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1スレ目 315 『お祝い』 図書隊御用達の病院に堂上が転院して早数ヶ月、看護師から 「可愛い彼女さんですね」 と自然に郁の存在が知られるようになった頃、 「大部屋に移動になったんですね」 公休らしく郁はその日も堂上を訪ねていた。 大部屋になったので大声を出してはいけないと意識的に声を抑えようとしている郁の姿に堂上は小さく笑った。 努力は認めるが、地声が大きすぎて無意味だ。 「ああ、もうリハビリも始めてる」 「じゃあ戻ってくるのもすぐですね。手塚なんか教官いないとやっぱり寂しいみたいだって、小牧教官が笑ってましたよ」 「お前は?」 ジャブ程度に軽く仕掛けてみると、郁は言葉を詰まらせて俯いてしまった。 だが耳たぶまで真っ赤なのは隠しきれない。 もう一度同じことを訊くと、 「き、決まってるじゃないですか……あたしだって……同じです……」 恥かしがっても、最後はきちんと教えてくれるところが郁らしい。 そうか、と堂上が頭を撫でると、郁はますます身体を小さくさせた。 「じゃあ、帰ります」 「ああ、気をつけて帰れ」 それはごく自然なやり取りだったはずだった。 だが郁の方は堂上の別れの挨拶が不満だったらしく、恨めしそうに睨んでいる。 「どうした?」 「だって、今までは帰る時はキスしてくれたのに……」 「アホウ!大部屋だぞ、何を考えてるんだ、お前は!!」 間仕切りのカーテンはあるにしろ、何をしてるかぐらい察しのいい者ならば気付くはずだ。 それでなくとも郁が堂上の恋人であるのは周知の事実だというのに。 しかし堂上の方も予想外の郁のおねだりに大声を出してしまい、これでは筒抜けもいいところだ。 これでは郁が帰った後は好奇な視線に晒されるに違いない。 ──今更始ったことではないが。 叱られても郁はして欲しいらしく、ちらちらと堂上を見ている。 恋人にそんな表情をされてそ知らぬふりができる男がいたら、それは意気地なしか鈍感のどちらかだ。 何が仕方ないのか、堂上は大きく溜息をついた後、郁に向って手招きをした。 すると今までの不貞腐れた表情は何処にいってしまったのか、嬉しさを全面に出して郁は体を前のめりにするようにベットに手を付いた。 その腕を優しく掴んで、唇をそっと重ねる。 ゆっくりと力が抜けていく郁の体を抱きしめて、更にもう一度口付ける。 暖かい郁の身体の重みが愛しく、起こしてはならない感情を堂上は必死に気付かないふりをした。 「……これで満足か」 ふてるような口調になったのは気恥ずかしさからだったが、郁はこくんと頷くと、 「じゃあ、これは大部屋に移動になったお祝いです」 堂上が気付く前に、今度は郁から同じようにキスをされた。 その後、あっさりと帰った郁に、その晩堂上がなかなか寝付けなかったのはいうまでもない話。
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1スレ目 200-205 その日、堂上は小牧と一緒に図書大学時代の同期の結婚式に出席していた。 二次会にもなると座もくだけ、酒が入っているせいか話も弾んだ。 「そういえば堂上、おまえ彼女が出来たんだって?」 同期の一人がそう話を切り出すと皆が一斉に堂上を見た。 学生時代から堅物で名を知られた堂上だけに、その彼女というだけで興味深々なのだろう。 「……別にいいだろ。俺が誰と付き合っても」 この場では誰よりも真相を知っている小牧は楽しそうに成り行きを見守っているようで、それがまた癪だった。 投げやりに突っぱね酒を一気に煽ったが、 「部下だって聞いたが、本当か?」 その一言で誤魔化すレベルなどとうに超えていて、更に先ほどの自分の言葉が照れ隠しであることまでバレてしまった。 同時に上がる周囲の呻く様な驚きとからかいの声の中、堂上は思わず噴き出してしまった酒を拭うのがやっとだった。 「まさかお前が職場恋愛とはなぁ」 感慨深げな言葉は意外だと言っているのと同じだ。 堂上とて当事者になるまで、そう思っていた。 ましてや上官が直属の部下と懇意の仲になるなんて、上官としての地位を利用しているように思われかねない。 とはいえ実際の相手はそんなもので左右されるような柔な性格ではなく、堂上の手の平で上手く動くような可愛い奴でもなかった。 むしろ、うっかりしていれば、こちらが足元をすくわれかねない ──何せ受け身も取れないような場所で上官相手に大外刈りを繰り出すような相手なのだから。 「職場恋愛ってことは特殊部隊内か?……ってことは、あの背の高いすらりとした子か」 何せ相手は図書特殊部隊で初めての女性隊員で、立場や場所は違えど同じ図書隊に属する者ばかりだから知っている者ばかりだ。 皆口々に、幾つ年下なんだ?五歳も下なのかよ、この果報者、などと言い放題である。 確かに外見だけならば羨ましがられても仕方がないのかもしれない。 それは内面を知れば、あっさりと覆えされてしまう程度のものでしかないが 「堂上は背の高い女でも平気なんだな」 一人が何気ない態でそう呟き、世間から見ればやはりそういうものなのかと堂上は理解した。 背の高さを気にするような歳はとうに過ぎていたし、一般的に見て自分がチビであることは分かっている。 それに付き合うのに背丈なんてどうでもいいことじゃないのか、というのが堂上の本音だ。 そもそも遊び本意で付き合っているのではないし、普段は男まさりで無鉄砲ばかりするあいつが自分のこと特に女性を意識すると周囲が驚くほど弱気になる、そんなギャップも含めて自分は好きなのだ。 ──決してあいつの前では言わないが。 とはいえ"彼女は自分より背の低い女がいい"という価値観が根強いことも知っていたし、それがお互い様で"彼氏は自分より背が高くないと嫌"というのもよく聞く話だったので、今更不快に思うようなことはなかった。 あえて相手が背が高くて不便といえば、踵の高い靴を履かれると頭を撫でる時に苦労するぐらいか。 ふと先日そんなやり取りをしたことを思い出していると、 「……大丈夫なのか?堂上」 既に別の話で盛り上がった頃になってから小声でそう訊かれ、堂上は思わず怪訝な顔をしてしまった。 「相手の女の子だよ。女は男が思っているより背丈を気にするもんだろ。背が高いんなら尚更気にしてるんじゃないのか?そこんところ、ちゃんとフォローしてるのか、お前?」 お節介すぎる心配に堂上は露骨に顔を顰めたが、彼が同期の中で一番最初に世帯を持ち既に子供がいることを思い出した。 その口調からはやっかみやからかいは伺えなかったし、純粋に堂上達の仲を心配しているようだった。 そこまで仲を心配されるほど自分は不器用に思われているのかと思うと面白くなかったが 「あいつはそんなことを気にするようなやつじゃない」 と反論しようとした。 だが、そこでようやく思い出した。 そういえば、あいつにそんなことを訊いたことが一度でもあったか? 俺は気にしないが、あいつがどう思っているのかなんて──。 堂上はその問い掛けに答えられないことを今になって気付いた。 寮に戻った頃には消灯時間は過ぎていて、中は既に真っ暗だった。 自販機で飲み物でも買って帰ろうと堂上は玄関ロビーで小牧と別れた。 ネクタイを少しだけ緩めつつ共有区間までやって来ると、反対側からこらちにやってくる人影に気付いた。 「堂上教官……?」 気付く前に名を呼ばれ、相手が郁であることを知った。 嬉しそうに駆け寄ってきたものの、近寄ると露骨に顔を顰めた。 「うわっ、お酒臭っ!」 「仕方ないだろ、結婚式だったんだ」 そこでようやく郁は堂上が珍しくスーツ姿であることに気付いたようだ。 「あ、今日だったんですか。小牧教官と一緒に行くって言ってた結婚式って」 お祝いの席ですもんね、と郁も納得したようで、うんうんと頷いている。 「どうしたんだ、こんな時間に。消灯時間はとっくに過ぎてるぞ」 「喉が渇いたんで何か飲もうかなと思ってきたんです」 教官も?と訊かれ、堂上は素直にああと頷いた。 先に買うように促し、堂上は郁の後姿をぼんやり見ていた。 当たり前なのだが、自分より背の高い郁の姿に漠然と不安を覚えてしまった。 それは上官としてではなく、一人の男としてだ。 自分は郁の目にどう映っているのだろう。 自分が背の低いことで郁が嫌な思いをしていないだろうか。 それでなくとも郁は自分が背の高いことを気にしているのは堂上の目から見ても明らかで、背の低い自分といれば尚のこと気にしてしまわないだろうか。 ──どうしてそんなことに今まで気づかなかったのだろう。 「…………お前は本当に俺でいいのか?」 思わず口にしてしまった言葉に郁は驚いた様子で振り向いた。 まっすぐに見下ろされる視線がこれほど居心地の悪いものだとは思わなかった。 「教官、それってどういう……」 「だから、俺みたいな奴でお前は本当にいいのかって言ってるんだ。お前、俺みたいに背の低い男と一緒にいて辛い思いをしているんじゃないのか?」 本当に辛い思いをしているならば郁が打ち明けてくれることは分かっていたが、負けん気の強い郁は余程のことがない限りそれを言い出すこともないのも知っている。 それが信頼の証であることも承知しているし、堂上の問い掛けが逆に郁の心を乱してしまうかもしれないことも分かっていた。 それでも、言わずにはいられなかったのだ。この漠然とした不安を振り払う方法を他に見つけられなかった。 息が詰まるような静寂の後に、 「堂上教官は……気にしないって言ってくれたじゃありませんか。あたしが背が高くても、全然女らしくなくても気にしないって」 ああ、と堂上は頷いた。 俺は気にしないと言葉を続けると、 「あたしだって一緒ですっ!そんなことで教官を嫌いになったりしません!そんな風に思ってたなんて……酷いです」 しゃくりあげるように泣き出してしまった郁に堂上はすまなそうに腕を掴むと自分に引き寄せた。 