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※この項目は書きかけ項目です。この記事を 加筆・訂正などして下さる協力者を求めています。 近代的なオフィスビル オフィスビル(おふぃすびる、Office Building ) 屋上にヘリポートを備えた駅前のオフィスビル。 場所 新街区/メインストリート AO3-AP4 周辺施設 湖 DAILY PEG 新聞社 DAILY PEG 新聞社 リバーサイドレストラン ◎ 旧遣伝使通り メインストリート、アップツービル メインストリート、駅前広場 中央駅 作品情報 ビルダー ふじさわ ビルド見所 関連リンク コメントどうぞ 名前 コメント
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REITには以下のような種類が存在し、オフィスビル特化型はその一つである。 オフィスや商業施設がREITのアンダーライイングの中心になっている。 ●オフィスビル特化型 ●レジデンス(賃貸住宅)特化型 ●商業施設特化型 ●物流施設特化型 ●ホテル特化型 ●複合型(オフィス+住居、オフィス+商業施設、商業施設+住居、住居+ホテル) ●総合型(様々な用途)
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オフィスビル 基礎データー imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 初期価格 $16,000,000 収入 $150,000 収益率 0.94% 所持数別収益率 所持数 価格 収益率 0 $16,000,000 0.94% 1 $17,600,000 0.85% 2 $19,200,000 0.78% 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
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第2回戦:【オフィスビル街】STAGE試合結果 このページではダンゲロスSS5第2回戦:【オフィスビル街】STAGEの試合結果を公開します。 第2回戦:【オフィスビル街】STAGE試合結果投票結果 投票コメント5-0-0 4-1-0 4-0-1 3-2-0 3-1-1 3-0-2 0-5-0 1-4-0 0-4-1 2-3-0 1-3-1 0-3-2 0-0-5 1-0-4 0-1-4 2-0-3 1-1-3 0-2-3 2-2-1 2-1-2 1-2-2 投票結果 第2回戦:【オフィスビル街】STAGE試合結果 【オフィスビル街】SS その1 VS 【オフィスビル街】SS その2 VS 【オフィスビル街】SS その3 モブおじさん VS 雪村桜(初号機) VS 澪木祭蔵 123 ポイント 55 ポイント 92 3/24 16 08 SS最終投稿時間 3/25 23 55 SS最終投稿時間 3/25 23 28 勝利 勝敗 敗北 勝敗 敗北 得点分布 9 5point 2 5point 4 5 4point 0 4point 7 12 3point 6 3point 5 5 2point 5 2point 4 12 1point 17 1point 21 11 0point 23 0point 13 投票コメント 5-0-0 この人が勝ち上がって大丈夫かこの大会……!だけど予選から筆力が本物過ぎて、今回もやっぱり面白いから入れるしかないんです!素材の使い方も、物語の組み立て方も本当に上手い。ウェットな部分との緩急のつけかたもいい。対戦相手の魅せ方も相手をしっかり読み込んでいるんだなと思いました。SS2はドラマに振ったSSが相手だとちょっと弱かったのと、SS3は対戦相手たちについて「見たいこのキャラはこれじゃない」感がありました。 SS1 桜を倒す時のモブおじムーブメント良いですね。澪木祭蔵の能力攻略も冒頭の情報がいきて良いものでした。 期待を裏切らず桜ちゃんを毒牙にかけ、澪木さんのアクションはストゼロを織り交ぜて軽快で、それでいて澪木さん自身が変身したらああなるという精神が反映される系能力バトル要素。なんでこんなキャラで爽やかなんだろう。あとなぜライム。 SSその1 澪木に期待していた内容をモブおじさんが書いちゃった。モブおじさんがちゃんと二人を自らの手で倒していたのがポイント高いです。決着のための伏線も良い。SSその2 ギャグがめちゃくちゃ面白い。文章量に対しての満足度が非常に高かったです。前半はギャグだけど後半はシリアスに戦っているのも一粒で二度おいしい。SSその3 澪木の中の人がモブおじさんの物語をめちゃくち掘り下げてきた。SSの並び順でこれが一番最初だったらまた点数配分が変わっていたと思います。変態が変態する発想がすごい。 4-1-0 4-0-1 最初は2-1-2で行こうと思っていたのですが、モブおじさんがプロローグ→第一回戦→第二回戦と毎回テイストを変えていることに気付いたのでこの配点で。先の盛り上がりを考えると引き出しの多さは重要! その1モブおじさんをターゲットと思わせて雪村桜(初号機)へ銃撃する、序盤にお菓子を出しておいて決着の理由にするなど、構成の上手さが光るSS。中盤のモブおじさんと澪木の会話がやや説明的に感じるものの、全体から見ると些細な問題です。その2ツッコミどころのある展開を出して、地の文で即ツッコミを入れるという流れでドライブ感のあるSS。『TDL』による雪村桜(初号機)の変化した異形が人間であるところなど、自キャラのキャラクター性をうまく活かしている部分が多いと思います。ただ、文章の細かいコンビネーションで常に攻めている分、見せ場の起伏という意味ではややパワー不足に感じるところがありました。その3サブキャラや1回戦のキャラも利用して、対戦相手のキャラ性を引き出そうとする意欲の感じられるSS。なんですが、登場人物が多い分シーンの切り替わりが激しく、ちょっと読みにくさというか脳内映像の定まらなさみたいなものを感じてしまいました。 悔しい。悔しいけど、モブおじさんがすごかった……。澪木さんにトドメを刺すところとか、桜さんの回想とか、随所にハードボイルドな雰囲気が漂っていて、震えたですよ。すごい。一回戦で澪木さんが見せた魅力的な世界観、桜ちゃんの設定を踏まえた上で鮮やかな戦いを描き切った手腕。脱帽です。 3-2-0 3-1-1 3-0-2 その1正直なところモブおじさんの過度な性的描写は苦手なのですが、今回は桜ちゃんに生殖器官がなかったので幾分かマイルドになっていて読みやすかったです。でも可愛い女の子にヘビーな設定を上書きするのは好みじゃないので減点して3点にさせていただきます。その2いくら相手がモブおじさんとはいえ処理が雑だと思いました。あと則本総理は非常に好感度の高いキャラなので、モブおじと並べて貶められるのはあまり良い気分ではないです。その3決着の仕方が偶発的というか、勝者のキャラが頑張った結果ではなく棚ぼた勝利だったのが気になりました。勝ちは自分で掴みに行ってこそだと思います。 その1:なんでモブおじのくせにそんな綺麗にまとめてくるんだよ。一方で桜ちゃんはきちんとヤってるし(グッジョブ)その2:桜ちゃんが人間になるの良かったのでもうちょっと活躍が見たかったです。その3:流石澪木さんの作者だけあってモブおじさんの虫描写が凄い。 とにかくその1の強さがヤバかった。与太ギャグ、能力バトル、下ネタ、エモ、全方位カバーしつつ文章自体は読みやすい。他二つも十分強いのに、その1が強すぎる! どれも面白かったんですが、その1のクオリティが1段高く思えました。モブおじさん、最低なのにカッコ良さも両立させてるの何なんですかね…腹立つな…。 0-5-0 三倍の長さなら三倍の面白さを……というのは無茶だとは思いますが、その1もその3ももっと文字数を詰められたと思います。長いことは美徳でも何でもないですからね。マジで。頼むからそのカルピスを薄めないでくれ。もっと美味しかった筈だ。その2は、則本総理を好きになれるいいSSでした。ひどいことするよな。ダンゲロスじゃなかったら許されないぞ。ただ、前半がキレッキレだった分後半にもこの方向性の面白さを期待してしまったので、そのあたりのバランスが取れているともっとよかったと思いました。 その1もその3も面白かったんやけど、やっぱ見返すと桜ちゃんのキャラが結構解釈違いなのが気になってしまって……ごめんな…… 1-4-0 0-4-1 コメントなし 2-3-0 1-3-1 0-3-2 一番簡潔で読みやすい。その1の設定が重いのが辛かったのと、その3は何が起きているのが分かりづらかったので、その2に重点投票です。 ・その1/なんでモブおじさんがちょっとカッコいいのか。弘法筆を選ばず?・その2/勢いのある試合運びが読んでて面白かった・その3/モブおじさんがこわかった あらゆる戦場で桜ちゃんが可愛そうな目に合ってて可愛そうだなって思いました。 その2モブおじさんが刹那の判断で愛よりレイプを取っちゃうあたり好印象でしたシロナ君への愛は偽物じゃないだろうけど、モブおじさんならしょうがないよな!って納得感があります全体的にインフレしすぎず面白かったです その2の文字数で十分に書き切れることが判明してしまった以上、1と3はあまりにも冗長だったことが浮き彫りになってしまったなあと。その2はそのへんが必要十分に書ききっていた上、変身先のチョイスが他のどのSSよりも腑に落ちたので。その1は無関係の外に手を広げ過ぎなやモブおじさんの変身魅力に劣っていたところがネックで、その3は雪村が分離したあとの描写があまりにゴチャついてて何が起きてるか全然読み取れなかったのがマイナスでした。 0-0-5 初戦だと全員投票した側同士の試合、最高に投票しづらくない?1:「……試してみるかい」と「超えてみな」……普通にかっこいいからやめろよ……!てかそれ以外の台詞もセンスが良い。なんでレイプ魔の台詞の節々から我慢汁ではなくカッコよさが滲み出てるんだよ!なんか今回綺麗だしよお……!!!2:則本総理の風評被害とライオン豆知識わーいひどいぞ!!!後者を倒し方に持っていく辺りとかうまいけど……ひどいぞ!!!!!!!3:強制性行等罪再出現!なんでそういう所で被りを見せるんだ!?全員の『そうそう、そういう姿が見たかったんだ』と思ってたのを描いてくれてるのが本当信頼できる。うまい……。あと、『モブおじさんがTDLで素敵なことになんないかなあ』……って期待も成し遂げてくれてたしよ……好きなんだよ……この能力が他の参加者にどう作用するのかを……まだ見てえ……!見させてくれ! 1-0-4 0-1-4 SSその1は、とにかくあらゆるネタを拾おうという気概は良いと思いますが、雪村ラボの誰得ガチ悪役化や安直なオーク化&稚拙なラップなど解釈違いが甚だしかったです。端的に言って正史になってほしくないです。SSその2はモブおじ撃退までの流れは非常に面白かったですが(中の人は則本総理にごめんなさいしないといけないね)澪木パートのあまりのパワーダウンぶりはさすがにもうちょっと頑張ってほしかったです。桜ちゃんの異形化=ヒトのアンサーはとても良かったですが!全ての面でバランス良く書けていて、最も次戦への期待が持てたSSその3を支持しますが、こちらも正直1回戦の方が面白く、特に今回はシロナくんの使い方や紛らわしいだけの桜チェンジなど無駄な盛り付けがとても多かった印象だったので、次はもっとシャープに仕上げてくれることを期待します。 その2は桜ちゃんがストレート勝ちしちゃったのでアレだったんですけど、その3はモブおじさん相手によく戦ったなあと思いました。もしその1の試合にシロナを絡めていれば分からなかったです。 SS1 一回戦ではまだギャグとして受け入れたけど、プロローグ描写をガン無視してモブおじさんの格を説明無く高めるのはちょっとアンフェアで好きではない。そりゃおじさんを一番カッコよく書けてるが・・相手側はそれを汲んだ上で弱者側として描いてるのに。腕一本失っても動揺すらない凄腕傭兵おじさんである。SS2 やっぱりライオン・・ライオンやな!これで序盤から面白い。一番バランスよく三者が書けてるのはこれだと思う。文字数も少なくは特に感じない。ただ1回戦で見た流れだなあってのを強く感じる。インパクトは薄かった。SS3 ラボの博士好きなので贔屓して入れる!ほぼ桜ちゃん主役SSな感じあるよね。SS1と3でなんか桜ちゃんの話は完結でいいかもって気はしてくる。桜ロボの合体?といったシーンが見直しても頭にスッと入ってこない。元ネタ知識があまりないからか。 その2何が「夜はライオン」だ バカモノ! 2-0-3 1-1-3 0-2-3 ここは各々強み弱みがSSの中に必ずあって、投票に困りました。3が若干私にハマったので、ここを少し贔屓させていただきます! 2-2-1 2-1-2 1-2-2 コメントなし
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種別 建設Lv. 経験値 建設費用 マス 建設時間 コイン MB コイン MB コイン MB インフラ(利) 5 def 90 11,000 2 1 20m 1m 収益 生産時間 収益/(hour*マス) 人口上限 人口上限/マス 電気 水道 200 15h 13.3 550 550 -15 -5
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第2回戦:【オフィスビル街】STAGE このページでは、ダンゲロスSS5第2回戦【オフィスビル街】STAGEの試合SSを公開しています。 ルールの概要については参加方法・ゲームの流れを、投票の詳細については本戦投票を、それぞれご確認ください。 試合SS 【オフィスビル街】STAGE 試合SS 【オフィスビル街】SS その1 VS 【オフィスビル街】SS その2 VS 【オフィスビル街】SS その3 文字数:26,571文字 文字数:7,822文字 文字数:25,058文字 SSの文字数を事前に確認したい方は、文字数の隣の色を反転させて表示させてください。 文字数を確認する必要のない方はそのままSSをお読み下さい。 このページを訪れた方は、誰でもご自由に試合SSを読んでいってください。 それぞれのSSを読み比べて、話の内容に応じて5ポイントの持ち点でそれぞれのSSを評価してください。 ポイントをつける基準、面白いと判断する基準はなんでも構いません。貴方が面白いと思った内容に応じて投票しましょう。 貴方の投票がゲームの勝者を決める! ・試合結果はこちら>>【オフィスビル街】結果 対戦キャラクター キャラクターの並び順と試合の順序は関係がありません。 キャラクター名 性別 特殊能力名 雪村桜(初号機) 女性 桜七大兵器 澪木祭蔵 男性 TDL モブおじさん 中年男性 MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー) 戦闘地形【オフィスビル街】 戦闘領域:2km四方 ビジネスマン達が通うオフィスビル、高層ビル施設が居並ぶ地形。 オフィスビル内には業務のための様々な道具、設備が存在する。 第2回戦:【戦場跡】STAGE 前の試合| 本戦SS一覧 |次の試合 第2回戦:【夢の国】STAGE
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SSその2 青い空!濁った空気!立ち並ぶ高層ビルの数々!ここは疑う余地もなくオフィスビル街! にもかかわらず通行人の一人も見当たらないこの異常事態…ということは!や、やった!ここはグロリアス・オリュンピア第2回戦の戦場、【オフィスビル街】STAGEに違いないぞ!遂にたどり着いたんだ! ああ、そして見るがいい!その中でも一際高いビルの屋上で、既に戦闘が始まっている! 向かい合うは二人の戦士。一人は警視庁所属の魔人公務員、澪木祭蔵。もう一人は…えっ!? いや、ちょっと待て!そんなはずがない!ここは…ここは【オフィスビル街】だぞ!雪村桜(初号機)、澪木祭蔵、そしてモブおじさんの三人のためだけに用意された特殊空間だ!だというのに…その姿は! そこにいるのは、「異形」だった。人間の身体に、獅子の頭が乗っている。さらにそのたてがみからつま先に至るまでが、鈍く半透明に輝く結晶体で出来ている。見たままを言い表すならば…それは、この場にはひどく不似合いな、獣人の彫像に他ならなかった。 【第2回戦:オフィスビル街STAGE】 【雪村桜(初号機)vs澪木祭蔵vsモブおじさん】 『異形』 「全くもう…っ!」 嫌になるわ、という言葉を発する暇もなく腕に衝撃が走る。不意に死角から放たれた打撃を、寸でのところでガードしたからだ。 戦闘開始から既に10分以上。このようなギリギリの攻防を何度も凌いだ。あと何回凌げるかは分からない。澪木は、自身の劣勢を冷静に受け止めていた。 「ククク、粘るじゃないか澪木くん…それでこそ犯りがいがあるってもんよぉ~~~!!」 澪木と対峙するその男の名は、モブおじさん!この醜悪な言動からして間違いない。 間違いないのだが…先ほど説明したとおり、その外見は獅子を模した獣人の彫像。さらに全身から発されるこの甘い匂い。材質は氷砂糖だろう!ああ、みなまで言うな分かっている! その姿はまるで、つい先日澪木を苦しめた…第102代日本国総理大臣、則本英雄ではないか!? 無論、モブおじさんは則本英雄ではない。すなわちこの状況はただの偶然。澪木の能力『TDL』により変身した結果が、偶々二人とも同じだっただけ。なるほどそれなら納得…できるかばか! 『TDL』はその者の心の在り様、深層心理が反映される能力である。則本総理ならいざ知らず、モブおじさんが雄雄しき獅子…ましてや甘い氷砂糖だと…?冗談も休み休み言え! …否。我々は、そして他ならぬ澪木は知っている。 澪木の能力によって体が菓子に変わる者。その多くは、秘めた夢想の如き理想を、捨てず、曲げず、まっすぐ半生に打ち出して来た人間。 ……確かに、条件は満たしている!この男は、好きな時に好きなだけ他人をレイプするという夢想の如き理想を半生に打ち出しまくっている!嘘はついていない! だ、だがライオンは!?このようなケチな性犯罪者に、百獣の王たる器があるとでもいうのか!? ところで読者の皆様はライオンのセックスを知っているだろうか。 彼らにはいわゆる繁殖期は存在せず、一年中いつでも発情すればセックスをする。 そして一度始まれば1日のうちに数十回もの射精をこなし、長ければ平気で数日間腰を振り続けることもあるのだ!すごいすごーい! もうお分かりだろう…この衝動性!この野生!セックスにおいて、モブおじさんはほとんどライオン!困ったことにかなり辻褄が合う!どうせ則本総理も夜はライオンだったんだろ! 「ハァッ!」 「フハハ、効かんわ!」 お返しとばかりに繰り出された澪木の正拳突きを、モブおじさんが余裕綽々の表情で受けきった。なんたる強靭な肉体!流石は氷砂糖の…ん?いやいや待て、おかしいぞ! 危うく誤魔化されるところだったが、そもそも氷砂糖、ひいては結晶体で構成された身体は衝撃に弱いはず!一回戦でそう解説されてたぞ!則本総理は偶々硬質化能力と噛み合ったからそこが克服されていたが、モブおじさんが何故澪木の拳を受けきれるのか!? 果たしてその答えは、モブおじさんの股間にあった。そう、ペニスである!もう分かっただろう! 皆さんご存知の通り、人間と違ってライオンのペニスには骨が通っている!それに加えて和姦道で鍛え上げられたペニスの硬度を考えれば…もはや金属バットでぶん殴られようともびくともしない無敵の要塞!モブおじさんは驚異的な反射神経で澪木の打撃の全てを股間で受け止め、以って無効化していたのだ! ああ、それにしても硬質化で弱点を克服とは…そんなところまで瓜二つか!もはや運命的なまでの符合である。もしも何か…何か一つでもボタンを掛け違えていたら、総理がレイプ魔、レイプ魔が総理になっていたのかもしれない。そう考えずにはいられない。 「はぁ、はぁっ…!汚いもの、触らせないでよね…!」 澪木の息は荒い。