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朝!マリコルヌ・ド・グランドプレの新しき人生の始まりである!! 普段より二時間ほど早く起き、ベッドで未だ眠っているトリッシュを起こさぬように細心の注意を払いながら タンスの奥深くに仕舞ってあった秘密の品を取り出してカバンに詰め込み、そっとドアを開いて廊下に 誰も居ないことを確認すると足音を立てないように歩き、寮を後にした。 朝もやが煙るトリステイン魔法学院の隅にあるヴェストリの広場まで辿り着き、周りに人影がないことを 何度も確認して広場の隅の地面に穴を掘り、部屋から持ち出したカバンを開ける。 カバンの中にはフリルの付いたドレスや、リボンに彩られたスカート等々、女物の服がカバン一杯に詰め込まれていた。 その一品一品を名残惜しそうに触りながら掘った穴へと放り込む。 「コレなんか手に入れるのに苦労したよなぁ」 手に持ったのは学院の女生徒用の制服。魔法の掛かった扉を解除し警報の魔法の無効化等を行ないながら 全ての罠を掻い潜り、備品庫から盗んできたものだ。 無論、盗んだ事がバレないように全てを元の状態に戻したことは言うまでもない。 カバンに入っている服は全て、自分の倒錯した趣味を満足させる為に何度も危ない橋を渡って揃えた 品々である。自分の全てと言っても過言ではない。 心の声が『捨てるこたぁーねー、トリッシュに着せてやんな』と囁くが、サイズが違うし、それに昨日までの自分に 別れを告げるためにも捨てねばならなかった。 「これで良し」 盗みで培った隠蔽技術を最大限駆使して地面を元通りに戻し、マリコルヌはヴェストリの広場の入り口にまで 歩みを進め、もう自分にも何処に埋めたのか判らない地面の方を向き、 「アリーヴェデルチ(さよならだ)」 今まで世話になった服たちに感謝と別れを告げ、マリコルヌは広場を後にした。 その姿をモグラだけが見つめていた。 昨日の自分に別れを告げたマリコルヌが次に向かった先は厨房であった。トリッシュの朝食を用意させる為である。 朝早くから厨房は貴族たちの朝食の準備で忙しそうに人々が働いている。それを見ながら なかなか声を掛けれずにマリコルヌが厨房の入り口で立ちすくんでいると、後ろから声を掛けられた。 「お、おはようございます。如何なされました?」 マリコルヌが振り向くとそこには黒髪のメイドがマリコルヌを怯えた眼で見つめていた。 「いや、ちょっと話があって…」 「申し訳ございません!」 突然黒髪のメイドは頭を下げ謝ってきた。その声が大きかったので厨房内の料理人たちもマリコルヌに気付いた。 黒髪のメイドとマリコルヌに厨房中の視線が集まる。 「ちょっと待って!なんで急に謝るんだよ!」 そう言ってからマリコルヌは気付いた。朝早くからわざわざ貴族である自分が厨房を訪れたのである。 何か不作法があったとメイドが恐れ、魔法の使えぬ平民が貴族に対し必要以上にへりくだるのも無理はなかった。 「シエスタがどうかしたんですかい?」 巨漢の料理長がその手に包丁を持って、背後に立ちマリコルヌを見下ろしていた。 マリコルヌを包丁で傷つけようとする意図で持っていた訳ではなく、料理の最中に思わず持ってきてしまったのだろうが 包丁を持ち背が高くガッシリとした体格の料理長にビビッたマリコルヌは、しどろもどろになりながらも 何とか用件を伝えることに成功した。 「しかし、使い魔に人の食事を与えるんですかい?」 「僕の使い魔は君たちと同じ平民なんだ」 「えっそうなんですか?」 驚くメイドと訝しげな視線を送る料理長。料理長の男、マルトーは大の貴族嫌いでマリコルヌが使い魔と言えど 平民に貴族と同じ食事をさせるなど信じられなかった。 「その使い魔平民なんでしょう?犬っころと同じメシでも食わせときゃいいじゃないですか」 「貴族だろうと平民だろうと(好きな人には)変わりない!」 自分の皮肉に対し、『変わりない』と断言したマリコルヌにマルトーと厨房内の料理人、そしてシエスタは驚いた。 今まで貴族は平民のことなど奴隷か動物程度に思っていると考えていたからである。 彼らが今までに会った殆どの貴族は事実そうであったし、ここに居る貴族の子息たちもそうであった。 だが、目の前の小太りの貴族は『変わらない』と言った。月までぶっ飛ぶ衝撃をその場に居た平民たちは受けた。 「判りやした。用意させていただきます」 「うん、よろしく頼むよ。それから君、シエスタって言ったよね?」 「は、はいっ!何でしょうか?!」 「もう一つ、お願いがあるんだけど…」 固まるシエスタに向けて神妙な面持ちでマリコルヌは語りかけた。 部屋に手荷物を携えて戻ってきたマリコルヌは、まだトリッシュが寝ているのを見てベッドに近づいた。 寝苦しかったのか、単に寝相が悪いのかトリッシュの太ももが露になったのを見て、心の中で 始祖ブリミルに感謝しつつ、荒い鼻息を抑えながらトリッシュを揺さぶる。 「ト、トリッシュ、もう朝だよ。」 「う~……ん…」 ゴロリとトリッシュは寝返りを打つ。その拍子で胸の谷間がマリコルヌの眼に飛び込んできた! (ウオオオッ!良いんですか?!朝からこんなんで良いんですか?!) 思わず床の上でブリッジをカマして、悶え打つマリコルヌ。 (ウオッ!ウオッ!ウオッ!ウワオオォォォッ!) ブリッジが限界まで達しマリコルヌは床に崩れ落ちた。その後しばらく息を整えて再度トリッシュを起こそうとする。 「朝だよトリッシュ。朝食に間に合わないよ」 何故か先ほどとは打って変わり、太ももや胸の谷間に興奮しないキレイなマリコルヌに変貌していた。 「あと5分~、5分だけでいいから~」 「ダメダメ、早く起きて」 「ん~、ミスタ、水、フランス製のミネラルウォーターじゃなきゃダメよ ジョルノは着替え取ってちょうだい」 「フランスってのは知らないけど水と着替えだね」 マリコルヌは朝変えておいた水差しから新鮮な水と、調達した着替えをベッドの脇に置く 「さーさー起きた起きた」 「わかったわよ…アンタ誰?」 『トリッシュ、マリコルヌデス。昨日ノコトヲ思イダシテ』 「僕だよ。君の主人のマリコルヌだよ」 スパイス・ガールとマリコルヌに言われてトリッシュはやっと思い出した。夢ではなかったのだ。 「そこの洗面器に水を汲んでおいたから。着替えはここね。それじゃ僕は部屋の外で待ってるから」 そう言ってマリコルヌは部屋を出て行った。 「夢なら良かったのに…」 『トリッシュ、スグニ朝食ト言ッテマシタ。朝食ヲ抜クのは身体ニ良クアリマセン』 「そうね…おなかも減ってるし」 スパイス・ガールに促され、しぶしぶベッドから降りて顔を洗う。 「そう言えば着替えを用意したとか言ってたけど…」 ベッドの脇に置かれた、マリコルヌが用意した服を手に取り顔をしかめる。 「ナニ?このダサいズボン」 『トリッシュ、ソレハ「ドロワーズ」トイウ下着デス』 「下着ィ~?!マジこれ穿くの?!信じらんない…」 身だしなみに気を使うイタリア人で女のトリッシュにとって、二日続けて同じ下着を穿くことに抵抗があり、 用意された物が新品であったのも後押しして、仕方なくドロワーズを穿くことにした。 「それでコレね…」 着替えたトリッシュは何処から見てもメイドそのものであった。さすがにカチューシャとエプロンは付けなかったが。 部屋を出た後、外で待っていたマリコルヌの言い訳を聞きながら食堂へと案内された。
