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もっとも人魚病に近い偽身病『Sleeping Beauty』 今まで確認された患者はわずか2名 “停滞”概念の偽身能力者【草薙 桂】 “停止”概念偽身能力者【森野 苺】 いつまた停まるか分からない彼らの時間は、 運命に導かれるように再び動き出す。 “加速”現象の式神能力者【風見 みずほ】 “進む”心器能力者【縁川 小石】 カレとカノジョと彼女達の出会い。 加速する運命、進む時計の針、停まらない、止められない。 「ねぇ、キスして?」 《お願いパラドックス!》略して《おねP!》 必ず見てね。最優先事項よ♪
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佐倉翔也。 彼の人物像は見る相手の立場等によって著しく異なっており、彼がどういう人間であるかを一言で説明するのは難しいと言わざるを得ない。 彼は幼き頃は妹にとっての良き兄であり、それより数年後は『空色死銘』と称される無認可の何でも屋でもあり、情け容赦のない復讐鬼でもあった。 情状酌量の余地はあるものの、非合法に受けた仕事と内容に関する犯罪行為すべてを数え上げれば軽い罰則で済まないことに弁解の余地はないと思われる。 しかし彼は復讐に我を忘れる場にあってさえ、家族を守ろうとする優しい死神であった。 並の者では決して得られぬ程に強い守護の意思。 これは民警として活動を行うにあたって得難い才であり、復讐を終えた彼がその意思を社会に還元するというのならそれを減ずる行いは避けるべきと思われる。 よってここに、彼に罪科を負わせることなく民警隊員として受け入れることを提案するものである。 ~八雲乙葉の『佐倉翔也に関する免罪嘆願書』より抜粋~ 「これはまた、懐かしいものが出てきたな……」 十年以上前に書いた嘆願書――――その写しを見つけ、書類整理をしていた乙葉は僅かに目を細めた。 今になって思えば、当時はつくづく無茶ばかりしていたものだ。 自分とて民警史上に残りそうな大騒動をしでかした直後だというのに、裏社会で名を馳せていたほどの逆心者を免罪した上で隊に加えようとしたのだから。 幸い団長を始めとして同部隊の隊員はこぞって協力してくれたし、乙葉のもう一つの立場のこともあってその要望は無事通ったわけだが……その後しばらくは周囲の視線が痛かったことを覚えている。 「なんじゃニヤニヤしおって。そんなに面白いことが書いてあるのかや?」 同じく書類整理に悪戦苦闘していたホロがめざとく見つけ、問いかけてきたので無言で紙を渡してやる。 「どれ……なんじゃ、あやつが入ったころぬしがせっせと書いておったやつかや。なにがそんなに面白いんじゃ?」 上から下までざっと目を通し、内容を理解すると同時に当時を思い出したのかホロは呆れたような息を吐くが、乙葉としては苦笑するしかない。 別に乙葉も書類自体やそれにまつわる記憶が面白かったわけではなく、 「なに、最初の『彼がどういう人間なのか~』のくだりが少し、な」 それだけでホロは察したのか、なるほどという顔で同じように苦笑する。 「確かにあれじゃな。今のあやつなら一言で表すのに実に適切な言葉があるからの」 「まったくだ。誰だって言うだろうな、佐倉翔也を一言で表すなら――――」 「大変です!」 乙葉の言葉を遮って扉が吹き飛びそうな勢いで開き、その向こうには息せき切った青年が立っていた。 「夕馬か、何があった?」 その様子からただ事でないことだけは話を聞くまでもなく分かった。 乙葉とホロは緊急出動用に用意してあった装備をそれぞれ手に取り、身につけていく。 しかし、 「隊長が……隊長がっ……」 「翔也が!?」 藤島夕馬――佐倉翔也が隊長を務める4番隊隊員の言葉に思わずその手を止め、 「娘さんがイジメられたって、キレて学校に殴り込みに行きました!!」 続く言葉に盛大にずっこけた。 佐倉翔也。3●才。 どこから誰がどう見ても、問答無用の超弩級大親馬鹿、である。 道路が抉れていた。 街灯が砕けていた。 塀が崩れていた。 ――――街が、蹂躙されていた。 サイレンが鳴り響き、しかし疾駆するはずの車両は抉られた大穴や積み上がった瓦礫の前で立ち往生している。 奇跡的に怪我人は出ていないようだが……それも二次災害が起こってしまえばどうなることやら、である。 「……ふむ、まるで神話の獣が暴れたあとじゃな」 「積極的に人を襲っているわけじゃないのが救いか……くそっ、始末書程度じゃすまないぞこれは」 遙か天空を駆けるホロとその背にまたがる乙葉の目に映る光景は、まさに神話級の迷走魂魄が暴走した後の様子に酷似していた。 かろうじて正気が残っているのか、人をはねることこそ無かったようだが―――― 「本気で駆けただけで街を破壊するとはの。やれやれ、つくづく非常識なことじゃ」 「そうしないための歩法くらい身につけているはずなんだがな……」 ――――それを使わぬ程に我を忘れているというのなら。 「最悪、力ずくになるか……」 「むぅ、やはりわっちもやらねば駄目かや?」 「ああ……出来れば避けたいところだがな」 心底面倒くさそうな口調のホロに、乙葉は苦い口調で答える。 例えば乙葉一人が格下相手に戦うならば、相手がどれだけいようと周囲に被害を及ばさずに済ます自信がある。 だが相手が翔也とあっては乙葉一人での無力化は難しく、直接戦闘タイプの翔也とホロが結界の張られていない場所で争うとなると……想像したくもない。 「人に手出しさえしてなければどうにか出来る。まずは無理矢理にでも落ち着かせて――――」 「ふむ……ぬしよ、残念じゃが言わねばならぬことがある」 音速を超える飛行と会話の最中、乙葉の視力ではまだ豆粒ほどにしか見えぬ目的地をホロの鷹の目が捉える。 そしてその口調は、まるで末期ガンの患者に病状を告知しなけらばならない医師のように沈んでいた。 「ああ、とても聞きたくないが……なんだ?」 「人が倒れておる。警備員らしきものが十名じゃ」 「……………………」 「…………………………………………」 沈黙する二人だったが、目的地は見る見るうちに近づいていく。 やがて乙葉の目にも警備員が倒れ伏す様子が映り――――おそらくは素手の翔也の足下にすら及ばなかったせいだろう、怪我をした様子がないことにほんの少しだけ胸をなで下ろす。 ――――が。 「ぱぱぁ……ひっぐ……」 「どどどどどどどどうした椿ぃっ!?」 「ひっぐ……っぅ……イジめらえたぁ……うええええええん!」 「………………うん、後でパパが一緒に遊んでやるからちょっと待ってろよ」 ――――イマ、ソイツラコロシテクルカラヨ? 錠を外し、スーツに着替え、スーツの中には暗器やら銃器など詰め込んで。 「って阿呆かあぁぁぁっ――――――――!!」 伝わってきた翔也の思考に絶叫し、ホロが制止する間もなくその背から飛び降り、 「いいからガキを出せってんだよコラガタガタぬかしてっとまずはテメェかぶげらぁっ!?」 その勢いのまま翔也の後頭部にドロップキックをぶちかまして地面にめり込ませ、 「おま、おま、お前というやつは、いったい何を考えているんだこの大馬鹿者ぉぉぉ!!」 翔也の胸倉つかんで引きずり起こし、バババババババッと絶え間のない往復ビンタを繰り出して、 「あああああああああの、ど、ど、ど、どちら、さま、で?」 「この馬鹿の身内ですっ!」 ドン引きしながらも辛うじて問いかけてきた教師に間髪入れずに返答し、 「お、乙ねぇっ!? 離せ、こいつらは俺の娘にぐはぁっ!?」 佐倉渚(旧姓:牧内渚)と共同開発したファントムペインの応用、メモリーペインで過去に経験した内臓ごと腹を抉られた際の記憶を痛覚限定で“共感”させ、 「いてえいてえ――――だが俺の椿への愛はこれぐらいじゃごぼぇっ!?」 足りなかったかと反省し、腕を折られて180度ほどゴリゴリ捻られた記憶を追加し、 「あくまでいたっ! 離さねぇっていうならぼへぇっ!?」 まだ足りなかったかと、傷口を焼いて塞いだ時の記憶も追加して、 「いつだったか」 「励起するな馬鹿!」 魂魄励起してレジストしようとした翔也の首をやばい角度まで回して無理矢理気絶させた。 「…………」 「……………………」 「……なんじゃ、一人で十分ではないか」 冷たい空気が流れる中、ホロが呟く。 どこからかドナドナが聞こえてくる気がした。 「申し訳なかった。本当に――――」 あの後。 警備員が叩きのめされた時点で警察に通報した教師がいたらしく、すぐに駆けつけたパトカーに気絶した翔也を放り込み、拘束具で縛りあげて独房にぶち込んで。 「言われたとおり捕縛結界と反転封陣の二重封印かましておいたけどよ……意識戻った途端ガン睨みしてきやがったぞ。よく飼ってやがるなあんな危険人物」 「重ね重ね申し訳ない……あれでも普段は優秀な隊員なんだ。ただ少し娘のこととなると頭がおかしくなってしまうだけで……」 取調室で乙葉は平謝りの真っ最中だった。 「まあまあ、阿笠くんその辺で。八雲さんも頭を上げてください。幸い怪我人は出ませんでしたし、直接被害に遭われた警備の方達にも大事はありませんでした。それに佐倉君にはウチもたびたび協力してもらっているわけですから――――」 「いや課長、そいつは分かってます。分かってるんですがね……一般人にどう説明しろってんですか!?」 そう言って阿笠は机に積まれた紙の山を掌で叩く。 それは今回の騒動で寄せられた苦情やら被害届やら――――おおよそ30cmに及ぼうかという書類の山だった。 「あそこの警備主任は俺の知り合いでしたから、後で説明するって言ってなんとか被害届を取り下げさせましたがね。こっちはどうにもなりませんよ! しかもあの野郎、毎度の事ながら始末書書く気が皆無ときた!!」 書類仕事は嫌いなんだよ、というのが本人の談――――相当駄目な大人である。 「いや、今回はなんとしてでも書かせる。被害届と請求はこっちに回してくれていいし、学園への説明も私が行く。だから今回ばかりは……」 必要ならば土下座も辞さないと、机に擦り付けんばかりに頭を下げていた乙葉が立ち上がったところで、 「ぬしよ、大変じゃ!」 扉をぶち破ってホロが飛び込んできた。 重厚な扉が蝶番ごとひしゃげて吹き飛び、壁にぶつかって騒々しい音を立てる。 「ああっ、てめえなんつーことしやがる! そのドアは塗り直したばっかなんだぞ!」 