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part1 373 サシャ・ブラウスの朝は早い。 朝靄にまぎれて兵舎を離れ、演習林の中で根菜を集めて粥にしたり、時には野鳥を捕ら えて干し肉にしたりと、食料調達に余念がない。 ある朝、サシャは前日に設置した罠を確認しようと林に入った。足を踏み入れてすぐ、 鳥たちの様子がおかしいことに気づいた。いつもならチュルチュルと恋歌を鳴き交わして いるところが、その日はヂヂヂ、ギャギャギャ、という警戒音があたりに飛び交っていた。 サシャは用心深く歩を進めた。自分以外の誰か、または何かが森に入っていることが想 定されるため、先に相手を見つける必要があった。 まわれ右をして兵舎に帰る、という選択肢はなかった。実技演習の時に偶然良い獣道を みつけ、機会をうかがってようやく設置した仕掛けだったので、なんとしても成果を確認 したかった。また、他人に見つかったら後が面倒だ。…演習林の中で狩猟をしてはいけな いという軍規はなかったが、していいという記述もない、という察しがつくくらいにはサ シャも成長していた。 分け入っていくにつれて嫌な予感がして足を早めた。どうも騒ぎの中心は仕掛けたあた りらしい…鹿か猿でも掛ったのだろうか?立体起動装置があればさっさと上から確認でき るところだが、あいにく装置は夜間、倉庫で厳重に保管されているのだった。 やがて目的地付近から、枝が揺れる大きな音が聞こえてきた…獣ではないようだ、「チク ショー」という怒声も聞こえてきたから。誰かが争っているのだろうか? サシャは、声が若いことにほっとした。うまくすれば上官ではなく、罠も気づかれない かもしれない。それにしても位置が近すぎる…そう思いながら身を隠して付近を確認した サシャは、「あっ」と叫んで駆け出した。 そこには、木の枝から逆さまにぶら下がったジャンが「かかっていた」。サシャは前日、 地面に置いたワイヤーの輪を埋め、そこを踏むと輪が締まって足をとらえ、同時に引き下 げておいた木の枝が元に戻る「括り罠」を仕掛けていたのだが、どうやら誤ってジャンが そこを踏んでしまったのだ。 「ごごごごめんなさいぃぃ…う、うごかないでください、今とりますから~」 「クソッ、外れろ!はずれ…あぁ?サシャか?助けてくれ、早く!」 ジャンは足首のワイヤーを外そうと暴れていたが、サシャが来たことに気づくと大人し くなった。 サシャは青くなってジャンの体をひっぱり下ろした。2つの「疑問」が頭の中をかけめぐ る。1つめは、「小動物用の罠だから人間では反応しないはずなのに、機構に問題があった の?」という技術の問題。2つめは、「ここは授業の時以外誰も来ないのに、どうしてジャ ンが?」という疑問だった。 「大丈夫ですか?…今切るので、頭に気をつけてくださいね?」 「ちょ、ちょっと待て!下に何もないだろうな!!」 サシャは小刀を取り出し、的確な動作でワイヤーと枝の接合部分を抉った。半分ほど切 れたところで木のしなりが二人分の体重に負け、枝はメリメリと裂けながら地面に向かっ て下がってきた。ジャンは頭を打つことなく、積もった落ち葉でふかふかの地面に難着陸 した。 「ふぅ~、よかったですね~、まっさかさまに落ちなくて済みましたよ」 「よかったですねじゃねぇよ!!さっさとワイヤーほどきやがれ!!」 「待って下さい、枝の残りを切りますから」 文字通り頭に血が上ったジャンは、地面に着くや憤怒の形相でサシャをにらみつける。 とはいえ片脚をサシャの膝の上に抱えられ、しかも刃物を使われているので大人しくされ るがままだった。 どうやら自分の仕掛けだとバレているみたい…サシャは手を動かしながら考えた。どう しよう、告げ口されたら懲罰房行きかな。なんとか黙っててもらえる方法は…そうだ、 ジャンの弱点!…いや、そんなの知らないし…。何か好きなものをあげて懐柔?でもこの 括り罠はもう使ってしまったし…またいいポイントをみつけるには時間がかかる…干し肉 がまだちょっとあるけど、多分それじゃ足りないだろう…どうしよう~。 やがて最後の繊維が千切れ、ようやくジャンは解放された。枝が外れればワイヤー(立 体起動装置の予備ワイヤーをくすねたもの)をほどくのは簡単だった。サシャはなんとか ジャンの怒りを反らそうと、つとめて陽気に話しかけた。 「取れましたよ!足は大丈夫ですか?歩けます?いやー、ブーツを履いててよかったです ね~」 ジャンはいまいましそうにサシャを見やると、肩につかまって立ちあがった。どうやら 怪我はないらしく、数歩歩くことができた。時々痛そうに顔をゆがめたが、やがて屈伸と ストレッチをし、どこにも脱臼や骨折がないことを確認した。 そんな様子を眺めていたサシャは、急に気が抜けて空腹を感じ、「残っている干し肉を今 食べようか」などと考え始めた…その時、ジャンがくるりとこちらを向いた。 「ちょっと整理しようか」 表情は先ほどより落ちついていたが、やはり怒りをこらえているようだ。サシャは生唾を 飲み込んでから頷いた。困ったような笑顔を浮かべながら。 「あ、あのー…大変もうしわけなかったと言うか…」 「…ってことは犯人はお前でいいんだな」 「は、はいぃぃ…」 「助けてくれたことには礼を言う。ひっかかってからの時間はそれほど長くなかったし」 「はぁ…よかったです…」 「いったい何を考えてこんなモン作ったんだ?誰を呼び出してはめようとした?!」 「へ?だれって……誰でもないですよ?」 「じゃあなぜ!!嫌がらせか?」 「???何を言っているんですか?ウサギの通り道ですよ?ウサギが食べたいからに決 まっているじゃないですか!!」 「!」 ジャンはなんともいえない表情をすると、頭に手をやってその場にしゃがみ込み、小さ くつぶやいた。 「…芋女…」 ようやくサシャもジャンの怒りの正体が飲み込めた。…つまり、罠にかかっている間中、 誰にやられたのか、といったいらない考えを巡らせてしまったのだ。誰も通りがからない 早朝、いつ助かるのか分からない不安もあったろう。サシャはジャンが気の毒になった。 「ごめんなさい…」 しおらしくジャンの隣に膝をつく。ふと、先ほどの疑問が再度頭をよぎった。 「ジャンはどうしてここに…?」 「オレは散歩だよ、散歩」 ジャンの言い方はなんだか必死だった。