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「うわッ!なにコレ!メチャクチャ広いじゃない!」 「ここが『アルヴィーズの食堂』さ。みんなここで食事を取るんだ」 マリコルヌの後について歩きながらトリッシュは周りを見渡した。 絢爛豪華な装飾に眼を奪われつつ、マリコルヌから教師を含む貴族全員がこの場所で食事を取ると 説明される。トリッシュはこんな場所で食事を取ったことなど一度も無く、内心ドキドキしていた。 「さ!ここに座って」 「あ…うん」 マリコルヌが席を引きトリッシュを座らせると、その横の席にマリコルヌは座った。 他の貴族たちも続々と集まってきているが、トリッシュを見ると怪訝そうな顔をしてボソボソと 小さな声で周りの貴族と会話し、その内容がトリッシュにも聞こえていた。 「なんでメイドが座ってるんだ?」 「ほら、アレよ。昨日の儀式で……」 「平民なんだろ?…貴族と同じ席に座るなんて…」 正直居心地が良いとは言えない。そんなトリッシュの様子を見たマリコルヌが トリッシュの眼を見つめ紳士的に微笑みながら、 「他の奴らが言う事なんて気にしちゃダメだよ」 そう言ってトリッシュを慰める。マリコルヌはトリッシュの好みのタイプではけっして無いが 今まで自分の周りに居た男の中には無かった、その紳士的な態度にトリッシュは好感を覚えた。 「なんでメイドが…ああ、あなた確かマリコルヌの使い魔だったわね」 ふと隣の席を見るとドリルのようなロール髪の少女が座っていた。 「やあ!おはようモンモランシー!今日はギーシュと一緒じゃないのかい?」 モンモランシーと呼ばれた少女は不機嫌そうに口を尖らせマリコルヌを見ると、 「ギーシュは食事いらないって」 「へえ?ギーシュの奴どうしたんだろ?」 「昨日医務室にあなたの様子を見に行ってからずっと変なのよ。 今日だって呼びに行ったら『僕のそばに近寄るなああーーーッ』って言って出てこないのよ ねえマリコルヌ何か知らない?」 「う、うん僕にも判らないな。なんだか大変だね。ア、アハハ…」 二人の会話を聞いていたトリッシュは知らない振りを決め込むことにした。 「ところでどうして使い魔がここにいるのよ?外で待たせるんじゃないの?」 「え?ああ、ほら、使い魔と主人は一心同体って言うじゃないか」 やはり、自分がここに居ることは変らしい。トラブルはマズイと感じたトリッシュは モンモランシーに語りかけた。 「あなた…モンモランシーって言ったわよね?私、やっぱりここに居ちゃマズイかしら?」 「別に良いんじゃないの?あなたの主人が良いって言ってるんだから。 私の知ったことじゃないわ」 そう言って、モンモランシーは頬杖をしならが溜息を吐きだした。 おそらくは昨日胸を覗き込んでいた男のことで頭が一杯なのだろう。トリッシュの事などに 構ってられないと言った感じである。 (それにしても、あのキザ男には何にもしてないのにそんなに怯えるなんてね。 とんだ腰抜けだわ。マンモーニってヤツね。あのハゲ親父を少しは見習うべきだわ) 昨日、ギーシュを縛り上げて猿轡を噛ませ、持っていた毛抜きでやめてくれと叫ぶコルベールの 髪の毛を一本一本丁寧に抜いて額縁に飾っていった事を思い返しながら、トリッシュは 食事の開始を待つことにした。 豪華としか言いようの無い料理が運ばれトリッシュがたくさん並べられたフォークやナイフなどの 使い方や食事のマナー等をマリコルヌに聞いていると前の席に一人の少女が現れた。 桃色の髪の色をした小柄な少女である。その髪の色に父親を思い出し、トリッシュは 少し不快になった。 (うわ…アレで斑点つければあの男にそっくりだわ…朝から最悪ね…) 「ほら、椅子を引きなさいよ。気の利かない使い魔ね」 仕方ないといった感じで少女の後ろに控えた少年が椅子を引き、少女が腰掛ける。 (なんだか生意気そうな小娘ね。ムカつくわ。……今、使い魔って言ったわよね?) 『ソウデス。使イ魔とイイマシタネ』 スパイス・ガールがトリッシュの心を読んだように疑問に答える。 昨日の医務室でスパイス・ガールを発現してメイジにスタンドが見えないことは 確認済みである。もっとも見えているのなら召喚されたときに騒ぎになっている筈なのだが その時は意識はあったが眼が覚めておらず、スタンドの防衛本能でスパイス・ガールが勝手に 動いていたのでトリッシュの記憶には残っていなかった。 ちなみにその時の事をスパイス・ガールは怒られるのが怖かったので黙っていた。 「すげえ料理だな!俺こんなに食えないよ!」 (同感ね。おなかは空いてるけど朝からコレじゃ逆に食欲無くすわ) 目の前に座った少年に心の中で同意しながら料理を眺める。 この量と内容はトリッシュの基準から言ってとても朝食には思えなかった。 「あのね?ほんとは使い魔は外なの。アンタはわたしの特別な計らいで、床」 そう言って頬杖をつきながら桃色の髪の少女は少年に床に座るように命じる。 その様子を見ていたトリッシュに少女が気付き不機嫌そうな顔で話しかけてきた。 「ちょっとアンタ。なんでメイドが座ってんのよ、さっさと椅子からどきなさい」 桃色の髪と少女の態度にムカついたのでトリッシュは無視を決め込んだ。
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マリコルヌめ……私にこんな服着せたのってやっぱり趣味なんじゃない。 まさか私を着せ替え人形みて~に考えてるんじゃあないでしょうね……ありえるのが怖いわ それでも、自分で着ないってだけまだマシね。それだったら本当に最悪だわ。キモすぎ。 やっぱり彼も貴族ってことかしら?でも、彼って他の貴族と違ってとっても紳士だわ。 私を奴隷扱いしないってだけ、まだマシね。彼に呼び出されてラッキーって事なのかも。 でも、こう言う趣味ってどうなんだろ?普通に考えたら変態よね。OTAKUってヤツだわ。 それでも彼は紳士だし、それでいて変態って……紳士…変態…変態…紳士……? 変態紳士。なにか矛盾してる気がするけど、なかなか良いネーミングね。彼のニックネームにしよう。 『私のことを呼んだかね?』 呼んでないわ。アンタ誰よ? それにしてもこの子…名前何て言ったっけ?たしか…ルイ・ズゥ?だったかしら。 ミス・エリエール?とかマリコルヌが言ってたわね。じゃあこの子のフルネームって ルイ・ズゥ・エリエールなのかしら?変な名前ね。なんだか可哀想だわ。こんな変な名前で。 『ところで、さっきから尻の穴が痒いんだが掻いてもらえないかね?』 ナイフでも突っ込んどきなさい。 それにしてもこの子、さっきから私のことチラチラ見てるけど何なのかしら? 私なにか彼女にしたかしら?記憶にないわ。 それにしても、涙目で上目使いにこっちを見るの止めてほしいわ。私が泣かしたみたいじゃない。 『私ならもっと啼かしてあげるがね』 字が違うわ。 あら?床から手が伸びてるわ。あの子の使い魔じゃない。あ、あの子が気付いた。 あの子使い魔を蹴っ飛ばしたわ。うわ、昼ごはん抜きだって可哀想に。 ………なんだか判らないけど、ナランチャのことを思い出すわ。 ナランチャが残飯漁りしてて、それを見かねたフーゴが食事を与えたって。 それからギャングに入ろうとして…ブチャラティに怒られて…私のことを自分と同じだって言ってくれたわね。 頭は悪かったけど……優しかったわ。でも…最後はあんな酷い死に方で…… 彼、幸せだったのかな?そうよね、みんなに囲まれて笑ってたわ。きっと幸せだったのよ。 天国に…学校があるのか判らないけど……もしあったなら、きっと…行ってるわ…… 友達も一杯できて…悪さしてアバッキオに怒られたりして……でも、幸せに…… ……マズイ……なんだかウルってきたわ……… 「どうしたんだい?トリッシュ」 何でもないわ。人の泣き顔見てんじゃあね~よ。 「これで涙を拭きなよ」 ……ありがとう、マリコルヌ。ところで、どうして私が鼻をかんだハンカチを大事そうに仕舞うの? 凄く不気味だわ。 そう言えば、私ってコイツにキスされたんだっけ。……ファーストキスだったのに…最悪だわ。 どうして私がこんなのと……ああ…また泣きたくなってきた…… あの変なヌメッとした感触……気分が悪くなってきたわ。 口の中にも何か突っ込まれたし……ひょっとして……まさか……舌、まで、入れ、られた? ………きっとそうね。そうなんだわ。ファーストキスがこんなので、オマケに舌まで…… 何だか死にたくなってきた………… 『なにトリッシュ?ファーストキスで舌まで入れられた?逆に考えるんだ、トリッシュ 「女としての悦びを教えてもらった」と考えるんだ。ところで私とキスしないかね?』 嫌よ。 あら?向こうが何だか騒がしいわね。あの赤い髪の女のところに人が集まってるわ。 男ばっかりね。