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けーむせっと【登録タグ NexTone管理曲 VOCALOID け オワタP 三重の人 曲 曲か 鏡音リン 鏡音レン】 作詞:オワタP 作曲:オワタP 編曲:オワタP 唄:鏡音リン・鏡音レン 曲紹介 ―― ボクらは前に進むんだ 終わらせやしない。■ 黒歴史 [名詞]1.一般的に、他人には知られたくない過去の出来事、歴史。2.総じて、思春期真っ盛りの時代に生み出した、中二病の作品。例:机の中の黒歴史ノートが、親に見つかった。しにたい。 イラストは縣、動画は三重の人という、ベンゼンシリーズでお馴染みのメンツが再集結した。 アルバム『THE BEST of オワタP 無難。』の書き下ろし曲。 歌詞 (作者ブログより転載) 何回も 何回も 生み出しては消えゆく世界は どこへ行く? まただ もう諦めてもいいかなと ふと筆を置くよ 飽きた もう次の世界へ行こう 今の世界捨て去ろう 別に 愛着もないし 消えて困るものじゃないから ボクは 今 捨て去る この世界 さよならすら 告げずに そんなことが幾年続き 積もり積もった黒歴史は 誰の目にも触れることなく 机の奥深く何処へ ふとした拍子に 見つけ出した 小さな頃の黒歴史 今では思いつきやしない 自由な世界がそこには あまりに眩しすぎて 泣きだした 何回も 何回も ずっと生み出してきた世界は 今ではもう眩しすぎて ゲームセット ゲームセット 小さな頃に置いてきたなにかを 思い出せるかな 天使と悪魔 竜の神様 剣と魔法と 並行世界 不思議な力 過去へ未来へ 空飛びまわる 宇宙創造 いろんなことを いろんなことを 思いついては 妄想してた バカにされたし いじめられたし 気が付いたらもう やめていました 思い出す 数多の世界は この瞬間に動き出した 懐かしの あの頃の願い この瞬間に思い出した 夢に溢れた世界 作り出せ 何回も 何回も ずっと生み出してきた世界は 今でもまだ眩しすぎて ゲームセット ゲームセット 小さな頃に忘れてたなにかを やり直せるかな ねぇ 何回も 何回も 生み出しては消えゆく世界を 今この手でやり直そう ゲームセット ゲームセット ボクらは前に進むんだ 終わらせやしない コメント 好き -- 名無しさん (2016-04-02 03 15 27) 心に響くいい曲ですね -- 名無しさん (2016-10-17 17 15 28) 大好き! -- 名無しさん (2016-11-25 21 47 51) やっぱりオワタpさんの曲はいいなぁ・・・(*´Д‵) -- hinami (2018-04-27 23 24 33) 黒歴史もそうだけど、「小さな頃に忘れてたなにか」をそっと思い出して優しく前を向きたい時にいつも聞いてる。大好きな曲。 -- 艦羅 (2022-05-03 10 19 18) 名前 コメント
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ゲームセット 最近(2006年9月頃)流行の蟻地獄パッチを入手し、早速俺TUEEEEEEEEEEEEしようとしたが、 実はグリーンONすると何処にも打てなくなる罠蜂だった。 公式BBSにその蜂使用画像をUPし自爆。ネカフェからだった、再現出来ないなどと言い訳。 晒しスレでもAlt押すとなるバグだったと苦しい擁護を展開。 ついには架空のやっちゃんの父親、ハッキング、Adoresu、家庭訪問、などでスレ住民を爆笑の渦に巻き込んだが、 本人降臨なのか住人の煽りかは定かではない(さすがに本人ではないと思うが…)。 その後Koohに凸され、自宅だったと自ら墓穴を掘り、文字通り"ゲームセット"。おつかれさま。 と思ったら普通にまだプレイやってるんじゃねえか。 ttp //pang-sarashi.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/src/up1435.jpg ttp //www.pangya.jp/upload/SBBS/5624b.jpg ttp //pang-sarashi.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/src/up1442.jpg ttp //pang-sarashi.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/src/up1443.txt
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登録日:2011/03/12(土) 20 43 43 更新日:2022/01/01 Sat 14 06 58NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 Lycee Lyceeの神の怒り ゲムセ ゲームLyceeット ゲームセット リセット 中級者向け ゲームセットだな、青年 ゲームセット EVENT EX 無0 コスト 雪雪月月無無 自ターン中に使用する。 キャラ全てを破棄する。 Lyceeの最古のエキスパンションから存在するリセットイベント。通称ゲムセ。 遊戯王でいうブラックホール。MtGでいう神の怒り。 しかしそれらと違い複色コストが必要なため、きちんとデッキを組まないとそもそも打つことすらままならない。 雪も月もコントロールをする色であり、コントロールしきれないほど相手が展開してきたときに最終手段として打つのが基本的な使い方。 しかしただでさえ打点が足りない自分のパンチャーもろとも除去してしまうため、いかにそこを補うかが課題となる。 〜デッキ例〜 ★星雪月ゲームセット かつての基本型。打点の少なさを星(無色)で補った構築。 最近は他の色のパワーが上がったこともあり廃れ気味。 ●キーカード 駄菓子 星のみに許された最高レベルのサーチイベント。 ゲームセットが星のため、好きな時に持って来られるのが非常に強力。後述のカレイドのパーツを揃えるのにも役に立つ。 魔法少女カレイドルビー 遠坂凛からのコンバージョン。アリスやナンパを絡めれば実質2ハンドキャラになる。 場を空にしやすいこのデッキに、ジャンプ持ちの4点パンチャーはよく噛み合う。 ★月雪ゲームセット 最もシンプルな2色のデッキ。相性のよい月のカードが増えたためデッキのパワーが大分底上げされた。 2色だけのため比較的事故が少ないのが強み。欲を言えば打点がもう少し欲しいところ。 ●キーカード 岡部倫太郎 自己再生能力を持つゲムセの申し子。 場もちのいいEX1のため積む枚数はよく考えたい。 双海詩音 相手のハンドが4枚以上ならハンデス。ゲムセを警戒して手札を溜め込む、という行為を妨害出来る。 スペックも優秀。インフレを感じるくらい優秀。 稗田朔 自主退場するとゴミ箱回収。ハンドにとても優しい。 コストが月無無のため出しやすいのも偉い。 ★花月雪ゲームセット 打点を花で補った構築。現在のゲムセデッキの主流だと思われる。 花にはゲームセットと相性のいいカードが多いため上手く回れば非常に強い。だが3色のため色事故が怖い。 ●キーカード ハーモニカ エリアのドローソース。このために花を混ぜてると言っても過言でないくらい優秀なカード。 ゲームセットはエリアは破棄しないため異常なくらい相性がいい。 ミネット 実質1ハンドで登場出来るお手軽サポートキャラ。しかもサポーターのコストが無。 後述のモデルとの相性も抜群によい。 小牧愛佳 再登場による除去耐性を持つ。序盤の要。 色拘束も薄くて使いやすい。 モデル 味方キャラを除外してコストの分だけゴミ箱回収。 ゲームセットを打つ前の手札補充からバトル中断、除去回避となんでもござれ。 リーティア・フォン・エアハルト 4/3/2ジャンプ+ペナ1ドロと能力で幸運の鈴を装備することでゲムセ後に手札に戻る。 活人形と感謝を混ぜる事によりコスト軽減、ドロソの役割を担う 〜弱点〜 除去メタ。 雪が濃い型だと致命傷。 宙に委員長で除去耐性をつけられるとスペック差で押しきられる。 委員長の能力の処理タイミングがターン開始時なため強制言語プログラムでも止まらないので、出たターン中に始末するか、ごみ箱を溜めさせないかで処理するしかない。 最近ゲムセも打点を確保できるようになったので、除去が止まったらその分のハンドを場に還元できればなんとかなるようになった。 こちらの盤面も空きやすいため、移動能力やアグレッシブを多数持つ日には打つタイミングを間違えると自分の首を絞めることになる。要注意。 追記・修正よろしくお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
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ファミコンプレイ GAMEOVERで即ゲームセット 【作品の傾向】特殊プレイ(ゲーム多種) 【状況】更新中(07/09/22~) 【全動画数】30以上 【マイリスト】なし。 【備考】1つのゲームでGAMEOVERになったら別のゲームにチェンジ。スペランカーなど即死ゲーからRPGまで色々やっている模様。「即ゲームセット」で検索すると全部出てくる。 このゲーム情報を編集
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ゲームセット(後編) ◆ENH3iGRX0Y ← シコウテイザー、粛清モードはその戦闘力を大幅に上昇させる云わばシコウテイザーの強化形態ともいえる姿だ。 しかし、それにはデメリットがある。 使用者は精神を汚染されるという最大のデメリットだ。無論、お父様はそれを知ったうえで対策は立ててある。 とはいえ精神汚染と神を抑え込まねばならない二重苦はとてもではないが、お父様の目指す神としての有様ではなかった。 更に言えば粛清モードは一度使えば、敵を全て滅ぼすまで解除不可能であるという点も非常に厄介だ。 だからこそ、本命はあの右手と会場の錬成陣を利用し神上へと至る計画であった。 しかしそれも崩れ去り、残されたのはシコウテイザーのみ。 今、お父様は精神汚染を抑え込み更には神も抑え込まねばならない。しかもエンブリヲから少なくない数の魂を奪還された上に、元より一度目の敗北前より賢者の石の数は減っている。 そうエドワード達はこの殺し合いの場に於いて最初にして、最大で最後の好機に立ち会っているのだ。 「ぬ、ゥ……!」 迫りくる柱の錬成を分解で無力化する。だが同じく放たれた電撃は分解を超えお父様の体へと突き刺さる。 全身を絶縁体に―――否、間に合わぬ。 防御を捨て、天井を槍に錬成し御坂の頭上へと振り落とす。 だがアヌビス神を持った雪乃が駆け出し、金属音と共に槍を弾き落とした。 「!!?」 目を離した僅かな隙に水流が撓り、お父様を貫く。 分解の錬成を水流に乗せた物質変換の電撃が無力化し、防御を突破したのだ。 皮肉なことに首輪解除の時に、黒は物質変換のコツを僅かながらに掴んだらしい。分解を妨害する程度なら、今の黒でも容易だ。 まるでお父様が黒を強化してしまったかのような、巡り合わせに苛立ちが増す。 「容赦すんな! 全力で叩け!!」 お父様はここまで攻撃を全て、防ぎきれてはいない。 徐々にではあるが、ダメージを受け再生を行い、その身に留めた魂を消耗し続けているのだ。 こちらは無数の集であり、人を凌駕した存在だ。対して奴らは個でしかない。 奴らが百回殺す間に四回殺せばいい。ただそれだけの取るに足らない筈が――― 「何故、だァ……!!」 届かない。 柱を錬成する。槍を錬成する。剣を錬成する。盾で防ぐ。分解して防ぐ。 砲弾を作り、大砲で射出する。 如何な攻撃手段を以てしても、奴らは耐え抜き、如何な防御を突破しこちらに一撃入れてくる。 だというのにこちらはたかだか四つの命の内、雑魚の雪乃一人殺すことができない。 後何回だ? あと幾つ命は残っている? とてもではないが数え切れん。 どうする? どうする? どうする? 「―――死ね」 水流が無数の螺旋の槍となり、お父様が作り出した楯を粉砕しその全身を穿つ。 赤い錬成光が再生の前兆であることは、この場にいる全員が知っている。それを阻むかのように、物質変換の電撃がお父様の肉体を侵食し更なるダメージを蓄積させる。 離れなければ、このまま妨害されながら無駄な再生を続けていては、魂が底を着く。 「回、避―――し―――」 動けない。物質の変換という性質を乗せた電撃だ。 当然、感電すれば体は痺れ身動きが取り辛くなる。 更に御坂の電撃が降り注ぎ、お父様の全身は消し炭へと変わり、自動で再生が始まり柱が叩き込まれ、こちらの錬成をアヌビス神が全て防ぐ。 石だ。やはり、膨大な石がいる。回復にも攻撃にも全てにおいて石がいる。 しかし石の補充、たった四人でどれだけ稼げる? そもそも一人も仕留めきれてないものをどうやって石にする? 「なんだ、楽勝じゃねえかッ!」 『油断しては駄目よ』 お父様の攻撃を防ぎながら、雪乃は警戒を怠らない。 三人が攻撃に専念できるよう、防御に回るよう志願したのは雪乃の本人だった。 結果としては正解であり、現にお父様を圧倒し続けている。 しかし、彼女には不吉な予感があった。理由は分からないが、これで本当に終われるのだろうかという不安が。 「決めるわよ」 再生しきれないお父様に対し、御坂は電撃を手の先に溜め出す。 再生すら追いつけない程の圧倒的電力で仕留める。 圧倒している今こそ、そのチャンスだ。 黒も同じことを考えており、電撃に対する集中度を更に引き上げる。 お父様の中の賢者の石ごと物質変換で無へと還し、奴の息の根を止める。 決着の時は近く、それは迫ろうとしていた。 「もう、何もかも―――」 二つの水に乗せた電撃が電撃の槍が。 同じ一つの対象へと振りかざされる。 残された僅かな賢者の石では、到底凌ぎきれない。仮にそうなっても追撃で確実に命を落とすだろう。 「『世界(ザ・ワールド)』」 御坂とエドワードが、この殺し合いで幾度となく聞いた。 そのワードが叫ばれたか否かのタイミングで黒と御坂は吹き飛んでいた。 奴の能力は知っている。時を止めることだ。 今更、そんなことで驚きはしない。重要なことは一つ。何故、奴が今この場所に立っているかだ。 「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――――ッ!!」 「……DIO、てめえ……なんで……!」 「簡単なことだ。DIOの魂に肉体を与え、私が創りあげてやった。 クセルクセス人達のようにな……ああ貴様の時間軸では知らないか」 かつての戦いでホーエンハイムを煽る為に使ったこの手法だが、使い方によっては手頃な駒を増やす良い術になる。 更に言えばホーエンハイム同様、お父様はDIOの魂と対話も終えている。 奴らを皆殺しにすれば、再び肉体を授けようという条件付きで。DIOはこの好条件に真っ先に飛びつき、交渉も拗れなかったが為に選んだ。 正確に言えばDIO一人を作るだけでも手一杯でもあるのだが。 「ンッン~~やはり、肉体というのは素晴らしいなぁ~。そうとは思わないか、義手義足なんぞより生身の手の方がよっぽど精密に動くものなあ」 「チッ、こんな時に……」 DIOのスタンド、世界がゆらりと動く。 「―――速ェ」 咄嗟に機械鎧を炭素硬化させ世界の拳を防ぐ。 インパクトが腕を伝い、エドワードの小柄な肉体に走り抜ける。 たった一撃で体の芯まで打ち砕かれそうな重い拳だ。 「無駄無駄ァッ!! だがDIOはまだ本気を出してすらいない。 ゆっくりと新しく手に入った体を試すような調子で一撃殴り、そのままラッシュを繰り出す。 音すらも置き去りにし流星のように降り注ぐ拳をガードしきれないエドワードは血反吐を吐きながら吹き飛ぶ。 「うむ、まあ悪くはない。 金髪チビ、電撃娘……黒コートの男……こいつらを始末する程度、どうということはないか。 ん? ほお……まさかこんな場所で再会出来るとはなあ。アヌビス神よ」 床に打ち付けられたエドワードを見つめながら、この場の人数を数えた時に一つDIOは面白いものを発見した。 自らが勧誘した変わり種のスタンド。恐らくは支給品として紛れ、ここまで残っていたのだろう。 「で、DIO様ぁ~お、お久しぶりです……」 『ちょ、ちょっと……何をやって……』 雪乃の体を操作していたアヌビス神はさっきと打って変わり、剣をぶらりと下げたまま戦意がないことを示すように雪乃の頭を下げる。 「うるせえッ! DIO様がいるなんて話が違う! 勝てる訳ないだろッッ!!」 『なっ……』 ここまでノリと勢いに乗せられていたが、考えればアヌビス神が雪乃たちに加担する理由など何処にもないのだ。 このままDIOに従い、ここの四人全滅させた後、DIO様から安全を買ってヌクヌク生活する方が利口だ。 「いやぁ、流石DIO様……このアヌビス神、貴方様の復活を信じておりました」 『貴方って、最ッ―――――低ね』 一度体の支配権を与えた以上、もう雪乃はアヌビス神には逆らえない。 そしてアヌビス神に体を貸してからまだ5分も経たない。 絶体絶命とはこのことだ。雪乃はただこのふざけたお喋りソードに、罵声を浴びせることしかできない。 「丁度いい、アヌビス神よ。そこの黒コートを殺せ。 残ったチビと電撃娘はこのDIOが殺す」 「畏まりましたァ!! というわけで、死ねええええええッ!!」 『逃げて黒さん!!』 打撲した個所を抑える黒に向かい、雪乃が駆け出す。 彼らのやりとりを見た黒は既にアヌビス神が寝返ったことを知っていた。 友切包丁を抜き、アヌビス神の刃を受け止める。 「雪乃……!」 凄まじい速さと精密さだ。 アヌビス神の剣裁は黒の予想を遥かに超える。 面を狙った正面からの切り降ろしから、即座に軌道を変え横薙ぎへの払い。 コートの端が僅かに切れ、頬から血が垂れる。 僅か数度の攻防でアヌビス神は学習し、黒の死神の技量を完全に覚えてしまった。 「―――ッ!」 更にもっとも厄介なのが、黒は雪乃に攻撃できないという点だ。 黒はアヌビス神からの攻撃を防御し続けるだけで、雪乃本体には一切の手出しができない。 だからこそ、アヌビス神は反撃の心配なく。かつ、心の底からゆったりと黒の動きを見切り学習できる。 お父様が助っ人で呼んだ人選はこの上なく、的確で最善であったといえよう。 4VS1から一気に3VS3へと、巻き返したのだから。それも非常に黒達が不利な状況へと持ち込んだうえで。 幾度目かの友切包丁とアヌビス神の切り合いでアヌビス神の刃が透けた。 文字通り友切包丁をすり抜け黒の胸元へと滑り込む。 意識より早い、殆どノータイムの直感で黒は後ろへ逸れ剣を避ける。 そのまま上体を起こすと共に、剣を振るい切った雪乃の腕へワイヤーを巻き付ける。 「おッ!?」 驚嘆の声を上げるアヌビス神は無視し黒はワイヤーを手繰り寄せる。 切り合いの技量だけならばアヌビス神が上だが、ワイヤーを使った戦闘をアヌビスは学習していない。 黒の手から電流が発生しワイヤーを伝い、電撃が雪乃の体を流れる。 「あっ、あああ……!!」 「っ……く……」 雪乃の意識が消え、体が傾き倒れかけるのを黒が受け止め支える。 「とんだ……呪いの妖刀だ」 あまりまともに話したこともないが、ここまで戦った仲間だとほんの僅かでも思った自分が馬鹿だった。 さっさとこの剣を触れないよう処分し雪乃を退避させてから戦場へ戻る。 一先ず、雪乃のティバックにアヌビス神を収容する。黒は雪乃の手のワイヤーを解き、雪乃の手から離れたアヌビス神を――― 「―――なーんちゃってッ!」 「な―――」 黒の誤算は一つ。何故なら彼は――― 「気絶してても乗っ取れるんだよォッ!!」 雪乃の体が動き、その切っ先が黒の心臓へと向かう。 ワイヤーは既に覚えられた。ワイヤーを握る左手をアヌビス神は裏拳で弾き、残された右手の友切包丁では雪乃を殺めてしまう。 刹那、黒の右手の指輪が光りディバックから水流が飛び出した。 彼が残したもう一つの手はブラックマリンだ。これもアヌビス神は覚えていないので対応できない。 水流の勢いならば雪乃の手からアヌビス神は離れ、その呪縛から解放される。 「ぐッ……?」 水流の勢いが止まり床を濡らす。 黒は横方から柱を叩きつけられ吹き飛んで、壁に打ち付けられていた。 咄嗟に防御と受け身は取れたが、ほぼノーマークからの攻撃に流石の黒もダウンする。 「誰も私が参加しないとは言っていないが? 抜かったな」 お父様が錬成光の中から黒を見下ろし呟く。 「大丈夫か!? 黒!!」 「余所見とは随分と余裕じゃあないか」 炭素硬化したエドワードの機械鎧のガードをアッパーでこじ開け、そのまま頬に世界のストレートが叩き込まれる。 空中で二、三度回転しながら口から数本歯が飛び出し殴り飛ばされる。 床に打ち付けられかけたエドワードを御坂は磁力を使い、左足のオートメイルを引き寄せ抱きとめる。 「ガハッ……ゥ、オェ……!」 脳を揺さぶられ視界はグラつき、気持ち悪さと激痛が入れ混じった感覚だ。 加えて口の中も血で充満し、鉄臭いのが不快さを増していく。 御坂が受け止めなければ、落下の衝撃も加算してエドワードも暫く地べたで寝転がってもがいていたことだろう。 「……まだ、戦える?」 「何とか、な……まだ体は動く……」 「作戦会議か? 随分仲良くなったようだな。 上条とやらを生き返らせるのに、そのチビは邪魔だろうに」 「その通りなんだけどさ……毎回事情が変わるのよ……。 そう―――今も前もアンタが一番邪魔!!」 「フン、『世界』ッ!」 御坂が電撃を放つと同時に時は止まる。 大ぶりな電撃の槍、御坂の攻撃パターンなどいい加減見飽きていた。 もっとも『世界』の前では如何な攻撃も無駄なのだが。 「ッ? 奴は何処に」 だが奇妙なことに時の止まった世界でエドワードの姿が見えない。 DIOは首だけ動かしエドワードの行方が何処かすぐに見つけた。 DIOの背後、お父様の前へとエドワードは投げ飛ばさされていた。恐らく大ぶりな電撃はカモフラージュで本命はエドワードをお父様へとぶつける為だ。 「無駄な事を。無駄ァ!」 御坂が殴り飛ばされる。瞬間、時が動き出す。 だが予想以上に手ごたえは固く御坂の表情にもダメージの蓄積は見て取れない。 「確か、通電すると人体は硬直するらしいな……。なるほど、それを応用して予め筋肉を硬化してダメージを減らしたのか?」 「い、っ……。―――さあね、どうだか」 DIOの言った通り、時間停止のラッシュ対策に御坂は全身を通電させ筋肉を硬直させていた。 ダメージは減少したものの、だがやはり生身で受けているだけはあり痛みはかなりのものだ。 「ようやく、一人だ」 ダウンした黒の元へお父様が近寄り手を翳す。 一先ず石だ。これで一つとはいえ補充できる。残った連中もDIOと結託すれば容易に石として養分にもなろう。 そしてDIOも適当な頃合いで肉体を消滅させ、再びこの身に取り込んでくれる。 「ウオオオオオオオオオオオォォォ!!!」 だが砲弾のように突っ込んできたエドワードの鋼の拳にお父様は殴られる。 意識が飛び掛け、視界が揺らめく。 「き、さま……」 これで何度目だ? 以前の時は数える余裕すらなく殴られていた。 そして、また今度もだ。 「てめえの、相手は俺だ!」 「―――エドワード・エルリック!!」 両者とも無数の柱を錬成し打ち付け合う。 錬金術戦に於いて、勝敗を分かつのはその精密さと錬成速度に他ならない。 しかしお父様は神と精神汚染を抑え込んだうえで、更に錬金術の操作にまで手を回さねばならない。 対してエドワードは手合わせというモーションは必要ではあるが、全てを錬成に回すことができる。 「ぐ、おおおおおお!!!」 後発から放たれたエドワードの柱がお父様の柱を打ち砕き、お父様へと直撃する。 頬肩腹太腿を一気に強打され、体が引きちぎれそうなほどの激痛を誘発した。 速さだけならばまだしもその精密さでは、エドワードが勝ってしまう。 「ビンゴだったぜ杏子……お前の反動がヤバいって考えは。 いける……いける!!」 DIOやアヌビス神を相手にするより、そのお父様をまず真っ先に潰した方が早い。 アヌビス神はまだしもDIOは一時的な蘇生であり、恐らくお父様が倒されれば消滅するはずだ。そうなればアヌビス神も自動的で戦意消失する。 何より杏子の直感も大当たりだ。神のほかに何らかのデメリットにより、お父様本体の戦闘力は大幅に低下している。 倒せる。倒しきれる。 「人……間が……ぁ」 殴られた箇所の痛みが治まらない。 再生がダメージについてこれていないのだ。不味い、明らかに石が底を尽き始めている。 いっそ精神汚染を抑えず、暴走のまま奴らと戦ってしまうか? いや本体と対峙されてしまっている以上、理性のない状態で戦えば奴らに良いようにされてしまう。 ならば神を開放してこちらの負担を減らすか? それこそバカげている。神の力の片鱗を振るってようやく、辛うじて戦闘になっているのだ。 それを逃せば、武装解除し奴らに首を差し出すのと同じこと。 「ッッ―――おおおおおォオオオォオオオオオオ!!!」 投げつけられた槍が頭を吹き飛ばし、射出された砲弾が半身を抉り、先を尖らせた柱の剣山が全身を串刺す。 石を外に垂れ流させていく。無意味で不要な再生に石は自動的に消化され、間髪入れずエドワードは攻撃を入れる。 血の代わりに吹き出す黒い影のような液体と、赤い錬成光がお父様の余命を現すかのようだった。 「こ……なぶ、ざ―――まなァ……」 全身を駆け巡る激痛とダメージに呂律も回らない。 あと数撃、それだけ入れればあの容れ物は崩壊しお父様の残機は残り一つになるはずだ。 この場にきて何度目になるか分からない、手を合わせを行う。機械鎧から刃が飛び出しエドワード愛用の剣として姿を変える。 「うおおおおおおおおおお!!!!」 終わる。この一撃で全てが終わる。 この場で出会った全ての参加者と見たこともないが、恐らく自分達と同じように殺し合いに抗ってきた者達の為にも。 奴のフラスコの中の小人の数百年に終止符を――― ――――大丈夫、みくは自分を絶対に曲げないから! 「なん――――」 「エドワード君!?」 そうだ。こういうことだってあり得た。 DIOを創り上げたように、また他の参加者を呼び寄せることもお父様ならやりかねないのだ。 「…………み、く……?」 目の前に放り出されていたのは、前川みくその人だった。 エドワードの剣はその目前で止まる。それが既に死んだ人間だとしても――― 「良かったにゃ、みく……みくね……」 「ど……いて……くれ……!」 「なんで? みくね、足戻ったんだよ! ほら!」 そこにいるみくは生存と全く同じ笑顔で、それでいてとても幸せそうな顔をしていた。 お父様が作り上げた紛い物の身体であろうと、それを壊す事などエドワードにはとても出来ない。 「あ、あれ?」 エドワードへとゆっくりと歩んでいたみくがバランスを崩した。 「お、おかしいな……あ、足動かな―――ぁ」 みくの異変にエドワードは気づいた。 確かに今の彼女は五体満足だが、その四肢が溶け出していた。 この場に人体を溶かすような劇薬も高熱もない。理由は一つ、お父様があえて不完全に作り上げた身体だという以外に他ならない。 「い、た……痛いよ……え……どわーど―――」 四肢が歪み、原型を留めなくなると徐々に融解はその全身に広がり銅を溶かし、その愛くるしい顔すら溶かしていく。 骨が飛び出し、目が零れ落ち、体の内臓物が外気に触れ醜悪さを醸し出す。 エドワードはそれを震えて見ることしかできない。 「た……s……け」 その震えは怒りに変わり、エドワードはその奥でほくそ笑むお父様へと叫ぶ。 「――――――――てめえええええ!!! ふざけ――――ゴッ……!?」 みくごとエドワードの身体はお父様が作り出した剣によって貫通していた。 エドワードに溶解したみくだったものが倒れこみ、エドワードも失われていく己の血液と痛みによって意識が呆然とする。 それでもあの目の前の糞野郎を倒すために、ここまで繋いでくれた仲間たちの為にエドワードは手を合わせる。 これが最後になっても構わない。この一撃だけは何があろうとも――― 「母―――さん……?」 目の前に居たのは母親。 違う。それは分かっていた。 容姿を容れ物と称するような奴だ。 エンヴィーが奴から生まれたのなら、その力を使えてもおかしくはない。 剣はエドワードの腹部を抉り、そのまま右の横腹を切り裂く。 腰の半分が切り裂かれ、エドワードの上半身と下半身は千切れかかっていた。 滝のような血を吹き出し、エドワードは倒れていく。 溶解したみくだった液体の上に重なるようにエドワードは倒れる。 「ご……め……ん……みく……みんな……アル……ウィn―――」 「……………手こずらせおって……」 血だまりに倒れたエドワードを見ながら、お父様は息を荒げ拳を握りしめる。 神として不相応な戦いだ。こんな人間如きに殺されるかと思う、その寸前まで追い詰められたのだ。 この殺し合いを始める前の事前調査でエドワードの母親、つまりホーエンハイムの妻の容姿を知らなければ、最低でも相打ちにまでは持っていかれるところだった。 