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湯浅比呂美〔ゆあさ ひろみ〕 作品名:true tears 作者名:[[]] 投稿日:2008年2月11日 画像情報:640×480px サイズ:79,135 byte ジャンル:[[]] キャラ情報 このぐぬコラについて コメント 名前 コメント 登録タグ 2008年2月11日 true tears 個別ゆ
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==注意!読むと鬱になるかも!危険を感じたら途中で止めてください== 湯浅比呂美が仲上家に入った日 やべぇ、ほんとに来るのかなぁ。楽しみって言ったらそうだけど。 何ていうか、学校のヤツラに何言われるんだろう? うーん、へへへ。 同じ家に住んで、一緒にメシ食べて、テレビ観て、おやすみぃ~、とか。 ん? <仲上眞一郎君のプライベートです。ご遠慮下さい> ま、やっぱ楽しみだよなぁ。よし、寝よう。 比呂美がこの仲上に来ることが決まってから、しばらく経った夏も終わりに 近づいたある日。そう、とうとうその日がやってきた。父さんが車で向うの 家まで迎えに行っているらしい。なんだか落ち着かない。母さんはちょっと キゲンがわるいような気がするけど、ま、いっか。ちょっとキゲンがわるい 方がこっちをかまってこないし、好都合だ。 「しんちゃ~ん」 母さんが呼んでる。おおっ、とうとう来たんだ 喜んでいると思われたくないので、なるべくいつものような調子で比呂美を 出迎える為に靴を履き、眞一郎は入り口まで歩いていった。 キッ。 車が止まり、比呂美が助手席から降りてくる。 おおお~、来ましたよ~、比呂美が~、ん?…最初の違和感… 「お世話になります」 比呂美は目を伏せて、腰を深く折り曲げて挨拶してくる。 あれっ?なんだか仰々しいなぁ。丁寧なんだな、うん、挨拶は大事だからね。 眞一郎も何度か頭を下げて挨拶を返す。簡単な挨拶が終わった後、母さんは さっさと家に戻ってしまった。まあ、何か準備しているんだろうな。 「さ、荷物運ぶのを手伝いなさい」 父さんは車の後ろに回って、こっちに向かって手招きしている。 よし、いっちょやりますかっ。 「でも、いいですから」 比呂美は小さな声で遠慮しているが、 「今日からウチの子なんだから、皆もそのつもりで」 「はい」 従業員の返事を聞きながら、あまり大きくないダンボールを運ぶ眞一郎。 「ごめんなさい」…最初のごめんなさい… 比呂美は先に自分の部屋に行ったみたいだ。まあ、母さんが場所教えるでしょ う。引越しの荷物は既に運び込んであるみたいで、ダンボールは最小限の荷 物みたいで、それほど重くない。 比呂美は部屋の前で待っていた。 「ここでいいです」 「えっ?運ぶよ?」 「しんちゃん、お部屋に入ることないでしょ?」 ああ、そっか。女の子の部屋だもんな。そうだった、そうだった。 部屋の前にダンボールを置いた後、眞一郎は部屋に戻っていった。 うーん、比呂美だ。やっぱり来たよ。 眞一郎は、落ち着かない様子で部屋の中で動き回っている。同年代の女の子、 しかも小学校からずっと同じクラス、何回か一緒に遊んだこともある。最近 はそれ程時間を共にしたことはないが、気になる子が自分の家で一緒に住む、 というのは、少年にとって大事件である。絵本を手に取ったり、椅子に座っ てみたりと、何も手に付かない様子なのは致し方ないであろう。 午後12時半。 「しんちゃ~ん、ごはんよ~」 「はーい!」 あれ?もうそんな時間?なんにもしてないよなぁ、今日。 いつの間にか時間が経っていて、既にお昼時を回っていた。居間に行くと、 既に両親と比呂美は座っている。眞一郎もいつもの場所に座り、全員そろっ ての初めての食事となる。 「いただきます」 「今日は暑いから、そうめんにしましたよ。はい、しんちゃん」 「うん」 たしかに暑いなって思っていたから、ちょうどいいや。 眞一郎は、ばくばくと次々に食べていくが、比呂美はゆっくりと少しずつ 食べている。 やっぱ緊張してんのかなぁ、そりゃそうか。 その時、そうめんを取ろうとした眞一郎の箸が、比呂美の箸とぶつかりそ うになった。 「ごめんなさい」 あっという間に自分の箸を下げる比呂美。 「あっ、ごめん。いいよ、とりなよ」 「…」 こちらを見ようともせず視線を下げている比呂美に、眞一郎は困惑した。 「…」 「…」 比呂美も何も言わずに、じっと自分の手元を見ている。 「しんちゃん、取ったら?」 「うん」 母親に言われて、やっと眞一郎が箸を動かしそうめんを取る。眞一郎は違和 感を感じていた。いつもそれ程会話のある食卓ではないが、今日は違う。 比呂美がいるせいではない、母親の雰囲気が違うのだ。それが食卓全体に及 んでいるような気がする。 「ごちそうさま」 「はい」 眞一郎は手早く食事を済ませて、部屋に戻った。 午後2時すぎ。 かなり緊張してるなぁ、比呂美のやつ。まぁ、しょうがないかな、今日はな んだか母さんのキゲンわるいしなぁ。ったく、母さんもちょっとは比呂美に 気を使ってやればいいのになぁ。 眞一郎は比呂美が気になって仕方ない、いつも見ている比呂美とは全く違う 様子が心配になっている。 よし、比呂美がこの家に慣れるまでは、こっちが色々と話しかけてあげない とな。そりゃ誰だって緊張するって。あ、ちょっとトイレ。 眞一郎は、1階のトイレに向かうべく階段を降りていく。ちょうど廊下の角 を曲がったところで、比呂美にぶつかりそうになる。 「ごめんなさい」 ちょうど眞一郎の口の辺りへ比呂美は視線を下げ、また謝った。 「あっ、こっちこそごめん」 「…」 「そうだ、何か手伝うことあったら、言ってよ。今日ヒマだしさ」 眞一郎は努めて明るく申し出てみる。 「大丈夫、自分で出来るから」 比呂美の言葉は、小さく、平坦で、およそ生気というものが感じられない。 眞一郎はさらに言ってみる。 「でもさ、ほら、重たいものとかあったりするだろ?」 「ごめんなさい」 比呂美は、またも視線を少し下げたまま謝り、眞一郎の横を通り過ぎていく。 もう、何も言うことはできなかった。 それからの眞一郎は、用事もないのに2階と1階を行ったり来たりして、テ レビの部屋や、居間や、庭に行ってみたりしていた。比呂美に会うことはで きなかった。 午後7時。 眞一郎の困惑は、夕飯の食卓でも続いている。 相変わらず会話はない、眞一郎が何か言いかけようとするが、雰囲気がそれ を遮るようにしているため、結局会話というものがなかった。 「ごちそうさまでした」 比呂美は小さな声で言い、頭を軽く下げてから居間を出て行く。ほとんど彼 女は食事に手をつけていない。そのまま、部屋に向かったようだ。 だが、その時眞一郎の耳に想像もしなかったものが飛び込んできた。 眞一郎の箸が止まる。 「うぅ、ぐぅぅ…」 比呂美がトイレで吐いている… 会話のない食卓に音が聞こえてきてしまった。 眞一郎はどうすることもできない気持ちになっていた。食事なんて手に付か ない。いたたまれない気持ち。 しばらくの後、扉越しに小さな、小さな比呂美の声が聞こえてくる。 「ごめんなさい、今日、体調が悪かったみたいです。本当にごめんなさい…」 か細く、弱弱しい、比呂美の声。 「先に休みます。おやすみなさい…」 ぱたぱたぱた。スリッパの音が遠ざかっていく… 「おやすみ」 なんとか眞一郎が返事をした時には、比呂美の気配すらなかった。 午後11時。 眞一郎はどうにかして、絵本を書こうと机に向かっていた。白い紙には何も 描かれていない。何も浮かばない。彼の頭をよぎるのは比呂美の姿。 視線を下げ、「ごめんなさい」 眞一郎はその比呂美の姿と声を振り払うことができない。夕食の後テレビを つけていた気がするが、どうだったろうか? 視線を下げ、「ごめんなさい」 比呂美の姿と声。 視線を下げ、「ごめんなさい」 いつも笑っていた比呂美。 視線を下げ、「ごめんなさい」 比呂美が来てうれしかった眞一郎。 視線を下げ、「ごめんなさい」 眞一郎にとって、それからの日々は楽しいものになってもよいはずだった。 しかし、彼には何もできなかった。比呂美の笑顔を仲上の家で見たい、彼は そう思うようになっていった。ただ、それだけ。それが彼の望みとなった。 自分の無力さを彼はこれからゆっくりと味わうことになるだろう、思い知る ことになるだろう。もしかすると、それこそが彼を縛り、積極性を失わせ、 自ら動かなくなる原因の一つかもしれない。 彼にできること、やらねばならないこと、真の望み、それは何か? 視線を下げ、「ごめんなさい」 END -長いあとがき- えーと、申し訳ありません。暴走しました。 比呂美を追い詰めすぎました。ご気分が悪くなったのであれば謝罪します。 レスで眞一郎視点が見たい、とありましたので15歳の少年になったつもりで 書きました。 本当は比呂美が来る日の彼の、どきどきわくわくな日を書くつもりだったの です。書き出しを見ていただければおわかりになると思います。 眞一郎視点という言葉で連想したのが、1話で回想された比呂美が仲上家に やってくる映像でした。 しかし、セカイノナミダを繰り返し聞きながら書いたのがいけなかったので しょうか?反省しています。 SSを書く時は、何も考えません。連想した映像が浮かぶと、そのまま勝手に ストーリーが構成されます。おそらくTV5話までのことが色々よぎりながら キーボードが叩かれたのでしょう。今回も最初の映像から次々とその日の二 人と周りの状況が浮かんできて、こうなりました。尚、意図的に比呂美の表 情についての描写がないのではありません、浮かんできませんでした。心理 描写も同様です。あの日、比呂美は自分が来たことでうかれている眞一郎と 会って、何を感じ、思ったのでしょうね?想像したくないです。 また、時間が途中で入っていますが、これらは二人の1年間の時間経過を表 現するためです。もっとゆっくりと物事は進んだのかもしれませんが、SSな ので1日で消化させました。 これらの理由で、タイトルは"来た日"ではなく"入った日"なのです。 くれぐれも申し上げます、当たり前ですがこのSSとアニメ本編には全く関連 性がありません。普通にTVアニメを楽しんでいるだけなのになぁ… このアニメのキャラ設定、凄いと個人的に思います。作った人を尊敬します。 他のキャラも隙がないように感じています。 最後に、読んで下さってありがとうございました。懲りないでまた読んでね。
