後、支局艦艇からの入電があったのか、1人が状況の報告を開始した。 「転送は終了! 各支局鑑定に深刻な損傷はありません! 攻撃隊、各転送座標に・・・」 突然、報告の声が止まる。 クルーの表情が凍り付き、その目はウィンドウのひとつへと固定されていた。 その様子に、クロノの脳裏を最悪の予想が過ぎる。 思い過ごしであって欲しいと願いながらも、しかし魔導師として完成された高速・並列思考は、冷酷なまでにあらゆる可能性を提示。 そして、数秒の間を置いて再開された報告の声が、最も危惧した可能性を現実のものとして叩き付けた。 「目標座標・・・攻撃隊、存在しません・・・転送、失敗・・・」 クロノは一瞬、その言葉が何を意味するか、受け入れる事ができなかった。 しかし、すぐさま自身を取り戻し、現状の分析を開始する。 次々にウィンドウを展開し、それらの情報を読み取っては脳内にて統合、最終的な結論を導き出した。 残酷な結論、絶望と共に襲い来る現実を。 「・・・馬鹿なッ!」 4000名。 4000名だ。 管理局所属魔導師の中でも、特に戦闘技能に秀でた者が、4000名。 Aランクオーバー1384名、Sランクオーバー53名を含むそれが、ただの一度も交戦する事なく、転送事故によって失われた。 正確にはこの隔離空間内の何処かに転送されてはいるのだろうが、その一部ですら所在を確認する事ができず、4000名の全てを失索したというこの状況。 バイドによる汚染、そして転送事故の危険性を考えれば、既に全滅している可能性が高い。 「フェイト・・・!」 クロノの脳裏に、義妹の姿が過ぎる。 次いで浮かび上がるは、四肢を切断され、意識の無いままにベッド上にて生命維持装置へと繋がれたユーノの姿。 歯軋り、そして掌へと血が滲む程に拳を握り締め、クロノは指示を発した。 「高速移動体を敵機動兵器としてマーク! MC404、撃ち方始め!」 「MC404、撃ち方始め!」 クルーによる復唱が終わるや否や、クラウディア艦首から白光を放つ魔導砲撃が放たれる。 同時に10を超える艦艇から同様の砲撃が放たれ、光の奔流が敵機動兵器へと殺到。 敵機動兵器は回避する素振りも見せず、十数発の砲撃に呑み込まれ、小爆発を繰り返した後、一際巨大な爆発と共に四散した。 4枚の花弁が炎を噴きつつ、其々に異なる方向へと吹き飛ばされてゆく。 これだけの一斉砲撃を受けたにも拘らず、原形を留めたまま隔離空間内を漂い続けるそれらの強度に、クロノは思わず舌打ちした。 「敵機動兵器、撃破!」 クルーのその言葉にも、歓喜の念が沸き起こる事はない。 4000名の魔導師と引き換えに得た、敵機動兵器1機撃破という戦果。 これ程までに不釣合いな代償を払い得た戦果になど、何の意味があるというのか。 クロノはすぐさま、新たな指示を飛ばす。 「広域捜索実行。僅かでも良い、デバイスのシグナルを拾うんだ。支局艦艇の捜索域との重複を避けろ」 「広域捜査実行、了解」 「支局艦艇より入電、本艦は第75管理世界方面の捜索に加われとの指示です」 「了解。本艦はシャーロットと合流、第75管理世界方面へと・・・」 「前方3000、空間歪曲多数!」 警報。 新たに展開された大型ウィンドウに、またも外部拡大解析画像が映し出される。 其処に浮かび上がるは、複数の巨大な鉄塊。 「・・・何の冗談だ?」 誰もが、自身の目を疑った。 先程、自ら達の手によって破壊された筈の機動兵器。 それが複数、艦隊の進路を塞ぐ様に布陣している。 闇の中に浮かぶ卵型の鉄塊を見据えるクロノの耳に、入電を告げる電子音とクルーの声が飛び込んだ。 「第10支局より入電・・・敵機動兵器、詳細判明。異層次元巡回警備型無人機動兵器「ファインモーション」。重力偏向フィールドによる対象の行動制限及び、戦術級光学兵器による高火力・長射程砲撃、重装甲・高機動による突撃を主とした戦闘を展開するとの事です」 その言葉も終わらぬ内、敵機動兵器が次々にその花弁を開く。 気付けばその数は数十にも達し、隔離空間内には巨大な鋼鉄の花が幾重にも咲き誇っていた。 クロノは咄嗟に火器管制機構へと手を伸ばし、差し込まれたままの鍵に指を掛ける。 焦燥を多分に含んだ叫び。 「アルカンシェル、バレル展開!」 そして、鋼鉄の花弁に、闇色の光が点ると同時。 クロノの身体は、眼前のコンソールへと叩き付けられていた。 「くそッ・・・またかッ!」 自身を前方へと引き寄せる重力に抗いつつ、クロノは火器管制機構へと手を伸ばす。 しかしその指が、赤く染まった立方型実体化プログラムへと届く事はない。 傍らに展開された偏向重力計測値のウィンドウが、2.2Gとの数値を表示していた。 下方ではブリッジクルー等が、襲い来る重力とコンソールから引き摺り落とされそうになる恐怖に、掠れた悲鳴を上げている。 クロノは懐より1枚のカードを取り出し、瞬時にそれを槍状の杖へと変貌させた。 氷結の杖、デュランダル。 荒い息を吐きつつその先端を、今や垂直の壁面となった床面へと突き立て、瞬く間に氷の階段を生み出した。 もはや飛ぶ事すら困難となった偏向重力下に於ける、苦肉の策だ。 「ッ・・・!」 その身体が、力尽きた様にコンソール側面へと崩れ落ちる。 偏向重力、3.9G。 ブリッジクルー等から上がる苦しげな声を背に、クロノは氷の段差へと腕を乗せた。 一度だけで良い。 アルカンシェルを撃ち込む事ができれば、空間歪曲によって重力フィールドを無力化できる。 一度だけ、あの機動兵器群の布陣を乱す事ができれば。 それで、反撃の糸口が掴める筈なのだ。 「アルカンシェル・・・バレル・・・展開・・・!」 下方より届く、微かな声。 同時に、アルカンシェルのチャージが始まった事を知らせる警告ウィンドウが、艦長席コンソールの上部に表示される。 この状況の中、ブリッジクルー等、そして兵装担当技術官等が、命懸けでアルカンシェルの発射態勢を整えたのだ。 それを理解し、クロノは鉛の様に重くなった自身の腕を動かすべく、更なる力を込めた。 彼等の奮闘を裏切る訳にはいかない。 何としても、アルカンシェルを発射しなければ。 彼等の期待に応える事、それが艦長としての自身の責務であり、現状を生き延びる為の最後の希望なのだから。 強烈な偏向重力の中、必死に身体を引き摺るクロノの傍らで、ウィンドウの数値が4.7Gを指す。 ブリッジドームへと投射される外部映像の中、6隻のXV級次元航行艦と1隻の支局艦艇が偏向重力によって、引き摺られる様に前方へと進み出る様がクロノの視界に映り込んだ。 そして、数秒後。 200を超える光学兵器の奔流が、7隻の艦艇を貫いた。 時空管理局艦隊、残存艦艇数「197」。 * * 「ティア! ねえ起きてよ、ティア!」 自身を揺さ振る者の存在と、頬に触れる冷たい床の感触に、ティアナは微かに呻きつつ瞼を見開いた。 その視線の先には嘗ての相棒と、その妹分となった戦闘機人の少女の姿。 数瞬、状況が理解できずに呆けるも、瞬時に意識を覚醒させて跳ね起きる。 「転送は!? 此処は何処なの!?」 「おい、落ち着けって!」 「ティア、ちょっと待って!」 スバルとノーヴェ、2人掛かりで宥められ、ティアナは漸く余裕を取り戻した。 そして周囲を見渡し、愕然とする。 「・・・何処よ、此処?」 周囲に広がるのは、当初の転送座標である第61管理世界の緑に囲まれた管理局拠点ではなく、四方どころか上下に至るまで鉄壁に覆われた、何らかの巨大な施設内部だった。 上部に点る照明装置により空間全体を見渡す事ができるが、少なくともこの空間は、本局訓練室と比較して数倍の空間容積がある事が見て取れる。 余りにも巨大な、用途不明の人工空間。 薄ら寒いものを感じつつ、しかし何時までも座り込んでいる訳にはいかないと立ち上がったティアナは、状況の確認を開始した。 「それで、何でアタシ達はこんな所に居る訳?」 その問いに対し、スバルとノーヴェは困惑した様に答える。 どうやら2人も、自身に降り掛かった現象を理解している訳ではないらしい。 「分からないよ・・・支局が攻撃を受けて、揺れたと思ったら気を失って・・・」 「気が付いたら此処で寝転んでたって訳だ」 その言葉に、ティアナは凡その状況を理解した。 恐らく、転送事故だ。 敵機動兵器の攻撃は、空間歪曲を利用したものだった。 転送直前に支局がその攻撃を受けた事により、目標座標までの跳躍空間に異常が発生したのだろう。 結果、こうして行き先の異なる者達が、同じ世界に漂着する事態となった訳だ。 「私達の他には?」 「今、セインが探しに行ってる。そろそろ戻ってくる頃だと・・・」 他に同一世界へと漂着した者が居ないかというティアナの問いに、ノーヴェが意外な答えを返す。 他にもナンバーズが居るのか、という驚きに目を見開いたティアナの背後から、何処か陽気な印象を受ける声が発せられた。 「ただいま」 「なっ・・・」 「あ、おかえり」 床面より突き出す、水色の髪。 IS「ディープダイバー」による無機物潜行を行っているセインだ。 驚くティアナ、出迎えるスバル。 直後、一息に床面の上へと躍り出たセインは、疲れた様に溜息を吐いた。 「どうだった?」 「この先、400m先に20人ほど攻撃隊が居るよ。あと、其処とは別の地点に八神二佐達も」 「八神部隊長が?」 驚き、訊き返すスバル。 頷きをひとつ返し、セインは続ける。 「うん。でも、それより先は無理だった」 「何かあったの?」 「良く分かんないんだけど・・・潜れない壁があるんだ。魔力でコーティングされている訳でもないのに、全然抜けられない。此処の床だって、2mも潜れば其処でその壁にぶつかるんだもの」 「壁・・・何かの施設か?」 ノーヴェの問いに、セインは分からないと首を振る。 暫しの沈黙。 しかし数瞬後、ティアナが「AC-47β」により幾分大型化したクロスミラージュを手に、唐突に歩き出した。 「ティア?」 「此処で考えてたって仕方ない。取り敢えず、その攻撃隊と合流するわよ。いつ汚染体が襲い掛かってくるか分からないし、人数が多い事に超した事はないわ」 歩みを止めずに答えるティアナに、残る3人は互いの顔を見合わせ、しかしすぐにその後を追う。 その足音を耳にしつつ、ティアナは物資搬入ゲートらしき巨大なスライド式の扉へと歩み寄り、制御盤を探し始めた。 そして彼女へと追い付いた3人もまた、ゲートの周囲を調べ始める。 4人の頭上、20mはあろうかというゲートの表面。 薄闇の中に、第97管理外世界の文字が浮かび上がる。 忌まわしき名称、悪夢の記憶を内包せし棺の名。 「MPN134340-Orbital BIONICS LABORATORY META-WEAPONOID RESERCH DIVISION」 狂える翼、人類の狂気による蹂躙と殲滅より5年。 「神々の黄昏」によって打ち砕かれし悪夢は息を吹き返し、「客人」の来訪を待ち焦がれていた。 そして遂に、その時が訪れる。 生命の存在する余地のない、特殊合金に覆われた施設の深遠。 「客人」の有する記憶に基づき、「模倣者」はその姿を変貌させゆく。 全ては「客人」を歓迎する為に。 決して忘れ去る事などできない、記憶の奥底に潜むその存在を模し、彼の「客人」を持て成す為に。 過去より出でし亡霊は、久方振りの「客人」が自らの許を訪れる、その瞬間を待ち侘びていた。 壁が、床が、天井が。 「客人」の来訪に打ち震え、「宴」の用意を整え始める。 亡霊の巣穴と化した施設を構成する無機物、その全てから歓喜の咆哮が上がった。
