約 317,524 件
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/84.html
1スレ目 907 「す、すみません遅くなって」 待ち合わせの駅。十分遅れた郁を見て堂上が恐ろしく不機嫌な顔した。 「本当にすみません。出掛けに腕時計がみつからなくて。…そんなに待ちましたか」 「待っとらん!そんなことはどうでもいい!なんだその格好は!」 「え?」 郁は自分の服装を見る。キャミソールにカーディガンにミニスカート。 「…どこか変ですか」 「わからんのかっ!スカートが短すぎる!」 「や、でも前に業務で餌になったときよりは長いですよ。てか、今その辺歩いてる子たちのほうがもっと短いし。 いつも同じような服装じゃつまらないかと思って」 堂上は郁の手を掴んでひと気のない駅舎の裏に引っ張っていった。 「教官、手が痛いですぅ」 「いいか良く聞け!お前はそこらの女より背が高いんだ!足も長いんだよ! それなのにミニスカートなんか穿いてたら露出が他の女より多くなるのがわからんのか!」 …わかるようなわからないような。郁が考えていると、急に抱き寄せられた。 同時に堂上の手が郁の足に伸びてきた。 よく知っている手が太腿を撫で上げ、スカートの中にまで忍び込む。 郁は痴漢を釣ったときのことを思い出すが、全然違うのは、それが気持ちいいことだ。 「や、ちょっ…教官!」 膝が震え始めて声を上げると、堂上が郁を離した。 「わかったか?そんな足を見せられたら男はみんなこういうことをしたくなるんだよ! だから…ちょ、おま…なんだその顔は」 目を潤ませ、上気した頬の郁に堂上はたじろいだ。 「…教官のせいじゃないですか」 恨みがましく言う郁から目を逸らし、堂上はため息をついた。 デートは予定より三十分以上遅れて始まり、二人は食事でも映画でもなくホテルに直行し、 その後郁のロングスカートを買いに行くことになったのだった。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/35.html
1スレ目 212-213 「……堂上教官」 自分でもびっくりするぐらい甘ったるい声は、それなりに慣れた今でもやっぱり恥かしい。 でも口を塞ぎたくても両手は大きな背中を掴んでいるせいで物理的に無理で、どんなに我慢しようと口を塞いでも、それを見越したような動きをされるせいで叶わない。 絶対、堂上教官、分かっててやってるんだと思うんだけど──。 精一杯睨んだところで、妙に意地の悪い堂上はあえて郁を追い込む節がある。 今も脚に当たる熱い感触に郁はテンパる寸前だ。 本当はここで余裕の一つでもかましたいのだが、現実はそう簡単に思い通りにはなってくれない。 する前まではあれやこれや色々と考えているというのに、堂上の大きな 手の平で身体のいたるところを触られると、それだけで郁の余裕は吹っ飛んでしまうのだ。 汗ばんだ頬にへばりついた髪を丁寧にはらわれ目元に口付けをされてしまうと、思わず背中に回していた腕に力を込め、シャツをぎゅっと握り締めてしまった。 「そ、そんなこと、しなくていいですからっ!」 「いいだろ、俺がしたいからしてるんだ」 ううっと郁は口を噤むしかない。 どうしてそんな痒い台詞を真顔で言えるのか── 普段の仏頂面からは想像も出来ない甘い台詞であることに気付いていないだろうか。 でもそんな台詞一つで胸を鷲掴みにされてしまうぐらい、ときめいてしまう自分もいて── 郁は堂上を好きな自分を嫌でも自覚する。 「それから教官はやめろ。教え子に手を出しているようで寝覚めが悪い」 一瞬意味が分からずポカンとしてしまったが、それをはぐらかそうとしていると思ったのか堂上は一際面白くなさそうな顔をした。 ようやく、ああ呼び方かと分かったものの、 「でも教官は教官だし……」 今更、別の呼び名なんて考えもしなかった。 呼び捨てなんかしたら一喝されるだろうし── 普通ならば「さん付け」だろうか。 堂上さん?……どうもしっくりこない。 こんな状態で真剣に悩むのも可笑しな話だが、まっすぐに見下ろしてる堂上の表情は次第に険しくなっていく様は無言の圧力といってもいい。 「じゃ、じゃあ、堂上ニ正!!」 無い知恵を捻り出した郁の改心の妙案は、堂上の不機嫌さに拍車をかけただけだった。 「…………お前、人が下手に出てると思って、からかっているんじゃないだろうな」 「ええっ!?だって手塚はそう呼んでるじゃないですか!!」 手塚は良くてどうして自分は駄目なのか、これほど真剣に考えたというのに、どうして堂上には伝わらないのか郁は全く分からない。 そもそも堂上の望みはそういう類でないということすら郁は分かっていないのだから始末が悪い。 「それぐらい自分で考えろ。これから教官って呼んだら失点一だ」 「し、失点って!?」 「五つ溜まったら仕置きだからな、覚悟しとけ」 「む、無理です、無理っ!」 堂上教官──と口にしてしまった時には既に遅かった。 今のは無効だと言う前に首筋をきつく吸われてしまった。 「や、やだっ!そんなところじゃ誰かに見られ──」 それ以上は言葉にならなかった。じりじりと競り上がるような快感は郁に考えることすら出来なくさせてしまう。 鬱血したであろう跡を舌でなぞられ、首筋を滑り落ちるように舌を這われる。 ささやかな胸の膨らみを大きな手の平で捏ねるように触れられ、つんと立ち上がった蕾を吸われてしまった。 郁が堪らず身体を反らせると、アーチを描くように愛撫はどんどん下に降りていく。 ぴたりと閉じてあった脚の付け根は自分自身でも判るぐらいに濡れていて、それが羞恥を煽る。 反射的に止めて欲しいと郁は堂上の短い髪をぎゅっと掴んでしまったが、逆に脚に力は入らなくて堂上の求めに応じてあっさりと広げてしまった。 見られているのだと自覚すると身体の芯からとろりとしたものが零れ落ちてきた。 それを堂上は指ですくいとると、淡い恥毛に擦り付けるように動かし始めた。 「やぁっ、ああっ、教官──っ、」 「これで失点ニだな」 堂上は短く答えると、潤んだ肉洞にいきなり指を捻じ込み、入り口付近を引っかいてきた。 溢れ出す愛液はかき出されるようにいやらしい音を奏でてシーツに染みを作る。 また無意識に教官と呼んでしまい、今度はぷくりと膨らんだ花芽を探り当てられ甘噛みされた。 それが引き金となって教官と呼び──失点はあっという間に五つを軽く超えてしまった。 五つ溜まったら仕置き、などと堂上は言っていたが、郁からしてみれば既にこの状態が仕置きといってもいい。 満たされたい場所は決して満たされず、それを焦らすように快楽を与えられているのだから。 もう頭の中は仕置きなんてことよりも、早く満たされたい気持ちでいっぱいだった。 「堂上教官っ、早く──」 郁は泣きじゃくりながらそう懇願すると堂上の指が引き抜かれた。 それでも身体はまるで高熱を出したように熱く、燻っている。 実際は僅かな時間だったのかもしれないが、その僅かな間は郁にとっては永遠に続くのではないかと思うぐらいに長く感じられた。 「…………そんなに俺が欲しいのか?」 その声色にからかいは読み取れなかった。 しかしどうして堂上はあえて今更そんなことを訊いてきたかなど、今の郁に考える余裕はなかった。 涙で滲んだ視界はぼんやりとしていて堂上の顔色も伺えない。 「堂上教官じゃなきゃ嫌です」 すると顔に陰がさしたことに郁は気付いた。 それが堂上の身体が明かりを遮るように覆い被さっているせいなのだが、そうだと気付く前に郁は無意識に堂上の背中に手を回し、ぎゅっと握り締めた。 自分より背の低い堂上の背中は大きくて、それがとても安心する。 縋るように抱きつくと、待ち焦がれていたものにようやく満たされた。 「あっ、あぁん……っ!」 熱いそれがじわじわと郁の中に入ってくる。 気持ち良いところを全部押し上げるように入ってくると郁の身体は大きく震えた。 焦らされたせいでいつもより感じているのだろうか、繋がっているだけで十分に気持ちが良い。 「堂上教官っ、教官っ……はっ、ん、んっ……」 お世辞にも上手いとはいえない唇を重ねるだけのキスを何度も繰り返した。 堂上も興奮しているのだろうか、微かに漏れる声が熱っぽく郁の肌を震えさせる。 あの堂上をこんな風に乱してしいるのは他でもない自分だということが嬉しくて、もっともっと自分の知らない堂上を知りたいと郁は思う。 堂上はどんな気持ちで自分を抱いているのだろう── 素面でも決して訊けないことではあるが、同じだったら嬉しい。 直線的に押し上げられる動きと奥深くを探られる緩慢な動きに、郁は身体を戦慄かせ受け入れた。 はしたない声を抑えきれず、更に堂上を求めるように自ら身体を押し付けてしまう。 「…………もういきそうなのか?」 それに素直に頷いた。 きっととんでもない言葉も口にしてしまっただろうが、それを気に止める余裕もない。 また「教官」と呼んでしまったが、もう堂上は何も言ってこなかった。 逆に蕩けるような口付けをしてくれて、郁は夢中でそれに応えた。 「ん、んん……っ、」 腰を掴まれ、今までないほど堂上は激しく腰を打ちつける。 最も深い場所でどくんと何かが弾ける感覚に郁も大きく身体を震わせた。 「────郁、」 堂上が郁の名前を呼ぶことは滅多にない。 だけれど終わった時は必ず名前で呼んでくれて、それが郁は密かに嬉しかったりする。 もしかして堂上教官も同じなのかな……教官って呼ぶなって……それって──。 それ以上は強い眠気に襲われ考えられなくなってしまった。 もう少しで答えが手に入りそうなのに、頭を撫でる堂上の手はあまりにも心地良くて、それをさせてくれなかった。 案の定、目が覚めた時は綺麗さっぱり忘れてしまっていて、 「ああっ、もう少しで分かりそうだったのに……!」 「何がだ」 「呼び方ですよ! 教官が頭さえ撫でなければ絶対分かったはず!!」 「バッ……!八つ当たりも大概にしろっ!この愚鈍!!」 一際大きな雷を落とした堂上は何故かそれ以上の罵倒は続かず、そっぽを向いてしまった。 大いに残念がる郁は、その堂上の顔が赤く染まっていたことになど気付くはずもなかった。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/34.html
