約 628,290 件
https://w.atwiki.jp/pgbnavi/pages/338.html
エミーネ(1995年3月19日 - )は、名古屋Cキャッツに所属したプロ野球選手(外野手)。 概要 経歴 詳細情報年度別野手成績 表彰 記録初記録 節目の記録 背番号 登場曲 能力推移 pixivリンク 概要 所属 名古屋Cキャッツ 背番号 7 国籍 トルコ 身長 172cm 体重 68kg 出身 トルコ アンタルヤ 生年月日 1995年3月19日 投打 右投左打 血液型 B型 プロ入り 2012年トライアウト PL ホッシー 球歴 南安雲野工業高等学校-横浜アクアマリンズ(2012)-福岡クローネ(2013-16)→名古屋Cキャッツ(2017-2019) 経歴 2016年まではスイッチヒッターであったが、2017年からは左打席に専念することとなった。 詳細情報 年度別野手成績 年度 所属 規定 試合 打率 打席 打数 安打 塁打 単打 二塁 三塁 本塁 打点 凡打 四球 死球 敬遠 犠打 犠飛 三振 併殺 失策 盗塁 盗失 出率 長率 OPS 2013 福岡 × 8 .000 6 4 0 0 0 0 0 0 0 3 2 0 0 0 0 1 0 0 0 0 .333 .000 .333 2014 福岡 × 10 .100 10 10 1 1 1 0 0 0 0 4 0 0 0 0 0 5 0 0 0 0 .100 .100 .200 2015 福岡 × 10 .333 3 3 1 1 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 .333 .333 .667 2016 福岡 × 17 .462 18 13 6 9 5 0 0 1 3 4 1 1 0 3 0 3 0 0 0 0 .533 .692 1.226 2017 名古屋 ○ 40 .283 131 99 28 32 24 4 0 0 10 55 8 1 0 23 0 15 1 1 0 1 .343 .323 .666 2018 名古屋 × 28 .167 46 30 5 7 3 2 0 0 7 17 2 1 0 13 0 8 0 0 0 1 .242 .233 .476 2019 名古屋 × 31 .409 39 22 9 10 8 1 0 0 5 10 3 1 0 13 0 3 0 0 0 0 .500 .455 .955 通算:7年 144 .276 253 181 50 60 42 7 0 1 25 94 16 4 0 52 0 35 2 1 0 2 .348 .331 .680 表彰 記録 初記録 初出場:2013年5月12日 対熊本シルフィード2回戦(福岡ヤフオク!ドーム)、8回表に中堅守備固めで出場 初安打:2014年8月3日、対大阪ナイトブレイカーズ12回戦(福岡ヤフオク!ドーム)、9回裏に川澄あかりから右安 節目の記録 背番号 64(2012) 54(2013-16) 63(2017) 7(2018-) 登場曲 英雄故事(2012-15) Angel Blossom /水樹奈々(2016) RADIANT FORCE /立花響・風鳴翼 雪音クリス わたしにできること /石田燿子(2018) I ll come /G-GRIP 能力推移 年度 パワ ミー 選球 走力 送球 守備 チャ/特1 対左/特2 バン/特3 盗塁/特4 捕手 一塁 二塁 三塁 遊撃 左翼 中堅 右翼 総合 2012 7/E 6/F 13/C 6/F 11/D - - - - ○ ◎ 43/F 2013 9/D 7/E 13/C 8/E 11/D 2 3 2 2 5 11 7 495/F 2014 12/C 8/E 9/D 13/C 11/D 13/C 1 2 3 2 13 11 7 69/E 2015 8/E 13/C 10/D 13/C 12/C 15/B 1 2 4 2 15 13 9 79/D 2016 7/E 15/B 13/C 12/C 12/C 15/B 1 2 5 2 15 10 98/C 2017 5/F 15/B 17/A 12/C 12/C 15/B 2 2 5 2 15 13 109/C+ 2018 5/F 15/B 17/A 12/C 12/C 15/B 2 2 小技◎ - 15 13 109/C+ 2019 4/G 17/A 16/B 12/C 11/D 15/B 小技◎ チャ× 対左× - 15 13 109/C+ pixivリンク 選手シート【2012】 選手シート【2013】 選手シート【2014】 選手シート【2015】 選手シート【2016】 選手シート【2017】 選手シート【2018】 選手シート【2019】
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/272.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 帰宅 そして夜が白々と明け始め、ルナーの騎兵たちも我がメンバーたちもぽつりぽつりと起き始めました。私たちはルナー兵が差し出した昨晩のごった煮の残りを食べ、私とフィリシアはそれぞれ騎馬の1騎に相乗りします。 一団が北上してまもなくすると、ちらほらと収穫を終えた田畑が見え始めました。そして、昼前には大廃都の城壁が望見されました。一団は大廃都の城壁を右手に眺めながらさらに歩を進め、そして、1つ目の農民区に通じる城門は通り過ぎ、2つ目のルナー軍司令部に面する城門に達しました。城門にはいつものように市内に入るために検問を受ける旅行者たちの列が連なっていましたが、私たちはすんなりと市内に入ることができました。ですが、そう喜んでもいられません。私たちは城門をくぐってすぐの司令部で、ルナー兵に尋問を受けることになるのですから。 城門をくぐって司令部の前の広場で一団は馬を止め、荷物を下ろしました。隊長が私たちに言います。 「さてと、パヴィスまでは連れて来てやったが、お前らにはもう少し我々に付き合ってもらうぞ。」 「あぁ、分かっている。」 「それと、だ。お前らのうち、2人の不気味な女、そう、お前とお前だ、こいつらはそのまま施療院へ連れて行ってやってもいいぞ。」 「ということだそうだが、どうする? エミーネ。」 「アーナールダ様の下へ駆け込めるなら、否も応もないわ。」 「お…! なるほどな、無知とは恐ろしい。俺は連中が施療院と言ったらティーロ・ノーリ(1)寺院に決まってると思ったが、そうか、お前はアーナールダの信徒だったな。よし、おい、隊長! お願いする、この2人をアーナールダ寺院へ連れて行ってくれ。」 「アーナールダ寺院だと? どういうことだ?」 「見ての通り、こちらのエミーネは“癒し手”アーナールダの信徒だ。彼女がルナーの癒し手に掛かることは彼女の信仰にもとることになる。」 「ふん、相変わらず回りくどい。だが、分かった。事情聴取は寺院を通じてやってもらうぞ。おい、ハーフューズ! 足労だが、この女たちをアーナールダ寺院へ連れて行け!」 ハーフューズと呼ばれた男は、かしこまった、と応じるや、馬上にフィリシアを乗せ、自分は徒歩で手綱を取って、広場を離れました。私も後から着いていきます。ちらりと振り返ると、アルヨンはもうルナーの隊長と何がしかを話していて、私たちの方を見てはいませんでした。胸に軽い痛みを覚えて、視線を元に戻すもこらえきれず、再び振り返って叫びました。 「アルヨン! またね!」 アルヨンは私のほうに振り返り、微笑んで手を振ってくれました。私はその映像を胸に大事にしまいこみ、ちょっと先行したフィリシアを乗せた馬に小走りに追いつきました。私たちは下町を抜けて、市民広場に入ります。広場ではいつものように行商人たちが市場管理官に鼻薬を嗅がせて違法に商品を広げ、足の踏み場がありません。喧騒、魚の焦げる匂い、荘重なイサリーズ(2)寺院、そのどれもが何と懐かしく感じられることでしょう。そして、イサリーズ寺院の裏に回るとそこには、重厚なアーナールダ寺院が鎮座していました。 すでに窓から見ていたのでしょう。寺院事務所の扉は内側から開き、スィベル侍祭は駆け寄って私を抱きしめました。 「お帰り! エミーネ。」 「ただいま、スィベル姉さま(3)。」 私が安堵感に浸っているのもつかの間、ルナー兵は居丈高にスィベル侍祭に申し付けます。 「おい! この容疑者2名は現在、当局の取調べを受けねばならぬ身の上だが、罹患しておるゆえ、その治療を汝らアーナールダ寺院へ委託する。治療の経過報告を2日ごとに当局へ届けで、完治の後は両名を当局に出頭させるように。」 「かしこまりました。ご苦労様でございます。」 「では、頼むぞ。」 そう言うと、ルナー兵は馬を曳いて去っていきました。 「どういうこと? 容疑って。それと、病気って。」 「う~ん、とりあえず、中に入ってお茶でも飲ませてくれへん?」 「ちょうど、フルンストゥラチ(4)をつくっていたところよ。間に合ってよかったわね。」 私はフィリシアをスィベル侍祭に預けると、アーナールダ様の御神体にお香を焚いて、生還の礼を述べました。そして、入信者共用の大部屋に入り、旅装を解いてベッドの下に仕舞い、下着を替えて、自分のゆったりとした貫頭衣をかぶって、広間に行きました。すでにみんなはテーブルにお茶を並べ始めていたので、私も手伝います。 「あの、フィリシア、私の連れの女性はどうしはりました?」 「呪文で眠ってもらっているわ。体力の消耗が激しいみたいだから。あなたも、休んだ方がいいんじゃない?」 「はい。お茶を戴いたら存分に。」 支度が終わって、お茶の時間の合図のベルがチリン、チリンと鳴らされると、大女祭様をはじめとする大奥さまたちも広間にやってきました。 「お帰りなさい、エミーネ。ずいぶん大変な旅だったみたいね。」 「はい、大女祭様。せやけど、アーナールダ様のお蔭で無事、帰ってこられました。」 「そうね。もっとも、赤い方々(5)は自分たちのお蔭だ、と主張しているけど。何があったか話してくださる?」 私は、この数日間に起こった出来事を簡潔に、また恐怖を引き起こす部分に関してはあいまいにして報告しました。 「…ということやったわけです。」 「ところで、そのアルヨンていう人、どんな人なの? ガーラス系? クロガー系?」 「姉さま…、関心の焦点がずれとる。」 「はいはい、質問はまた後にしましょう。アルヨンという御仁については、いずれエミーネ本人につれてきてもらうことにして。」 「だ、大女祭様まで。」 「ほほほ…。エミーネ、あなたは今日の晩課式(6)は休んでいいから、早く寝なさい。他の皆さんは、食器を片付けて。」 「ほなら姉さま方、すいません、お先に失礼します。」 「は~い。いい夢、見てね。ぷ、くくく…。」 私は、自分は無意識にもそんなにアルヨンのことを強調していただろうか、と訝しみながら、大部屋の自分のベッドに行き、貫頭衣を脱いで、久々にベッドの上に脚を伸ばしました。 砂の夢 その晩は、疲れから訳もなく寝入ることができました。が、眠ってからしばらくして、頬の上をさらさらと何かが撫でるのに気付き、目を覚ましました。きっと、下ろした髪が風にゆれて頬を撫でるのだろうと思い、何気に手で払うと、手で払われた頬が砂の城のように崩れ去りました。私はびっくりして跳ね起きると、私は砂の上にいて、腰と両脚の下半分は砂と混ざり合っていました。そして今も私の身体は砂のようにぽろぽろと崩れ去っていきます。うわっ、と叫ぼうとすると、唇が崩れ、口を慌てて押さえた手も、肘の方から崩れていきます。私は口を押さえたまま涙を流しましたが、その涙すら私のほほを溶かしていきます。泣いちゃダメだ、泣いちゃ。そう自分に言い聞かせ、私は息もせずじっとしていました。 私がじっとしていると、何者かが私の腰を裸足で蹴りつけました。 「何すんねん? 崩れ去ったら、どうする?」 「崩れ去る? 何を寝ぼけてんのよ。静かにしてくれないと眠れないじゃない。」 振り向くと、私の隣にはコレルという名の入信者が寝ていて、私の方に身体を起こし、文句を言ってるのでした。 「あ、夢? 良かったぁ。堪忍な、コレル姉さん。」 「まったく。次にうるさくしたら、枕で顔を埋めてやるんだから。」 「(はいはい。はよ寝くされ、小娘。)」 翌朝目覚めると、私の顔はいくつかの枕に埋まっていました。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/270.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 降伏 翌朝、私はかなり日が昇ってからようやく目を覚ましました。ですが、二日酔いの後のような最悪の目覚めです。 「ヤルトバーン。エミーネ、起きたよ。」 「まったく、いつまで寝てやがるんだか。」 「何やて? 起こしはったらよかったやろが。」 言った次の瞬間には、私の寝ぼけた頭でも彼らがそうしなかった理由を悟ることができました。 「ごめん。おかげさんで、よぅ寝れたよ。ありがとう。」 「何よりだ。どうせ朝食もないことだし、すぐ出発するぞ。立て。」 「うげ~、かったるぅ。」 「お前の殊勝さは瞬き一つ分ももたないな。ま、俺はともかく、アルヨンにはよく礼を言っておけ。お前があいつの腕をずっと抱いてたおかげで、あいつは起きてから一刻(16)もたつが、ずっと身動きができなかったんだからな。嘘だと思うなら、あいつの袖を見てみろ。お前のよだれの痕が残ってるぞ。」 「よ、よだれ…。あ、あの、アルヨンはん…。」 「いや、気にしてないから大丈夫。ていうか、楽しんだ。君の寝言とか。」 「ね、寝言まで…。あのぅ、あて、どんなこと言ぅてました?」 「バラクヴァ、テル・カダユフ、トゥルンバ、ビュルビュル・ユヴァス、コンポスト…(17)、あと何だったかな? 一緒にノチェットなりに行く機会があったらご馳走してね。」 「はい。はい、ご馳走させていただきますから、こんことは忘れてください。」 恥ずかしさは気だるさを打ち払い、私たちは今日の道のりを進みました。2刻ほど歩くと、アルヨンは声を輝かせました。 「見て! あそこ、光ってる。河だよ、きっと!」 さらに歩くと、私たちは水を耳で、そして次に鼻で感じられました。私たちは生きてパヴィスに還ることができそうです! と、喜びもつかの間、私たちを背後から呼ぶ声が聞こえます。 「なぁ、やっぱり振り返らなきゃダメか?」 「当たり前やないの。あの声、オズヴァルドに似てるで。」 「そう思うなら、お前、振り返ろよ。」 「小っさい男やな。ほな、いっせえのせ、で。」 「分かった。いっせえのせ!」 振り返ると、私たちが懸念したような不吉な影はありませんでした。地平線上に大きいのと小さいの、2つの影がこちらに手を振っているのが見えます。目のいいアルヨンはそれが旧知のものだと確信して、ピリュー、と呼び返し、盛んに手を振っています。私とヤルトバーンもそれに倣って手を振りました。 が、吉事は二つとつながらないようです。オズヴァルドとピリューという男の影の背後に、土煙が起こり、それは、こちらに向かってくるようでした。アルヨンはすぐさま矢を遮れそうな場所を探します。ヤルトバーンはオズヴァルドたちに、逃げろ、と合図を送りますが、まったく通じないようで、彼らはさかんに手を振り返しています。能天気。私はこの間、土煙の主を勘定していました。8騎いることを確認し、2人の戦士に伝えます。私たちがアルヨンの見立てた場所に走って向かうにつけ、ようやくオズヴァルドたちは異変に気付いて振り返って後ろを見てくれました。