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基本土日休み、定時は9時~17時と思われますが、 午前中のみ、午後からの出勤等、勤務時間帯はバラバラです。 月に4、5回は当たり前のように休みを取っています。 採用形態は不明(正社員か?)※2008年夏のボーナスの話題はなし 勤務状況【2008年4月】 勤務状況【2008年5月】 勤務状況【2008年6月】 勤務状況【2008年7月】 勤務状況【2008年8月】 勤務状況【2008年9月】
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チアキス(CHIAKISS)の勤務時間 10 00~23 00(シフト制) 土曜・日曜 9 00~の勤務もございます。
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チアキス(CHIAKISS)の勤務地 なんば,大阪難波,四ツ橋,JR難波 ◇地下鉄四つ橋線「四ツ橋」駅 6番出口徒歩5分 ◇地下鉄各線「なんば」駅 26-C番出口徒歩5分 〒550-0015 大阪市西区南堀江1-16-9ミラベルサウス 2F
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勤務 Wiki ML・メーリングリスト (めーりんぐりすと) 新人研修 利用者 対応者 飲食禁止 プリンタ カラー印刷 コピー機
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153 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 21 01 09 0 都会で何すんだよw パチンコだろw 195 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 21 16 56 0 都会の利点ってなんだよ ほとんど会社で過ごすのに 197 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 21 17 40 0 195 田舎をバカにしてアイデンティティ(笑)維持するのが楽しいんだろう 200 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 21 18 30 0 197 お前はどんだけ田舎マンセーなんだよ笑 204 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 21 19 34 0 200 どうした?悔しかったか?www 243 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 22 00 33 0 ↓以下都会勤務厨が暴れます 262 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 22 27 50 0 おい都会勤務厨もう終わり?www 君がいなくなってだいぶ過疎だが^^: 270 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 22 34 52 0 ※都会勤務厨が必死に伸ばしております 291 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 22 56 43 0 ※都会勤務厨が必死に田舎者のふりをしております 299 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 23 03 11 0 ※都会勤務厨が必死に田舎者のふりをしております 313 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 23 22 53 0 suica笑 都会勤務厨キメェ 317 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 23 27 26 0 都会勤務厨が必死だな 都会勤務厨が必死だな 都会勤務厨が必死だな 都会勤務厨が必死だな 都会勤務厨が必死だな 318 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 23 27 42 0 都会勤務厨ってなんだよw 324 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 23 33 53 0 都会勤務厨くん田舎者のふりしすぎだろw どんだけ発狂してんだ 330 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/18(木) 23 39 00 0 おっと都会勤務厨くん発狂きましたーw 369 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/19(金) 00 46 34 0 都会勤務厨って言葉なんだよwww こんなこと書くと え?悔しかった?wwって言われるんだろうなw ワンパターンw 370 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/19(金) 00 47 54 0 都会勤務厨が湧いたので伸び始めます 374 名前:名無しさん@明日があるさ[sage] 投稿日:2010/03/19(金) 00 48 35 0 都会勤務厨w意味わからなすぎてハマるw
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他の文献 諜報宣伝勤務指針 https //www65.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/51.html 特別高等警察執務心得 https //www65.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/50.html 統帥綱領 https //www65.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/53.html 国土決戦教令 https //www65.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/79.html 第三章 諜報勤務の実施 第一節 諜報勤務の準備及通則 第二節 情報の蒐集 第三節 情報の査覈サカク、判断 第四節 情報の普及(報告、通報)及諜報機関相互の連絡 第四章 諜報勤務者の自衛 第五章 對諜報防衛 [[]] [[]] 本指針は諜報、宣伝に関する勤務遂行上の著眼竝其用意等に就て一般普遍の通則を教示し此種勤務に従事する者の為に執務の準縄を与ふるを目的とす 而して之を實務の上に活用するの妙機は一に当事者の熱誠と変通自在、機略縦横手腕とに存す 昭和三年二月 参謀次長 南 次郎 第一編 諜報勤務 総則 第一 敵に関する情報は戦争に於ける凡百の観念竝行動の基礎にして平時に在りては其獲たる情報に基きて国軍戦争準備の完成を期し戦時に在りては之に依りて戦争及作戦指導の憑拠を得るものなり 第二 敵国、敵軍其他探知せんとする事物に関する情報の蒐集、査覈、判断竝之か伝達普及に任する一切の業務を情報勤務と総称し戦争間兵力若は戦闘器材の使用に依り直接敵情探知の目的を達せんとするものは之を捜索勤務と称し平戦両時を通し兵力若は戦闘器材の使用に依ることなく爾他の公明なる手段若は隠密なる方法に依りて実施する情報勤務は之を諜報勤務と称す 第三 諜報勤務中戦場に於て各級戦闘団隊の実施するものは直接戦闘を目的とするものなるのみならす之に従事する機関も亦戦闘団隊所属情報部を主とするを以て爾他の諜報勤務に比し実施の趣差異少からす故に之に関しては他編に之を収録し本編に於ては専ら戦闘団隊以外に属する特別の機関を以てする平戦両時の諜報勤務に就て叙述す 第四 軍事諜報勤務に於て探知すへき事項は其時期特に平戦両時の差、諜報對象国内外の情勢就中自国との関係、諜報機関の有する任務等に依り軽重緩急ありと雖兵数、編制、装備、軍用諸資材、補充法、軍需品製造力、団隊 及要塞の配置、編成、団隊の素質、能力特に高級指揮 官の性格識能、一般統帥及戦術上の趨勢竝戦法の特徴、兵要地理、同地図の蒐集、交通、通信、輸送能力、為し得れは当該国の作戦計画竝動員計画等を其主要なるものとす然れとも現下の情勢に於ては一国の武力は実に国力の全般に渉るものあるに稽へ一般国民性、思潮、内政、財政、経済状態、軍事に関係ある産業組織、社会問題等に對しても為し得る限り之を調査すること亦切要にして尙 当該国の国際関係就中其比隣諸国に對する情勢は不断の注意を要する所なり 第五 諜報機関の組織系統完全にして指導の適切なること及直接勤務者業務に趣味を有し其行動熱烈敏活且進取的にして各機関連絡の円滑神速なることは相俟て勤務の成果を揚くへき緊要なる素因にして各機関の精神的融合は更に其要諦なり故に諸般の組織、編成、機関の配置、要員の選定竝 勤務の実施に於て常に之に基礎を置き苟も意志の疏通を欠くか如きことあらしむへからす 第六 諜報勤務は宣伝、謀略及保安の諸勤務と最も密接なる関係に在り即ち 諜報勤務は宣伝、謀略及保安を適切にする為の資料を提供し又此等勤務の成果に依りて諜報実施を容易ならしめ得へし斯の如く此等諸勤務は互に相倚り相扶くへきものなるのみならす多くの場合に於て勤務の当事者も亦共通なるを以て其研究は常に之を相聠馳せしむるを要す就中政治、社会組織の不完全なる地方に於ける宣伝の効果は最も著大 なるものあるへきを以て之に依りて諜報勤務を誤らるることなきに特に注意すへきものとす 第七 特定方面のみより取得する情報は以て克く正鵠なる判断を齎すに足らす又其方面に對し単一機関を以て情報獲得を図らんとするも其成果は迅速を期し難し故に諜報勤務は之を成るへく数方向より同時に行ひ又諜報手段も数多のものを併用して互に相補助せしむる如くすること必要なり 第八 戦時特別の機関を以てする諜報勤務と戦場に於ける諜報勤務とは其獲得せし所を互に相補ひて情報を確実ならしむへきものなり而して此両機関の間には直接の連絡なきを普通の状態とするを以て之を仲介して密実なる連繋を保持せしむるは中央情報機関の責務なりとす 第九 諜報勤務には陸軍以外海軍、外交、財政方面其他官民各種の機関あり此間官制の示す業務の脈絡に依るの外此等と密接なる連絡を保持し或は之を補助し或は之を利用して始めて本勤務の完壁を期し得へし 第十 列国の政治上及経済上の競争場たるへき地方に於ては列国人の動静に注意し其企図に関し機を逸せす洞察すること最も切要なり之か為諜報勤務者は啻に自己所在地地方の事情に明なるのみならす更に関係諸国全般の情勢に通暁しあらさるへからす 第十一 時宜に適ひ其要求に適する情報を獲得せんとせは諜報勤務者自ら常に自国の状態を熟知しあること切要にして此種勤務に従事する者は之に関する不断の研鑽を怠るへからす而して遠く国外に在る直接諜報勤務者に對し適時自国の情報を送致し且逐次變動する其要求を明ならしむるは中央情報機関の主要なる責務の一なり 第十二 情報は正確なるを要すと雖之か到着の時期を誤らは其価値を滅却す即ち厳密なる査覈と迅速なる送達と共に適宜其度を得しむるは実に諜報勤務の妙諦にして各級諜報機関の能否も亦茲に分る而して情報送達の遅速は通信連絡の施設及之か利用の適否に関係すること最も大なるものとす 第十三 平戦両時の何れを問はす諜報勤務は對手国も亦之を努むる所にして我進まんとする所必す彼の妨害あり又第三国の競争あり此間能く對者の行動を圧迫制御して我目的を貫徹せしむるものは実に各級諜報機関の攻勢的精神の発露に在り即ち之に依りて諸般の施設始めて克く精華を現はし我機関の行動積極且進取的となり常に對者の機先を制し得るものとす 第十四 思想の傾向は平戦両時を通し国力の消長に最も重大なる感響あり殊に近時に於ては他国の思想攬乱を以て国策となし或は国策遂行の先駆たらしめんとするものあり而して内政及国民性竝社会状態の緊縮を欠く国家に於ては此種策動に對する感受性愈々大なるを以て諜報勤務者は一般思潮の趣向に関し常に深甚の注意を傾倒して候察するを要す 第十五 諜報機関の主要なるものは多く其任地に於て自ら国軍の勢威を代表するものにして従て其動静は直に国家の威信に関係すへきものあるを銘肝せさるへからす故に其言動は最も厳正にして他に接するの態度は寛厳其宜しきに適ひ一挙手一投足の徴と雖之を苟もせさるの注意あるを要す 第一章 諜報機関の組織 第一節 平時諜報機関 第十六 平時陸軍諜報中枢機関は参謀本部を主體とす 参謀本部情報部は国防用兵に必要なる各国軍事、国勢、外交等に関する諸 情報を蒐集、査覈し且所要地方の兵要地理、物資及利源の調査竝作戦資料及兵要地図の蒐集、整備に任す 第十七 諜報勤務の為左の諸機関を参謀本部に隷属し或は之か区処を受けしむ 一 大(公)使館附武官 二 外国駐箚武官 三 其他諜報の目的を以て派遣せられたる武官 四 辺彊部隊及外国駐箚部隊 尙参謀本部は所要に應し直接諜者を使用し又常に諜報関係の官民諸機関と連絡を保持す 第十八 大(公)使館武官一般の任務は当該駐箚国に於ける外交団の一員に列し当該駐箚国及之に関係ある諸国の軍事に通暁し且左の要目に準拠し駐箚国及関係諸国の軍事竝之に関連する事項を調査して詳に之を報告す るに在り特に常時世界の大勢に注意し我軍部をして機を失せす必要の措置を執らしむる如くするは其任務中の最大要務なりとす 一 国軍の建制及教育 二 配兵及防備 三 戦術、戦略の進歩 四 兵器其他軍需品の発明改良 五 兵要地誌資料竝軍需資源、産業組織 六 運輸交通 七 軍事上に及ほす国家財政竝経済上の諸元 八 国際事情就中軍事関係事項 大(公)使館附武官駐箚国の国際関係及国情は其任務の重点決定に大なる関係を有するものなり即ち 豫想敵国に在りては専ら戦争の準備に資すへき情報の蒐集を必要とし又緊密に利害の接触する国に在りては軍事に関係ある政情の變化、要人の進退、社会運動及思想上の變遷等に至る迄汎く一般国情の推移をも注視するを要し爾他の諸国に在りては其国情に應し或は国軍施設の改善進歩の資料蒐集を主とし或は間接に豫想敵国の情報を諜知し 且戦時諜報、宣伝施設の基礎構成若は其準備に主眼を置く等是なり 外国駐箚武官及諜報の為特に派遣せられたる武官の業務も亦概ね右に準す 第十九 大(公)使館附武官は其任務服行に関し常に当該国駐箚帝国外交官、領事其他官民諸機関と協同連繋を密実にするのみならす他国に在る帝国陸軍武官竝駐箚国に在る各国武官等とも密接なる連繋を保持し互に相協力して適確精緻なる情報の獲得に努むるを要す 又大(公)使館附武官は航空技術関係外国駐在官の当該国に於ける業務遂行に関し所要の区処を与ふるものとす 第二十 航空及技術関係専門事項の諜報勤務は航空本部及技術本部直接之に任し所要の外国駐在官を派遣し其駐在国(属領を含む)及比隣諸邦に於ける工芸技術一般の趨勢を観察し概ね左記要目其他特に命せらるる事項を調査す 一 軍事技術の制度に関する事項 二 編制、装備に関する事項 三 兵器特に新兵器に関する事項 四 兵器製造竝ナラビニ其技術に関する事項 五 軍用資源材料就中ナカンズク代用品に関する事項 六 一般科学工芸に関する事項 七 発明及オヨビ特許に関する事項 八 軍需工業動員に関する事項 第二十一 辺彊部隊及オヨビ外国駐箚部隊は関係方面に對タイする諜報勤務を担任す之か為所要に應オウし諜報機関を要地に派遣し且カツ直接諜者を使用し?ナオ関係諸方面に在る他の系統に属する諜報機関と密接に連繋す 第二十二 諜報事項及方面の相交錯する場合に於ては各諜報機関の為其タメソノ担任区域、諜報要目及オヨビ連絡系統等に関し所要の指示を与へらるへきものとす而シカして担任区域を限定せられたる場合に於ても相互に他の区域に関する情報を獲得する機会少からさるに注意し機を失せす之を蒐集し以モッて諜報勤務全般の成果を完からしむることを期すへきものとす 第二十三 外国軍に招聘ショウヘイせられたる武官は其ソノ本務に支障なき限り努めて諜報機関と連絡して其勤務を援助するを要す又マタ時として自ら諜報勤務に従事することあり 第二節 戦時諜報機関 一 戦時情報統一機関 第二十四 戦時に於ける諜報勤務は戦争指導及オヨビ作戦進展の一途に向て統一せらるるの必要平時に比し更に一層重大なり之か為タメ国家全般の情報統一機関を特設し若モシクは之に関する平時施設を拡張するを必要とす 第二十五 戦時情報統一機関は通常内閣の直属とし各方面の情報、宣伝及保安の諸勤務を統制し且カツ其一部を実施すへきものとす 第二十六 戦時情報統一機関設置の場合には陸軍軍部より所要の職員を配属し以て同機関の責務中陸軍軍部関係事項を担当し且大本営陸軍部との連絡に任せしむ 二 軍部諜報機関 第二十七 戦時に於ける陸軍軍部諜報中枢機関は大本営内陸軍情報部にして陸軍の統師に直接必要なる情報の蒐集、整理、宣伝、謀略及保安勤務の計画指導に任す 第二十八 大本営陸軍情報部の担任すへき業務中主要なるもの次の如ゴトし 一 内外情報機関の統制、指導 二 内外情報の蒐集、査覈サカク 三 作戦地方の地理及資源の調査竝ナラビニ測量に関する事項 四 軍部の担当すへき對内外宣伝、謀略の計画、指導 五 敵国諜報勤務の防遏ボウアツに関する計画、指導 六 敵国宣伝、謀略の防遏に関する計画、指導 七 新聞雑誌類の検閲 八 野戦新聞の発行に関する事項 第二十九 大本営陸軍情報部は其業務遂行の為自ら所要の諜報機関を配置し或は直接諜者を使用し且戦時情報統一機関と密接なる連繋を保持すへきものとす 第三十 大本営陸軍部に隷属する諜報機関は第十七所載平時の諸機関を更に拡充増設せるものにして特に当時の情勢に應し所要の地点に多数の諜報機関を臨時配置するものとす(大本営若モシクは野戦軍の配置する此等機関を通常特務機関と称す) 協同軍との連絡若モシクは其指導に任する機関及オヨビ従軍武官は所要に應し所属軍に関する諜報勤務に従事せしむ 第三十一 戦時特務機関には概オオムね左記事項に関し指示を与へらるるものとす 一 勤務の為タメ駐在すへき位置 二 諜報担任区域 三 諜報要目 四 指揮下に属せらるへき職員等 五 人事、経理の関係 六 特に協同或アルイは連絡を保持すへき部内外諸機関 第三十二 大本営陸軍情報部と作戦軍との間には通常諜報担任区域を劃定カクテイし又マタ数個の独立作戦軍あるときは所要に應し大本営に於て此等の諜報担任区域を指定すへきものとす 作戦軍の担任すへき諜報区域は主として戦場及之オヨビコレに近接する地域にして各方面軍、軍若モシクは師団に於て所要の機関を使用して之か実施に任し?ナオ大本営情報部竝其ナラビニソノ配置する特務機関等と連繋を密にし戦闘指導に直接必要なる情報を蒐集するものとす 各部隊は其ソノ行ふ戦闘、地上捜索、空中偵察、各種情報勤務等に依り直接自己に必要なる情報を獲得するのみならす間接に上級諜報機関に所要の資料を提供するものとす 第三十三 作戦地の特殊情況就中ナカンズク政情、文化の度如何イカンに依りては地方の匪賊ヒゾク、不平団體ダンタイ等を糾合し適当なる指導者を附して特別任務の部隊を編成し作戦の援助と共に諜報勤務に従事せしむることあり 此種の部隊は情況に依り或は之を作戦軍に属し或は直接大本営指導の下に行動せしむ 第二章 諜報機関の配置及諜報勤務系統 第一節 平時配置 第三十四 諜報勤務の成果は其機関の配置及オヨビ之か勤務系統組織の良否に関すること大なり而して之か為には特に当該機関設置の主眼点を顧慮し善く内外の形勢特に政情、交通の情況に鑑み配置すへき位置、諜報担任区域、機関の編成、指導、連絡の系統等を決定すへきものとす 第三十五 平時に於ける諜報機関配置に当りては将来を洞察し戦時配置の基礎たらしめ得る如ゴトく考慮すること特に必要なり蓋ケダし戦時に至り急速に所望の諜報諸施設を整備するは既に至難の業たるのみならす新に編成せし諸機関の有効なる業績を発揮し得る迄マデには相当の時日を要するを以てなり 第三十六 某方面に於ける情況を平時より連続且カツ内密に諜知せしむる為タメ身分を秘匿せる軍人を所要の地点に配置することあり而して戦争発生の危険大なるに従ひ此種機関の配置益々マスマス濃密となるへきものとす 第三十七 諜報機関配置の位置は情報資料蒐集に適当なるのみならす情報送達の為亦マタ利便なるを要す而して直接之を目的地に送達し得さる場合に於ては経過せしむへき迂回路に関し協定し置くを要す 第三十八 諜報機関の位置は通常其担任区域内に在るを便なりとすと雖イエドモ時として側面観察を為し得る如く位置を選ふを有利とすることあるに注意すへし 第三十九 諜報機関の編成は主として其任務に依りて機関員の素質、機関の大小等を決定すへきものなりと雖イエドモ編成の徒イタズラに厖大ボウダイなるは時として却て任務の遂行を妨サマタくることあるに注意を要す 機関員の選定は其担任する諜報範囲に於ける主要諜報目的に適應せしむへきものなり従て数地方又は数国を諜報担任区域とする一機関に於ては其機関員は必すしも其定位置たる地方又マタは国の事情に通暁する者を選任することなく却て他地方又は他国に関する知織豊富なる者を以て之に充アつるを可とすることあり 第四十 各機関を独立して指導機関に隷属せしむへきや或は若干の中間機関を介在せしむへきやは主として当面の一般情況、各機関の有する任務、交通、通信の景況等に依るものとす 中間機関を置かさる場合に於ても諜報目標を一にする諸機関は特に互に密接なる連絡を保持する如く統制の途を講し置くへきものとす 第二節 戦時配置 第四十一 戦時に於ては諜報機関の配置は自ら大なる制限を受くへきものにして主として中立国若モシクは中立地帯内に敵国及其オヨビソノ同盟国を囲繞イニョウして配置し得るに過きす且カツ交通、通信の状態亦マタ意の如くならさるを通常とするを以て各機関の配置及其オヨビソノ指揮連絡系統は特に深甚の注意を要するものとす 第四十二 諜報機関は其任務に依り配置すへき位置を選定すへしと雖イエドモ概して交通の衝に当り通信連絡の設備ある地点にして特に敵国人若モシクは敵国に好意を有する中立国人の集散地なるを可とす而して敵国に接触して数多アマタの小機関を配置せる場合に於ては要すれは後方適宜の位置に中間指導機関を配置し之より後方中枢機関に直接連絡を図るものとす 第四十三 某方面諜報指導機関の関係する範囲広大なるときは之と直接諜報勤務者との中間に更に補助指導機関を配置し局所の諜報勤務指導を補助せしむることあり 第四十四 戦時諜報機関は単に對敵国のもののみならす對同盟国及オヨビ對中立国の目的に於ても亦之マタコレを適宜配置せらるへきものとす而して此等の諜報機関は直接に当該国の国情を知るのみならす之を通して間接に敵情を探知し得るものにして時としては直接對敵国配置を取りたるものに比し却て有利の情報を得ることあり 對敵国の目的を以て中立国に配置せられたる諜報機関は通常当該中立国に對する諜報勤務をも兼任するものとす 第四十五 戦時類似の諜報任務を以て比隣ヒリン方面に独立配置せられたる数機関は互に連絡を緊密にするは勿論モチロン時として業務を協定分担するを可とすることあり 第四十六 敵戦線の後方若モシクは敵本国内に於ける諜報機関の配置は全く秘密の方法に拠ヨるものにして大なる危険を伴ひ其成否固モトより疑はしきのみならす縦タトひ之を配置し得たる場合に於ても之と其指導機関との通信連絡に於て再フタタひ大なる困難あるを免れす然れとも戦時の必要は此種冒険なる施設を強要すること少からさることを豫期せさるへからす而して之か実施及オヨビ指導は全く特種の技能と決意とを要するものなり 第四十七 敵戦線の後方若は敵本国内に配置する諜報機関は時として某期間連続して常設することありと雖イエドモ多くは随時各別の任務を帯ひたる小機関を潜入せしむるものなり 従て此等を統一指導する如きことなく互に関聯カンレンせさる多数の独立機関若は独立諜者として各個に活動せしむるを通常とす是れ一部機関の発覚に依り組織の全系統を敵に暴露し為に全機能の破滅を来すか如きことを避けんか為なり 第三節 平時より戦時への転移 第四十八 平時諜報機関の配置は既に戦時の必要を基礎とし之か準備を考慮しありと雖イエドモ戦争の開始と共に所要方面の増設或アルイは新設竝ナラビニ不要方面の撤去等配置の變更ヘンコウを要すること多きものとす 第四十九 戦時諜報機関配置及オヨビ運用の計画は情勢の推移を判断し作戦計画に附随して平時に於て豫アラカジめ策定せらるへきものにして概ね次の諸項を包含ホウガンす 機関の戦時配置及オヨビ要すれは機関内細部の配置竝ナラビニ平時配置との関係 機関の編成(人員、将校の氏名、戦時職名) 任務、諜報担任区域 隷属関係及オヨビ要すれは特に連絡せしむへき他機関の指定 機関配置の時期 第五十 諜報機関は最も變通自在の活動を要するか故に其編成、細部の配置等は成るへく固定的ならしむることなく十分の弾力性を帯オひしめ臨機應變オウヘンの妙を発揮し得しむる如くするを要す 第五十一 上記の計画に基モトヅき戦争開始と前後して機を失せす逐次所要の位置に公然及オヨビ秘密の諜報機関を増設或アルイは増員し之を根拠として敵国に對する諜報勤務を指導実施するに必要なる一切の準備を整ふるものとす 辺彊部隊及オヨビ外国駐箚チュウサツ部隊には諜報機関の戦時配置を顧慮し情勢に應して豫アラカジめ特に諜報機関を附属し或は之か要員を増加配属するを必要とすることあり 第五十二 開戦時に関し諜報機関の考慮すへき根本事項は各個の諜者、諜報機関及其オヨビソノ指導機関との間の相互連絡手段の整備是なり故に平時より豫アラカジめ豫想敵国及オヨビ中立国内に於ける確実なる諜者との連繋を保持し且カツ戦時増員すへきものを準備すると共に此等との連絡に就て考慮し為し得れは平時既に所要の施設を整へ置くこと切要なり 第五十三 戦時配置への転移に方カタりては平時に比し遽ニワカに諜報機関要員の増大を来すは已むを得さる所なり故に此コノ場合を顧慮し平時に於て豫め大小各級諜報機関の要員を選定し之に所要の教育を施し且カツ絶えす欠員補?