「だが、死んだ……貴様は死んだのだ……エドワード・エルリック!!」 しかし過程がどうあろうと、勝利したのはフラスコの中の小人だ。 正史において敗北したこの男に今まさに、運命を乗り越え勝利した。 エドワード・エルリックという己の敗北を定められた未来を超越したのだ。 「あの、馬鹿……!」 御坂の叫びが木霊する。 遠目で正確には判断できないが、エドワードの瞳孔は開きっぱなしに見える。 瞼一つ動いていない。その上あの血の量を考えれば、ほぼ間違いなく手遅れ。 「無駄無駄無駄無駄ァ!!」 「――――ッッ!!」 『世界』のラッシュを貰い吹き飛んでいく御坂。 この状況でエドワードの脱落は致命的。更にアヌビス神さえ敵に回るという最悪の状況下で黒もダウンしている。 実質、御坂一人で奴らの相手をしなければならない。 「―――ガハッ……!」 壁に打ち付けられ、たまらず尻もちをつき項垂れる御坂。 DIO一人でこの有様なのに、残ったお父様とアヌビス神を相手にするなどたまったものではない。 (まだよ……あいつ本体を潰せば―――) 痛んだ体を鞭打ち、残された全ての電撃を手の先へ集めていく。 この際DIOとアヌビス神は完全無視だ。あの一時の勝利に浮かれ、余韻に浸っているお父様へ全てをぶつける。 御坂は鉄塊をティバックから取り出し、電撃を溜めた拳を渾身の限り打ち込んだ。 ポロッ。 そんな気の抜けた音だった。 「え―――嘘……」 御坂の全身を覆う電撃が嘘のように消失していき、拳には鉄塊を殴りつけた鈍痛だけが残る。 鉄塊はそれを受けて数㎝ほど転がっていきそのまま停止した。 電池切れだ。 むしろ、御坂はここまでほぼ休みなく良く戦ったというべきだ。 彼女の生きた短い時の中でこの殺し合い以上に電撃を浪費した戦いはなかった。 当然彼女の体力スタミナは限界値の底を尽き、電撃の制精度も次第に落ち辿るべき結末は目の前の有様。 それは自身の能力を誰よりも理解し、使いこんできた御坂が誰よりもよく知っている。 この現実にも心の何処かで納得はしていた。 しかし、だとしても現実を突き付けられるまでは信じられなかった。 「回復結晶―――」 最後の頼みである回復結晶も取り出すが、以前のようには光らない。 ティバックの中に入れていたとはいえ、DIOに殴られた衝撃でいかれてしまったらしい。 見れば罅が刻まれており、しばらくしてから無残にも回復結晶は砕け散った。 こうして最後の希望は潰える。 「これで実質、全員脱落だな」 絶望に叩き込まれた御坂を眺めながら、DIOは鼻歌でも歌いたい気分になった。 あの忌々しいチビガキと電撃娘の最期に立ち会えるとは実に清々しい。 「アヌビス神、その黒コートに止めを刺せ」 「了解しましたァ! DIO様!!」 アヌビス神に操られた雪乃の身体は、本人の意思に関係なく黒の元へ歩み寄る。 その足取りは実に軽い。本当に自分の身体ではないようだった。 『お願い……やめて……お願い!』 雪乃は罵声すら吐けず、口から紡がれるのは懇願だった。しかし、それが如何に無意味な事か雪乃本人が理解している。 アヌビス神とは元々成り行き上での共闘を果たしていたまでのことだ。それもこの殺し合いの中でも出会ってからは、非常に浅い時間だ。 彼にDIOへの強い忠誠心があり、それを上書きすることなど雪乃では不可能。悪には悪のカリスマ、救世主が必要なのだ。 その代わりを雪乃が果たすことなど到底できない。 「お前に恨みはないけどよ……」 アヌビス神を剣を振り上げる。 別にこいつらに情などない。人間など代用の利く部品のようなものだ。 連中が武器というものを、そうやって扱っているかのように。その中でもDIO様だけは特別なお方。 唯一無二の救世主であり。アヌビス神が初めて安心を得られるたった一つの存在だ。 それに抗うことなど出来ない。 ―――後は頼んだぞ ―――...頼んだぞ、アヌビス 「ああ―――」 数時間前だが懐かしい。 こんな奴らいたな。 どうでもいいけど。 「ほう、アヌビス神よ」 アヌビス神の切っ先は黒ではなく 「愚かだなッ!」 DIOの脳天に突き刺さっていた。 「私はお前の戦闘力だけは高く買っていたが、仕方あるまい。―――死ぬしかないな」 黒を斬る寸前で方向転換し、DIOすらも見切れない速度で肉薄し一撃を入れたのだ。 DIOも流石にこの行動は予想外で、反応が遅れたのは無理からぬこと。しかし、吸血鬼の肉体は脳を貫かれた程度では滅びない。 「このまま脳みそをかき回せば―――」 吸血鬼が如何に優れた生物か知らないが、頭が重要な器官であることは共通しているはずだ。 何よりこのDIOはお父様が創り出した紛い物の肉体。ある程度急所を破壊してしまえばそれで息絶えない道理はない。 だが神速で動く剣は一瞬にして止められる。如何な速さであろうと時が止まってしまえば止めることは容易い。 「さて、誰の脳みそをかき回すのか。教えてもらおうじゃあないか」 たったの指二本で刀身を掴まれただけでビクともしない。 透明化を使うか? いやその前に圧し折られ雪乃本体が殺されるだろう。 「……悪かったな」 「アヌビス―――」 雪乃の手が剣から離れる。否、投げるようにしてその勢いのまま雪乃が後ろのめりに傾く。 アヌビス神の支配が解け、所有権が雪乃本人へと戻る。だが彼女に所有権が戻る以前にアヌビス神はより強く肉体を後方へ傾けていた為に、勢いを殺せぬままDIOから距離を取って尻餅をついた。 これがどんな意味を持った行為だったのか、雪乃には理解できた。 その剣の刀身には、雪乃に体を返す直前に青酸カリのカプセルを潰したものをふんだんに塗り込んでおり、投擲されたことでより深くDIOの脳内へと侵入し体を蝕む。 もっとも、DIOも即死はしないだろう。少なくともアヌビス神を圧し折って叩き壊す程度には死ぬまでの猶予はある。 つまりどう転んでもアヌビス神も死に相打ちだ。 何やってんだ。俺は。 でもよ、何でだろうな。 DIO様から買った安全なんかより、 ―――頼んだぞ――― あいつらから貰ったたったの一言のがよぉ。な~~んか嬉しいんだよなあ。 「アヌビス神、今お前は私と道連れに死ねると思っているのだろう?」 『……!?』 言われてから気づく、青酸カリを頭に直接ぶち込まれて吸血鬼といえども致命傷の筈だ。 しかしDIOは平然と笑みを絶やさない。 「こんなビタミン剤でこのDIOを殺せるとでも思っていたのか!」 DIOの手で弄ばれているカプセル。それは紛れもなく、アヌビス神が剣に塗り込んだと思っていた青酸カリのカプセルだった。 アヌビス神が裏切りの裏切りを決意したその瞬間に、DIOは『世界』の非常に精密な動きと超スピードでビタミン剤と青酸カリを入れ替えていた。 この勇気溢れるアヌビス神の行動も全てはDIOの掌の上だったのだ。 「さあ死ね! そして次は貴様だ電撃小娘ッ!」 圧し折られる。それも完膚無きに微塵のかけらも残さず徹底的に。 『ば、万事休すだああああああ!!』 「―――――――ッ!? ぐおあああああああああああああ!!!」 『世界』の拳がアヌビス神に触れるその寸前、柄にワイヤーが巻き付きランセルノプト放射光と共に高圧電流が流された。 肉体を電撃で焼かれる激痛にDIOは悶える。その間にワイヤーはアヌビス神に巻き付いたまま手繰り寄せられる。 「黒さん!?」 雪乃の声の先に傷を抑えながら、立ち上がる黒の姿があった。 しかし体を打ち付けた痛みやその時の衝撃で頭を揺らし過ぎたのか、黒の視点は定まらずまた姿勢も安定しない。 「チィ、蛙の小便より下賤な電撃を……!」 DIOの怒りの矛先は黒へと向く。今すぐにでも『世界』をけしかけたいところだが、DIOの身体に異変が起こりスタンドの操作が途切れた。 見れば右手が融解し骨が垣間見え、その骨ですら僅かに溶け出してきていた。お父様が創った紛い物の身体に限界が来たのだろう。 動揺狙いで作ったみくと違い、多少頑丈に作ったとはいえ元々お父様に死者を蘇らせる気などない。 その体はもうじきに崩壊しDIOは死人へと逆戻りだ。 (と、奴は思っているのだろうな) しかしDIOは慌てない。これまでの戦いと後藤の不意打ちで死んだ経験から調子に乗ったり、慌てるといった行動は己の首を絞めるということを嫌というほど学んでいたのだ。 手繰り寄せたワイヤーからアヌビス神を放り捨て、黒は友切包丁を構えながらDIOを警戒する。なるほど、一連の行動を見てアヌビス神を助けはしたが体を貸すほどではないということらしい。 (確かにこの肉体は長くはもたん、しかし……あるではないか、目の前に格好の肉体がッ!) そうDIOが狙うは黒の肉体だった。 女ではサイズが合わず、エドワードなど論外だったが黒の身体ならば一回り体系も小回りになるが十分な肉体だ。 あれを乗っ取ることで完全な復活を果たし、この場に残った連中、それこそフラスコの中の小人も含め抹殺し、帝王として君臨する。 (だが……流石に近づいてこないか……。『世界』の射程外だ……。私から近づいてもいいが、下手に反撃を食らってしまい肉体の崩壊を早めてしまう、何てことになるのは賢いもののする事ではないな) 黒はDIOの動きに注視し、構えを乱さない。 身体のダメージも時間の経過である程度回復し、戦闘に及ぼす支障も少ないだろう。 DIOも負ける気はないが、体の融解を考えれば射程外から攻めるというのはあまりしたくない。 「そうか……君が黒か」 故に一つ、必ず黒が動くであろう切り札を切る。 「何?」 「ジャック・サイモンから話を聞いていてね。そうそう、イリヤちゃんも随分お世話になったようじゃあないか」 「イリヤ……?」 「どうだった? 私の目論見……いやそれ以上に彼女は活躍してくれたようじゃあないか」 これはお父様と対話した時、万が一に使えるかもしれない為に渡された情報の一つだった。 「お前が……イリヤを……?」 「おっと勘違いするなよ。やったのは食蜂操祈という女なのだからな」 「貴様―――」 黒の沸点が頂点を超える。 (馬鹿がッ!) 空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)。 水圧カッターの原理で高圧で体液を目から発射する技。 もっとも黒ならば、それが初見であろうとも避けることは難しくはない。物事の変動を見極め、攻撃の前兆を予知することで先制回避を行う超感覚を黒は戦場で身に着けている。 だがこの一瞬は違う。黒はイリヤの事に関し心を奪われ、怒りという人間が抱く愚かな感情に苛まれ隙が生まれていた。黒の目に空裂眼刺驚が写った頃にはもう遅い。 黒では回避不能な速さと距離にまで迫っていた。 「―――ッ」 喉元へ飛んだ空裂眼刺驚は、黒が反射的に翳した友切包丁により弾かれ逸れた。 だが軌道を変えた空裂眼刺驚は黒の防弾コートを貫き横腹を貫通した。 (あの包丁頑丈だな) 見た目に反し予想以上に包丁が業物であることに驚くが、黒を無力化することに際し問題はない。 黒は腹を抑えながら膝を折り激痛に耐えている。致命傷ではないが、大ダメージであることに変わりはない。 所詮人間の肉体だ。痛みには怯み出血の量で大量は大幅に消費される。 (フンッ、まあいい。最期に勝利し笑うのはこのDIOよ) ゆるやかに軽快なステップでDIOは接近する。 最早新たなボディは手に入ったも同然。口笛でも吹きたい陽気な気分だ。 「おっと、アヌビス神(こいつ)を手にされると厄介だったなあ」 「いっ、ぎ……!」 「ゆき……の」 雪乃がアヌビス神に右手を伸ばそうとした瞬間、その手を踵で踏み砕く。 そして軽く雪乃の顔面を蹴り飛ばし吹き飛んでいく様を眺めながら、アヌビス神を遥か後方へと蹴り飛ばした。 「さあ、死ねェ――――」 だが次の瞬間、DIOの視界は白く染まり肉体が消し飛んだ。 断末魔をあげることもなく二度目の生はこうして幕を閉じた。 「あーあ、みっともないねえ」 DIOごと巻き込んだ電撃の中から黒が飛び出しその姿を認識した。 カツカツと革靴が床を叩く子気味いい音と共にヨレヨレのスーツと黒い剣士の巨大人形が姿を現す。 「足立……? お前死んだんじゃ」 「ばーか! 俺があの程度で死ぬわけねえだろ!!」 本人の口調とは裏腹にそれは偶然だった。 (まあ本当に偶然だったんだけど……マガツイザナギにあんな力があるとは思わなかった……) マガツイザナギには光を無効化するステータスがあった。その為シコウテイザーの光線を光と認識し無力化したのだ。 クマや雪子のように本体への耐性持ちは制限されているのだが、既に足立は首輪を外して制限が解けている。 咄嗟に出したマガツイザナギの影響で足立本体にもその耐性が付き、彼は九死に一生を得た。 結果として、この場で何度も助けられた悪運がまたもや足立を救った。 まるで死亡詐欺のバーゲンセールである。 「へえ、それにしても随分弱ってるじゃない。今なら楽に殺せるんじゃないの」 シコウテイザーがインクルシオとテオドーラ、ヒステリカによって動きを停止したのを見た足立は奇跡的に自分達が勝利へ近づいていることを理解していた。 そうなれば話は早い。勝ちそうなこの連中に便乗し自分は生還するだけだ。 マガツイザナギに抱えられながら空を飛び、やっとこさシコウテイザー内部の戦場へと駆け付ける。 そこには瀕死のエドワードと力を使い果たした御坂に片腕の黒、あのヘンテコな剣のない雪乃、追い込まれたお父様。これ以上の好機はない。 お父様含め全員ここで皆殺しだ。 「ハハハ……待ってたよ……この瞬間をォ……! マガツイザナギィ!!」 電撃がお父様へ降り注ぐ。斬撃が再生を終えた肉体を引き裂き切り刻む。 エドワードが堕ち、御坂が脱落した今この場に於いて最も火力に突出しているのは足立のマガツイザナギだ。 ただでさえ残りわずかな石をこれ以上減らされるわけにはいかない。しかし、回避すら間に合わぬほどの圧倒的広範囲の攻撃は容赦なくその命を削っていく。 元々人間ではなく、対シャドウの能力なのだ。それが一個の人の形をしたものに向けられればオーバーキルになるのは当然の摂理。 「次から次へと……!」 不確定要素だらけの現実にお父様は忌々しさを感じながら舌打ちする。 地面を錬成し針柱を足立へと叩きつける。しかしマガツイザナギが割り込み、柱は粉々に打ち砕かれた。 更にその剣を振るう衝撃が、かまいたちのようにお父様の身体に切り傷を増やしていく。 「オラオラオラオラァ! どうしたんだよォ!?」 マガツイザナギの猛攻は増す。 拳で頭蓋を捻り潰し、胸元へその剣を突き刺し上げる。 お父様の身体はその勢いのまま宙に舞い、更にマガツイザナギはボールを打つような動作で剣を振り上げお父様を切りつける。 斬撃でバラバラになり床に打ち付けられながら、バウンドしていくお父様へ追い打ちの電撃が放たれ体は黒炭へと変わっていく。 「つまんないねえ! 神様ってこんなに弱いのかよ! エンブリヲ以下とかミジンコみたいなもんじゃねえか!!」 殆ど何もやっていない足立だが上機嫌でお父様を煽り、高笑いでマガツイザナギをけしかける。 ようやくだ。ここにきてようやく足立に全ての運が向いてきた。 それで上機嫌にならないはずがない。 「より……よって……足立……如きに……」 賢者の石が消費され、肉体が再生し体制を立て直す。だが突っ込んできたマガツイザナギの狂剣に成すすべなく滅ぼされていく。 エドワードならばまだ分かる。御坂も黒も雪乃も分かる。しかし何故だ。何故よりにもよって足立透なのだ。 こんな屑のようなただの資源に何故嬲られる。何故殺されかける。何故最後に立ち塞がったのがこんなゴミなのだ。 「不服かよ? でもなあ、世の中こんなもんなんだよォ……現実を見ろ! この引きこもり爺ィ!!」 かつてある少年達に言われた台詞をまんまお父様へと突き付ける。 思い出すだけでイライラするが、それを晴らすサンドバックが居るというのは非常に心地いい。 切って切って切って切って切って、切り続け。電撃で焼いて焼いて焼き続ける。 これほどのストレス発散道具は存在しない。 「ハッハァ! 何回殺せば死ぬのかな、このおっさ―――あ?」 お父様を切り続けていたマガツイザナギの剣が止まる。 見ればマガツイザナギの腕に影が纏わりつき、再生しきっていないお父様の身体から無数の影が触手のように沸いていた。 それらはマガツイザナギを囲い、固定するとお父様の顔が伸びマガツイザナギの腹部へと突き刺さる。 「礼を言うぞ足立よ……よくぞ賢者の石を運んでくれた」 「ちょ、な……なんだこれ……!」 マガツイザナギは力なく項垂れ、ノイズが何度か走るとそのまま弾けるようにして消えた。 お父様は傷の再生速度が速まり、先ほどより幾分余裕を見せる。 「実に上質な賢者の石だったぞ。マガツイザナギはな」 「ぺ、ペルソナを……食いやがった……?」 足立は掌を広げるが、タロットカードがまるで出てこない。 テレビの外でペルソナが召喚できないのとはわけが違う。 お父様が賢者の石として変換し取り込んだが為にペルソナそのものが消えたのだ。。 「驚くことでもない。ペルソナはもう一人の自分が実体化したもの。見方を変えればもう一つの魂でもある。 つまり、そこにも資源としての活用法はあるということだ」 お父様が掌を翳す。そこにはタロットカードが現れ、足立の目の前であっさりと握りつぶされた。 「自分のペルソナで死ぬのも面白いだろう」 マガツイザナギがお父様のペルソナとして足立の前へと対峙する。 足立は腰を抜かし、尻餅をついた。 「嘘だろ……おい……悪い冗談だろ……」 これまでペルソナだけは自分を裏切らず、全ての外敵から自分を守り続けてきてくれていた。 それがこんなあっさりと奪われたのだ。足立の心的ショックは計り知れない。 「―――なーんてね」 マガツイザナギが前進し剣を振り下ろす。その寸前、もう一つの剣が足立の眼前へ割り込んだ。 「イザナギ」 それはマガツイザナギの黒に赤の線を付け足したデザインと対になるような青いオーラを纏い、黒に白を付け足したデザインの剣士。 鳴上悠のペルソナ、イザナギであった。 「馬鹿な……貴様のような愚図が……ワイルドだと」 「なんでか分かんないけどさ……使えるんだよね」 鳴上も生田目も足立も元は同じ存在から力を授かった者たちだ。 そうであるなら、鳴上と同じ力を足立が使えない道理はない。ただ彼にはその条件がなかったに過ぎない。 果たして、その条件を何処で満たしたのか。いつ目覚めたのか足立には一切の自覚はないが。 「でもさぁ……イラつくんだよ。こんな糞みたいなペルソナ出させやがって!」 イザナギとマガツイザナギの剣裁が吹き荒れ、巻き起こる疾風が足立を煽る。 胸元からだらしなくぶら下がったネクタイは風に揺れ、ブレザーも足立の心象を現しているように波打つ。 20を超える剣の打ち合いの末、マガツイザナギの剣が手元から離れ零れ落ちた剣をイザナギがキャッチする。 まるであの時と同じ光景だ。ただそれを操る本体が逆転し、一人は全くの別人ということを除けば。 「まるでさぁ……本体がなってないんだよねえ!!」 マガツイザナギの胴体に剣を突き立て、更にその顔面にもう一本の剣を突き刺した。 ノイズを上げてマガツイザナギは消失する。 本体へとフィ―ドバックした激痛にお父様は手を抑え、眉を顰める。 ペルソナ使いとしては足立の方が幾分も格上だ。しかも手を知り尽くした奴自身の能力なのだ。その弱点や動きの癖も完全に見切られている。 「あーあー本当に気持ち悪い、あのクソガキの面が頭にこびりつくようでよォ……。どう落とし前つけてくれんだコラァ!!」 イザナギを駆る足立はまるで在りし日の鳴上悠を彷彿とさせた。それは足立本人にも言えたことで、一度殺したはずの鳴上の呪縛に囚われているかのようだった。 不快にならないはずがない。もう奴を一度殺し直すにしても、こんな気色の悪い思いをさせられた発端であるお父様とやらに全ての怒りをぶつけるくらいでなければ何も収まらない。 「そうか、ならば開放してやろう」 「は?」 刹那、突風と共にイザナギにノイズが走り吹き飛んでいく。 そのイザナギに影を巻き付けお父様はマガツイザナギ同様その身に取り込み始めた。 何が起こったのか、その一瞬の出来事に足立は目をパチパチさせながら呆然としていた。 「イザナギは風が弱点だ。そんなことも知らなかったのか」 お父様は大気の流れを変換し風の塊を作り出した。 それらを圧縮し砲弾の繰り出しイザナギへと放った。当然、風が弱点であるイザナギにとっては壊滅的なダメージだ。 その挙動は静止しあえなくお父様に捕まってしまった。 「え? え? ……え?」 「さて、誰がなってない……だったか」 無論、大気の流れに干渉する程の石の消費は今のお父様にとっては痛手だが代わりにイザナギを取り込めたことは非常に有益だ。 何よりこの場にはもう戦える者などいない。ペルソナのない足立などただの生ゴミに過ぎない。 「ちょちょちょちょ、ちょっとタンマ! ペルソナ! ペルソナァ!! おい出ろよ……出てくれよ! 頼む!! ペルソナァァ!!」 「どうした?」 足立の腹部に激痛が走り宙を浮きながら、そのまま背中から落下する。 先ほどまで足立のいた場所には柱が生え、それが足立の鳩尾を突き上げたのだろう。 もっとも足立はそんなことなど理解する間もなく、痛みにもがき苦しみ床の上をゴロゴロ這いまわる。 「ごはっ……!? い、いてえええええええええええええ!! ち、ちくしょお……ちくしょおおおおおおおお!!! こんなのありかよ!! お前返せ……俺のペルソナ返せよおおおおおおお!!!」 「不服か? だが、世の中こんなものだ……現実を見ろ。虫けらが」 更に複数の柱が足立の全身を強打し足立はボロ雑巾のように吹き飛んでいく。 ワイルドが使えるようになったはいいが、皮肉にも足立はマガツイザナギとイザナギしか使えない。 今の足立にはティッシュにラケットに警察手帳というガラクタしかない。つまるとこ一気に戦力外へと格下げした。 「―――いっ!?」 「伏せろ!」 喚く足立へお父様は巨大な槍を錬成し投擲する。その顔面を捉えた矛先は確実に足立の頭部を粉砕しかねない。 だがその足立の頭を抑え、前のめりに黒は伏せる。足立は顔を強打しながら、その幸運に感謝しため息をはく。 「……足立、走れるか?」 「へ? あ、ああ……」 「俺があいつの気を逸らしている内にあの剣を拾え」 足立の耳元で黒は囁く。 黒の言う剣とはアヌビス神のことだろう。雪乃の手元から離れ、DIOに蹴り飛ばされたが幸いにも距離はあるがお父様からも離れている。 決して取りに行けない場所ではない。 だが雪乃は顔から鼻血を流し、壁にもたれながら気絶している。エドワードは死にかけ御坂もスタミナ切れ。 消去法で足立が取りに行くしかない。 当然、足立もペルソナのない現状では黒に従うしかない。二つ返事で了承した。 「お前の相手は俺だ」 お父様の影は刃へと形成され、向かい来る黒へと振りかざされる。 黒は友切包丁でそれらの影と打ち合う。 胸元へ奔る三つの影を友切包丁を滑り込ませ薙ぎ払う。 顔面を穿つ一撃を上体を逸らし避けながら、友切包丁を投擲しお父様の脳天へと突き刺す。 繋いだワイヤーから電撃を流し、お父様の全身が感電した。だがそれらの電撃がお父様の掌に集まっていく。 次の瞬間、電撃から一つの光球を創り出し掌を黒へとかざす。 ワイヤーを手繰り寄せ、友切包丁を回収しながら光球を避ける。 光球は壁を溶かし、ドロドロの溶解物から異臭を上げていた。 (一人で何処まで奴を削りきれる?) あと僅かの残機であることは分かる。ここまでのお父様は一切の手段を選ばずなりふり構っていない様だった。 しかし、黒は体術に優れていても相手をオーバーキルで殺すという火力に於いては長けていない。 「チッ」 指輪が光りブラックマリンの力で水流が竜巻のように舞い上がり、お父様へ躍りかかる。 お父様は手を合わせてから両手を水流へと翳す。瞬間水流は冷やされ無数の氷柱へと変貌した。 「ブラックマリンは使わせん。物質変換もその様では使えんようだな」 何より致命的なのが、黒一人なら彼が持つ唯一の高火力攻撃のブラックマリンへの対応は比較的容易だということだ。 物質変換の電撃を纏わせれば話は別だが、空裂眼刺驚による腹部の負傷により黒はその痛みから物質変換に必要な集中が出来ない。 お父様の錬金術に対して、一切の対抗術を失ってしまったのだ。 「……忘れるところだったな」 氷柱が突如膨張し破裂した。それらの破片は凶器となり、アヌビス神を取りに向かう足立へと突き刺さった。 「が、ぎゃあああああああああ!!!!」 足立の悲鳴が木霊する。背中に幾つも突き刺さった氷の破片はその背広を赤く染め上げる。 あまりの激痛に足立は転倒し、口を玄関まで広げながら目に涙を浮かべ両手の指で床を引っ掻き回す。 その引っ掻いた指先の爪が曲がり、爪が剥がれかけるがそれすらも意に返さぬほどの背中の痛みに足立は過呼吸気味になる。 不幸中の幸いなのが、頭は全くの無傷で命に別状はないのは流石というべきか。 「足立!」 血だらけの足立の様を見るに戦線復帰は不可能だろう。 これで残るは同じく負傷を抱える黒一人だけになってしまった。 「終わりだ……貰うぞ貴様の賢者の石を!!」 影の触手が黒の両腕を捕らえる。そのまま強引に引きずり寄せお父様は黒の胸元へ手刀を放つ。 手は黒の体内へとめり込み、その魂を賢者の石として生成していく。 体内に異物が侵入する不快さと、魂が一つのエネルギーとして変換される怖気に黒の本能が警鐘を鳴らす。 一刻も早くお父様から離れようとする本能を黒は抑え込み、むしろ前進する。 そのままお父様の顔面を掴み、黒の身体をランセルノプト放射光が包み込む。 「いや……終わるのは貴様だ」 電撃がお父様の全身を駆け巡る。 肉体を焼き回る高圧電流は今のお父様にとっても無視はできない。 賢者の石の生成より早く、お父様を殺すことが出来ればまだ黒にも生還の目途はある。仮にそれが不可能だとしても、お父様を道連れにはしてみせる。 強い覚悟と信念により放たれた電撃にお父様は表情を歪ませる。 「無駄な足掻きを」 賢者の石の生成速度が速まる。黒の意識が飛び掛け、視界が定まらない。 魂と肉体を結ぶ精神が不安定な状態に陥り、黒の身体も黒の意思に逆らい力が抜けていく。 契約能力の行使も収まり始め、お父様の身体を蝕む電撃は徐々に弱まり始める。 (ここで……終わるのか……?) 黒一人の力ではここまでは来れなかった。 全員の力があってそれを紡いできたからこそ、初めてこの遊技盤を引っ繰り返しフラスコの中の小人へと反旗を翻したのだ。 多くの犠牲もあり、救うことも守ることも出来ないこともあった。それでも、ようやくここまで辿り着けたその終着点がここなのか? (……すまない。俺はもう―――) 黒の意識が落ちていく。体は人形のようにぶらりと腕を垂れ下げ、まさにドールのような感情のない無気力な表情でその瞼は閉じられていく。 最期に浮かぶのは助けると約束した少年と黒が守りたかったドールの少女―――そして金髪の少年と茶髪の少女。 「―――まだ……眠るには早ェぞ!!」 放たれた雷撃はお父様と黒を飲み込む。お父様の身体はそのあまりのエネルギーに消滅し、黒に突き刺さった手もまた焼き千切れる。 意識を取り戻した黒は一気に後退し距離を取る。 何が起こったか分からない黒はその雷撃の先にいる二人の少年と少女を見つめた。 □ 「っ、たく……」 御坂は這いずりながらエドワードの元へと進んでいく。 全身に力が入らず、こうして体を動かすだけでも息があがり止まってしまいそうだ。 そうしてやっとの思いで、エドワードの元へ辿り着いたは良いが既にほぼ死んでいる状態だった。 何せ腰の半分近くを切断されたのだ。その出血量もダメージも想像に難くない。 「普通に血を抑える程度じゃダメか」 遠目からでも分かっていた事だが、こうなった以上生半可な応急手当では助からない。 普通ならばもう諦めるしかないだろう。 だが御坂には一つだけ秘策があった。 御坂は上体を起こし、それから両手を持ち上げ祈るように手を合わせる。 パンといった子気味いい音に自分でも些か驚き、お父様に気付かれないか心配になるがお父様は足立に気を取られていた。 好都合だ。“錬成”が終わるまで気を引き続けてくれていれば非常に有難い。 御坂は扉を開けた。それも他の参加者のように首輪を外す際に一端を見たのではなく、強制的にとはいえお父様によって御坂本人が開かされたのだ。 敬意はどうであれ真理に辿り着いた者がえるものは一つ。対価と引き換えに万物を操り、あるべきものを別の形へと再構築する御業。 その術者本体が錬成陣となることで発揮される手合わせ錬成。 知識はある。学園都市で最先端の教育を受けている御坂はほぼ最低限の人体の知識もその頭に取り込んでいた。 問題は一つ。錬成の際に何処から代用するか。これが科学であるならば魔法のように、消しゴムで消す誤字のように怪我が何事もなく消えるということはありえない。 傷を塞ぎ、尚且つ腰というデリケートな部分だ。何らかの形で立てる程度にまで補強しなければならない。 しかし単純に負傷個所を繋げても、恐らく腰の周囲の筋肉は不安定なまま立ち上がるには長期間の時間が必要になる。 それこそ、何時間どころか何週間何か月といったこの場では長すぎる時間が。 