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「ビクッ!・・・!!」 「・・・殻衣。普通にしてろ。気取られるな」 「固地先輩。・・・。気付いていたんでしたら、教えてくださいよぉ」 「・・・殻衣っち?どうしたの?」 焔火が、隣に歩く殻衣の表情が青ざめているのに気が付いた。その証拠に、額には暑さによるものでは無い、冷や汗の類が流れていた。 「・・・私達を尾行している人達が居る」 「えぇっ!?」 「焔火!お前も普通にしていろ」 「は、はい!・・・でも、どうやってわかったの?確か、殻衣っちの能力って・・・」 「『土砂人狼』。殻衣ちゃんは、土砂なんかを材料に人形を作り出すことができる」 「う、うん。それは、昨日殻衣っちに教えてもらったんだけど・・・。そんなこともできるんだなぁって・・・」 「私も、風紀委員になるまではこんなことはできなかったよ?・・・。全ては固地先輩の地獄のようなトレーニングのせいで。・・・。ううぅっ!」 「殻衣っち!?地獄!?」 「それは、俺から説明してやろう」 何か嫌なことでも思い出したのか、殻衣が手で顔を覆い俯いてしまう。そんな殻衣に変わって、疑問符だらけの焔火に事情を説明する固地。 「殻衣は、今年の4月に風紀委員として178支部へ入って来た。その能力の実用性の高さから、俺は殻衣にあるトレーニングを課したのだ!」 「トレーニング?ど、どんなトレーニングを?」 「『土砂人狼』の材料・・・つまりこの地面を歩く者達をそれぞれ識別するトレーニングだ。 具体的には、体重の掛け方や歩幅、足を出す時間的な間隔等から特定の人物を識別すると言った所か。尾行を見破る時等に活用できるように」 『土砂人狼』は、殻衣から半径5m内に材料があれば作成可能。そして、その操作範囲は殻衣を中心に半径217m内である。 固地が着目したのは、『殻衣から半径5m内に材料があれば作成可能』という部分だった。 ここで言う『作成』とは、『支配下に置く』と言い換えることができる。 別に『人形を作成する』という結果が無くても、材料を支配下に置くこと自体は元から可能だったのだ。 「そこで、俺は考えた。人間とは、もれなく地面に足を着けて生きている生き物だ。 ならば、その地面を材料とする『土砂人狼』の応用として、支配下に置いた地面を歩く人間を識別することは可能ではないかとな!」 殻衣自身、当初はそんなことは不可能だと渋っていた。彼女が生み出せる『土砂人狼』は最大で74体で、人形自体に知覚は無い。 だが、操作者である殻衣は人形やその作成及び形成にかかる材料の圧縮度合いや外圧等を“認識”することができる。 確かに殻衣が人形を全てコントロールしている以上、人形が破壊された等の衝撃は操作者である殻衣にも“認識”として伝わる。 しかし、それを人形も作成・形成しない材料状態で、しかも人間の歩く歩幅や時間的間隔を識別することに応用するというのは、とてもじゃ無いが不可能。 そう、殻衣は考えていた。 「あの。・・・。あの地獄のようなトレーニングは。・・・。もう嫌ぁ・・・」 そんな消極的に物事を考える殻衣に、固地が上司命令によって無理矢理にトレーニングを課したのである。 固地は、風紀委員の伝手を活かして各所から様々な資料を収集し、嫌がる殻衣に無理矢理押し付けた。 参考書、映像データ、研究資料、果ては、約1万人にも上る人間の足音とその衝撃の度合いを録音・解説する教材まで取り寄せ、殻衣に見させ、読ませ、聞かせ続けた。 固地の指導の下、実地訓練も数多くこなした(こなされた)。これも、当然無理矢理である。 人形を作成・形成する各段階において、様々な圧力(衝撃)を与えることで殻衣自身の“認識”の引き出しを増やすために、 1日1000体もの人形を作成+破壊し、それによって得た“認識”を詳細に報告するよう義務付けられた(毎日)。もし、虚偽の報告をしようものなら固地のカミナリが落ちる。 しかも、1000体に届かなかった分は翌日に持ち越しであったため、殻衣は毎日泣きながら必死に作っては壊し、作っては壊し続けた。 ある時は、地面に耳を着けて周囲を歩く人の足音(衝撃)を実際に体感することで、『土砂人狼』を操作する時の感覚にフィードバックを試みたり、 実際に自分の体を人の足で踏まれてみたり(もちろん、踏むのは固地)etc。 これ等過酷極まるトレーニングを、殻衣は通常の学業や風紀委員活動と平行してこなした。 よくノイローゼにならなかったなと殻衣自身が思うくらい、トレーニングは過酷に過酷を極めた。 そんな地獄が約3ヶ月も続き・・・殻衣は遂に識別方法を会得したのである(本人は心底心外)。 「俺が何時も殻衣を外回りへ連れ出したのも、それが目的の1つだったからな。やはり、前線での実地訓練は効果が大きい。テストも何回にも渡って繰り返したしな。 フッ、殻衣も今では自主的に人間観察をしているくらいだからな。俺の部下の成長を願う気持ちが伝わったようで何よりだ!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 焔火、殻衣、真面は、固地の発言に反論する気力も無い。あんたがそう思うんだったらそうなんだろ?というくらいの気持ちしか湧いて来ない。 「・・・・・・え、え~と。そ、その私達を尾行している奴ってどんな感じなの、殻衣っち?」 何とか気を取り直した焔火が、尾行を看破した殻衣に尋ねる。 「え、え~と・・・」 「殻衣。その回答は、もう少し後でいい。次のチェックポイントが見えて来た。そこで“判断する”」 回答しようとした殻衣を遮り、固地は焔火達をチェックポイントである路地裏へ誘導する。 「真面!俺達を尾行している奴等が居るようだからな、さっさと調査を終わらせるぞ!」 「りょ、了解です!」 「殻衣!焔火!今回はお前達も一緒に来い。あそこなら、人目にも付き難い」 「「は、はい!」」 固地の指示に従い、3人は路地裏へ入り込む。固地と真面が迅速に調査を進めている間に、殻衣が尾行者の同行を探る。 「やっぱり。・・・。私達を尾行しているのは2人。・・・。歩幅や衝撃の大きさから推測すると・・・男と女。・・・。その内の1人は、透視系能力者の可能性がある」 「・・・理由は?」 「2人は今、ある地点で立ち止まっているわ。・・・。それも、その地点からじゃあ私達の居場所は見えない。・・・。 そもそも、この2人はさっきの街道でも私達と100m程の距離を保ったまま尾行していたわ。・・・。 あの人混みの中で100mも対象者から離れると、見失う危険性が大きいのにも関わらず」 「・・・すごいね、殻衣っち。そんなことまでわかるんだ」 「・・・その代わりすごい集中力を使うから、同時に戦闘をこなすなんてことは無理だけど」 「俺も、機械とか使って上空から監視されてるかもって思ってこの手鏡とか使ってそれとなく観察していたけど、何もなかったよ。怪しい“電波”も無かったし」 「(・・・み、皆やることやってる・・・!!うううぅぅ・・・!!)」 殻衣の見立てを真面が補足している様を見て、焔火は焦る。どうしても焦ってしまう。自分にも何かできることはないか。考えて・・・しかし思い付かない。 尾行された時の対処方法等、焔火は真剣に考えたことが無かったからである。 「固地先輩って、殻衣ちゃんよりも早く尾行に気が付いていましたよね?やっぱり『水昇蒸降』ですか?」 「あぁ」 「『水昇蒸降』?」 「・・・そういえば、お前にはまだ教えてなかったな」 真面と焔火の言葉を受けて、固地は調査がてら自身の能力と、尾行を見破った経緯を説明する。 「『水昇蒸降』。それが、俺の能力だ。レベル3に該当する能力で、水を水蒸気に、水蒸気を水に変換して操作する能力だ。 逆に言えば、水を水のまま、水蒸気を水蒸気のまま操作するのは不可能という面倒臭い性質を持っている」 「・・・その能力でどうやって・・・」 「少しは考えたらどうだ、落ちこぼれ?お前のその頭は何のためにある?」 「うっ!!・・・う~ん・・・・・・」 焔火は考える。固地が言った『水昇蒸降』の性質。それは、水や水蒸気が無ければ発動できない能力だ。尾行に感付く応用法があったとしても、水や水蒸気が無ければ無理だ。 しかも、水を水として、水蒸気を水蒸気として操作することは不可能。どちらを使うにしろ、どこかで水ないし水蒸気を変換した場所が・・・ 「・・・・・・あっ!!」 「・・・言ってみろ」 それは、自分達が着替えた場所。『根焼』の裏手にて、固地は水場に行っていた。“水がある場所”に。 「す、水蒸気を操作し、周囲の人達に水蒸気を纏わせることで尾行に気付いた・・・ですか?」 「・・・簡単に言えばその通りだ」 焔火の回答に、一応の及第点を付けた固地は説明を再開する。 「正確には、『水昇蒸降』によって水を水蒸気に変え、後方に向かって間隔を空けながら放出していた。 別に、水蒸気を纏わせても人物を認識できるわけじゃ無い。俺の操作範囲を超えたらそれは唯の水蒸気となり、人間に纏わせることも不可能になる。 だが、俺の操作範囲にあるのなら、俺はその水蒸気の位置を把握できる。この応用により、俺は尾行を見破った。 まぁ、殻衣程の認識はできないが。フッ、さすがは俺の部下だ、殻衣」 「・・・あ。・・・。ありがとうございます」 固地の思わぬ評価に、殻衣は虚を突かれながらも返事をする。 「焔火!ちなみに、お前はその手の応用はできるのか?例えば、電磁波による物体感知やジャミングを・・・できていれば気付いてるか・・・」 「・・・すみません」 「いや、これに関しては俺が悪かった。現状では不可能なことを、奴隷に押し付けた主人の俺がな」 「・・・・・・すみません」 『電撃使い』には、電気の他にも電波や磁力を操るタイプもおり、その応用方法は多岐に渡る。 多種多様な能力。それが、『電撃使い』としての真骨頂。その中に属する1人、焔火緋花はその手の応用に欠けるタイプだった。 電気で筋肉を動かしたり軽い電撃の槍を放つ等はできるものの、磁力や電波はうまく扱えず、固地の言う物体感知やジャミング等の類はサッパリだった。 「能力というのは先天的な才能、つまり素質等に依る所が大きい。だが、その伸ばし方や方向性を見極めることは後天的な才能、つまり意識の力が大きい。 例えば、風紀委員という環境と自分の能力を照らし合わせて、職務に応じた応用を思い付いたり、ある目的のために自分の能力を磨いたりする。 闇雲に伸ばせばいいというもんじゃ無い。目的あってこその能力研磨だ」 そう言って、固地は焔火を睨み付ける。彼も彼なりに焔火に対して怒っているのだ。明確な目的意識を持たない、焔火の怠慢に。 「焔火!お前は、風紀委員として自分の能力をどう活かすつもりだ?唯単に、能力による敵の制圧だけに活かすつもりか? そういうのを何と言うか知っているか?宝の持ち腐れと言うんだよ。お前には、まだまだ色んな方向に才能を伸ばせる余地があるかもしれない。 なのに、当のお前の意識は自分の素質に無関心だ。お前は違うと言い張るかもしれんが、俺からすれば無頓着だと判断せざるを得ない」 「・・・!!」 「そんな調子では、何時まで立っても“風紀委員もどき”から脱却できんぞ?何でもいい。少しは自分の能力についても思考を張り巡らせ! お前は、自分の素質をお前自身の手で潰している!それは、自滅行為だ。真面も殻衣も、徐々にではあるが自分のスタイルというものを確立してきている。 同年代の人間に負けたくなければ・・・本物の風紀委員になりたければ、もっと真剣になれ!!」 「・・・・・肝に銘じます」 固地の言葉は正しい。焔火は俯き、頭を垂れるしかなかった。 「さて、ここも異常は無かった。では・・・これより尾行者を潰す作戦に切り替える」 「・・・どういう方法で行くんですか?やっぱり、殻衣ちゃんの能力で?」 「それは、歩きがてら説明しよう。奴等を潰すのならば、“直線距離”で仕留められる街道がいいしな」 ということで、固地、焔火、真面、殻衣は街道に戻り先と変わらず人混みの中を歩いている。尾行者も一緒に。 「殻衣の推測通り、片方が透視系能力者とすれば・・・」 「もう一方は、その護衛的な役割になりますね。戦闘系の能力者の可能性が十分にある・・・。俺も動きましょうか?」 「いや。ここは、お前以上の適役に任せるとしよう」 「適役?・・・もしかして焔火ちゃんですか?」 「わ、私ですか!?」 固地と真面の会話に自分の名前が出て来た焔火は、驚きをもって固地達に顔を向ける。 「そうだ。能力を使ったお前の身体能力の高さは聞いている。お前なら、高速で動く『土砂人狼』に乗るのが初めてでも何とかなるだろう」 「・・・私でいいんですか?」 「今のお前には、それくらいしかとりえが無いだろうが。今日の同行で、お前は一体何をした?成果らしい成果を挙げたか?フッ、何もできていないだろう? これは、俺の温情だ。落ちこぼれが活躍する機会を恵んでやったんだ。感謝の言葉の1つあってもいいくらいだぞ?」 固地の嘲笑。だが、確かにこれはチャンスでもある。自分がここに居る意味を少しでも見出すための・・・これは固地がくれた機会。だから、焔火は即断する。 「わかりました。必ず、尾行者を捕まえてみせます!絶対に!!・・・固地先輩、ありがとうございます・・・!!」 「・・・フン」 焔火の謝意に固地は軽く鼻を鳴らすに留め、現状整理や仕掛けの詳細を詰めて行く。 「尾行者は『ブラックウィザード』と関係がある可能性が高い。 その前提で話すが、タイミング的に考えて“今”俺達を尾行しているということは、奴等は俺達の動きに勘付いているということだ」 「・・・もしかして、以前から風紀委員が監視状態にあったっていう可能性もあるんですかね?今日の風紀委員会も・・・」 「加えて警備員の動きもな。これは、由々しき問題だ。風紀委員会に報告し、然るべき対処を取らんとな。 他の支部にも、奴等の監視や尾行の類が張り付いている可能性も否定できない」 「・・・!!」 「固地先輩。・・・。仕掛けのタイミングはどうします?」 「今少し待て。尾行している人間を、何とかして油断させなければならない。例えば、俺達が誰かの応対をしているとか・・・な。 それに、連中の周囲に居る人の群れが薄くなった時を狙わんとな。お前の『土砂人狼』との兼ね合いもある。わかっているとは思うが・・・トチるなよ?」 「・・・!!・・・。ぜ、善処します」 「焔火!俺が合図したら、すぐに動け。いいな?」 「わ、わかりました!」 焔火を含めた178支部の面々は、次第に緊張の色合いを強めて行く。勝負は一度切り。成功か、失敗か。2つに・・・1つ。 「!!・・・フッ。丁度いい“カモ”が居たぞ。あいつ等を使わせてもらおう」 「“カモ”?ど、何処に・・・!!!」 いち早く固地が見付けた“カモ”に、焔火も視線を向ける。その先に居たのは・・・ continue…?
