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ヤマカをお気に入りに追加 ヤマカとは ヤマカの53%は欲望で出来ています。ヤマカの41%は電力で出来ています。ヤマカの4%は元気玉で出来ています。ヤマカの1%はやさしさで出来ています。ヤマカの1%は媚びで出来ています。 ヤマカの報道 「くまのがっこう」シリーズ紹介 多治見で人気絵本の展示会 - 47NEWS 日本一の黒潮本まぐろオンライン発売開始! ‹ ほっとこうち - ほっとこうち 金沢駅、人波変わらず 「出社しない訳には…」 まん延防止、平日の朝 近江町、地元客も出控え|新型コロナ|石川のニュース|北國新聞 - 北國新聞 全国養殖クロマグロ品評会にて最優秀賞受賞!高知県大月町産「日本一黒潮本まぐろ」ヤマカ片山海産にて販売開始 - PR TIMES 【Web限定記事・コロナ禍の群像(7)】 「機動湘南グルメ市場」が新展開 ス―パーやまか(松林店)などで出店開始 | 茅ヶ崎 | タウンニュース - タウンニュース 京大生とプロジェクト「天才ひもの」開発 沼津・ヤマカ水産 - 47NEWS 沼津の干物加工会社が「天才ひもの」開発 京大生とコラボ、若年層狙う - 伊豆経済新聞 【創業大正元年「ヤマカ水産」×TFT京大生】 SDGsを意識した新たな取組み「頭が良くなるHIMONOプロジェクト」で「天才ひもの」を共同開発 - valuepress 里帰りの洋食器で味わう食事会 多治見の老舗料亭 - 朝日新聞社 [Yamaha] イタリア国家警察が、 ヤマカ を採用しました!? [動画] - https //lrnc.cc/ 陶芸「智子賞」に冨岡さん 独自技法で広がり表現 - 中日新聞 【ゴルフ練習場】ヤマカゴルフガーデン 愛知県大府市 | 熟年極楽一人暮らし - 楽天ブログ - rakuten.co.jp やまかあけみ(ヤマカアケミ)|政治家情報|選挙ドットコム - 自社 ヤマカのウィキペディア ヤマカ Amazon.co.jp ウィジェット ヤマカの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ヤマカのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ ヤマカ このページについて このページはヤマカのインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるヤマカに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
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ヤマカをお気に入りに追加 リンク1 <ヤマカ> #blogsearch2 キャッシュ <ヤマカ> 使い方 サイト名 URL リンク2 <ヤマカ> #technorati 報道 <ヤマカ> 「くまのがっこう」シリーズ紹介 多治見で人気絵本の展示会 - 47NEWS 日本一の黒潮本まぐろオンライン発売開始! ‹ ほっとこうち - ほっとこうち 金沢駅、人波変わらず 「出社しない訳には…」 まん延防止、平日の朝 近江町、地元客も出控え|新型コロナ|石川のニュース|北國新聞 - 北國新聞 全国養殖クロマグロ品評会にて最優秀賞受賞!高知県大月町産「日本一黒潮本まぐろ」ヤマカ片山海産にて販売開始 - PR TIMES 【Web限定記事・コロナ禍の群像(7)】 「機動湘南グルメ市場」が新展開 ス―パーやまか(松林店)などで出店開始 | 茅ヶ崎 | タウンニュース - タウンニュース 京大生とプロジェクト「天才ひもの」開発 沼津・ヤマカ水産 - 47NEWS 沼津の干物加工会社が「天才ひもの」開発 京大生とコラボ、若年層狙う - 伊豆経済新聞 【創業大正元年「ヤマカ水産」×TFT京大生】 SDGsを意識した新たな取組み「頭が良くなるHIMONOプロジェクト」で「天才ひもの」を共同開発 - valuepress [Yamaha] イタリア国家警察が、 ヤマカ を採用しました!? [動画] - https //lrnc.cc/ 若者へ(上) 多治見の被爆者梅岡昭生さん - 中日新聞 陶芸「智子賞」に冨岡さん 独自技法で広がり表現 - 中日新聞 【ゴルフ練習場】ヤマカゴルフガーデン 愛知県大府市 | 熟年極楽一人暮らし - 楽天ブログ - rakuten.co.jp やまかあけみ(ヤマカアケミ)|政治家情報|選挙ドットコム - 自社 成分解析 <ヤマカ> ヤマカの53%は欲望で出来ています。ヤマカの41%は電力で出来ています。ヤマカの4%は元気玉で出来ています。ヤマカの1%はやさしさで出来ています。ヤマカの1%は媚びで出来ています。 ウィキペディア <ヤマカ> ヤマカ 掲示板 <ヤマカ> 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ ヤマカ このページについて このページはヤマカのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるヤマカに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
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8月。高体連剣道全国大会。 3年間、地獄のような激しい稽古を重ねたのは、この日のためだ。 地球人の部、亜人の部、総合。試合はこの3つにグループ分けされ、 我が十津那学園剣道部はその全てにエントリーしていた。 総合部門は犬塚勇馬が破竹の勢いで決勝まで進み、北海道解放区にある ユーパロ十一門学院所属の鬼人、地獄谷氏に圧勝して優勝した。 亜人の部は力及ばず3回戦にて全滅。 そして、地球人の部であるが・・・ 俺こと川津天が出場して、とりあえず準決勝までは勝ち上がったけれど、 岩手の龍こと冬樹大和に完敗を喫した。 冬樹は決勝戦で幼少期からのライバルである奈良の西堂宗理と歴史的一戦を交えた末に 優勝を飾るというドラマチックな展開が待っていた事もあり、 「大和と戦って負けたんだから仕方ない」という周囲の評価でもあったのだが、 やはり自分自身で納得の出来るものではない。 そう。気持ちは今でも燻っているのである。 心の中の火が消えてしまったかのような気分だった。 元々俺自身はそれほど何かに熱中するような人間ではない。 唯一熱心に取り組んでいた剣道部を引退した今、自分には何も残ってはいない。 もちろん高校3年生として本来取り組むべき受験に向けての勉強も必要だろう。 けれども、モチベーションが上がらないのだ。 なんかこう、気合が入る何かが欲しい。そんな所だ。 蒸し暑い自室のベッドに寝転がり、何とは無しにゴロゴロと過ごす。 そんな風にして休日を使い潰そうとしていた時だ。 「テ~ンちゃん~ 起きてた? そろそろ慰めに来る頃だって期待してたんじゃない?」 ドアを開けて顔を出したのは、言うまでも無く蛇神ヤマカだった。 寒いのに極端に弱いが、暑いのもけして得意ではなく、随分と目の毒な薄着をしている。 「うるさいぞヤマカ。俺は慰めなんて期待して・・・ムグ」 俺の言葉が終わるか終わるまいかというタイミングで、ヤマカがのしかかって来た。 そのまま蛇人独特のしなやかさで俺に擦り寄ってくる。 やや低めの体温とヒヤリとしたウロコの感触が、蒸し暑さに辟易していた体に心地よい。 「全国3位で落ち込むってのはゼータクな悩み。 獅子神くんなんて、せっかく全国大会にまでコマを進めたのに1回戦負けしちゃったんだよ。 テンちゃんは頑張って結果出したんだし、それでいいじゃない」 そう言いつつも、ヤマカは徐々に俺の体に絡みついてくる。 胴体の正面に体ごとのしかかり、首にはヤマカが首を伸ばして絡みついてくる。 両手足にも器用に手足で絡みつき、尾は腰からグルリとまわって足に絡みつく。 「ふふふ。ヤマカちゃんのスペシャル絡みつきで身動きできまい~」 本気を出せばいくらでも振りほどけるが、そんな気力も湧かない。 髪の毛の匂いが鼻腔をくすぐる。このリンス、なんだったっけ。 「ホントに元気ないね。悩みがあるんならお姉さんに話してみ」 頭上から心配そうに顔を覗き込んでくる。誰がお姉さんだ。早生まれのくせに。 そもそもどこで元気の有無をはかっているのか。 「何でも無ぇよ」 厨2病の残滓が疼く。自分は素直に生きてはいけない。そんなルール。 ヤマカはちょっとムッとしたような表情を浮かべると、くちを近づけて言葉を放った。 「素直に」 「素直に・・・」 「何でも」 「何でも」 「話すよ」 「話す・・・よ。言霊誘導すんなよ。わかったから、ちゃんと話すから。 何つーかさ、目標が無いんだよ。大会に向けて必死にやってただけに尚更。 受験勉強しようにも、将来の目標なんて無ぇから、どこを受けたもんだか。 だから・・・ムグ」 またも言葉が終わるか終わるまいかというタイミングで、ヤマカにくちを塞がれた。 両手足を拘束された体制でどうやってくちを塞がれたかは、推して知るべし。 30秒ほどくちを塞がれ続けた後に、ちゅるりと水音をたててヤマカは離れた。 「何かと思えば、進路の悩みかね。 勇馬っちと奥山さんがバッチリ決まってるだけに、無駄に焦ったってところ? 仕方ない。ヤマカちゃんが一肌脱いであげよ~じゃない。 要はテンちゃんの人生の目標をアタシが決めてあげれば解決するのよね」 いや、それはどうだろう。 俺が抗議の声を上げる間もなく、矢継ぎ早にヤマカは言葉を重ねた。 「テンちゃんが目指すのは『普通の人生』だよ。 普通に進学して、普通に就職して、普通にアタシと結婚して、普通に普通の家庭を作るの。 子供は3人。みんないい子なの。ウロコまみれの蛇女には、もったいないくらいの。 で、最期はアタシに見守られて御霊の杜へと還るの。これでいい?」 また酷いプランニングをされたものだ。 まったく具体性が無いし、部分的に具体的すぎる。それに。 「ヤマカ、重い」 その一言を聞いて、ヤマカはビクリと身震いして困惑した表情をした。 「少し太ったんじゃないか?」 ヤマカは一瞬だけポカンとして、次の瞬間に憤慨して抗議の声を上げた。 ふふん。ザマをみよ。 シュルリと手足をヤマカがほどいたので、起き上がって肩を寄せる。 「で、慰めに来てくれたんだよな?」 ヤマカは無言でコクリとうなづいた。 カーテンを開け、ガラリと部屋の窓を開放する。 部屋にこもった熱気や臭いが、一気に外に流れ出るような感覚。 外はすっかり日が暮れ、星の瞬く夜空が広がっていた。 「テンちゃん、今日って十津那の花火大会の日なんだよ」 ベッドの上でシーツにくるまったまま、ヤマカがこっちを見てそう言った。 「今年もゲート経由で光精霊がたくさん来てるんだってな。 そっか。今日だったんだ。去年は会場で皆で見たんだったっけ」 十津那の花火大会は、そこそこの大規模で行われる。 理由はわからないが、花火は光精霊たちにも心地よく思えるのだろうか。 打ち上げ花火に集結する光精霊の姿もあわせて、十津那の花火大会は幻想的だと評判を呼んでいるのだ。 「今年は見られないね。ザンネンだけど仕方ないか」 心底残念そうな表情をヤマカが浮かべる。 もしかして、本当はそれを誘いに来たんだろうか。 「いや、見られるぜ?」 そう言って俺は窓の外に目を向ける。 ヤマカの下宿部屋からは見られないけれど、俺の部屋からは花火が見えるのだ。 眼下に広がる街並みの奥、宵闇の向こうで一筋の炎が上がり、閃光が広がる。 「キレイ・・・」 いつの間にかヤマカは俺の隣に立ち、二人で並んで打ち上げ花火を見続けた。 いや、余計な事は言うまい。美しさを比べるなど無粋だ。 「テ~ンちゃん」 うう・・・ 「ヤマカの方がキレイだ・・・よ」 「フフン。よろしい」 ヤマカの横顔は、心底満足げだった。 ヤマカさんの将来プランニングのセリフところで何故かちょっと泣けた。泣くようなシーンじゃないのに -- (名無しさん) 2012-08-12 13 18 40 SSの中から新しい設定や世界が広がっていくのは楽しい。ヤマカさんはずっとキャラが変わらないような気がしてきた -- (とっしー) 2012-08-15 03 14 34 普通の人生って結構難しいもんだよね。 しかしとことん厨二が抜けない天ちゃんと脱出不可能なヤマカロックは笑った -- (名無しさん) 2013-06-26 02 54 28 川津君は意外と剣道が強かったんですね。日本全国規模に広がった交流と学生たちが浮かんできた全国大会ですね。ヤマカさんはとりあえず将来のために川津君の就職などを後押ししてはどうでしょうか -- (名無しさん) 2014-12-03 17 24 05 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/isekaikouryu/pages/383.html
