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「ふたば系ゆっくりいじめ 314 仕返しゆっくり/コメントログ」 賢過ぎだろ下手な人間以上だ。 -- 2010-08-21 16 32 03 ブリーダーよ、何故真っ先に二大ゲス種を勧めたしwww -- 2010-08-27 09 23 43 一番賢いぱちゅりーが一番ゲスって事かw しかしアホの3代目は偉大な先々代の餡子 をひいてなかったんだねw納得w -- 2010-09-14 07 39 00 真の賢人につけばゆっくりも賢者になれるか… おじいさんは、偉大なブリーダーだったんだな。 3代目の阿呆っぷりも餡子引き継いでないので納得ww -- 2010-10-04 19 30 16 薬草なんかでおじいさんの病気治るとは思えんし、クズれいむに責任転嫁乙です かっこいいから許すけど -- 2011-07-09 08 05 10 ↓ この場合責任転嫁じゃないし、そういうことじゃないんだよ。 その薬草でお爺さんが薬をつくっていてそれをぱちゅりーが知っていた、もしくはその薬草にすがってでも助けたいと思った、できる可能性があった。 そもそも薬て病気を治すんじゃなくて症状を抑えるものだから。 それを全部食いつくされたうえに馬鹿にされたんだから普通怒るだろ? -- 2011-11-12 06 16 13 ぱちゅりー強杉ね? -- 2012-03-15 21 06 20 すげえ・・・ゆっくりとは思えねえ・・・ -- 2012-07-12 19 02 47 相手が無能なゆっくりであることを考えると、この社会構造を作るだけでも、そんじょそこらの人間じゃ無理だ。 しかも遠い将来に群れが滅亡する因子を意図的にはらませるとか・・・ 人間でもほんの一握りの、高い政治力がある奴にしか出来んぞ。 -- 2012-09-22 21 13 46 厨設定ってほぼ総じてつまんない気がする。 これも同じ。 -- 2012-11-19 10 13 44 ↓お前が思っているように周りはお前をつまらないと思っているから大丈夫だ -- 2013-01-17 14 07 51 ↓返しイケメン杉ワロタwwwwww -- 2013-03-20 17 51 21 どこがイケメン?気に入らない意見に文句言ってるだけじゃん -- 2013-04-28 01 27 09 つまらないっていうコメントはしないほうがいいんじゃないか?個人的な感想であって、喧嘩の種になるわけだし。それに好みは人それぞれだからね、自分の考えが他の人達のの平均ってわけじゃないだろう -- 2013-05-08 22 01 12 俺は結構好きだ この作品 -- 2013-07-02 17 39 21 これはもうプラチナゆっくりでいいだろう 人間からみたらゲスどころかゆっくりを根絶してくれる全良ゆっくりだぜ? 人間のもとである程度子供つくれなかったのが悔やまれる -- 2013-11-02 23 59 54 祝・商業出版決定!・・・と思ってしまったほどw 面白いわ、これ。 -- 2014-05-10 21 49 47
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※独自解釈しかありません。 ※虐待成分ほぼ皆無。むしろ愛で? ※冗長的に長いです。 ※前作『ふたば系ゆっくりいじめ 301 勘違いゆっくり』の外伝的なお話ですので、先に前シリーズをお読みいただく事をお勧めします。 山の裾野に広がる森を一望できる高台に、小さな庵が佇んでいた。 廃屋寸前の庵に相応しい、荒れ放題の庭に置かれた縁台で、一人の老人が茶を啜っている。 申し訳程度の白髪を蓄えた禿頭と、対照的な長い白髭。 草臥れた作務衣を纏うその姿は、どこかしら世俗を超越した仙人を思わせる。 「……ふぅ。今日はよい天気じゃのう、茶がいつもよりも旨く感じるわい。 やはり晴れの日は気持ちが良い。なんだか寿命が延びそうじゃ。そうは思わんかね?」 不意に茶を啜るのを止め、誰もいない庭に向けて話しかける老人。 しかし帰ってこない筈の返答は、誰もいない筈の庭から返された。 「……むきゅ。そうね、ぱちぇもそんな気がするわ、先生」 苔むした庭石の上で日に当たりながらそう返したのは、紫色の長い髪を持った生首のような饅頭。 ゆっくりぱちゅりーだった。 『仕返しゆっくり』 老人は学者であった。 学問の道を志した青年時代から、ひたすら学問に取り組んで来た。 世の理を読み解いていくのが楽しくて、脇目も振らずに没頭した。 学者らしい偏屈な性格が災いして、結局伴侶も得ずにこの年まで独り身のままであったが、後悔などない。 むしろ一生を学問に捧げた証であると周囲に自慢さえしていた。 しかし、第一線を退いてこのあばら屋に居を構え、一人静かに暮らしていればやはり人恋しくなるもの。 さりとて話し相手になるような知己もおらず、さてどうしたものかと思っていた頃、 一時期教鞭を取っていた頃の教え子が『ならばゆっくりでも飼ったらいかがですか?』と勧めて来たのだ。 ゆっくり。 いかなる分類にも当てはまらない生態、 動く饅頭などというふざけた体の構造、 人語を解するものの、知性の欠片なぞ持ち合わせていない性格。 あらゆる意味で学問の徒を恐慌に陥れた、学者にとっての天敵である。 当然老人もゆっくりに対して良い感情など持ち合わせてはいない。 それは件の教え子も知ってはいたが、恩師が一人寂しく朽ちていくのを黙って見ていられなかったのである。 「そりゃ先生も学者としてはゆっくりなんぞ見たくもないんでしょうが、 ご隠居された今ならゆっくりを研究対象じゃなく、話し相手に出来ると思いますがね」 教え子の説得に感じるものがあったのか、老人は勧められた翌日にはゆっくりブリーダーの元へ足を運んでいた。 「そうですね、初めて飼われるんだったらやっぱりれいむ種がお勧めですよ」 老人に孫が居たのなら、おそらくこの位の年であろうと思わせる若いブリーダーの女性が勧めたのは、 赤いリボンを黒髪に結わえたゆっくりだった。 母性が強く、たくさん子供を作りたがるのを除けばあまり手が掛からない種なのだと言う。 最も老人はゆっくりの大家族を養うつもりは毛頭ない。 「お年を召した方にはまりさ種を好まれる方もいらっしゃいますね。何でもお孫さんを思わせるとか……」 庭や道ばたでたまに見掛ける、黒い帽子を被ったゆっくりを指差してそう紹介するブリーダー。 腕白を絵に描いたような性格らしいが、最も増長しやすい種でもある為、注意が必要らしい。 だが老人は独り身、孫の扱い方など知る由もない。 「ありす種はあまりご年配の方にはお勧めできませんね。ブリーダーでも一寸扱いづらいですね」 金髪に赤いカチューシャを着けたゆっくりは、何やら厄介な性癖を持っているらしく、 その矯正には熟練のブリーダーでさえ手こずるらしい。 そんな種は老人だって願い下げだ。 こうして見るとゆっくりにも様々な表情がある。 名前の通りゆっくりした様子で弛緩しているもの、競争でもしているのか部屋中を跳ね回っているもの、 部屋の隅で肌を擦り合わせている所を、慌てたブリーダーに仲裁されているもの。 そんな中、ある一匹のゆっくりに老人の目が止まった。 全体的に騒がしいゆっくり達の中で、身じろぎもせずにいるゆっくり。 よく見ると、床に広げた紙切れを眺めているらしい。 時々頷きながら、真剣な眼差しで紙切れを目で追う姿に興味を引かれた老人はその紙切れを見やり、驚愕した。 このゆっくりは新聞を読んでいたのである。 「ああ、あれはぱちゅりー種ですね。ゆっくりの中では比較的賢い種ですが、その分体が弱いんですよ。 人間で言う喘息のような持病を持っているので、ちょっとした事で体内の餡子を吐いて死んでしまう事が多いんです。 それに賢いとは言っても所詮ゆっくりですから、文字が読めると言っても精々平仮名ぐらいですね。 あれも多分読んでいる振りしてるだけで、内容なんて解ってないと思いますよ。 そのくせ賢さを鼻に掛ける所があって、無駄にプライドが高いのでなかなか言う事を聞きません。 正直、上級者向けの種です。ゆっくり初心者の方にはまずお勧めできませんね」 ブリーダーがそう言うからには相当手間がかかる種なのだろう。 しかし老人には、ぱちゅりーが文字を追う様子が自分の若き日と重なって見えた。 理解できる、できないを二の次に、ひたすら知識を追い求めた青春の日々に、自分が最も輝いていた、黄金の日々に。 「あのぱちゅりーを貰おう。何、これでも学者の端くれだったんじゃ。多少の困難は承知の上よ」 そうして、ぱちゅりーは正式に老人の元へ引き取られていった。 老人と共に日向ぼっこを楽しんでいたぱちゅりーは、庭石の上で自らのゆん生を振り返っていた。 そもそもぱちゅりー種は個数が少ない。 かろうじて通常種に数えられる程度の頭数はあるものの、種としての弱さが群を抜いているために 『最も成体になり難いゆっくり』と呼ばれ、野生でも早々お目にかかれない種なのだ。 ブリーダーも慎重に扱わねばならず、それ故に『ぱちぇはえりーとなのよ!』と増長してゲス化する事も多い。 そんなぱちゅりー種の常に習い、彼女が老人に投げかけた第一声は 「ぱちぇはもりのけんじゃなのよ!ばかなにんげんさんははやくあまあまをもってきなさい!」 と言う、ブリーダーが真っ青になる台詞であった。 慌ててぱちゅりーの口を塞ぎ、老人に平謝りするブリーダーを制して、彼はぱちゅりーにこう返した。 「そうか、そんなに賢いなら、儂の知らない事を沢山知っておるんじゃろうて。 なら、一つ儂にそれを教えてくれんかね。それが儂の知らない事だったなら、あまあまを食べさせてやろう。どうじゃ?」 ぱちゅりーはその勝負を快諾した。 自身の知識量に絶対の自信があった彼女にとって、それは勝負ではなく、人間に自分の知識を分けてやる程度にしか考えていなかったからだ。 そして、根拠の無い自信は呆気なくひっくり返された。 「むきゅ!ぱちぇはさんけたのけいさんができるのよ!」 「そりゃ凄い。儂は十桁までなら暗算で出来るがな」 「むきゅう!このはっぱさんをよくかんでやわらかくすると、きずぐすりになるのよ!」 「ドクダミか。確かに外傷にも効果はあるが、乾燥させて煎じると血圧や冷え症、便秘の薬になるぞ」 「……む、むきゅ……このきのこさんはどくがあるから、たべるとゆっくりできなくなるのよ……」 「ベニテングタケは塩漬けにしたり、茹でて熱を通したりすれば毒抜き出来るんじゃ。食べ過ぎると危険なのは変わらんがな」 「…………ぱちぇはごほんがよめるのよ…………ひらがなもかたかなもだいじょうぶなのよ……………」 「ふむ、ならここに丁度徒然草の訳本と、マルクスの資本論の原書があるでな。読めるんなら貸すが?」 自信満々でひけらかした知識は、あっさりと塗り替えられた。 ぱちゅりーは何度も何度も老人に挑戦したが、その度に返り討ちにされ、新しい知識を上書きされていく。 老人の圧倒的な知識は、ぱちゅりーの底の浅いそれとは比べ物にすらならない。 勝負になる訳が無かった。 結局、ぱちゅりーが無駄な挑戦を諦めたのは半月も経ってからであった。 「…………むきゅうぅうぅぅぅぅ、ぱちぇのまけだわ…………きょうからおじいさんがもりのけんじゃよ………」 悔し涙を流しながらそう告げるぱちゅりーに、老人は「それは違うぞ」と告げた。 「確かに儂は学者じゃったからな、他の人間よりは物事を知っとる。 しかしじゃな、それだけでは賢者などとは言えないんじゃよ。本当の賢者とは、たった一つの事を知っておる人の事なのじゃ。 『無知の知』、すなわち自分が何も知らない事を知っている人こそ、賢者と讃えられるんじゃ」 老人の言葉に驚愕するぱちゅりー。 「む゛ぎゅ゛う゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅ゛っ゛!?!?なにそれぇぇぇぇぇえぇぇぇぇっ!?どおしてそんなのが『けんじゃ』なのぉぉおぉぉぉっ!?!?」 混乱し、取り乱すぱちゅりーを宥めながら、老人は彼女に答えた。 「簡単じゃよ。自分が何を知らないのかを知らなければ、新しい事を知る事が出来んからじゃ」 その言葉は、ぱちゅりーの増長した自尊心を木っ端微塵に打ち砕いた。 その日から、ぱちゅりーの態度は一変した。 「おじいさん!ぱちぇにおべんきょうをおしえてください!」 そう言って頭だけで器用に土下座するぱちゅりーの願いを、老人は快く聞き入れた。 「よいじゃろう。ならば今日から儂のことを先生と呼びなさい」 その日から二人の関係は、飼い主とペットから教師と生徒に変化した。 自分の無知を自覚したぱちゅりーは老人の授業に真剣に臨み、それに応えて老人もだんだん熱が入ってくる。 人間の政治形態や経済の仕組みなどの社会学、薬草の効能や毒の見分け方などの薬理学、四則計算を始めとする基本数学……。 ゆっくりであるぱちゅりーに役立つであろう知識を中心に、人間社会の歴史やルール、自然科学や生物の生態系を教え込んで行く。 ブリーダーの元で学んでいた時以上の熱意で、ぱちゅりーも必死に勉強するもののそこはゆっくりの宿命、文字通り『ゆっくり』としか理解できない。 出来の悪い生徒ではあったが、老人は決して見捨てなかった。 「ゆっくりとでいいんじゃよ。少しずつ覚えていって、決して忘れなければ、何時かは理解できるものじゃ」 己の物覚えの悪さに自己嫌悪し、落ち込むぱちゅりーを老人はそう励ます。 ゆっくりはあらゆる本能や欲求の最上に『ゆっくりする』事を置く。 その為、ゆっくりは楽な道を選ぶようになり、怠惰に流されてゲス化することが多いのだ。 どんなに有能なゆっくりでも、ゆっくりしようとする種としての本能からは逃れられない。 それはこのぱちゅりーも同様であった。事実、何回諦めようと思ったか数えきれない。 しかし、落ち込んで諦めようとする度に老人の激励がぱちゅりーを奮い立たせた。 それを繰り返して行く内に、ぱちゅりーは非常に希少な『努力するゆっくり』になれたのだ。 老人にとってもこのぱちゅりーと過ごす時間は楽しいものだった。 教鞭をとっていた頃の情熱が甦るようであったし、新しい知識を得て喜ぶぱちゅりーの姿を見る度に幸せな気持ちになれた。 老人とぱちゅりーはお互い幸せに暮らしていられたのだ。 小春日和の日差しは暖かく、傾いだ庵を明るく照らす。 老人と二人、日向ぼっこに興じるぱちゅりーだが、その胸中はあまり穏やかではなかった。 最近、老人の体調が悪い。 今日は落ち着いているようだが、冬が近付くにつれ、寝込む日が多くなった気がする。 老人に養生するように言っても「大丈夫じゃから、心配いらんよ」と力無く微笑むのみ。 ぱちゅりーには人間の医術は高度すぎて理解しきれなかった為、精々野山に生えている薬草を集めてくるぐらいしか出来なかった。 老人は己の死期が近付いている事に気付いていた。 元々学問の第一線を退いたのも大病を患った為で、判明した時にはもう医者にさえ手に負えない状態であった。 入院をしきりに勧めてくる医者や同僚に「もう疲れた」と語り、野山に骨を埋めるつもりで隠居を開始したが、 やはり寂しさには勝てず、教え子の進めるままにぱちゅりーを引き取って育てたのである。 (儂が死んだら、ぱちゅりーが悲しむのかのぅ。それが嫌じゃから引きこもったと言うのに……やれやれ、人間とは身勝手なものじゃ) 気ままに生きた自分の為に、誰かが嘆き悲しむ姿は見たくなかった。 学問に身を捧げたのも、孤独に死んで行くのも自分が選んだ結果である。後悔はない。 しかし、この期に及んで出来てしまった生涯最後の生徒の行く末だけは、どうにも心残りであった。 老人が居なくとも一人で生きて行けるような知識は教えた。人間の恐ろしさ、自然の怖さは充分に伝えてある。 様子を見に来たブリーダーすら「こんなぱちゅりーは見たことありません!」と驚く程品行方正に育ったぱちゅりーなら、 新しい飼い主を見つけることも容易であろう。 出来ることなら自分のように生涯打ち込めるものに出会って欲しい、それだけが今の老人の願いであった。 そしてその願いは、最悪の形で実現することになる。 冬に入り、雪に閉ざされることが多くなった庵の中で、老人は遂に床から出ることが出来なくなった。 酷く咳き込み、時には吐き戻すことすらあるようになった老人を、ぱちゅりーは必死になって世話をする。 しかし如何に知識が豊富と言えど、所詮ゆっくりの身では出来ることなどたかが知れている。 徐々に衰弱して行く老人の姿をただ見守るしか出来ないぱちゅりーの焦燥は日に日に募っていった。 とうとう薬も底を尽き、老人の病状が悪化するのを目の当たりにしたぱちゅりーは決意した。 「先生、ぱちぇはお外でお薬を探してくるわ。咳止めのお薬でいいのよね?」 「馬鹿を言うな。お外は雪が降っておるんじゃぞ、危険に過ぎるわい」 「雪さんは藁の外套で防げるわ。それより、このままでは先生の方が危ないもの。 大丈夫、お薬の場所は知っているから、無茶なんてしないわ」 そう言い残し、藁を編んで作った防寒着を纏い、ぱちゅりーは薬草の群生地へ向けて出発した。 咳に効く薬草なら知っている。秋の半ば頃に見つけておいたものだ。 今は冬だが、あれだけの群生地ならばまだ使えるものが残っている筈。 距離はそう大したものではない。今日中には帰れるだろう。 そんなことを思いながらぱちゅりーは目的地にたどり着き、驚愕した。 そこには、何もなかった。 木々の合間に開けた平地いっぱいに群生していた筈の薬草が、何も残さずに消えていた。 「何で!?何で無くなってるの!?ここにお薬があったはずなのに!?」 半狂乱になりながら、ぱちゅりーは平地を駆けずり回り、薬草を探しまわる。 人間の仕業ではない。 此処のことは里の人間も知らない筈。知っていたとしても根こそぎ刈り取ろうとはすまい。 動物達の仕業でもない。 この草は薬草の名に反して苦みも少なく、薬臭さも無いので動物も食することがあるが、野原には足跡一つ見つからない。 これだけの量を食い尽くすなら、それなりの数で当たらねばならない。そんな跡は何処にも見当たらなかった。 「お薬は!?お薬はどこなの!?あれが無いと、先生が……!!薬草さん、出てきて!!お願い!!」 ぱちゅりーは夜になっても捜索を続けた。 夜が明け、太陽が真上に昇る頃になっても、ぱちゅりーは薬草を探すのを止めなかった。 「むきゅ……むきゅ…………薬草さん……どこなの…………」 鬼気迫る表情で一人呟きながら這いずり回るぱちゅりーの目に、木の枝や枯れ草で偽装された穴が飛び込んで来たのはそんな時であった。 それが野生のゆっくりが造るおうちであることを知っていたぱちゅりーは、藁をも掴む思いでそこに飛び込んだ。 「誰か!誰かいたらお返事して!!お願い!!」 必死なぱちゅりーの呼び掛けに、巣穴を塞いでいた枝が動き、中からまりさが顔を覗かせた。 「……ゆっ!ぱちゅりー!たいへん、すぐなかにいれてあげるね!」 おそらくかなり善良な個体なのだろう、疑いなく巣へぱちゅりーを招き入れる。 巣の中はそこそこ広く、奥に番であろうれいむと、赤れいむ二人が固まってぱちゅりーを警戒していた。 「……まりさ、なんでぱちゅりーをおうちにいれたの?」 「ゆっ!だって、こまっていたんだよ?だったらたすけてあげないとだめなんだよ!」 「なにいってるの!あかちゃんがいるんだよ!?ぱちゅりーのぶんのごはんなんてないんだよ!?」 「だからあかちゃんははるまでまとうっていったのに……」 「なんてこというのぉぉぉぉ!あかちゃんはゆっくりできるんだよ!はやくあかちゃんがみたいねっていったの、まりさでしょおぉぉぉぉぉ!」 「ゆぅ………」 どうやられいむが実権を握っている家庭らしい。これ以上家庭不和を引き起こす気のなかったぱちゅりーは早速本題に入る。 「むきゅう!ご免なさい、れいむ。ぱちぇはそこの原っぱに生えていた草さんを探していたの。 れいむ達は何か知らないかしら?それだけ教えてくれたらすぐ出て行くわ」 「ゆっ?あのはらっぱのくささんならみんなでたべちゃったよ?」 その答えを聞いた瞬間、ぱちゅりーの時が止まった。 「…………むきゅっ!?」 「ふゆさんがくるまえに、むれのみんなでむーしゃ!むーしゃ!したんだよ。 ぜんぜんたりないし、おいしくなかったけど、みんながまんしてたべたんだよ」 何を言っているのだこいつは。 あの薬草は野原一面を覆うような勢いで生えていた筈だ。 それを食い尽くした? どれだけの数で食べればそうなるのだ。 美味しくない? 当たり前だ。あれは薬草なのだから、常食には適する筈が無い。 それを食べ尽くしておいて、ぱちゅりーの先生を助ける筈のお薬を奪っておいて。 「あんなまずいくささんをさがしているなんて、ぱちゅりーはゆっくりできないゆっくりなんだね!ゆぷぷ……」 何を馬鹿面晒して大笑いしているんだ、この糞饅頭は!! 「何言ってるのぉぉぉっ!!あれはお薬なのよ!!お薬を食べ尽くすなんて、何考えてるのぉぉぉぉっ!!」 「「「「ゆ゛っ゛!?!?」」」」 突然猛烈に怒り出したぱちゅりーに、れいむはおろか一家全員が硬直する。 「ぱちぇにはあれが必要なのよ!!雪さんがゆっくりしてない中、一生懸命探していたのに!! 何が可笑しいのよ!何で笑うのよぉおおお゛お゛お゛お゛お゛っ゛!!」 鬼気迫る勢いでれいむに迫るぱちゅりー。その姿を見た赤れいむがそろってしーしーを漏らす。 「……おきゃあしゃん……きょわいよぅ………」 「……ゆっ!!そんなことれいむはしらないよ!!それよりさっさとでていってね!!」 赤ちゃんの声に励まされたのだろう、精一杯ぷくーっ!して虚勢を張りながら、れいむはぱちゅりーを追い出そうとする。 「何ですってぇぇぇぇえ!!」 「まって、ぱちゅりー!あのくささんならすこしだけどとってあるよ!これがいるんだよね?」 さらに詰め寄ろうとするぱちゅりーを、まりさが引き止める。 その口に銜えていたのは間違いなくあの薬草だった。 「まりさ!なにいってるの!それはあかちゃんとれいむのごはんでしょおおぉぉぉおおお!!」 「だまって、れいむ!……おくすりをたべちゃったのはあやまるよ。これだけしかないけれど、ゆるしてね」 そう言ってぱちゅりーの目の前に薬草を置く。正直足りないが、これがここにある分だと言うなら仕方が無い。 「……解ったわ。ご飯を分けてもらってご免なさいね」 「しょうがないよ。おびょうき、はやくなおるといいね」 「とっととでていってね!このやくびょうがみ!!」 申し訳なさそうなまりさと、いかにも迷惑そうな面で追い出しに掛かるれいむ。 対照的な二つの視線に見送られ、ぱちゅりーは家路を急いだ。 (先生、待っててね!すぐ戻るから!!) 「ゆっくりただいま!先生、お薬持って来たわ!!」 雪を振り落とすのすら惜しむように、老人の部屋へ飛び込んだぱちゅりーが見たものは、 枕元を吐血で真っ赤に染めた老人の姿であった。 「先生ぇぇぇえええええ!?大丈夫!?しっかりしてぇぇぇえええ!!」 慌てて駆け寄るぱちゅりーに気付いたのか、老人は薄く目を開ける。 「……おぉ…………ぱちゅりーか……よかった、無事じゃったんじゃな…………」 「先生!待っててね、今お医者さんを呼んでくるわ!」 「待つんじゃ……もう…………間に合わんよ……それよりも……」 そう言って踵を返そうとするぱちゅりーを呼び止め、老人は血塗れの顔に薄い微笑みを浮かべながら掠れ掠れの言葉を綴る。 「……のぉ……ぱちゅりー………お前には感謝しておるんじゃよ……………生涯を……学問に捧げたこの儂が……… 初めて……家庭を、……家族を得られたんじゃ…………本当に……楽しかった…………。 出来ることなら……お前の子供に……授業したかったがの…………それは流石に…………高望みか……。 お前には……出来る限りのことを教えた…………儂がおらんでも…………大丈夫じゃ…………」 「……そんなこと、そんなこと言わないで先生!ぱちぇは…………もっと教わりたいのよ………先生と一緒に居たいのよ!」 