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〇〇という男は普通の人間である。しかし、彼には幼馴染の魔女のために毎日のように魔法の森に足を運ぶ。 魔法の森は危険な場所だと認知されている。胞子による幻覚、獣による襲撃、妖精の悪戯、怪奇があふれかえる。しかし、普通の人間である彼は攻撃手段を持たず、防衛手段も持ち合わせていない。当然、そんな弱者を見逃すほど魔法の森という場所は甘くはない。 だが、そんな中でも、 「いい加減に魔理沙のもとに通うのやめたら?あなたも毎回生傷を絶やさないのはよくないし」 「ははは、魔理沙だってこんなところに住んでるんだろ?だったら別に何ともないさ」 「はぁ、別にあなたが怪我をするのは勝手だけどうちに来て治療を要求するのはどうなのよ?そういう遠慮のないところは魔理沙そっくりだわ」 親切な魔女もいるのだ。 Tin Heart 1 「ひどいことを言うなぁ、ここら辺はすり傷でも危ないと言ったのは君じゃないか」 「あなたが魔理沙の関係者だと知ってたらその場で見捨ててたわよ。 ……はぁ、あの時関わるんじゃなかった」 私と〇〇との付き合いはかねて1カ月ほどになる。初めて会ったときは森の茸に当たってトリップしてた〇〇をテスト中だった対侵入者迎撃用上海(対魔理沙専用ver.)で迎撃したところだったため出会いからして最悪だった。(幸いにも本人にはトリップ中だった記憶は一切消え去り、私との出会いはナイチンゲール的なものだったように思われている) そのあとの看護により、魔理沙の関係者だと知ってしまったのが運のつきだった。私はただの知り合いなだけの魔理沙との関係を洗いざらしに吐かされ、ないはずの交流を作らされてしまったのだ。 それ以来魔理沙と古い付き合いの〇〇はいつも魔理沙の家に監査という名の過保護を行いその帰り道に何らかの理由で傷を作りアリスの家に寄るのが日課となっていた。 しかも日に日に怪我をする内容がどんどんひどくなっていくあたり、魔理沙との関係者だと強く自覚させられるのだ。 「とにかく、普通の人間ならおとなしくしてなさい。いつか命を落とすことになっても知らないわよ」 「大丈夫、逃げ回れば死にはしない」 この根拠のなさも魔理沙そっくりだ。 2 「まったく、魔理沙と言い〇〇と言い、類は友を呼ぶというか……」 紅茶を飲みながら愚痴をこぼすなんて、我ながらはしたないと思う。お母様が見たらなんていうかしら? 「はぁ、〇〇がうちに来るたびに包帯だの消毒薬だの刺繍用の糸だの……代金請求しても笑顔で踏み倒すあたりあいつそっくり」 人形たちに定期的に作らせてはいるが、すべてがすべてタダなわけがない。原料自体は自宅栽培だし、作る手間も人形が行うとはいえ、その作業過程にどうしても自給できない部分もあるし。微々たるものでもこう何度も来られると家計にはつらいのが本音。 「いっそのこと事故に見せかけやっちゃおうかしら?」 こう、首をくいっと。犯人候補がたくさんいるし。 「でもまぁ、怪我するからここに寄ってくるわけだし……」 そう言っても頼られるのは別に悪い気はしなかったが、そのたびに〇〇が傷付くのは見ていられなかった。反目しあっている魔理沙のためだと知っているならなおさらだ。 「アリス、ちょっとあけてくれないか?」 そろそろ来る時間だと思っていた。私は人形たちにいつも通りの治療道具を持ってこさせる。ふぅとため息をつきながら扉をあける。 ―――いつも通りだと思って。 「何よ、いい加減に……」 いつかこうなるかも知れないとは思っていた。でもこうなるはずはないと思い込んでいた自分に腹が立つ。そして何より、こうなることを望んでいた自分自身の心とは向き合いたくもなかった。 「ちょっと腕を直してくれないか?腕が動かないと困るんだ」 〇〇の右腕が氷柱でちぎれていた。 3 「腕はもう元には戻らないわ……その腕、勉強代だと思って今回ので懲りたら?」 凍傷による組織の腐敗。そのまま放っておけば死んでいただろう。切断しか方法がなかった。〇〇の腕を切断すると告げても、 「そっか、なくなったんじゃしょうがないな。でも魔理沙に会いに行く分なら問題なさそうだ」 などと淡々と事実を受け入れるようになお変わらなかった。 「……っつ!!」 やめてほしかった。あんな目にあってなお、魔理沙に尽くすなんて。腹が立つ。そもそも魔理沙に会いに行ったのが原因なのに。あんな奴のために怪我するなんてそもそもおかしいのだから。 「そう、馬鹿は死んでも治らないみたいね。そういうところは魔理沙に似てるわ」 「そこまで言うか?っていうか魔理沙はそこまで無茶するのかい?」 「無茶も無茶、ただの人間のくせにあの子も無茶をするわ」 「そっか、だったら俺も腕の一本や二本でとやかく言ってられないな」 その言葉が、無性に腹が立った。 「いい加減にしなさいよ!」 自分でも大きな声だとは思った。 「毎回毎回、人の家にずかずかと入り込んで!」 でも一度言い出したことには歯止めがかからない。 「勝手に家のものを持って行って!あんたみたいな奴」 相手の顔もはっきりと見えず、ただ口から出る言葉に任せるだけ。 「助けなければよかった」 はたして、それは本音だったのだろうか?最後の言葉は驚くほどすり抜けるように出た。 「アリス」 「出てって。治療は終わったのよ」 自分がどんな顔をしているのかわからない。でも、これ以上〇〇と一緒にいたくない。ただそう思うだけだ。ただ、 「……―――――――」 出ていく〇〇は何を言ったんだろう。 4 「大体、〇〇なんか気にする必要がないのよ」 せいせいした、前々から思ってたことを言ってやった、だから、これから毎日怪我してくる奴の面倒なんかしなくていい。しなくて、いいのに。 「毎日足とか、変な所に踏み入れて、筋が縦に割れて、おなかに針が刺さったり、髪がアフロになったり、血管が一本なくなってたり、右目が変色してたり……」 毎日のように怪我してた。どんどんひどくなっていった。そんなことばかり思い出す。別にあんな奴どうだっていいのに、どうなってもいいのに。 「っ、今日だって、怪我する腕がなくなって、っ、腕が、腕がなくなったのに、あいつは、〇〇は、 ……っ、つぇ、ぇ」 口に出すと、一層感情が止まらない。あんな奴のために、あんな奴なんか、 「ぇ、うぇ、だって、っぇ、だって、〇〇なんか、好きじゃ、ないのに、っぇ、あんな奴、知らないんだから、ぇ」 一人で野たれ死んでればいいんだから。 止どめのない涙はどうしても止まらない。その涙の意味を考える余裕も猶予も存在しなかったのだろう。
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アリス ロダ up0586 up0004 アリス・マーガトロイド編 シアワセな魔女と復讐の魔法使い up0156 up0182 up0186 up0347 スレネタ ■1スレ目 アリス/1スレ/25 ■2スレ目 アリス/2スレ/768 ■4スレ目 アリス/4スレ/41 ■5スレ目 アリス/5スレ/143 ■6スレ目 アリス/6スレ/58 アリス/6スレ/310 ■9スレ目 アリス/9スレ/106 アリス/9スレ/434-436 アリス/9スレ/466-467 アリス/9スレ/620 ■13スレ目 アリス/13スレ/62 ワタシノニンギョウハイイニンギョウ アリス/13スレ/698 ■14スレ目 アリス/14スレ/220 11スレ174-175の続き 12 dolls ■15スレ目 「人形遊び」① 「人形遊び」② アリス/15スレ/526の続き 「人形遊び」③ アリス/15スレ/545の続き 「人形遊び」④ アリス/15スレ/748の続き 「人形遊び」⑤ アリス/15スレ/844の続き ■16スレ目 美少女化における手段と目的 「人形遊び」⑥ アリス/15スレ/981の続き ■17スレ目 アリス/17スレ/589 アリス/17スレ/605 ■19スレ目 アリス/19スレ/17 アリス/19スレ/262 ■20スレ目 アリス/20スレ/128 ■21スレ目 アリス/21スレ/871-876 アリス/21スレ/976-981 アリス/21スレ/997 ■22スレ目 アリス/22スレ/16 アリス/22スレ/443-449 452-456 22スレ目16の続き アリス/22スレ/491-492 アリス/22スレ/788 アリス/22スレ/826 アリス/22スレ/842 ■23スレ目 アリス/23スレ/743 アリス/23スレ/993 小ネタ ■24スレ目 アリス/24スレ/208-209 深淵より アリス/24スレ/568 ■25スレ目 裏切りと代償 アリス/25スレ/488 非現実的な人形劇 ■おやつ氏 アリス/おやつ氏① アリス/おやつ氏② アリス/おやつ氏③ ■ジョバンニ氏 アリス/ジョバンニ氏① アリス/ジョバンニ氏② アリス/ジョバンニ氏③ アリス/ジョバンニ氏④ アリス/ジョバンニ氏⑤
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up0115 タグ一覧 ○○視点 ほのぼのヤンデレ ハッピーエンド 純愛 魔理沙 「こら魔理沙ー! 他人の食いもん勝手に盗るな!」 「いいじゃないか、たった一個なんだから」 「二個ある内の一個だろうが!」 白と黒のエプロンドレス、白いリボンが特徴的な黒いトンガリ帽子。 目の前でお茶請けの饅頭を食べているのは霧雨魔理沙。 自分が幻想郷に迷い込んだ一年半ほど前、最初期に知り合いとなった人物だ。 こいつはたった今、近所の和菓子店で購入してきた黒糖饅をつまみ食いしやがったのだ。 少々お高い逸品だというのに、茶を啜りながら食べるでもなくむしゃむしゃと咀嚼していた。 「大体、こんなうまい物を一人で寂しーく食べてるなんて自分でも嫌だって思うだろ? だから私は一緒に食べてやってるんだ。 少しは感謝くらいしたらどうだ?」 「寝言は寝て言え。ばかたれ」 「ぐ、ばかたれとは酷い言い草じゃないか○○。どんな物でも誰かと一緒に食べたほうがうまいに決まって……げほげほっ!!」 あ、むせた。ざまぁ。 「ほれみろ。食い物の神様が怒ってお前に罰を与えたんだ。反省しろ」 「ちょ……! ぞんなごといっでないで、なんどがじでぐれー!」 「あぁもう……」 俺は飲みかけの茶を魔理沙に渡す。温度もそれなりに温くなっているだろう。 「んぐ、んぐ、……ぷはぁ! 死ぬかと思ったぜ」 「あー、そうなったら俺の食う菓子が増える事になるな。大歓迎だ」 「ひどっ!!」 全く、憩いの時間が台無しだ―そう考えざるを得ない。 「……あ、茶まで無くなっとるがなー!」 「安物だったんだろうが、それなりにうまかったぜ?」 「……はぁ、もう突っ込む気にもならん。淹れてくる」 席を外した○○。残されたのは魔理沙と○○の食べかけの饅頭と、湯呑み。 「―――○、○」 先程まで彼が使っていた湯呑み。 茶色の饅頭の皮が付いているのは先程自分が口をつけた所なのだろう。 そして、少し濡れている所はきっと――彼が口をつけた箇所だろう。 そう考えると、魔理沙の呼吸は荒くなってきた。 「ん――ふぁ……○、○ぅ……」 くちゅ、ぴちゃ、と湯呑みを舐めまわす魔理沙。はっ、と思い直す。 (な、何をしているんだ私はー!? こんなのおかしいぜ……。折角、○○が近くにいるってのに) (……間接キスなんかで、興奮なんかして) 「どうせなら、○○に直接……」 「あ? 直接なんだって?」 「うわっ!! な、何だ○○か……驚かすのは良くないぜ」 「ここは俺の部屋だろうに。俺が居るのは不自然か?」 「い、いや! 全然そうでもないな! うん!」 そういうと魔理沙は新しく淹れてきた茶を口に含み―― 「だっ! おま、馬鹿野郎!!」 「ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」 噴出した。 「だぁぁっちぃぃ! てめー魔理沙! わざとか!?今のはわざとか!?」 「ひらうにひまっへるらろ――!!」 幻想郷は、今日も平和だった 感想 名前 コメント