郁はその瞬間は驚いたように身をすくませたが、すぐに止め、いつものように腰を少しだけ屈めると堂上の肩に顔を乗せた。 じんわりと肩に暖かいものが伝わり、微かにだが嗚咽を聞こえてきた。 「……すまん。泣かせるつもりじゃなかった」 宥めるように背中をさすってやると、郁は頷く動作をしてくれた。 「お前も俺と同じ気持ちでいてくれたんだな……」 「当たり前じゃないですか」 「そう言ってくれるな。男はお前が思ってるより繊細な生き物なんだ」 それがあまりにも堂上とは不釣合いな言葉に思えたのか、郁は声を殺して笑っているようだった。 そういう反応が女は無神経だと言われる所以だと堂上は思ったが、ここでまた言い争いなんてことは避けたいので黙って忘れることにした。 落ち着きを取り戻した郁が顔を放そうとするのが分かり、堂上は腰を引きつけると強引に郁の顎を下に向けた。 郁も何をされるのか分かったらしく顔を真っ赤にしてしまったが、嫌がる素振りは見せなかった。 それを了承と捉え、堂上はやんわりと口付けた。 二度三度啄むように口付けると、郁は苦しいのかくぐもった声を漏らした。 その甘い吐息が酔った身体にかなりの毒であることは、してから気付いた。 ここが寮でなかったら──などと不埒な感情を抱きつつも、ゆっくりと唇を離した。 とはいえ物足りなかったのも事実なので最後に下唇を甘噛みしてから放すと、郁は潤んだ瞳をそのままに見下ろしてきた。 すぐにマズイことをしたことは分かった。 誰もいない場所で、素面とは言い難い自分に、その顔は危険すぎる。 当の本人が分かっていないだけに、その無防備さが拍車をかける。 この状態で郁に触れるのは自殺行為と同じだということは分かっていた。 酒のせいなのか、それとも別の何かなのか── 気付けば堂上の手は郁の腕を触れていた。 さあっと鮮やかに朱色に染まった郁の表情に、堂上はあっさりと負けを認めた。 真っ暗な会議室に転がり込み鍵を閉めると微かに残っていた理性は綺麗さっぱりふっ飛んだ。 ソファに腰を下ろし膝の上に郁を座らせると、堂上は何度も口付けを求めた。 先ほどのように可愛いものではなく、口内を深く押し入ってすみずみまで舌先で舐った。 当然のように経験の少ない郁はそれを受け止めきれずに苦しそうに顔を歪ませる。 それでも耐えられないと強引に顔をそむけると、つうっと銀の糸が口元を伝っていた。 うっすらと朱色に染まりつつある肌にその姿はかなりそそられた。 首筋に唇を落とし、見えない場所を選んで鬱血の跡を散らした。 同時に背中に回していた手をうなじまで這うように撫で上げると、郁の身体は大きく震えた。 「やっ、やあっ、教官……んっ、あっ、あっ、」 「そう大きな声を出すな。誰かに聞こえる」 「そ、そんなの無理に決まってるじゃありませんかっ!分かってるなら手加減して下さい!!」 思わず噛み付くように大きな声を出してしまい、郁はあっと口を噤んだ。 きっと今の自分は酷く意地の悪い顔をしているのだろう、郁は不満そうにこちらを睨みつけている。 だが、こんな状態でそんな顔をされても逆効果もいいところだ。 それでなくともこうやって肌を合わせるのは久しぶりなのだから。 小牧からは気にせずに外出届を出せばいいじゃないと言われることもあるが、それありきで外出するというのはやはり後ろ暗いし、その手にからきし弱い郁が自ら求めるなんてことはなく、相手がそれで満足しているかもしれないというのに自分だけ欲するというのも気が咎めた。 堂上は待てないとばかりに郁の胸元を肌蹴させ、色気のないスポーツブラをたくし上げると、ささやかな胸の膨らみに口に含んだ。 舌で押し返すように突起を突付き、十分に堅くなったと確認してから歯でこりりと噛むと郁は堪らず堂上に抱きついてきた。 「ちょっ、堂上教官!人の話を聞いてっ……やっ、」 まだ言い返せるだけの余裕が郁にはあるようだ。 ──そういえば喉が渇いたままだったなと堂上は今更ながら気付き、郁をテーブルに寝かせてしまった。 いきなり寝かせられた郁は不安からか堂上の名を呼んだが、それは無視した。 どうせ自分がしたいことを説明すれば郁が頑なに嫌がるのは目に見えている。 ならば考える余裕を与えない方がいい。 堂上は無言のまま郁の脚を持ち上げると、穿いていたパジャマのズボンと下着を一気に脱がした。 「なっ、何して──!やっ、教官、そ、それ、だめっ!!」 郁は慌てるように身を起こしたが、それより先に堂上は濡れた秘部に舌を這わせた。 充血して鮮やかな色合いの花芯は愛液が滴り落ちており、それを堂上は零さないように舐め取る。 枯れることのない泉はしとしとと溢れ出し、すぐに口元は愛液で汚れてしまった。 身体はこんなにも素直だというのに、それでも郁は羞恥からか止めて欲しいと懇願し続ける。 ならばと浅い恥毛の中から花芽を探し出し指の腹でそっと押しつぶしてやった。 その愛撫に郁は大きく身体を跳ね上げ、きゅっと両足で堂上を押さえ込んだ。 その内腿の感触がまた堪らないのだと言ったら、郁はどう反応するだろうか。 ここまでくれば、どんな些細な反応でさえ、こちらを煽るものでしかないということに鈍感な郁も気付くだろうか。 どちらにしても、そうやって郁を必要以上に追い込みたくなるは冷静でいられなくなった証拠だ。 十分に指で肉洞を解してから、堂上は鞄の中から避妊具を取り出した。 郁も堂上が離れたことに気付いたのか、その姿を探すように視線を彷徨わせる。 すぐに何をしているのか気付くと思わず視線を逸らしてしまったが、最後まで拒絶の言葉は出てこなかった。 堂上は再度、郁に覆い被さると、汗で額に張り付いた前髪をはらい、頭を撫でた。 すると郁はまるで子猫が喜ぶように目を細め、身体を預けてきてくれた。 「……堂上教官」 郁は見下ろす堂上の名をはにかむように頬を赤らめつつ呼ぶと、両手を伸ばし堂上の首の後ろで組んだ。 そのあまりに幸せそうな表情に、堂上の顔も釣られるように緩む。 「いい子だ」 耳元をくすぐるように囁くと郁はそれだけで感じてしまうのか息を詰まらせた。 その初々しい反応がまた堪らなく愛しくて、いきり勃った自身を綻んだ花芯に宛がう。 久しぶりの郁の中は堂上を歓迎するかのようにねっとりと締め上げてきた。 根元まで差し込むと吸い付くような密着感に思わず声を上げてしまいそうになる。 堂上は郁の脚をめいっぱいに広げさせ、腹を押し上げるように腰を擦り付けた。 郁は小さく声を漏らし身体をくねらせる。 すると堂上を受け入れている肉洞は捩れるように今までは違う締め付けを施してきた。 郁の身体は恐ろしく敏感で、貪欲だった。 何も知らなかったはずだというのに、今ではこうも簡単に堂上を追い込もうとする。 このままでいれば果ててしまうのも時間の問題で、堂上は郁の背中に手を回すと一気に抱き起こし、そのまま後ろにあるソファに身体を沈めた。 見上げるといきなり中断したせいなのか、郁は潤んだ瞳のまま堂上を睨んでいる。 「……そう拗ねるな。もう少し、こうしていたいんだ」 見下ろす郁の口元に口付け離れ間際にそう告げると、郁は思ってもみなかった言葉を言われたようで顔を真っ赤にさせ、視線を逸らしてしまった。 今更照れることもないだろうにと堂上は小さく笑うと、郁の腰を掴み、ゆっくりと身体を揺らしてやる。 郁は 「やっ」 と小さく声を漏らしたが、じわじわと与えられる快楽に負けたのか、諦めたように堂上の肩を手を置き、身体を支えることに集中し始めた。 直接的に得られる快楽もいいが、こうやってゆっくりと溜まっていく快楽もこれはこれでいいもので堂上は荒くなった呼吸と整えるように、じっくりと郁の身体を貪った。 だが郁の方はそれでは物足りないのか、じれったそうに身を捩じらせたり、無意識なのだろうが自ら身体を揺すり始めた。 そのタイミングを見計らうように堂上は何度も下から貫いてやる。 郁はその衝動から堪らず堂上にしがみ付き、耳元で言葉にならない声を漏らし続けた。 「やっ、ああっ!教官っ、もう、あたしっ……!」 ざわざわと自身を締め付ける感覚は郁が達する間際なのだと堂上に教えてくれた。 縋るように抱きつく郁をしっかりと受け止め、堂上は劣情のままに郁を押し上げるように腰を打ちつけた。 達した瞬間、郁の脚はぴんと伸び、肉洞を埋めつくす堂上のものを食い締めた。 堂上もまた腰の付け根に溜まった衝動をその場で吐き出した。 出し尽くすように腰を振るうと、郁は顔を堂上の肩に押し付けたまま、がくがくと身体を震わせていた。 徐々に吐き出したもので粘つく自身に、このままでいたらゴムを付けた意味がなくなると自分を納得させ堂上は郁を支えるように抱き起こすと何度かキスをしてから、ゆっくりと離れた。 「……あたし、教官とキスするの好きですよ」 「何だ、いきなり」 別れ際、郁は唐突に話し始めた。 そんなことを面と向って言われてもどんな顔をすればいいというのだ、結局、堂上は仏頂面を決め込むしかなかった。 だがそれも郁は気付いているのか、照れくさそうに笑うと、 「キスすると下に引っ張られる感じがして、それが好きなんです」 言いたいことだけ言い終えると郁は 「おやすみなさい」 と頭を下げ、パタパタと廊下を走っていった。 言われた堂上といえば、ぽかんと間抜け面で去っていった郁の背中を見つめていた。 無意識に郁の言葉を反芻すると、徐々に顔が熱を帯びていくのが分かってしまった。 「あのバカ……」 そんな可愛い台詞を捨て台詞みたいに言ってくれるな。 このまま大人しく眠れるほど俺は枯れていないんだぞ。 それにな、俺だけを俯き見るお前を下から眺められるのは背の低い俺の特権のようなもので、それもなかなか悪くないものだと教えてくれたのは他でもない── くそっ、そんな恥かしい台詞、面と向ってあいつになんて言えるはずないだろうが! 無意識に痒い台詞を呟いてしまいそうになった自分は、もしかしなくても郁に感化されているに違いなくて、堂上は頭を抱えた。
