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プリキュア VS ディケイド プリキュアの世界に現れた異邦人、門矢 士(かどや・つかさ)=“ディケイド” “世界の破壊者”そして“悪魔”と呼ばれた男。プリキュアの世界を巡り、その瞳は何を見る…? レス番号 作品タイトル 作者 備考 第1話 プリキュア VS ディケイド(I) 月見香倶夜 第2話 プリキュア VS ディケイド(II) 月見香倶夜 第3話 プリキュア VS ディケイド(III) 月見香倶夜 第4話 プリキュア VS ディケイド(IV) 月見香倶夜 第5話 プリキュア VS ディケイド(V) 月見香倶夜 第6話 プリキュア VS ディケイド(VI) 月見香倶夜 第7話 プリキュア VS ディケイド(VII) 月見香倶夜 第8話 プリキュア VS ディケイド(VIII) 月見香倶夜 第9話 プリキュア VS ディケイド(IX) 月見香倶夜
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プリキュア VS ディケイド(V) 四つ葉町の街中を、士は一人、小走りに駈けていた。 商店街から学校のまわり、緑道公園、オフィス街、駅前…。 やがて河川敷まで来たところで、左右を見渡しながら足を止める。 「…おい、海東っ!」 中空に向かってそう声を挙げるが、返ってくる返事はない。 (やっぱりもう、この世界にはいないのか…?) 苛立たしげに、河川橋のコンクリート柱に拳を打ちつける。 「誰か、人を捜しているの?」 顔をあげたそこに一人の少女が立っていた。 清楚な白のワンピースに白いつば広の帽子。 胸元には四つ葉のクローバーのペンダントを下げている。 「こんにちは。 公園のドーナツ屋さんの人ですよね?」 「…ああ」 「やっぱり。 ラブたちと話しているのを見かけたから。 私、ラブの友達なんです」 「友達、ね…」 士は少女から目を離さず、変身ベルト“ディケイドライバー”のバックルを構える。 「確かに仲が良さそうだな。 “管理国家ラビリンス”さん」 少女は一瞬驚いた後、偽りの笑顔を捨てて敵意に満ちた視線を向けた。 「お見通しと言うわけね。 いいわ」 脱ぎ捨てられた帽子が宙を舞い、紺色の髪がぱっと広がる。 少女は奇妙な仕草を始めた。 広げた両手の指を折り、左右の爪と爪を合わせ両手を擦り合わせる。 「スイッチ・オーバー」 声と共に再び両手を広げた時、少女の姿は一転していた。 先程の清楚なイメージとは正反対の、身体のラインが露になった黒いレザーの衣装。 ヘアバンドで止めた灰色の髪。 そして呪殺の力さえ秘めていそうな、紅玉の瞳…。 「我が名はイース。 ラビリンス総統、メビウス様が僕(しもべ)!」 少女が姿を現す間に、士もベルトを装着しカードを構えていた。 「変身」 “KAMEN RIDE .... DECADE !!” 「我が名はディケイド。 あいにく、誰の僕(しもべ)でもないがな」 ディケイドの皮肉を聞き流して、イースはジュエルを構える。 「ディケイド…。 その力、どれほどの物か確かめてやる」 放ったジュエルの切っ先が、ディケイド横のコンクリート柱に突き刺さった。 「なにっ?」 煙を吹き上げ、不気味な鳴動を始める河川橋。 その下からディケイドが走り出て振り返った先で…、煙が晴れ、河川橋が再び姿を現す。 河川橋の側面につり上がった目のような形の光が灯る。 イースの投げたジュエルは、その額の位置に貼り付いていた。 『トオリャーンセ!』 河川橋が“動き出した” 川の両岸を足場に、ディケイド目掛けて前進を始める。 「“ナケワメーケ”かっ!?」 ディケイドを踏み潰さんと、ナケワメーケが地響きを上げて前進速度を早めた。 “ATTACK RIDE .... BLAST!” 拳銃型になったライドブッカーを抜いてトリガーを引く。 その周囲にライドブッカーの分身がいくつか現れ、同時に弾丸を発射した。 連射された弾丸がナケワメーケに命中するが…、全て弾き返される。 「ふん。 アンデッドどもが恐れる“世界の破壊者”…。 どれだけのものかと思えば、その程度か!」 ナケワメーケと化した河川橋の上に立ち、イースは眼下のディケイドを見下す。 「ナケワメーケ! 奴を踏み潰せ!」 『ワタリャーンセ!』 ディケイドの頭上に、ちょっとした家ほどの面積のある柱の足が振り下ろされる。 「おわあっ!?」 飛び退いて下敷きになるのだけは避けたディケイドだが、衝撃で吹き飛ばされ、河に落ちた。 やがて静まりかえる水面…。 ディケイドは浮いて来ない。 (倒した? …いや、逃げたか) 「大したものだな。 ラビリンスの力…」 イースの横に、“アンデッドの王”が立つ。 イースは冷めた視線だけを向けた。 「だが、ディケイドには逃げられたな」 「それも筋書きの内だ。 次はお前たちにも手を貸してもらおうか」 口元をゆがめ、イースは川下に広がる街に目を向けた。 「“最強のナケワメーケ”と共に、な」 ………… 河川橋から1キロほど下った下流。 その岩場になった岸辺へ、士は這い上がるようにして身体を引き上げた。 「“ナケワメーケ”か…。 ふざけた化け物だが、いざ相手にするとなるとキツいな…」 既にディケイドへの変身は解け、ずぶ濡れの黒いコート姿で荒い息を吐いている。 「まったく、不死生物(アンデッド)だけでもやっかいだってのに…」 『アンデッドどもが恐れる“世界の破壊者”…。 どれだけのものかと思えば…』 イースの言葉を思い出して、ふと士は動きを止めた。 「あいつ…、アンデッドの事を知ってた? …まさかっ!」 プリキュアたちが危ない! 士は立ち上がると、痛む身体を抑えて歩き出した。 「ツカサちゃん、今日はどうしたんだろ?」 昨日と同じ公園で、スポーツウェア姿で待っているラブたち3人。 しかしカフェワゴンはいつもの位置に停まっているものの、店は閉まったままだ。 ふと公園の入り口に目をやったラブは…、そこに士の姿を見つけて声を挙げた。 「ツカサちゃん!?」 美希と祈里も、士の様子がおかしいのに気付いた。 3人して士の元へ駆け寄る。 「お前たち…、大丈夫だったか?」 「ツカサちゃんこそ、どうしちゃったの?」 まだ濡れた服と傷ついた身体の士を、ラブが支える。 「大丈夫だ。 大したことはない」 「アンデッド? それともまさか、ラビリンスが?」 「たぶん、両方だ」 肩を貸そうとするラブを制して、険しい表情の美希に答える。 「いいか、お前ら。 おそらくラビリンスはアンデッドと」 「手を組んだ、という事だよ」 その声は士やラブたちとは違う方向から聞こえてきた。 公園の中。 カフェワゴンの近くに立っているのは…。 「海東っ!」 「あーっ! リンクルンどろぼう!」 士とラブが同時に声を挙げる。 いつの間に公園に入って来たのか、反対方向から姿を現したのは行方をくらましていた海東だった。 「士の考えている通りだ。 ラビリンスとアンデッドは手を組んでいる。 プリキュアとディケイド。 キミたちを倒すためにね」 歩を進めながら、海東が種明かしのように語る。 「それよりも、ブッキーのリンクルンを返しなさいっ」 「ああ、その事なんだけどね」 息まく美希に、海東が答える。 「これでも僕はフェミニストのつもりだから。 女性から無理に譲ってもらうのは性に合わなくてね。 公正な取り引きを用意して来たんだ」 「ふざけるなっ」 「まぁ聞けよ。 士」 海東は指を追って勘定を始める。 「アンデッドの軍勢が約50体に、ラビリンスの幹部とナケワメーケ。 対してこっちは、ディケイドとプリキュアのお嬢さん3人…。 いや、今は2人か」 絶望的な戦力差を突きつけられて、ラブたちは表情を曇らせる。 が…。 「けど、そこに僕が加われば、結構いい勝負になるんじゃないかな」 「どういうこと?」 「アンデッドとラビリンスに対抗するのに、力を貸すよ。 その代わり…」 祈里の黄色いリンクルンを手にして見せる。 「これは正式に僕に譲って欲しい。 悪い話じゃないよね?」 「そんな条件のめるわけないだろ」 ラブと美希もそれは同感だった。 それぞれ自分のリンクルンを手に取る。 「いくわよラブ。 今度こそ、あいつを捕まえるのよ」 「待って、美希ちゃん」 祈里がそんな美希を止める。 「ブッキー? まさか、あいつの言うことを聞くつもりなの!?」 「ここは私に任せて」 祈里は海東の方へと一歩、足を踏み出す。 すかさず海東が“ディエンドライバー”の銃口を祈里に向けた。 プリキュア VS ディケイド(VI)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(I) その男は“旅人”だった。 世界から世界へと渡り、自分の居場所と成すべき事を探す彷徨い人。 旅の合間、つかの間の休息の時。 男は古びた写真館の一室で、スツールに腰掛けコーヒーを飲む。 ソーサーにカップを置く、カチャリという音。 それがスイッチだったかのように、突然、天井からスクリーンが派手な音をたてて下りた。 