そして、ちら、と木々の間に目線を走らせたの をサシャは見逃さなかった。何かを探しているのだろうか? サシャもつられて辺りを見渡す。すると、罠にした木の先に黒いものが落ちているのが 見えた。拾おうとしてサシャが立ち上がると、気配に気づいたジャンがはじかれたように 跳ね起きた。しかし足がまだ本調子ではないらしく、先にたつサシャに追い付けない。サ シャは手早く拾った。黒い手帳だった。昨日の演習の時に落としたのだろうか。 振り返ってジャンに差し出すと、ジャンはひったくるようにして受け取った。 「……」 「なんだよ、なんだっていいだろ!」 ジャンは先ほどと表情が違っていた。また赤くなっているが、これは…羞恥?…なんだ かよく分からないが、触れられたくないのだろうと察したサシャは話題を変えた。 「…ジャン、本当にごめんなさい。…人が来るところは避けたつもりだったんだ。人がい ると獣も通らないし」 「ふん。…まさか罠があるとはな。」 息を切らしながらもジャンは徐々におちつきを取り戻しているようだった。 「オレも油断していたとはいえ…お前、本当に猟師だったんだな」 どうやらジャンものってきたので、サシャは勢い込んで話し出した。 「私はまだまだ…。獲れるのは鳥ばかりだし。括り罠だって、本来大型動物には効かない はずなんだ。未熟だから迷惑かけちゃって…」 「…大型動物…」 「いやごめん、だから人間も当然かからないはずだったんだ!山では周囲に標識を出して 注意を促すんだけど、それは猟師にしか分からない印だから…」 「あー…まぁ悪気がなかったのは分かったよ…」 「本当?よかった!…お詫びと言ってはなんだけど、昨日作った干し肉があるんだ。…よ かったら食べる?」 サシャの言い方は、いかにも本心ではあげたくないけれどもやむなく、そして先方がど うしてもと希望するなら特別に、という気持ちがにじんでいた。そのためジャンも、サシ ャの精一杯の詫びの気持ちを汲むのも悪くない、という気になりはじめた。 「そうか…それは何の肉なんだ?まさか鶏舎の…?」 「えー、イタチやキツネじゃあるまいし。ヒヨドリの肉だから美味しいよ。日持ちがする からもう少しとっておけるんだけど…でも食べたいのならあげるから。あとムカゴもある し…」 「ちょっと待て、そんないっぺんに珍味を並べられても…ヒヨドリだって?ギャーギャー 鳴くあれか?」 ジャンは自分が知っている「食べ物」とかけ離れた感覚に、歩み寄りの気持ちが早くも 萎えていくのを感じた。 「ヒヨドリは美味しいよ!!果物しか食べないから臭みがぜんぜんないんだ!食べれると ころが小さくてちょっと物足りないけど、でも噛めば噛むほど味があって幸せと言うか… カラスも美味しいし食べでがあるけど、あいつらは獲るのが難しいから…」 「あ~、うん、分かった、オレはいいよ、遠慮する。サシャのタンパク源を奪っち ゃ悪い」 「…いいの?」 サシャがあからさまにほっとした顔をしたので、ジャンはなんだか可笑しくなってしま った。こいつの頭の中の90%くらいは食欲でできているんだろうな…。 「いいっていいって。お前は本当に色気より喰い気をだよな」 本当に、何の他意もなく言った一言だった。 「え…ジャンは喰い気よりも色気がよかったんですか…?」 急に、サシャが嬉しそうな反応を見せ、ジャンは戸惑った。 「そうは言ってねぇが…」 「よかったー。食べ物があまりないから…要らないって言うし…ジャンが喰い気よりも色 気がいいなら、話は早いですね」 「おいなんだよ、何の話が早いって?」 「またまたー。男と女がする色気の話なんて分かり切っているじゃないですか」 「はぁ!?」 「朝礼までにまだ時間がありますね、善は急げ、ですよ。ええと、目隠しがあって広いス ペースは、っと…」 どうやら事態は妙な方向に進みつつあるらしい。ジャンは、何やら辺りを点検している サシャを茫然と眺めた。が、気をとりなおしてなんとか言葉を絞り出す。 「ちょっと待て、なんでオレがお前と男と女なんだ!?それのどこが詫びになるのか説明 してくれ!」 乾いた枯れ葉を集めてより一層ふかふかにする作業に没頭していたサシャは手を止めて ジャンの方を向いた。そして考え深げにジャンの表情を確認すると、何かに納得したのか、 やさしい笑みを浮かべてこう言った。 「…故郷の村では、夜這いは若衆の最高の楽しみでしたよ。…大丈夫、何も怖いことなん てないですから」 やはりそういうことなのか、というある種の絶望と、言葉の中の微妙な誤解…いや誤解 ではないのだが今はそれはおいておこう…を感じて、ジャンは頭をかきむしりたい衝動に かられた。 「…お前の言いたいことは分かった。分かったから少し冷静になろうぜ、な?…あー、 あれだ、お前もっと自分を大切にした方がいいぞ?」 ジャンは精一杯「余裕がある」と思われそうな声色で説得を試みた。 対するサシャは全くの自然体、何の力みもつくりごともない。 「大切に…されていますよ?村の若衆は皆優しかったし、誰とするかは選ばせてくれたし …ここでも、たまにお肉をくれる人はいるし…」 またもや聞き流したいのに聞き流せない情報が飛び込んできた。 「お前、肉が喰いたくてそこまで…?」 「ちがいますよ~、その人が勝手にくれるんです~。ナイショだけど実はその人好みじゃ ないから、ちゃんと断っているんですよ?でも『もらってくれるだけでいい』って言うか ら…」 ジャンは心底その相手に同情した。同時に、サシャにも男の好みがあるという事実に新 鮮な驚きをおぼえた。…えり好みするということは、オレはひょっとして気に入られてい るのか?それともやむなく…?しかしそれ以上は考えたくなかったので、こうなったら雑 談でごまかそう、と自分に言い聞かせた。 「…お前から『好み』って言葉が出るとこわいな…く、喰われそうだ、はっはっは」 「…あっはっは、まさか噛んだりしませんよ~。でもキスで本当の好みが分かりますから ね、食べるのと近いのかも~」 「?」 「え、分からないんですか?かわいいなー、と思っていても、キスしたら『なんか違う』 って思うことありません?」 「へぇ?」 ジャンは記憶をさぐってみたが、入隊前の子ども時代の無邪気なチュウくらいしか出て こず、キスの善し悪しにまでは思い至らなかった。ふと、目の前のこいつはいったい何人 の男とキスをしたのかという好奇心が頭をもたげ、そんな自分に少しだけイラついた。 