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「ここはカメラ屋……というよりも写真屋ですか」 文芸部部室から半ば強引に連れ出された古泉一樹がたどり着いた場所は、大手のカメラ メーカーが運営を委託しているような店とは違い、建物の造りも古風な個人経営の写真屋 だった。 店先に飾られた人物写真や風景写真は、店主の写真好きが高じて店を開いた……そんな 雰囲気が漂っている。今ではひとつの街に一件あるかないかというその場所に彼を連れて 来たのは──SOS団のメンバーではなかった。 「さっすが古泉くんっ! いやぁ~、物わかりがよくて助かるよっ!」 はっはっはーっと笑いながら、こんなところまで古泉を連れてきた張本人の鶴屋は、い つものハイテンションを維持したまま、「じゃっ、行くよーっ」と宣言して写真屋の中に 突撃していった。 鶴屋がこの店にどんな用事があるのか、いまだに分からない。そもそもどうして自分が ここへ連れてこられたのかさえも、疑問が残る。 一樹は、ここへたどり着く経緯を改めて思い返していた。 事の起こりは放課後の部室だった。 その日はハルヒが厄介事を持ち込むわけでもなく、いつものようにみくるがメイド姿で 給仕をし、有希が部室の傍らで百科事典のような本を読み、一樹とキョンがボードゲーム に興じている……騒がしさよりも、珍しく静寂に包まれた平和な風景が広がっていた。 そこへ、鶴屋がハルヒ顔負けの勢いでやってきたのだ。 「やっほー! みんな元気してるかなっ?」 静寂を打ち破る勢いに、全員の視線がドアに向けられた。何事にも動じない有希の視線 も向いたほどだから、それ以上言及する必要もないだろう。 「ややっ、今日はなんか平和だねぇ~。あ、みくる~、お茶はいいよっ! すぐ出ちゃう からっさ。ところでハルにゃん、ちょっといいにょろ?」 「え、あたし? なになに、どうしたの?」 「ふっふーん、実はさ……」 ハルヒだけへの内緒話なのか、鶴屋は顔を近づけてなにやら耳打ちしている。その様は、 どこかの大国の首脳陣が敵国に攻め込む算段をしているように見えて、キョンはイヤな予 感がした。 「へぇ、それって面白そうね」 ハルヒの顔に、100ワット笑顔が広がる。いや、まだ50ワットくらいか。 「でっしょーっ! でねでね……」 さらに耳打ちをする鶴屋だが、ハルヒの顔から徐々に笑顔が消えていった。変わりに、 赤信号もかくやというほど真っ赤になっている。 「えっ!? だめ、それはダメ! あたしパスするわ!」 「えぇ~っ、どうしてもダメにょろ?」 「鶴屋さんの頼みでも、それだけは勘弁して!」 そこでどうしてオレを見る、とキョンは思ったが、あえて気づかないことにした。触ら ぬ神に祟りなしだ。 「ん~……それじゃ」 ハルヒの傍らで、悪の作戦参謀が誰に指令を言い渡そうかと考えているように室内をぐ るりと見渡してから、鶴屋の指先が1人を指した。 「古泉くん、ちょっと付き合ってくれっかなっ!?」 「え、僕ですか?」 まさか自分が名指しで指名されるとは思っていなかったのか、一樹が笑顔ではなく驚き の表情を浮かべている。それはキョンにしても意外だった。こういうシチュエーションで 貧乏くじを引くのは、どう考えてもキョンの役割だ。 「そそっ! なぁ~に、悪いようにはしないっさー。ハルにゃん、古泉くん借りちゃって いいよねっ?」 「えぇー……」 コンピ研へ有希のレンタルも渋ったように、SOS団の身柄さえも自分の所有物的意識 が少なからずあるハルヒは、最初こそ難色を示したが、鶴屋の「だったらハルにゃん、や っぱやってくれっかいっ?」と笑顔で言われて、渋々首を縦に振った。 「さっ、行こう行こう!」 手を掴まれ、有無を言わさぬ勢いで一樹はSOS団アジトから連れ出された。背後から、 「土曜日の市内パトロールのミーティングするから必ず帰ってきなさいよ!」というハル ヒの声を聞きながら。 やはり、どこをどう思い返しても写真屋へ連れてこられた理由が語られていない。もし かすると鶴屋は、ハルヒに話をした時点で全員に意味が通っていると思いこんでいるので は? とさえ思う。 「やあっ! ご主人、お待たせ様っ!」 客足が途絶えている店内に、鶴屋のハツラツとした声が響く。カウンターでカメラの整 備をしていた店主らしき老紳士が、その姿を見て目尻を下げていた。 「やあ、いらっしゃい。でも、本当にお願いしていいのかい?」 「モチのロンさぁっ! そいじゃ、ちょっくら衣装に着替えてくるよっ!」 鶴屋に連れられて、店内奥の撮影室のさらに奥にある衣装部屋らしきところまで連れて こられたときになってようやく、一樹は口を開くことができた。 「そろそろ説明していただけると有り難いのですが」 「うんっ!? あっ、ごめんごめん。そういやなぁ~んも言ってなかったねっ!」 衣装部屋に押し込められる直前で、鶴屋も説明不足だったことに気づいてくれた。 「実はここ、あっしがちびっ子だったころからお世話になってるとこなんだよねっ! 七 五三や入学式とかに写真取ってもらってるっさ。んでも、最近デジカメや携帯カメラとか の普及で、写真取りに来る人って少ないだろっ? んでんで、せめてもの恩返しに、店頭 ディスプレイの写真モデルをやったるさーっ! ってことになったにょろよ」 それでこの写真屋に来た理由はわかった。けれど、自分が連れてこられた理由が今ひと つ把握できない。 「1人よりも2人のほうが、目を引くってもんさっ! ほんとはハルにゃんとキョンくん に頼もうとも思ったんだけどね、断られちゃったよっ! ささっ、無駄話もなんだから、 ちゃちゃーっと着替えて着替えてっ!」 説明はここまでっ! と言いたげに話を切り上げて、一樹は衣装部屋に押し込まれた。 そして、そこにある純白のタキシードを見て、ハルヒが真っ赤になって断った理由をすぐ に理解した。 「さすがにあの衣装はやり過ぎの感もしますね」 つつがなく店頭ディスプレイ用の写真撮影が終わった帰り道、一樹は苦笑に近い笑顔を 浮かべていた。 よりにもよって、鶴屋がチョイスした衣装はウェディングドレスだったものだから、苦 笑を浮かべるのも仕方がないというもの。けれど鶴屋曰く「人に見てもらうための写真だ からね! インパクトがあったほうがいいっさ!」ということらしい。 確かに、自分の姿は置いておくとして、鶴屋のウェディングドレス姿は筆舌に尽くしが たく、いつもの爛漫な笑顔とは違って自分の隣で慎ましやかに微笑む姿は、心奪われるも のがあった。 それは否定しようもない。 店頭に飾られていれば、それを見た女性が「自分もこう撮ってもらいたい」と思って足 を運びそうでもある。 けれど、鶴屋の本当の狙いはそこではなさそうだ。 「本当は彼と涼宮さんであの衣装を着せたかったのでしょう? けれどさすがに、ウェデ ィングドレスは抵抗があったみたいですね」 「あっはっは! さっすが古泉くん、勘がいいねぇ。いやいや、おねーさん感心しちゃう よっ! 古泉くんもバッチリ似合ってたねっ!」 快活に笑い、隠すつもりはないのか、あっけらかんと白状した。 「恐れ入ります。ですが、次に同じことをするのであれば、衣装についてはサプライズで 仕込む方が妥当でしょう。何せ涼宮さんはああ見えて、こと恋愛に関しては奥手の様子で すので」 「なるほどー。さっすがSOS団の副団長だねっ! ハルにゃんのことをよくわかってる っさ! でも古泉くん、ひとつだけ忘れてないかい?」 一樹よりも背が低い鶴屋は、覗き込むように見つめてくる。その表情にはいつもの笑顔 はなく、どこかしら真面目な雰囲気さえ漂っていた。 「はて、何のことでしょう?」 「わからない?」 「ええ、思い至るアテがありません」 「しょうがないなぁ、ヒントをあげちゃうよっ」 コホン、とひとつ咳払い。 「どうしてキョンくんとハルにゃんのために用意した衣装が、キミとあたしのサイズにピ ッタリだったのかな?」 言われて一樹は言葉を失った。確かにその通りだ。自分とキョン、それに鶴屋とハルヒ は衣装を流用できるほど体格が同じというわけではない。むしろ、あの衣装は自分と鶴屋 のために用意されていたようにさえ、思えてくる。 「それは……どういう……」 「まっ、深く考えなくていいっさ!」 にかっと歯を見せて笑う鶴屋は、そのまま背を向けて歩き出した。 その後ろ姿を前に、一樹は肩をすくめる。今なら、キョンがハルヒの行動に対していつ も呟いている口癖が、自然とこぼれる理由もわかるというもの。 一樹は合宿での殺人劇のシナリオを考えるより難しい命題を前に、頭を抱えた。 ──どうすれば、部室に戻らずに鶴屋をお茶に誘えるか…… キョンから、ハルヒに対する言い訳のひとつでも学んでおけばよかったと、少なからず 後悔した。 〆
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「ここはカメラ屋……というよりも写真屋ですか」 文芸部部室から半ば強引に連れ出された古泉一樹がたどり着いた場所は、大手のカメラ メーカーが運営を委託しているような店とは違い、建物の造りも古風な個人経営の写真屋 だった。 店先に飾られた人物写真や風景写真は、店主の写真好きが高じて店を開いた……そんな 雰囲気が漂っている。今ではひとつの街に一件あるかないかというその場所に彼を連れて 来たのは──SOS団のメンバーではなかった。 「さっすが古泉くんっ! いやぁ~、物わかりがよくて助かるよっ!」 はっはっはーっと笑いながら、こんなところまで古泉を連れてきた張本人の鶴屋は、い つものハイテンションを維持したまま、「じゃっ、行くよーっ」と宣言して写真屋の中に 突撃していった。 鶴屋がこの店にどんな用事があるのか、いまだに分からない。そもそもどうして自分が ここへ連れてこられたのかさえも、疑問が残る。 一樹は、ここへたどり着く経緯を改めて思い返していた。 事の起こりは放課後の部室だった。 その日はハルヒが厄介事を持ち込むわけでもなく、いつものようにみくるがメイド姿で 給仕をし、有希が部室の傍らで百科事典のような本を読み、一樹とキョンがボードゲーム に興じている……騒がしさよりも、珍しく静寂に包まれた平和な風景が広がっていた。 そこへ、鶴屋がハルヒ顔負けの勢いでやってきたのだ。 「やっほー! みんな元気してるかなっ?」 静寂を打ち破る勢いに、全員の視線がドアに向けられた。何事にも動じない有希の視線 も向いたほどだから、それ以上言及する必要もないだろう。 「ややっ、今日はなんか平和だねぇ~。あ、みくる~、お茶はいいよっ! すぐ出ちゃう からっさ。ところでハルにゃん、ちょっといいにょろ?」 「え、あたし? なになに、どうしたの?」 「ふっふーん、実はさ……」 ハルヒだけへの内緒話なのか、鶴屋は顔を近づけてなにやら耳打ちしている。その様は、 どこかの大国の首脳陣が敵国に攻め込む算段をしているように見えて、キョンはイヤな予 感がした。 「へぇ、それって面白そうね」 ハルヒの顔に、100ワット笑顔が広がる。いや、まだ50ワットくらいか。 「でっしょーっ! でねでね……」 さらに耳打ちをする鶴屋だが、ハルヒの顔から徐々に笑顔が消えていった。変わりに、 赤信号もかくやというほど真っ赤になっている。 「えっ!? だめ、それはダメ! あたしパスするわ!」 「えぇ~っ、どうしてもダメにょろ?」 「鶴屋さんの頼みでも、それだけは勘弁して!」 そこでどうしてオレを見る、とキョンは思ったが、あえて気づかないことにした。触ら ぬ神に祟りなしだ。 「ん~……それじゃ」 ハルヒの傍らで、悪の作戦参謀が誰に指令を言い渡そうかと考えているように室内をぐ るりと見渡してから、鶴屋の指先が1人を指した。 「古泉くん、ちょっと付き合ってくれっかなっ!?」 「え、僕ですか?」 まさか自分が名指しで指名されるとは思っていなかったのか、一樹が笑顔ではなく驚き の表情を浮かべている。それはキョンにしても意外だった。こういうシチュエーションで 貧乏くじを引くのは、どう考えてもキョンの役割だ。 「そそっ! なぁ~に、悪いようにはしないっさー。ハルにゃん、古泉くん借りちゃって いいよねっ?」 「えぇー……」 コンピ研へ有希のレンタルも渋ったように、SOS団の身柄さえも自分の所有物的意識 が少なからずあるハルヒは、最初こそ難色を示したが、鶴屋の「だったらハルにゃん、や っぱやってくれっかいっ?」と笑顔で言われて、渋々首を縦に振った。 「さっ、行こう行こう!」 手を掴まれ、有無を言わさぬ勢いで一樹はSOS団アジトから連れ出された。背後から、 「土曜日の市内パトロールのミーティングするから必ず帰ってきなさいよ!」というハル ヒの声を聞きながら。 やはり、どこをどう思い返しても写真屋へ連れてこられた理由が語られていない。もし かすると鶴屋は、ハルヒに話をした時点で全員に意味が通っていると思いこんでいるので は? とさえ思う。 「やあっ! ご主人、お待たせ様っ!」 客足が途絶えている店内に、鶴屋のハツラツとした声が響く。カウンターでカメラの整 備をしていた店主らしき老紳士が、その姿を見て目尻を下げていた。 「やあ、いらっしゃい。でも、本当にお願いしていいのかい?」 「モチのロンさぁっ! そいじゃ、ちょっくら衣装に着替えてくるよっ!」 鶴屋に連れられて、店内奥の撮影室のさらに奥にある衣装部屋らしきところまで連れて こられたときになってようやく、一樹は口を開くことができた。 「そろそろ説明していただけると有り難いのですが」 「うんっ!? あっ、ごめんごめん。そういやなぁ~んも言ってなかったねっ!」 衣装部屋に押し込められる直前で、鶴屋も説明不足だったことに気づいてくれた。 「実はここ、あっしがちびっ子だったころからお世話になってるとこなんだよねっ! 七 五三や入学式とかに写真取ってもらってるっさ。んでも、最近デジカメや携帯カメラとか の普及で、写真取りに来る人って少ないだろっ? んでんで、せめてもの恩返しに、店頭 ディスプレイの写真モデルをやったるさーっ! ってことになったにょろよ」 それでこの写真屋に来た理由はわかった。けれど、自分が連れてこられた理由が今ひと つ把握できない。 「1人よりも2人のほうが、目を引くってもんさっ! ほんとはハルにゃんとキョンくん に頼もうとも思ったんだけどね、断られちゃったよっ! ささっ、無駄話もなんだから、 ちゃちゃーっと着替えて着替えてっ!」 説明はここまでっ! と言いたげに話を切り上げて、一樹は衣装部屋に押し込まれた。 そして、そこにある純白のタキシードを見て、ハルヒが真っ赤になって断った理由をすぐ に理解した。 「さすがにあの衣装はやり過ぎの感もしますね」 つつがなく店頭ディスプレイ用の写真撮影が終わった帰り道、一樹は苦笑に近い笑顔を 浮かべていた。 よりにもよって、鶴屋がチョイスした衣装はウェディングドレスだったものだから、苦 笑を浮かべるのも仕方がないというもの。けれど鶴屋曰く「人に見てもらうための写真だ からね! インパクトがあったほうがいいっさ!」ということらしい。 確かに、自分の姿は置いておくとして、鶴屋のウェディングドレス姿は筆舌に尽くしが たく、いつもの爛漫な笑顔とは違って自分の隣で慎ましやかに微笑む姿は、心奪われるも のがあった。 それは否定しようもない。 店頭に飾られていれば、それを見た女性が「自分もこう撮ってもらいたい」と思って足 を運びそうでもある。 けれど、鶴屋の本当の狙いはそこではなさそうだ。 「本当は彼と涼宮さんであの衣装を着せたかったのでしょう? けれどさすがに、ウェデ ィングドレスは抵抗があったみたいですね」 「あっはっは! さっすが古泉くん、勘がいいねぇ。いやいや、おねーさん感心しちゃう よっ! 古泉くんもバッチリ似合ってたねっ!」 快活に笑い、隠すつもりはないのか、あっけらかんと白状した。 「恐れ入ります。ですが、次に同じことをするのであれば、衣装についてはサプライズで 仕込む方が妥当でしょう。何せ涼宮さんはああ見えて、こと恋愛に関しては奥手の様子で すので」 「なるほどー。さっすがSOS団の副団長だねっ! ハルにゃんのことをよくわかってる っさ! でも古泉くん、ひとつだけ忘れてないかい?」 一樹よりも背が低い鶴屋は、覗き込むように見つめてくる。その表情にはいつもの笑顔 はなく、どこかしら真面目な雰囲気さえ漂っていた。 「はて、何のことでしょう?」 「わからない?」 「ええ、思い至るアテがありません」 「しょうがないなぁ、ヒントをあげちゃうよっ」 コホン、とひとつ咳払い。 「どうしてキョンくんとハルにゃんのために用意した衣装が、キミとあたしのサイズにピ ッタリだったのかな?」 言われて一樹は言葉を失った。確かにその通りだ。自分とキョン、それに鶴屋とハルヒ は衣装を流用できるほど体格が同じというわけではない。むしろ、あの衣装は自分と鶴屋 のために用意されていたようにさえ、思えてくる。 「それは……どういう……」 「まっ、深く考えなくていいっさ!」 にかっと歯を見せて笑う鶴屋は、そのまま背を向けて歩き出した。 その後ろ姿を前に、一樹は肩をすくめる。今なら、キョンがハルヒの行動に対していつ も呟いている口癖が、自然とこぼれる理由もわかるというもの。 一樹は合宿での殺人劇のシナリオを考えるより難しい命題を前に、頭を抱えた。 ──どうすれば、部室に戻らずに鶴屋をお茶に誘えるか…… キョンから、ハルヒに対する言い訳のひとつでも学んでおけばよかったと、少なからず 後悔した。 〆
