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【種別】 超能力・素粒子 【元ネタ】 物理用語の暗黒物質(ダークマター)。 重力など状況証拠から存在すると考えられているものの、 直接的な観測がなされていない物質の総称。 本来の用法では「Dark」は不明を意味し、「暗い」「邪悪」といった意味はない。 Wikipedia - 暗黒物質 【初出】 十五巻 【概要】 【性質・戦闘利用】 【無限の創造性】 【学園都市において】 【プランとの関係】 【備考】 【概要】 学園都市第二位の超能力者(レベル5)・垣根帝督が有する、 「この世に存在しない素粒子を生み出し(または引き出し)、操作する」能力 。 及びそれによって作られた「この世に存在しない素粒子(物質)」そのもの。 この能力で生み出される物質『未元物質』は、 「まだ見つかっていない」「理論上は存在するはず」といった『物理学で定義されるダークマター』とは異なり、 学問上の分類に当てはまらない、本当にこの世界には本来存在しない新物質である。 「この世の物質」ではない以上、この世の物理法則には従わないし、 相互作用した物質もこの世のものでない独自の物理法則に従って動き出す。 作中では、「翼で回折した太陽光が殺人光線になる」等の例が示された。 つまり、単に変わった物質を作るというだけでなく、物理法則全体を塗り替えてしまう能力でもある。 ただし物理法則の変化は未元物質が存在することで発生する副次的な効果であるため、 法則改変の方向性を自由に決めることはできない。 例えば、「太陽光を殺人光線に変える」のはあくまで未元物質が元から持つ性質であって、 垣根が狙ってこのような性質を持つ未元物質を生み出した訳ではない。 垣根がこの能力を使う際は、基本的に天使のような白い6枚の翼の形になる。 ただし、この翼を出さずに絹旗や一方通行 の攻撃を防いだりしているため、 翼を出さなくとも能力自体は使用可能である模様。 また、一方通行に白い翼を「似合わない」と指摘された際に、 「自覚はある」と答えながらもこの形状を取ることから、 垣根が意図して翼の形状を作っているわけでは無いらしい。 【性質・戦闘利用】 未元物質の白い翼は、飛行・防御・打撃・斬撃・烈風・衝撃波・光線などかなりの応用性を持つ。 この翼の大きさは可変で、数mのものから数百mのものまで生み出せる。 ゲームでは羽を弾丸のように発射していた。 他にも特定の範囲に上から強力な圧力を与える攻撃や、 対能力者施設を内側から吹き飛ばすほどの爆発(翼がなくとも使用可能)などを起こしている。 外伝漫画『とある科学の未元物質』では更なる応用として、 未元物質の翼に触れただけで身体が溶解・気化・砂状化する 念動能力による投擲を見えない力で逸らす 装甲をすり抜けて人体だけに翼を刺す 音や光を間接的に操り、脳の電気信号に干渉して暴走状態の相手に語りかける 理解できない事象を同時に三千三百以上展開する(発火、結晶化など) といった現象を起こした。 また、塗り替えられた物理法則が身体に悪影響を与えるためか、 未元物質が展開された空間にいるだけで敵が血を吐いて気絶する場面も見られた。 この世に本来存在しない物質のためか強度も異常に高く、 鉄や窒素といった「この世の物質」を元にした攻撃で未元物質を破壊出来たのは、 『原子崩し』などごく少数しかない。 本人曰く、「『超電磁砲』くらいまでなら耐えられる」模様。 加えて、本人が意識していない攻撃を防ぐ自動防御の機能もあるらしく、 一方通行との戦闘ではATMを高速で投げつける不意打ちを凌ぎ、 コラボ小説では使用者が対応出来なかったオブジェクトの一撃を、翼が勝手に展開して防いでいる。 垣根は太陽光と烈風に注入した併せて25000のベクトルにより 一方通行の「無意識の内に受け入れているベクトル」を逆算し、 偽装した「ありえないベクトル」の翼を、通常の物理法則に従うが故に存在する『隙間』へ撃ち込むことで、 反射をすり抜け一方通行にダメージを与える事を可能とした。(→備考参照) 攻撃を通すことが可能になったことにより一時は一方通行を押す戦闘を見せたが、 一方通行に「『未元物質』が存在することでどのように物理法則が変化するのか」を解析され、反射の設定に組み込まれた。 このため未元物質で一方通行を傷付けることは今後一切不可能となった。 それでも純粋な「超能力」で、ダメージを一方通行に与えることができたのはこの能力だけである。 【無限の創造性】 新約5巻での復活時に新たに習得した使用法。 未元物質で人体細胞を構築できるようになったことで、 自身の複製を生み出せるようになった。 この複製は単なる人形というわけでなく、一体一体が意思を持ち、超能力『未元物質』を使用することができる。 つまり未元物質でできた複製がさらに別の未元物質でできた複製を生み出すというねずみ算により、 文字通り無限に増殖し続けるまでになっている。 さすがに『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』そのものを構築しているわけでは無く、 あくまで黒夜のように「能力の噴出点」を増やしているだけらしいが、 それでも実際に起きている現象になんら違いはない。 しかしそれも一時的な物で、いずれは『自分だけの現実』の構築や、他人の能力の実装も可能になるらしい。 人体細胞の構築から分かるように能力の自由度も格段に向上し、 槍や剣など翼以外の形への自由変形 他者の姿への変化、自身の複製の製造 白いカブトムシ・白いトンボなどの自律兵器の製造 レコードのように建材の磨耗を読み込んで行う、擬似的な読心能力 液状の未元物質から槍を発射したりといった遠隔地の未元物質の操作 他の物質を侵食し未元物質へと変える など、従来の性質と相まって凄まじい万能能力と化した。 複製というと性能が低そうに思えるが、 未元物質で作られた垣根に肉体の限界は存在せず、生身の頃より身体能力は圧倒的に向上している。 そもそも「人間の形」を保つ必要すらないため、壁を歩くことも手足を変化させることも自由自在。 未元物質自体が凄まじい強度を持ち、 仮にダメージを受けても無限に再生することが出来るため、複製一体倒すだけでも困難を極める。 寿命や飢餓、酸欠といった概念も存在しないため、事実上不老不死である。 未元物質同士は生体電気に似たパルス信号で相互に情報伝達を行なっており、 どの個体が何をしているのかを全体が把握することが出来る。 作中で一方通行にこの信号を操作された際は未元物質を一定範囲破壊され、本体にも影響が出ていた。 しかし、それぞれは無数にブロック化され、相互通信は直結ではなく自由伝達であるため、 この方法ではごく一部しか破壊することができない。 つまり、例え幻想殺しでも、ラインを伝って全体をまとめて消滅させることはできない。 では複製を無視して「本体」や「元々の垣根の生身の肉体」を狙えばいいかと言うと、それも通用しない。 なぜなら未元物質で肉体を修復した結果、垣根にとって「自分の肉体」と「未元物質」の区別は曖昧となっていて、 彼の精神・命といったものは本来の肉体を離れて未元物質の中に散らばっているために、 もはや彼の精神・命は「本来の肉体」とは無関係となっているからである。 簡単に言えば、もはや未元物質そのものが垣根帝督の本体になっているため、 生身の肉体が潰されても垣根帝督という人物は死ななくなっている。 複製を管理・統御する『マスター』とでも呼ぶべき個体は一応存在するが、 あくまで全体の司令塔的な存在というだけで、いくらでも再生でき、 他の複製にマスターを移すこともできるため倒したところで何の影響もない。 アレイスターはこの状態の垣根を「能力が本体から分離して自律稼働している」と表現している。 言うなれば、この状態の『垣根帝督』はもはや一人の人間ではなく、 ミサカネットワークのような「無数の個体から成る一つの大きな意思」と化している。 ネットワークを構成する個体が全滅しない限り、どれだけ破壊されようと「死ぬ」ことはない。 しかも「生きて」いる限りはネットワークは未元物質で無限に再生・増殖し続ける。 生身の脳を破壊されてもこのネットワークは維持可能なようで、 もはや脳が能力を生み出しているのか、 能力が脳を形成しているのか曖昧なメビウスの輪のような存在となっている。 弱点は、その不死性・無限性そのもの。 なまじ柔軟性と再生力に優れるが故に、ネットワークから隔絶された個体も、 その個体自身の中で小さな独立したネットワークを構築して自律行動を始めてしまう。 これだけなら問題はないが、垣根の精神はネットワークの中に不均質に散らばっているため、 「レーズンクッキーの中のレーズンの部分だけを集める」「アイスコーヒーの底に溜まったガムシロップを掬う」ように、 自律行動を始めた個体が「垣根の精神の一部分だけを集中的に受け継ぐ」ことが起こりうる。 その結果、自律行動を始めた個体と残りの大多数の個体との間で意思がズレる可能性があり、 最悪の場合、他の個体の意思に反して行動する「反逆者」が生まれる危険性もある。 しかも、ネットワークの中のどの個体が「核」と決まっているわけではないため、 「反逆者」にネットワーク全体の支配権を奪われてしまう可能性さえある。 そして垣根は文字通り「無限」の増殖を行うため、 増殖していく内に「反逆者が誕生する可能性」もいずれは自分自身で実現してしまうことになる。 作中では「戦いを止めたいと思う個体」が発生し、ネットワークの支配権を握ったために、 それまでマスターを担っていた個体(=垣根の精神の一部)が自滅した。 一方通行には「オマエなんかには勿体無いチカラ」「明らかに制御できる範囲を超えている」と評された。 現在の垣根は、上記の弱点を考慮して増殖そのものを控えており、 増殖を行う場合でも「ネットワークを形成して一つの意識で全個体を制御する」ということを行わず、 各個体をスタンドアローン状態にしている。 スタンドアローン状態で増殖を行うということは、垣根の精神を各個体に分割していくに等しいが、 曰く「クッキーを二つに割っても味は変わらない」ようなもので、 分割しても「垣根帝督」としてのパーソナリティは保ったまま(ネットワークからの指示によらず)自己判断で行動できる。 その上、「割れたクッキーを合わせれば元の形に戻る」ように、分割された精神を再統合することも可能。 そのため、ミサカネットワークやかつての垣根のように「一部の問題がネットワーク全体に波及してしまう」という危険は無く、 たとえ一部の個体に異常が生じても残りの個体は問題なく行動できるようになっている。 さすがに分割をやりすぎると以前と同様に「反逆者」が生じる危険は無くもないが、現状では問題ないようである。 【学園都市において】 この能力は『この世のものでない性質を物質に付与できる』という点で極めて工業的な価値が高く、 一方通行に敗北し、垣根がほぼ死亡状態となったことで学園都市では盛んに研究対象にされている。 例えば第三次世界大戦時には、『未元物質』の力を取り込んだ兵器『Equ.DarkMatter』が実戦投入されている。 このような触媒的な利用だけでなく、未元物質自体を「素材」として何かを作ることもでき、 木原病理は未元物質を素材に人体部品を作り、損傷した体を修復することに成功している。 このアイデアは垣根本人にもフィードバックされたらしく、垣根は最終的に「未元物質で人体細胞を構築する術」を獲得し、 自分の体の損傷部位を未元物質で補って復活を遂げた。 復活後も学園都市は未元物質を相当量保有しているらしく、サンプル=ショゴスなる存在が製造されている。 【プランとの関係】 垣根の言によれば、アレイスターの「プラン」 の『第二候補(スペアプラン)』であったらしい。 一方通行が『第一候補(メインプラン)』とされていることから、 垣根も「プラン」において一方通行と同じような役割を果たすことが可能な模様。 ヒューズ=カザキリ、そして一方通行の黒翼との類似性(翼・この世にあらざる法則)からすると、 未元物質も虚数学区制御に関連があったと思われる。 また『この世のものでない物質』という点では、 第三次世界大戦終盤に出現した『黄金の腕』を始めとする、物質化した『天使の力』を彷彿とさせる。 垣根は一方通行の黒い翼を見て未元物質というモノを理解し、 更なる成長を遂げ数十メートルにも及ぶ白い翼を展開したが、 その真価を発揮する前に一方通行の圧倒的な力にねじ伏せられて敗北したため詳細は不明。 地の文では、 「こことは違う世界における有機」「神にも等しい力の片鱗を振るう者」とされた一方通行に対して、 「こことは違う世界における無機」「神が住む天界の片鱗を振るう者」と表現されていた。 この他にも、一方通行と対極をなす能力として比較される描写が散見される。 【備考】 本スレでも話題になるが、勘違いがある場合も多いのでここに明記。 まず、「未元物質という能力」は1つだが、「能力による攻撃」は2つある。 (1):未元物質の翼や羽など、そのものによる打撃、刺突 (2):未元物質によって歪められた物質・現象 (1)に関しては、単に『謎の物質』をぶつけているだけなので、 通常のベクトルによる攻撃であるため当然『反射』可能だが、 解析した一方通行のフィルターをすり抜けるベクトルを挿入する事で、 (最終的に対策を取られたものの)『反射』を無視して攻撃を通す事も可能。 (2)が若干複雑だが、本編で『反射』を貫通した「変質した太陽光」は、 太陽光という通常「一方通行が反射せずに通しているもの」の性質を未元物質が有害に変更しただけである。 つまりベクトルとしては受け入れている太陽光と同一のものを持つ。 そのため、『未元物質の影響で変質した物体が有る世界』を想定して、 反射のフィルターを再設定しないと『反射』不可能。 ただし、「変質した」といって「反射不能」であるとは限らない(実際、解析用の「烈風攻撃」に関しては通常通り反射が機能している)。