1スレ目 200-205 その日、堂上は小牧と一緒に図書大学時代の同期の結婚式に出席していた。 二次会にもなると座もくだけ、酒が入っているせいか話も弾んだ。 「そういえば堂上、おまえ彼女が出来たんだって?」 同期の一人がそう話を切り出すと皆が一斉に堂上を見た。 学生時代から堅物で名を知られた堂上だけに、その彼女というだけで興味深々なのだろう。 「……別にいいだろ。俺が誰と付き合っても」 この場では誰よりも真相を知っている小牧は楽しそうに成り行きを見守っているようで、それがまた癪だった。 投げやりに突っぱね酒を一気に煽ったが、 「部下だって聞いたが、本当か?」 その一言で誤魔化すレベルなどとうに超えていて、更に先ほどの自分の言葉が照れ隠しであることまでバレてしまった。 同時に上がる周囲の呻く様な驚きとからかいの声の中、堂上は思わず噴き出してしまった酒を拭うのがやっとだった。 「まさかお前が職場恋愛とはなぁ」 感慨深げな言葉は意外だと言っているのと同じだ。 堂上とて当事者になるまで、そう思っていた。 ましてや上官が直属の部下と懇意の仲になるなんて、上官としての地位を利用しているように思われかねない。 とはいえ実際の相手はそんなもので左右されるような柔な性格ではなく、堂上の手の平で上手く動くような可愛い奴でもなかった。 むしろ、うっかりしていれば、こちらが足元をすくわれかねない ──何せ受け身も取れないような場所で上官相手に大外刈りを繰り出すような相手なのだから。 「職場恋愛ってことは特殊部隊内か?……ってことは、あの背の高いすらりとした子か」 何せ相手は図書特殊部隊で初めての女性隊員で、立場や場所は違えど同じ図書隊に属する者ばかりだから知っている者ばかりだ。 皆口々に、幾つ年下なんだ?五歳も下なのかよ、この果報者、などと言い放題である。 確かに外見だけならば羨ましがられても仕方がないのかもしれない。 それは内面を知れば、あっさりと覆えされてしまう程度のものでしかないが 「堂上は背の高い女でも平気なんだな」 一人が何気ない態でそう呟き、世間から見ればやはりそういうものなのかと堂上は理解した。 背の高さを気にするような歳はとうに過ぎていたし、一般的に見て自分がチビであることは分かっている。 それに付き合うのに背丈なんてどうでもいいことじゃないのか、というのが堂上の本音だ。 そもそも遊び本意で付き合っているのではないし、普段は男まさりで無鉄砲ばかりするあいつが自分のこと特に女性を意識すると周囲が驚くほど弱気になる、そんなギャップも含めて自分は好きなのだ。 ──決してあいつの前では言わないが。 とはいえ"彼女は自分より背の低い女がいい"という価値観が根強いことも知っていたし、それがお互い様で"彼氏は自分より背が高くないと嫌"というのもよく聞く話だったので、今更不快に思うようなことはなかった。 あえて相手が背が高くて不便といえば、踵の高い靴を履かれると頭を撫でる時に苦労するぐらいか。 ふと先日そんなやり取りをしたことを思い出していると、 「……大丈夫なのか?堂上」 既に別の話で盛り上がった頃になってから小声でそう訊かれ、堂上は思わず怪訝な顔をしてしまった。 「相手の女の子だよ。女は男が思っているより背丈を気にするもんだろ。背が高いんなら尚更気にしてるんじゃないのか?そこんところ、ちゃんとフォローしてるのか、お前?」 お節介すぎる心配に堂上は露骨に顔を顰めたが、彼が同期の中で一番最初に世帯を持ち既に子供がいることを思い出した。 その口調からはやっかみやからかいは伺えなかったし、純粋に堂上達の仲を心配しているようだった。 そこまで仲を心配されるほど自分は不器用に思われているのかと思うと面白くなかったが 「あいつはそんなことを気にするようなやつじゃない」 と反論しようとした。 だが、そこでようやく思い出した。 そういえば、あいつにそんなことを訊いたことが一度でもあったか? 俺は気にしないが、あいつがどう思っているのかなんて──。 堂上はその問い掛けに答えられないことを今になって気付いた。 寮に戻った頃には消灯時間は過ぎていて、中は既に真っ暗だった。 自販機で飲み物でも買って帰ろうと堂上は玄関ロビーで小牧と別れた。 ネクタイを少しだけ緩めつつ共有区間までやって来ると、反対側からこらちにやってくる人影に気付いた。 「堂上教官……?」 気付く前に名を呼ばれ、相手が郁であることを知った。 嬉しそうに駆け寄ってきたものの、近寄ると露骨に顔を顰めた。 「うわっ、お酒臭っ!」 「仕方ないだろ、結婚式だったんだ」 そこでようやく郁は堂上が珍しくスーツ姿であることに気付いたようだ。 「あ、今日だったんですか。小牧教官と一緒に行くって言ってた結婚式って」 お祝いの席ですもんね、と郁も納得したようで、うんうんと頷いている。 「どうしたんだ、こんな時間に。消灯時間はとっくに過ぎてるぞ」 「喉が渇いたんで何か飲もうかなと思ってきたんです」 教官も?と訊かれ、堂上は素直にああと頷いた。 先に買うように促し、堂上は郁の後姿をぼんやり見ていた。 当たり前なのだが、自分より背の高い郁の姿に漠然と不安を覚えてしまった。 それは上官としてではなく、一人の男としてだ。 自分は郁の目にどう映っているのだろう。 自分が背の低いことで郁が嫌な思いをしていないだろうか。 それでなくとも郁は自分が背の高いことを気にしているのは堂上の目から見ても明らかで、背の低い自分といれば尚のこと気にしてしまわないだろうか。 ──どうしてそんなことに今まで気づかなかったのだろう。 「…………お前は本当に俺でいいのか?」 思わず口にしてしまった言葉に郁は驚いた様子で振り向いた。 まっすぐに見下ろされる視線がこれほど居心地の悪いものだとは思わなかった。 「教官、それってどういう……」 「だから、俺みたいな奴でお前は本当にいいのかって言ってるんだ。お前、俺みたいに背の低い男と一緒にいて辛い思いをしているんじゃないのか?」 本当に辛い思いをしているならば郁が打ち明けてくれることは分かっていたが、負けん気の強い郁は余程のことがない限りそれを言い出すこともないのも知っている。 それが信頼の証であることも承知しているし、堂上の問い掛けが逆に郁の心を乱してしまうかもしれないことも分かっていた。 それでも、言わずにはいられなかったのだ。この漠然とした不安を振り払う方法を他に見つけられなかった。 息が詰まるような静寂の後に、 「堂上教官は……気にしないって言ってくれたじゃありませんか。あたしが背が高くても、全然女らしくなくても気にしないって」 ああ、と堂上は頷いた。 俺は気にしないと言葉を続けると、 「あたしだって一緒ですっ!そんなことで教官を嫌いになったりしません!そんな風に思ってたなんて……酷いです」 しゃくりあげるように泣き出してしまった郁に堂上はすまなそうに腕を掴むと自分に引き寄せた。 郁はその瞬間は驚いたように身をすくませたが、すぐに止め、いつものように腰を少しだけ屈めると堂上の肩に顔を乗せた。 じんわりと肩に暖かいものが伝わり、微かにだが嗚咽を聞こえてきた。 「……すまん。泣かせるつもりじゃなかった」 宥めるように背中をさすってやると、郁は頷く動作をしてくれた。 「お前も俺と同じ気持ちでいてくれたんだな……」 「当たり前じゃないですか」 「そう言ってくれるな。男はお前が思ってるより繊細な生き物なんだ」 それがあまりにも堂上とは不釣合いな言葉に思えたのか、郁は声を殺して笑っているようだった。 そういう反応が女は無神経だと言われる所以だと堂上は思ったが、ここでまた言い争いなんてことは避けたいので黙って忘れることにした。 落ち着きを取り戻した郁が顔を放そうとするのが分かり、堂上は腰を引きつけると強引に郁の顎を下に向けた。 郁も何をされるのか分かったらしく顔を真っ赤にしてしまったが、嫌がる素振りは見せなかった。 それを了承と捉え、堂上はやんわりと口付けた。 二度三度啄むように口付けると、郁は苦しいのかくぐもった声を漏らした。 その甘い吐息が酔った身体にかなりの毒であることは、してから気付いた。 ここが寮でなかったら──などと不埒な感情を抱きつつも、ゆっくりと唇を離した。 とはいえ物足りなかったのも事実なので最後に下唇を甘噛みしてから放すと、郁は潤んだ瞳をそのままに見下ろしてきた。 すぐにマズイことをしたことは分かった。 誰もいない場所で、素面とは言い難い自分に、その顔は危険すぎる。 当の本人が分かっていないだけに、その無防備さが拍車をかける。 この状態で郁に触れるのは自殺行為と同じだということは分かっていた。 酒のせいなのか、それとも別の何かなのか── 気付けば堂上の手は郁の腕を触れていた。 さあっと鮮やかに朱色に染まった郁の表情に、堂上はあっさりと負けを認めた。 真っ暗な会議室に転がり込み鍵を閉めると微かに残っていた理性は綺麗さっぱりふっ飛んだ。 ソファに腰を下ろし膝の上に郁を座らせると、堂上は何度も口付けを求めた。 先ほどのように可愛いものではなく、口内を深く押し入ってすみずみまで舌先で舐った。 当然のように経験の少ない郁はそれを受け止めきれずに苦しそうに顔を歪ませる。 それでも耐えられないと強引に顔をそむけると、つうっと銀の糸が口元を伝っていた。 うっすらと朱色に染まりつつある肌にその姿はかなりそそられた。 首筋に唇を落とし、見えない場所を選んで鬱血の跡を散らした。 同時に背中に回していた手をうなじまで這うように撫で上げると、郁の身体は大きく震えた。 「やっ、やあっ、教官……んっ、あっ、あっ、」 「そう大きな声を出すな。誰かに聞こえる」 「そ、そんなの無理に決まってるじゃありませんかっ!分かってるなら手加減して下さい!!」 思わず噛み付くように大きな声を出してしまい、郁はあっと口を噤んだ。 きっと今の自分は酷く意地の悪い顔をしているのだろう、郁は不満そうにこちらを睨みつけている。 だが、こんな状態でそんな顔をされても逆効果もいいところだ。 それでなくともこうやって肌を合わせるのは久しぶりなのだから。 小牧からは気にせずに外出届を出せばいいじゃないと言われることもあるが、それありきで外出するというのはやはり後ろ暗いし、その手にからきし弱い郁が自ら求めるなんてことはなく、相手がそれで満足しているかもしれないというのに自分だけ欲するというのも気が咎めた。 堂上は待てないとばかりに郁の胸元を肌蹴させ、色気のないスポーツブラをたくし上げると、ささやかな胸の膨らみに口に含んだ。 舌で押し返すように突起を突付き、十分に堅くなったと確認してから歯でこりりと噛むと郁は堪らず堂上に抱きついてきた。 「ちょっ、堂上教官!人の話を聞いてっ……やっ、」 まだ言い返せるだけの余裕が郁にはあるようだ。 ──そういえば喉が渇いたままだったなと堂上は今更ながら気付き、郁をテーブルに寝かせてしまった。 いきなり寝かせられた郁は不安からか堂上の名を呼んだが、それは無視した。 どうせ自分がしたいことを説明すれば郁が頑なに嫌がるのは目に見えている。 ならば考える余裕を与えない方がいい。 堂上は無言のまま郁の脚を持ち上げると、穿いていたパジャマのズボンと下着を一気に脱がした。 「なっ、何して──!やっ、教官、そ、それ、だめっ!!」 郁は慌てるように身を起こしたが、それより先に堂上は濡れた秘部に舌を這わせた。 充血して鮮やかな色合いの花芯は愛液が滴り落ちており、それを堂上は零さないように舐め取る。 