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【うらやましいぞこいつ】 比呂美のバイト その5 両親に話した翌日、バイトの面接はあっけないほど簡単に終わり、二人揃っ て採用となった。 元々良く知った場所である。仲上の名が後押ししたのも間違いない。そこだ と聞かされた時に眞一郎は渋ったが、代案が出せるわけでもなかった。 採用する立場から見た時、誰もが認める美しく気立ての良い比呂美に対し、 自分の人員としての魅力が大きく欠けている事を、眞一郎は良く知っていた。 その場所でなくては、都合よく二人そろって採用される事もなかっただろう。 それはわかっている。 それでも、仲上家の名が影響してくる職場である事に、多少の抵抗を感じざ るをえない。その眞一郎に、比呂美は言った。 「甘えなければいいの。おじさんやおばさんの顔をつぶさないよう、逆に顔を 立てられるように頑張れば、皆にプラスになるはずよ」 女は、強い。眞一郎はそう思った。 昼休みに入ってすぐ。窓際の眞一郎の席に、比呂美が近寄ってきた。 比呂美が窓際に来る用など、ほぼ決まっている。間に居た同級生が前から退 き、眞一郎の机までの道がさりげなく静かに作られる。少し、教室の会話のト ーンが下がった。 (いつもながら、すごいよな…) 三代吉は、あきれ半分、感心半分の気持ちでそれを見ていた。 クラスでの半公認カップルとはいえ、相手の近くに寄るだけで教室中の注目 を集めてしまう組み合わせは、この二人しかなかった。もちろん中学校でもそ んなものを見たことはない。 そう長い間ではなかったが、三代吉も湯浅比呂美に憧れた時期がある。高校 に入りたての頃であった。 その事について今さら引きずる事はない。すぐに別世界の女だと割り切って 終わっているためだ。 別の中学から上がってきた生徒は"湯浅比呂美"を知らない。新学期、教室に 居る美少女を見て驚き、その娘が万能の優等生である事を知って目を奪われる のは、無理からぬ事である。比呂美は簡単に無視して終われないほどの光輝を 放っていた。 とりあえず比呂美に憧れてみるのは、男子生徒の不幸な通過儀礼のようなも のであると三代吉は考えていた。どうせすぐに悟るのだ。並の男では到底つり 合わない事が。 (俺では、湯浅比呂美を生かせない) 湯浅比呂美を"落とす"、それだけなら可能だとは思う。壊してしまえばいい のだ。 一人でいる時に現れる"陰"の部分に、三代吉は気付いていた。それは三代吉 が人間の陰を多少なりとも知っているからこそ、わかった事なのかもしれない。 比呂美には、高性能であるがゆえの脆弱さがどこかにある。そこを探して徹 底的に突けば、彼女を壊す事はできる。心の壊れた身体だけなら手に入れる事 はできるだろう。 だが、三代吉はそんな事に興味はなかった。 自分が比呂美を諦めた事を、全く残念とは思わない。比呂美は女性として魅 力的ではあるが、自分では生かす事ができず、比呂美が自分を生かす事もない だろう。お互いを潰し合うだけの関係に意味はない。 三代吉は自分と相手を相互に生かす事のできる相手が欲しかったのだ。 ――後の話になるが、石動乃絵とその兄は、知ってか知らずか、ピンポイント でそれを仕掛けていた。比呂美の眞一郎への想い。それさえ破壊すれば比呂美 は堕ちる。三代吉の4番への憤りは、眞一郎とは別の意味で、深いものがあっ た―― (湯浅比呂美を生かせる男が、存在するのだろうか?) 彼氏候補としては早々に離脱した三代吉だが、"湯浅比呂美"という人間に対 する興味は尽きなかった。この女性は、環境と状況さえ整えば、相当な事をや ってのけるだろう。しかし、横に付く男が悪ければ、全てを棒に振ってしまい かねない。それはなかなか難しい問題に思われた。 だが、その問いにはすぐに答えが出た。ごく控えめな存在ながら、"仲上眞 一郎"という男が傍にいたためである。 比呂美と比べ、眞一郎は特に目立つ事はなかった。成績も平凡かそれ以下。 運動ができるわけでもない。あまりカドの立たない性格。容姿は割と良いが、 優しいだけのお坊ちゃん。それが大半のクラスメートの評価であった。 その"仲上眞一郎"を三代吉が見いだしたのは、比呂美が何かの用事で彼に話 しかけた所を、偶然見た時だった。 「眞一郎くん――」 その声色が違っていたのだ。少しだけ甘い、特別な響き。比呂美にとって眞 一郎が特別な男である事は、明らかに思えた。 ただ同居しているだけで親しいという関係には、とても思えなかった。比呂 美が特別視するだけの理由が、何かあるはずだった。 "仲上眞一郎"は、思った以上に面白い個性だった。 何でも素直に受け入れる所があり、それでいて譲らない何かを心に育ててい る男。眞一郎にはどこか器の大きさを感じさせる所がある。 中学・高校の男子は、自分を強く大きく見せようと格付けをしあったり、足 の引っ張り合いも盛んにする年ごろである。三代吉自身も猿山の番長を気取っ ていた事がある。それが当然だと考えていた。 だが、眞一郎は猿山とは無縁だった。 他人を簡単に否定しない。まず受け入れ、認めようとする。他人を受け入れ る幅が広いのだ。変人で通った石動乃絵と、あれほどまでに親身になって付き 合う事ができた事には、さすがに仰天した。 グイグイと他人を引っ張って行く、カリスマ的リーダーのタイプではない。 わかりやすくはない。 だが、まだ片鱗でしかないとはいえ、どんな人間でも「受け入れる」度量の 広さと素直さは、いずれ大きな流れに繋がっていく可能性を感じさせた。 未完の大器だろうか。勘違いかもしれない。がっかりさせられる事も多いし、 成長しないかもしれない。それでも、出会った事のない人種だと思った。 「眞一郎くん、放課後、一緒に来て欲しい所があるんだけど…」 「ああ、いいよ」 「うん。ありがとう」 比呂美は踵を返した。 たったそれだけのやり取りではあった。 お互いの視線と、ごくわずかなしぐさや表情の変化に飛び交う、その何倍も の深い感情。会話を終えた時の優しげな柔らかい口元。ハタから見ている者に とってその内容を正確に理解はできないが、雰囲気の良さだけは伝わる。そこ だけもはや別世界である。 三代吉は拳を握り、ごく軽く、眞一郎の頬骨の上を、ゴンと殴って見せた。 「痛ってーな」 「うらやましいぞこいつ」 教室がどっと沸く。眞一郎は少し顔を赤らめた。 実は三代吉なりの勝手な気遣いだった。二人の身辺に近づく虫を減らすため だ。 身の程を知らない、あきらめの悪い男共は、まだいる。その恨みを買わない 程度に"見せ"ていく。冗談の中で既成事実化を進めるためには、できるだけネ タ化していたほうがいい。 比呂美はといえば、とくに赤くなることもなく、朋与達の所に戻っていった。 石動乃絵が堂々と眞一郎と親しくしていたのは、無自覚によるものだった。 だが、比呂美は違う。自分の行動や他人の反応への自覚はある。それでも堂々 と眞一郎と親しくするのは、比呂美にとっては当然の権利でありすぎるから。 それだけだった。 節度にこそ気はつけるが、その節度も巷の高校生カップルに比べて控えめな のだから、他人に言われてどうという事もない。 それ以前に、眞一郎は比呂美の大切な彼氏なのだ。 「お昼、いこ」 連れ立って出ていく比呂美の後ろ姿を、眞一郎と三代吉は眺めていた。 ――湯浅比呂美も面白いが、仲上眞一郎はもっと面白い。そして二人の歩調 が合えば、何か素晴らしい事が出来そうな気がする。高校生にして"でっかい 夢"を感じさせる相手は、そうはいない。 眞一郎は絵本作家を目指しているという。確かにそこそこの才能は感じる。 でもそれは、お前の本領とは少し違うだろう、と三代吉は感じている。お前と 湯浅比呂美にしか出来ない事があるはずだと。 口にはしない。二人がホンモノなら、自ずから見つけるだろうと思うからだ。 三代吉は仲上眞一郎に出会った。湯浅比呂美に出会った。 だから彼は、猿山の猿をやめたのだ。 放課後、眞一郎は比呂美と連れ立って歩いていた。特に私服に着替えなくと も良いというので、二人とも制服のままである。 バイトは明日から。今日はフリーである。微妙に憂鬱な気分なのは、見知ら ぬ所で働く事の不安があるからだろうか。 「どこに行くんだ?」 「…倉庫」 一瞬だけ言いよどんだ比呂美の唇から出た答えは、それだった。 (倉庫…?) ところが眞一郎が連れられていったのは、倉庫に思える場所ではなかった。 仲上の実家や比呂美のアパートからそれほど遠くない、少し古いアパートの一 階だった。 比呂美が鍵を開けて中に入る。 その時、彼女が小さく「ただいま」と言ったのを、眞一郎は聞き逃さなかっ た。 ご心配をおかけしました。その5です。 三代吉君の大暴れで、比呂美パートまで到達しませんでした(苦笑) 眞一郎に対して「なんでこんなにモテるんだ?」という疑問は、 視聴者皆が感じた事だと思います。お約束で処理するしかありませんでした。 そこについて、ちょっと大胆な解釈を三代吉に語らせています。 MAMAN氏をはじめ、スレの皆さんには様々なヒントをいただきました。 お礼申し上げます。 該当場面の6は、すぐに出せると思います。「立派なテレビの謎」の話です。
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比呂美END予想SS 祭りの夜、雪の降る学校。俺はここで石動乃絵を探している。 彼女に今までの事を感謝するため、そして… 奥から物音が聞こえ、俺はその方向へ走り出した。 乃絵が木に登っていた。でも彼女は、俺が駆け寄る前に木の上から飛び降りた。 駆け寄る俺に気が付いて、彼女が振り向く。降り積もった雪がクッションになったようだ。 彼女は怪我をしていないようだ。 彼女が飛び降りた時、自殺でもするつもりだったのかと思ったが、 どうやらそれは俺の思い過ごしだったようだ。 「眞一郎、私、飛べなかった」 「お前、飛ぼうとしたのか?」 いまだにコイツの考えることはよく分からないことがある。 だが、今はそんなことで悩んでも仕方が無い。俺は本題に入った。 「絵本、完成したんだ。見て欲しくて。」 俺は乃絵のために書き上げた、「地べたと雷轟丸の物語」を取り出す。 前に書き上げたときとはエンディングを変えてある。 失速した地べたを、地面から飛び上がった雷轟丸が支えて着地する… ありえないようなハッピーエンドだ。 「眞一郎、あなた、飛べたわね。」 絵本を読み終えた後、乃絵が口を開いた。 「ああ、乃絵のおかげだ。踊りのことも、絵本のことだってそうだ。 俺が飛べたのは乃絵が傍にいて励ましてくれたからだ。ありがとう。」 「お礼なんていいよ、眞一郎なら、きっと、自分だけでも飛べたから。」 「それと俺、もう一つ乃絵に伝えなきゃならないことがあるんだ。」 「何?」 乃絵は笑顔で俺を見つめている。一点の曇りもないような、澄んだ瞳… 俺は少しためらいつつも、勇気を振り絞って、話し始めた。 乃絵には残酷な、俺の真実。 「俺、湯浅比呂美が好きだ。比呂美とは幼馴染で、昔からよく遊んでた。 あいつの両親が亡くなってさ、うちで引き取ってたんだ。 でも、あいつと俺、兄妹かもしれないて言われてて、それで…」 「それでお兄ちゃんから私と付き合ってって言われたとき、 お兄ちゃんと湯浅比呂美が付き合うように取引をしたのね。」 「乃絵、おまえ…」 「お兄ちゃんから、全部聞いた。湯浅比呂美からも、全部。だから、分かるの。」 「ごめん、乃絵、俺は…」 乃絵は俺の言葉を遮って続けた。 「私、何も知らなかった。お兄ちゃんのことも、湯浅比呂美のことも、そして、眞一郎のことも。」 「乃絵…」 「それなのに、『真心の想像力』だとか言って、全部分かったつもりになってた。 そんな私が、何も見えていない私が涙なんて取り戻せるはずなかったんだわ。 でも、ありがとう、眞一郎。今の私なら涙を取り戻せる。 真実が見えるようになった、今の私なら、きっと。」 乃絵が俺に近づいてくる。 「眞一郎、あなたの涙、私がもらってあげる。」 乃絵に言われて、初めて自分が泣いていることに気が付いた。 彼女の指が、俺の頬に触れる。 そして…俺の目の前の少女は、涙を流した。 失った涙を、彼女は取り戻した。俺の涙を拭うことで、彼女は。 「乃絵、おまえも飛べるさ」 俺は泣きながら呟いた。 乃絵を家まで送った後、俺はそのまま家に戻った。 家までの帰り道、比呂美に今日のことを何て言おうか、そればかり考えていた。 乃絵とのこと、ちゃんとしよう。 そればかり考えて、比呂美にあんな嘘をついてしまって。 俺って、本当に結局ちゃんとできているんだろうか。 そんなことが、頭に浮かんでは消えていった。 次の日の昼休み、俺は三代吉と教室にいた。 昨日の祭り会場以来、比呂美とは話をしていない。 比呂美は昼休みが始まるとすぐに教室を出て行って、今は教室にはいない。 比呂美から、何か避けられている感じがして、 俺は完全に話しかけるタイミングを失ってしまっていた。 昨日の嘘を謝らないといけないのに、自分から話しかける言葉も見つからずに、 ただただ時間だけが過ぎていった。何やってるんだ、俺は。 これじゃあ何一つ変われてないみたいじゃないか。 自分が嫌になる。 放課後、急に比呂美のほうから一緒に帰ろうと声をかけてきた。 口を開くタイミングをつかめないまま、海岸沿いをただ歩き続ける。 「今日の昼休みね、」 「え?」 急に口を開いたのは比呂美のほうだった。 「石動乃絵が来たの。」 比呂美の話によると、昼休みに乃絵が体育館に来たのだそうだ。 比呂美に会うために。そして、昨日のことを全部話していったらしい。 俺はあまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になった。 「それでね、彼女、最後になんて言ったと思う?」 「さあ…」 「眞一郎君のこと、信じてあげてほしいって。避けないで、きちんと向き合ってあげてって。」 比呂美は俺のほうに振り返って話し続けた。 「だからもう、私、眞一郎君のこと疑ったりしないわ。こんな自分、嫌なの。」 「比呂美、俺…」 「なあに?」 もうこうなったら覚悟を決めるしかない。俺は目を閉じ、自分の気持ちを比呂美にぶつけた。 「比呂美、俺、お前のことが好きだ。」 そのまま間をおかず俺は続ける。 「うちに引き取られて来てから、お前はずっと泣いていた。でも、お前が泣いたら、 これからは俺がお前の涙を拭ってやる。明るい場所へ連れて行ってやる。 だから、もう泣かないで欲しい。比呂美には笑顔でいて欲しんだ、だから…」 目を開けると、そこには涙を流す一人の少女がいた。 「泣かないでって言ったのに…」 「でも、私…嬉しくて。私も眞一郎君のこと…」 後は言葉にならなかった。 俺は比呂美の涙を指で拭う。 僕の中の君は、いつも泣いていて、 僕は、君の涙を拭いたいと思う。 拭った頬の感覚を、僕はこのとき始めて知った。