原則的な話をしよう。 僕は眠れるときは、寝ていたい男だ。 そしてそれが邪魔されるのが、とても辛いのだ。 例えば。いや、ほぼ常に、か。 「やほーテンちゃん。遊びに来たよ。 あとオバサン呼んでたよ。起こしてきてねってお願いされちゃった」 ヤマカの襲撃である。 「やっと起きてきたかこのバカ息子。 あんまり時間無いから端的に話すわね。 さっきハニーから連絡が入って、<向こう>で新発見があったようなの。 で、私は今から<向こう>に行くから、アンタは死なない程度にご飯食べてなさい。 おせち料理は準備していません。年越し蕎麦もありません。 お年玉も高校生なんだから不要よね?じゃあ後はヨロシク」 矢継ぎ早にそう告げると、母は疾風のように出発していった。 何がハニーだババァ。 白髪頭のガンコ親父じゃねーか。 心の中でそう叫んだ直後に、ケータイにメールが入った。 『何がババァよこのバカ息子。 ヤマカちゃんにあんまり迷惑かけるんじゃないわよ』 ニュータイプか何かなのか。 化け物め。 「お義母さん、いつもパワフルよねー。 テンちゃんも少しは見習った方がいいと思うよ」 「無責任なだけだろうがよ・・・メシどーすんだよ。 つーかお母さん言うな」 「そだ。テンちゃんどーせ放っておいたら袋ラーメンしか食べないんだし、 今夜からウチでご飯にしなよ。ママに連絡しておくね」 即座にヤマカがメールを打ち始める。 いや、コンビニ弁当でも何でもありますよ?ヤマカさん。 まあでも、オバチャンの飯の方が美味いか。 若干苦手な人でもあるけど、御相伴にあずかりますかね。 その後は、ヤマカの作った昼飯を食べて、もう一眠りしようと思ったところを ヤマカに何度となく止められては、何だか主旨のよくわからんおしゃべりに付き合わされて、 何度かゲーム対戦を強いられてはコテンパンに打ちのめされて(何だこの女)、 気がつけば夕方になっていた。 「あー・・・大晦日と正月しか休みが無かったのに・・・」 「まあまあ。テンちゃん。 イヴも大晦日もお正月も、ヤマカちゃんとすごせる幸せをだね」 「ここんトコ毎年じゃないか。 んで、今年は初詣どーすんだ?」 「どうするの意図がわからないよ。 行く神社を変更する話?出発時間の話?」 行くのは決定なのか。 ここ数年、年を越してすぐにヤマカと一緒に近所にある『八幡司馬衛門狸神社』に 初詣に行くのが恒例行事になってしまっている。 ちなみにこの司馬衛門狸は言い伝えによれば、ヒンズー教のシヴァの化身の一つで、 シヴァ同様に浅黒い、あるいは青い肌の色をしていて、変化の術に長けていたのだとか。 また、柴の葉を使って人を化かして、腹から何でも取り出して見せたとか。 そんなのを御神体にしてどーすんだよとも思うが、神社ってのはそんなモンなんだろう。 「まあ、いつも通りでいいや」 思えば久々に隣の家に入る。 小さい頃はしょっちゅう遊びに来ていたというか、親父もお袋も研究で忙しかったから、 今日のようにご飯を作ってもらっていたものだ。 感慨深く玄関口を眺めていると、ヤマカはさっさと中に入っていく。 まあ、アイツにとっちゃ自宅みたいなモンだからな。 「おじゃーしゃーす」 何気なくあがろうとしたその時、台所の方から咆哮が上がった。 「こるぁー!テン!なんだいその挨拶はぁー! 礼儀知らずに食わせるメシはウチには米粒ひとつありゃあしないよ!」 <向こう>の鬼人もかくやと思わせるその怒号は、久々に僕のトラウマを呼び起こした。 そうだ、何故忘れていた。ここのオバサンは・・・ ズシズシと廊下を鳴らして、オバサンがやってきた。 身長2m10cm。年齢42歳。筋骨隆々。容貌凶悪。精神鉄血。思慕温情。家事完璧。要するに無敵の主婦だ。 そして種族は・・・ヒューマン。そう、ヒューマンなのだ。 彼女、鬼笠子かがねは。 「母が遠出しましたので、久々にご厄介になります。 歳末の何かと忙しい中ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」 僕の精神の奥底に眠る恐怖感が、自然と言葉を発していた。 オバサンはそれを聞くと破顔して人懐っこい笑顔となり、僕の背中をバンバンと叩く。殺される。 「いやー!テンもすっかり大人になっちゃって! 何よその挨拶!んもーオバサン感激したわー 今夜は腕によりかけて美味しいもの作ってるからね。 もうしばらく居間でTVでも見てなさいな。 あ、先にお風呂でもいいわよ」 オバサンは親指をビッと立てて風呂場の方を指した。 いやオバサン、場所は覚えてます。 「そんじゃ、風呂に入ってからご飯をいただく流れで」 「あがる頃にはご飯を食べられるようにしておくからね」 脱衣室兼洗面所はキレイに整頓されていた。 脱衣カゴに女性下着が無造作に突っ込まれているのが見え・・・見てない!ちょっとだけだ。 だいたいこういうのはヤマカのだと思ったらオバサンのだってのがオチだ。 でも多分、あの派手な刺繍入りの黒のはヤマカのだ。見たことある。 お尻のところにシッポ通しの穴が開いてるからわかる。 とりあえずここに長居するのは色々と危険と判断し、僕はそそくさと脱衣した。 もうちゃっちゃと風呂に入ってメシを食おう。 と、風呂の戸をガラリと開けると、湯船に先客がいた。 ヤマカだ。 ? 何で? 向こうも向こうでリアクションが取れずにポカンとしている。 チャポンと湯音を立てて立ち上がり、棚においてあるメガネをかけてこっちを見た。 あ、チンコ隠してねぇ。 「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」 自分自身も何が起こったのか理解できず、まず戸を閉めて落ち着くまで深呼吸した。 何だこれ何だこれ。昔のラブコメみたいな状況だぞ。 「何を騒いでいるんだい。まったく・・・」 ドスドスと凶悪な足音を立てて、オバサンがやってくる。 「テン・・・アンタなんだって素っ裸で転がってるんだい。 さっさと風呂に入っちまいなよ」 「いや、中にヤマカがいて」 「?」 「だから」 「一緒に入ればいいじゃないかね。 アンタらもうパッコンパッコンやってんだろう? 今更なんだって一緒に風呂ごとき遠慮するのかい。 アタシが若い頃なんてもう、毎晩ダーリンと一緒にお風呂に入ったものよ。 ドゥフフフフ」 何がダーリンだババァ。ほほ染めんな。 「ママ!あたし達まだそこまでの関係じゃない!」 さすがのヤマカも風呂の中から抗議の声をあげる。 「何だ。まだだったのかい。 随分とノンビリしてるもんだねぇまったく。 まあまあ、二人でゆっくり入ってなさいな」 そう言うと、再びドスドスと足音を立てて台所に戻っていく。 いや、そういうワケにもいかないだろう。 「あのさ、ヤマカ。 ゆっくり入ってろよ。ちょっと席外すからさ」 風呂なんて自分ン家のシャワーで十分なんだよな。 「うん・・・テンちゃんゴメン」 自分の家でシャワーをあびて隣の居間に戻ると、ヤマカも風呂から上がっていた。 お風呂上りの女子は、可愛いさ5割増しに思えるのは自分だけだろうか。 さすがにあんな事の後では、僕もあまりマジマジと顔を見られない。 ヤマカも視線を外している。 「さあさ、ウチは御節なんて作らないからね。 皆で食べるんなら海鮮鍋さ。芯から温まるからね。 テンも遠慮しないでドンドン食べなよ」 オバサンはそういいつつ、とんでもないサイズの土鍋を持ってあらわれた。 いくらドンドン食べろといわれても、この量はムリだ。 とりあえず食べはじめてしばらくした時、ケータイにメールが入った。 あけおめメールには早いなと思いつつ中身を見ると、浮田からだった。 奥山さんが初詣に行きたがっているのか・・・ とりあえず自分は八幡司馬衛門狸神社に24時丁度に到着するように 行く予定だとメールを送ると、23時半にここで集合の返事がきた。 「なに?」 ヤマカがケータイを覗き込んでくる。 あ、ようやく距離感を元に戻せそうだ。 「浮田と奥山さんも一緒に行きたいみたい。 奥山さんが来るって事は、犬塚も来るだろーな」 そう言いつつ、ヤマカにケータイを渡した。 ヤマカの表情が一瞬曇ったようにも見えたけれど、その後ニヘラと笑って、 「皆で行った方が楽しいしね」と言ったので安心した。 浮田が何を思ったか、やたらと早い時刻に来ていたけれど、奥山さんと犬塚が遅れていた。 奥山さんが時間丁度の23時半に、犬塚はさらに10分遅れの40分に到着。 浮田は胸を強調させるようなセーターを着こんで来ていたけれども、それで奥山さんには勝てない。 今日はなんだかモコモコした服装ながらも、爆という単語が間違いなくつくソレは圧巻だ。 まあ、ウチの控えめ姫もスラリとした服装で、十分魅力的ではある。 両腕両足をヒートテックで重武装しているのが、いかにもヤマカっぽい。 見とれていたのがバレたのか、ヤマカが耳打ちしてきた。 「テンちゃん・・・見すぎ」 「ゴメン。本能というか、何というか」 「テンちゃん、さっきはゴメンね。気持ち悪いもの見せちゃったね」 「何が?」 「あたしの肌、ウロコまみれで気持ち悪かったでしょ」 「お前のウロコ、キレイじゃん。 おっぱい見たことの方を怒ってんのかと思ってた」 「それもちょっと怒ってるけど。 アレみちゃったからアイコだね」 「粗末なもので申し訳ない」 「あれで粗末なの?ウソでしょ」 「いやいや」 そんなやり取りをさえぎるかのように、浮田が仕切って出発の時間となった。 毎年恒例の道を歩いていくと、目的地の八幡司馬衛門狸神社に到着した。 丁度良いタイミングと言えよう。神社の境内から「あけましておめでとー!」の絶叫が響いていた。 浮田も負けじと「こっちもあけましておめでとー!だ!」と絶叫すると、 それを皮切りに新年の挨拶合戦が始まった。 「テンちゃん、あけましておめでと」 「今年もよろしく・・・ちょっと白々しいよな。この挨拶。 まあいいか。今年もよろしくな、ヤマカ」 「川津くん、あけましておめでとー!今年もよろしくね!」 