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「さて・・・気合い入れて行きますか!!網枷先輩は“遅れる”みたいだし」 時刻は午後7時40分。第7学区に隣接する第15学区の道路を、176支部の焔火緋花は1人歩いていた。今日の捜査コースは第7学区でも西南であったために、作戦実行には都合が良かった。 しかも、今歩いているのは数日前に真面達と製作した独自コースに含まれていたため、迷うことも無かった・・・というか先輩から現場へ近付く経路を指示されていた。 そんな彼女は、10数分前に今回行動を共にする予定であった網枷から連絡を受けていた。その時のやり取りは以下の通り。 『もしもし。焔火か?』 『網枷先輩。今こっちに向かってるんですか?』 『それが、近隣で爆発事故が起きててな。成瀬台に駐在している警備員も応援に向かったりでバタバタしてるんだ。えっと・・・だから・・・』 『・・・クスッ。わーかりました。私1人で何とかしてみせますよ』 『すまん。言い出しっぺの癖に、肝心な時に・・・』 『き、気にしないで下さい!!仕方無いモノは仕方無いですよ!!』 『・・・1人で大丈夫か?』 『ちゃんと気を付けます!』 『・・・どうかな』 『あー!!信じてませんね!?私だって、今まで色々頑張って来たんですから!!今度こそ!!』 『・・・わかった。“ヒーロー”の言葉は信じないとな』 『ッッ!!!』 『焔火。“唯見て来ましただけじゃ駄目だ。掴める情報はしっかり掴まないと”。その上で・・・頑張れ。期待してる。・・・頼む』 『ゴクッ!・・・了解しました!!必ずや有益な情報を掴んで帰ります!!』 これは・・・もちろん網枷が成瀬台を離脱した後に焔火に連絡をしたモノである。 「こっちは1人。相手は・・・きっと多数。細心の注意を払わないと!」 取引現場までには、まだ少々の距離がある。焔火は、いよいよ現場に近付いて来たことも手伝って慎重な足取りで進んで行く。 その途上で、彼女の瞳に前方のバス停が映る。時間的にここに止まるとしたら、それは塾に通う生徒が使っている臨時バスだろう。 以前、固地の指示(+自発的意見)により1日で頭に叩き込む羽目になった学園都市中のバス停の場所及び時刻表。 当初は最終時刻だけを覚えていたが、中々進捗しない現状を鑑みて午後6時以降の時刻表全てを3日で覚えることとなり、焔火達は頭痛を抱えながらも懸命に覚え切った。 「(時間帯的に、もうすぐ臨時バスが来る。あぁ・・・あれで、殻衣ちゃんの気持ちがわかったような気がする。確かに地獄だわ~)」 当時の過酷さを思い出した焔火は、思わず背筋が震えたのを感じた。そんな過酷な指示を与えた先輩・・・固地債鬼は現在休暇中である。 「(今頃何やってるんだろう、固地先輩?あの人のことだから、休暇なんてそっちのけで隠れて仕事してそうだけど。私への指導も有耶無耶になっちゃったなぁ・・・・・・・・・)」 悪辣非道な先輩が休暇に身を委ねている姿を、焔火は想像できなかった。そして、同時にこう思った。また・・・思ってしまった。『残念だ』・・・と。 「(・・・!!何で『残念だ』って今でも思っちゃうんだろう?私のせいで固地先輩に負担が掛かっていた一面はあると思う。迷惑を掛けていたのは間違いないのに・・・。 そりゃ、指導の仕方とか罵詈雑言とかにはムカついてるけど・・・。精神フルボッコにされて腹が立っているけど・・・。う~ん・・・)」 焔火は気付かない。それは、不安の表れなのだということを。“今”の自分が、果たして最善な行動を取れるのか?結果を出せるのか?間違わないでいられるか? それ等無意識に浮かぶ不安を一蹴する存在が“風紀委員の『悪鬼』”であると自分自身が捉えていることに、本当は余裕が無い“成長途上”の少女は気が付かない。 プ~!! それは、焔火の記憶通りにバス停へ到着した臨時バスのドアが開く音。その音を受けて我に返った焔火の目に・・・ 「・・・・・・」 「えっ・・・?」 1人の少女・・・見覚えがあり過ぎる女性・・・焔火緋花の姉である焔火朱花がバスから降りる姿が映った。 「あら?・・・。この歩幅と衝撃は・・・・・・焔火さん?」 「えっ?焔火ちゃんが近くに居るの?」 場所は変わって、同じ第15学区を178支部の面々はパトロールしていた。これは、真面達が独自に作った捜査範囲及びコースに沿って―多少捜査範囲を拡大しながら―のモノだった。 「みたい。・・・。直線距離的にはここから70m程離れているけど。・・・。歩く方向は、あっちの古びた倉庫街に向けて。・・・。周囲には176支部の人達は居ないみたい」 「ふ~ん。というか、『土砂人狼』の支配領域を展開したままだったの?確か、あのボロっちい倉庫街は2時間くらい前に一通り見て回ったけど誰も居なかったよね」 「これでも、日々研鑽を積んでいるんだよ?・・・。集中し出したのはさっきからだけど。・・・。それに、今は結構人が居るみたい」 「あぁ、ゴメン。・・・そういや、昨日の夜に焔火ちゃんがこの辺りのコースについて俺に携帯電話で質問して来たなあ。作成したコースから若干外れてるこの辺りをさ。 『何でこのコースのことを聞きたいの』って質問したけど、曖昧に濁されたなぁ」 「私達が共同で作ったコースに則って、昨日から178支部が第15学区で色々動いていることは伝えたの?」 「いや。それだと、支部単位の単独行動が形骸化しちゃうからね。・・・ということは、焔火ちゃんは単独行動をしてるってことなのかな?」 『土砂人狼』で近くに焔火が居ることを察知した殻衣に、真面は疑問をぶつける。 如何に支部単位の単独行動が認められているとは言え、個人の単独行動にはそれなりの制限がある。 「加賀美先輩に許可は取ってるんじゃないかな?・・・。アレだけ固地先輩に絞られたんだし」 「固地先輩・・・か」 「・・・慣れた?」 「・・・何に?」 「固地先輩が居ない178支部に」 「・・・・・・・・・何か慣れない」 「・・・私も」 「「ハァ・・・」」 殻衣と真面は、揃って溜息を吐く。当初は“風紀委員の『悪鬼』”が居ない開放感に包まれていた。ストレスも感じない。伸び伸びと動ける。 もう、あんな目の上のたんこぶなんて要らない。そのためにも、あの男が休暇中に何としてでも結果を出す。そう意気込んで捜査に望んだ。だが・・・ 「・・・もしかしたら、心の何処かで固地先輩が不在なのに不安を覚えてるのかもしれないわ。・・・。正直認めたくないけど」 「・・・・・・あの人は仕事だけはできるからな。ま、まぁ、最近は失敗したりしてるけど」 「・・・それは私達も一緒。・・・。違う?」 「・・・ハァ。確かに」 結果を出そうと意気込んだ初日に、あの殺人鬼と出くわした。真面と浮草は、殺人鬼に対して何もできなかった。震えることしかできなかったも同然だった。 その後の調査でも、あの殺人鬼と出くわさないようにとビクビクしながら動いていた。憂鬱な気分を紛らわすために、仕事中でありながらも事あるごとに固地に対する愚痴や陰口を零していた。 そんな醜態を、今の178支部の面々は自覚しつつあった。現実から目を背けることに対する嫌悪感に、皆耐え切れなくなって来たのだ。 そして、同時にこう思った。『固地債鬼が居れば、状況や結果は変わったのだろうか』・・・と。 「もし、あの殺人鬼と出くわした時に隣に居たのが浮草先輩じゃ無くて固地先輩なら、結果は変わっていたのかもしれない。それは・・・どうしても思っちゃうことだね」 「176支部の神谷先輩や焔火ちゃんの行動を止められたかもしれないってこと?」 「・・・認めるのは悔しいけどね。固地先輩なら、あの高笑い付きで一喝してただろうから。そして、それに神谷先輩や焔火ちゃんは動きを止められた筈だから。 殺人鬼を見逃すという判断の善し悪しはともかく、冷静な判断をあの状況でも固地先輩は皆に示せたと・・・・・・お、おお、思・・・う」 真面は悔しいにも程がありながらも、癪に障るにも程がありながらも、本音を言えば仕事面でも認めたく無い、人間的にも大嫌いな先輩を認める。 自分は、あの域にまだ達していない。それを殺人鬼との邂逅、そして今の捜査の進捗状況で嫌という程思い知らされたから。 「真面君・・・」 「でもなぁ・・・あの人の罵詈雑言は何とかならないかなぁ?大量の仕事を課されるのはまだ我慢できるんだけど」 「・・・いっそのこと、罵詈雑言を封じるために実力行使してみる?」 「実力行使!?」 「固地先輩は、それこそ下剋上してリーダー格になったんだから私達も・・・」 「無理無理無理!!後でどんな仕返しがあるかわかったモンじゃ無い!!」 「それを恐れてたら、何時まで経っても固地先輩の罵詈雑言は収まらないよ?・・・。私達の方から固地先輩にぶつかって行かないと。・・・。逃げてちゃ駄目だよ」 真面が瞠目する中、殻衣は先輩の在り方と向き合う重要性を説く。自身、固地のせいでツッコミを放つまでに成長(?)したがために気付いた向き合うことの大事さ。 否、気付いていたにも関わらず固地を恐れて―真面の指摘通り―逃げていたことを少女は恥じる。 「・・・殻衣ちゃん1人でできるの?」 「それは自信無い・・・というか恐いね。・・・。だから、真面君と一緒に」 「それって巻き込むって言うんじゃないかな?」 「嫌いだから無視する。・・・。それも1つの方法。・・・。私もその方法を否定しない。・・・。でも、少なくとも固地先輩に対してはそれじゃ駄目だと思うの」 「・・・」 「あの人だって完璧じゃ無い。・・・。この前多くの女性にボコボコにされたのもそう。・・・。私達と同じなんだよ。・・・。だったら、私達にできない筈が無い」 「・・・あの人の悪い部分をズバっと指摘する・・・か。・・・それができたら痛快だろうな」 次第に、殻衣の言葉に乗せられて行く真面。彼も、内心では固地と真正面から向き合うことを避けていたのを自覚していたのかもしれない。 「痛快でしょ?・・・。真正面から固地先輩とぶつかる。・・・。きっと、あの人は逃げない。・・・。それこそ、認めた上で何倍にもして弾き返して来ると思う」 「文字通りの応酬か。・・・唯でさえ支部内であの人の大きな声は響くっていうのに、それ以上になるのか」 「陰口叩いていても、何も変えられない。・・・。私が変わったのも、固地先輩とまがりなりにもぶつかったから。・・・。腰が引けていても、何とかやり切ったから」 「別にあの人を好きになるわけじゃ無い。逆だ。気に入らないから、あの人を真正面から叩き潰す。今の実力だと弾き返されまくりだけど・・・」 「何時か・・・何時か固地先輩をぎゃふんと言わせる。・・・。正々堂々と。・・・。そのためにも、私達があの人から逃げてちゃいけないわ」 殻衣の言葉をじっくり咀嚼していく真面。その最中で、ふとあの“変人”の部屋で指摘されたことを思い出す。 『今後債鬼の在り方の弊害が出てくるかもなぁ。勘違いしちゃ駄目だよ?弊害ってのは、債鬼に現れるんじゃ無い。債鬼は、十二分にそれを「理解している」筈だし』 「(これが弊害か。つまり、固地先輩の態度で俺達が避けてしまうことも、不在に不安を抱くのも、仕事中に嫌味や陰口を叩くことも、それに嫌悪感を抱くのも全部先輩はわかってるのか。 浮草先輩も言ってたけど・・・それはそれですごくムカつくぜ・・・!!!)」 手の平の上で転がされる感覚は、“変人”の部屋で嫌という程痛感させられた。あんな感覚を今後も味わうくらいなら・・・ 「・・・わかった。俺も逃げない。堂々とぶつかってやる!!あの人の悪い部分をズバっと指摘してやる!!あの人を信用するのも信用しないのも、全てはそれからだ!! 今は、仕事面だけは信じるに値すると判断しておいてやる!!現に、俺はあの殺人鬼との邂逅で全然冷静じゃいられなかったからね!!」 「随分偉そうに言うのね・・・真面君?」 「こんなの、日頃の固地先輩に比べたら月とスッポンだよ?何時か、あのムカつく仮面を剥がしてみせる!!よーし!!やるぞ、俺!!」 「フフッ。・・・。そうね・・・あの人とぶつかっていれば、否応無しに手は抜けないわ。・・・。私も頑張らないと」 固地の扱きを散々受けて来た後輩達は、今この瞬間から下剋上を狙うことを決めた。 陰口を叩くのでは無い。出し抜いてやろうというのでも無い。それができるような力が現在無いことは自分達が一番よく知っている。 だから、堂々と真正面から固地債鬼にぶつかる。力不足なりに逃げずに相対する。その上で結果を積み重ねるよう努力する。つい先日まで178支部に出向していた少女のように。 「・・・そういえば、さっきも思ったけど焔火ちゃんはここに何しに来たんだろう?」 「そうね。・・・。ちょっと電話してみようか」 出向中の少女の姿を思い浮かべたのを契機に、再び焔火の行動の目的が気になり出す2人。とりあえず、連絡を取るために殻衣が携帯電話を取り出すが・・・ 「おかしい。・・・。コールは流れるのに出ない」 「携帯電話を忘れてたりとか?さすがに、それは幾ら焔火ちゃんでも・・・・・・・うん?俺の携帯が・・・浮草先輩からだ」 一向に電話に出ない焔火を不審に思う2人。とそこへ、真面の携帯電話が鳴り響く。画面には、浮草から掛かって来たことを意味するリーダーの名前が表示されていた。 とりあえず、真面は殻衣にも聞こえるようにスピーカーフォンモードへ変更した後に電話に出た。そこから聞こえて来たのは、動揺に動揺を重ねたリーダーの声。 「真面!!大変だ!!成瀬台を『ブラックウィザード』が強襲した!!!」 「「!!!??」」 「・・・ということだ!!俺に連絡をくれた鉄枷が居る159支部と花盛支部が、すぐに成瀬台に戻るよう急いでいる!!俺達もすぐに成瀬台に戻るぞ!!」 「「・・・!!!」」 浮草―傍には秋雪が居る―の切羽詰った説明に、真面と殻衣は呆然となる。こんな事態は、正直想定していなかった。 「真面!!返事は!!?」 「ハッ!!え、え~と、他の支部・・・176支部は!?」 「176支部!?おそらく、159支部の誰かが連絡を入れている筈だ!!それがどうしたんだ!!?」 「真面君・・・!!」 「・・・!!」 苛立つ浮草の言葉を受けて、真面と殻衣は先程電話が繋がらなかった焔火を頭に思い浮かべる。 今の彼女は、携帯電話を持っていないと考えられる。つまり、彼女にはこの状況が伝わっていない、伝わらないことを意味する。 それは何故か?真面は、またもや“変人”の言葉を思い出す。内通者が、よりにもよって彼女と同じ176支部の人間であったが故に。 『俺が敵方なら、まずはあの娘から篭絡する・・・というか潰す』 「(マ・・・マズイ!!マズイ!!!)」 途轍も無い危機感が真面を襲う。もし、『ブラックウィザード』が、網枷双真がこの機に乗じて“変人”の警告通りに焔火緋花を篭絡しようと企んでいたとしたら? 最低でも彼女は人質となる。下手をすれば“手駒達”として利用される。最悪は・・・死。 昨日自分にこの辺りのことを質問して来たのは、彼女が『ブラックウィザード』にここへ誘き出されているためか? 殻衣の『土砂人狼』で調べる限りには、現在倉庫街には多くの人が集まっていると言う。この集まりの正体がもし・・・。だとしたら、事は一刻を争う。 「浮草先輩!!俺と殻衣ちゃんは戻れません!!」 「何だと!?それはどういう・・・!!?」 「先輩達は成瀬台へ早く向かって下さい!!そっちも一刻を争う事態です!!俺達は大丈夫ですから!!では!!」 「真面!!ちょっ・・・(ガチャ)」 成瀬台の状況も鑑みて、真面は独断する。自分の予測はもしかしたら外れているかもしれない。その場合、成瀬台の救援が遅れることで発生するモノはとても大きいかもしれない。 しかし、もし予測が当たっていれば焔火の命が危うい。ならば、ここは二手に分かれるべきだ。浮草に事情を説明しなかったのは、説明+議論=決断で浪費する時間が惜しかったからだ。 「真面君・・・!!」 「殻衣ちゃん!!すぐに、焔火ちゃんの足取りを追って!!事情はその途中で説明するから!!」 そして、これは無意識で思っていた“本当”の理由。簡潔に言えばこうだ。 『浮草宙雄は頼りない。有事の際に様々且つ冷静な判断を下せず、あるいは下すのに時間が掛かる』・・・と。そんな私情を挟んでしまった真面の・・・致命的なミス。 焔火朱花が歩いて行く。その足取りは一見しっかりしてそうで、内実は何処か頼り無さげに見える。 彼女の近くには、朱花と似たような歩き方をする人間が数名居る。そんな人間達を、焔火は後方の物陰に隠れながら暗視機能付き小型望遠鏡を用いて観察していた。 この望遠鏡は、178支部の面々が色んな小道具を持って捜査に活かしていたことを参考にして、焔火自身が自前で用意したものである。 人通りの多い道ではこういう真似はできないが、夜の闇に紛れた上に人通りが殆ど無い道でなら周囲に気を払うという条件付きで可能。 以前に固地から突っ込まれた尾行の方法について、焔火なりに研究していたのだ。 「(お、落ち着け!!落ち着くのよ、私!!あの殺人鬼と邂逅した時のような“暴走”を、一昨日のような惨めな姿を晒すのは絶対に許されない!!)」 そんな焔火だが、自身の姉を発見した動揺から未だ回復できないでいた。何故なら、朱花が向かう先は自分が踏み込む予定の取引現場があったからだ。 「(ま、まさか・・・お姉ちゃんが薬物に手を!!?ま、まだそうと決まったわけじゃ無い!!というか、何でこんな所に・・・!!? 今日は“午後”から出るって言ってたけど、それはカラオケに行くって意味じゃ無かったの!!?・・・も、もしかして・・・今まで1人でカラオケに行っていたのは・・・嘘!?)」 一昨日の経験から何とか踏み止まってはいるものの、今の彼女は全く冷静では無かった。それは致し方無いこと。 愛する自分の姉が薬物に手を染めている可能性を見て、冷静さを保てる人間の方が圧倒的に少ないだろう。 「(ハッ!!そういえば、ここ最近のお姉ちゃんはずっとボーっとしてた!!それが、薬物の影響だったとしたら・・・!!? う、嘘・・・だよね。そんなこと・・・無いよね!?お姉ちゃん・・・私・・・信じないから!!!)」 朱花達は、取引現場となっている老朽化した倉庫街へと足を踏み入れて行く。焔火も慎重に―冷静では無い彼女基準の―足を進めて行く。 この時点で、焔火は深入りし過ぎていた。かつて、『ブラックウィザード』の視覚系能力者に尾行されていた経験をすっかり忘れていた・・・というより頭に無かった。 今の彼女の脳内は、姉である朱花が薬物に手を染めているかいないかの確認で占められていた。『ブラックウィザード』よりも最優先にしてしまった・・・焔火の判断ミス。 その後、朱花達はある倉庫へと入って行った。焔火は、倉庫に備えられている窓ガラスから内部の状況を観察する。すると・・・ 「諸君!!憎き殺人鬼(くも)がうろついている中よく来てくれた!!では、これより『ブラックウィザード』主催の薬物販売を執り行う!!」 「(あの白い長髪は・・・『ブラックウィザード』のリーダー!!!隣に居るのは・・・昨日の坊主頭!!!)」 “詐欺師”が作成した光像にあった白い長髪の人間が、売買開始の号令を発していた。顔は横に居る坊主男のせいで見れなかったが、背格好は光像そのものであった。 彼等の前には朱花を含めて10人の購入希望者と見られる人間達が座っていた。焔火は理解する。姉が薬物を購入しにここへ来たのだと。 「(お姉ちゃん・・・お姉ちゃん!!何で・・・・何でよ!!何で・・・どうして・・・!!?)」 思わず涙が出そうになるのを懸命に堪える焔火。非情な現実を目の当たりにし、やるせない怒りが体中を駆け巡る。 「だが、その前に1つ諸君に面白いモノを見せてあげよう!!」 「面白い・・・モノ?」 「あぁ。そうだ。彼女は一体どんな顔で苦しんでくれるのだろう・・・・・・ククク」 だが、現実は非情の上に更なる非情を上塗りする。白髪の男が前に出る。坊主頭―阿晴猛―のせいで焔火から見えなかった顔が露になる。 「ねぇ・・・焔火緋花!!!??」 「!!!??」 『ブラックウィザード』のリーダー・・・の影武者である永観策夜の残虐な瞳が焔火を射抜く。自分の存在に気付かれた焔火が危機感を抱いた瞬間、 ボン!!! 「キャッ!!?」 左手に持っていた望遠鏡が高温化、爆発した。それは、焔火の周囲に存在した熱エネルギーを一気に望遠鏡へ一極集中させたことで発生した現象。 望遠鏡の破片が、焔火の左手や脇腹を傷付ける。だが、これでは終わらない。 ザシュッ!!! 「ガハッ!!?」 それは、焔火の前にあった倉庫の壁が切断・破壊された音。強大な風圧で瓦礫が焔火の体を叩き、彼女が身に付けていた風紀委員の腕章を傷付け、結果少女はその場に倒れる。 「こ、ここ、これでまた薬を貰える・・・貰える・・・!!わ、私・・・頑張った!!!」 「そうですね!風路さんは頑張りましたよ!でも、ここからは私に任せて下さいね?調教しがいのある娘を、余り傷付けたくありませんから」 「(あの娘・・・前に『黒い着衣品』を身に着けていた・・・!!)」 それ等を行ったのは、仰羽智暁の『熱素流動』と風路鏡子の『風力切断』である。彼女達は、先程の購買客に紛れていたのである。 智暁に関しては、以前焔火と顔を合わせていたために帽子とサングラスで変装していた。今はそれ等を取っ払っているが。 「チッ。電気系能力者に、俺の刀は不利だな」 「阿晴。それなら、鉄製では無い刀を使えばいいじゃないか。この学園都市には、その手のモノは幾らでもある」 「わかってねぇなあ、永観。鉄だからいいんじゃねぇか!!お前じゃ、刀の良さってモノを理解し切れねぇよ」 「・・・阿晴にモノの理解について説教されるとは思わなかった。まぁ、いい。“手駒達”にも登場して貰おうか」 世間話をするかのように会話を繰り広げる永観と阿晴。しかし、その目は全く油断していない。 それが証拠に、焔火1人相手するのに10名前後の“手駒達”が出て来た。全ては、焔火を取り逃がさないために。 「(罠!!?く、くそっ・・・!!)」 焔火は、包囲されている現状及び罠に嵌められたことに対して途轍も無い危機感を抱いていた。 同時に、姉を気にする余りに自分が不用意に深入りしてしまった悪手に気付き歯噛みする。そんな彼女の表情に気を良くした永観が、焔火に無情な宣告を告げる。 「さあ、僕達を楽しませ、感じさせてくれたまえ。君の苦しむ姿を!君の絶望する醜態を!!」 「焔火さんの足が完全に止まったわ!!周囲に人間が10名以上集まっている。まるで、焔火さんを取り囲んでいるみたい・・・!!」 「焔火ちゃん・・・!!」 178支部の真面と殻衣は、焔火に追い付くために疲労を訴える足に鞭打って疾走していた。 周囲に『ブラックウィザード』が居ないか、目視や『土砂人狼』で確認をしながらひた走る2人。そんな2人にも、遂に『ブラックウィザード』の魔の手が迫る。 ボン!!! 「うわっ!?」 「キャッ!!?」 危うく避けたそれは、灼熱の火の玉。おそらく、真面と同じ発火系能力者が生み出したモノであろうことはすぐに推測できた。 戻って来ちゃったかぁ。上手くやり過ごせたと思ったのに。まぁ、『土砂人狼』が幾ら足音で人を判別するって言っても、一歩も動かない+地面じゃ無い場所での待ち伏せなら意味ないよね。 しかしまぁ、このタイミングで来るなんてね・・・面白いじゃないか。網枷のバカの思い通りに進み過ぎてて退屈していたんだ。 これくらいのイレギュラーが無いとね。まぁ、あの殺人鬼(クソッタレ)みたいなイレギュラー中のイレギュラーは勘弁願いたいけど 「そ、そうっすね」 片鞠。江刺。ボクが“手駒達”でフォローする。さっきの打ち合わせ通り、その2人を例の場所に誘導するんだ。その後は、ボクが全てカタを着けるよ。 監視している分には、その2人しか居ないから心配しないで。増援を見付けたら連絡するし、今さっきジャミング電波も流したから風紀委員の連絡手段も封じたよ 中円はアジトでお留守番だけど、風間・西島・戸隠は運搬係で他の構成員と一緒に1日中走り回っている。2人も負けていられないよ。いいね? 「「了解」」 真面と殻衣の前に、蜘蛛井糸寂が操る“手駒達”が現れる。彼等の後方には片鞠榴と江刺桂馬が居た。ちなみに、『土砂人狼』の特性は一昨日網枷が焔火から聞き出している。 「くそっ・・・!!」 「真面君・・・!!」 真面と殻衣も、ここに来て臨戦態勢に入る。この先に焔火が居る。彼女を救い出すためにも、こんな所で足踏みしている暇は無い。 「殻衣ちゃん!やるよ!!」 「わかった!!待ってて・・・焔火さん!!」 焔火緋花を巡る、短くも長い戦いが幕を開けた。誰もが必死に、真剣に各々の戦いに身を投じる・・・ グン!!! そんな激闘の最中に・・・ ビュン!!! かの神話において物語や秩序を掻き乱し、災いを齎す精霊として語られる蜘蛛が如き強者が・・・ 己が暴虐の結果様々な悪影響を齎した弱者達が蠢く地へ・・・己が『暴力』の果てに1つの災厄を齎した餌(しょうじょ)の下へ・・・疾る。 「・・・・・・」 定期的という名の偶然(ひつぜん)を経て、“仕掛け”の動向に気を払ったあの男が『闇』に満ちた宙(そら)へ張り巡らせた『巣(せかい)』を翔け抜ける!! continue!!