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みんなガンダムやろ! 湯浅比呂美 階級:准将 得意機体:射撃グー、パー全般 苦手機体:格闘特化機 所属クラン:Sapphire ⇒ APPRIVOISER ⇒ りばてぃべる SNS スカイプID:sonnnaokarutoariemasenn 備考:指揮官タイプよりは切り込み隊長タイプかな? クラン戦経験3000戦以上 メニュー トップページ オフェンス ディフェンス 立ち回り クラン戦 その他 抑えておきたい知識 メニュー
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前:ある日の比呂美・番外編2-8 比呂美の部屋の水周りは、ロフトの下にコンパクトにまとめられていた。 狭いながらも浴室とトイレは別になっており、洗面所の横に洗濯機を置くスペースも確保されている。 「……はぁ」 情事の後片付けを済ませた比呂美は、仕事を始めた洗濯機の横で髪を乾かしながら深く溜息をついた。 唸りをあげるドライヤーの温風に栗毛を泳がせながら、数分前の出来事を反芻してみる。 (……どうしちゃったんだろう…私……) 冷静さ、というより正気を取り戻した今の比呂美には、先刻までの自分が全く理解できなかった。 本当に妊娠を望んでいたのか、ただ中に出されたかっただけなのか…… もうそれも思い出せない。 (《気持ちいい》ってことに流されやすい……のかな、私) ……そうとしか考えられない…というよりも、そう考えたいと比呂美は思った。 眞一郎との約束された未来を破壊する結果を、自分が本心から望むはずはないのだ。 先ほどの異常な行動は、膣内射精による快感を欲した肉体の欲求に、精神が屈服しただけ。 それはそれで情けないことなのだが、受胎本能に踊らされて社会性を放棄したのだと認めるよりは、幾分マシと言えた。 「……だらしない…」 小声でそう呟いて、比呂美が内在する牝を罵倒した時、リビングに繋がるドアが外側から軽くノックされた。 「な、何?」 ドライヤーのスイッチを切って、ドアノブに手をかける。 まだバスタオルを巻いただけの姿だったが、居間にいるのは眞一郎だけだ。 別に恥ずかしがる必要も無い。 「雨あがったからさ。俺、先に行くよ」 そう掛けられた声に応えて扉を開けると、眞一郎は既に生乾きの制服を身につけ、帰り支度を整えていた。 今日は夕食を仲上の家で食べる曜日なので、二人が一緒に帰宅しても別段おかしくはないのだが…… 「制服の俺と私服のお前が一緒に帰ったら……ちょっとマズイだろ?」 「……そう…ね」 眞一郎と比呂美の関係が『一線』を越えていることに、眞一郎の両親は気がついている。 しかし、たとえそうでも、『そうではないフリ』をするのが子供としての義務だ。 学校帰りの不自然な『寄り道』を見せ付けて、両親に要らぬ詮索をさせる訳にはいかない。 《二人の『深い関係』を感じさせぬよう注意を払う》 それは大人になる前に性を繋いだ眞一郎と比呂美にとって、周囲に対してしなければならない最低限の礼儀であった。 「なるべく、暗くなる前に来いよ」 アリバイを気にしつつも、眞一郎は比呂美への気遣いを忘れることはない。 玄関でスニーカーを履きながら、「なんなら、着替えてから迎えに来るから」と優しい言葉を投げかける。 だがその眞一郎の声は、比呂美の耳には届いていなかった。 裸体にバスタオルを巻いただけの美しいシルエットが、何かに憑かれたように窓外へと視線を遣っっている。 (ホントだ……晴れてきてる) 雨は止んだ、という眞一郎の報告どおり、空を塗り込めていた厚い灰色が、所々ひび割れを見せていた。 そして、その割れ目から下界へと伸びる光の橋…… 差し込んでくるオレンジの光。 (…………きれい……) 世界はもう泣き止んだのだ。 もう美しさを取り戻しつつあるのだと、比呂美は理解した。 なのに自分の感情は、反比例するように『不』の方向へと変化したまま、薄闇の中に漂っている。 『湯浅比呂美』を置き去りにして、明るさを回復しつつある夕空の輝き…… 自身でも解読不能な混乱を抱えた今の比呂美には、その煌きが妙に妬ましく感じられた。 ………… 「比呂美、どうした?」 窓の外を向いたまま固まってしまった比呂美の白い背に、玄関から伺うような声が掛けられる。 「ううん、なんでもない」 肩を小さくすくめてから比呂美は振り向き、眞一郎の元に駆け寄った。 明らかな『作り笑顔』を浮かべる比呂美に気づき、少しだけ陰りを見せる眞一郎の表情。 微妙な空気と微妙な感情が混濁し、向かい合う恋人たちの間に、気まずい沈黙が停滞した。 「……あの……」 重い気配を払い除けようと、比呂美の口が取り繕いの言葉を紡ぎだそうとする。 だがそれよりも早く、眞一郎の両腕が前に伸び、比呂美の身体を引き寄せようと動いた。 [つづく] 次:ある日の比呂美・番外編2-10
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前:ある日の比呂美6 比呂美が目を覚ますと、時計の針は七時を差していた。 シチューの仕込みを終えたあとで時間を持て余し、ウトウトし始めたのは六時過ぎ…… どうやら一時間ほど、テーブルに突っ伏して眠ってしまったらしい。 「………………」 覚醒しきらない頭に、先ほどまで見ていた夢の断片が浮かぶ。 ……誰か……自分の大切な誰かが泣いていた……気がする…… (……眞一郎くん?…………それとも他の……誰か……) それが何者だったか考えれば考えるほど、夢の記憶は心の内へと落ち込んで行き、やがて気にならなくなってしまった。 ………… すっかり暗くなっていた室内に明かりを点けようと、座椅子から立ち上がる比呂美。 ふと、窓の外を見ると、街灯に照らされて舞い降りる白いモノが目に入る。 (……雪……) ……またか、と比呂美は思った。 良くも悪くも、自分の気持ちを掻き乱す何かが起こる時、……必ず……必ず雪が降る。 冬の富山では、降雪など当たり前の日常なのに、比呂美にはそう思えてならなかった。 (また……嫌いになりそう……) そう心で呟いて手を蛍光灯のスイッチに伸ばした時、テーブルの上に置いておいた携帯が震え出した。 「!」 眞一郎からの着信…… 何の疑いもなくそう思った比呂美は、反射的にそれを手に取って開く。 ……だが…… 液晶画面に浮かび上がった送信相手の名前を見て、比呂美の身体は硬直した。 (……朋与) ……どうして…… 自分に連絡をしてくるなんて、一体どういうつもりなのか…… 着信拒否に設定しておかなかった己の迂闊さを呪いつつ、比呂美は通話終了ボタンを押して受信を止める。 朋与と話しをするつもりはない。答えは眞一郎から聞きたい。……比呂美はそう考えていた。 しかし、電波の向こうにいる恋敵は、諦めるつもりはないらしい。 再び、手の中の携帯が振動し、ダイオードの青いランプが点滅する。 「…………」 何度切っても同じだ、と気づいた比呂美は、下唇をキッと噛み締めてから通話ボタンを押した。 「…………もし…もし……」 《あ、比呂美? 今、わざと切ったでしょ! ひ~ど~い~!》 携帯から聞こえる明るい調子の朋与の声に、比呂美は面食らった。 「え?……あ、あの……」 一瞬で毒気を抜かれて戸惑う比呂美を無視し、朋与は機関銃のような勢いで話しはじめる。 《ちょっと聞いてよ~ 私さぁ~今日フラれちゃった~ アハハハハ》 最初の一言に衝撃を受けて、比呂美は黙り込んでしまった。それに構わず、朋与の告白は続く。 つい先刻、その身に起きた出来事を、まるで他人事のように……比呂美には関係ない事のように話す朋与の声。 《とどめにさぁ~『俺が愛してるのは、お前じゃない!』とか言いやがってさぁ~ ま…………参っちゃっ……》 軽快だった朋与の舌が、込み上げてくるモノに邪魔されて急停止した。 (……朋与……) 携帯の向こう側から聞こえるすすり泣きを耳にして、比呂美はようやく、何物にも代え難い親友の気持ちを知った。 夢の中のイメージが、自室で一人、涙に暮れている朋与と重なる。 …………今までのことは全て……全て………… ………… 「……朋与……あの…………」 伝えたい、自分の今の気持ちを…… そして……朋与から一番大切な人を奪い取る罪を少しでも……償いたい…… 比呂美がそんな思いを音に乗せようとした時、気配を察した朋与の声がそれを遮る。 《やめて! ……謝ったら……謝ったら……私、比呂美のこと一生許さないから!》 私は私の恋に、自分自身で決着をつけただけ。比呂美のせいじゃない。比呂美は関係ない。 毅然とした声で伝えられる朋与の意志。それが比呂美の心を鷲掴みにし、震わせる。 ……『謝る』…… それは朋与の想いを侮辱することなのだと、比呂美はすぐ気づいた。 「……ぅ……うぐっ……」 両手で携帯を壊れそうなほど強く握り締めながら、比呂美は泣いた。 《アンタが泣いて、どうすんのよ》と言いながら、朋与の声も再びうわずる。 ……一人の少年に想いを寄せる二人の少女は、切れかかった友情の糸を再び繋ぎ合わせた。 「……謝らないよ……私……謝らない……」 《……うん……》 たった一言の……満足そうな朋与の声…… それが比呂美の耳朶を打ち、もう一滴、涙を頬へと流させた。 《捜してあげて、『仲上君』のこと》 朋与の部屋を眞一郎が去ったのは、かなり前のことらしい。 しかし朋与は、眞一郎はまだ比呂美の元へ帰ってはいないだろうと見抜いていた。 《仲上君はね、比呂美が思っているほど強くないの……》 分かって欲しい…… 眞一郎はいつでも、比呂美を捜せる王子様ではいられない。 彼は……比呂美と同じ、弱い一人の人間…… だから、今は比呂美が眞一郎を捜して、そして見つけてあげて欲しい。 …………傷ついた彼の心を……包んであげて欲しい………… 自分の知らない眞一郎を語る朋与の言葉。 きっと昨日までの自分なら、嫉妬で身を焦がしていただろう。 …………でも、今は違う………… 自分の為に眞一郎が流した涙を朋与が拭ってくれたのなら…… 今度は…… ………… 「…………うん……ありがとう……」 短い単語に決意と感謝を込める。すると、朋与は的確にそれを読み取ってくれた。 「……それでこそ、私の『親友』!……」 朋与はグスッと鼻を啜り、「暫く休むから、部の方もヨロシク」と明るく告げて電話を切った。 比呂美は携帯を折り畳んだ後、それを胸の中心にあて、瞼を閉じて祈るように静止する。 それはまるで、朋与の想いを自分の身体に取り込む儀式のようにも見えた。 …………比呂美がそうしていた時間は、一分にも満たない。 コートとマフラーを手に取り、手早く身支度を整えると、比呂美は部屋を飛び出していく。 