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敗戦処理 読んで字のごとく、大量ビハインドで負けが濃厚なときに出てくる中継ぎ投手のこと。 英語ではモップアップマン(mop up man)、モップアッパー(mop upper)。意味はモップがけをする人のこと。転じて「試合の後始末をする投手」を指すようになった。 主にルーキーの初登板や、二軍から上がってきた投手の試験場として活用される。また登板間隔のあいたセットアッパーや抑えが登板することも。その場合、実況スレでは俗に「虫干し」と呼ぶ。 負け試合の片付けとはいえ、「これ以上試合を壊さないこと」「他のリリーフ陣を休ませること」が求められる。そして若手にとっては数少ない実力アピールの場。あたやおろそかにはできない仕事である。 ごくごくまれに、味方打線が爆発して勝ち星が転がり込むことも。本当にごくまれな話だけど。 また、大量リードのときに「先発投手、及び僅差用リリーフ投手の消耗を抑える」という目的で登板する、いわば「勝戦処理」の中継ぎ投手もいる。主に敗戦処理担当が兼任していることが多いが、一応は勝ち試合に登場しているため、敗戦処理の専任より信頼度は高め。ここで結果を出せば「僅差要員」への昇格の道が拓けることも。 創設当初から層が薄く、使える投手が限られていた楽天では、敗戦処理もセットアッパーも関係ない起用法が多かった。 しかし投手陣の整備が進み、(瞬間的にでも)安定した勝ち継投が存在する近年では役割分担がはっきりしてきている。 かつての代表的な存在は松本輝。 関連語 【袖達】
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敗戦続き 果てなき運命 COMMAND C-65 赤 1-2-0 C (自軍戦闘フェイズ):敵軍ユニット1枚をロールする。そのユニットは、次のターンのリロールフェイズの規定の効果でリロールしない。
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――intermezzo:キョンの自宅前 「……ふう」 「お帰りなさい。ずいぶんおそいのね」 「な!?」 「そんなに身構えないでほしいな。あたしにはもうあなたを殺す理由なんてないんだから。殺さない理由ならいくらでもできたんだけど?」 「……なんでお前がここにいるんだ? 朝倉」 「長門さんに呼び出されたのよ。宇宙的危機っていうことでね」 「長門? 危機? どういうことだ」 「簡単な話よ。あなたと泉さんの関係を涼宮さんがしってしまっただけの話」 「――っ!」 「そう。これで二度目よね。一度目の時――あなたが泉さんとの交際を公表した時も、大惨事になりかけたんですってね? あの時は長門さんの記憶制御が間に合ったおかげで事無きを得た。その後、あなたは涼宮さんに隠れるように泉さんと付き合い、長門さんは喜緑さんと協力してあなたと泉さんの関係を涼宮さんに知られないようにマスクし続けた」 「……」 「涼宮さんにとって、あなたが泉さんを受け入れたのは本当にショックだったみたいね。長門さんの記憶操作が間に合っていなかったら、全宇宙は今頃灰すら残らず消えていたでしょうね――そんな危険な状況なのに、涼宮さんに嘘をついてまで泉さんと付き合い続けた。それは――」 「もういい、わかったからやめろ」 「――単純なこと。あなたが泉さんを受け入れたという事実そのものが涼宮さんにとってはショックだったのよ。あなたが泉さんと別れたからといって解決する問題じゃなかったの。だから、あなたは涼宮さんに隠れて付き合い続けた。どちらを選んでも待っているものが破滅なら、せめて泉さんを悲しませないようにって――よく三か月も隠し通せたものね。流石長門さんと喜緑さんだわ」 「やめろって言ってるだろ!」 「うん。それ無理。だってあたしは自分の持つ情報とあなたの持つ情報のズレを確認しなくちゃいけないもの。どうやらここまでは情報の齟齬がないようね。 それじゃ聞くわ。あなたが涼宮さんじゃなく泉さんを意識するようになったのはいつ頃?」 「それを聞いてどうするつもりだ?」 「今回のカタストロフを回避するために重要な鍵なの。時間がないわ。急いで」 「……よく覚えてない。ただ、一年の二学期が終わる頃だったように思う」 「ふーん。なるほどね。それじゃ、次の質問。告白はどっちから?」 「俺からだ。文句あるのか?」 