彼らも慌てて私たちの場所へ走ってきます。 オズヴァルドたちがこちらに来る前に、ヤルトバーンとアルヨンは盾を構え(アルヨンの盾はフィリシアから取ったもの)、私はフィリシアとともに潅木の陰に移動し、彼女に覆いかぶさりました。とりあえず、一斉射撃による全滅は避けられそうです。 土煙の主たる8騎は、やはりルナー巡視隊で、例の“猫にびびって逃げ出したルナー巡視隊”でした。よくよく縁があるようです。彼らには私たちの貧弱な姿がすでによく見えるのでしょう。馬を無理に駆ることはなく、こちらに向かって走ってくるオズヴァルドたちを含めて私たちをゆっくり包囲しようとしています。そして、オズヴァルドたちが私たちの場所にようやく着いたとき、包囲の輪は閉じられました。そして彼らは私たちに降伏を勧告しました。 「残念だけど、ここまでみたいだね。」 「せめてフィリシアがまともなら、勝算無きにしも非ず、なんだがな。」 2人の戦士にすでに鎧はなく、剣も折れ、空腹と疲労と恐怖は耐え難いものになっています。加えて、オズヴァルドたちには矢を防ぐ準備ができていません。私たちが採れる行動は1つだけでした。2人の戦士は、武器を足下に落として、降伏の意を表明しました。 縋りの藁 2人の戦士は武器を手放したものの、その場に仁王立ちしたまま、ルナー巡視隊の隊長と思わしき騎影を睨みつけていました。両者は100拍(18)ほども睨み合ったままでいました。とうとう敵の隊長は業を煮やして恫喝してきました。 「何だ? 含むところがあるのか? 俺たちはお前たちを、この危険で野蛮な状況から、慈悲深く慈愛遍く赤の女神の庇護の下に置いてやったのだぞ。」 「庇護というならば!」 私はフィリシアの手を取り、茂みから飛び出して叫びました。 「庇護というならば、どうか、この女性をあなた方の馬に乗せてパヴィスまで連れて行ってやってください。」 「何だ? この女は。病気か?」 「いいえ、心の奥底に恐怖が巣食っているんです。彼女は、その恐怖から魂を守るために心を閉ざし、自立的な行動が取れないでいます。」 「ふん、その不気味な女を我らが愛馬の背に乗せろ、と言うか。」 「さらに、私どもにあなた方の食料を分けてくださることも、重ねてお願い申し上げます。私どもはこの2日間飲まず食わずで歩いて参り、とくに、これ以上水を摂らないでいると、何らかの機能障害を起こす可能性があります。」 「やれやれ、面倒な捕虜だ。いっそ、全員殺して河へ放り込むか?」 「いいえ、高潔なあなた様がそのようなことをなさるはずはございません。あなたは、パヴィス総督ソル・イール閣下(19)の名誉と停戦委員会(20)の約定にかけて、私たちの要求を快く容れてくれるはずです。」 「ふん、停戦委員会などくそくらえだが、ソル・イール様の名を出されては致し方ない。おい女、今回は言いくるめられてやるが、2度目はないと思え。」 「はい、それで結構です。」 私はみんなの方へ向き直り、笑顔を見せました。 「ちゅうことになったで。はぁ、標準サーター語、しんど。」 「このぉ、勝手なことしやがって。」 「…まぁ、どうせ捕まるなら、水が飲めて、食事ができる方がいいけどね。」 「はぁ、はぁ、拙者がもう少し早く気付いていれば…、申し訳ござらぬ。」 「いや、どのみちフィリシアがああだからな。それより荷物、すまなかったな、オズヴァルド。」 「んはぁ、いや、当然のこと。ところで、フィリシア殿はいかがなされたのでござるか?」 ヤルトバーンがオズヴァルドにフィリシアのことを(微妙な問題を避けて)説明している間、アルヨンはピリューという名の男、いえ、子供と何やら見当もつかぬ言葉で互いに話し合っていました。そして私は、フィリシアを誘導して、彼女を馬に乗せるのを手伝っていました。それが済むと、ルナーの隊長はヤルトバーンたちに叫びます。 「おい! お前らの荷物は積まなくていいのか?」 「気遣い無用だ。」 「ふん、可愛げのない。おい、威勢のいい姉ちゃん、お前も馬に相乗りしてくか?」 「えぇ。喜んで。」 「よし。じゃあ、あいつに乗せてもらえ。」 と言って、ルナーの隊長は比較的大柄な兵士を指差しました。私が会釈をすると、彼は戸惑った風でした。そして、彼の手を取って私は馬上に上がりました。 「お前らに関わったせいで予定がずいぶん遅れている。飲食は歩きながら摂れ。出発するぞ。」 一行は河沿いのなだらかな土地を一路北へ向かって進みます。いまやフィリシアは馬上にあって、他のメンバーは馬の歩調に合わせて小走りを要求されているので、ずいぶん距離が稼げそうです。しかし、日没前にパヴィスにたどり着く、というわけにはいきませんでした。辺りが暗くなるにつれ、私の心にはまたもや不安感が湧き上がり始めたので、私は一つ首を振りました。すると、私は現実に引き戻され、周囲もよく見渡せるようになりました。ですが、ほっと胸をなでおろすのもつかの間、私たちの前方に人影がいくつかあるのに気付いて、私はじっと目を凝らしました。あぁ、どうしたことでしょう。あれは私の父母と弟妹です。私は短い腕で乗馬の首を締め上げ、叫びます。 「だめーっ!」 私の乗ってる馬は急停止し、私は振り下ろされそうになりましたが、騎手が私の襟首を掴んだので、落馬は免れました。 「何をするんだ!」 「せ、せやかて、前に人が…」 と、私が指差した先には何もありませんでした。 「ご、ごめんなさい。」 「寝ぼけてんのか? 今度やったら鞍に縛り付けるぞ。」 その後、私の目の前には累々たる屍が、あるいは城壁が、あるいは水面が次々と迫りましたが、私はじっと我慢しました。我慢するほどに、身体が震えてきます。その振動は騎手にも伝わったようで、彼はゆっくりと馬を止めました。 「おい、大丈夫か?」 「へ? 何が?」 振り返った私の顔を見て、彼はさらに驚いたようでした。 「おい、お前の顔、唇まで青いぞ。ちょっと待ってろ。隊長!」 他の騎手たちも、私たちの乗ってる馬にあわせて速度を落としていたので、ルナーの隊長は馬首をめぐらしてすぐにこちらへやって来ました。 「何事だ?」 「隊長、この女、ちょっと様子が変ですぜ。休ませないと、あの女みたいになるかも…。」 「ふん、よくよく厄介な連中だな。仕方ない、ちょっと早いが今日はここまでにしておこう。全員! 下馬! 野営の支度をしろ!」 私の乗っていた馬の騎手は私の肩をぽんと叩きました。 「おい、良かったな。休めるぞ。さっさと俺の馬から下りろ。」 「あ、脚が動かへん…。」 「何ぃ? まさか、俺が下ろすのか? 何で騎兵の俺が…。そうだ、あいつらにやらせよう。おい、お前ら! こいつを馬から下ろせ!」 そして、私はアルヨンによって馬から下ろされました。異教徒には私の眼力も通じないみたいです。それとも、弱ってるからでしょうか? 地面に下ろされた私は、その場で吐いてしまいました。ルナー兵たちからの印象をさらに悪くしたようですが、おかげでアルヨンが、私を引き取りたい、とルナー側に申し出たとき、彼らは簡単に応じてくれました。 彼が私を抱きかかえて運んでくれたとき、私は実感しました。彼に抱かれていると、私の心の不安が薄れていくのを。あぁ、アルヨン、アルヨン…、私はあなたを強く抱きしめて、あなたの中に溶け込んでしまいたい。私は彼を強く抱きしめるあまり彼の背中に爪を立てていましたが、そんなことには頓着できませんでした。そうして彼をがむしゃらに抱きしめているうちに、私の心の中には消え去った不安とは別の不安が湧き上がってきました。この人に邪魔にされたら、どうしよう、と。私は抱きしめる力を緩め、震える唇でこれだけを言いました。 「捨てないで…。」 私は結局アルヨンに抱きついたまま寝てしまい、私は夜明け前に目覚めたのですが、このときもそのままでした。可愛そうに、アルヨンは私にへばりつかれたまま、座って寝ていたようです。辺りを見渡すと、フィリシアはヤルトバーンの隣で横になって眠っていました。ヤルトバーンもアルヨンの行動を見てフィリシアを引き取ったのでしょう。ピリュー少年はアルヨンになついているようで、私たちの足元で身体を丸めて寝ていました。オズヴァルドは、相変わらず何が楽しいのか大剣を抱えて眠っています。 見渡していて驚いたのは、私が朝起きて、周りを見渡す余裕があったということです。でもその理由はすでに私には分かっていました。いまも私を抱いていてくれている人のおかげだということが。それにしても、私の口先には昨夜呟いた一言の名残が残っていて、私を赤面させました。捨てないで、とは。まだ彼が私のことを好きかどうかも分からないのに。と、思った瞬間、私は例の吐き気を催す不安感に苛まされました。彼が私のことをどうとも思っていないなんて…。いや、そんなことがあるはずがない。あってよいはずがない。 「絶対にあてのことを好きにさせてみせる!」 私の決意表明は、アルヨンを起こしてしまいました。 「んぁ? もう朝?」 「あ、ごめん。まだ誰も起きてへんよ。それより、横になって。」 私は彼から離れて、彼を支えてゆっくりと地面に横たえました。まだ、東の地平線が紺色を薄くさせているだけで、みんなが起きるには半刻ほどもかかりそうです。私はアルヨンから離れると立ち上がって、手を後ろに組みながらうろうろとしていましたが、面白いはずがあるわけなく、横になっているアルヨンの左のわきの下にもぐりこみました。そして、みんなが起きるまで、アルヨンが好きな食べ物は何だろう、アルヨンが好きな歌は何だろう、と、本人に聞けば済むことをずっとずっと考えていました。 帰宅 そして夜が白々と明け始め、ルナーの騎兵たちも我がメンバーたちもぽつりぽつりと起き始めました。私たちはルナー兵が差し出した昨晩のごった煮の残りを食べ、私とフィリシアはそれぞれ騎馬の1騎に相乗りします。 一団が北上してまもなくすると、ちらほらと収穫を終えた田畑が見え始めました。そして、昼前には大廃都の城壁が望見されました。一団は大廃都の城壁を右手に眺めながらさらに歩を進め、そして、1つ目の農民区に通じる城門は通り過ぎ、2つ目のルナー軍司令部に面する城門に達しました。城門にはいつものように市内に入るために検問を受ける旅行者たちの列が連なっていましたが、私たちはすんなりと市内に入ることができました。ですが、そう喜んでもいられません。私たちは城門をくぐってすぐの司令部で、ルナー兵に尋問を受けることになるのですから。 城門をくぐって司令部の前の広場で一団は馬を止め、荷物を下ろしました。隊長が私たちに言います。 「さてと、パヴィスまでは連れて来てやったが、お前らにはもう少し我々に付き合ってもらうぞ。」 「あぁ、分かっている。」 「それと、だ。お前らのうち、2人の不気味な女、そう、お前とお前だ、こいつらはそのまま施療院へ連れて行ってやってもいいぞ。」 「ということだそうだが、どうする? エミーネ。」 「アーナールダ様の下へ駆け込めるなら、否も応もないわ。」 「お…! なるほどな、無知とは恐ろしい。俺は連中が施療院と言ったらティーロ・ノーリ(21)寺院に決まってると思ったが、そうか、お前はアーナールダの信徒だったな。よし、おい、隊長! お願いする、この2人をアーナールダ寺院へ連れて行ってくれ。」 「アーナールダ寺院だと? どういうことだ?」 「見ての通り、こちらのエミーネは“癒し手”アーナールダの信徒だ。彼女がルナーの癒し手に掛かることは彼女の信仰にもとることになる。」 「ふん、相変わらず回りくどい。だが、分かった。事情聴取は寺院を通じてやってもらうぞ。おい、ハーフューズ! 足労だが、この女たちをアーナールダ寺院へ連れて行け!」 ハーフューズと呼ばれた男は、かしこまった、と応じるや、馬上にフィリシアを乗せ、自分は徒歩で手綱を取って、広場を離れました。私も後から着いていきます。ちらりと振り返ると、アルヨンはもうルナーの隊長と何がしかを話していて、私たちの方を見てはいませんでした。胸に軽い痛みを覚えて、視線を元に戻すもこらえきれず、再び振り返って叫びました。 「アルヨン! またね!」 アルヨンは私のほうに振り返り、微笑んで手を振ってくれました。私はその映像を胸に大事にしまいこみ、ちょっと先行したフィリシアを乗せた馬に小走りに追いつきました。私たちは下町を抜けて、市民広場に入ります。広場ではいつものように行商人たちが市場管理官に鼻薬を嗅がせて違法に商品を広げ、足の踏み場がありません。喧騒、魚の焦げる匂い、荘重なイサリーズ(22)寺院、そのどれもが何と懐かしく感じられることでしょう。そして、イサリーズ寺院の裏に回るとそこには、重厚なアーナールダ寺院が鎮座していました。 すでに窓から見ていたのでしょう。寺院事務所の扉は内側から開き、スィベル侍祭は駆け寄って私を抱きしめました。 「お帰り! エミーネ。」 「ただいま、スィベル姉さま(23)。」 私が安堵感に浸っているのもつかの間、ルナー兵は居丈高にスィベル侍祭に申し付けます。 「おい! この容疑者2名は現在、当局の取調べを受けねばならぬ身の上だが、罹患しておるゆえ、その治療を汝らアーナールダ寺院へ委託する。治療の経過報告を2日ごとに当局へ届けで、完治の後は両名を当局に出頭させるように。」 「かしこまりました。ご苦労様でございます。」 「では、頼むぞ。」 そう言うと、ルナー兵は馬を曳いて去っていきました。 「どういうこと? 容疑って。それと、病気って。」 「う~ん、とりあえず、中に入ってお茶でも飲ませてくれへん?」 「ちょうど、フルンストゥラチ(24)をつくっていたところよ。間に合ってよかったわね。」 私はフィリシアをスィベル侍祭に預けると、アーナールダ様の御神体にお香を焚いて、生還の礼を述べました。そして、入信者共用の大部屋に入り、旅装を解いてベッドの下に仕舞い、下着を替えて、自分のゆったりとした貫頭衣をかぶって、広間に行きました。すでにみんなはテーブルにお茶を並べ始めていたので、私も手伝います。 「あの、フィリシア、私の連れの女性はどうしはりました?」 「呪文で眠ってもらっているわ。体力の消耗が激しいみたいだから。あなたも、休んだ方がいいんじゃない?」 「はい。お茶を戴いたら存分に。」 支度が終わって、お茶の時間の合図のベルがチリン、チリンと鳴らされると、大女祭様をはじめとする大奥さまたちも広間にやってきました。 「お帰りなさい、エミーネ。ずいぶん大変な旅だったみたいね。」 「はい、大女祭様。せやけど、アーナールダ様のお蔭で無事、帰ってこられました。」 「そうね。もっとも、赤い方々(25)は自分たちのお蔭だ、と主張しているけど。何があったか話してくださる?」 私は、この数日間に起こった出来事を簡潔に、また恐怖を引き起こす部分に関してはあいまいにして報告しました。 「…ということやったわけです。」 「ところで、そのアルヨンていう人、どんな人なの? ガーラス系? クロガー系?」 「姉さま…、関心の焦点がずれとる。」 「はいはい、質問はまた後にしましょう。アルヨンという御仁については、いずれエミーネ本人につれてきてもらうことにして。」 「だ、大女祭様まで。」 「ほほほ…。エミーネ、あなたは今日の晩 #31153;は休んでいいから、早く寝なさい。他の皆さんは、食器を片付けて。」 「ほなら姉さま方、すいません、お先に失礼します。」 「は~い。いい夢、見てね。ぷ、くくく…。」 私は、自分は無意識にもそんなにアルヨンのことを強調していただろうか、と訝しみながら、大部屋の自分のベッドに行き、貫頭衣を脱いで、久々にベッドの上に脚を伸ばしました。