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高校を卒業後、SOS団は自然と解散という形になった。 古泉は、卒業と共に機関を脱退、大手不動産会社に勤務し、 みくるはキョンとハルヒを見守る為、「現代」の時間に留まることを決意。 そんな二人の再開はひょっとしたことからだった。 「え、えぇと・・・ここかな」 みくるは大きな建物の前でウロウロしていた。 「ふぅ・・・なんか緊張しちゃうな」 みくるはある決意をしていた。 鶴屋さんに譲ってもらった空き地に、みくるは小さなカフェを経営すると言う大きな博打に出ていたのだ。 そしてその土地についていろいろな手続きをしかければならないらしく、みくるは鶴屋さんに紹介された不動産会社に来ていた。 「こんなところでモタモタしてたら・・・頑張れみくるっ!」 みくるは深く深呼吸し、大量の書類を抱えてビルの中に入っていった。 「こ、ここでいいのかな?」 みくるは受付らしきフロアに来ていた。 「ん~と・・・あ、すみません」 みくるは通りがかった社員らしき女性に話しかける。 「何でしょうか?」 「え、えと・・・この書類の申請は・・・どこですればいいんでしょうか?」 みくるは恐る恐る社員に書類の束を見せる。 「あ、こちらでしたら六番受付の方で・・・」 「は、はい!ありがとうございます!」 みくるは深々とお礼をする。 「ふぅ・・・わ、わわっ!」 バサッ 突然、大量の紙が床一面に広がる。 みくるはあまりにも深く礼をしすぎたせいで、紙を手元から落としてしまったのだ。 「だ、大丈夫ですか?」 社員の女性が心配そうに聞く。 「あわわわッ!す、すみません」 みくるは慌てて辺り一面に広がった紙を広いあげ、顔を真っ赤にした。 「どうかしましたか?」 みくるが紙を一生懸命拾っていると、男の声が聞こえてきた。 「な、なんでもないです!」 「あ~あ、こんなにたくさん・・・ほら、手伝いますよ」 みくるは照れ隠しに拾う手を早めるが、さらに紙が散乱するだけだった。 「だ、大丈夫ですから!」 「フフッ、大丈夫そうには見えませんよ?朝比奈さん」 「・・・え?」 みくるは自分の名前を呼ばれたことに驚き、とっさに後ろを振り返る。 「こ、古泉君?」 「どうもお久しぶりで」 そこにいたのは爽やかな微笑を浮かばせていた・・・古泉一樹だった。 ーオフィスー 「どうして小泉君が?」 カチャカチャと忙しくタイピングしている古泉に、みくるは質問した。 「おや、鶴屋さんから聞いてなかったのですか?」 「鶴屋さん?」 「えぇ、先日連絡が来ましてね。朝比奈さんが土地の譲渡契約をする為に当社を訪れるから、詳しいことは僕に任したって」 「あ、あぁそうなんですか」 みくるはすこし恥ずかしい気がした。 古泉とはあまり仲良くはなかったが・・・目の前にいる彼は、高校の時とは違う魅力を持っていた。 「へぇ、カフェを経営なさるんですか?」 すると突然古泉が質問してきた。 「は、はい!」 「羨ましいな。自営業なんてそうそうできるものではないですしね」 「はぁ・・・」 「もし完成したら、お伺いしてよろしいですか?」 古泉はいつもの笑顔をみくるに向けて、スッと書類を渡す。 「は、はい!喜んで」 「ハハ、楽しみにしてます。ではこれが・・・」 その後、みくるは古泉に案内され、思ったより早く契約が終わった。 「じゃあ今日は・・・古泉くん、ありがとう」 「いえいえ、僕は社員ですから。それに朝比奈さんとは旧友ですしね。困ったことがあったらなんでもお話ください」 「ふふ、じゃあ、また今度」 みくるは古泉に小さく手を振ると、その場を離れていった。 「なんだか・・・古泉君、変わったなぁ」 みくるは小さな溜め息を漏らすと、少し早歩きで自宅へ向かった。 その後、みくるのカフェは鶴屋さんの力であっと言う間に完成した。 「鶴屋さん、その・・・いろいろありがとう」 「あははは!何を今さら!気にすることないさー」 「フフ、本当にありがとね」 「また困ったことでもあったらいつでも電話しな!」 鶴屋さんはそう言うと完成したカフェを見上げ、うんうんとうなずく。 「じゃ、私はこれで帰るわ!開店式の時はちゃんと呼びなさいよっ」 「開店式って・・・フフ。うん、またね」 「へへっ!ばっはは~い」 鶴屋さんは大きく手を振り、小走りで消えて行く。 「・・・あ、そうだ。古泉くんに連絡しないと」 みくるは鶴屋さんがいなくなったと同時に古泉の顔を思い出す。 プルルルプルルル ガチャッ 「はい古泉です」 「あっ!え、えと、朝比奈です」 「朝比奈さん?」 「その、お店が今日完成したんで・・・」 「そうなんですか。ずいぶん早かったですね」 「それで・・・今、お暇ですか?」 「え?」 「えっと・・・その、お茶でもどうかなって。お世話になったし」 「まぁ暇ですが」 「じゃあ、良かったら来てくれませんか?」 「ハハ、じゃあお伺いします」 「は、はい。待ってますから」 カランカラーン 「あっ」 店内にベルの音が鳴り響くと同時に、スーツ姿の古泉がカフェに入ってきた。 「どうも」 「い、いらっしゃいませ!」 みくるはぎこちなく古泉に接客をする。 「ハハ、そんなに気を使わなくていいんですよ」 古泉はそう呟き、近くの椅子へと座った。 「え、えと・・・」 「ん?どうかしましたか」 「そ、その・・・こっちで一緒に・・・」 みくるはカウンター席の方を、おずおずと指差した。 「ハハ、そうでした。朝比奈さんを一人にしては失礼ですよね」 古泉は素早く立ち上がり、微笑しながらカウンター席に向かう。 「そ、そんなことは・・・」 「気にしないで下さい。っと」 古泉はカウンター席に腰掛けると、となりの椅子を手で引く。 「どうぞ」 「あっ、えっと・・・失礼します」 みくるは少し戸惑いながら古泉の隣に座った。 「それにしても・・・ずいぶんご立派なお店ですね」 古泉はみくるが差し出してきたコーヒーを飲みながら呟いた。 「そ、そんなことないですよ?」 みくるはカップを見つめながら顔を赤らめる。 「・・・フフ、朝比奈さんはすごいですね」 すると突然、古泉はみくるの顔を見つめながら呟いた。 「ふぇっ!?」 突然のことでみくるは間抜けな声を出す。 「ハハ、そんなに驚かなくても」 「す、すいません・・・」 「しかし、この時間に留まるなんて・・・僕には想像できませんよ」 「わたしは・・・キョン君と涼宮さんを見守らなきゃダメなんです」 みくるは少し悲しそうに呟く。 「なぜそこまでして?」 「そ、それは・・・禁則事項です」 古泉はそれを聞くと少し微笑みながら 「まぁ僕も涼宮さんの動向は気になりますよ」 と呟き、視線を前に戻すとコーヒーを一口飲む。 「でも、僕はもうあの二人に干渉はしません」 「・・・?」 「あの二人も大人の付き合いをしていますしね。僕が干渉したところで何も良いことは起きません」 「・・・」 「長門さんもそれに気付いてます。あとは・・・あなたの理解次第です」 「・・・古泉君?」 「はい?」 「古泉君は・・・涼宮さんのこと・・・」 「・・・」 「そ、その・・・言いにくいんだけど・・・」 「好きでしたよ」 「!?」 「しかし、キョン君には敵いませんでしたよ。まぁ涼宮さんが僕のこと眼中にないってのは気付いてましたけどね・・・それでも少し残念でした」 「(私は・・・キョン君のこと・・・)」 「・・・どうかしましたか?」 「へ!?な、なんでもないです!」 「ハハ、本当に朝比奈さんは変わりませんね」 「そ、そんなことないですよっ!」 「まぁそういうことなので・・・お互いあの二人には干渉せず、暖かく見守りましょう」 「・・・(コクリ)」 一時間後・・・ 二人は高校のときの思い出などを談笑し、そこそこ盛り上がっていた。 「っと・・・もうこんな時間ですか」 「あっ、そうですね・・・」 「ではこれで失礼しますね。コーヒーご馳走様でした」 「・・・あ、あのっ!」 「はい?」 「その・・・また来てくれませんか?」 「?」 「え、えと・・・その・・・」 「フフ、わかりました。またご馳走させていただきますね」 「は、はいっ」 「それではまた」 「あ、ありがとうございました!」 古泉はいつもの笑顔でみくるを見直すと、小さく手を振り、店から出て行った。 「・・・はぁー」 古泉を見送り、みくるは誰もいない店内で深く溜め息をついた。 「古泉君、やっぱり涼宮さんのこと好きだったんだ・・・」 みくるはコップを洗いながら呟く。 「なんだか・・・少し寂しそうだったなぁ」 「・・・古泉君かぁ・・・」 「一樹くん、ご飯ですよ?」 みくるが楽しそうに古泉に話しかける。 「あぁ、もうそんな時間ですか」 「ふふ、ボーっとしちゃって。何読んでるの?」 「あれ?まだ見てないんですか?」 古泉はみくるに一枚のハガキを見せる。 「?」 「これ。キョン君と涼宮さん、結婚するらしいですよ」 「えっ!?ほ、本当にぃ!?」 「ハハ、まぁこの二人なら上手くやっていけそうじゃないですか」 古泉は少し笑い、ハガキを自分の手元へ戻す。 「うわぁ・・・いいなぁ・・・」 みくるは顔を真っ赤にして口を両手でふさぎ、そう呟いた。 「みくるさん?」 「わわっ!そ、そうご飯!ご飯食べよ?」 みくるは慌てながら食器を運ぶ。 「フフ、みくるさん、少しおかしいですよ?」 古泉はそう呟きながらみくるに近付く。 「お、おかしくなんかないです!」 「顔、真っ赤ですよ?」 古泉は笑いながら、みくるの頭の上に静かに手を置く。
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みくるルート分岐条件 エンディング分岐 涼宮ハルヒの約束I~III 涼宮ハルヒの約束IV攻略チャート例 涼宮ハルヒの約束V攻略チャート例 涼宮ハルヒの約束VI攻略チャート例 涼宮ハルヒの約束VII攻略チャート例 SOS会話の傾向 エンディング 「涼宮ハルヒの約束IV」以降は、ルートから外れるような分岐が終盤にしかないため、 他のキャラクターのルートから外れると、みくるルートに来てしまうことが多い。 グッドエンドの条件も満たしやすく、攻略が簡単なルートである。 みくるルート分岐条件 約束IVの「渚のビーチバレー」で敗北、又は「渚のビーチバレー」勝利&約束Vで古泉を「信用しない」。 約束Vで「THE DAY OF SAGITTARIUS」敗北、もしくはプレイしない。 約束VIで「ラブラブポーカー」敗北しない エンディング分岐 グッドエンド みくるの好感度高 朝比奈さん(大)エンド みくるの好感度低 涼宮ハルヒの約束I~III 共通ルート参照 涼宮ハルヒの約束IV 午前のみくるSOS会話でドキドキ終了させるとCG追加 攻略チャート例 時刻 マップ上のキャラクター イベント 午前 朝比奈 SOSエンブレムで終了 午後 古泉 ビーチボールでも負けない 夜 ハルヒ 会話のみ 涼宮ハルヒの約束V 古泉の好感度が低い場合、朝の選択肢が表示されないが攻略には影響なし。 攻略チャート例 時刻 マップ上のキャラクター イベント 朝 - 古泉との会話中に発生する選択肢で、「信用しない」を選択 午前 誰を選択してもよい 午後 朝比奈 SOSエンブレムで終了 夜 ハルヒ 鶴屋は念のため選択しない 涼宮ハルヒの約束VI 朝のみくるとの会話中に出てくる選択肢は、どちらを選んでもミニゲームラブラブポーカーが発生。 ポーカーで勝つとみくるルートとなり、涼宮ハルヒの約束Ⅶへ。→みくるの好感度が高い場合、みくるのグッドエンドへ。→みくるの好感度が低い場合、朝比奈さん(大)エンドへ。 ポーカーで負けると鶴屋さんルートへ。 攻略チャート例 時刻 マップ上のキャラクター イベント 昼 - みくるとの会話中に出てくる選択肢で「朝比奈さんの上司ですか」を選択 午後 朝比奈 ポーカーに必ず勝つこと。 涼宮ハルヒの約束VII 以下はミクルのグッドエンドにおける攻略チャート。 選択肢はどちらでもグッドエンドとなるが、「しない」を選択するとCG差分が見れる。 攻略チャート例 時刻 マップ上のキャラクター イベント 朝 - 選択肢はどちらを選んでもよい。 SOS会話の傾向 コスプレについてやSOS団について聞く。未来人関連は下がりやすいので注意。 「禁則事項です。」 文化祭のこと 妹も遊びに来るらしいです 喜x2 朝比奈さんは2回目なんですよね 楽 文化祭当日は暇なんですよ ハート喜 映画のこと 公開されたら一躍有名人になりますね 哀 商店街の売り上げは上がるんでしょうか 楽/哀 いつか本物の映画を観に行きたいですね ハート喜 ハルヒのこと ハルヒは強引すぎて困ったもんですね 楽 ハルヒにはたまにはNOと言った方が 哀 あの行動力だけは見習いたいもんですね ハート 学校のこと 学食のメニュー変わりばえしませんね 楽喜 朝比奈さんのクラスの雰囲気良さそうだ 喜x2 うちのクラス窓からの眺めが結構よくて 喜 SOS団のこと ムリヤリの入部、後悔してませんか 楽 非公認組織のままでいいんでしょうかね 楽 バニー姿のビラ配りは未だに語り草です 怒 未来のこと 未来ってどんな感じですか 怒 俺にはどんな未来が待っているんだろう 哀 未来から来るってどんな気分ですか 楽/哀 鶴屋さんのこと あのテンションどこから来るんでしょう 喜x2 家が大きくてうらやましいですよ 楽 鶴屋さんと、少し不思議なコンビですね 楽 コスプレのこと やっぱりメイド服が一番似合いますね ハート 意外とコスプレがクセになってるのでは 楽/哀 俺がコスプレするとしたら何がいいかな 哀 朝比奈さんのこと いつも美味しいお茶ありがとうございます ハート たまには見る私服カワイイ感じですよね 楽/哀 本当の年はいくつなんですか 哀 長門のこと 長門は占いやるらしいですよ 楽 長門の仲間は他にもいるんでしょうか 哀 悪い魔法使いのユキはハマリ役でしたね 哀 焼きそば喫茶のこと お客さん、たくさん来るといいですね 哀 俺、必ず行きますからね ハート喜 朝比奈さんの焼きそばが食べたいです ハート ビーチのこと 水着姿似合ってますよね 哀 海を眺めると心が和みますよね 喜/哀 海で何をして遊びたいですか ハート/哀 この空間のこと どうすれば抜け出せるんでしょうか 哀 この空間も案外悪くないですよね 楽 脱出するために俺に出来ることは何かな ハート 野球のこと 来年も野球大会に出るんでしょうか 哀 小さい頃、野球選手に憧れました 楽喜/哀 もう野球はコリゴリですね ハート/哀 イケナイこと イケナイことをしたいと思いませんか ハート 朝比奈さんにとってイケナイこととは 楽/哀 今はイケナイてよりプールナイて感じ 哀 恋愛のこと 朝比奈さんはどんな男性がタイプですか 哀 クラス内でカップルっていますか 楽 俺もそろそろ彼女をと思わなくもなく 哀 夏休みのこと 「殺人事件」にはびっくりしましたね 楽 カエルの気ぐるみバイト楽しそうでした 喜x2 カエルの着ぐるみ貸し出したんですか 哀 古泉のこと 古泉は演劇をやるらしいですよ 楽 古泉ってモテそうですよね 楽 きっと外ではうまくやってくれますよ ハート エンディング グッドエンドのエンディング曲は、「世界が夢見るユメノナカ(みくるバージョン)」 「涼宮ハルヒの約束VI」から分岐する朝比奈さん(大)エンド(みくるエンド扱い)のエンディング曲は、「最終未来を見せて!(みくるバージョン)」
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「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「…あぁ…その話か」 遅れて駆けつけたみくる達は目の前の光景に絶句した。 「あぁっ!やっぱり!」 「キョン君…!」 「…!!」 床に座り込んでいるキョン。確かにその手には蓋が開けられたプリンとスプーンがある。紛れも無く、キョンが犯人だ。 しかし、それどころではなかった。 血にまみれた部屋。キョンの妹が兄の膝に頭を預けている。穏やかな顔だったが、その瞼は…閉じられていて… 「それ!私のプリンでしょ!」 「そう…そうなんだよ。妹がさ…食いたいって言ったんだ…プリン。プリンを、さ… もう…何も分からなくなってたのに…食いたいって」 「ちょっと!何の話よ!」 「急いで…急いで取りに行ったんだけどな…い、急いだつもりだったんだけどな…精一杯…はは… 途中、思いっきりスッ転んでさ。ほら、皮むけてる。な、なのに…帰ってきたら…も、もう…」 声をうわずらせながらキョンは頬を引きつらせる。笑おうとしているのか。笑い事にしたいのだろうか。しかしそれは笑顔と呼べるようなものではない。笑えるような事態でもない。 古泉は携帯でどこかと連絡を取っている。みくるは珍しく叫ぶことも気絶することもなく目の前の光景を見つめていた。 状況は彼女の認識も彼女なりに想定していた最悪のケースの彼女なりの覚悟も…全てを遥かに超えていた。 「やっぱあたしのプリンじゃない!蓋に『団長』って書いてある!」 「なぁ…なんでこうなんだ?どうして…どうしてこいつなんだ?」 「…キョン君。こちらへ」 古泉が血だまりへと踏み込んでいく。制服が汚れるにもかかわらず、古泉はキョンの側に膝を付いた。 「どう思う、古泉くん!人のもの黙って食べるって!育ちが知れるわよね!」 「すぐに『組織』のものが来ます。後の対応は任せましょう。今は…」 「なぁ…食えよ。食えよ、ほら。俺がお前のためにわざわざ取りに行ってやったんだ。 食え。食えって。大好きなプリンだぞー。スーパーで3つ105円で売ってるような安モンじゃ…」 「何勝手なこと言ってんのよ!それはあたしの!あたしのなの!」 「妹さんをもう休ませてあげましょう」 「食えって…なぁ。口を開けろ…」 「食べちゃダメ!ちょ…よこし…よこしなさい!」 「揺すっちゃいけない…!体の中身が出…」 「うるせぇ!」 「もう死んでる!!!」 「!!!!!」 古泉はキョンの胸倉を掴み上げた。キョンを含めて、部屋にいる誰もが古泉が声を荒げるのを初めて聞いた。 そこには彼のむき出しの本性があった。憤り、苛立ち、哀しみ…あらゆる負の感情がその瞳から覗いていた。キョンの手からプリンが血だまりに転がり落ちる。 「あー!!!もったいない!!!」 「…もう死んでるんだ」 「………」 「あむ…うん。おいしい♪」 ヘリの音がした。古泉はゆっくりと手を離した。そしていい加減にキョンの襟元を直し、立ち上がった。 やや合ってどこのものともしれない装備を身に付けた完全武装の兵隊達が何人も室内に入ってきて、みくるを脇に押しやった。 古泉の指示のもと、用途不明の道具や機材が次々と運び込まれてくる。やがて担架にキョンの妹は載せられた。 「んー!やっぱりプリンは最高ね!」 「くれぐれも丁重に」 兵隊が小さく頷く。担架は手際よく運び出されていった。キョンは座り込んだまま、それを呆然と見送っていた。 「携帯…貸してくれ…」 みくるが我に返り、慌てたように携帯を取り出す。が、キョンが差し出した血まみれの手に硬直した。 「親に…連絡しないと…」 古泉がみくるの手を下げる。 「我々の方で既に。ご両親の移動の方もこちらが行います」 「…うちはうちで勝手に行くよ」 「いいえ、我々が。少々…一般の方とは縁遠い『施設』なので。 みなさん、必要なものは持って出てください。ここはしばらく出入りできなくなりますから。詳しいことは後ほど…」 「…警察とかはどうなるんだ…」 フラフラとキョンが立ち上がる。 「一応、殺人な訳だろう?けど…これは…凄く特殊な…」 「…そういったことも含めて全ては後でお話します」 「あの…キョン君…今は病院に…」 「したり顔で指図してんじゃねぇよ!!!!何でもかんでも勝手に話進めやがって!!!!」 キョンの叫びにみくるが身体を震わせる。腹から振り絞った割にはあまり大きな声は出ていない。声もかすれていた。けれども兵隊達でさえ全ての作業が止まった。それはそういう叫びだった。 「全部!!てめぇらのせいじゃねぇか!!!」 みくるは唇を振るわせる他に成す術がなかった。 「…ええ。そうですね。我々の責任です。ですから出来る限りのことをさせてください。その通りです。あなたのせいではありません。もちろん妹さんの責任でもない」 古泉は…どこまでも穏やかだった。 「………」 「…後でお話します」 それ以上、キョンは何も言わなかった。促されるままに部屋を出る。一足先に妹を乗せたヘリは飛び立っていった。 「私も連れて行って下さい…」 ヘリの前でみくるがそう言う。古泉はそれを冷めた目で見下ろした。 「うわぁ!ヘリコプター!?何々!?これ古泉君の自家用機!? あー、キョン!プリン!弁償しなさいよね!あんな食いさしで納得すると思ってんの!?」 