厄介なステルス能力を持つモブおじさんと広い空間で戦うのを避け、屋上まで誘導したのは澪木自身だ。ここなら少なくとも逃げられることはない。 その選択が間違っていたとは思わないが、誤算だったのはモブおじさんの変身した姿。 則本英雄。強く…そして恐ろしい男だった。戦場を利用し、持てる武器を使いきり、泥にまみれて勝ちをもぎ取った相手。もう二度とやりたくないと思ったあの怪物が、どうしても脳裏をちらつく。理性が何と言っても、身体があの恐怖を覚えているのだ。 その結果が、この劣勢。万全のコンディションなら少なくとも互角以上に持っていけたはずだ。 では、何故すぐに能力を解かなかったのか? 当然、数合打ち合った時点で己の不利を予感した澪木はすぐに『TDL』の解除を試みた。だが出来なかったのだ。その理由はモブおじさんの能力、『MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)』である! 相手の怯えを感じ取る。素直に言えない気持ちを読み取る。和姦道の使い手であるモブおじさんにとって、それは息をするように容易いこと!澪木本人より早く彼の不調に気付いたモブおじさんは、その時点で「『TDL』のコントロール力」をこの屋上から排除していた! 能力をオフにできないことに気付いた澪木にできることは、己を強いて則本総理の幻影と戦うことだけであった。 単純な打撃では異常硬度を誇るペニスを崩せず、かといって和姦道の達人に身体が密着する組み技を仕掛けることもまた悪手。じりじりと後退しながら攻撃を捌き続けてきたが、もはやそれも限界に近い。 背中側に屋上を囲むフェンスの存在を感じる。押されれば簡単に越えてしまいそうな、頼りない高さしかない。 「クク、どうやら前戯はここまでのようだな…!」 「ほんっと下品な男…!」 そう言いながらも澪木は気を緩めず、腕を交差して防御を…否!一瞬早くモブおじさんのペニスが突き出される! 「そこだ!獲ったりぃーーー!!!」 澪木の時間間隔が鈍化する。粘ったが、もはやこれまでか。徐々に近づいてくるペニス。愉悦にまみれるモブおじさんの表情。視界の端に空飛ぶ少女。視界の端に空飛ぶ少女? 「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 青い空。濁った空気。立ち並ぶ高層ビルの数々。ここは三人の戦士のためだけに用意された特殊空間【オフィスビル街】。その中でも一際高いビルの屋上に…最後の戦士がエントリーした。 「あああああああああああああああああああアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」 試合が始まってからの雪村桜の動向は、一言で説明できる。迷子である! 生まれてからまだ2年。人生の大半を地下と実験室、またはごく近所で過ごしてきた彼女にとって、この戦場はまるで迷路のようだった。 所狭しと並んでいる高層ビルの数々、その間を走る細かい道々、見分けがつくはずもなく、同じところをグルグルと回ってただ時間を浪費した。 流石に不味いと思った彼女の選択は、視野の獲得。とりあえず敵を見つけなくては! 思い立ったが即行動。桜七大兵器が一つ、究極の取捨選択「桜ロケット」により彼女の身体は空へ飛び立った。高層ビルを見下ろせるほどの高度をキープし、戦場を俯瞰するためだ。 そう…雪村桜は飛んでいた。本当に、ついさっきまでは飛んでいたのだ。脚部の燃料を使い切り、そろそろ切り離そうかというタイミングで、突然ロケットエンジンが停止するまでは。 「えっ!?あれ!?あああああああ!!??」 思わず叫ぶもどうすることもできず、桜は物理法則に従い自由落下!下は地面か?いや、どこかの屋上!そこには二人の人影が見える! そもそも桜は先ほど飛行中に何らかの戦闘音を感じ取り、そちらに向けて飛んでいる最中だった。状況から考えるに戦闘音の発生源は彼ら。つまり敵。ああ、つまり!このままだと敵の目の前で落下死する! 一方その頃、屋上では戦況に異変が起きていた。 絶叫しながら落下してくる少女の姿を確認した瞬間、モブおじさんが澪木から距離をとったのだ。 それは空からの来訪者を警戒してのことではない。彼の中で生じた、非常に大きな葛藤の末の行動だった。すなわち、愛かレイプかである。 あとほんのわずかな時間があれば、澪木は倒せた。間違いない。それはつまり、この大会の優勝への道…初めて自らを求めてくれた、シロナという天使に捧ぐ道だ。だがモブおじさんは苦渋の思いでそれを捨てた。何故なら今は…それどころではなかったから。 モブおじさんはバックステップし、桜の落下予想地点に立つ。その表情は笑顔。全てを受け入れるとばかりの満面の笑み。まさか彼は落下死必至の少女のために、自らの身体をクッションにして救おうというのか!…違う、そういう種類の笑みじゃない!これは…まさか!そういうことか! モブおじさんは股間を天高く突き上げて桜を待つ!ま、まずい!不慮の事故により少女が落下、その下で偶然にも勃起している男性の図! このパターンは…空から美少女が降ってきて、偶然にも挿入してしまうやつ!エッチな漫画でよくあるやつだ! 歴戦のレイプ魔であるモブおじさんといえど、未だ体験したことのない非現実的セックス!一生に一度あるかないかの大チャンス!ここでセックスに踏み切らなければ、もはやセックスに失礼というもの!ライオンのセックスを知っているな!今がそのときだ!! ペニスを天に向けたまま、モブおじさんはブリッジの姿勢をとる!確実に股間で受け止めるためだ! さらにあんまり痛くないように『MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)』の使用により雪村桜の過剰な加速をカット!目に見えて落下スピードが減少!紳士だね! 「ああああああああっ、っつわああ!?」 着地までおよそ10mといったタイミングで突如勢いが減り、混乱する桜。だがこのままでは彼女の貞操は最悪の形で奪われてしまう!ちなみに今回もばっちりライブ映像を雪村ラボにお届け中だ! ていうかこの試合自体が全世界放送中だぞ!勘弁してくれ!! 「ヒギィッ!!!」 蛙の潰れたような悲鳴が上がる!ああ、桜!あわれモブおじさんの慰み者に…否!声を上げたのはモブおじさんの方だ!一体何が起きている! 原因は、モブおじさんの体勢にあった。 ペニスに骨が通っていることからも分かるとおり、彼の骨格はいまやライオンのそれに近い。そしてネコ科の動物は…ほとんど背骨を反らすことが出来ないのだ!ブリッジなどしようものなら、はっきり言ってへし折れる!今、モブおじさんの背骨は見るも無残な有様になっていた。 「あわわわ避けてくださ──!」 次の瞬間、激痛に耐えかねて崩れ落ちたモブおじさんのもとへ桜が落下してきた。着地点は股間から大きくズレ、桜の臀部が獅子の頭に叩きつけられ、そして。 「あっ」 それは誰が発した言葉だったか。したたかにお尻を打ち付けた桜が思わず発した一言か、それとも冷静に状況を観察していた澪木のものか。もしくは…己の最期を悟ったモブおじさんのものか。 衝撃に弱い結晶体で構成されたモブおじさんの頭部は、少女の尻の下でバラバラに砕け散った。 あまりにも呆気ない最期である。だが彼は…愛よりレイプをとったことを、きっと後悔していない。 【モブおじさん:死亡】 何かよく分からないが勝利に向けて一歩進んだ。桜はそう前向きに捉えてもう一人の男の方を向き、そして眼前に迫る拳を見た。 「うわっ!」 瞬時に身体を捻り、緊急回避!そのまま敵の腕を掴みにいくが、躱され更に追撃の下段蹴り!桜は後ろに飛んでこれも回避し、視線を澪木の心臓のある場所へ向ける!今だ、桜レーザーが…出ない!?馬鹿な! 桜はそのまま距離をとり、呼吸を一つ。 先ほどから妙な胸騒ぎがしていた。空中から落下したとき…かつてないほどの「死」を感じた。そして今。何故か今、ひどく不安になっている。今の自分はどうしてか…首が取れたら死ぬ気がする! そのえもいわれぬ違和感は、無理やり言語化すれば「人間性」といったところか。雪村桜は薄らと、自分が人間になったことを理解し始めていた。 対する澪木も心中穏やかではない。亀のように殴られっぱなしだった一回戦と比べて、敵は随分とキレのある動きをしているように見える。何らかの訓練を積んできたか。まあ、それはいい。脅威を感じるほどではない。それよりも…何故姿が変わらない? 『TDL』は間違いなく発動しているのに、桜が変身する様子はない。傭兵時代の経験から完全に自由意思のない「機械」に関しては能力の対象外だと分かっているが、目の前の少女がそれらに属するものだとは思えなかった。ただの直感だが、どうにも違和感が残る。 …澪木祭蔵には分からない。雪村桜自身にも、理解できているわけではない。ただ彼女は心のどこか奥深くで、「人間」を異形と捉えていたから。自分とは違うものだと思っていたから、『TDL』はいつものように、対象を異形の姿に変えたのだ。 「ねえ…別に答えなくてもいいんだけど、一応聞いておくわ。あなたは、何者なの?」 揺さぶりをかける。実際、どうでもいい質問だった。相手が何かを考えてくれたならその隙をつける。ついでに情報が得られればラッキーという程度のもの。 「私は雪村桜です。あなたは何者ですか?」 返ってきたのは、やはり何の意味もない答えと質問。澪木は「さあ、何者でしょうね」と呟きながら再び接近した。 相手が仕掛けてこない以上、恐らく待っても何も得られない。未知の攻撃にだけ注意して肉弾戦で押し切る。一先ずの方針は立った! 一方、桜も今の応対の間に現状把握を済ませていた。桜ロケット、桜熱膨張…駄目もとで桜七大兵器の発動を試してみたが、そのどれもが不発。間違いなく戦力が低下している。 そしてこの状況は恐らく澪木の能力によるもの。自分は今人間に変身しており、耐久力も著しく落ちている…はず。そもそも人間の経験がないので、確証など持てはしない。 まさか食らって試してみるわけにも行かず、迫り来る澪木の右腕をかいくぐり顎先へ掌底を放つ。 あっさりと避けられ、伸ばした腕を掴まれた。まずい。即座に両足で跳び全体重を澪木の腕に任せて宙吊りになり、握力が緩んだ瞬間に腕をねじって拘束を解く。 そのまま澪木のつま先へ向けて着地するがこれも躱され、また掴まれないうちに一旦退がる。 なんとか、戦えている。桜の頬を汗が伝う。今日の朝まで取り組んでいた「雪村ラボ(通算)百人組み手」の成果だ。 一回戦でスタッフたちが文字通り死ぬ気で取った戦闘データを解析し、実戦を以って桜の身体に学習させた。さらに対戦相手の舞雷不如帰の動きも出来る限り解析し、桜に最適化させて組み込んでいる。 だが、付け焼刃である。 避けても避けても次の攻撃が飛んできて、逆にこちらの攻撃は通用しない。 澪木の猛攻は徐々に防ぎきれなくなっていくのに、桜の攻撃は一度たりともクリーンヒットしていない。 まるで桜が落ちてくる前のモブおじさんと澪木のように、劣勢側がフェンス際へと追い込まれる。油断せず最善手を打ち続ける澪木祭蔵を相手に、桜ができることはほとんどない。 そして遂に桜の肩にフェンスが当たった。 「これで終わり…最後まで諦めなかったの、とってもかっこよかったわよ。貴女はきっと美人さんになるわ」 それは澪木の本心だった。明らかな実力差。ほぼ一方的に殴られ続け、それでも粘り続けた桜の気迫。少女らしからぬその執念が、澪木に最後まで気を抜かせなかった。だからこその、賞賛。 「まだ…終わりじゃ、ないです…」 息も絶え絶えといった様子の桜が言葉を返す。澪木は満足そうに頷き、凄まじい速度で右拳を振りぬいた。手応えは、ない。 桜は後ろに跳んでいた。言うまでもなく、そこはフェンスの向こう側。最後まで意地を貫いたか── ほんの一瞬だけ浮かび上がった桜の身体が、重力に従い落ちていく。 澪木の視界からその小さな身体が消える。と同時に。 今振りぬいたばかりの右腕に、縄が巻きついた。 「なっ…!」 ご存知…ああ、ご存知だろう!桜七大兵器が一つ、残された最後の良心「桜カウボーイ」だ! 最後の良心の名は伊達ではない。桜七大兵器の中で、これだけは唯一桜の身を削らない外付け兵器!袖の中に隠されたこの兵器に、桜は最初から全てを賭けていたのだ!さあ地獄へ付き合ってもらうぞ! だが澪木は瞬時に己の置かれた状況を理解し、フェンスにしがみついた。両足にあらん限りの力を込めて、予想される衝撃に備える!次の瞬間! 「んぐぅっ!!!…っ舐、めんじゃないわよ…!!」 果たして彼は耐え切った。フェンスに覆いかぶさるようにして屋上に踏みとどまり、右腕一本で桜の体重を支えている。それでも半身を乗り出すところまでは引っ張られ、目線の先に縄を掴んだ桜の姿を確かめる。 地上までの距離が遠い。もしもこのまま引きずられて一緒に落ちれば、先に地面へ叩きつけられるのは自分かもしれない。 「ふっ、ぬぅ…!!はあああああ…っ!!」 このまま我慢比べに付き合うつもりはない。たかが少女一人の体重…引き上げられないほどではない! 同様に、桜も我慢比べに付き合うつもりはなかった。いかに最後の良心といえど、桜七大兵器の一つ。桜カウボーイがただの縄であるはずもなし。桜が持ち手のボタンを押すと、10mは伸びていた縄の部分が即座に縮む!伸縮自在がこの兵器の真価だ! 澪木の眼前に桜の頭が高速で迫る!だが、フェンスに身を乗り出して踏ん張っている澪木に避ける術はない。突き出た顎に、桜の頭突きが炸裂した。 「ごがっ!!」 澪木の意識が混濁する。脳震盪だ。一瞬足の力が抜け、前のめりに倒れそうになるが、ぎりぎりで堪える。敵の姿はどこだ。縄の先に気配を探る。そして。 とん、と背中を押される感触があった。次いで両足が浮く。 鈍化する時間感覚の中、空中で身体を捻るようにして上を向く。先程まで自分が立っていた場所に、雪村桜が立っている。立場が逆転したか。 …否。澪木にももう分かっている。桜はその手にもう何も持っていなかった。 最後の良心、桜カウボーイ。どこにも繋がっていない命綱と共に、澪木は落ちていった。 【澪木祭蔵:死亡】 ──第2回戦:オフィスビル街STAGE、決着。 勝者、雪村桜(初号機)。 【現在判明している桜七代兵器】 非人道兵器「桜レーザー」 自らの命を削る大技「桜チェーンソー」 残された最後の良心「桜カウボーイ」 究極の取捨選択「桜ロケット」←New! 人類共通の敵「桜熱膨張」←New!
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SSその1 現実がどんなに残酷(ざんこく)で無慈悲(むじひ)で血(ち)生臭(なまぐさ)くったって。 空想や幻想の中にしか優しい世界は存在しないとわかっていても。 人々の心の中には、きっと夢の国があるって信じていたいんだ。 ◇ 「――さって、お手並み拝見といきましょうか……!」 澪(みお)木(ぎ)祭蔵(さいぞう)は一つ気合いを入れると、ストロングゼロの缶をテーブルの上に置いた。 目の前では彼の注文したザッハトルテが皿の上で輝いている。 ザッハトルテはチョコレートケーキの王様とも称される杏(あんず)入りのチョコレートケーキで、澪木の好む甘味(かんみ)の一つでもあった。 日本ならず世界中から料理人やパティシエが集うこのグロリアス・オリュンピアの会場においては、選手に対して最上の持てなしが行われる。会場内のレストランもまたその一つだ。 繊細な菓子は一種の芸術品であると澪木は思っている。甘味を子供の物と言う者もいるが、澪木にしてみればそれは大きな間違いだ。 甘さのバランスや酸味・苦みといった味覚だけでなく、香りでの嗅覚や、見た目での視覚、舌触りの触覚や、中にはサクサクとした音をたてて聴覚まで楽しませてくれる物もある。 菓子とはそんな五感を楽しませる総合芸術であり、それでいて子供も楽しめるわかりやすさを併せ持つ物なのだ。 それは澪木が好むカートゥーン・アニメにも通ずるところがある。 澪木はチョコレートの香りを楽しみつつ、フォークを使ってケーキを一口分切り分けた。 フォークの先がチョコレートの表面を割って、中のふんわりとした生地が姿を見せる。 澪木が思わず笑みを浮かべて、そして口に入れようとした――そのとき。 「――何よ、いいとこなのに」 彼の携帯電話が鳴った。 胸ポケットから取り出し、画面に視線を移す。 澪木は一瞬眉をひそめてから、電話に出た。 「もしもし。何か御(ご)用(よう)?」 『公安(こうあん)部(ぶ)外(がい)事(じ)第三課の陣内(じんない)です。一回戦、お疲れ様でした』 低音の声が電話口から漏れた。 もちろん澪木は電話番号から、相手が誰であるかは出る前から既にわかっている。 「労(ねぎら)いなら結構よ。お給料に上乗せしといて」 『……いえ、一点お話がありまして。二回戦のことです』 澪木は片眉を上げて思い出す。 先ほどGO(グロリアス・オリュンピア)運営本部から、対戦相手と戦場が発表されたばかりだ。 『二回戦、確実に勝利していただきたい』 電話の先にいるであろう幽(ゆう)鬼(き)を彷彿(ほうふつ)とさせる男は、簡潔にそう言った。 とはいえそんなことを言われても、澪木としては反応に困ってしまう。 「私は全力でやるだけよ。これまで通りね」 澪木は一回戦、日本国の総理大臣相手に全力で戦い、そして打ち破った。 当然だが誰が相手であろうと彼は手加減などしない。 しかしそう答えた澪木に対して、陣内は声をひそめて言葉を続けた。 『……公(こう)機(き)捜(そう)から要請が来ています。"何があっても勝つ"のではなく、"何をしてでも勝ってもらう"必要があります』 陣内の言葉にただならぬ物を感じて、澪木は思案する。 公安機動捜査隊。そこからの要請ということは――。 「――厄介(やっかい)な相手がいるってことね」 グロリアス・オリュンピアの参加資格は、強者であること。 故(ゆえ)にその素性(すじょう)は問われない。 犯罪者が大会に優勝して願いを叶えるなんてことになればロクな事にはならないだろうし、そうでなくても参加者は国賓(こくひん)級(きゅう)の扱いを受ける為、大会期間中は逮捕(たいほ)できない。 『そうです。犯罪者を即刻(そっこく)大会から排除(はいじょ)できるよう、我々(われわれ)は協力を惜(お)しみません』 「協力、ねぇ。……公安が協力できることなんてあるの?」 澪木は周囲を確認しながら、声を潜(ひそ)める。 さすがにホテルのレストランで大声を出して話すほど、潜入捜査に不慣(ふな)れなわけではない。 そんな澪木の言葉に、陣内はいつも通りの抑揚(よくよう)の少ない口調で回答した。 『伝手(つて)を通じてエネルギー庁(ちょう)に協力を依頼しています。エージェントがそちらに向かっているはずなので、武器と情報を受け取ってください』 「……エネルギー庁の?」 現在日本の各省庁は、特例中の特例で一大捜査・防衛体制を敷(し)いている。 澪木も秘(ひ)密(みつ)裏(り)にではあるが、"警察"として堂々(どうどう)と参加している徒士谷(かちや)真歩(まほ)警(けい)部補(ぶほ)とは連絡を取り合っていた。 エネルギー庁のエージェントというのも、澪木と同じく潜入している者の一人なのだろう。 『詳しくはエージェントから直接聞いていただければ。それでは、私はこれで』 「ちょ、ちょっと待っ――」 澪木が止めるにもかかわらず、通話が切断される。 「……もう、本当ミステリアスな人なんだから。まあそこが可(か)愛(わい)らしくはあるんだけど☆」 そうして電話番号の表示された画面に向かって苦笑している澪木の視界に、人の影が差した。 澪木が顔を上げると、対面の席には断りもなく座る少女の姿。 澪木はその姿に見覚えがあった。 「――あら、あなたがエージェントだったの? ならエントリーネームも偽名だったのかしら」 澪木の言葉に、少女はサイドでまとめた黒髪を揺らす。 その顔はまるで人形のように美しく、澪木は彼女から抜き身の刃物のような硬く鋭い印象を受けた。 「答える必要、ないよね?」 〈一〉 「ひゃっ……あっ♡ んぅっ……! やぁ……♡」 ここは二回戦の戦場、東京砂漠はオフィスビル街! 東京スカイサボテンの中のオフィスルームでは、嬌(きょう)声(せい)が響いていた! まあ待て落ち着け諸君(しょくん)! 君たちの逸(はや)る気持ちはよくわかるが、だが安心して読み進めて欲しい! 