男は驚いた様子もなく、開いたスクリーンに一瞥をくれ、またコーヒーカップに手を伸ばす。 「何ですか!? 今の音?」 慌てて部屋に入って来たのは、男と同世代の女性と青年、それに好々爺といった感じの老人の3人。 3人は、開いたスクリーンに気付いて息をのんだ。 「ああ。 別に、何でもない…」 杯(さかずき)を捧げるように、男は手にした白いコーヒーカップをスクリーンに向けた。 「また、次の世界に旅立つ時が来ただけだ」 スクリーンは純白ではなかった。 そこにはいくつものカラフルなハートの模様と、ドーナツの輪のイラストが散りばめられている。 そしてその中央には…、ピンク・青・黄・赤の4色のハートが組み合わさった、大きな“四葉のクローバー”のマークが描かれていた。 ………… 四つ葉町。 “クローバータウン・ストリート”…。 人情味あふれる人たちが住むこの商店街には、その店員の人柄に惹かれていつも多くの買い物客が集い、賑わっていた。 特に日曜日昼下がりのこの時間は、親子連れや休日の学生たちも加わり、一層華やかさが増す。 ……はずであったが、今、この通りには人の姿が全く見当たらない。 その代わりに大通りを我がもの顔で歩く、巨大な姿があった。 『ピカ、ピカ!』 巨大な信号機が歩いていた。 冗談のようだが、誰が見てもそうとしか言い様がなかった。 三色のランプを明滅させ、奇妙に曲がる鉄柱の4本足を繰り出し、もつれる電線を引きちぎり火花を撒き散らしながら、通りを蹂躙していく。 その鉄柱の本体中央に、不気味に輝く紫色の菱型(ひしがた)のジュエルが張り付いている。 あれこそが力の源。 憑依物に邪悪な意思を与え、主(あるじ)に命じられるがままに破壊の限りを尽くす怪物“ナケワメーケ”を生み出すパワー・ストーン。 クローバータウン・ストリートは今、その猛威の前に崩壊の時を迎えようとしていた。 …しかし、それを阻もうとする者たちもいた。 “ナケワメーケ”の周囲を飛ぶように、ピンク・青・黄色の衣装をまとった3人の少女が疾走している。 「トリプル・プリキュア・キィーック!!」 息の合った跳躍で、3人同時の飛び蹴りをナケワメーケの1点に放つ。 反り返った巨大な信号機は、そのまま後ろ向きに倒れ、辺り一面に地響きを轟かせた。 すでに避難命令が出ているのか、周囲には3人の戦う少女たち以外には誰もいない。 …いや。 街角に停まった青いドーナツ・ワゴンの中からその様子を見ている人物がいた。 「プリキュア・レジェンド。 伝説の戦士“プリキュア”…か」 車内からカウンターに肘をつき、手にしたドーナツを望遠鏡のようにして、その穴の中から飛び交う3人の姿を眺めているのは……あの写真館の“男”だった。 「人々の不幸を集める管理国家“ラビリンス”と戦い、みんなの幸せを守る正義の味方。 それがあんな年端もいかない女の子とはね」 ドーナツから目を離し、目の前で巻き起こる絢爛舞踏(けんらん・ぶとう)のような戦いをTV番組でも観るように眺めながら、男は気だるそうにつぶやいた。 「どうやらここも、“ライダー”のいらない世界みたいだな…」 信号機の変異した“ナケワメーケ”が、何度目かの攻撃を受けて再び地面に倒れ伏す。 その身から邪悪な意思が緩んだのを感じて、青い衣装の少女“キュア・ベリー”は叫んだ。 「今よっ! ピーチ!」 「うんっ!」 “ピーチ”と呼ばれた桃色の少女…、“キュア・ピーチ”は、両手を頭上で打ち鳴らすと左右の順にその腕を下げ、身構える。 「わるいのわるいの飛んでいけ! …“プリキュア・ラブサンシャイ――ン”!!」 両手で形作ったハートマークにパワーを収束させる。 突き出した手のひらから光のシャワーが放出され、ナケワメーケを包み込む。 信号機に張り付いていた菱型のジュエルが光を受け、高熱にさらされたように蒸発していった。 光の奔流が消えた後…。 傾いた格好で、もの言わぬ姿に戻った信号機は道路に立っている。 「やったあ!」 「まだよっ。 ピーチ!」 もう1人の黄色の少女、“キュア・パイン”が、背後に気付いて警鐘をあげる。 そこに…、新たな敵が立っていた。 さっきの“ナケワメーケ”の巨体に比べれば人間大の大きさではあったが、まるで昆虫が人間の姿に化けたかのような異形の怪人が、低い唸り声をあげ、3人の方へとゆっくり歩み寄っている。 それはホラー映画か悪夢の中でしか存在を許されない。 ましてやこんな明るい昼の日中に、見間違いでも目にする事のないような、冒涜(ぼうとく)的な存在だった。 「あれはっ…!」 キュア・ピーチが、その姿に何か思い当たった時だった。 怪人とプリキュア達の間に、一人の青年が飄々(ひょうひょう)と歩み出てくる。 「!! そこの人、危ないわ! 早く逃げてっ!」 ベリーが忠告の声をあげるが、青年は気にする様子もなく怪人の前に立ちはだかった。 「不死生物(アンデッド)…。 “ブレイド”の世界から流れて来たのか…?」 青年は迫る怪人にひるむ様子もなく、ピーチたち3人に顔を向ける。 まだ若い世代だが、ピーチたちよりも幾分年上の青年だった。 学生であるなら大学生ぐらいだろうか。 顔立ちはなかなかハンサムで魅力的だったが、どこか斜(しゃ)に構えたような態度が見て取れる。 「この世界に“ライダー”は必要ないだろうが…」 ピーチたちにそれだけ言って背を向けると、“怪人”の方へと向き直る。 「“この世のものじゃない者”には、必要だろうからな」 青年は奇妙なベルトを身に付けていた。 前方に何かの装置のような大きなバックル、腰には四角いケースのようなものが付いている。 そのケースを開き、中から1枚のカードを抜いて見せ付けるように怪人の方へと向けた。 そこに描かれていたのは…。 緑の複眼と7枚のプレートを頭部に埋め込んだ、“仮面の戦士”の姿…。 「変身」 声と共に、手にしたカードをバックルに差し込み、閉じる。 機能が発動して、バックルの表面に光芒が浮かぶ。 “KAMEN RIDE .... DECADE !!” 9人の影が周囲に現れ、青年の身に重なると黒・白・朱色を基調としたメタリックなボディアーマーになり瞬時に青年に装着される。 その頭部全体も装甲に覆われていた。 中空に並行世界を超える者の証である数枚のプレートが現れ、その頭部を縦に貫きはめ込まれる。 あのカードに描かれていた姿…。 現れた“仮面の戦士”は、地面を踏みしめ拳を構えると、怪人目掛けて走り込んでいった。 突然青年の姿が変わり、怪人と殴る蹴るの激しい戦いが始まったのを、“プリキュア”達は訳も分からずに見ていた。 「何あれ? “ラビリンス”の新勢力!?」 「でも、あの怪物と戦っているみたいだけど…」 「ピーチ!?」 「分からないよ、私にだって。 けど…」 “キュア・ピーチ”は、真剣な眼差しを戦う仮面の戦士へと向けた。 「たしか今、“DECADE(ディケイド)”って聞こえた…」 左右の連続パンチを受けて怪人がよろめく。 その隙をついて、モーターが唸るような音と共に仮面の戦士はもう1枚のカードを切った。 そこには…、今とはまた違う姿をした仮面の戦士が描かれている。 “KAMEN RIDE .... BLADE !!” 戦士の姿が瞬き、そのカードの戦士の姿に変わる。 更にもう1枚のカードを引く。 “ATTACK RIDE .... BLAYROUZER” 現れた剣を片手に、戦士は怪人に斬り込む。 袈裟懸けに左右2回の斬撃をまともに受けて、怪人の姿は瞬時に爆発して消し飛んでいった。 剣先を下げる戦士。 光の瞬きと共に、その姿は最初に変身した仮面の姿へと戻り、背後に立つプリキュア3人を振り返る。 「危ないところだったな」 そう声を掛けた、次の瞬間。 キュア・ピーチが、突如として“仮面の戦士”に襲い掛かった。 「だあーっ!」 繰り出される左右のパンチを男はとっさにかわすが、続けて胸部装甲への強烈なキックを受けて後ろによろめく。 「…っ。 おい! 大人がフレンドリーに接しているってのに、乱暴なガキだな」 「“ディケイド”…」 フリルとリボンで飾り付けたショートドレス。 頭を飾るハートの髪留め。 腰に下げた携帯電話のケースに、胸元に留められた4色ハートのクローバー・マーク。 可憐な少女達と無骨な仮面の男。 出会ってしまった異界の戦士達…。 油断なく身構えた少女が口を開いた。 「あなたが、“ディケイド”なのね?」 「だとしたら?」 「ベリー! パイン!」 呼びかけに応え、残り2人の少女が“ディケイド”を取り囲むように位置して、ピーチと同じく身構える。 「何なんだ? いったい」 「絶対に許さないんだから…。 ディケイド…。 “世界を破壊する悪魔(あくま)”っ!!」 プリキュア VS ディケイド(II)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(IV) 「ピーチ! イーグレット! ベリー! ルージュ! みんな、やめてーっ!」 夕刻の公園で、2対2のプリキュア同士の戦いが続いている。 “リンクルン”を失った祈里は変身して加勢する事も出来ず、半泣き状態で制止の声を挙げていた。 「キュアー!」 