「…来てどうするんです」 周りは古泉の『身内』で固められている。ある意味ではみくるは『敵地』の只中にいると言えた。 それでもみくるは、みくるらしからぬ自己主張を試みていた。しかし。 「………」 「朝比奈さん。意地悪や『我々』の立場の違い以前の話です。 ここからはご家族が悲しみにくれるためだけの時間です。貴方は場違いだ。来て何をどうするんです。妹さんとのお別れならばお葬式できちんと…」 「知る限りの…」 「………」 「私が…私の知る限りの情報を教えます。だから…」 古泉の目が見開き、そして細められた。驚きと、打算で。 「禁則事項を…?これだけのために?」 そんなことをしたらどうなるのか。知っているわけではない。が、容易に想像はつく。それでもみくるは続けた。 「乗せてもらうためとか…そんなんじゃ…それだけじゃなくて…」 みくるは焦点の合わない目で途切れ途切れに言った。 「私たちが…私や貴方たちがお互いに…これまでのように知っていることを口にしないまま続いていったら…また…またこんなことが起こる…起こるかもしれない…だから…」 「…それとこれとは関係が」 古泉は言葉を切った。 いつも以上に平静を欠いている彼女の言葉は支離滅裂だった。だが分かる。古泉には彼女が何が言いたいか。何を思っているか。今は彼にもそれを上手く言葉には出来ない。彼もまた、外見ほどには冷静ではないから。しかしそれでも充分だった。 そしてそれとは無関係に気付いた別のこともある。そしてそれこそが彼女がこうまで食い下がる理由なのだろう。 全ては誰を想ってのことか。 「乗ってください」 近くの男が口を開こうとするのを古泉は遮る。 「古いず…」 「友達としてです。いいですか?僕は友達として貴方をヘリに乗せるんです。くれぐれもそこを履き違えないで下さい。 貴方の情報が目当てではありません。貴方が僕に情報を漏らす理由は何もありません」 その言葉はみくる本人にというよりは、みくるの向こう側にいる何者かに向けられていた。それを言い切ると古泉はみくるに背を向け、別のヘリへと向かっていった。 「…ありがとう」 古泉は返事を返さなかった。 「これ…着替えだって」 キョンは頭を抱えたまま、みくるが差し出した袋を見ようともしない。 これは輸送へリか何かなのだろう。明らかに人が乗るには大きすぎ、また居心地が悪すぎるスペースに3人は乗っていた。無論座席は用意されていたのだが、キョンがフラフラとここに乗り込んでしまったためにこういうことになっている。 暗い。電気はついていない。かろうじて小さな窓はあるが、外ももう随分と暮れ始めていた。最初ははしゃいでいたハルヒもよく外が見えない状況に早くも退屈し始め、不平を口にし始めていた。 「プリン!黙ってたら忘れるとでも思ってんじゃないでしょーねー!生憎私はそんな間抜けじゃないわ!徹底的にこの問題は追及させてもらうわよ! ええそうよ、たかがプリン。小さなことだわ。けれどこういった小さなことを見逃すことが大きな問題へと繋がっていくと私は考えるわ。違う?」 みくるは袋をキョンの隣に置き、じっと彼を見下ろしていた。 「SOS団はやめる」 「……はい」 やがてキョンはポツリと口を開いた。 「元々向いてなかったんだ。部活とか。鍵は俺だとかなんとか…アンタ達の口車に乗せられて…もっと早くやめてれば…妹は…」 「…そうですね」 「利用するのはもう…勘弁してくれ」 その声は乾ききっていた。ただ単に本当にみくる達を存在ごと拒絶していた。 「鍵なら他を当たれよ…もう俺は―…」 みくるは膝をキョンの前にひざをついた。 「……え?」 「…血が付くぞ」 ハルヒの喚き声が止まった。ゆっくりと腕が回され、キョンはみくるの胸に抱き締められた。 「…離せ」 「………」 「離せって言ってんだ」 わずかに身じろぎしたもののみくるは身体を離さなかった。 「…何のつもりですか。慰め?それなら後でお願いしますよ。たっぷり。ゆっくり。これ以上のことを」 みくるは何も言わない。 「こんなことして繋ぎとめようったって…俺はあんた達には協力しな…」 やはりみくるは何も言わない。ただ、抱き締める力が強くなった。小柄なみくるのどこにこれほどの力があるのだろうと言うほどに。 焦り出したのはキョンの方だった。いよいよみくるから真剣に逃れようともがき始める。 「ハルヒがいるんですよ。俺が良くても『貴方たち』は困るんじゃないんですか。あいつが…その…閉鎖空間とかいうのが…」 そのとき。 ポツリとキョンの首筋に雫が落ち、キョンは身をよじるのを止めた。 「う…ぐ………ぐす…さい…」 「………」 「めん…なさい…ごめ…な…」 あぁ。なんて三文芝居だ。主演女優だけが一流の。ハルヒも真っ青だね。俺自身は出演する気は無かったのに。 ダメですよ。朝比奈さん。涙は結構ですが鼻水は頂けない。俺の後頭部の被害もさることながら、貴方のようなかわいらしい方にはそれはNGだ。事務所的に。ハルヒだってそう言いますよ。きっとそうだ。 あぁ。貴女の鼓動が聞こえる。貴女の泣き声が聞こえる。やさしい人だ。朝比奈さん。貴方は本当にやさしい人だ。 けれど貴方は今、1つ俺に対して酷い仕打ちをしていますよ?とてもとても酷い仕打ちを。 先越されたら…泣き辛いや。 「…………え?」 しばらくすると泣き声が二つに増えた。 混乱するハルヒを全てから置き去りにし、ヘリは夕暮れの町を飛翔していった。
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ある日の午後。久しぶりの着信音に僕は溜息をついた。 閉鎖空間だ。 ここしばらく精神状態が良好だった女神様が、機嫌を損ねたらしい。 彼ならば、やれやれ、と呟いているだろう。 「古泉、行くわよ」 森さんの声で意識を現実に帰還させる。 「分かりました、しかし久しぶりですね」 「そうね、せっかくの休日が台無しよ」 「はは、ランチはまた今度にしましょうか」 閉鎖空間の発生している場所は、ここからそう遠くはない。 僕は助手席に乗り込むと、すぐに長門さんに連絡を取った。 今までなら真っ先に連絡を取るのは彼だった。 しかし、状況というのは刻一刻と変わる。 鍵の所在は彼から長門さんへ。 電話をするとすぐに繋がった。ツーコールもなかったと思う。 「……」 「長門さん、こういうときは、もしもし、とか言ってもらえると嬉しいんですが」 「用件を」 この通り、一年かけても彼女と友好的なコンタクトを取るのは、僕では難しかった。 「閉鎖空間が発生しました。それもなかなかの規模です」 「分かっている」 「貴女の近くに涼宮さんはいらっしゃるのですか?」 「いない」 長門さんが彼のような迂闊な行動を取るとは思えない。 それでも連絡を取ってしまうのは長門さんが鍵だから。 さて、涼宮さんの機嫌を損ねたのは一体なんなのだろう。 「どうやらこれが最後のようですね」 辺りを見回し、標的がいなくなったことを確認する。 いなくなったことに安堵の溜息をすると、横にいた森さんが言った。 「そうみたいね。久しぶりだから少し時間がかかったわ」 閉鎖空間の発生自体が久しぶりなのだ。それも仕方がないことだと僕は思う。 「それは違うわよ。たんに気が抜けていたということ。反省点ね」 「ごもっともで」 服の汚れを手で払った森さんが空を見上げる。 空が割れていく。閉鎖空間の消滅だ。 「この光景だけは何度見てもいいものね」 「えぇ」 煌びやかな光景。 もしかしたら僕たちは、これを見るために闘っているのかもしれない。 現実世界へと戻ってきた僕たちに休憩はない。 僕は森さんに別れを告げると、涼宮さんの周辺調査へと向かった。 そして、現場へと着いた僕は納得とともに驚愕した。 あの二人が一緒にいる。そこにいるのは二人の神。 持っている能力は一緒。 しかし、同じ神ではない。相反する神だ。 その二人が揃っているあの喫茶店は紛れもなく世界の中心地。 そしてその二人が向かい合って話をしている。 涼宮さんの機嫌が悪くなるのも無理はない。 自分が想いを寄せた男の彼女と一緒にいるのだ。 これは胸中お察ししますよ。 なにはともあれ、閉鎖空間が発生した理由は分かった。 男の僕でも分かる。あの場の空気が。 従来の彼女ならきっと、あぁはならなかった。 気に食わない相手にはとことん噛み付く。本来ならそんな人だ。 それがどうだろう?一緒にお茶をしている。 いつだったかの長門さんの言葉を思い出す。 涼宮さんの精神の強さ。成長。 人は常に成長するもの。彼女もまた、例外ではないということだろう。 とはいえ久方ぶりの閉鎖空間のおかげで、彼女の精神が揺らぎ始めたことが分かった。 少し様子を見ていることにしよう。もちろん僕の他にも監視についている人はいるのだろう。 でも、僕は当事者の一人だ。自惚れではなく、僕は神の友達であり、仲間でもある。 全てを知っていなければいけない理由がある。 そんなことを考えていると、動きがあった。 そう、涼宮さんがキレたのだ。 涼宮さんが感情的になることは多々ある。 しかしそれは以前の話。僕たちの学年が一つ上がってからの彼女は、そういった感情の爆発が極端に減った。 涼宮さんは、もう一人の神、すなわち彼の彼女である佐々木さんに水を浴びせると、そのまま喫茶店を出てしまった。 これはまずい。以前あった告白騒動以来の危機だ。 その証拠にまた僕の携帯が呼び出し音を鳴らしている。 そして本日二度目の戦場への迎えが来る。 まったく、たまらないな。 閉鎖空間での仕事が終る。 事後処理があるものの、いわゆる戦闘員の数は限られているため、僕たちは早々と解放された。 この日は久々の閉鎖空間ということもあり、いささか疲れていた。 僕の部屋まで送ってくれた森さんに別れの挨拶を済ませ、シャワーを浴びてベットに転がる。 おっと、寝る時にかけるCDをコンポに入れ忘れていた。 本当に疲れているときに聞くのは、Caes○rsのコンピ盤。 以前寝る前にかけたら、うるさい、と怒られたが、どういうわけか僕の耳には心地いい。 この時点で僕は想像もしていなかった。 考えていたとしても、何事もなければいいな、この程度だろう。 明日起こる出来事。 それは以前、長門さんが起こした事件のようであり、しかしそれに比べるととても不完全で、それゆえに僕たちの手ではどうしようもない出来事だった。 いつも通りに学校に通学した僕は、いつも通りに授業を受け、いつも通りに学友と談笑し、いつも通りに放課後を迎えた。 そんないつも通りの流れで文芸部の扉を開ける。そこには、読書に勤しむ寡黙な宇宙人と、メイド姿の朗らかな未来人、そして明らかに不機嫌な神がいた。 「どうも。どうやら僕が最後ではないようですね」 いつも通りに微笑みながら部室に入っていく。 最初の頃は作り笑顔だったが、近頃自然に笑顔が出てくるようになった。 この空間が居心地のいいものになってきたというところだろうか。 「あっ、古泉くん。今日は古泉くんが最後よ」 不機嫌な部長が僕にそう言った。 はて?彼の姿が見えない。 「なんだか、あいつ休みみたいなのよ。連絡しても繋がんないし、学校にも連絡をよこしてないみたいなのよ。古泉くんは何か知らない?」 彼が無断欠席?今更反抗期なわけあるまいし。 「あいにく僕は存じません。朝比奈さんや長門さんも連絡が着かないのですか?」 本から顔を上げた長門さんは、わずかに頷いた。 「はい、電話もメールもダメでしたぁ」 心配そうな表情をしながら、朝比奈さんもそう言ってきた。 「ふむ。そうですか」 以前彼は、自分だけではなくSOS団全員が涼宮さんの鍵だと言っていた。 その自覚があるならこういったことはなるべく自重してもらいたい。 「もしかして何かの事件に巻き込まれたのかしら」 青い顔をしながら涼宮さんが言った。 「まさか。彼も思春期の男の子ですから、ちょっと背伸びがしたいんですよ。どうせそんなところでしょう」 彼が事件に巻き込まれるとしたらその中心人物は目の前にいる。どんな場合でも命の危険はないだろう。 そう思った僕は、適当なことを言ってこの場を収めることにした。 普段はイエスマンの僕だ。たまにはこれくらいいいだろう。 まぁ後で彼が何を言われ、どんな仕打ちを受けようが、それは自業自得だ。 「そんなもんかしら?」 しぶしぶ納得した様子の涼宮さんは携帯をいじりながら定位置へ。 おそらくまた連絡しているのだろう。 僕の言葉でもこうやって聞き入れてくれる。あながち僕ら全員が鍵だというのも間違っていない気がする。 試しに僕も彼に連絡を取ってみた。 メールには返信がなく、電話をすれば、電波の届かないところにいると言う。 彼への連絡をやめ、機関にメールを打つ。 鍵の所在が不明なのはいいことではない。 もしかしたら以前朝比奈さんが誘拐されたように、彼があちら側の手に渡った可能性もある。 ちょうど昨日の喫茶店での光景がよみがえる。 線が交じることのなかった神同士が、一人の人間に出会うことで交差した。 そして対峙した。いや、してしまったと言うべきか。 彼はあちら側の鍵でもある。彼を連れ去る十分な理由がある。 考えれば考えるほど辻褄が合ってくる。 ただ一つ気になることがあるとすれば、佐々木さんの性格上それは望んでいないだろうという事。 そこは僕が考えても分からない。それはあちら側の事情だ。 このときの僕は、そこまで深くは考えてはいなかった。 この世でもっとも安全な人間は彼だからだ。 二人の神に愛された、奇跡の人。 それが彼だ。危険なはずがない。 いつものように長門さんが本を閉じる。解散の合図だ。 その日の部活は少し早く終ったこと以外、何もなく終った。 僕はどうしていたかって?……それは聞かないでほしい。 「ふふふ♪また勝ちましたよぉ♪」 「……ははは、お強いですね」 ただ、彼より先に倒さなきゃならない人間がいる、とだけ言っておくことにする。 涼宮さんは終るとほぼ同時に帰路についた。 おそらくは彼を探しに行ったのだろう。 うらやましいものだ。フッてもなお自分を慕ってくれる女性がいる。 とはいえ、その尻拭いをさせられるのは結果的に僕たちである。 自分達の存在や役割に笑えてくる。 朝比奈さんが一足先に部室を出た。どうやら鶴屋さんと用事があるらしい。 僕は、帰ろうとする長門さんを呼び止めた。彼女なら彼の所在が分かるはず。 「長門さん。あなたの力で彼がどこにいるか調べてもらっていいですか?少しお説教をしなければいけませんので」 これで問題は解決する。そう思っていた。しかし長門さんは、僕の問いに対して首を横に振った。 「なにか問題が?」 その僕の問いに対する答えに、僕は一瞬凍りついた。 「彼という個体は今存在しない」 「ま、まさか死ん」 滅多なことを口にするものではない。でも咄嗟で僕は言いかけた。 「分からない。存在そのものがない。遺体であれ存在すればそれを特定することは可能」 「つまり、涼宮さん……ということですか?」 「おそらく」 涼宮さんが彼がいなくなることを望んだ? 信じられない。いったいそれが彼女にとってなんのメリットが? そもそもいつから?たしか彼は昨日は友人と遊んでいたはず。 その友人である、二人は普通に登校していた。なら、最低でも夕方までは一緒にいただろう。 そういえば家からも連絡がないと言っていた。まさか彼の家族も? 突然の展開に頭の中から疑問符が一向に消えない。 「気付いたのは放課後」 長門さんの言葉に我に返る。 放課後。……ということは、 「彼は先ほどまでは存在していた、ということですか?」 「分からない」 頼みの綱がこの調子では困る。今までの出来事は最終的には彼が収めてくれた。 それは彼が鍵だったから。しかし今の鍵は僕の眼前にいる。 「あなたはどう考えているのですか?」 「……」 ここで沈黙を選択されると、途端に怪しくなる。 そして僕は思ったことを口にした。 「まさかあなたがまた何かしたのですか?」 冷たい声。仲間を疑っている。酷い男だ。 「それは違う」 長門さんは僕の疑いの言葉にすぐさま反論してきた。 その瞳はいつもの無機質な雰囲気ではなく、しっかりとした意思が宿っているように見えた。 「失礼しました。……これからあなたはどう動くつもりですか?」 彼女の意思は、情報統合思念体の意思。 「涼宮ハルヒの近くで観察する」 「親友を、ですか?」 我ながら意地の悪い言い方だ。 「涼宮ハルヒの力は今不安定。原因の一つは同様の存在との接触」 佐々木さんのことだ。 「わかりました。しかし観察なら遠方からでも十分では?」 こんな言い方をする必要はない。ただ、彼女の人間の部分の答えを聞いてみたかった。 「観察は情報統合思念体の意思。涼宮ハルヒの近くにいることは私の意志」 そう言い残し長門さんは部室を後にした。 涼宮さんの成長と共に長門さんの精神もまた成長している。 彼女が人間としての自我を持つ日は、そう遠くないのかもしれない。 部室の鍵を閉め、校門を出る。外には森さんが待っていた。 「何か情報は得られた?」 車の助手席に座り、先ほどの長門さんとの会話を話す。 「そちらはどうですか?」 森さんはすぐには答えず、しばらく黙っていた。 少し時間が空き、次に口を開いたのは赤信号で止まった時だった。 「わかっていることは彼だけがいなくなっているということ。周りの人間達の記憶をそのままにね」 彼だけということは彼の家族は無事ということ。不幸中の幸いだ。 「彼の家族は警察に捜索願いを出したわ。親としては当然ね。でも動きにくくなることはたしかね」 警察にも機関の協力者はいる。しかしそれが全体に影響しているわけではない。 「きっと明日の朝には失踪事件として、TVや新聞にも出るでしょうね」 信号の色が変わる。ゆっくりと前進を始めた車の中はしばし沈黙に包まれていた。 「TFEI端末の話の通りなら機関としてやれることは少ないわ」 確かにそうだ。閉鎖空間限定の能力。色々なところと繋がっているとはいえ、それはあくまで人間の力。 今回の事件も神の気まぐれなのだろうか。 しかし解せない。 「どうしたの?」 森さんにそう聞かれ、僕は今思った疑問を話した。 「涼宮さんが原因。これは間違いないと思います。理由は定かではありませんが。佐々木さんにはまだこれだけのことを起こす力は持ち合わせていませんしね」 人一人を消滅させる。それも想像しただけで。 自分で言いながら改めて思う。でたらめで恐ろしいものだと。 「今までの事柄から考えると、彼女の力が発揮される時はたいてい周辺を、はたまた世界全てに影響を与えています」 繰り返された夏休みがいい例だ。局地的な事象であれば世界との間に時間的なズレがでてしまう。 地球全体、いや宇宙規模だと考えてもいいと思う。それだけの影響力があるのだ。 「今回起こっているのは彼一人が消える、それも皆の記憶をそのままに。当の涼宮さんは本気で心配されている様子でした」 神の力からもっとも影響力がなかった人間が消えた。それだけでも驚きの展開だ。 「長門さんの言葉を借りるなら、不安定になった涼宮さんの力が間違った形で作用した、そう考えるといくらか自然だと思います」 「不安定だから探しても出てこない、っていうこと?」 「はい。そして周囲の記憶を改ざんすることさえ出来なかった」 今自分で言ったことが真実なら、僕たちに出来ることは涼宮さんの精神面のケアしかない。 巨大な閉鎖空間を発生させることとは別の意味で、彼女の力は……揺らいでいる。 考えを巡らせながら外を見る。まだ夕暮れと呼ぶには早い空模様だ。 もしこんなことを彼の前で言ったら気持ち悪がられるだろう。 でもこれが一番適切な言葉だろう。だから僕は呟くように言った。 「どうかご無事で」 次の日の朝も当たり前のようにやってきた。 目覚めてすぐに機関と連絡を取ってみたが、昨日と状況は変わっていなかった。 TVを点ける。どの番組でも見慣れた学び舎と顔写真が映し出されていた。 彼の妹は今頃泣いていることだろう。慕っていた兄が突然消えたのだ。当然だ。 気まぐれで消えた彼は、気まぐれで戻る以外方法はないのかもしれない。 つまり、もう戻ってこないかもしれないということでもある。 しかもその気まぐれが、女神本人にも悪い影響を。 重い足取りで学校へと続く坂道を登る。 周りを歩く生徒たちの口からは今朝のニュースが語られる。 彼をよく知らない人達にとってはあくまで話題のタネらしい。面白おかしく語っている様子を見ると苛々してくる。 案の定校門の前には多数の報道陣がいる。登校してくる生徒という生徒にマイクやカメラを向けてはインタビューをしている。 彼らにとっても彼の失踪は話題のタネなのだろう。 さっきと同じく、彼をよく知らないであろう生徒達が、あたかも知っているかのように質問に答えている。 こんなに純粋な怒りの感情を覚えたのは久しぶりだ。 怒りを抑えるように唇を噛み締め、足早に校内へと入ろうとした。