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「結界出力を10万増強・・・そっとだ、そっと外せ・・・」 「プログラム、侵入を開始。外部制御回路の解析に入ります」 「いいぞ、そのままだ。乱暴に扱うな。丁寧に、丁寧に・・・計測値がまた跳ね上がったぞ。出力を20万増強・・・」 時空管理局第14支局。 本局への緊急連絡という形で中間報告を終えた解析班は、本格的に不明機兵装の解析に入っていた。 というのも、本来は機体の解析を行う予定であったのだが、魔法によるシステムへの介入不能、そして制御中枢に直結しているとみられる自爆機構の発見などにより、先ずは補助兵装の解析と相成ったのだった。 方法は至って単純。 制御装置らしき4本のロッドの内1本を取り外し、其処に擬似的に組み上げたシステムを強制的に介入させようというものだ。 対象である「フォース」が、魔力増幅触媒として機能した事を受けての判断だった。 「まただ、計測値上昇。出力を10万増強」 「大丈夫なんですか? このままじゃ結界ごとボン! ですよ?」 「あと400万も余裕があるのに、随分と弱気じゃないか。問題ない、続けろ」 ただ、解析法が決定に至るまでの過程で、少々の反論が生じた。 制御装置を外す事によって、高エネルギー収束体であるフォースが暴走するのでは、との危惧だ。 しかしその意見も、兵器としての観点からの分析によって霧散した。 フォースに取り付けられた制御装置は4つ。 実戦投入された兵器であるからには、設計当初から戦闘行為による損傷を考慮されている筈。 つまり、4本の内1本が欠落した程度では、エネルギー収束体が暴走する事など有り得ない。 それでは兵器として不完全である。 不完全な兵器ならば、実戦に投入される筈が無い。 その見解により、制御装置の除去によるシステムへの介入・解析法が採用された。 結界によってフォースを空間に固定し、機械式アームによって制御装置を引き剥がす作業が始まったのだ。 しかし、フォースの固定こそ上手くいったものの、制御装置の除去段階に至ったその時、予想だにしなかった問題が発生した。 収束エネルギーの漏出である。 「・・・くそ、また上昇した。出力、40万増強」 制御装置の剥離が進むにつれ、徐々に上昇する結界内のエネルギー計測値。 その都度、結界出力を上げる事で対処しているものの、今のところ暴走に至る様子は無い。 いざという時の為に、ロストロギア暴走に備えた緊急用即時展開型超高出力結界発生システムもスタンバイしている為、解析操作続行との判断が下された。 そして、操作開始から約50分後。 「見えました、主任。制御装置の内側です」 「ああ、見える。あれがそうか」 高出力魔力振動刃とアームによって引き剥がされた制御装置の内側に、白い紐状の物が見て取れた。 一見すると植物の根の様にも見えるそれは、神経組織に酷似した機構らしい。 「端子を接続しろ。恐らくあれが制御中枢へのアクセスラインだ。力尽くで割り込むぞ」 主任の指示と共に、神経組織を取り囲む様にミッドチルダ式魔法陣が浮かび上がる。 更にその外側に、正三角形の魔法陣。 システムとの相性を考慮し、念の為に組み上げられたベルカ式プログラムだった。 やがて白い光が、発光するミッドチルダ式魔方陣の中心から神経組織へと、溶け込む様に拡がり始めた。 介入成功。 解析班の其処彼処から歓声が上がる。 主任は込み上げる勝利の感覚を堪え、矢継ぎ早に指示を出した。 「プログラム侵攻率をモニタしろ。浸透の完了を確認した後に解析を始めるぞ」 「はい! プログラム侵攻率、23%。26・・・28・・・33・・・」 歓喜を滲ませて返事を返し、侵攻率を読み上げる分析官。 彼女の口から紡がれる数値が60を超えた事を確認した主任は、背後の部下へと新たな指示を飛ばす。 「局長に連絡だ。それと結界出力を180万まで・・・」 「主任!」 緊迫した声。 周囲の局員達が一斉に、計器を前にした分析官へと目を遣る。 「侵攻率、0%! あらゆる数値が0を指しています!」 「何だと?」 騒然となる隔離区。 技術者達が慌てて手元の計器へと目を落とすと、つい先程まであった反応が全て消失している。 主任は反射的に、結界の出力を設計限界値まで引き上げていた。 更に周囲の局員達も、何を言われずとも緊急用結界の起動に備える。 しかし異変は、彼等の想像を遥かに超える規模・速度にて進行していた。 「プログラム、逆侵攻を受けています! 侵攻率、40%! 52、66、82・・・!」 「主任、フィールドが!」 悲鳴の様な叫び声に視線を上げれば、神経組織を染めていた白いミッドチルダ式プログラムの光が、フォースと同じく禍々しいオレンジの光によって、先程とは逆に侵食されてゆく様が目に入った。 光は数秒で空中の魔法陣へと到達し、その輝きを自身の色へと染めてゆく。 やがて魔方陣はオレンジの光によって完全に支配されたが、それでも侵食は留まる所を知らなかった。 「ベルカ式プログラム、解析対象からの干渉を受けています!」 「馬鹿な!」 局員達の目前で、信じられない現象が起こる。 オレンジの光が、接続すらされていないベルカ式プログラムを侵食し始めたのだ。 ものの数秒で侵食され尽くしたプログラムを、誰もが呆然と見つめる。 しかしその驚愕も、突如として鳴り響いた別の警告音によって取って代わられた。 「エネルギー計測値上昇! 結界が保ちません!」 見れば、結界内のエネルギー計測値が凄まじい勢いで上昇している。 結界出力値は既に最大値である630万を指しているが、誤作動を起こした結界内魔力計測機器は580万を指し、しかもその数値は未だに上昇を続けていた。 主任が顔色を変え、叫ぶ。 「対ロストロギア結界を起動しろ! A1班を残し総員退避! 隔壁閉鎖!」 「・・・起動しました!」 「動力区画、魔力炉出力を上げろ! 結界出力が足りない!」 『冗談は止して下さい! これ以上出力を上げたら魔力炉が吹っ飛びますよ!?』 「今やらなきゃ隔離区が跡形無く吹っ飛ぶんだよ! いいからやれ!」 「主任、計器が!」 白、緑、赤。 各々の色に発光していた空間ウィンドウが、次々にオレンジの光に侵食されてゆく。 戦慄と共にそれらを見つめる技術者達の背後で、彼等以外の局員が退避した事を確認したシステムによって隔壁が閉じられた。 その表面に表示された巨大な警告ウィンドウもまた、一瞬の内に破滅のオレンジへと変貌する。 「結界出力上昇! 680、770、850・・・」 「緊急用結界、1290万で出力固定!」 「結界内エネルギー計測値、更に増大・・・690、720、760・・・」 こんな馬鹿な事があるか。 馬鹿でかい魔力炉の出力を、高々6m前後のエネルギー収束体が上回る? 有り得ない。 こんな事は有り得ないのだ。 「940・・・1020・・・結界破壊・・・1110・・・」 オレンジの発光と共に球体が膨れ上がり、周囲を赤い光が飛び回る。 侵食された数十のウィンドウを埋め尽くすかの様に、新たに無数の空間ウィンドウが展開され、隔離区域を第97管理外世界の文字が埋め尽くした。 無数に現れては次々に消えるそれらのウィンドウの中に、繰り返し表示される「BYDO」という単語がある事に気付く者は居ない。 そして遂に、フォースを中心に空間が歪曲する。 警報発令。 『緊急事態。艦内に次元断層が確認されました。局員はナビの誘導に従い、最寄りの脱出艇へと避難して下さい。緊急事態。艦内に・・・』 「緊急結界、破損!」 空間歪曲、拡大。 此処にきて、主任は悟る。 こいつは兵器なんかじゃない。 人間の理解を超える、純粋な「悪意」そのものだ。 第97管理外世界の連中はそいつを機械で押し込めて、無理矢理人間の兵器に仕立て上げたのだ。 正気じゃない、狂ってる。 こいつを生み出した存在も、こいつを兵器として運用する者も。 直後、肉眼での視認すら可能となった空間の歪みが、隔離区域を呑み込んだ。 * 時空管理局本局20番ドック。 先の戦闘による損傷を受け、修復の為にドック入りしたクラウディア。 その艦橋でクロノ・ハラオウンは、不明機との戦闘によって得た情報の分析を繰り返す。 本来ならばクルーが行うべき作業なのだが、クロノは第14支局から送られてきた不明機の解析情報と照らし合わせた上で、もう一度あの戦闘に対する総合的な評価を下したかった。 無論、「次」の戦闘に備える為に。 第97管理外世界を包囲していた艦隊の消失。 時空管理局の受けた衝撃は大きかった。 