「どうなっとるんや!? なんでルージュはんと、イーグレットはんが!?」 シフォンとタルトも見守るしかない。 そんな祈里の肩に手を掛け、代わりに士(つかさ)が前に出た。 「門矢(かどや)さん…」 「俺に任せろ」 そう言って目前に“ディケイド”のカードをかざす。 「変身」 “KAMEN RIDE .... DECADE !!” ディケイドに変身する士。 その圧倒的な存在感を前に、祈里は心配そうな様子を見せながらも後ろに下がる。 ディケイドは、立て続けにカードを切った。 “FINAL ATTACK RIDE .... DECADE !!” 乱戦状態のピーチたち4人の方へ、道を差し示すように“ディケイド”のマークの光芒が幾層も重なり現れる。 おもむろに垂直ジャンプするディケイド。 その動きにつられて、光芒も階段状に斜め上にスライドした。 ピーチとベリーが、何かに気付いて上を見上げる。 そこに見えたのは…、照準のように自分たちに向かって伸びる“ディケイド”の次元障壁光芒と、その先に跳び蹴りの姿勢で、引き絞られた矢のように空中停止したディケイド本人…。 ただならぬ気配にピーチ、ベリーがその場から飛び退いた次の瞬間。 次元障壁を蹴破るように貫きながら、加速するディケイドの“ディメンジョン・キック”が、残されたキュア・ルージュとキュア・イーグレットに襲い掛かった。 着地点からすさまじい爆炎が巻き起こり、3人の姿を覆い隠す。 吹きつける熱風に顔を覆ったピーチ、ベリー、そして祈里の前で爆炎が収まった時…。 そこには、ディケイド一人だけが立っていた。 「ちょっと…、まさか…」 嫌な考えに、ピーチ達が青ざめる。 「友達だったのか?」 ディケイドの変身を解いて、士が聞く。 ピーチ、ベリー、祈里の3人は無言で頷いた。 「心配するな。 お前らを裏切ったわけじゃない。 あいつの…“ディエンド”の能力だ。 カードに描かれた者を、召喚して従属させる」 それに死んだわけでもない。 ディケイドの強烈な攻撃で呪縛が解けて、元いた場所へと強制退去したのだった。 次に会った時、ピーチたちと戦った事さえ覚えていないかもしれない。 事情を聞いて、ピーチとベリーはようやく胸を撫で下ろした。 祈里とシフォン、タルトも駆けつけ、無事を確かめ合う。 が…。 「そうだ! ブッキーのリンクルン!!」 ピーチの挙げた声に、他のみんなも思い出した。 公園の出口に駆け寄って左右を見渡す。 ディエンドの姿はもう何処にもなかった。 プリキュアたちがアンデッドに対抗できるのはキュア・パインの力だけ。 けど、リンクルンがなければ祈里はパインに変身できない。 つまりプリキュアたちはもうアンデッドに対抗できない。 他にアンデッドを倒せるのは…。 ピーチたちは揃って、士の方を見る。 「やれやれ…」 懇願するような注目を浴びて、士は額を押さえた。 「ドーナツ屋の次は、中学生のボディーガードか…」 ………… 翌日の夕刻。 公園のオープンカフェ。 エプロン姿でテーブルを拭く士は、そばに立つ祈里に気付いた。 学校帰りに直接寄ったのだろう。 制服姿のままだ。 「どうした?」 手を止めて問いかける士に、浮かない表情で祈里が聞く。 「あの、門矢さん…。 あの人は?」 「海東のことか? 今日は来なかったな」 「そうですか…」 祈里は気落ちしたようにうつむく。 『悪いね、お嬢ちゃん。 これはね、君がおもちゃにするよりも、ずっと価値があるものなんだ』 『この世界のお宝。 変身携帯手帳“リンクルン”はいただいていくよ』 祈里のリンクルンを持ったまま、海東…ディエンドの行方は分からなくなっていた。 (お宝も手に入れたことだし、もうこの世界にはいないかもな) 言いかけた言葉を、祈里の様子を見て飲み込む。 独善的を絵に描いたような士だったが、それぐらいのデリカシーは持ち合わせていた。 「ブッキーっ」 ラブと美希も遅れてやって来る。 聞けば学校帰りに三人で手分けして海東を探して、ここで待ち合わせていたらしい。 けど、二人からも色よい返事は返って来なかった。 「今日は練習は、止めにしておきましょうか。 ミユキさんも今日は来られないって言ってたし。 もう遅いし」 「そうだね。 ブッキー、そうしよっか?」 「でも…、ミユキさんが毎日少しだけでも練習した方がいいって言ってたから」 「ブッキーがそう言うなら」 「練習って、何の事だ?」 カフェワゴン前で話し込む三人に、士が聞く。 「あ、ツカサちゃん。 ちょっとこの辺の場所、借りるね。 お店の邪魔にはならないようにするから」 ………… 公園中央の舞台で、スポーツウェアに着替えたラブ、美希、祈里が並んでステップを踏んでいる。 腕を回しながら左右へのサイドステップ。 交互に両手を高く上げて、その手を腰に首を縦に振る…。 「おい」 カフェワゴンの中から、そんな三人の様子を眺めていた士が声をかけた。 「何やってんだ? お前たち」 「なっ…」 悪気はないのだろうが無神経な言い様に、三人は揃って赤面した。 「何って、見れば分かるじゃない。 ダンスよ。 ダンスの練習」 「ダンスね…」 エプロンを外して、士はカフェワゴンから出てくる。 「いいのか? プリキュアがそんな呑気なことやってて」 「いいのっ!」 ラブが高らかに言って胸をはる。 「私たちは、ダンスもプリキュアも両方とも頑張るって決めたんだから」 「それは立派だが、あんまり上手くないな」 「う…」 言われてラブは閉口する。 確かに覚えた振りを何とか繰り出している感じで動きがぎこちないし、三人のテンポも微妙にずれている。 ダンスはさまになっていれば最高にかっこいいが、そうでなければ微妙にかっこ悪い。 ラブ達にとっては、楽しいながらも辛い頃合いだった。 「だから、練習中なんだってば。 けど、今日はいないけどプロのダンサーに教えてもらってるし。 きっとすぐに上手くなって。 コンテストとか…」 すっかり勢いがなくなってそんなことを言うラブたちの舞台に、士も上がってくる。 「ちょっと見せてみろ」 美希の手から、振りの描かれた手書きの教本を受け取り、ペラペラとめくる。 「だいたい分かった」 「何がだいたい分かったの?」 「ミュージックっ」 「あっ、はいっ」 突然指差されて、祈里は弾かれたように床の“ダンシング・ポッド”のプレイボタンを押す。 流れ出したのは、ダンスユニット“トリニティ”のダンスソング・シングル、“YOU MAKE ME H@PPY” 縦ノリで何度かリズムを取ると、士は軽快に踊り始めた。 曲に合わせて教本に描かれたポーズの通りに足を運び、腕を上げる。 曲の終わりにぴったり合わせて決めのポーズをとった士を、三人は拍手することも忘れて、ぽかんと見ていた。 「すごい…。 あなた完璧」 「どうして? 一度、教本を見ただけなのに」 驚く美希と祈里。 「すごい! すごいよツカサちゃん!」 そしてラブは目を輝かせて士を見ていた。 「ねえねえ! 私たちにも教えてよ」 「はあ? 何で俺が」 そっぽを向く士の目の前に、ラブは回りこんで来る。 「いいじゃない。 今日、ミユキさんいないから、臨時の先生ってことで」 引きずられるように腕を引っ張られて、士は三人の前に戻ってくる。 「ドーナツ屋にボディーガードに、今度はダンスのインストラクターか…」 並んで士の言葉を待つ三人を見て、ため息をつく。 「この世界は、人使いが荒いな」 それから小一時間後。 「ま、今日はこんなものだろう」 「ありがとうございましたー」 礼儀正しく頭を下げて、直後、ラブたち三人は公園のステージに座り込んだ。 くたくただけど、ひと汗かいた後の疲労感が何とも心地よい。 「たまには違う人に教えてもらうのも、新鮮でいい練習になるね」 「ええ。 私、昨日まで出来なかったステップのところ、上手くいくようになっちゃった」 息を整えながら、ラブと美希は、そんな言葉を掛け合いタオルで汗をぬぐう。 『ツカサちゃん。 明日もお願いね』 笑顔で軽くそう言って、ラブと美希は帰って行った。 やれやれ。 そんな気分で見送った士は、祈里だけがその場に残っていることに気付いた。 「帰らないのか?」 「いえ、えっと。 その…」 はにかみながら、祈里は申し出た。 「お仕事中にダンス見てもらったから。 せめて、その、お店片付けるの手伝います」 二人がかりではあったが、テーブルや椅子を公園の片隅に集め、カフェワゴンの中を片付けて最後にカウンターの天蓋を閉じた時には、すっかり辺りは暗くなっていた。 「ほら」 ステージの端に腰かけて一息つく祈里に、士は温かい紅茶のカップを差し出す。 「手伝ってくれた礼だ」 「ありがとうございます」 素直に受け取る祈里。 士も自分の紙カップを片手に、その横に腰を下ろした。 「あの“リンクルン”が心配か? 大事なものなんだろ?」 海東に持ち去られた、祈里のリンクルン。 「はい。 そうなんですけど…」 一瞬言いよどんでから、祈里がつぶやく。 「本当は私、このままリンクルンが戻って来なければいいって、思ってるんです」 意外な言葉に、士は口元までカップを持ち上げた手を止め、隣の祈里を見る。 そしてその姿に、言葉の意味を理解した。 