枯れることのない泉はしとしとと溢れ出し、すぐに口元は愛液で汚れてしまった。 身体はこんなにも素直だというのに、それでも郁は羞恥からか止めて欲しいと懇願し続ける。 ならばと浅い恥毛の中から花芽を探し出し指の腹でそっと押しつぶしてやった。 その愛撫に郁は大きく身体を跳ね上げ、きゅっと両足で堂上を押さえ込んだ。 その内腿の感触がまた堪らないのだと言ったら、郁はどう反応するだろうか。 ここまでくれば、どんな些細な反応でさえ、こちらを煽るものでしかないということに鈍感な郁も気付くだろうか。 どちらにしても、そうやって郁を必要以上に追い込みたくなるは冷静でいられなくなった証拠だ。 十分に指で肉洞を解してから、堂上は鞄の中から避妊具を取り出した。 郁も堂上が離れたことに気付いたのか、その姿を探すように視線を彷徨わせる。 すぐに何をしているのか気付くと思わず視線を逸らしてしまったが、最後まで拒絶の言葉は出てこなかった。 堂上は再度、郁に覆い被さると、汗で額に張り付いた前髪をはらい、頭を撫でた。 すると郁はまるで子猫が喜ぶように目を細め、身体を預けてきてくれた。 「……堂上教官」 郁は見下ろす堂上の名をはにかむように頬を赤らめつつ呼ぶと、両手を伸ばし堂上の首の後ろで組んだ。 そのあまりに幸せそうな表情に、堂上の顔も釣られるように緩む。 「いい子だ」 耳元をくすぐるように囁くと郁はそれだけで感じてしまうのか息を詰まらせた。 その初々しい反応がまた堪らなく愛しくて、いきり勃った自身を綻んだ花芯に宛がう。 久しぶりの郁の中は堂上を歓迎するかのようにねっとりと締め上げてきた。 根元まで差し込むと吸い付くような密着感に思わず声を上げてしまいそうになる。 堂上は郁の脚をめいっぱいに広げさせ、腹を押し上げるように腰を擦り付けた。 郁は小さく声を漏らし身体をくねらせる。 すると堂上を受け入れている肉洞は捩れるように今までは違う締め付けを施してきた。 郁の身体は恐ろしく敏感で、貪欲だった。 何も知らなかったはずだというのに、今ではこうも簡単に堂上を追い込もうとする。 このままでいれば果ててしまうのも時間の問題で、堂上は郁の背中に手を回すと一気に抱き起こし、そのまま後ろにあるソファに身体を沈めた。 見上げるといきなり中断したせいなのか、郁は潤んだ瞳のまま堂上を睨んでいる。 「……そう拗ねるな。もう少し、こうしていたいんだ」 見下ろす郁の口元に口付け離れ間際にそう告げると、郁は思ってもみなかった言葉を言われたようで顔を真っ赤にさせ、視線を逸らしてしまった。 今更照れることもないだろうにと堂上は小さく笑うと、郁の腰を掴み、ゆっくりと身体を揺らしてやる。 郁は 「やっ」 と小さく声を漏らしたが、じわじわと与えられる快楽に負けたのか、諦めたように堂上の肩を手を置き、身体を支えることに集中し始めた。 直接的に得られる快楽もいいが、こうやってゆっくりと溜まっていく快楽もこれはこれでいいもので堂上は荒くなった呼吸と整えるように、じっくりと郁の身体を貪った。 だが郁の方はそれでは物足りないのか、じれったそうに身を捩じらせたり、無意識なのだろうが自ら身体を揺すり始めた。 そのタイミングを見計らうように堂上は何度も下から貫いてやる。 郁はその衝動から堪らず堂上にしがみ付き、耳元で言葉にならない声を漏らし続けた。 「やっ、ああっ!教官っ、もう、あたしっ……!」 ざわざわと自身を締め付ける感覚は郁が達する間際なのだと堂上に教えてくれた。 縋るように抱きつく郁をしっかりと受け止め、堂上は劣情のままに郁を押し上げるように腰を打ちつけた。 達した瞬間、郁の脚はぴんと伸び、肉洞を埋めつくす堂上のものを食い締めた。 堂上もまた腰の付け根に溜まった衝動をその場で吐き出した。 出し尽くすように腰を振るうと、郁は顔を堂上の肩に押し付けたまま、がくがくと身体を震わせていた。 徐々に吐き出したもので粘つく自身に、このままでいたらゴムを付けた意味がなくなると自分を納得させ堂上は郁を支えるように抱き起こすと何度かキスをしてから、ゆっくりと離れた。 「……あたし、教官とキスするの好きですよ」 「何だ、いきなり」 別れ際、郁は唐突に話し始めた。 そんなことを面と向って言われてもどんな顔をすればいいというのだ、結局、堂上は仏頂面を決め込むしかなかった。 だがそれも郁は気付いているのか、照れくさそうに笑うと、 「キスすると下に引っ張られる感じがして、それが好きなんです」 言いたいことだけ言い終えると郁は 「おやすみなさい」 と頭を下げ、パタパタと廊下を走っていった。 言われた堂上といえば、ぽかんと間抜け面で去っていった郁の背中を見つめていた。 無意識に郁の言葉を反芻すると、徐々に顔が熱を帯びていくのが分かってしまった。 「あのバカ……」 そんな可愛い台詞を捨て台詞みたいに言ってくれるな。 このまま大人しく眠れるほど俺は枯れていないんだぞ。 それにな、俺だけを俯き見るお前を下から眺められるのは背の低い俺の特権のようなもので、それもなかなか悪くないものだと教えてくれたのは他でもない── くそっ、そんな恥かしい台詞、面と向ってあいつになんて言えるはずないだろうが! 無意識に痒い台詞を呟いてしまいそうになった自分は、もしかしなくても郁に感化されているに違いなくて、堂上は頭を抱えた。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/39.html
1スレ目 237-241 運命の女神は悪戯で、逢いたくないと思ってる時にほど逢いたくない人に逢わせるのかもしれない。 昔、そんな話を読んだような気がする。 「な……に、してんだ、お前」 聞き覚えのある声に郁は顔面蒼白だ。 どうしてこんな場所で、だってここは寮でもなければ基地でも図書館でもなく、約束でもしなければ逢わないような街中で── もちろん約束なんてものはしていないから、これは偶然である。 こんな偶然、全然嬉しくないと郁は運命の女神が実在するのならば間違いなく喧嘩を売っただろう。 「ど、堂上教官も買い物ですか~?そうですよね、こんなに天気も良いし!」 ぎこちない笑顔と共に出たぎこちない郁の挨拶に、堂上がそ知らぬふりなどするはずもなく、 「その格好は──」 「べ、別にいつもと同じじゃないですかっ!!」 更に動揺を示すような素っ頓狂な声を上げてしまい、郁は内心悲鳴を上げた。 どう見ても同じじゃないのはあたしも分かってるから! だからそこは追求しないで! それが大人の了見ってもんでしょうがっ!! 「明らかにおかしいだろ……何つめたら、そんなになるってんだ」 あえて何がとは指摘しなかったものの、堂上の言いたいことは明白だ。 思わず胸に手を当ててしまった郁の反応は相手に確信を与えるだけだった。 失態に失態を重ねるともうパニック寸前のヤケクソ状態で、自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。 「い、いいじゃないですかっ!あたしだって一度ぐらいは普通に胸のある生活を送ってみたかったんですっ!!教官に迷惑かけてないんですし、あたしが豊胸パットしてたって──!!」 「バッ……お前っ、ここを何処だと!何考えてんだっ!」 堂上は顔色を変え、慌てて郁の口を塞いできた。 お前、公衆の面前で──などと説教されても今の郁には全く聞こえない。 最後には自分の貧乳を事細かく説明し出すと、堂上は郁を引きずるようにその場から逃げ出した。 ギャアギャアと喚いたせいなのか連れて来られたのはその手のホテルの一室だった。 部屋に連れ込まれてから、喚く女をその手の連れ込む男などという今時三流ドラマでもありえないシーンを演じてしまったことにようやく気付いた。 しまった、周囲が自分達を見たら勘違いするに決まってる── この手の損な役割を嫌というほど堂上に負わせている負い目があるだけに郁は申し訳なさでいっぱいになった。 「…………すみません」 顔を見るのも恥かしくて俯いたまま謝ると、ぽんと頭に手がおかれた。 そしてくしゃりと優しく撫でられた。 「謝るのは俺のほうだ。お前がそこまで気にしているとは思っていなかった……悪かった」 ああこの人は本当に優しいんだなぁと気付かされると、とたんに胸が熱くなった。 ささやか過ぎる胸だけれど、その鼓動は酷く早い。 だから尚のこと一方的に自分を責めるのだけはして欲しくなくて、郁は意を決して顔を上げた。 「ちょっとだけ胸のある生活に憧れるって言ったら一度付けてみればって貸してくれたんです。本当にそれだけなんです、教官が気にするようなことは全然なくてっ!!」 熱意が通じたのか堂上は反論する素振りは見せなかった。 ただ、ばつが悪そうに視線を逸らし、 「まあ……気持ちは分かる」 「ええっ?!教官も胸が欲しいんですか?」 「バカ、そんなわけあるか。俺も昔はもう少し背が高ければな、と思ったことがあるって話だ。まあ、そんなことを思ったってどうにもなる話でもないしな」 「教官にもそんな時期があったんだ……」 意外という顔をしてしまったせいか、からかうなと額を堂上に小突かれた。 しかし郁からすれば自分の知る堂上はそんなことで悩むような人には見えなかった。 だから堂上も自分のコンプレックスに悩んだことがあると聞いてホッとした。 顔に出やすい性質だとは分かっていたが今もそうだったらしい、安堵した表情に堂上は釣られるように、 「それに俺は好きだぞ」 「…………へ?」 突然の告白に郁は狐に摘まれたような顔をしてしまった。 すると堂上は露骨に顔を顰めた。 そんな顔で 「何でもない」 などと言われても気になるに決まってる。 今の堂上は誰の目から見ても動揺していて、気にならない訳がない。 「自分から言い出したことじゃないですか、ちゃんと教えて下さい。自分だけなんてズルイですよ、教官!!」 煩いと突っぱねられつつも、しつこく訊いていると根負けしたように、 「だから、お前が余計に気にするところも含めてだな──それぐらい察しろ、バカたれ!!」 そう言い放つと堂上はプイと顔をそむけてしまった。 えっ、何でそこで怒るの? 郁は途端に不機嫌になってしまった堂上に首を傾げた。 仕方なく堂上の言葉を何度も反芻していると、鈍い郁にもようやく理解できた。 理解したのはいいが、した途端、顔から火が出るかと思うぐらい真っ赤になってしまった。 だ、だって、教官が好きとか、そういうの滅多に言わないし、そもそもこんな話したのも初めてかもしれないし── うわぁ、どうしよう、あたし。 困ってるのに──凄く嬉しい。 にやついてしまう自分を止められそうにない。 思わず両手で頬を覆ってしまうと、不意に振り向いてきた堂上と視線が合ってしまった。 ますます不機嫌な顔をされたが、自分でもどうすることもできなかった。 すると堂上は盛大に溜息をついてから、こちらに身体を向き直した。 