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製作中、ちょっと待つよろし
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トップページ (リンクフリーではありませんので、連絡板にてご相談ください) したらばすれ違い板で不定期でドラクエ9の地図配布をしている関東の者です。 したらばすれ違い板以外で無断転載、宣伝等の報告がある場合配布会は中止にします。 初心者用の地図配布をメインでやっておりますので、 それ以外の地図は事前に連絡がない限りロムを持って行きません。(よくリクエストされる定番の地図は持って行きます) 発見者違い、場所違いの水メタキンを全力で集めています。 現在の水メタ所持数130枚 水メタ全国制覇達成! まだまだ集めますよ。 ※wikiの調子が悪いため新着更新は入荷した中から代表地図のみ掲載します。 3月22日更新内容 連絡板(小市民さん) ¥
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ドラクエ9地図ゲッツ@wikiへようこそ ここは静岡県富士市にある『片宿』という富士急行のバス停で『ドラゴンクエスト9』のすれちがい通信をしようのHPです。 富士・富士宮の民よ集まれ~(もちろん全国のみんな集まれ~ なお、DSの充電切れ等で配信できない場合があります。 DSはバス停に放置してありますが探さないで下さい。(たぶん見つからないと・・・・・ 地図数は少ないですが配信希望があれば『ご要望』欄へ。 ★富士市内、出張地図交換★ 富士市内でのコンビニでの地図交換 ①場所は富士市内のコンビニであること。 ②コンビニで交換する際に対話は不可。 ③双方の時間・場所の合意の上行うこと。 ④基本的にマルチプレイは不可。 ⑤コンビニで万引きはしない事。 希望がありましたら『ご要望』欄へ。
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発売してから、かなりたってますが ぼちぼちドラクエ9の発掘やってます。 掘りつつ、モンスターを倒して 999匹達成するのも楽しんでます!!
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メニュー トップページ メニュー 右メニュー 配布会告知 新着オンリー 地図運輸(株) 配布用ロム クレクレリスト 所持地図 初心者用 オンリー地図 メタルキング けだかき空55 とどろく花55 けだかき大地58 あらぶる獣64 大いなる影65 あらぶる風69 呪われし運命76 呪われし闇77 呪われし魂77 わななく闇79 放たれし魂79 けだかき魂79 呪われし魂80 呪われし闇82 呪われし魂84 あらぶる運命84 見えざる魔神87 放たれし星々94 ゴールデンスライム ゴルスラオンリー(LV69以下) ゴルスラオンリー(LV70~79) ゴルスラオンリー(LV80以上) はぐれメタル はぐメタオンリー(LV40~49) はぐメタオンリー(LV50~59) はぐメタオンリー(LV60~64) はぐメタオンリー(LV65以上) はぐメタオンリー(最浅) 観賞用オンリー ダークデンデン ヒートギズモ キャノンキング フロストギズモ レッドドラゴン ナイトリッチ まかいファイター スライムマデュラ れんごくまちょう アカイライ マポレーナ ゴールデントーテム ラストテンツク アンドレアル レジェンドホース ドラゴン・ウー あんこくまじん ゴールドマジンガ オンリー以外の地図 地図法地図 種狩り S8 あらぶる岩69 とどろく空71 大いなる風71 残された岩74 見えざる魂76 とどろく大地77 残された光79 とどろく影79 大いなる光90 装備品 しあわせ装備系 自前地図 自前地図 発掘名前捨て表 ベース49 ベース53 ベース54 ベース69 ベース77 ベース93 ベース240 発掘クエスト 発掘クエスト 関東S9S8コンプクエスト テレワークマルチ 掲示板 連絡板 雑記 雑記 リンク DQ9所有地図一覧@シウマイさん 勇気ある旅人@DQ9さん ドラクエ9交流広場さん 愛媛の倉庫人さん所持地図リストさん 比呂のブログさん とある発掘日記さん たからばこDQ9mapリストさん DQ9アレンのホームページさん dq9buena@ウィキさん ちいさなスラワーのアジトさん オンリー、敵減(2種)@DQ9 ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 wiki すれちがい通信募集板 宝の地図検索サイト DQ9 宝の地図 簡易検索 最低でも1/65536に 場所コード @wiki @wikiご利用ガイド 他のサービス 2ch型掲示板レンタル 無料掲示板レンタル wikiの編集方法についてはこちら 左メニューの編集方法についてはこちら ここを編集
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ドラクエ9のストーリー考えようぜ http //ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1132907036/l50 (ログがありません。HTML形式にしてアップロードしてもらえると非常に助かります。)