変に勘(かん)ぐったりもしなくていい! お互い協力してじっくりやっていこう! この声は少女のものであって、決しておじさんのものでもオネエのものでもない! 「次は……この辺はどうかなぁ……? フヒヒ……」 「やっ♡ にゃっ♡ ああ……ダメですっ……!」 粘(ねば)つくような男の言葉に反応するように、少女は声をあげる。 しかし言葉とは裏腹に、その声色(こわいろ)に拒絶(きょぜつ)の様子はなかった。 なんたることだ! その嬌声を放つのは雪村(ゆきむら)桜(さくら)初号(しょごう)機(き)! そう、勘のいい読者諸君はもう気付いているだろう! 今まさに! あの可(か)憐(れん)な雪村桜が、モブおじさんの毒(どく)牙(が)にかかろうとしているのである! ――《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》。 モブおじさんの魔人能力であるそれは、指定した一つの概念(がいねん)を排除(はいじょ)する『壁』を作る能力。 ならばその力を使い、常識改変セクハラもできるに決まっている! 細かいことは置いといて、そういうものなのだ! 女の子とモブおじさんが同じ戦場に存在したとき、戦闘中エロが起こらないことなどあるはずがない! たとえ男が相手でも戦闘中エロが起こってしまうのだから、それは必然のことなのである! 「ああ……♡ そ、そんなとこ……弄(いじ)られたらぁ……!」 オフィスデスクに体重を預けた桜は、その上半身をのけぞらせる! 「――桜、デフラグしちゃいますぅーーー!」 「……デフラグかぁ」 モブおじさんは桜の首筋(くびすじ)をくすぐりながら、少し残念そうにそう呟(つぶや)いた。 説明しよう! デフラグとは、デフラグメンテーションの略でデータ格納領域内にて断片(フラグメント)化したデータを整理する行為である! ……説明しよう!(二回目) 常識改変エッチ! それは和(わ)姦(かん)道(どう)を修(おさ)める魔人が誰もが憧(あこが)れる、和姦道の極(きょく)地(ち)である! 雪村桜初号機相手にモブおじさんがそれを試(こころ)みるのも、当たり前のことだ! だがしかし! そこでモブおじさんに誤算が発生した! 予算の関係で桜に生殖機能は実装されていなかったのである! なんてことだ予算不足! 仮想通貨が暴落していなければ、きっとマッドサイエンティストである雪村詩織(制作者)は雪村桜初号機に無垢(むく)なる性を追加実装していたはずである! そうなれば無知な雪村桜に性教育を施(ほどこ)すモブおじさんという、誰もが録画したくなるような光景が全国中継されていたに違いあるまい! しかし現実に、桜に性機能は存在しないのである! それでもモブおじさんはそんな世知辛い現実を前にして、戦うことを諦(あきら)めなかった! モニターの前の観客たちの為に、モブおじさんは桜の体を隅々(すみずみ)までまさぐり性感帯(せいかんたい)を探る! なぜなら痛覚や触覚が存在するということは、快楽(かいらく)も感じる可能性があるからだ! 半(なか)ば確信めいた物を感じつつ、モブおじさんは桜の体を触りまくっていた! ――そしてその予想はやはり正しかった! そうしたモブおじさんのねっとりとした愛(あい)撫(ぶ)によって、試合が始まってからの短い時間の間で桜は今や嬌声あげるようになっていたのである! なんという和姦道の技術だろうか! ――しかし。 「ならここは……どうだぁ!」 桜の背筋をモブおじさんの指先が滑る! 彼女はそれにビクビクと体を震わせながら、声をあげた。 「ふわぁぁ……♡ こんなのされたら……桜、ビジー状態になって新規タスクが受け付けられませぇん……!」 「うーん……感じてる……のか……?」 モブおじさんこと茂部(もぶ)安康(あんこう)は和姦道の師(し)範代(はんだい)である。 よって男女問わず身体(からだ)を悦(よろこ)ばせる術(すべ)には長(た)けていた。 だがサンプル花子のような生体アンドロイドならまだしも、ここまでメカメカしい桜のようなロボットを相手にするのは初めてであり、彼は困惑を隠せないでいた。 茂部の触れた桜の肌は、極めて硬質的だ。 表面の皮膚はおそらくシリコンなどの軟らかな材質でできているのだろうが、その奥には脂肪の換(か)わりに硬質な素材が使われている。 そんな明確に機械を彷彿とさせる雪村桜初号機相手では、自身の愛撫がしっかりと効(き)いているのか茂部は確信を持てないでいるのであった。 「――『生きているのなら、神様だってイかせてみせる』」 茂部は自己暗示のために、その言葉を唱(とな)える。 それは和姦道が聖人認定している、加(か)藤(とう)鷹(たか)の言葉だ。 桜はメカニカルなアンドロイドではあるが、その様子からすればきっと彼女は生きている。 ――ならば、イかない道理はない! 「和姦道強引系秘技――『お客さん、こってますねぇ』!」 茂部の両手が、桜の両肩を揉(も)みしだいた! マッサージとは血行を良くし、気分を盛り上げる効果を持つ。 つまり肩揉みであろうと、それは愛撫である! 茂部の大きな手が桜の肩全体を広く揉み、そしてその硬質な体の奥の奥まで指が沈み込んだ! 「ひゃっ♡ あっ♡ だめっ♡ それっ……! ああっ、何か――何か来ちゃいそうです!」 「ふひひひ~! 体をリラックスさせて……快感を受け入れなぁ~~~!」 桜の喘(あえ)ぐ声が次第に大きくなる! 漏れ出るその声が徐々に艶(つや)を帯びていき――! 「ああ……桜、桜……このままじゃフォーマットされちゃいそうです……! 頭の中が……真っ白に――!」 「そうだ! その調子で――レッツオフィスラーブッ!」 二人の声がオフィスビルの一室に響き渡った! 勘違いしてはいけないが、肩を揉んでいるだけである! 決していやらしいことをしているわけではない! ――そして、ついに桜が絶頂に達(たっ)しようとしたそのとき! 「――緊急データ保護システム作動。『対クラッキング用攻性防壁《桜ファイヤーウォール》』を起動します」 「……ふぁ?」 茂部が声をあげると同時に、部屋の中を爆炎が包んだ。 ◇ 「はぁ……。もう、何が『オフィスビル街』よ。よりによって、東京砂漠を選ぶ? 普通」 熱い日差しが照りつける中、砂漠の中を澪木祭蔵が歩いていた。 彼はスーツの上着を既に脱いでいたが、それでも止まらない汗がシャツを体に張り付かせる。 うだるような暑さを感じながら、澪木は三年前のテロの影響によって砂漠と化したあたりの景色を見渡した。 砂漠の中にそびえ立つ、六本木という名の由来にもなった六本の世界樹(ユグドラシル)が、砂に沈みつつあるビル群を見下ろしている。 「世界有数の近代都市だった東京も、今やこの有様……か」 テロがあった当時、澪木は民間軍事会社に在籍して海外を飛び回っていた為、日本にはいなかった。 しかし東京の荒廃(こうはい)による日本の国力の低下を放っておけず、彼は生まれ育った故郷の日本へとこうして戻ってきたのである。 「……市民に暴力を振るうアブナイ奴は、取り締まらなきゃね」 澪木はため息をつきながら、前方に見える巨大なサボテンを見上げた。 高さ634mを誇る東京砂漠のシンボル、東京スカイサボテン。 六本の世界樹(ユグドラシル)の中で一番巨大なそのサボテンを中心とした2km四方のエリア――それが今回の戦場だった。 ――他の二人はもう、あの中に潜んでいるのかしら。それとも、ビル群の中か……。 「……どっちにしろ、行くしかないか」 澪木は目を細め、東京スカイサボテンを見据える。 世界樹(ユグドラシル)は東京砂漠地下深くに埋蔵された油田と太陽光を利用して電力を供給する天然のエネルギー機関だ。 東京スカイサボテンもその一つで、その中は所々くり抜かれておりオフィスビルとして使われている。 澪木が今いるこの空間は国土交通省の魔人が現実の東京砂漠からコピーしたものではあるが、東京スカイサボテンの中は現実と同じく冷房も完備されていることだろう。 そこは周囲の砂漠からの敵を迎え撃つには、うってつけの場所であった。 澪木はエリアのやや外れた位置に転送されたので、到着には少し時間がかかる。 だが澪木には、引くという選択肢はなかった。 「――残念だけど日本には、守らなきゃいけない法律があるの。刑法77条だったかしらね……法を法とも思わない犯罪者に願いを譲ってあげるほど、私たちは甘くないわ」 澪木は一人、自分に言い聞かせるようにそうつぶやく。 彼は法の番人である。裁くのは彼ではなく検事であり裁判官だが、司法の第一線たる被疑(ひぎ)者(しゃ)確保の役目を担(にな)うのが彼ら警察官だ。 故に澪木はこの戦いに負けられない。 対戦相手同士が潰し合ってくれてもいいのだが、万が一でも片方が無傷で生き残られてしまうと一対一になってしまう。 それよりならば、乱戦のうちに攻撃を集中させて目的の相手を倒してしまった方が確実であった。 「――あっちはさておき……アナタにはここで負けてもらわないといけないのよ」 澪木は標的となる相手を思い浮かべて、ポケットにしまい込んだ『武器』を握る。 そこに忍ばせているのは米国企業の製品で、蛇の名を冠する拳銃だ。 澪木は普段の公務において、銃器を一切使用しない。 だがそれはあくまでも警察官の立場として、飲酒時の射撃行為を控えているからに過ぎない。 この超法規的な大会の中、警察官としての立場を隠している状態なら銃の使用を躊躇(ためら)う必要はなかった。 ――当たってくれると、いいんだけど。 澪木は心の中で苦笑する。 彼が民間軍事会社に在籍していたとき、銃は身を守る為の必須装備であった。 決して射撃が苦手というわけではないが、日本に来てからは訓練以外で使っていないのでブランクは否めない。 わずかな緊張を感じながら、澪木は慎重に歩みを進める。 ――先に陣取られていたら、狙撃されたりすることも十分ありえるかも……。 澪木が若干の不安を憶えて東京スカイサボテンを見上げた――その瞬間。 激しい振動が、彼の足下を揺らした。 「なっ……!?」 ズズン、という重い衝撃。 見れば東京スカイサボテンの中腹から煙が上がっている。 「爆発……!? もう始まっちゃってるの……!? ――もう、せっかちな子たちなんだから!」 澪木は舌打ちを一つして、急いで走り出す。 そうしてオフィスビル街の三つ巴の戦いが始まった――。 ◇ 「ううぅぅ……。桜……桜、汚れちゃった……」 東京スカイサボテン、一階ロビー。 ミズリー社の空色の自動販売機にもたれかかり、雪村桜初号機は半泣きになっていた。 会場からこの東京砂漠に転送され十数分。 彼女はまず高所を抑えようと、東京スカイサボテンの中を駆け上り屋上のレストランを目指していた。 しかし音も無く接近したモブおじさんに何か不思議な術(じゅつ)で抵抗する意思を奪われ、体を弄くり回されてしまう。 ただの触覚センサーであるはずの皮膚を、リズミカルに撫でられる未知の感覚。 桜は初めての快感に恐怖を感じていた。 そんな桜のピンチを救ってくれたのは――。 「……ありがとう、お母さん」 桜は膝(ひざ)を抱えて、制作者である母へと感謝する。 母が桜の体に仕込んでいた桜七大兵器の一つ、『対クラッキング用攻性防壁《桜ファイヤーウォール》』。 それは桜の頭が真っ白にフォーマットされてしまいそうなときに自動発動する兵器で、エネルギーの九割を爆発に転化する攻撃型の保護装置だ。 なお、過去に四度ほど雪村ラボを爆散させている。 ファイヤーウォールが無ければ、モブおじさん相手に簡単に敗北していたかもしれない。 同じ頃、雪村ラボの面々も桜の状況を監視しながら胸をなで下ろしていた。 みんな、セキュリティは大事だぞ! 気をつけろ! 「……そろそろ、大丈夫かな」 桜は本来であれば自動販売機が使うはずのコンセントに、自身の臍(へそ)から伸びたケーブルを伸ばしていた。 それは桜七大兵器の一つ、『残された最後の良心《桜カウボーイ》』である。 桜は《桜ファイヤーウォール》によってエネルギーの大半を消費してしまった為、こうしてケーブルをコンセントに接続して電力を補給していたのであった。 「ごちそうさまでした」 桜はそう言って、自動販売機に向かって手を合わせる。 魔人能力によってコピーされた仮(かり)初(そ)めの存在とはいえ、自動販売機は桜と同じく人に作られた物だ。 桜にとっては、まるで兄弟のような物なのである。 「――お行(ぎょう)儀(ぎ)、良いのね」 「ひゃうゎっ!」 びくんっ! と体を跳ねさせつつ、桜はその声に振り返りながら立ち上がった。 そこにいたのは長身スーツの男性。その手にはアルミ製の缶。 桜は頭の中で、即座にデータベースを検索した。 「ええっとあなたは……オカマさん!」 「澪木よ! 澪木祭蔵! ……もう、調子狂っちゃう」 桜は澪木の存在を認識して、緊張から体を強(こわ)ばらせる。 桜と澪木の距離は10メートルほど。澪木は入り口から普通に入ってきたところのようで、自動ドアを背にしていた。 声をかけられなければ、桜は不意を突かれていたかもしれない。 掃除機の電源ケーブルのようにシュルシュルと『桜カウボーイ』を収納しつつ、桜は澪木に向かってぺこりとお辞儀(じぎ)をした。 「雪村桜初号機です。よろしくお願いします」 「……あら、意外。きちんとコミュニケーション能力があるのね。一回戦を観ただけだと、戦闘マシーンって感じだったのに」 「えへへ、褒(ほ)められた……! ありがとうございます」 「……べつに褒めたってわけでもないんだけど」 桜は澪木の言葉に、思わず「にへー」と緩んだ笑みを浮かべてしまう。 澪木は目を細めながら何か思案するような顔を浮かべた後、ひらひらと缶を持っていない方の手を振った。 「……一つ交渉したいのだけど、どうかしら。見ての通り、敵意はないわ」 「こ、こうしょう……!?」 桜は澪木の言葉にフリーズする。 ――こういうときはどうしたらいいんだろう……助けて、お母さん! 彼女はまだ生まれて二年。 日々人工知能により学習はしているが、交渉事についての知識など持っていなかった。 困惑する桜に、澪木は笑いかける。 「そんなに緊張しないで。……実は私おまわりさんなのよ。本当は言っちゃダメなんだけどね。あなたに協力して欲しいの」 「は、はあ……」 桜は頭の中をフル回転させる。 おまわりさん。警察。警察は、悪い人を取り締まる人で――。 そんなメモリ容量いっぱいいっぱいに頑張っている桜に構わず、澪木は言葉を続けた。 「――エントリーネーム『モブおじさん』。老若男女問わず暴行する、とんでもない淫魔人よ。あいつを放っておくわけにはいかないわ」 「……あ! 桜、さっき会いました! ええっと、体を触られて……なんだか変な気持ちにさせられて」 「そう……可哀想(かわいそう)に。怖い目に遭(あ)ったわね」 カツ、カツとフロアに足音を響かせながら、澪木が桜に近付く。 そしておもむろに、桜の体を抱きしめた。 「――もう大丈夫、安心して。あなたの貞操(ていそう)は、私が守ってあげるわ」 「あ……」 ほのかに漂う消毒液(アルコール)の匂い。 その匂いは、桜にとって雪村詩織(お母さん)の匂いでもあった。 桜はその胸に顔を埋(うず)め、うっとりと目を細める。 澪木はその体を離して、桜に笑みを向けた。 「教えて欲しいの。……アイツはどこ?」 澪木の問いかけに、桜は首を横に振った。 「……わからないんです。さっき桜のエネルギーを全部使って爆発しちゃったんですけど、そのとき床が崩れたのと一緒にどこかに……」 「……爆発? それって――」 澪木がそう言いかけた時。 「――フヒヒヒヒヒ……!」 その言葉を遮(さえぎ)り、男の声が響いた。 桜と澪木が、声のした方に目を向ける。 「楽しそうな相談じゃないかぁ……! おじさんも混ぜてくれないかぁい……!」 正面階段の踊り場。 そこには下卑(げび)た笑みを浮かべながら四(よ)つん這(ば)いで二人を見つめるモブおじさんがいた。 「現れたわね――モブおじ! イカした髪型してるじゃない……!」 澪木は吐き捨てるように言い放つ。 モブおじさんの頭は、今は《桜ファイヤーウォール》の効果でアフロヘアーとなっていた。 「フヒヒィ……! さっきは死んだかと思ったが、間一髪(かんいっぱつ)爆発を防ぎ切ることができたぜぇ……」 あちこちが黒焦げになったスーツを着ているモブおじさん相手に、桜と澪木が構える。 澪木が小声で、桜の耳元に囁(ささや)いた。 「……桜ちゃん、悪いんだけど囮(おとり)をしてくれないかしら? 私に考えがあるの」 「え!? は、はい! 桜は頑丈(がんじょう)なので、任せてください!」 桜の元気の良い即答に、澪木は笑って頷く。 桜は母と同じ匂いのする澪木に、背中を預けることにしたのだった。 二人は目と目で合図を交(か)わし、同時に飛ぶ。 桜は前へ、澪木は横に。 「グゥェーッヘェ~! お嬢ちゃんが相手かぁい! エッチな事をされるのが癖(くせ)になっちゃったのかなぁ~!?」 「そ、そんなことないですっ!」 桜は冷却器(ラジエーター)の作用によりその頬(ほお)をほんのり赤らめつつ、モブおじさんのもとへと迫(せま)る! 一方の澪木は、東京スカイサボテンの受付カウンターの影にその身を滑り込ませた。 ――接敵! 「さ、さっ……桜ぱぁんちっ!」 桜には桜七大兵器があるが、《桜レーザー》なんかはめちゃくちゃ痛いのでできれば使いたくない! それに今回は囮である。 ――隙を作ることができればそれでいいし……でも、やっぱり怖いぃ! 桜が泣きそうになりながら、いやらしい笑みを浮かべたモブおじさんと肉薄(にくはく)する! ……そのとき! 「――この瞬間を、待ってたの」 澪木が、笑った。 ◇ 銃声。 ドサリ、と。 銃弾を受け、膝から崩れ落ちる音が響く。 澪木は遮蔽物(しゃへいぶつ)に体を隠しつつ、マグナム銃を構えていた。 ――対魔人マグナム弾『.357逆鱗弾(げきりんだん)』。 エネルギー庁のエージェントから渡されたその武器は、防御力の高い魔人の装甲すらも貫(つらぬ)く威力を持っていた。 澪木は注意深く標的の様子を伺いつつ、口を開く。 「……刑法第77条、内乱罪。国の統治機構を破壊し秩序を壊乱(かいらん)することを目的として暴動をした者は、死刑又は無期(むき)禁(きん)錮(こ)に処(しょ)する」 三年前に起きた、世界征服を目論(もくろ)む一人の狂った科学者による最悪のテロ事件。 その爪痕(つめあと)は、今もこの国の首都に東京砂漠という形で残っている。 「……恨むならあなたの制作者を恨みなさい」 澪木は静かに狙いを定める。 「――さようなら、雪村桜」 澪木は続けて、倒れる桜の背中へと銃弾を打ち込んだ。 「ぎゃぅっ」 声にならない声をあげて、桜の体が跳ねる。 銃の反動に、澪木の肩が痺(しび)れた。 「"他に気を取られて油断した背中"、"勘づかれたときの為の、レーザーを防ぐ事ができる距離と遮蔽物"――」 澪木は桜から目を逸(そ)らさず、立ち上がってゆっくりと近付く。 それに気圧(けお)されるようにして、モブおじさんは後ろへと下がった。 「アナタには厄介な兵器が搭載(とうさい)されているからね。状況がきちんと揃(そろ)う瞬間を狙ってたの。……確実に、処分する為に」 澪木が桜のもとにたどり着く。 そしてそのまま、ノータイムで頭を撃ち抜いた。 桜の顔半分が破壊され、奥の機械構造が露(ろ)出(しゅつ)する。 「――ごめんね」 澪木は桜に向かってそう言うと、視線をモブおじさんへと移した。 「あなたは――残念だけど立件できないのよね。強姦罪(ごうかんざい)は強制(きょうせい)性交等罪(せいこうとうざい)になって親告罪じゃあなくなったけれども、その規定としては『暴行又は脅迫(きょうはく)』……つまり和姦じゃあ罪にならない」 モブおじさんの被害を受けた者は、それを公(おおやけ)にしたがらないどころか庇(かば)う傾向にすらある。 なので警察としては、その存在は把握していても手も足も出せない状況にあった。 「……だからここからは選手としての戦いよ」 澪木は銃口をモブおじさんへと向ける。 それを受けて、モブおじさんは口の端(は)をつり上げた。 「こりゃあ……とんでもないおまわりもいたもんだ。対テロリストの為に潜入捜査官がいるなんて噂はあったが、まさかあんたとはね」 「――ふふ。なんのことかしらね。私は米農家で、最近は魚沼産コシヒカリがマイブームなの」 澪木は自営業者として用意しておいた偽のプロフィールを提示する。 そして片方の手に持っていた、ストロングゼロの缶を呷(あお)った。 