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~土曜日~ 佐々木「やぁ、キョン。待たせたかい?」 キョン「少しだけな。人を待ったのなんか久しぶりだな」 佐々木「キョン。そこは嘘でも、待ってない、と言うのが男じゃないのかい?」 キョン「ん、そうだな。佐々木、実は待ってないぞ?」 佐々木「君には呆れるね」 キョン「悪いな、褒めてくれて」 キョン「しかし、久しぶりだな」 佐々木「そうだね。高校進学以来まさに一年ぶりだよ?」 キョン「そんなに経つのか」 佐々木「そうさ。キョンがいつ連絡をくれるかと気長に待ってみたけど……」 キョン「みたけど?」 佐々木「ついには一年間も音沙汰無し」 キョン「悪いな、部活で忙しかったんだ」 佐々木「丸々一年間もかい?」 キョン「だから悪いって。でもお前のこと忘れたことなんて一度もないぞ?」 佐々木「……そう、そうか」 キョン「ん?どうした、俯いて?」 佐々木「そうやって女の子顔を覗くのは、デリカシーがないとは思わないかな?」コツ キョン「おっと、すまん」 佐々木「まったく」 キョン「そういやお前こそ、俺に連絡の一つでもくれればよかったんじゃないのか?」 佐々木「そこは我慢比べだよ、キョン」 キョン「我慢比べ?」 佐々木「少なくとも中学時代はまがりなりにも僕たちは親友だった」 キョン「今は違うのか?」 佐々木「一年も連絡を寄越さないやつなんて、果たして親友と呼べるかな?」 キョン「ごもっともで」 佐々木「それで先に連絡をするのは、なんだか君に負けた気がして嫌だったのさ」 キョン「それで結局、お前から電話を寄越したから、今こうしているわけだ」 佐々木「……何が言いたいんだい?」 キョン「残念だ、佐々木。お前の負けだ」 佐々木「君には一度お説教が必要のようだね?」 キョン「それで一年ぶりに会ったわけだが、なんかあったのか?」 佐々木「キョン。僕たちが会うのに理由なんかいるのかな?」 キョン「そういや、そうだな。お前と一緒にいるのはむしろスタンダードだ」 佐々木「くつくつ。そういうことさ、キョン。会いたくなったんだよ、君に」 キョン「それはなによりだ」 佐々木「……鈍感」ボソ キョン「なんか言ったか?」 佐々木「言ってないよ」 キョン「でもなんか機嫌が悪い」 佐々木「悪くない」 キョン「そうか?俺はもっと笑ってる方が似合うと思うけどな」 佐々木(……この卑怯者) キョン「まあとりあえず、そこの喫茶店でも入るか。積もる話もあるだろう?」 佐々木「そうだね」 ~喫茶店にて~ 佐々木「すると君はそのSOS団なるものに入ってるんだね?」 キョン「ああ。改めて人に説明すると恥ずかしいな」 佐々木「部長の女の子がキョンを無理やり」 キョン「まぁそんなとこだ」 佐々木「何故?」 キョン「なにがだ?」 佐々木「だって君は断ることも出来ただろ?」 キョン「何でだろうな?当時のクラス委員だったやつにも頼まれてたし」 佐々木「君は随分軽いね」 キョン「特に入りたい部活もなかったしな」 佐々木「そういうものかい?」 キョン「表向きはボランティア団体だしな。学校ではともかく、世間体はいいんじゃないか?」 佐々木「ふーん、でその部長の」 キョン「ハルヒか?」 佐々木「……」 キョン「どうした?」 佐々木「……なんでもないよ」 キョン「?」 佐々木「……キョン。君は僕が知らない異性の話を始めたらどうだい?それも楽しそうに」 キョン「……面白くないな」 佐々木「つまりそういうことだよ」 キョン「俺が軽率だった」 佐々木「くつくつ。今に始まったことじゃないけどね」 キョン「返す言葉もない」 佐々木「まぁ、いいさ。それより今日は何処かに連れてってくれないかい?」 キョン「なんだ?お前が誘ったから、てっきり行きたいとこでもあるんだと」 佐々木「僕は本来キョンに会うのが目的だったんだよ」 キョン「なんだそりゃ」 佐々木「つまり、今は用事が終って暇なんだ。もう一度言うよ?」 キョン「ん?」 佐々木「僕を何処かに連れてってくれないか?」 キョン「そうだな、つまらなくても文句言うなよ?」 佐々木「大丈夫さ」 キョン「よし、少し待ってろ」 佐々木「あぁ」 prrr ピッ 古泉「どうかしましたか?」 キョン「普通はもしもしだろうが」 古泉「気をつけます。ところで何の用です?」 キョン「数少ない友人を、そう邪険に扱うなよな」 古泉「友人?はて?」 キョン「切る」 古泉「んふ。冗談ですよ」 キョン「ったく。この間お前が聞かせてくれたCDあったろ?」 古泉「どれのことですか?」 キョン「とら、なんとか」 古泉「ふむ。Tra○isでしょうか?」 キョン「それだそれ。大阪公演って今日だったか?」 古泉「いえ、来週ですよ。行かれるんですか?」 キョン「分からん。とりあえずプランが折れた」 古泉「は?」 キョン「悪かったな。また学校でな」 古泉「?分かりました」 ピッ 佐々木「誰だい?」 キョン「同じ部活の男友達だ。この間聞いたCDが良くってな、確か今日が来日公演だと思ったんだが来週だった」 佐々木「なんていうバンド?」 キョン「Tr○vis」 佐々木「聞かない名だね」 キョン「俺もそいつに聞かされるまで知らなかった」 佐々木「へぇ」 キョン「知らないといったらすごい呆れられたよ。普通に生きてて知るかって」 佐々木「確かに、そうだね」 キョン「さて、とっさで立てた計画も頓挫したわけだが」 佐々木「お手並み拝見だね?」 キョン「そうだな……」 佐々木(私は君といるだけでいいんだけどなぁ) キョン「さすがにポンポン出てこないな」 佐々木「大丈夫さ。今は十五時を回ったところだ。公園でも行ってのんびりしないかい?」 キョン「佐々木がいいなら一向に構わんぞ」 佐々木「なら行こうか」 キョン「ああ」 ~移動中~ 佐々木「……」 キョン「さすがに休日だけあって人が多いな」 佐々木(今しかない)ギュ キョン「さ、佐々木!?」 佐々木「キョンは歩くのが早いね。つ、つかまってていいかい?」 キョン「あ、あぁ、いいぞ」ギュ 佐々木「ありがとう」ギュ キョン(佐々木の手ってこんなに小さかったけか) 佐々木(キョンの手ってこんなに大きかったんだ) キョン「……」 佐々木「……」 ~公園にて~ 佐々木「ちょうどいい木陰がある。あそこにしないかい?」グイ キョン「そうだな、上手いことにベンチもあるし」 ストン 佐々木「ふぅー、風が気持いいね」 キョン「歩き回るにはキツイがこうしてるぶんには助かるよ」 佐々木「そういえば君は何もないのかい?」 キョン「なにがだ?」 佐々木「せっかくこうやって着飾ってきたのに、こうも反応がないと」 キョン「……そうゆうことか」 佐々木「何度も言うけど一年ぶりなんだ。少しは、その、そうゆうこと言って欲しいもんだよ」 キョン「すまんな。俺の無神経ぶりは知ってるだろ?」 佐々木「よく知ってるさ。でもやっぱり、そこはキョンに言って欲しかったんだ」 キョン「しばらく会わないうちに、ぐっと魅力的になったな。周りの男共がほっとかないんじゃないのか?」 佐々木「くつくつ。そうでもないさ。ほら、僕は変な女だからね」 キョン「国木田の言ってたのは冗談だぞ」 佐々木「わかってるよ。でも心当たりがありすぎてね」 キョン「まったく」 佐々木「まぁいいさ。しかし、キョンに素直に褒めてもらうと、なんだかくすぐったいよ」 キョン「悪かったな、語呂が貧相で」 佐々木「くつくつ」 キョン「佐々木は最近どうなんだ?」 佐々木「どうとは?」 キョン「それこそ色々だ」 佐々木「そうだね。勉強に関しては君に心配されるのは心外だね」 キョン「あぁ、そうかい」 佐々木「くつくつ。冗談だよ」 キョン「事実がたっぷり含まれてる分、安心して笑えないね」 佐々木「とりあえず学校生活は充実しているよ」 キョン「そりゃなによりだ」 佐々木「ただ」 キョン「ん?」 佐々木「そこにキョンがいないのは少し寂しいかな」ニコ キョン(そこで笑顔は反則だろ。ヤバイ手が汗ばむ) キョン「ち、ちょっと飲み物買ってくる。何がいい?」 佐々木「そうだね。冷たいココアが欲しいな」 キョン「わかった。あ、佐々木?」 佐々木「なんだい?」 キョン「手を放してもらっていいか?」 佐々木「え?あ、う、すまない」パッ キョン「いや、いいさ。俺としては惜しいくらいだ。じゃあ行ってくる」 佐々木(なんで平気でああいう事言えるの?顔が熱くなってきたよ)カァァ キョン「ほら、ココアだ」 佐々木「ありがとう、キョン」 キョン「……」ゴクゴク 佐々木「……」ゴクゴク キョン「こうやって座ってるだけってのもいいもんだな」 佐々木「そうなのかい?」 キョン「そうさ。土曜になれば、やれ不思議探索だ、やれ野球大会だ、で毎週大忙しだ」 佐々木「……いやなら辞めてもいいんじゃ」 キョン「う~ん。それが案外苦痛でもないんだよ。なんというか、楽しいとか、このままこのメンバーで遊んでたいとか」 佐々木「……」 キョン「って最近思えるんだよな。まあ具合がいいってことだ」 佐々木「……そう」 キョン「そうなんだな。……ただな」 佐々木「?」 キョン「さっきのお前じゃないが、この輪の中に佐々木もいたら、もっと楽しかっただろうなぁ、とは思う」 佐々木「……うん、ありがとう」 キョン「なに、本心さ」 キョン「今は何時だ?」 佐々木「五時半だね。……もう帰るかい?」 キョン「ん?別に中学生でもないんだし大丈夫だろ。それとも門限とかあるのか?」 佐々木「いや、母さんには、キョンに会ってくる、って言ってあるから平気だよ」 キョン「ならいいか。……ちょっとCDを見に行かないか?」 佐々木「構わないけど、何か欲しい物でもあるのかい?」 キョン「ああ。これまた紹介してもらったバンドなんだけどな」 佐々木「一応聞こうか。なんていうやつだい?」 キョン「The Tell○rs」 佐々木「また知らないな」 キョン「これは逆に、一般人が知っていたら驚くようなアーティストらしいぞ?」 佐々木「へぇ。それじゃ探しに行こうよ」 キョン「そうだな」 ~移動中~ 佐々木「……」ジー キョン「それでな、その古泉ってやつがな」 佐々木「……」スッ キョン「話をする度に顔を寄せてくるんだ」サッ 佐々木「……」スッ キョン「弱冠、アッチのけがあるんじゃないかと思っちまうよ」サッ 佐々木「……」スッ キョン「まぁ、悪いやつじゃないんだがな」サッ 佐々木「……」イラ キョン「さっきから何やってるんだ」 佐々木「君はわざとやってるのかな?」 キョン「何の話だ?」 佐々木「隙アリ!」ガシ キョン「……なんだ、手を繋ぎたかったのか?」 佐々木「そ、そういうわけじゃないだが、あまりに無防備だったんで、つい」 キョン「ふ~ん。そういうことにしておくよ」ギュ 佐々木「くつくつ。よろしく頼むよ」ギュ キョン(これじゃ、恋人みたいだな。……誰にも会いませんように) 佐々木「~♪」 ~駅前にて~ キョン「悪いな、探すの手伝わせて」 佐々木「構わないよ。見つかって良かったじゃないか。今度聴かせてもらっていいかい?」 キョン「もちろんだ」 佐々木(やった、また会う約束が出来た♪) キョン「もうこんな時間か。ついでだしどっかで飯でも食ってくか?」 佐々木「そうだね。家の人に夕飯はいらないと連絡しておくよ。しかしついでとは失礼じゃないかい?」 キョン「ん?そうか?次は気をつけるよ」 佐々木「全く君ってやつは」 佐々木「くつくつ。ところで美味しい店をちゃんと知ってるんだろうね、キョン?僕の舌は以外にグルメだよ?」 キョン「そういわれてもなあ。自称グルメの佐々木と違って、俺の舌はあくまで一般のものなんだが」 佐々木「まあいいよ。きっとキョンと一緒ならどこでも美味しく感じる」 キョン「またそうやってプレッシャーを」 佐々木「くつくつ」 ~食事後~ 佐々木「それでだ、キョン」 キョン「ん?美味しかっただろ?」 佐々木「確かに美味しかったよ」 キョン「ならいいだろ」 佐々木「いや、雰囲気の問題だよ」 キョン「?」 佐々木「なんでラーメン屋?」 キョン「佐々木が美味しいもの食べたいって言うから」 佐々木「僕のせいなのかな?」 キョン「待て待て、何をそんなに不機嫌なんだ?」 佐々木「……しいて言えば、過大評価をしてしまった自分にかな?」 キョン「?」 佐々木「……はぁ、もういいよ。僕の負けだよ」 キョン「?なんだか知らんが俺が勝ったのか?」 佐々木「……やっぱり一回叩かせてくれないかな?」バシ キョン「背中が痛い」ヒリヒリ 佐々木「自業自得だね」 キョン「納得いかん」 佐々木「君はもう少し自分以外の人にも、感情があるのを学んだ方がいいよ」 キョン「む、気をつけてみるさ」 佐々木「まったく」 キョン「もう八時か」 佐々木「そうだね。さすがに帰らないとまずいよ」 キョン「送ってくぞ」 佐々木「悪いね」 キョン「……」テクテク 佐々木「……」トテトテ 佐々木「……次はいつ会えるかな?」 キョン「さぁな。でも連絡くれればいつでも会いに行くぞ?」 佐々木「キョン……」 キョン「この辺りも懐かしいな。佐々木の家が近いってことだな」 佐々木「……」 キョン「どうした?」 佐々木「さっき、いつでも会いに来てくれるって言ったよね?」 キョン「言ったな」 佐々木「何故だい?」 キョン「親友の頼みは断れないだろ?」 佐々木「……親友か」 キョン「不満か?」 佐々木「……不満だね。僕はね、もう君との友情は終わりにしたいんだ」 キョン「佐々木?」 佐々木「今回連絡を取って、今こうやって会ってるのもそのためさ」 キョン「どういうことだ?なにか嫌われるようなことしたか?」 佐々木「……一年間会わないうち色々考えたよ。今日、僕の答えを出したいんだ」 キョン「……」 佐々木「僕がキョンを嫌うと思う?逆だよ、好きなんだ」 キョン「佐々木」 佐々木「もちろん親友としてではなく。異性として。キョンという男の子を」 キョン「……」 佐々木「この一年間ずっと悩んだよ。でも言わないままは、これから先、辛すぎる」 キョン「そうか」 佐々木「僕でも一年悩んだんだ。キョンには一週間の猶予をあげるよ」 キョン「一週間?」 佐々木「うん。だから来週の土曜日にまた……会ってくれないかな?そして……答えはその時に」 キョン「……あぁ、分かったよ」 佐々木「それじゃあ、もう家まで目と鼻の先だ。もうここまででいいよ」 キョン「あぁ」 佐々木「またねキョン」 キョン「またな」 タタッ キョン「……」 ~月曜~ ガラ キョン「おぉ珍しく早いな。どうした?」 ハルヒ「べ、べ、別にどうしよもないわよ」 キョン「?そうか」 キョン「土曜は長門と一緒だったんだろ?どこ行ったんだ?」 ハルヒ「……」 キョン「なに、お前と長門の組み合わせでなにをやってるのか、気になってな」 ハルヒ「……」 キョン「お~い。聞いてるのか?」 