「本当に……何度も……ごめんね」 エドワードの血の海に混じったタンパク質の塊。御坂はこれを使うことにした。 そう、お父様が創った前川みくが融解し残った残骸だ。 これを再活用しエドワードの治療へと充てる。 元々人体であったのだ。これらを筋肉として、再活用し腰の補強に使うことは不可能ではないはずだ。 エドワードが復帰した時、それに対し何というか。だが、こうしなければエドワードは死んでいた。だから無理やりにでも納得させる。 「行くわよ……元々巻き込んだのはアンタなんだから……ここで死なれちゃ困るのよ!」 幾度となく殺し合った相手に対し、今度は施しを授けるのは何の因果か。 「ッ? ガッ……!」 御坂の身体に異変が起こった。全身から血が溢れだし、まるで拒否反応のように激痛が駆け巡る。 これはこの場に呼ばれた学園都市の能力者は魔術といった別系統の力を使った時、力の回路が異なる為に自らの肉体を損傷してしまう。 白井黒子もルビーに指摘され始めて気づいた事実だ。御坂が知らないのも当然だ。 だが御坂は錬成を止めない。それを止めることは己の敗北と、その先にある悲願が潰えることに繋がるからだ。 「戻って……こい……!!」 傷は塞ぎ筋肉を補強した。損傷が背骨にまで達していないのは不幸中の幸いか。 エドワードはそれからしばらくし、左手の指をピクリと動かした後、虚ろだった瞳に光が戻り何度か瞬きする。 「み、さか?」 血だらけの御坂を見て、エドワードは一瞬目を見開きそれから事の異様さに遅れて気づく。 死にかけた自分を御坂が救ったのだろうことは分かったが、何故これ程の血を流しているのか。 敵にやられたにしては、傷らしいものも見えない。むしろ内側から溢れてきているように見えるぐらいだ。 「なに、が……錬金術よ……このエセ科学……」 「おい、みさ……い”っ……!?」 「あの子を使っても……まだ完治しないか」 動こうとしてエドワードの意識が揺らぐ、まるで立ち眩みのようだった。 恐らくは多量の出血による貧血だろう。 そしてもう一つはそれを掻き消すほどの激痛が腰から走った。 傷は塞ぎ補強もある程度はしたが、それでも完治した訳ではない。無理にでも立ち上がることは出来るだろうが無茶な運動は禁物だ。 「あの子?」 「ええ、その残骸をアンタの治療に充てたわ。文句なら、あそこの親父と情けなく死にかけた自分に言ってよね」 エドワードは目を瞑り自分が救えない所か死後も弄ばれ続けた少女に思いを馳せた。 彼女の仲間すらろくに助けられず、挙句の果てにこうして自分が命を救われる本末転倒ぶりには苦笑すら込み上げてきた。 「戦いなさい……。少なくとも今、私たちの敵は共通してるのよ」 「だが、俺はまともに動けねえ。お前も……」 「だからこその共闘でしょ?」 御坂は笑みを浮かべてそう言った。 □ 「エドワード……御坂……?」 「ぐ……ば、かな……貴様らにそんな力は……」 黒以上に驚きを隠せなかったのはお父様だった。 エドワードは致命傷を負い、御坂は能力の過度な使用で限界を迎えているはずだ。 何故また立ち上がり、この身に牙を打ち立てるのか。 「生憎……諦めが悪くてよ……」 何より奇抜なのがその見た目だった。 御坂とエドワードは互いに右手と左手を肩に回し、二人三脚の形で互いに支え合うようにして立っていた。 確かにこれならば二人とも何とか立ち上がり、その速度はともかく歩くことは出来る。 しかし分からないのが電撃だ。御坂は力を使い果たし、エドワードも両手が使えなければ錬成は出来ず。そもそもこんな電撃を操れる技量はない。 「エド!」 「おう!」 その光景にお父様は目を疑った。 二人の掛け声と共に、エドワードと御坂の右手と左手が合わさった。それこそお父様が欲する人柱の手合わせ錬成のように。 二人の手が合わせり錬成光が瞬き、電撃が舞い上がりお父様を穿つ。 「そういうことか」 共同錬成。 御坂が理解し演算を行いエドワードが分解再構築する。 御坂はスタミナこそ切れたが、演算力は未だ健在だ。電撃だけが発せられない状態に過ぎない。 ならば電撃をエドワードが錬成してやればいい。その電撃を御坂が演算処理し攻撃へと利用する。 扉を開いた御坂ならばエドワードと共に錬成を行うことも可能だ。 「だが長くは持たん」 お父様の言うように御坂は一度の電撃を放つたびに血を吹き出し体を壊し続けている。 共同とはいえ御坂も錬金術を発動している状態。それは能力者拒否反応を引き起こす。 そしてエドワードも御坂の肩を借りているとはいえ、立つことすら困難なほどの負傷を抱えており、支える御坂が弱れば弱るほどエドワードも己の負担が増し立つことすらできない。 再生を終えたお父様へエドワードと御坂は手を合わせ合い電撃を放ち続ける。 影が巻き上がり盾となる。二人は構わず電撃の出力を上げて突破した。 御坂が吐血しエドワードの額に脂汗が浮かぶ。 お父様は電撃を受けながらもまだ余裕を以て、影を槍状に変え奔らせる。 「御坂ッ!!」 「分かっ……てる!!」 血反吐を吐きながら更に二人は手を合わせ、砂鉄巻き上げた。 影の槍は砂鉄の渦に飲み込まれ、ズタズタに切り裂かれながら消えていく。 だが攻撃を防いだ二人の表情は苦痛に苛まれ続けていた。攻撃も防御も全てが自分たちの身体を削っているのだ。 長くは持たないという、お父様の言葉は間違っていない。むしろこれ以上なく的確だ。 「それが―――」 「どうしたってのよ!!!」 電撃が沸き立ち、砂鉄が撓る。 身体が限界だとか、ダメージが蓄積してるだのはもううんざりだった。 今越えねばならない壁が目の前にあって倒れる暇などない。 その先にあるものが、決して交じり合わない平行線であろうとも目の前のあの男は壁だ。 神だろうがホムンクルスだろうが関係ない。 「てめえは」 「アンタは」 真理をぶっ飛ばし元の身体と弟を取り戻すために。アイツを今度は嬉し涙で泣かしてやるために。 失ったあの全てを取り戻し。もう一度あの日々を送るために。 そこに立ち塞がるのであれば何者であろうとも叩き潰す。 「「邪魔だ!!」」 「ゆ、雪乃……ちゃん……頼む……医者を……呼んで……くれえ……」 「……そうね。世の為に……ドクターキリコでも、呼んだほうが良いかしら……」 痛みにもがく足立を煽ってから素通りし、雪乃はその先にあるアヌビス神へと手を伸ばす。 今でも頭がクラクラする。鼻は幸い折れてはないようだが血は止まらず、華の女子高生とは思えないほどその美貌は崩れ去っていた。 雪乃は髪のリボンを外し、アヌビス神を握った左手を巻き付ける。これで何処まで固定されるか分からないが、ないよりはマシだろう。 「アヌビス神さん……さっきのことは後で問い詰めるわ。だから……もう一度戦って」 砕かれた右手の痛みに耐えながら雪乃はアヌビス神に声を掛ける。 『良いのかよ。俺は一度裏切ろうとしたんだぜ』 「そうね。とても下種だった。けれど……貴方は戻ってきてくれた」 『何でだよ……。何でお前らは……』 「い、いてえ……た、助けてくれぇ……い、医者を……」 「うるさい! 少し黙ってて!!」 喚き散らし会話を邪魔する足立を一喝しながら雪乃は更に言葉を紡ぐ。 「最後にはDIOに打ち勝ったじゃない。貴方なりに悩んで考えた「本物」なのでしょう? だからもう一度だけ信じるわ。それが私達の「本物」だから」 『馬鹿だな……本当に……』 「まあ貴方のせいで最悪の事態にはなってしまったけれど……ここで汚名挽回のチャンスということね」 『汚名は挽回じゃなくて返上するものらしいぜ』 「いえ、汚名挽回が実は正しいという解釈もあるのよ」 『そうかよ』 下らない雑談を挟んだが、それが良い効果を齎してくれたのか。ほんの少しだけ体が軽くなったような。 そんな清々しさを感じた。 右手は相変わらず痛い。正直なところ動くだけで泣き叫びたくなるほどに。鼻血だって全然止まらずジワジワと詰るような痛みが続く。 けれど何故だか、不思議と負ける気はしない。 「私の身体、好きにしてくれていいわ」 アヌビス神もだった。タスクと組んで足立と戦った頃もそうだが、何故か誰かに頼られているというプレッシャーが逆に自分を何よりも強くしているような気がした。 DIOに従っていたころとは違う。あの頃には絶大な安心感があったが、これほどの強さというものを感じられなかった。 何が違うのだろうか良く分からない。それでもこれが本物だというのなら、悪くないような気がした。 「だから、任せたわ。アヌビス神さん」 『ああ―――任せろ』 人格が変わる。肉体の所有権が移り替わり雪乃の体にアヌビス神の意識が乗り移った。 「呆れたな。どこまでもしぶとい連中だ」 影と電撃が鬩ぎ合う。影は露散し黒い粒子のようなものを巻き散らす。 電撃は弾けては消え、更なる次弾をエドワードと御坂の二人の掌を合わせることで装填する。 何度も繰り返した見慣れた光景だ。だが着実に御坂の身体は蝕まれていき、それを支えるエドワードの負担も増える。 お父様にとっては勝敗の決まった消化試合の一つに過ぎない。 「チッ、面倒な」 水流が唸りお父様へと叩きつけられる。 エドワードと御坂の相手をしている間に黒がブラックマリンを操作していた。 掌から冷気を放ち、水流の勢いを止め氷の柱を作り上げた。それを爆破させ、足立を撃破したように破片を黒と御坂たちの三人へと浴びせる。 御坂が砂鉄を操作し壁を練り上げ氷の破片は遮られる。黒は氷を紙一重で避けながら、破片に紛れ姿を晦ます。 僅かな刹那の後、お父様の死角から肉薄した黒はそのまま前進し突撃する。 「馬鹿が、また賢者の石に―――」 だが黒がお父様に触れようとしたその瞬間、手のひらサイズの水が黒のティバックから飛び出しお父様の胸元で破裂した。 冷気は間に合わず超高圧の水の爆弾はお父様の容れ物の上半身を容易に吹き飛ばす。 「工夫しろ、か」 後藤の戦いで何度か聞かされた台詞を口にする。 皮肉にも黒が食らった空裂眼刺驚がヒントになり編み出した即席の技だが、一度限りの不意打ちならば効果はあるらしい。 「行けるか御坂ッ!」 「分かってるわよ!!」 血まみれの御坂の掌と、鋼のエドワードの掌が合わさる。 磁力が生じ御坂のティバッグから鉄塊が飛び出す。御坂は拳を握りしめ鉄塊に狙いを定める。 だが血を流し壊れ続けた身体は御坂の意思に反しふらついてしまう。それをエドワードが渾身の限り支え抜く。 「打ち砕けええええええ!!!」 拳が触れ鉄塊が御坂美琴の二つ名であり必殺の超電磁砲(レールガン)へと変貌する。 音速を超え電磁を纏った雷の弾丸は再生を終えたお父様を捉え吹き飛ばす。 視界を司る上半身が消えていたが為に、お父様は回避が遅れレールガンに直撃した。 「……グ……ォオオオオオオオオオオオオ!!!」 シコウテイザーの内部よりもう一つの風穴が開きそこからレールガンは流星のごとく流れ去り消えていく。 残された軌道の後には赤い光を漏らしながら、散らばった肉片から再生するお父様の姿があった。 だが今までの再生と違い、非常に遅いペースでその野太い声で地の底から響くような声を上げ手を伸ばし続けている。 「限界だ……限界が来たんだ!」 エドワードの叫びに全員が反応する。だが真っ先に倒れたのはその声の主のエドワードと御坂だ。 錬金術の強引な行使に御坂の身体は悲鳴を上げ、同じく支えを失ったエドワードも腰から駆け巡る激痛により地べたに這いつくばる。 黒が友切包丁を握り、ブラックマリンを翳す。だがまた彼も深い傷を負っていた。 腹部が赤く滲み黒の表情が苦痛に歪む。 (に、逃げなくては……) その僅かな隙をお父様は見逃さない。 こんな戦いに勝利する必要などない。生きて再び力を付けてから、連中を始末すればいい。 それ以前にこの場で全員野垂れ死ぬかもしれない。 とにかく重要なのは生きることだ。ここから逃げ遂せることだ。 「逃がす……か」 血に触れブラックマリンで出血する血液を操作し止血しながら黒が後を追う。 お父様の身体は足の再生が追い付かず、這いずり回りながらその両腕でしか前へと進めない。 その後ろを、友切包丁を片手に追う黒の姿はまさに死神のようだった。 「こちらに……来るなああああああ!!!」 なけなしの賢者の石を使い無数の槍を錬成し飛ばす。 その間にお父様は必死に腕を動かし前へ進む。 黒はそれを打ち落としながら着実に距離を縮める。 「ッ!? ギャアアアアアアアアア!!!」 匍匐で進むお父様の腕にワイヤーが巻き付く。 黒は投擲したものだ。そこから電流が流れ、何度目かも分からない感電の痛みに悶絶する。 「このままお前を殺し尽くす」 冷徹に言い放たれた抹殺宣言にお父様は畏怖を感じ、恐れと恐怖で気が狂いそうになった。 無我夢中で手をジタバタさせ、タロットカードを出現させる。 「ぺ、ペルソナ!!!」 「くっ!」 ワイヤーが切断され突風に煽られ黒は壁際へと打ち付けられる。 足立から奪ったマガツイザナギは、主を変えながらもその禍々しさを見せ付けた。 「ッ!?」 だがマガツイザナギの左腕が一瞬にして切断される。 フィ―ドバックする痛みに、お父様は目を見開き忌々しく下手人を睨んだ。 アヌビス神を握った雪乃は更に肉薄しマガツイザナギへと切りかかる。 数回りも体格が上のマガツイザナギに対し、アヌビス神はその対格差を生かし俊敏に動きながら剣を合わせ立ち回る。 「遅い遅い! ブラッドレイのが百倍速えぞ!」 数度に渡る切り合いの中でマガツイザナギの剣に罅が入り、飛躍したアヌビス神の一閃により砕け散る。 そのまま脳天を勝ち割り、縦に一直線に伸びる剣線がマガツイザナギを一刀両断した。 お父様は頭を抑えながら焦りを募らせる。 「や、やめろ……」 「やめる? やめるわけねえだろうが!!」 辛うじて出した影の触手も全てが切り伏せられアヌビス神と雪乃は止まらない。 ブラッドレイとの戦い、アカメがタスクが握ったアヌビス神が学習した戦闘力は既にお父様を遥かに凌駕していた。 そうだ負けるはずがないのだ。 新一とミギーが繋ぎ、アカメとタスクが振るい続け。最後に雪乃が手にしたアヌビス神が負ける道理などない。 「俺“達”は絶対に……絶~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ対に負けなあああああいィィ」 袈裟掛けに一斬が刻まれる。 それが致命的だった。その一斬が引き金となってお父様の身体は瓦解していく。 その内に取り込んだ残り僅かな賢者の石が放出し、彼の内に収められた神すらもその身から抜ける。 「い、イザナミが……!! 神が……ば……かな……」 「これで―――『葬る!』」 雪乃とアヌビスの声が重なるようだった。 これが文字通り最後の一撃となるだろう。全ての元凶にして黒幕にこの血塗られた茶番劇の終止符を打つ。 「…………………あるではないか」 「え―――――」 その爆破は全てを飲み込んだ。 シコウテイザーは吹き飛び、中にいた6人はどうなったのか。 傍から見れば異様な現象だ。停止したシコウテイザーが内部から光り唐突に爆散したのだから。 自爆スイッチでも押したのだろうかと思うだろう。 「奴らを殺し尽くし、かつ石の消費を最小限に抑える究極の変換効率を誇る物質が」 シコウテイザーの瓦礫の中心で、お父様は今にも崩壊しそうな肉体を露にしながら不敵に笑っていた。 お父様だけではない。瓦礫を解け黒が起き上がり、御坂と雪乃はエドワードの錬成した壁に守られ足立は偶然助かったのか全員五体満足で息をしていた。 「何というしぶとさ……。しかしそれもここまでだ人間どもよ」 お父様の掌に何らかの物質が作られていく。 それが何なのか、科学に長けるエドワードでも皆目見当もつかない。 御坂も同じなのだろう。エドワードを横目で見ながら、初めて目にする物質を食い入るように見つめる。 「究極……変換効率……まさか?」 御坂の顔が青ざめる。出血多量から血の気が引いているのではない。 「反物質……1円玉……1グラムサイズの対消滅で電力換算で5000万キロワット。熱量換算で約180兆キロジュール。TNT爆薬換算で約43キロトンの対消滅を引き起こす」 「なっ―――」 御坂の呟きにエドワードは驚嘆し唖然とした。 これらの単位自体は聞き覚えがあるが、その数値がもはやあまりにも非現実的すぎる為にエドワードの天才的な頭脳ですら理解が追い付かない。 反物質。 それはある物質と比べて質量と角運動量が同じで電荷などの性質が全く逆である物質である。 これの最大の特徴は対消滅という現象を引き起こすことだ。 反物質と通常の物質が触れ合った時、衝突し消滅する現象。その際に引き起こされる爆破規模が、人間が常日頃から活用するエネルギーの変換とは比べ物にならない。 1円玉と同じ1グラムの反アルミニウムが対消滅した場合、東京都の総電力3時間分、広島に投下された原子爆弾の役2.9倍の爆破を引き起こす。 「最後の勝負といこう。生き残るのはホムンクルス(わたし)か人間(きさまら)か」 シコウテイザーが吹き飛んだだけで済んだのは、時間がないために1円玉以下のミクロサイズの反物質を錬成した為だ。 今度は違う。この島、この空間もろとも消し飛ぶほどの反物質を生成し対消滅を引き起こす。 ここにいる黒達は勿論、何処ぞで死にかけているタスクと杏子。そしてエンブリヲですら、この空間では本体が孤立し制限は消えたとはいえ不確定世界と入れ替わる不死の力はない。 この一撃で今いる人間どもは確実に滅びる。 「あいつ……自分ごと全員巻き添えにする気か……!!」 「止めて! あいつを!!!」 無論、それだけの規模の爆破が起きれば術者本人のお父様すら無事では済まない。事実シコウテイザーの爆破に巻き込まれ一度滅んでいるのだ。 (これは賭けだ) この爆破の中で、もしも賢者の石が僅かでも残ればその再生力で復活することが可能かもしれない。 だが決して分の良い賭けではない。いやむしろ自殺のようなものだ。 神の力はおろか本来のホムンクルスとしての力も残されておらず、仮に神の力があったとしても確実に生き残れるかは分からない。 故に最後の勝負とお父様は宣言した。すべてはこの一撃で決まるのだ。 人が生きるかホムンクルスが生きるか、全てが死に絶えるのか――― 「さらばだ―――鋼の錬金術師よ」 必ず生き延びて見せる。その強い覚悟は止まらない。 御坂とエドワードは身体の酷使で体の自由が利かず激痛で動けない。 雪乃はアヌビス神を握るが、爆破の際吹き飛ばされお父様と距離が離れた為、とてもではないが間に合わない。 そして足立は役に立たない。 「間に合うか……!!」 唯一お父様に近く、爆破の前に肉薄出来たのは黒一人だけだった。 彼は爆破の際に崩壊した瓦礫などが盾になり、立地条件も良かったために距離も離れずに済んだのだ。 黒はブラックマリンで水流を叩きつける。お父様は防御の姿勢も取らず攻撃を受けた。 だが掌の反物質だけは生成をやめない。 あと数秒でもあればお父様を殺しきれるだろう。しかし反物質はそのコンマ数秒前に完成する。 (物質変換しかない) 理屈の上なら物質変換で反物質を安定した物質に変えれば爆破は起きない。 だが黒にとってあまりにも未知な物質の上、コンディションも良くはなく、流星の欠片といった能力補助のアイテムすらない。 首輪解除の時のような特異な条件も満たせない黒が果たして物質変換に成功するか。 黒はお父様の眼前に迫り、掌を翳す。 やれるか否かではない。やらなければ死ぬのだ。例え無駄な足掻きだとしてもやらないよりはマシだ。 (無駄だ) お父様は己の成功を確信する。 反物質の生成の妨害は全て無意味に終わる。 「おい何とかしろって!! 何とかしてくれええええええ!!!!」 何も出来ない足立が口だけは達者に動かし大声で喚き散らす。 「くそっ……一か八か……」 「……結晶」 御坂は結晶体を取り出し、エドワードも手を合わせ激痛を誘発する腰に当てるが、それらの行為が終わるより先に終焉が全てを間引くだろう。 『お願い、間に合って』 「ああ、畜生! あと一太刀でも浴びせれりゃ終わりなのに!!」 雪乃の身体を全力で疾走させるアヌビス神。 しかしその距離はあまりにも今の雪乃達にとっては遠すぎる。 (戸塚……お前との約束、果たせそうに―――) ここまで散々破った末に、目の前で死なせてしまうだろう少女、彼女を助けてくれと願った少年の願いは聞き届けられそうにない。 最後まで抵抗しながらも黒は目を瞑り、彼に謝罪した。 一人のゲームクリエイターの夢想から始まり、イザナミとフラスコの中の小人の介入により実現されたバトルロワイアル。 64人と1人の見せしめの犠牲者の屍を積み重ね、今この瞬間全ての幕が閉じる。 この狂気の宴は閉演し残されるのは無か、神を切望する一つの異形か―――― 「る……破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)……だと……?」 だが、その歪んだ刀身の短刀は全ての幻想を白紙へ戻す。 裏切りの魔女メディアが持つ宝具、破戒すべき全ての符その真価はあらゆる魔術を“破戒”する。 それはフラスコの中の小人が操る錬金術も例外ではない。 胸元に突き立てられた短刀から反物質を生成していた錬成エネルギーが消滅し、錬成前の状態へと全てがリセットされていく。 「あ、ありえん……何故こんな……ものを……貴様が……!!」 これはこの場にある筈がない。あっていいものではない。 本来、この場にある筈のないものだ。メディアが関わる、とある聖杯戦争とも、それどころかギリシャ神話すらこの殺し合いとは何の因果も縁もない。 唯一メディアと同質の力を齎すクラスカードキャスターもこの参加者達の手に渡ってはいない。 「なんだこれは……?」 お父様にルールブレイカーを突き立てた黒ですら、これを予見してはいない。 ただ彼は物質変換を行う寸前に『アーチャー』のクラスカードを取り出し、僅かばかりの可能性にかけ物質変換の強化に充てようとしただけだった。 だがそのクラスカードが突如として光を浴び、変貌し破戒すべき全ての符へと姿を変えた。 『アーチャー』のクラスカード。その英霊(ちから)は本質は投影にある。 かつてイリヤが鳴上悠との戦いで発揮したように、あらゆる武器、宝具を贋作として投影することで、古今東西あらゆる英雄たちの力をその身に刻み込む贋作者の力。 「……そうか、お前の――」 そしてもう一つ、このカードの本来の主であり一体化していた少女クロエ・フォン・アインツベルンの存在がある。 エンブリヲが感づいていたように、彼女は願望機としての機能を備えていた。 イリヤに魔力を譲渡し消滅した彼女だが、短い期間とはいえ彼女の核として在り続けたクラスカードには僅かながらの願望機としての機能が受け継がれていた。 そして黒がクラスカードを握り、物質変換に利用するために能力を流したその瞬間、願望機としてクラスカードは起動し黒の望む願い。 この場合、お父様の企みを何としても阻止するという願望を、過程をすっ飛ばし結果だけ齎した。 その齎された結果がクラスカード『アーチャー』の限定展開(インクルード)。そしてこの場に最も適した宝具の投影、それが破戒すべき全ての符だった。 「い、嫌だ……私は戻りたく、ない……!」 何より重要なのは破戒すべき全ての符は魔力による契約や魔力によって生み出された生命体の魔力を前の状態に『リセット』する。 つまり、錬成のキャンセルはもとより錬金術により現世に生まれ落ちたお父様もそれは例外ではない。 お父様がリセットされたその先にあるもの――― 「お、がっ……おあああああああああ!!!」 人としたの形は崩れ、その声も壮年のものから電子音のような甲高いものへと変貌していく。 胸元の破戒すべき全ての符から黒い血液のような物質が溢れだし、そこへ飲まれようとするのをお父様は必死で堪え続ける。 「い、石ィ……石を寄越せええええ」 手だけを構築し飲み込まれる黒い渦の中から黒へと伸ばす。 「葬る!!」 しかし、その先に居たのはアヌビス神を持った雪乃とエドワードだった。 腕は切断され黒には届かない。 「邪魔よ。さっさと退場しなさいド三下」 更に電撃の槍が渦に吸い寄せられ、ダメ出しのように抵抗するお父様を痙攣させた。 結晶を使った御坂が再び電撃を練り上げて放ったものだ。 この一瞬が運命の分け目だった。痙攣し硬直したお父様は虚しく渦に絡めとられ抵抗も出来ず飲み干される。 「も、戻らん……あんば場所へ……二度と……」 それでもまだもがく。 もがきもがき続け、鋼の拳がその渦の中でもがくお父様へと命中する。 それが最後の止めとなった。 「生まれた場所へ帰れ フラスコの中の小人」 最後に掛けられた台詞まで同じだった。 「え……エドワード……え……っく……」 こうして神に挑んだ一つの異形の物語は二度目の終着を迎えた。 □ ――――また、ここか。 白い空間に巨大な扉、見覚えがる。 私が生まれた場所でそして二度と帰りたくもないあの場所だ。 そして、私の他に“奴”もいるのだろう。 「真理、か」 今の私と対照的な白い球体。それこそ私をあの先へ送り込んだ存在。 認めたくはないが真理と呼ばれるモノ。 「やはり、最後にはおまえか」 『当然だ。 思い上がらぬよう正しい絶望を与える。それが真理(わたし)だ』 「ふざけるな。思い上がるなよ、おまえ如きが私を見下ろすな!」 実に下らん。奴こそが真理こそが何も知らず思い上がる愚者ではないか。 私が見てきた1世界には奴程度遥かに凌駕する者たちが山ほどいた。 容易く改変する魔人と呼ばれる存在があった。殺し合いにも呼ばれた生死を超越した調律者なる存在があった。 真理など超えた超越者たちだ。 その時私は如何に狭い世界に囚われていたか知ったのだ。 「真理だと? 貴様の強いるルールなどに縛られる私ではない。 このちっぽけな世界に頂つ貴様など、所詮矮小な存在にすぎん。私は更にその上を行く」 だからこそ作り上げたのだ。 私だけの世界を私だけの真理(ルール)を。 そして成り上がりる筈だった。イザナミとイザナギによる神生みの伝承に見立てた儀式により何物をも超え全てを知る者に。 『まだ自分を信じぬか。大馬鹿者め』 扉が開く、奴が私を送り込もうと準備しているのだろう。 構わん。何度でも送り込むがいい。 また何度でも、私は這いあがってみせる。 今回は私の敗北だ。だがまだ次がある。次こそは私は神になる。 『勘違いしていないか』 「なに?」 『おまえに“戻る”場所などあると思っていたのか?』 何を言っている……? 何の話だ。 『忘れたのか? おまえが定めたこの場の真理(ルール)ではなかったか』 奴は唇を釣り上げて言う。 何だ……どういうことだこれは……。 身体が冷たい? 今までに感じたことのない喪失感と虚無感、何より恐怖が私を襲う。 「や、やめろ……なんだ……何だというのだこれは!!」 『敗者には死を―――それがバトルロワイアルなのだろう?』 死……? 死!? 死だと……この私が死ぬ? 「い、やだ……いやだ……き、消えていく……私が……」 球体上の私の身体は半分ほどまで消えていた。 「死にたく……ない……まだ死にたくない……。助けろ……だ、誰か……助けてくれ!!」 ラース! プライド! エンヴィー! 広川! アンバー! 誰でもいい、誰か……誰か!! 『誰も来ん。それが貴様が望んだ存在なのだからな』 ここで終わるのか、私は……何も……何も成せぬまま…… 「私は……生きたい……助けて……誰か……」 どうしてこうなる……何故なんだ。 『お前は答えを知っていた。二度も好機はあった。 なのに何故気付かぬ。終わりだ、もう次はない』 私はどうすればよかったのだ? 「―――助けて、ホーエンハイム…………」 【フラスコの中の小人@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】死亡 □ 「大丈夫なのか?」 黒は横のエドワードに視線を向けて声を掛ける。 腰をやられて動きに支障があった筈だが、最後に飛び込んできてあれだけ動けたのが不思議なくらいだ。 「エンブリヲのあのヘンテコな技がヒントになったんだよ。 あいつみたいに体の感度を弄って、痛覚を腰の辺りだけ遮断した」 腰の痛覚を遮断したことで体の自由は比較的に効きやすくなった。 後はもう黒の知る通りだ。 「あまり無理はするな。場所が場所だしな」 そう言ってから黒は少し顔に穏やかさが戻り、小さく笑ってしまった。 自分も含めて全員がそれなりにボロボロだ。中々に痛めつけられたものだと思う。 「勝ったぜ……みんな」 エドワードのその呟きは誰に送られたものか。 それに応えるように傷だらけの杏子とタスク、そして彼らに肩を貸してこちらぬ向かってくるヒースクリフ。 その後に続く猫と愉快な動物たちがやってきた。 「ようエド……ボロボロだな本当」 「きょ、杏子……? お前……なんか角生えてんぞ」 見れば杏子に角が生えていた。 「角ぐらい何だっていいだろ」 「良いのかしら……まあ削れば目立たないか」 物珍しそうに角を眺めて雪乃は腰を下ろす。 全身が痛い、それに重い。こんなに運動したのは生まれて初めてだろう。 「でも、良かったよ。何だかんだで全員無事で」 「猫の言う通りだな。ここにいる奴ら、全員しぶといわ」 タスクの言葉に杏子もまた笑って応える。 二人ともヒースクリフの肩から離れて、そのまま寝っ転がる。 とにかく一段落付いたのだ。僅かな休息が欲しかった。 