} 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/274.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 賢者たちの推察 晩祷の後、晩餐の手伝いをし、普段のように大広間での晩餐が終わると、大広間からテーブルがどかされ、壁に沿って椅子を並べて、空いた空間にフィリシアが担架で運ばれてきて寝かされました。こうして、私とフィリシアの治療法を諮るための会合の準備はなされました。そして、準備が終わったのを見計らったように、大広間にランカー・マイの学者が入ってきました。外部の客を迎えるために同席していた大女祭が彼を立って迎えます。 「よくいらしてくれたわ、ティルダード。」 「面白いものを見せてくれる、と言うでな。」 「まぁ、相変わらず憎たらしい。この女の園へ入ってみたい、と思っている男たちがどれだけいると思って?」 「奴らは事象の表面しか見ぬ愚か者どもだからな。わしは、そなたら女の内容物よりも、事象の内容を愛するのだ。」 「あら、わたしは話の内容だってあなたの愛する本に負けないくらい豊かなのよ。」 「それは、魅力的な誘いだな。内容も、か。だが後日のことにしようぞ。で、わしがこれまで見たこともない標本とはどこにあるのだ?」 「あなたの足元よ。」 「おおっと。危なく踏むところだった。この寝ている娘か? どれ…、ああ、明かりをもってきてくれ。」 信者の一人が燭台をもってきて、ティルダードに手渡します。 「これではダメだ。熱で眼を焼く。おい、シャフルナーズ、けちけちせずに《ランタン》の松明を持ってこさせろ。」 みんながざわめきます。シャフルナーズって誰だ? と。 「スィベル、宝物庫に行って《ランタン》の松明をもってきなさい。」 「おい、シャフルナーズ、こいつらはお前の過去の栄光を知らんのか?(14)」 「過去だなんて。わたしは今でも街に愛されているからいいんですよ。神様は、あなたと一緒で、わたしの中身を嘉してくださったのですから。」 「なるほど。」 「で、明かりで何をなさるのです?」 「うむ、こやつの外界に対する反応を見ようと思ってな。瞳孔反応が一番明敏だから…、と、おい、そこの羽箒を取ってくれ。他の反応も見ておこう。」 ティルダードは羽箒を受け取ると、それでフィリシアの身体を撫で始めました。見ていてこっちがくすぐったくなるほど綿密に。 「やはり、反応はないか。お、《ランタン》が来たな。」 彼は今度はフィリシアの眼を左手でこじ開け、右手で《ランタン》の松明をかざします。そして、フィリシアの目をひとしきり観察したあと、ため息をついて首を横に振りました。 「瞳孔反応もない。おそらく、何ぞ嫌なことから目を背けるために身体が外界との接触を内から一切遮断したもの、と踏んではおったが、ここまでひどいのは、なるほど見たことがない。」 「で、治せそう?」 「だから、見たことがない、と言っただろう? 過去にわしの知る症例はない。したがって、治療法も知らぬ。ただ…、」 「ただ、何?」 「ただな、この者は恐怖から心を閉ざしておると言っておったな。その手の治療に詳しい者が、アルダチュールにおるらしい。」 「アルダチュールに?」 「わしも風聞で聞くのみじゃが、若いのに大した腕らしい。なるほど、このような世界の果てにまで評判が聞こえるだから、そうなのだろう。それともう一つ、この者の足に付けているものなのじゃが、これは“アーナルダの頸木”ではないか? この御神宝がこの者の状態がこれほどでありながらよく命を保たせておるのではないかな。」 「“頸木”って首に架けるものではないの?」 「うむ、確かにそうじゃが、こやつが誤って付けたか、それとも足に架けるものは“足軛”というのじゃが、これがごろが悪いので改められたかしたのじゃろう。もっとも、そんなつまらんことを気にかけているのはお主だけのようだ。ほれ、」 みんなはフィリシアの足輪がどうやらありがたい御神宝らしいものであると分かった瞬間にどよめき、そして、かの足輪に近づき、次々に触りました。拝む者までいます。 「では、小娘たちには“アーナルダの頸木”をやるとして、わしはもう一つの標本を見せてもらおうか。」 「はいはい。エミーネ、立ちなさい。」 大女祭に命じられて、私は立ち上がりました。ティルダードは顎髭をしごきながら私を眺め回します。 「ほうほう、ぬしゃエスロリア人か。あっちもずいぶん大変な目にあったようだが、それで逃げてきたのか?」 「はぁ、まぁ。」 「ぬしぁ、“頸木”は持っておらんのか?」 「はい、残念ながら。」 「奪えばよかったろうに。」 「女神が彼女を選ばれはったんどす、残念ながら。」 「そうか、まことに残念であったな。」 わたしは、あの足輪が“アーナルダの頸木”であることをいま知ったばかりだし、それがどういう効験があるかも知らないのですが、みんながあれほど有難がっているものを知らないのは恥ずかしく重い、知ってるふりを通しました。でも、これだけは分かりました。あの足輪のないわたしの自己崩壊はとどめようがない、ということは。 「おい、目隠しに都合のいい布を持ってきて、この娘に目隠しをしろ。」 信者の一人が私に布を渡し、私は自分で目隠しをしました。 「おい、ぬしゃ、身体のどこがくすぐったいね?」 「は? まぁ、首筋とか…、かな。」 「なんだはっきりせんな。今度彼氏によく探してもらえ。まぁ、およその見当でいこう。で、腕なんかはあまりくすぐったくはないよな。見たところ、ぬしゃ農家の娘であろう。麦刈りなんぞしとると、肌が強くなるからな。」 「はい。」 「うむ。なら…、どうだ?」 「どうだって、何がどす?」 「よい。なら、これはどうだ?」 「何か触れました?」 「よい。これは?」 「むずむずします。」 「よろしい。目隠しをとってもいいぞ。いま、ぬしの身体をこの羽箒で撫でておった。どうだ? 想像するだけでくすぐったそうだろ? だが実際は?」 「全然くすぐったくなかったです。」 「そのようだな。そなたの感覚も閉ざされつつある、ということだ。たまに自分でやってみて、感覚の強弱を覚えておくがよい。感覚が弱まっていけば、そなたの心も閉ざされつつある、ということだ。」 「そんな…!」 「それと、無論元気になったらだが、彼氏には首筋より耳の裏を可愛がってもらえ。もっともそれは、そなたにも自覚があったであろう?」 「耳の裏の方が、って…?」 「そちらも自覚があったのか。」 「いや、犬みたいでちょっと恥ずかしいかなって。」 「うむ、だが犬の行動から学ぶこともまた多いのだぞ。それはともかく、感覚が弱まっている、ということだ。触覚だけでなく、味覚とか嗅覚とか、五感のすべてだ。」 「ええ、あては疲れているからなんやないかと思うとったんどすが。」 「疲れと思っていたなら、それでもいい。どんなときに疲れを実感した?」 「ここのところ毎晩なんどすけど、悪夢を見て目覚めたとき。それと、あのときのことを意識的に思い出そうとしたときどす。」 「うむ、同じ結果が得られることから推測するに、ぬしゃ眠ることで、意識的にぬしの恐怖に接近するときと同じように、無意識的下でも恐怖に接近しておるのだな。ぬしゃ、もはや寝ぬ方がよいぞ。」 「そんな無茶な!」 「無茶ではない。アルダチュールに着くまででよいのだ。かの地まで、ここより100里弱(15)、馬車なら二週間足らずで着く。」 「そんなに保つか、自信あらへんどす。」 「ま、保たなかったら保たないで、仕方あるまい。ここにいても治りはせぬのだ。ふぅむ、一つのぬしの悩みを解いてやろう。ぬしゃ、ここに寝ている娘を惨めだと思い、また自分もそうなったら惨めだと思うがゆえに、焦るのであろう。だが、先にも言ったように、ぬしゃ無意識下でも恐怖の源である何かに近づいていっておる。それがなんだかは分からぬが、ぬしゃそれを本当は求めておるのかも知れぬぞ。」 「恐怖を喜ぶなんてこと、あらはりますか?」 「まずは用語に気をつけようぞ。それが表層どおり本質まで恐怖とは限らぬ。ぬしの恐怖の源である何か、じゃな。つまり、ぬしゃその恐怖の向こう側にある本質の方に心惹かれておるのかも知れぬ、ということじゃ。ま、恐怖を喜ぶ、というのもなくはない。」 「じゃあ、どんな本質があると予想してはるんどすか? そういう仮定をするからには、何らかの心当たりがあるのと違いますか?」 「鋭いな。ま、孤独だとか虚無というのはありがちじゃな、と思うてな。わしらはみな、愛とはすばらしい、人を愛し人から愛されることは無上の喜びじゃ、と信じておる。じゃが、本当は水中を泳げなかったり木に登れなかったりするのと同様、まったく人を愛せない、愛するの能力が欠如したままで生まれてくる者は多い。じゃが、世間が愛を無上のものと信じ、また愛無き者を価値の低い人間とみなすゆえ、自らをそうだとは認めず、自らを騙し、愛を喜ぶ振りをして窮屈な思いをしている者のなんと多いことか。無論、人を愛せないよりは愛せた方が良いには違いない。木に登れないよりは登れた方が良いのと同じように。じゃが、木に登れなければ梯子を使えばよい。同様に、人を愛せなくとも誰かにとって必要な存在であることはできるし、愛欲の悦びも味わえる。ただ、木登りができないことは隠す必要がないのに、人を愛せないことは他人だけでなく自分をも騙さなければならないところが辛いところじゃ。」 「あてには人を愛する能力がない、そう見てはる?」 「いや、これは例としてあげただけじゃよ。ぬしの恐怖の源である何かが何であるか、はわしは知らぬ。」 「でもそんな例を出すからには、そう見える、と…。」 「いやいや、浮気性だとか自分の子供を虐待するだとか、そういう目に見える振る舞いがあるならそうじゃが、大概の愛無き者たちは、死ぬ間際になってようやく自分がそうであることをしぶしぶ認め、自分と連れ合い、そして子供たちと親たちを欺いてきたことを悔いるらしいな。」 「またまた、見てきたように。」 「いや、見えるんじゃよ。生前の自分の振る舞いを悔いて、ぶつぶつ文句を言って定命界にとどまる霊たちがな。もしそこに寝ている娘が孤独を愛する、愛無き者であるならば、いっそこの状態はそのような者にとって理想の状態であるかも知れぬ。どうじゃ? そう考えると恐怖に陥ることもまんざらではあるまい。少しは気が楽になったか?」 「いや、考え事が一つ増えたような…。」 「ティルダード、御高説はそのあたりにしておいたら? 大ばばさまが眠ってしまうわ。それと、愛に関しては、心の動きを頭で追って分かった気になっていると、かえってよくないことを引き起こす、というのが私の意見ね。大ばばさま?」 大女祭が呼ぶと、まるで壁の一部が動いたように、今まで息の音さえさせなかった大ばばがゆっくりと光のある方へ進みだしてきました。 「ようやく終わったかい? はん、洟垂れ小僧が愛についてお説教か? 人を愛する能力が欠如した者、か。もてない臆病者の考えそうなことだねぇ。エミーネとやら、真に受けると損するよ。」 「何を? わしは…」 「文句があるなら、この婆より長生きしてからにしておくれ。さてと、この婆が教えてやれるのは歌だけだが、一つ聴いてもらおうか。これはシュロクエというわたしのさらに婆さんの時代の英雄の武勇譚の一節だ。 長旅の 果てにシュロクエ 愛馬を見れば やあやあお前も疲れたか わしも疲労困憊じゃ どこぞに村は無いものか 辺りを見回し風に問えば 一駆け先にテントが見ゆる やあやあこれは天佑ぞ シュロクエ愛馬を励まして その集落に分け入れば 人影見えず 煙も立たず やあやあこれは怪しいことぞ 村をくまなく探してみると 少しはなれたところにぽつり ぽつりと人が倒れてる 見れば眼窩や口中に 蛆虫わいて蠢いている なるほどこれは大方やはり群盗どもに襲われた 哀れな民の果てならんや そう思したシュロクエは せめて金目のものは無いものか と哀れな死者の胸倉を 探ってみるとびっくり仰天 心臓の鼓動とくとく とくとくと指を通して 伝わってくる さてこそこれは魂を 抜かれたものと 覚えるや 再び立ってこの辺り 見渡しみれば 熟れ麦が 風に圧されてあるように 頭を右に 向けている そのまま視線を辿っていくと 山のような黒雲が 大地に渦を巻いている こいつはいけない 一大事 シュロクエ 愛馬を差し招き 一目散に逃げ出した…」 「シュロクエさんって方、逃げたんですか? 英雄なのに。」 「そりゃそうだよ。勝てない相手に向かってく正直者は、いさおしを挙げる前に死んじまう。ま、聞いて欲しかったのは、砂漠にゃ英雄でも太刀打ちできない、とんでもないものがうようよしてるってことさね。ま、このエミーネとやらがこんなのに出会っていたとしたら、生きて帰っちゃいないだろうがね。なぁ、お嬢ちゃん。」 大女祭はわたしが肯くことを期待してこちらを向いたのでしょう。ですが、わたしは先の話で、「あれ」が現実であることを思い知り、恐怖に震えていました。 「ビンゴ、だったかね?」 「何を悠長な。大女祭さま、その黒雲の瘴気にあたって、かつ生還した者の治療法はご存じないですか?」 「いんや、そもそも黒雲に遭遇して生還したのはシュロクエ様だけだ。そんな方法知るわけないわい。」 「そんな…。」 「何を大げさな。この娘はこうして生きて帰ったんだ。程度の差こそあろうが、若武者が初めて敵首を取ったときのようなもんで、酒でも飲んで寝ちまえばいいのさ。もっとも、この娘にもう酒はいらないみたいだね。寝所につれてっておやりよ。あたしももう寝る。」 「うぅむ、すると、この娘がその件の“黒雲”とやらに間近に会って、初めて生還した者となるのじゃな? うぅむ、実に興味深い…。」 「…ティルダード様も、もうお帰りくださいませ。」 「む、招いておいて何たる失礼。わしはこの貴重な被験体をだな…、こら、はなせ! うわっ、腕が折れる。か細い老人に何てことを…」 再びパヴィスを出る いつの間にか寝台に収まっていたわたしは、ひどい臭いで目が覚めました。これは…、料理が失敗したときの臭い? ちょっと違う。その臭いは残念な気持ちと一緒のものだけれど、この臭いは悲しい気持ちと一緒に嗅いだような気がする。 あれはわたしが10歳のとき、ノチェットでのことでした。その年、西の方から荒くれども(16)がやってきて村を荒らすので、お父さんもすでにない我が家は、家畜を売ってノチェットに逃れてきたのでした。どこを向いても人ばかり、きっと今日はお祭りなんだと思っていたら、本当に人だかりができているので覗きに行ってみると、そこでは、柱に括り付けられた男たちが火炙りにされていました。脇に立つ女祭が、穢れた魂が火によりて浄化されんことを、と祈っていました。ああ、この臭いは穢れた魂が燻る臭いでした。 とにかく窓を開けようと、わたしは窓板をはずしました。ここパヴィスでは、冬にはかなり冷え込むので、エスロリアのものと違って窓が密閉できるようにぴったりと板をはめ込みます。その板は、わたしたちの風呂蓋のようなものです。明け放たれた窓からは、砂漠からの清涼な風が部屋に流れ込んできました。が、臭いはかえって強くなりました。いぶかしみつつ窓を閉め、臭いがどこから発するか部屋を探し回りますが、臭いはついて来ます。その嫌な事実を認めたくないために、わたしはさらに部屋をうろつきましたが、ダメでした。臭いはわたしから、燻るわたしの穢れた魂から発しているのでした。死よりもなお恐ろしい結末がわたしを待っている気がして、この夜はひざを抱えたままとうとう眠れませんでした。 日の出直前、寺院住まいの姉妹たちが起き出したらしく、物音が聞こえ始めます。わたしはまどろんでいたのですが、ノックの音がそれを覚ましました。 