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【名前】殻衣萎履(かくい しおり) 【性別】女 【所属】科学 【能力】土砂人狼(クラストワーウルフ) レベル4 【能力説明】 念動力の派生能力。土、石、砂、コンクリート等を材料に人型or狼型の土人形を形成する 通常の人形の大きさは1m~2mの間。形成済みの人型→狼型へor形成済みの狼型→人型へ、という変形も可能 主な攻撃手段は、土人形による物量戦闘。土人形は自身を形成する材料から武器を形成し戦う。土、石etcは圧縮されている為に硬度は鈍器並み (例 人型→圧縮した土砂の塊を投げたり、圧縮形成した槍で戦ったり。狼型→額に角を形成したり爪を伸ばしたりして攻撃etc) 捕獲する場合は人形を対象に突貫させ人形内に取り込み(=引っ付き)、人形の重さで身動きを取れなくする 意図的な地震や地殻変動は起こせないが、土やコンクリートの柱を材料として奪う事で建物を崩したり等、使い方で色んな作用を生み出せる 土人形は殻衣が全てコントロールしているが人形自体に知覚は無い。その中で精密な動作を行えるのは精々20体前後 それ以外は大雑把な動きしかさせる事が出来ない。その為の物量に物を言わせた戦闘方法である 土人形は自身から半径5m以内に材料となる物があれば生み出せる。個数の上限は74体。操作範囲は自身から半径217m以内 人形同士で合体可能だが、合体=新たに人形を生み出す枠が出来る訳では無い。合体分=生み出した人形分である 但し、『操作する個数』としては合体後のものとなる。故に精密な動作を人形に付与する場合、 合体分(複数の人形の集合体)=精密な動作を行える20体前後の1つとして数えられる 土人形は大破されると崩壊するが、精密な動作が可能な人形だけは、周囲にある土砂等の材料を用いて修繕や武器増強が可能 【概要】 柵川中学2年生。風紀委員178支部の常識兼ツッコミ担当キャラ 性格は気弱で、何事にも自信が無い。勉学や能力だけが取り柄で、そればかり磨いてきた とは言ってもやはり自信が無いのか試験でトチる事がある。能力戦闘でも自分が戦闘の前面に出ず、専ら人形による消極的戦闘に終始している 風紀委員になった動機は自分を変える為。適正試験に2度失敗した末に合格した 風紀委員のように学園都市に住む人達の平和を守る事が出来たなら自分もきっと変われると期待を抱いていたのだが、 配置されたのがよりにもよって178支部だったのが運の尽き イケメンならスキルアウトでも見逃してしまう女の先輩や、先輩後輩関係なくこき使う男の先輩等に囲まれてしまい、 当初抱いていた願望は塵の如く吹き飛んだ。そのせいかはわからないが、最近は色んな意味で逞しくなりつつある模様(本人は心底心外) 本人は事務系希望であったが、能力が実戦向きと先輩から判断され、日々外回りに連れ出されている 【特徴】 157cm、体重40kg中盤。紫掛かった長髪で、後ろの髪を三つ編み一本に纏めている眼鏡っ娘。胸は普通 基本は気弱だが、見知った相手にはお喋りになる。最近は周囲の環境のせいで先輩相手にもツッコミが出来るようになった 趣味は特段無し。強いて挙げるなら勉強そのものが趣味みたいなもの 【台詞】言葉と言葉の間に妙な間がある。ツッコミ時は例外。その差異から「キャラが変わる(ね)」とよく言われている 相手に強気に出られると途端に萎らしくなる 「私は風紀委員です。…。あなたにお聞きしたい事があって。…。お時間ありますか?」 「ちょ、ちょっと先輩。何ボーっと突っ立っているんですか!?犯人が逃げちゃいますよ!?イケメンだからって職務放棄しないで下さいよ!」 「だ・か・ら、何で私ばっかり連れ出すんですか?そんなに外回りしたいんでしたら一人で勝手に…ひっ!そ、そ、そんな恐い目で睨まないで下さい。…。ぐすん」 【SS使用条件】 特に無し
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「あんだよ!そっちがガン切ってきたんだろうが、あぁ!?」 「うっせぇな!てめぇなんかの顔なんざ見ても、何の得も無ぇんだよ、クソが!!」 「あ、荒我君・・・!!」 「荒我兄貴・・・落ち着いて・・・!!」 こんな暑苦しい中、余計にカッカしている男4人。 格好としては3人組の中のリーゼント男―荒我拳―が、紺色の髪で白いバンダナを付けている男―行灯疾風―と言い争いをし、 他の2人―梯利壱と武佐紫郎―が何とか場を収拾しようと躍起になっている。 どうやら荒我は、偶然この付近を歩いていた行灯が自分へ視線を送ったのをガン飛ばしと勘違いしているようだ。不良には良くあることである。 「荒我・・・!!」 「・・・ほぅ。知り合いか、焔火?」 焔火の言葉に出て来た単語に僅か反応し、しかしその素振りを他人には悟らせずに固地は焔火に問う。 「えっ!?え、えっと・・・その・・・」 「ああいう不良連中というのは、何故あんなくだらないことで喧嘩ができるんだろうな。そのエネルギーを他のことに有効活用すれば、少しは自分のためになると思うんだが」 「そ、そうですね・・・」 固地の言葉を、しかし焔火は碌に聞いていない。まさか、こんな所で荒我達に出会うとは思わなかった。 しかも、風紀委員活動中にである。そして、自分の隣には“風紀委員の『悪鬼』”こと固地が居るのだ。この状況は・・・ヤバイなんてもんじゃ無い。 「こ、固地先輩・・・」 「心配するな!今はあんな小物共に気を割く余裕は無い。検挙は、また次の機会にでも取っておこう」 「(よ、よかった・・・)」 「但し・・・利用させてもらうがな。真面!殻衣!焔火!俺が合図したら、作戦通りに動け。いいな?」 「了解!」 「わかりました」 「は、はい!って・・・えっ?こ、固地先輩!?」 焔火の狼狽を無視し、固地は荒我達に近付いて行く。向こうも、固地の存在に気が付いたようで、 「ん?何だ、テメェ?何か用かよ?こっちは今取り込み中なんだよ!」 「俺は何の用も無いけどな。お前の方が突っ掛かって来てんじゃねぇか!」 「んだとコラ!!」 「あぁ!?」 「(こ、固地先輩・・・一体何を!?)」 敵意剥き出しの荒我と行灯が、近付いて来る固地を邪険にする。そんな光景を、焔火は冷や汗をかきながら見守る。そして・・・固地は被っていた帽子を外す。 「だ、駄目ですよぉ~。そんなカッカしてちゃあ~。み、皆さんの迷惑になっちゃいますよぉ~」 「あぁ?何だ、テメェ?何でそんなことがテメェにわかんだよ!?」 「だ、だってぇ、周囲の人達の見る目を気にしてみて下さいよぉ。皆ジロジロあなた達を見てますよぉ。 ほら、あそこの人とかぁ、向こうの人とか。ねっ、あなたもそう思うでしょ?」 「えっ?そ、そうでやんすね・・・。ど、どう思うでやんす、武佐君?」 「そうだね・・・『思考回廊』を使わなくても、周囲からの視線はすごく感じるね」 「利壱!紫郎!お前等、どっちの味方してんだよ!?」 「お前の舎弟の言う通りだぜ。いい加減、自分の自意識過剰っぷりに気が付いたらどうだ、リーゼント?」 「ほ、ほらぁ~。皆こう言っているんだし、落ち着きましょうよ。ねっ?」 「うっ・・・。な、何か気色悪いぞ、お前」 「ひ、酷~い!!」 「・・・・・・・・・何やってるの、固地先輩?」 「・・・・・・相っ変わらずの気色悪さだよな。固地先輩の捕縛術の1つ、『偽装演者 フェイクアクター 』」 「うん。・・・。本人的には『演技だから何とも思わない』って言ってるけど・・・」 荒我達の輪に乱入した固地の変わりようというか、見ていて鳥肌が立つくらいの気色悪い様に、焔火、真面、殻衣は愕然とする。 「・・・演技にしたって、あれは無いんじゃないの、あれは?」 「・・・『偽装演者』のレパートリーの中で、あのキャラが一番の得意技なんだぜ?本人の言う限りは」 「嘘!?あれが!?・・・ッッ!!普段とキャラが違い過ぎて、背中とかがすっごくむず痒くなって来たんだけど!!」 「固地先輩って。・・・。どこかズレてるんだよね、私達と」 焔火は背中がむず痒くなる。あんな固地先輩を見るくらいなら、他人をこき下ろす何時もの固地先輩の方がマシだ。 半ば本気で思ってしまうくらい、今の固地の態度はとてつもなく気持ち悪かった。 「ね?ね?落ち着いた?」 「・・・な、何か戦る気が失せちまったぜ。ったく、夏休み初日だってのに。何なんだよ、この変な空気は」 「ちっ!それはこっちの台詞だっての!」 「い、いいじゃないでやんすか、荒我君。これからパーっと遊びまくるでやんす!」 「そ、そうだね!梯君の言う通り、俺達の夏休みは始まったばかりだし!」 「そ、それもそうだな。おい!よかったな、命拾いしてよぉ!」 「・・・それはテメェの方だよ(ボソッ)」 「よ、良かったあぁ!僕の言うことを、皆わかってくれたんだね!やったぁー!!」 固地の乱入で、互いに喧嘩する気を無くしてしまった荒我と行灯が捨て台詞を吐き、梯と武佐が大事にならずに済んだことにホッとする。 その様子を見て、固地は(演技として)嬉しさの余り、持っていた帽子を万歳の拍子に宙へ“投げる”。 「「「!!!」」」 それは、合図。事前の取り決めで決まっていた―『水昇蒸降』にて、尾行者の周囲に居る人の群れが薄くなったことを把握した故の―作戦準備の合図を受けて、 各々が行動を開始する。 「固地先輩。そろそろ行きましょうよ」 真面が、固地に駆け寄って行く。それは、尾行者の視線を自分と固地に振り向かせるため。焔火と殻衣への注意を逸らすため。 「『土砂人狼 クラストワーウルフ 』・・・Standby」 殻衣が、4体の人形を“作成”・“形成”するために意識を集中する。内2体は、自分と焔火を乗せるための狼型を一から“作成”する。 残りの2体は、殻衣達の物より遅れて“形成”される。その出現場所は、捕捉している―そして、固地達が立ち止まっているために動きを止めている―尾行者2人の背後に位置する、 予め支配下に置いていた地面。 「・・・ハァァァァァッッ」 焔火は、今自分に課せられた任務を全うすることだけに集中する。『電撃使い』による、筋肉の活性化。自身の身体能力を最大限に高め、焔火は開始の刻(とき)を待つ。 そして、固地が投げた帽子が・・・“地に落ちた”。それが・・・作戦開始の刻。 「Go Catch!!!」 「ハッ!!」 殻衣の掛け声と共に、即座に狼型の人形が作成され、その背に焔火は跨る。 殻衣の操作により、狼は街道に立ち並ぶ建物の高さ3~5m程の側面から補強材料として『突き出された』足場を高速で疾走して行く。 『土砂人狼』による精密動作付与人形の修繕機能を応用した、市街地高速移動法である。 操作者である殻衣も作成した狼に乗り、焔火に遅れて地上を駆けて行く(但し、尾行者とは一定の距離を保つ予定。これは、本人の性格によるものである)。 「くっ・・・!!」 顔に当る空気の壁を懸命に堪える焔火。被っていた麦藁帽子は、乗り移った際に落ちてしまった。が、そんなことはどうでもいい。尾行者の確保だけに集中する。 「あ、あれは・・・」 建物と建物の間を跳び、力強く駆け抜けて行く狼の目指す先に尾行者2人を発見する。何故、尾行者と判断できたのか。 それは、彼等の背後に突如として出現した2mもある人型の人形が、尾行者を捕まえようと動いていたからである。 「があああああぁぁぁっっ!!!!」 その内の一方、(極小サイズの盗映用カメラを詰めた)キーホルダーを首に掛けた女性が、急に現れた土人形に飲み込まれて身動きが取れなくなっていた。 これは、『土砂人狼』によって対象を捕獲するために殻衣が編み出した術である。 「ち、近付くなああああぁぁぁっっ!!!!」 もう一方、女性の護衛役と思われる、しかしそれにしては貧相な体躯をしている男が、発火系の能力を用いて土人形を攻撃している。 その攻撃を喰らって土人形は片腕を吹っ飛ばされるが、即座に地面から材料を補給・修繕することで復元する。 「(土人形の出現で・・・周囲の人達も更に離れている。今なら!!)」 焔火を乗せた狼が、尾行者のすぐ近くまで迫り・・・跳んだ。 「!!?」 それに気付いた男は、発火系能力で生み出した火炎球を狼へ向けて放つ。衝突し、狼が弾け飛ぶ。 「ハアアアアアアァァァァッッ!!!!!」 「なっ!!?」 男は気付かなかった。2mもあるその狼の背に乗っていた少女の存在に。少女は、火炎球が当る前に宙へ跳んだ。 ワンピースを着た少女―焔火緋花―の跳び蹴りが、男の顔面へ叩き込まれる。この一撃で吹っ飛んだ男は、即座に土人形に飲み込まれた。 「ハァ・・・。ハァ・・・」 焔火は、荒い息を吐く。作戦は・・・無事成功した。 「緋花・・・か?」 「う、うん。な、何よ。ジロジロ見てさ」 「い、いやっ!な、何でも無ぇよ!」 「緋花ちゃん・・・綺麗でやんす」 「緋花ちゃんのワンピースって想像し難かったけど・・・すごい」 無事尾行者も捕まえた焔火は、荒我達と合流していた。“善意溢れた協力者”として、固地に応対するように指示されたのである。 「あ、ありがと、梯君。武佐君。・・・・・・」 「ん?な、何だよ?こっちばっか見てよ」 「(荒我兄貴!緋花ちゃんは、荒我兄貴にも今日の服装の感想を聞きたいんですよ!)」 「!!」 焔火の意味ありげな、それでいて何処か気恥ずかしそうな視線に怯む荒我の脳裏に、『思考回廊』による武佐の助言が響き渡る。 「・・・あ、案外似合ってんじゃねぇか?お、俺はそう思うぜ、うん」 「そ、そう・・・?」 「あ、あぁ・・・」 「そうか・・・。荒我が言うんだったら、今度からこういうのも着てみようかな」 「そ、そうか・・・?」 「う、うん・・・」 何というか、お互いに照れくさいのか、言葉に詰まり気味な荒我と焔火。 「(武佐君・・・。これって・・・もしかするでやんす?)」 「(梯君・・・。というか、もしかしてじゃ無いよ、これって。むしろ、かなり可能性が高いんじゃない?)」 「(やっぱりそう思うでやんすか。これなら・・・緋花ちゃん達を誘えるでやんすね)」 「(うん。俺達の夏休みを有意義にするためにも、緋花ちゃんの携帯のアドレスを知っている荒我兄貴を説得しないとね)」 梯と武佐は、荒我と焔火の様子から見てある推測を立てる。特に、荒我に対する焔火の態度が以前とは別物になっていることから、その推測は概ね正しいと2人は判断する。 「あっ、そうだ。これ・・・」 「・・・私の麦藁帽子?」 「お前が跳んで行った時に、こっちへ流れて来たんだよ。この日光じゃあ、帽子が無ぇと大変だろ。ほらっ」 「・・・!!」 落としてしまった焔火の麦藁帽子を拾っていた荒我は、彼女に帽子を被せる。そんな(彼女にとっての)突飛な行動に、焔火は身動きが取れなくなる。 「・・・これでよしっと。・・・ん?どうした、緋花?顔が真っ赤だぞ。・・・もしかして、日射病が何か・・・」 「だ、大丈夫だよ!!そ、それじゃあ、仕事あるから!!ま、またね!!!」 「お、おい!!・・・何だぁ、アイツ?」 仕事に戻ると言い残し去って行った焔火に、荒我は怪訝な視線を送る。自分は唯、日射病とかになっていないかと心配しただけなのに。 「荒我君・・・」 「おぅ、利壱。紫郎も。何かよくわかんねぇけど、緋花の奴すっ飛んで行っちまったよ。俺・・・何か悪いことでもしたかなぁ?」 「・・・別に悪いことはしていないんじゃ無いでやんすかね。ニヒヒ」 「そうだね。荒我兄貴は、何も悪いことはしていないよ。ウフフ」 「・・・利壱。紫郎。お前等・・・何か気色悪いぞ。さっきの風紀委員みたいになってるぜ?」 「「いや、それは有り得ない(でやんす)」」 舎弟達の気色悪い笑みを見ながら、荒我は額に浮かんだ汗を拭う。この後荒我達は、気分直しに冷房が利いているゲーセンへと突入して行った。 「何時まであの不良連中の応対に時間を食っているんだ、焔火!」 「す、すみません!」 ここは、先程チェックした路地裏。ここに捕えた尾行者を連行した178支部の面々は、焔火が合流するまでに調べ上げた調査内容を自分達の理解のために改めて口に出す。 「固地先輩・・・こいつ等は・・・」 「あぁ。こいつ等は件のドラッグの中毒者だ」 「ちゅ、中毒者!?」 遅れて来た焔火が固地の言葉に驚く中、殻衣が自身も驚きを隠せないまま口を開く。 「例の違法ドラッグによる中毒者にはね、幾つかの共通する身体的特徴があるのが判明している・・・それは焔火さんも資料で知っているわよね。・・・。 その内の1つ・・・瞳孔の散瞳がこの2人に見受けられたの。・・・。他には・・・生気を感じ取れないとかもあるけど」 「しかも、こいつ等はかなり中毒の度合いが強いみたいなんだ。こいつ等の首の後ろを見てみるといい」 「首の後ろ?・・・う、うわっ?何これ・・・?」 焔火は、尾行者の1人である女の首の後ろを見て驚愕する。そこにあったのは、黒色の斑点。はっきりと浮かび上がっているそれは、異様な存在感を示している。 「中毒者が出た花盛学園の生徒の数人にも、それらしき斑点が見受けられる報告はあったろう?それと同種のものと俺達は推測している」 「で、でも、彼女達の場合はこんなにはっきりした斑点じゃ無かったですよね?」 「あぁ。おそらく、薬物中毒の進行度によって斑点の濃さが変化するのだろう。花盛の生徒はいずれも軽~中程度だったが、こいつ等はおそらく重度の中毒者だ。 簡単に言えば、廃人と言った所か。ここまで進行してしまっては、もう元の状態には戻れまい」 「・・・!!!」 固地の言葉に衝撃を受けながら、焔火は気絶している2人を改めて観察する。生気も感じられず、顔も青白い。 涎を垂れ流し、時折体をピクッと震わせている様は焔火の胸中に胸糞悪いモノを感じさせるには十分な代物であった。 「・・・ウプッ」 「・・・吐くなら奥でやれよ。こんな所で戻されては、捜査の邪魔だ」 「焔火さん。・・・。余り無理しないでね」 「う、うん・・・。だ、大丈夫・・・」 気丈に振舞う焔火を見て、殻衣も自分なりに気合を入れ直す。正直な所、殻衣や真面もこの2人の惨状を見て気分が悪くなったのだが、固地の一喝により立ち直ったのである。 この場で固地1人だけが、この惨状を前にして一切動じなかった。殻衣や真面は、そんな『悪鬼』に自分達が心の何処かで頼っていることを今一度実感する。 「それと、もう1つ興味深いことがわかってな。真面!お前から説明してやれ!」 「了解しました!え~と、焔火ちゃん。これが何だかわかる?」 「・・・アンテナか何かですか?」 「そう。これはアンテナ。この2人の頭に刺して『操っていた』アンテナさ」 「操る!?この人達を!?」 真面がその手に持っていたのは・・・小型のアンテナ。 「実は、この2人を飲み込んだ殻衣ちゃんの『土砂人狼』に近付いた時に、この2人の頭部から、妙な“電波”を傍受したんだ」 「傍受?真面ってそんな機械も持っていたの?」 「実は・・・この眼鏡がその傍受機材になってるんだ。傍受範囲はそんなに広く無いけど。ちなみに、『根焼』の店長の発明品」 「あ、あの店長の!?」 焔火は驚く。以前ステーキの早食い大会の折に見掛けた『根焼』の店長の姿を思い出す。 サングラスを掛けて、変テコな言葉遣いで、一々怪しい関係を主張するあの変人店長が、まさかそんな代物を作るなんて、とてもじゃないが想像できない。 「聞く所によるとあの店長、昔は名の知れた発明家だったそうだ。それが、何故焼肉屋等を始めたのかは知らん。別に、そこまで踏み込むつもりは無いしな。 だが、あの店長の発明品には利用価値がある。その噂を聞いた俺達178支部は、一時期『根焼』に足繁く通った。 常連となった客には、店長オリジナルの発明品がプレゼントされたりするということでな。 真面のその眼鏡も、その時に貰った物だ」 「これで、眼鏡のデザインが俺の持ってる奴と同じタイプじゃ無かったらよかったんですけどね」 「噂だと、能力開発に効果のあるというか理論等を理解しやすい通信教材とかもあるみたいね」 「・・・そうだったんだ」 焔火は驚愕すると共に、自身の情報収集能力の低さを痛感する。これからは、もっとそういう方面にも力を入れなければいけない。