約 6,628 件
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/2608.html
登録日:2012/02/02(木) 02 17 16 更新日:2023/04/19 Wed 19 49 36NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 うしおととら 全裸 反射 外道 妖怪 悪女 斗和子 林原めぐみ 白面の者 眷属 策士 藤田和日郎 斗和子とはうしおととらの登場人物。 引狭霧雄(キリオ)に「ママ」と呼ばれる女性で、彼に様々な、指示を出す。 CV.林原めぐみ 初登場は第二十七章「四人目のキリオ」 キリオがくらぎを倒したことをほめ、獣の槍は不要であり、キリオとエレザールの鎌があればいいという。 その後、キリオに槍の力を封じる赤い布を渡し、光覇明宗に疑問をもった若い僧たちを率いて槍を取ってくるように指示を出す。 囁くもの家に侵入した、潮達が見つけたキリオを連れてきた法力僧、引狭の日記によればに、本編の15年前最強のホムンクルス九印を生み出すも他の研究がうまくいっていない彼の前に姿を現す。 引狭と同じく魔道を研究しており、彼女が来たことにより、研究が飛躍的に進歩し、強力な武法具エレザールの鎌を開発に成功、斗和子が持ち込んだ機械により、量産体制も確保する。 またこの時、光覇明宗の目を覚まさせるために、槍の破壊を引狭に進言しており、その破壊方法までも知っていることが発覚する。 その後、引狭が最も作りたかった生まれる前から法力の才能と力を持つ人間マテリアを作るために、人間の赤子をどこからか盗んできて高価な装置を勝手に導入しキリオを作るなど、異常な行動が目立つようになり、引狭がそれを恐れる形で日記は終わる。 潮達の前には槍の破壊直前に姿を現すが…。 【以下ネタバレ】 ママは…ずうっとぼくをだましてたの…? 寒い日にコートをかけてくれたのも… 好きなハンバーグを作ってあげたわね。 夜、ねる時に本をよんでくれたのも… ほつれた服も、つくろってあげたわ。 みーんなあなたに獣の槍を壊してもらうため…… あなたのためじゃないわねえ…キリオ! その正体は、白面の者の分身で、上記の行動も全て槍の破壊と光覇明宗を内部分裂させるための準備に過ぎなかった。 自身の正体に気付いた引狭が自殺した後、残されたキリオには自分のことをママと呼ばせ、育てている。 人間は勿論、赤い布を取りに行った時に襲ってきた妖怪に正体に気づかれない程の擬態能力をもつ。 戦闘の時は全裸になり、白面のような長い尾が生え、標的を切り刻んだり突き刺したり、尖った飛礫を弾幕のように撒き散らす、炎に変えるなど多彩な攻撃に使用する。 くらぎの本山襲撃の際には内部に潜んで成り行きを見守っており、同様の反射能力も備える。 獣の槍破壊後に紫暮により正体が暴かれ、千宝輪最大の法術・巍四裏を食らうが、歯で難なく受け止め紫暮に飛礫をくらわせる。 その後は、白面の者に騙されていたことと量産型エレザールの鎌がこれまでの武法具と大差ないことを知り絶望する若い僧たちを惨殺し、キリオに上記のセリフをはいて、絶望の淵に突き落とした。 しかし、破壊したはずの槍が潮に応え復活したことに驚き、尾の先端を切り落とされてしまう。 それでも反射能力で優位に立とうとするが、穿心の極意を会得した潮に破られ、劣勢に立たされる。 その後は関守日輪や秋葉流を人質に取るなどするもうまくいかず、自分の裏切りを信じられないキリオに命乞いをし、キリオが潮達を足止めしているうちに逃げようとする。 しかし紫暮達が張った結界に阻まれ失敗し、その場にいる者達全てを尾を炎に代えて、焼き殺そうとするも、とらに防がれ、二度目の裏切りにあったキリオに背後からありったけの法力を込めたエレザールの鎌で突き刺されてしまう。 皮肉にも、自らの作った最高の武器で、最期を迎えたのであった。 これが致命傷となりもがき苦しむが、助からないと悟った途端静かになる。 もう一回…聞くよ? ママ。 ぼくをだましてたなんて、ウソだよね…? ええ キリオ… 愛しているわ… その言葉と共に力尽き、斗和子は炎と共に消滅した。 どこか満足げな微笑みを浮かべながら… また…ウソなんだね。 ママ… 最期までキリオの心を踏みにじっていった。 この後キリオはしばらく放浪の旅に出るが、その間の費用の金は全て斗和子が残していったものらしい。(少なくとも数十万円の金を工面していた) 主人にそっくりな間違いなく外道ではあるが、複雑な印象を残すキャラとなっている。 最期の言葉が本当にウソだったのか、それとも微かにキリオへの愛が芽生えていたのか。 それはもはや誰にも分からない… なお、過去ではあるが紅煉勧誘の時にも登場している。 そして白面の者復活の際に尾の一つが変化する形で復活、くらぎクラスの大きさに全裸で巨大化しており、火の兄をくらぎともに法力僧の張る結界に投げつけて完全に倒す。 獣の槍の復活後は、とらと交戦、口から火を吐く新技を披露するも、一度倒されたダメージから完全に復活してはおらず、あっさりとらの雷で倒される。 「あばよ。木偶女。」 追記・修正お願いします △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 鉛の尻尾から生まれたのかな。 -- 名無しさん (2014-05-18 21 41 57) 赤い布を取りに行った時の「おいでなさいな、ぼうやたち」には痺れた。 -- 名無しさん (2015-03-29 01 37 37) 最後のあれは、僅かでも愛情が芽生えたものだと信じたいな・・・。たぶん、ないだろうが -- 名無しさん (2015-07-09 00 11 28) 本当であれ嘘であれキリオを苦しめる最も強力な呪いだったろうな、真由子に会わなければ絶望したままだっただろう -- 名無しさん (2015-07-09 00 29 32) 白面の者の本当の願いを考えると、もしかしたら、と思わざるは得ない -- 名無しさん (2015-07-10 22 19 28) 母性の戯画化と考えると、ここまで物語の登場人物に大ダメージを与える存在はいないな。 -- 名無しさん (2015-08-19 23 40 56) ↑x2つまり斗和子は我の母になってくれるかもしれなかった尾だその斗和子を倒したお前に言えた事か!ってわけか -- 名無しさん (2015-11-21 10 18 37) ↑それが事実なら、哀れ過ぎる一人芝居だぞ...。 -- 名無しさん (2015-11-21 10 56 31) 恐ろしさは充分だったが、OPのようにぬるぬる動く戦闘を期待した分少し残念だった -- (2015-12-08 21 46 21) 工面のために演奏の旅でもしたんだろうか>その間の費用の金は全て斗和子が残していったもの -- 名無しさん (2016-05-23 15 07 36) 本当に愛情が芽生えていたならあんな蔑んだ目をして「愛してる」なんて言わないだろう。最後の笑みもせいぜいキリオの心に傷を残してやろうという意地悪な笑いではなかろうか -- 名無しさん (2016-05-31 17 07 29) ↑2 まともな手段の金かどうかは…引狭の遺産をちょっと取っておくくらい出来ただろうし、キリオ自体もベースの赤子は盗んだ(誘拐)児童だし。どこでどう調達してても不思議は・・・ -- 名無しさん (2016-10-05 15 00 29) ↑5 と言うことは婢妖は何でも言うことを聞いてくれる友達かペットとか…? やべえ怖くなってきた -- 名無しさん (2018-11-27 16 59 10) あなたのためじゃないわねえ…キリオ!がアニメでどんな出来になるか心配しとったけど林原さん流石やでぇ。 -- 名無しさん (2019-01-18 19 44 00) 偽ジエメイの顔を最初に見た時は斗和子だろお前って突っ込んでしまった。見比べると別人なのになんでそう思ったんだろう -- 名無しさん (2019-10-02 22 13 57) 最期に否定でも謝罪でもなく、当たり前のように母として接する性格の悪さよね。苦悩しながら自分を刺したキリオに対して、親殺しの罪を背負わせるっていう。 -- 名無しさん (2020-03-27 05 49 31) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anirowago/pages/64.html
ナザリック大墳墓の幹部である階層守護者達の統括を務めるアルベドは、その立場に相応しい知勇兼備の優れた人物である。 役職にある通りナザリックの運営管理は彼女に任されており、全十層からなり多数のモンスターを有する広大なナザリックの管理をつつがなくこなしている才女だ。 彼女は、例えばナザリックの外に出て謀略に励んでいるアインズに次ぐ知者デミウルゴスなどと比べて、派手な成果に欠ける部分はあれど、その知恵と知識は彼に勝るとも劣らずと言われている。 知勇兼備とは言うが、ナザリックの中に居る事の多い彼女に勇の部分を振るう機会はほとんどない。 となれば彼女の活躍は知性による所が大きく、彼女の功績はその大半が高い知能によってもたらされたと言っていいだろう。 そうやって証明された彼女の有用な知性は、この殺し合いの場所に拉致され右も左もわからぬといった立ち上がりの時には、最も有効な武器となりえるものであるはずだった。 はずだった。 「アインズ様ああああああああああああ!」 そんな絶叫と共に、アルベドはビルの中を駆け回る。 一室一室扉を開けて確認し、時にゴミ箱の中まで丹念に調べ、ちょっとどきどきしながら男子トイレの中とかも覗き込みつつ、何処にも居ないと絶望する。 アルベドは一時皆が集められた部屋からこのビルの中に飛ばされ、アインズも共にこのふざけた催しに巻き込まれてると知るや、爬虫類顔でこのビルの中を走り回り始めたのだ。 殺し合いやら首輪やらという危険要素を考えれば、誰が居るかもわからないという状況を考えれば、極力目立つ行為は避けるべきだ。それは全参加者の共通認識と言っていいだろう。 そんなもの、ほんの数秒冷静になる事が出来ればアルベドにだって即座にわかる事だ。だが、今のアルベドにそのほんの数秒を求めるのは無理があるようで。 百年の恋も一発で醒めるよーな顔、この手の顔を既に何度もアインズには晒しているので今更ではあるが、で手近な所をアインズ求めて走り回っているわけだ。 同僚のデミウルゴスは、どうやらアルベドがある程度の失態を晒す事は予想の内であるようだったが、さしものデミウルゴスもここまでの有様になるとは想像だにするまい。これにはアインズ様も苦笑いであろう。 ビルの一階から順に、遂に最上階までの検索を終えるたアルベドは最後の階段を駆け上り、屋上へと飛び出す。 そして、ようやく、何とかかんとか、ビルの探索なんてしても全く意味なんて無い事に気付いた。 ビルの屋上から見下ろす景色は大きく広く、アルベドはこの中から何としてでも主、アインズ・ウール・ゴウンを探し出さなければならないのだ。 きょろきょろと左右を見回した後、誰も居ないのを確認しつつ、こほんと咳払い。 「こ、殺し合いとは一体どういう事かしら。それに私はナザリックに居たはず……」 凛々しい、美々しい顔つきに戻って思考を開始する。今更取り繕った所で、晒した無様は消えはしないが。 「……ふん。それに、さらわれたというのなら当たり前だけど……」 装備品の全てを奪われたのは、許せぬし痛い。というか、冷や汗がちょっと止まってくれそうにない。 ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが所有するワールドアイテムを預かっておきながらこれを紛失した、なんてどんな顔してアインズに言えばいいのか。 またアルベドの極めて大きな優位点、超位魔法ですら三度までなら無傷で防ぐだろう、スキルと装備のコンボも鎧を失った事で使えなくなっている。 多分、というか間違いなく、アインズに怒られる。超怒られる。もしかしたら怒鳴りつけられるかもしれない。失望したぞなんて言われた日には立ち直れる気がしない。 「ああああああああああああああ~~~~~~~」 その場にへたり込むアルベド。 どうしよう思考が一回りした後で、アルベドは震えながらであるが立ち上がる。 「そうよ、例えアインズ様の叱責を受けるのが確実でも、今私がすべき事は、一刻も早くアインズ様の下に馳せ参じ、この危急の事態を解決する事。ならこんな所で落ち込んでる場合じゃないわ」 こうしてようやく、アルベドはまっとうな活動を開始した。デミウルゴスと比べると丸々二時間の差があるがこれは能力の差ではなく、アインズが絡むとポンコツ化し易い当人の性質によるものであろう。 ビル一階に放置しておいたバッグを回収し、参加者名簿、地図、そして殺し合いのルールが記された書類を読み終えたアルベドは、バッグの中に入れてあるという支給品とやらを探す。 どうせ大したものでもない、とも思う。自身の能力の高さを考えるに殺し合いをそれなりに殺し合いとして成立させる為に支給品を配しているのだとしたら、自分にはロクなものが支給されていないだろうという予想もあった。 しかし、出てきたのはとてもバッグに入るとは思えぬ大きな金属の箱、というか筒というか。 魔法に慣れ親しんでいるアルベドにとって、質量保存の法則のガンスルー自体はそれほど抵抗は無い。ただ、この精緻に作られていると思われる金属筒は初めて見るもので、同封されていたそこそこの厚みの説明書には、僅かながら興味を引かれた。 説明書を読み進めていくと、驚くべき事に、どうやらこの支給品はアルベドにとってもなかなか有用なものであるらしい。 『ストライカーユニット』という名のコレは両足にそれぞれ一つづつ装着し、魔力の増幅と飛行能力を得られる装備だ。 記述を見る限りでは少ない魔力の者を何とか戦闘に耐えるレベルに持って行く、そんな意図で作られたものであるようだが、飛行能力に加え魔力の増幅効果があるというのなら悪くは無い。現在全く装備を持っていない事でもあるし。 この装備を用いて何処の誰がどう戦ってきたか、この装備にどんな歴史があるのか等の簡単な略歴を見たアルベドは誰に言うともなく呟く。 「ウチで言うのなら、ナザリック・ウィッチーズとでも言ったところかしら。数が揃うのならプレアデスに支給するのも悪くないわね」 アルベドはこのユニットよりも、オプション装備である所の細長い銃器とやらの方にこそより強い興味を引かれたが、生憎と両足につける部分しか支給はされていない模様。 ただ、問題が無いわけでもない。 「……下、履いちゃいけないみたいね、コレ」 丈の長いスカートやズボンは、ユニットの機能を阻害する可能性がある。仕方が無いのでスカート部を脱ぎ下着のみでまず試してみる。 床に座りながら、横に寝かしたユニットにズボンをはくように両足を入れていく。 「何か、これ、色々とマズイんじゃないかしら? この状態で戦闘出るって……設計がそもそも間違ってない?」 多分これの正しい制服は丈の物凄い短い半ズボンのようなものなのだろう、と予測するアルベド。それでも相当際どい事になりそうだが、まさか今の自分の姿が正式採用されてるなど想像の埒外である。 両足を入れると、ユニットはすぐに反応してくれた。説明書にあった通り、両ユニットの先端部にある回転翼が勢い良く回り出す。 このままであれば翼が床をきりつけ、アスファルトが台無しになるのだろうが、アルベドはユニットに浮遊感を感じるや否や、腹筋のみで倒していた上体を起こしながら、足を地面に対し垂直になるよう強く引きつける。 レベル100NPCは伊達ではない。この程度のバランス感覚当たり前のように持っているし、そもそも説明書を読んだ時点である程度ユニットの機動の仕方も把握していたのだ。 ユニットの下端が地面から三十センチ程離れた所で、アルベドはホバリングするヘリコプターのように正しい姿勢で綺麗に停止していた。 地面に描かれる魔法陣。これは滑空に用いられる魔力フィールドで、ここまで、アルベドはストライカーユニットを完璧に使いこなしていた。 だが。 「何、これ」 魔力の増幅がどれほどのものか、自分でそれと感じ取る事の出来るアルベドは、このユニットのせいで逆に自分の魔力が抑えられている事にすぐに気付けた。 当たり前であるがユニットの耐久度を越える、或いは耐久度を著しく損なうレベルでの魔力発動は、ユニットが制限する所となる。というか普通この機能がついてない機械なんて無い。おしゃかになるまで回せるエンジンなんて、まっとうなエンジニアが作るはずはないのである。 また魔力の性質に問題があるのか、アルベドのそれではユニットが想定している程の出力を得られていない。過剰出力であるはずなのに、必要な動力を得られていないという意味のわからない状況である。或いは使い魔の有無が問題なのかもしれないが、現時点で原因追及の手段は無い。 にこりと微笑み、アルベドはその場で後ろに仰け反る。そして蹴り出すように空中でユニットから両足を抜き取り、そのまま後方宙返り。 くるりと回った後、怒りと共にストライカーユニットを蹴り飛ばした。 「使ええええええええん!」 ストライカーユニットと説明書をその辺に放り捨てたアルベドは、忘れる事なくパンツの上に覆うものを身に付け、探索を開始する。 アルベドは、何処かで見た事があるような、それでいて目新しいとも感じられる不思議な町並みを歩く。 耳を澄ませば、深夜の静寂故か水が流れる音がする。 後は、こつこつと小さく響く自分の足音。 「……何か用かしら?」 足音も無く迫り寄って来たソレに声をかけるアルベド。 闇の中から、ぼうと薄ら白い顔が浮かび上がる。 「お初にお目にかかります。わたくし、斗和子と申します」 闇に見えたものは真っ黒な衣服で、顔と手だけが白く不気味に浮き出ている。そんなホラー仕立ての登場にも、ナザリック大墳墓階層守護者統括アルベドが怯えてやるいわれはない。 「で? 身の程知らずにも殺し合いとやらに加わって私に挑む気かしら?」 斗和子はゆっくりと首を横に振る。 「めっそうもない。まずはご挨拶をと……私も見た事がない、力あるバケモノとお見受けしましたので」 「そう、身の程を知っているのは何よりよ。質問に答えなさい」 「何なりと」 「偉大にして崇高なる気配を漂わせ知性と野生の両立を最も高いレベルで成立させた気品溢れる容貌を持つ御方を見かけなかったかしら?」 思わずつっこまずにはいられないだろうアルベドの言葉にも、斗和子は全く動じた様子は無い。 「いえ、申し訳ありませんが」 「そう……では、上下赤のスーツを身につけた耳の尖った男か、銀髪真紅の瞳を持つ小柄な少女は?」 「いえ」 これ以外にもアルベドは他の名簿に書かれていない階層守護者の外見的特長を述べ聞いてみたが、返事は一緒であった。 「あ、そう。じゃあもう用は無いわ」 取り付く島もないアルベドに、斗和子は穏やかに声をかける。 「そうおっしゃらず。もし探し人があるというのでしたら、微力ながらわたくしもお手伝いさせていただきましょう」 アルベドは無遠慮な視線を斗和子に向ける。 「何が出来るの、貴女?」 「化物並みに戦を少々と、人をたぶらかすのを得手としております」 その少々がどれぐらいか知りたいんだけど、と言いかけてやめる。共通の比較対象物が無い状態で何を言い合った所で不毛なだけだ。 「……で、見返りは何を望むの?」 「我が仇、この地に招かれている蒼月潮の抹殺でございます」 「ソイツは何者? 少しは骨があるのかしら?」 「ニンゲンの男で、年は十四……」 思わず噴出してしまうアルベド。 「ちょ、ちょっと待ちなさい。貴女、見た所それなりには動けそうに見えるけど、それで人間に勝てないの?」 斗和子はゆっくりともったいぶって口を開く。 「蒼月潮は、獣の槍の持ち主なのです」 が、文字通り住む世界の違うアルベドには獣の槍とか言われても良くわからない。 「それが貴女が勝てない原因? ま、どうせ大した武器でもないんでしょうけど。……いいわ、欠片でもその槍に見るべき価値があるのなら、我が主にこれを捧げるとしましょう」 小さく頭を下げる斗和子。そのままの姿勢で斗和子は訊ねる。 「恐れながら、貴女様の主殿は今、こちらに来てらっしゃるので?」 アルベドの表情が険悪に歪む。 「そのようね。この名簿とやらを信用するのならば、だけど」 斗和子はやはり頭を下げたまま問う。 「よろしければ、貴女様の主殿のお話をお聞かせ願えませんか? お見かけした時、万が一にも見間違えたりしないように」 アルベドは考える。この女はお互いの戦力差をどうやらきちんと測れる程度には力を持つらしいし、その上で下手に出ているというのであれば下手な真似はするまい、とアインズの外見を言って聞かせてやろうとする。 「我が主、至高の御方……」 「ぶっ」 そこで、斗和子が突然噴き出した。何事、と頭を下げたままの斗和子に目を向けるアルベド。彼女の肩は小刻みに揺れていた。 斗和子は小声で、ぼそぼそと呟く。 「……もし仮に、この名簿に我が主の名が記されていたとしたら、私はその記述を信じる事は無いでしょう。絶対にありえないと断言出来ますから。私をかどわかす力の持ち主であろうと、それは絶対にありえません」 アルベドは怪訝そうな顔で斗和子を見下ろす。 「なのに、くすくすくすっ……そんな、今こうして首輪をつけられ何処の馬の骨かわからないようなのに良いようにさらわれて来た者を指して、くすくすくすくすくすくすっ……よりにもよって至高なぞと……」 顔を上げた斗和子。その表情を見たアルベドは、それを宣戦布告と受け取った。 「何と滑稽極まりない事でしょう。獣の槍も知らぬ田舎妖怪が大言壮語を抜かすものです。ほほっ、ほほほほほっ、ほほほほほほほほほほほほほほほほ!!」 耳の側まで口が裂け、ずらりと並んだ牙が音を鳴らす。 斗和子はまず舌戦にての反撃があると思っていたのだが、アルベドはというと速攻で手を出して来た。 横っ面を平手で殴打され、ブロック塀に頭から突っ込む斗和子。崩れるブロックの下敷きになった斗和子であるが、アルベドはそれで終わらせるつもりはないらしく、すたすたと倒れる斗和子の元へ歩み寄って行く。 