ハルヒ「キョ、キョン!?」 キョン「ん、なんだ?」 ハルヒ「一昨日、有希と一緒に歩いてたら……駅前で……」 キョン「駅前で?」 ハルヒ「あ、あんたが……その、女の子と歩いてるの見たんだけど……」 キョン「ん?あーその、見られたか」 ハルヒ「そりゃ、あんな地元ならね」 キョン「だよな」 ハルヒ「……彼女?」 キョン「いや、ただの腐れ縁の友達だったんだ」 ハルヒ「だった?」 キョン「あの時点まではな。あの後帰り道でな、まあ、恥ずかしい話だが告られたんだ」 ハルヒ「!!!」 ハルヒ「そ、それで?」 キョン「で、一週間後にまた会おうって。その時に答えがほしいって、言われた」 ハルヒ「……それで、どうするの?」 キョン「さぁな、せっかく一週間も猶予もらったんだ。ゆっくり考えるさ」 ハルヒ「あんた、そのコのこと……好きなの?」 キョン「あぁ、大事な友達だからな。嫌いになれるはずがない」 ハルヒ「……そう」 キョン「?」 ~帰り道にて~ 国木田「どうしたの?」 キョン「ん?いや今日、ハルヒのやつが変だったんだ。それでな……」 谷口「おいおい、涼宮が普通の時なんかあんのか?」 キョン「そいつは言いすぎだぞ」 キョン(まぁ考えすぎかな。明日になれば直ってるだろ) ~次の日の昼休み~ ハルヒ「キョン!!」 キョン「おう。どうした?」 ハルヒ「後で話しがあるのよ。だから放課後、部室行く前に屋上に来なさい!」 キョン「ここじゃ言えんのか」 ハルヒ「放課後ったら放課後なのよ!いい?必ず……必ず来るのよ」 キョン「あぁ?わかった」 ハルヒ「じゃああたし行くとこあるから」ダッ キョン「行っちまった」 キョン(なんだか思いつめてたみたいだけど……気のせいか?) ~放課後の屋上にて~ キョン「待たせたな。なんか谷口のやつに絡まれてな」 ハルヒ「そ、そう」 キョン「それで、話ってなんだ?」 ハルヒ「……」 キョン「他の連中に聞かれたくない話なんだろ?」 ハルヒ「……」 キョン「まあ、これで案外口が堅い方なんだ」 ハルヒ「……」 キョン「だから信用してくれていいぞ?」 ハルヒ「……」 キョン「……そんなに言いづらいことか」 ハルヒ「……」 キョン「大丈夫か?」 ハルヒ「……」 キョン「おい、顔真っ赤じゃないか?熱でもあるのか」 ハルヒ「……」 キョン「別に無理しなくていいぞ?」 ハルヒ「無理なんかじゃない!!!」 キョン「うぉ!いきなり大声出すなよ」 ハルヒ「キョン!聞いて!」 キョン「さっきから聞いてるって」 ハルヒ「最初はそんなことなかった」 キョン「?」 ハルヒ「あんたの提案でSOS団を作って、今のみんなが集まった」 キョン「……」 ハルヒ「あたしがわがまま言ったときも、あんたは口では文句言いながらも着いてきてくれた」 キョン「わがままな自覚はあったんだな」 ハルヒ「お願いだから、今は変な横槍いれないで」 キョン「すまん」 ハルヒ「みんなと、あんたと出会って一年。色んなことがあった」 キョン「……」 ハルヒ「昨日あんたが昔の友達に告白されたって言ったわよね?」 キョン「あぁ」 ハルヒ「それを聞いて、あたしは、生きた心地がしなかった」 キョン(そういうことかよ) ハルヒ「あたしは、あたしは……」 キョン「……」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「あたしは、あんたのことが好きなの。好きになっちゃったのよ」 キョン「……そうか」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「……もう覚悟は出来てるわ。なんか言ってよ」 キョン「……スマン」 ハルヒ「……そっか」 キョン「……」 ハルヒ「この間のコ?」 キョン「あぁ、俺はあいつが……」 ハルヒ「好き?」 キョン「……」コク ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「……もしよ?」 キョン「あ、あぁ」 ハルヒ「もし、そのコの前にあたしがあんたに告白したら、どうした?」 キョン「……」 ハルヒ「……」 キョン「……それでも断ってた」 ハルヒ「そのコのことが好きだから?」 キョン「そうだ」 ハルヒ「……わかったわ、ありがとね」 キョン「ハルヒ……その」 ハルヒ「今は!ごめん、今は一人にしてくれない?」 キョン「……わかった」 ハルヒ「ごめんね」 キョン「先に……部室戻ってるぞ」 ガチャ ハルヒ「……戻れるわけ、ないじゃない」 ~部室にて~ キョン「遅くなったな」 古泉「今日は随分遅かったですね」 キョン「あぁ。野暮用があってな」 長門「……」 古泉「そうでしたか。ご苦労様です」 キョン「男からの労いの言葉はないな」 古泉「それはすいません」 みくる「あのぉ~」 キョン「なんですか?」 みくる「涼宮さんは一緒じゃないんですかぁ?」 長門「……」 古泉「……」 キョン「……あいつは。……長門」 長門「何?」 キョン「ちょっと廊下にいいか?」 長門「……」コク ~廊下にて~ ガチャ キョン「あのよ、あいつ今屋上にいるんだ」 長門「……」 キョン「あいつのそばに行ってやってくれないか?」 長門「何故」 キョン「ん?」 長門「何故、彼女ではダメだったの?」 キョン「なんだ、知ってたのか」 長門「何故?」 キョン「先に好きになっちまったやつがいるんだ。ほんとに、ただそれだけだ」 長門「そう。行ってくる」タタッ キョン(悪いな) ~部室にて~ ガチャ 古泉「随分お疲れのようですね」 キョン「ちょっと精神的にな」 古泉「そうですか」 キョン(……あいつの方が辛いよな) みくる「大丈夫ですかぁ?」 キョン「俺は平気ですよ。俺は」 みくる「でも辛そうですよ?」 キョン「大丈夫ですよ。朝比奈さんのお茶を頂ければすぐ良くなります」 みくる「キョン君がそういうならぁ」トテトテ 古泉「……」 キョン「……」 みくる「どうぞ、キョン君」 キョン「ありがとうございます」ズズ みくる「……なんだかよく分かりませんけど、元気出してくださいね?」 キョン「……えぇ」 キョン(俺が言われるべき台詞じゃないよな) 古泉「……朝比奈さん、たまには一緒にオセロでもいかがです?」 みくる「いいですよぉ」 古泉「では早速」カタ みくる「手加減してくださいねぇ」 古泉「ふふ。盤面には男も女も関係ありませんよ」 ~一時間後~ 古泉「……」 みくる「やった♪また勝ちましたぁ♪」 ガチャ 古泉「……おかえりなさい、長門さん」 長門「……」 キョン「長門……」 長門「大丈夫。でも今日はもう帰る」 キョン「そうか。わかった。よろしくな」 長門「……」コク ガチャ みくる「え?あのぉ~、どういうことですかぁ?」 古泉「ふむ。朝比奈さんがご存知ないということは、今回のことは未来で想定の範囲内ということですか」 みくる「ふぇ?」 キョン「おい、古泉。お前もしかして」 古泉「いったいどうしました?」ニコ キョン「……なんでもねぇよ」 みくる「わ、わたしにも教えてくださいよぉ~」 キョン「今回はいくら朝比奈さんでもちょっと」 みくる「仲間はずれですかぁ?」 キョン「禁則事項です」 みくる「……そう言われると言い返せませんよぉ」 キョン「はは、スイマセンね。来たばっかで悪いですけど、俺帰ります」ガタ 古泉「一つだけいいですか?」 キョン「なんだ?」 古泉「長門さんに感謝してくださいね?」 キョン「分かってる。じゃあな」 ガチャ ~次の日の朝~ キョン(昨日の今日だし顔合わすのは辛いな) ガラガラ ハルヒ「……おはよ」 キョン「お、おう」 ハルヒ「……」 キョン「……」 キョン(ダメだ、耐えられん) ハルヒ(……今言わないと) ハルヒ・キョン『き、昨日のことだけど』 キョン「あ」 ハルヒ「な」 キョン「あ、あぁっと。先いいぞ」 ハルヒ「う、うん」 ハルヒ「昨日のことだけどね、やっぱり忘れてなんて言えない。言いたくない。でもね、気にしないでほしいのよ」 キョン「……」 ハルヒ「あたしたちがギクシャクしたら、SOS団にも迷惑かかる」 キョン「そうだな」 ハルヒ「だから今まで通りでいてほしいの。あたしが馬鹿やったら、あんたがそれを止めて、有希や古泉君に助けてもらって、みくるちゃんは……よくわかんない」 キョン「それは朝比奈さんに失礼だろ?」 ハルヒ「冗談よ」 キョン「ったく、とはいえそれには賛成だ」 ハルヒ「……」 キョン「虫のいい話だが、俺も同じ事を言おうと思っていた」 ハルヒ「うん」 キョン「そういうわけだ。これからもよろしくな。団長さん?」 ハルヒ「よろしく。今まで以上に引っ張りまわしてやるわ」ニコ キョン「それは勘弁してくれ」 ~放課後・部室にて~ ハルヒ「昨日は来れなくって悪かったわね!」 古泉「いえいえ。団長にも休みは必要ですよ」 みくる「はい、涼宮さん。お茶です」 ハルヒ「ありがと。そうだ、みくるちゃん!」 みくる「ふぇ?なんですかぁ?」 ハルヒ「昨日、ネットで面白いもの見つけたのよ!」 みくる「面白いものですかぁ?」 ハルヒ「ふふ、そのうち届くから楽しみにしといてね」ニヤ みくる「なんだか、笑い顔が怖いですよぉ~」アセ ハルヒ「それと今週末も団活は中止」 古泉「おや?」 ハルヒ「キョンが用事あるんだって。でしょ?」 キョン「あぁ、悪いな」 ハルヒ「悪いと思ってるなら今すぐにみんなにジュース買って来なさい。あたしは百パーセントのオレンジね」 キョン「な!」 古泉「ぼくはコーヒーを。微糖がいいですね」 キョン「おい」 長門「カルピス」 キョン「長門まで」 みくる「わ、わたしは何でもいいですよぉ」 キョン「はぁ、分かったよ」 ガチャ ~廊下にて~ キョン「全く人使いが荒いな」 キョン(……今日は火曜日か、佐々木は俺の返事を土曜まで、どんな気持ちで待ってんのかな) キョン(俺の腹は決まってるのにな) キョン「……」 キョン「よし!」 prrrrrprrr…… ピッ 佐々木「も、もしもし」 キョン「よう」 佐々木「……やあ」 キョン「お前に電話かけるのがこんなに緊張したのは初めてだ」 佐々木「僕も電話に出るのをためらったのは初めてだよ」 キョン「そうか」 佐々木「うん」 キョン「昨日な」 佐々木「え?」 キョン「昨日な俺、学校で告白された」 佐々木「……」 キョン「でも、無理だって言ったよ」 佐々木「……」 キョン「俺は他に好きなやつがいる、ってな」 佐々木「……」ポロ キョン「そしたら、もし自分が先に告白したらどうだったか聞かれた」 佐々木「……」ポロ キョン「そう言われてやっと気付いたよ。……ずっとお前がいたんだな、って」 佐々木「……」ポロポロ キョン「俺の横に、俺の自転車の後ろに、俺の今までの思い出に、いつもな」 佐々木「……」グス キョン「電話なんかですまない。どうしても今すぐ言いたかったんだ」 佐々木「……」ポロポロ キョン「俺と付き合ってくれないか?」 佐々木「な、何年、何年待ったと、おも、ってるんだい?」グス キョン「恋は精神病なんだろ?お前を病気にするのは気が引けてな」 佐々木「……ほんとに馬鹿だよ」 キョン「どうだ?なかなか頭の回転も早くなっただろ?」 佐々木「……キョン?」 キョン「なんだ?」 佐々木「会えなかった一年分、甘えさせてくれるかい?」 キョン「喜んで」 佐々木「……待っててよかった」 キョン「光栄だ」 佐々木「大好きだよ。キョン」 キョン「俺もだ」 ~Fin~
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~土曜日~ 佐々木「やぁ、キョン。待たせたかい?」 キョン「少しだけな。人を待ったのなんか久しぶりだな」 佐々木「キョン。そこは嘘でも、待ってない、と言うのが男じゃないのかい?」 キョン「ん、そうだな。佐々木、実は待ってないぞ?」 佐々木「君には呆れるね」 キョン「悪いな、褒めてくれて」 キョン「しかし、久しぶりだな」 佐々木「そうだね。高校進学以来まさに一年ぶりだよ?」 キョン「そんなに経つのか」 佐々木「そうさ。キョンがいつ連絡をくれるかと気長に待ってみたけど……」 キョン「みたけど?」 佐々木「ついには一年間も音沙汰無し」 キョン「悪いな、部活で忙しかったんだ」 佐々木「丸々一年間もかい?」 キョン「だから悪いって。でもお前のこと忘れたことなんて一度もないぞ?」 佐々木「……そう、そうか」 キョン「ん?どうした、俯いて?」 佐々木「そうやって女の子顔を覗くのは、デリカシーがないとは思わないかな?」コツ キョン「おっと、すまん」 佐々木「まったく」 キョン「そういやお前こそ、俺に連絡の一つでもくれればよかったんじゃないのか?」 佐々木「そこは我慢比べだよ、キョン」 キョン「我慢比べ?」 佐々木「少なくとも中学時代はまがりなりにも僕たちは親友だった」 キョン「今は違うのか?」 佐々木「一年も連絡を寄越さないやつなんて、果たして親友と呼べるかな?」 キョン「ごもっともで」 佐々木「それで先に連絡をするのは、なんだか君に負けた気がして嫌だったのさ」 キョン「それで結局、お前から電話を寄越したから、今こうしているわけだ」 佐々木「……何が言いたいんだい?」 キョン「残念だ、佐々木。お前の負けだ」 佐々木「君には一度お説教が必要のようだね?」 キョン「それで一年ぶりに会ったわけだが、なんかあったのか?」 佐々木「キョン。僕たちが会うのに理由なんかいるのかな?」 キョン「そういや、そうだな。お前と一緒にいるのはむしろスタンダードだ」 佐々木「くつくつ。そういうことさ、キョン。会いたくなったんだよ、君に」 キョン「それはなによりだ」 佐々木「……鈍感」ボソ キョン「なんか言ったか?」 佐々木「言ってないよ」 キョン「でもなんか機嫌が悪い」 佐々木「悪くない」 キョン「そうか?俺はもっと笑ってる方が似合うと思うけどな」 佐々木(……この卑怯者) キョン「まあとりあえず、そこの喫茶店でも入るか。積もる話もあるだろう?」 佐々木「そうだね」 ~喫茶店にて~ 佐々木「すると君はそのSOS団なるものに入ってるんだね?」 キョン「ああ。改めて人に説明すると恥ずかしいな」 佐々木「部長の女の子がキョンを無理やり」 キョン「まぁそんなとこだ」 佐々木「何故?」 キョン「なにがだ?」 佐々木「だって君は断ることも出来ただろ?」 キョン「何でだろうな?当時のクラス委員だったやつにも頼まれてたし」 佐々木「君は随分軽いね」 キョン「特に入りたい部活もなかったしな」 佐々木「そういうものかい?」 キョン「表向きはボランティア団体だしな。学校ではともかく、世間体はいいんじゃないか?」 佐々木「ふーん、でその部長の」 キョン「ハルヒか?」 佐々木「……」 キョン「どうした?」 佐々木「……なんでもないよ」 キョン「?」 佐々木「……キョン。君は僕が知らない異性の話を始めたらどうだい?