しかし、それを邪魔するかのようにリポーターが僕の前に現れた。 「先日行方不明になった○○君のことはご存知ですか?」 本名で呼ばれたがっていた彼だが、まさかこんな形で世間にその名前が知れ渡るとは皮肉なものだ。 「突然の失踪について何かご存知ありませんか?」 ご存知どころか全て知っている。 僕が無言でいるのも気にせずまた質問を投げかけてくる。 このときの僕の表情に笑顔はなかった。なぜならば、今すぐにでも殴りかかりたい衝動に駆られていたからだ。 次だ、次にふざけたことを聞いてきたら、そのにやけ面とカメラを叩き割ってやる。 しかし、僕が行動を起こすより先に行動を起こした人がいた。 「てめーしつこいんだよ!いいかげんにしろ!」 何かが割れる音とともに周囲の人間の目はそちらに集中した。 騒ぎの主は彼のクラスメイトの谷口くんだった。 彼は顔を真っ赤にしながらリポーターの襟首を絞めている。近くにはレンズが割れたカメラが一台。 その脇では国木田くんが彼を制止しようと必死になっている。 「他の連中もだ!キョンのこと知りもしないくせにベラベラと、ふざけんなよ!」 機関の話では、彼と最後に遊んでいたのはあの二人ということになっている。 辺りの報道関係者はさっきの発言を聞き、一気にあの二人に駆け寄っていく。 彼と繋がりのある人物だということはさっきの言葉で十二分に理解できる。 たくさんのカメラのフラッシュとともに、たくさんのマイクが谷口くんに向けられる。 「君は○○君の友達?」 「○○君は普段はどんなこだったの?」 「なにか心当たりはない?」 ふざけた連中だ。反吐がでる。 気付けば僕は谷口くんへの加勢とばかりに、報道陣を掻き分けて彼の元へと向かっていた。 中心にたどり着き、群がる報道陣を無視して、暴れる谷口くんの腕を引き校舎へと向かう。 しかし、次に我慢できなかったのは僕だった。 「近頃のガキはまともに話も出来ないのかよ」 呟くように言ったリポーターのその言葉に反応した僕は、そのリポーターの顔面に向かって拳を振りぬいていた。 閉鎖空間では超能力があるとはいえ、基礎体力も必要だ。それなりに鍛えている。 無防備な顔面にまともに喰らったリポーターは、その場にそのまま崩れ落ちた。いい気味だ。 フラッシュの光が強くなる。シャッター音がまるで雨音のようだ。 結局その場は、学校からやっと出てきた教師たちや駆けつけた警察により治められた。 僕ら三人はそのまま職員室に連れて行かれ、しばらく説教となった。 昼前になり解放された僕たちは、少し話をした。 「さっきはありがとな」 恥ずかしそうに笑いながら谷口くんが言ってきた。 「いえ、あなたがやらなかったら、多分僕がやっていました。まぁ、実際には手を出しましたがね」 そう笑いながら返す。 「でもキョンはどこに行っちゃったんだろうね……」 そう心配そうに呟いたのは国木田くんだ。正直彼はただの巻き添えだ。なんだか申し訳ない。 「そればかりは分かりませんね」 彼らとは何度かSOS団の行事で一緒になったことがある程度で、そこまで親しい仲ではない。 それでも彼を心配する気持ちは一緒だ。 「とりあえず戻ってきたらぶん殴ってやる」 そう言った谷口くんの言葉には、僕も国木田くんも笑って賛成した。 二人と別れて教室へ向かった。教室に入ると、級友たちの手荒い歓迎が待っていた。 説教が終ったばかりだから勘弁してほしいと言い、自分の席へ。 殴った拳が少し赤くなってズキズキする。 ポケットから携帯を取り出すと、僕は朝比奈さんにメールを打った。 今の僕が出来そうなことをしらみつぶしにやっていこう。 そう決めた。 キョンくんが消えてからもう二日がたった。 原因となっている涼宮さんは、放課後になるとすぐに街に下りてキョンくんを探しに行った。 長門さんは涼宮さんと共に行動をしている。今は長門さんの存在が涼宮さんの精神のバランサーとなっている。 古泉くんは、機関と連絡を取り合って事態の収拾をしようと頑張っている。 じゃあわたしは? わたしは見ているだけ。これまでの出来事を。これからの出来事を。 もちろんわたしも教育を受けているから、どういった歴史があるかはある程度把握している。 でもそれは年表上でのこと。全てを知るわけじゃない。 今起きている失踪事件。細部までは知らなくても結末だけは知っている。 その結末は『SOS団のわたし』としては受け入れたくないもの。 だから以前、長門さんに忠告した。 未来人としての朝比奈みくるではなく、SOS団の朝比奈みくるとして。 涼宮さんと距離を置くように、って。 自分達の未来を確保するため、より良い未来にするため、規定事項以外の行動は禁じられている。 じゃあなぜ長門さんにあんなことを? ……楽になりたかった。罪悪感に押しつぶされそうな日々。 だから長門さんにそのことを伝えたことで、わたしの苦悩が少し取れた。 わたしは言った。危ないって。だからもし何かが起きてもわたしは悪くない。 こんなことを考えていた。そんなことを言っても、長門さんは涼宮さんから離れないと分かっているのに。 友達が危険な目にあっているかもしれないこんな時でも、わたしはわたしの役割を守らなくてはいけない。 わたしは……この時代の人間ではないから。 わたしは今、部室にいる。 昼休みに古泉くんからメールがあって、話があるから会ってほしいと言われた。 こんな状況だから、話の内容は限られている。 服は着替えずにお茶を淹れて待つ。 少し待っていると、誰かが部室をノックしてきた。 「はぁい」 わたしはいつもの調子でそのノックに答えた。 「入るよみくる」 部室を訪ねてきたのは鶴屋さんだった。 「どうしたんですか?」 「みくる……」 心配そうな顔をした鶴屋さん。どうしたのかな? 「大丈夫かい?」 「え?」 思わずキョトンとしてしまう。 「今日のみくる、昼休みからなんか変だよ?」 これでもなるべく表に出ないようはしていたのに……。 鶴屋さんの勘の良さにはいつも驚かされる。 「わたしは大丈夫ですよぉ」 わたしはそう言いながら微笑んだ。 「……キョンくんが突然いなくなっちゃたりして大変だよね。でもあたしでよかったら相談でも何でも乗るっさ!」 心の底からの笑顔じゃない。鶴屋さんは無理矢理笑顔を作ってわたしにそう言ってくれた。 「だから……だから元気だしてね?」 こんなに弱々しい声をした鶴屋さんは初めて見た。 わたしを励まそうとしてくれるその言葉に涙が出そうになる。 「ありがとうございます。でも、キョンくんは必ず帰ってきますよぉ」 これ以上内心を悟られないように、なるべく自然な笑顔で答える。 「うん、そうだよね」 やっと鶴屋さんの顔にもいつもの元気が戻ってきた。鶴屋さんはこうでなくっちゃ。 「みくるはまだ帰んないの?」 「少し古泉くんとお話があるんです」 きっと楽しい話ではない。 「あたしも残ってていい?」 上目遣いでこちらを見てくる。それでもわたしは断った。 鶴屋さんには聞かせられない。そういう話だから。 「わかったよ。でも古泉くんに怒鳴られたりしたら、あたしにすぐ言うんだよ?あたしがぶっ飛ばしてあげるから」 「はい」 今度はちゃんと笑えた。鶴屋さんのおかげ。 この時代に来て、一番嬉しかった出会いはこの人かもしれない。 いつか、いつか本当のことが話せる日が来るといいな。 それでも鶴屋さんはわたしを受け入れてくれるかな? 鶴屋さんが帰った少し後、ノックをして入ってきたの古泉くんだった。 「おまたせしました」 いつものような笑顔は古泉くんにはなかった。 「いぃえ」 わたしは湯飲みにお茶を淹れて差し出した。 古泉くんはお礼を言ってそれを飲む。 「それでお話ってなんですか?」 白々しくもそう聞いた。 わたしも覚悟を決めなきゃ。 「単刀直入に聞いてもいいですか?」 「答えられる範囲なら」 一呼吸おいてから古泉くんはこう言った。 「この後彼が、世界がどうなるかご存知ですか?」 「……禁則事項です」 「今起きてる事件は収束に向かうのですか?」 「……禁則事項です」 古泉くんの声に苛立ちがみえはじめた。 覚悟と言ってもそれはわたしの気持ちの話。 自分が情けない。 「涼宮さんにとって最大のカードである彼が危機なんです。今回は未来からの情報がどうしても欲しいんです」 今は長門さんが鍵とされている。 それでも涼宮さんの精神を揺さぶるのは、良くても悪くてもキョンくん。 わたしは古泉くんの質問にまたこう答えた。 「……禁則事項です」 話せるなら話したい。でもそれは出来ない、許されない。 「話になりませんね」 こんなに怒った声を出すのは初めて。いつもの温厚な古泉くんではない。 朝の出来事は耳にしている。古泉くんもキョンくんが心配なんだ。 「ごめんなさい」 わたしはつい謝ってしまった。 「そんな言葉は要りません。しかし、あなたがそこまで平然としているのは、いずれ彼が帰ってくると見ていいのかもしれませんね。どうです?」 その言葉に、わたしは無言で返した。 「肯定、と受け取っていいんですか?」 それにすら無言で対応する。 「いい加減にしてください!あなたの未来では彼がこのまま死んでいるのかどうかは知りません!でも、あなたの情報次第では助かるかもしれないんです!」 怒鳴り声を上げ、わたしに訴えてくる。 わたしは怖くて泣きそうになりながら必死に答えた。 「もしそれでわたしの時代に問題が起きたらどうするんですか!」 「やはりなにか知っているんですね?」 わたしの言葉の揚げ足をとるように古泉くんが言ってきた。 「言えません。言わないんじゃなくて言えないんです」 古泉くんはわたしの言葉に溜息をついてこう言った。 「最初に僕は、朝比奈さんを以前誘拐した連中を疑いました。しかしそれは長門さんに否定をされました。そして次に疑ったのは長門さんです。彼女には前科があります。もちろんそれも否定されましたよ」 わたしのことを見据えたまま、古泉くんの話は続く。 「結論としては涼宮さんの力、ということでしょう。でも、僕にはもう一つ仮説があります。理由など分かりませんが、もし、彼が未来に連れて行かれたとしたら?」 「そ、そんなことはしてません!」 わたしはすぐに否定した。そんなことをするメリットはない。 なにより、そんなことは知らない。 「信じていいんですか?」 「わたしにはそれを証明することは出来ません。だから……信じてとしか言えない」 「……分かりました。僕はSOS団の面々の言葉なら疑うつもりはありません。少し鎌をかけてみただけです。すいませんでした」 少しの沈黙の後、わたしは少しだけ喋った。 「わたしのこの時代での仕事は遠巻きでの監視のはずだったんです」 わたしの目からは涙が溢れていた。 泣いてこの場を乗り切ろうというわけじゃない。自然に流れてしまった。 「気付けばわたしは涼宮さんに連れられてこの部活に入っていました」 そうだ。ここは本当はわたしがいていい場所じゃない。 「SOS団での一年間……純粋に楽しかったです。仕事のことなんか忘れちゃいそうでした」 まるで走馬灯のように記憶がよみがえってくる。 「でも、頭のどこかには必ず後悔がありました。どうしようって、楽しんじゃいけないのにって、仲良くなればなるほど辛くなるのにって」 これから起こる出来事もそう。そして、いずれ訪れるこの時代との別れもそう。 だから嫌だった。この時代に、生活に、友達に、SOS団に愛着を持つなんて、嫌だった。 「もしわたしがここで未来の情報を口にしたら、わたしだけじゃない、元の時代にいる家族や友達、わたしの時代にいる生きている人達全員に影響がでるんです」 「しかし、今救える命があるかも知れないんですよ?」 その言葉にわたしはついカッとなった。 「わたしの独断で出来ることじゃないって言ってるじゃないですか!だから!だからわたしはここにいたくなかったのに!友達にさえならなければこんなに辛くないのに……」 古泉くんは黙ってしまった。部室に聞こえるのはわたしの泣き声だけ。 少しの沈黙のあと、古泉くんが口を開いた。 「……すいませんでした。朝比奈さんの事情をまるで考えていませんでした」 わたしは自分の役割に必死で、それはまた、古泉くんも同じ。責めることは出来ない。 「答えなくていいので聞いてください。あなたの口ぶりだとこのままでもいずれ解決、またはそれに準ずる形を迎えるのだと思います」 わたしは耳だけ傾けた。聞くだけならなんの問題もない。 「しかし、彼とは明言していないものの、なにかしらの犠牲が出る。だから一緒にいたくなかった」 古泉くんはそのまま言葉を続ける。あの少ない言葉でここまで推測していく。 「そしてあなたに関係のある人物だ。だから辛い。つまりSOS団の誰か……」 何も言えない。元々答えることは出来ないし、それを誰と教えることも出来ない。 教えてしまえば、それは未来を変えることになる。 「僕の見立てでは朝比奈さんの時代は、関係や方法はどうであれ、彼と涼宮さんが作りあげた世界だと思っています。なら消えるのは僕か長門さん、といったところでしょうか」 古泉くんは寂しそうに笑った。 「とはいえ、僕にしろ長門さんにしろ一筋縄ではありません。朝比奈さんには申し訳ないですが、見事に未来を変えさせていただきます」 なんて力強い言葉だろう。 「こんなに魅力的な日常なんです。笑って終われるハッピーエンドにしてみせますよ。まぁ僕の想像での話しですがね」 そう言ってまた笑う。 「わたしも……そうなって欲しいです」 これは本心。わたし個人としての本心。 誰も欠けてほしくない。 「それでは失礼しました」 そう言って古泉くんは部室を後にした。 わたしは椅子に座ったまま自分のスカートに端を強く握り締めた。 手の甲には次々に水滴が落ちていく。 何も出来ない。教えることも、手伝うことも。 未来に連絡をとっても上手く繋がらない。これも涼宮さんの力の影響かもしれない。 わたしはなんて役立たずなんだろう。 自分の時代からの支援も乏しい。必要な情報すらまともに与えられない。 事件が起きても足を引っ張り、今わたしを頼ってくれた古泉くんにも答えて上げられない。 学校からの帰り道。わたしは本来思ってはいけないことを思っていた。 わたしに出来ること。 これから迎える悲しいエンディング。それを回避するための方法。 それを変えることを出来ないのは分かっているし、やってもいけない。 でもわたしだってSOS団のメンバーなんだ。 やれそうなことを探してみよう。 残りの日にちは……もう少ないのだから。 もう夜もだいぶ遅い。 僕は自室に戻ってからずっとベットの上に座っている。部屋の明かりも点けずに。 朝比奈さんにはハッピーエンドにするなどと言ってしまった。 ……。 今頭の中には嫌な想像でいっぱいだ。 初めて閉鎖空間に入ったときの事を思い出す。 あのときも恐怖で頭の中がいっぱいだった。 膝を抱えうずくまっていると、誰かが部屋に入ってきた。 「古泉?いるの?」 声の主はどうやら森さんのようだ。 僕の直属の上司。部屋の鍵を持っているのも当たり前だ。 もちろんそれ以外にも理由はあるが。 「真っ暗じゃない。電気点けるわよ?」 「すいませんが、このままにしてもらっていいですか」 本当に自分の声かと疑いたくなるほどに弱々しい声だった。 「……分かったわ」 そう言って暗いままの部屋に入ってきた。 今夜は月明かりがない新月。 カーテンも閉めているから人の姿もはっきりと見えない。 それでも森さんが僕とは少し離れたところに腰を下ろしたのは分かった。 「朝の話は聞いたわ。軽率な行動は控えなさい。あなたは高校生である前に機関の人間なのよ」 その通りだ。それでも森さんの声に怒りはない。 「すいません、ついカッとなってしまいました。罰則ならキチンと受けます」 「相手にたいした怪我もないみたいだし、別に構わないわ。ただ意外に熱いところもあるのね」 そう言って森さんが少し笑った。 その笑い声は不思議と僕の心に染みた。 だからきっと、僕はくだらないことを聞こうとしたんだと思う。 「……」 「……」 しばらく無言が続いた。そして先に口を開いたのは僕だ。 「もし……」 言葉に詰まってしまう。 もし僕が死んだらどうしますか? こんなことを聞いたらきっと怒られてしまう。 そして余計な心配を。 超能力を持っているとはいえ、僕はまだ高校生だ。 子供だとは言わない。でも大人でもない。 不安と恐怖だけが頭の中をグルグルと回っていく。 「古泉。辛いなら降りてもいいのよ?」 何かを察してくれた森さんが優しく声をかけてくれる。 「……辛い、ですか。たしかに辛いです。そして怖い」 閉鎖空間に入るときはいつも覚悟をして入る。そこは異空間。何が起こるか分からない。 それでも自分が頑張れば生きてまた通常の世界に帰ってこれる。 でも、今回は誰かが死ぬかもしれない。予言とは違う。それは未来からの予告。 それは僕かもしれないし、僕じゃないかもしれない。 確実に誰かにおとずれるであろう不幸な結末。 ……たまらなく怖い。そしてそう考え出した途端に体中が震えてきた。 自分の思考に意識を向けていると、不意に体が重くなった。 森さんだ。 僕の肩に寄りかかるように体重をかけてくる。 何かを言ってくるわけじゃない。それでも心強かった。 この人と一緒にいると、この人の体温を感じると、この人の鼓動を感じると、それだけで体の内側が温かくなってくる。 「古泉は何のために頑張っているの?」 何のため……。僕が今ここにいるのは、世界を守るため。そう神に望まれたから。 「それだけ?」 そう言ってくる森さんからは、女性特有の甘い匂いがする。 僕が答えに困っていると、森さんが口を開いた。 「私も最初はなかったわ。でも今はあるの」 それは初耳だった。 「私は死なないわ。そもそもヘマをしないから」 私は死なない、か。さすがは超能力者。僕の思考を当てられた。森さんにはサイコメトリーのよう能力も備わっているのかもしれない。 「だから古泉、いえ、一樹」 初めて下の名前で呼ばれた気がする。 「何があっても必ず帰ってきなさい」 命令とあらば。 「違うわ。私の個人的な願いよ」 微笑みながら言った森さんの顔が、間近へと迫る。 暗闇に目が慣れてきて辺りが見える。 目前にあった森さんの顔がまた僕の肩に戻る。 何のために……。今分かった。いや、決まった。 僕が神人と戦い、世界を守る理由。 僕には守りたい笑顔と約束が出来た。 絶対に生き延びる。ハッピーエンドは皆が笑えて初めて完成する。 もう、悩んだりはしない。 ~To Be Continued~ おまけ ~佐々木と橘~ 彼との連絡が取れない。 今朝のメールも、昼の電話も、そしてつい先刻のメールも全て音信不通。 どんな理由であれ、私からの連絡を無視するとはいい度胸だ。 昨日の涼宮さんとの一件。私は自分が酷いことを言ったことを、やはり彼に打ち明けることにした。 彼に仲立ちをしてもらおうという訳じゃないけど、どうしても相談したかった。 本日四度目の電話をする。 やっぱり出ない。溜息とともに携帯を枕に投げつける。 すると突然携帯が鳴った。そして飛びつくように携帯にでる。 「もしもし!キョン?」 「えっ?橘京子なのです」 その声にまた溜息をついてしまった。 「……京子は溜息をつかれる覚えはないのですよ」 不満な口ぶりで言ってきた。これは失言だった。 「ご、ごめんね」 「別にいいんですけどね」 電話越しからもプンプンと彼女らしい雰囲気が伝わってくる。 「それで何か用?」 「あっ!そうでした!佐々木さん、彼氏とは連絡取れますか?」 彼氏の部分を嫌そうに言ってきた。私に彼氏が出来たと聞いたときの反応を思い出す。 ひどくショックを受けていたっけ。しかし今はそのことより、 「取れない。橘さん、何か知っているの?」 橘さんは少し言葉を詰まらせながらこう言った。 「どうやら行方不明みたいなんです」 何を言っているか分からない。これが私の最初の感想。 「橘さん、私はそういうくだらない冗談は好きじゃないよ?」 少し、もしかしたらたっぷりと怒気を籠めて言葉を返した。 その声を聞いた橘さんは、怯えた声で続きを言った。少し泣きそうにも聞こえる。 「じょ、冗談じゃないのです。昨夜から行方が分からないらしくて、その、ご家族が警察に届け出たって聞きました」 言葉を失う。行け不明?彼が?何で? 頭の中を色々なことが巡る。 そして一つ、思い浮かぶ。あくまで可能性だ。 でも心当たりがありすぎる。 私はかつてないほど自分が愚かしく思う。 自分の発言のせいで招いた事態。そうとしか考えられない。 たった一言だった。彼女を嘲笑するつもりで言った言葉じゃない。 でもその一言のせいで、私はつい数日前までの幸せな時間を失い、彼の家族は彼を失い、彼は……。 願望を実現させる力の持ち主。私のそれより遥かに強力な。 ……願望を実現させる能力? それはつまり彼を消し去ったのは、彼女にとって彼が邪魔だったから? 彼に消えてほしいと彼女が願ったから? でも彼女も彼が好きだったはず。 消えてほしいのは私のはず。 もう会えないなんて嫌だ。また会いたい。それだけじゃない、ずっと、ずっと一緒にいたい。 先のことなんて分からない。でもせっかく気持ちが通じ合ったんだ。 彼に会いたい。そして彼に優しく抱きしめてほしい。 そしてまた好きだって言われたい。もちろん私も言う。 好き好き好き、大好き!何回だって言える。 「あの、佐々木さん?」 「え?」 すっかり今電話中だということを忘れてた。 「その、きっと今回のことは、涼宮ハルヒだということで私たちは考えはまとまっているのです」 私と一緒だ。でも、本当の原因は……。 「でも藤原くんは協力は出来ないっていうし、九曜さんはなんだか訳がわからないんで多分無理です」 きっとそれぞれ自分達の事情があるんだと思う。 「だから京子に協力させてください。正直あんまり佐々木さんの彼氏さんは嫌いですけど」 嬉しいんだけど、そんなことは正直に言わないでほしい。 それでも佐々木さんが困ってるなら京子は協力しますよ!」 「ありがとう」 素直にお礼を言う。 私のしたいこと。彼を元に戻す。 私がしなくちゃいけないこと。もう一度涼宮さんに会う。 それでもダメだったときは……もう悩んでなんかいられない。 「橘さん、頼りにさせてね?」 「はい!」 彼女の声はいつも元気だ。羨ましい。 次の日の朝のニュースを見て、やっぱり現実なんだ、と確認する。 昨夜は橘さんとの電話が終った後にしばらく泣いていた。 でももう泣いている場合じゃない。 きっと彼の周辺も動いている。 私にも出来ることがある。いや、私にしか出来ない。 どんな望みでもかなえられる私と涼宮さんの力。 以前言われた。彼女の力を私に戻す、それが正しい形だと。 完全な力。これが私の、私にしか出来ない唯一の方法だ。 キョン、待っててね。私がきっと…… ~To Be Continued~