ホテンの途を講し置くこと最も緊要なり 第三章 諜報勤務の実施 第一節 諜報勤務の準備及通則 第五十四 諜報勤務の遂行を円滑ならしめんとせは先マつ其準備を完全にせさるへからす 即ち勤務者位置の選定、情報出所との連絡、自衛の処置等周密なる用意と遠大なる計画とを以て勤務の基礎を整備するを要す 第五十五 諜報機関の主要なる業務は情報を蒐集し之を査覈サカクし且カツ所要の方面に之を伝達普及するに在り従て諜報勤務の準備は此等三業務の敏活なる実施を目途とすへし 第五十六 諜報勤務者の居所は其公表せる身分の如何に依りて選択の趣旨を異にすと雖イエドモ何れの場合に於ても他の注目を免れ難きを考慮し且カツ所要に應し諜者との会見等隠密の業務を実施し得るの用意あるを必要とす 勤務者其ソノ身分上直接其ソノ居所に於て諜者との会見等を行ふこと困難なるときは別に之か為タメ適当なる場所を選定し置き且カツ適時之を變更すること必要なり 第五十七 諜報勤務の準備として最も必要なるは情報の諸出所との連絡を密にすること是なり即ち勤務者の身分に應し官憲、一般有力者其他情報の源泉たるへきものと成るへく速に広く且カツ深く交誼を進め適時求むる所に近接し得る如くすること肝要なり之と同時に適当なる諜者を選択馴致ジュンチし活動の根抵を完備するを要す 諜者の選択に関しては後に之を詳述す 第五十八 諜報勤務者の業務は常に對手アイテ国当事者の妨害あることを覚悟せさるへからす故に業務開始に先サキダち既に将来を洞察して一身の防護、秘密の確保等必要の自衛処置を講し実施に方アタりては支障の発生なき如くするの用意なかるへからす 自衛に関しては後に之を詳述す 第五十九 諜報勤務者と其指導機関との連絡手段は単一なる方法に依るのみにては妨害を受くるの虞オソレ多し故に隠密の通信に関し十分の準備を整へ且カツ必要に際し数多アマタの補助手段を採択し得るの用意あるを要す諜報勤務者と諜者との間の連絡に就ツイても亦マタ同し 第六十 諜報勤務者活動の素地は実に其識力なり而して其任に就く者既に多少の豫備知識を有すへきは当然なりと雖イエドモ業務の実施に入るに先サキダち更に実地に應して其識能を一層向上するは最も緊要にして之ありて始めて勤務の成果其努力に伴ひ常に機宜に適したる情報を獲得するを得へし 第六十一 諜報勤務者活躍の要素として資金は一刻も之を欠くへからす蓋ケダし機微の間或は要人の買収を行ひ或は諜者を駆て危地に挺身テイシンせしむるものは実に資金の力に依らすんはあらす故に此資金の準備及其オヨビソノ補給の途は常に之を確実にし内外の信用を繋持するに誤あるへからす 第六十二 諜者勤務者は其環境、一般情況及地誌其他諜報目的に関係する諸般の事象に関して十分なる豫備知識を必要とす故に豫アラカジめ経験を有するか若は之か為の豫備教育を受けたる者を以て之に充アつるを本則とす而して本勤務実施の間に於ても傍カタワら常に自ら修養を怠るへからす 第六十三 諜報勤務は連続不断なるを効果大なりとす故に之に従事する者は其位置に在ること永きに従ひ益々事情に通し経験を重ね其成績愈々イヨイヨ良好なるを得へし加之シカノミナラズ勤務の本質上秘密保持の必要なるに稽カンガへ多数人をして其勤務の内容に関知せしむるは適当ならさるを以て成るへく交代を避け同一人をして永く之に従事せしむるを可とす 第六十四 諜報勤務者は諜報對象国の事情に精通すへきは勿論若モし駐在地を對象国以外の土地に求むる場合に於ては同地の情況に関しても相当の知識を有するを要す某地方に於ける第三国の行動を探知せんとする場合に於て特に然りとす 第六十五 諜報勤務には俊敏機智固モトより必要なりと雖イエドモ更に欠くへからさるは進取の気魄及オヨビ堅忍不抜目的を貫徹せすんは已ヤまさるの熱誠と義務心と是なり蓋ケダし適確、機宜に投したる情報資料の獲得は座して其機会を待つへきにあらすして自ら進んて之を求むるにあらされは得難き所なるのみならす其成果は常に必すしも其努力に報いらるることを豫期すへからさるか故に百折不撓ヒャクセツフトウの忍耐と間断なき勤務の継続とに依らされは到底目的を達すること能アタはさるを以てなり 第六十六 諜者の操縦或は諜報上の要人懐柔等ナド諜報勤務者は常に気を以て對手アイテの気を制せさるへからす之か為には一面放胆其腹心を暴サラす如くし清濁共に之を併呑するの大量を具ソナへ他方細心真の警戒を失はす遂に他をして乗し得しめさる如くするを要す 第六十七 諜報勤務者の挙措キョソは常に彼我ヒガ両方面の間隙カンゲキなき注視下にあることを覚悟せさるへからす従て其一挙手一投足の微カスカと雖イエドモ之を慎重にし軽浮の言動を戒むへし特に秘密保持に就ては最も用意を厳にするを要す蓋ケダし諜報勤務者より漏れたる秘密は他の注意を惹き易く其伝播力絶大なるを以てなり 第六十八 諜報勤務者の身分を公表すへきや否やは情況に應して定むへしと雖イエドモ何れの場合に於ても交際の円滿エンマンにして触接する範囲の広汎なるは其勤務遂行の為利する所多し特に我か外交官、軍部以外の国家諸機関とは最も親密なる態度を保持し互に和衷協同し赤誠セキセイ以て国家の利益を図るへし 談笑の裡機微を捉へて能ヨく事の真諦に触れ諜報勤務の目的を達成し得んか為には語学の素養最も緊要なり 第六十九 軍部諜報勤務者は軍事の諜報に任するものなることを肝銘し軍事に関係なき外交事項或は政治的施設等の実際に干与するか如きは之を避くるを本則とす若モし軍事に全く関係なき事項に関し探知するか或は交渉、協議等を受けたる場合に於ては速スミヤカに之を当該関係機関に移すと共に上司に報告するの処置を取るへきものとす然れとも軍事と政治、外交との関係は当該国当時の政情特に国際関係緊張の度等に依り各々差等あるを以て勤務者は宜しく当面の事情を判断し本末を誤らす条理に悖モトらす機宜に應する如く処辨ショベンすること肝要なり 第七十 諜報機関の使用する文書、字句の如きは時に重大なる関係を招来することあるに注意し最も慎重に取扱ふこと必要なり勤務者の名刺類の如きも或は之を悪用して非違ヒイを敢てする者なきにあらす十分の戒慎カイシンを必要なりとす 第二節 情報の蒐集 一 諜報勤務者自身の活動 第七十一 情報の資料には公然触接し得るものと隠密の方法に依りて入手し得へきものとの区別あり即ち新聞雑誌其他公刊物の閲読等は前者に属し諜者の使用等は後者に属し?ナオ公然実行する訪問、面談、招宴等を利用し知らす識らすの裡ウチに秘密事項に触るること亦尠スクナからす而シカして通常公然の方法に依りて諜報の基礎を作り更に所要に應し隠密の手段に依りて掩蔽エンペイ幕を突破し情報を完成するものとす 第七十二 新聞、通信、雑誌、官民公報類等公刊物は平戦両時の何イズれを問はす諜報上重要なる価値を存するものにして文明の度高きに従ひ其利用の途愈々イヨイヨ多し 戦時と雖イエドモ中立国を経由せは敵国の公刊物は之か入手必すしも困難ならす而して之を仔細に閲読し綜合推論宜しきを得は敵国に関する情勢の判断に裨益ヒエキする所尠スクナからす又時に官憲の検閲を洩れたる意外の好材料を得ることなしとせす 第七十三 新聞は事件の生起を速に知り又は某事件の端緒を得る為及輿論の傾向を察知し或は某地方の情況を研究する為各種の資料を求め得るものとす 新聞を閲読するには其系統、色彩、勢力、連絡関係等を顧慮するを要す又新聞記事は内容に誤記多く大體ダイタイの経緯を察知し得るに過きさること?々シバシバあり又故コトサらに宣伝の目的を以てする記事少からす故イタズラに真偽の判定には特に注意を要す若モし同一事件に関する数多新聞の記事にして其出所を異にするときは彼此綜合して略々其真相に触れ得へし 第七十四 定期刊行物には調査事項の参考となるもの尠スクナからす然れとも国情に依りては諸統計及官憲の記録に外面的扮飾ありて内実と合致せさるもの尠からさるに注意すへし而して一国或は某地方の文化の度低きに従ひ其弊愈々イヨイヨ多きものとす 第七十五 情報の蒐集は当事者直接の活動に依るを最も確実とす之か為諜報勤務者は広く各社会の要人と交際を求め洽アマネく衆人に接し豫アラカジめ其素地を作らさるへからす就中ナカンズク密接なる連絡者及信頼すへき交友を得ること特に必要なり而して如何なる人物を如何なる場合に利用すへきやは目的、情況に依りて異なるものとす 第七十六 交際を広くし知人を多く求むるは情報資料入手の為の主要手段なり而して其人に接するや須スベカラく虚心担懐何等の屈托、隔壁なき態度なるを要す我に何等の警戒心なき状は對手アイテをして安心して我に信倚せしむるの妙法にして無益なる技巧或は辞令は概して得策にあらす誠意と淡白とは何れの場合に於ても常に必要なり交誼コウギの深厚なるに至るや知らす識らすの間重要問題に触るることあるのみならす我自ら要件を開示して之を糺タダすも對手の敢て怪まさるに至ることあり即ち之を基礎として更に探究の歩を進め以て情報の完成を期し得へし 第七十七 對手の體面タイメンは交際上最も注意せさるへからす招宴、集会の利用、物品の贈与就中ナカンズク利益の提供を以て懐柔せんとする場合に於て特に然り従て単に直接金銭を以て之を買収せんとするは教養、地位ある人物に對しては通常至難なり宜しく当該国民性を理解し風俗、慣習、社会の実情に通暁し裏面の呼吸をも解するにあらすんは其真諦に触るること容易ならさるに注意すへし 第七十八 座談に巧にして材料の豊富なるは諜報勤務者の具備すへき一要素なり之か為諜報上何等の価値なき世上の些事と雖イエドモ少くも其梗概コウガイを知得しあるを可とす殊に常識の豊富なるは判断の正鵠セイコクを得しむるに必要なり 第七十九 對談には最も注意して對手の談話を誘出すると共に自己の知らんとする所を對手アイテに悟らしめさること及彼の語るを欲せさることを強て追及せす談笑諧謔カイギャクの間徐オモムろに其欲する点に到達するを上策とし功を急くことあるへからす又問答は断片的なるを有利とすること多く一挙に全てを窺はんとするは却て不結果に陥ることあるに注意すへし 第八十 自己の意見の発表は努めて之を避くるを可とするも時として對手アイテの言議を追究する為故意に反對意見を述へ又は對手アイテの所述を反駁するを可とすることあり又他人の談笑に注意するときは往々有力なる諜報の端緒を得ることあり然れとも公衆の中に在りては故らに真実に反する言動を為す者あるに注意すへし 第八十一 公職を利用して調査を依頼し或は公然たる紹介に依て緊要事項を諮問シモンし若モシクは要所を視察して諜報上有利なる資料を得ることあり而して此種行動の目的を達成せんとせは其間故意に幾多不要の問題を加へ真目的の那辺ナヘンに存するやを感知せしめさる如くすること切要なり 統計類は縦タトひ秘密に属せさるものと雖イエドモ之を細密に探究するときは諸般の事象を察知すへき資料を得るの機会多し 第八十二 軍部以外の系統に在る諸機関即ち外務省関係諸官憲、学究、民間商事会社、各種協会、名士の視察等より得たる情報も亦軍事情報の参考資料たるへきもの多く特に内外政治、経済、其他思潮、社会事象及労働問題等に於て然りとす加之シカノミナラズ此等との往来に依りて真個の諜報勤務の端緒に触るることも亦少しとせす故に須スベカラく虚心担懐広く交誼コウギを求め之か利用に勉むるを要す 第八十三 新聞通信関係者の善用は諜報上利益少からす故に平常適当に此等と触接し時時其欲する資料を供給して其利益を計る等進て十分の好意を表し必要に際し欣ヨロコんて我か要求に應せしめ得る如くならしむるを要す之か為には記者等の人格、素質を観破し其適良なる者を選択すること特に必要なり 第八十四 適当なる当事者を買収して或は一時的に或は完全に情報資料、記録等を入手し或は暗号其他通信書類を獲得するを得は最も確実に對手アイテの機密に触るることを得へし然れとも斯の如きは大なる危険を伴ふものなるを以て緊急の場合通常諜者を使用して間接に之を実施すへきものにして且其時機、方法の選択に就ては最も周到の注意を要するものとす 第八十五 直接の観察は如何なる場合に於ても最も適確なる方法なり故に諜報勤務者は有らゆる機会を捉へて事物の実際に触れ絶えす一般の趨向スウコウを直接視察するの必要大なり斯くの如くして諜報資料の査覈サカク、判断も亦適切なるを得へし 第八十六 饗應キョウオウは接近の機会を得且親密の度を増進する為有効なる方法なるを以て諜報勤務上の常用手段なり而して之か実施には最も慎重なる準備と研究とを重ねされは啻タダに効果なきのみならす却て害を貽ノコすことあるに注意すへし 饗應実施の方法は對手アイテの特性と其当時の情況とに依りて異なりと雖イエドモ一遍の儀式に終る如きは何等効果なく懇親の風加はるに従ひ益々對手アイテを威動せしめ得へし 饗應に際し賓客の選定には特に注意を要す異分子特に反對者を加へさるは勿論階級、地位等に甚しく差異を生せしめさる如くし以て会談、交驩コウカンに不都合を来さしめさるを要す 第八十七 某事項を探知せんとする際之に関聯カンレンを有する我か事情を支障なき範囲に於て故コトサらに流布し或は仮構の情報を伝播する等の宣伝手段を以て波瀾を起し之に應する對手国の輿論或は官憲の措置等を静かに観察するときは所要の情報獲得を容易ならしむることあり 二 諜者の使用 い 諜者の具備すへき要素 第八十八 諜者として一般に具備すへき要素は諜報目的に関する事情に通し犠性的精神及責任観念に富み大胆冷静にして明敏なる観察及推理力、良好なる記憶力、強健なる身神竝ナラビニ堅忍性を有するに在り?ナオ必要の語学に練達せることも亦一の必要条件なり然れとも上記の如き要素を悉コトゴトく完備する者は固モトより稀有なるのみならす諜者の用途は多様にして其任務も亦軽重難易不同なるを以て其特長、性格の如何を銓衡センコウして之を適宜適所に使用すへきものとす 第八十九 諜者其勤務に従事するの動機は十分考察調査せさるへからす而して其動機の如何は概ね勤務に對する熱心の度を表示するものなるを以て諜者の選択及任務の賦課フカに際し好個の参考資料たり得るものとす 諜者の勤務に従事すへき動機を概別すれは左の如し 一 諜報勤務に先天的に大なる趣味を有する者 二 衷心チュウシンの希望に依り奉公若モシクは報恩の目的を以て勤務に従事する者 三 諜報の對象たる国家、政府等に對し思想、政見、主義、野心、境遇、民族的感情及其他の原因に依り反感を有する者 四 資力に窮するか或は失意、落魄ラクハク其他一身上の原因に依り特別の利得を望む者 五 単に貪慾愛銭の私念より出てたる者 六 営利を目的とする常職的秘密偵知者 七 使用者に私淑し其腹心となれる者 八 帝国又は帝国国民に對し好感を有し或は殊コトに血族的若モシクは職業的利害関係ある者 宮廷に属する高官、国会の議員、外交官(関係ある婦人を含む)、枢要官衙カンガの吏員リイン及使用人、僕婢等は直接機密を取扱ひ若モシクは之に触接し易き地位に在るを以て此等の人物中より選定宜しきを得は適当なる要素を備ふる諜者を発見すること難からさるへし 第九十 諜者として諸外国人及各民族の性情セイジョウは各々一長一短あり故に之か使用に方りては須スベカらく其長所を利用して剰アマす所なく其短所に對して警戒を怠らさる如くせさるへからす 第九十一 諜者か一定地に居住し特定の職業を有し全く該地方の良民に同化しある者(定住諜者)なるを要するや或は之に反して数地を移動する者(移動諜者)なるを可とするやは一に諜報の目的に依りて異なるへきものとす而して前者としては単に給料に依りて生活する者の如きは適当ならす一定の健実なる生業に従事し十分なる華客を有し周囲の信用を繋き何等の疑念を招致せさること必要にして後者としては商人、職工或は懐中豊富なる旅行者等に化し其行動に不審を抱かしめさるを要す若モし諜者か巡回すへき地方を行動する定職を有する者なるに於ては最も可なり 移動諜者の家族か使用者の所在地に在るときは諜者の取締上最も有利なり 第九十二 俊敏なる諜者は独立して深く敵地に潜入せしむる如き場合に於ては最も賞用すへく時として奇功を奏することありと雖イエドモ動ヤヤもすれは一部の事実を捉へて直ちに重大なる判決を下し使用者の判断を誤らしむることあり故に多数の諜者を操縦し時々之に断片的の任務を与へ其報告を綜合判断せんとする如き場合に在りては寧ムシろ卒直且カツ熱心に使用者の意図を奉して勤務する者を以て勝れりとす何れの場合に於ても身體強健、意志堅確にして神経質ならさるは必要なる条件なり 第九十三 一地方或は民族間の内情の諜知は同地方人若モシクは同民族にあらされは能く其真諦に触れ得さる所なり故に此種目的の為には諜者の選択を此範囲に於てするを得は最も適当なり 第九十四 婦人には諜者として適当なる要素を具ソナふること多し即ち一般社会に於ける其権利の優越せること及其独特の魅力是なり特に上流社交界に出入し才色兼備せる女性を諜者として選ふを得は重大なる効果を獲得すること尠スクナからす ろ 諜者の選択及採用 第九十五 諜者の選出には相当の時日を要し有事に際し遽ニワカに適任者を入手せんとすること容易ならす殊に有力なる高級諜者に於て然りとす故に平素より各種の手段を講し適当の候補者を物色し且適宜資金を投して之と接触を保持し置くこと必要なり而して勤務実施間に於ても諜者減耗の極めて頻繁なるを考慮し常に之か補充に著意すへし 第九十六 諜者たるへき人物の召募は一に堪能なる手腕と熱心なる不断の努力とに俟たさるへからす之か為豫定人物との触接を繁くし其意思境遇を深く探査し其為人ヒトトナリを看破すへき機会を多くすること緊要なり 第九十七 採用せし諜者か果して当を得たりや否やは暫時使用の後に於ても?ナほ且之を知るに易からす而して徒イタズラに遅疑逡巡せんか遂に機を失ふの虞オソレあり故に時宜に依りては成敗を賭し敢然其求むる所に進むの必要あり且之か為一時出費の膨脹をも避くへからさることあり殊に諜報網の未た完備せさる時期に於て然りとす 第九十八 召募の方法は直接に申込むものと隠密に行ふものとの二種あり前者は危険を包含すと雖イエドモ被召募者か物質上困難なる境遇に在るか或は常職的諜者なる場合に於て之を適用するを得隠密に行ふには通常先マつ其人物に接近し暗示を以て漸次誘致し遂に真目的を開示するものにして其方法を例示せは次の如し 広告人を秘匿し且カツ召募名目を他に籍カり或は目的を曖昧にしたる広告に依る 此種人物の出入すへき料理店、茶店等に於て彼等に接近す 貿易商会を経て先マつ公正なる商業上の提言を為し逐次目的に接近す 雇傭条件を決定し自己の名を秘匿して先方に提議す 婦人諜者を経て其知己間に適当の者を物色せしめ逐次接近す 要人と家庭的交際を求め漸次諜報勤務に誘致す 情報の交換等に依り第三国軍憲若モシクは官憲の要人と交際を求め次て公然の用務を依頼し漸次に之を秘密諜者に誘致す 第三国軍憲と協同して敵国に對タイする諜報従事を提議し漸次に第三国軍憲の使用せる諜者と接近し之を我方の諜者に誘致す 敵国に入らんとする者に普通用務を依頼し漸次秘密諜報を依頼して知らす識らすの間に諜者と為す 第九十九 諜者は之を召募せは其写真、姓名、年齢、信教、職業、出生地、過去現在の居住地、身元保証人、外国語修得の程度、記憶力、熟知せる地方、諜知せんとする方面の地理、事情等に関する識力、諜者志願の動機等を記録し且カツ指紋を取り置くを要す即ち之に依りて敵の為反諜者として利用せらるるを防止し得へし 識者は之を採用せし後に於ても彼等相互の間に其諜者としての関係を秘匿すること緊要なり 第百 諜者召募に際し最も恐るへきものは反諜者の混入なりと雖イエドモ之か識別は最も困難とする所なり故に諜者に對しては内心の警戒を解かさると同時に他方に於ては召募後適宜之を判定するを可とす 反諜者判定の方法を例示せは左の如し 疑はしき諜者に他の諜者を附フし密かに其行動を偵知せしむ 敵に利害ある想定を設けて諜者の意見態度を検定す 他の諜者をして敵に不利なる宣伝を放たしめ諜者の態度及報告に就ツき注視す 諜者を試むるに酒色を以てし酔餘スイヨ知らす識らすの間其本體を暴露せしむ 敵国の諜者を買収し之に依りて探知す 疑はしき諜者と他の信用ある諜者とに同一任務を課し其報告の結果に依りて判知す 既知の敵情に関し諜者をして故らに諜知せしめ其結果を判定す 故意に必要ならさる書類を収落し又は机上に展開して諜者の之に對する態度を検査す 第百一 反諜者を認定したるときは直に之を面責或は解雇することなく為し得れは之を懐柔して敵に對する逆諜報に利用するか或は漸次敬遠して関係を断つ如くするを要す は 諜者の教育 第百二 諜者を採用せは所要に應し之に其任務に應すへき教養を与ふるを要す而して諜者の識能に應し使用間に於ても教育の反復を怠るへからす 諜者の教育は其素質及命課すへき任務に依り固モトより一様ならすと雖イエドモ勤務実施に関する技術的教育と竝行して常に精神上の啓発を苟且コウショに附すへからす 第百三 諜者は對手アイテの人物を辨別ベンベツし其意思を読破し得るの能力を備へ且最も危険なる情況の下に在りて平然行動し又峻厳なる追跡を受くるも巧に之を回避し得へき積極的性質を有すること肝要なり之か為其教育に方りては常に不撓不屈フトウフクツの精神を向上し且考察力、観察力、記憶力及聴覚を訓練するを要す 第百四 諜報の効果は大なる労苦、時間及資金の消費と熱心、真摯との結晶に外ならす而して失敗の場合に於ては方法手段を尽して再三反復するの勇なかるへからす 諜報勤務には必す對手アイテの防衛手段の對抗するものあるを知らさるへからす而して之を圧倒して?