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りゅうの目のなみだ 夢を見ているようだと思う。悪い夢だ。そうでなければ突然どうして自分がこんなことになってしまっているのか、チャトラには納得できないし、自分自身への説明もできなかった。 このところ一気にいろんなことがあった気がする。ありすぎて、ひとつずつ思い返して整理するのも億劫だ。 (それとも、思い返したくないのかな) そうかもしれない。自分の中のどこかの部分が疼いて、チャトラは小さく笑った。笑うと潰れた喉がひどく痛む。ゆっくりと腕を引き攣れたような喉に当てようとして、左はともかく右は固く寝台の柱に括りつけられていることに思い当たった。どういうつもりなのだろう、と思う。どういうつもり。黙って部屋を訪れてはこうして縛めて行く男も、それに対して抵抗をせず大人しく縛められる自分も。 何かが決定的に変わってしまったのだと思う。大切な何かが。 思い返したくないと思いながら、それでも考えを巡らせることを止められない。 あの夜。 皇帝と二人でこっそり城下へ繰り出し、そぞろ歩いた。当初チャトラは、男の街へ行くと言う言葉を信じていなかったが、男は割と本気だったらしい。否定した自分を見てますます行く気になったようで、行く気になった男を、そうなると止める方法はなかった。天邪鬼の男に、制止する言葉の何を述べても通じるとは思えない。と言うよりも逆効果でしかないだろう。 多少ゴタゴタに巻き込まれつつ、奇遇の上に奇遇が重なってディクスと合流し、皇宮近くへ戻ったところを破落戸どもに襲撃された。たぶんそれは皇帝を狙ったと言うよりは、その少し前に、赤子を抱えた女に絡んでいたところを掻き回したことへの、報復だったのだろう。あの男どもは最後まで、皇帝を襲撃していることに気が付かなかったはずだ。 そうしてチャトラは巻き添えを食って殴り飛ばされた。痛かった、とは言えるものの、それ以外は何が起こったのか判っていなかった。 打ん殴られ吹っ飛んで、一瞬意識がどこかへ行ったのは判る。そんなに長い時間ではなかったはずだ。なのに、気が付くと辺りが一変していた。驚いたと言えば驚いたのだろうけれど、実際そこまでの衝撃はチャトラにはなかった。 ゆらゆらと陽炎のように立つ、目の前の姿が朱に染まっていた。最初何だろうと目を凝らして、それが皇帝だと遅れて気が付いた。そうして、 ああ。やっぱり。 そんな風に思った。 やっぱり「何」だったのか、チャトラにもよく判らない。何をあの後に続けて言いたかったのか、思い出せない。ただ無心にやっぱり、と思ったことだけ覚えている。 それから皇宮に戻り、次に気が付いた時は馬乗りになった皇帝に、いきなり首を絞められていた。何が何だか本当に判らなかった。容赦のない力に、自分は今殺されるのだなと言うことだけは理解した。 あの時、男は自分を本気で殺したかったのだ。それだけは判る。目茶苦茶に暴れても、男の体はびくともしなかった。それまでに何度か試されたものとは違う。戯れやからかいでこんな力が出るか。 ぎりりと細紐を引きしめられて目の前がちかちかと白く光り、真っ赤になって膨れ上がり、それから何故か急激に空気が流れ込んできて混乱した。男が急に手加減でもしたのかと思って何故だ、とチャトラは喚きたかった。 違う。 アンタはそんなひとじゃない。一度殺そうと思ったのなら、止めを刺すまで容赦をしないひとだ。転々と気が逸れるように見せかけているけれど、本当は一貫して本心の変わらないひとだ。底辺に流れている透徹した信念をうまく隠して、隠せると思っていて、実際周りの人間には隠しきれているけれど、でも。 そうして男が床に投げ捨てた紐を見て、切れてしまったのだなと思った。紺地に銀と朱の絹糸が織り込まれた細い組み紐。街へ出た時に男が仲見世で手に取って、チャトラへ選んでくれたものだった。選び、手ずから紐を結んで、結び終えると少し離れてチャトラを眺めていた。似合うとでも言いかけたのだろうか、男が目が眇めてこちらを見るので、眩しいのかなとチャトラは思った。 嬉しかった。 高級な絹織物も貴石もいらなかったけれど、男が選んでくれたことが、チャトラは単純に嬉しかったのだ。 その飾り紐が、無残に引きちぎれて床に投げ捨てられている。拾わないとダメだ。心がざわめいてチャトラは立ち上ろうとした。あれは、少し千切れてしまってもう紐の役目は果たさないかもしれないけど、でもアンタが買ってくれた、オレの。 立ち上ろうとした動きを男がどう解釈したのか知らない。足首を掴み引き摺られて、熱に浮かされたような目でじっと見つめられた。どうしたらいいのか判らなかった。おかしいことだけは判っている。アンタはもうずっと前から、ちょっとずつおかしかった。本心を隠すのが得意だったはずのアンタが、三補佐のひとたちに気付かれるくらい、少しずつおかしくなっていってた。 どうしちゃったんだよ。 声が出たならチャトラはそう言ったと思う。きつく喉元を締められたせいで声は出なかった。潰れたのだろうかとも思ったがどうでも良いことだ、と即座に考えを追い払った。重要なのは今、憑かれた視線で眺めてくる目の前の男だ。皇帝、と唇の動きで訴えてみたけれど声の出ない訴えに力などない。 溢れた唾液を拳で拭うと、動きをぞくぞくとした表情で男が見ていた。瞳の色素がいつもより薄いと思う。 その手に、いつの間にか小指ほどの太さのある剣針が握られていた。男が懐に隠し持っているものだ。護身のためなのか、男は常に袖だの腰布だの、表からは判らないようにあちらこちらに武器を仕込んでいる。そのうちの一つだった。ひたと足の甲に当てられ、これは逃げようがないなと瞬間腹を決める。男が本気なのは相変わらずだったし、彼女は腕が使えない。下半身はがっちり抑え込まれていたから、暴れたところでどうにもならない。 そうして男の目の色を見てしまったチャトラに、あまり逃げる気もなかった。 (……アンタ、なんて目でひとのこと見るんだ) そんな目で。焦れたような。飢(かつ)えたような。じっと顔色を窺い、彼女が怯えるかどうか試している。怖くないと言えば嘘になるし、痛いことは絶対に嫌だったけれど、どうしても動けない。動いてはいけないと思う。 (逃げたら、アンタは勝手に一人で傷つくんだろ) 覚悟を決めて見返してやると、唐突に皇帝の手首が返されて、ぶつりと足の甲に針が突き立った鈍い音がした。目を逸らしもせず凝視したまま刺し貫くだとか、男も大概いい根性をしているとチャトラは思う。直後襲った激痛に身悶えた。がつんと、頭を殴られたような衝撃があった。しまったな。これは相当痛い。 でもまだ耐えられそうだ。 こぼれた涙が弱いと思われそうで癪だったので、ろくに動かない腕は諦めて、チャトラは肩口で頬を擦った。 「――ああ、随分深い穴が開いてしまった」 傷口から溢れる血液を舌を伸ばして舐めとり、愛おしむように男は呟いて、それからどこか満足気に足の甲を眺め、裂いた敷布で丁寧に穴を塞いだ。チャトラには、さっぱり男が何を考えているのか判らない。