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508 ウイリアム・テル ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/17(木) 00 13 46 ID Gz+WkGPt 「ただいまーっと」 今日も鬼師範の厳しい扱きで肉体的というか精神的に疲れ果て、やけに重い腕でドアを開けた。 パタパタといつものように、足音。 「おかえりー、お兄ちゃん」 明るく弾む声に、何だか疲れを癒されているような気持ちになりながら、顔をあげた。 俺の正面に立った声の主の姿を見て、瞬間、ピシリと空気が凍った。 「……」 「えへへー」 どっと、癒された倍の分の疲れが体にのしかかってくるのが分かった。 目の前にいるのは、俺の3つ下の妹で名は林檎。 明るくてそばにいるだけで、元気を分けてくれるような気分になれると、中学校でも人気があると友人に聞いたことがある。 身内びいきを差し引いても、確かに容姿は良いと思う。 くりくりとした大きな目や、小さい鼻と口は綺麗ではなく、可愛いという言葉にピッタリで、ほんのり焼けた肌も健康的で好ましい。 妹はコンプレックスを持っているらしいが、ふわふわとした癖っ毛も彼女の良いところだと俺は思う。 また、彼女の一番の特徴である耐えることのないえくぼが何ともチャーミングな、底抜けの笑顔を守るために中学校にはファンクラブなるものが存在しているとかいないとか。 ……もし本当にファンクラブなんてものが中学校に存在するなら、彼らはろくな大人にならないんじゃないか、と俺は未来の日本を憂わずにはいられない。 はぁ、とため息をひとつ。 非常に、非常に面倒くさいことではあるが、何らかの反応をしなければ飯にもありつけないんだろう。 林檎は体を屈めて、にこにこと俺を期待するような眼で見上げて構ってオーラを投げつけてくる。 もう一度、深くため息をついて林檎の姿を上から下、そしてまた上と眺める。 料理の途中だったのだろう、いつものようにベタすぎて、寧ろどこで買ったのそれ?と聞きたくなるようなフリフリの白いエプロンを着ている妹。 ――いや、そうじゃない。 林檎は何を血迷ったか、エプロンのみしか、着ていなかった。 「一応聞くが、何だそれ?」 「えへ、裸エプロンー」 語尾に音符を飛ばしながら林檎は即答。 ああ、そう、裸エプロンね、と疲れの上に痛み出した頭を抑えながら、呟く。 いうなれば、頭痛が痛い、という状況。 ちらちらと、ピンク色の何かが見えているが、不思議と何の感情も湧いてこない。 低い背、凹凸に乏しい体でぶかぶかのエプロンというのは、想像以上に不格好だった。 ただ果てしない疲れに、このまま朝までぐっすりと眠りたいと強く思った。 何というか、容姿だけならば春の妖精もかくやともいうべき姿をしているのに、悲しいかな、妹はおつむほうまで春だった。 色々言いたいことはあるが、取りあえず。 「10年後に出直してこいや」 「延髄切りっ?!」 情け容赦なく一発で妹を沈めた。 ったく、と吐き捨てて二階にある自分の部屋へと向かう。 「俺が着替えてくるまでには、お前もちゃんと服を着とけよ」 「えー、せっかく準備万端だったのに、食べないの?」 つまみ食いでもいいんだゾとか、両目をぱちぱちとしてくる。 ……え、それもしかしてウインク?ウインクなのか? ウインクすらまともにできないとは、母さん貴女の娘はどうやら頭のネジをどこかで落としたようです。 天国の母を思い、嘆きながら未だ廊下に寝そべり、大仰な瞬きをする妹にストンピングを敢行する。 「あうっ」 2~3発蹴ったところで、妹の声に何故か嬉しそうな色混じっているのに気づき足を止めた。 汚物を見る目で見下ろす。 「お前……」 「あは、もっと見てー」 「……さっさと、着替えろ、いいな?」 「あーい、へへ、もう照れ屋さんなんだからー」 凄んで言うと、案外素直に肯いた。 はあ、またため息がこぼれた。 小一時間のうちに3個もため息が漏れるなんて、いつか胃に穴が開くんじゃないだろうか、ストレスで。 509 ウイリアム・テル ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/17(木) 00 16 29 ID Gz+WkGPt 学力と運動神経どちらも残念な妹ではあるが、容姿以外にも料理の上手さは誇ってもいいと思う。 あのあと、素直にまともな服に着替えた林檎とテーブルに向かい合って座り、妹手製のハンバーグを眺める。 「あれ、美味しくなかったー?」 「いや、まあまあだな」 おいしいと褒めると、直ぐに調子にのるから言わない。 だというのに、林檎はへへーとやっぱりバカっぽい笑み。 「全く、お兄ちゃんはツンデレさんだなー」 「……」 「そういう、素直じゃないところも……好・き」 きゃー、いっちゃったーと身もだえする妹。 こみ上げてくるイライラを、肉と一緒に咀嚼した。 「そう言えば、お前、大丈夫なのか?」 「え、心配してくれてるの?もー心配するくらいなら蹴ったりしなきゃいいのに。でも大丈夫だよ、りんごは丈夫だしちょっと過激な行動もお兄ちゃんの熱い愛情表現だって知ってるから」 「ああ、こいつ、ハンバーグを喉に詰まらせてポックリいかないかなぁ」 「せめて、もっとまともな方法で死なせて!」 「は?おつむが一年中春のお前にはピッタリな最後だと思うんだが」 「何か、すっごく馬鹿にされてる気がする……」 「そりゃあ、馬鹿にしてるからな」 「りんごはそんな素直なお兄ちゃんはあんまり好きじゃないな!」 「ああ、そりゃ良かった。すっごく清々するわ」 「うそうそ、りんごは何があっても、一生お兄ちゃん大好きっ子だから、見捨てないでお兄ちゃん!」 がばっと、林檎は勢いよくテーブルに手をついて立ち上がり、身を乗り出した。 テーブルが揺れて、野菜スープが少しこぼれた。 ……ああ、もう。 箸を置き、林檎の頭に手を置いて、ぽんぽんと軽く撫でるように叩く。 「分かったから、落ち着け。飯を食べるときくらいは落ち着いてくれ」 「えへ、わかったー」 もともと余り本気にしていなかったのか、頬をだらしなく緩めた。 りんごの頭から手を離すと、あ……と名残惜しげな顔をしていたが、やがておとなしく椅子に座った。 その様子を、台拭きでこぼれたスープを吹きつつ確かめて、 510 ウイリアム・テル ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/17(木) 00 17 35 ID Gz+WkGPt 「お前の中学校そろそろ中間テストだろ?勉強は大丈夫なのかって聞いてるんだ」 既に捩じれに捩じれた話の筋を元に戻す。 林檎の通う中学は俺の高校と大体同じ時期にテストが行われる。 俺のところも後2週間弱といったところだから、コイツのところもそろそろだろう。 ご多分にもれず、林檎は頭が悪く、赤点の数を数えるより赤点じゃない科目の数を数えるほうが早いくらいだ。 元々頭が悪い上に、全く勉強しようとしないから余計タチが悪かった。 おかげでテストの後は、中学に上がって間もないのに追試や補講の常連だった。 そして、過去を学ぶことをせず次のテストでも同じ轍を踏んでいるのだから、もはや呆れるしかない。 林檎はきょとんと、大きな目を更に大きくさせて、かくんと頭をかしげた。 「へ、勉強?んーどうだろうなー」 林檎は箸を口の中に入れたまま、中空を眺めて考えだした。 行儀悪いだろ、とぺしりと妹の右手を軽く叩く。 俺は躾には厳しいたちなのだ。 ……凄く今更って気はするがな。 「珍しいな、お前のことだから大丈夫じゃないよと即答するかと思ったんだが。今回は勉強してるのか?」 「うん、いっつもお兄ちゃんに勉強しろーって言われてるからね」 「おお、成長したな!」 母さん、俺の苦労がやっとひとつ報われたようです。 「100点取ってお兄ちゃんをぎゃふんといわせてあげるからね!」 「はは、そうだな、期待して待ってるよ」 いくら勉強したといっても、所詮は林檎の頭だ、高が知れてる。 結果よりも林檎が、勉強しようと思ったことを何よりも評価してやりたかった。 赤点が減ったら、何かほしいものでも買ってやろうと思う。 「へへ、一杯勉強したんだよ。特に算数が一番自信あるんだ」 「はは、ベタな間違い方するな。算数じゃなくて数学だろ。お前も中学に上がって結構経つんだ、その間違いはもう賞味期限切れだぞ」 「ふぇ?……あ、あれ?」 「……」 「あは、は……そうだよね、りんごももう中学生だもんね。算数じゃないよね。生活科じゃなくて社会だもんねー」 「おい、お前まさか」 食卓に一気に不穏な空気が流れだす。 いや、いくらコイツが可哀相な頭をしていても、もう中学に入学して結構立つんだ、その間違いはありえないだろう。 毎日学校には行ってるし、今どこまで授業が進んでて、どの辺がテストに出るのかくらいは確かめているはずだし、うん、大丈夫。 ……大丈夫、だよ、な? 俺の視線を一身に浴びて、林檎は、ははーとぎこちなく笑った。 「そのまさかみたい。小学校の時の教科書で勉強してた」 ぎゃふん