「ええい、それどころではないわ! あやつめ、わっちが団長に連絡をしている隙に拘束を引きちぎって逃げおった!」 ぶちり 「じゃから、ぬし、よ……」 なおも言いつのろうとしたホロの言葉が尻すぼみに消えていく。 阿笠もその上司も、立ち上がろうとした姿勢のまま凍り付いていた。 動くなと。 本能が全力で危険信号を発していた。 誰もが動きを止めた中、時計の秒針が一回転するほどの時間が過ぎる。 「…………ふ」 声が聞こえた。 それは顔を伏せた乙葉の、つり上がった唇から漏れていた。 「ふふ、ふふふ、ふっふっふっふっふ」 口元は笑っている。 その声も笑っている。 だというのに何故だろう、その場に居合わせる三人の身体からは冷たい汗が噴き出して止まらなかった。 「そうか……そう来るか翔也……人がなんとか穏便に済まそうというのに、お前はそれが気に入らないというわけか……」 ニゲロニゲロと声がする。 ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ―――――――― 三人が動かない足を叱咤し、なんとか部屋から出ようとしたところで乙葉が顔をあげた。 「ホロ、団長に再連絡」 一分前がまるで嘘だったかのように、乙葉の顔に表情は無かった。 怒りも、悲しみも、憎しみも。 何もかもを捨て去ったような完璧な無表情だった。 「1番から5番まで手空きは全員甲種装備で集結。4番は私に付けて残りの指揮は3番隊隊長に一任。作戦内容は――――」 そこまで言って乙葉はニコリと笑う。 目だけが決して笑っていない笑顔で宣言する。 「――――――――人狩り(マンハント)だ」 警察署の屋上に佇み、乙葉は目を閉じて知覚の網を広げる。 距離にして半径300メートル程度の能力範囲。目標が未だそのような近くにいるとは始めから思っていないし、事実そういった反応はない。 だが。 「行け、我が同志」 その一言で、範囲内にいた人間以外の生命体の意志が上書きされる。 犬が。猫が。鳥が。虫が。 『佐倉翔也を見つけ出す』という意志の元、一斉に動き始める。 「なんとしてでも見つけ出せ……あの馬鹿に今日こそは特大の灸を――――」 言いながら乙葉は、知覚範囲に覚えのある気配を感じて目を開く。 意識を二つに分割――――片方で端末にした動物達から絶え間なく送られてくる情報の処理を続行。 もう片方の意識で視線を屋上の扉へ向けた途端、扉が開き民警の戦闘服に身を包んだ四人の男女がなだれ込んできた。 「八雲隊長!」 「来たか……お前達、やることは分かっているな?」 「はいっ!」 藤島夕馬。山川大輔。日向つくし。代水あとり。 翔也直属の部下、銃器級の4人組は乙葉に向き直り、それぞれ口を開く。 「今日こそ……今日こそは…………」 夕馬は闘志を燃やし、己が心器――――明鏡を見つめる。 「佐倉隊長をぶちのめすんスね? 勢い余って殺っちゃいますっていうか殺す!」 大輔は目を血走せ、荒々しい力を漏らす。 「八雲サンがいるなら勝ち目も――――あははは、アタシの靴を舐めさせてあげるわ!」 天照の神術士であるつくしは、天照大神もヒくような高笑いをし、 「隊長はんの言ってたとーり、つくしはんは滅茶苦茶サドなんやなあ……」 ぴーひゃらひゃー、とホイッスルを吹きながらあとりが感想を吐いた。 4番隊隊長、佐倉翔也――――部下からの人望はあまり無いらしかった。 「結構。行くぞ」 2ランク差がある相手に怯む様子がないのは、果たして翔也の教育の成果と言うべきか。 無謀ではある。だが脅えて使い物にならないよりはマシだと判断し、乙葉は頷いて踵を返す。 放った“目”の一つが、翔也の痕跡を発見していた。 「地下下水道……ですか」 「ああ、空からの目を警戒したのだろうな。匂いが続いている」 開けた跡のある裏路地のマンホールの前。 それを発見した犬の頭を撫でながら乙葉は能力をカット。共感状態から解放された犬は戸惑ったように辺りを見渡していたが、やがて不思議そうな顔をしながら去っていった。 「行くぞ」 「「「「はいっ!」」」」 汚いだとか臭いだとか泣き言を言う軟弱者はいない。 マンホールの蓋をこじ開けて乙葉は飛び降り、躊躇うことなく4人もそれに続く。 「うわ、さすがに暗い……」 水路横の通路に降り立った藤島夕馬が辺りを見渡して口を開く。 光源はぽつぽつと点在する作業用の灯りのみだ。足を踏み外したら下水に落ちかねないとあって、次々と降りてきた4人は自然とすり足気味になる。 そんな中、ひとり乙葉は常と変わらぬ足取りで暗闇に向かって歩を進め――――歩みを止めた。 「八雲隊長?」 「静かに」 短い制止の声に4人は押し黙る。 静寂が流れ――――なかった。 カサコソと、ガサガサと生き物の立てる音がする。 「動くな。決して声を立てるな。この悪食共にかかったら数分で骨も残らんぞ」 「――――――――っ!?」 暗闇の中で幾十、幾百の瞳がギラリと光った。 鼠だ。それも一匹や二匹ではない。 群れを成して次々と暗闇から飛び出してきたそれらは、まるで津波のような音を立てて走り去っていく。 その数は軽く百を超え――――合間に存在する黒く光る虫も合わせれば、千を超える大群となって恐怖のあまり声も出ない4人の足下をすり抜けていく。 「探せ。追いつめろ。そして――――食らえ」 乙葉は駆けていく群れの背中を見送り、4人に向き直る。 「ふぅ、さすがにこの数だと少しキツいな……と、なにを固まっている」 「や、八雲サン……今のって……」 皆がばっきばきに硬直している中、かろうじて日向つくしが口を開く。 「攻撃色を強くしただけでさっきと一緒だ。ほら、ぐずぐずしてないで奴らの後を追うぞ」 「いえ、そうじゃなくて……ミッ○ー君の間で黒く光ってたのは……」 「明言してほしいのか?」 「…………ゴメンナサイ。やっぱいいです」 この人だけは絶対敵に回してはいけない。 決意を新たに、4人は群れを追う乙葉に続いて走りだすのだった。 「さっきから疑問に思ってたんですけど、隊長はここを使ってどこに出ようとしてはるんでしょう?」 「学園の敷地内に繋がっているルートがあるからな。今までの道順からして直接そこに出るつもりだろう」 「って、隊長も乙葉ねぇさんもこの迷路みたいな下水道を把握してるんでっか!?」 てっきり鼠達の後を追っているだけだと思っていたあとりは驚愕の声を上げる。 「ああ。この仕事を長くやっていると、地下に潜る必要が一度や二度は出てくるからな」 それが比喩的な意味か、実質的な意味かはさておき。 「なんというか、ごっついでんなー。ウチには真似できそうもありませんわ」 「知っていて損になることでもないからな……例えば、そこだ」 そう言って乙葉は前方の分岐を目で示し、 「そこを曲がればあとはほぼ一直線だ。直進すると少し複雑になるが、結果的に距離は短くなる」 「隊長はどっちに行ったんでっか?」 「曲がったようだな……しめた、奴らが接触したぞ」 干渉用に伸ばしていた糸が次々と断絶されていくのを感じ、乙葉は群れが翔也に追いついたのだと悟る。 時間にすれば3分も保たないだろうが―――― 「夕馬、大輔、お前達が先頭になって奴らが全滅する前に追いつけ。私は最短のルートを使って先回りする。手は出さなくて良い、私が翔也の前を塞ぐまで時間を稼ぐんだ」 「は……い?」 「ちょっと――――どういうことですか!」 「まさか仕掛けるなと? ならば何故、わざわざ我等を呼び寄せたのですか?」 次々とあがる不平の声。 日頃の恨み辛みを発散させられると意気込んできた彼らとしては、至極当然な意見のつもりらしいが―――― 「あの馬鹿……まだこいつ等の前で本気を見せていないのか……」 ここに来て未だそのような発言が出るということは、そういうことなのだろうと乙葉は自分を納得させる。 「――――好きにしろ」 持ち駒が次々と減っている最中としてはこの問答の時間も惜しい。 僅かばかり譲歩し――どうせ結果は目に見えているのだ――乙葉は4人を置き去りに速度を上げ、分岐路を直進した。 記憶を頼りにいくつかの分岐を駆け抜け、曲がり、学園に繋がる最短ルートを走破し、 「……よし、上手くやってるようだな」 先のルートとの合流地点に到着。気配が後方にあることに満足して、翔也を挟み撃ちにすべく逆走を開始。 ほどなくして、積み重なった死骸と鮮血の中で佇む翔也と、その向こうに立つ3人が見えてきた。 何故かあとりの姿がなかったが、勘の良い彼女のことだ。一人逃げたのかもしれない。 普段だったらありえないことだが、それくらい翔也から発せられる雰囲気は剣呑で、その殺気に容赦はなかった。 「ちっ……そういうことかよ。俺様の可愛い部下共を囮に使うたぁなかなか外道な真似してくれるじゃねぇかよ、乙姉」 間合いより遥かに遠く、互いの声がなんとか届く距離で乙葉はその足を止める。 「人聞きの悪いことを言うな。私が命じたのは足止めだけ、仕掛けようとしたのはそいつ等の判断だ。余程人望が無いらしいな?」 「ふん、そんなクソの役にも立たないモンいるかよ。んなことより乙姉、そこに立つって事はアンタも俺の敵ってことでいいんだな?」 「愚問だな。まさか害獣駆除を押しつけただけとでも思ったか? お前をこの手で止めるためなら手段を選ぶつもりはないぞ」 そう言うと乙葉は巨大な拳銃を引き抜く。 「邪魔は来ない、一対一だ。いつかの決着を付けようか、佐倉翔也」 「はっ――――いいぜ八雲乙葉。そっちが本気だってんなら、こっちも手加減は無しだ」 翔也の手の中の心器が形状を変え、大鎌より遥かに戦闘に適した形――――刀へと変化する。 「修正してやるぞこの愚弟っ!」 「やれるモンならやってみやがれ馬鹿姉っ!!」 乙葉が銃を乱射しながら突っ込み、翔也はその全ての弾丸を切り払い、打ち落とす。 「おおおおおおっ!」 「はあぁぁぁっ!」 切り終わりの隙にその間合いより更に内側に入り込もうとする乙葉に、翔也は刀の軌道を無理矢理変えてそれを阻む。 狙いは首筋。 峰を返した刀で打ち据えて気絶させるべく―――― 「――――っ!!」 驚愕の声は果たして誰のものか。 完全に死角からの攻撃だったにも関わらず、乙葉は正確にその一撃を銃口で受け止め、そのまま発砲。 刀が跳ね上がり、銃口が翔也を向く。 弾丸が発射される刹那、しかし瞬時に引き戻された刀が銃身を弾きその照準を外す。 後は繰り返しだ。 