鼻の下を伸ばしてだらしがないわ。 あの女も生徒みたいね。歳は20過ぎってとこかしら?オバサンね。化粧もケバいわ。 胸が大きいのが癪だけど。 隣の子はあの女と正反対ね。髪も青いし背も小さいわ。あの髪って染めてるのかしら? 歳は幾つかしら?十歳くらいに見えるけど。 あら?あの女が小さい子の口を拭ってあげてるわ。結構優しいのね。 ひょっとして親子かしら?ありえるわね魔法があるんだし、歳を誤魔化せるのかも。 『私は巨乳も貧乳も、ロリも熟女も大好きだ』 聞いてないわ。 それにしてもあの子よく食べるわね。いったいどこに入るのかしら? ん?何、あのぬいぐるみ。小さい子に近づいてくわ。あ、固まった。怒られてるみたいね。 あの子、何か言ってるわ。なんて言ってるんだろ? 「おねえさまばっかりおいしいものたべてずるい!わたしもたべたい!きゅいきゅい!」 「後で食べさせてあげる」 「ほんとう?!うれしいな!うれしいな!きゅいきゅい!!」 ぬいぐるみが帰っていくわ。あの子の使い魔かな?良かったわね優しいご主人で。 『もっとも食べるのは私の真っ黒な息子だがね』 腹の中まで黒いわね。 「トリッシュ、授業が始まるから先に行ってるよ」 判ったわ。 授業ね、どうしようかしら? 『それなら私とギシギシアンアンしないかね?』 とりあえず食堂を出るとするか。スパイス・ガールお願いね。 『テメェーッ、サッサトあの世へ行キヤガレェェェェ、コノクソガアアアァァ』 『ちょ、ちょっと待ちたまえ!』 『イツマデモコノ世ニヘバリ付イテンジャアネェェーーーッ、コラァァァーーッ』 歩きながら考えましょ。
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結局、トリッシュはカッタル~と思いつつも授業に出ることにした。一人で居てもやる事もなく、暇だったからだ。 それにマリコルヌにドライヤー代わりに使わせた風の魔法以外も見てみたいと思っていた。 授業で使う教室は半円状の大学の講義室のような場所だった。周りを見渡すと他の貴族たちも使い魔を連れて 椅子に座り、思い思いに雑談している。トリッシュの通っていた学校の風景とさほど変わりはない。 ただ、プランターに植えられた猫のような植物、召使いのように脇に控え、時々主人を溶かす人型の生物、 コッチヲミロォーと叫ぶラジコン型の生物?、壁にもたれて椅子に座ろうとしない貴族の存在が、 ここが異世界だと言うことを物語っていた。 ……最後の貴族のことが気になったのでトリッシュは床に座っているマリコルヌに聞いてみることにした。 「ねぇ、あの貴族ってどうしてマネキンみたいに突っ立ってんの?座ればいいじゃない」 「ああ、彼は昨日召喚の儀式が終わってからずっと、人に背中を見せたがらないんだよ」 トリッシュは不思議に思ったが、そんな趣味なんだろうと思うことにした。 教室に教師らしき貴族が姿を現した。緑色の髪をした知的な容貌の女性だ。緑色の髪を見てトリッシュは、 染色に失敗したか、錆びた水道管の水で頭を洗ったんだなと思い、髪は女の命なのに可哀想。と、少し不憫に思った。 「ミス・ロングビル。ミセス・シュヴルーズはどうしたんですか?」 桃髪の少女が緑髪の女に尋ねる。周りの貴族たちもなにやら騒いでいるようだ。 「ミセス・シュヴルーズは、御友人が怪我をなさったとかでこの授業は…」 「ひょっとして自習!?」 トリッシュの後ろに座った赤髪の年増が嬉しそうに叫び、身を乗り出す。しかし、緑髪の女が年増の方を見て にっこり微笑み首を振ってそれを否定する。 「いえ、この時間は他の先生方の手が空いていないので、私が代わりに授業を行います。 今日は基本的なことを行いますので、心配はご無用ですよ」 最後に、“失敗してもイジメないで下さいね” と付け加え周りの貴族を見回した。それを見て年増女は不満そうに 椅子に座りなおす。 年増女が座ったのを満足そうに見て、きょとんとした顔をする。こちらを見ているようだ。 「あら…そこのメイドさん。もう授業が始まってますので出てもらえますか?」 「ほら、モンマロッシ、アンタ言われてるわよ」 トリッシュが隣に座ったドリル女に親切に教えてあげた。 「私じゃなくてあなたでしょ!それから私の名前はモンモランシーよ !」 キャンキャンと犬のように吼えるドリル女をトリッシュは無視して窓の外を眺めている。 困ったような顔をする緑髪の女にマリコルヌが代わりに答えた。 「ミス・ロングビル。彼女は僕の使い魔です」 「風邪っぴきさん!使い魔を召喚できないからってメイドを連れてくることは無いでしょ!」 堂々と答えるマリコルヌを見て桃髪が指を差しながら『m9(^Д^)プギャー』と言った顔で笑った。 人のことが言えるのだろうか?と、トリッシュが思っていると――― 「人のこと言えない」 年増女の隣に座った娘が、心を呼んだようにボソッと答えたとたん、教室が爆笑の渦に包まれた。 「ルイズお前が人のこと言えるのかよ!」 「墓の穴を掘るって書いて、『墓穴を掘る』って言うんだぜ!今のお前はまさにソレだぁーーー!」 「かかったな!アホが!!」 「m9(^Д^)プギャー」 トリッシュは桃髪がしまったとばかりに頭を抱えるのを見て、ナランチャみたいだと思った。 後ろの年増女の娘も、なぜか頷く。 「皆さんお静かに!…ミスタ・グランドプレ。一つ質問があるのですが宜しいでしょうか?」 「なんですか?ミス・ロングビル」 「その…どうして床に座っているのですか?」 もっともな疑問を尋ねる。誰だってそう思う。トリッシュだってそう思う。 「使い魔と言えど女性です。床に座らせるなんて出来ません」 その答えを聞いて緑髪の女は感心したように頷く。 「判りました。ミスタ・グランドプレは紳士なのですね。ですが、デブが座ってると通路を塞いで邪魔なので 空いている席に座ってください」 容赦のない言葉を緑髪の女が言い、マリコルヌが素直に従い後ろの椅子に座る。少し泣いているようだ。 「ええと…皆さん、無事『サモン・サーヴァント』に成功したようですね。ミス・シュヴルーズも皆さんの使い魔を 見るのを大変楽しみにしていました。そ、それでは授業を始めますね」 定型文を言うように緑髪の女が言葉を紡ぎだすと授業が始まった。 今日は土系統の『錬金』と言うものをするそうだ。 緑髪がなにやら金属を懐から取り出して教壇に置く。そして、小さく呪文を唱えるとその金属が土に変わった。 「ミス・ロングビル!それって土ですか?!」 後ろの席の年増女が驚いて身を乗り出す。トリッシュは「なに言ってんのアホが。見りゃわかんでしょ」と 言おうと思ったが、なんとか原作に沿おうと必死なその姿を見て哀れに思い、言うのを止めた。 原作?何のことだ? 「なに言ってんのよキュルケ!見ればわかるでしょ!!」 トリッシュの代わりに空気の読めない桃髪が答える。今度は赤髪の年増が頭を抱えていた。 「ええ、これが『錬金』です。では誰かにやってもらいましょう」 そう言って、貴族を見渡す。桃髪は待ってましたと杖を取り出し教壇へ――― 「では、ミス・モンモランシ。やってみて下さい」 「え?私ですか?」 緑髪は微笑みドリル女を促す。ドリル女は教壇に立ち、呪文を唱えて見事『錬金』を成功させた。 それを桃髪が手に持った杖を折りそうなくらいに曲げ、悔しそうな顔をして見つめていた。 「起きてよトリッシュ!授業が始まるよ!!」 マリコルヌに起こされてトリッシュが顔をあげる。どうやら教室に入って椅子に座ったとたん眠ってしまったようだ。 「おはよう~マリコルヌ」 「おはよう。もうすぐ授業が始まるから」 背筋を伸ばして欠伸をし、周りを見る。夢で見たものと同じ風景がそこにあった。 「正夢かしら?まさかね」 教室のドアが開き、緑色の髪をした知的な容貌の女性が現れた。夢で見た姿そのものだ。 緑髪の女は教壇に行き、一つ咳払いをして貴族たちを見る。そして――― 「ミセス・シュヴルーズは、急用で外出しましたので私が代わりに授業を行います」