「細かいことは気にしちゃダメよ。――あなたはここで、負けるんだから」 澪木の言葉にモブおじさんは笑みを消す。 「……試してみるかい」 モブおじさんが和姦道の構えを取る。 対する澪木は、民間軍事会社時代に習得したマーシャルアーツの構え。 二人の間に、一瞬の沈黙が流れた。 「――侵犯(おか)し尽くせ! 《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》!」 「――パレードの始まりよ! 《TDL(ティー・ディー・エル)》!」 二人の能力が、激突した。 〈ニ〉 ――おい誰だ桜に酒を飲ませたのは! ――0才児に酒を飲ますな! 喧噪(けんそう)の中、雪村桜はただ笑っていた。 それは桜の原初(げんしょ)の記憶。 起動したばかりでまだ何もわからないときのこと。 「――桜、無事に起動してくれて、ありがとうな……」 制作者である雪村(ゆきむら)詩織(しおり)が、アルコールの香りをさせながら桜の肩を抱いた。 桜の温感センサーが、触れ合う肌からその温(ぬく)もりを感じる。 「何度も何度も、もうダメだと思った。この国を根本(こんぽん)から治そうと戦って、それでも敵は強くて……。父も死んで、兄も死んで、妹も――生まれることなく母と一緒に死んでしまった」 きっと詩織の妹が生きていれば、今は桜の外見年齢と同じほどの歳だったろう。 何人もの犠牲者が出て、何人もの同胞(どうほう)が散っていった。 そんな犠牲(ぎせい)の果てに、雪村桜初号機はここにいる。 「だけど今度は成功したんだ。きっとお前は世界を七度すらも滅ぼせる力を持っている。……だから桜、お前は私の――私たち雪村ラボの、そして人類の希望なんだ」 詩織がその瞳に涙をためて、桜に語りかける。 その姿を誰かと重ね合わせるように。 「この国を、世界を――人々を救ってくれ、桜」 詩織の言葉に、桜は頷く。 その願いはマッドサイエンティストと称される雪村詩織の、心からの願い。 一度統合されなければ、この腐敗(ふはい)した世界を正すことなどできない。 故に彼女は圧倒的な力を求め続けた。 「……さくさくさく。――はい、ドクター」 ならばそれに応(こた)えよう、と桜はあの日誓った。 未(いま)だ忘れ得(え)ぬ彼女が起動した日の誓い。 ――雪村桜は、人類を救済します。 誕生を出迎えてくれた人たちの笑顔の中で、雪村桜初号機はそう心に刻み込んだ。 ――それなのに。 桜の意識が急速に現実へと戻ってくる。 『動力炉(リアクター)破損。エネルギー残量減少、残り7%』 『駆動装置(アクチュエーター)破損。可動率18%』 『記憶装置(メインメモリ)破損。読み込みエラー。保護の為データ退避中。残り54%』 桜の視界に、次々と絶望的なシステムメッセージが羅列(られつ)されていく。 さきほどの走馬灯(そうまとう)のような記憶も、情報を処理しているシステムが見せた幻だ。 ――このまま死ぬのかもしれない。 桜はぼんやりとした頭でそう思考した。 ――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ……。こんなところで、負けたく、ない……。 ここで負けることは、人々の幸福を願い醜悪(しゅうあく)な現実を憎んだ母への裏切りだ。 桜は彼女の想いを引き継いだはずなのに、そんな母の望む理想の世界をまだ用意できていない。 ――これじゃあ生まれてきた意味がない……! 存在した価値がない……! 桜が腕に動作命令を出す。 しかし間接の駆動装置(アクチュエーター)は空回りするばかりで、言うことを利かない。 冷却器(ラジエーター)の動作不良により、冷媒液がメインカメラからこぼれ落ちた。 ――お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい。桜はきっと――失敗作だったんです。 そうして彼女は諦める。 母の願いを。この世界に生まれた意味を。自分の存在価値を。 ――桜の、存在は、なんで、人類の、救済を、だって、大量破壊、兵器、見捨てないで、お母、さ、ん……。 意識が散逸(さんいつ)していく中、桜は自身の作られた理由を世界に問いかける。 ――ああ、もしも。 そして。 ――もしも、全ての力が十全(じゅうぜん)に使えていたなら――。 そのときは、訪(おとず)れる。 『エネルギー残量――25%』 『――84%』 『――162%』 『――490%』 『――1228%』 桜の中で、何かが弾けた。 『――終末兵装《桜エクスマキナ》を起動します』 ◇ 「このっ……! 汚い豚ね!」 「ブヒィィィイイ!」 スパァン! と澪木の蹴りが豚のケツを叩いた。 澪木に対するは《TDL(とっても・Dreamのような・嘘)》の効果によって豚人間と化したモブおじさん! 「なんで……あんたそんな汚い恰好(かっこう)なのよ! おかしいでしょ! カートゥーンよカートゥーン! ダークファンタジーじゃないってのに!」 「んなこと俺に言われても! 俺こそ説明求め給(たも)う! これどうしようも無いマジリアル! こうなりゃライブで混じり合う!」 豚人間(オーク)。 それは現実に存在する亜人(あじん)種(しゅ)である。人の基準では醜(みにく)い豚の顔と、ガタイの良い体付きを持ち、ヒップホップをこよなく愛する種族だ。 創作物ではよく悪役とされることが多かったが、最近は人権団体がうるさい為、扱いが難しくなっている。 そんな姿になってしまったモブおじさんは、韻(ライム)を刻みながら嘆(なげ)く。 「俺も願わばカートゥーン! だけどこの身はカツ丼(ドゥーン)! さっさと焼こうぜエルフの村! とっさに出てくるオークの性(サガ)!」 「……うん、なんか意外と似合ってる気もするわね」 ため息を吐きつつ、澪木が銃を構える。 それに対してオークおじさんはまるで盾を構えるかのように手を突き出した。 「『拒絶(リジェクト):銃弾』! やめろよ、冗談!」 《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》は指定した概念一つを拒絶する能力だ。 『.357逆鱗弾』は一撃で魔人すらも戦闘不能に追い込むような高威力の銃弾。 それを拒絶することで、オークおじさんはこれまで致命傷を負わずに済んでいた。 ――しかし。 「――う・そ☆」 澪木は銃を持つ手を大きく後ろに引いて、その勢いのまま一回転。 まるでダンスのステップを踏むかのように、後ろ回し蹴りを放つ。 その長い足による鋭い技は、オークおじさんの顔を蹴り飛ばした。 オークおじさんはその勢いを殺しきれず、背中から地面へと叩き付けられる。 「ファック……! 熱いリリックだぜ……!」 オークおじさんはすぐに立ち上がるも、その表情は険しいものだった。 澪木はオークおじさんの挙動を警戒するように、銃をちらつかせる。 「――あなたの一回戦、見させてもらったわ。童(わらべ)くんとのお話も併(あわ)せてね。……あなたの『盾』がある限り、こっちからの遠距離攻撃は通用しない」 ――《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》は異物を漉(こ)し取るフィルターのような結界を張る能力。 それは一回戦でモブおじさん自身が言った言葉だ。 戦場にはいたるところにカメラとマイクが設置されている。よってその言葉も、澪木は聞いていた。 澪木はオークおじさんの表情を伺いながら、言葉を続ける。 「だけど一回戦を見る限り、その『盾』を複数枚張ることはできない。つまりこの拳銃を向け続けることで、実質あなたの能力は封印される……」 それが澪木の考え出した、《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》の攻略法。 銃の照準(しょうじゅん)を絶(た)えず合わせ続けることによる、選択(せんたく)肢(し)の拘束(こうそく)! 「あと厄介だったのはあなたの戦闘力ね。私の近接戦闘能力じゃあ、和姦道には勝てない。……でもそれも、《TDL(ティー・ディー・エル)》で封じてしまえば――」 澪木がまっすぐにオークおじさんの体を見つめる。 日頃使い慣れた達人(たつじん)の体とは、それ自体が一種の武器なのである。 当然、モブおじさんも普段使い慣れないオークの体では、ライムを刻むことはできても和姦道を使いこなすことはできない。 「――これで"詰み"よ。……楽しかったわ」 澪木がそう言って、床を蹴(け)る。 銃、蹴り、ストロングゼロ。 澪木は三つの攻撃の選択肢をオークおじさんに突きつける! オークおじさんが覚悟を決め、いずれかの攻撃に備えてそれを迎え撃つ――! ――その瞬間、閃光が辺りを包んだ。 「――これはっ!?」 澪木はとっさに振り返り、その姿を確認する。 東京スカイサボテン一階ロビーの中心。 そこには今、太陽があった。 眩(まぶ)しく輝く光の中心には、子供が描いたような簡素な目と口がある。 そこに先ほどまで横たわっていたのは――。 「マズッ……! 雪村桜、まだ生きてたのね……!」 その太陽はおそらく、雪村桜初号機の残骸(ざんがい)だ。 『.357逆鱗弾』は人間の頭に当たれば粉々に吹き飛ぶほどの威力を持っている。 だからこそ、三発も体に受けてまだ息があるという状況を澪木は見落としてしまっていた。 「《TDL(ティー・ディー・エル)》、解除――!」 澪木は慌てて能力を解除する。 ――そしてその隙を、モブおじさんが見逃すはずはない! 「『ちょっと休憩するだけだから』!」 モブおじさんの放つ和姦道の組み技! 澪木はそれにバランスを崩され、床に叩き付けられる! 「くっ……!」 「形成逆転だなぁ……フヒヒィ」 澪木は銃を持つ方の手をひねり上げられながら、顔を歪めた。 苦痛に喘ぎながらも、なんとか言葉をひねり出す。 「待ちなさい……! モブおじ……!」 「あぁぁ~~ん!? この後に及んで命(いのち)乞(ご)いかぁ~!?」 笑うモブおじに向かって、澪木は叫んだ。 「――雪村桜から目を離しちゃダメ!」 「……へあ?」 ピッ、と。 甲高い電子音と共に、モブおじさんのアフロが焼き切られた。 「な……なにぃー!?」 モブおじさんが叫ぶ。 その視線の先に、瀕死(ひんし)だったはずの雪村桜初号機が立っていた。 物理的に支えることができないほどに撃ち砕(くだ)かれたはずのその体は、いつの間にか完全に修復されている。 「モブおじ! 放して! 今ならまだ間に合うかもしれない!」 モブおじさんは澪木の言葉に一瞬迷った後、その体を解放した。 瞬間、澪木は銃を構え直して桜に弾丸を撃ち込む。 銃声と共に、雪村桜の頭が砕け散る音。 眉間(みけん)の中央に当たった『.357逆鱗弾』は、その頭を木(こ)っ端(ぱ)みじんに吹き飛ばす。 ――しかし次の瞬間、弾け飛んだはずの桜の頭が一瞬で再生した。 「な――なんだ、ありゃあ……! 自己再生……!?」 「……まずいわ、間に合わなかったみたい。やはり搭載していたのね……!」 澪木が舌打ちをする。 「東京砂漠を作る原因ともなった災害級兵器――シールド・プリズン……!」 封印されし牢獄(シールド・プリズン)。 別名葉山機関とも呼ばれるそれは、雪村ラボが三年前に発明した細胞増殖システムだ。 とある魔人の能力を研究して作られたシステムで、その力は――。 「あれは無機物を無(む)尽蔵(じんぞう)に取り込んでいくシステムよ。平たく言えば、物凄い吸収と自己再生能力ね。三年前にそのシステムが起動されたときは、六本木周辺が三日で砂漠化しちゃったらしいわ」 「……それ、ヤバいんじゃないか?」 「ヤバいなんてもんじゃないわ――よっ!」 澪木とモブおじさんの会話を遮るように、《桜レーザー》が放たれた。 二人は同時に受け付けカウンターの裏へと飛び、それをやり過ごす。 息を吹き返した雪村桜は、叫び声を上げた。 「さく……さく、さくさくさく、痛い痛い痛い! お母さん痛いよう、痛いようぅぅ! さくさくさくさく! うぇぇぇええん! 痛いようぅぅ! オカアサァァアン!」 目から無数のレーザーを放ちつつ、桜はロビーの壁のあちこちを焼き始める。 まるでそれは、彼女の流す涙のようだった。 モブおじさんは小声で澪木に詰め寄る。 「お、おいおい! なんかあの子、暴走してる気が……!」 「うーん、頭をぶち抜いたのが悪手(あくしゅ)だったかしら」 「冷静に反省してる場合じゃない! ありゃ早いとこなんとかしないと……!」 「わかってるわよ! ……アレが会場に帰ったらマズいわ。間違いなく死人が出る」 澪木はちらりと桜の様子を覗き見る。 見れば雪村桜の体は、今はミズリー社の自動販売機と融合(ゆうごう)していた。 壁のコンセントにケーブルを突き刺して、電力を常に補給しているようだ。 モブおじさんもその様子を覗き込みつつ、澪木に尋ねた。 「それにしたって、なんで突然そんなヤバイもんが……。元からあの子にそんな機能が搭載されてたのか?」 「……シールド・プリズンは、起動に莫大(ばくだい)なエネルギーが必要になるの。日本の発電所を全部合わせたぐらいの、ね。だから本来であればあのシステムは起動しないはずだった。たぶん、今あれが起動した原因は――」 澪木は自身の額(ひたい)に手を当てて、ため息をついた。 「――おそらく、私のせい。私の能力が、あの子を覚醒(かくせい)させてしまったのよ」 「覚醒って……。そんなあの子に都合(つごう)の良いことが起こるもんか……?」 「……それが起こるもんなのよ。私の能力、結構そういうところあるから」 澪木は思い出す。 思えば一回戦だって、最初は総理のことを単純強化してしまったかと思ったぐらいだ。 「私の能力は、付近の人間を無差別にカートゥーン化する能力なの。もちろん、私自身は例外だけどね」 澪木はそう言って、レーザー光が溢れる中でストロングゼロを呷った。 アルコールを摂取することによって、思考がクリアになっていく。 「――たぶん桜ちゃんは、まだ自我が確立していなかった。そういう赤ん坊みたいな子は、水とか風とかの形があやふやな自然に関連するカートゥーンキャラクターになりやすいの。……だからきっと桜ちゃんがなったのは、太陽のカートゥーン」 「……ははぁん。元気そうなあの子にお似合いの姿じゃあないか」 モブおじさんの暢気(のんき)な言葉に澪木は頷く。 「……そうね。あの子はまっすぐな明るい子だから。そうして太陽――エネルギーの結晶体となった桜ちゃんは、自身の体にそのパワーを取り込んで、シールド・プリズンを起動したのよ」 「太陽のエネルギー……核エネルギーか。そりゃ強力だ。……何か止める方法はないのかい」 モブおじさんの問いかけに、澪木は顔をしかめた。 「……公安の情報によれば、シールド・プリズンは活動自体にも大きなエネルギーを食うはずよ。もしかしたら、このまま放置しておけばエネルギー切れを起こすかも――」 「――さくさくさくさくさく、あああああぁぁぁ!」 澪木が言いかけたところで、桜は叫びだした。 その右腕の形がガシンガシンと音を立てて変形し始める。 「サクラァァァ……《桜ドリルゥ》ゥウ!」 その右腕が三角錐(さんかくすい)の形になると、ギュルルルル、と音を立てて回転し出す。 「痛い痛い痛い痛い! 手首がちぎれちゃうぅぅお母さん嫌だよぉぉ! 助けてよぉぉ!!」 そう泣き叫びながら、桜は床を切削(せっさく)し始めた。 その右腕は周囲にある東京スカイサボテンの建材を飲み込みながら、どんどん伸びて地下深くへと沈み込んでいく。 「さくさくさくさく削削削削!」 突然床を掘り出した桜に、澪木とモブおじさんは顔を見合わせた。 桜が何をし始めたのか、二人は理解できない。 しかしその桜の行動をしばらく観察し、澪木がその行動が示す可能性に気付く。 「もしかしてあの子……石油を掘ってるんじゃあ……!」 石油! 東京砂漠の地下には、石油が埋蔵されている! 後天的ながらも砂漠なのだから、石油があるのは当たり前のことである! だがその源泉はあまりにも地下深くに位置する為、日本政府は未だそれを掘ることができないでいた。 しかし周囲の砂すらも取り込んでしまうシールド・プリズンの力なら――埋蔵された石油に到達することが可能! 「もう、いい加減にして欲しいわね……。たしか東京砂漠の地下に埋蔵する石油は約100億バレル……エネルギーに換算すれば、核爆弾の10倍にはなるわ。そんなもの桜ちゃんが取り込んだら……」 「東京一帯が焼け野原になっちまうなぁ」 モブおじさんの言葉に澪木は頭を抱えた。 「いったいどうしたらいい……! 考えなさい、考えるのよ澪木祭蔵! ……この空間は魔人能力で作られているから地下までは……いやでももしそこまで再現されていたとしたら……」 ブツブツとつぶやく澪木をよそに、モブおじさんは首を傾げる。 「――ってことは何かい。あの子、もうエネルギー切れ間近ってことか?」 その言葉に、澪木は顔を上げる。 「……そ……そうか! それよ!」 見れば桜は、既に《桜レーザー》の照射を止めていた。 それがエネルギー切れにより引き起こされた現象である可能性は、澪木には高いように思えた。 「きっと、東京スカイサボテンからの電力供給じゃ足りなくなってきてるんだわ!」 ――見つけた。雪村桜を止める、一本の糸……! 澪木は集中して、考えをまとめる。 「あとは……何かもう一つ……! 桜ちゃんが地下の石油地層に到達する前に、エネルギー切れを誘発(ゆうはつ)する方法があれば……!」 そんな悩む澪木に向かって、モブおじさんが口を開いた。 「――それなら、一ついい考えある」 モブおじさんはそう言って、いやらしい笑みを浮かべる。 なぜだか嫌な予感がして、澪木は顔をしかめるのだった。 ◇ 「それじゃあ行くわよ。――遅れないでよね」 「ああ、任せときな。アンタこそ、無理してやられちまっても知らねえからな」 二人は背中合わせで立ち上がる。 雪村桜はその姿を視界に入れて、叫び声を上げた。 「さくさくさくさく――! 人類は……救済しないといけないんです!」 「――散開!」 《桜レーザー》が放たれたのに合わせて、澪木とモブおじさんが左右に分かれた。 「《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》!」 モブおじさんの姿が消失する。 一瞬、桜はそれに気を取られるが、同時に澪木が前に躍(おど)り出た。 「――『ありのままに』」 澪木はステップを踏み、踊り出す。 それを迎撃(げいげき)すべく、《桜レーザー》が放たれる――! 「『夢追いかけるのよ――!』」 しかしそれを澪木は歌いながら避(よ)けてみせる! それはまるで、澪木の愛するアニメ映画のミュージカルの一(ワン)シーンのようであった! 「『ありのままに』」 《TDL(ティー・ディー・エル)》の能力も使用していないし、ここは夢の国でもない! そこは現実の象徴(しょうちょう)たるオフィスビル街! 世の中の醜いリアルが突きつけられる、乾ききった東京砂漠! 「『自由に生きるの――!』」 しかしそんな中で――いや、そんな中だからこそ! 澪木はより一層、美しく輝く! 「さくさくさくさく――! お母さぁぁんっ!」 《桜レーザー》が澪木の頬を、肩を、腿(もも)を焼いていく! しかしそれでも澪木はすんでの所で致命傷(ちめいしょう)を避け続け、そしてその体で夢の国を体現すべく踊り続ける! 今、彼こそが! この東京砂漠において、唯一の夢の国そのものなのである! 「《桜カウボーイ》――!」 桜の腹部から何本もの触手が伸びる! それはオフィスビルに散乱していたLANケーブル! 桜に取り込まれたケーブルが操られ、澪木の腕を捉(とら)えた! 「さくさくさく……お母さん! お母さん! お母さん! お母さぁん!」 何本ものケーブルが澪木の体を拘束していく! 身動きがとれなくなった彼を、桜は見つめた。 「やっと桜は、人間を救うことができます! お母さん、褒めてぇ!」 桜は壊れたように叫び、その瞳の照準を澪木の心臓に合わせる。 ――そのとき。 「『誰も、恐れ……ない――!』」 ケーブルに首を絞(し)められながら、澪木が笑った。 一瞬、桜の後ろに中年男性の姿が見えたからだ。 それは舞台の閉幕(カーテンコール)の合図! 「『前を、向いて――!』」 澪木が銃弾を放つ。 弾は桜の腹部に命中し、その体を弾けさせた。 すぐに自己再生が始まるが、そこから出たケーブルは千切れて澪木の拘束が解かれる! 