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1スレ目 907 「す、すみません遅くなって」 待ち合わせの駅。十分遅れた郁を見て堂上が恐ろしく不機嫌な顔した。 「本当にすみません。出掛けに腕時計がみつからなくて。…そんなに待ちましたか」 「待っとらん!そんなことはどうでもいい!なんだその格好は!」 「え?」 郁は自分の服装を見る。キャミソールにカーディガンにミニスカート。 「…どこか変ですか」 「わからんのかっ!スカートが短すぎる!」 「や、でも前に業務で餌になったときよりは長いですよ。てか、今その辺歩いてる子たちのほうがもっと短いし。 いつも同じような服装じゃつまらないかと思って」 堂上は郁の手を掴んでひと気のない駅舎の裏に引っ張っていった。 「教官、手が痛いですぅ」 「いいか良く聞け!お前はそこらの女より背が高いんだ!足も長いんだよ! それなのにミニスカートなんか穿いてたら露出が他の女より多くなるのがわからんのか!」 …わかるようなわからないような。郁が考えていると、急に抱き寄せられた。 同時に堂上の手が郁の足に伸びてきた。 よく知っている手が太腿を撫で上げ、スカートの中にまで忍び込む。 郁は痴漢を釣ったときのことを思い出すが、全然違うのは、それが気持ちいいことだ。 「や、ちょっ…教官!」 膝が震え始めて声を上げると、堂上が郁を離した。 「わかったか?そんな足を見せられたら男はみんなこういうことをしたくなるんだよ! だから…ちょ、おま…なんだその顔は」 目を潤ませ、上気した頬の郁に堂上はたじろいだ。 「…教官のせいじゃないですか」 恨みがましく言う郁から目を逸らし、堂上はため息をついた。 デートは予定より三十分以上遅れて始まり、二人は食事でも映画でもなくホテルに直行し、 その後郁のロングスカートを買いに行くことになったのだった。
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1スレ目 189-190 「教官、折口さんから映画のチケットを貰ったんです。……ええと、その……だから、一緒に行きませんか?」 いつもの喧嘩腰な態度は何処にいったのか、ちらちらと伺うように見られつつ郁に誘われたのは週の始め。 誰もいない廊下で声をかけてきたのも、恥かしさから人目を忍んでいたのだろう。 そんないじましい態度に思わず表情が緩んでしまいそうになり、堂上は一際不機嫌な顔をした。 その表情を郁は悪い方に捉えたらしく、 「あ、あたしも最初は断ったんですよ!でも玄田隊長まで貰えって言うから仕方なく貰っただけでっ!」 こういう時の郁は喋れば喋るほど墓穴を掘る。 更にあたふたしたし始めると自分でも何を喋っているのか分からなくなっているようだが、それでも一所懸命に想いを伝えようとしている姿が可愛いと思ってしまう自分は盲目もいいところだ。 「俺でいいのか? 柴崎じゃなくて」 まるで探りを入れるような訊ね方をしてしまう自分に堂上は内心舌打ちをした。 言いたい言葉はそんなものではなく、それが素直に言えない自分が情けない。 こんな訊き方では郁が突っかかってきても当然だ。 だが郁は頬を赤くしながらも真っ直ぐに堂上を見下ろすと、 「堂上教官がいいですっ!」 あまりにもストレートな郁の意思表示に、堂上は持っていた書類を廊下にばら撒いてしまった。 そして週の終わり、二人で映画館に行った。 当たり前のように周囲にはカップル達の姿も多く、自分達もそう見えているのだろうか、なんてことを考えると今更ながら気恥ずかしさがこみ上げてきた。 先ほどから全く話しかけてこない郁を思い出し、そちらを向くと上映作品のポスターを前に固まってしまっていた。 どうしたと声をかけると開口一番、 「こ、これって、ホラー映画なんですかっ?!」 「……お前、若い女としての情操があるんじゃなかったのか?」 映画にさして興味がない堂上でも作品名だけは知っていた。 雑誌やテレビなどで盛んに今年最大のサイコホラー作品などと紹介されて いたはずだ。 その手のものに興味がないにしても名前ぐらいは知っていても不思議ではないのだが──全く知らないところが郁らしいえば、そうなるのか。 呆れたように溜息をついた堂上は、ようやく郁の様子がおかしいことに気付いた。 いつもならば、こちらの挑発に乗っくるはずだ。まさか──、 「もしかして、お前、この手の映画が苦手なのか?」 「そ、そんなこと、絶対にありませんっ!」 思わず裏返った声を上げた郁に堂上は目を瞬かせた。 そんな態度で平気だと言われて誰が信じるというのか。 だから、思わず苦笑してしまった。 ──ホラー映画が怖いなんて、お前も可愛いところがあるじゃないか。 そんなこちらの反応に気付いたらしく、郁は頑なに平気だと言い張ると、呼び止めるのも無視して先に入場してしまった。 かなり怖いんじゃないか、この映画。 煽り文句は伊達ではないようで、苦手意識のない堂上でも怖いと思わされる部分が多かった。 物語はこれからクライマックスというところだから、最後は今まで以上に怖さを煽ってくるに違いない。 ちらりと郁を伺うように視線を隣りに向けると、郁は身体を微動だにせず固まってしまっているようだった。 その様子に悪いことをしてしまったなと堂上は悔いた。 自分がからかうようなことをしなければ、郁もあそこまで意固地にはならなかったはずだ。 「大丈夫だ。俺がついている」 以前ならばその一言を口にすることさえ多大な時間が必要だったが、今は迷いなく告げられるぐらいに心の整理はついている。 膝の上でぎゅっと握られたままの郁の手に、堂上は自分の手をそっと重ねた。 同時に観客の悲鳴が一声に上がった。 クライマックスに差し掛かかったのか──と堂上が思った瞬間、いきなり身体を引っ張られた。 突然視界が遮られたかと思えば、ふにゃりとした柔らかい感触がする。 何が起きたのだと首を傾げたと同時に、自分が置かれた状態にようやく気付いた。 自分達の身長差を堂上はうっかり失念していた。 いつも自分から抱き寄せる時は、郁は自然と顔が肩に当たるよう背を屈め てくれていたおかげで今まで意識したことがなかった。 自分より背の高い郁に抱き寄せられてしまうと、堂上の顔は丁度いい具合に郁の胸に当たるのだ。 Aカップのナイチチ郁とて女性、当然のようにその感触は男とは全く違う。 確かにボリュームのある感触からは程遠いものの、ささやかな胸の膨らみは確かにあって、回される腕も男のものとは違い、酷く柔らかい。 縋られるように抱きつかれ、しかも、ほのかに石鹸の香りなどもしてきてしまい──自覚すればするほど心拍数が跳ね上がる。 それは律しているはずの自制も理性も一気に吹っ飛ぶぐらいの破壊力だった。 「バッ……笠原、離れろ!とにかく落ち着け!コラ、俺の話を──笠原っ!!」 今まで耐えていたこともあったのだろう、それが一気に決壊してしまった 郁はパニック状態で堂上の声など聞こえるはずがない。 跳ね除けようにも一体どこにこんな力があるのか、郁の腕は全く外れない。 火事場のクソ力もいいところだ。 映画の主人公よりも大ピンチに陥った堂上が解放されたのは、エンドクレジットが終わってしばらした後のことだった。
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1スレ目 237-241 運命の女神は悪戯で、逢いたくないと思ってる時にほど逢いたくない人に逢わせるのかもしれない。 昔、そんな話を読んだような気がする。 「な……に、してんだ、お前」 聞き覚えのある声に郁は顔面蒼白だ。 どうしてこんな場所で、だってここは寮でもなければ基地でも図書館でもなく、約束でもしなければ逢わないような街中で── もちろん約束なんてものはしていないから、これは偶然である。 こんな偶然、全然嬉しくないと郁は運命の女神が実在するのならば間違いなく喧嘩を売っただろう。 「ど、堂上教官も買い物ですか~?そうですよね、こんなに天気も良いし!」 ぎこちない笑顔と共に出たぎこちない郁の挨拶に、堂上がそ知らぬふりなどするはずもなく、 「その格好は──」 「べ、別にいつもと同じじゃないですかっ!!」 更に動揺を示すような素っ頓狂な声を上げてしまい、郁は内心悲鳴を上げた。 どう見ても同じじゃないのはあたしも分かってるから! だからそこは追求しないで! それが大人の了見ってもんでしょうがっ!! 「明らかにおかしいだろ……何つめたら、そんなになるってんだ」 あえて何がとは指摘しなかったものの、堂上の言いたいことは明白だ。 思わず胸に手を当ててしまった郁の反応は相手に確信を与えるだけだった。 失態に失態を重ねるともうパニック寸前のヤケクソ状態で、自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。 「い、いいじゃないですかっ!あたしだって一度ぐらいは普通に胸のある生活を送ってみたかったんですっ!!教官に迷惑かけてないんですし、あたしが豊胸パットしてたって──!!」 「バッ……お前っ、ここを何処だと!何考えてんだっ!」 堂上は顔色を変え、慌てて郁の口を塞いできた。 お前、公衆の面前で──などと説教されても今の郁には全く聞こえない。 最後には自分の貧乳を事細かく説明し出すと、堂上は郁を引きずるようにその場から逃げ出した。 ギャアギャアと喚いたせいなのか連れて来られたのはその手のホテルの一室だった。 部屋に連れ込まれてから、喚く女をその手の連れ込む男などという今時三流ドラマでもありえないシーンを演じてしまったことにようやく気付いた。 しまった、周囲が自分達を見たら勘違いするに決まってる── この手の損な役割を嫌というほど堂上に負わせている負い目があるだけに郁は申し訳なさでいっぱいになった。 