それも楽しそうに」 キョン「……面白くないな」 佐々木「つまりそういうことだよ」 キョン「俺が軽率だった」 佐々木「くつくつ。今に始まったことじゃないけどね」 キョン「返す言葉もない」 佐々木「まぁ、いいさ。それより今日は何処かに連れてってくれないかい?」 キョン「なんだ?お前が誘ったから、てっきり行きたいとこでもあるんだと」 佐々木「僕は本来キョンに会うのが目的だったんだよ」 キョン「なんだそりゃ」 佐々木「つまり、今は用事が終って暇なんだ。もう一度言うよ?」 キョン「ん?」 佐々木「僕を何処かに連れてってくれないか?」 キョン「そうだな、つまらなくても文句言うなよ?」 佐々木「大丈夫さ」 キョン「よし、少し待ってろ」 佐々木「あぁ」 prrr ピッ 古泉「どうかしましたか?」 キョン「普通はもしもしだろうが」 古泉「気をつけます。ところで何の用です?」 キョン「数少ない友人を、そう邪険に扱うなよな」 古泉「友人?はて?」 キョン「切る」 古泉「んふ。冗談ですよ」 キョン「ったく。この間お前が聞かせてくれたCDあったろ?」 古泉「どれのことですか?」 キョン「とら、なんとか」 古泉「ふむ。Tra○isでしょうか?」 キョン「それだそれ。大阪公演って今日だったか?」 古泉「いえ、来週ですよ。行かれるんですか?」 キョン「分からん。とりあえずプランが折れた」 古泉「は?」 キョン「悪かったな。また学校でな」 古泉「?分かりました」 ピッ 佐々木「誰だい?」 キョン「同じ部活の男友達だ。この間聞いたCDが良くってな、確か今日が来日公演だと思ったんだが来週だった」 佐々木「なんていうバンド?」 キョン「Tr○vis」 佐々木「聞かない名だね」 キョン「俺もそいつに聞かされるまで知らなかった」 佐々木「へぇ」 キョン「知らないといったらすごい呆れられたよ。普通に生きてて知るかって」 佐々木「確かに、そうだね」 キョン「さて、とっさで立てた計画も頓挫したわけだが」 佐々木「お手並み拝見だね?」 キョン「そうだな……」 佐々木(私は君といるだけでいいんだけどなぁ) キョン「さすがにポンポン出てこないな」 佐々木「大丈夫さ。今は十五時を回ったところだ。公園でも行ってのんびりしないかい?」 キョン「佐々木がいいなら一向に構わんぞ」 佐々木「なら行こうか」 キョン「ああ」 ~移動中~ 佐々木「……」 キョン「さすがに休日だけあって人が多いな」 佐々木(今しかない)ギュ キョン「さ、佐々木!?」 佐々木「キョンは歩くのが早いね。つ、つかまってていいかい?」 キョン「あ、あぁ、いいぞ」ギュ 佐々木「ありがとう」ギュ キョン(佐々木の手ってこんなに小さかったけか) 佐々木(キョンの手ってこんなに大きかったんだ) キョン「……」 佐々木「……」 ~公園にて~ 佐々木「ちょうどいい木陰がある。あそこにしないかい?」グイ キョン「そうだな、上手いことにベンチもあるし」 ストン 佐々木「ふぅー、風が気持いいね」 キョン「歩き回るにはキツイがこうしてるぶんには助かるよ」 佐々木「そういえば君は何もないのかい?」 キョン「なにがだ?」 佐々木「せっかくこうやって着飾ってきたのに、こうも反応がないと」 キョン「……そうゆうことか」 佐々木「何度も言うけど一年ぶりなんだ。少しは、その、そうゆうこと言って欲しいもんだよ」 キョン「すまんな。俺の無神経ぶりは知ってるだろ?」 佐々木「よく知ってるさ。でもやっぱり、そこはキョンに言って欲しかったんだ」 キョン「しばらく会わないうちに、ぐっと魅力的になったな。周りの男共がほっとかないんじゃないのか?」 佐々木「くつくつ。そうでもないさ。ほら、僕は変な女だからね」 キョン「国木田の言ってたのは冗談だぞ」 佐々木「わかってるよ。でも心当たりがありすぎてね」 キョン「まったく」 佐々木「まぁいいさ。しかし、キョンに素直に褒めてもらうと、なんだかくすぐったいよ」 キョン「悪かったな、語呂が貧相で」 佐々木「くつくつ」 キョン「佐々木は最近どうなんだ?」 佐々木「どうとは?」 キョン「それこそ色々だ」 佐々木「そうだね。勉強に関しては君に心配されるのは心外だね」 キョン「あぁ、そうかい」 佐々木「くつくつ。冗談だよ」 キョン「事実がたっぷり含まれてる分、安心して笑えないね」 佐々木「とりあえず学校生活は充実しているよ」 キョン「そりゃなによりだ」 佐々木「ただ」 キョン「ん?」 佐々木「そこにキョンがいないのは少し寂しいかな」ニコ キョン(そこで笑顔は反則だろ。ヤバイ手が汗ばむ) キョン「ち、ちょっと飲み物買ってくる。何がいい?」 佐々木「そうだね。冷たいココアが欲しいな」 キョン「わかった。あ、佐々木?」 佐々木「なんだい?」 キョン「手を放してもらっていいか?」 佐々木「え?あ、う、すまない」パッ キョン「いや、いいさ。俺としては惜しいくらいだ。じゃあ行ってくる」 佐々木(なんで平気でああいう事言えるの?顔が熱くなってきたよ)カァァ キョン「ほら、ココアだ」 佐々木「ありがとう、キョン」 キョン「……」ゴクゴク 佐々木「……」ゴクゴク キョン「こうやって座ってるだけってのもいいもんだな」 佐々木「そうなのかい?」 キョン「そうさ。土曜になれば、やれ不思議探索だ、やれ野球大会だ、で毎週大忙しだ」 佐々木「……いやなら辞めてもいいんじゃ」 キョン「う~ん。それが案外苦痛でもないんだよ。なんというか、楽しいとか、このままこのメンバーで遊んでたいとか」 佐々木「……」 キョン「って最近思えるんだよな。まあ具合がいいってことだ」 佐々木「……そう」 キョン「そうなんだな。……ただな」 佐々木「?」 キョン「さっきのお前じゃないが、この輪の中に佐々木もいたら、もっと楽しかっただろうなぁ、とは思う」 佐々木「……うん、ありがとう」 キョン「なに、本心さ」 キョン「今は何時だ?」 佐々木「五時半だね。……もう帰るかい?」 キョン「ん?別に中学生でもないんだし大丈夫だろ。それとも門限とかあるのか?」 佐々木「いや、母さんには、キョンに会ってくる、って言ってあるから平気だよ」 キョン「ならいいか。……ちょっとCDを見に行かないか?」 佐々木「構わないけど、何か欲しい物でもあるのかい?」 キョン「ああ。これまた紹介してもらったバンドなんだけどな」 佐々木「一応聞こうか。なんていうやつだい?」 キョン「The Tell○rs」 佐々木「また知らないな」 キョン「これは逆に、一般人が知っていたら驚くようなアーティストらしいぞ?」 佐々木「へぇ。それじゃ探しに行こうよ」 キョン「そうだな」 ~移動中~ 佐々木「……」ジー キョン「それでな、その古泉ってやつがな」 佐々木「……」スッ キョン「話をする度に顔を寄せてくるんだ」サッ 佐々木「……」スッ キョン「弱冠、アッチのけがあるんじゃないかと思っちまうよ」サッ 佐々木「……」スッ キョン「まぁ、悪いやつじゃないんだがな」サッ 佐々木「……」イラ キョン「さっきから何やってるんだ」 佐々木「君はわざとやってるのかな?」 キョン「何の話だ?」 佐々木「隙アリ!」ガシ キョン「……なんだ、手を繋ぎたかったのか?」 佐々木「そ、そういうわけじゃないだが、あまりに無防備だったんで、つい」 キョン「ふ~ん。そういうことにしておくよ」ギュ 佐々木「くつくつ。よろしく頼むよ」ギュ キョン(これじゃ、恋人みたいだな。……誰にも会いませんように) 佐々木「~♪」 ~駅前にて~ キョン「悪いな、探すの手伝わせて」 佐々木「構わないよ。見つかって良かったじゃないか。今度聴かせてもらっていいかい?」 キョン「もちろんだ」 佐々木(やった、また会う約束が出来た♪) キョン「もうこんな時間か。ついでだしどっかで飯でも食ってくか?」 佐々木「そうだね。家の人に夕飯はいらないと連絡しておくよ。しかしついでとは失礼じゃないかい?」 キョン「ん?そうか?次は気をつけるよ」 佐々木「全く君ってやつは」 佐々木「くつくつ。ところで美味しい店をちゃんと知ってるんだろうね、キョン?僕の舌は以外にグルメだよ?」 キョン「そういわれてもなあ。自称グルメの佐々木と違って、俺の舌はあくまで一般のものなんだが」 佐々木「まあいいよ。きっとキョンと一緒ならどこでも美味しく感じる」 キョン「またそうやってプレッシャーを」 佐々木「くつくつ」 ~食事後~ 佐々木「それでだ、キョン」 キョン「ん?美味しかっただろ?」 佐々木「確かに美味しかったよ」 キョン「ならいいだろ」 佐々木「いや、雰囲気の問題だよ」 キョン「?」 佐々木「なんでラーメン屋?」 キョン「佐々木が美味しいもの食べたいって言うから」 佐々木「僕のせいなのかな?」 キョン「待て待て、何をそんなに不機嫌なんだ?」 佐々木「……しいて言えば、過大評価をしてしまった自分にかな?」 キョン「?」 佐々木「……はぁ、もういいよ。僕の負けだよ」 キョン「?なんだか知らんが俺が勝ったのか?」 佐々木「……やっぱり一回叩かせてくれないかな?」バシ キョン「背中が痛い」ヒリヒリ 佐々木「自業自得だね」 キョン「納得いかん」 佐々木「君はもう少し自分以外の人にも、感情があるのを学んだ方がいいよ」 キョン「む、気をつけてみるさ」 佐々木「まったく」 キョン「もう八時か」 佐々木「そうだね。さすがに帰らないとまずいよ」 キョン「送ってくぞ」 佐々木「悪いね」 キョン「……」テクテク 佐々木「……」トテトテ 佐々木「……次はいつ会えるかな?」 キョン「さぁな。でも連絡くれればいつでも会いに行くぞ?」 佐々木「キョン……」 キョン「この辺りも懐かしいな。佐々木の家が近いってことだな」 佐々木「……」 キョン「どうした?」 佐々木「さっき、いつでも会いに来てくれるって言ったよね?」 キョン「言ったな」 佐々木「何故だい?」 キョン「親友の頼みは断れないだろ?」 佐々木「……親友か」 キョン「不満か?」 佐々木「……不満だね。僕はね、もう君との友情は終わりにしたいんだ」 キョン「佐々木?」 佐々木「今回連絡を取って、今こうやって会ってるのもそのためさ」 キョン「どういうことだ?なにか嫌われるようなことしたか?」 佐々木「……一年間会わないうち色々考えたよ。今日、僕の答えを出したいんだ」 キョン「……」 佐々木「僕がキョンを嫌うと思う?逆だよ、好きなんだ」 キョン「佐々木」 佐々木「もちろん親友としてではなく。異性として。キョンという男の子を」 キョン「……」 佐々木「この一年間ずっと悩んだよ。でも言わないままは、これから先、辛すぎる」 キョン「そうか」 佐々木「僕でも一年悩んだんだ。キョンには一週間の猶予をあげるよ」 キョン「一週間?」 佐々木「うん。だから来週の土曜日にまた……会ってくれないかな?そして……答えはその時に」 キョン「……あぁ、分かったよ」 佐々木「それじゃあ、もう家まで目と鼻の先だ。もうここまででいいよ」 キョン「あぁ」 佐々木「またねキョン」 キョン「またな」 タタッ キョン「……」 ~月曜~ ガラ キョン「おぉ珍しく早いな。どうした?」 ハルヒ「べ、べ、別にどうしよもないわよ」 キョン「?そうか」 キョン「土曜は長門と一緒だったんだろ?どこ行ったんだ?」 ハルヒ「……」 キョン「なに、お前と長門の組み合わせでなにをやってるのか、気になってな」 ハルヒ「……」 キョン「お~い。聞いてるのか?」 ハルヒ「キョ、キョン!?」 キョン「ん、なんだ?」 ハルヒ「一昨日、有希と一緒に歩いてたら……駅前で……」 キョン「駅前で?」 ハルヒ「あ、あんたが……その、女の子と歩いてるの見たんだけど……」 キョン「ん?あーその、見られたか」 ハルヒ「そりゃ、あんな地元ならね」 キョン「だよな」 ハルヒ「……彼女?」 キョン「いや、ただの腐れ縁の友達だったんだ」 ハルヒ「だった?」 キョン「あの時点まではな。あの後帰り道でな、まあ、恥ずかしい話だが告られたんだ」 ハルヒ「!!!」 ハルヒ「そ、それで?」 キョン「で、一週間後にまた会おうって。その時に答えがほしいって、言われた」 ハルヒ「……それで、どうするの?」 キョン「さぁな、せっかく一週間も猶予もらったんだ。ゆっくり考えるさ」 ハルヒ「あんた、そのコのこと……好きなの?」 キョン「あぁ、大事な友達だからな。嫌いになれるはずがない」 ハルヒ「……そう」 キョン「?」 ~帰り道にて~ 国木田「どうしたの?」 キョン「ん?いや今日、ハルヒのやつが変だったんだ。それでな……」 谷口「おいおい、涼宮が普通の時なんかあんのか?」 キョン「そいつは言いすぎだぞ」 キョン(まぁ考えすぎかな。明日になれば直ってるだろ) ~次の日の昼休み~ ハルヒ「キョン!!」 キョン「おう。どうした?」 ハルヒ「後で話しがあるのよ。だから放課後、部室行く前に屋上に来なさい!」 キョン「ここじゃ言えんのか」 ハルヒ「放課後ったら放課後なのよ!いい?必ず……必ず来るのよ」 キョン「あぁ?わかった」 ハルヒ「じゃああたし行くとこあるから」ダッ キョン「行っちまった」 キョン(なんだか思いつめてたみたいだけど……気のせいか?) ~放課後の屋上にて~ キョン「待たせたな。なんか谷口のやつに絡まれてな」 ハルヒ「そ、そう」 キョン「それで、話ってなんだ?」 ハルヒ「……」 キョン「他の連中に聞かれたくない話なんだろ?」 ハルヒ「……」 キョン「まあ、これで案外口が堅い方なんだ」 ハルヒ「……」 キョン「だから信用してくれていいぞ?」 ハルヒ「……」 キョン「……そんなに言いづらいことか」 ハルヒ「……」 キョン「大丈夫か?」 ハルヒ「……」 キョン「おい、顔真っ赤じゃないか?熱でもあるのか」 ハルヒ「……」 キョン「別に無理しなくていいぞ?」 ハルヒ「無理なんかじゃない!!!」 キョン「うぉ!いきなり大声出すなよ」 ハルヒ「キョン!聞いて!」 キョン「さっきから聞いてるって」 ハルヒ「最初はそんなことなかった」 キョン「?」 ハルヒ「あんたの提案でSOS団を作って、今のみんなが集まった」 キョン「……」 ハルヒ「あたしがわがまま言ったときも、あんたは口では文句言いながらも着いてきてくれた」 キョン「わがままな自覚はあったんだな」 ハルヒ「お願いだから、今は変な横槍いれないで」 キョン「すまん」 ハルヒ「みんなと、あんたと出会って一年。色んなことがあった」 キョン「……」 ハルヒ「昨日あんたが昔の友達に告白されたって言ったわよね?」 キョン「あぁ」 ハルヒ「それを聞いて、あたしは、生きた心地がしなかった」 キョン(そういうことかよ) ハルヒ「あたしは、あたしは……」 キョン「……」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「あたしは、あんたのことが好きなの。