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―第1話~ ― ア行 一方通行(アクセラレータ) 一方通行(アクセラレータ)【能力名】 警備員 カ行 垣根帝督(かきねていとく) 学園都市(がくえんとし) 木原数多(きはらあまた) 木原一族 木原相似(きはらそうじ) 暗闇の五月計画(くらやみのごがつけいかく) 黒夜海鳥(くろよるうみどり) サ行 念動能力(サイコキネシス) 念動使い(サイコキネシスト) サイボーグ タ行 未元物質(ダークマター) 超能力(ちょうのうりょく) 超能力者(ちょうのうりょくしゃ) ドレスの少女 ハ行 自分だけの現実(パーソナルリアリティ) 窒素爆槍(ボンバーランス) マ行 心理定規(メジャーハート) ヤ行 杠林檎(ゆずりはりんご) 誉望万化(よぼうばんか) ラ行 流郷知果(りゅうごうともか) 強度(レベル) 超能力者(レベル5) A~Z DAアラウズ
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太陽が昇り始め視界が回復されていくと暗闇で見えなかった物も確認できるようになる。 空高く連なっている魔女であるまどかも例外ではない。 この巨大さなら会場の中ならどこでも見える事になるだろう。 (さて……どう対処するか……) 垣根は暁美ほむらの使う奇妙な現象の正体に気が付いた。 だが、気が付いただけでありどう対処するかは目途が立っていない。 暁美ほむらの能力は時間停止。 分かった所で発動されたら止める方法は無い。今は不幸中の幸いかインターバルなのか。 暁美ほむらは時間停止を発動してこない。 垣根が気づいた事は二つ。 一つは能力の使用の際腕に付いている盾に触れる事。もう一つは停止中でも発動者に触れている間は動けるという事。 刀に斬られている間、垣根が彼女に攻撃出来たのはこのためである。 対するほむらは依然余裕の表情を浮かべていた。 (能力に気付かれても止めれば対策の仕様が無い筈……!) 所有している武器は斬れつければ相手を重くする刀と拳銃及び予備弾丸。 そしてまだ確認していない支給品も幾つかある。 時間停止のインターバルは分からないが目の前の男を相手にするには足りる筈。 男の能力は現段階で分かっている事は二つ。 一つは翼を生やすこと。もう一つは何もない所から物質を作り出すこと。 翼は彼が出す物質から作られたと見るのが妥当だろう。 問題は物質の規模だ。 翼が作れるという事は他にも何かが作れるはず。厄介な物でも生成されたら面倒なことになるだろう。 だがその点を考慮してもこちらが負ける理由には繋がらない。 相手は時間停止を止める術など持っていないから。 「あなた名前は?」 「あん?」 ほむらが行うのは時間の消費。即ちインターバルが終わるまでの時間稼ぎだ。 何故か能力に制限が掛けられているため仕方がないことである。 男は少し間を開けて答えた。 「垣根……垣根帝督だ」 「そう……暁美ほむら」 名前の交換などどうでもいい。 どうせまどか以外全員殺すのだから。そう――――同じ魔法少女達も。 だから自分の名前を公開しても何も困ることはないのだ。 ほむらは一度時間停止を発動させるために行動する。 能力発動の条件、それは盾に触れる事であり、インターバルの長さは分からないが確認しようと盾に触れる。 「――――ッ!」 行為を行う前に止められる。 盾に触れようとすると敵――――垣根に妨害された。 あまり体を動かしていなかったが垣根は僅かな体の動きを読み取り盾に触れる前にこちらに物体を飛ばしてくる。 咄嗟に銃で撃墜したその物体は黒い塊であり見たことも無いような存在だった。 「言ったろ、テメェの能力の発動条件は知っているんだって」 (……迂闊だったわ。此奴は) これではインターバルが終了しても能力を発動させる暇が無い。 まずは垣根の意識を自分から逸らさせる必要があるためほむらは距離を取ろうとするが―――― 「……」 垣根は黙って何発もの物体をこちらに向けて放つ。そのスピードは当たれば骨は簡単に砕けるだろう。 対するほむらはそれを避ける。普段の彼女なら難しい事だが魔法で強化された彼女の身体能力ならそれを可能とする。 しかしいくら強化されても肉体には限界と言うものが存在しており彼女も例外ではない。 避ける合間を縫って射撃をするも垣根に当たらず避けるだけで精一杯だ。 このままでは非常に厳しいため何とか策を練ろうとするが―――― 「あぁ……やめだ、こんなもん」 垣根は突然動きを止める。 何故だか知らないがこちらにとっては好都合だ。 これを機に何とか反撃したいが―――― 「……あなたの能力って素晴らしいわね」 「俺の未元物質に常識は通用しねぇからな」 ガトリング砲台が目の前に召喚された。 「さてここから第二位様からの質問タイムだ。簡単な事だ。お前はそんな力どこで開発した?自前か?」 時間を止める。そんな生成や変換ではなく世界の現象にそのまま我を置く能力など聞いたことも無い。 それはかつて第一位が行っていた実験でもその段階にはたどり着けないはずだ。 目の前の女、暁美ほむらの力は学園都市の範囲を超えているものだった。 「そうね。貴方は奇跡や魔法を信じるかしら?」 「……は?」 突然何を言い出すんだこのヒステリック女は。 奇跡?魔法? そんなもんはガキが憧れる言わばお伽噺のような存在だ。 だが彼は既に見ているし知っている。 学園都市には様々な能力者達がいる。 炎を操る者、風邪を操る者、電気を操る者。 座標移動を行う者、他人の心に介入する者。 そして全てを反射する男、この世にない物質を作り出す男。 垣根は既に日常の世界とは遠い存在になっている。 それに彼の世界には魔術と言う概念が存在している事も事実である。 そして彼が見た――――一方通行の姿。 「……この世には科学だけじゃ証明出来ない事もある……って可能性は感じた事はあるかもな」 「そう。なら私は人生と引き換えに契約をして夢に辿り着く力を手に入れたと言っておくわ」 「……そうか。」 それだけを聞いて垣根はガトリング砲をほむらに向けて発射する。 数多の数の弾丸が目標を駆逐しようと直進する。 しかし暁美ほむらは動かない。 何故なら彼女は一人で戦っている訳では無いから。 「ヴォオオオオオオオオオ!!!!」 上空から振り下ろされる二本の触手。 一つはほむらを守るために弾丸を凌ぐ壁となり。一つはガトリング砲台を破壊した。 鹿目まどか。 かつてほむらと同じ魔法少女だった存在。 ほむらの仲間であり、夢であり、大切な存在であり、友達である。 どんな因果か知らないが彼女は魔女に姿を変えてもほむらの友達であった。 「『コレ』は一体何だよ……」 触手が振り下ろされる前に垣根は上空に避難しており傷は無い。 上空から地上を見下ろすと作り上げた武器は簡単にも壊されてしまっている。 せっかく作った物質もこれでは無駄損だった。 「……って」 運命の放送が流れる―――― (上条当麻……こいつはたしか……?) 放送で呼ばれた名前に垣根が出会った事のある人物はいなかった。 別れたベジータとゼブラの名前も呼ばれなかったがベジータの仲間であるヤムチャの名前は呼ばれていた。 第一位と第三位の名前も呼ばれてない事からレベル5は伊達じゃないという事だろう。 上条当麻 昔噂で聞いた事がある。 第一位の一方通行が弱体化したのは無能力者に倒されたからでありその男は上条当麻と言う。 確証も持てない唯の噂話を思い出していた。 「巴マミも美樹さやかも佐倉杏子も生きている……」 どうやら相手側も知り合いの名前は呼ばれなかったようだ。 こんなヒステリックな少女の仲間ならあまり良いイメージは持てないが。 放送で説明されたブロリーと言う男。 確かベジータが危険人物と言っていた男だ。 あのベジータが忠告するレベルの強さであり殺せば願いが即叶うというボーナス付きの扱いはまさに破格。 主催側も手に負えない怪物なのか、それとも単なる遊びなのかは確証は持てない。 そしてベイは私情で動きトリコという男を殺すと宣言した。 トリコに接触出来れば、ベイ【主催側】の情報も得られるだろう。 「……時間はあんまり賭けたくないんだよ」 そう告げると垣根は上空高く舞い上がり怪物に向けて飛翔する。 「一つ言っておくわ」 垣根は未元物質を掌程度の大きさで作りだし怪物に向けて射出する。 怪物の触手に直撃しても勢いは止まらず触手に穴を開け貫通する。 数々の触手を掻い潜り次々と触手に穴を開けていき、近くに来た触手には翼を用いて切り裂いていく。 だが触手の穴が開いている部分は直ぐに再生し穴は塞がれてしまう。 翼で切り裂いた触手も、依然から切り落としているはずなのにその数は減ることは無く襲い掛かる。 「私のまどかを『コレ』呼ばわりとは……随分と舐めた真似をしてくれわ……ねッ!!」 僅かな隙を突き暁美ほむらが支給された侘助で襲い掛かる。 侘助は斬りつけた対象の重さを二倍にする能力を持っているため、受け切ることは戦闘に響いてしまう。 垣根は瞬間的に未元物質を発動しそれを侘助にぶつける事で太刀筋を逸らすことに成功する。 そのまま垣根は地上に降り同じく降りてきたほむらに視線を移す。 動きはまだまだ甘いがそれでも彼女は素人の域を超えている。 そして何よりも他人には無い力を持っているため油断が出来ないのだ。 「■■■■■■■■■―――――――!!!!」 咆哮 その持ち主はまどかと呼ばれる怪物ではなかった 無論、垣根とほむらでない事は明確である なら咆哮の持ち主は? 新しく駆けつけた参加者? いいや違う。垣根もほむらも周囲の警戒は怠っていない 此処にいるのは怪物、垣根、ほむら、死体であるつぼみ そして―――――― 「お前一護……か?」 黒崎一護が仮面を付けて咆哮を上げていた 「■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!!!」 仮面を付けた一護と呼ばれた存在は咆哮を上げる。 それに反応した怪物が数多の触手で攻撃するが全て刀で切断されてしまった。 驚くことに一護の斬られた腕は元通りになっていた。 虚化 これがある世界で言われている今の一護の状態。 しかし一護は何故か自我が保てていないようである。 怪物の触手を簡単に破壊している所から本能で動いているようだ。 「貴男の仲間も随分と人間離れしているようね」 「それは俺もお前もそこの怪物もお互い様だろ?」 垣根は一護に対して当然疑問を抱いており、警戒を怠らないようにしている。 