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1スレ目 339-347 小牧と飲んだ、あれから2週間。 『特訓』は奇妙なモノを抱えたまま、続いていた。 「ん…っふ…」 逃げようとする唇を、堂上が追う。 左手が腰を抱き寄せ、右手がうなじを這った。 郁は目の前のシャツに縋るように、爪を立てた。 「きょう、かん……待…っ」 「待たない」 少し離れた唇の合間で、白い吐息が漏れる。 鍵をかけた書庫は肌寒く、触れ合う場所だけが熱を帯びていた。 (くそ…っ) 重ねた唇に翻弄されて、堂上は苛立っていた。 自分より背の高い少女の頭を捕まえて、深く口付ける。 ――なんで、こっちが追い詰められた気分にならにゃならんのだ! 心中で一人ごち、口内を更に蹂躙する。 立っていられないとばかりに、郁の膝が震えた。 「明日の公休に、…あの人に会いに行くんです」 はあっと濡れた吐息が漏れるのが聴こえ、ようやく離された唇から、そんな言葉が滑り出た。 ――なんだって?くらりと眩暈がして、堂上は突然現実に引き戻された。 「だから…、」 『特訓』は、もう――。 潤んだ瞳が戸惑いに揺れた。 言いよどんだ言葉の先が分かって、たまらず、堂上はまた郁の唇を攫った。 「ん…っ」 鍛え上げられた腕が郁を抱きしめ、抗うことを許さない。 ――こいつが。こいつが探してるのは、俺だ。俺だと、知っている。 だが、明日会いに行くと言っているその相手は、俺じゃない。 北海道にいると言っていたそいつは、俺では――ないのだ。 硬い指で、ざらり、と耳朶に触れる。 「行くな」 気づけば、低い声で囁いていた。 「キスもそれ以上も、俺以外のヤツになんか――教わるな」 何を言ってるんだ、俺は。 真っ白になった頭の中で、そんな声がした。 が、もう止まらない。 ぷつりと何かが切れて、指が勝手に、耳から首を伝って滑り落ちた。 隊服の隙間から覗いた鎖骨が目に入って、…堂上は思わずその白い肌をついばんだ。 「や…っ、教官…!?」 壁に押し付けた躯が跳ねる。 片足で郁の両膝を無理矢理割った。 汗ばんだ掌が、彼女のささやかな胸を這う。 厚い布の向こうから、柔らかな膨らみが伝わった。 「駄目か…?」 耳元に唇を寄せ、問う。 答えを聞く間も惜しくて、隊服のボタンを上から順に外した。 触れた場所が、熱い。 郁の瞳に、一瞬の逡巡が走ったのが見えた。 濡れた唇が扇情的で、堂上を強く煽る。 と、赤らんだ頬が近づいて。 「おしえてください――」 吐息まじりの声が、肩に吸い込まれた。 「いい子だ」 と思わずそう呟いて、堂上は笑みを漏らした。 中途半端に脱がした服の隙間から、ブラジャーをたくし上げる。 つん、と立ちあがった小粒が、ささやかながらにその存在を主張していた。 「ふ…ぅん…っ」 冷気にさらされて震える郁の躯を支えつつ、堂上はソレを舌で転がす。 焦らすように乳輪をたどると、ひときわ甘い声が、書庫に響いた。 「や…ぁ…!んん…」 恥ずかしいのだろう。 口元に手をやり、声を抑えようとする。 「駄目だ。聴かせろ」 細い手首を掴んで、引き剥がす。 そのまま腕を壁に縫いとめ、空いたもう片方の手で胸を弄んだ。 「―っあ…ゃ…!」 「感じやすいな」 決して大きいとは言えないが、やたら感度がいい。 厭々をするように、郁が首を振った。 眦から、ぽろぽろと涙が零れる。 ほんの少し芽生えた罪悪感は、しかし、強い加虐心の前では無意味だった。 丁寧に丁寧に、そして確実に。 堂上は郁を追い込んでいった。 「きょうか…っ」 熟れた実を甘噛みすれば、首をのけぞらせる。 摘んで、弄って、押しつぶすと、抱いている躯がどんどん熱くなって、――興奮する。 どんなに鍛えていても、郁はやはり女で。 隊服に隠されていたその柔らかさは、今や堂上の手の中だった。 クソ、なんでこんなにかわいいんだ。 「もっと声、出せ」 聴きたい、と続けて、堂上の手が下方に向かった。 郁のズボンを器用に脱がせ、半分ほど下ろし、内腿に触れる。 ひんやりとした感触を楽しむように、何度も何度も。 「や…ぁっそん、な…」 無理です、と郁が首を振る。 堂上の顔が上がって、舌と舌を絡められた。 郁の躯はもう限界で、抵抗する力も残っていない。 堂上のされるがままだ。 それをいいことに、無骨な指がとうとう秘所を探り当て、撫で上げた。 「あ…っ!」 薄布の上からの感触が、かえってざわざわと感じさせる。 もどかしそうに、郁が身震いした。 きっと、本人も気づいていないだろう。 濡れそぼったそこを、堂上の指に絡みつかせるように、腰が揺れていた。 「教官、きょう、かん…」 無意識に、声が繰り返す。 華奢な両腕が、ぎゅ、と、堂上の首に回された。 探るような中指はショーツから入り込み、蜜壷に浅く埋め込まれる。 びくん、としなやかな肢体が震えた。 逸る気持ちを抑えつつ、堂上は慎重に指を動かした。 次から次へと溢れる生温いモノで、滑りが良くなっていく。 「――郁」 ふと、声が零れた。 その呼び方は、ただの部下には似つかわしくない。 そんな考えが一瞬頭を過ぎったが、かまわず堂上はもう一度「郁、」と呼んだ。 「教官…?…っぁ!」 驚いたように瞠られた目から、視線を逸らす。 動揺を悟られるまいと、指を深く突き入れて掻き混ぜた。 芽吹き始めた花芯を親指で弄くり、卑らしい水音をわざと立てた。 「ゃ、も…――っ!」 これまでよりワントーン高い声が上がって、がくがくと、郁の腰が砕けた。 軽く絶頂ってしまったのだろう。 背中がずるりと壁を滑って落ちる。 へたり込みそうになった躯を、寸でのところで抱き止めた。 腕の下から手を差し込み、肩を支えて、ゆっくりと床に腰を下ろさせる。 はぁ…と、切ない息が耳元にかかった。 力の抜けた指先が、それでも堂上の首に縋ったので、抱きしめた。 火照った躯に欲望が抑えられず、 「まだだ」 呟いて、堂上は次の行動を起こした。 「え――ぁ…っ!」 とっくに一番下まで落ちて、足元で引っかかっていたズボンを、片足から抜き取る。 続いて白いショーツも、無理矢理剥ぎ取った。 腕が腿の内側にかけられて、郁の左膝は、軽々と堂上の右肩に担ぎ上げられた。 「や、だめ…っ」 あられもない格好に、抗議の声が上がった。 それを完全に無視して、堂上は溢れる泉に唇を寄せた。 床に投げ出されたもう片方の足元で、残された衣服が揺れた。 「こんなに濡れてる」 「ぁ、―あ…!」 言わないで、と小さな声が呟く。 はだけた胸元に手を伸ばして弄ると、郁が甲高く啼いた。 くしゃりと、細い指が頭を掴んできたのが分かった。 「や、怖い――」 どうにかなりそうな躯を扱いきれぬ様子で、郁が声を震わせた。 見上げると、縋りつくような瞳が濡れて、瞬きをした。 慣れぬ快楽に身をよじる郁に、どくん、と心臓が鳴るのを、堂上は自覚した。 「大丈夫だ」 ちゃんと、俺が教えてやる。 精一杯優しく言って、ひたひたに濡れ蠢く襞のナカに舌を差し込んだ。 丹念に掻き出すように、味わう。 それだけでは満足できず、指を再び捻じ込む。 きゅうっと締め付けてくる感触が伝わって、堂上は思わずほくそ笑んでいた。 「は…ふ…――ぅぅんっ!」 指をくの字に曲げて、ナカを引っ掻く。 膨らんだ新芽を、舌で転がして押しつぶす。 期待通りの声を上げる郁を、堪らなくいとおしく感じた。 何度も何度も、抜き差しを繰り返してその姿を愛でる。 ひくひくと充血して、床に水溜りを作ったその場所があまりに淫靡で、夢中で貪った。 と、指がある一点を掠めた時、郁の躯が強張った。 「…あ!?ゃ…っ、それ、だめ――!」 背中がのけぞって、矯正が上がる。 確かめるようにもう一度なぞると、明らかな反応が返ってきた。 ふるふると、強く首を振る姿がかわいい。 「逃げるな」 わざと命令口調の声を出す。 これまでの『特訓』の成果で、郁がそうされることに弱いことを堂上は知っていた。 案の定、躯を竦ませたのが触れた場所から伝わった。 「ん、ぁ、あ…っあぁ…」 おとなしくなった躯をいいことに、見つけたその場所を繰り返し責め立てる。 時折思い出したように乳首を摘むと、眉根を寄せて、びくびくと震えた。 指を2本、3本と増やして、犯す。 郁が感じるところを知った堂上は、その全てを、熱っぽく弄くった。 追い立てられた郁は、 「あ…!ゃ…っ!?あ―――――――――――!」 声にならない叫びを上げて、果てた。 暗い書庫内に、落ち着かない呼吸が響く。 少し虐めすぎたか、と反省しつつ、堂上は 「大丈夫か?」 と声をかけた。 「は、い…」 とろん、とした瞳が頷く。 はだけた上着の下から覗く白い足が艶かしくて、堂上は眉をしかめた。 そんなカオするな――アホウ。 そのまままた襲いたくなる気持ちをめいいっぱい抑えて、郁に口付ける。 なにせ、自分は『まだ』なのだ。 はちきれそうな分身の、その熱を感じつつ、苦笑する。 けれど残念ながら、今、続きをするわけにはいかない。 ――ゴムの手持ちなんぞ、ないのだから。 「今日はここまで、だ」 「教…官?」 「明日、」 長いキスの後、郁の首筋に顔を寄せ、堂上が呟いた。 一瞬、迷ったように言葉が止まる。 が、観念したように、ぐしゃ、と頭を掻いて続けた。 「明日、また俺のとこに来い」 続きを教えてやる。 言い馴れない言葉に赤くなりつつ、郁を抱きしめる。だから。 「俺以外のヤツに会いになんか、行くな」 てか、もともと俺がお前の探し人なんだが。 と、心中で正しく矛盾を認識しつつ、もう一度堂上は、郁の耳元に囁いた。 郁は大きな瞳を瞬かせると、はい、と嬉しげに頷いた。 ――ほんとはずっと、教官にそう言って欲しかったんです。 恥らうようなそんな言葉が、肩越しにおまけされる。 嵌められたのは俺か。 ああクソ、と無邪気に笑う5つ年下の女に、舌打ちする。 しかも、いつ正体を明かしていいもんだか――。 むしろ気づくまでずっと黙ってるか? 軽い溜息を吐き、堂上は 「アホウ」 と、郁の頭を優しく掻き混ぜた。