ナオ能く目的を達成せしむるものは実に諜者の考察力に外ならす又探知の為の行動は整然たる理路を追ひ其根抵を究むへきものにして決して僥倖ギョウコウを恃タノむへからす之か為には諜者の明敏なる観察力に俟マつ所多し 記憶力の強きは他人の認識を避けつつ調査する為の最良手段にして鋭敏なる聴覚は秘密偵察者の重要なる武器なり 第百五 諜者の技倆ギリョウ向上に関する教示事項の主要なるものを挙くれは左の如し 諜知事項に関する基礎教育 目的地への潜入及帰還の手段方法 目的地内に於ける行動上の指針 自衛に関する件 連絡通信に関する事項(暗号、隠語を含む) 官憲に拘引せられたる場合其他非常の際の処置 其他逢著ホウチャクすへき各種の問題 第百六 諜者の心得として左記要項を会得せしむるを要す 人に尋ぬることなく感知すること 自ら実際興味を有することに関し他人に感知せしめさること 耳より聴取せし事実は他人に感知せられさる如く記憶すること 意思感情を顔面に表はささること 他人に感知せられさる如く之を追究監視すること 自己を追尾する者あるときは速に之を認識すること 諸般の事象に對し客観的なること 功を急かさること 第百七 諜者の教育は必す会見の秘密を確保し得へき場所に於てすへく此種会合所は嫌疑を避くる為数箇所に準備するを可とす 第百八 諜者の補充竝ナラビニ教育は通常直接使用者に於て之を為すへきものなりと雖イエドモ戦時某方面に於て特に密接なる諜報網を構成せんとする如き場合に於ては其補充教育の為要点に特別の機関を配置し当該機関の教育を終了せる者を適宜各使用者に配当する如くするを要することあり に 任務の附与 第百九 任務は諜者の能力、素質に適應するを第一要件とし且簡明確切に其欲する所を判知し得る如く附与するを要す而して若し数多アマタ事項の諜知を同時に要求するか如き場合に於ては其主眼点を明示するを可とす 第百十 諜者に与ふる命令には一面諜者をして機宜に処して奇功を奏せしむる為弾力性を保持せしむると同時に他面に於ては諜者の萬一マンイチ反逆すへき場合を顧慮し其内容を最も周到なる用意を以て整理するを要す 第百十一 一般に任務を附与すると同時に能ヨく当時の実情を考慮し左記事項を併せて教示すへきものとす 通信連絡の方法手段 報告を提出すへき特定時期 帰還後若モシクは勤務中指導者との会見の為の注意 自衛に関する特別の注意 報酬受授に関する事項 此際必須以外に我諜報機関の組織及配置を解説するは厳禁とす 第百十二 婦人諜者に与ふる任務及之に對する要求に就ては婦人の特質上理性よりも情緒に動かされ易く且其智能常識は一般に男子よりも低下しあることに顧慮するを要す 殊に任務を某単一事項に限定することなく一般的任務を課して放任する如きは大なる誤なり ほ 諜者の派遣及配置 第百十三 諜者は必要の際臨機派遣するものと某期間定位置に配置するものとあり 何イズれの場合に於ても諜者相互には何等の連繋を保持せしめさること肝要なり 第百十四 敵国若モシクは中立国に定住諜者を配置するに方りては其諜者か定業に従事し且其職務に相当する地位を創設し得ることに関し大なる顧慮を払ふへきものとす 平時に在りては同地所在の自国銀行、大商会等比較的安全なる場所を選ひて諜者を配置し諜報勤務の拠点を構成するを有利とすることあり然れとも未熟なる諜者にして此等機関の利用拙劣なるときは却て右機関信用の失墜を来し閉鎖の已ヤむなきに至らしめ延て諜報勤務の基礎を覆滅することなしとせす注意を要す 第百十五 婦人諜者は其素質、能力等を顧慮して遊興場、家庭、官衙カンガ、公署、病院、工場等に配置し或は高貴大官の身辺に侍ハベラせしむる等の処置を取ること必要なり 第百十六 諜者を臨機派遣する場合に在りては其時機及方法の選定に最も注意を要す 諜者は爾他の情報を確めんとするか或は特殊の資料蒐集の必要生したる場合に際し派遣するを通常とし成るへく某一目的に對し同時に数人の諜者を互に連繋なく派遣するものとす 第百十七 諜者派遣の時機は情報の蒐集より之を発送し且其到達する迄に要する時日を顧慮するは勿論豫め他の手段に依りて蒐集せる爾他の情報就中ナカンズク交通、通信勤務に関するもの等との間に密接なる連絡を保持し最も時宜に適合する如くせさるへからす 第百十八 敵国或は敵線内に潜入せしむへき諜者には成るへく行動の餘裕ヨユウを与へ専ら目的に向ひ自由に独断専行し得る如くすること必要なり而して通常潜入に際しては迂路を経由し其間を利用して任務遂行に要する十分の情報を蒐集し復帰には捷路ショウロを経て速に帰還し得る如くするを適当とす 第百十九 敵国或は敵線内に潜入せしむへき諜者には書類其他累を他に及ほし又は後患を貽ノコすへき物件の携行は一切之を禁するを要す 第百二十 諜者派遣の為通過すへき我勢力範囲若モシクは友邦の官憲には豫め諒解リョウカイを得且証明書類を附与して所要に應し之を開示せしむれは最も有利なり然れとも其証明書類は敵国若モシクは敵線に潜入するに先ち適宜処分せしむること必要なり 帰路に在る官憲に就ても為し得れは同様の手段に依て通過の安全を図るへし 第百二十一 隠密なる手段に依りて目的地に出入するに際し旅券の調達及之か査証を安全に完了するは諜者の為重要なる問題なり 旅券は之を偽造し或は他人のものを適宜買収し得は可なりと雖イエドモ共に危険を伴ふこと大なるを以て最も細密なる注意を要し萬一発覚せる場合の処置に関しても豫アラカジめ十分の用意あるを必要なりとす へ 通信連絡 第百二十二 諜者と其使用者との間の通信、連絡は諜報勤務中最も重要視すへきものにして之か速達を確保すると之に基く秘密暴露の危険を防止するとは共に緊要欠くへからさることに属す 第百二十三 通信は電信(有線、無線)、信書若モシクは口伝の何れかに依るものにして緊急の情報は多くの場合電信に依るの外なく最も確実なるものは直接口伝に依るか或は信用すへき特別使者に依るに在り 第百二十四 無線電信は勿論有線電信と雖イエドモ秘密の保持は暗号の使用に依らさるへからす然れとも戦時は公然暗号の使用を禁せらるる場合尠スクナからさるのみならす對手アイテの為既に暗号の解読せられある虞多し又信書は途中公然或は隠密に開封閲読を免れさるものと覚悟せさるへからす之か為更に特殊の通信連絡手段を案出し秘密を確保するを要す 第百二十五 秘密通信の方法は其時の情況に應し使用者の機智に依り時宜に適せるものを選ふへしと雖イエドモ今其例を挙くれは次の如し 一 豫め約定せる方法に依り通信文意を秘匿し電信若モシクは郵便を利用し若モシクは密使に依り(中立国に在る仲介者を介し)て伝達す 二 通信の検閲至厳なる場合に於ては自身若モシクは密使の口頭伝達の外なし此際密使には秘密の証明を附すること必要なり 三 航空機に依り敵国内若モシクは敵線後方に送りたる諜者より伝書鳩若モシクは小型風船に依りて通信す 四 新聞広告に依り密使と諜者との会見時日、場所等を指定し或は各種簡易なる情報を伝達す 五 自国に同情ある第三国の外交機関を利用す 六 発、受信者共に必すしも初め協定を設けす臨機に発信者より受信者のみ理解し得るか如き文句即ち隠語を案出使用す 七 特別なる化学的液體エキタイを以て普通通信文の餘白ヨハクに或は衣類若モシクは直接肌上に所要通信文を記載し之に特種の化学的変化を与ふることに依り始めて現字する如くす 八 小紙片に記載せる通信文を石瞼塊内、書籍類、杖、傘等に挿入し或は不可溶の小容器に入れたるものを嘸下エンゲするか或は身體の一部に挿入して伝達す 九 封筒、切手、封絨葉書其他貼紙類の裏面等に記載す 十 「もーるす」符号を應用す 十一 音譜、體温表曲線図等を利用す 十二 販売品目録、絵画、新聞紙記事等を利用す 十三 型付紙(通常碁盤目に線を描き各碁盤に特殊の意義を有せしむ)を発、受信者両方に所持し之を利用して通信す 第百二十六 諜者若モシクは其密使と諜報勤務者との直接連絡即ち会見は最も隠密を要する所なるを以て此実行には細心の注意を払ひ深甚の警戒を加ふへきものとす 凡オヨそ諜者及諜報勤務者の周囲に出没する對手アイテ側の監視者は此種の機会に於て最も活躍すへきことを顧慮するを要す 第百二十七 会見上の注意は一にして足らすと雖イエドモ今其主要なるものを挙くれは次の如し 一 会見の形式、方法は諜者の身分、職業及当時の情況に依りて異なり或は自宅に招致し或は先方の住宅を訪問し或は特定の会合所若モシクは旅館、料理店、倶楽部等に於て行ふ 二 自宅に引見するに際しては召使と面会せしめさる如く又他の訪問客と邂逅カイコウすることなき如く時刻、使用室等に関し注意するを要す 三 特定の場所にて要注意人物と面会するに際しては直に其目的地に到らす自動車又は馬車にて目的地を乗り越し停車場、寺院、料理店、旅館前等人込の地にて下車し目的地に引返すを可とす 四 旅館、料理店等に於て会見するには其設備大なるものを選択すへし小旅館、小料理店は却て第三者の注目を惹くものなり 五 深夜の会合は却て第三者の注目を惹き易し 六 面談を避け単に探知要目を諜者に交付せんとするときは停車場に於て会見し小紙片若モシクは小薄絹布に問題を書き之を右手に握り諜者と握手の際交付す此際諜者に渡す書類には総て筆蹟を貽ノコささることに就き細心に注意すへし之か為印字機(たいぷらいたー)を用ひ且其型を異にせる数種を彼此カレコレ混用するを可とす 七 使用者と諜者との間に豫め暗号を約束し電話に依り談話するも亦マタ一方法なり此場合は成るへく公衆電話を用ひ電話の窃聴を豫防するを要す 八 指定郵便箱の私書函を利用して連絡するを可とすることあり と 諜者の監督及報酬 第百二十八 諜者の行動は各種の手段を以て監視するを要す然らされは動ヤヤもすれは敵に利刃を与ふるの危険を生することあるへし而して自ら当面の事情に通暁することを努むれは諜者報道の真偽を判定するを得るのみならす自ら諜者の行動を監督するの利便あるものとす 諜者の監督厳重に過くるときは其活動を拘束し進取の気勢を殺くの虞なきに非す此間寛厳能く其度を失せさるは一に使用者の力量に在り 第百二十九 使用者に好意を有する中立国に在りては国境内竝ナラビニ国境通過に至る迄の諜者の監督は困難ならすと雖イエドモ其敵国内に於ける行動は殆ホトホと全く放任の外なし此間諜者をして其任務に忠実ならしむるものは一に使用者の職能に依りて之を恐れしめ人徳恩愛を以て之を繋き且カツ諜者の一身及其家族に及ほす利害を以て之を牽制するあるのみ 第百三十 諜者の監督及報告真偽判定の為採るへき手段を例示せは左の如し 一 旅行日誌に類するものを要求し汽車の発著、汽車賃、停車場及沿線の現状、物価等に就き豫アラカジめ報告を命し?ナオ途中要所に於ける新聞、告示、受領証其他証拠となるへきものを持帰らしむ 二 報告には成るへく原本を用ひしむ即ち軍隊配置、編制等の原本を入手せしめ其他官憲の命令、告示等を持帰らしむるか如し 三 数人の諜者を派遣する場合為し得れは某地点を重複通過せしめ其地点の情況聴取に依り真偽を判定す然れとも同一任務の全部を二名以上の諜者をして重複偵知せしむる方法は経費の関係上特に重要なるものの外ホカ困難なり 四 諜者より報告を受くる際某事項を捉へ論理的に細大質問するときは往々其真偽判定の資料を得ることあり 五 諜者の報告に方り使用者より先きに種々質問を発し自己の観察に関する一端を洩すときは諜者をして直に自己の意図を忖度ソンタクし事実を枉マけて報告せしむるの虞あり故に努めて自ら口を挾むを避け諜者をして其開陳を完全に終らしめ然る後所要の質問を試むるを要す 六 諜者家族の使用者所在地に居住しある場合は諜者監督に便なること前述の如し而して使用者は之に保護を加へ萬一に際し其生活を保証するの義気を以て臨むときは諜者をして自ら感奮精励せしむるを得へし 七 一定の主義を奉する諜者(例へは白系露人の如し)の報告は其観察偏頗ヘンバなること多きを以て特に注意するを要す 八 諜者の考科書類及其筆蹟、指紋等は萬一の場合を顧慮し之を整理保存すへし 諜者考科簿の一例次の如し 姓名、身分、性質、通称、番号、写真(要すれは指紋) 住所 家族住所 派遣月日、時 経路及目的地 任務 成績 備考 第百三十一 諜者に對する報酬の善用は之を鼓舞督励トクレイし且繋留ケイリュウする為の主要なる手段なり 報酬は一地方に定住する信用ある諜者に對しては一定の俸給として与へ時に其職業上の損害に對して補助を加へ其特殊の功績に應し適宜賞与を増給するを可とするも移動諜者に對しては多くの場合勤務実施に必要なる資金即ち旅費、通信費、所要の日当として附与し其任務より帰還し情報を齎らしめたる後之を審査して相当の賞与を給するを可とす蓋ケダし特殊の者を除き移動諜者に一定の俸給を支給するも勤務に對する刺戟を減し一片の型式的行動に陥るの弊あるを以てなり 第百三十二 諜者に對する給料若モシクは報酬を比較的長期間に對し前渡支払する場合に於ても其一部を使用者に於て保管預りと為し一は以て諜者の繋留を計り他は以て必要の場合其家族救済の資に充アつる如くするも一方法なり 第三節 情報の査覈サカク、判断 第百三十三 諜報機関の蒐集せる情報は通常真偽、確否相錯綜し直に其価値を確定し難きもの多し是に於て各級諜報機関は其取扱ふ範囲に於て各方面より得たる情報を彼此ヒシ綜合判断し其真否価値及緊急の度を決定するを要す而して諜報機関の地位中枢に近きに従ひ愈々イヨイヨ比業務の範囲拡大するものとす 第百三十四 情報を判定するには其獲得の時日、場所之を提供し若モシクは所持せし人物竝ナラビニ該人物の平素把持ハジする意見等より考察し各情報を其価値に従ひ確定の度に應して辨別ベンベツし之を既知の事実に照合し逐次探究せんとする事象の真相を現出せしむるものとす而して新に情報を得るに従ひ之を更に在来の判定に加味し遂に真実若モシクは確認し得るものとするか或は之に反し確認不能なるものとして之を削除するに至る 第百三十五 情報を綜合判断するの目的は求むる事象の完全なる真相を得るに在りと雖イエドモ実際に於ては近似せる帰結以上を望み能アタはさること多きを覚悟せさるへからす 第百三十六 情報の判定に正鵠セイコクを得しめんとせは絶えす到著する各個の情報を其性質、特色に應して直に適当なる機関に配当伝達するを要す蓋し如何に有利なる情報と雖イエドモ之を取扱ふ機関にして其所を得されは即ち価値の大半を失墜するものなれはなり 第百三十七 情報は有らゆる実際的方法に依りて確認せらるるにあらされは軽挙に之を真実と判定することあるへからす就中ナカンズク情況上之か発生を希望し若は当然発生すへき推移に在りと豫想せらるる事象に於て特に然りとす 第百三十八 情報の判定には必す確然たる基礎を有せさるへからす若モし情報の錯綜に依り数個の判定を生する場合に於ては其何れか真実に近きや或は全然差等なきやを判定すへし而して明確なる理由を基調とすへく決して徒らに自我の主観に捉はるるか如きことあるへからす斯の如き場合に於て諜報勤務者の努むへき所は寧ムシろ進んて新情報を徴し判定の基礎を求むるに在りとす 第百三十九 想像と執着とは情報の判定上特に慎むへき所なり 将来に對する豫言は情報判定の目的にあらす要は現在に於ける事実及對手アイテの有する企図を最も迅速に知るに在り而して将来惹起ジャッキする事象は現在以後の情況を基礎として発展するものなることを銘記するを要す就中ナカンズク戦時に於ては何等の前兆を生せさる幾多偶発事の現出に依り全般の情況を左右することあるものなるに注意すへし 第百四十 他機関の諜知せし情報に関し自己の機関を以て真偽を確め得たる際は勉めて速に之を通報し以て情報審査の資料に供するを必要とす 第四節 情報の普及(報告、通報)及諜報機関相互の連絡 第百四十一 凡オヨそ情報は時期を失せす所要者に到達するにあらされは無効なること既述の如し従て蒐集シュウシュウ査覈せられたる情報は適時普及せられて始めて活用の域に入るものなることを銘記すへし 第百四十二 情報は其性質に依り緊急を要するの度合に自ら差等あり故に各級勤務者は能ヨく之を判別し通信連絡機関の運用を巧に調節し重要なるものの時宜に適して上級機関の手に入る如く終始考慮を廻らすを要す重要なる情報を詳報せん為時機を失する虞あるときは先つ要旨を報告し次て詳報の処置を取ること必要なり 第百四十三 重要なる情報は其系統を追ふて之を上級機関に報告すると共に同一系統内或は所要に應し系統外の諜報機関に通報すへきものとす 特に緊急を要する情報に在りては同時に直接中枢機関にも報告すへきことあるに注意すへし 第百四十四 情報は之を入手の都度所要機関に伝達すへきものなりと雖イエドモ連続して発生する同種の事項にして急を要せさるものは某時期を画し一括綜合して報告、通報するを可とす 第百四十五 諜報勤務者は其直接使用せる通信員及諜者等の配置、派遣竝ナラビニ之に与へたる任務等に関し上級指導機関に報告すると共に要すれは隣接機関に通報すへきものとす 第百四十六 諜報勤務指導機関は要すれは諜報関係報告の形式、期日を規正する為報告例規を作製して準拠を与へ以て業務の簡捷を図るものとす 第百四十七 上級機関は其得たる情報に関し適時之を下級機関に通報し?ナオ特に求むる所を明にし以て其勤務に對し常に新なる準拠を与へさるへからす斯の如くして上下互に相倚り相助け諜報勤務の実施愈々イヨイヨ的正且カツ円滑なるを得へし 第百四十八 外国に勤務する諜報機関は我に不利を来さるる範囲に於て駐箚チュウサツ国官憲竝ナラビニ列国諜報機関に對し我か獲得せる情報を頒つときは其交誼コウギに親交の度を加へ之か交換として時々有利なる資料を入手するの便をも得へく其勤務遂行に利すること尠スクナからす 第百四十九 重要なる情報は為し得れは数通を作り数種の方法に依りて之を送達すへし 取得せし情報資料にして諸種の関係上他に移送し得さるものは其事象の正確なる所在を所要の機関に通報し同機関自身の活動に依り該事象を明ならしむるの資料を与ふるものとす 其性質上自ら価値を判定し得さる資料は勤務系続の如何を問はす直ちに之を関係者に通報することを怠るへからす 第百五十 報告の記述は之を簡潔明瞭ならしめ受報者をして快感を以て閲読せしむる如くするの著意を要す単に諜者より得たるものを其偶玉石混淆羅列して記述するか如きは適当ならす須スベカらく取捨を適切にして簡明ならしむへし又情況を明瞭ならしむる為に屡々シバシバ要図を用ふるの適当なるに著意するを要す又報告の標題の如きも事項の内容を総括的に標示する如き字句を選択すへし 第百五十一 電報報告は緊要なるものに限り且其字句を簡潔にし以て通信の敏活と経費の節約とを図るを要す而して電報報告は所要に應し直ちに筆記報告に依りて其不備を補ふことを怠るへからす然れとも之か為我電信暗号解読の端緒を与ふる虞オソレあるに注意し適宜の豫防手段を講すること最も切要なり特に戦時に於て然りとす 第百五十二 通信連絡の手段に関しては前記第三章第二節二の部所載事項を適用すへし其他報告、通報の一般原則は諜報勤務に於ても亦之を適用すへきものとす 第百五十三 各級諜報機関上下左右の連絡は何時之を断絶せらるるやも計り難し故に相互に豫アラカジめ此場合に應すへき処置を考慮し所要の準備を整へ置くこと必要なり之か為各種通信手段を複用し得る如く研究を尽し置くを要す 第四章 諜報勤務者の自衛 第百五十四 諜報勤務は通常對手アイテ国の欲せさる所を探求せんとするものなるを以て其行動は各種の手段を以て妨碍ボウガイせらるるものなり特に其秘密事項を諜知せんとする場合に於ては当然生死の境を往復するの必要を生することあり故に此勤務に従事する者は最も周到なる用意を以て自衛の処置を講し勤務遂行の安全を期すへし若モし萬一不注意にして勤務の機密暴露することあらんか危害は自己の一身に止まらす僚友の心血を徒爾トジならしめ遂に或は国交に累を及ほし国家の不利を来すことあるを肝銘せさるへからす 第百五十五 自衛の方法としては諜報勤務に関する自己の身分及行動を秘匿防護すへき諸般の処置を講すると共に進んて自己身辺に関する對手国防衛機関の行動を豫知して機先を制し?ナオ為し得れは對手の観察を欺騙キヘンすへき宣伝手段に出つるに在り而して其何れの方法に就ても對手国の情況を的確に詳知するは最も緊要なる要件なり 第百五十六 諜報勤務者は之を防衛すへき方法に関し一般知識を有すへきは勿論駐在国及諜報勤務の對象国に於ける取締法に就て詳細の研究を遂け其裏を潜行し或は之を逆用し以て自衛の目的を達すると共に勤務の遂行を完全にするを要す 對諜報防衛に就ては第六章に之を説述す 第百五十七 身分及行動を如何なる程度に秘すへきやは一に勤務者の表示せる地位職務に関す 公然諜報勤務に関する者に在りては其裏面に於て隠密なる行動に出つるを要する場合多きを以て一層深甚の戒心を加ふるにあらされは其害の及ふ所更に甚大なるものあることに留意すへし 第百五十八 身分を秘匿欺騙せる勤務者の住宅、服装、所持品、金銭の費消等は其公示せる身分、職業に調和せしむること最も必要なり 服装、使用品等其自称する国民の風習と照應せす或は偽名を使用しつつ衣類の符号、携帯品の氏名略字等に本名を表はし或は質素なる旅館に滞在して収入の途不明なる多額の金銭を受領する等は最も陥り易き誤なり 全然国籍をも欺騙する場合に於ては其国民性、風俗、習慣、方言、俗語の末に至るまて微細に注意し陰陽表裏共に一点の間隙カンゲキなきを期すへし 第百五十九 諜報勤務者は故イタズらに其欲する事物の観察を他人の注意を惹かさる如く実施し必要なき限り談論を避け挙措キョソ、進退を平静にして秘密保持を確実ならしむへく酩酊して不用意の言動を発するか如きことを慎み旅行、訪問等に際し成るへく直接の行動を避け事件発生に際して特に通信就中ナカンズク電報の激増を戒むる等其行動をして公表せる身分、職業と對比して何等特異の景況あらしめさるを要す 第百六十 証跡の湮滅インメツは行動秘匿の一要件たり即ち紙屑籠に投入せる記録、証書、通信其他草稿類を焼却し男女類種の偽名を準備し筆跡を多様に区別し得る如くし印字機、封筒、用紙等も之を数種準備する等の必要あり然れとも其拙劣なる筆跡変更、婢僕ヒボク等の著目を惹き易き同一方法の書類焼却等は却カエッて對手の注意を誘引するの害あるものなることに注意すへし 第百六十一 諜報勤務者の身分、行動等を秘匿する為故らに虚報を宣伝して周囲を欺瞞し或は對手の注意を他に牽制するを可することあり然れとも斯の如き欺騙手段は一時効果を奏するも其永続疑はしきものなることを考慮し之を濫用することあるへからす 第百六十二 金銭の出納、特に使用する貨幣、銀行との取引、記録類に使用せる数字符号、通信、旅行等に関しては萬一嫌疑を受けたる場合に於ても理路井然セイゼンたる弁明を貫徹し得る如く細密の準備を為し置くこと必要なり 諜報勤務者は自己に對する追跡を認識せし場合に於ても決して過度に退去準備を急くへからす又萬一抑留の厄に会する際には極めて冷静沈著にして決して狼狽の態なく且活?