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※流血・中二描写あり、嫁の不遇あり、閲覧注意! 夜か昼かもわからない森の中、男は懸命に走る。 どこに続くかも分からない、もしかしたら彼岸かもしれない。 けれども白衣の男に止まる事なんて許されない。 理由は簡単、立ち止まったら死ぬ。 けど、私は逃がさない、絶対逃がさない。 最近の永遠亭の異変。 患者の消失・自殺・精神病の症状の悪化が立て続けに起こっていた。 何も、中だけじゃない。 永遠亭に、それもとある人物と接触した人間や妖怪を問わず少女達がおかしくなってしまっている。 そのために今、永遠亭には黒い噂が漂っていた。 原因は一つ、そのとある人物を、○○を、追い詰めている。 私は弾幕の嵐を○○の背後に浴びせながら、耳が千切れんとばかりに風を切って追い続けている。 「し、しつこいですね…、うわッ!」 突然、前から立ちふさがる人影が。 一人の少女だった。 神と呼ばれる、目玉のようなものがついた特徴的な帽子の、小さな女の子だ。 そう、洩矢諏訪子。 彼女の肉親である巫女が、あの男に弄ばれた。 私と同じように、憎しみの目に燃えていた。 そして彼女もまた、家族の行き過ぎた愛に苦悩していた。 通さないといわんばかりに両手を広げて構えている。 「チッ、こっちなら…ぐぁあッ!」 逃げる方向を変えるために立ち止まるのが命取り。 さっきから怯まず撃っているけどやっと脚に銃弾が届いた。 ○○はよろめいて倒れた。 「そこまでよ、○○!」 「クッ、クソ兎が…、ガァ…!」 男は何とか立ち上がり何やら筒らしきものを取り出したが、隙なんて与えない。 諏訪子はいつの間にか接近し、○○の腕を押さえつけていた。 「ざけんな、このガキ…」 「神を、なめんな!」 バキバキバキッ! 彼女の人間とは非なる力はいとも簡単に下衆の腕をへし折る。 「ぐぁああ…!」 しめた! ありったけの弾幕をヤツに撃ちつけるッ! 「ギィエエエエアアアアアアアアア!!」 ○○は使えそうにない左腕を大事に抱え無様にのたうち回る。 いい気味だ。 「観念しろ、もう逃げ場はないわ!」 逃げ場を失い、悔しそうに眼で射抜く○○。 「この下衆野郎…、藪医者があッ!早苗を返せ!」 呪詛をぶつける諏訪子、それに私も続く。 「貴方は私から全てを奪った…」 忘れていないでしょうね? 師匠も、姫様も、狂っていたとはいえどれだけ貴方を愛してたと思ってるのよ。 貴方に差し出したパーツのコレクションは姫様で28、師匠で17! おかげで姫様はあのときの貴方につられて今も笑い続けている。 師匠に至ってはもう、てゐがついてなきゃ、いつ始めるか… それだけじゃない、他に貴方が弄んだ女はどうなってると思ってる!? 本当の人形になってしまった少女、心が抜け落ちたように引き篭もっている案内人。 まだまだ幻想郷中にいるんだぞ、恋敗れて無念を宿した少女が… そして、私は何も出来なか……いや、何もしなかった! 私がもっと早く動いていたら、何より他人と関わっていれば、こんなことにはならなかった…。 調べたのよ、貴方を。 そしたら出てきた、カプセル漬けの剥製や肉のコレクションが、研究記録が・・・! もう動かぬ証拠を押さえた。 だから私は断罪するんだ、お前を! 「フ…」 男は観念したように地に身を任せているが、様子がおかしい。 顔を歪めていた、とても死を目の前にした者の表情には見えない。 「ククク…、ア、あっはははハハハハハはハハハはっはハハハハハハハハ!!!」 男は狂ったように、いや・・・狂喜に奮えて笑っている。 その壊れた笑みに飲まれてしまい、立ち尽くした。 どうして、どうしてよ。 貴方は美しいのに、 「笑顔が素敵なのに、ここまで壊れてるのよ…」 「別に、壊れたくなかったんですよ。なのに貴女達が引鉄を引いた、狂っているのは貴女達じゃないですか」 一気に怒りが、引いていく。 いつの間にか諏訪子も押し黙る。 「お前…」 「フフ、気になるんですか…?」 ○○は一呼吸置いて、空を仰ぐ。 下衆野郎の証言が、始まる。 始まりは、苦痛の中だった――― 「!?」 殴る事しか能のない父親、僕を灰皿代わりだと思っている母親。 だが・・そもそも僕は、その『父親』の子ですらなかった。 父の留守中に、母が男を家に何度も連れ込んでいた。 その中の誰かが僕の本当の父親さ! …父はその事実を知っていた、だからこそ僕を殴ったんだ! 物心つく前から苦痛という名の地獄にいた。 僕はサンドバッグ、いや…サンドバッグよりも殴り甲斐のあるのがどこにあんだよクソ! 何故なら、泣けるからさ! イタイと言えるから、ヤメテとも言える! 「○○…」 どうです!?あの花使いも喉から手が出るでしょう! 自分が優越感に浸るのにこれ以上ない最高品質のサンドバッグ、それが…この僕、○○だった…! ある日、チャンスが来た…! 父親は飲酒運転で事故にあったと聞き、母親も理由は知らないけど家にいなかった。 多分どっかの男と逢引でもしてるのか、まあ関係ない。 だから僕は逃げ出したんだ、遠くへと、遠くへと。 その遠くの果てが… 「幻想郷…」 ご名答。 流れ着いたのが、迷いの竹林。 そうでしょう、鈴仙さん? そして、僕は貴女に、永遠亭に引き取られた。 迎え入れてくれた蓬莱のお姫様もお医者様も、そして貴女も、みんな人の良さそうな、そして美しい女性ばかりでしたよ… 多少つっけんどんで、どっか暗い影がある鈴仙さんが気になったのですが。 僕はやり直せると思った、今度こそ普通の子供でいられると信じてた。 けどそれ以上に恐かったさ、これが…いつ壊れてしまうんだろうと… 表向き良い子でいてたらみんな優しかったよ… 「……」 けど、何考えてんだか… 10歳をとっくに過ぎたある日、兎チームのリーダーの子から告白された。 僕は当然やんわりと断った、気遣ってありがとうとも言った。 なのに彼女は納得してくれない! それに怒った彼女はお得意のトラップで嫌がらせをしてきた。 好きな子ほど苛めたいのか、思い通りにいかせるためなのか… 「それが、誕生日の落とし穴事件…」 そうさ、僕は落とされた。 穴なんかじゃない、またあの頃にだ! 当然、あのクソ兎はたっぷり絞られ謝ってくれたし医者は看病してくれた。 そのことにはちゃんと感謝したよ、けど恐かった… 恐かった怖かった、恐いんだよ! だって、彼女だって 耳元で囁いたよ。 『愛してるから、貴方を守りたい』って… 「師匠まで…?」 治ったあとも、それはそれは熱烈だったよ。 しかも姫様も私についてなさいって煩いんです。 二人とも、隙あらば僕にべったりでしたよ… 「それは、貴方が心配だったから、普通の人間だったから…」 そんなわけありますかボケ! 生憎、勉強は楽しかったんです。 勉強している間は、誰からも殴られなくて済みますから。 で、ちょっと難しそうな本を読み、医療研究の資料や精神病の患者の記録を紐解き、 遊び方を、学んだ。 大人になるにつれ、少しずつ学を積み重ね、医者になりました。 けど、女性が僕にたくさん迫ってくるんですよ。 あるときは患者から、または薬を運んでいくその矢先に。 素っ気なく受け流す僕に医者は堪忍しかねたのか… はたまた、患者に情が移るのに嫉妬したのか、 永琳さんが僕に関係を迫ってきた。 「!う、嘘でしょう?」 嘘じゃない! 今でも頭を離れない、柔らかな肌、あの可愛らしい喘ぎ声、束の間の快楽、そして抱きしめられたときのあの熱さ! そして、姫様も負けじと僕を激しく求めてきたんです。 終わった後、胸に抱きしめられて感じる体温に、かつての恐怖がこみ上げて来た。 あの頃の生々しさに似てた。 殴られて流れた血、腫れあがった痣の生温かさを思い出したんだ。 そして僕は、いい感じに壊れちゃいましたよ。 僕は、いい加減断るのに疲れてきたんですよ――― 僕は既に殺し方を学んでいた。 やれやれ… ですから、何人かには貢がせてもらいました…お金も、命も。 未だにあの医者も、患者すら、挙句の果てにどこの女も僕に…! まったく、ウザイんですよ…どいつもこいつもよぉ! 最初があの巫女でした。 「早苗のことか…」 わざとらしい怪我してまで僕をいちいち山まで登らせて、医療室まで押しかけて、とんだ迷惑だよ。 あまりに嫌になってきて、つい冗談で口にしてしまったんですよ。 『だったらもう一人の巫女を倒してから言え』と。 そしたら本当に勝ってきやがりましたよ、あっはははははは! すごいぞくぞくしましたと、彼女のボロボロな姿で、歪んだ笑顔で自慢する彼女が! ズタボロになった真っ赤な巫女さんでも、薔薇の花の代わりに贈るつもりなんでしょうかねぇ。 余りにも真剣な目をしてたもんで、つい理性が吹っ飛んじゃいました。 だから僕は試すことにしたんですよ! 何処まで僕の事を愛してくれるのかを。 まず最初は耳を要求しました! 僕を愛してるなら、他の男の声なんて聞いてられないよね、とね! 「狂ってる…、傍にいながら何故気づけなかったの…?」 ハハハハハハハハ! そうしたらどうしたと思います!? 過去に他の女性に同じことを言ってみたけど大半は去っていった! でもね、いたんですよ…、耳をはいどうぞって差し出した馬鹿が! だから僕は次に指を要求した、そして…次々にパーツを貰った! 段々と数は減っていきました! それでも僕に言い寄ってくる女性が何人かいたかな? 一人は先ほどの早苗さんでした。 途中でお人形さんになっちゃいましたよ。 やれやれ、片付けも二人分だったし大変大変… 「き、貴様ァ!」 「抑えて、諏訪子!」 あと白い髪の紅白少女、彼女は死ねないもんでどうしたものかと思いました。 やがて、飽きたんです。 突き放した後の絶望に染まった顔が、最高でした… ああいうのを俗に言う、ヤンデレってやつですかね。 彼女達は、みんな陰りのある笑顔だった、凄く淀んだ目つきをしていた! 次第に僕はその異常な愛に興味を持ち始めた…! そして、このうえない快楽を求めた! 減っても減っても女性はいた。 だから僕は、何人かホルマリン漬けにしてやりましたよ、あはははは! あと、催眠療法で遊んでもみました。 楽しいですよ~~~? こう・・・メスを持たせてね。 さあ約束したなら指を切って。 はい、良く出来ました! じゃあ次はどこを切る?ってな感じです。 アリスちゃんなんて、自分が本当に人形になりきってるつもりなんでしょうか! あッハハハハハハハハ!! 流石に数十人いった所で貴方達が来たんですけどね! やっぱり医者や姫様を脅したところで隠しきれないし、もうあんなだしね。 (胸糞悪い…?いえ、これは…) あのときの永琳さんにはぞくぞくしたよ… 僕のした事がすべてバレても、必死に否定してた。 なにせ僕を盲信していたもんだからねぇ…! あの黒く淀んだ目で上目遣い、胸が張り裂けそうだったなぁ…! まるで以前の三つめの目をもった少女のときみたいにさ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 「…で?」 急に押し黙る○○、その空気を私が引き裂いた。 「もう自慢話はいいのかしら?○○先生」 拾われたあの日の貴方は、どこか普通の人間と違っていた、私には分かっていた。 私だって気になっていた、けど少なくともそれは恋愛じゃないと思う。 「貴方の境遇には同情できる」 「テメェに何が分かるんだよ、あぁ!?」 この期に及んで○○はまだ口だけでも抵抗してくる。 「鈴仙さん、諏訪子さん。