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長門さん プロフィール 代表優勝キャラ1 代表優勝キャラ2 称号 王者の貫禄☆ Vipプレイヤー☆ 鋼鉄 思いやり 魔女 忍者 バトロワ歴はまだ浅いが、凄まじい早さで優勝回数を増やし、vipプレイヤーの称号を獲得している。 BBSにも頻繁に顔をだし、日に日に成長していっているプレイヤーだ。 主にside-E、Fに出現するようだ。 グラチャンも制覇し、今の過疎イヤルの中では強者だ。
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えっと、絵本ですか? この間いっぱい見ましたけど……、あ、はい、この間童話を作らなきゃいけなくなったんで、そのために見たんですよ。 絵本って不思議ですね、絵がいっぱいで、文字が少なくって、でも、ちゃんと伝えてくるものが有って……。 あ、今ですね。わたしは図書館に居ます。 長門さんと一緒に。 ええっと今日は不思議探索なんです。 わたしは長門さんと同じ組。そう、わたしと長門さんだけです。 結構珍しい組み合わせかも知れないですね。 どこに行こうか迷っていたら、キョンくんが「長門は図書館に連れて行くのが良いです」って教えてくれたんです。 なので、わたしは長門さんといっしょに図書館へやってきました。 本当は一緒にお洋服を選んだりしても良いかなって思ったりもしたんですけど、他の三人の誰かが居る時ならともかく、わたしと長門さんだけじゃちょっと間が持たない気がするんですよね。 そうそう、絵本の話に戻りましょう。 長門さんが、どういうわけか絵本を読んでいるんです。 それも、一冊の本をずっとです。 原点回帰とでも言うんでしょうか……。 えっと、長門さんが読んでいるのは『白雪姫』です。 皆さん知っていますよね。 毒リンゴを食べさせられちゃったお姫様を王子様が起こしてくれる、あの白雪姫です。 長門さんとは図書館に入ったところで一度別れたんですけど、お料理とか編物とかの実用本を幾つか選んで本を読む場所を探そうかなと思っていたら、児童書コーナーで白雪姫を読んでいる長門さんの姿を見つけたんです。 長門さんが児童書なんて全然イメージに合わなかったんですけど、ちょっと気になったんで、わたしはそのまま長門さんの近くに腰を下ろしました。 高校生が二人児童書コーナーにいるというのも何だか変な感じですけど、たまにはこういうのもいいですよね。 ちょっと恥ずかしいですけど、涼宮さんにコスプレ衣装を着せられる事に比べれば、全然マシです。 それにしても……、長門さん、なんであんなにずっと白雪姫を読んでいるんでしょうか。 ううん、何ででしょう。 ちょっと気になりますね。 あ、長門さんが顔を上げました。 え、あ、あの……、何でわたしの方をじっと見ているんでしょうか。 ううう、ちょっと怖いですよう。 わたしは思わず本で自分の顔を隠してしまいました。 ごめんなさい、長門さん。 ……。 ……本をずらして、目より上だけを出してみます。 長門さん、まだわたしの方を見ていました……。 「あ、あの……。何か、面白い所でも有ったんですか?」 わたしは本を退けて、長門さんに訊ねました。 「……」 「あのう……」 「読んで」 長門さんが、わたしに本を突きつけました。 え、ええっと……、な、何なんでしょう、一体。 「え……」 「読んで」 「は、はい……」 ううん、わけがわからないです。 でも、長門さんが読めって言うのなら読んじゃいます。 つい最近何度も目を通した話なんで、それこそ何も見なくても語るくらいできそうなんですけど、わたしは絵本の中の字をゆっくりと目で追い、それを言葉に乗せていきました。 長門さんは、何も言わず話を聞いています。 白雪姫、ですか。 王子様がお姫様を起こしに来てくれる物語。 ……長門さんも、王子様を待っているんでしょうか? 「はい、読み終わりましたよ」 「もう一度」 「え、ええっ……」 「もう一度、読んで」 「は、はい……」 うう、何なんですか一体。 結局、7回も白雪姫を読まされちゃいました。 さすがにちょっと恥ずかしかったですよ。最後の方は周りに子供達が集まっていましたし……。 ああでも、こんなに読んだら内容がしっかり頭に刻まれちゃいますよね。 あ、そうそう、読みたかった実用本は全然読めなかったんですけど、どうしようかなと思っていたら、長門さんが貸し出しカードを作るのを手伝ってくれたんです。 何だか意外……、でも、ちょっと嬉しいかも知れません。 バレンタインの外れチョコのときもそうでしたけど、長門さんも気の遣い方とか、誰かのために自発的に何かをする、ということを覚えているのかも知れませんね。 結局白雪姫を何度も読むことになった理由は分からなかったですし、恥ずかしい思いもしちゃいましたけど、長門さんの新しい一面を見れた気もするので、プラスマイナスで言ったらちゃんとプラスですよね。 そうそう、今日の話をキョンくんに伝えたら、何だかちょっと微妙な表情をしていました。 何ででしょう……、うーん、でも、これは聞いちゃいけないことかもしれませんね。 気になりますけど、もう少し自分で考えてみましょう。 長門さんと白雪姫、かあ……。
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①入学式 僕は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 幼い頃から「国木田くんはできる子ねぇ」という同級生の保護者からの賛辞や、「やーん、この子、カワイイ~!」という年上の女性からのラブコールを受けて、何を考えているのか分からない笑顔とどす黒い本音を持った高校生に育った。 というのは冗談で、とりあえず無難な、一般的な高校生に育っていると自分では思っているから安心して続きを読んでほしい。 今日は北高の入学式。 僕の学力では県外の進学校にも行けた。北高の理数コースだって余裕だったけどね、なんだかんだで普通科に進学している。おっと、別にレベルの低い集団に混じって優越感に浸ろうとか、そんなことはいくら僕でも考えちゃいないさ。もちろん、普通科のレベルだったら特に熱心に学業に専念しなくても問題ない、と認識してるけどね。 これは慢心でも自意識過剰でもなんでもない。冷静な現状の分析だよ。 「うぃーっす、国木田。また同じクラスのようだな。俺としては、大変、助かる。」 「なんだい、キョン。僕がキョンを助けた記憶なんてそうそうありはしないんだけど、まさか君は僕の事を宿題模範解答作成マシーンだとか思ってたりしないだろうね」 「まあそれもあるけどな。知った顔がいるってのはとりあえず安心材料だ」 紹介が遅れたようだ。今僕と話していたのはキョン。彼に到っては苗字すら禁則事項らしい。もちろん僕は本名を知っているわけだけど、ここで書こうとしてもプロテクトがかかるだろうからやめておこう。とりわけ公序良俗に反する名前だから、とか常用漢字で表記できない、とかそういう理由のプロテクトではない。良識ある読者諸兄の方々にはそこのところ、安心してこの問題をスルーして頂くとしよう。 ところでこのキョンという友人は、特にその女性趣味の異常さ、というのか突飛さで知られている。別にこの平凡な友人がロリコンであるとかハードなSM趣味があるとか、そういう異常さではない。 中学時代の彼女だった佐々木さんは容姿端麗、才色兼備、特に非の打ち所がない女性に見えたが、重大な欠陥を抱えていた。 僕っ娘だったのだ。 現実世界で一人称に「僕」を使う女性は極めて稀だ。しかも佐々木女史のケースでは男子と会話する時だけ僕っ娘になるのだから、相当奇妙なケースだろう。 仮想してほしい。「僕っ娘」彼女との蜜月を。 「俺、もう、我慢、できないよ…」 「うん…僕もだ。…じゃあ、いこうか」 「うわっ、おまえのこれどろどろに溶けてるぞ」 「やめてくれ、僕だってそんなつもりじゃ…」 念のため言っておくが、これは棒アイスを買って炎天下の中を暫く歩いた後、それを食べようとするキョンと佐々木さんの様子を想像したものだ。邪な想像をした読者諸氏に猛省を促したいところだが、今回ばかりはサンプルが悪すぎる。これはもう腐った女子の方々が狂喜しそうな世界しか連想できない。よくもまあキョンもお付き合いを続けられたものである。あるいはキョンはそっちでもいけるのかもしれない。とんだ両刀使いだ。 何が言いたいかというと、僕は中3以来、キョンに背後を許したことがないということだ。 ②谷口と涼宮さん 僕は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 気が付けばもう五月だ。相変わらずキョンとよくつるんでいる。おっと、別に学業成績の低いキョンとつるむことで優越感に浸っているわけでもないし、異常異性嗜好の持主のキョンと一緒にいれば恋愛感情に流された際に棲み分けが可能、と考えているわけでもない。僕はそこまで打算的じゃないから誤解しないでほしい。 ところで、今キョンの横にいる男子は谷口だ。彼もフルネームで呼べない事情があるのでどうか了承いただきたい。この谷口という男は、ちょっとこういっては失礼だが、無類の女好きで成績はキョンに輪をかけた低空飛行、空気を読む能力は常識を弁えた一般的な高校生のそれを遥かに下回り、声の大きさだけがとりえ、という可哀相な男だ。 待ってくれ、いい意味でいっているんだ。 最近キョンは自分の後ろの席の涼宮さんという女の子に夢中だ。やはりキョンは異常嗜好の持主だなぁと深く実感した次第である。涼宮ハルヒという女の子は、最初の自己紹介でいきなり教室中の全員の度肝を抜く発言をした爆弾少女だ。といいたいところだが、後で谷口に聞いた話では、東中出身のクラスメートにとっては別段驚く事でもなかった、という。 そういうわけで三行前の僕の表現を「クラスの半分以上の」に訂正しておこう。 僕の見たところ、外見は非常に魅力的な女性と称していいだろう。目鼻立ちも整っており、スタイルも悪くない。ありていに言えば、涼宮さんは可愛い。髪型は奇抜だが、それは決して外観を損ねるものでなく、いかなる景観保護条例にも抵触しない。 しかし結局のところ、異性を評価するにあたり外見などはあくまでセンター試験、一次試験に過ぎないのだ。もちろんセンターでの足切りもあるが、ある程度の点を取ればむしろ内面という二次試験の配点比率の方が重要だ。 では外見以外のスペック(国木田調べ)を検証していくと、運動神経は極めていいらしい。 学業成績もいい。なんというスーパーマンであろうか。しかし変人で人付き合いは悪いようだ。 教室で彼女に話しかける人間といったらキョンか朝倉さんか、まあそんなところかな。 それも大概はぶっきらぼうな受け答えであしらっている。 僕の私見を述べさせて貰えば、奇人変人の類を伴侶に持つと絶対に苦労するはずだ。 安定と秩序を好む僕からすれば、ちょっと涼宮さんは願い下げである。もっとも、谷口はどうやら中学時代に涼宮さんに告白してOKされ、5分でフられた過去をお持ちらしい。 谷口も十分異常嗜好だな。5分間OKした涼宮さんも十分異常嗜好か。 ちなみにキョンのかつての伴侶たる佐々木女史も「安定と秩序」を掲げていたが、それならまずその一人称を直したらいいんじゃないかな。明らかに周りから異常と思われる振る舞いをしておいて安定と秩序とは滑稽だな、フフ… そういえばさっき朝倉涼子の名前を出したが、彼女は運動神経と学業成績と容姿の全てに於いて涼宮さんに肉薄し(その実、ひとつも勝てていないのはなんとも皮肉であるが)、のみならず気さくで人当たりが良く、いつの間にかクラスのリーダー的存在になっているという凄い女性だ。涼宮さんに比べたらどう考えても朝倉さんの方が安定した伴侶たりえる。 しかし朝倉さんでも駄目なのだ。彼女は完璧すぎる。全てにおいて普遍的に万能であるという点で既に彼女は普遍的ではない。何か裏がある。異常嗜好のキョンや全身精巣の谷口には理解し得ないだろうが、僕の目は欺けない、ということだ。 まあ結論を言えば、僕は阪中さんくらいの子がちょうどいいと思う。 ③SOS団 僕は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 後ろの席の変人美少女、こと涼宮ハルヒさんに猛烈なアプローチをかけていたキョンは、どういう手を使ったのかは知らないが急激に涼宮さんとの距離を近しいものにしていた。 もっとも、僕にもそんな予感がしなかったわけでもなく、女心の機微も空気も読めない谷口との賭けは見事に僕の勝ちとなった。 