「エミーネ、起きてる?」 「あ、大女祭補さま、はい、いま開けます。どうしはりました? まだ夜も明けぬうちから。」 「うん、昨夜、あなたは気を失ってしまったじゃない。だから、昨夜の話を覚えてるかしら、と思って。灰色卿(17)はアルダチュールに治療に行ってみてはどうか、って。で、大ばばさまは一時的なもので気に病むことはない、って。」 「はい、よぅ覚えてます。」 「で、どうするの?」 「学者さまの話だと、ここにいたら救われないんですよね。大ばばさまの話だと、アルダチュールに行ってる間にも治るかもしれん。ほなら、アルダチュール行きの方が安全と違いますか?」 「うん、普通そう判断するわよね。」 「何か問題が?」 「ほら、あなた、赤い方々に言い寄られてるんでしょ?」 「あ、しもうた。」 「そう思って、ほらぁ。」 言うや、大女祭補は後ろ手に隠していた布を広げました。 「これは?」 「変装よ。ほら、あなたって見るからにエスロリアから来ました、って格好しているでしょ?」 「いや、これはヒョルトランドの…。」 「とにかく、パヴィスの普通の娘になるのよ。」 「さすがにそれだけでは…。」 「もちろんそれだけじゃないわ。うちと懇意にしている交易商に、あなたを隠して運んでもらうつもり。さらに、開門のとき、門の外で待たされてた人たちが入ってくる混雑時にあなた方に出てもらうつもりよ。」 「完璧ですね。」 「うぅん、完璧ではないの。」 「というと?」 「朝早く出て行くとなると、あなたの恋人に別れの挨拶ができそうにないわ。」 「あ…。で、でも仕方ないどす。」 「手紙でも、書いてみる? 今日の昼までには届けるわよ。」 「あ、ありがとうございます。そなら、さっそく準備に取り掛かります。」 「朝ごはんも食べるのよ。じゃ、またね。」 わたしは荷造りをし、手早く早課を済ませ、文机の前に座りました。朝食までの間にアルヨンへの手紙を書くためです。 手紙…。何を書こう? 愛しい愛しいアルヨンさま? アルヨンとわたしの関係は、わたしが一方的に恋焦がれているだけで、彼の気持ちをまだ確かめていない。こんな大切なこと、この頼りない紙切れには託せない。でも、治療に何ヶ月もかかって、ここに戻ってきて彼がいなかったらどうしよう? 思ったより難しい。考えているうちに朝食の準備が整ってしまったようでした。 朝食のテーブルに着いてからもなお、手紙のことを考えていると、可愛らしい少女がわたしの目の前の席に座り込んできました。 「お早うはん、えぇと、どちらはん?」 「あ、そのエスロリア訛り、やっぱりあなたがエミーネさんですね。アルヨンさんが気にかけてる。」 「え? あ、あの…、嫌やわぁ、朝からそないな、って。そう、あてはエミーネどす。あなたは?」 「あ、ごめんなさい。あたし、ナノっていいます。この席、空いてます?」 「もう、座っとるんやけど。まぁ、ええわ。ところで、ナノさん? さっきアルヨンって…」 「冬の朝食って、朝から豚肉てんこ盛りで、困っちゃいますよねー?」 「まぁ、今のうちはまだ茸とかが残ってるから…って。」 「えぇ、“彼”に、食事に誘われたんですよ。」 「な、何やて?」 「えぇ!? あたし、まだ平信徒なんだし、いいじゃないですかぁー。先輩たちも遊ぶなら今のうち、って言ってますよー。」 「いや、そうでのぅて。」 「ああ! 大丈夫ですよ。あたし、よく男の人に声、かけられてるんで、慣れてるんです。そんなの。」 「人の話を聞きなはれ!」 「…はぁい、どうぞ。」 「あてのこと、聞いてからにここに座ってはるんでしょ? “彼”から。」 「…そうです。これから言おうとしてたのに…。」 「堪忍ね。怒鳴るつもりはなかったんやけど…、つい。」 「はい、もういいです。で、“彼”…、」 「そう、“彼”が?」 「い、いや、アルヨンさんがですね、エミーネさんのこと心配して、ここを見張ってたんですって。でも、もちろん寺院は取り合ってくれないじゃないですか、知らない男の人なんだし。で、事情を聞きだそうと、たまたまあたしに声をかけたんですよ。」 「そう、アルヨン、ずっと心配してくれはったんやろか…。」 「で、その後、アルヨンさん、あたしのことを部屋に連れ込んだんですが…。」 「はぁ?」 「違います違います。あたしもね、嘘こいて悪戯しようとしてたんなら、蹴ってやろう、って思ってたんですけどね。本当に指も出さないんで、悔しいから胸を押し付けてみたんだけど。アハハハ…」 「ハハハ…。」 「…嘘です。ごめんなさい。」 「どこまで?」 「も、もう、何を言ってるんですか。アルヨンさんはエミーネさんに岡惚れですよぉ。エミーネさんも、恋人は信じてあげなくっちゃ…、どう?」 「う~ん、うむうむ。」 「(こっ、これだわ!) ねぇ、エミーネさんとアルヨンさんは愛し合っているんだから…。 (今のうち、抜き足、差し足…)」 「はっ! ところでナノはん…、っていない?」 見ると眼前には食べかけの朝食が二膳あるだけでした。 「あっ! 急いで仕度せな。」 わたしは部屋に戻ると手早く手紙を書き、すでに準備が整った荷物を持って大女祭補の下へ赴きます。 「準備できた? 恋人への手紙は書けたかしら?」 「はい。」 「どれどれ、本日早朝、治療のためアルダチュールに発つ、エミーネ。え? これだけ?」 「これだけです。書置きなんやから十分どす。」 「うぅん、あふれる想いがかえって邪魔をして、何も書けなかったのね?」 「そんなところどす。」 「じゃ、これは間違いなく届けるわ。交易商さんは、門前ですでにお待ちよ。マスターコスの僕の方で、ブントさんっていうの。ちょっと馬車に問題がないわけじゃないんだけど…。」 「そないなこと言ってられまへん。ほんま、お手数かけます。」 「何、言ってんの。姉妹じゃない。気を付けてね。」 「はい、姉さんも、元気で。」 荷物を担ぎ、フィリシアの手を引いて扉を開くと、そこには古ぼけた四輪馬車が止まっており、御者台では浅黒い男がやけに白い歯を朝日に輝かせてわたしたちを迎えてくれました。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/268.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 消えない傷跡 水にたゆたっていたはずなのに、気がつくと私は固い大地の上ににうつ伏せになっていました。涙で滲む眼に太陽の暖かい光が差し込んできたのを感知して、首をもたげます。 「ふっ、ふふふ…。イェルムはんや。」 なぜでしょう? 太陽の光を浴びてこんなにほっとするのは。私は何とはなしに太陽を眺めていました。しばらくすると、手の指先からかすかに痛みが伝わってきました。何だろうと思って手を目の前にかざすと、すべての爪の間に砂が詰まって内出血を起こしていました。私は痛みも感じず大地に爪を立てていたようです。その異常な行動と、今まで指先に痛覚がなかったことに不安を感じました。とりあえず起き上がって中腰になり、爪の間の砂を払って、傷口を舐めようと口を開くと、鼻の下と口の周りがぱりぱりします。何だろう、と舌先で口の周りを舐めてみると、酸っぱい味がしました。先ほどまで私の頭があったところを見下ろすと、砂にまぎれて嘔吐物が広がっていました。 「あて、飲みすぎて正体を失うたんやろか?」 医療鞄からハッカの葉を取り出そう、と腰を下ろすと、私の下帯が濡れていることに気付きました。 「はぁ…、下帯、繰上げな…。」 立ち上がってポンチョをまくって顎で留め、ズボンを下ろして、下帯の紐を解きました。エスロリアの下帯は2キュビト(1)ほどの一重織りで慎むべきところを覆って腰の上で紐で留め、余った部分をお尻のほうに垂らしておく、というものです。汚してしまったときにはその部分を切り取って、余った部分を新たにあてがいます。私もそのようにして、汚れた布は、地面を蹴ってつくった穴に埋めました。そんなことをしながら、私はいまの自分の惨めさに思い至らずにはいられませんでした。 「エスロリアの自営農民の娘が、いまは世界の果て(2)で下帯を汚してる…。ふっ、ふふふ…。お母はん…。」 私はまたしゃがみ込んで、乾いた涙がこびりついたまぶたを再び潤わせました。泣きながらも私は自分の意外な心情に驚きました。お母さん、か。母に救いを求めるなど、何年ぶりのことでしょう。母なら、いまの私を見て何て言うでしょうか? 「そうやね、お母はん。」 あの母ならば言うでしょう、なに泣いとんねん、泣いとる暇があったら、自分がいまできること、いますべきことを考えんかい、と。まず、私にはいま何ができる? 私は看護婦。薬草で人を癒すことができます。もちろん、自分自身も。そう、私は自分で自分を癒すことができる。私は医療鞄を探しました。が、何ということでしょう、いつも私の肩にかかっていた医療鞄がありません。では次にすべきことは? 「はい、医療鞄を探します。」 私は立ち上がって医療鞄を探しに歩き出しました。 とぼとぼと荒野を歩いていると、ほどなくして私は行き倒れを見つけました。もっとも、彼は行き倒れるにはちょっと肩がこりそうな姿勢です。お尻を突き出すような格好で地面に突っ伏し、両手で頭を抱えています。衣服はところどころ焦げ、肌が露出しています。私が近づいて、もし、と声をかけながら肩をたたくと、彼はびくりとして、いかにも恐る恐る振り返りました。そして、私を認めるや彼は私にがばっと抱きつきました。抱きつく彼の身体は小刻みに震えていました。訳は分かりませんが、彼もまた私と同じように何らかの恐怖に憑り付かれているようなのは察せられました。私では到底彼の身体を支え続けることはできないので、私は彼の頭をお腹の上で抱いたまま、ゆっくりと膝を曲げて座りました。そして、彼の背中を優しくたたきながら、エスロリアの民謡を口ずさみます。 「知ってるよソラーナ、そなたの心を。 声には出さず 目ですらも そうとはわしに 言うてはくれぬ ことながら。 賢いおなごと 知ればこそ、そなたの心を 疑わぬ。 知られた恋なら 昔もいまも、不幸なことでは あるまいに。 なるほどソラーナ、そなたはいつか、鋼の心と 冷たい胸を持っていますと 応えしが…」 「けれどそなたのつれない返事、浮名おそれの逃げ言葉との あいだにのぞく 真っ白き 着物の端が わしに希望を 見せるらしい。(4)」 そう言いながら私が抱えていた男は、私のポンチョの端を捲り上げようとしたので、私は反射的に右膝を上げ、彼の顎を撃ちました。 「げふっ!」 「あ、ごめん。せやけど、もう顎以外は大丈夫そうやね。」 「うん、ありがとう。何とお礼を言っていいやら…」 「あんなぁ、礼はいいんやけど、膝の上でぼしょぼしょと喋られるとくすぐったいんやよ。膝枕はまだ貸しといたるから、仰向けになり。」 「分かった。」 仰向けになって見せた彼の顔は、まだ幾分青ざめてはいるけどだいぶいい感じでした。と、彼の顔を見ていると私は胸を突かれました。この人は誰かに、忘れてはいけないはずの誰かに似ているような気がします。ちょっと眉間に皺を寄せて考え込みましたが、そのような大事な人ならいずれ思い出すでしょう。私は頭を一つ振って不要な悩みを振り払い、この大事な人に似ているらしい彼の、額にかかる前髪をかき上げるようにして撫で続けました。 「うわぁ…」 「何?」 「君は戦乙女(4)? 戦死した僕を迎えに来てくれたの?」 「うん? う~ん、どうやろね。」 「ていうか、戦乙女があんな下世話な民謡、歌ってるわけないか。」 私は股を開いて彼の頭を地面に落としました。が、この懲りない男は私の両腿を手で押さえて自分の頭を挟み、これも悪くない、とのたもうております。でも、私に怒りはなかったし、それどころか先ほどまでの不安感がこの男といる間は和らいでいるようなので、私もお尻を地面に落として、脚を伸ばし、両手も地面についてくつろぐことにしました。 「兄さん、名前は?」 「アルヨン。君は?」 「エミーネ。さっきは何を怖がっとったのん?」 「え? …、そうか。えぇと、何をだろう? よく覚えてない。」 「さっきは“戦死した”なんて言うてはったけど、その戦ってた相手じゃないのん?」 「そんなこと言ったかな。」 「ま、無理には聞かんわ。おおかた、借金取りに追われてるか、昔、酷い捨て方をした女につけ狙われてるか…。」 「うん、そんなところだよ。」 「さよか。」 「そういう君こそ何者なんだ? …と、あの件は置いておいて。くくっ、そうだ、こんな得体の知れない男を股のあいだにばざみごむでいる…」 私が彼の鼻を摘んでやったので、彼は最後までちゃんと喋れません。 「あては看護婦やからね。溢れんばかりの慈悲の心が、アルヨンはんみたいなんでも放っておけへんのよ。」 「がんごぶ? どごがらぎだんだ? でいうが、ばなからでをばなしでよ。」 「はいはい。エスロリア、あ、故郷やのぅて? 2週間前にパヴィスから。」 「なんだ、まるきり普通の娘じゃないか。」 「戦乙女でなくてがっかり?」 「いや、君が普通の娘で嬉しいよ。」 「…。」 「さてと、いつまでもこうしていたいところだけど、僕がこうやって生きているからにはそうはいかないね。エミーネ、ヤルトバーンとフィリシアの名は知ってるね?」 「え? あ、はい。」 「君がこうして僕とゆっくりしている、ということは君はまだ彼らを見つけていない、ということだな。彼らもさっきまでの僕みたいに、そこら辺で転がってると思うんだ。」 「一緒でしたのん?」 「そういうこと。そういう訳だから、2人を探しにいかない?」 もちろん私に否はありません。2人は立ち上がって、もう2人を探しに歩き出しました。程なくすると、私たちは一人がもう一人を抱え込むようにして座っている2つの人影を見つけました。近づくと、それがヤルトバーンとフィリシアであることが確認できました。ですが、どうしたことでしょう? 抱きすくめられた格好のフィリシアはよく分かりませんが、ヤルトバーンは剣も荷物も、鎧までも失くしているようです。ヤルトバーンは左腕でフィリシアを抱え、太陽を見つめながら右手の親指の爪を噛み、ぶつぶつと何かを呟いていました。声をかけようとした私ですが、彼のあまりの異様な姿にそれをためらってしまいました。そんな私の気配を察したのでしょう、彼の方が先に誰何の声をあげました。 「エミーネやよ。それに、アルヨンいう男も一緒やで。」 と言いながら、私は彼の前に回り込みました。私の方に首を上げた彼の顔は、目が血走り、頬は緊張で張り、全体的に青ざめていました。私といい、アルヨンと名乗る男といい、ヤルトバーンといい、何か良くないことが私たちの身に起きたのはまず間違いないようです。一方フィリシアは俯き、小刻みに震えていました。 「フィリシア、どないしはったん?」 「どないって…、そうか、お前は覚えていないのか。そしてアルヨン、お前は何も伝えていない。」 「無理に知ることもない、と思ってね。楽しいことじゃないし。」 「目を背けていたら自然に解決すると思っているのか? こうなった以上、こいつだって今晩から毎夜毎夜、悪夢に怯えることになるんだぞ? 原因を知っていれば、それを克服しようという希望もわく。だが、何も知らぬまま恐怖に犯されていくとしたら、それはどれだけ救いのないことか。」 「悪かった。僕が浅はかだったよ。でもね、正直言うと僕もよくは覚えていないんだ。」 「そうか。俺は昨晩はついに一睡もできず、いまこの時もあの時に途切れなくつながったままだ。」 「何を分からん話をごちゃごちゃと。フィリシアはどないしたん、と聞いとんねんで。」 「フィリシアは、とてつもない恐怖に直面して心を閉ざしたようだ。