カッパツ勇敢なるへし又訊問ジンモンに對しては細心の注意を以て應答し且前問及之に對して為したる答解を記憶し前後の撞著あるへからす 對手は往々誘惑若モシクは強迫の手段に出つへしと雖イエドモ之に應するは却て全般の破滅を来すへきを銘記すへし又勤務者に對する同情者の如く装ヨソオひたる者を同居せしめ拘禁中其身辺を偵察する如きことあるに注意すへし 第百六十三 諜報勤務者特に諜者は必要に應し変装若モシクは仮扮カフンすることあり此際には左の諸件に注意すへし 一 自己の通せさる職業若モシクは地位の人物に仮扮するは成るへく之を避くるを要す然れとも之を要する場合には其職業、地位に應する多少の知識を養成し携行物、手記等之に相應する證アカシに作為するを要す 二 変装に方りては声音、習癖、歩様等の外観及後方より見たる姿容に至る迄一貫して変態せしめさるへからす 三 未知の土地に到り其地方人を装ふには多少の技術を要す帽子、靴、襟飾の如きは滞在他のものを使用し其態度に於ても土地の風習を学ふへきこと勿論なりとす 第百六十四 諜報勤務者は情況之を許す限り積極的に逆諜報を行ひ自己の手先を對手の憲兵、警察其他の諜報機関中に入れ或は憲兵、警察、探偵等の要人を買収し以て自己に對する官憲の嫌疑、探究の景況を察知し對手の企図を機を失せす豫報せしむる如く措置ソチする必要あり 自己に對し對手国より附せる尾行者の情況を探知し又は暴漢に對する直接保護の為諜報勤務者自ら尾行を附することあり 第五章 對諜報防衛 第百六十五 平戦両時を通し諜報勤務者の活躍に對し之を防衛して其目的を達せしめさるは国家必須の施設なり而シカして對諜報防衛の要領を知悉チシツするは諜報勤務を十分に遂行する為に緊要欠くへからさることに属するのみならす諜報機関として其本然の任務以外に敵の諜報勤務防衛に関する一部の任務を担当する場合に於ても必要なり 戦時に於ける對諜報防衛勤務は単に敵国竝ナラビニ其同盟国を對象とするのみならす此等と情報交換の虞オソレある第三国の諜報勤務組織に對しても之に準して注意すへきものとす 第百六十六 對諜報防衛機関は之を全国的に統一し敵国諜報機関をして活動の餘地ヨチなからしむるを要す 對諜報防衛機関として主要なるもを挙くれは次の如し 一般警察及軍事警察 新聞其他刊行物検閲機関 郵便、電信等通信検閲取締機関 旅券、出、入国者及在留外人取締機関 無線放送取締機関 戦時情報統一機関設置の場合に於ては同機関は對諜報防衛勤務に関しても全般の統制竝ナラビニ一部の実施に任すへきものとす 戦時大本営陸軍情報部は陸軍に関係ある對諜報防衛の企画に任し且部内に於ける同勤務実施全般の統制竝ナラビニ部外との連絡に当るものとす 第百六十七 對諜報防衛は国民上下一般に自衛の念を深からしめ敵諜報機関の乗すへき餘地なからしむるを以て第一義と為す即ち国民一般に愛国の熱情に基く警戒心を喚起し特に戦時に方りては其敵愾心テキガイシンを旺盛にし官憲の厳密なる取締に協力して寸隙スンゲキをも存せさる如くせさるへからす之か為刊行物、活動写真、無線放送其他の方法を以て汎ヒロく敵国諜報勤務の情況を了得せしむる等特に此目的を以てする宣伝の要あり 第百六十八 平戦両時特に戦時に於ては敵国は間断なく有らゆる手段方法を尽して我に関する情報を蒐集シュウシュウせんとし国民は目視し得さる敵の包囲中に在るの覚悟あるを要す而して一見何等の価値なき紙片隻語と雖イエドモ之を敵手に委するときは重大なる価値を現はすことなしとせす故に秘密保持の消極的最良方法は緘黙カンモクを守るに在り 對諜報防衛勤務上管轄を異にする両地方の境界は對手アイテの好んて乗せんとする所なるに注意すへし 第百六十九 軍人及国防に関係あるものは口頭若モシクは文書を以て軍事其他国防に関する事項を漏洩するを厳禁す而シカして縦タトひ其肉身者に對する場合と雖イエドモ亦然り 一般に公衆の集まれる場所(汽車、電車内、茶店、料理店、劇場等)に於て苟イヤシくも敵国に知らしむへからさる事項は絶對に之を発言すへからす 第百七十 平戦両時を通し一国の機密保護、間諜行為取締に関しては各々法律の制定せらるるものあるを通常とし間諜行為に對しては重罪を以て之を罰する如く規定しあり其他對諜報防衛の目的を以て制定せらるへき規則類を列記せは次の如し 一 通信、無線放送、公表禁止事項の規定 二 新聞其他刊行物に関する規定 三 敵国人の退去、抑留竝ナラビニ外人取締規定 四 旅券、官印偽造に関する規定 五 私人暗号及外国語電報取扱規定 六 無線電信使用取締規定 七 交通機関の取締規定 八 伝書鳩に関する規定 九 特種「いんき」使用禁止に関する規定 十 陰謀取締規定 十一 軍機漏洩取締規定 十二 作戦行動の準備時機に於ける人民の交通制限 十三 在敵国俘虜宛書信の検閲 十四 航空機の行動に関する規定 第百七十一 對諜報防衛に任する諸機関は近時に於ける諜報勤務の実施に関し詳細なる知識を必要とし特に對手国諜報網の組織を探究し其諜報勤務上の企図を諜知するは防衛上の第一義にして取締上最も必要なり而シカして其方法は種々あるへしと雖イエドモ要人間の交通、通信の景況、行動等を注意観察することは有力なる一方法なりとす 第百七十二 諜報勤務に於て科学の應用近時愈々イヨイヨ巧妙なるに對應し之か取締の為にも其必要益々大なり今其主要なるものを挙くれは次の如し 一 暗号解読 對手国諜報機関の間に使用せらるる各種の暗号電報を解読し以て通信取締に資するものなり 二 写真術の應用 要注意人物及其周囲の者の人相、行動を写真に撮影し探偵の資料に供するものなり 三 特種「いんき」、封印等の對策 特種「いんき」に関する研究及封筒、封印等の隠密開封若モシクは封内透視等の為の科学的手段研究を深厚にす 四 無線電信の窃聴セッチョウ 對手国の諜報勤務に無線電信を利用する場合に於ては之か窃聴施設は必須の要件なり 第百七十三 要注意人物を発見したる場合其行動の探偵尾行は取締上最も必要とする所にして之か為には当該国人の性情、風俗、習慣を知悉するのみならす諜報勤務者の秘密通信法、自衛法等に通暁し常に對手アイテに一歩を先んする如く行動するを要す 要注意人物に就て其行動特に通信、交際関係に細心注意するときは對手国の通信系統竝ナラビニ其手段、資金出入の経路、連累者等発見の端緒を得ること少からす 第百七十四 国境出入者の検査に方りては単に旅券の検閲等一片の形式に止むることなく苟イヤシくも諜者の疑ある者に對しては最も厳重なる身體検査を励行レイコウするを要す而して其実施法に関しては時の情況に應し中央統制機関に於ても機を失せす所要の指示を与ふへきものとす 第百七十五 公然の要職を帯し其実諜報勤務に従事する者に對しては優遇を名として故イタズらに要点以外の観察若モシクは視察に誘導し其行動をして意の如くならしめさるも亦マタ一種の防衛手段なり 第二編 宣伝及謀略勤務 総 則 第一 平戦両時の何れを問はす内外各方面に對し我に有利なる形勢、雰囲気を醸生せしむる目的を以て特に對手を感動せしむへき方法、手段に依り適切なる時期を選ひて某事実を所要の範囲に宣明伝布するを宣伝と称し之に関する諸準備、計画及実施に任する勤務を宣伝勤務と云ふ 第二 間接或は直接に敵の戦争指導及作戦行動の遂行を妨害する目的を以て公然の戦闘員若モシクは戦闘団隊以外の者を使用して行ふ破壊行為若モシクは政治、思想、経済等の陰謀竝ナラビニ此等の指導、教唆に関する行為を謀略と称し之か為の準備、計画及実施に任する勤務を謀略勤務と云ふ 第三 戦争の勝敗は単純なる武力の行使のみを以て能く決する所にあらす政治、経済及思想等一国武力の根源たるへき事項の消長に関する所亦マタ甚た大なり宣伝及諜略は実に此根源を其對象とする一種の戦争手段にして戦時は勿論平時に於ても戦争及其準備の遂行上重要欠くへからさる一大要素を形成す 第四 宣伝、謀略には一定の主義方針を確立し堅確なる信念を以て之を貫徹するを要す故に之か計画、実施は国家全般の為統一せる組織に依りて之を処理すへきものなり而して平時に於て既に其素地を構成し所要の準備を整ふるにあらされは戦時遽ニワかに実効を収めんとすること最も困難なるに留意するを要す 宣伝、謀略上の主義方針は此種勤務系統の末梢に至るまて徹底し各々其職責範囲に於て之を基調として活躍し得しむること必要なり 第五 宣伝には對手の行ふ宣伝の對抗するあり謀略に於ても亦然り斯の如くして宣伝及謀略は無形無声の一大闘争を演出するものにして其範囲は有形の武力を以てする交戦地帯に比し遙かに広汎に、其作用は隠徴にして且深刻なり従て之に関する施設及勤務実行上の努力も亦共に其威力に應するの用意なかるへからす 第六 宣伝及謀略は多衆心理の操縦を主眼とす従て其準備、計画は最も用意周到、組織緊密にして人心趨向スウコウの機微に触れ且時と所と對象物との如何に應して変転自在の妙を尽し正奇両道の活用最も機宜キギに適せさるへからす 第七 對象国の内情に関する研究の徹底的なるは宣伝、謀略勤務の為の最大要素なり従て宣伝及謀略勤務と諜報勤務とは密接不可分の関係に在り 宣伝及謀略を行ふへき時機、方法、方面、目標等の決定に関し精細なる根拠を得んとせは所要の方面に對し特に之か為の専用諜報機関を配置し絶えす之に関する情報を蒐集し之に基き深刻なる計画を進むるの必要あり 第八 宣伝と謀略とは特に密実なる関係あり即ち両者は同一目的に向ひ相竝行して実施せらるるのみならす彼此ヒシ互に相助け相補ひ以て其効果を増大せしむへきものなり故に此等勤務の計画及実施は最も緊密なる連繋の下に遂行し共に其進展を円滑ならしむへきものとす 第九 戦時に在りて実施する宣伝及謀略は作戦の推移と密接なる関係を有す故に常に作戦方面と緊密なる連繋を保持し宣伝及謀略実施の時機、方法、範囲等の選定を機宜に適合せしむるを必要とす特に作戦地に密接して実施する宣伝及謀略は当該方面作戦軍の行動に對し完全なる協調を保たさるへからす 第十 宣伝及謀略は共に人心の機微に触接し且臨機應変の処置を必要とす従て此等勤務に任する大小機関の能力、素質の如何は其効果に影響すること極めて重大なり故に人材の選定に特に注意し且平時より此種勤務に充当すへき要員の簡抜カンバツ、養成に留意するを要す 第十一 宣伝は其業務の性質上對諜報防衛勤務就中ナカンズク検閲業務と時に撞著を来すことなしとせす故に此両勤は密接なる連繋を保持し得る如く勤務の系統を組織し且実施を統制し以て相互に業務の円滑なる進捗を図らさるへからす 第十二 宣伝及謀略に任する大小各級機関相互の通信連絡及当事者の行動、自衛等に関しては第一編諜報勤務の部を参照すへし而して宣伝特に謀略に任する当事者の身辺は諜報専任者に比し更に一層危険の大なることを覚悟するを要す 第十三 宣伝及謀略の実施には大なる経費支出の伴ふことを豫期せさるへからす故に豫め之か準備を豊富にし其運用に方りては善く事の軽重を判別し其緊急重要なるものに對して敢然カンゼン十分なる用費を惜ます且一方不時の支出を顧慮し常に所要の豫備を用意すること肝要なり 第一章 宣伝及謀略機関の組織及配置 (第一編、第一、第二章参照) 第十四 戦時国家の宣伝及謀略勤務を統制せしむる為中央に統一機関を設置するを最も適当なりとす特に大規模なる宣伝を実施すへき情勢に在りては民間言論機関の有力なるものを此種中央機関の組織内に編入すること必要にして時には之を実行の主體として利用することもあるものとす 此種機関の編成せられたる場合に於ては大本営陸軍部は所要の職員を之に編入して業務の連繋を緊密にし且心要に應し其関係業務を区処すへきものとす 第十五 作戦地方及軍隊に對する宣伝の計画実施は大本営若モシクは野戦軍の統轄及実施に依る 戦時大本営陸軍情報部は陸軍の担任する宣伝及謀略の中央統制に任す而して各地に配置する大本営直轄情報勤務機関は同時に宣伝及謀略の指導に任するを通常とす 第十六 勤務系統の端末に在りて直接宣伝及謀略の実行に従事すへき諸機関は成るへく独立して其勤務に専任せしむるを可とすと雖イエドモ已むを得されは其業務の性質に應し或は当該方面の諜報機関の兼任とするか或は其指導の下に行動する如くせらるへきものとす謀略の実行に任する特別任務の部隊(馬賊団の如し)は其編成の大小、活動地域、通信連絡の適否等を考慮し夫々ソレゾレ其指導機関との系統を律すへきものとす 第十七 宣伝及謀略の実施には對手国国語の知識は絶對に必要なり又對手国若モシクは地方の風俗、習慣、歴史、宗教等を熟知し之に適合する如くするにあらされは効果少し故に此等に関する調査研究を豫め詳細にするは勿論実施機関内に当該国情に通暁し其言語に堪能なる者を編入するのみならす為し得れは当該国国民若モシクは地方民中適任の者を我か機関の手先として使用するを必要とすることあり 第十八 宣伝及謀略には對象国民或は同地方民をして表面上直接第一線に立たしむるを得は最も有利なり之か為民族、政治、思想的関係等に基く不平分子其他所要の素質を具備する者を求めて之と連絡し自らは裏面に在りて此等を操縦し且所要の資料を供給して其活動を我か意の如くならしむるを可とす 第十九 宣伝及謀略の実行に任する機関配置の要旨は第一編第二章諜報機関配置の要領に準し専ら其目的達成に必要なる時機と場所とを選ふへきものなりと雖イエドモ卒急なる施設は通常其効果少きのみならす却て敵に乗すへき口実を与ふるか如き弊害あるを以て平時より十分の研究を遂トけ隠密裡に連絡を保持して必要に應し直ちに所要の活動を開始し得る如く常に準備を整へ置くを要す 第二章 宣伝の実施 第一節 一般の要領 第二十 宣伝は当面の情勢に應し目標、範囲、時期、材料、及手段を適当に選定するを以て第一の要件とす 第二十一 宣伝の目標及其範囲は宣伝の目的に應し自ら限定せらるへしと雖イエドモ要は直接利害の感響最も鋭敏且強烈なる部分に向て指向せらるへきものなりとす然れとも間接の方面に對し同時或は時期を異にして行ふ宣伝も効果を揚くる為の補助手段として有力なることを忘るへからす 第二十二 宣伝は選定せる重点に向て主力を傾注するを必要とす而して同時に一目標に對し数多アマタ方面より各種の宣伝を指向する場合に於ては其間に於ける相互の連繋を密にし互に相助け相補ふ如く成るへく之を統一し決して彼此撞著ドウチャクし或は相妨害するか如きことはあるへからす 第二十三 同一目的に関し宣伝を指向すへき目標数多ある場合に於て各方面同時に開始するときは短少なる時間に効果を収め得るの利ありと雖イエドモ時として其威力の不足を来すの害あり為に一目標宛各個逐次に宣伝を指向するを要すること少からす特に某方面に於て著イチジルしき弱点を形成しあるを発見し得たる場合に於て然りとす 第二十四 宣伝は時機に投合せされは其効果の大半を失墜するものなり故に宣伝を実施する時機を周到なる用意を以て選定すると共に題材、手段、播布方法等悉コトゴトく之に一致せしむるを要す 第二十五 宣伝は人心の平静なる場合に之を行ふも効果少し即ち疑惑、興奮、煩悶等に依り動揺せる心理を利用すること最も必要なり 對敵宣伝の最も効果ある時機は敵国の情勢不利にして其輿論の不統一なる場合に在り故に一方戦争の指導、謀略の行使に依りて敵国及敵軍の情況を不利に導き其士気を沮喪ソソウせしめ一般の動揺を誘起し此機を逸せす宣伝を以て其動揺せる精神を愈々イヨイヨ攬乱すること必要なり 第二十六 宣伝は對手の意表に出つること多きに従ひ交感益々大なり之か為宣伝材料、手段の選定は勿論時機、方面、目標の決定上にも常に此趣旨を考慮し對手をして對策を講する餘裕なからしむるを必要とす 第二十七 一時的にして不確実なる宣伝は効果少く却て對手の逆用する所となるの弊あり故に一定の目標に對し所要の期間之を反復して遂に對手をして信を之に措く如くならしむるに至るまて徹底せしむるを要す 第二十八 宣伝には抽象的にして對手との関係間接的なる手段は効果薄弱なり故に對手に直接利害関係の切実なるものに就て具体的事実を捕捉し之を以て其交感を強烈ならしむるを要す 第二十九 宣伝の材料、手段選択に方りては常に對手アイテの心理に反應する交感如何に注意し且臨機應変適宜に転換更新し對手をして知らす識らすの間之を感受せしむるを要す 第三十 宣伝は常に攻勢的なるを要す然れとも對手の実施せる宣伝の逆用も亦最も必要にして且効果大なり而シカして其実施は十分之を積極的にし對手の宣伝を圧倒するの威力あるを要す 第三十一 宣伝の最も有効なるは真実を伝ふるに在り縦令タトヒ事実真ならすとするも對手をして其真実を信せしめされは効なし之か為には宣伝の趣旨終始一貫寸毫の矛盾あるへからす若モし宣伝にして對手の為単に一片の宣伝として看過、黙殺せらるる如きものは其最も拙劣なるものにして全く有害無益なることを銘肝すへし 第三十二 宣伝には為し得れは実際の行動、事実の生起等具體的現象を以て之を支援するを必要とす即ち此種事実の実現に依り宣伝の効果をして一層直截深刻ならしむるを得へし 第二節 宣伝の材料、手段 一 要 則 第三十三 宣伝の材料、手段は宣伝の目的、目標、時期の如何に依りて或いは直接宣伝の趣旨を明にするもの或は宣伝の実質を明にせす間接に目的を達せんとするものを選ふへし而して宣伝の目的広汎に、其目標とする所亦普遍的にして且急激の奏功を望ます徐々に堅確なる進展を期する場合に於ては寧ムシろ後者を選ふを適当とすと雖イエドモ戦時對敵宣伝の如く一定の目的、目標、時期を局限せらるる場合に在りては主として前者に依るを普通とす 第三十四 宣伝は其目的とする事項に應し時に一般の理性に訴へ或は多衆の感情を利用せさるへからす従て宣伝に使用すへき材料、手段の選択に方りても専ら此本旨を考慮すへきものとす 理性に訴ふる宣伝は其作用深刻なりと雖イエドモ急速の奏功を期し難く感情を利用するものは直接の効果大なれとも持続性少きの不利あり然れとも宣伝の本質上一般に後者に依るを利とすること多し 第三十五 宣伝は其材料、手段の如何を問はす人の心裡に深刻なる印象を与ふものなるるを要す而して単調、直感的の方法を反復して此目的を達すへきや或は之に反し幽遠、深長なる意義を包蔵する手段を選ふへきやは一に当時の情況就中ナカンズク對手の素質、理解の度に依り異るものとす 第三十六 直接の宣伝を目的とする文句の記述は冗長なるものよりは寸鉄人を刺すか如き直截的なるものを適当なりとす殊に短少の時日に卒急に目的を達せんとする情況に於て然りとす 第三十七 宣伝文は其對象たる当該国語を以て記述するを要す又為し得る限り当該国人をして之を作成せしむるを可とす蓋ケダし人心の機微に触れ其感情を唆ソソるか如き字句は他国人に於て之か記述到底至難なるを以てなり 第三十八 多衆を對象とすへき宣伝に在りては無学者にも?ナオ能く徹底せしむるの用意を以て材料、手段を選定すへし従て其宣伝用語は平易にして簡単明瞭なるを要し写真、絵画等を併用し得は最も可なり 第三十九 一国の政治的組織より国民の実生活に至るまて精細に探求するときは必すや乗すへき欠陥の存するあり且為政者の公表を望まさる事実あり此等は宣伝の為利用すへき要目にして例へは左の如し 国體、政治組織の弱点 政治当局と軍部との反感 民族間の軋蝶 階級上下の反目 宗教の異同 生活難及就職難其他国内の不隠、不安事項 戦争終局の目的に對する疑惑 出征者家族の窮状 国内に於ける戦時利得者の安逸状態と戦場に於ける惨苦との對比 敵同盟国或は同盟軍の弱点其他相互猜疑の念を起さしむへき事実 敵軍内他正面の不利なる戦況、住民の暴動、軍人の反抗若モシクは投降者増加の景況 第四十 敵に對し我か優越せる事態を闡明センメイするは敵国民及敵軍をして我に對する抗争意志及敵愾心テキガイシンを滅却せしむへき宣伝上の一方法にして選定すへき要項例へは左の如し 戦争持久の為我国力の充実せること 我軍の優勢なる実質、実力 我国民結束の鞏固キョウコ、志気の旺盛なること 我戦争目的の飽くまて正義に則り人道を基とすること 戦争は敵国国策若モシクは其某一派を對象とするも敵国民を目標とせさる事実 敵俘虜、投降人に對する我か優遇の事実 我同盟国或は同盟軍の強靭なる結合 第四十一 同一宣伝目的の為使用する材料、手段は成るへく多数に之を選ひ各目標の種類に應し之を按配すへし然れとも若モし其間相互に矛盾撞著あるときは却て宣伝の効果を薄弱ならしむるを以て能く之を統一整理し一途の目的に向て集中する如くするを要す 第四十二 婦女子及児童に對する宣伝の感響は其鋭敏の度通常大なるものなり而して此等に對する宣伝は主として其感情を利用すへきものなることに留意すへし?ナオ宣伝中に婦女子及児童に関する事実を包含せしむるときは一般に對する感動を強調するものなるを以て之か適用亦軽視すからす 第四十三 戦時各種交通機関特に通信、鉄道等の従業員に對する宣伝は其効果至大にして実施比較的容易なり 一般に後方勤務員、兵站部隊等戦線より遠隔して對敵観念浅弱なるに従ひ宣伝の実施軽易なることに留意すへし 第四十四 国民的誇負、民族的伝統、宗教的信仰等は多衆の情緒を動かす威力最も大なるを以て攻防両面共に宣伝上之を利用すること肝要なり従て思想家、教育家、宗教伝道師等は宣伝実施上有力なる地位に在るものとす 第四十五 宣伝の材料及内容如何に整ふも之を配布送達すへき手段にして当を得されは其効力を減殺すること多し而して其手段は時の情況に應し多種多様なりと雖イエドモ通常数種の手段を併用するを可とす?ナオ其手段に関しては汎く注意研究し為し得れは之か為特殊の諜報機関と連絡し好機に投するの用意あるを要す 二 新聞、電報通信 第四十六 新聞は最も普遍的にして重要なる宣伝機関なり故に特に戦時に在りては国内新聞を統轄的に利用するの外中立国及為し得る限り敵国内一部の新聞をも適宜操縦するの途を講すること最も必要にして?ナオ要すれは適宜對外若モシクは對内宣伝の目的を以て新に新聞の出版を経営すること肝要なり 第四十七 新聞は宣伝用として特に結合的威力を有するを其長所とす即ち其購読者に對する一種の魅力は自ら読者を駆て一定の方向に結束せしむるの傾向を生す?