「ないわよ。そしたら次の質問。あなた、泉さんと付き合うようになって楽しかった?」 「そんなこと自分で考えろよ」 「わからないのよ。あたしには有機生命体の恋愛感情を理解するプログラムがないからね」 「……楽しいわけないに決まっているだろ? 仲間と恋人に嘘ついてるんだ」 「そう。ま、あなた、最近特に無愛想になっていたらしいからね。それじゃ、最後の質問。もし仮に――涼宮さんの方が気になっていたら告白していた?」 「――どうだろうな。今となっては想像すらできん」 「そう。これで情報は揃ったわ。ありがとう」 「おい朝倉! ハルヒをどうするつもりだ? 俺には何かできないのか?」 「涼宮さんに危害を加えることはないわ。あと、あなたにできることはもう何もな――そうね。どうしても手伝いたいんなら今日は早めに寝てくれないかな? うまくすればそれで涼宮さんの空間に入れるかもだし」 「解った」 「それじゃ、さよなら。あと、最後に言っておくわ。ごめんなさい」 「は? 待て朝倉、お前何する気だ!」 「……くそっ」 ――fine 敗戦Ⅸへ
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どれだけ泣いたかなんてもうわからない。涙なんかとっくに出しつくしてしまった。喉はがらがら。顔もきっと酷い事になってるわね。 「……」 どうでもいいか。もう髪を伸ばす努力、身だしなみ、何もかも意味がなくなったんだから。 伝票を取り部屋を出る。キョンはまだ中に居るのかしら? もう、怖くて確認する気にもなれなかった。 「あ、ありがとうございましたー」 会計を済ませて店を出る。もう夜もかなり遅い。横から射す明かりのが眩しく、ついそちらを向いてしまった。 駐輪場――見なければよかったと思った頃にはもう遅かった。 ――まだある。 ふらふらと、蛍光灯に吸い寄せられるように私は赤い自転車のそばに立った。 キョンの自転車、その後部の隅っこに彫った文字を眺める。 「ここは私の特等席だったはずなんだけどな……」 確か、ここに初めて乗ったのは……うん、覚えている。プールの時。あの時は有希も一緒だったわね。 キョンったらぶつくさ言いながら汗だくになって漕いでいたわ。あの時はとても、本当に楽しかったわ。 それから何度かキョンの後ろには乗せてもらったのよね。なんだかんだ言いながら、キョンったら後の私を気遣ってくれるのよ。 揺れないように慎重に運転してくれて、本当に優しいなと思ったのよ? それにキョンの肩、すごくしっかりしてて手を置きやすかったわ。 この自転車だけでも、キョンとの思い出がありすぎる。当然、それは教室も部室も同じ。町中だってそう。団の活動であちこち探索した。 ――この町に、キョンとの思い出がない場所なんてないのかもしれない。 「本当、しくじったなぁ……」 こんなことになるならキョンへの気持ちに気付いた瞬間に打ち明けておくべきだったわ。例えキョンに拒絶されたとしても今よりもきっと軽傷だったはず。 勇気が出なくて告白を保留し続けた結果がこれよ。その間に積もりに積もった思い出がざくざくと心を切り刻んでいる。 ――臆病者。卑怯者。お前なんかが泉こなたに嫉妬だなんて片腹痛いわ。 「解ってるわよそんなこと!」 思わず叫んだ。がらがらの声だった。 「そんなこと解ってる。悪いのは私……キョンも、それから泉こなたも悪くないのは解ってる。それでも納得できないの! 割り切れないのよ!」 誰に対して言い訳をしているのか、叫んでいる私が一番分かっていなかった。もう嫌。帰りたい。何もかも忘れて眠りたい。嗚咽が止まらなかった。 自動ドアが開く音が聞こえた。こんな姿、誰にも見られたくない。私は、奥の暗がりへと逃げ込んだ。 「……たく。こんな遅くまでアニメに夢中になりやがって」 「いつものことじゃん。それにキョンキョンだって見てたじゃないサ」 「最初から見てないから話なんてわからねえよ」 「ダイジョブダイジョブ。家に来ればみんな録画してあるヨ!」 「……お前の親父さん、俺を目の敵にしてる気がするんだが? 正直、お前の家には寄りたくねえ」 「とかなんとか言いつつ家まで送ってくれるキョンキョンでした」 「こんな時間に一人で帰らせるわけにはいかんからな。ほら、乗れよ」 「へへへ。あじゅじゅーっす旦那~」 「はいはいっと。じゃ、掴まってろよ?」 「さあ出発ザマスよ!」 「はいはい。行くでがんすよっと」 「フンガー!」 「一人二役かよ!?」 声が出ない。