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「どう?平民に見下ろされる気分は?」 トリッシュの顔を見上げるルイズ。身体を動かそうとするが、なぜか地面に服が張り付いて動けない。 「マジでビビッたわ、アンタの魔法。マリコルヌがアンタのこと『ゼロ』って言ってたけど、 それってなんでも吹っ飛ばすから『ゼロ』って呼ばれてるのかしら?」 ルイズは悔しげに顔を歪ませトリッシュから視線を逸らす。ルイズが魔法の才能『ゼロ』だから そう呼ばれていることをトリッシュは知らない。 「平民にまで………負けて……私は…」 ルイズの呟きをトリッシュは聞こえなかったのか、聞かないフリをしたのか、無視して話を続ける。 「さっきの演技も…騙されたわ。正直アンタが脚を狙わなかったら負けてたわね」 それも違う。本当は胴体を狙ったのに脚に当たった。魔法の成功率も命中率も『ゼロ』 ルイズは『ゼロ』とバカにする者たちの顔を思い出し、平民にまでバカにされ泣きそうになる。 今にも泣きだしそうなルイズに顔を近づけ、トリッシュは囁きかける。 「今からアンタを殺すんだけど、もしアンタが土下座しながら私に、 『お許し下さいトリッシュ様。二度と逆らうようなことは致しません。どうかご慈悲を』って 言うなら命を取らないであげるわ。どう?私って優しいでしょ」 トリッシュはその眼に凍てつくような殺意を込めてルイズに微笑みかける。 ルイズは視線をトリッシュに移しその眼を真っ向から見据える。その眼に強い意志が戻っていた。 「私には貴族としての『誇り』があるわ!そんな恥ずかしい真似は絶対にしない!!」 ルイズは眼に怒りを宿しながら、“さっさと殺せ”と叫ぶ。それをトリッシュは冷たい眼で見下ろしていた。 「そう。いいわ殺してあげる。だけど、その前に一つ質問をするわ」 「まだ言うつもりなの!早く殺しなさい!!」 叫ぶルイズの顔を引き寄せ、澄んだ眼でルイズを見つめトリッシュは語りかけた。 「アンタさっき『誇り』って言ったわよね。じゃあ質問よ。平民に『誇り』はあると思う?」 「なに言ってんのよ!そんなの知るわけないでしょ!!」 「真面目に、答えて」 トリッシュの有無を言わせぬ迫力にルイズは口を閉ざし……生まれて初めて平民について考えた。 しかし、判らない。公爵家の三女として生まれ、平民は貴族に傅く者。貴族に奉仕するもの。 そう教えられ、そう思って今まで生きてきた。事実、全ての平民は自分の前に跪いた。 だから平民に貴族と同じく『誇り』があるのか判らなかった。 「わから……ない…わ」 ルイズがなんとか言葉を搾り出し、それを聞いたトリッシュがルイズの顔から手を離し立ち上がる。 殺されると思い、怒りが冷めて目の前に迫る死に恐怖し身体を竦ませ眼を瞑る。 だが、幾ら待っても最後の瞬間が訪れない。 怖々と眼を開くとトリッシュはルイズを見つめていた。眼を開くのを待っていたようだ。 「アンタ。シエスタの髪をバカにしたとき、彼女の顔を見た?」 質問の意味が判らなかった。シエスタとはあのメイドのことだろう。見ていないので首を振る。 「あの子、怒りと悔しさが混じった顔をしてたわ。『誇り』を傷つけられた顔をね」 ルイズはそのときの光景を思い出した。髪を罵ったとき、あのメイドの肩が震えていた。 あの時は怯えているものとばかり思っていた。 「私はあの子のことは良く知らない。この世界のこともね。アンタたち貴族が好き勝手に 振る舞おうと正直に言って私の知ったことじゃないわ」 言葉を区切り、トリッシュはルイズを見つめる。二人の視線が絡み合った。 「でも…『誇り』を傷つけることは許せない。それを目の前で見過ごすことはできない。 それを許したら『誇り』を守って死んでいった『仲間』に対して顔向けができないわ」 ルイズは悟った。トリッシュはあのメイドを庇ってルイズと決闘した訳ではない。 メイドの『誇り』が傷つけられたから戦ったのだ。 「アンタはまだ幼いわ。自分が誰なのかも判っちゃいない。だから、今は殺さないであげるわ」 そう言ってトリッシュはルイズに背を向けて脚を引きずりながら広場から去って行った。 ルイズは呆然と座り込む。いつの間にか、動けるようになっていた。 「あ~あ、平民にまでバカにされてダメね~。あなたをライバルだと思ってた自分が情けないわ。 帰るわよタバサ。『なにをすれば良いのか』も判らないおバカはほっときましょ」 歩き出したキュルケの後をタバサが追って二人は歩き出す。 つまらなそうなキュルケの顔をタバサは感情の伺えない眼で見つめ、その視線に気付いた キュルケはタバサを無視しようと思ったが、できなかったので唇を尖らせながら話しかける。 「なによタバサ。そんな眼で見ないでよ」 「ツンデレ」 タバサは小さな声で呟き歩みを速める。その後を顔を真っ赤にしながら叫ぶキュルケが追っていった。 「おいルイズ、大丈夫か?怪我してるんだろ?」 彼女の使い魔の少年が話しかけるがルイズは放心したまま動かない。 「なんだよ負けたことを気にしてるのか?別に良いだろ?勝率が『ゼロ』からマイナスに…ふぐりッ!!」 ルイズは『ゼロ』の言葉に反応して少年の股間を蹴り上げると、フラフラと立ち上がり 覚束ない足取りで医務室を目指し歩き始めた。 ルイズが立ち去った後、広場は男たちの泣き声と呻き声の三重奏に支配された。 トリッシュがヴェストリの広場を立ち去ったのと同時刻。中庭での惨劇も終焉を迎えていた。 倒れたコルベールに使い魔が襲い掛かるが、コルベールは平然と使い魔を待ち受ける。 体当たりの直前で使い魔は軌道を変え、コルベールの脇をすり抜けて迷走し始めた。 「ミスタ・コルベール!大丈夫ですか?!」 コルベールは慌てた様子で近づく一人の生徒に微笑んで立ち上がる。 「私なら大丈夫だ。すまないが君も怪我人を運ぶのを手伝ってくれ」 「判りました!しかし、あの使い魔はいったい……?」 先程まで暴れていた使い魔が目標を見失ったように迷走する様を見て生徒は不思議がる。 「あの使い魔は私の放った炎全てに体当たりをしたんだ、外れたものも含めてね。 それを見て判ったんだよ。あの使い魔は熱を探知して襲い掛かるんだってね」 迷走する使い魔には釣り竿のような物が付けられ、その先端にはコルベールが灯した 炎が揺らめいていた。 「フギャ?!」 猫のような植物がミセス・シュヴルーズに狙いをつけた直後、猫のような植物の周りの 赤土が盛り上がりゴーレムが姿を現した。ゴーレムはそのまま猫のような植物を 地面ごと持ち上げどこかに運んでいった。 「見せようよ『背中』ねっ」 ギトーは背中の使い魔を剥がすことを諦め、杖を自分に向ける。 「じゃあ後は頼むぞ『私』」 「ああ、任せろ『私』」 自分がとり憑いた人間と同じ顔をした人間がもう一人現れ使い魔は混乱した。 「えっ?どうなってるの?えっ?」 「これが風の系統が最強たる所以だ。お前がとり憑いたのは私の分身だよ」 ギトーの『偏在』が自殺し、本体を失った使い魔も虚空へと消えていった。 教師たちの戦いの一部始終を鏡から覗いていたオスマンは、溜息を吐いて椅子に身を沈める。 この程度の事態を自力で解決できない者などオスマンの元には一人もいない。 教師たちの心配はしていなかったが、未熟な生徒たちに被害が出たことが唯一気掛かりだった。 これだけの事件となれば揉み消すことなどできない。やがて王宮より査察団が来るであろう。 そのことがオスマンの頭を悩ませた。 査察団が問題ではなく、それを率いる人物が問題なのだった。 ジュール・ド・モット。この男は女好きで有名な貴族で、トリステイン魔法学院においても若いメイドに 眼を着け自分の屋敷に迎え入れることが度々あった。 そして、この男には黒い噂があった。迎え入れたメイドが数日後に失踪するのだ。 使用人が失踪すること自体はどの貴族の屋敷でも稀にだがある。 大抵が酷い扱いを受けて逃げ出すのだが、この貴族の屋敷では必ずそれが起こった。 それもメイドだけではなくその家族も含めてだ。 しかし平民が貴族を訴え出ることなどできる訳がなく、貴族は平民のことなど気にもしない。 「若い子らを隠すかの~」 オスマンはもう考えを廻らせて、もう一度溜息を吐いた 戦場のように慌しい医務室まで続く廊下をルイズは夢遊病者のような足取りで歩いていた。 