粒を大きくする雪にも構わず、比呂美は眞一郎を捜して駆け出した。 眞一郎の性格からして、そのまま自宅に帰ったとは思えない。 仲上の家への連絡は無駄だろうと比呂美は思った。 同様に、携帯にかけても、おそらく応答しないに違いない。脚で捜すしかないのだ。 思い当たる場所、眞一郎の居そうな所を片っ端から走って巡る比呂美。 学校の鶏小屋、海岸通り、神社、竹林…… どこにも眞一郎の姿はない。 (眞一郎くん…………眞一郎くん……) 走る、走る、走り続ける……眞一郎だけを捜して………… ……そして…… 麦端高校一の俊足を誇る両脚に疲れが見え始めたその時、比呂美の眼の端に、明るい緑の点が捉えられた。 (!!) 噴水公園の奥……昨日、比呂美が座っていたベンチに、眞一郎はいた。 街灯の明かりが眞一郎の姿だけを、風景から切り取るように照らしている。 肘を膝にもたれ掛け、打ちのめされたボクサーの様にうなだれている眞一郎。 肩と背中に降り積もる雪にも、全く構う様子がない。 (…………) 雪が舞い始めてから、公園には眞一郎以外、誰もやって来なかったのだろう。 一面が白で薄く塗られ、足跡一つない道を、比呂美は呼吸を整えながら眞一郎に近づいていく。 ブーツが雪を踏み鳴らすサク、サク、という音が耳に入ったのか、眞一郎がハッと顔を上げた。 「……風邪……ひいちゃうよ」 赤く腫れた目尻から流れ出る涙…… それを隠すように、眞一郎は声を掛ける比呂美の視線を避けて、顔を背けた。 「に……人間ってさ……こんなに長く……な、泣いてられる……もんなんだな……」 所々、裏返ってしまっている声が、眞一郎から吹き出す悲しみの深さを物語る。 何も言うべきではない、と思った比呂美は、その眞一郎の言葉には答えなかった。 (……あ…) 眞一郎の額にある赤いものが、比呂美の目に留まる。 (……怪我……してる) それは何かがぶつかった様な小さな裂傷だったが、外気の湿度が高いせいか、まだ生乾きの状態だった。 ポケットからハンカチを取り出し、その傷に当てようとする比呂美。 だが、その気配を感じた眞一郎は、咄嗟に視線を戻して、迫ってくる比呂美の手首を掴み、動きを止めた。 「っ!」 男の握力で思い切り握られた細い骨が軋み、比呂美の口から思わず声が漏れる。 それに気づいた眞一郎は、申し訳なさそうな顔をして力を緩めたが、掴んだ手を離しはしない。 「……ゴメン…… この傷だけは、お前に触らせる訳にはいかないんだ……」 そう、消え入りそうな弱々しい声音で呟き、眞一郎はまた視線を比呂美から逸らしてしまった。 比呂美はその理由を訊くことはしなかった。 なぜ触れてはいけないのかは……すぐに思い当たったから…… これは朋与を傷つけた証として、眞一郎が望んで受けた傷…… その事にすぐ気づいたからだ。 (…………) 少しだけ寂しい気持ちに囚われ、比呂美も眞一郎から目を逸らす。 だが、自分がそんな風に感じるのは、朋与の想いに失礼だと思い直し、比呂美は眞一郎に向き直った。 「……部屋……来て。……本当に風邪ひいちゃう」 まだ比呂美を見ることが出来ない眞一郎は、嗚咽を噛み殺すような声で言う。 「先に……行っててくれ……」 あと一時間……いや、三十分でいい。一人にして欲しい。 すぐに追いかけるから…… すぐにお前を……『湯浅比呂美』を見つける『仲上眞一郎』に戻るから…… 「……頼む……」 そう言って、更に深く比呂美から顔を背けた眞一郎の耳に、比呂美の静かな声が届く。 「…………嫌……」 彼女は自分の願いを聞き届けてくれる…… そう思い込んでいた眞一郎は驚いて、泣き濡れた顔を比呂美に向けた。 「……比呂美……」 「嫌ッ!」 もう一度、今度は力強く言い放つと、比呂美は眞一郎の座るベンチ……その空いている所に積もった雪を払い除ける。 そして、眞一郎のすぐ横に腰を下ろすと、冷え切った眞一郎の掌を自分の手で包んで握り締めた。 尚も視線を泳がせて自分を見ようとしない眞一郎。その耳に、比呂美は今の想いを音にして送り出す。 「…………『僕の中の君は、いつも泣いていて……君の涙を、僕は拭いたいと思う』」 比呂美の口が紡いだそれは、かつて眞一郎が、悲しみの中で暮らしていた比呂美に送ったフレーズだった。 背けられた頬に、空いている方の手を添え、ゆっくりと眞一郎の顔を自分へと向けさせる比呂美。 その手を当てたまま、親指で涙に濡れている眞一郎の目尻をスッとなぞる。 「…………あなたの涙を……私も拭いたいと思う…………」 「…………」 眞一郎は比呂美の眼を真っ直ぐ見据えたまま、一言も発することはなかった。 その眞一郎に、比呂美は想いを込めてもう一度、言葉を重ねる。 「……あなたの……涙を…………」 「…………」 握られているだけだった眞一郎の手が、比呂美の手の中で向きを変え、意志を持って指を絡めてくる。 溢れる涙はまだ止まらなかったが、瞳の奥にある光が、また輝き出したように比呂美には思えた。 二人の間に空いていた隙間を埋めようと、眞一郎の側に身を寄せる比呂美。 ライトグリーンのコートに薄く積もった雪を払い、少し逞しくなった肩へ頭をもたれさせる。 「…………」 眞一郎も無言のまま、同じ様に冷えた頬を比呂美に預けてきた。 雪と冷気が全身に降り懸かってくる中で、眞一郎と比呂美は、黙って身を寄せ合う。 ………… (……私にも出来る……出来るよ……) ……眞一郎が辛い時、悲しい時、大切な人を想って涙を流す時……それを拭うのは自分…… もう、眞一郎に涙を拭ってもらうだけの『湯浅比呂美』じゃない。 助けを求めるだけじゃない…… 救いを求めるだけじゃない…… 『湯浅比呂美』は『仲上眞一郎』と共に並んで歩く…… あの時に決めた……その誓いのとおりにする。 ……眞一郎が自分にしてくれたように…………同じ様にする。 それが彼の救いになると信じるから。 自分自身がそうしたいから。 この先……眞一郎と歩む長い時間……こんな事が何度もあるのだろう…… 間違い、迷い、傷つけ合って、自分たちは何度もすれ違うだろう…… …………でも………… 最後はこうして寄り添える…… 眞一郎と自分は寄り添える…… その思いに理由は無い。 それが二人の愛の形なのだと、訳も無く思うのだ。 僅かに接した眞一郎の肌から伝わる熱も、「そうだよ」と言っている。 そんな気がする…… ………… (……あ……) 空を見上げると、本降りになるかと思われた雪が、段々とその粒を小さくして弱まってきた。 「やんできたな」と呟く眞一郎は、もう泣いてはいないと分かる。……見なくても分かる。 ……朋与の想いと思い出を心の中で消化して、眞一郎は、また高く飛ぼうとしている…… 眞一郎の変化……いや、『成長』を彼の一番近くで感じる喜びに、比呂美は身体と心を震わせていた。 ある日の比呂美8
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前ある日の比呂美4 眞一郎の口から吐き出された息が、一瞬だけ彼の周りを白く染めて、すぐに消える。 「……寒っ」 ブルッと身体を震わせて、手の平で肩の辺りを擦ってみるが、コートの上からではあまり効果は無かった。 ……比呂美の部屋の前で彼女を待って、もう一時間になる。 夕食には来ないだろうと思っていたが、こんな時間までどこにいるのだろう…… ……何かあったら……と心配になる。 だが、電話には多分出てくれないだろうし、闇雲に探し回っても出逢える確率は低いだろう。 (ここで帰ってくるのを待つしかない) 筒状になっているコートの襟に首を埋め、壁にもたれ掛かったその時、ポケットの中で携帯が暴れだした。 (! ……比呂美) 急いでそれを取り出し、開いてみる。 しかし、画面に表示されていた文字は「着信 野伏三代吉」だった。 落胆しつつ、通話ボタンを押す。 「……もしもし」 《眞一郎。お前、今どこに居んだよ》 三代吉の声は不機嫌で、電波の向こう側の態度は、明らかに喧嘩腰だ。 どこでもいいだろう、と返す眞一郎だったが、三代吉は引き下がらない。 《どこに居るって聞いてんだよ!》 「…………」 ……まぁ、三代吉と喧嘩してまで隠すことではない。 そう思った眞一郎は、比呂美の部屋の前で彼女を待っていることを、素直に話した。 《……なんだよ……そうなのかよ……》 三代吉の態度が急に柔らかくなり、「だったら、まぁ、別に」などと話し方がトーンダウンしていく。 一体、何なんだ?と眞一郎が訝しんでいると、電話の向こう側が騒がしくなった。 《ちょ、愛子…よせって……》 《いいから貸しなさいっ!》 愛ちゃんが隣にいるのか……と思った瞬間、受話口から凄まじい絶叫が響いた。 《こらあああ!!しんいちろおおおおっ!!!》 反対の耳まで突き抜ける愛子の怒鳴り声。脳みそが振動するような錯覚を、眞一郎は覚えた。 《あんたっ!比呂美ちゃん泣かせたら……ウチの店、出入り禁止だかんねっ!!》 何故、自分が比呂美を悲しませていることを知っているのか?とは思ったが、 延々と続く愛子の説教を聞いていると、そんな事はどうでも良くなってしまった。 ……三代吉と愛子が、自分と比呂美を心配してくれている…… それだけは、ちゃんと理解できたから。 《眞一郎!聞いてんのっ!! ……ちょっと、三代吉っ…まだ終わってな………》 どうやら三代吉が携帯を取り返したようだ。 《お~い。耳、大丈夫か?》 普段と同じ三代吉の声。その後ろから聞こえる愛子の怒声。……なんだか勇気づけられる。 「三代吉…………ありがとな……」 ヘヘッと照れくさそうに笑ってから、三代吉は「俺たち『親友』だろ?」と言って電話を切った。 (…………ありがとな……二人とも……) 携帯を畳んでポケットに戻す。 待っている間はそれを握り締めて、勇気を少し分けてもらおう…… そう眞一郎は思った。 カン カン カン カン スチール製の階段を登ってくる足音が聞こえる。 眞一郎が視線を廊下の奥に向けるのと同時に、そこに少女の影が現れた。 「…………眞一郎くん……」 無視されることを覚悟していた眞一郎は、比呂美が普通に自分の名を呼んでくれたことが嬉しかった。 と同時に、こちらを見つめる瞳の輝きに驚く。 いつもの比呂美に……いや、一年前に竹林で出逢った比呂美に戻っている。 「…………比呂美……」 今朝、生徒玄関の前ですれ違ってから今までの間に何があったのか……それは分からない。 でも、今の比呂美なら、自分の話を聞いてくれる……受け入れてくれる。 朋与とちゃんとするまで、全部は話せないけど……今、話せることは言わなきゃならない。 ………… 眞一郎は壁から身体を起こすと、近づいてくる比呂美に正面から向き合った。 相手の雰囲気が違うな、と感じたのは眞一郎だけではない。 比呂美もまた、目の前の眞一郎が、昨夜、自分の前から逃げ出した彼とは違うことに気づいていた。 「合鍵あるんだから、入って待ってればいいのに」 「…………」 眞一郎は黙って首を横に振った。 ……そうだった。眞一郎はそんな無神経な事が出来る人間ではない。 鍵を開けて「入ったら?」と誘っても、眞一郎は応じなかった。 「今日は……ここで」 「…………そうね……」 シチューの材料が入った袋だけを中に入れ、再び扉を閉めると、比呂美はそこに寄り掛かった。 「何?」 わざわざ来たのだ。話が……大事な話があるのだろう…… 比呂美は眼で眞一郎を促した。 刹那の躊躇いの後、眞一郎の唇が動く。 「明日、朋与と会ってくる」 視線を絡ませた状態で放たれたその言葉が、比呂美の鼓動を急激に早める。 ……覚悟していたことなのに…… やはり、気持ちを完全に制御するのは難しい。 「……うん……」 そう短く返事をするのが精一杯…… それでも、比呂美は視線を逸らさなかった。 「ちゃんと答えを出してくる。……今は…それしか言えない」 比呂美は嬉しかった。 朋与に会って答えを出す…… この短い言葉を告げる為だけに、眞一郎が自分を待っていてくれた事が。 時々間違ったり迷ったりしても、『仲上眞一郎』は『湯浅比呂美』に、ちゃんと向き合ってくれる…… それを、改めて確認できた事が…… だから自分も言わなければならない。