「かわずくん、おめでとうです」 「川津、あけましておめでとう」 僕らはガヤガヤと騒ぎながら、鳥居をくぐって境内に入る。 中はもう凄い人だかりで、おみくじやお守り、御札、絵馬を求める行列や、 振る舞い物だろうか、甘酒や御神酒を配っている様子も見える。 「あ、テンちゃん。あそこであたし、明日は巫女さんの格好でバイトするんだよ」 ヤマカの指差す方を見ると、確かに巫女さんがおみくじだのを売り捌いている。 なんぼほど稼ぐもんなんだろうなぁ。 「来年はもう、巫女さん出来ないかもしれないよね、あたし」 ヤマカがニヤニヤしながら話しかけてくる。 ようやく普段通りって感じかな。 ヤマカと一緒におみくじを買い、中身の見せ合いをしていると、 (ちなみに僕が末吉で、ヤマカは大吉だ) 浮田が紙コップをいくつか持ってこっちにやってきた。 「これいいよー マジで体があったまるから飲んでみー」 ああ、甘酒か。せっかくだからもらおうかな。 喉もちょっと乾いていたせいもあり、あまり考えずに一気飲みした。 あれ? 「浮田、これもしかしてお神酒?」 どう考えてもこれはアルコールだ。 「んー?甘酒だってば。 間違いないよぅ」 あ、こいつ既に酔ってやがる。 「ヤマカ、これ飲まない方がいいぞ・・・間に合わなかった」 僕が振り向いた時、ヤマカはその場にあった紙コップの中身を全部飲み干していた。 「美味しいねこれ」 「犬塚ぁ、いいかお前、今年は絶対に俺ら二人でレギュラー取るぞ。 お前は余裕かもしれねーから、俺が取る。少なくとも一般団体は取る。 それで全国大会行くぞ!聞いてるか犬塚!」 酔っている自覚はあるのにこの態度。 どうせ後で自己嫌悪するだけだ。 もうどんどんカマしてやんよ! なぁに奥山さんとイチャイチャしてんだこの犬塚ヤロウ!リア充め! 「そーーだぞぉ犬塚ー!全国制覇だよー!」 浮田もかよ。 元はと言えば、お前がこんなものをだな・・・ つーか何でヤマカは平気なんだ。 ウワバミっていうのは、酒を飲んでも飲まれないことを言うが・・・しかし・・・ その後の事はよく覚えていない。 気づいたら自分の部屋のベッドの中だった。 浮田を家まで送った記憶は何となくある。 犬塚と奥山さんはどうしたんだっけ。 とりあえず寒い・・・いや、そうでもない。 ベッドの中に、生暖かい感触がある。 丁度いい心地よさだ。 とりあえず引き寄せて、それが何かを理解した。 「おはよ。テンちゃん」 ヤマカだ。 パジャマ代わりだろう、上下ラフなスウェットを着たヤマカがいた。 「えーと・・・」 「一応まだ今日の巫女さんのバイトは出来るような夜だったよ。テンちゃん」 「一応という事は」 「ンフフフフ。ヒミツ。 とりあえずあたしはバイトに言ってくるから、テンちゃんもたまには早起きしなよ。 明日からまた部活はじまるんだから」 昨日の夜に何があったんだ! 気になる・・・が、思い出すのは困難だろう。 ヤマカから聞き出すしかないかぁ。 「ヤマカ」 「何?」 「今年もよろしくな」 ヤマカはいつも通りにニヤリと笑って言った。 「こちらこそ。ダーリン」 ダーリン言うな。 面白い狸神社の後に規格外お母さんは吹いてしまいました。近すぎてもう恋人以上夫婦未満な仲だと思っていましたが意外やいざとなったら出てくる恥じらいというのに悶々とさせられました -- (名無しさん) 2013-10-13 19 22 04 名前 コメント すべてのコメントを見る
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グルグルと視界が回る。 天地が逆転をし続けている。そんな感覚だ。 グネグネとした回廊を宛てもなく歩き続けると、その先に女性が居た。 端正な顔立ちと細身の体つき。黒々とした長い髪に異国の衣装。 ただその顔には見覚えがあった。ヤマカだ。 「久しぶりだね。テンちゃん。 なんだってこんな『深いところ』まで来ちゃったんだい?」 ヤマカが訳のわからない事を口走っている。 「混乱してるみたいだね。 でも、キミの知りたい事って、一つしか無いんじゃないの?」 知りたい事?知りたい事って何だっただろう。 ああそうだ。過去の事だ。 あの日、あの時、一体何が真実だったのだろう。 「真実なんて無いよ。 この世界は多重構造になっているんだ。 世界の数だけ真実がある。 それは真実なんて無いも同然の事なんだよ」 ヤマカがまた訳のわからない事を言う。 「それでも知りたいのなら、ヒントだけあげる。 キミが厨2病だと感じる事柄を列挙してみてよ」 厨2病?考えるだに忌々しい記憶しかない。 僕はとりあえず、思いつく限りの単語を放った。 「邪気眼、右手に封印された力、毒電波、地球破壊爆弾 終末論、黙示録、偽りの世界、因果律、事象の地平 アカシックレコード、クーゲルシュライバー、 シュレディンガーの猫・・・」 背筋にゾクリと冷たいものが流れた気がした。 「そう。ルガナンの狂気とも言える災厄の躍字『門』 神々の力によってしか開けられない<ゲート>を開放して 世界と世界を繋ぐその言葉を放ち、アタシはあの時、門を開けた。 躍字を暴走させてアイツらを皆殺しにして、アタシも命を断とう。 そう思ったのに、キミが来ちゃったんだ。 狂気に取り憑かれて剣を振るい、キミの真名は躍字の奔流に飲まれた。 あの時のキミの真名は本当にグチャグチャだったよ。 アタシが放った呪言を一身に全部受けてたからね。 生きているのか、死んでいるのか、それすらも判別できない。 アタシという読み人がいなければ、存在すらも危うい。 『不確定な存在』 その時初めて、アタシは後悔したんだ。 だから、一生使うまいと思っていたもうひとつの力を使った。 人の真名をバラバラに噛み砕く、毒の牙を」 「『焼け死ね』『魔道に堕ちろ』『禍に飲まれろ』 『煮殺』『圧殺』『射殺』『鏖殺』・・・ 諸々の言葉は散り散りとなり、キミの中に残った言葉はただ一節。それは・・・」 「ヤマカニアイヲ?」 「!」 そこで目が覚めた。 どうもまた夢を見ていたようだ。 最近は夢と現実の狭間に生きているような気分だ。 何が夢の出来事で、何が現実の出来事なのか、記憶が混在する。 まるで自分自身が『不確定な存在』にでもなったかのようだ。 っと、それじゃさっきの夢の話みたいだ。 あの夢は一体何だったのだろうか。 もう薄ぼんやりとした内容しか記憶には残ってはいないが、奇妙な女性の印象だけは残る。 あの女性は、世界は多重構造だと言った。 それなら、この世界以外の世界で生きる自分もいるのだろうか。 ああ、ダメだダメだ。現実逃避でしかない。 一度自分の抱える現実と向かい合わなければならなそうだ。 名前、川津典。 年齢、18歳。 性別、男。 特技、剣道。 職業、学生。私立遠津国高等学校3年。 交友関係・・・まあ、もうすぐ来るだろう。 「おはよう!もう目は覚めた?」 ドアを開けて僕の部屋に入って来たのは、隣の家に住む辰上弥麻華だ。 成績優秀品行方正、学校一の才女で、周囲からの信頼厚く委員長職をつとめ、 クールビューティの名を欲しいままにする容姿に、 男子どころか女子からも羨ましがられる見事な細身のスタイル。 僕の幼馴染で、僕の唯一といっていい女友達で、僕の親友の彼女だ。 学校に向かう道すがら、僕は今朝見た夢を彼女に話した。 「ふぅん。それってテンちゃんが前に言ってた平行世界のこと?」 厨2病の残滓とでも言おうか。 結局僕はオカルトやSFじみた趣向から抜け出す事は出来なかった。 もし。もし仮に、例えば『現代社会とファンタジー世界が交わる世の中があったら』 なんていうのはどうだろう。 そこはまったく現代社会と変わらないのだが、地球には普通にエルフやドワーフといった ファンタジー小説でお馴染みのデミ・ヒューマンも生活しているのだ。 地球人も彼らの元居た世界に足を踏み入れ、大冒険を・・・いや、普通に旅行するのだ。 そこでは弥麻華も亜人だったりするのだろうか。 タツガミなんて苗字だし、蛇人だったりするのかもしれないな。 アトピー肌もウロコでびっしりだったりして。舌先も割れてたりしてさ。 「・・・ねえ、テンちゃん聞いてる?さっきからズッとボーっとしてるよ」 「あ、ああ。大丈夫。聞いてるよ」 隣同士で歩きながら会話を続ける。近くも無く、遠くもない距離。 「それでね。ユーマっちってああ見えて結構早とちりするタイプでさぁ・・・」 何故だろう。頭がチリチリと痛む。 「先週一緒に水族館に行った時もね・・・」 胸が苦しい。心臓がバクバクする。 「そう言えばテンちゃん、宇喜多さんから告られたでしょ。つきあっちゃえば?・・・」 苦しい。苦しい。苦しい。 「っはぁ!」 酷く息苦しい。心臓の鼓動が聞こえる。全身汗まみれなのがわかる。 自分自身がどうなっているのか見当がつかない。ここは、どこだ? 「久々に悪い夢を見たみたいだね、テンちゃん」 すぐ隣からヤマカの声がした。 「ヤマカ?ここは」 絞り出すように声を出す。その時、喉がカラカラに乾いている事を自覚した。 「北海道の温泉宿だよ。 テンちゃんは、ほとんどついさっきまで、お義母さんとママにお酒を無理やり飲まされて 散々吐いてフラフラになりながら布団に潜り込んで今にいたる」 ああ、そうか。 いきなり両親が帰ってきて、いきなり北海道に拉致され、それで温泉宿に来て。 だんだん意識がハッキリしてきオヴェー 「はいはい吐くならそこの洗面器! まったく!呑めないのに調子に乗るからこんな事になるのよ。 ヤマカちゃんが居て良かったでしょ?ありがとうくらい言いなさいよね」 洗面器に一しきり吐くとだいぶ気分が楽になった。 ヤマカ・・・ヤマカか。 頬から首筋を撫でると、確かにウロコの滑らかな手触りがある。 そのまま腰まで手を滑らせると、人間には存在しないスラリとした尾に触れる。 亜人、鱗人、蛇人・・・だよな。 「あの・・・テンちゃん?」 ヤマカが酷く困った表情で僕を見ている。そりゃそうか。 「ゴム無いとNGだからね。 あとゲロまみれでチューとかしたくないし。 せめてうがいしてからにしてね」 そうだな。うがいしたい。口の中が酸っぱい。喉も乾いた。 立ち上がるとまだフラフラとしたが、とりあえず洗面台にはたどり着けた。 口を濯ぎ、面倒なので洗面所の水をうがい用のコップでふた口ほど飲み込む。 ダルい。そのまま布団に倒れ込むように戻る。 「何か知らんけど、すげー変な夢を見た」 あの夢は一体何だったのだろうか。 もう薄ぼんやりとした内容しか記憶には残ってはいないが、夢の中にヤマカが居たような気がする。 「そりゃそうだよ。躍字が暴れてたんだもん」 ヤマカはそう言うと、僕の目の前で手のひらを開いた。 そこには漢字に良く似た何かがグリグリと動いていて、僕がよく見ようと顔を近づけるとフワリと消えてしまった。 「これはもう体質としか言いようが無いね。 テンちゃん、変な字を拾いやすいみたい。 <地球>でも風邪ひきやすい人とかいるでしょ?あれと一緒。 あ!あんまり気にしないでも大丈夫だよ。 アタシが一緒にいれば、けっこう酷い内容でも引っぺがせるから」 妙に楽しそうな、明るい口調でヤマカが言った。 「もしかして、今までも僕の躍字を取り払ったりしてたのか?」 「うん。もう何度も」 「一緒にって・・・一生かよ」 「うん。そうだね」 「そうか」 「うん。居て、いいんだよね?」 「あ、ああ。そうだな。うん。 けっこう酷い内容ってどんなんさ」 「んー・・・『焼け死ね』とか『魔道に堕ちろ』とか、そんなの。 テンちゃんなら即死だね。即死」 「死ぬのか・・・」 「ダイジョーブだよ!アタシが一生守るからね。 だからほら、テンちゃんも約束してよ。 