判り得るはずもない。 逃がさぬよ、と男は言った。 逃げてくれるなと懇願されているように聞こえて、チャトラは身動きが出来なかった。 そこまでぼつぼつと思い出して、急に縛られた右肩が同じ姿勢でひどく痛んでいることに気が付く。顔をしかめ、体勢を入れ替えようと動くと、する、と簡単に結び目が解けてしまった。 最初から縛り付ける意思が無かったものとしか思えない。固く括りつけられていると思っていたチャトラは、面食らって解けた縄を見た。どうしようか、とも思う。解けた縄を見て男はどう思うだろう。自分でまた括りつけておくべきだろうか。 それから急にどうでも良くなって、ふらふらと光に惹かれるようにしてチャトラは窓際へ寄った。厚い緞帳が下ろされたままの隙間から真っ白に差し込む光。もう何日か陽光を浴びていない。うまく力が入らない腕を震わせながら上げて、飾り紐を引くと一気に光が部屋へとなだれ込む。 眩しくて涙が滲んだ。 もう何も考えたくなかった。ただこの澱んで饐えた空気の籠もる部屋から出て、新しい風を吸い込んでみたかった。 窓を開け、いつものように中二階から飛び降りようと下を見て、全く自分の体がその衝撃に耐えられないことに、チャトラは気が付く。穴の開いた片足は、まだじくじくと走るどころか歩くのにも痛んで、これではとても飛び降りることはできないように思えた。縄を垂らして降りることも考えたけれど、ようやく何とか持ち上がるようになったとは言え、酷く打撲し痛めつけられた腕で、自分の体重を支えることができるかどうかも疑わしい。 溜息を吐き、仕方なく窓を閉め、廊下への扉へと向かった。男が施錠をしていないことは知っている。逃がさないと言い切った割に、そうしてチャトラがどうするのか眺めているような真似をする。早く逃げてしまえと言われているようにも思えたけれど、それが男の本意なのか判らない。 とりあえず逃げ出す訳ではない、少し外の空気を吸うだけだと自分に言い訳をして、チャトラは身支度を整え、扉に手をかけた。 扉の外には護衛の騎士一人常駐しているでもなく――もちろん部屋には今皇帝はおらずチャトラ一人だったのだから、いないと言えばいないのが当然ではあったのだけれど――正直なところ、監視のひとつでも付けているだろうと思っていたチャトラは、少し拍子抜けした。それから、なるべく人目を避けて、後宮裏の庭にでも行こうと思った。いつだったか月見と称して男が連れて行ってくれたその場所は、ろくに庭師の手も入らず荒れ果てていて、雑草も含めた季節の野花が、勝手に咲き乱れていた。その気ままさがとても良かった。あれがもう一度見たいと思った。 ひょこひょこと片足を引き摺りながら、チャトラは勝手知ったる居住区を奥へ奥へと進み、後宮区と言われるあたりに立つ。瞬間、不意にむっと立ち込める香に顔をしかめる。 何だろう。これは。 この間まで後宮に、こんなにおいはしなかった。 知らない変化に胸がざわめく。 見回すと、透きとおる紫煙が渦巻いている様子が見えるような気がして、手を振って払い除ける。決して不快な香りではないはずなのに、まとわりつくそれが気持ち悪くてたまらない。辟易としながらまた少し進み、それから人の気配が随分あちこちから立ち上ることにはた、と気が付いた。 人が住んでいる。 これまで伽藍堂のまま放置されていた場所だった。ただ薄く張られた無人の部屋の紗だけが、微風にひらひらとたなびいていた場所だった。あまりに無人であったので、チャトラは男の体が交接に耐えられないと言う言葉を本気で信じたし、無駄な空間だと憤りもした。単純にもったいない。 そう思っていたのに、いつの間にか潜めた含み笑いが聞こえてきそうなほど、中央通路には媚態が満ちている。 後宮に人がいる。 気付いて狼狽え、チャトラは辺りを見回した。この場合異分子は自分の方だ。 そうして、どうしたものか、と悩んだ。 無人であるならば堂々と、通路のど真ん中を突っ切っていくことも出来よう。が、住人がいる中を部外者の自分が、土足でずかずかと踏み込むのも、流石にどうかと思う。辺りを見回すと、幸い奥庭へ通じていそうな脇道を見つけたので、住人の邪魔にならないようにそちらから向かおうと思った。 ちょっとした花壇が設えてある各部屋の窓下を、壁沿いに通り抜けるようになっているその通路は、立って通るには少し窓枠が低くて、小さいチャトラの背丈でも、部屋の中が覗けてしまう。ほとんど敷居がない暮らしそのものが後宮なのだとしても、やはり気が引ける。背を屈めてチャトラは窓下を通り抜けた。そんなつもりはなかったのに、音を立てないようにそっと歩いていると、まるで忍び歩きか覗き見のようで、妙に居心地が悪い。 奥庭まであと二部屋ほどと言うところで、それまでと同じように窓下を通過しかけたチャトラの足が、ぎくりとして止まる。中にいるであろう部屋主の女の甘い香りの中に、嗅ぎ慣れた練り香水が混じっている気がしたからだ。 部屋の中にはもったりと粉黛の気配があって、くすくすと笑いが聞こえる。水煙管。そして女の潜めた笑いだ。生臭い吐息。衣擦れと時折小さく漏れる喘ぎ。くぐもった泡立ち音。 うわ、と声にならない声を上げてチャトラは慌てた。どうしよう。 中で何が行われているのかは想像に難くない。貧民窟育ちのチャトラは、年の割に男女のあれこれを見飽きるほど見てきていて、決して珍しい行為ではなかったのに、どういう訳か冷や汗が出た。誰も見ていないと言うのに思わず空を仰いだり足元へ目をやって、何とか誤魔化そうとした。 何に対して誤魔化そうとしたのかは知らない。 そこへ、ふ、と微かに漏れた声がある。 聞き覚えがあるなと思った瞬間から、チャトラは一歩も動けなくなった。 そうして丁度体の中心あたり、肋骨と肋骨の間が妙にぎゅうと痛い。何だろう。思わず下を向き、胸元を眺めてそこを撫でた。 いっそさっさとこの場を立ち去ってしまえばいいと頭では思うのに、部屋から溢れる濃密な空気に、体が固まり身動きが出来なくなる。参った、と混乱しながらそれだけを思った。目を閉じても耳に容赦なく行為の音が飛び込む。耳を塞いでも爛れた香りはまとわりついて消えない。 行為の合間に漏れ聞こえてくる睦言は、確かにチャトラが知っている音で、いたたまれない気持ちがじわじわと湧いてくる。急に頭から冷水を浴びせられたような、どうにも嫌な気分だ。