『湯浅比呂美』が何を望み、どう行動するのかを…… ………… 「……一つお願いがあるの」 「?」 呼吸を整えてから、比呂美は今の想いを解き放つ。 「どんな答えでもいいの。答えが出たら……私にも言いに来て。待ってるから」 「……比呂美……」 「…………待ってるから……」 比呂美の顔には、何の色も無かった。涙も、笑顔も、苦しみも無い……透きとおった表情…… この決意に色を塗ることは反則だ…… 比呂美はそう思った。 朋与のシュートを邪魔したくない。卑怯な真似をしてはいけない。 眞一郎にもその気持ちは伝わったようだった。 「うん」とだけ返してきた眞一郎の顔もまた、内に秘めた感情を隠しているように見える。 ………… 鎖のように絡み合った視線を、無理矢理に引き千切る二人。 眞一郎はそれ以上喋ることは無く、無言で階段の方へ向かっていった。 遠ざかっていく背中を、比呂美は見つめる。……帰ってこないかもしれない背中を…… (シチューは……明日にするから……) 心の中でそう呟き、目を閉じてささやかな『願掛け』をする。 (帰ってきて)……そんな切ない想いを込めて…… ………… 「比呂美!」 その声にハッとして、比呂美は閉じていた目を開いた。廊下の端……階段の手前で眞一郎がこちらを見ている。 「……行ってきます……」 「!」 鼓膜を通して心へと響く、何気ないその言葉。 『行ってきます』…… 当たり前の挨拶が、比呂美には重い意味を持っていた。 (……だめ……泣いちゃ…………だめ……) 反則だ……フェアじゃない…… そう思っても、涙腺はいうことを聞いてはくれなかった。 溢れ出す涙と共に、比呂美の唇から漏れ出す『当たり前の挨拶』………… 「……行って……らっしゃい……」 小さな……とても小さな声で紡がれた想いは、眞一郎の耳に届いただろうか? 顔を伏せて階段を降りていった眞一郎の様子からは、それを推し量ることは出来なかった。 一人その場に残された比呂美は、また瞼を閉じて『想い』を心の中で唱えはじめる。 (……待ってる……私……待ってるから……) 離れていく眞一郎の気配…… カン、カン、と鉄の階段が打ち鳴らされる音が消えるまで、比呂美はその場から動かなかった。 つづく ある日の比呂美6
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前:ある日の比呂美3 《あら、お夕食もいらないの?》 「あの……練習試合が近くて……ミーティングが長くなりそうなんです」 比呂美は仲上の家に、夕食を断る電話をしていた。 おばさんに教わった料理の練習もしてみたいし、などと、もっともらしい事も付け加える。 《……わかったわ。もし自分で作る時間が無かったら言いなさい。おかずだけでも持って行ってあげるから》 ちゃんと食べるのよ、と最後に釘を刺し、おばさんは電話を切った。 (…………) 自分が嘘を吐いていることに、おばさんは気がついている。……そう比呂美は思った。 今までどれ程忙しくても、眞一郎の側にいる時間を削ったことのない自分が、 急によそよそしい態度を取れば、おかしいと思わないはずがない…… それでも……おばさんは素知らぬフリをしてくれる…… その心遣いが胸に沁みた。 ………… 今、比呂美は噴水公園のベンチに一人で座っている。 午後の授業には出席したが、バスケ部の練習は誰にも連絡することなく休んだ。 ……朋与から逃げたのだ…… おばさんに言ったことは全部『嘘』。 蛍川との試合はかなり先のことで、ミーティングなどありはしないし、 仲上の味を覚える練習だって、するつもりもない。……もう必要ない…かもしれないのだから。 (…………眞一郎くんの……好きな味…………) 眉間にシワを寄せながら、携帯の画面を見つめる比呂美。指が勝手に動き、アドレスから眞一郎の番号を呼び出す。 左手に洗顔フォーム、右手に歯ブラシを握って笑う眞一郎の写真。 恥ずかしいから別のにしてくれ、と言われたのが、随分遠い日のような気がする。 身体の……いや、『湯浅比呂美』の中心が締め付けられるように痛い。 ………… 言われてみれば、朋与の言う通りだ。 『兄妹かもしれない』と思っていたあの頃に、眞一郎が誰と愛し合おうと、自分にはその事を糾弾する資格は無い。 黒部朋与や石動乃絵に愛情を傾けたとしても、それを理由に『今』の眞一郎を責める事は出来ない。 (……それなのに……私は……) つまらない嫉妬と独占欲に囚われて、眞一郎と朋与の中に燻っていた小さな種火を煽ってしまった。 朋与が必死になって押し殺してきた想いを……燃え上がらせてしまった…… だが……後悔してみても遅い。全て自業自得…… 決して消えることは無いと思っていた眞一郎との絆。それが自分自身の心の弱さが原因で崩れ去ろうとしている。 変われたと思っていたのに…… 何も変わってはいなかった…… 自分はあの頃のまま…… 何も変わらない『湯浅比呂美』のままだ…… ………… ぐぅ~ 胃袋が縮み上がって、何でもいいから食べ物を身体に入れろ、と要求してきた。 そういえば、朝も昼も食べ物を口にしていない。 (…………はぁ……) 比呂美は内心で溜息を吐き、自分の図太さに呆れかえった。 これほど……死にたい程に苦しんでいるというのに、食欲だけは消えないなんて…… ………… ……でも思い出してみれば、両親が死んだ時も食事が喉を通らない、ということはなかった。 『あの頃』の一時期、石動乃絵を避けて昼食を取らなかった時も、後でちゃっかりパンをかじったりしていた。 食欲を満たすことで、精神の安定を保つ…… 自分はそういうタイプなのかもしれない…… 考えが飛躍し過ぎな気もするが、それで少しの間でも忘れられるなら、それでもいいか、と比呂美は思った。 そういえば今日は、この地区で唯一の大型スーパー『セフレ』の特売日だ。 扇情的なものを想像させる名前が好きではなかったが、比呂美はよくそこを利用していた。 (何か買ってこなきゃ……) 最近は仲上の家で食事を採ることが多かったので、部屋には今、アイスとスナック菓子くらいしかない。 気持ちを強制的に切り替えた比呂美は、ベンチから立ち上がって、スーパーへと向かった。 ジャガイモ、人参、ブロッコリー…… 買い物カゴに次々と入れられていく野菜たち。 仲上家での『修業』の成果か、比呂美の食品を見分ける眼は確かだった。 値段と鮮度を天秤に掛け、一番良い物を的確に選び取っていく。 (何でもいい。他の事を考えていよう…… でなければ……) 自分はきっとおかしくなってしまう…… 恐ろしい事を考えてしまう…… それが……怖い。 内側から滲んでくる闇に呑まれるイメージが頭の中に広がる…… 気持ちの裏に潜んでいる闇に…… ………… 「湯浅さん」 後ろから突然声を掛けられて、比呂美はハッと我に返った。 振り返ると、買い物カゴを下げた野伏三代吉が目の前に立っている。 「野伏君……あの……こんばんわ」 自分と同じく、食料品の買出しに来たようだ。手には山盛りの特売品が詰まったカゴを下げている。 「眞一郎は?」 一緒にいる、と思ったのだろう。キョロキョロと視線を巡らし、近くにいるはずの親友の姿を捜す三代吉。 「あの……今日は家で用があるって……」 比呂美は咄嗟に嘘を吐いた。 彼は眞一郎の親友ではあるが、自分とはそれほど親しい訳でもない。……適当にやり過ごそう…… そう思ったのだ。 「一人なの? ……だってさ……その山盛りの材料、どう見ても二人分だろ?」 三代吉に指摘され、比呂美は初めて気がついた。自分が無意識に眞一郎の夕食を用意しようとしていた事に。 新鮮な野菜と豚の角切り肉…… それに眞一郎の好きなメーカーのシチュールー…… (……私……何してるの……) 眞一郎の大好きなシチュー…… そんな物を作っても……無駄なのに……意味は無いのに…… …………馬鹿みたい………… ………… 「! ちょ…… ど、どうしたんだよ」 カゴを肘にかけたまま、俯いて大粒の涙を零しはじめた比呂美の様子に、三代吉は慌てた。 周りにいる買い物客たちが、チラチラと二人に視線を向けて、小声で「なにかしら」と話し出す。 「違います、違いますから」と通り過ぎる人たちに弁解しながら、三代吉はポケットからハンカチを取り出した。 そして、黙ってそれを比呂美に差し出す。 『親友の彼女』にしてやれる事はこのくらい、ということなのだろう。 ハンカチはちゃんと持っていたが、比呂美はそれを……三代吉の優しさを借りることにした。 「ご、ごめんなさい。眼にゴミが入っちゃった」 いぶかしむ三代吉に、量が多いのは一週間分買い溜めしているからだ、とまた嘘を言って誤魔化す。 すぐに泣き止んだ比呂美は、そのまま二人分のシチューの材料を買ってスーパーを出た。 三代吉も「もう暗いから途中まで送る」と言って、その後に続く。 比呂美はその申し出を丁寧に断ったのだが、三代吉は聞き入れなかった。 「何かあったら俺、眞一郎に殺されちまうよ」 そう言って、三代吉は比呂美の持つレジ袋をサッと奪い、一歩先を歩き始めた。 「…………」 そんな事ないわ、と内心で呟きつつ、比呂美もその斜め後ろについて歩き出す。 ………… ………… 三代吉は何も訊いてこなかった。 ただ黙って比呂美の前を、眞一郎の代わりに盾となって歩いている。 ゴミが眼に入った、なんて見え透いた嘘を信じたとは思えない。 眞一郎との間に『何か』があったことは察しているはずなのに…… (…………野伏君に……話してみようかな……) 誰かに話せば……楽になれるかも…… ふと、比呂美はそう思った。 この問題には直接関係が無く、それでいて眞一郎の心に近い野伏三代吉なら……丁度良いかもしれない。 ………… 「……あの……」 「ん? なんだ?」 訳の分からない事を言おうとしている。その自覚はあった。……それでも、話してしまいたい…… 一人で抱え込むのは……もう限界だった。 「…………『友達』の彼氏がね……」 何の脈絡も無く始まる比呂美の話…… 声に反応した三代吉が肩越しに振り向くのを見て、比呂美はあさっての方向へ視線を逸らした。 「……元カノと……寄りを戻しそうなんだって…………」 「…………ふ~ん……」 三代吉が脚を止める。比呂美も立ち止まり、眼を合わせないまま話を続ける。 『友達』の事と偽って語られる、比呂美と眞一郎、そして朋与の今…… それを黙って聞く三代吉の瞳は、とても透明で穏やかだった。 そんな話には興味がない、といった風でも、聞かされても迷惑だ、という感じでもない。 比呂美が全てを語り終えるまで、三代吉は一言も発せず、真剣に耳を傾けていた。 ………… 「話してしまえば楽になる」というのは本当なのだな、と比呂美は思った。 あくまで他人事を装ってはいたが、閉じ込めた秘密を解放することで、僅かながら心が軽くなった気がする。 (……でも……その後は……) 重たい荷物を少し下ろす代わりに、強烈な自己嫌悪がすぐに襲い掛かってくる。 ……眞一郎に『あの秘密』を告げた時もそうだった…… (……もう止めよう……口にするべきじゃなかった……) 比呂美は話を切り上げるために、答えようが無い事を承知で、三代吉に訊いてみた。 「相談…されちゃった。…………野伏君なら……なんて答える?」 さぁな、とでも言って突き放してくれればいい。この話題は……もうお終いだ。 だが、比呂美の予想を越えて、三代吉の口からサラリと明快な回答が飛び出す。 「待つしかねぇな」 ……比呂美は呆気に取られてしまった。あまりに単純で消極的に思える、その答えに。 「だってさ、その娘が今、出来ることって……それくらいだろ」 彼氏と元カノがどうなるか、どうするか。それは二人の心の問題だから、『友達』が口を出してはいけない。 たとえ好きな相手でも、親友でも、二人の想いは二人のモノだから。 なら、今は自分自身が出来ることを考えればいい。 (…………) そんな答え、納得できない…… だってそれじゃ…… 不満そうな比呂美の顔を見て、三代吉は話の切り口を変えてきた。 「バスケってさぁ、敵が自分より強い奴だったら、試合止めちゃってもいいの?」 