それは暁美ほむらも同じであり、一護からも人間とは違う何かを感じていた。 垣根の態度を見る限り彼は一護の変化の中身を知っていない。そしてどうしてこうなったこも理解していない。 つまり垣根も今の自分と同じで現状の一護に対する情報が無い。 腕から光線を出し、体が溶岩で出来ている、音で戦い、謎の物質を作り出し、時を止める。 今更、腕が回復しようが仮面を付けようがそこまで驚くに値しないのである。 (会話……無理だろうな) 垣根は一護にコミュニケーションを取るのは不可能だと判断した。 かつての第一位の様に力に慣れていない感じがする。 厳密に言えば『普段は力が制御出来る筈が何故か制御出来ていない』状態に見える。 まるで熟練者が突然簡単なミスをするような――――― 「■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」 再び咆哮を上げると一護は天高く飛翔する。 そして垣根が、ほむらが、怪物がいるにも関わらず明後日の方向へ飛んで行った。 「……貴男、結局一人ね」 「同情してくれてもいいんだぜ?」 垣根は一人残されるがさっきまで一人で戦っていたので特に問題は無い。 寧ろ余計に時間が過ぎてしまったのが問題であり、インターバルの終了と仮定した場合危険な状況下におかれている。 実際、能力を発動していない所からまだ安全ラインと言った所か。 考えている間に数多の触手が垣根に襲い掛かるが翼及び能力で迎撃する。 下から下から迫ってくるため垣根は必然的に上空に登って行く事になっていた。 これが怪物の策と知らずに――――― ■■■ 何故一護が虚化したのか、また自我を保ていないのか 何故暁美ほむらが制限を駆けられているのか、またインターバルが疎らなのか 何故垣根帝督が本来の力を、一歩先の力を使えないのか それは完全に主催側の遊びである 一護に言わせてみれば殺し合いが円滑に進むように強制的に殺戮マシーン(笑)にされただけである 暁美ほむらに言わせてみれば時間停止からの皆殺しで独走を防ぐためである 垣根帝督に言わせてみれば――――― 参加者の力を仮に魔法や魔術などの反自然『能力』と鍛えられた武力や科学などの人間が行える範囲の『能力』と仮定する この場合垣根の能力は『どちらにも分類』される特殊な立場にある これは『ある主催側の人間』が彼に興味を示し、能力の分析を行いたい為だけにある程度のリミッターが掛けられている。 言わば『あちら側に生かされている』状態――――― 【黒崎一護@BLEACH】 【状態】 疲労(中)ダメージ(小) 、虚化 【装備】 斬月 【持ち物】ランダム支給品0~2、基本支給品一式 【思考】 基本: ??? 1:手当たり次第殺す 【備考】 ※参戦時期未定。ですがウルキオラとは会っています ※普段より霊圧を感じられません。一エリア。もしくは二エリアが限界です。 ※侘助に疑問を持っています ※主催側の介入により常時虚化で自我が無く手当たり次第に人を襲います。 ※どっかに行きました。 「く、ぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 嵌った。 垣根は嵌ってしまった。 怪物の、まどかの罠に。 怪物――――魔女の攻撃は触手での物理的な攻撃でしか行っていない。 だから垣根は敵は簡単で単純な物理攻撃しか出来ない相手だと思い込んでいた。 それが間違いだった。 本来のまどか――――魔女の攻撃は上空にある結界に人を送り込むこと。 結界に送り込まれた人間は魂を天に召される――――。 垣根はその一歩手前であった。 (……こいつの力に気付けなかった俺のせいか……? 結局俺も『あいつ』に言われた通りチンピラだったって事か…… でもこのまま終われる程俺は人間出来てないからな……!!) 垣根は一方通行戦で見せた覚醒の力をもう一度具現化させる―――― 「こいつ……この力は!?」 下で見たほむらも垣根の変化に気付く。 先ほどまでの得体の知れない物質の力から今度は自分たちにも感じる様な魔術的な――――結局は得体はしれないのだが。 別の力を感じていた。 「はは、ハハハハハハハハ!!これだよ!これェ!!俺はたしかに『あの時』は世界で一番だったんだよおおおおおおお!!!!!」 無論一方通行との戦いの時である。 垣根は普段よりも増した力で何と『自力で結界から脱出した』のであった。 一方通行が見せた黒い翼。それを見た時から彼の力は新たな段階に進んだ。 この場に置いては主催側の制限により発動は出来なかったが、自身の死と直面した今、制限を超え再度力を発動する。 怪物の結界から自力で脱出し、ほむらが隙を突いて撃った銃弾が肩を射抜く。 だが、傷は瞬時に未元物質が構成し直す。彼が言った通り今の彼に常識は通用しなかった。 そして彼は本来の時間軸では更なる能力の進化に目覚める事になるがそれは別の話である。 圧倒的力。 この会場には他者とは違う圧倒的力を持った者が存在している。 孫悟空と呼ばれるも者、更に力を手に入れた勇次郎、伝説のスーパーサイヤ人ブロリー。 特にこの三人は他の者と比べて圧倒的に力に優れておりそして今、垣根帝督はその段階に確実に近付いている。 「貴男……手を抜いていたのね」 ほむらは皮肉の念も込めて垣根に言葉を投げる。 これだけ得体の知れない力を出されたら今までの戦いが茶番に見える程だ。 まどかの結界から抜け出す者など初めて、実際に共闘経験は無いので全てが初めてだが、あの力から抜け出せる者は彼女の時間軸にはいなかった。 「抜いていたわけじゃない、『抜かれてたんだよ』」 一方通行戦で彼はたしかに覚醒しており能力も使えていた。 だがこの会場に来てからはいつも通りに能力の発動が出来ていなかった。 自分たちを攫うほどの主催者たちだ。きっと制限でも掛けていたのだろう。 しかし一度発動で来た今、制限など飾りでしかなかった―――― それでも彼がこの場に置いて最強になった訳では無い。 彼はまだ人の枠をはみ出していない。つまり殺せるのだから。 「じゃあ死ねよ、お前」 (まだ能力は発動できない―――――!?) ほむらの切り札である時間停止のインターバルはまだ終わらない。 さっきの時とは時間のかかり方が圧倒的に違う。疎らすぎる。 まどかの援護もあるが今の垣根には通用しないだろう。 絶体絶命。人を殺したほむらが人に殺されるのだ。 唯の中学生なのに運命を弄ばれた少女。 たった一人の友達を救うために運命を投げ出した少女。 姿を変えた友達を救うために他人を殺してまでも願いを叶えようとする少女。 今、暁美ほむらと呼ばれた少女の運命に変化が訪れる――――― ≪垣根帝督の制限オーバーを確認しました。至急転送いたします≫ 首輪から響いた機械音声が終わった頃には垣根の姿は無かった。 怪物は動きはゆっくりながらも確実に足を進めていた。 明るくなった今、他の参加者から見ても明らかに目立つため人が集まるのは明確だ。 待っていてもいいのだがそれではつまらない。 インターバルも終了したため再び暁美ほむらは時間停止を発動できるようになった。 垣根が目の前から消えた時には既に力が戻っていたのだ。 彼がどこに行ったかは分からない。だが命が救われたのは確かだった。 思い返せば出会った参加者は6人。 最初に出会った男は体を溶岩に変化させダメージを与えられずに生死の在処も分かってない。 次に出会った変身した少女は簡単に殺せた。 次に出会った男4人組。 結果、4人全員から逃げられた形となった。 時間停止と言う圧倒的な力を持っているのにも関わらず戦果を上げられていない。 これは油断だ。『この力があれば』『まどかと一緒なら』。 慢心ゆえの敗北。願いを叶えるためにこんな所では止まれない。 殺すなら、勝つなら徹底的に、確実に 交わした約束を守るため少女は足を進める―――― 【E―5/1日目・朝】 【暁美ほむら@魔法少女まどかマギカ】 【状態】 疲労、ダメージ(小)ソウルジェムに穢れ(小) 【装備】 トカレフ(3/8)、魔法少女服 【持ち物】 ランダム支給品1~4、基本支給品一式 ×3、予備弾薬32/40 【思考】 基本: まどかが世界を滅ぼすのを見届け最後に願いを叶えその先へ進む 1:もう油断はしない 2:まどか(クリームヒルト)の邪魔をする者を排除する 3:最後に願いを叶える 【備考】 クリームヒルトの麓に落ちていた鹿目まどかのディバックを回収しました。 ※制限に気づきましたがどれくらいかは理解していません ※プリキュアに対し別の魔法少女と判断しました ※願いを叶えると言っていますが『まどかを殺さなければならない』という事実に気づいていません。 ※垣根に対して異常な恐怖心と警戒心を抱いています。 【鹿目まどか@魔法少女まどかマギカ】 【状態】 魔女化(クリームヒルト・グレートヒェン) ダメージ(小) 【装備】 触手消費(回復中) 【持ち物】 【思考】 基本:世界から不幸を取り除き、生きているものを楽園へ導く 1:美樹さやかと彼女の周囲1マップ分を除く場所に居る参加者を天空に創った結界へ放り込む 【備考】 ※全方位へランダムに攻撃を仕掛けてきます。攻撃は現在は緩やかです。 ※現在は深夜なので遠くからは目視しにくいですが日が登ればマップのどこへ居ても目視できるようになるでしょう。 ※制限で弱体化してるため物理攻撃で倒せます。 ※動き始めました 「クザン……」 【E-5地下/1日目・朝】 【サカズキ@ワンピース】 【状態】 疲労困憊(休憩中) 【装備】 海軍のジャケット 【持ち物】 ランダム支給品1~3、基本支給品一式 【思考】 基本: 主催を倒し生還する 1:もう一度クリームヒルトに挑もうか悩んでいる 2:ほむらを警戒 3:クザン…… 4;麦わらに火拳も死んだか…… 【備考】 ※ドラゴンボールが叶えられる願いは一つです。また、対象も絞られます。 何もない。 正確には何も感じられない。 たしかに物は存在しており、自分が座っている椅子、床など此処は部屋だと確認できる。 しかしそこから自分が知っているモノを何一つ感じられない。 まるで最初から存在していたかの様な、義務付けられているような―――― 一種の不快感を彼は感じているがその正体は掴めていない。 突然殺し合いをしろ、と言われ問答無用に巻き込まれた。 その殺し合い中に突然また自分の知らない所に飛ばされた。 今思えばここに来てから分からない事ばかりである。 謎の力で攫われる 首輪を付けられる 願いを餌に殺し合いを強要される 明らかに自分とは世界が違うような参加者がいる 能力に未知な制限を掛けられる そして死んだ筈の自分が生を受けている―――― 考えれば考える程疑問は生まれ、それに対する回答は出て来ないし出る気配もない。 今分かる事は一つ 「お前、最初の時に『最後に話した』奴だな」 目の前の男―――― スタージュンから全てを聞き出すことである―――― 【???/1日目・朝】 【垣根帝督@とある魔術の禁書目録】 【状態】 疲労(中)、ダメージ(小) 【装備】 普段着 【持ち物】 ランダム支給品1~3、基本支給品一式 【思考】 基本:基本は自由。主催を倒して帰る。一般人はなるべく巻き込まない 1: 目の前の男から全て聞き出す 2: 首輪を外したい、能力で試してみるか、それとも研究所で情報を仕入れるか 3: 自由にやらせてもらう 4:アレイスターが関わっているならば辿り着く 【備考】 ※15巻終了後(死亡後)より参戦 ※能力に若干の制限あり? ※この企画に対する考察は一時中断。今は情報を集める。 ※べジータやゼブラ一護にほむらの力の興味あり。 ※ベジータの知り合いに会ったら二回目放送の時に会場に来いと伝え自分も行く ※制限を超えましたがもう一度出来るかは不明です ※彼が辿り着いたのは原作15巻までの力です。新約の方ではありません。可能性はありますが。 ※サカズキは一星球@ドラゴンボールを持っています。 こぶし 時系列順 これが私の全力全壊 こぶし 投下順 これが私の全力全壊 幕間は終わり 黒崎一護 Love me do! Look at me! 幕間は終わり 暁美ほむら アルマゲドン 幕間は終わり 鹿目まどか アルマゲドン 世界の終りに一人じゃ嫌だ サカズキ アルマゲドン 幕間は終わり 垣根帝督 天元突破待ったなし!