「あ、今、『そんなに経験豊かでうらやましい』って思いました?」 こう言われてしまっては、ものすごくイラつかざるをえない。 「思うかよ、イモ女」 「ジャンは大丈夫ですよ。なんかキスって、遺伝的に遠ければ遠いほど美味しいらしいで すよ?ミカサは東洋人だから…きっと美味しいって思ってもらえますよ~」 「!!」 これは完全な不意打ちだった。周囲に気づかれているかもしれないとは思っていたが、 ここまであからさまに指摘されたのは初めてだった。 「大丈夫ですよ、言いふらしたりしませんから。自作の恋の詩を書いた手帳、演習の時で すら持っていたなんてジャンは本当にロマンチストですね」 「ちょ…おま……見たのか!?」 「わわ、ごめんなさい~、見るつもりなかったのに見えちゃったんです~」 先ほどサシャが黒い手帳を拾った時、偶然ぱらりと開いてしまったのだが、そこは 狩猟で鍛えたサシャの目のこと、瞬時に内容を理解してしまったのだった。 サシャの言葉が真実であると見てとったジャンは、ふと感じた疑問を口にした。 「お前それじゃ…そっちは罠の件、こっちは手帳の件でイーブンじゃねぇか…なんで詫び とか言い出すんだ?」 「へ?…あれ、そうですよね…えへへへ、なんでだろう」 …えへへじゃねぇ…。ジャンは全身の力が抜けてその場にしゃがみこんだ。周囲には早 春の赤みがかったブッシュが茂り、梢では鳥たちが楽しげに鳴き交わしていた。 やがて、サシャも隣にしゃがみこみ、さみしそうにつぶやいた。 「…だって、ジャンがミカサに切ない片思いしているのみんな知っているじゃないですか。 これで私が『ジャンが手帳に詩を書いてた』って言ったら、わたし完全に悪者ですよ、こんなカード使えません…」 「そうか…『みんな知っている』のか…」 「気づかない方がおかしいと思いますけど」 「……」 「……」 「あー、チクショウ!どさくさにまぎれてヤっときゃよかったな!」 沈黙に耐えかねて、ジャンがヤケクソの冗談をとばした。 「…今からでもします?」 いつからそこにいたのか、隣でサシャがほんのり頬を染めて微笑んでいた。
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part1 401 調査兵団への入団後、新兵達は訓練に明け暮れた。 ほとんどの訓練は次期調査出発地カラネス区への移動や移動先での旅団の設営と して作戦行動に組み込まれており、新兵達は各々緊張感をもって忙しく過ごした。 各自のスリーマンセル(班長+班員+新兵の小隊)が固定する頃には、新兵が顔を合 わせるのは何日かに1度の座学の時間だけとなっていた。 ある日の夕方、ジャンの班は久しぶりにトロスト区に立ち寄った。その日はトロスト区 での外泊日として外出が許可され、先輩方は馴染みの酒場で大いに盛り上がった。 ジャンもしばらくつきあったのだが、日頃の疲労が出たのかもともと酒に強くなかった のか、具合が悪くなって宿営地(と言っても訓練学校の校庭)に帰されてしまった。 携行用の簡易ベットと資材で一杯の狭いテントの中、ジャンは一人気持ち悪さをこら えてまんじりともできなかった。テントの外からは時折、宿営地を出入りする他の班の ざわめきが聞こえてきた。 やがて夜も更け、どうにか吐き気もおさまったので、水を飲みにテントを這いだした。 もちろん食糧や水は班で携行していたが、ジャンは冷たい井戸の水が飲みたかった。 勝手知ったる訓練学校の敷地で暗闇でも迷うことなく食堂の裏手の井戸に辿り着 く。 かすかな月明かりを頼りに汲み上げポンプの中に水が残っていることを確認して アームを上下させると、キィキィという音はやがて手ごたえとともにガボガボと いう音に代わり、注ぎ口から勢いよく水が飛び出した。 ジャンは顔を洗い、水を飲み、ようやくひと心地がついた。 ふと、背後の厨房で物音がしたような気がした。 振り返ると、消灯したままの厨房の勝手口が開き、人影が出てくるところだった。 人影はまっすぐ近づいてきて、足元のタライに屈み込んだところで初めてこちらの 存在に気づいたようだった。よほど驚いたのか後ろに飛びすさった。ごとん、と何 かが落ちる気配がした。 「あ、こんばんは」 ジャンは慌てて挨拶をした。班が学校の許可を得ているので井戸使用をとがめられ るはずもないのだが、時間が時間なので身許を明らかにしようと気を利かす。 「夜分すみません、自分は調査兵団所属一等兵ジャン・キルシュタインであります。 軍務で宿営のお許しをいただき、ごやっかいになっております」 敬礼の姿勢で名乗ったのだが、相手の反応が鈍い。距離をおいたままこちらの様子 をうかがっているようなので、引き続き怪しいものではないと弁明を続けようとし た時、予想外の返答が返ってきた。 「…ジャン?」 かすかな小声は、聞き覚えのある女性のものだった。同期で入団したあいつだ。 「…サシャか?お前なん…」 ジャンが驚いて声をあげると、電光石火の勢いで手が伸びてきて口をふさがれた。 「シッ、静かに」 一言ささやくと、次の瞬間サシャは足元に落ちた何かを拾い上げ、ジャンの腕を強引 に掴んで演習林に向かって走り出した。そのあまりの気迫にジャンは敵襲なのかと聞 こうとしたくらいだったが、すぐに別の可能性に気づき、黙ってサシャについて走った。 サシャのとった行程は荒っぽかった。腐葉土で足跡の残りにくい林を通り、長靴を脱 いで小さな池を歩いて渡り、最後に舗装された街道に出て完全に追跡を不可能にし てみせた。しばらく歩き、追手の気配がないことを確かめてからジャンはサシャの背中 に声をかけた。 「…で。戦利品は…なんなんだ?」 ジャンの息はまだあがっていた。落ち着いたとはいえ、弱った体には負荷の大きい強 行軍だった。声をかけられたサシャは黒髪をぎくっと揺らし、立ち止まって振り返った。 「えへへ、お見通しでしたか~」 サシャは疲れた様子も見せずに、薫じた肉の塊りを嬉々として出して見せた。 「お前…」 「あー大丈夫ですよ~、これは私のお肉です。食堂の冷蔵庫をナイショで使わせても らったのは悪かったですが、出してきただけですから~」 「んなわけねぇだろ、いったいどうやって入手したんだ」 「本当ですって。もう学校にいない上官のを…以前いただいたんです。