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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 01.夢と現の境界(*1) 「へぇ、東方、終わるんだ」(*2) 自室で修理から戻ってきたノートパソコンを起動し、久しぶりにインターネットを見ていた 平賀才人は、そんな記事を目にしていた。 東方プロジェクト――同人にあまり興味のない彼でも知っているそれは、シューティング ゲームを中心に音楽、漫画等に展開する一連の作品群であり、ゲームに関しては『神主』と 呼ばれる一人の人間の手により全てが創られていることは、あまりにも有名である。 彼が見たのはその『神主』が数ヶ月ぶりに更新したブログで、これ以降東方プロジェクトを 冠する作品は創らないと宣言した、という記事だった。 「やっぱ、へんな動画とか作られたからかな?」(*3) 彼が東方を知ったのも動画共有サイトにあげられた、通称マッドムービーからである。 とはいっても知っているのはそれぐらいだ。ゲーム自体を遊んだことがあるわけでもない。 思い入れもない。彼にとってそれは、多くの中の一つでしかないのだ。 「おっ、返事が来てるじゃん……えっ、明日!?」 出会い系からのメールが来ていることに気がつき、才人は急いで立ち上がった。 明日の準備をしなければ。 「才人、なにやってるの? もうご飯よ」 「はーい」 母親の呼び声に、ノートパソコンを閉じる。そういえば今日の夕飯は好物のハンバーグ だっけ。自室の扉を閉める頃にはもう頭の中は、夕飯のハンバーグと、明日会う女の子の ことで一杯になっていた。(*4) こうしてまた一人、東方プロジェクトを――幻想郷を気にとめる人がいなくなった。こうして 幻想郷は世の人から忘れられていくのだろう。 さて、幻想郷は世界の非常識が集まる場所。世の中から忘れられたものが集うところ。 ならば、幻想郷自体が世間から忘れられたとしたら―― *1 タイトルは音楽アルバム「夢違科学世紀」内の曲名より借用 *2 このお話はフィクションです。妄想です。或る意味、夢です、タイトル的に。 *3 バーのマスターになる準備が整ったとか、酒に関係する理由である可能性の方が高い。神主的に。 *4 きっと頭の中の妄想彼女は、ロリ系ツンデレ少女。本来的に。 *5 脚注も必要だと思った。求聞史紀的に。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
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まともに召喚させてもらえないルイズ 「宇宙の果ての何処かにいる私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」 少女、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールはトリステイン魔法学園の生徒。今日は進級試験の日、ルイズはその試験の課題である使い魔召喚の儀式の真っ最中です。 「私は求め訴えるわ!我が導きに答えなさい!」 ルイズは魔法が得意ではありません。今日もどうせ爆発で終わるんだろうなとルイズを含めたその場全員が思っていたのですが… 「あれ?何かいるわ…?まさか成功した?」 なんと召喚魔法は一発で成功。鏡からゆっくりと現れる緑色のフォルム。二本足で立ち、背中には黒い羽のような物がついている。 召喚されたのはどうやら亜人…?何はともあれルイズは喜び召喚したそれに話しかけます。 「アンタ亜人ね?この私に召喚されたんだから光栄に…」 「ここは…何処だ?…まぁそんな事はどうでも良い…まさか孫悟空が私と一緒に自爆するとは…な?」 緑の亜人はブツブツと何かを呟いています。ルイズは自分が無視されている事に気付き緑の亜人の側でぎゃーぎゃー喚きますが、亜人の耳には全く届いていない様子。 「ククク…だがおかけで新たな力が手に入った…待っていろ孫悟飯…このセルが…パーフェクトに貴様を消してやろうー…!」 亜人は人差し指と中指を額に押し付けます。次の瞬間、緑の亜人は姿形もすっかり無くなっていました。 「はぇ?あれ?」 辺りがシーンと静まります。召喚した本人はというと、一体何が起きたのかといった様子で事態が飲み込めていない様子。 数分後、事態を理解したルイズが儀式のやりなおしを教師のコルベールに申し出、再びルイズの使い魔召喚が行われました。 再召喚で現れたのは黄土色の鎧と鉄仮面を被った男だった。今度は成功したとルイズが鉄仮面に近づこうしたその時… 「ここは…神崎士郎の望む世界ではない。…修正が必要だ」 鉄仮面は腰の黒い箱から一枚の札を取りだし…! 『TIME VENT』 「え?」 チクタクチクタクチクタクチクタク… 「はっ!あれ?あいつは!?」 一瞬、何かが起きた後、黄土色の鎧の男はどこかへと消えていました。ルイズがコルベールに「アイツはどこへ行ったの!?」と問いかけましたが、コルベールは何の事やらさっぱりといった態度で接します。 いまいち納得のいかないルイズは再び召喚魔法「サモン・サーヴァント」を行います。今度は爆発が起こりました。召喚成功の手応えを感じたルイズでしたが、周りを見渡しても使い魔が見当たりません。 ふと足元に目をやると何かが浮かんでいました。文字です。ハルケギニアの言葉で「ここにいた」と書かれています。 おまけに矢印まであるではありませんか!ルイズが足を上げるとそこには体の潰れた自分の使い魔がいました。 やっぱり諦められないルイズはまたまたコルベールにやり直しを申し出、コルベールはこれを承認。四回目の召喚。 「やった!今度こそ成功よ!」 今回召喚されたのは、青い帽子を被った平民のようでした。しかし、それと一緒に見たこともない『魔物』が居ます。 これは当たりだとルイズが喜んでいるとどこからともなく青い毛に包まれた魔物が現れました。 「わたっ!わたっ!テリー、ここは異世界の扉で飛ばされた世界じゃないわた!ひとまず城に帰ろう!」 「そうなのか?じゃあ帰るかな!」 と平民の少年が言いました。ルイズの脳裏に嫌な予感が過ります。 「ちょ…ま…」 「わたわたわた~!」 取りつく島もなく少年は遥か空へと飛んでいってしまいました。 流石にストレスが溜まってきたルイズはコルベールに許可を取ることも忘れ召喚魔法を唱えます。 五回目に現れたのはおかしな帽子を被った少女、しかし背中には大きな羽が… 「よくも私を召喚してくれたな…人間。このレミリ…」 あるのを確認するところで日に当てられた少女は灰になった。 再再再再再再度召喚に挑むルイズ。現れたのは紅蓮の巨人! 「なめんじゃねぇ…異次元だろうが…多元宇宙だろうが…ハルケギニアだろうが関係ねぇ…俺を誰だと思っていやがる…穴堀りシモンだあぁ!」 紅蓮の巨人は気合い(螺旋力)で空間をねじ曲げ元の世界へ帰っていった。 それでもめげないルイズは渾身の力を込め召喚を行います。 「ドカ「ウボァァァ!」ァァン!」 断末魔の叫びと共に爆発が起こります。土煙が引くと底には黒こげになった鉄のゴーレムがいました。 ルイズが召喚した残骸が増える中、ルイズは藁にすがる思いで使い魔を召喚します。 召喚されたのは平民の少年とどう見ても人間には見えない異形の者。両者共に腕に何かを着けています。良く見ると少年の方は何かを手にしています。しらない文字書かれた緑色の札です。どうやら少年はその札で何かをするようです。 「俺のターン!魔法カード『超融合』を発動!…来い、ユベル!」 「十代…!」 すると二人は一つに重なり、眩い光となって空へと消えていった。 その後もルイズは召喚を続けました。 「あぅあぅ~…ここはカケラの世界じゃないのですよ…オヤシロワープ!」 …しかしいずれも 「はかせー、ここにはサルいないよー」 「ははは、悪かったなカケル君、今転送するぞい」 皆帰るなり死ぬなりして、 「エトナの奴こんなボトルの中に閉じ込めおって…おい、時空の渡し人!さっさと俺様をエトナのところへ飛ばせ!」 とうとう100回を超えたところでルイズの意識が 「キテレツー、ここどこナリ?」 途切れた。 次の日の朝、ルイズが起きると平民の少年が彼女の部屋にいました。何でも気を失う前にルイズが召喚したそうです。 その平民は「早く元の世界に帰せよ」等と馬鹿らしい事をほざいている。早く自分の力で帰れば良いのにと思いながら再びルイズは眠りについたそうな。 お し ま い 以上小ネタ ドラゴンボールよりセル 仮面ライダー龍騎より仮面ライダーオーディーン ぷよぷよよりのみ DQモンスターズ1よりテリー 東方プロジェクトよりレミリア・スカーレット 天元突破グレンラガンよりグレンラガン(シモン入) ボンバーマンよりボンバーマン 遊戯王GXより十代とユベル その他もろもろ… でした
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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは人生最大の試練に立ち向かっていた。 何せこの使い魔召喚を失敗したら進級出来ず退学もありうる。 まさに背水の陣、ルイズにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際と言っても良い。 ルイズは全身全霊を込めて呪文を唱える。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 呪文の成立とともに目の前が爆発し、煙が辺りを覆う。 すわ失敗かと落胆するルイズだが、その煙が晴れてくると、そこに何かが要る事に気づき喜色満面となるも、煙が 晴れていくにつれ当惑の表情へと変化していく。 召喚された物体は、彼女が思い描いていた使い魔とはあまりにもかけ離れていたからだ。 するとそこにいた物体、手足の生えたりんごは、その渋い顔にマッチした渋い声で言った。 「俺が神聖で美しく強力な使い魔だ」 召喚主であるルイズはおろか、周りで事態を見守っていたクラスメイト、さらには教師であり今まで数々の召喚儀 式を監督してきたコルベール出さえ、あまりの発言に言葉を失い戸惑う。 と、その使い魔は絶妙の間をおいて言い放った。 「ウソだけど」 ルイズは素早く足を上げると、思いっきり踏みおろした。 果肉と果汁が飛び散り、見るも無残な轢殺死体が出来上がる。 内心の怒りの為かさらに何度か踏みにじり、完全に粉砕すると何事も無かったように再び呪文を唱え始めた。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 見た事も無い服装をした平民の使い魔が召喚されたのは、その後しばらくたってからであった。 完 -「極楽りんご」より
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苦労の末ルイズが呼び出したのは奇妙な金色の物体だった。 形状は正四角錐をなしており、垂直断面には取っ手のように金属のリングが取り付けられている。 ルイズにはそれはただの悪趣味な置物にしか見えなかったが、教師コルベールに自らが呼び出したそれと契約を交わす様強制されてしまう。 当然ルイズは抗議するが、使い魔召喚の神聖性を理由に召喚のやり直しは認めてもらえず、しぶしぶその物体と契約を交わすルイズ。 一瞬使い魔のルーンが浮かぶものの、その物体に吸い込まれるようにして消えてしまった。 当然他に何の変化もなく、奇妙な置物でしかないそれを抱えて失意のなかルイズはとぼとぼと教室へと戻ったのだった。 拳大のそれは手で持ち歩くには面倒であったし、ポケットにも入れ辛い。 そのためリング状の突起に鎖を通してペンダントのように首から下げることにしたルイズは、部屋を出た直後キュルケに。更に教室では意地の悪い生徒たちから己の使い魔を笑われた。 悔しかったが、何も言い返せず、こんなもの部屋に置いてくれば良かったと後悔した。 錬金の授業で爆発を起こしたルイズは罰として教室の片付けをさせられ、更に不機嫌になった。 片づけが終わった後食堂へと向かったルイズは、そこで昼食を取る。 その時ルイズはギーシュがメイドへ絡むのを見かけた。 一部始終を見ていたルイズは、どう考えてもギーシュの自業自得であり、メイドにしているのは八つ当たりでしかないと思ったが、機嫌が悪かったし、平民のメイドをわざわざ庇おうなどと「ルイズは」思わなかった。 その後何事もなく一日を終えて部屋に戻ったルイズは、鎖から首を抜いてその置物を部屋の隅に乱暴に放り出した。 こんなものは持ち歩いてもしょうがない。使い魔が死ねば再召喚できるのだ。虚無の曜日にでも準備してこんなものは破壊してしまおう、と思ったのだ。 そうしてルイズは眠りに就いた。 深夜、熟睡していたはずのルイズはむくりと起き上がり、夢遊病のように部屋の片隅へふらふらと歩み寄ると、そこに投げ捨てられていた置物を取り上げ、自らの首に掛け直したのだった。 ―――同刻、ギーシュ・ド・グラモンは自室にてすやすやと眠りこけていたが、いつのまにか響き始めたノックの音で目が覚めた。 こんな夜中に何事かと思って戸を開くと、そこにいたのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢その人であった。 ギーシュは彼女を特別意識したことはなかった。 大貴族の令嬢である彼女であったが、魔法無能者の「ゼロ」として見下す家柄だけは良い劣等性、と言う程度の認識しかもっていなかったが、夜遅くに寝巻き姿で自分の部屋を訪れたとなれば話は別であった。 ギーシュは自分に、特に異性に対する自分の魅力には自身を持っていた。 