「――『何も怖くはないわ!』」 澪木の声と同時に、桜の背後から迫った男が襲いかかる! 澪木が踊り、避けることに徹(てっ)していたのは桜の意識を逸らし、男を無事に背後まで忍び寄らせる為だ。 澪木は限定的な状況でカートゥーンの世界に入り込む認識能力を持つが、それがなくとも魔人として高い身体能力を持っている。 ならば、避けることに専念してさえいれば桜の攻撃に数秒間耐えることも可能なのである。 それは決して、勢いに任せただけのミュージカルダンスではない。 澪木のカートゥーン認識改変能力は発動していないし、彼はただ真摯(しんし)に桜の目線を追って光速のレーザーを避け続けていただけである。 全てはこの一瞬を作り出す為の、命を賭けた論理の積み重ね。 そしてその一瞬に導かれた男が――声を上げる! 「《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》! 『拒絶(リジェクト):苦痛』!」 桜が背後に現れたモブおじさんの姿に気付く。 モブおじさんの手には、一本のプラスチックボトルが握られていた。 それは、一回戦で用意していなかったばかりに彼が積極的に攻めきれなかった理由となってしまった物! モブおじさんは反省し、二回戦ではそれをポケットに忍び込ませていたのである! 「和姦道究極奥義――『ヌルヌル全身ローションマッサージ』!」 モブおじさんは持ち込んでいた潤滑油(ローション)を桜の体にぶちまけると同時に、その全身に指先を這わせる! 機械なのだから、潤滑油を差し込めば滑りが良くなるのは当然のことだ! 「肘(ひじ)! 肩(かた)! 腰(こし)! 臍(へそ)! 項(うなじ)!」 「はわっ!?」 それはゼロコンマ一秒の極地。 「頬(ほお)! 顎(あご)! 鎖骨(さこつ)! 腿(もも)! 踝(くるぶし)!」 「あっ、やっ、ひっ!?」 先ほどまで泣いていた桜はもう、そこには存在しない。 「唇(くちびる)! 鳩尾(みぞおち)! 肩甲骨(けんこうこつ)! 膝(ひざ)! 脇腹(わきばら)!」 「これはっ――! この、あったかい感覚は――!」 苦痛を取り除かれ、そして突然与えられた快感の嵐に、桜は今啼(な)いていた! 「腋(わき)! 尻(しり)! 乳輪(にゅうりん)! 乳首(ちくび)! 恥丘(ちきゅう)!」 「――お母さん……!? お母さぁん――!?」 桜は快楽のオーバーフローに、母を幻視する! 一瞬の合間(あいま)もなく全身にもたらされた快感に、桜の奥の奥から激しい感情の奔流(ほんりゅう)がこみ上げてくる! 「こんなの、ダメ……! お母さんのことを考えながらなんて――こんな、気持ちっ……! お母さぁん……!」 ともすれば、母への恋心を抱きかねないほどの激しい快楽と温(ぬく)もり! 母であり姉でもある雪村詩織の幻を見ながら、桜は快楽の階段を上り詰める! それを桜の人工知能の良心回路(セーフティロック)は、必死で拒絶した! 異種族(いしゅぞく)近親相姦(きんしんそうかん)レズ! なんと業(ごう)の深い幻想であろうか! ――しかし! 「お母さんとは……! そんな一線、絶対越えちゃダメなのに――!」 桜の言葉に、モブおじさんはその口の端をつり上げた。 「――その境界(ボーダー)、越えてみな」 そして最後の一手を、彼は放つ。 「……『背骨昇天竜(背中なぞられてゾクってするやつ)』ーー!」 モブおじさんの指が、下から撫で上げるように桜の背中の中心を這う! その指使いに、未知の快楽が桜の全身を駆け巡った! 今までに蓄積された快感が、背筋を昇って桜のCPUへと高負荷をかけていく! 「桜――桜、頭が真っ白になっちゃいますぅーーー!」 その瞬間、モブおじさんは桜から体を離す。 澪木に向かって飛び跳ねると、桜との間に立ち塞がった。 「《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》! 『拒絶(リジェクト):爆炎』!」 同時に、桜の体が光りだす。 「……お母、さ――!」 その言葉は、爆発の轟音(ごうおん)によってかき消された。 ◇ 桜七大兵器の一つ、《桜ファイヤーウォール》。 それは桜の頭が真っ白になってフォーマットされそうなときに発動する、エネルギーの9割を使い果たす防護装置だ。 東京スカイサボテンの電力を取り込んでいた桜の爆発は、東京スカイサボテンの外殻(がいかく)全てを吹き飛ばした。 そしてほぼ全てのエネルギーを使い果たした桜は今――。 「……お母、さん……どこ……? お母さん……」 彼女が発動していた《桜エクスマキナ》ことシールド・プリズンは、エネルギー切れを起こしていた。 エネルギーが枯渇したことにより、吸収していた自動販売機や東京スカイサボテンの建材が、次々と砂へと変質していく。 そうして桜の体は、今やかろうじて右側の上半身が残るだけとなっていた。 「お母、さん……ごめんな、さい。桜……失敗……さく……さく、さく……」 桜の残された瞳から、冷却水がこぼれる。 澪木は、無言でそれを拭(ぬぐ)った。 「お母、さん、そこに、いるの……? ごめん、なさい……ごめ……ん……」 澪木は思わず、息を詰まらせる。 彼女に対して、澪木は何も言えない。 彼は警察として親友を殺し、その弟から兄を奪った。 そして今もまた雪村桜を殺し、その母を犯罪者として捕まえようとしている。 澪木はそれを仕事として割り切っていた。――いや、割り切っていたはずだった。 しかしその手は今も震えている。 目の前の少女に、あのときの親友を重ねていた。 そんな澪木の肩を、モブおじさんが叩く。 「――ママの代わりでもしてやったらどうだ」 「私には、そんな資格……!」 澪木はそう言いかけ、桜の顔を見て口をつぐんだ。 もう先は長くない。 ――それなら。私がしてあげられることは。 澪木は桜の頬に触れる。 既に目も見えていないであろう桜は、パッと笑顔を浮かべた。 「おかあ、さん……?」 「……頑張ったわね、桜」 澪木が彼女の頭を撫でると、桜は心底嬉しそうに笑う。 澪木は笑って、そのまま撫で続けた。 「……あなたは謝る必要なんてないわ」 ――それは。 「あなたが生まれてきてくれただけで、私は嬉しいの」 ――ちょっとだけ、Dream(夢)のような、Lie(嘘)。 「……お、か……さ……、あ……りが……」 桜はそう言いかけて、動かなくなる。 澪木はそっと彼女のまぶたに手を載せて、その目を閉じさせた。 ◇ 吐き出された紫煙が夕暮れの空へと昇る。 男たちは砂漠に敷かれた残骸の上で、沈むゆく太陽を見送っていた。 「吸うか?」 「……遠慮しとく」 澪木はタバコの代わりに、ストロングゼロを呷る。 互いに無防備ではあったが、一服の時間を邪魔するほど相手が無粋ではないことをどちらも理解していた。 「私は――あの子に恨まれるかしら」 澪木は問う。 まるで自分に問いかけるかのように。 茂部(もぶ)はそれに答えるようにして、煙を吐いた。 「――公僕なんてのは、嫌でも人に恨まれるもんさ。特に正義の国家公務員様なんてのはな」 正義の対局にいるのは悪ではない。 茂部が以前から度々戦っている『新生教育委員会』にしても、その根底にあるのは恐怖なのである。 世代交代を恐れた老人たちによる発狂。歳を重ねる毎に老人は凶暴化する傾向が高いということが、現代の最新の科学では証明されている。 そんな正義と正義のぶつかり合いにおいて、武力でしか解決できないことも世の中にはあるのだ。 「……だからこそ迷う必要なんてない。あんたが行く道には救われる人が大勢いるし――人々の為に戦うその姿は、眩しいぐらいに恰好良いぜ」 茂部の言葉に、澪木は目を細めて夕日に燃える空を見つめた。 ストロングゼロを一口、啜(すす)る。 「――何それ。口説(くど)いてんの? モブおじのくせに」 澪木の顔は穏やかに笑っていた。 どこか憑(つ)きものが落ちた表情で、澪木は心地よさそうに日没の光を浴びる。 「……あと、私は国家公務員じゃないわ。それはキャリア組だけ。私みたいな現場は、地方公務員なんだからね」 「へぇ。じゃあ俺と同僚ってことになるのかね」 「……何、あんたも公務員なの? ……世も末だわぁ」 「違いない」 そう言って二人は笑った。 ――吸い終わったタバコを、携帯灰皿にしまう。 ――飲み干した缶を小さく潰して、ポケットにしまい込む。 「じゃ、そろそろ」 茂部の声に二人は立ち上がって。 「ええ、付けましょうか――」 そして対峙する。 この戦場に入ったとき、運命は決まっていた。 「――決着を」 ――最後の戦いが、始まる。 ◇ 夕日を背景にして対峙(たいじ)する二人は、雪村桜初号機との戦いによって互いに満身(まんしん)創痍(そうい)。 故に決着は一撃でつく。 それはお互いにわかっていた。 和姦道とマーシャルアーツ、双方とも研鑽(けんさん)した武術の構え。 和姦道は相手の"機(き)"を読む受けの武術。 よって先に澪木が動くのは、当然の成り行きだった。 澪木はマグナム銃を構える。 『.357逆鱗弾』の装填弾数は六発。 よって次の六発目が、最後の一撃。 「――パレードの時間よ」 澪木は引き金に指をかけながら、地面を蹴る。 それに合わせて、茂部もその体を跳ねさせた。 二人の攻撃が交錯する――! 「《TDL(ティー・ディー・エル)》!」 澪木は銃を撃ちながら、能力を発動した! 茂部の姿がオークに変わる! 能力と和姦道を封じたその状態で、歌と踊りを併せたミュージカル・マーシャル・アーツを叩き込む! ――しかしその連撃の、初手が崩れる。 否、正確には。 「《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》――!」 オークとなった茂部の右腕が、その声と共に肩から千切れ飛んだ。 能力を使わせない為の牽制(けんせい)だったはずの初手、澪木のマグナム銃の一手が通ってしまう(・・・・・・)。 元より威嚇(いかく)射撃(しゃげき)。 その狙いは正確ではないので、一撃で仕留(しと)められなかったことに問題はない。 だが一瞬、澪木は茂部が能力で銃弾を防がなかったことに躊躇(ちゅうちょ)する。 しかし澪木も戦闘のプロフェッショナル。 その動揺を抑え、攻撃に転ずる! 片腕を失い、和姦道を封じられた茂部に近接戦闘での勝機は無い――! ――はずだった。 「『拒絶(リジェクト)――《TDL(ティー・ディー・エル)》の例外』」 茂部の言葉が、澪木の耳に届く。 ――例外? そんなものは――。 澪木は思い出す。 それは雪村桜初号機が暴走したとき、彼自身が茂部に言った言葉だ。 ――私の能力は、付近の人間を無差別にカートゥーン化する能力なの。もちろん、私自身は例外だけどね(・・・・・・・・・・)。 能力における例外の拒絶。 即ちそれは、例外なく能力が発動するということに他ならない! 澪木の体が、黒く変化する! 手足の長さが変わり、体のバランスが崩れた。 対する茂部は、オークの体で澪木に迫る。 魔人用の弾とはいえマグナム銃の制動力(ストッピングパワー)は、人間の歩行動力の1/20程度。 よってお互いに必殺の一撃を繰り出そうとしてぶつかり合ったこの状況では――無いに等しい! 「――ウォォォアアア!」 茂部が吠(ほ)える。 それはまるで、ライブ後に観客席から放たれる歓声のようなグルーヴ感を伴うオークの雄叫(おたけ)び! 腕を失った茂部が、大きく口を開いて澪木の腹に食らいつく! 「ぐ……あっ……!?」 そして、決着はついた。 腹を食い破られた澪木が、その場に崩れ落ちる。 茂部はアルコールの匂いのするケーキを吐き捨て、倒れた澪木を見下ろした。 澪木の《TDL(ティー・ディー・エル)》が解除され、二人の姿が元に戻る。 「――俺の、勝ちだ」 茂部の言葉に、澪木は倒れたまま笑みを浮かべた。 「……夢の国の主役なんだから……もっとお姫様っぽい姿になるんじゃないかって……思ってたんだけど……ね」 腹から血を流す澪木に、茂部は笑う。 「……あんたみたいな甘ちゃんが、菓子じゃないわけがないだろう」 茂部は血を流す片腕を押さえつつ、優しく笑う。 「――最初に雪村の背中を撃ったとき、な。あんた、今にも泣きそうな顔をしてた」 それは澪木が桜を裏切ったときのこと。 「あんな顔しちまう奴なら――あんたはきっと、心底甘い奴なんだと思ったよ」 茂部の言葉に、澪木は目を閉じる。 「ふふ……キルシュ……か。私……そんなに、甘かったかしら……」 ――シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ。 それはココア生地にキルシュヴァッサーと呼ばれるサクランボの蒸留酒を加えて作られる、ドイツのケーキだ。 澪木の《TDL(ティー・ディー・エル)》が自身へと発動したとき、彼はその姿に変化していた。 「………もう、あんた、私のこと、なんでもわかったような、口、きいて――」 ――体が菓子に変わる者は、その身に秘めた夢想の如(ごと)き理想を、捨てず、曲げず、まっすぐ半生に打ち出して来た人間に多い。 それは以前、澪木が過去の経験から導き出した自身の能力の考察。 その内容を思い出して、澪木はどこか救われたような笑みを浮かべた。 それはまるで眠りに入る直前のような、穏やかな表情。 ――ああ、きっと。 「――だから、あんたって……嫌いよ」 ――私は、信念に従って生きてこられたんだ。 自身の能力に自らの人生を肯定された気がして。 そして澪木は、力を抜いた。 「……俺は、好きだぜ。あんたみたいな男は」 茂部は彼を見送る。 そうして、オフィスビル街の戦いは幕を閉じた。 〈三〉 それは雪村桜の泊まるホテルの一室。 そこには今、雪村ラボの面々が集まっていた。 「よーし一回戦は勝利したことだし、なんかよくわからんがエプシロン王国の秘薬とやらで桜も無事に帰ってきたし、悪しき日本政府の手先からは逃亡だー! 荷物をまとめろ助手くん!」 「それがまずいんですよドクター! 我々がクラウドファンディングで5000万支援してたアイドルグループがライブでカブトムシを食ったせいで炎上解雇に!」 「なんだって!? まだ投資した資金も回収しきれてないのに! これじゃあ桜量産計画どころかメンテナンス費用すら怪しくなるじゃないか! また桜に新聞配達と刺身にたんぽぽを載せるバイトを掛け持ちしてもらう必要が――って助手くん何だその姿はー!? コアラ!!」 「ラッコですよ! でもドクターもなんかチョコボールになってますよ!? あっ金のエンゼルだー! すごいすごーい! 夢みたーい!」 そんな騒がしい部屋のドアが蹴破られ、ぞろぞろと異形の者たちが押し入る! その後ろで指揮を取るのは、ストロングゼロを手にした長身の男。 彼はパンパンと手を叩きながら、異形の者たちへと指示を出す。 「はーい確保確保。残念だけど雪村ラボみたいな紙一重の集団は、野に放っておけないの」 「ぐわー! 貴様らさては悪しき政府の手先! 横暴だ弾圧だー! 我々は屈しない! お菓子の缶詰が当たるまで、屈してなるものかー!」 雪村詩織に手錠がかけられたのを確認して、澪木は《TDL(ティー・ディー・エル)》を解除する。 「……まあまあ、落ち着きなさいな。まずは話をしましょう」 澪木の言葉に、詩織は首を傾げる。 今まで彼女が接してた政府の手先と、彼の態度は明らかに異なっていたからだ。 「今この国は大事なときなの。総理大臣が変わって腐った前政府も打倒して、国全体も良い方向に向かっているわ。……だから、あなたたちにも協力して欲しいのよ」 澪木は詩織たち雪村ラボの面々に笑みを向けながら、言葉を続ける。 「あなたたちの作った雪村桜初号機――あれは素晴らしいものだわ。……今回の試合がプレゼン代わりになったみたいで、お偉方(えらがた)が雪村ラボに興味を示しているの」 「興味だと……!? まさか雪村ラボ代表の座を狙って……!?」 「違う違う」 詩織の言葉に澪木は手を振って否定する。 「――エプシロン王国のサンプル花子シリーズにも対抗しうるアンドロイド――雪村桜。その力があれば、日本は防衛費を削減してそのリソースを国力の増強に回すことができる」 澪木はストロングゼロを呷って、彼女たちに笑いかけた。 「どう? 司法取引と洒落込まない?」 ☆ 「あの……ありがとうございます。お母さんたちを助けてくれて」 後日。 グロリアス・オリュンピア会場内のレストランで、澪木は雪村桜に話しかけられていた。 「……ん、私は何にもしてないわよ。ただ上の決定を伝えただけ」 ストロングゼロと共に食べる白玉ぜんざいに舌鼓(したづつみ)を打ちながら、澪木はそう答える。 桜は少し困った顔を浮かべつつも、おずおずと口を開く。 「でも、嬉しいんです。お母さんも喜んでました」 桜は笑顔を澪木に向ける。 澪木はそれに少し逡巡(しゅんじゅん)した後、口を開いた。 「――一つだけ忠告しておくけど、人間ってのは醜いわよ。そんなホイホイ信用したら、すぐに痛い目をみるんだから」 それは脅しではない。 人生の先輩としての、忠告だ。 「カートゥーンみたいな優しい世界とは全然違う。これから先、私みたいにあなたを裏切る人間だって出てくる」 澪木は冷たく彼女に告げる。 ――『とっても夢のような嘘』だってこの世にはあるけれど、悪意をもって他人を騙す嘘の方がその何倍も多い。 桜はその言葉に頷きつつも、怯(ひる)まずまっすぐに澪木を見つめた。 「それでも――桜は人間が、大好きです」 雪村桜は、そう言い切る。 「私を作ってくれたお母さんが。雪村ラボの皆が。……それに、澪木さんも」 大量破壊兵器として作られた彼女の口が、そんな言葉を紡(つむ)いでいく。 その様子を見て、澪木は眩しそうに目を細めた。 「――ふふ。まあ、そこまで言えるなら上出来ね」 彼はその口元を緩める。 澪木は昔、世の中全てがおとぎ話のように見える極彩色(ごくさいしき)の世界に背を向け、決別した。 それは現実を見つめることにした澪木の決意でもある。 だが決して、彼はカートゥーンの世界を見限ったわけではない。 澪木は現実を夢の国に負けないぐらいの素敵な世界とする為、戦う事を決めたのだ。 雪村桜の目は、そのときの彼を思い出させるような目をしていた。 「……なんか食べてく? 何でも好きなもの、注文していいわよ。奢(おご)ってあげる」 「えっ、あっ……はい! じゃあ桜も……その、お酒、飲みたいです」 「――ふふ。未成年は、ダーメ☆」 辛く残酷な現実世界。 誰もが孤独で、温もりを求め続ける東京砂漠。 しかしそれでもこの世界は少しずつ良くなっているのだと、澪木祭蔵は心から信じているのだった――。