誰にも咎めら れたりしませんて」 「じゃなんでここまで逃げたんだよ、お前の班、今夜どこにいるんだ」 ジャンは宿営地のことを気にした。今歩いている街道なら、いくつかの分岐を経れば すぐに校庭に戻ることができる。騒ぎになっていなければ、そしらぬ顔で先輩方が戻 る前にテントに帰れるだろう。 「…学校の校庭です…。ジャン達が設営した隣に後から来ました」 「…やっぱ逃げたんじゃねぇか」 口では冷たく言ったものの、サシャの目的地が同じだったことが分かり、ジャンはなに かほっとした。 「とっさに仕方なかったんです。あそこで話すのを聞かれてもまずいと思って」 「…変なことに巻き込まないでくれよ」 「絶対大丈夫です、約束しますよ」 「はぁ~、何やってんだか…」 大げさに嫌がって見せたが、本心ではなかった。敬語の毎日が続いた後だったので、 久々の同期との気軽なやりとりはなんだか懐かしかった。相手がサシャということも大 きい。妹分、というほどではないが、謙虚さのないジャンを面倒くさがらずに接してくれ る貴重な…ある意味変わった女の子だったから。 サシャは、超大型巨人の出現のせいで皆と食べる約束をした「この肉」を食べ損ねた 経緯、巨人襲撃の後奇跡的に壁の上から再発見できたことなどを聞かれもしないの に説明した。 ジャンは正直な人間は好きだった。サシャにしてもコニーにしても、馬鹿だが悪いヤツ らではないと認めていて、また、あれだけ喧嘩を重ね、散々嫉妬しているエレンに関し ても、彼が常に本音であるからこそできる喧嘩だった。 (エレンや…ミカサはどうしているのか) 口外を禁じられた異常事態(巨人から出てきたエレンをミカサが抱え出したこと、エレ ンが巨人になってミカサとアルミンを救い、軍の秘密兵器として扱われていること)を 思い出してしまい、ジャンはそれを振り払おうとサシャに声をかけた。今やるべきこと に集中すれば、答えの出ない考えを頭から締め出せることをジャンは心得ていた。 「お前、こんなに長い間抜けだしてて大丈夫なのか?」 「大丈夫ですよ、先輩方は酒場に行きましたもん。あれはオールする勢いでしたよ」 「そうか。どの班も似たり寄ったりだな」 壁外調査を控え、ハメ外しが大目に見られるのは周知の事実だった。また、トロスト区 には花街があることは新兵ですら知っていた。 「だとしても、バレないうちにさっさと帰るぞ」 「はーい」 ジャンがもう怒っていないことに安心したのか、サシャは笑顔で答えて速度を上げた。 慌ててついて行くジャンは「待ってくれ」とも言えず、校庭に着く頃には息も絶え絶えに 疲れていた。 校門の守衛をどうごまかすかという問題は、勝手知ったる訓練学校のこと、街道から もぐりこむ秘密の出入口を使うことで解決できた。二人は難なく校庭の宿営地に戻り、 それぞれのテントの前で別れた。 「それじゃ」 「おやすみなさい」 ジャンは挨拶もそこそこにテントにもぐりこんだ。まだ誰も帰った気配のないことを確か め、予想外の運動で汗に濡れた服を脱ぎ、体を拭いた。涼しい夜気が心地よかった。 「ジャン、入っていいかな」 突然サシャの声がしたので、ジャンは文字通りびくりと驚いた。 「や…ちょっと待ってくれ」 下着一枚でいたので、慌ててシャツとスパッツを身につける。脱ぎ散らかしてあった服 を背嚢につっこみ、「どうぞ」と出した声は少しうわずっていた。 「何度もごめん、どうせなら一緒にお肉を食べようと思って…」 入ってきたサシャも、シャツとスパッツの簡単な恰好に着替えていた。手には、先ほど の塊りから切り取ったら肉の切り身を持っている。ランタンに照らされたサシャは瞳が きらきらと輝いていて、なんだか初めて会う人のようだった。 「どういう風のふきまわしだよ、お前が食べ物を分けるなんて…」 「えへへー、やっぱりこのお肉は一人で食べるのはもったいなくて」 照れ笑いなのか、あまり見たことのないサシャの表情にジャンはどきっとした。また、 驚きながらも、酒のせいで食べ損ねた夕食を食べられるかと思うと、気遣いが素直に 嬉しかった。 「狭くて悪ぃけど…まぁ座って」 サシャを簡易ベッドに座らせ、自分は床に背嚢を置いてあぐらをかく。サシャが肉を半 分よこした。なかなかの分量で、持ち重りがした。 「こんなにいいのか?」 ジャンは思わず尋ねた。 「うん、大きいから大丈夫、他のみんなにも分けますよ」 「とか言って、我慢できなくて途中で喰うなよ」 「ジャン、それひどいですね。まぁ、あんまり時間がたつようなら傷む前に食べるかも しれないですけど。…本当はパンがあればいいんですけど、今日はこのままですね。 早く食べましょう」 「そうだな。…いただきます」 しばらくの間、二人はもくもくと燻製肉-いわゆるハム-を味わった。上官の所持品だっ ただけあってなかなか美味しく、何よりこれだけの量をじっくりと味わえることが至福 だった。 「あー美味しかった…もっと切ってきましょうか?」 自分の分を食べ終わり、まだ最後の一枚を食べているジャンを見ながらサシャが聞い た。ジャンはそれを飲み込むと、自分の腹具合を確かめながら慎重に答えた。 「…確かに全部くっちまいたいくらい美味かったが…オレはもういいかな」 もっと食べたいのも本心だったが、夜遅くの(食べ慣れない肉の)食事が明日にたた る気もしたし、どうやら複雑な経緯を経た肉を他の同期にも味わってもらいたいのも 本心だった。 「そうですか…ジャンがそう言うなら…そうします」 若干未練を見せつつ、サシャも同意する。満腹感と連帯感がないまぜになり、二人は 不思議な幸福感に満たされていた。 「ね、ジャン」 サシャがのんびりと口火を切った。 「その…前にキスした時のこと、覚えていますか?」 覚えているも何も、ジャンもたった今、早朝の林の中での思い出を反芻していたところ だったのだが、ついなんでもないフリをしてしまう。 「え?…ああ、まぁな…そんなこともあったな」 サシャは追撃の手をゆるめなかった。 「ジャンは…あのキスは気に入りました?」 「気に入るっておまえ、んな勢いでやっちまったものをどう言えと…」 見上げた先にあったサシャの瞳がこちらを見つめており、ジャンはまたしても目が離 せなくなった。 記憶にあるのと同じ、かすかに甘いサシャの香りが感じられる。このまままたキス… もしかしたらその先…に進むのだろうか? 予想に反して、サシャが近づいてくる気配はなかった。