目にも留まらぬ速さで、互いに振るう拳銃と刀は致命的な一撃の寸前に、手首を、肘を、銃身を刀身を軽く弾かれギリギリで外される。 「刀と、拳銃で……チャンバラ?」 「隊長格の人外ぶりは知ってるつもりだったけど……」 「ていうか、八雲サンって偽身能力者じゃなかったの?」 完全にギャラリーとなっていた3人が思い思いに呟いたとき、弾けるように乙葉と翔也が距離をとった。 荒く息を吐いている乙葉とは対照的に、毛一筋ほどにも息の乱れていない翔也。 そこには2人の純粋な戦闘力の差がハッキリと現れていた。 佐倉翔也は直接戦闘に特化した心器能力者だ。 いくら共感能力で乙葉が攻撃を先読みしても、偽身能力者の身ではおのずと限界があった。 「5回……チャンスが、あったな。何故止めた?」 「うち3回は確実に囮だったろ。『魔獣』の乙姉とやるつもりはねぇよ」 しかも翔也は微塵の油断もしていない。 乙葉の手札を知る故に対処法と対策も分かっており、それをしてのける実力が翔也にはあった。 「確実に一撃で気絶させてやる。汚れるくらいは大目に見ろよ?」 「出来るものならな。言っておくが翔也、私は――――」 翔也は抜き打ちの構えをとり、乙葉は両足に魄啓を集中させ、 「――――嘘つきだぞ?」 突撃するかと思われた乙葉が大きく横に飛びのき、空いた空間を人間大の何かが凄まじい勢いで飛来して翔也に向かう。 「でえぇぇぇっ!?」 抜刀。切断。 運動エネルギーを“狂わせ”られたそれは、勢いを完全に消失させて翔也の足下に落ちた。 ごろりと転がるそれは―――― 「氷? ってまさか――――!」 「第二射用ー意」 暗闇の奥、乙葉の後方から間延びした声が聞こえる。 「一対一で勝てると思うほどお前を過小評価してないよ――――夕馬達は目くらまし。実は私こそが、時間稼ぎの囮だ」 壁にぴったりと張り付いた体勢で乙葉が言う。 そして、 「ふぁいあー」 再び間延びした声が聞こえ、再度飛来する氷の弾丸。 「ひゃっほーーーう!」 「WAooooo――――――!!」 「こんの、馬鹿翔也ー!!」 しかもその中には、翔也にとって見覚えがありまくる隊長格の同僚達(兵器級+~神話級)が混じってたりした。 おまけに誰も彼もが共鳴同化したり神術兵装を纏ったりの完全戦闘モードで。 この手で止めるとか邪魔は来ないとか一対一だとか。 「この、大嘘つきがあぁぁぁぁ――――っ!!」 恨みの籠もった絶叫と悲鳴が下水道に木霊するのだった。 そして数分後。 鼠やらなんやらの死骸であまりにも酷い惨状だったので、とりあえず全員地下からは脱出して。 「まったくもう……いくらなんでも、一般人の子供に手を出したりしたら庇いきれないって分かってる?」 隊長格数名の能力と結界で身動きを封じられた翔也を見て、団長こと藤宮静――実動班総隊長――は頬に手を当てながらやれやれと息を吐いた。 高位能力者であればあるほど、能力を悪用した犯罪に対する罰則は大きい。 ましてや法を守る立場である民警隊員がそれを行ったとあれば、社会的批判という意味でもただでは済まないだろう。 だというのに―――― 「はっ、知ったことかよそんなの。犯罪者上等じゃねえか、椿の為なら俺は迷わず手を汚すぜ」 反省の色が全くないどころか、一般隊員とあわせて総勢30名の囲いを今すぐにでも破る気満々の翔也だった。 実際、拘束を解けばすぐにでも実行しそうな雰囲気だ。静が問うように乙葉を見ると、疲れた顔をして頷いていた。 「どうする? 渚ちゃん呼んで記憶改竄してもらうしかないかしら?」 そう言って静は携帯を取り出すが、 「いえいえ、それには及ばへんですよー。ウチが愛の力で隊長を止めてみせますさかい」 それを阻むように声を上げたのはひょっこりと現れたあとりだった。 皆のいぶかしげな視線を受けながら、何かを隠すように手を後ろに回したあとりは翔也の前に進み出る。 「あぁ!? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞあとり。誰が何と言おうと――――」 『……そっか、お父さんはわたしより椿の方が大事なんだ』 あとりの後ろから聞こえてきた声に、翔也の口が凍り付いた。 「堪忍しておくれやす。愛する隊長と同じ職場にいられへんようになるなんて、ウチには耐えられんとですわー」 よよよ、と嘘らしく泣き崩れるあとり。前に回した手には通話状態の携帯電話が握られており、声はそこから聞こえていた。 『わたしにもお母さんにも会えなくなっちゃうのに、椿のためならそれでもいいんだ。うん……わかってたよ、本当は、お父さんはわたしのことなんてどうでもいいんだって』 「か、かっ、かかかっ、かもめ!?」 思い切り動揺しつつ、翔也はテメエこの野郎なんてことしやがるとばかりに電話の持ち主を睨み付ける。 あ、ちなみに事情は全部説明済みですーとか朗らかに言ってくる顔に本気で殺意を覚えるが、 『椿の方が素直だし、可愛いもんね。どうせわたしは2番目なんだよね。椿さえ幸せならそれでいいんだよね』 「ち、ちがうぞかもめっ! パパはかもめも同じくらい大事だぞっ!!」 『じゃあ…………どうするの?』 もう一人の娘――母親は佐倉つばめ――の声に翔也は動きを止める。 この場の全員を振り切る、あるいは機会を待って椿をいじめた子供に『思い知らせて』やった場合、今度こそ乙葉達は本気で敵に回るだろう。 当初はそれでも構わないと思っていたわけだが、そうすると逃亡生活か刑務所暮らしとなるわけで、椿やかもめと自由に会うことは出来なくなる。 そしてそれが椿のためにやったことだとすると、それはかもめの言葉の肯定となってしまうわけで―――― 「うう……あああ…………」 『ねえ、どうするの?』 「……ごめんよ椿……パパはお前もかもめも同じくらい大事なんだ……」 ガックリと膝をついた状態で項垂れる翔也。 超弩級大親馬鹿佐倉翔也。愛娘のためなら手段を選ばない彼が、もう一人の愛娘のため敗北が決定した瞬間だった。 今日のMVP――代水あとり 決まり手――――「かもめちゃんカモン(サモン・ザ・ヤンデレ風味美少女)」 「大穴キタ――――――――!!」 「マジか!? いるのか賭けてたヤツ!?」 「ちっくしょう、佐倉の根性無しがーーー!!」 「――――誰だ、根性なしって言った奴ぁ。今すぐDLチケット三枚以上買ってこないと黒箱に突っ込むぞ?」 紙吹雪が舞い、辺りの一般隊員からは怒号と嘆きの声が連鎖する。 翔也が冷静に悪口を拾い上げてたりするが、まあそれはさておき。 「…………何事だ?」 「誰が佐倉を止めるか賭けてたんですよ。本命は八雲隊長、対抗は佐倉の嫁さんとつばめちゃんだったんですけど、まさか代水が来るとは……これは親の総取りかな?」 乙葉が手近な隊員を捕まえて聞くと、あっけらかんとした表情で答えが返ってきた。 故人曰く――――人は慣れる生き物である。 こんな馬鹿な騒動も慣れてしまえば日常になるのだな、と乙葉は一体こんな事が何度あったのか思い出そうとして……頭が痛くなったので止めた。 かくして第十三次、親馬鹿翔也の大暴走~~彼方より愛を込めて~~は一応の決着を見ることとなる。 めでたくなしめでたくなし。
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【登録タグ 曖昧さ回避】 曖昧さ回避のためのページ NANAKIの曲パラドックス/NANAKI すりぃのCDパラドックス/CD 曖昧さ回避について 曖昧さ回避は、同名のページが複数存在してしまう場合にのみ行います。同名のページは同時に存在できないため、当該名は「曖昧さ回避」という入口にして個々のページはページ名を少し変えて両立させることになります。 【既存のページ】は「ページ名の変更」で移動してください。曖昧さ回避を【既存のページ】に上書きするのはやめてください。「〇〇」という曲のページを「〇〇/作り手」等に移動する場合にコピペはしないでください。 曖昧さ回避作成時は「曖昧さ回避の追加の仕方」を参照してください。 曖昧さ回避依頼はこちら→修正依頼/曖昧さ回避追加依頼
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パラドックスⅢ(ラズア) 現チームでは122期より参戦。旧チームのパラドックス(52期)、パラドックスⅡ(6期)を含めて140期以上プレイしている古参である。また、初代スレで劇ペナを紹介した功績は大きい。 打撃がチームカラーのF1ドライバー軍団である。 152期に1部優勝を果たしており、多くの打撃タイトルも獲得。 就活がんばれ。超がんばれ。
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パラドックス(ぱらどっくす) 映画「10th アニバーサリー 劇場版 遊戯王 〜超融合!時空を越えた絆〜」に登場するキャラクターの1人。 声優はお笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳。 名前の由来は「逆理」「矛盾」などを意味する学術用語「パラドックス(Paradox)」からと思われる。 劇中に於ける彼の行為自体もタイムパラドックスを引き起こすものであり、デュエルモンスターズを歴史から消滅させるために、デュエルモンスターズを用いている事もまさにパラドックスといえる。 白と黒で塗り分けられた非対称のマスクを着用しているのが特徴。 また、飛行形態に変形可能かつ時を越える機能を持つ直列3輪の巨大な白いD・ホイールを所持している。 歴代主人公3人を同時に相手するという超官並のハンディキャップでデュエルしたため、スレの住人から「同情するぜ!」と言われている。 なお、超官はライフポイントが3倍の12000で闘ったがターン進行が「クロウ→ジャック→遊星→レクス→クロウ」であり、パラドックスはライフポイントは4000だったが「遊星→パラドックス→十代→パラドックス→遊戯→パラドックス→遊星」のターン進行である。 ちなみに主人公側のライフ設定にも違いがあり、超官戦は3人それぞれが4000のライフポイントを持っていたが、パラドックス戦では3人で4000のライフポイントを共有している。 パラドックスのルールではライフを0にするために必要なダメージがお互いに3分の1ではあるが、超官に比べてパラドックスは行動回数が多いため、パラドックスのほうが有利ではあるだろう。 