転移直前の艦艇が砲撃により撤退し、新たに戦略魔導砲アルカンシェルを搭載した3隻のVX級次元航行艦が派遣されるまでの僅か6時間で、総艦艇数40を優に超える大艦隊が姿を消したのだ。 無論の事、管理局艦艇は直ちに捜索を開始。 しかし、突如として生じた虚数空間からの砲撃により、1隻が推進システムの一部を損傷。 直後、3隻の周囲を取り囲む様に5隻の不明艦艇が姿を現した。 通常航行ではない。 先の砲撃と同じく、極小規模の次元断層が発生し、その中から艦艇が姿を現したのだ。 魔力を動力源とする管理局の艦艇では決して不可能な、虚数空間への潜伏・航行。 不意を打たれた管理局艦艇は、完全に包囲された。 不明艦隊は質量兵器による攻撃を開始。 しかし、管理局艦艇の艦長達は優秀であった。 砲撃を受け損傷した1隻が即座に応戦、敵艦隊が怯んだ隙を突き2隻が異なる方向へと突進、更に弾幕を張る。 敵艦隊の注意が2隻へと移った瞬間を狙い、損傷艦は全速にて後進を掛け、同時にアルカンシェルをチャージ。 2隻が次元空間へと脱した事を確認し、アルカンシェルを発射。 敵艦との距離が思いの他近かった事もあり、空間歪曲に敵を巻き込む事はできなかったものの、不意を突く事には成功した。 その隙に損傷艦は次元空間へと脱出。 そこで他の2隻と合流を果たし、推進補助を受けながら本局へと帰還したのだ。 こうして、第97管理外世界を舞台とする艦隊戦は幕を閉じた。 管理局創設以来、数えるほどにしか発生していない本格的な艦隊戦。 「ゆりかご」の件があるとはいえ、あれは単一目標に対する砲撃戦である。 数に勝る敵艦隊との戦闘経験などあろう筈も無い彼等が今回の戦闘を生き延びる事ができたのは、ひとえに艦長達の指揮能力の高さ、そしてクルーの優秀さによるものだろう。 艦の性能面に於いても、敵に劣っているとは思えない。 虚数空間への潜行可能という事実は厄介ではあるものの、戦闘に於いては互角の能力を有しているだろう。 問題は艦そのものではなく、「艦載機」の方だ。 第14支局からの報告によれば、あの球体は放たれた魔法の悉くを吸収してしまうらしい。 超高威力の魔法ならば打つ手はあるかもしれないが、そんな魔法を扱えるのはほんの一握りの魔導士だけ、少なくともAAAランク以上の魔導士のみである。 やはり、戦闘の主体は次元航行艦となるだろう。 そんな見解を他の艦艇指揮官と述べ合ったのが3時間前。 クロノは現在、戦闘そのものとは異なる情報に注目していた。 「画像拡大」 魔力を用いて空中に映像を映し出す空間ウィンドウ。 そこに映し出される、白亜の艦体。 周囲に虹色の弾幕を形成するその艦の名を、L級次元航行艦エスティアといった。 「画像処理、解像度を上げろ」 そもそもの疑問は、「誰がエスティアを運用していたのか?」という事だった。 L級の時点で高度に自動化された管理局艦艇は、操艦だけならば1人でも可能だ。 しかし先の戦闘の様に、全兵装を用いて高速飛行体を迎撃するとなると、少なくともブリッジクルーが3名、兵装担当の技術官が8名は必要である。 だが23年前のエスティア撃沈の際、艦内に残っていたのは艦長であるクライド・ハラオウン1人の筈。 その彼にしても、冷静に考えれば23年もの間、虚数空間の中で命を保っていたとは考えられない。 しかし現に、エスティアは対空魔導兵装を使用し、更に戦闘機動すら行いつつ不明機との戦闘を繰り広げていたのだ。 誰が、「何者が」エスティアを操艦していたのか? 映像記録のエスティアを徹底的に分析し、クロノはそれを見付け出した。 左舷推進システム外殻、其処に刻まれた文字の羅列。 記録との照合の結果、本来は存在する筈の無いマーキングである事が確認された。 つまりエスティアは、何者かによってそれを刻まれたのだ。 「・・・やはりな」 そして遂に、拡大されたその名称が、クロノの眼前へと現れる。 忌まわしき計画、忌まわしき狂気の名。 「SUMPLE-D7 PROJECT『R-TYPE』」 艦内に、敵襲を知らせる警報が鳴り響いた。 * 少なくともこの次元は、既知の異層次元とは構造を異にしているらしい。 1つの次元内に通常三次元空間が複数存在する、「新種」の異層次元。 唐突に22世紀の太陽系と繋がったその次元には、21世紀の地球と、これまで一般には存在すら知られなかった高度文明都市と巨大異層次元航行艦。 どうやらこの次元は、異層次元・・・「海」を支配する勢力が、各三次元空間・・・「陸」を統括しているらしい。 ならば、差し詰め我々は「海賊」か。 防御隔壁の向こう、果て無き次元の海を思い描きつつ、彼は空間ウィンドウを見詰める。 電子技術の発達により実現された空中に映し出される映像は、先程から静止したまま動き出す気配が無い。 彼は静止した画像を瞬きもせずに視界へと捉えつつ、司令官の証である帽子を被り直した。 地球軍では異層次元航行艦隊司令に対し、各状況に於いて常識外とも思える決定権が与えられている。 これは、異層次元を航行する艦艇が常に地球とのリアルタイム通信経路を確保している訳ではない事、突発性、または偶発性のバイドによる脅威に対し速やかに対応する事を目的としての措置であった。 元からこうであった訳ではない。 2164年に起こった「デモンシード・クライシス」、「サタニック・ラプソディー」の両事件による、苦い経験を基に構築されたシステムである。 これらの事件に於いて地球軍は、指揮系統の混乱からまともに行動を起こす事すら不可能であった。 「サタニック・ラプソディー」発生直後、軍は緊急展開が間に合わず、複数の主要都市の壊滅を許してしまっている。 太陽系内に展開していた複数の艦隊は、司令部との連絡が付かない事、突如として現れたバイド攻撃体との戦闘により動くに動けず、結局は「R」開発陣及び競合する各企業が送り込んだ3機の新型R戦闘機により事態は収束。 「デモンシード・クライシス」に至っては、軍は投入する片端から兵器群のコントロールをバイドの種子により奪われ、徒に被害を拡大させただけだった。 極め付けに、事態を収拾したのは軍ではなく、都市戦闘を想定して開発された「R」派生型である「R-11B PEACE MAKER」を駆る民営武装警察。 軍に対する信頼は、文字通り地に墜ちた。 それらを踏まえ、翌年の第二次バイドミッション終了後、軍は大規模な組織改革を敢行。 指揮系統の大幅な見直しが為され、特に太陽系を離れて作戦行動を取る深宇宙遠征艦隊、異層次元航行艦隊司令に対してはそれまで以上の決定権が与えられた。 異層次元中継通信を用いた即時交信が可能とはいえ、最悪の場合バイドによって空間ごと取り込まれる可能性もある。 その様な状況に於いて、艦隊が地球と交信する術は無い。 かといって、太陽系外部に司令部機能を持つ拠点を築く事は、余りにもリスクが高すぎた。 よって、艦隊司令は独自の判断によって次元消去兵器を含む戦略兵器運用決定権を有し、同時に状況に対する最適な判断を下す為、各種作戦行動認可の権利を有する事となったのだ。 艦隊司令は太陽系外に於いて、常に軍司令部からの指示を疑う事ができる。 司令部の見落としは無いのか。 援軍の到達時刻は予定通りなのか。 敵勢力の情報は本当に正しいのか。 指令は艦隊を無用な危機に曝すものではないのか。 艦隊司令は外部より齎される全ての情報に対して自艦隊が収集する情報を照らし合わせ、その指令が艦隊を動かすに値するものか否かを判断する。 次元消去兵器による星系破壊すら可能な戦力を指揮するがゆえに、通常の軍組織では有り得ない権限を与えられる艦隊司令。 無論、組織としては叛乱という危険性をも内包する事となる。 しかし、それほどの危険を冒してでも即時対応を可能としなければ対処できないほど、バイドとは危険極まる存在なのだ。 他星系、或いは異層次元へと展開する各艦隊司令は、バイドに対し各々に異なる見解の下、戦線を展開している。 ある者は迎撃に徹し防衛ラインを死守し、またある者は積極的攻勢を仕掛け敵生産拠点を叩く。 ある者はバイド中枢の探索に力を注ぎ、またある者は異層次元を漂う兵器群を片端から殲滅する。 各々の見解も作戦も異なる彼等に共通するのは、艦隊司令としての高い能力、地球を守るという使命感、そして自らの艦隊を構成する数万の兵士達を、生きて地球へと送り返すという揺ぎ無い決意。 異層次元ポイント04137003へと向かう艦隊もまた、そんな者達の1人によって指揮されていた。 艦隊に存在する3隻の超弩級異層次元航行戦艦「ニヴルヘイム」級。 その1隻、旗艦「クロックムッシュⅡ」の艦橋で彼は、先の戦闘に於いて363部隊機が最後に送信した画像を前に思考する。 ウィンドウに映し出されるのは、バイドにより汚染され、363部隊機と死闘を繰り広げた不明艦艇。 地球軍の艦艇設計思想とは根本から異なる、優美ささえ感じさせる白亜の艦体。 しかし画像はその全体像ではなく、左舷後方の推進ユニットらしき部位の外殻装甲を映し出していた。 そこに刻まれた、明らかに英語と分かる文字の羅列。 「SUMPLE-D7 PROJECT『R-TYPE』」 そのウィンドウの隣にもうひとつ、異なる映像を映し出すウィンドウが現れた。 格納庫内の映像らしきそれには、1機の異層次元戦闘機とその特別整備班が映し出されている。 漆黒の強化フレームをベースに、所々にバイオレットの塗装と耐エネルギーコーティングを施された、新鋭実験機。 「R-9WF SWEET MEMORIES」 その甘い名称とは裏腹に、パイロット達が何よりも恐れる「R-9W」シリーズの最新鋭機である。 このシリーズの特徴としては、パイロットのメンタル面に与えられる異常なまでの負荷が上げられる。 生物の持つ先天的なエネルギーを用いた特殊波動砲の実験機として開発されたこのシリーズは、初代である「R-9W WISE MAN」、第二世代機「R-9WB HAPPY DAYS」共に、ある特徴を備えていた。 通常のR戦闘機に見られるラウンドキャノピーではなく、直線上の「試験管」型キャノピーを採用しているのである。 