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1スレ目 315 『お祝い』 図書隊御用達の病院に堂上が転院して早数ヶ月、看護師から 「可愛い彼女さんですね」 と自然に郁の存在が知られるようになった頃、 「大部屋に移動になったんですね」 公休らしく郁はその日も堂上を訪ねていた。 大部屋になったので大声を出してはいけないと意識的に声を抑えようとしている郁の姿に堂上は小さく笑った。 努力は認めるが、地声が大きすぎて無意味だ。 「ああ、もうリハビリも始めてる」 「じゃあ戻ってくるのもすぐですね。手塚なんか教官いないとやっぱり寂しいみたいだって、小牧教官が笑ってましたよ」 「お前は?」 ジャブ程度に軽く仕掛けてみると、郁は言葉を詰まらせて俯いてしまった。 だが耳たぶまで真っ赤なのは隠しきれない。 もう一度同じことを訊くと、 「き、決まってるじゃないですか……あたしだって……同じです……」 恥かしがっても、最後はきちんと教えてくれるところが郁らしい。 そうか、と堂上が頭を撫でると、郁はますます身体を小さくさせた。 「じゃあ、帰ります」 「ああ、気をつけて帰れ」 それはごく自然なやり取りだったはずだった。 だが郁の方は堂上の別れの挨拶が不満だったらしく、恨めしそうに睨んでいる。 「どうした?」 「だって、今までは帰る時はキスしてくれたのに……」 「アホウ!大部屋だぞ、何を考えてるんだ、お前は!!」 間仕切りのカーテンはあるにしろ、何をしてるかぐらい察しのいい者ならば気付くはずだ。 それでなくとも郁が堂上の恋人であるのは周知の事実だというのに。 しかし堂上の方も予想外の郁のおねだりに大声を出してしまい、これでは筒抜けもいいところだ。 これでは郁が帰った後は好奇な視線に晒されるに違いない。 ──今更始ったことではないが。 叱られても郁はして欲しいらしく、ちらちらと堂上を見ている。 恋人にそんな表情をされてそ知らぬふりができる男がいたら、それは意気地なしか鈍感のどちらかだ。 何が仕方ないのか、堂上は大きく溜息をついた後、郁に向って手招きをした。 すると今までの不貞腐れた表情は何処にいってしまったのか、嬉しさを全面に出して郁は体を前のめりにするようにベットに手を付いた。 その腕を優しく掴んで、唇をそっと重ねる。 ゆっくりと力が抜けていく郁の体を抱きしめて、更にもう一度口付ける。 暖かい郁の身体の重みが愛しく、起こしてはならない感情を堂上は必死に気付かないふりをした。 「……これで満足か」 ふてるような口調になったのは気恥ずかしさからだったが、郁はこくんと頷くと、 「じゃあ、これは大部屋に移動になったお祝いです」 堂上が気付く前に、今度は郁から同じようにキスをされた。 その後、あっさりと帰った郁に、その晩堂上がなかなか寝付けなかったのはいうまでもない話。
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1スレ目 877-881 『天然』 二度目の外泊も、堂上は小奇麗なシティホテルを予約してくれた。 宿泊代を郁に負担させないことはわかっている。 郁は自分が大事にされてるのが嬉しいのと同時に申し訳ないとも思う。 ――だってあたし、こんなんだし。このあいだのスポーツブラは論外としても、色気もないし胸もない。 なんで、こんなあたしでいいんですか。 「真っ暗にしなくてもいいよな」 そう言われて郁が強硬に反対しなかったのは、今日は柴崎見立てのちゃんとした下着を着けていたのもあるし、 なんか引け目を感じていたのもある。だって、触って楽しい身体じゃないし。かといって、見て楽しいわけでもないけど。 二人で交互にシャワーを浴びた後、ベッドに並んで座る。 部屋の照明は落としたけど、ベッドサイドの小さな明かりだけ残してある。 堂上が郁の身体を引き寄せ、唇を重ねた。最初は軽くついばむように、何度も角度を変えて。 それから、深く。 キスしながら堂上が、郁の浴衣の合わせ目から手を差し入れる。 ブラの胸元のカットワークを指でなぞり、肩紐を肩から落とす。 「このあいだと違うな」 唇を離し、堂上が言う。 「あ、あたり前じゃないですか。このあいだが間違いだったんですってば」 「見せてみろ」 浴衣を脱がされ、ベッドに仰向けにされる。 「や、あの、恥ずかしいのであんまり…」 胸を隠そうとした手を堂上が引き剥がす。 薄いラベンダー色のブラとショーツのセットはカッティングが繊細で、郁の白く肌理の細かい肌を引き立てていた。 「綺麗だな。…脱がせるのはもったいないくらいだ」 「や、そんな」 「でも脱がす」 堂上は郁の背中に手を回し、一発でホックを外した。 「教官、ホック外すの上手ですね」 郁に他意はなかったが、堂上は軽く動揺した。その動揺に郁も自分が口にした言葉の意味を改めて考えてしまった。 ――そっか。教官は、あたしが初めての相手じゃないんだ。 すこし悲しげな顔をした郁に堂上は慌てた。 もちろん過去に付き合った女もいたが、それは郁が図書隊に入る前なわけで。でもそんなことを言い訳するのも変だ。 堂上は言い訳の代わりに、ブラを外した胸に唇を落とした。 郁は別に堂上の過去に嫉妬していたわけじゃなかった。 ――経験は無くても、せめて知識でもあったらもっと満足させてあげられるのかもしれないのに。 色気もなく胸もなく知識もないなんて。ああ、あたし、駄目だ。 余計なことを考えているあいだも、堂上の愛撫は続いていて、郁はだんだん頭がぼうっとしてくる。 思わず声が出そうになり、でも、それはやっぱり恥ずかしい。 「…んんっ…あ…」 ――なにか噛むもの。でも手元にはなにもない。どうしよう。どうしたら。 かすかに聞こえていた喘ぎ声が途絶え、堂上は顔を上げた。 「おまえ…なにを」 郁は涙が零れそうなほど潤んだ瞳で、自分の小指を噛んでいた。 「バカ!傷になるだろ!」 「だ、だって…恥ずかしくて。噛むもの、ないし」 唾液で濡れた指が唇から離れた。その唇も濡れて光っている。目尻から涙がつうっと流れ、堂上の理性が飛んだ。 「きゃ!…」 涙を吸い取られたと思ったら、ショーツが脱がされ、足が大きく開かれた。 「や、そんな」 指が入れられ、外も中も同時に刺激される。乱暴ではない。でも、激しい。声が我慢できない。 また指を噛もうとすると、手を堂上の背中に回された。 堂上の舌と唇が首筋から胸、さらに下へとなぞっていく。そして中の指はその場所を探し、そして、みつける。 郁の身体が跳ね、押さえ切れない声が上がった。 「や…いやあっ…きょう、かん…」 「大丈夫だ」 自分の身体の奥からなにかが響いてくる。指の動きに合わせて、それがどんどん大きくなり、津波のように押し寄せてくる。 「…っあ…!!」 堂上の背にしがみつき、しなやかな背を弓なりにし、頸をのけ反らせ、郁は声にならない声を上げた。 全速力で走った後のように荒い息を吐きながら脱力している郁に、堂上は優しく口付けた。そして耳元で囁く。 「痛かったら、言えよ」 膝が折り曲げられ、まだうねるような波を残している部分に熱いものがあてがわれた。 郁は本能的な怖さに腰を引きかける。でもそれを力強い手ががっしりと押さえつける。 「…あっ…んん…」 「痛いか?」 郁は頭を横に振る。痛みがないわけじゃない。でも最初のときに比べたらずっとすくない。 それよりも、しびれに似た感覚がそこから放射状に広がっていた。 それが最後まで到達すると、足りなかったものが満たされたように感じて、郁の瞳から、また涙が零れた。 それを堂上が舐め取る。 「無理しなくていいんだぞ」 「…だい、じょう、ぶ、です…。ただ…」 「なんだ?」 「すごく深いところに当たってて…。一番奥の、もうこれ以上は行けないところに、教官が、来てて。 それで、なんか、いっぱいになって、嬉しくて…」 郁が頬を染めながら、堂上の目をまっすぐにみつめて言うと、なぜか堂上は目を逸らした。 ――え。あたし、またなんかまずいこと言った? 怒ったような顔の堂上に、急に、噛み付くようなキスをされた。息ができないくらい激しい舌の動きに翻弄される。 そして堂上が動き始め、郁は上と下からの刺激に、もう、声を噛み殺すこともできない。 それでも自分の喘ぎ声には、どうしても慣れない。だから代わりに、その言葉を口にした。 「…あっ…きょう、かん…好き、です。…あんっ……好き、なんです…」 言えば言うほど、堂上の表情が苦しそうに見え、動きが速くなる。それがどうしてか、郁にはわからない。 郁の奥から、また波がやってくる気配がした。 「本…当です、から…。きょうかんがいて、くれたら…それだけ…で……ああんっ…!」 堂上の息遣いが激しい。自分なんかのために、こんなになってくれることが嬉しい。 そして、さっきとはまた違う大きな波が押し寄せてきた。 「だい、好き…です…」 その言葉と同時に二人は果てた。 まだお互いに落着かない息のままで、二人は寄り添っていた。郁の髪を堂上の指が優しく撫でる。 「…あたし、なんかいけないことしましたか?」 「…そういうわけじゃない」 堂上は仏頂面だ。 「あたしやっぱりこういうこと…勉強が足りないって言うか、作法がわからないっていうか。 柴崎にそういう情報、聞いてみますね。教官に満足してもらえるように」 「やめろ」 「だって、あたし色気とかないし。教官、つまらないんじゃないかと思って」 「本当にいいから、よせ。もう、これ以上…」 「これ以上?」 「知らん!」 堂上に叱られてそれ以上追求するのをやめた郁は、後日その日のことを柴崎に相談し、 「恐ろしい子!」と言われ、ますます訳がわからなくなったのだった。
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1スレ目 200-205 その日、堂上は小牧と一緒に図書大学時代の同期の結婚式に出席していた。 二次会にもなると座もくだけ、酒が入っているせいか話も弾んだ。 「そういえば堂上、おまえ彼女が出来たんだって?」 同期の一人がそう話を切り出すと皆が一斉に堂上を見た。 学生時代から堅物で名を知られた堂上だけに、その彼女というだけで興味深々なのだろう。 「……別にいいだろ。俺が誰と付き合っても」 この場では誰よりも真相を知っている小牧は楽しそうに成り行きを見守っているようで、それがまた癪だった。 投げやりに突っぱね酒を一気に煽ったが、 「部下だって聞いたが、本当か?」 その一言で誤魔化すレベルなどとうに超えていて、更に先ほどの自分の言葉が照れ隠しであることまでバレてしまった。 同時に上がる周囲の呻く様な驚きとからかいの声の中、堂上は思わず噴き出してしまった酒を拭うのがやっとだった。 「まさかお前が職場恋愛とはなぁ」 感慨深げな言葉は意外だと言っているのと同じだ。 堂上とて当事者になるまで、そう思っていた。 ましてや上官が直属の部下と懇意の仲になるなんて、上官としての地位を利用しているように思われかねない。 とはいえ実際の相手はそんなもので左右されるような柔な性格ではなく、堂上の手の平で上手く動くような可愛い奴でもなかった。 むしろ、うっかりしていれば、こちらが足元をすくわれかねない ──何せ受け身も取れないような場所で上官相手に大外刈りを繰り出すような相手なのだから。 「職場恋愛ってことは特殊部隊内か?……ってことは、あの背の高いすらりとした子か」 何せ相手は図書特殊部隊で初めての女性隊員で、立場や場所は違えど同じ図書隊に属する者ばかりだから知っている者ばかりだ。 皆口々に、幾つ年下なんだ?五歳も下なのかよ、この果報者、などと言い放題である。 確かに外見だけならば羨ましがられても仕方がないのかもしれない。 それは内面を知れば、あっさりと覆えされてしまう程度のものでしかないが 「堂上は背の高い女でも平気なんだな」 一人が何気ない態でそう呟き、世間から見ればやはりそういうものなのかと堂上は理解した。 背の高さを気にするような歳はとうに過ぎていたし、一般的に見て自分がチビであることは分かっている。 