そして、後にアポリアが超官のターン進行とパラドックスのライフを兼ね備えた凄まじくな不利な決闘をした。 後にボスデュエルが公式化されているが、ルール形式は超官ルールが採用されている。 劇場版の情報発表がなされた当初は芸人声優の起用ということもあって微妙な評価であった。 しかし実際に公開されると、その不遇な生い立ち、田村淳氏の独特の演技(田村氏はかつて声優をした経験はあった)、加々美作監のふつくしい作画、加えて指芸や顔芸などの披露により、ファンの心を大きく引き付けるに至った。 ただしそのためにタッグフォースやワールドチャンピオンシップにパラドックスが参戦できなかったことに対しての批判はいまだに存在している。 その正体 劇場版が最初に公開されたときは話の尺が短く、彼は「破滅した未来の世界から来た」以外には不明な点が多かった。 このことを今後のアニメ5D sの伏線としてとらえるファンもいたが、しばらくは音沙汰なしのままであった。 しかし遊戯王5D s135話のアポリアの回想及び144話のアンチノミーの回想の中で、アポリアの同志の中にパラドックスとよく似た人物が登場し、視聴者を驚かせた(*1)。 そして146話にて映画での出来事が本編とリンクしていることがゾーンによって語られた。 それにより彼の正体は、ゾーンたちイリアステル滅四星の同志の一人であると確定した。 彼はゾーンらとともに研究を重ねるうちに老衰死し、ゾーンの手によって生前の記憶を持ったロボットとして蘇り劇場版のストーリーに至ったようである。 (なお、未来人であるという点以外にも、彼がイリアステル同様に左利きであったことも一種の伏線であったと言える。また彼のD・ホイールはプラシドのT・666、アポリアのT・ウロボロスと一部に似た点がある。) 本来は遊戯・十代・遊星の時代から遥か未来の人物であるが、彼の生まれ育った時代は破滅そのものであった。 「正しいと思われた文明の進化が破滅を引き起こした」「間違った方法(=機皇帝による人類への攻撃)が世界の秩序を保った」という矛盾に苦悩する日常の中、 彼はゾーンら3人と出会い、破滅の未来を救うために歴史改変に乗り出す。 過去へと遡り、改変による歴史の変化を検証するための「実験」を行っている最中に彼は「デュエルモンスターズ」の不思議な力に気づき、そこに破滅の可能性を見出した。 「デュエルモンスターズ」の創造者がペガサス・J・クロフォードであることを知ったパラドックスは彼を抹殺すべく童実野町にて開催されるイベントに乱入し、 実体化した自分のモンスターで建造物を手当たり次第に破壊。遊戯を残し、他の一般客とペガサスを葬り去った。 ……はずだったのだが、その30分前に遊星と十代が歴史に介入し、攻撃が止められたため作戦が失敗してしまった。 遊戯も意気投合し、3人によって自身の「実験」を非難されたため、デュエルで倒そうとするものの、強い結束の力により敗れ去った。 デッキ・カード 「あらゆる時代の最強カードを集めた」と本人が豪語するように、海馬やヨハンなどの「世界に数枚しかないカード」を強奪して構成されたデッキを使用する。 ただしこれらのカードはあくまで「Sin」と名のついたモンスターを召喚するための布石に過ぎず、強奪した最強カードは単なる供物である。 Sinモンスターは、その殆どが既存のモンスターを元にしたモンスターであり、モチーフとなったモンスターをパラドックス自身は「対になるモンスター」と呼んでいる。 事実Sinモンスターは、イラストが左右反転し、パラドックスがつけている仮面のようなデザインの鎧が一部に描かれ、属性が闇属性になっていること以外、レベル・種族・攻撃力・守備力がすべて同一である。 例: 《青眼の白龍》⇔《Sin 青眼の白龍》 《真紅眼の黒竜》⇔《Sin 真紅眼の黒竜》(この場合は属性すら同じ) 《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》⇔《Sin レインボー・ドラゴン》 (劇場版では通常形態の対象がSinに変更された効果を持っている) 《サイバー・エンド・ドラゴン》⇔《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》(劇場版では貫通効果がついている) 《スターダスト・ドラゴン》⇔《Sin スターダスト・ドラゴン》 これらのSinモンスターは、手札に存在すれば、対になるモンスターをデッキ(エクストラデッキ)から墓地へ送ることで特殊召喚することができる。 また、《Sin パラレルギア》《Sin パラドクス・ドラゴン》《Sin トゥルース・ドラゴン》は元のモンスターを持たないSinモンスターである。 魔法・罠カードは、すべてカード名に「Sin」が冠されており、すべてSinモンスターに関連する効果を持っている。 特に《Sin World》はSinモンスターを維持するのに必要なフィールド魔法であり、これがフィールドにない場合、場のSinモンスターはすべて破壊されてしまう。 また、このフィールド魔法の発動後にデュエルで負けたプレイヤーは死に至ることも言及されている。 SinモンスターはOCG化を果たしたが、召喚条件の軽さから、映画に比べるとかなり弱体化している。 具体的には、 「通常召喚できない(映画のカードでは確認できなかったテキストなので、おそらく映画では通常召喚も可能と思われる)」 「デッキ(エクストラデッキ)から元のモンスターを除外することで(のみ)特殊召喚できる」(《Sin レインボー・ドラゴン》は手札からの除外も行えるように変更された) 「Sinモンスターはフィールド上に1体しか存在できない」(パラレルギアは制限なし、パラドクス・ドラゴンはパラレルギアのみ並べられる。) 「Sinをコントロールしているプレイヤーは、Sin以外のモンスターで攻撃できない」(トゥルース・ドラゴン、パラドクス・ドラゴン、パラレルギアは除く。) と、数々のデメリットが付随しており、 唯一自壊条件は 「フィールド魔法が存在しない場合、このカードを破壊する」 に変更され、維持するためのフィールド魔法が《Sin World》に限定されなくなった(《Sin パラドクス・ドラゴン》を除く)。 また《Sin トゥルース・ドラゴン》は《Sin パラドクス・ドラゴン》が破壊されたとき、《Sin Paradigm Shift》の効果で手札・デッキ・墓地から特殊召喚できるモンスターだったが、 OCGではトリガーが《Sin トゥルース・ドラゴン》以外のSin モンスターに緩和され、さらに《Sin Paradigm Shift》の効果を内蔵し、手札・墓地からのみ特殊召喚できるモンスターとなった。 高攻撃力のモンスターを簡単に出せるほか、破壊をトリガーとするカードなど様々なカードとシナジーするためなかなかの強さを誇る。
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(投稿者:ししゃも) 登録タグ一覧:ししゃも エントリヒ マイスターシャーレ メード 瘴炉 皇室親衛隊 (絵:瑞騎さん ありがとうございます!) 概要 「私は、矛盾した存在です」 エントリヒ帝国の「第三研究所」にて生誕したMAID。瘴炉を搭載している。 マイスターシャーレで基本課程を修了し、特務SSへ配属。正式な担当教官は存在しなく、担当教官代行としてアサガワが教育及び指導している。 瘴炉を搭載している為、作戦行動は原則として一人で行動している。それにより、他者との交流が乏しい為、チームワークに問題在り。口調は冷たく、どんな相手でも敬語を使う為、同僚MAIDからは近づきたくないイメージを持たれている。 性格は至って主人に忠実なMAIDであり、自己の感情に左右されない。 最近になって自分の存在意義に疑問を持ち始めており、何の為にMAIDはMAIDになったのか、と考えるようになる。 外見は黒髪の腰まで届く長い髪の毛に、鋭い目つき。メイド服の上に甲冑を重ね着している為、あまり俊敏な動きは得意ではない。 通称 「黒髪のMAID」、「特務SSの問題児」 出身 エントリヒ帝国 所属 エントリヒ帝国皇室親衛隊特務部隊 装備 瘴炉、瘴撃型放出装置 身長 180cm 誕生 1943年1月25日 年齢 外見20歳前後(実働2年) 教育担当官 (代行)アサガワ・シュトロハイヒ 保有能力 ガントレット 瘴炉から発せられるエネルギーを右手に集中させ、接触した相手の内部に瘴気を媒体にした塊を一気に放出させる攻撃スキル。 ある程度の溜め時間は必要だが、ヨロイモグラを『内側』からを潰せるほどの威力を持っている。 しかし、半径500メートルに人体およびMAIDに悪影響を及ぼす瘴気を発生させる為、あまり使われることは無い。 装備 MG42-45V パラドックスの愛銃。特に目立ったメンテナンスはしていない。というか、戦闘ごとに新しいのを取り替えている。 ネイルガン 第三研究所製武器。STG45をベースに製作され、ボックス型のマガジンに、15発の鉄釘が格納されている。とてつもないパワーで発射される鉄釘の威力は凄まじく、ワモンの皮膚を容易く貫通することが可能。 使用する鉄釘の正式名称は『10mmナーゲル弾』通称、ナーゲル。セミオートライフルで、ワモン級ならマガジン一個で仕留めることが可能。 しかし、一部の組織の要求により「人道的に問題がある」として、生産中止。その際に第三研究所が隠蔽した完成品を、パラドックスが使っている。この銃に関してはスピンオフなだけに、パラドックスは手入れを入念に済ませている。 瘴気砲<メドゥーサ> 瘴炉を搭載したMAID専用武装。形状は、中折れ式のランチャータイプ。発射方法は、瘴気媒体弾に瘴気を送り出し、装填。その後、トリガーを引き、発射させる。 トリガーを引いた場合、弾頭は発射されず、弾頭に注入された瘴気を発射させる。発射された瘴気は、大きな塊となって緩やかな速度で直進。 瘴気に触れるないし、周囲に居た有機物を腐敗させるほどの瘴気を与える。使用した瘴気媒体弾頭は再利用は不可能で、一発使用するたびに新しい弾を替えなければならない。 ワモン級なら一掃は可能だが、ヨロイモグラといった上位種に対しては、瘴気弾を直撃させることで撃破可能。 第三研究所 パラドックスが転生された、MAID研究施設。所長は、ボロウン=ゲーテ 元々帝都ニーベルンゲに施設を置いていたが、MAIDの人権を顧みない違法実験の数々とコア喰いによって破棄されたMAIDの実験を行なっていた。 しかし、公安SSによって第三研究所は摘発。違法実験に手を染めていた職員を逮捕、処罰した。これによって第三研究所は閉鎖されるはずだったが、近年の帝国におけるMAID技術は第三研究所の功績が他ならないとされ、帝都北部の田舎に転地された。 過去の反省を活かし、現在はコア喰いに関する現象を徹底的に究明している。 しかし、マッドサイエンティストな風潮は残っており、ネイルガンなどの違法武器や国際法に抵触する実験を懲りずにやっている。 評価 教育担当代行であるアサガワ曰く「非凡で、銃器及び近接戦闘に優れている」と評価。 一方で、感情に左右されない為、周囲の損害を顧みない戦法や瘴炉の扱い方に問題があると指摘する。 それでもアサガワ自身はパラドックスを高く評価しており、そのうちに自分の部下にしようと引抜を考えている。 関連 エントリヒ帝国 エントリヒ帝国皇室親衛隊 瘴炉 戦技教導学校「マイスターシャーレ」 アサガワ・シュトロハイヒ 登場作品 M.A.I.D.ORIGIN's 黒と矛盾