泣きながら縋り付くぱちゅりーの姿に、老人は少しだけ困ったような表情を浮かべて言葉を続ける。 「……何……人間五十年からすれば……儂は充分に生きた………満ち足りた、良い人生じゃった…………。 ………ぱちゅりー…………お前も…………そんな………ゆん生を………送れると……良い…………な……………」 「……先生?先生!?せんせぇえええええええいいいいいいいいいいいいっ!!!」 その夜、庵から号泣の声が絶えることは無かった。 ……この度は、故人の会葬に参列いただきありがとうございます。 ……はい、ご香典はこちらです。ご記帳はこちらに……… ……ふぅ。 ……おや、あれは…… ……やっぱり。ゆっくりのブリーダーやってる目出さんじゃないですか。 なんで目出さんが先生のお葬式に? ……へぇ。先生がゆっくりを…… ……いえ、先生にゆっくりを勧めたのは俺なんですよ。 先生も昔気質な所ありましたし、「教え子の世話になんかなれるか!」って感じでこんな所に引っ越しちゃって…… ええ、このままじゃ先生があんまり寂しすぎるだろってんで、ゆっくりだったら賑やかで良いだろうと思いましてね。 ……そうですか。そんなに仲が良かったんですか。 それはそれは……、先生にはご家族もいらっしゃいませんし、丁度お子さんかお孫さんみたいな感じだったんですかね。 ……先生と生徒? そりゃまた先生らしいや。最後まで学問に生きたんですね……。 ……うん?でもゆっくりなんて見掛けませんでしたよ? ……だから探しに来た?先生に万一のことがあったらよろしくって頼まれてた、と。 それで、どんなゆっくりなんです? ……ぱちゅりー?あの紫色の髪の毛の? でもあれって確か結構稀少だって聞きますけど……。 ……ほう、目出さんが初めて育てたぱちゅりーだったんですか。 ふぅん、体が弱い種だから大人になる個体が少ないだけで、稀少種ではないんですか。 成る程、解りました。見掛けたら目出さんとこに連れて行きますよ。 ……でも、所詮ゆっくりなんですね。飼い主が居なくなったら逃げ出すなんて…… ……わ、解りました、すいません、謝ります。この通り。 はい、見つけ次第連絡しますよ。それじゃあ…… ……ううむ。目出さんもいい人なんだけど、ゆっくりが絡むと怖いからな…… でも、そんなに優秀で義理堅い奴が行方をくらますなんて、何事だ? 案外、先生の敵でも探しに行ったのかな?……なんて訳無いか。 ……さて、そろそろ出棺か。 先生にはお世話になったからなぁ。最後まで見届けないと…… 冬の曇天の下を進む葬列を、遠くはなれた草むらから見送る影があった。 ぱちゅりーである。 「先生……向こうでもずっとゆっくりしててね……」 ぱちゅりーは老人以外に飼われるつもりなぞ一切無かった。 老人の最後の生徒として、一生を懸けるに足る目標を見つけ、一人で生きるつもりで居た。 人間の怖さは充分理解している。飼い主の居ない野良ゆっくりが辿る未来など簡単に予測がついてしまう。 幸い、野山に生える草花の見分け方や、餌となる虫の捕まえ方は熟知している。 不安も残るが、生きて行くだけの自信はあった。 「まずはお家を造らないとね……木さんや洞穴さんは誰かが使ってるでしょうし、今から地面さんを掘り返すのはさすがに…… そうね、草さんと枝さんがあるならこれでお家を造っちゃいましょう。雪さんが積もらなさそうな所を探して……」 ぱちゅりーにとっても一人での越冬は初めての経験だ。 あまつさえ季節は冬の半ば。通常なら自殺行為であろう無謀な挑戦だが、彼女には勝算が見えていた。 (ご飯が必要なのは冬の間起きているからよ。熊さんみたいに冬眠すれば必要最小限で済むわ) 勿論食いだめなぞできないゆっくりでは難しかろうが、一日の大部分を寝て過ごし、目覚めた時に食事をすれば体力と食糧の消耗は防げるだろう。 あのまりさに貰った薬草はそのまま持って来た。風邪くらいならすぐ治せる筈だ。 洞窟や木のうろを使った巣とは違い、草や木の枝で組んだ家は頑丈とは言えないが、その分造ったり壊したりが容易になる。 問題が起こったらさっさと引っ越せば済むのだ。 普通のゆっくりでは難しかろうが、老人に教育されたぱちゅりーなら問題の兆候を察知し、被害が及ぶ前に実行出来る。 こんな形で老人の教育が生かされるのを複雑に思いながら、ぱちゅりーは初めての越冬に望んだ。 山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘。 春の日差しが降り注ぐ丘の天辺に、奇妙なものが建っていた。 遠目から見るととんがり帽子のようなシルエットに見えるそれは、木の枝を組み合わせて周りを枯れ草で葺いたもの。 ぱちゅりーの造った巣であった。 数回の引っ越しの後、偶然見つけた日当りの良い好物件に、ここを永住の地に定めたのである。 「……ゆっ!お日様がぽかぽかしてるわ。春になったのね」 初めての越冬を成功させたぱちゅりーは、早速自分のゆっくりプレイスを見回ってみる。 ご飯やお薬になる草の生える位置、危険な生物が侵入しそうな場所、水源やおトイレになりそうな小川の探索……。 冬の間纏めておいた『最低限必要なもの』を確認して行く。 不意に下生えの薮が音を立てた。 ぱちゅりーは慌てて身を隠す。 猪や熊であったら勝ち目は無い。蛇もあれでなかなか素早いので、運動の不得意なぱちゅりーでは逃げ切ることが出来ない。 故に身を隠す事を選択したのだが、それは杞憂に終わった。 「ゆっ!いいおてんきだね、おちびちゃん!」 「「ゆ~っ!」」 薮を掻き分け現れたのは、ゆっくりれいむとその子供らしき子れいむ二匹。 どうやら冬籠りから解放されて、この丘にお散歩に来たらしい。 熊や猪でなかった事に安堵し、ご挨拶をしようと近付いたぱちゅりーは、それがいつかのれいむである事に気付いた。 「ここはぱちぇのゆっくりプレイスよ!れいむ、ゆっくりしていってね!」 「ゆっ!ここはとてもゆっくりできるゆっくりプレイスだね!ここをれいむのおうちにしてあげるよ!」 ……今、こいつはなんて言った? 「ゆっ!ここはぱちぇが見つけたゆっくりプレイスよ!れいむのおうちじゃないわ!」 「ゆゆっ!れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ!ゆっくりさせてくれないぱちゅりーはさっさとでていってね!」 「そーだそーだ!」 「さっさときえろ、くず!あとあまあまちょうだいね!」 ……片親だと? 「……ねえ、れいむ。貴女、確かまりさと一緒に居たわよね?」 「ゆ~ん!れいむたちをゆっくりさせないげすまりさなら、れいむたちのごはんになっちゃったよ!」 「むのうなおやはゆっくりしんだよ!」 「かわいいれいむたちをゆっくりさせないなんて、ばかなの?しぬの?」 ……何だこいつらは。 ……こんなのが野生のゆっくりなのか。 ……先生をゆっくりさせなくしておいて、薬草を譲ってくれた優しいまりさを殺しておいて。 「ここはもうれいむたちのゆっくりプレイスだよ!ぱちゅりーははやくしんでね!」 「「しんでね!!」」 ……こんなのが、自分の同類だと言うのか!! 「なにだまってるの!さっさとでていかないとおこるよ!ぷくーっ「うるさい」ゆ゛っ゛!?」 れいむには、何が起こったのか理解できなかった。 ぱちゅりーが一瞬だけぷくーっ!したかと思ったら、何かがれいむのお目目を直撃したのだ。 その正体は鋭く尖った小石。 ぱちゅりーが獣達に出会った時、相手を怯ませて身を隠す為に常に口に含んでいたものだった。 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!い゛じゃ゛い゛!い゛じゃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「「ゆ゛あ゛あ゛!お゛ぎゃ゛ーじゃ゛ん゛の゛お゛べべぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」 片目を失い、痛みに七転八倒するれいむと、それを見て恐慌状態に陥る子れいむ達。 そのゆっくりできない姿を尻目に、ぱちゅりーはもう一つの武器を取り出した。 「どぼじでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!でい゛ぶな゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛の゛に゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「……その厚顔無恥だけで充分よ、貴女が死ぬ理由は」 「ゆ゛びぃ゛っ゛!?!?」 「「お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ゛!!」」 聞くに堪えない薄汚い悲鳴をあげていたれいむのお口に何かが突き刺さる。 ぱちゅりーがZUN帽から取り出したのは太い木の枝の先に、平たく割れた黒曜石を取り付けたもの。 簡単な出来ではあるが、ゆっくりの身では人間の使う高度な道具など文字通り手も足も出ない。 それでも、身を守るため必死になって作り出した正真正銘の武器である。 原始的な造りであっても、所詮ゆっくりでしかないれいむには充分すぎる凶器であった。 最早断末魔の痙攣を繰り返すのみとなった母の姿に、しーしーを漏らしながら怯える子れいむ達へ視線を移し、 ぱちゅりーはゆっくりとにじり寄って行く。 「……またお漏らし?貴女達って赤ちゃんの頃から変わってないのね」 「ゆ゛びぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!ごめ゛ん゛な゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!」 「ごろ゛じゃ゛な゛い゛でえ゛え゛え゛え゛え゛!!あ゛や゛ま゛っ゛だでじょ゛お゛お゛お゛お゛!!」 泣き喚く子れいむ達に、一切の憐憫は湧かなかった。 そのままぱちゅりーは、 「恨むなら、父親に似なかった自分自身を呪うことね」 「「も゛っ゛どゆ゛っ゛ぐぶべぇ゛!!!」」 ゴミでも捨てる感覚で、子れいむ達を踏みつぶした。 丘を照らす陽光が殺人的な暑さを帯び、里の向日葵が満開に咲き乱れる夏のある日。 ぱちゅりーはゆっくり達を率いて丘に君臨していた。 あの後、ぱちゅりーは様々なゆっくり達と出会い、そして幻滅していた。 すぐ思い上がり、無茶な事をしては周りに迷惑をかけて自滅するまりさ。 一寸した事ですぐ発情し、己を押さえる事無く相手が死ぬまですっきりー!するありす。 何かと言うとすぐ居もしないらんを頼ろうとするちぇん。 道具を使うだけの頭を持ちながら、それを暴力にしか生かさないみょん。 そしてあの親子のように子供をダシにして自分だけゆっくりしようとするれいむに、 幼い頃の自分を思わせるプライドだけは高い癖に何も知らないぱちゅりー。 中には優秀で思いやりのある優しいゆっくりもいるのだが、いずれもゲスなゆっくりにゆっくり出来なくされてしまった。 (……ゆっくりがゲスになるのは、もう種としての本能ね。自分のゆっくりを最上に置くから、自分本位なゲスになる。 ……ぱちぇも先生に飼われなかったら、こいつらみたいになっていたのかしら?) ぱちゅりーは自分も含めたゆっくりと言う種を嫌っていた。 ゲスに堕ちるのが宿命と言わさんばかりの自分達のあり方を心の底から憎むようになり、 やがてぱちゅりーの心中に、ある決意が芽生えていた。 (そうね、こんな生き物は滅ぼすべきだわ。一匹残らず殲滅するべきよ!) その思いを自覚した時、ぱちゅりーはそれを生涯の目的に掲げた。 飼い主であった老人の願った通り、生涯を捧げる目標を得たのである。 ……老人の願ったものとは全く違う、ドス黒い餡子に塗れた道に。 だが一匹一匹殺してまわったのでは到底目標を達成できない。 それではぱちゅりーが死ぬまでに幾ら殺したとて、全滅にはほど遠い。 しかしぱちゅりーはそこで発想を変えた。 自分が死んだら根絶できないのなら、自分が死んでも絶滅へ向かうよう、ゆっくり達を教育すれば良いのだ、と。 ぱちゅりーは手始めに医者を開業する事にした。 ゆっくり達は弱い。一寸した事で傷ついてしまうが、逆に言えば一寸した傷でも死なない程度には丈夫なのだ。 だから即死でもない限り、ゆっくり達に医者の需要は多いのである。 老人から伝授された薬草の効能を元に、薬理生理学観点から診断された症状に適したお薬を処方する。 それは元々適当な生態を持つゆっくりには劇的な効果があった。 やがて「おかのおいしゃさん」の名声が高まるにつれ、ぱちゅりーを長に頂きたがるゆっくりが現れた。 それは「おかのおいしゃさん」におんぶに抱っこしてもらい、楽に生きようとする怠惰なゆっくりの習性であったが、 むしろそれを待っていたぱちゅりーは長になる事を了承。 自分の根城である丘に招き入れ、群れの創設を宣言した。 そこからはまさに日進月歩の勢いであった。 まず、巣の作り方を変えさせる事から変革は始められた。 巣をお互い見える位置に作り、他の巣に異常が発生したらすぐに気が付くようにする。 たったそれだけなのだが、それすらもゆっくり達の餡子脳には理解しづらかったらしい。 梅雨の長雨で全滅した巣がいくつも出て来たことで、ようやく長の言いたかった事を理解した群れは長の先見の明を讃えた。 次に狩りの役目を分担させることにした。 割と頑丈な上にお帽子を使う事で大量の輸送が可能なまりさに遠くの草や木の実を、素早い動きが得意なちぇんに小型の虫を集めさせ、 大型の虫に武器を使うみょんを充てて、特に秀でるもののないれいむとありすには近くの草を集めさせるよう振り分け、それぞれにノルマを与える。 狩った獲物は一度集めてから働きに応じて配分する。ノルマを果たせなかったゆっくりには何も与えない。 勿論独り占めしようとするものも現れたが、それぞれを班に分けて班ごとの行動を義務づける事でそれを防ぐ。 それでも獲物をちょろまかすものは居たが、ノルマを果たせずにちょろまかした獲物より、 ノルマを果たして分配される獲物の方が遥かに量も種類も豊富な事に気付くと、不逞の輩は自然消滅して行った。 続いてゆっくり口統制に挑んだ。 この辺りは食糧が豊富であるが、それでも消費すればいつかは尽きる。 森の生態系にダメージを与えない程度に留めておくには、ゆっくりの数を増やさない事が第一なのだ。 しかしこれは難航した。 何しろゆっくりにとって『あかちゃんはゆっくりできる』が不文律である。 いきなり『あかちゃんをつくるな!』と命令しても受け入れる訳が無い。 そこでぱちゅりーは『がっこう』を開く事にした。 子供達に教育を施し、ゆっくり口統制の有用性を理解させようとしたのである。 だがそれは逆にゆっくり口爆発を生んでしまった。 子供達が学校に行っている間、手の開いた親達がすっきりー!してしまい、子供を量産し始めたのだ。 親達に言わせれば『あかちゃんがいなくなってさみしくなったから、あかちゃんをつくったんだよ!』だそうであるが、 この理由には流石にぱちゅりーも呆れるしか無かった。 そこで手のかかる赤ちゃんのうちは親の手元に置き、ある程度したら『がっこう』へ入学させる制度に切り替えてみた。 その効果は抜群であった。 子供達が『がっこう』に通っているだけで、子供が居なくなった訳ではない事を忘れてすっきりー!した家庭は目に見えて衰弱した。 当たり前と言えば当たり前である。 別に家族が減った訳じゃないのに子供を作れば、当然食い扶持は増える。 子供が幾ら居ようと、狩りの獲物は働きに応じて配られるから変わる事は無い。 むしろ赤ちゃんの世話で狩りに出られない家族は割当が減って行く為、無計画なすっきりー!をした家庭はどんどん貧しくなるばかり。 やがて全滅する家庭が出始めた所で、ぱちゅりーが『こうなりたく無ければ、すっきりー!は春だけにするのね!』と群れに伝えた。 実例を見せつけられれば、如何に餡子脳とて理解できる。 こうして難航したゆっくり口統制は、ゆっくり達の自爆と言う助けを借りて実現した。 最後に挑んだのは、『ゆっくり達に善悪と言う社会観念を理解させる』という難業だった。 ゆっくりの価値観はたった一つ。 『ゆっくりできるか、できないか』である。 どんなに自分に非があろうとも、それで自分がゆっくり出来るなら正しい事なのだ。 逆にそれがゆっくり出来なければ、どんなに自分に利益があろうとも悪い事になってしまう。 過去、凄腕のブリーダー達が挑んでは破れていった試みに、ぱちゅりーはあえて踏み込んだ。 まず『がっこう』に通う子供達の教育方針から見直された。 悪いゆっくりとは何か、良いゆっくりとは何か。 だが善悪を教えた所でゆっくりには理解できない。 そこで考え出されたのが、『悪いゆっくり=自分だけゆっくりするゆっくり』、 『良いゆっくり=皆で一緒にゆっくりするゆっくり』の構図である。 「皆でゆっくり出来ない子は、とても悪いゆっくりです」 「皆でゆっくりする為には、我侭を言ってはいけません」 「そんな悪いゆっくりは、お目目を抉って死んでもらいます」 「解りましたね?」 「「「「「「「「「わ゛……わ゛がり゛ま゛じだぁ゛っ゛!!」」」」」」」」」」 実際に虫さんのお目目と土団子で作られたお人形で実践してみせた『おしおき』に、 子供達はそろってしーしーを漏らしながら理解を示した。 子供達はこれで良いとして、問題は既に成体になったゆっくり達である。 子供達の親が彼女達である以上、せっかく洗脳に成功した子供達を元に戻されてしまう可能性は高い。 そこで考えついたのは『見せしめ』である。 まずは群れの掟を制定し、公布した。 一つ、ゆっくりはゆっくりをころしてはならない。 一つ、ゆっくりをゆっくりさせなかったゆっくりはおめめをえぐってついほうする。 一つ、かってにかりをしたゆっくりはおかざりをぼっしゅうする。 一つ、いくじほうきしたゆっくりはまむまむをつぶす。 一つ、たにんのおうちでおうちせんげんしたゆっくりはいっしょううんうんがかりにする。 (補足……うんうん係とは、おトイレになっている場所でうんうんを食べて片付ける係の事) 一つ、たにんのもちものをかってにじぶんのものにするゆっくりはいちねんかんうんうんがかりにする。 一つ、がっこうにこどもをかよわせないゆっくりはさんかげつかんうんうんがかりにする。 一つ、けんかをするゆっくりにはさいばんをおこない、わるいほうをいっかげつかんうんうんがかりにする。 一つ、おといれいがいでうんうんするゆっくりはいっしゅうかんうんうんがかりにする。 一つ、はいきゅうされたごはんはどうつかってもじゆうである。 かなり厳し目の掟だが、ぱちゅりーにはこれを守れないゆっくりが出て来てくれた方が有り難かった。 そして期待通りに掟破り第一号が現れた。 あるまりさがれいむが見つけたお花を横取りしたのである。 掟に従えば裁判に懸けるのが妥当であろうが、ぱちゅりーはあえて最上級の罰を適用したのだ。 「なんでなんだぜ!まりさはなんにもわるいことしてないんだぜ!」 丘の上で取り押さえられ、身動きの取れないまりさを前に、ぱちゅりーは声高らかに罪状を告げた。 「このまりさはれいむが見つけたお花を横取りしたわ!まだれいむの持ち物になっていなかったけれど、 れいむが一生懸命見つけたお花を横取りした事で、れいむはゆっくり出来なくなった!! したがって掟に基づき、『おめめえぐりのけい』に処する!!」 「やめるんだぜ!!まりさのおめめがなくなったら、ゆっくりできなくなるんだぜ!!」 喚くまりさに呆れた様子で、ぱちゅりーは言葉を続けた。 「もし、このまりさがお花の代わりに自分のご飯をれいむに分けてあげていれば、こんな事にはならなかったわ! これはまりさの自業自得よ!ゆっくりできないまりさが群れに居たら、皆ゆっくり出来なくなるもの!! 皆の為にも、このまりさは処刑するべき! 今後、まりさみたいにゆっくりできないゆっくりはこうなるから、覚えておきなさい!」 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」 刑は確実に執行された。 この事件におけるぱちゅりーの行動には、ある目的があった。 掟を破ったゆっくりの末路を見せつける事と、ゆっくりに物々交換の概念を理解させる事である。 掟の最後の一文はその為の物。そしてまりさが物々交換を実行していれば助かったであろう事を匂わせて、一気に理解させたのである。 ゆっくり達はこぞって掟を理解しようとした。 学校で掟を教わった子供達が理解している事を知ると、子供達に自分の行動をチェックさせて掟破りをしてるかどうか確認する。 まりさの尊い犠牲を経て、群れは急速に文明開化を進めて行ったのである。 こうして様々な事をゆっくり達に教え込んだぱちゅりー。 だが、彼女はたった一つだけ、群れに教えなかった事があった。 それは人間の事。 人間の恐ろしさも、その強さも、その賢さも。 お野菜を育てる畑の事さえ、ぱちゅりーは一切教えなかった。 ぱちゅりーは番を迎える事はなかった。 しかし群れの後継者を育てる必要性を感じていたある日、あるぱちゅりーが急逝した。 死因はにんっしんっであった。 病弱を押して胎生出産を断行し、母子共々危険な状態に陥った為に帝王切開に踏み切ったのだが、それに母体が耐えきれなかったのだ。 子供のぱちゅりーは無事だったが、父親のまりさ一人では生まれたての赤ちゃんを育てる余裕なぞない。 困り果てた所へ、長ぱちゅりーがこう言い出した。 「ぱちぇが引き取るわ。この子に帝王教育を施して、次の長に育てましょう」 この申し出にまりさは喜んで我が子を差し出した。 既に長ぱちゅりーへの信頼は盲信に変わりつつある。 長の言う事に従ってさえ居れば、ゆっくり出来るのだ。その長を疑う真似が出来る筈がない。 ましてやこの偉大な長の後継者になれるのだ。ならばその親である自分はもっとゆっくり出来るだろう。 親子の愛情よりもゆっくりらしい打算が勝り、生まれたての赤ぱちゅりーは長の養子になった。 後にこのまりさは他のゆっくりと諍いを起こし、『おめめえぐりのけい』を受けて追放される憂き目に遭うが、それは蛇足であろう。 とにかく、問題だった後継者を得た事で、群れのゆっくり達は「これでひとあんしんだね」と肩を撫で下ろした。 その、真の目的に気付く事無く。 長の養子となったぱちゅりーには、その日から厳しい教育が待ち受けていた。 群れの掟と制定の理由、群れのゆっくり口を把握する為の三桁以上の計算、平仮名と片仮名の習得……。 遊びたい盛りの赤ゆっくりの内から猛烈な教育を施され、養子ぱちゅりーは次世代に相応しい教養を身に着けて行った。 だがそこは子供、稀に我侭も言い出すのだが、その度に 「ぱちぇの跡継ぎになれなくても良いのね?そんな悪い子はぱちぇの子供じゃないもの。だったら早くおうちから出て行きなさい」 と脅され、おとなしく従う他なかった。 やがて養子ぱちゅりーも成ゆん式を迎え、立派に大人になったのを確かめると、長ぱちゅりーは群れに宣言した。 「ぱちぇは長を引退するわ!今日からこの子が長よ!」 晴れて後継者となった養子ぱちゅりーは、親の偉業を超えようと努力した。 裁判に証人制度を取り入れて確実性と正当性を強化し、狩りの編成を種族毎ではなく個人の能力別にしたり、 『がっこう』を偶然見つけた洞穴に移し、教師役を長から群れのぱちゅりー達に移して雇用を拡大したり。 群れに若干残っていた問題点を見事に修正してみせた。 それが先代の長がわざと残した物である事に気付けないままに。 そして時は流れ、ぱちゅりーは野生のゆっくりではごく稀な寿命で死ねるゆっくりになった。 死の寸前、己の死を嘆き悲しむ群れを背にした愛娘の表情を見て、ぱちゅりーは計画の成功を確信した。 そこに浮かんでいたのは偉大な親の死への哀惜ではなく、ゆっくりさせなかった親への憎悪。 そうなるように仕向けたぱちゅりーの思い通りの表情であった。 我が子には出来る限りを仕込んだが、たった一つだけ、伝えていない事がある。 自分を変えた老人の一言、『無知の知』を。 偉大な長の後継者と言うプライドに凝り固まった養子ぱちゅりーには、どうやっても親の偉業は超えられない。 自分が何を知らないのかを知らない以上、新しい事を知る事は出来ないのだから。 この群れは将来崩壊するだろう。 人間によってか、自然の脅威によってか、はたまた自滅によるものかは知らないが、必ず崩壊する。 そして彼女達が新たな災厄の種となり、他の群れに伝播するだろう。 それを繰り返す事で、ゆっくりと言う種はこの世からゆっくりと消滅して行くのだ。 それは十年後かも知れない、百年後かも知れない、もしかしたら千年以上未来の事かも知れない。 しかし遠い未来において、ゆっくりと言う種が根絶されるのは確定したのだ。 死に行くぱちゅりーの口元に笑みが浮かぶ。 己の一生を費やした復讐の完成を祝って、自分と老人の幸せを壊したゆっくりへの仕返しが成功した事を祝って。 (……先生…………仇は……討ちました…………) 目の前が段々昏くなって行く。 光を失うその一瞬、ぱちゅりーは自分を撫でる優しい手を確かに感じていた。 ぱちゅりーの死に顔はとても穏やかであった。 こんなにゆっくりしたゆっくりはそうはいない、群れはそう讃え、その死を惜しんだ。 その死に顔の裏に、限りない同族への憎しみが渦巻いていたことを知らないままに。 ……悪意の種が深く静かに根付いたことを知らないままに。 ※まだ終わりじゃないんじゃよ。もうちょっとだけ続くんじゃ。 と、言う訳で外伝その一。 先々代はこんな事考えてました、と言うお話。 前作の感想でここら辺の設定を指摘されたときはちょっぴり焦ったのは内緒。 今の所このシリーズは本編二話と外伝一話で完結予定です。 最も遅筆な上、今後はお休みが取り難くなるのでかなり不定期になると思いますが、 出来ましたなら最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。