「……え……」 即座に返せない比呂美。三代吉は構わずに続ける。 1on1の勝負……敵は凄い奴だ。そいつはバスケを始めたのは遅いのに、今では自分より上手い。 ……勝てない…… 間違いなく抜かれる!! そんな時、どうする? 「…………自分の力を信じて……自分なりのプレーを全力で……する」 比呂美の答えは、三代吉を満足させるモノだったらしい。三日月の様に細められた眼が「そうだ」と言っている。 「元カノはさ……その『友達』を抜き去って、今、シュート体勢に入ってる」 それを後ろから突き飛ばしたり、脚を引っ掛けたりするのって反則じゃね?と三代吉は言った。 シュートが決まるか、ボールがリングから零れるか…… ちゃんと見届ける。 「リバウンド、狙うのはそれからっしょ」 「…………」 比呂美の心の隙間に、三代吉が投げ込んだ答えがストンと嵌まり込んだ。 バラバラに断線していた思考が繋がり、想いが修復されて『あの頃』に戻っていく。 ………… 比呂美は、眞一郎がなぜ、野伏三代吉を『親友』と呼ぶのか分かった。 ……この少年は凄い…… 眞一郎が信頼を、愛子が愛情を寄せる理由が……今なら理解できる。 本当は分かっているのに……分からないフリをして…… それでいて、ちゃんと行く方向を教えてくれる。 ………… 「凄いね、野伏君…… 話してみて良かった」 「惚れるなよ。俺、愛子一筋だかんな」 と、おどけて見せる三代吉。 「私だって……眞一郎くん一筋……だよ」 恥ずかし気も無く切り返す比呂美の表情は、スーパーにいた時とは別人の様だった。 比呂美は三代吉と途中で別れ、また誰もいない噴水公園に戻ってきた。 ベンチにレジ袋を置き、街灯を見上げる。 (……とりあえず、ここでいい) 大好きなあの漫画のように公園にゴールがあるといいのだが、贅沢はいえない。 暗闇をほのかに照らす明かりを背にし、何も無い空間に視線を向ける。 ………… ……そこに浮かび上がる幻…… 『黒部朋与の幻影』が、ドリブルをしながらゆっくり近づいてきた。 比呂美の眼が鋭く輝く。 だがそれは、昼間のような憎悪に曇ったものではなかった。 『朋与』が体勢を低く構え、左右に動きながら接近する。 比呂美もそれに応じ、ディフェンスの構えを取った。 ……抜かれる…… それは分かっている…… でも、勝負はそのあと!! ダムッダムッというドリブル音が激しく脳内に響くと、『朋与』の体が比呂美を惑わすように揺れる。 (…………来いっ!!!) 比呂美が一段、腰を落とし込んだ瞬間、『朋与』が仕掛けた! 見事なフェイントで、比呂美の読みを裏切って、反対のコースを抜き去る! (!!) 振り向いた時には、『朋与』は光の中心に向かってシュートを放とうとしていた。 ヒュッ 両手首のスナップに押し出され、『朋与』から離れていくボール。 それは美しい放物線を描き、光のゴールに吸い込まれていく……かに見えた。 (まだっ!) リングに弾かれるボール。比呂美と『朋与』は同時に飛び上がり、それに向かって手を伸ばした。 邪魔はしない。でも遠慮もしない。自分もあのボールが……眞一郎が欲しいから。 朋与に勝っているとは思わない。でも、負けているとも思わない。 …………だから勝負する……全力で……真正面から!!………… …………絶対に……諦めたくないから………… ………… 着地した時、そこはもう公園に戻っていた。『朋与』の姿も消えている。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 呼吸が激しく乱れるほどの緊張。イメージの中の朋与との闘いは、比呂美を疲労させた。 しかし、答えを見つけたその顔は、どこか晴れ晴れとしている。 (……そうだ……私が揺らぐ理由は……何も無いんだ……) 眞一郎が好き…… 『湯浅比呂美』は『仲上眞一郎』が好き…… 眞一郎が何をしていたとしても、これから何をしても、『想い』は変わらない。 自分の真ん中にある、この『想い』……それを糧にすればいい。 …………そして今は待つ………… 朋与が眞一郎と向き合うというのなら、眞一郎はそれに答えるだろう。 真剣に朋与に向き合うだろう…… その答えを……自分も待つ…… 今はただ……待つだけ…… ………… ………… 重たいレジ袋に手を伸ばし、アパートへと比呂美は歩き出す。 その瞳には、取り戻した想いに裏打ちされた光が宿り、怯えと妬みは完全に消え去っていた。 つづく ある日の比呂美5
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true tears SS第十九弾 第十三話の妄想 比呂美エンド 後編 「ちゃんと向き合って欲しいの、だから信じて欲しいの」 「眞一郎は、私が飛べるって」 「君の涙を」 「入ろっ」 第十三話の予告と映像を踏まえたささやかな登場人物たちの遣り取りです。 妄想重視なので、まったく正誤は気にしておりませんが、 本編と一致する場合もあるかもしれません。 比呂美エンドにしてあります。 本編が最終回ですので、妄想も最終回になります。 最後には予告の妄想をしたあります。 前編 true tears SS第十八弾 第十三話の妄想 比呂美エンド 前編 「そう? ありがとう」「こんな自分、嫌なの」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4965.txt.html 翌日。 比呂美は登校して来た。 もう体調は回復しており精神的にも向上しつつある。 昼休みには制服姿でコートの中にいる。 「比呂美、どうしたの?」 朋与が怪訝に訊いてきた。いつものごとくパンを買いに行っていた。 「身体を動かしたくなって」 比呂美はにこやかに応じた。 以前に嫌なことがあったら、ストレスを発散するためにしていたことがあった。 でも今回は苛立ちが少なくて、眞一郎のことを信じる覚悟だ。 よく考えると比呂美のほうが嘘をついている。 兄妹疑惑があったとはいえ、幼い頃の夏祭りを覚えていないと言ったことさえも忘れていた。 純が好きだと告げたり、眞一郎の誘いを遮ったり、 逃避行から帰宅後に眞一郎を自分の部屋から出そうとしたりだ。 比呂美はドリブルしてシュートする。 見事にボールはリングに吸い込まれてゆく。 勢い良くしたために身体が流れて行く。 その視線の先には体育館の出入り口に向けられる。 石動乃絵が堂々と入って来る。 「また……」 朋与が警戒しながら寄って来る。 比呂美のそばに三人が集まった。 「祭りの夜に眞一郎と私とは何もなかった。 ちゃんと向き合って欲しいの、だから信じて欲しいの。 眞一郎と付き合ってあげて」 乃絵は身体全体で必死に弁明した。 「眞一郎くんに聞いているけど、身体はいいの?」 「大丈夫よ。 それより眞一郎とはもう一度だけ、今日の放課後だけは会わせて欲しい」 乃絵はさっきと矛盾するようなことを懇願した。 「別にいいわよ、眞一郎くんから教えられているから。 あの絵本のことだよね」 「そう……」 比呂美の言葉に乃絵は驚いてから上目遣いで訴える。 「もし悩んでいることがあったら、私も手伝うから。 私のほうこそ祭りのときにごめんね」 比呂美は頭を下げてから、右手を差し出した。 「これ、どういうこと?」 乃絵は比呂美の顔と右手を見比べる。 「仲直りの握手よ。できれば友達になれればと思って」 恋敵であっても友達にはなれそうだ。 比呂美にとって眞一郎だけでなく、乃絵ともすれ違ってばかりいた。 乃絵のことが何もわからなかったから、恐れていたのだろう。 あの眞一郎母のように。 「よろしくね」 乃絵はとびきりの笑顔で力強く握ってくる。 * 放課後、眞一郎は席を立とうとする。 視線の先には比呂美がいて、右手を小さく振る。 比呂美も同様にして応じる。 それから眞一郎は教室を出て行った。 「いいの? あのままふたりを会わせて」 朋与は心配そうに訊いてきた。 「ふたりのことを信用しているから。 少し羨ましいかもね。 あのふたりは恋愛以外で結ばれていると思うと」 絵本を描くために乃絵がアイデアを出しているのだろう。 比呂美は自分の絵本をただ待つだけである。 * 鶏小屋で待ち合わせした眞一郎と乃絵はいつもの海岸にいる。 絵本を見せるときに来るお気に入りの場所である。 「まずは読んでくれ。 完成した『雷轟丸と地べたの物語』を」 眞一郎は自信ありげに絵本のスケッチブックを乃絵に渡した。 今までのようにためらいはなくなっている。 この絵本にすべてを注ぎ込んでいる。 「気がつくと雷轟丸は赤い実に誘われて丘の上に立っていました。 飛びたい、あの赤い実を食べたせいでしょうか? それとも白い雪のせいでしょうか? それはわかりません。 でも雷轟丸は心の底から、そう思ったのです。 誰のためでなく、栄光や記録のためでなく、雷轟丸は飛び立ちました」 乃絵はいつものように朗読した。 言葉の一つ一つを刻み込むようにだ。 「雷轟丸は飛べたね」 乃絵の声は張りがあった。 「乃絵のおかげだ。 絵本が完成したのも、うまく踊れたのも」 やっと伝えることができた。 乃絵が飛び降りたときには、無事だけを祈っていた。 「赤い実は私で、白い雪は湯浅比呂美よね」 乃絵はにこやかに訴えてきた。 いつもと違う反応に眞一郎は戸惑う。 「比呂美のための絵本を並行して描いていたから混ざってしまった。 雷轟丸が飛ぶためにはふたつとも必要だった」 もう乃絵だけの発想だけでは絵本を描けなくなっている。 「悪いことではないわ。私にとっては嬉しい。 眞一郎は湯浅比呂美が好きなのに、私のところに来てくれていた。 私たちには恋愛よりも信頼があったのよ」 乃絵はスケッチブックを抱き締めている。 「俺たちの絆は信頼だったのだ。 だが俺は乃絵が家出して地べたを掲げているときに放置してしまった。 比呂美なら抱き締めてでもやめさせるのに、乃絵にはどうすればいいかわからなかった。 それなのに比呂美に乃絵がすぐ戻ると電話して、あいつに連絡するように頼んだ」 眞一郎は天使の前で懺悔をするように、自分の罪を打ち明けた。 「気高い涙ね、眞一郎」 乃絵は首に下げている瓶を取り出す。 右の人差し指で眞一郎の涙を右から左へと拭ってゆく。 「ヘドロ涙やゲロ涙ではないのか? それに俺は今まで乃絵を苦しめて、告白しておきながら別れようとしているのに」 もう眞一郎の涙は止まらなかった。 ただすべてを明かしてゆくしかできない。 「私たちは恋愛ではないの。 初めから違和感があったのは、それね。 たまたま男と女だから勘違いをしていたわ。 そうでないとこんな絵本はできない。 だって雷轟丸の眞一郎は、湯浅比呂美や私のところにも飛ぼうとはしていないから」 乃絵の解釈は眞一郎に浸透してゆく。 だから信頼の赤き実と恋愛の白い雪が雷轟丸に必要だったのだ。 「だから俺はあのとき乃絵に何もできなかったのか。 止めようと声を掛けようとしても、乃絵には届きそうではなかった。 乃絵が新たなアイデアを出してくれるのを邪魔したくはなかったんだ」 ただ逃げ出したかっただけかもしれない。 それを乃絵は見抜いていても言わないだけかもしれない。 たとえそうであっても、乃絵が満足してくれれば信頼関係は継続される。 「今度は乃絵が飛ぶときだ。 乃絵ならどこへでも飛んで行ける」 具体的にはわからなくても、これだけ物事を把握できれば何かをできるはずだ。 「私は羽ばたきをしている。 湯浅比呂美からは理解、眞一郎からは信頼、純からは愛情。 三人から涙をもらえた。 でも湯浅比呂美は眞一郎と私とが恋愛関係だと誤解していたけれど、友達になれた。 昼休みに湯浅比呂美のところに行ったときに、私たちのことを理解してくれた。 もう私は孤独ではないし、この世界に留まるわ」 乃絵は眞一郎を真正面から見据える。 「他にも愛ちゃんや三代吉もいる。 学校で友達を作りたいなら協力してくれる」 乃絵に必要なのは交流関係だろう。 乃絵が人付き合いができるようにするために補佐をしてあげたい。 「何だか泣けるような気がする」 乃絵は天空を見つめると、眞一郎もしてみる。 「その絵本は乃絵にあげる。 自由に使って欲しい」 「いいの?」 