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『ハルヒの想い』 放課後 いつも通りSOS団部員は部室へ向かった ハルヒ「よし!みんな集まったわね!会議を始めるわ」 当然この日が会議の日など決まっていない ハルヒ「いい?明日は休日なんだから町に行くわよ!」 キョン「なにしに行くんだ?」 予想はついてるが聞いてみる ハルヒ「決まってんでしょうが、明日は思いっきり遊ぶのよ」 え・・・ 宇宙人や未来人探索ではないのか? キョン「宇宙人や・・・」 ここで口を止めた 余計なこと言わない方がいいな。 古泉は俺を見ている。 いつみても憎いほど笑ってやがる 朝比奈さんは少し残念そうな顔をしていた 未来から来たから起きる事はわかってるのか? 長門は読書。 ハルヒ「・・・・とにかく明日は絶対遅刻しないように 特にキョンっ!あんたはいつも遅刻するんだから気をつけなさいよ」 …時間は遅れてないんだがな ハルヒの解散と言う声と共に俺たちは帰宅した。 翌日 やはり俺が一番最後だった。 俺以外超人揃いだから俺が最後になることは覚悟済みである。 ハルヒ「遅い!罰金!」 キョン「はいはい、飯奢るよ」 レストランに行き今回は集団で出歩く事に決めた。 ハルヒ「こうやって一同で行くのも悪くないわね」 そうやってハルヒが先頭を仕切っていた 俺は尋ねてみた キョン「なぁハルヒ、どこまで行くんだ?」 ハルヒ「そんなことどうでもいいでしょ!あんた達はあたしについてくればいいのよ」 まぁ大体こんな事答えるのは予想出来てた。 ハルヒ「着いたわ!」 ここは・・・遊園地・・みたいだな 古泉はニヤニヤしている。 今日ばかりは楽しめそうだな キョン「ここも一同で行くのか?」 ハルヒ「当然でしょ?一々そんなこと聞かなくてもわかるでしょう。まったく 機転が利かないわね」 その後ジェットコースターに乗ることにした。 朝比奈さんは可愛らしく首を横に振っていたが 当然ハルヒは無視。 古泉は得意げに「僕も好きなんですよ」とか言ってやがる 俺は好きでも苦手でもなかったのでどうでもよかった。 長門はボンヤリしている。 ハルヒ「古泉君!キョン!みくるちゃんと有希!さっさと来なさーい」 周りの客の目を気にしてないみたいだ。 朝比奈さんは嫌々乗らされたが、それはそれで可愛いな。 古泉は楽しみな顔で乗り込んだ。 長門は何を考えてるか全くわからないな。 コースターが上昇・・・・・そして落下! すごい迫力であんまり覚えてないが カーブの際に古泉が「マッガーレ」と言ったのは覚えている。 朝比奈さんは気絶したみたいだ。 長門は朝比奈さんが目覚めるまで付いていると言っていた。 俺と古泉とハルヒは三人でお化け屋敷に行った。 中は真っ暗だ。 お化けが出てくる光のみで道を探っていた 意外にも俺の袖をハルヒがつかんでいる キョン「なんだお前こうゆうの怖いのか?」 俺は笑ってしまった ハルヒ「・・・・バカ」 古泉は俺を睨んだかと思うと笑っていた 古泉がはぐれた。 二人きり・・・・ かと思ったら古泉は俺の真後ろを歩いていた事に気づいた。 俺は古泉を見ていた 古泉「なんです?まさかあなたも怖いのですか?」 キョン「んなことねぇよ」 と言うと古泉は口元で笑った。 無事屋敷が終わり戻ったベンチでは長門と朝比奈さんが待っていてくれていた。 ハルヒはため息をついて俺の袖を話して走っていった。 ハルヒ「おーいみくるちゃん!有希!」 朝比奈「どうでした?」 おろおろ聞いていた ハルヒ「う~んまぁまぁだったわ」 朝比奈「そうですか」 後にいくつか乗り物に乗り帰宅することにした。 ハルヒ「よし!十分遊んだわね!そろそろ帰るわよ!」 俺が帰り支度していると ハルヒ「キョン!遅い!モタモタしていないでさっさと帰るわよ!」 見てみるとたしかに俺だけ遅れていた。 キョン「悪い、悪い。」 ハルヒ「ったくもう」 と俺がハルヒの方に走った瞬間突然めまいが起き、 その場で倒れた。 …………ここは・・・・?・・・・ 目が覚めると古泉が居た。 古泉「おや?・・・起きたようですね」 キョン「・・・・・ここはどこだ?」 古泉「ここは病院ですよ。あなたは昨日倒れ、今日まで寝てました」 キョン「・・・・・そうか」 古泉が何かに気づいたようにわざとらしく「おや?」とつぶやき 「僕はこれで失礼します」と言い病室を出た。 横に誰か立っている キョン「誰だ?」 暗くてあまりわからなかったが 影を良く見たら一瞬で分かった ハルヒだ。 ハルヒ「やっと起きたようね!バカ!団員が団長に心配させるなんて 許されると思ってんの?」 キョン「ハハ・・・悪い悪い。」 俺は気づいた。 あのハルヒが涙目になっている事に。 ハルヒ「バカ・・・・本当に心配したんだから・・・・」 キョン「・・・・ありがとな・・・・」 俺は心から思った ハルヒ「・・・・・ねぇ、キョン・・グス」 キョン「何だ?」 ハルヒ「心配させたんだからお願い一つ聞いてよ・・・グス」 まず泣くの止めてくれ と思ったが お願いとはなんだ・・・? キョン「お願いとはなんだ?それともう泣くな」 ハルヒは涙を拭くと俺にこういった ハルヒ「今日あんたが居ない一日を体験してわかったの」 なにが分かったんだろう ハルヒ「あたしは・・・・あんたが居なくちゃ駄目なんだって事を・・・」 俺は黙って聞いていた ハルヒ「あたしはあんたの事を・・・・好き」 俺は時が止まったように感じた キョン「・・・・・それは本当か?」 無言でハルヒがうなずく 自然と俺も涙を流していた。 キョン「・・・ハルヒ・・・・俺も愛してるぞ・・」 ハルヒは再び涙を流していた 俺は黙ってキスしてやった。 fin
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『ハルヒの想い』 放課後 いつも通りSOS団部員は部室へ向かった ハルヒ「よし!みんな集まったわね!会議を始めるわ」 当然この日が会議の日など決まっていない ハルヒ「いい?明日は休日なんだから町に行くわよ!」 キョン「なにしに行くんだ?」 予想はついてるが聞いてみる ハルヒ「決まってんでしょうが、明日は思いっきり遊ぶのよ」 え・・・ 宇宙人や未来人探索ではないのか? キョン「宇宙人や・・・」 ここで口を止めた 余計なこと言わない方がいいな。 古泉は俺を見ている。 いつみても憎いほど笑ってやがる 朝比奈さんは少し残念そうな顔をしていた 未来から来たから起きる事はわかってるのか? 長門は読書。 ハルヒ「・・・・とにかく明日は絶対遅刻しないように 特にキョンっ!あんたはいつも遅刻するんだから気をつけなさいよ」 …時間は遅れてないんだがな ハルヒの解散と言う声と共に俺たちは帰宅した。 翌日 やはり俺が一番最後だった。 俺以外超人揃いだから俺が最後になることは覚悟済みである。 ハルヒ「遅い!罰金!」 キョン「はいはい、飯奢るよ」 レストランに行き今回は集団で出歩く事に決めた。 ハルヒ「こうやって一同で行くのも悪くないわね」 そうやってハルヒが先頭を仕切っていた 俺は尋ねてみた キョン「なぁハルヒ、どこまで行くんだ?」 ハルヒ「そんなことどうでもいいでしょ!あんた達はあたしについてくればいいのよ」 まぁ大体こんな事答えるのは予想出来てた。 ハルヒ「着いたわ!」 ここは・・・遊園地・・みたいだな 古泉はニヤニヤしている。 今日ばかりは楽しめそうだな キョン「ここも一同で行くのか?」 ハルヒ「当然でしょ?一々そんなこと聞かなくてもわかるでしょう。まったく 機転が利かないわね」 その後ジェットコースターに乗ることにした。 朝比奈さんは可愛らしく首を横に振っていたが 当然ハルヒは無視。 古泉は得意げに「僕も好きなんですよ」とか言ってやがる 俺は好きでも苦手でもなかったのでどうでもよかった。 長門はボンヤリしている。 ハルヒ「古泉君!キョン!みくるちゃんと有希!さっさと来なさーい」 周りの客の目を気にしてないみたいだ。 朝比奈さんは嫌々乗らされたが、それはそれで可愛いな。 古泉は楽しみな顔で乗り込んだ。 長門は何を考えてるか全くわからないな。 コースターが上昇・・・・・そして落下! すごい迫力であんまり覚えてないが カーブの際に古泉が「マッガーレ」と言ったのは覚えている。 朝比奈さんは気絶したみたいだ。 長門は朝比奈さんが目覚めるまで付いていると言っていた。 俺と古泉とハルヒは三人でお化け屋敷に行った。 中は真っ暗だ。 お化けが出てくる光のみで道を探っていた 意外にも俺の袖をハルヒがつかんでいる キョン「なんだお前こうゆうの怖いのか?」 俺は笑ってしまった ハルヒ「・・・・バカ」 古泉は俺を睨んだかと思うと笑っていた 古泉がはぐれた。 二人きり・・・・ かと思ったら古泉は俺の真後ろを歩いていた事に気づいた。 俺は古泉を見ていた 古泉「なんです?まさかあなたも怖いのですか?」 キョン「んなことねぇよ」 と言うと古泉は口元で笑った。 無事屋敷が終わり戻ったベンチでは長門と朝比奈さんが待っていてくれていた。 ハルヒはため息をついて俺の袖を話して走っていった。 ハルヒ「おーいみくるちゃん!有希!」 朝比奈「どうでした?」 おろおろ聞いていた ハルヒ「う~んまぁまぁだったわ」 朝比奈「そうですか」 後にいくつか乗り物に乗り帰宅することにした。 ハルヒ「よし!十分遊んだわね!そろそろ帰るわよ!」 俺が帰り支度していると ハルヒ「キョン!遅い!モタモタしていないでさっさと帰るわよ!」 見てみるとたしかに俺だけ遅れていた。 キョン「悪い、悪い。」 ハルヒ「ったくもう」 と俺がハルヒの方に走った瞬間突然めまいが起き、 その場で倒れた。 …………ここは・・・・?・・・・ 目が覚めると古泉が居た。 古泉「おや?・・・起きたようですね」 キョン「・・・・・ここはどこだ?」 古泉「ここは病院ですよ。あなたは昨日倒れ、今日まで寝てました」 キョン「・・・・・そうか」 古泉が何かに気づいたようにわざとらしく「おや?」とつぶやき 「僕はこれで失礼します」と言い病室を出た。 横に誰か立っている キョン「誰だ?」 暗くてあまりわからなかったが 影を良く見たら一瞬で分かった ハルヒだ。 ハルヒ「やっと起きたようね!バカ!団員が団長に心配させるなんて 許されると思ってんの?」 キョン「ハハ・・・悪い悪い。」 俺は気づいた。 あのハルヒが涙目になっている事に。 ハルヒ「バカ・・・・本当に心配したんだから・・・・」 キョン「・・・・ありがとな・・・・」 俺は心から思った ハルヒ「・・・・・ねぇ、キョン・・グス」 キョン「何だ?」 ハルヒ「心配させたんだからお願い一つ聞いてよ・・・グス」 まず泣くの止めてくれ と思ったが お願いとはなんだ・・・? キョン「お願いとはなんだ?それともう泣くな」 ハルヒは涙を拭くと俺にこういった ハルヒ「今日あんたが居ない一日を体験してわかったの」 なにが分かったんだろう ハルヒ「あたしは・・・・あんたが居なくちゃ駄目なんだって事を・・・」 俺は黙って聞いていた ハルヒ「あたしはあんたの事を・・・・好き」 俺は時が止まったように感じた キョン「・・・・・それは本当か?」 無言でハルヒがうなずく 自然と俺も涙を流していた。 キョン「・・・ハルヒ・・・・俺も愛してるぞ・・」 ハルヒは再び涙を流していた 俺は黙ってキスしてやった。 fin
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姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』『みくるの湯』もあります。 ====== 『ハルヒの湯』 「何よ、ホントに当たり入っているの? 全部はずればっかりじゃないでしょうね!」 商店街の福引のガラポンのハンドルを無意味に力いっぱい握り締めたハルヒは、苦笑いをするしかない係りのおっちゃんに文句を垂れている。 「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。まだ、特賞も一等賞も出てないから、安心しな」 「ふん、ホントかしら」 そのとき、コロンと出た玉は、また白、つまり今度もはずれだった。 「ほらーー」 「ほい、またティッシュ。あと一回だよ」 ハルヒ連れられた俺たちSOS団の面々は、映画の撮影でお世話になった商店街の大売出し協賛の福引コーナーに来ている。どこで手に入れたのかはあえて聞かないようにしているが、ハルヒは十枚もの福引券を持って、ガラポンに戦いを臨み、そして九連敗中だった。 特賞は五十インチの薄型テレビ、一等は温泉・カニツアーのペア宿泊券が当たるらしいが、今のところは末等のティッシュの山を築くのみだった。 「もういいわ、最後の一回、あんた引きなさい」 「お、俺?」 いきなり俺を指名するなよ。どうせ俺が引いたところではずれしか出ないだろう。 「いやだよ、お前が最後までやれよ」 「なによ、栄えあるトリの権利をあんたに譲ってあげようって言ってるんだから、謹んで受けなさい」 ここで最後に俺がはずれを引いても、ハルヒがはずれを引いても、結局俺の責任にされて、いつもの茶店で奢らされそうな気配がぷんぷん漂っている。ふん、それなら素直にはずれを引いてやるぜ、ティッシュ、山分けしろよな。 俺は、無造作にハンドルを掴むと、これまた無造作にぐるりとまわして、ポトリと転がり出てきた玉の色を確認した。 赤――。 一瞬の静寂がその場を包んだ後、おっちゃんは手に持った鐘を派手に打ち鳴らして叫んだ。 「いっ、一等賞―――」 賞品となった温泉地は結構有名なところだった。 こじんまりした町の真ん中を流れる小さな川の両岸に、古風な温泉旅館が軒を連ねている。何軒かは改築されて、今風のホテルになっているものもあるが、お おむね古の佇まいを残しており、川のほとりの柳並木の遊歩道と、所々にかけられている石造りの橋とあいまって、町全体から古風な温泉街の雰囲気と温泉饅頭 を蒸している湯気が漂っている。 俺が当てたペア宿泊の権利なんだから是非朝比奈さんと二人で、なんて思いが通じることは当然なかった。だからといって、俺とハルヒがペアで行ける訳でもない。 ハルヒは残り三人分の参加に関する諸々の交渉については古泉に一任し、古泉もその要求を否定することはなかった。いつもすみませんね、機関のみなさん。 そんなわけで、SOS団は五人揃って、この風情あふれる温泉街のカニ料理旅館に来ているわけだ。 ひとまず宿にチェックインした後、俺たちは浴衣と丹前に着替えて外湯めぐりスタンプラリーに出発ことになった。 「七つある外湯を全部回ってスタンプを集めると記念品がもらえるの。みんな、夕食前の腹ごなしにがんばって回るわよ!」 朝比奈さんの手を引っ張って先頭を行くハルヒに続いて、俺たちは湯けむり溢れる温泉街を歩いていた。街の中では、俺達と同じように外湯巡りを楽しんでいるらしい浴衣姿の温泉客が夕暮れ間近の川沿いの散策を楽しんでいる。 「どうせ、男女で一緒には回れないから、ここからは自由行動よ。じゃあね、キョン」 少し先で振り返ったハルヒは、朝比奈さんの手をとったまま、右手の建物の中に消えていった。そのあとを無言の宇宙人は振り返ることないまま続いていった。 当然のように、男チームと女チームに分かれて行動することになるわけで、結局、俺は古泉と行動を共にするだけだ。くそ面白くもない。 「やれやれ」 「おや、今日はもう『やれやれ』が登場しましたね」 「ふん」 「我々はもう少しむこうの外湯から攻めることにしましょうか」 「どうでもいいよ」 「つれないですね。温泉はお嫌いですか?」 隣の古泉はやや大げさに驚くような仕草を見せながら、 「僕は好きですよ。この典型的な温泉地の雰囲気、いいじゃないですか。気楽に楽しみましょう」 「うん、まぁ、それはそうだな」 温泉は好きだぜ、もちろんだ。これがお前と二人ではなくて、朝比奈さんと一緒であれば俺のテンションはウナギ上りなんだがな。何が悲しくて野郎二人だけで、温泉のはしごをしないといけないんだよ。 とりあえず、古泉の言うようにこの街の雰囲気は堪能させてもらおうか。 そうして三つめの外湯までは古泉と一緒に回ったのだが、ぶっちゃけ古泉と男二人ではモチベーションは下がる一方なので、より気楽に単独行動しようぜ、ということで話がまとまった。 「では、僕はあっちの外湯に行ってみます。また、後ほど」 「おう、またな」 古泉と分かれた俺が次の外湯を目指して遊歩道を歩いていると、横の通りから飛び出してきた浴衣の固まりとぶつかりそうになった。 「ちょ、ちょっとー、ぼんやり歩いているから誰かと思ったらキョンじゃない。もう、危ないじゃないのよ!」 ハルヒだった。どこに行っても鉄砲玉な女だ。 「飛び出してきたのはそっちだぜ。