次々と運ばれる怪我人の呻き声と医師たちの叫び声も耳に届かず、トリッシュの言葉が頭の中で 渦を巻いて鳴り止まない。 貴族の『誇り』とは敵に背を向けぬこと。両親からそう教わった。だが、目の前に死が迫ったあの時、 怖かった。逃げ出したかった。死にたくないと思った。 自分が情けなくなる。魔法が使えないから他人よりも貴族らしく振る舞おうと必死だった。 それがどうだ、蓋を開けたら中身は『ゼロ』。貴族の欠片も残ってはいない。 貴族と言う肩書きを取ったら自分になにが残るのか?『ゼロ』だ。何も残らない。 自分に付けられた『ゼロ』の二つ名。今までそれを否定してきたが、それは当たっていたのだ。 魔法の才能『ゼロ』、中身も『ゼロ』、ゼロ、ゼロ、ゼロ、自分には何もない。 そう思ったら、可笑しくなって、いつの間にか泣いていた。 「ミ……ヴァ…エール?ミス・ヴァリエール?!」 誰かが自分の名前を呼んでいる。顔を上げたら一番会いたくない人物がそこにいた。 「ミス・ヴァリエール!?ご無事ですか?!酷い怪我を……早くこちらへ!」 連れられるままに医務室まで辿り着く。 「先生、怪我人です!ミス・ヴァリエールがお怪我を!!」 「すぐに終わる!そこで待たせておいてくれ」 ルイズとシエスタの間に気まずい空気が流れる。それを感じているのはルイズだけだが。 「ねえ…どうして……?」 「如何なさいました?!傷が痛み……」 「どうしてよ!!」 ルイズの叫びにシエスタの言葉は掻き消された。 「どうして……なんで…私に優しくするのよ!!」 「なぜと申されましても、私は貴族の方々をお世話する……」 「だからどうしてなのよ!!私はアンタに酷いこと言ったじゃない!アンタの髪の色をバカにしたじゃない!! どうしてなのよ……どうして…………」 感情が昂ぶり、ルイズは再び泣き出した。その様子を見てシエスタはルイズの涙を拭い優しく微笑む 「そうですね、あの時は凄く悔しかったです。私の髪の色って死んだおじいちゃんと同じ色なんです。 だから、おじいちゃんをバカにされた気がして……あっ!でも、もう気にしていませんから」 ルイズはやっとトリッシュの言葉の意味を理解した。 トリッシュは誇りを守って死んでいった仲間を、シエスタは祖父を侮辱されたことが許せなかったのだ。 いつも自分のことばかりで他人を省みなかったことが恥ずかしくなった。 「ア…アンタの髪の色ってさ……よく見ると結構キレイじゃない…私のマントみたいで……」 ルイズは真っ赤になりながらも、なんとか言葉を口にして顔を背ける。 シエスタはルイズを不思議そうな顔で見て、笑って頷いた。それを見てルイズも漸く笑った。 「なんだかさ~前より脚が太くなった気がするわ。ほら、太ももとかさ~」 「そんなはずはない。後がつかえてるんだ、早く出て行きなさい」 聞き覚えのある声にルイズとシエスタが振り向く。医者に追い出され医務室から出てきたのは 脚に包帯を巻いたトリッシュだった。 「ア、ア、アンタ!なんでここにいるのよ!?」 「なんでって、アンタに脚を吹っ飛ばされたからでしょ。もう忘れたの?」 「ミス・ヴァリエールに?!」 驚くシエスタに挨拶して、トリッシュは脚を引きずりながらルイズと擦れ違う。 その後ろ姿にルイズは恥ずかしそうに声を掛けた。 「ひょ、ひょっとして…聞いてた?」 「なにも聞いてないわ。どうしてよ!とか~私のマントが黒くてキレイだ。なんてぜ~んぜん聞いてないわ」 「ぜ、全部聞いてるじゃないのーー!!」 今度は怒りでルイズの顔が真っ赤になる。 「次!早くしなさい!!」 「ミス・ヴァリエール。先生がお待ちですから」 シエスタに促され、恨みがましい眼でトリッシュを見ながらルイズは医務室に入って行った。 翌朝のアルヴィーズの食堂。 トリッシュは相変わらず貴族の席で食事を取り、ルイズがそれに絡んでいる。 昨日とまったく同じ光景だがルイズが昨日と違い本気で怒っているのではなく、トリッシュと じゃれ合っているような印象を受ける。 ルイズが包帯が巻かれた手で白魚のムニエルと格闘していると、トリッシュがそれを取り上げ綺麗に切り分ける。 「その手じゃ食べにくいでしょ?はい、あ~ん」 「こ、子供じゃないんだから!一人で食べれるわ!!」 「あ~ん」 「い、一回だけだからね!」 ルイズは顔を真っ赤にしながら口を開ける。ルイズの口に白魚の切り身が入ろうとした時、 トリッシュはフォークを返してそれを自分の口に放り込む。 「結構イケルわね」 「あ~っ!なんでアンタが食べてんのよ!!」 キュルケは離れた席でルイズとトリッシュの微笑ましいやり取りを眺めていた。 「そうでなくっちゃ私のライバルの資格はないわ」 「あ~ん」 タバサがいつの間にか白魚の切り身が刺さったフォークを差し出している。 「私もやるわけ?」 「あ~ん」 「はいはい、しょうがないわね。」 キュルケは眼を瞑って口を開ける。タバサがフォークを口に入れようとして、その手を止める。 「かかったなアホが」 右手の切り身はフェイント!本命は左手に握られたはしばみ草が刺さったフォークだ!! キュルケの口の中は白魚のムニエルを迎える準備が完了し、後はそれを待つだけとなっていた。 そこにとっても苦いことで有名なはしばみ草が襲い掛かった!! 攻守共に完璧な攻撃が口の中を襲い、キュルケの絶叫が食堂中に響き渡った。
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地面から生えた手の前で石像のように立ち竦むモンモランシーの視界に、突如、ジェシカが 捕らえた男の一人に刺される場面が映し出された。 「な…なに?これって…」 それに驚いているうちに、ジェシカが男を突き飛ばして頼りない足取りでどこかへと向かう。 その方向は、今、自分がいる厩舎だ。 「い…いけない!」 『待て!行くんじゃない!!』 ジェシカの元へと駆け出そうとするモンモランシーをロビンが制止する。 (どうして?!ジェシカが危ないのよ!) 『落ち着くんだ。彼女ならまだ殺されない』 (なんでそんな事が判るのよ!) 『相手に殺す気があるなら彼女はもう死んでいる。もっと良く見るんだ』 ロビンは草むらに隠れながら二人の男達を見る。 一人は鍵を使って詰め所の中に入り、もう一人がゆっくりとジェシカの後を追う。 (どういうことよ?なんで鍵を持ってるの?) 『君の精神力を疲弊させる為に、わざとあの娘を殺さず君の元へと向かわせたんだ。 そして、おそらくは警備兵も奴らの仲間だ。街からモット伯の屋敷に向かうには この道を必ず通らねばならないからな。 普通なら夜更けにこんな怪しい馬車が通るのを警備兵が見過ごす筈が無い』 (え…?) 確かにロビンの言う事は正しい。それならば男が鍵を持っているのも不思議じゃない。 だったら、この埋められた死体はいったい誰なんだろう? 『今がチャンスだ。逃げるぞお嬢さん』 ロビンの言葉に思考が中断される。逃げる?ジェシカ達を見捨てて? (いやよ!あんなの見せられて逃げられる訳ないでしょ!) 『ならどうする?残り少ない精神力であの娘を治して、男二人と警備兵を相手にする気か? 間違いなく君は殺されるぞ。それか捕まえられて男達の慰み者にされてから売り飛ばされる。 所詮あの娘は平民だ、放って置けばいい。平民など貴族の奴隷なんだろう? 命を懸けてまで守る必要なんてないじゃないか』 (そうね…あなたの言ってることは正しいわ) 貴族の常識に当て嵌めるならば、この使い魔の言っている事は正しい。 そうだ、この私が平民なんかの為に命を懸けるなんて馬鹿げてる。 そもそもマリコルヌ達の手助けをしようとした事が間違っていた。 どうして貴族の私が名前も知らない平民の為にそんな危険を犯さなくちゃいけないのか? 馬鹿馬鹿しい。 メイドを救おうと躍起になっているマリコルヌと二人の使い魔は頭がおかしいんだ。 平民一人の為に貴族の屋敷に乗り込むなんて狂っているとしか思えない。 だけど…私は彼らとは違う。馬鹿じゃない。 やりたい事だって山ほどある。私には未来があるんだ。 