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仕返しゆっくり 38KB ※独自解釈しかありません。 ※虐待成分ほぼ皆無。むしろ愛で? ※冗長的に長いです。 ※前作『ふたば系ゆっくりいじめ 301 勘違いゆっくり』の外伝的なお話ですので、先に前シリーズをお読みいただく事をお勧めします。 山の裾野に広がる森を一望できる高台に、小さな庵が佇んでいた。 廃屋寸前の庵に相応しい、荒れ放題の庭に置かれた縁台で、一人の老人が茶を啜っている。 申し訳程度の白髪を蓄えた禿頭と、対照的な長い白髭。 草臥れた作務衣を纏うその姿は、どこかしら世俗を超越した仙人を思わせる。 「……ふぅ。今日はよい天気じゃのう、茶がいつもよりも旨く感じるわい。 やはり晴れの日は気持ちが良い。なんだか寿命が延びそうじゃ。そうは思わんかね?」 不意に茶を啜るのを止め、誰もいない庭に向けて話しかける老人。 しかし帰ってこない筈の返答は、誰もいない筈の庭から返された。 「……むきゅ。そうね、ぱちぇもそんな気がするわ、先生」 苔むした庭石の上で日に当たりながらそう返したのは、紫色の長い髪を持った生首のような饅頭。 ゆっくりぱちゅりーだった。 『仕返しゆっくり』 老人は学者であった。 学問の道を志した青年時代から、ひたすら学問に取り組んで来た。 世の理を読み解いていくのが楽しくて、脇目も振らずに没頭した。 学者らしい偏屈な性格が災いして、結局伴侶も得ずにこの年まで独り身のままであったが、後悔などない。 むしろ一生を学問に捧げた証であると周囲に自慢さえしていた。 しかし、第一線を退いてこのあばら屋に居を構え、一人静かに暮らしていればやはり人恋しくなるもの。 さりとて話し相手になるような知己もおらず、さてどうしたものかと思っていた頃、 一時期教鞭を取っていた頃の教え子が『ならばゆっくりでも飼ったらいかがですか?』と勧めて来たのだ。 ゆっくり。 いかなる分類にも当てはまらない生態、 動く饅頭などというふざけた体の構造、 人語を解するものの、知性の欠片なぞ持ち合わせていない性格。 あらゆる意味で学問の徒を恐慌に陥れた、学者にとっての天敵である。 当然老人もゆっくりに対して良い感情など持ち合わせてはいない。 それは件の教え子も知ってはいたが、恩師が一人寂しく朽ちていくのを黙って見ていられなかったのである。 「そりゃ先生も学者としてはゆっくりなんぞ見たくもないんでしょうが、 ご隠居された今ならゆっくりを研究対象じゃなく、話し相手に出来ると思いますがね」 教え子の説得に感じるものがあったのか、老人は勧められた翌日にはゆっくりブリーダーの元へ足を運んでいた。 「そうですね、初めて飼われるんだったらやっぱりれいむ種がお勧めですよ」 老人に孫が居たのなら、おそらくこの位の年であろうと思わせる若いブリーダーの女性が勧めたのは、 赤いリボンを黒髪に結わえたゆっくりだった。 母性が強く、たくさん子供を作りたがるのを除けばあまり手が掛からない種なのだと言う。 最も老人はゆっくりの大家族を養うつもりは毛頭ない。 「お年を召した方にはまりさ種を好まれる方もいらっしゃいますね。何でもお孫さんを思わせるとか……」 庭や道ばたでたまに見掛ける、黒い帽子を被ったゆっくりを指差してそう紹介するブリーダー。 腕白を絵に描いたような性格らしいが、最も増長しやすい種でもある為、注意が必要らしい。 だが老人は独り身、孫の扱い方など知る由もない。 「ありす種はあまりご年配の方にはお勧めできませんね。ブリーダーでも一寸扱いづらいですね」 金髪に赤いカチューシャを着けたゆっくりは、何やら厄介な性癖を持っているらしく、 その矯正には熟練のブリーダーでさえ手こずるらしい。 そんな種は老人だって願い下げだ。 こうして見るとゆっくりにも様々な表情がある。 名前の通りゆっくりした様子で弛緩しているもの、競争でもしているのか部屋中を跳ね回っているもの、 部屋の隅で肌を擦り合わせている所を、慌てたブリーダーに仲裁されているもの。 そんな中、ある一匹のゆっくりに老人の目が止まった。 全体的に騒がしいゆっくり達の中で、身じろぎもせずにいるゆっくり。 よく見ると、床に広げた紙切れを眺めているらしい。 時々頷きながら、真剣な眼差しで紙切れを目で追う姿に興味を引かれた老人はその紙切れを見やり、驚愕した。 このゆっくりは新聞を読んでいたのである。 「ああ、あれはぱちゅりー種ですね。ゆっくりの中では比較的賢い種ですが、その分体が弱いんですよ。 人間で言う喘息のような持病を持っているので、ちょっとした事で体内の餡子を吐いて死んでしまう事が多いんです。 それに賢いとは言っても所詮ゆっくりですから、文字が読めると言っても精々平仮名ぐらいですね。 あれも多分読んでいる振りしてるだけで、内容なんて解ってないと思いますよ。 そのくせ賢さを鼻に掛ける所があって、無駄にプライドが高いのでなかなか言う事を聞きません。 正直、上級者向けの種です。ゆっくり初心者の方にはまずお勧めできませんね」 ブリーダーがそう言うからには相当手間がかかる種なのだろう。 しかし老人には、ぱちゅりーが文字を追う様子が自分の若き日と重なって見えた。 理解できる、できないを二の次に、ひたすら知識を追い求めた青春の日々に、自分が最も輝いていた、黄金の日々に。 「あのぱちゅりーを貰おう。何、これでも学者の端くれだったんじゃ。多少の困難は承知の上よ」 そうして、ぱちゅりーは正式に老人の元へ引き取られていった。 老人と共に日向ぼっこを楽しんでいたぱちゅりーは、庭石の上で自らのゆん生を振り返っていた。 そもそもぱちゅりー種は個数が少ない。 かろうじて通常種に数えられる程度の頭数はあるものの、種としての弱さが群を抜いているために 『最も成体になり難いゆっくり』と呼ばれ、野生でも早々お目にかかれない種なのだ。 ブリーダーも慎重に扱わねばならず、それ故に『ぱちぇはえりーとなのよ!』と増長してゲス化する事も多い。 そんなぱちゅりー種の常に習い、彼女が老人に投げかけた第一声は 「ぱちぇはもりのけんじゃなのよ!ばかなにんげんさんははやくあまあまをもってきなさい!」 と言う、ブリーダーが真っ青になる台詞であった。 慌ててぱちゅりーの口を塞ぎ、老人に平謝りするブリーダーを制して、彼はぱちゅりーにこう返した。 「そうか、そんなに賢いなら、儂の知らない事を沢山知っておるんじゃろうて。 なら、一つ儂にそれを教えてくれんかね。それが儂の知らない事だったなら、あまあまを食べさせてやろう。どうじゃ?」 ぱちゅりーはその勝負を快諾した。 自身の知識量に絶対の自信があった彼女にとって、それは勝負ではなく、人間に自分の知識を分けてやる程度にしか考えていなかったからだ。 そして、根拠の無い自信は呆気なくひっくり返された。 「むきゅ!ぱちぇはさんけたのけいさんができるのよ!」 「そりゃ凄い。儂は十桁までなら暗算で出来るがな」 「むきゅう!このはっぱさんをよくかんでやわらかくすると、きずぐすりになるのよ!」 「ドクダミか。確かに外傷にも効果はあるが、乾燥させて煎じると血圧や冷え症、便秘の薬になるぞ」 「……む、むきゅ……このきのこさんはどくがあるから、たべるとゆっくりできなくなるのよ……」 「ベニテングタケは塩漬けにしたり、茹でて熱を通したりすれば毒抜き出来るんじゃ。食べ過ぎると危険なのは変わらんがな」 「…………ぱちぇはごほんがよめるのよ…………ひらがなもかたかなもだいじょうぶなのよ……………」 「ふむ、ならここに丁度徒然草の訳本と、マルクスの資本論の原書があるでな。読めるんなら貸すが?」 自信満々でひけらかした知識は、あっさりと塗り替えられた。 ぱちゅりーは何度も何度も老人に挑戦したが、その度に返り討ちにされ、新しい知識を上書きされていく。 老人の圧倒的な知識は、ぱちゅりーの底の浅いそれとは比べ物にすらならない。 勝負になる訳が無かった。 結局、ぱちゅりーが無駄な挑戦を諦めたのは半月も経ってからであった。 「…………むきゅうぅうぅぅぅぅ、ぱちぇのまけだわ…………きょうからおじいさんがもりのけんじゃよ………」 悔し涙を流しながらそう告げるぱちゅりーに、老人は「それは違うぞ」と告げた。 「確かに儂は学者じゃったからな、他の人間よりは物事を知っとる。 しかしじゃな、それだけでは賢者などとは言えないんじゃよ。本当の賢者とは、たった一つの事を知っておる人の事なのじゃ。 『無知の知』、すなわち自分が何も知らない事を知っている人こそ、賢者と讃えられるんじゃ」 老人の言葉に驚愕するぱちゅりー。 「む゛ぎゅ゛う゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅ゛っ゛!?!?なにそれぇぇぇぇぇえぇぇぇぇっ!?どおしてそんなのが『けんじゃ』なのぉぉおぉぉぉっ!?!?」 混乱し、取り乱すぱちゅりーを宥めながら、老人は彼女に答えた。 「簡単じゃよ。自分が何を知らないのかを知らなければ、新しい事を知る事が出来んからじゃ」 その言葉は、ぱちゅりーの増長した自尊心を木っ端微塵に打ち砕いた。 その日から、ぱちゅりーの態度は一変した。 「おじいさん!ぱちぇにおべんきょうをおしえてください!」 そう言って頭だけで器用に土下座するぱちゅりーの願いを、老人は快く聞き入れた。 「よいじゃろう。ならば今日から儂のことを先生と呼びなさい」 その日から二人の関係は、飼い主とペットから教師と生徒に変化した。 自分の無知を自覚したぱちゅりーは老人の授業に真剣に臨み、それに応えて老人もだんだん熱が入ってくる。 人間の政治形態や経済の仕組みなどの社会学、薬草の効能や毒の見分け方などの薬理学、四則計算を始めとする基本数学……。 ゆっくりであるぱちゅりーに役立つであろう知識を中心に、人間社会の歴史やルール、自然科学や生物の生態系を教え込んで行く。 ブリーダーの元で学んでいた時以上の熱意で、ぱちゅりーも必死に勉強するもののそこはゆっくりの宿命、文字通り『ゆっくり』としか理解できない。 出来の悪い生徒ではあったが、老人は決して見捨てなかった。 「ゆっくりとでいいんじゃよ。少しずつ覚えていって、決して忘れなければ、何時かは理解できるものじゃ」 己の物覚えの悪さに自己嫌悪し、落ち込むぱちゅりーを老人はそう励ます。 ゆっくりはあらゆる本能や欲求の最上に『ゆっくりする』事を置く。 その為、ゆっくりは楽な道を選ぶようになり、怠惰に流されてゲス化することが多いのだ。 どんなに有能なゆっくりでも、ゆっくりしようとする種としての本能からは逃れられない。 それはこのぱちゅりーも同様であった。事実、何回諦めようと思ったか数えきれない。 しかし、落ち込んで諦めようとする度に老人の激励がぱちゅりーを奮い立たせた。 それを繰り返して行く内に、ぱちゅりーは非常に希少な『努力するゆっくり』になれたのだ。 老人にとってもこのぱちゅりーと過ごす時間は楽しいものだった。 教鞭をとっていた頃の情熱が甦るようであったし、新しい知識を得て喜ぶぱちゅりーの姿を見る度に幸せな気持ちになれた。 老人とぱちゅりーはお互い幸せに暮らしていられたのだ。 小春日和の日差しは暖かく、傾いだ庵を明るく照らす。 老人と二人、日向ぼっこに興じるぱちゅりーだが、その胸中はあまり穏やかではなかった。 最近、老人の体調が悪い。 今日は落ち着いているようだが、冬が近付くにつれ、寝込む日が多くなった気がする。 老人に養生するように言っても「大丈夫じゃから、心配いらんよ」と力無く微笑むのみ。 ぱちゅりーには人間の医術は高度すぎて理解しきれなかった為、精々野山に生えている薬草を集めてくるぐらいしか出来なかった。 老人は己の死期が近付いている事に気付いていた。 元々学問の第一線を退いたのも大病を患った為で、判明した時にはもう医者にさえ手に負えない状態であった。 入院をしきりに勧めてくる医者や同僚に「もう疲れた」と語り、野山に骨を埋めるつもりで隠居を開始したが、 やはり寂しさには勝てず、教え子の進めるままにぱちゅりーを引き取って育てたのである。 (儂が死んだら、ぱちゅりーが悲しむのかのぅ。それが嫌じゃから引きこもったと言うのに……やれやれ、人間とは身勝手なものじゃ) 気ままに生きた自分の為に、誰かが嘆き悲しむ姿は見たくなかった。 学問に身を捧げたのも、孤独に死んで行くのも自分が選んだ結果である。後悔はない。 しかし、この期に及んで出来てしまった生涯最後の生徒の行く末だけは、どうにも心残りであった。 老人が居なくとも一人で生きて行けるような知識は教えた。人間の恐ろしさ、自然の怖さは充分に伝えてある。 様子を見に来たブリーダーすら「こんなぱちゅりーは見たことありません!」と驚く程品行方正に育ったぱちゅりーなら、 新しい飼い主を見つけることも容易であろう。 出来ることなら自分のように生涯打ち込めるものに出会って欲しい、それだけが今の老人の願いであった。 そしてその願いは、最悪の形で実現することになる。 冬に入り、雪に閉ざされることが多くなった庵の中で、老人は遂に床から出ることが出来なくなった。 酷く咳き込み、時には吐き戻すことすらあるようになった老人を、ぱちゅりーは必死になって世話をする。 しかし如何に知識が豊富と言えど、所詮ゆっくりの身では出来ることなどたかが知れている。 徐々に衰弱して行く老人の姿をただ見守るしか出来ないぱちゅりーの焦燥は日に日に募っていった。 とうとう薬も底を尽き、老人の病状が悪化するのを目の当たりにしたぱちゅりーは決意した。 「先生、ぱちぇはお外でお薬を探してくるわ。咳止めのお薬でいいのよね?」 「馬鹿を言うな。お外は雪が降っておるんじゃぞ、危険に過ぎるわい」 「雪さんは藁の外套で防げるわ。それより、このままでは先生の方が危ないもの。 大丈夫、お薬の場所は知っているから、無茶なんてしないわ」 そう言い残し、藁を編んで作った防寒着を纏い、ぱちゅりーは薬草の群生地へ向けて出発した。 咳に効く薬草なら知っている。秋の半ば頃に見つけておいたものだ。 今は冬だが、あれだけの群生地ならばまだ使えるものが残っている筈。 距離はそう大したものではない。今日中には帰れるだろう。 そんなことを思いながらぱちゅりーは目的地にたどり着き、驚愕した。 そこには、何もなかった。 木々の合間に開けた平地いっぱいに群生していた筈の薬草が、何も残さずに消えていた。 「何で!?何で無くなってるの!?ここにお薬があったはずなのに!?」 半狂乱になりながら、ぱちゅりーは平地を駆けずり回り、薬草を探しまわる。 人間の仕業ではない。 此処のことは里の人間も知らない筈。知っていたとしても根こそぎ刈り取ろうとはすまい。 動物達の仕業でもない。 この草は薬草の名に反して苦みも少なく、薬臭さも無いので動物も食することがあるが、野原には足跡一つ見つからない。 これだけの量を食い尽くすなら、それなりの数で当たらねばならない。そんな跡は何処にも見当たらなかった。 「お薬は!?お薬はどこなの!?あれが無いと、先生が……!!薬草さん、出てきて!!お願い!!」 ぱちゅりーは夜になっても捜索を続けた。 夜が明け、太陽が真上に昇る頃になっても、ぱちゅりーは薬草を探すのを止めなかった。 「むきゅ……むきゅ…………薬草さん……どこなの…………」 鬼気迫る表情で一人呟きながら這いずり回るぱちゅりーの目に、木の枝や枯れ草で偽装された穴が飛び込んで来たのはそんな時であった。 それが野生のゆっくりが造るおうちであることを知っていたぱちゅりーは、藁をも掴む思いでそこに飛び込んだ。 「誰か!誰かいたらお返事して!!お願い!!」 必死なぱちゅりーの呼び掛けに、巣穴を塞いでいた枝が動き、中からまりさが顔を覗かせた。 「……ゆっ!ぱちゅりー!たいへん、すぐなかにいれてあげるね!」 おそらくかなり善良な個体なのだろう、疑いなく巣へぱちゅりーを招き入れる。 巣の中はそこそこ広く、奥に番であろうれいむと、赤れいむ二人が固まってぱちゅりーを警戒していた。 「……まりさ、なんでぱちゅりーをおうちにいれたの?」 「ゆっ!だって、こまっていたんだよ?だったらたすけてあげないとだめなんだよ!」 「なにいってるの!あかちゃんがいるんだよ!?ぱちゅりーのぶんのごはんなんてないんだよ!?」 「だからあかちゃんははるまでまとうっていったのに……」 「なんてこというのぉぉぉぉ!あかちゃんはゆっくりできるんだよ!はやくあかちゃんがみたいねっていったの、まりさでしょおぉぉぉぉぉ!」 「ゆぅ………」 どうやられいむが実権を握っている家庭らしい。これ以上家庭不和を引き起こす気のなかったぱちゅりーは早速本題に入る。 「むきゅう!ご免なさい、れいむ。ぱちぇはそこの原っぱに生えていた草さんを探していたの。 れいむ達は何か知らないかしら?それだけ教えてくれたらすぐ出て行くわ」 「ゆっ?あのはらっぱのくささんならみんなでたべちゃったよ?」 その答えを聞いた瞬間、ぱちゅりーの時が止まった。 「…………むきゅっ!?」 「ふゆさんがくるまえに、むれのみんなでむーしゃ!むーしゃ!したんだよ。 ぜんぜんたりないし、おいしくなかったけど、みんながまんしてたべたんだよ」 何を言っているのだこいつは。 あの薬草は野原一面を覆うような勢いで生えていた筈だ。 それを食い尽くした? どれだけの数で食べればそうなるのだ。 美味しくない? 当たり前だ。あれは薬草なのだから、常食には適する筈が無い。 それを食べ尽くしておいて、ぱちゅりーの先生を助ける筈のお薬を奪っておいて。 「あんなまずいくささんをさがしているなんて、ぱちゅりーはゆっくりできないゆっくりなんだね!ゆぷぷ……」 何を馬鹿面晒して大笑いしているんだ、この糞饅頭は!! 「何言ってるのぉぉぉっ!!あれはお薬なのよ!!お薬を食べ尽くすなんて、何考えてるのぉぉぉぉっ!!」 「「「「ゆ゛っ゛!?!?」」」」 突然猛烈に怒り出したぱちゅりーに、れいむはおろか一家全員が硬直する。 「ぱちぇにはあれが必要なのよ!!雪さんがゆっくりしてない中、一生懸命探していたのに!! 何が可笑しいのよ!何で笑うのよぉおおお゛お゛お゛お゛お゛っ゛!!」 鬼気迫る勢いでれいむに迫るぱちゅりー。その姿を見た赤れいむがそろってしーしーを漏らす。 「……おきゃあしゃん……きょわいよぅ………」 「……ゆっ!!そんなことれいむはしらないよ!!それよりさっさとでていってね!!」 赤ちゃんの声に励まされたのだろう、精一杯ぷくーっ!して虚勢を張りながら、れいむはぱちゅりーを追い出そうとする。 「何ですってぇぇぇぇえ!!」 「まって、ぱちゅりー!あのくささんならすこしだけどとってあるよ!これがいるんだよね?」 さらに詰め寄ろうとするぱちゅりーを、まりさが引き止める。 その口に銜えていたのは間違いなくあの薬草だった。 「まりさ!なにいってるの!それはあかちゃんとれいむのごはんでしょおおぉぉぉおおお!!」 「だまって、れいむ!……おくすりをたべちゃったのはあやまるよ。これだけしかないけれど、ゆるしてね」 そう言ってぱちゅりーの目の前に薬草を置く。正直足りないが、これがここにある分だと言うなら仕方が無い。 「……解ったわ。ご飯を分けてもらってご免なさいね」 「しょうがないよ。おびょうき、はやくなおるといいね」 「とっととでていってね!このやくびょうがみ!!」 申し訳なさそうなまりさと、いかにも迷惑そうな面で追い出しに掛かるれいむ。 対照的な二つの視線に見送られ、ぱちゅりーは家路を急いだ。 (先生、待っててね!すぐ戻るから!!) 「ゆっくりただいま!先生、お薬持って来たわ!!」 雪を振り落とすのすら惜しむように、老人の部屋へ飛び込んだぱちゅりーが見たものは、 枕元を吐血で真っ赤に染めた老人の姿であった。 「先生ぇぇぇえええええ!?大丈夫!?しっかりしてぇぇぇえええ!!」 慌てて駆け寄るぱちゅりーに気付いたのか、老人は薄く目を開ける。 「……おぉ…………ぱちゅりーか……よかった、無事じゃったんじゃな…………」 「先生!待っててね、今お医者さんを呼んでくるわ!」 「待つんじゃ……もう…………間に合わんよ……それよりも……」 そう言って踵を返そうとするぱちゅりーを呼び止め、老人は血塗れの顔に薄い微笑みを浮かべながら掠れ掠れの言葉を綴る。 「……のぉ……ぱちゅりー………お前には感謝しておるんじゃよ……………生涯を……学問に捧げたこの儂が……… 初めて……家庭を、……家族を得られたんじゃ…………本当に……楽しかった…………。 出来ることなら……お前の子供に……授業したかったがの…………それは流石に…………高望みか……。 お前には……出来る限りのことを教えた…………儂がおらんでも…………大丈夫じゃ…………」 「……そんなこと、そんなこと言わないで先生!ぱちぇは…………もっと教わりたいのよ………先生と一緒に居たいのよ!」 泣きながら縋り付くぱちゅりーの姿に、老人は少しだけ困ったような表情を浮かべて言葉を続ける。 「……何……人間五十年からすれば……儂は充分に生きた………満ち足りた、良い人生じゃった…………。 ………ぱちゅりー…………お前も…………そんな………ゆん生を………送れると……良い…………な……………」 「……先生?先生!?せんせぇえええええええいいいいいいいいいいいいっ!!!」 その夜、庵から号泣の声が絶えることは無かった。 ……この度は、故人の会葬に参列いただきありがとうございます。 ……はい、ご香典はこちらです。ご記帳はこちらに……… ……ふぅ。 ……おや、あれは…… ……やっぱり。ゆっくりのブリーダーやってる目出さんじゃないですか。 なんで目出さんが先生のお葬式に? ……へぇ。先生がゆっくりを…… ……いえ、先生にゆっくりを勧めたのは俺なんですよ。 先生も昔気質な所ありましたし、「教え子の世話になんかなれるか!」