大して効いていないとでも言いたげに、ゆっくりと起き上がろうとする斗和子の顔面を、アルベドは爪先で蹴り上げる。 上体が跳ね上がり、仰け反るように後ろに倒れる斗和子。アルベドはその髪を片手で掴み、鼻から血を流す斗和子の顔面に膝蹴りを何度も何度も何度も何度も、叩き込む。 執拗に繰り返すアルベドの膝を、十数回目の攻撃に合わせ斗和子は大きく開いた口で受け止める。いや、受け止めるというより喰らい付いたという方が正しい。 そのまま斗和子は食いちぎりにかかるが、アルベドの硬い表皮の表面を削る程度しか出来なかった。 口元に滴る血をなめとった斗和子は、アルベドのすぐ側に立ちながら、喉に染み込む味の感想を述べてやる。 「あ~~、田舎臭い味ですわねぇええええええええ」 鼻を付き合わせる程近くで睨み合いながら、アルベドもまた笑顔で返す。 「手加減するの、そろそろ面倒になってきたわ。このままじゃあっさり殺しちゃうじゃない、もっと頑張りなさいよ。この後、貴女の主とやらも丁重に嬲り殺してやらなきゃならないんだし、時間無いのよ、私」 今度は、アルベドが横っ面を殴り飛ばされる番であった。 手は動いていない。足も。一体何かと思えば、斗和子の背後より生えた巨大な尻尾の一撃であった。 殴り飛ばされたアルベドはブロック塀を付き抜けた上で、更にその奥の民家の中へと叩き込まれる。ここに、斗和子の尻尾が更なる追撃を加える。 鋭く分厚い尻尾の一撃を、アルベドはゆっくりと身を起こしながら、片手を上げて防ぐ。いや、防ぐのみならず。飛来した尻尾の表面を押し出すようになでると、斗和子の尻尾が突如正反対の方向へと進路を変える。その先には斗和子が居る。 土煙が上がる程の衝撃。自らの尻尾の直撃を受けた斗和子であったが、煙が晴れるとまるで痛痒を感じていない顔で、斗和子が真の姿、長い髪を無造作にたらした尻尾の生えた巨大な全裸の女の姿を取っていた。 斗和子はじっとアルベドを見つめた後、手近にあった瓦礫を手で拾い、試すようにアルベドへと投げる。瓦礫は、アルベドに辿り着く事なく跳ね返って斗和子の方へと跳んで来た。 瓦礫を手で払って落とした斗和子は、その技に少し驚いたようだ。 「あら、まあ。珍しい術を」 心底から馬鹿にしたようにアルベド。 「児戯に等しいわよ、この程度」 言うが早いか一瞬で距離を詰めるアルベド。その振り上げた拳が、斗和子に直撃。する寸前で止まった。 「!?」 アルベドが殴りかかる以上の圧力が、殴りかかった拳の表面にのしかかる。いや、更に衝撃は膨れ上がり、アルベドの全身に襲い掛かるとこれを弾き返した。 「ほーーーーーっほっほっほっほっほ! そうね! こんな児戯にひっかかるお馬鹿さんも居るわねえええええええ!」 斗和子もまた、アルベドの用いた反射に似た技を持っていたのだ。 斗和子は、次はアルベドの反射限界を試してやると言わんばかりに伸ばし巨大に膨らんだ尻尾を縦横よりアルベドへと叩き付ける。一度や二度の攻撃ではなく、何度も連続で振り回す事で反射可能頻度も確認するつもりだ。 全弾反射も覚悟していた斗和子であったが、アルベドはこの尻尾の攻撃を弾かず全て受け止めにかかる。 一応、申し訳程度に腕で受けるような真似もしているが、斗和子の尻尾乱打が早すぎてその全てを腕では受けきれず、半分以上を胴なり足なり頭部なりにもらってしまっている。 だが、打ち込んでいる斗和子にはわかる。叩き付けた瞬間でも、アルベドは尻尾の衝撃に対し微動だにしていないと。 数十回の打ち込みを終え、斗和子は尻尾を戻し、アルベドの様子を観察する。 アルベドは、もう終わりかと言わんばかりに、つまらなそうにその場に突っ立っていた。 さしもの斗和子も驚きを隠せず。斗和子の尻尾は、見た目の質量以上の脅威であるのだ。それを、かなりの数もらいながらまるで痛痒を感じぬとは、斗和子程の大妖を持ってしてもその頑強さは比肩すべき妖怪を思いつけぬ程だ。 ただ、アルベドもアルベドで若干手詰まりの感がある。斗和子の反射を破れぬとは思わないが、それで斗和子をしとめ切れるかといえばあまり自信が持てないのだ。 防御能力に極めて優れたアルベドであるが、それは攻防のバランスを防に大きく割り振ったという事で、その劣った攻撃能力を補佐する装備が無いのだ。 双方決め手に欠ける。そんな膠着状態を破ったのは、斗和子の方であった。 「なるほど。貴女は守りに長けているようですね。でぇはぁ、こういった、趣向は如何でしょうかぁ?」 再び斗和子は長大な尻尾を振り上げ、アルベドへと振り下ろす。 アルベド、その尻尾の性質が変化した事に気付き、頭部を両腕で覆う。降り注いできた尻尾は、アルベドの頭上で炎の塊と化した。 さしものアルベドもその表情が変わる。白面の者の分身たる斗和子の最も得意とする術が炎の術なのだ。そしてこの炎はどうやら、各種防御スキルを備えたアルベドの壁を、突破するに足る程のものであったようだ。 切り札を切ってしまった斗和子だが、これが効くとわかれば遠慮する理由なぞ何処にも無い。 炎の尻尾でアルベドを打ち据えんと、再度これをふりかざす。アルベドは、笑っていた。 「……これは、もう言っていいのかしら? 良いわよね? ……馬鹿め」 炎と化した尾を突き抜けて、アルベドは斗和子本体へと走る。 咄嗟に斗和子は口から炎を吐き出す。これもまた、強烈無比な一撃である。だが、耐えてみせると覚悟を決めたアルベドを消し飛ばすには火力が足りない。 吐き出す炎を突き抜けて、アルベドは確信をもっていた一つの事柄を確認する。 「ああ、やっぱり。素の腕力は、私の方が上みたいね」 尻尾の威力からアルベドは斗和子の身体能力を計っており、今、こうしてがっちりと斗和子の胴体を掴んだこの手を、彼女は容易に外せなかろう。 アルベドは斗和子を掴んだまま走る。勢いを殺さず、完全にバランスを崩した斗和子を抱えるようにして。 「き、キサマッ! 何のつもり!?」 「さあ、当ててごらんなさい」 斗和子の尻尾が空中で奇妙に翻り、走るアルベドの背を叩く。当然、アルベドの走る速度は変化無し。斗和子は炎を吐き出そうにも、がっちりと首元まで固められている為別方向を向く事が出来ない。 アルベドはその姿勢のまま、あると当りをつけていた川に、勢い良く飛び込んでいった。 アルベドはそれまでの斗和子の技を見て、攻略法を考えてはいたのだが、変な奥の手でも持っていて覆されては面倒である。 なので優れた防御を誇示し、こちらに通じそうな大技を出させてから仕掛けようと考えたのだ。 尻尾を炎にして襲い掛かってきた時、炎の術こそが斗和子の切り札であり、また得意とするものであると判断した。そして得意とするものである以上、恐らく斗和子に炎は効かない。 奥の手の一つは、自らを巻き込んだ広範囲炎術あたりであろう、と予想する。とはいえ、いずれ炎の術ならば、水の中に入ってしまえば使えまい。 後は、斗和子の反射を破る術だ。 首をがっちり固めていた腕を緩めると、斗和子の驚愕に歪んだ顔がアルベドにもはっきりと見える。緩めたとはいえ、斗和子が足掻こうともだえようと、アルベドが掴んだ手からは逃げられない。何故なら水中に沈んだ事でフリーになった両足で、斗和子をがっちりと捕まえているのだから。 そのまま水底に落着。じんわりと川底の泥が周囲に舞い上がる。 アルベドは、頃合や良しと片腕を外し、斗和子の顔面に片手を拳槌の形にして叩き込んだ。 反射の衝撃がアルベドの腕にのしかかるが、あるとわかっていればそれほど困るものでもない。腕力任せに振りぬいて、斗和子の顔を痛打する。 暴れる斗和子。しかし、水底でもがいた所で、多少浮き上がる事はあっても斗和子は逃げられない。力は、アルベドが上なのだ。 力の入らぬマウント紛いからの一撃なぞ恐るるに足らず、なんて常識的な判断はアルベドには通用しないのだ。そしてアルベドの膨大なまでの体力で延々と拳打を続ける。斗和子が、滅びるまで。 斗和子の反射は一打一打に反応し、アルベドに襲い掛かっているのだがそんな衝撃如き、アルベドは一顧だにしない。避けるのすら面倒だと言わんばかりだ。 斗和子が暴れるせいで周囲には泥や水泡が溢れ視界は極端に悪くなる。それでも、水中では一定の間隔で、強くくぐもった衝撃音が響き続ける。 既に斗和子の顔は半ばまでが潰れひしゃげているが、アルベドは絶対に腕を止めない。抑えつける両足から斗和子の抵抗する力が伝わり続けているのだから。 アルベドは殴り続ける。暴れる動きさえ封じ水中に沈めておけば、厄介な、強力な、アルベドを傷つけるに足る炎の術は使えまいと。 「なあああああああんてねぇえええええええ」 全ての準備が終わった斗和子は、半ばまで潰れた顔で、醜悪に相貌を歪めた。 急激に、斗和子とアルベドを包む水の温度が上がっていく。 何が起こったのか、一瞬の間の後、アルベドは理解した。斗和子の炎は、水中であろうと燃え続け周囲を熱しうる不条理の炎であったと。 ただ、斗和子側にも準備の必要があり、ここまでアルベドに好きにさせるしかなかったのだ。この間の猶予時間で、斗和子を殺し尽くせなかったアルベドは満を持した斗和子の反撃を食らう事となる。 声にならぬ悲鳴を上げるアルベド。 周囲の水は溶岩もかくやといった温度に達している。今度はアルベドが逃げる番だ。必死に身をよじって斗和子から逃れる。まだ腕力はアルベドが有利なので、何とかその拘束を解き水上へと浮かびあがらんとするアルベド。 「だああああめよおおおおおおお」 水中でどうやってしゃべっているのか皆目見当が付かない斗和子の駄目出しは、時間をかけて周囲一体を炎の尻尾で結界に封じていた為である。 抑え込まれた斗和子が暴れて動き回っていたのは、周囲を移動する炎となった尻尾が水泡の山を作り出すのを誤魔化す為であった。 そして既に、全ては封じ終えてあり、アルベドは炎の尻尾に引っかかり更なる高温に身も世も無い悲鳴を上げる。その声は、水中にかき消え外に伝わる事は無かったが。 アインズ様! 申し訳、申し訳ありません! アルベド、不覚を取りました! かくなる上はせめても奴より腕の一本でも奪い、アインズ様に僅かでも………… 僅かでも、アインズ様の、お力に………… い、嫌よ。もう、終わりなんて嫌。もう二度と、アインズ様にお会い出来ないなんて、嫌っ。 わかってる、ナザリックの守護者統括として、私がなすべき事はよくわかってる。 それでも! 私はアインズ様ともっと居たいの! アインズ様を見ていたいの! もっと、愛して欲しいの! お願い、それさえ適うのなら、私は何だってするから! もっと、アインズ様と一緒に居させて! ううん! 一緒に居たいのはアインズ様じゃないっ! モモンガ様! アインズ・ウール・ゴウンではない、最早その名を背負う必要も無くなって、たった一人のモモンガ様となった貴方と! 私は共に歩んでいきたいのです! 私が! 私だけが! 貴方と共にありたいのです! ですから! 助けて……、助けて…………モモンガ、さ……………ま………… 川辺から身を引き上げた斗和子は、土手の階段状になっている場所まで昇ると、階段によりかかるようにして倒れる。 「か、勝った……勝ちました。偉大なる御方よ……」 顔から煙が上がっている。だが、その修復速度は亀の歩みの様に遅い。 著しく体力を消耗したせいで、身動きがまるで取れない。 このまま、全身が脱力するに任せて目を閉じてしまいたい。そんな欲求に全力で抗い、斗和子は黒い服を着た人間の姿へと変化する。 こんな有様ではしばらくの間、直接戦闘は控えなければなるまい。 斗和子は自らが犯した致命的な選択を悔いていた。 これほどのバケモノだとは、正直思わなかったのだ。 横柄で居丈高な態度は妖怪ならば皆多かれ少なかれ持っているものだ。それをいなすぐらい斗和子にとっては造作も無い。 だが、獣の槍も知らぬ無知な愚か者が、誰かの下に、それも大した事無さそうな者についているらしいと聞いて、これでは役に立たぬだろうと切り捨てたのだが、実際手合わせしてみればとんでもない怪物であった。 この調子では、コレの主と呼ばれる者がどれほどのものか想像もつかない。だが逆に、それほどの者を味方につけられれば打倒獣の槍も大いに進むのではなかろうか。 それがどんな相手なのかはわからない。主どころか斗和子は殺した女の名前すら知らないのだ。 反省点は多い。今後は、他者との接触はより用心して行わなければならないだろう。斗和子は全身の悲鳴を無視して身を起こす。 見た目的には、もう普通の人間と変わりない。これなら交渉だけならば可能だろう。 しばらくは、体力回復も兼ねて情報収集と情報操作に徹しようと、心に決めた斗和子であった。 【アルベド@オーバーロード】死亡 残り68名 【D-4/黎明】 【斗和子@うしおととら】 [状態]:甚大な消耗 [装備]: [道具]:支給品一式 [思考・行動] 基本方針: 1:蒼月潮を殺してくれる人間を探す 2:光覇明宗の狙いを探る 時系列順で読む Back 狂った親子 Next 魂のルフラン 投下順で読む Back 戦場のプロローグ Next 魂のルフラン 004 バケモノを見た率直な感想 斗和子 033 Resolusion GAMESTART アルベド GAME OVER
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/450.html
>>back >>next 「ルイズ、少し話したいことがある」 ワルドがそっとルイズに耳打ちした。突然のワルドの言葉に、ルイズは怪訝な表情になる。 「……ここじゃ駄目なの、ワルド?」 「二人だけで話したい。君自身についてのことだ……そして、僕のことも話したい。来てくれるね?」 ルイズはちょっと困ったように自分の使い魔の方を見た。本来、婚約者であるワルドと話をするのに何の遠慮もないはずなのだが、なんとなくとらを気にしてしまうルイズであった。 視線に気がついたとらが、かぶりついていたローストチキンから顔を上げる。 「なんだ、るいず?」 「その……わたし」 どうしよう、と言いかけて、急にルイズは赤くなった。なぜ自分は、婚約者と話をするぐらいのことで、いちいち使い魔にお伺いを立てているのだろう? 貴族としてのプライドと、とらの『婚約者』への嫉妬があいまって、ルイズはつっけんどんにとらに言った。 「べ、別になんでもないわよ。『テロヤキバッカ』持ってきてないんだから、今のうちに食べられるだけ食べなさいよ!」 「おう、そうするぜ」 とらはそれだけ言うと、また皿にのったローストチキンを平らげる作業に戻る。自分で言い出したことなのに、ルイズはめらめらと腹が立ってきた。 (何よ……! ご主人さまより食事が大事……?) ふん、とルイズは呟くと、マントを翻して立ち上がる。そして、ワルドに従って広間を出て行った。 パーティーにほとんどの貴族が参加しているせいで、城の中はひっそりとしていた。コツコツとワルドとルイズの靴音が静まった城に響く。 どこからか、チェロの音色が聞こえてきて、ルイズは耳をすませる。かすかに風に乗って聞こえていた音は、やがて聞こえなくなった。 (なんだろう……パーティーなのに、あんなに物悲しい曲なんて……まるで葬送曲じゃない) そう考えて、ルイズは首を振った。ある意味では、このパーティーそのものが葬式のようなものであった。 明日全滅する城に流れる曲なら、葬送曲であってもあながち場違いでもないかもしれない。 小さなホールくらいの開けた空間に出た辺りで、ルイズは前を歩くワルドに声をかけた。 「ワルド、どこまでいくの? お話って何かしら……」 ルイズの言葉に、ワルドはぴたりと足を止める。そして、ゆっくりと振り返った。振り返ったワルドの目を見て、思わずルイズは息を飲む。 それは、今までルイズが見たこともない、冷たい目であった。まるで爬虫類のように感情のない、氷のような目をしたワルドは、ルイズに向き直った。 「……ルイズ、君は『聖地』についてどれだけ知っている?」 「……『聖地』って……始祖ブリミルが降誕した場所でしょ? いまじゃエルフがいるから近づけないけど……」 「それでは、足りないな」 ワルドの言葉に、ルイズは当惑顔で首を振った。『聖地』についての知識を持っている人間はごくわずかだ。王家の人間や、オールド・オスマンなど一握りの人間しかいない。 当然、貴族とはいえ子供に過ぎないルイズの知識も『聖地』に関しては貧弱なものに過ぎなかった。 「ルイズ、『聖地』にはあるものが封印されているのだよ……始祖が呼び出し、そして自らと使い魔のたちの力で彼の地に封じ込めた怪物が。 六千年もの長きに渡って……私はその力を手に入れたい。一晩で王国を焼き滅ぼしたというその幻獣の力を……」 「ワ、ワルド……あなた、何を言って――」 ワルドが、さっと手を伸ばしてルイズの腕を掴んだ。咄嗟にルイズは体をもがくが、ワルドの手はぎりぎりとルイズの細い腕を締め上げる。 「その幻獣の名は、恐怖をこめてこう呼ばれる……『白面の者』と――」 ワルドがそう言った瞬間、ルイズの頭いっぱいに、夢に見たあの巨大な白い幻獣の姿が広がった。 邪悪な笑みを浮かべ、シャガクシャの街を焼き尽くした悪魔の姿。 この世の恐怖全てを集めて形にしたような、あの九つの尻尾を持つ怪物、『白面の者』の姿が……。 (――――とらっ……!) 絶叫を上げようとしたルイズの口に、瞬間何かが飛び込んだ。 「か、かはっ……ごえっ……!!」 飛び込んだ『それ』はルイズの体内にもぐりこみ、脳にはいずりあがっていく。 ルイズの口から嗚咽が漏れ、体がびくん、びくんとはねるように震えた。 (何か、が、わ、私の体を、乗っ取って――) ルイズの全身を恐怖が貫く。 必死に叫ぼうとするのに、声がでない。杖を引き抜こうとしても腕が動かない。 (助けて、助けて、とら――ッ!!) 体の支配を奪われながら、ルイズは必死で声にならない叫びを上げた。 ルイズとワルドがパーティーの席を立って、すぐのこと……。 まるで喪服のように全身を黒い服に包んだ女が、ひっそりとパーティーに入ってきた。 女は片手にチェロを持っている。見慣れない女の姿に、人々は怪訝そうに顔を見合わせる。 とらもやはり、その女を見た。そして、その瞬間、ざわりととらの全身が総毛だった。 (コイツは――ッ!!) とらは叫んだ。 「逃げろッ! そいつは、ニンゲンじゃねぇッ!!」 人々が怪訝な顔をして、トリステインの大使が連れてきた使い魔を見つめる。黒い女だけが、くくっ、と笑った。 そして、次の瞬間―― ごっ!!! 女の体から炎の尻尾が生え、ホール全体を一気に包んだ。その一瞬で十数人が炎に舐め取られ焼き尽くされる。 「ちぃいぃいい!!」 とらが雷を放った。雷光は女を襲い、その体に直撃したかに見えた。しかし同時に、女の髪の毛が鋭い刃となって打ち出され、どすどすどす、ととらの体に突き刺さる。 とらは壁にまで吹き飛ばされ、刃に体を縫いとめられた。 雷に服が燃え尽きた女の白い体が、一気に巨大化する。 バケモノ、という呟きが、恐怖に凍りついたメイジたちの口から漏れた。 (斗和子……!!) 『白面の者』の尾の一本が変化した妖怪、斗和子であった。 『寂しがらなくていいわ、人間たち……すぐに、全員仲良く殺してあげるから……』 くくっと笑みを浮かべる斗和子の声に、人間たちは凍りつく。今まで誰も見たことのない恐怖に、誰もが動くこともできなかった。 ただひとり――ウェールズ皇太子の鋭い声が飛んだ。 「皆、慌てるな! 水系統のメイジは火を消し退路を作れ! 風、火の系統のメイジはヤツに一斉攻撃をかけろ!!」 「そ、そうだ、陣を組め! 王と皇子をお守りしろ!」 慌てて貴族たちは杖をかざし、呪文を唱え始める。とらは自分に刺さった斗和子の髪を引き抜きながら叫んだ。 「やめろ、そいつに呪文はきかねぇっ!!」 しかし、とらの声より早く、人間たちは呪文を繰り出していた。大量の炎と風の刃が、斗和子を襲う。 爆発音が響き、煙が斗和子を包む。炎と風は直撃したかに見えた。どんな幻獣だろうと、即死すると思われる攻撃を浴びたのだ。 だが―― 『愚かね……』 どん!! と斗和子の体から、呪文がはじき返され、メイジたちを襲った。 まるで先住魔法の『反射』を使われたように、メイジたちは自分の呪文を喰らって次々と斃れる。 (魔法が効かない――!!) そう悟った瞬間、メイジたちはパニックに襲われた。貴族といえども、魔法が使えなければ平民と変わるところはない無力の人間である。 我先に走り出したものたちは、斗和子の尻尾に絡めとられ、全身を包む炎に絶叫を上げる。 『ほほほほ……無力ねえ、かわいい子達。私にとってよい楽器は人間。美しい音色は阿鼻叫喚。 殺すときにはせいぜい美しい音を出しておくれ』 バキリ、とチェロを潰した斗和子は、轟然と爪を振るった。人が紙をちぎるように殺されていく。 ウェールズの周りを囲むメイジたちも、斗和子の炎で焼き尽くされ、尾になぎ倒され、爪に引き裂かれた。 自身の風の魔法を喰らい、腕を怪我したウェールズの前に斗和子が立つ。 『さようなら、皇太子ウェールズ……おやすみ』 くぁ、と斗和子は歯をむき出す。 (こ、これまでか――) ウェールズが目をつぶった瞬間だった。 ごん!! 轟音と共に、斗和子の体が後ろに吹き飛ぶ。とらの巨大な腕が振りぬかれ、斗和子を殴り飛ばしたのだった。 「つ、使い魔の……」 「ち……おら、さっさと逃げな、ニンゲン!!」 とらはウェールズに怒鳴る。慌ててウェールズは走り出した。炎の隙間を縫って駆けていく。 先ほどに喰らった斗和子の攻撃に、とらの体は血にまみれていた。 壁際に吹き飛んでいた斗和子は、ぞわり、と立ち上がった。口から流れた血を手の甲で拭う。そして、とらを見て、にい、と笑った。 『やるじゃない……下種な妖怪風情が……』 そして、一気に壁に炎を這わせる。ホールは炎に包まれた。灼熱の中で斗和子はびゅる、と飛びあがる。 『お前の始末はあの男につけさせよう……くくっ……あの男の力を試すのにはちょうどいい……』 斗和子はそういうと、風を巻きあげて飛び去った。後を追おうとしたとらの体が、がくん、とよろける。 (くそ……体にチカラがはいらねぇ……) ――と、うずくまるとらの鼻に、婢妖のニオイが臭った。 とらはニオイするの方向に気づき、愕然とする。ニオイがするのは、ルイズがワルドに連れられて歩き去った方角であった。 (ちくしょう……! わしとしたことがよ!!) とらは全身から血を流しながら、主人のニオイを追って飛び出した。とらの全身が怒りに震えていた。 (まってろ、るいず――ッ!!) ごぉぉおおぉぉおおお!!! 風が唸りをあげる。金色の使い魔は傷ついた体をものともせず、さらに加速した。 >>back >>next
