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幻想郷。 失われた自然といまだ人が共存する地。 大地の恵み、川の恵み、風と雨に立ち向かい、その猛威を畏れ、恩恵に感謝する。 自然と対峙し、ときに糧を得るべく狩り、または育む。 人が自然の中に生きるために狩るもの…それは、ゆっくりと呼ばれる存在であった。 この村には風変わりな家がある。この家には一人の男が住んでいる。 村の規模はまだ小さく、発展の途上にあることが十分に伺える。頑丈な、これだけはまずしっかりと拵えた柵の内に村人は家を建て畑を耕し、しかし、この男と幾人かの村人は農民の生活に合わせず、 朝は遅くまでベッドの上、夜はいつ帰るともしれず、それでいて男を見る村人の眼はいつも尊敬の念にあふれていた。 そんな男の家は村の中心にあり、村長の家をしのぐ大きさを誇る。ただ、その形が異様だ。大きな台形のような外見で、二階には大きな窓が二つ、屋根は真っ黒に塗られ、天井は高く尖り、家の後ろには波打った藁のようなものが垂れていて、 近くで見るとつるつるとした壁肌が、村からゆっくり離れて、段々とその形が周辺の者なら誰でも見覚えある形にまとまって見えてくる。大きな、大きな、ゆっくりまりさの形に。 この男の家はゆっくりでできていた。 村の中で異彩を放つ、その家は庭のようにちょうど周囲を取り巻く柵を境に、ゆっくりを丸ごと家に改造したものなのだ。 かつて村を襲った脅威の一つ、10m級ドスまりさを剥製化して、職人を招き、住居として手を加えたもの。 あんぐりとあけっぱなした巨大な口には、すっぽりと豪奢な鉄のドアを嵌め込んで。 目の部分は二つの円窓を誂え。 皮は、樹脂とゆっくりの餡子を練りこんだ特製の油を塗りこみ、コンクリートのように硬化処理し。 風船のようにぷっくりと広げた内部は餡子を残らず抜き取って大黒柱と支柱を数本立て、床には絨毯を敷き詰め。 帽子と髪の毛も腐敗処理を施して屋根として利用してある。 この家はまさしく、「ゆっくりの家」だ。 そんな奇妙な家の内装もまた、あらゆるものがゆっくりで作られていた。 成体のゆっくり各種を背中から切り開き、餡子を抜いて代わりに綿を詰めて縫い合わせたゆっくり縫いぐるみ。 生きたままのゆっくりの頭部に穴をあけ、花の種を植えたゆっくり植木鉢。これはゆっゆっと掠れた声でぴょんぴょん跳ねながら、頭の花をゆらゆら揺らしている。 柱に打ち付けられたゆっくり時計。膨らんだ腹部に鳩時計と同じ仕掛けを施し、定時になると生まれたての赤ん坊ゆっくりがぽーんと転がり出てくる。 箪笥や、床に置いた道具箱などもゆっくりから拵えたものばかり。 なぜ、これほどにゆっくりにこだわるのか。男にしてみると、こだわるとかそういった問題ではなかった。ただ、生活に関わるあらゆるものが、ゆっくりであっただけで… この男の職業は、ゆっくりハンターだから。 人口は百足らず。時折訪れる行商人とのわずかな交易と狩りの成果に頼る小さな村は、つい最近の開拓によって作られた。 都市を出て郊外を離れ、ずっと森の中に分け入ったさらに先、自然の趣たっぷりな平野に新天地を求めた人々によって築かれた。 だが、そこは伝説でしか知られない不自然の脅威にさらされる地だったのだ。 大きな森や山に必ずいるという、生まれつきの素質をもつ個体が、強運と狡猾さで生き延びて、群れを支配するまでに巨大化した、ドスまりさ。 都では滅多に確認されない、ドス級の巨体に加え、鮮やかな桜色のリボンがトレードマークのれいむ種、リオれいむ。ドススパークに匹敵する火炎球を放つという。 姿かたちは元の種と変わらず、やや大きめの体に人間でも追跡できぬ異常な素早さと凶暴性を秘めた、ちぇんクック。