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ハルキョンのグダデレ 有希、どうしたのかしら。 今週に入ってから、キョンばっかり見てる。 前からだったけど、今はちょっと違う感じ。 有希の目の色、どう見ても違うのよね。 恋よね。あれ。しかも、淡い恋心とかじゃないわね。 なんていうか、ベタ惚れね。あれは。 もう、バカキョン! なんで団長のあたしがこんな事で悩まなきゃいけないのよ。 どうせバカキョンが何かしたに違いないわ。 有希が何かするわけないもの。もう、バカキョンのアホ! なんであたしに相談しないのよ。雑用のくせに。 バカアホキョンね。バカアホキョンのエロキョン! キョンは有希の事どう思ってるのかしら。 でも流石にこれは聞けないわね。うーん。 キョンのバカ。あたしって者がありながら、 何をしてるのかしら。アホキョンのバカキョン。 キョンはあたしの何が不満なのかしら。バカバカキョン。 キョン、いつもあたしが一緒に居てあげてるのに、全然振り向かないし。 シャーペンで突っついても、あんまり振り向かないし。 まあ、返事はするけど。 みくるちゃんにはいっつもデレデレしてるデレキョンだし、エロキョン。 有希にはすっごく優しいヤサキョンだし。 あたしん時だけ、いっつもバカキョンかアホキョン。 あたしにも、たまにはちょっとデレキョンとかヤサキョン出しなさいよね。 「ハルヒ、似合ってるぞ」 んー。ちょっと似てなかったかな。 「ハルヒ、似合ってるぞ」 こんな感じだったかしら。 キョンもっとあたしを褒めなさいよね。 忘れてきちゃったじゃないの。録音しとくんだった。 今年の映画では、キョンにそういう台詞言わせようかしら。 それね!やっぱりあたしは天才だわ! あ、でも、どうせならもっとすごい事言わせようかしら。 「ハルヒ、どうしてお前はハルヒなんだ」 ダサイわね。 「ハルヒ、お前、超可愛いな」 うーん。キョンは超なんて言わないし。キョンが言いそうな事は…… 「ハルヒ、お前って、よく見たら、本当は可愛かったんだな」 よく見たらって何よ!最初からどこからどうみても可愛いわよ!あたしは。バカキョン! ……でもこれはちょっと言われてみたい。かも。 「俺、ハルヒが居ないとダメなんだ!」 あー。これはヤバい。これはヤバいわ。 「俺、ハルヒが居てくれないとダメなんだ!一生一緒にいてくれ!」 ヤバ。考えただけで今ちょっとクラッと来ちゃった。鼻水でそう。 でも、流石にここまで言わせたら、いくらアホキョンでも、あたしの気持ちに気付くわね。 大体、ポニーテール萌えって何よ。もう。 ハッキリクッキリあたしを好きだって言いなさいよ。 夢の中でもキョンはバカキョンなんだから。 「ハルヒ、好きだぞ」 「ハルヒ、俺と付き合ってくれ」 一生言ってくれなそう。もう。バカキョン。アホキョン。 あ~あ。デレキョンとみくるちゃんみたいにイチャイチャしてみたいなぁ。 いっそイチャキョンと、チュ~なんて。きゃ~! でもヤサキョンに優しくされたら、もう、あたし、 嬉しすぎて大変なことになりそう。デレデレしちゃうかも。 デレハルヒ?んー。ハルデレ。ハルデレラね! でも灰まみれになるのは嫌ね。やめたっと。 有希ばっかりヤサキョンでずるい。 キョンは有希が好きなのかしら。 ユキキョン。それは嫌。 ミクルキョンも嫌。大体、語呂が悪いわね。 ハルキョンがいいわ。 うん、ハルキョンはいいわね。 でも、キョンと有希が相思相愛なら、しょうがないわよね。嫌だけど。 うん、あたし、死ぬほど泣くかもしれない。 でも、有希がキョンを本気で好きなのは、見れば分かるし、 あたしがキョン取ったら、きっと有希が死ぬほど泣くわよね。 ていうか有希、泣きすぎて本当にしんじゃうかも……。 そんなの、絶対、ヤダ。 でも、ユキキョンも嫌。 もう、バカキョン! あんたがフラフラみんなに中途半端に優しくするからいけないのよ。フラキョン! 男なら、一人に徹底的にアタッキョンしなさいよね。 みくるちゃんなんて、きっと何度も何度も家で一人で泣いてるわよ。 もう。バカアホマヌケキョン!!! あんたなんか女の敵よ!テキキョンよ! あ、なんか涙出てきた。おかしいわね。花粉症かしら。 あたしは別にキョンのせいで泣いてる訳じゃないから。 それより今何時だろ。携帯どこやったかな。 キョン、今どうしてるかしら。まだ起きてるかな。 あ……ヤバ、間違って発信しちゃった。 どうしよう。何か言うこと。 えーと、明日はデレキョンじゃなくて、 ヤサキョンがいいっていうか、 ハルキョンはいいけどフラキョンじゃなくて そうじゃなくて学校ではもう少しフラキョン あ。 「なんだハルヒこんな時間に。寝るところだったんだが」 「あ、ええと、何ギョン?」 「何って、お前から電話してきたんだろうが。って、お前泣いてるのか?どうした。大丈夫か」 「あ、ヤザギョン」 「は?なんだって?お前、大丈夫か?鼻声だしよく聞き取れないんだが」 「なんでごういう時にがぎっでヤザギョンなのよバガギョン!」 「……お前、本当に大丈夫か?風邪でも引いたのか?熱あるのか?今家か?」 「う……うん、大丈夫。ありがどう。今家」 「え?お前、本当に大丈夫か!?ありがとうって聞こえたが」 「あ。うん。ぢょっど。平気。普通。大丈夫」 「全然普通じゃねーよ。なんか悩みがあるなら、聞いてやるぞ」 「……ズ」 「……今からそっち行ってやろうか?」 「あ、ダメ。ぞれは。ダメ。……ズ」 「……ズ」 「なんだよ。俺どうしたらいいんだ?」 「ごめん。……ズ」 「……」 「……ズズ」 「……」 「じゃあ、ごめん。もう切るがら」 「ごめんっておい、そんなんで切られたら、心配で寝れねえだろ」 「ひぐ。う。ぞんなごど、ズ。言うがら。よげい。ズ」 「お前な。何か言いたいことがあって掛けてきたんだろ?まずそれを言ってみろ」 「うぐ。ヤザギョンのアホ!ズズ。ぞんなズごどズ言われだらズ」 「うん。ゆっくりでいいぞ」 「」 (チーーーーン!) 「……」 「」 (チーーーーン!) 「……おーい」 あ、電話切ろう。切んなきゃ。 鼻水やっと止まった。 どうしよう。 死ぬほど恥ずかしい。顔が熱い。 なんであたし、キョンが出る前に切らなかったのかしら。 っていうか、急に優しくするな!もう、バカキョン! あたしまで調子狂っちゃうじゃない。 ヤサキョンもバカキョンの内ね。 ヴィィ-ン ヴィィ-ン あ。電話かかってきた。 ヴ 「何?」 「何じゃねーだろ。大丈夫か?突然切るなよ。変だぞお前」 「あ、ええと、うん、大丈夫。なんかね、えーと、変じゃないから」 「お前、本当に本物のハルヒだよな」 「失礼ねっ!本物よ。それぐらい声でわかりなさいよ!」 「ああ、わかった。でも、俺の知ってるハルヒは、突然泣きながら電話してきたりしねぇ」 「あ、うん。ええとなんかよくわかんない。うん」 「なんだそりゃ」 「ええと、あー。じゃあ、キョンは有希が好き?あ、」 「……は?」 「あ、違った。なしなし。今のなし。あたしはキョンが好き?じゃなくて」 「えっ?」 「あ、ごめん」 やばい。すぐ切ったけど、あたし今なんか凄いこと口走った。 どうしよどうしよ。 ごまかさないと。 ああどうしよう ああどうしよう ヴィィ-ン ヴィィ-ン あ、掛かってきた ヴィィ-ン ヴィィ-ン どうしよう ヴィィ-ン ヴィィ-ン どうしよう ヴィィ-ン ヴィィ-ン とと、とりあえず出ないと ヴィ 「俺もお前が好きだ」 「え…」 「でもな、電話じゃダメだったんじゃなかったか?」 「あ…う…あ、ダメ」 「ダメって……無しって事か?」 「いや、違って。また。涙が。泣きそう」 「変なハルヒだな」 「うん。でも、嬉しい…ズ」 「じゃあ、また、泣き止んだら電話しろよ。切るぞ」 「まっで。もう一回。…言って」 「……」 「……ズ」 「恥ずかしいんだがな。俺も、ハルヒが、大好きだ。これでいいか?」 「うう…。うぐ。まだ、あじだ」 「……ああ」 「あだじと、ひぐ。つぎあっで、いぐ。ぐだざい。」 「……ああ。……お前、なんか今日、すごく可愛いぞ」 どうしよう 死ぬほどうれしい うれしいけど 秘密にしないと 特に有希には絶対隠しておかなきゃ どうしよう でもうれしい もう。あたしのキョンはやっぱりバカキョンなのね……。ばか。 おわり う~ん。書いた我ながら無茶苦茶下らないw
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ハルキョンのグダデレ 有希、どうしたのかしら。 今週に入ってから、キョンばっかり見てる。 前からだったけど、今はちょっと違う感じ。 有希の目の色、どう見ても違うのよね。 恋よね。あれ。しかも、淡い恋心とかじゃないわね。 なんていうか、ベタ惚れね。あれは。 もう、バカキョン! なんで団長のあたしがこんな事で悩まなきゃいけないのよ。 どうせバカキョンが何かしたに違いないわ。 有希が何かするわけないもの。もう、バカキョンのアホ! なんであたしに相談しないのよ。雑用のくせに。 バカアホキョンね。バカアホキョンのエロキョン! キョンは有希の事どう思ってるのかしら。 でも流石にこれは聞けないわね。うーん。 キョンのバカ。あたしって者がありながら、 何をしてるのかしら。アホキョンのバカキョン。 キョンはあたしの何が不満なのかしら。バカバカキョン。 キョン、いつもあたしが一緒に居てあげてるのに、全然振り向かないし。 シャーペンで突っついても、あんまり振り向かないし。 まあ、返事はするけど。 みくるちゃんにはいっつもデレデレしてるデレキョンだし、エロキョン。 有希にはすっごく優しいヤサキョンだし。 あたしん時だけ、いっつもバカキョンかアホキョン。 あたしにも、たまにはちょっとデレキョンとかヤサキョン出しなさいよね。 「ハルヒ、似合ってるぞ」 んー。ちょっと似てなかったかな。 「ハルヒ、似合ってるぞ」 こんな感じだったかしら。 キョンもっとあたしを褒めなさいよね。 忘れてきちゃったじゃないの。録音しとくんだった。 今年の映画では、キョンにそういう台詞言わせようかしら。 それね!やっぱりあたしは天才だわ! あ、でも、どうせならもっとすごい事言わせようかしら。 「ハルヒ、どうしてお前はハルヒなんだ」 ダサイわね。 「ハルヒ、お前、超可愛いな」 うーん。キョンは超なんて言わないし。キョンが言いそうな事は…… 「ハルヒ、お前って、よく見たら、本当は可愛かったんだな」 よく見たらって何よ!最初からどこからどうみても可愛いわよ!あたしは。バカキョン! ……でもこれはちょっと言われてみたい。かも。 「俺、ハルヒが居ないとダメなんだ!」 あー。これはヤバい。これはヤバいわ。 「俺、ハルヒが居てくれないとダメなんだ!一生一緒にいてくれ!」 ヤバ。考えただけで今ちょっとクラッと来ちゃった。鼻水でそう。 でも、流石にここまで言わせたら、いくらアホキョンでも、あたしの気持ちに気付くわね。 大体、ポニーテール萌えって何よ。もう。 ハッキリクッキリあたしを好きだって言いなさいよ。 夢の中でもキョンはバカキョンなんだから。 「ハルヒ、好きだぞ」 「ハルヒ、俺と付き合ってくれ」 一生言ってくれなそう。もう。バカキョン。アホキョン。 あ~あ。デレキョンとみくるちゃんみたいにイチャイチャしてみたいなぁ。 いっそイチャキョンと、チュ~なんて。きゃ~! でもヤサキョンに優しくされたら、もう、あたし、 嬉しすぎて大変なことになりそう。デレデレしちゃうかも。 デレハルヒ?んー。ハルデレ。ハルデレラね! でも灰まみれになるのは嫌ね。やめたっと。 有希ばっかりヤサキョンでずるい。 キョンは有希が好きなのかしら。 ユキキョン。それは嫌。 ミクルキョンも嫌。大体、語呂が悪いわね。 ハルキョンがいいわ。 うん、ハルキョンはいいわね。 でも、キョンと有希が相思相愛なら、しょうがないわよね。嫌だけど。 うん、あたし、死ぬほど泣くかもしれない。 でも、有希がキョンを本気で好きなのは、見れば分かるし、 あたしがキョン取ったら、きっと有希が死ぬほど泣くわよね。 ていうか有希、泣きすぎて本当にしんじゃうかも……。 そんなの、絶対、ヤダ。 でも、ユキキョンも嫌。 もう、バカキョン! あんたがフラフラみんなに中途半端に優しくするからいけないのよ。フラキョン! 男なら、一人に徹底的にアタッキョンしなさいよね。 みくるちゃんなんて、きっと何度も何度も家で一人で泣いてるわよ。 もう。バカアホマヌケキョン!!! あんたなんか女の敵よ!テキキョンよ! あ、なんか涙出てきた。おかしいわね。花粉症かしら。 あたしは別にキョンのせいで泣いてる訳じゃないから。 それより今何時だろ。携帯どこやったかな。 キョン、今どうしてるかしら。まだ起きてるかな。 あ……ヤバ、間違って発信しちゃった。 どうしよう。何か言うこと。 えーと、明日はデレキョンじゃなくて、 ヤサキョンがいいっていうか、 ハルキョンはいいけどフラキョンじゃなくて そうじゃなくて学校ではもう少しフラキョン あ。 「なんだハルヒこんな時間に。寝るところだったんだが」 「あ、ええと、何ギョン?」 「何って、お前から電話してきたんだろうが。って、お前泣いてるのか?どうした。大丈夫か」 「あ、ヤザギョン」 「は?なんだって?