https://w.atwiki.jp/anirowago/pages/79.html
Resolusion◆L5mMuLNUiM 秋葉流は天才だ。 小学生で難関な灘高校の入試を苦もなく解いてみせ、中学生では哲学者デカルトを構造主義で批判してみせた。 その才能は法力僧としても如何なく発揮されて、ついには4人しかいない獣の槍の伝承者候補の一人に名を連ねた。 しかしそんな優秀な流にしてはこの殺し合いに参加してからの行動には不可解な点が見受けられる。 まず一つ目は一般人であるナンコと一松を民家で待機させた事。 誰が殺し合いに乗っているか分からない状況で迂闊に連れて回るのは危険だから何処かに隠れるという意見は間違っていない。 だからと言って何の備えもない普通の民家に身を潜めるのは危険だ。 一応あばら屋ではなく扉も窓もきちんとある家だから施錠すれば安全、と言えるのはある程度治安が保たれている場合に限られる。 実際このような殺し合いの場で施錠などあまり意味がない。 何かその辺りに落ちている石で叩きつけるだけで、防犯仕様でない普通の民家の扉や窓など簡単に破られてしまう。 しかも現在の時刻は深夜であり、不用心に明かりを付けてしまえばむざむざと居場所を教えてしまうだけだ。 たとえカーテンで光を隠そうとしても完全に隠すなど無理だ。 さらに二人は流の忠告を忘れて明かりを全開に付けている始末だ。 二人と過ごした時間は僅かとはいえこのような事態を防ぐためにせめて電源を落とすぐらいの対策はしてもおかしくない。 これでは逆に二人を危険に晒している事に変わりない。 二つ目は二人と情報を共有しなかった事。 このような怪しげな殺し合いに巻き込まれた以上、お互い情報を提示して共有するべきだ。 もしかしたらお互いの支給品の中に本人には価値がなくても相手にとっては価値のある物が入っているかもしれない。 またお互いの知り合いを教え合えば実際に会えた時にスムーズな対応が取れる。 だが流れは自分から一方的に若干の情報を提示するだけで二人の元から立ち去っている。 ただこの行動で流は二人からの信頼をある程度得る事に成功している。 逆に言えばこれ以上情報を提示し合うとその信頼を損なう可能性があったとも言える。 そして最後に流がいつどこで黒炎の存在を知ったかという事。 流はナンコと一松に黒炎を本来俺達の敵と説明していた。 つまり光覇明宗の法力僧として本来倒すべき敵である白面の者の眷族だと認識していたと言える。 だが初めて黒炎が白面の勢力として出てきたのは東西の妖怪が新たな獣の槍を作ろうとして潮に阻止された時だ。 だから流が黒炎の存在を知る事が出来たのはそれ以降という事になる。 そして流はその時期既に白面の者の誘いを受けて白面の側に付いている。 黒炎の事を知ったのはその際に同士討ちを避けるために情報を提示されたと考えられる。 だから本来なら敵であるはずの斗和子と対面した際に出る言葉が次のようになっても不思議ではない。 「斗和子、どこまで聞いているんだ?」 流は自分の目的のために潮やとらの側ではなく白面の側を選択していた。 それは強い覚悟を以て選び取った結果のはずだった。 だから流はこの状況でも強い覚悟を持って目的のために何とかすると決めたのだ。 ▼ ▼ ▼ 「嫌な予感という物は当たるものだな」 黒のパンツァージャケットと赤いスカートが印象的な制服を身にまとった西住まほは帽子に手を掛けて思わず呟いていた。 彼方の視線の先に見えるのは一目で荒廃したと分かるほど校舎――巡ヶ丘学院高等学校。 実際に嫌な予感はあった。 しばらく前から周囲の建物が荒廃したものへと変貌していて、目的地も同じようになっているのではないかと危惧していた。 しかし地図に示されているぐらいだから大丈夫ではと希望を抱いていたが、その希望は見事に打ち砕かれてしまった。 ふと後ろを振り返ると、黒尽くめの女性に肩を貸しながらプラチナブロンドの少女も複雑そうな表情を浮かべていた。 濃い水色の軍服を身にまとったプラチナブロンドの少女の名はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。 まほよりも年下の16歳でありながら軍人であり、しかもネウロイという怪物と戦うウィッチなる者らしい。 普通なら俄かに信じられない話だが、最初の黒い怪物とエイラが空から舞い降りた事から信じざるを得なかった。 エイラの肩を借りている黒尽くめの憂い気な女性の名は斗和子。 先程の破壊をもたらした者に襲われたが支給品の中にあった爆弾のようなもので九死に一生を得たらしい。 さすがに心身共に疲労したようでそれ以上の事はまだ聞けていない。 エイラと斗和子との出会いは数時間ほど前に遡る。 深夜の市街地に放り出されたまほは幾分動揺したがすぐさま冷静さを取り戻して状況を把握しようとした。 その辺りさすが戦車道全国高校生大会9連覇の偉業を達成した黒森峰女学園で見事隊長の任を果たしているだけはある。 まずデイパックの中身を確認して自身の戦力を把握、次いで参加者名簿に目を通して自分の他に二つ見慣れた名前を見つけた。 一人目は西住みほ。 まほの実の妹であり、殺し合いなど全く似つかわしくない心優しい少女だ。 今年の全国大会で素人集団同然だった大洗女子学園を優勝に導いた実力は確かなものだが、ここでそれが役に立つか分からない。 おそらくこの異常事態に怯えている可能性の方が高く、姉として早急に合流したいところだった。 もう一人は逸見エリカ。 黒森峰女学園において立派に副隊長の任を果たしている少女だ。 元々はみほがその任に就いていたが、とある事情でみほが黒森峰を去ってからはエリカがその任に就いていた。 副隊長としてまほを支えるべく一生懸命に戦車道に励んでいたが、その責任からか若干気負う面もあった。 その気負いがこのような異常事態下で悪い方向に出ていないか心配だった。 一通り状況把握が済んだところで次に誰か他の人と接触して情報収集しながら運が良ければ二人と合流をしたい。 そのような方針で市街地を探索し始めてしばらく経った頃、突然破壊音が断続的に響いてきた。 聞き慣れた戦車の発砲音に比べればまだ小さいが、それでも普通の市街地で聞く事はない音にまほの身に一気に緊張が走った。 そして慎重に音の方に近づいてみれば、そこに広がっていたのはまるで戦車で蹂躙したかのような惨状だった。 さらにその破壊痕の終着点の川辺には斗和子が疲労困憊な状態で倒れ伏していた。 エイラがプロペラの付いた金属の筒を足に嵌めて空から舞い降りてきたのは、ちょうどその時だった。 お互い初対面でいろいろ聞きたい事もあったが、まずは人助けが優先という事でそれは後回しになった。 だが結果的にその行動がお互い殺し合いに否定的だという証明になったのは幸いだった。 とはいえ、このような場所にこのまま留まってはいられない。 先程の破壊音を聞きつけて自分達のような殺し合いに否定的な者だけでなく積極的な者が集まる可能性もある。 そのような者が集まればエイラは未知数だが碌に戦えないまほと斗和子がいるこちらが明らかに不利だ。 なにはともあれ今後のためにもまずは斗和子を一刻も早く静かに休ませられる場所に移動させた方が良かった。 そこでここは空を飛べる自分の出番とエイラが意気込んだが、残念ながらそれは叶わなかった。 エイラが空を飛ぶために使っていた金属の筒、正式名称ストライカーユニット。 これはその中でも飛行脚(航空用ストライカーユニット)と言って魔力で発現した飛行魔法で飛行する航空タイプだ。 魔力で動く魔導エンジンを搭載していて、魔女の必需品である箒の進化系らしい。 そのストライカーユニットが動かなくなったのだ。 正確にはストライカーユニットを装着したエイラが斗和子を抱えて飛び立って数メートル進んだ瞬間エンジンが突然停止した。 そのせいで二人は地面にスライディングしたが、幸い飛び立って間もなかったので特に怪我はなかった。 なぜいきなり動かなくなったのか理由は定かではないが、おそらくこの殺し合いの主催者の仕業だろう。 単純に空を飛べるという事はそれだけで大きなアドバンテージだ。 となればストライカーユニットに何らかの仕掛けを施すのは当然と言える。 そうでなければ人の手が届かない上空から一方的な虐殺が可能になってしまう。 ただ参加者を殺すのではなく参加者に殺し合いをさせたいのならそのような展開は望まれていないと考えられる。 問題はその制限がどのような内容かという事だが、こればかりは分解して調べるか何度も検証するしかない。 とはいえさすがにここで悠長に調査している時間はないので、結局二人で斗和子を両脇から抱えて移動するしかなかった。 いくら男性よりも女性が軽いと言っても普通ならそのような体勢での移動は10代の女子には荷が重い。 だがまほは戦車道で鍛えていて、エイラは魔力によって身体を強化する事で、それを可能にしていた。 とりあえず地図を照合して一番近くて休めそうな場所として巡ヶ丘学院高等学校を目的地に定めて市街地を進んで来て、今に至る。 (さすがにここからの移動にはやはりエイラに支給されていたものを使うしかないか) 先立って3人は何か役に立つ物はないかとお互いの支給品を提示し合っていた。 その中でまほの気を最も引いた物がエイラに支給されていたフィンランド製の自走砲BT-42だった。 まほにとっては練習試合や全国大会で対峙した継続高校の戦車としての印象が強かった。 元々まほの戦車での役割は車長だが幼い頃から西住流の後継者として精進してきたので、一応動かす事は出来た。 だが本来戦車の乗り心地は車などに比べて快適とは言えず、それで斗和子の身体に障るのではと心配して使えずにいた。 また戦力として運用するには砲手が必要であり、砲弾が発車できない以上戦車はただの移動手段でしかない。 その点まほに支給されていたドイツ製の機関銃MG42Sは戦力として申し分なかった。 ただ重量の問題でまともに使えるのが魔力で身体強化したエイラだけというのが難点だった。 エイラ曰く、501JFWの仲間であるバルクホルン大尉がよく使っていたらしい。 同じ姉同士、機会があれば色々語り合ってみたいと思った。 (BT-42は3人乗りだから全員乗る事は出来る。とりあえずまずは斗和子さんに話してみてからだな) この周囲は荒廃した市街地。 本来戦車が最も効果的に力を発揮する場所だ。 だからこそBT-42が支給されていたのは僥倖だが、斗和子の様子から今一歩踏み込めないでいた。 そもそもあまり会話できていないせいで斗和子がどのような人物かいまいち掴めない。 それが分かればもう少し上手く交流できて展望が開けそうな気がするが、残念ながらきっかけが上手く作れなかった。 「なあ、ちょっといいか」 そして幸か不幸かそんな時、斗和子の事を知る一人の法力僧に出会ったのだった ▼ ▼ ▼ 「やっぱりMG42Sはデイパックに入れておくか」 エイラは自分に渡された機関銃の処遇に悩みながら結局デイパックに戻していた。 いくら使えると言ってもそれは身体強化している間だから常にそういうわけにはいかない。 せっかく譲ってくれたのに少し申し訳なさを感じつつ元の持ち主であるまほの方を見ると、流と何やら話していた。 おそらく今後の行動の確認をしているのだろう。 本来なら中尉という立場にあるエイラもその話に加わるべきである。 だが一口に中尉と言ってもエイラは士官教育を受けたばかりだったので戦略的な話には未だ不慣れであった。 「エイラさん」 「と、斗和子さん!?」 「ふふっ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」 「何の用ですか?」 「しばらく離れるからその前に少しお話がしたいと思ったの」 あれから話し合った結果、まほと斗和子は戦車で流が身を隠すように言ったナンコと一松を迎えて北の501JFWの基地へ。 エイラは流と共に他の参加者と接触して12時頃には合流する予定になっていた。 最初は他に候補として流と関係の深い光覇明宗総本山とまはに馴染みがある学園艦も挙がっていた。 だが総本山は中央にあって人の行き来が頻繁で危険人物と遭遇する可能性が高い事から除外。 また学園艦は脱出手段になり得る事から今の段階で集まって何かの拍子に戦闘に巻き込まれて壊れる事を避けたいので却下。 その結果501JFW基地を集合場所にしようと決めた。 人数の振り分けについてはBT-42の乗員人数が原因だった。 BT-42の乗員数は3人なので無理したところで4人が限界。 という訳でナンコと一松を迎えに行く上限は2人となり、必然的に操縦経験のあるまほとまだ疲労が残る斗和子となった。 だがあの戦車が役に立ってくれてエイラにとっては何よりだった。 あの戦車の他にエイラに支給された物は世界一臭い食べ物として名高いシュールストレミング。 スオムス出身でサルミアッキは平気なエイラでもさすがにこれには顔を顰めていた。 これで戦車まで宝の持ち腐れになってしまっていたら落ち込んでいたところだ。 「斗和子さん、あの化け物の事は……」 「大丈夫、化け物の事なら気にしていないわ」 「で、でも、私がもっと考えて行動していれば……」 先程の話し合いでは様々な事が判明した。 まず参加者が別々の世界から連れて来られた可能性。 俄かには信じ難い話だが、ネウロイや妖怪や戦車道などそれぞれの常識が食い違っている事にはそれで説明が付く。 その中で人間同士の世界大戦がエイラ以外の世界で起こった事を知って驚かずにはいられなかった。 もしもネウロイという共通の敵がいなければが自分の世界でもありえたのかもしれないと思うとゾッとした。 さらに注意するべき参加者の情報。 獣の槍と蒼月潮。 持ち主を凶暴化させて最後には獣に変えてしまう魔性の槍と、その現在の持ち主である潮。 本来なら潮は流と斗和子の知り合いで優しい少年だが、槍を持つと人が変わったようになってしまう。 さらに槍の持ち主は槍を手放しても一時的に正気に戻っても根本的な解決にはならない。 だからせめて決着は自らの手で付けたいから可能なら生け捕りにしてほしいと流からは頼まれた。 とらと紅煉。 どちらも人を喰らう妖怪で、もしも出会えば命はないレベルの危険な存在。 ネウロイかそれ以上と言われれば、そのヤバさは嫌でも伝わってくる。 灰原哀。 最初の場で殺し合いに異を唱えた少女だが、実は主催側の可能性がある。 その理由はあの年の子供にしては冷静すぎる対応を取っていた事と、あの一連の惨状が演出の可能性が高いから。 以上が流の話だが、すぐには信じられない話だ。 だがナンコという他の参加者も演出の可能性を示唆していたので、あながち間違いとは言い切れないでいた。 そしてエイラに衝撃を与えたのはアインズを主と仰ぐ集団。 この話し合いの中でようやく斗和子を襲った参加者の容姿が黄金の瞳に白い角と黒い翼を持った化け物だったと判明した。 実はエイラはその化け物と斗和子と会う前にニアミスしていた。 しかもエイラが化け物とニアミスしたのは偶然ではなかった。 最初市街地に飛ばされたエイラはビルの中から声が聞こえたので声の主を探してみれば正体は異様な形相で駆け回る化け物。 さすがに一目でヤバいと感じて、コンタクトを躊躇ってしまい見つかる事を避けてしまった。 そのためニアミスして化け物が捨てたストライカーユニットを手に入れて、破壊音を頼りに向かって2人と合流していた。 また化け物の主の名がアインズという情報も手に入れていたが、全ては結果論でしかない。 自分があの時もっと上手く対処できていれば斗和子が危険な目に遭う事はなかったと激しく後悔した。 ここまでの移動の最中に斗和子の胸を横目で見て品定めしていた事もあって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 さらに斗和子の複雑そうな家庭環境もエイラの後ろめたさに拍車を掛けていた。 最初に流は斗和子を見た時二人だけで話をさせてくれと言った。 どういう関係か知らないが大事な人みたいだったので、しばらく二人きりで話をさせてから4人で話し合った。 だから最初二人は恋人のような間柄かと思っていたが、話し合いの中で斗和子は子持ちだという事が判明した。 しかもその子である引狭霧雄と斗和子の関係は今あまり良くないらしい。 どうやら霧雄は実の子ではなく養子のような立場で詳しくは聞けなかったが色々あったらしい。 そんな事もあって想像以上に大変な目に遭っている斗和子にエイラは負い目を感じざるを得なかった。 「ところでサーニャちゃんだったかしら。あなたが一番親しい仲間は?」 「え?」 確かにエイラとまほの知り合いの情報も先程の話し合いの中で出ていた。 その際頼もしい仲間がいて心強いと言われたが、エイラは斗和子が何を言いたいのかよく分からなかった。 だがなぜかこの先を聞いてはいけないような気がする。 自分の中の使いまである黒狐がさっきから警告しているような気もする。 だが時既に遅し。 エイラの耳はその先の言葉をはっきりと聞き取っていた。 「私思うの。もしもキリオと会えたのがあの時が最後だったらって。そうなってしまったら絶対後悔するはず。 だからエイラちゃん、大切な人がいるなら後悔しないようにしなさい」 狐としても、魔女としても、エイラと斗和子は役者が違いすぎた。 ▼ ▼ ▼ 「エイラと何を話していたんですか?」 「少しね。大人の女性として悩める少女にアドバイスをしてあげたの」 ここまでの流れを振り返って斗和子は概ね満足していた。 最初本来なら敵である流から共闘の申し出があった時、別にそこまで意外だとは思わなかった。 白面の眷族として斗和子の役割は人間社会で云うところの外交官に当てはまる。 自由に動けない本体の代わりに来るべき復活の時に備えて有利な状況へ展開する事が主な役割だ。 法力僧・引狭とキリオを利用して光覇明宗に亀裂を走らせて、獣の槍を破壊するように仕向けた工作もその一つ。 そして更なる亀裂となる楔の候補として目を付けていたのが秋葉流だ。 以前から婢妖がもたらす情報に加えて最近の動向を合わせれば、十分こちら側に付く目はあると思えた。 そしてどうやら斗和子の死後、無事に流を味方に引き入れる事に成功したようだ。 そう斗和子は一度死んだ。 その記憶は曖昧だったが、そうなったのであろうなと理解した。 獣の槍破壊工作はほぼ成功していた。 実際獣の槍を破壊するところまでは漕ぎ着けたのだ。 あとは真相を知って絶望の淵に追いやられた光覇明宗と蒼月潮を始末すれば全て終わるはずだった。 だがそうはならなかった。 なぜなら蒼月潮の呼びかけに応じて獣の槍が復活したからだ。 そして自ら戦いに赴いて返り討ちにされて、その辺りで斗和子の記憶は途切れていた。 斗和子は最後の最後で順番を間違えた事を悟った。 蒼月潮。 獣の槍の正当な伝承者である奴から先に始末しなければいけなかったのだ。 だから斗和子はこの殺し合いにおいて蒼月潮を優先的に殺すと決めたのだ。 もちろん獣の槍があるのかどうか分からなかったという理由もあるが、何より槍がなければ潮を殺すのは容易だ。 だから流の提案に最初は不服だったが、よくよく考えてみればそれもアリだと思えた。 ジンのような殺意に満ちた者には蒼月潮殺害を依頼するのは特に問題ない。 だが残念ながらこの殺し合いにはエイラやまほのように殺し合いには否定的な者もいる。 だから最初しばらくはどう切り出すか考えて二人とは迂闊な交流は避けていた。 そして二人の話を聞く限りそのような甘い考えの者はまだまだいるらしい。 そのような者に蒼月潮の殺害を持ちかけても素直に受け入れるとは思えない。 だが流の提案のように獣の槍と合わせて危険性を説き、且つ生け捕りで良いというのなら受け入れやすい。 嘘というものは真実の中に混ぜてこそより効力を発揮する。 だから先程の話の中には嘘もあれば真実もある。 ただ中には紅煉が危険な存在という隠す必要もない真実もある。 何にせよ最終的に潮を殺せれば途中の過程はどうでもいい。 とりあえずは流の方針に乗って情報収集と情報操作に専念して参加者間の扇動に努めよう。 まずはエイラへの揺さ振りはあのようなものでいいだろう。 もしもあれほど大事にしているサーニャという者が死んだりすれば、今から考えるだけで楽しみだ。 大きな想いがある者ほど実に扱いやすい。 強力な法具を作りたい引狭然り、偽りの愛情を疑いなく信じ続けたキリオ然り、そして流然り。 と言っても、斗和子も流を全面的に信用しているわけではない。 ただ今は力が回復しきっていないから話に乗ってみても良いと思っている。 先程自分に支給された物は爆弾のような物と鉄扇と石鏡と言っていたが、実はまだ一つある。 青酸カリ――埋伏の毒にはお誂え向きの支給品だ。 しばらく扇動に専念するのでどこかで役に立つかもしれない。 (そういえば灰原という女子にも会ってみたいものだ) ちなみに灰原の話を持ちかけたのは斗和子だ。 理由はどうという事はない。 最初の場で生意気にも白面の眷族である黒炎を睨みつけて笑っていたからだ。 その気概に対してのささやかな褒美とでも言おうか。 決して意趣返しの類ではない。 実際に出会ったら感謝すらしてもらいたいと斗和子は小さく笑っていた。 【D-3 荒廃した市街地/早朝】 【斗和子@うしおととら】 [状態]:大~中程度の消耗、BT-42乗車中 [装備]: [道具]:支給品一式、鉄扇@うたわれるもの 偽りの仮面、『永』の字が刻まれた石鏡@名探偵コナン、青酸カリ@名探偵コナン [思考・行動] 基本方針:蒼月潮の抹殺(+獣の槍の破壊)。 1:蒼月潮を殺してくれる人間を探す(もしも殺し合いに否定的なら生け捕りを持ちかける)。 2:光覇明宗の狙いを探る。 3:ある程度回復するまで流達と行動を共にして扇動に専念する。 ※死ぬ直前からの参戦。 ※流から自分が死んでからの経緯を聞きました。 ※アインズ、アインズを主と仰ぐ集団を要注意人物として認識しています。 【西住まほ@ガールズ パンツァー】 [状態]:健康、疲労(小)、BT-42運転中 [装備]:BT-42@ガールズ パンツァー [道具]:支給品一式、不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:脱出。 