「…………すみません」 顔を見るのも恥かしくて俯いたまま謝ると、ぽんと頭に手がおかれた。 そしてくしゃりと優しく撫でられた。 「謝るのは俺のほうだ。お前がそこまで気にしているとは思っていなかった……悪かった」 ああこの人は本当に優しいんだなぁと気付かされると、とたんに胸が熱くなった。 ささやか過ぎる胸だけれど、その鼓動は酷く早い。 だから尚のこと一方的に自分を責めるのだけはして欲しくなくて、郁は意を決して顔を上げた。 「ちょっとだけ胸のある生活に憧れるって言ったら一度付けてみればって貸してくれたんです。本当にそれだけなんです、教官が気にするようなことは全然なくてっ!!」 熱意が通じたのか堂上は反論する素振りは見せなかった。 ただ、ばつが悪そうに視線を逸らし、 「まあ……気持ちは分かる」 「ええっ?!教官も胸が欲しいんですか?」 「バカ、そんなわけあるか。俺も昔はもう少し背が高ければな、と思ったことがあるって話だ。まあ、そんなことを思ったってどうにもなる話でもないしな」 「教官にもそんな時期があったんだ……」 意外という顔をしてしまったせいか、からかうなと額を堂上に小突かれた。 しかし郁からすれば自分の知る堂上はそんなことで悩むような人には見えなかった。 だから堂上も自分のコンプレックスに悩んだことがあると聞いてホッとした。 顔に出やすい性質だとは分かっていたが今もそうだったらしい、安堵した表情に堂上は釣られるように、 「それに俺は好きだぞ」 「…………へ?」 突然の告白に郁は狐に摘まれたような顔をしてしまった。 すると堂上は露骨に顔を顰めた。 そんな顔で 「何でもない」 などと言われても気になるに決まってる。 今の堂上は誰の目から見ても動揺していて、気にならない訳がない。 「自分から言い出したことじゃないですか、ちゃんと教えて下さい。自分だけなんてズルイですよ、教官!!」 煩いと突っぱねられつつも、しつこく訊いていると根負けしたように、 「だから、お前が余計に気にするところも含めてだな──それぐらい察しろ、バカたれ!!」 そう言い放つと堂上はプイと顔をそむけてしまった。 えっ、何でそこで怒るの? 郁は途端に不機嫌になってしまった堂上に首を傾げた。 仕方なく堂上の言葉を何度も反芻していると、鈍い郁にもようやく理解できた。 理解したのはいいが、した途端、顔から火が出るかと思うぐらい真っ赤になってしまった。 だ、だって、教官が好きとか、そういうの滅多に言わないし、そもそもこんな話したのも初めてかもしれないし── うわぁ、どうしよう、あたし。 困ってるのに──凄く嬉しい。 にやついてしまう自分を止められそうにない。 思わず両手で頬を覆ってしまうと、不意に振り向いてきた堂上と視線が合ってしまった。 ますます不機嫌な顔をされたが、自分でもどうすることもできなかった。 すると堂上は盛大に溜息をついてから、こちらに身体を向き直した。 「本当に仕方のない奴だな」 その声色は不機嫌というよりはからかっているようだった。 だって、と郁は反論しようと思ったが、堂上の顔が近づいてきたので止めた。 初めてではないにしろ、この手に滅法弱い郁は未だに身を強張らせてしまうことが多い。 それも堂上は知っているように、そっと背中に手を回し支えるように抱きしめてくれた。 軽く唇を重ねられると、そのままベットに仰向けにされてしまった。 ああ、そういえば教官にこうやって触られるのも久しぶりだなぁなんてことを思い出し、それを覚えてしまっている自分に思わず赤面する。 耳元で 「いいか?」 と訊かれると、心拍数は跳ね上がった。 普段よく聞く怒鳴り声とは全く違う、低くて少し掠れた堂上の声は聞くだけでゾクゾクしてしまう。 郁の方はといえば、うんうんと頷くのがやっとで、そうすると堂上は安心させるように頭を撫でつつ、額や目元に唇を落としてくれた。 シャツのボタンをゆっくりと外すと堂上は妙に関心した様子で、 「しかし凄いもんだな、それは……」 「豊胸パットですか?ああ、そうですね。万年Aカップのあたしでも人並みにCカップになっちゃうんですからね」 借り物なんだろと言われ、郁は思い出したように起き上がりパットを取り出した。 当たり前だがそうするとガバガバになってしまうブラジャーの隙間が物悲しい。 ちなみにフルカップのブラジャーも借り物だなので、それも大事に外した。 「何、残念そうな顔をしてんだ」 「やっぱり小さいなぁと思って……」 Cなんて贅沢は言わないからせめてBぐらいあればなぁ、なんて思ってしまうのは所詮無いもの強請りか。 「教官だってないよりあった方がいいでしょう?」 真剣な口調で訊くと、バカとまた小突かれてしまった。 「お前なら俺はどっちでも構わん」 そう告げる堂上の顔は真面目そのもので、郁は返す言葉も見つからず、見据えられる視線から逃れるように俯いてしまった。 不機嫌で怒鳴っているのが標準の堂上が、そういう言葉を口にするのは反則すぎる。 戸惑う郁を無視し、堂上は胸を隠す手をどけさせると、そのささやかな胸の谷間に顔を寄せてきた。 そして手の平にすっぽり収まってしまう胸をやんわりと撫で回し、ぷくりと立ち上がった突起を口に含む。 「んっ、んん──っ」 触れられる度に電流のようなものが身体を駆け巡り、堪えるように堂上のシャツの裾をぎゅっと掴むと愛撫は更に周到になった。 「教官……小さい胸なのに、どうしてそんなにっ、」 まるで堂上の愛撫はそれがいいのだと言わんばかりだ。 そんなことがあるはずかないと信じて疑わない郁は堂上の行動は理解し難く、ただただ与えられる刺激を受け入れるしかない。 そうやって少しずつ気持ち良さが溜まっていくと、頭も身体もぼんやりと霧がかかったように何も考えられなくなってしまう。 こうなると身体も力が入らなくて、堂上のされるがままだ。 ショーツも穿いていたジーンズと一緒に脱がされ脚を開かれると、ひんやりとした外気が肌を震わせた。 反射的に閉じる前にうっすらと湿り気を帯びていた秘部を撫で上げられた。 「やぁ、あぁ……」 ごつごつとした指で敏感な場所を何度も触られると、身体の奥からどっと何かが溢れてくるのが郁にもはっきり分かった。 それを堂上は潤滑油のように使い、閉じられていた花びらをこじ開け、指を飲み込ませる。 今までが焦らされていたのかと思うぐらいに直接的な刺激に郁はむずがる子供のように頭を横に振るわせた。 堂上の指が動く度に身体を震わせる痺れが背筋を駆け上ってくる。 それがどうしようもなく気持ちよくて、自ら身体を堂上に押し付けてしまう。 ヤダ、こんなの、いやらしい── そんな姿を堂上にだけは見られたくないと必死に抵抗してみるものの、純粋な欲求は郁の僅かな理性など容易に乗り越えてきた。 「────堂上教官っ、」 もう自分でも抑えられない。 訴えるようにその名を呼ぶと、堂上は力の抜けた郁を自分の膝の上に座らせた。 予想外の堂上の行動に郁は一瞬間の抜けたような顔をしてしまった。 まさか、教官──。 「このままは嫌か?」 「このままって……えっと、その……この体勢ってことですか?」 そうだ、と答えた堂上が不機嫌な顔をしたのは面と向って訊かれてしまい照れているからだろう。 この人、仕事の時はあんなに出来る人なのに、あたしといると、どうしてこんなに不器用なんだろ……。 五つも年上の異性を可愛いなんて思ってしまった郁はまたそれが顔に出てしまったのだろう、堂上はますます面白く無さそうにふて腐れた。 「嫌ならいい」 郁の言葉を待たずにいつものようにあお向けにしようとしたので、郁は慌ててそれを押し止めた。 「ま、待って下さい、そ、そうじゃなくてっ!あたし何も分かんないんですけど……それでもいいんですか?」 この手の知識が無いことには自覚があるし、堂上の望むようなことなんて到底できそうにない。 それでも、しあてげたい気持ちも自分の中には確かにあって、それを上手く口にすることが出来なくて、それがもどかしかった。 するといきなり頭の後ろをがっちりと掴まれ、強引に額と額をくっ付けられた。 息がかかるぐらい間近に堂上の顔があり、しかもその視線が自分を捉えていて、郁は思わず目を瞑ってしまった。 こんな近くで目なんて合ったら、それこそどうにかなってしまいそうだった。 「何度言えば分かるんだ、お前は。俺はお前がいいんだ」 こんな間近で、そんな風に熱っぽく告白するなんて不意打ちもいいところだ。 あたしだって同じなのに──堂上のように言葉にすることのできない自分が歯痒かった。 どうすればこの言葉にできない気持ちを堂上に伝えることができるのだろう。 「あっ、教官……ん、んんっ」 堂上は返事を待つつもりなどないようで、いきなり口を塞がれてしまった。 お世辞にも上手いとは言い難い口付けをしつつ、朦朧とする意識の中で郁は必死に考えていた。 もしかして、こうやって好きな人と触れ合うのは言葉ではない別の方法で相手に知って欲しいからなのかな。 だってあたし、教官とこうしていると凄く嬉しいし幸せだし、もっとして欲しいって素直にそう思えるから──。 肌を重ねるのは初めてではないが、やはりこの時だけは怖さが先にきてしまい思うように動けなかった。 しかもそれが初めての体勢ならば尚更だ。 腰を下ろさねばならないことぐらい理解しているのに、どうしても身体が言うことを聞いてくれない。 熱く硬いものが僅かに触れるだけで身体が反射的にそれを拒んでしまう。 そんなことを繰り返していると、 「焦らしてるつもりか?」 などと堂上に訊かれ、郁は更にテンパった。 「ち、違うに決まってるじゃありませんか──!」 そんなことが出来たら、とっくに試しているに決まっている。 いつも堂上にされるばかりで何も出来ないことが郁は少しだけ悔しいのだから。 まさかそんなことを実際に言えるはずもないので、頬を膨らませて怒ってみせるのが精一杯なのだが。 