こんなつまらない事で死ぬ訳にはいかない。 『良し、早く馬に乗るんだ。追われない様に他の馬は殺しておけよ』 ロビンに促され、モンモランシーは歩き出す。 『ソッチじゃないぞ。厩舎は向こうだろ?おい…何を考えているんだ!?』 (本当、なに考えてるんだろ) 自らの血で服を染め上げたジェシカがモンモランシーの腕の中に倒れ込む。 それを優しく受け止め、地面に寝かせて治癒の魔法を唱える。 『馬鹿な真似をするな!早く逃げるんだ!』 (そうね…馬鹿よ。みんな馬鹿) ジェシカの腹部から流れ出る鮮血が少しずつ収まっていくが、少ない精神力がそこで枯渇する。 制服の袖を破り、ハンカチと共にそれを傷口に押し当てて止血し、震えるジェシカの手を握る。 「モン…モ…ラシ…さ…」 「解ってるわ。安心して」 モンモランシーが手に力を込めて優しく微笑む。安心したジェシカはそのまま気を失った。 『自分が何をしているのか理解しているのか?』 ロビンが建物の陰に隠れるようにして近づき、主を見上げて問いかける。 (自分でも解らないわよ。だけどね…ここで逃げたら私の中で何かが終わってしまう。 平民の為じゃないわ。私自身の為に…やらなくっちゃあいけないのよ) 主の独白に近い呟きと蒼き双眸に込められた意思を見て、小さな使い魔はケロケロと笑った。 『そうか…ならば君の思う通りにやるがいいさ。勿論、奴らを倒す方法は考えてあるんだろう?』 (え~と…今から考えようかな…って) 困ったように答える自分の主をロビンは呆れたように見詰める。 『君は馬鹿か?』 (うるっさいわね!仕方ないでしょっ!思いつかないんだから) 『参ったな…あの男達だけなら何とかなるが、警備兵も含めるとお手上げだぞ』 (その事なんだけど…) モンモランシーから埋められた死体の事を聞いたロビンが唸る様にゲロリと鳴く。 『それは間違い無いのか?』 (小手も着けてたし血も渇いて無かったから、たぶん…) 喉をプクリと膨らませて何やら考え込む使い魔を、モンモランシーは心配そうな眼つきで見る。 『それなら何とかなるな』 (本当でしょうね?私、死ぬのも捕まるのも嫌よ?) 疑わしげに見る主にゲロッと一声鳴き、ロビンが考えたばかりの作戦を伝える。 (上手くいくんでしょうね?) 心配ではあるものの他の策も思い浮ばないので、モンモランシーは意を決して立ち上がる。 『それは君次第だな。さて、始めようか』
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トリステイン魔法学院。その頂点に立つ老人、オールド・オスマンは地図を見ながら悩んでいた。 「ここが良いかの?それともここか?」 何枚もの地図を机の上に広げ、オールド・オスマンは難しそうに頭を悩ましていた。 地図を見る表情は真剣そのもので、彼を知る者たちが見ればド肝を抜かすであろう光景である。 オスマンが悩んでいると学院長室の扉がノックされた。 「誰かの?」 「私です。オールド・オスマン」 扉の向こうから聞こえてくるのは、彼の秘書であるミス・ロングビルの声。 オスマンは入室を促し、一礼してミス・ロングビルは学院長室に入るとオスマンの元へ歩み寄る。 「心は決まったかの?」 オスマンが語りかけ、ミス・ロングビルは頬を朱に染め恥ずかしそうに頷く。 「大切に……して下さい」 「おお、おお、勿論じゃとも」 オスマンはミス・ロングビルに近づきその身体を抱き寄せる。ミス・ロングビルはオスマンに任せるままに 身体を預け、二人は愛しそうに抱き合う。 「おお、ミス・ロングビル。ハネムーンはどこがいいかの?」 ミス・ロングビルは潤んだ瞳でオスマンを見つめる。 「あなたと一緒ならどこでも構いませんわ。」 ミス・ロングビルはそう言って、オスマンの首に手を回し、顔を引き寄せる。 「それから……もう、ミス・ロングビルではありませんわ」 二人の唇が触れ合い――― オスマンは眼を覚ました。いつもと変わらぬ室内。使い魔のネズミと自分以外には誰も居ない。 「え~夢じゃった。正夢にならんかの~」 オスマンは欠伸をして一人呟く。その時、学院長室の扉がノックされた。 「誰じゃ?」 「私です。オールド・オスマン」 扉の向こうから聞こえてくるのは、彼の秘書であるミス・ロングビルの声。 夢で見たものと同じことが起きてオスマンは心を振るわせた。 「失礼します」 ミス・ロングビルが学院長室に入り会釈し、オスマンの元へ歩み寄る。 「とうとう結婚してくれる気になったか?!」 オスマンが机から身を乗り出し、ミス・ロングビルに期待を込めて問いかける。 ミス・ロングビルは太陽のように微笑み頷く。 「オールド・オスマン。寝言は寝てから言ってください。それともまだ寝てらっしゃるなら 起こして差し上げましょうか?二度と眼が覚めないかも知れませんが」 現実は非情だった。 「バッチリ目覚めておる!それでどうしたんじゃ?」 ミス・ロングビルは頷くと、少し焦りながら報告を始めた。 「中庭で、昨日二年生が召喚したばかりの使い魔が暴走して学園に被害を与えています。 現在、ミスタ・コルベール、ミスタ・ギトーにさっき戻ってきましたミセス・シュヴルーズが 対処しておりますが戦況芳しくなく、他の教師たちが『眠りの鐘』の使用許可を求めています」 「アホか。たかが暴走した使い魔を止めるのに秘宝なんぞ使えるか。それに戦況とは大げさな…… 教師たちに自分たちで何とかするよう伝えなさい」 オスマンがウンザリしたように答える。しかし、ミス・ロングビルは動かない。 「学院長。まず、ご自分の眼でご覧になって下さい」 ミス・ロングビルは毒舌だが、学院長である自分の命には逆らわない。一部の例外を除いてだが。 その彼女が真面目な顔で答えるのを見て、オスマンは杖を振るう。すると、学院長室の壁にかかった 大きな鏡に事件が起こっている中庭が映し出された。 「コッチヲ見ロォ~!」 キャタピラを唸らせ突進してくる使い魔にコルベールは炎を浴びせかける。 しかし使い魔が爆発し炎が吹き散らされ、その爆風でコルベールも吹き飛ばされた。 無傷のまま、その使い魔は倒れたコルベールに向かって尚も突進する。 「フギャーッ!!」 ミセス・シュヴルーズが作り出した赤土のゴーレムが、猫のような植物に近づく前に打ち砕かれ、 なんとか近づいたゴーレムも猫のような植物に触れられずに砕け散っていく。 そして、猫のような植物はミセス・シュヴルーズに狙いをつけた。 「おんぶして。ねっ!おんぶして」 ギトーの背中に取り付いた使い魔が囁きかける。ギトーはなんとか引き剥がそうとするも 無理に剥がそうとすると背中も剥がれた。使い魔は彼の耳元で囁きかける。 「人に『背中』見せれば……ねっ。ぼく離れてそっち行く!見せるだけ!」 「こりゃ凄いの」 中庭で起きている惨劇にも動じずにオスマンはのん気に顎鬚を摩る。 「早く『眠りの鐘』の使用許可を!」 ミス・ロングビルは苛立ち声を荒げる。しかし、オスマンは椅子に腰掛けミス・ロングビルに向き直り、 のんびりとした口調で言い聞かせるように語りかけた。 「まあの、これ位なら何とかするじゃろ。彼らに任せときなさい」 「……ですが!」 尚も食い下がるミス・ロングビルに鷹のように鋭い視線を浴びせ、それだけで黙らせる。 ミス・ロングビルは観念し、一礼して学院長室を後にした。 中庭で惨劇が繰り広げられる中、ルイズは自分の魔法を浴びて倒れたトリッシュを見下ろしていた。 左足が爆発に巻き込まれ苦痛の表情を浮かべて蹲るトリッシュに近づき、楽しげな顔で見下ろしながら 杖の先端をトリッシュに向けて突き出す。 「貴族が上で平民は下。これが正しいあり方なの」 トリッシュはルイズの言葉に反応せずに蹲ったまま震えている。ルイズは蹲り震えるトリッシュの頭を 足で踏む。勝ち誇った表情を隠そうともせず勝利者の愉悦に浸る。 「普通の決闘だと相手を殺さずに杖を折ったら勝ちなんだけど、アンタは平民だしね」 震えてなにも答えないトリッシュを見て、怯えていると感じたルイズは更に調子に乗る。 「そうね。アンタが『お許し下さいルイズ様。二度と逆らうようなことは致しません。