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裏第一回戦SS・オフィスビルその2 「あなたは私のお母さんお父さんですか?」 宇宙と資本主義の膨張に関連性を見出し理屈付け理論付けた大起業家F.ホーリマ。彼の電子複製脳に選ばれし受付嬢は意識した全てを系統付けて分類する癖を持つ。受付業務時の外来生命体は203種類に分けられる。天使。ハロウィンにしては時期はずれだ。正確に観察する必要がある。彼女のもう一つの癖が出る。腰のリボルバーで来訪者の心臓を撃つ癖だ。対象の生存は観察の必要条件ではない。0.5秒以下の無意識から拳銃が引きぬかれた。 救済天使モード開始:0字 四葉の人格が即時救済へのエネルギィに変換される。七色の後光が照る。天輪が高速で回転する。天使は笑む。 「神の御心のままに」 オートマティックに放射される光線は受付嬢の身体を七回半貫いた。眉間・心臓・右手・左手・右足・左足・そして脇腹から体内に入り臓腑を撹拌する。光の速さで。覚悟なく死んだ受付嬢はなぜか慈悲深い笑みを浮かべて永眠した。 天使はオフィス内を歩き続ける。非常にゆっくりと。天使の両翼を目一杯広げて。もしかしたらこの世界にいるかもしれないお母さんかお父さんが気付いてくれるように。 武装警備兵たちは天使の姿を確認次第順次発砲した。 「敵対するものは悪魔に支配されており、救済は洗礼の一点のみである……」 音もなく光が飛ぶと光の速さ(マッハ90000)で確実に命を奪う。天使は笑っていた。天輪を投げる。穴の内宇宙が兵たちを吸い込む。 天使のエネルギィは有限だがコストはからし種ひとつ程度で済む……とはいえ有限は有限だ。全力が発揮できる内に対戦相手から伝道すべきだが天使は天使の本懐として迷える子羊たちを救わなければならない。一人残らず。ノンストップで光を。もっと光を。天使の通り道には血と肉と笑顔が山づみだ。 ついに最上階の不幸な成金デブを神のもとへ導くと天使は跳躍し天井を破壊、上昇する。天使の輪っかはドリルでもある。 屋上へ飛び出すとサークルH(ヘリポート)の真ん中にベースをさげるゴスロリが立っていた。 「聞いて下さい『天使はエッチ』」 「ひぃ。ふぅ。ア、ひぃふぅみぃよぉっ」 ジャカジャカジャカジャン! 「天使の光は電子レンジ~ 電子レンジ? 天使エッチ! お皿も輪っかも回転~ とても熱いよ天使のエッチ~! あ~ だから私の身体もこんなに熱いのねっ! のねっ!!」 ジャジャーン! ゴスロリはスカートをたくしあげる。黒パンから13cmが頭を覗かせる。 「ワイも天使(ふたなり)なんやで~!!」 もちろん嘘である。 「あなたは私のお母さんお父さんですか?」 「お前がお母さんになるんだよぉ~!!」 天使(本物)は光を飛ばしゴスロリを貫く。 「ぐふ……無念や……」 ゴスロリは涙などの汁をこぼし昇天した。 救済天使モード終了:900字 須藤四葉は恐る恐るゴスロリスカートを捲りガーターベルトをちぎりパンツ(黒)を脱がせ暗黒もじゃもじゃ密林に長い長い指を伸ばす。ぷにっとした感触。穴はなく線が隆起している。片性(かたわ)である。天使(はらから)ではない。四葉は安堵……ではなく嘔吐した。 「おえーっ」 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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SSその3 「フゥーハッハッハァー助手くゥん! 彼かね? 彼が身の程知らずにも私たち雪村ラボに潜入した愚かなスパイかねぇ~!」 「その通りですドクター。クックック、我々も侮られたモノですなァ……いや、ここはちょうどいい被験体が手に入ったと喜ぶべき所ですかな?」 町外れの小さな工場、雪村ラボ! その作業場に狂気のマッドサイエンティスト(二重表現!)の哄笑が響いた! 彼女たちの前には……おお、何ということか。後ろ手に縛られ、捕えられた少年が一人! ああ、近隣にも親しまれている町工場は、ついに世界征服をもくろむ秘密組織の素顔を露わにしたのか!? いたいけな少年は、あわれラボの非人道的実験の犠牲になってしまうのか? 未成年略取は七年以下の懲役だが、加害が併合するとどれだけの罪になるかわからんぞドクター! 「う、ううう……」 捕えられた少年、白名楽飛人(らびっと)――シロナは、すっかり怯えきっていた。 目に涙さえ窺えるその視線の先には「いや普通に警察でしょ」「むしろ今社会的にヤバイのは我々では?」「今日アイカツ最終回なんでもう上っていいっすか」「なにおう!」などと喧々諤々のラボ職員たちがいる。 「さてとだ」 まとまらない職員を置いて、ラボのリーダー格とみられる研究者――Dr.雪村こと雪村詩織はシロナの頭をがしりと掴み、ぐふふと凄んだ。異様に長い舌まで出てる。 「まあどんな結論が出るとしてもだ! この雪村ラボを舐めた落とし前はきっちり払ってもらうよ~ん? ただで帰れるとは思わないことだねぇ~~~!」 「ひ、ひいいい~!!」 震えるシロナ! 無慈悲! (おじさん! ごめんなさいおじさん――!) 懺悔! だが時計の針は戻らない。果たしてこのままシロナは狂気のマッドサイエンティストの、実験の露と消えてしまうのか! それ以前に今や夕方も過ぎ、そろそろ夜である! 未成年のシロナは今日中に家に帰ることが出来るのか(帰っても一人だけど)。 時間的にお腹もすいてきた! 危うしシロナ、どうなるシロナ――! 時はグロリアス・オリュンピア2回戦、第△試合前日! 試合開始まで約16時間のことである! 〈一〉 五日前、都内某シティホテル。 澪木祭蔵は、一人デスクに着いて己のパソコンと向かい合っていた。 『――はい、一回戦は相手が相手でしたので結果的にやむを得ない部分はありましたし、今回に限っては貴方の私物についてとやかくはいいませんが。今後ああいった物の使用は、出来れば控えて頂けますよう。あの程度ならこちらの始末も大した手間ではありませんが、フォローとて限界はありますので……』 「ンもう、悪かったわよ。これからは気をつけるから……」 先日の第一回戦について、謝辞も早々に繰り出された陣内の小言に平謝りするしかない澪木。私人としても公人としても、所持があってはならない手榴弾の使用についてである。厳密な意味での警官ではないとはいえ、警視庁預かりの身分も痛し痒しだ。 「――それでね、陣内さん。今日の連絡の件だけど」 「……はい。察しはついてます。一回戦を勝ち抜いた参加者についてですね?」 澪木祭蔵の参加動機は、本来この大会を観覧する国賓たちに対する、秘密裏の警護である。一回戦はその守るべき総理大臣が相手というイレギュラーが発生したが、勝利することで、逆に不確定要素のある大会から穏便に護ることが出来たとも言える。 『最も危険と思われた参加者は、捜査一課の徒士谷警部補が排除してくれました。しかし……』 陣内の考えることも、同じであった。二回戦に勝ち上がったメンバーに、警戒すべき相手がいないとも限らない。事にこの大会においては、勝者とはそれだけであらゆる予断が許されない者たちだ。 モニタに映っているのは、ウェブに接続された三つのウィンドウ。 一つ目は秘匿回線によるオンライン通話ソフト、現在使われている公安へのホットライン。二つ目はG・O(グロリアス・オリュンピア)スポンサーの一つである、大手映像制作会社による一回戦各試合の公式配信動画。そして三つ目は。 「ちょっとね、気になるヒトがいるの。“血染めの野菊連続強姦事件(ブラッディーデイジー)”。私が警察に来る前だけど、陣内さんなら覚えてるわよね」 『……警視庁の現場を経験した者で、“奴”を知らぬ人間はいないでしょう。今や管轄が違いますが、私も刑事部時代は苦々しく思ったものです』 陣内は、その事件名だけで澪木の言わんとすることを理解した。そして、それが示す者も。 三つ目のページ『SCP財団』。 英語圏発祥の、架空の団体による活動報告書の体裁を取ったオカルト・都市伝説創作サイトである。 読者を魅了する要素に事欠かないページであるが、創作サイトである以上、その多くは事実とは何ら関係のないフィクションである。 しかし。 恐るべき魔人能力が跳梁し、人知を超えた魔人技能体系が跋扈するこの世において、その報告書の中には少なくない割合で本物が実在する。 “SCP-62023‐JP モブおじさん” 彼の存在は、噂や都市伝説などではない。 過去起こった様々な連続強姦事件。不自然なまでに容疑者が浮かばず、そも告訴すらされていない事件の数々だが、それらの状況証拠は、何者かの存在をはっきりと示唆している。 表立って公言する者はいない。しかし警視庁の人間にとって、彼は二十年近くも前から密やかに、しかし確信をもって語られる凶悪犯なのだ。 澪木の属する生活安全部は、部署としては少年犯罪、経済環境事犯など、地域の防犯保安活動全般を手掛ける。その中には、間接的とは言え性犯罪に係る安全対策を手がける対策室も存在する。 今も時折り起こる、被疑者不明の強姦事件。 例によって告訴されず、捜査に踏み切られることもない。だがそこに起こる事象は、この『モブおじさん』のページと奇妙な一致を見せる。 「外見と名前だけを真似た、ただの賑やかしならそれでいいんだけど……この能力にこの戦法(スタイル)、どうにも不吉なのよねえ……」 そして参加者の中、その名で持って勝ち上がった一人の中年男性。 ……もし、本物の“モブおじさん”がこの大会に参加しているのなら。それが勝ち上がったのなら。そこでもし招待者に公に出来(・・・・)ない事例(・・・・)が発生してしまったら? 現段階ではまだ確証のない空想ではあろう。だが世界の対日感情は勿論のこと、フェム王女に対し、万が一にも危害が及んではならない。 「陣内さん。私ね、ちょっとアテがあるの。一応だけど、明日から動いてみるわね。もしかしたら公安さんにも何かお願いする事態があるかもしれないわ」 相手は変態は変態でも、警視庁の眼を十数年以上も欺いてる弩級の変態である。しかし、部署の風通しがいい今、グロリアス・オリュンピア開催期ならば、思わぬ所から尻尾を掴める展開があるかもしれなかった。 澪木のPCモニタには、一回戦における豪華客船の試合が流れている。 画面の中では、童貞男と結合したモブおじさんが激しく腰を上下させていた。 ◇ その二日後。都内某中学校。 三月も終盤に差し掛かり、寒さの中に緑の芽生えを感じさせる早春の日、シロナはこの晴れた空と同じく、明るい足どりで職員室の扉を叩いた。 「おーじさ……じゃなかった、先生、おはようございます!」 「おお、おおシロナくん……おはよう。ハハ、何だか久しぶりな気がするな……」 独り書類整理をしていた茂部が、にこやかにシロナを迎える。こうして直に顔を合わせるのは、およそ十日ぶりだろうか。シロナは、そんな茂部が少しやつれたようにも見えた。 「先生……はは、そうですね……」 「フフッ、おじさんでいいよ、今は誰もいないからね。学校では先生と呼んでもらう所だが……イケないことをしてるようで興奮するだろう?」 茂部が、鼻に人差し指を当てる「秘密」のポーズで言う。似合わぬ仕草だが、これは少しでもシロナの心配を解きほぐす為だろうか。事実、この日は春休みで、学校に訪れているのはごく少数の生徒と用務員を除けば、茂部だけではあったのだが。 「先せ……ううん、わかりました、おじさん! じゃあ早速、オリュンピア部顧問として、練習を見てください!」 「おいおい、顧問になるとは言ったけど、まだ部としても発足してないだろう? 全くしょうがないなぁ」 不安を振り切るように明るく手を引いたシロナに、茂部は口ではぼやきつつも、嬉しそうに続く。今日は春休みの直前に、茂部とシロナが電話で打ち合わせた約束の日だった。 ――グロリアス・オリュンピア一回戦を勝ち抜いた茂部であったが、その余りに汚い戦い方は、動画やSNSを中心に、瞬く間に世に広まった。 躊躇なく男性をレイプせんとし、それが無理と判断するや相手の股間を自分の尻へと結合して倒す。会場ですら罵声で持って迎えられたその姿は、無論、その外でも多数の人間の侮蔑と嘲笑の的であった。 そして、それは日常的に茂部と接する学校の教師や生徒にとっては、ネットの中のコンテンツではなく――。 魔人の中には、その能力と極限にまで研ぎ澄まされた性技を用い敵を打破する「淫魔人」と呼ばれる者も存在する。しかし、本来被差別者の魔人であると同時に、職場ですら陰でバカにされている茂部である。そのような魔人の一種として市民権を得られるはずもない。 まず、茂部の授業は全く成り立たなくなった。茂部は担任こそ持っていなかったが、軽い学級崩壊状態だ。学校は一部の保護者による猛烈な抗議を受けたし、同僚の教師たちも、腫れ物に触るような態度である。ついには遠回しな謹慎勧告まで出されるほどだ。 茂部は性犯罪者ではあったが、少なくとも試合のルールに違反した訳ではない。それでも、である。 茂部は厳しい対応に曝されながらも、堪(こた)えてはいなかった。覚悟は出来ていたし、迫害されるのも初めてではない。これも世界へ復讐しようとする自分に降りかかる、さらなる復讐の一形態であろう。ならば、耐えられる。目的のため、耐えられるのだ。 しかしである。 ある日、シロナが保健室で治療を受けていた。茂部がそれを目撃したのは偶然だったが、聞けばシロナは、クラスで嘲われ続ける茂部の状況に我慢できず、彼を庇ったというのだ。シロナは魔人だが、身体能力が高い方ではない。その結果、傷を負った。 クラスでも浮き気味な元不登校児である。このままでは、シロナの立場はさらに悪くなるだろう。今でさえ学校の裏掲示板に、やれシロナはモブの愛人だの、極太尻穴ザーメン野郎だの中傷されている始末である。奇しくもそれ自体は真実であったが。 ここに至って、茂部はついに自主謹慎を受け入れた。自分が責められるのはいい。しかしシロナにまで塁が及んでしまっては、何のための戦いか分からない。 春休みを迎える、数日前のことであった。 ――……。 「いっちにっ、いっちにっ。ふぁいおー、ふぁいおー!」 グラウンドに、ランニング中のシロナの声が響く。春休みになれば、生徒の目もなくなる。そこで会おうと提案した茂部にシロナが切り出したのが、この学校での練習である。学外に出かけてもよかったのだが、シロナはやはりそういった時の行先は『わからない』のだという。 茂部は、そんなシロナを穏やかな目で見つめる。 シロナ自身は、この気休めにもならないだろう部活ごっこでも、楽しそうだ。ならばいいかと茂部も思う。 ……もうすぐだ。もう少し勝てば、彼を本当の意味で救ってやれる。今までシロナは、当たり前の幸せすら享受できず虐げられてきたのだ。せめてこれからは、人並みの青春を謳歌できなければ嘘ではないか。 茂部は自分を鼓舞した。そうだ、その為に次の試合も絶対に――。 「――おじさん。おじさん?」 「っ! お、おう? はは、なんだいシロナくん。ごめんごめん、おじさんちょっと聞いてなかったよ」 しまったしまった。物思いにふけっていた。今日は彼に付き合うと約束したのだ。 「……はい、ランニングが終わったので、次は何か型を教えてください! おじさんの知ってるやつでいいんで」 「おじさんの知っているの……う、うーん和姦道はおじさんも独学だしなあ。そもシロナくんに教えるのは躊躇われるし……」 考え込む茂部を、シロナは見つめている。茂部はその視線に気づかない。不安と心配以外の何者でもないその視線に。 自分のためにおじさんに苦労を背負わせてしまっている。試合で傷を負って、仕事場でも余計な波風に曝させて。 茂部が少なからず心労を背負っていることは、今日のシロナから見ても事実であった。そして、自分もこのおじさんの力になりたいが、何も出来ない。これも事実であった。 シロナがそんな気持ちを抱えつつも、その日は概ね穏やかに過ぎて行った。 第二回戦の対戦相手と戦闘地形が発表されたのは、翌日のことだった。 ◇ 二日後。試合前日。 シロナは都心から離れたローカル線に揺られていた。目的地たる町外れの工場、雪村ラボは、次が最寄駅だ。 今この場にいるのは、何より、自分もモブおじさんのために何かしたい。自分のために傷つくおじさんを少しでも助けたい。その気持ちゆえだ。 偵察。 シロナが彼なりに考えた結果のサポートがこれだった。おじさんに、有用な情報を持ち帰る。少しでも、おじさんの傷を減らすために。 先日発表された新たな対戦表も、彼の決意を後押しした。 雪村桜(初号機)。モブおじさんの二回戦対戦相手の一人。彼女はもう一人の澪木という人(何たって総理大臣との喧嘩に勝ってしまったのだ)に比べれば、組し易そうに見えた。……これなら、ボクでもどうにかなるかもしれない。 雪村ラボの公式サイト(公式サイトである!)から、住所はすぐに分かった。何たって参加者プロフィールにすらURLが載っている。試合まで時間もない。善は急げであった。 ……おじさんには伝えていない。言えば止められるに決まっているからだ。でも、自分はもう何も出来ないのに耐えられない。 駅に降り、いよいよ敵地にやって来ても、その心は変わらなかった。 眼前には、近隣でも評判の町工場、雪村ラボ。 怖くないと言ったら嘘になる。だが自分の行動如何で、もしかしたらおじさんの勝利すら変わるかも知れない。 シロナは勇気に燃えていた。 ◇ ……もうお分かりだろう。 こうして、うっかり者のシロナは雪村ラボに捕えられてしまったのだ! 「クックック~愚かだねえ! まさか入り口前で、帰宅途中の桜に気付かないとは! アイカメラで様子が筒抜けなのに、不審人物丸出しで長話とはァ~!」 「あーっ! お母さんまた試合以外で勝手に私の眼覗いて! やめてって言ったじゃない!」 雪村詩織がシロナの頬をつつく。そうである! ド素人のシロナに、思いつきで偵察など出来るわけなかったのである! 「ヒヒヒ傑作傑作、桜の喉の通話マイクで、私が怒鳴りつけてやった時のこいつの顔ったらァ~! 『あ! い! う! え! お!』」 「『あ! い! う! え! お!』……もーっ!! そのマイクもやめてって言ってるのにーっ!」 「ううううう……」 時刻はもう20時を過ぎている。携帯も没収されてしまった。ハンディマイク片手に遊んでいるドクターを前に、シロナは最早泣くことしか出来ない。おお不甲斐なきシロナ! 彼の末路は最早決まったも同然か! 「……で、だ。何者だい? 表向きは普通の町工場だし、見る物なんかないはずなんだがねえ。何のスパイだい? や、昨日の今日だ。分かり切ってるけどね」 雪村詩織が、じいっとシロナを見下ろす。 ひっとシロナの身がすくむ。もうだめだ。隠し通せるわけがない。ここでボクは正体を暴かれて、ひどい目に合される。ひょっとしたら、それだけじゃすまないかもしれない。 ……ごめんなさい、おじさん。助けようと思ったのに、足を引っ張ってしまった。 自分が嫌になる。でも、それでも……最後の抵抗だけは、試してみよう。 シロナが上を向いた。 「……ファンです」 「ファン?」 「そうなんです! ボク前から雪村ラボに憧れていて! ほら、すごくカッコいいメカとか兵器とか、たくさん造ってるじゃないですか! で、最近公式HPがあることを知って! そしたらもう、居ても立ってもいられなくなって! 一度でいいから生雪村ラボを拝見したくなっちゃったんです、はい!」 一気にまくしたてる。あっけにとられたような詩織だったが、ややあって。 「……ク、ククッ。クックック! ファンか。そうかファンかァーッ、アッハッハー!!」 狂笑。 ……こんな風に笑う大人の行動を、自分はよく知っている。次の瞬間すごく真面目な顔で自分を殴りに来るのだ。ニセモノだった、父がそうだった。 諦めが、シロナの心に満ちる。おじさん――。 「よく来たね!」 「へ?」 「いやぁー君は運がいいよ! 今ね、うちのスーパールーキー兵器、桜が実地で軌道テスト中なのさ! 知ってるだろう? 日本中が熱狂するグロリアス・オリュンピアだよ? 全くもうー! そうなら最初から言えよこのこのー!」 「え、えへへーそうだったんだぁー。うふふ」 「なんだなんだうちのファンだって?」「マジかよ」「おいアメちゃん食うか」 肩パン! 桜も嬉しそう! 上手く行ってしまった。これにはシロナもビックリだ。 しかし、ある意味では当然と言えた。 雪村ラボは、零細秘密結社だ。人気という物に、ずっと餓えていたのだ! ――この後、シロナは夕飯をごちそうになり、泊りがけで雪村ラボのメカについて語られ、薄氷を踏む思いで話を合わせる羽目になるのだが、それは割愛する。 「ねえ、シロナくんの家族って、どんな人なの?」 「……か、家族?」 「うん、私、家族って、うちのお母さんとラボの皆しか知らないから……」 「そう、ですね…………うん……」 「シロナくん?」 「いや……優しい人、です。ボクのためにすごく傷つきながら、でも頑張ってくれている……ボクも、その人のために何かがしたい……返したい、んです…」 「そうなんだー」 ただ、久しぶりに一人ではなく、おじさんと二人でもなく、騒がしい食卓で囲んだ夕飯は、決して嫌な物ではなかった。 ◇ 試合当日、開始時間前。 「シロナ……どこ行ったんだシロナくん……!」 控室で、茂部は憔悴に襲われていた。予選の頃から自分についてきていたシロナが、今日はいない。 あれだけG・Oに熱を上げてて、しかも茂部と自分の二人のための戦いだという事も理解している筈だ。それが連絡もよこさず、全く姿を現さないなんてあり得るだろうか。 電話をかけても出ない。朝早くに彼の宿泊先に寄ってみたが、誰もいなかった。前日から帰って来てない可能性もある。一体何があったんだ――。 実際の所、シロナは遠く離れた雪村ラボにいる。ファンならぜひ見て行けという事で、帰ろうとするシロナを半ば無理やりモニター室で特別生観戦に招待しているのだ。 「モブおじさん選手。時間です、支度を」 「ひぇっ! ふぁ、ふぁい!」 係員の呼び出しに声が上ずる。だが、最早茂部も出ざるを得ない。この不安で乱れる心を隠して『モブおじさん』として戦わなければ。 (シロナくん――!) 二回戦が始まる。 〈ニ〉 「見! つ! け! たーっ!!」 