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説明しよう!パラドックス属性とはパラドックス属性である! 概要 パラドックス属性とは、そこら辺のアメーバのオリジナル属性である! 特徴 パラドックスエネルギーを吸収し続けてパラドックス結晶が生えパラドックス属性となった敵たちじゃ そして全員がダメージ軽減(スーパー装甲)を搭載している! また、波動や烈波を所持していることがやや多い傾向にある アメーバ式レジェンドには第3章からも登場し出すぞ パラドックス属性一覧 パラドックスわんこ 採用済み 初登場:単発ステージ「動き出すパラドックス」 ディメキリー 採用済み 初登場:アメーバ式レジェンド第3章「メガバイオーム」 ビリオネワン 初登場:アメーバ式レジェンド第4章「ハドロン発電所」 キャプテン・クマッスル 初登場:??? イダイナパオン 初登場:??? 王我本 初登場:??? 先輩 初登場:??? ミニパラドックスサイクロン 初登場:??? 小逆説テラネス 初登場:??? パラドックスサイクロン 初登場:??? 超越生物オホホーツク 初登場:超越生物オホホーツク大降臨 パラドックス超獣 超玉獣クルルボッコ 採用済み 初登場:単発ステージ「ボッコボココースト」 超灼獣ゴマグダラズ 初登場:単発ステージ「アチチチサバンナ」 超驚獣ビビルーツ 初登場:??? 超役獣ヤビルージョン 初登場:??? パラドックス超賢者 ディスカーバ 初登場:??? エビデンサイ 初登場:??? コメント 名前 コメント 来訪者数 今日 - 昨日 - 合計 -
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純潔パラドックス 純潔パラドックス アーティスト 水樹奈々 発売日 2011年8月3日 レーベル キングレコード デイリー最高順位 1位(2011年8月3日) 週間最高順位 1位(2011年8月9日) 月間最高順位 1位(2011年8月) 年間最高順位 11位(2011年) 初動売上 50811 累計売上 72746 ゴールド 週間1位 月間1位 収録内容 曲名 タイアップ 視聴 1 純潔パラドックス BLOOD-C ED 2 7COLORS 3 Stay Gold ランキング 週 月日 順位 変動 週/月間枚数 累計枚数 1 8/9 1 新 50811 50811 2 8/16 2 ↓ 9520 60331 3 8/23 5 ↓ 4322 64653 4 8/30 16 ↓ 2485 67138 2011年8月 1 新 67138 67138 5 9/6 ↓ 1498 68636 6 9/13 988 69624 7 9/20 680 70304 8 9/27 607 70911 9 10/4 523 71434 2011年9月 ↓ 4296 71434 10 10/11 467 71901 11 10/18 372 72273 12 10/25 227 72500 13 11/1 246 72746 2011年10月 1312 72746 BLOOD-C ED 前作 次作劇場版 純潔パラドックス METRO BAROQUE 関連CD POP MASTER Synchrogazer THE MUSEUMⅡ
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【名前】パラドックス 【モチーフ】パラレルワールド・ドア 【危険度】A 【主な能力】もしもの世界に招く・もしもの世界からこちらの世界へ何かを運ぶ 詳細 現在数匹が確認されている龍で人を積極的に襲わないし巫女も襲わない龍 学会の一説によると他世界線のドラゴンであり、ドラゴン自身も迷子と言われる ただしその龍の周りでは神隠しに会う者と知らない場所から来たと語る・この世界にいる同一人物が後を絶たない 神隠しに会うものは帰ってくる時期に差があるが多くは1日から一ヶ月長くとも一年である それ以上経って帰ってきたものはいない 神隠しにあったものの話は、過去に飛ばされた・未来だった機械がいっぱいあった! ドラゴンに破壊された故郷だった 死んだ友人にお別れが言えた 本来は壊される場所を巫女が守ってくれた等バラバラである 中には向こうに10年はいたと思った等体感時間のズレが大きいものも多い 逆にこちらに来た人の反応も ○○が生きてる!ここが過去?滅びてないすごい あっ!?先輩!次世代に私は引き継げたんだ等バラバラであり、帰る時期もバラバラである 危険度は起こす影響の強いことからAとなっている
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注:この作品は草凪琉夜さんと放浪猫クロさんの合作であるアフターパラドックスの続き?です (多分)前回の粗筋。 神話級馬鹿親、佐倉翔也。神話級馬鹿というのは、彼自身の位階が神話級というのと、神話に匹敵するほどの馬鹿であるという二つの意味が込められているのだが、それはさておき。 翔也は、愛すべき娘を苛めたガキどもをぶっ殺すっていうか、生きているのを後悔させる痛めつけ方をするために、椿が通う学校へとひた走り、そこまでの道を壊滅させつつ、たどり着くとああもうめんどくさい、警備員倒して乙葉にメモペ(略称)喰らい、それをレジストしようとした翔也が魂魄励起を始めようとして、首を捻られ、気絶した。 なんだこの粗筋。 でもまあ間違っちゃいないのでれっつらごー♪ 目が覚めるや、視界に移るのは真っ白な病室……ではなく、薄暗い独房だった。天井の隅の方に相当大きい蜘蛛の巣が張っているのが見える。独房の掃除担当は誰だったか、とそんなことを思いながらも、そういえば俺か、と気付いた。 始末書を書かないというよりも書きたくない翔也に与えられる処分は大抵、民間警察ビル内の掃除なのだが、それすらもサボる自分にちょっと反省するが、まあ蜘蛛の巣程度どうってことはなかった。 昔はこんなん見慣れていたし。 汚いのは別に嫌いじゃない翔也が、次に気付いたのは自分が拘束されていること。口には猿轡、両手は腰のところに回された上で、逆心者専用の捕縛縄で頑丈に縛られていた。逆心者専用ということで、自分の位階が下がっているのだろう。しかもありがたいことに、この縄、特注品だし。 次。 足――――というかここまで来て翔也は、自分が椅子に座らされていることに気付いた。たぶんいやきっとていうか確実に乙葉のメモリーペインが原因で、自分の神経が一時的に狂っているのだろう、まあ自分が狂うのはいつもの事なのでさておき、両足はそれぞれ、椅子の足に拘束されていた。こちらは普通の鎖のようだが、鎖は止めて欲しかった。地味に痛い。 なんで腕は縄で足が鎖なのだろうか、と冷静に考えてみて、かつかつ、と床を歩く音が聞こえてきた。恐らくは実戦部隊の隊長格だろうと、翔也は考え、とりあえず足音で誰の音かを判断、隊長格の誰でもないことに気付いた。 この足音は確か。 その答えに辿り着く前に、その人物が翔也の視界に入った。 「隊長……まーた、なにかやったらしいじゃないですかー」 代水あとり。 翔也の義妹の佐倉つばめと同年代で同級生にして、佐倉翔也が所属する四番隊の副隊長を務めている女性である。 「ふがふがふがふがふが」 「ウチ、猿轡越しの読唇術はちょいと無理っす」 「…………」 「使えねぇやつとか思ってたら、つー……というよりも、かもめちゃんにチクりますえ?」 「………………ふがふが」 「口調を統一しろでっか? 無理ですわー。これがウチのキャラですしー」 どうして位階の高い人間には、個性的な奴が多いんだろうと翔也は思わなくもなかったが、まあ民間警察にいる人間はみんなこんなのだ。 「ふが、うふがふがふがふがふが」 「“いや、夕馬は普通だな”、ですか。夕馬はんが聞いたら喜びますえ?」 ていうかさっきからなんでわかる。 「愛の力ですー」 悪いが俺は妻とつばめと娘二人命の男だ。 ていうかお前彼氏いるだろうが。もうヤったの――――― 「どりゃぁっ!」 「ぶぶっ!」 お願いだから鳩尾は止めてくれ。呼吸が辛い。 「……ふが?」 こんなアホなやり取りをやっている間に、彼女の側に見覚えのある男が目に入った。 阿笠なんとか。刑事ドラマに出て来るような人物で、一言で言えば俳優の水谷豊似のダンディーなおっさんだ。 嫌いじゃない人物なのだが、自分にしょっちゅう始末書を書かせようとしている人物その二なので、苦手な部類に入る。始末書なんぞつくしに書かせればいいじゃねぇかよ。 翔也が彼の名前を覚えていないのは、単に一度も名乗られたことがないからだ。こっちも名乗ったことはないけど、相手はまあ自分のことなんぞご存知なのだろう。ある意味有名人だし、翔也。 四番隊所属の佐倉翔也以下四名は実戦部隊である。事務をやらないこともないが、大抵電話口に出るのはつくしに一任している。だって面倒くさいし、というのが翔也の意見だが、上司の命令に逆らえないつくしはひたすら電話口でクレーマーと戦っている。 