キョンの自転車がどんどん遠ざかっていく。私の出した手は中空をさ迷い、何も掴めない。脚が崩れ、その場にへたり込んでしまった。 「――」 なんであんな気軽にキョンの後に乗れるの? なんで私の思い出をあっさり潰してくれるの? 「――?」 頬にむずがゆい感触が走った。手で拭う。手のひらはぐっしょりと濡れていた。 「あ、あれ? なんで?」 もう涙は出しつくしたはず。それなのに枯れない。もう、いいのに。 「――痛い。痛すぎるよキョン……」 私の中の思いが壊されていく。大切だった、特別だったことがシャボン玉のように弾けて消えていく。 きっと、泉こなたは今のように、自覚することなく私とキョンとの思い出を次々と壊していくに違いない。だって、彼女は悪くないんだもの。 そう、彼女は悪くない。悪いのは私。でも、私は思い出を壊されるのに耐えられない。 「そうだ……」 ふと、頭に浮かんだ場所。私の中のキョンの、ある意味一番大切な思い出がある場所。最後にあそこへ行こう。 あれは夢の中の世界。だから、泉こなたには絶対に壊せない。あそこにいるのは、私だけのキョンなんだから。 立ち上がる。足取りはおぼつかない。私はただ、夜の校庭がどうしても見たかった。 敗戦Ⅷへ(正規) 翌日ifへ(非推奨)
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私に割り当てられた部屋はキョン達の入って行った部屋の隣だった。本当、皮肉だわ。 「……」 荷物を床に放り投げて浅いソファに身を投げ出す。手にはキョンが持って行ったのと同じ漫画……何やってるんだろう。私。 「……」 テレビの反対側、どうしても白い壁に目がいってしまう。駄目。これ以上踏み込んではいけない。 私はもう、これ以上知っちゃいけない。これ以上進んだら戻れなくなるわ。 「……」 漫画を置いて立ち上がる。気付いたら壁は目の前だった。仕方ないわよね。目の前にあるんだから。 私は壁に寄り掛かった。隣の部屋の音が聞こえてくる。聞きたくないのに。 『――ねえ、坊や。とりあえず、そこに跪きな――』 『――なこと言って――』 『――け』 なんなの? これはテレビ? リモコンを手繰り寄せザッピングする。ちがう。ニュースじゃない。ちがう。バラエティーでもない。 『了解、大尉はどういたしますか』 『護衛をつけて事務所へ戻る』 これだ。アニメじゃないの……そうだわ。たしか泉こなたの趣味だったはず。そう、キョン達もこれを見てるんだ。奇遇よね。 『またいつか会いましょうね。今度は二人で、ランチを持って』 『ああ。そいつは素敵だな。本当に素――』 隣の部屋と音は同期している。キョンと同じものを見ている。なのに、この虚無感はなに?どうして体がだるいの? 壁の向こうからはテレビの音しかしない。これじゃ、二人が何してるかなんてわからないじゃない。 「あ、そうだ」 お手洗いに出よう。ふと思った。その時キョンの部屋の前を通るはず。別に覗くつもりはないわ。けれど、見えちゃうものは仕方がないわよね。 ふらふらと壁から離れる。地球の重力ってこんなに軽かったかしら? ノブに手をかける。扉はスプリングのせいで重くなっていた。 ――intermezzo:長門宅 「お久しぶりね、長門さん。二度も消したあたしを呼び出すなんて、一体何があったのかしら?」 「涼宮ハルヒを中心とした極大規模の情報フレアの予兆が観測された」 「へえ、やっぱりこの帯電した空気はそれだったんだ。よかったじゃない。貴重データが観測できて上の方も大喜びでしょ?」 「そうではない。情報統合思念体は恐慌状態に陥っている」 「あら、どうして?」 「私と喜緑江美里とでフレアの規模を試算した。情報連結を申請する」 「はいはい、どうせあたしはあなたのバックアップ。どうせ拒否権なんかないんでしょ? 許可……と」 「――な、なにこれ。冗談でしょ? 桁を十二個ほど間違えてるんじゃないの!?」 「事実。現在観測されている情報フレアは、涼宮ハルヒからわずかに漏れ出しているものに過ぎない」 「そんな……! こんな規模の情報爆発が起こったらお終いよ!? 小さな水槽の中で核弾頭を起爆させるようなものよ! あたし達だけじゃない。この世のすべてが押し流されて消え去ることになるわ!」 「そう。だから私はあなたを呼び出した。あなたには私のバックアップとして従ってもらうことになる」 「……そうね。派閥とかに拘っている状況じゃないわね。……それで、あたしは何をすればいいのかしら?」 ――fine 敗戦Ⅵへ