一時停止違反だ」 俺はハルヒの衝突を物理的にも言葉的にも交わしながら、 「ん、どうした、お前一人なのか? 朝比奈さんや長門はどうした?」 えっ、という感じで不意を突かれたハルヒは、体勢を立て直すと、 「みくるちゃん、温泉に興奮しちゃってのぼせ気味になったから、有希が旅館まで連れて行ってくれたわ。有希も本が読みたいらしいしね。湯船の中では読めないから」 そう言ってハルヒは俺のことをジロリと見上げて言葉を続けた。 「そう言うあんたも一人? 古泉くんはどうしたの」 「いつまでも男二人でつるんでいてもつまらんからな、別行動にしたんだ」 「あ、そ」 そっけなく返事したハルヒは、浴衣の帯あたりに両手を当てて、 「幾つ回ったの? コンプリートした?」 俺は手に持ったスタンプラリーの用紙に目を落とすと、 「いや、まだだ、あと四つだ」 「なによー、まだ三つしか回ってないの? あたしはあと二つよ」 なるほど、その勢いで温泉をはしごしたら、朝比奈さんものぼせるはずだな。 「でも、みくるちゃんじゃないけど、さすがにちょっと疲れたわね」 そりゃそうだろうさ。 「ねぇ、キョン、冷たい飲み物買って来てよ。あたしはあそこで待ってるからさ」 ハルヒが指差す先は、温泉街を貫いて流れるせせらぎに架けられた橋の上に設置されたベンチだった。 まぁ、確かに俺も、温泉で火照った体を冷やす飲み物が欲しいと持っていたところだ。仕方ないがついでに何か買ってやるか。 「わかったよ」 「ノンシュガーのすっきり系でお願いね」 「へいへい」 とりあえずゼロカロリーの炭酸飲料を二本買って指定された橋の上に戻ってみると、読書中の長門の様にちょこんとベンチに腰を下ろしたハルヒは、右手で軽く髪をかき上げながら、風に揺れている柳の枝葉を見つめていた。 立て続けに五つの温泉に入ったおかげで、少ししっとりした髪にわずかに桜色に染まった頬、浴衣のすそに覗く白い素足の草履姿も――、 ううむ、いい感じに絵になっている。 趣の有る風景をバックにして、ただじっと座っているハルヒは、やっぱりかなりのレベルの美人であることは確かだな。性格的なことさえ考慮する必要さえなければ……。 そんなハルヒの姿に一瞬見とれた後、俺はハルヒの隣に腰を下ろした。 「ほれ、買ってきたぞ」 「うん、ありがと」 プシュっとプルタブを起こし、乾杯、と缶をコツンと合わせて、よく冷えたコーラの喉越しを味わった。 うまい! 「ぷふぁー、おいしいわねー」 俺と同じ感想を口にしているハルヒは、さらに、 「やっぱ、こういう時はビールがおすすめなのかもね」 なんてことまで言ってるし。確かにその点においても同感だけどな。 ごくごくっと缶の半分ほどを一気に空けて、ほっと一息をつくことができた。隣のハルヒも大きく息を吐くと、手に持った缶をぼんやり見つめている。 「どうした、やっぱり疲れたのか? 温泉に入って疲れているのは本末転倒だな。だいたい入浴するだけでも体力は結構消耗するらしいから」 「うん、そうね。さすがに五つも連続で入ると、ね」 朝比奈さんは三つ目で脱落したらしい。長門ならまったく平気のはずだが、今回は朝比奈さんにかこつけてうまく逃げたようだ。こういうのも自律進化の一つなのだろうかね。 「スタンプラリーなら、晩飯食ってからでも間に合うだろ。今、あわてて全部回る必要はないと思うぜ」 「そうするわ。古泉くんにもとりあえず中断って連絡入れておいてね」 「わかったよ」 「でも、おかげでいい感じにお腹も減ってきたし、次はカニのフルコース巡りね」 振り返ったハルヒは、力強く肯いた。 残りのコーラを飲み干す頃には、西の空を染める赤がさらに色濃くなっていった。ゆっくり流れる風も、わずかに冷たさを増したようだ。 俺は、うーん、と夕焼け空に向かって両手を突き上げて背筋を伸ばしながら、搾り出すように率直な感想を口にした。 「やっぱ、温泉はいいよな。毎日じゃなくてもいいが、週に一回ぐらいは、のんびりと温泉にはいれるような生活をしてみたいもんだ」 伸ばしていた両手をだらんと下ろして、隣のハルヒに視線を向けると、ハルヒは少しあきれたような表情で俺のことを見つめていた。が、すぐにその大きな瞳の中に怪しげな輝きが煌き始めたのがわかった。 しまった、俺は妙なトリガを引いてしまったのか? 「そうね、帰ったら温泉を掘るわよ」 「な、なんだって?」 「学校に温泉を掘るの。だいたいあの周りは名水で有名な土地柄だし、そもそも日本中どこでも掘れば温泉は出るはずだしね。そうすれば毎日でも温泉に入れるわ!」 今にも浴衣の袖を捲り上げて襷をかけて、スコップを持って走っていきそうな勢いでベンチから立ち上がったハルヒは、空いた口がふさがらないまま座っているだけの俺を見下ろすと、 「なにアホ面してんのよ。早速、古泉くんに頼んで、ボーリング道具を手配できないか探してもらうわよ」 「待て待て待て待て!」 そんなことを古泉に話したら、本当に温泉採掘用のボーリング道具を積んだトラックで、新川さんと森さんが学校にやってくるに違いない。 「バカな事はするなって。勝手に学校に温泉なんか掘るやつがあるか」 「いいじゃない、それぐらい。別に減るもんじゃないし」 減るんだよ、俺の神経が……。 「さ、行くわよ!」 「おいおい、だからちょっと待てって。別に今ここで動かなくても……、まずは夕食のカニを堪能してだな……」 ハルヒは俺の腕を引っつかむと馬鹿力で柳並木の遊歩道をずんずん進んでいく。 俺は、どうやってハルヒを止めようかと思案しながら、それでも少しぐらいは学校に温泉が出ることも期待しつつ、ぽつぽつと街灯に明かりが燈りだした温泉街を引きづられるように駆けて行くしかなかった。 遠くない将来、あの文芸部室が『ハルヒの湯』としてオープンする日が来るのかもしれない。 Fin.
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突然だが、そいつは夏の暑い日に襲ってきた。 いつも通り長門の本を閉じる音でSOS団の活動を終了し、みんなが帰り支度を始めた。 実際活動と言っても俺と古泉はオセロをエンドレスで、ハルヒは朝比奈さんをいじくり回し、 長門に限っては一言も喋らずに延々読書をしてただけだが。 「では、僕はお先に失礼します。文化祭のことでクラスの皆さんと話し合わなくてはならないので。」 「あの~、私も話し合いがあるので・・・今日はこれで失礼します。」 「みんな大変ねぇ・・・有希はなにかあるの?」 「・・・話し合い。」 長門ははたして話し合いに参加するのだろうか?何にも言わなそう気がする。 まぁ、暇なクラスはうちだけだろ。何が好きでアンケートなんかに決定したんだか。 「じゃああんたが何か考えれば良かったじゃない。たとえば裸踊りとか。」 誰がそんなもん見に来るか。裸踊りがしたいならハルヒ、お前がやればいい。 「いやよそんなの。第一私がしたらただの変態じゃない。それくらいの事も分からないの?」 あのな、言い出したのはそっちなんだが。まぁいい、さっきのは軽く聞き流して無かった事にしよう。 「そんなこと言ってないで早く出なさいよ。鍵閉めなきゃいけないんだから。」 分かったから大声出すな。鼓膜が破れる。 「分かった分かった。出ればいいんだろでr・・・」 その瞬間くらっときた。たぶん寝不足が原因の一時的な物だろう。焦る事はないな。 「さぁ、とっととで・・・さ・・・」 何だ?耳が聞こえない・・・耳鳴りか・・・ 「ちょ・・・キ・・ン、きいt・・キョン?」 ハルヒが心配そうな顔でこちらを見ている。なんだ?そんなに変な顔になってるのか? 「・・・ぁ・・ハ・・・・ぶ・・・」 声が出ないばかりか視界がぼやけてきやがった。 「k・・・!?」 なぁ、何を言ってるんだハルヒ。もっと聞こえるy・・・・だめだ・・・何も見えない・・・ 目の前が真っ暗だ・・・ ドサッ 「!?ちょっとキョン!?大丈夫!?ねぇキョン、起きて、起きてよキョン!!」 う、う~ん・・・ここはどこだ・・・? 何でこんな場所に・・・ええっと、何がどうなってこうなってるんだ? 確か部室でハルヒと話してて、そしたら目の前が真っ暗になって気づいたらここにいた。こんなもんか、やけに冷静だな俺。 「キョン・・・?気がついた?大丈夫?」 「ああ、何とかな。少しくらっときただけだから大丈夫だ。」 「そう・・・よかった・・・」 あれ?てっきりバカにしてくるんじゃないかと思ってたがその予想とは裏腹に本気で心配してくれていたようだ。 もしかして明日は豪雨や雪や雷三昧なんじゃないだろうか。・・・それは失礼か。 「おやっ?お目覚めですか?」 って古泉!?お前いつからそこにいたんだ!?というか顔が近い、息吹きかけるな気持ち悪い。 「これはこれは、失礼しました。」 まったく・・・こういう事は朝比奈さんか長門にしてほしいもんだ。 ウホよりそっちの方がよっぽど嬉しい。 「涼宮さんからあなたが倒れたと聞いたもので話し合いを放棄して駆けつけたのですよ。 ほら、長門さんも朝比奈さんも。」 お前は駆けつけなくてもいい。話し合いをし続ければよかったのに。 「キョンく~ん、良かったぁ~~あたし、倒れたって聞いたとき・・・グスッ・・・」 朝比奈さんは涙たらたらで最後の方は詰まって聞こえなかった。 心配かけて申し訳ない。 「・・・」 長門はと言うとやはりいつものようにこちらを見つめていた。 でも、少しは心配してくれてるみたいだ。そんなオーラが漂ってるんだが気のせいなのかね。 「軽い熱中症でしょう。少し休んだら良くなりますが念のため病院に行った方がいいでしょうね。」 そうだな。ここは素直に病院に行った方がいいだろう。 「ま、これぐらいでへこたれてたらSOS団の団員なんかつとまらないわ。さっさと病院行って治してきなさいよ。」 さっきの心配顔はどこへやら、眉は怒り口が笑ってるという器用な笑みを浮かべたハルヒがそこにいた。 と言うわけで今俺は病院に向かう真っ最中なのである。 ちなみに、病院なんてものは年に1回行くか行かないかぐらいの公共施設だ。 予約はしてなかったので20分ほど待って診察5分。まったくもって理不尽な気もするんだが。 やれやれ、後は会計をすますだけ・・・ん?なんか聞こえるな。 「○○からお越しの○○○○さん、診察室の方へどうぞ。」 てっきり終わったと思って帰るつもりだったのに。 まぁいい、初診だったから手続きとかなんやらあるんだろうな、きっと。 「どうぞ、そこに腰掛けてください。」 黒縁メガネをつけた何とも真面目そうな医者が着席を勧める。 「あの・・・なにか?」 「大変言いにくいことなのですが・・・ 保護者の方の連絡先教えていただけますか?」 どういうことだ。まさか検査入院か。いや、検査ぐらいだったらまだいい。 本気の入院で長い間病室ぐらしとかいやだぞ。 せめて通院ぐらいならいいんだが。 「何かあったんですか?」 「いや・・・別に。とりあえずご両親とお話しがしたいので。」 当の本人は無視ですか? 「理由がないなら別に両親に話す必要は無いと思うんですが・・・ もしかして通院ですか?それとも入院ですか?」 「・・・いえ、そうではないですけど・・・正直に言いましょう。 あなたは 後一日、もって二日しか生きられません。」 え?ちょ、ちょっと待ってくれ。すまん。なんだって? 「酷な事を言いますが、寿命はあと1~2日です・・・ あなたの病気がここ最近でも稀に見る病気で、現代医学ではもはやどうすることも・・・」 「う・・・うそですよね?そんなこと。だってこんなにぴんぴんしてるんですよ? そんな簡単に死ぬはずがn」 「残念ですが・・・もうその病気は体中の至る所を侵食しています。 本来なら動くのもやっとなはずです・・・」 もう医者の話なんぞ耳に入ってこなかった? 嘘だろ・・・死ぬのか、俺?まだ10数年しか生きてないんだぞ。なんかの間違いだろ・・・ まだしたいことだって沢山ある。端から見れば世界情勢に興味がない一般高校生なんだろうけどな・・・ それに・・・SOS団。あのはちゃめちゃでいつも100Wの神ハルヒ、myスウィートエンジェルである未来人の朝比奈さん、 無口だが一番頼りになる宇宙人の長門、それから・・・・言いたくはないが超能力者古泉。 俺はまだあそこに居たい。あいつらと一緒に遊びたい。わいわいがやがや非日常ストーリーを満喫したい!! もうそんなこともできないのかよ。畜生・・・ 「すいません・・・このことは親にはだまっといてもらえますか? お願いします。」 「・・・」 それ以上医者は何も言わなかった。 その後、家に帰る足取りは重く帰るとすぐに自分の部屋に閉じこもった。 そして泣いた。滝の様に涙があふれベッドは水びたしになった。 嗚咽を漏らしながら、ただただ泣いた。自分の生きるリミットに絶望しながら。 だからこそそこに一筋の希望を見つけようとしながら・・・・ チュンチュン ん・・ふぁ・・・・朝か・・・・ 気づいたら寝てたな俺。やれやれ、ベットの上がびしょぬれだ。 でも、泣いてる場合じゃない。これからやらなきゃいけないことがたくさんあるのさ。 どうせ死ぬんならやり残しのないように死にたいだろ。違うか? そう自分に言い聞かせたものの、学校に続く坂は精神的なものなのかはたまた肉体に限界が近づいてるか、 そんなことはどうでもいいがいつもより長く長く感じられた。まるでフルマラソンだ。 正直横から谷口が沸いてこないことを祈る。チャックにつっこみを入れない日を作ってくれ ようやく自分の教室の前にたどり着いた。・・・ハルヒにはこのことを黙っておこう。 これ以上心配かけさせたくないしな。何気ない顔で教室に入りいつも通りに過ごせばいい。 それでいいんだ・・・それd 「おはようございます。昨日は大変でしたね。」 うおっ、古泉いきなり出てくるな!てか、顔ちかっ!!!離れろ、今すぐに。 「ハハハ、すいません。ちょっとお時間いただけますか?」 なんで朝っぱらからこいつに絡まれなければならんのだ。いけ好かない顔の野郎に。 朝比奈さんと長門なら大歓迎だが。 「で、何があるって言うんだ?単刀直入に頼む。」 「そうしたいのは山々なんですが、ちょっと人目のつくところではね・・・・ 別の場所で話しましょう。」 やれやれ、こんな事をしてる暇はないんだがな。 こうしてあの古泉がビックリ仰天エスパー発言をした場所にやってきた。 「で、話ってのはなんなんだ。くだらない事じゃないだろうな。」 「いえいえ、重要な事ですよ。少なくともSOS団という肩書きを背負ってる人全員にとってはね。」 「・・・言ってみろ。」 「では言わしていただきます・・・ずばり、あなたはもう体が持ちませんね? それも一ヶ月二ヶ月単位じゃない。一~二日が限度のはずです。」 な、何でこいつが知ってるんだ?誰にも言ってないはずだ。どっから情報が・・・ そうか、あそこの病院にも機関への協力者が居るのか。別の病院にいっとけばよかったな・・・ おそらくそうであれば隠し通すことはザルで水をすくうぐらい無駄なことであろう。観念した方がよさそうだ。 「ああ、まったくもってその通りだ。言いたいことはそれだけか?」 「驚かないのですか?僕はもっとあなたが取り乱すと思ってましたが。」 当たり前だ。刺されたり神人とやらに出会ってたりおまけに閉鎖空間に閉じこめられたとなれば こんな事は象にたかる一匹の蟻のようなもんだ。 「なら、本題に入らせていただきます。 この件、長門有希と朝比奈みくるには言わないでもらいたいのです。」 おいこら。ハルヒならともかく朝比奈さんを呼び捨てにするな。 だいたい俺の残り少ない人生だ。どう使ってもかまわんだろう。 「失礼しました。けど忘れないでください。長門さんや朝比奈さんが属している組織にはいろいろな派閥があります。 たとえ彼女ら自身が何もしなくても、彼女らを通じて情報を得た他の・・・たとえば急進派などが 何らかのアクションを起こすことは容易に想像できます。もしかすると本人達が危険にさらされる自体になるかもしれません。」 考えてみればその通りかもしれんな。これ以上SOS団他の団員及び他の人々に迷惑なんかかけたくない。 「すいません、このようなことしか言えなくて。機関は関係無しに僕自身も非常に残念に思いますよ。」 あまりお前には残念に思ってほしくはないがな。 まぁ忠告はありがたくとっておくぜ。たぶん今までで一番役に立った話だろう。 キーンコーンカーンコーン 「予鈴ですか、もうそろそろ退散した方が良さそうですね。それでは。」 そういって古泉は去っていった。やれやれ、俺も教室に上がるか・・・ 授業なんてものはハルヒとの無駄話であっという間に放課後になり 俺は真っ先に文芸部もといSOS団所有の部室へとむかった。 ちなみに寿命のことは一言も言ってない。断じて。 どうせ分かることだ。ハルヒのあの心配そうな顔もみたくないしな。 そんなことを真剣に考えていたがやっぱり俺も男だったようで 朝比奈さんのメイド姿を妄想する比重の方がいつのまにか大きくなっていた。 悲しいな、男って。 コンコン いつも通りノックして入ると部室専用のエンジェル及び水晶玉の目を持った文芸部員がそこにいた。 「あっ、キョン君。もう大丈夫なんですか?」 ええ、あなたの顔を見ると元気百倍ですよ。どんな病気でも治ります。 「うふっ、待っててください。今お茶入れますね。」 