それに付き合うのに背丈なんてどうでもいいことじゃないのか、というのが堂上の本音だ。 そもそも遊び本意で付き合っているのではないし、普段は男まさりで無鉄砲ばかりするあいつが自分のこと特に女性を意識すると周囲が驚くほど弱気になる、そんなギャップも含めて自分は好きなのだ。 ──決してあいつの前では言わないが。 とはいえ"彼女は自分より背の低い女がいい"という価値観が根強いことも知っていたし、それがお互い様で"彼氏は自分より背が高くないと嫌"というのもよく聞く話だったので、今更不快に思うようなことはなかった。 あえて相手が背が高くて不便といえば、踵の高い靴を履かれると頭を撫でる時に苦労するぐらいか。 ふと先日そんなやり取りをしたことを思い出していると、 「……大丈夫なのか?堂上」 既に別の話で盛り上がった頃になってから小声でそう訊かれ、堂上は思わず怪訝な顔をしてしまった。 「相手の女の子だよ。女は男が思っているより背丈を気にするもんだろ。背が高いんなら尚更気にしてるんじゃないのか?そこんところ、ちゃんとフォローしてるのか、お前?」 お節介すぎる心配に堂上は露骨に顔を顰めたが、彼が同期の中で一番最初に世帯を持ち既に子供がいることを思い出した。 その口調からはやっかみやからかいは伺えなかったし、純粋に堂上達の仲を心配しているようだった。 そこまで仲を心配されるほど自分は不器用に思われているのかと思うと面白くなかったが 「あいつはそんなことを気にするようなやつじゃない」 と反論しようとした。 だが、そこでようやく思い出した。 そういえば、あいつにそんなことを訊いたことが一度でもあったか? 俺は気にしないが、あいつがどう思っているのかなんて──。 堂上はその問い掛けに答えられないことを今になって気付いた。 寮に戻った頃には消灯時間は過ぎていて、中は既に真っ暗だった。 自販機で飲み物でも買って帰ろうと堂上は玄関ロビーで小牧と別れた。 ネクタイを少しだけ緩めつつ共有区間までやって来ると、反対側からこらちにやってくる人影に気付いた。 「堂上教官……?」 気付く前に名を呼ばれ、相手が郁であることを知った。 嬉しそうに駆け寄ってきたものの、近寄ると露骨に顔を顰めた。 「うわっ、お酒臭っ!」 「仕方ないだろ、結婚式だったんだ」 そこでようやく郁は堂上が珍しくスーツ姿であることに気付いたようだ。 「あ、今日だったんですか。小牧教官と一緒に行くって言ってた結婚式って」 お祝いの席ですもんね、と郁も納得したようで、うんうんと頷いている。 「どうしたんだ、こんな時間に。消灯時間はとっくに過ぎてるぞ」 「喉が渇いたんで何か飲もうかなと思ってきたんです」 教官も?と訊かれ、堂上は素直にああと頷いた。 先に買うように促し、堂上は郁の後姿をぼんやり見ていた。 当たり前なのだが、自分より背の高い郁の姿に漠然と不安を覚えてしまった。 それは上官としてではなく、一人の男としてだ。 自分は郁の目にどう映っているのだろう。 自分が背の低いことで郁が嫌な思いをしていないだろうか。 それでなくとも郁は自分が背の高いことを気にしているのは堂上の目から見ても明らかで、背の低い自分といれば尚のこと気にしてしまわないだろうか。 ──どうしてそんなことに今まで気づかなかったのだろう。 「…………お前は本当に俺でいいのか?」 思わず口にしてしまった言葉に郁は驚いた様子で振り向いた。 まっすぐに見下ろされる視線がこれほど居心地の悪いものだとは思わなかった。 「教官、それってどういう……」 「だから、俺みたいな奴でお前は本当にいいのかって言ってるんだ。お前、俺みたいに背の低い男と一緒にいて辛い思いをしているんじゃないのか?」 本当に辛い思いをしているならば郁が打ち明けてくれることは分かっていたが、負けん気の強い郁は余程のことがない限りそれを言い出すこともないのも知っている。 それが信頼の証であることも承知しているし、堂上の問い掛けが逆に郁の心を乱してしまうかもしれないことも分かっていた。 それでも、言わずにはいられなかったのだ。この漠然とした不安を振り払う方法を他に見つけられなかった。 息が詰まるような静寂の後に、 「堂上教官は……気にしないって言ってくれたじゃありませんか。あたしが背が高くても、全然女らしくなくても気にしないって」 ああ、と堂上は頷いた。 俺は気にしないと言葉を続けると、 「あたしだって一緒ですっ!そんなことで教官を嫌いになったりしません!そんな風に思ってたなんて……酷いです」 しゃくりあげるように泣き出してしまった郁に堂上はすまなそうに腕を掴むと自分に引き寄せた。 郁はその瞬間は驚いたように身をすくませたが、すぐに止め、いつものように腰を少しだけ屈めると堂上の肩に顔を乗せた。 じんわりと肩に暖かいものが伝わり、微かにだが嗚咽を聞こえてきた。 「……すまん。泣かせるつもりじゃなかった」 宥めるように背中をさすってやると、郁は頷く動作をしてくれた。 「お前も俺と同じ気持ちでいてくれたんだな……」 「当たり前じゃないですか」 「そう言ってくれるな。男はお前が思ってるより繊細な生き物なんだ」 それがあまりにも堂上とは不釣合いな言葉に思えたのか、郁は声を殺して笑っているようだった。 そういう反応が女は無神経だと言われる所以だと堂上は思ったが、ここでまた言い争いなんてことは避けたいので黙って忘れることにした。 落ち着きを取り戻した郁が顔を放そうとするのが分かり、堂上は腰を引きつけると強引に郁の顎を下に向けた。 郁も何をされるのか分かったらしく顔を真っ赤にしてしまったが、嫌がる素振りは見せなかった。 それを了承と捉え、堂上はやんわりと口付けた。 二度三度啄むように口付けると、郁は苦しいのかくぐもった声を漏らした。 その甘い吐息が酔った身体にかなりの毒であることは、してから気付いた。 ここが寮でなかったら──などと不埒な感情を抱きつつも、ゆっくりと唇を離した。 とはいえ物足りなかったのも事実なので最後に下唇を甘噛みしてから放すと、郁は潤んだ瞳をそのままに見下ろしてきた。 すぐにマズイことをしたことは分かった。 誰もいない場所で、素面とは言い難い自分に、その顔は危険すぎる。 当の本人が分かっていないだけに、その無防備さが拍車をかける。 この状態で郁に触れるのは自殺行為と同じだということは分かっていた。 酒のせいなのか、それとも別の何かなのか── 気付けば堂上の手は郁の腕を触れていた。 さあっと鮮やかに朱色に染まった郁の表情に、堂上はあっさりと負けを認めた。 真っ暗な会議室に転がり込み鍵を閉めると微かに残っていた理性は綺麗さっぱりふっ飛んだ。 ソファに腰を下ろし膝の上に郁を座らせると、堂上は何度も口付けを求めた。 先ほどのように可愛いものではなく、口内を深く押し入ってすみずみまで舌先で舐った。 当然のように経験の少ない郁はそれを受け止めきれずに苦しそうに顔を歪ませる。 それでも耐えられないと強引に顔をそむけると、つうっと銀の糸が口元を伝っていた。 うっすらと朱色に染まりつつある肌にその姿はかなりそそられた。 首筋に唇を落とし、見えない場所を選んで鬱血の跡を散らした。 同時に背中に回していた手をうなじまで這うように撫で上げると、郁の身体は大きく震えた。 「やっ、やあっ、教官……んっ、あっ、あっ、」 「そう大きな声を出すな。誰かに聞こえる」 「そ、そんなの無理に決まってるじゃありませんかっ!分かってるなら手加減して下さい!!」 思わず噛み付くように大きな声を出してしまい、郁はあっと口を噤んだ。 きっと今の自分は酷く意地の悪い顔をしているのだろう、郁は不満そうにこちらを睨みつけている。 だが、こんな状態でそんな顔をされても逆効果もいいところだ。 それでなくともこうやって肌を合わせるのは久しぶりなのだから。 小牧からは気にせずに外出届を出せばいいじゃないと言われることもあるが、それありきで外出するというのはやはり後ろ暗いし、その手にからきし弱い郁が自ら求めるなんてことはなく、相手がそれで満足しているかもしれないというのに自分だけ欲するというのも気が咎めた。 堂上は待てないとばかりに郁の胸元を肌蹴させ、色気のないスポーツブラをたくし上げると、ささやかな胸の膨らみに口に含んだ。 舌で押し返すように突起を突付き、十分に堅くなったと確認してから歯でこりりと噛むと郁は堪らず堂上に抱きついてきた。 「ちょっ、堂上教官!人の話を聞いてっ……やっ、」 まだ言い返せるだけの余裕が郁にはあるようだ。 ──そういえば喉が渇いたままだったなと堂上は今更ながら気付き、郁をテーブルに寝かせてしまった。 いきなり寝かせられた郁は不安からか堂上の名を呼んだが、それは無視した。 どうせ自分がしたいことを説明すれば郁が頑なに嫌がるのは目に見えている。 ならば考える余裕を与えない方がいい。 堂上は無言のまま郁の脚を持ち上げると、穿いていたパジャマのズボンと下着を一気に脱がした。 「なっ、何して──!やっ、教官、そ、それ、だめっ!!」 郁は慌てるように身を起こしたが、それより先に堂上は濡れた秘部に舌を這わせた。 充血して鮮やかな色合いの花芯は愛液が滴り落ちており、それを堂上は零さないように舐め取る。 枯れることのない泉はしとしとと溢れ出し、すぐに口元は愛液で汚れてしまった。 身体はこんなにも素直だというのに、それでも郁は羞恥からか止めて欲しいと懇願し続ける。 ならばと浅い恥毛の中から花芽を探し出し指の腹でそっと押しつぶしてやった。 その愛撫に郁は大きく身体を跳ね上げ、きゅっと両足で堂上を押さえ込んだ。 その内腿の感触がまた堪らないのだと言ったら、郁はどう反応するだろうか。 ここまでくれば、どんな些細な反応でさえ、こちらを煽るものでしかないということに鈍感な郁も気付くだろうか。 どちらにしても、そうやって郁を必要以上に追い込みたくなるは冷静でいられなくなった証拠だ。 十分に指で肉洞を解してから、堂上は鞄の中から避妊具を取り出した。 郁も堂上が離れたことに気付いたのか、その姿を探すように視線を彷徨わせる。 すぐに何をしているのか気付くと思わず視線を逸らしてしまったが、最後まで拒絶の言葉は出てこなかった。 堂上は再度、郁に覆い被さると、汗で額に張り付いた前髪をはらい、頭を撫でた。 すると郁はまるで子猫が喜ぶように目を細め、身体を預けてきてくれた。 「……堂上教官」 郁は見下ろす堂上の名をはにかむように頬を赤らめつつ呼ぶと、両手を伸ばし堂上の首の後ろで組んだ。 そのあまりに幸せそうな表情に、堂上の顔も釣られるように緩む。 「いい子だ」 耳元をくすぐるように囁くと郁はそれだけで感じてしまうのか息を詰まらせた。 その初々しい反応がまた堪らなく愛しくて、いきり勃った自身を綻んだ花芯に宛がう。 久しぶりの郁の中は堂上を歓迎するかのようにねっとりと締め上げてきた。 根元まで差し込むと吸い付くような密着感に思わず声を上げてしまいそうになる。 堂上は郁の脚をめいっぱいに広げさせ、腹を押し上げるように腰を擦り付けた。 郁は小さく声を漏らし身体をくねらせる。 