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学校へと続く坂道を上がっていく。空は暗く、遠くにあるはずの校舎は真っ暗で見えない。振り返ってみる。ふもとは街頭で華やかに輝いていた。 まるで空の星がみんなあそこに降りちゃったみたいね。 「疲れたな……」 口にして驚いた。この坂道を駆け上がるのが日課だった。でも、疲れたなんて思うことなんて一度もなく、いつだって学校へと向かう足取りは軽かった。 ……なのに、どうして? 今はまるで鉛でも引き摺っているみたいに足が重いの? 「あ、そうかぁ……」 学校に行けばSOS団のみんなが居た。そしてキョンが居た。だから、私はいつもこの坂道を走って上れたのよね。 教室でキョンが来るのを待つのが楽しかった。授業中、キョンの背中を眺めているのが楽しかった。 SOS団で一緒に活動するのが楽しかった。有希はいつも本を読んでて、みくるちゃんはメイドさん。古泉君はいつもキョンとゲームをしてたわね。 本当、下校時刻なんか来なければいいと思ってた。高校生活がこんなに楽しくなるなんて、中学の時はこれっぽっちも想像できなかったもの。 「遠いなあ……」 楽しかった学校生活は今日で終わっちゃった。明日からは、周り全てがひっくり返ったかのような――ううん。ひっくり返ったのは私の心だけ。 それでもきっと辛くて、痛い。 今まではキョンの何気ない優しさを期待した。そして色々と希望を持てた。でも、明日からはダメ。キョンの優しさも、昨日と変わらない空気も、私にとっては絶望でしかなくなるの。私にとって楽園だった場所は、地獄へと変わってしまった。本当なら行きたくない。もう、生きたいとも思わない。 それでも、学校に行きたかった。夜の校舎。あの、青い巨人とキョンしかいない夢で見た場所。あそこなら、あれに近いところなら逢えるかもしれない。 泉こなたのものではなく、私だけのキョンに。 「どうしようかなぁ……」 楽しかった記憶。その殆どがキョン。そして、SOS団のみんな――有希にみくるちゃん、古泉君で出来ていた。 キョンは、もうSOS団から解放してあげた方がいいのかもしれない。その方がキョンにとっても泉こなたにとっても都合がいいでしょうし、正直に言えば、キョンの顔を見るのはもう耐えられない。 でも、キョンが居ないSOS団って何? 思い浮かべてみる。私はSOS団のアクセルで、キョンはブレーキだった。 キョンがいたから私はどこまでも思い通りに突き進むことができたし、だから私たちはいいコンビだと勝手に思ってたの。 キョンの抜けたSOS団はブレーキの効かなくなった車みたいなもの。私、怖くてアクセルなんか踏めない。 解散。こんな二文字が私の脳裏をかすめた。――もうそれしかないのかもしれない。みんなには悪いけれど、私はもう、SOS団長をやれない。 有希はまた一人で文芸部を続けるのかな? あの子、確かキョンによく懐いてたはずだったわね。泉こなたの事をしったら悲しむかしら? みくるちゃんは涙目でオロオロしてそう。でも、鶴屋さんもいるし大丈夫よね。 古泉君は、きっと残念がるけれど、受け入れてくれるわ。 キョンは――どうだろう。喜ぶのかな? 泉こなたと過ごせる時間が増えるんだし、喜ばないわけがないわ。 ――嘘。キョンなら絶対に怒るはず。「お前が無理やり巻き込んでおいていきなり辞めるなんて無責任にも程があるぞ」とか説教してきそうね。 だってキョン、SOS団をすごく大切にしていたもん。だから有希はキョンに懐いたんだし、みくるちゃんも笑顔だったし、古泉君ともなんだかんだ言いながら友達やってた。そして、だから私も―― 「もういいわ」 もういい。もういいの。何をどうしても、私はもうあの二人の中に入っていけないと思っちゃったから。だからもういいの。 キョンが私じゃなくて泉こなたを選んだのが悔しい。キョンを独り占めしている泉こなたが羨ましい。 ――そして、自分からキョンを求めなかったくせに嫉妬している自分がとても醜く、すごく憎い。 それでもキョンに逢いたがっている浅ましい自分を止められない。本当、最悪よね。 校舎がぼんやりと見えた。あちこち歩き続けたせいでもう足はボロボロ。棒のようになってる。明日があるならきっと筋肉痛ね。どうでもいいわ。 あと少し頑張ろう。青い巨人と、私のキョンしかいない世界があるかもしれない。 やっと校門までたどり着いた。この先で待とう。私のキョンが来てくれるのを、いつまでも待とう。私は門へと近づいて行って―― 「涼宮ハルヒ。あなたを待っていた」 校門の陰から現れた人影に、驚いた。なんで有希がここにいるの? 目の前の有希はいつもと同じ人形みたいな表情で、私をしっかりと見据えていた。 敗戦Ⅹへ