1:ナンコと一松と合流して501JFW基地へ向かう。 2:みほやエリカと出来るだけ早く合流したい。 ※最終話以降からの参戦。 ※潮、とら、紅煉、灰原、アインズ、アインズを主と仰ぐ集団を要注意人物として認識しています。 【秋葉流@うしおととら】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:支給品一式、不明支給品1~3 [思考・行動] 基本方針: 1:何とかしないとな。 2:エイラと共に他の参加者と接触する。 3:12時頃には501JFW基地で皆と合流する。 ※白面の側に付いた以降からの参戦。 ※アインズ、アインズを主と仰ぐ集団を要注意人物として認識しています。 【エイラ・イルマタル・ユーティライネン@ストライクウィッチーズ】 [状態]:健康、魔力消費(小)、斗和子への負い目、サーニャが心配で堪らない [装備]: [道具]:支給品一式、零式艦上戦闘脚二二型甲@ストライクウィッチーズ、MG42S@ストライクウィッチーズ、シュールストレミング@現実 [思考・行動] 基本方針:脱出。 1:流と共に他の参加者と接触する。 2:12時頃には501JFW基地で皆と合流する。 3:サーニャ……。 ※潮、とら、紅煉、灰原、アインズ、アインズを主と仰ぐ集団を要注意人物として認識しています。 ※ストライカーユニットの制限:離陸エリアから出た場合魔導エンジンが停止する。 ▼ ▼ ▼ 「ちくしょう、二手に別れるのか!?」 4人から少し離れた場所から様子を窺っていたスピードスターは4人の行動に戸惑いを露わにした。 数時間前ヴァルカナ達から離れたところで首輪探知機を見たスピードスターは画面に表示された文字を見て焦っていた。 そこには『残り使用回数1回』と『次リセット時間は06 00』と表示されていた。 そして改めて調べたところ、この探知機には使用回数が設定されている事が判明した。 それによると使用できるのは定期放送のある6時間ごとに2回ずつだった。 つまり次の放送までに探知機が使えるのはあと一度だけ。 思わぬ落とし穴に陥ったスピードスターはそれ以降使い所を見極めようと市街地を慎重に捜索していた。 そして運良く探知機を使う事なく4人の参加者を発見できた。 だがせっかく見つけたのに運悪く分かれて行動するところらしい。 一方は軽い感じの青年と外国の女性。 一方は同年代の女性と大人の女性。 どちらも光宗を誘惑しそうな女性がいる事には変わらないが、あいにくこの距離だと追跡できるのはどちらか一方だけだ。 スピードスターは迷いに迷った結果に出した結論は――。 【D-3 荒廃した市街地/早朝】 【スピードスター@迷家-マヨイガ-】 [状態]:健康 [装備]:レミントンM870 [道具]:支給品一式、首輪探知機(次リセット時間06 00までの残り使用回数1回) [思考・行動] 基本方針:光宗を保護する。邪魔する奴は誰だろうと殺す。 0:どちらを追うべきだ……。 1:首輪探知機を使い、光宗を探しだす。 時系列順で読む Back 松野5人いると紛らわしい Next スースーするの 投下順で読む Back 狂った親子 Next 人と喰種と 013 至高の御方へ 斗和子 039 The end of ソロモン・グランディ GAMESTART 西住まほ 039 The end of ソロモン・グランディ 009 一松さん 秋葉流 049 ムリダナ(・×・) GAMESTART エイラ・イルマタル・ユーティライネン 049 ムリダナ(・×・) 025 猫も喋らずば撃たれまい スピードスター 049 ムリダナ(・×・)
https://w.atwiki.jp/anirowago/pages/25.html
バケモノを見た率直な感想 ◆1qmjaShGfE 全身を黒いコートで覆い、挙句黒帽子なんてものまでかぶってクソ怪しさをより際立たせている長髪の男、ジンは自らの胡散臭さを自覚しているわけでもなかろうが、道路のど真ん中につっ立ったままの現状はあまり好ましくないと思ったのか足早にその場を離れる。 片側一車線、合計二車線の道路は住宅街に面したもので、ジンは横道に入りこの道路から見えない場所に移動し、電柱の影に立つ。 深夜という時間、灯りは街灯のみという現状を考えればそこまでして隠れなくても、とも思えるがジン自身を安心させるといった意味合いもあった。 何が起こったのかを頭の中で冷静に整理する時間を、ジンは欲していた。 ホテルで寝ていて起きたらあの謎の場所だ。挙句軽薄そうな眼鏡が何やら抜かした次の瞬間には道路にバカみたいにつっ立っていた。 信じられない出来事であり、大きな動揺を隠しえぬ、超常的な事件に遭遇してしまった。とは、ジンは考えなかった。これを仕掛けて来た何者かがこちらにそう思わせるための演出でしかないだろうと。 懐から煙草を取り出し火をつける。 仕掛け人がジンを薬などにより瞬時に意識不明に陥らせる手段を持つのなら、とりあえず今起こっている出来事全てに説明がつくのだから。またさっきの場所で身動きが取れなくなった理由もまた、同じく薬物を用いる事で実行可能であろう。 今はっきりしているのはたった一つ。 ジンは、何者かに拉致され行動の自由を奪われたという事だけ。 首元に手を当てる。ある。恐らくはこれがそれと気付かぬ内に意識を失っていた原因であろう、首輪。 犬コロのような扱いを受けている怒りは当然ある。だがそれ以上に、見事完璧にしてやられたという思いの方が強い。 ジンは、負けたのだ。これを仕掛けて来た何者かに。そして何らかの意図を持って生かしておいてもらっていると。 自分の所属する組織から助けの手が来る可能性を、ジンは全く考えなかった。こんな間抜けを晒した馬鹿、自分だったら即座に見捨てる。 それでも助力をとなると、それはジンがこのジンを浚った連中の情報を手に入れ、組織の力を持って叩き潰すに足る計画を持ち込めた場合、であろう。 もちろん、自分一人でそう出来るのならそれに越した事は無いが、そこまでうぬぼれる程自意識過剰になった覚えは無い。 とにかく今は、連中の思惑通りに動き少しでも情報を集める事。そして何より、生き残る事だ。 制限時間は七十二時間。猶予は僅かと言っていいだろう。 ジンは足元に置いておいたバッグに手を伸ばす。中を開き確認すると、水と食料、それに備品と、書類。書類はすぐにでも目を通したかったが、もう少し落ち着ける場所を探してそうすべきだろうとスルー。最後に、銃。 「……ベレッタ?」 ジンも使った事がある、信頼性の高い名拳銃だ。また英語の説明文がずらずらと書かれた箱が山程、これは予備弾丸である。 簡単な動作チェックを行うも、全て良好。出来うるなら一度全部バラして確認してから使いたい所であるが、どうやら、そんな余裕は持てなさそうである。 「こんにちわ、黒い方」 そんな声と共に、横道入り口を塞ぐように立つ、驚く程の美貌を備えた女が居た。 ジンは手にした銃を構えるでもなく、凍てつくような視線のみを女に向ける。 「まあ怖い。私のようなか弱い女を、そのような目で睨まないで下さいまし」 この女が言葉とは裏腹にジンを全く怖れていない事はわかる。そもそも、本当に怖いのなら銃を持った男に声をかけるなんて真似はするまい。 「……何か用か?」 殺し合いをしろ、と言われた場所で即座に仕掛けて来ないのは、恐らくジンと同じ事を考えたからであろう。最低限の情報すら、ジンには与えられていないのだ。 もちろん女が動けばジンも即座に反応する気で構えてはいる。その時はクイックドロウ勝負、狙撃が得意なジンであるが、だからと拳銃戦闘が苦手という訳でもない。 「ええ、ええ、用はありますとも。わたくし、一体何が起きたのかまるでわからないのです。なので、誰か説明してくださる方がいれば、と」 ジンは即答する。 「俺も知らん。それと、普通の女のフリなんて真似はやめておけ。お前はオンナなんて生易しいシロモノではないだろう」 女がその身に漂わせるただならぬ気配を、ジンは何と呼んでいいのかわからない。凡そまともではないだろう事だけはわかるのだが。 「あらあら……せっかちな御仁ですわね。でも、話が早い殿方は好みですわよ」 女は優雅な仕草でバッグから書類を取り出す。ジンがそれを許したのは、やはり銃を手にしているという強みあっての事だろう。 取り出した書類を開きながら問う女。 「こちらにある、参加者名簿に目は通しましたか?」 ジンは無表情のまま。 「いや」 「では、ここに名前のある蒼月潮という少年を、殺して欲しいのですよ」 数秒の間を空けて、ジンはやはり感情を表に出さぬ顔のまま答える。 「殺し合いをしろ、と言われて放り出された場所で殺しの依頼とは恐れ入るな。代わりにお前は体でも差し出すと?」 「それがお望みなら。ですが、こういった道具の方が、今の貴方には好ましいのでは?」 女は再びバッグに手を伸ばし、そこから物を引っ張り出す。ジンは驚きに目を見開く。女がバッグから取り出したのは、全長一メートル半近くある長い銃身を備えたライフルであった。 明らかに、そんな長物が入るようなバッグではない。また、ジンの記憶が確かならばこのライフル、重量が十キロを優に越えるはずだ。それを苦も無く片手で持ち上げる女に、ジンは驚きを隠せない。 更に驚くべき事に、女は銃身の先の方を手に持ち、台尻の方を突き出すようにジンへと向け、歩み寄って来る。これをジンに渡すつもりだというのはわかるし、銃を手渡す時の礼儀をそれなりには心得てるという事なのだろうが、この対物(アンチマテリアル)ライフルでそうする馬鹿をジンは初めて見る。 見た目だけなのか、と思いライフルを手にしてみると想像していた通りの重量がジンの手にずしりとのしかかる。左手はベレッタで塞がっており右腕のみで手にしたので危うく落としそうになったが、女が持てて自分がもてないなんてみっともない真似を見せたくないので必死に堪える。 呆れた顔でジンは言った。 「そいつは装甲車にでも乗っているのか? 過剰火力にも程がある」 ちなみにこの対物ライフル、元々対戦車ライフルと呼ばれていた系列のライフルで、主力戦車は無理でもそれ以外のものであれば地上に存在する車両装甲の大半をぶち抜け、二キロ先の狙撃をも可能とするバ火力ライフルである。 女は小首を傾げる。 「そうなのですか? あまりこういったものに詳しくないので良くわかりません」 「他に、これの予備弾丸と、本体を分解して収納出来る鞄があるはずだ」 女は少し考えた後、にこりと微笑んで答える。彼女程の美貌がそうすると、ジンですら惹きつけられずにはいられない程の魅力があった。 「ああ、そういえばありました」 バッグから鞄と弾を取り出し順に地面に置く女。その作業を見守りながらジンは問いかける。 「お前は殺し合いをしろと抜かした連中の事、少しでも知っているのか?」 「いいえ、全く知らない方々ですわ」 女は息をするように嘘をついたわけだが、女の事を知らないジンにそれを見抜けるはずもなく。 「アオツキ、ウシオ? だったか。そいつは何者だ?」 「男子中学生です。人間離れした身体能力を持つので、このらいふるで気付かれない遠くから撃つのがよろしいと思いますわよ」 「名簿で他に、知ってる人間は?」 「おりませんわ」 「他に、言い残す事はあるか?」 「特には」 「そうか」 ジンは手にしたベレッタの引き金を、まるで欠片の躊躇も無く引いた。 女の額に赤い点がつき、後頭部からはまっすぐ血が噴出す。 女はバッグの中に手を入れたしゃがみ込んだ姿勢のまま、後ろに倒れる。これを見下ろし、ジンは酷薄な笑みを浮かべ言った。 「お前のような女は、絡め取られる前にさっさと仕留めるのが正解なんだよ」 その美貌とクソ度胸は、ジンも認める所であったという事だ。そこで、即座に殺害という選択肢が出た上で実行にまで移してしまうのが、ジンという男の恐ろしさである。 殺害現場にいつまでも居るのはよろしくない。ジンは弾やら鞄やらを回収しようと歩を進めるが、その足が止まったのは、信じられぬものを目にしたからだ。 「お、おっほほほ、ほほほほほほほほほほほほほほほ!! 素晴らしいですわ! 黒い方! 貴方はやはり! 私が見込んだだけはあります!」 女は、額から血を流しながら、立ち上がって来たのだ。 「さあ、まだ疑いの余地はありますわ。さあさあ黒い方、もっと撃って下さいまし。もしかしたら、頭蓋で弾かれ脳に達していないのかもしれませんわ。ほら、ホラホラホラホラほらほらほらほらほらほらほらほら……」 驚愕を隠しえぬまま、ジンは再びベレッタを構え引き金を引く。残り十四発、全てを打ち込むまでジンは銃撃をやめなかった。 弾丸は心臓に八発、顔に六発、近距離とはいえ実に正確な射撃であったが、今度は女は倒れてやる事すらしない。 弾丸で穴だらけになった顔のまま、女は先ほど見せたものと寸分違わぬ微笑を浮かべた。 「たかだか人殺しを躊躇するニンゲンの何と多い事か。それを踏まえれば黒い方、貴方の行動力は賞賛に値するものですわ」 防弾チョッキで防いだだのといった言い訳は通用しない。女は銃弾で体を致命的なまでに破壊されて尚、その場に立っているのだとジンも認めざるをえない。 「なに、ものだ、おまえ」 ジンの声がかすれ、体に震えが見えるのも無理はなかろう。それでも、言葉を発っせるだけ肝は据わっていると言えるだろう。 「バケモノですわ、黒い方。そして、貴方の味方でもあります。躊躇無く他人を手にかけられるような、崇高な魂を持つ者を愛してやまないバケモノですわ」 言っている間に女の傷口は煙を上げて塞がっていく。 ジンは、既に根元まで吸ってしまっていた煙草を吹き捨て、新しい一本を取り出し火をつける。 その手が僅かに震えている。平静であるよう自らに必死に言い聞かせているジンであるが、全てを自制するには相手が悪い。 「……味方、と言ったな。何故俺を?」 「蒼月潮は中学生です。これを平然と撃ち殺せるような人間は、そうそう見つかるものではないのですよ」 じっと女を見つめるジン。 「自分でやらない理由は?」 それはですね、と女はジンに顔を寄せる。 「アレは我々バケモノから人間を守ろうと、守れると、本気で考えているからですわ。ねえ、そういう愚か者を、人間達自身の手で滅ぼしてやったら、彼は一体どんな顔を見せてくれるのでしょうねぇ」 女の美しい顔は、とても見れたものではない程ひしゃげよじれ醜悪極まりない笑みを浮かべる。 ジンは自らの感情を堪えながら、女に流されぬよう必死に踏ん張りながら、口を開く。 「で、その後に俺も殺すか」 ジンが何故そう言うのかわかっていて女は答える。 「いいえ、そんな事をする必要が私にはありませんでしょう」 「生き残るのは一人だけだと聞いたぞ」 女は、口を耳の側まで開いたケダモノのエガオを見せる。 「こんな首輪で、私が殺せるとでも? 首が落ちた程度で死ぬニンゲンと、私が一緒だとでも言うのですか?」 頭部に何発も銃弾を打ち込まれて尚死なぬ存在が口にした言葉だ、説得力があるなんてものではない。女はこれを狙ってジンに銃撃を促したのであろう。 女は、ケタケタと笑いながら自らの頭頂部に手をかけ、掴み、引っぱり、首から上を千切り取る。 ジンの足が、我知らず一歩後ろへと下がる。女の甲高い笑い声は、女が千切り手にしている生首から聞こえ続ける。 「とはいえ」 女はそのまま首を元の胴体にくっつけ、手を離す。やはりこちらも、傷口から煙が吹き上がりだしている。どうやらこの煙は再生中という事らしい。 「首輪はつけたままでないと、他の方々に怪しまれてしまいますので」 首から上を千切り切った女であるが、首輪だけは下部分に残るようにしてあり、首をくっつければ首輪は再び、絶対抜けない首輪に戻った。 女は表情を普通の人間の物に戻し、重ねてジンに訊ねた。 「で、蒼月潮殺害の件、引き受けていただけますでしょうか?」 女のペースに乗せられないよう、一度大きく煙草を吸い込んだ後、煙草をそこらに投げ捨て煙を噴出す。 次の煙草をゆっくりと取り出し、火をつける。まだ震えは残ったままだが、何とか物を考えられる程度には判断力も戻った、と思われる。 「ライフルはいらん。代わりに……」 と、そこまで口にした所で不意に言葉を切る。ジンは、遅ればせながらこの会話が殺し合いをしろと言って来た連中に聞かれている可能性に思い至ったのだ。 もしこの忌々しい首輪に盗聴器を仕掛けられていたら、ジンには為す術が無い。 女は首輪を怖れる必要が無いようだが、ジンはそうはいかないのだ。 ジンは女に目を向ける。女は少し怪訝そうな顔をした後、ジンが無言のまま自らの首輪を指差した事でその言いたい事を理解したようだ。 女は勘の良い生き物だと、どうやらジンは良く知っているようで。 「わたくしをお望みという事ですか、もちろん構いませんとも」 そこで言葉を切り、女は自分の首元を指差す。 「万端」 次に彼方の空を。 「整えて」 一瞬意味がわからなかったジンだが、それが脱出を指していると理解すると口の端が上がる。 「お待ちしておりますわ」 大きく頷くジンに、女は続ける。 「ですが、らいふるはお持ちください。蒼月潮はその小さな銃では、撃とうとする動きより早く懐に踏み込んで来ますわ」 「……そいつもバケモノか?」 「似たようなものです。ただ彼、ニンゲンには弱いですし急所を砕けば死にますから、らいふるを使えば案外あっさりと殺せるでしょうよ」 確かに狙撃は得意なのだが、この女は一度も見せていないはずのそれすら見抜いていそうで怖い。 「良し、交渉成立だ。居場所は?」 女は少し困った顔をする。 「申し訳ありません。配られた地図の内に居るとは思うのですが、何処に居るかまではわかりかねます」 「……それは、ライフル分としておこうか。外見的特長、出来れば写真か何かはあるか?」 写真を持っていなかった女は似顔絵を描く、と言った。なので紙と書くものを求めて二人は移動を開始した。 若狭悠里が抱えた絶望は、彼女が置かれた前後の状況を考えれば誰にでも理解出来るであろう。 まだ高校三年生、学生に過ぎない彼女は、ある日突然数人の仲間と共にゾンビ溢れるホラーワールドで生活する事を余儀なくされてきた。 衣食住を確保出来るという幸運に恵まれたとはいえ、何時死んでもおかしくない場所で長きに渡っての生活を強いられて来たのだ。 その彼女が、ようやく仲間達以外の誰かに出会えた、あのゾンビだらけの街から連れ出してもらえたと思ったら行った先で殺し合いを強要されたわけだ。 実際に人が死ぬ所も見せつけられ、彼が死んだ原因であるものと同じ首輪を付けられ町に放り出された。 今、街路の片隅に座り込む彼女を、誰が責められようか。 「……なに、これ」 答える者もいない場所で、そんな言葉を漏らす彼女を、どうして責められようか。 悠里が覚えているのは、夜だからと皆で眠った所まで。そこでさらわれたとなれば、さらわれたのは悠里だけではあるまい。そんな考えに思い至った悠里は、周辺を見渡し誰か居ないか探してみる。 彼女が望んだ仲間達の姿は、見つけ出す事は出来ない。 首を振って勢い良く立ち上がる。悠里はまだ、仲間の為ならば立ち上がる事が出来る。 そのまま走り出そうとして、足元に落ちていたバッグにつまづき転びそうになる。その時始めて、悠里はこの存在に気付いたのだ。 見た事の無いバッグ。誰かの落し物だろうかと思い手を伸ばしかけたが、気味悪さもあったので悠里は手を付けぬままその場を離れる。 僧の言葉『詳しいルールについては儀式開始と同時に配布される書類を読むがいい』というものを思い出せば、このバッグにもう少し注意を払えたのであろうが、流石にそこまでの冷静さは望めなかった模様。 場所は住宅街。深夜という時間もあってか街灯はついていても人っこ一人見当たらない。それは、悠里に焦燥を覚えさせると同時に安堵をもたらすものでもあった。 どうやらこの街にゾンビは居ないらしい。まだそう決め付けるには早すぎもしたが、これまでさんざん悩まされて来たアレ等が居ないかもしれないという予測に、悠里の頬が緩むのも仕方ない事であろう。 アレさえ居なければ、例え深夜であろうと町中の探索は安全極まりないものになるのだから。 住宅街を走っていた悠里は一旦足を止める。息が乱れていたのもそうだが、もう少し慎重に行動すべきと考えたからだ。 足を止め呼吸が整うのを待つと、段々と冷静な思考が蘇ってくる。 今回の事は余りに意味が不明すぎる。ゾンビに囲まれ救助の手を待っていたら、何処か見知らぬ場所に拉致されて殺し合いをしろと言われた。改めて言葉にしてもやっぱり意味がわからない。 身近な人間のいたずらという線は、最もありえない事だ。寝ている悠里を街中に放り出すという行為がどれほど危険か、わかっていないのは由紀ぐらいのもので、他は皆そんな洒落にならない真似は絶対にしない。 由紀がそうしようとしたなら残る人間が間違いなく止める。 また、目が覚めたらまず暗い畳の部屋で、一騒動あって次の瞬間悠里は街の中に立っていた。とかはもうどうすればいいのやら。 眩暈がしそうである。 実際に殺された人を見ても、殺し合えなんて言われた実感は無い。逆に、死ぬような怪我を負っている人間の形、ゾンビを幾人も見てきたせいで死体への恐怖が薄れてしまっているのかもしれない。 誰かに襲われるなどという事があるのだろうか。ゾンビでもない人間に襲われるという事が、悠里はリアルに想像出来ないでいる。ただ漠然と、危ない状況かもしれないと考えるのみだ。 なので悠里が取った行動は、誰も居ないと思われる明かりもついていない家の敷地に乗り込み、物置を開いて、中にあるシャベルを手に取るといった事だった。 他人様の家から物を拝借するという事に抵抗が無いのは、やはりゾンビサバイバルを潜り抜けてきた悠里ならではであろう。 長さ一メートル弱のシャベルは対人用武器としては確かに優れたものであろうが、悠里がこれを手にしたのは、シャベルを人間に叩き込むビジョンを具体的に脳裏に思い浮かべたとかではなく、対ゾンビ武器として有用だったからという理由だけである。 それだけを手に、再び悠里は走り出す。仲間を探し、誰か人が居ないかと。 そして程なくして、悠里は二人の男女を見つける。念願の、大人。社会の何たるかを知らぬ悠里達とは違う、仕事をしていただろう、大人の人達だ。 「あのっ! すみません!」 