ヤマカちゃんと~」 「ヤマカと?」 「一生一緒に~」 「一生一緒にいる・・・ハッ!」 「ふふふ・・・言質は取ったからね」 隣同士で寝転がりながら会話を続ける。随分と近くなった距離。いつからだったか。 話しながら、いつの間にか僕は眠りについていた。 次に見た夢は、随分と楽しいものだったのだけは覚えている。 新学期。 3年に進級したところで日常はそうそう変化など無い。 またいつも通りにヤマカと一緒に十津那学園に向かう。 途中で、昨日の夜まで<向こう側>で新婚旅行していたというリア充死ねな犬塚と奥山さんと合流する。 <向こう側>の諸国の話をずっと聞きながら歩いていたが、ふと夢の話題になったので 北海道旅行の時に見たあの悪夢の話をすると、奥山さんが怪訝な表情で僕を見つめた。 「そんな字がかいてあったことなんてなかったですよ?」 えーっと。どういう事だろう。 ヤマカの方を見ると、あからさまに目線を逸らしていた。 「ヤマカー!」 「えへへ。あの、ウソでした。 蛇神ルガナンの巫女の面目躍如ってことでさ」 「それもウソだろ! だいたいそれ、僕の部屋で雑談してた時の『もしも』じゃないか!」 「ん~『もしも』は大切だよ。 もしかしたら、アタシと勇馬っちがお付き合いしてる世界があるかもしれないじゃん」 「ダメです!」 「いや、フーちゃん『もしも』だからさ。 そんな真顔で怒らないでも大丈夫だよ」 僕とヤマカがクソくだらない内容で言い合ってる隣で、 ヤマカの戯言に本気でキレた奥山さんを犬塚が慰めている。チッ!リア充め。 それにしても。 「それにしても、こんな風に皆で学校に行けるのも、あと1年なんだね。 卒業したら勇馬っちは<向こう>で族長候補の修行開始だっけ?フーちゃんが花嫁修業で。 テンちゃんが大学進学希望で・・・アタシはどうしよっかなぁ アタシもテンちゃんの嫁ってのはどうだろうね?」 またヤマカがアホな事を言い出した。 「あのな・・・いいから黙って勉強しとけよ。 <地球>に亜人が残るのも、<向こう>に地球人が残るのも、 一生なんて規模になったらそれなりの社会的地位が必要なんだからさ。 オレがダメだったらヤマカが<こっち>に居なきゃ、一生一緒になんていれないだろ」 それを聞いたヤマカは、顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。 ふはは。真正面から言ってやったわ。ザマを見よ。 「ヒネた愛情表現だなぁ」 犬塚の呆れ返った声が聞こえる。 「けっこんしきにはわたしたちも呼んでくださいね」 奥山さんのノンビリとした声が聞こえる。 パキリと、平凡な人生という躍字が落ちた気がした。 終 「躍字ってそういうのじゃないですよ」 「いや、こういうのは言葉のアヤってやつでさ」 終わりと言いつつもいつでも再開できそうなオチでほっこり -- (名無しさん) 2012-06-09 08 07 20 かなり深い部分まで見せた今回。世界のあり方にまで踏み込んでの命と躍字の繋がりなど後にどう出てくるのか興味尽きないものでした。危うい存在となっているような天君ですがヤマカさんがいる限りはとりあえず安心でしょうか -- (名無しさん) 2014-08-03 19 42 33 名前 コメント すべてのコメントを見る
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暮れも押し迫る中、今日は久々に剣道部の活動が休みの日だ。 だが、これは地獄の年末年始合宿に向けての休みでしかない。 今日を過ぎれば大晦日と元日以外に休みの無いという、 のべ2週間の無限寒稽古が待っているのだ。 スポーツ科学など関係ないこのハードスケジュールは、 要は肉体的な面ではなく、精神的な面を鍛えるのが目的なのだろう。 悟りでも開いてしまいそうなものだが・・・ その肝心な休みの日に、僕こと川津天はあまり休めていない。 昼までノンビリと寝たあとは、自室で1日中ゲームでもして過ごそうと考えていたのに、 目覚めの段階から計画は頓挫していた。 朝起きたら、部屋の中に隣の家の蛇人の娘、ヤマカがいたのだ。 軽く混乱する僕を尻目に、ヤマカは平然と部屋掃除を続けている。 普段の制服姿と違って、ラフなスウェットとパンツ姿だ。 つまり僕の眠りを妨げたのは、彼女の手にある掃除機の音だ。 「ようやく起きたのー? 休みだからってダラけすぎ。もう11時だよ。 あ、オバさんはウチのママと一緒にマチに出たから、 夜まで帰って来ないってさー 部屋掃除もお願いされちゃったから、勝手にはじめてたよ。 あと『エサもあげておいて』だってさ」 実に理不尽である。こんな暴挙がまかり通っていいのだろうか。 ちなみに彼女の言う「ママ」は、下宿先の隣の家のオバサンの事だ。 「ヤマカ・・・あのさ・・・」 せめて一言、いや二言は文句を言ってやろうと思い体を起こしたその時、 さらなる理不尽が目の前に現れた。 剣道部のセンパイ達から譲り受けた秘蔵の書物や品々・・・ 要はエロ本とエロDVDが、無造作に束にされて紐でくくられていたのである。 「あああ・・・」 声にならない声を絞り出す僕に対し、ヤマカはニヤニヤと笑いながら言った。 「テンちゃんの隠し場所、王道すぎ。 ベッドの下だの本棚の裏だの机の引き出しの2段目だのって。もう。 こっちが恥ずかしくなっちゃったよ。 中身があまりにエグいものは処分します。 どーせ剣道部のエロセンパイから貰ったもんなんだろーけど、 ニンゲンと蛸人のカラミとかエグすぎ。没収です」 あああああ・・・この女には血も涙もないのか! いっそ殺してくれ! 絶望的な気分となり、惚けた僕を無視して片付けは進み、 僕の馴染みの部屋はまるでモデルルームかと思うくらいに整頓された。 「終わり。次はエサだけど、テンちゃん何たべたい?アタシ以外で」 もう何も食べたくないよ。とも言っていられない。 ヤマカにマトモな料理が出来るとも思えない。 マトモと言うのは調理の腕や味付けではない。食材のチョイスだ。 カエル肉ならまだマシだ。 この女はピンクラットを見て「美味しそう・・・」とつぶやいた女だ。 黙っていたら何を食べさせられるか、わかったものではない。 「ラーメン」 無難である。 極めて安パイである。 確か夜食用に袋ラーメンが残ってたはずだ。 袋メンをマズく作れる人間は、まずこの世に居ないだろう。 余計な具材のトッピングさえ阻止すれば、食の安全神話は守られるのだ。 「じゃあ、栄養補助でマンドラゴラでも炒めるか」 いきなりコレだ! キャベツもモヤシもピーマンもタマネギもうちの冷蔵庫にあるよ! 何故そこで<向こう側>食材を入れようとする! つーか輸入品だからお高いでしょう? 「いや、そういうのいらないからさ。普通に作ってよ」 ヤマカは若干不満そうな表情となったが、すぐにニヤリとする。 「煎らないけど、炒めるってね・・・フフフ」 相変わらず笑いの沸点低いな。 結論から言えば、野菜マシマシ袋ラーメンは無難であった。 やれば出来るんじゃないか。まったく。 とりあえず満腹になった僕らは、まて今何食べてたヤマカ。 あのピンク色の小物体はまさか・・・ネズ・・・いや考えたくもない。 僕らは〜というかもうヤマカ帰れよと思いつつも、モデルルームと化した部屋で、 僕とヤマカは二人で過ごしていた。 僕はと言えば、当初の予定通りにゲームをしていたし、 ヤマカは首を元の長さまで伸ばして僕にからめつつ、何やら本を読んでいる。 「ねえテンちゃん」 ヤマカの伸びた首が、ヒョイと僕の顔に近づく。 「アタシのご先祖様って、すっごく昔にこっちに来てたんだと思う」 何やら唐突な話だ。 古文書でも読んでたのだろうかと思いつつ、ヤマカの持ってきた本のタイトルを読む。 『最新版・日本の妖怪100選』とある。アホか。 「ほら見て、これろくろっ首って言うんだってさ。アタシそっくりじゃん。 それにこれ、濡れ女。これもかなり良い線いってる」 体は僕の左側にあって、クビが僕の首に巻きついていて、顔は僕の右側にあって。 何だかもうよくわからない体制でヤマカは本を見せてきた。 「ウワサになってる小ゲートでこっちに来た蛇人かもしれないな。 って、お前まさかそれを見せるためにわざわざ本まで持ってきたんかよ」 さすがに呆れる。 「この部屋にヤマカちゃん文庫を作ろうと思って」 まさかそのスペースの確保の為に、秘蔵コレクションが捨てられたのではあるまいな・・・ 「前に聞いた話だと、蛇人はミズハミシマに元々居たわけじゃなくて、 どっか別の国から移民で来たんだろう? 妖怪説はその辺りの時期的に合わないんじゃねーかな」 以前に歴史の先生から聞いた話を披露する。 「確かに蛇人は、元々は移民なんだよね。 ウチの種族は蛇神の祭司だったみたいね。 で、移民しつつ蛇神を祀る社を増やしていったとかどうとか。 蛇神は言の葉を司る神で、<向こう>では言の葉は魂を持つのよね。 あ、蛇人の娘は、蛇神の巫女だったって事でどうだね?」 言霊ってヤツか。<向こう>なら、有りそうな話ではある。 「でも、俺にどうだね?とか言われても困る。 具体的にはどういう事さ」 「商売繁盛、家内安全、合格祈願、恋愛成就に、各種お守りに破魔矢もあります。 あとおみくじもあるよ」 ん? 「いや、それ、お前の年末年始の神社のバイトの話じゃん。 巫女さんの服に憧れたとか何とかで」 「処女のうちに、巫女さんをやっておきたかったんだ」 「だから女の子がそういう事を言うな」 「あ、言の葉の力を一つ思いついた」 ゲームにも飽きて漫画を読んでた僕に、ヤマカが何かを思いついてまた話しかけてきた。 僕は読みかけのジャンプを放り出して、とりあえず聞いてみた。 「今週の寝取られ情報〜」 な!? 「アタシ今週の金曜日の放課後に、バスケ部の池上くんに告られた」 池上って、ディフェンス自慢の池上か。 「ずっと前からキミの事が気になってたんだ〜 その艶かしく輝くウロコがとてもセクシーだよ〜って言われた」 学生が!口説き文句で!セクシーとか! いかんいかん。まずは冷静にならなければ。 「で、イブにデートに誘われた」 告ったその場でか! 「どうしよっかなぁ〜 アタシってイブの日に何も予定無いのよねー」 ヤマカはニヤニヤしながら僕の方を見ている。 何がイブだリア充の集まりめ。 僕なんてイブの夜もクリスマスの夜も、朝から晩まで稽古だよ。 そうだ。良いことを思いついた。 「あのさ、ヤマカ。一つお願いがあるんだけどさ。 ウチの部ってこれからしばらく合宿あるんだけどさ。 部員の数の割にマネージャー1人しか居なくてさ。 良かったら、お前手伝いに来ないか?」 「イブの夜も?」 「そう。イブの夜も」 「ヤマカと一緒に居たいのかなー?」 「そう。ヤマカと一緒に居た・・・い・・・ハッ!」 罠だ。しかし、気づいた時にはもう手遅れだった。 「なら仕方ない。ずっと一緒に居てあげよーじゃないかー」 ヤマカは満面の笑みを浮かべて巻きついてきた。 「フフフ・・・ntrられるかと思ったかね少年~」 まあ、うん。仕方ないか。 言霊なら仕方ない。 「あ、ちなみにヤマカさん厳選エロ本は残してあるから安心してね」 「だから!女の子がそういう事を言うのは!」 korega -- (名無しさん) 2013-09-01 18 01 00 これが当人には当たり前すぎて分からないリア充空間というものでしょうか。うらやま日常にそれとなくゲートや種族を絡めてサクっと仕上げた休日模様。しかし完全に天君は負けてますよね上下関係で -- (名無しさん) 2013-09-01 18 03 30 名前 コメント すべてのコメントを見る