「ありがとな、クロ」 誰にも聞こえない声で黒は呟き、お父様のいた場所に落ちているアーチャーのカードを拾う。 試しに先のようにもう一度カードに能力を込めてみたが、何の反応もなかった。 願望を叶えた影響で、願望機として残された機能が全て消失したのだろうか。 黒には詳しいことは分からない。ただ最後に力を貸してくれたのはクロで、彼女の助太刀がなければ死んでいた。 「俺は助けられてばかりだな」 そして全員が恩返しも出来ないところの遠い場所にいる。 「まだだ」 ヒースクリフの声が響いた。 「まだ殺し合い(ゲーム)は終結していない」 彼の紡ぐ言葉は冷徹にして残酷だった。 「流石、このゲーム作っただけはあるよな。悪いけど私はこいつボコるけど邪魔するなよ」 「どういう意味だ。ヒースクリフ」 「フラスコの中の小人は退場した。だが、聖杯はまだ残っている。 この場に残された私を除く8人の参加者の内、誰が所有者として相応しいか。見極めようとしている」 「言ってる意味が分からない。ヒースクリフさん、貴方は何を―――」 「残る参加者を全て殺せ。そうすれば願いは叶う……ということだよ」 それは最悪の一言だった。 そのたった一言に込められた力はヒースクリフ本人にすら計り知れないほど。 「マガツイザナギ!!」 足立の傍からマガツイザナギが姿を現す。 「ハハッ……戻った……ペルソナが戻った!!」 先ほどまで激痛を忘れたように、血だらけの身体を引き摺りながら足立は再び立つ。 目には狂気に満ちた空虚な炎が宿っていた。 「馴れ合いも終わりだよ……ハハ……もう終わりだよお前ら全員!!」 「足立、もう殺し合う必要はないだろ! 帰れるんだよ! 恐らく、あの地獄門からお父様の玉座まで行って扉に辿り着くはずだ」 「はあ? ぶああああああああか!! 俺は全人類をシャドウにするのが目的なんだよ! 特にお前らみたいなクソガキをな! このまま帰ってもどうせ刑務所で檻のなかさ。 最後に好き勝手やってやるよ!!!」 「お前あんだけ生きて帰りたがってただろ!」 足立はいざ生還するというその直前に自分が置かれた現実に気付いていた。 そう彼はこの地で何をしようとも、あの元の世界で鳴上悠に敗北した事実に。 ―――現実が最低なのはお前だけじゃない ―――現実と向き合え! 奴に負けた世界。 恐らくだが、全人類のシャドウ化も既に食い止められているのだろう。 仮に帰って奴を完全に抹殺したとして、それで残ったガキどもを全員相手にする。 詰んでいる。 ここにきて足立は自らの帰還後の末路を思い、そして恐れだしていた。 捕まりたくない。人殺しとて豚箱にぶち込まれるなど真っ平だ。 「そうね……馴れ合いは終わりよね。あの糞親父をぶっ殺したんだから」 エドワードの背後で御坂が立ち上がる。 「御坂……やめろ。死者の蘇生なんて」 「お父様ってのは、DIOとみくって娘を生き返らせてたわよ? これは死人を蘇らせた貴重な実例よね」 それに対しエドワードは反論できなかった。 少なくともこの場に於いて死んだ者に限っては、死者蘇生も可能なのではという仮説をエドワードも打ち立てる程だ。 「だが対価がいる。DIOもみくも完全な蘇生ではなかった。生半可な蘇生は対象者を苦しめるだけだ」 「だからアンタに死んでもらうのよ。一人につき一人差し出せば十分な対価じゃない?」 「やはり殺すべきだったな」 黒が友切包丁を御坂に向ける。 その殺意に手心は欠片もない。 生かす理由は何処にもないのだ。 例え雪乃やエドワードが止めようとも、黒は確実に御坂を殺めるだろう。 「なっ―――」 だが次の瞬間、雷光が瞬く。それはまるで閃光弾のように。 御坂は電撃の光を可能な限り発光させこの場にいる全員の視界を潰した。 御坂も現状の不利は理解しているのだ。この人数差で戦うのは得策ではないと。 だからこそ、一時的な撤退を選択した。 「こっちも忘れてんじゃねえよ!」 御坂が消え視界が戻った時には入れ替わるようにマガツイザナギの剣が振るわれた。 「―――インクルシオ」 轟音と共にマガツイザナギが殴り飛ばされる。 竜の鎧を纏った杏子はそのまま拳を振り戻し、足立本体へと突撃した。 足立は舌打ちしながら、ペルソナをチェンジさせイザナギを手前に召喚し杏子を迎え撃つ。 「この雌ガキッ!」 「チッ、一体増えてんじゃねえか!!」 インクルシオの拳とイザナギの剣は僅かに拮抗し、互いに後退する。 「行きなエド! 足立は私が何とかする!」 「杏子!?」 「大丈夫だ。こいつをとっちめたらすぐ後を追うよ……その後でタスクの喫茶店で祝勝会、だろ?」 杏子を案じたエドワードだが顔に穏やかさが戻り、小さく笑う。 「そうだったな……。ここは任せるぜ。絶対に追って来いよ」 エドワード達は踵を返しその場を後にする。 「邪魔すんじゃねえよ……お前は俺側の人間だろうがよッ!」 足立は激昂する。 あの忌々しい魔法少女の敵に。 「見てりゃ分かるんだよ。エドワードに憧れてんだろ? でもなァ、てめえはどうせ屑なんだよ! 承太郎から聞いたよ。殺し合いに乗ってた魔法少女ってお前だろうが。 え? 何かい。あの高潔なエドワード様に着いていけば私の罪も清算されるわぁー。なんて思ってんだろ!?」 「はっ?」 杏子は可笑しくなって吹き出した。 正直な話、少し当たってる部分はある。 最後に愛と勇気が勝つストーリーを引き寄せるエドワードに少し憧れていた。 そんな魔法少女になりたかった自分のなりたい姿のようで――― 「はっきり言ってやるよ。お前のやったことは消えねえよ。 お前のせいで、皆死んだんだよ。この屑が」 「そんなことは分かってるさ」 「あ?」 「アンタさ、勘違いしてるよ。別に私はエドワードの為に残ったわけじゃない。 たまたま残るのが“都合が良かった”だけなんだ」 足立は杏子から放たれた威圧感に一瞬たじろぐ。 気付けば一歩後ずさっていた。 「エドがいると都合が悪いんだよね……アイツさ人殺す時、超うぜーから」 「なんだって?」 「もうここまで言えば分かるだろ? 私はね、殺し合いなんか関係ない。元々アンタを絶対にここで殺す気だったんだよ」 年齢こそ足立の一回りしたの杏子だが、その殺気殺意は足立に畏怖を抱かせるのに十分だった。 「まどかとほむらの仇……あんな話聞かされて頭にこない奴はいないからね。 本当ならさやかの仇のエスデスや色々やらかしてくれた卯月というのも殴りたかったけど、もう死んだ後だし、そいつらの分まで付き合ってもらおうかな」 ――まあ私にそんな資格はないかもしれないけど。 だが美樹さやかは違うのだろう。 彼女がここでどんなことをしたか、正直なとこあの精神状態を考えると殺し合いに乗ってもおかしくない。 エドワード曰く最後には味方だったらしいが、その過程がかなり怪しい。 人のことは言えないが。 それでも、友があんな目に合わされて頭に来ない筈がない。怒る権利ぐらいはある。 だから、杏子が代わりに足立をぶっ飛ばす。それがせめてもの手向けだ。 「ふざけんな! あの糞女達の分まで尻ぬぐいだ? 御免だよ!」 ここにきて奴らの名を聞くとは思わなかった。 実に苛立つムカつく名前だ。こうなればストレス発散で聖杯とやらで奴らを蘇らせてから、服従させるというのも面白いかもしれない。 エスデスの身体だけは最高だったし、卯月も見た目は悪くない――― (……いや、それじゃエンブリヲと同じじゃ) 一瞬頭をよぎった煩悩を即座に否定した。 「まっ、それにアンタやっぱ気に入らないからさ……ここで殺すわ。本当にクッソうぜえ……」 「なーにが魔法少女だ。薄汚い本性現しやがってよ」 イザナギを消しもう一度タロットカードを握りつぶす。 カッ 「ペルソナッ!!」 やはり、こちらの方が使いやすい。 マガツイザナギは足立の声に応えるように漆黒と赤の中から現れる。 その感情のない瞳が杏子を見下ろした。 「教えてやるよ。俺は世界に選ばれたんだ……だから、この俺が負けるはずがないってなァ!!」 「…………違うね。世界は誰かを選んだりなんかしない。だから、みんな必死で足掻きながら生きてんだ」 災厄を孕む禍津と赤い幻惑を纏う竜の鎧が激突した。 【G-7/二日目/日中】 【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、顔面打撲、強い決心と開き直り、左目負傷 、インクルシオの侵食(中)、首輪解除 [装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る! [道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0から4(内多くても三つはセリューが確認済み) 、 南ことりの、浦上、ブラッドレイ、穂乃果、ウェイブの首輪。 音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(2/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHOPASS‐サイコパス‐、 カゲミツG4@ソードアート・オンライン 新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』、練習着、カマクラ@俺ガイル タスクの首輪の考察が書かれた紙 [思考・行動] 基本方針:生きて帰ってかタスクの喫茶店にみんなともう一度集まる。 0:足立を殺す。 1:後悔はもうしない。これから先は自分の好きにやる。 2:0を終わらせてからエドの後を追う。 [備考] ※参戦時期は第7話終了直後からです。 ※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりました。本人も自覚済みです。 【足立透@PERSONA4】 [状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、腹部に傷、左太腿に裂傷(小) 爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血 、顔面に殴られ跡、苛立ち、後悔、怒り、片足負傷、首輪解除 悠殺害からの現実逃避、卯月と未央に対する嫌悪感、殺し合いからの帰還後の現実に対する恐怖と現実逃避、逮捕への恐れ 全身に刺し傷、腕に銃傷、血だらけ [装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、 [道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、 警察手帳@元からの所持品 [思考] 基本:全人類をシャドウにする。 0:杏子を殺す。。 1:生還して鳴上悠(足立の時間軸の)を今度こそ殺す。俺はまだ鳴上悠を殺してない。殺してないんだよォ! 2:捕まりたくない。 [備考] ※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。 ※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。 ※イザナギが使用可能になりました。 □ 「一つだけ伝えておこう」 走るエドワード達を引き留め、ヒースクリフが口を開いた。 「何かしら? 貴方の口は公害のようなもので永遠に閉じていてほしいのだけれど」 「聖杯を破壊しろ。そうすれば殺し合う理由はなくなり、君たちの勝ちだ」 以外にもそれは殺し合いに乗らない者達への勝利条件だった。 ヒースクリフの話を聞き、少し思いに耽った雪乃は提案する。 「……ねえエルリック君、このまま私たちが逃げるというのはどうかしら」 逃げるという言葉の響きはあまり良くないが、雪乃を見るに臆病風に吹かれたという訳ではないらしい。 「私たちが死ななければ、聖杯というのも使えないんじゃないかしら。ヒースクリフさんの口ぶりから考えてもそういうことでしょう。 なら元の世界に帰れば……」 「俺もそれは考えた。けど、これだけ複数の世界を巻き込んだんだ。多分だけどお父様は異世界そのものを繋げようとしていたはずだ。 聖杯ってのも、本来はお父様が使うべき代物で、それを動かす燃料はその異世界の人間たち、なんじゃないか?」 規模は違えど、お父様も錬金術師の一人だ。 であるならば、如何な異世界の技量を取り入れようともその中心には錬金術がある。 そこまで分かれば何を繋ぐか、何処に錬成陣を刻むかを考えた時、必然と異世界という単語が頭に浮かんだ。 「その通りだ。仮に君たちが逃げても御坂は聖杯を起動して、異世界の人間を石へと変え上条当麻を始めとし仲間たちを蘇らせるだろう。 当然、足立もそうするだろうね」 「随分楽観的ね。自分は死なないとでも思っているのかしら」 「いや私は既に茅場という人間は死んでいる。ここの私はアバターに過ぎない」 「何がしたいんだお前は」 「私は茅場晶彦という残骸のようなものだ。だがそれでも私はゲームマスターとして、最後までゲームの行方を見届けたいだけだよ」 黒は腕を伸ばしヒースクリフの胸倉を掴んだ。 「俺はお前たちの駒じゃない」 「当然だ。そんなもの私は要らない」 「神にでもなったつもりか? あのお父様とやらより質が悪い」 突き放すように黒はヒースクリフから手を離した。 「行くぞ。こいつを見てると反吐が出そうだ」 「いや俺はここで皆と別れる」 出発を促す黒にタスクは別れを切り出した。 「エンブリヲが気になる。きっとアイツも共通の敵が倒れたことで俺達を襲いに来るはずだ」 言われてから気づく。 確かに、エンブリヲはもうこちらに協力する義理はない。 今一番何をしでかすか分からないのはあの男だ。 「ヒステリカは、あのお父様のロボットとの戦いで随分破損した。多分今なら倒せるかもしれない」 「けど……一人じゃ無理よ」 「ごめん……これは俺の我が儘だ。アイツと決着をつけさせてくれ」 タスクにとってエンブリヲは両親の仇だ。 必ずこの手で滅ぼすと決めた相手であり、何よりアンジュの夫を名乗るのが許せない。 「必ず、また杏子と追いかけてくるよ……。それで喫茶アンジュで宴会だ」 「タスクさん、これ」 雪乃はアヌビス神をタスクに差し出した。 タスクにはろくな武器がなくナイフ一本程度の装備だ。 雪乃はタスクの身を案じ、アヌビス神を持たせようとする。 「……いやこれは君が持っていてくれ。その方がきっといいと思う」 「でも……」 「ならこれを持っていけ」 黒が友切包丁を取り出し柄をタスクに向けた。 「え、でも……」 「見た目と違って良いナイフだ。役に立つ。 それに俺にはまだ武器がある」 そう言って黒はコートの下のナイフを見せる。 タスクは納得し安心したように友切包丁を受け取った。 「ありがとう……」 確かにしっかりとした重みで、黒があれだけ振るい続けても刃こぼれ一つしないのは、とてつもない業物である証なのだろう。 「そうだエド……君の爆弾を良かったら譲ってくれないかな……出来たらちゃんとした殺傷力のある爆弾に戻してほしいけど」 「パイプ爆弾の事か?」 「うん……万が一、俺が倒れた時の為に先に言っておく。エンブリヲはヒステリカと生身の本体を両方倒すことで絶命する。 君の場合、機体を破壊してからエンブリヲを拘束すれば……俺としてはアイツだけは殺したほうが良いと思うけど」 「……分かった」 エドワードはタスクの話を聞き複雑な心境だった。 恐らくタスクはエンブリヲを殺すのだろう。可能ならば、それを止めたいのも事実だ。 だが、それはタスクのこれまでの全ての生涯を否定しかねない。 「持ってけ二つともあと、俺が作った二つ合わせて四つ」 「君の分は?」 「学院で集めたガラクタで、あと丁度四つ作ってある。万が一の時はそれで何とかする」 エドワードはパイプ爆弾の中身を模倣しガラクタを錬成し爆弾を作っていた。 全く便利な能力だと思いながら、エドワードに感謝しタスクは爆弾をしまう。 ラグナメイルがない自分には、これがヒステリカを破壊する唯一の鍵だ。 使いどころを誤ってはいけない。 「この指輪もあのロボット相手なら役立つかもしれない」 更に黒はブラックマリンを外しタスクに手渡す。 タスクは試しに指に嵌めてみるが水流の操作ができない。 どうやら、相性は良くないらしい。 「俺には使えないみたいです……これは黒さんが持っていてください」 「……そうか。気を付けて行け」 「きっと勝ってね……あの変態には粛清が必要よ」 「ははっ……本当にその通りかも……うん、行ってくるよ」 タスクの背中が徐々に小さくなる。 その背中が見えなくなる前にエドワードも駆け出した。 (まだ……腰は大丈夫か……) 走りながらエドワードは腰の様子を気にする。 エドワードは腰の痛覚を遮断はした。だが痛覚は人が生きるのに必要な信号であり、危険を教える赤信号でもある。 つまるとこそれはエドワードの傷は癒えておらず、体は無理な動きはするなと警告しているに等しい。 (頼むぜ……何とか持ちこたえてくれ) 背骨には至らないものの腰を切られたというのは人間としてかなりの致命打だ。 御坂からの治療を受けたものの、安静にすべきで本来は歩くことも出来ない激痛がある筈なのだ。 エドワードとしてもまるで生きた心地がしない。この時限爆弾がいつ爆破してエドワードに降りかかるか分からないのだから。 この先待ち受けているであろう、御坂との戦いまではせめて――― (もうすぐだな) 身体にノイズが走り残された時間が僅かであると、ヒースクリフは感じていた。 エンブリヲに肉体の再構築を頼んだ時点で分かってはいたことだ。 奴は不十分な肉体をわざと作るであろうことは。エンブリヲはヒースクリフに妬みのような憎しみを抱いているのだから。 それを理解したうえで、敢えてヒースクリフはゲームの攻略を優先しアンバーの交渉の裏で手を組んだ。 (だがこのゲームを見届け、このゲームと共に心中できる。悪いものではないかもしれないな) ヒースクリフはこのゲームが自身の作った中で最高傑作であると確信していた。 SAO程の規模や世界観はないが、このゲームはヒースクリフの作りたかったものを現実に再現しつくしている。 彼が夢見た異世界はこの空間に嫌というほど詰まっている。 「おい、良いのか? あいつら先行ってるぞ?」 立ち止まり思案に耽るヒースクリフに猫が声を掛ける。 「いや、私は後からゆっくり追おう。彼らには嫌われてるようだしね」 このゲームの結末を、脱落者であり最早傍観者たる自分が関わることは避けたかった。 ヒースクリフはもうどうあってもこの物語の主役にはなれない。 「そ、そうか……」 いまいちヒースクリフを理解しきれない猫はカマクラとエカテリーナちゃんを率いて首をかしげながら三人の後を追う。 その光景は何処か殺し合いに似合わない、コミカルな場面だ。 「……そういえば、もうアインクラッドには入れるんだったな」 ふと思い出したのがアインクラッドの存在だった。電子世界に生み出し現実に再現したあの場所。 恐らくゲームが終幕を迎えた時、この世界は崩壊するはずだ。その最期の時を過ごすのならやはりあそこがいい。 【F-5/二日目/日中】 【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 [状態]:疲労(大)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、腹部に刺し傷(処置済み)、戸塚とイリヤと銀に対して罪悪感(超極大)、首輪解除 銀を喪ったショック(超極大)、飲酒欲求(克服)、生きる意志、腹部に重傷 [装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×1 傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子、黒のナイフ×10@DTB(銀の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る [道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation 、大量の水、クラスカード『アーチャー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ [思考] 基本:殺し合いから脱出する。 0:聖杯とやらを壊す。 1:御坂を追う。 2:銀……。 【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、黒子に全て任せた事への罪悪感と後悔、強い決意 、首輪解除、腰に深い損傷(痛覚遮断済み) [装備]:無し [道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0~2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、 エドの作ったパイプ爆弾×4学院で集めた大量のガラクタ@現地調達。 [思考] 基本:生還してタスクの喫茶店にもう一度皆で集まる。 0:聖杯を壊し、御坂を倒す。 1:大佐……。 ※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。 【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】 [状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小) 、首輪解除、右手粉砕骨折、顔面強打 [装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率、アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、ナオミのスーツ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 [道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0~1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣 ビタミン剤、毒入りペットボトル(少量) [思考] 基本方針:殺し合いからの脱出してタスクの喫茶店にもう一度皆で集まる。 1:自分の責任として御坂を何とかする。 2:もう、立ち止まらない。 【ヒースクリフ(アバター)@ソードアートオンライン】 [状態]:HP25%、異能に対する高揚感と興味、真実に対する薄ら笑い [装備]:ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン [道具]:なし [思考] 基本:ゲームの創造主としてゲームを最後まで見届ける 0:最後はアインクラッドと心中する。 [備考] ※数時間後に消滅します。 【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 [道具]カマクラ@俺ガイル、エカテリーナちゃん@レールガン [思考] 基本:生還する。 0:エドと共に行動し、御坂美琴に対処する。 □ 「……不味いわね、これ……」 血が噴き出し視界がぼやける様を見ながら御坂は呟く。 おまけに結晶を使ったせいで能力の拒絶反応が起き、御坂の全身は壊れていない個所の方が少ないほどだ。 「でも……もう一歩……あと少しなのよ」 結晶はまだ残っている。あと残ったあの人数を処理するくらいならば、恐らくまだ体も持つはずだ。 今は撤退し、エンブリヲや足立も暴れているだろうからそこで分散したところを叩く。特にエドワードはこの手で全ての因縁を清算する。 「何……あのチビに拘ってんだろ……変なの」 こういう出会い方をしたからこそ敵同士になってしまったが、もし違う出会い方なら多分友達くらいにはなれたかもしれない。 「でも……ここまでよエド……私はアンタを殺す……アンタも―――」 きっと、彼は殺さない覚悟で挑むのだろう。 何度やっても懲りない男だ。 だから今度こそ、その覚悟と共にエドワードに引導を渡す。 「来なさいエド……最後の決着よ」 【F-2/二日目/日中】 【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】 [状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)全身に刺し傷、右耳欠損、深い悲しみ 、人殺しと進み続ける決意 力への渇望、足立への同属嫌悪(大) 四肢欠損、首輪解除 寿命半減、錬金術使用に対する反動(絶大)、能力体結晶微量使用によるダメージ(大)、全身血だらけ [装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×1、能力体結晶@とある科学の超電磁砲 [道具]:基本支給品一式、大量の鉄塊 [思考] 基本:黒子も上条も、皆を取り戻す為に優勝する。 0:残った生存者を殺す [備考] ※参戦時期は不明。 ※電池切れですが能力結晶体で無理やり電撃を引き出しています。 □ 「アンジュ、もうすぐだよ。君はもうすぐ目を覚ます」 十字架に貼り付けにされたかのように、全裸のアンジュが宙に浮かんでいた。 これは後藤が食い散らしたアンジュの血や肉片から、エンブリヲが蘇生させたアンジュの肉体だ。 しかし魂だけが取り戻せず、完全な蘇生には至らなかったが。お父様からアンジュの魂をイリヤの心臓に奪還したことで最後のピースは揃った。 「さて、このゲームも終局だな」 フラスコの中の小人は倒れた。残る参加者たちが如何な行動をとるか、まあ大体想像は付くがエンブリヲには興味のないことだ。 何せ全てを無に帰すつもりなのだから。 エンブリヲはイリヤの心臓をアンジュの胸へと手刀でねじ込む。 あとは心臓がアンジュへ適合しすれば千年待ち続けた天使は目を覚まし、調律者と結ばれ新世界が築かれる。 ヒステリカの修復も順調だ。この場に呼ばれた者たちの残された時間は少ない。 「そうだアンジュ……君との結婚式、婚約指輪としてこれを送ろうと思う」 取り出したのは彼に支給されたヴィルキスの指輪だった。 ヴィルキス自体はお父様が破壊した可能性が高い、恐らくは外れ枠として紛れ込ませていたのだろう。 だが二人が結ばれるには、これ以上ない婚約指輪には違いない。 「そしてイリヤ、クロエ、彩加、雪乃……凛……皆待っていてくれ、すぐに私が迎えに行く」 アンジュを第一夫人とし、第二夫人渋谷凛、第三夫人雪乃、第四夫人イリヤ、第五夫人クロエ、第六夫人戸塚、第七夫人美樹さy―――いやあれは要らない。 とくにさやかは声が実に不快だ。サリアに非常によく似ている。 賢くもないし美しくもない、あんな女に僅かでも触れたのは本当の当時の気の迷いだったのだろう。 かわりに第七夫人は御坂が良い。実のところ、エンブリヲは御坂も気に入っていた。 男の為に戦っているのが癪だが、すぐに忘れさせてやろう。 「彼女たち全員を私の胸で受け止めよう……フフフッ……」 「エンブリヲ!!」 しかし無粋な邪魔者は何時だって存在するものだ。 「フン、やはり来たか……まあいい。無粋な猿には制裁が必要だな」 「アンジュ……? エンブリヲ……!」 「安心しろ。アンジュは私のものだ。新世界を築くイヴとなるのだよ」 タスクは友切包丁を抜き、エンブリヲは銃を構える。 「そういえば、ヒルダの口ぶりから未来の私は倒されたらしいが……貴様が殺めたのか?」 「ああ、お前を真っ二つに切り裂いてやったよ……そして今もう一度お前を殺す!!」 「ならば、仇を討たせてもらおう。未来の私のな!」 銃声が鳴り響き調律者と騎士の一撃が交差した。 それを見守るのは、未だ目覚めぬ一糸纏わぬ魂のない天使のみ。 果たして天使の祝福を最後に手にするのは誰か。 それは神のみぞ―――否、神すらも知らない。 【E-5/二日目/日中】 【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】 [状態]:疲労(絶大)、ダメージ(絶大) 、アンジュと狡噛の死のショック(中)、狡噛の死に対する自責の念(中)、首輪解除 [装備]:刃の予備@マスタング製×1、友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、パイプ爆弾×2@魔法少女まどか☆マギカ、エドが作ったパイプ爆弾×2 [道具]:なし [思考・行動] 基本方針:生還しアンジュ喫茶でもう一度皆と集まる。 0:アンジュの騎士としてエンブリヲを討つ。 【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷(完全復活)、電撃のダメージ(小)、参加者への失望 、穂乃果への失望、主催者とヒースクリフに対する怒り 、首輪解除 [装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン、ヒステリカ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(修復率80%程) [道具]:基本支給品×2 クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、ガイアファンデーション@アカメが斬る! 各世界の書籍×5、基本支給品×2 ヴィルキスの指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、アンジュの肉体(全裸、イリヤの心臓入り、エンブリヲパワーで浮遊中) [思考] 基本方針:アンジュを蘇らせる。 0:タスクを始末する。 1:ハーレムを作る。(候補はアンジュ、渋谷凛、イリヤ、クロ、戸塚、御坂、雪乃) 2:アンジュを蘇生させ選ばれし女性たちを蘇らせた後、この世界をヒステリカによって抹消する。 時系列順で読む Back ラストゲーム Next 番外編:off stage 投下順で読む Back ラストゲーム Next 番外編:off stage