二人はまだ良いですよ、友達がいたから! 僕には誰もいなかった、一人で…、一人で地獄と向かい合うしかなかった。 自分でも壊れたと分かったさ!」 私と貴方は、どこか通じるものがある。 「知ってるんですよ鈴仙さん、所詮貴女と僕は同類だ…」 そう、私は自分可愛さに殺してきた、保身に走った…即ち悪。 「貴女も早く壊れたらどうです、解放されたいでしょう?」 歯を軋ませ、拳を震え上がらせる諏訪子。 「鈴仙は関係ないだろ…」 「僕は友達が欲しかったんだ。鈴仙さんとなら友達になれると思ってた… なのに貴女は突き放した、構ってくれなかった!」 「気持ちは分かる」 怒りをぐっと抑え、深く息を整え続きを言い放つ。 「けど、きっと貴方から助けを求めれば鈴仙だって答えてた」 そう、またしても私は助けられなかった。 「あんたに好意を抱いた女性、○○に尽くした早苗も、みんなも…あんたが好きだった! 歪であっても、本心から貴方は愛されていたよ… ○○、あんたはそれと向き合わなかっただけなんだ…!」 図星を言われたのか、○○はびくっと反応した。 その顔には狂喜が消えうせ、余裕すらなかった。 「…黙れクソガキ!」 「そして、自分に湧き上がる快楽に流され、逃げたんだよ…」 「僕が、悪いって言うのか… ざけんな!全部女の方が狂っていたんだ、愛だの恋だのそんなの言い訳に! 僕は何一つ悪い事なんてしてない!」 そうよ、確かに悪い事なんてしなかった。 「けど、自分からは何もしていない…」 私も貴方も意思を示していたら、こうはならなかった。 イラつきも最高潮に達したのか、○○はしかめた。 「クッ、もう限界だ…」 いつの間にか抑えていたはずの左腕は、白衣の内側の中だった。 「吹き飛んでください」 そして、左手は姿をあらわす。 血に塗れた人差し指に針みたいなものが絡みついている。 諏訪子は何なのかと正体をつかめず動かない。 私はそれを知っている…! 「危ない!」 咄嗟に右の人差し指と中指を○○に向けて構える。 そして、ありったけの弾を… ドゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアオオオオオォォオオオオ!!! 黒煙が薄れていく。 少し高い、咳き込む声がする。 「コホッ…、コホッ…」 諏訪子は無事のようだ。 ゆっくりと煙の中から人影が姿をあらわす、○○だ。 爆発は免れたものの、もう立っているのがやっとのようだった。 そんな○○が、まだ咳き込む諏訪子に押さえつけられ、もう一つの手榴弾を取り上げられていた。 「…あ…傷が……がぁ…あ…」 彼は私の銃弾でスタボロだった。 諏訪子は乱暴に振り払う。 「だ、駄目だよ…深すぎるよ……」 よろよろと、近くの樹にしがみついて立っている。 息もだいぶ荒い。 抑えているわき腹からも、脚からも、えぐれた肩からも血がとめどなく流れている。 「どうして…」 もう、長くない。 「どうして、どうして、どうしてだよ!どうして僕がぁぁぁぁ!!」 何も出来ない○○は、ただ子供のように慟哭を。 「どうして、僕ばかり…こんな目に……!」 諏訪子は言い放つ。 「私は、今のあんたが何よりも憎い。 だから殺すんだ、あんたが…今まで多くの女性を、早苗を弄んだように」 私は諏訪子のもとに駆け寄り止めた。 もう彼は死ぬ、これ以上血に汚れるのも無駄だと。 「止めるな、鈴仙! だって酷い、かわいそうじゃないか!」 またもや呪詛を放つ、怒りが疼きだしてしまった。 「鈴仙…、恋する女の子というのはね、どんな事でもやるものなのよ。 好きな人に振り向いて欲しいから、言われるがままに、盲目にならざるを得ないんだ! ○○はそれを十分知っていた、その上で…耳を、指を…!」 怒りが徐々に引いていき、今度は悲しみに堕ちていく。 諏訪子の肩が震え、いつの間にか泣いている。 「…分かるんだ、あんたのとこの医者も姫さんも、早苗も、泣く泣く切り落とした。 自分の…一部を、次々と、振り向いてもらいたいばかりに…… もはや狂った愛で応えるしかなかったんだよ、狂気には狂気を!」 代わる句を終えた後、諏訪子は大雑把に涙を拭った。 「○○…あんたは、女の敵… 愛で少女を喰らう、妖怪だよ!」 「ククククク…」 もう自暴自棄なのか。 再び笑い出す、壊れたカセットテープのように。 「アッハハハハハ、光栄だよ! 言ったでしょう?狂ってるのは彼女らだとね… 幸せだっただろうよ!この僕に、面と向かって話しかけてもらえたんだからな!」 「黙れ…、黙れ…」 相手に後悔を与えられないことを悔しそうに、諏訪子の握り締めた拳から涙が溢れている。 そう、真っ赤な涙が… 「ヒャァハハハハハアッハハハハハハハハ!! 文字通りの命がけの恋、だな! ヒィハハハハハハハハハハハハ!!!」 「うるせぇよぉおオオオオオオオオオ!!」 ついに爆発した。 私が諏訪子を制止する一歩手前で、涙にぬれた手から一筋の小さな光が放たれる。 その光は、○○の首筋の横をを通り抜け、遠くへ突き抜けていく。 首筋から、少しの血が滴る。 「ハァ…ハァ……」 どういった思惑かは知らない。 けど私は止めた。 クズ野郎の返り血を浴びるのを、止めた。 別に助けたわけじゃない。 もうじき血を失い果て、この男は死ぬからだ。 「クッ、もう…いいんだ…」 私からも、涙が止まらない。 透明で、透き通った… 「急ごう、鍵はこっちにある。 まだ患者がいるかもしれない…」 放出し終えたのか、諏訪子は素直に従った。 やけにあっさりしている。 疑問は○○から諏訪子に移っていた。 私から立ち去る、彼女も後に続く……はずだった。 「○○」 「私も、ちゃんと医学に知識はあるさ」 「何をした…?」 ○○に悪寒が走る。 「塞呼伝、知らないはずないよね…」 びくっと震える、医者の○○であるからこそ分かる。 身体のツボをつき、その人の脳に直接命令を下す医療法だ。 命令が終わるまで、○○の体に自由は来ない。 それを知っている○○だからこそ、恐怖に震え上がった。 「祟り神が命じるのは一つ」 一気に法廷へとかわった。 罪人に下す刑罰を言い渡すかのように、諏訪子の顔は冷酷だった。 「…!?な、何…だ…?手が…手……!」 いつの間にか罪人の手には一本の研ぎ澄まされたメスが握られていた。 まるで糸に引かれていくように、右手はひとりでに手首にあてがい、 「致命傷以外を全て刺し、切り落とし、最後に心臓を刺せ」 一線、赤く線を引いた。 「ぎゃあッ!」 「思う存分抵抗なさい、無駄だから…」 ザシュ、サッ、ズプ… 「や…止めろ、止めろ…!止めろォォォォォォ!!」 ザンッ! 「がああああああああ!」 「報いよ、たくさんの恋する女性を弄んで殺してきた…」 ザプッ、ドクドクドク… 「ひ、」 ギリッ! 「ヒィェエエアアアアアアアア!!」 諏訪子はそっと背を向ける。 「や、止めてくれ!解除…解除してくれ!!」 足音が遠くなっていく。 その願いは、森の闇の中に消えた。 「ぎゃああああああああ!!」 サッ、さらさらさら… 「……あ…!!」 男からとめどなく涙が溢れた。 「……ギ…」 シャッ! 「…ち……」 ザプッ…! 「…ちめい」 どばどばどば… 「致命傷は…」 ザシュッ――― 「致命傷はまだかぁぁぁぁぁ!!!」 嫌な予感がする。 私は急いで来た道を引き返しているのだが、どうもおかしい。 その疑問を解くべく向きをかえたら、諏訪子は必死に止めた。 『いくだけ無駄だ』、と。 あんなに殺したがっていた彼女が手のひら返してあの男を割り切るなんて、考えられるのは一つ。 私に見せたくないことを、○○にした――― 気づけば空はとっくに夕刻を過ぎていた。 今宵は満月、ただ私は闇を突き抜ける、風を切り裂く。 見えた! 「……く…ッ…」 正直、目を疑った。 ○○が狂ったように自傷していた。 その白衣は爆発で黒ずみ、血で赤く染まっていた。 そして、顔は幾千もの血と涙で穢れ果てていた。 思わず手が早く動いた。 「こんなことだろうと、思ってたわ…」 「れ、鈴…仙…さん」 私の存在を認識して、更に○○の顔は恐怖に歪んだ。 けど、私はメスを走らせる彼の腕の付け根にそっと… 手を、あてがった。 けたたましい音とともに弾幕が爆ぜる。 「あ、ぎっ……!」 ○○の腕は、吹き飛んだ――― 右腕さえなければもうそれ以上、自分を攻撃できない。 ○○は最初こそ痛みに喘いだが、脅威が自分から離れたことに安堵した。 「あ、…ありがとう…ございます……」 安心しきって○○は私の足元に崩れ落ちた。 血が、地面に染み込んでいく。 汚らわしいと、思っていたはずなのに… 私は、そっと腰をおろす。 「別に、誰が貴方を殺した事なんて何の名誉にもならないわ」 虫の息となった○○、今は私と二人だけ。 「ねえ、鈴…仙さん…これだ…けは…本当…です」 息を荒げつつ、言葉を紡ぐ。 「僕…鈴仙…さん…とは本…当…に…友達に…なりたかった…んですよ?」 思わず、言葉を失ってしまう。 「貴方…が…好きなん…です…」 「○○…」 やりきれない思いで胸が一杯になる。 彼だって、本当は普通に暮らしたかった… 「でもね……忘れない…ことです… ぐは…、貴方…は…紛れも…なく…壊れてるんです…逃げた…その日…から……」 血を苦しそうに、思いと一緒に吐き出す。 「いつか…きっ…と恋…で人を…壊す…愛で…己を…滅ぼ、す…」 違うって返せない、自分でも自覚があるんだよ… 「僕…みたいに…ならない…で、人を…愛して、…くださ…い… それが…貴方が、狂気から…遠ざかる、唯一の、方法…」 少しずつ目の焦点が合わなくなったのか、その目は虚ろだった。 「いいですね…?これは…友達の…忠告…です」 いつの間にか地に伏す彼を抱きかかえている。 でもいい、彼はもう… 「○○…、もういいのよ…安らかに、眠って…」 「フ、友達…からの…最初…で…最後の、…手向け…か… ハ…ハ…、鈴仙…さんの…そういう…所…やっぱり、好きだなぁ…」 笑っていた。 「おやすみ、○○…」 笑っていた。 彼の波長が少しずつ一本の直線になっていく。 「…優…し……、で、す…ね……」 そして、私の腕の中に崩れ落ちた。 笑っていた、狂気なんかではなく、彼は本当の意味で笑っていた… 「違う、私は…弱いだけ…」 気がつけば私は泣いていた。 一筋の風が、耳をすり抜ける。 ○○は悪人だ、仲間を置いて逃げた私と同じく狂ってるんだ。 けど、どれだけ毒づこうと心の底では私だけが残っていた、彼は確かに好きだったんだ。 それを、突き放した。気づきもしなかった、ほんの僅かな糸を。 やがて差し出した手を、振り払うようになってしまった。 今夜は満月。 私もいつか、壊れてしまうのだろうか。 あのお月様のように、遊びについていった少女達のように、○○のように。 そして私は取り残された。 だからこそ忘れない、もう過ちを繰り返さない。 永遠亭を立て直す事から始めよう。 今頼りになるのは、私とてゐだけなんだ。 絶対に私が犯した罪を背負い、また作り出すんだ! 皆の笑顔を… ふと、後ろを見やる。 まるで雛鳥のように、彼は優しい微笑みのまま眠っている。 再び○○が来るとき、幻想郷はどうなってるのだろう。 そのとき私は何をしているのだろうか。 いつか、その笑顔が似合う素敵な人になって欲しい。 次は、仲良くしましょう―――