これはナノマシンを介した周囲の状況把握をより円滑に行う為の措置との事だったが、パイロット達にとってそんな事は関係なかった。 彼等にとって重要なのは、これらの機体に搭乗した仲間が消耗の余り自力で動けず、キャノピーごと次のパイロットへと「交換」される一連の光景だったのだ。 人間を機体と波動砲制御の為の単なる部品と看做したその開発思想に対し、パイロット達が抱いたのは反発を通り越して恐怖だった。 そして第三世代機であるR-9WFもまた、その恐怖の象徴たる試験管型キャノピーを備えている。 元よりR戦闘機は、倫理面での配慮に欠けたシリーズではある。 2121年に対バイドミッションが発令されてからというもの、地球文明圏の軍事技術は異常としか言い様の無い進化を遂げた。 凄まじい速度で増殖を続ける、癌細胞の如き兵器群。 それらによって得られた無限とも思える量のデータを反映し、対バイド兵器として完成された存在が「R」だ。 しかし、幾ら兵器が発達しようとも、それを操る人間が居なければ意味が無い。 無人電子制御兵器という手もあったが、それを大量配備してはバイドの思う壺、片端から敵戦力に組み込まれてしまう。 かといって、兵器を制御する人体は脆く、それに合わせて機体能力をスペックダウンさせていてはバイドには対抗できない。 「R」開発陣の下した決定は、当然の帰結と云えた。 「人体構造に合わせて機体をスペックダウンするのではなく、機体構造に合わせて人体に処置を施せば良い」 第二次バイドミッションにて出撃した「R-9C WAR-HEAD」。 パイロットは四肢を切断され、生態コンピューターとして機体中枢へと神経接続された。 第三次バイドミッションにて採用された「R-9/0 RAGNAROK」。 パイロットは過酷な機内環境に耐える為に、14歳少女の肉体へと幼体固定され、神経系を機体へと直結された。 無論、彼等は作戦終了後に回帰手術を受け、問題なく正常な肉体を取り戻している。 パイロット・インターフェースに関しても短期間の内に劇的な改良が為され、それらの機体運用時に於いて通常のパイロットが搭乗可能となった。 しかし「TEAM R-TYPE」に属する一部の技術者達にとって、それらは追い詰められたが故の苦肉の策ではなく、通常の機体開発に於いても反映されるべき事項に過ぎないと認識されているのも、また事実である。 彼等にとってパイロットとは所詮、機体の1パーツに過ぎないのだ。 使えなくなれば取り替えれば良い。 その思想が設計段階からして如実に表れた機体が、R-9Wシリーズだった。 そのR-9Wシリーズ最新鋭機、R-9WF。 一体どんな人間が搭乗するというのだろう。 パイロットのプロフィールは明らかに偽造であり、当てにはならない。 何より当の本人が、キャノピーから出る様子が無いのだ。 機体と共に送られた担当技術者達はそれを異常とも思わず、淡々と出撃準備を行っている。 恐らくパイロットは既に、何らかの処置を受けているのだろう。 何もかもがおかしい。 不明艦艇に刻まれた「SUMPLE-D7」、そして「PROJECT『R-TYPE』」の文字。 2166年時点で既に存在が判明していたという異層次元高度文明都市。 下されない殲滅指令。 見計らったかの様に派遣された新鋭R戦闘機。 検出されないバイド係数。 司令部は何を隠している? 敵は本当にバイドなのか? バイドでないとすれば、司令部の目的は何だ? 3時間後。 出撃したR戦闘機群の部隊リストには、データ収集用偵察機「R-9E2 OWL-LIGHT」5機の各コールサインが追加されていた。 ミッドチルダ新暦77年10月27日。 「AB戦役」、勃発。
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【04式突撃砲】 威力が20パーセント増しの強装弾に耐えるために改良された。 銃身が延長されており、重量バランスも見直された。 レーザーポインターが付いていて、さらに狙いが正確になった。 滑空砲も威力が上がっている。 【量産型不知火改】 22世紀の技術で改修した戦術機。耐久性、機動性など、あらゆる面で性能が向上している。操縦席がR戦闘機に近い構造になっており、「R」を模倣しようとした結果が表れている。なお、あくまでこれは改造途中でしかない。 【凄乃皇六型】 R-TYPEの世界の技術を導入して、00ユニット無しでの各部制御、ラザフォード場の自動制御を可能としている。荷電粒子砲を波動砲へと換装し、さらに威力を増している。全長は150m。ナパームやクラスター爆弾など、「面」での制圧力を重視し、制圧力は非常に高い。 大型放熱板のせいで、どことなく天使っぽい外見になった。 香月の思いつきの「R計画」の産物であり、まだ改良途中。 【TL-2B2 HYLLOS 2】 12の試練を受けた男の息子。 ヒュロスの出力強化型。黄金色のビームクローは青色になり、姿勢制御システム、データリンク、ステルス性能が強化されている。ビームクローの他にもビームランスモードが追加され、近接における「射程」の長さが克服されている。浅異層次元潜行はほんの一瞬しかできない。同時六連発射ミサイルの威力は折り紙つき。 【R-9 アロー・ヘッド】鏃 放たれた希望の矢。 対バイドミッションにて人類初の異層次元戦闘を行った機体。 あらゆる兵器を超越し、波動砲を備えている。白塗りが基本。 量産可能であり、日夜前線で戦っている。 【R-9E ミッドナイト・アイ】 夜を見る者。 様々な所に配備された量産型偵察機。武装はビームバルカン砲だけだが、早期警戒システムを備え、電子戦闘では、今でも十分な働きを見せる。長時間の浅異層次元潜行が可能である。大型の円盤状パーツを背負っている。 【R-99 LAST DANCER】最後の踊り子 バイドに終局を。 タイトルにもなったR戦闘機。文字通り99機目。全ての兵装に換装できる究極互換機の一号機。 いかなる状況でも、バイドを圧倒せよ、がコンセプト。 個人的にはR-100が好き。 【R-100 CURTAIN CALL】幕引き 永遠と刻め。 外見がイカス100機目。戦闘ではなく、「R」の遺伝子を継承するためにつくられているので、本来戦闘をするために作られていない。 【R-101 GRAND FINALE】最高の終焉(ワカラン) 我、決して滅びず。 驚きの101機目。もはや戦闘機とは思えない奇妙な外見が特徴。 決して滅びない、不滅の機体として開発されたらしい。 本機体をもってチームR-TYPEは解散している。 【ヨルムンガンド級輸送艦】 22世紀の軍隊では最もポピュラーな輸送艦。ビームバルカン四門だけという軽装備だが、多少の損傷に耐える装甲を持つ。堅実な設計のため、様々な状況に対応可能である。輸送可能な物資量が多い。なお、無理矢理波動砲を装備して大型バイドと渡り合ったという逸話がある。 【ゲインズ】 高重力下や、大気圏内での活動を前提に開発された人型兵器。大威力の波動砲を連射する「ゲインズ1」や、陽電子砲に換装した「ゲインズ2」、近距離戦闘用に改造された「ゲインズ3」など、様々なタイプがある。新型の「ゲインズ4」が開発中との噂がある。 【タブロック】 ゲインズを超える重装甲の人型支援機。戦艦級のミサイルによる後方援護を得意とする。 【エリューズニル級超弩級次元航行戦艦】 全長30km超の超ド級宇宙戦艦。かの宇宙戦艦ヤマトがおもちゃに見えるレベル。 惑星破壊波動砲「ヘル」を搭載した、「戦艦」。正直サイズの設定を間違ったような気がしてならない。適正なサイズを誰か教えてプリーズ。
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1st年表 2041 月面の南極にアルテミス基地を建造 2043 宇宙空間機動計画、機体開発プロジェクト発足。 計画名「RX-プロジェクト」 2046 地球統合戦争勃発 2066 地球から月への第一次入植が開始 2076 地球統合政府発足、世界が統一される 2077 A国を中心に統合宇宙軍が結成される(国家内の混乱を避ける為、コンピュータグラフィックスによる架空の指導者が創られる) 2079 大規模な宇宙開拓が始まる 2086 宇宙工業技術の飛躍的進歩に伴い、宇宙ステーションの建造やフォールド航法の研究が進む 2088 R-ユニットの掘削作業用低出力力場解放型波動砲の開発に着手 2093 月地下基地最下層より、古代宇宙文明の存在の証拠となる遺跡(機械郡)発見される 2096 独立を求めて小規模な反乱戦争が始まる 外宇宙開発中、異常重力波が観測される。その調査時に居住可能衛星セシリアが発見される 2098 反乱鎮圧を目的とした兵器開発が始まる 2101 統合宇宙軍で新型戦闘体「バスターギア」の研究が開始される 2102 異層次元探査艇「フォアランナ」超長距離航行に出航 2103 惑星セシリアへの移民計画発動 2106 無人調査宇宙艇「石華」が冥王星外部のカイパーベルト領域に到達。「Vastian s steel」を回収 2112 探査艇フォアランナ航行座標からの特殊生体エネルギー反応をキャッチ。異層次元でエネルギ-の増殖を確認 2120 異層次元艇フォアランナ、超束積高エネルギー生命体「バイドの切れ端」を採取し帰還する 2121 対バイドミッション発令。対バイド兵器は選考の結果、R-シリーズに決定した 2125 超束積高エネルギー生命体兵器化計画立案。木星の研究施設で開発が進められる事になった 2134 木星ラボからの通信が途絶える。探査艇「スカイホープ」が調査の結果、直径6mの高エネルギー体「バイドの切れ端」を中心にラボを含む空間が半径3万mにわたり消失しているのを発見。エネルギー体を採取し帰還する 2138 地球連邦創設 2139 「Vasteel-technology」を使用した機械群の開発を行う大型無人人工島「バベル」及び管理システム 「ガーディアン」が完成 2141 超束積高エネルギ-生命体の制御に成功(フォース) 2144 人工フォ-スの開発に着手(ビット) 2145 「Vasteel-technology」による、他惑星移住計画の推進 2150 ガーディアン戦役勃発、翌年終結。