ナオ新聞は理性、情緒及趣味の各方面より社会各階級に對し同時に宣伝威力を発揮し得るの利あり 第四十八 新聞は其経営、政治的若モシクは思想的色彩、発行部数、読者の階級、勢力範囲等に依りて自ら大に其価値を異にす故に此等に関しては平時より十分の調査を遂け所要に應し適者を採択し且不適者を買収若モシクは圧迫するに遺漏なきを期すへし 第四十九 経営最も健実なる大新聞社は単に国内輿論に對し大なる勢力を有するのみならす平時より海外各地に通信員等を配置し国際的通信網を組織しあるを以て戦時要すれは之に国際的宣伝機関として弘く活用すへきものとす 右に反し経営微力なる小新聞には時として奇矯なる言論を弄して多衆の感激を牽ヒかんとするもの少からす此等に関しては適宜之を善導するに努め已むを得されは之に断乎たる弾圧を加へ輿論を統一するを要す 第五十 戦時に在りては重要なる国内新聞経営者若モシクは関係文筆者は成るへく之を国家の統轄する宣伝業務機関に参与せしめ其蘊蓄を傾倒して国家全般の宣伝に尽瘁ジンスイせしむる方途を啓ヒラくと共に輿論の統一に資するを可とす 第五十一 新聞と略々同等の価値を有し且更に国際的に威力を有する宣伝機関は各種の電報通信なり 電報通信も亦其関係範囲及平時信用の大小に依りて宣伝上の効力著しく差等ありと雖イエドモ其有力なるものを利用するときは坐イナガらにして世界の大勢に偉大なる影響を及ほすことを得へし 第五十二 国際的大通信社には官営、半官半民若モシクは民営等其経営に差異あり而して官営若モシクは半官営のものは平時より其所属国の宣伝機関を成形するの観あり戦時に至りては益々其色彩濃厚なるへしと雖イエドモ或は其背景たる国家の勢力を通し或は数種通信社間の競争に乗する等適宜当時の情勢に善処して此等の利用を断行するを要す 国際的勢力大ならさる電報通信社と雖イエドモ或は国内宣伝に或は国際大通信社との連絡の為適宜利用すへきものとす 第五十三 新聞及電報通信の利用は敵の為に妨害せらるることも亦大にして殊に国際的大新聞及大通信社の外国の勢力下に在る場合に於ては動ヤヤもすれは我に不利なる形勢を惹起し易し故に平時より既に将来を洞察し所要の連絡方法を講するのみならす有事の日敵の妨害を受けたる場合の對策をも準備し置くこと必要なり 第五十四 新聞及電報通信の利用の為には其関係記者及通信員等を直接操縦することも亦切要なり故に此等勤務員と宣伝勤務当事者との間には平素より密接なる連絡を保持すること必要にして?ナオ単に我か威力圏内に在る新聞若モシクは通信員のみならす第三国の者に對しても此趣旨を適用すへきものとす 第五十五 敵国内若モシクは中立国に於て発行せらるる新聞其他の刊行物にして其内容敵国の戦争指導に不利なるものは敵国国民一般特に戦場に在る軍隊には到達せさるを普通とす故に陰に其経営を支援すると共に此等は極力我か手に蒐集するの手段を講し之を敵側の好まさる方面に速かに普及する如くせは宣伝として有利に転用することを得へし 第五十六 時として敵国若モシクは中立地方発行の新聞の如く偽装せるものを印刷し之に所要の宣伝記事を登載して汎く配布し効果を奏することあり之か為には敵国の公債募集、諸種の広告等を其儘利用し其中に巧に我か宣伝用字句を挿入するものとす 三 無線電信、無線放送 第五十七 無線電信及無線放送の利用は宣伝の手段として其実施比較的容易にして殊に遠距離に對する通信経路を杜絶せられたる場合に於ても?且有効なるの利益あり然れとも其受信範囲は自ら制限あるを以て宣伝の種類及実施時期も亦之に適應する如く選択すること肝要なり 第五十八 無線電信、同放送通信連絡の組織系統其他経営竝ナラビニ技術上の諸施設に関しては宣伝に任する機関は平素より十分の研究を尽し必要に應して之か利用に遺漏なきを期すへし 第五十九 無線宣伝を戦場に於て利用せんとする場合に於ては作戦上実際の無線通信と明確に区別し得る如く通信上の規定を設け作戦指導に誤解錯誤を生せしめさるの注意必要なり然れとも之か為直ちに宣伝用通信として敵に感知せられさるの用意あるを要す 四 書籍、定期刊行物、小冊子、檄文 第六十 宣伝を根抵的に行はんとせは書籍及定期刊行物の利用に依らさるへからす 此種宣伝手段は著作者若モシクは編輯者ヘンシュウシャの地位と発行所若モシクは発売所の信用と購読者の範囲とに依りて其効果に差等を生す而して之か利用に方りては所要に應し中立国国民及對象国国民を適宜操縦し其執筆若モシクは編輯に依り中立国及對象国内に於て発行せしむるの著意を要す 第六十一 第三国等に亡命しある敵国民の著書若モシクは其団體の機関紙等には我か宣伝の為利用すへきもの多し 敵国平和論者或は政府反對論者の著述等は巧に之を利用することを忘るへからす 此等は著作者の地位高く其名声顕著なるに従ひ益々効果を増大するものなり 第六十二 書籍及定期刊行物は其宣伝的効果を揚くるまてに相当の時日を要す之に反し小冊子及檄文は簡明短切に要旨を伝布し迅速に宣伝の目的を達するに適す特に檄文は其製作、配布共に極めて容易にして戦場に於ける宣伝等に於ては最も重要視せらるる所なり 第六十三 檄文は単に宣伝紙片として製作するのみならす各種の日用必需品類即ち衣類、食糧品包装等に之を印刷し弘ヒロく一般に普及することを得へし又普通商品の広告中に所要の宣伝文若モシクは宣伝要旨を適宜挿入し表面檄文たることを感知せしめすして其実効を収むる如きも有利なる方法なり 第六十四 戦時敵国民の最も渇望する当該国食糧券を模造し其裏面に宣伝用檄文を巧に印刷して敵国民間に伝播し得は最も有利なり 其他食糧品就中ナカンズク穀類、罐詰等の中に宣伝檄文を隠匿し中立国を経て搬入せしめ時に密封せる容器内に之を収めて河水に投流する等の手段を講することあり 第六十五 小冊子及檄文の播布手段として戦場に於て最も應用の範囲広大なるは飛行機に依るものなり気球も亦マタ時に同様の用途に充てらる 第六十六 既刊の書籍配布の為には必要に應し複製すると共に要すれは搬送及陣中使用に便なる如く改版し或は注目を惹き易き如く装幀を改むることに注意すへし 五 口伝 第六十七 公然の講演若は隠密なる口伝に依る宣伝も亦効果著大なるものなり 殊に隠密に行ふ口伝に在りては其範囲自ら制限あるも對手を感動せしめ得るの効果に至りては爾他の書類若は公然の口伝を以てする宣伝に比し遙かに優越せるものなるに注意すへし 第六十八 講演は知識に對する欲求旺盛なる階級を目標とする有利なる宣伝手段にして其反響も亦マタ従て大なり而して其効果は主として講演者の地位、学殖竝ナラビニ講演上の技能に依るものなるを以て之か選定に特に注意し為し得れは平素より所要の人材を養成し置くこと必要なり又講演には映画其他の補助手段を併用し?ナオ時として討論の形式を取り印象、理解を深からしむるを可とすることあり 第六十九 責任ある地位に在る高官、名士の声明若モシクは演説、講演、就中ナカンズク戦争責任、戦争目的、平和条件、戦後の施設等に関するものは彼我共に最も深甚の感響を受くるものにして之か利用は宣伝上重要の価値を有す 此等は口伝として宣布せらるる範囲比較的狭小なるを以て成るへく新聞、通信、無線放送、小冊子等の補助手段を以て弘く之を利用する如く努むるを要す 第七十 宗教的信仰を利用して行ふ宣教師の宣伝は信者の胸奥に穿入センニュウするの威力甚大にして殊に慈善、救恤キュウジュツ、施療竝ナラビニ教育等を之に併用する場合に於ては其効果愈々イヨイヨ大なるものあり 地方の文化低く宣教師に對する信仰盲目的なるに従ひ此種宣伝の成果益々顕著なるものとす 第七十一 鉱山、工場、料理店、旅館、倶楽部、汽車、汽船等に出入する群集に對し巧妙なる談笑の間に行ふ適時適切なる宣伝は片言隻語と雖イエドモ有効に普及し殊に通俗なる事項の宣伝に適す 六 絵画及写真 第七十二 絵画及写真は宣伝手段として独立若モシクは宣伝文と併用して最も重要視せらるへきものなり而して共に一般多衆に与ふる印象の深刻なることを目的とすへきものなるを以て對手の理解の程度に應し趣向の高低、表現の雅俗ガゾクを適宜按配するを要す 第七十三 絵画は某思想の中心を最も強調して表現し得るを特長とす故に宣伝に於ける其用途最も広汎にして幽遠崇高なる芸術的作品より通俗軽妙なる諷刺画に至る迄夫々ソレゾレ観覧者の感情を支配する威力少からす而して文章、口伝等に比し更に直截、短切に其効果を挙け得るの利あり?ナオ之に簡潔なる檄文若モシクは標語等を附記するときは一層大なる価値を発揮し得へし 第七十四 写真は真正なる事実を表現するを其特長とす即ち芸術的権威に於て絵画に及はすと雖イエドモ真相に触れ実証を得るの点に於ては遙かに右に優り一般通俗の感情に對し深甚なる印象を与ふるものなり 第七十五 写真は時として其標題を變更し或は一部分を改變し或は数種の写真を綜合する等の技巧に依りて真事実と異なりたる他の現象を表示し以て一時的宣伝に利用せらるることあり 第七十六 絵画及写真の播布手段は概して檄文と同様にして?ナオ宣伝用書籍、刊行物、小冊子、檄文に挿入若モシクは同時に印刷して其普及を計るものとす 七 芸術品、演劇、映画、歌謡、音楽 第七十七 芸術品就中ナカンズク文芸作品、演劇、映画及歌謡、音楽は各種の社会階級に對し夫々ソレゾレ其思想、情操を支配する威力甚大なるものにして之に宣伝的意義を加味するときは其効力著しきものあり而して其作品の高?コウショウなるに従ひ其交感深刻にして生命永く又簡明通俗なるに従ひ伝播容易にして影響の範囲広大なるを得へし 第七十八 文芸作品の民心就中ナカンズク青年男女の心理に及ほす感化威力は文化の向上と共に益々激甚なるものあり従て国家有事の日其内容を適宜指導すると否とは其影響する所甚た大なり故に一般文筆の士の努力を此方面に向ふ如く慫慂ショウヨウするのみならす特殊の人士に對して適切なる地位を与へ大に其能力を発揮せしむる如く施設上の注意を要す 第七十九 映画は一般民衆に對する宣伝手段として効果特に顕著なるものなり而して之か製作及播布の方法も亦マタ比較的軽易なるを以て其應用の範囲最も大なり 事実を撮影せる写真映画と宣伝事項を諷刺若モシクは表現せる映画劇とは共に夫々別種の意義に於て宣伝上の価値あるを以て適宜之を取捨按配すること必要なり又実在の事象を撮影せるものと映画劇とを彼是互に巧に交錯せしめ以て對手アイテの感情を激成するの目的を達し得ることあり 第八十 歌謡は婦女子、児童の口に依りても之を誦唱せられ深刻なる印象を知らす識らすの間に注入するものなり而して典雅高?コウショウなる歌曲と共に通俗軽妙なる俚謡リヨウ、天真爛漫なる童謡も亦マタ感化力甚た大なるを以て広く各種の方面に題材、資料を求め之を利用することを忘るへからす 第八十一 音楽は一般の嗜好に合するのみならす一部の民族に在りては音楽に對する愛好心特に強烈なるものあり此等の心理を利用し音楽其物に依りて各種情操の高調を図るのみならす一方音楽に依りて感情の興奮するに乗し同時に他の手段の併用に依りて巧みに宣伝を実施する等適用の範囲将来愈々イヨイヨ大なるへし 第八十二 歌謡、音楽等の通俗的普及の為には寄席、無線放送、蓄音器等最も効あり其他展覧会、各種集会等の機会を巧に利用すること必要なり 八 標語及象徴 第八十三 標語は多衆の脳裡に刻印せらるへき一定の流行語を称するものにして簡明に所望の思想を表明し且深長なる意義を包含し?ナオ萬人の口唱し易き語調を備ふるものなるを要す 第八十四 標語は多衆を對象とする場合宣伝手段として効果大なるものにして通俗の俚諺リゲン、名声ある著述、人口に膾炙カイシャクせる詩歌の章句、名士の講演或は演説等より題材を摂取し若モシクは全く独創的に考案して之を宣布すへきものなり 第八十五 標語は或は単一語を以てし或は数語より成る字句に依りて表現し或は時に反語の形式を備へしむるを有利とすることあり而して何れの場合に於ても其表示を平易にし且反復使用することに依り真に標語としての価値を生するに至るへし 第八十六 一定の意義を表章する所謂イワユル象徴も宣伝上の手段として有利に使用せらるる場合少からす即ち国家の象徴たる国旗、軍隊の表章たる軍旗其他特殊の団體、結社等の徴章若モシクは制服の如き之にして之を以て衆心帰結の的たらしむると共に自然に当該団體の精神、気風を印象せしむるを目的とす 象徴は古き歴史を有し普及の範囲広大なるに従ひ其宣伝用の威力益々強し 第八十七 標語及象徴は檄文、絵画、歌謡等と相併用して益々宣伝用の価値を発揮する場合多し殊に新に標語若モシクは象徴の普及を図らんとする場合の如きは此手段に依ること必要なり 九 学校、研究所、展覧会等 第八十八 宣伝の最も遠大なる規模は学校、研究所、展覧会等教育的施設是なり 此種の施設は平時に於ける文化的宣伝に主として用ひらるる所なりと雖イエドモ戦時に於ても国内、占領地、兵站地帯、中立地帯等に於ても適用の範囲多し 第八十九 教育施設を以てする宣伝は主として国威、国勢を伸張し且植民地、外国人等に對して普アマネく国家の恩徳に同化せしむるを目的とするものにして特に占領地等に於ては一方国家及国民の権威を発揚すると共に他方真に撫育ブイク啓発の本義を體現せさるへからす従て此種宣伝施設実際の運転は文政、教化専門機関の力に待たさるへからさる所多し 第九十 学校、研究等に於ては其標榜する本来の目的以外に特殊の宣伝を暗黙の裡に実行するものあり即ち宗教学校若モシクは語学研究所の名を以て特別の思想を注入扶植するものの如き是なり此等は国際関係其他に基き表面宣伝機関を配置し得さる情況に於て適用すへき有利なる手段なり 第九十一 展覧会は多衆に對する通俗的宣伝として効果大なるものにして興味を中心として某事実を観覧する間自然に所望の雰囲気に同化せしめんとするものなり故に其主催者、趣向、設備、開催時期等悉く其目的に合致せしむる如く意を用ひさるへからす 第九十二 愛国、国民善導、国防思想普及等を主目的とする公私各種の団體、施設等を支援幇助し其事業を隆盛ならしむるは宣伝の目的を達する為間接の手段なりと雖イエドモ其効は却て偉大なることあり 一〇 敵国俘虜の利用 第九十三 敵国の俘虜フリョを宣伝の為利用することあり即ち俘虜生活の写真及其書信に依りて我優越せる情勢を敵方に通せしめ若モシクは敵方の投降者を誘発し或は故らに一部の俘虜を我手裡より脱走せしめ所要の宣伝を流布せしむる等是なり 俘虜をして時に敵国若モシクは敵軍内に於ける不利なる事実を我国内若モシクは我軍内に宣伝せしむるを有利とすることあり 第九十四 宣伝の為俘虜を故らに脱走帰還せしむるには特に此目的に適合する人物を選定するか或は当初より此目的を以て特殊の待遇を与へ且我有利なる情況のみを見聞せしめたる一団に對し逃亡の機会を与ふるものなり然れとも共に危険を併ふこと甚しく萬一方法を誤らんか敵の為に我か企図を察知せらるるものなることを考慮せさるへからす 第九十五 俘虜優遇の宣伝には俘虜殺傷禁止命令、俘虜取扱及給養に関する命令、法令、俘虜生活の実況為し得れは俘虜自身の感想手記、通信文等具體的実例を写真、印刷物等を用ひて提示するを要す 第九十六 俘虜に對する取扱当を得且之に對し適当の指導教化を施すときは其生活間自ら我か国威、国力、国恩に感化せられ将来の為有利なる効果を齎すものにして高遠なる宣伝として重要なる意義を有することを忘るへからす 第三節 對内宣伝及軍内竝ナラビニ同盟軍に對する宣伝 第九十七 戦時に於ては上下一致、挙国一體戦勝の一途に向て全精力を傾注するは当然なりと雖イエドモ民心の波動は時に一張一弛を免れさるあり殊に敵国宣伝の脅威は常に之を豫期せさるへからす故に之に對し特に宣伝の実施に依りて国民一般及軍内竝同盟軍に對し情況を簡明にし其向ふ所を統一するは緊急要務の一なりとす 第九十八 国内に對する一般の宣伝は其範囲広汎にして国家全般の統一せる宣伝機関の手に依り最も組織的に実施せらるるを必要とす而して軍部は之に對し有らゆる援助を与へ且自ら軍所属諸団體に對する直接の宣伝を担任すへきものとす 第九十九 国民一般に對する宣伝に際し戦勝を確信して軍部に對する絶對の信頼を捧けしめ其要求に應し甘アマンして自ら犠牲となるの理解を保持せしむるは軍部の主眼とすへき所なり而して国軍の戦況現実に於て有利なる進展を示すこと実に之か根帯なりと雖イエドモ?宣伝に依りて其事実を明瞭にし且敵国竝ナラビニ敵軍内の非況を実証し敵側の如何なる宣伝に逢著するも何等の疑惑を生せさる如くならしむへきものとす 第百 統師に関する政治当局竝一般輿論の容喙ヨウカイは戦争指導に對する絶對の害毒なり而して戦争の継続漸く長きに亘り殊に戦局の発展意の如くならさる如き情況に於ては動もすれは此不利なる情勢を招徠することなしとせす殊に敵側の宣伝は好んて常に此間に乗せんとするを以て豫め之に備へ軍民一致の実を堅確ならしむる如く国民の意嚮イコウに不断の注意を払ふと共に宣伝の著意を此に置くこと特に緊要なりとす 第百一 時として国家竝国軍の難況を開示し其危機を絶叫し敵側の暴虐を国民に訴へ其敵愾心と発奮とを促すを却て有利とすることあり而して同時に国内に於ける政治、思想的異論を排除し国民全般の結束を一層鞏固キョウコに導くの著意あるを要す 第百二 軍内に對する宣伝は上下の信倚シンイ、軍紀の保持、軍人精神の発揚、攻撃精神の充溢、志気の旺盛等精神的威力の大本を堅確にし戦勝を確信せしむるを主目的とするは当然なりと雖イエドモ?将卒をして完全なる自覚の下に其職責に邁進し且何等後顧の憂なく献身殉国の誠を致さしむる為国内に於ける諸般の事情を簡明にすること亦必要なり 第百三 軍内一兵卒に至るまて悉コトゴトく戦争の目的を完全に理解せしめ之に對する自己の地位に関し十分なる自覚と崇高なる信念とを保持せしめさるへからす之か為戦争は決して我か野望に基きたるものにあらす却て敵の暴戻に對する正当なる防衛手段として已むを得す発生せしものなる所以を了得せしむること最も緊要なりとす 第百四 敵国及其同盟国に関しては其国體、政情、経済上の欠陥、敵軍内容の不備、其残忍行為等を軍内一般に熟知せしめ我か有利優越なる地位、態勢を堅く信頼せしむるを要す 第百五 對内特に軍内に對する宣伝を統一的に貫徹する目的を以て特に愛国教育の組織を必要とすることあり即ち其要旨は国内及軍内各機関に夫々ソレゾレ担任を定め中央部の律する一定の方針の下に所要の教材を以て国民及兵卒の信念、義務心及戦勝意志を培養増進するに在り 戦争長期に亘り国民及野戦軍に對し犠牲及忍耐を要求すること大なるに従ひ右の必要愈々イヨイヨ切なり 第百六 友軍、同盟軍及国内の情況に関しては其有利なる事実は機を失せす之を一般に普及し以て其志気を鼓舞すること必要なり 若し不利なる事実にして已むを得さるものは是亦一般に了知せしめ之に應すへき堅確なる準備、覚悟を要求し或は之か補?ホテン、回復の手段、對抗の方途を理解せしむるを以て却て有利とすること多し蓋ケダし国内の真情竝ナラビニ戦況の不利を掩蔽エンペイするは以て一時を糊塗し得ることありと雖イエドモ一旦其実情の暴露するときは之に伴ふ反動は却て激甚なる弊害を招徠するものなり故に斯の如きは全く萬已むを得さる場合に処する為の権變なることを記せさるへからす 第百七 家郷に関し何等の後顧なからしむるは出征者の志気を旺盛ならしむ最も有利なる手段の一なり故に国内に於ける出征者家族に對する宣伝、家族よりの書信類に對する検閲等と相俟アイマち出征者に對し此方面に関する宣伝必要にして家族の安泰なる生活情況を知らしむると共に家族より兵卒に對する激励的宣伝文を、兵卒よりは国民に對する軍隊の宣伝文を記せる封筒、書簡箋等を使用せしむる如きも効力ある方法なり 第百八 出征者家族保護に関する中央竝ナラビニ地方官憲の処置、法規類は遅滞なく兵卒に明示するを要す国内の情況就中ナカンズク出征者竝其家族に對する同情、援助の実況、軍需品の製作其他国民上下一般の戦争に對する熱情等は映画、幻燈、写真、新聞記事等に依り兵卒に知らしむることを努むへし 第百九 野戦軍に對する宣伝は夫々ソレゾレ正規の指揮系統を経由して行ふ布告の外新聞、小冊子、檄文、絵画等の配布、陣中閑散期に於ける写真、映画の展覧、演劇見物等に依り播布し得へし又恤兵品には適宜檄文、絵画等を添付し宣伝の目的に利用することを忘るへからす 敵の俘虜、投降者其他敵の手裡シュリより脱走し来れる者、住民中の適任者等をして敵国、敵軍の欠陥、惨虐行為等の事実を講演せしむること亦有効なり 第百十 内外新聞、通信社の従軍記者、写真、映画撮影師、戦場来訪の各種団體、名士、布教師等の利用及芸術家、演劇団、講談師等の招聘等は野戦軍に對する宣伝実施上必要なる手段なり 第百十一 同盟軍に對する宣伝は同軍の我れに對する信頼を高調し我軍との結束を鞏固キョウコならしめ同盟軍の戦意を旺盛ならしむるを以て主旨とす而して宣伝の実行に方りては国策の大本に基き且当該軍内情及当時の情況を考慮し各種の方法を彼此取捨選択すへきものなりと雖イエドモ概して友軍に對すると同様誠意を披瀝ヒレキして相互の理解を融合せしむるを要す 第百十二 同盟軍に對しては敵側も其宣伝の鋭鋒を之に指向することを覚悟せさるへからす而して之に應する為宣伝を以て對抗するは固モトより必要なりと雖イエドモ豫め完全なる宣伝に依り敵の乗する餘地なからしめ置くを以て第一の急務とす 第四節 敵国及敵軍に對する宣伝 第百十三 對敵宣伝の目的は敵国民及敵軍の戦争竝ナラビニ戦闘遂行の意志を挫折せしむるに在り即ち国民の団結を薄弱にし政治を混乱し国民の志気を沮喪ソソウせしめ軍隊の戦闘意志、軍紀を消磨破壊し投降逃走を敢アエてせしめ更に進んては反抗暴動の挙に出て遂には政體の崩壊をも誘致せしむるか如き是なり 第百十四 敵国の戦争開始動機の不純なる事実を摘発し一部政治家の野望若モシクは閥族の私欲に出て一般国民及軍隊は其犠牲として徒に鮮血を流すものなる所以を高唱し之に反して我か宣戦の正義の大道に基ける本義を宣明するを要す 第百十五 多数連邦の結合若モシクは異種民族の組成せる国家及国軍に對しては特殊種族若は宗徒に對する為政者の圧迫、軽侮、差別待遇等を指摘し来れは必す乗すへき欠陥多く其効果亦著大なるへし 第百十六 思想上特殊の主義を奉する者の権勢下に在る国家に在りては必す之に對する反動思想澎湃ホウハイし何物か外界の威力を求めて之に倚頼イライせんとするを常態とす此場合に於ては宣伝を以て此種反動思想の激成に努め同時に謀略を併用して現に横行する思想の撲滅を計り依て以て敵国の戦意を減殺するを要す 第百十七 一国の政治組織薄弱にして国家観念旺盛ならす且社会的知識低劣なる国民に對しては個人実生活上の直接利害竝ナラビニ単純なる私的怨嗟エンサの観念を以て之を刺戟するにあらされは其効果少きに注意すへし 第百十八 敵国と其同盟国との間を中傷離間すること亦有効にして且必要なり蓋ケダし同盟関係は利害を基調として成立しあるものなるを以て相互の野心を指摘して反感猜疑の念を挑発し且誘ふに利を以てせは其干繋を倒壊すること必すしも困難ならす又同盟には必す主客の関係ありて其一方は同盟義務の偏頗ヘンパを感するを常態とす故に此間隙に乗し宣伝の重点を同方面に指向するときは奏功比較的容易なるを得へし 此種宣伝は主として外交的手段に依り実施せらるへきものなりと雖イエドモ軍部も亦之と連繋し敵軍と其同盟軍との離間を策すへきものとす 第百十九 野戦軍に對する宣伝中其志気に最も影響する事実は概ね次の如し 幹部と兵卒との精神的融合の破壊 司令部と軍隊との反感 給養上の差別、偏頗ヘンパ 賞典に関する不公平 兵力、兵器補充の不如意 兵站部隊の安逸なる生活に對する戦線部隊の不滿 国民の戦争に對する不熱心、不誠意 国内の戦時利得者、留守部隊の安逸なる生活に對する不平 国内に在る出征者家族に對する不安 国内に於ける政治、経済上の動揺 故に敵軍に對する宣伝に方りては如上の事実に関し其現実を捉へて敵軍に指示することに留意すへし 第百二十 