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『寂寞後 (Ver.1.50)』 作者:いー (イー) タグ:ファンタジー リンク:(別窓) コメント:pixivから退会したので, 削除させていただきます。お世話になりました。
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せきばくのたね【登録タグ TaKU.K せ 初音ミク 曲】 作詞:TaKU.K 作曲:TaKU.K 編曲:TaKU.K 唄:初音ミクAppend(Dark) 曲紹介 「生まれようと欲するものは一つの世界を破壊しなければいけない」 TaKU.K氏 の9作目。 「東京喰種(トーキョーグール)」という作品の世界観に惹き込まれて作り上げた曲です。(作者コメ転載) 写真は 6274氏 が手掛ける。 歌詞 雨の気配 群青の夜 脆いアスファルト 不夜城へ沈んだ フェンスの向こう 微笑んだ貴方 脆い感情が崩れていく 咀嚼したリアルは腐っていた 駆け出した足は崩れ落ちた 戻らない時を恨んでも欲望には抗えやしない 古びた図書館の匂いがした 懐かしい母の記憶があった その時、蜉蝣が息絶えて 瞳が覚めてく 葛藤 思想 最前線 喰らった愛と生 冷めた左眼 寂しさが見えた 我を忘れて理性を消し去った 美麗な羽根は空を泳げない 嘆いて、泣いて、裂いて、吐いた 心の渦を誰かに分かって欲しかった 夜景に月が溶けかけて 帳の向こう側に焦がれて 頭で誰かの声がした 「あなたは優しさの奴隷ね」 僕は水槽の魚のように世界に飼い慣らされていた 狂気を凶器に変えて 寂寞(せきばく)の剣で刺して 叫んでも届かない孤独な都会に 居場所など無くてでも救われたくて 間違いを受け入れた 葛藤 思想 最前線 喰らった愛と生 冷めた左眼 寂しさが見えた 我を忘れて理性を消し去った 美麗な羽根を引き抜いてくれよ 逆行 流浪 少年 K 奪った彩や命 守るためには犠牲も払うと 狭間で愛を誓う 歪(ひず)んだ生に誓う 憂いた言葉 寂しさは消えた 私は、僕は、何処にいるの? 妖しく光る世界で答えが欲しかった コメント めっちゃいい!!!! -- 名無しさん (2014-07-27 20 18 07) 追加乙です。この曲大好き -- 名無しさん (2015-05-14 06 23 45) 名前 コメント
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寂寞たる世界の終末は jubeat plus 「Five Drops pack 5」に収録。 ボーカルは霜月 凛(CV 水原薫)。 作曲・編曲はコバヤシユウヤ(IOSYS)、作詞は黒田椋子(IOSYS)。 ジャケットはキャラ別CD「ひなビタ♪ Five Drops 05」のもので「3 A.M. ディテクティブ・ゲーム」と同一。 コナステ GITADORA AC GITADORA HIGH-VOLTAGEにも収録されている。 曲名の「寂寞」は曲順ソートよりこの場合は「せきばく」と読む。一般の表記では「じゃくまく」と読んでも問題ない。 BASIC ADVANCED EXTREME LEVEL 3 6 8 Notes 202 465 622 BPM 144 Time Artist 日向美ビタースイーツ♪ ジャンル オリジナル Version beyond the Ave. この曲で手に入る称号 【全難易度クリア】寂寞たる世界の終末は 【全難易度フルコンボ】泡沫の夢 最後まで 解禁方法 STAR RECORD「ちくわまつり2023」(2023/12/21 10 00~2024/02/04 23 59)にて☆を14個集めると解禁。 (1日に獲得できる☆制限なし) 動画 - 譜面動画 譜面動画 - BASIC BASIC - ADVANCED ADVANCED - EXTREME EXTREME 譜面動画 EXTREME (シャッター+ハンドクラップ) - プレー動画 プレー動画 攻略・解説 [EXT]8分音符が多く単純に見えるが、マーカーの配置が四隅、外周に偏っていることが多く視界の外でグレやすい。体感では多少fast気味に叩いた方がいい。 -- 名無しさん (2023-12-28 22 01 32) 名前 コメント ※攻略の際は、文頭に[BSC] [ADV] [EXT] のいずれかを置くと、どの譜面に関する情報かが分かりやすいです。 ※体感難易度を書き記す際は、クリア難度・スコア難度のどちらかなのかを明記してください。 また、攻略と関係ない投稿・重複した内容は削除の対象になります 攻略とは無関係の話は該当する欄(情報交換&雑談) にてどうぞ。
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【検索用 はるのせきはく 登録タグ 2021年 BiliBiliミリオン達成曲 Synthesizer V YouTubeミリオン達成曲 ぬくぬくにぎりめし は 弦巻マキ 曲 曲は 殿堂入り 稲葉曇】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 『Loneliness of Spring』歌詞 コメント 作詞:稲葉曇 作曲:稲葉曇 編曲:稲葉曇 絵:ぬくぬくにぎりめし 唄:弦巻マキ 曲紹介 くたびれたあたしが駄目だったんだね 曲名:『ハルノ寂寞』(はるのせきばく) 稲葉曇による弦巻マキオリジナル曲。Synthesizer V 弦巻マキ公式デモソングの一つ。 2021年5月24日にニコニコ動画で10万再生を達成。弦巻マキ使用曲で最初の殿堂入りとなった。 同じく弦巻マキを使用した英語版カバー『Loneliness of Spring』を2021年10月1日に配信。 歌詞 (YouTube動画説明文より転載) 何回も傷付いて ぽっかり穴が空いていたので 針を通して引き攣っていたんだよ 何日も守り抜いて 重たくたって口を閉じて 破けるくらいに抱えてみたんだよ 何回も傷付いて 空いた穴を縫って隠して なるべく永く一緒に居たいんだよ 何日も守り抜いて 吐きたくたって歯を食いしばっただけ 抱えてもらって痛んだよ 無理矢理口を閉じたって苦しくないわ くたびれたあたしが駄目だったんだね まだ役に立つつもりだったけれど ちぎれる前に思いやりすれ違ってきみとさようなら くたびれたあたしが駄目だったんだね まだきみの匂いも残っているよ ちぎれる前に少しだけ名残惜しそうにさようなら 何回も傷付いてきた顔も体もまだ使えるよ 捨てないで 誰かに譲らないで欲しいだけなの くたびれたあたしが駄目だった くたびれたあたしが駄目だったんだね 頼られていると思い込んでいるよ ちぎれる前の新品未使用のあたしに勝てやしない くたびれたあたしが駄目だったんだね 色褪せただけ思い出していけるよ ちぎれた後に少しだけ名残惜しそうにさようなら 『Loneliness of Spring』歌詞 (YouTube動画説明文より転載) Been hurt so many times A big hole’s been opened so Been putting a needle through, pulling together Protected it for many days Closed my heavy lips Held it together almost exploding Been hurt so many times Sewed the opened hole and hid I want to try to be with you for as long as I can Protected it for many days Clenched my teeth when I wanted to spit it out You know it hurt, being held It’s not painful forcing it to close I guess it’s my fault because I was exhausted I thought I could still be of use Before ripping off, our compassion slip past each other and we say goodbye I guess it’s my fault because I was exhausted Your smell still lingers Before ripping off a little reluctantly, a goodbye My face, my body hurt so many times but still can be used Don’t leave me, I just don’t want you to give it to someone else It is my fault because I was exhausted I guess it’s my fault because I was exhausted I’m thinking I was depended on Can’t win against me before I was ripped up, brand new and unused I guess it’s my fault because I was exhausted I can still remember, I’ve just lost color After ripping off a little reluctantly, a goodbye コメント 人間味のある歌声が良いですよね。メロディも素敵です。 -- ういつる (2022-03-29 21 00 03) マジでそれわかるのだ!(^^)! -- ずんだもんのエダ豆 (2022-07-31 17 34 53) ついこの間まで人間が歌ってると思ってたww -- 名無しさん (2022-08-10 21 11 07) これボカロ曲だと知った時の衝撃 -- 名無しさん (2022-10-14 19 44 23) いや神…めっちゃいい曲… -- 夜空 (2023-01-05 11 11 53) 調声上手すぎんか死ぬぞ(?) -- 生存フラグ立てまくりのやつ (2023-01-09 12 16 39) 稲葉曇さんの作るメロディとか調声とかが本当に大好きです!人間味のある声が本当に素敵です! -- 魅蓮 (2023-01-16 11 04 51) イントロの孤独な感じが美しい・・・(語彙力) -- しみずにくん (2023-11-27 13 22 44) この曲ほんと好き…… -- める (2024-01-04 11 22 52) 二昔ぐらい前のアニメEDを彷彿とさせる曲だと思った。懐かしいような寂しいような心地よさがある。 -- もりの (2024-03-09 23 33 22) 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