痛感を痛感だけでは終わらせない。 「話が途中になっちゃったね。えっと・・・この小型アンテナを受信機として、どっかから電波を使ってこの2人に指示を送っていたみたいだね」 「そ、そんなこと可能なんですか?」 「普通の人間だと不可能だろうね。だから・・・きっと薬物で中毒状態にする必要があるんだよ。正常な思考回路を麻痺させるために」 「!!」 真面の言葉から、焔火はある仮説を立てる。それは、この事件が単なる薬物の氾濫に収まらない可能性を示すもの。 「もしかして、『ブラックウィザード』の目的は・・・薬物を売り捌くことによる大量の金銭を得るだけが目的じゃ無い・・・?」 「だろうね。もちろん、お金も大事だろうけど・・・本当の目的は中毒に陥らせた人間を洗脳し、自分達の都合のいいように動く兵隊にすること」 焔火と真面の会話に、殻衣と固地も加わる。 「もし、彼等の謳う“レベルが上がる”というのが本当なのならば。・・・。これは大変な事態ですよ。・・・。 レベル2やレベル3の能力者が、それ以上の実力を持つということですから。・・・。中毒及び洗脳と引き換えにですが」 「最近になって、連中の所業が表に出始めたのは・・・薬物を売り捌く主要なターゲットが変わったからか? おそらく、当初のターゲットは学校にも行かず、寮にも碌に帰らない連中が主だったのだろう。例えば、スキルアウトや・・・『置き去り』の学生等か。 そいつ等なら、俺達風紀委員や警備員の目も届き難い。その中に使える能力者が混じっていれば儲け物といった所か。 だが、最近になって『ブラックウィザード』の魔の手が普通の学生連中にも拡大しつつある。表に出てしまうリスクを抱えるのを承知で・・・。 俺達の知らない所で、何かあったのかもしれんな。スキルアウト等より能力者を手に入れやすい、すなわち普段学校に通う者達を狙わなければならない何かが」 「何かって・・・?」 「それは、現時点では俺にもわからん。だが、そんなイレギュラーが発生しているかもしれん連中に関する情報を、 今日まで俺達は碌に手に入れることができなかったのは紛れも無い事実だ。 奴等の情報統制に関わる工作は相当なものだ。今回のように、兵隊の中に周囲の状況を観察できる能力者が居るのならば、尚更連中を発見することは難しいかもしれん。 これは、現在『書庫』の行方不明者リストに登録されている学生連中の洗い直しも早急にしなければならんぞ。 推測だが、そいつ等の中に『ブラックウィザード』の兵隊として囚われている学生達が居る可能性が高い。 今後は、そちらの方面からも詰めて行く必要性があるな。全く・・・手強い連中だ」 「「「・・・!!!」」」 固地の言葉に、焔火、殻衣、真面は自分達の想像以上に危険な事件に携わっていることを実感する。 加えて、『ブラックウィザード』の非道さも同時に。 「とりあえず、この2人は警備員に預けることにしよう。『ブラックウィザード』が、こいつ等を取り戻そうと動く可能性もある。 真面!念の為、警備員の連中には重武装して来るように伝えておけ!後、医療班の同行も!」 「了解です!」 固地は、真面に警備員に連絡を取るように指示を出す。殻衣には、2人の拘束を解かないように『土砂人狼』の形成に集中するように指示を出している。 今の所は、これ以上やることは無い。警備員の到着を待つだけである。 「こ、固地先輩・・・」 「・・・何だ?」 そんな、1人思案に耽ろうとした固地に焔火が声を掛ける。挙動不審なのは、自分に対する臆病さの表れか。 「先輩は・・・何時から尾行に気が付いていたんですか?」 「・・・どうしてそんなことを聞く?」 焔火の口から発せられたのは、固地にとっても意外なことであった。 「あっ、えっと、『根焼』の裏手で先輩が『尾行か・・・面白い』って小さい声で呟いていたから・・・。その・・・何時から気付いていたのかなって・・・」 「・・・そうか。聞かれていたか」 零した言葉を聞かれていた。そう理解した固地は、数秒の沈黙後焔火に語り始める。 「俺が最初に気が付いたのは・・・風紀委員会が設置されている成瀬台をお前達と共に後にした時だ」 「!!」 「一応のためと思って、成瀬台の水場で得た水を水蒸気に変え操作範囲に散布した。そしたら、いきなりビンゴだった。 その時は水蒸気の量もそんなに多くなかったんで、『根焼』にて着替えがてら水を補給した。俺達が歩く人混みの中に、他に尾行者が居ないかどうかを確認するために。 つまりだ・・・今回の行動は俺が張った罠だったのさ」 「罠・・・。そんな頃から・・・」 固地は、自分達を尾行する者達が居るとわかった時点で尾行者を捕える作戦を練った。今日回る予定の行動範囲や、自分達の戦力等を総合的に鑑みて。 「(まぁ、さすがの俺も“ヤツ”の存在が無ければここまで用心深い真似はしなかっただろうが。俺達・・・いや、正確には俺が監視対象だったか。余程気になると見える。 やることは山積みだが・・・いずれ、あの“兄”とも連絡を取らなければならないな。奴の証言については、もう一度深く検証する必要がある。 最近は学校にも通わず、家にも全く帰っていないようだが・・・。俺の落度である以上、文句は言ってられん。 何とかコンタクトを取らねば。あの“兄”の訴えが本当だとすると・・・『ブラックウィザード』の兵隊の中に奴の“妹”が居る可能性が・・・)」 「固地先輩!」 「ん?どうした?」 1人思考の旅に出ていた固地を、焔火の声が引き戻す。 「私は・・・本当に力不足です」 「そんなことは、言われなくても知っている」 「自分の能力の応用とか、目的意識とか、尾行の考え方とか、色んな物が私には全然足りていません」 「それもわかっている」 「私は・・・あなたが苦手です。考え方とかは特に反りが合いません。自分とは相容れない部分がやっぱりあったりします」 「そうだろうな」 「後・・・先輩の演技、とても気持ち悪かったです。今度からは別のヤツでお願いします」 「・・・それはどうでもいいことだ」 固地は、焔火の言わんとすることがわからないでいた。今更のようなこの会話に、一体どういう意味があるのか。 その意味を、焔火は意を決した言葉として表す。 「そんな、色んなことに気付かせてくれた固地先輩に・・・感謝します。本当にありがとうございます」 「・・・」 固地の目に映るのは、自分に散々虚仮にされた少女の頭を下げる姿。あれ程の辛辣な言葉を浴びせられた上で、それでもこの少女は自分に礼を述べる。 「・・・たかが数時間同行したくらいで、自分に足りない部分を全て把握した気でいるのか?」 「・・・いえ、これからも固地先輩にはズバズバ突っ込まれると思います。自分が気付かない色んな欠点が。・・・やっぱり指摘されるとムカってくることもあると思います。 でも・・・それに気付かせてくれる先輩の存在が、色んなことを常に考えている固地先輩の凄さが・・・ようやくわかってきた気がします」 焔火は、今日1日のことを脳裏に思い浮かべる。たかだか数時間の間に、随分とボコボコにされた。主に精神面を。 人生最大のボコられっぷりだったと言っても過言では無い。麻鬼と戦った時とは全く違う完敗だった。手も足も出ない・・・じゃ無い。出す前に敗北が決まっているのだ。 そんな、情けないを通り越して自分自身の駄目っぷりに愕然とする焔火が今日1日で見出した、それは確かな一歩。 「だから・・・私は最後まで固地先輩に付いて行きます。何が何ででも喰らい付きます!自分が成長するために。本物の風紀委員になるために!!」 昨日土下座して言った言葉よりも更に力強い言葉を、焔火は固地に向かって宣言する。そのしつこさに、固地はある少女の姿を重ねる。 「(フッ。あいつも昔はこんな感じだったか。・・・確かにあいつの部下らしいと言えばらしいか・・・)」 数秒の回想を経て、固地は自分へ指導を希った少女に相対する。顔を、瞳を近付ける。その凶悪な瞳が、焔火の瞳を捕えて離さない。 「面白い。ならば、俺も俺なりの流儀を貫かせてもらう。ククッ、今後も徹底的にお前の欠点や不足している部分を追及してやる。 精々振り落とされないように励むんだな、落ちこぼれ」 「いいですよ!絶対に振り落とされませんから!絶対に、絶ぇ~っ対に固地先輩にしがみ付いて行きますから!!」 これは、決して約束では無い。つまるところ、単なる意思表明にしか過ぎない。だが、各々の言葉に込められた力を、確かに両者は感じ取っていた。 continue…?
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幻砂人 種族データ テーブルトーク用 教養総合35 地方知識(出身地方)1、気象学1、言語/会話(幻砂人語)6、生存術1、楽器演奏/手持ち琴10、調教/基礎調教(ラクダ)10 幻砂人は人の心を読むことで知られています。次の技能を加えてください。 心理学・読心術 基準値、普通に計算(知+感+精) 天性、基準値÷9で-3はしない 教養、年齢(人間にして)*3ですでに持っている 得点、5ごとに教養2増す PBM用 補足
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「麻鬼・・・天牙・・・!!!」 焔火の驚愕に染まった掠れ声が夜風に乗る。光の“剣”を両手に顕現した男・・・かつて敵対した麻鬼天牙が今度は彼女の窮地を救ったからだ。 「(私を助けた?何で・・・?)」 困惑顔がどうしても表情に浮かんでしまう。そもそも、何故彼がここに居るのかさえ予測が付かなかった。 救済委員の行動原理は多少なりともわかってはいる。だが、ここ『ブラックウィザード』の本拠地と思わしき施設は風紀委員達が幾ら調査しても見付けられなかった場所である。 「(どうやってここを・・・)」 「無様だな・・・俺の“後輩”」 「ッッ!!」 しかし、焔火の思考は麻鬼が投げ掛けた『“後輩”』という言葉で中断する。焔火の眼前にまで歩を進めた救済委員は、少女の鼻先に“剣”を突き付ける。 「『ブラックウィザード』の手に堕ち、地べたを這いずるその様は無様としか言いようが無い。俺の『気紛れ』が無ければ、お前はまた連中の手に堕ちていた・・・違うか?」 「そ、そうとは・・・限らない!!」 「限らないな。だが、そうであった可能性もある。俺の同輩・・・網枷にしてやられたものだな」 「あ、あなた・・・網枷先輩が『ブラックウィザード』の一員だって知っ・・・」 「そんなことはどうでもいい。“後輩”・・・どうだ?『ブラックウィザード』の手先でさえ容易に入り込める風紀委員という組織に、いい加減見切りは付けられたか?」 「ッッッ!!!」 『風紀委員のような偽善者共の巣窟に身を置いて守れるもの等何一つ無い』 「お前の身に起きた惨状を見れば理解できた筈だ。他の誰でも無い、お前自身が。『偽善者』共から与えられたお題目に縛られた挙句、それを利用されお前は敵の手に堕ちた。 つくづく『偽善者』共の目は節穴だな。肝心な時に役に立たない。本当に大事なモノを守れない。その中でピエロのように踊っているお前に対し、俺は哀れみさえ抱いてしまう」 『「己の信念に従い正しいと感じた行動をとるべし」。これは、私の信念でもある!!誰かに押し付けられたとか、強制されたとか、そんなことは絶対に無い!!』 『それは、女。お前の勘違いだ。「偽善者」共からの刷り込みでしか無い』 「まだ間に合うぞ?お前が決断するのなら、俺が『ブラックウィザード』の魔の手からお前を助けてやろう。守ってやろう。“後輩”を救うのも“先輩”の務めだしな」 「・・・・・・」 『現実に抗いつつも己が信念を貫き通したいのならば、それに見合うだけの力が要る。 女。今のお前にはそれが無い。 俺の言葉に迷い、移ろい、ブレてしまったお前の信念に・・・貫き通す価値は無い。よくよく考えることだ。後悔する前に。それまでは・・・生かしておいてやろう。では、さらばだ。俺の“後輩”』 麻鬼が突き付けるのは“剣”では無い。本当に突き付けるのは風紀委員の矜持の価値。以前の対峙の際に、何度も焔火に突き付けた風紀委員という組織の愚かさ、愚鈍さ。 麻鬼は見限った。そして、今も彼は風紀委員の枠に残っている焔火に問う。『そんな場所に居続ける意味があるのか』。 誘惑にも似た“先輩”の『甘言』・・・それを受けた“後輩”は静かに―熱く―言葉を紡ぎ始める。 「・・・確かにアンタの言ったことには正しかった部分があった。私は・・・私の信念を持っていなかった。アンタの言う通り、私の心には刷り込みが・・・“偶像”があった」 刷り込み・・・“偶像”・・・小さい時に自分を救ってくれた“ヒーロー”―警備員の緑川強―をそのまま自分の心に写していた。 彼のように、『困ってる人間を助けられる“ヒーロー”になりたい』。“彼のように”。この時点で“線引き”ができていなかった。 焔火緋花は緑川強にはなれない。絶対に。その厳然足る事実に思考を張り巡らせていなかった。軽く考えていた。否、碌に考えていなかった。 「その“偶像”の存在に気付かなかったせいで、私はこんな酷い目に遭っている。仲間に裏切られて・・・仲間を死なせて・・・姉を操り人形にさせられて・・・。 確かに、私が風紀委員じゃ無かったら・・・アンタが私に言った通りあの時点で風紀委員を辞めていれば、こんなことにはならなかった」 「ほぅ。ならば、お前も理解したということだな。風紀委員というモノが信じるに値しない『偽善者』共の巣窟でしか・・・」 「でも!!だから今の私が居る!!!“偶像”があったからこそ、私は『他者を最優先に考える“ヒーロー”』になりたいと思った!!!」 「!!!」 麻鬼は包帯の隙間から見える目を思わず瞠る。かつての相対時には無かった『芯』が、今の少女の瞳には確かに宿っている。 「私が馬鹿で独り善がりな人間だったのは確かよ!!そのせいで傷付いた人達が多く居る。でも・・・過ぎたことを言っても仕方が無い!!過去は・・・変えたくても変えられない!!! それでも、過去が・・・辛過ぎる過去があったからこそ、私は気付くことができた!!私の可能性に!!だったら・・・私は未来を変える!!変えることができる未来を!!!」 「それは、唯の現実逃避じゃないのか?直視したく無い過去や責任という現実から目を背けて・・・」 「私は目を背けない!!私は逃げない!!!もう・・・もう逃げるのは嫌。目を背けるのは嫌!!私は背負う!!背負ってみせる!!最後まで!!今度こそ!!!」 「だが、“後輩”。無能なお前が今も無様に地べたを這いずっているのは紛れも無い現実だ。お前の力量不足が解決されたわけじゃ無い。 今のお前では、また過ちを犯すだろう。間違えるだろう。お前1人の力では・・・」 「私には・・・かけがえの無い親友が居る!!仲間が居る!!私は1人じゃ無い!!私1人の力じゃ無理なことも、皆の力を合わせればやり遂げることだってできる!!!」 「逃げているぞ、“後輩”。それは、あくまで他者の力を当てにしているだけだ。俺が聞きたいのは、お前という独力が不足している現実には変わりが無いということだ」 救済委員事件では水入りになった応酬を、この場で再開する焔火と麻鬼。現176支部風紀委員と元176支部風紀委員の激論を邪魔する存在は、何処にも居ない。 「信念だけで不条理を打ち破れるとでも?甘い。甘過ぎる。信念と実力。双方を両立してこそ、起こり得る不条理を打ち破ることができる。もう1度言ってやろう。お前には・・・」 「・・・フン。アンタ・・・何を今更なことを言ってるの?」 「何だと?」 「私はようやく自分だけの信念を持ちつつある。まだ芽が出たばっかりの・・・ね。私が実力不足?そんなこと、百も承知よ!!」 「・・・では、どうする?」 「私は『本物』の風紀委員になる。『本物』の『他者を最優先に考える“ヒーロー”』になる。そのために・・・・・・私はあの固地債鬼に師事したのよ!!!」 「ッッ!!!」 “風紀委員の『悪鬼』”・・・固地債鬼。麻鬼天牙が焔火を叩き潰した元凶とするなら、そこに駄目押ししたのは彼である。 自身に不条理を与えた存在でもある“『悪鬼』”に師事したことを・・・彼女は決して後悔しない。 「不条理を打ち破れない!?んなモン痛感しまくってるわよ!!アンタの言う『信念と実力の両立』が今までの私にできていれば、こんな現在(いま)になんかなっていない!!! そんな私が見出したのが固地先輩へ師事することだった!!私を泣かし続けた存在に、私とは正反対の信念を持つ男に、私は私を変えるための、成長するための指導を願った!! 私は今でもあの人の指導を希っている!!でも、あの人の有り様を全て肯定するわけじゃ無い!!しているわけじゃ無い!!だから否定する!! 私はあの人の『欠点』を否定する!!私の信念でもって!!その代わり、あの人には私の『欠点』を否定して貰う!!それが、私やあの人の実力を上げる力になる!! 私は正しくない!!あの人も正しくない!!でも、あの人は正しい!!私も正しい!!・・・知れた。知ることができた。長所も短所もそれ以外のことも私は知った。 今の私だとあの人の『欠点』を認めるしか無い部分も出て来るかもしれない!!実力不足だから!!けど、私はあの人に真正面からぶつかり続ける!!あの人は絶対に逃げない!! 今は他者(あのひと)を最優先にする!!その上で自分(わたし)を優先にする!!今の私じゃ間違ってしまうことも、固地先輩なら間違え無い!! そこから学ぶ!!私に不足していることを!!私が成長するために必要なことを!!『本物』になるために!! そして、伝える!!あの人だってまだまだ成長できる人なんだ!!私のために頑張ってくれたあの人のためにも・・・私は私の想いを伝えたい!!」 「それは、結局自分のために動いているだけじゃないのか?他者に自分の気持ちを押し付けているだけじゃ無いのか?」 「自分のためよ!!そして、それ以上に固地先輩のためよ!!これは押し付けなんかじゃ無いし、押し付けには絶対にしない!!ちゃんと考える!!考え抜く!! 確かに履き違えないようにすることは難しいかもしれない。自分と他者が逆転してしまうこともあるかもしれない。・・・いえ、よく有り得ることなんだと思う。 今回、私はそれを痛いくらいに実感したわ。他者を最優先に考えることが、どれだけ難しいのかを。でも、それが他者を最優先に考えることを諦める理由になんかならない!!」 「・・・フッ。そもそも、あの“『悪鬼』”がここに居ると?そんな証拠が何処に・・・」 「界刺得世がここに現れた!!」 「ッッッ!!!」 激昂していた思考がクリアになっていく。麻鬼と激論を交わしているせいか、彼に負けまいと必死に頭を働かせる。 以前は言い負かされた。敗北した。焔火緋花は元来負けず嫌いである。負けたままで引き下がれる程寛容では無い。 「界刺さんが現れた。『ブラックウィザード』に関わらないって言っていた“閃光の英雄”が。 目的は私にはわからないけど、あの人なら『ブラックウィザード』相手に少人数の『シンボル』だけで突っ込んで来ない筈。 途轍も無く頭が回るあの“『シンボル』の詐欺師”なら、二重にも三重にも備えをしている筈。あの界刺得世なら、自分のために私達風紀委員だって利用する筈!!」 彼の部屋で交わした“3条件”なら、『シンボル』は今回の風紀委員会に所属している風紀委員を利用できる。ムカつくことに変わりは無いが、あの碧髪の男ならやりかねない。 自分を最優先に考えてる癖に、いや、だからこそ自分のために色んな策や備えを行う。慎重に事を進める。他者の都合を推し量った上で。反論し難いのが、殊更腹が立つ。 「それに、界刺さんは言ったわ。私を助けるのは『他の連中の仕事だ』って。そして、さっきから聞こえて来るこの轟音・・・ここに風紀委員会が来てる証拠なんじゃないの!?」 「・・・・・・」 「・・・やっぱり。つくづくムカつくわ、あの人。実力不足な自分が情けない。私との力の差を嫌っていう程見せ付けてくれるんだから!! 界刺得世に負けたままで終わって堪るか!!『自分を最優先に考える“ヒーロー”』に負けたままで終われるか!!