その言葉と共に朝比奈さんは台所―――部室に台所があるのはいかがなものであろう―――に向かっていった。 ・・・この姿を見るのも今日で最後なんだろうな。畜生 いつの間にか俺の目からは涙が流れていた。涙もろくなったもんだなぁ、おい。 ところで長門、その透き通った目でこちらを見るのはやめてくれ。ほんとで泣きたくなっちまうから。 お前にはさんざん世話になりっぱなしだから迷惑かけたくないんだ。頼む・・・ 「はぁい、お茶はいりましたy・・・キョン君目が赤いけど大丈夫?」 「大丈夫ですよ、ただ目にゴミが入っただけです。」 いかんいかん、このままではばれるのも時間の問題だ。早く来いハルヒよ。 バンッ 「いやーごめんごめん、岡部に絡まれちゃってさぁ。あの先生、熱いのはいいけど暑苦しいのよねぇ。 もうちょっと影を薄くしたらいいのよ。ふ○わみたいに。」 来た。しかも悪口を言いながら。失礼極まりないだろ。 「うるさいわね。私がふか○っていったら○かわなのよ。それ以外の何者でもないが。」 すまん、ハルヒ。日本語でおkだ。 「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。今日はなにしようかし・・・ってキョン、あんた目が赤いわよ。」 痛いとこついてきやがった。何でこう言うときに敏感なんだよ。 「いや、ゴミが入ってただけだ。気にするほどでもない。」 「ダメよそんなの。早く処置しなきゃ!」 そんなこと言ったって部活はどうするんだ。途中退場なんてしたかないね。 「むぅ・・・分かったわ。今日の部活は無し!キョン、早く病院に行きましょ。」 おいおい、何でお前までついてくるんだ。 「だってこの間みたいに倒れたら大変でしょ。だから私が・・・ってなんでこんなこと言わせるのよ。 いいからとっとと来なさいよ。」 やれやれ。まぁ話す場所ができたからよしとするか・・・ 「じゃあ有希、みくるちゃん、キョンを病院まで連れて行くから。」 「あ・・・はぁい。お気を付けて。」 「・・・」 そういうとハルヒと俺は部室から出て行った。 というかハルヒに引きずられながら。 これで本当にこの部室に足を踏み入れる事もないだろう。じゃあな、SOS団・・・ そして運命の時間がやってきた。そいつはハルヒと二人っきりになった今まさにこの時である。 「なぁハルヒ、病院に行くまでに話したいことがあるんだ。別にたいした事じゃないから 歩きながらでいい。」 「ふぅん、別にいいけど。」 「ならいうぞ・・・もし好きな人が後余命一日だ、何て時お前ならどうする?」 「なっ、い、いきなり何言うのよ!!バカキョン! ・・・・わ、私ならはっきり自分の思いを伝えるわよ。 どんな結果になろうともしない後悔よりはましなはずだもん。」 「そうか・・・」 「何よ、その返事?・・・ははぁ~ん、ひょっとしてだれか好きな人がいるんでしょ。 だれだれ、教えなさいよ。」 ・・・いいぜ教えてやるよ。 それはな、ハルヒ。お前だよ。なんだかんだいって俺はお前の事が好きなんだよ。 わらっちまうよほんと。最初お前に会ったときは変な奴って感じにしか見てなかったのにな。 いろいろやってるうちに惹かれていってしまった。閉鎖空間のときの告白、あれは戻ろうとして 我慢してやったんじゃない。少なからずお前に恋していたんだよ。だから悪夢で片づけられた時は 正直がっかりしたもんだぜ。だからな・・・はr それは突然やってきた。 前回のとは比較にならない眩暈。 並びに吐き気、耳鳴り、手足の痙攣、呼吸困難も併発。 内臓器官に異常発生。脳波異常。心拍数低下。その他障害が多々発生。 くそったれ・・・俺はここでおわっちまうのかよ・・・ まだだ、まだおれはしたいことをし終わっちゃいない。 今しないで何時するんだ。ああ? 言うんだ。全気力を振り絞って。 動け!!!俺の体!!! 「それはな・・・ハルヒ・・・・・お前の事だ・・・ 俺は・・・お前が・・・すk・・・」 そういうと俺は目の前が真っ暗になった。 体は地に落ちながら・・・ 「えっ?う・・・嘘でしょ?ちょっとキョン?大丈夫?ねぇキョン起きてよ、ねぇったら!! お願い、目を覚まして!!ねぇったら!!!」 地球の日付及び時間200X/07/XX 16 XX XX 発生座標[1561.9901] かつてより観察対象であった[涼宮ハルヒ]が情報爆発を発生させた。 この爆発により閉鎖空間が発生。 対抗手段はもはや存在しておらず、通常速度の30倍の早さで拡大。 およそ20分後に地球を覆う。25分後には通常空間と閉鎖空間が入れ替わり そのどちらも修復されることなく消滅。事実上地球という惑星はこの宇宙から無くなり 人間のいう生態系の進化の可能性は失われた。観察用インターフェイスは既に回収済みである。 どうやら情報によると爆発の原因は涼宮ハルヒにとって関係がある 人間の死によってもたらされた言われている。 この情報はきわめて不確定のため真偽は不明。 犠牲報告は次のとおりである 人間 ・・億人 ・・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・ ・・・・ ・ ・・・ 以上 BADEND
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涼宮ハルヒの共学 何か胸騒ぎがする それもものすごくイヤなヤツが ゆっくりと窓の外を流れる見慣れた景色を眺めながら 俺は安易に単独行動をしてしまった 相変わらず行き当たりばったりの自分の行動力を悔んでいた 俺は今、鶴屋家差し回しの車の助手席に乗っていた 運転しているのはあまりよく顔を知らない、鶴屋家の使用人だった これが新川さんならば ものの1分もかからずに到着できるぐらいの近距離なのだが 鶴屋家の運転手さんはひたすらゆっくりと まるでリムジンでも運転するような丁寧さで車を走らせていた 鶴屋邸から長門のマンションまでは車ならそう遠い距離ではない なだらかな下り坂を下りていると、見慣れたレンガ造りのマンションが見えてきた もうすぐだぞ長門 ハルヒに古泉、朝比奈さん 早くみんなの顔が見たくて焦る 横道に逸れてしばらく走れば長門のマンションの入り口だ 少し安心してシートに座り直すと突然 全体にフィルターでもかけたように、長門のマンションがぼやけだした ????? これはいったい? 運転手さんもその状況に気付いたようで 「あれ?」とつぶやいてブレーキを踏んだ その直後だった バアーン! 激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた 思わず自分の顔を両手で覆ってしまう 狭い道なのでそんなにスピードが出ていなかったこと 既にブレーキを踏んでいたこともあって ボンネットに叩きつけられてそのままゴロンと転がり落ちたその物体を車は跳ね飛ばさずに済んだ 慌ててドアを開けて外に飛び出した俺の前で倒れていたのは 北高のセーラー服を着て髪に黄色いリボンを巻いている女子 短いスカートがまくれ上がり、死んだようにピクリとも動かないそれは・・・ 涼宮ハルヒだった ハルヒ? 何でお前がこんな所にいるんだ? どこから落ちてきたんだお前??? 話は少しだけ過去にさかのぼる 俺たちが無事に2年生に進級し 我がSOS団は無謀にも新入部員募集などという不届きなイベントを繰り広げていた ハルヒの豪放磊落というのか、それとも傍若無人というのか 相変わらずコイツを現す四字熟語には不自由しないある日 部室にいつもいるはずのメンバーが一人足りないことに気付いたのもやっぱりハルヒだった SOS団の初期メンバーでもあり、唯一のまともな文芸部員で 元眼鏡っ子で無口で色白の薄幸の美少女、しかしその実態は この銀河を統括する統合情報思念体が調査のために派遣した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスである(ちょっと一息) 要するに宇宙人が作ったアンドロイドの長門有希が欠席していた 慌てて長門に電話をかけるハルヒ 古泉も朝比奈さんも不安な表情で俺の顔を見ていた 「キョン!行くわよ!」 ああもちろんだとも 言われなくてもそうするさ あの長門が発熱して寝込むなんてあり得ない いや、あるとしたら理由ははっきりしている 例の天蓋領域とやらの侵略がまた始まったのだ メイド姿の朝比奈さんを大急ぎで着替えさせ 長門を除くSOS団一行は、足音も激しく北高を後にした 先頭をずんずん歩く団長の後を、俺たちが一団になって追いかける かわいそうな朝比奈さんはなかなか追いつけずにフゥフゥと息を荒げているが それでも泣き事などは全く言わない 朝比奈さんにもこの異常事態は十分分かっているはず そんな朝比奈さんの携帯がプルルルと鳴った 走りながら携帯を開いた朝比奈さんは小声でボソボソと話していたが すぐに電話を俺に渡してきた 「キョン君、電話です・・・」 ん?俺にですか? いぶかしく思いながらも携帯を受け取って何ですかと聞く 「ああキョンくん?ごめんだよっ忙しい所を! キョンくんの番号を知らないんでみくるにかけたわけさっ 手短に用件だけ言うね あのさ、例の超合金があったろう?うっとこの山に埋まってたヤツさ あれが今日なくなってるんだよっ!使用人が見つけたんだけど どうしようかなって思ってたんだけどさっ キョンくんにまずは連絡した方がいいと思って」 例の超合金?まさかオーパーツの事ですか? 「そうだよっ!あれあれ でも様子が変なんだよねっ 土蔵の鍵は開いてたけど別に壊された形跡もないし 他の物には一切手も触れてないみたいだしさっ 最初からあれだけを狙ってたような感じなのさっ だから警察に届ける前にキョンくんに知らせたってわけだ」 分かりました、俺がすぐ行きます その・・・警察に届けるのは少し待ってもらえますか? 「うん!いいよっ!最初からそのつもりだったからさっ」 俺は電話を切って朝比奈さんに返し 古泉に話しかけた ちょっと気になるんで鶴屋さんの家に行くから長門の事を頼む 「緊急事態ですか?」 いやまだ分からん それを確かめてくる 「僕もご一緒しましょうか?」 いやお前はハルヒと一緒にいてくれ まだ何が起こるか分からんし 起こるとしたらまずは長門の所だ 「分かりました。何かあったらすぐに連絡を下さい」 もちろんさ おいハルヒ 「あ?」 ちょっと俺は後から行くから 「どうしたの?」 ちょっと野暮用だよ すぐに合流するから 「あんた!有希よりも大事な急用なの?」 そんなことはない 長門も心配だけど、もしかしたら関係があることかもしれないから 「1人で大丈夫なの?」 ああ ちょっと見てくるだけだ 鶴屋さんの所だから1時間で往復できる それまで長門をよろしく頼む 「ふーん。よし分かったわ、早く行ってきなさい」 おいハルヒ 「何よ?」 SOS団を頼んだぞ 「あったりまえじゃないの!バカじゃないの?」 頼むぞ 「キョン!早く戻ってきてね」 思い返せば、このハルヒの一言もまた、何かの予感をしていたのだろうか 珍しく眉を伏せて、今駆け下りてきた道をまた走り出した俺の背中を見つめていた アップダウンの多いこの街の地形にもずいぶん慣れたつもりだったが イレギュラーな出来事にはすぐには対応できない 北高までの登り道を半分ほど登り、途中で折れてまっすぐ行った所にある 相変わらず犯罪的なお屋敷の長い塀を回り込み ようやく鶴屋邸の玄関に着いた時には俺の息は上がり、びっしょりと汗をかいていた 「ごめんねーこんな時に電話しちゃってさ、長門っちが熱出してるんだって?大 丈夫かなー」 俺はハアハアと荒い息をつきながら、とりあえず状況を聞いた 「さっき話したとおりなんだけどさっ、犯人はまるで最初からそれだけを狙って たみたいなんだよねっ。他の物には手も触れてないし、何であんなものに興味 があったのかなー」 鶴屋さんに案内されて、鶴屋家先祖代々の貴重な品が眠っている大きな土蔵の前に立った。 「何も動かしてないよっ、全部そのままにしてあるからっ」 確かに鶴屋さんの言うとおり、一見しただけでは泥棒が入った後とは思えない 乱雑に積み上げられた木箱やつづらなどがこじ開けられた形跡はなかった しかし入口付近にある小さな木箱だけが開けられていた 目撃者とかいなかったんですか? 「うん、使用人に聞いてみたんだけど、このあたりはあんまり誰もうろうろしな いからさ、鍵はおやっさんの金庫の中だし、おやっさんは夜まで帰って来ない から、誰かが鍵を持ち出す事もないと思うのさっ」 俺はしばらく考えたのちに鶴屋さんに頼んだ 心当たりはない事もないんですが、今はまだ話せないです でももしかしたら、何かの手がかりが見つかるかもしれないんで 俺が戻るまでは警察には知らせないでもらえますか? 「うん、分かったよっ!」 じゃあ後で電話します 必ず今日中に連絡入れますから 「うん。キョンくん」 はい? 「ハルにゃんをよろしくねっ!」 は? 「ハルにゃんはああ見えてもすっごく心配性なんだよっ みんなが元気でいられるように、ハルにゃんは必死なんだ そんなハルにゃんを元気にさせてあげられるのはキョンくんだけなんだからさっ」 はい 「頼んだにょろっ!」 いきなりの鶴屋さんの不思議発言だが この人にはある程度の予知能力のようなものが備わっているみたいだ 顔は明るく笑っているが、口調は真剣だった それが分かるので、俺も正直に答えた しばらく現場の状況をざっと確認してから、俺は鶴屋邸を後にした だんだん悪い胸騒ぎがしてくる 犯人は明らかにオーパーツだけを狙っている そしてオーパーツを狙うってことは、それがどんな機能を持っているかが分かっているはず そんな犯人の心当たりと言えば・・・ 長門が危ない 俺は直感的にそう思った 長門を寝込ませて力を封じ、その隙にオーパーツを使ってとんでもない事をやらかそうとしている そんな事をしそうな輩は地球上にそんなに多くはいない 俺はあの奇妙な長い髪をした不気味な少女 周防九曜の事を思い出していた さっき駆け上ってきた道を再び走り出してしばらく ようやく鶴屋邸の長い塀を抜けて住宅地を走っていると 人気の少ない交差点に止まっていたシルバーのワンボックスカーが静かに俺に近寄ってきた ただ長門のマンションに急ぐことだけを考えて他に頭脳が回らなかった俺は そのワンボックスカーが目の前に停まってスライドドアが開くまで、まさか自分の身に危険が迫っているとはよもや考えてもいなかった (同時刻、別の場所で) 「有希!有希!起きてるの?ねえ有希!開けてってば!」 涼宮ハルヒは鉄製のドアをガンガン叩き、近所迷惑な大声でわめいていた 玄関のオートロックの暗唱番号はあらかじめ聞いておいたものの、ドアを開けるには鍵が必要だ ドアを叩きながらわめくハルヒと、その横でオロオロする朝比奈さん そして少し遅れて古泉がエレベーターから出てきた 「今日は本当の緊急事態です、事情を説明して管理人から鍵を借りて来ました」 「古泉くん、早く開けて!」 古泉が長門の部屋の鍵を開け、ハルヒを先頭にドッとなだれ込んだ 「有希!有希!いるの?」 いつもの居間には長門の姿はなく、ハルヒは迷わずに奥の和室の襖を開けた そこには長門がいた ちゃんと布団を敷いて、静かに眠っている 「有希!大丈夫?熱はどうなの?ちゃんと薬飲んだ?」 「・・・・・・・問題ない、一過性のもの。寝てれば治る」 「みくるちゃん」 「ハイっ!」 「氷枕とか何でもいいから探して来て。それと古泉くん、もっとたくさん布団出 して」 「承知しました」 「有希、どうなの?つらくない?」 「・・・・・・・」 長門は力なく横たわったまま、布団の胸の部分だけが静かに上下している すぐに古泉が何枚かの布団を引っ張り出し、小さな長門に積み上げた 朝比奈さんはビニール袋に冷蔵庫の氷を詰め、濡らしたタオルも持ってきた 「有希、しっかりしなさいね。みんなここにいるから」 長門は薄く目を開き、ゆっくりと左右を見た 「・・・・・・」 その仕草でハルヒはすぐに、長門が探しているものを理解したようだ 「キョンならすぐに来るわ。ちょっと寄り道してるだけだから」 「・・・危険・・・彼が危険・・・」 「有希?」 「・・・・・・行かないと」 「有希!ダメよ動いちゃ!キョンはすぐに来るから もうしばらく寝てなさい!」 「・・・・・・」 長門は無理やり体を起こそうとしたが、すぐに力なく崩れ落ち ハルヒの手で再び寝かされた 「古泉くん、どう思う?」 「かなりの高熱ですね、救急車を呼んでもいいのじゃないでしょうか?」 「そうね、みくるちゃん、119番して」 朝比奈さんが居間にとって返し、受話器を持ち上げてプッシュボタンを押した (再びキョンの時間に) 俺のすぐ脇に停車したワンボックスカーのスライドドアが開き 声を上げる暇もなく、何本かの腕が俺を車内に引きずり込んだ 何事かをわめこうとしたがすぐに口をタオルのようなもので抑えられた 精一杯の抵抗のつもりで肘を張って暴れてみるが、その腕は誰にも当たらなかった 「じっとしてな。危害は加えん。ただちょっとおとなしくしてくれたらいいんだ」 俺の足がまだ空中にあるうちに車は再び走り始め、その後でスライドドアが閉められた 何だ?この展開は? 誘拐?この俺が誘拐だと? 