そう大声を上げる悠里。二人組みは道路の先に立ち、悠里をじっと見つめている。 大事な大事な先生が失われてから、初めて出会う大人のひと。 きっと悠里よりも冷静で、悠里よりも的確で、悠里よりも正しいだろう、子供の悠里とは違う世界に住む人。 二人の大人の前まで駆けていった悠里は、荒い息を漏らしながら声を上げる。 「わ、私っ! 若狭悠里っていいます! あの、あなた方もここに連れてこられたのでしょうか!」 男は何故か、驚いた顔をしていた。 男が女の方を向くと、女もまた男の方を向き、互いに顔を見合わせ両者共が頬を緩める。 男は表情が硬く、悠里には少し怖いと思えたものだが、少しでも笑ってくれた事で怖い空気は薄れてくれたように思える。 女はというとびっくりするぐらい綺麗な人で、彼女が微笑むだけで様々な不安が溶けていってくれるような美しさがあった。 含み笑いながら男は言う。 「そういえばお互い名前すら名乗っていなかったな」 「そうですわ。名乗っていただけないので私はてっきり、黒い方という呼び名を気に入ってくれたものとばかり」 「……ジンだ」 男は女の方を向いたままそう答え、 「斗和子ですわ」 女は男の方を向いて答えた後、悠里を見て微笑みかけた。 男、ジンは悠里の話を聞いても、どうやら信じてくれていないようであった。 女、斗和子の方はというとこちらは悠里の言葉一つ一つを丁寧に確認している辺り、信じているかどうかはともかく信じようとしてはくれているようだ。 ゾンビが街中に溢れ、何時までたっても救助が来ないという状況であったので、もしかしたら世界中でそうなっていたのでは、と悠里は考えていたのだがジンの反応を見る限りそんな事態にはなっていないようで、少なくともジンが住んでいた地域ではゾンビなんてものとはまるで無縁の生活を送れていたらしい。 悠里の言葉を信じてもらえぬ不満より、ゾンビなんて何処にもいないと思える地域がある事の方が、悠里には嬉しく思えてしまう。それはつまり、ジンの住む場所にまで逃げられれば再びゾンビに悩まされる事なく暮らしていけるという事なのだから。 ジンは呆れた口調で言う。 「……何処かの病院から出てきたのか?」 悠里は頬を膨らませて抗議するが、その口調は怒るというよりも、子供が大人に甘える時のそれだ。 「もうっ、本当なんですってば。ニュースとかにもなってないんですか? それはそれで納得は出来ませんが、理解は出来る話でもありますけど」 馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑いつつジンは、今の医学はそういった症状を引き起こすような薬をすら作れてしまうだろう事も知識にある。 ゾンビパンデミックを引き起こす薬の方が、若返りを起こす薬より遥かに理解出来るシロモノであろう。 ジンは目線で斗和子に問うと、斗和子は笑顔で答える。 「嘘を言っているようには見えませんわね。それに、何処にそんな必要性があるのかはわかりませんが、そういった薬を作る事自体は不可能ではありませんし」 世間話程度の気軽さで問い返すジン。 「本当に作れるのか?」 「若狭さんが言うものと全く同じものではないでしょうが、同じ症状を引き起こす物質程度でしたら問題なく。もっとも今やれと言われても設備も何も無いので無理ですが」 自分がそう出来る、言下にそう口にした斗和子に、ぎょっとした顔のジンと、思わず身を乗り出してしまう悠里。 「じゃ、じゃあ! 噛まれちゃった人を治す薬も作れますか!?」 「当然でしょう。ただ、壊れたものが元に戻るわけではありませんから、その物質の作用で失われた器官があったとすれば、元に戻すにはその部位を治すのにかかるのと同等の手間なりがかかるでしょうし、生命活動が出来なくなる程の損傷を受けていれば当然死亡するでしょうが。とはいえ、若狭さんのお友達は地下室の薬とやらで治ったのでしょう? なら開発自体はそう難しく無いでしょう。その時間すら惜しいのであればサンプルを手に入れればあっという間でしょうし」 西洋魔術に通じ、これと法力の融合なんて真似をしでかしてくれた斗和子からすれば、現代医学をなぞる程度造作も無いのであろう。ホムンクルス作成やら人体改造の方が余程手間がかかる、なんて事を考えているのかもしれない。 思わぬ場所で光明にめぐり合えた悠里は、斗和子の事を尊敬の眼差しで見つめる。 ジンは、悠里に微笑み返す斗和子に訊ねた。 「こんな所か?」 「ええ、もう充分ですわ」 ぱん、と乾いた音が一つ。悠里は跳ねるようにその場に倒れた。 いきなりの事に悠里は事態の把握が追いつかない。 「え?」 頭上から声が聞こえる。 「足、ですか? 殺さないので?」 「いや、お前は人を嬲るのが好きみたいだしな。そうしたいのなら好きにさせてやろうと思ったまでだ。その気が無いのならさっさと殺すが」 「あらあらあらあら、もうっ、女心を良くわかってますわね、ジン様」 「……それを女心と呼ぶのには、流石に抵抗があるぞ」 悠里が自身を見下ろすと、足からの出血が見えた。次に首を上げてジンを見ると、彼が拳銃を手にしている事も。 この二つを確認するなり、悠里は即座に動いた。 若狭悠里は、不慮の事態に弱い。予定、予期していた事から外れた事が起きると、パニックになってしまう傾向がある。 ただ、それでも、彼女はゾンビパンデミックを生き抜いているのだ。 数多の大人達が為すすべなく、或いは抵抗の末に倒れていっているというのに。 そんな彼女が最後の最後で、追い詰められた土壇場のその先で、怯え震えるのみなはずが無いだろう。 悠里は手にしたシャベルを力強く握り締めると、伸びるように立ち上がりながらこれを振り回した。 それは完全な不意打ちであったろう。怯え震えるのみの子兎が、狼の牙を持ち襲い掛かって来たのだから。 ヤケクソに振るわれた一撃ではない。重量のある先端部の刃がジンの頭部を斬り裂けるよう、正確に振り上げられたものであった。 さして力があると言えない悠里でも、命中さえすれば確実にジンの命を奪うに足る一撃であった。 たかが女子高生が、人を殺しうる一撃を放つ違和感。鍛え上げた技術ではない。積み上げた訓練でもない。それは最も効率の良い技術であり訓練、実践を経たものである。 何もかもがジンと斗和子の予想を大きく上回るものであった。 それでも尚。 「……驚いたな。やるじゃないか、若狭悠里」 ジンは片手でシャベルの柄を抑え命中を防いでいた。 刃部を触ればジンとて無傷では済まぬ。完璧な不意打ちであったはずのコレに対し、ジンはシャベルの加速が充分に行われきる前に、一歩を踏み出し肘を伸ばしぴんと伸びた腕で柄を押さえ込んだのだ。 すぐに悠里は逆回転させながらもう一撃を見舞う。こちらも当然、相手が死ぬかもしれないなんて事は欠片も考えられていないだろう躊躇容赦の無い一撃。 しかしこの二撃目はジン殺傷を目的とはしていなかった。 コレが当ったかどうかの確認すらせず悠里は、シャベルを放り出し走って逃げ出したのだ。 片足を引きずるようにしながら走る悠里の背後から、声が聞こえて来た。 「的確な判断だ。まったく、最近のガキは皆こうなのか?」 同時に聞こえてきた銃声と共に、悠里は勢い良くつんのめって倒れる。 お腹が焼けるように痛い。それでも立ち上がろうともがき、そして、すぐ後ろからの声を聞いた。 「ゾンビの話、信じてやるよ。そうでもなきゃお前みたいなガキがここまで出来るなんて考えられねえ。じゃあな」 そうして若狭悠里は終わった。 斗和子は口を尖らせて言った。 「好きにさせてくださるのでは?」 冷笑しながらジン。 「無害な羊ならそれでも構わなかったが、食らい付く牙があるってんなら、それが何者だろうと俺は容赦はしない」 その返答に斗和子は満足気に頷く。 「その通りです、ジン様。貴方の腕前を早々に確認出来た事は、私にとって僥倖でありました」 「馬鹿言え。こんなガキ一人殺した程度で腕前もクソもあるか。その蒼月潮とやらを殺すまでにも、人を見かけたら殺していくが構わんな」 ジンは殺し合いをしろと言ってくる連中に対しても気を配らなければならない。連中の意図から外れていないと、ジンは証明し続け油断させねばならないのだ。 「もちろんですとも。わたくしは蒼月潮さえ死んでくれれば、それ以外は比較的どうでもよろしいので」 ふんと鼻を鳴らした後、ジンはもう何本目になるか煙草を取り出し火をつける。 「で、お前はこの後どうする?」 「また別の協力者を探しに向かいますわ」 ぴくりと、ジンの眉が動く。 「……競わせる気か?」 「まさか。蒼月潮が消えてくれれば、誰がそうしたかに関わらず貴方の望みは叶えさせていただきますわよ。ですから、自分で殺す事に拘る必要もありませんわ」 肩をすくめるジン。 「随分と嫌われたもんだな、その蒼月潮とやらは」 「ええ、それはもう……八つ裂きにしても飽き足りません」 「こんなガキが、お前がそこまで言う程とはな」 ジンは手にした似顔絵を見る。若狭悠里と出会う前に無断侵入した民家で、斗和子が描いたものだ。気持ちが悪い程に写実的で、これなら一目で当人を見分けられるだろうと思えた。 後、この女がどんな技術を持っていたとしてももう驚かないだろうとも。医学に造詣が深く絵心もあるバケモノとか、一体何をどうしたらこんなモノが仕上がるのだと。 ではそろそろ、と斗和子はジンの前を立ち去る。普通に歩いて去っていくのを見て、何故か少しがっかりしたジンであった。 斗和子が姿を消して、ようやくジンは人心地つくことが出来た。 まるで虎の檻の中に居るような感覚であった。そんな恐怖を表に出さぬよう抑え込めるジンであるが、だからと怖くない訳では無論無い。 何度思い返してみても、悪夢そのものである。 銃弾を何発も打ち込まれ胴体から離れた首がケタケタと笑う様なぞ、逆にそこまで行くとギャグにすら思えて来る。 そして、ふと思いついてジンは悠里であったモノの側にしゃがみこむ。 頭を打ち抜いたので上半分はエライ事になっているが、下半分である顔の所は綺麗に残ったまま。 そんな彼女の頬をつついてみる。死後硬直だのといった事とは無縁のやわらかさがある。ぷにっといった感じの。 頭部には一発のみだが、何度つついても彼女が起き上がる事は無い。 「死ぬよなぁ」 そんな当たり前の事に安堵する今の自分の状況に、ジンは溜息をもらさずにはいられない。 そして次に、ジンは手にしたバッグを地面に置き開く。 中には分解して鞄に詰めた対物ライフルが。これを中から引っ張り出す。途中まではほとんど力がいらないのだが、バッグから出た辺りで鞄の重量がずしりと腕にのしかかってくる。 バッグの中に押し込むとまた重さが消えて、引っ張ると重さが生まれる。その境目を何度往復させても、原理や仕組みは全くわからない。 そして全部を引っ張り出した後、鞄とバッグを比べる。どー考えてもライフルを入れた鞄はバッグに入りきらない大きさだ。バッグには更に予備弾丸やらが詰め込んであるというのに。 ライフル鞄をバッグに入れなおした後、やはりジンは大きく溜息を付くのであった。 ジンと分かれた後、斗和子はその美しい容貌を忌々しげなものへと大きく歪める。 「おのれ……光覇明宗めがっ」 斗和子は、明らかに自分の力が歪められている事を知った。 拳銃の弾なぞそよ風程度にしか効かぬものであったはずなのだが、今の斗和子にはまるで法力を込めたかのような威力があった。 もっとも元の力を考えれば法力が篭っていようと、銃弾如きが斗和子をどうこう出来るはずもないのだが。今回は敢えて使わなかったが、反射を用いればそもそも当りすらしない。 だとしても自らの力を弱められ笑って許せる程斗和子はバケモノが出来ていない。 それでもこうして大人しくしているのは、これが蒼月潮を葬る好機であるからだ。バケモノに対して絶対的な強さを誇る、斗和子をすら上回るだろうあの蒼月潮をだ。 このような悪逆非道と呼ばれるような行為を、あの者が嫌うのは知っている。ならばアレはこの地でどう動く。 きっと殺し合いに非難の声を上げたあの小娘のような者を、守らんとするに違いない。他者の指一つで死ぬ足手まといを抱えて、殺意に満ちた土地をうろつくのだ、あの者が。 先に集められた場所には多数の人間の姿があった。人間同士が殺しあう最中、あれらを全て守ろうと動くのならば、必ずやそこにアレを殺す機会が生まれよう。 だから斗和子は蒼月潮が死ぬまでは、大人しく光覇明宗の連中に従っているつもりだ。 それさえ成し遂げれば、後は何をしたって構わない。元の大妖の姿に戻り何もかもを蹂躙してやるのも良いだろう。 斗和子は自分につけられた首輪が自らを殺しうるなど欠片も信じてはいなかったし、光覇明宗の連中にその程度の事がわからぬとも思っていなかった。 ならば何故このようなものに斗和子を招き入れたのか。別所で工作の真っ最中であった斗和子を、斗和子にすら通じる法術か何かで強制的に引き寄せてまで、一体何をしたいのかはわからない。 そもそも蒼月潮が死ぬような催しを何故奴等がしでかしたのか。光覇明宗にとってこういった真似は到底受け入れられるものではなかろうに。 それらを探る意味でも、斗和子はまだ、この不愉快な催しを踏み潰すような真似はしないのだ。 【若狭悠里@がっこうぐらし!】死亡 残り70名 【F-4/深夜】 【ジン@名探偵コナン】 [状態]:健康 [装備]:拳銃(ベレッタ) [道具]:支給品一式、ベレッタの予備弾薬 対物ライフル(分解して専用鞄に収納済み)と予備弾薬、蒼月潮の似顔絵(超似てる) [思考・行動] 基本方針: 1:蒼月潮を殺し、斗和子に首輪外しと脱出を頼む 2:主催者達に怪しまれないよう出会った奴は殺していく ※その他 ジンは殺した人間の名前は忘れるので、若狭悠里の名は既に記憶に無いでしょう。斗和子の不死身っぷりをその目にしました。 【F-4/深夜】 【斗和子@うしおととら】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:支給品一式 [思考・行動] 基本方針: 1:蒼月潮を殺してくれる人間を探す 2:光覇明宗の狙いを探る 時系列順で読む Back 二人の仮面、二人の不変 Next 恐怖とスイッチ 投下順で読む Back 二人の仮面、二人の不変 Next 恐怖とスイッチ ジン 017 戦う意思 斗和子 013 至高の御方へ 若狭悠里 GAME OVER
https://w.atwiki.jp/mousouore/pages/131.html
第二回放送までの死者 時間 名前 殺害者 死亡作品 死因 朝 緑谷出久 中野一花 064 アンハッピーリフレイン 射殺(背後から心臓を撃たれる) 朝 秋葉流 レゼ 068 朝霧の幻影殺人鬼 爆殺(頭部を吹き飛ばされる) 朝 斗和子 夏油傑 073 花に亡霊(前編)073 花に亡霊(後編) 吸収(呪霊操術により調伏される) 朝 竈門炭治郎 園崎詩音 射殺(首を狙撃される) 朝 渡我被身子 夜桜凶一郎 075 憂凶青春謳 全身断割(イトイトの実の能力で切り刻まれる) 午前 中野二乃 園崎詩音 081 モノクローム・ファクター(前編)081 モノクローム・ファクター(後編) 失血死(腹を刺される) 午前 園崎詩音 黒死牟 斬首 午前 冨岡義勇 漏瑚 089 群青 焼死(全身を灼かれる) 昼前 釘崎野薔薇 レゼ 091 いつか/When then Cry 爆死(右半身を吹き飛ばされる) 昼前 妓夫太郎 とら 092 血界戦線 斬首 昼前 ジャイロ・ツェペリ 真人 095 ゴーゴー呪霊戦(前編)095 ゴーゴー呪霊戦(後編) 無為転変 昼前 漏瑚 光月おでん 斬殺(胴体を割断される) 昼前 夜桜二刃 黒死牟 099 僕の戦争 斬殺(首を斬り裂かれる) 昼前 園崎魅音 黒死牟 斬首 昼前 早川アキ 黒死牟 斬殺(心臓を斬り裂かれる) 昼前 パワー 黒死牟 斬首 昼前 中野三玖 吉良吉影 101 人間なんて面倒臭い生き物 爆死(キラークイーンの能力で吹き飛ばされる) 以上17名 残り35名 おまけ 名前 最期の言葉 緑谷出久 「……ごめんなさい……!!」 秋葉流 (あぁ、もう──名残惜しいな、クソ──) 斗和子 「──嘲笑(わら)ってやる。」 竈門炭治郎 「だって、夏油さんは……すごく、優しい人だから」 渡我被身子 「弔くっ」 中野二乃 「だから……前だけ、向いてなさい」 園崎詩音 「うぉおおおぉおおおッ、殺してやるッ! 私の邪魔をするなら、誰だろうと殺してやる殺してやる殺してやるッ!! 殺してやるよぉおおぉぉぉぉおおおおぉおおおおお──────ッ!!!」 冨岡義勇 「これが、人間だ」 釘崎野薔薇 「……ま、上等か」 妓夫太郎 (やっぱり、駄目だなぁ。俺は、お前が居ねぇと……) ジャイロ・ツェペリ 「──なぁ、そうだろ……? ワノ国の、『侍』様よッ!?」 漏瑚 「好きにやるがいい。それが、『呪い』だ」 夜桜二刃 「ああ、いい人生だったねぇ」 園崎魅音 「園崎魅音。雛見沢分校部活メンバー、部長だ」 早川アキ 「かませ、パワー」 パワー 「でん、じ」 中野三玖 (なんとかして、五条くんと連絡を取らないと。『吉良吉影』、あの男は危険すぎる。あいつの"殺意"が五月に向く前に、早く……) 殺害数 順位 該当者 人数 このキャラに殺された人 生存状況 スタンス 1位 黒死牟 6人 東方仗助、園崎詩音、夜桜二刃、園崎魅音、早川アキ、パワー 生存 奉仕(鬼舞辻無惨) 2位 園崎詩音 5人 上杉風太郎、中野四葉、小桜、竈門炭治郎、中野二乃 無差別 3位 吉良吉影 3人 轟焦凍、引狭霧雄、中野三玖 生存 生存第一 4位 カイドウ 2人 朝野太陽、虎杖悠仁 生存 危険対主催 真人 2人 瀬戸茜理、ジャイロ・ツェペリ 生存 無差別 レゼ 2人 秋葉流、釘崎野薔薇 生存 危険対主催(カイドウ陣営) 5位 死柄木弔 1人 夜桜辛三 生存 無差別 鬼舞辻無惨 1人 竜宮レナ 生存 無差別 斗和子 1人 前原圭一 無差別 シャーロット・ペロスペロー 1人 ヴィンスモーク・サンジ 生存 危険対主催 パワー 1人 渋谷翔 対主催 中野一花 1人 緑谷出久 生存 対主催→???→奉仕(真人) 夏油傑 1人 斗和子 生存 対主催 夜桜凶一郎 1人 渡我被身子 生存 対主催 とら 1人 妓夫太郎 生存 対主催 漏瑚 1人 冨岡義勇 無差別 光月おでん 1人 漏瑚 生存 対主催
https://w.atwiki.jp/pkgkwiki/pages/27.html
名前(よみがな) 担当 備考 黒姫 夕美(くろひめ ゆみ) 中等 十姉妹 斗和子(じゅうしまつ とわこ) 中等 壕 真琴(ごう まこと) 中等
https://w.atwiki.jp/zensensyu/pages/296.html
うしおととら 294 名前:うしとら :05/01/09 19 26 21 ID VOk4AsQ0 全妖怪入場!! 長飛丸は生きていた!! 更なる年月を重ね雷と炎の化生が甦った!!! 大妖!! とらだァ――――!!! 白面対策はすでに我々が完成している!! 結界自在妖華槌二万体だァ――――!!! 絡み付きしだい呑み込んでやる!! 東の蛇妖は大食いなのさ 一鬼だァッ!!! 人間の希望ならオレの根性がものを言う!! オレの魂をくれてやる 正当伝承者 蒼月潮!!! 真の自給自足を知らしめたい!! 畜生からくり 永久人形だァ!!! 守護区域は川の流域だが水域なら全区オレが担当だ!! 洞爺の守り神 サンピタラカムイだ!!! 希望対策は完璧だ!! 記憶喰らい 婢妖!!!! 全妖怪の禁法は私の中にある!! 復讐の符呪師が来たッ 金票!!! ミノルが治るまで絶対に敗けん!! 読心術の使い方見せたる 本当のお父さんじゃねえんだ サトリだ!!! バトルモード(変身)ならこいつが怖い!! アメリカのメタモルフォーズ バルトアンデルスだ!!! 元々空で生きているから上陸しない!! 奴は空にいる 衾!!! 殺しが好きだから白面の手下(用心棒)になったのだ!! 霊剣の切れ味を見せてやる!! 紅煉!!! めい土の土産に白面の首とはよく言ったもの!! 千年越しの怨念が今 見境なしにバクハツする!! 対妖器物 獣の槍だ―――!!! 時化の広域結界こそが海上最強の代名詞だ!! まさかこんな蛇がいるとはッッ あやかし!!! 獣の槍使いの宿命だからここまできたッ キャリア一切不明!!!! 槍に食われた人間達 字伏だ!!! オレたちは脳を食いたいのではない疑問に答えてほしいだけなのだ!! 御存知愚かだったのは我々だ たゆら・などか!!! 人食い妖怪はまだ地下にいる!! アレを倒せる奴はいないのか!! 山魚だ!!! エロォォォォォォいッ説明不要!! 全裸!!! ママ!!! 斗和子だ!!! 人間は実戦で使えてナンボのモン!!! 長の身辺警護!! 東の妖から烏天狗威吹の登場だ!!! 自分はキリオを守るために作られた 邪魔するやつは思いきり刺し思いきり撃ち抜くだけ!! ガーディアンホムンクルス 九印 小夜が心配だから一緒に行くッ!! 幽閉の座敷ワラシ オマモリサマ!!! 剛刃流走に更なる磨きをかけ ”西の長”神野が帰ってきたァ!!! 今の自分に満足はないッッ!! 箱の怪物 はぐれ外堂!!! 人体侵入のエキスパートが今ベールを脱ぐ!! 小妖 イズナだ!!! 妖怪の前でならオレはいつでも全盛期だ!! 破戒僧 凶羅 穿心角で登場だ!!! 鎌鼬の仕事はどーしたッ 慕情の炎 未だ消えずッ!! 斬るも治すも思いのまま!! かがりだ!!! 特に理由はないッ 東の長が強いのは当たりまえ!! 西のとも連合だ!!! 遠野の大天狗! 山ン本がきてくれた―――!!! 新雪の髄から磨いた純血雪女!! 札幌のハートウォーマー 垂だ!!! 愛ゆえにだったらこの妖を外せない!! 絵に棲む鬼 羽生道雄だ!!! 超一流法力僧で超一流の天才だ!! 生で拝んでオドロキやがれッ 『ああ、風が止んだじゃねえか』 秋葉流!!! 人体生成術はこの男で完成した!! 光覇明宗の切り札!! 引狭霧男だ!!! 恐怖の妖怪が帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ 陰の気の化身ッッ 槍は君を待っていたッッッ白面の者の登場だ――――――――ッ 加えてネタ要望にそなえ超豪華なリザーバーを 4名御用意いたしました!!! HAMMR機関提供 ウルフモンストラム!! 白面の掃討部隊 黒炎!!!! アシスタントの暴走 ヒーローババーン ……ッッ どーやらもう一名のビーム砲黒炎は製造が遅れているようですが 到着しだいッ 皆様に御紹介いたしますッッッ 関連レス 298 名前:水先案名無い人 :05/01/09 20 21 51 ID 2/mDsn6k 雷句・・・じゃねえババーンまでいるのかよw 斗和子エロいね斗和子 299 名前:水先案名無い人 :05/01/09 20 35 17 ID InR+VxJ6 ミノルが治るまで絶対に敗けん!! 読心術の使い方見せたる 本当のお父さんじゃねえんだ サトリだ!!! ・゚・(ノД`)・゚・。 300 名前:水先案名無い人 :05/01/09 21 25 55 ID p3NfeycI 妖怪扱いされてる人らに笑た 個人的には白面の尾の化身は全部出して欲しかった。 眩偽とかシュムナとか。 301 名前:水先案名無い人 :05/01/09 21 41 52 ID VOk4AsQ0 作ったんだが、本編のエピソードを満遍なく組み込みたかったので 一番被ってる白面の尻尾にお引取り願った。 没ネタでいいなら↓ 今の奴に対策はないッッ!! 生き物を食う霧 シュムナ! かませだったらこの妖を外せない!! 超A級おとり妖怪 くらぎだ!! タイマンなら絶対に敗けん!! 大妖の意地見せたる 最後の3本 槍の尾と雷嵐の尾だ!!! 318 名前:水先案名無い人 :05/01/10 00 39 56 ID jZEhmiLi 301原作読み込んでるなあ・・・カコイイ。 323 名前:水先案名無い人 :05/01/10 05 18 44 ID JZfKhnZy 294-297 エロォォォォォォいッ説明不要!! 全裸!!! ママ!!! 斗和子だ!!! 思わずワロタ 本当に乙です。 コメント 名前