って感じでこんな所に引っ越しちゃって…… ええ、このままじゃ先生があんまり寂しすぎるだろってんで、ゆっくりだったら賑やかで良いだろうと思いましてね。 ……そうですか。そんなに仲が良かったんですか。 それはそれは……、先生にはご家族もいらっしゃいませんし、丁度お子さんかお孫さんみたいな感じだったんですかね。 ……先生と生徒? そりゃまた先生らしいや。最後まで学問に生きたんですね……。 ……うん?でもゆっくりなんて見掛けませんでしたよ? ……だから探しに来た?先生に万一のことがあったらよろしくって頼まれてた、と。 それで、どんなゆっくりなんです? ……ぱちゅりー?あの紫色の髪の毛の? でもあれって確か結構稀少だって聞きますけど……。 ……ほう、目出さんが初めて育てたぱちゅりーだったんですか。 ふぅん、体が弱い種だから大人になる個体が少ないだけで、稀少種ではないんですか。 成る程、解りました。見掛けたら目出さんとこに連れて行きますよ。 ……でも、所詮ゆっくりなんですね。飼い主が居なくなったら逃げ出すなんて…… ……わ、解りました、すいません、謝ります。この通り。 はい、見つけ次第連絡しますよ。それじゃあ…… ……ううむ。目出さんもいい人なんだけど、ゆっくりが絡むと怖いからな…… でも、そんなに優秀で義理堅い奴が行方をくらますなんて、何事だ? 案外、先生の敵でも探しに行ったのかな?……なんて訳無いか。 ……さて、そろそろ出棺か。 先生にはお世話になったからなぁ。最後まで見届けないと…… 冬の曇天の下を進む葬列を、遠くはなれた草むらから見送る影があった。 ぱちゅりーである。 「先生……向こうでもずっとゆっくりしててね……」 ぱちゅりーは老人以外に飼われるつもりなぞ一切無かった。 老人の最後の生徒として、一生を懸けるに足る目標を見つけ、一人で生きるつもりで居た。 人間の怖さは充分理解している。飼い主の居ない野良ゆっくりが辿る未来など簡単に予測がついてしまう。 幸い、野山に生える草花の見分け方や、餌となる虫の捕まえ方は熟知している。 不安も残るが、生きて行くだけの自信はあった。 「まずはお家を造らないとね……木さんや洞穴さんは誰かが使ってるでしょうし、今から地面さんを掘り返すのはさすがに…… そうね、草さんと枝さんがあるならこれでお家を造っちゃいましょう。雪さんが積もらなさそうな所を探して……」 ぱちゅりーにとっても一人での越冬は初めての経験だ。 あまつさえ季節は冬の半ば。通常なら自殺行為であろう無謀な挑戦だが、彼女には勝算が見えていた。 (ご飯が必要なのは冬の間起きているからよ。熊さんみたいに冬眠すれば必要最小限で済むわ) 勿論食いだめなぞできないゆっくりでは難しかろうが、一日の大部分を寝て過ごし、目覚めた時に食事をすれば体力と食糧の消耗は防げるだろう。 あのまりさに貰った薬草はそのまま持って来た。風邪くらいならすぐ治せる筈だ。 洞窟や木のうろを使った巣とは違い、草や木の枝で組んだ家は頑丈とは言えないが、その分造ったり壊したりが容易になる。 問題が起こったらさっさと引っ越せば済むのだ。 普通のゆっくりでは難しかろうが、老人に教育されたぱちゅりーなら問題の兆候を察知し、被害が及ぶ前に実行出来る。 こんな形で老人の教育が生かされるのを複雑に思いながら、ぱちゅりーは初めての越冬に望んだ。 山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘。 春の日差しが降り注ぐ丘の天辺に、奇妙なものが建っていた。 遠目から見るととんがり帽子のようなシルエットに見えるそれは、木の枝を組み合わせて周りを枯れ草で葺いたもの。 ぱちゅりーの造った巣であった。 数回の引っ越しの後、偶然見つけた日当りの良い好物件に、ここを永住の地に定めたのである。 「……ゆっ!お日様がぽかぽかしてるわ。春になったのね」 初めての越冬を成功させたぱちゅりーは、早速自分のゆっくりプレイスを見回ってみる。 ご飯やお薬になる草の生える位置、危険な生物が侵入しそうな場所、水源やおトイレになりそうな小川の探索……。 冬の間纏めておいた『最低限必要なもの』を確認して行く。 不意に下生えの薮が音を立てた。 ぱちゅりーは慌てて身を隠す。 猪や熊であったら勝ち目は無い。蛇もあれでなかなか素早いので、運動の不得意なぱちゅりーでは逃げ切ることが出来ない。 故に身を隠す事を選択したのだが、それは杞憂に終わった。 「ゆっ!いいおてんきだね、おちびちゃん!」 「「ゆ~っ!」」 薮を掻き分け現れたのは、ゆっくりれいむとその子供らしき子れいむ二匹。 どうやら冬籠りから解放されて、この丘にお散歩に来たらしい。 熊や猪でなかった事に安堵し、ご挨拶をしようと近付いたぱちゅりーは、それがいつかのれいむである事に気付いた。 「ここはぱちぇのゆっくりプレイスよ!れいむ、ゆっくりしていってね!」 「ゆっ!ここはとてもゆっくりできるゆっくりプレイスだね!ここをれいむのおうちにしてあげるよ!」 ……今、こいつはなんて言った? 「ゆっ!ここはぱちぇが見つけたゆっくりプレイスよ!れいむのおうちじゃないわ!」 「ゆゆっ!れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ!ゆっくりさせてくれないぱちゅりーはさっさとでていってね!」 「そーだそーだ!」 「さっさときえろ、くず!あとあまあまちょうだいね!」 ……片親だと? 「……ねえ、れいむ。貴女、確かまりさと一緒に居たわよね?」 「ゆ~ん!れいむたちをゆっくりさせないげすまりさなら、れいむたちのごはんになっちゃったよ!」 「むのうなおやはゆっくりしんだよ!」 「かわいいれいむたちをゆっくりさせないなんて、ばかなの?しぬの?」 ……何だこいつらは。 ……こんなのが野生のゆっくりなのか。 ……先生をゆっくりさせなくしておいて、薬草を譲ってくれた優しいまりさを殺しておいて。 「ここはもうれいむたちのゆっくりプレイスだよ!ぱちゅりーははやくしんでね!」 「「しんでね!!」」 ……こんなのが、自分の同類だと言うのか!! 「なにだまってるの!さっさとでていかないとおこるよ!ぷくーっ「うるさい」ゆ゛っ゛!?」 れいむには、何が起こったのか理解できなかった。 ぱちゅりーが一瞬だけぷくーっ!したかと思ったら、何かがれいむのお目目を直撃したのだ。 その正体は鋭く尖った小石。 ぱちゅりーが獣達に出会った時、相手を怯ませて身を隠す為に常に口に含んでいたものだった。 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!い゛じゃ゛い゛!い゛じゃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「「ゆ゛あ゛あ゛!お゛ぎゃ゛ーじゃ゛ん゛の゛お゛べべぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」 片目を失い、痛みに七転八倒するれいむと、それを見て恐慌状態に陥る子れいむ達。 そのゆっくりできない姿を尻目に、ぱちゅりーはもう一つの武器を取り出した。 「どぼじでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!でい゛ぶな゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛の゛に゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「……その厚顔無恥だけで充分よ、貴女が死ぬ理由は」 「ゆ゛びぃ゛っ゛!?!?」 「「お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ゛!!」」 聞くに堪えない薄汚い悲鳴をあげていたれいむのお口に何かが突き刺さる。 ぱちゅりーがZUN帽から取り出したのは太い木の枝の先に、平たく割れた黒曜石を取り付けたもの。 簡単な出来ではあるが、ゆっくりの身では人間の使う高度な道具など文字通り手も足も出ない。 それでも、身を守るため必死になって作り出した正真正銘の武器である。 原始的な造りであっても、所詮ゆっくりでしかないれいむには充分すぎる凶器であった。 最早断末魔の痙攣を繰り返すのみとなった母の姿に、しーしーを漏らしながら怯える子れいむ達へ視線を移し、 ぱちゅりーはゆっくりとにじり寄って行く。 「……またお漏らし?貴女達って赤ちゃんの頃から変わってないのね」 「ゆ゛びぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!ごめ゛ん゛な゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!」 「ごろ゛じゃ゛な゛い゛でえ゛え゛え゛え゛え゛!!あ゛や゛ま゛っ゛だでじょ゛お゛お゛お゛お゛!!」 泣き喚く子れいむ達に、一切の憐憫は湧かなかった。 そのままぱちゅりーは、 「恨むなら、父親に似なかった自分自身を呪うことね」 「「も゛っ゛どゆ゛っ゛ぐぶべぇ゛!!!」」 ゴミでも捨てる感覚で、子れいむ達を踏みつぶした。 丘を照らす陽光が殺人的な暑さを帯び、里の向日葵が満開に咲き乱れる夏のある日。 ぱちゅりーはゆっくり達を率いて丘に君臨していた。 あの後、ぱちゅりーは様々なゆっくり達と出会い、そして幻滅していた。 すぐ思い上がり、無茶な事をしては周りに迷惑をかけて自滅するまりさ。 一寸した事ですぐ発情し、己を押さえる事無く相手が死ぬまですっきりー!するありす。 何かと言うとすぐ居もしないらんを頼ろうとするちぇん。 道具を使うだけの頭を持ちながら、それを暴力にしか生かさないみょん。 そしてあの親子のように子供をダシにして自分だけゆっくりしようとするれいむに、 幼い頃の自分を思わせるプライドだけは高い癖に何も知らないぱちゅりー。 中には優秀で思いやりのある優しいゆっくりもいるのだが、いずれもゲスなゆっくりにゆっくり出来なくされてしまった。 (……ゆっくりがゲスになるのは、もう種としての本能ね。自分のゆっくりを最上に置くから、自分本位なゲスになる。 ……ぱちぇも先生に飼われなかったら、こいつらみたいになっていたのかしら?) ぱちゅりーは自分も含めたゆっくりと言う種を嫌っていた。 ゲスに堕ちるのが宿命と言わさんばかりの自分達のあり方を心の底から憎むようになり、 やがてぱちゅりーの心中に、ある決意が芽生えていた。 (そうね、こんな生き物は滅ぼすべきだわ。一匹残らず殲滅するべきよ!) その思いを自覚した時、ぱちゅりーはそれを生涯の目的に掲げた。 飼い主であった老人の願った通り、生涯を捧げる目標を得たのである。 ……老人の願ったものとは全く違う、ドス黒い餡子に塗れた道に。 だが一匹一匹殺してまわったのでは到底目標を達成できない。 それではぱちゅりーが死ぬまでに幾ら殺したとて、全滅にはほど遠い。 しかしぱちゅりーはそこで発想を変えた。 自分が死んだら根絶できないのなら、自分が死んでも絶滅へ向かうよう、ゆっくり達を教育すれば良いのだ、と。 ぱちゅりーは手始めに医者を開業する事にした。 ゆっくり達は弱い。一寸した事で傷ついてしまうが、逆に言えば一寸した傷でも死なない程度には丈夫なのだ。 だから即死でもない限り、ゆっくり達に医者の需要は多いのである。 老人から伝授された薬草の効能を元に、薬理生理学観点から診断された症状に適したお薬を処方する。 それは元々適当な生態を持つゆっくりには劇的な効果があった。 やがて「おかのおいしゃさん」の名声が高まるにつれ、ぱちゅりーを長に頂きたがるゆっくりが現れた。 それは「おかのおいしゃさん」におんぶに抱っこしてもらい、楽に生きようとする怠惰なゆっくりの習性であったが、 むしろそれを待っていたぱちゅりーは長になる事を了承。 自分の根城である丘に招き入れ、群れの創設を宣言した。 そこからはまさに日進月歩の勢いであった。 まず、巣の作り方を変えさせる事から変革は始められた。 巣をお互い見える位置に作り、他の巣に異常が発生したらすぐに気が付くようにする。 たったそれだけなのだが、それすらもゆっくり達の餡子脳には理解しづらかったらしい。 梅雨の長雨で全滅した巣がいくつも出て来たことで、ようやく長の言いたかった事を理解した群れは長の先見の明を讃えた。 次に狩りの役目を分担させることにした。 割と頑丈な上にお帽子を使う事で大量の輸送が可能なまりさに遠くの草や木の実を、素早い動きが得意なちぇんに小型の虫を集めさせ、 大型の虫に武器を使うみょんを充てて、特に秀でるもののないれいむとありすには近くの草を集めさせるよう振り分け、それぞれにノルマを与える。 狩った獲物は一度集めてから働きに応じて配分する。ノルマを果たせなかったゆっくりには何も与えない。 勿論独り占めしようとするものも現れたが、それぞれを班に分けて班ごとの行動を義務づける事でそれを防ぐ。 それでも獲物をちょろまかすものは居たが、ノルマを果たせずにちょろまかした獲物より、 ノルマを果たして分配される獲物の方が遥かに量も種類も豊富な事に気付くと、不逞の輩は自然消滅して行った。 続いてゆっくり口統制に挑んだ。 この辺りは食糧が豊富であるが、それでも消費すればいつかは尽きる。 森の生態系にダメージを与えない程度に留めておくには、ゆっくりの数を増やさない事が第一なのだ。 しかしこれは難航した。 何しろゆっくりにとって『あかちゃんはゆっくりできる』が不文律である。 いきなり『あかちゃんをつくるな!』と命令しても受け入れる訳が無い。 そこでぱちゅりーは『がっこう』を開く事にした。 子供達に教育を施し、ゆっくり口統制の有用性を理解させようとしたのである。 だがそれは逆にゆっくり口爆発を生んでしまった。 子供達が学校に行っている間、手の開いた親達がすっきりー!してしまい、子供を量産し始めたのだ。 親達に言わせれば『あかちゃんがいなくなってさみしくなったから、あかちゃんをつくったんだよ!』だそうであるが、 この理由には流石にぱちゅりーも呆れるしか無かった。 そこで手のかかる赤ちゃんのうちは親の手元に置き、ある程度したら『がっこう』へ入学させる制度に切り替えてみた。 その効果は抜群であった。 子供達が『がっこう』に通っているだけで、子供が居なくなった訳ではない事を忘れてすっきりー!した家庭は目に見えて衰弱した。 当たり前と言えば当たり前である。 別に家族が減った訳じゃないのに子供を作れば、当然食い扶持は増える。 子供が幾ら居ようと、狩りの獲物は働きに応じて配られるから変わる事は無い。 むしろ赤ちゃんの世話で狩りに出られない家族は割当が減って行く為、無計画なすっきりー!をした家庭はどんどん貧しくなるばかり。 やがて全滅する家庭が出始めた所で、ぱちゅりーが『こうなりたく無ければ、すっきりー!は春だけにするのね!』と群れに伝えた。 実例を見せつけられれば、如何に餡子脳とて理解できる。 こうして難航したゆっくり口統制は、ゆっくり達の自爆と言う助けを借りて実現した。 最後に挑んだのは、『ゆっくり達に善悪と言う社会観念を理解させる』という難業だった。 ゆっくりの価値観はたった一つ。 『ゆっくりできるか、できないか』である。 どんなに自分に非があろうとも、それで自分がゆっくり出来るなら正しい事なのだ。 逆にそれがゆっくり出来なければ、どんなに自分に利益があろうとも悪い事になってしまう。 過去、凄腕のブリーダー達が挑んでは破れていった試みに、ぱちゅりーはあえて踏み込んだ。 まず『がっこう』に通う子供達の教育方針から見直された。 悪いゆっくりとは何か、良いゆっくりとは何か。 だが善悪を教えた所でゆっくりには理解できない。 そこで考え出されたのが、『悪いゆっくり=自分だけゆっくりするゆっくり』、 『良いゆっくり=皆で一緒にゆっくりするゆっくり』の構図である。 「皆でゆっくり出来ない子は、とても悪いゆっくりです」 「皆でゆっくりする為には、我侭を言ってはいけません」 「そんな悪いゆっくりは、お目目を抉って死んでもらいます」 「解りましたね?」 「「「「「「「「「わ゛……わ゛がり゛ま゛じだぁ゛っ゛!!」」」」」」」」」」 実際に虫さんのお目目と土団子で作られたお人形で実践してみせた『おしおき』に、 子供達はそろってしーしーを漏らしながら理解を示した。 子供達はこれで良いとして、問題は既に成体になったゆっくり達である。 子供達の親が彼女達である以上、せっかく洗脳に成功した子供達を元に戻されてしまう可能性は高い。 そこで考えついたのは『見せしめ』である。 まずは群れの掟を制定し、公布した。 一つ、ゆっくりはゆっくりをころしてはならない。 一つ、ゆっくりをゆっくりさせなかったゆっくりはおめめをえぐってついほうする。 一つ、かってにかりをしたゆっくりはおかざりをぼっしゅうする。 一つ、いくじほうきしたゆっくりはまむまむをつぶす。 一つ、たにんのおうちでおうちせんげんしたゆっくりはいっしょううんうんがかりにする。 (補足……うんうん係とは、おトイレになっている場所でうんうんを食べて片付ける係の事) 一つ、たにんのもちものをかってにじぶんのものにするゆっくりはいちねんかんうんうんがかりにする。 一つ、がっこうにこどもをかよわせないゆっくりはさんかげつかんうんうんがかりにする。 一つ、けんかをするゆっくりにはさいばんをおこない、わるいほうをいっかげつかんうんうんがかりにする。 一つ、おといれいがいでうんうんするゆっくりはいっしゅうかんうんうんがかりにする。 一つ、はいきゅうされたごはんはどうつかってもじゆうである。 かなり厳し目の掟だが、ぱちゅりーにはこれを守れないゆっくりが出て来てくれた方が有り難かった。 そして期待通りに掟破り第一号が現れた。 あるまりさがれいむが見つけたお花を横取りしたのである。 掟に従えば裁判に懸けるのが妥当であろうが、ぱちゅりーはあえて最上級の罰を適用したのだ。 「なんでなんだぜ!まりさはなんにもわるいことしてないんだぜ!」 丘の上で取り押さえられ、身動きの取れないまりさを前に、ぱちゅりーは声高らかに罪状を告げた。 「このまりさはれいむが見つけたお花を横取りしたわ!まだれいむの持ち物になっていなかったけれど、 れいむが一生懸命見つけたお花を横取りした事で、れいむはゆっくり出来なくなった!! したがって掟に基づき、『おめめえぐりのけい』に処する!!」 「やめるんだぜ!!まりさのおめめがなくなったら、ゆっくりできなくなるんだぜ!!」 喚くまりさに呆れた様子で、ぱちゅりーは言葉を続けた。 「もし、このまりさがお花の代わりに自分のご飯をれいむに分けてあげていれば、こんな事にはならなかったわ! これはまりさの自業自得よ!ゆっくりできないまりさが群れに居たら、皆ゆっくり出来なくなるもの!! 皆の為にも、このまりさは処刑するべき! 今後、まりさみたいにゆっくりできないゆっくりはこうなるから、覚えておきなさい!」 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」 刑は確実に執行された。 この事件におけるぱちゅりーの行動には、ある目的があった。 掟を破ったゆっくりの末路を見せつける事と、ゆっくりに物々交換の概念を理解させる事である。 掟の最後の一文はその為の物。そしてまりさが物々交換を実行していれば助かったであろう事を匂わせて、一気に理解させたのである。 ゆっくり達はこぞって掟を理解しようとした。 学校で掟を教わった子供達が理解している事を知ると、子供達に自分の行動をチェックさせて掟破りをしてるかどうか確認する。 まりさの尊い犠牲を経て、群れは急速に文明開化を進めて行ったのである。 こうして様々な事をゆっくり達に教え込んだぱちゅりー。 だが、彼女はたった一つだけ、群れに教えなかった事があった。 それは人間の事。 人間の恐ろしさも、その強さも、その賢さも。 お野菜を育てる畑の事さえ、ぱちゅりーは一切教えなかった。 ぱちゅりーは番を迎える事はなかった。 しかし群れの後継者を育てる必要性を感じていたある日、あるぱちゅりーが急逝した。 死因はにんっしんっであった。 病弱を押して胎生出産を断行し、母子共々危険な状態に陥った為に帝王切開に踏み切ったのだが、それに母体が耐えきれなかったのだ。 子供のぱちゅりーは無事だったが、父親のまりさ一人では生まれたての赤ちゃんを育てる余裕なぞない。 困り果てた所へ、長ぱちゅりーがこう言い出した。 「ぱちぇが引き取るわ。この子に帝王教育を施して、次の長に育てましょう」 この申し出にまりさは喜んで我が子を差し出した。 既に長ぱちゅりーへの信頼は盲信に変わりつつある。 長の言う事に従ってさえ居れば、ゆっくり出来るのだ。その長を疑う真似が出来る筈がない。 ましてやこの偉大な長の後継者になれるのだ。ならばその親である自分はもっとゆっくり出来るだろう。 親子の愛情よりもゆっくりらしい打算が勝り、生まれたての赤ぱちゅりーは長の養子になった。 後にこのまりさは他のゆっくりと諍いを起こし、『おめめえぐりのけい』を受けて追放される憂き目に遭うが、それは蛇足であろう。 とにかく、問題だった後継者を得た事で、群れのゆっくり達は「これでひとあんしんだね」と肩を撫で下ろした。 その、真の目的に気付く事無く。 長の養子となったぱちゅりーには、その日から厳しい教育が待ち受けていた。 群れの掟と制定の理由、群れのゆっくり口を把握する為の三桁以上の計算、平仮名と片仮名の習得……。 遊びたい盛りの赤ゆっくりの内から猛烈な教育を施され、養子ぱちゅりーは次世代に相応しい教養を身に着けて行った。 だがそこは子供、稀に我侭も言い出すのだが、その度に 「ぱちぇの跡継ぎになれなくても良いのね?そんな悪い子はぱちぇの子供じゃないもの。だったら早くおうちから出て行きなさい」 と脅され、おとなしく従う他なかった。 やがて養子ぱちゅりーも成ゆん式を迎え、立派に大人になったのを確かめると、長ぱちゅりーは群れに宣言した。 「ぱちぇは長を引退するわ!今日からこの子が長よ!」 晴れて後継者となった養子ぱちゅりーは、親の偉業を超えようと努力した。 裁判に証人制度を取り入れて確実性と正当性を強化し、狩りの編成を種族毎ではなく個人の能力別にしたり、 『がっこう』を偶然見つけた洞穴に移し、教師役を長から群れのぱちゅりー達に移して雇用を拡大したり。 群れに若干残っていた問題点を見事に修正してみせた。 それが先代の長がわざと残した物である事に気付けないままに。 そして時は流れ、ぱちゅりーは野生のゆっくりではごく稀な寿命で死ねるゆっくりになった。 死の寸前、己の死を嘆き悲しむ群れを背にした愛娘の表情を見て、ぱちゅりーは計画の成功を確信した。 そこに浮かんでいたのは偉大な親の死への哀惜ではなく、ゆっくりさせなかった親への憎悪。 そうなるように仕向けたぱちゅりーの思い通りの表情であった。 我が子には出来る限りを仕込んだが、たった一つだけ、伝えていない事がある。 自分を変えた老人の一言、『無知の知』を。 偉大な長の後継者と言うプライドに凝り固まった養子ぱちゅりーには、どうやっても親の偉業は超えられない。 自分が何を知らないのかを知らない以上、新しい事を知る事は出来ないのだから。 この群れは将来崩壊するだろう。 人間によってか、自然の脅威によってか、はたまた自滅によるものかは知らないが、必ず崩壊する。 そして彼女達が新たな災厄の種となり、他の群れに伝播するだろう。 それを繰り返す事で、ゆっくりと言う種はこの世からゆっくりと消滅して行くのだ。 それは十年後かも知れない、百年後かも知れない、もしかしたら千年以上未来の事かも知れない。 しかし遠い未来において、ゆっくりと言う種が根絶されるのは確定したのだ。 死に行くぱちゅりーの口元に笑みが浮かぶ。 己の一生を費やした復讐の完成を祝って、自分と老人の幸せを壊したゆっくりへの仕返しが成功した事を祝って。 (……先生…………仇は……討ちました…………) 目の前が段々昏くなって行く。 光を失うその一瞬、ぱちゅりーは自分を撫でる優しい手を確かに感じていた。 ぱちゅりーの死に顔はとても穏やかであった。 こんなにゆっくりしたゆっくりはそうはいない、群れはそう讃え、その死を惜しんだ。 その死に顔の裏に、限りない同族への憎しみが渦巻いていたことを知らないままに。 ……悪意の種が深く静かに根付いたことを知らないままに。 ※まだ終わりじゃないんじゃよ。もうちょっとだけ続くんじゃ。 と、言う訳で外伝その一。 先々代はこんな事考えてました、と言うお話。 前作の感想でここら辺の設定を指摘されたときはちょっぴり焦ったのは内緒。 今の所このシリーズは本編二話と外伝一話で完結予定です。 最も遅筆な上、今後はお休みが取り難くなるのでかなり不定期になると思いますが、 出来ましたなら最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 祝・商業出版決定!・・・と思ってしまったほどw 面白いわ、これ。 -- 2014-05-10 21 49 47 これはもうプラチナゆっくりでいいだろう 人間からみたらゲスどころかゆっくりを根絶してくれる全良ゆっくりだぜ? 人間のもとである程度子供つくれなかったのが悔やまれる -- 2013-11-02 23 59 54 俺は結構好きだ この作品 -- 2013-07-02 17 39 21 つまらないっていうコメントはしないほうがいいんじゃないか?個人的な感想であって、喧嘩の種になるわけだし。それに好みは人それぞれだからね、自分の考えが他の人達のの平均ってわけじゃないだろう -- 2013-05-08 22 01 12 どこがイケメン?気に入らない意見に文句言ってるだけじゃん -- 2013-04-28 01 27 09 ↓返しイケメン杉ワロタwwwwww -- 2013-03-20 17 51 21 ↓お前が思っているように周りはお前をつまらないと思っているから大丈夫だ -- 2013-01-17 14 07 51 厨設定ってほぼ総じてつまんない気がする。 これも同じ。 -- 2012-11-19 10 13 44 相手が無能なゆっくりであることを考えると、この社会構造を作るだけでも、そんじょそこらの人間じゃ無理だ。 しかも遠い将来に群れが滅亡する因子を意図的にはらませるとか・・・ 人間でもほんの一握りの、高い政治力がある奴にしか出来んぞ。 -- 2012-09-22 21 13 46 すげえ・・・ゆっくりとは思えねえ・・・ -- 2012-07-12 19 02 47 ぱちゅりー強杉ね? -- 2012-03-15 21 06 20 ↓ この場合責任転嫁じゃないし、そういうことじゃないんだよ。 その薬草でお爺さんが薬をつくっていてそれをぱちゅりーが知っていた、もしくはその薬草にすがってでも助けたいと思った、できる可能性があった。 そもそも薬て病気を治すんじゃなくて症状を抑えるものだから。 それを全部食いつくされたうえに馬鹿にされたんだから普通怒るだろ? -- 2011-11-12 06 16 13 薬草なんかでおじいさんの病気治るとは思えんし、クズれいむに責任転嫁乙です かっこいいから許すけど -- 2011-07-09 08 05 10 真の賢人につけばゆっくりも賢者になれるか… おじいさんは、偉大なブリーダーだったんだな。 3代目の阿呆っぷりも餡子引き継いでないので納得ww -- 2010-10-04 19 30 16 一番賢いぱちゅりーが一番ゲスって事かw しかしアホの3代目は偉大な先々代の餡子 をひいてなかったんだねw納得w -- 2010-09-14 07 39 00 ブリーダーよ、何故真っ先に二大ゲス種を勧めたしwww -- 2010-08-27 09 23 43 賢過ぎだろ下手な人間以上だ。 -- 2010-08-21 16 32 03
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ふたば系ゆっくりいじめ 274 嘘つきゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 277 騙されゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 301 勘違いゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 314 仕返しゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 410 お尋ねゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 557 捕まりゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 613 激辛れいむと珈琲ありす 前編 絵×2 「餡子ンペ09」 ふたば系ゆっくりいじめ 681 激辛れいむと珈琲ありす 後編 絵 「餡子ンペ09」 ふたば系ゆっくりいじめ 983 お話しゆっくり 前編 ふたば系ゆっくりいじめ 984 お話しゆっくり 中編 ふたば系ゆっくりいじめ 985 お話しゆっくり 後編 作者別ページに戻る トップページに戻る
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一言あきのSS感想用掲示板はこちら anko2114 公餡密着二十四時 ~死体は踊る~ anko2004 とあるれいむにまつわるおはなし anko1593 あまあまがほしかったれいむのおはなし anko1104 お話しゆっくり 後編 anko1103 お話しゆっくり 中編 anko1102 お話しゆっくり 前編 anko0793 激辛れいむと珈琲ありす 後編 anko0722 激辛れいむと珈琲ありす 前編 anko0664 捕まりゆっくり anko0508 お尋ねゆっくり anko0403 仕返しゆっくり anko0388 勘違いゆっくり anko0363 騙されゆっくり anko0360 嘘つきゆっくり
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お話しゆっくり 後編 38KB 虐待-普通 制裁 仲違い 誤解・妬み 自滅 同族殺し 駆除 群れ ゲス ドスまりさ 現代 愛護人間 独自設定 ゆっくり興亡史の最終話です(三部作・後編) ※独自設定だらけよ!注意してね! ※人間さんの虐待は殆ど無いわね! ※『ちーと』なゆっくりが出てくるわ!いなかものね! ※ものすごく説明臭いわ!詰め込み過ぎよ! ※『お尋ねゆっくり』の続きだわ!……お、遅くなってごめんね、なんて言わないんだから! 書いた奴:一言あき 紅葉した葉が散り、すっかり冬支度を整えた森に生える一本の老木、その根元に開いた空洞の中にそれは居た。 冷たい地面がむき出しになった巣穴の中で、恐らく備蓄用であろう硬い木の実を噛み砕いているゆっくり。 一匹のゆっくりまりさが、巣穴の食糧を全て食い散らかしていたのだ。 「むーしゃむーしゃ、それなりー。……これっぽっちじゃぜんっぜんったりないよ。 まったく、のろまなおやをもつとまりさがくろうするよ。でも、まりさはやさしいからじじぃだなんてよばないよ!かんしゃしてね!」 死ぬ程自分勝手な独り言を漏らしているこのまりさ、実はれっきとしたこの巣穴の住人である。 八人姉妹の末っ子だった彼女は、色々足りない未熟ゆとして生を受けた。 本来、野生において未熟ゆが辿る末路はたった一つ。 『間引き』だ。 しかし、母性に目覚めた両親は間引く事が出来ず、未熟ゆに生んでしまった後ろ暗さから姉妹の中で特に目を掛けて育てた。 姉妹もまたゆっくり出来ない末妹をゆっくりさせようと、親にも勝る過保護な態度で接し……。 ものの見事にゲスまりさに育て上げてしまったのだった。 今、両親と姉達は必死になって冬籠りの食糧を集めている。 通常ならとっくに終わっていなければならない作業だが、末妹が片っ端から食い荒らすので全然集まらないのだ。 いくら言い聞かせても、 「まりさがこうなったのはおとーさんたちのせいでしょう!?」 と言われれば大人しく引き下がるしか無い。その結果が備蓄の一切存在しない巣穴の現状である。 そして現状を作り出した張本人は己の所行を認識しないまま、今日も見当違いの悪態をついていたのだが…… 西の空が赤く染まり、東の空からじわりじわりと宵闇が迫りつつある時刻になっても、両親と姉妹は帰ってこなかった。 「……まだかえってこないの!?まりさはぐずはきらいだよ!!」 最早一日で帰って来れる範囲の食糧は全て喰い尽くし、新たな狩り場へ足を伸ばした為に野営する羽目になって足止めされた家族の事情など知る筈も無い。 空腹を紛らわせる為に悪態をつき続けるまりさ。だが、ゆっくりの行動は体内の餡子を消費して行われるもの。大声で喚く行為であろうと当然餡子は消費される。 「おなかがすいたぁああああ!!だれか!!まりさをゆっくりさせろぉおおおお!!!」 腹が減ったストレスを暴れる事で発散させ、より腹を空かす。負の連鎖の見本のような光景が、巣穴の中で繰り広げられる。 やがて空腹のあまり錯乱したのか、まりさは巣穴の入口を隠していた『けっかい』を壊して外へと飛び出した。 「……もぉいいよ!あんなむのうなおやなんかより、まりさのほうがかりがうまいにきまってるよ!だからごはんをさがしにいくよ!!」 まりさは未熟ゆであった頃から巣穴の外に出た事が無い。 異端を許さないゆっくり社会では、未熟ゆのような明らかに異端の子供を生んだとバレたら即村八分、いや十分にされてしまうからだ。 それはまりさ自身にも及ぶ。ゆっくり殺しは大罪なので、流石に殺される事はあるまいが死ぬ一歩手前にまではさせられるだろう。そうなっては後味が悪い。 そんな九割の都合と一割の愛情によって、まりさは外の世界を知らぬままに一年近くを巣穴で過ごしてきた。 自ら動くこともせず、一年間怠惰に生きてきたまりさが一体何を出来るというのか。そのことに思い至らぬまま、まりさの姿は夜の森に消えていった。 まりさが巣穴を飛び出した頃、老木から少々離れた場所にある茂みの中に九つの影が潜んでいた。 バスケットボール程の大きさのまりさとれいむ、そして一回り小さな三人のまりさと四人のれいむが、身を寄せ合って一固まりになっていたのだ。 「おかあさぁん……こわいよぅ……」 「しっ!おおごえだしちゃだめなんだぜ!」 心細くなったのか、一人のれいむが母れいむに縋ろうとするのを、父まりさが止める。 「……よるはれみりゃのじかんなんだぜ。おおごえをだしたり、うろつきまわったりしてたら、たちまちみつかっちゃうんだぜ」 「……ゆぅうううん……わかったよ……」 日が落ちる前におうちに帰り着けない事を察したまりさ達は、れみりゃが起き出さないうちにこの茂みで野営をする事を決めた。 れみりゃ等の捕食種対策で最も有効なのは『空から発見されない事』。背の高い草や灌木が作る茂みに隠れれば、物音を立てない限り見つかる確率は低い。 「……おうちでおるすばんしてるおちびちゃん、だいじょうぶかな………」 「……れみりゃがあぶないっていうのはしってるはずなんだぜ。だから、よるにおそとへでかけたりしないんだぜ」 不安の眼差しをお家のある方向へ向けるれいむを、まりさが励ます。 餡子の分割による記憶の継承という、生物学に真っ向から喧嘩を売っているゆっくりの特性は、決して無意味ではない。 生物界最弱に位置するゆっくりには天敵が多い。それ故、生まれた時から餡子に刻まれた天敵の情報無くして生き残るのは難しい。 逆に言えば、ゆっくりが生まれつき『ゆっくりできない』と感じるものに近付かなければ、生存率は大幅に上昇するのだ。 餡子に刻まれた祖先の記憶、それはゆっくりにとって文字通り命綱であった。 「……でも……あのおちびちゃんは………それに、あそこは……」 「……しんじるしかないんだぜ。いままでだってへいきだったんだから、きっとだいじょうぶなんだぜ」 なおも不安を募らせるれいむに、慰めと励ましの言葉を重ねるまりさ。 しかし、その言葉を一番信じていないのはまりさ自身に他ならなかった。 乱立する木々の合間から冷たい月の光が見え隠れする夜の森を、巣穴を飛び出したまりさが当ても無いままうろついている。 「ゆっ!おいしそうなくささんだね!むーしゃむー……ゆげぇえええっ!!これどくはいってる!!」 目に付いた毒々しい色の草を咀嚼して、あまりの渋さに餡子を吐き出しそうな嘔吐に襲われる。 解り易い見た目のおかげでゆっくりの間でも有名な毒草だったが、まりさは存在自体知らなかった。 「こっちのほしくささんならたべられそうだね!むーしゃむー……げろまずぅううううううっ!?……ぺっぺっ!!」 巣穴に敷き詰められていた干し草にそっくりな枯れ草を口に含み、あまりの味気なさに吐き出してしまう。 瑞々しいうちに天日に当てて乾燥させた干し草と、生気を失い腐るのを待つだけの枯れ草の違いを、まりさは理解していなかった。 両親が危惧した通り、まりさはゆっくりが生まれつき持っている筈の知識、その大半を知らなかった。 未熟ゆとして生まれた為に餡子の継承がなされておらず、家族の過保護により新たに学習する機会も得られなかった為に起きた悲劇である。 「くささん、どおしてまりさにいじわるするのぉおお!?むしさん、ゆっくりしないででてきてねぇええ!!」 だが、最大の悲劇は『まりさ自身が、己の無知を知らない』ことに尽きる。否、それは最早悲劇を通り越して喜劇ですらあった。 食用になる植物の見分け方も、効率的な虫の捕り方も、そもそも何故冬籠りが必要なのかさえ、まりさは知らずに生きてきた。それを当然だと思いながら。 そしてそのツケは、翼を持った使者の姿をとってまりさの元に降り立った。 「う~☆う~☆」 「ゆ!?ゆっくりがおそらをとんでるぅうう!?」 蝙蝠の羽根を羽撃かせてまりさの前に現れたのは、一匹の胴無しれみりゃだった。 しかし、まりさには突如出現した『おそらをとぶゆっくり』への驚愕こそあれど、捕食種への恐怖や警戒は微塵も無い。捕食種の存在すら知らなかったのだから当然なのだが。 「う~……?」 己を見て怖れもしないまりさの反応に、胴無しれみりゃが困惑する。 予定では逃げ出したまりさを『ある場所』へ追い詰める手筈だったのだが、このまりさは予想に反して無防備にその場で突っ立ったまま。 「ゆうぅ、まりさがかわいいからって、そんなにみつめられるとてれるよぉ……」 頬を染めてそんな世迷い言をのたまうまりさを一瞥し、れみりゃは再び羽根を羽撃かせて夜の闇に消える。 「ゆっ、きっとまりさにごはんさんをみついでくれるんだね!たくさんでいいよ!」 後に残されたまりさは一連の行動を都合良く解釈し、れみりゃをその場で待つ事にした。 『……ちがう……』 「ゆんゆんゆ~ん♪きゃわいくってごめんね~♪きらっ☆」 『……ちがうよ……』 「……おそいね。まりさはおなかがすいてるんだよ!ゆっくりしないではやくもってきてね!」 『……そうじゃない……』 「ゆぅううううっ、どぼじでいじわるするのぉおおっ!?はやくしてねぇえええっ!!」 『……そこにいちゃだめ……』 「ゆわぁあああんっ!おながずいだぁあああっ!!ばやぐじろぉおおおおっ!!」 『……にげて……』 「ゆがぁああああっ!ばりざをゆっぐぢざぜろぉおおおおおっ!!」 『……そこからにげて……!!』 「う~☆う~☆」「まんまぁ~☆あれがこんやのでなーだどぅ~?」 「ゆっ!?へんなゆっくりがいるよ!?……おかおのしたにおかざりをつけるなんて、ゆっくりできないね!ゆぷぷっ……」 「……こいつ、れみぃをわらったんだど~!『こーまかん』のおぜうさまにぶれいなまねをするやつだど~!」 『やめて……!!』 「ゆっ!?おそらをとんでるみたい!」 「う~☆」「こいつも『おりょうり』するんだど~?まんまの『おりょうり』は『ぷっでぃ~ん』みたいにあまあまだからだいすきなんだど~☆」 『いやだ……!』 「『こーまかん』にとうちゃく、なんだど~☆」「う~~っ☆」 「ゆゆっ、なんだかゆっくりできないよ!……ゆ゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?な゛に゛ごれ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!?!?」 『いやだいやだいやいやいやいやいやいや……』 「ばな゛ぜぇ゛え゛え゛え゛え゛!!お゛う゛ぢがえ゛る゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛!!」 「うるさいんだど~☆まんま、はやく『おりょうり』しちゃうんだど~☆」「うーっ☆」 『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……』 「あがががが……」 「これであとはくちをふさぐだけなんだど~☆ゆっくりおいしくなるんだど~☆」「う~~~~っ♪」 「『い゛や゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!!!!』」 『お話しゆっくり 後編』 日の光が差し込まないよう、暗幕を幾重も重ねた薄暗い土蔵の中で、化け物まりさは目を覚ました。 酷く懐かしく、そして怖い夢を見た気がする。だがそんな些細なこと、まりさにはどうでも良かった。 なぜなら、まりさが置かれている状況の方が余程悪夢じみていたからである。 傷だらけだったお顔の皮は、水溶き小麦粉を何重にも塗られて必要以上に分厚くなっており、弱った餡子では動かす事すら出来ない。 お口や目玉を失った眼窩は抉り取った上でワンタンの皮で塞がれて跡形も無く、止めどなく涙を流す隻眼が無ければまるでのっぺらぼうだ。 天辺禿だった髪型が丸禿にグレードアップしており、『被検体六百六十六号』の焼き印がちょっとしたアクセントになっていた。 風呂敷のように広げられたあんよは数十本の釘で厚い板に固定され、更にその上からバーナーで炙られて最早ピクリとも動かない。 ぺにぺには切り落とされ、まむまむやしーしー穴、あにゃるに至るまで丹念に灼き塞がれている。もうすっきりーっ!はおろか、しーしーやうんうんも出来ないだろう。 失ったお口の代わりに、頭頂部に刺さったオレンジジュースの点滴がまりさの命を繋いでいた。必要最低限に調整されたそれは今もまりさを強制的に生かし続けている。 死にたいと思っても死ねない、文字通りの生き地獄。そして瞼を切り取られ、決して閉じないようにされたまりさの隻眼は、目の前の地獄をありありと映し出していた。 「さくやぁぁぁぁっ!ざぐや゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!」 「あがぢゃぁああああん!!うまれちゃだめなんだどぉおおおおお!!」 「ぼう゛や゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛がじゃ゛ん゛う゛み゛だぐな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「う゛ー!!う゛ー!!」 そこそこ広い土蔵の中を埋め尽くすかのように置かれていたのは、無数の金属で出来た檻。 本来猛犬などの凶暴な生物を閉じ込める筈のそれに収まっているのは、まりさの群れを全滅させたあのれみりゃ達だった。 「「「「「う゛~っ☆まんまぁ~☆ゆっく「はいはい回収回収っと」ゆ゛っ゛!?」」」」」 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!れ゛み゛ぃ゛の゛お゛ぢびぢゃ゛ん゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 檻の中でもがくれみりゃから伸びる茎、そこから実ゆが生まれ落ちると同時に白衣の人間に奪われる。 赤れみりゃは親へのご挨拶すら出来ないまま、何処かへと運ばれていく。 「うぁああ゛あ゛あ゛っ゛……お゛ぢびぢゃ゛ぁ゛ん゛…………せめて、ゆっくりしていくんだどぅ………」 以前のまりさなら、涙に暮れる今のれみりゃを見れば思いっきり嘲笑していただろう。しかしこの土蔵に繋がれてからは、そんな気は全て失せた。 あの恐ろしいれみりゃが成す術無く拘束され、強制的に孕まされた挙げ句生まれてきた子供達を奪われる。 抵抗らしい抵抗も出来ず、繰り返される悲劇に嘆くれみりゃ。その姿からはあの戦いでの迫力は微塵も感じられない。 まりさは心から恐怖した。あのれみりゃがここまで弱々しくなる程追い詰められた事に。それを為した、たった三人の『人間』に。 土蔵の扉が重々しい音と共に開かれる。と、同時に土蔵の中が騒がしくなった。 「さっさとまりささまをはなすんだぜくそどれい!いまならはんごろしでゆるしてやるんだぜ!!」 「れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ!だからじじいはあまあまよこしてね!!」 「まったくなんていなかものなのかしら!しゃざいとばいしょうにびけいのまりさをようきゅうするわ!んほぉおおおおおっ!!」 コンテナに詰め込まれ、口々に勝手な事を喚くのは土蔵の持ち主が経営する加工所から持ち込まれたゆっくりだった。 一斉駆除で捕まった野良、ゲスに堕ちた飼いゆ、加工所の生産ラインから撤去されたレイパー、様々な種類のゆっくり達が罵声を上げて喚き散らしている。 そしてまりさは、数刻の後にはその罵声が断末魔の悲鳴に変わる事をよく知っていた。 何故なら、彼女達はれみりゃの『食糧』兼『遊び道具』だったのだから。 コンテナは土蔵の真ん中まで運ばれると、乱暴に押し倒される。 横倒しになったコンテナから放り出されたゆっくり達は、文句を付ける為に顔を上げて、自分達を爛々と見つめる無数の視線と目が合った。 「「「「「「「「「「ゆ゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!れ゛み゛り゛ゃ゛だぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」」」」」」」」」 ゆっくり達の絶叫を合図に、同時に開け放たれるれみりゃの檻。胴付き、胴無しの区別無く、れみりゃ達は一斉にゆっくり達に襲い掛かった。 「やべでぇええ!!でいぶをだべないでぇええ!!ゆぎゃぁあああああああっ!!」 「ばでぃざがわるがっだでず!ぼうにんげんざんにばざがらいばぜん!!だがらばでぃざをだずげっ!!」 「どぼじでぇええ!!ありずはどがいばにあいじだだげよぉおおお!!ありずじにだぐなびゃっ!!」 動けないまりさを納めた檻の外で繰り広げられる地獄絵図。 ゆっくり達は必死で逃げ惑うが、全ての出口を閉ざされた土蔵の中では隠れる場所なぞ限られている。 「ここはれいむのばしょだよ!まりさたちはゆっくりれにりゃにたべられてね!!……ゆぎゃぁああああっ!!」 「へっへっへっ、まりささまをゆっくりさせないげすをせいっさいっしたんだぜ!これでたすかるんだじぇぇええ゛え゛え゛え゛っ゛!?どぼじででびりゃにみづがっでるのぉおお!!!!」 「……あんなにさわいでいたら、だれだってきづくんだどぅ~?」 僅かな隠れ場所を奪い合ってあちこちで醜い争いが起きるが、勝利者になった途端に騒ぎを聞きつけたれみりゃに齧られ、敗者の後を追う。 逃げ惑うゲスゆっくり、それを貪り、虐殺していくれみりゃ。まるで『あの夜』を再現したかのような光景に、まりさは全滅した己の群れを重ね合わせる。 『どうしてまりさをだましたの?』 『どうしてれいむをたすけてくれなかったの?』 