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「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「…あぁ…その話か」 遅れて駆けつけたみくる達は目の前の光景に絶句した。 「あぁっ!やっぱり!」 「キョン君…!」 「…!!」 床に座り込んでいるキョン。確かにその手には蓋が開けられたプリンとスプーンがある。紛れも無く、キョンが犯人だ。 しかし、それどころではなかった。 血にまみれた部屋。キョンの妹が兄の膝に頭を預けている。穏やかな顔だったが、その瞼は…閉じられていて… 「それ!私のプリンでしょ!」 「そう…そうなんだよ。妹がさ…食いたいって言ったんだ…プリン。プリンを、さ… もう…何も分からなくなってたのに…食いたいって」 「ちょっと!何の話よ!」 「急いで…急いで取りに行ったんだけどな…い、急いだつもりだったんだけどな…精一杯…はは… 途中、思いっきりスッ転んでさ。ほら、皮むけてる。な、なのに…帰ってきたら…も、もう…」 声をうわずらせながらキョンは頬を引きつらせる。笑おうとしているのか。笑い事にしたいのだろうか。しかしそれは笑顔と呼べるようなものではない。笑えるような事態でもない。 古泉は携帯でどこかと連絡を取っている。みくるは珍しく叫ぶことも気絶することもなく目の前の光景を見つめていた。 状況は彼女の認識も彼女なりに想定していた最悪のケースの彼女なりの覚悟も…全てを遥かに超えていた。 「やっぱあたしのプリンじゃない!蓋に『団長』って書いてある!」 「なぁ…なんでこうなんだ?どうして…どうしてこいつなんだ?」 「…キョン君。こちらへ」 古泉が血だまりへと踏み込んでいく。制服が汚れるにもかかわらず、古泉はキョンの側に膝を付いた。 「どう思う、古泉くん!人のもの黙って食べるって!育ちが知れるわよね!」 「すぐに『組織』のものが来ます。後の対応は任せましょう。今は…」 「なぁ…食えよ。食えよ、ほら。俺がお前のためにわざわざ取りに行ってやったんだ。 食え。食えって。大好きなプリンだぞー。スーパーで3つ105円で売ってるような安モンじゃ…」 「何勝手なこと言ってんのよ!それはあたしの!あたしのなの!」 「妹さんをもう休ませてあげましょう」 「食えって…なぁ。口を開けろ…」 「食べちゃダメ!ちょ…よこし…よこしなさい!」 「揺すっちゃいけない…!体の中身が出…」 「うるせぇ!」 「もう死んでる!!!」 「!!!!!」 古泉はキョンの胸倉を掴み上げた。キョンを含めて、部屋にいる誰もが古泉が声を荒げるのを初めて聞いた。 そこには彼のむき出しの本性があった。憤り、苛立ち、哀しみ…あらゆる負の感情がその瞳から覗いていた。キョンの手からプリンが血だまりに転がり落ちる。 「あー!!!もったいない!!!」 「…もう死んでるんだ」 「………」 「あむ…うん。おいしい♪」 ヘリの音がした。古泉はゆっくりと手を離した。そしていい加減にキョンの襟元を直し、立ち上がった。 やや合ってどこのものともしれない装備を身に付けた完全武装の兵隊達が何人も室内に入ってきて、みくるを脇に押しやった。 古泉の指示のもと、用途不明の道具や機材が次々と運び込まれてくる。やがて担架にキョンの妹は載せられた。 「んー!やっぱりプリンは最高ね!」 「くれぐれも丁重に」 兵隊が小さく頷く。担架は手際よく運び出されていった。キョンは座り込んだまま、それを呆然と見送っていた。 「携帯…貸してくれ…」 みくるが我に返り、慌てたように携帯を取り出す。が、キョンが差し出した血まみれの手に硬直した。 「親に…連絡しないと…」 古泉がみくるの手を下げる。 「我々の方で既に。ご両親の移動の方もこちらが行います」 「…うちはうちで勝手に行くよ」 「いいえ、我々が。少々…一般の方とは縁遠い『施設』なので。 みなさん、必要なものは持って出てください。ここはしばらく出入りできなくなりますから。詳しいことは後ほど…」 「…警察とかはどうなるんだ…」 フラフラとキョンが立ち上がる。 「一応、殺人な訳だろう?けど…これは…凄く特殊な…」 「…そういったことも含めて全ては後でお話します」 「あの…キョン君…今は病院に…」 「したり顔で指図してんじゃねぇよ!!!!何でもかんでも勝手に話進めやがって!!!!」 キョンの叫びにみくるが身体を震わせる。腹から振り絞った割にはあまり大きな声は出ていない。声もかすれていた。けれども兵隊達でさえ全ての作業が止まった。それはそういう叫びだった。 「全部!!てめぇらのせいじゃねぇか!!!」 みくるは唇を振るわせる他に成す術がなかった。 「…ええ。そうですね。我々の責任です。ですから出来る限りのことをさせてください。その通りです。あなたのせいではありません。もちろん妹さんの責任でもない」 古泉は…どこまでも穏やかだった。 「………」 「…後でお話します」 それ以上、キョンは何も言わなかった。促されるままに部屋を出る。一足先に妹を乗せたヘリは飛び立っていった。 「私も連れて行って下さい…」 ヘリの前でみくるがそう言う。古泉はそれを冷めた目で見下ろした。 「うわぁ!ヘリコプター!?何々!?これ古泉君の自家用機!? あー、キョン!プリン!弁償しなさいよね!あんな食いさしで納得すると思ってんの!?」 「…来てどうするんです」 周りは古泉の『身内』で固められている。ある意味ではみくるは『敵地』の只中にいると言えた。 それでもみくるは、みくるらしからぬ自己主張を試みていた。しかし。 「………」 「朝比奈さん。意地悪や『我々』の立場の違い以前の話です。 ここからはご家族が悲しみにくれるためだけの時間です。貴方は場違いだ。来て何をどうするんです。妹さんとのお別れならばお葬式できちんと…」 「知る限りの…」 「………」 「私が…私の知る限りの情報を教えます。だから…」 古泉の目が見開き、そして細められた。驚きと、打算で。 「禁則事項を…?これだけのために?」 そんなことをしたらどうなるのか。知っているわけではない。が、容易に想像はつく。それでもみくるは続けた。 「乗せてもらうためとか…そんなんじゃ…それだけじゃなくて…」 みくるは焦点の合わない目で途切れ途切れに言った。 「私たちが…私や貴方たちがお互いに…これまでのように知っていることを口にしないまま続いていったら…また…またこんなことが起こる…起こるかもしれない…だから…」 「…それとこれとは関係が」 古泉は言葉を切った。 いつも以上に平静を欠いている彼女の言葉は支離滅裂だった。だが分かる。古泉には彼女が何が言いたいか。何を思っているか。今は彼にもそれを上手く言葉には出来ない。彼もまた、外見ほどには冷静ではないから。しかしそれでも充分だった。 そしてそれとは無関係に気付いた別のこともある。そしてそれこそが彼女がこうまで食い下がる理由なのだろう。 全ては誰を想ってのことか。 「乗ってください」 近くの男が口を開こうとするのを古泉は遮る。 「古いず…」 「友達としてです。いいですか?僕は友達として貴方をヘリに乗せるんです。くれぐれもそこを履き違えないで下さい。 貴方の情報が目当てではありません。貴方が僕に情報を漏らす理由は何もありません」 その言葉はみくる本人にというよりは、みくるの向こう側にいる何者かに向けられていた。それを言い切ると古泉はみくるに背を向け、別のヘリへと向かっていった。 「…ありがとう」 古泉は返事を返さなかった。 「これ…着替えだって」 キョンは頭を抱えたまま、みくるが差し出した袋を見ようともしない。 これは輸送へリか何かなのだろう。明らかに人が乗るには大きすぎ、また居心地が悪すぎるスペースに3人は乗っていた。無論座席は用意されていたのだが、キョンがフラフラとここに乗り込んでしまったためにこういうことになっている。 暗い。電気はついていない。かろうじて小さな窓はあるが、外ももう随分と暮れ始めていた。最初ははしゃいでいたハルヒもよく外が見えない状況に早くも退屈し始め、不平を口にし始めていた。 「プリン!黙ってたら忘れるとでも思ってんじゃないでしょーねー!生憎私はそんな間抜けじゃないわ!徹底的にこの問題は追及させてもらうわよ! ええそうよ、たかがプリン。小さなことだわ。けれどこういった小さなことを見逃すことが大きな問題へと繋がっていくと私は考えるわ。違う?」 みくるは袋をキョンの隣に置き、じっと彼を見下ろしていた。 「SOS団はやめる」 「……はい」 やがてキョンはポツリと口を開いた。 「元々向いてなかったんだ。部活とか。鍵は俺だとかなんとか…アンタ達の口車に乗せられて…もっと早くやめてれば…妹は…」 「…そうですね」 「利用するのはもう…勘弁してくれ」 その声は乾ききっていた。ただ単に本当にみくる達を存在ごと拒絶していた。 「鍵なら他を当たれよ…もう俺は―…」 みくるは膝をキョンの前にひざをついた。 「……え?」 「…血が付くぞ」 ハルヒの喚き声が止まった。ゆっくりと腕が回され、キョンはみくるの胸に抱き締められた。 「…離せ」 「………」 「離せって言ってんだ」 わずかに身じろぎしたもののみくるは身体を離さなかった。 「…何のつもりですか。慰め?それなら後でお願いしますよ。たっぷり。ゆっくり。これ以上のことを」 みくるは何も言わない。 「こんなことして繋ぎとめようったって…俺はあんた達には協力しな…」 やはりみくるは何も言わない。ただ、抱き締める力が強くなった。小柄なみくるのどこにこれほどの力があるのだろうと言うほどに。 焦り出したのはキョンの方だった。いよいよみくるから真剣に逃れようともがき始める。 「ハルヒがいるんですよ。俺が良くても『貴方たち』は困るんじゃないんですか。あいつが…その…閉鎖空間とかいうのが…」 そのとき。 ポツリとキョンの首筋に雫が落ち、キョンは身をよじるのを止めた。 「う…ぐ………ぐす…さい…」 「………」 「めん…なさい…ごめ…な…」 あぁ。なんて三文芝居だ。主演女優だけが一流の。ハルヒも真っ青だね。俺自身は出演する気は無かったのに。 ダメですよ。朝比奈さん。涙は結構ですが鼻水は頂けない。俺の後頭部の被害もさることながら、貴方のようなかわいらしい方にはそれはNGだ。事務所的に。ハルヒだってそう言いますよ。きっとそうだ。 あぁ。貴女の鼓動が聞こえる。貴女の泣き声が聞こえる。やさしい人だ。朝比奈さん。貴方は本当にやさしい人だ。 けれど貴方は今、1つ俺に対して酷い仕打ちをしていますよ?とてもとても酷い仕打ちを。 先越されたら…泣き辛いや。 「…………え?」 しばらくすると泣き声が二つに増えた。 混乱するハルヒを全てから置き去りにし、ヘリは夕暮れの町を飛翔していった。
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ハルヒ「(また谷口達とエロ本なんか見て…キョンのバカ! まったく、なんで男ってエロい人間ばっかなの?! …そういえば、古泉君もエロい事考えたりするのかしら。 うーん…想像つかないけど、ちょっと見てみたいかも。)」 古泉「!……(なんで授業中にいきなりこんな…)」 古泉「(どうしよう、体が熱い…)」 (放課後の部室) 古泉「……っ…はぁ………はぁ………」 みくる「??古泉くん、どこか具合でも悪いんですかぁ?」 古泉「!!…いえ、何でもありません。大丈夫ですよ。」 みくる「でもぉ~…顔が赤いし、息も荒いですよぉ?」(近寄る) 古泉「!!!いえ!本当に大丈夫ですから!」 み「…? 古泉くん、そこ…膨れてますね、何か入ってるんですかぁ?」 古「え、いや…これはその…何でもないですよ」 み「そんなぁ、もったいぶらずに……あ、なな…なんか…熱いですっ…風邪…?」 古「ひっ、だ、駄目ですっ朝比奈さん、ぁ…触っちゃ、いけませ…っ」 み「ふぇぇ、なんだか湿って……はっ!もしかして、お…おもらししちゃいましたぁ…?」 み「たたた、大変でしゅ、早くお着替えを…」 古「ち、違いま…だから、や…さわ、触ら…っ…だ、駄目です、ぬ…脱がさない、でっ…」 古「だ、だめです!こういうのは未婚の女性は見ちゃ駄目なんですっ…!」 み「でもこれ、赤くなって腫れてますぅ!もしかしたら病気かもしれません」 古「病気じゃないんですっ、あっ、さ、さわっちゃ、だ、め…っ」 み「遠慮しちゃだめです!ちゃんと見せてくださぁい…あ、何か透明な液が出てきました…」 古「ひっ、や、…っ、駄目です、そんな、先っぽくりくりしないでっ…!あ、ふ…ぅん!」 み「ふぇぇ…どんどん出てきます…これ、きっと全部出しちゃえばよくなります!きっとそうです!」 古「ち、ちがいます!そんな事は無いです、っ、から!や、舐めないでえっ…!」 み「悪い所は舐めたらいいんです…消毒にもなるんですぅ…」 古「や、や、痛く、ないですから、ひゃ、あ…!だめ、だめです、あん、また、で、でちゃいます…!」 み「だいじょうぶですぅ、だ、出していいですから…!」 古「…っ、ひ、はふぅ、いく、いっちゃう、らめ…、らめぇええええ!!!」
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みくる日記 『今日、部室に入ったらキョンくんと涼宮さんがキスしてました。 頭が真っ白になって、あたしの顔が真っ赤になっていくのが自分で分かりました。 二人はあたしが入って来たことにきづかなかったらしいので、軽く咳払いしてみました。 ……無視されました。仕方ないので恋のみくる伝説を歌ってみました。 ……十回ぐらい歌ったとこで嫌気がさしました。 その間一度も唇をはなさなかった二人はある意味驚異です。 ――みくる』 みくる日記 『部室に入るとキョンくんと古泉くんが将棋をしていました。 二人とも真剣だったので、わたしは声をかけずに横からみてました。 しばらくしたらキョンくんが「こんにちは」って挨拶してくれました。 ……でもね、キョンくん。 わたしが二人の対局を見はじめてから少なくとも五回は古泉くんの王様詰んでましたよね? 一回目で気付いて欲しかったなぁ。 ――みくる』 みくる日記 『今日は部室に長門さんしかいませんでした。 特にやることもないのでお茶をいれてました。 ……なのに、気付いたら部室に一人ぼっちでした。 長門さん、いつの間に帰ったんだろう? あたしは鍵を持ってないので、このままじゃ帰れません。 なのでこの日記も部室で書いています。お腹空いたなぁ。 ――みくる』 みくる日記 『今日はちょっと嬉しいことがありました。 部室で一夜を過ごしたあたしだけど、朝起きたら隣に長門さんがいたんです。 机に突っ伏して寝てました。 顔についたブックカバーの跡がとっても可愛かったです。 ……どうせ夢の中の出来事ですけど。 ――みくる』 みくる日記 『とりあえず教室に行きました。誰もいません。 まだ早いからかな、って思ってたんですけど……。 今日が土曜日だったと悟ったのは十二時を回った頃でした。 都合三食抜きです。ちょっと目も回ってます。 ――みくる』 みくる日記 『何とか頑張って部室に戻りました。 ……びっくりする事にそこにはキョンくんも、涼宮さんも、 古泉くんも、長門さんも、鶴屋さんもいました。 どうやら今日はあたしの誕生日だったみたいです。 ちょっと嬉し涙が出ちゃったのはあたしだけの秘密です☆ ――みくる』 みくる日記 『今日の団活はお休みでした。でもあたしのお仕事の方はお休みになりません。 仕方がないのでキョンくんと涼宮さんの尾行をする事にしました。 こう見えてわたし、尾行得意なんです。一度も気付かれたことはありません。 ……存在感ないのかなぁ。あ、えと、それはともかく。二人はというと。 手を繋いでました。 腕を絡めてました。 公衆の面前でキスしてました。 ……ああ、この仕事、辞めたいなぁ。 ――みくる』 みくる日記 『今日は鶴屋さんが遊びにきて、お土産に和菓子を持ってきてくれました。 なのに緑茶をきらしてました。 あ、でもコーヒーに和菓子もいいですよ♪ ……嘘つきました、ごめんなさい。 あと、鶴屋さんにこの日記を見られました。 わたしは取り返そうと奮闘しました。ホ、ホントですよ。ほんの二分であきらめてなんかないですよ? それにしても鶴屋さんは上下逆さまでよく読めたなぁ。やっぱりすごいです。 ……でもあんなに笑わなくても、って思いました。 ちょっと一人旅でもしたいなぁ。 ――みくる』 みくる日記 『この間鶴屋さんに見られたのを反省して日記を暗号にすることにしました。 この日のために易しい暗号入門の本を買ったんですよ。 でも、全く易しくなかったです。RSAって何ですか? 以下、日記です☆ 今さ日さはさ特さにさ何さもさなさいさ日さでさしさた。 部さ室さでさとさあさるさ二さ人さがさイさチャさイさチャさしさてさたさこさとさ以さ外さは。 ……えさえさ、ホさンさトさ、何さでさもさなさかさっさたさんさでさすさよ。 (うどんの絵) ――みくる (後日追記)これ一体、何て読むんでしょう? 困ったなぁ……。』 みくる日記 『今日は久々に街へお買い物に行きました。 なのにお財布を忘れちゃったんです。だから仕方なくお家に帰りました。 ……でもどうやら鍵をどこかに落としたみたいで、お家に入れませんでした。 TPDDの使用許可が下りるまで約五時間かかりました。 ケチだなぁ、と思ったのは内緒です♪ ――みくる』 みくる日記 『今日部室に入ったらキョンくんと長門さんがいました。 本を読んでいる長門さんをボーッと眺めてるキョンくんは少しつまらなそうでした。 ためしにキョンくんの後ろでメイド服に着替えてみました。 ……こっちを見るそぶりをチラリとさえみせなかったキョンくんは少しおかしいのかもしれません。 でも、後から涼宮さんが来た時、足音が聞こえた時点で 目を輝かせて顔を上げるキョンくんを見て何かモヤモヤっとした物を感じました。 長門さんも心なし震えてました。 今日のキョンくんのお茶は少し苦かったはずです☆ ――みくる』 みくる日記 『今日、部室に一番のりしました。だからどうしたと言われても困りますけど……。 誰も来なくて暇だから、今まで着てみた衣装を見てました。 ふと視線を感じたので振り返ると長門さんがいました。 どうやら興味を持ったみたいなので一着似合いそうなのをおすすめしてみました。 カエルさん、可愛かったなぁ。 ……その日の長門さんは少し冷たかったです。 ――みくる』 みくる日記 『部室に入ると一人黄昏てる古泉くんがいました。 物凄く絵になってて思わず見とれてました。 しばらくすると、キョンくんと涼宮さんがニギヤカに手を繋いで、やって来ました。 なんだかんだでお似合いな二人です。 最後に長門さんが本を読みながら来ました。危ないと思うのは杞憂でしょうか? ……でも誰一人として挨拶してくれませんでした。 