お前、大丈夫か?鼻声だしよく聞き取れないんだが」 「なんでごういう時にがぎっでヤザギョンなのよバガギョン!」 「……お前、本当に大丈夫か?風邪でも引いたのか?熱あるのか?今家か?」 「う……うん、大丈夫。ありがどう。今家」 「え?お前、本当に大丈夫か!?ありがとうって聞こえたが」 「あ。うん。ぢょっど。平気。普通。大丈夫」 「全然普通じゃねーよ。なんか悩みがあるなら、聞いてやるぞ」 「……ズ」 「……今からそっち行ってやろうか?」 「あ、ダメ。ぞれは。ダメ。……ズ」 「……ズ」 「なんだよ。俺どうしたらいいんだ?」 「ごめん。……ズ」 「……」 「……ズズ」 「……」 「じゃあ、ごめん。もう切るがら」 「ごめんっておい、そんなんで切られたら、心配で寝れねえだろ」 「ひぐ。う。ぞんなごど、ズ。言うがら。よげい。ズ」 「お前な。何か言いたいことがあって掛けてきたんだろ?まずそれを言ってみろ」 「うぐ。ヤザギョンのアホ!ズズ。ぞんなズごどズ言われだらズ」 「うん。ゆっくりでいいぞ」 「」 (チーーーーン!) 「……」 「」 (チーーーーン!) 「……おーい」 あ、電話切ろう。切んなきゃ。 鼻水やっと止まった。 どうしよう。 死ぬほど恥ずかしい。顔が熱い。 なんであたし、キョンが出る前に切らなかったのかしら。 っていうか、急に優しくするな!もう、バカキョン! あたしまで調子狂っちゃうじゃない。 ヤサキョンもバカキョンの内ね。 ヴィィ-ン ヴィィ-ン あ。電話かかってきた。 ヴ 「何?」 「何じゃねーだろ。大丈夫か?突然切るなよ。変だぞお前」 「あ、ええと、うん、大丈夫。なんかね、えーと、変じゃないから」 「お前、本当に本物のハルヒだよな」 「失礼ねっ!本物よ。それぐらい声でわかりなさいよ!」 「ああ、わかった。でも、俺の知ってるハルヒは、突然泣きながら電話してきたりしねぇ」 「あ、うん。ええとなんかよくわかんない。うん」 「なんだそりゃ」 「ええと、あー。じゃあ、キョンは有希が好き?あ、」 「……は?」 「あ、違った。なしなし。今のなし。あたしはキョンが好き?じゃなくて」 「えっ?」 「あ、ごめん」 やばい。すぐ切ったけど、あたし今なんか凄いこと口走った。 どうしよどうしよ。 ごまかさないと。 ああどうしよう ああどうしよう ヴィィ-ン ヴィィ-ン あ、掛かってきた ヴィィ-ン ヴィィ-ン どうしよう ヴィィ-ン ヴィィ-ン どうしよう ヴィィ-ン ヴィィ-ン とと、とりあえず出ないと ヴィ 「俺もお前が好きだ」 「え…」 「でもな、電話じゃダメだったんじゃなかったか?」 「あ…う…あ、ダメ」 「ダメって……無しって事か?」 「いや、違って。また。涙が。泣きそう」 「変なハルヒだな」 「うん。でも、嬉しい…ズ」 「じゃあ、また、泣き止んだら電話しろよ。切るぞ」 「まっで。もう一回。…言って」 「……」 「……ズ」 「恥ずかしいんだがな。俺も、ハルヒが、大好きだ。これでいいか?」 「うう…。うぐ。まだ、あじだ」 「……ああ」 「あだじと、ひぐ。つぎあっで、いぐ。ぐだざい。」 「……ああ。……お前、なんか今日、すごく可愛いぞ」 どうしよう 死ぬほどうれしい うれしいけど 秘密にしないと 特に有希には絶対隠しておかなきゃ どうしよう でもうれしい もう。あたしのキョンはやっぱりバカキョンなのね……。ばか。 おわり う~ん。書いた我ながら無茶苦茶下らないw
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ハルキョン【二代目】 マイリスト 動画が削除されてました
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涼宮家の魅惑の夕食が終わり(今夜は和食、とっても大変そうな懐石風だった)、ハルヒがガリガリ引いたばかりの豆で入れたコーヒーを飲み、今度は俺たちがなんだか皿の上に乗せられているような心持ちだった。人生で起こることは、すべて皿の上でも起こる、と言ったのはだれだったか。 「うん、おもしろい」 ハルヒの親父さんが発した一声はこれだった。 「ひさびさに早く帰って来たら、夕食は魅惑の懐石料理で、その上願ってもないスペシャル・ゲストがいて、バカ娘までしおらしい、と来る。俺は今日のを最後の晩餐にしてもいいくらいの心持ちだよ、母さん」 「なんですか、お父さん」 「キョン君のふとんを敷いてやってくれ。今日は寝ずに語り明かそうな、なっ、キョン君」 「すみません。その前に、お話が」 「おお、何だろう? 俺の向かいにはキョン君がいて、その左隣にはうちのバカ娘。母さんはどこにすわるんだ?」 「もちろん、お父さんの隣ですよ」 「そうか。つまり2対2だな。何をやらかす気だ?」 常々ただ者ではないと思っていたが、なにしろ、この涼宮ハルヒの遺伝子供給元だ。いざ対面すると、一生のうちで条理に不条理の経験を加えても、体験したことのないような圧迫感。こういうのを字にするとまさしく「気圧される」と書くんだろうな、としばし思考を飛ばしていると、向かいからは見えない位置で俺の左手を握ったハルヒの右手の圧力が強くなり、俺を現実に引きづり下ろしてくれる。 「すみません、お話が」 「うん、そうだ。話だ。どうぞ、はじめてくれ」 という端から、となりのハルヒ母にこう話す親父さん。 「オラ、わくわくしてたぞ」 突っ込むため身を乗り出そうとするハルヒの右手を、今度は俺の左手が引きづり下ろす。耐えろ、ハルヒ。ここは耐えてくれ。 このメンバー、この配置、この状況では、時間は決して味方にならないと悟った俺は、玉砕覚悟の手に打って出た。ハルヒ、恨むならこの面子を恨め、空気を恨め、とりわけ立ちはだかるバカ親父を恨め。 「ハルヒのおとうさん!おかあさん!」 「「「(ごくり)」」」 「順番が違うのも、経験も力もさらには年齢も足りないのも、めちゃくちゃ勝手なことだということも、単なるわがままだってことも、承知してます。俺はいつも言葉が足らず、一番心を通わせ合わなくっちゃいけないハルヒとだって、いつも食い違って言い合いばかりしています。愛だとか好きだとか柄にもない言葉はほとんど言ってやれてないし聞いてもいません。でも、この気持ちだけは本当です。ハルヒにも、他の誰にも、本当だって言えます。ハルヒに、ただ、いつも、側に、いて欲しいんです」 「あたしも! あたしもこいつと、いつも、いっしょに、いたいの! ということで、キョンといっしょに住むから! 部屋ももう決めてあるの!」 「って、ハルヒ、まだ早い! って、いつ決めたんだ!」 「なによ、そこまで言っておいて、早いも遅いもないわよ! あたし、あんたの気持ちが聞けてうれしい。こうなりゃ行けるとこまで行くまでよ!」 「まて、ハルヒ。ヤケになるな。というか、ヤケになる状況じゃないぞ」 「ヤケになんてなってないわよ! 胸の高鳴りが、今すぐ走り出さないと、抑えられないだけよ!」 「そりゃ、焼け石に水、じゃないや、マッチポンプでもないし、ぬかに釘、じゃなおさらなくて、えーと」 「火に油か?」 「そう、火に油だろ!」 「すまんが、お二人さん……」 つぶやくハルヒ親父。 「ハル、キョン君。おすわりなさい」 ハルヒ母の一言で、室温が5度は下がった。アドレナリンは引っ込み、2人の血圧と血の気が一気に引いて行く。 「「は、はい」」 「あー、ごほん」 ハルヒ親父は咳払いをひとつ打つ。 「よくわからないんだけど、・・・いいよ」 「は?」「あの、親父?」 「つまり、なんだ、お互いに好き合ってるから一緒に暮らそう、誰の気兼ねなくエッチしよう、ということだろう?」 「いや、あのエッチとか、そういう前に」「こ、このエロ親父!」 「しないの?」 「い、いや、しないというか、したいというか」「何言ってんのよ、このエロキョン!」 「だったらすればいい」 とハルヒ親父は言った。 「14日間のクーリング・オフ期間も認めよう」 「は、はい」 「くれぐれも物わかりのいい親父だとは思わんでくれ。ただ、この手の件については、そりゃびっくりするくらい他人のことを、とやかく言えた義理じゃないんだ、おれたち」 「そうねえ」 いつになく真面目な親父さんと、いつものようにコロコロ笑うハルヒの母さん。 「但し、お試し期間であれ、借りそめであれ、一家を構えるんだから一人前と見なして、もう扶養義務は解除だ。君たちの甲斐性で生活したらいい。自分たちで稼いで、自分たちで使って、生きろ。といっても1日24時間だし、一生は何年か分からんが、時間の使い方は自分たちで決めたらいい。いつから一緒に暮らすかは、明日からだろうが高校を出てからだろうが大学出てからだろうが就職してからだろうが二人で好きにしろ。どこで暮らそうが、こっちには異存はない。まあ、多少はさびしいから連絡はしてくれ。俺からは以上だ。あと、母さん頼む」 「はいはい。お父さん、ああは言ってるけど、近くに住んでくれた方がお互い便利だと思うわ。子供も預かってあげられるし」 「「子供!?」」 「当然だけど、キョン君の親御さんにも了承を取り付けてね。これについては『心の中で応援』以上のことはやるつもりないわよ。まあ、ゆっくり考えて計画的に事を運びなさい。それと、最初に私たちに言ってくれてうれしいわ」 「あー、最後に一つ」 親父さんは、ようやく真面目な顔を解いて、にやりと笑った。 「結婚まで認めた訳じゃないからな。もっと自分磨いて出直してこい。二人ともだ。まだガキだから今日はこれくらいで済ましてやるが、今度は大人同士ガチとガチだからな。以上だ」 背中を向けたハルヒの親父さんと母さんに深々と頭を下げ、「上等よ!返り討ちにしてあげるわ」といきまくハルヒを引きずり、とりあえずハルヒの部屋へ退散した。 「ハルヒ、真面目に聞くが、おまえいくら持ってる?」 「貯金?○○くらいかな。あんたは?」 「◎◎円程度だ」 「むー、合わせても敷金で飛んじゃうわね。何に使ったのよ?」 「言いたかないが、主として市内探索でのオゴリだ」 「あたしも言いたかないけど、主としてコスプレ衣装及び不思議グッズよ。まあ自分の服とか何かもあるけど」 「バイトすれば何とかなるかもしれんが……」 「バイトにうつつを抜かせるような成績なら、あたしも家庭教師に毎日通ったりしないわよ」 「なるほど、これが現実の壁か」 「まったく総論(おもてむき)賛成、各論(じつのところ)反対なんて、大人のくせにずるい」 「ずるくはないさ。親父さんが何を言おうと結局直面してた壁だ。どうする? あとでこっそりお義母さんに頭下げて支援を頼むか?」 「冗談じゃないわよ。そんなの絶対ダメだからね」 「俺もそう思う。あそこまで言われたんだ、受けて立たないとな」 「わかってるだろうけど、とりあえず浪人は論外よ、キョン」 「ああ最短で受験は抜けないとな」 「大学に入れば、お互いバイトもできるし、こっちのものよ! そのためにもキョン! 明日からと言わず、今日からネジ巻いてガリガリ行くからね、覚悟しなさい!!」 「うわーん、母さん、あれでよかったのかなあ?」 「はいはい。決まってましたよ、お父さん」 「もう30秒長かったら限界だったぁ」 「はいはい。せっかく決めたんだから、泣くのはもう少し静かな声でね」 「ところでキョン」 「なんだ、ハルヒ?」 「あんた、どうせ気付いてないだろうけど、ひとつだけ名実どもに解禁になったものがあるのよね」 「は?」 「って、どりゃあ」 「うわ、ルパン・ダイブはよせ!のしかかるな!息をかけるな!」 「自分たちの甲斐性の範囲内なら何やってもいいのよ!」 「おしつけるな!かむな!しめるな!」 (昔懐かしいコメディ映画のアイリス・アウト:画面がハルキョンの顔に向かって黒くなってとじていく) ハルキョン家を探す その1 →ハルキョン家を探す その2 ハルキョン家を探す その3 ハルキョン家を探す その4 ハルキョン家を探す その5