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SS自作スレまとめ@wiki とある暗部の未元物質 【本文】 序章 動き出す歯車 revenger_of_darkness 第1章 表と裏と光と影と Intersecting_speculation 第2章 破滅への使者 Heimdall -前編- -後編- 【初出】 【著者】 【含有】 【あらすじ】
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SS自作スレまとめ とある暗部の未元物質 【本文】 【執筆状況】 20xx/xx/xx 禁書SS自作スレpart4にて 20xx/xx/xx 完結 【著者】 x-xxx (トリップ) 【あらすじ】 【解説】
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「――――あァ??」 一方通行は困惑していた。 たとえ脳に傷を持とうと、その頭脳は学園都市“最高”であることに変わりはない。 しかし、そんな彼でも、どんなにシミュレーションをしても、完全解答にたどり着けなかった。 「あぁわりぃ。もう一度言ってくれるか? お前は、俺に、何を求めてるって?」 コミュニケーションは大切である。もし勘違いで殺してしまっては、相手に失礼といえよう。 だから一方通行は、目の前でよくわからないことになっている人物に再確認を兼ねて尋ねることにしたのだ。 「だから、俺は、垣根帝督で、元に戻る方法を一緒に探してくれないか、っていってるのよ………んだよ」 頭が痛い。 どうやら先ほどの戯言は本当らしい。 それならそれで十分面倒くさいのだが。 一方通行は改めて目の前の人物―――(自称)垣根帝督を見やる。 茶髪のセミロングで、目つきは悪い。美少女と言えるが、なんとも取っつきにくい雰囲気のせいで台無しだった。 体に関しては何とも言えない。 なぜならダボダボのパーカーやらズボンやらのせいでラインがさっぱりだからだ。 極めつけは右手だ。 肘あたりから先がなく、だらんとたれているのがなんとも痛々しい。 総合的に判断をした一方通行は、目の前の(自称)垣根帝督に告げる。 「おめぇアホぅだろ?」 そう告げて踵を返した。 「あ、てめぇ!今の信じてないだろ!!」 「バァーカが。そもそもあのチンピラは男だっての」 というかこの間殺したばっかだ、と心の中で付け足す。 元々、学園都市で超能力までのランクに上がった奴らの情報は乏しい。 一方通行や、御坂美琴など、暴れている連中などは有名であるが、他は情報が規制されているためわからないのだ。 大方垣根帝督と偽り、自分に取り入ろうとでもしたかったのだろうが、超能力が超能力を知らないはずがないのだ。 馬鹿らしいと、ある“物”を作るための機材製作を再開しようとする。 「冥土返しだ」 ピクリと、一方通行の手が止まる。 「あいつが俺をこんなにしたのよ……んだ」 そういうと彼女は手のひらに小さな羽根を作り出した。そしてそれは、一方通行には、忌々しいが見覚えのあるものだった。 「これ見てもまだ信じられない、ってか?」 手のひらで羽根が風の抵抗を無視したように飛び回っている。 「………てめぇ、なんで生きてやがる」 この際垣根帝督が女であろうが関係ない。 あの時の自分に意識はなかった。 だが、奴を潰し、なぶり殺した、という記憶はあるのだ。 なのに帝督がいるのは明らかにおかしい。 「ふっ、こんなこともあろうと学んでいた通信講座が俺を救ったのよ……んだ」 何を言っているんだこいつは。 「ただ瀕死だったのは事実だ。あの時俺は死にかけていたし、死ぬだろうと思ってたしね……な。 その時あいつがきやがった」 冥土返し。 死人でなければ、たとえどんな状態でも救い上げる狂った医療人。 一方通行もお世話になった人物だ。 「チッ、余計なことばかりしやがって……んで、なんでてめぇは“女”になってやがんだよ」 少なくとも殺し合いをしたとき、垣根帝督は男だった。 「ぐ、……俺の意識が回復する前に冥土返しがやりやがったのよ……んだ!」 「後そのキモい言い回しなんとかしろ」 「仕方ないじゃ……だろ。体だけじゃなくて精神もいじりやがったみたいね……だ」 あの女は人間の根底のDNA配列を書き換えるだけでなく大脳にまで細かい影響を与えられるというのか。 もはややっていることは人間の書き換えだ。 「俺の時はされなかったからな……できたのは最近か」 「とにかく!なんでもいいから元に戻る方法を探してくれよ!!」 こいつは誰に頼んでいるのだろうか。 一方通行は聖人でもなければ善人でもない。 一流の悪党で、悪人だ。 そんな奴に頼み込むなど愚の骨頂。 「何日和ってやがんだおめぇ。俺ぁ、悪人だぜ?どっかの善人じゃねぇんだ、誰が助けるかってんだ」 一方通行は帝督を鼻で笑うと、そのまま先程までの作業に戻ろうとした。 「お前が何を作ろうとしているのか、俺は知っている」 その時の一方通行の行動は速かった。 振り向いた時の遠心力をそのまま利用し、右手を帝督の首に食い込ませ、左手は首の電極を切り替えた。 即座に“能力者”へと移った一方通行は、そのまま右手に力を入れつつ帝督を睨みつけた。 「せっかく生き長らえたってぇのにせっかちな奴だな。死ぬか?」 「ぐ、ま、まて、俺の、話を、聞け」 どこで知った、などというくだらない質問は意味をなさない。 奴以外はグループのメンバーしか知らないことだからだ。 だから、たとえ漏れたとしても、こいつを消せば全て解決するのだ。 人体など容易く崩せる。それに、殺すだけなら血液の流れのベクトルを逆にするだけで人はすぐ死ぬ。 「俺は、お前の、手伝いを、等価に、するって言ってるのよ!!」 「あ゛ぁ?てめぇがなんの役にたつってんだ?」 確かに頭脳は良いのは認める。しかし、一方通行ほどではないのだ。 それに知識のない奴に一から説明して、仲良くやりましょうなんて時間はないし、する気もない。 「お前、忘れ、たのか!俺の能力を!!」 『未元物質』。 それは、存在しているとされているが、観測不可能の物質を指しているのではない。 垣根帝督は、本当にこの世に存在しない物質を生み出すのだ。 いつしか一方通行の腕の力は解かれていた。 「だから、お前が必要としているもの、欲しい素材をも創り出してやる!!」 必死な表情。 そこから伝わる熱意は、確かに戯れ言でも虚言でもないと、一方通行は本能的につかんだ。 ため息を吐き出すと、口元を吊り上げ、右手を胸元まで引き寄せ、鼻がぶつかるほどの至近距離で、 「オーケークソったれ。今からお前は、俺に従え」 一方通行は胸中で笑う。 思わぬ収穫だ。 素材集めでも苦労するとふんでいたが、こいつがいればオールオーケーだ。 しかも、だ。 こいつは学園都市第二位の『未元物質』。戦力増強は計り知れない。 一方通行が黒い算段をしている間、垣根帝督は顔を真っ赤にしたまま、開いた口が塞がらない状況だった。 彼はまだ精神的には男である。しかし、彼自身が言ったように、その精神は徐々に女性へとシフトされつつあった。 故に、今の彼にとって、目の前の一方通行は、憎き敵でも、計画に必要な手段でも、助けてくれた人でもない。 “異性”なのである。 故に混乱した。 顔を真っ赤にする今の自分の精神が理解できない男側の精神と、恥ずかしいという気持ちを理解している女側の精神がせめぎ合い、彼(彼女)を混乱させたのだ。 だからだろう。 混乱が最高潮に達した帝督は、一方通行の手を払いのけて走り出した。 呆然とする一方通行を放り出し、力の限り脚を動かす。 しかし、彼(彼女)は焦るあまり、自分の体のパーツが少ないことに気づいていなかった。 人体というのが、とても綺麗な割合で成り立っているのは有名なことである。 二足歩行を可能にし、必要最低限だけの負担だけでたち続けられるのは、人間だけである。 だが、そのバランスが崩れたら? 後遺症というものは、何も怪我をした箇所だけに残るものではないのだ。 「うぁ、」 裏路地に走り込んだ帝督は人にぶつかりそうになる。 普通の人ならば、よほどではない限り、すぐにバランスを取り戻す。 “手を使うことにより”だが。 今の彼(彼女)は、片腕が肘から先がないのだ。 故に、バランスを取り損なった彼(彼女)は、振り回されるように倒れてしまった。 「いってぇな。んだこのアマ」 「うわだっせぇ。そんな体してっから小さな衝撃で痛がるんだっての」 二人の若者。 最近の学園都市は、スキルアウトの壊滅により、またしても治安が悪くなっている。 元々大きな暴力の前に尻尾を振っていただけの連中が、目上がいなくなったことにより、好き放題暴れているのだ。 この二人も、そんな枠の一部であった。 「おいてめぇ、一体誰にぶつかってやがんだよ?あぁ?」 片方の恰幅のいい―――わかりやすく言えばピザデブが、帝督を見下すように見下ろしてきた。 そんな相手に、錯乱していた精神が落ち着きを取り戻す。 「くそったれ。なんで俺が逃げるなんて真似を……」 「おい!てめぇ何無視してんだ!!」 苛々と、よくわからない感情が爆発している帝督は、目の前の物体が邪魔で邪魔でしかたなかった。 だからだろう。いつものように、対処していた。 「俺は一般人には何もしねえ。だがな、敵には容赦しねえ。 そしてムカついた。死ね」 うまく計算処理と演算処理ができないので、六対の翼は呼べないが、目の前の奴には不必要だろう。 カタカタと震える自分自身の体なんて気にせず、ただただ呼びたいものを呼ぶ。 法則なんてものに、彼(彼女)は囚われていないのだから。 ドスッと、見下ろしていた男の背中に刃物ような、それでいて鋭く大きな物体が生えた。 そのまま男は何もわからずに意識を手放した。 目の前の出来事に呆然としていたが、相方がやられたのを知ると、もう片方は怯えるように逃げた。 くだらねえ、と吐き捨てると、『未元物質』を削除した。 足下で倒れている男は死んではいない。 傷は目立つが、その自前の脂肪が守ってくれたのだ。 一方通行のところにどう戻ろか思案を始めた帝督。 しかし――― 「あ!健司!田子作がやられたんだ!! 能力者だ!助けてくれ!!!」 気がついたら、仲間を呼んだ男が戻ってきて、憎悪のような瞳で帝督睨みつけてきた。 その付近には10人を超える人の数が。 男の表情は余裕を含んでいた。 「馬鹿らしい。こんなの物の数にもなんねえよ」 吐き捨てる帝督の言葉が逆鱗に触れたのか、健司と呼ばれた男が懐から銃を取り出し突きつけてきた。 それでも帝督の余裕は崩れない。そもそも、彼(彼女)にとって、無能力者など数に入っていないからだ。 いっそ吹き飛ばそうか、と大質量のハンマーを創りあげようとしたのだが、帝督はようやく自身の異変に気がついた。 (震えている………?) カタカタと、ガタガタと、指先だけでなく全身が震えていた。 そして気がついてからでは遅かった。 むしろ帝督は、それに気づくべきではなかった。 精神的に優位だったはずの男の精神が、異常なほどに恐怖を感じている女の精神に塗りつぶされてしまったのだ。 なぜいまさら恐怖を感じるのか。 それは、冥土返しが原因である。 彼女は帝督の体だけでなく精神にも手を施した。 