今年の冬に朝比奈さんが誘拐されかけた、あのおぞましい経験がよみがえっていた まさかこの俺が誘拐されるとは? 俺に押し付けられたタオルはただの猿轡で 麻酔薬がしみこませられたりはしていない 走っている車の外の景色がすさまじい速さで流れていく その時、ドバーンと大きな音がして、俺は前方に投げ出された 前の座席のシートに叩きつけられ、肺じゅうの空気が一気に絞り出された 車の足元にゴロゴロと力なく転がっていると、2回目の衝撃が来た 今度は後ろから何かが追突し、俺を襲った誰かの足に体当たりした 「村上だけ残れ、後は出て応戦しろ」 誰かのそんな声が聞こえ、再びスライドドアが開いた 俺は座席の足元にうずくまり、外の様子が全く理解できない 苦労して起き上がろうとすると、誰かに頭を押さえつけられた 「いいからじっとしてろ」 ドスのきいた声でそう言われ、固い靴の底で頭をグリグリと転がされる いったいどうなってるんだ? この状況は? アドレナリンが強烈に噴出する頭の中で必死で考える 俺は誘拐されかけていた その車に何かが衝突した そして何人かが飛び出して行った ようやく自体が飲み込めてくる 俺を誘拐するグループと言えば心当たりは少ない いつぞや朝比奈さんを誘拐してカーチェイスをした時の連中だ と言うことは、衝突した車に乗っているのは俺を助けようとしてくれている連中 まさか? 混乱する状況を必死でまとめようとしていると、突然外から声が聞こえた 「彼を放しなさい!」 この声は・・・やっぱり・・・ 俺を見張るように言われていた村上と名乗る男がすかさず反応した 固い金属の棒のようなものを俺の後頭部に押し当て 「動くとこのガキを撃つぞ」 撃つってまさかおい 俺の頭に突きつけられているのは・・・銃? 外からの声はさらに続く 「撃ちたいのならお好きにどうぞ。でもその後どうなるかを理解していますか ?こちらも武装はしています。彼を守るためなら発砲は辞しません」 「くそっ」 村上という男は俺の頭を引きずり上げ、おかげで俺は外の情景を見ることができた 開け放たれたドアの前に立っているのは 予想通り古泉の所属する機関のグループ そのリーダー格と思われるスーツ姿の美しい女性 森園生さんだった やはりあの時の艶然とした微笑でひたと村上に視線を据え その手に持っているのは拳銃だった 「撃たないのですか?」 俺の頭を鷲づかみにしている村上の手はぶるぶると面白いように震えている やはりこんなチンピラと森さんでは全く格が違う 森さんは無造作に車内に踏み込んで来て村上の銃を奪い取った 最後の抵抗とばかりに村上は手を振り上げるが すさまじい笑みを浮かべたままの森さんは軽くその手を捻り グギッという鈍い音とともに村上を車の外に投げ飛ばした 合気道か何かの奥義なのか、右手で拳銃を構えたままで 森さんは村上を一瞬で気絶させてしまった 「さあ早く、まずは脱出です」 森さんに手を取られて俺は必死で車から降りた 車3台による壮絶な衝突事故の現場で、数人が取っ組み合いをしていた おそらくこいつらは機関のメンバーと、そして俺を誘拐しようとした橘京子の所属する集団だろう 多丸兄弟とおぼしき2人もいた 「ひとまず鶴屋邸へ」 そう言って森さんは俺の手を取ったままで走り出す 俺より速い森さんの俊足に必死でついて行ったが、すぐに俺の背後でダアーンと鋭い銃声が響いた 俺の耳元を熱い空気がかすめ、1発の銃弾が森さんの背中に命中した もんどりうって森さんは倒れ、俺も釣られてゴロゴロと地面を転がった も、森さん! 倒れ込んだ2人の後ろからタタタタと駆けてくる足音が聞こえる 俺は起き上がろうと必死でもがく 森さんは倒れたままピクリとも動かない 迫る足音が目前に迫った時、頭上から鋭い声がした 「ちょい待ち!そこまでなのさっ!」 それは鶴屋さんの声だった 事故の音を聞きつけたのか、それとも銃声を聞いたのか まだ北高の制服を着たままの鶴屋さんが走って来る賊をにらみつけていた 追いかけてきた2人は鶴屋さんを見てピタリと足を止めた 「ここで騒ぎを起こすとはいい度胸だね、それなりの覚悟はしてるのかなっ? それとも私を知らないにょろか?」 「・・・・・・」 「車は放っといていいからさっさと失せた方が身のためだよっ すぐに警察がやってくるのさっ」 男2人は顔を見合わせていたが、やがて来た方に走って逃げた ようやく起き上がった俺の目に、新たに近づく人影が見えた 「あなたも早く逃げるがいいさっ」 その人は機関の人間、新川さんだった 「すでに全員撤退の指示は出しました 森の様子を見たいのですが」 「じゃああんただけ許そうっか ここに置いとくわけにもいかないしね うちまで運ぶの手伝って」 鶴屋さんと俺、そして新川さんの3人で、動かない森さんを担いで運んだ ようやく鶴屋邸に入り、新川さんがすぐに処置を始めた すでにパトカーのサイレンが狂ったように走り回っている 新川さんは森さんのスーツの上着を脱がせ、無造作にブラウスも引きちぎった 森さんの真っ白な柔肌がむき出しになり、 おびただしい出血とともにむごたらしい傷跡が・・・・・・残っていない 森さんは防弾チョッキを身に着けていた 上着とブラウスを簡単に突き破った銃弾だが、防弾チョッキにはかなわなかった 平べったく潰れた銃弾は紺色の繊維質に阻まれて 森さんの素肌は青いアザができているだけだった 「ただの打撲ですね、もしくは骨にヒビが入った程度でしょう」 すぐに森さんが大きく息を吐き、意識を取り戻した 「無事・・・でしたか」 すみません森さん 俺のせいでこんなことに 新川さんに助け起こされた森さんは 透き通るような微笑を浮かべたままで言った 「大丈夫です。万一に備えてありますから 私たちはあなたと涼宮さんを守るためならいつでも覚悟はできています さあ、もうここには用はないはずです 涼宮さんを守ってあげて下さい 古泉とともに・・・」 分かりました 俺が立ち上がると森さんは最後にこう言った 「涼宮さんはあんな性格だからあなたにはまだ理解できないでしょうけど、 あなたをとても頼りにしているはずです 今あなたと離れて一番心細いのは涼宮さんです 早く行ってあげて下さい そして、大事にしてあげて下さい」 ちょっとドキッとする森さんの言葉だったが 今はその意味について深く考えている場合ではない 鶴屋さんと森さん、そして新川さんに頭を下げると、俺は走り出そうとした 「ちょい待ちキョンくん!うっとこの車に乗っていくといい さっきみたいなことはもうないと思うけどね、でもその方が早いからさっ」 鶴屋さんはてきぱきと使用人に指示を出し 森さんを部屋に運ぶことと車を用意すること そしてさっきの銃撃戦についてきつく緘口令を言い渡した 玄関の前に現れた高級車に乗せられた俺はもう一度鶴屋さんに頭を下げた 「キョンくん、ハルにゃんをよろしくねっ! それと・・・言っていいのかどうか分からないけどね・・・ ハルにゃん、結構いろんな事知ってるよっ」 えっ? 「みんなの事だよ 何か不思議な事がめがっさ起こってるって ハルにゃんの知らない所で みんなが何かしてるんだろうなって」 本当ですか?鶴屋さん? 「後は直接確かめたらいいさっ!ハルにゃんにねっ!」 鶴屋さんはそう言ってドアを閉め、車は走り出した (再び同時刻、別の場所で) 「涼宮さんっ」 「どうしたのみくるちゃん?」 「電話が・・・電話が通じません・・・」 「ん?それはどういうことでしょう?」 古泉が素早く立ち上がり、朝比奈さんから受話器を受け取った 通話ボタンを押しても発信音がしない 「これは・・・?」 その時、部屋の中が一瞬真っ黒になり、まるで夜の闇のようになった 部屋の内外で聞こえていた雑音も消え、長門の部屋は沈黙に閉ざされた 「ふわぁぁぁっ」 「ななな何よこれは?古泉くん?どういう事?」 古泉が口を開くよりも早く、暗闇に何かが浮かび上がった ぼんやりとした影はすぐに凝集し始め、やがて4つの人間の形を作った 素早く古泉が前に出て、ハルヒと朝比奈さん、そして眠っている長門をかばうように立った いつものニヒルな笑顔の面影は全くない 古泉のこめかみからタラリと汗が流れ落ちた 現れた4人はもちろん あの時突然出現した集団だった 「・・・・・・・・・ここは・・・・・・暗い・・・・・・気持ちが悪い」 いち早く口を開いたのは周防九曜だった 実体化するが早いか、長門が寝ている和室に踏み込み、ひたと視線を長門に据えた 「かわいそうな寝顔・・・・・・こんな世に生まれなければ、1人の姫として暮らせたものを・・・・・」 「それ以上近づかないで下さい」 古泉が素早く割って入る 「周防さん、まずは話し会いましょう」 そう声をかけたのは4人組のリーダー、勝手に神に祭り上げられてしまった佐々木だった 「・・・・・・かわいそう・・・食べてあげたい・・・・・・」 周防九曜は長門から視線を放さずにそうつぶやき 他のメンバーの横に戻った 「ちょ、ちょ、ちょっと何なのよあんたら どうやってここに入って来たのよ?」 「お久しぶりです涼宮さん、いつぞやは突然現れてすみませんでした あれ?キョンは?」 「まずは私の質問に答えなさいよ 無礼でしょう?」 「ごめんなさい。実は私たちにもよく分からないんです 周防さんが突然ここに行かないとって言って 何かに運ばれてきたみたいなの」 「全然説明になってないわよ あんたたちいったい何者なの?」 ハルヒが鋭い視線で闖入者たちを睨みつける 穴でも開けてしまいそうなぐらいの激しい視線だった 「私が代わりに説明するわ」 そう言ったのは古泉と敵対する組織の一員、橘京子だった 「周防さんはね、時が満ちたと言っているの つまり我々と佐々木さんの力があなたたちのものを上回る 今日のいま、この場所で何かが起こると」 「あわわわ・・・・・・」 あたふたする朝比奈さんをかばいながら、ハルヒは口から泡を飛ばして叫んだ 「ふざけんじゃないわよっ!ここはあんたたちがいる場所じゃないの! 見て分かるでしょう、病人がいるのよ! さっさと出ていきなさいっ!!」 「ふん・・・まるでボス猿みたいだな」 そう口を尖らせてうそぶくこの男は 朝比奈さんの組織と対立している未来人組織から派遣されてきた 自称藤原という男だった 「ボ、ボ・・・・・・」 古泉がハルヒの横に立った 「涼宮さん、今怒ってしまえば向こうの思い通りになります ここはひとまず冷静に、まずは話を聞きましょう」 「古泉くん、悪いけどね あたしは人の家に土足で踏み込んでくる野蛮人の話なんか聞く耳持ってないの」 ハルヒは両の拳を握りしめている 最初は誰に殴りかかろうかと品定めしているようだ 「・・・・・・あなたは・・・汚ない・・・」 「何ですって?」 「その顔、その声、全てが汚らしい・・・・・・」 「ハァ???」 ハルヒは最初にぶちのめす相手を決めたようだ 握り拳を振り上げて周防九曜に突進しようとした 慌てて古泉が止めに入る 「古泉くん!放しなさい!」 「涼宮さん、ひとまず落ち着きましょう」 古泉はハルヒを無理やり引きずって闖入者から少し遠ざけ 声を潜めて囁いた 「・・・僕たちの戦力はいささか不足しています 全員揃うまではとにかく様子を見ましょう 今のところは、何が目的でやって来たのかも分かりませんので」 「古泉くん」 「はい」 「あんた、何か知ってるのね」 「何かと申しますと?」 「私の知らない事よ こいつらが何者で、何が目的なのかをね」 「それを説明してくれる方が現れるまで、ここは1つ、穏便に」 「キョンの事ね」 「はい」 「・・・・・・分かったわ」 ハルヒはようやく拳を緩め、闖入者たちと対峙した 「んで、話を聞こうじゃないの」 「ようやく落ち付いてくれましたか やはり調査通りの人ですね、あなたは」 橘京子が楽しそうに言った 「実は私たちにもまだここに来た理由は分からないのです こちらの周防さんが言った通り、まもなくここで何かが始まります それを確かめるために来たのです」 「それでは全然説明になっていませんね 皆さんのやっている事は明らかな住居不法侵入です 警察を呼ばれたくなかったら、今すぐ退散すべきです ここには病人がいます、わきまえて下さい」 「・・・・・・来る」 「何が?」 「・・・・・・終わりの世界が来る・・・・・・それは私たちを待っている・・・・・・もうすぐ」 ハルヒがまたブチ切れそうになった 「もう我慢できないわ!今すぐここを出ていきなさい!さもないと」 「お待たせしましたー」 突然部屋につむじ風が巻き起こり、目を開けてられないほどになった 激しい旋風はあたりをなぎ払い、全てを持ち上げてぐるぐると回転した 「あひゃぁあああーっ!」 朝比奈さんのか弱い悲鳴とともに、全てが吸い込まれていった (再びキョンの世界) 俺を乗せた鶴屋家の車は静々と走り、やがて長門のマンションが見えてきた頃 視界が急にぼやけてきた 長門の高級マンションがぼんやりかすみ、俺は目をごしごしこすった 「おかしいですね」 運転していた鶴屋家の男性がそう言ってブレーキを踏んだ直後、激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた 見慣れた水色のセーラー服、そんな気がした セーラー服はボンネットの上を弾んで転がり落ち、急ブレーキをかけた車の前方に倒れた ハルヒ! 俺はドアをもぎ取るように開け、車から飛び出した 予想した通り、空から降って来たのは涼宮ハルヒだった いったいどこから落ちてきたのか、まさか長門の部屋のある7階から落ちたのか? 急いでハルヒを助け起こし、その顔を覗き込んだ 「ったあぁーっ」 見ると車のボンネットは大きく凹んでいる 7階かどうかは分からないが、かなりの高さから落ちてきたようだ 運転していた男性も、車から降りてハルヒを見ていた おいハルヒしっかりしろ 何が起こったんだ? ハルヒはしばらく目を白黒させていたが、ようやく焦点が定まってきたのか、俺に気付いて大声を上げた 「キョン!キョンじゃないの!どうやってここに来たの?」 えらい元気そうだなハルヒ 車をこれだけ凹ませるほどの高さから落下したのに 何かのフォースでも働かせたのかそれともただ尻が異常に固いのか どうやって来たのかは俺が聞きたいぞハルヒ いったい何で空から降ってきたんだ? 「空から?え?あれ?ここはどこなのよ?有希の部屋じゃないの?」 おいハルヒ 長門の部屋でいったい何が起こったんだ? 長門はどうなんだ?体の具合は? それに朝比奈さんと古泉は? 「そうだ!キョン!大変よ!有希が・・・変な4人組が入ってきて それからあの、あの子が入ってきて」 もういいぞハルヒ とにかく長門の部屋に行こう 長門が心配だ 他のみんなもな 俺はハルヒを抱き起こして立ち上がった 鶴屋家の運転手にとりあえず帰ってもらう事にして、ボンネットの件は後で謝りに行くからと伝えた そして振り向くと・・・ ??? 空から降ってきたハルヒを抱き起こし、とにかく長門の部屋に入ろうと、玄関があるはずの場所に駆け込むんだ俺だが マンションの入り口には何もなかった 玄関もなければオートロックの操作盤もない というかマンション自体が消えてなくなっていた レンガ造りの高級マンションがそっくりそのまま消えてなくなっていた 「ちょっとキョン、これどうなってるの?」 どうって、俺にも分からん 落ちつけ俺、よく考えろ マンションがあったはずの平面には全く何もなく、むき出しの地面だけが広がっていた 向こう側にあるはずの、シャミセンを拾った空き地がここからそのまま見えた どうなってるんだこれは ハルヒの手を掴んだまま、強引にマンションがあったはずの空間に踏み込んでみた やっぱりか 予想通りだ 俺とハルヒの前にはぐんにゃりした白い壁が立ちはだかった マンションが消えてなくなったわけじゃないんだ 誰かがここにバリヤーを張っているんだ それはお前かハルヒ? 「はあ?私が何でこんなことするのよ?」 すまんハルヒ ちょっと考え中だ 俺はハルヒの手を放し、ダッシュで突入を試みた チリチリと小さな火花のようなものが散り、俺の体は押し戻された 痛みも衝撃もなく、ただやんわり跳ね返された 「キョン、これって・・・前のあれかしら?」 ああ あれに近いものだ お前の仕業じゃないとしたら こんな事ができるのは他には・・・ けっこうたくさんいるな 「ちょっとキョン」 何だよもう 今考え事してるんだから 「キョン!」 ああ? 「ちゃんと説明しなさい! あんたが何か知ってることぐらい、あたしにはお見通しなんですからね! あんたはこんなに不思議な物が目の前に現れても、顔色ひとつ変えないじゃないの! 何か知ってるんでしょう?包み隠さず全て話しなさい」 さっきの鶴屋さんの声が耳によみがえる ハルヒはいろいろ知ってるっていうのか 今ここで説明するしかないのか ついに切り札を出すしかないのか 今ほどここに古泉がいてほしいと思ったことはなかった あいつのアドバイスが聞きたい しかしハルヒ、説明してる暇はないぞ 早く長門の部屋に行かないと 「だから説明しなさいって言ってるのよ! 有希がおかしくなったことにも関係あるんでしょう? あの4人組の事だって」 4人組だと? あいつらに会ったのか? あいつらが来てるのか? 