どうかご慈悲を』って 言うなら命はとらないであげるわ。どう?私って優しいでしょ」 しかし、トリッシュは尚も震えて動かない。ルイズが答えないトリッシュに苛立ち顔を覗き込もうとする。 「ちょっとルイズ!やり過ぎなんじゃない?その子平民なんでしょ」 キュルケが見かねてルイズに声を掛けるが、ルイズはキュルケを睨む。邪魔するなと言うことだ。 両手を挙げて恭順の意を示すキュルケ。呆れて物も言えないようだ。 「アンタ!なんとか言ったらどうなの!!」 我慢できなくなったルイズが蹲るトリッシュの顔を見てやろうと、踏み付けていた足を上げる 足が離れた瞬間、トリッシュは顔を上げる。怯えていると思っていたトリッシュの顔が笑っていた。 「アンタなら絶対にやると思ったわ。近づく手間が省けたわね」 ルイズが驚き呪文を唱え杖を振る。だが、それよりも早く――― 「スパイス・ガール!」 杖を持つ手が弾かれ、その勢いでルイズは転倒する。怒りのままに杖を振ろうとして、弾かれた手に 眼が留まった。白魚のような細い指が五本とも歪に曲がり皮膚を破って白いものが飛び出している。 「なに…これ……?」 呆然とするルイズに脚を引きずりながら近づき、その顔にトリッシュは蹴りを叩き込む。 仰向けになって倒れたルイズの胸に踵を打ち込み、地面に釘付けにする。 まだ呆然としているルイズを見下ろすトリッシュ。一瞬にして立場が逆転していた。
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昼食が終わり、トリッシュは一人中庭で椅子に座り紅茶を啜っていた。マリコルヌは今はいない。 モンモランシーと一緒に部屋に引き篭もるギーシュを呼びに行った為だ。 昼からの授業はなく、呼び出されたばかりの使い魔たちと親睦を深める時間に当てられている。 これもメイジとしての教育の一端なのだろう。 周りを見ると、猫のような植物に何かで打ち抜かれる者、溶かされて消えていく主人を笑う人型の生物、 ラジコン型の使い魔と追いかけっこをする者、背中を剥がされ死んでいく者など、午後の暖かな日差しが射す中庭で それぞれが使い魔たちと楽しそうに遊んでいる。 「トリッシュ、お待たせ」 「や、やあ。コンニチワ」 マリコルヌとややぎこちないギーシュが手を振りながらトリッシュの座るテーブルへとやってきた。 目の前に座ったギーシュの頬が真っ赤に腫れていることにトリッシュは気付きなんとなく聞いてみた。 「アンタ、なんで顔が腫れてんの?」 「ああ…これはだね……」 ギーシュは言い辛そうに口をモゴモゴと動かす。実際に喋り辛そうだが理由は他にあるようだ。 それに一緒に迎えに行ったはずのモンモランシーがいないことにトリッシュは気付いた。 「二股がバレたんでモンモランシーと、もう一人の子に殴られたんだよ」 「マ、マリコルヌ!アレは違うんだよ!そう!ケティが勝手に勘違いして……」 マリコルヌが代わりに答え、ギーシュがしどろもどろに言い訳する。 「サイテー。人間のクズだわ」 冷ややかな視線と共にトリッシュは冷たく言い放ち、それを聞いたギーシュは崩れるようにテーブルに突っ伏し、 ブツブツと何かを囁く。良く見ると肩を震わせ泣いているようだ。 「僕の…見せ場が……フラグが…………うう…」 トリッシュとマリコルヌは余りに哀れなその姿を見て、ギーシュをそっとしておいた。 「申し訳ございません!」 少し離れた席で黒髪のメイドが桃髪の少女に謝っていた。 「またあの桃髪か…怒られてるメイドってシェスタ?って人じゃないの?」 「シエスタだよ。いい加減に人の名前覚えようよ。ちなみに怒ってるほうがルイズね」 マリコルヌのツッコミを無視して、トリッシュは怒鳴り散らすルイズと謝り続けるシエスタを見る。 シエスタがなにをしたかは知らないが、ルイズの叱責は段々とエスカレートしていった。 それを見かねたルイズの使い魔(名前はマリコルヌも知らない)が二人の間に入って止めようとするも 股間を蹴られて撃沈する。 「あの使い魔もアンタも!貴族に対する礼儀ってものを知らないようね!!」 「申し訳ございません!何卒お許しを!」 ルイズは“生意気にも貴族と同じ席についてた!”や“私を無視した!”など、叱責の殆どがシエスタではなく 誰かの使い魔に対するものだった。要するに八つ当たりでシエスタがイジメられているのだと、トリッシュは理解した。 「アンタ、風邪っぴきと親しいみたいだけど色目でも使ったの?」 「そのようなことは……ございません」 「本当に~?そうねアンタの髪ってカラスみたいな汚らしい色してるもの。出来る訳ないわよね」 ルイズが言った言葉に、頭を下げて怯えていたシエスタの顔に怒りとも悔しさともとれる表情が現れた。 漸く怒りが収まったのかルイズはシエスタの表情に気付かずに、自慢とする桃色がかかった金髪を掻き揚げて 跪いたシエスタを見下ろし立ち去ろうとする。 しかし、ルイズの行く手に一人のメイドが立ち塞がった。 「アンタ、ちょっと待ちなさいよ」 今まで様子を見ていたトリッシュだった。 目の前に立ち塞がったトリッシュを見るもそれを無視してルイズは、股間を押さえ悶絶している使い魔を 蹴飛ばして起こすと今度その使い魔を罵倒し始めた。 「アンタ聞いてんの?」 トリッシュが問いかけるが、ルイズは無視して言い訳する使い魔の股間に蹴りを入れ、またも悶絶させる。 ルイズの肩を掴んで振り向かせよう手を伸ばすと、シエスタがトリッシュの手にしがみつき、 懇願する眼でトリッシュを抑える。 「シエスタ。アンタあの女になにやったの?」 「え…?、その、紅茶を……」 トリッシュがテーブルを見る。テーブルにはケーキとティーカップが置かれ、ティーカップから僅かだが 紅茶が零れていた。これをルイズは怒ったのだろう。 「判ったわ。アンタは離れてて」 困惑するシエスタを引き離しトリッシュはティーカップを手に取ると、使い魔を罵倒するルイズの頭に向けて、 その中身をブチ撒けた。 「うきゃ!あちちちち!!ちょっといきなりなにするのよ!!ヤケドしたら如何するつもり!!!」 「ワザとやったんじゃね~わ。寛大なお貴族様なら許してくれるでしょ?」 いきなり紅茶をかけられたルイズは当然のように怒るが、トリッシュは悪気がなさそうな顔で言い訳をする。 その顔を見て更にルイズは怒り出した。 「アアア、アンタ、貴族に対する、れれ、礼儀ってモノを、しし知らないようね」 「知ったことじゃね~わよ。なんで私がアンタに『敬意』を払わなきゃいけね~わけ?」 沸騰したヤカンのように顔を真っ赤にしたルイズがトリッシュを睨む。トリッシュもその視線を真っ向から受け止める。 「れれ礼儀を知らないって言うなら、わわ私が教えてあげるわ!けけけ決闘よ!!」 「ちょ!ちょっと待ってくれ!」 今まで傍観していたマリコルヌがルイズを止めるが、時、既に遅くルイズは『ヴェストリの広場』で待つと 言い残し足早に立ち去り、その後を回復した使い魔が追いかけていった。 「マズイよトリッシュ!いくらルイズが『ゼロ』って言ってもメイジなんだ!僕も一緒に謝るから許してもらおうよ!」 必死に説得するマリコルヌを見てトリッシュは首を振る。 「だったら、僕が決闘するよ!使い魔の不始末は主人の不始末でもあるんだ!」 今度は自分が戦うと言い出したマリコルヌの肩に手を置いて、トリッシュは澄んだ瞳で見つめる。 「それはできないわ。私が売ったケンカなんだから」 尚も食い下がるマリコルヌを放って、トリッシュはシエスタに向き直る。シエスタは怯えた表情を見せ、 マリコルヌと同じくトリッシュを止めようと口を開きかけるが、トリッシュはそんなシエスタに微笑みかけ、 それを見たシエスタは思わず口を閉ざしてしまった。 「シエスタ。お願いがあるんだけど」 「は、はひ?あ…なんでしょうか?!」 「着替えとお風呂を用意しておいて」 そう言って困惑するシエスタとマリコルヌを残して、トリッシュはルイズの待つ『ヴェストリの広場』に向かった。 「どうしよどうしよ……ギーシュ!君も止めてよ!!」 未だにテーブルに突っ伏したギーシュに頼むも、心ここに在らずと言った感じで何かを囁いていた。 「ふふふ…香水の壜さ…これを拾えば……フラグが……うう…」 妄想に耽るギーシュをそっとしておいて、マリコルヌはトリッシュの後を追いかけていった。