それは、擬似精神の作成。 新しい体になっても、帝督が困惑しないようにと、女性としての精神を帝督にアップロードしようとしたのだ。 ここで誤算が生まれる。 冥土返しはうまくいったと思ったが、超能力者である帝督のメインブレインがそんな柔なはずがない。 無意識下のプロテクトでアップロードを免れていたのだ。 結果として、女性と男性の精神が2つ存在することにより、帝督の頭脳処理能力を格段に低下させ、情緒不安定にしていたのである。 先程の一件で暴走した女性側の精神は、一時的に機能が停止していた。 故に、帝督は普段ほどではないが、『未元物質』の行使が可能だったのである。 だが時間が経つにつれ、女性側の精神も覚醒した。 故の震え。故の恐怖。 事実としても、精神的にしても誕生したばかりの精神は幼かった。 そもそも精神というのは、人が積み重ねてきた歴史だ。 それを生み出すということは、新たに一人の人間を生み出すということと遜色ない。 幼い者というのは、感情の流れに敏感である。 だから自身に向けられた敵意に過剰なほど反応してしまったのだ―――恐怖に。 そして、その恐怖を自覚してしまっために起こった現象―――垣根帝督の、精神のアップロード。 それはどんなに鍛えても、どんなに頭脳がよくなっても不可避の攻撃。 カリカリと、頭の中が書き換えられていくのが知覚できるのがなお恐ろしい。 超能力者たるからか、強靭な精神の持ち主である垣根帝督ですら、なんとか自我の一部を残すことだけで精一杯だった。 そして新たに生まれた『自分だけの現実』価値観などは残せても感情は不可能なほどに書き換えられた。 「あ、あぁ……あぁア………」 恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖 圧倒的な敵意と、それを敏感に感じとる自身の恐怖心。 それを目の当たりにした帝督は、もはや何もすることができなかった。 「お、見ろよ。こいつさっきまであんなに息まいてたのに、こいつ出した途端黙りやがったぜ?」 「はん。能力者っつったって人の子なんだよ。やっぱ銃は怖いんだな」 「ぎゃははははは、だっせぇの。見ろよ。あいつ泣きそうだぜ?」 「あれ中々の上玉だしよ、いっそ飼わねえ?」 「うわこいつ鬼畜ー。でもさんせー!あはははは」 見えない聴こえない感じない。 恐怖が世界を塗りつぶす。 帝督は、すぐ目の前で自分に触ろうとしてくる者達を知覚しているが、それを放棄した。 この後自分がどうなるか。闇に生きてきた自分にはよくわかる。 わかるからこそ余計に心が恐怖で塗りつぶされる。 嵌った沼は、底なしだ。 暴れようと、もがこうと、心が塗りつぶされながらも抵抗していた最後の最後の男性としての精神も、いつしかその上塗りされていく恐怖に屈していた。 「――――なぁに馬鹿みたいな壊れた玩具やってんだてめぇ?」 なぜか。 目の前で騒いでいる男達よりも小さいはずのその声が、帝督には聞き取ることができた。 「てめぇにゃきっちり働いてもらうってのに、こんなとこで油売るってのは、いい度胸じゃねぇか」 自然に、あたかも風のように、男達をすり抜けて自分の目の前に立つ男を、帝督は現実味なく見上げていた。 「あぁ?……てめぇ誰だ?」 楽しげに笑っていた男の一人が気づく。 それに従って、周りの奴らも不振な目で見てくる。 男は特徴的な存在だった。 髪は白く、肌も血が通っていないかのようなほど白く、右手に持った杖と、首に巻かれたチョーカー。細い体は、少し力を入れたら壊れてしまいそうで。 そんな不思議な男が、自分達の獲物の前に立っていた。 「てめぇそいつの仲間か?」 そう言いながら先ほど帝督に向けた銃を男に向ける。 「お、能力者様をも黙らせた銃のお出ましですか!!」 そう茶化すと、みな一斉に爆笑した。 「そりゃすげえ。超能力者(レベル5)すら黙らすなんて、そんなもんが学園都市で開発されてたのか」 「はははは、は?」 男達は目の前の男が何を言ったのか最初理解できなかった。 それもそうだろう。 学園都市でいう、レベル階級は“絶対”だ。 レベルが高ければ高いほど、それは化け物じみてくる。 そして超能力者(レベル5)というのは、230万いるうちでも7人しかいない人外だ。 だから男達は理解できなかったし、信じなかった。戯言だと、虚勢だと思ったのだ。 「おぅよ。こいつぁ、あの超能力者様すら黙らせられる代物だ。 わかったらそこの女をよこしな。痛い目みるぜ?」 そういうと、また男達は笑い出した。 「そうかい。――――だったら、俺にでも試して見ろや」 振り向いた男―――一方通行と呼ばれる、学園都市第一位の超能力者(レベル5)は、不適に笑う。 それをどう受け取ったのか、男達はいつまでもどかない男にキレた。 力ずくで、排除してしまおうと。 銃を持った男―――健司は馬鹿にしたような目つきで、目の前の邪魔な優男に、向けていた銃口の引き金を、引いた。 サイレンサーも何も付けてない剥き出しの銃口から出た弾丸は、迷うことなく一方通行へ向かった。 パァンと、裏通りに銃声が響く。 そして面倒くさそうに何度か引き金を引こうとして―――銃が爆発した。 「へ?………がぁああああ!?!?!?!?」 「え?え?健司?」 「な、何が!?」 急に暴発した銃と、それによる被害を受けた健司を見下ろしながら男達は慌てるばかりだった。 「簡単だ」 そこに、撃たれたはずの一方通行が口を開ける。 「俺に向かってきた弾丸を、ただ銃口に戻るように“反射”しただけだ」 簡単に言ってのけた単語の一つに反応したのか、一人が震えた悲鳴を上げた。 「ま、まま、まさか、一方通行!?」 「正解だバーカ」 短く吐き捨てると、一方通行は足下に落ちていた空き缶を蹴る。 すると、急加速した空き缶は、男の腹に“突き刺さった”。 「ぎ、ぎゃあアあああ!!!」 腹を抱えながらのたうち回る男を見た後、一方通行はゆっくり周りを見回す。 「お前らはこっちきたばかりの奴らか。ま、俺を知らない時点で新参者だぁな」 ニヤニヤ笑う一方通行と、顔色が恐怖に染まる男達。 「俺ぁ悪党だが無駄な悪さはしねえし、一般人には手ェださねえ。 だがな、てめぇらは破っちゃいけねえもんを破りやがった」 ニヤニヤ笑いながら、殺意を込めた視線で男達を突き刺す。 右手を高くあげ、周囲から風が集まってくる。 様々なゴミを集めながら。 「それは……―――――俺の“者”に手ェ出したことだ」 ベクトル操作で作り上げた竜巻を、男達に向けて振り下ろす。 方向性を与えられた竜巻は、様々はゴミや破片などを内包しながら男達を切り刻み、どこかへと吹き飛ばしていった。 「てめぇなんで『未元物質』を使わなかった」 「う………使え、なかった」 どこまでも落ち込む姿は、まるで幼子のようで一方通行を困惑させる。 とてもじゃないが、その姿は、かつて学園都市第二位として君臨していた垣根帝督とあまりにもかけ離れていた。 「まぁ、いい。さっさと帰るぞ。てめぇをグループの連中に報告しなきゃならねえからな」 踵を返す一方通行の服の裾を、後ろから帝督が引っ張る。 嫌々ながらも振り返った一方通行が見たのは、今にも泣きだしそうな垣根帝督。 「…………好きにしろ」 それだけ伝えると、帝督は一方通行に抱きつくようにしながら、彼の胸の中でも泣き出した。 その様は、迷子が見つけられて、母に泣きつく子供のようで、一方通行はため息を吐き出すしかなかった。 (……まーた守るもんが増えちまった。くそ) いつまでも泣き続ける帝督の頭を撫でるしかなかったのである。 後日談 「こいつが新しくグループ入りを―――」 「一方通行の妻の垣根帝都(ていと)よ。よろしく」 「「「は?」」」 「てめぇ!何勝手なこと言ってやがる!!」 「でもあんた、打ち止めには欲情とかしないんでしょ?」 「あんなガキに欲情なんかするか!!」 「なら決まりね」 「ふざけんな!!」 「……にゃー。対極だと思ってたが、変なところは共通項目みたいだにゃー」 「……まぁ節度を守ってくれればかまいませんよ」 「馬鹿らしい。馬鹿女とか足引っ張りそうなんだけど?」 「ふん。トラウマ抱えが、お前はどっかで膝でも抱えてな」 「……あぁ?はっ、貧相な体のくせに」 「………ムカついた。てめぇは俺が殺してあげるわ」 「上等。表でなさい」 「格の違いを見せてあげるわ」 「……あの野郎俺との約束放棄しやがったか?」 「おいおい一方通行。一体どんな約束なのかにゃー?是非知りたいすぐ知りたいにゃー?」 「僕も興味ありますね」 「てめぇら殺す!」 本日は所により天使が舞い、無機物の嵐が降るでしょう。 おまけ 「滝壺!なんか俺能力に目覚めたみたいだ!!」 バァンと病室に入ってきた浜面のすぐ脇の壁にメスが刺さる。 少しかすった。 「君、病室じゃ静かに」 「ハイゴメンナサイ」 「うん、よろしい。 一応毒素は抜いたけどまだ安静なんだからね?わかった?」 「あ、はい……」 それだけを浜面に伝えると、クールビュウティーな女医は部屋を退室していった。 「はまづら……」 「お、どうした滝壺」 手でちょいちょいとやってくる滝壺のベッド近くまでくると、彼に浴びせられた最初のものは優しい言葉ではなく鋭いチョップだった。 「いてぇ!何すんだ滝壺!!」 「はなし、全部きいたよ」 それだけで彼女が何を言わんとしているのかがわかった。 だが、――― 「俺は後悔してねえよ」 力強く、不安そうな彼女に告げる。 「確かに俺は無能力者だ。だがな、能力行使が死につながる奴を、絶望的な状況で助けようとしたやつを、見捨てるなんてできねえんだよ」 結果としてよかったが、それはただの自殺願望にしか聞こえない。 蛮勇とは無謀な馬鹿か、死ににいく馬鹿のことをさすのだ。 だがしかし、滝壺はついつい笑ってしまった。 ただのチンピラだった彼が、何があったのか、とても晴れやかな青年になっていたのだ。 「それで、なぜはまづらは能力にめざめたの?」 「あー多分麦野が俺の耳ん中傷つけたときに回路が傷ついたから、とかそんなもんだと思うぜ」 日溜まりの中で、彼らはやっと手に入れた平穏を楽しむ。 のちにここから、二人目の努力で超能力者にまで上りつめたとかなんとか、それはまた別のお話。