「そうよ あの4人組が来て 髪の長い女が私に汚いとか言い出して ブン殴ってやろうと思ったら急に空に放り投げられたのよ! ああムカつくわーあいつったら」 待て待てハルヒ ちょっと整理させてくれ 俺と別れた後であいつらに会ったのか? それとも長門のマンションに入った後か? 「入ってからよ 有希がひどい熱だったから氷枕と布団たくさん用意して 救急車を呼ぼうとしたら電話が通じなくて どうしたんだろうと思った時に入ってきたのよ ドアも開けずに土足で入ってきて ねえキョン、あいつらいったい何なのよ?」 おいハルヒ あいつらの目的とか何か聞かなかったのか? 「聞いたけど全然意味分からないわよあんなの」 思い出せハルヒ あいつらは何と言ってたんだ? 「どうでもいい事ばっかりよ」 いいから思い出せハルヒ! 「何よもうキョンってば・・・ちょっと待って 周防とかいう女が他のヤツらを連れてきたとか言ってたわ 時が満ちたとか、今から何かが始まるとか 終わりの世界がどうとか言って、そしたら・・・ そうだ!あの子が来たのよ!」 あの子って誰だ? また他の人間が来たのか? 「そうよ!思い出したわ。あの新入生よ! 新入部員候補の1年女子よ」 はあ? 何だと? 「新入部員候補の中に小柄な女の子がいたでしょう?あの巻き毛の子」 ああそんなのがいたな確かに 何となく不思議な印象だったな 覚えてるぞ しかし何でその子が来たんだ あいつらの仲間なのか? まさかスパイだとか? 「分からないけどたぶん違うと思う 来たのは別々だったし、あいつらも驚いた顔してたから」 その時突然 俺の背中に鳥肌が立った ものすごく嫌な予感がした おいハルヒ 良く聞け その1年女子は何か持っていなかったか? 「何かって?」 金属の細長い棒みたいなものだ ピカピカ光ってるヤツだ 「そこまで覚えてないわよ! その子が出てきた途端に部屋に嵐が起こって、気がついたら外に放り出されてたんだから」 待て待て待て待て くっそう古泉に会いたい 俺はどうもこういう複雑な事態には対処できない あいつの的確な状況分析がとても恋しい 「そうだ」 何だハルヒ 何か思い出したのか? 「お2人にはまだ登場してほしくないからって聞こえたような気がする」 お2人?そう言ったのか?その新入生は? 「違うかもしれないけどそう聞こえた」 お2人って事はもしかして・・・ 俺はハルヒの肩を抱いたままで後ろを振り返った 目の前にあるマンションはすでに消滅していたが 後ろの景色も違うものに変わっていた いやちょっと違うぞ 景色はさっきと一緒だが何か空気の匂いが違う それにこの不思議な色はいったい何だ・・・? 何だか安心感を与えてくれるような落ち着いたベージュの空 そよとの風も吹かず、じっとりとしているが不快ではない この空は覚えているぞ ハルヒといっしょにあいつが飛ばされたとしたら この空を作り出したのは この閉鎖空間を作ったのは やっぱりお前か 佐々木・・・・・・ 「申し訳ないキョン 今はまだ君たちをあそこに入れるわけにはいかないようだ」 リンク名 その2に続く
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11月も後半に突入し、日に日に冬らしさが増えてくる。 最近は部活から帰る時点ですでに真っ暗だ。 「今日は転校生が来たぞー」 岡部は教室に入ってくるなり、そう言った。 教室がざわつく。 お前らは小学生か?と突っ込みつつ俺も少しそわそわする。 「すっごい綺麗な女の子だと良いなー」 谷口、だとしたらお前には振り向かないぞ。 「入ってくれ。」 岡部の掛け声と共に、男子が入ってきた。 男子のため息と、女子の囁きが聞こえる。 入ってきた奴は古泉ほどではないものの、なかなかのイケメンだった。 「よし、じゃあ自己紹介をしてくれ。」 「こんにちは、春日清(きよ)です。」 春日とか言う男は澄んだ、綺麗な声で自己紹介を始める。 「趣味は本を読むこと、特にSFが大好きです。宇宙人、未来人、超能力者などに興味があります。」 …え? その時、ハルヒがガバッと立ち上がった。 「ねぇ、春日君。だったらSOS団に入団しない?」 「涼宮、勧誘は後で良い。んーとじゃぁ春日、うるさい奴だが、涼宮の隣に座ってくれ。」 「よろしく、春日君。」 後ろを振り向くと、ハルヒが春日に挨拶をしている。 「こちらこそ。よろしくお願いします。涼宮さんといいましたっけ?」 「そうよ、涼宮ハルヒ。SOS団の団長よ。」 俺はこいつらの会話を聞きながら、何でこんな微妙な時期に転校してきたのか、疑問に思っていた。まるで朝倉の時のようだ。嫌な記憶がよみがえる。 …後で部室に行けばあいつらが教えてくれるだろう。 授業中、春日とハルヒはずっと超能力者、未来人や宇宙人がいるかどうかについて話し合っていた。ったく、春日は転校生なんだからそんなにしょっぱなから先生に悪印象を与えてどうするんだよ? 途中休みになると、ハルヒは春日に俺を紹介した。 「こいつはキョン、SOS団の雑用係。」 あぁ、雑用係とわざわざつけられたのが気に食わないがよろしく。 「キョン君か、よろしく。」 キョンで良い、なんかくすぐったいからな。俺も春日でいいか? 「どうぞ、むしろ僕もその方が気が楽だよ。」 「さぁ、春日君!校舎の案内するからついてらっしゃい!」 そう言い走り始めるハルヒの後を、春日は微笑を浮かべてついていった。 さてと、俺は部室に行くか。 「来ると思っていましたよ。」 なら話は早い、春日、あいつは誰だ? 「彼は涼宮さんが生み出したものですよ。」 何のためにだ?話が合う友達が欲しかったのか? 「いえ、違います。」 じゃぁ何だよ。 「こればかりはあなた自身で気付いてください。一つ、私からヒントのような質問です。あなたは彼と涼宮さんが仲良くしているのを見て、何か感じますか?」 あいつらが仲良くしてるのを見て…なんとなくハルヒを取られた気がしてイライラする。しかし、何故ハルヒを取られた気がするのかも、それでイライラするのかもわからん。 「素直じゃないですね…」 「さらに鈍感。」 うぉ!長門、居たのか。 「居た、最初から。」 そ、そうか… 「おや、そろそろ次の授業ですね。では、私は行きます。」 じゃぁな。 「あなたは?」 もう少し後で行くよ。 そう言ったが、あまり授業に出る気は無かった。 あの二人が仲良くしてるせいでうるさくて、どうせ集中なんか出来ないしな。 「キョーーーーーン!」 ったく、何だよ。 あれ?ハルヒ? 「あんたなんで授業サボってたの?」 あ、いや、何でもない、ただ単にだ。 「そう。」 いつの間にか周りを見回すと、俺以外全員が揃っている。 「さて、今日は新団員を紹介するわよ!」 って、春日?!お前入るのか?! 「うん、楽しそうだしね。」 お前、本当に自分の意思か?ハルヒに強制させられていないか? 「えーと、キョンは放って置いて紹介よ!これが春日君、私たちの同じ1年生よ。今日転校してきて、未来人、宇宙人、超能力者とかに興味があるみたい。ってことで今日から団員だから、皆も自己紹介してね。じゃ、みくるちゃん。」 「あぁ、え?私からですかぁ?えぇと、朝比奈みくると言います。唯一の2年生です。一般的にはお茶汲みをやっています。よろしくおねがいします。」 「美しい方ですね、よろしくお願いします。」 「あ、ありがとうございます。」 「じゃぁ、次は有希!」 「長門有希、趣味は読書。よろしく。」 「私たちはもう自己紹介したから、最後は古泉君!」 「こんにちは、あなたの噂は彼や涼宮さんから聞いています。私は古泉一樹で、SOS団の副団長を務めさせて頂いています。」 「みなさん、よろしくお願いします。」 「新団員も入ってきたことだし、みんな気合入れてね!」 そこから一週間、春日は毎日部室に来て、俺達と打ち解けていった。 しかし、俺のイライラは溜まる一方だった。 何故か、春日と一緒にいるときにハルヒが笑顔になるのを見ていると嫌になる。 クソッ、俺が閉鎖空間発生させたいぐらいだぜ… だが、この気持ちがなんなのかが分からない。 今は金曜日の放課後で、今部室には長門、朝比奈さんと俺しか居ない。 「あのー…キョン君、どうしたんですか?最近イライラしているようですが。」 あぁ、朝比奈さん。気にしないで下さい。 「どうしたんですか?私の力になれることなら…」 そこで、俺は一部始終を話してみた。 朝比奈さんは俺の話を何も言わずに聞き、静かに頷くと 「キョン君は涼宮さんのことが好きだから、春日君に嫉妬してるんですよ。」 えーと…俺がハルヒを好き?春日に嫉妬? 確かに、もしかしたらこの感情は好き、それにこのイライラは嫉妬なのかもしれない。 だとしたらつじつまは合う。 そう…ですね。そうかもしれません。 「キョン君、気付いてよかったですね。じゃぁ、涼宮さんにアタックしてみてください。」 え、でもあいつは春日が… 「ここからは僕が説明しましょう。」 ん?古泉? 「今少しドアの外で聞いてしまいました。春日君は涼宮さんが、あなたに嫉妬をさせるために作り出したものです。」 相変わらずハルヒってすごいな… 「そこじゃないですよ、つまり嫉妬をして欲しいということは」 ということは? 「あなたはここまで来ても鈍感なんですか…?」 …何だ? 朝比奈さんまでそんな軽蔑した目で見ないで下さい…。 長門、お前もだ。 「ならいいです、明日は不思議探索があります。多分何かが起こるので、ちゃんと心の準備を。」 何が起こるんだ?何のための心の準備だ? 「「「…」」」 「よし、みんないるわね!明日は土曜日だから不思議探索をするわ!午前は団長の私用があるから、いつもの場所に1時集合ね!春日君は初めてだから、説明するわね。」 そういうとハルヒは不思議探索について説明を始めたが、ほとんど俺の耳には入っていなかった。 「キョン!遅いわよ!初めての春日君でもあんたより早いわよ!」 おい、春日、お前何故時間より早く来る事を知っている? 「いえ、ただ単に集合時間より早めにくるべきかな、と思ったので。」 …こいつとハルヒを取り合って勝てる自信がない。 「じゃぁいつもの喫茶店に移動!」 おいおい、神様はどんなにひどいんだよ。 午後のペアは 俺と古泉 長門と朝比奈さん ハルヒと春日だった。 俺の怒りのマグマが心の中でブクブクいっている。 「やったー春日君と同じね!私がこの町の良いところ教えてあげるわ!」 ……… 「ありがとう、涼宮さん。」 ……… 何だよ何だよ、ケッ、両方とも微笑みやがってさぁ。 「大丈夫?性格に悪化が見られる。」 あぁ、長門。気にするな。 「じゃぁ出発!春日君、早く行きましょう!」 ハルヒが春日の手を引っ張る。 一瞬怒りで脳味噌が吹っ飛んでいくかと思った。 いつも春日が来る前はハルヒにやられていたが、端から見るとこんなにもカップルに見えるのか…。 「私たちも行きましょうか。」 るせぇな、どこに行くんだよ。 「あなたの好きなところで良いですよ。」 じゃぁ、あいつらをつけるぞ。 「いつからストーカーになったんですか?」 モラルとかルールとか、正直そんなものは今どうでも良い。 俺は、ハルヒを春日に何があっても絶対に取られたくない。 …ここまで俺がハルヒを好きだとは思わなかったぜ。 「気付いて良かったじゃないですか。しかし、男の嫉妬は醜いですよ?」 放っとけ。 ハルヒと春日は、仲良く喋りながらいろいろな場所を回っていった。 大したことはしていないが、俺にしたら二人が傍にいるだけで嫌になる。 そして暗くなり始め、そろそろ集合場所に戻るかと思っていると、春日が何かを言い出した。 俺達の位置からは何を言っているのかは聞こえない。 ハルヒはその言葉に頷き、春日の後をついていった。 「どうぞ。」 古泉が俺にケータイを少し小さくしたような機械を手渡す。 これは何だ? 「長門さんがさっき仕掛けておいた盗聴器の受信機です。」 そういえばさっき長門とハルヒ達がすれ違ったような… 何故仕掛けたのかが気になるが、まぁここは感謝してせっかくだから使おう。 俺今完全なる犯罪者だな… 『ねぇ、春日君、こっちに何があるの?』 『まぁまぁ、僕についてきて下さい。』 二人はテクテクと人気のないほうに歩いていく。 俺達はコソコソとその後をつけて行く。 すると、春日はハルヒを人気のない公園に連れ込んだ。 「これは、もしかして、彼は涼宮さんに告白する気では…」 なぁんだぁってぇぇぇ?! 春日がハルヒに好意があるのは知っていたが、さすがにこんなに早く告白するとは思わなかった。 やばい、ハルヒは中学時代、どんな男に告白されても、その場でふったことは無いらしい。 つまり、春日がハルヒに告白したとしたら、どんなに短時間だとしてもあの二人は恋人関係になるわけである。 しかも、ハルヒもあまり春日を嫌っていないようだ。 ということは本気で付き合いだすかもしれないという事か?! 『どうしたのよ、春日君。こんなところに連れ込んで。』 『俺…ハルヒのことが好きだ!付き合ってくれ!』 『え…』 俺が飛び出そうとすると、古泉に抑えられた。 「後少し待ってください。」 『え、そんな、春日君?』 『僕は本気です。』 『ちょ、春日君、キャッ!』 するとその時、春日がハルヒをベンチに押し倒したのだ。 一瞬、古泉の腕の力が抜けた。 俺はそのまま、ハルヒと春日の前に出て行く。 おい、春日、何やってるんだよ? 春日がこっちを振り向く。 「キョ、キョン?」 「何って、涼宮さんに告白してるんだよ。」 「違うの、キョン、これは…」 そのことじゃない、何故お前はすでにハルヒを襲おうとしてるんだ? 「涼宮さんは告白は断らない主義だそうなのでね。」 だからと言ってお前何故服を脱がそうとしてるんだよ… 俺は黙々と春日に近付き、 ドスッと春日を殴った。 「キョン?!」 「何するんだ!」 女を襲ってる奴を殴って何が悪い? 「別に僕が涼宮さんに何をしようと僕の勝手だろう?」 違う。 俺はな、ハルヒが好きなんだ。 「…え?キョン?!」 最初お前が転校してきた時、俺は自分がハルヒを好きだとは思っていなかった。 だが、お前らが仲良くしているうちに俺は自分がハルヒを好きだって気が付いたんだ。 「キョン…」 「そんなこと言ったって…僕だって涼宮さんのことが好きなんだよ?」 あぁ、だろうな。でも俺だって好きなんだよ。 おいハルヒ、お前は俺と春日、どっちを選ぶんだ? 「…キョン、ごめんね。」 え…。 「春日君もごめん。」 どっちも振るのか? 「うぅん、キョンにはやきもち妬かせてごめんね?後、春日君、気持ちに答えられなくて、ごめん。」 「涼宮さんは、キョンを選ぶのかい?」 「ごめんね、春日君。春日君はすっごく優しいし、頼りにもなるし、趣味も合う。頼りにならなくて、気も利かなくて、ヘタレなキョンとは大違い。だけど…何故か分からないけど…私はキョンが好きなの。ごめんね。」 すると、ハルヒがいきなり倒れた。 お、おい?!ハルヒ?! 「大丈夫、安心して。私がやったこと。」 長門?! 「キョン、君と争えて良かったよ。」 春日の影が薄くなっていく。 おいおい、どうなってるんだよ? 「春日君は涼宮さんがあなたにやきもちを妬かせる為に作ったもの。あなたがやきもちを妬き、告白した今、用はない。」 「だから、彼は消えるんですよ。」 …春日、お前、意外と良い奴だったな。 「君もだよ、キョン。じゃぁ」 「「またいつか、どこかで」」 「キョーン、一緒に帰ろ♪」 ということで、あの日の告白以来、俺とハルヒは付き合うことになった。 春日のことを長門に聞いてみると、一言 「情報操作は得意。」 と言われてしまった。 つまり、多分みんなの記憶から消したんだろうな。 だが、俺は春日のことを忘れるつもりはない。 もしかしたら、あいつとは、良い友達になれたかもな。 しかし、ハルヒが今、俺の隣で笑っているのは春日のおかげだ。 「何考えてるの?」 いや、別に。お前のこと考えてたんだ。 と適当にごまかす。 「もう、キョンったら」 そういうハルヒの顔は、うっすらと紅色に染まっていた。