「俺は完成が目的だったし、これからさまざまな絵本を描いてゆく」 もう絵本を描くのをやめる気はない。 絵本作家になれなくても趣味としてでもできる。 「雷轟丸はこの中にいる。地べただって飛ばしてあげたい。 最初の飛翔は失敗しても、今なら一緒に飛べるはず。 その姿を天空にいるお婆ちゃんや本当の雷轟丸に見せてあげたい。 私が何事にも逃げない姿も見て欲しい」 乃絵は絵本を天空に向けて広げる。 だが何かが足りなくて俯いてしまう。 「私は自分で考えて決める」 「俺は何も言わない。自由に考えてくれ」 乃絵の強い意思を眞一郎は根気強く待つつもりだ。 たとえ今日が無理でも、いつまでも。 「この絵本を折ったり破いたりすれば怒る?」 「別にいいよ。カラーコピーをしてあるし。 今回は本物でいいだろう」 せっかく描いたのだから、自分の作風を理解するための処置だ。 「紙飛行機にしたい。そうすれば少しでも天空に届くかも」 「俺も手伝うよ。どの絵にするんだ?」 乃絵の決断に眞一郎は同意する。 「全部。もう雷轟丸や地べたにこだわりたくないの。 二羽はどこでも一緒にしてあげたい」 乃絵は絵本を切り取ってゆくと、ふたりで紙飛行機を折る。 「どれがどの絵かわからなくなった」 「それでいいの。ふたりで飛ばしましょう」 紙飛行機を四方八方に飛ばしてゆく。 海鳥も飛んでいて混ざり合う。 紙飛行機は海面に水没したり地面に突き刺さったりしてゆく。 すべての紙飛行機が舞って、乃絵は立ち尽くす。 「お婆ちゃん、雷轟丸、見てくれたよね。 私が決めたことをすべて……」 乃絵はただ天空に向けて仰いでいると、眞一郎が驚く。 「乃絵、それって涙ではないか?」 乃絵は頬を撫でると水滴が手に付いた。 「やっと私は涙を取り戻したのね……。 涙ってすごく温かい……」 乃絵はもう拭う事無く、ただ流すだけだった。 * 比呂美に教えられた電話番号で、眞一郎は純に連絡した。 バイク屋でバイトしているらしく終了してから会うことになった。 ふたりは缶コーヒーを飲みながら話す。 「交換条件を解消して欲しい。 もう乃絵とは別れていて、俺たちは恋愛ではなく信頼で結ばれていますから」 眞一郎は乃絵よりも先に純に伝えたかった。 「乃絵がそう言うならそうなんだろうな。 もう俺はあいつと別れているから解消していると同じだ」 「そうであっても俺から交換条件を提案したものだから、解消は俺からすべきです」 眞一郎は純に乃絵が付き合って欲しいと言われたときに、 純に比呂美と付き合うように提案してしまった。 売り言葉に買い言葉であっても、眞一郎が発案者である。 「利用したのは俺だからな。 乃絵が好きなのを忘れるためにだ」 純はコーヒーを一気に飲んだ。 「俺も似たようなものでした。 比呂美があなたのことを好きだと言われていたから、乃絵と……」 兄妹疑惑を比呂美に伝えられてから、乃絵に告白してしまった。 「信頼があるなら、友達でいてあげてくれないか?」 「そうなっていますよ。比呂美も」 純の心配を取り除いてあげたい。 「俺は東京の印刷会社に就職することにした。 これで乃絵のことは安心できそうだ」 純は安らかな笑みを浮かべてくれている。 「俺たちで乃絵を支えます」 純の選択に口を挟まずに、眞一郎は純に誓った。 「あいつと付き合っていた俺からアドバイスをしておく。 あいつは根性が悪いぞ」 純は頬を揺らしていた。 「わかっています。乃絵と親しくしていると、逆ナンをしていると言ってきましたから」 「だからか、あれは」 「何かありましたか?」 「気にするような話ではない。苦労しそうだな」 「昔とは違いますからね。俺の母と何かと相談するようになってしまいましたから」 あのふたりが組めば矛先は眞一郎に向けられる。 さらなる覚悟を眞一郎はしようとする。 * 乃絵は純のために夕食を作っている。 今日はいつもより遅いようだ。 「ただいま」 純が帰って来てくれた。 「眞一郎は、私が飛べるって」 乃絵はすぐに純のそばに行った。 「乃絵、泣けるようになったのか?」 いきなりの変わりように純は不安になる。 「涙を取り戻したら、泣きやすくはなっているみたい。 でもね、昔と違って泣き虫ではないよ。 眞一郎と湯浅比呂美がいるし、他にも」 乃絵は自分で涙を拭いていて。純に抱き付いて来なくなった。 「さっきまであいつに会っていた。 あのふたりとは仲良く友達になれそうだな。 やはり俺は就職することにする。 乃絵とは距離を置いて、お互いに自立しないといけない」 純の決定に乃絵は深く頷く。 「離れていても、長い休みのときは帰って来てね」 「もちろんだ」 純はやっと乃絵のそばにいて守ることをやめられる。 やめたくなくても、兄妹であるので、将来のことを考えるとこのままではいられない。 * 比呂美のための絵本である『君の涙を…』は完成した。 アパートにいた比呂美はこの自室に来てくれる。 眞一郎はずっと窓を眺めている。 比呂美が通ってくれるのをだ。 やっとそのときになっても、比呂美は一瞬だけしか視線を合わせてくれなかった。 扉をノックされて開けてみると、比呂美が佇んでいる。 「中に入って欲しい」 眞一郎に対応に比呂美は素直に従ってくれている。 どことなく儚げでいつもの笑顔がない。 「乃絵とは別れて、石動純さんとも会って来た。 東京で就職するらしい」 「そうなの……」 やっと顔を上げてくれたが、瞳が揺らいでいる。 眞一郎はどういう結果であっても覚悟を決める。 「これが比呂美のための絵本だ」 眞一郎は両手でスケッチブックを渡す。 「『君の涙を…』」 比呂美はタイトルを読み上げてから、ページを開く。 「僕の中の君は いつも泣いていて 君の涙を 僕は拭いたいと思う でも 拭った頬の柔らかな感覚を 僕は知らなくて どこかに天使がいて 君の涙を集めてくれればいい そして その涙で首飾りを作って 樹に飾るんだ きらきら光る 涙の樹 僕は その瓶を太陽の光にすかして 中のきらきら光る液体を眺めていた と あたりが急に暗くなって はっとして目を上げると 天使に化けていた怪物に 瓶の中に閉じ込められ 途方に暮れていた僕は 隣の瓶にも 同じように閉じ込められて 泣いている女の子を見つけた 僕は 君につかんでほしくて 手を差し出した その時 雪が舞い降りてきた 赤い赤 不思議な雪 天使が降らせた赤い雪が 白い雪に変わって積もっていく ひび割れた大地に 汚れた水に 積もって積もって そこに広がるのは白い大地だ どこまでも どこまでも白い 少女が去った後 そこに小さな水溜りができていた 少女の涙でできた水溜り それは何故か とても深くて どこまでも深くて 僕は その奥底に引き込まれそうになって 」 比呂美は澄んだ声で長々と読んでいて、一呼吸を置く。 「少女は一人で歩き始める 自分で探した場所は涙の水溜りより大きな雪の海のそばだった 僕が少女を追うと、少女は振り返ってくれた ふがいない僕に君は心の中で泣いている すべてをちゃんと終えてから伝えよう 君の涙を拭いたいと」 少女が君へと変わったときに、比呂美は小さく口を開ける。 「これで全部ちゃんとできた」 眞一郎は真正面から比呂美を瞳の中に捕らえる。 「できているわ、ちゃんと。 私だってあの人と別れているし、もう幼い頃の私じゃないし、一人で立てている。 この少女のように……」 絵本のイラストは少しずつ顔が開かされる仕組みになっている。 後姿から横顔、そして正面。 その顔は眞一郎のそばにある。 「君の涙を拭いたい」 比呂美の両目からは透明な液体が滞ることなく流れている。 眞一郎はそっと両手で比呂美の頬を触れて柔らかな感触を確かめる。 今までに何度も想像してもわからなかったが、張りがあって眞一郎の指先を温めてくれる。 右手を比呂美の顎に添えてから、眞一郎は顔を近づける。 ふたりは唇を重ねたまま、お互いの存在を確かめ合ってから離れる。 「眞一郎はずっと私のことを見ていてくれたんだね」 惚けている比呂美は薄く桜色に染まっている。 「見ていたけど、何もできずにいた」 絵本の中でも明確に解決策を浮かべずいた。 「今、できていればいいわ。 私も今できたのだから。 あのときのように強引にすることなく……」 海岸での比呂美からのキスは、舌を絡めてくるほどだった。 お互いが初めてであったはずなのに、いきなりであった。 「比呂美のことが好きだ」 「私も眞一郎くんのことが好き」 絵本だけでなく言葉にする。 今度はふたりで強く抱き締め合う。 バイク事故のときの眞一郎から一方的でなく、自転車での疾走のときの不恰好ではなく。 ずっとすれ違っていたふたりがようやく結ばれる。 誰のせいでもなく自分のせいでもなく。 さまざまな人々に迷惑を掛けていても、今度はふたりが人々に安らぎを与えていこう。 十年以上も結果が出なかった初恋が成就する。 比呂美はスケッチブックを落としてしまう。 最後のページが開かれる。 * 後日談 夕焼けのバス停で純が就職のために上京するのを三人が見送る。 「お兄ちゃん、がんばってね」 「乃絵もみんなと仲良くするんだぞ」 乃絵の明るい声に純は優しく返した。 「乃絵には俺たち以外の友達がいます」 「何かとありがとうな、何かあったら連絡してくれ」 眞一郎と純が相談するとしたら、比呂美への対処だ。 短い間であっても、純は比呂美の一面を把握している。 今のところ比呂美が眞一郎に見せていない姿を。 「向こうに行ってもバスケを続けてくださいね」 「湯浅もだ。またゲームをしたい」 「長期休暇で戻って来られときにでも」 比呂美のにこやかな微笑には、さすがの純もかすかに身体を震わせる。 「何の話?」 眞一郎が気にしている。 「彼女に訊けよ」 純の指摘に眞一郎は比呂美を見る。 「フリースローして入ったら、相手に一つだけ質問できる。 今度やってみようか?」 「俺に不利だ」 眞一郎の見解に四人とも笑い合う。 * 愛子は店の前に三代吉を見つける。 急いで駆け寄って、店の鍵を開ける。 三代吉はバイトをしてくれているので、いつかは鍵を渡せるようになりたい。 「入ろっ」 愛子は三代吉を促した。 「今日もあいつらは来るだろうな」 三代吉は約束をしていなくても予測した。 「あれでも常連客だからね」 最近は眞一郎を中心にして人数が増えつつある。 * 「ごめんください」 従業員用出入り口で比呂美は挨拶をした。 「家族なんだから玄関から入りなさいよ、眞一郎まで何をしているの」 眞一郎母は切なそうに背を向けている。 「母さん、見せたいものがあるんだ」 眞一郎の言葉に立ち止まってから、こちらに来る。 「何のこと?」 「父さんはどこにいる?」 「酒蔵でしょ」 「やはりそうか、見て来る」 眞一郎が行こうとすると、ちょうどいいときに丁稚がいる。 「仲が良いですね、おふたりさん」 「ありがとう」 比呂美は否定する事無く微笑んでいるが、眞一郎はぎこちない。 「父さんを呼んで来てくれないか? 居間で待っているから」 「わかりました、坊ちゃん」 丁稚は早歩きで酒蔵に入って行く。 「何があるというの、ふたりして」 眞一郎母は不信感を募らせている。 比呂美は眞一郎の背中を左手で軽く後押しする。 「絵本を見て欲しくて」 一度は怒らせてしまったことがあった。 東京の出版社の封筒を切られてだ。 仲上を継ぐ気がないと思われているのだろう。 「そんなことなの? 変な想像をしてしまったわ」 「そういうことはありませんから……」 比呂美は頬を染めながら否定した。 「すぐに見せられるものではないわね。 茶菓子でも用意するから、比呂美は手伝ってね」 「はい」 比呂美はそのまま上がって手伝いに行く。 「あのふたりは何を考えているんだ?」 眞一郎にはわけがわからないが、訊くべきではなさそうだ。 三人で待っていると、ようやく眞一郎父が居間に来た。 「ふたりとも制服姿だな。学校で何かあったのか?」 「絵本が完成したから見て欲しくて」 「完成したか、楽しみにしていた」 眞一郎父は目を細めてくれているので、眞一郎は堂々と手渡す。 両親は肩を寄せ合って絵本を読んでいる。 静寂に包まれていて、ページをめくる音だけがする。 