ルイズは同年代の少女たちと比べれば発育は悪い方だ。 しかし、彼女の抜きん出た美少女と表現しても差し支えない容貌は、薄手の寝巻き姿が背徳的な扇情さを醸し出しており、深夜の自室であると言うことと、彼女が高貴な血筋であるということもあって若いギーシュの脳から、抑制心というものを簡単に吹き飛ばす威力をもっていた。 この時点で彼女を拒否する、と言うことは完全に思考から消えていたギーシュであったが、即座に襲い掛かるような真似は彼の美意識が許さなかった。 まずはルイズのはしたない振る舞いをたしなめ、次に彼女にそのような振る舞いをさせてしまった自分の魅力を詫び、しかるのち彼女を「いただこう」と都合の良い段取りを考えていたが、ルイズによってそれは阻まれることになった。 彼女はまず、余計なことを言われないようその愛らしい唇の前に人差し指を立て、沈黙を促すジェスチャーをする。 ギーシュがそれに頷くと、ルイズは彼の耳に唇をよせ囁く様に言う。 「ヴェストリの広場に来て」 そう言って、ギーシュが止める間もなくルイズは歩きさってしまう。 一瞬呆気に取られたギーシュだったが、ルイズはもう少しロマンスのある手順を求めているのだと思い直し自分を納得させた。 肩透かしを食らったが、あせる事はない、ほんの少しお楽しみが延びただけのことだと思って彼は広場へと着て行く服を選び始めたのだった。 彼が広場に着いたとき、ルイズは既に広場の中央で彼を待っていた。 彼女は先程の格好にマントを羽織っただけの格好で、そう寒い季節ではないとはいえ、月明かりの下でそれはいかにも頼りない。 「やぁ、待たせてしまったねルイズ。そんな格好で寒くはなかったかい?」 「良いのよギーシュ、気にしないで。それより、ねぇお願いがあるの」 「なんだい?何でも言ってくれたまえ」 「私とゲームをしましょう」 「ゲーム?」 「そうよ、ルールは簡単」 そう言って自らの杖を取り出すルイズ。 「決闘をするのよ。そして、勝った方は負けた方を好きにできる。ね、簡単でしょ?」 その突然の提案にぎょっとしたギーシュだったが、すぐに理解した。 決闘と言って杖を持ったとして、ゼロのルイズに勝ち目等あるはずがない。 つまりこれは、ただ自分を好きにしていいというのではあまりにもはしたないから、それを繕う為に言い出したゲームなのだと。 勝利の報酬を思ってギーシュは小鼻を膨らませながら、しかしがっついた印象を与えないようあえて反論をする。 「決闘だなんて、かよわい女性を相手にそんな事をする理由がないよ」 「ふふ……そう、理由が必要なの。ならこういうのはどうかしら?貴方は昼間食堂でメイドを叱っていたでしょう?私はあれは八つ当たりだと思うの。だから貴方のことが許せなくて、決闘を申し込むのよ。当然私が勝ったら貴方に罰を与えるわ。どう?」 人は本当のことを言われると怒り出すものである。 自らの所業を八つ当たりと言い表されて、不快に思ったギーシュは彼女にちょっとお灸をすえてやろうと思った。 力によって相手を屈服させてモノにするということに原始的な興奮を覚えたのも事実だった。 「良いだろう。そういうことであれば、君の思い違いを正してあげようじゃないか」 ギーシュは自らの杖である薔薇の造花を取り出す。 ルイズは一歩、二歩、しめて七歩歩いて間合いを取った。 「さ、始めましょう。貴方の番よギーシュ。貴方の手札を呼びなさい」 まったく淀みない口調でルイズは言う。 もちろんこれは勝負などでは無いのだから、彼女が怯える必要などあるわけがない。 しかしギーシュは彼女に怪我はさせないまでも、少し驚かせ、怖がらせてやろうと思った。 「では、使わせてもらおう。僕の魔法を!いでよ、ワルキューレ!」 ギーシュが薔薇を振るうと、その花弁が一枚はらりと舞って、見る間に槍を持ち鎧をまとった女戦士を形作る。 所詮箱入りのお嬢様。この槍を顔の間近まで突き出してみせればきっと怯えて止めてくれと頼んでくるに違いない、とギーシュは思った。 「呼んだわね。では私のターン」 ルイズは杖をマントの内側へとしまうと、入れ替わりにトランプのようなカードを取り出した。その数5枚。 そしてその中から1枚を引き抜いて、空中へと放りなげる。 「【エルフの剣士】を攻撃表示で召喚!」 放たれたカードが光り輝き、まるで召喚のゲートのように広がったと思うと、次の瞬間剣と盾で武装したエルフが現れた。 「な、なんだってぇーーーーっ!!!??」 ギーシュの叫びがヴェストリの広場に響き渡るが、観衆無き決闘の場でそれを聞くものはギーシュ自身と、ルイズしかいなかった。 そのルイズはギーシュの驚愕など僅かも気にかけず更に1枚のカードを手札から抜き取り、手前に置くような動作を見せると、カードは空中にぴたりと固定された。 「更に、場にカードを1枚伏せてターンエンド」 ギーシュはわけがわからなかった。 ちょっとルイズをからかって、その後は勝利の報酬が待っているだけのゲームだったはずなのに、なぜエルフが! エルフ!まさか、エルフがこの学院へと侵入し、ルイズに取り付いたのでは!? 混乱するギーシュへとルイズが促す。 「どうしたのギーシュ。貴方の番よ?何もしないのならこちらの番にうつらせてもらうけれど」 ここへ来ても一切乱れぬルイズの声とは対照的に、動揺が聞いて取れるギーシュの声が返される。 「きっ、君はっ、こんなっ、エ、エルフだなんて!」 「いやねぇ、これはゲームなのよ。そんなに怯えないで。これはあくまでゲームの駒。勝手に行動したりはしないわ」 そう言って【エルフの剣士】を見るルイズ。 その視線を追ってギーシュもそれを観察する。確かに、顔を伏せ静かに佇む其の姿はルイズの命令を待つ駒のようにも思えた。 しかしだからこそ、それを平然と従え、冷たい目でギーシュを見るルイズの異様さがここへきて恐ろしい! 「ルイズ!馬鹿なことはやめるんだ!エルフに組するなんてただじゃ済まないぞ!」 「やめるですって?それは無理よギーシュ。私も貴方も既にゲームの盤の乗ってしまった。決着がつくまでこの盤から降りることはできないの」 「なんだって!?」 辺りを見渡すギーシュ。 しかしヴェストリの広場の外は闇に包まれている。夜だから、ではない。 当然見えるはずの各塔の明かりすらいつの間にか見えなくなっていることにやっと気づいたのだ。 「わかった?貴方は無事にここから出るには、私に勝つしかないのよギーシュ」 「うぅ……」 短い間に様々なストレスに晒されたギーシュの精神は既に限界を迎えていた。 そして耐え切れなくなった心は、眼前の脅威へ全力で攻撃することを選択する。 無我夢中で薔薇を降り、更に6体のワルキューレを造り出し、ギーシュは声を張り上げた。 「ワルッッキューレッ!あのエルフを攻撃しろォォォッ!!」 7体の青銅の女戦士が、一斉にエルフの剣士へと肉薄する。 それを見たルイズは唇を歪めて微かに笑い、小さくこう宣言する。 「トラップカード発動。【聖なるバリア・ミラーフォース】」 ルイズがそう呟いた瞬間、空中に伏せられていたカードが躍り上がって光を放つ。 その光が七つに分かれ、ワレキューレ達を襲う。光が収まった時、ギーシュのワレキューレ達は唯の一体も残さず消滅していた。 「あ、あ……僕の、ワルキューレ……」 呆然と呟くギーシュを尻目にルイズはゲームを続ける。 「そして私のターン。ドロー、並びにエルフの剣士、ギーシュにダイレクトアタック!」 ルイズから初めて下された命令に、エルフの剣士は忠実に従った。 ギラリと手にした刃を光らせて、ギーシュへと襲い掛かる。 「ぎゃああああああああぁぁぁっっ!!!!!」 剣士の刃に切り裂かれたギーシュは、奇妙なことに怪我は負わず、血の一滴もでなかったが、しかし凄まじい痛みがギーシュを襲い、頬が裂けんばかりに開かれた口からは絶叫が放たれた。 「ふ、ふ、ふ、ギーシュ。貴方の負けね……」 痛みにがくりと膝を突いたギーシュに、無造作に歩み寄るルイズ。 エルフの剣士はいつの間にか姿を消している。 「負けたからには『罰』を受けてもらわなくっちゃぁね」 「あ、あ、あ、、、」 恐ろしい恐ろしい恐ろしい。 ギーシュは見た。ルイズが胸に下げたペンダントに刻まれているのと同じ文様の「眼」が、ルイズの額に浮かびあがってギーシュを見下ろしているのを。 「罰ゲーム!」 ルイズが宣告し、その指でギーシュを指し示す。 ずぶり、と音をたててギーシュの精神に穴が開き、その心が穴中に落ちて行った。 ―――次の日、ルイズが自室のベッドで眼を覚ますと、放り投げたはずの千年パズルがテーブルの上に置かれていたので、何故だろうと頭を捻ることになった。 ギーシュは意識不明の状態で発見され、その意識は数日の間悪夢の中を彷徨い、眼が覚めた時には何も覚えていなかったという。
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「グローランサー3」のモニカ・アレン召喚 モニカがルイズに召喚されました-01 モニカがルイズに召喚されました-02 モニカがルイズに召喚されました-03 モニカがルイズに召喚されました-04
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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 03.明日ハレの日、ケの昨日(*1) その年の召喚の儀式は、初めは例年のように進行していた。生徒達の召喚呪文に よって、普通に使い魔として見かける生き物達が召喚される。猫やカラス、蛇に フクロウ。特殊なところでは風竜が呼び出され、周囲を驚かせたくらいだ。 しかし、ある男子生徒の召喚から状況が一転する。彼のところに現れたのは、 何と妖精だった。身長七十サントほどのそれは透明な羽を持ち、何より人間の 言葉で挨拶をしてきたのだ。 初めはエルフの類かとも思われたのだが、その愛らしい笑顔が周囲を魅了した(*2)。 聞けば、特別なことは何も出来ない(*3)という。それでも、召喚した男子生徒は 得意満面で妖精とコンタクト・サーバントを行った。風竜には敵わないけれど、 それでも十分特殊な生き物だ。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、というでは ないか。今はただのドットクラスだけれど、きっと自分には秘められた力があるに 違いない――。 残念ながら彼のその希望は儚くも砕かれることになる。次々と呼び出される 妖精達。先ほどの妖精を羨ましそうに見ていた生徒達が一転、今度は嬉しそうに 契約をしていく。 そして毛色の変わった生き物が呼び出されはじめた。基本的に人間の姿をして いるものの、鳥の様に翼があったり、虫の触角が生えていたり、猫の尻尾が二本 生えていたり、捻れた角が生えていたりと様々である。ただ共通しているのは、 みな女性――それも少女と言っても良いような年頃の姿をしていること。そして みな知り合いだということだ。 彼女たちは自分たちのことを『ヨーカイ』なのだと話した。妖精とは比べものに ならない力を持っており、契約すれば使い魔として働くという。 「まあ妖怪って基本的に、人を襲って食べたりするんだけどね。でもそれはそこの 大きいの(*4)だってそうでしょ? 大丈夫大丈夫、使い魔として呼び出されたん だから、ちゃんと使い魔をするよ」 角の生えた少女――自らを伊吹萃香と名乗った――は笑顔でそういうと、腰に ぶら下げた奇妙な形の入れ物を口につけた。ゴクゴクと喉が動き、プハァと息を 吐き出す。酒臭い。それを見た召喚主は、コンタクト・サーバントしただけで 酔っちゃいそう、と現実逃避気味に考えていた。本当は考えなければならない ことは他に沢山ある。どういう種の生き物なのか。何が出来るのか。自分の 専門属性は何になるのか。そして、コンタクト・サーバントをすべきか否か。 彼女は助けを求めるように、引率の教師を振り返った。 召喚の儀式は神聖なものであり、契約は絶対のもの、とはいうものの、引率の 教師であるコルベールは内心頭を抱えていた。敵意はない。自分たちから進んで 使い魔をやるという。その点はとても望ましいことだ。しかし、自分の中の何かが 危険信号を発している。これは危険な生き物だ、と。 結局彼は、召喚と契約の続行を決めた。召喚の儀式で使用される、魔法に対する 信頼があるからだ。また今までの記憶にも記録にも、召喚した生き物が制御 できなかったということはない。 彼女は諦めて、自分の呼び出した酒飲みとコンタクト・サーバントを行った。 案の定、酒臭い。眉をしかめる様に気づいた様子もなく(*5)、萃香はどこから ともなく取り出した茶碗に酒をつぐと、召喚主に向かって差し出した。萃香達の ところでは、主従関係を結ぶ場で酒を飲むしきたりがある(*6)、という。匂いを 嗅いだだけでも、かなりアルコール度数が高いことが分かった。彼女たち貴族も 一応普段からワインを嗜んでいるが、それは様々な香料を入れたり甘みをつけたりと アルコール度を薄めたものを少し飲むだけだ。ここまで度数の高いものをそのまま 飲んだことはない。それでも彼女は、その酒を一息に呷った。使い魔になめられる わけにはいかない、と思ったのかどうか。しかし彼女は茶碗を手から取り落とし、 目を回して倒れ込んだ。地面にぶつかる前に、彼女の使い魔となった萃香が軽々と 彼女を抱え、ゆっくりと地面に寝かせてやった。そして手を叩き笑う。 その心意気は見事、と。 それを見ていた他の妖怪や妖精も、手に手に湯飲みや茶碗を取り出した。 そして自分の召喚主に対して笑いかけた。さあ、私たちも、と。こうして召喚の場が 宴会場へと変わっていくのであるが、未だ召喚を行っていない者達には それどころではない。なにしろ次に呼び出された生き物は、今までとは段違いに 危険だったのだから。 背格好自体は十歳に満たない少女の様。