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駅前の不動産屋の前で、掲示されている物件情報を親の敵のように睨みつけている奴に出会った。 誰であろう、涼宮ハルヒである。 ハルヒは自分の行為によほど集中していたのか、俺が声をかけられるほど近づいても、まるでこちらに気付かないでいた。 やれやれ、今度は何を考えついたんだ? 大方、SOS団の駅前屯所を作るのよ!これから地の利ってのがものをいうんだからね、といったようなことだろう。 悪の芽は早めに摘むに限るな。といっても大げさなものじゃない、ちょっとばかり小言を言うだけさ。だいたい、こいつは物わかりが悪い奴じゃない(逆に物わかりが激しすぎるきらいはあるが)。ただ正面から否定すると意地になって、自分でもわかっちゃいるくせに上げた手が下ろせなくなるだけの話だ。 周りの迷惑を少々過小評価するきらいはなくはないが、こいつはこいつなりに自分を含めた「みんな」のためを思って画策したり陰謀したりしているのだ。つまりは、こいつなりの理も利もあるわけで、何も最初から全面対決、全面否定でなきゃいいのだ。ああ、おまえの気持ちはわからんでもないがな、ハルヒ。 「キョン?」 「はい?」 不意をつかれて間抜けな声をあげてしまった俺。 というか、ぼんやり考えているうちに近づき過ぎて、ハルヒのすぐ後ろにまで来ちまってるじゃないか。しかも不動産屋の、今ハルヒが睨みつけている掲示コーナーのガラスに、ばっちり俺の姿が映ってる。これでは、ぴかぴかのトランペットに心うばわれショーウィンドウにおでこをくっつけて凝視しているちびっ子はおろか、ミスうっかりさん部門でも、我が校ナンバーワンの位置に輝くであろうマイ・スウィート・エンジェルですら俺を誤認したり見過ごしたりしてはくれないだろうよ。 「よ、よお。ハルヒ」 「あ、あんた、なんでこんなとこ、いるのよ?」 「なんでって、ここは俺の通学ルートだ。おまえとも何度も歩いてるぞ」 「そんなことは知ってるわよ。あたしが言ってるのは……」 とハルヒはそこまで言って何かに気付いたらしい。オレの袖をひっつかんで、大股でのっしのっしと歩き出した。 転びそうになりながら、これも数百回目のシチュエーションなので、俺の足腰は篠原重工製の二足歩行ロボットのようなオートバランサーが働き、見事に持ちこたえて、ハルヒの横に並ぶよう、俺の体を支えて押し出した。 後ろを振り向くと、個人経営であろう小さな不動産屋のご主人が中から出てきて、こちらを、多分ハルヒの方を見ていた。 俺は、そのご主人と例の「どういう表情をしたらいいのか分からない時の怒り顔」をはりつけているハルヒの顔をかわるがわる何度か見た。 「なによ」とハルヒの怒りを含んだ声が俺の動きを止め、怒りを浮かべた目の方は俺の顔を睨みつける。 「ハルヒ、おまえ不動産投資に興味があるのか?」 「はあ?」 「冗談だ。部屋でも借りようってのか?」 「……まあ、そのようなもんよ」 ハルヒの怒り顔は、言い当てられたのが悔しいといった顔に変わる。 「最近、よく眠れなくてね」 確かに最近のハルヒは居眠りが多いな。一足早い「春眠暁に覚えず」って奴かと思っていたが。 「近所で深夜工事でもやってるのか? 季節外れの暴走バイクの運行ルートがおまえの近所を通るようになったのか?」 それにしても、それだけの理由で部屋を借りようなんて、お大尽な理由だ。というか、ハルヒがいざ寝ようと思えば、どこかの国際空港の一本しかないせいで忙しい滑走路でだって眠れるだろうに。 「あんたの、そのわざとやってるんじゃないのっていう鈍さには、時々殺意すら覚えるわね」 「ハルヒ、俺なんか食っても多分うまくないぞ」 「どうかしら? 少なくともあんたとこのお弁当もお夕飯も、嫌いじゃない味付けね。それを生まれてからずっと食べてるんだもの、さぞかし……」 「あー、できたら、キャッチ&リリースで頼む」 「本当の狩人はね、自分で食べる分しかとらないのよ!」 俺は半分は戯れに、あとの半分は反射的に、小さく両手を上げた。ハルヒはとびかかるためだろうか、わずかにさがって腕まくりのようなしぐさをする。万事休す。 「なんだって?」 「眠れないのは、あんたのせいだって言ってんのよ!!」 ハルヒは神足の速さで間合いをつめ、俺の襟首を自慢の豪腕で締め上げはじめる。 「あんたの鈍さが、わざとやってんじゃないことぐらいわかるわよ!だから余計に腹が立つんじゃない!」 ハルヒの腕から力が抜ける。崩れ落ちる俺の体。地面にぽたぽた落ちるハルヒの……。 「ハルヒ、おまえ?」 「バカキョン! ついてくんな!!」 走り出し際にハルヒが放った鞄は俺の額に命中。俺はアスファルトにヒザをつき、ずり落ちてくるハルヒの鞄をなんとか両手で受け止めた。 あいつが走り去った場所には、小さいが見間違えようがない水滴の跡。 ハルヒは泣いていた。 持ち主は泣きながら退場し、残されたのは鞄と謎、それに浮かんで消えないハルヒの泣き顔。どうしようかとしばらく途方に暮れた後、俺はこのまま帰宅するのでも、ハルヒの家に直接行くのでもなく、事の発端に戻ることにした。 「こんにちは」 「やあ、いらっしゃい。ああ、さっきの娘の?」 「はい。あの聞いてもいいですか?」 「いいとも。じゃあ、ちょっと待ってくれるかな。そろそろシャッターを下ろそうかと思ってたんだ」 駅前の小さな不動産屋は、やはり店主一人で切り盛りされていて、夕方5時を過ぎると閉店なのだという。 「さっきの娘さんなら、このところずっと来てるよ。10日くらいにはなるかな。土、日は時間が違うけども」 「こういうのって守秘義務があるのかもしれませんが、あいつ何を?」 「それがわからなくてね。あの娘、ああやって物件情報をにらんで入るが、一度も店の中に入って来ない。時々、さっきみたいに声をかけようとすると、それに気付いてか、ぷいっと行ってしまう」 「……」 「確かに高校生が自分だけで部屋を借りるってわけにはいかないしね。親が同意して保証人になってくれないと。これこそプライベートなことになるけど、あの娘、家族と……」 「いや、うまくいってると思います。俺の知る限りじゃ」 「そうかね。あの娘の見てるところから察すると、おおかた学生向けのマンションなんだろうと思うんだけどね。君たち、制服からすると、北高でしょ? うちが扱うのは近辺の物件だし。家が引っ越すけど、彼女だけ通い続けようとでもいうのかな?」 俺は、ハルヒと俺の鞄をつかんで立ち上がった。 「ありがとうございました。あの、また来ます。必ず。今度はあいつと一緒に」 不動産屋の店主はにこにこと見送ってくれた。 「それがいい。待ってるよ」 それからの俺の計画は、(1)ハルヒに会う、(2)そして真相を聞く、である。コトバにすると単純だが、口で言うほど簡単ではない。まず、あの天の邪鬼の行方をどう突き止めるか、そしてどうやってあの韋駄天に追いつくか、が問題だ。 可能性をつぶしていくしかない。あの意地っ張りが、鞄なしで泣き顔のまま帰るとは考えにくい。家に今日誰もいないなら、まっすぐ帰る可能性が高くなるが、自宅に電話するとハルヒの母さんが出た。やっぱりハルヒはまだだという。 そうなると、あいつがどこで時間をつぶしているかだ、短くない付き合いだ、あいつの考えそうなことが分かっちまって、嫌になるな。あいつが本気になれば、何年だって誰にも見つからずにいることだってできるだろうが、何しろあの天の邪鬼だ。絶対に見付けることができる場所に、それも俺だったら見付けられない訳がない場所に、もしも見付けられなかったら俺が自己嫌悪にどっぷり浸かりそうな場所に、あいつはいる。 「早く見付けなさいよ! あたしに風邪引かす気?」 とかいう幻聴まで聞こえるような気がする。見つかった時のあいつの第一声だって想像がつくさ。 「おそい!いつまで待たせる気よ!」 ああ、末期的だぜ、まったく。 「おそい!いつまで待たせる気よ!」 明かりが水銀灯だけになった公園のベンチを背にして、腰に手をあてて、それ以外は仁王様のように突っ立ってる奴がいる。やれやれ。 「わるいな。これでも全速力なんだ。不動産屋のおっさんと話し込んだ分がロスタイムだな」 「何話してたのよ?」 「ただの茶飲み話だ」 俺は自転車を降りて、一歩近づいて言った。 「あと、次はおまえと一緒に来るって言っといた」 また一歩。 「何、勝手なこと言ってるのよ!」 「俺に関係があるんだろ。俺が一緒に行かないでどうするんだ?」 そして、もう一歩。 「あんた、自分が言ってること、わかってんの?」 「いや、実はさっぱりわからん。だから聞きたくておまえを捜したんだ。聞かせてもらえるんだろうな?」 「うちの親も、あんたの親も、反対するに決まってるわ! もちろん、あんたも!」 「かなりひどいことらしいな。そんなこと、おまえだけ独り占めとは、ずるいぞ」 「馬鹿言わないで! 冗談じゃないのよ!」 「だから真面目に聞いてるだろ。鈍いアホキョンにも分かるようにちゃんと言えよ」 もうハルヒとの距離は数歩しかない。 「なんで眠れないのか? なんで部屋を借りたいのか?」 「あんたが悪いのよ、あんたが!」 その数歩をハルヒは一気につめてくる。俺の胸に体当たりして、ぽかぽかとなぐってくる。 「あんたのせいよ! あんたがいないと眠れないのよ!」 「……」 「あんたの背中があったら、あんたの息づかいが聞こえたら、いくらだってぐーぐー眠れるのに! あんたの家に行って、ご飯食べて、勉強して、遅くなって、あんたが家まで送ってくれて、その後あたしは一睡もできない! 朝になって、あんたが迎えに来てくれるのを、夜中じゅう待ってる。だから! ・・・あんたと一緒に眠れて、あんたと一緒に目が覚める場所があったらって。いっしょに暮らすとか、そんなのは無理、わかってるわよ! 未成年だし、お金だってないし、またあんたの気持ちも確かめず、あたしだけ暴走してるし。で、でも、でもね、キョン・・・」 「……奇遇だな」 「え?」 「おまえが家に来て、飯を食って、それから勉強して、遅くなって、おまえを家まで送って行って、家の前で別れて、おれは一人で帰るんだが、帰って自分の部屋に戻って、部屋の明かりを消すと、おまえがさっきまでいたのが、暗いからかえって、すごくよくわかるんだ。体温だとか、匂いだとか、気配だとか、とにかくそんなのが。それで俺は眠らないで、朝が来るのを待って、支度したらすぐ家を出て、おまえのところへ行くんだ」 「……キョン?」 「なあ、ハルヒ。俺たち確かになんでも自分勝手にやれる訳じゃないが、自分たちがどうしたいかぐらいは、ちゃんと言葉で大人に説明できると思う。話にならなかったらその時はそれで、もう少し悪いやり方だって取れるだろ」 「……キョン」 「だからな、ちゃんと俺を巻き込め。ひとりで抱えるな。それぐらいのことはしていいと思うぞ、俺たち」 「……ごめん」 「あやまるな。さあ、どうすんだ? これからおまえの家に乗り込んで話をしてもいいし、逆にうちに先にくる手もある。なんだかんだいって、おまえはうちの連中に気に入られてるからな」 「……それをいうなら、キョン、あんただってうちじゃそれなりのものよ」 「それなり、ね」 「というわけだから、キョン、早速うちへ向かいましょう。夕飯ごちそうするって言い出すに決まってるから、料理の間にあたしが『下ごしらえ』しとくから、夕食後うちの親をきっちりと説得してね。ああ、そうそう。今日は珍しく親父が早く帰ってくるみたいだから、手間が省けるわ」 「おいおい」 「期待してるわよ、キョン! あたしたちの大事な未来がかかってるんだからね!」 泣いたカラスがもう、って奴か。やれやれ。 ハルヒは早速回復した100ワットの笑顔で、俺の手首をしっかり握って、前に歩き出した。 →ハルキョン家を探す その1 ハルキョン家を探す その2 ハルキョン家を探す その3 ハルキョン家を探す その4 ハルキョン家を探す その5
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次の日の放課後、俺とハルヒは、約束の通り、あの不動産屋を訪れた。 「そうか、君たちの部屋を探してたのかい。それでいいのは見つかったかい?」 「それが、どれもいまいちピンと来ないのよねえ」 かいつまんで話した「事の顛末」をニコニコ顔で聞いてくれる店主と、そんなのはそっちのけで物件リストの中にサイコ・ダイビングしてしまうハルヒ。 「すいません。目標を追い出すと周りが見えなくなる肉食獣な奴で」 「いいよいいよ、気にしないで。住むことは生きることなり、だ。真剣に探すのは当然だよ」 「住むことは生きることなり、ですか」 「実感が湧かないかな。若いうちは元気で外を飛び回っていて、家なんか帰って寝るだけ、ということも多いからね」 ハルヒが部屋探しに打込む様子を目の前にしても、どこか違和感を感じるのは、「外を飛び回ってる」ハルヒのイメージがどうしたって強烈すぎて、「帰って寝るだけ」のものに注がれるこいつの情熱とそのイメージが、俺の中でうまく結びつかず惑っているからだ。 「そうですね」 「そんなことないわ」 忙しくファイルを繰っているはずのハルヒから声が飛んで来た。 「人間なんて一生のうちの三分の一は寝てんのよ。赤ちゃんや9歳以下の子供をのぞいても、1日のうち11時間は寝るとか食べるとかに費やして、仕事に7時間、それ以外に自由に使えるなんて6時間くらいのものよ。それに働くといえば家の外へお勤めに出るみたいなイメージだけど、サラリーマンが働く人全体の半分を超えたのは1960年ぐらいからよ。それ以前はもちろん、それ以降もずっと家で仕事をしてる人は大勢いたわ。しかもサラリーマンっていうくらいで、ほとんどの家で勤めに出るのは男だけで、女はずっと家にいたの。共稼ぎの世帯がサラリーマンと専業主婦の世帯数を越えたのは1992年だったかしら。とにかくね、家が『帰って寝るだけ』のところなんて暴言もはなはだしいわよ、キョン!」 思わぬ集中砲火をあびて、たじろぐ俺。言葉の銃弾を連射しながらも、ファイルを繰る手を止めないハルヒ。そういえば、ハルヒが小さい頃、こいつの母さんは入退院を繰り返していて、仕事で飛び回ってる親父さんとたまにお見舞いに行く以外はこいつはずっと家にいて、小さな頃から家事全般を任されていたのだと聞いたことがあった。こいつはそんな話をした後、いつものアヒル口になって「だって他にする人がいないんだからしょうがないじゃない」みたいなことを言っていた気がする。 店主はハルヒのマシンガン・トークを、これまたニコニコと聞いていたが、それが鳴り止み、ハルヒが物件情報の海に再びダイブするのを見届けてから、ゆっくりした口調でこう始めた。 「おじさんはこの仕事を継いだのが遅くてね。