すると堂上は郁の腰に手を回し、主導権を奪った。 「このままゆっくり腰を下ろしてみろ」 その言葉に郁は素直に頷き、堂上に支えられるようにゆっくりと腰を下ろした。 時間はかかったが、全てを受け入れると郁は安堵するように大きく息を吐いた。 すると腹の中にいる堂上のものがはっきりと分かった。 いつもと違うような気がするのは、やっぱりこの体勢のせいなのだろうか。 微かに動かれるだけで腹を押し上げられるような感覚を覚えてしまった。 まるで串刺しにされているような──。 戸惑う郁を無視するように、堂上は汗ばんだ手の平で胸を撫で回してきた。 「やっ、ま、待って……!それっ……ダメ、教官っ、」 更に指の腹で胸の突起を押しつぶされると、郁の全身を電流のようなものが駆け巡った。 堂上にしがみ付き、いやいやと首を横に振っているのに堂上は止めてくれない。 同時に下から突き上げるように動かされ、郁はその度に甘ったるい声を漏らした。 「ヤダ、こんな声──」 感じていることを自覚すると冷静でなどいられるはずもなかった。 行為自体が嫌ではないのだけれど、それを素直に受け入れることが郁にはまだ出来ない。 堂上はそんな郁の羞恥を煽るように耳元で囁く。 「いい声だ」 熱っぽい声色で耳元をくすぐられ、更には耳たぶを甘噛みしてきた。 きっと堂上には郁の弱い場所が何処であるのか気付いているのだろう、 最も感じる場所を的確に攻めてくる。 そうやって何も知らなかった郁の身体を堂上は少しずつ確実に変えていくのだ。 それがどうしようもなく恥かしい。 恥かしいのに、同じぐらい気持ちが良い──。 こんな自分を堂上はどう思っているのか、不意に視線が合うと堂上は郁の不安を気付いているかのように滅多に見せない表情で郁を抱きしめた。 その力強さにまた身体が震えてしまう。 きゅっと堂上のものを締め付けると、それはますますいきり立つように郁の中で暴れた。 まるで子供を抱かかえるような体勢で、郁は堂上のされるがままに快楽を貪り続けた。 ゆさゆさと揺さぶられるだけで、甘い痺れが全身を駆け巡る。 このままどうなってしまうのかという漠然とした怖さと同時に、更に深く強請るように足を広げてしまうことが止められない。 それでも相手が堂上ならば──堂上だから自分はそれを望んでいるのだ。 そうはっきりと自覚した瞬間、郁を支配していたものがぶるりと震えた。 膜越しに大量の精を吐かれ、郁も衝き立てられものを締め付け、果てた。 * * * * * * * * 「どうかした?」 先に風呂から上がり着替えていた郁に柴崎が不思議そう声を掛けてきた。 「ブラジャーが小さくなったような気がして……洗濯で縮んだのかなぁ?」 まさか誰かのと間違えているはずはないしと、しきりに首を傾げる郁に、 「ひゃ──っ!ちょっ、いきなり何するのよ、柴崎っ!」 いきなり背後からつうっと首筋を指で撫でらた郁は勢いよく振りかえると、にんまりと笑っている柴崎と目が合った。 あ、これは──その笑みが危険のサインだと本能が警告してくれたが、残念ながら回避方法までは教えてくれなかった。 「こんな跡付けるほどされちゃ、そりゃ胸だって多少は大きくなるんじゃないの~?」 思わず撫でられた場所を手で隠した郁はまるで長風呂でのぼせたように真っ赤になった。 その反応に柴崎は追い討ちをかけるように、 「ぎりぎり見えそうで見えないところにするなんて、あの人も結構やるのね」 「ち、違うのっ!こ、これは、そんなんじゃなくて──!!」 「うんうん分かってるわよ。ちょっと意地の悪い虫に刺されちゃったのよね」 「ギャーーー!それ以上喋ったらあんたでも締める!だからもう言わないでー!!」 翌日、郁が必要以上に堂上を避け、逆に柴崎とのやり取りを喋らなければならない羽目になったのは別の話。
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1スレ目 140-146 「ねぇ、柴崎ー。どうしたら胸が大きくなるのかなぁ」 オバカで可愛い同室の郁が唐突に口を開いた。 ほうほう、色気よりも食い気、そんなことに見向きもしなかったあんたが 可愛らしいことを言うようになったじゃない。 柴崎から見れば、それも悪くない成長の一つだ。 「もしかして、最近あんたが牛乳ばっかり飲んでいるのは、そういう理由なの?」 だったとしたら安直すぎる。今時、子供でも信じないだろうに。 だが、その噂を信じる二十歳を越えた娘がここに一人。 「だって、よく聞くじゃん。他に良い案が無かったんだよー」 それぐらい切羽詰まっているということにしておいてあげるか。 柴崎はわざとらしく溜息をついて、 「今更どうにもならないでしょうに。あんたの場合は胸の栄養が身長に変わっ ちゃったんだから」 テーブルに突っ伏す郁にそう慰めてみたが、一向に顔を上げる気配は見せ ない。 まあ、それぐらい達観してたら、牛乳なんてものに頼ってないはずだ。 「どーしても大きくしたいなら、整形手術って方法もあるんだし、そう落ち込むな」 慰めにならない慰めに、郁は表情を曇らせたまま、 「……やっぱり男の人って胸が大きい方が好きなんだよねぇ」 戦うことにおいては小さい方が何かと便利で、今まで不便と思って一度も ない。 だが、それに相手がいるとなれば別だ。 熱血武闘派の郁もそこは乙女のはしくれ。 思い悩むのも当然だ。 「あんたが聞きたいのは一般論じゃなくて、堂上教官が、ってことでしょ?」 あけすけなく指摘され、郁はううっと口篭った。 顔は赤いし、困ったようにこちらを見上げる表情を見れば、誰でもそれが図星だったと判るだろう。 「それとも、堂上教官が大きい胸の方が好きとでも言ったの?」 「ち、違う……けど、」 「けど、何よ」 そう柴崎が突っ込むと、郁は観念したように吐いた。 「してる時ね、時々、私の方を見て、嫌そうな表情をするんだよね。それって、やっぱり物足りないのかなって……」 うわぁ、何言ってるんだ、あたし! と郁は穴があったら入りたい気分だが、 結局は柴崎に頼る他ない。 男性経験ゼロ、王子様一筋だった郁には、そういう男の気持ちというものが全くといっていいほど分からないのだ。 部下として、共に戦う仲間としては、それなりの自負はあるけれど、それが異性となると、郁は自信が持てない。 ガサツで、口も悪くて、背も態度でかい ──こんな女の何処がいいのか、と思うことなら多々あるのが少しだけ悲 しい。 「そんなにウジウジ悩むぐらいなら、はっきり聞けばいいじゃない。あんたらしくもない」 「そ、それぐらい、分かってるよぉー」 こんな自分がらしくないことぐらい。 だけど、はっきり聞いて、はっきり自分を否定されたら、それこそ立ち直れる自信がない。 こんなんじゃなかった、とがっかりされているのかと思うと、それだけで マリアナ海溝まで気持ちが沈んでしまいそうだ。 だが郁は良くも悪くも一人で思い悩める性格ではなくて、それから数日後、 何故か事務室には堂上と郁の二人しか残っていなかった。 はた気づけば定時の時間は過ぎており、残業するつもりなのか、一人もく もくと机に向う堂上を見ていると、うっかり口を滑らせてしまった。 「堂上教官、教官は胸が大きい女性の方が好きですか?」 ビリリリリ── 次の瞬間、堂上は書いてたペンで思い切り書類を破いてしまった。 最近妙に他人行儀な郁を心配していた堂上は、綺麗に脇腹に右ストレート を食らったような心境だ。 いきなり口を開いたと思えば、何を考えているんだ、こいつは。 動揺していると勘ぐられることだけは避けたくて、普段より八割り増しで 仏頂面の堂上に、 「やっぱり堂上教官も私みたいな小さな胸は嫌いなんだ」 と郁は理解した。 「す、すみません。もう聞きません!」 「当たり前だっ!って、いきなり何を泣いているんだ!!」 逃げ出そうとする郁を堂上は「待て」と制止する。悲しいかな、上官と部下。 命令されれば、拒否することは、やっぱりできない。 しゅんと頭を垂れる郁に、堂上は戸惑いつつも、 「お前の話には脈略がない!俺が納得するように説明しろっ!」 出足から大失敗した郁は、結局挽回も出来ぬまま、机を挟んで堂上の前に 座らされた。 これではまるで説教だ。 「……だから、堂上教官は胸が小さな女性と大きな女性がいたら、どちらがお好きなのかなぁと思って」 それでも堂上は納得してくれない。表情一つ変えないので、郁は言葉を続けるしかない。 「教官、私とする時、嫌そうな顔をするから……そうなのかなと思って」 ここまで吐いたんだから勘弁してよ、と郁は恐る恐る顔を上げると、その 堂上は露骨に顔を顰めていた。 ふと視線が合ってしまうと、何故か堂上の方が先に逸らしてしまった。 よく見れば耳まで赤い。もしかして堂上教官、照れてる……? 「お前にいらん心配させたことは謝る。そういうことじゃない」 「じゃあ、どういうことなんですか」 萎れていても、やはり郁は郁。一番食ってかかって欲しくない言葉に突っ かかってくる。 思わず口篭ってしまった堂上に、郁はやっぱりといった顔をした。 そんな嘘をつかなくてもいいに、そう表情が物語っていた。 「違うっ!」 まるで雷でも落ちるような勢いと共に、郁は腕を掴まれた。 「ど、堂上教官、ちょ、ちょっと待って下さい、何処に……!」 掴まれたまま事務室から引き出され、郁は薄暗くなった廊下の最も人気 の無い部屋に連れ込まれてしまった。 部屋の中は古書独特の古臭い匂いで満たされていた。 郁は天上まで達する棚に押し付けられ、逃げ場を失っていた。 伺わなくとも分かる、この低気圧のような重苦しさ── ゆっくりと顔を上げると、 そこにはやはり堂上が。 まるで視線を逸らすなと言っているような堂上の殺気に、思わず郁はびくりと身体を強張らせた。 すると郁を逃がさないように棚に伸ばされた堂上の手がきつく握り締められ、 「すまん」 その声は心底詫びるようで、郁は逆に慌ててしまった。 