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「ごゆっくりどうぞ―」 なんで私はここに居るんだろう? 伝票の入ったカゴがなんか重たい。とりあえず、荷物を置いてからキョンを探そう。 でも、見つけたとしてもなんて声をかければいいんだろう? そうね、「あれ、キョン。妹ちゃんの世話をしてたんじゃないの?」 こんなのはどうかしら。……わざとらし過ぎるわね。ここはストレートに「妹ちゃんダシに使ってサボってんじゃないわよこの馬鹿キョン! 罰として百回奢りだからね!」……うん。そうね。これで行きましょう。あんまり厳しく言いすぎて嫌われたらいやだからね。 本棚を抜けて部屋へと向かう。なんでキョンは私に嘘をついてまでして活動をサボったの? それがどうしても知りたかった。 「――あ」 居た。見間違えるはずがない。仏頂面で本棚とにらめっこしているのは間違いなくキョンだ。 「……」 声をかけなくてはいけない。けれど、胸が詰まって声が出てこない。何を言おう? どうやって声をかけよう? あまりにも真剣な表情のキョンに私は見とれていたのかもしれない。あ、一冊手に取った。あの漫画、面白いのかしら? ――駄目。駄目なのよ涼宮ハルヒ! しっかりしなさい! あんた、何の為にここまで来たの? 「……そうよね」 まずは声をかけなくちゃいけないわよね。何分こうしてキョンを見ていたのかはわからないけれど、これからも動きそうにない。 きっとひとりなんだわ。そうよ。誰かを連れているならキョンは待たせたりしないでさっさと行ってしまうはず。 ぐっと手を握る。息を吸って吐く。呼吸を整え、動揺が表に出ないよう、気をつけなさい。 「ねえ、キョ――」 「キョンキョンもー遅いよー!」 「ん? アニメは見終わったのか? こなた」 「今はCM中なのだ。 もー、早くきてよ。CMは一分しかないんだヨ?」 「……たく、どうせ親父さんが録画してるんだろ?」 「ちっちっち。こーいうのはライブ感が大事なんだよねー。わかってないなーキョンキョンは」 「わかったわかった。わかったから引っ張るなって!」 「――ン……」 え? 今の、何? キョンが居た。うん、それは理解している。キョンが誰かと話してた。うん、それも見ててわかった。でも、あれは誰? ううん、嘘。あれは誰だか、本当は知っている。泉こなた。隣のクラスで、キョンと付き合ってるっていう噂になっている子。 でも、わからない。 「なんでポニーテールなのよ……?」 思い出して見る。彼女は確か、うん。ちょっとクセのある長いストレートヘアーだったはず。それが何故かちょっとクセのあるポニーテールになっていた。どうして? “俺、実はポニーテール萌えなんだ” ――嫌だ。夢の中の話だけれど、あれはキョンが『私』に言ってくれた言葉なのよ。あんたに言ったんじゃないのよ? どうしてあんたなんかがキョンの趣味をしってるの? “似合ってるぞ” うん、これも覚えている。あの夢を見た日、ポニーを作ろうと頑張ったのよ。でも髪を短くしちゃったからポニーにならなくて、ただ一本にくくっただけの髪型になっちゃったの。それでもキョンは褒めてくれたじゃない。知ってる?私、今頑張って髪伸ばしてるのよ? もう一月もすれば、キョンの大好きなポニーテールだってできるんだから。 なんで、私じゃ駄目なの? ねえ、キョン? 私はただ、泉こなたに引っ張られて部屋へと入っていくキョンの後ろ姿を見つめることしかできなかった。 敗戦Ⅴへ
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「……」 ノブを離すと、扉は静かに閉まって行く。心臓がどくどくうるさい。寒くないのに体が震える。なんで、自分の部屋の前から動けないんだろう? 右に五歩も歩けばキョンの部屋の前に行ける。扉に嵌めこまれているガラスは擦りガラスじゃない。……普通のガラスね。 大きく部屋番号が書かれているけれど、外から簡単に覗くことができるわ。 大きく息を吸って吐く。もし、キョンたちが部屋であれやこれや……あんなことをしてたら、私はどうすればいいんだろう? 部屋に乗り込む? それ、いいかも。