「本当に仕方のない奴だな」 その声色は不機嫌というよりはからかっているようだった。 だって、と郁は反論しようと思ったが、堂上の顔が近づいてきたので止めた。 初めてではないにしろ、この手に滅法弱い郁は未だに身を強張らせてしまうことが多い。 それも堂上は知っているように、そっと背中に手を回し支えるように抱きしめてくれた。 軽く唇を重ねられると、そのままベットに仰向けにされてしまった。 ああ、そういえば教官にこうやって触られるのも久しぶりだなぁなんてことを思い出し、それを覚えてしまっている自分に思わず赤面する。 耳元で 「いいか?」 と訊かれると、心拍数は跳ね上がった。 普段よく聞く怒鳴り声とは全く違う、低くて少し掠れた堂上の声は聞くだけでゾクゾクしてしまう。 郁の方はといえば、うんうんと頷くのがやっとで、そうすると堂上は安心させるように頭を撫でつつ、額や目元に唇を落としてくれた。 シャツのボタンをゆっくりと外すと堂上は妙に関心した様子で、 「しかし凄いもんだな、それは……」 「豊胸パットですか?ああ、そうですね。万年Aカップのあたしでも人並みにCカップになっちゃうんですからね」 借り物なんだろと言われ、郁は思い出したように起き上がりパットを取り出した。 当たり前だがそうするとガバガバになってしまうブラジャーの隙間が物悲しい。 ちなみにフルカップのブラジャーも借り物だなので、それも大事に外した。 「何、残念そうな顔をしてんだ」 「やっぱり小さいなぁと思って……」 Cなんて贅沢は言わないからせめてBぐらいあればなぁ、なんて思ってしまうのは所詮無いもの強請りか。 「教官だってないよりあった方がいいでしょう?」 真剣な口調で訊くと、バカとまた小突かれてしまった。 「お前なら俺はどっちでも構わん」 そう告げる堂上の顔は真面目そのもので、郁は返す言葉も見つからず、見据えられる視線から逃れるように俯いてしまった。 不機嫌で怒鳴っているのが標準の堂上が、そういう言葉を口にするのは反則すぎる。 戸惑う郁を無視し、堂上は胸を隠す手をどけさせると、そのささやかな胸の谷間に顔を寄せてきた。 そして手の平にすっぽり収まってしまう胸をやんわりと撫で回し、ぷくりと立ち上がった突起を口に含む。 「んっ、んん──っ」 触れられる度に電流のようなものが身体を駆け巡り、堪えるように堂上のシャツの裾をぎゅっと掴むと愛撫は更に周到になった。 「教官……小さい胸なのに、どうしてそんなにっ、」 まるで堂上の愛撫はそれがいいのだと言わんばかりだ。 そんなことがあるはずかないと信じて疑わない郁は堂上の行動は理解し難く、ただただ与えられる刺激を受け入れるしかない。 そうやって少しずつ気持ち良さが溜まっていくと、頭も身体もぼんやりと霧がかかったように何も考えられなくなってしまう。 こうなると身体も力が入らなくて、堂上のされるがままだ。 ショーツも穿いていたジーンズと一緒に脱がされ脚を開かれると、ひんやりとした外気が肌を震わせた。 反射的に閉じる前にうっすらと湿り気を帯びていた秘部を撫で上げられた。 「やぁ、あぁ……」 ごつごつとした指で敏感な場所を何度も触られると、身体の奥からどっと何かが溢れてくるのが郁にもはっきり分かった。 それを堂上は潤滑油のように使い、閉じられていた花びらをこじ開け、指を飲み込ませる。 今までが焦らされていたのかと思うぐらいに直接的な刺激に郁はむずがる子供のように頭を横に振るわせた。 堂上の指が動く度に身体を震わせる痺れが背筋を駆け上ってくる。 それがどうしようもなく気持ちよくて、自ら身体を堂上に押し付けてしまう。 ヤダ、こんなの、いやらしい── そんな姿を堂上にだけは見られたくないと必死に抵抗してみるものの、純粋な欲求は郁の僅かな理性など容易に乗り越えてきた。 「────堂上教官っ、」 もう自分でも抑えられない。 訴えるようにその名を呼ぶと、堂上は力の抜けた郁を自分の膝の上に座らせた。 予想外の堂上の行動に郁は一瞬間の抜けたような顔をしてしまった。 まさか、教官──。 「このままは嫌か?」 「このままって……えっと、その……この体勢ってことですか?」 そうだ、と答えた堂上が不機嫌な顔をしたのは面と向って訊かれてしまい照れているからだろう。 この人、仕事の時はあんなに出来る人なのに、あたしといると、どうしてこんなに不器用なんだろ……。 五つも年上の異性を可愛いなんて思ってしまった郁はまたそれが顔に出てしまったのだろう、堂上はますます面白く無さそうにふて腐れた。 「嫌ならいい」 郁の言葉を待たずにいつものようにあお向けにしようとしたので、郁は慌ててそれを押し止めた。 「ま、待って下さい、そ、そうじゃなくてっ!あたし何も分かんないんですけど……それでもいいんですか?」 この手の知識が無いことには自覚があるし、堂上の望むようなことなんて到底できそうにない。 それでも、しあてげたい気持ちも自分の中には確かにあって、それを上手く口にすることが出来なくて、それがもどかしかった。 するといきなり頭の後ろをがっちりと掴まれ、強引に額と額をくっ付けられた。 息がかかるぐらい間近に堂上の顔があり、しかもその視線が自分を捉えていて、郁は思わず目を瞑ってしまった。 こんな近くで目なんて合ったら、それこそどうにかなってしまいそうだった。 「何度言えば分かるんだ、お前は。俺はお前がいいんだ」 こんな間近で、そんな風に熱っぽく告白するなんて不意打ちもいいところだ。 あたしだって同じなのに──堂上のように言葉にすることのできない自分が歯痒かった。 どうすればこの言葉にできない気持ちを堂上に伝えることができるのだろう。 「あっ、教官……ん、んんっ」 堂上は返事を待つつもりなどないようで、いきなり口を塞がれてしまった。 お世辞にも上手いとは言い難い口付けをしつつ、朦朧とする意識の中で郁は必死に考えていた。 もしかして、こうやって好きな人と触れ合うのは言葉ではない別の方法で相手に知って欲しいからなのかな。 だってあたし、教官とこうしていると凄く嬉しいし幸せだし、もっとして欲しいって素直にそう思えるから──。 肌を重ねるのは初めてではないが、やはりこの時だけは怖さが先にきてしまい思うように動けなかった。 しかもそれが初めての体勢ならば尚更だ。 腰を下ろさねばならないことぐらい理解しているのに、どうしても身体が言うことを聞いてくれない。 熱く硬いものが僅かに触れるだけで身体が反射的にそれを拒んでしまう。 そんなことを繰り返していると、 「焦らしてるつもりか?」 などと堂上に訊かれ、郁は更にテンパった。 「ち、違うに決まってるじゃありませんか──!」 そんなことが出来たら、とっくに試しているに決まっている。 いつも堂上にされるばかりで何も出来ないことが郁は少しだけ悔しいのだから。 まさかそんなことを実際に言えるはずもないので、頬を膨らませて怒ってみせるのが精一杯なのだが。 すると堂上は郁の腰に手を回し、主導権を奪った。 「このままゆっくり腰を下ろしてみろ」 その言葉に郁は素直に頷き、堂上に支えられるようにゆっくりと腰を下ろした。 時間はかかったが、全てを受け入れると郁は安堵するように大きく息を吐いた。 すると腹の中にいる堂上のものがはっきりと分かった。 いつもと違うような気がするのは、やっぱりこの体勢のせいなのだろうか。 微かに動かれるだけで腹を押し上げられるような感覚を覚えてしまった。 まるで串刺しにされているような──。 戸惑う郁を無視するように、堂上は汗ばんだ手の平で胸を撫で回してきた。 「やっ、ま、待って……!それっ……ダメ、教官っ、」 更に指の腹で胸の突起を押しつぶされると、郁の全身を電流のようなものが駆け巡った。 堂上にしがみ付き、いやいやと首を横に振っているのに堂上は止めてくれない。 同時に下から突き上げるように動かされ、郁はその度に甘ったるい声を漏らした。 「ヤダ、こんな声──」 感じていることを自覚すると冷静でなどいられるはずもなかった。 行為自体が嫌ではないのだけれど、それを素直に受け入れることが郁にはまだ出来ない。 堂上はそんな郁の羞恥を煽るように耳元で囁く。 「いい声だ」 熱っぽい声色で耳元をくすぐられ、更には耳たぶを甘噛みしてきた。 きっと堂上には郁の弱い場所が何処であるのか気付いているのだろう、 最も感じる場所を的確に攻めてくる。 そうやって何も知らなかった郁の身体を堂上は少しずつ確実に変えていくのだ。 それがどうしようもなく恥かしい。 恥かしいのに、同じぐらい気持ちが良い──。 こんな自分を堂上はどう思っているのか、不意に視線が合うと堂上は郁の不安を気付いているかのように滅多に見せない表情で郁を抱きしめた。 その力強さにまた身体が震えてしまう。 きゅっと堂上のものを締め付けると、それはますますいきり立つように郁の中で暴れた。 まるで子供を抱かかえるような体勢で、郁は堂上のされるがままに快楽を貪り続けた。 ゆさゆさと揺さぶられるだけで、甘い痺れが全身を駆け巡る。 このままどうなってしまうのかという漠然とした怖さと同時に、更に深く強請るように足を広げてしまうことが止められない。 それでも相手が堂上ならば──堂上だから自分はそれを望んでいるのだ。 そうはっきりと自覚した瞬間、郁を支配していたものがぶるりと震えた。 膜越しに大量の精を吐かれ、郁も衝き立てられものを締め付け、果てた。 * * * * * * * * 「どうかした?」 先に風呂から上がり着替えていた郁に柴崎が不思議そう声を掛けてきた。 「ブラジャーが小さくなったような気がして……洗濯で縮んだのかなぁ?」 まさか誰かのと間違えているはずはないしと、しきりに首を傾げる郁に、 「ひゃ──っ!ちょっ、いきなり何するのよ、柴崎っ!」 いきなり背後からつうっと首筋を指で撫でらた郁は勢いよく振りかえると、にんまりと笑っている柴崎と目が合った。 あ、これは──その笑みが危険のサインだと本能が警告してくれたが、残念ながら回避方法までは教えてくれなかった。 「こんな跡付けるほどされちゃ、そりゃ胸だって多少は大きくなるんじゃないの~?」 思わず撫でられた場所を手で隠した郁はまるで長風呂でのぼせたように真っ赤になった。 その反応に柴崎は追い討ちをかけるように、 「ぎりぎり見えそうで見えないところにするなんて、あの人も結構やるのね」 「ち、違うのっ!こ、これは、そんなんじゃなくて──!!」 「うんうん分かってるわよ。ちょっと意地の悪い虫に刺されちゃったのよね」 「ギャーーー!それ以上喋ったらあんたでも締める!だからもう言わないでー!!」 翌日、郁が必要以上に堂上を避け、逆に柴崎とのやり取りを喋らなければならない羽目になったのは別の話。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/75.html