今日のお茶はなぜか塩味が効いてました。 ――みくる』 みくる日記 『ちょっと存在感を出すためにイメージチェンジしてみました。 会う人、会う人皆がジロジロと見てました。 担任の先生に呼び出されました。 部室に行くと、涼宮さんに「お客さん」と間違えられました。 あたしだと分かると皆さん軽く引いてました。 ……そんなに変でしょうか、「ヤマンバ」って? この時代の平均的な女子高生の格好って聞いてたんですけど……。 ――みくる』 みくる日記 『ヤマンバがずっと前の物だと知ってちょっとショックを受けてるわたしです。 そう言えば誰か「古い」って言ってたような気がします。 未来に帰ったら教官に抗議しようと思います。 そもそもヤマンバが妖怪だと聞いてかなり落ち込んでます。 あたしはそんなんじゃありませんよぅ。 とりあえず髪を染め直しました。今度は蛍光ピンクです♪ ――みくる』 みくる日記 『今日はお茶の葉を買いに行きました。 でも、この前大見得きって雁音なんて買っちゃったから、実はお財布が淋しいんです。 いつもの半分くらいしか入ってません。 でもきっと、大丈夫です。今日は特売日のはずですから。……って思ってたらそれは昨日だって言われちゃいました。 どうやら日めくりカレンダーを一日分めくり損ねてたみたいです。 あ、道理で近頃土曜日に登校しちゃうわけですね。 ――みくる』 みくる日記 『久しぶりに鶴屋さんのお家に遊びに行きました。 やっぱり和室って良いですよね。あの畳の香りが実は大好きなんです。 何だか気持が落ち着いてきて、眠くなるんです。 だから鶴屋さんの話もぼんやりとしか聞いてないんですよ。 ごめんなさい、鶴屋さん。今度はわたし、がんばります。 ――みくる』 みくる日記 『たまに街を歩いてると声をかけられる事があります。 大半が男の人なんですけど、この間キリストさんがあーだこーだと語る女の人に会いました。 しばらく聞いていたんですけど、その日は市内探索だったから切り上げなきゃいけなかったんです。 だから、鶴屋さんから教わった困った時の言葉を叫んでみました。 「この人痴漢です」って。 九分九厘はこれで何とかなるって鶴屋さんは言ってました。 でも見事に残りの一厘に当たりました。 それでも集合はキョンくんが一番最後でした。もう、一種の才能だと思います。 いつもありがとうございます、キョンくん☆ ……ところで、キリストさんって誰でしょう。あたし、芸能界には疎いんです。 ――みくる』 みくる日記 『某月某日金曜日 今日はお茶の代わりにコーヒーを出してみました。 ……実はほんの少しだけだけど、皆さんの反応が見たかったんです。 涼宮さんはいつもみたいにイッキ飲みでした。 古泉くんは普通に飲んでました。飲み慣れてる感じさえありました。 キョンくんはちょっと眉をしかめてました。苦手なのかなぁ? あたしは当然クリームとガムシロップ入りです♪ ……そう言えば長門さん、飲んでなかったなぁ。明日は飲んでもらえるように頑張ります☆ ――みくる』 みくる日記 『今日は市内探索でした。くじ引きで長門さんと同じグループになりました。 少し話題に困るんですよね。だけど頑張ってみました。偉い、あたし! ……全部玉砕しましたけど。それはもう見事に。 お天気の話題……そう、の一言でした。 最近オススメの本……題名が何語かわかりませんでした。中身はもっとチンプンカンプンでした。 近頃の涼宮さんとキョンくんについて……ちょっと変なオーラが漂いだしたので断念です。 仕方ないので図書館に行きました。けど、気付けば十四時を回ってました。 未読メール50件はまとめて削除しました。……多分全部同じ内容だと思います。 長門さんはまだ本を読んでました。……はぁ。 ――みくる』 みくる日記 『たまにはお家でボンヤリ過ごすのも良いと思います。 今日は起きたら八時でした。 なのに外は真っ暗でした。 ……あれぇ? ――みくる』 みくる日記 『この間、上司の人から連絡が入りました。 定期報告書と日記を間違えたみたいです。 真夜中にこってり二時間はしぼられました。 お陰で今日一日寝不足でした。迷惑をかけた人に、この場を借りて謝らせてください。 長門さん……本にお茶こぼしてごめんなさい。 キョンくん……お茶かけてごめんなさい。歩きながら寝てました☆ 涼宮さん……もう、何だかわからないけどごめんなさい。 古泉く ボールペンのインクが切れちゃったので買ってきました。ええと、何を書いてたんだっけ? ――みくる』 みくる日記 『なんだか熱っぽいんです。 でも学校に行ったんです、頑張って。 通学路で二、三度生命の危機に瀕しましたけど。車にひかれそうになりました。 それで、放課後の部活の時にお気に入りの湯呑みを割ってしまいました。 大分ショックです……。しばらく立ち直れそうにありません。 所で体のあちこちに湿疹があるんです。 もしかして普通の風邪じゃないのかなあ……? ――みくる』 みくる日記 『学校を休んでお医者さんの所に行きました。 (余談ですけど、上司から中々許可が下りなかったんです。 何かあたしに恨みでもあるんでしょうか?) はしかだと言われました。どうやら伝染するそうです。みなさんは無事でしょうか? あ、わたしは未来からお薬を送って貰いました。今ではすっかり元気です。 でもどこかで聞いたことがあるんですよね、タミフルって…… ――みくる』 みくる日記 『どうやらこの前のお薬はインフルエンザのものだったようです。 なのにどうして元気になったのか気になって調べてみました。 長門さんに聞いたら一瞬でした。あ、そうそう。皆さん見事に感染しちゃったみたいです。長門さん以外。 ……うう、どうしよう。 あ、ちなみにプラシーボ効果と言うらしいです。病は気から、の精神です。 ……要するにわたしが単純だって言いたいのでしょうか? ――みくる』 みくる日記 『今日は突然の夕立にあいました。 丁度夕飯の材料を買いに出掛けた帰り道だったので、ずぶ濡れになってしまいました。 思わず走って帰りました。三回滑って四回転びました。卵が割れました。 大人しく雨宿りでもするんだったなぁ……。 ――みくる』 みくる日記 『昨日、鶴屋さんに薦められた本を読んでいたんですけど、気付いたら朝になっていました。 小鳥さんが鳴いていて、徹夜のお陰で意識が朦朧としてました。 いつもの事ですけど、朝に靴の右と左を間違えました。 あと、授業中に思わず居眠りして怒られたり、お茶の分量を間違えたり……。 今度からは自律します。 ……って思ってたんですけど、今日もまた徹夜でした。 目の下に隈が出来ています。 ああ、今から十二時間くらい時間塑行してぐっすり眠りたいなぁ。 ダメ元で申請してみます☆ ――みくる』 みくる日記 『部室内イチャツキ禁止法を制定するべきだと思う今日この頃です。 今日はキョンくんと涼宮さんの熱々振りをカウントしてみました。 キス……五回。計二十五分。 もう、お腹一杯です。 これ以外にも色々とやってましたが、数える気にもなりません。 (あ、さすがに成人指定はつきませんよ) もし、涼宮さんたちに加えて長門さんと古泉くんが付き合いでもしたら、 あたし虚しくて死んじゃうかもしれません。うさぎみたいに。 ……。 みくる、ふぁいと。 ――みくる』 みくる日記 『ふう、と溜め息も吐きたくなる今日この頃です。 そろそろ部室が独り身には辛い桃色空間化してきました。 主なと言うか、全ての原因はあの二人な訳ですけど。 古泉くんはバイトがなくなったと喜んでます、でもあたしとしてはみんなで遊んでた頃が懐かしいです。 ……くすん。 またTPDDの使用申請でもしましょうか? ――みくる』 みくる日記 『驚いちゃいました。 今日、部室の雰囲気が涼宮さんたちが付き合いはじめる前のそれに戻ってたんです。 あまりの唐突さに夢かなぁと思ってほっぺたをつねってみました。 ……目が覚めました。 今日は学校休もうかな……。 ――みくる』 みくる日記 『結局学校はズル休みしちゃいました。 一日中ボンヤリとしたんですよ。 たまにお茶いれてみたりなんなりしてましたけど。 放課後の頃に皆がお見舞いに来たんです。 何と無く顔を合わせづらくて居留守使っちゃいました。 ……駄目だなあ、わたし。 ――みくる』 みくる日記 『今日は後ろめたさ全開で部室に入りました。 そしたら今度こそ夢とかじゃなくて懐かしい部室の風景でした。 あと、涼宮さんとキョンくんに謝られました。 どうやら鶴屋さんが喋っちゃったみたいです。 自分の情け無さに涙が溢れてきました。 もっと強い人になりたいです。 ――みくる』 みくる日記 『部室は三日くらいであの桃色空間に戻りました。 でももう大丈夫です。 例えあの頃が懐かしくてもあたしは今に生きるしかないんです。 ……未来人の台詞じゃないですけど。 それに二人も少しはセーブしてくれてるみたいです。 と言えれば幸せなんですけどねー……。 今は三日間のブランク埋めようと前の三倍いちゃついてます。 時間的にも、質的にも。 掛け合わせて前の約十倍です。 早くも心がくじけそうです。 ――みくる』 みくる日記 『今日は久しぶりに市内探索がありました。 なぜか涼宮さんとペアでした。 涼宮さんは何をするにも上の空で見てるこっちがハラハラしました。 人や電柱にぶつかったり、転んだり。 まるで、……ドジッ子? そんなにキョンくんといたいなら、いっその事メンバー固定にすればいいと思います。 午後はキョンくんとペアでした。 涼宮さんが物凄い顔をしてました。 神様はわたしに恨みでもあるんでしょうか? わたしは明日の朝日を拝めるんでしょうか? ――みくる』 みくる日記 みくる日記 『夏ですねえ……。 あまりの暑さに倒れちゃいそうです。 そんな今日この頃、梅雨は何処へ行ったんでしょうか。 でも、あったらあったで嫌なものですけど。 洗濯物が乾かないし、油断していると食パンにカビがはえてて泣く泣く捨てたり……。 あ、でもでも、あの独特のもわぁっとした不快さがあるから夏のカラッとした陽気がはえると思うんです。 年中夏な二人も少しは落ち着いてください、わたしの切実なお願いです。 ――みくる』 みくる日記 『今日はお茶に虫が入っちゃいました。 取ろう取ろうと四苦八苦していたら、 涼宮さんが横から持っていってイッキ飲みしちゃいました。 ……ごめんなさい。 でもわたしのせいじゃないと思います。 ……違いますよ、ね? ――みくる』 みくる日記 『昨日の二の舞いにならないように今日は部室に蚊取り線香を持って行きました。最 初は調子良かったんです。 でも、空中で死んじゃった蚊がまた涼宮さんの湯呑みに入りました。 ……くすん。 帰り際に頼みの綱、長門さんに依頼しました。 明日には解決してますように☆ ――みくる』 みくる日記 『今、あたしは少し混乱しています。 長門さんがわざわざ朝早くに届けてくれた最終兵器。 ……それはハエ叩きです。 意外にアナログです。 もしかして、あたしに一匹一匹始末しろと言いたいのでしょうか? が、頑張ります……。 ――みくる』 みくる日記 『結果は散々でした。 蚊を叩こうとして何度みなさんを叩いたことか……。 涼宮さんは「これぞ萌えキャラよ」って喜んでましたけど、喜ぶ場面じゃないと思います。 特に長門さんは蚊に好かれてるみたいで多分十回くらい当たっちゃったかな。 ……。 どうしよう。 今度面白そうな本でも贈りましょうか。 ――みくる』 みくる日記 『暑いです。見事に夏です。 あたし、……バテても良いですか? 駄目と言われてもバテますけど。クーラー万歳。 ……夏風邪かなあ、少し気分がハイです。気を取り直して。 今日は帰り道にネコさんを見たんです。どこにでもいそうな三毛さん。 その子は近寄ったら逃げるんです。ほんの数メートルだけ。 また近付くと、また少しだけ逃げるんです。 それを延々と繰り返してたら知らないところに着きました。 三毛さんもいつの間にかいなくなってました。 ……。 何とか家に辿り着いたときにはもう時計が十二時を指していました。 律儀にも日記を付けるあたしを誉めてあげたいです。 ……お腹空いたなあ、夕飯何にしよう。今夜は徹夜かもです。 ――みくる』 みくる日記 『この頃天気が不安定です。 傘を持っていくと雨は降らないのに、持っていかないと土砂降りにあいます。 仕方なく買った折り畳み傘を鞄に入れると、しばらく晴れ続きで、 「大丈夫かな?」って思って鞄から出した途端に雨降り模様になります。 まるで、お天気の神様があたしに意地悪してるみたいです。 でも。 今日は雨が降ったんです。あたしが傘を持ってるのに。 そこはかとなく嬉しいんですけど、実際は傘の意味も無い程の大雨で、結果は同じでした。 ……むしろ傘が壊れた分、損かもしれません。 ――みくる』 みくる日記 『未来に、あたしの今いる時間平面上における一ヶ月分の天気図を申請しました。 ……一緒に「規定事項」として、わたしのこの先一ヶ月間にわたる傘の持ち運び表が送られてきました。最優先コード付きで。 ……ええ。あたしは一ヶ月間、虚しい奮闘をする予定みたいです。 あたし……風邪、ひきますよ? このままじゃ。 ダメ元で長門さんにお天気を変えてもらいたいです。 ――みくる』 みくる日記 『今日は突然涼宮さんに呼び出されました。 本音を言えば、暑くてあんまり行きたくなかったけど……しょうがないですよね? 深刻な顔してお出迎えされました。部屋に通されてしばらく黙ってたんです。 それで、聞いてみれば何でも近頃キョンくんが冷たくなったとのこと。 ……その時点で嫌な予感してたんです。 涼宮さん? キスの回数が減ったと言われても、二人は元が多いからいいじゃないですか。 おはようとおやすみとそれに加えて一時間に二回やってれば十分です。 それに、《禁則事項》しちゃったから、「捨てられるのかな」、って何時の昼ドラですかっ。 挙げ句の果てには事細かに語り始めるし……。 涼宮さん? あたし独り身なんです。刺激強すぎです。 と言うか、ノロケですよね。 そもそも、「おはようとおやすみのキス」のくだりで気付くべきだったんですね、あたしは。 ……。 明日は明日の風が吹く。ガンバレあたし、負けるなあたし。 ――みくる』 みくる日記 『今日は、久々にSOS団の活動がありました。 長門さんも古泉くんも元気そうにしていました。 一部桃色でした。 喫茶店に入って、今日の予定を確認しながらクジ引きをしました。 あたしは長門さんと古泉くんと同じでした。 桃色が濃くなりました。 フラフラと本屋に寄ったりお茶を買ったりしてたら、道端で熱々過ぎて見てられないカップルとすれちがいました。 どこかで見たような気がしましたけど多分気のせいだったと思います。 古泉くんは苦笑いしてました。長門さんは……ノーコメントで。 お昼ご飯を食べてからまた午後もそぞろ歩きしてました。 何であたしあそこにいたんでしょう? 何であの二人プラスあたしだったんでしょう? 未来が恋しいよぅ……。 お盆に里帰り、認められないかなぁ? ――みくる』 みくる日記 『今日は鶴屋さんのお家に遊びに行きました。 昔、「いつでも大歓迎だよっ」って言われてたからちょっとサプライズ的に。 近頃お気に入りのケーキ片手に足取り軽く向かいました。 留守でした。 紛れもなく留守でした。 完膚無きなまでにわたしを叩きのめす留守でした。 一人、お家で食べるチョコレートケーキは塩味がきいてました。 ――みくる』 みくる日記 『真夏の海って良いですよね。 一人旅だと潮風が目に染みて雫が……。 何であたしこんなとこにいるんでしょう。 ちょっと街でお買い物しようと思っただけなのに……。 うん。最初に電車を間違えて、戻ろうと思ってまた間違えて……。 そうやって繰り返してたらいつの間にかよく分からない場所に着きました。 もう夜です。お月様が綺麗です。 携帯電話は使い方がわかりません。 未来からは何の指示も助言もありません。 「野宿」の二文字が脳裏をよぎります。 助けて、へるぷみー。 ――みくる』 みくる日記 『気付けば夏休みも後少しです。 今年は去年ほどみんなと遊ばなかった気がします。 やっぱり二人が付き合い始めたのが理由でしょうか。 そんな事を考えながらポーッとしてたら涼宮さんから電話がありました。 ……これから肝試しに行ってきます。 帰ったらもう一回日記をつけます。 無事に帰ってこれたら、ですけど。 ――みくる』 みくる日記 『はうぅ……。 ペンを持つ手が震えます。 べ、別に怖いわけじゃないんだからねっ、勘違いしないでよねっ! ……ていうのが萌えポイントだと涼宮さんは言ってました。良く分かりません。 ところで、頬を赤らめながらキョンくんの腕に自分の腕を絡める涼宮さんは、 なんかちょっぴり女の子っぽくて、やっぱり憧れます。 あたしもやってみたいなぁ……。 あと、古泉くんの袖を無表情に掴んで歩く長門さんも可愛かったです。 夜のお墓の一人歩きは怖いです、でもそれ以上に心がささくれます。 ――みくる』 みくる日記 『夏休みもあと一週間を切りました。 とりあえずやることは全部やったはずです。 宿題、やりました。 思ひ出、作りました、塩味の。 受験べんきょ——。 どどどんまい、みくる! ……はぁ。 ——みくる』 みくる日記 『日に日に涼しくなってきました。 それはつまり日を追うごとに秋が深まっていくってことです。 ……まあ一部、夏のままですけど。 ええ、確かに秋が来たという事実イコール冬が近付いたって事です、聖夜が近付いたって事です。 でも三ヶ月前からクリスマスの予定たてるってやり過ぎだと思います! 一応受験生のあたしへの当て付けですか! ……今年の冬は寒そうです。 ——みくる』 みくる日記 『秋です。 読書の、食欲の、運動の、と色々の枕詞がかかる秋です。 食べ過ぎて毎年少し太ります。 今年は自省します。 ……多分三日ボウズで終わります。 だって秋ですよ? そして、文化祭がある秋です。 ……コスプレ映画は既定事項ですか、そうですか。 ……くすん。 ——みくる』 みくる日記 『日に日に涼しくなってゆきます今日この頃。 段々と葉も色付き始め、何だか浮き浮きする季節。 秋の訪れです。 ……。 食欲の秋って良く言ったものですね。 ……きっと体重計が壊れてたんです。 きっと、きっと……。 ——みくる』 みくる日記 『今日は部室でクリスマスパーティーを楽しんで来ました。 三人だけで。 冬の寒さもなんのその、ストーブでぬくぬくしながら何をするでもなく過ごしてました。 三人だけで。 古泉くんがこっそり持ち込んでくれたシャンパンで乾杯しました。 三人だけで。 あたしが頑張って作ったホールケーキも食べました。 三等分ですよ。 ……めりーくりすます。 せめてよい夢を。 ——みくる』 みくる日記 『今日はセンター試験でした。 朝方、家を出ると涼宮さんたちがいました。 「必勝」って書かれた腕章に涙が溢れそうになりました。 ……試験監督の先生に外せ、って言われましたけど。 あと、マークシートって怖いです。 受験番号はあってたかな、マークする場所、間違えてないかな。 そんな心配ばっかりで、うう、心臓が痛いよぅ……。 ああ、明日もあるんですよね。 耐える、耐えるのよ、わたし。 ——みくる 』 みくる日記 「今日は寒いなぁと思ってたらいつの間にか外は一面の銀世界にでした。 暖房をつけてコタツに籠ってお茶をすすると、ほんのり幸せです。 ……たまには幸せな一日を送ってもいいですよね? ——みくる そうは問屋が卸してくれませんでした。 でも、たまには卸してください。心の底からお願いします。 ……涼宮さんに呼び出されました。 今から雪合戦してきます。 さよなら、あたしの温もりの一時……。くすん、寒いよぅ……。 みくる」 みくる日記 『えー……。 (解読不能なミミズたち) は、ちょっと意識がトリップしてました。 でも、初めて知りました。 受験勉強って太るんですね。 なんかこう、勉強して。 ちょっとお腹すいたなぁ、って思ってお菓子をつまんで。 それからまた、机に向かうんです。 間にご飯も入ります。 でも、それだけなんです、一日が。 瞬く間に体重が《禁則事項》です。 まさしく指数関数です。 あうぅ……。 ——みくる』 みくる日記 「今日はポカポカとした陽気でした。 こんな日には紅茶を淹れて、公園で飲むのもいいかもしれません。 そう思ったのが運のつきでした。 公園のベンチで和んでたら、うたた寝して、紅茶をこぼして、お気に入りの洋服にシミが……。 ちょっと火傷もしました。 帰り道、すれ違う人の視線が突き刺さるようでした。 今朝のあたしを昏倒させたいです。 過去に跳んじゃ、ダメですか? ……ダメですよね。 ——みくる」 みくる日記 『すっかり季節は梅雨で、洗濯物も中々乾かないですね。 こんな日には何かさっぱりした物でも食べましょうか、そう思ってスーパーまで出掛けました。 そこで、偶然にも「機関」の森さんに会いました。 一人暮らしにしては買い物カゴが一杯でした。 もしかして、誰か食事を作ってあげる人がいるのかも。 それで、いざ話を聞いてみると、古泉くんはほっとくとまともな物を作らないらしいんです。 それはいけません。 と言うことで、滋養のあるものを作ってあげるそうです。 うーん……。 あたしも二、三お手軽なレシピを古泉くんに教えてみようかな? やっぱり大事な仲間ですから。 そんな事ばかり考えてたら食材を買わずに家へ帰ってしまいました。 もう一往復行ってきます……。 ——みくる』 みくる日記 『今日は涼宮さんの号令の下、公園で花火をする予定でした。 ところが突然の大雨で計画までお流れです。 涼宮さんは口を尖らせて不満そうな顔でした。 案の定古泉くんは電話片手に去っていきました。でも、最後に目配せ付きで……。 続けて長門さんも洗濯物がうんぬんと呟いて帰っていきました。去り際にわたしをじっと見ながら……。 空気を読めと言うことだったんでしょう。 折り畳みも何もないんですけど……、そう思いながらわたしも二人を残して雨の中へ出ていきました。 公園の出口で待ってくれていた古泉くんと長門さん(あの長門さんですよ)の苦笑はしばらく忘れられそうにありません。 だってすぐに満点の星空に……。 ——みくる』 【以下番外】 みくる日記 また、今年も夏休みがやって来ました。 とくに変わった事がなければこの時間平面上で過ごす高校生活最後の夏休みです。 めげそうになっても、桃色瘴気にあてられそうになっても、何とか耐えたあたしでも、 一年早く北高から巣立つかと思うとやっぱり寂しいです。 周りのみんなはまだ一年あるんですよね……。はぁ。 年上らしいところが見せられないあたしなのに、こんな所だけみんなより先なんですね……。 おめでとう、って卒業式の時に言われてもあんまり嬉しくないんだろうな。 めそめそ泣いちゃいそうです……。ううん、涙が止まらないかも。 でも、しょうがないんですよね。「お別れ」は必ず来るから――。 といったことを鶴屋さんに電話で相談したら、「留年すれば万事解決だねっ」って返されました。 うぅ……それだけは、嫌です。 ――みくる ぶっ壊れたみくる日記 『ああ……。 清々しいはずなのに気分が晴れません。 もう二度とあんな光景を見ないで済むはずなのに。 どうして……? もう、二人がイチャイチャベタベタキャッキャッウフフしてるの見なくてすむのに……。 どうして……? やっぱり殺り方が不味かったのでしょうか。 お茶に睡眠薬混ぜて首落とす、なんてしないで素直に毒にすればよかったかな? それとも、やっぱりキョンくんのせいかな? あ、二人にバイバイって言えなかったな。 まあ、いっか。 ――みくる』