何も見ず、何も聞かず、何も語らない。エミーネ、お前の薬草はこんな心の病も治すことができるか?」 「やってみな分からんよ。もっともそれ以前に、あて、鞄を失くしてしもうたみたいなんや…。」 「それなら俺が預かっている。ほら。」 そう言うと、ヤルトバーンは私に医療鞄を手渡しました。私は軽く中身を確認します。 「エミーネ、お前はフィリシアのための薬を調合してくれ。俺はその間に、お前と俺たちとの間に起こったことを伝えよう。アルヨンも座れ。」 恐怖の具現 私、フィリシアを抱えたヤルトバーン、アルヨンは輪になって座り、私は鞄から乳棒とすり鉢、そして狂気を癒すとされるハナウドの根を取り出して、これを擂り始めました。磁器がこすれる音がヤルトバーンを促します。 「昨日、動作の風の日が我らがオーランスの聖日に当たることは承知していることと思う。かの神に仕える俺、フィリシア、そしてこのアルヨンはかりそめの聖域を描いて、その輪の中でかの神のいさおしを再演した。オズヴァルドと、もう一人アルヨンの連れは他の神を崇めているので輪の外にいた。」 「はい、質問。」 「何だ?」 「アルヨンはんとはいつ合流しはったんどすか?」 「あ、そうか。俺たちがカルマニア人に同行したあと、騎獣遊牧民の襲撃を受けて、お前を除く全員はカルマニア人と別れたよな。」 「ぷっ、くくく…。“同行”やて。」 「当たり前だ。俺たち風の民は、自由か、しからずんば死か、だ。いつ、どんなときでも他者に屈することはない。」 「この真実を帝国が理解したら、帝国は僕たちをダック(5)やテルモル(6)のように根絶するしかないね。」 「それでだ、」 「(…無視したな。)」 「その後、俺たちはパヴィスに向かって歩き出したんだが、しばらくして、俺たちはまた別のルナーの巡視隊を見つけたんだ。例の、カルマニア人たちと揉め事を起こしていたあの連中だ。奴らもパヴィスに帰るところだったんだろうな。だが、大したことのない奴らだと看て取ったから、むしろこちらから襲撃してやったよ。ただでさえ浮き足立ってた連中は、さらに背後からした奇妙な声にびびって退散しちまった。その声の主は猫で、それを踏んづけたのがこいつだったというわけさ。 」 「僕は何年か前からこのヤルトバーンと仕事してて、今回も一緒だったんけど、ひょんなことで離れ離れになってね。一人で困っているところをインパラ族のピリューにに助けてもらったんだけど、彼が、助けた礼にあるものを見つけるのを手伝え、と言ってきて、彼と同行してたんだ。で、その途上、剣戟の音がするんで駆けつけてみたら、ヤルトバーンたちがルナー巡視隊をいじめてるのに出くわしたわけ。猫はオーランスの御使いだからね(7)。きっとかの神が僕の足元にこれを置いて、ヤルトバーンたちを助けたんじゃないかな。」 「いや、かの神が遣わしたのはお前自身だと思うぞ。フィリシアの悪霊を受け入れられるのはお前だけだからな。」 「フィリシアの悪霊?」 「ああ。フィリシア、お前に会ったときからずっと悪夢にうなされていただろう? その悪夢の元凶だ。俺たちはかの神の恩寵によってそれぞれ精霊に関わることができるようになったんだが、」 「具体的にどういうこと?」 「具体的には、フィリシアは精霊を肉眼で視ることができ、俺は精霊を掴むことができ、アルヨンは精霊を自分の中に容れておくことができる。アルヨンたちと合流して初めての野営のとき、フィリシアが悪夢にうなされているのをアルヨンが不審がって俺をたたき起こしたんだが、寝ぼけてた俺はフィリシアを取り囲むよくない気配を“掴み取って”しまったんだ。俺は慌てることなくそれをアルヨンに放り込んだ。」 「ひっどーい。」 「そう言うなよ。突然、自分の腕によくない気配が絡みついたんだぞ?」 「うん、やっぱり“慌てることなく”じゃなくて、“慌てて”僕にそれを放り込んだんだね。」 「経過はともかく、フィリシアを救うにはこうするしかなかった、とは思わないか?」 「まぁね。正直言って、代わりに僕も船酔いと二日酔いを足したような最悪の気分を味わうことになったんだけど、仕方ないよね。」 「とにかく、悪霊はアルヨンに移ったまま、俺たちは次の朝を迎えた。オーランスの聖日だ。俺、フィリシア、アルヨンは、荷物をオズヴァルドに預け、かりそめの聖域に入ってかの神のいさおしの再演をした。ちなみに、フィリシアは嵐の王で、こいつが儀式を取り仕切っていたんだが、こいつが引き寄せた四方の風は聖域の輪を包み込み、辺りの砂は舞い上げられて壁を作り、俺たちと現実世界を引き離した。そして…、そして…、」 ヤルトバーンは目に見えてがたがたと震えだしました。 「ヤルトバーン、大丈夫?」 ヤルトバーンは歯をむき出してにやりと笑い、大丈夫だ、と答えました。似合わない上に可愛くない。私はちょっと前から擂り上がっていた薬を彼に差し出します。 「ヤルトバーン、これを飲み。」 「いや、まずフィリシアに飲ませてやってくれ。」 私は首を横に振ります。 「薬はこれしかあらへん。ハナウド(8)は珍しい方の薬やから、パヴィスに戻っても入手できるとは限らへん。あんたはん、さっき言いはったな。自分はそのときのことをはっきり覚えてる、て。そんで、あてらはそのことに向かいあわなあかん、て。あんたはんが今のフィリシアみたいになってもうたら、あてらは終いや。飲んどくれやす。」 「しかし…、その薬がそんなに貴重なものならなおのこと、ここでフィリシアに飲ませなければ、こいつは助からないかもしれないじゃないか。」 「言いにくいことやけど、多分、フィリシアはこないな小手先では治らへんと思う。あては左岸(9)の戦場で、月の狂気(10)に冒された兵士たちを何人も見たんやけど、ここまでひどいのは見たことあらへん。」 「どう…、どうひどいと言うんだ?」 「狂気に冒された者は、外見的にはまず、冷たく硬い表情をするのが普通でな。これは、死ぬかと思ぅた、なんて時にもなるから経験あると思うわ。次に、奇妙で不自然な姿勢や態度をとって、急に大声でわめきたてたり乱暴をはたらいたりする、いう段階がある。これは一見、かなり悪そうやけど、殴って気絶さすと治ることもある。最後に、外界から一切自分を遮断して痙攣する、いう段階がある。いまのフィリシアがそうやけど、フィリシアは他とは違うんやな…。ここまで痙攣が激しくなると、疲労と発熱で身体の方からセーブがかかって昏睡状態になるんやけど、フィリシアはそうはならん。昏睡に落ちることを許されず、恐怖に向かい合うんを強制されてるみたいや…。」 「そんな! どうすりゃ助かるんだ、フィリシアは…。」 「恐怖の元を取り除いて、患者にそれを認識させる、いうんが狂気を治すには何よりの方法なんやけどね。…その方法が採れれば、やけど。ごめんな、こないなことしか分からんで。」 「つまり、俺はどうあっても“あれ”を葬らなければならない、というわけだな。」 「…ヤルトバーン、専門家の意見は聞くべきだと思うよ。それに、恐怖の元が何であるか分からなければ、僕にも手伝いようがないじゃないか。」 「…分かった。エミーネ、薬をもらう。」 ヤルトバーンは俯いて少しフィリシアを見つめましたが、次の瞬間には意を決して薬を一気に飲み干しました。あぁ、噛みながら飲んだ方が本当はいいのだけれど。そして彼は私たちに話を続けます。 「さて、フィリシアの起こした風が儀式の輪の周りを駆け巡って砂の壁を築いたところまでは話したよな。その風はさらにアルヨンの口から黒い影を引きずり出したんだ。すると、この黒い影は辺りの砂を集めて徐々にその姿を現していった。そのとき、儀式はちょうど“大敵に立ち向かうオーランス”だった。奴は、悪霊でありながら、儀式の上ではオーランスが倒すべき大敵だったんだ。」 「そう。フィリシアはこれを認めるや謳ったよね。 『汚れの汚れ、消えて失せろ、背を向けて疾く、立ち去るがいい。 おまえを斬るぞ、邪悪の邪悪、そらごとうそ泣き、聞く耳持たぬ。』 って。でも、奴さんの方はオーランスの敵として申し分なかったけど、僕らの方は役不足だったね。」 「ああ、ひどい戦いだった。奴はついには小山のような大きさにまで膨れ上がったんだが、いくら斬り付けても斬った感じがしない。それどころか、奴に斬り込んだ剣の方が腐っていく。奴が触れた鎧も服も腐っていった。いよいよ俺たちが腐らせられる番、というときに、フィリシアがこれは影に過ぎず、その向こう側に本体があることに気付いたんだ。その本体までの距離は…、あの向こうの岩くらいまであってな、もう手遅れだと思った。そこにたどり着くまでに、間違いなく俺たちは死ぬ、と。」 「でも、走るしかなかったんだよね。往生際の悪さが、僕ら風の民の天分だから。で、走ったその先で、僕は奴の暗黒の中に白いものを見つけたんだ。」 「後から追いついた俺は、その鞄、お前の鞄だけどな、を見て、白い影がお前だと直感した。いまや、儀式の上ではお前はオーランスに救われるアーナールダ、そして俺こそがオーランスだった。俺は猛然と暗黒を掻き分け、お前の白い腕を掴み、お前をアルヨンに預けると、決然として再び暗黒に向き直った。そして、いよいよ俺は悪霊の本体に正面切って向かい合い、オーランスへの祈りとともに渾身の一撃を振り下ろした! …だが、それすらも未発に終わった。どういうことだ、とフィリシアのほうを振り返ると、あいつは何かを恐れるような顔をしていた。そして、それは地平の向こう側に立つ虚無の実在、そのこちら側の影だ、と告げた。言葉の意味はよく分からなかったが、そこには“何もない”ということは、すでに剣が俺に伝えていた。もはやこれまで、と悟った俺はすぐに撤退を叫んだ。」 「だけど、そこはまさに奴さんの中心点だったんだよね。逃げる僕たちをそこかしこから“よくないもの”が撫でていく。よく捕まらなかったよね。」 「ああ…。俺たちは走りに走った。もはや黒い影が覆わないところまできて、お前たちは2人とも倒れこんだ。だが、フィリシアだけは奇声を発しながら走り続けていた。俺は疲れた身体に鞭打って、あいつに追いつき、そしていまもまだ抱きすくめている。これが、昨日の出来事だ。」 そして、ヤルトバーンは口を緘しました。私もアルヨンも何の質問も意見もせず、押し黙っています。彼の話は、私の中にあった断片的な恐ろしいイメージを縫い合わせて、一編の記憶にしました。3人は、プラックスの太陽が照りつける中、互いに何もないところを見つめて、そのまま数時間を過ごしました。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/273.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 介護 私は起き出すと、布団をたたみ、身支度を整えて、みんなと一緒に朝食の準備をします。寺院での朝の食事は、パン屋が届けてくれる焼き立てのパン、同じくチーズ屋が届けてくれるその朝に絞ったミルクとヨーグルト、そしてジャムか蜂蜜が付いているのが普通です。この朝の食事もそうでした。準備が済むとみんなで早課式に参加し、夜明けを喜ぶ鳥たちとともに早祷を捧げ、朝食をいただきます。しかし、私は昨晩もお茶とお菓子しかお腹に入れていないのに、すっかり体が弱っているようです。パンをいくら細かくちぎっても、のどを通すことができません。今朝のジャムは山葡萄でしたが、これをヨーグルトにかけてのどに流し込み、ミルクを飲んで食事を終えました。パンは他の娘にあげました。 朝食が終わると、これを片付けた後は、午睡までは労務です。いまは地の季の終わり、仕事は葡萄踏み(7)か、きのこ狩り(8)か、それともブタの屠殺(9)か。きのこ狩りはサボりやすいので人気が集中します。 「セレン姉さん、あてはどの班に着いていったらええですか?」 「あ、エミーネ? そうね、スィベル姉さまに聞いてくるわ。」 そう言うと、セレンはスィベル侍祭の執務室へ歩いていきました。そしてすぐに、彼女はスィベル侍祭をそのまま連れてきました。スィベル侍祭は私に向かって口を開きます。 「エミーネ、あなた自分の立場が分かってないでしょ?」 「立場って?」 「あなたは病気が治ったらルナー当局に出頭しなければならないの。病人が表で労務なんかできないでしょ?」 「あぁ、せやった。」 「そういうわけだから、病人は部屋で寝てなさい。」 「せやけど、あて、じっとしてとぅないんどす。」 「まったく、働き者ねぇ。」 「そうやのぅて、不安なんどす。」 「ふむ、よろしい。エミーネ、あなたにはフィリシアさんの看護を命じます。」 「看護?」 「まずは身体を拭いておあげなさい。おっとその前に、あなたにも入浴の許可を与えます。あなた、昨晩は顔しか拭いてないでしょう? 顔の縁が旅塵で黒いままよ。」 「えへ。労務の後にみんなで水浴びすればいいかなって。」 「看護人は清潔が第一。薬局(10)から石鹸(11)を出させますから、それで耳の裏まで綺麗になさい。」 「わ、ありがとうございます。」 火山地帯にあるエスロリアでは、貴族は温泉を自らの邸内に引き、富裕な市民も各自の家に浴槽を持ち、貧民ですら湯屋に通いますが、ここパヴィスでは温浴はまったく一般的ではありません。この寺院でも、蒸し風呂と冷たい水の浴槽があるだけです。浴場の入り口には脱衣場があり、ここで服を脱いで手ぬぐいだけを持って、備え付けの下駄を履き、浴場に入ります。脱衣場にはスィベル侍祭が用意してくれた石鹸が置いてありました。浴場は、脱衣場も入れて三部屋が続いた構造になっており、脱衣場から入ると次は水浴の間です。浴槽の周りには石のベッドがいくつかあって、蒸し風呂から上がると、ここでおしゃべりしたり、身体を拭いたり、仲間同士でマッサージしたり、毛抜きをしたりします。そして水浴の間を抜けると、蒸し風呂の間になります。こちらにあるのは石のベンチで、汚れた体液を出し切るまでここに座ります。出し切る前にふらふらしてきたら、水浴の間に戻って水に浸かり、もう一度ここに座るのです。今日は何と、この広い浴場を独り占めです。一人なので、蒸し風呂で我慢比べ、などという不毛なことをしないでも済みます。私はいったん蒸し風呂に入って肌をふやかしてから、水浴の間で身体を石鹸を使って綺麗にすると、心いくまで蒸し風呂と水浴を往復しました。このように自由に楽しめるなら、蒸し風呂も温浴に比べてそう悪いものではありません。でも、一人で入るとマッサージを楽しめないのが残念と言えば残念です。毛抜きは、ここパヴィスでもエスロリアと同じく松脂の塊を使います。私がさんざん蒸し風呂に入ったのも、楽しみのためばかりでなく、少しでも毛穴を広げておこうとの心積もりからでしたが、さすがに十日以上も怠っているとかなり辛いものがありました。最後にもう一度、石鹸で身体を洗い、身体に石鹸の椰子の香り(12)をまとって、私は浴場を出ました。 続いて、私はお湯を満たしたたらいと清潔な布を持って、フィリシアが寝かされている部屋を訪れました。フィリシアは相変わらず、目を閉じたまま、静かな呼吸音だけを立てて眠っていました。眠っていた、というのは語弊があるかもしれません。血の気がなく、息をしていなかったなら、まるで死人です。刹那、私は自分もこんな生きているか死んでいるか分からない、哀れな状態になるのでは、と寒気を伴う想像が沸き起こりました。いいえ、いいえ。私は首を振ります。彼女はただの病気。生きていて、魂も穢れていない。私が、癒し手が彼女の回復をあきらめ、己の身のみを案じていてどうするのです。私は彼女が普通の病人であるかのように彼女に話しかけることにしました。 「フィリシア、具合はどない? あんたの身体、拭きに来たったで。」 