灰色のオフィスビル街の通りを、桜色の翼が飛翔する! 鳥か? 飛行機か? いいや、雪村桜(初号機)だーっ! 「ふぎぎぎぎぎぎさくさくさくさくーーーーーーー!!」 「へえええ……元気がいいねえー……!」 風圧でもの凄い顔になりながらすっ飛んで行く桜を目に、モブおじさんが不敵に笑った! 試合開始からまだ三分も経っていない。ここは通りに面したビルの20階である! 今立っている広々としたオフィスに転移されて早々、MOBの『世界』による隠形を展開しようとしたモブおじさんだったが、通りに転移された桜は辺りを把握しようと桜七大兵器『桜WING』でTAKE OFF! 何という不運、勢い発見されてしまったのだ! 「うぎぎぎぎぎぎがーーーーー!!」 しかし酷い顔だ。いや、音速を超える速度に生身で耐えているのだから当然だろう。これぞ常に可愛くいたい乙女と相性最悪、しかし便利さには抗えない、乙女のジレンマアームズ! 切り離してビッグなカッターにもなるぞ、桜七大兵器・五のα『桜WING』! これには雪村ラボの面々もそっと表情筋運動の伝達センサーを切る。Dr.雪村も観て見ぬふりだ。記録として数値データにさえ残って入れば十分。思春期の少女の繊細な気持ちを慮る親心が、彼らラボメンバーにも存在した。 シロナだけが、マイクから流れる壮絶な音声にあわあわと慄いているだけだ。 戦闘領域ギリギリまでカッ飛んだ所でUターンした桜が、モブおじさんのオフィスに迫りくる。その眼が紅く光った! 危険を察するモブおじさん! 「ヒッ……」 非人道兵器『桜レーザー』! 桜の眼球から放たれた光線は窓ガラスを貫通、右から左に振られる頭の動きに従い、モブおじさんのオフィスを真横に溶断する! 「いいいいい痛い痛い痛いぃーーーーーっ!!」 一瞬だけではない、断続的な照射による桜レーザーファン! これは中々の大技だ。しかし桜レーザーは眼球に耐えがたい激痛をもたらす非人道的兵器では? どういうことだ? 見ると雪村桜の両手に握られているのは……弁当の醤油大きくしたような形状のスポイト! それを両目に差しながらレーザー撃ち続けているのだ! これこそが桜七大兵器の六! 雪村桜の機体に対し目薬にも潤滑油にも接着剤にもなる“良心から最も遠い”恐るべき兵器『桜エイド』! これで眼を酷使ししがちな現代桜もおめめパッチリ、潤いと栄養補給にオススメな優れものだ! ちなみに見た目は木工用ボンドに超似てる。 消耗を抑えて傷も治せるのに、なぜ良心から遠い恐るべき兵器なのかって? ノンノン! 「ああああああ痛い痛いうわーん目がー!!」 痛みは据え置き、ポリゴンショックもそのままだ! 桜に対し苦痛を強い、乙女の尊厳をかなぐり捨てる様な桜ヘッドねじ切れ案件を乗り越え、なお桜を戦場に縛り付ける! これが良心から遠くなくてなんだと言うのか! ☆ ☆ ☆ 「ううう桜……!」「すまない桜……」「仮装通貨さえ無事だったら……!」 ここは雪村ラボ! そう、雪村ラボも泣いている。彼らもつらいのだ。愛する桜の性能をフルに発揮するために与える、のぞまぬ苦痛……悲しみの連鎖……世の矛盾……世界の歪み……! 「え、ええー……?」 シロナもドン引きである。なんだこいつら……。 ☆ ☆ ☆ 「ふひひひ……参ったねえ。でも……屈服させがいがあるよぉ~!」 溶けたプラスチックや燃える書類による煙の中、ベチャアアと舌を出すモブおじさん。レーザーは当然、《MOBの世界》でシャットアウトだ。無傷! 両手をニギニギと卑猥な形に蠢かせ、桜の突撃を迎え討つ! 「和姦道強引系奥義――」 その時である! 今まさにビルに突入せんとした桜の頭上を、影が舞った。 「え――」 それは屋上に固定した自前のフックロープを握り、ビルの壁面を駆け下りて来た澪木! 一瞬気を取られた桜に、直上から容赦ない蹴りを叩きこむ! 「きゃあああああ――……!」 錐もみ回転しながら地面へと落下する桜! 澪木はそのまま身を翻し、モブおじさんが待ち構えるオフィス内へと転がり込んだ。 「チャオ。ご機嫌いかがかしら茂部先生?」 「…………あれあれぇ? ぐふっ、いい所を邪魔してくれちゃったねえ……君が代わりになってくれるのかなあ~?」 「茂部先生」。一瞬、返答に窮してしまった。こちらの実生活を知っているという勧告。普段なら気にも留めぬ揺さぶりだ。昨今、誰かの個人情報を追う手段など幾らでもあるし、こんな大会に出てる以上、その可能性はなおさらだ。、 元より失うもののない自分である。目の前に立つ者は誰であれ、魔人モブおじさんとして骨の髄まで侵犯(おか)し尽くす! しかし今は……。 「1996年、『美槌女学院(びつちじょがくいん)高校白昼の37人レイプ事件』――」 「ッ!? 《MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)》ッ!」 反射的に、相手と自分を収める形で魔人能力を展開してしまった。条件は「茂部に不利となる情報」。あるいは、それは慎重に慎重を重ね逃亡を続けてきた茂部の、直感的防衛行為だったのかもしれない。 「あら、聞いてくれるのかしら。ええ。これは都内の同名高等学校の生徒が、校内且つ日の高い時間にも関わらず、男性教師や通りすがりの用務員含めて授業中に全員レイプされた事件ね。同じく1998年『狙われた新郎新婦☆ハネムーン直前連続成田離婚事件』、1999年『ムキムキリングvs牙血牙血(ガチガチ)プロレス因縁の激突 ~突然の全員散華事件~』、2001年――」 「ふひひっ。お兄さん、そりゃあ……?」 それはマスコミの俗称であり、警視庁の苦渋の記録。同時に若かりしモブおじさんの輝かしい記憶。今のように齢を経た慎重さではなく、向う見ずな熱量と危うさで築き、そして見事逃走に成功した青春の武勇伝。 「そう。これらは過去20年、関東圏で起こった各被害者数20名を超える・被集団強姦事件……事件間における被害者の繋がりはゼロ、性別は勿論、年齢も所得も職業もてんでバラバラ。共通点と言えば……これだけの被害があって全員が犯人の詳細な姿を確認していないこと。被害届こそあれ、誰一人として告訴していないこと。結果としてどれもほぼ迷宮入り……そして一連の被疑者につけられた異名が、誰が呼んだか謎のレイプ魔“モブおじさん”」 「へぇ、何の話かな……? 俺の名前はあくまで登録名……ネットの噂にあやかったリングネームだぜぇ?」 「ふふっ、そうね。そもそも告訴されてないんですもの。どれも公式な捜査記録なんて存在しないわ。でも……事件がなくなった訳じゃないのよ。少なくとも現場のヒトたちにとってはね」 こいつ、どこまで知っている。警戒を強めるモブおじさんをよそに、ゆっくりと歩きながら澪木は続ける。カツ、カツ。遠ざかるでもなく近付くでもなく。 ――澪木は推測する。 自分の集めた情報と考えが正しければ、今、モブおじさんは己に不利益な情報が外部に漏れ出ないよう魔人能力を使っている。 「クックッ……詳しいじゃあないか。お兄さん、もしかして警察関係者かい?」 ならば。 今自分が喋っている内情も、奴に取って少なからず都合が悪いはず。今澪木が話していることは外界には伝わらず、よって世間が澪木と警察の繋がりを疑うこともない。 「さあ……どう、かしらねッ!」 不意に澪木が手近なデスクをモブおじさんに向かい思い切り蹴り飛ばした! 「! かァッ!」 《MOBの『世界』》! 襲い掛かるデスクをシャットアウト! 目くらましなのは承知の上、しかし躱すなり迎撃するなりの際、下手に動いて《MOBの『世界』》の圏内に接近されてしまうのはまずい! 派手な音を立て、反作用でデスクが逆向きに吹っ飛ぶ。 「ぐふふぅ~! もう始めるんだねぇ……? いいよぉ、その顔ぐっちゃぐちゃに……むッ!?」 和姦道の構えが取れない。腕がない。腕があった所に生えているのは、小さく、鋭くしかし余りにも頼りない突起。 「……な、何だこれはァ~~~ッ!?」 芋虫。強いて言えばそれは、クワガタの幼虫に近い形状をしていた。しかしその色はクリーム色をベースに、禍々しい斑点が並ぶ、地上の虫で言う「警戒色」に近い色合いをしている。男根を想起させるシルエットに、毒々しいカラーリング。 「こ、これは……奴の能力!」 モブおじさんとて対戦相手の動画はチェックして、研究はしている。しかし白兵戦こそ侮れない魔人と見ていたが、この能力は……! 総理が変身していた。他人の姿を変える力なら、自分も変わるかもしれない。だが……想定以上に短い四肢、想定以上に鈍重な体! 「そ。いいじゃない先生。中々かっこよくなったわよ」 澪木だった。モブおじさんの混乱の隙をついた一閃。真紅の頭部と斑点に覆われた胸部の境を、ナイフが斬りつけていた。 ◇ 「ピ、ピィィ~~~~~~~!!」 傷口から不気味な色と粘度の体液をまき散らし、モブおじさん虫が悶えた。痛みはない。 む、虫だから!? 痛覚がないとは聞いたことがあるぞ! 頭の一部で、妙に冷静なことを考えてしまう。 「話、中断しちゃってごめんなさいね。これを仕掛ける隙が欲しかったの。続きをしましょうか」 モブおじさんは身をよじる。完全に動転していた。モブおじさんは和姦道と魔人能力を駆使し、闇から獲物を狙う性犯罪者である。戦士ではない。時に抵抗に会うこともあろう。だが刃物でここまで深く斬り付けられる事態など、遭遇したことがない! 逃げなければ! しかし……体が思うように動かない! 芋虫の体はヒトとは勝手が違う! そして当然、元々の動きも鈍い! 必死に逃げようとするがただその場でのたうつばかりだ。 「くそっ、この、この……《MOBの『世界』》!」 この小僧の魔人能力を遮断! まずは元の体に戻って――。 ……何も、変わらなかった。モブおじさんは依然虫のまま、床でもがくばかりだ。 (ひ、ヒィ~何だ!? 俺は能力を使ってる筈なのに!) ――モブおじさんの《MOBの『世界』》は、肉体・精神的な損傷を伴う能力作用、または生命維持・稼働に必要な要素に対しては結界の機能が適用されない。 そして肉体の一部や装着物、意識を奪ったりする結果が予測される場合などは、明確に効果が発揮されない。 「……ふむ。能力の安全装置みたいなものかしら。アナタのここね。人で言ったら頸動脈。その体なら今すぐ命までどうこうとかはないけど……戻ったら死ぬわよ」 澪木が自分の首をトントンと叩きながら言う。 そ、そんな所を斬りつけたのかこいつは! しかも調子が軽い! 普段あまり意識していない能力の性質が、モブおじさんの命を救った。しかしこれでは……これでは完全な無力化ではないか! 自分の体は愚鈍な芋虫状態。魔人能力は勿論、ただの拳から身を守ることも出来ない。そして相手がいつ能力を解除するか分からない以上、逆に「能力の解除」を概念として常に遮断しておかなければならない。そうしないと死ぬのだ! 「アナタの能力は大体わかっています。さて茂部安康さん。私、澪木祭蔵はとある事件について貴方に事情聴取をお願い(・・・)すると同時、巷の連続強姦事件関係者、通称『モブおじさん』を強制性交等罪及び準強制性交等罪で告訴します」 「な、何ィ~~~!?」 なんだ、今なんと言ったのだ? 俺の能力が? いや告訴!? 「言い掛かりだ! 俺は何もしちゃいない! そもそも誰が、誰が何の被害を訴えてるんだ! モブおじさんなんて作り話だろォ~!?」 「いいえ、いるわ。確定させるには捜査が必要だけど……ここ最近、ほぼ確実に“モブおじさん”の被害を受けたと思われるヒト達がね」 「へっ……!?」 「白名宇佐治(うさじ)、葉煮子(ばにこ)――」 「!?」 モブおじさんに電流が走った。そ、その名前は! 「PTA残党――酷いヒトたちよね。自分の妄執のために子供から親を奪うなんて。一月ほど前かしら。何者かに手ひどくレイプされた彼らが、児童相談所に確保されたわ」 「う、あ……」 「彼らの罪状は罪状でキッチリ落とし前つけてもらうとして。確保される一時間くらい前ね。自宅に何者かを迎え入れたのが目撃されてるの。“都合よく”顔も声も目撃者の印象に残らなかったみたいだけど……怪しいわよねぇ。私はこれ、警察が本腰入れて捜査するべきと見てるの」 「じ、児相は内閣府直轄の独立組織だッ! 警察と言えど、そうそうに引き渡したりなんか……!」 「よく知ってるわね。でもね、出来るのよ。今なら。G・O開催に当たって、警視庁各部署と内閣の各省庁が連携している特例の防衛体制を引いてる今なら」 「――!!」 モブおじさんは言葉もない。そこに澪木が更なる一言を投げかける。 「そもそもね……強姦罪は2017年から強制性行等罪に改正されて非親告罪化してるの。だから、最早被害者じゃなく。私か、私の協力者が『モブおじさん』を告訴するわ」 ガァ―――――ン!! そ、そんなバカな……非親告罪だと? えっ、今日は本人じゃなくても告訴していいのか――! 「しょ、証拠は! 証拠はあるのか! も、モブおじさんはちょっとスケベなだけの淫魔人かもしれない……噂でこそレイプ三昧だが、法を犯すだけの度胸なんてきっと、とてもとてもなぁ~~~!」 「……」 澪木は無言で懐からデジタルカメラを取り出した。これは? 起動! 「え、これもうカメラ回ってるんスか。お、おう……ごほん、えー、童貞男っす」 「はい、俺……まあグロリアス・オリュンピアでは一回戦負けっすけど……俺の魔人能力で、過去のこの……モブおじさんのやってきたことは見ました。それは確かっす」 「負け犬のくせしてこういうことすんの、スゲぇ恥ずかしいけど……もし俺のこの力が必要になったら、どこでだって証言します。やっぱその、これからもレイプで傷つくヒトが出て来んのはよ、童貞として……なんつーか……」 「こ、こんな感じでいいっスか? ……っはぁ~緊張したぁ~~~」 「あ、あ、あ、あのガキィーーーーーーーー!!!」 都内のファミレスであった! この相手が試合前、澪木が接触した「ちょっとしたアテ」! 澪木が推測したモブおじさんの能力を確信レベルまで補強できたのも、これによるものだ! なお、被疑者相手に情報提供者の身元を明かすなど本来言語道断であるが、ここは話の演出の都合上、許して頂きたい! なんかこう……アレだ! 残り時間とか関係なく、ここはアレなんだ!! 「と、いう訳で、信頼できる証言相手もいます。彼の安全は全力で守るし、告訴状が出たとなればいよいよ魔人警官も魔人検察も捜査に動くわ。モブおじさん、彼はこれでなお逃げ切れる自信があると思う?」 「う、うぐぐぐぐ……」 「悪いことは言わないわ……会場に戻ったら、自首なさいな」 話は終わりだと言わんばかりに、再びナイフを抜き放つ澪木。 自分が警察に関わるようなったのも、ここ2~3年だ。だが現場での彼らの職務に対する意地は十分に見てきたつもりだ。 何もわからぬ状態で勝利して、突然の告訴だけではだめだ。 丹念に、レイプへの意志を挫いてから逮捕する必要がある。 「無論、手っ取り早いのはここで降参してもらうことだけどね」 「ふ、フィヒッ、ふぃひひっ、くそっ、くそ……!」 モブおじさんの顔が、屈辱と絶望にゆがむ。 ……澪木とて、口調ほど余裕があるわけではない。 TDLで体が動物に変わるものは、バイタリティ生命力あふれる活動家が比較的多い。 その中でも感情や直感に従う者は獣に、己の本能を論理や理知で御する、もしくは支えて加速させるものは虫の姿となる傾向にある……が。 この形態はまずい。虫は虫でも、何らかの幼虫の姿になる者はまずい。 それは澪木にとって、動物の姿というよりもむしろ強烈な自己抑制性の持ち主である「タマゴ型」と呼ぶ者に近い分類だからだ。 時間と『特定のトリガー』さえ与えなければ無力な存在ではある。これ以上余計な情報は与えず、退場させる。 「俺は、俺はまだ負けるわけにはァ~……」 ドッ。 澪木のナイフがモブおじさん虫の心臓部を貫き。 「ガッハ……」 同時、真紅のレーザーが連続して三条。オフィスの床を切り裂いた。 ◇ じゃっ。じゃじゃじゃっ。それはコンクリートを貫く高熱の音だけを持って、次々と撃ち上げられる。紅い光線、桜レーザー! 「うわぁぁぁぁん痛いーっ! でも、でもぉ――!」 所はビル一階! 桜WINGにより、広大なロビーを高速低空飛行しつつ仰向けの体勢でレーザーを連射しているのは、ご存じ我らが雪村桜! 手には桜エイド! ズバリ『敵の細かい位置も覚えてないし、一階ずつ探すより下から撃ちまくって出て来てもらおう。うまく当たって倒せてたらもっといいな』作戦である! 賢い! ちょうど今、澪木たちのいるオフィスルームにもヒットしているぞ! えらい! 「――っ、滅茶苦茶やってくれるわね!」 地上二十階。モブおじさん虫から離れ、床をケーキのように切り裂くレーザーの合間を縫って部屋から脱出する澪木。直後、寒気のする轟音と共にオフィスルームの床が階下へと崩落していく。 オフィスと同じく、数々の溶け貫かれた痕の残る廊下を駆ける。まずは相手を視認できる位置を探さなければ。階段に向かうべく、三度目の角を曲がり――。 「――ん、んん?」 しゅごー。 ヒトの、下半身が飛んでいた。 そこは一階から続く、広い吹き抜けに面した通路。その吹き抜けの空中に、スカートを履いた下半身が、火を噴いて飛行していた。小さな翼がついてて、何かお腹の部分が尖っている。 一瞬、澪木の思考が止まる。ピピッ。腰の部分、一対のセンサーが光った。 『――見つけたーーーーーっ!!』 「きゃああああーーーーーー!!」 思い切り叫んでしまった。何!? なんなのアレ!? 直後! 吹き抜けの階下から二体、急上昇する飛翔体あり! 一つ、ブラウスを着た女の子の胸部と両腕! 機首がついてる! 一つ、肩と頭部、そして桜WINGだけの雪村桜(頭)! 「チェーンジ桜ーッ、1(ワン)!!」 合体! 腕と胸部の桜マシン2(ツー)が頭の桜マシン1に、下半身の桜マシン3(スリー)が桜マシン2にぶっ刺さる! 見よ、これが桜七大兵器の四、君の望みも自由自在! 女心より変わりやすい、分割合体変形システム『桜チェンジ』!! 「ふんす!」 ぷしゅーっ。雪村桜(初号機)参上! 関節部より煙! ガッツポーズ! 「じゃ、ないってぇーの! よ!!」 得意満面な桜にフックロープが絡みつく! 澪木だ! 「わ、わわ、きゃっ」 「せーのっ!」 思い切り手繰りよせる。そしてこの吹き抜けに面した通路の壁に――激突! そのまま、体を丸めて耐えた桜に襲い掛かる澪木キック! 容赦ない! 雪村桜のお株を奪う非人道的キックだ! 吹き飛ばされた桜を、ピンと張ったフックロープが逃がさない。二重三重に襲う悪魔的工夫! (人造人間の雪村桜ちゃん、この子――変わってない!? ……あ、いや違う!) 澪木は未だTDLを解いていない。 雪村桜(初号機)がロボである事は参加者観戦者の凡そ全員が知る所であるが外見的には人間とほぼ変わらない人造人間であるのもまた事実。 故に、もし彼女に『心』という物が存在しえたなら、人間同様その姿が変質するという仮説も成り立つが――それらしい点は……やはり機械は機械、モノでしかないのか? いや、見よ! 彼女の大きな目は、カメラレンズの如きセンサーユニットであった。顔や腕などの素肌は合わせ目の目立つ鈍色の装甲であり、口元は顎に向かって分割している上下稼働タイプだ。教育テレビの人形劇のような、と言えば分かり易いだろう。 そして肘や膝の関節部も、素朴な球体関節である。 ロボである。つーかロボであった。 「気づかなかったわ……完全にロボじゃない……」 澪木が戦慄に震える。人間そのものの少女からロボへ。まさかここまで自然な変化であったとは……! いや、しかしこれは人造人間雪村桜(初号機)に取り敢えずの心が存在している証左! マッドサイエンティスト雪村詩織の理念は正しかったのだ! そしてこれは雪村ラボの大きな功績! 人類史の偉大なる一歩! 日本が誇る町工場の奇跡! 「でもこれはロボットって言うより……おもちゃの超合金? に近い印象ねぇ……」 「オープン桜!!」 「あっ!」 分離! 三つに分かれロープをすり抜けた桜マシンが宙を舞う。 桜マシン2が澪木に突撃! 「ぐぅっふ! 重……それに硬ッ!」 「お、重!? うわーん重いって言われたぁーお母さーん!」 TDLを解除! 少女らしい柔らかさを取り戻した桜マシン、すんでの所で受け止めていたそれを投げ飛ばす。だが桜マシンたちは螺旋の軌道を描き、再び合流する! 「ゆるさなーい! チェンジ桜・2!」 先ほどとは合体プロセスが違う。