頑固な父親で、そりが合わなかったから、最初は別の仕事について、しばらく勤め人をしてた。父親も、自分が死んだらここも閉めてしまおうと思ってたらしい。それが酒がたたって、父親の予定からすると随分と早くに脳卒中で倒れた。呼び付けられて実家に帰ると、手招きで呼び寄せられて父親にこう怒鳴られたよ。 『道路、河川は本なり。水道、家屋は末なり。って言葉、知ってるか?』 知らないと答えたら、『おまえ、それでも不動産屋の倅か』とこうだ。 『維新からこの方、国の偉い連中はみんなそれでやってきた。都を地震で壊され空襲で焼かれても相も変わらずだ。だがな、辺り一面の原っぱを馬が駆け抜けてくだけで道なんかひとつも見えない大平原でも、ラクダしか進めねえ砂の海でも、目をこらすと人がいるところじゃ必ず煙があがってる。その下には世界のどこいったって家がある。中にはバラしてロバに積めるような家がある、洪水に流されるままの筏の上に建てた家がある、地面を掘り下げただけの家がある。『家屋は末なり』だ? ああ、結構だ。どんな大通りの真ん中を歩いてる連中だって、家からやってきて家へ帰っていくじゃねえか。人の歩きだした端、歩いていった先は、確かに末端だ、行く末だ。俺たちの世代には、自分の家に帰りたい帰りたいと思いながら、のたれ死にした奴だって大勢いる。畳の上で、しかも自分の家で死ぬなんて、それだけで往生だ。病院になんかやるこたあないぞ』 それで心残りはないかと聞いたら、また怒鳴られた。 『あるに決まんてるだろ!』と言った後、泣き出したので、それで思わず、 『末のことはまかせろ』と言ってしまったんだ。で、現在に至るというわけさ」 「……ここを継ぐ前の仕事って何だったんですか?」 「ああ、役人だよ。道路や橋を作ってた。まるで落語だね」 「その、お父さんは?」 「一昨年死んだ。『おまえが一人前になるまで死ねるか』とよく言ってたから、ようやく一人前と認めてくれたのかな」 店主は、俺とハルヒに、タバコはいいかな?と承諾をとって、大きなマッチ箱を取り出してマッチをすり、火をタバコの先に持っていった。細い煙があがって、その先を見るような目で、店主は続きを話してくれた。 「今、私が座ってる机の引き出しには、不動産業とはあまり関係のない、父親の資料が入っていてね。世界中の家の写真なんだ。どうやって集めたんだろうと思うね。父親は、私が子供の頃から、ずっとこの椅子に座っていて、どこかに出掛けた覚えなんかほとんどなかったから」 店主は引き出しを開け、古いアルバムのようなものの中から一冊を抜いて、机の上で広げた。 「これは中国の山西省にある窰洞(ヤオトン)という住居。山西省や河南省あたりを黄土高原というのだけれど、『黄土高原は風がつくった大地である』という言葉があるくらいでね。ゴビ砂漠から風が運んできた黄色い砂塵でできた堆積層は、深いところで200メートルもある。土壌は均質かつ多孔質、雨の振らない地域だから数万年の年月で乾燥し切ってる。この土はとてもやわらかく掘りやすい、それに掘っても崩れにくい。中庭にあたる正方形を掘り下げて、そうしてできた土の壁に、今度は横に穴をあけて部屋をつくる。鋤一本と根気さえあれば、誰だって家がつくれる。材料はどこからも持って来なくていい、みんな自分の足の下にあるからね。こうしたところで、自分の住むところをつくるのに、「建てる」のでなく「掘る」人たちが暮らしている。住居ばかりか、工場も、学校も、ホテルも、役所も、延安大学の学生寮も、みんなそう。調査された中で一番古い窰洞(ヤオトン)は唐の詩人杜甫の生家で、1200年ほど前のものが残っているそうだよ」 「これは熱帯アフリカのバオバブの木。大きな木は幹の直径が10m近くにもなる。材質が非常に柔らかいので、これも彫り抜いて窰洞(ヤオトン)のように「引き算の建築」ができる。生きている木につくった大きな穴の家で暮らしている人たちも大勢いる」 「こっちは、乾期と雨期の間で河の水位が何mもある東南アジアの水の民の家。ノアの箱船は洪水から逃れるためにつくられたけれど、この人たちは最初から定期的に襲ってくる洪水を前提に暮らしている。この丸木小屋みたいなのは全部これも丸太でできたイカダの上に組み立てられている。ほら、どの家にも周りに20mぐらいの高い4本の柱が立っているだろ。この柱は、水に浮かんだ時にイカダ住宅を綱でつなぐおくためのものなんだ。ひとたび洪水になれば、村全体が、家や商店、集会所、そして犬小屋までも、自動的に浮かび上がる。彼等は土の上とほとんど同じ暮らしを、今度は水の上で続ける。20mの柱はね、これがないとイカダ住宅がどこかに流れて行ってしまうからだけど、ただつなぎ止めるためなら1本の柱でよさそうなものじゃないか。4本あるのは、家の向きを変えないためなんだよ。つまり四隅とも柱につないでないと、家の向きが変わってテレビの写りが悪くなる」 「テレビ?」 「ほら、屋根の上にアンテナがある。洪水を非常時と考えるとテレビなんて、と思うかもしれないが、洪水が日常の人たちには大切な問題だ」 「電気はどうしてるんですか?」 「普段は電線で供給されているところも増えたみたいだけれど、ガソリン・エンジンがついた発電機も持っている」 店主の話に引き込まれるように聞き入っていると、いつのまにかハルヒが隣に座っていた。 そりゃそうだ。この手の話をハルヒが聞き逃すはずがない。 俺は続いて何が出てくるのだろうと、無意識に腰を浮かせて机越しに見えない引き出しの中を覗こうとしていた。ハルヒがそんな俺の肩をひっつかみ強引に引き戻し、その反動で自分はバネ仕掛けのようにぶんと席から立ち上がった。 「おじさんは、家の写真、集めてないの?」 「うん。集めてるんだけど、捗々(はかばか)しくないな。うちは一人でやってるし、休みもあってないようなものだから、なかなか時間がなくてね。父親も同じ条件だったのに、何だこの量は、っていつも不思議に思うんだよ」 「それはね、協力者がいたからよ!」 ああ、断言したよ、こいつ。 「キョン、あんた、話が見えてないでしょ? おじさんはすぐにピンと来たみたいだけど」 「あ、ああ。どういうことだ、ハルヒ?」 「写真の隅っこをよく見なさい。どれにも小さくイニシャルみたいなものが入ってるでしょ?」 「ん?あ、ああ。これか。だがこれだけだと何とも言えんぞ」 「言えるのよ。さっきから何枚、写真を見せてもらったの?最初の窰洞(ヤオトン)とこっちとこっちの写真。撮影された場所はもちろん、時期も、撮った人も違うと見ていいでしょうね。筆跡から言ってもそう。なのに、どの写真にも同じイニシャルが入っている。そして、この不動産屋さんの屋号。これは名字からでしょ?」 「ああ、そうだよ。なるほど、まいったな」 「写真のイニシャルと屋号も合う。つまり、いろんな人が、おじさんのお父さんのために撮った写真なのよ、ここにある奴は全部!」 「なるほどな。探すべきものは、余所じゃなくて、ここにあったのか」 「青い鳥って奴よ、おじさん!」 おいおい、おまえが言うのか、そのセリフ。俺は二度とは言わんけどな。 「父のアドレス帳と年賀状の束は捨てずに取ってあるから、まずそのあたりからだね」 「お父さんのネットワークが解き明かされると、きっとすごいことになるわ」 「ああ、私が全然知らなかった父が、きっといるんだろう」 いつのまにか意気投合しちまって、二人で盛り上がる店主とハルヒ。気を利かせて横を向いててやる。 「青い鳥か。……そうか、君はもう見付けたんだな」 「ええ、そうよ」 見なくても、誇らしく胸を張っているハルヒの姿が見える。 「それから、あたしからおじさんに一つ提案があるわ」 何故だろう、嫌な予感がする。 「店番は、あたしたちに任させて、どんどん不思議探検に行っちゃいなさい!」 おい、ハルヒ、おまえな! ……いま、あたし《たち》と言わなかったか? 「難しい契約なんかは資格もいるだろうしできないけど、電話番ぐらいにはなるわ。いつお客さんが来るのかわからないのがネックなんだし、店番を活用したら,細切れ時間だって有効活用できるでしょ? まあ、話は、何日かあたしたちにやらせてみて、おじさんが『これならいける』と思ってからに当然なるけど」 おいおい、話をどんどん進めるな。 「わかってないあんたのために、この計画のすばらしいメリットを特別に説明してあげるわ。あたしたちの場合、軍資金は少しでも多いに越したことはないし、それにこうしていれば優良物件を見逃す事もないし、物件の選び方探し方のノウハウも身に付くってものよ」 とここまで言って、早や家庭教師と変身したハルヒは、例の100ワットの笑顔を2割増しに輝かした。 「というわけでキョン、あんたへの家庭教師も《ここ》でやっちゃうからね」 「おいおい。それってバイトの掛け持ちというか、職務専念義務とかに反するんじゃないのか?」 「あんたの家庭教師はボランティアなんだし、あたしにとっては好きな本でも読んでるのと変わらないわよ。あんたが問題解くのに考えている間、どうせあたしは時間が空くんだから、これこそ効率的な時間の使い方よ! という具合に3者が3者とも得する計画なんだけど、おじさん、どうかしら?」 なんか話の途中から聞いて笑ってましたよね。ほとんど爆笑に近いくらいに。 「あー、愉快だよ。痛快だ。こんなにむちゃくちゃで強引で、しかも筋も通っていれば利もあるなんてね。……見習い期間は月〜金の5日間、その間はバイト代なし。本採用なら次の週から早速お願いする、ということでどうだろう。時間とバイト代は委細相談の上ということで」 「かまわないわ!」 ともあれ、これもまた明日のためのその一、ということだろうか。 うちの親への説得も、まだ残ってるんだぞ、ハルヒ。 「わかってるわよ。それも今夜やっちゃいましょう!」 やれやれ。多分、一番の難関なんだぞ。 「わかってるわよ。でも,進まないと明日はないわ。キョン、あたしに付いて来なさい!!」 ハルキョン家を探す その1 ハルキョン家を探す その2 →ハルキョン家を探す その3 ハルキョン家を探す その4 ハルキョン家を探す その5
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父親が帰宅し両親が揃ってから話をした方がいいだろうと、俺とハルヒはファミレスで時間をつぶし、それから俺の家へと向かった。 予想していたことではあったが、うちの家の反応は、鷹揚にして寛容な涼宮家のそれにほど遠く、当惑と難詰とからなる、よくもわるくも、ごく常識的のものだった。 「仲がいいのは結構な話だが、正面切って『同棲』したいんだと言われても、反対だとしか言えないな」 俺の父親がついたため息を引きとって、今度は母親が口を開く。 「ふたりはまだ高校生なんだし、その歳にふさわしいお付きあいの仕方があるとおもうわ。それにハルヒちゃんのご両親だって心配なさると思うし」 ハルヒは顔を上げて、いつもの二割増で目に力をこめて言う。 「あの、うちの両親には話しました、ふたりで」 「そう、どうおっしゃっていらしたの?」 「するなら自分たちの甲斐性と責任で、と言われました」 「そのとおりだな。この話は、今の二人の甲斐性と責任を越えたものだと思う。古い考えかもしれないが、まだ結婚もしてない男女が一緒に暮らすことが、いいことだとはどうしても思えない」 「10代で結婚するのは昔は普通だったし、今もそういう人たちはいるけれど、仕事もなかなかないし、あってもそんなにたくさん貰えるわけじゃないから生活は大変みたいだわ。生活費や家事・子育てについて、親の支援を受けながらというケースもあるけど、それも望んでするものじゃないと思うの」 「まして二人はこれから大学受験が、その先には就職だってある。このことを二人がないがしろにしてないのは、毎晩勉強してることや、息子の成績の変化だけを見てもわかるよ。だから、それだけに、今日聞いた話には正直驚いたし、少し残念だな」 親たちが言う言葉や口調からは、親なりに俺たちを心配してくれているのがよくわかった。加えて、親たちが言うことは、現実的に見ても常識に照らしても、間違っていなかった。それに親たちが指摘した問題や限界は、俺たちも自覚していて、なおかつ今すぐに解決の見つからないものだった。 事を運ぶにあたってどういう問題があるのかについては、親たちと俺たち二人の見解はほとんど一致していた。違うのは、俺たちは「どうしたいか」を考えていて、親たちは「どうすべきか」「どうあるべきか」を考えていることだった。当然、話は平行線をたどり、早々に暗礁に乗り上げ、そして乗り上げたままだった。 沈黙が、その気まずい場を、靄のように包み満たした。沈黙だって? 俺は心の中の何かのゲージが限界近くまで上がってきているのを感じて、何故かあわてて隣のハルヒを見た。 正直に言おう。日頃ハルヒの暴言にツッコミを入れ、無茶を引きとめるのが習い性になってきたせいか、どこかでこいつをとめるのは俺の役目だとうぬぼれていたらしい。すれ違う互いの想いと主張、進まぬ話し合いへのいらだちにキレかかっていた俺は、ハルヒの方が今にもキレようとしているんじゃないかと邪推したのだ。 涼宮ハルヒが黙っていた。 何よりも、そして誰よりも負けるのが嫌いで、口と手が互いに我先にと争って出撃するあのハルヒが、唇を噛みしめ、膝の上でぎゅっと両手を握っている。