あるいは、気持ち良くうたた寝をしていたところを叩き起こされたような。 参った。……いやだ、こんなの。 長く尾を引く女の呻きに足が萎えて、とうとうしゃがみ込んだ肩を、背後から控え目に叩くものがいた。ぎょっとして飛び上がり、慌てて振り向く。出歯亀と間違われたんだろうか。振り向きながら言い訳を考えていた。そんなつもりじゃない、とかなんとか。それで納得してもらえるとも思っていなかったけれど、巡回の騎士か、なにか、 「し」 振り向き相手の顔を確認したチャトラが、声も出ないのに反射的に名前を呼ぼうと口を開くと、それを宥めるように口元に当てられた指がある。 「……こっちへおいで」 相手はそれだけを言って、腕を引く。特に抵抗する理由もなく、チャトラはその背を眺めながら、動くようになった足を進めて後に従う。 そうして連れてこられたのは、当初チャトラが来ようと思っていた後宮の奥庭だった。 連れてきた相手は、そのまま人目を避けるように庭の小さな水面を臨む東屋へ彼女を引いて行き、長椅子に腰かけるように示した。チャトラが座ると、相手も同じように端に腰を下ろす。座ると丁度東屋の柱の陰に隠れて、後宮からは見えない造りになっているようだった。 庭には誰もいない。椅子に腰かけ周りを見回して、チャトラはがっかりし、溜息を吐いた。 少し見ない間に小さな箱庭は、見違えるほど綺麗に整備されてしまっていた。後宮の活性に伴ってこちらにも人の手が入ったのだろう。好き勝手に咲き誇っていた野草はどこにも見えなくて、水面にたゆたう睡蓮の葉も前より整えられている。はびこっていた藻は除去されてしまったようだ。花壇にも整然と季節の草花が植えられていた。確かあの時は皇帝にここに誘わられた。月が青かった。虫の音の聞こえる庭で、宙をふわふわと舞う綿毛がひどく幻想的だった。そこで特に話すこともなくただ月と綿毛を眺めながら酒を酌み交わした。もう一度あれが見たいと思った。ここに来れば見られると思っていた。けれど、季節外れの昼間の今はそのどれもが見当たらない。 見たいものは何一つなかった。 (こんなものを見に来た訳じゃあない) 妙に機嫌の良かった皇帝と二人、黙って月を眺めていた。何でもいい。あの時の月夜の切れ端、建屋の影のよすが、そんなものがもう一度見てみたかった。 「大丈夫?」 溜息をついた自分をどう捉えたのか、ここまで連れてきた男――ノイエ――が、気遣う視線でチャトラを覗き込んでいた。この男はきちんと視線を合わせて話すのだな、とチャトラは気付く。高さまで同じ位置に下げるのだ。親しみやすい、と三補佐の中でもそう評価されていることを何となく思い出す。 「見ちゃったね」 言われてうん、と頷く。実際は部屋の中の光景そのものを目にした訳ではなかったけれど、あそこまで露骨に音が聞こえていれば、推して知るべし、というものだろう。しかしノイエは何故あの場にいたのだろうかとふとチャトラは思った。言ってしまえばチャトラも、勿論あの場にそぐわない人間ではあるはずだけれど、 「……僕は、あそこの区画を担当しているからね」 疑問が顔に出たのか、先んじてノイエが水面に目をやって呟いた。複雑な顔つきのチャトラから、敢えて目を離してくれたのかもしれない。 「補佐はそれぞれ担当区域を受け持っていてね。僕は主に、陛下の生活区画を担当しているんだよ」 彼の言葉にチャトラは相槌を打ちたかったけれど、生憎声は出ない。黙って頷くと、でも今日が初めてなんだよ、とその無言の頷きをどう捉えたのか彼は更に続けた。 「後宮に人を入れる案は、三補佐の間で決定したことではあったんだけど……、事後承諾の形を取ったからね。陛下はかなり御本意ではなかったはずで、後宮の体裁は整えたけれど御渡りは一度もなかったんだ」 御渡りだとか。チャトラは思わず笑い出しそうになった。慌てて頬の内側を噛んで堪える。つまり言葉は上品だけれどもすることはアレなんだよな、そう心の中で呟いた。 そんな彼女を横目で眺めて、それからノイエは、 「……陛下は今まで執務室で寝泊まりされていたようだから」 実に言いにくそうに口を開いた。 「御部屋にもほとんど戻られていなかったろう?」 (そう) また黙ってチャトラは頷いた。男が部屋へ立ち寄るのはチャトラへの戒めを確認するときだけで、すぐにまたどこかへ出て行った。聞けなかったけれど、どこへ行っているのだろうと思っていた。あそこはアンタの部屋なのに。 邪魔なのだろうかと思う。自分がいるから、男は部屋へ居付くことができないのだろうか。気が休まらないのか。顔を見るのも嫌なのだろうか。だから縛る? (……だったら出ていくのはアンタじゃなくてオレの方だ) だのにきっと男はそれを望まないのだと思った。おかしくなっている。チャトラが何度も自分に言い聞かせてきたことだった。男はもうおかしい。 突き放したいのに引き寄せたい。いっそ手放して清々としたいと願うのに、空になった手のひらを眺めて途方に暮れるのが嫌なのだ。お気に入りの人形はもう薄汚れて千切れ、他人が見たら益体もないボロ布の塊でしかないのに、後生大事に引きずり握って口に入れてはしゃぶり、決して離さない。 それが人形であると言うなら、普通は母親であるとか周りの大人が見兼ねて手をだし、本人の居ない間に棄ててしまう。彼らにとってはそれは大事なものではなくただの汚れた塊だから。そうして失くした褥を求めてきっと子供はいつまでもうろつき迷う。諦めるのは周りから諭された言葉ではない。求めても二度と戻らないものがあるのだと本人が腑に落ちるまでだ。 (オレはどうしたらいいのかな) 結局部屋からでたところで堂々巡りだ。皇帝から考えが離れない。 出て行け、とセヴィニアは言った。セヴィニア個人の意見と言うよりは、三補佐の中での共通したものなのだろう。皇帝は動揺している。補佐や議会はそれを許さない。 鼻から長く溜息がまた漏れ、チャトラは膝を抱えた。ついでに上を見上げ、あ、と小さく口を開いた。水面に面した東屋の屋根は見事な藤棚になっていて、薄紫色の雲が頭上に浮かんでいた。皇帝に似ているな、と少し思った。甘く虚ろな匂いを漂わせている紫のそれ。強烈なのにはかないそれ。見せてやろうかと思う。房の先端まで咲ききっているそれを、男は見たことがあるだろうか。 椅子の上に立ち上り、徐に手を伸ばした。