日傘を差し、背中には蝙蝠のような羽、 笑った口元には牙のような犬歯が見える。彼女は辺りを見回すと、威厳に満ちた 口調で言い放った。 「私はレミリア・スカーレット、誇り高き吸血鬼の貴族。 さあ、私を召喚した幸運な子は誰?」 「吸血鬼!」 コルベールは油断なく杖を構えると、レミリアに相対した。彼の知っている限り、 吸血鬼などといった人間に敵対する知性体が召喚されたことはない。 「吸血鬼が一体どうして召喚されたのだ?」 「もちろん、使い魔をするためよ」 そこの連中と同じよ、と酒を飲んでいる妖怪を指さした。指された方は笑って 手を振り返す。 「いや、私が聞きたいのはそういうことではなく……」 「何故、こんな得体の知れない連中が大量に召喚されてるのか、ってこと?」 「……まあ、そんなところだ」 明らかな敵意を向けられてなお、レミリアは悠然と笑い言い放った。 「後に召喚される妖怪の中には、説明が得意なのもいるわ。 彼女達に聞いてちょうだい」 知識人っぽいのとか、家庭教師っぽいのとか、と含み笑いをするレミリア。 「後に……ということはまだ君たちのような人外が呼び出されるというのか?」 「そうよ。まあ、その中でも私が一番(*7)だけど」 何が一番(*8)なのやら、と妖怪連中から戯れ言が飛ぶが、一睨みで黙らせる。 「むやみに人間を傷つけるつもりはないわ。貴族の誇りにかけて、ね」 貴族の誇りを出されてしまっては、人間達も黙るしかない。それに納得も していた。人間にも平民と貴族がいるように、吸血鬼にも普通の吸血鬼と高貴な 吸血鬼がいるのだ、と。粗野な平民と違い、貴族には礼儀と誇りがあるものだ。 それは、吸血鬼でも変わらないのだろう。 コンタクト・サーバントを終わらせると、レミリアはニヤリと牙を見せて笑った。 「吸血鬼に相応しい主人にしてあげるわ」(*9) レミリアを呼び出した女生徒は、顔色を青くしながらも頷いた。普通の下級貴族で ある自分にそんなことが可能なのか。いや、やるしかないのだ。吸血鬼を使い魔に した貴族など、きっと後世にも名前が残るだろう。貴族にとってそれはこの上も ない名誉なことである。 こうして召喚の儀式は継続された。レミリアの言ったように、それからも様々な 妖怪が呼び出される。中には、どう見ても人間にしか見えない者達もいた。 例えばキュルケが呼び出した者は、自らを蓬莱人だと名乗った。それが何を 意味するかは不明だったが、少なくとも彼女は炎を操ることが出来た。呪文も なしに火を生み出す様に精霊魔法なのか、と騒然となったが、当の本人は至って 平然と答えた。 「そこの大きいのだって火を吐くんだろ(*10)? まあそれと同じようなもんさ」 それに精霊魔法は、その地に存在する精霊と契約して発動する魔法。逆に言えば、 契約をしなければ発動できない。召喚されたばかりの彼女に、そんな時間や呪文の 詠唱はあったか。答えは否だ。 それでも、いきなり彼女のような存在が呼び出されていれば、また話は違った だろう。魔法を使わずに特殊なことが出来る者に対する偏見は大きい。だが今回の 召喚の儀式では、妖精に始まり吸血鬼まで、特殊な生き物が数多く呼び出されている。 さすがに人間達も感覚が麻痺してきていた。慣れてきた、とも言える。 その最たる例として、自らを神と称する者が召喚されたが、比較的スムーズに コンタクト・サーバントまで至っていることがあげられるだろう。 「神って言うけど、こっちの世界じゃ精霊みたいなものかね」 背中に縄を結ったような飾りを付けた(*11)女性は、そう言いつつどっかりと 腰を下ろした。 「なにしろ今までいたところには、神様が八百万もいたからね。こっちは神様は 一人なんだろ?」 彼女を召喚した男子生徒は、どう返答したらいいのか分からず、とりあえず頷いた。 この世界の神と言えば始祖ブリミルということになるのだろうか。もちろん、 神聖な存在であり、威厳があって厳かな存在なのだろうと思っている。しかし……。 ちらりと横を見る。そこではやはり神を自称する少女が、召喚主の女生徒に後ろから 抱きつかれて困っていた。 「あーうー、私は神なのだぞー」 「か~わい~」 蛙を模した帽子をかぶった少女は手足をばたばたさせるが、威厳の欠片もない。 どういう経緯でこうなったのかは彼にも分からなかったが、可愛いことは確かだ。 「あははは、土着神の頂点も形無しね、諏訪子」 「そう思っているなら助けてよ、神奈子」 それも親交(*12)よ、と取り合う様子もなく、神奈子はどこからともなく盃を 取り出した。同じく、どこからともなく取り出した瓶から何かを注ぐ。言うまでも なく、酒だ。 「さあ、私たちもやろうじゃないの」 確かにもう辺りは、酒を飲まない方が不自然な状態にまでなっている。 楽器ごと宙に浮いた三人組が音楽を奏でると、翼を持った少女が歌を歌う。 やたら偉そうな妖精が空中にダイアモンドダストを発生させると、別の妖精が 輝きを集めて虹を作る。幻の蝶(*13)や見たこともない赤い葉っぱが辺りを舞い、 どこかに消えていく。ついでにコルベールはしきりに頷きながら、奇妙な帽子を かぶった者から話を聞いている。制止役がこれでは、騒ぎが収まるわけがない。 これは酒でも飲まないとやってられない。彼は神奈子から杯を受け取ると一気に 呷った。奇妙な味だが悪くない。 最初の爆音が響いたのは、ちょうどその位だった。 生徒達はその音に振り返り、ああ、あいつか、と呟いた。ゼロがまた魔法を 失敗した、と。 「ゼロ?」 その声に一人の少女が反応した。紫色のゆったりとした服(*14)に身を包んだ 自称魔女は、視線を自分の召喚主の男子生徒へと向ける。その全てを見通すかの ような視線にたじろぎながらも、彼は問いに答えた。 「あいつは魔法を成功したことがないんだ。だからゼロ」 彼が指さす先で、一人の女生徒が杖を構える。他の生徒に比べ、幾分幼い感じが する少女は真剣な面持ちでサモンサーバントの呪文を唱え杖を振った。が、 二度目の爆音が響いただけで、何も召喚されない。 なるほど、と彼女は頷くと感想を述べる。 「ふーん。零点ね」 「そうさ。零点――」 しかし魔女は召喚主の口をふさぐかのように指を伸ばした。 「零点なのはあなたよ」 「は?」 呆けたような顔を面白くなさげに一瞥すると、魔女は少し大きな声で説明を始めた。 「費やされた魔力のうち、サモンサーバントの分は正しく消費されてるわ。 あの爆発は余剰分が行き先をなくして発生しているだけ」 「まさか。だいたい何でそんなこと――」 わかるんだよ、と続けようとして、ジロリとにらまれる。 「貴族の合間にメイジをやってるあなた方には分からないかもしれないわね。 だけど私は生まれたときから魔法使いなのよ。言葉を話すより先に魔法を 使っているの」 魔法の動きを知るなんて呼吸をするのと同じ事よ、とつまらなそうに言うと、 手に持った本に視線を落とした。この世界は発動体が必須とされるようなので、 常に持ち歩いているこの本が発動体だと言うことにしてある。別に嘘だという わけではない。上級スペルを詠唱する際には、一部の負担を本に蓄えた魔力で 代替わりしているのだ。疲れないために。 しかしこの世界の魔法は彼女の知っているそれとは全く違う。呪文はあくまで キーワードでしか過ぎない。もちろん各自が持っている魔力は消費されているが、 消費分に対して発動される内容が高度なのだ。大体、この程度の魔力消費で空間を 転移するゲートを開けるなど、彼女の常識からすれば冗談の様である。まるで、 合い言葉を唱えると、世界そのものが魔法を発動しているかのようだ。 この魔法はどのような原理で構築されているのか。これからの研究対象を考えると、 彼女は興奮を覚えるのだった。なぜなら彼女の名前はパチュリー・ノーレッジ。 知識こそが彼女の生き甲斐なのだから。 「で、でもさ、じゃあなんで何も召喚されないんだよ」 本に向かって顔を伏せたまま、上目遣いにルイズを見ると、このやり取りが 聞こえたのか当のルイズと目があった。絶対に諦めない、という眼差し。 その視線に知り合いだった人間を思い出す。彼女もよくこんな目をしていた。 普通の人間の魔法使いだったくせに。いや、だからこそ、か。 そんなことを考えていると、再び爆音が轟いた。 「ふん、やっぱり失敗は失敗だよな。あいつはゼロなんだから」 「……零点。おめでとう、これでダブルゼロね。ダブルオーの方がいいかしら」 「なにーっ」 最近流行だったみたい(*15)だし、などとよくわからない解説が追加される。 「なぜ召喚されないのか、ということを考えず失敗と思考停止するのは、 愚か者のやることよ」 「僕が愚か者だって――」 「違うというなら考えてみなさい」 ピシャリと言い切られ、歯がみをして悔しがる。なんで僕は使い魔にこんな 言い込められないといけないんだろう。こんなことなら普通の動物がよかった。 と数分前とはまったく逆のことを彼は考え始めた。そんな様子を歯牙にもかけず パチュリーの考察と解説は続く。 「サモンサーバントで発生するゲートは、強制的に相手を転送させるものではないわ。 対象となったものが触れて初めて効果を現す。逆に考えれば、触れなければ 召喚されないという事よ」 「……じゃあ、触ろうかどうしようか迷ってるっていうのか?」 「そうね。意図的に触れずにいることを選択しているのかもしれないし、 何らかの事情で触れられない状態になっているとも考えられる――」 少し離れたところでそのやり取りを聞いていた狐の妖怪、八雲藍は、口元に 笑みを浮かべ呟いた。紫様も人が悪い、と。 もうほとんどの生徒は召喚を終えている。見回したところ、幻想郷にいた妖怪は 一人を除いて全員召喚されているようだ。その残った一人こそ、八雲藍の主人であり 幻想郷の賢者といわれた八雲紫。少々戯れに過ぎるのが玉に瑕。今回もその戯れだと 思ったのだ。 「紫様を使い魔にするのだ。これくらいの苦労は越えられねばな」 早々に酔いつぶれてしまった自分の新たな主人に膝枕(*16)をしながら、藍は しみじみと呟いた(*17)。 そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚魔法 失敗が二十回を超え、儀式の場はますます盛り上がっていた。 「さあ、次の呪文で召喚できたら、銀貨一枚につき二枚払うよー」 頭から兎の耳が生えた妖怪が、賭け事を始めている。 「人の失敗を賭に使うなーっ!」 ルイズの怒声もなんのその。生徒達や妖怪達が、おもしろ半分に賭け金を出し 始めた。 「あんた達も賭けるんじゃないわよっ!」 手に持った杖を突きつけるルイズだったが、次で召喚すれば問題ないでしょ、 と笑って返され二の句が継げなくなる。どうやらみな、酷く酒に酔っているらしい。 一体どうしてこんなことになったのだろう? もちろん答えは決まっている。 このヨーカイといかいう連中の所為だ。でもその一人がさっき言っていた。 魔法自体は成功している、と。本当のことかどうかは分からない。けれど、 今のところ縋ることの出来る唯一にして最高の言葉だ。だから自分は魔法を 唱え続ける。続けられる。 そんなことを考えながらも呪文を唱え、杖を振った。が、爆発。また失敗だ。 賭けた者からは罵声が、賭けなかった者からは歓声があがる。 「じゃあ次は銀貨一枚で、銀貨三枚ねー」 兎の声に、先ほどより多くの賭け金が集められた。思わず怒鳴ろうとしたが、 よくよく考えれば賭けるということは、召喚の成功が、つまり魔法の成功が 期待されているということだ。酔っぱらい共の戯れだとしても少しだけ気分が良い。 詠唱、そして杖を振り……また爆発。何も現れない。汗が目にしみる。まだまだ 諦めるには早すぎる。 集中、詠唱、杖、爆発。一体何が召喚されるというのだろう。 深呼吸、集中、詠唱、杖、爆発。もう周囲が騒ぐ声も気にならない。 「そう。重要なのは集中することよ」 その様子をじっと見ていたおかっぱ頭の少女が呟いた。背中には二本の刀、 隣には半透明な物体がふわふわと浮いている。半分人間である彼女は、努力して 技術を習得するということを人の半分程度は慣行している。だから、周囲の声にも 拘わらず召喚呪文を唱え続けるルイズという少女を、彼女は内心応援していた。 もっとも、彼女の主人はそうとは思っていないようだが。 「無理だと思うんだけどな」 「何故?」 鋭い視線で見つめられ、腰が引けそうになる。背の武器で斬りつけられたら…… と思うと気が気ではない。コンタクト・サーバントは終わっているので危害を 加えられることはないだろう、とはいうものの、やはり怖い。もちろん、その前に 魔法で何とか出来るとは思うが…… 「ダメよ~、妖夢。ご主人様が怖がっているじゃないの」 「何を言うんですが、幽々子様!」 「あらあら、怖い怖い」 突然横から現れた女性は、広げた扇子で口元を隠すと含み笑いを漏らした。 「妖夢は真面目すぎるのよ」 「性分ですから」 憮然として答える妖夢。その様子はまるで教師に叱られた生徒のようであり、 現役の生徒である彼女の主人は不意に親しみを感じた。 「もっとこう、余裕を持った方がいいと思うのよ」 「幽々子様は余裕がありすぎです!」 「そうねぇ。でも『今の』ご主人様は真面目な人みたいだし、 従者が余裕を持たないとね~」 その言葉に妖夢はハッとさせられた。なるほど、従者とは主人を補う者だ。 幽々子様の下では今までの自分でよかった。しかし新しい者の従者になるという ことは、自分も変わっていかなければならないのではないか。 「……努力します」 「そうそう。変われる、というのは人間の特権ですもの」 再び口元を扇子で覆い、笑い声を漏らす。その言葉は、果たして誰に向けられた ものか。 そんな周囲の会話ももはや聞こえる様子もなく、ルイズの召喚失敗は回を重ねる。 兎の賭の倍率が十倍にもなり、辺りが夕日に包まれてもまだ召喚は成功しなかった。 