敵軍に對し其戦争目的の不正を示し軍隊は一部野心家の犠牲たるに過きさること殊に政策上或は作戦上他国を背景とする場合に於ては戦争は自国に利する所なく全く他国民の走狗たるに過きさる所以を指摘するときは其交感著イチジルし 第百二十一 敵の戦況不利なるに乗し敵国に於ける思想及政策上の欠陥及軍組織の弱点を宣伝するときは其効果特に顕著なり 戦闘交綏コウスイし志気自然の沈滞を来す如き場合に於ては殊に各種の疑惑、妄想に襲はれ易き時機なるを以て宣伝に對する感受性は此際に於て最も大なることに留意すへし 第百二十二 敵軍に對し我軍威力の増大、軍民結束の真情、同盟軍の優勢等を的確なる数字、事実等に依り立証し戦争勝敗の数既に明白なる所以を示すときは敵軍の戦勝に関する信念を喪失せしむる上に効果多し 第百二十三 敵軍内に在りては他方面軍若モシクは其同盟軍に於ける不利なる戦況は告知せられさるを通常とす故に此種事実に関しては我より迅速に宣伝し其志気を沮喪せしむることに努むへし 第百二十四 投降、逃亡者の勧誘には次の如き方法を講するを可とす 我軍に於ける俘虜フリョ優遇の実証挙示 投降、逃亡者に對する生命、生活の保証 我軍に於ける給養の敵に優れる事実の証明 時として報酬を以てする投降者の誘致 飛行機、機関銃、火砲、自動車等兵器、器材を携へ投降する者に對しては應分の報酬を与ふることの告知 第五節 作戦関係地方住民に對する宣伝 第百二十五 地方住民に對する宣伝の要は我国及我軍に對して好意を寄せ敵国及敵軍に對して反感を抱かしむるに在り 宣伝実施の要領は我軍の占領せる地帯に對すると敵軍背後の住民に對するとに依り概ね前記第三、第四節を夫々ソレゾレ適用し更に其所属国、人種別、地方の政情、開化の度等を考慮し適宜材料手段を斟酌シンシャクするものとす 第百二十六 占領地帯に對する彼我ヒガ行政上の施設を実際に就て比較し我利点を挙け我か治下に立つの至幸なる所以を宣伝し且カツ我か宣戦の目的か実に此住民を其窮状より開放するに在ることを告知し時として将来の独立発展を保証し其民族的若モシクは政治的希望の実現を幇助すること必要なり 第百二十七 戦争終局の勝利は我軍に帰すへきことを住民上下に確信せしむることに就ツイては手段を尽して之を努むへし 我軍に於ける軍紀の厳正なることを敵軍に對比して指示すること亦マタ必要なり 以上の宣伝は軍の威容及其厳粛なる軍紀の実際を地方住民に對し如実の行跡を以て立証することに依り其効果愈々イヨイヨ適実なるを得るものとす又地方住民に對し施設、産業幇助、救恤キュウジュツ其他各種の教化施設に依りて物質的援助を与ふるは其信用を博する最良手段なり 第百二十八 地方住民に對する宣伝には特に其習俗、伝統、宗教等に適合する如く之を実施し且成るへく地方住民自身を用ひ我か手先として直接実行に任せしむるを効果大なりとす 第百二十九 敵軍背後に在る第三国住民に對する宣伝は敵軍其物に對するものに比し軽易にして特に同地帯住民の我に好意を有する場合に於て然りとす之か為には豫アラカジめ配置するか或は臨機に派遣潜入せしめたる宣伝指導者をして地方有力者を使嗾シソウし宣伝の実行に任せしむるものとす 第百三十 当該地方若し戦争目的上の繋争地なるに於ては宣伝に任する者は特に意を此に留め将来永遠の利害を算討し単に目前の必要のみに眩惑せられて地方人民の反感を買ひ禍根を後来に貽ノコす如きことあるへからす 第百三十一 地方に於ける政治若モシクは思想的団體、秘密結社及労働組合等の取締には特に注意し寛厳カンゲン宣しきに適ひ以て特に有利なる形勢を保持せしむへし就中ナカンズク軍用資源に関係ある地方工場、鉱山等の労働者は最も周密なる用意を以て之を監視し且萬一の場合を考慮し所要の弾圧手段を準備し置くを要す 第六節 中立国(地方)に對する宣伝 第百三十二 中立国(地方)に對する宣伝は我に對し好意を保持する如く指導するを以て主旨とす 中立国(地方)の意嚮イコウ我に帰するや否やは戦争全般の指導竝作戦の推移に重大なる関係あり然るに陽に其意嚮を表明し得さるは中立国(地方)の常態なるを以て之に對する宣伝亦重要且至難なりとす 第百三十三 中立国殊に交戦地方に直接接触する部分に於ては彼我の宣伝相交錯し激烈なる競争を演すへし此間に立つて能ヨく勝者の地位を獲得せしむるものは一に宣伝機関組織の充実と当事者の熱心、敏活なる活動とに在り?ナオ中立国(地方)に於ける宣伝は特に同国(地方)民をして実行の第一線に立たしむるの必要切実なることに注意すへし 第百三十四 中立国(地方)に對する宣伝は其実施の方法、手段に於て前記各節の要領を適用すへしと雖イエドモ常に敵側の妨害を胸算し且中立国(地方)表面上の立場を常に考慮し専ら内実の利益を収得する如くせさるへからす 中立国(地方)にして我に好意を表すること明瞭となるに至れは飽くまて其関係を緊持するに努め同盟国に對するものに準して宣伝を実施すへし 第百三十五 中立国(地方)若し敵国に好意を有すること明瞭なるときは敵国に對するものに準して宣伝を指向するを要す此際特に同国民中の異分子、政府反對党派等を利用し?住民直接の利益を以て誘致すること必要なり 第百三十六 中立国(地方)宣伝に方りては少くも其一部に確乎抜くへからさる宣伝上の拠点を占領すること切要なり而して当該拠点は政治、思想団體若モシクは言論、通信報道機関等の懐柔に依りて之を獲得するものにして爾後之を枢軸として逐次勢力を伸張し宣伝威力の環圏を拡張充実すへきものとす 第百三十七 中立国の国情に依りては其中央政府の意嚮イコウ如何に拘らす地方の政権及軍権の独立的色彩濃厚なるものあり此種のものに對しては中央政府に對する折衝と相竝行ヘイコウして地方政権竝ナラビニ其軍権を動かし我か為に利用すること最も切要なり而して中央政府と地方政権との間に反目敵視あるときは其間の消息を巧に転用するに却て利便あること多し 第百三十八 中立国外交官、交通、通信関係官公吏、税関吏、各種検閲官等の懐柔は諜報、宣伝の実施上最も必要なり中立国に在る外国新聞記者、通信員、外国貿易商に對しても亦之を適宜優遇し我に好意を保持せしむるを要す 第三章 謀略の実施 第一節 一般の要領 第百三十九 謀略の実施は宣伝の実施に比し隠密の手段を要すること多く縦横の機略、深遠の思慮、巧妙なる術策を以てすへきものにして慧眼以て大局の帰趨を達観し豪胆克ヨく険難を排し大度以て衆心を掌握するの器量を有して始めて壮図の成功を庶幾し得へし 第百四十 謀略は権道ケンドウなり而して其発する所は戦争指導、勝利獲得の大眼目より来るものなるを以て苟イヤシくも其要求に對しては手段を尽して剰すなきを期すへし然れとも之か適用は真に必要の範囲に限り之を脱逸して徒らに安寧を攬乱し無用の災害を流布する如きことあるへからす 第百四十一 謀略には思想的、政治的、経済的手段に依り間接に敵国の戦争遂行を阻碍するものと作戦に直接関係ある要人、事物に對する排除、破壊若は同地方に於ける各種の策動等に依り敵の作戦指導を混乱するものとあり而して前者に於ては軍部は計画及実施の枢軸となり後者に於ては軍部自ら之か実施を指導すへきものとす 第百四十二 大規模の謀略に在りては我か對外、對内政策の大本に接触する所多く従て之と密接なる調和を必要とするのみならす関係諸機関の完全なる協力あるにあらされは奏功困難なり故に軍部に於て此種謀略の主動者たる場合に於ても常に周囲と相協調し統一せる力を発揮し得る如くするを要す然れとも機密の保持に就ては細心の注意を怠るへからす 第百四十三 作戦と直接関係ある種類の謀略を実施するに方りては其成果を作戦の指導に有効に利用せしむる如く周到なる計画と密実なる連繋とを以て我軍の作戦行動と相策應せさるへからす 第百四十四 謀略は作戦に間接的なるものと直接的なるものとの何れを問はす之を実行する地域は或は敵国領土内に於てし或は中立国内に於てすへきものにして之か為使用する手先は中立国人若は敵国人中特殊分子を以て之に充つるを最も有利なりとす然れとも之か指導に任する者には特に我か有力なる人物を選定せさるへからす 第百四十五 謀略と宣伝とは不可分の関係に在り即ち両者は概して相駢馳し互に相助けて成果を拡充し得へし殊に大規模の謀略に於ては之に到る道程は主として宣伝に依るへく又宣伝は一部謀略の実行に依りて其効果を発揚し得へきものなりとす故に両者は通常当該方面に在る同一機関に於て之を統一し完全なる脈絡系統を保持して之を実行するを要す 第百四十六 謀略実行の為敵国に於て革命思想若は階級闘争等を煽動せんとせは自国内に於ける之か関係者、同系統主義者等を通して行ふを利便とする場合少からす故に国内に於ける此種の分子を適宜説得若は懐柔し其思想を転用すること時に切要なり敵国の企図する宣伝、謀略に對抗すへき防衛の為にも此事亦特に緊要事に属す 第百四十七 謀略は平時の準備竝基礎堅確なるにあらされは之か実行困難なるのみならす其効果顕著なる能はす故に其局に当る者は状況の推移を豫測して大體の骨子を準備し置き情勢の変化に基き著々之を補修し必要に應し直に現情に適應する処理を敢行し得るの用意あるを要す 第百四十八 同一方面に對し関係機関数多あるときは謀略の準備計画及実施に関し中央統制機関に於て所要の指示を与へ相互の撞著を防くのみならす各機関も豫め互に連絡協定し実行の円滑を期すへし(第一篇、第一章参照) 第二節 間接的謀略 第百四十九 作戦との直接関係を有せさる謀略は主として政治的、思想的、経済的方面より敵国の戦意を阻止せんとするものにして国民思想の惑乱、各種騒擾、内乱の誘発、政治的要人の排除、離間、牽制の為の策動、国債募集の妨害、交通機関、戦争関係、工場、鉱山、金融業等各級従業員、労働者の反抗、同盟罷工若モシクは怠業の使嗾シソウ等を其主要なる手段とす 第百五十 思想の惑乱は主として思想的宣伝を以てし戦争指導の主體たる為政者に反抗の思想を保持せしむるを目的とす而シカして一方経済的封鎖、内乱、騒擾の誘発等と相俟ち国民の実生活を現実に於て脅威すへき手段を講し之に伴ふ一般民心の混乱に乗し宣伝を逞タクマシュうするものとす 思想惑乱の結果は更に大規模の騒乱時として国家の革命を誘発す 当該国政治的亡命者等を此の目的に使用するを得は迅速に成果を収め得ることあり 第百五十一 對手国の国情を討究して之を組成する民族間、政党政派、社会的各階級間若モシクは異宗教徒等の反目に巧に乗するときは各種の騒擾、内乱等を誘発し得るの餘地ヨチ少からす而して此種擾乱画策に際しては先マつ其中心人物を求めて之を懐柔し或は操縦するを以て第一の要務とす?ナオ此際為し得る限り資金及武器供給の途を講すること必要なりと雖イエドモ之を逆用して我に反抗する形勢を惹起する虞なきこと確実なる場合に限るものとす 第百五十二 敵本国内特殊民族に對する差別待遇撤廃、併合若モシクは征服せられたる地方に對する独立思想の鼓吹、革命の為不遇の地位に在る階級に對する反動革命の慫慂ショウヨウ等は騒乱誘発の為最も有利なる口実なり 騒擾拡大して野戦軍兵力を之に牽制するに至れは其結果は作戦に有利なる影響を及ほすことを得へし 敵国内に於ける此種の思想的動乱は時として自国内就中ナカンズク植民地の住民等に伝播し危険なる影響を波及することなしとせす殊に戦争長期に亘り且其為に蒙る惨禍大なるに従ひ愈々イヨイヨ然りとす故に之に對する警戒は一方に於て最も厳重なるを要す 第百五十三 政治的要人の排除、離間及牽制の為の策動は直接行動に出つるか或は之を買収するか若は宣伝に依るものとす 大官、名士等排除の直接行動の為には私怨を有する同国人を教唆し或は買収して其目的を達成するを得ること多し 第百五十四 政治的要人排除若モシクは離間の方策として特に小規模の暴動、騒擾等を誘発し之を以て当事者攻撃、排斥の口実とし或は責任の帰著に就て相争はしむるを有効とすることあり 政情動揺して数多アマタ勢力互に覇を争ふ如き場合に於ては謀略の乗すへき餘地最も多し此際各勢力の均衡を得しめ常に互に相控制せしむへきや或は我に有利なる特定の勢力を援助して政情の安定を導くへきやは一に我か為の利害を算討し之を基調として決定すへきものとす 第百五十五 我か画策せる暴動の支援、政治的要人の排除、官衙カンガ、工場、倉庫其他要所の占領等の為地方常民の武装団(便衣隊の如し)を編成し其行動を指導するを必要とすることあり 第百五十六 戦時国債の募集は戦争指導上最も重要なる事業の一なり従て之か妨害は敵国に對する一大苦痛たるを免れす而して敵の国債募集妨害は主として宣伝を以て之を行ひ且各種経済的惑乱を策するに在りと雖イエドモ時として之か募集行動を直接阻碍し若は募集に任する主要人物の排除等を敢行することあり 第百五十七 戦争に関係多き各種事業被使用人の反抗、罷工若モシクは怠業等は直接敵の戦争指導を阻碍するのみならす経済界の恐慌及延て国民の不安を醸成するに有効なるものにして其結果は階級的闘争を濃厚にし時としては革命的気運を煽るに至るものとす而して之を使嗾シソウする為には主として職業組合其他労働者団體を買収操縦するを捷径ショウケイとす 軍用器材其他戦時必需品の工場若は資源地に於て労働者の反抗、同盟罷工若モシクは怠業を指導するときは作戦阻止直接の目的をも達成し得るの効果あり 第三節 作戦に直接連繋する謀略 第百五十八 作戦に直接連繋する謀略には敵軍用諸物件の破壊、交通、通信諸機関の運転阻止、軍用資源獲得、物資徴発の妨害、敵軍背後に於ける地方民遊撃団(「ぱるちざん」、便衣隊の如し)戦場附近に於ける特殊部隊(馬賊隊の如し)の操縦等を主要なる手段とす 第百五十九 敵軍内若モシクは其後方に於ける軍用諸物件の破壊若は焼却は作戦軍自體に於ても之を強行するものなりと雖イエドモ?謀略的企画に依り強行若は隠密なる手段を以て之を実行すること亦切要なり之か為には特に此目的を以て募集せる人物、地方住民、特殊編成部隊等を使用し鉄道、電線、橋梁、隧道、港湾施設、運河、発電所其他の術工物、給水設備、糧秣倉庫其他の諸廠等を目標とす 第百六十 敵軍用諸物件破壊には其掩護エンゴする兵力との戦闘を豫期して之を強行するものと監視の目を掠めて窃かに実行するものとの二途あり而して強行を敢てせんとする場合には地方民遊撃団、特殊編成部隊等相当武力を有するものを以て之に充てさるへからす 何れの場合に於ても之か計画、準備及実行の要領に関しては最も詳細に指導教示し殊に団體を以て強行せんとする場合に於ては其指揮者には最も堅確なる人物を選定せさるへからす 第百六十一 交通、通信諸機関を破壊することなく単に其運転を阻止せんか為には関係職員を懐柔若モシクは強迫し以て罷業若は怠業状態に陥らしめ或は敵国に不利なる分子を以て之に代らしむるものとす 此種の手段は中立国内に在る敵勢力下の交通、通信諸機関に對し適用し得ること多し而して単に一部の掛員を操縦し得たる場合に於ても其地位及職務の如何に依り効果少からさることに留意すへし 敵の鉄道運転材料等を適時押収し我に有利なる地点に廻送することを得は効果最も大なり 第百六十二 軍用資源獲得、物資徴発の妨害の為には関係地方住民を懐柔し或は蒐集若モシクは搬出に任する従業員、労役者を教唆キョウサして反抗、罷業等の行為に出てしめ或は直接武力を以て此等の行動を阻止するものとす而して関係者の懐柔若モシクは教唆には宣伝及買収に依るへしと雖イエドモ直接の阻止には武力を有する地方遊撃団若は特殊編成部隊の操縦に依らさるへからす 第百六十三 敵戦線の内部に於ては情況之を許す限り地方民を以て遊撃団を編成し我に有利なる武力的行動を取らしむるを緊要なりとす 特殊の信仰を中心として結束する地方民武装団體には団結鞏固にして水火?辞せさるの信念を有するものあり此等は適宜其信仰を善用し能く難所に駆使することを得るものなり 此種武装団體は敵国の現在勢力に對する深甚なる反感を抱懐し決死?其戦争行為を阻止せんとする覚悟を有する者の組織に依らされは効果少く一歩を誤らは却て敵軍に有利なる行動に出つることなしとせす故に之か指導、監視には慎重の注意を払ひ其幹部には我か軍の有識者を加ふるを要す又此種団體に對し我より武器及弾薬を供給するには深甚の考慮を必要とす 第百六十四 戦場附近に出没し軽快なる行動を以て敵の作戦を妨害し諜報上亦一機関として活躍せしむる為地方の匪賊団隊より成る特殊部隊を操縦すること時に有利なり 匪賊団は本来不逞無頼の徒の集団なりと雖其首魁の如きは義に感して動く者なきにあらす更に誘ふに利を以てせは其操縦比較的容易にして之に指導、監視の為有力なる我か幹部を属するときは有利に作戦を補助することを得へし 第百六十五 地方遊撃団及特殊部隊に課すへき任務は其素質、編成、地方の情勢及時の情況に依り等差ありと雖要するに武力を行使すへき謀略的行動に使用するものにして之か操縦に任する機関は能く作戦軍との連絡を密にし其要求に適合する時機及地方に於て巧に活動せしむる如く指導せさるへからす 此等變則部隊の活動範囲は其編成せられたる地方より甚しく離隔し得さるものなることに注意すへし 第百六十六 地方遊撃団及特殊部隊の我軍との関係は極力之を秘匿し其行動全く自発的なる如くし変幻常なく敵の意表に出つること巧妙なるに従ひ其効果益々大なるものとす従て此等団體は急激なる敵の追迫に遭遇せは忽ち化して地方土著の常民に混和し得る等其集散離合は縦横自在なるを要す 第百六十七 地方遊撃団及特殊部隊は概ね編成地方を活動の根拠とするものなるを以て其行動は地方住民の好感を繋く如くし寧ろ敵軍の暴虐に對し住民を庇護するの態度を示ささるへからす斯の如くして始めて団體自活の途を獲得し且其行跡を秘匿することを得へし 第四章 宣伝及謀略に對する防衛 第一節 一般の要領 第百六十八 宣伝及謀略は我に於て戦争指導の一策略たると共に對手も亦好んて適用する所なり殊に世界革命を標榜するか如き特殊の国家に於ては宣伝、謀略は其戦争手段の最も主要なるものにして単に戦時のみならす平時に於て既に各種の方策に依りて其歩を進めつつあることを覚悟せさるへからす従て敵の宣伝、謀略の防衛は戦時要務の緊急事の一なり而して平時より堅確なる組織を以て之か對策を講し且戦時の準備を完全にするにあらされは戦時急遽の施設は其実効を収め難きに注意すへし 第百六十九 宣伝、謀略防衛の為最大の良策は国家上下の結束を堅実にし戦勝の一途に向て全體一致の気勢を保持して寸毫の間隙なからしめ以て對手の乗すへき機会を発見し得しめさるに在り故に国家萬般の施設は此趣旨を根抵とすること勿論なりと雖?実際侵入し来る對手の宣伝、謀略に對應し積極的竝消極的両面の手段を尽して之を排除撃砕するの準備なかるへからす 第百七十 對手の宣伝、謀略防衛には先つ其経路、適用手段等を精細に探求すること切要なり之か為には単に軍事当局のみならす広く内外諸般の機関と相連繋し既に平時より間断なく詳密なる注意を以て調査を進むること緊要なり 此種調査研究の為には一般諜報機関と密接なる連絡を保持するは勿論殊に宣伝、謀略のみを目標とする諜報機関を配置するの必要を生することあり 第百七十一 宣伝及謀略は必すしも之に専任する機関に依てのみ実施するものにあらす平時に在りては表面通商、交通事務等を標榜し陰に宣伝、謀略を其主任務とする機関を配置し其潜行的活動に依り目的を達せんとすることあり又国家の企図する宣伝若は謀略を表面上全然別箇の独立せる組織の手に於て実行せしめ官憲は其背後に在りて窃ヒソカに之を指導後援し以て其実効を収めつつ萬一の場合に於ける責任回避の途を講するものあるに注意を要す 第百七十二 平戦両時諸般の検閲は對手の宣伝、謀略の趨向を窺知キチすへき良手段の一なり故に此種機関との連繋切要なり 然れとも検閲の接触する範囲は決して對手の宣伝、謀略の全般にあらす却て其緊要なるものの大部は其以外の隠密なる経路を取るものなるに留意すへし 第百七十三 思想団體、職業組合、政党及結社等宣伝及謀略の感受性強烈なる方面に對し不断の注意を指向するときは對手側策動の反映自ら明瞭なるを得へし而して此等諸団體の内幕は単に外面よりの観測のみを以てしては真実を捉ふるを得す従て特別の処置を講して其内部を偵知するの著意を要す 第百七十四 戦時敵宣伝、謀略の活動系統は其枢軸を敵国領土内に有するは当然なるも更に有力なる機関を関係中立国土に配置し且其端末を我領土内に飛躍せしむるものなるを以て之に對する防衛の方策も亦此等の全局に指向する如くせさるへからす 平時に在りては自国竝関係密接なる隣国に駐箚する外国の外交、通商、交通関係各種機関等は夫々宣伝に関する業務を負担し其間隠然一定の系統を組織すること多きを以て常に犀利サイリなる著意を以て之を観破すること緊要なり 第百七十五 宣伝、謀略機関の活躍には資金の需用必然なるを以て金融機関に對する注意を周密にするときは自然其系統脈絡を明にすること少からす従て此方面より防衛の手段を進むるの便を得ること多し 第二節 宣伝の防遏ボウアツ 第百七十六 宣伝防遏の要は機先を制して對手の宣伝、謀略の効果実現に先サキダち其鋭鋒を挫き 事前に於て其企図を画餅に帰せしむるに在り 對手の宣伝、謀略既に一部の実現を見たる以上は巧に其実効発揮を阻止する如く之に反抗すへき宣伝を指向し或は對抗の謀略を施し其威力下に慴伏霧散せしむへきものなりと雖之か為の努力は甚た強大なるを要す故に為し得る限り其発芽に於て之を破砕し其根抵を潰滅すること最も必要なり 第百七十七 對手は極力我か意表に出てんことを努むるものなるを以て不断の注意に依りて其選択せんとする方法及時機を看破し之を圧倒反駁する如く積極的に宣伝を進むるを要す而して一歩對手に先んするときは彼の宣伝は既に威力の大半を失し空虚なる印象を与ふるに過きさるものとす 斯の如くして一度對手の宣伝を破砕するときは爾後縦令タトヒ反復し来ることあるも其効力は著しく減却するを以て之か防遏亦比較的容易なり 第百七十八 對手の宣伝、謀略既に一部の効力を現はしたる後に於ては之を反駁すへき深刻なる事実を蒐集し為し得れは謀略の実行に依て之か実証を挙け優越せる手段と強靭なる努力とを以て之を圧倒するを要す 此種消極的對抗宣伝は其実行時機の早きに従ひ効果多しと雖一方之か準備不整頓なるときは對手の宣伝の為再ひ有力なる反撃に逢著し却て我か宣伝の権威を失墜するに至ることあるに注意すへし 第百七十九 對抗宣伝実行の手段は普通宣伝に於けると同様なるも資料、題材、論拠等は巧に對手の宣伝に用ふる所を転用すること必要なり而して對手の採用せし手段、材料等を逆用し却て其空虚無実を立証する所謂逆宣伝は對抗宣伝の手段として有効なる場合多し然れとも對手の豫期せさる異種の材料、手段を以てする宣伝に依り反撃、制圧することも亦必要なり 第三節 宣伝、謀略機関及其連絡の倒壊 第百八十 對手の宣伝、謀略各級の機関及其系統竝連絡の経路を探知せは進んて之か倒壊を策すること必要なり 之か為の手段としては主要人物の排除、買収、被使用人の反抗罷業使嗾シソウ、宣伝、謀略行為の直接妨害等を主要なるものとす 第百八十一 對手国に於ける宣伝、謀略の枢軸に對し妨害手段を講するは難事に属すと雖適当なる手先の使用に依る主要人物の排除、陥穽、宣伝用資料(宣伝文書、宣伝書類、運搬用飛行機等の如し)の窃取、焼却等は奏功の場合多し 第百八十二 第三国(戦時中立国、地方)に於ては對手は外交機関の特権に擁せられ或は秘密の手先を使用して宣伝、謀略の実行に従事するものにして多くは公約に違反する隠密行為に依り其手先となる者は概ね利得に依て繋かれあるものなるを以て之か妨害は時に正々堂々たる抗議に依り或は更に利を以て之を誘致せは其奏功難事にあらす 国境に於ける人、物資及文書の秘密出入は最も厳密に監視せしめ苟イヤシくも違法の行為を発見せは厳重なる処置を要求し第三国にして若し其義務を遵守せさる場合に於ては十分報復手段に出て得るの準備と気勢とを明示するを要す 第百八十三 第三国(地方)に於て對手の利用する新聞其他の定期刊行物、或は印刷所等宣伝用の工場、事務所等は極力之を我か手に買収する如く努むへし已むを得さる場合に於ても之に関係する事務員、職工、労働者等の一部を買収、懐柔し反抗、罷業若は怠業の手段に出てしむるか或は我に内通せしむる如くするを要す 第百八十四 對手の宣伝、謀略に利用する通信連絡機関に對しては為し得れは之を破棄するの手段を講し或は其従業員を懐柔して對手に不利なる行動に出てしむへし 對手の通信従業員、事務所使用人、僕婢等を買収せは宣伝用暗号其他秘密通法等入手の便を得へし 對手の密使を発見せは之を懐柔して其秘密を暴露せしむるか已むを得されは之か監禁若は排除の手段を講するを要す 第百八十五 對手の手先として国内に出入する者は第三国国民に多きを以て此方面を特に警戒し微細に亘りて注意を怠るへからす而して此種人物は外交的使命を帯ふる高官より下級船員、行商人の類に至るまて各階級を網羅するものなるに留意するを要す 第百八十六 戦時敵宣伝用飛行機、気球等の活動を探知したるときは速に航空機、要地防衛火器等を以て之を駆逐し宣伝文書等撤布の目的を達せしめさる如くするを要す 第四節 国内及軍内に於ける取締 第百八十七 国民及軍隊に對する對手の宣伝、謀略の感響を防止する為の取締は防衛上最後の抵抗線を形成す 之か手段としては新聞其他諸刊行物、郵便其他の通信、国境出入者、出入物品等の検閲、宣伝用檄文、絵画等の差押、不穏団體の取締、危険人物の監視、検束等を其主要なるものとす 第百八十八 国内に於ける對手の宣伝及謀略取締に関しては軍部以外の諸機関と協同せる統一威力の活動に待つへきものにして其要旨第一編對敵諜報防衛勤務に関し記述せる所と相通す 第百八十九 植民地等に於ける我領民中我れに對する政治的不滿を抱く者に對しては最も注意を深くして之か教化指導に尽すと共に此等の陰謀企図を未然に防遏すること緊要なり之か為其結社の景況、宣伝行為等を監視し特に其背後に活動する煽動者、領外に在る不逞の徒竝對手側宣伝員等との連絡に関しては 最も厳密に調査し所要に應し断乎たる処置に出つることを躊躇すへからす 戦時我か占領地帯に在る住民中右に類する者の取扱に就ても亦同し 第百九十 軍隊に在りて兵卒に對する對手の宣伝の悪影響を防止するは幹部の重要なる責務の一なり而して其要は平素の教育、善導に依り兵卒に確実なる自覚と信念とを保持せしむる外一方危険なる宣伝の兵卒の耳目に触れさることに注意すると共に一度其雰囲気に投したる兵卒に對しては能く理否曲直を闡明センメイし對手の所説の騙詐邪悪なる所以ユエンを理解せしめ一念奉公の大義に立脚して疑惑なからしむるに在り斯の如く情理を尽して?