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567 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17 51 28 ID XEFB863y ドアに伸ばしかけた手を、ふと止めた。 「天野君?」 怪訝そうな声が後ろから聞こえた。 振り返り、軽く笑みを浮かべて、 「ちょっと、ここで待っててくれるか?部屋散らかってるから片付けておきたいんだ」 「別に気にしないよ~そんなの。勉強ができるスペースがあれば」 「あ~、そのスペースもないかも」 「え~、本当?たまには掃除もしないと」 「はは、そうなんだけどね。そういうことだから、ちょっとだけ!もう5分くらいでちゃっちゃとやっちゃうから」 「わかった~出来るだけ早くお願いね」 うん、と頷いて見せて、一人玄関をくぐる。 ぱたぱた、と足音。 靴を脱いで、待ち構えて、 「おかえりー、お兄ちゃ――」 「まずは眠れっ!」 「エメラルドフロウジョン?!」 今日も今日とてコスプレ姿で出迎えた妹を、問答無用で沈めた。 「きゅー」 「……」 足元で伸びて目をまわす妹の両足をつかみ、無言でずりずりと引きずっていく。 途中でごんごんと何度か林檎の頭と床がぶつかりあうが、この際気にしない。 そのままリビングに放り、よし、と息をつく。 まるで人を殺して、死体を隠そうとする犯人だなと苦笑して、妹の姿を眺めた。 林檎は残念でならないプロポーションを、それで体守れてんの?と思わずにはいられないような鎧で覆っていた。 某有名RPGの女戦士の格好だと、思う。 「だから、コスプレするんなら自分の姿をまず鑑みてやれと……」 「それがいきなり、大技決めてきた人の言うことなのかな、お兄ちゃん!せっかくのコスプレの兜がパッカリ割れちゃったよ!」 「……チッ、生きてたのか」 「舌打ち!舌打ちしたよ、今、この人!」 「結構本気でやったんだが、元気だな、お前……。まあそれはどうでもいい」 どうでもいいって何さー!と頬をふくらます林檎の肩に手を置き、精一杯目つきを鋭くして、 「いいか、今日はお兄ちゃんの勝負の日なんだ。大人しくしていろよ」 「いたた、肩、痛いんだけど、それもイイっていうか……唐突な話の展開についていけないよ!」 「林檎、お兄ちゃんの彼女いない歴を答えてみろ」 「え、今も彼女持――」 「お前は彼女じゃないからな、ちなみに15年だ」 林檎の言葉をさえぎって、自分で答えた。 もう、お兄ちゃんのイケズ、と体をくねらせる林檎は無視。 「いいか、今からお兄ちゃんはちょっと気になる女の子と一緒にお勉強タイムだ。だからお前に構ってる暇はない、お前は大人しくしていろ。いいな?」 「……えー、りんご馬鹿だから、よく分かんな――」 「そう言うと思ったよ!」 「オレンジクラッシュ?!」 今日二発目となる大技を惜しげもなく、敢行。 ……これで少なくとも2~3時間は目を覚まさないだろう。 保険として、ロープで体と足をぐるぐる縛っておいた。 568 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17 52 03 ID XEFB863y 「ふう、むなしい戦いだった」 やり遂げた思いで、息をつき、玄関へと向かう。 ドアを開けると、きょろきょろしていた女の子が気付き、ほほ笑んだ。 「あ、終わった?」 「うん、掃除完了。ごめんね、待たせて。どうぞ、あがってあがって」 「おじゃましまーす」 彼女が靴を脱ぐのを待って、2階にある自分の部屋へと案内する。 後ろをついてくる彼女は、興味深げに周囲を見渡している。 あまり褒められた行動ではないが、それが不思議と嫌味に感じないところが彼女の美徳だと思う。 「林檎ちゃんは?いないの?」 「あー、まだ帰ってないみたいだわ」 「でも、確か中学もテスト前じゃ……」 「だよね!全く、アイツは馬鹿なくせにどこで油売ってるんだか。大峰さんですらこうしてまじめに勉強しようとしてるのに」 「ちょ、それってどういう意味かなー。私は確かに馬鹿だけどー」 ちょっと失礼だぞ、と怒った風で言う大峰さん。 はは、ごめん、と謝りながら、ほっと安堵。 彼女、大峰真琴は高校のクラスメイトでクラス委員長をしている少女だ。 中学からの知り合いだし、今年俺が副委員長に選ばれたこともあって、他の女子よりも比較的良く話す女子だった。 頭でものを考えるよりも、行動する方が得意で、明るい性格のおかげか人望もある。 あるのだが、率先して人を纏めるというより、その場の勢いで後ろも見ずに突っ走るという感じだった。 一言で言うと、猪突猛進、それが、大峰真琴に対する俺の印象だった。 特に彼女が好きだというわけではない。 でも、林檎と少し距離を置くための一歩としてちょうどいいと思った。 最悪だ、と思う。 結局彼女を利用して、自分の心地よい日常を守ろうとしてるだけ。 「はー、思ったより片付いてるじゃん。私の部屋よりきれいだよ。何片付けてた――あーそうか、そうだよね」 俺の部屋に入って大峰さんは、急に。 男の子にはいろいろあるもんねー、とか言って視線はベッドの下。 いや、さすがにそんなベタなところに隠してないし、紙媒体は残念ながら存在しない。 「何考えてるのか、ありありと分かるけど、そうじゃないから。それよりほら、早く教科書出して、今回赤点だとやばいんでしょ?」 「そうなんだよ。うちの部活の顧問が、数学のジョリーでさ。次数学で赤点取ったら出さないぞって釘刺されたんだよねー」 いや、参ったよ、とあっけらかんと笑う。 どうでもいいが、何で俺の周りにはこう、バカっぽい女の子ばっかりなんだろうか。 俺は、知性的な人が好みだというのに。 ――「彼方」 瞬間、頭の隅をよぎる優しい、静かな声。 ずきん、と胸に走るのは鈍い痛み。 「わぉ、天野君可愛いー」 ふと、聞こえてきた声に意識を引っ張られた。 は、と声の方を見ると、大峰さんが俺のベッドに寝そべっていた。 「……何してんだ、アンタ」 「え、アルバム見てるの。こういうの男友達の部屋に上がったらやってみたいって憧れてたんだよねー」 「一応聞くけど、勉強は?」 「あとでー」 大峰さんは、アルバムをペラペラとめくっている。 あれは確か中学の卒業アルバムだったか。 「ていうか、大峰さん俺と同じ中学だったろ?同じ奴持ってるはずじゃ……」 「そうだけど、こう、シチュエーションが大事なの。わかるでしょ?」 「いや、全っ然分かんないっス」 はあ、とため息。 ため息をつくと幸せが逃げるというのは有名な寓話だが、真偽はどうなんだろうか。 真実ならば、俺にはもう、ささやかな幸せすら残されていない。 大峰さんは鼻歌を歌いながら、アルバムをめくる。 膝から曲げた足が、ぱたぱたと動くたび少し短めのスカートが浮くがパンツは見えそうで見えず、しかしそれでも十分艶めかしい。 じっと、食い入るように見ていた自分に気付き、意識を飛ばすように勢い良く首を横に振った。 何やってるんだろう、俺。 また逃げそうになった幸せを何とかこらえ、俺は一人鞄から道具を取り出して、テスト勉強を始めた。 ……どうでもいいんスけど、鼻歌、ビリージーンって結構渋いっスね、いや、まあ俺も好きですけど。 569 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17 52 37 ID XEFB863y 「ねー、天野君」 数十分くらい経っただろうか。 だんだん集中できて、問題を解くスピードも上がってきたというところを、能天気な声にシャットダウンされた。 ちょっとだけイラッとしたが、我慢する。 まさか彼女に対して、いつも林檎にやっているようなことをするわけにもいかない。 「なに?」 「この子だれ?」 アルバムを指さして見せた。 彼女の手にあるアルバムは中学の卒業アルバムではなく、市販のアルバムノートに変わっていた。 それを見て、しまったな、と心中で舌打ち。 家族写真は本棚の隅の方に隠していたはずだが、何故か大峰さんは探し出していた。 隠していたといっても、ちょっと見つかりにくいというだけでそこまで本格的に隠していたわけではなかったことがまずかったのだろう。 大体、自分の部屋に林檎以外の人間を入れるのは、凄く久しぶりだったから油断していた。 「この可愛い子は、多分林檎ちゃんだと思うんだけど……こっちの綺麗な女の子はだれ?」 彼女の指す写真には、今より少し幼い俺と、余り今と変わらない林檎、そして白いベッドの上で優しくほほ笑む女の子。 その顔は林檎に似ていたが、浮かべた笑顔の質や、髪型の違い等から林檎よりも幾分大人っぽい印象を受ける。 大峰さんの言うとおり、可愛いというか、綺麗という表現が合う女の子だった。 「……姉さんだよ、俺の双子の姉」 「え!天野君ってお姉ちゃんいるんだ?それも双子!」 「まぁね、いたよ」 「……?いた?あれ、でも私この人見たことないよ。同じ中学じゃなかったの?」 「うん、姉さんは余り体が強くなかったから、ね」 「え、と、そう、なんだ」 さすがに何かを悟ったのか、大峰さんの顔が曇る。 戸惑うように、視線がさまよっていた。 「元々長くは生きられないって言われてたんだけど、4年前に、ね。死んじゃったんだ。それでも医者が言うには頑張った方なんだって」 「そ、そう……なんというか、ごめんなさい」 しゅん、と大峰さんはうなだれた。 突然大人しくなった彼女を見て、まるで借りてきた猫みたいだ、と思った。 「気にすることないよ。もうある程度吹っ切れたし、ね」 「でも……」 「それより、ほら、早く勉強始めよう。赤点取りたくないんでしょ?」 暗い空気を払拭するように、努めて明るい声を出した。 うん、と素直に大峰さんは頷いて、テーブルをはさんで二人向かい合った。 「ご教授、よろしくお願いします!」 「うん、ビシバシいくから、覚悟してね」 「はは、お手柔らかにお願い」 まだ少し泣きそうな目で、大峰さんが笑った。 今すぐに元気いっぱいとは言えないだろうけれど、やがていつもどおりに戻ってくれるだろう。 そこが、大峰さんの良いところの一つだと思うから。 ふと、件の写真に視線を向けた。 病院での一枚。 姉さんにどうしても、とせがまれて撮った写真だった。 このころは、家族4人皆揃って、ささやかでとても幸せな毎日だった。 狂いはじめたのは、きっと、そう。 姉さんが、最後に仮退院した、あの夏の日。 照りつける太陽、蝉しぐれ、そして、畳の上に転がった二人の汗のにおい。 570 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17 56 17 ID XEFB863y 1時間くらいして大峰さんも元気を取り戻したころ、ふいに部屋のドアがノックされた。 「あれ、林檎ちゃんかな?」 「え、まさか、あの拘束をこんなに速く――」 「お兄ちゃん、りんご、緊縛プレイは嫌いじゃないけど放置プレイはお兄ちゃん相手でもごめんなさいなんだよ!」 林檎がドアを勢いよく開けて、叫んだ。 返事待たないんなら、ノックの意味ないだろ! 「え、緊縛?放置プレイ?」 大峰さんは頭の上にはてなマークを飛ばしていた。 あー、やっちまった、と俺は心の中で頭を抱えた。 「というかお前、どうやって……」 「もちろん、りんごは縄抜けの術も習得済みだよっ」 「お前は、どこの忍者だよ!」 林檎……恐ろしい子っ!! ふと、林檎が付いていけずポカンとしている大峰さんをじっと見た。 その目は少し鋭さを持っていて、大峰さんは訳も分からず気圧された。 で、と林檎は口を開いた。 その声はついさっきまでとガラリと変わり、冷たく鋭い。 「で、この人だれ?」 「え、えと私は大峰真琴、林檎ちゃんとは何度か逢ったことあるんだけど、覚えて、ない、かな?」 「知らない」 571 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17 57 23 ID XEFB863y 「そ、そう」 大峰さんが困ったようにこっちを見た。 はあ、とため息。 「林檎、俺たち勉強中だから、邪魔しないでくれ」 「お兄ちゃんの方が邪魔。ちょっと黙ってて」 「……はい、すいませんっした」 林檎にギンッと睨まれ、速攻で、すごすごと引き下がった。 