好きになっちゃったのよ」 キョン「……そうか」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「……もう覚悟は出来てるわ。なんか言ってよ」 キョン「……スマン」 ハルヒ「……そっか」 キョン「……」 ハルヒ「この間のコ?」 キョン「あぁ、俺はあいつが……」 ハルヒ「好き?」 キョン「……」コク ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「……もしよ?」 キョン「あ、あぁ」 ハルヒ「もし、そのコの前にあたしがあんたに告白したら、どうした?」 キョン「……」 ハルヒ「……」 キョン「……それでも断ってた」 ハルヒ「そのコのことが好きだから?」 キョン「そうだ」 ハルヒ「……わかったわ、ありがとね」 キョン「ハルヒ……その」 ハルヒ「今は!ごめん、今は一人にしてくれない?」 キョン「……わかった」 ハルヒ「ごめんね」 キョン「先に……部室戻ってるぞ」 ガチャ ハルヒ「……戻れるわけ、ないじゃない」 ~部室にて~ キョン「遅くなったな」 古泉「今日は随分遅かったですね」 キョン「あぁ。野暮用があってな」 長門「……」 古泉「そうでしたか。ご苦労様です」 キョン「男からの労いの言葉はないな」 古泉「それはすいません」 みくる「あのぉ~」 キョン「なんですか?」 みくる「涼宮さんは一緒じゃないんですかぁ?」 長門「……」 古泉「……」 キョン「……あいつは。……長門」 長門「何?」 キョン「ちょっと廊下にいいか?」 長門「……」コク ~廊下にて~ ガチャ キョン「あのよ、あいつ今屋上にいるんだ」 長門「……」 キョン「あいつのそばに行ってやってくれないか?」 長門「何故」 キョン「ん?」 長門「何故、彼女ではダメだったの?」 キョン「なんだ、知ってたのか」 長門「何故?」 キョン「先に好きになっちまったやつがいるんだ。ほんとに、ただそれだけだ」 長門「そう。行ってくる」タタッ キョン(悪いな) ~部室にて~ ガチャ 古泉「随分お疲れのようですね」 キョン「ちょっと精神的にな」 古泉「そうですか」 キョン(……あいつの方が辛いよな) みくる「大丈夫ですかぁ?」 キョン「俺は平気ですよ。俺は」 みくる「でも辛そうですよ?」 キョン「大丈夫ですよ。朝比奈さんのお茶を頂ければすぐ良くなります」 みくる「キョン君がそういうならぁ」トテトテ 古泉「……」 キョン「……」 みくる「どうぞ、キョン君」 キョン「ありがとうございます」ズズ みくる「……なんだかよく分かりませんけど、元気出してくださいね?」 キョン「……えぇ」 キョン(俺が言われるべき台詞じゃないよな) 古泉「……朝比奈さん、たまには一緒にオセロでもいかがです?」 みくる「いいですよぉ」 古泉「では早速」カタ みくる「手加減してくださいねぇ」 古泉「ふふ。盤面には男も女も関係ありませんよ」 ~一時間後~ 古泉「……」 みくる「やった♪また勝ちましたぁ♪」 ガチャ 古泉「……おかえりなさい、長門さん」 長門「……」 キョン「長門……」 長門「大丈夫。でも今日はもう帰る」 キョン「そうか。わかった。よろしくな」 長門「……」コク ガチャ みくる「え?あのぉ~、どういうことですかぁ?」 古泉「ふむ。朝比奈さんがご存知ないということは、今回のことは未来で想定の範囲内ということですか」 みくる「ふぇ?」 キョン「おい、古泉。お前もしかして」 古泉「いったいどうしました?」ニコ キョン「……なんでもねぇよ」 みくる「わ、わたしにも教えてくださいよぉ~」 キョン「今回はいくら朝比奈さんでもちょっと」 みくる「仲間はずれですかぁ?」 キョン「禁則事項です」 みくる「……そう言われると言い返せませんよぉ」 キョン「はは、スイマセンね。来たばっかで悪いですけど、俺帰ります」ガタ 古泉「一つだけいいですか?」 キョン「なんだ?」 古泉「長門さんに感謝してくださいね?」 キョン「分かってる。じゃあな」 ガチャ ~次の日の朝~ キョン(昨日の今日だし顔合わすのは辛いな) ガラガラ ハルヒ「……おはよ」 キョン「お、おう」 ハルヒ「……」 キョン「……」 キョン(ダメだ、耐えられん) ハルヒ(……今言わないと) ハルヒ・キョン『き、昨日のことだけど』 キョン「あ」 ハルヒ「な」 キョン「あ、あぁっと。先いいぞ」 ハルヒ「う、うん」 ハルヒ「昨日のことだけどね、やっぱり忘れてなんて言えない。言いたくない。でもね、気にしないでほしいのよ」 キョン「……」 ハルヒ「あたしたちがギクシャクしたら、SOS団にも迷惑かかる」 キョン「そうだな」 ハルヒ「だから今まで通りでいてほしいの。あたしが馬鹿やったら、あんたがそれを止めて、有希や古泉君に助けてもらって、みくるちゃんは……よくわかんない」 キョン「それは朝比奈さんに失礼だろ?」 ハルヒ「冗談よ」 キョン「ったく、とはいえそれには賛成だ」 ハルヒ「……」 キョン「虫のいい話だが、俺も同じ事を言おうと思っていた」 ハルヒ「うん」 キョン「そういうわけだ。これからもよろしくな。団長さん?」 ハルヒ「よろしく。今まで以上に引っ張りまわしてやるわ」ニコ キョン「それは勘弁してくれ」 ~放課後・部室にて~ ハルヒ「昨日は来れなくって悪かったわね!」 古泉「いえいえ。団長にも休みは必要ですよ」 みくる「はい、涼宮さん。お茶です」 ハルヒ「ありがと。そうだ、みくるちゃん!」 みくる「ふぇ?なんですかぁ?」 ハルヒ「昨日、ネットで面白いもの見つけたのよ!」 みくる「面白いものですかぁ?」 ハルヒ「ふふ、そのうち届くから楽しみにしといてね」ニヤ みくる「なんだか、笑い顔が怖いですよぉ~」アセ ハルヒ「それと今週末も団活は中止」 古泉「おや?」 ハルヒ「キョンが用事あるんだって。でしょ?」 キョン「あぁ、悪いな」 ハルヒ「悪いと思ってるなら今すぐにみんなにジュース買って来なさい。あたしは百パーセントのオレンジね」 キョン「な!」 古泉「ぼくはコーヒーを。微糖がいいですね」 キョン「おい」 長門「カルピス」 キョン「長門まで」 みくる「わ、わたしは何でもいいですよぉ」 キョン「はぁ、分かったよ」 ガチャ ~廊下にて~ キョン「全く人使いが荒いな」 キョン(……今日は火曜日か、佐々木は俺の返事を土曜まで、どんな気持ちで待ってんのかな) キョン(俺の腹は決まってるのにな) キョン「……」 キョン「よし!」 prrrrrprrr…… ピッ 佐々木「も、もしもし」 キョン「よう」 佐々木「……やあ」 キョン「お前に電話かけるのがこんなに緊張したのは初めてだ」 佐々木「僕も電話に出るのをためらったのは初めてだよ」 キョン「そうか」 佐々木「うん」 キョン「昨日な」 佐々木「え?」 キョン「昨日な俺、学校で告白された」 佐々木「……」 キョン「でも、無理だって言ったよ」 佐々木「……」 キョン「俺は他に好きなやつがいる、ってな」 佐々木「……」ポロ キョン「そしたら、もし自分が先に告白したらどうだったか聞かれた」 佐々木「……」ポロ キョン「そう言われてやっと気付いたよ。……ずっとお前がいたんだな、って」 佐々木「……」ポロポロ キョン「俺の横に、俺の自転車の後ろに、俺の今までの思い出に、いつもな」 佐々木「……」グス キョン「電話なんかですまない。どうしても今すぐ言いたかったんだ」 佐々木「……」ポロポロ キョン「俺と付き合ってくれないか?」 佐々木「な、何年、何年待ったと、おも、ってるんだい?」グス キョン「恋は精神病なんだろ?お前を病気にするのは気が引けてな」 佐々木「……ほんとに馬鹿だよ」 キョン「どうだ?なかなか頭の回転も早くなっただろ?」 佐々木「……キョン?」 キョン「なんだ?」 佐々木「会えなかった一年分、甘えさせてくれるかい?」 キョン「喜んで」 佐々木「……待っててよかった」 キョン「光栄だ」 佐々木「大好きだよ。キョン」 キョン「俺もだ」 ~Fin~
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佐々木とキョンの驚愕プロローグ 佐々木とキョンの驚愕第1章-1 佐々木とキョンの驚愕第1章-2 佐々木とキョンの驚愕第1章-3 佐々木とキョンの驚愕第2章-1
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15-132「キョンと佐々木とハルヒの生活 1日目」 15-225「キョンと佐々木とハルヒの生活 2日目」 15-242「キョンと佐々木とハルヒの生活 3日目」 15-519「キョンと佐々木とハルヒの生活 4日目」 16-406「キョンと佐々木とハルヒの生活 5日目」 16-567「キョンと佐々木とハルヒの生活 6日目」 17-681「キョンと佐々木とハルヒの生活 7日目」
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昼休み、谷口がいきなり変なことを言い出した。 谷口「おーい、キョンお前の姉さん美人なんだってな。」 キョン「あ?誰がそんなことを…ってお前か。」 国木田「ゴメンね。谷口がいろいろと聞いてきてね。」 谷口「どうなんだよー。本当なんだろ?一度あわせてくれよ。」 キョン「あーもう、うるせーな」 キョンの姉貴が佐々木で、佐々木の弟がキョン キョン「ただいま。」 別に誰に言うでもなくつぶやく。習慣ってやつだな。聞こえていないと思っていたのだが聞こえていたらしい。 佐々木「おかえりキョン。今日は真面目に勉強したのかい?母さんが君の成績表を見て、何度もため息ついているようだったが」 玄関に立っているこいつは俺の姉貴だ。妙に小難しい話し方をする。頭はいいほうだ、俺と違ってな。 キョン「ああ、ただいま。ところで何故、玄関に立っているんだ?」 佐々木「君の帰りを待っていたといったら?」 キョン「は?」 佐々木「くっくっ、嘘さ。ただここを通り過ぎようとしたら君の自転車のブレーキ音が聞こえたものでね、待っていたのさ。」 キョン「ああそうかい。」 そういって俺は靴を脱ぎ捨て、自分の部屋に行こうとするときに、呼び止められた。 佐々木「ところでキョン。君は今日の夜、何か用事はあるかな?」 キョン「別に何もないが…なにかあるのか?」 佐々木「いや、今日ビデオ屋に行ってみたんだ、そしたらなかなか面白そうなDVDがあってね。」 キョン「ああ、いいけど…何借りてきたんだ?」 佐々木「『時をかける少女』さ」 キョン「…それこの前にテレビできていたぞ。」 佐々木「ああ知っているさ、しかし僕はそれを見ていないのだがね、友達が面白かったといっていたのを思い出してね。」 キョン「ああ分かった。」 佐々木「では、楽しみにしているよ。」 その後、飯食って風呂入ってシャミセンとベッドでゴロゴロしているときにノック音が聞こえたので、適当に返事した。 佐々木「キョン?起きているかな」 キョン「ああ、まだ9時だからな、寝る気にはなれないんでな。」 佐々木「じゃあ見ようか。」 そして、俺らは『時をかける少女』を見始めた。 佐々木「…時間は不可逆といっているのに何故主人公は戻るのだろうね。」 キョン「そういうものだ。映画なんだし適当に見ておけ」 佐々木「つれないな」 まあ内容は割愛しよう。というか、途中から意識がないんだ。つまり寝たんだ。 キョン「…ん」 目が覚めた。目の前には姉貴の顔と、蛍光灯。妙に柔らかい感覚。 佐々木「やっと起きたかい?」 キョン「…俺、寝てたのか?」 佐々木「主人公が告白される前にね。」 キョン「…どの場面だよ。」 佐々木「なんせ君が寝ていたときだ。わかるはずもない」 キョン「そうだな。」 佐々木「あと、そろそろ降りてもらえるとうれしいのだがね。」 俺はそのとき理解した。姉貴は俺を膝枕していたのだ。 キョン「わ、悪い。」 佐々木「別に悪い気分ではなかったのだが、足がしびれてきてね。」 キョン「今…何時だ?」 俺が時計を確認する前に姉貴は答えた。 佐々木「深夜の2時さ。君はずいぶん寝ていたようだったが、そんなに疲れていたのかい?」 キョン「別に疲れることはしていないさ、ハルヒからギャーギャー言われて、変な集まりの中で古泉とゲームして、朝比奈さんのお茶で喉の渇きを潤して、長門の本の合図で帰ってきたのさ。」 佐々木「楽しそうだね。僕もそんな高校生活が送れたら良かったものなんだが。」 ああ、言い忘れてたな。姉貴は大学生だ。近くの国立大に推薦で軽々入ったのだ。 キョン「平穏な高校生活が欲しかったよ。俺は。」 佐々木「あとで思い出すと、いいものだと思うよ。」 そういうと、姉貴は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。俺はただ、その姿をボーっと眺めていた。 佐々木「どうしたんだい、そんなに見つめて。僕と一緒に寝たいのかい?」 俺はすぐにからかっているものだと分かった。本気でこんなことをいうやつがいるわけがねぇ。 キョン「ああ、寝たいよ。」 からかわれたら、からかい返す。基本だな。しかし、意外な答えが返ってきた。 佐々木「そうか。嬉しいね。じゃあ寝るとしようか。」 俺は最初訳がわからなかった。ああ、からかってるんだな。ならば徹底抗戦だ。 キョン「じゃあ俺はもう寝る。」 そういうと俺は布団をかぶった。こうして、相手の出方を待つ。「くっくっ、冗談だよ」とでもいうがいいさ。 佐々木「もう少しつめてくれないか?僕のスペースがないんだ。」 徹底抗戦だ。言われたとおり、少しつめる。 佐々木「ああ、このくらいあれば大丈夫だろう。」 そういうと、姉貴は布団に入ってきた。 佐々木「おやすみ、キョン」 そういうと、姉貴は目をとじた。しかし、シングルベッドに二人はきつい。 キョン「……」 俺は絶対そのうち起きて、「本気にしたかい?」というのを待っていた。しかし、 佐々木「くーくー」 規則的な寝息が聞こえてくる。これも罠か?と思ったときに姉貴はもぞもぞと動きながら俺の真後ろに来た。 寝息がうなじにかかり、こそばゆい。それになんか甘い匂いもしてきた。 俺はうろたえている間に姉貴は俺の脚の間に脚を絡ませてきた。 くそ。こんな攻撃耐えてやる。耐えてやる。たえて…や…r ふと目が覚めると、目の前は真っ暗だった。何か目の前に圧迫感がある。柔らかい。いい匂いがする。 頭が覚醒してくる…まさかな…そう思って頭を離そうとしたが頭が何者かにロックされているらしい。離れようと少々暴れると、嫌な事態が起きた。 佐々木「ん…きゃぁ!!」 妙に可愛らしい声とともに投げ出された。久しぶりかもな。姉貴のこの声。 そうだ。わかっている人もいるかもしれないが俺は姉貴の抱き枕状態で寝ていたのだ。ついでに言うと、姉貴の胸は朝比奈さんに比べるとまだまだだな。比べるものが悪いのか? とまぁこんな感じで俺の日常は過ぎていく。まぁ退屈になることは少ないな。多分俺は楽しいと思っている。 そして今日も、 佐々木「キョン、今日も暇かい?…ちょっと買い物に付きあって欲しいのだが…」 と、こんな感じだ。 fin