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その日、○○は雑貨屋で二冊の帳面を買った。 一冊には、○○は聖白蓮との事を中心に。幻想入りしてから今までの事を事細かに書き記す事にした。 もう一冊には、生まれ育った外での事を出来るだけ詳しく書き記していった 思ったより長くこの幻想郷に滞在していた為、家族や友人、故郷のことを中々思い出せず。どちらも一日や二日では書ききれない量となりそうだった。 命蓮寺へはあれから一度も行っていない。 次に行くのは答えを決めた時だと、○○は心に決めていた。 ○○も聖も。気にならないと言えば嘘になる。しかし○○は決心を曲げたくなく、聖も○○の決心を尊重し続けた。 聖以外の命蓮寺の面々は、聖の口から○○の真意を伝え聞いてはいるが。 下手に会わなくなることで、○○も聖も未練を断ち切れると錯覚してしまうのではないか。最悪の状況が思い浮かんだから。 そして、里の方は命蓮寺以上に気を揉んでいた 以前に比べて、○○の表情が比較的穏やかな物になっており、命蓮寺にも足を運んでいないのはこちらも感じ取っていた。 そして。ある種の確認をすることにした。 「おはようございます、○○さん」 いつものように、至って普通に行われる日常の挨拶。 声をかけてきたのは、以前相談相手にもなってくれた男だ。 彼は何かと○○に声をかけたりして世話を焼いてくれる。 「あぁ、おはようございます」 「・・・そう言えば最近○○さんは出かけられてませんね」 その中に、それとなく確認したい事柄を入れてきた。 男はいつもの微笑を絶やさず、○○の言葉を待っていた。 ○○はすぐに命蓮寺へ行っていないことだなと理解した。 「ええ・・・・・・あの後色々考えたんです。それから聖さんとも少し話しました」 「その席で、しばらく命蓮寺には行かないと決めたんです」 男は言葉に詰まった、事態が自分達の意図していない方向に動きそうな気配を感じたから。 「それは・・・また何故?○○さんは聖様の事が― 「ええ、好きです」 ○○はにべも無く、至って当然だと言う風に答えを返した。 その様子に、男は一層の混乱へと陥った。 「なら・・・だとしたら余計に、何故足を向けないのです?」 「重さが分からないんですよ、自分の心の中にある感情の」 「帰りたいと言う気持ちはまだあります。でも同時に、聖さんと今生の別れをするのもやっぱり辛いんです」 「多分・・・帰りたいと言う気持ちは、聖さんの告白を受ける事を決意しても、消え去る事はないと思うんです」 ○○の方は、まだまだ答えを決めかねている状態だった。どちらを選ぶのか、いつ決意できるのか、全く見当が付いていなかった。 しかし、彼はそう思わなかった。○○の心が、外界への帰還へと向いているのではないか? ○○の言葉は、その疑念を生み出し強めるには十分な物だった。 「だから今、見比べているんです。自分で自分の心中を、どちらがより重いか」 「―そうですね、ここを出たらもう会えませんし・・・・・・じっくり考えるべきですよ」 彼は、微笑を維持するのがやっとの状況だった。 そして、更に数日後。里全体が戦慄する行動を○○は起こした。 「―!?こ・・・・・・これは?」 それは、○○にとってはただの感謝の印だった。 「ええ、普段色々とお世話になってましたから。まぁせめてものお返しと言いますか」 ○○は、里で親しくしてくれた人間に贈り物をしていた。 贈り物の中身は何てことのない、店で買い揃えたただのお菓子だったが。 ○○のこの行動に彼らはうがった見方をした。 ―○○が帰る決心をつけたのではないのか?と ○○からすれば、この贈り物に大きな意味は無かった。 ただ、自分のことを振り返っていくと、必然的に彼らから受けた世話に行き当たるから。 そして自分はその世話に対して何もお返しをしていないと思ったから。 ただそれだけの事だった。現に、彼の中では答えはまだまだ出てきてなどいなかったから。 「○○さんは・・・・・・結論の方は・・・?」 その質問に○○は神妙な顔つきをする。 「幻想郷に来た時から今までの事と。外で生まれ育ち、ここに来る直前の事までを今思い返しているんです」 「答えは・・・いつ出せるかは見当も付きません、でも」 「外での事を段々と思い出せるようにはなりました。まだ1人ですが友人の名前をはっきり思い出せました」 その独白で、彼等の心中にある針が振れ始めた。 知らず知らずのうちに、○○は自分で自分の首を絞めていた。 それは二律背反に苦しむのとはもっと別な。直接、肉体的苦痛を伴う形で現れてくる事となる。 ある日、○○は度々里で子供達相手に説法会を開いている一輪の元を訪ねた。 答えはまだ見つけては居ない、それでもこれまで世話になった事への感謝の言葉と印を伝えたかったから。 ○○自身でさえも、これからどう自分の心中が動くか。 また答えを決めれた所で、後悔しないかと言われたらどうしても疑問符をつけざるを得なかった。 ズルズルと、幻想郷に滞在する時間だけが増えていっていた。 ただ、帰るにしても挨拶も無いのは失礼だし。残るにしても、何もしないのはやはり礼儀と言う点で問題があるだろう。 そもそも、決めれるのか。 あの時感じた一瞬の安らぎは、ある種の気の迷い。そう感じるようになってしまった。 「―そうですか、所で腹は決まったの?」 お礼もそこそこ、一輪の話題はすぐにそちら側に移った。 その表情は、何とも言えない物だった。 一輪が見せるその表情の中に、様々な感情がこもっているのは分かる。 何となく、泣きそうな顔が混ざっている事は分かったが。それ以外の判別は付かなかった。 「姐さんの事は・・・野暮だったわね、聞かなくても分かるわ」 聖の話題に、○○の動きが止まる。 「姐さんも貴方の事が好きよ。これも本人に聞かなくたって分かるわ」 一輪の話は短かった。しかし○○の心に確実に大きな波紋を作った。 「姐さんと貴方を見ていると・・・結局お互いにとって不幸な道に進んでいるようにしか見えないの」 「今更、忘れられるの?」 暗に何を言っているのか。理解するのに苦労は必要なかった。 「外を忘れろとは言わないわ・・・・・」 「でも、今更聖を忘れられないのも事実でしょう?」 理解者が居るのは嬉しかった。しかしその理解者は、同時に決断を迫ってきた。 帰還を諦め、聖と共に暮らすと言う決断を。 「・・・貴方が思っているほど時間は貴方に味方をしてくれないわ」 ただ。最後に一輪が言い残した言葉の意味だけは。ピンとこなかった。 ○○自身も分かっていた。最近の自身の行動の大半が、考えない為の逃げの一手である事は。 だから。 二冊の帳面に書きとめた、外での事と幻想郷での事も。 お世話になった人へのお礼参りも。 そして今やっている部屋の大掃除も。 すべてが時間を潰す為の。考えないでいい時間と言う、免罪符を得たいが為の行動だと言う事も。 ○○の心はフラフラと、両方の引力からの影響を受け続けていた。 ○○が命蓮寺に足を向けなくなりいくらかの日にちが経った。 最初の方こそ、聖は気丈だった。 しかし、段々と心細くなり。表情も落ち込んだものへと変わっていった。 それでも、聖は○○の意思を尊重し続けた。 考える時間が欲しいと○○が言ったから。聖は彼に会いに行きたいという衝動を抑え、じっと命蓮寺で待っていた。 それでも、待つだけの日々は確実に聖の心身を弱くしていった。 最近では日課のお勤めにも身が入らなくなり、朝も寝坊がちになり。 言動も上の空感が強くなり、立ち振る舞いもフラフラとしていた。 その様子は、命蓮寺の面々だけでなく。説法会の様子や、説法会の回数事態の減少から、他の物も嗅ぎ取っていた。 両名共にフラフラしたこの状況。この状況が歯車を動かしてしまった。 昼食が終わり、何処と無く間延びした時間が命蓮寺に漂っていた。 説法会もここ最近はとんとご無沙汰で。この日も、聖は間延びした時間に心細くなり。くてんと横になっていた。 眠る事はなかったが、ごろん・・・ごろん・・・と不規則に寝返りを打ち。頭の中身は○○の事で一杯だった。 眠らないのは聖の中に残っていた最後の節度だった。 何の因果かその節度が、緊迫した事態を。そしてそこから、事態の核心へと向かう事になってしまった。 「・・・・・・―!」 奥の方で、誰かが何かを話しているような声を捉えた。 「・・・?」 ただの談笑や話し声と言った雰囲気では無さそうだった。 聖は起き上がり、声がする方向へと向かう。 「―何を証拠に!」 まず把握できたのは星の声だった。その語勢に聖は不穏な物を感じた。 星は穏やかな存在だった、その星が声を荒げる。余程の事だ。 何を、そして誰と話しているのだろう? 聖は気づかれないように忍び足で近づき。聞き耳を立てた。 盗み聞きは自分でも感心はしなかった。でも、問いただした所で星が話してくれるかは分からなかった。 星は優しいから、聖に真相を話さず。出来るだけ何とかしようと頑張る傾向がある。 それは他の皆も同じだった。自分を慕ってくれるのは嬉しいが。悩みを抱える癖だけは、心配の種だった。 「確かに、あるかと言われればありません。ですが、○○さんの方が外を思い出そうとしているのは事実です」 星と言葉を交わす者は、聖も知っている人物だった。 いつか、自身から○○への思いを聞き出した、あいつだった。 「・・・・・・聖にとっては辛いでしょう。でも―」 「大丈夫です寅丸様、ご心配なく。手はもう回しております」 「○○さんは、もう幻想郷から出る事はできません」 ―どういうこと?その言葉を発するより先に、体が動いた。 バンッ!!と障子が大きな音を立てて開け放たれた。 聖の姿を確認して。星は明らかに顔を歪ませ“しくじった”と言う感情をその表情に滲ませた。 男の方の表情は。一気に固く、緊張した物へと変貌した。 「どういうこと!?」 ここに来てようやく聖の喉が声を発した。 「聖、向こうで話します」 星が聖の両肩をがっしりと握り、無理矢理別の部屋に移動させる。 そして、チラリと。男の方に目をやり、口だけを動かし「帰れ」と。 半分は、真相の更に深い部分を知った聖が、何をするか分からなかったから。もう半分は、個人的に嫌だったから。 真相の更に深い部分を知った聖は、何度も星に聞き返していた。 「ご・・・ごめんなさい、星・・・・・・もう一回説明してくれない?」 聖の体はガクガクと振るえ。目は大きく開け放たれて、説明の度に光が失われた。 そして遂に、聖は意識を失った。
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桜が散り、命が躍動する為の準備の時。曇天が続き湿気が気になる。 彼は傷んだ物を食べたりしていないだろうか。 男性でそういうのを細やかに気にする人は、そう多くないから。 兎に見張らせるだけでは解決しないから、代わりに管理してあげよう。 この合鍵で。 彼が仕事に出たのを見計らい、彼の家に入る。 彼の家の匂い。それに包まれただけで心に温かなものを感じる。 まず台所へ向かい、今朝の食器を確認する。 きちんと洗っている。問題無いか舌先で確かめる。箸は特に念入りに。 醤油などの調味料に一滴ずつ血を混ぜ、気を込める。 それから清掃を徹底的に行う。 黴や虫ごときに、彼を汚し傷つける事は絶対に許されないから。 綺麗になった台所に、仕上げとして結界を張る。 彼を惑わす邪悪な女が来ても、すぐに消え去るよう。 次は厠の清掃をする。 不浄な場所だからこそ、綺麗に保たなければいけない。 念入りに汚れを落とし、汚れを弾く薬で仕上げ。 消臭殺虫剤を落とし込み、害虫と悪臭を消す。 彼がこんな所でも不快感を持たないように。 居間に移り清掃を行う。 彼の湯飲みを取り出し、舌先で汚れが無いかを確認。 床も壁も柱も磨く。染み付いた汚れも私の薬には敵わない。 仕上げとして、無意識に働きかける芳香剤を。 僅かずつ独りでここに居る事に寂しさを感じていくように。 神棚の中にいる存在には事情を伝え、お帰り頂く。 ここを礎として厄と不浄を弾く結界と、遠見術の依代としての機能も持たせる。 彼を守護するのも私だけで充分だから。 床の間へ向かう。 彼の寝巻きの上を肩に掛けつつ清掃を行う。 こうしていると、彼と二人でやっているようで嬉しさが込み上げて来る。 箪笥の中の衣服は全て出し、匂いを確認して畳みなおして収納。 押入れから布団を出して敷き、全て脱いで中に入る。 彼の匂いに包まれながら、自分を慰める行為で私の匂いも染み込ませる。 仕上げに胡蝶丸と私の血を元にして作った香水を、枕の中に忍ばせる。 夢の中でも私を感じて貰える様に。 戸締りをして外に出る。 昼頃に一度帰ってくる彼を、玄関の庇の下で待つ。 傘を忘れて出かけたから、と。 一緒に一つの傘で買い物に出るのも良いかも知れない。 それから料理を作ろう。私だけにしか出来ない物を。 「あれ? 永琳さん」 私は今、この笑顔を変えられない。