桜マシン3が2に刺さる点は同じだが、2の腕と3の足が合体! これは……新たな腕!? 更に変形し……頭部がせり出す! そして胴部の3の下に1が刺さり、WINGが脚部を形成。これらが瞬きの内に成された! 遠き雪村ラボの地でも、Dr.雪村を初めとしてみんな大興奮だ! 「うおーいいぞー! かっこいいぞ桜ー! 2はより地上戦に特化した高速機動形態だ! レーザーだって2、3共に据え置き! お前の力を見せてやれ!」 ◇ 数分前、階下。 「う、ぐ、げふぅ……ひ、ひひ、ふひ……なんだよ、なんだよぉ~」 薄暗い書類倉庫の中、モブおじさん虫は一人泣き笑いを漏らす。 ナイフで貫かれ、数階分の崩落に巻き込まれて尚、モブおじさんは生きていた。 体は未だ芋虫のまま、彼は己の命のため「TDLの解除概念」のみをシャットアウトしている。 致命傷を追い、魔人能力を盾にも使えぬ無防備状態でここまで命を永らえさせているのは、ひとえに彼の生き汚さ……言い換えれば強烈な意志の力のせいと言ってよかった。最早動くこともできない。ナイフの傷だけでなく、瓦礫の激突で腹も大きく破れてしまった。 それでも、数秒後に避けられぬ死が訪れるとしても、今心臓だけは止めていない。 これがグロリアス・オリュンピアに参加する前の茂部であったなら、とうに息絶えていただろう。なぜだろうか。なぜ自分はここまでして諦めていないのだろうか。……理由があったのかもしれないが、もうわからなかった。 「ああ、ああ畜生クソが……死ねよ……死ね……」 限界点に達した命の中、彼の心は妄執と錯乱の域にある。 ちくしょう、ちょっと顔がよく生まれただけのくせしやがって。俺のことなんざ道端で見下すだけのクソだよなあ。いつも俺を殴ってたあいつも、優しいように見せかけて陰で嗤っていた女子も、俺のどもり癖を憐みの目でしか見なかった教師も、何も助けてくれなかった親も、遠巻きにバカにするだけの今の同僚も、生徒どもも、告訴とかぬかしたオカマ警察も何もかも――! 俺を馬鹿にする全部全部、ぶっこわしてやる。ずっと昔もこんな事を思っていた。 びしびし、びしびし。モブおじさん虫の体が変色し、硬質化していく。体が縮こまり、折れ曲がる。 蛹化(ようか)である。モブおじさんは、蛹と化していた。 ◇ バァーーーzン!! そこに現れたのは、そう桜2! 黒かった桜WINGはすらりとしたタイツの脚に、紫を基調とした衣装はまるでゴシックの趣き、心なしか背も高く……あれ? マシン2と3が合体した新たな腕は妙にぶっとい形状のまま中からドリルがのぞき、頭部はせり上がった頭頂部だけが、半端に展開されて板状のままの胸部装甲に、引っかかる形で止まっている。 かろうじて銀髪っぽいのはわかるけど、額から下が全部埋もれてる結果、すごく寸詰まりっぽくなってて……なんか、不細工なダンボールアーマーって感じです……。 ……。バ、バァーーーzン! バァーーーーーzン!!! ☆ ☆ ☆ 「うん、予算が足りなかったな! 2の変形機構はちょっと複雑に過ぎたかもだ」 「ふ、不具合っていうか欠陥じゃないですかそれってー!」 「いや悪くないんだって! もう少し簡略化できてたらきっとイケたって! ドリルだってついてるんだぞ! 2限定七大兵器、岩盤だって自由自在『桜ドリルゥ』だぞ!」 『あなたが澪木さんね。その動き……止まって見えるわ』 『声ばっかりちゃんと実装してんじゃないわよ!』 画面の向こうの澪木も怒り心頭だ。 「ハッハッハー! 失敗は成功の母さ君! 腐っちゃダメだよ!」 「こ、この人……」 シロナはこんな大人になっちゃダメだぞ! とにかく、こんな桜では格闘戦についていける筈もない。澪木が迫るぞ、どうする桜! ☆ ☆ ☆ 「……。オープン桜」 あ、逃げたこの桜! ともあれ分離した桜マシンはまたも澪木を翻弄! 「チェンジ桜・3」 またしても合体! 先ほどとは合体プロセスが違う。桜マシン1が3に刺さる点は同じだが、3の腕と1のWINGが合体! これは……新たな腕!? 更に変形し……頭部がせり出す! そして胴部の1の下に2が刺さり、腕部が脚部へと変形。これらが瞬きの内に成された! 「チェーンジコンプリート、桜3!」 そこに現れたのは、そう桜3! 紫だった2の腕はうって変ってパステルポップのスカートに、全身も明るい暖色を中心とした元気なイメージのコスチューム、 マシン3と1が合体した新たな腕はしなやかながら力強く、金髪をサイドテールにした頭部には、意志の強さを感じさせる瞳が並ぶ。 輝く太陽のような桜、桜3。 バァーーーzン!! ☆ ☆ ☆ 「こっちはちゃんと出来るんじゃん!!!!!」 「雪村ラボはポップでパッショネイトな集団だからな! な、助手くん!」 「何の話!?」 最早怯える影すらシロナにはない! 本当にこんな風になっちゃダメだぞ! ☆ ☆ ☆ 「こんにちは、おじさん! ボクは桜1や2みたいにいかないからね。覚悟してよ!」 「あらあら、おじさんなんて、最近聞いてなかったから逆に新鮮ね。こっちこそ、アナタみたいなカワイらしい子が構ってくれるなんて光栄だわ。……お駄賃はどれくらいがいいかしら、お嬢ちゃん?」 クツクツと笑う澪木。だがその雰囲気はピリリと張っている。ようやくまともな相手がお出ましみたいね。澪木が構え、桜3がぐるぐると両腕を回した。 その時。 ――ZABZABZABZAB……。 「ッ!?」 「え……」 それは、喩えるならゴキブリの羽音とスズメバチの羽音の融合。本能に訴える嫌悪と危険を孕んだ音。 大きさの程、約二メートル強。ヒトより確実に大きいが大きすぎない。感情の窺えない複眼に、でっぷりと丸く太った腹部、異様に長い触角。 窓の外。枯れた濃茶の色をした巨虫が浮かんでいた。 〈三〉 ヴ――。 羽撃きの振動で、窓ガラスが粉砕された。 直後、まっすぐ突撃したモブおじさんが桜3に激突! 桜は三体に分かたれ、ばらばらに弾き飛ばされた。 澪木のフックロープが飛ぶ。手近な桜マシン2を引き寄せるのと、慣性を無視した機動で突っ込んで来たモブおじさんが澪木の腹に着弾(・・)したのは、ほぼ同時であった。 間一髪、桜マシン2をクッションに、何とか腹部への衝撃を耐える。 (まさか……生きてたの!? あの状態で!?) 変態、無論昆虫の生態的な意味の変態を経たモブおじさんの傷は、蛹の過程で完治している。その姿は力強く、また幼虫とは違った意味で醜い。 口吻から垂れるべちゃべちゃとした涎に、刺々とした三対の脚、ぬらぬらとした腹部。その上に座すぎょろぎょろとした複眼が、澪木の目と合う。 「へぇっへっへ……そういう顔が見たかったんだぁ~。もぉっと虐めてあげるよぉ~?」 TDLは既に解除している筈。それにも拘らず人に戻らないという事は。 「ひひっ、また何かのはずみで芋虫にされちゃ敵わないからねぇ……アンタの能力解除は、通さないよぉ……?」 表情が窺えない顔であるにもかかわらず、嗤っているのが分かった。 「やめなさい。本当に、ロクなことにならないわよ」 「マジな声だねえ~ククッ。どちらにせよこっちの子種、いやタネが割れてるんじゃ、《MOBの世界》を絡めた戦法は分が悪いからねえ……このまま侵犯(おか)し尽くさせてもらうッ!」 「冗談は顔だけに……しなさいな!」 澪木の腕が走る! その手には、対魔人用改造スタンガン! 先程はより強固な無力手段である虫化を狙ったが、この距離での戦闘ならば! 「和姦道強引系闇奥義『口でするか挿れられちゃうか、どっちがいい』ッッ!!」 でっぷりとした腹部から垂れ下がった生殖器が、サソリの尻尾の如き軌道で澪木の顔面を打ち据えた。吹っ飛ぶ澪木! それは節くれだった甲殻に覆われ、刺々しい。だがいわゆる、ちんこビンタだ! 何というテクニックか。技巧を極める和姦道の奥義、成虫への脱皮を果たしたとは言え、わずかな時間でそれを昆虫の体に応用するセンス。モブおじさんの才気は、ここに来て完全なる開花を果たしたのか!? 「フィヒッ、もう逮捕でも何でも好きにすればいいよぉ……俺も最後のシャバくらい好きにやらせてもらうからねぇ……ぐふっ」 物理的威力は元より、その刺激で相手の肉体的、精神的抵抗力を著しく奪うのが本分の奥義である。ダメージが足に来ている体に鞭打ち、立ち上がろうとする澪木。 直後、精液の砲弾が飛来した。全身を異臭のする粘液にまみれさせ、澪木は再び弾き飛ばされる。 「カッハッ……!?」 「君の相手は後でじっくりしてあげるよぉ……? 上か下、どっちの口から壊して欲しいか考えておくんだねぇ~」 瞬間、長大な生殖器が振るわれた。背後に迫っていた桜マシン1が叩き落とされる! 「きゃあああー!」 落雷の如き一撃は吹き抜けから一階まで、一息に桜マシン1を撃ち落とした。チャージされていた桜マシン1のレーザーが、狙いを大きく外し天井を貫く。 「う、うう痛い……痛ぁい……」 一階ロビー。レーザーのために桜マシン1から頭部だけを展開していた桜がべそをかく。機械の体ゆえ落下は耐えられたが、目の激痛だけはどうにもならない。 「痛いよぉ、お母さ……」 ツインテール部分を器用に動かし、桜エイドを取りだす。それを絞りだし。 腹に響く音とともに、直上から落下して来たモブおじさん虫が、ツインテールを組み伏せのしかかった。桜エイドは床を滑り見えなくなった。 「ひっ……!」 「光栄だなぁ! 君みたいなロボットの初めてを貰うことが出来るなんてねぇ~! 下半身がないから口になりそうなのが残念だがなぁ!」 「ひ……ひゃああああ!! きゃああああーーーーーーー!!!」 暴れる桜ヘッド! は、初めて!? 何を言ってるんだこの虫おじさんは! 生まれて二年の桜はモブおじさんの言ってることが全く分からない! でもこわい! 蝿みたいなゴキブリみたいなメチャクチャ大きな虫が口をガチャガチャ動かしながらのしかかって来てる! すごくこわい!! しなるちんこがロビーを叩く! 「観念するんだなあ! 大丈夫だよぉ、痛くしないようにするからねぇ……いや、でもこの位置じゃ口からってのは難しそうだなあ……下から通して口から出す! これだぁ~~~~っ! ぐふ、ぐふふ!」 槍のように狙いをつけるちんこ! まずい! これは本当にまずいぞ! 女の子が首だけ! 下から! 相手は蟲!! あらゆる意味で大ピンチ!! 『おじさん!!』 桜の口から、桜のものではない声がした。 「ぐふっひゃ……?」 『もうやめてよ、おじさん!』 遠く離れた地、雪村ラボ。 桜の大ピンチ、かつ虫動画のドアップに絶叫&大混乱だったラボが、静まり返っていた。 シロナが、詩織の席にある桜の通話マイクをひったくっている。 「シロナくん……?」 なぜ、どうしてこのロボットの子からシロナの声が? 「シロナくん、かい? なぜだい? もうすぐ……もうすぐ勝てるんだよ? 勝てば暮らしだって……オリュンピア部だって……」 『だって、だっておじさん……ボクは! ボクはもうおじさんが傷つくのは見たくないです!』 「!」 『そこまでして! 試合でボロボロになって、学校でもあんな事になって!』 モブおじさんは、シロナのそんな声を初めて聴いた。 「へへ、騙されるかよ……」 『お、おじさ……っ』 「シロナくん、なんで君がそんな所にいて、こんなことを言ってるのか分からないけど、君は騙されているんだ」 モブおじさんは、未だ死の間際の錯乱の中にある。それに引きずられている。 体組織を丸ごと溶解して再構成するのが、変態。 死の直前の妄執が、焼きついたように脳へと残る。虫化した人体など、有史以来公式には存在したことすらない。 神秘の、夢の国の生物には、果たしてそんなことがあるのだろうか? 「大丈夫さ、おじさんが守る。何を前にしても、君には近づけさせない。だから、私に頼ってくれえて――」 『お、おじさん!』 ブチリ。喉のマイクが切られた。 「虫の、おじさん……!」 桜だった。虫の下で、桜がモブおじさんをにらみつけていた。 「おじさんが、シロナくんの家族なんですね……」 「ッ!?」 「シロナくん、言ってたです……優しい人だって、家族だって。なんで、なんでシロナくんの話を聞いてあげない、の……!」 桜の声が震えていた。モブおじさんの声も震えていた。それは、同じ震えではない。 「だって、だってよぉ……!」 モブおじさん虫の声が歪む。それは何かを押さえつけるような、既に漏れ出してしまっているかのような。 「もう、もう遅いじゃねぇかよ!」 ビルに響くような、叫びだった 桜の顔に、虫の頭部から漏れた液体がかかる。それは、涎なのか。それとも。 「あれだけ! あれだけのことをしてよぉ! 何が復讐される覚悟だよ! ねえよ! そんなモンねえ! 怖ぇから逃げてるだけだよ! 今更! もう俺みたいな奴が何をしようが! 戻れるかよぉーーーーーッ!!」 モブおじさんの生殖器が思いきり引き絞られる! 同時、モブおじさんの直下の地面から、ドリルを備えた、脚のないヒトの体が飛び出した! 銀髪! これは……桜2! 完全な起動状態を果たしている桜2である。先程は欠陥品だったにも拘らず、桜ドリルの駆動も完璧だ。これはいつの間に!? いや、違う! これは桜2は桜2であるが……ロボ(・・)だ! そして、見れば傍らの桜1のヘッドもまた……ロボ! ――気づかなかったわ……完全にロボじゃない……。 頭上二十階。ぬぐいきれぬ精液の中、モブおじさんを見下ろす澪木がいた。 TDL。そして。 ――うん、予算が足りなかったな! 2の変形機構はちょっと複雑に過ぎたかもだ。 ――いや悪くないんだって! もう少し簡略化できてたらきっとイケたって! そう、この姿はロボットというより――。 竜巻めいて回る桜ドリルゥが唸る! 狙いはモブおじさんか!? いや、昆虫の複眼と反射神経を備えたモブおじさんは、コンマ数秒前に現れたチン入者にも、既に万全の備えを構えている! 振るわれる生殖器(ちんこ)の鞭! ――否! 桜2が分離、回避! マシン2が1に刺さる! そして桜はマシン3を掴み! 「……バカーーーーーーーッ!!!!!」 マシン3から現れた第三の頭。そこから放たれた非人道兵器桜レーザーが、モブおじさんを斜めに両断した。 「がッ……ごは……」 モブおじさんの眼が光を失い……その姿が全裸の中年男性に戻る。 最大出力で放たれた桜レーザーはビルの内壁側面から吹き抜けの遥か頭上、天井までをも切り裂き――二つに分かれたモブおじさんの体の隙間から、桜は見た。 エスカレーターに、コンクリートの梁、ビル内部の様々なオブジェクト諸共、天井が崩落するのを。 「あ――」 モブおじさんの体に覆いかぶさられた桜は、動くことが出来ない。 そのモブおじさんの手がゆっくりと握られ、開かれると同時。 大小、大量の瓦礫が、ロビーに降り注いだ。 ◇ 天井がなくなり、頭上には青い空の広がるロビーを、澪木が歩む。頭上から降り注いだ様々な落下物に埋もれたその一階は、惨憺たる有り様だった。 ボロボロになったビル内部、二十階分を階段で何とか下り、向かう目的地はその中心部。特に瓦礫が山と積もったその一帯は、崩落からずっと、、何も動いた気配はない。 「これは……さすがに決まったかしらねぇ」 息を吐く澪木。自分のダメージとて決して軽くはなく、決着がついているに越したことはない。だがそれならば、自分も既に会場に戻っている筈だ。 それはすなわち。 その時であった。ごろり、ごろりと瓦礫の隙間から転がり出て来るものがあった。 思わず構えを取る。だがそれは……それは、雪村桜(初号機)の頭部であった。 「あ、おじさん――」 「……ハァイ。なぁんだ、アナタも無事だったのね」 「えへへ……もう頭だけですけど……」 「お互い、悪運が強いわね。……ふふっ」 「あはは……」 バツが悪そうな様子で、桜が応える。疲れ切っている様子だが、まだ目は死んでいない。 「……あの太った虫のおじさん。最後にね、最後に私を助けてくれたんです。少しの間だけ、私とおじさんの所に瓦礫が振って来なくなって……本当に少しの間だけだったんだけど、それで私の頭だけは無事な隙間が出来て……」 「……そう」 伏し目がちに、視線だけを瓦礫にやり、桜が言う。 それは、シロナの声で自分を止めた機械に対し、何がしかの影を見た故の行為だったのか。それとも、もう何十年ぶりかすら覚えていない、自分に本気で向き合い、叱りつけた者に対する、彼なりの誠意だったのか。はたまた、ただ今わの際の無為な混乱が、たまたま桜を救っただけだったのか。その、どれでもなかったのか。 二人にそれはわからない。本人に訊いても、きっとわからないのだろう。 「……さて」 「はいっ」 空中に視線が交差する。 どこか、通じ合っている二人がいた。確たる言葉がなくても、どうすべきか分かるのだ。 「ところで知ってますかっ! お酒って美容にも悪いみたいですよっ。こう、歳を取って来ると目じりにきゅーってしわが寄って」 「えっマジ!? やだどうしよう、わた」 桜秘蔵の美容トーク! これは澪木にクリティカル! 思わず話に引きこまれ、 「やあっ!」 不意の桜レーザー! しかし澪木はそれを素早く躱し。 ゴィン! 「……きゅう~」 目が回る。その最後の拳骨により、桜は意識を失ったのだった。 〈四〉 「おっと帰るのかい、シロナくん?」 「はいっ! ええと……お世話になりました! 後日必ずお礼に!」 「お礼なら、雪村ラボへの何らかの発注がいいな! 君の財が我が世界征服の礎になるのだ!」 「はいっ!」 シロナは駆け出す。駅へ、会場へ、茂部の元へ。 茂部は、今日にでも出頭し、法の裁きを待つ身となるだろう。オリュンピア部の設立も夢と消えるだろう。そればかりか、これからきっと何十年も、茂部とは離れ離れだろう。 だから――。 違う、そうじゃない。 自分は今、茂部の傍にいなくてはならない。そうしなければならない。 自分は子供で、弱くて、守られてばかりで。それでも、いま何もかも砕かれた茂部と一緒にいることは、自分にしか出来ない役割なのだ。 ――茂部先生がいいです。きっと先生は、ボクを見捨てないから。 バカをいうな。おじさんがボクを見捨てないなら、ボクはそれ以上の何かでおじさんに報いなければダメじゃないか。 おじさんの重い罪は、すぐに日本中に知らされる。その時は、自分が一緒に背負おう。頼りなくても、共に償える男を目指すんだ。 「待ってて、おじさん――!」 友達が出来た。おじさん以外で、接してて何だか……ダメだけどなんだか楽しい大人も出来た。 シロナは駆けている。未だ遠い茂部への道を。それは、弱かった子供が初めて自分の意志で進み始めた道だった。 ◇ 「行っちゃいましたねドクター。……結局、彼、何なんだったんでしょうね。モブおじさんとか。そも『モブおじさん』ってのも何なんだか」 「さてね。私ら雪村ラボには関係ないことさ。私たちにはそんな些事より、世界征服が待ってる!」 Dr.雪村はふんぞり返る。 桜の眼球とリンクしたモニタは、未だ暗いままだ。疑似バイタルは正常。しばらくすれば起きて、帰って来るだろう。 「……いや違う! 今あいつ体が潰れて頭だけだよ! 迎えに行かなきゃ!」 「あっそうか!」「負けちまったしなー。どうせだ、希望者まとめて行こうぜ」「東京かー!」 バタバタとラボが騒ぎ始める。いつもこの調子だ。慌ただしい。Dr.雪村も身支度に入る。 今日はうんと誉めてやろう。がんばったな。修理にメチャクチャ金掛かるけど心配するなよ。なんせ私は天才だからな。 あいつはどんな顔するだろう。悔しがるかな。やり切ったとか思うかな。そういや友達も出来たな。何にせよ、私は嬉しいぞ。 お前のそうやって成長する心が、ラボの一番の武器で、世界征服への一番の兵器なんだから。 「……お疲れ、桜」 未だ灯らぬモニタの前、雪村詩織は一人目を細めた。 【第2回戦:オフィスビル街STAGE】 【雪村桜(初号機),澪木祭蔵,モブおじさん】 『汝、人間なりや? Part2 [Beast And Toy Soldier Mix]』 【現在判明している桜七代兵器】 •非人道兵器「桜レーザー」 •自らの命を削る大技「桜チェーンソー」 •残された最後の良心「桜カウボーイ」 •君の好みに変わっちゃうぜ「桜チェンジ」←New! •乙女のジレンマα「桜WING」←New! •乙女のジレンマβ「桜ドリルゥ」←New! •乙女のジレンマγ「桜アビス(未使用)」←New! •良心からはただ遠く「桜エイド」←New! •あなたに一つ、わたしに一つ「桜ハート」←…New? グロリアス・オリュンピア第二回戦・第△試合 戦場:オフィスビル街 雪村桜(初号機)● 〇澪木祭蔵 モブおじさん●