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― = , = ニ 、 < ヽγ > < ヽ < > 、 、 ヽ γ / | i i i. i / | | | |. | / | | | | | _. | ./ |. .λ | | | /.| / ). | ヽ λ | / .i ,, - ≠ ラ j メ | / /. | ∨ ./ .∨ | ./ |γ ,x====、_ / Y iー。 ゜ o ° 。. | ∨ / , === ,, _ ./ ' X ゚ i ' i / ノ / / / ,_ `ヽ 从 V i. ヽソ从ノ { .... リ i/ γ ー γ⌒ヽ } ノ ./ ',∧ , ,====ュ ー / ./| Y´. '、 ノ γ⌒ヽ. / /γ .∧ ` ノ/∧_y 、 ◯ '、 ノ l ./ { _ .ゝ∧ ′ ´ ∧f i r<γ ⌒ヽ . | { { _ゝ ∧ - ―┐ / ri≧=- ..._ i_ i i ーゝ ヽ _ ゝ _ >≦ } ヽ _ ノ ,、 ' ,f |` === __ヽ ___,ノ γ⌒ヽ ◯ ` ー 、く r ロ≦ ノ { ≧ロi ≧=- __ ∧ '、 ノ γ´ `ーノ jヾ' \ ≧ ー ≦ γ´ ソ i / _ i i ;' /{从 从ノ ヽ 从 / ,i i't i≦ ゜ o ° ー ´..ィ i ' ``==、 \ // ソi ∧i iγ⌒ヽ ヽ≦'' i i =≦ヾソ´ =≦j ∧ ',''、 ノ ,i i j i >≦≧´ ∨ ii ≧i ◯ { i` 〈 _ ィ= ´ 《__X__》∨ i/ヽ ヾ ソ. ', - /∧ ノ∧ゝ/ i/ \ ゝ、 / ./;' / ∧ /^´ ' .i ii ヽ 〉三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三 カード名 . ..: 寂寞の姫君 勇気 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ レアリティ...: EX≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ 汎用スキル...: ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ カードスキル : 変身後ターン中リバース不可。変身直後のAF終了時これと自場にカードがあればCF終了時、反響無効Ex[夜招きの轟砲]に変身、記載RP+2[RP+2][障壁(3)]付与≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ 武装化 : コスト EX -≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ ステータス. ....: AP:01 / RP:03 / CP:04≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ フレーバー : 三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
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寂寞のデザートローズ UC 火/自然文明 (2) クリーチャー:スピリット・クォーツ 1000 ■マナゾーンに置くとき、このカードはタップして置く ■このクリーチャーが破壊された時、マナゾーンに置くか相手のパワー2000以下のクリーチャーを1体破壊する。 作者:「匠」 フレーバーテキスト 砂嵐の中で、運命の時をいつまでも待っている。 収録 DMS-01 「レポートⅠ ワイルド・カタクラズム」 評価 名前 コメント
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『寂寞後_Ver.2.00』 作者:いー (イー) タグ:ファンタジー リンク:(別窓) コメント:pixivから退会したので, 削除させていただきます。お世話になりました。
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もうじきに太陽が空のてっぺんを回ろうかという折の、東京の片隅。 川下医院という、新宿の一角に紛れるように立っている病院の軒先は、退屈なくらいに平和だった。 蒸れた風が運ぶうだるような熱と、ともすればちりちりと肌を焼くような日差し。 そんな炎天下に訪れる患者の気持ちを、僅かにでも華やげるように並んだ植木鉢の色彩の上を、季節知らずの蝶がへたりながら滑るように飛んでいて。 その蝶の羽を湿らせることのないようにじょうろから降り注ぐ水は、熱に渇くこともなければ後数日もしないうちに彼等をより瑞々しく仕上げるだろう。 そのまま玄関前に水を撒けば、エントランスの日陰に相俟って午後には僅かばかり過ごしやすい空気が漂うはずだ。 戦争も、誘拐も、行方不明も何もない、ただの街並みの一角の風景。欠伸が出てしまうような、夏の日のありふれた一頁。 じょうろを持った彼女は、事実本来ならそうあるべき存在だ。 ただこうして、日々の平穏を祈り生きることこそが、アイドルであり、そしてただの少女としての彼女が送るべき日常である。 ――されど、因果は巡る。 末端といえど、此処は既に戦場の隅。 さながら隅々に張り巡らされていた糸をゆっくりと手繰るように、その日常は非日常へと引きずり込まれる。 そしてその運命の糸は、皮肉なことに、その平穏の中心にいた彼女へと紐付けられていた。 怪物たる病院の主は部屋に籠っていたし、彼が鎖を握る獣は今も次元一つ隔てた先で時を待っている。 彼女が従える幽鬼もまた、この会場において彼を包む因果との邂逅を未だ果たす兆しもない。 だから、その時。 じょうろから垂れた水の重さに耐えかねて、滴る雫を落とした葉とか。 生温くも肌に張り付いた汗を冷やす風に揺られて、ざわりと世界を揺らした音とか。 そんな、都市部の一角を彩る情緒を一色に塗りつぶすような、重い空気を纏ってやってきた通告を。 ただ、その通告の行先であった彼女だけが受け取って。 ――そうして、戦禍は巡る。 戦争の舞台を回す歯車を、ひとつの命が回し始める。 その先にある運命を、未だ誰も知ることのないままに。 ◆ 午前の診察が終わって、皮下はふと無意識に出てきた欠伸を嚙み殺す。 界聖杯から与えられた医者の役割(ロール)は、正直なところ退屈に過ぎた。 そもそも根本的なところとして命に価値を見出していない、という自身の性質を抜きにしても、舞台装置として設えられた単なる機構を『診察』する、というのは非生産的に過ぎる。なにせ大体が健康体だし、継続的に問題があるような患者も聖杯戦争が終われば消える泡沫の存在だ。役割をこなすという意味では重要だが、行為そのものには根本的に意味がない。 地下で実験体として扱っている人々から得られる葉桜のデータは、そうしたただの舞台装置から得られる情報としては珍しく有益といえるが―― (……さて、どうするかねえ。葉桜の備蓄に関してはまあまあだけど、投入のタイミングは考えねえと宝の持ち腐れになっちまうからなあ) ――その葉桜も、葉桜を用いて強化した私兵も、すべては聖杯戦争の為の道具に過ぎない。 聖杯戦争を勝利した上で願いを叶えるという順序である以上、種まき計画の実行自体は元の世界で帰還した上で行うことになる。その為の葉桜は既に元の世界に貯蔵してあるし、そうでなくとも願いを叶えれば葉桜が存在しなくともその成分が世界中に散布されるだろうことは疑わずとも良いだろう。 故に、ここで製造した葉桜については惜しむ余地は特にない。川下がこの戦争の場において葉桜を増産しているのは、単に勝利の為のリソースとしてだ。 その活用方法は、主に三つ。 ひとつは、この東京における活動資金の確保。 彼の医者としての収入は決して少なくはないものの、それ以上の出費を強いられていることもある。それはライダーを賄う為の酒代であったり、実験体や兵士の確保における人身売買やパイプ作りであったり、あるいは葉桜の研究費用そのものであったり――そうした面を差し引いても、戦争において元手は大いに越したことはないというのは、先の大戦にて前線とは離れた場所にいた彼の身にも染みていた。 もうひとつは、葉桜の適合者として彼の部下となる私兵の増強。上手く適合者となったNPCの私兵たちならば、対サーヴァントは論外としてもマスター狙いの鉄砲玉、肉壁程度の役割くらいは十分にこなしてくれるだろう。 実験体の出所については、元の世界と同じように脚が付かないものから人身売買に闇取引まで程よく集められた。あるいはサーヴァントを失った元マスターやらも紛れているのかもしれないが、そこに関しては知ったことではない。 そして最後の一つは、『鬼ヶ島』の顕現の際に、彼が従えるライダーの部下――百獣海賊団の猛者どもの、更なる強化(ブースト)を行えるかどうか。 (正直なところ、あんまり期待はしてないけどね) だが、最後のひとつに関しては皮下も否定的であった。 まず前提として、彼の部下のうち、幹部級であるらしい「大看板」と「飛び六胞」を除いた大軍勢は、大きく分けて三つ。 そしてその区分けは、SMILE――ライダーが生きた大航海時代にて、食べたものをカナヅチにする代償として様々な異能力を授けるという「悪魔の実」を人工的に再現した代物がボーダーとなっている。 ウェイターズ/未だにSMILEを手にしていないもの。 プレジャーズ/SMILEを食べた結果、能力を得ることなくただ笑うことしかできなくなったもの。 そして、ギフターズ/SMILEによって、人知を超える力を手にしたもの。 細かくはギフターズの上に座する真打ちなどもいるが、概ねこれら三つで織りなされた大軍勢が、カイドウの鬼ヶ島擁する戦力である。 (提督ってば、そういうところはクソ真面目だよねえ。律義に百獣を揃えようとするとか暇人かっつの) とはいえ、手段であるか目的であるかの違いこそあれど、やっていることは似たようなものだ。 悪魔の実から再現するSMILEと、夜桜の血から再現する葉桜。自然が産み落とした埒外の領域を、人の手によって再現したということには違いない。 もっとも、そうした共通点に無暗に感じ入りたいわけではない。今差ししまった問題は、葉桜が彼等軍勢に十分な効用を齎すかどうかだ。 サーヴァントはただでさえ未知の代物なのに加え、SMILEに適合しなかった――薬物への拒絶反応の前例があるというのは嬉しい情報。 