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211 ゲームセット(前編) ◆ENH3iGRX0Y 「イリヤちゃんはそんなことを……」 黒の話を聞きながら、雪乃は後悔に苛まれていた。 最初にイリヤと出会った時、雪乃はその違和感に気づいていた。それが、後にあんな惨劇に変わるとはあの頃は夢にも思わない。 雪乃はあまりにも軽率だった自分を恨めしく思う。 あの時点なら、彼女を救うことが出来たはずだった。アカメを説得させて無理やりにでも同行させれば―― 「お前のせいじゃない。けじめをつけれなかった、俺の責任だ」 雪乃とイリヤの邂逅はほんの数分間の出来事であったが、黒とイリヤは違う。 戸塚から託され、何よりかつての自分を重ねてしまっていた黒にとっては、あれは己自身でもあった。 結局銀を殺めたのも、穂乃果の友達を死なせ、連鎖的にその穂乃果や未央もあの世に引きずり落としたのも、全ては黒の迷いと弱さが齎してしまったもの。 全てが後手であり、迷いを吹っ切た時には手にする物など何もなかった。 そんな自分を嘲笑わずにはいられない。 「どうして、こんなことになってしまったのかしらね」 いつもそうだ。全てが悪い方向に噛み合ってしまっているような気がする。 本当に簡単で些細なことで、そんな最悪は避けられたはずなのに。 あの時も、あの場面でも――ずっと同じことを繰り返し続けてしまっている。 「あの娘はただ、友達を想っていただけなのに」 正直、羨ましいとさえ思っていた。"こう"できるなら、自分たちはどれほど楽だったかと。あの時も同じ事を思い、そして今も。 「へ、黒か……? やっと見つけた!!」 陰惨な空気を壊すようにコミカルで渋い声が響いた。 へとへとになりながら、蛇を連れてゼェゼェ息を荒げた猫がようやく念願の黒を見つけて、歓喜に沸いている。 「良かった、早速だが俺を抱っこしてくれ」 「……その蛇は光子のペットか」 ふてぶてしく猫は雪乃の元に駆け寄ると、死んだように足元に持たれかける。 そして頬で足首を擦るが、悪くない。きゅっと細身でありながらしっかりと肉付きは良く、骨が出張りすぎて無骨という訳でもない。 見た目も触れ心地も一級品だ。そのまま、ネコ特有の甘えた鳴き声をあげて雪乃に可愛いアピールを続けた。 生粋のネコ好きである雪乃がその誘惑に勝てるわけもなく、落ち込んだ自分を慰めるように猫を拾い上げ胸に抱いた。 こうして猫は安心して楽に移動できる足を手に入れ、満足だった。 一方エカテリーナちゃんは、嫌々ながら黒に拾われティバックに放り込まれた。 「猫、お前死んだんじゃ」 「組織のバックアップから復活したって蘇芳の件の前に聞いたろ?」 「やはり、お前は俺の知らない未来から来たのか」 今更、時系列の違いで話を拗らせる事もない。黒はクロエが言っていた時系列が違うという仮説を元に、猫はジョセフや花京院等の話を元に同じ結論へと辿りつく。 「そうか、じゃあお前はイザナミの事も知らないのか」 「名前ぐらいは、光子が蘇芳から聞いたと言っていたが要領を得ない説明だったな」 「銀のことなんだが……これは話していいのか?」 猫は蘇芳の旅と黒と銀の結末について、その一部始終を目にした生き証人もとい証猫だ。 しかし、いざ自分の知り合いが過去から来たと分かると猫はその未来の情報を話すべきか迷った。 ありがちだが、未来を知った過去の人物はそれと同じ未来を歩もうとはせず、結果的に未来が変わるタイムパラドックスが発生するのではと危惧したのだ。 それはそれで良いが、バタフライ現象のごとく周り巡って世界が崩壊するという、とんでもない展開になったりでもすれば笑うしかない。 「もう遅いと思うわ、猫さん。タイムパラドックスが起こるかは考えるだけ無駄よ。 これだけ時間軸を乱してるのだもの。私も詳しくは分からないけれど、この程度は些細なことじゃないかしら」 雪乃の指摘通り、確かに今更かもしれない。 銀も既に死んでいるのだから、未来の心配をしてもしょうがない。というよりは、考えたところで今から対策ができる訳でもない。 出来れば猫が帰還したときに地球が猿の惑星になっているとか、そんなSF映画のバッドエンドみたいにならないことを祈るばかりだ。 「俺も、ほんの一部しか見てない。だから、謎はかなり残ると思うが」 銀はイザナミとして覚醒し、黒はそれを殺すために動き、ゲートの中で2人は復活したBK201の星の輝きと共に消えた。 かなり掻い摘んではいたが、猫の語る内容は光子の話より鮮明ですんなり頭に入り込んだ。 「だが……言い方は悪いが、銀は死んだんだろ? ……少なくとも俺の知る未来みたいに、イザナミが目覚めることはもうない」 結末は変わらないが、黒が銀を殺してしまうという悲劇は避けられたのだ。 後味は悪い。決して最善ではないが、それでも後に起こるはずの災厄の芽が潰れたことだけは不幸中の幸いかもしれない。 「……だと、いいがな」 「?」 「雪乃、猫を連れて先に戻っててくれ」 2人は南下し西に繋がる橋が見えてきたところで、黒は雪乃にそう促した。 「どうして? 黒さんはどうするの」 「俺は俺で用事がある。戸塚のこともイリヤのことも全て話した。先に帰ってろ」 「嫌よ。私を1人にして、あの変態(エンブリヲ)に襲われでもしたらどうするのかしら。戸塚君と私を守ると約束したのだから、きっちり守ってもらわないと困るわ」 「そうか……あいつか……」 エンブリヲの台詞から戸塚との約束の内容を聞かれていたらしい。 バツが悪そうにする黒だが、雪乃の言うことは一理ある。あの性犯罪者が1人で人知れず行動しているのだ。乙女にとっては、ある意味殺し合い以上に身の危険を感じるのは無理もない。 「分かった……好きにしろ。大した用事でもないんだが」 黒は呆れたように呟き、雪乃は黒の後をぴったりと追う。2人はそのまま橋を渡った。 渡る前から所々戦闘の余波なのか、周辺は荒れ果てていたが、その橋もまたところどころ血で汚れていた。 既に乾いてきていることから古いものだとは分かっていたし何より殺し合いは既に終結した。それでも雪乃は僅かに身構えてしまう。 橋を渡りきるとそこには大量の血と、三つの土の膨らみがあった。 「穂乃果はここで死んだのか」 ぽつりと呟き、黒はその場を後にした。 汚れ仕事は自分が背負えばいい。かつてはそう考えて、穂乃果と黒子を残して黒は去った。だが結局、黒が生き残ったのは皮肉でしかない。 そうして黒は目的の場所に着いた。 それは亡くなったヒースクリフのディバックが落ちていた場所だ。 黒はある疑念を抱き、彼のバックを確認したいと考えていた。 バックを拾い上げ、黒は手を突っ込むと彼の予想通り一つのカードが出てきた。 「それは?」 「俺にも良く分からない」 クラスカード『アーチャー』 本来なら、埋葬されていなければおかしいカードだが黒の頼みを無視しヒースクリフはそれを回収していたらしい。 黒はそれを回収しディバックを自分のものに無造作に突っ込んだ。 「それをどうする気だ。黒?」 「さあな」 黒はあえてぼかしたが、このカードは元々クロエだったものだ。彼女の死亡時に死体が消滅し現れたことから逆算すれば間違いない。 エドワードは生物を元にしたものならば、それがエネルギーになるのではと帝具を利用した時、考察していた。黒の能力は物質に干渉する錬金術に近い部分がある。 あるいはこのカードも能力の増幅に役立つかもしれない。 「戻るか」 それから、近くのイェーガーズ本部に少し立ち寄ってから黒は来た道を引き返した。 その道中は誰も口を聞かない。 疲れからか、それとも一日半に及ぶ殺し合いを想い、必然と口が重くなったのか。 沈黙を破ったのは、一つの遺体だった。 銀髪の少年で、整った容姿だがその片目が抉れ、血の中に沈んでいた。 「あの時の……」 見覚えがある。エンブリヲにいたぶられていた少年だ。 銀を看取った場所でも、彼は酷く衰弱し倒れていた。その後の事は分からないが、きっと学院のいざこざの中で死んでしまったのだろう。 殺された後も散々蹴られたのか、靴のあとがびっしりとその服にこびりついていた。 「ここまで来たら、平気だろう。先に行っててくれ。俺はこいつを埋葬しておく」 「私も手伝うわ」 「……要らない。お前は少し休んでいたほうが良い」 訝しげに黒を見つめてから、雪乃は猫を連れて去っていった。 黒は学院を去る前に入手していたスコップを取り出し、穴を掘り始める。 「すまなかった」 この少年にはイリヤの時も、そして黒に代わり銀を守り続けてくれた。エンブリヲの言っていたように黒の尻拭いをさせていた。 なのに黒は話したこともなかった。 土を掘るスコップが嫌に重く感じる。疲れからだろうか、それとも精神的な理由なのだろうか。 穴を掘り、そこに少年を安置して土を重ねていく。 その作業で体制が傾き、懐からアーチャーのカードが零れ落ちた。 「何をやってるんだろうな、俺は」 カードを拾い、黒は自嘲した。 我ながら柄でもない。人の死はいくつも見てきた。なのに、この場ではすがり付くようにその死を引きずっている。 こうまでして、人との繋がりを感じようとしていたのかと。 カードをわざわざ回収したのも、鳴上を埋葬したのも自分には守るものも帰る場所もない空っぽだったからかもしれない。だから動く理由が欲しかったのか。 白が救ってくれたことも銀が黒を想い続けてくれたことも分かってはいた。だが、この殺し合いが終わった時、黒は何処へ流れていけばいいのだろう。 今は動く理由がある。前に進む意味がある。しかし、黒にはその先が見えなかった。 生きて、帰れたとして黒はどうすればいい。 また、殺しの世界に舞い戻るのか。それこそ、何の意味もなくただ戦い続けるだけなのか。 「契約者なら、何も考えずにすんだのか」 あまり待たせても心配を掛けるだけだ。鳴上を丁重に埋葬して、黒は先を急いだ。 少なくともすべきことは、まだこの場には残っている。黒を突き動かす理由は――― 「行くか」 □ エドワードの錬成は結果から言えば成功した。 御坂の手足は生え揃い、以前のように自在に動く。御坂やエドワード本人ですら拍子抜けするほどに呆気なく、手足は取り戻せた。 「流石に寿命を削っただけはあるってことか」 御坂の皮肉の通り、決して軽くはない代償であったからこそ成功したのだろうか。 「何だっていいさ。それより、御坂……分かってるよな」 「……とんだ人手不足ね。アンタが馬鹿にみたいに、色んなトコに首突っ込んでは掻き乱したせいじゃない?」 「かもな」 一々取り合う暇も惜しい。ここで反論したところで何のメリットもない。 エドワードは淡々と受け流し、本題へと斬り込んだ。 「あの姿、上条って奴と同じだよな」 「間違いないわ。能力までそっくり、どうやってやったんだか」 「なあ、どうして広川は……まあお父様の意志かもしれないが、上条を見せしめにしたんだろうな」 エドワードの台詞を御坂は一瞬理解しきれなかった。 だが、ここで上条が殺された理由は見せしめだという事を思い出す。 逆らった者の末路としての抑止力であり、参加者の命を握ってるという強迫でもあるが。 「広川はわざわざ、懇切丁寧に幻想殺しについて説明してたが、だったら最初から分かりやすい奴を選んで殺すべきだったんじゃないか」 「分かりやすい奴?」 「異能を制御できるって触れ込みにしちゃ、その肝心の見せしめが異能を無効化するなんて能力じゃ説得力に欠ける。 エスデスやお前みたいな氷や電撃を操れる奴を、ねじ伏せた方がもっと分かりやすくててっとり早い」 思えば御坂もエドワードも、最初は首輪の解除が可能かどうか試みた。 その結果として、首輪は解除不可能だと結論づけたが、もっと分かりやすく最初から異能を無力化するところを見せつければ良かったのではないか。 「きっと、アイツを殺しておかないといけなかったんでしょ。お父様ってのがあの姿になる為に」 「そうだ。けどよ、そんな大事な役目を何で広川に任せたんだろうな」 「何でって、それは……」 「あの時点でお父様はまだ、人目に触れることができない……。恐らくあの外界に対応できなかったんじゃないか」 お父様はエドワード達との交戦の中で動きづらい、折角作った入れ物と言った台詞があった。 それらを突き詰め、状況証拠から合わせて考えればお父様は殺し合い開始から今に至るまで体を構成してた可能性が高い。 「ここまでお父様はずっと肉体を構築し続けていたのかもしれない。そう思わないか」 「肉体の構築って点から、色々分からないんだけど」 「お父様の正体はフラスコの中でしか生きられない、ちっぽけな目玉だ……ホーエンハイム……俺の親父曰くだが。 そこから外で動くために入れ物、ようするに肉体が必要なんだが、この殺し合いは俺達が死ねば死ぬほどその肉体の構築も比例して完成へと進むんじゃないだろうか」 「だったら、最初から全員皆殺しにすれば良いでしょ」 「そう、そこだ」 エドワードは予測していたかのように御坂に賛同した。 「俺らを全員あの時点で殺してりゃ、何の目的だが知らないが全部事は済んでいたんだ。 けど、そうはしなかった」 「……急激な変化にお父様が付いていけなかったから」 御坂にも経験があった。 能力の規模が上がれば上がるほどその意志に反してしまうことは少なくない。御坂の場合、あの時は上条が救ってはくれたが。 「あの幻想殺しってよ……多分だけど、一つの基準点なんじゃねえかな」 「基準点?」 「俺ら錬金術師も物理法則に沿ってるとはいえ、既存の物を別の物へと変えちまう。いわば、小規模ながらも世界を改変してるわけだ。 お前の電撃もエスデスの氷もなんかもな。その場に無い筈のものを作り上げて、本来あるべき形だった世界を上書きしてしまっている。 それを元に戻すのが―――」 「幻想殺しと言いたいのか」 突如、エンブリヲの声が響く。二人の背後から不敵に笑いながらエンブリヲは近づいてきていた。 「良い読みだ。まあ、正確にはアレは―――まあいい。その認識でも問題はないだろう」 「何よ、言いなさいよ」 「止めとけ御坂、どっちにしろこいつは口を割らねえよ」 諦めたようにエドワードは御坂を静止した。 「奴は君を人柱として強引に扉を開けた。さて、奴が開けた扉、その情報量は果たしてどれだけ膨大だろうね。 一つの意志が、意志として意識を保つことなど不可能だろう。何せ、複数の世界を同時につなげたのだからね」 「だから、あの幻想殺しを一つの基準点として、お父様は自我を保っている」 「分かりやすく言えば、幻想殺しはバックアップということだ」 お父様は力に呑み込まれるのを防ぐために幻想殺しをバックアップとして使用していた。 「だったら、あの右手を切り落とせば……」 「多分だが力の制御は出来なくなると思うぜ」 光明が見えてきた。 明確な弱点があるのなら、戦いようはいくらでもある。 「取り敢えず、詳しい話はみんなが集まったとこでしよう。そこで色々打ち合わせだ。 幸い、もう盗聴の心配もないから堂々と話せるしな」 □ 幻想殺しをバックアップに意識そのものを保っている、だからそれを切り落とせばお父様は力を制御できないのでは? 再び全員が集まったところでエドワードは仮説を纏めた。 「難しいな」 弱点というグッドニュースを聞きながら、黒は淡々としていた。 もしもこれが本当だとしてもお父様もそれを予見した対策は練っているはずだからだ。むしろ、弱点を狙ったこちらの動きが予見されたやすい可能性もある。 「分かってるよ。けど、これしかねえと思う。……あとは、お父様に力を使わせ続けて消耗を狙うって方法もあるけど……」 お父様の力の源が賢者の石だ。ホムンクルスとの戦闘経験から考えれば理論上はそれで倒せる。 問題は実現不可能という点だけだが。 正しい未来においても人間側が総戦力でようやく倒しきれた化け物なのだ。この人数、戦力ではとても賄いきれない。 「アイツがいれば―――」 「え?」 「チッ、黙ってろチビ」 「チビゆうな……」 あまり認めたくはないが、火力という点ではやはり鳴上悠の右に出るものはない。あそこで殺したのはやはり失敗だったのだろうか。 足立のなかで後悔が沸く。 本当に何故かすべての選択肢が最悪の方向に絡んでるとしか思えない。 「私は一応、軍隊と同等ぐらいなんだけど」 「それで足りてれば、今頃こんな反省会開いてないさ」 杏子の言うようにそもそも火力で優っていれば、正面切ったあの戦いで全て終わっていたのだ。 お父様を倒しきるという方法は現実的でないどころか絶対に不可能だと言い切れる。 「もう、どうしようもねえよ。ここまで生きてるのも偶々上手くいっただけじゃねえか。 こんな大雑把な適当な作戦しか思いつかないなんて……」 足立は振り絞るように声を荒げた。だが、今まで吐いた叫びの中で最も掠れ、消え入りそうなほど小さい怒声だった。 もうあまりに疲弊と絶望感に足立は完全に諦めきって、八つ当たりする体力もないのだろう。 傍から聞けばイラつかせる足立の声を聞いても、喧嘩っ早いエドワードが反応しない。 辛うじてチビというワードに突っかかるだけだ。 「パラメイルがあればかなり違うんだけど」 「サリアさんも言ってたわね。ドラゴンと戦うロボットがあるって。あの時は、頭の病院を勧めたほうが良いのか本気で悩んだけれど」 「パラメイルでは足りん。ラグナメイルでなければね」 「そうだ。エンブリヲ、首輪が外れたんだし、もう制限もないんじゃ……」 エンブリヲはラグナメイルを自在に呼び出すことが可能だ。タスクも異能やそういった類に制限が掛けられていることは知っていた。 だが、殺し合いは終わったのだ。エンブリヲもその力を再び取り戻したのではないだろうか。 信用できない男だが、それでも調律者の力は味方としては頼もしい。 「猿が。それが出来れば既にしている。 制限そのものは解除されているが、私はこの空間に完全に孤立させられている。ヒステリカは呼べない」 「…………人を、生き返らせることは出来ないのか? マスタングさんや、事情を話せばエスデスって人も協力してくれるかもしれないだろ」 マスタングの炎の錬金術やエスデスのデモンズエキスの力は強大だ。 後者は人格に難ありとしてもマスタングならば、復活すればこれ以上ない助っ人になる。 それどころか、極論だが後藤などを除いて全参加者を蘇生させることが出来れば、お父様を真っ向から打倒することも可能かもしれない。 「その方法も考えたさ。だから試した」 「何?」 「しかし、肉体そのものは蘇生しても……些か非科学的だが、いわば魂と呼ばれるものだけが戻らない。傷ついた死体から、傷一つない綺麗な死体へと変わっただけだ」 「人体錬成は成功しない」 「黙っていてくれ。そういう話じゃない。 恐らくだが、参加者の魂はお父様とやらが掌握しているのではないだろうか。奴を倒さない限り、この場の死人は誰一人甦れないはずだ」 しかし、その考えもあっさり否定された。 「性欲以外、全てを没収されてしまったようね。流石にその下半身は要らなかったみたいだけど」 「何を言う。君への愛は残されているよ」 「頭が悪いの? それを性欲というのだけれど。小学生の保健体育から義務教育をやり直してくるのをお勧めするわ」 「君はまず道徳から覚え直した方が良いな」 「大丈夫よ。人類相手のモラルは心得ているもの」 「まったく手の掛かる花嫁だ」 「……キモ」 この後も無意味なやり取りが続き。これ以上、明確な打開策は浮かび上がらなかった。 せめてお父様を倒した歴史を知るマスタングがいればまた別なのだろうが、現状の情報量では判断材料が足りないのだ。 「飯にしよう」 話は終わったと言わんばかりに黒はそう言うと、ティバックを掴み踵を返した。 「飯なんて食ってる場合かよ」 杏子は状況にそぐわぬ黒の態度に怒りを露にする。 「このまま話し合っても良い案は浮かばない。まず、頭に栄養を回した方がいい」 「黒の言う通りかもな。杏子、特にお前は……休んだ方が」 エドワードは言葉を濁しながら休息を促す。 彼が気にしているのは足立との交戦で見えた、竜の鱗のようなものだった。 あれが何か分からないが、インクルシオが関係した良からぬモノであることは想像がつく。 かといって今更インクルシオを使うなとは言えない。杏子も強く拒むことは目に見え、何よりインクルシオがなければ戦力は大幅に減少する。 「契約者としても、一度頭を休ませるのは合理的だと思うぞ」 「猫さんもこう言ってるし、少しリフレッシュするのも大事かもしれないわね」 「腹が減っては戦もできないっていうしね」 思いのほか賛同者が多いのは、この陰惨な雰囲気を脱したいという思いが強かったからなのだろうか。 対お父様の作戦会議は一度幕を下ろした。 □ 近くの施設のキッチンを利用し、黒は食材を広げていた。イェーガーズ本部からまたもや盗んできたものだが、品質はまるで落ちていない。 中に入れたものは劣化せず、腐りもしない。 このティバックが一般向けに発売すればきっと大ヒット商品になること間違いない。 冷蔵庫は姿を消し、サバイバル向けの非常食もなくなることだろう。 黒はボウルに水、塩、溶き卵を放り込み混ぜ合わせる。 さらに強力粉を加えてから、ゴムベラでよくかき混ぜ全体的にまとまらせる。 「ず、随分本格的に作るのね……」 意外な一面に雪乃は驚きと感心の混じった声でつぶやく。 食事を摂るとは言ったが、ここまでやるとは思わなかった。 「なんの用だ?」 「手伝おうと思ったのだけれど」 「要らん」 「ペリメリでしょ? 具を作る手間が省ければ、時間の短縮になるんじゃない?」 まとまったボウルの中身を手で練り上げて、滑らかにしている黒の横で雪乃は手を洗浄してから具材に手を付けた。 玉ねぎとニンニクはすりおろし、ボウルに合挽き肉、塩、こしょう、玉ねぎ、ニンニクを入れてよく混ぜる。 鮮やかなプロのような手際は黒も感嘆した程だった。 「役に立つでしょう」 「……具材のほうを頼む。俺はスープをやる」 滑らかになった皮にラップをして寝かしてから、黒は鍋を用意しひと口大のキャベツ葉、薄切りの芯、ひと口大のじゃがいも、乱切りのにんじん、薄切りの玉ねぎ、半分に切ったソーセージを入れた。 そのまま火にかけ煮込み始める。 眺めながら何を作るのか分かりだした猫が呟いた。 「ペリメリ……懐かしいな」 「思い入れでもあるのか」 「ちょっとな」 実質、蘇芳の最後の晩餐にもなった料理だ。確かあの時は、蘇芳の下手糞な具材の詰め方で酷い不格好なペリメリが出来た。 「旨そうな匂いすると思ったら、何作ってるんだ」 匂いに釣られ、エドワードがキッチンへと飛び込んできた。 薄く丸く伸ばされた生地に具材を詰める雪乃を見かけ、エドワードはどんな料理かとっさに察しを付けた。 「俺も手伝ってやるよ。雪乃みたいに詰めればいいんだろ」 「やめろ」 「大丈夫だって、皆でやったほうが早いだろ」 「出てけ」 「任せとけって」 □ 「まあ、肉まんになるとは思ってたんだ俺は」 悟ったように目の前の惨劇を見つめ、猫は呟いた。 綺麗に積まれたペリメリと、その横で不格好な薄汚い肉まんがドサドサと積まれていた。 肉まんと形容するのも失礼な、どちらかといえば泥団子のような歪な形は食欲が失せそうになる。 「悪いけど俺、肉まん嫌いで……。横のだけ食べさせてもらっていいかな」 「駄目よタスクさん。皆で平等に食べるのよ」 「えぇ……」 渋々肉まんに齧り付くタスク。見た目があれだが、内容物は同じだ。 味自体は黒が仕込んだものなので悪くない。むしろ美味だ。 「悪かったよ。本当に……ごめん」 戦犯のエドワードは項垂れながら、自分の更に肉まんを乗せていく。 本当に自分が関わったのが具材を詰めるところだけで良かったとしみじみ思った。 下手に味付けを間違えれば、もっと悲惨なことになってしまっていたと考えると身震いする。 「私はいいや。食欲ないんだ」 調子の悪そうな杏子に黒は皿を手に取り、杏子の前へと差し出す。 「スープくらいなら飲めるだろう? あとそこにペリメリを入れても合う。 無理にとは言わないが、少しは腹に入れておけ」 皿に盛られた少量のスープをスプーンで掬い、杏子は口に含む。 コンソメの香ばしい風味が広がり、温かな舌触りが体に染み込むようだった。 「美味しい……そういや家庭料理ってこんな味だったけ」 本当に久しい味だった。今までホームレス同然で生きてきて、手料理など殆ど口にしてこなかった。 父が亡くなってからこんな料理を食べるのはいつ以来だろうか。 「好きに食え。ここに残りは置いておく」 そう言うと黒は半分近くの肉まんとペリメリを自分の更に盛っていく。 「おい、それどこ持ってくんだよ」 「俺の分だ」 「いや、食いすぎだろ」 「足りないのか」 「俺たちの分は十分だけど……」 あまりの量にエドワードは騒然とした。 その横で涼しい顔で黒はペリメリを口に放り込んでいく。 「三十超えたら、気を付けたほうが良いぜ」 「お前も二十超える前に背は伸ばしておけ」 「んだとゴラァ!!」 下らないやりとりだ。呆れるほど意味のない会話で、だが少し明るくなるような。 少し前は食事を取るときはこういった会話が多かったのかもと杏子は思った。 「やっぱ皆で食ったほうが旨いんだな」 「そうね。一人で食べるより、ずっとね」 雪乃もそうだった。家族で食事を取ることは多くはないし、しても談笑もない。 昼食だけは由比ヶ浜と取ることもあり、思えば楽しい一時だったが、それも奪われてしまった。 「そうだ。今度、俺の店にみんなで来てくれ。実は俺、喫茶店やろうと思ってるんだ」 二人の物憂げな表情に気付いたのか、タスクは大きな声で皆に語り掛けた。 喫茶アンジュ。 タスクが夢として語り、実現させたものだ。本来ならばそこにもう一人いるべきではあったのだが。 「喫茶店? マジかよ」 「ああ、俺とアンジュの……夢だったんだ」 「良い夢だな。 ……必ず叶えてやれよ。アンジュっという奴の分まで」 静かながらもタスクを後押しするような黒の言葉にタスクは少し力付けられた。 「そうか……。エドワード・エルリック異世界へ進出ってのも悪くないな。タスクの世界も見てみたいしな」 「ただ飯食わせてくれるなら行くよ」 「ええ、私もきっと行くわ」 「黒さんも、コックに来てくれないかな」 「あぁ、考えておく」 黒は大量のペリメリを持つとキッチンから出ていく。 その後を猫が追った。 □ 「飯食ってる場合かよ!!」 近くの民家を陣取って団欒してる子供達と、まっ黒くろすけを睨みながら足立はゴミ箱を蹴飛ばした。 中から生ごみが雪崩れ出し、足立の鼻孔を臭さが襲った。 何故こんなにゴミが入っているのか、普通こんなところ誰も使わないだろうし、使っても72人しかいないのだからこんなにゴミが溜まるはずがない。 最初からゴミをセッティングしていたに違いない。しかも、考えればここは足立の初期一から近い。主催はまた狙ってこんなものを置いといたのだろうか。 被害妄想を飛び越えた精神異常者のような発想に自分でも少し引きながら、足立はゴミの山から避難していく。 「クソ……クソ……」 何故あんな余裕をこいていられる。恐怖で頭がおかしくなったんじゃないのか。 エンブリヲと御坂も終始無言で険悪な雰囲気だ。このまま戦いに行っても死ぬだけだ。 つまり、これは最後の晩餐であいつらは開き治っているのではないか? 「まさか、集団自殺とかしてねえよなあ!?」 考えられない話ではない。こんな状況だ。諦めて、全員ポックリという選択を選んでも何ら不思議ではない。 エドワードなら、あの妙ちくりんな術で練炭とか簡単に用意できるはずだ。大いにありうる。 もしそうなら、正直非常に困る。残されたレイパーと恋愛脳と足立の三人でどうしろというのだ。 「おいお前ら、早まんな!!」 何であいつらの安否を気にかけねばならないのだと内心愚痴る。 そもそもこの戦い自体、連中が始めたもので足立は巻き込まれただけだ。それを自分だけ置いてのうのうと逃げれるなど絶対に許さない。 「あ? なんだよ」 だがドアを開けた瞬間、飛び込んできたのは食欲をそそる香りと和気藹藹と食卓を囲む場面だった。 アホみたいな妄想をした自分に急に気恥ずかしさを感じ、足立は頭が真っ白になる。 疲弊とストレスで完全に頭がキてしまったのだろう。 「いや、……おい……死ねよこの!」 「私ら死んだら、お前ひとりでどうすんだよ。アホか?」 「…………クソがぁ」 何も言い返せず、足立は怒りのまま目の前のペリメリを取り上げた。 