『キョンが五月以内に涼宮ハルヒとまともな会話を5分間継続させられるか』という賭けを持ちかけたのは実は僕のほうだった。途端に谷口は憐れむような目で僕を見たあと遠目でキョンを見て、「五月どころか一年でも無理じゃねーのか」と嘲笑していた。 谷口は賭け金を1000円に設定し、僕の肩を叩いてもう一度憐れみの表情を浮かべた。 いうまでもなく今は僕が谷口の懐を嘲笑し憐れんでいる。とはいえ、かつて自分が5分でフられた女を友人に取られ、財布も軽くなるというのでは谷口があまりにも惨めだ。 あまり古傷を抉るのはよそう。同情して100円玉を返してあげたら泣いて感謝していた。 涼宮さんはどうしてなかなか、積極的な女の子だ。いきなりキョンの髪の毛を引っ掴んで後頭部を机の天板に叩きつけるという荒業を授業中に行なうことができる少女はそうはいまい。 かと思えばチャイムと同時にキョンを階段のてっぺんまで引き摺り、自分より身長が高い相手の胸倉を掴んで協力を強制する。うーん、キョンの趣味はどうにも理解できない。 そんな涼宮さんは、キョンと共に新しい部活を作ることにしたようだ。傍から見れば、キョンと一緒にいる時間を作るための口実としか思えないのだが、キョンは超弩級の鈍感だし、涼宮さんは意地っ張りだし、これでは両者の関係がステップアップするきっかけがなかなかないだろう。 僕が普遍的な女性を支持する理由の一端もそこにある。意地っ張りは見方によってツンデレにも性悪にもなり兼ねない。もっとも、原因を女性にのみ求めるのは酷だろう。鈍感もキョンのレベルまで達すると女性に不要な苛立ちを抱かせるし、谷口のような男子は場の空気をぶち壊すことしかできない。おや、僕の周りにはまともな人間はいないのだろうか。 待ってくれ、いい意味でいっているんだよ。 「国木田くーん、ここの問題なんだけど、わかる?」 「ああ、これね。これはこの数値をここに代入して、それでほら、この公式を使えばいいよ」 「すごーい、国木田くんって頭いいんだね」 「そんなことないって。力になれて嬉しいよ」 フフ、これだよ、これ。照れ隠しに髪の毛を引っ掴んだり、笑顔でアーミーナイフを突き立てたり といった異常性・非日常性とは無縁のこの一連の普遍的コミュニケーションの流れ! やはり阪中さんのような女子はよく分かっている。 そもそも、谷口は男女の関係をいきなりナンパや告白から始めようとするのだが、それがまず間違いだ。谷口から異性を惹きつけるフェロモンが半端なく出ているとか、あるいは超絶美形で凝視した女が全員失禁するとかそういうわけでもないのに、距離をいきなり縮めようとするから失敗する。ひとつひとつのプログラムが甘い。だから拒絶を許す。 あれ、僕はいったい何をいっているんだろうか。谷口を敵性と判定する前に思考を中断しよう。 そうそう、朝倉涼子が転校した。突然すぎる転校、行き先はカナダ、これはどう考えても異常だ。 僕の見立てでは、朝倉涼子は特殊工作員だったのではないか、と思う。だから、もうこの世に朝倉涼子なる人物がいないとしてもおかしくはない。国家ぐるみの隠蔽だ。 巻き込まれなくてよかったと本気で思う。彼女の異常すぎる普遍性をいち早く察知した自分の慧眼にただただ感謝するばかりだ。 ④野球1 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 最近休日にキョンと会うことはなかった。まあそれはキョンが毎週土曜日に涼宮さん達と『不思議探索パトロール』とかいう(名前はうろ覚えだ)イベントを行なっているからだ。 傍から見れば集団デートでしかないのだが、当人達に自覚がないのが一番の恐怖だ。 ある種の集団催眠にでもかかっているのだろうか。しかしそんな集団催眠は聞いたことがない。要は鈍感と意地っ張りの化学反応に過ぎない。 それはともかくとして、そんなキョンから久しぶりに休日の予定を聞かれた。なんでも、キョンの、もとい涼宮さんとキョンの部活が野球大会に出るので、面子合わせに僕に声がかかった、ということらしい。友人の頼みを無碍に断ることはできない。 まあ参加するとしよう。部活などに入っていない僕にとって、休日は文字通り休みの日だ。 暇なら街にも出かけるし、疲れていたら眠る。これこそ自由人である。 というわけで当日、キョンに言われた場所に集まってみると、なかなかバラエティに富んだメンバーが集まっていた。キョンの部活仲間である涼宮さん、長門さん、朝比奈さん、古泉くん、このあたりは僕の予想の範疇である。そして朝比奈さんの友人である鶴屋さん。 この先輩もまあいいだろう。なぜキョンの妹がいるのだろう。僕は考え付く限りの理由を検証した。なるほど、キョンは勝ちたくないのだ。おそらくこの大会は涼宮さんに無理矢理参加させられた、というところだろう。妹を連れてくる時点で勝負を諦めているのだ。 そうなると、この大会、なんとしても一回戦敗退が義務付けられるな。 一回戦は三年連続ディフェンディングチャンピオンの上ヶ原パイレーツだ、と聞いた。 涼宮さんにとっては悪いニュースだが、キョンにとっては願ってもない幸運だろう。 ポジションと打順をくじ引きで決めているあたり、涼宮さんも本気で勝てるとは思っていないのかもしれない。ちなみに僕は7番ファーストだ。これは敗北の鍵を握るのは僕だと思って間違いあるまい。友人のために一肌脱ぐとしよう。 キョンの願いとは裏腹に、涼宮さんはなかなかの好投手だった。先頭打者と2番打者を悠々と三振させる。パイレーツにはもう少し頑張っていただかないと友人の悩みの種が増えるばかりだ。もっとも、素人目から見ても涼宮さんの投球はちょっとした脅威であり、パイレーツの責任を追及するのは理不尽かもしれない。 そう思っていたら、三番打者は白球をスタンドへ運んでしまった。前年度優勝者はやはり伊達ではない。とはいえ、一回表の攻撃で二塁打を打った涼宮さんのことだから、あるいは以後の打席で連続ホームランを打たないという保障はない。 念には念を入れておこう。 そんなわけで、一回裏、パイレーツの攻撃、五番打者の貧打をわざとエラーしたのはあくまでもキョンのためだということを明記しておきたい。どうやら小説の方では単純に僕のエラーということしか記述されていないようなのではっきりさせておくが、あれは故意のエラーだ。おっと、軽蔑は止してくれ。なんせ小学生の妹を連れてきてまで敗北しようという友人がいるのだ。これは何らかの事情があるのだろうと、彼の意図を汲んでやるのに吝かではないだろう。 読者諸兄は誤解しているかもしれないが、僕は運動神経も谷口よりはいいのだ。 あのエラーはわざとなのだ。 谷川流にとって僕がさほど重要な登場人物でないことくらい認識しているが、僕の沽券に関わるような描写は避けてほしいものだ。そもそも、谷口と比較しても僕の扱いは酷くないか? ⑤野球2 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 かいつまんで前回の日記の内容を紹介すると、他ならぬ友人の頼みで休日の野球大会に引っ張り出された僕だったが、友人の連れてきたメンバーを見て、友人の早期敗退の意図を瞬間的に察知。友人とは全く正反対の想いを抱く涼宮さんの大活躍を見て危機感を募らせた僕は友人のために敢えてエラーを犯すのだった、とまあこんなところだろうか。 そんな僕の努力もむなしく、自分でもインチキとしか思えない我がチームの11打席連続本塁打によって、僅か一回にして両チームの状況は逆転してしまった。口には出さなかったが、あれはどう考えてもバットがおかしい。みんな気づいてないのか。谷口は間違いなく気づいていない。 自分の実力でホームランを打ったと思っているのだろう。お気楽な奴だ。いっそメジャーにでも挑戦してくれ。その異変も12打席目以降は起こらなかったけれど。 あの怒涛の攻撃は長門さんから始まりキョンで終わった。要するに二人だけが本塁打を二度、打っているわけである。しかしキョンは負けたいはずではなかったのか。これではエラーをした僕が道化ではないか。あるいは長門さんになんらかの原因があるとも考えられる。即ち、実はソフトボール部の特待生として入学した長門さんが危機的状況に業を煮やし、その秘めたる力を発揮し、またそのスピリチュラルなエネルギーがバットに宿り全員に本塁打を打たせたものの、点を重ねるに連れそのエネルギーの顕現も衰え、キョンの打順が終わった時点で完全に消失したとするものだ。 とはいえ長門さんは文芸部員のはずであるし、僕はそういったスピリチュラルな出来事は信用していない。真相は闇の中か… そして時間の関係で迎えた最終回、ピッチャーは涼宮さんに代わってキョン。どうやら本腰を入れて負ける心積もりのようだな。影ながら一塁から応援しよう。 という僕の心境とは裏腹に、キョンは有り得ない魔球を8球連続で投げ、あっという間に二つの三振と二つのストライクを奪って見せた。もう何がなんだか。試合中にどうしても勝たなければならない事情が湧いて出た、ということなのだろうか。まあ悩んでも仕方が無い。どうせもう僕が何もしなくてもあの魔球で勝つだろう。捕手を務めているのが長門さんであるから、当然僕の疑念は彼女に向けられるべきであるが、もうこの際どうでもいい。キョンの魔球が物理法則を無視したところで知ったことではないよね。 ファーストで一人モチベーションを下げていたら、キャッチャーの長門さんがボールをファンブル、振り逃げでバッターが走り出した。振り逃げのルールをいまいち把握していないらしかった長門さんはしばらくぼーっとして、キョンに指示されて急いでセカンドに送球。 おいおい、長門さんがピッチャーやったほうがよかったんじゃないか。 それにしても、結局セカンドでアウトになったので、またしても僕の出番は無しだ。この試合、脇役の鶴屋さんは神がかったフィールディングを見せ、谷口ですらショート強襲の当たりを捌くシーンが映像化されているというのにこの僕の扱いはなんなんだ。妹?小学生を引き合いに出すのはちょっと、ね。 これは谷川流のせいなのか山本寛のせいなのか、はたまた松元恵がいけないのか。 真相はやはり闇の中だ。 ⑥映画撮影 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 キョンの未来の花嫁にして、彼を傍若無人という鎖で縛りつけ引っ張り回すツンデレ美少女涼宮ハルヒさんは、文化祭を前にまたもや意味のわからない企画を発案したらしい。 もっとも、意味のわからない企画そのものは文化祭前に限らず四六時中発案されていることであり、要するに僕と谷口という部外者がそれに巻き込まれるというケースがあの野球大会以降は文化祭前までなかった、ということなのだ。 キョンの口から語られる様々な真実を聞く限り、その企画参加を強制される確率の低さを喜ぶべきなのか、どうか。一回でも参加している時点で不幸なのかもしれないが。 今度は僕らに映画出演のオファーである。映画、ねぇ。はっきり言って、素人が思い付きで製作を始めた映像作品が映画と呼べる程度の代物になる見込みはほとんどないだろう。 なんでもこなす涼宮さんのことだからあるいは、なんて思っている諸氏には謹んで再考を促しておこう。なんでもこなす、というのは彼女に関する限りは勢いでなんでもこなす、ということであり、そのベクトルが映像製作に向かったところで、ソードマスターヤマトも真っ青の無理矢理な結末を迎えるだろうことは想像に難くない。 そんなことは僕にはまあ関係ないことで、とりあえず面白そうならばそれでいいのだ。 SOS団には朝比奈さんという美しい先輩が居られる。しかもどういうわけか毎回コスプレでご登場だ。僕が好きなタイプの女性は阪中さんである、と神に誓えるが、こと鑑賞に限り朝比奈さんや長門さんのような女性は魅力的だ。念を押しておくが、実際に恋愛対象となり得るかは全くの別問題だ。ドジっ娘はデメリットの方が多く、無口っ娘は一緒にいて気疲れする。やはり僕は阪中さんにこの想いを捧げるしかあるまい。 本題に入るのが遅れてしまったようだが、どうせ本題について書くことはそう多くない。 僕と谷口の役は、長門さん扮する悪の宇宙人に操られて朝比奈さん扮する未来メイドを池に突き落とす役だ。この部分だけ聞いても何の話かまったくわからないだろうが、一通り台本を見たところで決して話を理解することはできないのだから安心して欲しい。 むしろ、妙な状況設定を与えられずに『朝比奈さんを池に落とす役』とだけ説明された方がどれだけ分かりやすいかしれない。もっとも、僕の都合は涼宮さんの前では風前の灯に過ぎず、結局のところアホでないという一点で差異化されてはいるものの、谷口と対して変わらない扱いなのである。 そうそう、肝心の撮影に関してだが、特に撮り直しもなく、一発撮りで終わった。 