手にしたカップに目線を落とし、うつむく様子は気弱で悩みがちな普通の女の子の姿だった。 プリキュアとして凛々しく戦うイメージには見えない。 「本当はプリキュアになって戦うのは好きじゃない…。 そういうことか」 無言で、祈里は頷いた。 「プリキュアになれば、私でもすごい力を発揮出来るけど、やっぱりあんな怪物と戦うのは怖いし、痛い思いをするのは嫌い。 相手に痛い思いをさせるのはもっと嫌い」 伏せたまつ毛を震わせる。 「でも、ラブちゃんや美希ちゃんもきっと同じ気持ちで戦っているから。 だから私も頑張ろうって。 友達だから。 それでいつかみんなで一緒に、怖い思いも痛い思いもしなくていい世界に出来たらって。 それで私、プリキュアとして戦うことを決めたんです」 「そうか」 「だからやっぱり、あのリンクルンは大切なものなんです。 あれがないと…、私…」 不意に込み上げて来た感情が瞳から溢れそうになって、祈里は膝に顔を埋めた。 その髪を、士がそっと撫でる。 一瞬はっとした祈里だが、もう一度目を閉じるとその心地よさに身を委ねた。 感受性の強い祈里には分かる。 きっと門矢さんも誰かの何かのために、ディケイドとして戦っているんだと。 だから私のこんな気持ちに共感してくれているんだって。 夜の公園で、戦いから離れた二人の戦士は僅かに心を寄せ合っていた。 プリキュア VS ディケイド(V)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(IX) ………… 『アアアア~ンデッドォ!』 “ヒーリング・プレアー・フレッシュ”を破壊し雄叫びをあげるアンデッド・ナケワメーケを見て、パインは腰を抜かしそうになる。 司令塔であるイースを失った事と、パインの決め技で受けた苦痛とで、アンデッド・ナケワメーケは暴走を始めていた。 手にした剛剣をヘリコプターのように高速回転させながら、相撲取りのようにしこを踏んで地響きを起こしている。 「だめっ! 大きすぎて、浄化しきれない!」 「なら、こっちもでっかく行くか」 コンプリート・フォームのディケイドが、腰に位置したディケイドライバーに次なるカードを差す。 “FINAL FORM RIDE .... PRECURE !!” 「ちょっと、くすぐったいぞ」 「はいっ?」 「ほら」 キュア・パインに後ろを向かせると、その背中に触れる。 「きゃうっ!?」 その背に…、大小2対のハートマークで出来た、蝶の羽根が開いた。 そして本人の意思と関係なく、その身が宙に浮かぶ。 「え、え、えっ? 何これ? どうなってるの――――っ!?」 足元から、白い帯が螺旋状に巻きついて全身が棒状になる。 表面に七色の丸い鍵盤が現れ、頭部は琥珀色のジュエルに包まれた。 『どうなっちゃったの? 私…』 「これが俺の、そしてお前たちの力だ」 巨大な“キュア・スティック”の身体に、4色ハートの大きな羽根をはためかせ浮かぶ姿。 天(あま)駆ける蝶。 “キュア・ライド・パピヨン”…。 「はっ!」 気合の声と共に跳び上がったディケイドが、スティック状の本体に降り立つ。 まるでサーフィンのような格好で、ディケイドを乗せた蝶はハート型の羽根を羽ばたかせ、滑空を始めた。 『ア~ンデッドォ!』 アンデッド・ナケワメーケが、剛剣を叩きつける。 その剣圧にすら乗るように風をきって旋回。 華麗に斬撃をかいくぐっていく。 蝶はナケワメーケの背後に回り込むと、キュア・ピーチとベリーの元へ向かった。 「乗れっ!」 跳躍したピーチとベリーが、後ろ羽根のハートに降り立つ。 ディケイド、ピーチ、ベリーを乗せ、蝶は一層大きく羽ばたくと高高度まで一気に上昇。 Uターンした。 「どうするの? ディケイド?」 「これで終わりだ」 最後のカードをディケイドが引く。 “FINAL ATTACK RIDE .... PRECURE !!” キュア・スティックの音階が流れ、先端のジュエルに光が灯る。 「わるいのわるいの、飛んでいきなっ!」 ディケイドの一声で、先端部…蝶の頭にあたる部分に巨大なダイヤ型の光が現れた。 それと同時に、蝶の羽根からは4色の波動が広がり、より大きな蝶の羽根と化す。 そのまま高高度から落下するように、ディケイドたちはアンデッド・ナケワメーケへと突進していった。 ピーチの、ベリーの、“キュア・ライド・パピヨン”となったパインの、そしてディケイドの力をひとつとして、蝶は爆発するように大きなオーロラを噴き上げる。 「“プリキュア! ディケイド! ヒーリング・プレア――、 エクスプロージョン”!!」 アンデッド・ナケワメーケに、4色の光をまとった巨大な蝶が激突した。 のしかかるように巨大な蝶と、押し返そうとするアンデッド…。 その巨体を蝶の羽根が包み込み、ダイヤ型の光が膨張して更に大きく覆い尽くす。 『シュワシュワ――……!!』 アンデッド・ナケワメーケの額のジュエルが蒸発していく。 そして全てを消し去るような、爆発の閃光が辺りを包み、やがて小さくなり消えていった。 ディケイド、ピーチ、ベリー、そして“キュア・ライド・パピヨン”への変形を解除したパインが、順に地面に降り立つ。 その前に…、“ナケワメーケ”の呪縛が解けたアンデッドの王が、よろめくように立っていた。 「なぜだ…」 その身が光の粒子となり徐々に崩壊していく。 「なぜ、我は甦った…。 そしてなぜ、今また封印されるのだ…?」 「さあな。 けど、あいつの言葉を借りるなら…」 ディケイドとプリキュアたちは、消えゆく最後の不死生物(アンデッド)を見送る。 「すべては俺の、“ディケイド”のせい…。 だいたい、そういう事なんだろ」 「おのれ、ディケイド…。 悪魔め…。 呪われろ」 呪詛の言葉を残し、アンデッドの王は無数の光の粒子となり、砕け散った。 今度こそ解ける事はないであろう、封印の闇の中へと吸い込まれ落ちていく。 ディケイドは足元に、緑色のガラスで出来た“四葉のクローバー”のペンダントが落ちているのに気付いて、拾い上げた。 (ラビリンスは…、逃げたか) あの黒い少女の姿は見えない。 「やったね! ディケイド!」 ピーチたちが駆け寄って来て、喜び合う。 「ああ。 けどラビリンスには逃げられた。 あいつ、きっとまた襲って来るぞ」 「でも、“アンデッド”はやっつけたし、パインのリンクルンも戻って来たんだもの」 笑い合うベリーとパインを背に、キュア・ピーチも満身の笑顔でVサインを決めた。 「しあわせ、だいたいゲットだよっ!」 ………… 街はずれにある深い森。 その最深部にある洋館。 イースは傷ついた身体を抱えて、その洋館まで帰り着いた。 「おのれ、プリキュア…。 それにディケイドめ…」 不死生物(アンデッド)たちがどうなったのかは知らない。 が、あれからプリキュアとディケイドを倒せたという気はしなかった。 閉じた扉に背中を預け、床に座り込むと苦しげに息を吐く。 その前に立つ影があった。 「ウェスターか? メビウス様にご報告を。 パラレル・ワールドから世界の破壊者…“仮面ライダー・ディケイド”が、この世界に来ていると」 「いや、必要ないだろう。 そいつなら、もうすぐこの世界を通り過ぎて行く」 ウェスターの声ではなかった。 恐々と顔をあげるイース。 その目に映ったのは…。 エプロン姿にトレードマークのカメラを首に下げた、門矢 士だった。 「貴様っ…! ぐっ…!」 立ち上がろうとするが、全身が痛んで身動きがとれない。 「心配するな。 この世界での俺の成すべき事は終わった。 これ以上、ラビリンスとやり合うつもりはない」 歯車の狂いは正された。 ラビリンスの脅威はこれからも続くだろうが、それに立ち向かうのはラブたち“フレッシュ・プリキュア”の役目だ。 「だったら、何をしに来た…」 「デリバリー・サービスだ」 イースの前の床に、手にしたドーナツの紙袋を置く。 「金なら気にしなくてもいい。 落とし物を届けるついでの、おすそ分けだ。 じゃあな」 それだけ言い残して、反対側の扉を押し開けるとさっさと洋館を後にして行く。 イースは腕を伸ばして紙袋を取ると、痛む身体をこらえて袋を開けた。 その中を覗き込んで、はっとする。 中にはイースのためのドーナツが1個と、緑色の“四葉のクローバー”のペンダント。 ペンダントのチェーンを手に取り、くるくる回るクローバーを見つめる。 『大切なものや、守りたい気持ちが同じなら。 別々の世界に住んでいたって、きっと分かり合えるんだからっ!』 『やめておけ。 何だかんだ言っても、お前も悪にはなりきれない奴だ。 こういうのは向いてない』 「ディケイド…。 本当に何もかもお見通しだとでも言うのか? 私の…、こんな気持ちさえも」 手にしたペンダントを大事そうに胸元に握ると、子供の様に膝を抱え、身体を丸める。 「ラブ…」 その呟きは誰にも届かず、洋館の静けさの中に消えていった…。 ………… クローバータウン・ストリートの、先日まで空き店舗だったはずの一角に、その写真館は立っていた。 光 写真館…。 その前で、士とラブ・美希・祈里は別れの時を迎えていた。 「また、別の世界に行っちゃうの? ツカサちゃん」 ラブの頭にはシフォンが乗り、祈里はタルトを抱きかかえている。 