「め、飯だよ……そうだ。手を組んでやってんだから、俺もこいつを食う資格くらいあるよなあ!?」 気づけば空腹であったこともあり、足立は食欲のままに食らいあげた。 形の悪い肉まんを放り込み、口内で咀嚼する。 「げっ、何だこれ」 「うるせえな……もう肉まんの悪口は聞き飽きた」 「少しは反省しろよ」 「具と生地のバランスが悪すぎだろ! 全然肉の味がしねえぞ下手糞!!」 「………………今、なんつった」 逆鱗に触れてしまったのか? お父様の前にガチの殺し合いなど頼むから御免だと足立は嘆く。 だがエドワードは足立の予想に反して、小さく笑う。 「ハハっ……そうか……天才だなお前」 「い、いきなり何さ……」 「頼む。エンブリヲと御坂を呼んで来てくれ!」 頭に栄養を回せとはこういうことか。 エドワードは黒と足立に感謝しながら、勝利を確信した笑みで鋼の右手を強く握りしめていた。 □ 「どういうことだ、エドワード?」 「具と生地だよ」 エンブリヲからは下らない話ならば、この場で同盟を破棄しても先に殺しても良い。そういった威圧と殺意を込めた視線を向けられる。 だがエドワードは確実な勝算を得ているのだろう。それに対し、勝ち誇った笑みで返し、逆にエンブリヲを呆気に取らせた。 「もっと早くに気付くべきだった。具に対して、どう考えても生地が足りないんだ」 エドワードが自身の失敗作である肉まんを手に取り、御坂とエンブリヲの前に差し出した。 「この肉まん、中に具を詰めすぎて少し齧っただけで肉が溢れ出てきちまう」 手にした肉まんを口にし実演して見せる。これでは肉まんではなく、皮が入ったジューシーな肉団子だ。 「同じだ。奴が扉を開いて、その中身をあの体一つで本当に収めきれるのか? 違う、何処かでこういう風に溢れなきゃおかしい。きっと別の場所に分割しているはずなんだ」 「あいつの体と小麦粉を一緒にしないでよ。あんた馬鹿なの?」 「いや同じさ。扉の中身がたかだか、一つの肉体に収まるはずがない。質量保存の法則を無視している。あれを収めるだけの器が必ずある」 容量の足りない器ではその中身が溢れ出る。子供でも分かる当たり前の理屈だ。 しかし、そんな理屈を軽く超えた超常の現象を御坂は何度も見た。特にこの支給されたティバックなどがそうだ。 「奴の体で収めるとしても、それを可能とするなら、国一つ分の賢者の石が必要だ。 しかし、奴は大佐からしてみれば既に一度倒されたらしい。さっき雪乃に確認したがブラッドレイの戦いで確かにそう言っていた。 そこから復活したのなら、賢者の石は大幅に減っていてもおかしくない。実際戦ってみて分かったが扉を開く前は錬成の制度が以前より遥かに落ちていた。それは何故か? 決まっている石の数がそこまで多い訳ではないから」 お父様に抱いた違和感が賢者の石の不足であったのなら、理屈は合う。 エドワードのお父様は当初、外界に対応できなったという仮説も解決する。 つまるところ、扉を開く前のお父様は既に弱体化していた状態だったのだ。 「じゃあ、何処にその扉の中身とやらを保存してるわけ?」 「まだ気づかないのか? 会場だよ。この会場、そのものが奴にとってのフラスコだ」 「ハッ」 溜まらずエンブリヲは苦笑を漏らした。 なるほど、そうきたかとある意味想定内であることがツボにはまった。 「発想は悪くないよ。私もそれは考えたがね、この会場の立地には錬金術的な意味合いは何一つない」 エンブリヲが錬金術を取得したときに真っ先にそれは考えていた。 この会場そのものが錬成陣で何かしらの意味合いを持つ、一つの儀式場なのだと。しかし、少なくとも会場そのものには何ら意味はない。 何処をどう繋ごうが、決して陣にはなりえなかったからだ。 「エルリック君……」 雪乃はエドワードに歩み寄り、そっと肩に触れた。 きっと考えに考え抜いて得た結論なのだろう。それが仮に間違っていたとしても、責める気にはなれない。むしろ、よくやってくれたと感謝すべきだ。 「雪乃、そんな男は置いて私とくるといい」 「この状況でよく言うわね。そもそも、貴方はどうするつもりなの? 一々、無駄に虚栄を張って余裕ぶるのは止めてもらえるかしら。カッコいいと思ってやっているとしたら、とんだ道化よ」 エンブリヲから、物事の根本的な解決を聞かされたことは一度もない。それどころか、一々悪態をついて場を乱すことがほとんどだ。 いい加減、雪乃の堪忍袋の緒も既に切れているが、そこから更に破裂するほど苛立ちが募っていく。 「……なんだ、エンブリヲ。お前、案外大した事ないんだな」 だが、エドワード本人は鼻で笑いながらエンブリヲを小馬鹿にした。 「この会場を繋ぐものは物理的な線だけじゃない。もう一つあるだろ」 もう一つの線? エンブリヲはそう聞かされ、脳内に叩き込んだ会場の地形を張り巡らせる。 何処かに見落とした地点があるのか? いやそれはない。どうあっても、この会場に錬成陣など出来はしない。 その横で杏子がはっと目を見開き、咄嗟に口を開いた。 「……もしかして?」 「ネットワーク。錬成陣が物理世界だけにしか適応されると誰が決めた」 それはマスタング、キンブリーが気づかないのは無理もない。 彼らの世界にはネットといった技術はまだ存在しない。そしてエンブリヲも錬金術に対し、電子的な意味合いと離して考えてしまっていた。 「俺が気づけたのも本当に偶然だ。首輪を外すときに杏子にネットワークの話をしただろ。 あれと足立の話を聞いたときに、思いついたんだ」 「そうか……足りない場所は何処かで代用する。ヒースクリフの言っていたことと、同じだな」 「エンブリヲ、ここまで聞いたら分かってるよな」 舌打ちと共に、エンブリヲは学院で回収したPCを始めとした電子機器を立ち上げた。 その操作から数分後、忌々しくもエンブリヲはエドワードを睨みつける。 「当たりかもしれないな。錬金術師」 □ 「どうです。お体の様子は」 玉座に腰掛けるお父様へ広川は声を掛ける。言葉とは裏腹に一切の情が籠っていない台詞は聞くものからすれば皮肉と取られそうだが、あいにくと目の前の存在は感情という余分なものを捨てたまさしく神だ。 憤怒を見せるでも皮肉で返すでもなく、お父様はありのままを口にする。 「早急すぎたな」 「やはり、彼らが首輪を外してしまうというのは想定外でしたね」 お父様の肉体に僅かながら、ノイズのようなモノが走る。左手を凝視しながらお父様は右指でコツコツと玉座を叩いた。 元々、聖杯戦争をベースに殺し合いという形を取った儀式であったのが今回のバトルロワイアルだ。彼らが全員死に、生き残った一人、この場合扉に送り込んだタスクを器とし疑似的な聖杯として錬成するのが本来の完結地点だったが、その計画は大幅に変更せざるをえなくなった。 予備プランとして用意したもう一つの保険。かつての正史と同じように、人柱を利用し扉を開くという方法を使わざるを得なくなったのだ。 力そのものは手にしたが、それを抑え込むのに苦労していないと言えば嘘になる。 「もっとも、奴らを殺すには十分すぎる」 「どうでしょうか?」 広川は異を唱えた。 「一つだけ、貴方に私の経験から得た教訓を」 「なんだ?」 「殺しという点において、人の右に出る者はいない……そして奇しくもここまで残ったのは人だけだ」 「下らん」 エンブリヲ、佐倉杏子。既に二人も人外の存在が生き残っている。 人だから生き残れたのではなく、単に人数の多さから残っただけに過ぎない。 だが広川はあえて人であると強調した物言いだった。 「まあ、そこまで恐れることでもない。人はあらゆる生き物を駆逐し、おこがましくもその頂点に位置する長(おさ)であろうとしているが、そんな罪人どもを裁くのは他ならぬ神なのですから」 敗北などない。あってはならない。 広川が含めた意味にお父様は眉を歪めた。 「そうだ。私は神だ」 既に人の域を調律者すらも超越した存在になりつつある。 残された8の贄を食らい、その先へと必ずや到達する。 仮に奴らがあらぬ発想に至り、この身を食い破ろうとも手札は無数にある。 あの戦いに於いての最大の敗因は、国土錬成という巨大かつたった一つの陣を主軸にした柔軟性のない計画に問題があった。 「来るか」 錬成光が眩く。 扉を開き、エドワード・エルリックを先頭とし8人の生き残りが姿を現した。 「最後だ」 左手に火球を作り出す。 極小サイズの太陽、広川の言うそれが人であるのならば容易に消し炭へと変えてしまう。 8人の中から佐倉杏子が真っ先に飛び出し、剣を構えその名を叫ぶ。 インクルシオを開放し竜の鎧を纏った杏子と太陽が激突する。 その灼熱の炎は摂氏という宇宙規模の大熱量を誇るが、インクルシオもまたあらゆる環境に適応しその担い手も既に人の形をした異形だ。 閃光と巨大な火柱と共に一人と一つの球体は飲まれ、轟音が炸裂した。 杏子は地面に打ち付けられながらも健在。残る七人はエンブリヲを筆頭し、彼が展開するシールドのような物に身を潜める。 太陽が消滅し、白に包まれた空間が暗闇を取り戻した時、黒とタスクが躍り出る。 ノーモーションの錬金術でもほんの僅かにその前兆たる現象がある。術者の目線の動き、錬成光の予兆などだ。 黒は瞬時に術を見切り、お父様が繰り出す柱の数テンポ先に身を翻し距離を詰める。 その右腕に刃が届く。後藤、魏、御坂といった強者の戦いの中一切の刃こぼれも傷も受けず、黒を支え続けた業物友切包丁。 それはお父様が地面を錬成し、展開した盾すらも容易に両断した。しかし、右腕を庇うように乗り出したお父様に対し黒は軌道を修正した。 刹那、切り落とされたのは首だった。 「――――!」 その顔は誰でもない。御坂美琴が望んだ。最愛にして最大の男のもの。 しかし、それは皮だけである。 何故なら、首元から溢れだすその血は人のそれとは違っていた。赤い真紅の血ではなく、漆黒の闇に染まったかのように血だった。 滝のように流れ出した血は生物のようにうねり出し、触手のようにしなる。 黒の左腕に巻き付き、取り込むかのようにその身を引きずり込む。 その背後から、雷鳴が轟き雷光が振り下ろされた。 黒ごと雷はお父様を呑み込み、その破壊の閃光と共に肉体を焼き尽くして行く 雷光から黒は飛び出し、その前方に燃え盛るお父様を凝視する。 炭のように黒焦げた肉体が赤い光と共に再構築し、唯一無事だった右手を起点に再びその姿を再現した。 「マガツイザナギ!」 タロットカードを潰し、赤く黒い巨人が剣を携え突っ込む。 お父様は左手を翳す。それだけでマガツイザナギに重力が掛かり、宙を舞う巨人は地へとねじ伏せられた。 舌打ちと共にペルソナを消し、再召喚する。だが、その瞬間足立の腕を銃弾が貫通した。 「ぐああああああ!! てめ、この……!」 発砲したのは他の誰でもない、広川その人だ。 更に数発射撃し足立の肩を掠らせる。血を抑えながら足立は悲鳴を上げて広川を睨み続ける。 広川は無表情で両足を撃ち抜き、足立は転倒した。 「ウ、オオオオオオオオオオオオ!!!」 雄叫びと共にお父様の背後に回ったエドワードの機械鎧の剣が輝る。 狙うは右手、お父様の秘密を握りエドワード達にとっての唯一の勝機を握る手綱だ。 刃は右腕に触れ、そして皮を裂き肉に食い込む。 「ッ!!」 だが、甲高い金属音と共に剣は弾かれる。その右腕は手の分を除き黒く染まっていた。 炭素硬化。グリードが、エドワードが使っていた錬金術の応用。それをお父様が使えない道理はない。 刹那、エドワードの地面から刃が錬成され、エドワードを貫いた。 致命傷を咄嗟に避けるが、エドワードは横腹を抉られたまらず地べたを転がっていく。 血が道しるべの様に続き、それを追うようにお父様は指を鳴らした。 「う、そだろ……」 炎の錬金術。 マスタングが受け継ぎ、その術式は既に彼の脳内にしかない失われた秘術をお父様は容易に再現して見せた。 しかもその効果は更に爆発的に上昇し、この部屋一帯を呑み込まんとしている。 「世話の焼ける―――」 御坂はティバックから砂鉄をぶちまけると磁力を用いて、一気に巻き上げた。 それから全員を覆うようにドーム状に構築し、更にエドワードが手を合わせ砂鉄をより強固な物へと錬成する。 だが、それでもなお炎の衝撃は抑えきれない。熱によるダメージは防げたものの、砂鉄は消し飛び全員が余波に煽られ全身を強打した。 「遊んでいるな」 服に着いた砂鉄と埃を払い、エンブリヲは忌々しく呟く。 やろうと思えば一息に全員殺せるはずだ。それをしないのは、力の使い方をテストしているのだろう。 あるいは前倒しで手に入れた力を馴染ませるという目的もあるのだろうが、どちらにしろ我々は奴と同じ土俵に立ててすらいない。 「まあいい。それもこれまでだ。決めてしまえ、タスク」 お父様の視界に影が飛び込む。それはアヌビス神を構えたタスクのものだった。 気配を消し、全員の攻撃に意識を囚われたその隙まで好機を伺っていたのだろう。殺意を込めた瞳が交差した時、既にお父様の懐へと飛び込んでいた。 だが、そこまでしても尚お父様の動きは俊敏かつ的確だ。剣が右腕に触れるより早く、その顔面を掴む。 ミシミシと頭蓋が軋む音が鼓膜を打ち、顔を圧縮される激痛がタスクを襲う。 「お、まえ……なん、かに……」 「まさか、これが切り札なのか?」 黒が杏子が御坂がエンブリヲが足立がエドワードが絶望し打ちひしがれているのを見て、お父様は呆れた声で話す。 何らかの対策か秘策を用いるだろうとは思ったが、この程度の浅知恵しかないとは。なりふり構わず、敗北覚悟でこちらに挑んできたのだろう。 所詮、人間だ。以前の国土錬成陣の時のような時間を与えさえしなければ取るには足らない。 歴史より学び、進化したホムンクルスの敵ではない。 「驕っているわね。人数も数えられないなんて」 ザンという音が耳に着いた。 消失感と共にお父様の右腕より先の感触が消えていく。 痛みはない。元より、そのようなやわな作りではない。それよりも驚愕の方が上だった。 タスクの手から零れ落ちたアヌビス神は砕け散り、そして何も手にしていない筈の雪乃が何故かお父様の背後を取り、異能のごとくアヌビス神を召喚し右腕を切り落としていたのだ。 「透明化、か」 恐らくタスクのアヌビス神はエドワードが錬金術で作った偽物で本物はずっと雪乃が持っていたのだ。 ただし、刀身を透明にし雪乃が隠し持っていることでお父様を欺き続けていた。 「良くやった。人間にしては」 何らかの弱点であると推測した右腕を消失しても、お父様から余裕は消えない。 「右腕(これ)に着眼したのは悪くないが、もう一つ足りなかったな」 「なん、だと」 「大方、会場の秘密にも気づいたのだろう。そして妨害の錬成陣を掛けたのだろうが、生憎あれは更なるカウンターの錬成陣を内包している。 それこそ、ヒースクリフの言っていたように、欠損部分を代用する。いわば、無限に組み広がる錬成陣だ」 つまるところ、知られたところで何の問題もなかったのだ。むしろ、気付かせたことこそがお父様の最大の罠だ。 妨害を仕掛けた人間は確実な勝利を確信し挑んでくる。それが、彼らを一網打尽にする餌だとも知らずに。 これは逃げ待とう虫けらを一か所に集め、消す為の撒き餌に過ぎなかった。 「今度こそ、本当の最期だ。諸君、よくぞ扉を開いてくれた礼を言う。死ね」 太陽で焼き殺すのも悪くはないが、さすがに三度目となると詰まらない。ならば、ここは切り刻むというのもありかもしれない。 大規模な真空状態を発生させ、一人ずつかまいたちで切り刻み虐殺していく。 手にした力のコントロールに慣れるにも丁度いい。 「何、やってんのよ……」 御坂が苛立ち、声を荒げる。 「まだなのか……」 黒の目はまだ死んではいなかった。 「エドワード・エルリック!!」 そして、奴は今なんと言った? 何故奴の名が出る? 今更あれに何が出来る? 既にエドワードは腹の血を抑えながら満身創痍だ。奴如きに何が――― □ 時はわずかに戻る。 「だが、お父様も馬鹿じゃない。大佐が一度倒したってことは逆に言えば、そこから学んで改良しているはずだ」 その推測を打ち立て、見事証明したエドワード本人が自ら否定するように言葉を紡ぐ。 しかし、彼の言う通りお父様が一度敗北した以上、国土錬成陣のようなカウンターへの対策もなければおかしい。 ここから錬成陣を弄ったところで、果たしてそれが有効打につながるかは分からない。エドワードとしては恐らく無意味だとも考えている。 「じゃあ、お前どうすんだよ。わざわざ勿体ぶって言ってたくせに結局駄目なのかよ」 「……俺という一つの人間を一個のデータとして錬成し直すということは、可能だろうか?」 足立の野次にエドワードは疑問で返した。当然、足立は意味が分からず硬直する。 その意味に気付いたエンブリヲは足立を押しのけ、エドワードの眼前に立つ。 「また力を貸せということか」 「そうだ。俺とお前は首輪を外す時、そしてお父様が神を手に入れた時、同じタイミングで扉を開けた。精神はより混雑し密接とは言わないものの交じり合っている可能性が高い。 俺に必要なのはお前のネットといった未来の知識だ。もう一度、あの時のように精神から意識を繋いで、必要な知識を引きずり出し錬成に利用する」 「それって普通にネット弄って、錬成陣とかいうのを何とかするのと何の違いがあるんだ?」 杏子の言うように彼女からしてみれば、違いが分からない。そもそもエドワード自身が電脳世界に飛び込む必要性が理解できない。 「簡単だ。俺自身がその場に立ち会うことで、臨機応変に錬成陣に対応できる。奴のカウンターに対する対策の更なるカウンターになりうるってことだ」 「ようは、アンタがウィルスになるってことよね」 「ウィルスってのが何なのかわからないが、その認識で良いんじゃねえか」 全く知識のない杏子でもウィルスと聞けばネットに害のある存在だと理解できた。 「問題はエドワードの不在をお父様とやらが、不審に思うということじゃないかな」 タスクの疑念はこちらが用意したウィルスも気づかれて対策されれば、意味がないということだ。 何時誰が欠けてもおかしくない殺し合いの最中ならまだしも、今の休戦中に戦闘要員が一人でも減ればそれだけで何か企んでいると察してしまう。 「いや、エンブリヲ。お前の変身能力を使えばいけるはずだ」 「そうか、分身も出せるから本人とエドワードを演じきれるのか」 銀に化けた時のようにエンブリヲの持つガイアファンデーションなら、容姿だけならばエドワードへと完全に変身することも出来る。 何より制限の解けたエンブリヲならば、その能力を使いエドワードの錬金術を再現することも可能。ほぼ、エドワード本人へと成り済ませる。 「頼めるか、エンブリヲ?」 「……良いだろう。乗ってやる錬金術師。ただし一度電脳化してからもう一度物質(こちら)側に戻れるかは保証はしないぞ」 「戻るさ。戻らなきゃいけない場所があるんだ」 エンブリヲの力で扉を開き、残ったメンバーは全員お父様との最後の戦いに赴く。 そしてエドワードはエンブリヲの知識を使い、自身の肉体を新たに再構築していく。 「俺という一個の情報をデータ化させる。消えるわけじゃない、肉体という質量すらも情報として組み替える」 手を合わせ、そして消失していく肉体と意識。だが不思議と恐怖はない。 これは無謀でも何でもない。ネットと呼ばれる、将来エドワードの世界でも開発されるであろう技術を100年の時を飛ばして今利用しているに過ぎない。 何も変わらない。ただ、質量に縛られた世界から別の方式で成り立つ世界へ飛び立つだけだ。 「イメージしろ、そこにあるのが当然だ。ないものねだりじゃない。新しい法則(ルール)に沿って俺を俺へ錬成し直すだけだ――」 □ 「なn」 呂律が回らない。 体の感覚に異常があり、意識を保てない。錯乱するなか、お父様は攻撃を中断し、内から溢れ出るなにかを必死に抑え込み繋ぎ留める。 気付けば体はノイズが走り、崩壊していく。 「待たせたな」 ―――奴の声だ。勝ち誇ったあの笑顔とあの声だ。 ―――しかし、その身体には私が付けた傷はない。何故だ? 回復でもしたのか? いやそもそもアイツが二人いる? 「ガイアファンデ―ションだよ。自分が支給した玩具も覚えていないのか」 ―――見れば、血を抑えたエドワードが次第にエンブリヲの分身へと姿を変えた。有り得ない。見た目は変えられてもその能力まではコピーできない筈だ。 「残念だが、私は真理を見た。貴様が開けた扉、その末端程度だが十分すぎる真理を理解したよ」 ―――そうだ。あの時、奴は……奴らは確かに扉を開けた。それでも、あの強引な開き方で得る扉の情報では手合わせ錬成を得ることは不可能だ。 「私は調律者だ。君のような似非ではなくね」 ―――錬成陣は完全に崩壊している。エドワード、奴が破壊したのか? 馬鹿なあれを突破できるはずがない。 ネットワークを使った器は崩れ去り、今や神を留めるだけで精一杯だ。 「貴様の敗因は一つ。一度目の敗北も二度目の敗北も―――」 ―――敗北? 誰が? 「人の技術に頼り切ったことだ。神を気取ってはいるが、所詮人の敷いたレールの上でしか走れない。 思い上がったな。真理如きに縛られるしかない貴様如きが、神を名乗ろうとはな。まさに身の程も弁えず太陽に近づき、堕とされたイカロスのようだな」 ―――思い上がり? 思い上がりだと? 誰が? この私がか? 見下すな。この私を。 「終わりだフラスコの中の小人。そして、広川……この殺人ゲームも狂った計画も全部な」 ―――許せない。許せるわけがない。 エドワード・エルリック。貴様だけは、貴様さえいなければ全ては――― 「なるほど」 呆れたように広川は笑う。 やはり、人間は殺しにおいてはあらゆる生物を退ける。 闘争に向かぬ貧弱な肉体でありながら、その脳裏にはあらゆる殺害方法を画策し張り巡らせる。 それに対し神としての視線で挑んだ時点でフラスコの中の小人は誤っていたのだろう。 一度目で既に負けているのに対し、やはり二度目もそのプライド故、敗北したのだ。 ネットワークを使い錬成陣を会場内に引くという発想は悪くないが、それを人間が更に利用するという発想に至らなかった。否、神としての領域に人間が踏み入れるはずがないという決めつけがあったのだ。 しかし結果は御覧の有様だ。エドワードは瞬時に機転を利かせ、全てを突き崩してしまった。 「だが、三度目ともなれば学習はするようだ」 地鳴りが響き渡った。空間そのものを震わすような巨大な地鳴りだ。 神としてのプライドと驕りがあったのは事実だ。しかし、お父様も最悪を想定していない訳ではなかった。 もしも、自らが神として成り上がるより早く、参加者による反乱が成功してしまえばという懸念はあった。故にそれ相応の“奥の手”を用意するのは必然だ。 自壊していくお父様がその寸前で辛うじて、形を取りとめている。上条当麻としての姿はすでに微塵もなく、切り捨てられた腕からは本来現れるはずの竜は現れない。 神上へと至るはずの己を否定するその現象にお父様は憤怒を抱いた。そして、眼前に広がる人間たちに対する憎しみも。 一度目の敗北の時、お父様はある一つの可能性に気付いた。感情とやらを切り捨てたからこそ、自らは敗北したのではという疑念だった。 考えた自分本人ですら愚かしいと思った仮説だが、存外間違っていないのだと自嘲する。 本当に万が一という時に備え、お父様は自らが追い込まれた時に切り捨てた自らの“感情”をもう一度インプットするよう仕込んでいた。 皮肉にもそれはお父様を救い、支えていた。本来は自戒的ないわば負ければ人間と同レベルという意味合いだったが、よもやまさか感情により沸いた執念がこの肉体を形あるものとして留めてくれているのだ。 「止めを刺すわよ」 地鳴りやいまだに力尽きないお父様に対し、直感的に御坂は動いた。 電撃を込み上げ、槍状に放つ。完全に的を捉え、数秒も置かず、それは消し炭になる。 「なっ!」 だが壁が遮り、電撃は露散していく。錬金術による防御かと考えたが、それに伴うあの特徴的な光がない。 お父様はノーモーションで錬成しても光そのものはエドワード同様発生していたハズだ。 何より、これは何もない虚空より現れた。それもわざわざ手の形をしてだ。 防御の壁に何故、手の形を作る必要あるのか、いやそれ以前にこの腕は一体なにか。 腕があるということは、本体もあるのではないか。 「早く、扉を開けろ!!」 真っ先にすべてに気付き叫んだのはタスク。 彼には、この場で目の前の脅威に対し最も近しく、かつ理解があった。 大雑把に言えば巨大ロボットという、SFの極みに対し常日頃より接していたためにそういった類を瞬時に連想しやすい。 だが、エドワードは所詮オカルト側の人間だ。それに気づくのが遅れたのは無理もない。 すぐに我に返り、手を合わせるが既に時は遅い。巨大な人影が生存者たちを覆い、そして影は一瞬で光へと変貌した。 □ 最強とは何か。 あるスタンド使いは強い弱いの疑念はないと言いながら、自らを最強と自称等していたりもしたが、実際その定義は難しい。 契約者も錬金術師も超能力もパラサイトもパラメイルも魔術も帝具も魔法少女もペルソナも物事には一長一短があり、その場に適した能力もあるため最強とは言い難い。 しかし、至高という意味ではこれに勝るものなど他にはないだろう。 始まりにして至高の帝具。 「帝都守護……否、神に相応しき名はやはりこちらだろう。―――護国機神シコウテイザー」 □ エドワードは完全に死を覚悟していた。エドワードだけではなく全員だ。 圧倒的破壊に成す術もなく、塵に還る筈だったが結果はまだ生きていた。 全員が扉を潜りあの玉座から、帰還してきていた。 「なんでだ」 誰が発したか、その疑問に答えるように巨大なもう一つの人影が全員を覆う。お父様が繰り出したものとは数段サイズで劣るが、それもまさしく機甲兵器の類。 それ一つで一国など軽く蹂躙せしめるであろう威圧感を放っていた。 何より、その方に鎮座する男こそ他の誰でもない。唯一にして無二の調律者に他ならない。 「私が君たちを救ってやったということだ」 エンブリヲはヒステリカの頬を撫でながら微笑む。そこにあるのは調律者としての威厳と余裕だろうか。 「雪乃、君には無様な姿を見せたが……これが本当の私だよ」 「なにg「おいやめろ!!」 足立は悪態を吐こうとする雪乃の口を両手で覆い抑え込む。 既に彼はこの場のヒエラルキーを理解したのだ。今この場でもっとも強いのはあの男だ。逆らえば命はない。全面降伏しかないのだ。 どんなにペルソナを使おうが、あんなモノに勝てるわけがない。 (クソが……ふざけんなよ……) 足立はあの刹那の一部始終を見ていたのだ。 (あのバカでかいロボットの光線を……こいつのロボットが相殺しやがった……) エンブリヲは怯えきった足立の顔を眺め、満足そうにしていた。 しかし、気に入らないのは敵意むき出しの猿とチビ猿とゴキブリだ。 「雪乃、美琴、私と共に来ないか?」 「お前少しは状況考えろよ!」 エドワードは大声で張り上げる。 目の前の事態に頭が付いていけず、叫びながらエドワードは状況を整理する。 錬成陣を無力化し、お父様は神とやらを抑えきれなくなったはずだ。事実、奴は体を構成できず元の黒い目玉へと戻りかけていた。 しかし、その後だ。巨大な鋼鉄の戦士が現れたと思えば、またエンブリヲの傍に同じような兵器が現れ光線を打ち合った。 あとの光景は閃光に遮られ分からなかったが、少なくともエンブリヲが完全に本来の力を取り戻し、またお父様もそれに匹敵する力をまだ有しているのだけは理解している。 「でも、それよりも……なんでお前がいるんだ。ヒースクリフ」 エンブリヲの愛機ヒステリカの方にはもう一人真紅の騎士が佇んでいた。 それこそがエドワードが死なせた、生存者の一人ヒースクリフに他ならない。 「遅れてすまない。私のせいで罪悪感に苛まれているのだとしたら、別に気にする必要はない」 「そういう問題じゃねえ。一体、何がどうなってんだ!?」 エドワード同様他の面子も驚きを隠せないなかエンブリヲはさも当然といったように平然としている。 「お前達、グルだったのか」 真っ先に気づいたのは黒だった。 「妙だとは思っていた。アンバーの反乱計画を、お前らがすんなりと飲み込むなんてな」 「ああ、そうだ。アンバーを信頼していない訳ではなかったが、こちらも最低限の策を練るべきだろう?」 「恐らく、こいつらは俺たちが全員合流する以前から話を進めていたんだ」 「冴えているじゃないか、何せゲームマスターが目の前に居るのだからね。利用しない手はない」 「私はエンブリヲに、あるデータを作成してもらった。 私の記憶と性格を忠実に再現したプログラムとでもいうのかな。それを主催側に流すことでヒステリカの制御システムに干渉し、後はヒステリカ側のエンブリヲと交渉して、これが少し時間を食ってしまったんだが肉体を構成してもらったという訳だ」 「……待って、主催本部にウィルスを流したようなもんでしょ? いくら何でもセキュリティに引っかかるわ。エドみたいに魂を電脳化させて、錬金術で干渉したわけじゃあるまいし」 「このゲームを創り出したのはこの私だ。私が創ったモノなら、私に突破できない筈がない」 御坂も遅れて理解する。 ゲームの最も早い攻略方法は製作者を利用することだ。どんな腕利きも最初は初見であり、予めゲームを作り上げたクリエイターとはスタート地点からして違う。 