もちろん返事はありません。 「今日は風が穏やかやから、窓、開けるで。」 パヴィスの建物の窓は、エスロリアの田舎のそれのように格子窓で、内側から板の蓋をはめることで窓を閉めます。私はそれをはずしました。すでに暖められた空気が部屋の中に忍び込んできます。 「さてと、覚悟はええか? フィリシアちゃん。」 まず、布の綺麗なうちに顔を拭きました。予想通り、唇が乾燥してひび割れているので、持ってきた油を指でとって塗ります。耳の裏にも塗っておきましょう。一回ゆすいで、今度は汗をかきやすい首、腋を拭きます。そして、今度は紐を解いて衣の前をはだけさせます。旅を続けているという割には綺麗な肌で、正直感心しました。胸や腹を拭きながら、その弾力にも感心します。 「あなたの立ち姿はなつめやし、乳房はその実の房。 なつめやしの木に登り、甘い実の房を掴んでみたい(13)、か。 でも、なつめやしに取り掛かりの枝はないんよね。勿体ない。」 そして、次は先に足を拭いてしまいます。足首を持ち上げて見ると、足の爪が割れて内出血を起こしていました。それはそうでしょう、彼女は自分の意思ではなく3日間も歩き続けてきたのですから。脛にもぶつけたあざが散見されます。足首にはなにか、アンクレットと呼ぶには余りに無粋な足輪がありました。これの周りにもあざがついていましたが、はずすことはできませんでした。私は、彼女の足を指の股まで丁寧に拭きました。最後に、腰布を解きズボンを引き下ろします。予想通りすえた匂いがしました。でもここが肝心。古い下着を解いて丸めてしまうと、まずいままで使ってた布でお尻を一拭きしてしまい、新しい布を取って、下腹部から腿にかけて丹念に拭きました。汚れがこびりつかないよう、すでに剃毛は昨夜なされていたようなので、それはやらずに済みました。もっとも、自分がやっていたらずいぶん傷を負わせていたでしょうが。さて、身体を拭くのはこれでお仕舞い。あとはシーツを換えなければいけません。でも、あの脛のあざを見たあとでは、彼女を立たせるのは酷に思われました。そこで、彼女と布団の間にあるシーツを抜き取ってしまえば、とひらめき、そうしました。 「いっせーの、せ!」 私がシーツを引っ張ると、坂になったシーツの上を素裸のフィリシアはごろごろ転がっていき、壁に頭をぶつけました。 「う…、ま、まぁ」 まあ、新しいシーツを敷くならどうせフィリシアにはどいてもらわざるを得なかったのです。新しいシーツを敷いて、私はフィリシアを布団の上まで再び転がしました。さてと、服を着せてあとは終わりなんですが、どうせ午睡まですることもありません。私は彼女の腰に掛け布団である綿布をかけると、彼女の頭の方であぐらをかき、彼女の頭を乗せて、彼女の髪を櫛で梳いてやることにしました。彼女を裸のままにしておいたのは、普段は服に覆われている部分に何らかの変化があっても見つけられる、という医者の判断もあったのですが、窓から漏れる光に照らされた彼女の裸体が美しい、と思ってそうしておいたのも事実です。 昼過ぎ、寺院のみんなが帰ってきたようでした。みんなはこれから水浴で汗を落とし、午睡して、そのあとでお茶です。ですが私はそれに参加できないようでした。フィリシアの部屋にセレンが来て、私に言づてしたのです。 「エミーネ、起きなさい。大女祭補様がお呼びよ。」 うわ、私はフィリシアの髪を梳きながら居眠りしていたようです。フィリシアを裸のままにしておいたのはまずかった、と思いましたが、見れば、綿布は彼女の身体をすっかり覆い、肩のところで留められていました。どうしたのでしょう? 彼女が起きて自分でやった? ともあれ、私は涎をぬぐって復命しました。 「はい、大女祭補様のところへ伺います。」 フィリシアの頭をそっと枕の上に置くと、私は大女祭補様の執務室へ伺いました。 「大女祭補様、お呼びと伺いましたが。」 「えぇ、呼びましたよ。午睡を邪魔して申し訳ないけれど、あなたはもう十分休息したからかまわないでしょう?」 「休息って、まさか…?」 「えぇ、一刻ほど前に私、自分で呼びに行ったんですけど、あなたが余りにも気持ち良さそうでしたから。でも、お友達、あれじゃあ風邪を引かせてしまいますわね。」 「も、申し訳ありません。」 「そうねぇ、私に謝られても仕方ないのだけれど、彼女に謝ってもいまは意味がないし。じゃ、あなたも裸体をさらす、ということで。」 「だ、大女祭補様…。」 「冗談ですよ。でも、この寺院はパヴィスの往来に面していて、好き者どもが隙あらばと中を覗いているんだから、あなたも冗談は程ほどにね。」 「はい、もう致しません。」 「よろしい。さて、あなたを呼びつけた理由なんですが、あなたの同部屋の方々から不満が出ています。あなたが夜に騒々しい、と。」 「そうなんですか?」 「うーん、やっぱり意識的ではないみたいね。あなた、一晩中呻いたり喚いたりしていたそうよ。あなたとフィリシアさん、状態は違うけど、2人とも同じ状況に遭遇して同じくおかしくなったのだとしたら、あなたはいま過渡的な状態にあって、あなたもいずれフィリシアさんのようになるだろう、と私たちは見ているのだけれど。」 「それは、それはあてもそう思います。」 「でもね、昨晩はフィリシアさんを調べたのだけれど、いまいち原因が分からないのよ。混沌も精霊も検出できなかったし。それであなたに事情を聞こうと思ったのだけれど。できそう?」 「分かりません。あのときのことを思い出そうとすると、うっ!」 「だ、大丈夫?」 「ま、まだ…。思い出そうとすると、身体がだるくなってきて、頭が真っ白になって、何も分からなくなるんです。」 「やめとく?」 「いえ、いいえ。このままやと、あても何も喋れなくなってしまいかねません。できるうちにできることをしとかんと。ちょっと、頑張ってみます。う…、うぐ、ぐぐっ…。」 「しっかり!」 「ぐぬぬぬぬ…、うわぁー!」 その後、私は大女祭補様の書見台をひっくり返して、大女祭補様に傷を負わせたそうです。私は気付くと、フィリシアの部屋で彼女の横に寝かされていました。そして私は暴れないようにでしょう、手首と足首を縛られていました。 負い目 私が手首を縛る紐を歯で噛んで解こうとしていると、扉が開き、大女祭補が入ってきました。 「どう? 落ち着いた?」 「あて、何でこんなところに縛られて転がされてるんですか?」 「あなたはねぇ、あのあと暴れて、ほら見て、この傷。」 見ると、大女祭補の額には包帯が巻いてありました。 「それ、ひょっとして?」 「そう、あなたがやったのよ。」 「ひぇーっ、申し訳ございません。」 「ま、わざとじゃないんだから怒ってはいないけど、あなたを自由にしておくのもねぇ…。あの書見台、アルダチュール製の逸品だったんだけど。そんなわけで、またあなたに話を聞くんだけど、手は縛ったままでいいよね。」 「はい、構いません。」 大女祭補は私の足首を縛る紐を解き、私を立たせると、再び彼女の執務室へと私を連れて行きました。 「あなたたちの身柄に関して、あの組織から督促状がきてるんだけど。」 「あの組織? あぁ、赤くない方ですね。」 「そう、その赤くない方の組織から、あなたとフィリシアさんを引き渡してほしいって。信用ないわね、うち。」 「それで、どない答えはったんどす?」 「保留中よ。医学的に言って、とくにフィリシアさんを安静にできないようなところに送るのは感心できないけど、あちらさんが落ち着かないのも分かるわね。心神喪失者が2人も組織の外にいるんだもの。というわけで、答えはあなた方の、まあ実質的にあなたの考え次第で決めようと思ってるわけ。」 「あての考え…、どすか? 治療法が分からないうちは、その…、安静にしていた方がいいと思います。でも! そう、じっともしていられないんどす。」 「そうね。あなたまでフィリシアさんのようにならないうちに治療法を突き止めないとね。」 私は自分の耳朶が熱くなるのを感じました。 「あの…、見抜いてはったんどすか?」 「見抜く? 何を?」 「その、あてがフィリシアみたいになりたくない、って思っとったのを。」 「見抜くも何も。当然じゃない?」 「当然って…。フィリシアは、ともかくも、あてを助けてああなったんどす。せやのにあて、自分だけ助かったのを喜んで…。」 「ふぅん、なるほどね、あなたが負い目を感じる気持ちも分からないでもないわ。でも、あなただって楽してるわけじゃないじゃない。思わず机をひっくり返しちゃうくらい嫌な記憶と向き合って、治療法を見つけ出そうとしているんでしょ? それに、もしあなたまでダメになってたら、フィリシアさんの努力は無意味なものになっていただろうし、助けられる見込みもなかったと思うわ。もし負い目を感じているなら、あなたが生きて、自分とフィリシアさんを治して、二人で笑う、これが彼女の負債に報いる正しい道だと思うんだけど。」 「あてが…、生きる。」 「そう。それにせっかくあなたは最近、生きる喜びを見つけたんでしょ?」 「そ、それは…。」 「そうそう、その生きる喜びの君、さっきここに来たわね。」 「え? アルヨンはん? 何か言うてはりました?」 「あなたとフィリシアさんに会いたい、ってことだったんだけど、もう旅立ったって嘘ついて、追い返しちゃった。」 「は?」 「だってあのとき、あなた縛られながらもキーキー金切り声上げて暴れてたのよ。それでも会わせたほうがよかった?」 「そ、それは…、ちょっと…。」 「それに、彼、尾行されてたし。」 「尾行? 誰に?」 「さぁ? 前の彼女じゃない?」 「はいはい。当局の手の者どすか?」 「多分ね。勘違いかもしれないけれど、用心にしくはないわ。大丈夫よ、私がとっさについた嘘、まぁ当然だけど、彼、信じてなかったみたいだわ。折を見て、事情を伝えましょう。」 「はい、お願いします。お願いついでにもう一つ、」 「何かしら?」 「あてやフィリシアのような症状に陥った者の伝承や記録が過去になかったか、調べられませんか? 大ばばさまやお向かいのランカー・マイの学者さまに聞いて。」 「う~ん、じゃ、晩餐のあとに会合を持ちましょうか。でも、大ばばさまや学者さまを呼ぶのはいいけど、あなた、晩餐までに心を落ち着けておきなさいよ。人を集めておいて証言できませんでした、なんていうのは困るんだけど、もっと困るのがあなたがまた暴れること。机なんかぶつけたら、大ばばさま、死んでしまうわ。」 「はい。あてはもう睡眠はとったので、午睡の時間はお香を焚いて瞑想し、夜に備えたいと思います。」 「それがいいわね。部屋を用意するわ。」 「お願いします。」 私は大女祭補の執務室を辞すと、薬局に行って香炉を借り、大女祭補にあてがわれた部屋にこもってお香を焚いて、晩祷まで瞑想にふけりました。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/282.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ ■ 15 名前: Efendi(なゆたによる転載) 2002/09/08 11 27 50 エミーネ、砂嵐に飲み込まれるの巻 以下、Efendiさんより許可をいただいての転載。 ここはあくまで情報検索用のため、注釈などは載せていません。美しいHTML化されたテキストを読むには サイトトップ Liber ob Sciscitatora 本文 エミーネ・ハナルダ著、『世界各地を深く知ることを望む者の慰みの書』、ノチェット、1630年 へどうぞ! エミーネ、砂嵐に飲み込まれるの巻 Emine Be Swallowed Up by the Sandstorm Prax, 41st Earth 1622 S.T. 遠い夢 カルマニア人紳士に優しく抱かれながら、私はかつて素敵な男性に、物語の王女のように救われたときのことを思い出していました。それは15の春のことでした。 私の実家は下エスロリアにあって、春に雪解け水で河川が増水しているときに高潮が重なると、行き場を失った水が地に溢れ、洪水となります。それは毎年のことであり、また溢れた水が大地の恵みを農場の隅々にまで行き渡らせてくれることを誰もが知っているので、人々は高潮の日を計算して前もって高台に避難し、水面に映る星々を愛でながらささやかな宴を催して、水が引くのを待ちます。 ですが、その時の洪水が起こった日は計算で予想された日よりもずいぶん早かったのです。準備をしている者など誰もおらず、人々は持てるものだけを持って高台に駆けつけました。裕福で、舟を持っている者はそれに家財を積み込んで、自分の家まで水がやってくるのを待ちました。 そのとき私は、休耕地の蓮華畑で牛の番をしていました。蓮華畑では牛だけでなく、近所の女の子たちも3人いて、彼女たちは王冠を作って花の女王を気取っていました。 「えぇなぁ、子供は。大人は大人で、農閑期やから昼から酒飲んで、恋人といちゃついて。中途半端なあての相手はこいつらか…、ええい、くそ!」 と八つ当たりで牛の尻を棒で思い切り引っぱたくと、当然牛は走って逃げました。 「あぁ、堪忍や。待ってんか~」 と私も後から走って追うと、素直にも牛はしばらく行ったところで立ち止まりました。 「ふぅ~、すまんかったな。こんなええ子、叩いたりして。って、なに怯えてんねん。って! 水が溢れとる!」 水路の堤防は、増水時に決壊しないようにある高さで孔が穿っており、農場は堤より低いので、この孔の高さに水が達すると、水路を流れるよりも早く農場に水が流れることになります。そしてそのとき、私はその孔から農場へ勢いよく水が迸り出ているのを見たのでした。このとき、堤の上へよじ登ったのなら、私は多少時間を稼げたことでしょう。ですが私は蓮華畑で遊んでいた子供たちを忘れてはいませんでした。 彼女たちの方へ駆け出すものの、その途上で水の方が追いつき、浅瀬を走っているようになりましたが、それでも走り続けました。そして、子供たちが固まって泣いているところまで達しました。泣いていないでさっさと逃げればいいのに、と思ってはいけません。すでに水は四方から迫っており、私自身、逃げ場を見つけられず、泳ぎやすいようにスカートをたくし上げて腰のところで縛り、子供たちを抱えて来るべき時を待ちました。そして、水が私の腰の辺りまで、子供たちの首の辺りまで達したとき、大波が私たちをさらっていきました。 結局、水は私の手から子供たちをもぎ取り、私は気持ちも身体も水底に沈んでいきました。 気がつくと、私は地面に仰向けになって、大きな星を見ていました。星? いいえ、それは人が手に持つランタンでした。それを持っていたのは、背の高い、浅黒い肌をした、左岸(1)に住む人々のような格好をした男性でした。彼は、私が意識を取り戻したことに気づくと振り向き、一つ頷いて闇の中に消えていきました。時は夕暮れ、落日の余光が彼に影を落として顔は判別できませんでしたが、おかげでその炯々とした目はとくに私の印象に残りました。 身体のだるさが取れてきたので、水を吸って重くなった服を脱ごうと立ち上がると、私の横に蓮華畑の女の子たちも仰向けに寝ているのに私は気づきました。2人はもはや冷たくなっていましたが、1人には息がありました。これで、私は先ほどの彼が私たちを自ら引き上げてくれたことを悟りました。そして、なんら功業を誇ることなく、私の無事を確認して去っていく…。彼は私の近侍武士でした。 翌朝、舟に乗った村人が私たちを見つけ、私たちは舟に拾われました。ですが、舟は村人が集まる高台の方へは向かいませんでした。