肩で息をする。喉も渇いた。魔力が尽きかけていることが、自分でも分かった。 これで最後にする。そう気合いを入れ、呪文を唱えた。そしてイメージする。 自分が最高の使い魔を使役している姿を。 「!」 杖を振ると共に起きる爆発。だがその中に、人影が見えた。 「おや……?」 その姿に真っ先に反応したのは藍。なぜならその容姿が彼女の想像と違って いたからだ。片手には日傘。これはよい。髪の色は金色。これも想像通り。 だが頭には黒いとんがり帽子を被り、黒い服の上に、白いエプロン。ドロワーズも 露わについた尻餅の下敷きになった箒。これではまるで、知り合いの魔法使いの ようではないか。その人間の名前は―― 「魔理沙っ!」 何人もの妖怪が叫んだ。疑惑に満ちた声で。単純に驚きで。喜びをにじませて。 嫌そうな声色で。溜め息と共に。 静寂の中、呼ばれた本人はゆっくりと立ち上がるとスカートに付いた土埃を払う。 そして不貞不貞しく笑みを浮かべると、口調だけは残念そうに第一声を放った。 「くっそー、ついに捕まっちまったか」 「ついに……ってどういうことよ」 その魔理沙の正面に立つ少女、ルイズ。杖を構え、肩で息をする様を一瞥し、 魔理沙は納得するように二度三度と頷いた。 「ん、ああ、あんたが私を召喚したのか。よろしくな。勝負に負けたんだ。 潔く使い魔になってやるぜ」 「ししし勝負ってなんのこここことかしら?」 あくまで冷静な魔理沙に対し、ルイズは興奮のあまり口が回っていない。 「根比べさ、召喚の。あんたが私を捕まえるのが先か、魔力が切れるのが先か。 寿命まで無料奉仕してやろうってんだ。これぐらいは試させてもらわないとな」 「じじじ寿命ですって?」 「ああ、私はこいつらと違って、普通の人間だからな」 周囲に座った妖怪を指さしながらの言葉。普通の、人間。その意味をルイズが 理解できるより先に、周囲が反応した。 「普通の人間って事は平民か?」 「なんだ、これだけ大騒ぎして結局普通の平民かよ」 「これって失敗だよな!」 「やっぱりゼロのルイズね」 いつも通り巻き起こる嘲笑。肩を落とすルイズ。よりにもよってただの平民とは。 また失敗なのか。しかしそれを認めるわけにはいかない。例えそれが強がりと 見られようとも。ルイズは顔を上げ、言い返そうとした。いつものように。 しかしルイズより先に、目前に立った少女が大声を上げた。 「ああ、そうだ! 私は霧雨魔理沙! 普通の人間だ!」 ルイズに背を向け、ルイズを守るように、霧雨魔理沙は立っている。 「だがなっ!」 だからルイズだけは気がついた。他の人間から隠すよう背に回した右手に、 光が集まっていることに。 「普通の人間の……魔法使いだぜ!」 そういうなり、右手の光――魔力塊を真上に向かって打ち出した。 一瞬の静寂。そして閃光。 まるで花火のように、光り輝く星屑が夜空に広がる。きらきらと輝くそれは 幾何学的な模様を徐々に変えながら、ゆっくりと広がっていく。 「わぁ……」 其処此処から感嘆の声があがる。四つの系統のどれにも属さない魔法。しかし 誰もそのことを言い出さない。 それほどに美しかったのだ。 そして何が起こるかうすうす感づいている妖怪連中は、にやにやと笑っていた。 人に馬鹿にされてただで済ますほど、霧雨魔理沙という人間は温厚ではないのだ。 「おっと、ちょっと魔力を調整しそこなったぜ」 わざとらしい声とともに、上空に広がった七色の星屑が一斉に地面目がけて 落ちてきた。(*18) そりゃあもう、唐突に。 「うぉあっあたる、あたる!」 「馬鹿っこっちくるな!」 「いやーっ」 「ブリミル様、お救いをーっ」 右往左往した挙げ句、互いにぶつかって倒れてみたり。地面に伏して祈ってみたり。 そんな様子を、魔理沙の召喚主であるルイズは唖然として眺めていた。 普通の人間? 魔法使い? 先住魔法? 星屑? 自分は一体、何を呼び出したんだろう? 「あー、別に危険じゃないぜ。ちゃんと消えるし」 その声にルイズが顔を横に向ける。いつの間にかルイズの横に並んだ魔理沙は、 困惑したという口調で嘯いてみせた。 事実、それは地面に一つも届いていない。流星の様に落ちてきた星屑は、最初から 幻であったかのように、中空で溶け込み消えていく。その様子もまた幻想的で、 混乱していた生徒達は徐々に呆けたように空を見上げていった。 一方妖怪達は、いつもの宴会芸に大喝采である。やはり酒の席にはこの花火が ないと始まらないとばかりに再び音楽が始まり、静寂が一転、喧噪に包まれる。 「さて、と」 そんな様子に満足したのか魔理沙は、ルイズを見るとウインクして見せた。 「契約をしなきゃなんないんだろ?」 言われて思い出す。そういえばまだコンタクトサーバントを行っていない。 「さっさとやろうぜ。せっかく注目を外したんだしな」 「注目を……?」 おうむ返しの質問。頭が混乱して、考えがまとまらない。 「いくら女の子同士でも、人の注目浴びながらキスをするのはちょっとな」 ファーストキスだからな。と帽子を目深に被りなおしながらつぶやく。 その頬が夕日の下でもそれと分かるほど赤く染まっていることに、ルイズは 気がついた。普通の人間で、魔法使いで、先住みたいな魔法を使って、でも、 中身はルイズと同じ少女なのだ。 そのことに気がついたルイズは、ようやくいつもの調子を取り戻した。 「感謝しなさい。わたしみたいな貴族の使い魔になれるなんて、名誉なことなんだからね」 胸を張り宣言する。その様子に魔理沙は、ニヤリと笑い言葉を返す。 「さすが私のご主人様だ。そうこなくっちゃな」 こうして、魔法が使えない貴族、ルイズと、魔法が使える普通の人間、魔理沙は コンタクト・サーバントを行ない、主従となったのであった。 そして二時間後。月明かりの中、ルイズは目を回して倒れていた。別にルイズに 限ったことではない。多くの生徒はルイズ同様、召喚の儀式が行われた草原に制服の まま倒れ伏している。 全ての原因は魔理沙だ。コンタクト・サーバントが終わるとルイズの手を引いて、 妖怪達の宴会に飛び込む。ここまではいい。自分が酒を飲み、ルイズにも酒を飲ます。 これもある意味当然の流れだ。だけど言ってしまったのだ。「さすが私のご主人様だ、 いい飲みっぷりだぜ」と、他の生徒を挑発するように。その結果がこれだ。 「みんななさけないわね」 余裕を装うキュルケも、目が虚ろ。手に持ったグラスは今にも滑り落ちそうだ。 ルイズより先に酔いつぶれるわけにはいけない、と半ば意地で意識を保っていた ものの、そろそろ限界らしい。自慢しようにも当のルイズはさっさと潰れている。 その使い魔は、狐っぽいのと日傘を挟んで深刻そうな話をしている。さあどうしよう。 その揺れる視線が親友の姿を捉えた。青い髪を持った小柄な少女、タバサ。 いつものように本を開いてはいるが、遠い目をして何か呪文のように呟いている。 ずりずりと膝立ちで近づいたキュルケのことも、目に入っていない。 「…………」 「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ」 「亡霊だから幽霊じゃない…… 騒霊だから幽霊じゃない…… 半人半霊だから幽霊じゃない…… 亡霊だから――」(*19) 「ねえ、タバサ~」 反応のないタバサに業を煮やし、何気なく肩に手を掛ける。が、ビクン、 と一瞬背筋が伸び、こてんと倒れてしまった。 倒れてしまった親友を一人寝かしておく訳にはいかないわよね、とようやく 理由が出来たキュルケは、タバサを抱きしめるように横になり、自分の意識を 手放すことが出来たのだった。 一方タバサの使い魔となった風竜――もちろん実際には風韻竜なのだが―― のシルフィードは、そんな主人の事も気づかずに、他の使い魔達との会話に 夢中だった。他の使い魔とはいっても、妖怪が主である。それも特に、幼い雰囲気の 連中だ。 「きゅいきゅい!」 「へえ、一人で二百年も」 「きゅいきゅい」 「へーそーなのかー」 「きゅいきゅいきゅい」 「うんうん、その気持ち、よく分かるよ……あ、八目鰻、食べる?」 「きゅい!」 「えへへ~おだてても何もでないわよ~」 「みすちー、私のはー?」 「もうとっくに食べちゃったでしょ?」 「きゅい……」 「あー、いいのいいの、こいつが食いしん坊なだけだから」 「ひどいよー、そんな嘘、言いふらさないでー」 「そうそう、食いしん坊と言ったらやっぱり、アレよね」(*20) 「きゅい?」 まだまだ話は尽きそうもなかった。 脳天気な話をしている連中もいれば、ただ杯を傾けている連中もいる。 蓬莱山輝夜と八意永琳、そして鈴仙・優曇華院・イナバは、言葉少なに月を 見上げていた。 「イナバが二つに見せてるんじゃないの?」 波長を操作できる鈴仙なら、光を操作して一つのものを二つに見せることなど 雑作もない。 「姫様が一つ増やしているんじゃないですか?」 先日の夜が終わらない騒ぎの元凶は、輝夜が作り出した偽物の月である。 二人そろって盃を干すと、大きな溜め息をついた。そんな二人を照らす月も、二つ。 「確かに世界が違えば、月が二つあってもおかしくはないのでしょうけどね」 永琳も、遅れて溜め息をついた。 「本当にあなたたちって、違う世界から来たのね」 永琳の主人が口を挟む。言葉の意味に気がついたから。 「それにしては驚いてないのね」 「もう驚き疲れちゃったわよ」 大体なんで貴族である私が、夜の野外に酒盛りなんてしないといけないのかしら、 それも地面に座り込んで、などとブツクサ呟きつつ、盃を傾けた。そしてちらりと 斜め向こうを見る。そこでは彼女と付き合っているキザっぽい少年が、自分の呼び 出した使い魔に何かを囁いていた。あんな光景を見せられたら、酔うに酔えない。 うふふ、という笑い声にキッと使い魔を睨むが、永琳は嬉しそうに笑うばかりだ。 「若いっていいわね」 しばらく睨んだ末の言葉がこれだ。色々とやるせなくなって、永琳の主人である モンモランシーは一息に盃を干したのだった。 一方、そのキザっぽい少年の使い魔となったアリス・マーガトロイドは、安堵の 溜め息をついていた。やっと酔い潰せた、と。 基本的には悪い人間ではないと思う。選民思想が少々気になるが、まあ特権階級の 子息ならこんなものだろう。服装のセンスが悪いのも、多分なんとかできる。 だが、語彙の乏しさはなんとかならないものか。延々と同じ口説き文句を 聞かされると、最初いい気分だっただけ落差が酷い。 「?」 そうして落ち着いてみると、なにやら視線を感じる。月の姫達と共にいる少女が なにやらこっちを見ているようだ。アリス自身がそちらを向くと見ていないフリを するが、周囲の状況は腕にさりげなく抱えた上海人形により、常に把握している。 人形の目は彼女の目なのだから。もっとも、状況自体はわかっても、それが何を 意味するものなのかを推測するには、アリスには経験が足りなすぎた(*21)。 特に男女間の人間関係における心情については。こうして今しばらくの間、アリスは 据わりの悪い思いをするのだった。 一方、そんな状況を早速手帳に書き留めている者もいる。 「『三角関係勃発か?』 ……うーん、 『主人と使い魔の恋は成り立つのか?』 の方がいいですかねえ」 「アヤ、今度は何を書いてるの?」 問うたのは彼女の主人。ポッチャリとした体型の彼は、先ほどまで使い魔の 射命丸文から質問責めにあっていたのだ。律儀に使い魔からの質問に答えて いたのは、時に鋭くなる言葉の槍が、妙に心地よかったから。 「ふふふ、秘密ですよ」 そんな文の不敵な笑みもまた、彼の心を撫で上げるようである。これって もしかして恋なのかな?(*22) などと考えるマリコルヌ少年が、自身の性癖に 気がつくのはもう少し先のことである。 一方、文はそんな主人の様子よりも、目の前で起きている出来事の方が重要だった。 そこでは唯一使い魔となった人間、霧雨魔理沙と、主人達の教師であるコルベールが 興味深い話をしていたのだ。先程の藍と魔理沙の会話も興味深いものだったが、 こちらの話もまたそれに劣らず面白そうだ。 「ほう、変わったルーンだ」 「ふーん、そうなのか?」 コルベールに言われ自分の額を撫でる魔理沙。コンタクト・サーバントにより浮かび 上がる使い魔のルーンが、魔理沙は額にあった(*23)。月明かりの下、手元の本を 広げるコルベール。誰からもらったのかそれは、幻想郷縁起(*24)であった。苦労して 魔理沙のページを探すと、そこにルーンの形状を書き込んでいく。 「しょうがないなぁ」 そんな魔理沙の言葉と共に、辺りが明るくなる。見上げれば、本の上に明かりが ともっていた。星も集まれば、月よりも明るい。その輝きをしばし見つめた コルベールは頭を振ると、魔理沙に問いかけた。 「それは一体どういうものなんだね?」 「星の魔法だぜ」 さも当然だと言わんばかりの返答に、コルベールは再度頭を振った。 この世界で人間が使う魔法と言えば、四つの属性に分類されるものだ。例外として コモンマジックと、伝説と言われる虚無。しかしこの魔法は、そのいずれにも該当 しないものだ。いや、少なくともコモンマジックと属性魔法には該当しない。では虚無 魔法か? いや、あれは遠い伝説のものだし、そもそもこの人間は、杖を使ってすら いない。では先住魔法か? いや、彼女は人間だ。それは間違いない。マジック アイテムを所持しているものの、自身は普通の人間であることは、ディテクトマジックで 確認済みだ。ならばそのマジックアイテムの力なのだろうか? コルベールは使い魔の印を書き写す作業に戻りながら、考えを巡らす。それを 知ってか知らずか、さらにコルベールを混乱させる事を口にする。 「他には、恋の魔法とかもあるぜ」 「は?」 「ま、星も恋も、遠くにあって憧れるものさ」 何かの聞き間違いかと思った。今、恋、と言ったのだろうか? どこか遠い目をしてのその言葉に、コルベールは聞き返せなかった。