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「禁則事項です」 角川スニーカー文庫刊ライトノベル『涼宮ハルヒシリーズ』に登場するキャラクター。「あさひな-」。 県立北高校二年(原作9巻『分裂』より三年)の女子生徒。SOS団書記(後に副々団長を兼ねる)。 アニメ版の声優は 後藤邑子 女史。 元は書道部員だったのだが、涼宮ハルヒに半ば強引に退部させられ、現在はSOS団でメイド兼マスコットをやらされている。 引き抜きの理由は、「こういう団体にはフィクションでは萌え担当が一人はいるもの」という単純かつ理不尽なもの。 事実童顔で巨乳、性格もおしとやかで守ってあげたくなるという万人の男性に好かれそうな萌えの塊。 校内ではアイドル的存在であり、「朝比奈さんより可愛い生物はいない」(キョン談)、 「朝比奈さんを泣かせる事は学園の半分(男子全員)を敵にする」(谷口談)と言われるほどの美少女。 バレンタインデー翌日に実施したイベントで巫女に扮し、SOS団の活動費を男子から大量にせしめた功績により、ハルヒから副々団長に任命される。 気が弱く、特に長門有希には恐縮し遠慮がちな態度を取る。 ハルヒに玩具扱いされており、毎回様々なコスプレ(メイド服やバニーガールやナースetc.)をさせられているが、流石に18禁な描写にまでは至らない。 ちなみに反抗しようものなら世界の存亡にすら関わるため健気に耐えている。 しかし最近は強制されたはずのメイドや御茶酌みについて作法等を独力で学んできたりと、現在の立場をそれなりに楽しんでいる。 運動神経は壊滅的。左胸の谷間付近に星形のホクロがある。 一応、ハルヒ達より1学年上。 + 以下詳細なプロフィール(ネタバレあり) その正体は、様々な事象を引き起こしたハルヒを監視するため、物語中の時代より遠い未来からやってきた未来人。 脳内に無形で存在するTPDD(タイム・プレーン・デストロイド・デバイス、要はタイムマシン)を利用する事でタイムトラベルが可能である。 キョンなどの他者と共に移動する事もでき、応用すれば同一時間の別の場所、つまりテレポーテーションも恐らく可能。 かなり万能な能力であるように見えるが、実はみくるは未来では研修生以下の見習い的立場であるため、 この能力を使うためには上の許可が必要であり、全く自由自在には扱えない。 また、権限が無いためか未来から来たにもかかわらず現在の状況をほとんど知らない事も多く、 元々の性格もあり、肉体的にも普通の人間であるため、事件が起きると良くパニックに陥ってしまう。 この辺りの事は当人にも自覚があり、以前から自身の非力さを申し訳なく思っていたが、 原作6巻『動揺』の「朝比奈みくるの憂鬱」にて特に深く落ち込んでしまう。 しかし、キョンに今を含めたありのままの自分を肯定してもらった事により、それ以降立ち直っている。 キョンも他の男子同様みくるのファンであり、 ハルヒに振り回された事による疲れを彼女に癒してもらっている面がある。 つまり、彼女は非日常より日常で活躍する人であって、 みくるはキョンを支える事で結果的(=未来人の視点的)に貢献しているとも言える。 + 「みくるビーム」 なお、カラーコンタクトを装備した状態でウインクすると眼から破壊光線(通称「みくるビーム」)が撃てる。 本来の時間移動能力が自由に使えない&表現しづらい事もあり、MUGEN等のゲームで彼女が繰り出す必殺技は大抵これ。 ただし、これはハルヒが作成した劇中劇の設定を現実世界に反映したため具現化した能力であり、 本来のみくるの能力ではない。むしろ本人も制御出来ず嫌がっていた。 なお、長門の応急処置とキョンによるハルヒへの暗示により、この能力はもちろん無くなっている。 ちなみに、この劇中劇において、みくるが演じる「朝比奈ミクル」は、 「銃器の使い手で、目からビームを放つ未来から来た戦士でウエイトレス」という恐ろしく物騒な設定である。 ……無理ありすぎだろ。 未来の事を聞かれた際に返答として答える際に「禁則事項です」と言うが、 これは未来でのみくるの上司にあたる人物に、未来の事を言わないように、過去に行く際にマインドコントロールされているからである。 それ故に、彼女自身から未来や彼女についての詳細を聞き出す事は出来ない。 …が原作ではその禁則も解けつつあり、未来の事を話せるようになってきている。 長門の分析曰く、みくるは未来を固定するための調整役を担わされているらしい。 キョン達より一学年先輩に属しているが、実年齢も不明(これにも「禁則事項です」と微笑みながら答えている)である。*1 実際の所、素性のほとんどを偽っている可能性があり、「朝比奈みくる」という名前も本名でない可能性が高い。 現にとある事情でキョンに別人としてでっち上げられた際に「その名前 も いいですね」と答えている。 余程技術の進んだ未来から来たのか、船が浮力で浮いている事(原作3巻『退屈』にて)等、今の時代では当たり前の事も知らなかったりする。 ちなみに、原作ではやたらと懐かれている事以外に特にそれらしい描写はないが、 アニメ版では何故かキョンの妹と似た行動を取る事があり、それに纏わる仮説も多い(未来の妹説やキョンの子孫説等々)。 なお、数年後には現在152cmと小柄な身長や、その元から良いスタイルが更に成長する事が約束されている。 その根拠は彼女が現在いる姿より成長した姿で劇中に度々現れているからである (キョンは便宜的に朝比奈さん(大)(小)と呼び分けている)。 キョン曰く「見る者全てを恋に落とす美貌を持つ」とされる。 現在の姿よりかなり昇進したらしく、(小)には禁則事項で答えられなかった事にも大分許可が降りている様である。 元々彼女は自分の胸の谷間にあるホクロを知らなかったのだが、(大)がキョンに教えてそれが(小)に伝えられる形で知る事になる (この為(大)が「キョン君が教えてくれたのに」と呟くちょっとしたタイムパラドックスもどきが起こっている)。 しかし、(大)の方はより大きな任務を与えられているためか、状況次第では過去の自分自身を囮に使ったり、キョンを利用する事もある。 出世したという立場上の都合からか、よく言えば職務に忠実、悪く言えば冷淡な行動を取るため、 キョンも(大)の方は完全に信頼しているとは言えないようである。 もっとも、これはみくる自身が指命と個人感情の板挟みになるのを防ぐためであり、 またわざと冷淡な行動を取る事でキョンに感情移入させすぎないようにして、 いずれ来る別れの時に辛い思いをさせないようにという彼女なりの思いやりなのだが。 この辺りが曲解されて「腹黒」と呼ばれる事もあるのは不幸な話である。 3ヒロインの1人であり、その中で物語内ではもっとも周囲に好かれている彼女だが、 事件が起きた時は足手纏い感が否めず、活躍の場が余り無い事から、読者ファンの数はハルヒ・長門より若干少ない。 また、あまりに萌え要素が多く、言動が“良い子”であるために「狙いすぎ」として彼女を嫌う読者も存在し、 差し引いた結果、男キャラクターに男性読者の人気を抜かれたり、親友や敵役、脇役、と競い合う所にまで来ているとも言われてしまう。 …とはいえ、それには他のヒロイン二人と比べ、主人公との色恋沙汰には一歩引いた立ち位置である事も影響しているし、 何事も一生懸命でいざという時に何も出来ない自分の無力さを悔い、何とかしようとする姿勢や誰にでも優しい性格は、 ハルヒや長門などと比べ女性読者にウケはいいようだ(『超月刊みくる』より)。 + 「黒みくる」 そのため…という訳ではないだろうが、二次創作作品では、 キャラ立ての意味もあってか、「普段の言動は全て演技である」として、 本当は腹黒い性格をした人物(通称「黒みくる」)としてみくるを扱う事がほとんど。 元々『涼宮ハルヒの憂鬱』には腹黒キャラや不良生徒が存在しないため、 ニコニコ等の二次創作でみくるがヤンデレやDQNとして書かれる事が多々あり、声優ネタとよくコメントされる (ただし、アニメ化されてない所まで話が進むと腹黒不良生徒会長や胡散臭い未来人は出てくる。どっちも男だけど) 。 これの詳細は後述のゴットゥーザ様、つまりアニメでの彼女の声優の項に詳しい。 ちなみに公式二次創作「にょろーん ちゅるやさん」のアニメ版では中の人自ら「黒みくる」を演じるという事態になった。 …ってか、これもうみくるじゃなくて中の人じゃんというのが大方(ファンだけではなく、スタッフからも)の意見。 いくら公式とはいえ(又は二次創作だからって)これはやりすぎだと原作(特にみくるの)ファンからの批判は少なくない。 ただ、「ちゅるやさん」版のみくるは原作とのキャラがかなり異なる(他のメンバーもそうだが、みくるは特にキャラの変化が激しい)ので仕方ない。 仮に下記の台詞を通常のみくるの演技で言おうものなら違和感バリバリであろう。 「やあ、みくるみくる、スモークチーズの作り方とかわかるかい?」 「ググれ。」 また、公式二次創作『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』OPテーマ「今までのあらすじ」では、 途中のキョンの台詞に「朝比奈さん!鍋はやめて、空鍋は!」というものがあったりする。 元ネタは同じく後藤女史が担当したヤンデレ代表格アニメ版『SHUFFLE!』の芙蓉楓。 さらに終盤、今までみくるとして歌っていたはずが、明らかに中の人化している所がある。 まぁ、その部分の歌詞が「中の人の辛さ考えて!」というのもあるが。 実の所、いつものか細い演技から急にテンション変えてキャラ崩壊させてる長門=茅原女史も相当だが なお、この部分は後藤女史曰く、「そういう歌詞なのでアドリブで演技替えたら、スタッフにもっとやれと言われた」そうである (なので、この直後のキョンの「す、素に戻ってる!」は杉田智和氏のアドリブか、後から追加された台詞と思われる)。 実はアニメ版『ハルヒちゃん』本編でも長門のコスプレ趣味を知った際、明らかに他の場面に比べて声が低くなってたりする。 …原作版『ハルヒちゃん』で暴走しまくった朝比奈さん(大)がアニメに出ていたらどうなっていたか、気になる所である。 もちろんこの中の人というのも、 後藤女史の趣味や過去から連想される性格の断片を、製作者や一部のファンが悪ノリして誇張しているに過ぎない。 確かに原作でも、秘密のプロフィールを持つ以上どこかに演技はあるのだが、 性格から何からなにまでが全て作り物だと感じさせる描写もまたされてはいない。 実際に古泉一樹から「自分と違って性格を偽らずにすむ朝比奈さんが羨ましい」と言われている。 もちろん二次創作においても、原作準拠ないしみくるメインであればまともなお姉さんキャラとして描かれる。 ちなみに、未来人が過去に影響を与えるだけで矛盾が発生する事になるが、一巻では過去と未来は別の世界と説明されている。 つまり、みくるのいた時代はキョン達にとっての現在と地続きではないという事。長門曰く「時間と空間は同じ」。 作中でもタイムパラドックスや理解しがたい事柄が度々出てくるが、 それをキョンがみくるに尋ねると上記の「禁則事項です」で返されるのがお約束だったのだが、 七巻にてそれなりの地位に就き、規制もかなり緩くなっているというみくる(大)にキョンが質問した所、 返ってきた答えが「未来は固定されていない」だった。 過去は常に変化し続け自分達の歴史に必ずしも到達しない。つまりパラレルワールドが存在するという事。 上述の通り、過去と未来は別の世界なので本来は問題ないのだが、ここで問題になってくるのがハルヒである。 未来人達の考えでは世界は元々宇宙人や超能力者、未来の世界が存在するものであってハルヒによって作られたのではないという (古泉の機関では、世界は三年前にハルヒによって一から作られたという説が有力なものの一つである)。 だが、それが絶対だと言い切れない。 もし自分達の歴史がハルヒの「未来人に会いたい」という願いによって作られたものだったとしたら、 全ての時間の中心はハルヒという事になり、自分達が存在出来るのはハルヒにとっての未来でいられる場合のみという事になってしまい、 ハルヒの時間が自分達の歴史と異なる方向に進んだ場合、別の時間軸によって未来が上書きされ、無かった事にされてしまう。 そのため、神に等しい能力を持つハルヒの存在する過去を自分達の未来と同じ道を歩ませるために、みくるは送られてきたのだという。 それまでみくる(大)に利用されていると分かっていながらも正しい未来のためと協力してきたキョンだったが、 この話を聞いて、つまり未来人達の都合で自分達の歴史を操作されているのだと知り、本当にそれでいいのかと疑問を持つ事になった。 後の展開では、みくる達とは別の可能性から来た未来人が敵として登場しており、 この未来人達にとっての「既定事項」即ち歴史的事実がみくる達にとっては不測の事態であり、防がなければならない歴史だった。 スピンオフ作品の『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』では弄られ度が増しており、 ハルヒだけでなく時と場合によっては鶴屋さんやキョンの妹にまでも弄られたりしている。 また、テレビショッピングではほとんど無意味かつ高価な商品を簡単に購入してしまったり、 ハルヒなどが適当に作った話を真面目に信じてしまうなど、やや頭が弱い一面がある。 また、メイドに関してかなりの拘りがある。どれくらいかというと森さんをメイドとして尊敬していたり、 ハルヒと接点が無いはずの消失世界ですら書初めに素で「未来(みくる)」「メイド」と書くほど(そのため鶴屋さんに将来を心配されていた)。 ちなみに、キョンがハルヒと意気投合したりテンションが低い時は基本的に助けてくれる人がいなくなる。 さらにタイムトラベルに関しても「みくるスリーパーホールド」なる技を発動中に可能になるらしく (但しこの回はあらすじ自体が適当であり、みくる本人も「みくるスリーパーホールドってなんですかぁ!?」と言っている)、 その後登場した朝比奈さん(大)からは正体がばれないように(と自身の登場インパクトを上げるために)、 昏倒するほどの攻撃(通算三回気絶させられた)を食らうなど谷口並みに不幸属性が付いている。 ただ、本質的には朝比奈さん(大)と同一人物という事から、上司スキルを持っており、長門がメイド漫画を描いた際に発揮された。 なお、原作では長門の事が苦手だが、『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』ではキョンと古泉ほど顕著ではないものの、 特に苦手としている描写は無く、仲良く行動を共にしている事が多い。 また一時期コスプレキャラとしてのライバル心も持っていたが、早々に完全敗北したせいか最近では対抗していない。 忘れられた設定かと思われていたが、5巻での朝比奈さん(大)の主役話において、彼女が長門を苦手としている事が描写された。 この話で、朝比奈さん(大)は過去のみくるが「何も出来なかった自分が嫌だったから変わった」と、 過去の自分(メイドとかドジっ子とか)を全否定したが、長門の「私は萌えていた」「ドジっ子は素晴らしい」の言葉で墜ちた。 MUGENにおける朝比奈みくる CCI氏が製作したものと、minoo氏が製作したものの2種類が存在。 この内CCI氏のみくるは「ゴットゥーザ様」*2と呼ばれ、出番も多い。 + CCI氏製作 CCI氏製作 『痛快GANGAN行進曲』のキサラ・ウェストフィールド(『NBC』のものに非ず)をベースとしており、 他のハルヒ勢と比べると、とても味のある姿をしている。 通称は「ゴットゥーザ様」「GODゥーザ様」「中の人」「あのみくる」「むきる(由来は「ムキムキ」だから)」等。 目からどう形容しても殺人光線としか言えないレーザーや、既に目からとか言う問題ではない程太い「スーパーみくるビーム」を発射したり、 どこからともなくカラシニコフを出して「人に向けてはいけませ~ん!」と言いつつ射殺する気で撃ってきたり、 レッグトマホークしたり、ストライカーメンバーの古泉が「ふんもっふ」したり、通常投げで画面外からハルヒがドロップキックで飛んできたり、 駆け寄って相手を掴んだと思いきや画面外からハルヒが登場し暗転後ボコる「瞬ハルヒ殺」(KOしなくても背景に「SOS」の字が浮かぶ)など、 多彩な技を持っている。 余談だが、特定カラー時限定でパワー溜めの際に巨大なエフェクトが発せられ、ゲージ上昇速度が飛躍的にアップする。 また、そのカラーの場合「瞬ハルヒ殺」の際に出てくるキョンの姿がくたびれたサラリーマンにしか見えない。 + minoo氏製作 minoo氏製作 こちらのみくるは『MELTY BLOOD』の弓塚さつきやその周辺キャラをベースとしており、 そのおどおどした動作やみくるビームは中々再現率が高いが、こちらもたまにゴットゥーザ様と呼ばれてしまう。 ネタに走る気が無いなら、上記のゴットゥーザ様よりもこちらを使った方が無難と思われる。 出場大会 最弱女王決定戦 第4回トーナメント AI付きシングル戦 ドキッ!