谷口が朝比奈さんと一緒に池に落ちた時には本当に大爆笑しそうになったが、池から上がった谷口がやたら不機嫌そうにむくれていたので笑いをかみ殺した。 谷口が落ちた事を全く気にも留めずに涼宮さんが次の撮影へ移ってしまったことが不満らしいが、中学校三年間同じクラスにいたら彼女のそういう性格もわかりそうなものなんだけれど。それを承知で朝比奈さんや長門さん目当てで撮影に馳せ参じたのだからこれはもう完全に谷口の自己責任だよね。やれやれだね。 谷口の不平は思ったより長く続いて、休み明けに学校でキョンと会った時も嫌味ばかり言っていた。キョンもキョンで、涼宮さんの映画を馬鹿にされると柄にもなく怒ったりして。 なんだかんだでキョンの涼宮さんへの愛情の深さが伺い知れて、微笑ましく思うと同時にじんましんが出たのはもちろん内緒だ。 ⑦文化祭1 僕の名は国木田。もうこの前口上もそろそろ飽きてきた。どうせ僕のフルネームが禁則でなくなる日など永久にこないのだ。谷川流にとっての僕はその程度の存在だ。体のいい主人公の友人、エロゲにおける主人公以外の男キャラクター並の存在意義しかないのだ。 高校一年生がエロゲを比喩に持ち出すのはいかがなものか、と思うが、いざとなったら全責任を谷口と作者に押し付ける覚悟はできている。 前回の日記で書いた通り、僕はキョンの部活(団といったほうがいいようだが)の自主制作映像作品に出演を強要され、半分は自分の意思で好演を披露したわけだが、撮影以後は特に何事もなく文化祭当日が来てしまった。うちのクラスはなにやらよくわからない展示をやるようなのだけれど、僕はそこまで深く携わっていないので知る由もない。おっと、別にクラスでハブられているわけじゃないんだよ。 クラス発表は展示、部活は無所属、となれば文化祭当日は一般客とさして変わらないほど暇ができる。阪中さんをエスコートしてチョコバナナの一本や二本でも奢ろうかとも考えた。 吝かではない。吝かではないが、今日はキョンの先輩である朝比奈さんとその友人の鶴屋さんのクラスの焼きそば喫茶へ足を運ぶ予定であり、ちょっとそこに阪中さんを連れていくのは勇気が要りそうだ。暫く逡巡して、結局谷口と行動することにした。 ところでチョコバナナに特に深い意味はない。僕は全身精巣の谷口と違ってそこまで男性ホルモンをたぎらせてはいない。 谷口と共にいくつかのクラスの出し物を覗き、廊下を歩いていたらキョンに遭遇した。 徹夜で映画の編集をしていたので、今まで部室で寝ていたのだという。少しは文化祭を楽しめといいたい。とにもかくにも、キョンが来た以上、可及的速やかに朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶に向かいたいところだ。キョンと一緒に行けばあるいは割引ないしサービスが期待できるかもしれない。どちらかといえば後者を期待するが。 焼きそば喫茶「どんぐり」の前は異様な雰囲気の男子生徒が行列を作っていた。行列の先頭辺りに朝比奈さんの友人である鶴屋さんがいる。なんと、素晴らしい衣装じゃあないか。 朝比奈さんも美しいが、鶴屋さんも相当な美人だ。うーん、こういう台詞は僕じゃなく谷口の範疇なんだが敢えて言おう、当方は紅く萌えている。当方腐敗、マスターマニアだな。 こんなことを阪中さんの前で言ったら僕は自分で自分を永久冷凍刑に処す所存だ。 「どうだいっ。この衣装、めがっさ似合ってると思わないかなっ?どうにょろ?」 はい、めがっさ似合ってます。それでその変な言葉遣いが直れば女性として非の打ち所がないかと思うのですが、どうにょろ? 当初朝比奈さんから貰っていた割引券は30%オフだったが、鶴屋さんの計らいによって一人300円の焼きそばを三人500円で食べられることになった。これはおよそ44.5%の割引だが、三人で500円という半端な値段にしたら揉め事になるというのが鶴屋さんには予想できなかったのだろうか。いっそ600円の方が角が立たなくてよかったのだが。 それにしても台詞のほとんどの最後にエクスクラメーションマークをつけてくるあのテンションには驚愕を禁じえない。いっそ静かにしていれば更に支持層が拡がると思うのだが。 雉も鳴かずば撃たれまい、鶴も語らずば引かれまい。 「元気な人だなあ。毎日あのテンションでよく疲れないよね」 つい本音が出てしまった。険がこもってなければいいのだが。 ⑧文化祭2 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 前回はどこまで書いたかな。そうだ、文化祭で朝比奈さんの焼きそば喫茶に並んだあたりか。 結局30分ほど待たされて、ようやく中へ案内されたが、いやはや、教室の中は予想以上の壮観だった。鶴屋さんが着ていたウエイトレスの衣装を全員が身に纏っており、異空間のような心地すらしたものだ。これはもう谷口ならずとも堪りません。谷口と違って全身から男性ホルモンが分泌されているわけではないが、僕とて宦官ではないのだからね。 水を持ってきたウエイトレスさんは他ならぬ朝比奈さんだった。文句なく美しい。 「ようこそ、キョン君と、その友達の…」 僕は迷わず自分の名を告げていたが、さらに大声の谷口の自己紹介によりかき消された感が否めない。こいつは後でもう一度池にでも沈めたほうがいいかもしれない。その拍子に池の鯉に谷口の男性ホルモンが摂取されたらちょっとした鯉の修羅場が見られるかもしれないから興味はあるが、本当にやったら環境ホルモンどころの騒ぎじゃないな。よしとこう。 焼きそばそのものの味は、まあ普通だった。一般的な女子高生の文化祭の出し物の焼きそばにそこまで期待してどうするというのだ。幸い、この物語にはすぐに女将を呼ぶ芸術家やいきなり薀蓄を垂れ出すぐうたらサラリーマンは出てこないので、これで十分なのだ。 僕たちは喫茶を出て一息ついた。 キョンがこの後どうするかと聞いてきたので、僕はキョンたちの映画を見てみたいな、と告げた。 谷口は乗り気ではない。池に落ちたシーンを見るのが恥ずかしいのかな?常識的に考えれば あれは確実にNGシーンだからカットされてると思うけど。自意識過剰もいいところだ。 谷口はおもむろにナンパをしようと言い出した。谷口の頭の中の構造を知りたいものだ。 今度流行の脳内チェッカーでもやらせてみようか。 ところで、谷口がナンパの話を持ちかけた時に僕は谷口の後ろを愛すべき阪中さんが歩いていくのを見て、ついそちらに気をとられていた。僕の目の前にいる、運動神経と大脳新皮質の発達分の栄養を全て対異性欲求に回された哀れな友人は、僕のノーリアクションを肯定と取った模様だった。キョンはあからさまに倦怠感を顕にし、やるなら二人でやってくれ、と谷口の相手を僕に押し付けた。おやおや。僕も谷口の相手はごめんだよ。 「ていうか谷口、僕もナンパはよしとくよ。すまないけど一人で成功させて、成功したら後でその子の友達でも僕に紹介してよ。それが友情ってもんじゃないかな?」 そういって僕は阪中さんの歩いていった方へ足を向けた。 おっと、別にストーカーじゃないよ。気になる異性のほうへ自然と歩みを進めてしまうのは雄の本能さ。そればかりは谷口でなくても発動する。 当の谷口は、といえばまた間抜けな顔をして僕とキョンを見送っていた。 その後僕がどうしたかって、それは本編では明かされていない。あるいは阪中さんとの甘い文化祭デートを楽しんだかもしれないし、見失ってやむなく視聴覚室の上映会で時間を潰したかもしれない。涼宮さんのライブを聞いて僕なりに少しテンションを上げていたかもしれないし、あるいは谷口に合流してナンパが玉砕するのを横から笑って見ていたかもしれない。とりあえずこの物語で次に僕が登場するのは、文化祭の二日後。僕たちの教室にENOZが来訪した事を涼宮さんに報告する役目だけだ。つまり、その間何があったとしても読者諸兄には分かるはずもなく、また特に興味がない人も多いことだろう。 ただひとつ、文化祭当日のことでひどく後悔していることがあるとすれば、僕と谷口は声を揃えて同じ回答を口にするだろう。 やはりナンパなんかよしておけばよかった、と。 ⑨僕は消失も憤慨もしていない~エピローグみたいなもの~ 僕の名は国木田。いつになったらフルネームのプロテクトが解除されるんだろう。 日記がだいぶご無沙汰になっていた理由は原作者に聞いてくれ。残念ながらこのSS作者には原作に無いエピソードをぶち込んで僕を活躍させようとか、あるいは僕の甘酸っぱい恋物語を追加しようとか、そんな力量も度胸もない。せいぜい僕が阪中さんに秘める想いをところどころにネタよろしく配置する程度しかできない。ネタか。はっ、なんとも因果なものだね。 そんなわけで文化祭の後、僕が北高の第一学年を修了するまでの間は、まあ僕にとってはそれなりに平和だったと評せざるを得ない。僕と阪中さんの関係はクラスメートという段階から進歩するわけでもなく、谷口は相変わらずアホでKYで、キョンと涼宮さんは長年連れ添った夫婦のようにテンポのよい掛け合いを繰り返していた。クリスマス頃にキョンが階段から落ちて暫く学校を休んだ時の涼宮さんの慌てぶりを見れば、いくら涼宮さんが罵声だの弁解だのを並べたところで、「ツンデレ乙」としかいえない。実際に口に出したらツンの部分で突き殺され兼ねないので、僕はあの意地っ張りの一角獣にはなるべく干渉しないことにしている。 そういえば冬休み明け直後に、SOS団の前身たる文芸部が存続の危機に陥っているとかで、無理矢理文芸誌の原稿を書かされたこともあったっけ。あの時は、涼宮さんに寄稿を強制された谷口を見て嘲笑していたらついでに捕まってしまい、なかなかハードな仕事を押し付けられたものだ。学習お役立ちコラム十二篇って、普通一つの雑誌に一人が寄稿する量では断じてない。週刊誌で一号に一篇ずつ掲載すれば二ヵ月半も持つ。十二週打ち切りなら最短記録を免れるレベルだよ、ホントに。有用性を見ても、谷口のよくわからないエッセイより遥かに優れたものだと断言できる。まあ谷口は噛ませ犬という言葉を具現化したようなキャラクターだから仕方あるまい。天の声には逆らえない。僕も、谷口も。 そして僕は今、揺れる白球と躍動する少女達を見てキョンと共に感嘆の声をあげている。 隣では谷口が何やら息を荒げているが、理由は言わずと知れたことだろう。彼の全身のホルモン臓器が一気に動きを活発化させたに違いない。僕は、といえば全く邪念とは無縁に阪中さんを眺めていた。阪中さんのトスを涼宮さんが華麗にアタックする様は見ていて爽快だ。 阪中さんの 禁則事項 をトスできたらもっと爽快だろうか。おっと、こんな妄想は谷口の専売特許だった。一瞬の邪念は僕が生物学的に雄である証、読者諸氏の軽蔑はご勘弁願いたい。 早いものでもう入学して一年が経過する。来年度からは文系理系に分かれ、今まで同じ道を歩んだ友人たちとも袂を分かつ運命が待ち構えているかもしれない。僕は理系に進む。 こればかりはキョンや谷口に合わせて、というわけにもいかないだろう。ぬるま湯に浸かった学園生活にもそろそろ見切りをつけなくてはね。 「えーっ、阪中さん文系に進むのぉ?」 「うん、あたし数学苦手なのね。理系はちょっと…」 「あたしも文系だしさ、また来年も同じクラスかも!」 「ほんとー?それは素直に嬉しいのね」 …そういえば僕は文系科目が苦手だったな。旧帝大への進学を目指す僕にとって文系科目は足枷になりかねない。来年一年は敢えて文系を選択し、苦手科目の克服に充てたほうが賢明かもしれない。いや、そうに違いない。あくまでこれは僕が個人で考え、決めた結論だ。 何者にも影響などされていない。国木田という男はそんな芯のしっかりした男なのだ。 脇役サミットへ続く