いずれ詳しい 話を聞く機会もあるだろう。彼は三度頭を振ると、本を閉じた。 「ん、終わりか?」 「うむ、これは後日、調べることにしよう。 それより一つ、聞いておいて欲しいことがある」 「あー?」 聞き返す魔理沙は十分に酔っているように見える。これから話すことを覚えて いてくれるかも怪しい。それでもコルベールには伝えておきたいことがあった。 「他でもない、君の主人となる者のことだよ」 当のルイズは、魔理沙の脇で横になり、寝息を立てている。その寝顔がどことなく 微笑んでいるように見えるのは、うがちすぎであろうか。 「もう知っているかもしれないが、彼女――ミス・ヴァリエールは、 魔法が使えないのだ」 「でも、私を呼び出したぜ?」 「ああ。だが明日以降も魔法が使えるかどうかはわからない。 今回が特別なのじゃないかとも思う」 もちろん、そうでないことを願うがね、という言葉とは裏腹に、コルベールの顔は暗い。 「ははん。だから面倒を見ろって?」 「そういうわけではないが……覚悟して欲しい、ということだ」 「ふん、覚悟か。 そんなのは、この世界に来ることを決めた時に、とっくに終わってるぜ」 魔理沙は手に持った茶碗に残った酒を一気に空けた。 「なにしろ私は、普通の人間の魔法使いだからな」 そういうと、おーい、酒が切れたぞー、と傍らの集団に声をかけた。コルベールが 何か言うより早く、新たな酒が魔理沙の茶碗に注がれる。ついでにコルベールの 手にも、コップが持たされた。 「お、おい、私が飲むわけには――」 「まぁまぁ、そういいなさんな。これからも長い付き合いになるんだしさ」 傍らに巨大な鎌を置いた女性が気軽に肩を叩き、コップに酒を注ぐ。その容姿に、 コルベールの相好も思わず崩れる。彼とて木石ではない。女性に酌をされれば それなりに嬉しい。(*25) 「昨日までの日々に別れを。明日から世界に祝福を」 生真面目な雰囲気の女性が盃を掲げると、まだ意識のあるものは自らの酒杯を 掲げた。数瞬の静寂。ある者は離れてきた家を想い、ある者は残してきた者達を想い、 ある者はそこにあった自然を想い……みな幻想郷のことを想い、そして別れを告げた。 こうして今までの昨日は終わり、全く新しい明日が始まったのである。 人間にとっても、妖怪にとっても。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 こうやって人間をだまして悪戯する *3 空を飛ぶのと弾幕を撃つのは、幻想郷では標準技能。 *4 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 普通の風竜と一緒にしないで欲しいのね!) *5 絶対に気がついてる。 *6 酒を飲むありがちな口実。 *7 多分カリスマ度。 *8 多分幼女度。 *9 レミリアの能力は、運命を操る程度の能力。 *10 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 野蛮な火竜と一緒にしないで欲しいのね!) *11 正装。 *12 親交=信仰。って神主が言ってた。 *13 見ているだけなら安全。 *14 実は寝間着らしい。 *15 早くも幻想郷入りしていた? *16 尻尾枕だったかもしれない。 *17 とてもこき使われたらしい。回転しながら特攻とか。 *18 この弾幕はフランからのパクリなのか? *19 現実逃避。あるいは自己暗示。もちろん、全部幽霊。 *20 ご想像にお任せします。 *21 魔法ヲタクかつ人形ヲタク。 *22 恋ではなく変です。 *23 ミョ(略)ンなルーン。 *24 妖怪にとってはイラスト付きの自己紹介本。自己アピールあり。だから信頼性は不明。 *25 それに体型的にも嬉しい。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
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トリステイン魔法学院の学生にして失敗ばかりの落ちこぼれ『ゼロのルイズ』。 二年生への進級をかけた『春の使い魔召喚の儀式』へと臨んだ彼女は”彼”を召喚した。 召喚されたばかりの”彼”を見たルイズはただの平民の子供だと思った。 自分よりも年下のようだが、そう年が離れているわけでもなさそうだ。 ともかく召喚自体は成功したのだから、まるでダメと言うわけではないのだとルイズは自分を元気付けた。 そして周囲を不安げに見回し、怯える犬が威嚇するように唸る”彼”を宥めながら使い魔の契約をした。 使い魔のルーンは”彼”の胸へと刻まれた。 そんな”彼”との生活が始まったのだが、それはとても多忙な日々となった。 まず、”彼”は何かしらの障害を持っているのか、言葉を話さないのだ。 ”あ~”、”う~”などの唸り声を上げるだけ。 次に好奇心が旺盛であり、感情の起伏が激しい。他の使い魔を見れば時と場合を選ばず飛び掛り、 魔法の授業の時には練金で小石が真鍮に変わったのを見るや、怯えて暴れ出した。 更に食欲も旺盛。最初に食堂に連れて行った時は野生児の如くテーブルに飛び乗り、料理を散々に食い荒らした。 その事があって食事の件は知り合いのメイドであるシエスタが何とかしてくれる事になったのだが、 結局はこれらの事実にルイズは頭を悩ませる事になった。 だが、それでもルイズは”彼”を見放そうとはしなかった。 自分が召喚できた使い魔だと言う事もあるが、何より”彼”はルイズやシエスタに懐いていたのだ。 その懐きぶりは自分が下の姉に甘える姿にとてもよく似ていたのだ。 それゆえ、無下に突き放す事も出来なかったのだ。 そんな”彼”をルイズは日が経つにつれ、ただの平民だとは思えなくなった。 …その原因は”彼”の成長にあった。どういう訳か、”彼”は常人とは比べ物にならない速度で成長していったのだ。 どんどん成長し、ついにはドラゴンなどと比べられるほどの大きさになった”彼”に、 使い魔召喚の儀式から”彼”に刻まれたルーンに興味を持っていたコルベールも驚きを隠せなかった。 そして、最初はルイズと同じか多少低い位だった”彼”の背丈は、今や二十メイルに達しようかとしていた。 最早疑う余地は無かった。”彼”の常人とは異なった言動もこれで説明がつく。 ”彼”は亜人だ――そうルイズは思い至った。 そんなある日…、学園にルイズの姉であるエレオノールがアカデミーの研究員数名と共にやって来た。 ハルケギニアに生息するどの亜人よりも巨大で異質な”彼”は王宮の、アカデミーの興味を引いたのだ。 そして実験体としてアカデミーに連れてくるように指示が出て、エレオノールらが来たのだ。 エレオノールは”彼”の引渡しを妹に伝えるが、ルイズは当然それを拒否した。 幾ら頭の上がらない姉であろうと大事な使い魔を渡せるはずが無かったのだ。 すると他の研究員が”彼”を魔法で捕縛し、強引に連れ出そうとしだした。 ”彼”は怯え、激しく抵抗し、暴れた。その結果、研究員の内二名が巻き込まれて死亡した。 そのまま”彼”は魔法学院から逃げた。一度だけ、ルイズの呼び声に振り向き、悲しそうな表情を見せて。 ルイズは”彼”を連れ戻すべく、魔法学院を飛び出した。コルベールとエレオノールもそんな彼女に付き添った。 消えた”彼”は食料となる家畜を襲いながら、トリステイン中を放浪しているようだった。 目撃情報を得ながら、ルイズ達は”彼”の姿を捜し求めた。 そんな最中、ガリア南部の山地の中に点在するアンブランと言う村が何かに襲われ、村人全員が行方不明となる事件が起きた。 その村は以前からコボルドに襲われていた為、最初はそれらの仕業かと思われたが、そうではない事が解った。 破壊された家々はコボルドとは思えない、巨大な物に叩き壊されたような物ばかりであり、 何より人の死体が一つも無い所が妙であった。 コボルドに人の死体を一々始末するような知能が無い事は、ハルケギニア中の人間は知っているのだ。 そして、この奇怪な事件の犯人が先日トリステイン魔法学院から逃げ出した亜人では無いかと、人々は噂しあった。 無論、ルイズはそんな事は信じなかった。”彼”が自分から人を襲った事など、ただの一度足りとも無いのだ。 だが、世間はそんな少女一人の気持ちなどでは動かなかった。 事件がガリアだけに止まらず、ロマリア、ゲルマニアでも起こり、”彼”を完全に危険視したのだ。 各国の王宮は討伐隊を編制し、”彼”を捜索を開始するに至った。そんな状況にルイズ達は焦った。 そして、ルイズ達は朝靄が掛かる森の中でそれと遭遇した。 突如として地面が盛り上がり、巨大な怪物が姿を現したのだ。 それを見たコルベールは、その怪物が何か解った。 それは大昔に韻竜と共に絶滅したはずの火竜の亜種『バラナスドラゴン』であった。 怪物は地面から這い出るや、ルイズ達を見つけて大きく咆哮する。 その耳まで裂けた口から赤い液体が滴り落ちている。 それが人の血液であると言う事は直ぐに解った。…口の端から”人だった物”が除いていたのだから。 ルイズは吐き気を覚えたが、それを上回る激しい怒りが頭の中を駆け巡った。 ルイズは杖を振り、失敗魔法の爆発を怪物に放ち、エレオノールとコルベールも魔法を唱えるが、 怪物はそれらに全く怯む気配を見せなかった。 ついに精神力が切れ、魔法が撃てなくなったルイズ達は怪物から逃げた。 だが、ルイズだけが躓き、地面へと倒れてしまった。そのルイズへと怪物は牙の並んだ口を開けて迫る。 もうダメだ、とルイズが絶望した時、怪物の角が何者かに掴まれた。 見上げれば、怪物の角を掴んでいるのは”彼”だった。 ”彼”が怪物と戦っている隙にやって来たコルベールがルイズを抱え上げ、その場を離れた。 ”彼”と怪物の戦いは、人間と獣の戦いだった。 怪力と知恵で戦う”彼”に対し、怪物は牙や爪、ブレスを進化させたかのような強烈な熱戦、 更には最高百メイルに達する跳躍力で持って”彼”に襲い掛かる。 そんな理性と野生の対決は壮絶な物となった。 結果的に頭脳プレーで攻める”彼”に怪物は遂に逃げ出し、地中へと逃れた。 その後、”彼”は逃げる最中に謝って足を滑らせ、崖下へと転落したエレオノールを助け出し、 ルイズとコルベールの下へと送り届けるや、再び姿を消したのだった。 トリスタニアへと戻ったルイズ達は王宮へと事の次第を報告した。 全ての事件はバラナスドラゴンの生き残りの仕業であり、”彼”は無関係だと。 しかし、絶滅したはずのバラナスドラゴンが生き残っているなど在り得ない、と否定された。 更には、使い魔だからと問題の亜人を庇っているのではないか、と言われる始末だ。 結局、何を言っても信じてはもらえなかった。 そして、バラナスドラゴンの生き残りである怪物は再び現れた。 夜闇に隠れ、シエスタの生まれ故郷であるタルブの村の人々に襲い掛かったのだ。 次々と家が壊され、村人が老若男女の区別無く食べられていく。 タルブ領主のアストン伯が慌てて討伐隊を率いたが、一人残らず熱戦に焼かれたり食物にされた。 そんな地獄の様な光景を見ながら震えるシエスタに怪物は迫った。 その時、再び”彼”が姿を現し、怪物へと立ち向かった。怪物の首を締め上げ、投げ飛ばす。 だが、怪物もやられてばかりではなかった。二度も食事を邪魔された事は怒りを爆発させるには十分だった。 怒りの所為か、威力の増した熱戦が怪物の口から迸り”彼”に命中する。 最初は耐えられたそれも、威力の増している状態では耐え切れなかった。 僅かに怯んだ”彼”の隙を突き、怪物は大きく跳躍して覆い被さる。 鋭い牙で噛み付こうとする怪物の口へ、”彼”は岩を押し込み蹴り飛ばした。 ひっくり返る怪物に”彼”は更に岩を投げつける。 怒り狂う怪物は熱戦を吐き散らしながら”彼”に襲い掛かる。 ”彼”は怪物の注意を自分に引きつけ、村から引き離していった。 遅れて村へとやって来たルイズは、”彼”の意図を理解し、馬に乗るや後を追って森へと入った。 移動を続けながら二体の戦いは激しさを増していく。 やがて森を抜け、二体はハルケギニア随一の巨大な湖『ラグドリアン湖』へと辿り着いた。 そこで遂に戦いは終わりを迎えようとしていた。 ”彼”に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた怪物はフラフラになる。 その怪物の首を”彼”は渾身の力で締め上げる。 怪物は苦しみ、激しく暴れたが、”彼”も必死に締め上げる。 やがて、怪物の鳴き声が弱々しくなっていき、大きく一声鳴くとそのまま口を閉じた。 直後、骨が折れる音が首から響いた。 不自然に首が折れ曲がった怪物は地面に力なく横たわる。 その怪物の身体を”彼”は二、三度蹴り飛ばしたが反応は無い。完全に事切れていた。 ”彼”は怪物の死骸を持ち上げると、湖に向かって力任せに放り投げた。 大きな水飛沫を上げて怪物の身体は湖底へと沈んでいった。 怪物が沈んだのを見届け、”彼”は勝利の雄叫びを上げる。 その彼の勇姿に駆けつけたルイズだけでなくエレオノールやコルベールも笑顔を浮かべた。 ――だが、事はそれで終わらなかった。 突如、ラグドリアン湖の水面から巨大な水柱が立ち上り、そこから声が辺りに響き渡る。 声の主はラグドリアン湖の水の精霊だと名乗った。 水の精霊は自らの領域を侵した”彼”へと制裁を加えると言った。 直後、水面が盛り上がり、巨大な蛸が姿を現した。それは水の精霊の使いだ。 呼吸する音が不気味な鳴き声のように聞こえ、足や胴体が動く度に粘液が嫌な音を立てる。 大ダコは八本の大蛇の様な足を振り回しながら”彼”へと襲い掛かった。 ”彼”は必死に戦ったが、怪物とは勝手が違いすぎた。 柔らかい柔軟性に長けた身体は木や岩を投げつけられても大したダメージを受けずに弾き返してしまう。 業を煮やした”彼”は肉弾戦を仕掛けたが、逆に大ダコの足に絡め捕られてしまった。 そのまま”彼”は大ダコに力任せに湖へと引きずり込まれる。 ”彼”の危機にルイズは助けようと杖を抜くが、エレオノールに止められる。 水の精霊を怒らせればどんな事になるか解らないのだ。 そんな事はルイズも解っている。だが、理屈では割り切れない事もあるのだ。 しかしエレオノールは譲らず、暴れるルイズの頬を叩いた。 そして、ルイズは気付いた。…姉もまた、自分の命の恩人の危機を見つめている事しか出来ないのに苦しんでいるのを。 結局、”彼”が大ダコによって湖底に引きずり込まれるのを見ている事しか出来なかった。 こうして、事件は一応の終わりを迎えた。 この日を境にルイズは一つの可能性を考える事となった。 それは”異種族との和解と共存”だった。 この後、ルイズはアルビオンで一人のハーフエルフの少女と出会い、 彼女と協力してエルフとの和解を実現させる事になる。 そして、彼女は和解成立のその後も毎日ラグドリアン湖へと通った。 何時の日にか”彼”が戻って来てくれる事を信じて…。 『終』