「せっかく仲良くなれたのに…」 寂しそうに言うラブに、士はストイックに応える。 「分かってはいたが、ここも俺のいるべき世界じゃなさそうだからな」 手にした1枚の写真に目を落とす。 それはあの時、ドーナツ・カフェで笑い合う3人を撮った1枚だったが、奇妙に失敗していた。 2重にブレた3人の姿…。 その“ブレ”は何故か、キュア・ピーチ、ベリー、パインの姿で、揃って両手で作ったハートマークを見せ合い笑っている。 「それに何せ俺は、次の獲物を狙う“世界の破壊者”だからな」 「そっか」 「いいのか? 世界を破壊する悪魔は、絶対に許さないんじゃなかったのか?」 「言いましたよね? 門矢さんは、そんな人じゃないって」 祈里が微笑みながら言う。 「それに、この世界を守ってくれたんだもの。 あなたみたいな完璧な人が、悪魔なわけないわ」 美希もそう太鼓判を押す。 「ほんま、おおきに。 いつか、あんさんの世界が見つかる事を、祈っとりますわ」 「キュアー。 ティケート、ガンバレ!」 タルトとシフォンの声援を受けて、士は苦笑する。 「じゃあな。 ドーナツ食い過ぎて太るなよ」 最後にそんな事を言って、士は写真館のドアを開くとその中に消えて行った。 「愛と、希望と、平和への祈り…。 世界は違っても、戦う気持ちはみんな同じ、か」 晴れやかな顔の美希が、あの時、ディケイドが言った言葉を繰り返す。 「門矢さんも、きっとそうだよね?」 祈里の言葉に、ラブが頷く。 「“仮面ライダー・ディケイド” また、会えるといいな…」 白黒の次元の狭間に写真館は消えていき、元の空き店舗へと戻って行く。 その姿を、ラブ・美希・祈里の3人は並んでいつまでも見送っていた。 ~Fin
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プリキュア VS ディケイド(II) 「しかしここは、変な世界だな」 士はテーブルに乗っていた“ぬいぐるみ”を両手で抱き上げる。 それはあの時、ピーチとディケイドの間に現れた“シフォン”と呼ばれた動くぬいぐるみだった。 「キュア、キュア! ティケート!」 ごきげんにはしゃいでいるシフォンを、士はもの珍しそうに眺める。 「“ぬいぐるみ”と“イタチ”が喋る世界なんて、初めてだ」 「“イタチ”とちゃうわ! “フェレット”や!」 そう言ってテーブルに飛び上がって来たのは喋るイタチ…もといフェレットだった。 「タルト?」 ラブが声を掛ける。 「いやいや、“フェレット”ともちゃう」 直立して喋るフェレットは誇らしげに胸をはって見せる。 「わてらは可愛い可愛い妖精さんや!」 「妖精さん、ね…」 関西弁全開で喋るフェレットと、“プリー?”とか何とか言いながら、小首をかしげるぬいぐるみを交互に見る。 「…本当に変な世界だ」 「にしても、あんさん。 何でパラレル・ワールドを旅しとるんや? 観光旅行…っちゅうわけでもないやろに」 「さあな」 青年の顔に微かな憂いが影のように浮かんだのに、祈里だけが気付いた。 「ま、強いて言うなら、なぜ旅をするのか探すために旅してる…ってところかな」 「はあ。 よーわからんなぁ」 「それより俺も教えて欲しいんだが…」 椅子を引いて、3人のテーブルに士も座り込んだ。 「いったい何処で俺の…、“ディケイド”の事を聞いたんだ?」 3人が顔を見合わせる。 話し始めたのは美希からだった。 「あれは、一週間ぐらい前だったかな…」 プリキュア VS ディケイド(III)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(VII) 「この子たちの言う通りだ…」 士が前に出る。 擦り傷を作った顔に、土埃で白く汚れたコート。 しかし、その威風堂々とした様は、まさに世界を超越した者の姿だった。 「俺は今まで、いろんな世界を巡り、そこで戦う奴らと出会って来た。 姿も、力も、技も違う奴らだったが、戦う気持ちは皆同じだった」 そしてラブたち3人を見る。 「愛と、希望と、平和への祈り。 …この子たちの事だ」 きょとんとするラブたち。 士は“ディケイドライバー”のバックルを構える。 「そういうの別に嫌いじゃない。 俺も少しだけ、そんなビートにノってみたくなった」 「フン。 くだらない」 「やめておけ」 今度は士が、イースを指差す。 「何だかんだ言っても、お前も悪にはなりきれない奴だ。 こういうのは向いてない」 「分かったふうな事を言うなっ!」 苛立たしげにイースが吐き捨てる。 あるいは、本当に分かっているのか? 「貴様…。 いったい何者だっ!」 ラブたちも、はっとして士を見た。 (言われてみれば…、ツカサちゃんって、いったい何者なの?) 世界から世界へと渡り、すべてを見知り、すべてを繋ぎ、そしてすべてを破壊する? もしもこの世に“神さま”というものがいるとしたら、そんな存在のことを言うんじゃないだろうか。 士がバックルを腹部に押し当てた。 伸びたベルトが腰を巻いて装着され、側部にライド・ブッカーが現れる。 その蓋を開いてディケイドのカードを引いた。 ゆっくりと…。 ゆっくりと、士がカードを目前に構える。 カードを持つ士と、カードの中の“ディケイド” 二人の士の目が、イースを見据えた。 誰もが次の言葉を待つ前で、士が口を開く。 「通りすがりの“仮面ライダー”だ。 覚えておけっ!」 「美希たん! ブッキー! 私たちも」 「ええ!」「うんっ!」 リンクルンにクローバー・キーを差し込み捻る。 携帯手帳が開き、メロディーが軽やかに流れた。 士が手にしたカードを弾いて裏返す。 ラブたちがリンクルンのローラーを指先で回す。 「変身!」 「チェインジ! プリキュア・ビートアーップ!」 “KAMEN RIDE .... DECADE !!” ディケイドに変身する士。 一方、ラブたちはリンクルンから溢れた光に包まれ、異相空間に誘(いざな)われた。 髪はとけ、まばゆい光のスーツに包まれた姿で、ラブが宙を飛び、美希が地面を滑走し、祈里が自由落下する。 その加速するスピードが最高速に達した時、時空の狭間は繋がり、伝説の力がその身に宿っていった。 まず胸元に4色ハートのエンブレムが花開く。 ボリュームアップした髪が結い上がり、鮮やかな戦闘衣装がその身にまとわれる。 足先のブーツ。 手元のリストバンド。 リンクルンのキャリー・ポーチ。 首元のチョーカー。 ハートのイヤリングと髪留め。 変身プロセスを終え、宙を舞い降り立ったプリキュアたちが靴音を響かせた。 順にハートマークをつくった両手を打ち鳴らし、名乗りをあげる。 「ピンクのハートは“愛”あるしるし…。 “もぎたてフレッシュ!” キュア・ピーチ!」 桃園ラブ…。 “キュア・ピーチ” 「ブルーのハートは“希望”のしるし…。 “つみたてフレッシュ!” キュア・ベリー!」 蒼乃美希…。 “キュア・ベリー” 「イエローハートは“祈り”のしるし…。 “とれたてフレッシュ!” キュア・パイン!」 山吹祈里…。 “キュア・パイン” 「たて線マークは“旅”するしるし…」 そして。 「“通りたてフレッシュ!” 仮面ライダー・ディケイド!」 門矢 士…。 “仮面ライダー・ディケイド” 「レッツ!」 「“プリキュア・アンド・ディケイド”!」 「やれ! “アンデッド・ナケワメーケ”っ!」 『ア~ンデッドォ!』 ラビリンスとアンデッド。 プリキュアとディケイド。 パラレル・ワールドを越え、この“プリキュアの世界”の存亡を掛けた最終決戦の火蓋が切って落とされた。 「変身」 “KAMEN RIDE .... DIEND !!” 海東もディエンドに変身すると、銃を構えディケイドと背中を合わせる。 しかし。 「おい海東! お前も力を貸せっ!」 「おいおい。 それは君たちの方で選択拒否しただろ? それに、お宝の手に入らない世界に、もう興味はない」 “KAMEN RIDE .... BLADE !!” 「餞別だよ。 それじゃあ、お先に」 ディエンドは大きく跳躍すると、公園の外へと消えていく。 そしてディエンドの召喚した“仮面ライダー・ブレイド”は、アンデッドの軍勢へと果敢に斬りかかって行った。 「ちっ。 ノリの悪い奴め」 「数が多すぎるよ…。 どうする? ディケイド」 背中合わせに陣形をとる4人。 ディケイドとパインの前には、イースを肩に乗せた巨大な“アンデッド・ナケワメーケ” ピーチとベリーの前には、ブレイドを押し退けて迫るアンデッドの群れ。 「何てことはない。 今の俺たちならな」 ディケイドのライド・ブッカーが自然に開き、4枚のカードが宙に飛び出す。 腕のひと振りで、キャッチする。 それはこの世界に来た時現れた4枚のブランク・カードだった。 ディケイドがその世界の戦士と共鳴し合った時…、“新たなる力”が発現する。 暗転していた4枚のカードの表に、次々と絵柄が浮かび上がった。 キュア・スティック“ピーチ・ロッド”を描いた、“ATTACK RIDE”カード。 キュア・ピーチの姿を描いた、“PRECURE RIDE”カード。 