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①入学式 僕は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 幼い頃から「国木田くんはできる子ねぇ」という同級生の保護者からの賛辞や、「やーん、この子、カワイイ~!」という年上の女性からのラブコールを受けて、何を考えているのか分からない笑顔とどす黒い本音を持った高校生に育った。 というのは冗談で、とりあえず無難な、一般的な高校生に育っていると自分では思っているから安心して続きを読んでほしい。 今日は北高の入学式。 僕の学力では県外の進学校にも行けた。北高の理数コースだって余裕だったけどね、なんだかんだで普通科に進学している。おっと、別にレベルの低い集団に混じって優越感に浸ろうとか、そんなことはいくら僕でも考えちゃいないさ。もちろん、普通科のレベルだったら特に熱心に学業に専念しなくても問題ない、と認識してるけどね。 これは慢心でも自意識過剰でもなんでもない。冷静な現状の分析だよ。 「うぃーっす、国木田。また同じクラスのようだな。俺としては、大変、助かる。」 「なんだい、キョン。僕がキョンを助けた記憶なんてそうそうありはしないんだけど、まさか君は僕の事を宿題模範解答作成マシーンだとか思ってたりしないだろうね」 「まあそれもあるけどな。知った顔がいるってのはとりあえず安心材料だ」 紹介が遅れたようだ。今僕と話していたのはキョン。彼に到っては苗字すら禁則事項らしい。もちろん僕は本名を知っているわけだけど、ここで書こうとしてもプロテクトがかかるだろうからやめておこう。とりわけ公序良俗に反する名前だから、とか常用漢字で表記できない、とかそういう理由のプロテクトではない。良識ある読者諸兄の方々にはそこのところ、安心してこの問題をスルーして頂くとしよう。 ところでこのキョンという友人は、特にその女性趣味の異常さ、というのか突飛さで知られている。別にこの平凡な友人がロリコンであるとかハードなSM趣味があるとか、そういう異常さではない。 中学時代の彼女だった佐々木さんは容姿端麗、才色兼備、特に非の打ち所がない女性に見えたが、重大な欠陥を抱えていた。 僕っ娘だったのだ。 現実世界で一人称に「僕」を使う女性は極めて稀だ。しかも佐々木女史のケースでは男子と会話する時だけ僕っ娘になるのだから、相当奇妙なケースだろう。 仮想してほしい。「僕っ娘」彼女との蜜月を。 「俺、もう、我慢、できないよ…」 「うん…僕もだ。…じゃあ、いこうか」 「うわっ、おまえのこれどろどろに溶けてるぞ」 「やめてくれ、僕だってそんなつもりじゃ…」 念のため言っておくが、これは棒アイスを買って炎天下の中を暫く歩いた後、それを食べようとするキョンと佐々木さんの様子を想像したものだ。邪な想像をした読者諸氏に猛省を促したいところだが、今回ばかりはサンプルが悪すぎる。これはもう腐った女子の方々が狂喜しそうな世界しか連想できない。よくもまあキョンもお付き合いを続けられたものである。あるいはキョンはそっちでもいけるのかもしれない。とんだ両刀使いだ。 何が言いたいかというと、僕は中3以来、キョンに背後を許したことがないということだ。 ②谷口と涼宮さん 僕は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 気が付けばもう五月だ。相変わらずキョンとよくつるんでいる。おっと、別に学業成績の低いキョンとつるむことで優越感に浸っているわけでもないし、異常異性嗜好の持主のキョンと一緒にいれば恋愛感情に流された際に棲み分けが可能、と考えているわけでもない。僕はそこまで打算的じゃないから誤解しないでほしい。 ところで、今キョンの横にいる男子は谷口だ。彼もフルネームで呼べない事情があるのでどうか了承いただきたい。この谷口という男は、ちょっとこういっては失礼だが、無類の女好きで成績はキョンに輪をかけた低空飛行、空気を読む能力は常識を弁えた一般的な高校生のそれを遥かに下回り、声の大きさだけがとりえ、という可哀相な男だ。 待ってくれ、いい意味でいっているんだ。 最近キョンは自分の後ろの席の涼宮さんという女の子に夢中だ。やはりキョンは異常嗜好の持主だなぁと深く実感した次第である。涼宮ハルヒという女の子は、最初の自己紹介でいきなり教室中の全員の度肝を抜く発言をした爆弾少女だ。といいたいところだが、後で谷口に聞いた話では、東中出身のクラスメートにとっては別段驚く事でもなかった、という。 そういうわけで三行前の僕の表現を「クラスの半分以上の」に訂正しておこう。 僕の見たところ、外見は非常に魅力的な女性と称していいだろう。目鼻立ちも整っており、スタイルも悪くない。ありていに言えば、涼宮さんは可愛い。髪型は奇抜だが、それは決して外観を損ねるものでなく、いかなる景観保護条例にも抵触しない。 しかし結局のところ、異性を評価するにあたり外見などはあくまでセンター試験、一次試験に過ぎないのだ。もちろんセンターでの足切りもあるが、ある程度の点を取ればむしろ内面という二次試験の配点比率の方が重要だ。 では外見以外のスペック(国木田調べ)を検証していくと、運動神経は極めていいらしい。 学業成績もいい。なんというスーパーマンであろうか。しかし変人で人付き合いは悪いようだ。 教室で彼女に話しかける人間といったらキョンか朝倉さんか、まあそんなところかな。 それも大概はぶっきらぼうな受け答えであしらっている。 僕の私見を述べさせて貰えば、奇人変人の類を伴侶に持つと絶対に苦労するはずだ。 安定と秩序を好む僕からすれば、ちょっと涼宮さんは願い下げである。もっとも、谷口はどうやら中学時代に涼宮さんに告白してOKされ、5分でフられた過去をお持ちらしい。 谷口も十分異常嗜好だな。5分間OKした涼宮さんも十分異常嗜好か。 ちなみにキョンのかつての伴侶たる佐々木女史も「安定と秩序」を掲げていたが、それならまずその一人称を直したらいいんじゃないかな。明らかに周りから異常と思われる振る舞いをしておいて安定と秩序とは滑稽だな、フフ… そういえばさっき朝倉涼子の名前を出したが、彼女は運動神経と学業成績と容姿の全てに於いて涼宮さんに肉薄し(その実、ひとつも勝てていないのはなんとも皮肉であるが)、のみならず気さくで人当たりが良く、いつの間にかクラスのリーダー的存在になっているという凄い女性だ。涼宮さんに比べたらどう考えても朝倉さんの方が安定した伴侶たりえる。 しかし朝倉さんでも駄目なのだ。彼女は完璧すぎる。全てにおいて普遍的に万能であるという点で既に彼女は普遍的ではない。何か裏がある。異常嗜好のキョンや全身精巣の谷口には理解し得ないだろうが、僕の目は欺けない、ということだ。 まあ結論を言えば、僕は阪中さんくらいの子がちょうどいいと思う。 ③SOS団 僕は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 後ろの席の変人美少女、こと涼宮ハルヒさんに猛烈なアプローチをかけていたキョンは、どういう手を使ったのかは知らないが急激に涼宮さんとの距離を近しいものにしていた。 もっとも、僕にもそんな予感がしなかったわけでもなく、女心の機微も空気も読めない谷口との賭けは見事に僕の勝ちとなった。 『キョンが五月以内に涼宮ハルヒとまともな会話を5分間継続させられるか』という賭けを持ちかけたのは実は僕のほうだった。途端に谷口は憐れむような目で僕を見たあと遠目でキョンを見て、「五月どころか一年でも無理じゃねーのか」と嘲笑していた。 谷口は賭け金を1000円に設定し、僕の肩を叩いてもう一度憐れみの表情を浮かべた。 いうまでもなく今は僕が谷口の懐を嘲笑し憐れんでいる。とはいえ、かつて自分が5分でフられた女を友人に取られ、財布も軽くなるというのでは谷口があまりにも惨めだ。 あまり古傷を抉るのはよそう。同情して100円玉を返してあげたら泣いて感謝していた。 涼宮さんはどうしてなかなか、積極的な女の子だ。いきなりキョンの髪の毛を引っ掴んで後頭部を机の天板に叩きつけるという荒業を授業中に行なうことができる少女はそうはいまい。 かと思えばチャイムと同時にキョンを階段のてっぺんまで引き摺り、自分より身長が高い相手の胸倉を掴んで協力を強制する。うーん、キョンの趣味はどうにも理解できない。 そんな涼宮さんは、キョンと共に新しい部活を作ることにしたようだ。傍から見れば、キョンと一緒にいる時間を作るための口実としか思えないのだが、キョンは超弩級の鈍感だし、涼宮さんは意地っ張りだし、これでは両者の関係がステップアップするきっかけがなかなかないだろう。 僕が普遍的な女性を支持する理由の一端もそこにある。意地っ張りは見方によってツンデレにも性悪にもなり兼ねない。もっとも、原因を女性にのみ求めるのは酷だろう。鈍感もキョンのレベルまで達すると女性に不要な苛立ちを抱かせるし、谷口のような男子は場の空気をぶち壊すことしかできない。おや、僕の周りにはまともな人間はいないのだろうか。 待ってくれ、いい意味でいっているんだよ。 「国木田くーん、ここの問題なんだけど、わかる?」 「ああ、これね。これはこの数値をここに代入して、それでほら、この公式を使えばいいよ」 「すごーい、国木田くんって頭いいんだね」 「そんなことないって。力になれて嬉しいよ」 フフ、これだよ、これ。照れ隠しに髪の毛を引っ掴んだり、笑顔でアーミーナイフを突き立てたり といった異常性・非日常性とは無縁のこの一連の普遍的コミュニケーションの流れ! やはり阪中さんのような女子はよく分かっている。 そもそも、谷口は男女の関係をいきなりナンパや告白から始めようとするのだが、それがまず間違いだ。谷口から異性を惹きつけるフェロモンが半端なく出ているとか、あるいは超絶美形で凝視した女が全員失禁するとかそういうわけでもないのに、距離をいきなり縮めようとするから失敗する。ひとつひとつのプログラムが甘い。だから拒絶を許す。 あれ、僕はいったい何をいっているんだろうか。谷口を敵性と判定する前に思考を中断しよう。 そうそう、朝倉涼子が転校した。突然すぎる転校、行き先はカナダ、これはどう考えても異常だ。 僕の見立てでは、朝倉涼子は特殊工作員だったのではないか、と思う。だから、もうこの世に朝倉涼子なる人物がいないとしてもおかしくはない。国家ぐるみの隠蔽だ。 巻き込まれなくてよかったと本気で思う。彼女の異常すぎる普遍性をいち早く察知した自分の慧眼にただただ感謝するばかりだ。 ④野球1 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 最近休日にキョンと会うことはなかった。まあそれはキョンが毎週土曜日に涼宮さん達と『不思議探索パトロール』とかいう(名前はうろ覚えだ)イベントを行なっているからだ。 傍から見れば集団デートでしかないのだが、当人達に自覚がないのが一番の恐怖だ。 ある種の集団催眠にでもかかっているのだろうか。しかしそんな集団催眠は聞いたことがない。要は鈍感と意地っ張りの化学反応に過ぎない。 それはともかくとして、そんなキョンから久しぶりに休日の予定を聞かれた。なんでも、キョンの、もとい涼宮さんとキョンの部活が野球大会に出るので、面子合わせに僕に声がかかった、ということらしい。友人の頼みを無碍に断ることはできない。 まあ参加するとしよう。部活などに入っていない僕にとって、休日は文字通り休みの日だ。 暇なら街にも出かけるし、疲れていたら眠る。これこそ自由人である。 というわけで当日、キョンに言われた場所に集まってみると、なかなかバラエティに富んだメンバーが集まっていた。キョンの部活仲間である涼宮さん、長門さん、朝比奈さん、古泉くん、このあたりは僕の予想の範疇である。そして朝比奈さんの友人である鶴屋さん。 この先輩もまあいいだろう。なぜキョンの妹がいるのだろう。僕は考え付く限りの理由を検証した。なるほど、キョンは勝ちたくないのだ。おそらくこの大会は涼宮さんに無理矢理参加させられた、というところだろう。妹を連れてくる時点で勝負を諦めているのだ。 そうなると、この大会、なんとしても一回戦敗退が義務付けられるな。 一回戦は三年連続ディフェンディングチャンピオンの上ヶ原パイレーツだ、と聞いた。 涼宮さんにとっては悪いニュースだが、キョンにとっては願ってもない幸運だろう。 ポジションと打順をくじ引きで決めているあたり、涼宮さんも本気で勝てるとは思っていないのかもしれない。ちなみに僕は7番ファーストだ。これは敗北の鍵を握るのは僕だと思って間違いあるまい。友人のために一肌脱ぐとしよう。 キョンの願いとは裏腹に、涼宮さんはなかなかの好投手だった。先頭打者と2番打者を悠々と三振させる。パイレーツにはもう少し頑張っていただかないと友人の悩みの種が増えるばかりだ。もっとも、素人目から見ても涼宮さんの投球はちょっとした脅威であり、パイレーツの責任を追及するのは理不尽かもしれない。 そう思っていたら、三番打者は白球をスタンドへ運んでしまった。前年度優勝者はやはり伊達ではない。とはいえ、一回表の攻撃で二塁打を打った涼宮さんのことだから、あるいは以後の打席で連続ホームランを打たないという保障はない。 念には念を入れておこう。 そんなわけで、一回裏、パイレーツの攻撃、五番打者の貧打をわざとエラーしたのはあくまでもキョンのためだということを明記しておきたい。どうやら小説の方では単純に僕のエラーということしか記述されていないようなのではっきりさせておくが、あれは故意のエラーだ。おっと、軽蔑は止してくれ。