私の信念だって結果を出せることを、絶対に証明してやるんだから!!」 力不足・実力不足・力量不足・・・言葉は違えども、それは未だ変えられていない焔火緋花の現在である。 故に、少女は現在を変え得る存在を見出した。ライバルも見付けた。足りていなかったのは・・・自分だけの信念。 それを本当の意味で掴みつつある少女の瞳に曇りは1つも無い。たとえ、敵対関係にある救済委員に“剣”を突き付けられていたとしても、少女の心は微塵たりとも揺るぎはしない。 「・・・・・・フン」 「・・・・・・どういうつもり?」 焔火が疑問を口にする。麻鬼が彼女の鼻先に突き付けていた“剣”を引いたからである。 「時間を無駄にした」 「な、何よそれ!?」 「・・・少しはマシになったようだ(ボソッ)」 コンテナターミナルでの対決では見られなかった『芯』を肌で感じ取ることができた。先程放った“必要以上”の言葉にも、焔火は自分なりの信念をもって対抗した。 ガキの癇癪でも我侭でも言い訳でも無い。彼女の“我”が、麻鬼に対抗し得るだけの強さを持ちつつあることを“先輩”は渋々認める。 「・・・何処へ行くつもり?」 「俺には俺のやりたいことがある。『気紛れ』で時間を無駄にした以上、これ以上の道草は・・・な」 「まさか・・・網枷先輩の所へ・・・?」 「断っておくが、お前はこの戦場で救済委員である俺を捕まえることはできんぞ?何故なら、お前はコンテナターミナルで俺の存在を知っておきながら、 風紀委員として俺を捕まえに来なかった。いや・・・できなかった。荒我拳という救済委員の存在があったために」 「ッッ!!」 「そもそも、救済委員と言ってもスキルアウトと同じで現行犯で無ければ捕えることは困難だ。その貴重な機会をお前は逃した。 今更動いた所で、あの時動かなかったお前の責任は必ず追及される。下手をすれば荒我拳にも手は及ぶ。何せ、今もあの男は救済委員をしているのだから」 「ぐっ・・・!!」 麻鬼の指摘に焔火は歯噛みする。彼の言っていることは的を射ている。荒我(+斬山)の存在があった(+元176支部員の麻鬼が救済委員であることを知った加賀美の判断)ために、 焔火は救済委員事件以降風紀委員として麻鬼を捕まえに行くことができなかった。春咲の件で開かれた風紀委員会でも、対峙した救済委員の詳細は不明と報告している。 荒我が救済委員であることは、焔火にとっても致命的であった。彼は自分の意志を絶対に曲げない。焔火が懇願した所で、荒我は絶対に救済委員を辞めないだろう。 救済委員=悪とは限らないことは焔火にもわかっている。しかし、荒我が属するのは麻鬼や斬山と同じ過激派と呼ばれる救済委員である。 1つ間違えれば芋づる式に繋がることも否定できない。確かな弱みの存在が、麻鬼に対するアクションを制限してしまっているのだ。 「『気紛れ』とは言え、風紀委員であるお前を助けたわけだし・・・何とでも言い逃れはできそうだがな。フッ」 「・・・」 「“後輩”・・・いや・・・焔火」 「ッッッ!!!」 呼んだ。初めて呼んだ。“後輩”の名を。焔火緋花の名を。 「俺は『偽善者』共に失望して風紀委員を辞めた。その選択に後悔は無い。今も風紀委員や警備員という組織を軽蔑している。 だが、その中でもがく人間を・・・俺は軽蔑しない。それだけの覚悟があるのなら、与えられたお題目では無い自分だけの揺るがぬ信念を持っているのなら・・・俺は認めよう。 焔火。今のお前はまだヒヨッコもいい所だ。まぁ、その心意気くらいは認めてやる。“『悪鬼』”にしごいて貰え。俺には選べなかった道を・・・歩んでみせろ」 麻鬼は“剣”を消滅させながら焔火に背を向ける。向けながら語る。自分には選べなかった道に対する未練を。その言葉に、真摯な言葉に焔火は瞠目する。 語る麻鬼の背中には・・・それだけの“何か”が宿っていた。彼にしかわからない重みが。彼にしか知り得ない哀しみが。 気になった。何故か気になった。麻鬼天牙が何故風紀委員を辞めたのか・・・どうして176支部を辞めたのか、その理由を。 「アンタ・・・・・・あなたは・・・どうして風紀委員を・・・・・・」 ビュン!!! その疑問を口にしていた最中に、焔火は麻鬼の後ろから姿を消す。事前の取り決め。“剣”を消滅した後に、焔火を『暗室移動』にて空間移動させることを。 直後、麻鬼も『暗室移動』にて現在の仲間である―麻鬼と同じく各々の方法で顔を隠している―雅艶と峠の傍へ空間移動する。転移先は共に雅艶の『多角透視』で指示した座標である。 「満足か、麻鬼?」 「・・・あぁ。戦況は?」 「乱戦模様だな。風紀委員会と『ブラックウィザード』の戦闘もそうだが、何よりあの殺人鬼と界刺がこの敷地の南西部で凄まじい戦闘を繰り広げ始めた。 俺には界刺の光学系能力について分析することは叶わないが、あの殺人鬼と単独で渡り合っているだけでもその実力がわかるというモノだ」 「あのドーム的な何かも光学系能力で作ったモノなんでしょうけど、気味が悪いわ。目玉のようなモノを形作った図形や、変な模様が幾つも浮かんだり消えたりしているし。 まるで、生命体が脈動しているかのような気色悪さを感じるわ。あそこには近付きたく無いわね」 3人(厳密には2人)の視線の先には、戦場で一番の轟音を響かせている色取り取りの幾何学模様が浮かんでは消えている【閃苛絢爛の鏡界】があった。 『多角透視』でざっと見た限り、あの2人の戦闘・勝敗がこの戦場に最大の影響を与えることは容易に理解できた。 ちなみに、周囲にあった『ブラックウィザード』の監視網は『多角透視』と『暗室移動』の併用で叩き潰した。今も叩き潰している最中だ。 「お前の同輩の位置は確認済みだが・・・どうする?」 同輩・・・網枷双真。麻鬼の同期であり、自分を慕ってくれた元仲間。本来ならば、この手で裁いてやろうと思っていた―固地にも伝えている―が・・・ 「・・・様子見だ。ここには、俺の元仲間が居る。奴等がどれだけの働きを見せるのか・・・見てみたくなった。 雅艶。固地には上層部の位置取りを伝えるなよ?奴からの依頼は既に終えた。サービスも今ので終了した。これ以上の馴れ合いは必要無い」 見てみたくなった。“後輩”・・・焔火の心意気が結果として現れる可能性を見てみたくなった。 力を貸すつもりは無いが、風紀委員や警備員が『ブラックウィザード』に対して何処まで対抗できるのか。有り得たかもしれない選択が行き着く1つの可能性をその目で見たくなった。 「・・・そうか。なら、監視だけは続行しておくぞ?」 「あぁ。頼む」 「それと・・・この戦場に花多狩や荒我も来ているようだぞ?」 「えっ?菊がここに!?どうして!!?」 「おそらく界刺の差し金だろう。啄・ゲコ太・仲場も居る以上、穏健派の連中も参戦しているんだ。 界刺は元穏健派救済委員だし、荒我については奴と同じ成瀬台の生徒・・・いや。もしかすれば、焔火緋花を助けるために荒我の方から界刺へアクションを取ったのかもしれないな」 「菊・・・!!」 峠の脳裏には、友の笑顔が思い浮かんでいた。彼女がこの戦場に来ている。無能力者である彼女が、能力者が跋扈するこの戦場に。 「・・・仕方無い。麻鬼。峠。俺達は花多狩達の援護に向かうぞ」 「雅艶!?」 「穏健派の連中とも、いい加減和解したかった所だしな。良い機会だ。彼女達の援護をすることで、和解ムードを作り出す。異論は?」 「無いわ!!無いに決まってるでしょう!!」 「俺も無い。様子見とは言っても、傍観してばかりではかえってしんどい」 「よし。では、行くぞ!!」 雅艶の発案に乗る峠と雅艶。救済委員事件を機に関係が悪化してしまった穏健派と過激派の和解ムードを作り出すためには、ここで彼女達の援護に回った方が得策である。 穏健派と過激派に分かれていたとしても、本来は仲間同士である。無益な対立は長引かせないに越したことは無い。 峠の『暗室移動』にて姿を消す過激派救済委員達。彼等彼女等の働きが無ければ、風紀委員会がこの現状へ辿り着け無かったことは・・・まず間違い無い。 「真面!!秋雪!!合わせろ!!」 「はい!!」 「わかってるわよ!!」 施設内北東部で“手駒達”や構成員と戦闘を繰り広げているのは178支部の面々である。 『水昇蒸降』による感知方法で物陰に潜んでいる構成員の居場所を特定した固地の指示の下、真面の『発火能力』と秋雪の『風力使い』が放たれようとしている。 「秋雪先輩!!頼りにしてますよ!!」 「ええっ!?そ、そう!?よ~し!お姉さん、頑張っちゃうぞ~!!それぇ~!!」 真面の檄に気を良くした秋雪は、周囲に漂わせている大量の葉を含んだ疾風を構成員へぶつける。 「痛っ!?」 「くそっ!!鬱陶しい!!」 目晦ましとしても有効な葉の多くには各所が棘のように尖がっている種類を使用している。中には毒を含んだ葉もあるそれ等を用いた戦闘方法は、秋雪のコンプレックスが原因である。 彼女は自分の能力を『ありきたりな能力』だと捉えている。それは、単に発現しやすい能力(『発火能力』や『電撃使い』etc)と発現し難い能力に分かれているだけなのであって、 秋雪という少女にはその発現しやすい能力の才能があったという話なのだ。 『ありきたりな能力』=『強い能力』とは限らない。それは彼女もわかってはいるのだが、一度コンプレックスと化したモノは中々拭うことはできない。 そんな彼女が目を付けたのは葉である。学園都市で人工的に開発されている植物や学園都市外の植物を集めて、その葉を利用することを少女は思い付いたのだ。 『風を操る能力よりも葉を操る能力と思われた方がインパクトがある!』というのが秋雪本人の弁だが、 秋にはいたずらに落ち葉を散らかしてしまうので周りからは迷惑としか思われていなかったりする。 「はああぁぁっ!!」 ドカン!! 葉の大群に気を取られた構成員に真面の放った火球が次々に直撃する。もちろん、直撃した以上、服や葉を通して構成員の体は火の脅威に蝕まれて行く。 「テメェ等!!俺達を殺す気・・・熱ぃぃっ!!!」 「くそっ!よくも仲間をやっ・・・ぎゃあああぁぁっっ!!!」 殺しに掛かっている。風紀委員が。一般の風紀委員では考え難い行動を取る178支部の面々に、構成員達は恐怖する。 つまりは『死の恐怖』。正義の味方に対し抗議する悪者達だが、その抗議を全て言い終える前に新たな火球が飛来し、結果として更なる燃焼体が増えて行く。 「殻衣!!“手駒達”をアンテナごと押し潰せ!!」 「『土砂人狼』・・・Standby・・・Catch Crush!!」 固地の指示が傍らの殻衣に飛ぶ。『土砂人狼』によって別方向に居た“手駒達”の捕捉を行っていた殻衣は、敵の周囲に50体もの土人形を生み出す。 不時着して数分後に『ブラックウィザード』の強襲を受けた178支部は、彼等に追い立てられるように移動した。逃げているように思わせた。もちろん罠である。 一旦支配下に置いたコンクリート等なら操作範囲外に出るまでは解除されない+歩行から位置を捕捉できる『土砂人狼』の特性から、固地は殻衣に戦闘行為を禁じさせていた。 真面と秋雪を前面に出させ敵の攻勢を防ぎつつ機を見計らう。そして・・・機は熟した。 ドサアアアァァァッッ!!! 構成員の苦戦振りを見て攻勢を仕掛けようとしていた“手駒達”は、土人形に押し潰されるように土砂の中に取り込まれる。 コンクリートの残骸が“手駒達”の体を傷付ける。何より、上方からの押し潰しによって速攻で頭部に付いているアンテナが破壊される。 先日蜘蛛井が江刺の能力で殻衣の『土砂人狼』の戦闘能力を封じていた最大の理由がここにある。土砂という物量攻撃は、時として火や風よりも脅威になり得るのだ。 「固地先輩!!」 「わかってる!!」 真面の焦りの声が“『悪鬼』”の鼓膜を震わす。2人の視線の先には、火だるまになっている構成員の姿があった。 シュ~!! 『水昇蒸降』によって支配下に置いてある水蒸気を水に変え、火だるまになっている構成員へ向けて放射する。 同時に、結構な火傷を負っている敵の皮膚に水分を与えて行く固地。彼の能力は火傷治療には効果絶大で、2度(真皮熱傷)までの火傷なら能力により治療可能であった。 とは言え、敵の火傷全てを治すつもりは無い。応急処置レベルで済ませた固地は、構成員の服を物色して行く。 「チッ。少しやり過ぎたか。携帯電話が火で使い物にならなくなってるな。連中の連絡網を掴むチャンスだったんだが」 「だから言ったんですよ!やり過ぎなんじゃないかって!」 「それはどういう意味での『やり過ぎ』だ、真面?お前と俺の言っている『やり過ぎ』は違う意味だろう?」 「そ、それは・・・!!」 真面の顔が歪む。自身荒事を好まない性分である真面は、能力である『発火能力』を他人に真正面からぶつけた経験は殆ど無い。 火というものが人体にとってどれ程危険なモノかを知っているからである。その危険を、固地は躊躇無く利用することを命じた。 もし、固地が火傷治療に有効な能力及び火を消す水の能力を持っていなければ、真面はたとえ固地の命令であったとしても首を縦に振らなかっただろう。 「敵に対して甘くなるな。凶器を持つ敵に対して温い対処をすれば命取りになるぞ?」 「うっ・・・!!」 「敵に対して『やり過ぎ』もくそも無い。命懸けの戦場でその甘い考えは・・・」 「でも、固地先輩だって当初の狙いである『敵方の連絡手段を掴む』ことに失敗しましたよね?」 「殻衣・・・」 「殻衣ちゃん・・・!」 真面に厳しい指摘を向ける固地に対して、殻衣が毅然とした態度でもって反論を行う。内心ではかなり恐がっているが、握る拳に力を入れて恐怖に耐える。 「真面君の『やり過ぎ』と固地先輩の『やり過ぎ』は意味が違っているんでしょう。・・・。でも、結果を出したのは真面君の方です。『敵を排除する』という目的を遂げたのは彼です」 「・・・・・・」 「真面君の言う『やり過ぎ』は、人体に対する影響を考えての意見です。・・・。それについては固地先輩の能力で『やり過ぎ』にはなっていません。・・・。 一方、固地先輩の言う『やり過ぎ』は機械類への影響を考えての意見です。・・・。これに関しては消火するのを遅らした固地先輩の判断で『やり過ぎ』になってしまいました。・・・。 私の『土砂人狼』で周囲の監視カメラを破壊した意味も先輩の失敗で無くなりました。・・・。これは、固地先輩の見立てが甘かったからじゃないですか?」 「萎履の言う通りよ。債鬼。これは、間違い無くアンタの失敗よ。進次のことをとやかく言える義理じゃ無いわよね?」 「殻衣ちゃん・・・秋雪先輩・・・」 女性陣2人の指摘が固地に突き刺さる。確かに、固地の目論見は失敗した。『結果』を生み出せなかった。 その点、真面は確かな『結果』を出した。本人が心から望んだモノでは無いにしろ、宛がわれた役割をきちんと遂行した。 更に言うならば、殻衣の言葉は真面に対しても向けられている。『やり過ぎ』になっていない『結果』に対して『やり過ぎ』と意見するのは間違っていると。 意見をするのならば、指摘をするのならば明確且つ適切な発言をするべきだと殻衣は真面に告げているのである。 「・・・言うようになったな、殻衣」 「ビクッ!」 「・・・ふぅ。確かにお前達の言う通りだ。俺は俺が望んだ結果を現実にできなかった。 一方、真面は己の役割をちゃんと遂行した。その点に関しては、俺がとやかく言えた義理では無いな」 「固地先輩・・・」 部下の指摘に、倒した敵を手錠や土砂で付近の水道管に繋ぎ終わった(後方から進撃する警備員達が回収予定)固地は苦い顔を作る。 殻衣達の言い分は正当である。だが、面と向かって指摘されるとは思わなかった。普段なら、陰で愚痴を零しているだろうに。 「固地先輩・・・すみませんでした」 「・・・・・・もういい。今は他に優先することがある!迅速さが求められていない反省は後でもできる!いいな、真面!?」 「ッッ!!は、はい!」 「(ここで『すまん』の一言でも言えたらなぁ。・・・。固地先輩の好感度ももうちょっと上がるのに。・・・。もったいない。・・・。 それと・・・『反省』・・・殺人鬼に追尾用の糸を仕掛けられる切欠になった行動を、私達はもっと反省しないといけない。・・・。この事件が終わってから!!)」 殻衣は先輩の意地っ張りに嘆息する。筋金入りの意地っ張りを急に矯正させるのは、やはり難しいのかもしれない。 難しいのかもしれないがもったいないと素直に思う。思うからこそ、後輩である自分達が先輩を良い方向へ導いてあげる必要がある。 加えて、殺人鬼の件についても真面・殻衣は不時着時に固地から『後悔や反省は後にしろ』と注意されている。 「殻衣!」 「は、はいっ!?」 「何をボーっとしている!早く『土砂人狼』で狼型の土人形を人数分作成しろ!すぐに移動する!」 「はい!」 何時までも一箇所に留まってはいられない。『ブラックウィザード』は、すぐにでも追手を差し向けてくるに違いない。 急かされるままに、殻衣は超特急で狼型の土人形を作成する。その上に各々が跨る。移動の準備は整った。指揮する“『悪鬼』”が仲間に檄を飛ばす。 「よしっ。俺達178支部は施設内北東部から攻め入る。159支部は東部、176支部は南東部から攻め入っている。各自気を抜くな。では、行く・・・」 ヒュン!! 「キャッ!!?」 「うん?うおっ!!?」 「「「!!!??」」」 その檄が言い終わる前に、真面の上方―土人形の背中―に突如として出現して彼が乗る土人形に落下して来たのは・・・少女と一対の物。 峠の『暗室移動』によって空間移動して来た下着姿の少女・・・焔火緋花と、薬物中毒者が着ていた上下の衣服一式(靴付き)である。 但し、固地の檄に顔を向けていた真面達は焔火が空間移動した瞬間を見ていない。見ていたのは固地だけである。 「ッッッ!!!焔火ちゃん!!?」 「痛っ・・・・・・えっ・・・真面・・・?」 突然目の前に現れた仲間、『ブラックウィザード』に囚われていた少女の出現に驚愕する真面。彼女が下着姿である現実が手伝っているのは間違い無い。 だが、真面以上に驚愕しているのは当の焔火である。何故なら、網枷達から真面(+殻衣)は死んだと聞かされていたからである。 「お、おお、おおおおぉぉ・・・」 「『おお』?」 「お化けえええええぇぇぇぇっっっ!!!!!真面のお化けが出たあああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」 「ええええええぇぇぇっっ!!!??」 お化け発言にわけがわからなくなる真面だが、今の焔火はそれ以上にドン引きである。成長中とは言え、幼い中身を抱える焔火は未だにお化けの存在を信じていたりする。 『科学』世界の住人にはあるまじき思考だが、恐いモンは恐いのである。媚薬のせいで力が入らない焔火の体が飛び起きる程である。 しかし、その後の体勢を保てる程では無く、焔火はあえなく土人形の上から地面へ落下する。 「あてっ!!」 「焔火さん!!大丈夫!!?」 「・・・殻衣っち?・・・・・・ギャアアアアアァァァッッ!!!!!今度は殻衣っちのお化けがああああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」 「ええええええぇぇぇっっ!!?」 (焔火視点で)真面に続いて殻衣のお化けまでが現れた。いよいよもって、焔火の思考は混乱の頂へ上がる。薬の影響もある・・・とは断言できない。 「わ、私が殺したも同然だから化けて現れたの!!?ご、ごめんなさいごめんなさい!!!私が全部悪かったから!!だから、ごめんなさいごめんなさい!!!」 「焔火ちゃん!!話が全然見えないんだけど!!?落ち着いて!!!」 「ハッ!!それとも、私は夢でも見ているのかしら!!?そ、そうよ!!これは夢!!今までの辛い現実も全ては夢だったのよ!!ハァ~、よかったよかっ・・・ま、待て!! もし夢じゃ無かったら?・・・嫌アアアアアアァァァァッッ!!!!!お化け怖いお化け恐い!!!・・・・・・ちょっと待て。まさか・・・ここは天国だったりするの?」 「焔火さん!!論理の飛躍がトンデモなんだけど!!?何で天国の話になってるの!!?」 