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「あんた・・・誰?」 俺に向かってそう言ったのは涼宮ハルヒだ。 あんた?誰?ふざけてるのか?嘘をつくならもっとわかりやすい嘘をついてくれよ! だがハルヒのこの言葉は嘘でも冗談でもなかった。 この状況を説明するには昨日の夕刻まで遡らなければならない。 その日も俺はいつものように部室で古泉とチェスで遊んでいた。 朝比奈さんはメイド服姿で部屋の掃除をし、長門はいつものように椅子に座って膝の上で分厚いハードカバーを広げている。 ハルヒは団長机のパソコンとにらめっこしている。 いつものSOS団の日常だった。 「チェックメイト。俺の勝ちだな古泉!」 俺はいつものように勝利する。 「また負けてしまいましたか。・・・相変わらずお強いですね。」 微笑みながらこっちをみる古泉。 俺が強い?言っておくが俺は特別強くなんかないぞ!おまえが弱すぎるんだよ古泉! まぁこの微笑野郎が本気でやっているかどうかは疑わしいもんだが。 そうだったら腹がたつな! 「今日はここらでやめとくか。」 「そうですね。続きはまた明日とゆうことで。」 ニコニコしながらチェスを片付け始める古泉。 すると長門がハードカバーを閉じる。 同時に下校の予鈴が鳴った。 ハルヒが立ち上がって鞄を肩にかける。 「さぁ、あたしたちも帰りましょ!」 ハルヒの号令に俺たちは帰宅の準備を始める。 「たまにはみんなで一緒に帰りましょ!」 ニコニコしながら腕を組んでいるハルヒ。 「そうだな、たまにはいいかもしれないな。」 今思えばこのときが運命の分かれ道だったのかもしれない。 帰りの支度を終えた俺たち5人はいつもの坂道を下り始めた。 先頭に俺、隣にハルヒ、俺の後ろに朝比奈さんと古泉がいて最後尾に長門がいる。 「ねぇ、キョン。あんた土曜日ヒマ?」 ハルヒが歩きながらこちらを向く。 土曜日か…ヒマと言えばヒマなんだが俺には睡眠という名の立派な業務がある。 「まぁどうせヒマでしょ?あたし叔父さんから映画のチケット2枚もらったのよ!特別にあんたを招待してあげるわ!」 正直俺は映画館のあのかったるい感じが嫌なのだがハルヒにしちゃまともな誘いだ。特に断る理由もないだろう。 「映画ねぇ。別にいくのはいいんだがどんな映画を見に行くんだ?」 こいつのことだからSF物かもしくはホラーか?まぁそれなりに楽しめる内容だといいんだが。 「あ、あたしもまだどんな映画だか知らないの。」 「チケット貰ったならタイトルくらいわかるだろ?」 そう返すと何故かハルヒは顔を赤くする。 「べ、別にいいじゃない!どんな映画でも!」 嫌な予感がするな。こいつがタイトルを言えない映画ってなんだ? まさか恋愛ラブストーリーだったりしてな。 「と、とにかく土曜日空けときなさいよ!」 まぁいいか。 ハルヒがどんな顔して恋愛ものを観るか楽しみでもある。 そんな会話を俺とハルヒがしていると聞いていた古泉が微笑声をもらしながら近づいてきた。 「お二人方、週末は映画館でデートですか。お熱いですねぇ。」 うるさい古泉。おまえはいつも一言多いんだよ。 「デ、デートじゃないわよ!キョンはただのオマケなのよ!勘違いしないで頂戴古泉君!」 そこまでむきになって否定しなくてもいいと思うが… 「そうゆうことにしておきましょう。」 ハンサム野郎は再び微笑して頷いた。 ここまでは普段どおり何ら変わりはなかったが事件はこの後起きる。 坂道を下ると大きな交差点にぶつかった。 信号は青だ。 俺はハルヒの誘ってきた映画のことを考えながら渡り始めた。 このとき俺がよくまわりを見て渡っておけばあんなことにはならなかったかもしれない。 突然、大きなブレーキ音とともに俺の横に一台のバイクが突っ込んできた。 「危ないキョン!」 ハルヒは俺に飛びついて俺を転ばせた。 俺とハルヒはそのまま転がる。 危機一発。俺は寸前のところでハルヒに助けられたようだ。 「・・・っ・・・なんて乱暴な運転しやがる・・・」 俺は体を起こしながら辺りを見る。 「大丈夫ですか!?」 古泉たちが駆け寄ってきた。 「・・・なんとかな。ハルヒ助かったぜ!」 俺はそう言いながら隣に倒れこむハルヒを見た。 ハルヒは道路に倒れこんだまま目を瞑っている。 「おい!ハルヒ?」 ハルヒは応答しない。 その場にいた全員が言葉を失った。 ハルヒはぐったりして目を瞑ったままだ。 「お、おいハルヒ!しっかりしろ!」 ハルヒの体を抱き寄せ問いかけるが返事はない。 「動かしてはいけません!」 そう言って古泉は電話を取り出し救急車を呼ぶ。 なんでこんなことに… 「頭を強く打ってます!もう少しで救急車が到着します!あまり動かさないで下さい。」 真剣な顔で古泉は俺を見つめる。 すると長門が俺とハルヒの前に来るとハルヒの頭に手をかざした。 なにやら呪文を唱えているようだ。 そして俺を見ると一言だけ発した。 「心配いらない。傷は塞いだ。」 長門がそう言ってくれたおかげで俺は平静を取り戻した。 長門が大丈夫だと言うんだ。すぐにハルヒは目を覚ますだろう。 俺が安心すると大きなサイレンと共に救急車が到着した。 救急隊員がハルヒを担架に乗せると救急車の中に運んでいった。 「僕たちも付き添いましょう!」 古泉の言葉で俺たちもハルヒに付き添い病院に向かう。 救急車の中では救急隊員がハルヒの口に人工呼吸器をあてている。 俺は先ほどの長門の言葉を頭の中で何度も自分に言い聞かせながら平静を保っていた。 病院に着くとハルヒは緊急治療室に運ばれていった。 俺たちはロビーで待つことにする。 「ぅ・・・ぅぇ・・・涼宮さぁん・・」 朝比奈さんはさっきからずっと泣いており古泉がそれをなだめている。 「長門さんがあの場で治療してくれたおかげで涼宮さんはほとんど無傷です。心配いりませんよ。」 そう言ってる古泉だがいつもの笑顔はない。 「とりあえず今は待ちましょう。僕たちにできることはそれしかありません。」 どれくらいの時がたっただろうか。気がつくと辺りはすっかり暗くなってる。 すると治療室から医者がでてきた。 真っ先に古泉が医者に駆け寄る。 「彼女のお友達の方々ですか?」 「えぇ、先生。彼女の容態はいかほどでしょうか?」 古泉はいつになく真剣な顔だ。 「心配いりませんよ。頭を強く打っていますが奇跡的に無傷です!すぐに目を覚ましますよ!」 「そうですか。ありがとうございました。」 古泉は医者に会釈すると俺たちにやっと笑顔を見せた。 「よかったです。長門さんのおかげですね。」 ようやく朝比奈さんも泣き止んだ。 俺は長門に顔を向けると長門は相変わらずの無表情だった。 「長門。ありがとう。」 長門は淡々と答えた。 「涼宮ハルヒは大事な観察対象。万が一のことがあっては困る。」 ありがとな長門。お前はそう言っていても俺にはお前に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。 「皆さんこれからどうします?僕は今から涼宮さんのご両親に連絡してきますが。」 どうする?決まってるだろ? ハルヒが目を覚ますまでそばにいるさ!いつだったか俺が入院したときもあいつはずっとそばにいてくれたんだからな。 「俺はしばらく病院に残るよ。」 「わかりました。では僕は電話してきます。」 あとはハルヒが目を覚ますのを待つだけだ。 俺は朝比奈さんと長門を連れてハルヒが運ばれた病室へ入った。 人工呼吸器を口につけたまま眠っているハルヒ。 俺はそんなハルヒに心の中で声をかけた。 おいハルヒ!さっさと起きてくれよ。お前がいないとSOS団はどうなるんだよ。それに映画に一緒に行く約束もしただろ!お前が寝たままじゃチケットが無駄になるだろ! 第一俺を庇ってくれたことの礼も言いたいんだよ。 だからさっさと起きろ! 言いたいことはまだあるんだ。 しばらくすると古泉が戻ってきた。 「涼宮さんのご両親がもうすぐ到着されます。おそらく僕たちは邪魔でしょう。今日のところは帰りましょうか。」 ハルヒが目覚めるまでそばにいたかったがハルヒの両親に迷惑をかけるわけにもいかない。 「仕方ないな。今日は帰ろう。」 俺たちは病院を後にして解散した。 翌日になると俺はいつものように学校に向かった。 坂道を駆け足で登り校舎に入る。 そしてクラスに入る。 だがハルヒの席にハルヒはいない。 やがてHRが始まり担任の岡部が切り出した。 「えぇ、涼宮は昨日交通事故に遭って頭を強く打ったそうだ。怪我はないらしいが今日は大事をとってお休みだ。」 クラスが騒然とした。 だがすぐにいつもの空気に戻る。 その後俺は授業を受けたがやはりハルヒが後ろにいないとなんだか物足りないな。 「ねぇキョン!いいこと思いついたわ!」 そう言ってつついてくるハルヒが途端に恋しくなったな。 結局俺は授業など上の空って感じであっという間に1日が過ぎた。 廊下にでると古泉と朝比奈さんと長門が俺を待っていた。 「先ほど病院から連絡がありました。涼宮さんが目を覚まされたようですよ。」 「本当か古泉?」 「えぇ。僕たちもすぐに病院に向かいましょう。」 やっと目を覚ましてくれたかハルヒ… お前のいない学校はつまらなかったよ。 そんなことを思いながら俺たちは病院に向かった。 ハルヒの病室に着くと俺は昨日のことをどうハルヒに謝ろうかと考えながら扉をノックした。 「どーぞ!」 ハルヒの元気な声を確認して俺は安心した。 ゆっくりと病室の扉を開けるとそこにはベッドの上でしかめっ面をして腕を組むハルヒがいた。 俺たちは病室に入り扉を閉めた。 「ハルヒ。もう大丈夫なのか?」 ハルヒはしかめっ面のままこちらを凝視していた。 「あんた・・・誰?」 俺は耳を疑った。 あんた誰?何言ってんだよこいつは。 ちっとも笑えないぞ! 「は?」 「は?じゃないわよ!勝手に人の病室に入ってこないでよ!」 「せっかく見舞いに来てやったんだ。なんの冗談だよ?」 ハルヒは表情を変えない。 「見舞い?なんであたしの知らない人間が見舞いに来るのよ!」 どうゆうことなんだ?俺を知らない? すると古泉がいつもの笑顔で話かける。 「お元気そうで何よりです。涼宮さん。」 ハルヒは不思議そうな顔で古泉を見る。 「なんであんたもあたしの名前知ってんの?どっかで会ったかしら?ああ、そういえばそれ北高の制服ね。」 全くもってわけがわからん。誰か説明してくれ! 突然古泉が俺の耳元で囁く。 「一旦出ましょう。わけは外で説明します。」 俺たちは古泉の言うとおり一度出ることにした。 ロビーに移動した俺たちに古泉が語り始める。 「先ほどの涼宮さんの奇妙な言動ですが、記憶喪失と考えると全てつじつまが合います。」 「記憶喪失だって?ハルヒはホントに俺たちのこと忘れちまったのか?」 「えぇ、それも僕たちSOS団のことだけをね。」 「俺たちだけ?なんでそんなことがわかる!」 「涼宮さんはご両親とは普通に話してるようですし涼宮さんは北高のことを知っていました。なので消えてる可能性があるとしたら僕たちSOS団に関する記憶でしょう。」 ハルヒの中から俺たちだけの記憶が消えた?なんでそんなややこしいことになっちまったんだ。 「おそらく僕たちとの思い出が涼宮さんにとって一番大事なものだったからでしょう。それが優先的に消されてしまったのです。」 「元には戻らないのか?」 「わかりません。突然思い出すこともあるようですが・・・」 とりあえずもう一度涼宮さんの病室に行きましょう! 俺たちは再びハルヒの病室にやってきた。 古泉がノックをする。 「どーぞ!」 こうなりゃやけだ!意地でも俺たちのことを思い出させてやる! 扉を開けるとしかめっ面のハルヒ。 「またあんたたち?あたしに何の用なのよ!」 俺は手当たり次第ハルヒに質問をぶつけてみることにした。 「なぁ、谷口って知ってるか?」 何故か最初に谷口が浮かんだ。 「谷口?あのバカがどうしたのよ!」 なるほど谷口は覚えてるのか。 「じゃあ国木田って知ってるか?」 「国木田?ああ谷口といつもつるんでるやつね?」 国木田は俺と同じ中学だ。ハルヒは中学の国木田を知らないはずだ。 つまりハルヒには北高の記憶はあるということだ! 俺はハルヒを追い詰める。 「じゃあお前の席の前に座ってるやつは誰だ?」 ハルヒはその場で考えこみ始めた。 「・・・あたしの・・前?・・思い出せないわ。なんで?」 なるほど… やはり俺たちだけの記憶がないらしい。 「・・・なんで思い出せないの?・・・っていうかあんたたちは誰なのよ!」 「お前と同じ学校のもんさ!俺はキョン。こっちが古泉で、こっちが朝比奈さん。こっちが長門だ。」 なぁ思い出せよハルヒ!お前だけが一方的に俺たちを忘れるなんて許さないぜ! 「あまり考えさせるのもよくありません。また出直すことにしましょう。」 ここは古泉言うとおりにしておこう。 「じゃあなハルヒ!明日学校でな!」 「ち、ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わってないわ!」 ハルヒの言葉を無視して俺たちは強引に病室をでた。 全く勝手なやつだ。俺たちだけのことを一方的に忘れやがって。 「まぁいいではありませんか。涼宮さんがご無事だったのですから。焦る必要はありません。」 「だがなぁ」 「涼宮さんは明日から登校してきます。きっと明日思い出してくれますよ。」 今日の古泉の言葉には妙に説得力がある。 「そうだな。今日は帰るか。」 そうして俺たちは解散することにした。 その日の夜、俺は明日ハルヒの記憶を取り戻すための作戦を考えていた。 ハルヒの記憶を戻す方法はある。 それは俺はジョン・スミスだと言うだけでいいんだ。 だがそれを使うと今までのことや俺たちのことを全てハルヒに話さなければならない。 下手するとハルヒの力が暴走する。 だからこの方法だけは避けたい。 そんなことを考えながら翌日になった。 今日はきっとハルヒが来る。 俺は急いで学校に向かった。 駆け足で教室に入るとハルヒの姿があった。 椅子に座り腕を組んでまわりをじっと睨んでいる。 まるで一年前ハルヒと出会ったときのようだ。 「よう!体はもう大丈夫なのか?」 俺は自分の席に座りハルヒに話しかけた。 「あんた昨日の!なんであんたがここにいんのよ?」 「ここは俺の席だ。」 ハルヒは戸惑った顔をしている。 今までいろんなハルヒの顔を見てきたがこんな顔は初めてみたさ。 正直可愛かったね。 「・・・っ・・思い出せないわ。あたしが忘れてるのはあんたなの?」 頭を抱え込んでるハルヒ。 「いずれ思い出すさ。」 俺はそう言って前を向いた。 それからのハルヒはずっと空を見て考えこんでいた。 思い出してくれよハルヒ。俺たちのことを。 それから時間は流れ昼休み。 俺はハルヒを部室に連れていくことにした。 「ハルヒちょっと来てくれ!」 ハルヒの手首を掴み強引に部室まで引っ張っていく。 「ち、ちょっとなによ!」 ハルヒの言葉に俺は耳を貸す余裕はない。 「・・・文芸部?なんでここに連れて来たのよ!」 文芸部。つまりSOS団の部室だ。 「今日からここがあたしたちの部室よ!」 一年前ハルヒがこの部屋でそう言った日からSOS団は始まった。 扉を開けるとそこには朝比奈さん、長門、古泉がいた。 ハルヒを中に入れ俺は問いかけた。 「どうだ?この部屋覚えてないか?」 ハルヒは少し考えこむと 「・・・わからないわ。・・でも・・・なんか懐かしい感じがするの・・」 よかった。連れてきた甲斐があったみたいだ。 毎日通った部室だ、ハルヒの体が覚えているんだろう。 「涼宮さんはこの部屋で団長をやっていたんですよ。」 古泉と朝比奈さんが壁に貼り付けられた写真を指差した。 夏合宿のときに孤島で撮った写真だ。 「これ・・・あたし?なんで?・・・思い出せない。」 まるでおもちゃを無くした子供のような顔で写真を見つめるハルヒ。 「俺たちはここでお前のつくったSOS団として活動してたんだ。その写真が証拠だよ。」 ハルヒはやがて無言になる。 しばらくの沈黙が流れやがてハルヒが切り出す。 「SOS団だとか・・・団長だとか・・・わけわかんない・・」 今にも泣き出しそうな顔でそう言うと走って部室を出ていった。 「・・・ハルヒ」 出ていった瞬間ハルヒが遠くに離れてくような感じがした。 「仕方ありません。いきなり現実として受け入れるのはいくら涼宮さんでも難しいでしょう。」 古泉も珍しく寂しい顔をしている。 すると俺の服を掴むやつがいた。 長門だ! 「長門?」 長門は無表情のままこちらを向く。 「涼宮ハルヒの精神状態が不安定になったことでこの部屋の空間を構成している力のバランスが崩れようとしている。」 よくわからないがそれがまずいことだってことは俺にもわかる。 古泉が神妙な面もちで言う。 「とにかく放課後対策を練るとしましょう。」 結局その日ハルヒは教室に戻って来なかった。 放課後俺は再び部室に向かった。 部室にはすでに3人の姿がある。 古泉が真剣な顔でこちらを見ている。 「涼宮さんは?」 「ハルヒは結局帰って来なかったよ。」 古泉と朝比奈さんは何か深刻な顔をしている。 「困ったことになりました。先ほど機関から連絡があったのですが世界中で大規模な閉鎖空間が発生してるようです。」 「なんだって?」 「おそらく涼宮さんの精神状態が不安定になったことで発生したのでしょう!このままではこちらの世界とあちらの世界が入れ替わってしまいます。そうなる前に涼宮さんを見つけなくてはなりません。」 くそっ!こんなことになるならハルヒをここに連れて来るんじゃなかった! 「悔しんでもなにも変わりません。とりあえず今は一刻も早く涼宮さんを探し出さないといけません。」 「ああ。わかってる」 俺は長門を見た。 「長門。お前の力でハルヒを探せないか?」 長門は答える。 「今はできない。現在私の能力は何らかの影響で弱まっている。」 何らかの影響?それもハルヒの仕業なのか? 「・・・おそらく」 「ここ話していても何も解決しません!今は涼宮さんを見つけだすことが先決です!」 古泉の号令で俺たちは手分けしてハルヒを探すことにした。 くっ!ハルヒ。どこにいるんだ! ハルヒの行きそうなところに俺は走った。 東中か?それともいつもの喫茶店か? とりあえず行ってみるしかない。 俺はいつもの喫茶店に走った。 ハルヒはいないようだ。 じゃあどこだ?東中か?何も考えずに俺は東中に向かう。 走りながらハルヒの携帯に電話をかけるが繋がらない。 俺は東中に着くと無我夢中で探しまわった。 ここにもいないのか?