特に、葉桜は未だに完全ではない。適合するかどうかは精々五分がいいところで、そうでなければ死に至る。単純計算でも軍勢そのものが半減するような博打には中々出れないだろう。 ギフターズと真打ちの実力は確かなものであるとしても、ウェイターズ・プレジャーズに対してどこまで試したものか。 ――閑話休題。 どちらにせよ、サーヴァントにせよ葉桜の私兵にせよ、動かすとしたら一気に、が常套手段だろう。変に二つの足並みを揃えなければ、サーヴァントの間欠を埋めるという葉桜軍団の目的も完全なる軍政としての動きもただの無謀な逐次投入になり下がる。 故に、結局は鬼ヶ島顕現まで、地道な地盤固めと無為な診察を続ける――というのが、何度考えても無難ではある。 (色々やりたいことがあるけど、今下手に動くのコエエんだよな~~~。嗅ぎまわってる奴もいるっぽいし) 元の世界にいた、そこそこの適合率を有しつつも懇意にしていた協力相手――ノウメンと同じ容貌のNPCを思い浮かべながら、彼の呟いていた興味深いことを思い出す。 『最近、こういう取引の情報を漁ってるらしいという情報があったわ。不用意な取引だと脚が付きそうだし、今後はより慎重に動くことにしましょう』 時期からいって、聖杯戦争の参加者が裏社会に何らかの形で手を伸ばしているのは確実だろう。 皮下も100年の間姿を隠してきたこともあってそれなりに暗躍の術は整えているが、所詮はスパイ協会の網から逃れきることができなかった身だ。そこまで大規模な活動を起こして足が付くよりは、今は大人しくしておくほうが賢明―― 「……うん?」 と。 そこまで思考を巡らせたところで、彼の視界の端に止まるものが一つ。 窓から見える景色の中で、先程まで言葉を交わしていた少女が駆けていく姿を、皮下はその目に捉えていた。 「霧子ちゃん?おいおい、どうしたどうした」 急に、それも人気のない方向へと走り出している彼女に、思わず眉を顰める。 ただでさえ、彼女がマスターである可能性は考慮しているのだ。何があったのかは知らないが、本戦も始まったばかりのこのタイミングで動きがあるというのなら注意をしておかなければならない ちょっと様子くらい見ておくか、と椅子を立ったその時、必然か偶然か―― 『――では、次のニュースです。人気アイドルグループ『L’Antica』に所属する白瀬咲耶さんが、昨夜から――』 ――病院のテレビから垂れ流されている昼間のニュースは、皮下の耳にほぼ同時に飛び込んできていた。 ◆ ――娘は、泣いていた。 人知れず、誰もいない、誰もこないような場所で。 たった一枚の紙片を握り締めながら、ただ、泣いていた。 しとしとと垂れる涙は、花を濡らし葉から垂れる水のよう。 滂沱と流れることもなく、静かに。静寂に混じる嗚咽は、風と蝉時雨に掻き消されて。 ただその中で、ただ気持ちを噛みしめるように、座り込んで。 ――ここに、彼女の手記があります。ただ…… 煙草を咥えた大柄な白髪の男と共に尋ねてきた赤眼鏡の刑事は、そう言い残して病院を去った。 暫し衝撃に呆然としていた彼女は、のろのろと関係者以外入れない屋上の片隅に腰掛けて。 数度の逡巡の後で、やはり、紙片を開いて。 読み始めてすぐに、くしゃり、と皺が寄った。 その後、小さく、か細いしゃくりが空気を揺らせて。 そして、やはり間もなく、涙と嗚咽が、熱を含んだ空に消えていった。 ――耳障りだ、としか、黒死牟は思わなかった。 人を偲び、死を憂いて流す涙など、己にはない。あの鬼狩りの組織にいた時とて、脇目も振らずあの男に追いつく為に剣を磨き続けた己には。 死は不可逆の喪失であり、それ以外の何物でもなく嘆かわしいものだ。故にそれは永遠でなければならず、生が断たれれば鍛え上げた武練も何もかもが水泡に帰す。そこから新たな発展に繋がることなどない。 ならばこそ、この身は鬼としての不死性を得ることを選んだのだから。 ――なんの心配もいらぬ。わたしたちは、いつでも安心して人生の幕を引けばよい。 ほとほと、反吐が出る。 そんなことをずけずけと言ってのける、あの男の記憶に、苛立ちが募る。 焦瞼――己を灼く炎の音が聞こえた気がして、実際に日の下に居る訳でもないのに身を焦がす熱が灯った、その時。 『……セイバーさん……』 静かな声音が。 念話越しに、彼の耳朶へと届いていた。 『……咲耶さんは……どこに、いたのかな……』 呟くように問われた言葉に、霊体でありながら尚眉根を寄せる。 いや、それも越えて、呆れ返ったというのが正直なところかもしれない。 『死した者の場所等……探した処で詮無き事……』 突き放すように、そう告げる。 赤子でも分かることだ。死者は、既に此の世の何処にもいない。 一度荼毘に伏された者がこの世に帰ってくる道理など、それこそこの英霊召喚、あるいは聖杯の願いのような例外をおいて他にない。 花畑のような思考回路も、ここまでくれば滑稽の域だ。誰が死んだか知る由もないが、この戦場において現実逃避にまで縋るかと、哀れみの情も沸いてくる。 『………でも………見つけてあげなきゃ………』 されど、彼女に狂気はない。 その瞳は未だ濁ることなく前を見て、その言葉はか細く震えながら清らかに。 正気にてそれを言っているのであれば――成程、納得できる答えは確かに在った。先程思い当たったばかりの例外。死者蘇生とて叶うであろう、万能の答え。 『然らば、その為にこそ……聖杯を求めるか』 同胞の為。成程、理解はできよう。 復讐の狂炎に囚われた鬼狩りの柱を、幾人となく返り討ちにしたことがある。 死した仲間を必死に蘇生しようとする隠を、感慨もなく一刀に伏したことがある。 そうした行動に理解を示す意はないが、主が望むのであれば。その果てに己が戦いを果たせるのであれば、態々水を差す意味も無い。 ――しかし、そうですらなかった。 「……違うの……そうじゃ、なくて……」 それも違うとかぶりを振る少女に、先程の苛立ちがぶり返す。 ならば、何だ。 現実も知らぬ女の分際で、何を答えと宣うものか。 沸々と沸き上がる惰弱さへの怒りが、僅かに黒死牟の精神を揺らす。 ――此処までならば、最早切り捨てるのも已む無しか。 そこまで黒死牟が考えを巡らせていたその刹那に、霧子は、歌うようにもう一度その口を開いて。 「……心が……どこにもいけないままだと……」 たった、一言。 「……命も……どこにもいけないから……」 太陽の色をしたその言葉は、いとも容易く。 崖を上るように、焦がれ、焦がれ、ただしがみついた。 それだけに囚われた命を、焼いた。 ◆ ずっと、考えていた。 通達が来た日から。この戦争が、新たなる幕開けを迎えた日から。 終了条件と、それに伴う――『器の消滅』の可能性を、知った日から。 「みんなが……聖杯と一緒に、なかったことになっちゃうなら……」 自分は、聖杯に願うような願いはないけれど。 その裏で、この聖杯戦争に参加している人たちには、きっと色んな願いがあるんだろう、と、なんとなく察していた。 果たさなければいけない願い。そうしないと叶わない願い。その先にしかない、どうしようもなく焦がれる願い。 ――いいよねえ、あんたは……! あるいは、あの時もそうだったのかもしれない。 どうしようもなく道が閉ざされた彼女から、満ち足りていた自分へと向けられた激情を思い出す。 そのステージに至るまでの道中も、きっと様々なことがあって。 けれど、それは理不尽に閉ざされる。 この会場においては、ステージよりも無情で残酷な、死という終わりによって。 それはきっと哀しいことだけれど、ただ哀しいと思う心を、果たしてどこに向ければいいのか。 それが分からぬままに、ただ幽谷霧子は待っていた。 「生きて帰る……だけじゃなくて……」 ――その代償が、これで。 ――それで得たものが、これだった。 これがもし無情なただの報せであったなら、或いはもっと深く迷っていたかもしれない。 けれど。 ――私は貴方を許します。 ――世界が貴方を許さなくても、私は貴方を許します。 ――だからどうか嘆かないでください。 ――傷つけないでください。貴方の心を。 ――謝らないで下さい。昨日までの全てを。 その、どうしようもなく深い、白瀬咲耶の愛が。 霧子の想いに、一つの答えを出した。 白瀬咲耶という、身近な命が遂げた死という現実と。 同時に、彼女がこうして遺した想いの形が。 幽谷霧子の中に、実像を結ぶ。 「咲耶さんの心が……ここに……届いたみたいに……」 くしゃりと彼女の中で音を立てたそれは、白瀬咲耶の遺した心だ。 この世界に呼ばれ、孤独でありながら世界を愛し、誰もを救う祈りを描いて命を燃やした、美しき少女の心だ。 その善が、その愛が、こうして形になって、届いたのなら。 「生きている人も……もういない人の分も……いっぱい、いっぱいの想いを抱えて……」 ――その祈りを。 ――その物語を。 ――その、ありのままの、気高くて、寂しがりで、愛に満ちた命を。心を。 「それを歌うことが……わたしに、できることだって……」 幽谷霧子が受け取ったそれを、せめて、多くの人に届けられるように。 白瀬咲耶を愛した誰かに、わたしが愛した白瀬咲耶を届けられるように。 無念を迎えた、あるいは手の届かなかった誰かの思いを。 その『誰か』のことを想う人に、届けられるように。 受け取って、聞き届けて、その一端を、返せるように。 「私も……どうなるかわからないのは、わかってます……」 ――平和な世を生きる幽谷霧子が、生死を争った経験などありはしない。 病院でそれを目に留めたことこそあれど、それが己に襲い掛かるような戦場に臨したことなど一度もない。 「でも、それだけじゃなくて……みんなの心が、どこにも行けなくならないように……」 ――さりとて。 生きる重さを、知らぬ訳ではない。 たとえばそれは、未だ種に過ぎない花が、地を押し上げて芽生える為に力を振り絞るように。 たとえばそれは、大嵐に手折られた花が、粛々と最期を看取られながらも尚想われるように。 命が、それが抱く想いが、強く在ること。 それが生きる為に、何を越えていくのか。 それを喪う時に、何を遺していけるのか。 幽谷霧子は、知っている。 他ならぬ、白瀬咲耶の死が、その痛みに最後の答えをくれた。 「わたしが、もしも生き残れた時に……みんなの、ここにあった想いも、願いも……」 その上で。 ここが、戦争の場であるなら。 その命が、やがてひとつを除いて消え去り、他の全ての祈りに意味を与えないのならば。 生き残る為に砕ける思いは、きっとこれだけでは済まないだろう。 この手紙と同じように心を裂かれる人は、きっと多くいるのだろう。 「ここにあったよって……消えたり……しないんだよって……」 どうやって帰るのかなんて、未だに分からない。 どうやって生き残るのかなんて、形にすることはできない。 帰る為に他の皆を踏みつけにする必要があるのかもしれないし、その道を選んだとして自分が生き残れるかどうかも分からない。 けれど、それよりももっと手前。 「皆が抱えている願い」が、こうして届くこともなく、ただ虚数の地平に消えてしまう前に。 