「い、いや・・・私が行くなら天国より地獄よね。真面や殻衣っちを殺しちゃったんだから・・・。2人を地獄に引き摺り込んじゃったんだ・・・・・・ごめんなさい」 「「何で俺(私)が死んでる前提なんだ(なの)!!?」」 焔火の錯綜振りに、真面や殻衣も混乱して来た。そもそも、何故焔火の中で自分達が死んでいる設定なのだ。 「そうか・・・・・・私は死んじゃったのか・・・・・・。私・・・結局駄目だったんだなぁ・・・。くそっ!!これからだと思ってたのに!! 私は・・・私は・・・裁かれたりするのかな?地獄には恐い化物が居るって、お姉ちゃんが昔よく言ってた・・・」 「・・・・・・おい」 「へっ・・・・・・・・・こ、固地先輩?」 地面にうつ伏せで倒れ込んでいる焔火の前に、地獄の化物よりも恐いかもしれない“『悪鬼』”が座り込む。青筋を幾つも浮かばせている“『悪鬼』”の目は禍々しいにも程がある。 「・・・・・・」 「ま、まさか・・・固地先輩も死んじゃった?ま、まぁ先輩は恨み辛みをよく買ってそうなイメージだから地獄に居ても不思議じゃ・・・(ボコッ)・・・痛っ!!」 「寝惚けるのもいい加減にしろ。・・・(ピシャ)」 「ハブッ!!?・・・水?」 「お前が考えるお化けとやらは、こうやって超能力を使うような奴等なのか?」 呆れて物が言えないが、言わないと何時まで経ってもこの漫才モドキが終わりそうにないので介入する固地。 何故焔火が空間移動によってここへ現れたのか、その理由に心当たりのある彼だが当然表には出さない。 代わりに行っているのは『水昇蒸降』を用いた水蒸気や水の切り替え。その途上で焔火の顔面に水を放射したのだ。 水の冷たさで混乱が解けたのか、地べたで目をパチパチしている少女は段々と顔を青褪めて行く。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」 「何が『あれ?』だ、馬鹿め。・・・(ボコッ)」 「あ痛っ!!?うううぅぅっ」 再び拳骨を頭に喰らった焔火が、半ば泣きべそ状態へと移行する。ここ最近は本当に泣いてばかりのような気がする。 「痛いだろう?その痛さが、お前が生きている何よりの証拠だ。そして、お前を叩いた俺の拳も多少ながら痛い。この痛さが、俺が生きている何よりの証拠だ。わかったか?」 「は、はい・・・」 「にしても・・・俺や殻衣達は平気だが、女と付き合ったことが無い真面には刺激が強過ぎるな」 「へっ?・・・・・・ッッッ!!!!!」 今更のように、下着姿である自分の格好に羞恥心を抱く焔火。固地に指摘された真面は、現在焔火に背を向けている状態である。 「・・・血が所々に付着しているが、下着姿よりはマシだろう。これでも着ていろ」 「・・・・・・」 「何だ?何か文句でもあるのか?」 「い、いえ。その・・・体に上手く力が入らないっていうか・・・無闇に動いたらすごい刺激が体に走るっていうか・・・」 「・・・薬だな?例の薬もか?」 「・・・はい」 「じっとしてろ」 焔火の言葉から彼女に非合法の薬物『も』投与されていることを確認した固地は、彼女の首の後方を調べる。そこには、薄いながらも“手駒達”にも見られた黒色の斑点があった。 「焔火さん・・・!!」 「・・・殻衣。焔火を運ぶ。敵方にバレないよう『土砂人狼』で覆い隠せ。息苦しいだろうが止むを得ない。いいな、焔火?」 「わかりました」 「了解です!」 「とりあえず、急いでここから離れるぞ。色々確認したいこともあるしな。真面は、移動後至急浮草に伝達を。焔火を確保したとな」 「了解!」 「落ち着ける場所に移動したら、遠隔診療による医師の指示の下、焔火の解毒治療に当たる。いいな、焔火?」 「は、はい!お願いします!」 「ちょ、ちょっと債鬼。アンタ・・・まさか・・・」 テキパキと指示を出す固地の最後の言葉に秋雪が反応する。真面や殻衣も表面的には反応を示さなかったが、内心では驚いている。 『解毒治療』。それは、切り札を使うということだ。本来使う予定であった人間にでは無く。そして、それが意味するモノは・・・ 「グズグズするな!敵に発見されれば面倒なことになる!!」 「わ、わかったわよ!」 「よしっ!!」 固地の号令の下、178支部は土人形に跨って移動する。とにもかくにも、落ち着いて話し合える場所に向かう必要がある。 今まで捕えられていた焔火が何を見て、何を聞いていたのか。事件解決に繋がる情報を得るためにも、風紀委員達は迅速に行動する。 「(・・・成程。敵の言葉を鵜呑みにして、真面と殻衣が死んだモノと勘違いした。そうだな?)」 「(はい)」 「(網枷の不自然な言動に気付かず、また乗せられて余計なことをペラペラ喋ったと。そういうわけだな?)」 「(・・・はい)」 「(鳥羽に連絡しておけば自分の単独行動は許される・・・そんな甘い考えを心の何処かで肯定していた。違うか?)」 「(・・・・・・はい)」 「(単独行動を取っているにも関わらず、朱花の登場に気が動転して敵陣の中に深入りする失態を犯した。だよな?)」 「(・・・・・・・・・はい)」 「(大馬鹿め)」 「(うううううぅぅぅっっ。すみません・・・)」 「「「(何で正座???)」」」 構成員や“手駒達”から逃げていた際に“狙って”監視カメラを破壊していた通路の先にある物置小屋に忍び込んだ178支部の面々。 周囲に感知用の水蒸気を置く固地は、『土砂人狼』によって無理矢理正座をさせている(+刺激で声が出るのを止められないために絶賛下着姿の)焔火を小声で叱り付けていた。 ちなみに、焔火は『救済委員』以外の自分が知り得る情報を全て固地達に伝えている。この『救済委員』情報には先程の空間移動も含まれている(『意識が朦朧として~』という誤魔化し)。 「(単独行動に関しては界刺の件で失態を犯した俺も人のことは余り言えんが・・・お前、俺の指導で一体何を学んでいたんだ?反面教師としても学んでいたんじゃなかったのか?)」 「(ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・)」 焔火は思う。何だこの展開は?自分の自信を砕いて来た(=元凶)3人衆の界刺・麻鬼・固地にこうも続けてガミガミ言われる展開は一体どういうわけだ? その原因が自分にあるのは理解しているが、世の不条理を感じずにはいられない流れである。というか、服を着たい。血が付いた服でもいいから早く服を着たい。 とにかく恥ずかしい。仮にも男である固地が真正面に居るのである。というか、固地は女性の下着姿を見て何とも思わないのだろうか?・・・思わなさそうだ。 女心がわからないのは、以前の『黒歴史』で実証済である。真面のことを馬鹿にはできないのではないか? だけど・・・これはこれで固地らしいとは思う。戦場の真っ只中に居るのに、焔火『1人』の状態にうろたえてしまうような固地の姿は想像できなかった。・・・想像したく無かった。 自分が師事した男は、何時如何なる時も冷静・冷徹な思考を行える人間の筈だ。だからこそ、自分は彼に師事を仰いだのだ。・・・しかし、恥ずかしいものは恥ずかしい。 「(こ、固地先輩?そろそろ服を・・・)」 「(何か言ったか?(ギロッ))」 「(ビクッ!い、いえ・・・何で、も・・・ありません)」 さっきはお化け云々で大声を挙げまくりだったために、敵にこちらの居場所を知らせるような真似をしてしまっていた焔火。そのことを固地はいたく怒っていた。 土に覆い被された時も上下に揺れる移動中も我慢できずに何度も声を挙げてしまった手前、意外に様々な動きを強要される着衣時の嬌声は色んな意味でヤバイ。 仲間に助けられて気が緩んでいる今となっては余計にヤバイ。これが、界刺に対するムカツキ度満タン時や麻鬼との応酬時に発揮した集中状態なら話は別なのだが。 専用の機械を用いた遠隔診療による医師の診察・指示によって服用した解毒剤が何処まで効くのか、体中が未だ性感帯化状態の焔火にとっては結構半信半疑でもあった。 「(・・・ふぅ。焔火)」 「(はい)」 「(お前に聞こう。・・・どうしたい?)」 「(!!!)」 『どうしたい?』。すなわち、『焔火緋花はこの戦況下で何をしたいと考えているか?』。 「(通常であれば、お前はこのまま戦線離脱だ。解毒中とは言え、薬に冒されている今のお前では戦力になるかどうかも怪しい。現に、今のお前の体はそんな状態だ。 精神的ダメージも深い。・・・命が掛かった戦場に足手纏いは要らない。椎倉や橙山先生の立場からでも似たような意見を言うだろう)」 「(戦線離脱・・・)」 「(その上で聞こう。焔火。お前はどうしたい?お前の考えを俺に言ってみろ)」 「(・・・・・・)」 「(固地先輩・・・?)」 固地の問いに焔火が思考の海に潜る中、真面は“『悪鬼』”の意図を図りかねる。自分が知っている固地は、こういう時は問答無用で焔火のような状態の人間を戦線離脱させる筈なのに。 「(・・・・・・言っていいですか?)」 「(あぁ。言ってみろ)」 「(・・・私は戦線を離脱したくありません。ここに残って・・・戦いたいと思います)」 「焔火さん!?」 焔火の戦闘続行を示す言葉に、殻衣は思わず声の音量を上げてしまう。解毒剤の効果もまだハッキリ出ていない以上、今の焔火の状態では戦闘は不可能としか思えない。 何より、焔火が受けた性的ショック(無論詳細は聞いていないし、とてもでは無いが聞けない)は同じ女性として寒気しかしない程だ。肉体的にも精神的にもダメージが半端無い筈なのに。 そう言いたげな仲間の声色に、当の焔火は至って真剣に自分が抱く素直の感情を言葉にする。 「(私は絶対にここから逃げない。真面や殻衣っちが死んでいなくても、私のせいで生死の境を彷徨う怪我を負った人達が居る事実には変わり無い。 その人達は今でも頑張っている。生きるために。必死に。そんな人達を尻目に私がリタイアする?そんなこと・・・他の誰が許しても私が許さない)」 「(それは、何も焔火ちゃんだけのせいじゃ無いよ?)」 「(わかってるよ、真面。でも、その中に確かに私は存在する。だったら、私は背負わないといけない。目を背けるわけにはいかない。逃げるわけには・・・絶対にいかない)」 「(緋花・・・何だか変わったわね?言葉で言い難いんだけど、そんな気がするわ)」 「(そうですか、秋雪先輩?自分では全然わかんないですけど。今も怒られてばっかりですし)」 真面・殻衣・秋雪は、焔火の雰囲気が以前とは変化していることを直感的に気付く。具体的に言うならば・・・言葉に確かな重みが加わった。 「(固地先輩)」 「(・・・何だ?)」 「(これが私の素直な思いです。嘘偽りの無い想いです。でも・・・固地先輩が駄目だと判断されるのなら・・・・・・私は従います)」 焔火緋花は固地債鬼と相対する。こうやって・・・本当の意味で対峙するのはこれが初めてかもしれないと少女は思う。 様々な経験をした。色んなことを知ることができた。だからこそわかる。1つの判断が持つ重みを、その判断を下す人間が背負う責任の重さを。 それ等を多少以上に理解した今の彼女だからこそ、目の前に居る男・・・“風紀委員の『悪鬼』”の凄さが“わかる”。 「(想いだけじゃ駄目なんです。力があるだけでも駄目なんです。信念と実力の両立。双方があって初めて色んなことを成し遂げる可能性を高めることができるんです。 悔しいですけど・・・今の私には特に実力方面が不足しています。固地先輩の指摘は正しいです。今の私じゃ、足手纏いにしかならないです)」 「(・・・・・・)」 固地債鬼は焔火緋花と相対する。こうやって・・・本当の意味で対峙するのはこれが初めてかもしれないと少年は思う。 声を聞くだけでわかる。表情を見るだけでわかる。瞳を見るだけでわかる。少女は変わった。成長した。固地の目から見ても、それは揺るぎ無い。 苦難の道を経た彼女だからこそ辿り着けた今の『位置』に・・・少女の成長振りが“見て取れた”。 「・・・も・・・でも・・・それでも・・・!!もし、もしよろしければ・・・・・・私を・・・焔火緋花を“ここ”に居させて下さい・・・!! いざという時は切り捨てて貰っても構いません。それだけの覚悟はあります。ですから・・・だから・・・私は“ここ”に居たい。絶対に居たい!! 私は皆と戦いたい!!お姉ちゃんを助けたい!!『ブラックウィザード』に連れ去られた罪無き人達を助けたい!! 私は・・・私はなりたい!!『本物』の風紀委員に!!『本物』の『他者を最優先に考える“ヒーロー”』に!! 私は負けたくない!!世界の不条理に!!『ブラックウィザード』に!!界刺得世に!!そして・・・固地債鬼に!!!」 何時しか泣いていた。泣きながら訴えていた。理路整然など知ったことか。簡潔明瞭など知ったことか。今抱いている想いの丈を全てぶつけるだけだ。 全てはこの手で未来を変えるために。変えることができない過去の責任を背負うために。 「固地先輩。私はあなたの『欠点』を否定する!!私の信念でもって!!その代わり、あなたは私の『欠点』を否定して下さい!!あなたの信念でもって! あなたも私も正しいし間違っている。一方的な見方は危険なんだと私は学びました。色んな見方を知って、考えて、その上で自分の指針を決定する。 私はあなたに伝えたい。あなたはもっと成長できる人だって。傲岸不遜で意地っ張りで天邪鬼なあなたの『欠点』を改善できれば、あなたはもっと多くの人に認められる。 あなたは私の言うことなんか無視するのかもしれないですけど、それでも私はあなたと真正面からぶつかります。ぶつかり続けます。私のために。それ以上にあなたのために!!」 他者を最優先に考える。これは、“ヒーロー”になる・ならない関係無くとても難しい事柄。一歩間違えれば押し付けや迷惑に成り代わり、自分を最優先に考えるのと同じ行為をしてしまう。 事実、今までの焔火は見事にその罠に嵌っていた。しかも、その事実に気付いていなかった。まさに独り善がり。自分勝手。 しかし、これからの焔火は違う。間違えることもあるかもしれない。見誤ってしまうかもしれない。それでも、彼女は逃げないことを心で確と誓う。 「・・・こんなことを言える資格は本当は無いんです。無いことはわかっているんです。私はあなたの指導を活かせなかった。私のために頑張ってくれたあなたを裏切ってしまった。 そもそも、固地先輩が休暇に入った瞬間に終わっちゃったことです。なのに・・・どうしても『残念だ』って想いが私の心から消えないんです!! だから・・・(グスッ)・・・・・・(グスッ)・・・・・・こ、固地先輩・・・・・・今夜だけでいいんです。今夜だけでいいですから・・・私をもう一度指導してくれませんか!? あなたが掛けてくれた期待に、今度こそ私は応えたい!!私の信念を・・・風紀委員としての信念をあなたに見せたい!! 自分勝手な美意識に囚われていたあの頃とは違う私を・・・固地債鬼に見せたい!!」 「・・・!!!」 『風紀委員の信念を勘違いし、自分勝手な美意識に囚われた挙句、負け犬となった何処ぞの“風紀委員もどき”に比べれば、結果をきちっと出したアンタ等の判断は称賛に値する』 何時かの風紀委員会で焔火を糾弾していた時に零した言葉。その言葉を自分なりに考えて、咀嚼して導き出した返答を行った少女に固地は目を瞠る。 指導を希った時とは重みも強さも様変わりした少女の言葉。それは、彼女が壮絶な経験を経てここに居ることを示している。 「私1人の力じゃ“まだ”駄目なんです。この戦いには間に合わないんです。でも、私だと間違っちゃうこともあなたの指導があれば間違え無いと思うんです。ですから・・・」 「焔火。お前という奴は・・・本当に大馬鹿だな」 「・・・・・・否定しませんよ。私は極め付けの大馬・・・」 「違う。お前・・・ちゃんと俺の話を聞いていたのか?お前が俺に土下座してまで願い出たあの時の話を」 「・・・へっ?」 呆れ顔のようなそうでも無いような表情を見せる固地の言葉に焔火は首を捻る。彼の言わんとしていることが見えない。 「・・・ハァ。俺はこう言った筈だぞ?指導の期間は『[対『ブラックウィザード』風紀委員会]設置から解散まで』とな」 「!!!」 「椎倉達がどう判断したのかは知らんが、休暇が明けた以上俺は指導に復帰しなければならない。さて、問題だ。俺が言った期間に『今』は入っているか否か?答えろ、焔火」 「・・・は、は、はい・・・入って・・・いる?」 「そうだ。今この時も、俺はお前を指導しているんだが?気付いてなかったのか?」 「ッッッ!!!」 瞬間、胸にこみ上げてきたモノを焔火は把握し切れなかった。この男は自分を指導してくれていた。『今』も。 正直な話、自分は固地に見限られていたと思っていた。自分が彼に吐露した言葉は唯の駄々とも思っていた。思わないようにしても心の何処かで思ってしまっていた。 幾ら押し付けにしないように気を払っていても、他者が押し付けと捉えていればその瞬間にそれは押し付けとなる。 怖かった。恐かった。また、自分は他者に自分の都合を押し付けようとしているんじゃないかと。逃げないと誓った筈なのに。 怖れていた。恐れていた。また、自分は他者より自分自身を最優先にしているんじゃないかと。目を背けないと誓った筈なのに。 「わ、私を見限って・・・いないんですか?こんな失態を犯してしまった私を・・・あなたは・・・?あ、あなたなら・・・私が知ってるあなたなら見限っていても・・・」 「見限って欲しいのか?」 「い、いえ!!そ、そんなつもりじゃあ・・・。す、すみません」 「・・・・・・」 「き、気分を害してしまってすみません。・・・ごめんなさい」 「フン。誤解が解けたのなら別にいい。もっとも、見限るという選択肢はあった。だが、その判断はお前と対面してからでも遅くは無いと思っていた。 無論、生きていれば・・・だったが。お前が生きていた以上、俺は俺の判断を下すためにお前と面と向かい合うつもりではいたぞ?」 「・・・・・・そうか。まだ、見限られていなかったのか。また、変な勘違いしちゃってるよ・・・私。いけない。これじゃあいけない。もっと気を配らないと・・・(ブツブツ)」 「(・・・こいつ)」 だから、言い訳のように言葉を連ねた。他者(こじ)の心を傷付けないようにおっかなびっくり確認の言葉を吐いた。実際に面と向かって会話をするのが・・・すごく苦しかった。 麻鬼に切った啖呵を、真面達に語った決意を実践するのがすごく“困難”であった。“恐怖”が少女の想いを押し潰そうと躍起になる。負けたくないと思っていても心の震えが止まらない。 天真爛漫で人の心に無遠慮にズカズカ入り込んでいた少女は、その行為の“恐怖”に気付き、“恐怖”に囚われていた。 「(・・・本末転倒だな。だが・・・その責任は俺にもある・・・か)」 一連の騒動で一番傷付いたのは、間違い無く焔火緋花という少女であった。その一端となった固地は彼女の怯えている様を見て・・・初めて己が行為を悔やんだ。 固地のために頑張ると主張する少女が固地に怯えている。固地の態度に怯えているのでは無い。固地を傷付ける恐れのある自分の行為に怯えてしまっている。 本末転倒も甚だしいが、少女にとっては難題と化している。そんな矛盾を抱かせてしまっている事実に、少年は自身に怒りの心情を抱く。 成長の代償として失ったモノは確かに存在する。抱えなくていいモノまで抱えてしまった少女。その事実を認識した少年は・・・彼女の瞳を見てこう告げる。 「焔火・・・済まなかったな」 「!!!!!」 謝罪。あの“風紀委員の『悪鬼』”が、自分の意思で誠意を込めた謝罪の言葉を口にした。言葉としては主語さえ無い簡素過ぎる単語。 「それと・・・助けに来るのが遅くなった。だが、俺“達”が来たからには敵の思うようにはさせない。 だから・・・・・・少しは心を緩めろ。少しの間だけでいいから心を休めろ。今のお前にはそれが必要だ」 しかし、込められた労わりと歩み寄りの音色は確かに少女の心に届く。堰を・・・切った。 「ううぅ・・・うううううぅぅぅ・・・!!!」 完全に予想外。あの固地が自分に謝罪と労わりの言葉を口にするとは夢にも思わなかった。