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聖は決心と共に朝を迎えた。 そんな聖の心を荒らしたくなく、4人は真相を伝える事ができなかった。 顔を見られれば気づかれるかもしれない、その為気を利かして二人きりにした。 そんな旨の置手紙を残しておいた。 現場に居合わせていない聖に。この手紙に隠された、裏の意味を知る事は出来なくて当然だった。 それを知る由も無い聖は。皆の心配りに感謝の気持ちから涙した。 図らずとも、一組の男女にとって、おあつらえ向きの場が出来上がる事となった。 聖の胸のうちは固まっていた。無論、○○が聖の告白を受け入れてくれるのが最上の結果ではあるが。 たとえ聖の望まない結果であったとしても。聖は○○との思い出を胸に生きていく覚悟も決めていた。 ○○を待つ間、皆から聞いた真相が聖の心を揺らす、その波紋は決して聖の中で静まる事はなかった。 何度も何度も、自分は手を引いた方がいいのではないか、そんな考えが浮かんでは消える。 それでも、聖の思考は最終的には思いを伝える方向で固まる。 今ここで、思いを伝えなかったら、それは後々大きな後悔となる、そしてお膳立てをしてくれた皆に会わせる顔もなくなってしまう。 ○○が帰りたいと言えば、私は素直に手を引こう。 真相の、更に深い部分を知らない聖の心模様は澄んだ物となっていた。 命蓮寺に足を踏み入れた○○は、すぐ違和感に気づいた。 出迎えてくれた聖以外に人の気配が無さ過ぎるのだ。 聖と会う際、命蓮寺の面々は気を回しているのか周りに近づく事はほぼ無かった。 それでも、敷地内にはいるため。時折誰かが移動するパタパタと言った音が聞こえてはくる。 所が、今日はそういった人の気配、動き、音が感じられない。この命蓮寺には、○○と聖の2人だけだった。 居間に通され、茶を出される。ここまではいつも通りだった。 「・・・○○さん、今日は話したい事があります」 いつもはそこから軽い談笑の後、法力の指南に移るのだったが。 その日だけは状況が、そして空気が違った。正面に座る聖の目は、真っ直ぐと○○を見据えていた。 「○○さん・・・多分私の言う事は○○さんにとって迷惑な事かもしれません」 おおよその見当は○○の中ではもう付いていた。 「○○さん」 ○○の考えたその見当は、正面に座る聖が○○の手を取り、握り締めたときに確信へと変わった。 「○○さん、私は貴方のことが好きです」 回り道も、言葉の濁しも無い、真正面からの告白だった。 「今すぐにお返事を・・・とは言いません」 聖の手が更にしっかりと○○の手を握る。 「でも、私はどのような返事であっても、受け入れます」 手を握られている○○は、聖の手が微かに震えているのを確かに感じた。 ○○は元は外の人間、帰りたい場所がある。 それは聖もはっきりと分かっている、そして○○が聖の告白を受ける意味も。 そして○○も、自身の置かれている二律背反の状況は、この時最高潮を迎えた。 その日は法力の指南も無く、○○も聖の方も行うような気にもなれず。 ○○は命蓮寺を後にし、その姿を聖は見送った。 星達はお堂に居た。 昨晩の星の忠告どおり、覗き見や盗み聞きと言う野暮な真似をする者は誰も居なかった。 そして、星達は○○が聖の告白を受け入れる事を祈っていた。 そうなれば、そういう方向に話が動けば、この後起こるであろう荒事は鳴りを潜めるはずである。 最早、命蓮寺だけでどうにかできる問題ではなくなっていた。 「村紗・・・気持ちは分かりますが、○○に無理強いを強いるような真似は慎んでくださいね」 時折、星が村紗に対して戒めるように声をかける。 真相の更に深い所を知り、皆沈鬱な表情を浮かべていたが。村紗だけは少しばかり様子が違っていた。 腕を組み、あぐらを組み、何かを考えているのが一目で分かる状態だった。 何を考えているかは聞かなくても分かる、聖と○○をくっ付かせる為の思案を巡らせているのだろう。 最早○○に逃げ場は無い、村紗の言う通り聖と結ばれた方がどちらにとっても幸せ。 皆の考えもその方向に向かわざるを得なかった。それでも、それでも荒事は極力避けたかった。 だからと言って。○○にとって、星達の祈りは非常に酷な物だった。 聖と○○が結ばれる。それは、○○が元の世界を諦める事に他ならないからだ。 家族、友人、故郷、それらにまつわる思い出。それら全てを自らの手で捨て去らなければいけないから。 それは捨て去る側である○○の方にばかり重くのしかかる難題だった。 聖白蓮を始めとした命蓮寺の面々はもうこの幻想郷に定住する事で腹をくくっている。 そのくくるための腹の中身にある重さも、命蓮寺勢と○○では大差があった。 この時の○○は涙を流していた、聖白蓮を始めとした命蓮寺の面々。 里の面々、それらの顔は用意に思い浮かぶのに。 外に残した家族や友人の顔に声、故郷やそれらにまつわる思い出、その殆どがおぼろげな物となっていた。 そこに来て聖白蓮からの告白。 今○○の魂はこの幻想郷に引き寄せられ、縛り付けられつつあった。 振り切るにしても、引き寄せられるがままにしても。 どちらにせよ○○の魂に浅からぬ傷が入る事は、もう間違いのない事であった。 数日が経ってもまだ○○は答えを出せずにいた。 聖と別れるには、余りにも多くの思い出を○○は作ってしまった。 どちらも捨て去る事ができなかった。 二律背反にぐらつく○○の様子は、立ち振る舞いにも現れていた。最初の方こそ誤魔化せてはいたが。 第三者から問いただされると、より一層○○の心中は不安定な物となる。いつまでも隠しきれる物ではなかった。 そしてとうとう、第三者に話してしまった。 「―そうですか。○○さんは聖様からそのような事を」 相談相手は幾ばくかの間を取った。、微笑交じりで、ありふれた返事を持って答えた。 その“間“で相談相手が何を考えたか、よそ者の○○には知るよしもない事であった。 「で、○○さんはどうしたいのですか?」 「・・・・・・帰りたい、これは多分本心なはずなんです」 目を閉じうつむきながら出した○○の答えに。相談相手は一瞬こめかみを動かし、それと共に微笑もほんの少し歪ませた。 そしてまた“間”が出来る。その“間”に、○○は次に続く言葉を待ってくれているのだと 好意的に解釈していた。 「ですが・・・私は聖さんと仲良くなりすぎたんです。聖さんと離れたくない、これも間違いなく本心なんです」 続いた答えに相談相手の顔に微笑が戻った。 「そもそも、仲良くなるべきじゃなかったのか。会うべきじゃなか― 「そんな事はありませんよ」 ○○の呟きにも近い言葉をさえぎり、相談相手が口を挟む。 「○○さんは、聖様と出会い。聖様と交流をなされて何か嫌な事はありましたか?」 続けて○○に出した問いかけにはまくし立てるような物が、顔にも困惑とも取れる色があった。 「いえ・・・むしろ良い思い出、楽しい物ばかり」 「じゃあ!そんなこと滅多に口にする物じゃありませんよ」 ずいっと身を乗り出し、畳を叩く相談相手に、○○は少しばかり気圧される物があった。 「もうしばらく、考えても良いんじゃないんでしょうか?今の○○さんは少し冷静さを失っているようにも思えます。それに」 「出るのは何とかなるんです。なら少々長めにここにいて、頭を冷やすと言うのも選択肢としてはありでしょう?」 そのまま更なる滞在まで提案された。 「出てしまったら・・・もう二度と、絶対に会えないんですから。もう一度聖様と会われても良いんじゃないのでしょうか?」 完全に押し切られる形だった、答えを見出せないまま○○がもう一度聖の元に行く事は。 聖と会うことに対する感情は嬉しさの方がはるかに勝っていた。 しかし答えを見出せないままにもう一度会うことには消極的だった。 しかし、相談相手の勢いに負けて、次の日○○は命蓮寺へと続く道を歩いていた。 目的地に近づくに連れて、早く会いたいという気持ちと、会って何を話せば良いという気持ちが交錯する。 命蓮寺の境内までもう数歩、と言う所で○○は足を止めた。 答えを出していないのに、容易に会ってしまって良いのだろうか。 法力指南の時にも使う利き腕を。法力指南の際、聖によく握られる利き腕を、○○はもう一度見つめながら握り込む。 その際、聖に教えられたように、力を溜める。 適当な所で、その握りこんだ拳を下に向け、開いた。そうすると足元にある細かい砂利が○○から遠ざかっていく。 やはり、仲良くなりすぎたのだろうか。 ただ世間話をする程度の仲なら、ここまで思い悩む事はなかったのかもしれない。そう○○は考えざるを得なかった。 聖から法力という人知を超えた力の一端を教授してもらったがために。 聖の心に○○が、○○の心に聖の影が深く食い込んでしまった。 そして、問題となった○○が外界の出自と言う事実。 幻想郷出身の者との間の恋仲ならば、絶対に問題にならなかった別離の決意と言う問題。 聖を選べば、家族を友人を故郷を捨て去らなければならない。 外界を選べば、聖とは今生の別れをせねばならない。幻想郷は、時間をかければ戻ってこれるような場所ではない。 気が付けば、○○の腕も震えていた。あの日、告白をした聖の時と同じく。 ○○は震える腕を、もう片方の腕で握り締め。目を閉じ考えにふける。 聖が腕を震わせた理由は、○○が外界を選んだ時の事を考えたから。 その時に感じる悲しみを思ってしまったから。 しかし、○○の方は事情が違った。 聖を選んでも、外界を選んでも。○○はどちらを選んでも、容易には得がたい物との別離を経験しなければならなかった。 その事を考えると、震えざるを得なかった。 「○○さん?」 ○○の閉じられた目は、急に聞こえてきた聖の声で開け放たれる事となる。 「・・・大丈夫ですか?○○さん」 聖は震える○○の腕を優しく包み込むように、両手で握ってきた。 この時、○○は自身の涙腺が限界を迎えたのを自覚した。どんなに涙腺を閉めようと頑張っても、涙はこぼれていくばかりだった。 そんな○○を聖は抱きしめる事しかできなかった。 「聖・・・さん」 涙と、感極まった感情で。○○の声は震えに震えていた、短い文を喋る事すら間々ならない。 「私は・・・・・・どちらを選んでも・・・絶対に、今生の別れを・・・・・・」 思いの全てを言葉に発して言い切ることも出来ず。 ○○の腰は砕け、こぼれ落ちる涙の量は増すばかりだった。 聖は涙で衣服が汚れる事もいとわず、そのまま○○を抱きしめ続けた。 果たしてそれで良いのかどうかは、聖自身も分からなかったが。 聖もまた分かっていた。 ○○の心に自分の影が食い込む事の影響を、○○がこんなにも泣く訳を。 そして○○の口から出た“どちらを選んでも今生の別れを”この言葉に、○○が今背負っている苦悩のすべてが凝縮されている事も。 そしてその苦悩を背負わすきっかけを作ってしまったと思い、その事に聖の心は痛み続けていた。 だから。このまま抱きしめ続ける事が、却って○○の苦悩を増大させるだけではないのか。そう考えてしまうが。 だからと言って、○○をこのまま放っておく事も、聖にはできなかった。 結局聖は、○○が落ち着くまでずっと。抱きしめてしまっていた。 「○○さん・・・少し中に入りましょう、ここじゃ体に毒です」 落ち着いた○○を中に招き入れる際、聖は○○と手をつなぎ続けた。 ○○の体に触れる喜びと、○○の心にまた自分の影が入り込む事への罪悪感。この両方を織り交ぜながら。 茶を出し、適当な茶菓子も添え。もう何度目かになる○○と一緒の室内。 だが、会話は無かった。 お互い何を話せばいいのか分からなかったから。 茶をすする音と、添えられた茶菓子を持ち上げたりする動作音だけが室内に発生する音の全てだった。 それでも、無言はお互いに気まずく。何か喋るネタを探しながら、お互いが正面に座る相手をチラチラと見たり。 不意に目が合うと、そらすのも失礼な気がするが、されど二人の間に話題は無く。お互いにまごついてばかりだった。 そんな事が何度もあり。ついにはお互い目を閉じるか、目線を下に固定するだけとなった。 「・・・・・・聖さん」 その状態がどれくらい続いたか、ようやく○○の方が声を絞り出した。 「―ひゃい!?」 予期せぬ○○からの言葉に聖が言葉を噛んだ。 この時、ようやく室内に流れる空気がほんの少しだが和らいだ。 「聖さん。少しばかり自分を試そうと思うんです」 その和らいだ空気のお陰で○○の方も次の言葉を思ったよりすんなり出す事ができた。 「・・・試す?」 「はい、自分の本心を・・・もしかしたら自分自身でも分かってないんじゃと思うんです」 和らいだ空気のお陰か、○○の表情は穏やかだった。 「しばらく私は命蓮寺には来ません。それでも、私が聖さんの事を考え続ける事ができたら」 「その時は、私は聖さんのことが本当に好きなんだって事です」 朗々と語る○○の言葉を聖は静かに聞いていた。 「しばらく、ゆっくりと。自分の心中に問いかけてみようと思うんです。どちらがより重いかを知る為に」 ○○からの提案、聖に異論は無かった。 聖はいつまでも待つつもりだった。そして○○の出した結論が、聖の望む物でなくても。 聖は受け入れようと言う覚悟を、改めて心に決めた。 その聖が決めた覚悟も、○○が自身に問いかける為に必要な時間も。 水泡に帰してしまう運命であった事を知らないのは、聖と○○の2人だけだった。
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リリーホワイト・リリーブラックのお話 冬の始めの頃。満開の桜の木の下で私は考えていた、彼女達との出会いを、今こうなってしまった自分を。 「あははー、難しい顔して何を考えてるんですかー○○くん。やっぱりまだ春が足りませんか?」 「そうよ、ここではもう何も考える必要はないのよ?」 小さい体で私を抱きしめているのはリリーホワイト、リリーブラック、幻想郷では春の妖精と言われている種族だ。 「それじゃ、またいーっぱい春をあげますね」 「遠慮なんてしなくていいわよ、貴方だけに贈る特別な春なんだから」 初めて彼女達と出会った時は小学二年生の春 もう完全には思い出せないが、確か私は学校の遠足で山に行き、そこで迷子になって、いつのまにかこの幻想郷に迷い込んでしまった。 見たこともない森の中で彷徨ったのを覚えている、あの頃の自分にとってはまさに悪夢だった。 昼なのに薄暗く、妖怪か何かがいつ出現してもおかしくない、そんな風にその時は思っていた。後になってそれが事実だと知ったのだが。 そんな森の中で歩き続け、何とか明るい開けた場所に出る事ができた。やっと森から抜け出せた! そう思った後、目の前にとても大きい桜の木があるのを発見した、そしてそこに彼女達がいた。 「ブラックちゃんあれって……」 「人間の子供かしら?」 寂しかった私は二人の元へ駆け寄った、背丈も同じくらいなので迷子になった同学年の子だと思っていた。彼女達の背中に羽のようなものが生えていることに疑問など一切感じなかった。 「どうしたの、もしかして迷子になったのかしら?」 「泣いちゃだめですよー、ちゃんと『村』まで運びますから安心してくださいねー」 ホワイトとブラックは笑顔で私をあやしてくれた。あの時、私は彼女達が頼れるお姉さんのように感じていた。 「もう大丈夫みたいね」 「じゃ、私の背中に乗ってくださいね、超特急で『村』まで向かいますよっ!」 そうして私はホワイトの背中に乗せられその『村』へと連れて行ってもらうことになった。 ……もちろん、同じぐらいの身長の子に背負われて行く空の旅は恐怖しかなかった。 「あれー、お空の上が怖いんですか? おかしいですねー、いつも背中に乗せる子供達は面白がってくれるんですけど……」 「ねえホワイト、この子もしかして『外』から来たんじゃない?」 「なるほど、それなら怖がっちゃいますよね……」 「どうしましょう、そうすると『村』に送って行ってもこの子の居場所がないわよ?」 「う~ん、慧音さんなら何とかしてもらえると思うんですが……」 「せっかくですし、私達の家にご招待しましょう!」 「……いいのかしら」 「大丈夫ですよ!」 そうして、『村』ではなく彼女達の家に連れて行かれることになった。 「ところで、貴方の名前はなんて言うのかしら?」 「そういえば聞いてませんでした、なんて言うんですか?」 「○○くんですか、良い名前ですねー、これからよろしくお願いしますねー」 私は彼女達の家でどれくらい一緒に暮らしただろうか……たしか三ヶ月くらいだったか。 そこで、ここは幻想郷という別世界であることを教えられた。 「ここは幻想郷って所なんですよー、ちょっと物騒なところもありますけど、とっても楽しい所なんですよー」 彼女達リリーホワイト、リリーブラックは妖精であることや、様々な種族がここには住んでいることも。 「あたし達はね、春の妖精なのよ、○○も聞いたことはあるでしょう? 他にも……」 彼女達と共に遊んだりもした。 「私達から絶対に離れちゃだめですよー、妖怪さんに食べられちゃいますからねー」 別の妖精を連れてきてくれたこともあった。 「あたいったらさいきょうね! そこのにんげん、あたいとあそべることをこーえーにおもいなさい!」 「……連れて来る相手を間違えたかしら」 「あははー」 色々あったが彼女達との暮らしは『外』とは違う楽しさで溢れていて心の底から楽しいと思えた。 しばらくは帰りたいとは思わなかった。けれど、やっぱり私には『外』の世界が恋しかった。 「どうして泣いているのか、私に教えてくれませんか? きっと助けてあげられますから」 「『外』に帰りたいんですか……でも、ここは『外』の世界よりもずっと楽しいですよ、桜もずっと咲いてますよ」 「ホワイト、貴方……」 「冗談ですよー、じゃあ私達と一緒に帰る方法を探しましょうか! ……」 最初の別れは初めて私が『村』に行った時。 私と彼女達は帰る方法を探すために、慧音さんと呼ばれる『村』の賢者と話をしていた。 「『外』の世界に帰す方法ならあるぞ」 「え、本当ですか……」 「簡単だ、博麗神社にいる博麗霊夢と言う巫女に頼めばいい。不安なら私が案内しようか?」 そうして、あっけなく私は『外』へと帰る方法を発見したのだった。 「明日、帰っちゃうんですよね……」 『うん』と私が返事した時、ホワイトはとても悲しそうだった。 「ずっとここに居ても――「ホワイト、それ以上はダメよ!」 ブラックも同じくらい悲しそうにしていた。 「さようなら○○、短い間だったけど楽しかったわ」 「え、ホワイト? あの子なら……ううん何でもないわ」 「別れの挨拶は済んだの? 帰還の儀式をするから早くしてよ」 「……はい」 結局、ホワイトは最後まで姿を見せることはなかった。 ・ ・ ・ 「ブラックちゃんは寂しくないんですか! せっかく仲良くなれたのに『外』に帰っちゃうんですよ!」 「あたしもあの子と一緒に居たかったわよ! でもそれはあたし達の我儘よ! あの子は『外』に帰してあげるべきなの、分かってホワイト……あたしだって別れるのは辛いわ」 「……また来てくれるんでしょうか」 「できればあたしもそう願いたいところよ……」 ・ ・ ・ その後の『外』での事は割愛しよう、長くなる。 二度目に会ったのは中学二年生の夏 中学二年生と言えば多感な時期である。グレてしまったり、親に反抗したり色々とある……私も例に漏れず両親と喧嘩をして家出をした、それがきっかけだった。 もう説明は不要だろう、いつの間にかまた幻想郷に迷いこんでしまったのだ。見覚えのある森の中、しかし今回は厄介なことに夜であった。 私はすぐに小学生の頃来たことを思い出した、同時に夜中に妖怪が活発化することを彼女達から教わっていたことも。 直後、後ろの茂みから聞いたことのない獣のような唸り声がした、私は恐怖しあの時と同じ方向に駆け出した。 どれくらい走っただろうか……時間が経てば経つほど獣の声は大きくなり、足音も聞こえてきた。 そんな中、なんとか桜の木の下につくことができたが、考えてみればそれだけでは獣からは逃げられるはずがなかった。 「○○くーん」 その時、空の上からあの妖精、リリーホワイトの声が聞こえたのだ。 「今助けますね~」 そう言ってホワイトは、鷹が獲物を足で捕まえるように急降下し、私の体を手で持ち上げて、空の上へと舞い上がった。 彼女の体躯からは想像もつかないほど、強い力だった。 その後、私は当然のように彼女達の家へと連れて行かれた。 「いやー危なかったですねー」 「……また来ちゃったのね」 「ブラックちゃん、○○くんが来て嬉しくないんですか?」 「……あたしだって嬉しいわよ」 「そうですよね!」 ブラックは少しだけ複雑そうな顔をしていたが、ホワイトの方は曇りのない満面の笑みをたたえていた。 「明日からまた○○くんと一緒に遊べます! 今度からはずーっと一緒ですよ」 この時ここで暮らしていた月日は長かった、一年ぐらいだったか? あの頃の私は家に帰りたくもなかったし、彼女達が私の存在を本当に喜んでいてくれて、ずっとここに住んでもいいんじゃないかとすら思っていたほどだ。 そうして、またここでの楽しい日々が始まった。 夏、ホワイトとブラックや他の妖精達と湖で花火をする。 「わー! チルノちゃんロケット花火を背中に背負っちゃだめー!」 「このロケットでつきまでとんでくぞー」 「そういう意味のロケットじゃなーい!」 「○○くんーブラックちゃーん、今から私打ち上げ春火しますねー」 「ホワイト! 打ち上げ花火の筒の先端に乗るのはやめなさい!」 ……まあ、何と言うか、していることは彼女達らしかった。 「ん、どうしたの?」 一緒に遊んでいながらも、私は種族の違いというものを今あらためて感じていた。 背の高さ、姿の違い、能力……数えればきりがない。 「自分が場違いじゃないかって?」 「少なくともあたしとホワイトはそんなことは気にしないわよ」 「そうですよー、そんなことで○○くんを差別したりなんかしませんよ」 しかし考えはすぐ余計なことだと、彼女達の話を聞いて分かったのだ。 「あたいたちとちがってそらとべないけどね」 「「「……」」」 「え、あたいなにかわるいこといったの?」 「チルノちゃん空気読もうね?」 「えーん、だいちゃんがこわいよー」 秋、近くの森でのキノコ狩り。 「……というキノコが安全なのよ」 「ふーん、そんなにいっぱい種類があったんですね」 「また闇雲に食べたりしないでよ!」 「分かってますよ、ちゃんと覚えましたから」 「○○! ホワイトのことちゃんと見ててよ!」 「二人とも心配性ですねー、大丈夫ですよー」 この時は何事もなくキノコ狩りは終了したが、その後にブラックから前回のキノコ狩りでのホワイトの有様を聞いた ……監視していたのは正解だったようだ。 「今晩の夕食はキノコ三昧ですね!」 冬、湖での雪遊び。 この時期、湖の水は凍っていて誰でも上を歩けるようになっていた。 「○○くーん、よくすべりますよー」 「こらー、あたいのきょかなしにみずうみであそぶなー!」 「あははー」 「ホワイトー、くれぐれも湖に落ちないようにしなさいよ!」 