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私立十津那(とつくに)高校という学校がある。 瀬戸内海沿岸にある、淡路島ゲートの間近に設立された学校だ。 <こちら側>と<あちら側>の友好を深める事を目的とし、 亜人と人間の共生を目指すための学校だ。 そういった意味では、種を越えて友情を育む事はまったく目的に沿うものであるし、 場合によっては友情を超え、愛情へとつながることも稀ではないだろう。 そして、この学校に通うという事は、そうした事に対してのある種の 責任感や使命感に燃える者が多いという事でもある。 必然、学内カップル誕生率も極めて高いのである。 そして当然、そんな恩恵にあずかれない者もいるのである。 「きょうはおべんとうのおにぎりですよ。ヒウマくん」 「ああ、ありがとう」 オーク種族の奥山さんと人間の犬塚が一緒に食事をしている。 奥山さんはミズハミシマの諸島に移住した豚人系オークの子孫だという。 彼女にヒウマくんと呼ばれている犬塚勇馬は、まあいわゆる人間で、 先祖は明治維新で人斬りをやっていたとかいう話だ。 それで影響を受けているのか受け継いだ血なのか、剣道部のエースでもある。 二人はいつの間にか、やたらと仲良くなっていた。 昼食時などつかず離れずで一緒に食事などをしている。 あまつさえ最近では、奥山さんの手弁当を食べているというではないか。 羨ましい!実に羨ましい! 男子が10人いたら、そのうち3人が「いや、あれブタじゃん」と言い 4人が「ムッチリたまらん」と言い、2人が「おっぱい揉みしだきたい」と言い 1人は「いや、言うほどブタじゃない。むしろ天然で可愛い」と言う逸材に、 お弁当を作ってもらえるとは! そんなブッチャケた話どうでもいい事を考えて購買の焼きそばパン(王道)を むさぼり食っているのが、僕こと川津である。名は伏せる。 パンを食いながら上記のようなクソくだらない事を考えてしまう辺り、 中学時代にこじらせた厨2病が一切完治していない証拠なのである。 本当は僕だって彼女が欲しい!と言えない!だから欲しいそぶりなんか出さないぜ! とか思ってるのが外に滲み出て哀れを誘うような人間である。 ちなみに犬塚勇馬と同じく剣道部であり、彼と異なり部のお荷物である。 実際は誰も比較すらしないのだろうが、彼に比べなんと情けない人間だろう。 それはそうとこの焼きそばパンうめぇな。 仕入先変えたんだろうか。 「まーた一人で深刻ぶりごっこしてんのかー」 という声と共に、背中から首筋にかけてヒヤリとした質感が覆う。 「うひゃあ!」 ああ、またやってしまった。 リアクションを声に出すとか気持ち悪がられるのはわかっているのに。 だいたい誰の仕業か分かってはいたが、振り向いてみると予想通りだった。 蛇神ヤマカだ。 奥山さんと同じく<向こう側>からの留学生で、いわゆる蛇人だ。 種族名のイメージから想像するよりは随分とニンゲンなのだが、 やはりその眼、割れた舌先、なにより滑らかで美しくもあるが、 一目でそれとわかるウロコが、やはりヘビを思わせる。 何より首がヘビ級に伸びる。 眼がやたらと悪いようで、牛乳瓶の底のように分厚いメガネをしている。 「おおかた勇馬っちと自分を比べて寂しくなってんだろー 比べるだけ無駄なのよねー」 ニヤニヤと笑いながら、ヤマカがからかってくる。毎度の事だ。 チロチロと舌が出入りする。 「手製の弁当が羨ましかっただけだよ」 ウソは言っていない。本当に羨ましい。 「んー? なんならアタシのお弁当を分けてあげてもいーぞ。 お手製って言うんなら、これもお手製だぞー」 ヤマカはそう言いながら、僕の目の前で弁当箱をゆすって見せた。 「仕方ないな。食べてやるよ。 とりあえず離れてくれないか」 ああ、僕はこういう言い方しか出来ないのか。 なんと情けない。 「フフン。ヤマカちゃんの絶品弁当を見て驚けー」 ヤマカが開けた弁当箱には、唐揚げがみっしりと詰まっていた。 なんだこの男弁当。栄養バランスとか何も考えてねぇ 「それじゃ、いただきます」 とりあえず一つ唐揚げをつまみあげてバクリと食べてみた。 淡白な味わいながらも衣の味付けが絶妙で実に美味い。 これはトリササミを揚げたのだろうか。やるなヤマカ。 「美味しい?」 ヤマカが僕の顔をのぞき込む。どうでもいいが首がちょっと長くて怖いぞ。 「まあまあだな。このトリササミ揚げ」 するとヤマカはまたニヤニヤしながら話しかけてきた。 「それ、カエルの肉なのよー」 なんと。 放課後になり、部活動の時間となった。 犬塚は相変わらず、部のレギュラー陣と殺し合いのような稽古を続けている。 王仁主将の3m超えの体躯から繰り出される連撃を危なげなく裁ききり、 逆に出小手をあっさりと決めてしまった。 僕はと言えば中盤もそこそこから体力の限界を感じフラフラになっていた。 「よーし!今日の稽古終わりだ」 顧問の瀬戸先生から止めの合図がかかった。 瀬戸先生は、『全ての人種が集うアルティメット剣道大会』において 普通の人間にも関わらず圧勝に圧勝を重ねて優勝してしまった今剣聖だ。 そんな先生でも七段以上の部に出ると優勝出来ないというのだから、人間とは恐ろしい。 「皆は当然知っていると思うが、年明けに全国大会予選が開かれる。 人間の部と無差別の部の代表チームを組まねばならんのだが、そのための部内選を明日から開始する。 そのチームを元にして、冬合宿の結果でどんどん入れ替えていくからな。 とりあえず、全員今日はゆっくり休めよ」 その言葉は部内に静かな熱気をもたらした。 勝てばレギュラーか。実に羨ましい。 まあ僕には関係の無い話だ。 タオルで乱雑に汗をぬぐったあとで、すぐさま制服に着替える。 どうせシャワー室は練習後の部で取り合いになって、男臭地獄だ。 裏手から外に出ようとすると、先に出ていった部員達と、 それを待っていたカップルの片割れとがイチャイチャしていた。 犬塚も奥山さんと一緒に帰るんだろう。 だいぶ秋も深まり、冬に差し掛かってきたせいか、嫌に冷える。 そして背中と首筋をヒヤリとした質感が覆った。 「遅いわー。何でこんな寒い日にこんな待たせるかなー」 ヤマカだ。 「誰もお前と一緒に帰るなんて言ってない」 するとヤマカはまたニヤニヤとして言った 「カエル肉の唐揚げは食べたのに、カエルなんて言ってない・・・ププ」 笑いの沸点低いなぁ。この女。 「あー。あったまる・・・ 寒い日はキミの熱であったまるのが一番だわー」 「人をユタンポみたいに言いやがって」 「アタシの種族は熱が下がると動きがにぶくなってダメねー」 「ホッカイロでもつけて一人で帰れよ」 「やぁよ。熱源が近くにないと迷子になっちゃう」 「カーナビか。僕は」 いつも通り、僕らは一緒に家路につく。 家が隣同士だから仕方のない事だ。 「つーかホントそろそろ離れろよ」 「んー?せっかく女の子の感触を提供してあげてんのにー」 チロチロと舌が出入りする。確信犯か。いや、誤用なのはわかってる。 「お前の貧相な体があたったところで、何の提供にもならんよ」 「まーたまたー 今夜あたり、オトコノコタイムでしょ?」 「だから女の子がそういう事言うな。 あと、試合前にそういう事しねぇから」 出来るだけ真面目な雰囲気で突き放した。 するとヤマカはなにやら考え込んでいる。 少しは僕の意思も通じただろうか。 「前に言ってた部内試合ってやつかぁ レギュラーになれたら筆下ろしとかにする?」 何も通じてなかった。 「逆にプレッシャーになる。 あと何で童貞だって決めつけてんだ」 「長い付き合いだし知ってるに決まってんじゃん。 それに匂いでわかるのよねー ヘビは匂いにビンカンなのよー 筆下ろししたら、唯一犬塚に勝てる分野が出るぜ? どーするー?」 「だからそういう事を言うなってば!プライバシー!」 「んふふー 一応ヘビは性的な暗喩とされておりますのでー 淫魔的?なポジションになれたらいいなーってー」 「そんな見た目で淫魔も無いわ。 お前どっちかって言ったら地味目清純キャラだろ」 「処女だしね」 「だから言うなって」 いつの間にか玄関口。 「そんじゃな」 僕は何となく照れ臭くて、わざとぶっきらぼうに言う。 厨2病が治ってないから仕方ない。 「じゃあ、明日もカエルのお弁当を作ってあげるよ。 また明日ね、テンちゃん」 ヤマカがニヤニヤしながら言った。 「テンちゃんって呼ぶな・・・まったく」 今日は酷く疲れた。 練習疲れだけじゃなくて、ヤマカの相手でも疲れた・・・ かろうじてシャワーはあびた。メシも食った。 川津天(おおげさな名前だ)の一日は、もうこれで終わりにしよう。 ベッドに倒れ込むように身を投げ、心地よい睡魔に襲われた時、 ケータイメールの着信音が鳴った。ヤマカからだ。 うう・・・眠いのに。 中身を開けると『オトコノコタイムするなよー』の一文。ウゼェ そして無駄に長い空欄もウゼェ メールの最後の文章は・・・『明日はガンバレ』だった。 何で。 もっと普通に。 応援できないのか。 『おう。頑張る』の一文だけ返信して、僕は眠りに落ちた。 さて、若干時を巻き戻して下校時、裏口には取り残された男が二人。 「本当にこの部はカップル率が高いのう」 主将の王仁が嘆く。 「やはり男は顔なのかのう」 副将の奥戸も嘆く。 「カップル誕生率の高い学校じゃ言うても、 その恩恵にあずかれない者もおるのじゃけぇのう」 王仁は恨めしそうに、自分のゴツい顔をなで上げる。 我ながらなんと酷い仁王顔だと思う。 「いつかわかってくれるオナゴに出会えるじゃろ。 それまではお互い、剣の道を歩もうじゃないか。のう」 モテない男の悲しさか。 二人の剣士はいつの日にか訪れるその日を夢見て、今日も家路につくのであった。 テンちゃん現状に満足しちゃっているとこれ絶対進展なさそうな気配。 台詞には抑揚があってもどこかテンション低そうに感じるのは蛇=定温動物だからだろうかヤマカさん -- (名無しさん) 2013-06-26 02 42 24 普通に会話できる女友達がいるだけで全然違うだろというその他男子生徒からの声があがりそうですけども。あと一歩は踏み込んでこないアタックに川津君はどういう答えをだすんでしょうか -- (名無しさん) 2013-07-21 18 37 54 名前 コメント すべてのコメントを見る