「い、いいんですよ、堂上教官!ほら、私の胸が無いのは昔からですし、 男の人が大きな胸が好きなのは、それこそ太古の昔からの自然の摂理で!」 だから堂上教官がそんなに思い詰めることじゃないのに、そう言おうとし た瞬間、 「そういうことじゃないっ!」 そういうことじゃないんだ、と腹の底から呻くような声で、堂上は俯いた。 「堂上教官……」 「お前がそんな風に思っているなど、言われるまで気付きもしなかった。 まさか、自分がそんな表情をして、しかもお前にそう思われていたなんて、思いもしなかった。……すまん」 郁の裸を見た時してしまった表情は嫌という感情ではなく、それは辛さからくるものだった。 訓練でできた傷なのか、身体のあちこちに残る傷跡は、滑らかな触り心地ちのする肌にはあまりにも不釣合いで、 そんな彼女を戦場に出しているのだという現実を思い知らされたからだ。 その感情が上官としてあってはならいものだということは理解している。 その郁も特別扱いを望んでいないことも分かっている。 それでもやはり堂上には辛いのだ。 彼女は信頼できる仲間だというのに、誇れる部下だというのに、どうしても割り切れない。 それが良くも悪くも特別ってことなんだよ、とは旧友の弁だ。 だというのに、その気持ちと折り合いもつけられずにいるのに、触れる肌 は温かく、安易に次の機会を求めてしまうのだ。 なんて男だ──それを郁に見られていたのかと思うと、居た堪れなかった。 そんな堂上の首に、するりとした長いものが巻かれた。 ぎゅっと抱きしめられて、ようやくそれが郁の腕だということに気付いた。 「私、バカだから、多分堂上教官の気持ちの半分も分らないと思うんですけど、でも、すっごく嬉しいです。 堂上教官がそんな風に私のことを思ってくれるだけで嬉しくて……だから、堂上教官、そんな顔しないで下さい」 どうしていいのか分からなくなっちゃうから、はにこむような郁の声に堂 上は堪らずその唇を奪った。 手のかかる頭の痛い部下が堪らなく愛しかった。 この世の中に完璧なんてものは一つもなくて、人は何かしら悩みを抱えて いて、堂上の気持ちが全て悪いものであるはずもなくて。 善悪で分けられるほど簡単なものではないし、今はその気持ちを抱えて、それでもこの部下と共に歩みたかった。 その気持ちに偽りはない。 「それでもいいのか」 と堂上が尋ねると、郁は満面の笑みで 「それでいいです」 と答えてくれた。 今はそれで十分だった。 そして、こんな風に昂らせた気持ちのまま、何事も無かったように帰るな んて二人にはできなかった。 「やっ、あっ、……堂上教官っ」 「もっと脚を上げろ」 膝を付き、堂上は細くて長い郁の内股にちゅと赤い跡を付けた。 既にズボンは下ろされ、胸元も肌蹴てしまっている。 先ほどまで散々悩んでいた胸を愛撫されているせいで、もう立っていることも辛い。 堪らず本棚にもたれかかってしまうと、今度は脚を攻められた。 「もっとだ」 命令口調に負けるように、力を抜くと片足をめいっぱいに持ち上げられてしまった。 既に下着はうっすらと濡れていて、堂上はそれも簡単に剥ぎ取ってしまう。 恥かしいと思う前に、ねっとりとしたものが郁の一番弱い部分に当てられる。 「あっ、ああっ、あっ、」 ぷっくりとした花芽を舌先で突付かれ、吸い上げられると、郁も声を押し 殺せない。 静まり返った書庫で、自分のはしたない声だけが響くのは羞恥に堪えないものだったが、それ以上の快楽が押し寄せてくるのだから、どうにもならない。 濡れた花壷に指を捻じ込み、弱い部分を責め当てられると、郁の声からは 甘ったるい嗚咽に似たものが零れ出した。 罪悪感を刺激するような郁からの呼びかけも、ここまでくれば堂上にとっては糧の一つしかならない。 しかも聖域とも呼べる仕事場で、こんなことを── それがまた興奮するのだと知ったのは、つい最近のことだ。 既に何度か経験を重ねているだけあって、堂上を受け入れた時も郁は微か に眉を顰める程度だった。 だけれど、こんな体勢でするのは初めてで、 「堂上教官、この格好……っ、」 「嫌か?」 耳元で尋ねると、驚くほど素直に郁は頷いた。 そんな従順な態度を俺に見せるな、男ってのは、ますます困らせてしまいたくなるもんなんだぞ? 冷静さを失った状態ではそんな自問も無意味だ。 堂上はぐっと力をこめて、郁を寄りかかかっていた棚から引き剥がした。 するとどうしても郁の全体重は堂上が支えなくてならない。 望んでいたものを受け止めるように堂上はきつく郁を抱きしめた。 「掴まれ」 そう言われたものの、郁は分からないようだった。 仕方ないとばかりに堂上は片手で郁の脚を撫で上げる。 もしかして、これは脚を床から離せと言っているのだろうか。 「む、無理です、堂上教官、絶対無理っ!」 「見くびるな。お前を支えることぐらい、朝飯前だ」 戦場最前線で培われた体力は郁の想像を遙かに超えるものに違いない。 とは分かっているものの、それとこれとは別問題だ。 「早くしろ」 渋っていた郁だが、堂上に命令されるととことん弱い。 覚悟を決めて恐々と脚を堂上の身体に絡ませると、熱っぽい低い声で「いい子だ」と褒められた。 反則、そういうの反則っ!と郁は顔を真っ赤にして、それを見られないように 堂上に抱きついた。 そんな郁に堂上は小さく微笑んで、待ち焦がれていたように身体を揺すり 始めた。 耳元で聞こえる郁の甘い声に気を良くして、更に深く繋がろうとする。 この体勢のおかげで耐えるように脚を絡ませてくる戒めがまた堪らない。 こんな風に郁が全てを曝け出して自分に預けてくれるのは、信頼の証以外の何物でもなくて、それが最も堂上の心を満たす。 「笠原」 耳元で呼ぶ。 それだけで自分を締め付ける柔らかい肉が絡みつく。 ならばと今度は普段呼ばない名前で呼ぶと、ますます締め付けは増した。 それが堪らなく愛しくて、どうしようも抑えられなくて、堂上は郁の最も深い場所でその想いの全てを吐き出した。 それから数日後、柴崎は思い出したように、 「あ、そうだ」 何?と郁が尋ねると、 「ほら、あんたの胸の話」 「それなら、もういいよ。……解決したから、一応」 一応というのは、後になって結局のところ堂上の胸の好みを聞いていなかったことを思い出したからだ。 それでも堂上の気持ちは疑いようのないものだったし、持ち前の割り切りの良さで郁は「これでいいか」と忘れることにした。 「まあ、いいじゃないの。教養の一つとして聞いておきなさいよ」 減るもんでもないし、とまで言われると郁も頑なに拒否する理由がない。 「一番効果的な方法があるのを忘れてたのよ。今のあんたなら、効果絶大かもしれないと思ってさ」 「こ、効果……絶大?」 そこまで言われるとやはり興味が湧くのは、悲しいかな郁も恋する乙女。 身を乗り出した郁に柴崎はにんまりと笑みを浮かべ、 「好きな男に揉んでもらうといいらしいわよー。精々、頑張って揉んでもらいなさいな」 一瞬の間を置いて、郁は首が取れるかと思うぐらいに横に振った。 「む、無理っ!そ、そんなの、絶対に無理っ!!」 見るからにテンパっている郁を見て、柴崎は楽しそうに笑った。
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1スレ目 621-622 『お風呂にはいろう』 「もうこれはずしてもいいか?」 堂上は目隠しされたタオルを指さした。 白色に濁るお湯、湯気と共に漂う少し甘めの香り。 揺れるお湯と隣に感じる気配で郁がお湯に浸かったのを察して聞いてみた。 少し広めのお風呂でそういう客に好評だ、と隊の飲み会で小耳に挟んでいたところだ。 いつか郁と来てみたい、そう思っていたので念願叶ってうれしいのはいいのだが、この期に及んでガードの固いことだ。 「・・・ど、どうぞ」 タオルを外し隣をみると濁ったお湯に隠れて郁が恥ずかしそうに笑う、赤く見えるのはお湯につかっているから、だけではないだろう。 「びっくりしました、一緒にお風呂に入ろうなんて。」 そっぽをむきながら言う。耳までほんのり赤くなっているのをみると、こうぎゅうっとしたくなるほど可愛い。 俺も男なんだよ、普通に彼女といちゃつきたいって願望くらいあるぞ? 一緒に買い物したい、食事したい、映画にいきたい、遊びに行きたい。 キスしたい、抱きしめたい、触れたい、抱きたい。 お前はどうなんだ? お前は俺とこうなっていろいろしたいって思わなかったか? 自分が郁としたいことを考えるとそれこそ際限ない、何年もまったのだ、お風呂くらいもういいだろう? 内心の欲望を押し込め、恥じらってがちがちの郁の頭に用意しておいたとっておきを乗せてやる。 「な、なんですか?」 「ほら、これで少し機嫌直せ」 そこにあったのは黄色いアヒル、テレビでよく見かけた"アヒル隊長"だ。 「わぁ、かわいい!」 ぱぁぁっと、郁の表情が明るくなる。 かわいい!かわいい!とアヒルのおもちゃを浮かべたりつついたり頬につけたり、さっき恥ずかしそうにすねていたのはどこにいったのかというくらい嬉しそうな表情を見せた。 アヒルの口からお湯を飛ばし、横に堂上がいるのも忘れたように遊んでいる。 これは可愛い・・・郁が。 普段何かをみてはしゃいでいる郁ももちろん可愛い、だがいまここは風呂場だ、濁って見えないとはいえお湯の中は二人とも裸で、そして二人きりだ。 いつもなら二人でベッドにいようものならものすごく緊張してガチガチになっているのに、なんとも無防備で、こっちのほうが平然となんてしていられない気分になってしまう。 お前は本当、めちゃくちゃ可愛い。 今、抱きしめたらお前はどんな表情をみせてくれるんだ? そう、思ったその時だった。 郁の手を滑ったアヒル隊長が堂上のほうに飛んできたのは。 「「あっ!」」 堂上がとっさに手をのばしたのと郁が体を堂上のほうへ傾けたのは同時だった、ふにゃりとした控え目だが柔らかな感触。 