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~佐々木宅にて~ 電話が鳴る。誰からだろう。 「はい、もしもし」 携帯から聞こえてきた声を聞いて安心する。 「おう、佐々木か?」 彼だ。 僕が別人だとしたら、君は一体誰の携帯に電話しているんだい?」 言う必要のない文句を一つ。 それを彼は、笑って返してくれる。 「はは。そういうなよ。社交辞令みたいなもんだろ」 「くつくつ。それでどうしたんだい?待ち合わせの時間まで、まだ二時間以上はあるけど?」 私の声が聞きたくなったの? ……もちろんそんなことは聞けない。 まだ恥ずかしい。 「あぁ、それなんだが……すまんが今日は行けなくなったんだ」 なるべく不機嫌になったのを悟られないように言葉を返した。 彼の勘はなかなかに鋭い。こと恋愛ごと以外には。 「……訳を聞こうか?」 理由はこうだ。 妹が風邪をひき、家には親がいない。 そして彼はそんな妹を一人にしとくのは気が引ける、と。 「シスコンってわけじゃないが、休みの日に寝込んでる妹を放って遊びに行くわけにもいかんだろ」 そんな妹想いな彼にまたいらない文句を。 「そうだね。君にしては正論だ」 「一言いらんぞ」 だって彼は仕方ないとはいえ、私との約束を守れなかった。 これくらいはいいよね? 「くつくつ。気をつけるよ」 「そういうことだ。悪いが、その、デ、デートはまた今度でいいか?」 「そ、そんなに恥ずかしそうに言われると、僕まで照れてしまうよ」 「すまんな、こればっかりは言い慣れていないからどうしようもない」 彼とは付き合い始めてまだひと月と少し。 長い間友達だった分、彼氏彼女の関係にはどうして慣れない。 「構わないよ。僕としては君とのデートも大事だけど、キョンの妹ちゃんの方が心配だし」 これは本心。だって彼は優しいから。 「悪いな」 「謝ってばっかりだな」 横にある枕を抱き寄せる。なぜだろ? 「そりゃな、穴を開けたのは俺だ」 「あんまり謝ってばかりだと、本当に謝ってもウソに感じてしまうよ?」 「それもそうだな」 「くつくつ。それじゃあ、妹ちゃんをお大事に」 「ありがとうな。またな」 彼からの電話が切れる。少しは甘い内容の会話をしてほしいものだよ。 でもそんなことを彼に期待するのは、本物のUMAを発見するより難しい。 そんな彼を好きになってしまった自分を責めるほかない。 それにしても、今日の予定が無くなってしまった。 二時間後に控えた三度目のデート。 さて、どうしたものだろう。 橘さんに連絡を取る? きっと彼女なら喜んで駆けつけてくれる。 ……彼は今頃妹の面倒を見ているのかな? 熱を測ってあげたり、水枕やタオルを換えてあげたり、お粥を作ってあげたり。 「くつくつ」 そんな彼の姿を想像すると笑ってしまう。 それと同時に、彼の妹に多少の嫉妬を。 病人に嫉妬なんて不謹慎にも程がある。でも彼に構ってもらえるなら、甘んじてその役を代りたい。 たった一週間会えないだけでこんな風に思ってしまう。 付き合う前は一年も我慢したのに。 でも仕方がないと思う。 気持ちが通じたのだから。だからこそ、より愛しく感じる。 恋愛は精神病の一種。 付き合ってしまえば治ると思った症状は、まさかの大悪化。 この病気の特効薬はどこで手に入るのだろう。 風邪と水虫の特効薬を完成させればノーベル賞が貰えると聞いたことがある。 きっと恋愛の特効薬を見つけることが出来ても、ノーベル賞が貰えるかも。 !!! 退屈な休日をどう過ごそうか考えていると、 ここで名案が一つ浮かんだ。 我ながらいいアイデアだと思う。 双方にとって得のあるアイデア。 まさに一石二鳥。 よし、準備をしなきゃ! ~キョン宅にて~ 「ケホケホ。キョンくんごめんね?」 布団に寝ている妹が俺に謝ってくる。 お前は熱があるんだ、仕方ないだろ? 「でも、きょうはデートだったんでしょ?」 子供がそういうこと気にするな。いつの間にそんなにマセたんだ? 「えへへ」 俺に出来ることなんてたかが知れているし、症状はただの風邪。 まぁ、体格的にも幼い妹だ。ただの知恵熱かもな。 「なにか食べたいものあるか?」 「えっとね、アイス」 予想していた答えとはいえ、まだまだ子供だな。 「わかったよ。ちょっとそこのコンビニ行ってくるから、おとなしく寝てるんだぞ」 「はーい」 「で、どんなのがいいんだ?」 「あまいのがいい」 甘くないアイスがあるなら、俺は是非食べてみたいな。 「ちがうよー、あっまーいのがいいの」 どう違うのかはイマイチ分からなかったが、妹にはすぐに戻るからとだけ伝え、コンビニに向かった。 「いってらっしゃーい、ケホケホ」 ~コンビニにて~ 風邪にはなにが効くんだっけかな。 ビタミンCだっけ? 個人的にはとりあえずみかんのゼリーと、やっぱりポカリだよな。 それと甘ーいアイスか……どれも大して変わらんだろ。 バニラアイスを四つくらい買っとくか。 こんなもんでいいだろ。 ~キョン宅にて~ 「キョンくんおかえりなさい」 さっきより少し顔が赤い。熱がまた出てきたのかもな。 冷えピタでも差し入れてやるか。 「ただいま。今食べるか?」 「う~ん、あとにする」 まだ食欲は戻ってこないか。無理に食べさせるのも酷だな。 「そうか、じゃあ俺はリビングにいるから、腹減ったり、構ってほしくなったら呼べよ」 「わかったー」 仕方ないとはいえ、やはり元気がない。 いつもの元気な声が聞けないのは、兄にとっても寂しい限りだぞ。 「子機、枕元に置いとくから」 「ありがとー」 そう妹に告げ、頭をひとなで、ふたなで。 嬉しそうにする妹の笑顔を見れるだけで、少し俺も優しい気持ちになれる。……ような気がする。 はは、がらにもなかったな。 さて、暇になったわけだが……何をするか。 部屋に戻って勉強、それは嫌だな。 なら片付けでも、いやいやそれだとうるさくなるな。 どうしたもんかね。 そういえば俺の昼飯ってあるのか?まずは冷蔵庫チェックだな。 ピンポーン。 間の抜ける音だな。来客か?そんな話聞いてないんだがな。 ピンポーン。 分かった分かった、今出るから待ってろ。 「はーい、今出ますよっと」 ガチャ 「……あれ?」 おかしいな、なぜここに? 「や、やあ」 扉の先にいたのは佐々木だった。 「どうしてお前がここに?」 さっき頭の中に浮かんだ疑問を、本人に直接伝える。 「ど、どうしてって、それはその……」 少し顔を赤くした佐々木が、俯き気味にぼそぼそと言う。 う~ん、聞き取れん。 「まあ、玄関で立ち話もなんだから上がってくれ」 中途半端に開かれた扉を大きく開く。 外の暖かい空気が家の中に流れ込んでくる。 「お邪魔します」 どうぞ。 パタン 来た。彼の家に来た。 いつぶりだろうこの家に来るのは。 通されたリビングを見ると、昔からあるものがチラホラ。 人の家なのに勝手に懐かしさを感じてしまう。 「妹の見舞いにでも来てくれたのか?」 コップにオレンジジュースを持ってきてくれた彼が、それを私の前に置き聞いてきた。 「あ……うん」 なんとも歯切れの悪い答え。自分に減点! 「ありがたいんだが、ただの風邪だからたいしたことないぞ」 「そう」 「悪いな、わざわざ」 「……」 緊張して上手く喋れない。 彼氏の家に遊びに行くのって、こんなに緊張するんだ。 「佐々木?」 あまりに喋らない私を気にして話かけてくる。 何か喋らなきゃ。 「今日はご両親がいないんだろ?」 「あぁ夜まで帰ってこないんだ。おかげで飯の用意もしなくちゃだ。お粥なんか作ったことがないんだけどな」 つまり、これで私のアイデアが活かせる状況になったというわけだ。 私が願ったから?そんなことはないはず、まだ私は不完全。 完全になりたいというわけではない。 いや、今はそれどころじゃない。次の言葉を言わなきゃ。 「も、もし、もし君さえ良かったらなんだが」 「なんだ?」 もう一声。 「ぼ、僕がご飯くらい作ってあげようか?」 「佐々木が?」 その言い方だと、私が料理出来ないみたいじゃない? ほんとにそういった心遣いは皆無なんだから。 「これでも多少は心得があるんだ」 誇張はしない。ほんとに多少だから…… 「いや、悪いだろ」 そう返すことは想定の範囲内。だってキョンだもん。 「気にしなくていいよ、そもそも君のおかげで今日の予定は無くなったんだ」 ここで小言を一つ。会話の主導権を握らなきゃ。 「耳が痛いな」 「くつくつ。一概に誰かのせいって訳ではないんだがね」 「しかしだな」 彼が喋り終わる前に言葉を被せる。 「それに不慣れな君の料理を食べて、妹ちゃんが体調を悪化させても可哀想だろ?」 我ながら、素直じゃないなぁ、とは思う。でも今の私にはこれが精一杯。 「ぐっ、まったくだ」 「そういうわけだよ。僕は暇を持て余している、君は人手がほしい。利害の一致さ」 君に逢いたかった、こう言えればいいのに…… 「いいのか?」 「もちろんだよ」 「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」 「賢明だね」 「すまんな」 「それで、キョンはお昼はどうしたんだい?」 「これからだ。ちなみに妹は今は食べたくないそうだ」 「じゃあ早速作ってあげる!」 早速のチャンスに気持ちが早って、口調がおかしくなってしまった。 「ごちそうになろうか」 よかった。あまり気に留めてはいないみたい。 「冷蔵庫開けさせてもらうよ」 「どうぞ」 彼の実家で、彼のために私がお昼を作る。 どうしよう。顔がにやけてしまう。 これも一つの幸せの形なんだと思う。 ふふ、まだ高校生なのにそんなものを感じるなんて、いささか生意気かな? ふと、何かの気配を感じる。誰かが近くにいる訳ではない、感じるのは視線。 「ん?僕の顔に何か付いてるかい?」 彼の視線に気付いた私は彼を見て微笑む。 どうかな、私の飛び道具は。少しは自信があるんだ。 それにこんな笑顔を見せるのは君だけなんだよ? 「いや、なんていうんだろうな。なんかいいなぁって」 強烈なカウンター。なんとかテンカウント以内に反応しなきゃ。 「……ま、真顔で言わないでくれないかな?」 私のダメージはご覧の通り。もうフラフラ。 反撃の言葉も出ない。押されれば倒れてしまいそう。 「正直な感想だよ」 そして、放たれたフィニッシュブロー。 もう決定。彼は天然の女ったらし。 鏡を覗けば、まるでトマトのように顔を赤くした生き物が見れると思う。 あまりに恥ずかしい。ちょっと話題を変えなきゃ。 「そ、そういえばこの間CDを買ったよね?」 自分の記憶を探って一つの話題を。これなら無難かな。 「……あぁ、The Tel○ersか。よく覚えてたな」 「あの日の出来事は、そうやすやすと忘れられるようなものじゃないよ」 ひと月と少し前、彼と一年ぶりに再会を果たし、彼に自分の気持ちを伝えた日。 忘れられない日。 「そうだな」 彼にとっても忘れられない日。……だと思う。 「せっかくだし聞かせてくれないかい?」 聞かせてくれる約束をしていたしね。 「わかった」 そう返事をした彼は、自分の部屋へと戻っていく。 ふぅ、彼と二人っきりの空間は、まだちょっとキツイかな。 普段より余計に意識してしまう。 あれこれ考えていると彼が戻ってきた。 そしてCDをDVDプレーヤーに入れる。 「君のオススメをとりあえず聞かせてほしいな」 彼のセンスをお手並み拝見。 「いいぞ。そうだな……If I S○yなんてどうだ?」 彼の口から出てくる英語に妙な違和感を感じる。 単純に似合ってないだけだけど。なんだか背伸びしてるみたい。 TVのスピーカーから優しい音が流れてくる。 聞く人によっては女性の声に聞こえそうな柔らかい男性の声。 軽やかなギター。自己主張が激しすぎないドラム。 ふむ、彼のセンスはなかなかによろしい。 そして、この歌詞。……分かっているけど、自覚は無いんだろうね。 「……柔らかい声だね」 率直な感想を言う。 「悪くないだろ?」 「いいね。普段は洋楽なんて聞かないからとても新鮮だよ」 洋楽なんて、有名どころしか知らない。 「俺もだよ。友達に紹介されるまで見向きもしなかった」 笑いながら彼が言う。彼が言うには、その友達はすでに四百枚以上のコレクションがあるらしい。 高校生のくせに随分とお金廻りがよろしいことで。 「ところで君はこの歌詞の意味を理解してるのかな?」 答えは分かっている。だけど、一応聞いてみた。 もしかしたら、ね? 「それが今まで洋楽を聞かなかった理由だな。さっぱりわからん」 やっぱりね、日本人は勤勉なわりに英語の苦手な人が多い。 「君らしい理由だ。まぁ、みんなそうか」 やれやれ、と彼は肩をすくめて苦笑い。その癖は変わらないね。 「友達にな、Sig○r Rsというバンドを紹介されたんだ」 「うん」 「音楽的には好みじゃなかったんだが、歌詞がアイスランド語と造語だと聞かされてな」 「それは画期的だね。そもそもアイスランド語さえ初耳だよ」 果たしてアイスランド語なんて身近にあるのかな? 多分聞いたことが無い。 「だろ?そのバンドが世界中から大絶賛されたんだと。つまり、いい音楽は歌さえ楽器なんだ、と教わったよ」 「言語は関係ないと?」 「歌詞に意味はあるが、それを歌う言語は関係ない、だそうだ」 実に興味深い。 考え方は人それぞれということだね。 「はは、実際同じ日本人でも歌詞カード見なきゃ、何言ってるかわからんやつらは山ほどいるからな」 「くつくつ。たしかにね」 彼のいうことも分かる。もしかしたら今の日本人は母国語のリスニングすら危ういのかも。 「そういえば、佐々木は英語のリスニングは出来るのか?」 「人並みにはね」 「すごいな」 猛勉強したからね、とは答えずに謙虚に答える。 「そんなに誇れるものじゃないさ」 だってこう言ったほうが、より出来るように聞こえるでしょ? 「さっきの歌はなんて言ってたんだ?」 ……それを私の口から言わせるんだね。君は。 「……えっと、その」 ほら!口篭ってしまったじゃないか! 「……もしかして、卑猥な内容だったのか?すまん」 そこで申し訳ない顔をされるとね。答えるしかないじゃない。 「ち、違うよ!その、ね、熱烈なラブソング……だった」 歌詞の内容は、 愛してると言ったら君にも言ってほしい、泣いていたらキスをしてほしい、死ぬ時は一緒に、お願いだらかどこにも行かないで だいたいはこんな感じ。ただの未練がましい男の言葉にも感じるけど、私にはプロポーズに感じる。 だから私は後者を彼に言った。変な他意はないよ? 「……」 そこで黙らないでほしいな、こっちだって恥ずかしいんだから。 「その、もし君が歌詞を理解していて、そのうえで聞かせてくれてたら、か、カッコよかった、かな?」 