「だから……」 その祈りを唄に変えて。 その願いを聲に乗せて。 今後どのように運命が巡ったとしても、確かにそこに在ったことを、唄えるように。 そうして、もし自分が潰える時が来ようとも、聞き届けたその祈りを、願いを、また誰かに届けられるように。 「わたしは、そのために……頑張ろうって……そう、思います……」 ――その為に、幽谷霧子は戦うのだと。 そう締め括った虚空への言葉に、ここにはいない幽鬼は、暫し沈黙していた。 風と蝉時雨の中に、ぽっかりと、僅かばかりの沈黙があって――やがて、振り絞るような声音で、ゆっくりと返答があった。 『……何方にせよ、此の身は落陽まで動けぬ身……主である貴様が何をしようと、私が動くことは出来ぬ……十二分に注意を払え……』 「はい……ありがとう、ございます……」 それきり、ぶつり、と念話は途切れる。 問いかけようとするが、そこから伝わる拒絶の意思を感じて、霧子は困ったような笑みを浮かべた。 ――彼は。何を、思っているのか。 サーヴァントが、人理の影法師――今は本当にあったかも知れない英霊の現身であることを知って。 その中でも、彼が陽の光に晒されることのない、夜の闇の中でのみ歩く魔性であることを知って。 人を喰らい、刃を振るい、人類種に仇を成す、混沌なる存在であることを知って。 けれど、未だ知りえない、彼が囚われた陰の正体を、霧子は未だに想い続ける。 ――セイバーさんの……ことも…… ――覚えて……忘れないで…… 仮に、英霊が今この瞬間にしか容を保てぬ、座に記録された記録帯に過ぎないとしても。 それでも、他の参加者と同じように、彼がどこにもいけない想いを抱き続けることになるのであれば。 彼の呪いも。 彼の無念も。 いつかは。 いつかは。 この唄に乗せて、明るい場所に。 「お日さまの下で……あの人の想いも……伝えられるように……」 ――誰にも届かなかった、彼の、陽だまりへの願いを。 彼に微笑んでいたお日さまの下へ、届けられるように。 ◆ 「あーあ、折角の目の保養だったのにさあ」 皮下がそう呟いた時には、既に霧子は廊下の角を曲がって見えなくなっていた。 それこそ暇つぶし、とばかりに霧子を追った川下と、裏庭から徒歩で歩いて戻ってきた霧子が通用口に辿り着いたのはほぼ同時だった。 泣き腫らした顔の霧子に事情を聞いても細かいことは聞き取れなかったが、見た目の様子と先程のニュースの情報を照らし合わせれば、大体何があったかは想像できる。 むしろ意外だったのは、そんな中で、想像よりも彼女が芯のある目をしていたことと。 ――すみません……午後、ちょっと……おでかけします…… 彼女の、その発言だった。 どうやら白瀬咲耶の死が、何等かの形で彼女に刺激を与えたらしい。聖杯戦争の為か、はたまた単なるNPCとしての周囲への心配か。 断定はまだできないが、随分といい起爆剤が転がり込んできたものだ、と思う。 そんな彼女の、感情が分かりやすく窺い知れる珍しい様を思い返して――皮下は、静かに嗤いを浮かべる。 「まあ、それだけでモチベが上がるってんなら楽な話だよねえ」 ――皮下真という男は、どうしようもなく人でなしだ。 人の死を何とも思わない。あるいは、何とも思えないくらいに死に囲まれて育った人間。 人の死を思えば何かが変わるような世界を、彼は生きていなかった。 病魔により家族も知人も問わずばたばたと死にゆく世界に産まれた時点で、彼の死生観もまた常人から外れたそれとなった。 だから、彼がそこで泣いていたらしいちっぽけな少女に思うことは、「友達の死にいちいち反応するとか多感な子だなあ」ということだけだし。 (ま、少なくとも、彼女は関係者の可能性が高いことが分かったのは良い事かな。とりあえずタイミング的には流石に怪しいよねえ、咲耶って子) 彼にとって、死はやはり手段であり、情報としか見ていなかった。 実験体のデータに等しく、また今もこの病院の地下で牙を研ぐ大喰らいが食らう魂に等しく。 白瀬咲耶の行方不明――もとい状況証拠から見て濃厚な予選での死亡、そして「幽谷霧子という少女がそれを見て行動を変えた」という情報のみが、彼がここで知った情報だ。 アイドルであること。病院の宿舎寮にわざわざ住み込んで働いていること。全身の包帯。そして、本戦開始直後に伝えられる「関係者の死亡」。 もちろんそれらは、糸として繋げるのに不足があるものではない。彼女が包帯を巻いているのは元かららしいし、青森出身らしいから宿舎寮住みも納得はできる。 「白瀬咲耶がマスターだったから、その関係者である幽谷霧子がNPCとして呼び出された」という逆説的な思考に基づくのは、少なくとも現段階では有力だ。 それに。 (まあ、知っても今つっつくのはねえ。流石に本戦始まってこんなところで旦那出すのもって感じだし) 仮に、幽谷霧子がマスターであるすれば、当然の理屈として彼女にサーヴァントがいるということだ。 この内気な少女に限って下手なことにはならないとも感じるが、サーヴァント側を何等かの形で刺激して不意を突かれる――というのは、如何に「再生」の開花を持つ川下としても避けたい。サーヴァントの埒外さ自体は、予戦で見ていてもよくわかる。 そうなればライダーを召喚するしかないが、予戦ならいざ知らず、本戦の今となっては彼の巨躯を徒らに現界させるのは悪目立ちが過ぎる。 特に、嗅ぎ回られている状態で彼女を殺し、その結果本当にマスターではなく、二人目の行方不明者としてこの病院に白羽の矢が立つ――というのが最悪の想定。一応ノウメンのホテルを始めとする簡易な隠れ家もあるとはいえ、籠城をメインに考えてる本拠地を手放すリスクは大きい。 ライダーの絶対的なアドバンテージを盤石なものにするという目的に比べれば、目の前の可能性を一つ潰すのには見合うものではない。 「とはいえ、見逃すってのもナシだよなあ」 ただし、それもライダーの準備が整うまでだ。 彼が十全に戦力を整えた時が来れば、今更情報の隠匿も何もない。マスターだろうとNPCだろうと、あるいは従えているサーヴァントだろうと一刀に伏すだけ。 その上で、居場所が割れている1/22を楽に潰せるというのなら、それに越したことはない。 ――じゃあ、俺の知り合いを一人だけ付けておくよ。ほら、今時アイドルの子を一人で歩かせるってのも物騒だろ?最近何かと物騒だし。女の子なら、霧子ちゃんも安心だろ? 怪しまれない範囲での。もし接触があれば報告。「変なもの」が少しでも見れた場合、連絡。 殺せそうなら殺していい――とまでは言わなかった。迷ったが、下手に手を出してサーヴァントに殺されるのもそれはそれで面倒だ。 いや、それならそれで相手がマスターだと分かるのだが、最後の足取りでここに辿られたりした日にはやはり厄介なことになる。 最低限、白瀬咲耶とその周辺人物の人間関係と、聖杯戦争の関係者っぽい人間に当たりをつけておいてほしい――それが、ひとまず『彼女』に下した命令だった。 「いやはや。返す返すも、病院の軒先で警察の相手してくれたのは思わぬ幸運ってな。ありがとよ霧子ちゃん」 かくして、タンポポは、ゆっくりと茎を伸ばし始める。 綿毛を飛ばすその時まで、ゆっくりと。 幾ら踏まれようとも春を待つロゼッタのように、静かに時を待ちながら。 ◆ 天辺を超えた太陽が、そのぎらつきを増してアスファルトを灼く中で。 幽霊のような陽炎が揺らめく中で、白い少女が道を行く。 ひとまずの目的地は、手紙の送り主がいた寮か。同じく手紙を送られただろう仲間がいるはずの事務所か。はたまた、これまで黒死牟や彼女自身が見つけた戦争の断片を辿るか。 そのいずれに向かうか悩みながら、彼女は確かに一歩を踏み出す。 「よろしくね、霧子ちゃん」 「はい……えっと……」 「ハクジャでいいわ。ボディーガード、って訳じゃないけど、これでも護身術くらいの心得はあるから……気持ちばかりの護衛だと思ってちょうだい?」 傍らには、皮下の知り合いを名乗る女――ハクジャ。 それを窺いながら、霊体化した黒死牟は静かに眉を顰める。 (……不用意な……あれもまた……間諜の類だろう……) 化外の者たる皮下の部下ともなれば、まず間違いなく真っ当な人間ではない。 されど、今は殺せない。下手に殺せば、それこそあの男に霧子と聖杯戦争を結びつける確信を与えることとなる。 幸い、此方が陽の下に出れないという条件が知られていることは無いだろう。サーヴァントを警戒するのであれば、下手な行動に出て己から死を選ぶことはないだろう。 ……或いは、それも込みで手を出してくる可能性もあるやもしれぬ。その時は―― ――その時は? (……いや。何を……考えている……?) 一瞬己を過った余りにも短絡的な考えに、思わず精神が揺らぐ。 先程の言葉が、それ程迄に意識するべきものか? いや、あんなもの。他愛の無い戯言に過ぎない筈だ。ただの小娘の、実現しようもない理想論。 此処に喚ばれるその直前まで、焼かれながら足掻き手を伸ばしていた妄執に、手を伸ばすような言葉。 それを思い起こす度に、知らず歯を食い縛る。知らず、拳に力が籠る。 幾度となく感じていた胸の焔が、黒死牟の何かを、ちりちりと。 太陽光が、漆黒のアスファルトを焼いているように、ちりちりと―― 界聖杯がこの地において執り行う聖杯戦争は、何処までも自動的に行われる戦争というシステムそのもの。 敗者が都合よく生き返る奇跡も、想いのみが引き起こす理想も、ただ敗北という事実の元に自動的に否定する。そこに横たわる祈りも願いも、意味のないものとして理解を拒む。 そうである以上、彼女の行動は無駄だ。不要ないものだ。 既に枯れた花も、咲くことがなく蕾で終わった花も、ただそこで踏み躙られるだけのこの世界で、それに哀れみと手向けを捧げる行為の、なんて無価値なことか。 ――それでも。 それでも幽谷霧子は、命に花を手向けるだろう。 その価値が、その意味が、風が吹けば飛んでしまうような、幽かな霧の中にしかないとしても。 消えゆく命が、ただ消えるだけで終わらないように。 残酷にも見えそうなこの世界で、彼女が未だに、優しさを見失わないように。 【新宿区・皮下医院/一日目・午後】 【幽谷霧子@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [状態]:健康、お日さま [令呪]:残り三画 [装備]:包帯 [道具]:咲耶の遺書 [所持金]:アイドルとしての蓄えあり。TVにも出る機会の多い売れっ子なのでそこそこある。 [思考・状況] 基本方針:もういない人の思いと、まだ生きている人の願いに向き合いながら、生き残る。 1:色んな世界のお話を、セイバーさんに聞かせたいな……。 2:病院のお手伝いも、できる時にしなきゃ…… 3:包帯の下にプロデューサーさんの名前が書いてあるの……ばれちゃったかな……? [備考] ※皮下医院の病院寮で暮らしています。 ※川下の部下であるハクジャと共に行動しています。 