女だらけのMUGEN大会 仲良し杯 Anime VS. トーナメント ヨーコ参戦記念杯4on4 続・狂-1 グランプリ デスマッチ・トーナメント【ヨコハマ杯】 ゲージMAXタッグトーナメント【ゲジマユ2】 夢幻界統一トーナメント【実況】 はい、○人組作って運動会 ゲージMAXシングルトーナメント【Finalゲジマユ】 オリキャラ&版権キャラでタッグトーナメント ラノベっぽい何かでタッグトーナメント ラノベシングルトーナメント メイドさんを集めてトーナメント 画質良くないけど、夏だから女64名あちゅまれ☆トーナメント 巨乳あちゅまれ☆ミラクルたゆん♪トーナメント 紙~論外クラス総勢1800人でランセレ大会 手書きキャラonlyトーナメント ニコニコRPGMUGEN杯 ランダムカラー シングル&タッグ戦 史上最大級 MUGEN界 男性連合軍VS女性連合軍 第5回 4人タッグVSボス 大会 真・最終章 MUGEN界 男性連合軍VS女性連合軍2 MUGEN∞動画新作トーナメント パイズリ 削除済み 平凡な対戦格闘をgdgdとやるトーナメント ヒロインズトーナメント 卯の陣 更新停止中 声優別タッグチームランセレバトルロワイヤル 出演ストーリー ELEVEN~小心者リーダーと見た目お嬢様~(minoo氏製) アリスさん姉妹(minoo氏製) アリスさん姉妹・R(minoo氏製) 彼岸日和 涼宮ハルヒによるMUGEN地獄(minoo氏製) SOS団と3人の姫君 *1 キョンやハルヒはみくるを「見た目は中学生のようだ」と称しているが、実際に中学生の年齢である可能性もある。 後述する朝比奈さん(大)との身長の伸び幅を考慮すれば、その可能性はかなり高い(女性の身長は遅くても一般的に15~16歳で成長が止まる)。 お前のような巨乳中学生がいるか! つまり、もしかしたら先輩ではなく同級生か、後輩あるいは謎の転校生として登場する可能性だってあったのだ。 *2 + ゴットゥーザ様とは… ゴットゥーザ様とはCCI氏が製作した朝比奈みくるの俗称であり、中の人ネタでこう呼ばれる。 以下にこの呼称の語源となったゴトゥーザ様、及びゴットゥーザ様について記述する。 ゴトゥーザ様 朝比奈みくるの担当声優、後藤邑子女史のあだ名。 その脱力系の萌えボイスに反して、本人が北斗の拳好き、うわばみである等、 数々の豪傑伝説から 杉田智和 氏(キョンの中の人)に命名された。 「ゴトゥーザ様」と、「様」までで一つのあだ名である。 ご本人は当初は様付けである事に恐縮していたらしいが、その後は「様付けしなかったファンにイラっときた」と思ってしまうくらい馴染んだらしい。 フィンランドのアニメファンにまで「ゴトゥーザ様」で浸透していた事には、「杉田君ありがとう!」とラジオで感謝の意を表していた (杉田智和氏はその場にいなかったが)。 その武勇伝は アンサイクロペディア があながち冗談に思えないほどで、かなりの量になる。 興味のある方はそちらをご覧になって貰えるといいだろう。 ゴットゥーザ様 その「ゴトゥーザ様」が『らき☆すた』で暴れ回った時の名義が「ゴットゥーザ様」である。 特攻服にマスク、木刀装備で「ぱらりらぱらりら」と口で言いつつ、同番組内のコーナー「らっきー☆ちゃんねる」に、 白石みのると小神あきらの仲裁役として参戦。仲裁を終えた後はスタジオを破壊しつつ去っていった。 「ぱらりらぱらりら」は忘れずに。 白石同様、原作には登場しないアニメ版のみのオリジナルキャラ。 無論、こういうキャラになったのは中の人の来歴の一部を抜粋し誇張した結果からである。 これ以降、「後藤邑子(と、彼女が演じるキャラ)=腹黒キャラ」の図式が一部の『ハルヒ』及び『らき☆すた』ファンの間に定着する事になり、 みくるがニコニコ動画をはじめとする二次創作で腹黒だったりヤンデレだったりするのも、ハルヒ本編より寧ろこの『らき☆すた』とか、 あとはアニメ版『SHUFFLE!』の芙蓉楓や『ナイトウィザード The Animation』の蝿の女王ベール=ゼファーとかの影響も……おや誰か(ry ……他のアニメ版オリジナル要素同様賛否両論であった事は言うまでもない。 しかし、(少なくともみくるには)原作・アニメ共にそういった黒い部分を連想させる描写は見られないため、 古泉のガチホモと同様にあくまでも二次創作でのネタである。 CCI氏作のみくるは、ボイス以外は正にこのゴットゥーザ様のような豪快なキャラであり、 そこからこの呼び名が定着したものと思われる。 だが、別に豪快でもなんでもないminoo氏作のみくるもたまにゴットゥーザ様と呼ばれる事があるのは、 やはりそういう認識を植え付けられてしまった(悪い意味での)声優補正と言える。 + 以下余談 余談となるが、以下に『らき☆すた』における『ハルヒ』勢と担当声優の扱われ方を記しておく。 キャラクターの登場 ハルヒ コーラのCMに出演。みくる以上の巨乳だった。 長門 コスプレ喫茶の店員。 キョン コスプレ喫茶の客。なお、長門とキョンは別番組だと言うのに予告まで担当した。 みくる 背景(台詞無し) 古泉 背景すら無し 声優達が『らき☆すた』で演じたキャラ 平野 泉こなた 茅原 岩崎みなみ 杉田 杉田店員 後藤 無し 小野 無し 本人のゲスト出演 平野 ライブコンサート(ただし、声は歌っている場面なので実質収録なし) 茅原 コミケで握手会 杉田 ある意味杉田店員自体 後藤 突然スタジオに乱入 小野 らっきーちゃんねるのゲスト(ちょっとイヤミな役だが2回にわたって登場) ハレ晴レユカイでの出番 平野 ハルヒ→こなた(中の人は同じ) 茅原 長門→長門店員(当然ながら中の人は同じ) 後藤 みくる→パティ(中の人が違う) 実に作為めいたものを感じざるを得ない。 実際の所、後藤邑子女史は『らき☆すた』放映年の2007年1月頃から喉の調子が悪く、 薬を服用するも一向に調子が元に戻らず、同年4月頃に短期休養に入った影響で4月期開始の出演作は少ない (後藤女史は2010年にも喉の手術のために数ヶ月ほど休養している)。 恐らく『らき☆すた』での出番の少なさはこれに起因するものであろう。 あと、見てもらえれば分かるが、小野大輔氏も後藤女史ほどのインパクトは与えなかったものの、 残る杉田氏の出演回数を考えれば、立場的には似たようなもんである。 まぁ、小野氏はラジオにもゲスト出演してるが……。 + 実は…… 実は後藤女史はアニメ化前に発売されたドラマCDにて「峰岸あやの」役として出演していた。 しかし、アニメ化に伴いキャストが総入れ替えとなり(無論あやのも例外ではなかった)、 しかも彼女以外の旧キャストは全く出番無し。 むしろ旧キャスト関係無しにここまでハルヒネタやって彼女の出番が無い方がおかしいが。 この手のメディアミックスではよくある事で、その点でアニメに出られた彼女はまだいい方なのかもしれない……。 ちなみに、そのドラマCDでの柊つかさ役の声優が竜宮レナと同じ人だったためにひぐらしネタが使われる事もあるが、 黒みくるほど多くはない。
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姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』もあります。 ====== 『みくるの湯』 台風の季節が過ぎ、本格的な秋を迎えると、さすがに朝夕の寒さが身にしみるようになってきた。怒涛の文化祭やらコンピ研とのインチキ宇宙艦隊対戦でドタバタした去年に比べて、今年の秋は至って平和だ。 放課後の部室も、すっかりやわらかくなった秋の日差しが差し込んでいるが、あと一ヶ月もすると、ハルヒが大森電器店からせしめてきたストーブが活躍することになるだろう。 そんな部室にいるのは、朝比奈さんと長門、そして俺の三人、ハルヒは掃除当番であり、古泉はホームルームでも長引いているのかも知れない。また今日もまったりとした午後のひと時の始まりである。 「お茶です、どうぞ」 「ありがとうございます」 熱いお茶が美味しい季節を迎えたわけだが、朝比奈さんのお茶は季節に関わらず美味しいわけで、俺は、そんな至福の時を堪能することができる幸せをしみじみと感じている。 「すっかり秋になりましたね」 読書中の長門の前にも湯飲みを置いた後、俺の隣の席に腰を下ろした小柄なメイドさんは、俺の目を覗き込むように話しかけてくれる。いやぁ、いつも見ても愛らしい上級生です。 「ええ、今日のように昼間は暖かい日でも、夜は結構寒くなってきましたから」 両手で包み込んでいる湯のみの暖かさが手のひらいっぱいに感じられる。 「朝比奈さん、一人暮らしですよね。風邪とか、大丈夫ですか」 「ええ、大丈夫です。ありがとう、キョンくん」 にっこり笑って、小さく肯いてくれる朝比奈さん。やっぱりかわいい! もし本当に風邪でもお召しになったら、看病に馳せ参じますよ。 「そろそろ温泉とか恋しい季節ですよねー」 「朝比奈さん、温泉好きなんですか?」 「えぇ、あんまり行く機会はないのですけど。テレビとかで見ていると、すっごく気持ちよさそうなので、また一度、ゆっくりと行ってみたいなって」 「温泉ですか、いいですね」 朝比奈さんと一緒に湯船に入ることができたらどれほどいいだろうか。せめて足湯だけでも……。そうか、うん、そうだな……。 「行きましょうか、どこかの温泉……」 「えっ?」 「一緒に……」 足湯でも、と言おうとすると、朝比奈さんは急に真っ赤になって、 「い、いっしょはダメです、そ、そんな、男の人と一緒に温泉に入るなんて……」 「は?」 えっと、俺は別に、そんなつもりは……、確かに少しはありますが……。 朝比奈さん、そんなに真っ赤になって俯かれると、俺、なんかとてつもなく悪いことをしたみたいで……。 「別に混浴でなくていいですよ、朝比奈さん」 朝比奈さんは少し顔を上げた。 「普通に温泉へ、SOS団のみんなでね、行こうかって。で、足湯ぐらいなら一緒に入れますけど」 「あ、あたし……」 結局、早とちりに気づいた朝比奈さんは、また赤くなって俯いてしまった。 うーん、どんな表情でも絵になる人だ。 「ハルヒが来たら、話してみましょうか、今度、温泉イベントでもやろうぜ、って」 「はい」 「長門も行くか? 温泉」 窓辺の寡黙なアンドロイドは、いつものように小さくうなずいた。 「へぇー、温泉ね、いいんじゃない? キョン、あんたもたまにはいい提案するのね」 「いや、俺じゃない。朝比奈さんが行ってみたいそうだ」 「みくるちゃん? そうなの?」 団長席のハルヒが、急須のお茶っぱを入れ替えている朝比奈さんの後姿に話しかけると、 「はい、そうなんです。テレビで見て行ってみたいなぁって。足湯だけでもいいですし」 振り返った朝比奈さんは、俺のほうをチラッと見てから答えた。 「うん、面白そうね。じゃあ早速、今度の土曜日にでも行こうか。いいわね、キョン」 「ん、俺は別に構わないぜ」 俺と朝比奈さんはもちろんOKだし、長門と古泉が拒否するはずもない。 「ホントは一泊ぐらいしたいところだけど、足湯程度なら日帰りでも行けるしね」 カチューシャを揺らしたハルヒは、満足げにうなずいている。 「適当なところを探しておきましょうか?」 「そうね、古泉くん、お願いね」 そして週末になった。俺たちは電車を乗り継いで山の向こう側にある温泉街にやって来た。ここは大きな旅館やホテルなどが立ち並ぶ有名な温泉地だが、古泉のリサーチによると、最近の流行として足湯場なども整備されているらしい。 ありもしない不思議を求めて街中を彷徨っているより、目的を持ってこうしてお出かけするほうが何倍もマシだ。また今度も何かお出かけネタを用意しておくとするか。 「じゃ、入るわよー」 ハルヒの号令のもと、俺たちSOS団ご一行は足湯場に近づいていった。 温泉街の真ん中辺り、四本柱に支えられたちょっと古風な瓦屋根の下、十人ぐらいが腰をおろせそうな場所に、先客のおばちゃん達が三人ほど足を暖めていた。ヒノキで作られた足湯用の湯船からは湯気がふんわりと漂っている。 そのおばちゃん達の反対側には誰もいなかったので、俺たちが入るスペースは十分にあった。混んでなくてよかった。 早速、ショートブーツとニーハイソックスを脱ぎかけているハルヒは、朝比奈さんに向かって、 「みくるちゃん、あんたその格好でどうするつもりなの?」 「え、あ、あっ?」 あらためて朝比奈さんの姿を見てみると、暖かそうなニットのワンピに、これまた暖かそうな黒いタイツをはいている。どう見ても足湯に適した格好とは言え ない。ついでに言うと、長門はいつもの制服に紺のソックス姿なので、すでに素足になって足湯に入ろうとしているところだった。 「あたし、明日は足湯に行くからね、って言っといたわよね、みくるちゃん」 「は、はい。涼宮さん」 朝比奈さんは、胸の前に両手を合わせて、ハルヒの次の言葉を待っている。 「そもそも、みくるちゃんが行きたいって言ってたから来たのに、もう、仕方ないわねー」 そこでニヤッと笑みを浮かべたハルヒは、 「ほら脱がしてあげるから、こっち来なさい」 と、言うや否や朝比奈さんの膝元にまきつくと、スカートの中に手を突っ込み、タイツを脱がそうとしはじめた。 「い、いや、涼宮さん、ちょ、ちょっとここでは、やめてくださぁぃ」 「何いってんの、あたしが手伝ってあげるから、ほら、ほら、ほら!」 小悪魔ハルヒに取り付かれた朝比奈さんは必死でスカートのすそを押さえている。それでも黒いタイツの上のほうまでチラチラ見えてしまうのをついつい注視していたが、やっと我に返って、俺はハルヒと朝比奈さんの間に割り込んだ。 「こら、ハルヒ、もうやめとけって」 「なによ、キョン、足湯を楽しむならタイツ脱がないと……」 「ここで脱がなくても、ほら、あっちに脱衣場みたいなのがあるから、そこに行けばいいだろ」 やっとのことでハルヒを引き剥がした俺は、朝比奈さんに振り返って、 「朝比奈さん、ほら、今のうちにあっちへ行ってください」 「す、すみません、キョンくん、涼宮さん」 そう言って駆け出した朝比奈さんは、途中で一回振り返ると、小さくペコリとお辞儀をして脱衣所らしき建物に消えていった。 「ほんと、みくるちゃん、ドジっ娘なんだから」 俺と並んで朝比奈さんを見送ったハルヒは、そう言いながら、すでに足湯を堪能しながら文庫本を読んでいる長門の隣に座って、とぽんと両足をお湯につけた。 「うーん、気持ちいいわねー。あったまるわぁ」 やれやれ、と一つ溜息をついて、俺も靴と靴下を脱ぎ、ズボンをひざの上までたくし上げた。何かをする前には必ずひと騒動起こさないと気がすまないらしい、あの爆弾女は……。 「涼宮さんにとっては、朝比奈さんはまさに理想のドジっ娘さんなんですね」 同じように足湯準備を整えた古泉の言葉を聴きながら、俺はハルヒや長門と少し離れた場所に古泉と並んで腰を下ろした。朝比奈さんの持つさまざまな属性の ひとつに、ドジっ娘があることは、俺も認めざるを得ない。それは、ハルヒが望んだものであることも、おそらくは確かなんだろう。 「それはそうかも知れないが、さっきのはやりすぎだぜ」 「ええ、そうですね。でも、それも涼宮さんらしいじゃないですか」 「なんでもかんでも、『涼宮さんらしい』で片付けるんじゃない」 「あははは、すみません」 そうこうしているうちに素足になった朝比奈さんが脱衣所から戻って来た。さっきのタイツ姿と比べると白い生足が寒そうに見える。 「ほらほら、みくるちゃん、こっちこっち、早く来て温まりなさい。見ているだけで寒そうだわ、その足」 ハルヒも俺と同じ感想を持ったらしく、手招きして朝比奈さんを迎え入れた。 朝比奈さんは、「すみません」とひとこと言うと、ハルヒの隣にゆっくりを腰を下ろし、 「ふわぁー、やっぱり気持ちいいですぅ」 そろえた膝の上に両手を乗せて、少し遠くの空を見上げながら、朝比奈さんは、ふぅーっと大きく息を吐いた。 「でしょ? 足湯はね、冷え性にもいいのよ。みくるちゃんはどう?」 「えっ、ひえしょう!? 何ですかそれ?」 「ん?」 パタパタさせていた足をふと止めるハルヒ。 「冷え性。冷えやすい体質。血液の循環のよくない身体。特に足・腰などの冷える女性の体質」 突然長門の声が聞こえてきた。こいつは電子辞書か? いや、まぁ、確かにそうかもしれないが。 再び読書に戻った有機アンドロイドによる定義を聞いた朝比奈さんは少し慌てた様に二・三回うなずいて、 「あ、その冷え性ですか、そうですね、たぶんそうです」 「じゃあ、ゆっくりと温まりましょ」 「はい」 朝比奈さん、そんなに冷え性でお困りなら俺が温めてあげますよ。いや、それより、未来には冷え性って言葉はないんでしょうか、 なんてことを思い浮かべながら朝比奈さんたちの会話を聞いていたが、すぐにハルヒに突っ込まれてしまった。 「ちょっとキョン、また顔がエロくなってるわよ」 「くっ、ほっとけ」 しばらくの間足湯を堪能させてもらったが、ハルヒは、 「うーん、やっぱりここまできたら露天風呂にも入りたいわね」 といって、古泉を連れてロケハンに行ってしまった。 このロケハン、最初は俺が指名されたのだが、俺がごねていると古泉が、 「僕の知り合いが経営している旅館が少し向こうにありますので、そこをあたってみましょうか」 と申し出てくれたので、俺はハルヒのお供を免除された。それにしても、どこへ行っても機関の関係する施設があるんだな。おかげで俺は、朝比奈さんと長門とともに、今しばらくの間、足湯でほっこりさせてもらうことができたわけだ。ありがとう、機関よ。 「足だけなんですけど、全身がぽかぽかする感じがしますね」 ハルヒの抜けたあとに席を移して、俺は隣に座っている素足のマイエンジェルに話しかけた。 「え、ええ、そうですね」 にっこり微笑む朝比奈さんは相変わらず天使そのものだ。だが、その笑みに中にほんの少しの曇りがあるのがわかった。おや、どうしたのだろう。 ふぅ、と肩で大きく息をした朝比奈さんは、お湯の中の足先を見つめるようにゆっくりと話し出した。 「今日は、ちょっと息抜きができてよかったんですけど、明日からまた受験勉強を……」 そうだ、そうなんだ、朝比奈さんは三年生、受験生だったんだ。すっかり忘れていた、というか、毎日のように放課後の部室でメイド姿でいらっしゃるものだから、俺は朝比奈さんが受験生であることをまったく意識することもなかった。 「だ、大丈夫なんですか、あ、いや、すみません」 何か、少し失礼なことを言ってしまったような気がして、俺はすぐに取りつくろうとした。 「いいんです、本当にあんまり大丈夫じゃないから……」 ますます力なく微笑む朝比奈さん。 「上のほうからの指令で、受験する大学を二つ三つほど指定されているんですけど、どこも、あの、ちょっとレベルが、少し足りないようで……もっと勉強しないといけないんですけど」 「は、はぁ」 そんなことまで指定されているのか。朝比奈さんも大変だ。 たぶん、上のほう、というのは朝比奈さん(大)のことだろう。朝比奈さん(大)も自分自身のことなんだから、この先どうなるかはわかっているはず……、いや、ということは、指定された受験校のどこかに滑り込むことは既定事項なのかもしれない。 「でも、朝比奈さん、その指令に従うと、指定された大学に合格するってことではないんですか。大学合格は既定事項とか」 「それが、一概には言えないそうなんです。わたしの出来次第で合否はどうにでも変化するそうです。だから、未来の流れを守るためには、とにかく努力して合格しないといけないのです」 「そ、そんな……」 「時間の流れはさまざまな要素が絡み合って、決して一本道ではないんです。だからこそ、わたしがこの時間に派遣されているわけで……」 「そうなのか、長門?」 俺は不安で一杯の未来人さん越しに、万能宇宙人に尋ねてみた。 文庫本から顔を上げた長門は、背筋をピシッと延ばしまっすぐ前を見つめたまま、淡々と答えた。 「時間流の制御は非常に難しいもの。ある一時点でのわずかな揺らぎが後に大きな影響の遠因となることも考えられる」 バタフライ効果か。 確かにどこか地の果ての蝶の羽ばたきひとつと比べると、朝比奈さんの受験結果がハルヒを含む時間の流れに対して与える影響は大きくなりそうだ。そのためには、こんなところでぬくぬくしている暇はないのかも知れない。 それにしても未来人組織も酷な事をする。 その気になれば、問題と解答が印刷された冊子を、未来の朝比奈さん(大)が届けてくれることも可能だろうに、あえて試練を目の前にいるいたいけな一連絡員に与えるとは。 「でも、わたしがんばります。だからきっと、どこか合格できますよね」 「朝比奈さんなら大丈夫ですよ」 「ありがとう、キョンくん」 けなげに微笑む朝比奈さんに俺はそう言って励ますしかなかった。 「今日はこうやってリフレッシュもできましたから……」 朝比奈さんは少し後ろに手をついて体をそらすと、目を細めて遠くの空を見上げた。 そうですよ、努力家の朝比奈さんならきっと合格できます。ハルヒや俺達の未来を間違いのないように導いてくれるはずです。 「ちょっと、何をいつまでまったりしてるのよ、露天風呂、行くわよー」 その時、遠くからハルヒの声が響いてきた。どうやら機関直営高級旅館の露天風呂に案内してもらえることを確約してきたらしい。 ということで、朝比奈さんの息抜きは、少なくとも今日一日は続くことが確定した。 とにかくがんばってください、朝比奈さん。 Fin.