どうしたのかと見やってきたノイエが、欲しいのかと尋ねるので頷いた。部屋に持って帰ろうと思う。声に出来ないのがもどかしい。ひとつ貰って行ってもいいだろうか。身振り手振りで伝えようと腕を振り回すとああ、とノイエが笑った。判ってくれたらしい。 「取ってあげるよ」 椅子の上に立ってもまだ藤棚は上の方で、ちらとチャトラの背丈と棚を見比べたノイエが立ち上がる。そうして花房へ手を伸ばしながら、 「怪我をしたんだってね」 と確認するように呟いた。 「大丈夫?」 声が出ない以上に一瞬答えに詰まる。どう答えたものかと思った。腕や頭は確かに襲われた際のものであるのだけれど。その他の傷は皇帝自身が付けていったものだと告げたら、ノイエは一体どんな顔をするのだろうかと思った。 「……チャトラ」 捥いだ花房を差し出しながら、その、とノイエが躊躇いがちに言った。 「皇宮を君が離れるとして」 言われた言葉にチャトラは思わずノイエの顔を見た。離れる。セヴィニアに言われた言葉ではあったけれど、こうして他の人間の口からも出てくるとまた趣きが違うものだなと思った。 「行く当てがもしあまり思い当たらなかったとしたら……その。君さえ良ければ、僕のところに来ないか」 ――は。 驚いて声にならない声が口から漏れた。 ――どうしてアンタがそんなことを言うんだ。 「……どうしてって言われてもうまく説明できる自信はないのだけれど」 唇の動きを読んだのか、それとも驚きがそのまま顔に出たのか、困ったように微笑んでノイエは目を逸らす。そう言えば、この男はいつも笑っている印象があるなとチャトラは思う。それも皇帝のように笑って「見せる」笑いではなくて、どちらかと言うとあたたかみのある親しみやすい笑いである。 「君のことを放っておけないから、ではいけないかな」 ――放っておけない。 言われている意味が今一つ判らなくて、問いただすようにチャトラはじっとノイエを見つめた。タダより高いものはない。諺ではなくそれを実際に暮らしの中で体得してきたチャトラにとって、見返りのないうまい話には必ず裏があるとしか思えなかった。見つめられてますます困ったようにノイエは頭を掻く。 「……そうだな……、僕は小さい頃に家族を流行病で亡くしたんだけれども」 そうして仕方がないね、と苦笑いを浮かべてノイエは言った。 「亡くした妹と君が同じ年頃だったなとか。そんなことが最近妙に気になるんだよ」 ――同情なのかな。 聞くとしばらく考える素振りを見せた後でそうだね、と彼は頷く。 「……そうだね。同情なのかもしれない。君は怒るのかもしれないけれど」 ――怒ると思うのか。 「君は誇り高い人間だから」 ――オレが? 言われたことが突拍子もなくて、チャトラは数度瞬きをする。てめェは頑固だ、聞き分けがない。そうした言葉は何度も周りから言われてきたし、事実彼女自身そうなのだろうなと納得もしていたけれど、 「帰ろうか。……部屋まで送るよ」 差し出された藤の花を受け取ろうと持ち上げた、チャトラの腕の包帯に顔を痛ましそうに眉を顰めてノイエは言った。見たいものはなかった。これ以上この奥庭に留まる意味もなかったし、そろそろ部屋に戻った方が良いとチャトラにも思えたから、うん、と素直に頷く。 長椅子から立ち上がり先に歩きかけたチャトラの腕を、後ろから不意に引き寄せて、 「ごめん」 何に対して謝ったのか彼女には判らない。気が付くとノイエに背後から抱きしめられていた。思いがけない動作に一瞬身を引くことも忘れて、目を丸くして固まる。 藤の花に群れた蜂の羽音が騒がしいと、ふと思った。 「……同情じゃ、ないんだ」 後ろから耳元に囁かれた声が熱い。 「君が好きだよ。……何にでも一生懸命な君がとても好きだよ」 言われてますますチャトラは固まった。ぎゅうと込められた腕の力に、三補佐としての建前や策略ではなくノイエは本心で言っているのだろうなと思った。思ったら余計に振り解けなくなった。こういう時どうしたらいいのだったか。正直こうした状況に陥ったことはまだなくて、どういう対処が適切なのか咄嗟に浮かんでこない。ありがとう、だとか答えるべきか。無言でいるのは悪いような気がする。声が出ないことがもどかしい。 もどかしい。けれど声が出なくて良かったとも思う。 (20110521) -----------------------------------------------
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ドラゴンクエストⅨ~それなんてエロゲ?~ 価格 1000円 ハード PS8 現行スレ ドラクエ9のストーリー考えようぜPart2 http //ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1132952188/l50 平均プレイ時間 15年 ながのみつる・分厚いコンドームなど新道具どんどん登場! Wikiを更新される方へ このWikiは、誰でも更新できますが、決して荒らさないでください。 荒らされている!と気がついた方は、バックアップという機能がありますので、それを見て復元お願いします。 ストーリーなどが決まりましたら、右のメニューから相応しいものを選んで、そこを更新してください。 相応しいものが無い場合、「決まったこと」に入れるか、新しくページを作成してください。 Wikiの使い方がわからない人は、 http //www1.atwiki.jp/faq/ を参考にしてください。 あまりページが増えすぎると見難くなる場合もあるので、 管理人が独断で一つにまとめる場合があります。
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あんちドラクエⅨ星空の守り人@wikiへようこそ wikiはみんなで気軽に攻略編集できるツールです このページは自由に編集することができます アンチが作るwiki ドラゴンクエストIX 星空の守り人 あんち達のアンチDQ9板 @wiki基本操作 @wiki機能紹介 @wikiガイド