https://w.atwiki.jp/anirowago/pages/88.html
The end of ソロモン・グランディ ◆QkyDCV.pEw シャワー口は何処でも同じ、大人の高さに備えられているのでとても使い難い。 灰原哀は、これも何時もの事なので金具を調節して低い位置にシャワー口を固定する。 蛇口を捻ると勢い良く水が飛び出す。こういう所は日本っぽいなと哀は思う。 ガスも通っているので、水はすぐに温かくなってくれた。 手の平の上に水を当てて温度を見ていた哀は、ふと、我が身を改めて見下ろしてみる。 見下ろした視界を胸が邪魔しなくなってかなり経つ、いいかげんこのすっきりした視野にも慣れた。 女性的魅力云々を抜きにすれば、今の子供らしいこの体は随分と身軽で便利だと思う 子供になった直後は、胸だけでなくお尻の重さにも大きな差を感じたものだ。 『まるで太ってたって言われてるみたいで、気分は良くなかったけど』 シャワーを浴びる。水流は抵抗の無い体を勢い良く流れていく。 タオルに石鹸をつけ、本格的に洗った後、指でつついた肌にも思う所はある。 大人であった時も年増呼ばわりされるような年齢ではなかったし、肌も劣化してるなんてつもりは全然無かったのだが、いざ子供になってみると、子供の肌はちょっと凄い。 極めて不本意ながら、ロリコンと呼ばれる種の愚物が何を尊しとしているか、肌に関してだけならば哀にも理解は出来た。 そんな事を考えていると、体を洗い終えたので、湯船にゆっくりとつかる。 最初はシャワーのみのつもりだったのだが、風呂場脇の壁にあったスイッチは、湯船の用意が可能だと言ってきていたのだ。 背の低さからお尻で座るとお湯に沈んでしまうので、中腰の姿勢で入る。 それまで慌しく動き回っていた時計が、穏やかに緩やかに時を刻み始める。 これを期待しての湯船である。 哀はコナン程、思考の速度に自信があるわけではない。 落ち着いてゆっくりと考えられる時間を取れば、そうでない時より良い考えが浮かぶものだ。 我が身に起こった信じられぬような出来事の数々。そして放り出された先で出会った少年。 前提全てを覆すような仮定を幾つか思い描き、それらを起こった事柄から次々否定し、外堀を埋めていく。 もちろん全てに確証を得られるわけではないが、例えばこれが夢である可能性や、幻覚作用のある薬をかがされている可能性、悪趣味なテレビ企画である可能性等といったものをきちんと否定しておくのは大切な事だ。 この地を覆う舞台設定に関する思考は、ある程度まで進めるとあまりに突飛に過ぎて、これ以上は今の哀の常識で計っても不毛なだけだと見切り、もっと身近なものへと思考を移す。 とりあえず、あの獣の槍とやら。あれは変だ。 先端の刃部が大きすぎる。そういった意図で作られたポールウェポンなのかもしれないが、だとしたら刃のあのような形状は全くもって不向きだ。 あんな長い柄の先についている刃で、精妙に押し付けたり引き斬ったり出来るわけがない。 突くだけならばあの刃の太さはありえないだろう。あまりにアンバランスな武器だ。 キリオはあれをかなり重要視しているようだったし、何かしらあるのだとは思うが。 その辺を、戻ったら話してみるとしよう、と哀は風呂を出る。 脱衣所には洗濯機が置いてあり、既に脱水まで終わって洗濯機は止まっていた。 中の自分の着ていた衣服を取り出し籠に入れ、哀はこの家で見つけた子供服を代わりに身につける。 考え込みすぎて、かなり時間が経ってしまっていた。哀は少し慌てて家を出る。キリオが居る白楼閣は目と鼻の先で、従業員用の通用口からこっそりと中に入る。 そう、灰原哀は、風呂に入るとは言ったが白楼閣の風呂に入ると言った覚えは無い。 キリオは白楼閣の風呂を見張っているが、信用云々を鑑みて、哀は風呂から抜け出して白楼閣の近くの民家の風呂を使っていたのだ。 そのまま白楼閣の風呂場の脱衣所に洗濯物を干した後、何食わぬ顔で外へ出る。 キリオは、寛げるようになっている場所の椅子に座って両腕を組み、腕の間に獣の槍を挟んだ姿勢のまま目を閉じていた。 『まさか、寝てた?』 哀はキリオの反応を見て、風呂場に入り込んでこちらに何かをしようとしたかを見極めるつもりだったので、これにはかなり意表をつかれた。 キリオは哀が出てくると、ゆっくりと目を開き体を起こす。 「もういい?」 「え、ええ。もしかして寝てたのかしら?」 「うん、何があるかわからないしね。休める時に休んでおかないと」 いや、見張りをしていたのではないのか、と言おうとしてやめた。実際、哀が出てきたらすぐに気付いたではないか。 「そういう寝方、慣れてるの?」 「訓練したから。君もやってみる? 色々と便利だよ?」 「……やめとくわ。その手の肉体労働は不向きなのよ」 「そう。じゃあ……」 「待って。その前に、私達はお互いの事をもっと良く知り合っておくべきだと思うのよ。どうかしら?」 「あ、うん。そうだね。ただ、最初に一つだけ、聞いてもいいかな?」 「……どうぞ」 「じゃあさ、君はこれから、この地図の上を動き回るつもり?」 哀は目尻を少し上げ、警戒した視線を向ける。 「だとしたら?」 「うーん、僕としては何処か安全な場所で隠れていて欲しいかなって。肉体労働、不向きなんでしょ?」 哀はさっき風呂場で考えた事を一つ、披露してやる。 「もし、私がこの殺し合いを考えた人間で、本気で殺し合いをして欲しいと思っているんなら、この支給品とやらの中に参加者の居場所を特定出来るものを支給するか、もしくは定時の放送とやらで全員の現在位置を告知するわ。後者なら皆平等だからそれでもいいけど、もし前者だったら隠れているから安心なんて発想自体が罠って事になるわよ」 キリオはびっくりした顔で哀を見返している。哀は続けた。 「72時間の制限があるからって、そう簡単に人殺しなんて出来るもんじゃない。何か、促進する手を、本気で逃げ回りにかかる人を制する手を、用意してくると思う。それに二日目、三日目になって状況が煮詰まってきたら、死なば諸共って逃げ出す人も出てくるかもでしょ? 現状のルールだけだと逃げる人が有利すぎるわコレ」 そこまで考えていなかった、キリオの顔にはそう書いてある。 別段、だからとキリオが愚かだとは思わない。 こんな事まで考えるようになったのは、誰かさんと一緒に馬鹿みたいに色んな事件に首を突っ込むようになったせいなのだから。 「凄いよ、僕そんな事考えてもみなかった。君、まだ小さいのに凄いね」 「アンタに言われたくないわよアンタに」 「いや、僕は色々と特別だって言われてたから……もしかして、他にも君みたいな子ってたくさんいるの?」 「さあ? 子供で私より頭の回転が速いのは、一人しか知らないわ」 「へえ! もう一人いるんだ! 凄いなぁ! 今度会ってみたいよ!」 そう言って無邪気にはしゃぐ様は、見た目通りの子供そのものだ。 だが、あの時、槍を抱えて座りながら寝ていたキリオの佇まいは、あれはまともな子供のそれには見えなかった。 初対面の時からずっと、キリオを信用できないと思っていたのは、まさにああいう部分だ。 キリオはあまりにも普通の子供と違いすぎる。 何が、と口にするのは難しいのだが、その立ち居振る舞い全てが、絶対に油断してはならない相手に見えて仕方が無い。 実際の所、子供の容姿をしていながら子供らしからぬ事を考え実行する能力を持つのだから、佇まいが違い違和感があるのは当たり前で、その点に関してならばお前が言うなの極みでもあろうて。 そんな警戒心でぴりぴりしてる哀と、全然懐いてくれないなーとか考えてるキリオとで、お互いの持つ情報を交換すべく話を始めるのだった。 BT-42の震動は、ちょっと他の戦車と違っていて新鮮な揺れだと思えた。 西住まほは操縦席に座り、エンジンをかけこれを発進させるとそんな感想をもった。 足回りが他の戦車と少し違うせいだろう、と震動が違う理由はわかっている。 足回りで思い出し、まほは戦車の中で砲手席に腰掛ける斗和子に訊ねる。 「今更ですが、これアスファルト駄目になっちゃいますけど……いいんでしょうか?」 履帯にゴムを撒くでもない状態でそのまんま走らせているのだ。 グリップを得る為、当然履帯はアスファルトを噛み、掘るように進む事になる。 そう出来なければ逆に、15tの重量があっちこっちと滑って回る事になるのだが。 斗和子は苦笑を返す。 「それが嫌なら、そもそもこんなもの支給すべきじゃないわね」 「まったくです」 幾つかの計器の位置を確認しながら戦車を進めるまほ。この戦車に乗るのは初めてなのだ。 ふと、珍しいものを見つける。 どうやらこの戦車、中で音楽が聞けるようになっているらしい。 そもそも走行の騒音であまり聞こえないだろうに、と呆れるまほであったが、一応同乗者に聞いてみる。 「何か音楽でも聴きますか? 聞こえるかどうかは保障しかねますが」 その言い回しが気に入ったのか、少し噴出した後斗和子は、じゃあ貴方の好みの曲を、とリクエストしてきた。 操作盤に曲のリストがずらりと並ぶ。ほとんど知らない曲ばかりだったが、一曲だけ、まほにもわかる曲があった。 『The Great Escape March』 戦車のイベントでは良く使われる曲で、まほは何かにつけこの曲を聴く機会に恵まれた。 軽快なスネアの音に、少し驚いた顔の斗和子。 「学生さんらしくない選曲ね」 「良く言われます」 「でも、戦車に乗って流す曲としては悪く無いわ。……後、これ結構良いオーケストラ使ってるみたい」 「わかるんですか?」 「一応、チェロ奏者よ、これでも」 「へえ、じゃあオケにも乗った事が?」 「頼まれて何度か。……奏者が居ないっていうんで、コントラバスやってくれと頼まれた時は、流石に返事に困ったわ」 斗和子の冗談に、まほはくすくすと笑い出す。 「斗和子さん背高いですから、きっとどちらも似合いますよ」 斗和子も微笑を浮かべて問う。 「貴女も何か楽器を?」 「いえ、私は聞く専門です。学校の方針でドイツ戦車を扱う事が多いせいか、曲もドイツのものを良く聞くようになってました」 「ワーグナー辺りかしら?」 「はい、余りに当たり前すぎて恥ずかしいのですが」 「いいじゃない、戦車乗りでワーグナー、ぴったりよ。じゃあオペラとかはあまり触れない方かしら?」 「いえ、ローエングリンなんて良いですよね。エルザの大聖堂への行進とか、何度聞いても最後の低音で震えが来ますよ」 斗和子は、初めて微妙そうな顔になった。 「ああ、あれ、ねぇ」 「嫌いですか?」 「うーん、実は私も演った事あるんだけど、どうにも、ローエングリンの気持ちが理解出来なくて。後初期のエルザも」 「ああいう、いかにもな騎士、貴族像はお嫌いで?」 「嫌い、というより、わからないのよ。オルトルートなんてもう、我が事のように理解出来るのに」 ローエングリンは主人公の高潔な騎士で、エルザは清純なヒロイン、そしてオルトルートは意地悪な悪役女である。 やはり笑うまほ。 「そ、それは、実に、人間っぽい感想ですね。まあローエングリンはそもそも人間とは少し違っていますし……じゃあ、ローエングリンを疑いだした辺りのエルザなんかは?」 「ばっちりね。そこは指揮者にも褒められたわ」 また、まほは朗らかに笑った。 ある程度斗和子が話を作っている部分はあるが、それは別にこの会話の目的ではないのでどうでもいい。 つまり、斗和子はこうやって相手の興味を引く話題を提供しつつ、人の心に近寄っていくのだ。 以前ヨーロッパで魔術を覚えた際、情報収集に有利だからと学んだチェロと音楽は、こういう風に様々な場所で役に立ってくれているので、斗和子は今でもこの楽器と音楽を気に入っている。 概ね好感触を得た、と思えた斗和子は次の段階へと移る。 「さて、じゃあ私はここで一度降りるわ」 「え?」 「一つ見ておきたい所があるのよ。ほら、地図にあった白楼閣って所。名前だけじゃどんな場所かわからないけど、わざわざ地図に書いてあるんだし、何かはあると思うのよね」 そんな事をあっさり言う斗和子であったが、そもそも彼女が戦車組に来たのは、彼女の体調を心配しての事で、それが単独で動くと言われてもまほも返事に困る。 「ちょっと外出てもらっていい?」 そう言う斗和子の為に戦車を止め、二人は上部ハッチから外へと。 外に出た斗和子は、ハッチから上半身だけ出しているまほを見て、にこっと一つ微笑んだ後、後ろ向きに戦車の上から飛び降りた。 「!?」 見るからに危なっかしげな飛び方であったのだが、斗和子はまるで体重など無いかのように、はらりと、布が地に落ちたような静かさで着地する。 「ね、大丈夫でしょ? 戦車で通ったら、もし誰か居たら警戒されるだろうし、その前に私が行って偵察だけしておくわ。もし問題があるようなら私が警告の旗を途中で掲げておくから、それを見たら引き返しなさいな」 音楽家であり、口調も穏やかでおしとやかな印象の強かった斗和子であったが、まほも驚く程のアクティブさを見せてきた。 斗和子の言の正しさは、まほにも理解は出来た。 今から行く先に居る二人組は安全だろうという保証があるのだが、それ以外の人間は必ずしもそうではない。 そして戦車でそれらの者達と遭遇したら、まず間違いなく先にこちらが発見される。 だからと戦車に乗っていればこちらも滅多な事にはならないだろうが、エイラのびっくり空戦装備の事を考えるに油断は出来ない。 斗和子は柔和に微笑み言った。 「完調には程遠いし無理はしないわ。また、後でね」 言うが早いかさっさと行ってしまう。何というか、まほのペースを外し自分のペースに持ち込むのが上手すぎて、まほも口を挟む事が出来なかった。 またそれを不愉快に思わせぬ雰囲気がある。 「色々と不思議な人ね」 上品でいて、可愛らしくもあり、穏やかな時間を好むようにも見えて、動く時は快活に動く。 不思議な魅力のある人だとまほには思えた。 地図を見る限りでは、川を越える為の橋があるみたいだが、遠回りになるのでとりあえず川沿いに行って途中で渡れるようなら渡ってしまおう。 何処かの誰かが考えいたのと似たような思考である。 そんな程度の話で光宗とダクネスは川のある方へと向かう。 基本的にダクネスは社会性の高い人物だ。礼儀も心得ているし、恥も知るれっきとした貴族である。 ただ、ほんのちょっとだけ、性癖ががっかりなだけで。 対する光宗も、表面的なものでいいのならそれなりの社交性を発揮する事が出来る。 何やかやとすぐに二人で情報交換を行いえたのはそういう理由だろう。 ただ、光宗の持つ現代人的な繊細さは、ファンタジー在住でかつズボラな同居人達と過ごしているダクネスには、理解が難しい部分もあろう。 だから、光宗がダクネスの麗しい容姿を見て表面的には好意的になれても、どうしても踏み込めない部分が出来ているのだろう。 それでも光宗の目は、時折盗み見るようにダクネスへと吸い寄せられる。 金髪碧眼はそれだけでも目立つというのに、まるで映画俳優のように美しいのだから、健全な成年男子ならばそうなっても仕方あるまい。 ましてやダクネスの胸部は同年代の女性と比しても、極めて豊満であると形容していいようなシロモノである。 背も高く、彼女は何から何まで恵まれた外見をしているのだ。 当人は鍛えすぎた腹筋を気にしてたりもするが、これはまあ普通に付き合う分にはまず見えない部分だ。 眼福なんて言葉でじろじろ見る程品の無い真似はしないが、光宗は自分でも御しきれぬ部分でダクネスをちら見していた。 街灯を浴びてきらきらと輝く髪は、きっと日の光の下ではもっと鮮やかに映えるのだろうと思える。 日本人にはありえぬくっきりとした目鼻立ちは、まるで教科書に載っている彫刻であるようで、それが肉を持ち温かみを備えて歩いている事に感動をすら覚える。 彼女が着ている鎧にしても、日本人が同じものを着たら単にコスプレ呼ばわりされて終わりだろう。 しかるに彼女が着るとそこに違和感は無くなる。 こんなわざとらしい格好なのに、実際に使用しているせいか、はたまたそれもまた彼女の魅力のせいなのか、彼女の美しさを支える無理なきパーツの一つとして成立していた。 「ん? どうした?」 そんなダクネスの言葉に、光宗はぼうとしながら率直にすぎる言葉を口にする。 「んー、いや、綺麗な人だなーって」 「…………ふぁっ!?」 思わず仰け反るダクネス。その反応に、自分が何を言ったか気がついてこちらも大慌てで赤面する光宗。 「おおおお、おいっ、いきなり何を言い出すか! そ、そんな何処かで聞いた事あるようなく、くくく口説き文句なぞ、私に通用するわけないだろうっ!」 「あああああ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ぼーっとしてたらつい」 目一杯動揺してしまったダクネスであるが、隣の光宗といえばダクネス以上に動揺し、そっぽを向いてしまっている。 その耳が真っ赤に染まっている様が妙に可愛らしくて、ダクネスは我を取り戻せた。ついでに、ちょっとからかいたくもなって来る程。 そこで自制が効くのがダクネスであるのだが。 自制が効かなくなったのは、ダクネスではなく、残る二人の方であった。 「あ、甘ずっぱああああああああい! ナニコレナニコレ! ちょっと私我慢できないで変な声出ちゃったじゃなぁいっ!」 「おめえええはよおおおお! まずは隠れて様子見しようとか言い出したのはてめえだろうがあああ! それもすんげぇ真顔で言っときながらコレってどういう事だコラァ!」 白スーツの巨漢、ヤモリがぬっと姿を現し、その脇に居た扇情的な鎧を着た女性、クレマンティーヌはちょこん、といった風情で道に飛び出して来る。 「ねえねえヤモリぃ、アンタもそろそろさぁ、こう性欲っていうか情欲っていうか下半身大暴走っていうかそーいうの溜まってるんじゃないないなぁあああい? あの子すっごい綺麗だし、良くない? 良くなぁい?」 「そーいうてめえはショタ狙いか?」 「嫌ぁよ、刺すのは私でないとぉ♪」 「ふん、ま、何でもいいか。んじゃガキはおめーで、女が俺な」 「あらま、反応うっすーい。反抗期?」 「俺ぁ幾つに見えてんだよ。……なんつーかな、もっとヤバイ敵が出て来ると思ってたんだが、どうにも妙だなと思ってよ」 「ああ、なるほどねぇ。ねえヤモリ、アンタの所にアンタでも手に負えない化物って居る?」 「……居る。そこまでとは言わねーが、もっとヤる奴が来てると思ったんだが。これ、もしかしてマジでエサ狩りするだけか?」 「馬鹿ねえ、そんな事ある訳ないでしょ。あの人形遣いのちっちゃい子も前座でしょうよ」 「だとすると、弱い奴にばっか会ってるのは単に俺達の運が良いだけか?」 「かーも。あ、でもその女の子、結構タフじゃない?」 「てめえ! コイツは俺のだからな! やんねえぞ! やんねえぞ!」 「わかったわかったわよぉ、そんなに怒鳴らないでもさぁ。あー、でもちょっと後悔ー。この子柔すぎるかもぉ。そっちの子凄いわねぇ、動きだけしか見ないから私タフさって見落としがちなのよ。ねえねえ、もっと派手に殴ってもイケるんじゃない?」 「だあああああからよう! 口出すんじゃねええええええ! コイつは! 俺が! 俺が! 俺の俺の俺の俺の俺の俺の……」 「あー、入っちゃったかー。ま、しばらくほっとけば戻ってくるでしょ。ねえねえ君ぃ、そういえば名前、聞いて無かったっけ。なんていうのぉ?」 焦点の合わぬ目で虚空を睨む光宗は、クレマンティーヌの言葉に口の端から泡を吹きながらこたえた。 「み……つむ、……ね」 「ミッツム・ネ? あらあら、ちょっと可愛らしい名前じゃなぁい」 ミッツム、ミッツム、と陽気に歌いながら、クレマンティーヌは光宗の両手を大地に縫い付ける。短刀で。 苦痛に悲鳴を上げながら光宗は叫んだ。 「違うっ! 僕は! 僕は光宗だ! みつむねなんだああああああああ!!」 もう何もわからなくなって、光宗はただがむしゃらに叫んだ。 そうするとほんのちょっとだけ気分が良くなって、痛いのが収まった気がしたのでもう一度やろうと思ったが、その前に罰とばかりにクレマンティーヌの刃が光宗の体を通り抜けたので、光宗はやっぱり止める事にした。 両手の平に開いた穴に紐を通して縛り、逆側の端はというとヤモリの胴体をぐるっと回してこちらもきゅっと締める。 「よしっ」 ふー、と息を吐くクレマンティーヌに、ヤモリが片眉をひねらせながら言った。 「良し、じゃねーよ。何だよこれ」 「ほら、ミッツム君もう歩けないみたいだし、連れてくのに助けが必要かなぁって。ヤモリならコレ一人ぐらい大して気にもならないでしょ?」 