だから止まらない。 彼女もまだまだ成長途上な女の子である。脆い一面を抱えるか弱い女の子である。 「(・・・・・・言っておくが、大声で泣き喚くならもう一発拳骨をかますぞ?)」 「ッッ!!・・・・・・うううううぅぅぅっっ(ボソッ)」 「(・・・器用な奴め)」 さすがにもう一発拳骨を喰らいたくないのか、しっかり小声で泣き続ける焔火に今度は本当に呆れた固地・・・の周囲でニヤニヤ笑っているのは178支部のメンバーである。 「(あの固地先輩が、心からの謝罪と優しさ感溢れる労わりの言葉を口にするなんて・・・驚天動地だよ。師匠の九野先生を倣ったのかな?)」 「(確かに。・・・。いざ現実になってみたら嫌な鳥肌が立っちゃった)」 「(解毒剤を自分にじゃ無く緋花に使うって聞いた時からもしかしてとは思っていたけど。これぞまさしく“鬼の目にも涙”ってヤツね、うん!)」 「(お前等・・・そんなに俺が謝る姿がおかしいか、うん?)」 「「「(だってぇ~)」」」 『おかしい』というよりは『信じられない』という表現が正しい。もし、人伝に固地が誠心誠意謝罪したなんて話を聞いたら、絶対に嘘だハッタリだとぶっちゃけている筈だ。 他方、ニヤニヤを向けられている固地はそっち方面へのツッコミを諦め、真ん前に居る焔火をどうやって泣き止ますのかに思考を集中する。固地が認めたのはあくまで『少し』である。 「(グスッ)・・・(グスッ)・・・」 「・・・・・・」 何というか、幼い子供をあやす感覚を覚える。風紀委員としてそういった経験はあるにはあるのだが、どうにも苦手である。 なので、焔火が喋った内容からヒントを貰う。彼女の上司からある言伝を頼まれていたことも影響したのかもしれない。 「(・・・フン。焔火。お前は“ヒーロー”になりたいのか?)」 「(・・・はい)」 「(俺は“ヒーロー”というモノをよくは理解していない。その前提の下で言わせて貰うなら、俺が思う“ヒーロー”とは『勇ましい者』だ)」 「(『勇ましい者』?)」 「(そうだ。『勇ましい者』。つまりは『勇者』だ。但し、蛮勇と勘違いするなよ?無謀と履き違えるなよ?『勇者』とは、あらゆる“恐怖”や“困難”を知り尽くしている者だ)」 「(“恐怖”?“困難”?)」 「(あぁ。『勇ましい』とはあらゆる“恐怖”や“困難”を乗り越えることを指す。これは、“恐怖”や“困難”を無視しているわけじゃ無い。むしろ逆だ。 『勇者』は、誰よりも“恐怖”や“困難”を理解している。理解しようとしている者達だ。だから、『勇者』は結果を出せる。人々を救える力を持つ。 そんな者達を俺は“ヒーロー”だと考える。背負う責任は比例的に増すだろうがな。焔火。全部とは言えないまでも、今のお前になら理解できる筈だ。 責任の重さを。“ヒーロー”が背負う重みを。“恐怖”や“困難”の真髄を)」 「(・・・はい。全てというわけじゃ無いですけど・・・私なりに色々学びました)」 『勇者』。『勇ましい者』。固地が固地なりに抱く“ヒーロー”像を咀嚼して行く焔火。色んな見方を知ることの重要性―咀嚼する重要性も―を今の彼女は知っている。 『今のお前』・・・つまりは、以前の焔火には理解できていなかったこと。“恐怖”や“困難”の深奥を理解していなかった少女には『勇者』になる資格が無かったということ。 『今のお前』・・・すなわち、現在の焔火には理解できるということ。“恐怖”や“困難”の深奥を理解した少女には『勇者』になる資格があるということ。 「(だがな、焔火。俺が思うに、“ヒーロー”とはいつ何時も“ヒーロー”をやっているわけでは無いと思うぞ?)」 「(・・・どういうことですか?)」 「(・・・その・・・なんだ・・・・・・俺がブッ倒れた要因の1つに間違い無く過労というモノがあった。走り続けていれば何時か必ず倒れる。“ヒーロー”も同じだ。 ようは、力の入れ所を見極めろという話だ。焔火。今のお前は肩に力を入れ過ぎだ。そんな調子では、本番の時に失態を犯す原因になり得るぞ?というか、なったんじゃないか?)」 「(た、確かに・・・なっちゃいました。結果を出そうと逸っちゃって・・・失態を犯しました)」 「(お前が考える“ヒーロー”は、何時だって他者を最優先に考えていたか?どんな時も自分を最優先にしない高潔極まりない人間だったか?)」 「(・・・・・・)」 焔火は、自分のとっての『他者を最優先に考える“ヒーロー”』である緑川強の姿を思い浮かべる。・・・少なくとも高潔では無いような気がする。暑苦しいという表現が正しい気がする。 少し前に『筋肉探求』へ一色と鳥羽を引き摺り込んでいた所から見ると、彼が何時も他者を最優先に考えているとは思い辛い。現に、一色と鳥羽は後で泣いていた。 汗水垂らしながら筋肉を鍛えに鍛えまくっている彼の姿は、“ヒーロー”というより“ゴリラ”という表現の方が正しい気がする。 「(・・・・・・・・・違う・・・気がします)」 「(やはり。なぁ、焔火。“ヒーロー”は何時必要になるんだ?)」 「(何時って・・・それは・・・・・・)」 『(誰・・・か・・・・・・助けて!!!!!)』 『緋花ああああああぁぁぁぁっっ!!!!!鏡子おおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!!』 “ヒーロー”が必要になる場所。求められる刻(とき)。それは・・・その人が助けを呼ぶ刻と場所。焔火自身がそれを既に証明している。 緑川に“助けられた”時は、唯々恐かったことだけを覚えている。それ以外のことに関しては全くと言っていい程考えを及ぼさなかった。 界刺に“事のついでに文句を言われた”時も同じだ。自分に訪れる悲惨な未来を予想し、唯々恐怖した。あれ程の悲鳴を心の中で挙げたのは風紀委員となってからは初めてだった。 “ヒーロー”になるために風紀委員となった。“ヒーロー”になる以上、弱音や恐怖を口に出したり思ったりしては駄目だと無意識の内に考えていたような気がする。 さすがに、ここ最近は耐え切れずに度々漏らしてしまっていた。それでも、先の悲鳴程では無い。自分の力ではどうしようも無い現実を目の前にし、只管助けの声を挙げた。 焔火は理解する。心底理解する。忘れていたとも言っていいのかもしれない。これが“ヒーロー”に助けられる側の想い。 幼さ故の無知では無い。成長した今の彼女だからこそわかるその重み。それを叶える“ヒーロー”の背負うモノの重さも再認識する。 「(・・・・・・助けを求められる時・・・です)」 「(だろうな。焔火。その時だけでもいいんだ。逆に言えば、肝心な時に役に立たないようであれば話にならない。本当に必要な時に助けを呼ぶ者の想いに応えられてこその“ヒーロー”だ。 それ以外なら、少々自分を最優先にしても罰は当たらない筈だ。高潔過ぎるのは、かえって思考の硬直化を生む危険性を孕んでいる。違わないか?)」 「(固地先輩のようにずっと傲岸不遜だと人をムカつかせるのと同じような意味ですか?)」 「(・・・・・・ゴホン!“ヒーロー”だって人間だ。お前という人間を前面に押し出すことの何が悪い。少々自分勝手で何が悪い。そうだろう?)」 「(でも、私が自分勝手に色々動いた結果、固地先輩に叱り付けられているんですけど?)」 「(・・・・・・)」 面倒臭い。加賀美の時も痛感したが、人に優しく接するというのはこんなにも難しいモノなのか? 何よりこの女・・・思った以上に根が頑固だ。疲れる。しんどい。纏めると・・・繰り返しになるが面倒臭い。まぁ、泣き止ませるという目的は達せられたが。 「(ゴホン!臨機応変というヤツだ。力の入れ所を見誤るなという話だ。自分も他者もよくよく見極めろということだ。それは、お前が抱く信念とは別の要素だ。すなわち・・・)」 「(すなわち・・・?)」 「(お前が馬鹿で無ければ済む話だ)」 「(ガクッ!!?)」 とは言え、いい加減面倒臭くなった(+戦線に戻らなければならないという冷静な判断)固地は焔火が馬鹿なのが原因だという方向で強引に話を纏めようとする。 「(そもそも、お前が馬鹿で無ければこんなややこしい事態になっていない。もっと利口であったなら、ここまで悩み続ける必要は無かった筈だ。 賢い人間であったなら、培い抱く信念をもっと上手く扱うこともできた筈だ。そう、全てはお前が馬鹿なのがいけないんだ。そうだ、その通りだ、うん!)」 「(あの~、勝手に納得しないでくれませんか?さっきから、人のことを馬鹿馬鹿連呼して・・・幾ら温厚な私だって結構ムカついてるんですけど)」 「(自分で言ってただろうが。『極め付けの大馬鹿』とな)」 「(グッ!!あ、あれは・・・・・・そう、そうよ!あれは『極め付けの大馬』で止まっているからノーカンです)」 「(・・・ああ言えばこう言うな。まぁ、俺の言葉をどう受け取るかはお前の勝手にしろ)」 「(固地先輩に言われたくありません。・・・・・・プッ!あぁ・・・久し振りだなぁ。固地先輩とこういうやり取りをするのって)」 「(1週間程度の筈だが?久し振りと言う程でも無いだろうが)」 「(それだけインパクトが強いんですよ。・・・・・・固地先輩。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。私は・・・あなたの判断に従います)」 「(・・・・・・)」 最終判断。下すは固地債鬼。下されるのは焔火緋花。少女はどんな判断でも受け入れる覚悟を決めた。勝ち負けという自分の感情で風紀委員会を危険に晒すのは絶対に嫌だ。 でも、『本物』になるためにここで離脱するのは嫌だ。姉を含めた罪の無い人達を救いたい。板挟みの心。それ等全てを見極めた“風紀委員の『悪鬼』”は、数秒後に判断を下した。 「(・・・いいだろう。焔火。お前の同行、この俺が認めよう。俺の責任でもってな)」 「「「「!!!」」」」 固地債鬼が下した決断・・・それは『焔火緋花の同行を許可する』というモノ。固地の責任でもって焔火を背負うというモノ。懸命に頑張る『下』を『上』が認めたということ。 だが、数日前のように公私の“混同”には至らせない。そのために、少年は少女にある問いかけをする。今後の行動に欠かせないある確認を。 「(焔火・・・体の方はどうだ?)」 「(えっ?・・・あれっ?あれっ?体が・・・動く?)」 「(2日間拘束されていたから薬に関係無く体の各所が多少固まっていそうだが、『電撃使い』で身体能力を活性化できるお前なら何とか動けるだろう)」 「(固地先輩。これって・・・)」 「(バカ師匠から渡されていた、『ブラックウィザード』が用いる主要薬物成分を解毒する薬がようやく効いて来たんだ。思ったより効果が発揮されるのが遅かったが。 だが、効果は抜群だな。お前の体の動きを阻害している“手駒達”や従来の薬物中毒者に用いられている薬物は確実に解毒されている。 お前が最後に飲まされた媚薬剤は、その薬物と反応するんだろう?なら、解毒されつつある今その効果は消滅している筈だ)」 「(は、はい。ちょ、ちょっと待って下さい。試してみます。・・・(ゴソゴソ)・・・(ブン)・・・痛っ!くそっ・・・(コキ)・・・ヒャン!!)」 「(媚薬剤自体の効果はまだ完全には切れていないようだな。それと・・・何処とは言わんが痛め付けられてもいるようだな。薬が効いて来た分、他の感覚が戻りつつあるからな)」 「(ううううぅぅっ。くそううぅぅっ!!)」 そう、固地が焔火に飲ませたのは九野から預かっていた解毒剤であった。花盛学園で発生した薬物中毒者の体内に蓄積されていた薬物の解析が終わり、 それ等に対抗する解毒剤作りを第7学区に病院を構えるカエル顔の医者の大いなる助力と共に励み、数日前に薬の完成に漕ぎ着けた。 使用されている成分の多くが能力開発に使われる物であった『ブラックウィザード』の非合法薬物。つまり、一般的にそれ等を中和する薬の開発(=データ)も盛んに行われていた。 “能力開発に大いに役立つ薬物”は莫大な金銭を齎すが故に、使用が原因で不測の事態が発生しないように解毒剤・鎮静剤の開発は必須事項とも言えた。 しかし、『ブラックウィザード』が用いる薬はそれ以外の成分(快楽性etc)も色々含まれており既存の薬では対処し切れなかった。そこで、カエル顔の医者の出番である。 九野の伝手で彼の大いなる助力を得たことで、解毒剤開発は急ピッチで進んだ。また、薬物の解析終了直後からの働き掛けもあり、 学園都市独自の司法における特例的措置として認可も何とか下りた。そして、今の焔火の状態を見る限り、薬はその効果を存分に発揮している。 この『最新』の更新速度こそが、学園都市を学園都市たらしめるピースの一角でもある。 「(動くなよ・・・(ピタッ、ピタッ)・・・ふむ)」 「(ヒャン!!こ、固地先輩・・・こそばゆいんですけど・・・)」 「(両目の瞳孔が正常範囲内に戻ったな。意識障害の兆候も無い。約2日間という短期間とここへ来た直後の調査、そして斑点の薄さ等で予想は付いていたが、 中毒の程度としては比較的軽いな。医師も同じ意見だったし。他の薬物中毒に見られる症状も無い。・・・しかし、よく効く薬だ。さすがは“1つしか無い”切り札と言った所か)」 「(えっ・・・どういうことですか?)」 「(・・・・・・ふぅ)」 実は、この解毒剤は薬物を攻撃手段―毒殺も考慮―として『ブラックウィザード』が使って来た時に、被害を受けた人間に投与することで薬物の影響を脱するという目的があった。 役割上、それは『前線』で指揮する人間に持たせるのが一番効果的である。固地は各支部リーダーとこの薬を誰が持つか九野の帰宅後改めて協議し、その結果として預かっている。 『ブラックウィザード』の薬物を服用することによる人間への影響を見極める基準―瞳孔の開き具合etc―は既に判明しており、その分析方法は風紀委員会全体で既に習得しているが、 薬の投与にはやはり医師の診断が必要である。そこで、固地は遠隔地に居る医師が診療できるように専用の機械(テレビ電話etcの機能付)を携帯していた。 薬物の判定には、唾液から極短時間で成分を検出できるキットを用いた。医師の指導の下、固地が焔火の唾液を採取・検出し、その結果から解毒剤の投与を許可された。 化学物質に聡い固地は、他の中毒症例と付随する処置についても博識であったために医師のやり取りを含めた対処方法をテキパキとこなした。 本来であれば自分に使用するのを想定されていた“1つしか無い”薬を、固地は焔火の戦線復帰のために使用した。 朱花が新“手駒達”に加わっている以上、焔火は絶対に退かないと判断したためである。この彼の真意を聞かされた焔火は、固地の決断の重さに戦慄する。 「(そ、そんな貴重なモノを私のために・・・!!)」 「(状態に関わらず、お前が駄々を捏ねるのは目に見えていたからな。今でさえこれだけ時間を浪費しているんだ。だから先手を打った。・・・まぁ、駄々では無かったがな。 それに、戦闘可能と見込める戦力は1人でも多い方がいい。にしても・・・投与された新薬の種類的にその構成員の趣味が全開していたようだな。俺には理解できんが)」 「(あんな異常な体験、もう二度としたくないよ・・・。百合って何よ・・・鬼畜系って何よ・・・唯の変態じゃない・・・。 次会ったら、絶対にとっちめてやる。受けた恥辱の分はキッチリ返礼してあげるんだから!)」 「(・・・だが、お前に対する執着は相当なモノと見える。愛玩奴隷だったか?そんな風に見ていた以上、奴隷の脱走は面白く無いだろう)」 「(・・・かもしれません)」 「(なら、お前の力は必要になる可能性は高まる)」 「(?どうしてそうなるんですか?)」 「(その構成員が奴隷回収のために、時と場合によってはお前の前に立ち塞がる可能性があるからだ。しかも、新“手駒達”に陥っている朱花を伴って)」 「(!!!)」 固地が指摘するのは、焔火に対する性的責めの際に利用した姉の朱花の存在。新“手駒達”に陥っている彼女は、人質と同時に焔火に対する弱点にもなり得る。 「(俺達が敵の中枢部に攻め込んだ際に、奴等は“手駒達”・新“手駒達”を使って迎撃するだろう。その中に件の構成員が居た場合、傍に朱花が居る可能性がある。 戦闘を聞く限り、構成員は能力で電撃そのものを防げないようだからな。身を守る盾として、風紀委員に対する人質として、能力的にお前に対する切り札として、 そして奴隷に対する罰として朱花を前面に押し出すかもしれない。位置次第だが、その女がサディストの気質を持っているのであれば俺達の前に立ち塞がる可能性は結構高い)」 「(・・・逆に言えば、お姉ちゃんをこの手で救える可能性が高まるということですか?)」 「(それもある。そして、それ以上に考えなければならないのは朱花の強さだ。朱花は強い。レベル3ではあるものの、『電撃使い』としての実力は相当なモノだ。 しかも、薬で強化されているだろうからレベル4の域に達している可能性が高い。そして、俺達178支部の中で『電撃使い』に真正面から対抗できるのは殻衣くらいだ。 しかし・・・お前と一緒で朱花は格闘術にも優れている。『電撃使い』で強化された場合は更に・・・だ。 総合的に殻衣では分が悪い。だから・・・焔火。お前の力が要ると俺は判断する。格闘術で朱花より優れ、同系統の『電撃使い』であるお前の力が)」 「(私の力が・・・!!)」 「(断言しよう。俺達178支部が朱花と対峙した場合、お前が居なければ大苦戦するのは確実だ。・・・焔火。お前に命じる。朱花を何とかしろ。お前の力で必ず姉を取り戻せ。 新“手駒達”は“手駒達”のようなパターンを踏んでいない。つまり、人格や記憶が完全に破壊されていない可能性がある。今なら、朱花も取り返しが付く希望が存在する。 レベル差や能力そのものの差はあるだろう。コンディションの影響もあるだろう。そこは俺がカバーする。どうだ?やれるか?)」 「(・・・もちろんですよ。お姉ちゃんを取り戻せるなら、お姉ちゃんが取り返しの付く状態なら、私は絶対に成し遂げてみせます。そのためなら・・・お姉ちゃんとだって戦います)」 「(・・・言い出した俺が言えた義理では無いが、手加減はまずできないぞ?)」 「(・・・『電撃使い』である以上、能力が使える状態ならある程度の電気耐性は存在します。応用性に富んでいるお姉ちゃんは、私以上の耐性を持っています。 薬で強化されている今の状態なら尚のことです。私が全力で行ってやっとレベルだと思います。・・・本当は辛いです。お姉ちゃんに手を出すのが辛くて堪りません。 でも、辛くてもやらなきゃいけないんです。躊躇したことが原因で本当に取り返しが付かない状態になったら・・・それこそ私は自分を許せなくなります)」 焔火の瞳に新たな、そして非情な決意の炎が宿る。新“手駒達”に陥っている以上、戦闘無しで朱花を取り戻すのは現実的に不可能だ。 だったら・・・戦う。戦って倒して取り戻す。愛する姉をこの手で傷付けても、本当に大事なモノを守るために妹は行動する。 「(わかった。・・・焔火。これで否が応でも理解しただろう?お前が背負っている重さを。今回は今までのような失敗は絶対に許されない。結果を出せないことは許されない。 必ず成功させる。必ず結果を出す。たとえ犠牲が出たとしても、最善に可能な限り近い位置の結果に辿り着かなければならない。わかるか?)」 「(はい!)」 「(真面、殻衣、秋雪。お前達もわかっているな?優先順位の低い後悔や反省は後で幾らでもできる。今は、俺達が為さなければならないことを為す。それだけに集中するんだ)」 「「「(コクン)」」」 「(・・・ということだ、浮草)」 固地・・・ それは、固地の耳元にある通信機から聞こえて来た178支部リーダー浮草の声。その声色から反対の意志に針が傾いていると察した『部下』は、覚悟をもってリーダーと相対する。 「(浮草。焔火は責任をもって俺が預かる。椎倉達にもそう伝えてくれ)」 しかし・・・ 「(浮草。俺を・・・・・・信じてくれ)」 ッッッ!!! 浮草が息を呑む気配が伝わって来る。固地自身、こうやって浮草に『信じてくれ』などと言ったことは1度も無い。 