って、何を言わせるの君は! 「悪い、ちょっと恥ずかしかった」 それは私の台詞。耳まで熱い。 いったい今日は何回赤面すればいいんだろ。 これは釘を刺しとかなきゃ。 「まったく、もう少し勉強を頑張った方がいいんじゃないかい?」 「精進するよ」 「そうしてほしいね。それとお昼ごはん出来たよ」 「それはありがたい」 ~食事後~ 「ごちそうさま」 そう言って彼は、お皿にスプーンを置く。 作ったのはオムライス。これならあまり多くの食材を使わなくても出来る。あくまで人の家だから多くは使えない。 ケチャップでハートを書こうと思ったのは内緒。 黙って彼を見つめる。まだ感想を聞いていないからだ。 「ん?あぁ言ってなかったな。おいしかったよ。ついつい食べるのに夢中になってな」 私の視線に気付いた彼が笑ってそう言った。 「くつくつ。君の口にあってよかったよ」 それに私も笑顔で答える。 でも、そこはキョン。次の瞬間には私の笑顔も凍りつく。 「しかしあれだな、将来お前と結婚するやつは幸せだな」 ……今なんて? 「こんなうまい飯を毎日食べれるんだからな」 さて、今のキョンの発言は二種類に取れる。 一つ、その将来の相手を自分と置いての発言。 二つ、お得意の鈍感、無神経。 どちらにしても私の止まった時間は動かない。 「どうした?」 どうしたと思う?わからないんだろうな。 君って人は本当に、 「馬鹿」 「へ?」 ほら、その反応だもの。……いいんだけどね、もう慣れたよ。 「そろそろ妹のとこにも顔を出さないとな」 そう言って彼が椅子から立ち上がり、冷蔵庫の前に歩いていく。そして中から手にしたのは、冷えピタ。 「結構熱があるのかい?」 「さっき見たときは顔が真っ赤だったな」 それはなかなか辛そう。 「こんな時期に珍らしいよ」 「夏風邪は馬鹿が引くっていうじゃないか、あいつもまだまだお子様だからな」 それは聞き捨てならないね。ここは妹ちゃんに加勢しておこう。 「くつくつ。キョン、それはおかしいよ」 「なにがだ?」 不思議そうな顔でこちらを見てくる。この小言にカウンターが出来るならしてもらおうか? 「その通説通りなら、この家に病人がもう一人いることになるよ」 「言ってくれるじゃないか」 「くつくつ。反論出来るかい?」 今日は彼のペースにハマりまくり。ここらで挽回しないと。 「悔しいが出来んな。しかしだ、そんな俺を好きになったお前はほんとに物好きだな」 彼の口元が意地悪く歪む。なんてやつ! 認めるほかない。私は彼以上に恋愛に奥手なようだ。 今も私は顔を赤くしながら、口を金魚みたいにパクパクさせてる。 「あっはははは、悪い悪い、冗談だ。そんなに困った顔をしないでくれないか」 なんでそんなに余裕な態度なの?なんだか別人みたい。 とりあえず私は俯いてから、彼のすねをトゥーキックしてやった。 痛みにのたうちまわる彼を捨て置いて、妹ちゃんの部屋に向かう。 コンコン ノックに返事はない。まだ寝てるようだ。 「お邪魔しまーす」 小さな声で部屋に入る。なんだか忍び込んでるみたい。 大佐、標的を発見した。これより標的を介護する。 小さく寝息をたている妹ちゃんの枕元に近づく。 もう温まりきっている冷えピタを剥がし額に触れてみた。 まだ少し熱っぽいかな? 顔に浮かんだ寝汗を濡れタオルで拭いてあげ、彼から取り上げた新しい冷えピタをつける。 「……ん」 寝言かな? そう思っていると、うっすらと目を開けて私を見てきた。 「……おかあさん?」 へ?どうやら寝ぼけてるみたい。 ここは一つ、彼女の言葉に付き合ってあげよう。 「大丈夫?」 声真似は出来ないからなるべく優しく声をかけた。 「まだ、ぼーっとするー」 たしかに。表情がそう語っている。 「何か食べたいものある?」 私の母は熱を出した時にこうやって聞いてくる。 「えっとねー、キョンくんがねー、アイスかってきてくれたのー、それがいいー」 むむ、ちゃんとお兄ちゃんやっていたんだね。 「じゃあ今持って来るね」 そう言って妹ちゃんの頭を撫でて、部屋を出ようとした。そしたら、 「ありがとー、おかあさん」 ふふ、お母さんじゃなくてごめんね。でもそのうち本当のお姉ちゃんになるかも。……なんてね。 リビングに戻ると、彼はさっき食べた食器を洗っていた。 「具合はどうだった?」 「前の様子は見てないから比べられないけど、食欲は出たみたいだよ」 「そうか」 そう言って安心した顔をする。実に妹思いだね。 「なにが食べたいって?」 「アイス」 彼は少し笑って冷蔵庫へ。そしてアイスを手にしてリビングを出た。 「さっきよりは具合が良さそうだ」 その言葉を聞いて、少し安心した。 「くつくつ。良かったじゃないか」 「あぁ、まったくだ」 彼はソファーに座るとTVを付ける。 旅番組。お昼の情報バラエティー。昼ドラ。 どれもこれも退屈なものばかり。 それでもこの時間は悪くない。何の会話をせずともゆったりした気持ちでいられる。 悪くない、悪くないよ。 楽しいときの時間の流れというのは、あっという間だ。 特に何かをしたわけじゃないけど、最近の出来事を話したり、昔話に花を咲かせたり。 とても充実した時間が流れたと思う。 すでに時間は夕方の五時。親には六時くらいには帰ると言ってある。 そろそろおいとましないと。 「キョン、僕はそろそろ帰るよ」 「ん、……あぁ」 歯切れの悪い返答。思わず聞いてしまう。 「どうしたんだい?」 佐々木が俺に声をかけてくる。 古泉の言葉が頭によぎる。 本当に言うべきか分からない。 でも、古泉は言っていた。 佐々木もまたハルヒと同じ力があると。 この一年で、俺は古泉が信用できる人物だと思っている。 本当は今日のデートの帰りにでも言おうと思っていた。 なんて? お前はおかしな力があるのか? 俺の記憶をいじってないか? 世の中を都合のいいようにしているのか? お前は、いわゆる神なのか? お前は……普通じゃないのか? こんなこと言えるわけがない! じゃあ、何も知らないフリをしてこのままいられるのか? それは無理だろ。でも、言うことでお前を傷つけたら……俺は…… 「キョン!」 佐々木の大きな声で、嫌な思考の流れから我に返った。 「いったいどうしたんだい?」 「いや……大丈夫だ」 「大丈夫なわけないだろ!顔が真っ青じゃないか!」 「本当だ、具合は問題ない。ただ考えごとをしてた」 本当に心配そうな顔をした佐々木が、俺を覗き込んでくる。 よりによって、なんでお前なんだよ。 「僕でよかったら相談に乗る。何でも言ってくれないか?」 言うべきか。 でもな、佐々木?これは俺だけの問題じゃないんだよ。 「僕にも……言えないことかい?」 佐々木は問いに一向に答えない俺に向かって、とても寂しそうな表情をして言ってきた。 頼む、そんな顔をしないでくれ。俺が泣きそうだ。 「キョン、泣いているの?」 どうやら、佐々木の言葉通り、俺は泣いているらしい。 なんて情けないんだ。 「分からないよ、さっきまで僕はあんなに楽しかったんだ。それを突然涙するなんて」 「悪い、笑っていいぞ。ちょっと感情のコントロールが出来なかっただけだ」 「笑えるわけないだろ!」 ついに怒らせちまった。 「どうしたんだよ!全くもって意味不明だ!」 そうだな。客観的に考えれば俺もそう思う。 「……先週のことだ」 「先週?」 話そう。そして佐々木との関係をゼロに戻す。俺の余計な考えを全て話し、真っ白な状態でお前に向き合うよ。 そして、また好きだって言ってやる。必ずだ。 「いや、その前に一つ確認させてくれ。お前は神をどう思う?」 「か……み?」 その反応が俺に確信を持たせてくれる。 古泉、俺は本当にこのまま続けていいのか? 「あぁ、神だ」 「ど、どうって、そ、そんなの空想の産物、だろ?」 「そうだな。しかし俺は、影で神と信じられている人間を一人知っているんだ。もしかするとそれは二人かも知れん」 「……」 佐々木が無言になる。辛いよな、すまん。 「そいつは自分自身の力に気付いてはいないが、どうやら思ったことを何でも現実にすることが出来るみたいなんだ」 俺の話は続く。佐々木は口を開こうとはせず、下を向いている。 「そして、そいつが望んだとおりの登場人物が周りに集まりだした。どうやら俺もその一人だったみたいだ。まぁ、イレギュラーみたいなもんだと信じたいがな」 話を続けた。長門の情報統合思念体、古泉の機関、朝比奈さんの未来人としての情報。 そういった情報はなるべく包み隠しながら。 どれくらい話たんだろうな。 しばらく話してから、俺は佐々木に聞いた。 お前の顔を見れば答えは分かる。 でも聞かなくちゃな。 「佐々木」 肩がビクリと動く。 「なんで俺がこんな話をしたのか……分かるだろ?」 「……」 「冒頭の話に戻るぞ。俺は先週、お前がもう一人の神であると言われた」 佐々木の体全体が震えている。本当にすまない。 「以前の俺なら、鼻で笑っておしまいだ。でもこの一年間で状況は変わったんだ」 「……誰だかは知らない。でも、その人の言葉を信じるのかい?」 弱々しい声。こんな佐々木は初めてだ。 「実際は半信半疑だ。でもそいつは信用できるやつなんだよ。しかしだ。お前が違うと言うなら、俺はそれを信じる。天秤にかけるまでもない」 「……僕は」 ここは黙って答えを待とう。 佐々木を追い詰めるなんて、俺にはもう無理だ。 「僕は、僕は神なんかじゃない。……でもキョン。僕には力がある。君が言った不思議な力があるんだ」 佐々木の目からは涙が零れている。 「不完全な力さ。でも言われたよ。僕の力が整えば全てが思いのままだとね」 情けないことに言葉も出ない。俺には相槌をしてやるのが精一杯だ。 「初めはスゴイと思ったよ?でもよく考えてみてくれ。何でも出来るんだ、そんなの……人間じゃない。バケモノだよ」 「違う!」 かろうじて声が出た。バケモノ?少なくともそれだけは間違っている。 「違わないさ。昔から異能の人間は決まってバケモノなんだよ」 なかば諦めにも似た表情で微笑んでくる。 「誰かに言われたのか?」 「いや、ただ第三者の視点で見るとそうだろ?僕が誰々が嫌いだと強く思えば、その人は消えてしまうかもしれないんだ。そんなの普通って言えるのかい?」 確かに異常なことだ。でもな、佐々木。お前はそんなやつじゃないだろ。 「そうかもね。でも……」 こんなこと言わなきゃよかった。佐々木が辛い顔をするのだって分かってた。 だが、それも後の祭りだ。でも俺は…… 「別に佐々木を責めてるわけじゃない、俺がしているのは確認だ。現に俺はお前より強力な力を持つやつと一年間一緒にいたんだ」 そう、古泉が言っていた。まだ佐々木の力は弱い。 「確認?確認したらどうなるっていうんだい?」 「現状が分からなきゃ、お前の力になれないだろうが」 佐々木が不思議そうな顔をしてきた。なんだ、何か間違ったか? 「僕の力に?」 「当たり前だろ?」 「無理だよ。君は普通の人間なんだろ?僕の友達も言ってたよ」 そうだな、普通だ。それでもな、俺はお前の彼氏なんだ。 普通とか普通じゃないとか関係ない。自分の女の力になる。 理由はそれで十分だろ? 「……不思議だよ。君はそんなことが言えるタイプの人間じゃないはずだろ?」 さぁな、お前と付き合いはじめてからは世の中が変わって見えたんだ。 つまり色々と価値観が変わったんだろうよ。 「くつくつ。……君は、僕が普通じゃなくても一緒にいてくれるのかい?」 嫌いになる理由が分からんな。 「……」 俺は気持ちを固めた。だから再度佐々木に言おうと思う。 「以前言ったとおりだ、俺はお前が好きだよ。この気持ちに気付かせてくれたのは、佐々木、お前だ」 頼むよ佐々木。俺の言葉なんかで泣かないでくれ。 俺は泣かせるつもりでこんなことを言ったんじゃないんだ。 「だって、ひっく、だって」 古泉、お前は俺が鍵だって言ったよな。扉にしろ、箱にしろ、鍵がないと物は開かない。 俺が鍵なら、佐々木は絶対に安全な存在だ。誓ってもいい。 佐々木は泣きながら言葉を続けた。 「君に、き、嫌われると思ってた。ひっく、だから、だから絶対にばれないようにと思ってたんだ。でも、それでも君は受け入れてくれた」 「おいおい、俺を見くびるなよ?」 「そ、そうだね。ひっく。君は変に達観したところがあったから」 やっと佐々木の顔にも少し笑顔が戻ってきた。やっぱりこっちの方が似合う。 彼が昼間に聞かせてくれた曲。私の心境はまさに今そんな感じ。 こんな私を彼は好きだと言ってくれた。ありのままの私を。 だから少し行動を起こそう。 今日は彼に主導権を握られ続けてる。 この行動はあの歌詞の引用。でも、今はそんな気持ちだから。 彼の目を見つめ、そっと目を閉じる。 それだけ。いくら察しの悪い彼でも、これぐらいなら気が付くはず。 私は泣いているんだ。だから、その涙を止めて? 「それじゃあ帰るよ」 「送っていく」 彼はそう言って靴に足を通す。 「大丈夫さ、まだ外は明るい。それに妹ちゃんについていてあげてほしい」 「しかしだな」 「ほんとに大丈夫さ。きっと僕の知らないところに、護衛みたいな人もいるんだろうし」 彼が苦そうな表情をする。けして自虐的な意味で言ったわけじゃないんだ。 「だから、ね?」 「……分かったよ、気をつけて帰れよ」 「もちろんさ、じゃあまた」 玄関を開けて外に出る。空は夕暮れで赤く染まっている。 今日は思いがけない展開だった。 でも、おかげで彼との心の距離はなくなった。 けして綺麗ではない空気を大きく吸う。 なんだか清々しい。 キョン。 私が好きになったのが君で、本当によかった。 ~To Be Continued~