キュア・パインと“パイン・フルート”を描いた、“FINAL FORM RIDE”カード。 そして、四つ葉のクローバーマークを描いた、“FINAL ATTACK RIDE”カード。 「悪くない手札だ。 …いくぞっ!」 “FINAL FORM RIDE .... BLADE !!” アンデッドの群れに翻弄されていたブレイドが、突然、ふわりと宙に浮かぶ。 ざわめくアンデッドの頭上で奇妙な変形が始まった。 逆立ちの格好で宙吊りになるブレイド。 持っていた剣が足先に来て、背中に翼のようにカードが広がり、全身が刀身と化す。 剣王の剣“ブレイド・ブレード”…。 現れた大剣はディケイドの手に収まると、ピーチとベリーに迫っていたアンデッドの先陣をひと振りでなぎ払った。 「すごい…」 「感心している場合じゃないぞ」 大剣を片手に、ディケイドが1枚目の新カードを振って見せる。 “ATTACK RIDE .... PEACH ROD !!” ピーチのリンクルン・キャリーが淡い光を放つ。 次の瞬間、そこからキュア・スティック“ピーチ・ロッド”が勝手に飛び出し、ゆっくり回転しながらディケイドの空いた手に収まった。 「あ―っ! 私のピーチ・ロッド!」 「ちょっと借りるだけだ。 代わりに、ほら」 ディケイドは、反対の手にあるブレイド・ブレードを、無造作にピーチの方へ放り投げる。 「え…。 きゃあああああああああっ!」 ピーチの頭上に重量何100キロはあろうかという大剣が落ちてくる。 とっさに我が身を庇って突き出した手に…ブレイド・ブレードは握られた。 「あれ…?」 身の丈を超える刀身を持つ巨大な剣を、ピーチは軽々と片手で持っている。 「何、この剣? 軽い…」 「ピーチ、後ろっ!」 キュア・ベリーの声に振り返り、ピーチが青ざめる。 二人を取り囲もうと、総勢50体近くのアンデッドが迫って来ていた。 プリキュア VS ディケイド(VIII)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(III) その日も、ラブ・美希・祈里の3人は“プリキュア”に変身して戦っていた。 しかし相手は、いつものナケワメーケではなかった。 「何なの!? こいつは?」 苦戦を強いられる3人。 その前には、銀色の直立した虎のような怪人が立ちはだかっていた。 「“ラブ・サンシャイン”が効かないっ!?」 「“エスポワール・シャワー”もだめ。 跳ね返されるわっ!」 見た事もない怪人は、唸り声をあげながらじりじりと迫って来る。 プリキュアたちのパンチ・キックも決め技も効いた風になく、次第に追い詰められていく。 「パイン!」 「うんっ…。 やってみる!」 ピーチに促され、キュア・パインが前に出た。 「わるいのわるいの飛んでいけ…!」 頭上で打ち鳴らした両手で、印を結んでダイヤの紋章を形づくる。 「“プリキュア! ヒーリング・プレアー”!!」 手のひらから黄金色に輝く光の奔流が溢れ、怪人を押し流そうとする。 それまでどんな攻撃にも怯まなかった怪人が初めて苦しげなうめき声をあげた。 それでも怪人は急流に逆らうかのようにプリキュア達に肉迫するが…。 徐々にその身体が崩れ、蒸発していく。 やがて怪人の姿が完全に消滅したのを見て、パインはようやく波動の放出を止めた。 「やったわ…」 「何とか倒したみたいね」 3人は安堵の息をつく。 「それにしても、あれ…、何だったのかしら?」 「とうとうこの世界までも、奴によって汚されてしまった!」 突然、真横から掛かった声に振り返る。 いつの間に現れたのか。 そこに…一人の中年男性が立っていた。 暑苦しいコート姿に帽子、眼鏡…。 姿格好は四つ葉町でもよく見かけるような冴えないオジさんだったが、その風貌から強烈な“違和感”を漂わせている。 「すべては奴の。“ディケイド”の仕業…」 「あなた…誰なの?」 「私が誰かなど、どうでもいい…」 プリキュアたちの方に歩を進めながら、男は熱弁を振るい始める。 「問題なのは、あの男…。 “ディケイド”だ」 「ディケイド?」 「そうだ。 世界に亀裂を開けながら彷徨う男“ディケイド”。 奴が通った所から、世界は綻びを生じ、やがて崩壊してゆく…。 あの怪人も、そんな綻びが生み出した、この世界にあるべきではない忌まわしき者…」 突拍子もなく抽象的な口上に、ピーチ・ベリー・パインとも何の事なのか理解が及ばなかったが、ただ、その言葉の重さだけは深く胸に刻まれていった。 「ディケイド…」 「プリキュアたちよ、その名を忘れるな。 間もなく奴は姿を現す…。 君たちの世界を、幸せを守るため、“世界を破壊する悪魔”ディケイドを倒すのだ!」 中年男性は最後にそう言い放って、身を翻す。 その身体は正面から迫る白黒の渦をまく壁に突き当たり、そして…消えていった…。 ………… 「だいたい分かった」 美希の話がひと区切りついたところで、士はうんざりした様子で、一人グチる。 「鳴滝…。 あいつがある事ない事言いふらしてまわるおかげで、俺はこんな子供にまで“悪魔”呼ばわりだ…」 「あの…。 門矢(かどや)さん」 それまで士たち3人の様子を静観していた祈里が、遠慮がちに声を掛ける。 「門矢さんは知ってるんですか? あの怪人って何なのか」 「不死生物(アンデッド)…。 奴らも別の世界から来た連中だ。 太古の昔に滅び、現代に蘇った好戦的な狩猟民族。 この世界の法則とは合わないから、お前らの攻撃は効かないんだろう。 ま、一度死んでるわけだしな」 「よく分からないけど…、幽霊みたいなものかな?」 形のいいあごに人差し指を添え、ラブは考え込んでいるのか、いないのか、分からない様子でぼんやり中空を眺める。 けど、美希はそんなラブの一言にヒントを得た。 「あ、そうか。 だからパインの“浄化の力”なら倒せたんだ」 3人で頷き合う。 完全に太刀打ち出来ない相手じゃない…。 けれど新たな敵勢力を前に、頼みの綱がキュア・パインの決め技しかないというのは何とも心もとなかった。 「そうだ。 ツカサちゃんも、あの“ディケイド”になれば倒せるんだよね? だったら心強いよ!」 「まあな…、って、俺がお前たちの味方になる前提で言ってないか?」 「あ、バレたかー。 えへえへ」 悪びれた様子もなく言うラブに、皆が揃って笑みを漏らす。 士は首から下げたカメラのレンズの蓋を外すと…、そんなラブたちに向けピントを合わせ、シャッターを切った。 「コーヒーとドーナツ1つ」 話し込む士たちの隣のテーブルから、注文の声が挙げる。 「あ、ほら。 ツカサちゃん、お客さんだよ」 「はいはい、いらっしゃい…。 お前!」 背後のテーブルには、士と同じくらいの歳の青年が座っていた。 茶色のジャケットを軽く着こなし、肘をついて士やラブたちのやりとりを眺めている、士に似たシニカルな雰囲気を持つ青年。 「海東(かいとう)!」 「なんだ、士じゃないか。 “ライダー”は廃業して、ドーナツ屋に転職したのかい?」 驚いた様子もなく、そんな事をわざとらしく言ってくる。 「え? なになに? ツカサちゃん、知ってる人? お友達?」 「友達なわけないだろ」 無邪気に椅子の背から身を乗り出すラブに言い返して、士はその男に冷徹な視線を向ける。 「こいつは、ただのコソ泥だ」 「お客に向かって、随分な言い方だな」 「どんな店でも“泥棒”を客とは認めない」 ゆらりと立ち上がった士は、男のテーブルに近づく。 ラブたちはそんな二人の様子を不思議そうに見ていた。 「今度は、何が目的だ?」 「別に。 ただドーナツを食べに来ただけさ。 けど、ドーナツが出てこないんじゃ、しょうがない」 “海東”と呼ばれた男は、右手を顔の前にあげて振って見せる。 その手に黄色いパネルの、デジタル携帯音楽プレイヤーのようなものがあった。 「代わりにコレを、テイクアウトして行くよ」 「……ブッキーの“リンクルン”っ!!」 それが何なのか、いちばんに気が付いたのはラブだった。 そう言われて、祈里が自分の腰のキャリーポーチに目を向ける。 キャリーの蓋が開き、中身がなくなっていた。 「いつ間に…!?」 「ちょっとぉ! あなたっ」 ラブと美希が詰め寄るが、海東はすかさず椅子から立ち上がると後ずさって距離を取る。 「ドロボーっ! それはブッキーのものよ!」 「返してっ。 私のリンクルン!」 祈里も駆け寄って懇願するように声をあげた。 海東は困ったように小首をかしげると、そんな祈里を諭すように言う。 「悪いね、お嬢ちゃん。 これはね、君がおもちゃにするよりも、ずっと価値があるものなんだ」 リンクルンを左手に、海東は背中に回していた右手を構える。 そこに奇妙に機械的な、大きな拳銃が握られているのを見て、ラブたちは息を呑んだ。 「この世界のお宝。 変身携帯手帳“リンクルン”はいただいていくよ」 海東は拳銃を3人ではなく、真上に向けた。 「変身」 トリガーを絞る。 打ち出された光点と共に、迷走する光の影。 それらが海東の姿に重なり、その身を鎧と仮面で覆い隠す。 「まさか…! この人も!?」 蛍光ブルーの身体に黒い装甲。 頭と胸部を幾重にも差し貫くライド・プレート。 