「……まあいいけどな、確かにコレまだあった方が面白ぇし。後、ミッツムじゃなくてみつむねじゃねえのか?」 「そうなの?」 地面にうつ伏せに倒れながら、両腕を前へと突き出した形の光宗は、ぶつぶつと地面に向かって呟き続けている。 「……ぼくはみつむねだ、ぼくはみつむねだ、ぼくはみつむねだ、ぼくはみつむねだ、ぼくはみつむねだ、ぼくはみつむねだ……」 「な?」 「みつむね、みつむね、みつむね、ね。うん、覚えたわ。でもこれしかしゃべんないのつまんなーい」 「はいはい」 ヤモリは胴に紐を巻きつけたまま数歩進むと、腕を引きずられ光宗が絶叫を上げる。 「これでいいか?」 「それ声違うっ。全くもう、本当にこの子ってば弱いわよねぇ、私ほとんど何もしてないわよぉ。少しはそっちの娘見習いなさいよぉ、ずううううううううっと、貴方を助けようと頑張って来た高潔なる騎士サマなんだからねぇ」 くくくと含むように笑うヤモリ。 「おいおい過去形にしてやんなよ、今でも健気ーに頑張ってるじゃねえか」 ヤモリの視線の先には、一人の人型が立っていた。 長い髪、それと各所が膨らんでいる所から、きっと女性なのだろうとわかる。 だが、それだけだ。 彼女は衣服を一切身につけていない。なのに、おそらくは彼女を見た百人中百人が、それを気にはしないだろう。 晒された素肌より、顕になった局所より、もっと衝撃的な光景が見られるのだから。 彼女もまた、小さな小さな声で続けていた。 「……ミツムネは、助けてくれ……頼む、彼だけは……頼む、……頼む……」 何故、そんな事が言えるのか。もちろん今の彼女、ダクネスの惨状は性癖云々といった次元を易々とぶちぬけている。 ヤモリは出発の準備が整ったという事で声を上げる。 「んじゃ行くぞー、遅れずついて来いよー」 ヤモリが移動を開始すると、引きずられた光宗の悲鳴が後に続く。同時に、女性らしき人型ダクネスからか細い声が。 「やめて、くれ……彼は、やめてやってくれ……私が、私がやるから……彼は、助けて……」 全く聞く耳を持たず、ヤモリとクレマンティーヌは歩を進めるが、ダクネスはいっかなその場を動かない。 いや、足を踏み出そうとはしているらしいのだが、なかなかこれが持ち上がらずにいるようだ。 クレマンティーヌはにやにや笑いながら彼女の前に立ち、ぱんぱんと手を叩いてやる。 「目、見えないんだもんねぇ。ほら、こっちこっち♪ あんよが上手♪ あんよが上手♪」 ぶはっ、と勢い良くヤモリが噴出す。 「て、てめぇで足の腱切っといて上手も何もねえだろ! お前本当、人甚振るの上手ぇよなおい!」 「こっちに来ないと♪ みっつむっねくんが♪ 死んじゃうぞー♪」 「鬼か!」 鬼も何も、ダクネスをこんなにしたのは当のヤモリであるのだが。 ダクネスは、ありったけを振り絞って足を持ち上げる。 天空にまで振り上げる程の勢いと力を込めてどうにか、ダクネスの足はずずずと前へと滑り進む。 これを、ただそれだけで信じられぬ苦痛を伴うこの作業を、ダクネスは黙々と続ける。 呆れた顔でクレマンティーヌ。 「ほんっとこの子って根性あるわぁ。こっちのミツムネに少しは分けてあげればいいのに」 不意にヤモリが鼻を鳴らす。 「……おい、人が来たぞ」 血臭漂う最中でこれを嗅ぎ分けるのだから、ヤモリの鼻にはクレマンティーヌも脱帽である。 「アンタのそれ本当便利よねぇ、今度私にも教えてよ」 「生まれの差だ諦めろ。来るぞ」 道路の角より飛び出して来たのは、光宗より更に年下であろう、少年であった。 「……やっぱりよ、ここって俺等にただただ遊べって場所なんじゃねえか?」 「……あー、私も段々そんな気してきたかも」 その見た目から思いっきり嘗めてかかった二人であるが、その少年が走る姿を見て僅かにこの考えを修正する。 『ほう』 『へえ』 速い。そして速さもさる事ながら、走り方が戦いにおける走り方になっている。 つまりこの子供は、近接戦闘を知っているという事だ。 クレマンティーヌは短刀を抜き、鋭く少年の肩口へと突き出す。 瞬間、クレマンティーヌの意識から少年の姿が失われた。 そうする為の呼吸の取り方は、幾千幾万の激戦を潜り抜けて初めて身につく類のものだ。 『んなっ!?』 こんな子供に出来る技ではない。クレマンティーヌは完全に虚を突かれる。 だが、彼女もまた歴戦の勇士。左方より迫る風切り音に気付き、身をよじる。間に合わない。 かわしそこねて額の上を強打される。それでも意識を失うような一撃は許さず、それに、少年との体重差からクレマンティーヌを一撃で倒すには威力が足りていなかった。 だが少年は構わずクレマンティーヌの脇を抜け、そのまままっすぐヤモリの元へと駆けていく。 ヤモリの左拳が唸る。少年は体をくるりと横に回転させ、その拳をいなしつつ、肘をヤモリの脇に叩き込む。 だがこちらはもう体重云々以前に、ヤモリのグールの体が相手ではどうにもしようがない。 しかし少年は止まらない。 握った拳を何度も何度も何度でも、ヤモリへと叩き付け続ける。硬度の差から、怪我を負うのは少年の方であるのに。 「うぜえんだよ小僧!」 ヤモリの拳が少年を捉える。何度か殴らせる事で少年の攻撃の呼吸を読み取ったらしい。 クレマンティーヌは、ヤモリのこういう所に彼の格闘センスの確かさを感じていた。 こちらは体重差もあって、物凄い勢いで吹っ飛んでいく少年。 ヤモリはクレマンティーヌを見てせせら笑う。 「油断してんじゃねーよばーか」 「うっさい。それよりソイツよ。アンタどうする気?」 「あん? そりゃおめー、せっかくのおもちゃだし……」 クレマンティーヌは皆まで言わせない。 「駄目よ、すぐに殺しなさい」 「ああ? 何だよそりゃ」 「コイツ、今気付いたわ。物凄い目してる。こういうのはね、殺しても死なないのよ。多分、首を飛ばしても飛んだ首がこっちに食らいついてくるわよ」 「……そりゃ人間の話かよ」 「弱い人間も馬鹿にしたもんじゃないわよ。まったくもう、こんな目した奴なんて、そうそうお目にかかれるもんじゃないってのに……ああ、もう、油断したわホント」 まるでアンデッドみたいな言われ方をした少年、蒼月潮は、クレマンティーヌの言う通り、炎のような目で二人を睨み付けている。 本来、潮の体躯であったなら、ヤモリに一発でも殴られればそれで終わりだ、身動きなんて取れなくなる。 どんな受け方をした所で、ヤモリの一撃を受ければ脳が激しく揺れるのを止める事は出来ない。 だが、視界が歪んでいようと、平衡感覚が失われていようと、潮はまっすぐに立ち、敵の二人を見据えて動かない。 そうあれと命じるだけで全身は潮の指示に従い、視覚を調整し体幹を整える。 そんな潮を支えるのは、全身から噴出さんばかりの怒りだ。 血の臭いを嗅ぎ取った潮は、不安にかられながら角を曲がり、そこで見た光景に絶句した。 わかりやすい所では少年だ。両手の平を貫かれ、縄で結ばれている。だが、潮の全身が硬直したのはそちらのせいではない。 全身を血で覆った女性が立っていた。 肌の各所が激しくささくれ立っているが、五体の位置はわかる。 わかるだけで、人間の五体とはとても思えぬ有様であるが。 そんな彼女が救いを求めるように前方へと両手を伸ばしていて、もう一人の少年は無残な様で大男の腰にくくりつけられている。 こんなヒドイ状態の二人を、何もせずに放置している。ただそれだけでもう、潮には充分であった。 言葉も出ない程に憤激し、後先も考えず二人へと突っ込んで行く。 元より我が身を省みる事の無い潮だ、何度殴られようと、どれだけ切られようと、潮は決して足を止めず、二人に猛然と突っかかっていく。 そして、決して越え得ぬ種族の壁、訓練の壁に潮は捉えられた。 当たり前だ。数多の戦いを潜り抜けて来たとて、蒼月潮の肉体は、基本的には中学生男子のそれであるのだから。 倒れる潮を見下ろし、ヤモリは笑う。 「こっからコイツ、二つとか三つに分けても動くんだよな? うはは、面白ぇな見てみてぇや」 「何真に受けてんのよ、比喩表現って奴よぉ。でも、試すのはタダよね」 潮の憤怒は行き場を失い、自らの内へと収束していく。 何故弱い、何故勝てない、このままではあの二人が、もっとヒドイ目に遭うというのに。 『何やってんだ、さっさと槍を呼ばねえか』 潮の脳裏に浮かぶのは、かつて自ら捨て去った友の声。 どうしようもない窮地において、何でコイツの声なんだという思いは潮にもある。 ただ、やっぱり出て来るのはコイツなんだろうな、という漠然とした思いもある。 砕けたはずの獣の槍が、呼んだ所で来るはずないこともわかっている。 それでも素直に言う事を聞く気になったのは、意識が朦朧としているせいもあったろう。 「……槍よ……来い」 ありったけで叫んでもこの程度の声しか出ない。 でも、そう口にする事で、体に力が漲って来る気がした。 「槍よ、来い」 もっとだ。もっと出せる。潮はそれ自体が目的になったかのように、残る全ての力を込めて叫んだ。 「槍よ! 来い!」 潮のすぐ側で、凄まじい爆音が轟いた。 ヤモリとクレマンティーヌは大きく後退し、事態の把握に努めているようだ。 だが、潮にはわかっている。 よろよろと立ち上がり、舞い上がった噴煙の中心へと向かう。 大地に突き刺さった一本の槍。その刃部の端から伸びる紐についているものを見て潮は、お前か、と笑ってしまった。 酷使し続け、遂に砕けるまで使い潰したというのに、獣の槍はまだ潮に力を貸してくれるらしい。 感極まって泣き出しそうになるのを必死に堪えながら、潮は獣の槍に手を伸ばす。 「悪いな、獣の槍。また、頼むわ」 突然、話し合いの最中にキリオが立ち上がった。 そのいきなりの挙動に哀の警戒心が大きく刺激されるが、キリオは構わず部屋から飛び出す。 白楼閣の縁側のような場所に出ると、キリオは何を思ったか手にした獣の槍の、刃部の端から伸びる紐に自分の帽子をくくりつける。 「どういうつもり?」 哀の言葉に、キリオは笑って言った。 「これを必要としてる人がいるんだよ」 見ると、彼の手にした獣の槍は、小刻みに震えているようだった。 握り締めた力の強さは、彼方の空に居る兄貴分に頑張れとのエールだ。キリオは握った獣の槍を、力強く天へと向けて投げ放った。 「行け獣の槍! お兄ちゃんの元へ!」 呆気に取られる哀。それはそうだ。投げ放った獣の槍は、一直線に天空へとかっ飛んでいったのだから。 「……なに、あれ?」 満足げにキリオ。 「元の持ち主のもとにかえっただけだよ」 哀はキリオをまじまじと見つめる。 「いいの? 貴方の武器でしょ?」 「いいんだ。お兄ちゃんがあれを必要としてるって事は、きっとそこに、守らなきゃならない人がいるって事なんだから」 だからいいんだ、とキリオは笑って頷いた。 獣の槍には本来の所有者である潮の元へ向かわぬよう、呪いがかけられていた。 だが、現所有者がその所有権を放棄し、次なる所有者が不在の時、呪いは行き場を失ってしまう。 その間隙を獣の槍に突かれた形だ。槍はあっという間に空を飛び、潮の元へ向かった。 まるではじめからそう定まっていた事であるかのように。 それはそうだろう。そうでなければ、蒼月潮の物語は始まらないのだから。 伸びた髪が背後にたなびく。 切り傷も打撲も、もう何処も痛くない。 槍を手にし、体が変質していくと、見えている視界が大きく広がる。 いや、最早視界なんてものではない。目の届かぬ背後すら、感じ取る事が出来る。 「……確認が、遅れたんだけどさ。お姉ちゃんとお兄ちゃん、あんなにしたの、お前等か?」 潮の言葉に、ヤモリは生唾を飲み込む。 この種の威圧感に、彼は覚えがあった。 クレマンティーヌは両手に短刀を握り、額より一筋汗をたらしながら答えた。 「違う、って言ったら見逃してくれるのかしらぁ?」 「だったらその血の臭いは何だ。お前の手から、そっちのデカイのの手から、臭う血の臭いは一体何なんだ?」 あちゃー、やっぱり誤魔化せないのねー、的気楽さで、クレマンティーヌは隣のヤモリに軽口でも叩こうとそちらを見る。 が、ヤモリの目がガチである事に気付き、怪訝そうな顔に。 「あれ? もしかして本気でビビってる?」 「……わかんねえ。あんなのが二人も三人も居てたまるかとも思う……だが……クソッタレがあああああああああ!!」 こちらから突っ込むヤモリ。 しょっぱなから全開だ。 左右へのステップは足元が残像でブレる程の速度で、決して読みきれぬ複雑な軌道で潮へと至る。 一瞬、潮の真横に表れ蹴りをくれるべく足を振り上げる。 が、それはまやかし。凄まじい歩法にて正反対側へと回り込むヤモリ。こういう真似を易々と出来るのが彼のセンスだ。 回し蹴りが一閃するが、潮は真上へと跳躍する事でひらりとこれをかわしてみせた。 槍を握った両腕を頭上へと掲げ、潮は宵闇の中を跳ねる。 空中ならば身動き取れまい。そんな隙を見逃さず、クレマンティーヌが仕掛けて来たが、クレマンティーヌも、ヤモリも、二人は同時に吹っ飛ばされた。 一体、何故そうなったのかまるでわからない。 いや、わかるのだが、ありえないと脳が否定する。 閃光と共に振るわれた槍の柄が、クレマンティーヌ、ヤモリを同時に吹っ飛ばしたのだと。 ありえない。距離も間合いも全く違っていて、位置も一度に狙えるような位置関係ではなかった。 一閃でなど、物理的に両者に槍が届くはずがないのだ。 そんなありえぬ奇跡を行っておきながら、潮は平然と着地し、半身になって槍を縦に構える。 「絶対に、許さねえ」 その言葉尻に合わせて突っ込んで来る。長年の戦闘勘でクレマンティーヌはそれを見抜いた。 『アンタは動きが雑なんだよ!』 その瞬間さえ見切れれば、カウンターを取る事は難しくない。そう、思っていたクレマンティーヌの、頭上に槍の影が見えた。 「……え?」 ぎりぎりで頭は外した。しかし、槍の柄が強くクレマンティーヌの背を打ち据える。 クレマンティーヌはその場で地面に叩き付けられ、それでは済まずに大きく地面から跳ね上がってしまう。 来るのがわかっていながら、走る姿を見失ってしまった。 槍を抱えながら左右に揺れ動き、クレマンティーヌの死角から死角へと潜るように移動して来たのだ。 こんな見事なクリーンヒット、ヤモリはもちろんそれ以外にもここ数年もらった事が無い。 クレマンティーヌ程の戦士ですら武技を出す暇の無い速度なぞ、とても信じられるものではない。 すぐに潮はヤモリへと飛ぶ。そう、走るでもはなく飛ぶ、が相応しい。そのイカレた脚力はただの一歩でヤモリまでへの距離を埋め得る。 正面から来るのなら、袈裟か逆袈裟か。 見て反応出来る自信は欠片も無いので、ヤモリは袈裟にヤマを張って赫子を作り出し防ぎにかかる。 しかし潮は、ヤモリの対応を見てから反応してきた。 逆袈裟に槍を振り上げると、ヤモリは脇腹にモロにこれをもらい、その場に崩れ落ちる。 ただの一撃で喰種であるヤモリの身動きを止めてしまう程の、強烈な一打である。 またこちらは巨体であるからか、男であるからか、更に追加でもう一撃が加えられる。 顎を真横から強打され、ヤモリは真横に回転しながら吹っ飛んでいった。 潮の背後から小さく、鋭い声が。 「……ふざけんじゃねえぞ……」 武技を重ねがけしたクレマンティーヌが、潮の背後より迫る。 背後からだがクレマンティーヌは踏み込むステップに数多の幻惑を仕込み、両腕を交差し手にした二本の短刀の位置を見えなくする。 もちろんまっすぐには行かない。潮がクレマンティーヌに対してやったように、人の死角を潜りながらの接近だ。 『てめぇにしか出来ない技じゃねえんだよ!』 間合いに入った瞬間、ほんの一挙動で四連撃。稲光のように短刀がひらめく。 その全てを、潮は槍の柄尻の先を押し当てるようにして易々と弾いて見せた。 あまりの速さに、弾く四つの音が一つに聞こえる程である。 直後クレマンティーヌは真横から棍のように振り回された槍でぶっ飛ばされる。今度は最初に叩きつけられた時の比ではない。 武技で強化した人類最強戦士クレマンティーヌの意識が、完全に途切れてしまう程の痛烈な一打だ。 失われゆく意識の中で、クレマンティーヌは朧げに思った。 『……つまり、コイツ……最初の一発は……手加減、してたって……事……』 「起きろ!」 突然の怒声に、クレマンティーヌの意識が覚醒する。声の主ヤモリは、さきほどイジメておいた少年を抱え上げていた。 彼の手を縛っていた紐は、何時の間にか失われている。 それを見て彼の考えを悟ったクレマンティーヌは、自分の分の人質を確保しようと足を進める。 進まず、つんのめって倒れてしまう。足が言う事をきかない。 いや、目もおかしい。視界がぐるぐると回り、天と地が交互にクレマンティーヌへと迫ってくる。 人質を取る為の初動に遅れたせいで、もう一人の女は潮が先にこれを守るよう側へと。 クレマンティーヌの視界に、足元の地面を砕き、その欠片を手に持つヤモリの姿が見えた。 『それだ!』 一瞬で意図を察したクレマンティーヌは、いきなりその場から背を向けて逃げ出す。 潮もやっていたが、平衡感覚が狂った程度ならば何度も経験があるし、そのままで動く術もクレマンティーヌは心得ている。いや普通は絶対に無理なのだが。 同時にヤモリも少年、光宗を抱えたままクレマンティーヌとは逆方向に逃げる。 光宗の居るヤモリの方を追いかけようとした潮は、しかしその場を動けず。 逃げながらクレマンティーヌが短刀を棒立ちの女に投げつけたからだ。 ほぼ同時に、ヤモリも手にした瓦礫を女に投げつけ、潮の足止めをしながら二人は互いを庇い合うように投擲で援護しながら距離を取る。 このままでは逃げられる。 そう思った潮は、躊躇無く手にした獣の槍を投げつけた。 これを手にした時から潮は豹変した。 そういった武具であり武具にこそこの強大な力の理由があるとヤモリもクレマンティーヌも考えていたので、まさか投げるのは予想外だ。 「ヤモリ上!」 クレマンティーヌの叫びに、ヤモリは頭上を見上げる。すぐに人質を投げ捨て、高く高くに跳躍する。 クレマンティーヌは指示だけして自分は逃走、ヤモリは頭上を走っていた陸橋状になっている連絡通路に飛び乗ると、これで潮の視界から逃れながら何とか逃げ出す事に成功した。 太郎丸は鼻が効く。 だから、灰原哀が例え上手くキリオを誤魔化せたとしても、太郎丸は誤魔化せなかった。 キリオが白楼閣の風呂場前に居る間に、太郎丸はとことこと白楼閣の外へ、そして哀の居る家の玄関前にちょこんと座る。 だが、そこで哀が風呂に入ってしまった為、臭いが変わってしまった。それに太郎丸は気付けない。 なので何時までも出て来ない哀の臭いを延々待つ事に。哀はとうに裏口から出ていってしまっている。 そして太郎丸は、その気配に獣の感性で気付いた。 「あら、野良犬もいるのね」 そんな暢気な言葉に、太郎丸は決して騙されない。これでもかのゾンビパンデミックを途中まで生き抜いた猛者であるのだ。 現れた女へ、唸り威嚇する。そう、猛者であっても限界はある。真に賢い犬ならば、彼女、斗和子の姿を、いや気配を感じ取っただけで逃げ出している所だ。 斗和子は、そんな蛮勇を愛おしげに眺め、手を伸ばす。太郎丸はその腕に、犬史に残る程の勇敢さと共に噛み付いた。 「所詮ケモノねぇ」 落胆を顕にする斗和子。斗和子の本質を察するぐらい賢い犬ならば何かに使えるかもと思っていたのだが、やはりノラにそんな賢さは無理があるらしい。 さっさと殺すか、と手を下しかけてはたと止める。 「ん? これ、何かしら?」 斗和子は自らの噛み付かれた傷口を見る。当然、速攻治っているのだが、どうにも傷口に違和感がある。 自分の脳に片っ端から放り込んだ知識を総動員してこの事象を思い出し、斗和子は検索の途中で先ほど出会った少女の言葉を思い出した。 「あら、まあ。もしかして、コレ、あの娘が言ってた細菌かしら」 あらあら、と斗和子の顔が歪んでいく。当人めちゃくちゃ楽しそうな、回りからは美人が粉々になるので是非やめて欲しいと思うような笑顔だ。 「思いつきも馬鹿にならないわね。これは楽しい事になりそう……ねえワンちゃん、すこおおおおおし、おねえさんが手を加えるけど、いいわよね?」 自らの体内に侵入した細菌、これを体内で隔離し、培養し、ちょこっと手を加えてみる。 とはいえ専用の器具も無しでは大した事は出来ない。せいぜい、発症を早める程度だ。 魔術的な手を加えるにも、流石に自分の体内だけでは如何ともしがたいし、コレだけでも人間相手なら充分効果を持ちえよう。 まるでヒトの悪意を凝縮したかのような細胞だ、と斗和子は上機嫌である。 この細菌を再び太郎丸に送り込む。イマイチ反応が悪い。 ちなみに送り込む手法は、斗和子の指先を切って、そこから滴る血を太郎丸に飲ませるといった方法である。無論、太郎丸に抵抗なぞ出来るはずもない。 「あら? この子抗体出来かけてる? もう、仕方ないわねぇ……」 培養の量が足りていない。まあ、惜しむものでもないかと培養した分全てを太郎丸に突っ込んでやる。 「さてさて、じゃあ本来の目的を果たすとしましょうか。この白楼閣とやらには、誰か居てくれるのかしらねぇ」 楽しい事があるといいな、的な斗和子の微笑みは、彼女の本性を知らない者が見れば、きっと可愛らしいと思ってくれるようなものであった。 獣の槍を見送った後、キリオと哀は再び情報交換の為屋内へと戻った。 そこに、何処に行っていたか太郎丸が戻って来た。 キリオと哀の姿を見るなり、勢い良くこちらに駆けてくる太郎丸。 「おっと、何処行ってたんだよ。もう、仕方が無い……」 そのまま、太郎丸は、キリオの腕に噛み付いた。 「わっ」 こんな子犬に噛まれた所で大して痛いわけでもない、キリオは、こらこら、と太郎丸の首裏を掴んで引き剥がそうとして、噛まれた腕が信じられないぐらい痛い事に気付く。 これは怪我の痛さではない、何か、刺激物を流し込まれている。 そう察した瞬間、キリオは本気で腕を振り回して太郎丸を引き剥がす。 「哀ちゃん下がって! これは……」 そこまで言った所で、急速にキリオの意識が失われていく。 腕はもう上がらなくなるぐらい痛くて、腕からじわじわと広がるように、全身が熱くなってきている。 それでも、太郎丸を放置したらマズイ、その一心でキリオは法術を練る。 間に合わない、キリオは動かぬ体を引きずり、無理矢理起こして哀への盾とする。そんなキリオの脇の下からにょきっと哀は腕を伸ばす。 その先に握られているのは銃。