済度し難き者に對しては断乎たる処分に出て以て全體の利益を確保するの覚悟なかるへからす 第百九十一 国内及軍内に発生する輿論、意嚮イコウは速に之を看取し其理由あるものは徒イタズラに之を抑圧することなく必要に應して之を容認し或は釈明の手段を講し以て之を消散せしむるを要す否らされは思潮は逐次悪化し隠密の裡に益々不穏なる空気の?醸を免れさるへし 有害なる事象或は宣伝に對する釈明は最も機宜に適し真相に触れ以て一般の信用を確保高上するを要す 第百九十二 国内及軍内に於て如何なる問題か最も強く其心理を動かしつつありやを探知するは緊急の要務なり而して国内及軍内両方面の宣伝防衛機関は特に此関係に於て密接なる連絡を保持し彼此相呼應して活動すへきものとす 第百九十三 戦時国民に對する敵宣伝侵入の間隙なからしむる為には不当利得者の跋扈バッコ、戦時事業急激の拡張等に基く社会事象の變調を豫め防遏し且之に應すへき對策を講すること亦切要なり 第百九十四 敵宣伝の感化を受け或は之か手先として活動し若は自ら国家に不利なる言動を敢てし敵の宣伝に呼應する如き団體若は個人に對しては戦時は特に最も峻厳なる能度を以て之に臨むを要す之か為平時より周密なる調査探求を進め萬一を顧慮して十分の準備を整へ置くへきものとす 然れとも国家非常の時に際して飜然前非を悟り思想一転反て強烈なる熱情を捧けて国難に殉するの士なきにあらす此等に對しては其全能を発揮せしむへき地位を与へ以て矯激、褊狭なる思想を把持する一派を善導する如く任用すること必要なり
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勤務初日 勤務初日 トランスターの制服を着る 屋上のヘリコプターに乗り込む テスト施設に向かう テストを完了させる 関連 トランスターの制服を着る 制服はドアにかけてある。 ベッドの近くの作業机にあるワークステーションのメールはここで読まないと消えるので注意。 ここでアイテムを取っても没収されるので無視してOK。 屋上のヘリコプターに乗り込む 道なりに進んでエレベーターでヘリポートまで上がりヘリに乗る 🏆 ヘリのローターに巻き込まれるとトロフィー「無断欠勤」 テスト施設に向かう エレベーターでヘリポートからテスト施設に下り、アレックスと会話する。 テストを完了させる 4種類のテストを受けるが内容によらず自動的に終わる(ただし、内容次第で色々な応答がみられる)。 自動的に脱出へと進む。 関連 メインストーリー 勤務初日 脱出 眺めの良すぎるオフィス
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超過勤務 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)躯《からだ》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)黒|貂《てん》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#「しらが」に傍点] ------------------------------------------------------- 「だめ、だめ」と若い女が云った、「いやよ、そんなことするんならあたし帰るわ」 「ばかだなあ、なんでもないじゃないか」と青年が云った、「こうしたって、こうしたって平気なのに、どうしてそれだけいけないんだ」 「知らないふりしないで」と女が云った、「あたしまだ嫁入りまえなんですからね」 「古臭いよそんなこと、きみの躯《からだ》はきみのもんじゃないか」と青年が云った、「握手をする手だってキスをする唇だってきみのもんだし、そこだって同じきみの躯じゃないか」 「いやだったら、さわらないで」 「ばかだなあ」と青年は云った、「同じ躯の一部なのに、そこだけどうして区別するのさ、頬《ほっ》ぺただって足だってそこだって、みんな同じ組織なんだぜ」 「あなたがくどき魔だってことは知ってるわ、あなたはきまってこう云うんだって」と女は作り声になって云った、――「ザーメンさえはいらなければ完全な処女だ、トアレへいってさっぱりするのと同じことだって、ふふ、知ってますよ」 「だってそのとおりなんだよ」 「さわらないで」女は身をそらした、「胸へさわられるとあたし死ぬほどくすぐったいのよ」 「くすぐったいだけかい」青年は女の肩を捉まえた、「そうじゃないんだ、くすぐったいだけじゃなく、もっとほかの」 「しっ、誰か来るわ」女は青年を押しのけた、「ほら聞いてどらんなさい、あの足音」 「ちえっ」と青年が云った、「きみがじらしてるから悪いんだ、損しちゃったじゃないか」 「いきましょう、堪忍袋《かんにんぶくろ》が残業してたのよ」女は青年を押しやった、「みつかるとうるさいじゃないの、早くう」 彼らはドアをあけて去り、ドアをそっと閉めた。 二人の去ったドアの反対側にあるドアがあき、なんだと云う声がした。誰が電燈を消したんだ、それとも停電かな。生気のない呟《つぶや》き声に続いて、スイッチの音がし、電燈が明るくついた。 「おかしいな」彼は室内を眺めまわしながら首をひねった、「自分で消したのかな、そんな覚えはないんだが」 彼は持っている帳簿を置き、大きなデスクに向かって腰をおろし、神経質に椅子のぐあいを直してから、並んでいるベル・ボタンの一つを押し、ボイス・パイプの蓋《ふた》をあけた。 「給仕くん、お茶」 パイプの中へそう云うと、蓋を閉めて、ペンを取り、記帳にかかった。 七メートルに五メートルほどの、うす暗く湿っぽい部屋である。左と右に出入りのドア。彼がはいって来たのは右側のドアだから、いましがた二人の男女が出ていったのは左側のドアであろう。他の二方はコンクリートの壁で、いまデスクに向かっている彼のうしろの壁の上部に、金網張りの通気口が二つあるほか、窓らしいものがないのは、ここが地下室であることを示していた。部屋の中でいちばん眼につくのは、彼の掛けている大きなデスクであるが、それは彼のものではない。彼のデスクは通気口のある壁際にあり、電話が二つと、書類入れや帳簿やインク・スタンド、ペン皿などが、きちんと整頓してあった。右側のドアの脇にも、テーブルと椅子があり、たぶん女事務員の専用であろう、しなびたカーネーションを挿した緑色ガラスの一輪挿と、小さな立て鏡と、鏡の下にちびたルージュが転がっていた。 このほかにはガラス戸のある大きな書棚が三つ、スチール製の防火キャビネットが二つ、二た組のテーブルと椅子などのあいだに、麻紐で束ねた書類が積み重ねてあり、包装のやぶれたボール箱の山があり、またおびただしい数の外国雑誌やカタログ類が、床いちめんに置かれてあった。――いま彼が向かっているデスクの上は、大小さまざまな帳簿と、クリップされた伝票の束ですき間もない。サイド・テーブルにはやはり帳簿を入れた帳簿立てと、電話が五つ。それにエア・キャリアの太い真鍮《しんちゅう》パイプと、伝声管とが並んでい、彼の頭上には彼らが「籠便」と呼ぶオートマティック・キャリア用の架線が二重に通じていた。 「ステルンホフ、ステルンホフ」彼はそう呟きながら帳簿をめくり、そこをあけて、伝票の文字を丁寧に書きこむ、「――縞柄が二十ダズンと、三、縞柄が二十ダズン、と、三、無地物、無地物が十八ダズン、十八ダズンと、五、十八ダズンと」 彼はとしのころ六十くらいにみえる。小柄なやせた男で、あるくときに少し右の足をひきずるが、いつもそうするわけではないし、もちろんちんばでもなかった。くたびれた背広をきちんと着、古ぼけたネクタイもきちんと結び、肱《ひじ》まで隠れる黒い袖カバーをつけている。頭髪はすっかりしらが[#「しらが」に傍点]であるが、左右とも耳の上のところだけ黒く、――ちょうど、黒い髪毛がしらが[#「しらが」に傍点]になり始めるときそうなるのと反対に、いましもそこから黒くなりかけているようにみえる。あまり日光にあたらない者に特有の、白ちゃけた、しぼんだような顔は皺だらけで、干からびたような細い唇にも血のけは薄かった。 彼は思いだしたように、さっきと同じベル・ボタンを押し、ボイス・パイプの蓋をあけた。 「どうしたんだ給仕くん、お茶をくれたまえ、お茶を」彼はそう云って返辞を待ったが、返辞がないのでまたベル・ボタンを押し、パイプの中へどなり声を吹き込んだ、「――おい給仕くん、柴田くん、おい、きみ」 彼はボイス・パイプの蓋を閉め、ポケットからハンカチを出して額の汗を拭き、大きな溜息をついた。 「土曜日だった」そう呟いて彼は腕時計を見る、「もう四時か、土曜日の午後四時二分前、みんな帰っちまった、残っているのは宿直と夜警と掃除婦くらいのもんだろう」 低くモーターのうなりが聞こえて、頭上の架線が動きだし、彼の右側のほうから金網の籠が進んで来た。それは壁の四角い穴から出て来たものだが、彼の頭上のところで停止すると、彼が手を伸ばすより早く浚渫《しゅんせつ》機が口をあけるように、籠が二つに割れて、浚渫機が泥を吐き出すように、中にはいっていた書類をデスクの上へ吐き出し、すぐに口を閉めて、もと来た方向へ戻っていった。それはあたかも、誰かが彼のひとり言を聞いていて、まだみんな帰っちまったわけじゃないぞと、彼に警告したかのように感じられた。 「やれやれ、発送の中島はまだいるんだな」彼は吐き出された書類を取り分けながら、げっそりしたように呟いた、「――こんなものは月曜でいいじゃないか、あいつは成績をあげるのに夢中なんだ、そのために他人が迷惑しようとなんだろうとかまわない、ただもう自分の点数をかせぐことでいっぱいだ、ふん、その結果がどうなるか見ているがいい、部長クラスから役員まで、社長と一族でぎっちり固められているんだ、どんなに成績をあげたところでいまの椅子から蹴《け》おとされずにすめば万歳だということを知ってびっくりするな」 分類を終わった彼は、まだハンカチを手に持っているのに気づき、それをたたみ直してズボンのポケットにしまった。また記帳にかかったが、まもなくデスクの上の電話の一つが鳴りだし、彼は左手で受話器を取った。「はあ」と彼は喉で声をころしながら、電話機に向かって反射的に微笑した、「こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸入品整理部でございます、私は整理部副部長代理の木内徳三でどざいますが、はあ」 電話の相手はなにか云い、彼はさえぎろうとし、相手はかまわず云い続け、彼はペンを持った右手を振り、それからおもむろに声を高めた、「――失礼ですが、こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸入品整理部でございます、バー・ボンポンクラブではございませんし、したがってまりっぺ[#「まりっぺ」に傍点]という女給さんもおりません」彼は辛抱して相手に誤りを告げる、「はあ、いいえ嘘などは申しません、こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸入――」 電話は先方から切れた。彼は受話器をみつめて、首を振りながらそれを戻し、伝票と帳簿に向き直った。 「ハンド・バッグ六ダズン、六ダズン、七、どうしてこうハンド・バッグが売れるんだろう」と彼は呟く、「それもみんな高価なやつばかりだ、おれのサラリーより高いのがぱっぱと売れるんだが、いったいどんなやつが買うのか、そういう客のふところがどんな仕掛けになっているのかみてやりたいもんだ、ええと次は手袋か、手袋が十三ダズンと二、十三ダズンと、二」 エア・キャリアのブザーが鳴った。彼は手を伸ばしてパイプの蓋をあけ、中からまるい筒を取り出し、それを逆にして、筒にはいっていた書類をデスクの上に振り出すと、円筒をパイプへ戻して蓋を閉め、返送のボタンを押しながら、鳴りだしたべつの電話の受話器を取った。 「はあ」と彼は喉で声をころして云う、「こちらは、――はあ、整理部でございます、いいえ副部長はおりません、私は副部長代理の木内徳、――はあ、副部長は部長さんとどいっしょでゴルフにゆかれました、はあ、午後一時ごろおでかけで、私にも来いと申されたのですが、私には仕事が残っていますものですから、はあ、はあ、はい、いまここへ届きました、はあ、はいかしこまりました、はいどうも」 彼は受話器を置いて、いまエア・キャリアで届いた書類のゴムバンドを外し、それをデスクの上にひろげた。彼はそれらをずっと眺めてから、ごく軽くうなり声をあげ、立ちあがって書棚のところへゆき、ガラス戸の外から中をのぞいてみて、一つの書棚から三冊の大きい帳簿を抜き出して戻った。 「これもかせぎさ」彼は帳簿をデスクの上に置いて呟く、「おかげで超過勤務手当がもらえるんだからな、これあればこそ、どうにかくらして来られたんだから、文句はないさ」 彼はいま届いた書類と、大きい帳簿との照合をはじめた。陽気な感情を駆りたてようとして、彼は低く鼻唄をうたい、顔の筋肉をほぐした。そうすれば気分もしぜんと明るくなるし、愉快に仕事ができると信じているらしい。彼は自分をあやすように、わざと眼をむいたり、舌さえ出してみたりした。 「人間は気の持ちようだからな、おい木内徳三」と彼は自分に呼びかける、「世間には失業して職のない者、停年退職でおなさけの夜警に雇われる者さえいるんだぞ、おまえなんか幸運児といってもいいんだ」 彼は照合を続ける。 「この店へはいれたからこそ」と彼はうわのそらで呟く、それはいつも自制心を呼びおこすため、習慣になっている内心の呟きのようであった、「とにかく結婚もし、五人の子供も育ててこられた、店がつぶれて職捜しにとびまわるようなこともなかったし、くび[#「くび」に傍点]にされて途方にくれたこともない、超過勤務のおかげで、ほかの者より収入も多かった、実収入はいまでも副部長より多いくらいだろう、なんの不平があるか、来年になれば伜《せがれ》も大学を出る、そうすれば一と息つけるというもんだ、ざまあみろというところさ」 低いモーターのうなりが聞こえ、こんどはべつの架線が動きだし、彼の左側から金網の籠が進んで来た。彼はあっけにとられてそれを見まもり、籠は彼の頭上までくると停止し彼はあわてて手を伸ばした。こんどはあぶなくまにあい、そいつが浚渫機のように口をあけたとき、吐き出された書類を両手で受け取ることができた。籠は口を閉めて、ゆっくり元のほうへ戻ってゆき、彼はデスクの上を見まわしたのち、隅の物を押しのけて、その書類を置いた。 「やれやれ、受注の半沢もまだいたのか」と彼は云った、「これではきりがない、これ、――まあ待て、おちつくんだ、おまえのことを蔭では、いじらしい堪忍袋と云っているんだぞ、いじらしいだけはよけいだが、堪忍袋という綽名《あだな》は悪くない、いまどき堪忍袋などといわれるには、十年や二十年の辛抱で、できるもんじゃない、おれは三十年、いや三十九年も勤めていて、それでもよく辛抱しぬいたからこそなんだ、役員だってこの綽名が耳にはいれば、停年の延長も考えてくれるだろう、おい木内、このいじらしい堪忍袋め、きさまもなかなか隅におけないやつだぞ」 彼はほくほくするように気分をひきたて、揉《も》み手をして照合を続けた。 右側のドアがあいて、一人の少女がはいって来た。おとなっぽいスーツを着、髪も化粧もおとなっぽくつくっているが、よく注意して見ると十八歳そこそこ、まず十七歳のなかばというところであろう。まだ細い体に、ふくらみはじめた胸と腰とが発達して、他の部分の育ちきらないのと奇妙に不均衡な対照を示し、不均衡であることから一種のいろけをふりまくようにみえた。 「あらよかった」と少女はおおげさな身振りで彼のほうへ駆けよった、「おじさんいてくれたのね、もう帰っちゃったんじゃないかと思って、心配してとんで来たのよ」 「こらこら、静かにしないか」と彼はむずかしい顔つきで云った、「いそがしいんだから僕にかまわないでくれ、これを見ろ、まるで」 「あちしもいそぐのよ」少女は彼の肩に手をまわし、彼の頬ヘキスをした、「ねえーお願い、お小遣かしてえ」 「こら、ばかなまねをするな」彼はキスされた頬へ手をやりながら、少女をそっと押しのけた、「人が見たらどうする、すぐうわさになってしまうぞ」 「平気よ、こんなキスくらい親子だってするんだもの」少女は鼻声をだしながらまたすり寄った、「――おじさんさえよければ、いつかのように口と口でしてあげてもいいわ」 「ばかなことを云うな、とら、おとなをからかうやつがあるか」 「だって本当はしたいんでしょ、だからこないだみたいにしたんじゃないの、いまだってしたいのをがまんしているだけよ、あちしちゃんとわかってるわ」 「きみは誤解してる、きみにはおとなの気持がわからないんだ、僕はね」と云いかけて彼はまぶしそうな眼つきになった、「あのとき僕はセンチになってたんだ、きみが化粧室でひとりで顔を直しているのを見て、急になんとも云えず悲しい気持になったんだよ」 「あらどうして」 「つまり、きみのような若さでもう生活の波に巻き込まれている、つまり」彼は言葉を捜しながら続けた、「きみのような若さで、もう子供ではなくおとなになりかかっている、これから苦労が始まるんだ、いろいろと辛いことや苦しいこと、悲しいことを経験しなければならないんだと思うと、なんとも可哀そうでやりきれなくなったんだよ」 「それであたしにキスしたの」少女は声をあげて笑った、「あたしが可哀そうだからって」 彼は叱責の眼で少女を見た。それは神聖を冒涜《ぼうとく》されたというふうな、威厳を示すつもりらしいが、反対に、秘していた自分の弱点をあばかれたための、屈辱感のあらわれのようであった。 「おじさんこそ誤解してるわ、あたしは可哀そうでなんかありゃしなくってよ」と少女は云った、「これまでは可哀そうだったわ、うちがひどい貧乏で、きょうだいが六人もいて、うすぎたない狭いうちにごちゃごちゃと、みんなぼろ[#「ぼろ」に傍点]を着ておなか[#「なか」に傍点]をすかして、まるでのら犬の親子みたいなくらしをしていたわ、ああいやだ、考えてもぞっとする、ああいやだ」少女は外国映画で覚えたのだろう、両手を左右へひらっと振り、肩をすくめながら顔をしかめた、「いまはちがうわ、あたしはのら犬の巣から出られたのよ、ようやく人間らしいくらしができるようになったし、これからの一生もたのしさがいっぱい、おなかをへらしたのら犬がなんでも食べるように、たのしいことならなんでも、片っ端からあちし食べてやるわ、どんなことだってもよ」 「できればね」彼はもの憂げに云う、「――それができるなら、この世で苦労することはないんだがね」 「時代が変わったのよ」少女は聞き覚えのことば[#「ことば」に傍点]をすらすらと云う、「おじさんなんか天皇制の封建制度に縛られて育ったんでしょ、あちしたちはそんなもの知りゃあしないわ、親にだってむりなことは云わせやしないし、自分でこうしたいと思えば、人がなんと云おうと、世間がどんなに騒ごうとかまやしない、やりたいことをやりたいようにやるのよ」 「きみは不良少女のようなことを云う」 「羨《うらや》ましいでしょ、あーっ」少女は胸を張って叫ぶように云った、「人生は短いのよ、不良だとかずべ公だとか云われるのを恐れて、やりたいこともやらずにちぢこまっているような生活は終わったのよ、あ、いけない」少女は急に調子を変えて云った、「あちしこんなおしゃべりしてる暇なんかなかったんだわ、ねえ、お小遣かしてえ」 「だめだよ、こないだ貸したばかりじゃないか、いったいどうしてそんなにお小遣がいるんだ」 「デ、イ、ト」と少女は云った、「わかってるじゃないの、そんなの意地わるよっ」 「ごめんだね」彼はペンを取る、「僕だってふところは楽じゃないんだ、時代がきみたちのほうに変わったんなら、僕は僕の時代に坐ってるよ、僕にうるさくしないでくれ」 「それ本気で云うの」少女は遠くから見るような眼で彼を見た、「いいわ、――おじさんがそういうつもりなら、あちしいつかの化粧室のことをピー・アールしちゃうから」 「ピー・アールってなんだ」 「てん[#「てん」に傍点]カムだなあ、ほんとに」 「てん[#「てん」に傍点]カムとはまたなんのことだ」 「頭へきちゃうってことよ」と少女は得意そうに云った、「頭へきちゃうなんてもう古いでしょ、だからさ、頭はおてんてんだし、くるはカムだからてん[#「てん」に傍点]カムじゃないの、そのくらいのこと覚えときなさいよ」 「ピー・アールとは」 「トアレの壁へ書いちゃうの、ルージュでさ、誰と誰とがどこでなにしてたかってこと、ぱあっとすぐに広まっちゃうのよ、面白いくらい」 「ばかな」彼は少しばかり不安になる、「そんなこと誰が信用するもんか、らく書なんて昔から、でたらめなものときまってるんだ」 「あーらおとなのくせに」と少女は彼を指さして笑った、「でたらめだから人は信じちゃうんじゃない、ほんとのことなんかに興味をもつ人なんかあると思って」 「週刊誌が多すぎる」と彼は嘆息する、「わさわさ週刊誌を出してつまらない知恵をつけるから、みんなが一知半解の理屈をこねる、実際に経験しもしないことを、頭だけで知ったかぶりをするんだ、週刊誌はみんなつぶしちまわなければだめだ」 「頭だけ、ですって」少女は云った、「おじさんはあちしがなにも知らないって云うの、ほんとに」 少女は猫のようななめらかな動作で、彼にとびつき、両手で彼の首と頭をかかえると、唇と唇をぴったり合わせた。