あの泥棒猫を始末しないと、私たちは幸せになれないの。 きっとキョンはあいつに騙されているだけなのよ。ポニーテールに誘惑されただけなのよ。何よ。私だってあと一か月もすればポニーにできるんだから。 「よしっ!」 パンと頬を叩いて喝を入れる。覚悟は決まったわ。私はキョンの部屋の扉へと向かう。 まってて、キョン。今すぐ、泉こなたの呪縛から解放してあげるから。私はガラス越しに部屋の中を伺い―― 「――嘘」 固めていた覚悟があっさりと崩れていくのを感じた。嘘。嘘よ。こんなの信じない。 目の前の光景を認められない。私は自分の部屋へと駆け戻った。 ――バタン。 ゆっくりと閉まろうとするドアが鬱陶しい。力を込めて思いっきり閉じた。 「はあっはぁっはっ」 隣の部屋の光景が網膜にこびりついている。誰もいないはずのソファに、キョンと泉こなたが座っているように思えた。 「はあぁ、はあ、あ……くっ」 大した運動なんかしてないのに胸が苦しい。なんで? どうして私がこんな思いをしなきゃいけないの? ソファを見る。キョンはそう、ここら辺に座って漫画を読んでたわね。うん、いつもみたいに不機嫌そうな顔をしてた。本当、いつものキョンと変わらなかった。 私は、キョンが座ってた場所の少し離れた場所に腰をおろした。そして泉こなたはアニメを見てたわ。うん。こっちで流れているのと同じやつ。 ――こう、キョンに膝枕される形で。 泉こなたと同じように、横になった。頭の下のクッションは冷たく、柔らかい。うん。この大勢だと、確かにテレビは見やすいわね。高さも丁度いいし。 テレビでは、女の子が血まみれで倒れていた。いいな、代わってもらいたいわ。そうすればなにも考えなくてもいいもの。 「……ふ、ふふふ」 滑稽だった。面白かった。私、馬鹿みたい。 「ふふふ。ははは、あははははははは」 ――キョン、泉こなたの頭を撫でてた。それも自然に。当たり前のように。 「あははははは、ははは、は、はははははははは!」 テレビは丁度終わったみたい悲しげなアカペラの曲がとても愉快に聞こえる。 「ははははは! うわはは! あはははははははははは!」 ――キョンには幸せそうな顔をしていて欲しかった。そうすれば、ただ見せかけの恋愛に酔っているだけだと思うことができた。 それなら、目を覚ましてあげればいいだけだと思っていた。 「はっはっははははは! ひー! 可笑しすぎる! あっはっはっはっは!」 でも、キョンは普通どおりだった。本当の意味で泉こなたを受け入れていた。わたしの居る場所はどこにもなかった。 それをまざまざと見せつけられただけだった。 「ははは! ば、馬鹿みたいっ! はは! あははははははははは!」 クッションに顔を押しつけて笑う。嗤う。哂う。ぐちゃぐちゃに濡れた布地が気持ち悪いけれどかまうもんか。 テレビではCMが流れているらしい。そう、アニメはもう終わったのね。私と同じだわ。おそろいね。 「ははははは! あはははははははは……は、うわ、ああああぁぁぁぁああああああああああああ!!」 もうどうでもいい。私にはもう何もなかった。 敗戦Ⅶへ
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「……はぁっ、はぁっ」 キョンの家に着いた。ここまで全力疾走で来たから、汗で髪や下着がべとべとになって気持ち悪い。 「はぁっ、はぁっ……ふぅぅー」 大きく息を吐いて呼吸を整える。こんな息が上がったままお邪魔したら迷惑だもんね。ハンカチを取り出して汗をぬぐう。私、今汗臭いかな? 妹ちゃんのお見舞いを済ませてから、キョンにシャワーを貸してもらおうかしら。 門の中を覗き込む。大丈夫、キョンはいるわ。だって、キョンの自転車が―― 「あ、あれ?」 赤い自転車――キョンがいつも使っている自転車がない。おかしい。駐輪場を調べたけれど、キョンの自転車はどこにもなかったはず。 ひょっとして追い越したの? まさか、いくら私が全力疾走しても自転車のキョンに追いつけるわけがないじゃない。 駄目よハルヒ。落ち着いて考えなさい。なんでキョンの自転車が家の前に停まってないの? 「あ、なんだそっか」 確か、お義母さんが買い物に行きたがっていたといっていたわ。きっとキョンの自転車を借りて行ったのね。考えてみれば単純なことね。 まったく、驚かせないでよキョン。心臓停まるかと思ったじゃない。絶対に後で心臓マッサージさせてやるんだから。 ほっと息をつく。汗もだいぶ引いたし、これなら大丈夫かな? そう思い呼び鈴を押した。 ――ピンポーン。 キョン、驚くかしら。さっき別れたばっかりなのに、変に思われないかな? 何か言い訳を考えておかなくちゃ。 そうね、「妹ちゃんをあんたに任せっきりになんかできないわ。私が面倒みるからあんたはあっち行ってなさい!」くらい言ってもいいかなぁ? ――ピンポーン。 いや、駄目ね。キョンが離れちゃったら意味ないじゃない、馬鹿。「ほら、あんたは私の助手! 私の言う通りに動いていればいいのよ!」かな? それで色々と命令を聞いてもらうの。肩とか足とかも揉んでもらおうかしら。走ってきたから疲れちゃったし。 ――ピンポーン。 SOS団のみんなも連れてきた方がよかったかしら? 有希はあれでなんでもできるしみくるちゃんは面倒見よさそうよね。 古泉君は……私の手が離せない時にキョンの相手になってもらうとかどうかしら? ――ピンポーン。 駄目。やっぱり私一人でいいわ。古泉君はともかく、有希にみくるちゃんは危険よ。ただでさえみくるちゃんは妹ちゃんに懐かれているんだから。 ――ピンポーン。 ――ピンポーン。 ――ピンポーン。 「……ちょっと、何よ」 どうして出ないのよ? 私は携帯を取り出す。電話帳からキョンの番号――登録番号は000だからすぐに呼び出せる――に電話をかけた。 1コールもしないうちにキョンは出てくれた。ほっとした。 「ちょっとキョン! なんで呼び鈴鳴らしてるのに出てこないのよ! いい? 妹ちゃんが心配なのはわかるけど今すぐ降りて――」 「お客様のお掛けになった番号は、現在――」 どういうことなの? これ。ひょっとして、キョンも風邪引いて動けなくなっているのかしら? 私は気が動転して、玄関のノブに手をかけた。 ――ガチッ。 鍵がかかっている。なんで? キョン中にいるんでしょ? この辺りってそんなに物騒じゃないじゃない。 「この……この!」 ――ガチッ。ガチッ。ガチッ。 どれだけ力を入れて回しても玄関は開かない。しょうがないわ。こうなったら裏口から―― 「あれ? ハルにゃんだー。どーしたの?」 振り返った先には、妹ちゃんが不思議そうな顔をしていた――なんで、ランドセル背負ってるの? 「あれ? 妹ちゃん、どうしてここに? あれ?」 「やだなーハルにゃん。学校行ってたに決まってるじゃん。んで、今からミヨちゃんとこに遊びに行くの!」 「ははは、は、はは。そ、そうなの。ねえ妹ちゃん、キョン、帰ってきてる?」 「キョンくーん? ちょっと待ってねー」 妹ちゃんはそう言って、玄関のノブを回した。 「まだ帰ってないよー。カギかかってるからー」 「……そ、そうなの」 「あれ? ハルにゃん今日はキョンくんと一緒じゃないの?」 「ええ、色々あってね。そうだ妹ちゃん、これあげるわ」 「あー、クッキーだ! わー、おいしそー。ハルにゃんありがとー! そうだ、キョンくん帰ってくるまで家の中で待ってる? ハルにゃんなら オッケーだよ!」 「ううん。私もちょっと用事があるから。ありがとね、妹ちゃん」 「うん、それじゃーねー」 妹ちゃんが家の中に駆けこむのを見届けてから、私は駅前へと向かった。 ねえ、キョン。どこにいるの? 敗戦Ⅲへ
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市営グラウンド、映画撮影に使った公園、市民プール。どこにもいない。駅前の喫茶店、ファーストフード。 どこにもキョンの姿はなかった。もう、SOS団で使ったところはほとんど探したわよ。一体どこにいるのよ? 「……ッ痛」 強く指を噛み過ぎた。見ると歯型と共にうっすらと血が滲んでいた。これがキョンの歯型だったら痛くないのに。 「キョン……」 日はそろそろ沈もうとしている。まるで砂時計みたい。 これが沈むころまでにキョンを見つけられなかったら、キョンとはもう会えない気がする。 ――馬鹿馬鹿しいわね。そんなことあるわけないじゃない。 大体、教室で席は前後の関係で放課後は毎日活動しているし、土日もいつも顔を合わせているのよ? 私、一日の半分以上をキョンの近くで過ごしているのよ? よそのクラスの、まして団員でもないポッと出の女にキョンを取られるわけないじゃない。 「ははは、そうよ。心配のし過ぎよ! 駄目よね。こんな後ろ向きな考えじゃ、見えるものも見えなくなってしまうわ。 夜空でも上を向いてさえいれば明るいものよ。私に今必要なのはキョンを信じることなんだわ!」 そうだ。何もキョンだけを探す必要はないのよ。泉こなた。