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ルイズが子山羊を召喚しました。 「使い魔になんてしないで下さい。 僕の次に召喚される兄さんの方が大きくて強いですよ」 子山羊はそう言って去って行きました。 人語を話したのはとりあえずスルー。 ふたたびの召喚。 今度現れたのは、角も立派な大きなたくましい山羊でした。 しかし。 「僕を使い魔にするより、次に召喚される兄貴の方が大きくて強いからそっちにしなよ」 山羊はそう言ってまた去っていきました。 なんでしゃべれるんだお前。 そして三度目の召喚。 爆発。 土煙の中からぬうと現れたのは。 それは山羊と言うにはあまりにも大きすぎた。 大きく険しく重く、そして大雑把すぎた。 それはまさに以下略。 「使い魔にしてやるわ!」 ルイズが怒鳴りました。 『やってみろオラァ!こっちにゃ二本の槍がある!これで目玉は田楽刺し! おまけに大きな石も二つある! にくも! ほねも! こなごなにふみくだくぞ! 谷底にブチまけてやる!』 こうして、すさまじいたたかいがはじまりました……。 一方ティファニアはすてきな三人組を召喚して孤児の王国を作り上げ幸せに一生を送った。 おわり。
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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 聞く耳持たず、とはまさにこのこと。そのまま杖を構え詠唱を始める。慌てて防御用の 結界を用意するが、時間が足りない。特に、他人の分の結界を用意する時間が。 こうしてシュヴルーズは、眼前で起きた爆発により気絶したのだった。 ちなみに妖怪を含む使い魔達は、ルイズの爆発を昨日散々見てきていたので、 この爆発も予想の範囲内である。驚いて暴れたりすることもないし、騒ぎに乗じて 別の使い魔を飲み込んでしまうこともない。 それはもちろん生徒達も一緒なのだが、分かっているからといって二日酔いから 来る頭痛を押さえられるわけもない。ルイズの「調子が悪かった」という言い訳に 突っ込みを入れる気力もなく、頭を抱えて悶絶するのだった。 教室に残っているのは二人。ルイズと魔理沙は、爆発の後片付けをしていた。 ルイズ共々魔法を使っての片付けを禁じられたので苦戦している……と思いきや、 案外そうでもない。床に転がった破片を箒で掃き、汚れた机を雑巾で磨いていく。 窓にはめるガラスは、宙に浮かせた箒にくくりつけて運んだ。魔理沙曰く、私が 魔法を使ってるんじゃなくて、箒が勝手に宙に浮いてるんだぜ(*28)、だそうだ。 しかし。と、魔理沙は手を動かしながら考えた。この沈黙はどうしたものだろう。 ルイズも嫌々と汚れた机を雑巾で拭いている。魔理沙に背中を向け、無言で。 理由は何となく分かる。あとはどうするか。引くのは簡単。けれど、それは柄じゃない。 魔理沙は地雷と分かっていて、あえてその話題で話しかけた。 「すごい爆発だったな」 「…………」 返答はない。しかし肩が震えている。 「怒るなって。褒めてるんだぜ」 「ななな何をほほほほ褒めてるっていうのかしら」 「もちろん! 魔法はパワーだから……っと」 飛んできた雑巾を避ける(*29)。ようやく魔理沙の方を向いたルイズが見たのは、 腕を組んで立つ魔理沙の姿だった。それがまた癪に障る。 「まあ聞けって。 爆発が起きてる、ってことは、魔力の放出自体は正しく行えてるってことだろ」 「だから? 失敗は失敗じゃない」 「まず、発動しない原因を調査。問題を取り除いた後に練習。これで完璧だぜ」 完璧、といいつつ人差し指を立てる仕草が、さらにルイズの神経を逆撫でる。 何が調査と練習だ。簡単に言ってくれる。 「ふん。ちょっと自分が魔法を使えるからって偉そうにしちゃって」 その台詞に魔理沙はますます胸を張った。 「そりゃあ、普通の人間の魔法使いだからな。 魔法を失敗することに関しちゃ、自信があるぜ」 「……ふーん」 「あ、信じてないだろ」 「口先なら何とでも言えるわ」 「そうだな……」 魔理沙は辺りを見回した。もう掃除はほとんど終わっている。 「自分で言うのも何だが、掃除の手際はよかっただろ」 「……まあ、そうね」 正直、昼休みが終わるまでかかると思っていた。しかしまだ、昼休みは始まっても いない。ルイズが渋々と頷くと、魔理沙も我が意を得たりとばかりに頷いた。 「私の魔法は派手だからな。失敗したら大惨事だ」 だから掃除もうまくなったのさ。と肩をすくめる。 「大惨事……ね」 「言ったろ、魔法はパワーだ。家ごと吹っ飛んだこともあったぜ」 ふーん、と生返事をしてまたそっぽを向いてしまう。魔理沙から見えるのは横顔の 口元だけ。 「それで、どうしたの?」 「ああ、掃除するのをやめた」 「え?」 「どうせ吹き飛ぶんなら、掃除しなくても一緒だろ」 「む、無茶苦茶ね」 「ひどいな、合理的と言ってくれ」 お陰で家の中はまるで物置だぜ(*30)、という魔理沙の台詞に、くすり、とルイズの 口元が動く。ここまではいい。さて、ここからどうするか。仕上げに窓ガラスを拭きつつ、 魔理沙は考えを巡らす。事細かに説明するのは面倒だし、大体こいつが聞かないだろう。 私と違って天の邪鬼(*31)な様だし。となると、やってみせるしかないか。 ルイズに投げつけられた雑巾を回収し、自分の使っていたものと一緒に片付けると、 魔理沙は前掛けで手を拭きつつルイズに話しかけた。 「さて、ちょっと聞きたいことがあるんだが」 「なによっ」 身構えたように声を高くするルイズだが、次の魔理沙の問いに思わず素っ頓狂な 声を上げてしまった。 「この辺にキノコが生えているところはあるか?」 「はぇ?」 「キノコだ、キノコ。 食用にもなるキノコでもいいけど、食用にならないキノコの方がいい」 「……何しようっていうの?」 「調査と練習だ。説明が面倒だからな。見た方が早いだろ」 一体この使い魔は何を見せようというのだろう。先ほどの会話に関係があること なのだろうか。 「それを見せて、どうするのよ」 「どうするかはルイズの自由だ。だけどな……」 そこで次の言葉を探すように口ごもり、ついでに帽子を深く被り直した。 「……だけど、何よ」 「ルイズの恥ずかしい姿を見たんだ。 私の恥ずかしい姿も見せなきゃ、フェアじゃないだろ?」 「どういう理屈よ、それ……」 ウインクをしながらの魔理沙の台詞に、ルイズはついに深く考えることを止めた。 確かに魔法の失敗は、人に見せたくない恥ずかしい姿だけれど……まあいい。 見せたいというなら、見てやろう。それに確かに興味もある。魔理沙の言う、 キノコを使った失敗の恥ずかしい姿とはどういうものだろう? キノコね……と反芻しつつ、記憶を掘り起こしてみる。去年の授業だったろうか、 確か先生が言っていたのは―― 「南に十リーグくらいかしら? 森の中に生えてるそうよ」 「十リーグ?」 「馬で十五分くらいね」 「なんだ。私なら一瞬だな」 魔理沙はちらりとルイズの顔色を窺い、素知らぬ顔で付け足した。 「今度は、スピードだけではないところをお見せしましょう」 「それは楽しみね」 かろうじてそう答えたルイズの顔には、明らかに安堵の色が浮かんでいた。 それから三十分後。二人は鬱蒼と茂った森の中にいた。 「なるほど、こりゃあいい森だぜ」 「こんなに暗いのに?」 「ああ。キノコはこういう所の方がいいのさ」 会話する二人を乗せた箒は、木々の間をすり抜けながらゆっくりと飛ぶ。 魔理沙自身は地面ばかり見ているのに、箒は的確に木の枝やツタを避けていく。 「それでこの鍋は何なのよ」 箒の下には大きな鍋がぶら下げられていた。学院の中庭で妖怪達と話をしていた メイド(*32)に借りたのだ。中には水がなみなみと汲まれている。それでいてこぼれる 様子は全くないのだから、箒の飛行が如何に安定しているかが判るというものだ。 「そりゃ、魔女といったら箒と大きな鍋だからな」 「だからもうちょっと分かるように話しなさいよ」 「私のいた世界には、『考えるな、感じるんだ』という便利な言葉があってな」 「それって考える努力を放棄してるだけじゃない」 「無駄な努力は休むに似たりってな。お、発見だぜ」 まさに無駄話をしているうちに、さらに森の深部に入り込んだらしい。空は分厚い 木の葉に覆われ、辺りは昼間だというのに薄暗い。いかにも湿ってます、という 地面の上に生えている毒々しい色をしたキノコ目がけて、魔理沙は飛び降りた。 その後を箒がゆっくりと近づいていく。 「ふむ、数は十分だな」 周りを見回すと、そこそこの数のキノコが自生していた。おそらく毒があるのだろう、 生き物に囓られた跡もない。魔理沙にとっては好都合である。 転がっている岩を かまどのように組むと、懐から大きなアミュレット(*33)のようなものを取り出し、その中に 設置した。 そして箒に乗ったままのルイズを見上げると、大声で話しかける。 「ほら、降りてくれ」 「えー、靴が汚れるじゃない」 誰が喜んで、こんなジメジメした地面に降りるというのか。絶対に泥がつく。 魔理沙の靴も既に汚れているし。 「洗えばいいだろ」 「じゃああなたが洗いなさいよ」 善処するぜ、という魔理沙の返事に不安を覚えつつも、ルイズは魔理沙の手を借り、 湿った地面に降りた。余計な重量がなくなった箒を魔理沙は慎重に誘導し、先ほどの アミュレットの上に鍋を下ろす。 「熱くなるから注意してくれ」 ルイズに注意だけすると、今度はキノコに取りかかった。手袋をはめ、一つずつ慎重に キノコを採取する。手に持って眺めると、額のルーンが薄く輝いた(*34)。その様子に ルイズは驚きの声を上げる。 「何でルーンが光ってるのよ」 使い魔のルーンが光る、という話は見たことも聞いたこともない。 一方魔理沙も、驚いたような声を上げた。 「へぇ、光ってるのか」 「……マリサがなんかやってるんじゃないの?」 疑惑の視線に、魔理沙は心外だぜ、と声をあげた。 「これって使い魔の契約をしたってルーンだろ? こっちの世界のものだ。 私が知るわけないぜ」 「わたしだって知らないわよ」 ルイズの返答に、しかし魔理沙は納得したように何度も頷いた。 「なるほど、やっぱりこいつは特別みたいだな」 「やっぱりって……知らないって言ったじゃない!」 「使い魔は私だけじゃないしな。比較対象があれば比べるくらいはするぜ」 魔理沙の話によれば、他の誰も魔理沙と同じルーンが刻まれたものはいないらしい。 パチュリーという名前の魔女の話によれば、これは『ミョズニトニルン』と読めるという。 「ミョズニトニルン?」 「なんか知ってるのか?」 ルイズは首を傾げた。 「聞いたことがあるような気もするけれど……」 「まあいいや。どうせ時間はたっぷりあることだし」 ゆっくり調べるさ、といい魔理沙は作業に戻った。 キノコを一つずつ選別すると、鍋に放り込む。さらに懐から粉末状の何を 取り出し鍋に投入した。水が沸騰すると、なんとも奇妙な臭いが辺りに漂い始める。 ルイズは我慢できずにハンカチで鼻を覆った。 「さて、後は煮詰めるだけだぜ」 「一体これがなんだっていうのよ」 「魔法の元の元の元……ぐらいか?」 籠もった声での問いかけに魔理沙は、冗談めかして答えた。もちろんその答えは、 ルイズにとって納得できるものではない。 「そんな馬鹿な話があるわけないでしょ」 「そりゃ貴族様は、合い言葉を唱えて杖を振れば、魔法が発動するからな」 「…………」 文句を言いたげに口元がつり上がる。が、魔理沙はその鼻先に包みらしきものを 突きつけた。 「そろそろランチでもどうだ?」 言われてみればお腹が空いている。掃除で体を動かしたあと、昼飯も食べていない。 包みから漏れ出す美味しそうな匂いは、キノコの臭いにやられた嗅覚にも激しく 訴えかけるものだった。 魔理沙は返事を待たずに後ろを向くと、箒を呼び寄せる。椅子代わりに空中に 固定すると自分はさっさと腰掛け、ルイズを手招きした。 「ご主人様、どうぞこちらに」 「普通、ご主人様が座るまで待つものよ」 溜め息を吐きながら、ルイズも魔理沙の隣に並んで腰掛けた。 「……こんなところでお昼なんて」 「準備万端だろ」 ルイズがブリミルに祈りを捧げるのを待って、二人で包みの中身を食べ始める。 「よく用意したわね」 「鍋を借りたときにな……うん、朝もそうだったが旨いな、ここの食事は」 「当たり前でしょ。貴族のための魔法学院なのよ」 「使い魔に呼ばれた甲斐があったぜ」 「どういう基準よ」 口先の会話を交わしながら、互いに相手のことを観察する。 身長は同じくらい。ルイズの方が幼く見えるのは、主に体つきによるところが大きい。 