「大丈夫ですよー、それより二人とも一緒にすべりましょー」 「……仕方ないわね、一緒に行きましょう」 「……え、すべったことないから自信がない?」 「大丈夫よあたしが教えてあげるから、ね?」 そう言って差し出したブラックの手を取り、一緒に凍った湖でスケート?を楽しんだ。 季節は巡り春、ホワイトとブラックと一緒に春を伝えに行く。 「春、ですよー」 ……共に弾幕も。 「あー……」 ピチューンという音と共にホワイトが墜落していく。 「春を伝えるあたし達にはよくあることよ。危険はないから安心して」 前の前に極太の光線が迫ってきていた。 「やれやれ、そういやもうそんな季節だったぜ」 ここに来てから二度目の夏。彼女達とまた別れることになった夏。 深夜、私はブラックを呼んで話をした。ホワイトを呼ばなかったのは直感的に話してははいけないと感じたからだ。 「……そうね、やっぱり○○は帰りたいのね。またこうなると思ってたわ」 私ですら何故この気持ちが沸いてくるのが分からなかった、何一つ不安のない生活なのに何故ここまで『外』に対して望郷の念を抱いてしまうのか。 「本当はあたし分かってたの、貴方はまたいつか帰りたくなるんじゃないかって。でもあたしは何も考えないで先延ばしにしていたわ」 「あやまらないで、悪いのはこっちよ。貴方は『外』の人間、この幻想郷に住んでいる人間とは根本的に違っている…… だから惹かれてしまったのかもしれないわね。始めて会った時もすぐに『外』に返してあげるべきだったわ」 「なのに私は貴方を傍から離したくなくなっちゃった、きっとホワイトだって……」 「ともかく、ホワイトを起こさないでおいたのは正解よ、あの子なら貴方を監禁しかねないから」 「……」 帰りたいはずなのにここに残りたい……そんな気持ちが私の心でせめぎあっていた。 泣いてはいけないと思っていても涙を止められなかった。 「……泣かないでよ、あ…あたし…だって……」 「だ…抱きしめ…ないで……あたしも…貴方を…帰したく……なくなっちゃう…」 「…ぐすっ……ううぅ…うわぁぁぁん!」 ホワイトを起こさないように、しばらくの間二人で抱き合って泣いた。 「今日の朝5時に起こすわ。帰る準備をしといて……絶対にホワイトを起こしちゃだめよ」 ここに来てから二度目の博麗神社。 「ねえ、これだけ受け取ってくれないかしら」 別れ際に渡されたのは白百合と黒百合のペンダント。 「……忘れてほしいけど、忘れてほしくない。あたしの我儘よ、受け取りたくなかったら受け取らなくてもいいわ」 拒絶する理由がない。 「受け取ってくれるのね、ありがとう……」 でも受け取らなかったらどうなっていただだろうか? 「さよなら、もう二度と会いたくないわ……嘘よ」 そう言いったとたん、一瞬でブラックは空の向こうに消えた。 「なんだかよく分からないけど、朝早く起こすのはこれっきりにしてよ! 帰還の儀式もけっこう疲れるんだからね!」 ・ ・ ・ 「……酷いことするんですね」 「いくらでも言って、あたしは○○のことを考えて帰したまでよ」 「でも許してあげますよ、絶対に○○くんはここに戻ってきますから」 「……」 「おかしいですか? 私には分かるんです。どうあってもここでの暮らしはあの人の心に深く刻まれているのですから きっと近いうちにまたここに迷い込んでくるはずです。絶対に」 「それはありえないわ!」 「……ブラックちゃんは、○○くんに何か渡しましたよね?」 「ど、どうしてそれを貴方が……」 「私はこんなに○○くんに未練があるんですから、ブラックちゃんにだけ何もないはずがありません」 「……っ!」 「素直じゃないんですね、ブラックちゃんも○○くんも……ふふっ」 「あぁ……どうしてどうして、いけないことなのに! あの人を苦しませるだけなのに! あたしは……あたしは……」 「第一、どうして妖精と『外』の人間が一緒なっちゃいけないんですか?」 「それは……彼岸で閻魔様のお話を聞いて『外』の人間と深い関係を持つと、両者にとって悪いことだって、それで……」 「そんな理由で諦めるんですか?」 「……ぅぅ」 「次、○○くんがここに来たら協力してくれますよね?」 ・ ・ ・ 三度目に会ったのは高校二年生の秋 私には彼女達との思い出が忘れられなかった、だからきっとまた幻想郷に来てしまったのだ。 いや、もしかしたらこの白百合と黒百合のペンダントのせいかもしれない。 「もうどこにも行かせませんからねー」 「……『外』に対する思いも、あたし達が壊してあげるわ。春でね」 ホワイトは相変わらずの満面の笑みを浮かべ、ブラックはどこか吹っ切れたようだった。 そして現在に至る。 私自身、幸せかどうかは分からない、しかし、確実に『外』に対する思いは、少しずつだが消えているような気がする。 メディスン・メランコリーのお話(読みにくくてごめんね) あるところにひとりの○○というしょうねんがいました。しょうねんはあるおにんぎょうをたいせつにしていました。にんぎょうもしょうねんがだいすきでした けれど、しょうねんのおとーさんやおかーさんは、そのしょうねんからにんぎょうをとりあげでしまいました。 なぜなら、りょうしんはもっとおとこらしいあそびをしてほしいとおもったからです。 しょうねんはなきました、じぶんのたいせつなにんぎょうがすてられてしまったからです。 にんぎょうはかなしみました、もうしょうねんとあうことができなかったからです。 にんぎょうはうらみました、じぶんをすてたものたちを。 すてられたにんぎょうはべつのせかいにある、おかへとながれつきました。そのおかにはすずらんがさいていてどくでみちていました。 そのにんぎょうはながいながーいじかんをへて、いしをもちうごきだしました。 しかし、そのにんぎょうはなにもおぼえてはいませんでした。 にんぎょうはそのせかいでくらし、めでぃすんめらんこりーというなまえをえました。 あるひ、めでぃすんがおかをあるいていると、すてられているにんぎょうをみつけました。 そのにんぎょうからは、とてつもないぼじょうとうらみのねんをかんじました。かつてのじぶんのように。 そのときめでぃすんはすべておもいだしました、なぜじぶんがすてられたのかを。 めでぃすんはしょうねんにあいたくなりました、どうじにしょうねんからじぶんをとりあげたものたちをころしたくなりました。 めでぃすんはそのせかいにいる、はくれいれいむとやくもゆかりというひとにたのみこんで、しょうねんのいるばしょへととばしてもらいました。 めでぃすんがとばされたさきはおはかでした、そう、しょうねんはもうしんでいたのです。 めでぃすんはなきました、けれどなみだがでませんでした、にんぎょうだったからです。 めでぃすんはすてたものたちをうらみました、けれど、かれらももうしんでいました。 めでぃすんはおはかをほりました、まだしょうねんがいきているとしんじたかったからです。 けれど、おはかからほりだしたものはしょうねんのほねだけでした。 めでぃすんは、しょうねんのほねをもちかえり、にんぎょうをつくりました。 ほねをくみたて、はりあわせ、ふくをきせ、むかしのしょうねんにもどそうとしました。 そうして、しょうねんのにんぎょうはかんせいしました。 かんぜんではないけれど、そのすがたはむかしのしょうねんそのものでした。 めでぃすんはしあわせでした、やっとだいすきなしょうねんのもとへかえることができたからです。
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…霊夢、他の皆も、少しいいか? アリスを捜してるんだよな、数日前から行方不明になった… 多分…アイツはもう戻ってくることは無いだろうし、止めといた方がいいんじゃ… 何でか、って? …なら、話してやるよ。 アリスが行方不明になる直前にあった事を、な。 そして、それに至った経緯も含めて。 アリスには、〇〇っていう恋人がいた。 気前もよく、性格も… ん?初耳だ、って? そうだろうな、アリスは〇〇の事を誰にも渡したくない、って言ってたし、 私も当事者達に会ってなければ知らなかっただろうな。 …話を戻すぜ。 兎に角、あの2人は仲が良くてな。 何時結婚してもおかしくないぐらいだった。 …そんな時だった。 〇〇が死んだのは。 死因は、高い所から落ちた角材から子供を庇ったことによる外傷。 そんな死に方だったってのに、幸いな事にも、〇〇の身体には殆ど傷は見られなかった。 …いや、不幸にも、かな。 それを知ったアリスは…何もしなかった。 泣くことも、叫ぶことも、悔やむことも、何も。 ただ、虚ろな目で空を見上げているだけだった。 …それからは、酷かったな。 アリスは本当に何もしなくなっちまったんだ。 まるで生ける屍。 人形作りは勿論、飯を食う事さえもしなくなった。 身体は、衰弱しきっていた。 私やパチュリーが看病していなかったら、アリスはそのまま死んでいただろうな。 そこまで酷かったんだ。 …少しして、〇〇の火葬の日。 アイツの火葬は、アリスを雁字搦めに縛った状態で行われた。 衰弱しきっている筈なのに、火葬と聞いた瞬間凄まじい力で暴れ始め、正直、炎の中に突っ込みかねない勢いだったからな。 …アリスは、〇〇が焼かれていくのを、涙を流しながら見ていたよ。 骨はそのまま墓に埋められた。 アリスに渡しても、涙を流すだけで無反応だったからな。 その後、1ヶ月は看病生活が続いたよ。 その時は前よりも酷かったな。 前の状態は生ける屍って言ったけど、あの時は死んだも同然だったから。 起きているのか寝ているのかさえも分からない状態だったよ。 けれどな、暫くして、アリスも治り始めたんだよ。 最初は、こっちの問い掛けに対して反応を返すようになった。 次に、飯を自分で食べるようになった。 人形作りをしていた時なんかは、思わず泣いてしまいそうになったぜ。 そして、もう大丈夫なのか、って聞いたら、こう答えたんだ。 「〇〇を失った事はとても悲しいけれど、また、きっと何時か会えるから…」 これを聞いた時は喜んだぜ。 漸くアリスが〇〇の死を認め、受け入れ、前に進み出したと思ったからな。 何時か、か…ハハッ。 その「何時か」があんなに早く来るなんて、その時の私は知る由も無かったんだ… アリスが完全に立ち直った後は、私達も看病は止めた。 けれど、前のように遊びに行く事はあった。 そしてある日、アリスが何処かへ出掛けていくのを見たんだ。 ほんの好奇心で、私はアリスを尾行する事にした。 …好奇心、って言ったけれど、心配もしてたんだ。 あの時のアリスは、妙な雰囲気を纏っていたからな。 そのまま尾行していくと、アリスが建物に入っていくのが見えた。 何の変哲も無い小屋だった。 何の為にこんな小屋に来たのか、って気になってな。 入り口から、アリスに気付かれないように、そっと覗いたんだ。 今思えば、私は運が良かったのかもな。 尾行するのが遅ければ、私は何も知ることは出来なかった。 早ければ、私は口封じの為に殺されていたかもしれない。 あの場には、私を殺せる道具が山のようにあったからな… だが…その時には全てが終わっていた。 小屋の中には、人形作りの道具、床、壁に所構わず描かれた魔法陣、そして、 「ほら、また会えたでしょう?…もう失わない。逃がしてもあげない。…永遠に、私の傍にいて…?」 蕩けそうな笑顔を浮かべながら、 生前の〇〇と寸分違わぬ人形に抱きついているアリスがいたんだ…! あの後の事はよく覚えてない。 気がついたら、息を切らして森の外に居たんだからな。 アリスが一体何をしたのか… それは分からない。 ただ、分かる事が一つだけある。 それは、私達の知るアリスは、もう戻ってくることは無い、ってことだ。 …さあ、話は終わりだ。 …分かってくれたみたいだな。 それじゃ、私は帰るぜ。じゃあな。 「ふふ…ご苦労様、魔理沙。」 「これでもう、私達を捜そうとする、私達を引き離そうとする奴はいない…」 「それにしても…ここまで上手く行くとはね。」 「魂操の魔法は難易度が高いのだけれど…これも、愛の力かしら?」 「…まあ、それは別にいいか。…それよりも今は…」 「さあ…〇〇、行きましょう?2人だけの、終わることの無い楽園へ…ね。」