さらに凶悪なちぇんガルルガなる種も噂に語られる。 遠目からでも、地響きと20mという巨体ゆえに目立つ、ティガれみりゃ。 それ自体が一つの山と数えられ、もはや災害そのものにまで増長し、都の防衛庁が対策を講じねばならぬという、ラオシャンみょん。 もはや伝承ですら語られることも稀な、 伝説に忘れ去られた古代の知識を身に着け、天を裂き山を揺るがし、自然現象を操る超常の種、ミラボレぱちゅ。 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 辺境の村はどこもゆっくりの脅威に晒された。ある村は蝗の様に襲いかかるゆっくりの大群に畑を食い尽くされ、ある村は見たこともない巨大なゆっくりに家を踏み潰され、村があった場所はもはやただの平原に変わったという。 ゆっくりを対処する手段が求められた。ゆっくりを研究し、ゆっくりにのみ通用する毒やゆっくりの本能を刺激して罠にかける方法が編み出された。だが、それだけでは足りなかった。 小さなゆっくりには人的手段が通用したが、災害に等しい巨大種には常人では対抗しきれない。 そうして立ち上がったのが、ゆっくり虐待派と呼ばれた青年たちだった。はじめ、彼ら彼女らは生き物を無残に遊び殺すと忌避された。しかし、ゆっくりを様々な方法で玩ぶうちに、虐待派はゆっくりのあらゆる特性を学んでいった。 彼ら彼女らはただゆっくりを殺害する手段だけではなく、生活に役立つ道具としてゆっくりを加工する手段も編み出していったのだ。 いつの間にか、森に棲むゆっくりを狩り、ゆっくりから武器や防具を加工して、仲間同士で連携して巨大種を倒す技を身につけた者を 「ゆっくりハンター」 と呼び、いまや開拓村、辺境の町ではなくてはならない存在となった。 ハンターには素質が必要だ。それはゆっくりを傷めつける虐待の精神がなにより重要とされる。 ゆっくりは極めて世代交代のサイクルが短い。また、個体自体の「進化」と他の生命体なら呼ばれるだろう環境への適応能力もまた著しく高いのが特徴である。 その最たる例が、『虐待などで過度のストレスを長期受け続けたゆっくりの餡子は非常に甘くなる』というものである。 これは殆どのゆっくりに当てはまる、環境への自己適応である。 ハンターはゆっくりを狩り殺すだけが能ではない。生業として成立するために、ゆっくりから様々な道具を作り出す知識を身につけている。ゆっくりにかける負荷の度合いや部位によって、硬度や弾力性に変化を持たせることで、 巨大種の皮や餡子、または眼球や舌などから衣服、調度品、薬品、そしてハンターがゆっくりを狩るための武具を作り出すのだ。 ゆっくりを狩る者にも色々いるが、(都では、身長を超えるような大きな玄能を嬉々として振り回す少女のハンターがいるともっぱらの噂だが)時には、胴体付きゆっくりを捕獲して調教ないし教育し、 ペットや使用人、あるいは狩りの手伝いをする助手として利用することもある。 この開拓村に、ゆっくりの家を造って暮らす男は、随一のハンターである。討伐、捕獲、採集、あらゆる依頼をこなし、かつてはラオシャンみょんの進行を阻止する要塞戦で勝利を収めたほどの猛者だ。 日が沈み、夜が訪れる頃。 男の家に客人が現れた。村長だ。曲がった腰を杖で支え、ドアをゆっくり叩いた時、男はちょうど食事の時間で、飼いゆっくり(ピンクと白の縞々帽子をかぶせたまりさ)を撫でながら、コックのれみりゃが作った小籠包を味わっていたところだった。 村長の用事はわかっていた。それは依頼だ。 「急ですまんがの。また森のほうでゆっくりがあらわれたそうじゃ。行商人が依頼を持ってきた。