それどころか、静かに目線を 外すと下を向いて気弱な声でつぶやいた。 「ごめんなさいね…強引なことをして」 気勢を削がれたジャンはサシャの表情をうかがった。戸惑う空気に気づいたのか、 サシャは顔を上げて笑顔を作った。 「やだな、そんなに困らないでください~。ちょっと思い出がほしかっただけ…ジャンの 気持ちも考えないでごめんなさいね…えっと、そろそろ行きますね…」 サシャは立ち上がった。目の前をサシャの白い手が横切った時、ジャンはとっさにそ れを掴んでしまった。自分の行動に慌てながらサシャを見上げると、驚きが混じった 笑顔がそこにあった。こういうのなんて言ったっけ…毒をくらわば皿まで…? 若干失礼なジャンの思考をよそに、サシャはつながれた手の温かさを全身で受け止 めていた。嬉しかった。…嬉しかったが、ジャンの目の鋭さが気になった。…そういえ ば、ジャンて経験がないみたいだったっけ…もしかして緊張しているの…?…かわい い…。今度はサシャが目を逸らせなくなる番だった。 ランタンに照らされたジャンのまっすぐな鼻筋、かくばった顎をまじまじとながめなが ら、高まる心臓の鼓動が下半身のずきずきする感覚を強めているようで恥ずかしかっ た。ジャンの顔先にはやばやと腰があるのが嫌で、手をつながれたままストンとベッド に逆戻りする。 サシャを引き戻した格好になったことで、ジャンは遂に覚悟を決めた。手をつないだま ま中腰になって顔を近づけ、サシャの唇に触れた。 唇は湿っていて、温かかった。覚えのあるサシャの甘い匂いがした。サシャが小さく口 を開け、舌で舌に触れてくる。ピコピコと挨拶をしているようで可笑しかった。ちょっと 顔を離してサシャを見ると、サシャも笑っていた。 多分何かのスイッチが入ったのだろう。自分でも驚くほど早く、次にすべきことが イメージできた。ベッドに座るサシャを優しく抱きながら、一緒に横向きに倒れていく。 狭い中だが、二人とも筋力があるので周囲にぶつかるようなヘマはしない。サシャを 仰向けにさせてシャツのボタンを外し、喉、胸元、下着越しに胸にキスをする。甘い匂 いにくらくらした。サシャが手を伸ばして頭を抱いてくるのが照れくさかった。 下着の下から両手を入れ、乳房をたぷたぷと揉んだ。肌がしっとりとしていて、手のひ らに吸いつくようだった。寒さが気になったが、下着をたくしあげて両方の乳房をあら わにしてみる。 陽に焼けた首から上と違って乳房は白く、青白い血管が透けて見えそ うだ。たっぷりした乳房の上にちょこんと乗った小さい乳輪とピンク色の乳首が可愛ら しい。ジャンは躊躇なく、つんととがった乳首を吸った。 「ひゃ…」 頭に置かれたサシャの手に力が入った。気をよくしたジャンは強く弱く、乳首を吸い続 けた。また、反対側の乳房も、寒くないように片手でしっかりと覆って揉み続けた。 じわじわとサシャの体が汗ばんでくる。同時に、スパッツに阻まれた股間が痛くなって きた。 「サシャ、いっかい脱ごう」 色気がないと分かってはいたが、この狭い場所でサシャを脱がして自分も脱ぐのが 得策とは思えず、ジャンは休戦を申し込んだ。 「…ふぁい」 身を起こしたサシャが乱れた髪の毛を顔から払うと、見たことのない潤んだ瞳が現れ た。ぼうっと上気した頬が陶酔を物語っている。 「…大丈夫か?」 優しくたずねたつもりだったが、かすかに達成感が滲んでしまう。 「もう、はずかしいですぅ、そんなに見ないでくださいぃ」 サシャははだけた胸を隠しながら顔も隠そうとするので、いっこうに脱衣が進まない。 さっさと下着一枚になったジャンは、脱いだ衣類をまとめながらちゃちゃを入れた。 「おいおいたのむぜ、きっちりご指導ご鞭撻してくださいよ」 「なんでそんなに余裕があるんですか、ずるい」 「なんでと言われましても…」 「ずるいずるい。やだ、もう…明かりを消してくださいぃ」 そう言うなり、サシャは吊り下げてあったランタンに手を伸ばしてつまみを一気に回し た。ランタンの芯が引っ込み、ジジジという音とともに炎が消える。明るさに慣れてい たせいで、何も見えない真っ暗闇が訪れた。 「なんだよ、消すなよ…」 思わず抗議するジャンに、サシャは答えない。 静かな衣ずれの音だけが、黙って服を脱いでいる気配を示していた。 ランタンの煙の匂いに、かすかに甘い酸のような匂いが混じった。 「ジャン、ずるいですよ」 ベッドの横にいたジャンに、サシャの温かい裸身が正面から抱きついた。豊かな胸が 自分の胸に押しあてられ、ふわふわした陰毛が腹にあたる。どうやらサシャは簡易 ベッドの上で膝立ちしているらしく、顔がジャンの顔とほぼ同じ高さにあった。ジャンは 手探りでサシャの背中や、引き締まった、けれど男よりははるかに柔らかい尻をまさ ぐった。 サシャの胸が離れ、今度は頬を両手で包まれた。サシャの手は…女性にしては硬い 方だろう。兵士の荒れた手だ。でもとても温かかった。サシャが遠慮がちにそっと口づ けてくるので、ジャンはサシャを引き寄せ、こちらから舌を差し入れた。 「ん…くちゅ…ジャン……ジャン」 中で応えてくれる舌に、自分の舌を絡める。 「サシャ…」 「…はぁ…ジャン美味しい…」 以前サシャに聞いた、キスで相手の好き嫌いを判断する云々の話を思い出し、ジャン は密かに安堵した。 サシャはジャンの頭、首、肩など場所を変えて触れてきた。やがて両手が腰まで届く と、下着を下げて尻に触れてくる。ジャンは片手でサシャの背中を支えつつ反対の手 を下ろし、下着の中で限界まで硬くなった先端を取り出すとサシャの茂みに差し込んだ。 中は温かく潤っていた。優しく前後に擦り動かしながら、先端の花芯、中央の窪み、 後ろの窪みの位置を確認し、それぞれの反応を確かめる。前方と中央に触れる度に 潤いが増した。 「あぁぁ…ジャン…気持ちいぃです……ひゃう!」 ジャンの先端がサシャの先端に触れると、サシャはびくりと体を震わせた。この頃に は目が暗闇に慣れていたので、白く反りかえる喉元が見えた。ジャンは一旦体を離す と、火照ったサシャの頬に手をあてながら軽くキスをした。 「オレも…限界だ…」 サシャを再びベッドに横たえて、上からのしかかった。体液が混ざりあって滑り、勃起 はやすやすとサシャの中に入っていく。 「あ、ああぁぁっ」 サシャはジャンの腰にかけていた両手をぱたりと落とし、求めていた力強さと快感に 身を任せた。