すると堂上を受け入れている肉洞は捩れるように今までは違う締め付けを施してきた。 郁の身体は恐ろしく敏感で、貪欲だった。 何も知らなかったはずだというのに、今ではこうも簡単に堂上を追い込もうとする。 このままでいれば果ててしまうのも時間の問題で、堂上は郁の背中に手を回すと一気に抱き起こし、そのまま後ろにあるソファに身体を沈めた。 見上げるといきなり中断したせいなのか、郁は潤んだ瞳のまま堂上を睨んでいる。 「……そう拗ねるな。もう少し、こうしていたいんだ」 見下ろす郁の口元に口付け離れ間際にそう告げると、郁は思ってもみなかった言葉を言われたようで顔を真っ赤にさせ、視線を逸らしてしまった。 今更照れることもないだろうにと堂上は小さく笑うと、郁の腰を掴み、ゆっくりと身体を揺らしてやる。 郁は 「やっ」 と小さく声を漏らしたが、じわじわと与えられる快楽に負けたのか、諦めたように堂上の肩を手を置き、身体を支えることに集中し始めた。 直接的に得られる快楽もいいが、こうやってゆっくりと溜まっていく快楽もこれはこれでいいもので堂上は荒くなった呼吸と整えるように、じっくりと郁の身体を貪った。 だが郁の方はそれでは物足りないのか、じれったそうに身を捩じらせたり、無意識なのだろうが自ら身体を揺すり始めた。 そのタイミングを見計らうように堂上は何度も下から貫いてやる。 郁はその衝動から堪らず堂上にしがみ付き、耳元で言葉にならない声を漏らし続けた。 「やっ、ああっ!教官っ、もう、あたしっ……!」 ざわざわと自身を締め付ける感覚は郁が達する間際なのだと堂上に教えてくれた。 縋るように抱きつく郁をしっかりと受け止め、堂上は劣情のままに郁を押し上げるように腰を打ちつけた。 達した瞬間、郁の脚はぴんと伸び、肉洞を埋めつくす堂上のものを食い締めた。 堂上もまた腰の付け根に溜まった衝動をその場で吐き出した。 出し尽くすように腰を振るうと、郁は顔を堂上の肩に押し付けたまま、がくがくと身体を震わせていた。 徐々に吐き出したもので粘つく自身に、このままでいたらゴムを付けた意味がなくなると自分を納得させ堂上は郁を支えるように抱き起こすと何度かキスをしてから、ゆっくりと離れた。 「……あたし、教官とキスするの好きですよ」 「何だ、いきなり」 別れ際、郁は唐突に話し始めた。 そんなことを面と向って言われてもどんな顔をすればいいというのだ、結局、堂上は仏頂面を決め込むしかなかった。 だがそれも郁は気付いているのか、照れくさそうに笑うと、 「キスすると下に引っ張られる感じがして、それが好きなんです」 言いたいことだけ言い終えると郁は 「おやすみなさい」 と頭を下げ、パタパタと廊下を走っていった。 言われた堂上といえば、ぽかんと間抜け面で去っていった郁の背中を見つめていた。 無意識に郁の言葉を反芻すると、徐々に顔が熱を帯びていくのが分かってしまった。 「あのバカ……」 そんな可愛い台詞を捨て台詞みたいに言ってくれるな。 このまま大人しく眠れるほど俺は枯れていないんだぞ。 それにな、俺だけを俯き見るお前を下から眺められるのは背の低い俺の特権のようなもので、それもなかなか悪くないものだと教えてくれたのは他でもない── くそっ、そんな恥かしい台詞、面と向ってあいつになんて言えるはずないだろうが! 無意識に痒い台詞を呟いてしまいそうになった自分は、もしかしなくても郁に感化されているに違いなくて、堂上は頭を抱えた。
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1スレ目 907 「す、すみません遅くなって」 待ち合わせの駅。十分遅れた郁を見て堂上が恐ろしく不機嫌な顔した。 「本当にすみません。出掛けに腕時計がみつからなくて。…そんなに待ちましたか」 「待っとらん!そんなことはどうでもいい!なんだその格好は!」 「え?」 郁は自分の服装を見る。キャミソールにカーディガンにミニスカート。 「…どこか変ですか」 「わからんのかっ!スカートが短すぎる!」 「や、でも前に業務で餌になったときよりは長いですよ。てか、今その辺歩いてる子たちのほうがもっと短いし。 いつも同じような服装じゃつまらないかと思って」 堂上は郁の手を掴んでひと気のない駅舎の裏に引っ張っていった。 「教官、手が痛いですぅ」 「いいか良く聞け!お前はそこらの女より背が高いんだ!足も長いんだよ! それなのにミニスカートなんか穿いてたら露出が他の女より多くなるのがわからんのか!」 …わかるようなわからないような。郁が考えていると、急に抱き寄せられた。 同時に堂上の手が郁の足に伸びてきた。 よく知っている手が太腿を撫で上げ、スカートの中にまで忍び込む。 郁は痴漢を釣ったときのことを思い出すが、全然違うのは、それが気持ちいいことだ。 「や、ちょっ…教官!」 膝が震え始めて声を上げると、堂上が郁を離した。 「わかったか?そんな足を見せられたら男はみんなこういうことをしたくなるんだよ! だから…ちょ、おま…なんだその顔は」 目を潤ませ、上気した頬の郁に堂上はたじろいだ。 「…教官のせいじゃないですか」 恨みがましく言う郁から目を逸らし、堂上はため息をついた。 デートは予定より三十分以上遅れて始まり、二人は食事でも映画でもなくホテルに直行し、 その後郁のロングスカートを買いに行くことになったのだった。
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1スレ目 189-190 「教官、折口さんから映画のチケットを貰ったんです。……ええと、その……だから、一緒に行きませんか?」 いつもの喧嘩腰な態度は何処にいったのか、ちらちらと伺うように見られつつ郁に誘われたのは週の始め。 誰もいない廊下で声をかけてきたのも、恥かしさから人目を忍んでいたのだろう。 そんないじましい態度に思わず表情が緩んでしまいそうになり、堂上は一際不機嫌な顔をした。 その表情を郁は悪い方に捉えたらしく、 「あ、あたしも最初は断ったんですよ!でも玄田隊長まで貰えって言うから仕方なく貰っただけでっ!」 こういう時の郁は喋れば喋るほど墓穴を掘る。 更にあたふたしたし始めると自分でも何を喋っているのか分からなくなっているようだが、それでも一所懸命に想いを伝えようとしている姿が可愛いと思ってしまう自分は盲目もいいところだ。 「俺でいいのか? 柴崎じゃなくて」 まるで探りを入れるような訊ね方をしてしまう自分に堂上は内心舌打ちをした。 言いたい言葉はそんなものではなく、それが素直に言えない自分が情けない。 こんな訊き方では郁が突っかかってきても当然だ。 だが郁は頬を赤くしながらも真っ直ぐに堂上を見下ろすと、 「堂上教官がいいですっ!」 あまりにもストレートな郁の意思表示に、堂上は持っていた書類を廊下にばら撒いてしまった。 そして週の終わり、二人で映画館に行った。 当たり前のように周囲にはカップル達の姿も多く、自分達もそう見えているのだろうか、なんてことを考えると今更ながら気恥ずかしさがこみ上げてきた。 先ほどから全く話しかけてこない郁を思い出し、そちらを向くと上映作品のポスターを前に固まってしまっていた。 どうしたと声をかけると開口一番、 「こ、これって、ホラー映画なんですかっ?!」 「……お前、若い女としての情操があるんじゃなかったのか?」 映画にさして興味がない堂上でも作品名だけは知っていた。 雑誌やテレビなどで盛んに今年最大のサイコホラー作品などと紹介されて いたはずだ。 その手のものに興味がないにしても名前ぐらいは知っていても不思議ではないのだが──全く知らないところが郁らしいえば、そうなるのか。 呆れたように溜息をついた堂上は、ようやく郁の様子がおかしいことに気付いた。 いつもならば、こちらの挑発に乗っくるはずだ。まさか──、 「もしかして、お前、この手の映画が苦手なのか?」 「そ、そんなこと、絶対にありませんっ!」 思わず裏返った声を上げた郁に堂上は目を瞬かせた。 そんな態度で平気だと言われて誰が信じるというのか。 だから、思わず苦笑してしまった。 ──ホラー映画が怖いなんて、お前も可愛いところがあるじゃないか。 そんなこちらの反応に気付いたらしく、郁は頑なに平気だと言い張ると、呼び止めるのも無視して先に入場してしまった。 かなり怖いんじゃないか、この映画。 煽り文句は伊達ではないようで、苦手意識のない堂上でも怖いと思わされる部分が多かった。 物語はこれからクライマックスというところだから、最後は今まで以上に怖さを煽ってくるに違いない。 ちらりと郁を伺うように視線を隣りに向けると、郁は身体を微動だにせず固まってしまっているようだった。 その様子に悪いことをしてしまったなと堂上は悔いた。 自分がからかうようなことをしなければ、郁もあそこまで意固地にはならなかったはずだ。 「大丈夫だ。俺がついている」 以前ならばその一言を口にすることさえ多大な時間が必要だったが、今は迷いなく告げられるぐらいに心の整理はついている。 膝の上でぎゅっと握られたままの郁の手に、堂上は自分の手をそっと重ねた。 同時に観客の悲鳴が一声に上がった。 クライマックスに差し掛かかったのか──と堂上が思った瞬間、いきなり身体を引っ張られた。 突然視界が遮られたかと思えば、ふにゃりとした柔らかい感触がする。 何が起きたのだと首を傾げたと同時に、自分が置かれた状態にようやく気付いた。 自分達の身長差を堂上はうっかり失念していた。 いつも自分から抱き寄せる時は、郁は自然と顔が肩に当たるよう背を屈め てくれていたおかげで今まで意識したことがなかった。 自分より背の高い郁に抱き寄せられてしまうと、堂上の顔は丁度いい具合に郁の胸に当たるのだ。 Aカップのナイチチ郁とて女性、当然のようにその感触は男とは全く違う。 確かにボリュームのある感触からは程遠いものの、ささやかな胸の膨らみは確かにあって、回される腕も男のものとは違い、酷く柔らかい。 縋られるように抱きつかれ、しかも、ほのかに石鹸の香りなどもしてきてしまい──自覚すればするほど心拍数が跳ね上がる。 それは律しているはずの自制も理性も一気に吹っ飛ぶぐらいの破壊力だった。 「バッ……笠原、離れろ!とにかく落ち着け!コラ、俺の話を──笠原っ!!」 今まで耐えていたこともあったのだろう、それが一気に決壊してしまった 郁はパニック状態で堂上の声など聞こえるはずがない。 跳ね除けようにも一体どこにこんな力があるのか、郁の腕は全く外れない。 火事場のクソ力もいいところだ。 映画の主人公よりも大ピンチに陥った堂上が解放されたのは、エンドクレジットが終わってしばらした後のことだった。