【セイバー(黒死牟)@鬼滅の刃】 [状態]:健康、苛立ち(大) [装備]:虚哭神去 [道具]: [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:強き敵と戦い、より強き力を。 1:夜が更けるまでは待機。その間は娘に自由にさせればいい。 2:皮下医院、及び皮下をサーヴァントの拠点ないしマスター候補と推測。 3:上弦の鬼がいる可能性。もし無惨様であったなら…… 4:あの娘………………………… [備考] ※鬼同士の情報共有の要領でマスターと感覚を共有できます。交感には互いの同意が必要です。 記憶・精神の共有は黒死牟の方から拒否しています。 【皮下真@夜桜さんちの大作戦】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:? [道具]:? [所持金]:纏まった金額を所持(『葉桜』流通によっては更に利益を得ている可能性も有) [思考・状況] 基本方針:医者として動きつつ、あらゆる手段を講じて勝利する。 1:病院内で『葉桜』と兵士を量産。『鬼ヶ島』を動かせるだけの魔力を貯める。 2:全身に包帯巻いてるとか行方不明者と関係とかさー、ちょっとあからさますぎて、どうするよ? [備考] ※咲耶の行方不明報道と霧子の態度から、咲耶がマスターであったことを推測しています。 ※会場の各所に、協力者と彼等が用意した隠れ家を配備しています。掌握している設備としては川下医院が最大です。 【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】 [状態]:健康、呑んべえ(酔い:50%) [装備]:金棒 [道具]: [所持金]: [思考・状況] 基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。 1:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。 2:で、酒はまだか? [備考] ※皮下医院地下の空間を基点に『鬼ヶ島』内で潜伏しています。 時系列順 Back 月だけが聞いている Next Sky Blue Sky 投下順 Back みんなの責任! 大切な人の願いは Next 283プロダクションの醜聞 ←Back Character name Next→ 008 きりさんぽ 幽谷霧子 027 燦・燦・届・願 セイバー(黒死牟) 038 283さんちの大作戦〜紳士と極道編〜 皮下真 030 龍穴にて ライダー(カイドウ)
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戦闘/オルテル城/寂寞の刃 吊り天井の部屋だけど、箱が立ってはまってしまうとどうしようもないですよね? -- シルベリンのワープ出現位置と自キャラが重なると非常に高いダメージを受ける。防御5k程度だと変身状態でも一撃死。 --
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/976.html
泉こなたは寂しかった。 泉こなたは甘えたかった。 泉こなたは泣きたかった。 でも泉こなたは寂しいといったことがない。いえば父のそうじろうが悲しむと知ってい たから。 でも泉こなたは甘えたことがない。甘えるべき母親はいなかったから。 でも泉こなたは泣いたことがない。一度でも甘い自己憐憫に溺れてしまえば、自分がど んどん溶け崩れていってしまうと感じていたから。 たとえば小学校の6年間、泉こなたは父親に授業参観日を知らせたことがない。 知らせればそうじろうは締め切りを放ってでもくるだろう。けれど泉こなたが本当に来 て欲しいのは母親だった。いつも家ではだらけている母親がしっかりと化粧をしていると ころをみて、『お母さんもまだまだ若いじゃん』などと少し誇りに思ったりして。泉こなた にとって、授業参観とはそういうイベントでなければならなかった。 初潮がきたのは6年生のときだった。保健体育の時間に習ってはいたし、ネットで調べ ることもできたから、冷静に一人で対処することができた。 汚れた下着を自分で洗いながら、泉こなたは鼻の奥につんとくるものを感じていた。そ の感情はなかなか一人で対処することが難しかった。そうじろうもすぐに気づいただろう が、さすがに躊躇い、声をかけることはできなかった。 結局、泉こなたは一人でそれに慣れていった。 泉こなたは次第にフィクションへとのめりこむようになっていった。逃避といえばそう なのだろう。ここではないどこか別の場所にいきたい、そういう感情がなかったといえば 嘘になる。けれどその動機はむしろ、色々な世界を作り上げることができる人間の能力に 感動したからであったはずだ。 人のちっぽけな脳みそが、世界を丸ごと作り出す。そしてその世界を人と共有していく うち、次第に強固な形となっていく。現実の少し裏側にあるその世界は、けれども人と人 の意志の中にのみ存在する世界。泉こなたは、そうした人間意志の妙に耽溺していった。 けれども、そのことを表に出したことはなかった。 ただでさえ片親であるという特徴を持った自分が、少しでもオタク的なところをみせれ ば、即座にいじめに会うだろう。 泉こなたは、小学校でも中学校でも、自分の正体を隠しおおせてきた。みんながみるテ レビをみて、みんなと同じ会話をし、みんなと同じように笑う。泉こなたにとってそれは たやすいことだった。 台本はいつも同じ、たまにアドリブもいれたほうがリアリティも増す。アドリブにも許 せるものと許せないものがある。演技はわざとらしいくらいで丁度いい。 泉こなたは空気のようにそれをこなしていき、たまに自分でも、それが本当の自分なの ではないかと勘違いすることもできた。 けれど泉こなたはずっと寂しかった。 自分の抱えたでっかい世界をまるごと誰かと共有したかった。 心から笑えるような、全てをさらけ出せるような、本気で喧嘩できるような。 そんな友達が、ずっと欲しかったのだ。 【泉こなたの寂寞】 ※ ※ ※ ――そうして――私たちがここにいる。 みなみちゃんはそういった。 何をいっているのかわからない。いや、わかるのだけど、どこから突っ込んでいいのか わからない。 こなた相手だったらとりあえずなんでもいいから突っ込むのだけど、さすがにみなみち ゃん相手にそれは気が引ける。というか、私が突っ込むとこなたが嬉しそうな顔をして悶 えるのが面白くて突っ込んでるだけで、別に突っ込みキャラってわけじゃないぞ、私。 とりあえずどう返事すればいいのだろう。 みなみちゃんって、無口かと思ったら意外と喋るのね、とか。 私一人だけを家に呼ぶなんて、凄い珍しいよね、とか。 いくらちんちくりんだからって、先輩をこなたこなたって呼び捨てにするのもどうかと 思うよ、とか。 「……えっと。みなみちゃんって随分こなたのこと詳しいのね。そんなに凄い仲良いよう にはみえなかったけど」 悩んだあげくこんな返事。ぶっちゃけ会話が繋がってない。といっても、時速100マイ ルの消えるボーリング玉をオーバースローで放られて、ちゃんとキャッチボールしろとい うのも無理がある。 「……ちがう。直接聞いたのではない。……泉こなたの存在によっ現実化された-52次元 の微少宇宙の影が三次元に投影されて実体化した素粒子がヒッグス場で対消滅する際の輻 射を三十二次元のストリングスから再構成した」 「全っ然わかんねぇよ!」 「……わかる必要はない。……でも聞いて」 みなみちゃんは、眉一つ動かさずに淡々と話を続ける。 「聞いてるじゃない。わかんないってのはさ、いってる意味がわかんないってことだけじ ゃなくって、なんで私にそんな話するのかがわかんないわけよ」 っていうか、この状況からしてわけがわからないのだ。 土曜に急にみなみちゃんから電話が掛かってきたと思ったら、今から家に来て欲しいな んて。てっきりみゆきがいるのかと思って来てみたら、高良家は親子で買い物だそうで。 相変わらずみゆきん家は友達みたいに仲いいなあ、と思ってるうちにみなみちゃん家の リビングに通されて、紅茶を何杯もふるまわれた。どうやらこちらのお母さんも留守らし い。紅茶は凄く美味しくて、やっぱりお金持ちの家はお茶からして違うんだなぁ、と思っ たりした。 そしてみなみちゃんは突然冒頭の独白を始めたのだった。 みなみちゃんが語ったこなたの子供のころの話は(今でも子供みたいだけど)、なんだか 真に迫っていて、あのいつも明るく飄々としたこなたが、こんな風に育ってきたなんて、 とちょっとうるうるきちゃったのは秘密。 ――意味はおいおいわかる――どうしても今あなたに聞いて欲しいから。 みなみちゃんはそう前置きしてから、私に問いかけた。 「……細部まで完璧にシミュレートされたシミュレーションは、現実と区別がつくと思 う?」 いきなりなにをいうんだろうこの人。 「えっと……細部まで完璧って、もうあらゆる物理法則も完璧に同じなんだよね?」 「……そう」 「なら…区別つかないんじゃないかな。あ、でも、外から眺めてる人はそのシミュレーシ ョンが現実じゃないって知ってるわね」 「……そう。……理解が早い」 どういう話をしたいのかはわからないけど、さっきまでの話に比べたら、まだ理解はで きる話だよね。 「……逆にいう。そのシミュレーション系の内部にいる存在にとって、その世界が現実か シミュラークルかの区別はつかない。無矛盾な公理的集合論は自己そのものの無矛盾性を 証明できない――ゲーデル問題。……実は、この宇宙もそういった系の一つ」 甘かった。もうついていけない。 「えーっと……これは哲学の話?」 「……ちがう。科学」 なんか楽しくなってきたぞ! 「……百億年前、あるいは百億年後、誰かがどこかの宇宙でそういった系をくみ上げた。 ……セル・オートマトン。あらゆる純粋数学を導き出すエデンの園配置にくみ上げられた 量子コンピュータは、N次元で動作し、自己そのものをセルフリファレンスして組み替え うる機能をもっていた。 ……無限に拡大していくセル・オートマトンはやがてシミュラークル内部に意志を生み 出し、閉鎖宇宙系となっていった。……どうしてセル・オートマトンが意志を生み出した か、わかる?」 「それは、なん…」 「それは、閉鎖系の内部において“自己そのものの無矛盾性を証明できないような存在” が存在しなければ、無矛盾な公理的集合論とならないから」 自分から聞いておいて被んな! ってか、返事いらないなら聞くな! もういい、絶対 喋らん。 「……この宇宙は内在して宇宙を認識する意志が存在しなければ、ただのシミュレーショ ンとなり、崩壊する。……だから、宇宙は宇宙を認識する意志をシミュレートしている」 ふーん、そうなんだー。 気にしないで鞄にはいっていた『灼眼のシャナ』の新刊を読む私。もうそろそろこれも マンネリかなー。 「そして閉鎖宇宙系はシミュラークルであるがゆえにあらゆる可能性をシミュレートして いく。そのシミュレーションは系内部において完璧な整合性を保つがゆえに、現実と区別 がつかない。 ……そこではあらゆる可能性は全く等価。セル・オートマトンがシミュレートされてい る宇宙すらシミュレートされうる。……つまり、宇宙は無限に重ね合わされ、無限に入れ 子となった多元宇宙となる」 なんだ、今回シャナたちでてこないのか。メインから離れて番外編とかやり始めたら末 期だよねー。 「……このところ、そのセル・オートマトン複合体に不連続な断絶が発生している。…… それを引き起こしているのは泉こなた」 思わず顔を上げる。羊肉だか車のギアチェンジ方式だかしらないが、あのこなたがなん でそんなものに関わってるっていうんだろう。 ――2007年4月――それは、泉こなたが春日部共栄に入学した日。大きな期待と若干の 不安で小さな胸をふくらませた泉こなたが校門をくぐったとき、最初の断絶は起きた。 みなみちゃんは無表情に言葉を紡いでいく。それはまるで台本を読み上げるように抑揚 に乏しいしゃべり方で。ってかあいつもみなみちゃんに胸のこといわれたくないだろう。 ――その断絶は、2006年4月2日に起きた事件に端を発している。その事件とは『涼宮 ハルヒの憂鬱』の放映。その日の24時、埼玉テレビで放映を開始したアニメーション。 「ちょ、ちょっとちょっと、みなみちゃん! 正直いおう、みなみちゃんが何をいってい るのか、私にはさっぱりわからない」 「……信じて」 みなみちゃんはみたことがないほど真摯な顔でそういった。 「いや、信じる信じないじゃなくてね? 断絶とかハルヒとか、言葉の意味はわかるんだ けど、文意がさっぱり理解できないのよ」 ――っていうか。 「――んー、っていうかさ、なんかさっきから妙なデジャブを感じるなって思ったら、こ んなシーンってまさにそのハルヒにでてこなかったっけ。みなみちゃんなんて、まんま長 門みたい」 「……そう。慧眼。わたしはこの銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機 生命体用ヒューマノイド・インターフェース。…………ではない」 “違うのかよ!” もう声にだして突っ込み気力もないわ。――っていうかこれはもしかしてボケだったの か? 心なしかみなみちゃんの顔が赤い気がする。 「……私は長門有希ではない……岩崎みなみ。でも半分長門になっている。これは『涼宮 ハルヒの憂鬱』のパロディ。……泉こなたの多世界選択能力に対抗するには、この宇宙が 一番無理がなかった」 ――声が、同じだったから。 みなみちゃんはそういってうなずいた。 私もうなずきを返す。全然何もわかってないけど。 なんだか私ってバカキャラになってないか? こういうのは本来私の役目じゃない。日 下部あたりにやらせておけばいいのに。 「……それはともかく、泉こなたにとって『涼宮ハルヒの憂鬱』は特別だった」 みなみちゃんは淡々と言葉を重ねていく。 「現実改変能力を有する涼宮ハルヒをみて、泉こなたは気づいてしまった。――人は、自 分の好む現実を選び取ることができることを。放送回を重ねるごとに泉こなたは覚醒して いった。自らが抱える夢の世界。現実の裏側にある空想の世界。そういった世界も全て、 想像できる以上あり得るのだと。 ……泉こなたはある宇宙を選び取った。無限に分岐するセル・オートマトンの多元宇宙 から、自らの意志で自分の理想とする世界を選び取った。それが断絶。あらゆる分岐を無 視し隔絶されているはずの多元宇宙に接続すること」 ――そうして――私たちがここにいる。 その言葉は二回目だ。 つまり、どういうことだろう。さみしくてひとりぼっちで、自分を隠して暮らしてきた こなたは、本当の自分をさらけだせる理想の友達を求めてきた。 そのあいつが選んだ理想の世界――それが、今のこの宇宙。 で、合ってるのか? 尋ねてみると、みなみちゃんはこくりとうなずいて、 ――大体あってる。 といった。 「……考えてみて。この現実はまるで泉こなたが希求する萌え系アニメのよう。……おし とやかで博学、亡くした母の代わりに母性を体現するちょっとドジな眼鏡っ娘――高良み ゆき。……天然ボケで可愛らしく、料理の得意な妹属性キャラ――柊つかさ。……小動物 のように愛らしくて病弱、お姉ちゃんお姉ちゃんと泉こなたを慕い、ほんわかとした笑顔 はみる人をなごませてつい抱きしめたくなってしまう、健気で引っ込み思案で、でも誰よ りも優しくて一緒にいるだけで周りの人を幸せにする癒し系妹キャラ――小早川ゆたか」 「ちょっとまてーい! なんかゆたかちゃんだけやたら属性多くないか!?」 「あってる。……ゆたかはいい子」 みなみちゃんは憮然とした表情でそう答える。 「ふーん、へー、ほー?」 にやにやと笑いながらみつめると、頬を染めて目を逸らすみなみちゃん。なんだ、みな みちゃんはクールでかっこいい系かと思ってたけど、可愛いとこあるのね。 仕切り直すように咳払いをして、みなみちゃんはこういった。 「……そしてツインテールでツリ目のツンデレキャラ、柊かがみ――あなたこそ、近隣平 行宇宙八千那由多を貫く特異点。……泉こなたのもっとも愛する人」 今度は私が赤面する番だった。 ちょ、いきなり、あ、愛って! 愛ってなんだっ! 振り向かないことか! 好きとか 大事とかふっとばして愛って! 「……みて」 みなみちゃんはそういうと、凄い早口でなにか呪文のようなものを唱えだした。 「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」 いまふじこっていわなかった? けれどそのとき起きた出来事は、そんなつっこみを忘れさせるほどだった。部屋の一面 を占める大きな窓が突然スクリーンになり、そこに様々な映像が映しだされていったのだ。 同じベッドで朝を迎える私とこなた。 なぜか私が男になっていて、結婚式を挙げるところの私とこなた。 マスターとサーヴァントとして聖杯戦争に参加する私とこなた。 ガリレオ衛星統一連合の戦士として、レーザーガンを片手に地球からの独立戦争を戦い 抜く私とこなた。etcetc... それはただの映像ではなかった。みただけではわかるはずもない、周囲の状況や私たち の感情などが直接私の心に飛び込んできて、どうしようもなく、それがリアルのできごと なのだと私にわからせた。 「なによ……これ……」 正直にいって、それをみるまで私は結構のんきしていた。みなみちゃんはなんかわけわ かんないことをいっているけれど、全部私とは関係ないことなのだと。どう言い繕ってこ の場を抜けだそうかということばかり考えていた。 でも今みたこの映像は、みなみちゃんがいってきたことが全て真実なのだということを、 私につきつけた。 「……さっきいった。近隣平行宇宙のできごと。……様々な可能性をシミュレートした平 行宇宙には、柊つかさや高良みゆきが存在しない宇宙もある。……私や田村ひよりなどは さらに存在確率は下がる。白石みのるに至ってはわずか数十。……けれど、あなたはそれ ら近隣の平行宇宙全てに存在している。この確率はセル・オートマトン複合体全体からみ ても異常」 「……えっと…つまりどういうことなのよ?」 っていうか白石みのるって誰だっけ。 「……つまり……泉こなたにとってあなたはあらゆる宇宙で一番大事な人だということ。 ……自分でも気づかぬうちに多元宇宙の取捨選択能力をみにつけた泉こなたは、無意識の うちにあなたのいない宇宙の計算を停止させ、あなたの存在する宇宙を再計算させ始めた。 ……いつでもあなたといられるように。……宇宙がどう分岐してもあなたがそばにいるよ うに。 そうして泉こなたは平行宇宙を駆け抜ける。毎日少しでもあなたといられる時間を探し ては、断絶を繰りかえし、平行宇宙を飛ぶ。……その過負荷はセル・オートマトンに甚大 なラグを原因させた。この停止と再計算の繰りかえしによりクラスター化したビットは、 平行宇宙50兆個に相当する」 細かい部分はよくわからないけれど、話の大筋はなんとなくわかってきた。平行宇宙と か多元宇宙とか、SFもののラノベでもよくでてくる概念だし。 どうやら、こなたはその平行宇宙をどれだけふっとばしてでも私と一緒にいられる世界 を望んだらしい。あいつになんでそんなことができるのかは、よくわからないけれど。 ――こなたが、そんなに私のことを? 嬉しいと思う反面、話が大きすぎてまるで実感が沸かない。 帰りにゲマズ寄ろうと駄々をこねて、私の髪をひっぱるこなた。 いじわるな笑みを浮かべながら、私にオトコができたんじゃないかとからかうこなた。 お泊まり会の朝、ふざけて私の布団に飛び込んでくるこなた。 宿題みせてといって私の家にきたくせに、なにもしないでだらだらとゲームやってるこ なた。 そんなどうでもいいような日常が、なんでもないスキンシップが、宇宙をねじ曲げてま であいつが欲したことだったのだろうか。 「で、結局なにが問題なの? そのこなたのせいで平行宇宙だかがクラスター化? した のが駄目なの? でも、こなたはただ願っただけなんでしょ、自分が幸せになれるように って。そんなの誰でも思うことじゃない。たまたまあいつがなんだかわかんないチカラを もってたのが罪なわけ?」 「……いいえ、罪ではない。平行宇宙がどれだけ閉鎖されようと、大した問題ではない。 そして泉こなたは気づいていない。自分がセル・オートマトンにアクセスしていることを。 ……だから、自分が幸運な人間だと思っていた。……不幸せだった子供時代を埋め合わせ るかのように、今大好きな人たちにかこまれて……自分はなんと幸福なのだと」 「――だったら!」 「……それで問題はなかった――今までなら」 ――そう、いった。 「……今までなら?」 うなずく。 「今は問題があるっていうこと?」 うなずく。 一拍おいて、みなみちゃんは私に問いかける。 「……文化祭で踊った『もってけ! セーラー服』……覚えている?」 「そりゃね」 忘れるわけないでしょ。あんな滅茶苦茶恥ずかしくて、死ぬほど楽しかった思い出を、 一生忘れるもんか。 「ふりつけをみせるとき……Patricia Martinがケータイで動画をみせた。……その内容 を覚えている?」 ってか発音いいなおい。 「ええ? 私をバカにしてるのか? そんなのもちろん覚えて……って……あれ?」 覚えて、いなかった。 曲は覚えている。振り付けも忘れない。でもその動画がどういう動画だったのか、まる で覚えていなかった。虫食いの穴のように、そこだけ記憶がぽっかりと抜け落ちている。 私が目を白黒させているのをみて、みなみちゃんはいった。 「……覚えていないはず。……あれは本来あってはならない映像」 そういうと、みなみちゃんはテレビのリモコンを手に取って、ものすごい勢いでキーを たたき始めた。 「……みて」 みなみちゃんがリモコンから手を離すと、ラックにあった薄型テレビに電源が点り、な にかの映像を映し始めた。またさっきのように別の宇宙の出来事が映るのだろうか。 