背中が弓なりにしなる。 「ジャン、すごい…すごいですぅ…」 サシャの体温が更に上がり、体内の締め付けが徐々に強まる。ジャンは完全に サシャの中に入ると、すこしずつ前後に動き始めた。締め付けられる快感にぞくぞくし ながら、背中の下に手を入れてサシャを引き寄せ、更に深く突き上げる。 「サシャ……」 「ジャ…ンが…奥まで…来てる…ああっ!!」 サシャは突き上げられながらとぎれとぎれに声を発した。手をジャンの背中にかけよう とするのだが、律動と快感に翻弄されて力なく動かすばかり。目の縁には涙が光って いた。 「サシャ…」 ジャンは目尻にキスをして涙を吸ってから、腰を動かし続けながら、サシャの充血した 突起に指を当ててそっと撫でた。 「だめ、そこは、ひゃう!あぁ!!」 ジャンの指が突起に触れるや、サシャは身悶えをした。それが快感なのか不快なの か、やめてほしいのか続けてほしいのか自分でも分からないほどの刺激らしく、言葉 もなく苦しげに体を捩る。ジャンは動きを止めてサシャを抱きしめた。サシャを支配し ている快楽が内側で暴れているかのように、サシャはビクビクと体を震わせた。 「ん…んん…」 身悶えしながらもジャンをさがし、キスを求めてくるサシャの様子に、ジャンは律動を 止めることができなくなった。激しく動くたびに快感で勃起が怒張し、体液が結合部か ら溢れていく。 「サシャ…もう…」 「ジャン…きて」 サシャは快感のせいで朦朧としているようだった。ジャンは伸ばされたサシャの指を つかみ、一層激しく突き上げ、一番深いところで動きを止めて絶頂を迎えた。 ジャンが奥深くでびくびくと放出する瞬間、それまで激しく締め付けていたサシャは 弛緩し、優しくジャンを抱きかかえた。 「…ふーっっ」 ジャンは繋がったまま大きく息をついた後、目を逸らしながらサシャと唇を重ねた。 そして目をあわせないままサシャの胸元に顔を乗せたので、サシャは優しくジャンの 汗ばんだ髪を撫でた。 「サシャ……なんて言うか…」 「照れくさいですか?」 「ん……」 ジャンは再び身を起こすと、きつい目でサシャを見つめ、 「ありがとう」 と言い、最後に目をつむってサシャにキスをした。サシャは微笑みながらキスを受け、 「こちらこそ、ですよ」 とつぶやいた。 しばらく抱き合ったあと、やがてジャンが体を離して立ち上がり、背嚢から清拭用の布 を引っ張り出してサシャに差し出した。二人は無言で湿ってしまったそこここを拭き、 使った分を油紙の袋にまとめた。ジャンがランタンを点灯すると、今度はサシャが気恥 しさを感じて訴えた。 「見ないでくださいよ~」 散らばったサシャの服をかき集めて差し出しながら、ジャンが面倒くさそうに答える。 「…お前、右側の乳の下にほくろがあるのな」 「!!見ないで下さいって言ってるのに!」 サシャは服をひったくると、後ろを向いてしまった。 ジャンはテントの中を点検しながら、マッチのリンの匂いで幕内の匂いがごまかされた けれど、やっぱり入口を開けて空気を入れ替えよう、などと考える。悪酔いの具合の 悪さは、爽やかなけだるさに置き換わっていた。考えたくないのに考えてしまうこと や、逆に浸り続けていたい状況があったとしても、いつだって目の前のすべきことに集 中するしかないし、それが最善なのだ。次のすべきことは…。 どうやら身支度をし終えたサシャに、ジャンは声をかける。 「サシャ…よだれの跡ついてるぞ」 怒ったサシャが顔を洗いにテントを飛び出したのは言うまでもない。 テントの換気をしながら、無様ににやけるジャンの顔を、夜半に出た下弦の月だけが 見ていた。
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part1 391 ジャンは、今朝妙な成り行きでサシャに迫られた時のことを思い出した。 「なあ、サシャ」 頬を染めて近づいてくるサシャの顔を見つめながらジャンは声を絞り出した。 「はい?」 「お前は…その、俺が他のヤツを好きでも…やれるもんなのか?」 「んー…気にならない訳ではないけれど…それより、自分が相手を好きかどうかですね。 した後キライになる人もいるし、それまでたいしたことなかったのが実はイイ人だって 分かる時もあるし…」 「そういうものなのか?」 「そういうものですよ~。してみないことには本当に好きかどうかなんて分かりませんよ。 …その手始めがキス……ですよ?嫌ならやめればいいんです」 「はは…」 こ、これが据え膳喰わぬはなんとやらというやつか。 サシャが気にしないと言っているのだから話にのればいいと思う自分4割、 そうは言ってもお互い何の遺恨も残らない保証もないだろう、と慎重な 自分が7割いて、ジャンは動けないでいた。実は「慎重な自分」の中には 「手順が分からない不安」と「どうやら経験豊富な相手に主導権を 握られそうな不満」も含まれているのだった。 「大丈夫ですよ、嫌だったらすぐやめますから…」 サシャの顔がどんどん近くなり、こいつ、まつ毛が長いんだなどと 考えているうちに口をふさがれた。やわらかく、つるりとした皮膚が 上唇にあたる。ほのかに甘いサシャの汗のにおいが感じられた。 もっと近くで感じてみたい、もっと唇を味わいたい、という衝動が 慎重な4割を5割、6割に押し上げそうになる。 ところがサシャの唇は、ついばむ様にすぼめてジャンの口にもう一度だけ 触れてから、離れていった。サシャは目を細めて、ジャンの背後を みつめながら笑顔で言った。 「うーん、残念、時間切れですね。太陽が出てしまった…」 「そ、そうか」 ジャンはほっとしたような、肩すかしをくったような情けない気持ちに なった。それを気取られまいと、急いで背後を振り返り太陽を確認する (ふりをする)。林のむこう見える山脈の頂から、赤い太陽の先端が 顔を出していた。 「急ごう」 ジャンは(平静を装うために)立ち上がってサシャのワナに向かった。 踏んでしまった機構はぱっと見分からなくなっている。サシャが背後 から追い越し、迷うことなく枯れ葉をよけて地中のそれを掘り出した。 バネと小刀を組み合わせた簡単な仕掛けだった。 「それだけか?…自分で持てよ?」 「もちろんですよ。ジャンも忘れ物しないでくださいね」 思わず胸ポケットの手帳をたしかめた。ふん、と鼻で笑って返したが、 これは強がりだと自分でも分かっている。 「行くぞ」 早朝の林の中を駆けもどる二人の足取りは軽かった。