どこへ行くのかと不審に思っているうち、舟はより上流の、水を被っていない村へ着きました。 そこで私は聞きました。昨日、「海の狼」と称して湾岸一帯を荒らしまわる海賊が私たちの村を襲ったことを。彼らが川の女神の娘をかどわかして女神を脅迫し、洪水を無理に引き起こしたことを。そして、洪水によって住民を一箇所に集め、効率的な略奪を図ったことを。 私が自分たちを助けてくれた男のことについて話すと、大人は、それは「残飯漁り」だろう、と言いました。海賊の中でも位の低い者、若い者は襲撃する舟が座礁しないよう、ランタンを持たされて各所に配置されるのだけれど、略奪に参加できない彼らは、せめて漂流してきた金になりそうなもの、とくに土左衛門を水から引き上げてはその衣服を剥いで、自分の収穫にするのだそうです。でも、自分も子供たちも服も脱がされなければ、何もとられてもいない、と反論すると、お前が意識を取り戻したんで怖くなって逃げたんだろう、海賊なんて狼みたいなもので、一匹なら臆病なものだ、と返されました。 彼が王女を命を賭して救う天晴れな近侍武士でも、あるいは臆病な海賊でも、私は彼に救われたことを忘れない、そう、私は心に刻み付けました。 遊牧民の襲撃 カルマニア人たちは、私を負った一騎を後方から半包囲する陣形で早駆けに移動を続けました。この陣形のお椀の底に当たる殿(しんがり)には、リプティール隊長がその位置を占めています。 どちらの方向へ駆けているのか見当もつきませんが、一群はこの陶器を砕いたような荒れた大地の上を一方向へ疾走していきます。そして、私たちの背後からももう一群が確実に距離を詰めてきます。馬蹄の轟きは、ドドドドド…と間断のないものですが、彼らの轟きはド・ド・ド・ド・ド…と、一定のリズムを刻んでおり、軍楽隊の太鼓のようです。それが、テンポを違えたと思えた瞬間、無数のきらめきが私たちの上に降り注ぎました。彼らの一斉騎射です。彼らはついに弓の射程距離内にまで追いついたのでした! 彼らの弓勢はまだまだ弱く、カルマニア人たちの鎧にはじき返されてしまいますが、それでも隊長は命令を発し、私たちの一群は狙いが付けられないようジグザグに走りました。ですが、このジグザグ走行は結果的には彼らとの距離を縮めることとなってしまい、彼らの3度目の一斉騎射はついに最後尾の隊長の左腕を射抜くこととなりましたが、それでも一群は走り続けました。そして、前方に緩やかな下り坂を見出すと隊長は別の命令を発し、一群はここで反転して敵に備えました。段差が一瞬だけ敵の矢を防いでくれるのです。 カルマニア人たちは《防護》と思わしき呪文をそれぞれ唱え、私を負っていた人は私を潅木の陰に連れて行き、ここで下ろされて、「伏せろ」の合図をされました。 私が伏せた身体の下から私を突き刺している小石をどかしていると、カルマニア人たちは先ほどとは異なる呪文を唱え始めました。いいえ、呪文ではなく歌のようです。重々しい荘重な旋律ですが、声調は憂いを帯びていました。私がこれまで読んできた物語では、正義のために戦う者たちはたとえ相手が千人であろうと悪に打ち勝ってきたものですが、確かにルナーと遊牧民、悪と悪の対決ではいずれが勝つのか、そのような物語は読んだことがありません。私もだんだんと不安になってきました。 そしてついに、インパラ族(2)が坂の上に黒々とした影を落としました。彼らは槍をしごいてこちらへ突進する構えです。ですが、彼らが駆け下る瞬間、カルマニア人たちの方が先に彼らに突撃を敢行し、彼らは浮き足立ちました。カルマニア人たちはそのまま坂を駆け上がり、これを包囲するインパラ族も一緒に坂の向こうへ消えて行きました。 残念なことに、坂に阻まれて私は彼らの戦いを見物することができません。ただただ闇の向こうから剣戟の音が聞こえてきます。しかしその音も次第に遠ざかっていきました。カルマニア人たちが包囲されないよう常に移動しながら戦っているのでしょう。 しばらくすると次第に剣戟の音がか細くなり、辺りは静寂に包まれました。暗闇の中、一人取り残されて焦りを感じ始めていた私の耳に、別の音が届きました。それは荘重ながらも勇ましいな旋律の歌ですが、声はかすれて途切れがちです。ヒョルトランドの激戦地を看護婦として従軍した私にはそれが何であるかすぐに分かりました。「末期の歌」、死を悟った人が半ば無意識に歌う歌です。私は、それが「末期の歌」だと分かった瞬間、まだ敵がいるかもしれない懸念などすっかり忘れてがばっと立ち上がり、医療鞄を抱えて歌声の聞こえる方へ駆けていきました。 坂の上に上がると、まずむっとした血の匂いが私を包みます。辺りは人と獣の死体でいっぱいでした。死体はいずれも遊牧民、獣はインパラと思わしく、いずれも深々と切りつけられていて、とても助けられそうにありません。刹那、懸命に歌の主を探す私の目に、金属鎧の反射光が飛び込んできました。その方向へ目を転じると、かすかに口ずさむカルマニア人が死んだインパラの下敷きになっていました。 まずこのインパラをどかさなければならないのですが、起重機もなくこのような肉塊を持ち上げることはできず、下手に引きずれば彼を圧迫してしまいます。しばらく考えて、遊牧民の持っていたカイトシールドを彼とインパラの間に差し挟んで空間を作り、その隙間から彼を引き抜くことにしました。そして、この企ては成功しました。 改めて彼を見ると、幸い、頭や胴体には外傷はないようでした。とりあえず、左腕に矢が刺さっているので、これを抜くことにします。引き抜くと、これまで彼が口ずさんでいた歌が止まりました(3)。が、そんなことには頓着せず、まず《治癒II+I》(4)の傷をふさぎました。 これでとりあえず彼が消耗死することはもうないので、私はまだ他に生存者はいないかと探して周りました。が、私は遊牧民の遺体が16体あることを数えることができただけでした。こんな固い大地では、私には彼らを埋めるための穴を掘ることもできず、せめて死者を辱めるような真似はせず(5)、彼らのために短く祈りを捧げました。 そして、彼のところへ戻ろうとすると、私は辺りが完全な闇であることに気づきました。はるかかなたに聞こえたはずの剣戟の音も、カルマニア人の歌も聞こえません! あぁ、どうしよう、と辺りをうろついていると、何かを踏みました。 「あ!」 それはあのカルマニア人の脚でした。が、何の反応もありません。私が彼の脚を触診してみると、案の定、膝があらぬ方向へ曲がっていました。とりあえず、この脚が治らなければ、やはり彼はここで死んでしまうことになりかねません。私は彼の脚に《治癒II+I》を施しました。結局、彼の脚は治りませんでしたが、この過程で彼を昏睡から立ち直らせることはできたはずです。そこで、私は彼の目の下と鼻の下に消毒液を摺りこんで、彼の意識回復を図りました。 「Chto...?(6)」 「ああ、目覚めたんやね。よかったわ。ここは危ないから、隠れられるとこに行こ? な? ほい、肩ぁ貸してあげる。」 彼を担いでしばらく歩くと、あつらえ向きの茂みを備えた岩場を見つけたので、そこへ彼を連れて行き、岩に彼を寄りかからせて、私も寄りかかりました。 「やれ、どっこらしょ。って、ひゃ~、冷たい。」 寄りかかった岩は濡れてました。この水はどこから? と視線を上げていくと、岩に割れ目があって、そこに水が溜まっていました。幸運なことです。私はその水を両手で掬うと、彼の元に持っていって飲ませました。彼はうつむいたままでしたが、とりあえず Spaseebo 、とお礼の言葉らしきものをつぶやきました。怪我したときは気が滅入ることを十分承知しているので、私は気にも留めず、自分も冷たい水を飲んで一息ついて、おもむろに彼の鎧をはずし、自分の鎧も外して、本格的に彼の手当てをすることにしました(7)。一通り終えるのに、30-40分かかったでしょうか。疲れた私は彼に寄りかかってそのまま寝ました。 本当に寝入ってまもなく、隣で寝ていた彼がごそごそと動くので、私は眠りを妨げられました。何やねん、と目をこすると、私たちの前方 60m ほど、先ほど彼が倒れていた激戦の跡地にインパラ族が何人かやって来ていました。彼らはなにやらごそごそと遺体の山を漁っていました。遺品漁りでしょうか? それとも、落ち武者狩りでしょうか? 私たちは息を潜めて彼らを見守るだけです。 かなり長い時間がたって、ようやく彼らは立ち去りました。すると、カルマニア人は片手で、バン、と岩を叩き、嗚咽しながらうずくまりました。私はどう慰めていいか分からず、彼を背中から包んで、彼の遠い方の肩を、母が子をあやすようなテンポで叩き続けてやりました。 彼はまた歌いだしました。 「...Ie-scho Ra-zik Ie-scho-ras...」(8) 彼の歌声は、さっきよりずっと張りがあって、私を安心させました。今度の歌は、先の軍歌のようなのと違って、穏やかで愁い帯びていたので、彼の肩を叩く私の手は歌のテンポに同調してきていたのですが、早くなりすぎるようなことがなくて助かりました。 砂嵐 私の看病したカルマニア人が比較的元気な声で歌えるようになって安心した私でしたが、彼が、嗚咽して鼻をすすりながらなおも歌い続けるのを聞くうちに、だんだんいらいらしてきました。そして、彼の方を向いて左手で彼のあごを掴み、右手でデコピンして、彼の注意をこちらに向けさせ、彼の目を睨みつけつつ、 「こん、あほ! ええかげんに寝さらせ!」 と命令しました。すると彼は、口の端に笑みを浮かべ、目を閉じてわざとらしい鼾をたてました。本当にカルマニア人というのは小憎たらしい! 言葉は通じないし、睨みも通じない。そのくせこちらの底意は見透かしてるなんて。私は、ふん!、とそっぽを向いて、それでも寒いので、彼に寄りかかって寝ました。 翌朝、目覚めると彼が私を包み込むようにして寝ていることに気づきました。私への善意なのか、彼の方が寂しかったのか、私には推し量れません。実に小憎たらしい。 私は彼の腕をそっと解くと、するっと抜け出して周りを見回しました。昨日の岩は艀ほどもある大きなもので、表面にテーブルほどの凹みがあり、その凹みに何やら光るものを見つけました。何やろ? と思って引き抜いてみると、それは海に棲む風のルーンの形をした貝の殻でした(9)。エスロリア生まれでこういう貝を何度か目にしている私は、これはあの兄さんに水を飲ますのに好都合やな、くらいにしか思いませんでしたが、今から思えば、海から400kmも離れたこんなところになぜこんなものがあるのか、不思議なことです。私は貝を耳にあて、久しぶりに潮騒の音を堪能しました。 私は件の貝に水を湛えて、彼を起こしに行きました。でも、この不埒者をただ起こすのは面白くありません。ふふん、どないしてやろか、と楽しい想像にふけっていると、彼はこちらがまだ何もしてないのに起きてしまいました。 仕方なく、彼におはようと言って水を差し出し、彼が水を飲み始めると私は地面に棒で地図を描き始めました。 「これな、この寝てんのは兄さんや。で、こっちにほれ、川があるやろ。これから直角に西の方に延びる道がある。この接点に、ほれ、街や。パヴィス。あては、ここに行って助けを求めてくるつもりや。分かるか?」 「Khorosho.」 「ん、分かったんやな。ほなら、この貝で水を汲むんやで。あては必ず戻ってくるさかい、安心してゆっくり養生しとってや。」 歩き出して、ふと振り向くと、彼は目を閉じて投げやりに頷くと、いってらっしゃい、というような仕草をして、ひとつため息をついていました。やれやれ信用ないんやな、と肩をすくめつつも、必ず帰ってくると心で約束して、かくて私は単身パヴィスに向けて歩き始めました。 はるか彼方に、頂に万年雪をいただく青い山肌の山脈が連なっています。あれが東岩叢嶺山脈 [Eastern Rockwood Mts.] 。そして、その東岩叢嶺山脈を翳めるようにして禍々しい赤い月が浮かんでおり、私を中心にこれと反対側に太陽が浮かんでいます。赤い月は西北、太陽は今が朝だから南東。だから、左に赤い月を見るようにしてまっすぐ歩けば、西のサーターから東のパヴィスへ直線的に延びるパヴィス街道へ突き当たるはず。大丈夫。私は自分にそう言い聞かせて歩き続けました。 が、2時間ほど歩くと、空が霞んできて、赤い月も太陽も見えなくなりました。なぜだか潮騒の音も聞こえます。ここはどこやねん? と不安になりかけたとき、ごおっと、一陣の風が吹き付け、これを合図に風が次第に強まっていき、やがて辺りは土煙に覆われて何も見えなくなりました。この得体の知れない自然現象に、私はどうしていいか分からず、とりあえずやり過ごそうとうつ伏せで大の字に寝転びました。すると、私の上に砂が積もり、私の下の砂が吸い出されて、私はどんどん埋まっていきました! 私はあわてて立ち上がり、隠れられるような茂みや岩陰を探しましたが見つかりません。風はなおも強くなっていき、小石がばらばらと身体に当たるようになってきました。砂は服の中、口の中、目の中にどんどん入ってきます。息もまともにできず、目も開けられず、半泣きになりながら風を背にしてうろうろと歩いていると、信じられないくらいの強風が私を吹き飛ばしました! もはや立っていることさえおぼつかず、風に煽られながら、転び躓き、時に飛ばされているうちに、私は風の流れの中に漂っていました。風? いいえ、これは水の奔流。だって、ごうごうと水の音がする。 「くっそ~、あのアホ牛のせいでこんな目に~。あぁ、ほんまにもうあかん。誰か助けて。誰か…」 そのとき私は、薄れ行く意識の中で、あの15のときに溺れた小川の中にいることを悟りました。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/269.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 甘い朝食 座ったままの私の前に、一匹の黒いバッタが飛び込んできました。バッタは私を見つめるや、煙のようになって拡散し、私を包み込みます。 「いやーっ!」 と、私が叫ぶと、私の鼻の上に止まったバッタは、ぶーん、とどこかへ飛んでいきました。私の叫び声を聞いたヤルトバーンとアルヨンは、びくっと肩を震わせ、腰を浮かせました。 「えへっ、ごめん。」 「驚かせるなよ。」 「ところで上官殿、この先、どないしはるのん?」 「どない、と言ってもな…。」 「パヴィスにいったん戻りましょうよ。ピリューたちに荷物を預けたままで、食料も水もないんだし。」 「な、何やてぇ? なぁおい、兄さん、何をぼけぼけしとんねん。」 「ぼけぼけって、お前なぁ。俺たちがあんな…。」 「ん、そうやった。みなまで言わんといて。無いもんはしゃあないな。とっておきを出しますか!」 そう言うと、私は鞄から練り飴を取り出しました。 「なんだ、この白い棒は。」 「砂糖の塊やよ。」 「砂糖?」 「…はぁ。砂糖いぅんはな、南の国で採れる甘味の結晶や。」 私はナイフを取り出して、指先ほどの切片を4つ切り取って、1つずつみんなに渡しました。 「なんだよ、これだけかよ。」 「ヤルトバーン、砂糖が幾らするか知ってる?」 「知らん。幾らだ?」 「ノチェットでの卸価格で、1kg あたり銀貨60枚や。パヴィスやったら倍はするやろ。それにマージン 25% 加えたら、銀貨150枚、というところやな。あんたはんに手渡したくらいやったら、銅貨15枚やね。」 「こ、こんなのがギンピー亭(11)の定食3食分だというのか?」 「ま、舐めてみぃ。その価値はあるで。」 ヤルトバーンは恐る恐る舌先を出して、飴に付けました。すると、彼の目じりは見るからにどんどん下がっていきました。 