彼の鼻からむ[#「む」に傍点]ーという声がもれ、その手はいたずらに少女の躯《からだ》を押しのけようとした。けれども、彼の首と頭をかかえた少女の腕には、意外なほどの力があり、どうもがいてものがれるすべはなかった。 「どう、おじさん」少女は唇を放して云い、すぐにまた唇を合わせた、「どんな気持」 彼は本気になって唇をもぎ放した。 「なんて娘だ」彼は少女を押しやった、「いいよ、少しぐらいなら貸してあげるから、もうふざけるのはよしてくれ」 「悪い気持でもないくせに、ふ」少女はコンパクトを出して、唇のルージュを直しながら彼にながし眼をくれた、「知らないのはおじさんじゃない、おじさんはいまのようなキス初めてでしょ、すぐわかっちゃったわ」 「ませたことを云うもんじゃない」彼は上着の内ポケットから札入を出し、中から紙幣を一枚ぬき出して云った、「口で云うことが癖になると、躯までいつかそうなってしまうぞ、さあ、これを持っといで」 少女は奇声をあげ、コンパクトを持ったなり片手で紙幣をさっと取った。 「もういい、たくさんだ」少女がまた抱きつこうとするのを、彼は手を振ってこばんだ、「早くいかないと彼に怒られるぞ」 「おじさんてやっぱりたのもしいな」少女は紙幣といっしょにコンパクトをしまった、「これで今夜のデイトも恰好つくわ」 「ちょっときくけれどね、いつもそんなにデイトばかりしていて飽きないのかい」彼はげせないというふうに云った、「僕なんかは一週間に一度がせいぜいだったけれど、それでさえ二時間もいっしょにいると、もう話すこともなくなって困ったもんだがね」 「話すばっかりでしょ、ふ、あちしっちなんか時間が足りなくって困るくらいよ」 「ジャズ喫茶か」 「ペッティング」と少女は顎を突き出す、「あちしなんか躯がしびれちゃって頭がからっぽになっちゃって、時間の経つのなんかてんでわかりゃしないわ」 「この不良少女」彼はにらみつけたが、好奇心のために身を乗りだした、「きみはただ人の口まねをしているだけさ、頭も躯もしびれちまうなんて、そいつも週刊小説の受け売りなんだろう」 「あちしもうオールモスト・エイティーンよ、失礼なおじさま」少女はおじさま[#「おじさま」に傍点]を気取った鼻声で云った、「あなたこそご存じないんでしょ、あちしおじさんが知らないってほうに賭けるわ」 「天皇制で育ったからね」 「教えてあげようか」少女は猜《ず》るそうに彼の顔色をうかがう、「――そうら、隠してもだめ、教えてもらいたいって、ちゃんと顔に出ているわ」 彼は帳簿に向き直って伝票を繰った。 「へえーほんとだ」と少女が云った、「みんながおじさんのこといじらしい堪忍袋って云うけれど、そうしているところを見るとぴったりだわ」 「よさないか、本当に怒るぞ」 少女はくすっと笑い、すばやく側へ寄ると、彼の耳へ口を近づけた。ペッティングっていうのはね、とささやいたあとは、なにを云っているのかまったく聞こえなかった。彼は初めだらしのない微笑をうかべていたが、少女のささやきが進むにつれてその微笑がちぢまり、表情がしだいにこわばっていった。 「これでフィン」やがて少女は彼からとびのいた、「わかったでしょ」 「あきれたもんだ」と彼は云った、「みんなそんなことをするのかい」 「個人差はあるでしょ」少女は肩をすくめて笑い、おとなぶった調子で云った、「人のことは知らないけどあちしはそうなの、あちしはね、少しね、露出症なんですってよっ、チャオ」 少女は身をひるがえし、片手を振りながら走り出て、外からドアを乱暴に閉めた。――彼はまっすぐに、前方の壁をみつめ、三十秒ほど身動きもしなかった。いま聞いた少女のささやきが、彼には強烈すぎたらしい。頭の中で多彩なイメージが展開し、それが彼の思考力を麻痺させているようにみえる。――しかしまもなく、いちばん初めに鳴った電話が、ベルを鳴らせて彼を呼びさました。 「はあ」彼はその受話器を取った、「こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸入品整理部でございます、私は整理部副部長代理の、はあ、――いえ冗談などは申しません、こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸入、はあ、いいえ違います、ここはバー・ボンポンクラブではございませんし、まりっぺ[#「まりっぺ」に傍点]などという女給さんもおりません、もういちど申し上げますがこちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋、――ええ、切っちまやがった」 彼は受話器を戻した。 「人をばかにしたやつだ、なんだと思ってるんだ」彼は伝票を繰り、記帳にかかる、「――ボンポンクラブかい、おっさん、まりっぺ[#「まりっぺ」に傍点]を出してくれよ、だってやがる、ごまかすなよおっさん、こっちは冗談じゃねえんだから、だって、――そして間違ってすまなかったとも云わずに、がちゃりと切っちまやがる」 おっさんとはなんだ、と彼が云いかけたとき、エア・キャリアのブザーが鳴り、彼が手を出すまえに蓋をぱんとはねて、円筒がデスクの上へとび出した。彼は口をあけて、信じられないとでもいうように、いまとび出した円筒をじっと見まもっていた。 「なんだいまじぶん」彼は呆然と呟いた、「このうえなにをさせようというんだ」 電話のベルが鳴り、彼は受話器を取りながら、自分の腕時計を見た。 「四時二分前、まだこんな時間か、――はあ、いえなんでもありません」彼は明るく微笑してみせる、「はあ、はあいま届きました、はあ、いえまだ時間がございますから、はい、はあ月曜日にでございますね、承知いたしました、はい、はい、承知いたしました、いいえまだ仕事が残っておりますから、はい、ごめんくださいまし」 彼はおじぎをして受話器を置き、ベル・ボタンの一つを押してボイス・パイプの蓋をあけながら、ハンカチを出して額をふいた。 「給仕くんお茶」と彼はパイプの中へどなった、「きみ給仕くん、――」 彼はパイプの蓋を閉め、もういちど額をふいて、ハンカチをしまい、記帳にかかろうとして、そこにある円筒をみつけた。 「神よ、忍耐力を与えたまえ」彼は円筒の中から書類の束を振り出し、円筒をパイプに入れて蓋をし、戻しのボタンを押した、「――土曜日の午後四時、もうみんな帰っちまった、残っているのは宿直と夜警と――」 彼は口をつぐんだ。無意識に口から出た言葉が、そっくり繰り返しだということに気づいたらしい。彼はペンを持った手で、自分の口尻をつねった。 「こんどは、バンサン・アレか」 彼は伝票を見て、帳簿のページをめくる、「バンサン・アレ、――と、黒|貂《てん》のケープ、七、次にミンクのケープ五、五、と、それから銀狐のケープ一ダズン、三、一ダズンと三」 彼はしばらく無言のまま続ける。そのあいだに頭は頭でかってに動きだし、さまざまな空想があらわれたり消えたりするのだろう、記帳を続けながら、顔をぎゅっとしかめたり、にたにた微笑したり、急に頭を振ったり、口の中でなにか呟いたりした。 「ペッティングだって、いやはや」と彼は低い声で云う、「おれなんかぜんぜん知らなかったな、三十二で結婚するまで、女の手さえ握ったことがなかった、まわりには女店員がくさるほどいたっけ、化粧品売場だったかな、堀田きよか[#「きよか」に傍点]という女の子がいて、おれは生まれてはじめて恋をしたものだ、――堀田きよか[#「きよか」に傍点]、もう三十四五年もむかしのことだが、いまでもこの名だけは忘れない、顔の小さな、きりっとしまった躯つきで、――その後もあんなきれいな女の子は見たことがなかった、あのころは規則がきびしくて、店員同士の恋愛沙汰は厳重に禁じられていた、うわさをたてられただけでもくび[#「くび」に傍点]になりかねなかったものだ」 彼のペンは動かなくなった、「おれは二十二か三だったな、あの人恋しさに仕事も手につかず、一日のうち幾たびも、あの人の立っている売場の前をいったり来たりした、あの人がおれのほうを見たりすると、全身がかあーっとして眼がくらむような気がしたっけ、――それでもなにをする勇気もなかった、ほかの者は適当にやっていたんだ、規則がきびしければきびしいほど、それをやぶりたくなるのが人情なんだろう、そのためにくび[#「くび」に傍点]になった者もあるが、うまくたちまわって結婚したやつ[#「やつ」に傍点]も少なくない、やろうと思えばできたんだ、それをおれはやらなかった、死ぬほど恋していながら、話しかけることさえできず、胸のつぶれるようなおもいで、遠くから眺めているだけだった、そうだ、――おれはそのころから欠かさず残業をした、残業手当はうちの家計になくてはならないものだったからな、そうやって残業しながら、あの人のことを思ってはよく涙をこぼしたものだ、――もしおれにも青春というものがあったとすれば、残業しながら泣いた、あの時期だけがそれだろうな」 電話のベルが鳴って、彼を空想の中からひきずり出した。彼はいそいで記帳にかかろうとし、それから気がついて、受話器を取った。 「はあ」彼は喉で声をころして云う、「こちらは輸入品整理部でございます、あ」と云って彼はデスクの一点を見てあわてる、「はい、はあやっております、はあ、いえそんなことはございません、帳簿がしまいこんであったものですから、捜すのにちょっと暇をとられましたが、もう照合にかかりましたから、はあ、はあ、はい、月曜日でよろしいとおっしゃるのですか、はい、いえ私はべつに、はい、はい、はあそれはどうも、はい承知いたしました、ではごめんください」 彼は受話器を置いて深い大きな溜息をつき、ふん、と鼻を鳴らした。さっきまでやっていた照合をすっかり忘れ、うっかり記帳にかかっていたことがいまいましかったし、いまになって月曜日でいいと云われたことが、いまいましさを十倍にもしたようであった。 「まあそうむきになるな」と彼は記帳に戻りながら云った、「こういうぐあいに辛抱したからこそ、今日まで無事にやって来られたんじゃないか、三十二で結婚するまで、女の手も握らなかった、無欠勤で、いつも残業をして、かりにも人に憎まれないように、できるだけ腰を低く、眼だたないようにつとめて来た、そしてもう五十五歳、この十一月には停年というところまで漕ぎつけたんだ」 彼の背後にあるデスク、つまり彼自身のデスクで電話のベルが鳴りだした。彼はペンを区切りのところまで動かしてから、ペンを持ったまま立ってゆき、その電話の受話器を取った。 「はあ、こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸」とまで云って、彼の声が急に変わった、「――次郎じゃないか、いまじぶんなんだ、え、うん、まだ仕事が残ってるからいるよ、どこからかけてるんだ、え、なに、いまどこにいるんだときいてるんだよ、はい、はい、銀座だって、銀座のどこなんだ、きみ一人か、うん、いますよ、まだ一時間くらいはここにいるが、なに、うん、うん、だめですね、ノ・サンキューだ、僕がお金なんか持ってるわけがないじゃないか、毎日かあさんから僕が幾らもらっているか、次郎だって知っているだろう、だめですよ、だめ、それより早くうちへ帰んなさい、そんなところで、――おい次郎、もしもし、おい」 彼はしばらく受話器を耳に当てたままで、やがて舌打ちをしてそれを置き、こっちのデスクへ戻った。 「困ったやつだ、ひとをなんだと思ってるんだ」彼はペンを取りながら云った、「友達におごられたから、お返しをしなければ悪い、ふん、親の脛《すね》をかじってる分際で、おごられたお返しもくそもあるか、あいつだんだん不良じみてくるぞ」 彼は記帳を続け、伝票をめくる、「――ロンバールか、ロンバール」そして帳簿のページをめくって、そこをひらいたが、そのままなにか考えこんだ。表情が固くなり、眉がしかみ、眼が一点をみつめたまま動かなくなった。 「いや、――」とやがて彼はゆっくり首を左右に振った、「そっとしといてやろう、誰にでもそういう時期がある、つまずいたり、転んだり、あっちへぶっつかりこっちへぶっつかりして、それでだんだん成長してゆくんだ、子を育てるにも辛抱が」 電話のベルが彼の独白をさえぎり、彼は受話器を取った。 「はあ、――」声をころして云いかけたが、突然、彼はとびあがりそうになり、わめきだそうとするようにみえたが、そこでまた突然、にこっと笑って電話機におじぎをし、グロテスクな作り声をだして云った、「――はい、こちらはバー・ボンポンクラブざあます、まりっぺ[#「まりっぺ」に傍点]はあたくしざあますのよ、どうだ」と彼は赤くなってわめいた、「どうだ、この、なに、なんだと、老いぼれの腰抜けだと」 彼は立ちあがり、片手でデスクを殴りつけながら、「おれが老いぼれの腰抜けなら、きさまなんぞは、その、あの」彼はもっとも痛烈な悪罵《あくば》を思いだそうとしてあせる、「おい、きさま、そのきさまなんぞはな、その、あれだ、その、――えいくそ、また切っちまやがった」 彼は受話器を叩きつけるように戻し、椅子を押しやって荒い呼吸をしながら、事務室の中をあるきまわる。いちど赤くなった顔色がしだいにさめ、灰色の古いなめし皮のようにひすばってきた。 「もうたくさんだ、考えなくちゃあならない、このへんでおれも考えてみなくちゃあならないぞ」と彼はあるきまわりながら云う、「――おれはこの店に三十九年勤めて来た、妻をもらい、五人の子を育てた、長男は来年で大学を出るし、下の四人もまあまあ人並だろう、女房は太りかえってすっかり尊大に構えている、それはそれでいい、それはそれでべつに文句はない、なあ、文句はないだろう、ない」と彼は自分にうなずく、「ところで、このおれはどうだ、おれはこれまでになにか得たか、なにか得たものがあるか、死ぬほど恋した娘にも手を出さず、人のいやがる超過勤務をよろこんで引き受け、腰を低く、出しゃばらないように絶えずびくびくし、さて、この十一月には停年なんだ、――長いあいだの地下室生活で、右の膝の痛風が持病になった、これだけはたしかに自分の得たものだ、ほかになにがある、なにかほかに、――うんある、もう一つだけある、いじらしい堪忍袋という綽名だ、たしかに、との二つだけはおれの得たものだ」 彼はせかせかと右のほうへゆき、くるっと振り向いて、せかせかと左のほうへゆき、急に立ちどまると、いんぎんに一揖《いちゆう》した。 「みなさん、私を見てください」彼はそこに誰かがいるように、自分を指さしてみせながら云った、「この私をどうぞよく見てください、この痩せた、しらが頭の、膝に痛風を病む小男の姿を」それから、自分を指さしていた手で、拳をにぎり、天突き体操のように、二度、それを上へ突きあげた、「だが、いまこそこんなみじめな姿になったが、私にも若いときがあったし、人並に夢もいだき野心に燃えたこともあった――ごく短い期間でしたけれどもね、とにかく自分の将来にかがやかしい夢をいだいたり、野心に燃えて胸をとどろかしたこともあったんです、信じてください、私だっていちおう人間なんですから」 彼はせかせかとあるきまわる。それはどろぼう[#「どろぼう」に傍点]が他人の家へはいって、なにも盗む物がないので脱出しようとしたが、こんどは出口がわからなくなった、というようにみえた。 「だがおれはすぐに悟った」と彼はあるきながら云った、「そんな夢や野心が、自分には実現しないだろうということを、おれは貧乏人の子に生まれ、十六の年から稼がなければならなかった、高等小学を出るとすぐ小さな洋品屋の小僧になり、まもなくこのにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店に移った、すると主任の一人が、にんげん学問がなければ出世はできない、おれがいい手本だと云って夜学の学資を出してくれ、おれは簿記と英語の夜学へかよった、その主任は云ったものだ、にんげん辛抱がかんじんだ、石の上にも三年というが、縁の下で三十年と思え、人の眼につかないところで辛抱することが、ついにはかえって人の眼につくものだって、――その結果がこんにちのこのおれさまだ、英語と簿記、は、は、は」 そら笑いをして、その声にびっくりして彼は立ちどまり、あたりをせわしく眺めまわした。 「笑ったな、誰だ」彼は両手を拳にする、「さぞおかしいだろう、いくらでも笑え、さあ笑え、腹の皮のぶっ裂けるほど笑え、おれは怒りはしない、縁の下に三十年、はあ、はい、はい、こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店でございます、はい、はあいらっしゃいませ」 彼は片方へ向いておじぎをし、次に反対側へ向いておじぎをし、あいそ笑いとともに「はあ」と云って揉み手をする。 「この、はあ、と喉で声をころした調子を出すのは、おれが売場主任に提案したものは、はい、とはっきり発音するより、喉で声をかすらかすほうがいかにも恐縮しているように聞こえるからな、はあ、――」と彼は声を喉でころしてみせる、「この声を出すようになったとたんに、おれは人間性を放棄したんだ、どなられようが笑われようが、反抗はもちろん怒ることさえできなくなった、どんなに笑われたって怒りゃしないぞ、そのおかげでおれは輸入品整理部の副部長代理になったんだ、――副部長代理?」彼は考えてみて急に顔をあげる、「――部長代理ならわかる、副部長というのがすでに部長代理ということだろう、とすれば、副部長代理というのはなんだ、代理のまた代理か、人をばかにするな」 彼の眼から涙がこぼれ出る。自分では気がつかないとみえ、それをこぼれ出るままにして、またせかせかとあるきまわる。 「もう充分だ、おれにだって生きる権利はある、おれにだって自分の人生があり、自分の人生を生きる権利があるはずだ」彼は意識せずにズボンのポケットからハンカチを出し、眼をふきながら云う、「――ここにいるこのおれは、本当のおれ自身じゃない、これは現実じゃあない悪夢だ、おれはここから脱出する、おれは自分の人生をとり戻すぞ、デイト、ペッティング、もう超過勤務はお断わりだ」 彼はデスクへ歩み寄り、その上にある帳簿や伝票の束や書類などを、両手でさっと払いのけた。それらは賑かな音を立てて床へ落ち、彼は鉛筆やペン軸を「えい、えい」と叫びながら折って捨てる。万年筆も手に取ったが、それは高価だと気づいたのか、折るのをやめてデスクの上へ戻し、こんどは床の上に積み重ねてあるカタログや、外国雑誌やパンフレットの類を、手当りしだいに取って引き裂き、引き千切ってあたりに投げ散らす。 「えい、どうだ、えい、これでわかったか、もう止めてもだめ、なだめてもだめだ、おれは出発だ」 そのときモーターのうなりが起こって、左右の「籠便」が動きだし、両方から金網の籠が進んでくると、デスクの上でとまり、浚渫船の浚渫機のように、二つとも口をあけて書類を吐きだし、エア・キャリアのブザーが鳴って、パイプの蓋をはねあげながら、すぽんと円筒がとびだし、同時に二つの電話のベルがやかましく鳴り始めた。――出発だと、右手の拳をあげて宣言した彼は、その手をあげたままで「籠便」の動きと、エア・キャリアの動きと電話のベルのけたたましい共鳴音とを放心したような顔つきで眺めていた。――およそ十秒。だがそのあいだに彼の内部では、長い時間の経過があったようだ。彼の振り上げていた右手が操り糸を切られた人形の腕のように、力なくだらっとさがり、彼は右足を少しひきずりながら、デスクへ歩み寄って、椅子に掛け、持っているハンカチでゆっくり顔をふいた。彼は受話器の一つへ手を伸ばしながら、その手首に巻いてある腕時計を見、なんだ、まだ四時二分前か、と呟いた。 「まだこんな時間とは知らなかった」彼は一つの受話器を取り、喉で声をころして、微笑しながら答えた、「はあ、もしもし、こちらはにほん[#「にほん」に傍点]屋百貨店の輸入品整理部でございます、私は整理部副部長代理の木内でございますが」 底本:「山本周五郎全集第二十九巻 おさん・あすなろう」新潮社 1982(昭和57)年6月25日 発行 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
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《発電所勤務員》 効果モンスター 星3/地属性/雷族/攻 900/守 800 自分フィールド上のこのカード以外の雷族モンスターの攻撃力を 800アップする。 part22-354 作者(2007/11/13 ID yGxmK8FR0)の他の投稿 part22-352 / part22-355 コメント 名前 コメント
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【話題】グルーポンで購入したおせち料理が見本と全然違う! それを受けてバードカフェの社長が辞任を発表 ★52より 系列店舗に勤務している「ゆいぽん(高校生:未成年)」がおせちの作製のため深夜1時から翌朝10時まで勤務していたことを自身のブログ(すでに削除済み)にて報告していることが分かった。 166名前:名無しさん@十一周年:2011/01/03(月) 14 32 43 ID mmpXDEaG0 昨日の深夜1時から 朝10時までおせち176…?個 頑張ったよードキドキ http //megalodon.jp/2011-0103-0152-55/ameblo.jp/yu-ipo-n/entry-10753230693.html (WEB魚拓より:当該ページは削除済み) ↑高校生を深夜1時~朝10時まで働かせるなんて こんな事していいの? ◯労働基準法(昭和22年法律第49号) 第六十一条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。 ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。 思いっきり違反です。