じゃあどこにいるんだハルヒ! 気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。 こんなことになっちまったのは全部俺の責任だ!俺が無理やりハルヒに記憶の断片を突きつけたり、いや、その前にあのとき事故に遭わないければハルヒはこんなことにならなかった。 自分自身に腹がたつ!頼むハルヒお前に会いたい! いつの間にか俺は北高に戻ってきていた。 真っ暗な校庭の真ん中にポツリと誰か立っている! ハルヒなのか? 俺は校庭の真ん中に駆け寄った。 「ハルヒ!」 校庭にいたのはハルヒだった。 ハルヒは悲しそうな顔でこちらを見た。 「あんた・・・一体なんなのよ・・」 いつになく力無い声だ。 「・・・わかってるのよあたしだって。何か大切なことを忘れてるのは・・・」 「・・・ハルヒ」 「・・でも・・どうしても思い出せないの!・・・あんたのことだって絶対知ってるはずなのに。」 ハルヒの悲しい顔を見ると俺は胸が苦しくなる。 ハルヒは俺に近づき続ける。 「ねぇ教えて!あんたは誰なの?あんたは私のなにを知ってるの?・・・教えてよ・・」 俺はハルヒの両肩に手を乗せて言う。 「・・・いいんだハルヒ。無理に思い出さなくて・・・お前はお前だ。他の誰でもない。涼宮ハルヒだ!」 ハルヒは目から涙を流しながら俺を見つめている。 「・・・・・なんであんたを見るとドキドキするの?・・・なんで・・」 俺はハルヒを抱きしめた! 俺の胸の中で泣いてるハルヒ… 「なぁハルヒ聞いてくれ。お前が俺のことを思い出せなくても俺はお前が大好きだ!・・・俺だけじゃない!古泉も長門も朝比奈さんもみんなお前が大好きなんだ!」 俺は一年前にハルヒと閉鎖空間に閉じ込めらたときのことを思い出していた。 今はあの時とは違う。今俺がハルヒにキスをしたところであの時のようにうまく行く確証はない。それどころかそんなことをすれば逆にハルヒの精神状態をよけい不安定にしてしまうかもしれない。 だが気がつくと俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねていた。 なぜそんなことをしたかって? 決まっている!俺がしたかっただけだ! 俺はハルヒと世界を天秤にかけてハルヒを選んだ。 もうこのあと世界がどうなろうとかまわなかった。 今はただハルヒと唇を重ねていたかった。 1分ほど経っただろうか。俺はハルヒから唇を離しハルヒの顔を見た。 ハルヒの頬は赤くなっている。 こんなときに不適切な発言かもしれないが言っておく。 世界で一番可愛いと思った。 ハルヒの肩から手を離すとハルヒが小声で言った。 「・・・・・・・・・・・・・ばか」 「すまんハルヒ。つい・・・」 ハルヒは赤い顔のまま顔を横に向けた。 「・・・ばかキョン。・・罰として土曜日奢りなさいよ。」 ん?今なんて言った?土曜日?まさかハルヒ! 「思い出したのか全部!?」 ハルヒは再びこちらに向いて 「大体あんたがあのときよそ見したから悪いのよ!今度からはちゃんと周りをみてから渡りなさい!」 よかった。いつものハルヒだ。 そのあとのハルヒとの会話はよく覚えていない。 そしてその日の夜に古泉から電話があった。 古泉の話によると世界中に発生していた閉鎖空間は消えたらしい。つまり一件落着ってわけだ。 翌日からハルヒはいつものハルヒに戻っていた。 部室ではハルヒが朝比奈さんをいじくり、長門は相変わらず分厚いハードカバーを広げ、俺と古泉はチェスで対戦。 そこにはいつもと変わらない日常があった。 ◆エピローグ◆ 土曜日の話だ。 俺はハルヒと映画を見に行った。 鑑賞した映画は男と女が繰り広げる非日常のラブストーリーだった。 俺の隣のハルヒは終始真剣にスクリーンを見つめていて、映画のワンシーンであるキスシーンが流れると頬を赤く染めていた。 正直俺は映画よりハルヒの顔見てるほうが面白かった。 映画を見終わり俺たちは駅に向かって歩いていた。 「なぁハルヒ。あんなチャラけた映画の何が面白いんだ?」 「あんたにはわかんなくていーの!ばかなんだから!」 俺はハルヒをからかってやった。 「お前キスシーンのとき顔赤くなってたぞ。」 ハルヒはその場で赤くなり俺の胸ぐらを掴む。 「な、なんであたしの顔見てたのよ!?いやらしい!」 「別に。お前も純情なんだなハルヒちゃん!」 「う、うるさいばかキョン!」 ハルヒは尚も俺の胸ぐらを掴みながら小声で言う。 「・・だいたい、あんたからだけなんてずるいじゃない・・」 そのまま俺を引き寄せ唇を重ねてきた。 短いキスが終わりハルヒは赤く染まった頬のまま言った。 「これでおあいこだからねキョン!」
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの覚醒 「みんな……ありがとう。」 …。 …。 …何で俺達は長門にお礼を言われているのだろうか? 皆を見てみるが皆困惑の表情を浮かべている。 でもそんな事はどうでも良い。 だって…。 長門が今、最高の笑顔で微笑んでいるのだからな…。 …。 …。 …状況が分からない? …。 …。 …安心してくれ。 俺にもさっぱり分からない。 いつも通りの放課後、昨夜みた夢の話をしていた時に突然長門が立ち上がり俺達にお礼を言ったのだ。 しかしさっきも言った通りそんなことはどうでも良い。 長門が微笑んでいる。 それで良いじゃないか…。 …。 …。 …しかしこの後、俺達に予想できない悲劇が起こる…予想出来なかったとしても誰が俺を責められようか…? …。 …。 …。 長門が口を開いた。 「言葉だけでの感謝では足りないと思い料理を作ってきた。」 …。 …。 …時が止まった。 あくまで俺と朝比奈さん、古泉の3人だけだが…。 「有希、何作って来たの?」 「肉じゃが。」 「へぇ~、美味しそうね。」 「今から温める。」 「手伝うわ。」 長門とハルヒはガスコンロへ向かい肉じゃがを鍋に移し温め始めた。 …。 …。 「…集合。」 俺の言葉に従い、朝比奈さんと古泉が俺のそばに来た…2人の顔には悲壮とか絶望とかそんな感じの物が浮かんでいた。 おそらく俺にも同じ物が浮かんでいる事だろう。 …。 「で…何の罰ゲーム何だこれは?」 「…僕には思いあたる事はありません。」 「わたしもです…。」 さっぱり分からん…しかし一つだけ分かっている事。 このままでは俺達の命は長くない。 …。 …。 「とりあえず長門さんに謝りませんか?」 「そうですね…僕達が何をしたのかわかりませんが…謝りましょう。」 「ああ、心の底から謝れば長門もきっと分かってくれるだろう。」 俺達は長門の所へ向かった。 …。 …。 『ごめんなさい。』 …。 …。 俺達は長門に頭を下げた。 …。 …。 …正直に言おう。 頭を下げたどころでは無い…俺達3人は長門に土下座をしていた。 特に示し合わせた訳では無い。 俺と朝比奈さん、古泉は当たり前の様に土下座していた。 俺達がどんなに必死か分かっていただけただろうか? …。 …。 「…意味が分からない。」 「何やってんの?あなた達?」 長門とハルヒは不思議そうな目で俺達を見つめている。 「いや…俺達が何かお前にしてしまったんだろ?」 「今後は僕達一同気を付けますので怒りを収めて頂けませんか?」 「ううっ…お願いしますぅ~。」 …。 …。 「理解不能…私は怒ってなどいない。」 「…だって…ならなぜ肉じゃが?」 「…感謝を形にしただけ…それに肉も沢山手に入ったから。」 ……肉って…たしかミノタウロス? …。 …。 どうやら長門は怒っている訳では無く本当に感謝の証として肉じゃがを作って来たみたいだ。 「じゃあまずはアタシが味見するわね。 団長の特権よ。」 そう言ってハルヒは肉じゃがに箸を伸ばした。 ハルヒ…それは味見じゃ無い。毒味だ。 頼むぞ団長殿。 …。 ハルヒは肉じゃがを箸で口に持っていこうとしたが…口から10cmぐらいの所でその動きが止まった。 …どうしたハルヒ? …。 「あれ…何でだろう…これ以上手が動かないの…。」 ハルヒは手を震わせながら言った…どういう事だ? 「…なるほど。 マッスルメモリーですね。」 古泉はそう呟いた。 マッスルメモリー? 「何だそれは?」 「マッスルメモリー…筋肉の記憶。 涼宮さんはその力…いや、都合の良い頭でしたか…。 …まぁそれにより前回の悲劇を覚えていません。 しかし頭は覚えていなくても体は覚えているのです…これを食べてはいけないと…。」 「なるほど…で、どうなるんだこれから?」 「わかりません。涼宮さんの頭が勝つか…体が勝つか。」 …。 …。 ハルヒの体、すまない。 きっとお前は生きるために今必死で闘っているんだよな…でもハルヒには毒味役としてその役割を全うしてもらわないといけない。 だから頑張れ、ハルヒの頭…。 …。 …。 時間にしたら1分ぐらいだろう。 ハルヒの頭と体の闘いはやはりハルヒの本体とも言える頭に軍配が上がった。 …。 …パク。 …。 次の瞬間、ハルヒはスローモーションの様にゆっくりと倒れ…動かなくなった。 …。 …。 …ゴッドスピード涼宮ハルヒ…。 …。 …。 「はわわわわわわ…」 「や…やはり…。」 「悪夢再び…か。」 長門は呟いた。 「また美味しすぎて気絶した。」 …。 本気で言ってるな長門。 次は…誰だ…? …。 長門はゆっくりと振り向き…その瞳は朝比奈さんを捉えた。 「ひ…ひえええ。」 次の瞬間、朝比奈さんは長門に捕まっていた。 「朝比奈さん!!」 「彼女はもう…駄目です。」 「バカやろう!朝比奈さんを見捨てるのか!」 俺は朝比奈さんを助ける為動こうとした…が…。 …。 …。 朝比奈さん…何なんですかその顔は…。 朝比奈さんは助けに向かおうとした俺に潤んだ瞳でゆっくりと首を振った。 その顔はなんて穏やかな…。 そう、これから自分に何が起こるか理解し、それを受け入れた顔…殉教者の様な顔をしていた。 (…今までありがとう。) 朝比奈さんは唇をそう動かし、肉じゃがに向かい口を開けた。 「朝比奈みくる、ありがとう。」 長門はそう呟き朝比奈さんの口に肉じゃがを入れた。 …。 …。 バタッ …。 …朝比奈さんは倒れ…動かなくなった。 …。 …。 (次は…) (僕達…) 長門はゆっくりと振り向いた。 (次はパターン的に僕でしょうね…。) (いや、そう思わせて俺かもしれん。) (長門さんのみぞ知る…ですか。では僕は左に逃げます。) (わかった。俺は右に。) 俺と古泉はアイコンタクトを終え動いた。 …。 …。 ガシッ …。 …。 次は…俺の番だった…。 まてまて!普通俺は最後だろ! 俺が逝ったら誰がこの後を解説するんだ! …。 バタッ …。 俺は長門に押し倒された。 「あなたには苦労をかけた。ありがとう。」 長門はそう呟き箸で肉じゃがを掴み俺の口元に突きつけた。 俺 絶 対 絶 命 ! (古泉、助けてくれ。2人で協力すればきっと何とかなる。 そこの窓から一緒に逃亡しよう!頼む!助けてくれたら冷蔵庫の中のプリンをお前にやるから!) …。 俺から古泉に向けたアイコンタクト。 …。 …。 伝われ!俺の思い。 …。 …。 …。 ~ここより古泉サイド~ …。 …。 彼は今、長門さんに押し倒され最後の時を迎えようとしていた。 絶対僕が先だと思ったのですけど。 …ん?…彼が何か… …!? …そうですか…分かりました。 …。 …。 『俺はもう駄目だ。せめてお前だけでも逃げてくれ。 そこの窓からなら逃げられる。 みんなの分まで生きろ! 後、冷蔵庫のプリンはお前にやる。俺にはもう必要ないからな…あばよ。』 …。 …。 …ですね。分かりました!あなたの気持ち。僕はみんなの分まで生きます!勿論冷蔵庫のプリンも美味しく頂きますので心配無く! …。 …。 僕は彼に微笑み窓に向かった。 …。 …。 タッタッタッ…バッ! 僕は窓に飛び込んだ。 …。 …。 スコーン 「痛!」 ベチッ 「ぐっ!」 …僕の頭に何かが飛んで来て命中し、バランスを崩した僕は壁に激突した。 振り返ると彼が僕を睨んでいる…。 …。 …。 …本当は分かっていました。 …。 …。 『古泉、助けてくれ。2人で協力すればきっと何とかなる。 そこの窓から一緒に逃亡しよう!頼む!助けてくれたら冷蔵庫の中のプリンをお前にやるから!』 …。 …。 …ですよね。 すいません。 でも…しかた無いじゃないですか…。 …。 …。 バタッ …。 …。 彼が倒れた。 …逝きましたか…次は…僕…。 …。 …。 気づくと窓とドアのあった場所はコンクリートの壁になっていた。 …。 今この部室に生きている人間は僕と…。 「古泉一樹、最後のお礼はあなた。」 …この長門有希。 僕は立ち上がり長門さんと向き合った。 「あなたは私を命懸けで助けてくれた。だから一番美味しい所を。」 なんの事だかわかりません。 ただ分かるのはこのままだと確実な死が訪れるということ。 「残念ですが長門さん、その肉じゃが消させてもらいます。」 「…何故?私はあなたの為にこれを作った。それは不許可。」 「僕に…出来ないとでも思っているのですか!」 僕は両手に力を込めた…大丈夫、力は使える。 「怖い顔…あの時と同じ。 ……たしかに素敵かも…。」 さすが普通の時でも異空間化している文芸部室、力の九割ぐらい使える。 でもやはり自分を光の玉に変える事は出来ないみたいだ。 「でもあなたでは私に勝てない。すぐに食べさせて終わりにする。」 …勝率は…一割の一割以下か…絶望通り越して笑えてきますね…。 「ええ、すぐに終わります。僕が肉じゃがを消してね。」 …だがやるしかない。 「…あの時と同じ。」 長門さんは良く分からない事を呟いた後肉じゃが入りのお椀と箸を持ち、僕に突進してきた。 僕も長門さん…いや、肉じゃがへと向かい突進した。 …。 …あれからどれくらい時間がたったのだろうか? おそらく5分ぐらいだと思うが僕には3時間にも4時間にも感じられていた。 …1分がこんなに長いなんて…。 僕の体中が肉じゃがの汁だらけだ。 …背中の汁が一番濃いか。 長門さんは強い…何よりも素早くて攻撃が肉じゃがに当たらない…とことん当たらない! 「何故そんなに頑張るの?」 …逝きたくないからですよ。 長門さんは肉じゃがを掴んだ箸をなぎ払って…!? …肉じゃがが僕の口を掠めた。 「…おしい。」 あと数ミリで口の中に入っていた…。 僕は右手の光を肉じゃがに向かって投げた……やはりよけられた。 「そろそろ終わりにする…肉じゃがが冷める。」 長門さんは再び僕に突進してきた……箸を僕の口に一直線に…。 ーー!? 僕はとっさに体をズラし口への直撃は避けたが汁が口の中に入った。 「ぐっ!」 視界が歪む…足が震える…汁が入っただけでこれか…。 僕はとっさに手を伸ばし長門さんの持つ箸を奪いとった。 良し…取った! …。 …。 長門さんは僕から飛び退いたあと…。 …。 …。 スタスタ …。 …。 新しい箸を取りにいった…。 …。 …馬鹿ですね…僕は。 「…不思議。箸じゃなくてお椀をその光で狙えばあなたの勝ちだったのに…。」 …まったくもってその通りです。 先ほど口に入った肉じゃがの汁のせいか足が動かない…絶体絶命ですね…。 長門さんは再び肉じゃがを箸で掴み僕に突進してきた。 …。 …。 長門さんの動きがゆっくりに見える…これがドーパミン効果ってやつですか…。 この軌道…そのまま口に入って…即死だな…。 …。 …。 …。 「……。」 僕は右手で肉じゃがを掴んだ箸を握りしめていた。 …僕はまだ…死ねない。 そのまま長門さんの腕を掴む。 長門さんは僕が何をしようとしたのか分かったのか飛び退こうとしたが…。 「遅い!」 左手で放つ0距離攻撃。 赤い光に包まれ、肉じゃがは静かに消滅……え? …。 …。 長門さんは僕がそうすると最初から分かっていたかのようにかわしていた…。 「あなたがそうするのは分かっていた。」 次の瞬間僕の口に肉じゃがが入った…。 …。 …。 ズキューン …。 …。 バタッ …。 …。 …。 ~ここより長門サイド~ …。 …。 私が肉じゃがを古泉一樹の口に入れると彼は静かに倒れた。 「お礼完了。」 私の作った肉じゃが…成体ミノタウロス5体分の一番美味しい所を使って作った肉じゃが。 美味しさのあまり気絶するのも無理は無い。 でももう少し食べてもらいたかった…。 「……う…。」 古泉一樹? …。 …。 「…な…長門さん…。」 「なに?」 「…もう一口…食べさせて…もらえませんか…?」 彼は震えながら言った。 「…量が少なかったらしく…逝けませんでした…。」 私の肉じゃがをもっと食べたいと言ってくれている。 古泉一樹…傷だらけになりながら私を助けてくれた…。 そして私の肉じゃがをもう一度食べたいと…。 何…この感情は…エラー? でも…嫌じゃない…。 「…このままでは…生き殺しです…せめて…ひと思いに…。」 私は頷く。 「あ…ありがとう…ございます…。」 そして彼の口に肉じゃがを入れた。 …。 …。 バタッ …。 …。 気絶した。 …。 …。 古泉一樹…みんな…ありがとう。 …。 …。 …。 彼らが目を覚ますのは3日後となる。 …。 …。 …おしまい。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの覚醒