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1スレ目 212-213 「……堂上教官」 自分でもびっくりするぐらい甘ったるい声は、それなりに慣れた今でもやっぱり恥かしい。 でも口を塞ぎたくても両手は大きな背中を掴んでいるせいで物理的に無理で、どんなに我慢しようと口を塞いでも、それを見越したような動きをされるせいで叶わない。 絶対、堂上教官、分かっててやってるんだと思うんだけど──。 精一杯睨んだところで、妙に意地の悪い堂上はあえて郁を追い込む節がある。 今も脚に当たる熱い感触に郁はテンパる寸前だ。 本当はここで余裕の一つでもかましたいのだが、現実はそう簡単に思い通りにはなってくれない。 する前まではあれやこれや色々と考えているというのに、堂上の大きな 手の平で身体のいたるところを触られると、それだけで郁の余裕は吹っ飛んでしまうのだ。 汗ばんだ頬にへばりついた髪を丁寧にはらわれ目元に口付けをされてしまうと、思わず背中に回していた腕に力を込め、シャツをぎゅっと握り締めてしまった。 「そ、そんなこと、しなくていいですからっ!」 「いいだろ、俺がしたいからしてるんだ」 ううっと郁は口を噤むしかない。 どうしてそんな痒い台詞を真顔で言えるのか── 普段の仏頂面からは想像も出来ない甘い台詞であることに気付いていないだろうか。 でもそんな台詞一つで胸を鷲掴みにされてしまうぐらい、ときめいてしまう自分もいて── 郁は堂上を好きな自分を嫌でも自覚する。 「それから教官はやめろ。教え子に手を出しているようで寝覚めが悪い」 一瞬意味が分からずポカンとしてしまったが、それをはぐらかそうとしていると思ったのか堂上は一際面白くなさそうな顔をした。 ようやく、ああ呼び方かと分かったものの、 「でも教官は教官だし……」 今更、別の呼び名なんて考えもしなかった。 呼び捨てなんかしたら一喝されるだろうし── 普通ならば「さん付け」だろうか。 堂上さん?……どうもしっくりこない。 こんな状態で真剣に悩むのも可笑しな話だが、まっすぐに見下ろしてる堂上の表情は次第に険しくなっていく様は無言の圧力といってもいい。 「じゃ、じゃあ、堂上ニ正!!」 無い知恵を捻り出した郁の改心の妙案は、堂上の不機嫌さに拍車をかけただけだった。 「…………お前、人が下手に出てると思って、からかっているんじゃないだろうな」 「ええっ!?だって手塚はそう呼んでるじゃないですか!!」 手塚は良くてどうして自分は駄目なのか、これほど真剣に考えたというのに、どうして堂上には伝わらないのか郁は全く分からない。 そもそも堂上の望みはそういう類でないということすら郁は分かっていないのだから始末が悪い。 「それぐらい自分で考えろ。これから教官って呼んだら失点一だ」 「し、失点って!?」 「五つ溜まったら仕置きだからな、覚悟しとけ」 「む、無理です、無理っ!」 堂上教官──と口にしてしまった時には既に遅かった。 今のは無効だと言う前に首筋をきつく吸われてしまった。 「や、やだっ!そんなところじゃ誰かに見られ──」 それ以上は言葉にならなかった。じりじりと競り上がるような快感は郁に考えることすら出来なくさせてしまう。 鬱血したであろう跡を舌でなぞられ、首筋を滑り落ちるように舌を這われる。 ささやかな胸の膨らみを大きな手の平で捏ねるように触れられ、つんと立ち上がった蕾を吸われてしまった。 郁が堪らず身体を反らせると、アーチを描くように愛撫はどんどん下に降りていく。 ぴたりと閉じてあった脚の付け根は自分自身でも判るぐらいに濡れていて、それが羞恥を煽る。 反射的に止めて欲しいと郁は堂上の短い髪をぎゅっと掴んでしまったが、逆に脚に力は入らなくて堂上の求めに応じてあっさりと広げてしまった。 見られているのだと自覚すると身体の芯からとろりとしたものが零れ落ちてきた。 それを堂上は指ですくいとると、淡い恥毛に擦り付けるように動かし始めた。 「やぁっ、ああっ、教官──っ、」 「これで失点ニだな」 堂上は短く答えると、潤んだ肉洞にいきなり指を捻じ込み、入り口付近を引っかいてきた。 溢れ出す愛液はかき出されるようにいやらしい音を奏でてシーツに染みを作る。 また無意識に教官と呼んでしまい、今度はぷくりと膨らんだ花芽を探り当てられ甘噛みされた。 それが引き金となって教官と呼び──失点はあっという間に五つを軽く超えてしまった。 五つ溜まったら仕置き、などと堂上は言っていたが、郁からしてみれば既にこの状態が仕置きといってもいい。 満たされたい場所は決して満たされず、それを焦らすように快楽を与えられているのだから。 もう頭の中は仕置きなんてことよりも、早く満たされたい気持ちでいっぱいだった。 「堂上教官っ、早く──」 郁は泣きじゃくりながらそう懇願すると堂上の指が引き抜かれた。 それでも身体はまるで高熱を出したように熱く、燻っている。 実際は僅かな時間だったのかもしれないが、その僅かな間は郁にとっては永遠に続くのではないかと思うぐらいに長く感じられた。 「…………そんなに俺が欲しいのか?」 その声色にからかいは読み取れなかった。 しかしどうして堂上はあえて今更そんなことを訊いてきたかなど、今の郁に考える余裕はなかった。 涙で滲んだ視界はぼんやりとしていて堂上の顔色も伺えない。 「堂上教官じゃなきゃ嫌です」 すると顔に陰がさしたことに郁は気付いた。 それが堂上の身体が明かりを遮るように覆い被さっているせいなのだが、そうだと気付く前に郁は無意識に堂上の背中に手を回し、ぎゅっと握り締めた。 自分より背の低い堂上の背中は大きくて、それがとても安心する。 縋るように抱きつくと、待ち焦がれていたものにようやく満たされた。 「あっ、あぁん……っ!」 熱いそれがじわじわと郁の中に入ってくる。 気持ち良いところを全部押し上げるように入ってくると郁の身体は大きく震えた。 焦らされたせいでいつもより感じているのだろうか、繋がっているだけで十分に気持ちが良い。 「堂上教官っ、教官っ……はっ、ん、んっ……」 お世辞にも上手いとはいえない唇を重ねるだけのキスを何度も繰り返した。 堂上も興奮しているのだろうか、微かに漏れる声が熱っぽく郁の肌を震えさせる。 あの堂上をこんな風に乱してしいるのは他でもない自分だということが嬉しくて、もっともっと自分の知らない堂上を知りたいと郁は思う。 堂上はどんな気持ちで自分を抱いているのだろう── 素面でも決して訊けないことではあるが、同じだったら嬉しい。 直線的に押し上げられる動きと奥深くを探られる緩慢な動きに、郁は身体を戦慄かせ受け入れた。 はしたない声を抑えきれず、更に堂上を求めるように自ら身体を押し付けてしまう。 「…………もういきそうなのか?」 それに素直に頷いた。 きっととんでもない言葉も口にしてしまっただろうが、それを気に止める余裕もない。 また「教官」と呼んでしまったが、もう堂上は何も言ってこなかった。 逆に蕩けるような口付けをしてくれて、郁は夢中でそれに応えた。 「ん、んん……っ、」 腰を掴まれ、今までないほど堂上は激しく腰を打ちつける。 最も深い場所でどくんと何かが弾ける感覚に郁も大きく身体を震わせた。 「────郁、」 堂上が郁の名前を呼ぶことは滅多にない。 だけれど終わった時は必ず名前で呼んでくれて、それが郁は密かに嬉しかったりする。 もしかして堂上教官も同じなのかな……教官って呼ぶなって……それって──。 それ以上は強い眠気に襲われ考えられなくなってしまった。 もう少しで答えが手に入りそうなのに、頭を撫でる堂上の手はあまりにも心地良くて、それをさせてくれなかった。 案の定、目が覚めた時は綺麗さっぱり忘れてしまっていて、 「ああっ、もう少しで分かりそうだったのに……!」 「何がだ」 「呼び方ですよ! 教官が頭さえ撫でなければ絶対分かったはず!!」 「バッ……!八つ当たりも大概にしろっ!この愚鈍!!」 一際大きな雷を落とした堂上は何故かそれ以上の罵倒は続かず、そっぽを向いてしまった。 大いに残念がる郁は、その堂上の顔が赤く染まっていたことになど気付くはずもなかった。
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1スレ目 170-183 「ど、どうしよう。柴崎ー」 困ったときの柴崎頼りというべきか、柴崎はいきなり郁に抱きつかれた。 女の同士の抱擁と言えば可愛らしいかもしれないが、170cm級の大女に抱きつかれると、むしろ巨大なクマのぬいぐるみと抱き合っているような気がしないでもない。 そんなことを言ったら馬鹿正直な郁はますます落ち込むであろうから、とりあえず柴崎は頭を撫でてやった。 「まずは落ち着きなさいって。ちゃんと聞いてあげるから」 お茶を一杯出してやり、柴崎もそれに一口つける。 少しだけ落ち着いたのか郁は大きな溜息をついてから、話し始めた。 「最近の堂上教官って変だよね?」 「そお?いつも通りの堅物じゃない」 そもそも郁の質問は心当たりがあるから訊ねているのは分かっていたが、実際の話、柴崎は変わりがないように見えた。 堅物のくせに純情で、自覚しているくせにそれを素直に認められない様は思春期の男子高校生かっ!と何度突っ込みたくなったことか。 観察する側としては、またとない獲物ではあるが。 以前と変わらず郁とは口を開けば喧嘩が始まり次第にエスカレートしていく様は油に火を注ぐ関係といえば分かりやすいだろうか。 まあ郁の友人としては、すったもんだの末に落ち着くところに落ち着いてくれて一安心なのだが。 「ちょっと前の飲み会だって二人でいい雰囲気だったじゃない」 丁度、堂上班と柴崎の休日が重なった先日、小牧が外に一緒に飲みに行かないかと郁を誘ってくれたのだ。 以前に男三人だけで飲んでいることを郁が羨ましがったのを覚えてくれていたようで、話を聞きつけた柴崎と一緒に参加した。 確かあの時は飲みすぎた郁を心配し、堂上は郁と先に帰ったはずである。 というか、そう仕向けた。 あの時の不服そうな堂上の顔はなかなか傑作だったのだが、それはとりあえず心の隅にしまっておく。 「良くないよ。あの後が問題だったんだから……」 思い詰めたように俯く郁に、柴崎はあらあらと意外そうに目を瞬かせた。 「じゃあ、聞かせないよ。事と次第によっては助けてあげるから」 それが堂上の弱みになるなどとは思うはずもなく、郁は喋り始めた。 あの後、三人と別れた郁と堂上は公園にいた。 あまりに足元がふらつく郁に強引に歩かせるよりは少し酔いを醒ました方がいいと堂上が判断したのだ。 ベンチに座らされると堂上はすぐに何処かに行ってしまった。 何処に行ったのかすら考えられず、ぼんやりとしていると、ほんのり上気した頬にひんやりとしたものがくっつけられて、郁は慌てて顔を上げた。 「これでも飲んどけ」 渡されたのはミネラルウォーターのペットボトルで、郁は素直にそれを受け取った。 飲みながら、そういえば昔、酔っ払った手塚にスポーツドリンクを渡してしまい、完全にノックダウンさせてしまったことを思い出した。 今更ながら悪いことをしたなぁなどと思いつつ、堂上の横顔を伺うと見るからに苦い顔をしていた。 その頃には大分酔いも覚めてきたのか、冷静に考えられるようになっていて、 「……教官、もっと飲みたかったんですか?」 