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* チャトラが部屋へ戻ると、珍しいことに皇帝がいた。皇帝の居室に本人がいることが珍しいと言うのは少しおかしい気もしたけれど、事実ほとんど最近寄り付かないのだから、珍しいと言うより他ない。そうしてさらに珍しいことに、男は安楽椅子に深く腰掛け、傾いてぐっすり眠っているようだった。扉を閉める音にも反応しない。気付いてチャトラは片眉を上げた。これはよほどのことだと思う。 狸寝入りなのかとも思って突っ立ったまま、彼女は男を眺めていた。静かに漏れる寝息に、男が本当に寝ていると確認する。そうすると余計に動けなくなった。少しでも物音を立てて、眠りを妨げることはしたくないと思った。 “今まで執務室で寝泊まりされていたようだから。” 奥庭でノイエがそう言ったことを思い出したのだった。彼が言ったことが本当だとすると、きっと皇帝はほとんど休むことができなかったはずで、心底草臥れているだろうと思えたからだ。眠りのひどく浅い男は、チャトラの寝返りひとつにも目を覚ます仕草を見せていた。だったら同じ寝台に寝かせることをせずに、他の部屋に転がしてくれればいいのにとチャトラは思ったけれど、男がそれを良しとしなかった。何故だろう。聞いたことがないので判らない。 しばらくそのまま男を眺めて、気が付くとすっかり日が落ちていた。手にした藤の房からぷぅんと甘い香りが漂い、部屋に立ち込めている。となると、一刻ばかりチャトラは呆としたまま男を眺めていたことになる。どうも時の流れが把握できない。もう数日前よりずっとだ。 どうしたものかな、思いながらチャトラはそっと男へ近付く。そっと、と言っても彼女の片足はまだそんなに長い時間の体重移動に耐えることができなかったから、実際はかなり音を立て、不恰好に引きずりながら近付いたはずだ。頬杖の崩れた姿勢から変わらずに、男は目を閉じていた。手を伸ばせば届く距離まで近付いて、知らず潜めていた呼吸を恐る恐る吐き出した。 寝ている。 頬がまた少し削げたように思う。睡眠は無論、きっとろくに食事も摂っていないのだ。 もともと自分の体に酷く無頓着と言うか、医師の言付けを鼻先で笑って流してしまうようなところがある。何を考えているのかと思う。きっとあまり考えていないに違いない。 仮にも一国を統治する人間が、言われた通りの薬すら飲まない。死にたいのかと聞けば、生に執着はないよと返されるに違いないから聞くことはしなかったけれど、あまりに本末転倒も甚だしい。これでは体が人並みに丈夫であったとしても、壊す。男の動きを日常続けていたら確実に体を壊すだろうなと思う。事実、壊したいのだろう。 疲れてしまいたいから男は働いているようにも見える。くたくたに疲れて眠ってしまえば何も考えなくてすむ。何か考えたくもないようなことを男は抱えているのだろうかと思い、そんなことは知るかとも思い、それからいい加減に傷んだ足で立っているのが辛くなってきたので、チャトラは藤を携えたまましゃがんで男を見上げた。 こうして見ると精巧な作りの自動人形のようだ。妖貌と名高いエスタッド皇帝を讃える歌曲は、ピンからキリまでそれこそ山のように作られているのだそうだが、生憎チャトラは耳にしたことがない。だから男を褒めるような言葉は何一つ浮かばない。ただ癖のない真っ直ぐな髪であるとか、大きな手、抑え目に発せられる低い声は、悪くはないと思った。 「――かくしてそ人は死ぬと言う藤波の」 不意に響いた部屋の主の声に、ぎくりとしてチャトラは思わず手にしていた花房を取り落す。見上げていた男が目を覚ましていた。瞼を上げるのは億劫だったのか、閉じたまま口の端で呟いている。震えた睫毛が色めいてまるで睦言のようだと思い、すぐに先程の後宮の一件を連想してしまって、チャトラは狼狽えた。 「良い香りであるね」 チャトラの動揺は端から見通していたらしく、低く忍び笑いながら男がゆっくりと目を開けた。起き掛けの声が掠れている。この声を聞けるのは、今までずっと自分だけだと思っていた。男は他の人間を側に寄せ付けないから。そう思っていた。 胸の辺りが重い。 身を屈ませて床に落ちた藤を男が拾う仕草を、どこか暗い気持ちでチャトラは黙って眺めていた。それはいきなり訪れた。今は小降りになった雨の音にも掻き消されてしまうような、小さく静かで突き抜けて清々しい絶望だった。 身分だとか生まれだとか年齢だとか、そんな言葉で括れないほどに、チャトラと目の前の藤を拾う男の世界には隔たりがあって、それはきっと埋まることがない。前にもそう思った。確か中央の尖塔の天辺から街を見下ろした時のことだ。 「神」と言うものをチャトラは頭から信用していないけれど、もしいるとするならば、天から見下ろす気分はこんなものだろうかと思った。見下ろした街の灯りはあまりにも小さい。ひとつひとつの灯りに生活があり、家族があってそこで笑い、語りながら食卓を囲んでいるだろうに、塔の上からはまるで想像ができないのだ。 そこは凍徹として寒々としていた。 そんな高さからどこかを見下ろしたこともなかったし、隣に並んで見下ろし慣れている男の心持ちはどんなものなのか、理解できないと思った。 理解できるだろうか。好奇心がふと湧いた。だから男の心根に近付きたいと思ったし、高みを目指して上がってみたいとも思った。言うと男は頷いた。上がってくると良いと言った。 (今はもうアンタが見えない) 膝から力が抜け、萎えるほどの現実だった。男と自分との隔たりに目の前が真っ暗になる思いだった。 こんなに近くにいるのに。 藤を拾い上げた男は椅子にまた怠惰に座りなおして、手にしたばかりのそれを口元へ寄せる。どうするつもりかと視線で追ったチャトラの前で、ぱくりと食んでみせた。予想しなかった動作にあ、とチャトラの喉からしわがれた音が漏れる。声と言えるほど声の形は成してはいなかったけれど、驚いて手をやった。完全に潰れた訳でもないらしい。 無表情のまま、男はむしゃむしゃとひと房平らげてしまった。苦くないのかだとどうでも良いことをチャトラは思った。そうして男は、喉元へ宛がった彼女の手の平へ、伸ばした指を這わせたかと思うと粗雑に鷲掴む。加減のまるでない、ひどい力だった。痛みに思わず顔を歪めたチャトラは男を見る。男は笑っていた。嘲りだった。 皇帝。 「――結び目が緩かったのかな」 その名を呼ぼうと唇を震わせたチャトラの言葉は声にならない。