『さんねーん、びーぐみー、くろーいせんせーい』 どこかで聞いたことがある元気な声がテレビから流れだす。どうやらなにかのアニメの オープニングらしい。 「……って、え、えぇぇぇぇえ!? なにこれ、私たちじゃない!」 みゆき、つかさ、私、――そしてこなた。みたことある風景をバックに、私たち四人が 『もってけ! セーラー服』を踊っている。 「……京都アニメーションの新作テレビアニメ『らき☆すた』。私たちがキャラクターとし て登場するアニメ」 「わ、わたしたちが……アニメにでてるって…? はぁ!?」 「……泉こなたは私たちと同じ学校で暮らしたかった。でも都合良くそのような宇宙を探 すのは難しい。……さきほど見せた平行宇宙も、なんでもありのようにみえて……その宇 宙の因果律に則って展開されている。……突拍子もない宇宙は存在しない」 私からしたら十分突拍子もないようにみえたけどな。 「だからまず漫画を想像した。……自分を主人公として、大好きな人たちに囲まれている 世界を。そうしてその想像上の漫画はシミュレーションとなり、小さな宇宙の種子を生み 出した。その宇宙から分岐していった平行宇宙は、やがてその四コマ漫画がアニメ化され た宇宙にたどり着く。……それが『らき☆すた』」 言葉もない。自分が完全に思考停止していると感じる。えーっと、なにか、つまり、な んだ。 もう何も考えたくなくて、思わずお茶受けにでていたポッキーに手を伸ばす。ぽりぽり。 あ、おいしい。 「……私たちの存在は、この『らき☆すた』の視聴者の思考に支えられている。……彼ら 彼女らが妄想し、頭の中で展開していった『らき☆すた』世界のできごとが宇宙の種子と なり、私たちが実在しているこの宇宙をシミュレートしている。……その妄想は特にアド レスhttp //sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/で顕著……」 ぽりぽりぽりぽりぽりぽり。太るぞー。でもそんなの関係ねー。 「……お茶……。煎れる……」 急に口調を変えてみなみちゃんはそういうと、お湯を沸かしに流しに立った。 「あ、ありがとう?」 あれ、なんか今のみなみちゃんは私が知ってるみなみちゃんな気がする。 美味しいお茶を煎れるには、沸きかけのお湯を最初にポットとカップに注いで温めてお くのが大事らしい。十分温まったらそのお湯を捨て、慎重に計った茶葉をポットに入れる。 ティースプーンを水平にして、真剣な顔でにらめっこをするみなみちゃんをみているう ち、だんだん心の棘が溶けていく気がした。 十分に沸騰させたお湯を勢いよくポットに注ぐと、対流で茶葉がさっと舞い上がる。こ うやって、沸き立てで空気をたっぷり含んだお湯をしっかり茶葉全体に潜らせるのがコツ なんだそうな。 みなみちゃんはちょっと照れた顔で教えてくれた。 「美味しい!」 みなみちゃんが煎れてくれたお茶は、やっぱり美味しかった。 「そう……よかった……」 「私最初、高いお茶だから美味しいのかと思ったけど、みなみちゃんがちゃんと煎れてく れたからだったのね」 「ありがとう……。でも、葉も確かにいい物。……それでも素材がいいだけじゃ美味しく ないのは、あなたのいうとおり……」 暖かくて美味しいお茶で、少し落ち着くことが出来た。 みなみちゃんはそんな私を問いかけるようにみつめている。私はそれにうなずいて、話 を戻していった。 「……それでさ、その、『らき☆すた』ってアニメがあるっていうのは……もしかして、私 たちが創作されたキャラクターだっていうこと?」 みなみちゃんもちょっと残念そうな顔をして答える。 「……それはちがう。あくまで原作やアニメはこの宇宙の種子。シミュレーションの最初 の一行にすぎない。……多元宇宙であっても、各々の宇宙は自律している。……私たちが 過ごしてきた時間も、悩みながら生きてきた過去も、作り物ではない……それが不安だっ たなら……大丈夫」 画面ではオープニングが終わって本編が始まっている。仲良く手をつないで買い物にい く私とこなた。ああ、やっぱりね、この世界でもこな×かが公式なんだ。 「なるほど、それはとりあえずそれとして信じるよ。で、話を繰り返すけど、何が問題だ ったのよ。このアニメを作るためにどっかのアニメーターが過労で鬱になったり、監督が 更迭されたりしたこと?」 「……ちがう。それは問題ない。問題は、私たちの宇宙に『らき☆すた』のオープニング テーマが現れたこと。 ……私たちが実在する宇宙とアニメ『らき☆すた』が放映されている宇宙はねじれの位 置になければならない。作品世界のキャラが実在する宇宙は、宇宙の理に反している。 ……ところが、あの日Patricia Martinがみせた動画は、さっきみせた『らき☆すた』 のオープニングだった。これはあってはならない。……今、全宇宙の絶対的な物理法則が 崩壊しつつある」 そしてみなみちゃんはこういった。 ――それを引き起こしているのが、泉こなたの寂寞。 ※ ※ ※ みなみちゃんの家から外にでたら、もう陽が暮れかけていた。このところめっきり冷え 込んできた空気に、吐く息が白い。ぶるっと小さく体を震わせて、マフラーを首元にたく し上げた。 街角を大きなでぶ猫が歩いている。でもあの猫もどうせシミュレーション。きっと私が みていないところでは、生きたり死んだりしているのだろう。 家にかえりついたときには、太陽はほとんど地平線の陰に隠れていた。少しだけ残った 天辺から差し込む夕陽は、街をオレンジ色に染め上げていて、その補色で家々は群青色に うずくまる塊のようだった。 自宅の前に小さな小さな影がいた。 一人ぽつねんと佇むその女の子は、血のような色の夕陽を背負い、地面に長い長い影を 曳いている。その光景は私に、なぜだか胸をわしづかみにされたような情動を与えた。 「……こなた……?」 「……あ、かがみー!」 こなたは私をみつけると、こちらに駈けつけてくる。表情は群青色の影にとけ込んでい てわからない。なぜだかその動作はスローモーションのようにゆっくりで、一瞬これが現 実なのかどうか、わからなくなる。 こなたはそのまま抱きついてきた。その感触に、私は途端に現実に引き戻された。 「うわ、冷たっ。あんた体凄い冷えてるじゃない! なにやってたのよ!」 「んー……それがさ、なんか暇になったからかがみんちに遊びにきたんだけど、誰もいな くてさー。二人とも今日はお出かけしないっていってなかったっけ? かがみにかけても 圏外だし、つかさにかけても、家にかけても誰もでないしで、途方にくれてたところなん だよ」 あわててケータイをとりだす。ディスプレイには『禁則事項です』といってほほえむみ なみちゃんの画像が映っていた。なんだかわからないが、あの会話の間じゃまされたくな かったのだろうか。それとも、あそこがすでに私たちがいる宇宙とはちがう場所だったの かもしれない。 「ごめん、ちょっと急用があって……。お父さん達は今日地鎮祭で、まつり姉ちゃんはデ ートだろうし。つかさは……どこいってんだろ? って、いいから早く入んなさい! が たがたふるえてるじゃない、もー!」 鍵をあけてこなたを家に招き入れる。 つかさは部屋にいた。机に突っ伏してすーすか寝ていた。問題集をやってるうちに力尽 きたようで、ノートには『あっちょんぶりけ』と謎のダイイング・メッセージが残ってい た。とりあえず答えに全部『やっさいもっさい』と書いて、あとついでに毛布もかけてお いた。 「ほらこなた、お風呂沸いたよ」 「えぇ~、いいってば、もー。かがみ過保護だー」 「ダメだって、こんな時期に風邪ひいたらどうすんのよ! もう受験まで間がないんだ ぞ!」 鼻をすするこなたを部屋からつれだして、お風呂場に向かう。こんなに冷えるまで…… こいつどのくらいあそこで待ってたんだろう。 「あ、じゃ、かがみも一緒に入ろうよ~」 それもいいかな。って、んなわけあるか! なんかやばい、さっきみなみちゃんに見せ られた映像に影響されてる。多分顔を真っ赤にさせて黙り込んでる私に、慌てた様子でこ なたがいう。 「あ、あの……かがみんや~? じょ、冗談だよ?」 「……わかってるわよ」 こなたがお湯を使う音を聞きながら、私は思い出している。今日みなみちゃんにいわれ たこと―― ――泉こなたは卒業したくないと思っている。 みなみちゃんは私の目をみつめながらそういった。 ――高校を卒業したら、いやでも4人は離ればなれになる。それはどう宇宙を再計算し ても逃れることができない未来。高校制度そのものから離れない限り、卒業は必然。その 寂寞が問題。 ――泉こなたは賢明に宇宙を探し回った。4人ずっと同じ学校で、誰も大人にならず、 恋人も作らず、全てを棚上げにして今と同じように一緒に笑っていられる世界。そんな世 界を探してかけずり回った。その煽りをうけて『らき☆すた』は、原作からもアニメから も時間経過がなくなった。永遠に繰りかえされる高校3年の冬。その状況が2007年9月以 降続いている。 ――そして泉こなたはついに宇宙を造り始めた。セル・オートマトンによらない全く新 しいオリジナル宇宙。そこはあらゆる純粋数学がねじまげられ、1+1が0になる世界。そ こでなら4人でずっと一緒にいられる。その過負荷はセル・オートマトンに誤作動を引き 起こし、本来あってはならない多元宇宙の自律性を侵犯した。そしてこの宇宙に「もって け! セーラー服』をもたらした。 周りの風景はもうなにもみえなかった。その中でみなみちゃんの口だけが言葉を紡ぎ出 していた。 ――すでに先日、そのようなオリジナル宇宙の萌芽が観測されている。そこは死者が蘇 る世界。今は亡き泉かなたが存在している宇宙。 ――その宇宙への接続はあやういところで破られた。オリジナル宇宙が宇宙として自律 しうるほどの数学的無矛盾性を確立できていなかったせいもある。泉そうじろうの誠実さ が泉こなたをこの宇宙にひきとめたせいもある。 ――けれどこの状況が続く限り、泉こなたはまた新たなオリジナル宇宙を創造するだろ う。宇宙律に縛られたセル・オートマトン世界を離れて、全く新しい数学が支配する宇宙 を。 ――そしてあなたたち4人以外の登場人物は、未来永劫、存在可能性ごと完全に消え失 せる。 「やふ~、いいお湯だったよ。ありがとうね、かがみ」 頭からほこほこと湯気をだしながら、こなたがいう。 そのだらけきった、のほほんとしたタレ目はいつもどおりで。でもその裏に、この宇宙 では収まりきらないほどの寂寞をこいつは抱えていて。 思わずぎゅっと抱きしめた。 わかってる、たぶんこれはみなみちゃんの思うつぼだ。でも、それでもいいと思った。 こなたの体は細くて軽くてどこもかしこも小さくて。こいつはこんな小さな体で、たっ た一人無限の宇宙相手に立ち回ってきたんだ。 「……え?……か、かがみ? あれ? あれ?……わたし、いつのまになんかフラグ立て てた?」 顔を真っ赤にしながら、いつもみたいな軽口。 「……そうだよ、悪いか。ほんとはずっと前から立ってたんだよ。