なんせ小学生の妹を連れてきてまで敗北しようという友人がいるのだ。これは何らかの事情があるのだろうと、彼の意図を汲んでやるのに吝かではないだろう。 読者諸兄は誤解しているかもしれないが、僕は運動神経も谷口よりはいいのだ。 あのエラーはわざとなのだ。 谷川流にとって僕がさほど重要な登場人物でないことくらい認識しているが、僕の沽券に関わるような描写は避けてほしいものだ。そもそも、谷口と比較しても僕の扱いは酷くないか? ⑤野球2 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 かいつまんで前回の日記の内容を紹介すると、他ならぬ友人の頼みで休日の野球大会に引っ張り出された僕だったが、友人の連れてきたメンバーを見て、友人の早期敗退の意図を瞬間的に察知。友人とは全く正反対の想いを抱く涼宮さんの大活躍を見て危機感を募らせた僕は友人のために敢えてエラーを犯すのだった、とまあこんなところだろうか。 そんな僕の努力もむなしく、自分でもインチキとしか思えない我がチームの11打席連続本塁打によって、僅か一回にして両チームの状況は逆転してしまった。口には出さなかったが、あれはどう考えてもバットがおかしい。みんな気づいてないのか。谷口は間違いなく気づいていない。 自分の実力でホームランを打ったと思っているのだろう。お気楽な奴だ。いっそメジャーにでも挑戦してくれ。その異変も12打席目以降は起こらなかったけれど。 あの怒涛の攻撃は長門さんから始まりキョンで終わった。要するに二人だけが本塁打を二度、打っているわけである。しかしキョンは負けたいはずではなかったのか。これではエラーをした僕が道化ではないか。あるいは長門さんになんらかの原因があるとも考えられる。即ち、実はソフトボール部の特待生として入学した長門さんが危機的状況に業を煮やし、その秘めたる力を発揮し、またそのスピリチュラルなエネルギーがバットに宿り全員に本塁打を打たせたものの、点を重ねるに連れそのエネルギーの顕現も衰え、キョンの打順が終わった時点で完全に消失したとするものだ。 とはいえ長門さんは文芸部員のはずであるし、僕はそういったスピリチュラルな出来事は信用していない。真相は闇の中か… そして時間の関係で迎えた最終回、ピッチャーは涼宮さんに代わってキョン。どうやら本腰を入れて負ける心積もりのようだな。影ながら一塁から応援しよう。 という僕の心境とは裏腹に、キョンは有り得ない魔球を8球連続で投げ、あっという間に二つの三振と二つのストライクを奪って見せた。もう何がなんだか。試合中にどうしても勝たなければならない事情が湧いて出た、ということなのだろうか。まあ悩んでも仕方が無い。どうせもう僕が何もしなくてもあの魔球で勝つだろう。捕手を務めているのが長門さんであるから、当然僕の疑念は彼女に向けられるべきであるが、もうこの際どうでもいい。キョンの魔球が物理法則を無視したところで知ったことではないよね。 ファーストで一人モチベーションを下げていたら、キャッチャーの長門さんがボールをファンブル、振り逃げでバッターが走り出した。振り逃げのルールをいまいち把握していないらしかった長門さんはしばらくぼーっとして、キョンに指示されて急いでセカンドに送球。 おいおい、長門さんがピッチャーやったほうがよかったんじゃないか。 それにしても、結局セカンドでアウトになったので、またしても僕の出番は無しだ。この試合、脇役の鶴屋さんは神がかったフィールディングを見せ、谷口ですらショート強襲の当たりを捌くシーンが映像化されているというのにこの僕の扱いはなんなんだ。妹?小学生を引き合いに出すのはちょっと、ね。 これは谷川流のせいなのか山本寛のせいなのか、はたまた松元恵がいけないのか。 真相はやはり闇の中だ。 ⑥映画撮影 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 キョンの未来の花嫁にして、彼を傍若無人という鎖で縛りつけ引っ張り回すツンデレ美少女涼宮ハルヒさんは、文化祭を前にまたもや意味のわからない企画を発案したらしい。 もっとも、意味のわからない企画そのものは文化祭前に限らず四六時中発案されていることであり、要するに僕と谷口という部外者がそれに巻き込まれるというケースがあの野球大会以降は文化祭前までなかった、ということなのだ。 キョンの口から語られる様々な真実を聞く限り、その企画参加を強制される確率の低さを喜ぶべきなのか、どうか。一回でも参加している時点で不幸なのかもしれないが。 今度は僕らに映画出演のオファーである。映画、ねぇ。はっきり言って、素人が思い付きで製作を始めた映像作品が映画と呼べる程度の代物になる見込みはほとんどないだろう。 なんでもこなす涼宮さんのことだからあるいは、なんて思っている諸氏には謹んで再考を促しておこう。なんでもこなす、というのは彼女に関する限りは勢いでなんでもこなす、ということであり、そのベクトルが映像製作に向かったところで、ソードマスターヤマトも真っ青の無理矢理な結末を迎えるだろうことは想像に難くない。 そんなことは僕にはまあ関係ないことで、とりあえず面白そうならばそれでいいのだ。 SOS団には朝比奈さんという美しい先輩が居られる。しかもどういうわけか毎回コスプレでご登場だ。僕が好きなタイプの女性は阪中さんである、と神に誓えるが、こと鑑賞に限り朝比奈さんや長門さんのような女性は魅力的だ。念を押しておくが、実際に恋愛対象となり得るかは全くの別問題だ。ドジっ娘はデメリットの方が多く、無口っ娘は一緒にいて気疲れする。やはり僕は阪中さんにこの想いを捧げるしかあるまい。 本題に入るのが遅れてしまったようだが、どうせ本題について書くことはそう多くない。 僕と谷口の役は、長門さん扮する悪の宇宙人に操られて朝比奈さん扮する未来メイドを池に突き落とす役だ。この部分だけ聞いても何の話かまったくわからないだろうが、一通り台本を見たところで決して話を理解することはできないのだから安心して欲しい。 むしろ、妙な状況設定を与えられずに『朝比奈さんを池に落とす役』とだけ説明された方がどれだけ分かりやすいかしれない。もっとも、僕の都合は涼宮さんの前では風前の灯に過ぎず、結局のところアホでないという一点で差異化されてはいるものの、谷口と対して変わらない扱いなのである。 そうそう、肝心の撮影に関してだが、特に撮り直しもなく、一発撮りで終わった。 谷口が朝比奈さんと一緒に池に落ちた時には本当に大爆笑しそうになったが、池から上がった谷口がやたら不機嫌そうにむくれていたので笑いをかみ殺した。 谷口が落ちた事を全く気にも留めずに涼宮さんが次の撮影へ移ってしまったことが不満らしいが、中学校三年間同じクラスにいたら彼女のそういう性格もわかりそうなものなんだけれど。それを承知で朝比奈さんや長門さん目当てで撮影に馳せ参じたのだからこれはもう完全に谷口の自己責任だよね。やれやれだね。 谷口の不平は思ったより長く続いて、休み明けに学校でキョンと会った時も嫌味ばかり言っていた。キョンもキョンで、涼宮さんの映画を馬鹿にされると柄にもなく怒ったりして。 なんだかんだでキョンの涼宮さんへの愛情の深さが伺い知れて、微笑ましく思うと同時にじんましんが出たのはもちろん内緒だ。 ⑦文化祭1 僕の名は国木田。もうこの前口上もそろそろ飽きてきた。どうせ僕のフルネームが禁則でなくなる日など永久にこないのだ。谷川流にとっての僕はその程度の存在だ。体のいい主人公の友人、エロゲにおける主人公以外の男キャラクター並の存在意義しかないのだ。 高校一年生がエロゲを比喩に持ち出すのはいかがなものか、と思うが、いざとなったら全責任を谷口と作者に押し付ける覚悟はできている。 前回の日記で書いた通り、僕はキョンの部活(団といったほうがいいようだが)の自主制作映像作品に出演を強要され、半分は自分の意思で好演を披露したわけだが、撮影以後は特に何事もなく文化祭当日が来てしまった。うちのクラスはなにやらよくわからない展示をやるようなのだけれど、僕はそこまで深く携わっていないので知る由もない。おっと、別にクラスでハブられているわけじゃないんだよ。 クラス発表は展示、部活は無所属、となれば文化祭当日は一般客とさして変わらないほど暇ができる。阪中さんをエスコートしてチョコバナナの一本や二本でも奢ろうかとも考えた。 吝かではない。吝かではないが、今日はキョンの先輩である朝比奈さんとその友人の鶴屋さんのクラスの焼きそば喫茶へ足を運ぶ予定であり、ちょっとそこに阪中さんを連れていくのは勇気が要りそうだ。暫く逡巡して、結局谷口と行動することにした。 ところでチョコバナナに特に深い意味はない。僕は全身精巣の谷口と違ってそこまで男性ホルモンをたぎらせてはいない。 谷口と共にいくつかのクラスの出し物を覗き、廊下を歩いていたらキョンに遭遇した。 徹夜で映画の編集をしていたので、今まで部室で寝ていたのだという。少しは文化祭を楽しめといいたい。とにもかくにも、キョンが来た以上、可及的速やかに朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶に向かいたいところだ。キョンと一緒に行けばあるいは割引ないしサービスが期待できるかもしれない。どちらかといえば後者を期待するが。 焼きそば喫茶「どんぐり」の前は異様な雰囲気の男子生徒が行列を作っていた。行列の先頭辺りに朝比奈さんの友人である鶴屋さんがいる。なんと、素晴らしい衣装じゃあないか。 朝比奈さんも美しいが、鶴屋さんも相当な美人だ。うーん、こういう台詞は僕じゃなく谷口の範疇なんだが敢えて言おう、当方は紅く萌えている。当方腐敗、マスターマニアだな。 こんなことを阪中さんの前で言ったら僕は自分で自分を永久冷凍刑に処す所存だ。 「どうだいっ。この衣装、めがっさ似合ってると思わないかなっ?どうにょろ?」 はい、めがっさ似合ってます。それでその変な言葉遣いが直れば女性として非の打ち所がないかと思うのですが、どうにょろ? 当初朝比奈さんから貰っていた割引券は30%オフだったが、鶴屋さんの計らいによって一人300円の焼きそばを三人500円で食べられることになった。これはおよそ44.5%の割引だが、三人で500円という半端な値段にしたら揉め事になるというのが鶴屋さんには予想できなかったのだろうか。いっそ600円の方が角が立たなくてよかったのだが。 それにしても台詞のほとんどの最後にエクスクラメーションマークをつけてくるあのテンションには驚愕を禁じえない。いっそ静かにしていれば更に支持層が拡がると思うのだが。 雉も鳴かずば撃たれまい、鶴も語らずば引かれまい。 「元気な人だなあ。毎日あのテンションでよく疲れないよね」 つい本音が出てしまった。険がこもってなければいいのだが。 ⑧文化祭2 僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。 前回はどこまで書いたかな。そうだ、文化祭で朝比奈さんの焼きそば喫茶に並んだあたりか。 結局30分ほど待たされて、ようやく中へ案内されたが、いやはや、教室の中は予想以上の壮観だった。鶴屋さんが着ていたウエイトレスの衣装を全員が身に纏っており、異空間のような心地すらしたものだ。これはもう谷口ならずとも堪りません。谷口と違って全身から男性ホルモンが分泌されているわけではないが、僕とて宦官ではないのだからね。 水を持ってきたウエイトレスさんは他ならぬ朝比奈さんだった。文句なく美しい。 「ようこそ、キョン君と、その友達の…」 僕は迷わず自分の名を告げていたが、さらに大声の谷口の自己紹介によりかき消された感が否めない。こいつは後でもう一度池にでも沈めたほうがいいかもしれない。その拍子に池の鯉に谷口の男性ホルモンが摂取されたらちょっとした鯉の修羅場が見られるかもしれないから興味はあるが、本当にやったら環境ホルモンどころの騒ぎじゃないな。よしとこう。 焼きそばそのものの味は、まあ普通だった。一般的な女子高生の文化祭の出し物の焼きそばにそこまで期待してどうするというのだ。幸い、この物語にはすぐに女将を呼ぶ芸術家やいきなり薀蓄を垂れ出すぐうたらサラリーマンは出てこないので、これで十分なのだ。 僕たちは喫茶を出て一息ついた。 キョンがこの後どうするかと聞いてきたので、僕はキョンたちの映画を見てみたいな、と告げた。 谷口は乗り気ではない。池に落ちたシーンを見るのが恥ずかしいのかな?常識的に考えれば あれは確実にNGシーンだからカットされてると思うけど。自意識過剰もいいところだ。 谷口はおもむろにナンパをしようと言い出した。谷口の頭の中の構造を知りたいものだ。 