だったら自分につき合わせてしまって、すみません、そう謝ろうとすると、堂上は素っ気無く突っぱねた。 「そうじゃない」 「でも……」 「いいからお前はそれを飲んでろ」 人が殊勝になってるのに、そんな言い方はないじゃん。 毎度のことながら、むうと脹れっ面をした郁に、堂上は不請顔になった。 してから、ああまたやってしまったと郁は後悔した。 どうして思っていることの半分も伝えられないのか、それがとてももどかしくて悔しい。 本当は自分につき合わせてしまったことを謝り、それでも一緒にいてくれることが嬉しいと伝えたかっただけなのに。 無意識についてしまった溜息に、堂上はばつが悪そうに視線を逸らし、 「言い方が悪かった。酒のことは本当に気にしなくていい。ただ、連れて来た場所が──」 「場所?」 そこそこ大きな公園には池もあり、その遊歩道には多くのベンチが並んでいた。 初夏とあって親しげに歩く恋人達の姿も多く見受けられた。 別におかしな場所では──と思った瞬間、郁は固まってしまった。 うわっ、なんて大胆。 っていうか、ここにいる人達って、みんな、そーゆー関係なのっ?! よくよく見ると親しげに歩く恋人達は、皆、大胆で見ているこちらが目のやり場に困ってしまうほど情熱的だった。 ベンチに座っているだけかと思っていたら、イチャイチャ抱きあっているだけでは飽き足らずキスまでしている者もまでいる。 もしかしたら、その先までしてしまっている者だっているかもしれない。 って、ここは外だぞ、いいのか、おいっ! そんな郁の突っ込みも虚し く、恋人達は人の目も気にせずにイチャイチャし続けていた。 これでは堂上も困惑するに違いない。 そもそも超堅物石頭の堂上がこーゆーことを許せるのかどうかすら怪しい。 今時珍しいぐらい硬派な堂上だから、こーゆーことは婚約や結婚をしてから、とか思っていても不思議ではないような気がする。 もしかしたら、そんなつもりで連れて来たとか思われてるのが嫌なのかもしれないなぁと郁は堂上の不機嫌な顔の理由を思い浮かべていた。 だから、いきなり手を握られた時は、自分の身に何が起きたのか理解できなかった。 反射的に見上げてしまった自分の顔はかなり間抜けだったろうが、それを斟酌する余裕なんてあるはずがない。 堂上はといえば、しれっとした様子で郁を見ようともしない。 もしかして、あたし、かなり酔ってるとか?でもって、これは夢とか……。 そう思えば思うほど、触れられる手の平の感触はリアルで、どう考えてもこれは現実で、気付いた瞬間、顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい熱くなった。 ど、どうしよう。 反射的に振り払ってしまいそうになる自分を寸でのところで抑えたものの、動悸は激しくなる一方だ。 嫌ではないのだけれど、どうすることもできなくて、恋愛初心者の郁には、そのままでいることで精一杯だった。 でも自分達だって、そーゆー関係になったのだから、何れそーゆー機会が訪れるであろうことは予測していた。 それが自然の流れであるし、期待していないといえば嘘になる。 そっと肩を掴まれ、顔を上げて欲しいと顎に手を置かれてしまった。 ただ促されるままに顔を上げると、そこには当たり前だが堂上の顔があって、それだけで頭の中は真っ白になってしまった。 これからキスしちゃうんだと胸を高鳴らせているが、一向にそれは訪れようとしなかった。 堂上は呆れたように溜息をついて、 「……おい、こういう時は目を瞑るもんだろうが」 「で、でも……教官がどんな顔してキスするのか見てみたい──って、あ痛っ!いきなり、何するんですかっ!!」 「真面目な時に何を考えているんだ、貴様はっ!!」 思わず普段の叱り口調になり、堂上は慌てて周囲を見渡した。 静まり返った公園にはあまりに場違いな怒鳴り声だったことに気付いたようだ。 こうなると先ほどまでの色っぽい雰囲気は微塵も残っていない。 不貞腐れるように唇を尖らせた郁に、堂上の表情は険しいままだ。 だが、すぐに深い溜息と共に、 「キスしてもいいか」 その言葉に郁は不貞腐れていたのも忘れ、まるで魚のように口をパクパクとさせてしまった。 それを一々聞くのは反則じゃないのか、そう言い返したいのだが、言葉が出ない。 真剣な堂上の表情を前に、郁は小さく頷いた。 先ほどはああ言ってしまったものの、半分は正しくて半分は嘘だった。 実はあまりに緊張してしまって、目を瞑ることも忘れてしまっていたのだ。 だから今度は約束通り目を瞑って──思わず身体に力がこもってしまったのは仕方ない。 すると、やんわりと何かが唇に当たる感触がした。 ゆっくりと唇が離れていくと、ああ、これがキスなんだなぁと郁は胸が熱くなった。 堂上は照れくさいのか一向に視線を合わせようとしないが、それがちょっとだけ可愛く見えて、郁は好意を示すように堂上のシャツを掴んだ。 「…………いいのか?」 それに郁は頷いた。 恥かしいけれど、もう一度したいと素直に思った。 もっともっと堂上に触れて欲しいと思ったことは事実なのだが、いきなり舌が入ってくるのは思いもしなかった。 先ほどのキスなんて本当に可愛いもので、二回目のキスはそれとは比べ 物にならなかった。 頭がクラクラして、強張っていたはずの身体には何故か力が入らない。 気付けば堂上の手が背中に回されていて郁を支えていた。 その手が這い上がるように背中に触れられると、悪寒に似たぞくぞくっとしたものが背中を走った。 その瞬間、郁はあることに気付いた。 非常に重要で肝心なことに。 このままではそれにぶち当たることは確実で、それは何としても避けなければならない。 だって、そうしなければ、がっかりするのは堂上の方なのだから。 だから──、 「や──っ、」 微かに漏れた郁に悲鳴に堂上ははっとしたように身をたじろかせた。 そして狼狽した表情をそのままに、手を放した。 行為が嫌だった訳じゃないのだと郁が教える前に、 「すまん」 そう告げると、堂上はそれから一言も喋ってはくれなかった。 「それはまた……」 郁の話を聞き終えて、柴崎は気の毒そうに口を開いた。 「堂上教官もあんたの性格を知ってるんだから、ちょっと性急すぎたわね」 まあ、堂上からすれば彼だって健全な男子であるし、恋人というポジションをやっとの思いで確保したのだから、そういうことを望んだって間違ってはいないだろう。 今までよく我慢したもんだと逆に褒めてやりたいとぐらいだ。 「あの日から堂上教官、余所余所しくて……」 「そうなの? 今日も普通に怒鳴ってたじゃない」 「仕事の時は同じなのっ!でもそれ以外は二人っきりになりたくないみたいで、なっても、すぐにどっかいっちゃうし……話しづらいし、話しかけても会話は続かないし……」 原因はどう考えてもアレで、元気が取り得の郁にしては珍しいぐらいに気落ちしている。 無理をしても空元気の郁が、こうもしょんぼりとしていると何故かぎゅ っと抱きしめてやりたくなるから不思議だ。 今も柴崎は郁を抱きしめてやっている。 「そう落ち込まないの。一度ぐらいの失敗で落ち込むなんてあんたらしくもないじゃない」 でも、と反論する郁の不安は手に取るように分かった。 初めて好きになった人なのだ、例えどんな些細なことでも不安になるのは乙女としては当然の心理だ。 「……しかしさ、あんた、どうして拒んだりしたの? とっさのことで驚いたの?」 うっと言葉に詰まった郁には違う理由があるらしい。 どうしようかと迷った挙句、柴崎だからと白状した。 「私、あの日、いつもの着てたから……」 「何、もっとはっきり言いなさいよ」 「柴崎と一緒に買いに行ったじゃん!」 「……もしかして、勝負下着のこと?」 それに郁は頷き、柴時はあちゃーと天を仰いだ。 なんて直結回路の持ち主なんだ。 いやいや、そんなことは今更か……それにしても気の毒ね、あの人……。 それはちょっと前の出来事だった。 あの晩も風呂の脱衣所で当然のように服を脱ぐ郁に、 「ねえ、あんた、いっつもスポーツブラだけどさ、それ以外持ってないの?」 「だって大きくないし、必要ないじゃん」 そうじゃない、と突っ込みをいれたくなる欲求を抑え、 「大きさの問題じゃなくて、その格好で一晩共にするつもりなのかって話よ」 「ひ、一晩って……!」 思わずひっくり返った声を上げた郁は顔を真っ赤にしている。 なんて初々しい反応だ。 そんな態度を見せられるとますます困らせたくなる自分はちょっとSの毛があるのかもしれない。 「あんたね、何歳だと思ってるのよ。これが学生同士の清く正しい交際ならまだしも、あんた達は立派な大人でしょうが。そういう関係になったって自然なのよ?分かってる?」 「そ、それは、わ、分かってる……つもりだけど……」 話題にするだけでこんなにしどろもどろになられては堂上でなくても手を出すのを躊躇うかもしれない。 郁がどれほど色恋が不得意かは知っているし、堂上の性格を考えれば自重に自重を重ねるはずだ。 「……で、でも、そーゆーことって暗いところでするんでしょ?だったら見えないんじゃ……」 「朝になって色気の無い下着が落ちてたら興醒めもいいところよ。あんた、相手より早く起きれる自信あるの?」 「……ないです」 唯一の反論もばっさりと斬られ、郁はがくりと肩を落とした。 「別にそれをずっと着続けろって話じゃないんだし、一枚ぐらいは持ってた方がいいんじゃないの?勝負下着ってやつ」 「で、でも……下着売り場で選んで買ったことなんてないもん。それじゃなくても行きづらいし……」 まるで恋人に付き合わされる男のような発言だ。 とはいえ女の子コンプレックスの塊である郁にとって、下着売り場はその総本山に感じられるものなのかもしれない。 それこそピンクの生地に華やかなレースとリボン、まさに可愛らしいという言葉をそのまま表現したような場所が下着売り場なのだ。 しかもメーカー専用の売り場には必ず店員がいて手取り足取り世話をしてくれるのだから、郁の苦手意識は強いに違いない。 ちらりちらりと先ほどから視線を向けられているのは柴崎も感じてはいる。 これほど言いたいことを顔に出てしまう人間はお目にかかれないんじゃないかと思う。 「どうしようかなぁ。昼食を奢ってくれるなら、考えてもいいんだけど……雑誌に載ってたレストランとか行ってみたいなと思っているんだけど」 郁はあっさりそれで手を打ってきたので、頼みの綱だったのだろう。 自分達の昼食の値段からは少し高い店だったので、柴崎は渋る郁を強引に連れて店員のいる下着売り場に連れて行くと、店員と一緒に鬼軍曹の並み厳しさで下着を選んだ。 とにかくシンプルの一点張りの郁に、白地に草花のモチーフがふんだんにされたショーツとブラ、それにキャミソールを買わせることに成功したのだ。 それがまさかこんな悲劇を生む結果になるとは思いもしなかったが。 「……よく考えなさいよ。あの日、あんた外出届、出してなかったじゃない」 そう柴崎は言ったが、郁は分からないようできょとんとしている。 「だから、もしそういうことをする気があったならの話よ?