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12月も末を迎え、ようやく連休である。 こんなに心安らかになれたのも久しぶりの出来事だ。 なお、成績は悪いが試験勉強の組立は良いと自画自賛する、 今回もしっかりと12月中に推薦入試でほぼ大学合格決定の俺、川津天です。 神がかり的なヤマのはり方とカンニングテクは、我ながら感心する。 受験勉強なんてやってられるか!あと3ヶ月は寝て暮らすんだ。 そう思った矢先に、ほぼ予想通りにヤマカの襲撃を受けた。 「テンちゃん起きてる?寝てたら起こすけど。 うんうん。起きてるね。おはようテンちゃん」 部屋の主の許可を一切取ることなく、蛇人の娘である蛇神ヤマカが入室してきた。 あらためてヤマカの顔を見るが、あまり代わり映えしない。 強いて言うなら、最近冬の脱皮とやらが終わったおかげか、ほっぺたのウロコがツヤツヤしている。 全ての鱗人がそうなのかは知らないが、少なくともヤマカには2種類のウロコがある。 ひとつは硬質なウロコで、年に2回ほど剥がれ落ちる。成長に合わせて脱皮しないと引き攣りそうだし。 硬質ウロコはほっぺた、首周り、背中、尾、腕と足の半分くらいを覆っていて、ちょっとザラザラした肌触りだ。 もう一つは人間の肌のような軟らかいウロコで、これは普通に垢みたいに剥がれる。 ウロコというが、じっくり見ないと、いっそ触ってみないと継ぎ目がまったくわからない。 手触りは人間の肌とほぼ一緒だと思う。スベスベしていて触り心地が良い。 それと、これも他の鱗人がどうかはわからないが、体毛がほとんど無い。 髪の毛、眉毛、まつ毛くらいじゃないだろうか。どれも青いくらいに真っ黒だ。 「なぁに?マジマジとアタシの顔を見てさ。 いつも可愛いねくらい言ってよ」 ヤマカは手に持った数冊の雑誌を床に広げながら言った。何を持ってきてんだか。 「で、今日は何の用事なんだ」 ベッドから起き上がりながら俺は言った。 するとヤマカはズイと顔を近づけてきた。吐息がくすぐったい。 「な、何だよ」 「その前にー」 「前に?」 「いつもー」 「いつも・・・」 「可愛いねー」 「可愛いね・・・これ誘導する必要あんのかよ」 「あるに決まってるじゃない。明日が何の日か忘れたわけでもないでしょ~ イヴだよイヴ!クリスマスイヴ!もっとボルテージ上げて行こうよ! ほらテンちゃんもこれ見て」 ヤマカが差し出して来たのは、『神戸さんぽ12月号』と『とつくに新聞クリスマス特大号』だった。 え?まさか出かけるの?絶対混んでるのに? 「テンちゃんさ、露骨に面倒臭そうな顔するのやめてよ。 高校最後のクリスマスイヴくらい、一緒に出かけてくれてもいいじゃない」 ヤマカがプクーっとほっぺを膨らませてスネたので、とりあえず指でつついて遊ぶ事にする。 さらに抗議の声があがったが、完全に無視して『神戸さんぽ12月号』をパラ見する。 へぇ・・・猫人喫茶ねぇ・・・肉球をプニプニできるサービスか。いいな。 カレー専門店『みぎに』 か・・・普段通い慣れた店が雑誌に載るのって不思議な感じがするな。 お、ここいいじゃないか。これならヤマカも一ヶ所で満足出来る事だろう。 フラフラ色んなところに振り回されないで済みそうだ。 ヤマカも学園新聞部で作成した『とつくに新聞クリスマス特大号』で良さそうな場所を決めたみたいだ。 「ヤマカ、ここでいいんじゃないか?」 「テンちゃん、アタシここに行きたい」 俺が目につけた場所、ヤマカが行きたがった場所。 それが新ポートアイランドパークの西向かいにある大型集合店舗『マックスGARYU』だった。 次の日、朝も早くからヤマカのおはようメールで叩き起こされた俺は、そのヤマカの身支度待ちをしている。 そんなに気合入れるような事かね。デートじゃあるまいし。デートか。俺、普段着だな。 「ゴメーン!お待たせた」 ようやく出てきたヤマカは、普段とは大違いの姿だった。 全身をフワリと包む長めのワンピースに、普段はかけないミスリルフレームの眼鏡。 胸元には宝玉をはめたブローチが光る。フェイクでは無いらしい。<向こう側>から持参したものなのだとか。 尾の先に赤いリボンをしているのが可愛い。メイクも普段は嫌がってしないくせに、見た事ないくらいカンペキな仕上がりだ。 ヤマカは俺の姿を見ると、ちょっとだけ眉間に皺を寄せたが、すぐに上機嫌に戻った。 「なぁるほど。そういうプレゼントをご希望なのね~ 予算は1万円だけど、バッチリ仕上げるから任せてね♪」 と、ニマニマしながら言った。さてどういう意味だろうか。 ロクでも無い事を思いついたのだろうという事だけは理解できるが。 それより、プレゼントの予算など考えもしなかった。 財布の中には五千円札が1枚と千円札が2枚。心もとないな。 仕方がない。バイトで稼いだ金が5万円ほど、どこかのキャッシュコーナーでおろしてくるか。 「まあ、とりあえず駅に行くか」 俺が歩き出すと、ヤマカはいつも通りに左腕に巻きついてきた。 ちょっと邪魔くさいけど、首で巻き付かれるよりはマシだろうか。 神戸市ポートライナーの十津那学園前駅まで歩いて15分。 12月も末ともなれば、だいぶ気温も下がってきて、ただでさえ低体温で寒がりのヤマカにはキツい季節だ。 今日も一見軽装のようでいて、中にはしっかり体温を逃がさない最新素材の服を着込んでいる。 それでも寒いようなので、駅の中にあるキャッシュコーナーで貯金の大半をおろしたあとで、 ベアーバックスコーヒーに立ち寄って体を暖めなおした。 「テンちゃん、お昼ご飯はどうしようね?」 さっきまでカエルコーヒーじゃないと嫌だと拗ねてたヤマカだが、クソ甘いココアを飲んで機嫌が治ったようだ。 よくあんなものを飲めるものだ。というかコーヒー飲めよ。エスプレッソうまいぞ。 「で、昼が何だって」 ヤマカが持参した付箋が山ほど貼られたガイドブックを覗き見ながら俺は言った。 ヤマカのこういうアナログ感は嫌いじゃない。 「ほら、こんなにいっぱいお店があるんだよ。 昨日はイストモスバーガーでいいやって思ったけど、せっかくだしもうちょっと思い出に残る所がいいな」 俺はイスバのオニオンリングが食べたかったんだけど・・・ 「これから行くんだし、様子見て決めてもいいんじゃないか。 何十分も並んで食べるのも時間が勿体無いし」 「でも、あらかじめ決めておかないと迷いそうだよ。 ほら、レストランだけでもこんなに一杯あるんだよ。 あ、中華レストラン『犬塚飯店』だって。 勇馬っちと何か関係あるのかな」 ヤマカはガイドのページをペラペラとめくっては、ここがいいそこがいいとはしゃいでいる。 犬塚飯店なぁ・・・あんだけ兄弟いると、本当に関係あるような気もしてくるな。 「せっかくだし、行ってみるか。犬塚飯店」 するとヤマカは再びニンマリと笑い出した。 「クーポン券で20%オフなんだってさ。 それに店長お薦めメニューも。ウフフフフ」 怪しい奴。 目的地の新ポートアイランドパーク駅までは、新交通モノレールポートライナーで20分ほどで到着した。 乗り物に乗ると、どうしても居眠りをしてしまうという妙なクセを持っている俺は、毎度のことながら寝顔をヤマカに撮られた。 ヤマカちゃんコレクションの一つなのだそうだ。何の価値も無いな。 駅舎から出てすぐに目の前に飛び込んできたのは、『マックスGARYU』の巨大すぎる建物だった。 「うおお、ここまでデカいのか」 思わずバカみたいにくちをポカンと開けて立ち尽くしてしまった。 「これだけ大きいと、巨人さんたちもラクラクよね」 左腕に巻き付いたままのヤマカも呆気にとられている。 とりあえず建物に向かって歩き出すと、周りの人も一斉に歩き出した。みんな目的地は一緒なのか。 1Fフロアを歩いてみて、だいたいの詳細が把握できた。 天井高は少なくとも3m以上。高い所で数十mって所だろう。トラス構造を多用して吹き抜け空間を確保してんのか。 壁もほとんど見当たらず、ガラスか透明アクリルを使ってるんだろうな。中は凄く明るく見える。 そして建物の中には水路が縦横無尽に張り巡らされており、ミズハミシマ魚人への配慮も怠っていないようだった。 この雰囲気は、強いて言うならば京都駅や関西国際空港に近いのだろうか。 「すっげぇなぁ・・・すっげぇなぁ・・・」 俺が建物そのものに感心していると、ヤマカはそんな事にまったく興味が無いようで、しきりに店舗をチェックしていた。 「あ、ほら。テンちゃんあれ見て見て。 すっごく可愛くない?あーゆーの着たら似合うかなぁ」 ヤマカが指差した先には、なるほど可愛らしい服がディスプレイされている。 つーかここネズミーマウスショップじゃねぇか。 「ヤマカならもうちょっと大人っぽい方が似合うんじゃねぇかな」 こいつ、俺の前だとはしゃぎまわるけど、普段はネコかぶってクールだからなぁ。 だが、この回答はどうもヤマカのお気に召さなかったようだ。 ギュウっと俺の脇腹をつねると、「いいじゃん別に」とボソリと呟いた。 ああ、今日はそういうモードか。 俺はヤマカの手を握ると、ヤマカの抗議の声を無視してその店に入った。 「いらっしゃいませ~」 うお、猫人の店員だ。え?普通に働いてるけど法律とか大丈夫なのか? 「本日クリスマスイブセールとなっております~ どうぞごゆっくり店内ごらんくださいませ~ お連れ様は彼女様でいらっしゃいますか~お可愛いですね~ どうぞご自由にお試着なさってくださいませ~ こちらのコートなどはいかがでしょうか~ ノームの衣装職人アステラ・ロッカ氏のデザインですよ~ さささお客様、早速試着をどうぞどうぞ~」 もの凄い勢いで畳み掛ける猫人女性の営業トークに流されて、ヤマカは試着室へと連れていかれた。 シャっと試着室のカーテンが開くと、ちょっとビックリするくらいカワイイ全開に固められたヤマカが現れた。 「えーっと・・・」 「なによ」 「すっげぇ可愛いぞ」 「もう一回」 「可愛いよ」 「ふふん。そうかね」 「えーホント可愛らしい彼女さんですよね~ もう何を着ても似合っちゃうって言うか~ 本日イヴセールになっておりまして~ コート、セーター、マフラー、ニット帽、それにお財布と合わせて何と4万9千800円のご奉仕価格です~ それではカウンターの方へどうぞ~」 女性店員は間髪いれずにカーテンをシャッと閉じた。 え?購入決定なんですか? しばらくすると、着替え直してフルスマイルになったヤマカが試着室から出てきた。 なし崩し的に購入決定・・・俺にはこれが高いのか安いのかすら判断できん。猫人商人おそるべし。 「エヘヘヘヘ。サンタさんありがとー」 「誰がサンタだよ。まったく」 「次はアタシがサンタさんだね。 テンちゃんの服をヤマカちゃんがコーディネートしてあげよー」 うお、すげー嫌な予感。 そもそも予算1万円という時点で無理があったのではないかと思うのだが、 3階フロアの衣料品店街にあるゴブリン達の店『ゴブクロ』にて、俺はヤマカのオモチャになっていた。 「こっちの竜皮ジャケットの方が似合うかもしれない・・・ それともポリエステル地の方がいい?ん~・・・」 ヤマカさんそろそろお昼も過ぎた頃合いなんですけど。 「そもそもテンちゃんは髪型が適当すぎなのよね。 良く見たら無造作ヘアだけど、悪く見たらボサボサ頭なんだから」 髪型にまで言及されるとは思わなかったよ。 「お悩みのようですね」 あまりに長く居すぎたからか、とうとうゴブリンの店主に声をかけられた。 大人のゴブリンを見るのは初めてだな。すげー悪そうな顔してるなぁ。 「この店のコンセプトからは外れますが、こちらの毛竜種から得られた糸で編みこんだセーターはいかがでしょう。 希少品ゆえに値ははりますが、お連れ様にはお似合いかと思いますよ。 おっと、せっかくのクリスマスイヴです。私の裁量で予算内の価格とさせていただきます」 おお、店主。顔に似合わずなんという良心的な人だ。これで着せ替えから逃れられる。 「ちょっとテンちゃんには上品すぎる感じもするけどなぁ でもクリスマスだし、これはこれでいっか」 ヤマカはニンマリと笑いながら、俺の上着を着せかえた。 思った以上に着心地の良いセーターに着替えて、俺たちは最上階にあるレストラン街に来た。 昼時を過ぎたというのに、どの店も混雑しているように見える。 「っと、あれか。犬塚飯店」 見た目は普通の中華料理店だ。結構繁盛しているようで、若干待たなければならなそうだ。 「せっかく来たんだし、ちょっと待ってあそこで食べようぜ」 相変わらず左腕に巻き付いたヤマカは、セーターの肌触りを楽しみながらうなづいた。 待ち時間は10分ほどだった。店内に通された俺は、そのメニューの多さに唖然とした。 「何ページあるんだよこれ・・・いいやエビチリ定食にする。 