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「ちょっと聞いてるの!さっさとどきなさい!!」 (うるさいわね。そもそも私はメイドじゃないわ) 「ルイズ、彼女は僕の使い魔なんだ。どう扱おうが君には関係ない」 無視されて業を煮やした少女がトリッシュに掴みかかろうとした時、代わりにマリコルヌが答えた。 「アンタの使い魔ですって?ああ、確かそうだったわね風邪っぴきさん」 「ミス・ヴァリエール、僕は『風上』だ。何度も言わせないでもらいたい」 いつもと様子の違うマリコルヌを気味悪がりながらも、ルイズは声を上げてマリコルヌと口論するが 食事前の祈りの時間になったので、トリッシュとマリコルヌを睨みつつルイズは抗議を止めた。 「「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします」」 祈りの声が唱和される中、トリッシュは一人だけ皮肉気な笑みを浮かべながら並べられた料理を見る。 世の中舐めてんの?とマジで言いたくなった。 (これが『ささやか』ねぇ。コイツらにとってのご馳走ってどんなのかしら? 私なんて朝はいつもコーンフレークだって~のに。やっぱり貴族ってムカつくわ) 祈りの時間らしいが別に神を信じてもいないので、とりあえず死んだ母と仲間たちの心の平穏と、 ついでにクソッたれなゲス親父が死んでも苦しみますようにと祈っておいた。 祈りが終わり食事が始まった。グラスにはワインが注がれ周りの貴族たちが食事を開始するが トリッシュは一人だけ手をつけずに料理を見ているだけだった。 (アル中じゃあるまいし朝っぱらからワインなんて飲めないわ。鳥のロースト? こんな重いもの起き抜けに食べれるわけないじゃない) 盛り付けられた見たことがないフルーツを皿にとって食べてみる。思っていたよりも甘く瑞々しい。 (まあまあね。冷えてないのが気に食わないけど。この果物なんて名前なのかしら?) 「ねぇマリコルヌ。この果物ってなんて名前なの?」 耳聡くトリッシュの質問を聞きつけたルイズが、先ほど無視されたお返しとばかりにトリッシュを蔑んだ眼で 見ながら馬鹿にしたように喋りかける。 「あら、平民はそんなことも知らないの?だったら高貴な私が教えてあげるわ。その果物は…」 「それは桃りんごって言うんだよ」 「へえ~桃リンゴォって言うんだ」 桃のような瑞々しさと、りんごの張りが同居してるんだ。と、マリコルヌがそう答える。 「ふんっ!これはアンタたち平民が私たちの為に作ってるんじゃない。そんなことも知らないなんて アンタ、平民以下ね。風邪っぴきの使い魔にふさわしいわ」 (桃リンゴォね。こんな果物は向こうにはなかったわ。じゃあひょっとしてメロンチェリーだとか 椰子バナナとかもあるのかしら?……うわ、キモチわる) 「アンタのみっともないご主人様に感謝することね!アンタみたいな平民がこの『アルヴィーズの食堂』に 入るなんて本当なら一生ないんだから!」 トリッシュはワインの代わりに喉を潤せるものがないかテーブルを探すが、水の入ったボトル一つなく 困っていたときに黒髪のメイドがこちらに来るのが見えたので聞いてみることにした。 「すいません。お茶かジュースはないかしら?水でもいいわ。私、喉が渇いているの」 呼び止められたメイドはトリッシュをきょとんとした眼で見ると、何かを合点したように頷く。 「かしこまりました。ただいまお持ち致します」 メイドはしばらく動かずに、マリコルヌとトリッシュを交互に見比べるとお辞儀をして厨房に向かう。 そのメイドの様子が気に掛かったトリッシュがもう一度呼び止めようとしたとき、マリコルヌが ワイングラスを持ちながら問いかけてきた。 「トリッシュ。君はお酒が飲めないのかな?」 諦めの悪いルイズが、トリッシュをやり込めようとまたも突っかかる。 「あらあら、やっぱり平民ね。あなたにはワインよりも井戸水がお似合いだわ」 朝から酒を飲むほうが変だとトリッシュは言おうとしたが、マリコルヌにはこれから色々と お世話になるのでやんわりと伝えることにした。 「そもそも平民が貴族のワインを飲もうなんて身の程知らずも良いとこだわ!反省なさい!!」 「母が言っていたの。朝から酒を飲むような人間にはなるなって。 それから、そんなヤツとは絶対に付き合うなとも言ってたわ、結婚なんて持っての他ともね」 先ほどのメイドが紅茶を持って現れ、陶磁製のティーカップにそれを注ぎテーブルに置く。 お辞儀をして立ち去ろうとするメイドをマリコルヌが呼び止めた。 「シエスタ、ワインを下げてくれ。それから僕にも紅茶を頼む」 「かしこまりました。ミスタ・グランドプレ」 今度はマリコルヌにお辞儀をして、メイドは立ち去った。そしてトリッシュに疑問が生じる。 (どうしてマリコルヌがメイドの名前を知ってるのかしら?凄く変だわ) 他の貴族たちの振る舞いを見ているとメイドを一人の人間として扱っている訳でなく、あくまで 『メイド』と言う名の奉仕者としか見ていない。マリコルヌが特別かとも思ったが、トリッシュの思考は 少しでも疑問を感じると解消せねば気が済まないように、かつての戦いを通じて変化していた。 「マリコルヌ。一つ質問があるんだけど良い?」 「なんだいトリッシュ?何でも聞いてくれよ」 マリコルヌはトリッシュに向き直りさわやかに微笑む。 「さっきのメイドなんだけど、どうして名前を知ってるの?凄く気になるわ」 (ひょ、ひょっとしてトリッシュは……嫉妬…してるんじゃあないのか?) 無視され続けたルイズはどうにかしてトリッシュに振り向いてもらおうと憎まれ口を叩く 「平民のことはアンタが一番良く知ってるでしょ!そうだったわ、あなた桃りんごも知らなかったわね。 ごめんなさいね。私ったら、あなたが無知で無能だってこと忘れてたわ」 トリッシュの質問を、マリコルヌはトリッシュがシエスタに嫉妬していると盛大に勘違いし、トリッシュは 自分に気があると有頂天になった。勿論、今のキレイなマリコルヌはその感情を表には出さなかったが。 「それはねトリッシュ。君の着ている服を彼女に頼んで用立ててもらったんだよ。 そのとき初めてシエスタの名前を知ったんだ。これからも色々と世話になるしね 名前を知っとかないと困るだろう?」 (だから、シエスタに嫉妬しなくていいんだよ僕のいとしいしと「my Preciouss」) などと心の中で加え、トリッシュの質問にマリコルヌは顔を何とか引き締めて答えた。 「そう、そう言うことね。てっきりアンタの趣味だと思ってたんだけど。でも変ね? この服サイズがピッタリだわ。その…シエスタさん?私と同じスタイルなのかしら?」 「アンタたちいい加減に人の話を聞きなさいッ!何時まで私を無視する気よ!私怒るわよ!!」 トリッシュの疑問に『自分の独壇場だ!』と、マリコルヌは心の中でガッツポーズを取った。 「その服は着る人間のサイズに合うように魔法が掛かってるんだよ。彼女に備品庫から持ってきてもらったんだ。僕も前から目をつけてたんだよ」 「ふ~ん。随分とベンリなのね……ちょっと待って!アンタ今なんて言ったの?! 『僕も前から目をつけてたんだよ』って言ったわよね!確かに聞いたわ!! それにアンタ彼女いないって昨日言ってたわよね!…マリコルヌ…まさか……」 (ドジこいたーーッ。薀蓄たれて好感度UPするつもりが、こいつはいかーん! 変態って思われる!この『失言』を誤魔化すしかない!チクショーーー!!) 「食事の後は授業があるんだ。トリッシュはどうする?外で待っててもいいんだけど」 「私の質問に答えろッ!!マリコルヌーーーー!!!」 「やっぱり授業を一緒に聞いたほうが良いかな?珍しいものも見れるだろうし」 「ねぇ~おねがいだから~~こっちをみてぇ~~わたしをむししないでぇ~~~」 マリコルヌはしばらくトリッシュに問い詰められたが、何とかシラを切り通した。 ルイズ?誰それ?