歌うように男が呟いている。悪い子だね。 「窓の」 言われてぴくりと彼女の肩が動いた。 「窓の下にいたろう――?」 簡潔と言うのならこれほど簡潔な言葉はない。いつだれが、だとか男は余計な言葉を口にしない。それでもチャトラにはよく判った。後宮の通路の話だ。尋ねられて顔が強張った。様子が判ったのか、男は鼻先で軽く笑い、それから不意にチャトラを正面から掬い上げるように睨めた。 ぞっとする。あたたかみはまるでなかった。 ……なんて憎しみでいっぱいの、 「――聞こえた――?」 なにが、とは聞けなかった。 そんなことはとうも承知だった。むしろ男は聞かせるために、チャトラにあの胸が痛くなるような音を聞かせるために、行為に及んだのだと気が付いた。自分があの音を聞いて、あの場所から動けなくなると見越して男はそうしたのだ。 「……どう、し、て」 絞るように発していた。声と言うよりは、呼吸で無理矢理に押し出した音だった。それでも聞かずにはおれなかった。 「――どうして?」 聞かれた男がまた鼻でくふんと笑って、チャトラの手首へ口を寄せていた。赤黒く変色し、一部は皮の剝けた縛り跡。 「ああ、跡になってしまった」 可哀想にね。愛でるように男はそこを下唇で数度撫ぜて、それから歯を立て噛み千切る。躾の悪い猫にはお仕置きが必要だ。そう言う。怖いと思う。次の行動が読めなくて怖い。 勝手なことを言うな。怒りと激痛に、追い詰められたチャトラの視界が鈍く揺らめいた。 「理由が必要かな」 「はな、せ、よ……ッ」 悲鳴が漏れないように喰いしばった歯の隙間から、怒気と共にチャトラは呻く。 「オレ、は、アンタの、オモチャ、じゃない」 「困ったね……」 たらたらと血の滴る手首から雫を啜り上げて、皇帝は思案顔で眉根を寄せた。こうした時の男は大抵ろくでもないことをする合図だ。慌てて暴れ出そうとしたチャトラの顎を、先手を打って男の手が掴んでいた。罵倒しようと開きかけた口を男の口で塞がれる。そのままバランスを崩してチャトラは押し倒されるまま床へ転がった。 そのまま突き入れられた舌先を噛み切っても良かったのだけれど、一瞬チャトラは躊躇った。探るような男の瞳に、全く気狂いの熱さは見当たらなかったからだ。冷えた栗色の目が彼女の視線を受けて僅かに眇められていた。灯された蝋燭に透けた茶。 意図的にずらされた右手が、チャトラの手の平を包んでそれがそっと男の胸板に当てられた。 ……アンタ。 逃げたければここを蹴れ。そう言っているのだと気が付く。私はきっと動けなくなる。 前にもそう言っていた。その通りにしたなら、男は多分悶絶し発作を起こすだろう。言葉通りに動けなくなる。本気で嫌なら、そうして逃げてしまえと男は告げている。男が力を抜いた今なら、蹴り倒そうと思えば彼女はそうできたはずで、 「……しない、」 声を絞り出してチャトラは咳き込んだ。音になったかどうか判らない。それでも男には聞こえているといいと思った。 オレはしない。 オレは、アンタを絶対傷付けたりしないんだ。アンタの周りは、もしかするとオレが思っているよりもずっと敵だらけなのかもしれない。そうして事ごとに敵をさらに増やしてる。でも少なくともオレはアンタの敵じゃない。味方は誰もいないとか、勝手に決めつけて勝手に一人になって、喜んでいてバカじゃないのか。それじゃあアンタはいつまでも一人のままだ。一人が良いだとか嘯いて、何でもないような振りをして、失うことを恐れている。失うことが怖いから、アンタは最初から全部諦めて突き放している。そんな簡単なことが自分で判っていない。 判らないのなら何度でも言ってやろうと思った。 そうしてバカじゃないのか、の言葉はそのまま自分にも当てはまるのだと思う。 逃げろと言うのだから、素直にその通りにすればいい。意地を張って傷ついて、何をしたいのか見失って、皇帝を動揺させているのだとすれば、これ以上の動揺はないだろうなと自分でも思う。三補佐が邪魔に思うのも当然のことだ。 何を頑固にしがみ付いているのだろう。自分でもよく判らない。 この、目の前のひとりぼっちの男を救えるだとか、そんなたいそうなことはチャトラは考えていない。そんなことは自分に出来ない。けれど、一緒にいることもできないのだろうか。かける言葉はないし沿う体はちっぽけでも、一緒にいるただそれだけのことも許されないのだろうか。 「“君が好きだよ。”」 そこまで思った小さな祈りのようなものは、室内に響いた男の声に一瞬で砕かれた。しんと冷えた声だった。目を上げる。そうしてしまったなと舌打ちをした。見ない方がよかった。くつくつと男は喉を震わせて笑っている。 「次の飼い主が決まりそうで喜ばしいことだね?」 (アンタ、何を言って) 男が、ゆっくりとした動作で懐から小瓶を取り出して含み、再びチャトラの上へ体を伏せた。何をすると言いかけた彼女の口の中へ、小瓶の中身を口移しに注ぎ込んだ。びりりと舌が痺れるような粘着性のある液体に、チャトラは驚いて吐き出そうとするけれど、男はそれを許さない。舌で押し込まれ、無理矢理飲み込まされてその不味さに一気に不愉快になった。口に含んだ男もそれは同じであるはずなのにこちらは平然としている。小憎らしいと思う。 「“君が好きだよ。”」 見ていたのだなと思った。 どこから見ていたのかそれは知らないし、仮に知ったところで今どうなる訳でもない。けれどノイエに抱きしめられたあの時、確かに皇帝はどこからかじっと眺めていたのだろうと思った。 ひたひたと胸を満たす虚ろな何か。 「――甘い汁をもらえると思えば――、誰にでも毛皮を擦りつけて媚びる」 仕方がないか、猫なのだから。 次第に、男へ熱さの籠った狂気が宿り始めている。昏い瞳だった。 「“君が好きだよ?”」 男はそうして三度呟いた。歌うように低い声。 チャトラは男の声が好きだった。だから余計に胸が痛かった。こんな言葉を言ってほしくなかった。 けれど止める術を彼女は持たない。 暫くして起き上がろうと肘を突きかけ、おやと思った。手足が妙に重い。痛みで動けない、と言うよりはまるで力が入らないのだ。 「立てぬよ」 のろのろとした動作で起き上がったチャトラを見て、実に楽し気に男が言った。 「ひと瓶飲んではもう動けまい」 何を飲ませたのだろう。