つーか馬鹿みたいに安いな。これで採算取れてんのかよ」 メニュー表の最後のページに、食材の仕入先や提携先が所狭しと書き連ねてあった。 随分とやり手の経営者のようだなぁ 「あった!アタシこれにする。店長のオススメなんだってさ」 ヤマカも決まったようだな。 「で、オススメってのは?」 「田鶏(ティエンチー)ランチ」 田鶏(ティエンチー)と言えば中華料理では一般的な食材であるが、要はカエルである。 「ヤマカ・・・お前な」 「美味しいよね。カエル」 付き合いの長さゆえか、ヤマカの事はもう鱗人とか蛇人という感覚が薄れている所ではある。 だが文化的側面、特に食生活において決定的に相容れない部分は確かにある。 それがこの、ヤマカのネズミ肉とカエル肉をこよなく愛する嗜好の部分だ。 それを否定はすまい。俺も亜人から見れば随分と奇異な物を食べているかもしれないからだ。 それにしてもだ。 「あ、店員さん注文おねがいしまーす。 えぇと、この田鶏(ティエンチー)ランチをふたつ。 あと飲み物が烏龍茶の暖かいのでお願いします♪」 ヤマカがテキパキと注文を伝えている。あれ? 「いや、俺はエビチリ定食で」 あぶねー。 「何でさ。カエル美味しいのに。 あ、そっかそっか。二人で分けた方がお得なのか」 ヤマカは一人で納得しているようだけど、俺は絶対にカエルは食べない。 と誓ったのだが、結局は強引に押し切られて2切れほどあん掛けのから揚げを食べた。 美味しいけどさ・・・美味しいけどさ・・・ その後は店内映画館にて封切り直後の『ホビットの冒険』を観て、本屋に立ち寄って、家路についた。 すっかり日も暮れて真っ暗な帰り道。俺は寒がるヤマカの肩を抱きながら歩いていた。 「けっこう映画、面白かったな」 「アタシ、よくわかんなかったな。 エリスタリアってあんな国なんだねぇ」 「いや、あれエリスタリアの話じゃねぇぞ」 「何で?ホビットなのに?」 「ま、いつかゆっくり教えるわ。 つーかお前の方が本とか読んでるだろうに、何で知らないんだよ」 「テンちゃんはエッチな本しか読まないのに何で知ってるのさ」 「うっさいわ」 くだらない話をしつつ、気がついたら玄関前。 「それじゃテンちゃん、また明日ね」 「ああ、また明日」 そのまま家に入ろうとすると、ヤマカに袖を引かれた。 「ちーがーうーでーしょ」 顔を見るとむくれている。 わかっちゃいるんだけどさぁ。さっきカエル食ってんだよな。この娘。 ハァ・・・仕方ない。蛇人とお付き合いするってのも、楽じゃないよな。 そう思いつつ、ゆっくりとヤマカに口付けた。 幸いにして、カエルの味はしなかった。 この二人の会話は年相応の「らしさ」があっていいですね。大人へと時間が進む中でふと種族の違いを感じたり触れ合ったり。ご当地ネタも丁寧で頭に浮かんでくる風景に二人の姿が。最後まであてられっぱなしのニヤニヤしっぱなしでした -- (名無しさん) 2015-10-04 17 30 09 名前 コメント すべてのコメントを見る
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「え?え?何で覚えてないわけ?」 卒業式を終えて、剣道部最後のミーティングも終了し 皆が涙、涙のお別れをしているさなかに、浮田が素っ頓狂な声をあげた。 冬休みの前に犬塚の家に遊びにいった時に話題にしていた 『みんなで旅行に行こうよ計画』を、浮田だけが本気にしていたようなのだ。 いや、他にもきっと準備していた人もいたかもしれないけど、 少なくとも僕はバイトもテキトーだったし、計画もすっかり忘れていた。 「犬塚、お前覚えてた?」 犬塚に話を振ると「当たり前だろう」と冷たい目で見られた。 「フ・・・奥山さんは春休みに実家に帰るから、参加出来ないけどな」 とまあザマミロな展開も待っているのだが。 ていうかフーちゃんって呼べよ。もうみんな知ってるよお前らの関係。 そう言えばヤマカってもうずっと実家に帰ってないよな。 アイツ春休みどうするつもりなんだろう。 「川津!聞ーてるのか! あんた、春休みの予定どーなってんのさ? あたしもう予約とか入れなきゃなんないんだからさ」 ウゼェなぁ 春休みに合宿とか入らないものだろうか。 まあ、それすらも本音では面倒臭い。 チラリと新部長の亀井戸の方を見たけれど、アイツそういう事しなそうだな。 亀人の事を悪く言うつもりはないけど、みんなノンビリしてそうだし。 イメージ的に。 あとお弁当にワカメご飯とか常食してそうだし。 イメージ的に。 あと修行の時に亀の甲羅とか背負ってそう。 イメージ的に。 「春休みはヤマカの実家に遊びに行くから、僕ぁパスだ」 もう理由とか何でもいいや。 浮田はアホの子だから、この程度の理由でも十分だろう。 「え?何であんたが蛇神さんの実家に行くのさ。 いくら下宿先が隣だからって馴れ馴れしすぎない?」 ダメか。 「親の仕事の都合だよ」 どんな都合なのか。 というか40歳も過ぎていまだにダーリンハニーなあの2人の都合になど 絶対に合わせる気などない。 ふたりで好き勝手に<11門世界>の謎とやらを解き明かせばいいのだ。 「へぇ・・・ふぅん・・・ それ、あたしも一緒にいっていいの?」 面倒臭ぇなぁ つーか最近随分と食い下がられる気がする。 僕に何か恨みでもあるのかこの娘は。 その時、部室の後ろのドアがカラリと開いた。 「あの・・・川津くんはまだいるかしら?」 ヤマカだ。実にいいタイミング! 僕はヤマカに向かって、高レベルでのアイコンタクトを送った。 「あ、丁度良かった! 蛇神さん、春休みに実家に帰るんでしょ? それってあたしも一緒じゃマズい?」 浮田が駆け寄って尋ねた。 ヤマカはキョトンとしていたが、僕のアイコンタクトを理解したようだ。 「私、春休みもずっと<地球側>ですごしますけど・・・ もしかして川津くんが妙な事でも口走りましたか。 たまに彼、聞いたことを曲解している時がありますから」 マジか。 そして、とてつもなくイジワルな視線がヤマカから送られてくる。 何だ?僕は何か悪い事でもしたっていうのか。 卒業式の最中に居眠りしてたのがそんなに悪いってのか。 この時々出てくる『ヤマカちゃんのお姉さん的視点による教育的指導』は、本当にキツい。 「かーわーづー! ウソじゃないか!何でウソつくのさ! さてはあんた、本気で忘れてて面倒臭くなってるだけじゃないのか!」 正解です。浮田さん。 さて、この修羅場と言えば修羅場な状況をどうくぐり抜けようか。 そんな事で僕の脳がフル回転し始めた時、犬塚がくちを開いた。 「まあ、奥山さんが居ないのは残念だけど、残った人で行けばいいじゃないか」 優等生め!面倒な事を! そんなこんなで大騒ぎしていたら、いつの間にか参加規模が10人を超えた。 女子剣道部員も参加する事になったから男女バランスは悪くないが・・・ 帰り道、ヤマカが相変わらずイジワルな視線を僕に向け続けていた。 「テンちゃんさ、朝のアタシの言ってた事、何も覚えてないじゃん」 今朝は寝坊してフラフラの状態で登校してるから、確かに何も覚えてない。 というか、ここ1週間ほど、極めて寝不足でイライラしているのだ。 卒業式の最中も、自覚しつつも居眠りしていた。 無理。なんかもう超眠い。 「春休みは予定が無いからノンビリすごそうねって約束したのにさ」 それは約束なのか。 「ていうかテンちゃんは別の意味でノンビリしすぎ。 あんまりフラフラしてたら他の人の所に行っちゃうよ、アタシ。 これでも結構告られたり何だりしてるんだからね」 まあ、そういうのもあるだろう。 ヤマカはやたらとウロコにコンプレックスを抱いているし、 皮膚のウロコや瞳孔や舌先や尻尾の存在は確かに亜人丸出しながらも、 蛇人はそういうものだという視点で言えば、かなりの美人だ。あと首が伸びる。 極めて細身なその体型も、狂信的なおっぱい星人でも無ければウェルカムだろうし、 むしろ女子の理想像と言えるのかもしれない。 今までもバスケ部のナントカから告白されたとか、情報処理部のカントカからも 好かれているという話は耳にしているし、それもそうだろうと思う。 わからないのは、じゃあ何で僕なのかという点だけだ。 「・・・って、テンちゃん聞いてる? 最近けっこうボーッとしてるよね」 ヤマカが頬を膨らませて抗議してくる。 リアルにほっぺたをプーっと膨らませるヤツなんて実在するのか。 面白かったんで指で突っついてみたら、超怒られた。 夢を見ていた。 ここ数日、連夜で見ている嫌な夢だ。 酷く寝苦しい。胸が圧迫される感覚がずっと続く。 御陰で随分と寝不足な日々を堪能させていただいている。 夢の内容は単純で、場面は常に『あのビル』の裏手。 出てくる人も一緒。僕と、ヤマカと、ヤマカを集団でいじめていた連中。 経過も途中まで一緒。その現場を見て、衝動的に、木刀をふるって。 いじめていた連中の目の前を一閃して恫喝して、立ち去るように促して。 そうして僕は次の瞬間、ヤマカに背中から噛み付かれて、その悪意を一身に受けて絶命するのだ。 噛み付かれた瞬間に、見たことも無い文字が空中を舞い踊るのが見える。 黒く染まるもの、怒れるもの、殺意、不安、恐怖、憤怒、嘆き、後悔、正義、天意、剣を振るう者・・・ どう読むかもわからない、イメージだけ抽出すれば、そう読めなくもない。 『躍字』というらしい。 自分の真名を書き記す程度ならともかくとして、『躍字』が顕現して威力を振るうなど、 両親曰く<地球側>では観測されない事象のはずなので、僕が見たのは幻なのだろう。 なにせ、絶命したのに生きているのだ。 生ける屍となった僕は、木刀を血に染めて、周囲の人間を叩き伏せたのだ。 役目を終えた僕は、再びただの屍に戻る。 死んだはずなのだ。 そういう夢だ。 「春休みってのぁ・・・ありがたいねぇ」 目を覚ましたのは午前11時。 目覚まし時計すらその役目を果たさずに、僕は眠り続けていたってワケだ。 その割に目覚めは悪い。まったく睡眠をとれた気がしない。 「とりあえず・・・朝飯・・・準備すんの面倒臭ぇ」 冷蔵庫に何が残っていただろうか。 コンビニでパンを買ってもいいか。 出かけるのも面倒だなぁ 「朝ごはんならもう準備出来てるよ。 ピザトーストにサラダにスープにコーヒー。 もう全部冷めてるけど、温めるくらいは自分でやってよね、テンちゃん」 ああ、なんだ。ヤマカがやってくれてるじゃないか。 「何でいるんだよ」 「その前に、おはようくらい言えないのかな。 その次にはありがとうってのが普通だと思うな」 ベッドから部屋の中央を見ると、ヤマカが座って本を読んでいた。 僕の部屋に創設されたヤマカちゃん文庫から本を取り出したのだろう。 「あ・・・ん、ありがとう」 頭が回らない。 鍵は・・・こいつ合鍵持ってるんだっけ。 「ヤマカ、いつ来たのさ」 ボヤーっとする頭で、どうでもいい事を聞いてみる。 夢と現実の境目がよくわからない。 「深夜の2時くらいかな。 TV見て寒くて眠れなくて、テンちゃんのベッドに潜り込んで熟睡して、 7時くらいに起きてご飯の準備して先に食べて、で、今は本を読んでる」 ん? 「寝ている間は」 「ずっとテンちゃんに巻きついてたよ。寒いし。 蛇人に寒冷は大敵だよね」 よりによって巻きついてたのか。 「何時頃から?」 「1週間前くらいからかな。 今年ってぜんぜん暖かくならないじゃん。 アタシすっごく体調不良でさー」 つまり。 僕の睡眠不足の原因は。 「ヤマカが巻きついて胸部圧迫するからじゃないか!」 「わっ!何?何で急に大声あげてんの。 巻きつかれるの、嫌?」 「いいとか悪いとかじゃなくて! 最近の寝不足、全部お前のせいじゃないか。 せめて起きてる時にしてくれ」 「あ、起きてる時ならいいんだ」 「いや、それもちょっと・・・」 冷めたピザトーストをほおばりながら、少しだけ真剣に考える。 最近見続けた夢の内容は、ほとんど同じものだったけれど、 僕自身が記憶している事実とは随分と細部が異なる。 『躍字』について、『蛇神の巫女』について、もう少し調べてみようか。 どうせ春休みだし、オヤジとお袋の顔を拝みにでも行こうかね。 さて、<ゲート>を超えるのって手続きどうだったかな。 夢がどう関わってくるのかが気になります。浮田さんが積極的なのとヤマカさんの余裕ある対応が対照的でした -- (名無しさん) 2014-04-27 17 34 17 名前 コメント すべてのコメントを見る