今度流行の脳内チェッカーでもやらせてみようか。 ところで、谷口がナンパの話を持ちかけた時に僕は谷口の後ろを愛すべき阪中さんが歩いていくのを見て、ついそちらに気をとられていた。僕の目の前にいる、運動神経と大脳新皮質の発達分の栄養を全て対異性欲求に回された哀れな友人は、僕のノーリアクションを肯定と取った模様だった。キョンはあからさまに倦怠感を顕にし、やるなら二人でやってくれ、と谷口の相手を僕に押し付けた。おやおや。僕も谷口の相手はごめんだよ。 「ていうか谷口、僕もナンパはよしとくよ。すまないけど一人で成功させて、成功したら後でその子の友達でも僕に紹介してよ。それが友情ってもんじゃないかな?」 そういって僕は阪中さんの歩いていった方へ足を向けた。 おっと、別にストーカーじゃないよ。気になる異性のほうへ自然と歩みを進めてしまうのは雄の本能さ。そればかりは谷口でなくても発動する。 当の谷口は、といえばまた間抜けな顔をして僕とキョンを見送っていた。 その後僕がどうしたかって、それは本編では明かされていない。あるいは阪中さんとの甘い文化祭デートを楽しんだかもしれないし、見失ってやむなく視聴覚室の上映会で時間を潰したかもしれない。涼宮さんのライブを聞いて僕なりに少しテンションを上げていたかもしれないし、あるいは谷口に合流してナンパが玉砕するのを横から笑って見ていたかもしれない。とりあえずこの物語で次に僕が登場するのは、文化祭の二日後。僕たちの教室にENOZが来訪した事を涼宮さんに報告する役目だけだ。つまり、その間何があったとしても読者諸兄には分かるはずもなく、また特に興味がない人も多いことだろう。 ただひとつ、文化祭当日のことでひどく後悔していることがあるとすれば、僕と谷口は声を揃えて同じ回答を口にするだろう。 やはりナンパなんかよしておけばよかった、と。 ⑨僕は消失も憤慨もしていない~エピローグみたいなもの~ 僕の名は国木田。いつになったらフルネームのプロテクトが解除されるんだろう。 日記がだいぶご無沙汰になっていた理由は原作者に聞いてくれ。残念ながらこのSS作者には原作に無いエピソードをぶち込んで僕を活躍させようとか、あるいは僕の甘酸っぱい恋物語を追加しようとか、そんな力量も度胸もない。せいぜい僕が阪中さんに秘める想いをところどころにネタよろしく配置する程度しかできない。ネタか。はっ、なんとも因果なものだね。 そんなわけで文化祭の後、僕が北高の第一学年を修了するまでの間は、まあ僕にとってはそれなりに平和だったと評せざるを得ない。僕と阪中さんの関係はクラスメートという段階から進歩するわけでもなく、谷口は相変わらずアホでKYで、キョンと涼宮さんは長年連れ添った夫婦のようにテンポのよい掛け合いを繰り返していた。クリスマス頃にキョンが階段から落ちて暫く学校を休んだ時の涼宮さんの慌てぶりを見れば、いくら涼宮さんが罵声だの弁解だのを並べたところで、「ツンデレ乙」としかいえない。実際に口に出したらツンの部分で突き殺され兼ねないので、僕はあの意地っ張りの一角獣にはなるべく干渉しないことにしている。 そういえば冬休み明け直後に、SOS団の前身たる文芸部が存続の危機に陥っているとかで、無理矢理文芸誌の原稿を書かされたこともあったっけ。あの時は、涼宮さんに寄稿を強制された谷口を見て嘲笑していたらついでに捕まってしまい、なかなかハードな仕事を押し付けられたものだ。学習お役立ちコラム十二篇って、普通一つの雑誌に一人が寄稿する量では断じてない。週刊誌で一号に一篇ずつ掲載すれば二ヵ月半も持つ。十二週打ち切りなら最短記録を免れるレベルだよ、ホントに。有用性を見ても、谷口のよくわからないエッセイより遥かに優れたものだと断言できる。まあ谷口は噛ませ犬という言葉を具現化したようなキャラクターだから仕方あるまい。天の声には逆らえない。僕も、谷口も。 そして僕は今、揺れる白球と躍動する少女達を見てキョンと共に感嘆の声をあげている。 隣では谷口が何やら息を荒げているが、理由は言わずと知れたことだろう。彼の全身のホルモン臓器が一気に動きを活発化させたに違いない。僕は、といえば全く邪念とは無縁に阪中さんを眺めていた。阪中さんのトスを涼宮さんが華麗にアタックする様は見ていて爽快だ。 阪中さんの 禁則事項 をトスできたらもっと爽快だろうか。おっと、こんな妄想は谷口の専売特許だった。一瞬の邪念は僕が生物学的に雄である証、読者諸氏の軽蔑はご勘弁願いたい。 早いものでもう入学して一年が経過する。来年度からは文系理系に分かれ、今まで同じ道を歩んだ友人たちとも袂を分かつ運命が待ち構えているかもしれない。僕は理系に進む。 こればかりはキョンや谷口に合わせて、というわけにもいかないだろう。ぬるま湯に浸かった学園生活にもそろそろ見切りをつけなくてはね。 「えーっ、阪中さん文系に進むのぉ?」 「うん、あたし数学苦手なのね。理系はちょっと…」 「あたしも文系だしさ、また来年も同じクラスかも!」 「ほんとー?それは素直に嬉しいのね」 …そういえば僕は文系科目が苦手だったな。旧帝大への進学を目指す僕にとって文系科目は足枷になりかねない。来年一年は敢えて文系を選択し、苦手科目の克服に充てたほうが賢明かもしれない。いや、そうに違いない。あくまでこれは僕が個人で考え、決めた結論だ。 何者にも影響などされていない。国木田という男はそんな芯のしっかりした男なのだ。 脇役サミットへ続く
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季節は夏から秋へ、とは言ってもまだまだ暑い日が続きます。 しかも急に冷え込んだりしますからね、体調にはどうかお気をつけてくださいね。 さて、それは近隣住民への避難命令が下ってから二日目の朝の事でございました。 「……」 「……」 「……」 「……」 「長門さん」 「……」 「な、長門さん?」 「……」 「……」 「……」 「あの……?」 「カレーにするべきか……、おでんにするべきか……」 その真剣な表情に私はどうすればいいのか迷った挙句、 「何も選択しないという事は一見するとそれは平和的解決の方法かもしれませんが、 何も選択しないことで傷ついている人が居るとしたらどうでしょうか? 何も選択しないという事は、何も選択しないという事を選択したという事になります。 つまりは、それは言い訳にしかすぎません。どちらが良いか。今、長門さんが決めるべきです」 などと、よくわからない事を口走ってしまいました。 しかし、長門さんはそれで全てを理解したかのように顔を上げ、 「……、おでん」 「かしこまりました」 晩御飯のメニューが決まったところで仕込みに入ります。 いやいや、それにしてもおでんでございますか。随分久しぶりでございますな。 こんにちは。私、喫茶店ドリームのマスターでございます。 ◇ ◇ マスターと長門さん ◇ ◇ 避難命令と言っても、一時的なもので一両日中には解除されるそうです。 なんでもこの近くで不発弾が発見されたらしく、今その解体作業を夜通し行っている最中だそうです。 朝刊の地方欄の片隅に記事が載った程度の小さい出来事ですが、近隣に住む住民にとっては大きな出来事です。 一時期辺りは騒然とした感がありましたが、しかし今はもうすっかり落ち着いております。 あとは作業が無事終わるように祈るばかりですな。 さて、どうして長門さんに私が晩御飯のメニューを聞いたのか。 もう大体お察しいただけたのではないでしょうか? 実は不発弾が発見されたのが長門さんの住むマンションのすぐ隣だったのです。 この辺り一体は再開発が続いておりますが。 その関係もあり、マンションの工事中に不発弾を掘り当てたという、まことに運が良いのか悪いのかわからない話でございますな。 昨日長門さんにその事を話しましたところ、いつもの抑揚の無い声で、 「問題ない、不発弾は爆発する可能性は──」 と仰っておりましたが嫁が、 「だめだめ、ちゃーんと解体されるまでウチに泊まってもらうからね。有希ちゃんは大事なウエイトレスさんなんだから」 と、半ば無理矢理この店舗兼自宅に泊まっていただいているという次第でございます。 そのいえばこの家に誰かが泊まられたのは、あの朝比奈さんの一件以来でございますな。 閑古鳥が鳴く。 「閑古鳥が鳴くとは店や劇場、映画館、などに人がおらず、 寂れた様を例える言葉で「この店は今日も閑古鳥が鳴いてる」といった使い方をする。 古語に呼子鳥・喚子鳥(よぶこどり)という季語がある。 これは人を呼ぶような泣き声のする鳥という意味で主にカッコウなどを指す。 カッコウの鳴き声が当時の人に物寂しいと感じさせたことから、 喚子鳥が転じ、閑古鳥という言葉が生まれた。 つまり、閑古鳥とはカッコウのことで、 閑古鳥が鳴くは閑古鳥が鳴いているように寂しい状態を意味する」 「か、解説ありがとうございます」 うっかり磨いていたグラスを落としそうになったのは内緒でございます。 「開店休業とも言う、つまりこの状態は──」 カランコロン。 「──、いらっしゃい」 ととと、と。 メニューを両手に抱えて小走りに駆ける長門さん。 黒のワンピースがフワリと舞います。それがなんだかとても微笑ましい光景に映るのは、きっと私だけではないはずです。 休日のこの時間に訪れる常連さんとはすっかり打ち解けた様子で、最近は長門さん特製のコーヒーという裏メニューが密かな人気でございます。 本人はまだ実験段階という事で色々と試行錯誤されているという事なのですが、その刺激的な味を求める常連さんが後を絶たないとか。 結局、今日訪れたお客様は午前と午後に三人ずつ。 閑古鳥も鳴いて、まさに開店休業と言える状態でございました。 避難命令が出ていては仕方ないですね。この辺りはギリギリ範囲外なのですが、それでも客足は遠のきますか……。 まあ、非難命令が解除されれば客足も徐々に戻ってくることでしょう。 帳簿の記入が終わって、真新しいページに嫁の文字を見つけました。 ついこの間コロンビアへ買い付けに行っていた間、店を開けていたらしく。涼宮さんにも少しだけ店を手伝っていただいたそうです。 お礼を込めて昨日涼宮さんにはコーヒーを振舞いました。もちろん、仕入れてきた新しい豆でございます。 相変わらず豪快な飲みっぷりで、その豪快さにこちらとしても嬉しさを覚えました。 あそこまで豪快に飲まれると気持ちいいものでございます。 さて。 長門さんが私の店で働き始めて、もうかれこれ数ヶ月が経ちました。 最初はハムサンドとカツサンドの違いもわからないくらいでしたのに、最近ではオリジナルのコーヒーの開発に余念がないようで、あれこれと私にアドバイスを求めにきてくださいます。 長門さんなりに計算して温度調節をしたり、豆の挽き方を工夫したりなさっているようですが、いまのところなかなか上手くいかない様子でございました。 一度何やら難しい計算式が書かれたメモ書きを見せていただきました、長門さんなりの努力の跡がうかがえます。 きっと長門さんならそう遠くない未来に理想のコーヒーを淹れる事ができるのではないでしょうか。 「……」 いつも閉店後は私はコーヒーを振舞うのですが、 今日は長門さんがコーヒーを淹れてくださるという事で、私はカウンターテーブルに腰掛けてその匂いについつい転寝をしてしまいそうになります。 「……」 「長門さんがコーヒーを淹れる理由、お聞かせねがえますか?」 「わたし?」 「さようでございます」 「……、……。」 たっぷり時間を空けた後に、 「飲んで欲しい人が、居る」 「そういえば長門さんにコーヒーの淹れ方を教えて欲しいと言われた時、なんと答えましたかな?」 沸騰した水が注がれて、コーヒーに命が宿ります。 「コーヒーの声を聞く」 「そうでしたな、どうですか? 声は聞こえますか?」 「……、わからない。他の有機生命体とは違って、コーヒーそのものは声を発するものではないから」 「長門さんのコーヒー、最初と比べて格段に美味しいですよ」 「ありがとう」 「後は声を聞けたら、それに自分の想いやアイデアを注ぐだけです。コーヒーに注ぐのは何もお湯だけではないのですよ」 「コーヒーに想いを注ぐ……?」 長門さんはわからないという目線を私に寄越します。 その二つの大きな目から今にも「?」マークが飛び出してきそうで、少しだけ私は笑ってしまいました。 「いや、決していじわるしているつもりではなくてですね」 長門さんのコーヒーを一口。 「例えば、何でもいいのございます。飲んで欲しい人はどんな人で、その人にコーヒーを飲む事でどうなって欲しいのかを考えながら作るのです」 「……?」 もう一口。 「確かに、計算しつくされた温度で計算されつくした挽き方の豆、 計算つくされた淹れ方をしたコーヒーを旨いと想う方もいるでしょう。 そうして美味しいコーヒーができた、ではそれにプラスして、 自分の心を注いでみてはどうでしょうか? きっとそれは全く違ったものになるはずでございます ある意味でコーヒーは自分を写す鏡、なのかもしれませんな」 実はこれ、師匠の受け売りなのですがね。 最初は私にも全く理解できませんでした、何が心を注ぐだふざけるなってね。 でもね、そんな事を思っている間は決して旨いコーヒーなんて淹れる事はできないものでございます。 いつも完璧なわけではありませんが、いつも完璧を目指す事はそう難しい事ではありません。 ちょっとした心遣い、ちょっとした思いやり、ちょっとした気配りでいくらでも美味しいコーヒーを淹れる事ができる、こういう事でございます。 はは、少し説教くさくなってしまいましたなあ。失礼致しました。 「いい。勉強になった」 窓から月明かりが入り、コーヒーの上で月が踊っていました。 静かな夜。 そう、それはまるで。 ◇◇ 「あなたの淹れるコーヒーは不思議」 「私のコーヒーが?」 「暖かい。温度という意味ではなく、体の奥底から暖かくなれる」 「それはきっと、私がそう願っているからでございます」 「なにを?」 「叶った時にお教えします」 「……ずるい」 「そ、そんな上目遣いで聞かれてもだめでございます」 「……いじわる」 長門さんが、 人に、 なれますように。 おわり。