彼女とキョンが別々に行動しているということを突き止めればいいんだわ。 ――でも仮に、万が一、もしも、キョンが泉こなたと一緒にいたら私はどうすればいいんだろう? そんなもの、一九九九年七の月を本気で信じるくらいにあり得ない話。けれど、どれだけ笑い飛ばしても、その不安は私にまとわりついてくる。 「キョン……信じているからね」 そう、私はキョンを信じている。当然よね。でも、それなら、なんでこんなに胸が苦しいんだろう? 私にはわからない。 「あ。涼宮さん?」 どれくらいそこで立ち呆けていたんだろう? みくるちゃんがこちらに寄ってくるのに気づいた。 みくるちゃんの隣には、眼鏡をかけた女がいる。たしか高良みゆき。泉こなたの友人だったわね。 「どうされたんですか? 涼宮さん?」 高良みゆきが尋ねてきた。丁度いい。 「ねえ高良さん。泉こなたさんって知ってる?」 「ええ、泉さんとは親しくさせていただいておりますが」 ビンゴ。流石私ね。冴えてるわ。 「彼女、今どこに居るかわかる?」 「す、涼宮さん?」 みくるちゃんが青ざめた顔をしてこっちをみている。……いけない。目つきがきつかったかしら。 「彼女、結構変わっているって聞いたのよ。ほら、優秀な人材なら是非とも我がSOS団に欲しいじゃない?」 「そ、そうなんですか?てっきりキョン君のことで……」 「キョン? あいつ、泉さんになにか嫌がらせでもしたの? あ、もしそうなら安心して高良さん。あいつ、とっちめてあげるんだから!」 「い、いえ……それだけなんですか?」 「他に何があるていうのかなーみくるちゃーん?」 「わひゃあああ!?」 みくるちゃんの胸を後ろから鷲掴みにする。やっぱり大きいわ。 「そうなんですか。泉さんなら……この時間だと、きっとあそこですね」 高良みゆきが言うには、泉こなたは郊外のネットカフェの常連らしい。最後にそこへ行ってみよう。大丈夫。きっとキョンはいない。 それを確認するだけでいいのよ。なんでキョンが嘘ついていたかなんて、明日問い詰めればいいんだから。 「そ、ありがと。でも遠いわね。いいわ。明日学校で会うことにするから」 「そ、そうですかぁ~」 みくるちゃんは安堵したように息を吐く。 「それじゃみくるちゃん、また明日ね。高良さん、さようなら」 二人に手を振ってその場を離れた。 さて、タクシーを探さなきゃね。 郊外にあるのネットカフェまでタクシーで十分。歩いて通うには少し距離がありすぎるわ。 私はまず、駐輪スペースへと足を運んだ。大丈夫。ここは泉こなたの行きつけの場所。キョンの自転車があるわけないじゃない。 一通りぐるっと見回す。キョンの自転車は―― 「あ、あれ? おかしいな?」 少し奥まったところにある赤い自転車。すごく見覚えがある。 「あはは、は。そんなわけないじゃない!」 笑えないのに笑いが止まらない。近寄れば近寄るほど、それはキョンのものに似ているなと思った。 「ま、自転車なんて既製品なんだし、似たのなんかいくらでもあるわよ」 そうよ。こんなの、キョンのと同じ種類の同じ色なだけだわ。だって、キョンの自転車はここに―― 「あ……あ?」 何で? 何でこの自転車、フレームの隅っこに『ハルヒ』って小さく彫ってあるの? それもここ、私がキョンの自転車に彫ったところと同じ場所じゃない! 「え……あれ? なんで?」 認めるしかない。これはキョンの自転車だ。間違いなく、そうだ。でもなんで? なんでキョンの自転車がこんなとこ――泉こなたの行きつけの店なんかに停めてあるの? もうなにがなんだかわからない。茜色に燃えていた空は暗く、今にも燃え尽きそうな色になっている。 明るいところに行こう。そう思い、私は明るく輝くネットカフェへと足を踏み入れた。 ――intermezzo:閉鎖空間 「なんでこんなに神人が!? 今までとは規模が違います!」 「古泉! 口より先に手を動かせ!」 「圭一さん! ご無事ですか!?」 「……ああ。しかし、涼宮の嬢ちゃんは何だって……こっちよりも頭数が多いじゃないか!」 「裕さんが見当たりません! 圭一さん、まだ来ていないのですか!?」 「あいつのことは気にするな! いいから何としても数を減らすんだ! このままじゃ食われるのはこっちだ!」 「……わかりました。ふんもっふ!!!」 「……はぁ、はぁ……全く数が減りませんね。これは一体? 涼宮さんに何が起こったというのです?」 「古泉い! 逃げろ!!」 「――え?」 「古泉ィイイイイッ!!!」 ――fine 敗戦Ⅳへ