1スレ目 584-590その2 夢の中で、君は 絶品と言われる食事もあまり喉を通らないまま終了し、部屋へと向う算段になった。 ここまで来てしまってはもう逃げることは許されない。 今晩は寝られないけれど仕方ない、郁はそう腹を括った。 ドアを閉めると同時に後ろから抱きしめられた。 首筋に堂上の唇が這うのが分かる。 耳朶を軽く噛まれ、郁は思わず小さく声をあげた。 くるんと身体を回転させられて堂上のほうを向かせられる。 と、腰と首を引き寄せられて唇を合わせた。 そういえばキスも久しぶりだな、などと思っていたとき、舌が入り込んできた。 優しいけど激しい舌は、郁が応答することを望んでいるように絡めてくる。 郁も慣れないながらも反応する。 「……んっ……ふっ」 声を堪えるようとすればするほど唇端から喘ぎに似た吐息が漏れ、絡めあう舌と混ざり合う唾液が淫靡な音を奏でてゆく。 反則とも思える舌使いをされた上に、堂上の右手は郁の胸を揉みしだき始めている。 郁の膝は限界を迎えてガクガクと震え始めた。 それに気付いた堂上は郁を膝から掬って抱き上げると、ベッドまで運んで下ろした。 顔の横に両手を付かれ、真剣な眼差しで見下ろされる。 その様子に居た堪れなくなった郁が先に口を開いた。 「ふ、服が皺に」 「すぐ脱ぐから気にするな」 「シャ、シャワーは」 「必要ない」 言い放つと堂上が再び口付けてくる。 さっきと同様に荒々しく唇を塞がれ、息をすることすら憚られるような舌で蹂躙される。 「……ぅんっ……くふっ……」 自分の吐息がまるで喘ぎ声のように響き渡る。 いや、実際堂上の舌に感じ始めているのは紛れもない事実だ。 キスに飽きた唇が、今度は首にまわる。 郁が感じる筋沿いを攻め立てるように、唇と舌が蠢く。 時折、耳を噛まれたり熱い息を吹き掛けられ、郁は気持ちよさから全身を震わせてしまう。 堂上の手は器用に郁の衣服を剥がして行き、あっという間に郁を下着姿に変えた。 「きょ、教官っ……灯り、灯り消してください……」 今はまだ明るい場所で全てを見られたことはなかった。 何度も身体を重ねてはいるが、やはりまだ恥ずかしさが先立ってしまう。 郁にとっては、「その行為は暗い場所で」がいまだデフォルトだ。 しかし堂上はそれを聞こえなかったものとしたのか、ベッドサイドにある調光スイッチには目もくれない。 「……教官っ……暗くしてくださ………んんっ」 再度嘆願した声は、途中で封じられた。 何度も口づけて郁の喉を殺しにかかる堂上の唇。 ひとしきり郁を味わったあと、いつものように真っ直ぐな視線で堂上が口を開く。 「……お前の頼みは聴かない」 「……でも、まだ恥ずかし」 「全部見せろ」 そのセリフと同時に、郁は上半身から全てを剥がされた。 ささやかな胸を捏ねるように揉まれ、その頂は口に含まれては舌で転がされていく。 明るい部屋で、全てを曝け出されていく恥ずかしさと言ったらなかった。 それでなくても女性としての魅力には程遠い体型の自分なのだ。 それが分かっているからこそ、灯りを消してくれるように言ったのに。 なんの羞恥プレイですか、これ。 そんな冗談も脳裏を掠めたが、口に出せるような余裕は郁にはなかった。 執拗に胸を愛撫する堂上の舌と歯と指は、郁の身体の芯までを悦ばせる術を知っていた。 乳首を軽く噛んでは甘く吸い上げる。 その度に、郁は小さな嬌声をあげるのだ。 「やっ……んっ…きょ…かんっ…」 胸を揉む間にも腰をなぞることを忘れない堂上の手が、郁のショーツに伸びる。 郁のそこが既に濡れそぼっていることは十分承知していた。 さっきから、郁が腰をもぞもぞと所在無げに揺り動かしていたから。 実際指を這わせると、布の上からでも判るくらいだ。 「――あっ、だめ、きょうか――ー」 郁が咄嗟に止めようとする前に、堂上の指が下着の中へ入り込んだ。 くちゅ、といやらしい音を立てて、そこは堂上を招き入れる。 「んんっ」 熱くて柔らかくて艶めかしいその中を指で玩ぶたびに、郁は悦びの声をあげる。 「ここだろ?」 郁の一番いい場所は、指が覚えている。 そこを探し当てて指の腹で擦り上げると、 「―――ああっっ」 さっきより一際大きな声で啼く。 その声が聞きたかった、と堂上は内心で呟いた。 3ヶ月もお預け食らわせられたのだ、このくらいの意地悪は許されるはずだ。 もう片方の手でするりと郁のショーツを取り払うと、堂上は郁の秘部へと顔を寄せた。 そうされた側の郁はもうパニックだった。 堂上がこれからしようとしている行為は、郁の限界を超える羞恥の絶頂だ。 必死で抵抗してみるものの、中に収まっている指の動きがそれを許してくれなかった。 堂上がそこを擦り上げるたびに、郁の理性 が削がれていくのだ。 「―――やあっ……み、見ないでくださ」 郁の声を無視して、愛液で淫靡に光るそこに舌を這わすと、苦くて甘い味が口中に広がる。 堂上は溢れ出る愛液を舌で掬うと、上にある小さな突起へと伸ばした。 既に充血して膨らんだその突起を軽く吸うと、郁の身体がビクンと跳ねる。 「――いや、――んんっ、ダメで……ああああんっ」 突起を吸うたびに、郁の中はキュッと指を締め付ける。 適度な強さでその行為を繰り返してやると、郁の膝が戦慄くように震えだ した。 この予兆は。 堂上はさっきよりもやや強めに指で擦り、突起を吸い出した。 「あああっ―――教官っ、……だめぇっ―――」 ひときわ大きな声で啼くと、郁が一気に脱力したのが分かった。 中はその逆に、指をキュンキュンと締めて来る。 蠢く中の余韻に浸っている間もなく指を抜き、堂上は自分の衣服を素早く脱ぎ捨てて、避妊具を自分に被せた。 ぐったりと呼吸を整えている郁に覆いかぶさると、まだ濡れている郁にあてがう。 そうされた郁の方は驚いて抵抗を試みた。 が、 「――ちょっ、待っ……教官、あたし、まだ」 言い終わらないうちに、勢い良く郁の中へと挿入していく。 「あああんっ」 絶頂の余韻はまだ残っていた。 いつもよりキツめの中は、堂上をこれでもかと締め付けてくる。 3ヶ月ぶりの自分としては、どのくらい持たせられるか甚だ自信はなかったが、一度イカせている郁を再度登り詰めさせるのはそんなに困難じゃないだろうと予想は出来た。 いつも通りゆっくりとした動作から始める。 さっきまでの激しい愛撫とは対極的な動きが、郁を焦れさせた。 自分から強請るように腰を押し付けてくる様子に、意地悪心がもたげだす。 「どうした?……腰が動いてるぞ」 言葉で攻めてみたことは無かったが、郁が締めて来たところを見るとこれも有効かもしれない。 「う、動いてなんてっ」 反論してみるものの、意思を失った腰が堂上の動きを求めていることは明らかだった。 「激しくしてほしいのか?」 「そ、そんなこと、無いですっ」 郁の反論は既に肯定だ。 堂上は腰に力を溜めて郁の奥を一突きした。 その途端、郁の身体が震えたのが伝わる。 やはり、もう一度イキたがっていることは明白だ。 「もう一度、イクか?」 「やぁっ……堂上教官っ……意地悪っ……」 「意地悪はどっちだ?さんざん焦らされたのは、……俺のほうだと思ってたが?」 「―――そ、それは―――ああっ」 言い訳をしようとした矢先、再度奥を一思いに突かれ、郁の理性は吹っ飛んだ。 「教官っ―――イカせてくださっ―――もう、欲し……」 『欲しい』とは最後まで言えなかった。 言葉の途中で、堂上の突き上げが激しくなったからだ。 熱い杭が打ち込まれるような感覚が、郁の身体を支配する。 その感覚は堂上の動きが激しさを増す程に郁を虜にしていく。 結合した部分からは、粘着質な音と肌がぶつかる音が響く。 いやらしく響く音は、耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいもののはずなのに、郁にはどうすることもできないのだ。 その音が、郁が堂上を誰よりも求めている証拠なのだから。 貫かれる度に最奥にもたらされる鈍い痛みにも似た快感が、徐々に頂きへと導き出す。 「あっ――だめ、……きょう、かんっ……あ、たしっ―――」 郁の言葉を聞くやいなや、堂上の動きは更に早まった。 そして一気に郁は登り詰める。 「だめっ……ああっ!………――――!!」 先ほどと同様に脱力すると、心地よい疲れが郁を襲ってきた。 だめだ、このままだと眠ってしまう。 この期に及んで寝顔を見られる恥辱と闘おうとした矢先、堂上が一度抜いてから郁の体制をごろんとひっくり返した。 腰を持ち上げられて、立ち膝にさせられる。 ―――え? 声にならない疑問は、次の瞬間に答えになる。 あろうことか堂上は、絶頂を迎えたばかりの郁を後ろから再度貫いたのだ。 「やぁっ!教官っ!あたしっ――――」 「俺はまだだぞ」 「そ、んなっ…だって、無理っ………ああああんんっ!」 それでなくてももう既に2回も迎えている。 これ以上は無理だというのに、堂上の動きは容赦がなかった。 「俺はイカせて貰えないのか?」 「だってっ――ああっ!―――これ以上はっ…あたしっ…うううんんっっ!」 ずぶずぶと出し入れされ、さっき打ち抜かれている場所とは違う場所を攻められる。 またも襲ってくる、あの波。 ―――ああ、あたしまたイッちゃう――― 絶頂の余韻の最中に、また絶頂を迎えたのは初めてのことだった。 そして、アルコールの力を借りずに意識を失ったことも、初めてのこととなった。 「めちゃくちゃ可愛いんですってね、教官の寝顔」 業務中に話しかけられたと思ったら、柴崎が何かを含んだような表情で近づいてくる。 なんだそりゃ。 誰が言ったんだ。 言おうとしたことが顔に出たのか、柴崎は訊く前に悪びれもせずに答える。 「笠原がそう言ってました」 コイツラが普段どんな話をしているのか、想像が出来ない。 きっと、俺のような男はからかいの種になっているんだろうと思うと、面白くないのも当たり前だった。 「知るか。自分の寝顔なんて見たことないからな」 不機嫌そうに答えると、柴崎が待ってましたと言わんばかりに堂上の答えを受け取った。 「そう、それなんですよ」 「何がだ」 「今回の笠原の悩みです」 「はぁ?」 自分の寝顔が可愛くないと思い込んでいる、だから寝顔を見られるような環境を作りたくない、故に教官ともお泊りなどできない。 これが郁の悩みの種明かしだったことを、柴崎から教えられた。 「大変だったんですよー。すっごくいい夢見てたのに叩き起こされて」 その所為で迷惑を蒙ったことを声高に言う柴崎をよそに、堂上は呆れるのを通り越して落胆している。 「アイツは……どこまでアホウなんだ」 「だから、言ってやってくださいね、あの子の寝顔がすっごく可愛いってこと」 「んなこと、とっくに知っている」 「でしょうねー。でも、毎日拝めるのは今のところ私だけですからね」 「なんだそりゃ」 「同室の特権」 堂上をからかうことに成功したことに満足が行ったのか、見事にウインクを決めたかと思うと柴崎は足早に駆けて行く。 その途中でこちらを振り返り、 「今度ご馳走してくださいねー」 と恩を着せることも忘れなかった。 失神してしまった郁に布団をかけてやりながら、堂上は今回の騒動を思い返していた。 寝顔のことを気にするなんてコイツらしいといえばそれまでなのだが、その所為で我慢させられていたのかと思うと、意地悪してやりたくなるのは許容範囲だろう。 流石に失神させてしまったのは悪かったと思うが、帰りたくないと思わせるくらいに疲れさせてやろうと思ったことは否定しない。 郁の寝顔は、無防備でその分とても無邪気だった。 時々眠りながら微笑んでいるときがある。 そんな時、自分が夢に出ていればいい、と思う。 「そうだ」 ふと、ひとりごちてズボンのポケットから機種変更したばかりの携帯電話を取り出した。 カメラモードに切り替えて、眠る郁を画面に収めた。 柴崎め。 これで俺も毎日拝めるぞ。 初めて郁を被写体にして撮った写真同様に、郁の寝顔は深いフォルダに格納されることとなった。 もちろん、幸せそうに眠っている郁は、まさか堂上が自分の寝顔を撮ったなどとは、夢にも思ってはいない。 了