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私立十津那(とつくに)学園という学校がある。 瀬戸内海沿岸にある、淡路島ゲートの間近に設立された学校だ。 その規模はいわゆる学校のレベルをはるかに逸脱し、 周辺の関連施設を含めると、ひとつの都市と呼んでも過言ではない。 ゆえに、学食の規模も尋常ではなく、学生にとっては夢のような環境である。 僕こと川津は、今日はその学食でメシを食っていた。 カツヲのたたきが1kgも丼に入った海鮮丼が500円で食えるという 企画と値段設定したヤツはバカだろという代物をいただくためだ。 そして注文して食うヤツが一番バカだというのは言うまでもない。 いざ注文して現物を目の当たりにして絶句しているのが、僕だ。 多過ぎ。 周りを見渡してみると、まあおおよそ巨漢を誇る亜人、獣人たちが 次々とこの超特盛海鮮丼を注文しては完食している。さすがである。 水泳部の杉浦さん(スキュラ人?)も注文して完食しているのには驚かされるが、 まあ運動系ならそれっくらいは食べるものだろう。 僕もなんやかやで全部たいらげてしまった。実に美味。 そんな中、やはり調子に乗って注文して、運動部なのに挫折したアホがいる。 浮田だ。 「ばーか」 何の躊躇もなく僕は言う。ばーかばーか。 「どーせ馬鹿ですよ。もう無理。多過ぎ。 そうだ川津、これあんたが食べなさいよ。 残りはスタッフが美味しくいただきましたーって」 くだらない思いつきを嬉々として語るこの女は、本当にアホだ。 「そんじゃ頂きます」 「え?いやその、汚くしてるよ。 マジでか。ちょ、マジでか」 いちいち五月蝿いなぁ 妙にテンパる浮田を尻目に、僕は1.5杯分の海鮮丼を食べ終えた。 どうせ夕方からの部活で、また2kgは体重の減る地獄稽古があるし、まあいいさ。 「そう言えばさ、あんたはずっと弁当だったのに、何で今日は学食なん?」 浮田がバッグからチョコ菓子を引っ張り出しながら聞いてきた。 まあ待て。お前さっき海鮮丼を食いきれないとか言ってなかったか。 別腹ってヤツか。女子はこれだから・・・ 「ヤマカが風邪ひいて寝込んでるからな」 そう。風邪だ。というかインフルエンザだ。 <地球側>と<11門世界>では病気になるシークエンスが異なると聞いた事があるが、 いかんせん生物学的には大差の無い人間と亜人である。病気になる時はなる。 まして世界が異なるために病気の抗体もあわないだろうし、ヤマカにいたっては 注射が怖いとか言い出してインフルエンザの予防接種を受けない始末だ。 そりゃあシーズンになれば、余裕でひくわ。 「蛇神さんとあんたの弁当に、何の関係が?」 説明すんの面倒臭いなぁ 基本的なところとして、僕の両親は研究のために、1年の大半を<11門>の方ですごす。 稀にオヤジかお袋が片方だけ帰ってきては、<地球側>の学会で報告したりなんだりしているようだ。 実家に帰ってくることは本当に稀だ。 なので、僕の食事の大半は、隣のオバチャンが作ってくれていた。 高校に進学してからは自炊まがいの事をしていたが、結局栄養が偏った。 なので最近は、中学時代以来のオバチャン弁当が復活したという事だ。 たまにハズレのヤマカ手製揚げ物ばっかり弁当が出る。 つまり、ヤマカのインフルエンザにオバチャンも巻き込まれたという事で、 ゆえに今日は僕も弁当無しで学食で食べているという事なのだが、 さてこれを浮田にどう伝えたものか。 「ヤマカはパシリなんだ」 まあ、だいたいあってるだろう。 浮田は言葉こそ「酷い」だの「あんた最低」だのと連呼しているが、表情がともなっていない。 なんだか妙にニヤニヤして超キモい。 「そうだ!今度からあたしがあんたの弁当を作ってきてあげようか?」 ノリノリのところ申し訳ないが、僕は毎日2つも弁当を食べる気は無いのでノーサンキューだ。 体良く断って、僕は腹ごなしに屋上へと足を運んだ。 C校舎は丘の中腹に建っているから、屋上からの眺めは最高だ。 僕の育った場所があらかた展望できる。 そもそも僕がこの地に来たのは、親の研究に都合がいいという理由で、だ。 中学1年の時にいきなり引っ越して、右も左もわからぬ毎日。 おまけに隣の家の、いっつも不機嫌そうな表情をしたキツい眼の女子に、 ほぼ毎日のように故なく嫌味ごとを言われたり無視されたりと散々な目にあっていた。 「人の顔をジロジロ見るな。噛み殺すぞ」「鱗がそんなに珍しいか。噛み殺すぞ」 そんな事ばかり言われていた記憶がある。 剣道部に入部したのも、そんな毎日のストレスからだったかもしれない。 動機は極めて不順だった。もうとにかく暴れないと気がすまなかったのだ。 そして悪い事に、中学2年の時に、厨2病が悪化した。 タイムマシンがあれば、今すぐあの時代に行って自分を張り倒したい。 そんな黒歴史の象徴が、木刀に彫られた『Nordmeerstrase(ノートメアシュトラーセ)』の文字だ。 木刀に名前をつけるという発想時代がもう病の極地なのだが、そのつけかたも痛々しい。 ドイツ語で「北海道」という意味だ。修学旅行で北海道の洞爺湖に行ってさ・・・ 僕は視線を懐かしの中学校校舎から、大通り沿いにずっとずらしていく。 ああ、あのビルの裏手だ。懐かしいな。 中学2年の終わり頃、厨2病が終わる事件のあった場所だ。 部活帰りにその道を歩いていた僕は、ビルの裏手で騒がしい声を聞いた。 好奇心のみで様子を見た僕の目に飛び込んできた光景は、隣の家の不機嫌な女子と、 それを囲んだ複数の男女であった。制服からすると、同じ中学の連中だ。 不機嫌な女子は、上着も厚手のストッキングもビリビリに破かれ、泣いていた。 周りを囲んだ男女はそれを見て笑いながら「毒女」「ウロコ女」「気持ち悪い」 「学校にくるな」「死ね」などなど繰り返していた。 不機嫌な女子が泣きながら毒の牙をむいた時、ああこれはいけないと漠然と思ったものだ。 気がついた時には、僕は血まみれの『ノートメアシュトラーセ』を持って立ち尽くしていた。 よくもまあ鉄パイプだのバタフライナイフだのを相手に無傷でいられたものだと、我ながら感心した。 よくこの状況で、女子に手を出さずにいたものだとも、我ながら感心した。 もうこの街にはいられないのかと、寂しい気持ちになったのも覚えている。 不機嫌な女子が、泣きながら僕の背にすがっていたのも、覚えている。 やっかいだなと思うのは、この後の僕は「更生プログラム」とやらで、警察の道場に毎日呼び出されては 1日3時間以上も剣道の稽古に付き合わされた以外は、一切のお咎め無しだったという事だ。 詳しいところまではわからない。今でもわからない。だからこそ悔しい気持ちもある。 「何か」が動いたんだろうな、という煮え切らない思いがある。 僕が今でも剣道を続けているのは、そういう煮え切らない思いゆえ、厨2病の残滓ゆえだ。 放課後、家路の途中にあるドラッグストアで、蜂蜜と生姜湯を買って帰る。 蛇人にどれだけ効果があるかは知らないけれど、風邪ならだいたいこの辺りだろう。 インフルエンザの時はまた違うのだろうか。 隣の家に入ると、オバチャンは既に完治していた。この人は本当にヒューマンなのだろうか。 とりあえずお湯を沸かして蜂蜜の生姜湯割を作ってヤマカの部屋に行く。 「本当に具合が悪いんだから、あんまり無茶なプレイはするんじゃないよ」 などとオバチャンが本気で心配そうな表情で言っていたが、「しねぇから」としか答えようが無かった。 「ヤマカ・・・入るぞ」 相変わらずモデルルームのように整頓された部屋のベッドで、ヤマカは寝ていた。 学校でのクールビューティさがウソのような、可愛らしいネズミーマウスの掛け布団だ。 「ウトゥガ リア ダンタレクテキ・・・」 弱々しくヤマカが答える。まったく何を言っているのか理解できないが、まあミズハミシマの言葉だろう。 体調不良で翻訳の加護の精度が落ちているんだろうか。 見ると、やはり汗ばんでいて、熱で頬も上気している。頬のウロコも汗でツヤツヤと光を放っている。 「あんま無理すんなよ。ほれ、我が家の伝統の風邪薬。蜂蜜の生姜湯割。 たいして美味くは無いけど、治りは早いぜ」 ヤマカはコクリと頷くと、起き上がってゆっくりとそれを飲み始めた。 いっつもこれくらい物静かだったらいいのになぁ 「テンちゃん・・・アタシ、さっきまで夢を見てたよ。凄く懐かしい夢」 しっぽをペタペタと振りながら、ヤマカが語り始める。 「中学2年生の時の夢。 毒の牙のせいで、身体のウロコのせいでイジメられてた頃の夢。 えへへ。弱ってると弱気になっちゃうんだろうね。 でもね、夢の中でもテンちゃんは助けに来てくれたし、目が覚めてもテンちゃんが居たんだ」 ヤマカはコップの中の残りをグイと飲み干した。 「さ、早く元気にならないと、テンちゃんのお弁当が作れないね」 うーん・・・ ヤマカの弁当は、味は悪くないんだけど・・・ カエルの唐揚げとかなんだよなぁ・・・ 口ごもる僕を見て、ヤマカは訝しげな表情をすると、チロチロと先が2つに割れた舌を出した。 蛇人の一族は、あまり視力が良くない人が多いという話だ。 ガキの頃のヤマカが酷く目つきの悪い表情をしていたのは、単に視力の問題だったようだ。 中3になってちゃんとした眼鏡をかけるようになってからは、眉間のシワが無くなったものだ。 まあその視力の弱さゆえに、蛇人はオデコの辺りに熱源を探知できる特別な器官が備わっていたり、 舌先で空気中の匂い粒子を拾って嗅ぎわけたり出来る能力が伸びたという話だ。 で、その舌をチロチロと出し入れしている。 「へぇ・・・学食でカツヲの海鮮丼を食べたんだ」 うわ。わかるのか。 「へぇ・・・ふぅん・・・浮田と一緒にねぇ・・・」 わかるのか。 次の瞬間、ガバっとヤマカは僕に覆いかぶさり、僕の首筋に2本の牙をあてがった。 ヤマカの一族である蛇神家は、<11門世界>の神の一柱である蛇神「ルガナン」を信仰する巫女の一族だ。 その牙にはルガナンの持つ「言の葉の力」が備わっている。 呪詛を込めて牙を穿てば、その言葉の毒は相手の全身をまわり、体組織をズタズタにするだろう。 反面、福音もある。言の葉とは、そういうものだ。 「浮気したら、噛み殺すぞ」 なんか久しぶりに聞いたなぁ。そのフレーズ。 「面倒臭がりなの、知ってるだろ。必要の無い事はしないよ」 ヤマカの頬のウロコを撫でながら、僕は言った。 蜂蜜の生姜湯割、もう少し美味しく作れば良かった。 ややこしい三者の関係が垣間見える学食風景から天とヤマカの関係を納得させる昔話が後の看病シーンを優しく彩っていました -- (名無しさん) 2014-01-04 06 36 13 名前 コメント すべてのコメントを見る