「ぎゃっ」 らしいといえばらしい悲鳴をあげてあわてて郁が胸を腕でガードし背を向ける、アヒルに夢中で接近していたことに気がつかなかったのだろうか、あわてて背を向けたその位置もまだ近かった。 こつん・・・背に当たる固い感触。 「え・・・・・」 郁がいけないのだ、そんな真赤になって恥じらうから。 そんな潤んだ瞳で誘うから。 「郁」 熱っぽい吐息のような声で名を呼び、そのまま胸に抱きこむように抱きしめた。 散々可愛いものを見せつけられてもう抑えが利かない。 「教官!ここお風呂ですよ!」 慌てたように抗議の声を上げる郁だが、押しのけようとする腕はびくともしない。 宥めるようにか、そっと背中を滑る唇の感触に肌が粟立ち嬌声のような悲鳴が漏れだした。 「ひゃっ教官だめですってば」 「だめか?」 いいつつも堂上の手も唇も動きを止めない、郁はお湯にのぼせているのか堂上にのぼせているのかもうわからなくなっていた。 あっというまに掌が郁の顔を捉え、そのまま唇が降ってくる。 ちゅっちゅっと音を立て堂上が郁の唇を貪り、腕は郁をきつく抱き締めた。 縋りつくように腕を回して体を預ける郁が愛しい、 ささやかな膨らみにそっと手を伸ばしたり、ゆるりと足の内側をなでたりするたびに、悩ましい表情と声を零すことにいつも以上に興奮する。 明るい風呂場で響く嬌声、いつもよりはっきりと見える融けた表情の郁。 「あぁっ教官、だめですぅ」 差し込んだ指がお湯ではないぬるりとした感触を得たとき、何かの糸が切れた気がした。 余裕もなく、中を指の腹でこすりあげ反応を貪る。 こらえ切れない声があふれだし、涙を浮かべて堂上に何かを訴えているかのようだ。 でも、止まらない。もっと郁の泣き顔が見たい。 酷く嗜虐的な思考に考えが染まりそうになったときに、かこーんと音がして、ハッとその正体を見つめる。 「・・・アヒル隊長」 二人はさっきまでの空気を忘れてしまったかのように吹き出した。 「もう、教官のえっち」 「そういうな、お前が可愛いから悪い」 目を向いて固まる郁に苦笑いを浮かべる。 「続きは風呂からあがってからな」 耳朶に口をつけるような位置で囁くと郁は真っ赤になった。 「は、はい・・・でもあの・・・見ないでくださぃ恥ずかしいですー」 まだタオルで目隠しは必要なようだ、これがいったいいつになったらとれるのやら。 しかし、このまましてしまわなくてよかった、こんな所じゃ避妊具も取りに行けないしと我に帰ってから安堵した堂上であった。 Fin
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1スレ目 212-213 「……堂上教官」 自分でもびっくりするぐらい甘ったるい声は、それなりに慣れた今でもやっぱり恥かしい。 でも口を塞ぎたくても両手は大きな背中を掴んでいるせいで物理的に無理で、どんなに我慢しようと口を塞いでも、それを見越したような動きをされるせいで叶わない。 絶対、堂上教官、分かっててやってるんだと思うんだけど──。 精一杯睨んだところで、妙に意地の悪い堂上はあえて郁を追い込む節がある。 今も脚に当たる熱い感触に郁はテンパる寸前だ。 本当はここで余裕の一つでもかましたいのだが、現実はそう簡単に思い通りにはなってくれない。 する前まではあれやこれや色々と考えているというのに、堂上の大きな 手の平で身体のいたるところを触られると、それだけで郁の余裕は吹っ飛んでしまうのだ。 汗ばんだ頬にへばりついた髪を丁寧にはらわれ目元に口付けをされてしまうと、思わず背中に回していた腕に力を込め、シャツをぎゅっと握り締めてしまった。 「そ、そんなこと、しなくていいですからっ!」 「いいだろ、俺がしたいからしてるんだ」 ううっと郁は口を噤むしかない。 どうしてそんな痒い台詞を真顔で言えるのか── 普段の仏頂面からは想像も出来ない甘い台詞であることに気付いていないだろうか。 でもそんな台詞一つで胸を鷲掴みにされてしまうぐらい、ときめいてしまう自分もいて── 郁は堂上を好きな自分を嫌でも自覚する。 「それから教官はやめろ。教え子に手を出しているようで寝覚めが悪い」 一瞬意味が分からずポカンとしてしまったが、それをはぐらかそうとしていると思ったのか堂上は一際面白くなさそうな顔をした。 ようやく、ああ呼び方かと分かったものの、 「でも教官は教官だし……」 今更、別の呼び名なんて考えもしなかった。 呼び捨てなんかしたら一喝されるだろうし── 普通ならば「さん付け」だろうか。 堂上さん?……どうもしっくりこない。 こんな状態で真剣に悩むのも可笑しな話だが、まっすぐに見下ろしてる堂上の表情は次第に険しくなっていく様は無言の圧力といってもいい。 「じゃ、じゃあ、堂上ニ正!!」 無い知恵を捻り出した郁の改心の妙案は、堂上の不機嫌さに拍車をかけただけだった。 「…………お前、人が下手に出てると思って、からかっているんじゃないだろうな」 「ええっ!?だって手塚はそう呼んでるじゃないですか!!」 手塚は良くてどうして自分は駄目なのか、これほど真剣に考えたというのに、どうして堂上には伝わらないのか郁は全く分からない。 そもそも堂上の望みはそういう類でないということすら郁は分かっていないのだから始末が悪い。 「それぐらい自分で考えろ。これから教官って呼んだら失点一だ」 「し、失点って!?」 「五つ溜まったら仕置きだからな、覚悟しとけ」 「む、無理です、無理っ!」 堂上教官──と口にしてしまった時には既に遅かった。 今のは無効だと言う前に首筋をきつく吸われてしまった。 「や、やだっ!そんなところじゃ誰かに見られ──」 それ以上は言葉にならなかった。じりじりと競り上がるような快感は郁に考えることすら出来なくさせてしまう。 鬱血したであろう跡を舌でなぞられ、首筋を滑り落ちるように舌を這われる。 ささやかな胸の膨らみを大きな手の平で捏ねるように触れられ、つんと立ち上がった蕾を吸われてしまった。 郁が堪らず身体を反らせると、アーチを描くように愛撫はどんどん下に降りていく。 ぴたりと閉じてあった脚の付け根は自分自身でも判るぐらいに濡れていて、それが羞恥を煽る。 反射的に止めて欲しいと郁は堂上の短い髪をぎゅっと掴んでしまったが、逆に脚に力は入らなくて堂上の求めに応じてあっさりと広げてしまった。 見られているのだと自覚すると身体の芯からとろりとしたものが零れ落ちてきた。 それを堂上は指ですくいとると、淡い恥毛に擦り付けるように動かし始めた。 「やぁっ、ああっ、教官──っ、」 「これで失点ニだな」 堂上は短く答えると、潤んだ肉洞にいきなり指を捻じ込み、入り口付近を引っかいてきた。 溢れ出す愛液はかき出されるようにいやらしい音を奏でてシーツに染みを作る。 また無意識に教官と呼んでしまい、今度はぷくりと膨らんだ花芽を探り当てられ甘噛みされた。 それが引き金となって教官と呼び──失点はあっという間に五つを軽く超えてしまった。 五つ溜まったら仕置き、などと堂上は言っていたが、郁からしてみれば既にこの状態が仕置きといってもいい。 満たされたい場所は決して満たされず、それを焦らすように快楽を与えられているのだから。 もう頭の中は仕置きなんてことよりも、早く満たされたい気持ちでいっぱいだった。 「堂上教官っ、早く──」 郁は泣きじゃくりながらそう懇願すると堂上の指が引き抜かれた。 それでも身体はまるで高熱を出したように熱く、燻っている。 実際は僅かな時間だったのかもしれないが、その僅かな間は郁にとっては永遠に続くのではないかと思うぐらいに長く感じられた。 「…………そんなに俺が欲しいのか?」 その声色にからかいは読み取れなかった。 しかしどうして堂上はあえて今更そんなことを訊いてきたかなど、今の郁に考える余裕はなかった。 涙で滲んだ視界はぼんやりとしていて堂上の顔色も伺えない。 「堂上教官じゃなきゃ嫌です」 すると顔に陰がさしたことに郁は気付いた。 それが堂上の身体が明かりを遮るように覆い被さっているせいなのだが、そうだと気付く前に郁は無意識に堂上の背中に手を回し、ぎゅっと握り締めた。 自分より背の低い堂上の背中は大きくて、それがとても安心する。 縋るように抱きつくと、待ち焦がれていたものにようやく満たされた。 「あっ、あぁん……っ!」 熱いそれがじわじわと郁の中に入ってくる。 気持ち良いところを全部押し上げるように入ってくると郁の身体は大きく震えた。 焦らされたせいでいつもより感じているのだろうか、繋がっているだけで十分に気持ちが良い。 「堂上教官っ、教官っ……はっ、ん、んっ……」 お世辞にも上手いとはいえない唇を重ねるだけのキスを何度も繰り返した。 堂上も興奮しているのだろうか、微かに漏れる声が熱っぽく郁の肌を震えさせる。 あの堂上をこんな風に乱してしいるのは他でもない自分だということが嬉しくて、もっともっと自分の知らない堂上を知りたいと郁は思う。 堂上はどんな気持ちで自分を抱いているのだろう── 素面でも決して訊けないことではあるが、同じだったら嬉しい。 直線的に押し上げられる動きと奥深くを探られる緩慢な動きに、郁は身体を戦慄かせ受け入れた。 はしたない声を抑えきれず、更に堂上を求めるように自ら身体を押し付けてしまう。 「…………もういきそうなのか?」 それに素直に頷いた。 きっととんでもない言葉も口にしてしまっただろうが、それを気に止める余裕もない。 また「教官」と呼んでしまったが、もう堂上は何も言ってこなかった。 逆に蕩けるような口付けをしてくれて、郁は夢中でそれに応えた。 「ん、んん……っ、」 腰を掴まれ、今までないほど堂上は激しく腰を打ちつける。 最も深い場所でどくんと何かが弾ける感覚に郁も大きく身体を震わせた。 「────郁、」 堂上が郁の名前を呼ぶことは滅多にない。 だけれど終わった時は必ず名前で呼んでくれて、それが郁は密かに嬉しかったりする。 もしかして堂上教官も同じなのかな……教官って呼ぶなって……それって──。 それ以上は強い眠気に襲われ考えられなくなってしまった。 もう少しで答えが手に入りそうなのに、頭を撫でる堂上の手はあまりにも心地良くて、それをさせてくれなかった。 案の定、目が覚めた時は綺麗さっぱり忘れてしまっていて、 「ああっ、もう少しで分かりそうだったのに……!」 「何がだ」 「呼び方ですよ! 教官が頭さえ撫でなければ絶対分かったはず!!」 「バッ……!八つ当たりも大概にしろっ!この愚鈍!!」 一際大きな雷を落とした堂上は何故かそれ以上の罵倒は続かず、そっぽを向いてしまった。 大いに残念がる郁は、その堂上の顔が赤く染まっていたことになど気付くはずもなかった。