ざまーみやがれ、このアマ。 翔也は決して自分の部下が嫌いというわけではないのだが、どうも他所から見ると自分の扱い方はぞんざいで辛辣らしい。こればかしは仕方のないこと―――――逆心者時代に培われた性格がそうさせていると自分でもわかっているので、まあ翔也はそのことを深く考えたことはない。 重傷負わせたことないし。 と、思考が徐々にズレていることに気付き、翔也はとりあえず阿笠を睨んでみた。日頃の愚痴も兼ねて。 「ぅあ……」 この程度で怯んでるようじゃ元トランプがやってる警備会社の連中には勝てねぇぞ、と翔也は心の中だけで呟く。次の瞬間にはそんなこと気にすることなく、翔也は阿笠に向けて視線で語ってみた。 ―――――これ、サッサと外せよ。 再びあとりが怯む声が聞こえてきたが、逆に阿笠はなんともなかったようだ。額に汗が浮かんでいるのが見えただけで。 「捕縛結界と反転封陣、解けるものなら解いてみやがれこのクソ餓鬼」 アンタが行った後にすぐ解いてやらぁ。後ろからホロちんが来てるしよ。 阿笠はそれだけ言うと、すぐに立ち去り、それと入れ替わるようにホロが立っていた。 呆れきった表情で。 「…………はぁ」 ため息を吐くホロ。僅かにカチンと来るが、この状況で喧嘩売ってもボロ雑巾のようになるのは明白なので、目線だけで何のようだ、と訊ねる。 返ってきたのは今と同じ溜息。更にカチンと来た翔也だったが、しかしここでも我慢。今の自分にとっての最優先事項はただ一つなのだから。 今しがたの怒りは、この封印をぶっ壊すときにとっておこう。そう己に戒め、翔也はホロが去るのを待つことにした。 ホロの様子からするに、此処に来たのはあとりだけでは不安だという思いが強いからだろう。確かにその通りだ。この程度の封印、構造を知り尽くている上に、自分たちが最も使う頻度が高いものなど、翔也にとって――――或いは、自分と同年代の強者たちにとって何の問題もないのだから。 とはいえ、外すのは容易ではない。難しいというわけでもないが、目の前に神話級の狼がいるとなれば話は別だ。 だから早くイナクナレこの野郎――――じゃなかったこの女ァ、と念仏を唱えるように連呼し続けていると、そのきっかけが訪れた。 「代水、ここであやつを見ておいてくれ。わっちは団長に連絡を入れてくる」 「了解しはりますたー。いってらっしゃいー」 相変わらず変な口調でホロに手を振るあとり。 今だ。 ホロの姿が消えていき、尚且つあとりの意識がホロに向かっている瞬間を好機と見た翔也は、自分の腕の関節を外し、腕を拘束から自由にさせる。自由になると同時に間接を嵌め、嵌めた際に生じる痛みを我慢し、ヴァラキアカを構成しようと思い、 (……アホか俺ぁ。反転封陣がかかってるんじゃネェか) 反転封陣。相手の能力強度が強ければ強いほどにその戒めの力を増す特殊な結界である。相手の魄啓力を逆手に取り、その力で対象を捕縛するという奇怪なもの。 だが。 この結界の穴を知っている翔也には、何の問題でもなかった。 反転封陣の欠点(というには些か表現が悪い)は、自分の位階を限りなく抑えればただの文字の羅列にしかならないということだ。故に、捕縛錠と捕縛結界が追加でなされているのだが――――― (蒼空、お前は本当に便利だなぁ) 左耳につけたピアスに翔也は感謝の言葉を言う。 蒼空。今は亡き、佐倉翔也の最愛の妹、佐倉鶯の形見にして遺品にして、今も尚翔也を守り続ける特殊な心器。 概要は“守る”。ありとあらゆる点から翔也を守り続けるという心器。翔也の類稀なる、魔獣状態の八雲乙葉にすら匹敵する回避能力の、防御能力の高さはこれが理由である。“兄”に襲い掛かる危険を察知し、それを翔也に知らせているのだ。それも、神経に組み込まれているというべき速度で。 そして今も翔也の左耳には蒼空がある―――――結界の中心であるというのにもかかわらず、その心器はここにある。 蒼空が在り続ける限り、佐倉翔也の抵抗能力は高い。ありとあらゆる事柄に関して。 戦闘中にはヴァラキアカと交互に使わなくてはいけないのがネックだが、しかし、今は関係ない。 捕縛されている状況下なのだから。 「よ……っと」 「ちょ―――――」 間一髪。 叫ぼうとしたあとりを一撃で気絶させ、静かに床に横たわらせる。 あと少しでも結界から出るのが遅れれば、脱出が限りなく困難なものになっていた。というか不可能になっていたのではなかろうか。 そんなことを呟きながら、翔也はあとりに自分の着ていた拘束衣を毛布代わりに掛けておいた。今の時期で、こんな地下のコンクリート張りのところにいたら風邪を引くかもしれないだろうというのと、ホロに意識を寄せてくれていてくれたことに対する、皮肉交じりの感謝を込めて。 「おっと、忘れてたな」 足早に下水道へと向かおうとして、翔也は呟いた。 「これ、ぶち壊しておかなきゃなァ?」 ―――――蒼空の詳細を知っているのは、四人だけでいいのだから。 翔也は民間警察が所有するビルから脱出口と選んだのは、下水道へと続く通路だった。 基本的に人が通ることを想定されていないその道は、暗く汚れていたが、翔也は決して衣服に汚れを付着させることなく、下水道へ続く梯子を降りきった。 異臭とすら表するのに足りない臭気が、翔也の眉を僅かに潜ませる。香港に行っていて本当に良かったなあ、と呟き。道を模索し始めた。 まずは方角の確認。相対的に思考し、翔也は椿が通う学校方向を探り、数秒で断定するとそちらに向かって歩き出す。 一歩目を踏み出すと同時に鼠の鳴き声と、カサカサと這うゴキブリの足跡が耳に残ったが、翔也がそれらに抱くものは無関心。何せ、自分はコイツら拷問の道具として使用したこともあるのだから、ビビる筈もなかった。むしろ、自分の出生と比較し、親近感が湧いてもおかしくはないほどの感情を持っていた。 いや、流石に湧かないけどよ。 誰に否定するわけでもなく、翔也はそう呟き、静かに、されど足早に歩を進めていく。 ふと、足を止める。 「ちっ、気付きやがった。クソが、予想よりも少しばかり早かったか……」 翔也が乙葉たちの接近に気付いたのは下水道を多い尽くす、無数の気配。 殺意。 それも縦横無尽に散らばる、下水道の主たちの。 乙葉の能力は“共感”。 そして、彼らから感じるのは殺気。 「…………こりゃ乙姉、マジギレしてやがるな」 まあ知ったことではないが。何しろ自分自身も半ばキレているのだから。 愛娘を苛めやがったクソガキどもに対し。 一度気絶させられた所為で冷静になった翔也だが、更に悪いキレ方になっていた。 冷静にどう苦痛を与えようか考えている時点でもう犯罪者であるのだが、それにツッコむ相手は残念ながら翔也の視界には存在していなかった。 ちゅーちゅーちゅ、かさかさかさ、と。 翔也の行く道を塞ぐかのように、それらは構えていた。 彼女の合図しだいで、自分に襲いかかれるように。 「……こんなもんで、俺を止められると思ってんじゃねぇだろうなあ、乙姉?」 それは、自分を追いかけているだろう乙葉に対しての呟き。 すぐさま心器、ヴァラキアカを顕現すると、翔也はまず真円状に大きく薙いだ。ついで鼠たちの断末魔、そして、バタバタバタと死んでいくゴキブリ。刹那で死屍累々となった彼らだが、彼らには数多くの同士がおり、その所為で翔也の額に青筋が浮かび出る。 「くかかかか―――――上等だこの汚物ども。ここに住んでたのが運の付きだ、死に腐れ」 再び翔也はヴァラキアカを真円に薙ぐ。ただし、今度は先ほどとは違う。香港に武者修行しに、神話級になって得た昇格能力を発揮させた、三日月の軌跡。 限定空間内にて、指定した範囲を狂わせることができる能力。 限定空間といっても、全く広くはない。むしろ狭すぎるほどの範囲――――ヴァラキアカの間合い。 そこに存在する相手を“狂わす”ことが可能になったのだ。例によって、狂わす成功率、方向性は博打とも言える確率だが、翔也にとってはそれで充分で、それで十全だった。 そしてその例に当てはまるように、死に絶えていくものたちとより狂化されて襲い掛かってきた愚かなものたちもいたが、翔也はそれを咄嗟に切り替えた蒼空の防御壁だけで叩き潰す。無数の肉片が翔也に向けて飛び散るが、当たるはずもない。ようは、人を殺す際に、返り血を浴びないようにする方法と同意だからである。つーか、娘の学校に死骸塗れでなんぞ行って溜まるかボケ。 あ、ここから出たら脱出したらとりあえす銭湯でも行くか。臭いだろうしな、俺。 そんな暢気なことを考えながらも翔也の足は彼らを一瞬の躊躇もなく踏み潰し、微塵の葛藤もなく蒼空で叩き潰し、僅かに怯んだ彼らをヴァラキアカで斬り殺し、未だ襲い来る彼らをヴァラキアカで狂わせる。 翔也はそうして無数の彼らを殺しながらも、自分が此処に足止めされる事実に気付き、大きく舌打ちをした。 数の暴力っつーのはやっぱり問題だな。 それが雑魚であってもだ。 これが殲滅戦ならば何の問題もないのだが、生憎と自分の目的は違う。 そしてこの密閉空間にして、狭小の場所。 翔也の得物は自分の身の丈を越す、死鎌。 それをこんな狭いところで扱えというのだから酷な話だ。ありがたいことに此処にいる限りはなんとか壁を抉る事無くヴァラキアカを使用できるが、移動しながら―――――逃げながらともなるとそれは難しくなる。 一瞬、自分の特殊能力【空蝉帰身】で刀の形状に戻そうかと考えたが、それをしてしまうと、今度は範囲を狂わせる昇格能力が扱えなくなってしまう。扱えなくても平気だが、それだと今以上に進まなくなってしまう。そんなことになれば、すぐに追いつかれてしまうだろう。 「ウゼェ……」 ―――――三世森羅空式殺戮術、奥義之一“竜巻”。 自分の体重を旋回するヴァラキアカに任せ、翔也はそのまま廻り続ける。暴風を思わせる怪音が下水道を反響し、埋め尽くす。次の瞬間には今翔也の周囲にいた八割が死滅し、そして次の瞬間に新たな軍勢が現れる。 「……結界?」 軍勢が現れたことに対し、怒りを覚えながらも翔也は自分を、下水道を覆った違和感に気付く。 自分たちの力を漏らさないようにするための術式か、と翔也は当たりをつけ、凄惨な笑みを浮かべる。 それは決して父親が浮かべる表情ではないのだが、それに翔也は気付かない。 「…………ァ?」 何故か軍勢が退いた。 疑問符が脳裏を掠めるが、すぐさまその解答を導き出す。 「……嘘……でしょ…………?」 