だがハルヒは、いつにもましてハルヒだった。たじろかず、顔はうつむかず、星団をいくつも詰めこんだような目を大きく開けて、じっと前を、俺の親ふたりを見つめている。 俺は、ハルヒの膝の上で握られたその手に、自分の手を重ねた。 はげますつもりか、はげまして欲しいのか、どちらともつかない気持ちだったが、今はどうだっていい。俺はこいつの手の温かみを感じて、それに力を得て顔を上げた。 「父さん、母さん」 沈黙が破られ、時間が動き出す。 「ハルヒのこと、好きか?嫌いか?」 「そりゃハルヒちゃんのことは好きですよ、ねえ」 「ああ、しっかりした娘さんで、おまえにはもったいないくらいの……」 「俺はこいつが好きだ」 すうと息を吸い込む。そして 「早すぎるというなら待つ。頼りないというならしっかりするよう努力する。甘いというならそのとおりだろうし、夢みたいなっていうなら本当に夢みたいなことを言ってるんだろうと思う。今すぐは無理だというのも分かってる。そんな生活を支える力が俺たちにまだないってことも。でも、これは俺たちの夢なんだ。どれだけかかっても、二人で実現したいと思ってる。……あの、聞いてくれてありがとう。ハルヒを送ってくるよ」 俺は立ちあがり、手を引いてハルヒを立たせようとした。しかしハルヒはこちらを見ず、逆にその手を下に引っ張り、もう一度俺を席に付かせようとした。まだ終わってないわ、と言うように。 「待ちなさい」 母が息をつき、やわらかい声で言った。 「ハルヒちゃん、夕飯食べていきなさい。ね、あなた」 「ああ。そうしなさい。……準備に少し時間がいるだろうから、一度部屋の方へ行ってなさい」 夕食が済み、俺はハルヒを送っていくために玄関を出た。 一度しまったドアが開いた。飛び出して来たのは妹だった。妹は一直線にハルヒの方に駆け寄り、振り向いたハルヒの胸に飛び込んでいった。 「ハルにゃーん、ごめんね、ごめんね」 「よしよし。あー、謝んないで。あたしの方こそ、ごめん。お父さんとお母さんに言いたくないこと、一杯言わせちゃった。妹ちゃんにも悲しい思いさせたね。ごめん」 「ううん。ハルにゃんもキョン君も悪くないよ。あたし、今日の話、すごくうれしかったよ」 「そっか……ありがとね、妹ちゃん。あたしも、それ聞いてすごくうれしい。元気、もらっちゃったね」 「ハルにゃん、お父さんとお母さんのこと、嫌いにならないでね」 「ううん、ならないよ。あんなにちゃんと、あたしたちのこと叱ってくれたんだもの」 「あとあたしのことも。それにキョンくんのことも」 ハルヒが吹き出し、俺がそれに続いて笑った。 「ならないよ、嫌いになんて絶対ならない」 「約束だよ」 「うん、約束しよ」 妹とハルヒは玄関の前で短い指きりをした。二人のつながった手が、「ゆびきりげんまん」の歌に合わせて上下に動いた。 歌が終わって、その指が離れる。妹はその指を少し見つめて顔を上げた。妹に会わせて少しかがんでいたハルヒは、膝を伸ばして、もう一度妹の顔を見た。 「じゃあね、ハルにゃん。おやすみなさい」 「うん、またね、妹ちゃん。おやすみ」 次の日、ハルヒは学校に来なかった。 メールを打つと、「風邪引いた」とだけ返事が来た。 昼休み、古泉に呼び出されて部室に向かう途中、鶴屋さんに会った。 「聞いたよー、キョン君。ハルにゃんのおやっさんに挑戦状叩き付けたってえ? 『この度、麗しき姫君を私のコレクションに加えたく候。明日、丑三つ時に戴きに参上したく申し候』って感じかな?」 「それじゃ『予告状』ですよ。あと、どっちかっていうと、ハルヒの親父さんから叩き付けられたんです」 「じゃ、受けて立ったんだ、そいつぁ男の子だあ。お姉さんは鼻が高いよっ!」 「問題はハルヒの家より、うちなんですが」 「そういや、ハルにゃんを見かけないねえ。休みかな?」 「風邪らしいですよ。なんとかの霍乱かな」 「ふんふん。まあ、焦らず急がず進むがいいや。何かあったら相談ぐらいは乗るにょろよ」 「ありがとうございます。でも、鶴屋さん、どこでその話を?」 「シークレットっさ。依頼人の秘密を守るのは探偵の基本きょろ。そいじゃねー」 昼休みの部室には、いつものように置物と化して本を読んでいる宇宙人と、随分と先に来たらしくボードゲームを並べて一人で駒を動かしている超能力者がいた。 「お呼び立てしてすみません」 「何か非常事態か?」 「今のところ閉鎖空間の類いは出現していませんね。お心当たりでも?」 「あっても宇宙的未来的超能力的な話じゃない」 「なるほど。さしずめファミリー・アフェア(家族の問題)といったところでしょうか?」 「お前、ほんとはテレパシー方面の超能力者じゃないのか?」 「機関ではそういった研究や訓練を行っている部門も確かにありますが」 「まあいい。用件を聞こう」 「放課後、涼宮さんのお見舞いに行かれますか?」 「ああ、そのつもりだったが。おまえのところにもメールが来たのか?」 「正確には僕のところにだけメールが来ました。『今日は風邪で休んでるからSOS団も休みにするわ。有希とみくるちゃんとキョンにも伝えて』。おかしいとは思いませんか?」 「どこがだ?」 「『キョンにも伝えて』というところですよ。メッセージの宛先にあなたも入っている。しかし、僕がメッセージをお伝えする前に、当然と言うべきでしょうが、あなたは涼宮さんの欠席を知っておられた」 「同じクラスだ、嫌でもわかるだろ?」 「僕が『お見舞い』といっても素直に応じられましたね」 「ああ。休んでやがるんでハルヒの奴にメールしたら、風邪だからと返事が来た」 「失礼ですがメールをやり取りされたのはいつです?」 「1時限目が始まる前だが」 「ぼくが涼宮さんからのメールを受け取ったのは、あなたにメールした直前、つまり4時限目終了直後です」 「どこがおかしい?」 「やはり『キョンにも伝えて』というところですね。1時限目の時点で、あなたは涼宮さんの欠席及び欠席の理由まで知っておられた。他の団員へはともかく、あなたにはもはや伝えるべき情報がほとんどない」 「どうせ一度言ったくらいじゃ忘れるかもしれないと思ったのさ」 「意図的に無視されることがあっても、あなたが涼宮さんとのやり取りを忘れるなんてあり得ません」 「あのなあ。それに部活が休みだって情報は、お前からはじめて知らされたぞ」 「そうです、それだけが新たに加わった情報というわけですが……」 「何か言いたいことがあるなら、結論を言ってくれ。昼休みが終わりそうだ」 「いうまでもありませんが、SOS団は名実ともに涼宮さんの団です。彼女抜きで活動することはあり得ないし、これまでもありませんでした。涼宮さんを巡る事件について、ぼくら4人が集まり何らかの対策を講じることはありましたが、それは涼宮さんの知るところではありませんし、また知られてはならない事項であり、当然ながらSOS団の活動でもありません」 「結論を、と言ったはずだぞ」 「失礼。解説役が習い性になっているようです。ですが、結論ならあなたから、最初にお聞きしているので、僕が何か付け加えるのも蛇足だというものかと」 「見舞いのことか?」 「確かに涼宮さんは一回では足りないかもしれないと思い、ダメを押されたとも言えますが、メッセージの含みは、むしろあなた以外のメンバーに向けられていると考えるのが正しいでしょう。部活が休みなら、我々は三々五々帰途につくことになる。場合によっては『みんなでお見舞いを』という無粋な提案がなされるかもしれません。ですが、僕があなたに涼宮さんのメッセージを伝え、それに対してあなたが我々に自分はそのことを《すでに知っている》と伝えれば、他3人は間違いなく『気をきかせる』でしょう。これで涼宮さんの願望は成就する。つまり『キョンにも伝えて』という部分は、あなたに情報を伝えることではなく、むしろ僕とあなたに情報の交換をさせることを意図したものと考えられます」 「俺に言わせれば、単なる考え過ぎだ」 「では、そういうことで結構です。結論は同じですから」 長門がバタンと本を閉じた。話は終わった。俺たちはそれぞれの教室に戻るべく、部室のドアを開け外に出た。 「……いや、同じじゃないかもしれんな」 「どうしました?」 「多分、考え過ぎだ。だが礼は先払いしとく。見当違いだと分かったら、後で取り消させてもらうぞ」 俺は「ありがとな」と言い捨て、廊下を走った。後ろで優雅に肩をすくめる超能力者と、液体ヘリウムみたいな目を向ける宇宙人が、俺を見送っていた。 俺は教室に舞い戻って自分の鞄をひっつかみ、谷口と国木田に「腹が痛いんで早退する」と言い捨てて、また走り出した。 ハルヒが風邪で寝込んでいるなんて考えられない。昨晩、メンタル面はどうあれ、あいつの体はピンピンしてた。触れても熱はなかった。 状況証拠なら、まだある。2回のメールがそれだ。ただ伝えるだけなら、古泉の言うように、メールはどちらか一通で十分だった。俺から古泉たちにハルヒの休みを知らせれば、それだけで部活は自動的に休みになっただろう。古泉宛にメールするのでも同じことだ。 重複しているのは、メールそのものだけじゃない。「風邪で」という部分もそうだ。1通目の俺への返事は、休みの理由は俺が予想するようなものではなく、ただの「風邪」なんだという「言い訳」の含みがあった。そして2通目の古泉へのメールへも同じ「風邪」という理由が添えられていた。俺にならともかく、夕べの一件を知らないはずの古泉には「言い訳」の必要はない。つまり、それは夕べの一件を知る者に対する駄目押しだ。 くそったれ。普段は、何をしでかすか一向に分からないが何がやりたいかは響いてくるように分かりやすいくせに、こういう時に限って、かすかでわかりにくいメッセージを発しやがる。気付くな、でも気付け、とでも言ってるみたいだぞ、ハルヒ。 だが、朝のメールのやり取りだけなら、俺はハルヒを訪ねることを躊躇したかもしれない。何より今の俺にはハルヒにかけてやるべき言葉が思いつかなかった。 夕べのハルヒの言動、態度に落ち度はない。ないどころか、あれ以上なんて俺には到底考えつかない。あの後の夕食でも、ハルヒはいつものように笑いながら、おいしそうに食べていた。ハルヒの振る舞いはベストに限りなく近いものだっただろう。それでも成果はないに等しかった。 「あたし、どうしたらいいと思う?」 とハルヒに尋ねられたら、俺はきっと何も答えられないだろう。 それでも俺はペダルを踏み込み自転車を走らせ、ハルヒの家の近くまで来ていた。この大通りの信号を渡って少し行って角を二つばかり曲がれば涼宮家の前の道に出る。 ところが信号待ちしている時、思わぬ人物がまだ信号が変わらぬ大通りを、散歩するみたいに勝手気ままに、車の間を渡ってやって来た。この人は、天下の公道でもマイペースなのか。 「よう、少年」 「ハルヒの親父さん? なんでこんなところに?」 「知っているとは思うが、俺の家はこの近くだ」 ということではなく、何でこんな真っ昼間に、家の近くにいるのかが知りたかったのだが。 「知ってる顔が妙にしけた面してるのが見えたんでな、赤信号を渡って参上した」 「・・・すいません」 「いつもの面倒くさそうに余裕こいた面はどうした? 早速、壁に当たっちまったか?」 「余裕なんか……」 「当たり前だ。おまえさんたちに余裕こかれたら大人の立場がない。大人なんてな、ヤクザとおなじで、ケチな面子だけでなりたってるんだ」 「……」 「秘密厳守で話を聞いてやる。だから缶コーヒーをおごれ。ギブ・アンド・テイクだ」 「自分の至らなさに思い至ったなら、それで結構だ。『もっとこうできたら』とか『ほんとはこうすべきなのに』とか『〜できない』とか『なんて落ちこんでる場合じゃないのに』とか思って、その手のネガティブな感情や考えにとらわれて落ちこんだら、自分にこう言え。『それで結構だ』」 ハルヒの親父さんは、軽く握ったこぶしで、自分のおでこをこんこんと軽く叩いた。 「人間の頭なんて皮肉なもんでな、思考抑制といって『ピンクの象のことを決して考えるな』と言われると、ますますピンクの象のことなんか考えちまう。だから「こんなダメなこと考えてはダメだ」とネガティブな考えを振り解こうとすればするほど、はまっちまうんだ。震えを止めようとしても、余計震えてしまうだろ。そんなときはわざと自分から震るえてみると意外と簡単におさまるもんだ」 「あの・・・ありがとうございます」 「単なるMind Hackな豆知識だ、googleればいくらでも出てくる。礼には及ばん」 親父さんは軽く手を上げて、やってきたタクシーを止めた。 「……じゃあな。遊んでるように見えるだろうが、これでも仕事中なんだ」 俺は頭を下げた。タクシーが走り去った。 「こんにちは」 「あら、キョン君、いらっしゃい」 ハルヒの母が出迎えてくれた。2階に向かって声をかける。 「ハル、キョン君が来てくれたわよ」 そういってから声を落とす。 「ちょっとご機嫌斜めよ」 「大丈夫です。そこでおやじさん……もとい、お父さんと会いましたよ」 「不思議な人ね。セルフ・フレックス・タイムとか言ってるんだけど」 「キョン! あんた、なんでこんなとこ居るのよ!」 「こんなところって、ここお前のうちだろ?」 「そういう意味じゃない! なんでこんな時間にうちに来てるのよ! まだ授業あるでしょ!」 「だから腹痛だって早引きしてきた」 「何をのんきな。