エンブリヲの取った攻略はそれだ。如何なゲームも創造主にクリア出来ないものなど存在しない。 「まあ、良く分からないけど。ヒースクリフは生きてて、この変なの連れて増援に来てくれたったことだろ?」 「……生きてねえよ……全然違う。ヒースクリフは死んだんだ。あれは生前のヒースクリフを元に作ったプログラムを再現したアバターに過ぎない」 「え?」 「さっきも言ったが、別に気にする必要はないよエドワード君。元々、記憶人格を電脳化させるつもりだったんだ。 エンブリヲの手を借りたとはいえ、それが可能であったと立証出来たことは非常に「そういう問題じゃねえよ!」 地面に鋼の拳を打ち付け、エドワードは叫ぶ。 「確かに、命はそんなに軽々しく扱うべきものではない。君の言いたいことは正しい」 「はあ? おまえ、このクソゲー作ったの誰だと思ってんだ!!」 足立は頭を抱える。 ヒースクリフと話を聞いていると頭が狂いそうだった。 今になって思えば、卯月も生き延びたいという点は理解できたし、エスデスのS趣味も苛めが楽しいのは分かるし、セリューのように正義と称して暴れるのだって非常に爽快だろう。 後藤のバトルジャンキーぷりも、喧嘩の強いガキ大将が調子に乗っていると思えば可愛いものだ。エンブリヲなど、男なら皆共通する下半身に率直なだけだ。 しかし、ヒースクリフの言い分は理解できない。一切として共感出来る部分がない。 (こいつマジで何言ってんだ……) 「……ヒースクリフさん、でしたよね。俺は貴方の事を良く知らないけど、貴方は一体何がしたいんですか」 「私は――」 ヒースクリフの声が掻き消される。全員がいるゲートの反対側の古代の闘技場あたりからだ。 巨大な真理の扉が現れ、それをこじ開け地響きと共に巨神兵は現れた。 「あいつ、こっちまで来れるようになったのか」 エドワードは驚嘆する。その全長は何メートルだろうか、少なくともこの浮遊島からは下半身は見えない。 とても人間が挑み太刀打ち出来るような相手ではなかった。 これを打ち滅ぼせるとするならば、最早それは人ではなく神といった天上の存在に他ならない。 「フッ」 調律者は天を舞い、華麗に至高の帝具の前へと降り立った。 「この時を待っていたよ。フラスコの中の小人、その不相応な容れ物ごと今すぐ貴様を消し去ってくれる」 「下らん」 女神を模したオブジェが光る。刹那、世界を割く閃光が眩いた。 シコウテイザーの外装へ命中し、その全体が傾きかける。 更に光の粒子が剣を形作り、光明の刃がシコウテイザーを貫いた。 その刃は頭部から股関節までに亀裂を刻み、シコウテイザーはその巨体を揺らし後ずさる。 「おやおや、神とやらの力はその程度なのかい」 銃より発せられる光弾がシコウテイザーを撃ち続ける。 「痒いな」 その漆黒の巨体を引き締め、シコウテイザーもまた光を放つ。ヒステリカは攻撃を中断し瞬時に遥か後方へとジャンプする。 数秒置き、先に響く爆発音と燃え盛り炎上する浮遊島。シコウテイザーはたったの一撃でこの会場の半分を消し炭へと変えたのだ。 ヒステリカの肩からエンブリヲも口笛を吹く。シールドも貼らずに一撃でも貰えば、あそこで煙を上げる残骸の仲間入りだ。 「なるほど、神を自称するだけはある。ならば、私は世界を滅ぼして見せよう」 はるか上空にいるエンブリヲの声をタスクは聞いたわけではなかった。しかし、敵として彼と対峙した経験から次の一手を瞬時に把握する。 エンブリヲはもうこの箱庭に囚われるゲームの駒ではなく、世界を掌握し人々の命を玩具のように弄ぶ調律者に他ならない。 故にあの男はやるだろう。この会場、いやこの世界そのものごと目の前の神の紛い物を葬り去る事ぐらい、ハエを払うような手つきで。 「みんな逃げるんだ! ずっと遠くへ!!」 それが無意味であることはタスクは理解していた。 物理的に逃げられる代物ではない。そんなものであれば、リベルタスなど起きてはいない。 「幾億数多の―――命の炎、滑り落ちては星に―――――――――――」 この空間全てに響き渡る調律者の歌声、その美声に聞き惚れる間もない。 両肩の外装が外れ、衝撃波が集中する。エネルギーが集約した二つの波動は世界を一つ終わらせることなど造作もない。 「強く―――強く―――天の金色と煌く」 風とも雷とも取れない波動はこの世界そのものを穿つ。 さあ、終わりにしよう。ここまでの茶番も神を気取った偽神の盤上も全てに幕を下ろそう。 錬金術師も黒の死神もレベル5もゲームマスターも猿もその他多数も全ては有象無象へと還っていく。 残るはエンブリヲとアンジュ、そして雪乃を始めとした新たな妻たちの理想郷にして新世界である。 「――――永遠を――――語らん―――――」 旧世界は破滅の波動に蹂躙され、破壊の中から新たなる創造が始まる。 「何?」 「どうやら、新世界には貴様は不要らしい。なあ、調律者よ」 しかし、光が明けたその先にシコウテイザーは健在。世界どころか会場一つ消すことすらかなわない。 ヒステリカには世界を終わらせ、新たに作り上げる力が備わっている。忌々しい制限も解かれ、調律者の力は完全に開放された筈だ。 だが、現実は調律者に無常を突きつける。忌々しい、虫けらの生存者達はおろか、目の前の神擬きすら壊す事も叶わない。 「確か……粛清モードだったか」 シコウテイザーの騎士のような装甲は剥がれ落ち、体の各部に眼球を備えた歪な異形が眼前に立ち尽くしていた。 本来ならば、シコウテイザーは皇族の血が必要だ。そうお父様にこれを駆ることは不可能なのだ。 故に調整を施した。その過程で別の世界線のシコウテイザーに搭載されていたこの機能をさらに同じ錬金術を用いて強化したうえでお父様は搭載した。 その威力規模は精々が一国程度滅ぼすしかなかったシコウテイザーが、世界そのものを滅ぼすヒステリカを相手取り、優勢であるほどだ。 「チィッ!!」 エンブリヲから余裕が消えた。 シコウテイザーの巨拳から振るわれたラッシュを捌きながら、ヒステリカは転移し距離を取る。 だがその黒紫のボディに影が纏わりつき、ヒステリカは引きずり降ろされる。 そのまま、身動きの取れないヒステリカにシコウテイザーは拳を殴りつけ、地上に巨大なクレーターを刻み込んだ。 「ぐ、馬鹿な……あり得ん……ヒステリカが、私が……」 遥か上方より頭上に振り下ろされる踵を目にし、痛む肢体を無視しエンブリヲは命からがら転移する。 クレーターはより深く刻まれ、その振動だけで全身を打撲しかねない程の轟音を巻き散らす。 これでは象と蠅の戦いだ。俊敏性だけはヒステリカが勝るが、それ以外の全てはシコウテイザーが上回る。 動きで幾ら翻弄しようともいずれはヒステリカが追い詰められ、エンブリヲごと滅ぼされるだけだ。 「……使わざるを得ないか」 制限が解かれた今、このカードを切ることは非常に気に入らない。それはあの神擬きをこの調律者の敵として、対等に扱うことに他ならないからだ。 だが手段を選んで勝てる敵でもないのも事実。ならば、出し惜しみは終い。 「力を貸してもらうよ。イリヤ」 □ 「勝てる訳ないだろ。あんなの!!」 足立は地上から神々の戦いを見上げ絶望していた。もうペルソナ程度では相手にもならない。 あれと見比べれば、後藤やエスデスなんてまだ戦えるだけマシだったのだと思える。いや、実際のところ万に一つの勝ち目があるだけまだマシだったのだ。 「ふざけんなよ、あのツンツン頭形態のがまだ良かったよ!! あんなの反則だろうがクソが!!」 足立は喚き、走り出す。もうこの場から一刻も早く逃げ出したい。 こんなことなら、捕まってずっと刑務所にいたほうが遥かに安泰で安心で幸せだった。 それもこれも全てあいつが悪い。もう何もかもあのガキ共とここにいるクソガキ共と変態と真っ黒すけが全て悪い。 「やってられるかよォ!! 畜生ォ畜生ォ!!」 「ばっ! 足d―――」 エドワードが目を見開き、手を伸ばそうとするのを黒が襟首を掴み引き戻す。その奇妙な光景に戸惑いながら足立は周囲の景色がやけに遅く流れていることに気付いた。 今走っているのに止まっているかのように緩やかな時間を感じている。そして、異様に眩しい光が足立を覆っていた。 「あっ……」 足立は消し飛んだ。 それは偶然会場に被弾した流れ弾だったが、人一つ分の人体なら容易く無に帰す程の火力を秘めていた。 「無意味に動いたアイツの自業自得だ」 「……また、かよ」 立ち上る黒煙を見つめながらエドワードは無力さに打ち震えた。 足立の気持も今回ばかりはエドワードも理解できた。ここまできて、ようやく光明が見えてまた絶望に突き落とされたのだから。 いくら何でもスケールが違いすぎる。本来の力を取り戻したエンブリヲですら、太刀打ちできない強大な敵にどう戦えばいい。 ここまでの戦いなど遊戯に等しい。この小さな拳で何を掴めるというのだ。 「笑っちゃうわ。本当」 御坂も呆れを通り越して笑いを堪えていた。最初から勝ちの決まったゲームに何を必死こいていたのか思えばアホらしい。 こんなことなら――― 「終わりなのかよ……! せっかく、ここまでやっと……!!」 両手を握りしめタスクが地面に打ち付けた。 多くの犠牲を重ねながら、辿り着いた終点がこんな結末で終わるのだ。納得など出来るはずもない。 「なあ……ちょっと気になることがある」 「なんだよ」 「足立がさっき死ぬ前に言ってたよな。ツンツン頭の時のがマシだったって。 もしかしてさ、あのロボットって使うと何か凄い反動が来たりとかするんじゃないのか」 反動、それは杏子が咄嗟に思いついた事だが何かしらのデメリットがある可能性はあるかもしれない。 「今まで使わなかったのはデメリットを恐れて、か……」 エドワードの中で何故、お父様は上条の姿になったのか。その解が構築されていく。 右手が本当にバックアップ、あるいは何らかの制御の役割を果たしたうえで、本来は神の力を手にするつもりだったのかもしれない。 あのロボットはそれが失敗した時の予備プラン、いわゆる奥の手であった。 しかし、予備である以上何らかのデメリットを抱え出来れば使いたくはない。 あり得ない話ではないが、それを上回る驚異的な戦力でカバーしているのも事実だ。 はっきり言ってそのデメリットを突こうにも無理やり力押しされる。 「あと素人考えだけど、ああいうバカでかいロボットも結局のところ操縦してる奴を叩くのが一番手っ取り速いだろ」 「それはそうだけど。簡単には……」 「私が何処かに一か所、穴をこじ開ける。エド達は何とかして、そこからロボットに乗り込んでアイツを潰してくれ」 そう言い杏子はインクルシオを握った。 タスクも話を聞き、機体そのものを壊すのではなく何処かに集中して攻撃を入れ、その破損した部位から本体を狙うという案は悪くないと思えた。 あれだけのデカさだ。攻撃を当て続けること自体は実のとこ飛行手段があれば難しくはない。 インクルシオならば火力も申し分ない。 「ただ、エンブリヲが全力を出した一撃をアイツは無力化した。例え一か所だけだとしてもかなり厳しい」 「いやそれ以前の問題だ。杏子、お前本当に死んじまうぞ」 「え?」 タスクは目を丸くし杏子を見つめる。 咄嗟に右腕を隠そうとする杏子を、エドワードは無理やり引き寄せる。 そこには、鱗でおおわれた痛々しい皮膚が広がっていた。 「ドラゴン……?」 タスクが普段見慣れたドラゴンに近いが、杏子はあちらの住人とは無関係の筈だ。 「あの鎧か?」 猫がティバックから顔を出す。 彼は生前のウェイブと最後に出会った時、明らかに戦闘以外でのダメージを負っていることに薄々気づいていたが、あの鎧もドラゴンを模した物だった。 そう考えれば後は合点がいく。 「インクルシオのデメリットだ……。察しが良すぎると思ったんだ。あのロボットにデメリットがあるって考えも、お前がこの鎧に蝕まれてるからこそだろ?」 「これぐらい、どうってことないさ。こう見えてもゾンビみたいな体だからね」 「馬鹿言うな。ウェイブの奴が死んだのも……きっとその鎧の反動もあったはずだ。 恐らく、力を出せば出すほど反動は増すって具合にな。あの木偶の坊とやり合ったりなんてしたら、ただじゃすまない」 魔法少女が人並外れた肉体なのは分かるが、それを加味しても杏子の体が耐えきれるとは思えない。 ソウルジェムが仮に無事でも、肉体が限界を迎えればその先にあるのは普通の人間と同じ死であるはず。 これ以上、杏子に負担は掛けられない。 「俺がそいつを使う」 「無理だよ。これには相性がある。多分、今残った面子じゃ私以外誰も使えない」 「けど……!」 「私はここから生きて帰るために最善の方法を考えてんだよ。それじゃあ、他に良い方法あるのかよ」 「それは……だからって、お前を死なせに行くわけには―――」 「エドワード」 引き下がらないエドワードの肩に黒が手を置き口を開く。 「こいつは、ここまで誰よりもお前を信じてくれていた。……今度はお前が信じてやる番じゃないのか?」 「…………」 「俺も黒の言うことに賛成だな。 まあお前の気持も分からなくはないが、考えてみろ。杏子のしぶとさは折り紙付きだ。 というより、ここにいる全員殺しても死なないような連中ばかりだろ」 「そうだな。何処かの黒ネコも死んだと思えば復活したしな」 「分かったよ」 一人と一匹の話を聞き、エドワードは渋々納得しながら杏子の腕を離した。 「話は聞いてたよな、御坂」 沈黙を貫いていた御坂に杏子は語り掛ける。 「何よ」 「いや、そういやアンタとは決着ついてないなと思ってさ」 「そう……じゃあ後で白黒着けましょうか」 言っていて、御坂は自嘲した。 まるでこの言い方じゃ杏子に生きて帰ってこいと言っているようなものだった。 互いに思う所がない訳じゃないのかもしれない。もしかしたら、違う形で会えば――― 「……そうだ猫」 「なんだ?」 「やるよ」 杏子は思い出したようにティバックからカマクラを取り出した。 新たに登場した新ネコに猫は何を考えてこんなものを支給したのか、主催の勝機を疑い始める。 「その子確か、比企谷君の……カマクラよね」 カマクラはようやく見知った顔に出会えたのか、トテトテと走りながら雪乃へと駆け寄る。 誰一人として知ることもないが、凛の手を離れてからはエルフ耳に所持されたり、穂乃果と卯月たちの険悪なムードに挟まれたりとこのネコも少なくない修羅場を目撃し潜り抜けてきた。 雪乃と再会しその安堵から甘えだしても不思議ではない。 「そうね……貴方も帰してあげないとね」 「ニャー」 雪乃はカマクラを優しく抱き上げてから背中を撫でてやった。 もうその主人の人は亡くなったが、八幡の家族と小町がカマクラの帰りを待っているはずだから。 「カマクラ……雪ノ下……まるで神奈川だな」 黒の呟きは誰にも聞こえなかった。 「ヒースクリフさん」 意を決しタスクはヒースクリフへと詰め寄る。 「俺は一応この殺し合いの優勝者です。願いを叶えてもらう権利は今俺にあって、貴方はそれを叶える立場にあるんじゃありませんか?」 「……確かに私は一応このゲームの製作者だ。もっとも、全ての権限は奪われてしまった“元”だが」 「俺が今一番望むのは力だ。貴方なら俺が望む力を持っている……違いますか」 ヒースクリフは不敵な笑みを見せてから、懐に手を滑らせた。 そこから見えたのは銀の光を放つ指輪だった。 タスクにとってはなじみ深く見覚えのあるものだ。それこそが他でもないラグナメイルを呼び出し操る鍵となる。 「やっぱり……」 タスクはヒースクリフから手渡された指輪を強く握りしめる。 「何時気づいたのかな」 「エンブリヲと裏で組んでいたという話を聞いた時、あいつは必ず貴方を殺すだろうと思ってました。 それを分からないような人が、こんなゲームを作る筈がない。何か、対抗策を用意しなければおかしいはずだ」 「良く分かっている」 「親の仇ですから」 「……先に言っておこう。ヴィルキスだけは手に入らなかった。恐らく破壊されているのかもしれない」 「そうですか……」 指輪を握りながらタスクは遥か彼方、上空にて行われる戦いを見つめた。 自分のパイロット技術でどこまで通用するか。如何にラグナメイルといえどあの戦いに介入できるか。 不安要素はある。むしろ、それしかないといっていい。だが、杏子にだけ全てを任せるよりはずっとマシだ。 「俺も行くよ杏子。翼は手に入れたし、君の役に立てると思う」 「そっか……じゃあ乗り込むのはエドと黒と御坂……」 「私も行くわ」 雪乃もこの現状では、アヌビス神があれば十分な強さを発揮してくれる。 タスクがシコウテイザーの方に回った以上は妥当だ。 「お前はどうするんだ。ヒースクリフ」 黒はそう言いヒースクリフを睨む。 「私はやめておく。正直、楯も剣もない私は役に立たない。 唯一の武器も彼に渡してしまった。ここから低見の見物といこう」 「……」 「信用できないかな? だが私は君達に手を出すこともフラスコの中の小人に干渉するつもりもない。 ただ、このゲームの作り手として全てを見届ける、それだけだ。私はもう脱落者だからね」 「変わったな」 黒はそれだけ言い残し、踵を翻し戦場へと赴く。 その背中を見ながら、ヒースクリフは名残惜しさを感じていた。 本来ならば、フラスコの中の小人が鎮座するあの玉座には自分が君臨するはずだったのだから。 □ 光の濁流が爆ぜては消え、更に閃光が瞬いては潰えゆく。 調律者が駆るヒステリカは迫る光線をシールドで弾き、その翼を広げ上空へと飛翔する。 シコウテイザーの頭上、脳天から光粒子の剣を展開し重力と機体そのものの加速を載せた刃を振り下ろす。 「チッ」 その巨腕をクロスさせ、シコウテイザーは剣を受け止めた。 並みの戦艦、ラグナメイルであれで一瞬で沈める程の武装だが、シコウテイザーからすればかわすまでもない。 両目が光りシコウテイザーが光線を放つ。肉薄したヒステリカに避ける時間はない。 剣を翳し盾代わりに受け流しながら、シールドを広げ機体へのダメージを最小限へと留めていく。 「ぐ、ゥ……おの、れェ……!!」 シールドへ走った亀裂からビームの一部が漏れ、エンブリヲの頬を過ぎり、赤い線を刻み込む。 更に機体にビームが直撃しヒステリカは体制を崩し、浮遊体制を保てず落下していく。 「邪魔だ。消え失せろ、調律者」 足を振り上げ、身動きが取れないヒステリカへと踏み下ろす。 これでようやく一人だ。残るは7人、いやヒースクリフの人影もあったが為に8人か。 しかし、どうでもいいことだ。重要なのは奴の始末、鋼の錬金術師を一刻も早く抹殺し勝利することだ。 そこまで考えた時に、お父様は目的を見失っていることに気付いた。 神となる手段にエドワードがあった筈が、今や奴を始末することが目的になっているではないか。 だが、同時にそれがここまでのお父様を執念という形で支えている。 構わない。神を下す前に奴らが立ちはだかるのなら――― 「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 シコウテイザーのボディに衝撃が走る。僅かなズレにより攻撃はヒステリカを逸れ、エンブリヲの機体をもう一機のラグナメイルが支えて飛行していた。 「き、さまァ……! この、猿がァ!!」 エンブリヲは怒りのままに喚き散らし、その相手を罵倒する。 ラグナメイル、テオドーラを駆るタスク。 宿命の敵でもあり、我妻に破廉恥な真似をした無粋で下賤で下等な猿ごときに一度ならず、二度までも救われるなど調律者としてのプライドが許さない。 「離せ! 私に触れるな!」 「ああ、そうしたいさ。けど、今はアイツを倒すほうが先だろ!!」 テオドーラを振り払いビームライフルを向けタスクを威圧するが、タスクは見向きもせずシコウテイザーへと向かっていく。 今ならばその背を撃つことも出来る。照準を合わせ、トリガーを引く――その寸前でエンブリヲはライフルを下ろした。 調律者としての力を以てしても、それでもホムンクルスが今は上なのだ。 「マジかよ……!」 竜と魔法少女の力を上乗せした鉄拳が炸裂する。優に百は超える連打を叩き込んだ上でシコウテイザーの攻撃を避け、ターンを決めてさらに攻撃を入れる。 見事なまでのヒットアンドウェイを繰り返しながら、杏子には焦りしかなかった。 全ての攻撃が全くと言っていいほど手応えを感じないのだ。確実に拳を入れたという感触はあるが、恐らくダメージはない。 「ちょっと……不味いな」 シコウテイザーのボディを覆う無数の目が杏子を嬲るように視線を送る。 まるで嘲笑っているかのようでもあった。 タスクがテオドーラを駆り、この機体が特化する遠隔射撃能力を最大限フル活用しビームライフルを連射する。 ビームはシコウテイザーへと降り注ぎ、光の渦にシコウテイザーの姿は隠れて見えない。 しかし、タスク本人もこれが聞いているとは微塵も思わない。そもそもかわす必要がないから、避けないだけだ。 その予想通り、シコウテイザーは大地を揺るがしながら歩を進め、手を伸ばす。 後方へ加速しながら、テオドーラは手から逃れ更に射撃を続けていく。 「小賢しい蠅が増えたか」 シコウテイザーは足を軸に上半身を180℃回し光線を放った状態で薙ぎ払う。 二機と一人は回避に専念し、その隙を突きシコウテイザーは一人を捉えた。 シコウテイザーはインクルシオをその手で握りしめ、杏子はその圧力で鎧の下で目を見開き苦痛に喘ぐ。 インクルシオの防御力を以てしても尚、ただの握力でここまで圧倒されるとは。見積もりが甘すぎたと少し前の自分に腹が立つ。 「調子に、のんじゃ……ねェ……!!」 その両腕に張り裂ける程の魔力を回し、鎧に秘められた竜の力を最大限開放する。 シコウテイザーの拳は緩みその中央にあるインクルシオは一気に飛び立ち、シコウテイザーの眼前へと迫った。 両拳に全てを乗せた最大の一撃を込める。 攻撃は当たった。一分の狂いもなく、確実に入った。 「―――!!」 杏子の全身を光が飲み込み、インクルシオの鎧に罅を入れながら凄まじい速度で急降下し撃墜する。 不味いなと杏子は思う。 こんな姿を見たらまたどっかのお人好しが騒いでしまう。 「こっちだ!! フラスコの中の小人!!!」 ビームソードを振り上げ、シコウテイザーへ切りつける。 粒子の刃にノイズが入りシコウテイザーの拳がテオドーラへ直撃した。 分かっていたことだが、この程度の火力ではとてもシコウテイザーに傷一つ付けられない。 機体から通じる衝撃に耐えながら、空中で体制を持ち直しビームライフルを撃ち続ける。 シコウテイザーは構わずビームを受けながら、前進しテオドーラへ肉薄した。 「―――ゴッォ!?」 声にもならない呻き声を上げ、シコウテイザーの裏拳に煽られテオドーラは吹き飛んでいく。 ヒステリカ同様素早さではテオドーラがシコウテイザーを上回っていた。タスクも目では動きを追えていた。 問題はタスクの肉体だった。 ブラッドレイ戦での負傷、足立戦での疲労、あらゆる負担がここにきて膨れ上がり暴発した。 「こんな、時に……!!」 痛みが沸き上がり、血が止まらない。 考えうる限り、最悪のタイミングだ。 まだ何も成せていない。自分がここで朽ちれば、残された仲間はどうなる? 必ず道を繋ぐと約束した。 彼らと生きて帰り、もう一度集まると約束した。 アンジュの騎士としても一人の男としても、俺は……まだ何もしていない。 「きょ、うこ……」 薄れゆく景色をカメラ越しに見つめながら、共に戦っていた仲間を見つめる。 彼女も巨大なクレーターの中心で血に塗れながら、力なく横たわっていた。 助けに行きたい。そうは思っても、動かない。 タスクの意思に反し、肉体は限界を超えそれでも尚動いて、もう残された全てを使い果たしたのだろう。 「あ、ァ……悪い。エド」 横たわる杏子が少しだけ顔を動かし、シコウテイザーに集まる光を見て呟く。 どうやら、少なくとも自分にはハッピーエンドを迎えることは出来そうにない。 またアイツに重荷を背負わせてしまう。 『なんじゃあ、もう諦めるのか?』 とても懐かしい声だ。 というより、つい数時間前まで行動を共にしていた男の声だ。 DIOの戦いで散っていた波紋戦士、ジョセフ・ジョースターのその人の声。 何故、彼の声が聞こえてきたのか不思議だ。彼に対して敬意の念はあるし、彼があって杏子はここまで来れたのも事実だ。 けれども、死ぬ間際に真っ先に思いつくほど親交が深い訳ではないというが、正直なとこだ。 「ごめん、私さ……助けてもらった命……無駄にしそうだわ」 不思議ではあるが、杏子本人はどうでもいいことだった。 ただあるのは申し訳なさと、言いようがない言葉にならない気持ちだけだ。 嫌に世界が静かな気がした。また走馬灯かと思う。何度もこの場で似たようなものを体感してきたからか、ある意味走馬灯のプロフェッショナルみたいになってしまった。 『でもさ、逃げ切ることが出来そうにも無いんだよ……悔しいけどあいつは馬鹿みたいに強い』 『それも知っておる。だからワシが時間を稼ぐ間にお前だけでも逃げろ』 あの激戦が鮮明に浮かぶ。 そうだ。DIOの時の……まだサファイアもいた。 まるでタイムリープしたかのようだ。 考えれば、もっと上手く立ち回れていれば誰も死なずに済んだ。 死ぬ間際に後悔が浮かぶなんて、本当に嫌になってくる。 『またそうやってあたしの周りから人が死んで……あたしだけが生き残る』 ああ、こうやって厄病神気取りをしていたな。 『何も死ぬつもりは無いわい。それに―――』 私ってほんと―――………………あれ? ポンと頭に優しく大きな手が置かれた気がした。 「ははっ、そっか……」 少し愉快になっていた。 ゆっくりと体を起き上がらせ、目の前にまで迫っていた光線の射程外へと退避する。次の瞬間、時は動きだし光線は地面を抉り、土煙を巻き上げる。 「なるほど、こりゃ似てるわ」 本当の本当に自慢できることでもないが、あんだけ死にかけた自分だからこそほんの些細な違いというのが良く分かる。 いや自分だけでは気づけようがない。 時の止まった世界を他の誰でもない、ジョセフ・ジョースターがDIOの前で暴かなければ止まった時という概念を理解できず、杏子は時の止まった世界に入門することなど出来なかった。 そう、DIOの元であれだけ止まった世界を動き続けたのだ。インクルシオがそれに対し、進化”しないはずがない。 ……少し、驚かせてやるか。 「アンタは次に『確実に当てた筈だ』という」 「確実に当てた筈だ―――」 驚きがなくてあまり面白みがない。 まあいい。 「やれるかい、タスク」 ボロボロの機体の中にいるであろう仲間に声を掛ける。 別に聞く必要もなかったし、返答など決まっていたが、それでもあえて彼の口から聞きたかった。 「……当、然―――」 機体の中で激痛に苛まれた体を精神で抑え込み、機器を弄り機体を立て直す。 どんな手品を使ったのか知らないが、杏子はまだ生きて戦おうとしている。そんな横で自分だけ寝ているなんて悪い冗談だ。 「力を貸してくれよヒルダ。これから、あの糞野郎をぶっ飛ばしにいくんだ……。 だから、俺に力を―――」 機器を殴りつける。 アンジュ式、ヴィルキスの起動法だ。 その次の瞬間、テオドーラの瞳に光が宿り天高く飛翔する。 全身の緑と黒の装飾が塗り替わり、上書きされるように赤のカラーリングへと変更される。 ラグナメイル テオドーラ ミカエル・モード。 ヒルダの想いにより、エンブリヲの支配を退け覚醒したテオドーラの新たな姿。 「死にぞこないめ」 お父様は苛立ちのまま吐き捨てる。 ここまでの戦いに於いて、奴らは何度死んでもおかしくはなかった。むしろ、死ななかったことの方が異常なくらいだ。 尋常ではない幸運と執念で奴らは食らいついてくる。 「邪魔だ」 いくら振り払おうとも、いくら捻り潰そうとも。 幾度となく立ちはだかる。まさしく壁だ。そう、生まれて初めてフラスコの中の小人は人間を敵だと認めた。 故に邪魔だ。 それが虫けらであるなら踏んでしまえばいい。だが、奴らは邪魔なのだ。 故に排除する。故に抹消する。 「消え失せろ!!」 インクルシオが飛び立つ。 時を止め、その間僅か3秒にも満たない短時間で縦横無尽に放たれた光線を全て華麗に避け、シコウテイザーの懐へと迫る。 やることはかわらない。何処か一か所にどでかい穴を開けて、エドワード達に道を作る。 「拳じゃないな。私の性に合わない」 やはり、槍が良い。 それもあんなバカでかいのではなく。もっと使いやすくて、利便性に優れたやつだ。 そう思った時、手には異様に馴染んだ槍の感触があった。魔法で創ったモノではない。インクルシオが作り出した副武装だ。 細長く、杏子が普段から愛用する槍と寸分違わない、それでいて強度は遥かに凌駕する代物。 便利な鎧だ。こちらの注文にちゃんと答えてくれる。 「行くよ、インクルシオォォォォ!!!」 叫ぶ、その魂で以て。 槍から放たれた渾身の突きは空間すら歪むほどの轟音を放ち。シコウテイザーへと直撃する。 しかし、その神体はやはり無傷。舌打ちと共に杏子はいったん距離を取り、更なる助走をつけ追撃。 だが堂々巡りだ。幾ら殴ろうが突こうが、シコウテイザーの体には一切のダメージはない。 そして攻撃を続けるということはインクルシオの性質上、近接戦が主になる。光線が降り注ぎ、杏子は時間を止めながら紙一重でかわし槍を振るい続ける。 「ぐ、ゥ……!!」 