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~佐々木宅にて~ 電話が鳴る。誰からだろう。 「はい、もしもし」 携帯から聞こえてきた声を聞いて安心する。 「おう、佐々木か?」 彼だ。 僕が別人だとしたら、君は一体誰の携帯に電話しているんだい?」 言う必要のない文句を一つ。 それを彼は、笑って返してくれる。 「はは。そういうなよ。社交辞令みたいなもんだろ」 「くつくつ。それでどうしたんだい?待ち合わせの時間まで、まだ二時間以上はあるけど?」 私の声が聞きたくなったの? ……もちろんそんなことは聞けない。 まだ恥ずかしい。 「あぁ、それなんだが……すまんが今日は行けなくなったんだ」 なるべく不機嫌になったのを悟られないように言葉を返した。 彼の勘はなかなかに鋭い。こと恋愛ごと以外には。 「……訳を聞こうか?」 理由はこうだ。 妹が風邪をひき、家には親がいない。 そして彼はそんな妹を一人にしとくのは気が引ける、と。 「シスコンってわけじゃないが、休みの日に寝込んでる妹を放って遊びに行くわけにもいかんだろ」 そんな妹想いな彼にまたいらない文句を。 「そうだね。君にしては正論だ」 「一言いらんぞ」 だって彼は仕方ないとはいえ、私との約束を守れなかった。 これくらいはいいよね? 「くつくつ。気をつけるよ」 「そういうことだ。悪いが、その、デ、デートはまた今度でいいか?」 「そ、そんなに恥ずかしそうに言われると、僕まで照れてしまうよ」 「すまんな、こればっかりは言い慣れていないからどうしようもない」 彼とは付き合い始めてまだひと月と少し。 長い間友達だった分、彼氏彼女の関係にはどうして慣れない。 「構わないよ。僕としては君とのデートも大事だけど、キョンの妹ちゃんの方が心配だし」 これは本心。だって彼は優しいから。 「悪いな」 「謝ってばっかりだな」 横にある枕を抱き寄せる。なぜだろ? 「そりゃな、穴を開けたのは俺だ」 「あんまり謝ってばかりだと、本当に謝ってもウソに感じてしまうよ?」 「それもそうだな」 「くつくつ。それじゃあ、妹ちゃんをお大事に」 「ありがとうな。またな」 彼からの電話が切れる。少しは甘い内容の会話をしてほしいものだよ。 でもそんなことを彼に期待するのは、本物のUMAを発見するより難しい。 そんな彼を好きになってしまった自分を責めるほかない。 それにしても、今日の予定が無くなってしまった。 二時間後に控えた三度目のデート。 さて、どうしたものだろう。 橘さんに連絡を取る? きっと彼女なら喜んで駆けつけてくれる。 ……彼は今頃妹の面倒を見ているのかな? 熱を測ってあげたり、水枕やタオルを換えてあげたり、お粥を作ってあげたり。 「くつくつ」 そんな彼の姿を想像すると笑ってしまう。 それと同時に、彼の妹に多少の嫉妬を。 病人に嫉妬なんて不謹慎にも程がある。でも彼に構ってもらえるなら、甘んじてその役を代りたい。 たった一週間会えないだけでこんな風に思ってしまう。 付き合う前は一年も我慢したのに。 でも仕方がないと思う。 気持ちが通じたのだから。だからこそ、より愛しく感じる。 恋愛は精神病の一種。 付き合ってしまえば治ると思った症状は、まさかの大悪化。 この病気の特効薬はどこで手に入るのだろう。 風邪と水虫の特効薬を完成させればノーベル賞が貰えると聞いたことがある。 きっと恋愛の特効薬を見つけることが出来ても、ノーベル賞が貰えるかも。 !!! 退屈な休日をどう過ごそうか考えていると、 ここで名案が一つ浮かんだ。 我ながらいいアイデアだと思う。 双方にとって得のあるアイデア。 まさに一石二鳥。 よし、準備をしなきゃ! ~キョン宅にて~ 「ケホケホ。キョンくんごめんね?」 布団に寝ている妹が俺に謝ってくる。 お前は熱があるんだ、仕方ないだろ? 「でも、きょうはデートだったんでしょ?」 子供がそういうこと気にするな。いつの間にそんなにマセたんだ? 「えへへ」 俺に出来ることなんてたかが知れているし、症状はただの風邪。 まぁ、体格的にも幼い妹だ。ただの知恵熱かもな。 「なにか食べたいものあるか?」 「えっとね、アイス」 予想していた答えとはいえ、まだまだ子供だな。 「わかったよ。ちょっとそこのコンビニ行ってくるから、おとなしく寝てるんだぞ」 「はーい」 「で、どんなのがいいんだ?」 「あまいのがいい」 甘くないアイスがあるなら、俺は是非食べてみたいな。 「ちがうよー、あっまーいのがいいの」 どう違うのかはイマイチ分からなかったが、妹にはすぐに戻るからとだけ伝え、コンビニに向かった。 「いってらっしゃーい、ケホケホ」 ~コンビニにて~ 風邪にはなにが効くんだっけかな。 ビタミンCだっけ? 個人的にはとりあえずみかんのゼリーと、やっぱりポカリだよな。 それと甘ーいアイスか……どれも大して変わらんだろ。 バニラアイスを四つくらい買っとくか。 こんなもんでいいだろ。 ~キョン宅にて~ 「キョンくんおかえりなさい」 さっきより少し顔が赤い。熱がまた出てきたのかもな。 冷えピタでも差し入れてやるか。 「ただいま。今食べるか?」 「う~ん、あとにする」 まだ食欲は戻ってこないか。無理に食べさせるのも酷だな。 「そうか、じゃあ俺はリビングにいるから、腹減ったり、構ってほしくなったら呼べよ」 「わかったー」 仕方ないとはいえ、やはり元気がない。 いつもの元気な声が聞けないのは、兄にとっても寂しい限りだぞ。 「子機、枕元に置いとくから」 「ありがとー」 そう妹に告げ、頭をひとなで、ふたなで。 嬉しそうにする妹の笑顔を見れるだけで、少し俺も優しい気持ちになれる。……ような気がする。 はは、がらにもなかったな。 さて、暇になったわけだが……何をするか。 部屋に戻って勉強、それは嫌だな。 なら片付けでも、いやいやそれだとうるさくなるな。 どうしたもんかね。 そういえば俺の昼飯ってあるのか?まずは冷蔵庫チェックだな。 ピンポーン。 間の抜ける音だな。来客か?そんな話聞いてないんだがな。 ピンポーン。 分かった分かった、今出るから待ってろ。 「はーい、今出ますよっと」 ガチャ 「……あれ?」 おかしいな、なぜここに? 「や、やあ」 扉の先にいたのは佐々木だった。 「どうしてお前がここに?」 さっき頭の中に浮かんだ疑問を、本人に直接伝える。 「ど、どうしてって、それはその……」 少し顔を赤くした佐々木が、俯き気味にぼそぼそと言う。 う~ん、聞き取れん。 「まあ、玄関で立ち話もなんだから上がってくれ」 中途半端に開かれた扉を大きく開く。 外の暖かい空気が家の中に流れ込んでくる。 「お邪魔します」 どうぞ。 パタン 来た。彼の家に来た。 いつぶりだろうこの家に来るのは。 通されたリビングを見ると、昔からあるものがチラホラ。 人の家なのに勝手に懐かしさを感じてしまう。 「妹の見舞いにでも来てくれたのか?」 コップにオレンジジュースを持ってきてくれた彼が、それを私の前に置き聞いてきた。 「あ……うん」 なんとも歯切れの悪い答え。自分に減点! 「ありがたいんだが、ただの風邪だからたいしたことないぞ」 「そう」 「悪いな、わざわざ」 「……」 緊張して上手く喋れない。 彼氏の家に遊びに行くのって、こんなに緊張するんだ。 「佐々木?」 あまりに喋らない私を気にして話かけてくる。 何か喋らなきゃ。 「今日はご両親がいないんだろ?」 「あぁ夜まで帰ってこないんだ。おかげで飯の用意もしなくちゃだ。お粥なんか作ったことがないんだけどな」 つまり、これで私のアイデアが活かせる状況になったというわけだ。 私が願ったから?そんなことはないはず、まだ私は不完全。 完全になりたいというわけではない。 いや、今はそれどころじゃない。次の言葉を言わなきゃ。 「も、もし、もし君さえ良かったらなんだが」 「なんだ?」 もう一声。 「ぼ、僕がご飯くらい作ってあげようか?」 「佐々木が?」 その言い方だと、私が料理出来ないみたいじゃない? ほんとにそういった心遣いは皆無なんだから。 「これでも多少は心得があるんだ」 誇張はしない。ほんとに多少だから…… 「いや、悪いだろ」 そう返すことは想定の範囲内。だってキョンだもん。 「気にしなくていいよ、そもそも君のおかげで今日の予定は無くなったんだ」 ここで小言を一つ。会話の主導権を握らなきゃ。 「耳が痛いな」 「くつくつ。一概に誰かのせいって訳ではないんだがね」 「しかしだな」 彼が喋り終わる前に言葉を被せる。 「それに不慣れな君の料理を食べて、妹ちゃんが体調を悪化させても可哀想だろ?」 我ながら、素直じゃないなぁ、とは思う。でも今の私にはこれが精一杯。 「ぐっ、まったくだ」 「そういうわけだよ。僕は暇を持て余している、君は人手がほしい。利害の一致さ」 君に逢いたかった、こう言えればいいのに…… 「いいのか?」 「もちろんだよ」 「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」 「賢明だね」 「すまんな」 「それで、キョンはお昼はどうしたんだい?」 「これからだ。ちなみに妹は今は食べたくないそうだ」 「じゃあ早速作ってあげる!」 早速のチャンスに気持ちが早って、口調がおかしくなってしまった。 「ごちそうになろうか」 よかった。あまり気に留めてはいないみたい。 「冷蔵庫開けさせてもらうよ」 「どうぞ」 彼の実家で、彼のために私がお昼を作る。 どうしよう。顔がにやけてしまう。 これも一つの幸せの形なんだと思う。 ふふ、まだ高校生なのにそんなものを感じるなんて、いささか生意気かな? ふと、何かの気配を感じる。誰かが近くにいる訳ではない、感じるのは視線。 「ん?僕の顔に何か付いてるかい?」 彼の視線に気付いた私は彼を見て微笑む。 どうかな、私の飛び道具は。少しは自信があるんだ。 それにこんな笑顔を見せるのは君だけなんだよ? 「いや、なんていうんだろうな。なんかいいなぁって」 強烈なカウンター。なんとかテンカウント以内に反応しなきゃ。 「……ま、真顔で言わないでくれないかな?」 私のダメージはご覧の通り。もうフラフラ。 反撃の言葉も出ない。押されれば倒れてしまいそう。 「正直な感想だよ」 そして、放たれたフィニッシュブロー。 もう決定。彼は天然の女ったらし。 鏡を覗けば、まるでトマトのように顔を赤くした生き物が見れると思う。 あまりに恥ずかしい。ちょっと話題を変えなきゃ。 「そ、そういえばこの間CDを買ったよね?」 自分の記憶を探って一つの話題を。これなら無難かな。 「……あぁ、The Tel○ersか。よく覚えてたな」 「あの日の出来事は、そうやすやすと忘れられるようなものじゃないよ」 ひと月と少し前、彼と一年ぶりに再会を果たし、彼に自分の気持ちを伝えた日。 忘れられない日。 「そうだな」 彼にとっても忘れられない日。……だと思う。 「せっかくだし聞かせてくれないかい?」 聞かせてくれる約束をしていたしね。 「わかった」 そう返事をした彼は、自分の部屋へと戻っていく。 ふぅ、彼と二人っきりの空間は、まだちょっとキツイかな。 普段より余計に意識してしまう。 あれこれ考えていると彼が戻ってきた。 そしてCDをDVDプレーヤーに入れる。 「君のオススメをとりあえず聞かせてほしいな」 彼のセンスをお手並み拝見。 「いいぞ。そうだな……If I S○yなんてどうだ?」 彼の口から出てくる英語に妙な違和感を感じる。 単純に似合ってないだけだけど。なんだか背伸びしてるみたい。 TVのスピーカーから優しい音が流れてくる。 聞く人によっては女性の声に聞こえそうな柔らかい男性の声。 軽やかなギター。自己主張が激しすぎないドラム。 ふむ、彼のセンスはなかなかによろしい。 そして、この歌詞。……分かっているけど、自覚は無いんだろうね。 「……柔らかい声だね」 率直な感想を言う。 「悪くないだろ?」 「いいね。普段は洋楽なんて聞かないからとても新鮮だよ」 洋楽なんて、有名どころしか知らない。 「俺もだよ。友達に紹介されるまで見向きもしなかった」 笑いながら彼が言う。彼が言うには、その友達はすでに四百枚以上のコレクションがあるらしい。 高校生のくせに随分とお金廻りがよろしいことで。 「ところで君はこの歌詞の意味を理解してるのかな?」 答えは分かっている。だけど、一応聞いてみた。 もしかしたら、ね? 「それが今まで洋楽を聞かなかった理由だな。さっぱりわからん」 やっぱりね、日本人は勤勉なわりに英語の苦手な人が多い。 「君らしい理由だ。まぁ、みんなそうか」 やれやれ、と彼は肩をすくめて苦笑い。その癖は変わらないね。 「友達にな、Sig○r Rsというバンドを紹介されたんだ」 「うん」 「音楽的には好みじゃなかったんだが、歌詞がアイスランド語と造語だと聞かされてな」 「それは画期的だね。そもそもアイスランド語さえ初耳だよ」 果たしてアイスランド語なんて身近にあるのかな? 多分聞いたことが無い。 「だろ?そのバンドが世界中から大絶賛されたんだと。つまり、いい音楽は歌さえ楽器なんだ、と教わったよ」 「言語は関係ないと?」 「歌詞に意味はあるが、それを歌う言語は関係ない、だそうだ」 実に興味深い。 考え方は人それぞれということだね。 「はは、実際同じ日本人でも歌詞カード見なきゃ、何言ってるかわからんやつらは山ほどいるからな」 「くつくつ。たしかにね」 彼のいうことも分かる。もしかしたら今の日本人は母国語のリスニングすら危ういのかも。 「そういえば、佐々木は英語のリスニングは出来るのか?」 「人並みにはね」 「すごいな」 猛勉強したからね、とは答えずに謙虚に答える。 「そんなに誇れるものじゃないさ」 だってこう言ったほうが、より出来るように聞こえるでしょ? 「さっきの歌はなんて言ってたんだ?」 ……それを私の口から言わせるんだね。君は。 「……えっと、その」 ほら!口篭ってしまったじゃないか! 「……もしかして、卑猥な内容だったのか?すまん」 そこで申し訳ない顔をされるとね。答えるしかないじゃない。 「ち、違うよ!その、ね、熱烈なラブソング……だった」 歌詞の内容は、 愛してると言ったら君にも言ってほしい、泣いていたらキスをしてほしい、死ぬ時は一緒に、お願いだらかどこにも行かないで だいたいはこんな感じ。ただの未練がましい男の言葉にも感じるけど、私にはプロポーズに感じる。 だから私は後者を彼に言った。変な他意はないよ? 「……」 そこで黙らないでほしいな、こっちだって恥ずかしいんだから。 「その、もし君が歌詞を理解していて、そのうえで聞かせてくれてたら、か、カッコよかった、かな?」 って、何を言わせるの君は! 「悪い、ちょっと恥ずかしかった」 それは私の台詞。耳まで熱い。 いったい今日は何回赤面すればいいんだろ。 これは釘を刺しとかなきゃ。 「まったく、もう少し勉強を頑張った方がいいんじゃないかい?」 「精進するよ」 「そうしてほしいね。それとお昼ごはん出来たよ」 「それはありがたい」 ~食事後~ 「ごちそうさま」 そう言って彼は、お皿にスプーンを置く。 作ったのはオムライス。これならあまり多くの食材を使わなくても出来る。あくまで人の家だから多くは使えない。 ケチャップでハートを書こうと思ったのは内緒。 黙って彼を見つめる。まだ感想を聞いていないからだ。 「ん?あぁ言ってなかったな。おいしかったよ。ついつい食べるのに夢中になってな」 私の視線に気付いた彼が笑ってそう言った。 「くつくつ。君の口にあってよかったよ」 それに私も笑顔で答える。 でも、そこはキョン。次の瞬間には私の笑顔も凍りつく。 「しかしあれだな、将来お前と結婚するやつは幸せだな」 ……今なんて? 「こんなうまい飯を毎日食べれるんだからな」 さて、今のキョンの発言は二種類に取れる。 一つ、その将来の相手を自分と置いての発言。 二つ、お得意の鈍感、無神経。 どちらにしても私の止まった時間は動かない。 「どうした?」 どうしたと思う?わからないんだろうな。 君って人は本当に、 「馬鹿」 「へ?」 ほら、その反応だもの。……いいんだけどね、もう慣れたよ。 