大峰さんが、恨めしげな眼で見てくるが、さっと視線を反らした。 だって、怖いんだもん。 「ねえ、あなた、お兄ちゃんの何?」 「へ、な、何って言われても、友達、かな」 「ふーん、友達、ねえ……」 じろじろ、品定めの視線。 胸のところで、はんと馬鹿にした笑み。 「や、さすがに、お前が鼻で笑える部分じゃないだろ、確実に」 「黙ってて、って、言ったよね?」 「サー!すんませんっした、サー!」 気をつけの姿勢で、びしっと敬礼。 土下座しようかとも思ったが、ギリギリのところで兄の威厳は守った。 ……守れていないだろうか? 林檎の詰問は続く。 「お兄ちゃんのこと好きなの?」 「へ、す、好き、って私が?」 瞬間、大峰さんの顔がボンっと燃え上がり、みるみる赤くなっていく。 へぇ、そう、と林檎の声はますます剣呑に。 「惹かれ始めているけど、気付いていないってところかな」 意外と初心なんだね、と林檎はくすくす嗤った。 ……さっきから、お前何様なんだよ、一体。 「でも、残念。お兄ちゃんは私のモノなの」 「へ、モノって……。それに二人は兄妹……」 「証拠もあるんだよー。ほら、こ・れ」 語尾に音符を飛ばしながら、林檎が手に持っていた写真を大峰さんに渡した。 その写真を覗き込み、瞬間、ひっと大峰さんの悲鳴に似た声。 そして、俺を気持ち悪いものを見るような目で見てきた。 え、俺?ていうか、その目、何でしょうか、すっごい嫌な予感しかしないんですけど。 大峰さんは、妙にあたふたと、慌てたように、 「え、えと、私こういうの経験ないし、良く分からないけど、二人が愛し合ってて幸せなら、応援する、よ。う、うん」 と、捲し立てるように言った。 「わぁ、本当ですかー。ありがとうございます大峰先輩」 唐突に林檎の声がいつもの調子に戻った。 それに、いつの間にか、敬語も使っていた。 林檎、敬語は使えるんだな、と現実逃避ぎみな感想。 「あー、ええっと、その写真見せてもらっても、いいかな?」 さすがに、ずっと現実逃避するわけにもいかない。 何とか空気を立て直す取っ掛かりを掴もうと、大峰さんの手にある写真にゆっくり手を伸ばした。 その途端、ひっと、大峰さんは後ずさり、 二人の間になんとも言えない空気が流れた。 「あ、ご、ごめん天野君!」 数拍の間をおいて、大峰さんは、しゅばばと凄い速さで机に広げられた勉強道具を慌てたように鞄に詰め込み。 だっと、逃げるように部屋のドアへ。 途中で立ち止まり、手に持った写真を俺へ押しつけて、 「お、お邪魔しました!天野君また明日!」 疾風のように駆けていく。 残されたのは、俺と林檎、そして一枚の写真。 「……」 何かもう、このまま燃やしてしまいたかったけれど、そういうわけにもいかず、恐る恐る写真を見て。 572 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17 59 49 ID XEFB863y 「ぎゃーー!」 思わず、叫んだ。 その写真は俺と、林檎が写っていて、二人とも何故か全裸で睦み合っていた。 「え、お前これもしかして、あの時の」 妙な笑みでこちらを見ている林檎に問おうとして、ふと、気付いた。 この写真に写る二人が、今とほとんど変わらないことに。 あの時はもっと二人とも幼かった、そう、あのアルバムに写っている時の方が近い。 それに何よりも。 「林檎、お前こんなに胸あったか?それに、俺この年で駅弁とかまだ無理……」 落ち着いて見れば、成程この写真は違和感バリバリだった。 「なぁ、林檎これ」 「えへへ、気付いちゃった?凄いよね最近の画像加工技術って。本当の写真と遜色ないもん」 「あ、アイコラっ!?」 「へへぇ、りんごが作ったんだ。凄い?ね、凄い?」 や、確かにこれを林檎が作ったというなら凄いとは思うが……。 「お前、自分の年齢分かってる?っていうか、まさかこれ独学じゃないよな?誰から習ったんだよ……」 「えへ、蓮ちゃん教えてもらったー」 「蓮ちゃん?それってお前をコスプレの世界に引きずり込んだやつか?」 「ううん、それは里香ちゃん。蓮ちゃんは二次元専門だから」 何で林檎の友人は、何というか、こう、どうしようもないんだろう。 類友か?類友なのか? 「……お前、もうちょっと友人は選ぼうな?それに何で、お前はくだらない才能にばかり長けてるんだよ」 「それはもちろんお兄ちゃんへの愛ゆえにであります!」 あー頭痛が痛い、痛いよ母さん。 「お前、これ、大峰さん絶対誤解してるぞ……」 「ふぇ、何を?」 林檎はきょとんとして。 「誤解じゃないよね、別に」 「――っ」 言葉に詰まった。 何というか、自分からむざむざ地雷原に足を突っ込んだような、そんな気持ち。 敗北感になんとも言えなくなった俺を、ふふと嗤った林檎は部屋を見回し、ベッドの上のアルバムに目を止めた。 ベッドにポスンと座り、アルバムを暫くじっと眺めて、細い指で、写真に写った姉さんをそっと撫でた。 その眼に宿るのは、果してどんな感情なのか。 「りんごね、遥ねぇから頼まれたんだ」 唐突に姉さんの名前が出て、ぎょっとした。 そう言えば、林檎は姉さんを遥ねぇと呼んでいた、というか姉さんがそう呼ばせていた。 理由を聞いたことがあるけど、その方が萌えじゃない?とか言っていた。 ……今思うと姉さんもちょっと変な人だった。 「姉さんから、何を頼まれたんだ?」 「彼方を、お兄ちゃんのことよろしくねって頼まれたの、そのための準備は私がしておいたからって」 「準備?」 林檎は俺を見上げ、しかし、俺の疑問には答えない。 そして、にこり、と笑み。 それは、林檎のいつもの元気を人に与える天使の笑みとは少し性質が違った。 それは、穏やかで、慈愛に満ちた、女神の笑み。 そう、まるで、姉さんの笑みに、似た。 その時、林檎の中に、姉さんの呪いを見た。
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529 ウイリアム・テル2 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/18(金) 15 18 56 ID lCpf83ny 「ただいまーっと」 テスト前で部活が休みということで、いつもより元気な声でドアを開けた。 授業もテスト勉強のためにと学校側のいきな計らいで少なく、普段と比べると幾分早い時間だ。 部活は好きだし、別に学校も嫌いじゃないが、やはり早く帰れるとなると嬉しくなってしまう。 鼻歌でも吹きたい気分で玄関口に座り、のんびり靴を脱いでいると、背後からぱたぱたと足音が聞こえた。 「おかえりー」 「おー、ただいまー」 聞きなれた妹に答える声も明るく振り返ると、 「へへー」 「……」 視線を妹の体へ上下に滑らせる。 どこかで見たことがあるような服装。 白いシャツ、紺のブレザーに、水色リボン。 スカートは、灰色。 手には何故か、ギター。 シンプルな女子用の制服だが、本物の制服ではないだろう。 林檎が通う中学の制服はセーラーだし、何というか生地や造りが安っぽい気がする。 つまりは、妹の最近できた趣味であるコスプレだ。 何でも、中学生になって初めて出来た友達がオタクで、妹の容姿に目を付けたその女子に流されてコスプレという世界に足を踏み入れた。 ……この年で、コスプレが趣味なんて、と林檎の将来を嘆いた回数を数えればきりがない。 「えーと、なんだっけ、それ?」 喉のあたりまで出かかっているんだが、どうしても思い出せない。 早々に諦め妹に尋ねると、ぷう、と頬を膨らませて、 「もう、何でわかんないのー。けい○んだよ、け○おん!この楽器でわかるでしょ!」 「あー……ああ、確かそんなアニメがあったな」 そう言われると、何時だったか林檎に付き合わされてDVD観賞をした気がした。 うすぼんやりとしか思い出せないが、そのアニメの主人公にの格好に似てると言えば似ていた。 「えーと、名前は何だったかなあ……」 「みおちゃんだよー」 「あれ、それって確か主人公の友人じゃなかったか?」 「もう、お兄ちゃん何言ってるの、ちゃんとこれ見て!ギターじゃなくてベースでしょ!」 ぐいっと、楽器を見せつけるように押し出してきた。 良く見れば、成程、確かに弦は4本しかない。 頭にみおちゃんとやらを何とか記憶の中から引っ張り出して、妹と見比べてみた。 確か黒髪のストレートで、背が高くて、スタイルは良いという設定だった、はず。 ……あ、何か、イラッとした。 「えへへ、髪型はちょっと違うけど、他は中々いい線いってると思うんだー」 「……」 「あれ、お兄ちゃん、どうしたの急にだまっちゃって。あーもしかしてりんごに見とれちゃったー?」 へへぇと体をうねうねさせている妹の背後に回る。 無言のまま、林檎の両脇の下に腕を滑らせ、がっちり固定。 「きゃっ、今日のお兄ちゃんは大胆だよー。もうこんな早くからやるの?そうだねーこの時間帯からなら夜通しで8回戦くらいは――」 「髪型とかそれ以前にちんちくりん過ぎて……あーもう!あと、中学生がそんな下ネタ使うんじゃありません!」 「ドラゴンスープレックスっ!?」 8回もしたら死ぬわ! 530 ウイリアム・テル2 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/18(金) 15 19 39 ID lCpf83ny 「ねー、お兄ちゃん」 「何だ、喋ってないで集中しろ」 「だってまだ首痛いー。ていうかよく愛しい妹にあんなことできるね。お兄ちゃんちょっと愛情表現がきついよ」 「俺はあれ食らっといて、首痛いだけで済むお前が怖いよ。あと愛情表現じゃねぇからな」 「ぶー、それがお兄ちゃんの全身全霊の愛を受け止めた妹にかける言葉かな!りんごはツンなお兄ちゃんも気が違うくらい大好きだけど、たまにはデレもくれないと寂しいんだよ!」 「でも、それが快感になるんだよな」 「いつの間にかキャラ設定がMになってる!お兄ちゃんがSならバッチコイだけど!」 「……」 「すっごい、蔑みの目で見られてる!……ああ、でもそれが快!感!」 何をトチ狂ったか、林檎はぶるぶると体を震わせた。 途端、何だか甘いような酸っぱいような女の香りが漂った。 ……え?林檎さん、まさか? あんたまだ○2歳でしょ。 その年でそこまで堕ちたんスか! 混乱する頭。 唖然としていると、林檎とばっちり目が合う。 今のテーブルの前に並んで座り、勉強を教えていた俺と林檎の距離は50cmもない。 林檎の目が、妙に、熱を持っていて。 黒目がちな眼が黒曜石のように、怪しく光り、俺を捉えた。 俺は、その瞳に、吸い込まれるように、顔を妹に近付けて―― 「ふんっ」 「あにゃ!」 ありったけの力で頭突きをかました。 