ただでさえ、その巨大な体から放たれる攻撃は範囲がデカい。しかもほぼシコウテイザーと密接した状態にある。 幾ら時を止めようが、処理しきれない攻撃が出るのはやむをない。光線が肩を抉り、太腿を掠る。直撃こそ貰わないものの杏子の肉体には死へと近づく、ダメージが蓄積されていく。 「――――――――――――!!!」 赤い影が一筋の線のように割り込み、光線を切り裂く。 テオドーラが庇うようにインクルシオの前に立ち、そのビームソードを携え肉薄する。 これも既に幾度どなく繰り返されてきた光景だ。 無駄な攻撃を重ね、それを叩き落とす。だがいくらシコウテイザーを叩こうが意味はない。 これはお父様を核にした、今だその身に取り込んだ神とやらを燃料にしている。それらの膨大なエネルギーはシコウテイザーのボディーを覆う不可視のシールドとしても働いている。 「何――――」 一撃、タスクが入れた光の剣がほんの僅かだけシコウテイザーの鳩尾に触れ、その表面を削ったのだ。 ダメージというダメージではない。しかし、掠り傷程度だとしても攻撃が通ったという事実。 タスク本人も驚愕していたが、その理由にすぐ当てが付いた。 「フフフ……フハハハハハ……」 テオドーラの後方、黒のラグナメイル ヒステリカを駆るエンブリヲがその右手で見せ付けるかのように突き出したもの。 赤黒くも生々しい掌に収まるほどの肉の塊だった。それは人の体内の中でも重要な部位である心臓。 「貴様……それは……」 「そうさ、イリヤの聖杯(しんぞう)だよ」 杏子はそれを聞き、敗戦してからエンブリヲが一度単独行動していたのを思い出す。 恐らくあのタイミングで回収に向かったのだろう。 「神とやらを制御しきれない貴様は器をその機体に移した。そして、その中で神を抑え込むには我々以外の参加者の魂と貴様が持っていた既存の魂を利用しているはずだ。 残念だが、これにも似たような機能がある。サーヴァントと呼ばれる神秘の存在を内包し、手にした者のその願いを叶えるというね。同じホムンクルスでも、貴様如きより数段出来がいい。 見ろ。貴様の手持ちの魂もこちらの方がよほど居心地がいいと見える」 多少の手こそ加えたが、その心臓はまさしく万能の願望機として魂を収集し自らの務めを果たそうとしていた。 彼女らの親が願った普通の女の子として育てよう。そんな想いなどエンブリヲは知る由もなく、また知っていたとしても止めないだろうが。 だが、戦況が好転したわけではない。ようやくダメージが入るようになっただけであり、シコウテイザーの硬さも火力もいまだ健在だ。 お父様もこうなった以上は一切の手を抜かず、全力で来る。 世界が灼熱に包まれる。シコウテイザーの等身ほどの光線が放たれ、爆炎と爆風を巻き上げる。 燃え盛り、天へと上るドーム状のような雲からインクルシオは飛び出し、タスクが刻んだその僅かな亀裂へと槍を向けた。 シコウテイザーの拳がインクルシオを殴りつける。全身が圧迫され、血が噴き出し、体の内容物が飛び出しそうだ。 メキメキと軋む音が鼓膜を刺激し、体が危険信号を幾つも出し杏子の脳に報せてくる。 だが止まらない。もはや、防御に回す力すら惜しい。殴られながらも軌道は変えず、進行先もそのまま杏子は突っ切る。 「ッッ―――」 光線が杏子を包み込み、その身を焦がしインクルシオごと焼き尽くす。 それはもう生物であるのなら、適応など出来ようもない超高温の灼熱の世界と言ってもいい。 まさしく神による最後の審判とやらが本当にあるのなら、こういった最後で世界は包まされるのかもしれない。 だが生憎とインクルシオという生物は何処までも生き汚い、ましてその装着者たる杏子も死ぬ気など毛頭ない。 「借りるよエスデス!! ムカつくけどな!!」 無の灼熱から、大規模な氷が生成されインクルシを包んでいく。 エスデスの帝具、デモンズエキスの力を受けたことでインクルシオが進化し身に着けたのは氷に適合し、その氷を自ら生成する能力だ。 これも遡れば、エスデスがDIOと交戦した際にDIOが知らぬ間に起こったことだろう。 炎を突破し、更なる疾走。加速、加速、加速し続ける。 姿は青く変化し、雷を纏いそれをブーストすることで速度を最大限にまで高めた。 雷鬼纏身インクルシオ アリエル・モード。 ウェイブが進化させたインクルシオの新たな形態だが杏子には知る由もない。しかし、不思議と鎧から語り掛けてくるようだ。 (いいさ、好きにくれてやるよ) 鎧は語り掛けてくる。力を望んだだけやると。だが、見返りがいる。 杏子が払う見返りはただ一つ、その肉体を寄越せ。 この鎧は何処までも生き汚く、杏子の体を食い散らしてでも生きることに固執しているらしい。 「だからさ―――絶対に私達を勝たせろよ!!」 次元を超えた疾走が炸裂する。 雷光が瞬き、インクルシオの力は最大限開放される。 槍を通じ、雷がシコウテイザーを焼きタスクが刻んだ亀裂へと流れ込む。 「もう……一度ォ!!」 時を止め、迫りくる手をかわし更に助走をつけ疾走。 叩きつけた槍に確かな手応えを感じ、杏子はいけると確信した。 壊せる。体はくれれやっただけはある。この鎧、コスパは悪いが爆発力という点ではこれ以上にない性能を秘めているらしい。 「足りねェ……まだ、足りねえ! 気張れ、インクルシオ!!」 叱咤を込めた叫びでインクルシオは変化する。 その黄金の光は雷光すらもあまりの眩さに霞むほどに神々しく、黒く覆われたシコウテイザーと対を成すようだ。 光の中から黄金に包まれたインクルシオは砲弾のように槍を携え、シコウテイザーのボディへと食らいつく。 その衝撃音だけで会場そのものを揺らし、内部のお父様すら顔を歪ませる。 危険だ。 この鎧、予想以上に危険だ。 正史では確かにシコウテイザーはインクルシオに敗北したが、それを加味した強化を施していた。 だというのにこの鎧はこちらの予測すらも遥かに凌駕した進化を果たす。 何の因果だ。まるでシコウテイザーを滅ぼすかのような、この鎧とその適合者がこの場面まで残ってしまったのは。 シコウテイザーは膝を折り曲げ、一気に跳躍した。この巨体で飛翔した際の大地への震動はいかなるものか。 それは空中であっても例外ではなく。震動は空気を伝い杏子の体をも揺らしていた。 その僅かな隙に遥か上空から、シコウテイザーは両手を組みその杏子の脳天へと振り落とす。 「ガッ―――――」 その重量と重力を乗せた一撃はあまりにも重い。 全身の骨が砕け、脳みそは飛び散り、収まっていた目玉も吹き出し。 骨と体液と肉が入り乱れ、インクルシオの中でシェイクされながら人間のミックスジュースを作り出していた。 それでも、まだ脳は生きている。 体がどんなに壊れようともソウルジェムは無事だ。だから、まだ戦える。 壊れた体を魔力で補強し再生し、インクルシオは地面に叩きつけられる前に受け身を取り、大地からバウンドするように飛び立つ。 迎え撃とうとビームを放つシコウテイザーにやはり杏子はかわす素振りはない。 放たれたビームは秒を置かず杏子へと直撃する。 「―――ロッソ・ファンタズマ」 一人では足りなかった。 ここにきてよくよく痛感したことだ。 この場に於いて、タイマンで勝ったことなど一度だってない。 だからこそ数を増やせばいい。本当に簡単で単純な理屈だ。 13人の黄金のインクルシオがビームを跳ね除け、シコウテイザーの亀裂へと辿り着く。 亀裂はより深く、より広く。刻まれ広がり穴をこじ開けられる。 「―――あーくそ……」 鎧が崩れる。 力を使い果たしたという奴だ。多分、ソウルジェムも真っ黒だろう。 あと一歩というところだったのに、本当に惜しかったなぁ。 まあいいか……。 それでも……。 「あとはたのんだ……」 任せられる仲間がいるからきっと無駄にはしないさ。 「うおおおおォオオオ!!!」 崩れる鎧と共に散っていく、杏子と入れ替わるようにテオドーラが突撃する。 全ての意思はテオドーラとその操縦士タスクが受け継ぐ。 ビームソードは亀裂へと打ち立てられ、抉るようにタスクも操縦桿を力の限り捩じ回す。 「ホムンクルスゥゥゥゥ!!!」 自らを叱咤するかのように怨敵の名を叫ぶ。 「貴様に何ができる」 嘲笑うようにお父様は手を翳し、機体が揺れた。 「ああ、その通りだ。だからこそ私がいる。フラスコの中の小人」 ビームを放ったのはエンブリヲが駆るヒステリカだ。 その光景は意外以外に他ならない。あの傲慢が服を着たような男が、タスクを助けただと? 何が起こっている。 「ッ―――」 シコウテイザーの亀裂がより深まる。 溜まらずテオドーラを振り払い、シコウテイザーは後退する。 テオドーラへとビームを放つ。だがヒステリカが割り込みディスコード・フェイザーで相殺する。 光が明けた刹那にテオドーラが加速する、それは人型のものから完全な飛行特化であるフライトモードに変化していた。 速度を増した機体の突撃はシコウテイザーにも響き、その巨体を揺さぶる。 更にフライトモードを解除し零式超硬度斬鱗刀「ラツィーエル」を抜きシコウテイザーへ切りつけた。 斬鱗刀の名の通りドラゴンの鱗を貫く程の切れ味を誇るビームソードだ。 シコウテイザーの鳩尾は更にひび割れ、鳩尾を抑えるように手で覆い、膝を折る。 「何故だ……お前たちは……敵同士では……」 人間の結束が予想しえぬ力を生み出すのは認めよう。それが敗因でもあったのだから。 しかしながら奴らは敵同士、本来殺し合うべくして生まれた宿敵同士である。 なのに何故これほどの力を発揮しコンビ―ネーションまで息を合わせ、こちらを追い詰めてくる? 「決まってるだろ!」 「何?」 「良いか、良く聞け! 俺達は確かに敵同士だ! けど、アンジュが大好きだったんだよ!!」 「貴様に内包されたわが妻の魂、返してもらうぞ!!」 「俺の妻だァ!!」 「貴様ァ!!」 ディスコード・フェイザーが直撃し傷を隠すシコウテイザーの手を跳ね除ける。そこへ更にテオドーラがビームライフルを打ち込む。 機体の損傷が激しくなる。このままでは本当に――― たった一人の人間によって宿敵同士すら結託する。 タスクもエンブリヲもヒルダ(テオドーラ)もアンジュを愛し続けていた。 だからこそ、目の前の訳の分からない理由で殺し合いに巻き込んだ馬鹿には、制裁を与えなければならない。 その為ならば例え殺したくなるほどいけ好かない奴であっても利用するだけ利用する。 ある種の下半身で繋がった奇妙な絆による愛の力は神さえも凌駕する。 「意味の分からないことを」 「フッ、お前には分からないだろうな!」 「何?」 「俺を包んでくれた、一番深いところの気持よさと暖かい温もり……溶け合いそうな甘い感触。それがどんなに幸せで、俺に力をくれたか……。 何時まで経ってもカッコつけてスカしてるだけの、女もろくに抱けない変態親父“共”には分からないだろうなァ!!!」 「タスク……貴様……なんという破廉恥な」 「なんだこいつ」 再度、テオドーラが肉薄しビームソードが切りつけられる。 これ以上のダメージは危険だ。距離を開けたうえで遠距離攻撃から、奴らを始末する。 密接するテオドーラを掴み引きはがす。 だがテオドラ―らは力強く動かない。否、光の障壁は手を遮るのだ。 ミカエルモード。その真価は全身を覆う防御障壁だ。もはや、その全身が一つの武器である。 「エンブリヲ……やれェ!!」 タスクの叫びと共にテオドーラは逆に加速しビームソードをより深く突き立てる。 「良いだろう。貴様ごとフラスコの中の小人よ、宇宙の藻屑となれ! ―――また生と死の揺りかごで―――柔く泡立つ―――」 テオドーラを後押しするようにディスコード・フェイザーが直撃する。 光の障壁によりディスコード・フェイザーを耐えながら、その勢いに後押しされテオドーラはより力を増す。 「これ、でェ……!!」 機体内部へと突き進むテオドーラを両手で掴み打ち止めるも、勢いは止まるばかりか増していく。 このままでは貫通する。 だが、突如としてテオドーラの光の障壁が止み、一瞬にしてディスコード・フェイザーに飲み込まれていく。 「燃料切れか……肝心なところで……」 ディスコード・フェイザーを受け止めながら、シコウテイザーは光線でヒステリカを貫く。 機体が揺らめくヒステリカに舌打ちし、攻撃を打ち切ってからエンブリヲは瞬間移動で後退する。 爆風に煽られながら、脱出機能を使いタスクは生還していたようだが、ラグナメイル一機の消失は手痛い。 ようやく追い詰めたフラスコの中の小人をここで仕留めそこなうとは。 「残念だったな、調律者よ」 「……いや、構わないさ」 まあ、今回は全て美味しいところはお前たちにくれてやろう。 エンブリヲは笑みと共に背を向ける。 逃げるつもりか。お父様は追い打ちをかけようとしたところで異変に気付く。 それは地獄門の付近にあった。膨大な炎を糧に天高く飛び立ちこちらに向かってくる。 棒状の鉄の塊。人類が神の天上の領域を超え、更なる世界の進出を図った叡知の結晶。 「ロケット―――」 杏子がタスクがエンブリヲが刻んだ唯一の亀裂にロケットは一切の躊躇なく突っ込んだ。 「あとは君たちに任せよう。私の欲したものは手に入った」 大方、あのロケットにエドワード達が乗り込んでいるのだろう。 本体の後始末は彼らにやらせておけばいい。 エンブリヲはその手の心臓を見つめ、恍惚として笑みを見せる。 「アンジュ……君の魂は確かに取り戻した。待っていてくれ……天使の再臨は近い」 □ ロケットが爆散し、爆風がシコウテイザー内部へと吹き荒れていく。 シコウテイザーとロケットの破片がばら撒かれながら、煙に囲われ視認できないその爆発の中央部へとお父様は意識を向ける。 アレに乗り込んでいるであろう連中はどうなったのか。普通ならば死んでいるだろうが。 刹那、紫電が弾け雷撃の槍が放たれた。更に煙を割くように柱が錬成され、水流が巻き上がりお父様へと叩きつける。 「―――ブラックマリンか」 三者の攻撃よって体を貫かれ、吹き飛ばされるお父様は眼前の敵が如何な方法で爆発から逃れたか気づいた。 恐らくは魏のブラックマリンが誰かが回収しそれを使い、水の膜を全員の周りに貼ることで一種のシールドとして爆発から防いだのだろう。 その証拠に煙の中から見せた一人の人影、黒の指にはブラックマリンの指輪が嵌められていた。 ティバックの中に水を貯めておけば、その真価はいつ如何な場所でも発揮できる。 「立てよ、ド三流」 吹き飛ばされ、地べたに膝を着けるお父様へあの錬金術師が忌々しく見下ろしてくる、 まるであの時の再現ではないか。 御坂美琴、黒、雪ノ下雪乃、そして――― 「俺達とお前との格の違いってやつを見せてやる!!!」 エドワード・エルリック、あの死神がまたしても―――― →
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トップページ>goods>ルームセット NO.Z0510 ルームセット (廃盤) おすすめの生地 おすすめの用途 このアイテムについてコメントしたい方で、wikiの編集が不安な方は、以下の コメントフォームからどうぞ。 名前 コメント このアイテムを作ってみての難易度はどうでしたか? 選択肢 投票 難しいので初心者には無理! (0) 難しいけれどがんばればなんとか (0) 意外と簡単 (0) 初心者にもおすすめ! (0)
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Blu-ray OVA 俺を好きなのはお前だけかよ~俺たちのゲームセット~(完全生産限定版) 発売日:9月2日 駱駝の人気ライトノベルをアニメ化した学園青春イチャラブコメディのOVA。 すべてにおいて自分を上回るホースとパンジーを賭けた勝負をすることになったジョーロ。 圧倒的に不利な状況下で、 卑怯な手を使いまくろうとするジョーロだが…。 ここを編集 2020年9月OVA発売。俺を好きなのはお前だけかよのOVA。 https //ore.ski/ 監督 秋田谷典昭 副監督 守田芸成 原作・シリーズ構成・脚本 駱駝 絵コンテ 竹之内和久、守田芸成、秋田谷典昭 演出 神保昌登、平田貴大、守田芸成、秋田谷典昭 原作イラスト ブリキ キャラクターデザイン・総作画監督 滝本祥子 作画監督 飯飼一幸、齊藤雅和、中澤勇一、佐野隆雄、川添亜希子、井嶋けい子、林隆洋、原友樹、劉雲留、STUDIO MASSKET、梅田一城、藁科将斗、滝本祥子 美術監督 諸熊倫子 色彩設計 岡亮子 撮影監督 廣岡岳 撮影監督補佐 山本裕規 3D監督 斎藤威志 2DCGデザイン 益子典子 編集 坪根健太郎 編集助手 瀧川三智 音響監督 郷文裕貴 音響効果 中野勝博 録音調整 八巻大樹 録音助手 砂庭舞 音楽 藤澤慶昌 アニメーション制作 CONNECT ■関連タイトル Blu-ray OVA 俺を好きなのはお前だけかよ~俺たちのゲームセット~ 完全生産限定版 Blu-ray 俺を好きなのはお前だけかよ 1 完全生産限定版 OPテーマ パパパ コミック版 俺を好きなのはお前だけかよ 1 原作小説 俺を好きなのはお前だけかよ 随時更新! pixivFANBOX アニメ@wiki ご支援お待ちしています! ムック本&画集新刊/個人画集新刊/新作Blu-ray単巻/新作Blu-ray DVD-BOX アニメ原画集全リスト スタッフインタビューwebリンク集 最新登録アイテム Blu-ray 魔女見習いをさがして Blu-ray「どうにかなる日々」Blu-ray Happy-Go-Lucky Edition 初回限定生産 Blu-rayDisc付き 『ラブライブ! スーパースター!!』「始まりは君の空」【みんなで叶える物語盤】 BEM~BECOME HUMAN~豪華版Blu-ray Blu-ray 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 10th Anniversary Compact Collection Blu-ray ぐらぶるっ! Blu-ray 映画クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 Blu-ray CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda Millennial Fair FINAL at NAKANO SUNPLAZA 2020 ゴブリンスレイヤー Blu-ray BOX 初回生産限定 グリザイア ファントムトリガー THE ANIMATION 03[Blu-ray] 特装版 ラブライブ! サンシャイン!! Saint Snow 1st GIG 〜Welcome to Dazzling White Town〜 Blu-ray Memorial BOX ゾンビランドサガ Blu-ray BOX 初回生産限定盤 Blu-ray 思い、思われ、ふり、ふられ 完全生産限定版 Blu-ray Fate/Grand Carnival 1st Season 完全生産限定版 Blu-ray Fate/Grand Carnival 2nd Season 完全生産限定版 Blu-ray ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII OVA Blu-ray 映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日 BD特装版 Blu-ray アズールレーン 三笠大先輩と学ぶ世界の艦船 ぶるーれい Blu-ray 水瀬いのり Inori Minase 5th ANNIVERSARY LIVE Starry Wishes かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ 22 OVA同梱版 呪術廻戦 公式ファンブック よつばと! 15 監修 庵野秀明・樋口真嗣など 夢のかけら 東宝特撮映画篇 パラレルパラダイス 13 特装版 アイドルマスター ミリオンライブ! Blooming Clover 9 オリジナルCD付き限定版 美樹本晴彦マクロス画集 軌 わだち― 夜ノみつき 10th EUSHULLY WORKS しらこ画集 ILLUSTRATION MAKING VISUAL BOOK カズアキ画集 Kazuaki game artworks ライザのアトリエ2 ~失われた伝承と秘密の妖精~ 公式ビジュアルコレクション ぼくたちは勉強ができない 第21巻 音声ドラマ ミニ画集付き同梱版 あいきょう 荻pote作品集 ヒョーゴノスケ流 イラストの描き方 TVアニメ『くまクマ熊ベアー』オフィシャルファンブック 押井守原作・総監督 西村純二監督作品 『ぶらどらぶ』 解体新書公式コンプリートガイド OCTOPATH TRAVELER Design Works THE ART OF OCTOPATH 2016-2020 おそ松さん 3rd season SPECIAL BOOK 描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方 YMO1978-2043 「小冊子・YMO全トラックリスト2021 Amazon限定表紙版」付き To LOVEる -とらぶる- ダークネス FIGURE PHOTOGRAPHY COLLECTION 斉藤朱夏 CALENDAR 2021.4-2022.3 ラブライブ! サンシャイン!! Aqours DOME TOUR COMIC ILLUSTRATION BOOK ラブライブ! サンシャイン!! Aqours COMIC ILLUSTRATION BOOK 2020 Winter イジらないで、長瀞さん 10 特装版 「はたらく細胞」公式アニメ完全ガイド リスアニ! Vol.43.2「アイドルマスター」音楽大全 永久保存版VII アイドルマスター シャイニーカラーズ 3 CD付き特装版 ウルトラマンマックス 15年目の証言録 ウルトラマンZ特写写真集 じじぃ 人生は深いな 冴えない彼女の育てかた 深崎暮人画集 上 Flat. ぷよぷよ アートワークコレクション 古谷静佳1st写真集 re START THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER COLLABORATION! Great Journey ウルトラマンゼロ Blu-ray BOX クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Blu-ray BOX 初回生産限定版 小林さんちのメイドラゴンBlu-ray BOX ゆゆ式Blu-ray BOX スペシャルプライス版 とーとつにエジプト神 Blu-ray 直球表題ロボットアニメ 全話いっき見ブルーレイ 未来ロボ ダルタニアス 一挙見Blu-ray VOL.1 シュヴァルツェスマーケン 全話見Blu-ray ワールドトリガー一挙見Blu‐ray VOL.1 異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術 魔王プレイボックス 初回生産限定 トータル・イクリプス 全話見Blu-ray Blu-ray Cutie Honey Universe Complete Edition 夜ノヤッターマン 全話いっき見ブルーレイ こみっくがーるず Blu-ray BOX 初回生産限定 Blu-ray 幼女社長 むじなカンパニーセット 初回生産限定 ログ・ホライズン 円卓崩壊 Blu-ray BOX 七つの大罪 憤怒の審判 Blu-ray BOX I Blu-ray 水樹奈々 NANA ACOUSTIC ONLINE 『Dr.STONE』2nd SEASON Blu-ray BOX【初回生産限定版】 魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編 Blu‐ray BOX 今井麻美 Winter Live「Flow of time」 - 2019.12.26 at EX THEATER ROPPONGI - Blu-ray盤 Blu-ray 仮面ライダーゼロワン ショートアニメ EVERYONE'S DAILY LIFE 仮面ライダー一挙見Blu-ray 1号 2号・V3編 仮面ライダー一挙見Blu-ray X・アマゾン・ストロンガー編 スーパー戦隊一挙見Blu-ray 1975-1981 スーパー戦隊一挙見Blu-ray 1982-1986 半妖の夜叉姫 Blu-ray Disc BOX 1 完全生産限定版 裏世界ピクニック Blu-ray BOX上巻 初回生産限定 Levius レビウス Blu-ray BOX【期間限定版】 スーパー戦隊 学研の図鑑 江口寿史美人画集 彼女 アニメディスクガイド80's レコード針の音が聴こえる necomi画集 PHONOGRAPHIC フルーツバスケット アニメ2nd season 高屋奈月 Illustrations 2 彼女、お借りします TVアニメ第1期 公式設定資料集 ドラゴンボール 超戦士シールウエハースZ 超シールガイド ガンダムアーカイヴス『ガンダムビルドシリーズ』編 Angel Beats! 天使画集 Angel Diary PANZER FRAULEIN 野上武志画集 【陸編】 Angel's cage るび様画集 Sweet Dream はすね画集 画集 制服Girl's▼コレクション もりょ作品集 異世界ファンタジーのキャラクターコレクション 劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」公式ビジュアルBOOK アイドルマスター シャイニーカラーズ イラストレーション ワークス VOL.2 Blu-rayDisc付き 八十亀ちゃんかんさつにっき 10 特装版 あんさんぶるスターズ! Ready For Star 2巻 缶バッジ付 Switch エーペックスレジェンズ チャンピオンエディション New ポケモンスナップ -Switch 【PS4】BIOHAZARD VILLAGE PLAMAX 聖戦士ダンバイン サーバイン ノンスケール PS製 組み立て式プラスチックモデル スーパーミニプラ 無敵ロボ トライダーG7 3個入りBOX 魔道祖師 前塵編 完全生産限定版 HGUC 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ Ξガンダム MG 機動戦士ガンダムSEED モビルジン 1/100スケール カンチ 青 ノンスケール ABS&ダイキャスト製 塗装済み完成品 ☆赤ver 魔女の旅々17 ドラマCD付き特装版 クリストファー・ノーランの世界 メイキング・オブ・インターステラー BEYOND TIME AND SPACE 時空を超えて るるぶアズールレーン からかい上手の高木さん15からかいカレンダーカード付き特別版 「武装神姫」原案イラスト集 ALLSTARS 機動戦士ガンダム サンダーボルト 17 キャラクターブック付き限定版 とある科学の超電磁砲T OFFICIAL VISUAL BOOK Aqours 5周年記念アニメーションPV付きシングル「smile smile ship Start!」【BD付】
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ゲームセッティング アイテムの自動取得など、一部のゲーム設定はログアウトすると初期化される。「@settings」(最後に小文字のs)から変更することで、これらの設定の初期状態を指定することができる。 チャンネルサポート、リクルートなど、全体チャット。[ON]で、受信。 ユーティリティアイテムの自動取得(@autoloot)を設定。[ON]にすると、指定した値(%)よりドロップ率が低いアイテムを取得。 取得アイテムリスト「@alootid +id」や取得禁止アイテムリスト「@droploot +id」の設定はセッティングには記憶されないようだ。 横殴り防止(@noks)[ON]にすると、横殴りされない。 「@noask」はパーティー加入申請やトレード要請の許可・不許可([ON])を設定。間違えないように。 アナウンスPvP、BG(バトルグラウンド)のアナウンス。[ON]で、受信しない。 「@settings」にない項目の設定(/nsなど)は、ログイン・ログアウトしても保存されるようだ(さらに例外あり?)。
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ドラムセット 名前 買値 色 雰囲気 幸 入手先 分類 属性 備考 コンガ 1600 白・茶 昔・大 ドラムセット・楽器 ジャンベ 1900 白・茶 昔・大 ドラムセット・楽器 ティンパニ 2100 白・灰 昔・大 狐 ドラムセット・楽器 【トップページ > アイテムリスト > かぐ > セット ∥セットボーナス∥表の見方】