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御坂「待てって言ってんでしょうがぁぁああ!!」バチバチ 上条「俺は今からタイムセールに行かなくちゃいけないって言ってるだろうがぁぁあああ!!」 御坂「三分で済むから!止まりなさいよぉぉおおっ!」 上条「嫌だ嫌です嫌なんですよおおおおおっ!」 御坂「くうぅ!コイツ……!」 御坂「人の気も知らないで……」 御坂「……もう知らない!あったれぇえええ!!」ドシュン 上条「え」 上条「う、うわああああ!」 ドッカーン 御坂「や、やった!?」 垣根「それを言ったら負けフラグだぜ」ファサ 御坂「!?」 上条「アレ?無傷?」 御坂「なんで……?」 御坂「あ、あんなチンピラみたいな奴に……」 御坂「あたしの超電磁砲を、いとも簡単に止められた?」 御坂「……何者よ、アンタ」 垣根「安心しろ、モブキャラだ」 御坂「嘘」 垣根「マジ」 御坂「嘘」 垣根「とみせかけて?」 御坂「嘘よ」 垣根「つれねぇな」 御坂「メインヒロインの必殺技を止められるモブキャラなんていないわよ!」 上条(メインヒロインだったのか……) 垣根「え?メインなんだって?」 御坂「メ・イ・ン・ヒ・ロ・イ・ン!」 垣根「……」チラッ 上条「……」チラッ 垣根「違くね?」 上条「てっきりインデックスかと」 御坂「何これ、いじめ?」 上条「いじめられてるのは俺だけどな」ハァ 御坂「なんでよ」 上条「なんでって無能力者にバンバン能力使う奴があるか」 御坂「そ、それは……あ、あんたが……」アセアセ 御坂「……」チラッ 垣根「……あん?」 御坂「そう!アンタは何者なのよ!」 御坂「超電磁砲を止めるなんてただ者じゃないわ!」 御坂「あやしい!」 上条(話逸らしやがった!) 垣根「怪しくない」 御坂「あやしい」 垣根「うるせえ」 御坂「あやしい」 垣根「……とにかくだ」 垣根「俺に常識は通用しねぇ」キリッ 垣根「間違えた、俺の未元物質に常識は通用しねぇ」キリリッ 御坂(未元物質?ってことはこのあやしいのが元第二位……!?) 御坂(死んだって聞いてたけど……) 上条「助けてくれたのか……?」 上条(それにしてもビリビリの超電磁砲をいとも簡単に……こいつも超能力者なのか?) 垣根「おい」 上条「は、はいっ」 垣根「早く行けよ。タイムセールってのがあんだろ?」 上条「あ、はい」 垣根「しかし……タイムセールってなんだ?」 御坂「おーい」 垣根「時間の特売?……いや、時間を売るだなんて非科学的だな」 垣根「でもファンタジーって夢があるよな」 垣根「その設定を詳しく教えてくれ。気になって夜しか眠れそうにない」クルッ 上条「タ……」 垣根「た?」 垣根「殺れると思ったか?俺を、垣根帝督を、未元物質を……!」6
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序章 動き出す歯車 revenger_of_darkness 「チッ。まだ慣れねえな」 少年は自販機の前で愚痴をこぼしていた。 左手で地面に落とした小銭を拾い、そのままペットボトルを取ると能力を使いキャップを吹き飛ばす。 右手には財布が握られている。しかし、その右手は人間のそれではなかった。 義手。 一言で言えばそれなのだが、ここは技術が『外』より30年進んでいると言われる学園都市。 外観一つとっても一目見ただけでは到底義手とは見抜けない。 当然、機能も普通の義手とは比べ物にならない。 この義手は脳が発する電気信号を電波として受信し、ほとんど本物に近い動きを実現するという学園都市最新鋭の医療機器である。 もっともまだ試作段階の物であり、公には流通していない。 どうやら『スクール』の『上』の連中が大急ぎで手配させたものらしい。 (バカな連中だ) 垣根は頭の中で笑っていた。 自分は『第一候補』になりアレイスターへの直接交渉権を獲得しようと『上』の指示を無視して好き放題に動いた。 その結果は『スクール』のメンバー二名死亡、リーダー垣根帝督の敗北。おまけに『ピンセット』までも失った。 全てにおいて彼は負けたのだ。 闇の世界において、敗北とは死を意味する。例え、その戦場で生き永らえたところで今度は学園都市の暗部の人間により処分される。 それはレベル5とて例外ではない。 彼も本来であれば処分されるはずだった。現に『原子崩し』の女は処分されたと下部組織の男から聞いた。 なのに自分はこの待遇だ。 反乱分子なのに『上』の連中は自分を処分できない。それどころか、この期に及んでまだ仕事を持ってくるときた。 こんな愉快な話があるだろうか。 意識を取り戻して右手の義手に気付いた時には笑いが止まらなかった。 改めて自分の能力の価値を思い知らされる。 と同時に腹立たしさがこみ上げてくる。 無様に地べたに貼り付けられながら拳を受け続けたあの瞬間。 遂に第一位を超えたと確信した瞬間に味わった敗北感。 あまつさえ、こうして生き永らえた屈辱。 もっとも、一方通行のあの猛攻を受けて生きていられるのは覚醒した『未元物質』でかろうじてガードしていた垣根しかいないだろう。 それでも垣根の自尊心はズタズタに引き裂かれていた。 ボロボロだった体の傷は少しではあるが癒えてきている。 しかし失った誇りは戻らない。今となってはその誇りが何だったのかすらわからない。 それでも垣根は歩き出す。 「さて…と。とりあえずあの女に挨拶しに行かないとな」 まだ彼にはやる事がある。
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7 「どういう事か。説明してもらおうか」 とあるマンションの空き部屋に、やや怒気を含んだ少年の声が響く。相手はテレビ画面の向こうにいる男性とも女性とも囚人とも聖人ともとれる人物だ。 どういう理屈なのか、テレビには電源コンセントしか入れていないはずなのに音声も映像も鮮明である。 『どういう事か…と私に言われても困るな』 画面の人間は笑いさえ含んだふざけた口調で静かに答える。 「ふざけるな!お前が何もしないで奴が動くものか!」 対して少年は刺すような怒号を叩きつける。が、画面の人間は眉一つ動かさない。 「確証はないが、あの膨大な魔力量と特殊すぎる質…『魔神』で間違いないだろう。お前、奴に何をした?」 『正確には「なり損なった」だがな』 画面の人間は嘲るが、少年の表情を見て流石に思うところがあったのか、事の顛末を話し始める。 『まぁ端的に言えば奴の忠告を無視したまでだ』 「何の忠告だ」 少年は間髪入れずに質問を繰り出す。 『原石さ』 画面の男もあっさりと答える。 その言葉を聞いて少年はわずかに眉をひそめた。 現在『外』で『原石』と呼ばれる人間の争奪戦が行われているのは知っている。 なんでも、学園都市に対抗すべくアメリカとロシアが中心となって天然モノの能力者を確保、分析して日本の学園都市に追いつけ追い越せなんていう事をしているらしい。 もっとも、超能力が何たるかを本質的に理解していない連中が『原石』を入手したところで「なんて不思議な能力なんだ」で終わるのは目に見えている。 学園都市でさえ完全に解明できていない『原石』の正体を『外』の連中が解明できるはずがないのだ。 そんな無駄な行為をあの人間が見逃すはずがない。自身の目的の為には手段を選ばないあの悪魔ならば。 「なるほど…。お前は獲物を外のカラスどもにつつかれない内に確保したかったというわけか。もっとも、ただのカラスではない者もいたわけだが」 『そう言うな。これも「プラン」に必要な事なのだよ』 「それは結構な事だが、それで『魔神』を敵に回しては元も子もないな。奴はこれまでの魔術師とは全く別次元の存在だ。俺のような一介の魔術師はおろか、聖人だって相手にもならないだろう。一体どうやって収拾をつけるつもりだ?」 『ふむ…。確かにこれまで通りにはいかないだろうな。「ヒューズ=カザキリ」もまだまだ調整段階だからな。困ったものだ』 画面の人間はそう言ってはいるが、その表情には薄い笑いのようなものが浮かんでいるように見える。 「また『幻想殺し』でも使うつもりか?」 少年は静かに問う。しかしその言葉はこれまでのどの言葉よりも鋭さのある口調だった。 『いや、今回は彼には少し休んでもらうつもりだ。「アレ」を消し飛ばされても困るしな』 画面の人間のその言葉に少年はわずかに安堵する。 「まったく…これなら二十億のローマ教徒が一気に攻め込んで来てくれた方がまだマシだったぞ。どういう策を巡らせているかは知らんが今回ばかりは俺の手には負えない。奴は特定の宗派に属していない分、学園都市をストレートに潰すという意味なら『右方』よりも厄介だぞ」 『心配しなくてもいい。私が何とかしよう』 「どうだかな。いずれにしても、俺の友人達を無関係に巻き込むのであれば容赦はしないぞ!」 少年の通告に『わかっているさ』という一言を返して通信は途絶えた。 男性とも女性とも囚人とも聖人ともとれる人物は、通信の切れた画面から別の画面に視線を向ける。 『まったく…どうにも思い通りにはいかないものだな』 溜め息を含んだような言い方だったが、その声から明確な感情を察知する事はできない。 その声の主の視線の先にある画面には2人の人間が映し出されていた。 『さて、どうしたものかな』 8 「―――と、まぁこんな感じなわけです。じつに下らないでしょう?」 特久池は楽しげな笑顔でこれまでのいきさつを話した。 「全くだな。テメエらで生かしておいて、制御できないと踏んだら処分か。滑稽なもんだな」 垣根は哀れみを含んだ笑みで吐き捨てる。 「連中は今後学園都市が外部から受けるであろう攻撃に向けて垣根さんのような貴重な能力者を失いたくなかったようですね。本来なら助けた義理として学園都市側に完全に取り込んでしまおうとしたかったようですが…」 「俺がそんなに義理堅い人間だとでも思っていたのかね」 さぁ、と特久池は笑いながら首を傾げると、 「ところで垣根さん。肝心の今回私があなたに近づいた件なんですけどね…」 そう言うと特久池は両手を広げる。 垣根は早く話せ、とばかりに特久池から視線を外している。 「あなたを抹消する為に来たのですよ」 その瞬間、ドゴォォォォォォ!!と強烈な爆発音が炸裂した。 原因はライターと車だ。 特久池は窓から見えていた車をテレポートで部屋に移動、同時に持っていたライターを着火させた状態でガソリンタンクの中にテレポートさせた。 これによって起こる現象は単純明快。 凄まじい爆音と共に、部屋は一瞬にして灼熱の炎と黒々とした煙に包まれた。 特久池は爆発の瞬間にビルの屋上にテレポートしていた。その表情は優れない。 奇襲には成功したが、学園都市第二位があの程度で倒れるはずがない。 そんな特久池の考えに答えるように屋上のアスファルトの一部が凄まじい音と共にぶち抜かれる。 「あーあー。びっくりした。お前、人に向かって花火をしてはいけませんって教わらなかったのか?」 不敵な笑みを浮かべて現れる学園都市第二位。その体には傷はおろか、煤の一つもついていない。何やら白い光のような膜が彼の体全体を覆っている。 特久池の表情は変わらない。この程度は予想通り、といった感じだ。 対し、垣根は眉間に少し皺を寄せて質問する。 「とりあえず一つだけ聞いておきたい。お前、まさか俺に勝てるなんて本気で思ってないよな?」 「どうでしょうね?少なくとも死ぬ予定はありませんけど?」 「よーしよし。細胞一つ残らず消し飛ばしてやるよ」 それが合図。 言い終わるなり、垣根は両足に光の膜を集約。その瞬間凄まじいスピードで特久池に突っこんでいった。 対して特久池は垣根から間合いを取るようにテレポート。百メートル程後方にテレポートすると、手元に金属製のプレートのようなものを引き出した。 垣根はそんな様子も構わずに、今度は左手に光を集約させ、特久池に向けると、 「そんな物で俺の未元物質を防げると思うなよ」 ドバァァッ!と光の直線が文字通り光速に近いスピードで特久池を貫こうとする。 「―――っ!!」 特久池の数メートル手前にあった金属製のプレートは未元物質によって一瞬にして貫かれ、その奥にいる特久池目がけて突っこんでくる。 特久池は何とか身を翻してこれを回避する。