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up0125 タグ一覧 バッドエンド ヤンデレ少女主観 先代巫女 標準的なヤンデレ 霊夢 「○○」 「何だい?『 』」 「霊夢――博麗霊夢を、彼女を立派な博麗の巫女にしてあげて」 「何をまた……これが僕の仕事だろ?」 「彼女も私と同じように、色々な事に巻き込まれるかもしれないわ」 「もしも彼女が落ち込んだり、悩んだりしたら……助けてあげて」 「……みんなそう言うんだね」 「当たり前よ。自分が今までやっていた事を他の人に継がせるんだもの。心配にならない訳が無いわ」 「約束は守るよ。彼女が一人でも役目を果たせるようになったその時に……」 「なぁに? ○○」 「君に会いに行くよ。絶対に」 「……私は仕事一筋だったつまらない女よ」 「……それでも僕は」 「その約束、楽しみにしているわ。……私、待ってるから」 「あぁ、必ず」 「おはよう、霊夢」 「……ん、おはよう。○○さん」 私――博麗霊夢は博麗神社の巫女である。 異変の解決、博麗大結界の管理が主な仕事の博麗の巫女……その手伝いをしてくれているのが○○さん。 手伝いと言っても、食事を作ったり掃除洗濯、その他雑務をこなしてくれる――私の大切な人。 私が博麗の巫女のお役目を正式に継いだ時に紹介された世話役が彼だった。 悲しい事があったら慰めてくれて。 将来必要だから、と家事を教えてくれた事もあった。 あれが食べたい、と言ったら夕食にそれが出てきたり。 雷が怖かった夜には一緒に寝てくれた。……私の大好きな人。 その人が起こしに来てくれた。朝食ができたのだろうか、味噌汁のにおいが漂ってくる。 「冷めない内に来て食べておくれよ」 「んー……わかった」 「はろう、○○さん」 「おや、誰かと思えば」 「あら、紫じゃない。朝早くから何の用?」 何故か三人分の食事が置かれているちゃぶ台の近くで先に朝食にありついているのはスキマ妖怪――八雲紫だ。 朝早くから朝食を他人の家で食うなんて、いい度胸をしているわね。 「あぁ、お先に頂いてるわ~」 「えぇ、見ればわかりますよその位……はい、醤油どうぞ」 「あら、気がきくわねぇ」 この幻想郷の管理を行っている八雲紫。そんな人物を全く恐れない○○さん。 ……私から見ても、かなーり仲が良い。 「霊夢。早く食べないと冷めちゃうわよ? 今日のも中々美味しいわ」 「それはどーも」 「はーい。……いただきます」 うん、今日も味噌汁がうまい。 お、浅漬けもいい塩梅の塩加減。 鮭の塩焼きも中々……。 「ほら霊夢。ついてる」 「!? ……ありがと」 いつの間にか自分の頬に米が付いていた様だ。……○○さんはそれを躊躇うことなく自分の口に……。 「――あらぁ? 霊夢、顔が赤いわね」 「えぇっ!? そそそんな事……」 「あ、本当だ。赤いな……風邪か?」 「……し! 知らないわよっ!!」 恥ずかしい気持ちを何とかする為、使い終えた食器を持って台所へ向かった。 「あらら……行っちゃったわね」 そう言って彼女――八雲紫は僕に微笑んだ。 「あの子は少々恥ずかしがり屋な気がしますからね」 「貴方の役目通り……霊夢は博麗の巫女として十分機能しているわ」 「それはどうも……それが僕の仕事ですので」 しん、と場が静まる。次の言葉を待っているかのように。 「○○。三日後、貴方を霊夢の世話係から外します」 「!」 今――何て? 「霊夢はもう一人でも役目を果たし、生活もできるでしょう」 「……はい」 「……貴方も、彼女との約束を果たしてあげなさいな」 「紫……様」 「後は、私達に任せて。貴方は彼女と共に生きなさい」 「……はい!」 長かった。本当に長かった。 霊夢の成長を見届け、遂に許可が出たのだ。 僕が過去、交わした約束がもうすぐそこに――― 待っていてくれ、――― ……あれ?彼女の名前は――― 何故だ! 何故……!? 「ただいまー……って、どうしたのよ紫」 いつにもなく険しい表情をしてるわねー。 「霊夢。良く聞いて。とても大切な事よ。貴女にも、○○さんにも――」 え? 「三日後、○○さんは貴女の世話役から外れます」 「……え?」 え? 嘘よ。 「これからは私や藍が手助けを行います。貴女は今後、一人で博麗の巫女の役目を果たす事になる」 嫌。そんなの嫌!嘘よ! 「○○さん、お勤め御苦労さまでした」 「……えぇ、そう――ですね」 嘘よ。○○さんが私から離れちゃう。 嫌!嫌!そんなの嫌ぁぁぁぁ!!! 何で!? 私が我儘だったからなの!? もう我儘言わない!! 行かないで!!! ちゃんとお仕事頑張るから! だから○○さんもここにいてよぉ!!! ちゃんと素直になるから!! 言う事聞くから!! 真面目になるからぁ!!! 見捨てないでっ……!! ○○―――!!! どうしようどうしよう……。明日○○がいなくなっちゃう……。 嫌嫌嫌っ!!! ○○は私とずっと一緒に暮らすの!! この神社で!! この二日、必死で考えた。彼が私と一緒に居る方法を。 彼には悪いけど、仕方ないのよ。私が○○を好きになってしまったんだもの。 夜這いするのも、仕方ないわよね。 「うん。仕方ないのよ……これも、二人の為なんだもん」 ○○のいる寝室の襖を開く。○○はぐっすりと眠っている。 「えへ、○○さん……大好きよ」 布団を剥ぎとり、彼に跨る。無防備な彼の唇を貪った。 「ん……ふぅ、っ……・んくっ」 水音が部屋に響く。とても、いやらしい音だ。 「ん――れ、霊夢!?」 「あ。起きたんだ」 起きちゃったんだ……まぁ、いいや。 「何で、こんな事……!?」 「だって、○○さんが好きになっちゃったんだもの。……離れたくないのもあるわ」 「……霊夢、君が抱いている感情はきっと、僕を父として見ているんだ」 何を言っているの○○。私は貴方を男性として―― 「ううん、私は○○さんが好きなの。一人の男の人として、ね」 「――そんな訳」 「ずーっと好きだった。なのに私の所からいなくなっちゃうなんて、許せる訳ないじゃない」 「それは―――そういう事なんだよ。決まっている事なんだ」 何を言って――― 「霊夢、そこまでよ」 「紫様!」 「……ゆ、紫っ! どうしてここに!?」 何で!? どうして邪魔をするの!? 四肢が―――スキマに繋がって動かない……! 「○○さん、行って。彼女に会ってあげなさい」 紫が別のスキマを用意した。○○がその中に――― 「!! 嫌ぁ!! 置いてかないでぇ!!」 「霊夢―――ごめん」 スキマに――消えた。 「あ……・あああぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」 何で何で何で!!! どうして!? 私を置いて行っちゃうの!? 「霊夢、落ち着いて聞いて」 「紫……っ!」 この女が、憎いっ……! 「○○さんは―――」 返答次第では、ただじゃおかない―――! 「好きな人がいるのよ」 え―――? 「その人はね、とても真面目で仕事熱心で、貴方とは間逆の女性ね」 「○○さんはその人の世話役も行っていたわ。今のままの姿で」 「彼女はそんな○○さんを好きになり、彼もまた彼女が好きになってしまったわ」 「でも、彼女は貴方が博麗の巫女を継ぐと同時に姿を消した。そういう役目だったのよ」 「彼は今の仕事が一段落したら、一緒に暮らすと彼女と約束をした」 「その仕事が―――霊夢、貴女の世話役よ」 何を、言って……。 いや、それよりも……。 「○○さんは、この仕事を、『世話役』をしていたの……?」 「そうよ。彼は代々の博麗の巫女の世話係を担当しているわ。……もう、何代も、ね」 なんで、そんなに生きているの―――? 「どうして老いを知らないのか、って顔ね。……数代前の博麗の巫女と彼は、仲が良かったわ」 「ある時、その巫女が死んでしまってね。その時に彼が約束していたの」 「君と同じ、博麗の巫女を守り続ける――って、ね」 「私も手を貸したわ。彼を老いる事の無い身体にして、役目を果たせるように」 なんで、そんな。じゃあ……私と一緒だったのは――それが役目だったから? 「じゃあ、○○さんの好きな、人って」 「あら、まだ気付かない? 先代の博麗の巫女よ」 ―――ッ 「二人はこれから仲睦まじく暮らすわ。貴女もいい人を探しなさい」 「――あの人の事は忘れて、ね」 「げふぅ!!」 スキマから出ると、そこは見慣れない和室だった。 「……どこだ、ここ」 何か、懐かしい匂いもする。 ふと目をやったほうに、布団があった。しかも誰かが入っている。 「……まさか、ね」 そう呟いた。……その声に反応したのだろうか。 「ん、誰だ……?」 その人が起きてしまった様だ。……ヤバい、かな。 「あぁ、自分は決して怪しい者ではなくて――!」 「え、その声―――」 そう言った『彼女』の姿は、自分が追い求めていた他人の様な形で――― 「○、○……なのか?」 声までも、凄く似ていて――― 「あぁ……っ!! ○○--!!」 彼女が僕に抱きついた時に漂った、香りも似ていて――― 「あぁ……っ! 僕だ! ○○だ!」 気付けば僕は、泣いていた。 「○○……っ!私、もう駄目なのよ……!」 「もう、自分の名前も思い出せないのよ!」 「けど、私は貴方が―――!」 僕は、彼女をそっと抱きしめた。 「――君は、君だよ。僕が好きな、君だ」 「うぅ……・! ○○……っ!!」 あぁ――○○さん。 どうして、私がまるで馬鹿みたいじゃない。 貴方は役目で私に優しくしていたの……? 嘘よ……そんなの、嘘よ……。 そうよ。これは夢なんだ。 目が覚めたら、そこに○○さんがいて―――。 朝ご飯ができたよ、って起こしてくれるんだ。 「――夢」 「―――ん」 「霊夢、朝だよ」 ほら、やっぱり! あれは夢だったんだ! 「――おはよう、○○さん」 「おはよう、霊夢」 ほら! やっぱり○○さんは私と一緒がいいのよ! まったく、紫もどうかしちゃったのかしらねー。 「家事とかちゃんとできるね?」 「――ん?できるわよ」 だって、貴方が教えてくれたんだもん。 「ご飯、しっかりと食べるんだよ」 ちゃんと作れるわよー。貴方が教えてくれたんだもん。 「あ、家事もそうだけど、お役目もしっかり果たすんだよ」 まかせなさいよー。だって私は博麗の巫女なのよー。 「……じゃ、もう行くから」 ―――え? 「ま、待って……!」 ○○さんが襖を開けて神社の外に出る。そこで○○さんを待っていたのは――― 「あら、早かったのね、○○」 「うん、霊夢がちゃんと起きてくれたからね」 紫の言っていた、先代の博麗の巫女――― 何処となく私に似ている雰囲気の――長い黒髪の女。 「あ―――」 もう、○○さんは、あの女の餌に――― 「ん?霊夢。どうしたんだい?」 「あら? この子が今の博麗の巫女?」 そこをどけ!! ○○さんが汚れるだろっ!!! 「お役目、頑張ってくださいね」 いい笑顔でそう言い終えて、アイツは○○さんの腕をとって――― 「――――――フッ、小娘が」 私だけに聞こえる様に、囁いた。 「ああぁああぁあぁぁぁあああ!!!」 私は、二人の背中に向かって弾幕を放った―――。 先代巫女のお話が少ないので、絡ませる程度に出演させてみました。 ついでに○○も人外になっているという……うん、好みが分かれると思います。 あ!アリスのお話も書く書く言いながらまだ出来ていないんだ!すまんね 感想 名前 コメント