哀は引き金を引くに躊躇とかそういったものを一切感じさせなかった。 五発目でようやく仕留めた哀は、すぐにキリオをその場に寝かせ、噛まれた傷口を確認しつつ、キリオに自覚症状を尋ねる。 「キリオ、信じられないかもしれないけど、私はこれでも薬学はそれなりに修めてるの。それは感染症の疑いがある。私の言ってる事、わかる?」 「……うん、やっぱり、君、凄い子なんだね……コレ、治せ、そう? 体中熱っぽくて、噛まれた場所は物凄い、痛い。我慢は出来るけどさっ」 「わからないわ。菌が特定出来なければ抗生物質は使えないし……とりあえず近場にあるらしい病院へ行きましょう。対症療法で凌いで後は貴方の体力任せってのも、解決策ではあるんだから」 苦笑するキリオ。 「……君は、色々と正直、なんだね……いいよ、任せる。大丈夫、歩く、ぐらいなら……」 キリオは哀に肩を貸してもらいながら歩き出す。 哀は、キリオが自身を庇おうとしてくれた事に気付いていた。 それで全てを信じる程単純でもないが、この子を見捨てないよう全力を尽くす理由ぐらいにはなる。 哀は途中で撃ち殺した太郎丸の死体を、いらない袋に包んだ後自分のバッグに放り込んでいた。 感染症を疑い即座に太郎丸を撃ち殺した事といい、今こうして太郎丸の死体を確保した事といい、確かに、彼女の動きは医者かその類のものに見える。 哀によりかかって移動しながら、キリオはぼんやりと考える。 『人って、見かけによらないもんなんだなぁ』 斗和子はしみじみと述べる。 「キリオって、どんだけ私の事好きなのかしら」 白楼閣の上の方の階から嫌な気配がするから何事かと隠れてみれば、いきなり白楼閣から獣の槍がすっ飛んでいった。 しかもこれを放ったのは誰あろう引狭霧雄ではないか。 もしキリオが獣の槍を持ったままだったなら、無用心に斗和子が白楼閣に入っていたらたちどころに見つかっていただろう。 獣の槍には同じバケモノを感知する能力があるのだから。 後ついでに今の体力だと、キリオが相手では速攻でヤられていたかもしれない。 まあキリオを上手くいなすぐらいは出来たと思うが、それでも我が身の幸運を思わずにはいられない。 ここまで運が良いんなら、もしかしたら上手く行くかも程度で太郎丸を放ってみたら、それこそわざとやってるのかと思う程ものの見事に食らってくれた。 大笑いしたいのが半分、ああまで鍛えてやったのにこの程度かわせないのか、というのが半分だ。 多分、キリオにとって自分は天敵の類に当るのだろう、と斗和子はそんな愚にもつかない事を考える。 どうやらキリオとガールフレンドはそのまま病院に向かうようだ。 なら放置で構わない。キリオがゾンビになったらどんな顔してるのかに多少の興味があったが、まあ其の程度だ。 きっとキリオは斗和子の顔を見たら、隠し切れぬ動揺を見せるだろう。 だが斗和子の方はといえば、まあ上記の程度だ。 「親と子って、一方的に子供が不利なんじゃないかしら?」 その不利を埋めてあまりある親の愛情とやらに心当たりの無い斗和子は、そう思えてならない。 「ねえ、キリオ。もし何かの間違いで生き残ったなら、そのガールフレンド、ママに紹介しに来なさいねぇ。そこから持ち直せたならきっとその娘、何かの役に立つでしょうし」 だが、斗和子にもほんの少しの親っぽい影響が残っていた。 彼女はまだ、キリオは親の言う事を聞く、と思っているフシがあるのだから。 「ちくしょおおおおおおおお!!」 怒りの声と共に、ひざまづいた潮はアスファルトを殴りつける。 潮は大急ぎで捨てられた人質を確認したが、既に彼は首をへし折られ死んだ後であった。 彼の目に残る涙の跡は、この世の無常を呪って死んだ証であろうか。 彼を抱え潮は、戦闘中もずっと道路のど真ん中でつっ立ったままであった女性の下に向かう。 彼女は両手を前に突き出したまま、右に左にふらふらと揺れていた。 「お、おねえちゃん、も、もうアイツ等おっぱらったから、そ、その、だい……」 大丈夫、なんて言葉を潮は今の彼女を前に口に出来ない。 女性は潮の声をきくと、意外にもしっかりとした声を返して来た。 「あ、あの。それは、貴殿がそうされたのか? あのバケモノ達を、貴殿が撃退したと?」 「あ、ああ、そうさ! だからもうアイツ等はこっちに来ない! そ、それに俺が二度とおねえちゃんに近づけたりしない!」 彼女は、その声の調子からとても驚いているように聞こえた。 「それは凄い……さぞや高名な戦士殿なのであろう。私の名はダクネス、お名前をお聞きしてもよろしいか?」 「お、俺? 俺は潮、蒼月潮ってんだ」 「ウシオ殿か、一つ、その、聞きたいのだが……ミツムネは、私と共にいた少年は……」 「……ごめん。もう……」 やはり声でわかる。彼女はひどく落胆しているようだったが、それでも元気な声を出そうとしているようだ。 「い、いや、貴殿が謝ることではない。ああ、その、何だ、私は今とても恥ずかしい格好をしていると思うんだが……申し訳無いのだが、目が見えなくてな。自分がどんなありさまなのか自分では良くわからないんだ」 潮はその言葉に胸を突かれたように仰け反る。 「貴殿のような勇者に、このような事を頼むのは気が引けてならないのだが……その、ここは外か? で、あれば、その、何処か屋内に……案内をしてもらえない、だろうか。歩くのはどうにか、自分で出来ると思うから」 大慌てで潮は言う。 「気なんて引けなくていい! 何でも言ってよおねえちゃん! 俺で出来る事なら何でもするよ! えっと、何処か、建物の中に入ればいいの!?」 そう言いながらも潮はダクネスの手を取るような真似が出来ない。あの手を取ったら彼女が滅茶苦茶痛がるだろうと思えるから。 「こ、こっちだよ! そ、その、俺が抱えようか!?」 「ははは、そこまでは流石にな。気恥ずかしいのもあるが……その、今は、風が吹くだけでも全身が痛くて……」 そうだろう、と即座に思う潮。体中の何処に触れようと怪我に触れずにはおれぬような状態であるのだから。 「そ、そっか。こ、こっちだよおねえちゃん! こっちだ! こっちの建物なら風なんて吹いてないさ!」 潮の誘導によろよろとダクネスは移動を始める。足元が覚束ないのは、彼女の踵に深く刻まれた傷のせいであろう。 それでもダクネスは進む。彼女が手を前に伸ばすのは、前が見えぬまま進むのが怖いせいだと、潮はダクネスが建物に入る間近になってようやく気付けた。 建物に入ると、ダクネスは上機嫌に言った。 「おお、風が無いと随分楽になる。すまない、本当に助かった」 「こんな事でいいんなら幾らでもするさ! な、なあ、他に何か無い!? あ、そうだ! 椅子とか座るのはどう!?」 そこで初めてダクネスは表情を変えたのだが、顔に刻まれた傷跡のせいかそれが潮へと伝わる事は無かった。 「……いや、座るのは、痛いんだ」 「そ、そっか。じゃあ横になるのも……つ、つらい?」 「ああ、だがな、私はもともとクルセイダーだからな、立ちっぱなしにもそれほど抵抗は無い」 ふう、とダクネスは息を吐いた後、きっぱりとした口調で言った。 「なあ、ウシオ殿。私はもうこれで充分だ、貴殿はそろそろここを発ってはどうだ?」 「え? な、何を……」 「貴殿程の勇者が、最早戦力たりえぬ怪我人を気にしているべきではない。あの二人、そして他にもいるだろう暴虐の徒を止める為にこそ、貴殿の力は振るわれるべきであろう」 「そ! そんな事!」 「まあ、とはいえ私も痛いのは嫌……嫌? でもない部分はあるかもしれないが、この痛さは流石に嫌だなぁ……ま、まあともかく、もし少しでも気にかけてくれるというのであれば、ここに来ているはずのアクアという少女に私がここで怪我をしていると伝えてもらえればありがたい。もちろん見つけたらで構わないから」 「駄目だ! こんな状態のおねえちゃん置いて何処にも行けるもんか!」 ダクネスの声が、心なしか優しげなものへと変わった気がする。 「そうか……だが、アクアをもし見つけてくれれば、彼女の治癒魔法は強力だからな、私のこの怪我もたちどころに治ってしまうだろう。なあ、彼女を見つける為、でもいいから、どうか貴殿程の戦士が戦いではなく看護に回るなんて事を言わないでくれ」 ましてや、と続いた言葉に、彼女の正直すぎる真意が込められていた。 「私の不覚のせいで貴殿程の戦士が前線落ちするなぞ……これでも、貴殿には大いに劣るが私もクルセイダーのはしくれだ。人を守る事こそ我が使命なのだ。だからどうか貴殿のその力、まだ見ぬ誰かの為に使ってはくれまいか」 潮は、それでも首を立てには振れない。 「そんな、そんな怪我してるおねえちゃんをほおってなんておけないよ……」 「……まったく、貴殿は剛勇の徒とは思えぬ、心優しき人なのだな……では、一つ、頼まれてもらえないだろうか?」 「な、何!? 何でも言ってよ!」 「食事を、食べさせてもらえないだろうか。食べるだけ食べて体力を付ければ、このまま一日でも二日でも持たせられるだろう。後は貴殿がアクアに私の事を伝えてくれればそれでどうにかなる。どうだ? これなら貴殿も納得出来よう」 「うん、わかった! その……本当に、だい、だいじょうぶ、なの?」 「ああ、もちろんだとも。私は攻撃はからっきしだが、耐えるのだけは得意なのだからな」 大丈夫な訳はないのだが、ダクネスは自分をすら騙す勢いで力を込めてこの言葉を発し、その強い意志は潮にも伝わってくれるだろう。 潮は大急ぎでバッグから食料を取り出す。とりあえず食べさせ易いものを、という事で、水色の帯が入った袋のこっぺぱんを取り出す。 ピーナッツクリームのもので、甘くておいしいだろう、と思って潮なりに選んだ結果だ。 これを、袋から出してダクネスの口元へと持っていってやる。 口回りだけはあまり損傷が無かったので、口を開く事にはそれほど抵抗がないダクネスは、少し照れくさそうにしながら一口ぱくり。 「ん? んん? んんん!? これはパンか!? いやこれ本当にパンか!? ふわっふわすぎてびっくりした!」 「え! おねえちゃんコッペパン嫌だった!?」 「い、いやいやいやいや、コッペパンというのか。とてもおいしい、おいしすぎだ、こんなふわっふわなパンで、しかも中の甘味はこれかなり高級なものなのではないか!?」 「え? そんな高いものじゃなかったと思うけど……でも、気に入ったんなら他のコッペパンも全部あげるよ! 俺のバッグの中身こればっかりだったんだ!」 「おおっ、それは嬉しいな。こんなふわふわのパンなら幾らでも入りそうだ」 和気藹々、そんな雰囲気を作り出せたのは、一重にダクネスの意思の強さ故だろう。 部屋の中にはダクネスの体表から漂う血臭が溜まり、パンを食べるという所作だけでもダクネスの全身に痺れるような痛みが走っているのだから。 だが、ダクネスは決してそれを表には出さない。これが死に至る症状なのかすらわからないが、例えそうだとしてもダクネスはやはり耐えただろう。 ダクネスの心にあるのはただ一つ。この優れた戦士を、心優しい勇者を、如何に気持ちよくここから送り出してやるかだけなのだから。 体育座りに地べたに座るクレマンティーヌを見て、ヤモリは処置無しだと肩をすくめる。 クレマンティーヌは見るからに陰に篭っている。あの槍の子供にやられたのがよほど応えたようだ。 ヤモリはまだ、絶対的強者とでもいうか、自分では決して届かぬだろう高みを見た事があったので、クレマンティーヌ程の衝撃はない。 「しかし、槍一本で何が変わるってんだか。ありゃ一体何者だよ」 クレマンティーヌからの返事は無い。いや、それからかなり経ってから、返事が来た。 「……ねえ、アンタもアイツが何者か知らないの?」 あまりに時間が空きすぎたせいで、ヤモリは缶コーヒーを二本程あけてしまっている。 「あん? ああ、あの槍のガキな。知るわけねーだろ、知ってりゃ即座に逃げを打ってた」 彼女はやはり陰に篭った調子で、虚空を睨み続ける。 「逃げる? 冗談じゃないわよ……このクレマンティーヌ様が、どうしてあんなガキ相手に逃げ回らなきゃならないのよ。絶対に、あのガキぶっ殺してやるわ……」 はぁ? と鼻で笑うヤモリ。 「どうやってだよ。二人揃ってボロ負けしといて無策に突っ込むなんざごめんだぜ」 「装備揃える。昔の装備揃ってたらこうまでコケにされる事も無かったのに……チクショウ、覚えてなさいよ。アンタの強さは体で覚えた、後は見合う戦力揃えるだけよ。アタシを逃がした事、死ぬ程後悔させてから殺してやる」 ほう、と感心したようにヤモリ。ヤケになってるようで、かなり冷静に事態を受け止めているクレマンティーヌを少し見直したのだ。 「勝ち目があるってんなら俺も乗ってやるがな。んじゃしばらくお遊びは無しか?」 クレマンティーヌは至極真顔のまま答えた。 「それはそれ、これはこれよ」 光宗の遺体は、潮によって屋内のソファーに横たえられてあった。 彼が抱えた問題、苦悩、責任、いろいろなものがあっただろう。 それらは全て、嵐のような悪意に飲み込まれ、消えていった。 抗う術は、彼の手には残されていなかった。 運の良し悪しで言うのなら、彼はここに招かれた時点で既に、金曜を通り越し土曜日を迎えていたという事なのだろう。 【光宗@迷家-マヨイガ-】死亡 残り59名 【C-7/早朝】 【ヤモリ@東京喰種】 [状態]:健康(怪我は再生した) [装備]:なし [道具]:支給品一式×2、ワルサーP99(残り19発)、ランダム支給品1~3 [思考・行動] 基本方針:カネキで遊ぶため探す。主催は殺す。 1:あんていくに向かい、カネキを探す。 2:クレマンティーヌと同行し一緒に人を殺して回る。 ※喰種だということを周りに話していません。 【クレマンティーヌ@オーバーロード】 [状態]:活動するにあたってはやせ我慢が必要なぐらいの怪我(HP半減程度) [装備]:サソリ1/56@東京喰種×46 [道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2 [思考・行動] 基本方針: 1;槍の小僧を、戦力を揃えて殺す。 1:ヤモリと同行して一緒に人を殺して回る。 ※彼女が現状をどう捉えているかの描写はまだありません。 【B-7/早朝】 【蒼月潮@うしおととら】 [状態]:健康、絶望 [装備]:獣の槍@うしおととら [道具]:支給品一式、不明支給品(獣の槍ではない)、キリオの帽子 [思考・行動] 基本方針: 1:ダクネスのおねえちゃんを保護する。 2:流兄ちゃんに会いたい。 ※33話で獣の槍が砕け散って海中に沈んだところからの参戦。 ※『秋葉流』の名前以外は確認していません。 【ダクネス@この素晴らしい世界に祝福を!】 [状態]:精緻な描写は避けるが生きてるのが不思議なレベルの重傷。ダクネスが人並みはずれてタフな為耳と口は通常通り機能していて、足も辛うじて。それ以外は全部まともに動かせない。 [装備]:無し [道具]:無し [思考・行動] 基本方針:仲間を集めてダーハラを倒す 1:ウシオを自分に気兼ねなく戦いの場に赴くよう説得する。 ※異世界の存在を認識しました。 【B-2/早朝】 【灰原哀@名探偵コナン】 [状態]:健康、強い警戒心 [装備]:なし [道具]:支給品一式、サイレンサー付きベレッタM92(12+1)@名探偵コナン、不明支給品1~2 太郎丸の射殺死体@がっこうぐらし! [思考・行動] 基本方針: 1:病院に行き、キリオの治療を行う。 2:あの時助けてくれた黒尽くめの男の名前が知りたい。 ※現時点で判明している警戒対象:『ジン』(知っているな名前の中で一番)、『ハク』(見知らぬ名前の中で一番)、『引狭霧雄』 【引狭霧雄@うしおととら】 [状態]:ゾンビ化ウィルス感染中につき、全身に強い発熱と患部の腕に激しい痛み [装備]: [道具]:支給品一式 [思考・行動] 基本方針:蟲毒の儀の打破。 1:とりあえずは哀に任せる。 2:なんで声が似ていると思ったんだろう。 ※過去から現代に戻ってきたところより参戦。 【B-2白楼閣/早朝】 【斗和子@うしおととら】 [状態]:大~中程度の消耗 [装備]: [道具]:支給品一式、鉄扇@うたわれるもの 偽りの仮面、『永』の字が刻まれた石鏡@名探偵コナン、青酸カリ@名探偵コナン [思考・行動] 基本方針:蒼月潮の抹殺(+獣の槍の破壊)。 1:蒼月潮を殺してくれる人間を探す(もしも殺し合いに否定的なら生け捕りを持ちかける)。 2:光覇明宗の狙いを探る。 3:ある程度回復するまで流達と行動を共にして扇動に専念する。 ※死ぬ直前からの参戦。 ※流から自分が死んでからの経緯を聞きました。 ※アインズ、アインズを主と仰ぐ集団を要注意人物として認識しています。 【C-2/早朝】 【西住まほ@ガールズ パンツァー】 [状態]:健康、疲労(小)、BT-42運転中 [装備]:BT-42@ガールズ パンツァー [道具]:支給品一式、不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:脱出。 1:ナンコと一松と合流して501JFW基地へ向かう。 2:みほやエリカと出来るだけ早く合流したい。 3:斗和子とはナンコ、一松を拾った後、白楼閣で合流予定。 ※最終話以降からの参戦。 ※潮、とら、紅煉、灰原、アインズ、アインズを主と仰ぐ集団を要注意人物として認識しています。 時系列順で読む Back 最近の女子高生 Next 金色の獣と黒き獣 投下順で読む Back 最近の女子高生 Next 金色の獣と黒き獣 029 快楽殺人者との付き合い方あれこれ ヤモリ 057 好意には友愛を、敵意には報いを クレマンティーヌ 007 まっくら森の歌 蒼月潮 053 くっ殺(ガチ) 019 月曜日、めでたく生まれたよ ダクネス 光宗 GAME OVER 014 魂のルフラン 灰原哀 054 ドクター・アイとゾンビ化ウィルス 引狭霧雄 033 Resolusion 西住まほ 斗和子 055 TATARI
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/6552.html
登録日:2012/02/02(木) 02 13 42 更新日:2023/01/14 Sat 18 30 39NEW! 所要時間:約 2 分で読めます ▽タグ一覧 うしおととら くらぎ 反射 囮 妖怪 妖逆門 甲斐田裕子 白面の者 眩偽 眷属 藤田和日郎 虫 我は、白面の御方の分身くらぎ! 昏き処より来りて人間どもを昏き処に引きずり込まん。 くらぎとはうしおととらに登場する妖怪。 CV:甲斐田裕子 ●概要 白面の者の尾の一つが変化した分身。 カミキリムシとカマキリが混ざった巨大な虫のような姿をしており、空中を泳ぐように動く。 髪の毛のような触覚も特徴。 外から受けたあらゆる力を跳ね返す反射能力を持ち、前足による斬撃を得意とする。 他にも触覚を枝分かれさせた上で硬化させて鋭利な無数の棘にする事もできる。 特に反射能力は圧巻で二百人以上の法力僧が全力で放った不動縛界「月輪の陣」を難なく反射し、修行前の潮と獣の槍の一撃すら跳ね返し無傷なほど。 …と白面の者の眷属だけあって非常に強力な妖怪なのだが扱いはやや不遇。 そもそもコイツの真の役割はエルザールの鎌を活躍させて光覇明宗に「量産も可能なこの鎌と使い手のキリオさえあれば獣の槍や潮など不要!」と錯覚させ、内部分裂を引き起こすための呼び水である。 一応作戦の段階ではある程度戦ったら逃げ帰る露骨な八百長をする算段(*1)であったが、日崎御門を舐めていたのが運の尽き。八百長する前に瀕死に追い込まれ、僅か数話で退場してしまった。 …が、それでもキリオの強さを光覇明宗に錯覚させ、ついでに指導者であった日崎御門も道連れにしたことで内部分裂を引き起こさせるという最低限の任務は達成。 例えあっさり倒されても、ただでは死なない白面の眷属特有の厄介さを見せつけた。 後に白面の計画を見破った蒼月紫暮はくらぎの真の名前は「眩偽」ではないかと推察している。 ●主な活躍 初登場は第二十七章「四人目のキリオ」 何の前触れも無く光覇明宗の総本山の結界を破って襲撃し、壊滅状態にまで追いこむ。 この時は、口の下に、女性の顔と胸があった。 潮が来るまでの時間稼ぎとして、二百人以上の法力僧から不動縛界「月輪の陣」をかけられ動けなくなるもこれはわざとくらったに過ぎず、潮が到着した後、上記の反射能力で跳ね返し、逆に動けなくしてしまう。 潮の攻撃も、獣の槍があればどんな相手でも大丈夫と油断していたことも有り、反射能力でことごとく跳ね返し、法力僧共々殺そうとするが、二代目お役目様日崎御門の結界により防がれる。 御門の存在を「ただの老いぼれ」と油断し、結界を力尽くで破ろうとするも、御門の命を賭して放たれた結界を口の中に受けて、内部から破壊され沈黙。 最後はキリオのエレザールの鎌に切り裂かれ爆散する。 第二十八章「檄召〜獣の槍破壊のこと」において実は、白面の者の獣の槍破壊のために、キリオを活躍させるための囮役だったことが判明する。 上記の女性の部分は、内部に潜んでいた別の分身斗和子のものであった。 その後は白面の者の回想で登場、自分を追ってくる獣の槍に対して放たれるも一瞬で倒されてしまう。 白面の者復活の際に尾一つが変化する形で復活、火の兄(西)を切り裂き倒してしまう。 その後、再度合体して復活した火の兄を斗和子ともに法力僧の張る結界に投げつけて完全崩壊させた。 獣の槍の復活後は、潮に体を切り裂かれた後、頭を真っ二つにされ倒された。 ●余談 藤田和日郎がキャラクターデザイン・原案を担当した妖逆門にも登場する。 追記・修正お願いします △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 初登場・再登場、微妙な扱い。 -- 名無しさん (2013-09-14 04 20 44) 妖逆門にもでてたな -- 名無しさん (2015-01-06 20 41 35) 分身達を白面の象徴として捉えると、コイツは白面の第一印象を象徴してるのかも知れない。自分に逆らう連中を叩き潰し、自分を滅ぼそうとする者を寄せ付けない力を持つ存在。しかし、その第一印象に眩み、偽せられる形で、本心である『誰かに愛されたい(それの象徴が斗和子)』は隠されてしまう。正に『眩偽』である。 -- 名無しさん (2015-11-21 11 34 24) 名前 コメント