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part1 388 その日の夜。 消灯前の男子寮で何やらワイ談が始まっていた。 話題の中心はハンナとつきあっているフランツと、意外にも経験のあるコニー。ジャンは話の輪からつかず離れずの位置で聞いていた。 「なぁ、やっぱイク時は自分でするより気持ちいいのか?」 「うーん、最初はあんまり。気をつかったし…」 「フランツそりゃ相手次第じゃね?オレは気持ちよかったぜ」 「まじかよコニー、相手誰誰だようらやましい」 冗談交じりにサムエルがちゃかす。 「ま、村でも1、2を争う美女だな」 コニーは自慢げな様子で鼻をこすった。 「あーチクショウ、ありえねぇ…」 そこへ、風呂から帰ってきたライナーが合流した。 「なんだよ、おもしろそうだな」 「ライナーの自慢話はいいよ。田舎は羨ましいよな、若者宿で筆おろししてもらえるんだ から」 サムエルが新たな「自慢しい」を恨めしそうに見上げた。 「ん?若者宿は希少な夜這いの経験をフェアに分けあうための公正な組織だぞ?筆おろし は後家さんの専売だぜ?ま、オレは村のお姉さまにいただかれたけどな」 こともなげにライナーが答えた。 「…ってことは、もしかしてコニーは後家さんに初めてをささげたのか?」 サムエルに痛いところを突かれたらしいコニーは、苦しそうに言い返す。 「…そうだけど、すげーやさしくて美人だったんだ」 聞くともなく聞いていたジャンだったが、気になる単語を耳にし、ライナーに声をかけた。 「おいライナー、その『若者宿の夜這い』ってなんだ?」 普段その手の会話に加わらないジャンの質問にライナーはちょっと驚いて、けれどすぐに 「質問大歓迎」といった表情になって答えた。 「若者宿は若者宿さ。誰がどの娘に夜這いをしていいか決めるんだ。ヨソモノが来ないよ う見張りもするぜ。町にはないのか?」 「…決める?娘の意思はどうするんだ?あいにくトロスト区にはない習慣だったんで…」 「…そうか?…え、でも夜這いなしでどうやって体の相性の善し悪しが分かるんだ?」 「え?いや、ふつうに申し込んでお付き合いして…だが…?」 思ってもみないところで、地域による習慣の違いがあるようだ。ジャンはなんとなく、今 朝のサシャの様子の謎が解けたような気がした。どうやらサシャ、コニーとライナーは同 じ文化を共有しているらしい。 「なんだかまどろっこしいな。それじゃ相性のいい相手に巡り合うまで何度も付き合わな きゃいけないのか?」 ライナーの質問に、今度はジャンが答えた。 「当たり前だろ。遊びじゃなくて真剣な付き合いだってこと分かってもらわないと」 「…ふーん?」 釈然としない様子のライナーに、それまで成り行きを聞いていたアルミンが説明した。 「僕は町で育って村で開拓してたから両方分かるけど、つまり町には多様な人が居住して いるから女子は正式な申し込みを受けてからでないとつきあっちゃいけないんだ。でも村 では誰もが知り合いだから、選び方がより親密になるっていうか…若者宿で統制がとれて いれば男も下手なことはできないしね」 「なるほど~」「へえ~」 町の出身者と村の出身者双方から感嘆の声があがったが、町の出身者の方が若干羨ましそうだった。 「すげぇな、若者宿。つまり全員とヤれるってことだろ?」 「何言ってんだ、その気のない娘や、親が許嫁を決めた娘は対象外だよ、当たり前だろ」 「意思がある娘には誰でも行けるのか?」 「まぁおちつけ。初回は権利は平等だ。けど次からはNG、なんて言われたりすると調整 が難しい」 「あー、揉めそうだな…」 「ライナーは何人くらいとやったんだ?」 「いや、オレは入隊前に3人…か?」 「え!?いつの間に?」 ライナーと同郷のベルトルトの驚きが皆の笑いを誘った。 「けどまぁ、町の諸君は経験もないまま本命女子に挑もうってんだから勇ましいよな」 コニーが無駄に強気な発言をして、町出身者のブーイングをくらった。 ジャンはふと、「肉でサシャを釣ろうとしたのは誰だ…?」と思い、けれどすぐに「同期と は限らないよな」と、打ち消してみた。
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サシャ CV 立野 香菜子 属性 水 所持スキル 水の刃・改 フリーズ 成長タイプ Int,Wis 加入クエスト 活人祭 脱退クエスト サシャの決意 マヤに住む少女。とある陰謀により、生贄として捧げられるところを、陰謀を暴いた主人公に救出される。 高Lvプレイヤーの手伝い無しの場合、中盤以降で手に入るNPC。 INT、WISが上がりやすい為、放置狩りには若干心もとないかも? 所持スキルにフリーズがあるため、クエ イベント 対人で大活躍できる。 遺忘無しの場合、若干ステが心もとないので、お金をかけて開花させるNPC
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. 【作品名】セブン=フォートレスリプレイ 宝珠の七勇者 【名前】 サシャ=アライアス(原作最高ブースト状態) 【属性】 元病弱な妹、手足が伸びる勇者、すっとこどっこい+498勇者と1黒幕の力 【大きさ】小柄な少女+数百m(推定300m程)の光剣 【攻撃力】宇宙規模世界破壊級の数十倍の攻撃力を誇る光剣を振るう。 攻撃力の基準は、世界粉砕級魔王が自分の世界粉砕級攻撃に数十発も耐えるため。 それを一撃で一刀両断した。 【防御力】描写無し。軽装の達人の少女の五倍程度の堅さ(肉体強度は並) 【素早さ】そこそこ強い剣士並×攻撃を当てる事に関してのみ二倍速 【特殊能力】手足が10mほど伸びる。 【長所】 攻撃力がとんでもない。当たれば。サイコロ? そんなもの振ってませんよ。 【短所】 当たらないとどうにもならない。世界破壊すると自分もおっ死ぬ。遅い。 【戦術】 踏み込み10m腕を伸ばしながら光剣で地面ごと薙払う。 【備考】 攻撃力の参考元 移動するだけで進路上にあった数多の世界を破壊した魔王と同等の魔王を一刀両断した。 この魔王は惑星人類を三度滅ぼしたら息切れする程に消耗していたが、 その消耗した分の失った力も取り込んでいる為、最低でも魔王の全力の半分以上は有る。 >世界について 舞台となる世界は人間が住まう8個の主八界とその世界が浮かぶ精霊界。 最も上位の神・超至高神が眠る央界。 その下の二柱が住まう神界、その下の一般の神様達が住まう天界。 邪神の眷属達が住まう闇界、世界創造時に生まれた混沌や闇を封じた冥界。 神界天界への侵略を防ぐ幻夢界、闇界冥界から出てくるものを封じる幻夢界からなる。 これらを纏めたものが超至高神の作り出した“世界珠”であり、 更に主八界の一つには我々の地球と類似した世界ファー・ジ・アースが含まれる。 このファー・ジ・アースは地球を世界の中心とするが、宇宙もちゃんと広がっている。 更に“世界珠”の外には広大な何も無い暗黒と無数の星々が輝いている。 この星々の一つ一つも全て世界である。 規模が同じであるかは不明だが、同程度と推測できる。 サシャが倒したものと同等の魔王は、この星々(世界群)を粉砕して移動した。 26スレ目 787 名前:イラストに騙された名無しさん[sage] 投稿日:2007/01/30(火) 00 41 32 ID C58qWKOc サシャ 300mの距離から一方的に攻撃できるので上へ上へ ルージュ>ユミエル>バズまで行けるぐらいで ルージュの上ぐらいになるかしらんね まあ、再考察する気が無いけど 20スレ目 920 名前:イラストに騙された名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/31(木) 09 51 25 ID O8Ny9h4h サシャ考察。 柾木天地と同じく。 攻撃力は半端無いが、防御と素早さがアレなので。 (通常兵器の壁)>サシャ=アライアス 柾木天地 ぐらいだろうか。 .
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#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (heith=120) サシャ CV 立野 香菜子 属性 水 所持スキル 水の刃・改 フリーズ 成長タイプ Int,Wis 加入クエスト 活人祭 脱退クエスト サシャの決意 マヤに住む少女。とある陰謀により、生贄として捧げられるところを、陰謀を暴いた主人公に救出される。 高Lvプレイヤーの手伝い無しの場合、中盤以降で手に入るNPC。 Int,Wisが上がりやすい為、放置狩りには若干心もとないNPC 所持スキルにフリーズがあるため、クエ イベント 対人で大活躍できる。 遺忘無しの場合、若干ステが心もとないので、お金をかけて開花させるNPC
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名前:サシャ 年齢:16歳 身長:152cm 性別:女性 性格:器用に相手に応じて性格を変える。普段は御淑やか。 容姿:憂いを帯びた紫碧色の眼に、薄い紫がかった長髪。病的なまでに肌が白く、華奢な身体。黒い露出の少ない無地のワンピースに、無地のサンダル。車椅子にのっている。 階層:B1 廃工場(ムスペルヘイム) 武器:瘴気 罪(渇望)「この世界が早く消滅しますように。」 能力1:負の感情が芽生えると、自身の身体は、瘴気で包まれる。 その場合、媒体となる自身以外、瘴気に触れた者(物)は急激に腐食していき朽ちる。また、その瘴気を操る事も可能。 例)瘴気を銃弾のように放つ。瘴気を剣状にするなど。 ※また、長らくこの能力を使用する事はできず、使用してる間は、自身には苦痛が伴う。 備考:ただただ、この世界が終わって欲しいと願う女性。 「神々の黄昏(ラグナログ)」後の、外界の環境に適用できる人間を作ろうという実験が行われ、その実験体であり、唯一の生き残り。実験名:サシャ だった事から、この名前を今も名乗っている。
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キャラクター名 サシャ 種族/属性/信仰する神格 ティーフリング/N・C/ファラングン クラス LA1/ローグ3/ファイター1/バーバリアン1/ウィザード1 性格/設定ほか 人間の両親から生まれた、悪魔の血を引く者。 そのため忌み子として宿場町サシャーンから追放される。 その後オルフェール盗賊団に拾われローグとして訓練を受ける。 人から嫌われて育ったことと、盗賊に生きる術を教わった所為で、自分の意思を通すためならば手段を選ばない。また、自分よりも強いものには大人しく従う。 ニロンド開放戦を終え、蜂起軍に参加して闘うことを決意。 自分を追放した故郷の住民や家族を見返してやろうと思っている。 オルフェール盗賊団でも境遇の近かったサラダ=リンカスターとは仲が良かったようで(サシャ主観)、コンビを組んで仕事にあたる事も多かった。 過去と決別を図る女同士、自身が歩んでいく上で必要なことだと信じ、コスモス(パンジーの愛人)と決闘を行う。6レベルキャラクター同士、比較的いい戦いをしたものの、「チャームパースン」の前に敗れる。攻撃当たらなかったのと、一発目の魅了は耐えたので十分五分のダイス運だったとは思いたいorz パーティでの役割 先行偵察、遊撃、罠解除。 HPは53とやや心もとない。 Wizを1レベル取ったことで自身を強化する方法を取得した。 2ラウンドに1回かつ1日3回だが、命中+27/ダメージ2d6+15で攻撃できる。 目下の課題は、脅威度7の罠をどうやって安定して抜くか。 捜索難易度30~は出目10では無理っぽいが・・・そろそろ出目20を要所で入れるべきかなぁ。 なんとなく戻る
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【作品名】進撃の巨人 【ジャンル】漫画 【名前】サシャ・ブラウス 【属性】調査兵 【年齢】20歳3ヵ月 【長所】敬語なのは自身の方言を恥ずかしがっているからというこのキャラにも恥じらいがあったという衝撃 【短所】芋女 【備考1】享年 【備考2】初期はベルベルトの誕生日が12月30日で16歳なので本編は12月30日以降、 サシャは16歳で誕生日は7月26日なので16歳3ヵ月くらい それから4年経過して死亡したので20歳3ヵ月 vol.5 修正 vol.8