『どうしてありすをみすてたの?』 『……どうして、まりさだけがいきのこってるの?』 断末魔の絶叫が、まりさを責め立てる声となって彼女を襲う。聞きたくなくても、塞ぐべき耳も手も持たないまりさにはそれを防ぐ手段は無い。 まりさの餡子が抱く妄想が死者の怨念となってまとわりつく。きっとこの声はまりさのゆん生が続く限り途絶える事は無いだろう。 (ごべんなざい……ごべんなざい……、うばれでぎで………ほんとうに、ごべんなざい…………!!) まりさには解っていた。この結末を招いたのは他ならぬ自分自身である事を。 人間の強さを知らなかった。ドス達の実力を見くびっていた。群れを指導する事無く放置した。沢山のゆっくり達を不幸にした。家族の思いを無駄にした。 何もかも、まりさが生まれてきてしまったのが原因である事を、彼女はようやく自覚したのだった。 (ごべんなざい……ほんとうにごべんなざい……だがら……だがら、ばでぃざをごろじでくだざい!!) 最早生きている事自体が苦痛だった。しかし、まりさに繋がれた点滴が送り出すオレンジジュースを決して飢えさせない。 『おたべなさい』をしようにも、口を無くした今となっては到底不可能。拘束された体は自殺すら許さなかった。 最後にまりさに残されたのは、『ゆっくりをうしなったゆっくりはしぬ』という希望だけ。 この生き地獄にゆっくりなぞ一欠片もありはしない。まりさはただ、己がゆっくり出来なくなるその日を待ち続けた。 「おい、午前の餌やり終わったぞ」 「はい、ご苦労様です。五月蝿かったでしょう?」 「そりゃそうさ。何しろ、俺の加工所に持ち込まれた生え抜きのゲスばかり取り揃えたからな。 あいつら、数は多いくせに品質がいまいちだから加工には向いていないし、丁度良い処分方法を思い付いたもんだぜ」 「無駄が無くて良いじゃありませんか。エコロジーですよ」 「……そういや、何で生き餌に切り替えたんだ?前みたいに餡子ペーストにしてからチューブで流し込めば、いちいちこんな事しなくて済んだんじゃねぇか?」 「あれ、話してませんでしたか?ほら、以前ここから脱走した胴無しがいたでしょう?あれの再発を防ぐ為ですよ。 完全拘束しての出産は効率は良いんですけど、母体に掛かるストレスが半端じゃないんです。拘束を止めて檻に放り込むだけにして、生き餌でストレスを発散させてるんです。 こないだのゲス迎撃以降、出産効率が上がったんで試しに導入してみたんですが、お陰で拘束していた頃より有望な個体が生まれるようになってますよ」 「ふぅん……、そうそう、ゲスと言えばあのまりさ、何で生かしておくんだ?しかもあの土蔵に拘束なんかしてまで?」 「あれですか?あれも実験の一環ですよ。『ゆっくりの耐用年数を伸ばす』為のね」 「耐用年数?寿命の事か?確か、ゆっくりの平均寿命って五年くらいだろ?」 「まあ、平均はそれくらいですが、飼いゆっくりの中には十年近く生きた事例もありますし、ドスに至っては五十年以上生きたって記録もあります。 ……いずれも相当『ゆっくり』していたようですが、この研究の目的には合わないんですよ」 「合わない?……ああ、そうか。労働力として使うなら、『ゆっくり』なんてさせらんないわな」 「そこで、敢えてゆっくり出来ない状況に追い込んだ上でどれだけ長く生かしておく事が出来るのか、それをあのまりさで試してみようってことになりまして」 「……前々から思ってたけどよ、虐待派の俺の方がゆっくりに優しく思えるのは人間としてどうなんだ?」 「失礼ですね、女性に向かって言う台詞じゃないですよ?」 「……今更だろうが。むしろ籍まで入れといて未だに他人行儀なお前の方が失礼だっての」 「それこそ今更でしょう。さて、研究に戻りましょうか。……本当はあのドスを調べてみたいんですが」 「止めとけ止めとけ、あのドスと群れはあいつの保護下にあるんだぞ?名目上は『野良』でも実質『飼いゆ』扱いだし、あの群れ村民に人気あるしな」 「まあ、いいでしょう。流石にあんな善良で優秀な群れをどうこうする程、私も鬼じゃありませんよ」 「……説得力無ぇな……」 「何か言いましたか?」 「いや別に」 山と、その麓に広がる森が霞んで見える農村の一角。 ドスまりさは古びた毛布をしっかり体に巻き付け、その上から大量の藁を被って溜め息を吐く。 今日はやたら冷え込む。雲行きも怪しかったし、もしかしたら雪になるのかも知れない。 ドスに割り当てられた『おうち』兼、ゆっくり達の『集会所』は、トラクターやコンバインのガレージをベニヤ板で仕切った簡素なもの。 しかし、三メートルに届こうかと言うドスの住まいとしてはこれ以上無い良物件だった。 ここを貸してくれた人間さんの厚意で藁や毛布が大量に用意され、餡子が凍るような寒い夜でもこうしてぬくぬくと過ごしていられる。 群れのゆっくり達も、それぞれのお家で今までに無い快適な冬を過ごしている筈だ。 ゆっくりの身では到底為し得ない業を、ごく簡単に実現させてしまう人間の力には感嘆するばかりだ。ドスは自身の判断が間違っていない事を確信していた。 『お前らが人間のルールを守ってゆっくりするんだったら、住む所を分けてやっても良い。人間の手伝いをするなら、食べ物も分けてやろう。 その代わり、人間に迷惑かけたらお前ら全員加工所に引き渡す。加工所で散々苦しみ抜いて死ぬか、人間の役に立つか、それともこのままのたれ死ぬか、好きなのを選べ』 あの日、あの森で出会った『おにーさん』の提示した条件に、ドスと群れは首を縦に振った。 加工所云々は解らなかったが、きっと悪いゆっくりをゆっくりさせない場所なのだろう。それなら問題は無い。 ドスの群れは森中に名を轟かす程優秀なゆっくりで構成されている。人間さんの掟を知る為の時間は必要だろうが、決してゲスに堕ちたりはしないとドスは確信していた。 そうして連れてこられた人間さんの村は、ドス達からすれば奇跡としか思えない世界だった。 大きくて広いお家が幾つも建ち並び、美味しそうなお野菜が列をなして生え、巨大なスィーが幾つも行き交う。 そしてそれら全てが人間さんの手で作られていたという事実に、ゆっくり達の常識は容易く覆された。 それからは正しく怒濤の日々。 人間さんのルールは複雑で覚えにくく、罰則は途轍も無く厳しい。ゆっくり向けに簡略化されたルールでさえ、群れ全員が理解するまで三日掛かった位だ。 ドスのお家は『おにーさん』のガレージを借りる事で決着がついたが、五十を割るとはいえ大量のゆっくりを住まわせるにはお家が足りない。 最初は『おにーさん』のお家の床下を借りていたが、すきま風が素通りする床下は冬籠りには適していなかった。 何より、人間さんはゆっくりを嫌ったままだ。聞けば、かつてゆっくりの群れに襲われて以来、ゆっくり嫌いの人間さんが増えてしまったと言う。 ドスまりさと群れのゆっくり達は心から謝罪した。村長と、村の重役達と、群れに憎々しげな目を向ける村民達に、お飾りを脱いで顔を地面に擦り付けんばかりの土下座をして。 『自分達の同属が迷惑を掛けた』、『自分達は人間さんと仲良くなりたくてここに来た』、『同属が迷惑掛けた分、自分達の出来る限り賠償を払う』、『だからここに住まわせて欲しい』……。 仲立ちしてくれた『おにーさん』が身元引き受け人として名乗り出てくれたお陰で、ドス達はどうにか村の外れにお家を造る許可を得た。 冬はすぐそこまで来ている。もうなりふり構っていられない。ドス達はひたすら人間さんの信用を得る為に必死に働いた。 畑仕事の補助を筆頭に、お庭の雑草むしりから村中のお掃除に至るまで。意地悪な人間さんも居るには居たが、誠実で身の程を弁えたドス達は概ね好意的に受け入れられた。 それでも完全に打ち解けるには二ヶ月の時間が必要だった。もうその頃には『人間と暮らすドス』の噂はかなり広まっていた。 そして本格的な冬籠りの準備に入ろうとしていた矢先、噂を聞きつけたゆっくり達が群れに入れて欲しいと現れたのである。 最初はドスも村人も渋ったが、ゆっくり達のリーダーだったまりさがもたらした情報が事態を急変させた。 『おやまのふもとのもりが、ゆっくりできないゆっくりたちにのっとられているんだぜ!!もりのたべものもほとんどたべちゃっていたから、ここにもくるかもしれないんだぜ!!』 この情報を受け、村でゆっくりの研究をしていた村人三人に、ドス達の身元引き受け人だった『おにーさん』を含めた『ゲス対策委員会』が発足。 ゲスを殲滅せんと息巻く『彼ら』に、ドスは一つの提案をする。 『ゆっくりの事は、ゆっくりに任せて欲しいよ。まりさ達が、ゲス達を制裁するよ!』 その言葉に『負けたら加工所行き!』という条件で許可を出した委員会。そしてドス達はある『作戦』を提案した。 スパイとしてちぇんを送り込み、ゆっくりでも扱える武器を調達し、それぞれの種属の長所を生かして遅滞戦闘を仕掛け、投光器により時間を誤認させて、れみりゃの大群で敵を殲滅する。 余りに過激な案に反対意見も出されたが、ゆっくり達はこの案を全会一致で可決。委員会の面々もそれを了承し、バックアップに専念した。 かくして『作戦』は実行され………二千二百十一匹のゲスはこの世を去り、森と村には平穏が訪れたのである。 しかし、ドスまりさには平穏は訪れなかった。 ドスは最近よく眠れない。顔色も悪いので、群れの皆や人間さんにも心配されているが「何でもないよ、大丈夫」と誤魔化している。 「本当に大丈夫か?その顔色はただ事じゃないぞ?」 「大丈夫だよ。ちょっと最近寝不足なだけだから、すーやすーやすれば平気だよ!」 家主である『おにーさん』にもそう説明している。嘘ではない。嘘ではなかったが、全く平気ではなかった。 毛布と寝藁に包まって、ドスはうとうととし始める。意識が朦朧として視界が暗闇に覆われる寸前、ドスの耳に凄まじい絶叫が届く。 『ゆぎゃぁああああああああっ!!でいぶじにだぐないぃいいいいい!!』 『ごべんなざぃいいいいい!!ばでぃざがわるがったのならあやばりまずがらぁああ!!ごろざないでぇえええ!!』 『ありずばいながものでずぅううう!!だがらゆるじでぇええええ!!ゆんやぁああああっ!!』 無数のゆっくりで埋め尽くされた大地。それを轢き潰しながらドスに向かって進んでくるのは、薄笑いを浮かべた人間さんが乗ったトラクターだ。 助命の嘆願も空しく、ゆっくり達ごと耕された地面から無数のお野菜が生えてくる。美味しそうに実ったそれは、ゆっくり達の命を啜って育ち、死臭を放つ呪われしもの。 いつの間にか目前にまで迫ったトラクターの運転手の顔を確認した瞬間、ドスの餡子は戦慄する。 そこにいたのは、邪悪な笑みを浮かべた『おにーさん』だったのだから。 「ゆぎゃぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!…………ゆ゛っ゛!?……ゆぅうう……また、この夢……」 魂消るような絶叫を上げてドスが飛び起きる。怯えた眼で周囲を見渡し、そこが薄暗いガレージであることを確認した彼女は安心と落胆が混ざり合った複雑な表情で溜め息を漏らす。 あの『作戦』以降、ドスはこうして夜毎に現れる悪夢に悩まされていた。 潰されて逝くゆっくりの顔ぶれはまちまちで、あのゲスの群れだったこともあれば、あるいはドス達の親であったり、ドスの群れのゆっくりだった事もある。 殺される方法も毎回違い、ある時は燃やされて残った灰を肥料として畑に撒かれ、ある時はお家にしていた木ごと伐採されて人間さんのお家にされ、ある時は八つ当たりの対象としてゴミのように潰された。 それを為す人間さんも様々で、『おにーさん』や委員会の面々、村長や村の重役、懇意にしている村人、果ては全く知らない人間に至るまで、沢山の人々が入れ替わり立ち代わりゆっくり達を責め立てる。 殺されるゆっくり、殺され方、殺す面子。 いずれも全くバラバラだが、すべてに共通しているのは『ゆっくりが人間さんの為に殺される』ことだった。 人間さんと暮らすようになって、ドスは一つの結論に達した。 化け物まりさにも語った『人間さんは自分達のゆっくりプレイスを荒らすものには容赦しない』という結論に。 人間さんがこのゆっくりプレイスを一から作り上げるのにどれほど掛かったか、どれほど努力したのかは十分過ぎるほど聞かされたし、その目でも見た。 だが、人間さんが言いにくそうにしていたことや、なるべく見せまいとしようとするものも見てしまった。 毎日土蔵に運び込まれる沢山のゲスゆっくり、かつて自分達の親を葬り去った凶悪な罠、田畑を荒らす害獣への容赦ない対応………。 ドスの聡明な餡子がその結論をはじき出すのは必然であった。 ドスは今の群れにはゲスはいないと確信している。だから人間さんも群れを受け入れてくれた。 しかし、次の世代はどうだろう。調子に乗りやすいゆっくりのこと、生まれたときから人間さんの保護を受けていたら『それが当然』と思ってしまっても不思議じゃない。 そうしたらどうなるのか?決まっている、人間さんを見下して高圧的に接し、人間さんの不興を買って群れごと滅ぼされるのがオチだ。 だからドスは群れのお家を作る許可を得るだけに留めた。お家自体は自分達で作る、それも木のうろや洞窟を利用したものではなく、人間さんのように一から作ることにして。 必要な資材や器具は人間さんから借り受け、使ったら賃貸料として人間さんにとって価値のあるものと一緒に返す。 使い古しのタオルや越冬用の食料の不足分など、あれば便利なものは労働報酬として獲得する。 人間さんの影響を完全に排除するのではなく、なるべく対等に近い条件で協力を得て、人間さんの脅威や実力を群れに刻み込もうと言う、ドス渾身の政策であった。 ドスが必死に考えたアイデアは上手くいき、胸を撫で下ろしたのも束の間。 新たな問題が浮上した。 『山の向こうから来た群れの受け入れ』と、『化け物まりさ来襲の可能性』。 如何に善良で優秀な群れであっても、それはゆっくり基準でのこと。ドスの群れのように、人間さんとの共存を前提に置くゆっくりとはかけ離れている。 その上、あの丘から自分達を追い出した化け物まりさの群れとこの村が交戦でもした日には、これまでのドス達の努力が無になってしまう。 ただでさえ厄介な問題が同時に起こった非常事態に、頭を抱え込むドスの耳元に……… 悪魔が、囁いた。 『ゆっくり達でゲスを殲滅して、人間さんに役に立つことをアピールすると共に、新入り達を従軍させて人間に逆らうゆっくりの末路を見せつけ、洗脳する』 普段のドスなら決して執らないであろう苛烈な『作戦』は、こうして始まったのだった。 『作戦』は見事に成功し、新入りや群れのタカ派に『にんげんこわい』の思想が植えつけられた。 だが、その為に化け物まりさの群れを生贄に差し出したドスの心中には鋭い棘が刺さったまま。 そしてその棘は夜毎に痛み出してドスを苦しめる。それはドスが生きている限り続くだろう。 あの時、人間の手を取ったことに後悔はない。人間とゆっくりの理想郷建設と言うドスの夢は、現在進行形で叶いつつある。 それでも、ドスは思ってしまうのだ。 あの丘で皆と試行錯誤しながら、自分達のゆっくりプレイスを作ろうとして一生懸命だったあの頃が一番ゆっくりしていた、と。 食べ物はある。立派なお家もある。飢えて死ぬゆっくりも、凍えて死ぬゆっくりも、この冬には出ないだろう。 けれども今のドス達は人間さんの顔色を伺う奴隷そのもの。群れの皆はドスの思考誘導もあってそんな風には見ていない。 それでも十年後、百年後、あるいは千年後、その事実に気づいたゆっくりが群れを率いて人間さんに反旗を翻す。そんな可能性は残っているのだ。 そこまで考えて、ふとドスは気付いた。 (……もしかして、最初に嘘を付いたゆっくりも、そうだったのかな……?) あのお話でゆっくり達に嘘を吹き込み、人間さんと殺し合うほどの仲違いをさせてしまった嘘吐きゆっくり。 もしも、その嘘がドスの考えた通りだったのなら……? 慌てて浮かびかけた最悪の妄想を振り払う。 (違う……違うよ。絶対、違うよ!!まりさ達は間違ってない!間違ってないんだ!!) 心の内に生まれた疑いは澱のようにドスの餡子で澱んでいる。 それが晴れることは二度と無い。ドスはそんな予感を漠然と感じていた。 ドスは気付いていない。 ドスの心に棘を突き刺した化け物まりさが、かつて自分達が所属していた群れを創設したぱちゅりーが残した罠の一つであることに。 ドスは気付いていない。 ドス達の存在がそのぱちゅりーの想定外であり、残された罠の悉くが不発に終わってしまったことに。 初代の長であったぱちゅりーは、全てのゆっくりを憎んでいた。そして己の死後、ゆっくり達が自滅に向かうように様々な罠を残した。 あの無能な三代目ぱちゅりーもその一つだった。 自身の存命中に長への依存を植え付けた群れと、プライドばかりを極端に大きくしたゲス。 根拠の無い自信に振り回される群れが崩壊したとき、残された群れのゆっくり達は新たなゆっくりプレイスを求めて四散する筈だ。 丘の群れの名声もかなり広めてある。理想郷からやって来たゆっくりなら、きっと自分達をゆっくりさせるに違いないと、そう考える群れも沢山あるだろう。 事実、ぱちゅりーの執った政策は厳しくはあってもゆっくり出来るものであった。それを真似れば、ある程度はゆっくり出来る筈だ。 だが、ゆっくりは調子に乗りやすい。感謝することも知らず、際限なく欲望を膨らませていく彼女達を抑え続けることはとても難しい。 ぱちゅりーはそれを抑える方法を知っていた。かつて飼い主に教わった『無知の知』、即ち自分自身の身の程を知ることである。 だからぱちゅりーはそれを教えなかった。養子であり、後継者だった娘にすら伝えなかった。 身の程を知らない群れのゆっくり達は、それぞれ迎え入れられた群れでぱちゅりーの政策を真似るだろう。そしてある程度の成功の後に……自滅するのだ。 そして同様のことが繰り返される。徐々にそれは広まっていき、やがて全てのゆっくりが自滅への道を辿り、ゆっくりと滅んでいく。 それがぱちゅりーの計画だった。 ぱちゅりーはこの計画に絶対の自信を持っていたが、保険として細かい罠を幾つか仕掛けていた。 群れで問題を起こしたゲスゆっくりの片目を潰して追放するのもその一つだった。 ゲスとは自分勝手なゆっくりだ。悪いことをしても全く反省しない。『自分のゆっくりを邪魔する方が悪い』、そう考えるのだ。 追放する際、片目を奪うのはぱちゅりーの群れを逆恨みし続けてもらうためだ。ゲスは『片目を奪われるほど自分が悪かった』とは考えない。 むしろ片目を奪ったぱちゅりー達を怨み続けるだろう。それはゆっくり特有の『自分に都合の良いように記憶を改ざんする』特性によってより大きな怨恨となって餡子に残る。 それは餡統が続く限り餡子のどこかに残り、子々孫々に至るまでゲス気質が受け継がれていく。そしてゲスは、いつか見当違いの怨みによってゆっくりをゆっくりさせなくする筈だ。 しかしこの案はアラが多い。かなりの部分を偶然や低確率で起こる現象に頼っており、計画性はほぼ皆無。 ぱちゅりーとてそれは重々承知しており、念の為に実行していたに過ぎない。 だが結果として、この穴だらけの計画こそが一番成功に近づいていたのだ。 化け物まりさの親が受け継いだゲス気質、それは未熟ゆだった彼女に隔世遺伝され、甘やかされた環境がそれを修正不可能なところにまで育てた。 そして幾つかの悪運が重なり、化け物まりさは森のゆっくりを全滅させる復讐を果たしたのだ。本人すら気が付かないうちに。 ぱちゅりーの唯一の誤算、それがドスまりさの存在だった。 ぱちゅりーの計画は全て『ゆっくりは自分の身をわきまえない』ことを前提としている。 だから洞察力に優れ、不断の努力を惜しまないドスと、向上心に溢れる群れの存在は完全に想定外だった。 ぱちゅりーの計画は、三代目の暴走まで完璧に進んでいた。しかしドスまりさ達のクーデターが全てを覆した。 保険のつもりだったゲス追放計画が軌道修正の役目を果たしたのは予測の範囲内かも知れない。だが、その後の展開は予言者ならぬぱちゅりーには予想すら出来なかった。 『人間との共存』。 ドスまりさの掲げた理想は、全くの無自覚の内にぱちゅりーの計画を根底から叩き潰してしまった。最早ぱちゅりーの復讐は叶う事は無い。 その代わり、ドスまりさは自分の理想が持つ矛盾に気付かされ、練獄の苦痛に堕とされたのだ。 人間の世界からゆっくりの世界を見た為に憎悪に身を焦がしたぱちゅりー。 ゆっくりの世界から人間の世界に飛び込んだ為に終わり無き苦しみに苛まれるドスまりさ。 生まれも、育ちも、思惑も理想も何もかもが対極にある二人のゆん生。 もしも出会っていたのなら、お互いのゆん生は大きく形を変えていた筈だ。 ぱちゅりーはゆっくりに絶望しなかっただろうし、まりさは理想と現実の狭間で苦しまずに済んだだろう。 でも、起きてしまった事は覆せない。過ぎてしまった過去は変えられない。 ぱちゅりーの復讐は終わってしまった。ドスはこれからも苦しみ続けるだろう。 誰の願いも叶わない結果。ほんの少しのすれ違いが招いた、悲劇の結末だった。 ……起きてるか?まりさ。 ……おう、ゆっくりしていけ。 明けましておめでとう。ほら、新年の祝いだ。お年玉代わりと言っちゃあ何だが、受け取ってくれ。 ……ん?これか?餅だよ。米を蒸して臼で搗いて伸ばしたものだ。まぶしてあるのはきな粉だよ。 ……え?『何でお餅をくれるの?』って、ああそうか、お前らには正月ってのが無いんだったな。 俺たちと違って春夏秋冬だけで済むんだ、単純でうらやましいよお前らが。 ……人間は今日から新しい一年が始まるんだ。正月って言ってな、餅やおせちを食べて祝うんだよ。 あとは……そう、お年玉って言うのはお祝いとして子供達に渡すお小遣いでな、正月にはこれ目当てで親戚の子供達が集まって来るんだ。賑やかだぞ。 お前達にはお小遣い渡しても使えないからな、代わりに餅を持ってきたんだ。 群れの連中の分もあるから、冷めないうちにお前さんから渡してやれ。 ……お前、なんか悩んでるだろ? ……いや、大丈夫じゃないだろ、俺にまで誤摩化さなくても良いぞ。 あのゲス退治以降、お前さんの様子が変だったからな。具合が悪いのかと思ったけど、夜中に悲鳴上げてたりしてたし、何か思い詰めているみたいだったし。 ……結構バレバレだったぞ?まあ他の連中も此処にゃ居ないし、話し相手位にならなってやるよ。 ……『このままじゃ、ゆっくり出来なくなるかも知れない』?何だそれ? ……ああ、そうか。お前、群れの奴らがゆっくりっぽくなくなってくのが怖いのか。確かにあれじゃ、飼いゆって言うより奴隷っぽいもんな。 ……何?『何で解るの?』? ……昔な、この村に来る前にゆっくりと暮らした事があったんだよ。短い間だったけどな。 ちょっと訳ありの奴らでな、普通のゆっくりには馴染めなかったんだ。 そいつも言っていたのさ。『自分達は普通のゆっくりじゃない』って。実際、普通のゆっくり達から迫害されていたよ。 ……でもな、そいつらは見も知らない『普通のゆっくり』達の為に戦って死んじまった。 ……そいつが言っていたんだ。 俺とそいつには餡子のつながりは無かった。でも俺たちは家族になれた。だから知らないゆっくり達でもいつか家族になれるかも知れない。だから戦うんだ、ってな。 ……お前が感じてる悩みがどれくらい深いのか、俺には解らねえよ。 人間とゆっくりは違う。生き方も、考え方も、何もかもが、な。 ……でも、人間とゆっくりでも家族に位なれるんだ。 今は無理でも少しずつ少しずつ、文字通り『ゆっくり』解り合えれば、いつかきっとその時が来る筈だ。 ……だから、お互い解り合おうぜ。とりあえず、この餅を肴に今夜は語り明かそう。秘蔵の酒も開けてやる。 冬の夜は長いからな。『ゆっくり』解り合おうぜ。 ……ああ、『ゆっくりしていってね!』! 山の裾野に広がる森が新緑に包まれる初夏の午後。 かつて化け物まりさの軍勢に捕われていた奴隷れいむは、娘を連れて村のブリーダー主導の『おうた』の練習に向かっていた。 