……あんたが学校入っ たその日からさ」 『ん~』とか『ほえ~』とか、なんだかわかんないうなり声をあげるこなた。こいつが 口ごもるところなんて初めてみた。いざこういうことになると意外と弱いのな。 「……かがみ…わたしのこと、好き……なの?」 「あたりまえでしょ、なんのために毎日そっちのクラスいってると思ってたのよ?」 「そりゃ……ま、ね。でも好きっていってもいろいろあるじゃん? 友達としてとか、恋 人としてとか……」 抱きしめた腕を離して隣に座る。一瞬こなたの手が、私の腕を引き留めるように動いた のに気づく。こなたとの密着率が下がって急に寒くなった気がした。夜風ががたがたと窓 枠を揺らしている。 どういう好き? 私はこなたをどう好きなのだろう。 考えてもわからなかったので、そのまま答えた。 「そんなの、わかんないわよ……っていうか、恋人とか友達とか家族とか、好きって気持 ちにそんなに違いがあるのかな?……セックスしたら恋人か? じゃ、お父さんとお母さ んは恋人? 家族?」 「わかんない……お母さんいないし……」 「えーい、そんなところでへこむな」 こなたの頭をぐりぐりする。いつもやられてきたからお返しだ。 「どう好きなのかなんてわかんないけど……でもずっと一緒に生きていきたいって思うん だよ。一緒に悩んで、一緒に成長して、一緒に変わっていくの。……もしかしたら恋人に なるかもしれないし、お互い異性の恋人つくるかもしれない。……遠く離れることもある かもしれないし、喧嘩することもあるかもしれない。でもなんていうか……物語の主人公 達がずっと書かれ続けるみたいに、一緒にいたいんだ。それは、私とこなただけじゃなく て、つかさもみゆきもいて、黒井先生とかゆたかちゃんとかパトリシアさんとかゆいさん とかもいて……」 「だからこなた、そんなに寂しそうな顔するなー!」 そのとき、なにかが変わった気がした。 窓の外から急にいろいろな音が聞こえ始めた。犬の遠吠え。自転車が通る音。豆腐売り のらっぱの音。虫の声。 今の今まで、生き物が立てる音が全く聞こえていなかったことに気づいた。 「ふぇ……さびしい? ……わたしが? さびしんぼはかがみでしょ~?」 きょとんとした顔で私を見上げるこなた。そのとき、隣の部屋で何かが椅子から転げ落 ちるような音と、『ヌルハチ!』という謎の悲鳴が聞こえてきた。 こなたと私は顔を見合わせて、同時に噴き出した。 「あ、お姉ちゃん帰ってたんだ、おかえり~。って、あー! わーい、こなちゃんがいる よ~」 お尻をさすりながら部屋に入ってくるつかさに、ヌルハチは清の開祖だぞ、と声をかけ る。こなたはさっきまでの雰囲気をまるで感じさせない様子で、つかさと笑いあっている。 階下から戸を開ける音と、お父さんの「ただいまー」という声が聞こえてくる。ケータ イが鳴り、みると、みゆきからのメールが届いていた。 急に賑やかになってきた世界には、さっきまでのまるで宇宙に二人きりだったような寂 寥感は微塵も残っていない。 いつものやりとり、いつもの風景。 それはこれからも変わらず、私たちはみんなの中で生きていくんだと思う。だから私は、 なんのためらいもなくこなたに笑いかけることができる。 「こなた、今日泊まっていきなさいよ」 そういうと、こなたも満面の笑みで答えた。 「うん!」 (了) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「やふ~、かがみ、お風呂上がったよ~。って……なななな、なにみてんのさ~!!」 「おー、こなたー、勝手に読ませてもらったわよ」 かがみはニヤニヤ笑いながらこなたにいった。モニタには『泉こなたの寂寞』という名 前のテキストファイルが表示されている。 「むきゃ~! かがみのオニ! アクマ! ツンデレ! 普通、人のパソコンのDドライ ブ勝手に覗かないよね!」 こなたは顔を真っ赤にしてまくし立てる。 「ご、ごめん、ごめんって。でもこれ普通にデスクトップにあったぞ?」 「……あ、ああ、そっか、改稿する前のバックアップをデスクトップにおいといたんだ! しくったー!」 頭を抱えて回転しながら泣き崩れるこなた。 「まあ、まあ、でもこれ面白かったよ。いろんな意味でな!」 かがみはそう声をかけてなぐさめようとするが、ニヤニヤ笑いを隠す様子もなかった。 そもそもなぐさめになっていない。 「でも、そっか、あんたが小説ね~。たしかにあのお父さんの子どもなんだから書けても おかしくないわね」 こなたは多少落ち着いたのか、ベッドの上であぐらを組んで答える。 「んー、運動神経とかとちがって、遺伝が関係あるかどうかはわかんないけどね、なんと なく書いてみようかなっておもったのさ。とりあえず私小説っぽいのが書きやすそうだっ たから」 「ふーん、私は書こうと思ったことないからなー。ってかそれにしてもあんたの中の私っ て、こんなに昔からこなた好き好きにみえてたのか~?」 そういうと、こなたはまた顔を真っ赤にして答える。 「い、いいでしょ! その方がお話にしやすかったんだよ! 適度に恋愛要素とか入れな いと、読者は読んでくれないんだよ!」 へー? ほー? などと意地悪く笑いながらベッドに向かうかがみを、こなたは布団を めくって招き入れる。 「それにしても……『らき☆すた』だっけ? 私たちがアニメだか漫画だかになってるっ て設定、どっから思いついたの?」 こなたの隣に潜り込みながら、かがみは尋ねる。 「……え?……あ、そっか。ふふ、どうかな?」 そういって浮かべたこなたの笑みは、かがみが未だかつてみたことがない表情で―― 窓の外を、でぶ猫が通っていくのがみえた。 (了) コメントフォーム 名前 コメント 挿入できるよ(´-ω-)♂ http //www.l7i7.com/ -- ありません (2012-02-01 20 41 54) やっさいもっさいで爆笑 -- 七資産 (2010-09-18 20 56 17) 長門みなみんの言ってること理解に20分かかったw さりげないゆたか贔屓同じくつぼwww -- 白夜 (2009-11-24 23 46 25) この作品が好きなだけに、今パー速のらきすたSSスレで投下されてるのがこれのパクリなんじゃないかと思わずにはいられない -- 名無しさん (2009-05-17 12 11 19) 「白石みのるに至ってはわずか数十」wwwww -- 名無しさん (2008-07-08 21 46 10) 難しかったけど、まあつまり、こなたはかがみのことが好きなんだとw可愛い奴w -- 名無しさん (2008-07-08 00 57 49) またあなたの気まぐれが(ry -- 名無しさん (2008-05-30 07 01 34) 個人的には散見する数々のネタにハードSFの血統を感じたり。 ハルヒネタを軸に持ってくる事で読者層に配慮してるというか、読みやすくしてるというか。 そうした意味でも力作だと思います、凄い。 -- 名無しさん (2008-05-30 01 41 16) みなみが言ってることに全然ついていけた! 確かに声優が実里さんというのは同じだけど、せっかくだから 正体も一緒にしてほしかった。……みくると古泉も本当に出て 来そうだな… -- 名無しさん (2008-05-30 01 22 47) こなた=ハルヒ かがみ=キョン みなみ=長門 という立ち位置だけど、ここまでいくと、 みくるや古泉の立ち位置も妄想したくなってくるな。 -- 名無しさん (2008-05-24 13 45 42) いろいろとすごい -- 名無しさん (2008-05-24 00 55 34) 難しげな単語をただ並べただけではこの作品は書けない。 単語の持つ意味をきちんと理解しなければ。 ……俺には到底マネ出来ん!!ww -- 名無しさん (2008-04-24 20 50 54) アッチョンブリケwww -- 名無しさん (2008-04-24 19 48 03) みなみしゃんがなにいってるか しゃっぱりわからなかった・・・ いやーまじで -- 名無しさん (2008-03-23 23 05 47) ゲーデル問題なんて、哲学科か数理学科でしか出てこないような単語だな -- 名無しさん (2008-03-22 01 40 26) こんなにコメントが多いのってここぐらいじゃね? なぜならば、作者が神であるからだ。異論は認めない。 -- 名無しさん (2008-02-16 22 05 01) 正直言おう。お前が何を言っているのか、俺にはさっぱり解らない。 -- 名無しさん (2008-02-16 16 22 35) ヌルハチwwwwww -- 名無しさん (2008-02-11 23 59 22) 色んな所で吹いたw のにしっかり良作にしてしまう作者の才能に感動した -- 名無しさん (2008-02-07 23 39 52) 色々吹いたww あなたに嫉妬する俺に泣いたww -- 名無しさん (2008-01-31 00 38 06) コメントの多さに吹いたwww -- 名無しさん (2008-01-26 19 58 20) いろいろ難しい言葉が出て来たが、めっちゃ面白かった。いろんなネタも混じってたし、オチもまさか、ああなるとは…。あなたの才能に嫉妬です(笑)またこういった小説を書いてくれることを楽しみにしています。 -- らはある (2007-12-30 23 31 40) 何というか…らき☆すたに新たな可能性を見た。ゆたかを贔屓するみなみちゃんツボw -- 名無しさん (2007-12-30 09 27 37) 監督wwwwwwwwwwwww -- 名無しさん (2007-11-19 22 48 28) つかさの扱いに吹いたw -- 名無しさん (2007-11-09 02 42 01) ヌルハチ吹いたww -- 名無しさん (2007-11-06 16 35 16) あ な た が ネ 申 か -- 名無しさん (2007-10-19 20 17 55) 白石wwwwwwwwwwwwww -- 名無しさん (2007-10-02 16 48 40) 初潮www -- 名無しさん (2007-10-02 14 09 12) なんというか、あらゆることに“説明がついた”かのような錯覚を覚えたw力作超乙。 -- 名無しさん (2007-10-02 13 30 48) 「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」 で一気に吹いた。 -- 名無しさん (2007-10-02 12 52 42) 白石の扱いがどの作品読んでも酷いんだがwww -- 名無しさん (2007-10-02 00 29 31) うん、幸せだ。 -- 名無しさん (2007-10-02 00 16 01) 読んでて素直に面白かった。またこういうの書いてほしいね。 -- 名無しさん (2007-10-02 00 09 15)