眞一郎と比呂美は正座したまま、何度も視線を交錯させては頷き合っていた。 「ちょっと感想しづらい内容ね」 眞一郎母は紅潮していて視線をさまよわせている。 「日記のようなものか。 これは表に出せる内容ではないが、ふたりのことを理解できた」 眞一郎父はふたりを交互に優しく眺めている。 ふたりで絵本を見せることで、節度のある清い交際を伝えたかった。 「でもいつかみんなに配ればいいわ」 「そこまではまだ考えていません!」 比呂美は荒ぽっく言ってしまった。 「比呂美はいろいろ考えているわね。 煽られても反応しなくてもいいのに」 眞一郎母の強かさに比呂美は俯いて反省してしまう。 取り残された男ふたりは戸惑っているだけだったが、眞一郎父は話題を変える。 「眞一郎は絵のほうに進みたいのか?」 「美術には関心がありますが、家の手伝いはします。 花形はただ踊るだけでなく、跡取り息子としての役割があります」 もう父にコンプレックスは抱いていない。 眞一郎の踊りは好評だったからだ。 「比呂美はどうするの? 自由にしてもいいのよ」 「私は経営や経済のほうに進もうと思います。 漠然としているので手伝いをしながら学びたいです」 比呂美の進学の費用は仲上家が出すことに決まってる。 「実践経験をみっちり仕込んであげるわ。 これで進路は決まったわね」 眞一郎母は比呂美に視線を向けると逸らされてしまっても、含み笑いを浮かべている。 「何か手伝ってもらうか」 「お届け物がありました。ふたりで行って来てね。 比呂美は晩御飯をうちで食べて行きなさい」 「はい」 眞一郎母の指示にふたりは声を揃えて従った。 * 雪が解け始めていて、乃絵にはあの石が見えている。 眞一郎が乃絵に告白をするときに並べてくれた。 『のえがすきた』 積もってからは掘って確かめたこともあった。 「どうした、乃絵?」 「いつもここにいるね、乃絵は」 眞一郎と比呂美が来てくれた。 比呂美と乃絵は名前で呼び合う仲になっている。 「眞一郎……」 比呂美は眞一郎を呼び捨てにするようになった。 「乃絵に告白したときに作ったんだ……」 苦渋を滲ませながら見つめている。 「こうすればいいのよ」 乃絵は石に近づいて並び替える。 『えがすきだ』 「これでいいでしょう。私は眞一郎の絵が好きだから」 乃絵は振り返って微笑んでくれている。 本当にあの呪いである眞一郎を好きにならないのを示すかのように。 眞一郎とは信頼関係だけであるかのように。 「ここまでしなくても……」 比呂美は乃絵に自分が嘘をつき続けていた姿を重ねていた。 「いいの、私が決めたから」 比呂美を慰めるように、乃絵は比呂美に抱き付く。 ふたりは涙を流しながら、身体を震わせている。 「どういうこと、これ?」 朋与も来てくれて眞一郎に訊いた。 「ちょっと、いろいろあって」 「そっか、こういうときはどうすればいいか教えてあげる。 仲上くんのおごりで食べに行きましょう」 「それって、黒部さんがおごって欲しいだけでは?」 眞一郎の問い掛けに、三人は視線を集中させる。 「眞一郎はおごるべきよ」 「こういうものを放置した責任があるわ、眞一郎」 「詳しい話を聞かせてね」 乃絵、比呂美、朋与の集中砲火を浴びせられた。 「わかった、愛ちゃんに行こう」 いつもの場所で常連になっている。 「やった!」 三人は声を揃えた。 * 眞一郎と比呂美は時間があるときには、海岸を訪れる。 ふたりが甘えられる場所は限られており、眞一郎の部屋か比呂美のアパートしかない。 四人で愛ちゃんに行って、愛子と三代吉と雑談を楽しんだ。 海岸に到着すると、自然に手を繋ぐようになった。 「雪の海って私が言ったことよね」 比呂美は同意を得られないかもと避けていた。 違ったら、また以前のように自分だけで盛り上がりたくないから。 「そうだよ。創作活動は身の回りのものから、発想から得られる。 でもあの絵本の天使は乃絵だ」 眞一郎も隠しておきたい事実がある。 絵本を描き始めたというか、本気になったのは乃絵のおかげだからだ。 「わかっているわ。そうだと思っていたから。急にあのように描けないでしょうし」 「これからはいろいろ描いてゆくよ。比呂美と乃絵や俺自身や他の人たちから得て」 眞一郎の中では誰のための絵本という区別ができなくなっている。 「絵本ってすごいね。すぐに心を掴んでしまえるから。 私にはできそうにない」 比呂美は眞一郎を励まそうと覗き込む。 「比呂美のほうがすごい。勉強やスポーツだけでなく母さんの小言にも耐えてきた。 俺は何でも比呂美に敵わないと思っていた」 眞一郎は空を仰いでいる。 「違うの。幼い頃の私は引っ込み思案で眞一郎の後を追い駆けてばかりいた。 だからいつか追いつこうとしただけなの」 比呂美は繋がれている右手を強く握り締める。 眞一郎はやんちゃで、からかわれてばかりいた。 いつか釣り合いが取れるようになりたかった。 「そういうところから、すれ違っていたのか……」 「だって、こういうふうに本音で話せるようになったのは、最近になってからだから」 お互いに握る手が熱を帯びてきた。 それでも離そうとしない。 『並んで歩こう』 絵本の最後のページを実現させるために。 できればこれからも、ずっと。 (完?) あとがき 本編が最終回ですので、妄想も最後になります。 とうとう今夜に放送されることになりました。 今までの考察していたことを含めて描いてみました。 第十二話の眞一郎のおぎゃあ、比呂美の置いてかないで、乃絵の飛び降りを、同一視して、 リセットという初期化ではなくて、リスタートという再起動と考えています。 三人とも考えを改めて再起動することでお互いにとって良好な関係を築いていくでしょう 比呂美は眞一郎への依存体質を改善する事無く、眞一郎と結ばれても成長できません。 そんなふたりは幼い頃の思い出ばかりに、すがらないようになるでしょう。 眞一郎にとっては比呂美こそが最大のコンプレックスであっても、絵本なら勝てます。 比呂美は長期間も自分を見つめてくれていた眞一郎に惹かれてゆくでしょう。 現実のふたりが向き合うことができるように祈っています。 比呂美と眞一郎は学校や仲上家では遠慮はしますが、ふたりきりになれば甘えるでしょう。 乃絵の涙には迷いました。 眞一郎に泣いてもらわねばなりません。 気高い涙は何事にも縛られずに成し遂げようとするときに流れるようにしました。 乃絵のためだけに絵本を描き続けて、乃絵すらも放置しましたが、 邪魔をしたくないからにしました。 愛する比呂美までも放置してしまった罪もあるのですが、報告したかっためです。 わかっていてもしなければならない眞一郎は、あらゆる感情が混じって泣いてしまいます。 湯浅比呂美からは理解、眞一郎からは信頼、純からは愛情を、乃絵は得ます。 比呂美からは誤解から友達として理解されます。 それらを受け取っても、乃絵は地上にいます。 ならば絵本をすべて紙飛行機にすることで、天空への橋渡しをさせました。 これでお婆ちゃんと雷轟丸と出会えます。 また誰が雷轟丸か地べたかを迷うわないように、一緒に飛ばしました。 乃絵眞一郎との信頼関係を継続させました。 もう二度と会わないようにするのは、過酷だからです。 純から眞一郎に乃絵と友達になるように託されてもいます。 でもまだ恋心が残っているかは想像の余地があります。 例のあの石である『のえがすきた』は『えがすきだ』に、 乃絵が自分で眞一郎と比呂美の前で並び替えることで清算しました。 純については就職させました。 乃絵と離れることで、お互いが自立するためです。 仲上夫妻はふたりのことを温かく見守ってくれるでしょう。 愛子と三代吉もいつか恋人関係になって欲しいです。 本編がここまで大団円になるかはわかりません。 比呂美スレでは癒しが求められるので、重々しい内容にならないように控えていました。 もう使われることのないフラグが、行間にはさまざまな仕掛けを施してはいます。 今まで比呂美スレで考察や妄想し合って、苦難を乗り越えてきました。 この場を借りて感謝しております。 ここらで筆を置こうと考えています。 時間をおいて書きたくなるかもしれませんが、ありがとうございました。 第十三話の妄想 テレビでの予告 音声 Ⅰ 「そう? ありがとう」 眞一郎母。 どこでも使えそう。 比呂美の部屋に訪問したとときに、ケーキと紅茶を出してもらったとき。 あの切り取られた比呂美母の写真か比呂美の形見である同じ写真を見せてもらうとき。 比呂美がお手伝いをしてくれるとき。 Ⅱ 「入ろっ」 愛子。 三代吉とお店に入るとき。 他にも使えそう。 Ⅲ 「こんな自分、嫌なの」 比呂美。 今までの自分の行為を反省をしている。 強引に眞一郎に合鍵を渡したりキスをしたり、祭りでは乃絵に懇願したり嫉妬したり。 相手は眞一郎母、眞一郎、乃絵、朋与。 Ⅳ 「眞一郎は、私が飛べるって」 乃絵。 眞一郎に助けられたか絵本を見せられてからだろう。 相手は純が妥当でもあるが、比呂美もありうる。 Ⅴ 「君の涙を」 眞一郎。 比呂美絵本のタイトル。 比呂美に告白のとき。 Ⅵ 「ちゃんと向き合って欲しいの、だから信じて欲しいの」 乃絵? 乃絵が比呂美に眞一郎のことについて話し掛けるとき。 乃絵は比呂美が眞一郎を想っているのを知っているから。 乃絵はもう純を選びそう。 テレビでの予告 場面 A 比呂美、制服姿でフェイドアウェイ。 比呂美がバスケでシュートした後。 その後に乃絵が現れそう。 B 今川焼き屋"あいちゃん"の前で待つ三代吉に駆け寄る愛子。 雪が解けているので、後日談だろう。 C 絵本のページを紙飛行機にしてあり、地面に突き刺さっている。 誰かが雷轟丸の絵本を紙飛行機にしたのだろう。 地面からあの海岸のように思える。 乃絵、眞一郎が共同で、天空のお婆ちゃんと出会うために。 D ママンが切ない表情を見せる 仲上家であるので、従業員出入口を家族である比呂美が使用したとき。 E 缶コーヒーを飲む純。 公式では相手は眞一郎になっている。 今までのことを振り返りつつ、乃絵や比呂美との交換条件の解消。 純の今後についても語るだろう。 F 夕暮れの海岸。 純が就職のために上京。 他にも無数に考えられる。 公式のあらすじの画像 左上から右に順番で 1 眞一郎が誰かに抱きつこうとしている。 マフラーをしていないので、第九話の抱擁。 相手は比呂美で比呂美視点だろう。 後ろの雪は現場であったが、光源については謎。 2 眞一郎母の比呂美のアパートの訪問。 時刻は窓から昼間なので、比呂美は祭りの翌日は学校を休んでいそう。 手にはケーキの箱を持っていて、見舞いに来ている。 できれば仲上湯浅夫妻の過去の話と眞一郎との関係についての相談。 3 愛子が喜んでいる。 相手は三代吉でお店に入るところ。 B 今川焼き屋"あいちゃん"の前で待つ三代吉に駆け寄る愛子 雪が解けているので、後日談だろう。 4 涙目の比呂美。 Ⅲ 「こんな自分、嫌なの」 比呂美の場面と一致しそう。 服装から見舞いにきた眞一郎母か眞一郎に。 今までの自分の行為を反省をしている。 強引に眞一郎に合鍵を渡したりキスをしたり、祭りでは乃絵に懇願したり嫉妬したり。 5 制服姿で見舞いに来た眞一郎。 テーブルの前には事前に来た眞一郎母のケーキが乗っている。 休んでいたのを心配しているが、まだちゃんとしていなさそう。 6 絵本の紙飛行機。 C 絵本のページを紙飛行機にしてあり、地面に突き刺さっている 誰かが雷轟丸の絵本を紙飛行機にしたのだろう。 地面からあの海岸のように思える。 乃絵、眞一郎が共同で、天空のお婆ちゃんと出会うために。 7 制服姿の比呂美が体育館にいる。 A 比呂美、制服姿でフェイドアウェイ 比呂美がバスケでシュートした後。 その後に乃絵が現れそう。 眞一郎と向き合うようになるための決意。 8 純と眞一郎が会っている。 仲が良いようにも見える。 E 缶コーヒーを飲む4番 公式では相手は眞一郎になっている。 今までのことを振り返りつつ、乃絵や比呂美との交換条件の解消。 純の今後についても語るだろう。