人間さんの『おうた』はゆっくり出来ない上にとても難しいが、一生懸命練習した『おうた』を聞いて喜んでくれる人間さんを見るのはとてもゆっくり出来るので、嫌ではなかった。 あの戦いで生き残った奴隷はれいむ只一人。他の奴隷は化け物まりさの軍勢に盾にされた上で潰されたと言う。 冬籠りの間、群れの掟を必死で学び、『がっこう』の卒業資格を与えられたれいむは、あの罠で出会ったまりさと番になった。 春には二人の子供も授かり、彼女は今までのゆん生の中で一番ゆっくりした時間を手に入れていた。 「「ゆ~♪ゆ~♪」」 「だめだよ、おちびちゃん。ちゃんとぶりーだーのおねーさんのところでれんしゅうしないと、にんげんさんのめいわくになっちゃうからね」 「ゆっ!ごめんにゃしゃい、おきゃーしゃん!」「れいみゅ、にんげんしゃんのじゃましにゃいよ!」 道すがら、大声で歌いだした娘達を注意する。生まれて半月程のれいむとまりさの姉妹は素直に謝って反省する。 聞き分けの良い、出来のいい子供達だ。ここがかつての長が目指した『どすのむれ』なら当然なのかも知れない。 ドスかられいむ達の長の話を聞いた時、れいむはひっくり返るくらいに驚いた。と、同時に納得もした。 ドスの群れは皆優秀で、奴隷だったれいむの傷を治してくれたばかりか、本来『がっこう』に入学しないと貰えない卒業資格を貰うチャンスまでくれた。 その期待に見事応えたれいむは晴れて群れの一員になり、『おうた』の上手さを見込まれて『ゆっくり楽団』へスカウトされた。 『ゆっくり楽団』は人間さんに人間さんの『おうた』を披露し、ゆっくりしてもらう事を目的とした集団で、ここに属するのは『おうた』の得意なれいむ種共通の夢である。 そんな超エリート集団に余所者だったれいむをスカウトしたばかりか、誰一人嫉妬もせずに祝福してくれたのだ。 実力のあるものが相応の役目に就くのが当然という群れの気質に、れいむは何故長がこの群れを目指したのかを理解した。 「おねーさん、ゆっくりおじゃまします!」「「おじゃましましゅ!!」」 「いらっしゃい。今おやつを作ってるから、練習まで皆と遊んでいてね」 ブリーダーのお姉さんのお家は広く、いろんな種類のゆっくりが居る。 何でも特別優秀なゆっくりだけがなれると言う『飼いゆっくり』になる為の勉強をしているのだそうだ。 「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」」」」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 お姉さんのお家に入れるのは『ゆっくり楽団』のメンバーだけだが、『がっこう』に入学する前の子供が居る場合は同伴が認められている。 『がっこう』は全寮制で、三日に一度のお休み以外は帰って来れない。だから入学前の子供達と出来るだけ一緒に過ごせるように配慮した結果だった。 「ゆっ!ぱちゅりー、きょのおはなおにゃまえ、わきゃる?」 「むきゅ、これはつつじさんね!」 「めーりんのおぼうち、まりしゃよりかっこいいんだじぇ!」 「じゃおおおん!」 娘達にとっても、様々なゆっくりと仲良くなれる此処に来るのは楽しみのようで、今ではすっかり友達になってしまった。 ゆっくり特有の偏見を持たないドスの群れの子供と触れ合う事で、お姉さんの教育も順調に進んでいるらしい。なんだか我が事のように誇らしく、れいむは嬉しかった。 (おさもゆっくりできたみたいだし、もうだいじょうぶだよね!) 冬籠りが始まるまで、ドスの様子がおかしかったのは群れの全ゆっくりが気付いていた。尤も、その原因までは解らなかったのだが。 最近はそこまで思い詰めた様子は無い。きっと疲れていたんだろうというのがもっぱらの噂であった。 ドスがゆっくりする為には、れいむ達がドスの夢である『りそうきょう』を作らなければならない。その為には仲良くする事が一番だ。 目の前の微笑ましい光景が、全てのゆっくりと人間との間で繰り広げられれば、ドスもきっとゆっくり出来るに違いない。 だかられいむ達も頑張ろう。れいむは心の底からそう思う。 我が子と飼いゆ候補の子供達が遊ぶ姿を笑顔で見守るれいむの元に、数人の子供達が集まってくる。 「れいむおねーさん、あのおはなしして!」 「まりさもききたいよ!おねがい、れいむおねーさん!」 「べ、べつにありすはききたくないわ!……でも、どうしてもっていうんならきいてあげてもよくってよ!」 時々、れいむは子供達にお話しを聞かせてやる事がある。 それは冬の間、何度も聞かされたお話しで、れいむ自身も気に入っていたお話しだった。 「わかったよ!おはなししてあげる!」 「「「「「ゆわ~い!!」」」」」 それは遥か昔、一匹の嘘つきゆっくりの所為で仲違いしてしまった人間とゆっくりのお話し。 ほんの少しのすれ違いから始まった仲違いを終わらせた奇跡の物語。 期待に輝く子供達の笑顔を見渡し、れいむは語り始めた。 「むかしむかし、れいむのおかあさんのおかあさんの、そのまたおかあさんがうまれるよりもずっとむかしのことだよ……」 ※おっしゃぁあああ!!The・ENDぉおおおおおっ!! ……失礼しました。 大変長らくお待たせいたしました。ゆっくり興亡史の最終話をお届けします。 物語の時間軸としては、このお話が一番最後となっています。 今後はこのお話以前のエピソードを番外編としてお贈りする形になると思います。 よろしければ、この群れの興亡史にもう少しお付き合いしていただけると嬉しいです。 最後までお読みいただき、有り難うございました!!! 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 274 嘘つきゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 277 騙されゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 301 勘違いゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 314 仕返しゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 410 お尋ねゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 557 捕まりゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 613 激辛れいむと珈琲ありす 前編 ふたば系ゆっくりいじめ 681 激辛れいむと珈琲ありす 後編 一言あきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 良かったよ~ -- 2013-07-09 23 55 44 面白かったです。初代ぱちぇ、嘘つきれいむ、ドスまりさ……物語を紡ぐゆっくりの誰かが欠けた時点でこの奇跡は起こり得なかったでしょうね -- 2012-12-03 19 12 43 超大作ですね それぞれの考えを持って苦悩するゆっくりの描写がとても面白かったです -- 2012-07-25 09 55 03 嘘つきゆっくりから最後まで一気に読んでしまった。面白かったです -- 2012-07-07 03 04 42 お兄さんは激辛と珈琲のお兄さんだったのかな…… これくらいの共存スタイルは素晴らしいと思った -- 2012-06-25 10 24 19 ただ虐待するだけじゃなくて意思持った生き物という視点から描いた作品の方が長く心に残る ガンバの冒険とか銀河とかサバイビーとか好きなんだよね ゆっくりできたよ、ありがとう -- 2012-02-15 05 16 23 面白かったです、ほとんどの話がリンクしていて読みやすかった です -- 2011-10-14 01 23 23 うん。よかったよ~。ありがとう。 -- 2011-01-12 02 58 11 愛でなんてのは反吐が出るほど嫌いだが、これくらいならなかなか楽しめるな。 -- 2010-11-28 12 57 10 長い物語だったな…お疲れ様。楽しめました~! ドス達と人間の共存の風景が脳裏に浮かびました… -- 2010-10-09 19 39 00 ヒャッハー!たまにはこういうのも良いもんだぜ! -- 2010-09-03 00 23 50 なかなかに面白かったな 饅頭と共存なんて真っ平だが、このくらいまでいい奴ならそれもやぶさかじゃあないな -- 2010-07-29 19 06 57 良い出来ですね。とても面白かったです。 ↓純粋虐待原理主義者はほっとけ。 -- 2010-07-23 09 51 48 GOODEND 面白かったです、ドスもいつかは安心して眠れるようになれると良いな そして↓気持ちは分かるがスルーしておけ -- 2010-07-22 23 27 22 ↓君以外の全人類の死を願うとかスケールデカ過ぎワロタ 一人で誰にも迷惑かけずに自殺するべきだねー、わかるよー とってもゆっくり出来る素晴らしい物語でした、ありがとう -- 2010-07-22 20 57 58 まりさをかばう人間もまりさも死ねばいい -- 2010-07-19 21 52 35 素晴らしい作品ですね。本にして出版してほしいくらいです。 -- 2010-06-28 12 19 14 最高でした! -- 2010-05-27 19 31 14 いい作品だった! -- 2010-05-25 06 51 17 んほおおおおお!!!激辛れいむの人だったのねえええ!!!どうりでゆっくりできるわけだわあああああああ!!! -- 2010-05-21 22 52 40
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『顔なしゆっくり』 4KB いじめ 小ネタ いつもの小ネタです。ちょっと短いです。 コンビにまで向かう道のりの途中で、変なものを見つけた。 こぶし大ほどの肌色の塊が、道端でブルブルと震えていた。 どこにでも居るただの野良ゆっくり。 帽子は無くしている様だったが、金色の髪の毛から、「まりさ」と言う種類のゆっくりだという事がわかった。 例え小さくても、ゆっくりは鬱陶しい上に面倒の種だ。 私は小さなゆっくりから少し距離をとり、気が付かない振りをして歩き出した。 そしてある程度距離をとってから振り返ってみて驚愕した。 その小さなゆっくりには顔が無かったのだ。 正確には本来顔がある部分から、真っ黒な物が露出しているのだ。 おそらく顔が削れて、中身の餡子が露出しているのだろう。 それでも死んではいないらしく、片側だけについているお下げをブンブンと振り回し、グネグネと体をくねらせている。 ゆっくりと言うのは、何をするにも一挙一動自分のする事を口に出す五月蝿い生き物だ。 大きさの大小に関わらず、無駄に自己主張の強いやつらなのだ。 だからこのゆっくりは、無駄に動いている割にはずいぶん大人しいとは思っていたのだが、まさか顔が無くて喋れないとは思わなかった。 ただ汚いだけでゴキブリ饅頭と呼ばれているのかと思ったが、生命力も大した物だ。 お陰で私も少しゆっくりと言うものに興味が出たので、その辺りにいないかと少し探してみる事にした。 だが探してみると意外といないもので、少し遠回りして公園に行ってみる事にした。 「ゆっびぃぃぃ!いだいぃぃぃぃ!おがおがげずれぶぅぅぅぅぅ?!」 公園についた途端に、早速元気なゆっくりの声が聞こえてきた。 見たところ、小学生くらいの子供達に捕まって玩具にされているらしい。 少し離れたところからその様子を伺っていると、どうやら成体のゆっくりの顔を地面に押し当てているようだ。 「やべえぇぇぇぇ?!げずでぶぅぅぅぅ!でいぶのおがぼがぁぁぁぁぁぁ!!」 揉み上げをワサワサと振り回しながら、必死に抵抗しているのだと思われるゆっくりのそばには、小さな顔なしゆっくりが数匹見える。 どれも体を小刻みにウネウネと震わせながら、揉み上げやお下げをブンブンと振り回している。 どうやら先程見た顔なしゆっくりは、彼等の仕業のようだ。 彼らがゆっくりの顔だけ削って、その辺りに放置しているようだ。 「ゆびぇぇぇぇ!まりちゃ、ゆっくちにげるのじぇー!ゆびゃぁぁぁぁぁ!!」 そんな彼等から逃れようと、一匹の小さなゆっくりが尻をものすごい勢いで振り、こちらに向かって這いずってくる。 だが振っている尻の速度は速いものの、その歩みはかなり鈍い。 ただ、子供達は手元の大きなゆっくりに夢中らしく、このゆっくりの逃亡には気がついていないようだ。 そんな幸運も幸いして、小さなゆっくりは子供達から大分離れた所まで這いずってくる事が出来た。 「ゆひー…ゆひー…ここまでくれば、あんぜんなのじぇ!…あのくじゅおやは、いだいなまりちゃのために、みずからぎせーになったのじぇ!ゆっぷっぷ!」 ニンマリといやらしく笑い、得意そうに仰け反る小さなゆっくり。 だが一難去ってまた一難とは今みたいな状況を言うのだろう。 私は満面の笑みを浮かべる小さなゆっくりを、顔が地面に付くように踏みつけると、その状態を保ったまますり足で公園の入り口まで移動した。 「じゅばぁぁぁ?!じょべげばばぁぁぁ?!やじゃべべげべばばばぁぁぁ!!げじゃばびぃ………び…ぎび………」 私は小さなゆっくりを潰してしまわないように力を加減しながら、しばらくすり足で移動していたのだが、急にゆっくりの声が聞こえなくなった。 よく足元を見てみると、小さなゆっくりは痙攣するかのようにブルブルと震えながら、お下げをブンブンと振り回していた。 私は慌てて小さなゆっくりから足をどけ、軽く蹴って小さなゆっくりをひっくり返してみた。 そこにはあの憎らしい顔はどこにも無く、削れた皮から真っ黒な中身が露出しているだけだった。 私の歩いた後には、餡子と得体の知れない液体の痕が1mほど続いていた。 少々削りすぎてしまったのだろうか。 私は再び、軽くゆっくりを蹴ってみる事にした。 蹴られたゆっくりは一瞬ビクッっと大きく身を仰け反らすと、再びガタガタと震えだした。 こんな状態になってはいるが、やはりまだ生きているらしい。 私は足で寝転んでいるゆっくりを起き上がらせると、小さな声で囁いてみた。 ゆっくりしていってね! 小さなゆっくりは震えていた体を一瞬だけ止めると、何故か体を仰け反らせて固まった。 だがしばらくすると再びお下げをブンブンと振り回し、ガタガタと体を振るわせ始めた。 あんな状態になっても、お決まりの言葉には反応するのだと、私は少し感心すると同時に思わず笑ってしまった。 おかげで私は、ゆっくりは痛みに弱くすぐ死んでしまうという考え方を改めてる事になった。 そして鬱陶しい野良や家ゆが現れたら、動かなくなるまで潰さなければならないという事を学んだ。 私は、ゆっくりのしぶとさを教えてくれたこの小さなゆっくりにお礼を言い、ゴミ箱に投げ捨ててから公園を後にした。 完 徒然あき
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選ばれしゆっくり 9KB ※ゆっくりちるのの生態(後編)につまったので、その前に短編をひとつ書いてみました。 ※駄文、稚拙な表現注意。 ※舞台が研究所ですが文系なんで研究所なんてよくわかりません。いろいろ間違ってるかもしれません。 ※人間視点とゆっくり視点がいったりきたりするので読みにくいかもしれません。 ちくしょう。なぜ。なぜなのだ。 なぜあんな低脳どもが、もてはやされているのだ。 自分のほうが知能、品性、運動能力、すべてにおいて上なのに。 なぜこんなクズどもと生活を共にせねばならないのだ。 なぜ。 なぜ。 選ばれしゆっくり 「んー。もう8時かようぅ」 夜勤中、壁にかかった時計をみながら僕はそうつぶやいた。 なんとなくつけているテレビでは「セレブのゆっくり大特集」なんて番組をやっている。 やあはじめまして。ぼくは研究お兄さん。 このゆっくり企業「ゆとり」の建てた研究所で働いている。 僕の専門はゆっくりの品種改良、あと僕の仕事ではないけれど希少種の生態研究、投薬実験なんかもここではしている。 ゆっくりを実験動物にって言うと眉をひそめる愛で派の人もいるけど、ここでは基本的に躾はしても、虐待まがいの実験はしてないし、僕自身どちらかというと愛で派だ。 「ゆっくりしていってね。」 おっ、起きたみたいだな。こいつが僕らのチームが今度品種改良した品種のゆっくり。 その名も「のーぶるゆっくり」 見た目はどこにでもいるれいむ種でしかない。 しかし侮るなかれ、赤ゆっくりの頃から金バッジクラスの知能を持ち、運動能力も他の通常種より高いというデータがでている。 加えてもちもちの素肌に、品評会などで見栄えする大きなりぼん。 もうすでに店頭では発売されており、3万から10万するにもかかわらず、コンテストで優勝できるゆっくりがほしいブリーダーや富裕層を中心に売れ行きは好調である。 現在は希少種チームが第2弾の希少種版のーぶるゆっくりの研究にとりかかっている。 自分たちの今の仕事はサンプルであるこいつを含む通常種ゆっくりの世話と観察だ。 現在わが社は不況のあおりを受け倒産の危機に瀕している。 のーぶるゆっくりは、わが社を救う救世主となるはずだと僕も含めて社員全員がそう信じていた。 しかしそれらの期待は最悪の形で裏切られることになる。 一ヵ月後 「どーでもいいでしょぉぉぉぉ!あんなくずなんてぇぇぇ!えりーとのれいむがいるんだからぁぁぁ」 まるで別ゆっくりのようにさけぶのーぶるれいむ。 端的に結果だけを言おう。のーぶるゆっくりはとんでもない欠陥商品だった。 のーぶるれいむは表向き善良なゆっくりだった。そう表向きは。 しかしこの1ヶ月間で3匹のゆっくりが不審な死に方をした。全員のーぶるれいむと同じ檻のゆっくりだったである。 ゆっくりは死にやすい生ものである。 最初は事故としてほとんど気にすらされてなかった。 しかし、1ヶ月に3件、しかも同じ檻となるとさすがに異常だとしか言えない。 ゆっくりが死んだ時間が夜勤者も仮眠している時間帯だというのも不自然だ。 事故なら普通ゆっくりが活動する昼間に集中するはずなのだから。 そこで普段は使わないゆっくりの檻につけた監視カメラの映像をみてみることにしたのだ。 そこには驚くべき光景が映っていた。 ころされたゆっくりたちを言葉巧みに外へ誘い出すのーぶるれいむ。 そして研究員がいないことを確認すると隙をついていっきに潰す。 相手のゆっくりは隙をつかれたうえ、元々の身体能力が高いれいむに声もあげられずつぶされてしまった。 その後、れいむは何事も無かったように自分の寝床へと帰っていく。 あまりのことに言葉を失う研究員たち。 あの品性方向で飼いゆっくりの鏡と言えるれいむが・・・。 当然れいむは研究員から尋問された。 最初はしらをきっていたが、証拠となる監視カメラの映像をみせるとやっと認めた。 やったのは自分だと。 その上での主張が先ほどのセリフだ。もはや疑う余地なしのゲスだ。 後で先輩に聞いたのだがのーぶるゆっくりでゲス化しているのはここのれいむだけではないらしい。 かげで一緒に飼っているゆっくりに危害を加え、それが見つかりとがめられると、れいむのように逆切れしゲス化する。 そんな例が全国で相次ぎ、「お値段異常じゃねいか」と今本社のほうは苦情と返品で大変だそうだ。 「最後の希望であるのーぶるゆっくりが駄目となると、もうゆとりは終わりだな。お前も次の職考えたほうがいいぞ。」 ふーっと肩を落とす先輩。 「ああ、それとあのれいむ。適当に安楽死させといてくれや。ゲス化した以上そういうきまりだからな。」 そう言うととぼとぼと去っていった。 数時間後、僕はあののーぶるれいむの前にいた。職員は全員帰り、夜勤者の僕以外だれもいない。 れいむはあまあまよこせだのじじいだのやかましいがどうでもいい。 僕は考えていた。どうする。どうすればいい。 先輩は安楽死させろといったけど、とんでもない。 自分たち研究員を欺き続け、同族を殺したこいつはもっと悲惨な最期を迎えるべきだ。 自分の心が虐待お兄さんと化すのを感じた。 しかしどうすればいい。 目を抉り出すか? れいぱーありすをけしかけるか? それともあんよを焼いて鳥の餌にでもするか? だめだ。それじゃ意味が無い。こいつには自分のやったことを悔いて死ぬべきだ。 それならこの方法しかない。 僕はこの日のーぶるれいむを研究所の外へ離した。 れいむは思った。 このれいむを捨てるとは本当に頭の悪いじじいだ。餌をくれるから今まで下手にでてやっていたのに。 ただゆっくりできない低脳のくずどもを潰しただけではないか。むしろ感謝すべきなのだ。 しかしこれはチャンスでもある。こののーぶるれいむにふさわしいゆっくりぷれいすを見つけるチャンスだ。 テレビさんという箱でやっていた。 自分と同じはずなのに、そのれいむはすべてを持っていた。 おおきな自分専用のゆっくりぷれいす。 見るだけでよだれが出そうなあまあまたち。 美ゆっくりだらけのゆっくりはーれむ。 ゆっくりぷれいすにはとてもゆっくりできそうなすべりだいさんやしーそーさん、じゃんぐるじむさんもあり、寝床のクッションもふわふわしていてゆっくりできそうだ。あまあまたちも研究所のじじいたちがおやつに食べるものよりずっとしあわせーできそうである。 そんなにすごい待遇なら、さぞかしすごいゆっくりかと思えば、できるのは「ゆっくりしてってね」のごあいさつだけ。 そんなの赤ゆっくりでもできる。 それに比べて自分はひらがなさんはもちろん、漢字さんだって読める。 九九だって7の段まで言えるし、かけっこだって誰にも負けたことが無い。 肌や髪も他の誰よりもうつくしいし、おりぼんだって大きい。 そう自分こそがあのゆっくりぷれいすにふさわしいゆっくりなのだ。 きっとわかってくれる人間さんも現れるに違いない。そんな人間さんに飼われるのだ。 大丈夫だ。自分は選ばれしゆっくり。のーぶるゆっくりなのだから。 れいむはきっと向き直ると、とりあえず人のいそうな街中にぽいんぽいんとはねていった。 僕はあえてなにもしなかった。 りぼんを燃やしたり、髪をぜんぶそってはげ饅頭にしたり、あんよを焼いて動けなくしたり、そんなことはいくらでもできた。 しかしあえてしなかった。言い訳を一切させないために。 あれからどれだけたっただろうか。もう思い出すのもおっくうだ。 「ゆぅぅぅ・・・」 れいむは路地裏のゴミ捨て場で目が覚めた。ここ数日れいむはこの場所を寝床にしている。 ゴミ捨て場で寝ているせいか生ごみのにおいが体に染み付いていたがもうれいむきにする気力も無かった。 結局れいむの思うような飼い主は現れなかった。 あのあとれいむは商店街や大通りなど人通りの多い場所で必死に自分をアピールした。 九九の暗誦やひらがな、漢字の読み書きで自分がいかに有能なゆっくりかを示したのである。 しかし、道行く人の反応は皆どれも冷たかった。 正直ブリーダーでもない普通の人間にとってゆっくりの知能などどうでもいいという人が大半だからだ。 むしろたいしたことも無い知識をひけらかし、したり顔をするれいむに嫌悪感をしめすものも多かった。 それでも始めのうちは「りぼんが大きくてかわいい」「九九ができるなんてめずらしい」という理由で飼おうする人間もいた。 しかしれいむが「もっとおいしいあまあまもってきてね」などとわがままを言うので、どれもその日のうちに追い出された。 その後は絵に描いたような転落ゆん生。 生きる為に生ごみをあさる日々。れいぱーありすやげすまりさがこわくて路地裏で隠れ住む生活。 ある日野良猫に襲われ、命からがら逃げ出したものの自慢のりぼんを食いちぎられてしまった。 それからはいままで見下していた野良ゆっくりたちにも「ゆっくりできないれいむ」として馬鹿にされる日々。 なぜこうなったんだろう。 