授業をさぼれるような成績じゃないでしょ、あんたは」 「おまえこそ、《か・ぜ》なのに、起きて来ていいのか。せめて上になんか羽織れ」 「うっさい! 羽織れば良いんでしょ、羽織れば」 ハルヒ母にうながされて、俺は階段を上った。部屋からあわてて出て来たハルヒは、 「こ、こら。まだあがってくるな! あんた、誰の許しを得て……」 「はーい。母さんが許可しました」 ニコニコ顔のハルヒ母は、振り向くと階段の下で手まで振っている。 「は、はあ。ちょっと、待ってなさい。すぐだから」 ハルヒはドアを閉めた。内からしばらくガサゴソガサゴソという大きな音が聞こえたが、しばらくしてそれが止み、再びドアは開いた。 「どうぞ。入って」 「何をしてたんだ?」 「何でもないわ。単なる妄想よ」 「お前くらいになると、妄想だけであんな大きな音がするのか?」 「んなわけないでしょ!」 「なんだ、その図面みたいなのは?」 「部屋の模様替えプランよ」 「そうか。……ところどころ、俺の名前、というか『キョン』という文字が見えるんだが?」 「だから妄想って言ってるでしょ! ち、ちょっと笑うなんて失礼よ!」 どうやら俺は笑っていたらしい。自分で気付かなかった。 「す、すまん。いや、さすがハルヒだな、と思ってな」 「あんたにバカにされるほど頭に来ることはないわね」 「バカにしとらん。というか、バカにするなら俺の方だ」 「はあ?」 「来るには来たが、ここ笑うとこだぞ、どうやってハルヒを慰めようかと、実は途方にくれていた」 「はあ、何よ、それ?」 「俺は自分勝手にも、あの涼宮ハルヒが落ち込んでいるだろうと決めつけて、のこのこやって来た訳だ。この際だ、殴っても良いぞ」 「あんたのクサレ頭をどつく拳は持ち合わせてないわ。で、なんで、あたしが落ち込まなきゃいけないわけ?」 「夕べの件だ。俺が謝るのもおかしいが……」 「まったくもっておかしいわよ! 昨日のどこがどうまずかったって訳? あたしはほとんど勝ちどきを上げたい気分よ」 「いや、おまえは全然まずくなかったぞ。だが、うちの親は頑固に常識的だったし、話も進まなかったし」 「なんでもイエスというなら親なんていてもいないのと同じよ。あたしは昨日のは上出来だったって思ってるわ。その後の夕ご飯もおいしかったし、妹ちゃんは泣かせるくらい良い子だし、あんたも、まああんたなりに頑張ったしね。あたしたちの計画はまずは幸先の良いスタートを切ったわ」 と言って、ハルヒは巻き紙のようなものを放ってよこした。 「今後の詳細な計画よ」 「毛筆で手書きかよ。いつの時代の人間だ」 「メールで横書きよりも雰囲気出るでしょ。計画にはね情感に訴えるものが必要なの!」 「それはいいが、こっちの妄想模様替えプランが何か教えてくれ」 「そ、それは……、最終手段よ、自爆装置みたいなものよ」 「もう自爆したみたいな真っ赤な顔になってるぞ。つまり、あれか?」 「そうよ! あらゆる手をつくして駄目だった場合、あんたを拉致してここで暮らす場合、どうすればいいか、っていう見取り図よ。笑うな! 交渉事にはね、最終撤退ラインを決めておくのがセオリーなの! 最終撤退ラインのレベルが高ければ高いだけ、強気で交渉に当たれるのよ! それだけのことなんだからね! だから笑うなって言ってんの!」 ハルキョン家を探す その1 ハルキョン家を探す その2 ハルキョン家を探す その3 →ハルキョン家を探す その4 ハルキョン家を探す その5
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「あ、母さん。うん、合格したわ! もちろん、キョンも一緒よ! じゃあ、これからキョンと不動産屋さんに行くから。うん、帰りにまた電話する。じゃ」 「あ、俺だ。なんだ、おまえか。母さんは? 買い物か。ああ、受かったぞ。ハルヒも一緒だ。帰って来たら、そう伝えてといてくれ。帰りに不動産屋に寄ってくから。ああ、ありがとよ。じゃな」 ほとんど同時に携帯電話をしまうと、俺たちは顔を見合わせた。 「キョン、電話は済んだの?」 「ああ。出たのは妹だったが」 「妹ちゃんなら代わってくれたらよかったのに」 「どうせ今晩、会えるさ」 「そうね。不動産屋が終わったら両方の家に報告アンド挨拶に行くわよ!」 「はあ。ダブル晩餐になりそうだな」 「なによ、うれしくないの?」 「もちろんうれしいが、……正直、実感が沸かん」 「じゃあ、その実感ってやつを沸かせてあげるわ(にじり)」 「こ、こら、ハルヒ、公衆の面前で!」 「問答無用!」 * * * 朝比奈さんや鶴屋さんが卒業し、俺たちは否応なく最終学年となった。 朝比奈さんは地元の大学へ、鶴屋さんは「いやあ、おうちの都合ってやつでねえ、こういうはめになったってわけっさ」ということで、イギリスに留学することになったらしい。 お二人の送別会がSOS団主催により、それはそれは盛大に催されたことは言うまでもないだろうが、詳細は事情により割愛したい。 片付けに入り、朝比奈さんと泣き合うハルヒを部室に残すように、他メンバーはゴミ出しに出たり、借りた道具なんかを返しに行ったりした。部室でさぞ麗しく水晶のごとし涙を流しておられるであろう御方とは対照的に、最後の最後までこの笑顔で世界征服だって可能じゃないかというべき笑顔をたたえておられる卒業生に、ささやかな敬意を表す俺だった。少し力を入れてゴミ箱を持つ程度だがな。 スマイリング・ビューティ鶴屋さんは、実に事も無げにこう言った。 「そういやキョン君、覚えてるかなっ? この前、廊下ですれちがったにょろ」 「ええ。ああ相談なら乗るって」 「うんうん。覚えているね、お姉さんがマルをあげよう。実はさ、もう時効だから言っちゃうけど、あの前の晩、妹ちゃんから電話があったっさ」 随分とはやい時効である。え、今なんと? 「そうそう。キョン君のうちへハルにゃんとキョン君が乗りこんだ晩っさ。心配してたにょろよ」 「あいつ…。でもよく鶴屋さんの電話番号とか知ってたな」 「さりげないメアド交換は、乙女のソーシャル・スキルだよ、キョン君。クラス・チェンジには不可欠さっ!」 「はあ、そんなもんですか」 後日、妹にそのことを問いただすと、「んーとね、みくるちゃんだとあわあわするだろうし、有希に「そう」と言われたら立ち直れない気がしたし、古泉君はやさしそうでどこかいかがわしいし、ということで鶴ちゃんになったの」だそうだ。いつまでも小さい子と思っていた兄を許せ。 「で、その後、どんな様子だい?」 「その後も何も、親とは一度、こっちの希望を述べて、意見されて、そのままですね。こっちも新しく提示できるようなものもないですし」 「んー、となると最悪かけおちかな?」 「いや、さすがにそれは。別に親と決裂したい訳じゃありませんから。問題はもっぱら、うちの方の親なんですが」 「遠くの学校にすれば、親の目なんてないも同然っさ! 留学なんて手もあるにょろよ」 「いや、さすがにそこまでは」 とかなんとかいいながら、俺と鶴屋さんはぶらぶら歩いて部室棟の廊下まで来ていた。 ここで、文芸部部室のドアが開いて、あいつ登場。 「なに、ごにょごにょ言ってんのよ?」 「お、泣きやんだか、ハルヒ」 「だだだ、だ、だ、誰が? いつ?」 「おやおや、ハルにゃん、水臭いじゃないかっ。みくるのためには泣いて、この鶴ちゃんのために流す分の涙は涸れちまったってのかい?」 「もう、鶴屋さんまで!!」 と、なんとか送別会の夜はふけて行くのだった。 そして次なる試練は、もうその日の夜にやってきた。 「おお帰って来たか、ハルヒ、我が愛しきバカ娘よ」 「なによ、酔いどれバカ親父」 「『同棲なんぞ勝手にやれ、面倒はみないからそう思え』と言ったのは覚えているか?」 「この間じゃないのことじゃない。わかってるわよ」 「それはよかった。ところでその中には、大学の学費というものも含まれていると理解してるか?」 「は?」 「つまり『一人前』なんだから、どこで働こうが、どこでどれだけ学ぼうが、好きにするがいいが、その費用はすべて自己負担/自己責任ということだ」 「何でそうなるのよ!?」 「うち(涼宮家)の教育方針」 「そんなもの、いつできたのよ?」 「娘が好きな男と乳繰りあってるのに金を出す親は、親バカというより、ただのバカだ」 「あたしとキョンはね!」 「ちがうというのか? 愚かな父の目はごまかせても、賢い母によって強化されたバカ親父のカンはごまかせんぞ」 「つまりあてずっぽってことよね」 「つぎは当てずっぽにコールド・リーディングを上乗せする」 「ひとりでやってなさい」 「趣味の問題だが、娘に甘い男は微笑ましいとは思う。援助交際にはまった親父たちは、自分との娘と同い歳くらいの少女がセールス・トークにせよ、やさいい言葉が吐けることに驚嘆したんだ。まあ単なる偏見だが。だが、自分がそういう奴になろうとは思わん。愚かな父を許せ」 「こっちだって願い下げよ!」 「という訳で、我々は合意に達した訳だな。これに調印しろ」 「あんた、娘相手にそこまでする?」 「ジョークだ。何年か経った後、笑えるとは思わないか?」 「そんな日が来るまで生かしておくと思ってるの?」 戦いの翌日は、いわれもしれぬ憂鬱さが残るものらしい。次の日のハルヒは、目をどんより曇らせて、いつものように俺のネクタイを引っぱり、しかしどこかのろのろと俺を部室へと引いて行った。ドナドナドナドーナ。 「おや、お昼休みも勉強ですか?」 部室にいた古泉が内から声をかけてきた。 ハルヒは特製コロッケロールなるものを口に詰めながら、ため息をつくという器用な真似をする。 「まあ、いろいろあってね」 とハルヒは「ふう」と聞こえよがしなため息をついた後、俺の方を見る。古泉、お前もだ。 「なるほど。その、いろいろというのはどのようなことでしょう? 後学のために、よろしければお伺いしたいですね」 「いまさらながらの話だ。聞いても何も得るところはないぞ。単に理想と現実というか、希望と成績のギャップというだけの話だ」 と俺は言った。なにやら言い訳モードに入っているような気がするが、きっと気のせいだ。 「『だけ』じゃないわよ!」 ドンと、机の上におかれた物たちが一斉に跳ねるような、拳が打ち下ろされる。ハルヒ、落ち着けって。 「まあまあ。しかし彼の成績の向上は、このところめざましいものがあると、僕も職員室で小耳に挟みましたが」 そんなところで小耳になんぞ挟むな、古泉。 「まあね。あたしもこいつの努力を認めるに、やぶさかではないわ」 それ以上に、俺はハルヒの家庭教師能力を評価するがな。 「なるほど。では何か別の問題でも?」 「そうよ、別問題よ! あのクソ親父!」 再びドンと、机の上が跳ねる。古泉はこれ以上ハルヒを激昂させるよりも、俺をイライラさせる方が平穏に話が進むと判断したらしい。ああ超能力者になんかならなけりゃ、きっと立派な無名の中間管理職として日本を支えてくれただろうに。などという感慨が届く訳もなく、ミスター・スマイリーは、いつものように無駄に優雅なしぐさで肩をすくめて、俺の方を見る。はい、説明者、俺ね。 「あー、なんだ。ハルヒの親父さんって人は、家から一円の援助もなく、自分で大学に行ったらしいんだ」 「親に勘当されて、友達・親戚に借金して海外逃亡しただけよ!」で、合いの手はハルヒ。 「最近(2006年)までドイツの大学はどこでも、ドイツ人だろうが留学生だろうが、授業料をとらなかったらしい。おまけに奨学金も出てそれを生活費に当てることができる。つまり、一度大学に入ればお金がないという理由で止めなきゃならない事態にならない仕組みだ。そんな訳で、工面した金を飛行機代にしてドイツに渡ったそうだ」 「それはそれは。お父様はドイツ語にもご堪能だったのですか?」 「全然よ。出たとこ勝負もいいところだわ!」 「留学生のために大学付属の語学学校があって、そこでゼロから学んだそうだ」 「それはすごい」 「つまり、学費は自分で工面しろ、とハルヒは親父さんに言われてるんだ」 「なるほど。それでは私立大学は学費の高さが問題になりますね」 「まあ、ハルヒだけならどこの国公立にでも入れるだろうがな」 「ちょっとキョン、つまんないこと言わないの! なによ、ちょっとゴールが高くなっただけじゃない。あたしたちの真価が問われるのは、これからだわ!」 「「おおー」」 いや拍手はいらないぞ、って長門、絶妙なタイミングで入ってくるじゃないか。 さて放課後。 件の不動産屋であるが、ハルヒは一週間の見習い期間を経て、見事、電話番兼受付嬢として採用されることとなった。そして提案の際にハルヒがぶち上げた通り、ハルヒが不動産屋でバイト中は、俺もまた不動産屋へ出向き、いとありがたいハルヒ先生の個人授業を受けることとあいなった。 「キョン、勉強中よ」 「わかってる。問題解いてるだろうが」 「集中してない。その顔はくだらないこと考えてる顔ね」 「わかるのか、そんなこと?」 「いいかげん分かりにくいけどね、あんたは。それくらいのことはわかるわよ」 「実際どうしようもなく、くだらないことだ」 「聞いてあげるから、言ってみなさい」 「……横のしましまの囚人服を来た二人連れが、片足をそれぞれ鎖でつながれて脱獄する訳だ」 「だ、脱走コント? あいた口がふさがらないわ」 「俺もだ。