それはほとんど勘と偶然の回避だった。袖口には回避しきれずに当たってしまった部分が消失している。その周りには残滓と見られる白い粉末状の光が漂っている。 「(解析率二十七パーセント、シンクロ率十六パーセント、複製レベル2――、まだ足りないか!)」 ギリギリで回避しながら舌打ちを打つ特久池の眼前には笑みを浮かべた垣根が既に次の攻撃を繰り出そうとしていた。 「中々素早いじゃねえか。これは避けられるかな?」 すると、垣根の体を覆っていた白い光の膜が垣根の体を離れ、特久池の前でシャボン玉を半分にしたような形に変化する。そしてその縁が波立つように蠢くとその波は光の矢に変質し数十本の塊となって特久池を襲う。 「くっ!」 特久池は即座にテレポート。今度は垣根の二十メートル程後方に移動する。しかしその程度の距離は垣根相手では気休めにもならない。 標的を見失った光の矢は再び一つに集約され球体に形を変えると、その球体から膨大な光が発せられる。その光は特久池の視界を瞬間的に奪うだけのものだった。 しかし、この次元の戦闘において一瞬でも視界を奪われる事は致命的な瞬間になる。そして垣根がその瞬間を逃す筈が無い。 垣根は右手で新たな光の物質を生み出すと、それを円盤状に変形させ、その表面から直径2センチほどの無数のレーザー光線を光に向けて射出した。 レーザー光線が光を通過すると、あるレーザー光線は光に反応し爆散、あるレーザー光線は光を膨張させ全く別の物質となりどこかへと飛散していく。 それぞれのレーザー光線が全く違う反応を示し、その様はこの地球上の物理法則では絶対に有り得ない反応だった。科学者がこの光景を見たら間違いなく卒倒していた事だろう。 ありとあらゆる反応を見せた無数の光はやがて消え、辺りの視界を鮮明にしていく。 そこに特久池の姿はなかった。 そこにあったのは光に侵食され歪められた空間と超然としている学園都市第二位の男だけだった。 9 「まぁ…こんなもんか」 垣根は義手をつけた右手を何度も握り直しながら一人呟いていた。 『羽』を使用しなかったのは、義手をつけての本格的な戦闘が初めてだったので意図的に力をセーブしていたのだが、使い心地は上々のようだった。 (これといった暴走も違和感も無かった。演算や制御も特別支障は無かったし、『羽』を使ってもまぁ問題ないだろ。念のため後で調整は必要だろうが…) 右手に握り拳を作り前方を見る。 「ところで――」 何も無い前方へ。 「かくれんぼはもう終わりにしていいかな?」 「――っ!?」 言い終わると同時に強烈な閃光が広がった。 標的は三百メートル前方にあったマンションの屋上。正確には貯水タンクの裏側だ。 閃光の一部から猛スピードで射出された光の剣のような物質は貯水タンクを傷つける事なく貫通し、その裏側にいる標的を正確に貫こうとしていた。 音もなく貯水タンクを貫いた光の剣は標的を瞬殺したはずだったが…、 ヒュン!という空気を切り裂く音と同時に垣根の死角から特久池は手刀を放つ。 その手刀は垣根の首筋を的確に捉ようとしていた。しかし、 垣根が咄嗟に身を屈め手刀をかわすと、地面に左手をつけ、左手を支点にぐるりと体を回すと同時に右足で特久池の足を払う。 標的の思わぬ回避と反撃に呆気に取られた特久池は垣根の足払いに対応できるはずもなく、無防備な体が宙に晒される。 その絶好の好機を垣根が逃すはずもなく。起き上がりざまの反動をつけた左拳を特久池の鳩尾に叩き込んだ。 「ごぶぅぅ―――!!!」 特久池は肺の空気を全て吐き出しながら十メートル後方へと壁を破壊しながら吹っ飛んでいった。 垣根は特久池が吹っ飛んだ方向に向き直り、薄笑いを浮かべながら楽しそうに言う。 「はん。能力で敵わないとわかったら肉弾戦ってか」 ガラガラ、と瓦礫から特久池が苦悶の表情をしながら出てくる。 「まぁテメエがそう望むなら合わせてやるよ。ただ俺はどっかのモヤシみたいに能力に頼りきってはいねえからな。肉弾戦でもそれなりに楽しめると思うぜ?」 悠々と見下ろすように宣言する。 「(解析率83パーセント、シンクロ率65パーセント、複製レベル6―――その気になれば使えるが…)」 特久池は立ち上がるが、その足取りは明らかにフラついている。 対して垣根は握手でも求めるように警戒心の欠片もなく歩み寄ってくる。 「おいおい、一発でKO寸前かよ。興醒めさせんな。もっと楽しませろよ?」 射程圏内に入るなり、左拳を振り下ろす。 ビュォッ!という空気を切り裂くような速度で左拳が繰り出される。 「―――くっ!」 特久池はバックステップし何とかかわすが、フラついた足で無理にステップしたせいか着地と同時に体勢を崩してしまう。 「チェックメイトだな」 「――っ!」 その言葉と同時に垣根は蹴りを繰り出していた。いくら生身の蹴りとはいえ、先の左拳の一発であれだけのダメージを負ってしまった。この蹴りをまともにもらえば行動不能になる可能性は極めて高い。 ドスッ!!と鈍い音が第七学区に木霊した。 10 「ここね」 結標淡希は『管理部長室』を出ると最上階にある大会議室にいた。 この研究所は十七階建ての建物で『管理部長室』は十二階にあった。普通に行けばセキュリティや機械兵器の相手をしなければならなかったのだが、結標の『座標移動』で一秒とかからず辿り着いていた。 「やはり『座標移動』は便利ですね。私一人だったらここまでスムーズにはいきませんよ」 海原光貴は壁に沿って歩いていた。それは結標から壁に何か仕掛けがあるはずよ、と言われたからなのだが…。 「あなたの思ってる程便利ではないのよ?いくら私がトラウマを克服したとはいっても十一次元上の演算は複雑なのに違いないし、私の能力の特性上、演算負荷そのものが大きいんだから」 結標は机に悠々と腰掛けている。私がここまで運んだのだから後はよろしくね?と言わんばかりの態度だ。 「(…よくよく考えると僕は手伝っている立場だったと思ったのですがね)」 海原はどこか釈然としないものを感じていたのだが、それを口に出したりはしなかった。どこぞの黒髪ツンツン頭の少年と違いレディの扱いの基本を理解している海原はここは文句を言わずに黙々と仕事をこなす所、と割り切っていた。 すると海原は壁に這わせていた指先から一ミリ程の小さな突起物のような異常を感じ取った。 この部屋は一面白一色の壁に囲まれている。その表面は本来なら突起物はもちろん、コンクリート壁にありがちな凹凸すら確認できない。 それどころか、電子顕微鏡で観察してもわずかな凹凸も確認する事はできないだろう。それほどの精度で構築されている壁だからこそ、海原はこの微々たる突起物にすぐに違和感を感じ取った。 「どうやらヒットしたみたいですよ」 海原が報告すると結標は机から立ち上がり海原が違和感を感じた壁まで歩いてきた。 「情報通りだけど、見た所何の変哲もない壁ね。まさかそこを押したら隠し部屋がある…なんていうありがちな展開じゃないでしょうね?」 「まさか。ここは紛れもなくただの壁ですよ。ほら、その証拠に――」 海原は壁をコツコツと叩いた。その音はこの奥が空洞ではないと証明するような音だった。 「だったらその突起物は何なの?」 「さぁ。いずれにしてもここに『残骸』があるとは思えませんけどね」 「それは当然ですよ」 「!!」 「っ!!」 結標と海原は背後から突然かかった声に全神経を向ける。 そこにいたのは白いニットのワンピースを着た少女、髪は茶色で全体的に少し内側にカールしている。右手には五センチ四方の白い箱のような物を持っている。 「それにしても超派手にドンパチやってくれましたね。まぁお陰様で私の『回収』の手間が色々省けたので超感謝してますけど」 「そう?感謝する必要なんてないわよ。むしろ感謝すべきは私達の方。だって貴女が例のモノをわざわざ渡しに現れてくれたんですもの」 結標は含みのある笑みを浮かべるが、絹旗の方も不敵な笑みを浮かべている。 「別に渡しに来たわけではないですよ。そこにある『キー』がないと開かないのでここに来ただけです」 『キー』とはあの突起物の事を言っているのだろう、と海原は瞬時に結論づける。 一方、結標はその言葉を聞いてわずかに眉をひそめる。 「あら、それは残念。じゃあ力ずくにでも奪わないといけないという事かしら?」 「それは超愚問ですね。あなたの『座標移動』ならそんな回りくどい事しなくても強奪できると思いますけど?『グループ』の結標淡希さん」 「貴女…!知ってたのね」 「そりゃあ知ってるに決まってますよ。『レベル5』に限りなく近く、その上裏社会に入り込んだとなればね。こっちの世界では超有名だと思いますけど」 「それは光栄ね。で、その箱を渡してくれるの?くれないの?私としてはできれば穏便に済ませたいのだけれど…」 「安心してください。ここであなた達とやりあうつもりはありません。もっとも、やりあったところで私が勝つ事なんて超有り得ないですけど」 勝てない、と自分でわかっていてもなお絹旗の表情には余裕のようなものが感じられる。 すると絹旗は右手で持っていた白い箱をおもむろに顔の近くまで上げると、 「ちょっと私と手を組みません?」 絹旗はあっけらかんと、そんな提案をしてきた。 11 第七学区に二つの影がある。 一つは学園都市第二位の能力者『未元物質』垣根帝督。 一つはその垣根の命を狙う少年・特久池栄光。 二つの影が交差してから何秒経っただろうか。 やがて一つの影がぐらり、と揺れる。 「テ…メエ…!何をしやがった?」 揺れたのは学園都市第二位の方だった。垣根の左脇腹には鈍い光を放つ矢が刺さっている。 垣根が矢を引き抜くと、傷口からの出血が一気に増えた。シャツに赤の侵食が広がっていく。 その様を忌々しく見ると垣根は矢を投げ捨て特久池に向き直る。 特久池も同じく垣根と正対する。垣根に確かなダメージを与えた精神的影響だろうか。さっきと比べると地に足がついている印象を受ける。 「何をした…ですか。やり返した、としか言えないですけどね?」 特久池は笑いながら返したが、垣根にとっては挑発のようにも捉えられた。 垣根は沸騰しかけた頭で冷静に思考を巡らせる。 「(何らかの方法で俺のAIM拡散力場に干渉して暴発させたのか?いや、俺はあの時能力を完全に切ってたはずだ。あそこまでの暴発が起こるはずがねえ。だったら――)」 「『能力同調(スキルチューニング)』」 垣根の思考を裂くように特久池が一言だけ告げた。 「あなたのような能力者のAIM拡散力場に干渉、解析、同調する事によって他人の能力を一時的に複製できる能力ですよ」 得意気に彼は続ける。 「あなたは私の事を『空間移動能力者』と言いましたけど、それは間違いです。あれも天然の『空間移動能力者』のAIM拡散力場から拝借したものですよ」 そもそも、と付け加えて、 「ただの『空間移動能力者』が、あなた程の大物に喧嘩を売ると思いますか?」 言いながら、ドバッ!と、無数の光の矢を生み出し垣根に向かって射出した。 「チッ!」 垣根は右に飛びこれを避けるが、飛んだ瞬間にズキッ!という鋭い痛みを感じた。 追撃はすぐにやってきた。 痛みでほんの一瞬動きが鈍った垣根との間合いを一気に詰めると、続けざまに光弾を地面に叩き付けた。 アスファルトは光弾で粉々に砕かれ、凄まじいスピードで破片が飛び散っていく。