ぼんやりと物思いにふけるれいむは自分のうしろの影にきづかなかった。 「やれやれ。またのらゆっくりか。」 「ゆっ!?」 やっと気づいたがもう遅い。れいむは男に捕まってしまった。 「つぶしてゆっくりごみの日に捨てなきゃな。次はいつだったかな?」 「ゆっ、やべでね。れいむはのーぶるゆっくりなんだよ!えらいんだよ!!つよいんだよ!!ほかのゆっくりとはちがうんだよ!」 「またゆっくり特有の妄想か。ほんとにどうしようもないな。こいつら。」 男は無視して、れいむを潰そうとその辺にあったレンガを振りかぶった。 「せいぜいあの世でゆっくりしてってね。」 「ゆうぅぅぅぅぅっぅうぅぅぅぅぅっぅうぅ!!!」 れいむの断末魔にもにた声があたりに響いた。 僕がれいむが殺さず逃がしたのは知ってほしかったからだ。 おのれの無力に。おのれの愚かさに。 確かにのーぶるゆっくりは他のゆっくりに比べて能力が格段に高い。 それは研究データが示している。 だが逆を言えばそれだけだ。 空を飛べるわけでもなければ 死なないわけでもなく 知能が人間より高いわけでもない 所詮はゆっくり。目くそ、鼻くその差でしかない。 ゲス化したゆっくりなどよほどの物好きでなければ飼おうとしない。 野良として生きようにもあの他のゆっくりを馬鹿にした態度ではつがいや仲間を作るのは無理だろう。 九九も漢字も野良世界では何の役にも立たない。大きいりぼんなんて標的にされやすいだけだ。 身体能力が高いと言っても人間にかなうわけじゃない。 苦しんで苦しんで苦しみぬいて。そしてやっとわかるのだろう。 自分は自分が殺したゆっくりと同じ存在で神になど選ばれてはいないことに。 今日の希少種 のーぶるゆっくり 希少度 不明 にとりで品種改良されたゆっくり。れいむの他にまりさ、ありす等いる。 身体能力、知能等は高いが、それゆえに他のゆっくりを馬鹿にする傾向があり、それをとがめるとゲス化してしまう。 結局不良品として回収された。 by 長月 長月の作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る ↓つむりがゲスとは限らないぞ?作品によっては違うし -- 2017-01-15 22 35 03 やっぱりれいむはバカじゃないと純粋なゆっくりになれないのか…… -- 2015-01-31 13 44 45 つむりよりげすやな! -- 2014-05-29 01 13 40 えーき様のほうがまだいい -- 2014-05-15 18 38 06 コイツもアホだな。どうせゲスなら他のゆっくりを利用するぐらいの考えを持てばいいのに まあ、そのうち潰されるだろうがね -- 2012-10-24 17 10 43 ↓↓↓愛でって自覚してるお兄さんだからいいだろ 優しいから虐待には向いてないんだよ -- 2012-03-08 19 52 18 頭が良いと言っても生きていく知恵がないからダメだなwwww -- 2011-11-17 00 45 20 ↓虐待されるだけならどんなゆっくりにもできることだからのーぶるれいむの選民的プライドをへし折るには至らない。 世界で生きていく能力において、自分が野良ゆっくりにすら劣る存在だと理解し打ちのめされて死ね、とお兄さんは考えてたんだろ。 君こそまだまだ甘いな…。 -- 2011-01-10 18 21 01 のーぶるゆっくりに己の無力さを解らせるなんて簡単な事 思う存分虐待してやればいいだけ、敢えて外に放して悟らせようとする辺り、まだ甘さが抜けてないお兄さんだなと思った -- 2010-08-16 23 27 22 ペットに求められる素質は、飼い主に忠実であること、可愛いこと、手間のかからないことetc。 高い知能も、特殊能力も別に要らない。そう思う。 某SSに登場する接客業や配送業で人間並みに働ける胴付きのふらん・きめぇ丸みたいなやつは例外として、 只々ペットとしての存在価値しか求められてない通常種が知能を自慢して何になるんだか。 あと、ゴミを捨ててはいけません。 -- 2010-08-16 08 37 41 街に放つ必要無かったんじゃね?ゴミの不法投棄と同じだよ、おにいさん -- 2010-08-16 06 31 32 どれだけ知能その他が良くても所詮はゆっくり、生きた生ゴミなんだよ。 -- 2010-08-04 13 55 35
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二人のお兄さんと干しゆっくり 軒に吊るしたゆっくりが泣く。 「ゆっくりさせちぇね!」 「おねがい おろしちぇね!」 「でいぶのあかちゃんたちを だずげでねぇぇぇぇ!」 干しゆっくりを作っているのだ。 山で取ってきたれいむとまりさと赤ちゃんの一家。 本物の干し柿だとヘタの部分をつなぐが、こいつらの場合はやり方を変えた。 一匹ずつ縦に穴を開けて、小さい順に一本の荒縄を貫通。 一番下に結び目を作って、軒にぶら下げた。だんご三兄弟ならぬ、だんこ干しゆっくりだ。 「はやく はなしてねぇぇぇぇ!」 痛くてポロポロ涙を流しながら、風に吹かれてくるくる回っている。 餡子の中心の大事な部分はうまくよけたので、即死はしない。 見れば遠くの山はすでに真紅に染まっている。紅葉と紅白黒白の取り合わせが目にも鮮やか。 「ううむ、絶景だ」 俺が縁側で満足してうなずいていると、一番下のまりさのやつが、ギロッとにらんで言いやがった。 「おにいさん! おぼえてるんだぜ! まりさがきっとしかえししてやるんだぜ!」 「ハッハッハ、できるものならやってみろ! このマヌケなちょうちん饅頭が!」 俺は高らかに笑って、まりさの頬を軽快にはたいた。 びしばしずべし。 みっちりと水気が詰まっている。収穫はまだまだ先だな。 「いだああぃ、なにするんだぜぇぇぇぇ!!」 まりさはとたんに泣き顔になってわめいた。はっは、根性のないやつだ。 だが微妙に物足りない。そうか、お帽子だ。お帽子攻撃をするのを忘れていた。 そのお帽子はひとつ上のれいむとの間で、ぺちゃんと潰れている。 さてどうするかと考えていると、庭先の木戸を開けて一人の男が入ってきた。 「イヨー、やってるな」 これは近所に住むNという男で、俺と同じ趣味を持っている。 つまり、いわゆる虐待お兄さんだ。 だが俺は最近、この男との意識の違いを感じるようになっていた。 Nは俺のそばまで来ると、ゆっくり一家を見上げ、口の端を吊り上げて言った。 「ケッ、いつみても胸糞悪くなる」 「ゆゆ!? あたらしいにんげんさん? はやくれいむたちをたすけてね!!!」 「たちゅけてねえぇぇぇ!」 母れいむの声にあわせて、子供たちが叫んだ。 どんなときにも頼みごとをするというのは、これはこれで美点かもしれん。 こいつらは性善説の信奉者なんだろう――と俺が思っていると、Nが怒鳴った。 「っせぇクソ饅頭どもが! べらべらしゃべんな、空気が臭くなるんだよ!」 「どぉじでぞんなこどいうのぉぉぉぉ!?」 「黙れっ!」 Nは手を伸ばして、上のほうのちびゆっくりをつかんだ。 「ゆっ?」 一瞬、助かるのかも、と期待に顔を輝かせるちびれいむ。 だが次の瞬間には激痛に顔をゆがめた。 「いちゃいいちゃい! ひっぱらないでねええええ!」 Nに引っ張られて、ちぎれそうになる。真ん中を貫通した縄が、ギシギシとこすれる。 「おねえぢゃんを はなぜぇぇぇぇ!!」 「いもうどを はなぢでねぇぇぇ!!」 「やめてあげてね! やめてあげでねぇぇぇ!」 「それはまりざのあかぢゃんだぜえぇぇぇぇ!?」 家族の絶叫が響く中、Nはことさらにゆっくりと、ちびをちぎりとった。 メリ……メリ……ミチミヂッ……ヴチッ! 「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!! あ゛っあ゛っあ゛っ!!」 Nの手の中でわさわさと狂乱する、ちびゆっくり。 それを見せ付けられ、声もなく震える家族。 ぼろり、と割れた柿のように頬が裂けてしまったちびれいむを見せつけ、ニヤニヤと笑うN。 俺はNがゆっくりを食べるんだと思った。自然、苦い顔になる。 「勝手に食わんでくれよ、穴を開けるのも手間だったんだから」 「悪いな。でもこんな連中、食うまでもないだろ」 言うが早いか、Nはちびれいむを庭に放り出した。 「あ゛っあ゛っあ゛っ お が あ ぢゃっ い だ い だ ず げ で」 虫の息のれいむが、餡子をボロボロこぼしながら這い回り、砂まみれになっていく。 「おちびちゃん! おぢびぢゃぁああぁぁんん!!!」 何もできない母れいむの絶叫が、秋空に響く。 「おーい、早く助けにいけよー。今ぺろぺろすれば直るかもしれんぜ」 Nが底意地の悪い声で言う。 「ゆぐううぅぅぅ! ゆぐぅぅぅぅぅうぅぅ!! おぢびぢゃぁぁんぁん!!」 「ゆっぐりっ! ゆっぐりじでねっ! ゆっぐりじでいっでねぇぇ!!」 涙を滝のようにだらだらと流す一家。上の涙が下に注ぎ、カスケードになっとる。 顔は真っ赤で口はわなわな震え、慟哭というのはかくあらんかというような嘆きっぷりだ。 慰めの言葉もむなしく、土の上のちびゆっくりは、最後のあがきを遂げた。 わさっ わささっ 「もっちょゆっくち……ちたかっ……た……」 ちびは、裂けて汚れたゴミのような姿で、短い生涯を終えた。 そこを見計らってNがゆっくり家族に向き直り、両手を広げて語りかけた。 「ほら、ほら! なあ、おまえらよ、なぜ子供を助けなかったんだ! なぜ!」 「ゆう゛っ!?」 「母親なら助けろよ! それが家族ってものじゃないのか?」 「だ、だって、れいむはなわがささって、うごけなかったよ!」 「縄が刺さっただ? そんなことがなんだ。あの赤ちゃんはその縄でちぎられる苦しみを味わったんだぜ?」 「ゆ゛っ……」 「母親ともあろうものが、同じ苦しみに耐えられずに、黙って見てたわけだ!」 「ゆ゛ゆ゛ぅ……!」 「痛いからいけない、縛られているからいけない、それを言い訳にして見殺しにした! 見殺しだ!」 「ゆぐぐぐ、そんなこといわないで――」 「見殺しだ、子殺しだ! おまえは子殺しの汚いれいむなんだ! なあまりさ、なあ子供たち! どう思うよ! え?」 「ゆ……おかーしゃんに、おねーちゃんをたちゅけてほちかったよ……」 「そうだろうそうだろう!?」 「ぞんなごどいっでも むりだっだものおぉぉぉ!!」 「子殺し! 自分のことしか考えない、心のみにくい、子殺しれいむめ!」 Nの叫びにあわせて、いつしか母れいむの上と下から、家族の冷ややかなまなざしが浴びせられた。 母れいむは蒼白になり、泣き喚く。 「やめでねぇぇぇ! そんなこどいわないでねぇぇぇぇ!!!」 「ヒャーハハハ、子・殺・し! 子・殺・し!」 手を打って囃し立てるNを、俺は複雑な気分で見つめていた。 夜半に昇った月が、ゆっくり家族から落ちる滴をキラキラと光らせる。 「ゆっぐ……ゆっぐ……」 泣き寝入りしたれいむと、絶望した顔の家族たちが、軒でゆっくりと回っている。 俺は座って、考えこんでいた。 俺は虐待お兄さんだ。それは認める。 では、あのNのような男と同類なのだろうか。 ゆっくりに罪をなすりつける、歪んだ心の持ち主なのだろうか。 俺はゆっくりを汚いとは思わない。醜いとは思わない。 Nはゆっくりを憎悪している。侮蔑している。 それなのに、同じ虐待お兄さんなのだろうか。 「ゆぅ……おにいさん、おにいさん」 「ん?」 見上げると、一番下のまりさが目配せしていた。おれは顔を寄せる。 「まりさを にがしてほしいんだぜ」 「何いってやがる」 「まりさをにがしてくれたら、ほかのゆっくりのすをおしえるんだぜ! もっとたくさんゆっくりがいるぜ!」 俺は顔を離し、上目遣いで媚びた笑みを浮かべているまりさを見つめた。 そういえば、お帽子攻撃がまだだったな。 俺は無言で一番下の大きな結び目をほどき、ずるりとまりさを抜いてやった。その上にも結び目があるので、れいむは落ちてこない。 まりさを地面に下ろすと、「ゆぐっ!」と少し餡子を吐いた。底とてっぺんに穴が開いているのだから、無理もない。 だがまりさは、歯を食いしばって耐えた。 「ゆぐぐぐ……こ、これぐらいなら、ゆっくりなおすよ!」 見上げたものだ。命根性の汚さはピカイチだな。 「おにいさん、ありがとう! ゆっくりにげるね!」 ニヤニヤ笑いながら逃げようとした瞬間に、俺はまりさの帽子を取り上げた。 「ゆうっ! まりさのおぼうし! おぼうしとらないでね!」 さっきまりさを外したばかりの縄の下端に、その帽子を結びつけた。地上から1メートル半、縁側から80センチばかりの高さだ。 「かえして! かえしてね! まりさのおぼうし、だいじだよ!」 困り果てた顔になって、帽子の下でぴょんぴょんと飛ぶ。舌までンベッと伸ばしている。 その、懸命で無力な姿を見つめて、俺は声をかけた。 「なあ、まりさよ」 「はやく、おぼうし!」 「俺はおまえたちが大好きなんだ」 「おぼうし、おぼうしがないと……ゆっくりできないよ、ゆっくりできない!」 うろたえて大汗をかき、おたおたと周りを見回す。先ほどの不遜な自身は影も形もない。 「そのヘタレでチキンなところも大好きだ」 「おぼうし、とりかえすよ!」 まりさはひぃひぃ言いながら縁側に這い上がり、そこから伸び上がった。 メロン程度の背丈しかないから、やっぱり届かない。 「おまえたちが、馬鹿なりに懸命にがんばったり、安直ではあるけれど、笑ったり泣いたり、しあわせ~をするのが大好きなんだ」 「おぼうし、ゆっくり、とるよっ!」 びょんっとジャンプしたが、届かず庭に落ちた。ブピッ! と噴水のように頭の穴から餡を噴いた。 あ、ちょっと面白い。 「決してお前たちを軽蔑なんかしない。心から愛してるよ」 「ゆっぐ、ゆっぐ……おぼうしいいぃぃぃ!!!」 「そんな俺と昼間のN、おまえらはどっちが好きだ?」 俺が言ったとたん、まりさは振り向き、目を三角にして怒鳴りつけた。 「どっぢも だいっぎらいに ぎまっでるでしょおおおおおおおおお!!!?」 「ま、そうだろうな」 俺はあっさりと迷いの思惟から抜け出した。 ごちゃごちゃ考えて何の益がある。ためらいがあるなら、虐待を止めればいいのだ。 それをしないならば、俺たちは同種だ。どちらも下劣な、猥褻な虐待お兄さんなのだ。 俺はまりさを捕まえ、別の縄に通して、れいむたちの隣にぶら下げた。 「にがしてくれるんじゃなかったのぉぉぉ!?」 「どうせ帽子なしじゃ、ゆっくりできないんだろうが」 うるさく騒いでいると、隣のれいむたちも目を覚ました。 「ゆゆっ? まりさ、どうしておとなりにいるの!?」 「こいつは自分ひとりだけ逃げようとしたんだよ」 「うぞでじょぉおおお!? まりざ、れいぶをみずでだのおぉぉぉ!?」 「だっでだっで、まりざ、じにだくながったのおぉぉぉぉ!!」 「まりさおかーしゃん、ひどいよぉぉぉぉ!!」 月夜の軒に、狂乱ゆっくりたちがふた房。 こいつらが、しわしわに乾ききるまでの一ヵ月あまりを想像して、俺はつぶやいたのだった。 「……日本酒、買ってくるか」 * * * * 愛餡男ことアイアンマンです。 この話は、干しゆっくりたちの乾燥と、うめき声を一ヵ月にわたって書くつもりでした。 でもちょっと変わってしまいました。 干しゆっくりにはまだいろいろと書き方があると思います。 家族をつないで一匹だけ放置し、水と餌を持って来させるとか。 逆に一匹だけつないで、家族に水と餌を持って来させるとか。 冬ごもりの時期も来るので、餌も気温もギリギリで、いろいろ大変なことになるでしょう。 うまい展開を思いついた方は、自分も書いてみてください。 このSSに感想を付ける
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新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 5KB ※選ばれしゆっくりの番外編です。 ※ゆっくりちるのの生態(後編)はもうしばらくお待ちください。。 ※駄文、稚拙な表現注意。 ※星蓮船ネタばれ注意。 ※俺設定注意 ※いろいろ矛盾があるけどきにしないでください。 約束のとき、聖地で行われる祭りに幻想の神主が現れる。神主は新しき円盤を信者に与えるであろう。 円盤は幻想の少女となりて東の方の信者は歓喜の涙を流す。 そしてそれと共に新たなゆっくりもまた生まれ出のだ。 (「湯九里創世記」より抜粋) 「な・・・なんだ。あれは・・・」 波に揺れる漁船の上で男は思わず声をあげた。 男は漁師でもう50年近く海に出ている。当然海については知らないものはない。 にもかかわらずあれはなんだ。 見たことが無い。 聞いたことが無い。 海の上にゆっくりがいるなんて・・・。 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 ここは駅前にあるゆっくりショップ。さまざまなゆっくりがケース内で飼育されている。 やあ、二度目まして。僕は元研究お兄さんだ。 元とつくのはもう研究所はやめてこのゆっくりショップの店員に転職したからだ。これからは店員お兄さんと呼んでくれ。 給料は下がっちゃったけどもうゆとりにいても先が見えてるし、今の時代職があるだけましだよね。 「そろそろだとおもうんだがな・・・」 そう独り言を言いながらそわそわしているのはうちの店長。 お盆過ぎたあたり、特に昨日の晩からやたらそわそわしていてやたら携帯の着信をきにしている。 奥さんも恋人もいないはずなのになにかあったのかなあ。 「どうかしたんですか店長。落ち着かないみたいですけど。」 ついに気になった僕は聞くことにした。 「どうしたっておまえ。もうお盆は過ぎたんだぞ。あれがそろそろでるころじゃないか」 「あれってなんですか。くらげ?」 「ばか。海の家じゃないんだぞ。うちは。うちは何屋だ?」 「なにって・・・ゆっくりですけど?」 「だったらゆっくりに決まってるだろ。新種のゆっくりがでるんだよ」 「新種のゆっくり!?」 僕は思わず聞き返してしまった。 確かに新種のゆっくりが出ることはあるが、それってお盆とか季節に関係あるんだろうか? 「それがあるんだよ」 そうぼくの心を読んだように答える店長。あんたはゆっくりさとりか? 「その証拠にちれいでん種達もそうだっただろう。あいつらも去年の5月ごろから少しずつ目撃されるようになり、お盆過ぎあたりからさとりのようなその種のおさ的存在が確認され始めたはずだ。」 「たしかにそうですけど・・・。それって偶然じゃないですか?」 信じられず思わずそうつぶやく僕。 「それがそうじゃないんだ。実際にゆっくりについてかかれた古文書に書いてある。」 「古文書?なんですか、それ?」 「ゆっくりについてかかれたなぞの古文書「湯九里創世記」のことだ。作者も書いた目的も不明。その上内容は荒唐無稽だからゆっくり学者は眉唾ものだとされている」 そう言うときっと僕にむきなおり、 「しかし俺は信じる。荒唐無稽がなんだ。ゆっくりの存在自体荒唐無稽じゃないか。ならば俺は自分のただしいと信じた道を進む。」 ときっぱり言い切る店長。不覚にもそんな店長をちょっとかっこいいとおもってしまった。 「それで、その古文書にはなんて書いてあるんですか。」 「ああ、湯九里創世記によると、ゆっくりはゲンソウキョウという場所の少女たちをモデルに作られた生物らしい。 そしてその少女たちは夏に行われる聖なる祭りに神主よって生み出されると記されている。一部の少女はレイタイサイと呼ばれる春の祭りにうまれるようだがな。そしてその少女たちを思う東の方の神主の信者の思いがゆっくりをつくるらしい。」 「確かにつじつまは合いますね・・・。春になずーりん種たち新種もでてるし。」 「だろう!!だから俺は待ってるんだ。知り合いのゆっくりハンターにかたっぱしから声をかけて、新種を見たら携帯に連絡をくれと! 昨日の晩のニュースでも海に漂う新種のゆっくりの存在が目撃されている。この近くの山はゆっくりが多いし、きっと新種が生まれるはずなんだよ!!」 そうやたら興奮気味に話す店長。しかし無理もない。もし新種のゆっくりが捕まえられればそれこそ大ニュースであり、うちの店のいい宣伝になる。その上うちでその新種を売るとなればいくらぐらいになるだろうか。100万?200万?個人でなくゆっくり関係の大企業に売るとなればさらに高値が期待できる。一攫千金の大チャンスである。 その時携帯がなった。ばっと飛びつくように携帯をとる店長。 「も、もしもし。・・・・・・わかった。すぐ行く。」 そう言い電話を切るとあらかじめ用意していたらしいリユックを背負い 「そういうわけだから店番頼む」 とあわただしく出て行った。 そんな店長をお見送りしたあと、僕はゆっくりたちに餌をやろうと倉庫へと向かった。 新種のゆっくりが捕まればいいんだけど。 「ゆぎゃあああ!!だれかたずけてぇぇぇぇ」 ん?いまなにか悲鳴が聞こえたような。気のせいか? 「ゆ・・・ゆびぃぃっぃ」 ここは店員お兄さんの店の近くの路地裏。そこにまりさはいた。 とはいえもうまりさは長くないだろう。顔を食いちぎられ大量の餡子が流出している。 このまりさはのーぶるゆっくりがゲス化したもので、飼い主に捨てられて以後野良生活を送っていた。 のーぶるまりさは思った。 なぜ。なぜこうなったのだ。 自分はじじいに見切りをつけて(本当は捨てられたのだが)、このあたりの野良の王になったはずだ。 自分にけんかで勝てるゆっくりなどいなかったし、あたまも誰よりもよかった。 それを活かしてこのあたりのおろかな野良ゆっくりを統治してやったいたのだ。 (実際は野良ゆっくりから食料などを搾取、そしてなんくせつけて虐殺していただけである) しかし、あの見慣れない金髪のゆっくりがすべてを奪っていった。 見慣れない新入りを見かけ、自分が王だとわからせる為路地裏へ引きずり込んだまではよかった。 その後、何を言っても平然としており、生意気な面をしていたので踏み潰して食料にしてやろうと思い襲い掛かった。 しかし必殺のスタンピング攻撃はあっさりかわされ、かわりに頬に激痛がはしる。 頬を食いちぎられたのだ。 まりさは他の野良に助けを求めたが、当然今まですき放題していたのーぶるまりさを助けるものなどおらず、自分たちを開放してくれた 金髪のゆっくりとともにどこかへいってしまった。 もうだめだ・・・。死ぬしかない・・・。 のーぶるまりさは思った。 あのゆっくりはだれだったのだろうか・・・攻撃されたときすさまじい殺気を感じた。 そうまるで虎のように。 まりさは知らなかった。 その金髪のゆっくりこそが人間たちが血まなこで探している新種ゆっくりだと。 by長月 長月の作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る ひじりんとこのあの子だね。わかるよー。 -- 2015-10-12 02 54 47 一瞬るーみあかと思った。 -- 2014-11-09 21 47 55 れいむ:それはね、おにーさん。 おにーさん:うん? れいむ:寅丸s・・・ おにーさん:おーっとそこまでな。ネタばれするだろぅ? れいむ:ゆっくりりかいしたよっっ!ひんとさんはいいよね?下からひんと!だよ! ヒント3:財宝が集まる程度の能力 ヒント4:寅っぽい。 -- 2014-01-21 21 34 46 よく物を無くす奴ですね -- 2012-12-18 16 45 02 ヒント2:頭の上にみかんをのっけてる -- 2012-10-07 16 57 13 わきゃらにゃいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!? -- 2012-08-06 15 27 34 ↓ヒント:ナズーリン -- 2012-01-26 16 51 56 い・・・・・・・一体何なんだそのゆっくりは・・・・・www -- 2011-10-28 20 33 19