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姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』もあります。 ====== 『みくるの湯』 台風の季節が過ぎ、本格的な秋を迎えると、さすがに朝夕の寒さが身にしみるようになってきた。怒涛の文化祭やらコンピ研とのインチキ宇宙艦隊対戦でドタバタした去年に比べて、今年の秋は至って平和だ。 放課後の部室も、すっかりやわらかくなった秋の日差しが差し込んでいるが、あと一ヶ月もすると、ハルヒが大森電器店からせしめてきたストーブが活躍することになるだろう。 そんな部室にいるのは、朝比奈さんと長門、そして俺の三人、ハルヒは掃除当番であり、古泉はホームルームでも長引いているのかも知れない。また今日もまったりとした午後のひと時の始まりである。 「お茶です、どうぞ」 「ありがとうございます」 熱いお茶が美味しい季節を迎えたわけだが、朝比奈さんのお茶は季節に関わらず美味しいわけで、俺は、そんな至福の時を堪能することができる幸せをしみじみと感じている。 「すっかり秋になりましたね」 読書中の長門の前にも湯飲みを置いた後、俺の隣の席に腰を下ろした小柄なメイドさんは、俺の目を覗き込むように話しかけてくれる。いやぁ、いつも見ても愛らしい上級生です。 「ええ、今日のように昼間は暖かい日でも、夜は結構寒くなってきましたから」 両手で包み込んでいる湯のみの暖かさが手のひらいっぱいに感じられる。 「朝比奈さん、一人暮らしですよね。風邪とか、大丈夫ですか」 「ええ、大丈夫です。ありがとう、キョンくん」 にっこり笑って、小さく肯いてくれる朝比奈さん。やっぱりかわいい! もし本当に風邪でもお召しになったら、看病に馳せ参じますよ。 「そろそろ温泉とか恋しい季節ですよねー」 「朝比奈さん、温泉好きなんですか?」 「えぇ、あんまり行く機会はないのですけど。テレビとかで見ていると、すっごく気持ちよさそうなので、また一度、ゆっくりと行ってみたいなって」 「温泉ですか、いいですね」 朝比奈さんと一緒に湯船に入ることができたらどれほどいいだろうか。せめて足湯だけでも……。そうか、うん、そうだな……。 「行きましょうか、どこかの温泉……」 「えっ?」 「一緒に……」 足湯でも、と言おうとすると、朝比奈さんは急に真っ赤になって、 「い、いっしょはダメです、そ、そんな、男の人と一緒に温泉に入るなんて……」 「は?」 えっと、俺は別に、そんなつもりは……、確かに少しはありますが……。 朝比奈さん、そんなに真っ赤になって俯かれると、俺、なんかとてつもなく悪いことをしたみたいで……。 「別に混浴でなくていいですよ、朝比奈さん」 朝比奈さんは少し顔を上げた。 「普通に温泉へ、SOS団のみんなでね、行こうかって。で、足湯ぐらいなら一緒に入れますけど」 「あ、あたし……」 結局、早とちりに気づいた朝比奈さんは、また赤くなって俯いてしまった。 うーん、どんな表情でも絵になる人だ。 「ハルヒが来たら、話してみましょうか、今度、温泉イベントでもやろうぜ、って」 「はい」 「長門も行くか? 温泉」 窓辺の寡黙なアンドロイドは、いつものように小さくうなずいた。 「へぇー、温泉ね、いいんじゃない? キョン、あんたもたまにはいい提案するのね」 「いや、俺じゃない。朝比奈さんが行ってみたいそうだ」 「みくるちゃん? そうなの?」 団長席のハルヒが、急須のお茶っぱを入れ替えている朝比奈さんの後姿に話しかけると、 「はい、そうなんです。テレビで見て行ってみたいなぁって。足湯だけでもいいですし」 振り返った朝比奈さんは、俺のほうをチラッと見てから答えた。 「うん、面白そうね。じゃあ早速、今度の土曜日にでも行こうか。いいわね、キョン」 「ん、俺は別に構わないぜ」 俺と朝比奈さんはもちろんOKだし、長門と古泉が拒否するはずもない。 「ホントは一泊ぐらいしたいところだけど、足湯程度なら日帰りでも行けるしね」 カチューシャを揺らしたハルヒは、満足げにうなずいている。 「適当なところを探しておきましょうか?」 「そうね、古泉くん、お願いね」 そして週末になった。俺たちは電車を乗り継いで山の向こう側にある温泉街にやって来た。ここは大きな旅館やホテルなどが立ち並ぶ有名な温泉地だが、古泉のリサーチによると、最近の流行として足湯場なども整備されているらしい。 ありもしない不思議を求めて街中を彷徨っているより、目的を持ってこうしてお出かけするほうが何倍もマシだ。また今度も何かお出かけネタを用意しておくとするか。 「じゃ、入るわよー」 ハルヒの号令のもと、俺たちSOS団ご一行は足湯場に近づいていった。 温泉街の真ん中辺り、四本柱に支えられたちょっと古風な瓦屋根の下、十人ぐらいが腰をおろせそうな場所に、先客のおばちゃん達が三人ほど足を暖めていた。ヒノキで作られた足湯用の湯船からは湯気がふんわりと漂っている。 そのおばちゃん達の反対側には誰もいなかったので、俺たちが入るスペースは十分にあった。混んでなくてよかった。 早速、ショートブーツとニーハイソックスを脱ぎかけているハルヒは、朝比奈さんに向かって、 「みくるちゃん、あんたその格好でどうするつもりなの?」 「え、あ、あっ?」 あらためて朝比奈さんの姿を見てみると、暖かそうなニットのワンピに、これまた暖かそうな黒いタイツをはいている。どう見ても足湯に適した格好とは言え ない。ついでに言うと、長門はいつもの制服に紺のソックス姿なので、すでに素足になって足湯に入ろうとしているところだった。 「あたし、明日は足湯に行くからね、って言っといたわよね、みくるちゃん」 「は、はい。涼宮さん」 朝比奈さんは、胸の前に両手を合わせて、ハルヒの次の言葉を待っている。 「そもそも、みくるちゃんが行きたいって言ってたから来たのに、もう、仕方ないわねー」 そこでニヤッと笑みを浮かべたハルヒは、 「ほら脱がしてあげるから、こっち来なさい」 と、言うや否や朝比奈さんの膝元にまきつくと、スカートの中に手を突っ込み、タイツを脱がそうとしはじめた。 「い、いや、涼宮さん、ちょ、ちょっとここでは、やめてくださぁぃ」 「何いってんの、あたしが手伝ってあげるから、ほら、ほら、ほら!」 小悪魔ハルヒに取り付かれた朝比奈さんは必死でスカートのすそを押さえている。それでも黒いタイツの上のほうまでチラチラ見えてしまうのをついつい注視していたが、やっと我に返って、俺はハルヒと朝比奈さんの間に割り込んだ。 「こら、ハルヒ、もうやめとけって」 「なによ、キョン、足湯を楽しむならタイツ脱がないと……」 「ここで脱がなくても、ほら、あっちに脱衣場みたいなのがあるから、そこに行けばいいだろ」 やっとのことでハルヒを引き剥がした俺は、朝比奈さんに振り返って、 「朝比奈さん、ほら、今のうちにあっちへ行ってください」 「す、すみません、キョンくん、涼宮さん」 そう言って駆け出した朝比奈さんは、途中で一回振り返ると、小さくペコリとお辞儀をして脱衣所らしき建物に消えていった。 「ほんと、みくるちゃん、ドジっ娘なんだから」 俺と並んで朝比奈さんを見送ったハルヒは、そう言いながら、すでに足湯を堪能しながら文庫本を読んでいる長門の隣に座って、とぽんと両足をお湯につけた。 「うーん、気持ちいいわねー。あったまるわぁ」 やれやれ、と一つ溜息をついて、俺も靴と靴下を脱ぎ、ズボンをひざの上までたくし上げた。何かをする前には必ずひと騒動起こさないと気がすまないらしい、あの爆弾女は……。 「涼宮さんにとっては、朝比奈さんはまさに理想のドジっ娘さんなんですね」 同じように足湯準備を整えた古泉の言葉を聴きながら、俺はハルヒや長門と少し離れた場所に古泉と並んで腰を下ろした。朝比奈さんの持つさまざまな属性の ひとつに、ドジっ娘があることは、俺も認めざるを得ない。それは、ハルヒが望んだものであることも、おそらくは確かなんだろう。 「それはそうかも知れないが、さっきのはやりすぎだぜ」 「ええ、そうですね。でも、それも涼宮さんらしいじゃないですか」 「なんでもかんでも、『涼宮さんらしい』で片付けるんじゃない」 「あははは、すみません」 そうこうしているうちに素足になった朝比奈さんが脱衣所から戻って来た。さっきのタイツ姿と比べると白い生足が寒そうに見える。 「ほらほら、みくるちゃん、こっちこっち、早く来て温まりなさい。見ているだけで寒そうだわ、その足」 ハルヒも俺と同じ感想を持ったらしく、手招きして朝比奈さんを迎え入れた。 朝比奈さんは、「すみません」とひとこと言うと、ハルヒの隣にゆっくりを腰を下ろし、 「ふわぁー、やっぱり気持ちいいですぅ」 そろえた膝の上に両手を乗せて、少し遠くの空を見上げながら、朝比奈さんは、ふぅーっと大きく息を吐いた。 「でしょ? 足湯はね、冷え性にもいいのよ。みくるちゃんはどう?」 「えっ、ひえしょう!? 何ですかそれ?」 「ん?」 パタパタさせていた足をふと止めるハルヒ。 「冷え性。冷えやすい体質。血液の循環のよくない身体。特に足・腰などの冷える女性の体質」 突然長門の声が聞こえてきた。こいつは電子辞書か? いや、まぁ、確かにそうかもしれないが。 再び読書に戻った有機アンドロイドによる定義を聞いた朝比奈さんは少し慌てた様に二・三回うなずいて、 「あ、その冷え性ですか、そうですね、たぶんそうです」 「じゃあ、ゆっくりと温まりましょ」 「はい」 朝比奈さん、そんなに冷え性でお困りなら俺が温めてあげますよ。いや、それより、未来には冷え性って言葉はないんでしょうか、 なんてことを思い浮かべながら朝比奈さんたちの会話を聞いていたが、すぐにハルヒに突っ込まれてしまった。 「ちょっとキョン、また顔がエロくなってるわよ」 「くっ、ほっとけ」 しばらくの間足湯を堪能させてもらったが、ハルヒは、 「うーん、やっぱりここまできたら露天風呂にも入りたいわね」 といって、古泉を連れてロケハンに行ってしまった。 このロケハン、最初は俺が指名されたのだが、俺がごねていると古泉が、 「僕の知り合いが経営している旅館が少し向こうにありますので、そこをあたってみましょうか」 と申し出てくれたので、俺はハルヒのお供を免除された。それにしても、どこへ行っても機関の関係する施設があるんだな。おかげで俺は、朝比奈さんと長門とともに、今しばらくの間、足湯でほっこりさせてもらうことができたわけだ。ありがとう、機関よ。 「足だけなんですけど、全身がぽかぽかする感じがしますね」 ハルヒの抜けたあとに席を移して、俺は隣に座っている素足のマイエンジェルに話しかけた。 「え、ええ、そうですね」 にっこり微笑む朝比奈さんは相変わらず天使そのものだ。だが、その笑みに中にほんの少しの曇りがあるのがわかった。おや、どうしたのだろう。 ふぅ、と肩で大きく息をした朝比奈さんは、お湯の中の足先を見つめるようにゆっくりと話し出した。 「今日は、ちょっと息抜きができてよかったんですけど、明日からまた受験勉強を……」 そうだ、そうなんだ、朝比奈さんは三年生、受験生だったんだ。すっかり忘れていた、というか、毎日のように放課後の部室でメイド姿でいらっしゃるものだから、俺は朝比奈さんが受験生であることをまったく意識することもなかった。 「だ、大丈夫なんですか、あ、いや、すみません」 何か、少し失礼なことを言ってしまったような気がして、俺はすぐに取りつくろうとした。 「いいんです、本当にあんまり大丈夫じゃないから……」 ますます力なく微笑む朝比奈さん。 「上のほうからの指令で、受験する大学を二つ三つほど指定されているんですけど、どこも、あの、ちょっとレベルが、少し足りないようで……もっと勉強しないといけないんですけど」 「は、はぁ」 そんなことまで指定されているのか。朝比奈さんも大変だ。 たぶん、上のほう、というのは朝比奈さん(大)のことだろう。朝比奈さん(大)も自分自身のことなんだから、この先どうなるかはわかっているはず……、いや、ということは、指定された受験校のどこかに滑り込むことは既定事項なのかもしれない。 「でも、朝比奈さん、その指令に従うと、指定された大学に合格するってことではないんですか。大学合格は既定事項とか」 「それが、一概には言えないそうなんです。わたしの出来次第で合否はどうにでも変化するそうです。だから、未来の流れを守るためには、とにかく努力して合格しないといけないのです」 「そ、そんな……」 「時間の流れはさまざまな要素が絡み合って、決して一本道ではないんです。だからこそ、わたしがこの時間に派遣されているわけで……」 「そうなのか、長門?」 俺は不安で一杯の未来人さん越しに、万能宇宙人に尋ねてみた。 文庫本から顔を上げた長門は、背筋をピシッと延ばしまっすぐ前を見つめたまま、淡々と答えた。 「時間流の制御は非常に難しいもの。ある一時点でのわずかな揺らぎが後に大きな影響の遠因となることも考えられる」 バタフライ効果か。 確かにどこか地の果ての蝶の羽ばたきひとつと比べると、朝比奈さんの受験結果がハルヒを含む時間の流れに対して与える影響は大きくなりそうだ。そのためには、こんなところでぬくぬくしている暇はないのかも知れない。 それにしても未来人組織も酷な事をする。 その気になれば、問題と解答が印刷された冊子を、未来の朝比奈さん(大)が届けてくれることも可能だろうに、あえて試練を目の前にいるいたいけな一連絡員に与えるとは。 「でも、わたしがんばります。だからきっと、どこか合格できますよね」 「朝比奈さんなら大丈夫ですよ」 「ありがとう、キョンくん」 けなげに微笑む朝比奈さんに俺はそう言って励ますしかなかった。 「今日はこうやってリフレッシュもできましたから……」 朝比奈さんは少し後ろに手をついて体をそらすと、目を細めて遠くの空を見上げた。 そうですよ、努力家の朝比奈さんならきっと合格できます。ハルヒや俺達の未来を間違いのないように導いてくれるはずです。 「ちょっと、何をいつまでまったりしてるのよ、露天風呂、行くわよー」 その時、遠くからハルヒの声が響いてきた。どうやら機関直営高級旅館の露天風呂に案内してもらえることを確約してきたらしい。 ということで、朝比奈さんの息抜きは、少なくとも今日一日は続くことが確定した。 とにかくがんばってください、朝比奈さん。 Fin.