堂上教官だったら、そういうことをしておくように先に言っておくんじゃないのかってこと」 やっと指摘された意味に気付いたのか、郁は口をあんぐりと開け固まった 。 柴崎が一口お茶を啜り終える頃になって、ようやく頭が動き始めたのか、 「じゃ、じゃあ、教官はそういうつもりじゃなくて、ただキスするだけだったかもしれないんだ……」 抑えきれなくて暴走ということだって可能性としてはあるのだが、それは 言わないでおいた。 「ど、どうしよう、柴崎」 「どうしようって言われても、あたし、堂上教官じゃないし」 「やっぱり怒ってるのかなぁ……」 「……どうしてそう思うのよ?」 「だって、自分からして欲しいって言ってきたのに、いきなり嫌がった りしたら、普通、怒らない?」 そう思う気持ちもあるかもしれないが堂上の性格を考えれば、豹変した態度は怒っていることには繋がらないだろう。 逆に性急すぎたと自分を責めているのではないだろうか。 損な性格だなと思うが、それが堂上の可愛いところでもあるのだから、困ったものだ。 「……仕方ないわね、とっておきの解決法を教えてあげる。言っとくけど、手荒いから覚悟しときなさいよ?」 容赦のない言葉とは裏腹に、にこりと笑った柴崎はとても愛らしかった。 無意識に出てしまう溜息に気付き、堂上は全てを振り払うように頭を振った。 こんな様子だから小牧に 「どうしたの?」 などと面と向って訊かれてしまうのだ。 理由は説明できるはずもなくて一度は突っぱねたが、この調子が続けば今度は的確に理由を指摘するに違いない。 ──分かったところで、どうしようもないのだが。 公園での出来事がショックでないといえば嘘になる。 あれほどはっきりと郁から拒否されることは珍しく、だからこそ自分のしてしまったことの大きさを自覚する。 驚いていたというよりは恐怖を抱かせてしまったのではないか──とも思わせる郁の顔が忘れられない。 自分は郁よりも年上でそれなりの判断は出来るつもりだと思っていたと いうのに。 その場の雰囲気に流されて年甲斐もなく舞い上がり、その結果、相手を怖 がらせてしまうなど──情けなくて言い訳も思いつかない。 あの日以来、自分の前に立つ郁の様子は不自然で、原因がそれであることは明白だった。 どうして以前は、あれほど無意識に頭を撫でることが出来たのだろう──そうされると、はにかむように表情を崩す郁を不意に思い出し、胸が締め付けられた。 収蔵庫の鍵を閉め、西日が差し込む廊下を事務室に向って戻ろうとした堂上は思わず足を止めてしまった。 笠原、と名を呼ぶ前に、先手を打たれてしまった。 「堂上教官!お話がありますっ!!」 見るからにいっぱいいっぱいの郁は自分の失態を如実に示しているようで、胸が痛む。 そんな顔をさせている自分が許せなくて、卑怯だとは分かっていたが、 「お前が気にすることじゃない」 悪いのは自分なのだから、そう心の中で続け、堂上は足早に郁の横を通り過ぎた。 ちらりと盗み見た郁の横顔は適当にあしらわれ、失望しているようにも見えた。 「教官! 待って下さいっ!!堂上教官──!」 階段の踊り場までやってくると、背後から必死に呼び止める声がした。 思わず足を止めてしまう自分は未練がましくて、ますます自己嫌悪を深くさせる。 耳を塞ぐように階段をかけ下りようとした、その時、 「堂上教官、避けて──っ!」 "待って"じゃなく"避けて"──? そういえば郁の声は悲痛というよりは絶叫に近いような……。 一体何がと振り返ろうとした瞬間、予想していなかった重みに身体がぐらりと揺れた。 そして、けたたましい物音と共に、そこで堂上の記憶はぷつりと途切れてしまった。 続く
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1スレ目 217-218 すったもんだの末、落ち着くところに落ち着いた郁と堂上の関係はといえば以前とさして変わりはなく、あえて変わったことといえば時々二人で外食をしているぐらいだろうか。 とはいえ出向く店は今時の居酒屋レストランで、小牧や手塚、柴崎など も参加するので二人っきりというのは数えるぐらいしかないのだが、その僅かな一時を堂上を密かに気に入っていた。 酒に弱い郁は進んで飲むことはないが、ビール一杯で頬を赤くし、ほろ酔い気分の郁は滅多に見られるものではなく、それを肴に酒を飲むのが堂上の密かな楽しみだった。 「堂上教官、これ」 居酒屋の個室に通されるなり、郁はいきなり包みを差し出してきた。 受け取る理由が見当たらない堂上は思わず怪訝な顔をすると、郁ははぐらかされたと思ったのか子供のように唇を尖らせ、 「もうすぐ教官の誕生日じゃないですか」 だからと強引に渡されてしまった包みを堂上はまじまじと見てしまった。 ああそうか誕生日か……などと冷静に考えると、途端に顔が熱くなった。 三十路過ぎて誕生日で嬉しいと思ってしまうことが恥かしくて仕方ないのだが、それでも誕生日にプレゼントを貰うという行為自体はやはり嬉しい。 その相手が特別ならば尚更だ。 「……すまん」 本来ならば「ありがとう」と言うべきところをそんな言葉で誤魔化してし まう自分が情けない。 これが小牧ならばしれっとした顔で郁が喜ぶような言葉を口に出せるだろうに。 無意識に苦い顔をしてしまった堂上に、郁は他に思うことがあるのか、ちらちらと様子を伺うように見ている。 どうしたと訊くと、普段の紋切り口調からは想像も出来ないようなしおらしい態度で、 「えっと、その……続きがあって……」 まず包みを開けるようにせがまれ、開けてみると中身は紺色のストライプ柄のネクタイが入っていた。 「男の人にあげるものってそれぐらいしか思い浮かばなくて……って、そうじゃなくて、」 口をつけば言い訳ばかりしてしまうらしく、郁は意を決したように深呼吸をしすると、 「それっ、あたしに締めさせて欲しいんです!」 その言葉で郁が何をしたいのか堂上も分かったが──ちょっと待て、お前、その光景は傍から見たら新婚の朝の一場面──などと堂上が冷静に突っ込めるはずもなく、 「…………ダメですか?」 更に止めとばかりに上目遣いで訊かれてしまえば断れるはずもなかった。 これは別に変な意味合いはないんだ、ただこいつがしたいが為にしているだけであって、決してさっき考えていたような光景を望んでいたつもりはなくて──と一人勝手に言い訳をしている時点で冷静でないことは堂上も理解している。 だが、真向かいに座り真剣な眼差しでこちらを見ている郁を前に冷静でいられるはずもない。 俯き加減で自分を見つめる郁の姿などというものは滅多に見られるものではなく、酒が入っていない状態で良かったと堂上は心の底から思った。 少しでも入っていたら、うっかり抱きしめてしまったに違いない。 いやいやいや何を考えてんだ俺は──堂上は慌ててそんな考えを捨て去 るように頭を振り、 「おい、本当に大丈夫なのか?」 じっとしていると、ろくでもないことばかり思いつきそうで、堂上はそう声をかけてみたのだが、 「大丈夫です!この日の為に柴崎に練習相手になってもらったんですから、教官は黙って見てて下さい」 口調は強気そのものだが、郁の手つきはかなり怪しい。 しかも練習相手が柴崎とは……これでは筒抜けもいいところだ。 これを仕事着に付ければ付けたで柴崎にからかわれ、付けなければ付けなければで郁に詰め寄られる自分の姿が安易に想像できてしまい、堂上は無意識に溜息を吐いてしまった。 次の瞬間、思いっきり、首を圧迫された。 反射的に郁の手元を抑えると、あまりの息苦しさから咳き込んでしまった。 「バッ──何やってんだ、お前っ!!」 「えっ? あ、あれっ、おかしいな」 手元で順番を確認し始める郁は、自分のやからしたことの大きさに全く気付いていないようだ。 「勢いよくネクタイを引っ張る奴が何処にいるんだ!俺を絞め殺すつもりかっ!!」 「で、でも、ちょっときつく締めた方が見た目が格好良くなるって」 「限度を考えろ! 限度を!!」 郁の火事場の馬鹿力っぷりがどれほどかは堂上も身を持って知っている。 このままでは本気で絞め殺されかねないような気がして、もういいと郁の手を制止すると郁は頬を膨らませ、 「ちょっと力が入っちゃっただけじゃないですか。今度は気をつけますから!」 あれのどこがちょっとなんだ、本気で生命の危機を感じたぞ、俺は。 誕生日の贈り物に貰ったネクタイで絞殺事件など──今時、三流のサスペンス小説でもありえない展開だ。 全く反省の色がない郁は取り上げられたネクタイを再び渡すように手を伸ばしてきた。 本質が善意なだけに性質が悪いとは今の郁のようなことを指すのかもしれない。 結局お互いに引かず、堂上が指示し郁はそれに従うことで折り合いをつけたのだが──その光景が傍から見れば実に微笑ましいものになっていたなど、当の本人達が気付くはずもなかった。 居酒屋絞殺未遂事件・完
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1スレ目 140-146 「ねぇ、柴崎ー。どうしたら胸が大きくなるのかなぁ」 オバカで可愛い同室の郁が唐突に口を開いた。 ほうほう、色気よりも食い気、そんなことに見向きもしなかったあんたが 可愛らしいことを言うようになったじゃない。 柴崎から見れば、それも悪くない成長の一つだ。 「もしかして、最近あんたが牛乳ばっかり飲んでいるのは、そういう理由なの?」 だったとしたら安直すぎる。今時、子供でも信じないだろうに。 だが、その噂を信じる二十歳を越えた娘がここに一人。 「だって、よく聞くじゃん。他に良い案が無かったんだよー」 それぐらい切羽詰まっているということにしておいてあげるか。 柴崎はわざとらしく溜息をついて、 「今更どうにもならないでしょうに。あんたの場合は胸の栄養が身長に変わっ ちゃったんだから」 テーブルに突っ伏す郁にそう慰めてみたが、一向に顔を上げる気配は見せ ない。 まあ、それぐらい達観してたら、牛乳なんてものに頼ってないはずだ。 「どーしても大きくしたいなら、整形手術って方法もあるんだし、そう落ち込むな」 慰めにならない慰めに、郁は表情を曇らせたまま、 「……やっぱり男の人って胸が大きい方が好きなんだよねぇ」 戦うことにおいては小さい方が何かと便利で、今まで不便と思って一度も ない。 だが、それに相手がいるとなれば別だ。 熱血武闘派の郁もそこは乙女のはしくれ。 思い悩むのも当然だ。 「あんたが聞きたいのは一般論じゃなくて、堂上教官が、ってことでしょ?」 あけすけなく指摘され、郁はううっと口篭った。 顔は赤いし、困ったようにこちらを見上げる表情を見れば、誰でもそれが図星だったと判るだろう。 「それとも、堂上教官が大きい胸の方が好きとでも言ったの?」 「ち、違う……けど、」 「けど、何よ」 そう柴崎が突っ込むと、郁は観念したように吐いた。 「してる時ね、時々、私の方を見て、嫌そうな表情をするんだよね。それって、やっぱり物足りないのかなって……」 うわぁ、何言ってるんだ、あたし! と郁は穴があったら入りたい気分だが、 結局は柴崎に頼る他ない。 