言葉を発したのはクレーマー担当日向つくし。呆然とその場に立ち尽くしているのが翔也の目に留まった。 口をあんぐりとあけ、目の前の光景が現実かどうか判別できていないようだった。 「ァ?」 なんでつくしがここにいるんだ。 そう考える次の瞬間には、恐怖と戦いながらも自分の背後を取った藤島夕馬が自分の腕を取って、それを逆手にとり、翔也は夕馬を地に叩きつけて、反射的に夕馬が地面に鏡を突きつけたのがわかった。 ならば、と翔也は“反射されて”戻ってきた夕馬の顔に、できるだけ優しく踏むことにした。ほげ、という間抜けな声が聞こえてくる。 「惜しい。俺が後少しでもつくしに気を取られてたらお前の得意技に繋げるところまで行けたかもな?」 「ははははは…………投げることはできないんですか……くそぅ」 失礼しますと言いながら、夕馬は自分の顔を覆う翔也の靴をどけ、 「しっかし、やっぱり乙ねぇの目のが合ってるか。……俺としてはつくしが最有望株かと思ってたんだがな……だから副隊長兼、クレーマー係に突っ込んだっていうのに」 「あはは……」 苦笑を見せる夕馬だったが、どこか嬉しさが混ざっているのは隠しようもなかった。 隊長である翔也が部下を褒めることなど滅多にない。というか、夕馬は初めてだった。 「恐怖を表に出すな。出したとたんにそれが気配となっちまうからよ。ていうかビビリ大輔、お前のタバコ一本寄越せ」 「くっ…………」 「ほらほら寄越せビビリ。夕馬と違って俺に触れようとした瞬間にビビった臆病者…………ビビって俺がこう話すのを見越してたんだってなら、俺はお前を褒めるが、時間稼ぎだっていうことすら頭から離れてたろ? あいにくだが、お前らに見つかった時点で……あれ、あとりの馬鹿どこ行きやがった?」 先ほどまでの剣呑な空気はどこへやら、この場は一時の安らぎの場と化していた。 翔也はそのまま煙草を受け取り火を付け、口に咥え思い切り吸い込むと、未だ口を開けたまま震えているつくしに思い切り息を吹きかけた。 「「げほっげほっ」」 何故か翔也まで咽ていたが、翔也は喫煙者ではない。偶に咥えて、絶対に咽るぐらいだ。 本人曰く、煙草ってカッコつけるのに一役買ってねぇ?とのこと。 「ほら落ち着いて小さく深呼吸しろつくし」 同時に、神業と呼べる速度でつくしの口元に自分が吸っていた煙草を挟み込みーーーー 「けほっ、おえっ、げほげほっ!!!?」 「くかかっかかかかか!」 「「………………」」 つくしが咽せ、 翔也が哂い、 夕馬と大輔が呆れていた。 「…………まっずいなぁ、出るタイミング間違えてモーターぎゅんぎゅん」 少し離れた場所で、代水あとりがどこからか出したモーターをくるくる回していた。 「っていうか乙ねぇはどうしたんだ、お前ら?」 「っていうか、逃げないんですかク・ソ・隊長っ!?」 「お前らに追いつかれるぐらいなら俺はもう詰んでるだが……つくしがストレートをしてきたのでクロスカウンター」 ぷにっと、すばやく突き出された指がつくしの頬を突く。 一度手を引き、今度は勢いよくつこうとし、 「ていっ」 「~~~~っ!?」 「ぶらっでぃくろすー」 カウンターを狙ったカウンター返しをし、もう一度突く。 うりうり。 真っ赤になったつくしとは対象的に、翔也は笑ってい ―――――うぐるるるる。 た、が。 「っ!?」 ―――――んぐるるるる 獣の声が聞こえる。 死だけを齎す獣の声、が。 それは魔獣。 八雲の名を持つ、世界一理不尽で最悪な野獣! 「四番隊、この場所より離れろ! 復唱の要無しっ!」 だが、その声は空しく響き渡り、翔也の眼前に爪牙を纏う、最高の欠陥品。 八雲乙葉が、咆哮と共に、翔也の胸を引き裂こうと舞い――――― 「ぐぅっ…………」 それは身体に染み付いた反射のおかげだった。 翔也は咄嗟にヴァラキアカの柄を盾にしたが、あくまで咄嗟の判断。本能で向かってくる全力の攻撃を防ぐには届かない。びりびりと痺れる手を叱咤し、突然現れた野獣に呆然としている部下たちに怒号を放つ。 「きゃあっ!」 「ちっ――――」 暴走状態の八雲乙葉―――――否、瀕死の野獣は対象を問わない獣となることを乙葉から聞いていた翔也は、自分から標的を変えたことに何の疑問も抱かなかった。だからこそ部下たちに退散しろと告げたし、部下たちを傷つけたくないからこそ、翔也は瀕死の重傷を負うだろうつくしを身を挺して庇った。ヴァラキアカを消し、蒼空の力が完全に発揮されていなければまずい攻撃を。 故に庇った服は無残にも引きちぎられ、その背中には深い爪痕が刻み込まれるのだが。翔也は昔取った杵柄で激痛を無視する。そして、怯えるつくしの身体を崩し、掴み、背負い投げの要領でぶん投げた。 つくしの悲鳴が耳朶を掠めて、“乙葉”が無防備なつくしを襲おうとしていた。それを―――――翔也の認識である“家族”を傷付けることを―――――赦す佐倉翔也ではない。空を舞っているつくしに気を取られている乙葉の脇腹目掛けて手刀を潜らせる。が、“八雲乙葉”にそれが届くはずもなく、それは難なく回避される。 連撃の繋ぎであった、右足すらも。 ただ、右足は跳躍して回避をしてくれたので、水面蹴りの軌道を変え、すぐさま乙葉から離れることができたので十全といえば十全だった。 「ちぃっ…………」 舌打ちは、予想以上に滴り落ちる自らの血に対して。蒼空を全力行使して治療を行っているのですぐさま血は止まるだろうが、失ってしまった血はどうしようもない。 「三秒でいい……」 それだけ時間を稼げれば、と翔也が呟こうとしたところで、下水道という場所に似つかわしくない、爽快な音楽が響く。 “悠久幻想曲”。 代水あとりが扱う曲。それも、聞いたものの意識を反らすことができる曲。 「翔也はん、後はよろしくどす~~~♪」 「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇよ……」 そう返す翔也の顔には、凄惨な笑みが深まる。 蒼空を消し、ヴァラキアカ単独の能力の行使。 ―――――刀じゃなきゃ、駄目だ。 しかもその形状は鎌ではなく、翔也の戦闘方法、居合いというスタイルを発揮できる、刀。 空蝉帰身。 それが、翔也の持つ後天性レアタレントの名称だ。 「四番隊隊長佐倉翔也―――――推して、参る……っ!」 腰を低く落とし、目を閉じる。 翔也がこれから扱う、納める空式の基本として、“目”という概念は不必要なものだ。 どんな環境――――漆黒の中でも―――――相手を殺せるという最初の理念。 更にいえば、目は不必要な情報まで捉えてしまう。逆に、目を閉じなければ、一対一という状況下においては、他の感覚が圧倒的な充実を発揮し、目で見る以上の必要最低限の情報を翔也に届けてくれる。 故の、視界の遮断。 以前までの彼とは違い、目を閉じることによる情報量が増えている。 「…………刃っ!」 一気に飛び込んできた“乙葉”の爪牙を紙一重で回避し、その状態から一薙ぎ。 捉えたと思ったが、刀から伝わる感触は軽い。ならば、と右足のみを前に出して更に十と三、斬りかかるがしかし届かない。舌打ちしながら、刀を納める。その瞬間に浴びる殺意の奔流。冷や汗が流れるのを自覚し、その場から大きく後退。瞬間、空を切る凶音が響く。音から察するに、大振りだったようだが、それを好機と見るほど翔也は未熟ではなかった。己の靴を脱ぎ捨てながら、それを“乙葉”がいる場所へと向けて蹴り飛ばし………… 「ちっ」 舌打ち。 八雲と呼ばれる流派を攻略するに当たっての問題点は大きく三つ。 尋常ではない回避能力。 異常なまでの身体能力。 一撃で意識を刈り取らなくてはいけない。 以上の三つは翔也が八雲乙葉を打倒するのに、どれも掛け合わさっている。下手な攻撃をすれば、更に八雲は凶暴性を深めるだけだ。 「これが俺を止めるためだっていうんだから…………畜生」 どうしたものか、と翔也は目を閉じながら呟き。 次の瞬間には“乙葉”が目前に来ていた。 咄嗟に攻撃に移ろうとして中止し、そのまま回避+防御。 肉を抉る感触が伝わり、骨に響く感覚が響き、されどこちらからは手を出せるような好機にはならず――――― 二人の攻防を遠くから観察している部下四人。隊長からの命令なんぞ無視もいいところだった。 人望の無さが見て取れるが、まあ翔也自身は人望なんぞ要らないと思ってる人種なのでどっこいといえばどっこいだった。 「…………私たち、あの人に勝とうと思ってたの?」 「僕、八雲隊長の攻撃の回数分死んでるんだけど」 「……同じく」 「ウチはそれ引く3ですな~」 それぞれが思い思いの事実を告げる。 「隊長の抜刀術見たことある人?」 夕馬の質問の応えは共通。同じように首を振るだけだ。 「八雲さんが本気見せてないって言ってたのはこういうこと?」 つくしが誰に聞くまでもなく呟く。 「見せてないというよりは、実力出す場所がなかったんと思うけど」 つくしの言葉に、あとりは率直な感想を告げる。 そして、珍しく、何年かに一度あるかないかという頻度の稀有な珍しさで、深刻そうな顔をしながら続ける。 「魅入ってる場合じゃないっつーの。どうにかしてあの二人を止めるような人員を呼ばねェとヤバイぜ」 突如として放たれたその低い声音と口使いに夕馬は思わず視線をあとりに向けた。そこには、夕馬が普段慣れ親しんだ代水あとりの表情は無かった。 滓かに毒の混じった柔らかさは消え、怜悧と呼ぶに相応しい其の眼差し、夕馬が幼少の頃助けてもらった“あの人”の、それからこうして強くなるために、その人に近付く為に強くなった原因の人物の眼差しに似ていた。 「代…………」 代水さん、と続けようとして夕馬の背後から轟音が反響する。耳を劈くその音量に夕馬はあとりの判断に頷き、隣で崩れかかったつくしを乱暴に抱きかかえる。普段なら顔が真っ赤になっていてもおかしくはない、というよりも赤くなって当然な行為だったが、このときの夕馬はひたすらに鈍感に、されども愚直に進むことにした。 横に視線をずらせば、同じように抱きかかえられた大輔が情けなさそうな顔をしてこちらを見つめていた。その表情におかしさに夕馬は苦笑しつつ、疾走した。 翔也を止めるわけではなく、八雲乙葉を止めるための援軍を呼ぶために。 ―――――話は変わるが、翔也と乙葉の相性は余りよろしくない。 互いが互いに、手の内を知り尽くしているのもあるが、この場合の相性というのは能力的なものである。 まずは佐倉翔也。