そんな彼が言葉にしてまで焔火を“ここ”に留まらせたいのは、ひとえに彼女の想いに応えたいと思っているからである。 最優先にするモノを履き違えたわけでは無い。これは数ある優先事項の中の1つ。固地債鬼が優先する事項の1つ。 彼の根幹が揺らいだわけでも無い。これは根幹への追加。人としての成長。人は成長する生き物である。それに沿って、根幹の上に色んなモノを乗せることもできるようになる。 『揺らがない』ことと『成長しない』こととは必ずしも同一では無い。むしろ、揺らがない根幹(どだい)があるからこそ人は大いなる成長を遂げることができるのである。 彼は気付いた。自分のために頑張ってくれる存在の有難さに。立川が自分に示してくれた善意を切欠に彼はその存在をもっと大切にしようと思い、根幹の上にこの思いを乗せたのだ。 それが立川であり、加賀美であり、焔火である。成長するのは何も焔火だけでは無い。固地だけでも無い。真面、殻衣、秋雪、そして・・・浮草も成長しようと頑張っている人間である。 ・・・・・・わかった。固地。必ず彼女を守れ。お前ならできるだろう? 「(あぁ)」 ・・・皆を頼む!! 「あぁ!!」 178支部リーダーから『部下』である固地に指示が飛ぶ。そして、『部下』はリーダーの指示を受け入れる。これが178支部の真の有り様。正しい在り方。彼等彼女等の真価。 「さて。焔火。改めて聞こう。“俺はこうする”。“俺は認めた”。残るはお前の意思だ。俺はお前の意思を聞きたい。・・・どうしたい?」 固地の問いを焔火は咀嚼し、吟味する。今の自分に考えられるあらゆることを脳裏に浮かべ、思考し、“恐怖”を乗り越えて自分の想いと共に言葉に出す。 「私は・・・焔火緋花は戦います!!あなたと・・・皆と一緒に!!」 「・・・いいだろう。俺が責任をもってお前を預かろう!!」 「固地先輩・・・ありがとうございます!!必ず・・・必ずあなたの想いに応えてみせます!!」 「礼を言うには早過ぎるぞ、焔火?まだ、何も解決していない。これからが本番だ。・・・焔火」 「はい?」 「お前は・・・以前に比べて確かに成長した。認めよう」 「ッッッ!!!」 少年は口に出して認める。懸命に直走る少女を認める。傷付いた少女の心を少しでも癒すかのように、不器用な優しさを声色に込めながら語り掛ける。 「まだまだ不足している面も多くある。だが、それでもお前は諦めずにここまで来た。降り掛かった“恐怖”や“困難”を乗り越えようと今も懸命に努力している。 “風紀委員もどき”には絶対にできない真似だ。・・・撤回しよう。焔火緋花。お前は“風紀委員もどき”じゃ無い。お前は・・・風紀委員だ。これを持つに値する俺達の仲間だ」 「これは・・・!!!」 帽子の唾に目を隠す固地から焔火に手渡されたそれは・・・智暁によって燃やされた風紀委員の腕章。 他の誰でも無い、あの“風紀委員の『悪鬼』”から・・・自分を“風紀委員もどき”と断じた固地債鬼から手渡された風紀委員の証。 そこに込められたモノを重く、重く受け止める焔火に彼から更なる言葉が贈られる。 「但し、1人前の風紀委員では無い。結果を出せていないからな。前にも言ったが、俺が指導する以上お前が『本物』になるための指示や命令を下す!! その判断に正当な言い分があるのなら幾らでも言え。お前の言う通り、俺にも色んな『欠点』がある。俺も完璧じゃ無い。お前が指摘する『欠点』の改善に俺も努めるとしよう。 その上で、俺も正当な言い分でお前に返そう。俺を傷付けるとか俺へ押し付けるとか、そんな“俺にとって”どうでもいいことを一々気にするな。 俺はお前に心配される程落ちぶれてはいない。俺はお前に傷付けられる程やわじゃ無い。むしろ、俺を傷付けてみせろ。全力で来い。何倍にも増した上でキッチリ返してやる。 それで傷付こうが知ったことじゃ無い。傷付くことや傷付けることが最重要じゃ無いんだ。傷付いた先に見出せるモノがあるかどうかが大事なんだ。 焔火。そんな“恐怖”に呑まれているようでは“ヒーロー”にはなれんぞ?俺相手なら容赦無くぶつけられるだろう?その中でバランス感覚を磨けばいい。・・・俺もだが」 「確かに、債鬼が傲岸不遜な態度で人を傷付けていないかこれからチェックする必要がありそうね。厳しい指摘で傷付けるならまだしも、 いつまでも白昼堂々と傲岸不遜な態度で他人を傷付けていられちゃ困るし。どう思う、萎履?」 「そうですね。・・・。じゃあ、これからポイント制にして数えていきましょうか?・・・。一定数ポイントが積み重なったら罰ゲームということで」 「それいいね、殻衣ちゃん。名案だよ!どうせ、固地先輩の性格が一朝一夕で直るわけ無いし。一定数が頻発しそうだから、罰ゲームの内容も今から色々考えておかなくちゃ!」 「・・・・・・」 「(固地先輩・・・!!!)」 己の言葉を秋雪・殻衣・真面にものの見事に逆手に取られて―努めて明るい雰囲気を作り出して気勢を上げる目的があった、 そして必ず皆で生き残って日常に帰るという大きな決意も込められていた―黙り込む固地。そんな中少女は確かに知る。 自分が抱く“恐怖”を全て理解した上で、『そんな“恐怖”に負けるな』という想いが込められた言葉を与えてくれた少年の気遣いを知る。 ここに来るまでに酷く傷付いた。直前まで散々痛め付けられた。トラウマになってもおかしくは無い肉体的・精神的ショックを受けた。本音を言おう。今も怖い。すごく恐い。 「(『勇ましい者』・・・『勇者』。拳や固地先輩、そして界刺さんも『勇者』なんだろうな。・・・そうか。“ヒーロー”だから『勇者』じゃ無くて、『勇者』だから“ヒーロー”なのか。 何だ・・・“ヒーロー”って一杯居るじゃん。ゆかりっちやリーダーや神谷先輩や他の皆だって、そういう意味だと“ヒーロー”じゃん。本人達に聞いたら否定するかもだけど。 他にも“ヒーロー”になる条件はあるのかもしれない。けど、私は馬鹿だからまだ見付けられていない。馬鹿なのを言い訳にするつもりは無いし、今後も学び続けないと駄目。 でも、これは確かな入り口なんだ!!“ヒーロー”へ続く道に繋がっているんだ!!乗り越えよう・・・今度こそ!!勇ましくあろう・・・私!!)」 だが、彼は言った。“恐怖”を知り尽くしている者が“ヒーロー”だと。『勇者』であると。自分にはその資格があると。 彼は自分の歩んで来た道程を認めてくれた。夏休み初日に同年代の真面や殻衣を褒めたように、この瞬間に彼が自分を褒めてくれた。・・・途轍も無く嬉しかった。 だったら、このまま資格止まりでは居られない。必ずなる。自分が夢見る“ヒーロー”に。“恐怖”や“困難”を乗り越えてこその“ヒーロー”に。 「ゴホン!それと・・・これは加賀美からの伝言だ。もし、お前を助けたのが俺だった場合俺の口から伝えて欲しいと頼まれていた。今のお前には至言になるだろう」 「リーダーから?」 「あぁ。元は界刺に言われたことらしいがな。『“ヒーロー”に勝ち負けは存在しない。優劣なんて存在しない。自分を最優先にしていても他者を最優先にしていても、 “ヒーロー”は“ヒーロー”だよ。好敵手大好き人間の緋花なら界刺さんをライバル扱いしそうだから、そこの所はくれぐれも履き違えないように』・・・とな」 「うううぅぅっ!!!さ、さすがはリーダー・・・。私の性格をよく知ってるなぁ・・・」 加賀美のドンピシャな指摘に焔火はぐうの音も出ない。さすがは、自分が所属する支部のリーダー。思考が似ていることもあるのだろう。バレバレである。 「確かに、加賀美の指摘は一理ある。風紀委員の俺がこんなことを言っていいものかどうかは中々に判断が難しい所だが・・・」 「??」 「お前が負けたくないと必死に吠えていた界刺だが・・・奴の立場から今回の件を捉えた場合、あの男は既に敗者だ」 「えっ!!?」 固地の口から漏れ出たのは、焔火が負けまいと宣言した人間が既に敗北しているという事実の一端。 固地としても、界刺の力を借りている身だ。本当なら、こんなことを口に出す資格は無いのかもしれない。だが、敢えて言葉に出す。加賀美が自分に託した想いに応えるために。 「さっき簡潔に説明したが、界刺は本来ならここまで大々的に動くつもりは無かった筈だ。風路鏡子の救出が目的だったんだからな。 本当なら、風紀委員会に表立って力を貸して『ブラックウィザード』を妨害するなんて真似をしたくは無かった筈だ。目立つ杭は打たれる。余計なイザコザに巻き込まれる。 ボランティアでしか無いあいつ等にとって、今回の件がどう終息しようが多かれ少なかれ影響が出ることは避けられない。俺が界刺の立場なら、“今”の状態が既に敗北だ」 「・・・なのに、ここに来たってことは・・・・・・」 「全て覚悟の上なんだろう。結果として起こる全てのことを背負う腹積もりなんだろう。その上で、自分の目的を達するために敗者になりながらもここへ来た。 お前風に言えば、敗者(ヒーロー)としてここに来た・・・か。焔火。勝敗を目先のことだけで語るな。おそらく、あの男は目先の勝ち負けに殊更執着はしていないぞ? 勝とうが負けようが、己の信念に基づいて自分の目的を達するために足掻く。結果を出せるなら勝とうが負けようがどっちでもいい」 「・・・つまり、勝たなければ結果を生み出せない事柄なら勝ちに行き、負けても自分が望む結果を生み出せるなら負けを受け入れる。 たとえ、望まない敗北を背負ったとしても自分の目的を達成するために必死に努力している・・・ということですか?」 「そうだ。加賀美曰く“ヒーロー”そのものに勝ち負けは存在しない。つまり、お前が目指すモノと界刺が目指すモノの間に優劣は存在しない。 だが、物事に勝敗や優劣は付き物であることも事実だ。もし、“ヒーロー”に関する事柄で勝敗や優劣が存在するとすれば・・・」 「“ヒーロー”が、望んだ結果を生み出せたか否か・・・ですね」 固地―加賀美―の言わんとしていることを焔火は理解する。そして反省する。熱くなり過ぎていた自分の意識に。 『(あの人の言うことは正しい!正しい!!正しい!!!でも、その正しさに私が恭順しなきゃいけない謂われは無い!!私には私の信じたい道がある!!あの人とは違う道を!!)』 己が信じたい道があるのなら、信じる道を歩みたいのなら、何故他者の動向を殊更気にし過ぎなければならないのだ? 『(私はまだあの人に何も示せてない・・・そうよ、私が不甲斐無いからあの人がツケ上がる!!だから、私の目指すモノがあの人の望むモノより劣ってるって敵に思われちゃうのよ!!)』 己が目指す在り方を示す本当の相手は一体誰だ? 『(「勇ましい者」・・・「勇者」。拳や固地先輩、そして界刺さんも「勇者」なんだろうな。・・・そうか。“ヒーロー”だから「勇者」じゃ無くて、「勇者」だから“ヒーロー”なのか。 何だ・・・“ヒーロー”って一杯居るじゃん。ゆかりっちやリーダーや神谷先輩だって、そういう意味だと“ヒーロー”じゃん。本人達に聞いたら絶対に否定するだろうけど。 他にも“ヒーロー”になる条件はあるのかもしれない。けど、私は馬鹿だからまだ見付けられていない。馬鹿なのを言い訳にするつもりは無いし、今後も学び続けないと駄目。 でも、これは確かな入り口なんだ!!“ヒーロー”へ続く道に繋がっているんだ!!乗り越えよう・・・今度こそ!!勇ましくあろう・・・私!!)』 自分は『勇ましい者』に優劣を付けるのか?自分は『勇者』を勝敗だけで判断するのか?それに一体どれ程の意味がある?どれくらいの価値がある? 『・・・やるしか無いです。あの人の言動に必要以上に戸惑う必要はありません。適切な判断が、今の私達には必要だと思います。 今の私が言えたことじゃ無いですけど・・・それでもやるしか無いです。進むしか無いんです。その決意だけは・・・絶対に揺らいだら駄目だと思います』 数日前に心に誓い、あえなく崩された覚悟。これこそが、今の―今までの―自分に求められているモノなのではないか? 界刺の言葉に、固地の言葉に、麻鬼の言葉に、網枷の言葉に振り回されていた自分。それは、今尚続いているようだ。 何せ、過去の自分がその口で言っておきながらおざなりになっていたのだから。ならば反省する。そして直す。改善に努める。今この瞬間から。 「そうだ。焔火。俺や界刺に負けまいとする心意気は買うが、それだけの心意気があるのなら別方面『にも』振り向けてみろ。自分が望む結果へ結び付けるために」 「はい!!『勇ましい者』に勝敗や優劣は存在しません。その括りでなら、今の私と界刺さんの間に優劣も勝敗も存在しません!!違いますか!!?」 「・・・間違っていないな。お前の言葉は正しい。その括りでなら、お前は界刺と同等の立ち位置に居る。俺が保証する」 「・・・!!!わ、私は私の道を歩きます!!あの人とは違う道を!!そこに優劣や勝敗は存在しない!!だからこそ、私は私の信念に基づいた結果を出したいです!! だから・・・だか・・・・・・固地先輩!!真面!!殻衣っち!!秋雪先輩!!皆と一緒に・・・一緒・・・・・・(ゴクッ)・・・・・・よ、よろしくお願いします!!!!!」 「焔火ちゃん!!一緒に頑張ろう!!」 「焔火さん。・・・。こちらこそよろしくお願いします」 「同じ女性にここまで頼まれたからには、背を向けるわけにはいかないわ!!」 そのためにも、絶対に結果を出す。自分の信念と仲間の信念を合わせて。仲間に依存するのでは無い。仲間を頼って、仲間に支えられて、皆で望む未来を実現させる。 この行き着く先が『他者を最優先に考える“ヒーロー”』。この“ヒーロー”は、様々な人間を自然に味方に付ける。その泥臭くも他者のために足掻く姿が他者を無条件に魅了する。 そんな“ヒーロー”を他者は助けようと懸命になる。“ヒーロー”が望む・望まない関わらず自然に輪ができる。 対して、『自分を最優先に考える“ヒーロー”』は他者を無条件に魅了しない。逆に、様々な反感を買ったりする。敵対もすれば無視もされる、理解され難い“ヒーロー”である。 “ヒーロー”自身が他者を最優先しないし、時と場合によっては他者を見捨てることもある。およそ一般的な“ヒーロー”らしからぬ振る舞いによって、他者との溝は更に深まる。 もし、それでも他者が“ヒーロー”に味方する時は・・・そこには強靭な他者の意志が形成されている筈だ。『自分が決めたことだから後悔しない』とは、まさにその証である。 『他者を最優先に考える“ヒーロー”』と『自分を最優先に考える“ヒーロー”』の間に勝敗や優劣は本来存在しない。存在するとすれば・・・“ヒーロー”が生み出した結果に尽きる。 「・・・フッ。まぁ、俺の指導自体は今夜で終わりだ。存分に学べ。反面教師としても。そこから先はお前次第だ」 「はい!!」 「・・・フン」 「・・・あっ。・・・・・・それと・・・その・・・」 「うん?何だ?まだ何か要望でも・・・」 「・・・服を着させて下さい。いい加減この格好は・・・」 「・・・・・・」 その後、殻衣と秋雪に手伝って貰いながら各所に血が付いている服を着た焔火を入れた178支部の面々は、『土砂人狼』の土人形に乗って再び移動を開始する。 まだ“血祭”は始まったばかりである。誰も彼をも巻き込む騒乱はその深奥を未だに見せてはいない。そんな中、“希望”を宿した少女の復活は風紀委員の背中を確かに押していた。 continue!!
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概要 ズメウ。 あまり作中描写のない種族。 名前の由来は東欧文化圏における竜を指すズメウ・ズメイだろうか。 人族としてカウントされているところを見ると、身体的にはあまり人間と変わらないと思われ…ていたが、 作者である珪素氏より、いわゆるリザードマンであることが明かされた。爬虫類から進化した種族だが一応恒温動物との事。 人族とは明らかにルーツが異なるのだが、人を襲わないので人族にカウントされているらしい。 種族特性としては腕力と器用さが高く、一つの技術を極めやすい反面、詞術の適性はあまり無く文字の修得適正も低い。 高温・乾燥環境下での活動に少しのボーナス修正。 なおキア編にて、『血鬼(ヴァンパイア)や砂人と異なり、人間(ミニア)は、雄より雌の方が暴力に劣る』との記述がある。 これを見る限り、アマゾネス的な女権種族、あるいは男女差の少ない種族なのだろうか。 該当する登場人物 奈落の巣網のゼルジルガ 爪先震えのパギレシエ 方舟のシンディカー
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《砂人形》 通常罠 自分のモンスターゾーンにカードが存在しない場合のみ発動可能。 ライフを1000ポイント単位で支払い、全ての墓地からモンスターを1体選んで発動する。 選択したモンスターを自分のフィールドに特殊召喚し、 「水分カウンター」を支払ったライフ1000ポイントにつき1つ乗せる。 この効果で効果モンスターを選択した場合、その効果は無効化される。 「水分カウンター」が乗ったモンスターが戦闘を行った時、 ダメージ計算終了時にそのモンスターの水分カウンターを1つ取り除く。 また自分のエンドフェイズ時にも各モンスターから「水分カウンター」を1つづつ取り除く。 このカードの効果で特殊召喚されたモンスターに「水分カウンター」が乗っていない時、そのモンスターを破壊する。 part15-889 名前 コメント
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トップページ>能力者>人狼 人狼の特徴 誰が人狼かがわかる。 夜遠吠えで話し合える。 襲撃で人狼以外を襲撃できる。ただし襲撃先が狩人に護衛されていたり妖狐を襲撃した場合は襲撃失敗である。 占い師などに占われると●判定が出る。霊能結果も●判定である。 噛みについて 噛みは狼のうちの一人が代表して噛みます。あらかじめ夜の会話で噛み役を決めておくか、騙り役の人に任せるとよいです。 人狼のやるべきこと 騙り・潜伏の決定 騙りをどの程度出すかは話し合いの結果による。あまり騙りを出しすぎるとたいてい負けるので騙りを出すのは一般的に1名。大人数のときは2名。もっとも場合によっては全員で騙りに出ても良い。後々面倒なことになるが。 占い騙りの場合は2日目できるだけ早くCOするのが一般的。ただし、狩人がいない場合に2日目に○判定で出ないこと。 霊能騙りの場合はたいてい全吊りになるので要注意。 狩人騙りは終盤でないと無意味。吊られに来た人外と思われる。 共有騙りはとりあえずやめたほうがよい。ただし乗っ取れると判断した場合はこの限りでない。例えば真共有が相方初日の場合は乗っ取っても不自然ではない。 PP状態での狼CO PP状態になったと確信できる場合(狼視点呪殺発生が確定していて(村から見て確定していればよいが襲撃先と違うところが無残な死体で発見されていても同様)他に狼でない偽確定の役職(狼に○判定)が生存していれば十分)は狼COして狂人を誘導しよう。 人狼のやるべきでないこと シスコピ 他の役職同様にシステムメッセージをそのままコピーしてはいけない。そもそもコピーすべき場面などないと思うが。 PP状態でもないのに狼CO 狼COははっきり言って即吊りだから。 ただし死体なし1回以上、村人視点呪殺発生なし、相方の狼がなお生存、真濃厚の占い死亡などの条件を満たした場合は自分が吊られることを前提に狼COで狐告発もあり。どういう順番であれ、村人1人もしくは狐と刺し違えられる。
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役職名 人狼 陣営 人狼側 勝利条件 人狼の数と村人の数が同数になる 能力 夜のフェイズに村人を襲撃して殺すことが出来る オープン/クローズ 両方 説明 人狼。単純に狼と呼ばれることもある。 夜のフェイズに村人を1人襲撃し殺すことが出来る。 人狼の数と村人の数が同数になるまで村人を殺していかなければならない。 人狼は誰が人狼(味方)で誰が村人(敵)であるかが最初からわかっている。