ディケイドと対を成す、世界間の跳躍者。 その名は“ディエンド” 恐怖に立ちすくむ祈里を庇うように、ラブと美希がその前に立ち、自分たちの“リンクルン”を構える。 「チェインジ! プリキュア・ビートアーップ!!」 キュア・ピーチ、キュア・ベリーに姿を変えた二人は、ディエンドを取り押さえようと、飛び掛かるタイミングを計る。 リンクルンをしまい込んだディエンドが、代わりに2枚のカードを抜いた。 そこには、“二人の少女”の顔が描かれている。 「…面白いカードが使えるね。 この世界は」 2枚のカードを、たて続けに手にした拳銃、“ディエンドライバー”のスロットに差し込む。 “PRECURE RIDE .... ROUGE !!” “PRECURE RIDE .... EAGLET !!” 銃を二人に向け、引き金を引く。 マズルから弾丸は発射されなかった。 代わりに飛び出した光点が膨れ、一瞬で人の姿を成す。 そこに立っているのは…。 燃えさかるような赤毛に薔薇の髪飾りをつけた少女と、白銀の翼のような衣装をまとった少女…。 二人の少女は、腕を振るって構えを取ると、ピーチとベリーに猛然と挑みかかって来た。 「“キュア・ルージュ”!? “キュア・イーグレット”!?」 白い少女…イーグレットの蹴り技を、すんでのところで受け流しながら、ピーチは驚きの声をあげた。 「どうして…? 操られているの!?」 ベリーはルージュの正拳をガードするが、衝撃で後ろに滑り、慌てて体勢を立て直す。 現れた二人のプリキュアは、ひと声も発する事なく、黙々とピーチたちに攻撃を繰り出してくる。 「ダメだよ。 お友達同士、仲良くしなきゃ。 それじゃ、僕はこれで」 そんな事を言って、ディエンドは背中を向ける。 「待ちなさいっ!」 ピーチがその後を追いかけようとするが…、行く手を阻むイーグレットの回し蹴りを受けて、反対方向に蹴り飛ばされる。 「ピーチっ!」 そう叫んだベリーの頭上へ、ルージュが空中から蹴り落とした火球が降ってくる。 爆炎が辺りを包み込み、その中からベリーが吹き飛ばされていった。 「あああ…。 どうして…、やめて…。 ピーチ! ベリー! ルージュ! イーグレット!」 ディエンドの姿は既に見えない。 必死に叫ぶ祈里の前で、4人のプリキュア達の激闘が繰り広げられていった。 プリキュア VS ディケイド(IV)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(VI) 「ブッキー! 危ないよっ」 「大丈夫、だから」 一歩一歩、海東に近づき銃口に身をさらす祈里。 その悲壮ながら強い意志に満ちた姿に、ラブも美希も、士さえも声を掛けられなくなった。 「無理はしない方がいいんじゃないかな。 膝が震えてるよ」 海東の言う通り、微かに膝を震わせてぎこちなく足を前に出す祈里。 しかし…。 「お願い。 リンクルンを返してっ」 「もの分かりの悪いお嬢さんだな」 「あなたの言う通り、本当はそのリンクルンは、私にはふさわしくないのかもしれない…」 また一歩、祈里が震える足を踏み出す。 「臆病で弱虫で、怖いのも痛いのも嫌いな私だけど、他の誰かが怖いのや痛いのはもっと嫌だから」 海東の銃が火を噴いた。 祈里の足元に兆弾して、ラブと美希が声を殺した悲鳴をあげる。 「…守りたいのっ。 ラブちゃんや美希ちゃんや、四つ葉町の大切なみんなを。 この気持ちだけなら私だって負けない。 けど、今の私じゃ。 祈ってるだけじゃ叶えられない。 だから必要なの。 リンクルンが…、プリキュアの力が」 海東の目前まで来た祈里。 その額にディエンドライバーの銃口が触れた。 「そのために私はプリキュアなんだって。 プリキュアになれたんだって。 私…、しんじてるっ!」 今にも泣き出しそうな目で、それでも祈里は海東をまっすぐ見上げる。 その肩に、背後から歩み寄ってきた士の手が触れた。 「門矢さん…」 「海東、いい加減返してやれ。 大人げないぞ。 それはこの子が持っていてこそ、価値あるものなんだ」 見つめ合う海東と祈里。 そして見守る士、ラブ、美希…。 やがて海東が、くるりと銃を回して銃口を祈里から離した。 「やっぱり僕はフェミニストみたいだね。 泣いてる女の子には勝てないよ」 海東が差し伸べた手が、祈里の差し出す手と重なる。 その手が離れた時、祈里の手に黄色いリンクルンがのせられていた。 祈里が表情を輝かせ、堪えていた涙がせきを切ったように溢れる。 見ていたラブと美希にも笑顔が浮かぶ。 士も無言で、口元に微かな笑みを浮かべ頷いた。 「喜んでいる暇はなさそうだよ」 海東は背後に目線を向ける。 「早速、価値あるところを見せてもらわないとね」 騒ぎを聞きつけたのか、公園の中には5人の様子をうかがう人集りが出来ている。 いや…。 それは“人”ではなかった。 公園の中にうごめく、異形の姿の群れ…。 「不死生物(アンデッド)…。 それに…」 先頭に立つ、黒い衣装の少女。 その開いた目から、赤い視線がラブと士たちを捕らえた。 「見つけたぞ、プリキュア。 それにディケイド!」 「管理国家ラビリンス…」 青ざめるラブたちの一歩前に、士が出る。 「やはりアンデッドと手を組んでいたのかっ!」 ラブと美希と祈里、それに士、海東。 対するはイースとアンデッドの王、そして配下のアンデッド軍勢約50体。 祈里のリンクルンが手元に戻ったとは言え、絶望的な戦力差には変わりない中で、もはや衝突は避けられない一触即発状態となっていた。 「なるほど、これでディケイドとプリキュアを一網打尽か」 「ああ。 手間がはぶける」 アンデッドの王に答えて、イースが赤紫色の剣先のようなジュエルを構えた。 (“ナケワメーケ”のパワー・ストーン…) 士が舌打ちする。 誰も変身すらしていない状態で止めるすべがなかった。 一体今度は、何をナケワメーケ化する気か? ジュエルを指と指の間に挟み、左上段に構える。 伸ばした腕に片目が隠れ、残る隻眼で士たちを見据えたまま…。 次の瞬間。 イースは身体を捻り、背後にジュエルを放った。 誰もが息をのむ。 「貴様、何を…」 アンデッドの王…。 スペードのK(キング)“コーカサスビートル・アンデッド” その額の中央に、イースの投げたジュエルが貼り付いている。 「言っただろう? ディケイドを倒すため、“最強のナケワメーケ”をつくってやると」 「裏切ったのか!?」 「裏切った?」 冷ややかな目で、イースは王を見る。 「裏切ってなどいない。 最初から仲間になったつもりはないからな」 異常事態に気付き、周囲のアンデッドがイースに迫ろうとするが遅かった。 「ナケワメーケ! 我に仕えよ!」 イースの指令の声と共に、王の地獄から響くような咆哮と、全てを覆い隠すような白煙が巻き起こる。 『ア~ンデッドォ!』 煙が晴れた、そこに。 つり上がった光の目と額のジュエルを持ち、巨大化したアンデッドの王が膝をついて鎮座していた。 「アンデッドが、ナケワメーケになった!?」 「どうやらラビリンスの方が、一枚上手(うわて)だったみたいだね」 ディエンドライバーに“ディエンド”のカードをセットしながら、海東が言う。 「どう言うこと? ラビリンスとアンデッドは手を組んだって…」 「はははっ。 素晴らしいな、“アンデッド”の力は。 これでナケワメーケとして制御すれば、まさに最強か」 イースを肩に乗せ、“アンデッド・ナケワメーケ”が重厚な身を立ち上げる。 その足元のアンデッド達は、動揺して右往左往するばかりだった。 「さぁ、約束は果たしてやろう。 ディケイドとプリキュアを倒せっ!」 『ア~ンデッドォ!』 手にした巨大な剛剣が振り下ろされる。 「危ねえっ!」 慌てて散り散りに逃げる士とラブたち。 その元いた場所に剣が突き刺さり、土煙を舞い上げた。 「最初から、こういうつもりだったというわけか」 「アンデッドを騙して利用してたのね。 ひどい…」 士と祈里の言葉を、イースは軽く鼻で笑う。 「しょせん別々の世界の住人。 分かり合えなどするものか…。 お前たちだってそうだ!」 イースが眼下の士を指差す。 「その男は“世界の破壊者”だ。 この世界を破壊するためにやって来た、な。 仲間にでもなったつもりか? いずれお前たちも、滅ぼされるというのに!」 「そんなことないわっ!」 祈里が、毅然と言い放った。 「門矢さんは、そんな人じゃないわ!」 『さっきは仮面に隠れてて顔が見えなかったけど、こうしてちゃんと目を見てお話しすれば分かる…。 ツカサちゃん、悪い人じゃないって』 あの時ラブが言った事が、今なら祈里にも分かる。 夜の公園で、祈里の話を聞いて、そっと頭を撫でてくれた士。 不器用で少し意地悪で、皮肉屋さんだけど、そんなふうに分かりにくい形で隠れている優しさの欠片。 心が通じ合っているとまでは言えない。 けれどあの時僅かに寄せ合った気持ちは偽りじゃない。 「私もこの人なら信じられるわ。 世界の破壊者なんかじゃない。 きっと今、この時のため。 この世界を守るために来てくれたんだって!」 ラブと祈里がここまで信じられる人なら。 美希にとっても異存があるはずもなかった。 「そうだよっ!」 ラブも祈里と美希に並ぶ。 「大切なものや、守りたい気持ちが同じなら。 別々の世界に住んでいたって、きっと分かり合えるんだからっ!」 「!」 ラブの言葉に、イースが目を見開く。 プリキュア VS ディケイド(VII)へ続く