男性経験ゼロ、王子様一筋だった郁には、そういう男の気持ちというものが全くといっていいほど分からないのだ。 部下として、共に戦う仲間としては、それなりの自負はあるけれど、それが異性となると、郁は自信が持てない。 ガサツで、口も悪くて、背も態度でかい ──こんな女の何処がいいのか、と思うことなら多々あるのが少しだけ悲 しい。 「そんなにウジウジ悩むぐらいなら、はっきり聞けばいいじゃない。あんたらしくもない」 「そ、それぐらい、分かってるよぉー」 こんな自分がらしくないことぐらい。 だけど、はっきり聞いて、はっきり自分を否定されたら、それこそ立ち直れる自信がない。 こんなんじゃなかった、とがっかりされているのかと思うと、それだけで マリアナ海溝まで気持ちが沈んでしまいそうだ。 だが郁は良くも悪くも一人で思い悩める性格ではなくて、それから数日後、 何故か事務室には堂上と郁の二人しか残っていなかった。 はた気づけば定時の時間は過ぎており、残業するつもりなのか、一人もく もくと机に向う堂上を見ていると、うっかり口を滑らせてしまった。 「堂上教官、教官は胸が大きい女性の方が好きですか?」 ビリリリリ── 次の瞬間、堂上は書いてたペンで思い切り書類を破いてしまった。 最近妙に他人行儀な郁を心配していた堂上は、綺麗に脇腹に右ストレート を食らったような心境だ。 いきなり口を開いたと思えば、何を考えているんだ、こいつは。 動揺していると勘ぐられることだけは避けたくて、普段より八割り増しで 仏頂面の堂上に、 「やっぱり堂上教官も私みたいな小さな胸は嫌いなんだ」 と郁は理解した。 「す、すみません。もう聞きません!」 「当たり前だっ!って、いきなり何を泣いているんだ!!」 逃げ出そうとする郁を堂上は「待て」と制止する。悲しいかな、上官と部下。 命令されれば、拒否することは、やっぱりできない。 しゅんと頭を垂れる郁に、堂上は戸惑いつつも、 「お前の話には脈略がない!俺が納得するように説明しろっ!」 出足から大失敗した郁は、結局挽回も出来ぬまま、机を挟んで堂上の前に 座らされた。 これではまるで説教だ。 「……だから、堂上教官は胸が小さな女性と大きな女性がいたら、どちらがお好きなのかなぁと思って」 それでも堂上は納得してくれない。表情一つ変えないので、郁は言葉を続けるしかない。 「教官、私とする時、嫌そうな顔をするから……そうなのかなと思って」 ここまで吐いたんだから勘弁してよ、と郁は恐る恐る顔を上げると、その 堂上は露骨に顔を顰めていた。 ふと視線が合ってしまうと、何故か堂上の方が先に逸らしてしまった。 よく見れば耳まで赤い。もしかして堂上教官、照れてる……? 「お前にいらん心配させたことは謝る。そういうことじゃない」 「じゃあ、どういうことなんですか」 萎れていても、やはり郁は郁。一番食ってかかって欲しくない言葉に突っ かかってくる。 思わず口篭ってしまった堂上に、郁はやっぱりといった顔をした。 そんな嘘をつかなくてもいいに、そう表情が物語っていた。 「違うっ!」 まるで雷でも落ちるような勢いと共に、郁は腕を掴まれた。 「ど、堂上教官、ちょ、ちょっと待って下さい、何処に……!」 掴まれたまま事務室から引き出され、郁は薄暗くなった廊下の最も人気 の無い部屋に連れ込まれてしまった。 部屋の中は古書独特の古臭い匂いで満たされていた。 郁は天上まで達する棚に押し付けられ、逃げ場を失っていた。 伺わなくとも分かる、この低気圧のような重苦しさ── ゆっくりと顔を上げると、 そこにはやはり堂上が。 まるで視線を逸らすなと言っているような堂上の殺気に、思わず郁はびくりと身体を強張らせた。 すると郁を逃がさないように棚に伸ばされた堂上の手がきつく握り締められ、 「すまん」 その声は心底詫びるようで、郁は逆に慌ててしまった。 「い、いいんですよ、堂上教官!ほら、私の胸が無いのは昔からですし、 男の人が大きな胸が好きなのは、それこそ太古の昔からの自然の摂理で!」 だから堂上教官がそんなに思い詰めることじゃないのに、そう言おうとし た瞬間、 「そういうことじゃないっ!」 そういうことじゃないんだ、と腹の底から呻くような声で、堂上は俯いた。 「堂上教官……」 「お前がそんな風に思っているなど、言われるまで気付きもしなかった。 まさか、自分がそんな表情をして、しかもお前にそう思われていたなんて、思いもしなかった。……すまん」 郁の裸を見た時してしまった表情は嫌という感情ではなく、それは辛さからくるものだった。 訓練でできた傷なのか、身体のあちこちに残る傷跡は、滑らかな触り心地ちのする肌にはあまりにも不釣合いで、 そんな彼女を戦場に出しているのだという現実を思い知らされたからだ。 その感情が上官としてあってはならいものだということは理解している。 その郁も特別扱いを望んでいないことも分かっている。 それでもやはり堂上には辛いのだ。 彼女は信頼できる仲間だというのに、誇れる部下だというのに、どうしても割り切れない。 それが良くも悪くも特別ってことなんだよ、とは旧友の弁だ。 だというのに、その気持ちと折り合いもつけられずにいるのに、触れる肌 は温かく、安易に次の機会を求めてしまうのだ。 なんて男だ──それを郁に見られていたのかと思うと、居た堪れなかった。 そんな堂上の首に、するりとした長いものが巻かれた。 ぎゅっと抱きしめられて、ようやくそれが郁の腕だということに気付いた。 「私、バカだから、多分堂上教官の気持ちの半分も分らないと思うんですけど、でも、すっごく嬉しいです。 堂上教官がそんな風に私のことを思ってくれるだけで嬉しくて……だから、堂上教官、そんな顔しないで下さい」 どうしていいのか分からなくなっちゃうから、はにこむような郁の声に堂 上は堪らずその唇を奪った。 手のかかる頭の痛い部下が堪らなく愛しかった。 この世の中に完璧なんてものは一つもなくて、人は何かしら悩みを抱えて いて、堂上の気持ちが全て悪いものであるはずもなくて。 善悪で分けられるほど簡単なものではないし、今はその気持ちを抱えて、それでもこの部下と共に歩みたかった。 その気持ちに偽りはない。 「それでもいいのか」 と堂上が尋ねると、郁は満面の笑みで 「それでいいです」 と答えてくれた。 今はそれで十分だった。 そして、こんな風に昂らせた気持ちのまま、何事も無かったように帰るな んて二人にはできなかった。 「やっ、あっ、……堂上教官っ」 「もっと脚を上げろ」 膝を付き、堂上は細くて長い郁の内股にちゅと赤い跡を付けた。 既にズボンは下ろされ、胸元も肌蹴てしまっている。 先ほどまで散々悩んでいた胸を愛撫されているせいで、もう立っていることも辛い。 堪らず本棚にもたれかかってしまうと、今度は脚を攻められた。 「もっとだ」 命令口調に負けるように、力を抜くと片足をめいっぱいに持ち上げられてしまった。 既に下着はうっすらと濡れていて、堂上はそれも簡単に剥ぎ取ってしまう。 恥かしいと思う前に、ねっとりとしたものが郁の一番弱い部分に当てられる。 「あっ、ああっ、あっ、」 ぷっくりとした花芽を舌先で突付かれ、吸い上げられると、郁も声を押し 殺せない。 静まり返った書庫で、自分のはしたない声だけが響くのは羞恥に堪えないものだったが、それ以上の快楽が押し寄せてくるのだから、どうにもならない。 濡れた花壷に指を捻じ込み、弱い部分を責め当てられると、郁の声からは 甘ったるい嗚咽に似たものが零れ出した。 罪悪感を刺激するような郁からの呼びかけも、ここまでくれば堂上にとっては糧の一つしかならない。 しかも聖域とも呼べる仕事場で、こんなことを── それがまた興奮するのだと知ったのは、つい最近のことだ。 既に何度か経験を重ねているだけあって、堂上を受け入れた時も郁は微か に眉を顰める程度だった。 だけれど、こんな体勢でするのは初めてで、 「堂上教官、この格好……っ、」 「嫌か?」 耳元で尋ねると、驚くほど素直に郁は頷いた。 そんな従順な態度を俺に見せるな、男ってのは、ますます困らせてしまいたくなるもんなんだぞ? 冷静さを失った状態ではそんな自問も無意味だ。 堂上はぐっと力をこめて、郁を寄りかかかっていた棚から引き剥がした。 するとどうしても郁の全体重は堂上が支えなくてならない。 望んでいたものを受け止めるように堂上はきつく郁を抱きしめた。 「掴まれ」 そう言われたものの、郁は分からないようだった。 仕方ないとばかりに堂上は片手で郁の脚を撫で上げる。 もしかして、これは脚を床から離せと言っているのだろうか。 「む、無理です、堂上教官、絶対無理っ!」 「見くびるな。お前を支えることぐらい、朝飯前だ」 戦場最前線で培われた体力は郁の想像を遙かに超えるものに違いない。 とは分かっているものの、それとこれとは別問題だ。 「早くしろ」 渋っていた郁だが、堂上に命令されるととことん弱い。 覚悟を決めて恐々と脚を堂上の身体に絡ませると、熱っぽい低い声で「いい子だ」と褒められた。 反則、そういうの反則っ!と郁は顔を真っ赤にして、それを見られないように 堂上に抱きついた。 そんな郁に堂上は小さく微笑んで、待ち焦がれていたように身体を揺すり 始めた。 耳元で聞こえる郁の甘い声に気を良くして、更に深く繋がろうとする。 この体勢のおかげで耐えるように脚を絡ませてくる戒めがまた堪らない。 こんな風に郁が全てを曝け出して自分に預けてくれるのは、信頼の証以外の何物でもなくて、それが最も堂上の心を満たす。 「笠原」 耳元で呼ぶ。 それだけで自分を締め付ける柔らかい肉が絡みつく。 ならばと今度は普段呼ばない名前で呼ぶと、ますます締め付けは増した。 それが堪らなく愛しくて、どうしようも抑えられなくて、堂上は郁の最も深い場所でその想いの全てを吐き出した。 それから数日後、柴崎は思い出したように、 「あ、そうだ」 何?と郁が尋ねると、 「ほら、あんたの胸の話」 「それなら、もういいよ。……解決したから、一応」 一応というのは、後になって結局のところ堂上の胸の好みを聞いていなかったことを思い出したからだ。 それでも堂上の気持ちは疑いようのないものだったし、持ち前の割り切りの良さで郁は「これでいいか」と忘れることにした。 「まあ、いいじゃないの。教養の一つとして聞いておきなさいよ」 減るもんでもないし、とまで言われると郁も頑なに拒否する理由がない。 「一番効果的な方法があるのを忘れてたのよ。今のあんたなら、効果絶大かもしれないと思ってさ」 「こ、効果……絶大?」 そこまで言われるとやはり興味が湧くのは、悲しいかな郁も恋する乙女。 身を乗り出した郁に柴崎はにんまりと笑みを浮かべ、 「好きな男に揉んでもらうといいらしいわよー。精々、頑張って揉んでもらいなさいな」 一瞬の間を置いて、郁は首が取れるかと思うぐらいに横に振った。 「む、無理っ!そ、そんなの、絶対に無理っ!!」 見るからにテンパっている郁を見て、柴崎は楽しそうに笑った。