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《国木田(くにきだ)/kunikida》 CV 松元恵 アイコン 国木田 性別 男 1年5組(第9巻『分裂』より2年5組)の男子生徒。下の名前は不明。身長166cm。 キョンとは、中学からの友人。どこか飄々とした性格をしており、成績は優秀。(佐々木曰く「国木田には相応の学校がある」) 谷口とともに、SOS団のイベントにたまに駆り出される。 SOS団の活動に悪態をつきがちな谷口とは違い、割と協力的である。 関連ページ 涼宮 ハルヒ 長門 有希 朝比奈 みくる キョン 古泉 一樹 朝倉 涼子 鶴屋さん 谷口 関連画像 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る キャラクター紹介 【涼宮ハルヒの憂鬱】へ戻る
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いつもより妙に密度の濃かった12月18日がおわり、次の1日が始まった。 12月19日。 今日から短縮授業に入る。 風邪の猛威はいまだに衰える事を知らないようで、5組の出席者数は昨日よりも更に減っていた。 谷口も本格的に風邪が悪化したのか、今日は姿が見えない。 キョンの様子は昨日と比べると、だいぶ落ち着いてきている様には見える。 けど、相変わらず朝倉さんにはつっけんどんな口調で話してるみたいだった。 国木田の憂鬱:第3話 消失編2 放課後、キョンはぶらりと教室を出て行った。 帰宅するのかなと思ったけど、向かう先は下駄箱ではないらしい。 昨日、朝倉さんとした約束もあるし、僕はキョンの後を付けてみる事にした。 キョンは自分の持っている白紙を見て考え事をしながら歩いているようで、僕の尾行には気がついていないみたいだった。 途中、見た事の無い上級生の女子2人にビクッとして驚かれたりするような出来事があったけど、キョンは一礼してそのまま歩き続けていく。 あの2人は誰なんだろう。上履きの色からして2年生?まあ、見た事の無い人だ。 キョンは妙に場慣れした足取りで、部室棟へと入っていく。 入学以来帰宅部を決め込んでいると思っていたんだけどな。いつのまにか何処かのクラブに入ったんだろう。 やがてキョンはとある1室の前で足を止め、軽くドアをノックをしてから中に入っていった。 少し様子を見てからドアに近づいてみると「文芸部」と書いてあった。 僕はとりあえず中庭に移動し、廊下の窓から文芸部のドアの開閉が確認できる場所を確保すると、その場に座り込んだ。 キョンの事が心配だから、という理由はあるんだけど、やっぱり友人をこそこそとつけ回すのは、気持ちのいいものじゃないね。 探偵?…というよりは、ストーカーみたいだよ。 キョンは中々出てこないし、持久戦になりそうだった。 僕はカバンから参考書を引っ張り出し、適当に読みながら時間を潰した。 動きがあったのは、西日が差し始め、校舎がオレンジ色に染まり始めた頃だった。 まず部屋から出てきたのはメガネを掛けたショートヘアの女の子、もちろん見た事は無い。文芸部の人かな。 それに続いて後から出てきたのがキョン。 おとなしそうなイメージの女の子に続いて、キョンはその後ろを黙々と歩いている。会話は無いみたい。 2人が向かった先は、かなり高級そうな分譲マンションだった。 キョンの家ではない…ということは、あの文芸部員の家なんだろうか? 2人はエントランスに入り、そのままマンションの中へと入っていった。 女の子の部屋に招待されるほどの仲だったのか…いつのまに、そんな相手を作っていたんだろう。全然気がつかなかった。 というか、この頃になると、僕は自分に対する嫌悪感の方がだいぶ酷くなってきていた。 つけ回したりするのは、今日かぎりでもう止めておこう。僕は探偵とかにはなれそうに無いね。 回れ右して帰宅しようとしたその時だった、 「あら?国木田君?」 軽やかなソプラノの声に振り向いてみると、そこにいたのは朝倉さんだった。 「どうしたの?こんなところで」 僕が、キョンの後を尾行して、ここまでたどり着いた事を説明すると、 「へえ…彼が、文芸部の娘とねえ」 朝倉さんは小首をかしげながら思案顔になり、ややあってから、何かいい事を思いついたような表情で 「そうだ。国木田君、私の家に寄っていく?」 え…。 このマンションに朝倉さんの部屋があることも驚きなら、そこに僕がこれから入って行こうとしている事も驚きだった。 エレベータで5回まで上がり、その5番目の部屋。 朝倉さんに続き、僕はおずおずと玄関へと入る。 「あ、遠慮しなくていいわよ。私、1人暮らしだから」 更に驚く事を言う朝倉さん。 女の子の家に上がるのは、もちろん初めての事だった。かなり緊張する。 通されたリビングは、実に簡素な部屋で、コタツテーブル以外には何も物が置いていない。 女の子らしい小物とかが置いてあるのを想像していたのだけど、きっと、そういうのは他の部屋にあるのだろうね。 朝倉さんがキッチンから急須と湯飲みを持ってきて、お茶を入れてくれたので、僕は朝倉さんと向かい合う場所に腰を下ろす事にした。 そこから先はいつもの喫茶店でのおしゃべりを、朝倉さんの部屋で行っているような感じの展開だった。 僕は学校で噂になっていることや、今日のキョンの様子などを朝倉さんと話し合った。 まさに流れるように時間が進み、やがてキッチンの方からなにやら良い匂いが漂ってきた。 これは、おでん? 「いま、おでんに火を通していたのよ。もう何日も前から仕込んでいる、なかなかの自信作なの」 ちょっと見てくるね、と言って朝倉さんはキッチンへと向かった。 僕にとって朝倉さんとの会話は、時間の経過を忘れるほど楽しい事だった。 朝倉さんの方は、僕との会話をどう思ってるのだろう。ときおり、楽しそうに微笑する所をみると、僕と同じように楽しく思ってくれているのだろうか? もし、そうなら…こんなに嬉しい事は、僕は他に無いと思う。 それにしてもわからないのは、キョンの行動だ。 なぜ、こんなに優しい朝倉さんの事を、あれほど嫌っているのだろうか? ほとんど敵視しているぐらいの眼光で、今日も学校で睨みつけていたし。 キョンとは中学の頃からの友人だ。だけど、もし僕が朝倉さんと仲が良い事がわかったら、 僕も同じように、キョンから敵視されてしまうのだろうか? 「ねえ、国木田君。おでん食べていく?」 え? 「私、あの文芸部の長門さんとは、ちょっとした知り合いなの。ときどき料理を運んでいたりするから」 朝倉さんは悪いイタズラを思いついた子供のような表情で、 「だから、このおでんを持って、長門さんの部屋にお邪魔しちゃうのよ。そうすれば、彼の様子も見にいけるし」 どうしようか、と僕は考えた。 朝倉さんの料理を食べる事が出来る、またとないチャンスではあるし、キョンの様子も確かに気にはなる。 それに、一緒に行けば、朝倉さんは喜んでくれるだろう。 だけど、僕が朝倉さんと一緒に登場したら、キョンはなんて思うだろうか。 僕は朝倉さんともっと仲良くなりたかったが、同じようにキョンとは友達でいたかった。 どうすればいい?どうすれば、どちらも失わずにすむ? …結果的に見て、たぶん、僕は愚かな選択をした。 悩んだ末、僕は断腸の思いでその提案を断った。 「そう、残念ね」 朝倉さんは形の良い眉を寄せて、悲しい表情を見せた。 早くも後悔の念が押し寄せてきたが、ここはガマンのしどころだ。 朝倉さんは1人でもこの作戦を決行したい様だった。 僕は鍋を持った朝倉さんと一緒に部屋を出た。 長門さんの部屋は7階にあるそうなので、エレベータの所で別れる事になる。 その間際、 「国木田君」 朝倉さんがいつに無く暗い口調で話しかけてきた。 「彼の言った事、やっぱり気にしてるの?」 彼…というのは、あの藤原の事なんだろう。 ふと、藤原の言っていた、嫌な言葉が頭をよぎった。 情報ソース。役に立たなくなったら…。 嘘だ、そんなことなど、あるものか。 「あの事は気にしてなんかいないよ。ただ僕は、キョンとの事が…」 そこまで言ったところで、朝倉さんはうなずいて、僕の話の後を引き継いでくれた。 「わかるわ。国木田君はキョン君とは昔からの友達だものね。…だから嫌われたくないのは、よくわかるの」 朝倉さんは少し遠い目をしながら、 「私にも、そういう友人がいるの。女友達だけどね。彼女のためなら、多分何だってするし、それにできるなら嫌われたくはない」 ふうっと、軽く溜息をついて、 「ふふ、私って、キョン君に何もかも奪われてしまうのね。彼女も、あなたも、そして…」 朝倉さん? 「ううん、いいの、気にしないで。…明日また学校で会いましょう、国木田君」 ええ、また学校で。 僕はマンションのエントランスから外に出て、自宅へと帰路についた。 朝倉さんは大丈夫かな。またキョンから酷いことを言われていなければいいけど。 今日の僕の選択はあれで良かったんだろうか…。 あるいは、キョンに嫌われるのも覚悟で、朝倉さんと部屋に乗り込んで行った方が良かったのかも知れない。 もし、今度そういう機会があれば。間違いなくそうしよう。 しかし、もう2度とそういう機会は訪れなかった。 12月20日 相変わらず空席が目立つ教室の中、いつもと同じように学校が始まる。 1時限目は体育の授業で、サッカーの紅白戦が行われた。 谷口は1日休んでなんとか体調が回復したらしく、マスク着用で試合に参加している。 何の変哲も無い日々のはずだったのだが、事件は2時限目の後の休み時間に発生した。 僕と谷口とでキョンの所に行き、最近のキョンの不可思議な行動について、たわいもない会話をしていた時のこと、 「そういえば、朝倉さんの変わりに誰か他の人がいたとか話してたね。確か、ハルヒさんだっけ?」 「ハルヒ?そのハルヒってのは涼宮ハルヒのことか?」 谷口が涼宮ハルヒという言葉を発するや否や、キョンの顔色が変わった。 キョンは谷口の胸倉を掴んで引き寄せ、そのハルヒって娘の事について矢継ぎ早に訊きまくった。 谷口が、そのハルヒさんは中学時代の同級生の変な女で、今は光陽園学園にいるって事を説明すると、 キョンはものすごい勢いで教室の出口に向かっていった。 僕がトイレにでも行くのかと尋ねると、 「早退する」 カバンはどうするんだろう。 と、突然、出口付近で振り返って、 「それから、谷口。ありがとよ」 それだけ言って、そのまま出て行った。 どうしよう。追いかけて様子を探る? だけど、もうあんなストーカーじみたことは、あまりやりたくは無かった。 それに授業をサボる事について、僕には少し抵抗がある。 朝倉さんが戻ってきたら、報告しようと思っていたのだけど、驚く事に朝倉さんも授業を早退しているようだった。 それも、学校に無断でのことらしい。 朝倉さんがサボるなんて、初めてのことじゃないだろうか。 なんだか何が起きているのかよく解らないまま、授業が終わり、下校時間になった。 朝倉さんもキョンも、まだ教室には戻ってきていない。 ためしに朝倉さんの携帯に電話を掛けてみたのだが、何回コールしても朝倉さんは電話に出なかった。 朝倉さんの身に何かあったんだろうか。キョンの早退と何か関係があるのだろうか。