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プリキュア VS ディケイド(VIII) ………… ディケイドとキュア・パインは、ナケワメーケ化したアンデッドの王と対峙していた。 手にした“ピーチ・ロッド”を構えるディケイド。 しかしそこに剛剣が振り下ろされて、慌てて横に飛び退く。 体勢を崩したところを再び斬撃が襲う…。 が、前に出たパインが、その剣の根元をがっしりと受け止めていた。 「ディケイドっ!」 「大したパワーだな。 助かるっ」 そう言ったディケイドの手に、何かの“端末”が握られていた。 モニタに並んだアイコンを、指先が順にタップしていく。 “KUUGA” “AGITO” “RYUKI” “FAI S” “BLADE” “HIBIKI” “KABUTO” “DEN-OH” “KIBA” .... ファイナルカメン端末“K-TOUCH(ケータッチ)”…。 かつて士が巡った9つの世界の“仮面ライダー”の力をひとつに集め、ディケイドは最強のライダーへと変貌する。 最後に“DECADE”のアイコンをタップして、その力は解放された。 “FINAL KAMEN RIDE .... DECADE !!” ディケイドの姿が一転した。 黒を基調に銀色をあしらったスーツ。 そして何より特徴的な、胸部に並んだ9人のライダーカードのローブと、頂(いただき)を飾る冠の、自らの姿のカード。 仮面ライダー・ディケイド、“コンプリート・フォーム”…。 「姿が変わった? 何だ、あれは?」 アンデッド・ナケワメーケの肩の上で高みの見物を決め込んでいたイースだが、次々と不可解な力を発揮するディケイドに戦慄を覚える。 これ以上、猶予を与えるのはマズいかもしれない…。 「ディケイドだっ。 奴を倒せ!」 アンデッド・ナケワメーケに指令を下す。 巨剣を振り上げようとするアンデッドだが…。 『アアアンデッドォ…』 「うううううっ…」 キュア・パインがその剣を捕らえたまま放さず、力比べの格好になる。 「何をやっているっ!」 「“最強のナケワメーケ”が、最強じゃないって事さ。 そして…」 キュア・ピーチの“PRECURE RIDE”カードが、その手にあった。 「見せてやるよ。 この子たちの“最強”を、な…」 手にしたカードを“裏返して”、ベルトに固定したケータッチに差し込む。 モニタに映るカードの裏面。 そこには4色ハートのクローバーマークがあった。 その中の、ピンクのハートと“F(フォーム)”のアイコンを順にタップする。 “CURE PEACH, PRECURE RIDE .... ANGEL !!” ディケイドの胸部に並ぶカードの絵柄が、一斉にキュア・ピーチの肖像に変わる。 そして横に並ぶように、そのプリキュアは降臨した。 純白の翼を閉じて自らを包み込んだ格好。 その翼を大きくゆっくりと開き、姿が現れる。 ピンク味を帯びた衣装はキュア・ピーチのものと類似しているが、長くなったスカートの尾羽や袖の部分のカット、宙を舞う腰のリボンの長さなど、より華やかさが増したドレス姿。 そしてその顔は…。 「えっ…? わたし!?」 アンデッドの軍勢とやり合いながら、その様子に気付いたピーチが驚く。 その顔は、キュア・ピーチそのものだった。 純白の翼を背負ったもう一人のピーチ。 “キュア・エンジェル”…。 ディケイドが手にしたピーチロッドを上段に構え、ゆっくりとイースの方へと向ける。 隣に並ぶエンジェルも、自分のキュア・スティックを手に、ディケイドの動きをそのままトレースする。 周囲に純白の羽根が、ぱっと広がった次の瞬間。 舞い散る羽根を吹き飛ばすようにして、ディケイドとエンジェルの杖から七色に輝く光が放射され、イースに浴びせられた。 「なにっ!? あああああああっ!!」 聖なる光に身を焦がされ、イースはナケワメーケの肩から転落。 地面に打ち付けられた。 「バカな…。 何だ? その力は」 ガクガクする上半身を起こし、震えながらディケイドとキュア・エンジェルを見る。 『アンデッド? アンデッド?』 司令塔を失ったアンデッド・ナケワメーケが、困惑するように左右を見回していた。 「今だ。 お前の力を見せてやれっ」 「はいっ!」 キュア・パインの呼びかけに応えて、彼女の守護精、鍵型妖精“キルン”が姿を現す。 くるくる廻り、解除キーと化すキルンを手に取ると、リンクルンに差し込み手帳を開く。 目を閉じて、先端のキルンに軽く口付けるパイン。 「えいっ!」 指先でローラーを回す。 小さな光のリングと共に、彼女のキュア・スティックが現れた。 「癒(いや)せ、祈りのハーモニー。 キュア・スティック“パイン・フルート”!」 その名の通り、スティックをフルートに見立てて鍵盤を順に指で押さえ、音階を奏でる。 「わるいのわるいの飛んでいけ!」 光を灯した先端のオブジェで、空中にダイヤマークを描き不可視の結界を張ると、その中にエネルギーを注ぎ込む。 結界の中で逃げ場のないエネルギーは物質化寸前まで凝縮され、黄金色に輝くダイヤの光弾となった。 「“プリキュア! ヒーリング・プレア――…、 フレ――――ッシュ”!!」 突き出した杖先にダイヤの光が触れ、周囲の空間に衝撃が走った。 発射されたダイヤは空中を疾走し、アンデッド・ナケワメーケに激突する。 「はあ――――――っ!!」 杖先を回し、パワーを増幅する。 膨れ上がった金色の光の中に、アンデッド・ナケワメーケの巨体は呑み込まれていった。 ………… ピーチとベリーはアンデッドの軍勢に取り囲まれていた。 ブレイド・ブレードを振るい果敢に戦うピーチ。 しかしプリキュアになり超人的な力を得たとは言え、ピーチには剣術の心得などなかった。 当たるを幸いに近づく怪人達をなぎ払うが、その包囲網は徐々に縮まっていく。 「まずいわね、ピーチ」 背中合わせにキュア・ベリーが言う。 自らのキュア・スティック“ベリー・ソード”を手にアンデッドをけん制するが、状況を好転するには至らない。 キュア・ピーチも大剣を構えながら、息を整え、左右に厳しい目を向ける。 「もう…、このトランプの剣。 何かもっとこう、どばーっとすごい技が出せないのかな」 「トランプの剣?」 ピーチが持つ剣に目を向ける。 柄のところに扇状に開いている大きなカード。 それは確かに数字の刻まれたトランプのようだった。 ベリーは自分の持つ“ベリー・ソード”の先端。 スペード型のオブジェに目を移す。 「トランプ…。 スペード…」 「ベリー、なに?」 「ピーチ。 私の力を、上乗せしてみるわっ」 ベリー・ソードを帯刀の形に構え、引き抜く。 その動作でスティックの鍵盤がなぞられ、メロディーが流れた。 「わるいのわるいの飛んでいけ! “プリキュア! エスポワール・シャワー――”…」 剣先でスペードのマークを描く。 ピーチやパインの時のように、それが青く輝く光の集合体となって実体化した。 「“フレ――――ッシュ”!!」 打ち出されたスペードの光は次の瞬間。 無数の小さなスペード・マークへと分裂・四散した。 ブレイド・ブレードを持つピーチの周囲にそれが渦を巻き、漂う。 「これは…」 光のスペードが、ブレイド・ブレードのカードに貼り付き最強の手札を組み立てていく。 スペードの10、J(ジャック)、Q(クイーン)、K(キング)、そしてA(エース)…。 そこに確かな手ごたえを感じて、ピーチは両手で大剣を振るい、腰だめに構えた。 「わるいのわるいの飛んでいけ!」 ピーチの前門に、5枚のカードが次々と現れ道を差し示す。 猛然と駆け出したピーチは、ドアを突き破るかのようにカードの門を潜っていく。 その度に手にしたブレイド・ブレードの刀身に力が宿っていった。 「“プリキュア! ロイヤル・ストレ――ト”…」 最後のA(エース)の門を潜るキュア・ピーチ。 ブレイド・ブレードからは、炎のようにエネルギーが吹き上がり、その刀身の長さを数倍にも伸ばしている。 「“フレ――――ッシュ”!!」 手にしたブレイド・ブレードで360度をなぎ払う。 周囲のアンデッドの群れ全てを、その雷刃が通過していた。 “死”すら凌駕するその力を受け、アンデッドが一斉に爆発する。 その轟音が治まった時…、立っている者はピーチとベリーの二人だけだった。 「やったぁ! あたしたち、完璧!」 ハイタッチを交わす二人。 だがすぐに、戦いはまだ終わっていないことを思い出した。 「パインとディケイドは!?」 周囲に目をやる二人。 そこに、キュア・パインの“ヒーリング・プレアー・フレッシュ”に押されるアンデッド・ナケワメーケの巨体を見る。 ダイヤの形の光に包まれた巨体。 その光に…、ひび割れのような亀裂が走り、繊細なガラスのように粉々に砕け散った。 プリキュア VS ディケイド(IX)へ続く