「いたいー」 おでこを抑え恨みがましい視線を送ってくる林檎から何とか眼をそらし、立ち上がった。 ふん、と鼻で笑うふりをしてひとつ、息を吐く。 近くにある窓のところまで行き、開け放つ。 涼やかな風が、熱を帯び始めていた体を冷やした。 「ふう」 思わず漏れた吐息は、予想以上に安堵の色が濃かった。 ――危なかった、と思う。 正直、理性が勝った自分を褒めて遣わしたい。 林檎の眼。 あれは正しく牝の眼だった。 中学1年生がしていいような眼ではない。 しかも、あの眼を見るのはこれで初めてではなかった。 そう、あれは―― ……ああ、母さん俺はどこで育て方を間違ったのでしょうか。 過去をリフレインしかけた無理やり思考を切り換えて、 「さ、続きをするぞ。只でさえお前は小学生の分野を勉強してたんだからな」 「えへぇ、照れちゃう」 「褒めてねぇよ!」 林檎は特に変わった様子もなく、またノートとにらめっこし始めた。 こういう時、林檎の鳥頭は便利だと思う。 何も考えていないようで、本当に何も考えていない林檎の馬鹿さ加減には悩まされも、助けられもする。 まあ、比率は9:1くらいだが。 林檎の隣に、腰を下ろす。 換気のおかげか、既に甘酸っぱい芳香はなく、林檎のいつものシャンプー混じりの甘い体臭のみだった。 531 ウイリアム・テル2 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/18(金) 15 20 53 ID lCpf83ny 「むー」 「ん、どうした、どこか分からない所でもあるのか?」 「えとねー、これと、これと、これと、これと、これと……」 林檎は数式の書かれた教科書を次々と指さしていく。 「おい、ほとんど全部じゃないか。ていうか最初のほうは昨日教えただろ!」 「えーだって、一日経つと普通忘れちゃうよ、誰だって」 「お前の普通の基準は鶏か何かか……」 「大体ね、社会に出たら方程式とか役に立たないんだから、勉強する意味なんてあんまりないんだよ!」 「その言い訳を社会のしの字も知らないお前が言っても、なんも説得力もないからな」 「えへぇ、照れちゃう」 「だから、褒めてねぇよ!」 軽く林檎の頭を叩くと同時に、グゥと腹の鳴る音がした。 窓の外はいつの間にか暗く、開けた窓から入る風も冷たさを増していた。 お腹をさすりながら立ち上がり、窓を閉めた。 「あ、お兄ちゃんお腹空いてるの?夕飯の支度しようか」 「ん、ああ、そう言えば結構時間経ってるな。じゃ、頼めるか?」 あーい、と気の抜けたコーラのような返事をして林檎は、立ち上がり。 一歩キッチンへと歩き出したところで立ち止まり、ふむ、と考え込みだした。 「どうした?」 「えとね、この前は裸エプロンでもお兄ちゃんは落とせなかったから、今日は裸割烹着で攻めようか、それともメイド服で攻めようか迷っちゃって」 「今日は、久しぶりに外食にするか」 「うそうそ、ちゃんと真面目にやるから許してお兄ちゃん!お兄ちゃんに他の誰かが作った料理を食べさせるわけにはいかないよ!」 「そう言うのはちょっと重いんで、勘弁してください」 「素で嫌がられた!」 りんごの料理の半分は愛情でできているのに、と妹がその場に崩れ落ちる。 どこからかハンカチを取り出し目頭にあて、よよ、と古臭い泣きまね。 「そういうベタなボケはいいから、早くご飯作ってくれ」 「もーお兄ちゃんノリが悪いよ。ここはりんごをそっと抱き締めて、くんずほぐれつする場面でしょ!」 「お前に何から何まで付き合ってたら、体がいくつあってももたんわ。というか、今日はちょっと下ネタが多すぎるぞ」 「えー、そっちの方が萌えじゃないの?」 「萌えって何だ、萌えって。あのな、お前はまだガキなんだからもうちょっと節度を持ってだな――」 ぴと、と俺の唇にいつの間にか目の前にいた林檎の指がおかれた。 妖艶な眼が、じっと俺を見上げる。 その眼は、しかし何処か澱んでいて。 視線に捕えられた俺の背筋は凍り、心臓も何かに鷲掴みされたような感覚。 「りんごは、もう子供じゃないよ」 抑揚のない、平坦な声。 妙に赤く、てらてらと輝く唇が弧を描き、頬を裂いた。 「それは、お兄ちゃんが、よぉく知ってるよね」 ね、おにいちゃん? 林檎の首が俺を見据えたままかくんと傾いだ。 俺は何も答えることができず、目を反らすこともできない。 ふふ、と嗤い声。 林檎は俺の唇にあてていた自分の指を口に含み、くるりと振り返った。 「じゃあ、ご飯つくるねー。あんまり時間もないから簡単なものでもいいよね」 弾む足取りで、キッチンへと歩いて行く林檎。 その声は、既にいつもの舌足らずなものに戻っていた。 林檎の視線から解放された俺は、力なくその場に座り込んだ。 俺はあの眼をよく知っている。 知っているはずだったのに。 穏やかな日常の中ですっかり忘れてしまっていた。 いや、そうじゃない、忘れたんじゃなくて目を反らしていただけ。 アイツも姉さんと同じ血が流れていることを、俺は見ないようにしていただけなのだ。 「林檎、やっぱりお前は……」 声は小さく、林檎まで届かない。 林檎と俺の間は精々10m弱。 けれど今は、その距離が、限りなく、遠い。 林檎、それでも俺は。 「お前と、どこにでもいるような普通の兄妹としてこれからも過ごしていきたい、と。身勝手だけど、傲慢だけどそう思っているんだよ」
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ウイリアム 指輪物語に登場するトロル。 別名: ビルハギンズ (ビル・ハギンズ) ビル(3)
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57 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 10 10 ID lfgsXOlZ わたし、天野林檎は呪われている。 あの、美しい、女神が浮かべた悪魔のようなほほ笑みに。 わたしには兄がいて、4年前までは姉もいた。 二人は双子で、当時の幼かったわたしにも分かるくらい、何か特別なものでつながっていた。 姉、遥ねえは生来の病気で、その短い人生のほとんどを、病室で過ごした。 だから、余り会えない遥ねえはわたしにとって姉と云うよりも寧ろ遠い親せきの人という感覚が強かった。 それに、両親は遥ねえにつきっきりだったから、お兄ちゃんがわたしの一番身近な家族と言ってもよかった。 お兄ちゃんは、普通ならば両親に構ってもらいたい盛りのわたしを、両親の代わりに面倒見てくれた。 ――今思うとそれは、わたしのためではなかったんだろうと思う。 きっと、わたしが両親の手を煩わせることで、延いては遥ねえに迷惑がかかることを、きっとお兄ちゃんは危惧したんじゃないだろうか。 お兄ちゃんは、遥ねえが好きで。遥ねえはお兄ちゃんが好き。 その間に、わたしが入る隙は、微塵もなかった。 ある日、遥ねえのお見舞いに行った時。 「ねえ、私林檎と二人っきりで話したいことがあるんだけど、いいかしら」 突然の遥ねえの言葉に不思議がる両親とお兄ちゃんを上手く丸めこめ、病室にはわたしと遥ねえの二人きりになった。 突然のことに訳も分からず、更にはその時点では嫌いだなと思っていた遥ねえと二人きりになってオドオドしていたわたしに、遥ねえは笑いかけてきた。 遥ねえの笑顔を、たくさんの人がまるで女神のようだと称していたけれど、わたしは相変わらずその笑顔がとても怖く寧ろ悪魔のそれに思えてならなかった。 「林檎は私のことが怖いのね」 そう言って遥ねえは、クスクスと口に手を当てた。 真っ白な部屋に、遥ねえの黒く艶やかな髪が映えて、まるでTVでみたお化けみたいだ、と思った。 「ねえ、林檎は彼方のことが好き?」 彼方。遥ねえはお兄ちゃんのことをそう呼んでいた。 けれど、わたしにとってお兄ちゃんはお兄ちゃんだったから、その彼方がお兄ちゃんのことを指すと気づくのに少し遅れた。 好き?わたしが、お兄ちゃんを? 考えて、わたしは、こくりと頷いた。当時のわたしにとって一番好きな人は、間違いなくお兄ちゃんだった。 遥ねえは、またクスクスと笑う。 「そう、でも残念ね。彼方が好きなのは、私なの」 その言葉にわたしはむっとして、 「りんごのことも好きでいてくれるもん」 「でも一番ではない。そうでしょう?」 「……あぅ」 58 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 10 47 ID jegjhLty 否定できなかった。お兄ちゃんが誰を一番好きで大切に思っているかなんて、お兄ちゃんを見ていれば誰だって気づくことだったから。 ねえ、林檎。と遥ねえがわたしの顔を覗き込んだ。 わたしやお兄ちゃんと顔のパーツは似ているけれど、何処か人形めいた顔立ち。 外に出て、日の光を一身に浴びながら目一杯遊んだ経験などないであろう、白く透き通った白磁の肌。 黒い宝石に見据えられたわたしは、その場を逃げだすことも、目を反らすこともできず、その場に固まることしかできなかった。 遥ねえは、一生のほとんどを病気と闘いながら、世間と隔絶された病室で生きてきたせいか、わたしはもちろん、双子で同じ年である兄さんと比べても随分大人っぽい人だった。 若くして死と向き合い続けた遥ねえは、他の誰よりも達観し、そして聡明だった。 「彼方の一番に、なりたくはないかしら?」 「お兄ちゃんの、一番」 鸚鵡返しに呟く。今思えば、この時わたしは遥ねえの空気に飲まれ、半ば催眠をかけられているような状態だったのかもしれない。 「そう、林檎は彼方が一番好きなのよね、それなら彼方の一番も林檎になったら、とても素敵な事だと思わない?」 「お兄ちゃんの、一番……なりたい」 「ふふ、そうよね、なりたいわよね。それじゃあ、これから私が林檎を手伝ってあげる。だから林檎は私の言うことをよぉく、聞くのよ。いい?」 ぼんやりと、霞がかったような頭で特に深く考えることもなく素直に肯いたわたしに、遥ねえは満足げに嗤い。 「じゃあ、私と約束しましょう?ほら、林檎も小指を出して」 「うん」 そして、わたしは遥ねえと約束を交わした。 その約束こそが、わたしの人生を大きく変える契約の原初だった。 その契約の日から、遥ねえとわたしは度たび二人きりで話し合った。お兄ちゃんはそのことが不満だったようで少しだけわたしに冷たくなってしまった。 「そう彼方と喧嘩したの。でもね、林檎。彼方は決して貴女のことを嫌っていないわ。寧ろ貴女のことを凄く大切に思っている」 「そんなの、うそだもん。りんご、お兄ちゃんに嫌いだって言われたもん」 「彼方は少し恥ずかしがり屋さんなの、今日だって私に林檎のことで悩んでることを私に相談してきたのよ」 「……何て?」 