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/49.html
1スレ目 315 『お祝い』 図書隊御用達の病院に堂上が転院して早数ヶ月、看護師から 「可愛い彼女さんですね」 と自然に郁の存在が知られるようになった頃、 「大部屋に移動になったんですね」 公休らしく郁はその日も堂上を訪ねていた。 大部屋になったので大声を出してはいけないと意識的に声を抑えようとしている郁の姿に堂上は小さく笑った。 努力は認めるが、地声が大きすぎて無意味だ。 「ああ、もうリハビリも始めてる」 「じゃあ戻ってくるのもすぐですね。手塚なんか教官いないとやっぱり寂しいみたいだって、小牧教官が笑ってましたよ」 「お前は?」 ジャブ程度に軽く仕掛けてみると、郁は言葉を詰まらせて俯いてしまった。 だが耳たぶまで真っ赤なのは隠しきれない。 もう一度同じことを訊くと、 「き、決まってるじゃないですか……あたしだって……同じです……」 恥かしがっても、最後はきちんと教えてくれるところが郁らしい。 そうか、と堂上が頭を撫でると、郁はますます身体を小さくさせた。 「じゃあ、帰ります」 「ああ、気をつけて帰れ」 それはごく自然なやり取りだったはずだった。 だが郁の方は堂上の別れの挨拶が不満だったらしく、恨めしそうに睨んでいる。 「どうした?」 「だって、今までは帰る時はキスしてくれたのに……」 「アホウ!大部屋だぞ、何を考えてるんだ、お前は!!」 間仕切りのカーテンはあるにしろ、何をしてるかぐらい察しのいい者ならば気付くはずだ。 それでなくとも郁が堂上の恋人であるのは周知の事実だというのに。 しかし堂上の方も予想外の郁のおねだりに大声を出してしまい、これでは筒抜けもいいところだ。 これでは郁が帰った後は好奇な視線に晒されるに違いない。 ──今更始ったことではないが。 叱られても郁はして欲しいらしく、ちらちらと堂上を見ている。 恋人にそんな表情をされてそ知らぬふりができる男がいたら、それは意気地なしか鈍感のどちらかだ。 何が仕方ないのか、堂上は大きく溜息をついた後、郁に向って手招きをした。 すると今までの不貞腐れた表情は何処にいってしまったのか、嬉しさを全面に出して郁は体を前のめりにするようにベットに手を付いた。 その腕を優しく掴んで、唇をそっと重ねる。 ゆっくりと力が抜けていく郁の体を抱きしめて、更にもう一度口付ける。 暖かい郁の身体の重みが愛しく、起こしてはならない感情を堂上は必死に気付かないふりをした。 「……これで満足か」 ふてるような口調になったのは気恥ずかしさからだったが、郁はこくんと頷くと、 「じゃあ、これは大部屋に移動になったお祝いです」 堂上が気付く前に、今度は郁から同じようにキスをされた。 その後、あっさりと帰った郁に、その晩堂上がなかなか寝付けなかったのはいうまでもない話。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/72.html
1スレ目 584-590 その2 『夢の中で、君は』 絶品と言われる食事もあまり喉を通らないまま終了し、部屋へと向う算段になった。 ここまで来てしまってはもう逃げることは許されない。今晩は寝られないけれど仕方ない、郁はそう腹を括った。 ドアを閉めると同時に後ろから抱きしめられた。首筋に堂上の唇が這うのが分かる。 耳朶を軽く噛まれ、郁は思わず小さく声をあげた。 くるんと身体を回転させられて堂上のほうを向かせられる。と、腰と首を引き寄せられて唇を合わせた。 そういえばキスも久しぶりだな、などと思っていたとき、舌が入り込んできた。 優しいけど激しい舌は、郁が応答することを望んでいるように絡めてくる。郁も慣れないながらも反応する。 「……んっ……ふっ」 声を堪えるようとすればするほど唇端から喘ぎに似た吐息が漏れ、絡めあう舌と混ざり合う唾液が淫靡な音を奏でてゆく。 反則とも思える舌使いをされた上に、堂上の右手は郁の胸を揉みしだき始めている。 郁の膝は限界を迎えてガクガクと震え始めた。 それに気付いた堂上は郁を膝から掬って抱き上げると、ベッドまで運んで下ろした。 顔の横に両手を付かれ、真剣な眼差しで見下ろされる。その様子に居た堪れなくなった郁が先に口を開いた。 「ふ、服が皺に」 「すぐ脱ぐから気にするな」 「シャ、シャワーは」 「必要ない」 言い放つと堂上が再び口付けてくる。さっきと同様に荒々しく唇を塞がれ、息をすることすら憚られるような舌で蹂躙される。 「……ぅんっ……くふっ……」 自分の吐息がまるで喘ぎ声のように響き渡る。いや、実際堂上の舌に感じ始めているのは紛れもない事実だ。 キスに飽きた唇が、今度は首にまわる。郁が感じる筋沿いを攻め立てるように、唇と舌が蠢く。 時折、耳を噛まれたり熱い息を吹き掛けられ、郁は気持ちよさから全身を震わせてしまう。 堂上の手は器用に郁の衣服を剥がして行き、あっという間に郁を下着姿に変えた。 「きょ、教官っ……灯り、灯り消してください……」 今はまだ明るい場所で全てを見られたことはなかった。何度も身体を重ねてはいるが、やはりまだ恥ずかしさが先立ってしまう。 郁にとっては、「その行為は暗い場所で」がいまだデフォルトだ。 しかし堂上はそれを聞こえなかったものとしたのか、ベッドサイドにある調光スイッチには目もくれない。 「……教官っ……暗くしてくださ………んんっ」 再度嘆願した声は、途中で封じられた。何度も口づけて郁の喉を殺しにかかる堂上の唇。 ひとしきり郁を味わったあと、いつものように真っ直ぐな視線で堂上が口を開く。 「……お前の頼みは聴かない」 「……でも、まだ恥ずかし」 「全部見せろ」 そのセリフと同時に、郁は上半身から全てを剥がされた。 ささやかな胸を捏ねるように揉まれ、その頂は口に含まれては舌で転がされていく。 明るい部屋で、全てを曝け出されていく恥ずかしさと言ったらなかった。 それでなくても女性としての魅力には程遠い体型の自分なのだ。それが分かっているからこそ、灯りを消してくれるように言ったのに。 なんの羞恥プレイですか、これ。 そんな冗談も脳裏を掠めたが、口に出せるような余裕は郁にはなかった。 執拗に胸を愛撫する堂上の舌と歯と指は、郁の身体の芯までを悦ばせる術を知っていた。乳首を軽く噛んでは甘く吸い上げる。その度に、郁は小さな嬌声をあげるのだ。 「やっ……んっ…きょ…かんっ…」 胸を揉む間にも腰をなぞることを忘れない堂上の手が、郁のショーツに伸びる。 郁のそこが既に濡れそぼっていることは十分承知していた。さっきから、郁が腰をもぞもぞと所在無げに揺り動かしていたから。実際指を這わせると、布の上からでも判るくらいだ。 「――あっ、だめ、きょうか――ー」 郁が咄嗟に止めようとする前に、堂上の指が下着の中へ入り込んだ。くちゅ、といやらしい音を立てて、そこは堂上を招き入れる。 「んんっ」 熱くて柔らかくて艶めかしいその中を指で玩ぶたびに、郁は悦びの声をあげる。 「ここだろ?」 郁の一番いい場所は、指が覚えている。そこを探し当てて指の腹で擦り上げると、 「―――ああっっ」 さっきより一際大きな声で啼く。その声が聞きたかった、と堂上は内心で呟いた。3ヶ月もお預け食らわせられたのだ、このくらいの意地悪は許されるはずだ。 もう片方の手でするりと郁のショーツを取り払うと、堂上は郁の秘部へと顔を寄せた。 そうされた側の郁はもうパニックだった。堂上がこれからしようとしている行為は、郁の限界を超える羞恥の絶頂だ。 必死で抵抗してみるものの、中に収まっている指の動きがそれを許してくれなかった。堂上がそこを擦り上げるたびに、郁の理性が削がれていくのだ。 「―――やあっ……み、見ないでくださ」 郁の声を無視して、愛液で淫靡に光るそこに舌を這わすと、苦くて甘い味が口中に広がる。 堂上は溢れ出る愛液を舌で掬うと、上にある小さな突起へと伸ばした。既に充血して膨らんだその突起を軽く吸うと、郁の身 体がビクンと跳ねる。 「――いや、――んんっ、ダメで……ああああんっ」 突起を吸うたびに、郁の中はキュッと指を締め付ける。適度な強さでその行為を繰り返してやると、郁の膝が戦慄くように震えだした。この予兆は。 堂上はさっきよりもやや強めに指で擦り、突起を吸い出した。 「あああっ―――教官っ、……だめぇっ―――」 ひときわ大きな声で啼くと、郁が一気に脱力したのが分かった。中はその逆に、指をキュンキュンと締めて来る。 蠢く中の余韻に浸っている間もなく指を抜き、堂上は自分の衣服を素早く脱ぎ捨てて、避妊具を自分に被せた。 ぐったりと呼吸を整えている郁に覆いかぶさると、まだ濡れている郁にあてがう。そうされた郁の方は驚いて抵抗を試みた。が、 「――ちょっ、待っ……教官、あたし、まだ」 言い終わらないうちに、勢い良く郁の中へと挿入していく。 「あああんっ」 絶頂の余韻はまだ残っていた。いつもよりキツめの中は、堂上をこれでもかと締め付けてくる。 3ヶ月ぶりの自分としては、どのくらい持たせられるか甚だ自信はなかったが、一度イカせている郁を再度登り詰めさせるのはそんなに困難じゃないだろうと予想は出来た。 いつも通りゆっくりとした動作から始める。さっきまでの激しい愛撫とは対極的な動きが、郁を焦れさせた。 自分から強請るように腰を押し付けてくる様子に、意地悪心がもたげだす。 「どうした?……腰が動いてるぞ」 言葉で攻めてみたことは無かったが、郁が締めて来たところを見るとこれも有効かもしれない。 「う、動いてなんてっ」 反論してみるものの、意思を失った腰が堂上の動きを求めていることは明らかだった。 「激しくしてほしいのか?」 