その一部は当然の如く垣根に襲い掛かる。 垣根は瞬時に未元物質の膜でこれをガード。特久池の放った光の矢もろとも叩き落していく。 「(これは…)」 「考え事をしている場合ですか?」 特久地は防戦一方になっていた垣根との間合いをダッシュでゼロにしていた。 懐に入った直後、特久池の右手が強烈な光を放つ。光を携えた右拳を垣根の左脇腹に捻じ込む。が、これも左肘でガードする。 バシィィ!!という皮膚で皮膚をぶつような音が炸裂する。 「(やはり…な)」 特久池はガードされてもおかまいなしに、右のダブルを打ち込もうとしたが、 ガシィ!と垣根にその拳を受け止められてしまった。 「見えたぜ。テメエの能力がよ」 垣根は歪な笑みを浮かべる。特久池はギクリ、と表情を強張らせる。 「複製とは良く言ったもんだ。確かに俺の『未元物質』をよく再現できている。だがそれだけだ」 拳を受け止めた左手に力を込める。ギリギリという音と共に特久池の表情が僅かに歪む。 「上っ面は確かに『未元物質』ではあるが、中身はとんだパチもんだ。赤点なんてレベルじゃねぇ。そもそもこれが『本物』だとすればこんな簡単にガードできるはずがねえ。そんなにヤワな能力じゃねぇからな」 空いた右拳で特久池の鳩尾をしゃくり上げる。 「ごはぁっ!!?」 鳩尾を打たれた衝撃を利用して何とか垣根と距離を取るが、それも大した意味を成さないのは承知の上だった。それでも特久地は後ろに下がらざるを得なかった。 「AIM拡散力場からは複製できたようだが、『自分だけの現実』は複製できなかったようだな。そりゃそうだよな。そんな簡単に複製されちゃ俺の立場がないわ」 垣根は追わない。既に底が見えた獲物は慌てて狩る必要はない。ゆっくり嬲り殺そうが、一撃で粉々に砕こうが、全て自分の自由だと言わんばかりの余裕だった。 「それにテメエは同時に複数の能力を使用する事はできないようだな。まぁそんな超高精度な演算なんざできるわけがねえし、仮にできたらテメエは世界初の『多重能力者』だ」 言いながら垣根はレーザー光線のような光の線を放つ。その光の線は二つに分裂すると特久池の両肩を貫き、そのまま壁に縫い付けるような形になった。 「がっ――!!」 特久池は苦痛に顔を歪める。 確かに特久池は垣根の能力を複製してからは一度も『空間移動』を使っていない。いや、使えないのだ。もう一度使おうとするのなら別の『空間移動能力者』のAIM拡散力場から複製し直さなければならない。 もちろん特久池はそんな事は不可能だという事を理解していた。だからこそ特久池は短期決戦でしか勝ち目がない事を覚悟の上で特攻を仕掛けた。 だが、ここまで短時間で能力の真意と弱点を看破されるとは思っていなかった。薄れゆく意識の中で絶対的な壁を感じ自分の無力さを痛感する。 「最後に二、三聞いておきたい事がある」 垣根はそんな特久池を見下ろす。その目はゴミを見るような、何の感情も無いような目だった。 「…」 「テメエのその特異すぎる能力から察するに『原石』なんだろうが、なんで『原石』であるテメエが学園都市にいる?」 「さぁ…何ででしょうね?」 「……。バックについているのは誰だ?なぜわざわざ一人で俺と戦う事を選んだ?」 「そんな事を…あなたに教える義理は……ありませんね…」 「そうか、わかった。じゃあ最後の質問だ。苦しんで死ぬか、一瞬で死ぬか、好きな方を選べ」 「私を…殺しますか………。別に構いませんが……、後で必ず後悔しますよ…」 「ほざけ」 その言葉を最後に決着はついた。 行間 二 自分が強いという自信がある。 自分が特別だという自負がある。 自分が護るべき立場にある者だという自覚がある。 それは自分が幼い頃から夢見ていたヒーローの姿であり、『それ』が自分に中にあったと気付いた時は言葉では言い表せない程の喜びを感じた。 しかし『それ』は世界の法則を完全に崩壊させる程の『破壊の力』でしかなかった。 その日から少年はヒーローではなくなった。 その日から少年は世界の敵となった。 しかし敵などいなかった。 自分が何かを思う前に、敵は既に消えていた。 少年は『それ』が何なのかわからなくなっていた。 人を護りたいと思っていた自分が、なぜ人を傷つけているのか。 少年は絶望した。 何故こんなものが自分の中に宿っているのか。 誰か自分を殺してくれ。 しかし、そんな願いは誰も聞き入れてはくれなかった。 誰も自分を殺せない。 自分は誰でも殺せる。 そんなあまりにも理不尽な地獄にも似た世界を少年はたった一人で生きてきた。 「――――っ!」 小高い丘の上に立つ一本の木の下。その地方にしては珍しく雪のない草原に一人の男がいた。 「夢……か。いつの間に眠っていたのか…」 体を起こし、覚醒を促す為に右手を頭に添えながら頭を軽く振る。 (随分と懐かしい夢だったな……もう忘れたと思ったが――) 「珍しいものが見れたのである」 後ろからいきなり声がかかった。 しかし、男は振り返らずに応えた。 「後方…いや、今はウィリアムと呼ぶべきか?」 ザッ、という重く草を踏み締める音と共に屈強な男は、木の下に佇む男のもとに近づいた。 「こんな所で何をしている?」 「その言葉、そのままそっくりお前に返すよ。『右方』はもう退けたんだろ?もうロシアには用はないはずだが?」 「退けはしたが、首を取ったわけではない。奴は必ず次の一手を打ってくるはずである。それは――」 「俺。というわけだ」 ウィリアムの言葉を待たずに男は答える。 「奴は禁書目録を狙っていた。しかしそれは失敗した。ならば禁書目録に限りなく近い知識量、それも実用可能としている貴様のもとに現れると考えるのは当然の推測」 「それでわざわざ護衛に来てくれた…という事か」 男は言い終わると自嘲気味に笑う。 「有難い話だが余計なお世話だよ。『右方』が完全でない以上、俺の敵ではないさ。それに俺が『右方』の首を取ってはお前が納得しないだろう?」 「……。誰が首を取るかなど問題ではない。結果として奴を止める事ができればそれでいい」 「それがお前の本心かどうかは別としても、『右方』を正面から止められる奴なんて俺以外じゃお前くらいしかいないだろう?見たところ力も戻ってるみたいだしな」 男は立ち上がって伸びをすると天を仰ぎながら告げる。 「それに、今の俺にとって『右方』などどうでもいい。俺にはもっと大事な、やらなければならない事がある」 「……学園都市か」 ウィリアムは少し眉間に力を入れる。 「余計なお世話のついでに、一つ忠告しておくのである。学園都市を甘く見ない方がいい。何しろあそこは奴の居城だからな。それ以外にも――」 「その忠告、有難く受け取っておくよ」 男はウィリアムの言葉を遮り、そう告げると闇の中へと消えていった。
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スタスタ 垣根(気配は減っていない。標的は麦野じゃなかったようだな) 垣根(今すぐにでもブッ飛ばしてえが……ここじゃ目立ち過ぎるか) 垣根(廃ビルの方まで行くとしよう) 垣根「にしても腹減った……」 垣根「お腹と背中がー」 垣根「くっつくぞ!」 垣根「……ハァ」 スタスタ 麦野「ついて来ない、か」 麦野(標的は垣根の方だったみたいね) 麦野(ま、殺されることもないでしょ) 麦野(順位から外れたっていってもアイツは未元物質だもんね) 麦野「……」 麦野「……さっき借りを作ったばっかりだったわね」 麦野(……)イライラ 麦野「……」コツコツ 麦野「ああああーもう!!」ドガッ ナ、ナンダ!? アノトシゴロノジョセイハオコリッポインダヨ! ヒゴロストレスガタマッテイルンデショウネ… 麦野「行くわよ、行けばいいんでしょ!」 麦野「これでチャラにしてやるわ!」カツカツ オンナッテコエー ナンデコッチヲチラミスルノカナ!? OLモタイヘンナンデスネー 学園都市某所。とある区画。 かつてはそこそこに繁栄していたが、開発工事の凍結により現在はほとんど人の住んでいない区画。 都心とは真逆と言っていい程に寂れており、ここに足を踏み入れると世界から隔絶されてしまったかのような錯覚すらしてしまうほど。 その中を一人足早に歩く。 背後の四つの気配は消えないまま、付かず離れずの距離を保ち尚も着いて来ている。 人気のない場所にくれば姿を現すかと思っていたが、そうでもないようだ。 果たして何が目的なのか。ハッキリしない追跡者の行動に垣根帝督は溜息を零す。 そんなことをしている間に視界が拓け、パッと見ただけでは数え切れない程のビルが現れた。 発展の表と裏。 寂しさを感じさせる裏の景色をただ歩いていく。 その中央にある廃ビルへと足を踏み入れると、ついて来ていた気配が幾つか消えた。 このビルの両隣にはこれに寄り添うようにして建つ二つのビルがある。 右隣のビルに入ったか。 左右で二対二で挟み撃ちにするつもりなのだろう。 残りは前を通り過ぎて行ったようだ。 静まり返る屋内の階段を登る。 一歩を踏み出す度に、カンカンと音が響く。 いつ頃から使われていないのだろう、所々は錆び、所々は朽ち、埃が積もりゴミが散乱している。 それらにまるでこの都市の闇を見ているかのような気分にさせられる。 「きったねぇな」 その光景に、都市の闇に、同じく闇である自分に 一言だけ吐き捨てるように言い、屋上へと向かう。 ………… 立て付けの悪い扉をこじ開け、屋上に出て僅か数秒。 風を感じる間もなく。 空気の流れが変わった、そんな気がした。 ここに留まっていれば死ぬ、そう直感して左方へと飛ぶ。 直後、大きな音が静寂を裂く。 「良い度胸してんなあ……おい」 屋上へ上がってから実に十数秒 突然壁から「生えた」三本の鉄骨。 身体からは僅か十数cm。 咄嗟に身体をずらしていなければ……等とは考える必要も暇もなく。 すぐさま態勢を低くし、周りへと視線を向ける。 鉄骨の刺さっている方向、角度から敵の位置を予測。 右のビルか。 地を蹴り、くそったれな第一位にメルヘンなどと言われた翼を広げ 飛翔―――― 「感知させる間もなく攻撃をすれば……」 「殺れると思ったか?俺を、垣根帝督を、未元物質を……!」 舞い上がり、屋上の遥か上空から見下ろす。 先程居たビル同様、煤けたビル。 高さは僅かにこちらのビルより低く、屋上には鉄骨の山。 発射地点はここか。 その影に、一つの人影を発見。 身体を傾け、急降下。 「甘ぇ……甘えよてめえらぁぁああああっ!」 視界に捉えた、鉄骨を操作し攻撃態勢へと入っていた敵。 空力使いか? ……ああ、それはもうどうでもいいか。 その側にある山積みの鉄骨を烈風で薙ぎ倒す。 面白さすら感じさせる程に転がっていく鉄と鉄が奏でる、ここからでもうるさいくらいに鳴り響く音。 能力使用を中断し、咄嗟に回避に移るその男。 相討ち覚悟で飛ばしていたとしても俺には触れることすら叶わない。 賢明な判断だ。 だが、 ――遅い。 そいつの懐へと潜り込み、翼による斬撃。 衣服が裂け、肉が裂け、コンクリートに鮮やかな赤を散らす。 痛みに呻く暇すら与えずに、すかさず通信機と思わしき機器を奪い取り、蹴り飛ばす。 ……この程度で死にゃしねーだろう。 垣根「殺れると思ったか?俺を、垣根帝督を、未元物質を……!」13