「林檎と仲直りしたいけど、どうしたらいいかなって。ね、彼方は林檎のこと嫌ってなんかいないわ」 「……」 「林檎は彼方のこと嫌い?彼方の一番にならなくてもういいの?それなら、私が彼方を貰っちゃうけどいい?そうなると林檎は一人ぼっちになっちゃうわね」 「……いや」 「そうよね、林檎は彼方のこと大好きだものね」 当時のわたしのお兄ちゃんへの想いは恋愛感情ではなく、家族に対する親愛感情だった。 遥ねえは二人きりの会話の中で、幼いわたしに舌先三寸でその感情を恋愛感情だと錯覚させすり替えていった。 そんなお兄ちゃんをわたしに意識させるような会話が1年近く続けられ、元々頭がよくなく、人に流されやすいわたしは、物の見事にお兄ちゃんを男として愛するようになってしまった。 その頃には遥ねえの病状も、もう明日を生きれるかどうかと云うところの一歩手前まで来ていた。 そのことを、遥ねえは一番知っていたのだろう。 遥ねえは、最後の仕上げに取り掛かった。 舞台は、夏、遥ねえの最後の仮退院。 照りつける太陽、蝉しぐれ、そして、畳の上に転がった二人の汗のにおい。 59 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 12 38 ID lfgsXOlZ 遥ねえの仮退院の日、私たちは山間にある祖父母の家に遊びに来ていた。 その日のわたしは、遥ねえに珍しく遊んでもらい、遥ねえの子守唄でうとうとと眠りこけていた。 誰かの声と何かが倒れるような大きな音がして、わたしは目を覚ました。 蝉しぐれに交じり、ひそめたような声が聞こえてきた。 声は、隣の部屋から聞こえた。 お兄ちゃんと遥ねえの声。 気になったわたしはその部屋へ行き、襖の前で耳をそばだてた。 「ね、姉さん、痛いよ。それに大きな音を立てて誰かが来たらどうするのさ」 「ふふ、彼方が余りにも可愛いものだから襲っちゃったわ。でも大丈夫よ、今家にはだれもいない、だって両親は林檎を連れて買い物、 祖父母は今夜私に美味しいものを食べさせるため畑仕事、私は昼間はしゃぎ過ぎて体調を崩し、仕方なくお留守番。彼方はそんなわたしの看病、そうでしょう?」 「う、うん、そうだけど……姉さん、体調は大丈夫なの?」 「只の仮病だから、大丈夫。それに、彼方とこうしていれば直ぐに元気になれるもの」 「……本当?」 「ええ、病気にも負けないくらい元気になれるわ。だから、ほら、彼方、私をもっと気持ちよくさせて?それと二人っきりと時は遥と呼んでって言ったでしょ?」 「……うん、は、遥」 ちゅぱ、ちゅぱと音。 わたしは、何となく、部屋の襖を、そっと開けた。 畳の上で、お兄ちゃんは下半身だけ、遥ねえはワンピースをはだけて下着を着けていない格好でお互いの唇を合っていた。 「彼方、舌を出して」 「うん……ん」 遥ねえの言葉に従ったお兄ちゃんの舌を、遥ねえが自分のソレと絡めた。 「ん、じゅ……ぢゅ、ぢゅ……ちゅ、ず、ぢゅじゅっ!……あふぅ、はぁ…ん、こく、んん……ふふ、彼方の涎、美味しい」 「ん、んむ……ぢゅ、遥……」 ディープキス。 今でこそ、それくらいで赤面することもなくなったが、当時のわたしにはそれはまるで異世界で起きていることのようだった。 お兄ちゃんと遥ねえは、精々数時間くらいしか年も離れていないのに、普段から遥ねえはお兄ちゃんに対してもお姉ちゃん風を字吹かせていた。 でも、目の前の二人はいつもの姉弟という枠を超えて、まるで主従関係にすら見えた。 「はぁ、はぁ、……彼方、いつものように、私が気持ちよくさせてあげる」 遥ねえの病的なまでに白い肌が、赤く火照っていてまるで本当の人間みたいだとぼんやりとそんなことを考えた。 遥ねえは、体をうつ伏せに横たえ、畳の上に座り込んだお兄ちゃんの股の間に潜り込んだ。 お兄ちゃんの股間を細く白い骨ばった指で、愛しげに撫でた。その表情が、少し辛そうに見えたのは錯覚だろうか。 お兄ちゃんの股間は以前一緒にお風呂に入った時に見たものより、大きく長く、進化していた。 遥ねえがお兄ちゃんのモノにふぅーと息を吹きかけると、股間がビクンと反応した。 「は、遥っ」 「……どうしたの彼方?」 ふぅー。ビクン。 「お、俺っ」 「なぁに、どうしてほしいのかしら、彼方?」 ふぅーと三度の吐息。遥ねえは嗜虐的な笑みで、お兄ちゃんを見上げた。 お兄ちゃんは、羞恥に顔を染めながらも、幼いからこそ抗う術もなく欲望に身を委ね、 「舐めて、気持ちよくして、ほしい」 「よくできました。ご褒美をあげなくちゃね」 遥ねえは対照的に喜色に頬を緩め、お兄ちゃんのモノをペロンとアイスキャンデーにするように舐めはじめた。 「はあ、ん、れろ……」 遥ねえの赤い舌が貪欲にお兄ちゃんに絡みついた。 「れろ、ちゅ……ちゅぷ……ちろちろ、ちゅぶ……」 当時は行為の意味すら理解できていなかったけれど。 遥ねえの舌使いはたどたどしさを残した遥ねえの舌使いが、決して初めてのそれではなく、ある程度慣れていたモノであることが今ならば分かる。 「ちゅ……れむ……ん、んー……ちゅる、んんっ……ちゅぷっ」 美味しそうにお兄ちゃんのモノを舐める遥ねえ。 お兄ちゃんは目を知事手快感に耐えていた。 「んん、んー……ちゅぱ……ちゅ、ちゅ、ちゅっ……はあっ、ねえ、彼方。舐めるだけ、いいの?」 「あ……と……」 「ん?なぁに?」 遥ねぇはお兄ちゃんを見上げながら、れろ、と舌舐めずり。お兄ちゃんは俯いて、声を絞り出す。 60 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 13 45 ID lfgsXOlZ 「く、くわえて……ほしい」 「もちろんいいわよ、彼方にならお姉ちゃん、何だってしてあげるわ」 遥ねえが、再びお兄ちゃんのモノを一度舐めあげて、口の中に咥えた。 「あーん、ん……んぐ、ん!……んむ、ちゅぱっ……ふふ、美味しいわ彼方」 言葉通り、遥ねえは本当においしそうにお兄ちゃんのモノを咥えていた。 遥ねえの顔は、まるで至高の料理を食べているかのようだった。 遥ねえは、お兄ちゃんのモノにキスをひとつ落とし、再び食む。 そして、そのまま、お兄ちゃんのモノを唇でゆっくりと扱きながら吸い始めた。 「あむ、ちゅう……ちゅぷ、んふっ、じゅるる……」 「あ、遥、気持ち、いいよぅ」 「んふふ、うれひい」 「あぅっ、く、くわえたまま……喋らないで」 「んふ、ちゅっ、んちゅぅぅっ……んっ、んぶっ、じゅるるるっ!」 遥ねえの動きがだんだんと激しくなっていき、音もそれに比例して大きく、妖艶になっていく。 遥ねえが口から肉棒を引き抜くたびに、遥ねえの唾液が零れ、夏の日差しにてらてらと輝く。 「じゅるる、じゅぷっ、んむむ……ぢゅるるー、れりゅ、ちゅぱ、ぢゅぢゅじゅるるるっ!!」 「ん、は、遥……で、でそうだよ、もう……」 その時、遥ねえが口を離し体を起こした。 お兄ちゃんが、物足りない不満そうな顔で、 「え、な、なん……で?」 「んふふ、だって射精しちゃったら終わりでしょ。今日は、これで終わりじゃないの」 「え?終わりじゃないって?」 がばっと遥ねえがお兄ちゃんにしなだれかかるように抱きついた。 お兄ちゃんの耳元で、囁く。 「ねぇ、彼方、お姉ちゃんの初めて貰ってくれるかしら」 「は、初めてって、え、ま、まさか」 「そう、そのまさか。今日はお姉ちゃんの処女を彼方が突き破るの」 「そ、んな……女の人の初めてってそんなに簡単に誰かにあげちゃいけない、って」 「あら、お姉ちゃんの初めてを彼方にあげないで、誰にあげろというの?彼方は誰か知らない人にお姉ちゃんとられてもいいの?」 「よくない!……よくない、けど、でも……」 お兄ちゃんが言葉を濁し、俯いた。 「でも?」 「俺たち、姉弟、だから……」 お兄ちゃんが辛そうに呟いた。 遥ねえはそんなお兄ちゃんを愛しそうに見つめ、慈愛の笑みを浮かべた。 そ、とお兄ちゃんの頭をやさしく撫で始めた。 その表情を見てわたしは、ようやく他の人たちみたいに遥ねえを女神のようだ、と思った。 お兄ちゃんは、女神に愛されているんだ。 「彼方、私はね、もう長くは生きられないわ」 「っ!……そんなことない!」 「ううん、そんなことあるの。見て、私の体、やせ細って、骨が浮き出てまるで骸骨みたい」 「そんなことないよ、遥は、姉さんは、綺麗だよ。だから僕は、姉さんが、ずっと一番、大好きなんだ」 お兄ちゃんの拙い言葉。それでも遥ねえは本当にうれしそうな顔をする。 でも、その表情はすぐに曇り、諦めへと。 「多分、この仮退院が最後になるわ。これが終われば、あとはもう、狭く白い匣の中でただ終わりを待つだけ。そしてその終わりは、もう間近まで迫ってる」 「なんで、何でそんなこと言うの?姉さんは俺と一緒にいれば、元気になれるって、病気にも負けないんだってそう言ったじゃないか!」 「そうね、彼方とそばにいて、彼方とこうして愛し合って私は元気を貰った。それは、本当よ、嘘じゃない。だからこそ私はここまで頑張れた。頑張って何とか初潮を迎えることができた」 確かに、この日の1月前くらいにお赤飯を食べた記憶があった。 その時のわたしには、お赤飯の豆が嫌いで何で普通のご飯じゃないの、と駄々をこねたはずだった。 「私はね、彼方。この日のために今まで生きてきたの。文字通り血反吐を吐きながら、みっともなく生にしがみついて」 遥ねえが、ぎゅっと強くお兄ちゃんを抱きしめた。 お兄ちゃんは、既に大粒の涙をこぼし、遥ねえの言葉はきっと正確に届いていなかっただろう。 それでも遥ねえは言葉を紡ぎ続けた。 「彼方、私に、お姉ちゃんに最後の思い出を頂戴?思い出と、彼方と私の愛の結晶をその身に宿して私はようやく生から解放されるの」 「やだよ、ねえさん、しんじゃ、やだよ」 「ごめんね、彼方。私の命はきっとあと1カ月もたせるので精いっぱい。今だって痛くて、苦しくて、もう、終わりにしたくて。でも、まだ死ねないから。だから私は耐え続けてる」 ねえ、彼方。 抱擁を解くと、遥ねえがお兄ちゃんの顔を両手で挟み、語りかけた。 61 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 14 33 ID lfgsXOlZ 「ねえ、彼方、お姉ちゃんに愛を頂戴?世界に愛されなかった私をせめて彼方は愛してちょうだい。そして彼方の愛で、私の生を赦して……」 「ねえさん、おれ、愛とか死とかまだわかんない、わかんないよ」 「うん、それでいいの、彼方はまだそれでいい。今はただ、ひたすらに私を求めて」 そ、と遥ねえがお兄ちゃんを押して畳の上に倒した。 遥ねえがその上にまたがった。 そして、瞳をうるうるさせてお兄ちゃんの上からキスを降ろす。 