「そ、そんなこと、無いですっ」 郁の反論は既に肯定だ。堂上は腰に力を溜めて郁の奥を一突きした。その途端、郁の身体が震えたのが伝わる。やはり、もう一度イキたがっていることは明白だ。 「もう一度、イクか?」 「やぁっ……堂上教官っ……意地悪っ……」 「意地悪はどっちだ?さんざん焦らされたのは、……俺のほうだと思ってたが?」 「―――そ、それは―――ああっ」 言い訳をしようとした矢先、再度奥を一思いに突かれ、郁の理性は吹っ飛んだ。 「教官っ―――イカせてくださっ―――もう、欲し……」 『欲しい』とは最後まで言えなかった。言葉の途中で、堂上の突き上げが激しくなったからだ。 熱い杭が打ち込まれるような感覚が、郁の身体を支配する。その感覚は堂上の動きが激しさを増す程に郁を虜にしていく。 結合した部分からは、粘着質な音と肌がぶつかる音が響く。いやらしく響く音は、耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいもののはずなのに、郁にはどうすることもできないのだ。その音が、郁が堂上を誰よりも求めている証拠なのだから。 貫かれる度に最奥にもたらされる鈍い痛みにも似た快感が、徐々に頂きへと導き出す。 「あっ――だめ、……きょう、かんっ……あ、たしっ―――」 郁の言葉を聞くやいなや、堂上の動きは更に早まった。そして一気に郁は登り詰める。 「だめっ……ああっ!………――――!!」 先ほどと同様に脱力すると、心地よい疲れが郁を襲ってきた。 だめだ、このままだと眠ってしまう。 この期に及んで寝顔を見られる恥辱と闘おうとした矢先、堂上が一度抜いてから郁の体制をごろんとひっくり返した。 腰を持ち上げられて、立ち膝にさせられる。 ―――え? 声にならない疑問は、次の瞬間に答えになる。 あろうことか堂上は、絶頂を迎えたばかりの郁を後ろから再度貫いたのだ。 「やぁっ!教官っ!あたしっ――――」 「俺はまだだぞ」 「そ、んなっ…だって、無理っ………ああああんんっ!」 それでなくてももう既に2回も迎えている。これ以上は無理だというのに、堂上の動きは容赦がなかった。 「俺はイカせて貰えないのか?」 「だってっ――ああっ!―――これ以上はっ…あたしっ…うううんんっっ!」 ずぶずぶと出し入れされ、さっき打ち抜かれている場所とは違う場所を攻められる。またも襲ってくる、あの波。 ―――ああ、あたしまたイッちゃう――― 絶頂の余韻の最中に、また絶頂を迎えたのは初めてのことだった。 そして、アルコールの力を借りずに意識を失ったことも、初めてのこととなった。 「めちゃくちゃ可愛いんですってね、教官の寝顔」 業務中に話しかけられたと思ったら、柴崎が何かを含んだような表情で近づいてくる。 なんだそりゃ。誰が言ったんだ。 言おうとしたことが顔に出たのか、柴崎は訊く前に悪びれもせずに答える。 「笠原がそう言ってました」 コイツラが普段どんな話をしているのか、想像が出来ない。きっと、俺のような男はからかいの種になっているんだろうと思うと、面白くないのも当たり前だった。 「知るか。自分の寝顔なんて見たことないからな」 不機嫌そうに答えると、柴崎が待ってましたと言わんばかりに堂上の答えを受け取った。 「そう、それなんですよ」 「何がだ」 「今回の笠原の悩みです」 「はぁ?」 自分の寝顔が可愛くないと思い込んでいる、だから寝顔を見られるような環境を作りたくない、故に教官ともお泊りなどできない。これが郁の悩みの種明かしだったことを、柴崎から教えられた。 「大変だったんですよー。すっごくいい夢見てたのに叩き起こされて」 その所為で迷惑を蒙ったことを声高に言う柴崎をよそに、堂上は呆れるのを通り越して落胆している。 「アイツは……どこまでアホウなんだ」 「だから、言ってやってくださいね、あの子の寝顔がすっごく可愛いってこと」 「んなこと、とっくに知っている」 「でしょうねー。でも、毎日拝めるのは今のところ私だけですからね」 「なんだそりゃ」 「同室の特権」 堂上をからかうことに成功したことに満足が行ったのか、見事にウインクを決めたかと思うと柴崎は足早に駆けて行く。その途中でこちらを振り返り、 「今度ご馳走してくださいねー」 と恩を着せることも忘れなかった。 失神してしまった郁に布団をかけてやりながら、堂上は今回の騒動を思い返していた。 寝顔のことを気にするなんてコイツらしいといえばそれまでなのだが、その所為で我慢させられていたのかと思うと、意地悪してやりたくなるのは許容範囲だろう。 流石に失神させてしまったのは悪かったと思うが、帰りたくないと思わせるくらいに疲れさせてやろうと思ったことは否定しない。 郁の寝顔は、無防備でその分とても無邪気だった。 時々眠りながら微笑んでいるときがある。そんな時、自分が夢に出ていればいい、と思う。 「そうだ」 ふと、ひとりごちてズボンのポケットから機種変更したばかりの携帯電話を取り出した。 カメラモードに切り替えて、眠る郁を画面に収めた。 柴崎め。これで俺も毎日拝めるぞ。 初めて郁を被写体にして撮った写真同様に、郁の寝顔は深いフォルダに格納されることとなった。 もちろん、幸せそうに眠っている郁は、まさか堂上が自分の寝顔を撮ったなどとは、夢にも思ってはいない。 了
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/77.html
1スレ目 699-700 ベッドの上で向かい合っていたのが、キスに夢中になっている間にいつの間にか押し倒されていた。 浴衣などあってないようなもの。初体験時にいきなり上半身を剥かれた衝撃に比べれば、ゆっくり乱されていく今の状況などなんてことはないと思ってしまう。 エスカレートする舌の動きに翻弄されながら、身体のあちこちを撫でられる心地良さに心すら任せた。 堂上の大きな手が太股に伸びたところで、唇を離される。 「……そういえば、あのとき痴漢にはどこを触られたんだ?」 「ふぁ……?」 何の話かすぐに思い出せなかったのは舌の感触に浸っていたせいもあるだろうが、それ以上に郁にとって痴漢事件は過去の出来事であり、今更悔やむほど重要なことではなかったから。 なのに堂上は、なぜ今掘り起こすようなことをいうのか。 「なんで、今、そんなこと……」 「俺が触る前に触られたんだ。改めてお清めさせろ」 お清めって、そんな。 確かに変態の手など汚らしく耐えられるものではないが、あれからどれほどの時間が経っていると思っているのか。それでなくともあの日は風呂で念入りに洗ったというのに、この期に及んでさらになにを清めると。 そんなことを言い返す前に、堂上は郁の美しい片足を軽々と肩に担ぎ、日に当たらず白く輝く内太股へと唇を当てた。 「きょ、教官、そんな、今更」 「今更でもいいだろう、気分の問題だ」 「でも、パンスト穿いてましたし!」 「あんな薄い生地で何が防げる」 何を言っても止める気はない堂上の舌が柔らかな肌を滑った。郁 の若い肌は唾液を弾きながらも、濡れたそれに敏感に反応する。 「ぁんっ!やっ……」 「足も敏感だな。そんなに感じるのか」 当初は本当に清めるつもりだったのが、郁の素直な身体に堂上のなにかが刺激される。 それは子供染みた悪戯心に似ていたのかもしれない。ゆえに堂上は、その感情に従い足への愛撫を本格的にする。 太股から膝裏、ふくらはぎを焦れるような速さで辿り、震える指先へと到着するころには郁の呼吸はすっかり上がっていた。 「やぁ……きょうかん、そこは……」 僅かな抵抗など意味を成さない。それは郁もわかっているはずなのに、残った理性は抗わずにはいられない。 指の一本一本を丁寧に舐められ、間すら余すところなく愛される。その行為自体から堂上の想いの深さが伝わるようで、嬉しくて堪らない。 それに加え自慢の部位から快楽を与えられることに激しい羞恥を感じた。速く走れればそれでいいはずの部分なのに、彼に触れられただけでこんなにも気持ちいい。 「そんなとこ、舐めないでっ……」 「恥ずかしいからか?それとも気持ちいいからか?」 どちらも言い当てられ、頬に熱が上った。見つめてくる顔を見ていられなくて、きつく瞼を閉じ、両手で顔を隠す。 堂上は舐め尽くした足を下ろし、再び太股を撫で上げる。もう彼が触れていないところなど残っていなかった。 耳元に寄せられた唇が、低く言葉を囁く。 「俺だけのものだ。もう誰にも触らせるな。お前は、俺の手だけ覚えていればいい」 自分が好きな人のものになる。 その幸せを郁に教えたのは、堂上ただ一人だった。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/57.html
1スレ目 388-391その2 特殊部隊の宴会は最後まで付き合うと決まって午前様になるので外泊届を出しておくのが前提であることを、堂上はこの時ばかりは有り難いと思った。 武蔵境から何駅か離れた駅前にあるシティホテルは場所柄満室になるということは滅多にない。 今夜も飛び込みの客のすんなりと受け入れてくれた。 風呂やベットが大きなラブホテルも何かと便利なのだが、初心な郁にはその手のホテルを見るだけでカチンコチンになってしまうのであまり利用しない。 部屋に入るなり背後から抱き締めると、郁は素っ頓狂な声を上げた。 「きょ、教官っ!あ、あの、お風呂──」 「後でいい」 先ほどから待たされた身としては、我慢の限界なのだ。 餌を前に待てをされた犬の気持ちというのはこういうものなのかと思ったぐらいなのだから。 戸惑う郁を無視して、くるりと身体を捩じらせ自分に向かせると、思う存分キスをした。 また座り込んでしまいそうになる郁の腿を両腕で持ち上げ、そのままベットに寝転がせる。 逃げ場はもうないのだと知らしめるようにシャツの中に手を伸ばし、なめらかな肌を弄る。 ささやかな胸を隠すブラジャーも強引に持ち上げて、直に色づく頂を手の平で撫でてやると郁は堪らず身体を捩じらせた。 隠すようにうつ伏せになろうとする郁の抵抗がいじらしく、肌に触れていた手を放してやると郁は助かったとばかりに態勢を変え、ほっと息をついた。 とはいえ堂上からすればそれも計算の一つでしかないのだが。 「えっ、あの、ちょっと教官、ダ、ダメですってば──」 「こっちの方がお前はいいんだろ?」 「そ、そんなつもりじゃ、あたし──ひゃっ、あ──っ、」 うつ伏せになった郁の腰に手をまわし、少々強引に持ち上げた。 膝を付く形になった郁のズボンとショーツをずりおろし、露わになった秘部に指を這わす。 とりあえ指一本は入ったものの、まだあまりに濡れていないせいか滑りがよくない。 浅い部分をゆっくりと撫で、空いていたもう片方の手で包皮に隠れた花芽を探り出すと指の腹で優しく扱いてやった。 すると郁の身体は面白いぐらい反応した。 