なんでも近く都のほうで新しい建設の計画があるそうじゃが、その付近で凶暴なゆっくりが群れをつくっとるそうじゃ。都から派遣されるハンターと共同で討伐してくれとの。」 男はそれだけ聞くと、口元の肉汁を拭い、膝の上のゆっくりを払い落して無言のまま、壁に掛けた武具を取り出し装着した。 彼が身につけるのは、かつてラオシャンみょんを討伐した際、剥ぎ取った表皮を乾燥させ、薬品に漬けこむことで銃弾の衝撃を吸収するほどの耐衝撃性をもたせたものを甲冑として鍛えた「暁丸」、 武器はラオシャンみょんの牙を削った太刀「楼観剣」である。 準備が整うと、村長が手配したゆっくり車(底部に車輪を取り付け、横長に変形した2m級のドスまりさ二体が牽引)に乗り、鞭を振るった。 ひぃっと小さく声を上げると、ドスまりさがゆっくりと移動を始めた。 地図に示された狩り場に辿り着くのは深夜。もっとも狩りに適した時間だ。それまで男は休息を取るべく目を閉じた。ハンターの習性ゆえに、男はすぐに眠りに落ちた。 目が覚めた時には、非情かつ冷酷なハンターがそこにはいるだろう… (続く) おはようとそしてこんにちは、それからこんばんは VXの人です。 どうしても書きたかった。後悔はしてはいけないと信じてる。シンジテル。 このSSに感想を付ける
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幻想郷。 失われた自然といまだ人が共存する地。 大地の恵み、川の恵み、風と雨に立ち向かい、その猛威を畏れ、恩恵に感謝する。 自然と対峙し、ときに糧を得るべく狩り、または育む。 人が自然の中に生きるために狩るもの…それは、ゆっくりと呼ばれる存在であった。 この村には風変わりな家がある。この家には一人の男が住んでいる。 村の規模はまだ小さく、発展の途上にあることが十分に伺える。頑丈な、これだけはまずしっかりと拵えた柵の内に村人は家を建て畑を耕し、しかし、この男と幾人かの村人は農民の生活に合わせず、 朝は遅くまでベッドの上、夜はいつ帰るともしれず、それでいて男を見る村人の眼はいつも尊敬の念にあふれていた。 そんな男の家は村の中心にあり、村長の家をしのぐ大きさを誇る。ただ、その形が異様だ。大きな台形のような外見で、二階には大きな窓が二つ、屋根は真っ黒に塗られ、天井は高く尖り、家の後ろには波打った藁のようなものが垂れていて、 近くで見るとつるつるとした壁肌が、村からゆっくり離れて、段々とその形が周辺の者なら誰でも見覚えある形にまとまって見えてくる。大きな、大きな、ゆっくりまりさの形に。 この男の家はゆっくりでできていた。 村の中で異彩を放つ、その家は庭のようにちょうど周囲を取り巻く柵を境に、ゆっくりを丸ごと家に改造したものなのだ。 かつて村を襲った脅威の一つ、10m級ドスまりさを剥製化して、職人を招き、住居として手を加えたもの。 あんぐりとあけっぱなした巨大な口には、すっぽりと豪奢な鉄のドアを嵌め込んで。 目の部分は二つの円窓を誂え。 皮は、樹脂とゆっくりの餡子を練りこんだ特製の油を塗りこみ、コンクリートのように硬化処理し。 風船のようにぷっくりと広げた内部は餡子を残らず抜き取って大黒柱と支柱を数本立て、床には絨毯を敷き詰め。 帽子と髪の毛も腐敗処理を施して屋根として利用してある。 この家はまさしく、「ゆっくりの家」だ。 そんな奇妙な家の内装もまた、あらゆるものがゆっくりで作られていた。 成体のゆっくり各種を背中から切り開き、餡子を抜いて代わりに綿を詰めて縫い合わせたゆっくり縫いぐるみ。 生きたままのゆっくりの頭部に穴をあけ、花の種を植えたゆっくり植木鉢。これはゆっゆっと掠れた声でぴょんぴょん跳ねながら、頭の花をゆらゆら揺らしている。 柱に打ち付けられたゆっくり時計。