「どない?」 「俺の不見識を謝る。世の中にかくも素晴らしい食べ物があるとはな…。」 「フィリシアにも舐めさせたってよ。」 「舐めさせるって?」 「口移ししかないやろ。」 「そ、そんな卑劣な真似ができるか。」 「あ~あ、せっかくのチャンスやのに、しゃあないな。」 私は人差し指と中指に飴の切れ端を挟むと、それをフィリシアの口に突っ込みました。フィリシアは私の指を、赤ん坊が母乳を吸うように、熱心に吸っています。 「あぁ、フィリシアもやっぱりお腹空いとったんやね。」 アルヨンはヤルトバーンの腕を肘で小突くと、彼になにやら小声で呟きました。 「ねぇ、ヤルトバーン、これって…。」 「あぁ、なんだかすごいな…。」 二度目の夜 「さてと、パヴィスへ向かうんでっしゃろ?」 「ああ。」 「パヴィス、どっちか分からはるの?」 「大体な。元々、お前とオズヴァルドは南西へ向かってきたんだろ? そして俺たちと出会った。ということは、パヴィスは北東にある、ということだ。」 「はい、北東へ向かうの反対。こんな何もないところじゃ、まっすぐ歩いてるつもりでも、どんどん曲がってくよ、きっと。ましてパヴィスに着くまでにはまだ3日くらいかかると思う。北東を目指して、東寄りに向かえばよし。北寄りに向かったら、パヴィス街道にはぶつかるだろうけど、水を得るのに時間がかかるかもしれないね。でも、東を目指すんだったら、北東へ向かえば申し分なし。南東に向かっても、とりあえずゆりかご河の水を飲むことができる、と思うんだ。」 「うん、一理あるな。よし、東へ向かおう。」 「ちょっと待って。僕らがここを離れると、ピリューたちがここに着いたとき困ることになる。何か目印を残しておくべきじゃないかな?」 「目印、といっても余分な布ひとつないぞ。」 「石を積んでおけばいいんじゃない? そんな何週間も必要なわけじゃないんだし。」 ということで、私たちは手ごろな石を集めて、膝ほどの高さに積み上げました。 「アルヨンはん、目端が利くんやねぇ。」 「ん? あぁ、前に僕がやってた仕事じゃ、こういうオリエンテーリングは基礎の基礎だったからね。」 「どんな仕事してはったん?」 「え? …えぇと。そうだ、“狩り”だよ、“狩り”。」 「そうでっか。あ、ほなら、獣が出てきたら捕らえてんか? あてらの食事のために。」 「 #12436;…。そうだ、ほら、いまは弓が無いからちょっと無理っぽいよね。」 「そうでっか。残念。」 出発、という段になって、ヤルトバーンはずっと座り込んでいるフィリシアの脇に手を差し込み、ぐいと持ち上げました。すると、フィリシアは緩慢に立ち上がりました。そして、ヤルトバーンが手を引くと、彼女は歩き出しました。 「よかった、フィリシア。ある程度動けるんやね。…せや、あてもやってみよう。はい、右手を頭の上に。左手をぶーらぶら、でバブーン(12)! って動かへん。」 「遊ぶな。」 かくして私たちはゆりかご河へ、願わくはパヴィスへと歩を進めるわけですが、フィリシアがこのような有様のため、行軍は非常にゆっくりしたものです。おかげで、ほとんど疲れを感じずには済んだのですが。 太陽が南天を経巡ってしばらくして、ヤルトバーンは私たちの進む左手前方に土煙が立っているのを見つけました。ヤルトバーンは辺りをきょろきょろと見渡して、隠れるところを探しているようです。一方、土煙への注意を喚起された私は、その方向を見極めようとしていました。 「どうやら、逸れて行ってくれるみたいやよ。」 「何よりだ。だが、向こうがこちらを見つけることもありうる。とりあえず、あの潅木の陰に身を潜めよう。」 潅木の陰に隠れたヤルトバーンとアルヨンは、地に耳をつけ、枝葉の影から覗き見、連中の動向を見極めようとしています。私はフィリシアを抱え、片手で彼女の口を押さえていました。ヤルトバーンとアルヨンはやり過ごしたと判断したようで、立ち上がって膝の埃をはたきます。 「まずいことになったな。」 「何が? やり過ごしたやんか。」 「お気楽だな。いいか? もし連中がルナーの巡視隊なら、いや、こんなパヴィスの周辺だから間違いなくそうなんだが、まず第一に、連中は馬上にあって俺たちより視野が広い。第二に、連中もプロだからその捜索能力は侮れない。第三に、連中はパヴィスを起点に動いているから、近づけば近づくほど遭遇する確率が高いうえに、俺たちには迂回する余裕がない。そして最後に…、」 「最後に?」 「俺たちは今回の旅で、かなりルナー巡視隊からの印象を悪くしてる。」 「あははは。あの、猫にびびって逃げ出した連中に出会ったら、殺されるかもしれないね、口封じのために。」 「いや、連中もそこまでしないとは思うが…(13)。とにかく、これからはさらに周囲を警戒して進もう。幸い、歩調もゆっくりなんだし。」 そうして、ヤルトバーンは異様なほど周囲を警戒しながら歩き、半刻ほどして、左手方向の一点を指差しました。 「ほらな。」 「何を勝ち誇っとんねん。」 私にはまだ土煙すら見えませんが、苔の執念、ヤルトバーンにはそれが奇しくも“猫にびびって逃げ出したルナー巡視隊”であることまで見抜きました。 「奇しくも、というほどのことじゃない。連中だってパヴィスを目指してるんだ。出会う確率は高いさ。」 「でも、そうなると鉢合わせるのは必然。時間をずらすしかないんじゃないかな?」 「仕方ない。夜まで身を隠そう。」 そのルナー巡視隊はまだまだずっと先にいたので、私たちには理想的な隠れ場所を見つける余裕がありました。これなら脚も伸ばせて、夜まで待ったとしても、かえって体力を回復させることもできそうです。 日没までは2刻ほどありました。ともすれば嫌な記憶が蘇ってくるので、私たちは他愛もない無駄話に興じていましたが、互いに違うところで相づちを打ったりと、みんなが相手に聞かせるために話しているのではなく、自分が話すために話しているのは明らかでした。 次第に、東の方からゼンザ(14)の衣が天蓋を覆うにつれて、私は心臓に締め付けられるような痛みを感じていきました。私は無意識にアルヨンの手を握っていたようです。それに気付いたのは、彼が彼の右手を握る私の手のさらに上に左手を重ねたときでした。 「あ…、ごめんなさい。」 「いや。僕も助かるよ、隣に君がいてくれて。夜が、怖い?」 「うん、怖いわ。あの、もしよかったら、手をぎゅっとしててくれへん?」 「了解。」 「それと、肩も貸して。」 「了解。」 私はアルヨンの肩にもたれかかって目を閉じました。アルヨンは右手で私の肩を抱き、左手を私が組んだ手の上に置いてくれました。私は緊張が解けて、はらはらと涙をこぼしました。 「日が暮れるな。アルヨン、見張りの順番だが…。」 「これこれ。」 「ふぅ…、こういうときは女の身分がうらやましいな。」 「確かに。ヤルトバーン、君が僕にもたれかかってきたら、僕は間違いなく肘で君のわき腹を打つね。」 「お互い様だ。仕方ない、半刻だけ俺が見張っとく。そうしたら次は、お前が夜半まで見張れ。朝起きたとき、隣にお前がいなかったら、また事だからな。」 「へぇ~、粋なところもあるんだね。」 「当然だ。オーランスのごとくあれかし、さ。」 しばらくすると、私は自分に支えがないことに気付きました。そのまま地面に横になりますが、地面も私を支えてくれません。ずぶりずぶりと、腰から泥沼と化した地面に沈んでいきます。もがけばもがくほど深みにはまっていき、とうとう口から泥が入ってきました。次の瞬間、私は 「んぁー!」 と叫んで、振り回した腕は現実の地面に激しく打ち付けられました。私は痛む腕を口にやり、口中に溜まった胃液を押さえて岩陰へ走りました。 「大丈夫かい?」 「うわ…、アルヨンはん。」 すでに、見張りはアルヨンに替わっていたようです。私は恥ずかしさのためばかりでなく、頭がくらくらして、へたり込みました。私は痙攣しているようでした。アルヨンは私の下に駆け寄ると、身を屈めて私に手を差し伸べましたが、私は手先も足先も動かすことがず、ただ歯を食いしばって彼を見上げるだけです。彼はとうとう私の手を取りました。が、次の瞬間、彼は何かに驚いて手を離し、私は尻餅をつきました。 「ひひ、ひどい。」 「ごめん。その、君の手があまりにも冷たかったから、驚いちゃったよ。」 「だだ、だっこ。」 アルヨンは私を抱っこして、私が胃液を吐いた場所から離してくれました。 「大丈夫かい? 僕に何かできることはある?」 「ささ、寒い。」 と応えて、私は彼の両腕を肩にかけ、彼をカーディガンのように引っかぶりました。アルヨンは小石を拾ってヤルトバーンに投げつけました。 「ヤルトバーン、こういうわけだからちょっと早いけど見張りを替わってくれない?」 「んがー!」 「ほらほら、オーランスのごとく、だろ?」 結局、私は朝まで寝入ることができず、蟲(15)がギチギチ鳴く音を聞きながら、赤い月とそれに照らされた赤く染まる岩叢山脈 [Rockwood Mts.] を眺めていました。赤い月が、太陽と違って中空の一点で留まったままでいるのを発見する頃、アルヨンは私の解いた髪に鼻をうずめて、寝息を立てていました。私は結局、岩叢山脈が東の方から黄色く染まり始めて、初めて安堵して眠ることができたようです。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/cro-chro/pages/1198.html
年齢:17歳誕生日:人馬の月20日所在:ガルハブルクラス:騎兵系使用武器:剣、槍、小剣、神聖術肩書き/通称: ホルス王国の貴族・ベルナドーテ家の令嬢。 「ノブレス・オブリージュ」の実践に日々心血を注いでおり、自身の腕を磨くために冒険者の依頼を受けている。 正義感が強く、困った人は見捨てておけない、猪突猛進タイプ。 ある時、“魔術士ギルドの研究施設からの研究資料の回収依頼”を受けたが、魔術士ギルドに赴くと、知り合いだったロックバード=シュペンハイムも同行することとなった。 所有AF:
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/267.html
【 ← キャンペーン/風道2/20020202 / キャンペーン/風道2/20020000 → 】 タグ 編集/ クリックするとキャンペーン関連記事を一覧表示します 20020202 20020316 20020427 20020427/エミーネ 20020427/ヤルトバーン 20020831 20020831/エミーネ1 20020831/エミーネ2 20020831/エミーネ3 20021005 20021005/エミーネ1 20021005/エミーネ2 20021005/エミーネ3 20021116 20030105 20030208 20030315 20030426 20040110 20040131 マスターメモ 何かに使ったと思われるメモ 第四話:虜囚 ふたたび仲間を見出すも、ルナーの監視下でパヴィスに戻る。 ■ 17 名前: Efendi(なゆたによる転載) 2002/09/08 11 28 05 第四話:虜囚 ふたたび仲間を見出すも、ルナーの監視下でパヴィスに戻る。 ■ 17 名前: Efendi(なゆたによる転載) 2002/09/08 11 28 05 エミーネ、恐怖に憑り付かれるの巻 以下、Efendiさんより許可をいただいての転載。 ここはあくまで情報検索用のため、注釈などは載せていません。美しいHTML化されたテキストを読むには サイトトップ Liber ob Sciscitatora 本文 エミーネ・ハナルダ著、『世界各地を深く知ることを望む者の慰みの書』、ノチェット、1630年 へどうぞ! エミーネ、恐怖に憑り付かれるの巻 Emine Be Possessed with the Terror Prax, 40th - 42nd Earth 1622 S.T. エミーネ1 エミーネ2 エミーネ3 ……長すぎて分割しないと載せられないログっていったい(苦 ■ 50 名前: なゆた 2002/08/31 20 49 31 第四話:(*1))ガクガクブルブル 『オズヴァルド、恐怖に憑かれしものどもを見出す』の巻。 みなさんお疲れ様でした^-^。 今回で、キャラクター達の「出会い」と「因縁付け」の部分が終わりですね。結構ぜいたくに時間を使いましたが、これでエミーネも違和感なくパーティー化できるでしょう。 オズヴァルドはプレイヤー欠席時の事件のせいもありますが、プレイヤー間のスケジュール調整、キャラクターのマッチングを勘案して、この流れからは外れ、フマクト主体の話をやるので、そちらに移籍です。 フィリシア・バーン・アルヨンの3人にエミーネが加わって、ここからが本筋の「風の道」の探索行の話になるハズ^-^;。 今回はEfendi氏も、筆に勢いがでるのではないでしょうか。期待してます。 マスターとしては、プレイ中に臆面もなく口頭で恋愛譚をしてくれると楽しいです(笑)。口に出すのが恥ずかしい場合は、紙に書いてのやりとりというのもアリですので、がんばってくださいね。 いやしかし、「恐怖値」いいですな。実に切実な雰囲気が出ます(笑)。 ■ 51 名前: Efendi 2002/09/08 00 29 14 第四章:エミーネ、恐怖に憑り付かれるの巻 あ、こっちに書くんだった…。 というわけで、第四章:エミーネ、恐怖に憑り付かれるの巻、脱稿です。 http //www.asahi-net.or.jp/~ty2m-iwsk/rq/script/stories/ikhtiraq/emine_be_possessed_with_the_terror.html 第三章の最後が重複してしまい、あちらは消去しました。アルヨンとのいちゃつきがなくなったのは残念ですが、第4章ではもっといちゃいちゃしているので、それで勘弁してください。 なゆた 氏の依頼通り、「デフォルメしつつ、正確に、勢い良く、そしてまったりとした口当たり。」で書けたでしょうか? 評価、楽しみにしてます。 今回はEfendi氏も、筆に勢いがでるのではないでしょうか。期待してます。 ノリもノったり、89kb 。しかも余計な文章なし。いままでの倍の分量ですね。 でも、今回は作者のエミーネが恐怖に犯されてたり、アルヨンに惚けてたりで、細かいことを書かずに済んで、すっごく楽でした。 おかげで、ルナー兵の尋問に皆さん一生懸命答えていたけれど、ぜんぜん書かなかったり。ごめんね。 最近、新参者が増えたそうですが、これを読んで不安にならないだろうか? (何をやらされるんだ? って) ■ 52 名前: なゆた 2002/09/09 22 47 50 あげ(笑) なゆた 氏の依頼通り、「デフォルメしつつ、正確に、勢い良く、そしてまったりとした口当たり。」で書けたでしょうか? 評価、楽しみにしてます。 あー、私はどうしても事前に読んでるので、評価しにくいなぁ(笑)。 とってもよいと思います。明るさと暗さのギャップが・・・くくく(枯笑) 最近、新参者が増えたそうですが、これを読んで不安にならないだろうか? (何をやらされるんだ? って) そですね。話の全貌を理解するには、別ログ必要ですねぇ。 ぼしゅー>aza、スティス、和泉屋の各氏。 でも、「何をやらされるんだ?」って警戒してくれたほうがいいです。 「楽しい楽しいテーブルトーク」をやりにくると、うちひしがれてしまうので。 「苦しい苦しいテーブルトーク」 を、いいなぁ。標語にしようか? 名前 コメント すべてのコメントを見る