この戦役により「Vasteel-technology」が失われる 2153 RX-8の有人実用化(R-9)の開発が決定 2154 高出力力場解放型波動砲完成。 R-5シリ-ズの波動砲から61年経ち最終的に算出された出力データは低出力波動砲の5.7倍にもなった 2160 エネルギー生命体の人工的実体化に不安定ながらも成功 2162 低出力波動砲装備高機動巡回機「プロトタイプR-9」ロールアウト 2163 ザイオング慣性制御で艤装、高出力波動砲を装備し武装強化した「R-9」ロールアウト 第一次バイドミッション発動 2164 1月 パイロットの神経系から直接信号を読み取り機体制御や攻撃を行うサイバーインタ-フェイスの対人実験開始 デモンシード・クライシス事件発生。鎮圧にあたったのは軍ではなく、民営の武装警察 サタニック・ラプソディー事件発生。第一級非常態勢となり、テスト機であるR9 deltaまでもが作戦に駆り出された 2165 第二次バイドミッション発動 2167 バイド太陽系戦線。太陽系外周においてバイド攻撃体が確認される。最新鋭"R-9S"が応戦するも全滅... 2169 月面都市、国連から「月自治区」としての行政承認を受ける 第三次バイドミッション、「OPERATION CODE-THIRD LIGHTNING」発動 2172 月面都市が「国家」としての独立を提案、地球との間で紛争発生 2184 第一次月戦争勃発 2187 月面都市は「セレーネ」を称して国家としての独立を宣言 2199 バルカ機関が地球に亡命。R-GLAYシリーズ開発開始 2XXX 対バイド最終兵器開発に着手。作戦名「Last Dance」発動 2219 セシリア連合結成。武装蜂起。地球政府は「OPERATION RAYSTORM」を発動 2245 ゾードム帝国壊滅作戦「オペレーション・ジャッジメント」を発動 26世紀 人類、バイドを開発 戻る
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遭遇 異層次元への突入口に不気味で巨大な影が立ち塞がる。 次元の隙間へ。 概要 昔懐かしのR-TYPEの1面をほぼ完全再現したステージ。 エリアはいくつかのフィールドに分かれ、それぞれのクリア条件を満たしつつ奥へと向かっていく。 情報 難易度:☆☆ 制限時間:∞ ステージ:朽ち果てたスペースコロニー(ミッションモード専用ステージ) 勝利条件:ドブケラドプスの撃破 敗北条件:自軍ゲージ(GvG6000、連ザ1000)がゼロ 自軍機体:セレクト 攻略 1.入り口 僚機 なし 敵機 リボーx12、280コストランダムx4、ゲインズx1 単独で出撃したプレイヤーは入り口へと差しかかった。目の前にはバイドに制御をのっとられた敵。しかしここはまだ序の口にすぎない。 リボー(原作でのパタパタの代わり)はマシンガンの弾1発で落ちるし、その他の敵の耐久力も通常よりは低めになっている。 2.防衛システム 敵機 ゴンドラン(HP 2000)x2 コロニー内に突入したプレイヤーだが、回転式防衛砲台のゴンドランがバイドに乗っ取られてプレイヤーに牙をむく。 3Dの関係上、このミッションではゴンドランが横に2体並んだ形での対決となる。 砲台は1門ずつ連射か、一斉発射のどちらか。比較的避けやすいし、威力も控えめなのでさっさとコアに撃ちこんで2体とも破壊してしまおう。 3.内部1 敵機 砲台x10(TGT、HP 300),キャンサーx∞ ここではコロニーのあちこちにある砲台を全部破壊しなければならない。 砲台の1つ1つは遠く離れた所におかれているが、無限沸きするキャンサーが何よりも厄介。 機動力の高い機体ならキャンサーを無視する事はできるが・・・ 4.内部2 敵機 タブロックx2 門を抜けるとタブロック2体が待ち構えている。 ここでは2対1の戦いになるが、ミサイルにさえ気をつけていればなんとかなるだろう。 5.ボス戦 敵機 ドブケラドプス 異層次元への入り口を立ち塞ぐかのように待ち構えるドブケラドプスとの戦い。 原作では時間が経つとドブケラが迫ってきたが、このミッションではそのような事はないので、 安心して弱点の腹に攻撃をぶち込もう!
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R-TYPE part50-90 90 :ゲーム好き名無しさん:2010/03/06(土) 05 35 19 ID RSt7rKAN0 R-TYPE(アーケード版) 異層次元戦闘機R-9が、”憎悪と殺戮が支配する世界”バイド帝国に戦いを挑む。 プレイヤーの操るR-9は、ドプケラドブス、ゴマンダー、巨大戦艦などお馴染みの敵を打ち倒しつつ、 バイド帝星に辿り着き、”バイド”に対して、次元兵装”フォース”をシュートし、撃破した。 かくしてバイド帝国は全滅し、宇宙には永遠の平和が訪れた。貴方の名は永遠に語り継がれるだろう(※) この後に回収され、地球に帰還したR-9が引き起こした事件についてはR-TYPE⊿を参照。 (※)全滅してないし、永遠の平和なぞ来ない訳だが、エンディングにそう書いてあるから仕方ない。
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R-TYPE part50-90 90 :ゲーム好き名無しさん:2010/03/06(土) 05 35 19 ID RSt7rKAN0 R-TYPE(アーケード版) 異層次元戦闘機R-9が、”憎悪と殺戮が支配する世界”バイド帝国に戦いを挑む。 プレイヤーの操るR-9は、ドプケラドブス、ゴマンダー、巨大戦艦などお馴染みの敵を打ち倒しつつ、 バイド帝星に辿り着き、”バイド”に対して、次元兵装”フォース”をシュートし、撃破した。 かくしてバイド帝国は全滅し、宇宙には永遠の平和が訪れた。貴方の名は永遠に語り継がれるだろう(※) この後に回収され、地球に帰還したR-9が引き起こした事件についてはR-TYPE⊿を参照。 (※)全滅してないし、永遠の平和なぞ来ない訳だが、エンディングにそう書いてあるから仕方ない。
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『第14区、地下街の崩落が始まっている! 全体の陥没も時間の問題だ!』 『こちら第8区・・・生存者、発見できず。隣接地区の捜索に移る』 『循環システムが止まっている・・・! こちら855、特救はまだなのか!? このままじゃ中の民間人が窒息するぞ!』 飛び交う無数の念話は、そのいずれもが最悪の状況を告げるものばかりであった。 第4廃棄都市区画及び、クラナガン西部区画に於ける戦闘の終結より6時間。 地震の被害は元より、大型機動兵器と管理局部隊、そして不明機体群の交戦により壊滅的な打撃を受けた西部区画。 漸く展開した救助隊の目に飛び込んだ光景は、数時間前まで高度文明都市として機能していたとは到底思えない、破壊され尽くしたビル群と瓦礫の山だった。 道路は膨大な量のコンクリート片と鉄塊に埋め尽くされ、嘗ては壮麗な姿を誇っていたガラス張りのビルは軒並み崩壊、ハイウェイが延々と横倒しになり数千台の車両を圧壊、ライフラインは完全に破壊され最低限の電力の供給すら行われてはいない。 地下街の全体が崩落し、破裂した水道管から噴き出す水と逆流した汚水が混じり合って瓦礫の隙間を流れ、何処からか降り注ぐ灰が周囲を白く染める。 電源の確保が困難である以上、夜の闇に沈む筈の都市はしかし、赤々と周囲を照らし出す光によって最低限の視界を確保されていた。 都市の4割以上の区画を呑み込んだ、紅蓮の炎。 鎮まるどころか徐々に勢力を増しつつあるそれは、瓦礫の下にて救助を待っているであろう、数多の命を燃料として更に燃え上がる。 そして、何より。 『・・・特別救助隊202より、報告。大型機動兵器通過跡より400mの範囲内に生命反応なし。避難所も含め・・・全滅だ』 都市区画を貫く、一条の線。 地表を抉り、ビルを薙ぎ倒し、全てを粉砕しながら刻まれた、想像を絶する破壊の爪跡。 地上はおろか、地下に存在する全ての施設をも破壊し尽くしたそれは、巨大な鋼鉄の獣が地上を駆け抜けた跡だった。 年の西端より東へと数km、更に北へと数km。 時に歪み、捻れ、のたうつその線は、このミッドチルダという世界そのものに牙を突き立てた、異形の質量兵器によるもの。 生命の尊厳を踏み躙る、忌むべき思想の下に築かれし歪な存在によって刻まれた、蹂躙の傷跡。 その終着点に鎮座する、巨大な鉄塊。 機能停止から6時間が経過した今なお、それは至る箇所から炎と黒煙を噴き上げ、闇夜の空を赤黒く染め上げていた。 『急げ、崩れるぞ!』 『ナカジマ、まだか!? 押し潰されるぞ!』 『くそ、始まった! 退避しろ! 総員退避だ!』 都市の一画、崩れ掛けたショッピングモールの地下階へと続く外部アクセスポイントから、複数の管理局局員が慌しく姿を現す。 彼等は皆、一様に白いバリアジャケットを纏っていた。 湾岸特別救助隊。 ミッドチルダ南部の港湾地区に活動拠点を置く彼等は、被害の甚大さから急遽このクラナガン西部区画へと派遣されたのだ。 救助活動のスペシャリストたる特別救助隊、その中でも精鋭中の精鋭と言われる湾岸特別救助隊。 しかしその彼等を以ってしても、この巨大な墓標の群れと化した廃墟の中で発見されるのは、原形を留めない亡骸の山と「人であったもの」の破片ばかりであった。 否、欠片でも残っていればまだ幸運なもの。 多くは既に瓦礫の山と業火に呑み込まれ、コンクリート礫の合間から滲み出す大量の赤い液体か、上空に蔓延する黒煙の一部となっているのだから。 『こちらナカジマ、脱出します!』 『こっちもだ! ノーヴェ、出るぞ!』 