脚はがくがくと震え、あられもない声を押し殺すようにシーツに顔を埋め堪えようとする。 だがそのいじましさこそ堂上を欲情を煽るのだ。 途端に溢れ出した愛液はこちらの動きを助け、艶かしく脚を伝い落ちていく。 先ほどより深く指を差し込み、郁の感じる場所を探るように動かしてやると、郁の身体は、びくりびくりと大きく跳ねた。 締め付ける感触で郁が軽く達したことを知り仰向けに寝かせると、おもむろに腕を伸ばしてきた。 口には決して出さないが、その表情が全てを語っている。 「欲しいのか?」 それでも意地悪く聞くのは、男の我儘だと思って諦めてくれ。 惚れた女にそんな顔をされて冷静でいられる男がいたらお目にかかりたいもんだ。 こんな時だけ素直な郁はこくりと頷くのだから、堪らない。 郁の脚に引っ掛かっていたズボンとショーツをむしり取ると、その見惚れるぐらい綺麗な脚を大きく広げさせた。 見られていることに気づいた郁は 「やっ」 と小さく抗議の声を上げ、顔を両手で隠したが、てらてらと濡れぼそつそこは今かと堂上を待ち望んでいるようだった。 それに誘われるように張りつめ準備の整っている自身に避妊具を付け、ゆっくりと押し当てる。 「んっ、あっ、堂上教官──」 蕩けてしまうかと思うぐらいの温かな感触と、その圧迫感に、背筋がぶるりと震えた。 ずるずると吸い込まれるままに腰を押し進め、先端にコツンと当たると、郁の熱く濡れた肉がぎゅっと堂上のものを締め付ける。 その繋がった感覚があらぶっていた堂上を解すように満たしていく。 満たされているはずなのに、貪欲な自分は更にそれ以上のものを望む。 もっと郁を感じたい、鳴かせたい、乱れさせたい。 シャツをずり上げ、ぷくりと立ち上がった胸の蕾をかりりと噛むと、郁は小さな悲鳴を上げ、堂上の頭をかきむしる様に抱きしめた。 ならばとねっとりと舌で舐め上げると、今度はすすり鳴くような声を上げ、縋りつく。 郁の胸は小さいくせに感度は驚くほど良かった。 僅かながら興奮でせり上がった胸は既に堂上の唾液でベタベタだ。 零れ落ちそうになるそれすらも舐めとるように動かすと郁は悶えるように身体をくねらせた。 それと同時に郁の秘肉も徐々に変化していった。 侵入者を拒絶するかのような締め付けではなく、誘うようにざわめいている。 腰は動かさず、奥をやんわりと押してやると、郁は甘ったるい声を上げ、自ら腰を押し付けてきた。 感情ではまだ処理しきれなくても、郁の身体は素直に堂上の動きは反応してくれている。 これならば大丈夫かと身体を起こし、大きく緩急をつけて抽送させると、郁は切なげにこちらの名を呼び続けた。 その姿は紛れもなく女で、あの郁をそうさせているのが他でもない自分であることが、どうしようもないぐらい乾いた自分の心を満たしてくれていることに堂上は気づいた。 そんなことを郁が知ったら軽蔑するだろうか──ふと沸き起こった疑念も、飲み込まれるような快楽の前では意味を持たなかった。 気が狂いそうになるほどの快楽に促されるように堂上は全てを吐き出すまで腰を振るい続けた。 高ぶった衝動は一度でも気づけば高まる一方で、郁が先に達した後も、収まる気配が全くない。 郁の身体は力が抜けたようにだらりとしているのに、達した秘肉は根元までしっかりと食い締めるように蠢くのだから堪らない。 ダメだと首を横に振る郁にまたそそられて、限界まで溜まった衝動を吐き出すように何度も身体を打ち付けた。 断続的に起こる放出感をじっくりと味わう最中も、郁の秘肉は発せられる言葉とは裏腹に咀嚼するかのように締め付け、終わった頃には腰の奥が溶けてしまうかと思ったほどだった。 翌朝、始発で基地に戻る恋人は昨晩とは打って変わって機嫌が良かったのだが、別れ際、 「柴崎のことなんだがな、宴会に連れてきてもいいが、その代わり、その後は必ず俺に付き合うことが条件だ。いいな?」 えっ、教官それってどういう──っていうか、柴崎が付いてきたいって言ったら、あたし断れるはずがないんですけど──。 さっさと男子棟に消えていった堂上の背中を見送った郁は、一人残された後、どっちに転んでも割りを食うのは自分だと気づき、思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/83.html
1スレ目 877-881 『天然』 二度目の外泊も、堂上は小奇麗なシティホテルを予約してくれた。 宿泊代を郁に負担させないことはわかっている。 郁は自分が大事にされてるのが嬉しいのと同時に申し訳ないとも思う。 ――だってあたし、こんなんだし。このあいだのスポーツブラは論外としても、色気もないし胸もない。 なんで、こんなあたしでいいんですか。 「真っ暗にしなくてもいいよな」 そう言われて郁が強硬に反対しなかったのは、今日は柴崎見立てのちゃんとした下着を着けていたのもあるし、 なんか引け目を感じていたのもある。だって、触って楽しい身体じゃないし。かといって、見て楽しいわけでもないけど。 二人で交互にシャワーを浴びた後、ベッドに並んで座る。 部屋の照明は落としたけど、ベッドサイドの小さな明かりだけ残してある。 堂上が郁の身体を引き寄せ、唇を重ねた。最初は軽くついばむように、何度も角度を変えて。 それから、深く。 キスしながら堂上が、郁の浴衣の合わせ目から手を差し入れる。 ブラの胸元のカットワークを指でなぞり、肩紐を肩から落とす。 「このあいだと違うな」 唇を離し、堂上が言う。 「あ、あたり前じゃないですか。このあいだが間違いだったんですってば」 「見せてみろ」 浴衣を脱がされ、ベッドに仰向けにされる。 「や、あの、恥ずかしいのであんまり…」 胸を隠そうとした手を堂上が引き剥がす。 薄いラベンダー色のブラとショーツのセットはカッティングが繊細で、郁の白く肌理の細かい肌を引き立てていた。 「綺麗だな。…脱がせるのはもったいないくらいだ」 「や、そんな」 「でも脱がす」 堂上は郁の背中に手を回し、一発でホックを外した。 「教官、ホック外すの上手ですね」 郁に他意はなかったが、堂上は軽く動揺した。その動揺に郁も自分が口にした言葉の意味を改めて考えてしまった。 ――そっか。教官は、あたしが初めての相手じゃないんだ。 すこし悲しげな顔をした郁に堂上は慌てた。 もちろん過去に付き合った女もいたが、それは郁が図書隊に入る前なわけで。でもそんなことを言い訳するのも変だ。 堂上は言い訳の代わりに、ブラを外した胸に唇を落とした。 郁は別に堂上の過去に嫉妬していたわけじゃなかった。 ――経験は無くても、せめて知識でもあったらもっと満足させてあげられるのかもしれないのに。 色気もなく胸もなく知識もないなんて。ああ、あたし、駄目だ。 余計なことを考えているあいだも、堂上の愛撫は続いていて、郁はだんだん頭がぼうっとしてくる。 思わず声が出そうになり、でも、それはやっぱり恥ずかしい。 「…んんっ…あ…」 ――なにか噛むもの。でも手元にはなにもない。どうしよう。どうしたら。 かすかに聞こえていた喘ぎ声が途絶え、堂上は顔を上げた。 「おまえ…なにを」 郁は涙が零れそうなほど潤んだ瞳で、自分の小指を噛んでいた。 「バカ!傷になるだろ!」 「だ、だって…恥ずかしくて。噛むもの、ないし」 唾液で濡れた指が唇から離れた。その唇も濡れて光っている。目尻から涙がつうっと流れ、堂上の理性が飛んだ。 「きゃ!…」 涙を吸い取られたと思ったら、ショーツが脱がされ、足が大きく開かれた。 「や、そんな」 指が入れられ、外も中も同時に刺激される。乱暴ではない。でも、激しい。声が我慢できない。 また指を噛もうとすると、手を堂上の背中に回された。 堂上の舌と唇が首筋から胸、さらに下へとなぞっていく。そして中の指はその場所を探し、そして、みつける。 郁の身体が跳ね、押さえ切れない声が上がった。 「や…いやあっ…きょう、かん…」 「大丈夫だ」 自分の身体の奥からなにかが響いてくる。指の動きに合わせて、それがどんどん大きくなり、津波のように押し寄せてくる。 「…っあ…!!」 堂上の背にしがみつき、しなやかな背を弓なりにし、頸をのけ反らせ、郁は声にならない声を上げた。 全速力で走った後のように荒い息を吐きながら脱力している郁に、堂上は優しく口付けた。そして耳元で囁く。 「痛かったら、言えよ」 膝が折り曲げられ、まだうねるような波を残している部分に熱いものがあてがわれた。 郁は本能的な怖さに腰を引きかける。でもそれを力強い手ががっしりと押さえつける。 「…あっ…んん…」 「痛いか?」 郁は頭を横に振る。痛みがないわけじゃない。でも最初のときに比べたらずっとすくない。 それよりも、しびれに似た感覚がそこから放射状に広がっていた。 それが最後まで到達すると、足りなかったものが満たされたように感じて、郁の瞳から、また涙が零れた。 それを堂上が舐め取る。 「無理しなくていいんだぞ」 「…だい、じょう、ぶ、です…。ただ…」 「なんだ?」 「すごく深いところに当たってて…。一番奥の、もうこれ以上は行けないところに、教官が、来てて。 それで、なんか、いっぱいになって、嬉しくて…」 郁が頬を染めながら、堂上の目をまっすぐにみつめて言うと、なぜか堂上は目を逸らした。 ――え。あたし、またなんかまずいこと言った? 怒ったような顔の堂上に、急に、噛み付くようなキスをされた。息ができないくらい激しい舌の動きに翻弄される。 そして堂上が動き始め、郁は上と下からの刺激に、もう、声を噛み殺すこともできない。 それでも自分の喘ぎ声には、どうしても慣れない。だから代わりに、その言葉を口にした。 「…あっ…きょう、かん…好き、です。…あんっ……好き、なんです…」 言えば言うほど、堂上の表情が苦しそうに見え、動きが速くなる。それがどうしてか、郁にはわからない。 郁の奥から、また波がやってくる気配がした。 「本…当です、から…。きょうかんがいて、くれたら…それだけ…で……ああんっ…!」 堂上の息遣いが激しい。自分なんかのために、こんなになってくれることが嬉しい。 そして、さっきとはまた違う大きな波が押し寄せてきた。 「だい、好き…です…」 その言葉と同時に二人は果てた。 まだお互いに落着かない息のままで、二人は寄り添っていた。郁の髪を堂上の指が優しく撫でる。 「…あたし、なんかいけないことしましたか?」 「…そういうわけじゃない」 堂上は仏頂面だ。 「あたしやっぱりこういうこと…勉強が足りないって言うか、作法がわからないっていうか。 柴崎にそういう情報、聞いてみますね。教官に満足してもらえるように」 「やめろ」 「だって、あたし色気とかないし。教官、つまらないんじゃないかと思って」 「本当にいいから、よせ。もう、これ以上…」 「これ以上?」 「知らん!」 堂上に叱られてそれ以上追求するのをやめた郁は、後日その日のことを柴崎に相談し、 「恐ろしい子!」と言われ、ますます訳がわからなくなったのだった。