膨らんだ腹部に鳩時計と同じ仕掛けを施し、定時になると生まれたての赤ん坊ゆっくりがぽーんと転がり出てくる。 箪笥や、床に置いた道具箱などもゆっくりから拵えたものばかり。 なぜ、これほどにゆっくりにこだわるのか。男にしてみると、こだわるとかそういった問題ではなかった。ただ、生活に関わるあらゆるものが、ゆっくりであっただけで… この男の職業は、ゆっくりハンターだから。 人口は百足らず。時折訪れる行商人とのわずかな交易と狩りの成果に頼る小さな村は、つい最近の開拓によって作られた。 都市を出て郊外を離れ、ずっと森の中に分け入ったさらに先、自然の趣たっぷりな平野に新天地を求めた人々によって築かれた。 だが、そこは伝説でしか知られない不自然の脅威にさらされる地だったのだ。 大きな森や山に必ずいるという、生まれつきの素質をもつ個体が、強運と狡猾さで生き延びて、群れを支配するまでに巨大化した、ドスまりさ。 都では滅多に確認されない、ドス級の巨体に加え、鮮やかな桜色のリボンがトレードマークのれいむ種、リオれいむ。ドススパークに匹敵する火炎球を放つという。 姿かたちは元の種と変わらず、やや大きめの体に人間でも追跡できぬ異常な素早さと凶暴性を秘めた、ちぇんクック。さらに凶悪なちぇんガルルガなる種も噂に語られる。 遠目からでも、地響きと20mという巨体ゆえに目立つ、ティガれみりゃ。 それ自体が一つの山と数えられ、もはや災害そのものにまで増長し、都の防衛庁が対策を講じねばならぬという、ラオシャンみょん。 もはや伝承ですら語られることも稀な、 伝説に忘れ去られた古代の知識を身に着け、天を裂き山を揺るがし、自然現象を操る超常の種、ミラボレぱちゅ。 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 辺境の村はどこもゆっくりの脅威に晒された。ある村は蝗の様に襲いかかるゆっくりの大群に畑を食い尽くされ、ある村は見たこともない巨大なゆっくりに家を踏み潰され、村があった場所はもはやただの平原に変わったという。 ゆっくりを対処する手段が求められた。ゆっくりを研究し、ゆっくりにのみ通用する毒やゆっくりの本能を刺激して罠にかける方法が編み出された。だが、それだけでは足りなかった。 小さなゆっくりには人的手段が通用したが、災害に等しい巨大種には常人では対抗しきれない。 そうして立ち上がったのが、ゆっくり虐待派と呼ばれた青年たちだった。はじめ、彼ら彼女らは生き物を無残に遊び殺すと忌避された。しかし、ゆっくりを様々な方法で玩ぶうちに、虐待派はゆっくりのあらゆる特性を学んでいった。 彼ら彼女らはただゆっくりを殺害する手段だけではなく、生活に役立つ道具としてゆっくりを加工する手段も編み出していったのだ。 いつの間にか、森に棲むゆっくりを狩り、ゆっくりから武器や防具を加工して、仲間同士で連携して巨大種を倒す技を身につけた者を 「ゆっくりハンター」 と呼び、いまや開拓村、辺境の町ではなくてはならない存在となった。 ハンターには素質が必要だ。それはゆっくりを傷めつける虐待の精神がなにより重要とされる。 ゆっくりは極めて世代交代のサイクルが短い。また、個体自体の「進化」と他の生命体なら呼ばれるだろう環境への適応能力もまた著しく高いのが特徴である。 その最たる例が、『虐待などで過度のストレスを長期受け続けたゆっくりの餡子は非常に甘くなる』というものである。 これは殆どのゆっくりに当てはまる、環境への自己適応である。 ハンターはゆっくりを狩り殺すだけが能ではない。生業として成立するために、ゆっくりから様々な道具を作り出す知識を身につけている。