で、脱走中の二人連れは、一方は足が速くて、もう一方は遅い。文字通り『足を引っ張ってる』って感じだ」 「……ふん。それで?」 「二人が走ってくると鉄道が見える。近づいてレールに耳をつけて聞いてみると、もうすぐ汽車がやってきそうだ。二人は鎖を切ることにするんだが、鎖は短くて、どちらかがレールの内側に入らないといけない。足を引っ張って来た方は自分が内側に入るというんだが、もう片方も譲らない。汽車は近づいてくる。…… なんというか、そういうことだ」 「……ほほう。とすると、あんたとあたしを繋いでるのは鎖なわけ?」 「そうは言ってない。言っとくが、俺からお前の手を離すつもりはこれっぽっちもないぞ。だが、だとしたら、繋ぎ方を考える時だってあるかもしれん、というくらい考えておくべきじゃないかと思ったんだ」 「余計なお世話よ。あたしが急ぎたいなら、しかもあんたがノロマで足を引っ張ってるっていうんなら、あんたを担ぎ上げたって勝手に走るわ」 とハルヒは、本当に担ぎ上げそうな勢いで俺の胸ぐらをひっつかみ、頭突きを食らわさんばかりに引き寄せる。 「あたしが腹が立つのはね、あんたがあたしにとってどれだけのものかってことが、あたしにはこんなにはっきり分かるのに、あんたの方はこれっぽっちも分かってないってことよ!」 「あ、あの……」 「はあい」 電光石化で営業スマイルを装着するハルヒ。 「表に貼ってある部屋なんですが」 「はい。どうぞおすわりになってください」 ひやかしいの客が帰っていった後(店主の言うところによれば、ハルヒの営業スマイル見たさに客が増えているのだそうだ、なんともはや)、後半戦が始まった。 「断言するけどね」 「たまにで良いから婉曲してくれ」 そうでなくとも、ハートブレイクの繰り返しで、ガラス細工の心臓がザラメみたいになりそうだ。 「分かりが悪いあんたにそれじゃ伝わんないでしょ!……成績に関しては、あんたの場合、9割9分やる気の問題よ。あんたがマヌケなのは衆目一致するところだけれど、あんたが頭が悪いかどうかのアンケートをとったところ100%で否定されたわ」 「どこでとったんだ? そんなまぬけなアンケート」 「SOS団及びその周辺とだけ言っておくわ」 「全員誰だかわかるわ!」 「ちなみに回答者に妹ちゃんは入ってるわよ。シャミセンは入ってないけど」 「それも想定済み!」 「で、あたしは世界一あんたのやる気を引き出せる存在なの。したがってあたしがコーチすれば不可能も可能になるわ」 どこかしら「正義の味方と必ず負ける最終決戦フラグ」が立ってないか? あるいは、おごれる者も久しからずフラグとか、あとパンがないならケーキ食べなさい王朝滅亡フラグとか。 「しかし飴と鞭って言葉があるだろう。鞭ばっかりじゃ学習性無能力つまりは無気力状態になるってことは動物実験でも証明されてるんだ。俺のやる気エキスパートを自称するなら、飴についてはどう考えてるんだ?」 「じゃあ、いつものプラスチック物差デコビンの代わりに、あたしの掌底でどうかしら?」 「それは鞭にトゲトゲを加えてるだろ!」 「プラスひねりを加えるわ」 「だから足すな、引けって」 「うっさい! 飴なんてね……あ、あたしがいるだけで十分よ!って、何言わせんのよ、バカキョン!!」 「い、いや、すまん。俺が悪かった」 「そこで引くな、撤回するな、謝るな!」 「おまえ……性格かわったか?」 「だまれ!誰のせいだと思ってんのよ!」 大体において、受験勉強というものは、やるほうもそれを見るほうも面白いものではない。それでも教える者の熱心さというものは相手に伝わるもので、伝われば伝わったで何かしら結果を生み出すものらしい。 ハルヒは両方の親の前で切って見せた大見得を、別の目に見える結果で裏書した。俺の成績及び模擬テストでの偏差値は、ここにきて離陸(テイクオフ)の期間を経て、上昇期に入ったらしい。教師は驚愕し、親、友人、および俺自身が言葉を失うほどだったと言っておこう。この状況を確信犯の余裕で受け止めたのは、ハルヒと長門だけだった、といえば、少しはわかりやすくなるだろうか。 「ええ、正直驚きましたよ。まさか、ここまでとは。機関にあなたの分析チームが結成されたほどです」 おまえのところはそんなに暇なのか。 「ええ、おかげさまで。例の閉鎖空間の出現頻度はとても減っています。涼宮さんからすれば、とてもそれどころじゃない、というところでしょうか。あ、あなたの分析チームうんぬんはジョークですよ」 「何故だか、今夜あたり、ハルヒとでかいケンカをするような気がするぞ」 「それはないでしょう。本題に入ってもよろしいでしょうか?」 「何か非常事態か?」 「いえいえ。いくらかは未来的であることは否定しませんが、中身はごく日常的なことです」 「ほう」 「お気を悪くされたらすみません。実は我々の組織に不動産を扱う部門があるのですが……」 「それも笑い話か?」 「我々も閉鎖空間の外では普通の人間と同じですし、会議ひとつするにもそれなりの場所が必要となるのですよ」 「せっかくの善意の申し出だから、気持ちだけはもらっとく。だから、それ以上言うなよ」 「わかりました」 「……えらく簡単に引き下がるじゃないか」 「本意ではないからですよ。あなたと涼宮さんの新生活です。自分たちの力で切り開かれるのが、一番よいと思います。その……友人の一人としては」 「おまえでも言いよどむことがあるんだな。……ありがとよ。これは友人としての礼だ」 「どういたしまして。その代わりと言ってはなんですが、純粋に個人的な労力の提供を申し出たいという人たちが、無論僕を含めて、数人いるのですが。ええ、あなたもよくご存知の人達です」 「簡単に言うと、引っ越しの手伝いに来てくれるということか? 執事やメイドをおけるようなお屋敷に住めというんじゃないだろうな」 「さすが察しが早い」 「それに鬼が笑うような話だ。俺たちの進学先が決まらんと何も決められんからな」 「大丈夫ですよ。なにしろ……」 「『涼宮さんがそれを望んでおられます』か?」 「ええ、それももちろん。ですが、それだけでなく」 「ん?」 「何よりも、あなたご自身もまたそれを望んでおられる」 「おいおい。おれはハルヒと違ってごく普通の……」 「そう、ごく普通の人生、ごく普通の幸福、それを望まれた。あなた自身や涼宮さんや、あなたの周囲の人々、長門さんや朝比奈さんの……僕もその中に入るのかもしれませんね。そして世界はまさにそうした方向に向かって来たし、今も向かっていると思います。その方向に世界を押し進める力自体は、涼宮さんのものであったかもしれませんが。その力に方向を与えたのはあなたですよ」 「ん? 長門、なんだ?」 「心当たりがある」 「心当たりって何だ?」 「うちのマンション」 「ん? ……ああ。でも長門、あそこは分譲マンションだろ」 「所有者自身が居住せず、第3者を居住者させ、両者の間で賃貸借契約を締結する意向をもつ場合を『賃貸貸し』という。この場合、月々いくらの家賃で住むことが可能」 「なるほど。だが、そんな部屋あるのか?」 「ある」 「あ、……ひょっとして?」 「朝倉涼子が住んでいた部屋。『長門有希』に名義は変更済み」 「うーん」 「嫌?」 「嫌というんじゃないが、ほら説明とか、難しいんじゃないか、と思ってな。なんで朝倉がいた部屋に住んでるのかとか、その部屋代をなぜ長門に払ってるのかとか」 「わかった」 「おい、長門」 「……」 といったありがたいおせっかい的申し出などがありながら、季節は過ぎていき、俺たちは願書を出した。古泉、長門は、俺たちの第一志望、ついでにいうと朝比奈さんの進路先でもある、地元から電車でいける某国立大学を志願していた。もっとも学部の方は違っていて、古泉は何を考えたのか工学部の建築科(閉鎖空間で神人がなぎ倒していく、はかなき建造物たちを見て何か思うところがあったのだろうか)、長門は文芸部長らしく?文学部だった。 「まあ、長門さんの理系進学自体がオーパーツみたいなものになりかねませんから」 とは副団長の弁。同じ学部でない理由は、 「少数の緊密な人間関係よりも、多数のさっぱりした人間関係の方が、人間の心理状態や社会的地位に安定をもたらすそうです。いわゆるウィーク・ボンド(弱い紐帯)仮説の応用だと」 俺たちといえば、将来何をしたらいいかわからない俺は、よくわからんがつぶしがききそうだという消極的理由で、将来やりたいことが多すぎるハルヒは、何においても負けるのがきらいだからという無方向的に積極的な理由で、法学部を選んだ。 そして学部が違えば受験日が違ってくる訳であり、二次試験当日、俺とハルヒは二人で志望校へと向かった。 大学は駅からすると坂の上にあり、そこへの道はジグザグの上り坂で、海と平行に走る何本もの幹線道路を渡って行くことになる。 駅から3つ目の交差点で信号が変り、ハルヒと俺は横断歩道を渡るために足を踏み出した。二、三歩目で、俺は軽くけつまずき、ぐいと俺の手を引き上げるハルヒに支えられる。なんかずっとこんな風な象徴的な格好だな。 「大丈夫、今のうちに散々滑って転んでおけば、試験ではすっからかんよ」 「す、すまん」 そんなことをしているうちに、一緒に横断歩道を渡りだした若い妊婦さんが、俺たちの横を追いぬいて行く。 「あ、あぶない!」 ハルヒが大きな叫びを上げた。その叫びに覆い被さるような騒音。 向こうから幹線道路を突っ走ってきた白いセダンが、おかまいなしに横断歩道へと突っ込んでくる。速度を緩める気も、まして赤信号に従うつもりもないらしい。 ハルヒの声に危機を察知した妊婦さんは、横断歩道のほぼ中央で立ち止まり、迫り来る走る凶器を見て足をすくませている。 運動神経のいいハルヒだが、経験者たる俺の方に一日の長があったようだった。ハルヒですら反応が遅れた状況で、俺の身体は前の経験をしっかり記憶していたらしく、これしかないというタイミングで飛び込み、妊婦さんを抱えて、彼女の下敷きになるべく体までひねってアスファルトの上に着地した。 車の方はスピードをいささかも緩めなかったが、今度はハルヒが一緒だ。こいつなら孫の代まで車種とナンバープレートを記憶に刻んでるさ、きっと。 しかし、よくよくこんな目に合うもんだ。暴走車両から人を助けるなんて、一生に一台でも十二分でおつりが来るんじゃないだろうか。 「キョン!キョン!」 ああ、わかったから、そんなにさわぐな、叫ぶな。ちゃんと聞こえているさ。三つも四つもないが、意識だってある。今なら指を使わず素数だって数えられそうだ。ただ地面に叩きつけられたのと、胸の上に妊婦さんを受け止めたせいで、肺が圧迫されてるんだ。声なんかすぐに出るか。右手をあげてサムアップでもしてやろうと、腕に力をこめると激痛走った。マジで痛い。泣きそうなくらいだ。痛いぞ、ハルヒ。 「どうしたの?どこか痛めた?って、あんたその右手!」 「……んなことより、救急車だろ」 「あ、うん」 よほど動転していたのか、ハルヒはやっと携帯電話をとりだした。妊婦さんも精神的ショックは大きかったみたいだが、みたところ外傷などはないようだ、とこれはハルヒが119に説明しているのを聞いて分かった。 「っつう!」 あー、たしかに、これは右手がいってそうだ。 「すみません、すみません」 妊婦さんはよろよろとハルヒに支えられて移動、俺とは少し離れたところで歩道に腰を降ろす。 「大丈夫、悪いのはあの車よ」 「いつつつ、・・・なあ、ハルヒ頼みが有るんだが」 「なに、キョン?」 「救急車には俺がつきそっていくから・・・どうせ、この腕折れてるかなんかだろ、手当ても必要だし・・・だから、おまえだけでも受験会場へ・・・」 「却下よ! あんた、それ以上バカなこと言ったら、あたしの蹴りと拳が全身麻酔をかけるわよ」 ハルヒは泣いていた。 「今のは、頭を打ったせいの世迷い事として忘れてあげる」 「すまん」 頭なんか打ってないんだがな。まあ、いいさ。今の泣いているハルヒを見て放っていけるなら、そいつこそ頭をダンプ・カーで踏んで貰った方が良いぞ、きっと。 「言ったでしょ。悪いのはあの車よ!」 ハルヒは右の手で涙を拭った。 「あと一年くらい、あんたと二人っきりで勉強するのも悪くないわ」 * * * 「おじさん!」 「お世話になります」 「お、ハルヒちゃんにキョン君。おつかれさま。その様子だと・・・」 「もちろん受かったわ!あたしもキョンも」 「まあ、さすがに二度目だし、もう取りこぼしはできませんから」 「まあ去年受けて受かったかどうか、わからないけどね」 「まあまあ。・・・で、本当に、二人の部屋はわたしが決めて良いんだね」 「「もちろん(です)!」」 「あれから父親の協力者探しもかなり進んでね。あちこちの研究者とも連絡がついたよ。私も大学は建築土木系だったけれど、その中には自分の恩師までいた。不明のいたすところだ。不動産屋の仕事もおかげで順調だし、二人にはいろいろ世話になった。……と思うと、ただの「良い物件」では申し訳なくて、なかなか決められなくてね。ようやく意中のところを絞り込んだんだ。明日にでも、一度現地で見てくれないかな」 「これから行きましょう! あ、もし、おじさんがよかったなら、だけど」 「かまわないけど、合格発表の日だ。それぞれのうちへの報告なんかは、いいのかい?」 「受かったことは電話したし、元々の話は、むしろこっちがメインだもの。