心配でたまらないのだが、彼女の居場所すら解らない。 何もする事ができないまま、僕はとりあえず下校し、坂道を下りきって、少し歩いたその時、 「国木田君」 名前を呼ばれて振り返ると、初めて僕を学校の帰りに呼び止めた、あの場所に、朝倉さんが立っていた。 「国木田君。とても重要なお話があるの。ちょっと付き合って貰えないかな」 朝倉さんは真剣な表情で僕を見つめながらそう言った。 僕がうなづくと、朝倉さんはいつもの喫茶店へ行きましょうと言い、二人でそこへ向かう事にした。 もう何度も通った馴染み深い喫茶店。なんとなく決まっている指定席に、僕と朝倉さんは座った。 「急にいなくなってしまって御免なさい。どうしても早急に手を打たなといけないことがあったの」 いえ…。手を打たないといけない事って? 僕が逸る気持ちを抑えられず、そう聞き返すと、朝倉さんはグラスの水を一口飲んでから、口を開いた。 「上手く言語化できないかもしれないし、情報の伝達に齟齬が生じるかもしれない。でも、聞いて欲しいの」 え? 「長門さんが脱出用のプログラムを用意しているかもしれない事は、ある程度の予測はしていたの。 でも、そのキーが何なのか、私には理解する事ができなかった。 まさかあの事象がキーだったとは…。とにかく、それを止めるすべはもう無いの。 だから、この世界はあと少ししたら崩壊してしまう事になるわ」 長門さんというのは、あの文芸部の娘?キー?世界が崩壊?…いったい何の話? 「私はこの世界を壊したくは無いの。壊させないために、長門さんは私は再結合して、自分のバックアップにあてたのだから。 だから私は、重要な仕事をやらなくてはならないの」 重要な仕事?…なんだろう、その言葉に、酷い既視感があるのだけど。思い出せそうで、思い出せない。 「恐らく、妨害活動が行われるはず。私もできうる限りの手を打っているのだけど、成功の可能性は…残念だけど、かなり低いかも。 でも、やらないで後悔するよりも、やって後悔した方が良いって言うのが、私の持論だから」 不意に、朝倉さんは微笑を浮かべ、 「私はね、国木田君。有機生命体なんて、どれも一緒で、個体差なんて関係ないし、命の重さは単なる波形ぐらいにしか思っていなかったわ。 …あなたと出会って、話をするまではね」 有機生命体?それって、僕たち人間のこと? 「今なら、長門さんがなぜエラーを蓄積させたのか、私にはわかるの。 なぜなら、私が国木田君と何度も会って話をするたびに、同じようにエラーが蓄積され始めたから」 エラーの蓄積って…。 「だから、私は、この世界を守りたいの。長門さんが私に与えた役割のためだけではなく、私が国木田君と唯一同時に存在する事のできる、この世界を…ね」 ふと、朝倉さんは席から立ち上がり、ゆっくりと歩いて、僕の隣にやってくる。 「ごめんなさい。ほとんど意味がわかんならないよね。でも、私はどうしても最後にあなたに伝えたかったの。だから、これは私の単なるワガママ」 朝倉さん…。 「ありがとう、国木田君。あなたとの会話は…とても有意義だった。ううん、楽しかった。嬉しかった」 そう言って身体をかがめて、僕の顔に腕を廻し、…唇を重ね合わせた。 …! ほとんど内容が理解できない会話。突然の口付け。 なかば気が動転している僕の頬に、水滴がひとしずく。 朝倉さんが泣いている? 少ししてから、朝倉さんは僕から顔を上げた。 何も言葉を発する事ができないでいる僕の前で、朝倉さんは悲しげながらも優しい表情で、 「じゃあ、私はもう行きます。…国木田君はここで待っていてね。もし、仕事が成功したら、私はここに戻ってくるから。 失敗したら…ふふ、そのときは世界自体がもう無くなっているわね」 朝倉さんは駆け出すように喫茶店から飛び出し、そのまま視界から消えた。 重要な仕事…その言葉が頭から離れない。何か以前、その事があって、とても大切な何かを失ったような気がする。思い出せない。 僕はどうすればいい。何か、朝倉さんを手伝うような事はできないのか? だけど、今の僕に何ができる? 「ずいぶんとお悩みのようだな」 不意にかけられた男の声、見上げると、そこに立っていたのは、あの時喫茶店で出会った男、藤原だった。 「なんだ、その眼は。僕に八つ当たりか?…そうじゃけんにするなよ。今日はあんたをタイムトラベルに連れて行ってやろうと思ってるんだから」 タイムトラベル?時間でも越えていくつもりなのか? 「ああ、この前面白い事を言ってくれたから、そのお礼にな」 藤原は嫌味な笑みを浮かべて、 「行き先は、朝倉涼子の最期の場面。どうだ、興味があるだろ?」 つづく
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何とか平常心を保たないと…僕と鶴屋さんが付き合って…るんだよね? まぁその、鶴屋さんとちょくちょく会ってる事がバレるのはあまり好ましいとは言えない。 とりあえず早く切り上げよう…! あの、涼宮さん…僕は何で呼ばれたのかな… 「ふふん。あんた、ここ最近テンション低かったと思えばニヤニヤしたりでおかしかったでしょ」 うぐ、それあんまり鶴屋さんの前では言ってほしくないなぁ。 「それでおととい、あんたを尾行したところ鶴屋さんの通ってる大学に入っていったから…」 び、尾行ってそんなことしてたのっ!? 「話は最後まで聞きなさい!だから鶴屋さんにあんたの表情の謎に関する情報を集めてもらうことにしたの」 え…?それはちょっとまずいんじゃないだろうか。 鶴屋さんの方をちらっと見ると満面の笑顔だ。 「そしたらその日のうちにすっごい情報があるなんて返事が来たから、あんたを告発する為に来てもらったってわけ」 す、すっごい情報って…悪い予感がする…! 今ここには爽やかに笑ってる古泉くんと、 見たこともないほど分厚いハードカバーに目を落としている長門さん、 卒業したのにまだメイドさんをやってる朝比奈さんに、 苦虫をかみつぶしたような顔のキョンがいる。 で、でもこれだけの人数がいるし、鶴屋さんもまさかまずいことは言わないよね?言わないでほしい! 「あたしも早く聞きたいのよねー。じゃあそろそろ発表しちゃってよ!」 「いっくよーっ!」 鶴屋さんの今日の第一声はやたらに明るく弾んでいた。 「あたし、国木田くんと付き合ってるんだっ♪」 -------------- 時間が止まった気がした…。 ま、まさか本当にこんな所で交際宣言するなんて… 僕はキョンと涼宮さんが異口同音に「な」を連発しているのを聞きながら、 顔がかーっと熱くなっていくのを感じていた。 鶴屋さんは、涼宮さんや僕達のリアクションが面白かったみたいでケラケラ笑ってる。 ---------------- とまぁ、状況はこんな感じだ。 俺は国木田が恋患いをしているのは知っていたものの、その相手がまさか鶴屋さんで… 彼女の口から唐突に交際宣言を聞かされるとは全く思っていなかった。 今は俺とハルヒと…彼氏である(ムカつくぜ)国木田の顔を見ながら大笑いしていらっしゃるが… 予想外だったのは国木田の身辺調査を依頼したハルヒも同様らしく、顎をガクーンと落として立ち尽くしている。 いやいたのだが、しばらくして口をキュッと閉じ、ゴクリと唾を飲み込み空咳をしたと思うと、 とてつもなく失礼な事をとてつもない大声で抜かしやがった。 「つ、鶴屋さんあなたショタ萌えだったの!?」 -------------- 「あっはっはははっ!そんなんじゃないっさ♪ いいかいハルにゃん、国木田くんはかわいいだけじゃないんだよっ」 鶴屋さんの言葉に、僕だけじゃなく涼宮さんまで何故か赤くなっていく。 「おとといなんかさっ、」 「わーわーわーっ!だめだめ!」 自分でもビックリするくらい大きな声を出してしまった。恥の上塗りだ… 「あ、あんたのその反応…ホントにホントみたいね…」 もう観念するしかないと思って、とりあえず頷く。 そしたら涼宮さんがはぁああああっと長いため息をついた。どういう意味だろ? 「仕方ないから認めるけど…あたしが気になるのは…」 不機嫌な目付きでぐぐーっと首を回し、ある方向に固定する。 その視線の先ではメイド服の先輩がビクッと肩を震わせていた。 「みくるちゃんがぜんっぜん驚いてないことよっ!」 「ええっ…?えでででもっ」 確かに僕も不思議だ。イメージ的には一番あたふたしそうな感じだけどなぁ。 「僕もそれは疑問ですね。何か秘密があるように思いますが」 …何だかよく分からないけれど、 古泉君や長門さんは僕と鶴屋さんが付き合ってる(鶴屋さんがそう言ったしもういいよね)事はどうでもいい感じだ。 今の言葉も純粋に僕と同じ疑問を持ったってよりはただ…何て言うか涼宮さんに同調しただけのような。 SOS団って、どうも普通の友情みたいなものの繋がりじゃない気がする… 何だかはよくわからないけどさ。 「みくるちゃん、何か隠してるわね?」 「わわたしは何も知りませんっ」 「嘘つかない!さっさと吐けーっ!」 朝比奈さんをもみくちゃにしている涼宮さんを止め、追求に答えたのは鶴屋さんだった。 「ごめんねハルにゃん、みくるは結構前から知ってたんだよっ。色々相談したいこともあったからねっ」 --------------- 鶴屋さんは何て事ないように言ったけれど、僕はその言葉の意味がわかって茫然自失状態だ。 それって、そういう事だよね? 涼宮さんと朝比奈さん、それに鶴屋さんが楽しそうに会話している。 それに古泉君が合いの手を入れて、長門さんが本を読み… キョンが僕の方に視線を向けたのを感じたけれど、 僕は鶴屋さんの夕日の後光を受けている横顔-笑顔-から目が離せずにいた。 会話が途切れ、彼女が僕の方に笑顔を向ける。 いけない、泣いてしまいそうだ。 つと下を向くと鶴屋さんがてててっ、と駆け寄ってきて… 「今日は帰るっさ♪ごめんねみんなっ。また何かあったら呼んでよっ」 と言ったと思うと僕の手を引いて部室のドアをくぐり、 まるで遥か彼方の人にそうする時のようにぶんぶんと手を振った。 「国木田っ…えと、ちゃ、ちゃんとするのよ!いいわね!」 涼宮さんのよく分からない言葉は、きっと励ましだろう。 --------------- 「制服デートって、こういう事だったんですね」 「黙っててゴメンねっ。あぁしないとハルにゃん納得しないだろうし、 あたしとしてもみんなに早く知ってもらいたかったからさっ」 びっくりしたのは確かだけど、嬉しかった気持ちの方が大きいや。 そう思ったけど、口には出さない。 言葉を出さずに歩いていると怒ってると思われたのかな、鶴屋さんが慌てたように喋り出す。 「ああのさっ、あたしあの時すっごい嬉しくて、照れちゃって変な返事しか出来なかったけど」 「やっぱさっき部室でしたような間接的なのじゃダメだと思うんだっ。 あたしの方が…さ、先だったわけだし」 珍しく赤い顔で俯きながら話す鶴屋さん。 どっちが先かなんてどうでもいい事だけど、図書館で会ったあの日より前から 彼女が僕に好意を持ってくれていたって事は僕の思い上がりじゃなかったみたいだ。 おととい、二人で見たいと思っていた景色…夕日に染まる鶴屋さんの家の前まで沈黙が続き… 「だから言いたいんだけど、あた…」 言葉が途切れる。 彼女の顔が僕の肩に(背が低いから胸にと言えないのが悔しい)押し付けられたからだ。 続きを聞きたい気持ちもすごくあったけど、これはかなり大事な事だよ。 あなたが言ったんだ。大事な事は行動で示すって。 だから今度は飾った言葉じゃなくて、行動で言うよ。 こういう事、女の子に言わせるのはダメだと思うしね。 腕に力を込め、彼女の長い髪をとかしながら頭の中で言う。 「あなたが好きです」 …半拍して彼女がぎゅっと押し付けた顔が、確かに返事を言ったような気がした。 おしまい
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【選手名】 国木田 【所属チーム】 SOS団 【守備位置】 一塁手 【フォーム】 【利き腕】 右投げ右打ち 【弾道】 1 【ミート】 F 【パワー】 F 【走力】 F 【肩力】 F 【守備力】 F 【エラー回避】 F 【特殊能力・野手】 三振 【背番号】 【備考】 2スレ目 340査定 【選手名】 国木田 【所属チーム】 SOS団 【守備位置】 一塁手 【フォーム】 【利き腕】 右投げ右打ち 【弾道】 2 【ミート】 F4 【パワー】 F60 【走力】 E7 【肩力】 E6 【守備力】 F4 【エラー回避】 E6 【特殊能力・野手】 安定感4、意外性 【背番号】 【備考】 2スレ目 380査定
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国木田 二つ結び。優等生。