決然とした声の念話と共に、アクセスポイントから2本の光の道が宙へと伸びる。 黄色の光を放つ道と、青い光を放つ道。 其々の上を目にも留まらぬ高速で駆けつつ、弾丸の様に地下から飛び出す2つの影。 直後、轟音と共にアクセスポイントから粉塵が噴き出し、200mほど離れた位置に建つショッピングモール全体が崩壊した。 背後からの衝撃を受け、光の道から放り出される2つの影。 それらは腕の内へと抱え込んだ小さな存在を庇うかの様に肩口から地表へと叩き付けられ、十数mを転がった後に漸く動きを止める。 赤い髪の少女と、青い髪の少女。 ほぼ同時に身を起こした彼女達の腕の中には其々、全身を赤く染め上げた幼い少年と少女の姿があった。 「移送を! 早く!」 青髪の少女、スバル・ナカジマの声が上がるより早く、医療班が2人の腕から子供達を受け取り担架へと乗せる。 移送される2人の姿を見送った後、スバルは駆け寄った同僚へと状況報告を始めた。 「・・・生存者はあの子達、2人だけ。母親だと思われる女性が崩落した天井に下半身を挟まれてたけど、もう息が無かった。避難所は・・・」 「・・・崩落、していたのね?」 「・・・うん」 項垂れ、力無く呟くスバル。 その肩をひとつ叩き、同僚の女性はその場を後にした。 ふと、スバルは自身の隣を見る。 其処には赤髪の少女、ナンバーズが1人、ノーヴェが地へと座り込んでいた。 その目には何時もの勝気な色は無く、ただ呆然とした様子のみが見て取れる。 「・・・大丈夫?」 スバルが、声を掛けた。 返事は無い。 再度、声を掛けようとした時、ノーヴェが掠れた声を漏らす。 「なあ」 「・・・何?」 「・・・あの子供・・・助かるよな?」 感情の削げ落ちた、無機的な声。 その問いに、スバルは答える事ができなかった。 少年を抱えていたノーヴェのスーツは夥しい量の血に染まり、スバルのバリアジャケットもまた、少女の血液によって赤く染め上げられている。 改めて自身の状態を振り返り、スバルの背中を冷たいものが走った。 手が震え、膝が笑い、全身が命を失ったかの様に冷たくなってゆくのを感じる。 初めてだった。 特別救助隊に所属してから、初めて要救助者の死と向き合った。 短い間ながら、湾岸特別救助隊にてスバルが出動した現場では、未だに死者が発生した件はなかったのだ。 沖合いでの客船沈没、ハイウェイでの大規模車両事故、コンビナート火災。 いずれの事故に於いても厳しい状況下に曝されながら、今までに学んだ知識と経験、そして仲間達との信頼と連携でそれらを乗り越えてきた。 1人の、たった1人の死者すら出さずにだ。 覚悟はしていたつもりだった。 いずれはその現実と向き合う事になるだろうと、彼女なりに理解してはいたのだ。 全ての現場に於いて、全ての命を救う。 その理想に反した現実へと立ち向かう事となる、その覚悟は確かに胸の内に存在していたのだ。 だが。 今、彼女の前に立ちはだかる現実は、その覚悟をすら嘲笑うかの様に過酷であり、残酷で、非情だった。 休日を謳歌していたであろう家族連れ、逢瀬を楽しんでいたであろう恋人たち、ただ日常を歩んでいたであろう数万・数十万の人々。 それらが一様に、無慈悲なまでに平等に命を奪われたという、信じ難い事実。 生存者救助の為に赴いたというのに、発見されるのは命無き骸のみ。 漸く救い出す事のできた小さな命の灯も、今まさに潰えようとしている。 否が応にも理解せざるを得なかった、余りにも非情な事実。 出血が激し過ぎた。 あの子供達は、もう。 「・・・ノーヴェ」 「何で・・・なんでぇ・・・」 血に濡れた腕を抱く様にして、掠れた声を漏らし続けるノーヴェ。 更生プログラムを受けていた彼女とその姉妹達、戦闘機人「ナンバーズ」の少女達は、急遽としてこのクラナガン西部区域へと投入された。 プログラムの経過が良好であった事、救助隊への所属に向け幾許かの知識を得ていた事、そして何より被害の甚大さと決定的な人員の不足から、迅速に彼女達の動員に関する特例が下ったのである。 そして、彼女らを良く知るスバルが、自身の能力に似たインヒューレントスキルを保有するノーヴェを伴い、崩壊間近となったショッピングモール地下への侵入を敢行したのだ。 その結果が、避難所の崩落確認と、生存者である子供2人の保護。 しかし、ノーヴェが初めて救ったその小さな命は、今この瞬間にも掻き消えんとしている。 それは、漸く新たな生き方を模索し始めた少女にとって、余りにも残酷な出来事。 スバルにとってもまた、要救助者の死という冷酷な現実を叩き付けられた切っ掛けが、齢10歳にも満たない少女であるという事実は余りに重い。 これが事故、もしくは天災だというのなら。 残酷な現実に苦悩しながらも、彼女らは決意も新たに先へと進む事ができただろう。 しかし今、この惨劇を造り出したのは不幸な事故でも、抗い様の無い天災でもない。 何処とも知れぬ時空の狭間より彷徨い出た、空舞う次元航行機の群れと人型兵器の軍勢、そして鋼鉄の巨獣。 次元世界より廃絶されるべき質量兵器によって武装した、ならず者共による無慈悲な蹂躙。 怨んだ。 無作法な客人共を怨んだ。 敵視し、軽蔑し、憎悪した。 2年前、目前で姉を傷付けられた時に抱いたそれさえ上回る、余りにも強烈で暗い感情。 スカリエッティでさえ避けた、市街地及び民間人に対する無差別攻撃の実行。 如何なる背景があろうと、彼等は決して越えてはならぬ一線を越えたのだ。 報いを、悪鬼の如きこの所業に対する報いを、己の内に燻る黒い炎もそのままに、然るべき「敵」へと叩き付けてやりたい。 それこそがスバルの、そして今この地へと展開する局員達の、その全てに共通する感情であった。 しかし、その相手は既に沈黙し、今は物言わぬ鋼鉄の屍と化している。 迎撃に当たった無数の陸戦魔導師、そして嘗ての上司達を含む空戦魔導師達、更には戦闘初期に於いて管理局部隊と敵対していた不明機体群。 彼等の猛攻により、突撃と砲撃によるクラナガン西部区画及び管理局地上本部への直接攻撃、そして人為的に引き起こされた地震によりミッドチルダ全域に対し多大なる被害を齎しつつも、狂える鋼鉄の巨獣はその身を炎の中へと沈めたのだ。 その実情を鑑みれば、報復は為されたと看做す事もできるだろう。 少なくとも、敵主力兵器を撃破した事は、敵勢力に対し非常に大きな打撃を与えたと判断できた筈である。 クラナガンの空を埋め尽くす程の次元航行艦の群れが。 そして、アルカンシェルの一斉射によって消滅した筈の「ゆりかご」さえ現れなければ。 「何で・・・今更・・・!」 小さく吐き捨てるノーヴェ。 その言葉を耳にしつつ、スバルもまた暴走する思考を抑える事に難儀していた。 次元世界史上最大最悪の質量兵器とさえ呼ばれた戦艦。 2年前、ジェイル・スカリエッティの手により復活し、聖王のコピーである少女を核として起動した、古代ベルカ王族の力を象徴する戦船。 6隻のXV級次元航行艦からのアルカンシェルによる一斉射を受け、空間歪曲に呑み込まれて消し飛んだ筈のロストロギア。 ノーヴェ達、ナンバーズの受けた衝撃は如何ほどのものだったであろう。 今なお償わんとしている罪の象徴が、消え去った筈の狂気の産物が、再びその姿を現し、無数の生命を無差別に奪わんとした。 局員によって撮影された映像に浮かび上がる濃紺青の艦体は、宛ら過去より這い出た亡霊、自ら達を冥府へと誘う亡者の腕にも等しく、彼女達の脳裏へと投影された事だろう。 過去を忘れる事はできない、決して逃れる事は叶わないと、怨嗟の声を撒き散らす冥界よりの船。 妄執と狂気により蘇りし「翼」は、彼女達が闇を振り払い未来へと歩もうとする意思を、絶望的な力とその威容によって打ち砕かんとする。 今にも古代ベルカの民の嘲笑が、スバルの脳裏へと聴こえてくる様だ。 聖王の名を騙り、「ゆりかご」を利用せんとしたスカリエッティと、その背後の時空管理局最高評議会。 「ゆりかご」を墜とし、旧暦より続く憂いを掃ったと歓喜する、新暦を生きる管理世界の住人達。 その全てを嘲笑う古代ベルカとミッドチルダの民、旧暦の戦場を駆けた全ての存在、冥府より上がる彼等の嘲笑が。 お前達如きに、真に「ゆりかご」を支配する事などできるものか。 本当の戦場を、質量兵器の跋扈する地獄を知らぬ者達に、聖王の「翼」たる戦船を墜とす事などできるものか。 幾度の戦場を、地獄を、極限の状況を。 その悉くを潜り抜けてきた戦士の群れを相手に、僅かなりとも抵抗できる余地が存在すると、本当にそう信じていたのか? 『こちらセイン・・・避難所に人型兵器の残骸が突っ込んでる。生存者は・・・居ない』 自身の思考に薄ら寒いものを覚えるスバルの意識に、ナンバーズが1人、セインからの念話が飛び込む。 傍らのノーヴェも同じくそれを受け取ったのか、漸く顔を上げて彼方を見やった。 しかしその目には、何時もの様に苛烈な意思の光は無い。 だが、続くセインからの念話を通じて放たれた声に、2人の表情が瞬時に引き締められる。 『ちょっと待って・・・人型兵器の背中が開いてる。多分、コックピットだと・・・ッ!?』 『セイン?』 『どうしたの? セイン、ねぇ!?』 微かな、しかし確かに発せられた、息を呑む音。 セインの身に、何かが起こったのか。 スバルとノーヴェのみならず、念話を受信した全ての局員達の間に緊張が走る。 『どうした!』 『セイン、何があったの!?』 他の地点で救助活動に当たっていたナンバーズからも、セインへの念話が飛ぶ。 其処にスバルの同僚、そして上司の声までもが加わり始めた頃、漸くセインからの応答があった。 『・・・こちら、セイン。人型兵器のパイロットを確認・・・』 その言葉が発せられるや否や、スバルとノーヴェの思考が戦闘に際したものへと変貌する。 周囲では複数の局員がデバイスを起動、セインの現位置を確認すべくウィンドウを開いていた。 人型兵器のパイロット。 実際に交戦した部隊からの報告では、不明機体群とは違い彼等は終始敵対状態にあったという。 そして彼等が、都市に対し無差別攻撃を仕掛けた事も、映像を交え明確に伝達されていた。 