ルイズが桃色がかったブロンドの長髪をそのまま流しているのに対し、魔理沙は金色の 長髪を三つ編みにしている。 ルイズは魔法学院の制服だ。白いブラウスにこげ茶のプリーツスカート、そして貴族で ありメイジの証でもあるマントを羽織っている。一方魔理沙は平民そのものの格好だ。 白いブラウスに黒いサロペットスカート、そして白いエプロン。これで頭に乗せた黒い 尖った帽子さえなければ、メイドと言っても通るかもしれない。 外見はそんなところだ。しかし、内面はどうだろう。 何この変な平民、というのがルイズの魔理沙に対する印象である。平民のくせに魔法を 使うし、口先だけかと思わせて、実は口先だけじゃなく、でも誠実かというと誠実というわけ でもなし、わたしを守ってくれようとしたり、危険な目に遭わせたり、一体何を考えているのか 全然解らない、というところだ。 一方、魔理沙のルイズに対する印象はと言うと、実のところそれほど悪くない。想像してた 貴族の子供から浮かべられる人物像とは大違いだ。ただもうちょっと心に余裕を持って 欲しいよな。霊夢ほどじゃないにしろ、と心の中で呟く。それもこれも、魔法が使えない、 ということが原因なんだろうけれど。だからこれからやることをルイズに見せようとして いるんだが。 いつの間にか見つめ合っていた二人は、態とらしく咳払いをした。グツグツという鍋の 煮える音の中、魔理沙の方から口を開く。 「ところで、使い魔って何をやるんだ?」 「そんなことも知らないで、使い魔をやるって言ってたの?」 やっぱりマリサって変な平民ね、とルイズが肩をすくめると、魔理沙は心外だとばかりに 言い訳を始めた。 「使い魔自体は見たことあるぜ。ほら、蝙蝠っぽい羽を生やしてるヤツ、いたろ?」 「子供みたいなの?」 「いや、あれじゃない。あれは吸血鬼(*35)だ。 そうじゃなくてもっと大人っぽいやつ」 「……ああ、いたわね」 ルイズも僅かに覚えていた。眼鏡をかけていたような気がするが、定かではない(*36)。 何しろあの時は、自分の召喚に精一杯だったのだから。 「あれは小悪魔っていってな。紫モヤシっぽい魔女に呼び出されたんだ」 パチュリーって名前な、と説明される。確かそれは、魔理沙の額に浮き出たルーンの 読み方を教えてくれた魔女の名前ではなかったか。 「知り合いだってのにずいぶんな言い方なのね」 「お互い様だ。アイツだって私のことを黒白とかネズミとか呼ぶんだぜ」 「分かる気がするわ」 黒白は服の色だ。ネズミだというのはきっと動きが速いからだろう。 そう納得する(*37)。 「それはともかく、あの小悪魔、使い魔として何をやってたと思う?」 「普通使い魔っていったら、主人と感覚を共有したり、秘薬の材料を集めたり、 主人を守ったり……」 「まぁそれが一般的なところだな。 だけどあいつは、ずっと本の整理をやらされてたぜ」 なにしろパチュリーは巨大な図書館を持っていたからな、という説明に、ルイズは 曖昧に頷くことしかできなかった。わざわざそのために使い魔を呼び出したというの だろうか。それとも、呼び出した使い魔が本の整理に向いていたから、本の整理を やらせていたのだろうか。そもそも巨大な図書館ってどれくらい巨大なんだろう。 学院にあるのより、大きいんだろうか。 会話が途切れる。魔理沙は立ち上がると傍らに落ちていた木の枝を手に鍋に向かい、 中身をかき回した。一段ときつい臭いが立ちこめる。 「なんでそれが、魔力の元の元の元、なの?」 先ほど、ルイズが抗議しようとした事だ。 彼女にとって魔法とは、そんな怪しげなキノコに宿るものではない。 「私はこの世界で言う平民と一緒だ。貴族のように、魔女のように、 魔法を使うなんて力はない。だから別のやり方を考えるしかなかったのさ」 そういうと魔理沙は鍋の中にから元はキノコであったろう固まりをつまみ上げた。 「見てろ」 そういうと魔理沙はその固まりを傍らの木に叩き付けた。ベシャリ、と音がする。 普通ならそれで終わりの筈だ。しかし。 「ふむ、青色か」 「え?」 僅かに。本当にごく僅か、言われなければ判らないくらいに、その固まりは発光 していた。もっとも、昨日の夜に見た星屑の煌めきからすれば、零に等しい。 ポケットから取り出したメモ帳に何かを書き込んだ魔理沙は、また別の固まりを 叩き付ける。 「これは外れ、と」 またメモ帳に何かを書き付ける。こうして次々とキノコだった物体を試していく。 何かしらの反応が現れるのは十回に一回くらいだ。それでも魔理沙は一つ一つ、 メモ帳に書き込んでいく。 「こうやって、使い物になりそうなキノコと、その条件を調べていくんだ」 「…………」 「そして、使えそうなヤツをさらに調べていく。こうして魔法の元を作っていくのさ」 「これをずっと繰り返すの?」 「繰り返すぜ」 本番では数日間煮込んだ上で、ブレンドしたり乾燥させたりするという。さらに、 叩き付けるだけじゃなくて、水に浸したり、火にくべたりとかもするぜ、と魔理沙は いうものの、地道な作業であることには違いない。 「今までもずっとこんなことやってきたの?」 「やってきたぜ」 ほらよ、と渡されたノートには、細かい字でびっしりとデータが書き込まれている。 それで五冊目だぜ、という説明に一瞬くらっとした。一体何回、何十回、何百回 同じ事を繰り返せばこれだけのデータとなるのだろう。 「これが、普通の人間である私が魔法使いとしてやっていく、数少ない方法だからな」 どんなに地味でもやるしかないのさ、と肩を竦める。 これがどれほどの手間と時間がかかったことなのか、ルイズにも理解できた。 だからこそ、分からないこともある。 「……なんでそうまでして、魔法を使うの?」 ルイズ自身も魔法が使えない。だから使おうと色々試してみた。けれどそれは、 『貴族ならば魔法は使えるもの』という前提に立ったものだ。何度も繰り返せば、 そのうちコツがつかめるのではないか、といったある意味、楽観的な見方をして いたのかもしれない。 しかし魔理沙は違う。全くのゼロから、自分の力のみで魔法を使うということを 達成している。この原動力は何だというのだろう? その問いに対する魔理沙の回答は、単純明快であった。 「魔法に、恋をしているからだ」(*38) 「こ……い……?」 思わず聞き返す。その単純明快すぎる答えは、ルイズには分からないものだった。 「好きなだけじゃない。 憬れだけでもない。 どうしても自分のものにしたいって想いだ」 これを恋と呼ばずしてなんて呼ぶ? と問われたルイズは、笑い飛ばすことが 出来なかった。その瞳に込められた真摯さに気がついたから。 魔理沙はルイズに背を向け、己の作業に戻った。 しかし、そのまま自分の話を続ける。 「あのまま元の世界にいたら、私は魔法を使えないただの普通の人間に なっていただろう。それどころじゃない。世界から魔法ってものがなくなるんだ。 それが……怖かった。恋する相手がいなくなることが」 「だからヨーカイ達と一緒に召喚されたっていうの」 ルイズに問いに、後ろ姿のまま頷き、そして振り返った。 「何しろ私は、魔法に恋した普通の人間の魔法使いだからな」 その恥ずかしげな、そして誇らしげな顔は、陰鬱な森の中でひときわまぶしく 輝いて見えた。思わずルイズが目を逸らしてしまうほどに。 「……やっぱりヘンな平民……」 その力ない言葉が単なる減らず口であることは、瞭然だった。だからだろう。 魔理沙は怒るでもなくニヤニヤと笑っている。 「ルイズはそのヘンな使い魔の主人なんだからな。よろしく頼むぜ」 「あたりまえでしょ。散々こき使ってやるんだから覚悟しなさい」 ルイズも口元を動かし、なんとか笑い返す。貴族の意地だ。貴族として、 平民である魔理沙の生き方に感銘を受けた、などとは口が裂けても言えないのだから。 それこそ、恥ずかしいことじゃない、とルイズは心の中でつぶやいた。 「……そういえば、マリサの恥ずかしい姿ってなんだったのよ」 「ああ、その話か」 最初の話を思い出しての問いに、魔理沙は本当に恥ずかしそうに答えた。 「私にとって魔法が恋人だとすると、このメモは恋文だな」 「……そうね」 「こうやって魔法に到達するために行う実験は、謂わば求愛行動だ」 「そう言われると、恥ずかしいわね」 「恥ずかしいだろ」 「そんなわけあるかーっ!」 「いや、本当に恥ずかしいんだって」 「やっぱりあんたはヘンな平民よ」 「ひどいぜ」 その二人の言い合いは、実に楽しげだった。 「あら、ようやくお帰り……って何よその臭いっ」 日が暮れようという頃になってようやくルイズの部屋の入り口に戻った二人を、 キュルケは鼻をつまんで出迎えた。 「え? そんなに臭うか?」 二人とも自分の匂いを嗅ぐ。確かにキノコの臭いが残っているが、自分たちでは それほどひどく感じない。どうやら長時間キノコ鍋の傍にいて、臭いになれてしまった らしい。 キュルケは二人を追い払うように、片手を振った。 「早く風呂に入って来なさいよ」 「へぇ、風呂があるんだ。そりゃ嬉しいぜ」 どこだ、と問いかける魔理沙の襟首を掴んで引き戻す。 「こら、平民が貴族の風呂になんて入れるわけないでしょ」 「みんな自分の使い魔と一緒に入ってたわよ」 「なによそれ」 憮然とするルイズを、可笑しそうに眺めるキュルケ。まったくトリステインの貴族は、 特にルイズは、身分の違いを気にしすぎる。だからこそ、からかい甲斐があるという ものなのだが。 「それとも『貴族』の使い魔を、『平民』の蒸し風呂に押し込めるつもり?」 貴族、を強調したその言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をするルイズ。 困ってる困ってる、と内心の笑みを表に出さず、とどめの言葉を放った。 「まあ、ヴァリエール家はケチくさい方々だし、それも仕方ないのかしらね」 「誰がケチくさいのよ! ほらマリサ、こっちよ、ついてらっしゃい!」 「待てって、着替えとかどうするんだよ」 ルイズと魔理沙が大騒ぎをしながらキュルケの視界から消えてようやく、彼女は 笑みを顔に出した。まったく、このヨーカイという連中が召喚されてから、楽しいこと ばかりだ。戻ってきたら、昼間食堂で起きた事を話してやろう。きっと驚くに違いない。 なにしろ――(*39)。 「おーい、キュルケ」 「なに、モコウ?」 自室の中から声がかかった。振り向くと、自らの使い魔とした妹紅が、困ったような 顔をしてキュルケのことを呼んでいる。キュルケのネグリジェを纏ってはいるものの、 正直あまり似合っていない。主に、胸元が。 「なんか窓から部屋に入ってこようとした男がいたんで、撃ち落として しまったんだけど、まずかったか?」 「え?」 そういえば今日は誰かと約束していたんだっけ? と記憶を掘り返す。 「思い出せないってことは、大した男じゃないってことよね」 「誰かは知らないが、可哀想に。キュルケから言い寄ったんだろ?」 「過去は過去よ」 肩を竦めてみせるキュルケ。 「あまり男心を弄ばないことだ。そのうち恨まれるぞ」 「あら、身に覚えでもあるの?」 「ああ」 からかうような言葉に対して返ってきたのは、怖いくらいに真剣な眼差し。 「ただし、恨まれる方じゃないよ」 もう終わったことだけどね、と遠い目をする妹紅ではあったが、キュルケは背筋に走った 寒気を押し殺すのに必死だった。普段の泰然とした雰囲気から、只の人間ではないと 思っていたが、どうやらそれはキュルケの思っていたものとは全然違う理由によるもの らしい。もし今の、一瞬漏れ出した殺気が自分に向けられたものなら、自分は死を覚悟 していたかもしれない。それだけのものを身の中に秘めたこのフジワラモコウという存在は、 一体どういうものなのか。 そして、この殺気を向けられたものは、どういう存在だったのだろう。(*40) 「……いつか話して貰えるわね?」 「機会があったら、そのうちにね」 それよりこの服、胸元が余るんだが、ととぼけた様子でキュルケを部屋に 招き入れる妹紅には、もう先程の様な真面目な雰囲気はなかった。 本塔の地下に風呂場はある。浴槽は縦横それぞれ十数メートルはあり、壁からは 蒸気が噴き出している。もちろん鏡も設置され、自分の姿を映し一喜一憂する 女生徒も居る。 その巨大な湯船の片隅で、一組の貴族と平民がお湯につかっていた。 もっとも 双方とも、あまり嬉しそうではなさそうだが。 貴族であるルイズにとって、貴族以外が入っているという風景はどうにも受け入れ ずらい。それが人間でもない、異形の存在だとすればなおさらだ。 右を向けば、妖精が主人の肩に掴まって湯につかっている。左を見ると、兎のような 耳の生えた使い魔が、主人の背中を洗っている。そして正面では、自らの使い魔が 渋い顔をしていた。 「うー、やっぱり次からは蒸し風呂とやらのお世話になるぜ」 「この風呂のどこが気に入らないっていうのよ」 キュルケに焚き付けられたられたとはいえ、せっかく連れてきたのだ。せめて嬉しそうな 顔ぐらいしても、罰は当たらないんじゃないか。 マリサは何かを嗅ぐような仕草をすると、耐えられないというように鼻をつまんだ。 「いや、匂いがな」 「香水の匂い? いい香りじゃない」 「不自然だぜ」 彼女の今までいたところにも風呂はあったが、このように香水を入れる習慣は なかったという。むしろ、硫黄の匂いのする風呂(*41)があったりもするらしい。 それはルイズにとって想像もできないものであった。もっとも、あのキノコの臭いにも 平然としていたくらいだ。やはり色々と違うのかもしれない。 「嫌がってるのはマリサぐらいよ」 「そうか?」 「ほら、気に入ってる使い魔もいるじゃ――」 指差そうとするルイズの動きが止まる。湯船の縁に腰掛け、心地よさげに目を つぶっている彼女には、伸びた犬歯と蝙蝠のような羽があった。あれは昼間の話にも 出てきた、吸血鬼ではないだろうか。