お兄ちゃんのモノをつかみ、萎んでしまったソレを再び硬くさせるために、扱きはじめた。 「そこで、見てて」 挿入できるくらいに十分大きく硬くさせると、遥ねえは唐突に呟いた。お兄ちゃんの視線に小さく首を振った。 「彼方、ごめんね、お姉ちゃんを許してね」 そう言って、また、キスをひとつ。啄ばむように。 そして、遥ねえはそっと、お兄ちゃんのモノをつかみ、ゆっくりと腰をおろし始めた。 「んっ……あああぁっ!、くぅっ!……」 遥ねえが苦しそうに、呻く。 無理もない、遥ねえの年ではまだ早すぎたのだ。 姉さん、と心配そうな声でお兄ちゃん。大丈夫だから、と遥ねえは気丈に応えた。 「う、くっ……あぅああっ!」 「あ、あぅぅぅ、いたっ!」 今度はお兄ちゃんも苦しそうな声を出した。 遥ねえがまだそういう行為のために体が成熟していないのなら、それはお兄ちゃんも同様のことだった。 幼い二人が痛みに呻きながら、体を重ねる。 残酷な時に追い立てられ、どうしようもなくなった二人が、未成熟な体で愛を確かめ合っていた。 そこに、官能などは存在しない。 「だいじょうっぶ、彼方?……ほら、力を、抜いて」 「う、んっ、でも、姉さん、血が出てる」 「いいの、この血は私が一生の内に流した血の中で最も愛しい物なのだから」 遥ねえは最奥まで何とかお兄ちゃんを飲み込み、そこで動きを止めた。 ああ、と遥ねえが感嘆の息を吐き、祈るように中空を仰いだ。 そこには天井しかなかったが、遥ねえの目にはきっと、何か尊いものが映っていた。 ありがとう、と小さく遥ねえが呟き、そ、とお兄ちゃんの唇に触れるだけのキス。 「動くわね」 遥ねえはそう宣言すると、一度腰を少し浮かせて、またゆっくりと沈めていった。 その繰り返し。 「あ、ん……っふ……ふぅっ!」 「あ、あぅ……あ、あああっ!」 「ん、くぅ……あふ、あうぅ……ふ、ふふ、彼方気持ちいいのね」 嬉しそうな、遥ねえの声。けれどその目には、苦痛がもたらす涙が溢れていた。 幾度目かの抽迭を経て遥ねえの声はまだ苦しみが強かったけれど、お兄ちゃんの声は快感を感じることができるようになっていた。 それは、お兄ちゃんの体が慣れたからじゃなくて、きっと、遥ねえがお兄ちゃんのために痛みに締め付け過ぎないように微妙な力加減を維持していたからだろう。 献身的な遥ねえの愛情に、今のお兄ちゃんは気づいているだろうけど、当時のお兄ちゃんには分かるはずもない。 だから、遥ねえの苦痛を犠牲にした快感を感じていた自分をお兄ちゃんは今も恨んでいる。 62 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 15 09 ID lfgsXOlZ 「んくっ……あぁぁ、あぅ、……かなた、彼方」 「ん、ああ、ああぁぁ……ね、えさん」 遥ねえが、お兄ちゃんの名前を呼んでお兄ちゃんの唇を貪った。 「んふーっ、ちゅ……んんっ、ちゅるるっ!」 「んくっ!んうううぅぅ!」 幼い二人の情事。大人になれない遥ねえと、お兄ちゃんの精一杯の背伸び。 それは、とても拙く、どうしようもなく幼くて、見る人によってはきっと滑稽にすら見えたかもしれない。 刹那の生にあがき、ひたすらにお互いを求めあっていた二人の情事はきっと人と云うよりも動物のソレ。 けれど、理性をかなぐり捨て、苦痛を超えて、本能でお互いを貪る二人の姿は、きっと何よりも美しい。 事実、当時の何も知らない、ネンネなわたしでさえも、二人から視線を反らすこともできず、瞬きすら忘れて二人の姿に釘づけになっていた。 ただ、純粋に、羨ましい、とすら思った。お兄ちゃんを迎えるのが遥ねえでなく、りんごだったらと、心の中で呟くわたしがいた。 「ちゅぶっ、れろ……んむー、じゅぢゅじゅっ!」 キスを続けながら、遥ねえが抽迭を続けていた。 上下だけでなく、左右にも腰をひねりくねらせながら、そして大きく円を描くように振りながら、たどたどしい腰つきで。 「んく、くぅ!……ひっ、あぅ……いっぅ……かなた、かなたぁ」 愛おしげに遥ねえは啼く。 遥ねえの目にはお兄ちゃんだけ、そして、お兄ちゃんの目には遥ねえだけ。 その瞬間だけは、世界に二人だけしか存在していなかった。 「うれ、しいよ……んっ、彼方……ひぅ、私、生きていて、良かったよぉ……ひゅ、んぅぅ!」 遥ねえがとうとう大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。 わたしが、初めて見た遥ねえの涙。幼いながらもわたしは、美しいな、と素直に感じていた。 そ、と遥ねえがお兄ちゃんの手をとって自分の胸にあてさせた。 「ごめん、ね……んっ、本当は大きくて柔らかい胸をもませてあげたかったけど、無理だったね」 「そ、そんなの、関係ないよ。遥の胸暖かくて、柔らかい。それに、トクトクって確かに生きてるよ」 「そう、ね、確かに、私は生きてるわね。ええ、そう、そう」 お兄ちゃんが、愛おしげに遥ねえの胸を揉みつつ、時折淡いピンク色の乳首を転がす。 「あ、あんっ……んぅぅ、あんっ」 気のせいか、しだいに遥ねえの声も苦痛以外のものに色づき始めていた。 「あ、っくぅ、あんぅ……んんんっ!あはぁっ!」 「は、るか、俺、俺、もう……」 「あぁぁぁ!いい、のっ、我慢しないの。んううぅっ、あ、私の中で、気持ちよくなってっ!私の中に、あんっ、全部射精してっ!」 「で、でる、遥、あうぅぅぅ!で、でるよっ!」 「きて、きて彼方、私の、一番奥まで、私が、そして彼方がお互いを忘れないようにっ、ぶちまけってっ!……あはあぁぁぁぁっ!」 瞬間。 二人の体がびくびくっと小刻みに震え、ぺたんと遥ねえがお兄ちゃんの胸に倒れこんだ。 「あっ、あぐぅぅっ!……あっ…………あはぁ…」 「うっ、あっ!…あ…………あぁぁ」 二人の荒い呼吸音が、部屋に満ちた。 思い出したかのように、蝉時雨が降り注ぎ始めた。 暫くして遥ねえが、そっと自分の膣で包み込んだお兄ちゃんを引き抜いた。 どろり、と血と精液がまじりあったものが溢れだした。 遥ねえは、それをひと掬い、まるで自分の愛し子を見つめる母親のような表情で口に含んだ。 そして、襖を、いや、襖の向こうで立ち尽くすわたしをしっかりと見据えた。 にぃ、と遥ねえが嗤った。女神の笑顔が、悪魔のそれへと変貌した。 そして、余韻に浸りぐったりとしたお兄ちゃんを抱き起し、見せつけるように、強く抱きついた。 その目に宿るのはきっと、満足感と執念、そして諦観。 63 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00 16 13 ID lfgsXOlZ 「どうして、あんなことしたの?」 あの情事のすぐ翌日、遥ねえは倒れ、一週間ほど面会謝絶の日が続いた。 お兄ちゃんは、その事を自分のせいだと思い込み、遥ねえの容体がひとまず落ち着くまでの間の落ち着きようと言ったら、それはもうひどいものだった。 そのせいで一週間近くお兄ちゃんとまともに会話すらできなかったわたしは、一人でこっそり病院へと行き、遥ねえに詰め寄った。 遥ねえは、わたしが顔出してからずっと笑みを浮かべたまま、わたしのその言葉を待っているようだった。わたしの剣幕に遥ねえは、笑みを崩さず、ただ、ごめんねと呟いた。 「遥ねえ……?」 わたしは遥ねえの様子に違和感を抱いた。何かが、違う。遥ねえは元々覇気やら、元気やらとは無縁の人だったけれど、今の遥ねえからは生気すら薄くしか感じられなかった。 そう、まるで、この世の未練を断ち切り、あとは、ただ、終わりを待つ抜け殻のようですらあった。 ふふ。弱弱しい声。 「私はね、林檎。産まれてこの方、死を運命づけられた事を恨んだことはなかったわ。寧ろ、私じゃなく彼方が病に臥せっていたらと思うと神様に感謝したいくらい」 遥ねえの言葉は、わたしの詰問の答えではなかった。戸惑うわたしを無視して遥ねえは言葉を続けた。 「愛する人より早く死ねるというのは、きっと、幸せな事。私はきっと彼方の死になんて耐えられないから」 でも、と遥ねえの声に、唐突に怨嗟が満ちた。 「でも、それでも不安はあった。私が死んだあと彼方の隣に私以外のメス犬が立つのかって思うと私の心は乱れた。彼方が笑っていて、その笑顔は私に向けられていなくて、 その笑顔をメス犬から奪うことも、メス犬を駆除することもできないなんて」 そう考えると、悔しくて悔しくて。 声がまた萎み、遥ねえは俯いた。今思うと、その時の遥ねえの状態は情緒不安定だったのだろう。死をもう目に見えるまで直前にして、遥ねえは怖くなったのかもしれなかった。 「その思いに至った時から、私は死を怖がりながら生きなくてはいけなくなった。避けられない死に怯えて、遺されたわずかな時を生きるなんて、考えるだけでもゾッとしたわ」 遥ねえが両腕で自分を抱きしめ、ぶるると震えた。その腕を見てわたしは、遥ねえの腕ってこんなに細かったっけ、と思った。 遥ねえの髪は潤いをなくし、肌の白さも美しいというよりは不気味ですらあった。 お兄ちゃんとの情事の時の遥ねえと比べて、1週間という短い日々の内に人はこうも老いるものなのか、と感じた。 そこでわたしは漸く違和感の正体に気付いた。遥ねえは老成をひと足に飛び越え、枯れていた。 「そんな、辛酸をなめるような日々を過ごしているうちに私は、ある考えに思い至ったわ。林檎を私の代わりにすればいいと。性質は違うけれど林檎は年々私に似ていっていたし、 私と同じ血を流す唯一の存在。彼方のそばに寄り添うのがそんな林檎なら、私の心も幾分落ち着けたわ。でもそのためには林檎に彼方を好きになってもらう必要があったわ」 遥ねえの話にそうか、と納得した。だからこそ遥ねえは、いつもお見舞いのあとの二人きりの会話の中で妙にお兄ちゃんを意識させるような話をわたしにしていたのだ。 わたしのお兄ちゃんを好きな気持ちは、遥ねえの画策によってもたらされたものだった。 「もう彼方のことをどうしようもなく愛してしまっている貴方に、今更、倫理感なんかで想いを諦めることはできないわ。林檎に残された道は、近親相姦の道か、 彼方に捨てられて打ちひしがれるか、それしかない」 遥ねえの骨ばった指がわたしの手をつかんだ。その力は予想以上に弱く、儚かった。 「ああ、哀れな林檎。愚かな姉のせいで、何も知らず無理やり壇上に上げられて、数多の矢の標的にさせられる。林檎が歩む道はきっと、真っ当な道ではあり得ない」 遥ねえの生気のない目から、ほろりと涙がこぼれた。 「林檎、彼方のことをよろしく頼むわ。安心して、彼方はきっと林檎を一番大切に思ってくれる。そのための準備は、ちゃんとしておいたから」 そう言って、遥ねえは許しを請うようにわたしの手を、そっと自らの額にあてた。わたしは何処か遠いところでその様子を眺めていた。 それから、数日後。林檎ねえは静かに引き取った。最後まで自分のお腹を愛しそうに撫でながら。そしてその直ぐ後のことだった。 両親が、交通事故で二人ともこの世を去ったのは。不幸中の幸いか、わたしは遥ねえの死に更にふさぎ込んだお兄ちゃんが心配で、家に残っていた。 そうして、わたしたちは二人きりになった。これが遥ねえの言っていた準備なのかとも思った。それを確かめる術なんて、もうなかったけれど。