ならば、そのパイロットが敵対的行為に出る可能性は容易に想像がつく。 誰もが非道な敵へと己が力を向ける事を考え、地を駆けようとした、その時。 『パイロットは・・・もう、死んでる』 続くセインの言葉に、多分の安堵と僅かな落胆がスバルの胸中を満たす。 しかし。 『何で・・・何で・・・』 更に続いて紡がれたセインの言葉に、誰もが凍り付いた。 『この死体・・・「干乾びて」るの・・・?』 スバル達の背後から、特別救助隊員の声が上がる。 不明機の墜落地点を調査していたギンガ・ナカジマとウェンディ。 彼女達から緊急の報告が飛び込んだのは、セインの発言とほぼ同時だった。 * 『上層階に4人、機体左右に2人ずつ! 非殺傷設定だ、間違えるな!』 『ギン姉、準備できたッス!』 『こっちも良いわ。こちらナカジマ、位置に付きました!』 『229、展開完了。何時でも良いぞ!』 炎上する大型機動兵器より1kmの地点。 崩壊寸前となったビルの残骸、その抉れた壁面の中腹。 ギンガとウェンディ、そして陸士部隊の計14人は、瓦礫に埋もれる深紅の機体を前に各々の得物を構えていた。 満身創痍、機体の右側面が完全に吹き飛び、未だ僅かに炎を燻らせる不明機体。 陸士部隊の証言が正しければ、あの大型機動兵器に止めを刺した機体。 ヴィータ三等空尉と共に鋼鉄の巨獣へと挑み、ガジェットの突撃から彼女とリィンフォースⅡ空曹長、そして高町一等空尉の3名を庇い、遂には撃墜された近接戦闘特化機体。 話だけならば、間違いなく英雄と呼べる存在であろう。 都市を襲う脅威を打倒し、JS事件収束の立役者である者達をその身を以って救った存在。 誰もがその功績を讃え、口々に賞賛の言葉を述べたであろう。 その英雄が戦闘の火蓋を切った勢力の所属であり、管理世界に於いて禁じられし質量兵器によって武装した存在でなければ。 『ナカジマ陸曹、どうぞ』 『了解』 陸士部隊からの念話を受け、不明機体の正面に位置したギンガが声を上げた。 その両足には彼女のデバイスであるブリッツキャリバー、そして左腕にはリボルバーナックルが装着されている。 管理局部隊に加勢したとはいえ、パイロットが敵対的行動を選択する可能性も残っているのだ。 そして何より、一方的な攻撃を仕掛けてきた存在に対する不審と敵意、質量兵器に対する拒絶が、ギンガを含む局員達の胸中に根付いている。 武装もせずに接近など到底、許容できる筈もなかった。 「こちらは時空管理局です。直ちに機体を降り、投降しなさい。貴方は既に包囲されています」 『こちらディエチ、配置に付きました。何時でも撃てます』 『チンクだ。上層階に到達、奴の上に居る』 『こちら229、注意しろ。パイロットは武装している可能性が高い』 不明機体へと投降を促すギンガ。 キャノピーの損傷の度合いから、パイロットは生存している可能性が高い。 何より先程、確かに機体が再起動を試みたのだ。 パイロットが生存しているのならば、身柄を拘束し情報を引き出さねばならない。 「繰り返します、直ちに投降しなさい。貴方は首都上空に於ける・・・」 『ナカジマ陸曹、キャノピーが!』 再度の呼び掛けは、ディエチからの警告によって遮られた。 咄嗟に拳を構えれば、左右の瓦礫の陰に位置したオットーとディードの姿が目に入る。 いずれ、他のナンバーズ達やスバルも駆け付けるだろう。 何も問題は無い、筈だ。 ゆっくりと、罅割れたキャノピーが開放されてゆく。 緊張に固唾を呑む一同の目前で、傾いた機体のコックピット、2m程の高さから人影が現れた。 全身を濃灰色のスーツに包み、同じく濃灰色のヘルメットと漆黒のバイザー、重厚なマスクを身に着けた人物。 スーツは宇宙服としての機能を併せ持っているのか随分と重厚な作りであり、パイロット自身が激しく動き回る事は想定されていない様に思える。 しかし不明機パイロットは、意外にも機敏な動きでコックピットより飛び降り、細かな瓦礫の散乱する床面へと着地した。 徐に頭を上げ、周囲を見回すその右手には、黒々とした物体が握られている。 質量兵器。 局員、そしてナンバーズの間に、緊張が走る。 拳銃を2回り以上大きくした様なそれは、短機関銃と呼称される携行火器か。 恐ろしかった。 その気になれば、数秒と掛けずに命を奪う事さえ可能な、非力な存在。 魔力は感じられず、その手に握られた質量兵器も、少なくともそう簡単に魔力障壁を撃ち抜けるものとは思えない。 にも拘らず、目前の異質な存在が恐ろしかった。 これまでに対峙したどんな次元犯罪者とも異なる、管理世界の理から外れた認識と思想の下に行動し、強大な力を秘めし質量兵器を搭載した異形の機体を駆るパイロット。 まるで眉間に銃口を押し当てられている様な重圧が、全身へと圧し掛かる。 と、周囲へと視線を廻らせていたらしき不明機パイロットの首が、ある一点で止まる。 その方向には、瓦礫の陰に身を潜め、ツインブレイズを構えるディードの姿。 不明機パイロットの視界からは、完全に死角となっている筈の位置。 しかし、相手は何故かディードの存在に気付いているらしい。 その危惧は不明機パイロットが首を廻らせ、次いでオットーの潜む地点へとバイザーを向けた事で確信的なものとなった。 次に、正面に位置するギンガへと向き直り、しかし僅かに首を上へと向ける。 その方向に位置するは、遥か後方のビル屋上より不明機体を狙うディエチ。 ギンガの背筋を、冷たいものが走る。 依然として、魔力は感じられない。 サーチを行っている様子も、その術式構築すら為された痕跡は無い。 にも拘らず、目前の不明機パイロットはオットーとディードの存在を看破し、更には400m後方のディエチの存在すら察知した。 これは、一体? 戦慄するギンガ、そして周囲の魔導師とナンバーズを余所に、不明機パイロットは携行火器上部の光学サイトを弄り、次いでマガジンを外して内部の弾薬を確認。 マガジンを戻し、火器を握り締めたままだらりと両腕を下げる。 埒の明かない状況に痺れを切らし、再びギンガが投降を促そうとした、その時。 『了解した』 拡声装置を通してのくぐもった声が、周囲へと響き渡る。 唖然とする魔導師と戦闘機人達を余所に、不明機パイロットは携行火器をスーツの前面へと引っ掛けると、両の掌を宙へと向け言い放った。 『投降する』 * 紛う事なき「人類」の存在。 既知の如何なる技術体系とも異なるエネルギー集束・解放制御技術。 終ぞ検出される事の無かったバイド係数。 攻撃隊と都市、そして超大型異層次元航行艦を襲ったバイド汚染兵器群。 多数の未確認艦艇及び、艦隊中枢と思われる大型異層次元航行艦。 最先端技術により構築された、旧式の局地殲滅兵器。 事前情報の悉くを否定する事態の連続。 最早、艦隊とパイロット達の司令部に対する不信は頂点に達しており、状況は完全な独立作戦行動を求められるまでに追い詰められていた。 超大型異層次元航行艦の攻撃に当たった部隊は12機のR戦闘機と同数のパイロットを損失、都市攻撃隊に至っては34機もの損失を被っている。 確認されたバイドについては、無論の事ながら殲滅せねばならない。 しかし、当初の作戦目標である都市と艦艇、双方の制圧については最早遂行は困難と判断し、その旨を伝えるべく司令部への異層次元中継通信を行ったのが3時間前。 本来ならば任務の遂行を強調する司令部と、艦隊司令権限による独自判断を主張する司令との間で腹の探り合いが行われている筈なのだが、しかし艦隊旗艦クロックムッシュⅡの艦橋、彼の座する司令席には、不気味な沈黙が立ち込めていた。 周囲のコンソールには複数の情報が表示され、更には無数の空間ウィンドウが司令席を取り囲む。 その中の1つ、「S.O.F. Weapons depot」と表示されたウィンドウが拡大表示され、PDWにて武装した兵士達の姿が大写しとなった。 兵士の1人がウィンドウの横へと拡大表示され、同時に音声が発せられる。 『各種装備、完了しました。拘束の許可を』 奇妙な問い。 彼は微塵もうろたえる様子を見せず、冷徹に指令を下した。 「了解した、拘束を許可する」 その言葉が終わるや否や、ウィンドウ内の兵士達が数秒の内に武器庫を後にする。 同時に司令席コンソールの向こう、複数存在するオペレーター席の1つから、随時状況の変化を知らせる音声が発せられ始めた。 「目標14、周囲に直属の警護隊が展開しています。PDW・MP-15による武装が4名、AR・M-34による武装が同じく4名、計8名。R-9WFの周囲を巡回中。巡回ルートを表示します」 『ルートを受け取った。これより拘束に移る』 「目標からの抵抗に際し、任意での発砲を許可する。繰り返す。発砲を許可する」 『了解』 発砲許可。 自らの艦に乗る人員に対するそれを至極平然と許可し、しかしその決定に動揺する声は艦橋の何処からも発せられる事は無い。 この艦の、否、艦隊の誰もが、「彼等」の拘束に賛同しているのだ。 司令部より派遣された彼等、艦隊にとっての異邦者、パイロット達にとっての敵意と嫌悪の対象。 「TEAM R-TYPE」 切っ掛けは、都市攻撃隊が集音した不明勢力間の会話だった。 ごく近距離に位置する人物同士での、肉声による遣り取り。 無数に収集されたそれらの遣り取りの中から、有用と思われる複数の情報を得る事ができた。 時空管理局・地上本部・本局・聖王教会。 魔力・魔力素・魔法・魔導師・リンカーコア・デバイス。 陸戦魔導師・空戦魔導師・砲撃魔導師・騎士。 砲撃魔法・直射型・集束型。 ミッドチルダ・クラナガン・ベルカ・廃棄都市区画。 陸士・首都航空隊・戦技教導隊。 ゆりかご・ガジェット・ロストロギア・質量兵器。 その全てについて、理解が済んだ訳ではない。 寧ろ解らない事の方が多いのだ。 しかし、この異層次元に展開する広域高度文明が、魔法と呼ばれる空想じみた技術体系の下に成り立っているという事実は判明した。 その理論までは今のところ理解の仕様が無いが、収集したそれらの情報が意外な事実を浮き彫りにする事となったのだ。 