もっとも、脚を湯に浸し、時々パシャリと跳ね 上げる様は、幼子が水に戯れる様にも見えるのだが。 マリサはちらりとそちらを見やり、納得したように頷いた。 「あー、アイツは別だぜ。何しろお嬢様だったからな」 「……お風呂を楽しむ吸血鬼なんて見たことも聞いたこともないわ」 口の中で呟く。魔理沙にも聞こえるかどうかの小さな声であったが、当の吸血鬼は 片眼を開くとジロリとこちらを見遣った。 「聞こえてるわよ」 固まるルイズ。しかし魔理沙は普通に手をあげ、その吸血鬼に挨拶を送った。 「楽しんでるようだな」 「まあ、悪くはないわね」 そのまま脚を伸ばしチャプンと湯船に入った吸血鬼は、僅かに湯を揺らしながら 近づいて来る。その白い肌は同じ女性であるルイズから見ても、綺麗だと思わせ られてしまうものだ(*42)。 「レミリアのご主人様はどうした?」 「のぼせたって言って、あがっちゃったわよー」 つまらなそうに口を尖らせる吸血鬼。こういう仕草だけ見れば、実に子供っぽいのだが。 しかしそれも一瞬のこと。ルイズの事を見つめると、目を細め可笑しそうに相好を崩した。 「なによ」 強気を装うルイズではあったが、内心気が気ではなかった。なにしろ、吸血鬼 なのだ。いくら使い魔としての契約は結ばれているといっても、外見が少女のよう であるとはいっても、警戒はしてしまう。 しかしレミリアは気にした様子もなく、牙の生えた口を開いた。 「あなたの運命も、大きく変わりつつあるようね」 「え?」 突然出てきたこの場にそぐわない単語。 その言葉に戸惑う間にも、レミリアの話は続く。 「もっともそれがあなたにとって、幸福な方向に変わっているのか、 悲劇的な方向に変わっているのか、までは判らないけれど」 「なんだ、全然解らないぜ。なぁ?」 頷けばいいのか、否定すればいいのか。魔理沙の問いかけに固まるルイズを、 レミリアはいっそう面白そうに口元を歪めて眺める。 「まったく、これだから脳なんて科学的な組織のある生き物は困るわ」 「そりゃあ、私達は人間だからな」 レミリアはやれやれと肩をすくめた。 「ゆっくり考えるといいわ」 そういうと立ち上がり、背を向ける。二、三歩進んだところで、顔だけ振り向いた。 横目でルイズを一瞥する。 「だけど覚えておきなさい。 その変化に流されるのか、それとも抗うのか、それはあなたの自由よ」(*43) ルイズが息を吐いたのは、レミリアの姿が脱衣所に消えてからだった。 「何だっていうのよ、まったく」 「気にしない方がいいぜ。言ったろ、早く慣れないと辛いぞって」 もっとも私はこの風呂には慣れそうもないけどな、と笑う魔理沙とは対照的に、 ルイズの顔色は暗かった。 「もうしわけありません、もうベッドの予備はありません」 「あー、やっぱりな」 頭を下げる黒髪のメイド。夕食後、借りた鍋を返すついでに、寝床を確保しようと 予備のベッドがあるかメイドに聞いた結果がこれだ(*44)。もっとも魔理沙にとっては 予想の範疇である。なにしろ初動が遅すぎた。いくらここが立派な魔法学院だとは いっても、予備のベッドがそんな数多くおいてあるわけでもないだろう。それに妖怪 とはいえ少女、男子生徒と一つベッドで眠りたいと思う者はそう多くない。 ルイズだってそう思うだろ? と問いかけるものの、ルイズの反応は芳しくない。 何事か考え込んでいるようだ。むしろ黒髪のメイドの方が頬を赤くしている。そんな ルイズの様子に魔理沙は肩をすくめた。 「別に私は、ルイズと一緒のベッドでも構わないけどな」 「わたしが構うわよ!」 ルイズもこれには反発する。いくら相手は自分と同じような少女だとはいえ、平民 なのだ。メイドも、この平民はなんてことを言うんだ、というように恐れた様子でルイズを 見ている。 もちろん、そんなことを気にする魔理沙ではない。むしろ、にやりと笑い返す。 「平気だって。何しろ一つの布団で一緒に寝るのには慣れてるからな」 「え……」 「もちろん、女同士だぜ」 「ええっ マリサってそういう趣味が――」 「そういうって、どういう趣味だ?」 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる魔理沙と、頬を赤らめた上にそっぽを向く 黒髪のメイド。そして怒りと羞恥に顔を赤く染めるルイズ。 「あああああんた達なななな何を勘違いしてるのかしら」 「勘違いしてるのは、ルイズじゃないのか?」 「そんなわけないでしょ! ほら、さっさと行くわよ!」 ルイズは魔理沙の腕を掴むと、さっさと歩き出した。後に残されメイドはしばし 呆然とした後、残された鍋を掴みあげる。ふと気になって、臭いを嗅いでみた。 「これ一体何の臭いですかーっ」 メイドの悲鳴じみた声は、誰にも届かなかった。少なくとも人間には(*45)。 月明かりが差し込む部屋の中で、二人の少女がベッドの上で互いに背を向けて 横になっていた。一人は素肌の上にネグリジェ一枚、一人はシミーズとドロワーズ。 「マリサ……キリサメマリサ……」 ネグリジェの少女であるルイズが呟く。しかし、反応はない。起きていて聞いていない フリをしているのか、それとも寝ているのか。身じろぎをしたついでにちらりと背後の 魔理沙を窺うが、なんとも判らない。 ルイズは両腕で自分の体を抱きしめるようにすると、今日の出来事を思い返した。 まったく、今までの常識が覆されるような出来事が色々とあった。当たり前のように 空を飛ぶ妖怪の事。この世界のそれとは異なる魔法の事。平民のくせに魔法を使う、 自分の使い魔のこと。 しかし今ルイズの頭を離れないのは、吸血鬼に風呂場で言われた事であった。 運命が変わりつつある、とはどういう事なのだろう。わたしの魔法が使えないという事が、 変わるということなのだろうか。それとも、使えるはずのものが使えなくなる、ということ なのだろうか。 確かに、今までの生活とはまったく違う日常が始まった。今日一日でもそれはよくわかる。 でもそれはこの霧雨魔理沙という使い魔の所為だ。それともこの魔理沙が使い魔になる ということ自体が、何かの変化なのだろうか? 確かに自分の想像していた使い魔とは 大きく違ったけど。 大体使い魔の癖に生意気よ。明日からちゃんとわたしのことはご主人様と呼ばせなきゃ。 さっきもいつの間にか、一緒にベッドで寝ることになっていた。どうもマリサと話をしていると いつの間にか言い負かされている。ご主人様として失格ね。もっとしっかりしないと。 などと思いながら、眠りに落ちていく。 最後にルイズの脳裏に浮かんだのは、『魔法に恋する普通の魔法使い』である事を 宣言した時の、恥ずかしそうな表情をした魔理沙の顔だった。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方封魔録」のBGM名より借用 *2 酒を呑んでも飲まれるな *3 でも手伝わない *4 でも、羽 *5 実際の所どうなのかは不明 *6 もちろん、無詠唱 *7 ご愁傷様 *8 同音異義語が通用するのは何故だろう? *9 マル略 *10 ご愁傷様 *11 詳細はもっと後で *12 言わずと知れた遠見の鏡 *13 実際、酔っぱらっていたし *14 普段から、出歯亀視線に晒されていたからか? *15 光や波や距離を操るメンツにはこちらが見えたのかも *16 希望的観測 *17 原作的な運命の悪戯 *18 徹夜の宴会対策は万全だ *19 酒好きの連中であることには違いない *20 そーなのかー *21 野菜以外を食べれるのか不明 *22 技術者的興味 *23 人形使い的興味 *24 同好の士を捜している *25 なん……だと……?風に *26 妖精とかはじっとしているのが苦手 *27 何十倍も何百倍も何千万倍も生きてるのもいる *28 拡大解釈 *30 魔理沙の家が片づいていない理由が本当にこの通りかは不明 *31 天の邪鬼は自分のことを天の邪鬼と認めない。天の邪鬼だから *32 詳細は次の話で *33 ご存じミニ八卦炉 *34 有効活用中 *35 でも子供っぽいことはスルー *36 実際の容姿は不明。 *37 その答えは48点くらい。96点満点で *38 この一連の設定は、東方創想話に投稿されているSS、「東方萃夢想 Stage-Ex「乙女の鬼退治」-Normal 」にインスパイアされたものです。 *39 待て次号 *40 何が終わったことなのか。何を引きずっているのか *41 温泉大好き *42 それに劣等感も苛まれないし。体型的に *43 どんなに格好つけても全裸なので威厳なし *44 ゆっくりした結果 *45 妖怪は色々といる。出歯亀好きとか 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの人生とは、 這い寄る闇からの逃走劇も同然だった。 魔法が使えないこと、身体が幼いこと、他人に認められないこと――。 それら闇から逃れるため、ありとあらゆる努力を重ね、研磨し、足掻いた。 ――それでも、何も変わらなかった。 いくら呪文を知っていても、魔法は使えない。 いくら健康になっても、身体は育たない。 いくら貴族として立ち振る舞っても、誰も認めない。 逃げても逃げても追ってくる闇――だが、幸か不幸か、今までそれに捕らわれる事は無かった。 魔法が使えなくても、学園が自分を放り出すことは無かったし、 身体が幼くても、どうしても気を引きたい相手などはいないし、 他人が認めなくても、自分はれっきとした貴族だって分かっている。 けれど、もうここまでだ。 この学園では、2年生への進級するための儀式として、『使い魔の召喚』がある。 今までに一度たりとも魔法を成功させたことの無い自分に、できるはずもない。 案の定、呪文を唱える度に、地面を爆発させた。 他の生徒たちの嘲笑が聞こえる。文句が聞こえる。罵倒が聞こえる。 ――本当は、分かっていたのだ。 魔法が使えなくては、進級できない。 身体が幼くては、婚約者は去るかもしれない。 他人が認めなくては、貴族にはなれない。 それでも、足掻きたかった。 ちっぽけな希望を抱き、この闇を打ち破り、この広い世界に歩みだしたかった。 闇はすぐ後ろにいる。 未来までも黒で覆い、光を奪おうとしている。 お前は、何者にもなれないと、絶望を突きつけようと―― ――そうして、その使い魔は現れた。 ルイズは、その使い魔を召喚したときのことを、一生忘れないだろう。 その姿を目にした瞬間、自らを覆おうとしていた闇は、一瞬で消し飛んだ。 灰色の世界に光が射し込み、自分を、世界を、輝かせる。 ――もう、何も怖くない! 魔法が使えなくても、この使い魔がいれば何でも出来る! 身体が幼くても、この使い魔がいれば何も言わせない! 他人に認められなくても、この使い魔がいれば何も要らない! ショボイ魔法などどうでもよくなり、 チンケなコンプレックスは消え去り、 周囲の視線は、畏怖と羨望の視線となった! 吊り上っていた眼は、絶対なる意志を持ち、 追い立てられるような歩きは、王者の余裕を持ち、 張り詰めていた雰囲気は、覇王のようなカリスマあるものへと変わった! 使い魔が自らと在る限り、 自分に出来ないことなど無いのだと、 自分は何処へでも行けると、ルイズは確信した! ――そう、ルイズは、果てしなく続く戦いの道(ロード)へ歩み始めたのだ!! 喧嘩売って来た色ボケメイジを、ぶっ飛ばしてやった。 悪名高い盗賊を、その僕の巨大なゴーレムごと吹き飛ばしてやった。 国と自分を裏切った婚約者を、そのお仲間諸共消し飛ばしてやった! ルイズは止まらない。 何者にもルイズは止められない! ――そして今! 眼下には、卑劣にも条約を破り、攻め込んできたアルビオン軍が展開している。 「こないだ、アルビオンで躾けてやったというのに……まだ足りないらしいわね」 虫けらを見るような目で――事実、そう思っているのだろう――白の国のゴミクズどもを眺める。 「ならば教えてやるわ……この、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのいる、 そして、我が最強のしもべのいる、このトリステイン王国に攻め込んできた、その愚かさを――!!」 ルイズは緩やかに右手を上げる。 それは、ルイズがしもべに敵の殲滅を指示する、号令なのだ――! ルイズは高らかに謳い上げる――破壊を告げる言葉を! 「滅 び の ッ ! バ ァ ァ ァ ス ト ス ト リ ィ ィ ィ ィ ィ ム ッ ッ ! !」 その瞬間――。 青き眼の、白き最強龍は、口内から光を放つ――! それは、あらゆるものを滅ぼす、破壊の光――!! 「強 靭 ッ ! 無 敵 ッ ! 最 強 ォ ―― !!」 光は全てを飲み込んでいく! 戦艦を蹴散らし、ブチ壊し、滅茶苦茶にしていく! 竜騎兵など蝿も同然! 地べたを這いずるメイジや兵士どもなど、塵芥に等しい! 「粉 砕 ッ ! 玉 砕 ッ ! 大 ・ 喝 ・ 采 ―― !!」 何が来ようと、何も恐れることは無い。 我がしもべ、『青眼の白龍』の前には、全てが平伏すのだ――! 「ワハハハハハハハハハハ―――――!!」 その後、ルイズは『滅び』の二つ名と、 ありとあらゆる名誉を手にいれ、トリステイン最強の力として、君臨した。 ルイズは最期まで魔法を使えなかった。 ルイズは最期まで体系はお子様だった。 ルイズは最期までメイジとは認められなかった。 だが―― ルイズは『力』を使えた。 ルイズはあらゆる名家の男たちから誘いがあった。 ルイズは至上最強の竜騎兵として認められた。 そして、友も得た。 ルイズは未来を切り裂き、幸せを手に入れた。 そして、これからも、ルイズは止まらない! ルイズの踏み出した道――それが未来となるのだから――! 「ずっと私のターン!!」 『滅びのルイズ』…… 完 -「遊戯王」より青眼の白龍を召喚