ゆっくりにかける負荷の度合いや部位によって、硬度や弾力性に変化を持たせることで、 巨大種の皮や餡子、または眼球や舌などから衣服、調度品、薬品、そしてハンターがゆっくりを狩るための武具を作り出すのだ。 ゆっくりを狩る者にも色々いるが、(都では、身長を超えるような大きな玄能を嬉々として振り回す少女のハンターがいるともっぱらの噂だが)時には、胴体付きゆっくりを捕獲して調教ないし教育し、 ペットや使用人、あるいは狩りの手伝いをする助手として利用することもある。 この開拓村に、ゆっくりの家を造って暮らす男は、随一のハンターである。討伐、捕獲、採集、あらゆる依頼をこなし、かつてはラオシャンみょんの進行を阻止する要塞戦で勝利を収めたほどの猛者だ。 日が沈み、夜が訪れる頃。 男の家に客人が現れた。村長だ。曲がった腰を杖で支え、ドアをゆっくり叩いた時、男はちょうど食事の時間で、飼いゆっくり(ピンクと白の縞々帽子をかぶせたまりさ)を撫でながら、コックのれみりゃが作った小籠包を味わっていたところだった。 村長の用事はわかっていた。それは依頼だ。 「急ですまんがの。また森のほうでゆっくりがあらわれたそうじゃ。行商人が依頼を持ってきた。なんでも近く都のほうで新しい建設の計画があるそうじゃが、その付近で凶暴なゆっくりが群れをつくっとるそうじゃ。都から派遣されるハンターと共同で討伐してくれとの。」 男はそれだけ聞くと、口元の肉汁を拭い、膝の上のゆっくりを払い落して無言のまま、壁に掛けた武具を取り出し装着した。 彼が身につけるのは、かつてラオシャンみょんを討伐した際、剥ぎ取った表皮を乾燥させ、薬品に漬けこむことで銃弾の衝撃を吸収するほどの耐衝撃性をもたせたものを甲冑として鍛えた「暁丸」、 武器はラオシャンみょんの牙を削った太刀「楼観剣」である。 準備が整うと、村長が手配したゆっくり車(底部に車輪を取り付け、横長に変形した2m級のドスまりさ二体が牽引)に乗り、鞭を振るった。 ひぃっと小さく声を上げると、ドスまりさがゆっくりと移動を始めた。 地図に示された狩り場に辿り着くのは深夜。もっとも狩りに適した時間だ。それまで男は休息を取るべく目を閉じた。ハンターの習性ゆえに、男はすぐに眠りに落ちた。 目が覚めた時には、非情かつ冷酷なハンターがそこにはいるだろう… (続く) おはようとそしてこんにちは、それからこんばんは VXの人です。 どうしても書きたかった。後悔はしてはいけないと信じてる。シンジテル。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/397.html
ゆっくりハンターの生活 里から少し離れたところに建っている一軒屋。ゆっくりハンターである私の朝は、ここから始まる。 ゆっくりハンターである私の朝は、そんなに早くない。 いつも通りの時間に起きて、布団の上で大きく伸びをする。よく寝たから、気分がいい。 私は布団から出て、寝汗で少し湿っているパジャマを無造作に布団の上に脱ぎ捨て、普段着に着替える。 寝巻きはいつもこんな扱いだからしわくちゃだ。どうせ誰にも見せる予定は無いから別にいいけども。 「おじゃまします。ハンターさん、起きてますか?」 私が朝食を食べ終えたとき、一人の少女が入ってきた。最近私の家に出入りするようになった少女、稗田阿求だ。 何でもゆっくりに興味があるらしく、私の仕事を見学したいと数日前からここに通いつめている。 ただ見学するだけでは悪いからと、私の仕事も無償で手伝ってくれるので大助かりだ。 「おはよう、阿求ちゃん。今日は早いんだね」 「はい!朝からゆっくりたちを虐められると聞いて飛んできました!」 「そう。じゃあ早速仕事始める?」 「ぜひともお願いします!」 