尋ねようにも声は出ず、そもそも舌の付け根は痺れて自分のものとも思えず、嚥下するにも苦心する。ごくりと飲み込んだ唾の音が頭の中にやたらと響いた。調子に乗って酒を無茶苦茶飲み明かしたように、五感が遠い。とんでもないものを飲まされたのだろうなと思った。 そうしてこんな時だと言うのに、思わず皇帝は大丈夫なのだろうか、だとか考えてしまう自分にチャトラは気が付いた。終わっている。同じように薬を口にした相手へ大丈夫か、だとか。原因を作り出したこの男の心配をするとか。確かに心底終わっている。 へたり込んだ床が冷たいと思う。感覚は疾うに麻痺しているはずなのに、体の芯まで冷え切ってしまうような果てない冷たさに身震いする。震えながら見上げた視界の端が妙に暗くて狭まっていて、おかしいと目を擦った。持ち上げた腕が言われた通りに重い。まだ暗くなるような時間――ああもう夜だったか――夜だったのだろうか?緞帳は降ろされている。だったら仕方がない。夜は暗いものな。 夜であるなら眠ってしまえばいいと思った。暗闇の中、目を閉じきってしまうのは怖い。けれど闇を見つめたまま、息を潜めているのは本当に辛いから。 遠い感覚の中、不意に抱え上げられる浮遊感があった。男が腕を伸ばし持ち上げたのだと知った。どこかに連れて行かれるのだ。酷く寒かったのでできれば温かい布団の中が一番嬉しかったけれど、男は寝台へ向かう気はないようだった。 片腕しか持たない男では、チャトラを胸の前で抱き上げると言った抱え方はできない。無造作に担がれた。 そのまま部屋を出る。 どこに行くのだろうと思った。 部屋の外にいた護衛が、同じように行き先を尋ねる。問題はない、付いてくるなと突き放す皇帝の声。戸惑う騎士の顔が、ぼんやりと男の肩から見えた。見たような顔だと思ったけれど、名前が思い出せない。そう言えばどこで見たのだったろう。見たのだろうか。 ゆらゆらと水中にいるような浮遊感。極端に遠い音に何とはなしに不安になって、チャトラは腕を伸ばし男の髪をまさぐった。しなやかでひんやり冷たいそれを、指に絡めて安心する。こうしていればずっと離されない。落ちてもきっと心配ない。 それから少し眠ってしまったようだ。 次に気が付いたのは、ごつごつと硬い背もたれの感触を感じたからだった。ここはどこだろう。頭を持ち上げ視線を巡らせた。それだけの動作にいちいち時間がかかる。 ところでこの妙に霞む視界はどうにかならないか。見えにくくて辟易とする。眠いからかもしれない。最近きちんとした睡眠がとれていない。 それは男も同じことだろう。部屋に戻って来ていたと言うことは、今日は部屋で休むつもりなのかもしれない。 だったらオレは部屋から出ていようか。そうした方がアンタが寝られるって言うなら、オレは部屋から出ていくよ。皇宮に余っている部屋はたくさんあるし、どこに寝たって全く構わないんだよ。 そんなことを思う。 ああ、それにしてもやたら眠いな。 何度も目を擦る仕草を繰り返すチャトラを、男は目の前に膝を付き観察していた。目を僅かに眇め、口の端を上げて男はチャトラを眺めている。上げていた視線が安定しなくなって、がくりと彼女は首を垂れた。そうして尚も目を擦る仕草を止められない。 その垂れ落ちた首をそっと撫ぜられた感触を覚えた。撫ぜられ、何かを囁かれたような気がする。なんだろう。また聞こえない。アンタの声がまた聞こえない。 聞こえないのは悔しい。 無理矢理重い頭を持ち上げてチャトラは見えない目を見開いた。もう僅かしか見えなかったけれど、男の薄茶の瞳を見たいと思った。ぼんやりと眺め、ああ、と嘆息する。 どうしてそんなに悲しい目をしているんだろう。 皇帝に言ってみたいことがある。発するには曖昧で、うまく形にならないおぼろげなもの。今伝えてしまわなければいけないような気がした。今声にしなければもうアンタに伝わらない。 けれど今や上体を起こしているだけでも大変な労力で、気を抜くとずるずると崩れてしまいそうだった。踏ん張ろうとした腕がおかしな方向へ捻じれる。痛みは感じない。視界はとっくに塞がっていて、瞼が上がっているのか閉じているのか判らない。 それでもどうか聞いてほしい。そんなに難しいことを言うつもりもないのだ。自分は頭が悪いし学もないから、流暢な物言いも装飾的な言葉も知らないけれど、それでも男に伝えたいことがある。 「――母鳥のように羽を膨らまし――いつでも憩える場所を持ち得ていたなら、少しは何か変わったろうか」 ぐらりぐらりと舟をこぐように揺れる意識のどこか遠くで、呟く男の声が聞こえた。皮肉も悪意も取っ払ったような。 今までで聞いた一番静かな声だった。 男が何を指して言っているのか判らない。そうでなくとも今にも闇に沈んでしまいそうで、転がり落ちてしまわないように気を繋ぎ止めておくだけで精いっぱいなのだ。 昏い視界の中、どうしてか男の手にした鈍色の刃が見えた気がした。首筋にあてがわれるのを感じる。 ああそうか、と思う。 (オレは死ぬんだな) もう何も見えない目を見開いて、それでもチャトラは男の顔を映していたいと思った。きっと焦点は外れていて方向も合ってはいないのだろうけれど、 (……アンタの花守りできなかった) それだけが心残りだと思った。男の埋もれた土にはどんな花が相応しいのかとずっと考えていた。形だけが綺麗なものや匂いのよいもの、儚いものはそれこそ皇宮の温室にたくさんあったけれど、そんなものは植えてやるものかと思った。相応しいだとか糞食らえ。どうせならにょきにょきと生命力が豊かでいっそふてぶてしい、時には色を変え雨に濡れてなお首を擡(もた)げることをやめない、そんなどうしようもなくしぶとい花を。 伝えたかった。たった一言。だから。 「アンタが好きだよ」 言葉にできたろうか。 * 「――癪だね」 暫くして、落ち着いた囁きがチャトラの耳朶をかすめる。同じように先程耳元に囁かれた。ノイエの熱かった言葉と比べると、随分と低体温のそれ。その冷たさはきっと誰も傷付けない。 やさしい声だと思った。 「――他へやるのは少々癪だ」 抱きしめられてすぐ離された体。 名残惜しそうになぞられた指。 え、と開いた唇に、ぽつぽつと落ちたように感じた滴。 (20110609) ---------------------------------------------------------