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1スレ目 217-218 すったもんだの末、落ち着くところに落ち着いた郁と堂上の関係はといえば以前とさして変わりはなく、あえて変わったことといえば時々二人で外食をしているぐらいだろうか。 とはいえ出向く店は今時の居酒屋レストランで、小牧や手塚、柴崎など も参加するので二人っきりというのは数えるぐらいしかないのだが、その僅かな一時を堂上を密かに気に入っていた。 酒に弱い郁は進んで飲むことはないが、ビール一杯で頬を赤くし、ほろ酔い気分の郁は滅多に見られるものではなく、それを肴に酒を飲むのが堂上の密かな楽しみだった。 「堂上教官、これ」 居酒屋の個室に通されるなり、郁はいきなり包みを差し出してきた。 受け取る理由が見当たらない堂上は思わず怪訝な顔をすると、郁ははぐらかされたと思ったのか子供のように唇を尖らせ、 「もうすぐ教官の誕生日じゃないですか」 だからと強引に渡されてしまった包みを堂上はまじまじと見てしまった。 ああそうか誕生日か……などと冷静に考えると、途端に顔が熱くなった。 三十路過ぎて誕生日で嬉しいと思ってしまうことが恥かしくて仕方ないのだが、それでも誕生日にプレゼントを貰うという行為自体はやはり嬉しい。 その相手が特別ならば尚更だ。 「……すまん」 本来ならば「ありがとう」と言うべきところをそんな言葉で誤魔化してし まう自分が情けない。 これが小牧ならばしれっとした顔で郁が喜ぶような言葉を口に出せるだろうに。 無意識に苦い顔をしてしまった堂上に、郁は他に思うことがあるのか、ちらちらと様子を伺うように見ている。 どうしたと訊くと、普段の紋切り口調からは想像も出来ないようなしおらしい態度で、 「えっと、その……続きがあって……」 まず包みを開けるようにせがまれ、開けてみると中身は紺色のストライプ柄のネクタイが入っていた。 「男の人にあげるものってそれぐらいしか思い浮かばなくて……って、そうじゃなくて、」 口をつけば言い訳ばかりしてしまうらしく、郁は意を決したように深呼吸をしすると、 「それっ、あたしに締めさせて欲しいんです!」 その言葉で郁が何をしたいのか堂上も分かったが──ちょっと待て、お前、その光景は傍から見たら新婚の朝の一場面──などと堂上が冷静に突っ込めるはずもなく、 「…………ダメですか?」 更に止めとばかりに上目遣いで訊かれてしまえば断れるはずもなかった。 これは別に変な意味合いはないんだ、ただこいつがしたいが為にしているだけであって、決してさっき考えていたような光景を望んでいたつもりはなくて──と一人勝手に言い訳をしている時点で冷静でないことは堂上も理解している。 だが、真向かいに座り真剣な眼差しでこちらを見ている郁を前に冷静でいられるはずもない。 俯き加減で自分を見つめる郁の姿などというものは滅多に見られるものではなく、酒が入っていない状態で良かったと堂上は心の底から思った。 少しでも入っていたら、うっかり抱きしめてしまったに違いない。 いやいやいや何を考えてんだ俺は──堂上は慌ててそんな考えを捨て去 るように頭を振り、 「おい、本当に大丈夫なのか?」 じっとしていると、ろくでもないことばかり思いつきそうで、堂上はそう声をかけてみたのだが、 「大丈夫です!この日の為に柴崎に練習相手になってもらったんですから、教官は黙って見てて下さい」 口調は強気そのものだが、郁の手つきはかなり怪しい。 しかも練習相手が柴崎とは……これでは筒抜けもいいところだ。 これを仕事着に付ければ付けたで柴崎にからかわれ、付けなければ付けなければで郁に詰め寄られる自分の姿が安易に想像できてしまい、堂上は無意識に溜息を吐いてしまった。 次の瞬間、思いっきり、首を圧迫された。 反射的に郁の手元を抑えると、あまりの息苦しさから咳き込んでしまった。 「バッ──何やってんだ、お前っ!!」 「えっ? あ、あれっ、おかしいな」 手元で順番を確認し始める郁は、自分のやからしたことの大きさに全く気付いていないようだ。 「勢いよくネクタイを引っ張る奴が何処にいるんだ!俺を絞め殺すつもりかっ!!」 「で、でも、ちょっときつく締めた方が見た目が格好良くなるって」 「限度を考えろ! 限度を!!」 郁の火事場の馬鹿力っぷりがどれほどかは堂上も身を持って知っている。 このままでは本気で絞め殺されかねないような気がして、もういいと郁の手を制止すると郁は頬を膨らませ、 「ちょっと力が入っちゃっただけじゃないですか。今度は気をつけますから!」 あれのどこがちょっとなんだ、本気で生命の危機を感じたぞ、俺は。 誕生日の贈り物に貰ったネクタイで絞殺事件など──今時、三流のサスペンス小説でもありえない展開だ。 全く反省の色がない郁は取り上げられたネクタイを再び渡すように手を伸ばしてきた。 本質が善意なだけに性質が悪いとは今の郁のようなことを指すのかもしれない。 結局お互いに引かず、堂上が指示し郁はそれに従うことで折り合いをつけたのだが──その光景が傍から見れば実に微笑ましいものになっていたなど、当の本人達が気付くはずもなかった。 居酒屋絞殺未遂事件・完
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1スレ目 369,371-372 これってプロポーズ? 付き合い始めて1年と少しがたったある日の残業のことだった―― 「堂上教官。このファイルはここでいいですか?」 「ああ」 郁はファイル整理、堂上はデスクで書類を作成している。 その時郁の背中の後ろで、パソコンのキーボードを打つ手が止まった。 「郁」 「なんですか?」 付き合い始めてから堂上は笠原のことを“郁”と呼ぶ。 とても自然に。もちろん仕事中は“笠原”で通すし、失敗をすれば拳骨が飛ぶことも昔と変わらない(よく小牧はそれを笑いながらからかう)。 ただ仕事の時間が終わり、2人きりになると(ならなくても)呼び方は“郁”に変わる。 それを郁はどっかにスイッチがあるのかなーなどと少し不思議に思っているのだった。 「お前、俺のことを呼ぶ時、今でも堂上教官なんだな」 一瞬ギクッとした。 前々から 「俺はお前の教官じゃないし、せめて2人でいるときぐらい名前で呼んでくれないか」 と言われている。 「分かりました」 とは言うものの、結局次の日にはまたもや“堂上教官”になってしまうのだ。 でもその打診もここしばらく来ていなかった。 なのになんで今更。 「だ、だって堂上教官は堂上教官ですよ!他に何か呼び方がありますか?」 「お前、俺の下の名前を知らないわけじゃないだろう?」 「篤、ですよね」 「知っているならそう呼べ、アホウ」 振り返った勢いついでで言った言葉は、堂上の冷静なる言葉にそれは打ち砕かれてしまった。 「別に困ることってないじゃないですか。一応言われたとおりベッドの中じゃ教官とは呼びませんし」 「ア、アホかお前は!ここは図書館だぞ。口を慎め」 「すいません」 堂上の頬と耳が一気に赤くなった。 5歳上の男性に対して言うのは憚られるし絶対拳骨が飛んでくるから言えないが、可愛いなと思った。 「第一困ることだってあるだろう」 「例えば?」 振り返ってファイル整理を再開させた。 1番上の棚に堂上の手は届かない。 少し困らせてやろうといういたずら心から、堂上がよく使うファイルをそこに置こうと手を伸ばしたその時だった。 「いずれお前も堂上になるんだぞ。それでもお前は俺を堂上教官と呼ぶのか」 「あ、そうですよね。それは変ですよねー」 そういって笑ったのもつかの間。 「って、え?」 いずれお前も堂上になるんだぞ。 確かにその人はそう言った。 手からファイルが滑り落ちる。 「そ、それって…」 ぎこちなく後ろを振り返ると、横を向き、耳が赤くなっている堂上がいる。 「俺は同じことは2度言わん。後は自分で考えろ」 ともすると不機嫌ともとれるような態度である。 2人の間にかすかな気まずい雰囲気が流れる。 とにかく落ちたファイルを拾い上げた郁は、今の言葉をもう1度頭の中で繰り返した。 『いずれお前も堂上になるんだぞ。』 それはつまり、よく考えても、よく考えなくても、及ぶ先は結婚の言葉である。 つまりこれって…。 改めてそう考えると、またもや郁の胸の鼓動は激しく打たれる。 「帰る」 堂上はその言葉と同時に立ち上がり、足早に歩き始めた。 「あ、待ってください。あのー…返事は?」 「いらん!あれは事故だ。つい口が滑っただけだ。それに」 「それに?」 出て行き様にこう続けた。 「いわゆる給料の3か月分というのをまだ買ってない」 堂上が帰ってもしばらく郁はその場から動けなかった。 考えれば考えるほど頬が紅潮する。顔がにやける。 (ああいうことを恥ずかしげもなく言っちゃう辺り王子様だなー。篤さんは。) 頭の中でそう呟いてみるが、背筋がむずがゆくなる。 やっぱりしばらくは“堂上教官”から抜け出せそうにないなと思った郁であった。