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134 ウイリアム・テル4―下 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/26(土) 20 39 50 ID cTBZGXYR 両親の通夜が行われた夜。祖父母が身元を引き取ってわたしたちは田舎で暮らす、と云う話が上がった。 もとより、親戚はほとんど居なかったし、立て続けに家族を亡くし、わたしはともかく、お兄ちゃんの精神状況はもう、ぼろぼろだった。 お兄ちゃんはずっと自分の部屋に引きこもり、わたしも、お兄ちゃんのそばから片時も離れようとしない。 そんな哀れな二人の兄妹の姿は、赤の他人の涙を誘うものだったようだ。 そこで兄妹の傷心を癒すためにも田舎の祖父母の家で暮らすのは大人たちにとっても悪くない話だった。 けれど、その案はお兄ちゃんの取り乱しぶりにあえなく廃案となった。 無理もなかね、と祖母は涙をこらえながら言った。 祖父母の家と言えば、遥ねえとの最後の思い出の場所だったから。 遥ねえにべったりだった兄さんがその場所を嫌がるのも、確かにおかしくはない。 だけど、それだけじゃない。もちろんそれもあるけれど、一番はきっとお兄ちゃんの罪の意識だった。 遥ねえは、お兄ちゃんとの情事のあとに目に見えて衰弱していった。 因果関係が本当にあるかどうかはともかく、お兄ちゃんはその事を責め続け、自分が遥ねえを殺したとさえ思っていた。 その情事の場所がまさしく祖父母の家だったのだ。お兄ちゃんがそんな、罪の本源に迫る場所で平穏に過ごせるはずがなかった。 まさか、と思った。 まさか遥ねえは、その事まで考えて祖父母の家でお兄ちゃんとまぐわいを行ったのだろうか。 まさか、ね。 けれど、いくらなんでもそれはないと、きっぱりと否定できないのも事実だった。 そこで祖父母は、次善の策として、田舎の家を売ってこちらに引越してこようとした。 わたしは焦った。せっかく遥ねえが、遺してくれたお兄ちゃんと二人きりになれる機会をみすみす捨てるわけにはいかなかった。 ない頭で一晩中考えて、それでもいい案を考えることができなかったわたしは、結局遥ねえの真似をすることにした。 まだ喪のあけない、葬式の夜。わたしは、お兄ちゃんを、襲うことにした。 お兄ちゃんを襲う計画において邪魔な存在である祖父母には今夜だけお兄ちゃんと二人きりで両親との最後の一夜を過ごしたいと、お願いした。 最初は渋っていた祖父母だったけれど、わたしの熱意にほだされたお隣さんが、祖父母を説得してくれて、祖父母はそのお隣さんの家に一泊することとなった。 普段は余り語彙のないわたしが、その時だけ妙に賢く見えたこともお隣さんの涙腺に引っ掛かったのかもしれない。 お兄ちゃんは、相変わらず自分の部屋に閉じこもっていた。 わたしは、虚ろに中空を眺めるお兄ちゃんを、ベッドに押し倒し、キスをした。 あの日遥ねえが、やっていたことを思い出しながら見様見真似でお兄ちゃんの唇を蹂躙した。 「んん、……んふー、ぴちゃ…………れろ」 「んぐ!……んむむ、むむー!……ぷはっ!……ああ、姉さん」 とろんと虚ろな目でわたしを見据え、しかしお兄ちゃんの声はわたしの名前を呼ばなかった。 途端溢れ、堰を切りそうになった涙をぬぐい、拙いキス。 「ちゅっ……あむ、んんっ……」 「んん、姉さん……ん、ちゅ、れろ……ぴちゃ」 お兄ちゃんが自ら舌を絡めてきた。未経験のわたしから難なく主導権を奪った。 「ちゅる……ちゅ、れるる……お兄ちゃん」 「ん、ちゅ、じゅ……姉さん」 なんて滑稽なのだろうか。それでも、やめたくない、と思った。 「姉さん、どうしたの?いつもより下手だね?」 くすり、とお兄ちゃんが笑った。 ああ、お兄ちゃんの笑顔を見たのは、一体いつ以来だろうか。 「今日は、お兄ちゃんが、りんごをリードして?」 「はは、姉さんは甘えん坊で変態さんだね。じゃあ、まずは、俺のを気持ち良くしてくれよ」 りんご、と態と自分の名前を呼んでみても、お兄ちゃんの目の前にいるのは遥ねえだった。 はは、と嘲笑。いったい誰に対するものかはわたし自身にも分からない。 ベッドに座ったお兄ちゃんの前、床に跪いて、ズボンのチャックを下ろしパンツの隙間から、お兄ちゃんのモノを引き出した。 135 ウイリアム・テル4―下 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/26(土) 20 40 24 ID cTBZGXYR 既に屹立した肉棒を見るのはこれで2回目。 けれどこんなに近くで見るのは初めてだった。 むん、ときつい匂い。臭いはずなのに、何故かすんすんと、自ら嗅いでしまった。頭がくらくらする。 きゅんと胸がうずいたような感覚。 ――もしかして、わたしって変態なのかも。 そ、と恐る恐る手を伸ばした。 ぴと。生温かくて、何だか変な形。わたしの手が冷たかったせいか、大きく一度びくりと跳ねた 「わっ!」 驚いた。けれどお兄ちゃんの体の一部だと思うと、それさえも愛しく思えて。 思わず頬ずりしてしまった。 お兄ちゃんに触れるのは随分久しぶりな気がした。わたしの心が満たされていく。 「ちゅっ、ちゅ」 キスの雨を降らせた。そういえば。 お兄ちゃんへのさっきのキスが、わたしのファーストキスだった。 官能にぞくり、と肌が粟立った。 「ちゅっ、れろ……れる、んむ……ぴちゃ、ちゅる」 竿の部分を丹念に舐めていく。遥ねえも確かこうしていた。 う、とお兄ちゃんの気持ちよさそうな声。 よかった、間違っていないみたい。 遥ねえじゃなくても、わたしにだってお兄ちゃんを気持ち良くすることができるんだ! 調子に乗って、ペニスを口に含んだ。 「あむ……んむ、ちゅる…じゅ、えろ、れる……ぐぷ、ちゅぱ、じゅ…じゅ」 噛まないように、慎重に肉棒を口でしごいていく。 「んぶ……ちゅる、ちゅる…ちゅぱ……じゅ、じゅ………れろ……ちゅっ、んふ……」 「くっ……姉さんっ!」 ゆっくりとした動きにお兄ちゃんはもどかしそうな声をあげながら、わたしの頭をぐっと抑え込んだ。 「んんっっ!!……ごぶ、んぐぐ……ぐぽっ、ちゅるっ!」 お兄ちゃんがわたしの喉の奥まで侵入して、暴れまわった。 わたしは噎せ返りそうになりながらも、懸命に舌をペニスに絡ませた。 「んふーっ!じゅ…じゅるるるっ!ちゅー、れろ……ちゅぶぶっ」 吸い込むような動作も加えてみるとお兄ちゃんの気持ちよさそうな反応。 初めてでここまでお兄ちゃんを気持ちよくできるわたしは、きっと天才なんだ、と心中で呟いた。 勉強の才能はなかったけれど、その代わりにお兄ちゃんを悦ばせることができる才能を授かったのだとしたら、寧ろ神様にありがとうと言いたい気分だった。 しかし、今ではこの時のわたしのフェラの技術は然程上手かったわけでもないと云う事を知っている。 結局お兄ちゃんは、“遥ねえのフェラ”だから快感を感じていたのだろう。 「ごほっ!ん、ん、ぐ……じゅぽっ…んふっっ………ぐぼっ!」 ディープフロート。 こみ上げる吐き気と戦いながら、夢中で続けていると。 「あっ!姉さん、で、射精る!」 「む?……ぐぼっっ!!!」 頭を抑えているお兄ちゃんの手の力が強くなった。 「は、遥っ!!」 遥ねえの名前を叫ぶお兄ちゃん。 と、同時にお兄ちゃんのモノから、精液が飛び出しわたしの喉を叩いた。 「んっ、んんむぅぅっ!?」 射精の勢いにさすがに嘔吐感を我慢できず、反射的に精液を吐きだしそうとしたけれど、 お兄ちゃんの手がわたしの頭を相変わらずがっちりと抑えていて許してくれなかった。 「うぅぅっ!……はぁ、はぁ………ふぅ」 射精し終わったお兄ちゃんが、満足して漸くわたしを解放した。 137 ウイリアム・テル4―下 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/26(土) 20 41 14 ID cTBZGXYR 「ご、ごほっ、ごほっ、ごほっ!ぐうぅぅ………はっ、はあっ!はっ、はぁ、はぁ、はぁ」 口に手を当てる暇もなく、こみ上げた嘔吐感のまま床に吐きだした。 しかし、床に落ちたもののほとんどがわたしの唾液で、精液はお兄ちゃんが出した量に比べ少なかった。 殆どを、わたしは飲み込んでしまっていた。 ぽた、ぽたっ、と涙も床に落ちた。 それがわたしの涙だと気づくのに、数秒かかった。哀しくないのに涙も出るんだな、と他人事のように涙の跡を眺めた。 わたしの心の中を占めていたのは、お兄ちゃんをイかせたことへの満足感だった。 わたしは、満ち足りていた。 「ふっ、ふぅぅぅ……」 息を整えながら、暫し充足感へ浸る。 この時すでに、わたしはお兄ちゃんを襲った本来の目的を忘れていた。 もう、今日は、この満ち足りた気持ちのままお兄ちゃんと二人で眠りたい、と思った。 ぼんやりと霞がかかった頭。 床に押し倒された衝撃で、はっと我に返った。 「遥、俺、まだ満足できないよ」 お兄ちゃんが、わたしの体に馬乗りになって、見下ろしていた。 お兄ちゃんの虚ろな目。 それは、わたしを通り抜け何処か遠いところへ向けられて、その瞳の奥に狂気の光を見た。 お兄ちゃんの手が乱暴にわたしの衣服をはぎ取った。 膨らみのほとんどなく、ブラの必要もない硬い胸が露出した。お兄ちゃんが乱雑にその胸をこねくり回し始めた。 更に、もう片方の手で、わたしのパジャマのズボンと下着を同時に下ろして、ぴったりと閉じた秘蕾を無造作に触った。 唐突、ぐ、異物の侵入する感覚。 メリメリと張りついた膣内を剥がしながらお兄ちゃんの指が奥へと進み、処女膜の一歩手前ギリギリで止まった。 「あれ、遥、濡れていないんだね。死にかけの体でセックスしてよがるくらい変態さんなのに」 お兄ちゃんの諧謔に満ちた声。 ひ、とわたしは短い悲鳴を上げていた。その時わたしは、初めてお兄ちゃんを怖いと思った。 発育過程の胸を乱雑に扱われることによる痛みと、膣内を縦横無尽に踊る指がもたらす痛み。 「いたい、いたいよ、おにいちゃん!」 「はは、まだ濡れがあまいけど、もういいよね。変態の遥ならまたあの時みたいにすぐ気持ちよくなっちゃうよね」 わたしの声は届かない。遥、とお兄ちゃんは笑いながら、 「ねえ、なんであの時遥は俺に自分を犯させたの?