「そろそろ妹のとこにも顔を出さないとな」 そう言って彼が椅子から立ち上がり、冷蔵庫の前に歩いていく。そして中から手にしたのは、冷えピタ。 「結構熱があるのかい?」 「さっき見たときは顔が真っ赤だったな」 それはなかなか辛そう。 「こんな時期に珍らしいよ」 「夏風邪は馬鹿が引くっていうじゃないか、あいつもまだまだお子様だからな」 それは聞き捨てならないね。ここは妹ちゃんに加勢しておこう。 「くつくつ。キョン、それはおかしいよ」 「なにがだ?」 不思議そうな顔でこちらを見てくる。この小言にカウンターが出来るならしてもらおうか? 「その通説通りなら、この家に病人がもう一人いることになるよ」 「言ってくれるじゃないか」 「くつくつ。反論出来るかい?」 今日は彼のペースにハマりまくり。ここらで挽回しないと。 「悔しいが出来んな。しかしだ、そんな俺を好きになったお前はほんとに物好きだな」 彼の口元が意地悪く歪む。なんてやつ! 認めるほかない。私は彼以上に恋愛に奥手なようだ。 今も私は顔を赤くしながら、口を金魚みたいにパクパクさせてる。 「あっはははは、悪い悪い、冗談だ。そんなに困った顔をしないでくれないか」 なんでそんなに余裕な態度なの?なんだか別人みたい。 とりあえず私は俯いてから、彼のすねをトゥーキックしてやった。 痛みにのたうちまわる彼を捨て置いて、妹ちゃんの部屋に向かう。 コンコン ノックに返事はない。まだ寝てるようだ。 「お邪魔しまーす」 小さな声で部屋に入る。なんだか忍び込んでるみたい。 大佐、標的を発見した。これより標的を介護する。 小さく寝息をたている妹ちゃんの枕元に近づく。 もう温まりきっている冷えピタを剥がし額に触れてみた。 まだ少し熱っぽいかな? 顔に浮かんだ寝汗を濡れタオルで拭いてあげ、彼から取り上げた新しい冷えピタをつける。 「……ん」 寝言かな? そう思っていると、うっすらと目を開けて私を見てきた。 「……おかあさん?」 へ?どうやら寝ぼけてるみたい。 ここは一つ、彼女の言葉に付き合ってあげよう。 「大丈夫?」 声真似は出来ないからなるべく優しく声をかけた。 「まだ、ぼーっとするー」 たしかに。表情がそう語っている。 「何か食べたいものある?」 私の母は熱を出した時にこうやって聞いてくる。 「えっとねー、キョンくんがねー、アイスかってきてくれたのー、それがいいー」 むむ、ちゃんとお兄ちゃんやっていたんだね。 「じゃあ今持って来るね」 そう言って妹ちゃんの頭を撫でて、部屋を出ようとした。そしたら、 「ありがとー、おかあさん」 ふふ、お母さんじゃなくてごめんね。でもそのうち本当のお姉ちゃんになるかも。……なんてね。 リビングに戻ると、彼はさっき食べた食器を洗っていた。 「具合はどうだった?」 「前の様子は見てないから比べられないけど、食欲は出たみたいだよ」 「そうか」 そう言って安心した顔をする。実に妹思いだね。 「なにが食べたいって?」 「アイス」 彼は少し笑って冷蔵庫へ。そしてアイスを手にしてリビングを出た。 「さっきよりは具合が良さそうだ」 その言葉を聞いて、少し安心した。 「くつくつ。良かったじゃないか」 「あぁ、まったくだ」 彼はソファーに座るとTVを付ける。 旅番組。お昼の情報バラエティー。昼ドラ。 どれもこれも退屈なものばかり。 それでもこの時間は悪くない。何の会話をせずともゆったりした気持ちでいられる。 悪くない、悪くないよ。 楽しいときの時間の流れというのは、あっという間だ。 特に何かをしたわけじゃないけど、最近の出来事を話したり、昔話に花を咲かせたり。 とても充実した時間が流れたと思う。 すでに時間は夕方の五時。親には六時くらいには帰ると言ってある。 そろそろおいとましないと。 「キョン、僕はそろそろ帰るよ」 「ん、……あぁ」 歯切れの悪い返答。思わず聞いてしまう。 「どうしたんだい?」 佐々木が俺に声をかけてくる。 古泉の言葉が頭によぎる。 本当に言うべきか分からない。 でも、古泉は言っていた。 佐々木もまたハルヒと同じ力があると。 この一年で、俺は古泉が信用できる人物だと思っている。 本当は今日のデートの帰りにでも言おうと思っていた。 なんて? お前はおかしな力があるのか? 俺の記憶をいじってないか? 世の中を都合のいいようにしているのか? お前は、いわゆる神なのか? お前は……普通じゃないのか? こんなこと言えるわけがない! じゃあ、何も知らないフリをしてこのままいられるのか? それは無理だろ。でも、言うことでお前を傷つけたら……俺は…… 「キョン!」 佐々木の大きな声で、嫌な思考の流れから我に返った。 「いったいどうしたんだい?」 「いや……大丈夫だ」 「大丈夫なわけないだろ!顔が真っ青じゃないか!」 「本当だ、具合は問題ない。ただ考えごとをしてた」 本当に心配そうな顔をした佐々木が、俺を覗き込んでくる。 よりによって、なんでお前なんだよ。 「僕でよかったら相談に乗る。何でも言ってくれないか?」 言うべきか。 でもな、佐々木?これは俺だけの問題じゃないんだよ。 「僕にも……言えないことかい?」 佐々木は問いに一向に答えない俺に向かって、とても寂しそうな表情をして言ってきた。 頼む、そんな顔をしないでくれ。俺が泣きそうだ。 「キョン、泣いているの?」 どうやら、佐々木の言葉通り、俺は泣いているらしい。 なんて情けないんだ。 「分からないよ、さっきまで僕はあんなに楽しかったんだ。それを突然涙するなんて」 「悪い、笑っていいぞ。ちょっと感情のコントロールが出来なかっただけだ」 「笑えるわけないだろ!」 ついに怒らせちまった。 「どうしたんだよ!全くもって意味不明だ!」 そうだな。客観的に考えれば俺もそう思う。 「……先週のことだ」 「先週?」 話そう。そして佐々木との関係をゼロに戻す。俺の余計な考えを全て話し、真っ白な状態でお前に向き合うよ。 そして、また好きだって言ってやる。必ずだ。 「いや、その前に一つ確認させてくれ。お前は神をどう思う?」 「か……み?」 その反応が俺に確信を持たせてくれる。 古泉、俺は本当にこのまま続けていいのか? 「あぁ、神だ」 「ど、どうって、そ、そんなの空想の産物、だろ?」 「そうだな。しかし俺は、影で神と信じられている人間を一人知っているんだ。もしかするとそれは二人かも知れん」 「……」 佐々木が無言になる。辛いよな、すまん。 「そいつは自分自身の力に気付いてはいないが、どうやら思ったことを何でも現実にすることが出来るみたいなんだ」 俺の話は続く。佐々木は口を開こうとはせず、下を向いている。 「そして、そいつが望んだとおりの登場人物が周りに集まりだした。どうやら俺もその一人だったみたいだ。まぁ、イレギュラーみたいなもんだと信じたいがな」 話を続けた。長門の情報統合思念体、古泉の機関、朝比奈さんの未来人としての情報。 そういった情報はなるべく包み隠しながら。 どれくらい話たんだろうな。 しばらく話してから、俺は佐々木に聞いた。 お前の顔を見れば答えは分かる。 でも聞かなくちゃな。 「佐々木」 肩がビクリと動く。 「なんで俺がこんな話をしたのか……分かるだろ?」 「……」 「冒頭の話に戻るぞ。俺は先週、お前がもう一人の神であると言われた」 佐々木の体全体が震えている。本当にすまない。 「以前の俺なら、鼻で笑っておしまいだ。でもこの一年間で状況は変わったんだ」 「……誰だかは知らない。でも、その人の言葉を信じるのかい?」 弱々しい声。こんな佐々木は初めてだ。 「実際は半信半疑だ。でもそいつは信用できるやつなんだよ。しかしだ。お前が違うと言うなら、俺はそれを信じる。天秤にかけるまでもない」 「……僕は」 ここは黙って答えを待とう。 佐々木を追い詰めるなんて、俺にはもう無理だ。 「僕は、僕は神なんかじゃない。……でもキョン。僕には力がある。君が言った不思議な力があるんだ」 佐々木の目からは涙が零れている。 「不完全な力さ。でも言われたよ。僕の力が整えば全てが思いのままだとね」 情けないことに言葉も出ない。俺には相槌をしてやるのが精一杯だ。 「初めはスゴイと思ったよ?でもよく考えてみてくれ。何でも出来るんだ、そんなの……人間じゃない。バケモノだよ」 「違う!」 かろうじて声が出た。バケモノ?少なくともそれだけは間違っている。 「違わないさ。昔から異能の人間は決まってバケモノなんだよ」 なかば諦めにも似た表情で微笑んでくる。 「誰かに言われたのか?」 「いや、ただ第三者の視点で見るとそうだろ?僕が誰々が嫌いだと強く思えば、その人は消えてしまうかもしれないんだ。そんなの普通って言えるのかい?」 確かに異常なことだ。でもな、佐々木。お前はそんなやつじゃないだろ。 「そうかもね。でも……」 こんなこと言わなきゃよかった。佐々木が辛い顔をするのだって分かってた。 だが、それも後の祭りだ。でも俺は…… 「別に佐々木を責めてるわけじゃない、俺がしているのは確認だ。現に俺はお前より強力な力を持つやつと一年間一緒にいたんだ」 そう、古泉が言っていた。まだ佐々木の力は弱い。 「確認?確認したらどうなるっていうんだい?」 「現状が分からなきゃ、お前の力になれないだろうが」 佐々木が不思議そうな顔をしてきた。なんだ、何か間違ったか? 「僕の力に?」 「当たり前だろ?」 「無理だよ。君は普通の人間なんだろ?僕の友達も言ってたよ」 そうだな、普通だ。それでもな、俺はお前の彼氏なんだ。 普通とか普通じゃないとか関係ない。自分の女の力になる。 理由はそれで十分だろ? 「……不思議だよ。君はそんなことが言えるタイプの人間じゃないはずだろ?」 さぁな、お前と付き合いはじめてからは世の中が変わって見えたんだ。 つまり色々と価値観が変わったんだろうよ。 「くつくつ。……君は、僕が普通じゃなくても一緒にいてくれるのかい?」 嫌いになる理由が分からんな。 「……」 俺は気持ちを固めた。だから再度佐々木に言おうと思う。 「以前言ったとおりだ、俺はお前が好きだよ。この気持ちに気付かせてくれたのは、佐々木、お前だ」 頼むよ佐々木。俺の言葉なんかで泣かないでくれ。 俺は泣かせるつもりでこんなことを言ったんじゃないんだ。 「だって、ひっく、だって」 古泉、お前は俺が鍵だって言ったよな。扉にしろ、箱にしろ、鍵がないと物は開かない。 俺が鍵なら、佐々木は絶対に安全な存在だ。誓ってもいい。 佐々木は泣きながら言葉を続けた。 「君に、き、嫌われると思ってた。ひっく、だから、だから絶対にばれないようにと思ってたんだ。でも、それでも君は受け入れてくれた」 「おいおい、俺を見くびるなよ?」 「そ、そうだね。ひっく。君は変に達観したところがあったから」 やっと佐々木の顔にも少し笑顔が戻ってきた。やっぱりこっちの方が似合う。 彼が昼間に聞かせてくれた曲。私の心境はまさに今そんな感じ。 こんな私を彼は好きだと言ってくれた。ありのままの私を。 だから少し行動を起こそう。 今日は彼に主導権を握られ続けてる。 この行動はあの歌詞の引用。でも、今はそんな気持ちだから。 彼の目を見つめ、そっと目を閉じる。 それだけ。いくら察しの悪い彼でも、これぐらいなら気が付くはず。 私は泣いているんだ。だから、その涙を止めて? 「それじゃあ帰るよ」 「送っていく」 彼はそう言って靴に足を通す。 「大丈夫さ、まだ外は明るい。それに妹ちゃんについていてあげてほしい」 「しかしだな」 「ほんとに大丈夫さ。きっと僕の知らないところに、護衛みたいな人もいるんだろうし」 彼が苦そうな表情をする。けして自虐的な意味で言ったわけじゃないんだ。 「だから、ね?」 「……分かったよ、気をつけて帰れよ」 「もちろんさ、じゃあまた」 玄関を開けて外に出る。空は夕暮れで赤く染まっている。 今日は思いがけない展開だった。 でも、おかげで彼との心の距離はなくなった。 けして綺麗ではない空気を大きく吸う。 なんだか清々しい。 キョン。 私が好きになったのが君で、本当によかった。 ~To Be Continued~
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佐々木「魔法カード≪恋文≫発動!」 キョン「恋文?」 佐々木「このカードは自分フィールド上にモンスターが存在し、尚且つ魔法・罠ゾーンに カードがセットされている時に発動可能なカードで、二つの効果から相手が 一つを選択して発動するんだ」 キョン「佐々木のモンスターを貰うか、それとも佐々木が俺にセットカードを寄越すか…… よし、じゃあセットカードの方を貰うぞ」 佐々木「君ならそっちを選ぶと思ってたよ。君のフィールドにこの伏せカードを渡そう。 そして更に、魔法カード≪ハリケーン≫を発動! フィールドに伏せられた 魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す! キョン、君のフィールドにセットされた このカードが僕の手札に戻った事で、効果が発動するよ」 キョン「何っ!?」 佐々木「魔法カード≪秘めた思い≫の効果発動! 僕は1000ポイントのライフを回復し、 君は1000ポイントのダメージを受ける! さあキョン、どうかな? 僕の秘めた想いの 伏せカードの威力は?」 キョン「随分回りくどいバーンカードだな。≪ご隠居の猛毒薬≫辺りでいいんじゃないか?」 佐々木「…………」 キョン「≪アックス・レイダー≫で、佐々木の≪恋する乙女≫に攻撃! アックス・クラッシュ!」 佐々木「くっ……だけど、恋する乙女は戦闘では破壊されない! そして恋する乙女を 攻撃したモンスターには、乙女カウンターが一つ乗るんだよ」 キョン「乙女カウンター? 何だそりゃ」 佐々木「すぐわかるさ、くっくっ……僕のターン! 恋する乙女に≪キュービッド・キス≫を装備!」 そして恋する乙女でアックス・レイダーに攻撃する!」 キョン「何だ? それじゃお前のライフが削られるばかりだぜ」 佐々木「その通り、僕のライフは減る。だけど、キューピッド・キスの効果で、恋する乙女を 傷つけたモンスターのコントロールを得ることが出来るのさ。どうかなキョン? 僕を……もとい、僕のモンスターを傷つけた君……のモンスターには、きっちりと 責任を取ってもらって……」 キョン「永続罠発動、≪洗脳解除≫。全てのモンスターは元々のコントローラーの元へ帰るぜ。 キューピッド・キスの効果でコントロールを奪われたアックス・レイダーも戻ってくる。 残念だったな、佐々木」 佐々木「…………」 佐々木「……僕が! あんなにアピールしてるのに! キョン専用デッキまで組んだのに! キョンは気づかないどころか除去カードで恋する乙女を破壊したりして! キョンのバカー!!」 橘「さ、佐々木さん落ち着いて! アッー! 閉鎖空間にモンスターっぽい『神人』がー!」