それは、整備と新たな簡易改修を受けるR-9WF、その周辺にて交わされた担当技術者達の会話。 新たなウィンドウを開き、録音された会話を再生する。 『・・・K-04からの流出は確認されない。ニクソンの集束機構は成功だ』 『では集束率を上げるか? 今の段階では通常の波動砲と大して変わりは無い。精々が炸裂範囲の拡大程度だ。それも他の特化型に比べれば、見るべき箇所は無いぞ』 『それでも良いが・・・データを見ただろう? 射出の瞬間、明らかに周囲の大気圧が変化した。大気だけじゃない、周囲の「魔力素」までもが、だ』 魔力素。 確かに、彼等はそう口にした。 会話は続く。 『空間への直接作用か? R-9Bの波動砲システムを流用すれば、何とかなるかもしれないな』 『「D7」のデータを見ただろう。天候操作魔法なんてのがあるんだ、できない道理は無い』 サンプル「D7」。 363部隊機が交戦の末に撃沈した、あの不明艦艇に刻まれていた文字。 やはり、R戦闘機開発陣は。 『G-47のユニットと出力回路を交換するのが精々だ。調整は可能か?』 『やってみせるさ。今までに無い体系の波動兵器になるぞ。安定性の確保は任せても良いんだな?』 『応急的なものだが、まあ暴走の危険性は低いだろう。だが、魔力素の存在しない空間ではどうする? 波動粒子のみの制御は想定されていないぞ』 『問題ない。「RCユニット」のストックは山ほどある。理論値通りならば、誤差を含めても14基の増設で事足りる筈だ』 『波動粒子の変換効率は? 人造とはいえ「リンカーコア」だ。無茶をすればそう長くは保たない』 『だからこその処置だ。「艦長殿」の処理能力は知ってるだろう。あれだけ派手に弄ったんだ、相応の成果は出して貰わなければ困る』 『それもそうか・・・データは採取済みなんだな? バックアップがあるならば、オリジナルに固執する必要は無いか』 『なかなかの「性能」だからな、廃棄するのは惜しいが・・・』 音声ウィンドウを閉じ、格納庫の一角を映し出す別のウィンドウを見やる。 R-9WFの周囲に群がる、14名の技術者達。 更にその周囲を巡回する、8名の警護隊員。 間違いなく彼等は、この異層次元文明を構成する技術体系の根幹に触れている。 にも拘らず、それを伝える事も無く攻撃の指令を下した司令部。 R戦闘機開発陣の下に保管されていた不明艦艇。 図った様に実施された、新型R戦闘機の実戦投入。 全ての線が、漸く繋がり始めた。 『報告。異層次元中継通信途絶状態、回復失敗。浅異層次元での妨害を受けています』 『航法より報告。太陽系・・・失礼しました。「22世紀」の太陽系への空間跳躍ゲート、消失を確認。異層次元航法推進システムを用いた航行シミュレーションについては、98.46%の確立で複合空間歪曲発生の可能性が算出されました』 同時に飛び込んだ、2つの報告。 了解した、との応答を返し、彼は静かに思考を廻らせる。 この異層次元全体が、他の異層次元より隔離された。 この現象がバイドによるものならばまだ良い。 過去に幾度となく用いられた手段であり、異層次元全体を侵食する能力がバイドに備わっている事も既に判明している。 だが、もしも。 もしも、この異層次元を隔離した存在が「地球」であったならば? 「想定外」のバイドの出現により、全てを異層次元の果てへと屠るべく実行された、次元消去作戦であるならば? 喧騒。 格納庫の一角で、押し問答が始まった。 兵士達の無感動な声と警護隊の荒々しい声、両者の遣り取りを耳にしつつ、彼は軽く司令帽を被り直す。 何を考えている。 司令部が本当に次元消去を企んでいるのならば、既に2時間は前に1000を超える次元消去弾頭が撃ち込まれている筈だ。 それ以前に、司令部による戦闘後の偵察活動が一切観測されない事態など、異常に過ぎる。 ならば、考えられる状況はひとつ。 この異層次元は、バイドによって「喰われた」のだ。 この艦隊は、この異層次元の住人達は。 今この瞬間。 ただひとつの例外なく、バイドの腹の中にあるのだ。 艦内に、警報が響き渡る。 艦隊前方、浅異層次元潜行解除による空間歪曲反応検出。 大質量物体転移、複数。 狂獣の咆哮、未だ止まず。 * 『B2からB41に掛けての区画は、現在立ち入りが禁止されています。武装局員待機所及び物資集積所は、現在D11区画に臨時設置されています。繰り返します。B2からB41に掛けて・・・』 ミッドチルダ及び時空管理局本局に対する、不明機体群及び不明勢力の襲撃より3日後。 なのはは本局内の病室より抜け出し、医療区の施設内を彷徨っていた。 端末を用いてヴィヴィオの無事を確かめ、心細さに泣く我が子をウィンドウ越しに慰め2時間ほど話すと、ヴィータとリィンの状態を確かめるべく彼女達の元を訪れようとするなのは。 意識を失っていた2日間、そして空が光ったあの瞬間に一体何があったのか、彼女はそれを知りたかった。 端末から情報を得ようと試みたのだが、錯綜する膨大なそれらから得られたのは、クラナガン西部区画が文字通りに崩壊した事、ゆりかごのみならず多数の古代ベルカ及びミッドチルダの次元航行艦が艦隊に存在していた事、襲撃の犠牲者は20万を超える事など。 あの瞬間に何が起こったのかについては、詳細な情報を得る事は叶わなかったのだ。 しかし、ヴィータの所在を尋ねるべく漸くの事で中央センターへと通信を繋いだなのはは、一連の事態が信じられない程に大規模なものとなっている事実に直面した。 本局への直接攻撃。 一部区画の重大な損傷。 XV級次元航行艦14隻喪失。 1300名を超える犠牲者。 管理局第14支局の消滅。 そして、更に。 緊急用圧縮魔力排気ダクト内にて、本局への侵入を果たした不明機体との戦闘に当たった者達。 シグナム、アギト、フェイト・T・ハラオウン、ティアナ・ランスター、ユーノ・スクライア。 内、シグナムとユーノは意識不明の重体であるという、衝撃的な事実。 未だ軋む身体を引き摺りながら、なのはは医療区を彷徨う。 ナビゲーションシステムに浮かぶ本局の簡易立体構造図は、6つのユニットの内1つが大きく抉れ、区画封鎖中の文字が点滅していた。 戦闘による区画消滅。 中央センターからの情報によれば、その地点での迎撃に当たっていた人物はフェイト・ティアナ・ユーノであったとの事。 一体何が起これば、この巨大な本局の一画が文字通り「消滅」するというのだろう。 胸中を満たす不安と焦燥に急かされる様にして辿り着いた、集中治療室の1つ。 乱れた呼吸もそのままに入室すれば、病室との区切りであるガラス壁の前に、椅子に腰掛けた金髪の人影があった。 「フェイト・・・ちゃん・・・」 「・・・なのは?」 ゆっくりと振り返る人影、フェイト。 彼女の面を目にしたなのはは、思わず息を呑んだ。 憔悴し切ったその表情。 目の下には隈が浮かび、泣き腫らしたのか目許は真っ赤になっている。 僅かだが頬は痩け、肌も荒れている様だ。 「あ・・・あ・・・」 その目に、不意に涙が浮かぶ。 微かな嗚咽を洩らしながら、フェイトは歩み寄ったなのはへと縋り付いた。 そして吐き出されるは、意図の解らない謝罪の言葉。 「ごめんなさい・・・っ」 「え・・・?」 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・っ!」 嗚咽の合間に繰り返されるその言葉に、なのはは困惑を深めてゆく。 しかし続く言葉に、彼女の全身から血の気が引いた。 「私・・・私の所為で、ユーノが・・・っ」 反射的に、ユーノが横たわるベッドへと視線を移す。 生命維持装置より繋がる無数のホースと、ベッドを覆う継続治癒結界。 嘗てなのはも、身を以って体験したそれ。 しかし、決定的に違う何か。 一見しただけでも彼女を襲う違和感。 そして、漸くその原因へと認識が至った瞬間、なのはの脳裏を絶望が過ぎった。 「何、で・・・」 呟く言葉は、目前の光景を理解したくないと云わんばかりに震える。 認識を拒絶する意識は、しかし視界へと映し出されたそれを正確に捉えていた。 「何で、ユーノ君・・・」 戦慄く唇は、掠れた声を紡ぐ。 自失の声、絶望の声を。 「ユーノ君の身体・・・こんなに「小さい」の・・・?」 横たわるユーノの身体を覆う純白のシーツ。 本来ならば胴の左右、そして下方に存在する筈の膨らみ。 それが、右側面のみにしか存在しない。 腰部下方、そして左側面には、胴部より緩やかに下る、シーツの斜面があるだけだ。 即ち、右腕を除く四肢は。 「・・・不明機体の・・・兵装が、暴走した時・・・」 「フェイト、ちゃん?」 途切れ途切れの声。 それが交戦時の状況を語る、フェイトの声となのはが気付いたのは、数秒後の事だった。 「ユーノは私とティアナを連れて、中央区画に転移しようとしたんだ。でも・・・」 涙が、なのはの腕を濡らす。 言葉を紡ぎ続けるフェイトの声は、更にその震えを増した。 「あの球状兵装が、私達に向かってきた瞬間・・・一帯に空間歪曲が発生して・・・転移先の座標が・・・ずれて・・・っ」 幼子の様に、なのはの衣服を握り締めて泣き続けるフェイト。 その背を優しく撫ぜながらも、なのはは自身の震えを抑える事ができなかった。 そして遂にフェイトが、事態の凄惨な結末を口にする。 「ユーノの・・・脚と、左腕・・・っ!・・・壁の、中に・・・っ!」 頬を、熱いものが伝う。 なのはは、自身が何時の間にか涙を流している事に気付いた。 「なのに・・・っ! なのにユーノ・・・私と、ティアナに・・・治癒結界を・・・っ!」 後に続くは、慟哭のみ。 なのはもまた、大切な人を襲った惨劇を前に、感情を抑える事ができなかった。 只々、声を上げて泣きじゃくる目前の幼馴染を抱き締め、自身も小さく嗚咽を洩らし始める。 管理局が誇る2人のオーバーSランク魔導師は、意識の無い幼馴染を前に只々、互いの身を掻き抱きつつ涙を流す他なかった。 時に、新暦77年10月30日、11時20分。 クラナガン西部区画にて拘束された、不明機パイロット。 八神はやて特別捜査官による尋問の開始まで4時間と迫った、本局医療区画での事だった。