なんで、俺に自分を殺させたの?」 ねえ、なんで? お兄ちゃんの声が震えた。 遥ねえじゃないわたしはその問いかけの答えを持っているはずもない。 ある程度の予想はつくけれど、死の恐怖や、別れを目前とした遥ねえの気持ちを体験したことのないわたしが、軽々しく口にできる言葉ではなかった。 それは、遥ねえがお兄ちゃんに打ち込んだ呪いにも似た楔だった。 お兄ちゃんが遥ねえを片時も忘れることがないように打ち付けた、歪んだ愛の楔。 ああ、お兄ちゃんは何て―― 「あ、あああああぁぁっ!」 不意に、思考を空前絶後の痛みがぶった切った。 お兄ちゃんが、申し訳程度にしか湿っていない膣に肉棒を無理やりねじ込んでいた。 ぷつり、と体の奥で何かが破れた感触。途端こみ上げるのは破瓜の痛み。 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!! はじめてはお兄ちゃんと愛を囁きあいながら、優しく――などという、甘く、幼い幻想がかくも微塵に打ち砕かれた。 お兄ちゃんは一気にわたしの奥にたどり着くと、休む暇も与えず、腰を激しく動かし始めた。 「いっ、がぁっ!ぎっ、いつっ!………づぅぅ!!!」 痛みに、気を失いそうになり、更なる痛みで現に戻る。 なんで、なんで、とお兄ちゃんは繰り返しながら、わたしの膣内を蹂躙した。 獣のソレよりも低俗で、滑稽な性交。それがわたしの初めてだった。 ぽた、ぱたた、とわたしの頬に温かいものが落ちた。 「うぅっ、うっ、なん、でっ!なんでっ、死んじゃったんだよっ、姉さんっ!?俺を、おれを――」 ――ひとりにしないで。 138 ウイリアム・テル4―下 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/26(土) 20 42 05 ID cTBZGXYR お兄ちゃんの涙がとめどなく溢れては、またわたしの頬に落ちた。 わたしはそっと手を伸ばし、そっと拭う。 両手をお兄ちゃんの頬を包むようにあてたまま、今なお続く痛みに顔を歪めながら、何とか不格好に笑顔を作った。 お兄ちゃん。 目の前の愛しく、尊い存在に、優しく呼びかける。 「おにいちゃん、だいじょうぶ、りんごがいるよ」 お兄ちゃんを慰めるいい言葉が、もっとこの世にはたくさん存在するのだろう。 けれど、馬鹿なわたしにはこのくらいの言葉しか思いつかなかった。 胸の中の多くを占める、お兄ちゃんを思う気持ち。お兄ちゃんのためなら、そう、人を殺すことすら厭わないような強い、気持ち。 この気持ちを最大限に伝える言葉が欲しい、と思った。 でも、そんな素晴らしい言葉、いくら頭の中を探しても見つからなくて。 ただ、おにいちゃん、おにいちゃん、とその言葉以外知らないみたいに呼びかけ続けた。 「林、檎……?」 お兄ちゃんの目が、はっきりとわたしを捉えた。 途端、わたしの中に突き刺さった肉棒がひときわ大きく暴れ、わたしの奥に精を放った。 「あ、え?何で林檎が……」 お兄ちゃんは混乱する頭を整理するように呟き視線をさまよわせ、わたしとお兄ちゃんがつながっている部分を見た。 萎んだお兄ちゃんがわたしの膣内から外に出て、栓がなくなったわたしの膣内から、こぽ、と溢れる精液と、わたしの血。 あれだけ痛く、痛みは今も続いているけれど、お兄ちゃんの剛直がわたしから抜けたことを寂しいと思っている自分に、思わず苦笑した。 「あ、あ、俺、俺――っ」 状況をようやっと理解したお兄ちゃんが、頭を抱えて絶望を叫ぼうとしたところで、その口を強引に自らの唇でふさいだ。 たっぷりと時間をおいて、唇を離し、お兄ちゃんに笑いかけた。 今になってわたしは、元々の目的を思い出していた。 「ねえ、お兄ちゃん」 首をかくんと傾げながら、お兄ちゃんに問いかける。 ばちっと、お兄ちゃんとわたしの目があったことを見計らって、 「お兄ちゃんは、りんごの処女を奪っちゃったよね。痛がるりんごも無視して、欲望のままナカダシまでしちゃったね」 子供ができちゃったらどうしようか、なんてお腹をさすってみた。 お兄ちゃんの顔がさあっと青くなった気がした。 「あ、あ、謝ってすむ問題じゃないよな。お、俺はどうしたら……。林檎、俺はお前に何をしたら償える?」 「そんなの、簡単な事だよ」 ふふ、と何となく遥ねえの笑い声を真似ながら、 「お兄ちゃんが責任を取って、これから一生、りんごのこと守ってくれればいいんだよ」 これで、お兄ちゃんを十字架に縫い付ける楔は二つになった。 遥ねえはわたしを哀れだと、嘆いたけれど。 本当に哀れなのは、わたしなんかじゃなくて。 遥ねえとわたし、倫理から外れた歪んだ愛に引きずられるまま、伴に真っ当な人間の道を滑り落ちたお兄ちゃんこそが哀れな人なのだろう。 けれど、その時のわたしの胸を占めていたのはお兄ちゃんを哀れだと、悲しむ気持ちじゃなくて。 これで漸く、遥ねえと同じ位置に、お兄ちゃんの一番になれたんだという、歓喜の気持ちだけだった。 翌日お兄ちゃんは、わたしの頼みどおりに二人でこれから生活していきたいと祖父母を説得してくれた。 彼らは初めはもちろん反対していたが、お兄ちゃんの昨日までの自殺しかねない様子が頭にあったのか、強く反対することができないでいるようだった。 結局、最後は資金面では両親が遺してくれた遺産で賄い、祖父母はわたし達の家の近くに引っ越してくることに決まった。 立て続けに家族を失ったのはわたしやお兄ちゃんだけでなく、祖父母も同じで、彼らは家族の死に臆病になってしまっていた。 なにはともあれ、全てはわたしと遥ねえが望んだままにおちつき、こうして、わたしとお兄ちゃんの二人きりでの生活が始まった。
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【名前】ウイリアム 【令呪】焦焦焦 【属性】秩序・中庸 【体】4:平均よりは劣っている 【知】7:それなりに優れている 【心】4:少しメンタル弱め 【質】7:優秀 【家】5:一般的な魔術家系 【運】3:ツイてない / ,へ、 / \ \ / / `゙ヽ、 _,/ \ `! l / 〉 | l ヽ、 / / ! ! / ヽ / ___ \ r―,、 ! / l` ヽ 、 ` 、 _,/0 ! |,_/ / \ 〉、l | 0` l' 、 `ー―‐' / / l /ヘl  ̄ ̄ ̄ l ヽ、 〈 /`ヽ、 ! l l、 ´ | Y _,、 \ ヽ、)ヽ 〈 / ̄ O 、 `l ヽ! r'ー-o'/ 、 ! l、 ヽ二ニニ= ' / // ` l ! _//!ヽ、 / ̄ ̄` l _ , /´ l `ヽ、ヽ、___/ ̄レ'ヽ、 l_,、- '´ / ! `ヽ、 _/ / ! l / l ,></ / | 〈 / l /!;;;;;;;;;;;;\/ / ! ヽ,_ / ! / ヽ;;;;;;;;;;;;/ \_/ ヽ / `ヽ 【特徴】魔術師・呪術師 【スキル】 ◆【魔の矢】 動物の骨と木で出来た矢。これを二十本所有する。 怯えの概念が付与されており害意を持つ者が接近すると震えだす。 ≪奇襲を無効化する≫ ◆【怯嵐】 魔の矢を使い起こされる嵐。 詠唱とともに魔の矢を射、先に展開されている魔の矢達の怯えを促進させ大気を震えさせ嵐を起こす。 風属性魔術ダメージと魔力依存の地形と同属性の物理ダメージを与える。 これに使用した魔の矢は破壊される。 ≪礼装【魔の矢】を一本破壊することで発動。一ターンのみ戦闘に+補正、霊地により効果は増減する≫ ◆【サバイバル技術】 イヌイットが生きていくうえで身に付ける必要にかられた生きる術。 彼にはその技術だけが受け継がれている。 ≪魔力切れ状態の補正を一回だけ無効化できる≫ 【来歴】 イヌイットの呪術師の家系から派生した魔術師の一族の四代目。 魔術に転向してから呪術師としての力は弱まていくばかりである。 魔術の研究も上手くいっておらず、呪術を戦闘に用意れるのは今代までであろう。 【聖杯への願い】 根源への到達。 【性格】 家系からくる問題等から魔術協会を生き抜くため、世渡り上手な低姿勢の人間。 だが、その胸の内には収まらない苛立ちが存在する。 【AAもしくは容姿】 , -―‐- ..,,_ , ´ `丶、 / \ / ヽ 〃 、_ _,. -‐ 、 ', 〈 } - _ - 丶 l \ノ / | _,,. - , '"´ ̄ } ヽ. / -‐=ニ¨´ / / 〈 へ、 '´\ l -‐く / /'' ', | lj 、〈 丶.ィ´|j / |/ /´l | 〃 / / l ー―_,] ―一' / / / l /  ̄ __,/ ' | く - |ハ{ / l , 、 / Yヘ _ ./ \ 〈  ̄ ̄ ̄ ̄` | / / }ニ丶 / \ ` ̄´ / l/ /ニニヽ_./ /八 ―――=≦ -‐ '´ /ニニニl二ニ =‐' _ -‐= 〃ニ/ x<´ /ニニニニ|二二二 _ -‐ニ´二二二/ニニ;′ /⌒ヘ /ニニニニ.|二二二 _ =ニニ二二二二二/ニニl / ヘ ./ニニニニニj二二二 / ニ二二二二二二二/ニニ/| /! ∧ 〃ニニニニニ!二二二 /ニl二二二二二二二./ニニ;'| / レ-、 / ', //ニニニニニ/二二二 身なりの整った男性 サカキ(ポケットモンスター) 【備考】 魔の矢について。 魔の矢の作成には、妖精や精霊などとの交信が可能な儀礼場が必要であり、 彼の技術では聖杯戦争中には儀礼場の作成はできない。
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曲名 アーティスト 初収録作品 難易度 BPM NOTES/FREEZE(SHOCK) 「ウイリアム・テル」序曲より MC F40 (CS)MUSIC FIT 激9(MF)/- 180 498/5 譜面 動画 http //www.youtube.com/watch?v=IB-2G4Ek4xk (x1.0,VIVID) 解説 AC版DDRX2ではプレイできません。 8分滝、スキップ、16分3連が見られる。 ノート数が500近い体力譜面。旧足9上位クラスだろう。 名前 コメント コメント(感想など) 名前 コメント
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ウイリアム・セシル HN:せしる 襲名:ウイリアム・セシル 所属:オックスフォード教導院 役職:副会長、女王の盾符“10-2” 教譜:英国協 戦種:フードファイター 太女 分け与えの術式 能力:自分の重量を分け与えて押しつぶす コメント すべてのコメントを見る