刀に触れた相手のナニカを“狂わす”能力だが、生憎と同位階のものたちには大抵レジストされてしまうために、本来ならばレジストする隙もないほどに切りかかるのがいいのだが、同程度の実力のものたちにその戦法が通じるかといえば否であり、“八雲”たる乙葉に至ってはほとんどが回避されてしまうのである。八雲となった乙葉の回避能力は尋常ではなく、翔也が知る中で、“八雲”を初見で、攻撃を当てることができる人物は五指にすら満たないのほどなのである。 しかも更に悪いことが重なっている。それは、佐倉翔也に固着されている魂の裏ルール、『家族への不可侵』――――つまり、翔也が家族と認識しているものに対しては、戦闘能力が落ちるというものだ。今は、緊急事態ということなのだろうか、このマイナスの裏ルールの効力が減少しており、こうして戦い合うことができるのだが、後数分もしないうちに、翔也は乙葉の爪牙により倒れ付すことであろう。 次に、八雲乙葉。共感の概念を操作することができる彼女なのだが、今の乙葉は瀕死の魔獣の体現者としてそこにいるために、共感の概念を扱うことはなく、ただひたすら己の力で敵を屠るだけなのである。仮に、共感の概念を使ったとしても、翔也のもう一つの心器“蒼空”によってその異能が通じなくなるのである。ただ、レジストされないほどの痛覚模写をすれば、それこそ翔也を打倒できるが、それを許すような相手ではないことだと乙葉は知っているのだ。 現在の乙葉は魔獣と化し、肉弾攻撃のみで相手を打倒する獣になっていて、本来ならば翔也程度の実力ならば屠ることが可能なのだが、それを成させないのが翔也の“蒼空”である、“兄を守る”というだけに魂の方向性を固めたその特殊心器は、翔也に害なす危険を予知し、翔也に伝えることが出来るのだ。それは昇格能力の一つで、それを得たことにより、翔也は魔獣にも劣らない(比較することが難しいが。それでも蒼空を使っている間は、翔也の回避能力は高い。相手の攻撃を予見しているのだから。これは余談だが、蒼空のおかげで、今こうして翔也は生きているのである)回避能力を得ているのである。 他にも二人に関しては色々あるのだが、とりあえずこんなところだろう。 ―――――襲い来る乙葉を回避していたが、それにも限界が近付いてきていた。 手を出そうにも、無傷で気絶させられるような隙が見つかる筈もなく、一方的に消耗しているだけであった。このままでは自分が死ぬだろうと他人事みたいに思いながらも、翔也は七度目の攻撃を防ぎきることができず、それが当然であったかのように腕をへし折られた。 中々に酷い折れ方だなあ、と翔也は感慨深く呟きながら、突き出た骨を乙葉の目玉に突きつけるという、半ばヤケ気味な攻撃をする。乙葉は当然回避し、自分との距離を取って、殺戮本能剥き出しな荒い声を上げた。 三度目の攻防から翔也は戦意というものを徐々に失いつつあった。やはり八雲乙葉は自分にとっての“姉”であり、翔也が尊敬する理想の体現者なのだから。その乙葉に手を上げれるかといえば否だし、ここで肯定できるような己ならば、ここまで生き残っている筈もないのである。 だから、これから起こるのは一方的な虐殺なのだろう、と翔也は確信していた。 減衰していく戦意であるならば、その元である魄啓力が減衰しないわけもなく、今の翔也の力をランク付けするとすればA-~B+の間程度のものであろう。 まずい、と思いながら。 これでいいか、と思う自分がいることに、翔也は哂うことしかできなかった。 「……俺を生かしたのがアンタなら、俺を殺すのもアンタだろうしなあ……もう、どうでもよくなってきた」 心器を消し、その場に座る。 腕は歪んで拉げ、満身創痍の身体であるも、その表情に迷いはなく、真っ直ぐ乙葉の顔を見る。胡坐をかきながら、実に澄み切った笑顔で悦び襲い掛かる乙葉の顔を眺めながら――――― 自分の身体が、宙に浮いていることに気付いた。 「は?」 嘯く。 タイミング的に自分は死んだと思っていた翔也は、変わらない風景がそこにあることに気がつき、 「この大たわけがっ! 正気を失っておるあやつにぬしが殺されて、誰が喜ぶというんじゃ!」 同僚の怒号によって、自分の脳が揺さぶられたのがわかった。キーン。 「ホロ……か?」 まるで、迷い子が訊ねるかのような表情で翔也は訊ねた。 「ふん、わっち以外に誰がいるというんじゃ。まったく揃いも揃って大たわけどもが……何を考えておるんじゃ」 「あの世で鶯に一目会いたいなあ……とかだけど。なんでここにいるんだ、ホロちん」 「あれだけ大騒ぎすれば気づかぬはずが無かろう。それと、そのたわけた考えについてはあとで他の者に怒られるがよい」 そのためにはまずアレをどうにかせねばな、と乙葉を見ながらホロ。 そこには獲物を取られて猛り狂う乙葉が、ホロの様子を観察していた 「誰に怒られるんだか、俺―――――つーか、アレ呼ばわりは酷くね?」 ふぅ、と折れた腕を摩りながら立ち上がる翔也。 「今のあやつはあやつではない。あんなものば『アレ』で十分じゃ」 「くかかかか、ま。どーでもいいけど、ホロちんがここに来ちゃったら、俺が座ってるわけにもいかねェなあ……」 翔也は折れた腕を摩り、ヴァラキアカを顕現する。その目には戦意が宿り始め、その手には力が籠る。 ホロは翔也の表情を見て、死に向かうものの顔ではないことに僅かに喜びを示し、 「それでよい。わっちの見たところ怪我でああなったわけではなさそうじゃな……ぬしの心器のせいかや?」 「そうだと思うんだが……多分、様子を見ようとして『狂った』鼠かゴキブリと共感しちまったっぽい」 佐倉翔也の裏ルール『最期の矜持』。 佐倉翔也が持つ唯一の信念とも呼ぶべきその裏ルールの内容は、“家族に仇なすものへの能力の向上”である。 翔也の中では民警にいる同僚すらも、家族の範疇として認識されているのである。(翔也は絶対に口に出さないが、恥ずかしいし)故に、家族たるホロに手を出す、今の乙葉は翔也の中での敵と認識されたのである。 ただ、やはり乙葉も家族で在るが故に、マイナスの裏ルールが働くのだが、+-で帳消しにされたのだろう、翔也の魄啓力は平常に戻りつつあった。 「あのたわけが……まあよい、それなら逆に攻撃した方が大人しくなるはずじゃ。適当に叩きのめして正気に戻ったところでレジストさせる。それでよいな?」 「あー……なんだそりゃ。俺の身体が傷だらけとか、骨が突き出た俺の左腕とか無駄だったっつーこと? ホロちんのちっこい胸の中で泣いていい?」 「二人も雌を手にしておいて更にわっちにまで手を出そうと? ぬしも随分と欲張りな雄じゃの」 「男ってのは大抵そんなもんだぜ。ここで忠告しとくが、ホロちんも好きな野郎がいるんだから“気をつけろ”!」 乙葉に気をつけろ、というもう一つの意味を含ませた言葉とともに、翔也とホロは散開する。 翔也のポジションはウイングガード、ホロのポジションはフロントアタッカーと、何を言うまでも自分の立ち位置を理解した二人は、魔獣へと立ち向かう。 翔也が乙葉に近付き、乙葉が翔也に攻撃しようとすれば、それを庇うようにホロが狼の前脚で乙葉の腹部を殴り、更に翔也が追撃をあて、離れる。幾ら魔獣といえども、翔也を甚振っていた所為で消耗した上に、二人の実力者が相手ともなれば、分が悪いのは明白であった。 乙葉が回避することも翔也が被弾することもあるが、それでも二人の優勢は変わらず。 ―――――終に。 「疲れた、骨が大変な事になりすぎて痛い。ダルイ、眠い、ホロっち飴舐めるか?」 「こんなところで物を食うほど飢えておらんわ。わっちを何だと思っておる」 「甘いもンが大好きな獣娘、だな」 瀕死の魔獣は地に倒れた。 当然、乙葉に重傷はない。ホロの左後ろ脚による攻撃が乙葉の意識を断ち切ったのである。強大な魄啓力は治まりを見せ、静かに寝息を立てていた。 「つーか、俺を捕まえる為に魔獣になってどうするんだか。本末転倒とは言わねェけどよ、もう少し後先考えろよ 「こやつが起きていたら、主に同じようなことを言うじゃろうな」 このドジっ子め、とホロは乙葉にでこぴん。翔也も何か悪戯してやろうかと思ったが、それどころではなくて。 「ホロ」 「なんじゃ?」 「後よろしく……限界」 ―――――やれやれ、面倒なことじゃの。 この日最後に翔也が聞いた言葉は、どこまでも呆れていたのであった。 かくして第十三次、親馬鹿翔也の大暴走~~ミイラ取りが悪魔になる~~は一応の決着を見ることとなる。 余談。 某病院。 (げ……) 渚がいたつばめがいた椿がいたかもめがいた乙葉が正輝に説教されまくっていた。 意識を取り戻した翔也は、主に最後の理由でもう一度意識を手放そうと幼い頃に使っていた心器の形状……針を自分にぶっさそうとして、艶美と憤怒が織り交ざった笑みを浮かべた愛妻と義妹にその腕を捕まれた。ぐぎゃー。 「よ、渚」 とりあえずキスでもして誤魔化してみようかと思った翔也だったが、かもめと椿の娘コンビによって身体中がなんか変な方向に曲がった。 「かもめ、椿、パパの身体が奇怪なオブジェになってしまうんだが」 「「しんぱいさせたばつ!!」」 「お前らの罰なら俺、我慢するよ……」 涙を浮かべながら、いつの間にか元に戻った左腕で娘たちの頭を撫でる。うんうん、やっぱまさにぃの医者の腕は確かなもんだ。 と、場違いなことを考えていると、正輝が神をも魅了しそうな笑顔で近付いてきていた。なんつーかこんな笑顔されると逆に怖くて怖くて幼児化しそうな翔也であった。 その怖い正輝は翔也の頭に手を載せ、 「翔也君、僕は何も言わないよ。身体に教え込んであげるから、覚悟してね……ふふふふふふふふふふふふ」 そういい残し、不吉な笑みを残しながらこの部屋を後にしたのであった。正輝の居た場所に残ったのは、幼児退行した乙葉がいた。そんなに痛くて怖くて苦しかったのかよ。 「…………ぅあ」 「怖くないよ。私が傍に―――――」 「――――今回はわたしの役目!」 身体が恐怖で震えていたが、どうやら愛した二人の女性によってその恐怖は紛れていきそうであった。 「二人ともー、間違っても“風の大地”は使うなよー。他の患者全員が大変なことになるからなー」 はーい、と返ってきた返事はいつもの声で。 「つばき、じゃま。かもめがパパと寝るの」 「かもめちゃんこそはなれてよっ!」 愛すべき娘たちの顔は心を和ませる。 とりあえず、今日も幸せな一日であることは確かであった。