どうせなら、『ここに住むことになったから』と報告したいわ」 「そうか。それなら店は早じまいして、これから行ってみようか。歩いても15分はかからないと思うよ」 踏み切りを渡り、駅から商店街を抜けて、道は上りに入った。古くからある閑静な住宅街といった趣きの道をしばらく行くと、店主はふいに立ち止まった。 「ここなんだが」 俺たちの方を振りかえり、それから門の中に視線を移した。 「見ての通り、実にいわくありげな建物だ。ここ10年間、人は住んでいない。人はね……」 まずい。とってもまずい方向に話が向かっている。 ハルヒは俺の前にいて、その表情は見えないが、目の輝きが3等星分ぐらいはアップした感じがする。 「それから持ち主は転々としたらしいが、三ヶ月ほど前におじさんのところに話があった。ただ同然の値段だ。名義変更その他の手続きプラスアルファ、といったところかな」 店主は鍵の束のようなものを取りだして、そのひとつを門扉にぶらさがるでかい錠前に突っ込む。 「駅からこの距離だし、つぶして土地だけにして売れば儲けは出るだろうに、誰もそうしなかった。できなかった、というべきか」 俺たちは、最近誰かが(おそらく不動産屋の店主だろう)踏みつぶしたとみえる草の上を歩き建物にたどり着く。そこでも店主は、例の鍵束を取り出して、ドアを開けた。 「敷地300平米、建坪120の二階建ての洋館。1階はキッチン、食堂、応接間に図書室、風呂、トイレ。2回は4つの寝室にリネン室もある。で、モノは相談だが、君たちは友人が多そうだし、掃除その他もお手のものだろう。正直、おじさんの手にあまる。管理をお願いするにも引きうけてがない。そこで思いついた。これこそ、君たちのために配された物件じゃないかとね」 あ、あの、ご店主、この2年弱で、あなたまでSOS菌に感染したのですか? 「ついては、家賃と管理費を相殺するというのはどうだろう? つまり家賃はゼロ、維持修繕に伴う費用はこちらが負担する、ということでどうだろう?」 「申し分ないわ」 仁王立ちのハルヒは高らかに宣言した。 「って、おい。ハルヒ。10年も誰も住んでないんだぞ。修理しなきゃならないところがどれだけあるか、わからんぞ」 「問題ないわ。古泉君がせっかく建築科なんだからクラスメイトふくめて絶好の実習の場所を提供できるしね。そうね、新年度まで時間もないことだし、突貫工事と行きましょう」 「しかしだな、そういうのはプロが見ないと」 「そんなのいくらもいるわ。おじさんの知りあいの建築家とか。あと古泉君がきっと便利な親戚を知ってるわよ」 ハルヒ、その発言は、「またリセットオチでいきましょう」というのと同じくらい問題発言だぞ。 「まあ最悪、バカ親父のツテという手もあるし」 「なんだ、それ?」 たしかにあの人なら、どんな込み入った事態でも、それ以上のカオスでもって何もかもうやむやのうちに収拾してしまいそうな気がする。こわい。 「うーん、『涼宮オヤジと怪しい仲間たち』とでも言っておきましょうか」 やっぱり、ちょっとこわいぞ、それ。 「なによ、幽霊と話つけて、リフォームして、間貸しすれば、不労所得で、バイトも不要、その分、いっしょにいられるじゃないの。もちろん有希やみくるちゃんや古泉君にも越してきてもらわないとね。なにしろSOS団の新本拠地だから」 それだと連中の本来業務には差し支えないのだろうか。まあSOS団に入ったこと自体がそうだという話もあるが、しかしやはり公私混同というのはいかん。いや、それよりも、何よりも、二人の新生活というテーマじゃなかったのか、おいハルヒ。 「もちろんお風呂はのぞいちゃだめよ」 ぜんぜん聞いちゃいねえよ! 「キョン、どーんと、大きく構えなさい。4年間みんなで、文字どおり合宿するようなものじゃないの!」 おじさん、ニコニコわらってないで、少し大人としての意見を言ってやって下さい。 「いやあ、私も君たちとつきあって、長い間忘れていたものを思いだしたよ」 それは大人として何か大切なものを忘れかけているんじゃ・・・ ハルキョン家を探す その1 ハルキョン家を探す その2 ハルキョン家を探す その3 ハルキョン家を探す その4 →ハルキョン家を探す その5
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ハルヒ キョン、どうしよう!? 《あたし達》、離婚するかも!? キョン やれやれ。どれ、貸してみろ。 ハルヒ いけそう? キョン とりあえず各個撃破だ。ひとりずつ機嫌を取るぞ。《ハルヒ》の大好物は? ハルヒ まだ、わかんない。 キョン わかってるうちで、一番の好物は? アイスか。とりあえずアイスをやるぞ。 ハルヒ うん。《キョン》の方は? キョン 同じだ。大好物が分かってたら、それをくれてやれ。 ハルヒ ちょっと嫌。 キョン なんで? なんだ、これ? 大好物:女の子、って? こんなのはじめて見たぞ。 どうやって調達すりゃいいんだ? ハルヒ ……。 キョン まあ、いい。すき焼きでもやっとこう。 ハルヒ あ、吐いてる……。 キョン 「ハルヒと合いません。別れようかと思います」。ああ、もう! か・ん・が・ え・な・お・せ。「わかりました。もう一度、話し合います」、だと。 ハルヒ うまくいくかな? キョン まあ、駄目なら最後の手段があるが……。気分最悪のまま、《ハルヒ》の部屋に 行ったみたいだな。 ハルヒ 二人で腹筋してる……。 キョン ケンカするより、いいだろ。 ハルヒ ああ、なんとか考え直すって! キョン やれやれ。 ハルヒ ところで、キョン。あんた、なんで、このゲームやりなれてるの? キョン いや、別に、隠し事はないぞ。 ハルヒ その花瓶、見せなさい。……こんなところにDS? あんた、カムフラージュに しても、なんか、もっちこう……。 キョン 返してくれ。 ハルヒ ってことは、確かにあんたのもの、ってことね。 キョン あ。 ハルヒ で、この「ともコレ」は何? あんた以外、女の子しか入ってないじゃないの!! キョン いや、待て。おれはおまえだけだって! その証拠に…… ハルヒ 好物をみろ? 『1位 涼宮ハルヒ』は、わかるわよ。なによ、『光陽園ハルヒ』っ てのは? 大好物『中学生ハルヒ』ってのは!? キョン なにぃ! いつのまに順位が入れ替わった? ハルヒ ってことは、あんたが入力したのね。そして他のハルヒも、ランクインしてたっ て訳ね。 キョン ……。 ハルヒ 大好物って、あんた、……食べるの? (これ以上は書けません) ともコレへ
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**非常に甘い保守ネタです。** ☆0.ファーストXXXX 果てしなく続く空を見上げて共に笑いましょう。 手を繋ぐよりも近く抱き締め合うよりも遠い。 あなたはそんな存在でいて下さい。 ファーストキスはレモンの味って言うけど、どうだったかしら? 灰色の空の下で初めて交した唇は少しかさついていました。 (それが全てのはじまり) ――――――― ☆1.喫茶店 喫茶店を出た後にいつもの様に下らない口喧嘩。 それに終止符を打つのはいつもあんたで。 ほろ苦いコーヒーの薫りが唇に乗ってあたしまで運ばれる。 あたし、苦手なのよ。コーヒーって。なんか苦いじゃない。 でもあんたから貰うコーヒーの薫りは嫌いじゃないのよね。 何故かしら? (これが恋するということ) ――――――― ☆2.指 「キョンくんの指って綺麗ですね」 オセロを指すキョンの指を見つめてみくるちゃんが言った。 まーあキョンったらデレデレしちゃって。朝比奈さんの指だって白くて可愛らしくて…だって。 あったりまえでしょ!?みくるちゃんはあたしが見つけてきたスーパー最強萌えキャラなんだから! …まあキョンの指が綺麗なのは否定しないわね。 少し骨張ってて、薄くも厚くもない皮が何とも言えずにいいのよね。 何よ。何ニヤニヤしながらこっち見てるのよ。 何か面白い事でもあった? 顔が赤いのはちょっと上せちゃっただけなんだから! (その指が唇をなぞる瞬間を思い出してしまったなんて、言えない) ――――――― ☆3.不毛な喧嘩 「なあ、ハルヒ」 「なによ」 いい加減こっちを向いてくれないか、と言おうとして、やめた。 そんな事を言ったって無駄だろう。 背中の紫色のオーラが目に見えるようだ。やれやれ。 「だからそれは俺が悪かったって」 素直にごめんと言えないのは俺のほんの少しの抵抗だと思ってくれ。いや本当に。 しかしこれ以上機嫌を損ねたら、明日古泉の顔を見るのが怖いな。あいつは今も赤い球になってせっせと働いているのだろうか。 仕方ない、か。 パイプ椅子に沈んでいた重い腰を持ち上げる。 そして、 「ちょっと、それずるくない?」 真っ赤にしたハルヒの顔を愛しく思うのさ。 (翌日、古泉に聞いたらバイトは入っていなかったらしい) ――――――― ☆4.ペットボトル 「飲む?」 と差し出されたミネラルウォーターのペットボトルの口を思わず見つめてしまう。 するとエロキョン、とハルヒに殴られた。 外から太陽がジリジリと俺達の肌を焦がす。 正直、喉は嫌って程乾いている。 しかし、その差し出されたペットボトルの口は先程までハルヒのそれとディープキスを交していたわけで、俺がこの水を飲むという行為は所謂、 「間接キス」 OK。そうだ。そういうことになるな。 「別にいいじゃない。いつも直でしてるんだし」 おい、ハルヒ。そういうことを大声で言うんじゃありません。 皆こっち見てるじゃねえか。 谷口、お前は後でシめる。 「だから、はい」 そんな5月の終わりの午後。 (間接キスも真っ赤な顔を背けられたら、いつもよりも緊張してしまう) ――――――― ☆5.自転車とあなた 「スピード!落ちてるわよ!」 「んなこと言ったってキツイんだよ!」 あたしを乗せたキョンの自転車は坂道をゆっくりゆっくり進んでいく。 口ではこう言ってるけど、これ位があたしに丁度いい。 だってその分この時間を長く楽しめるじゃない? でも恥ずかしいから絶対言わない!絶対口には出さないの。 キョンの額に汗が光る。 ああ、今日も暑くなるわね。ご苦労様。 あたしはそのお礼に頬に一つキスを落として素直に言えない「ありがとう」を表現するの。 直後、あたしを乗せた自転車が盛大に転んだのは神様しか知らない。 (素直に言えないアイシテルも一緒に) ――――――― ☆6.軋むベッドの上で ふと、目が覚めて携帯を手に取る。 午前1時。 もう、そんな時間なのか。 トイレにでも行こうと身体を起こそうとすると左腕に鈍い重みを感じた。 覚醒しきっていない頭をフル回転して思い出す。 ああ、そうか。今日はハルヒが泊まりに来ていたんだっけ。 ハルヒを起こさないように体勢をほんの少しだけ変えて、眠るハルヒの顔をまじまじと見つめる。 月明かりに照らされるそれは、まさに落書きしたくなるほど様になっていた。 流石に落書きをしてしまうと明日の朝が怖すぎるので止めておこう。朝からプロレス技をかけられるのは勘弁だ。 その代わり、起こさない程度にキスを落としてやる。 髪から耳、頬、そして首筋へと。 ハルヒが起きていたという事実を知るのは、また後日の話。 (これもある種の閉鎖空間) ――――――― ☆7. おはよう! おはよう! 通い慣れた坂道であなたの背中を見つけて走り出す。 何故だろう。昨日は眠れなかったのに清々しい気分ね。 思いっきり背中を叩くと疲れた様に振り返る。 ちょっとその反応は無いんじゃない? 聞いて!昨日は悪夢を見たのよ。 あんたはいい夢見れたのかしら? (いつぞやのファーストキスの相手は貴方だというのは内緒だけど) ――――――― ☆8.欲求不満ラプソディ ハルヒは求め合うようなキスよりも鳥の雛のみたいに啄ばむようなキスが好きらしい。 あいつは案外少女趣味なのだろうか。部屋とか行ったら少女漫画とかがズラーッと置いてあったりしてな。 いや、無いか。 俺もどちらかと言えばそっちの方がシアワセって感じで好きなのだが、何て言うかな。うん。 そこは男のサガってやつで、でもそれをハルヒに言うとぶん殴られるから言わないけど。 正直欲求不満。 次は我慢出来そうにも無いけどいいっすか? (その唇に常に恋してる) ――――――― ☆9.映画とポップコーン たまには映画でも観に行くか、なんて柄にも無いこと言ってみたりして。 下心があるんじゃない?なんて眉根を寄せて睨むなよ。下心以外に何があるんだ。 何を観ようか。SFか?アクションか?それとも歴史スペクタクル? 恋愛ものとか久しぶりに観たいかもってそっぽを向いて窓の外を眺めるハルヒ。 下心があるのはお前じゃないのか? (心のどこかで映画よりも素敵なキスを望んでる) ――――――― ☆10.宣誓 さあ、神に向かって誓いなさい! あたしの手を一生振りほどかないって。 あたしの手を一生離さないって。 真剣な目と目で睨めっこ。 どちらが先に吹き出すのかしら? 絶対に負けない!あんたも案外負けず嫌いね。 でもそうね。笑う時は一緒がいいわ。 喧嘩は思いっきりしましょう。 けどあたしが泣いてる時はそっと頭を撫でて欲しいわね。 あんたのゆっくりと落ちる瞼に合わせてあたしの視界もブラックアウト。 唇が触れるまで後5センチ。 (宇宙最大の祝福の中であたしは不思議よりも大切なものを見つけた)