私は仕事用の道具をリヤカーに乗せて運び出し、彼女と一緒に家を出た。 空には雲ひとつ無く、雁たちが隊列を組んで飛んでいる。 いい朝だなぁ、と私は思った。 「ここからはやくだしてね!ここじゃゆっくりできないよ!」 「だれでもいいからはやくたすけてね!れいむはおうちにかえってゆっくりしたいよ!」 「おおー、いっぱいかかってますねー」 向かった先は、ゆっくり専用落とし穴一号。いつか4号まで作る予定だ。 穴の中心にはゆっくりが好む臭いを出すお香と、いくつかの野菜を模したゴム人形が置いてある。 えさを探しにきたゆっくりたちを中に落として捕まえるというシンプルなもの。 雨の日は使えないのが難点だが、ほかっておくだけで勝手に獲物がかかるので非常に楽だ。 穴の中には十匹前後のゆっくりたちがいる。 普段は五匹もかかればいいほうだから、大漁だと言えた。 たぶん家族の一人が穴に落ちて、それを助けようとしたゆっくりが芋づる式に入ったんだろうな。 「じゃあ阿求ちゃん、一匹私が捕まえるからちょっと見ててね?次からは手伝ってもらうから」 「はい、わかりました」 私はタモを使ってそのゆっくりのうちの一匹を拾い上げる。 掬い上げられたゆっくりは私に助けられたのかと勘違いしているのか、希望に満ちた目でこちらを見た。 「ゆ?おねーさんまりさをたすけてくれたの?ついでにまりさのかぞくもさっさとたすけてね!!」 私はその声を無視し、懐においておいたチキスでゆっくりの口をぬいとめる。 ばちんっ、という音と共にゆっくりまりさの口が強制的に閉じられる。 「ん゛!?ん゛~~~~~~!!!」 「ごめんね。痛いだろうけど、あとで業者さんが抜いてくれるだろうから我慢してね?」 そして、収穫用の箱にそのゆっくりを入れた。 外からしか入り口はあけられないように作られているので、もうそのゆっくりまりさは逃げ出すことが出来ない。 「はい。これでワンセット。阿求ちゃん,わかった?」 「もちろんですとも!この稗田阿求、一度見たものは二度と忘れません!」 彼女はこぶしを強く握り締めながら、力強くそう答えた。 「じゃあ、阿求ちゃんは私が捕まえたゆっくりの口にホチキスをして、その箱に入れる作業をしてくれるかな?」 「了解しました」 さすがにこの少女にゆっくりを掬い上げる作業は彼女には重労働すぎる。 意外にゆっくりたちは重いのだ。 彼女もそれをわかっているのだろう。素直に私の言うことに従ってくれた。 彼女は最初こそ勝手がわからずと惑うことがあったものの、すぐになれててきぱきと作業するようになった。 賢いし、元気があってとてもいい子だ。子どもがこんなにしっかりしているのだから彼女の親も鼻が高いだろう。 「そういえば、このゆっくりどうするんですか?殺すんですか?」 作業をしながら阿求ちゃんが私に質問を投げかける。 その質問の最後に、特に語気を強めていた。 「あはは…そのつもりなら中に毒エサでもまいておくわ。 このゆっくりたちは、加工場や薬屋さんに売るために、生きたまま捕獲するの」 「なるほど。でも、なんでわざわざ口をホチキスで止めるんですか?そのまま箱に入れればいいのでは?」 彼女は箱をどつきながらそういった。 箱の中にいるゆっくりたちがおびえたように飛び跳ねる。口を閉じさせられているため悲鳴を上げることも出来ない。 彼女はそのゆっくりたちの様子に少し物足りないようだった。 「だって、なんか心苦しいじゃない。ゆっくり達の悲鳴を聞いてると」 「……は?お姉さんはゆっくりハンターなのでは?」 私のその告白が衝撃だったのか彼女の作業を続ける手が一瞬止まる。 その様子に私は苦笑する。言っていることがおかしいのは自分でも重々承知している。 「まあ共食い防止っていう理由もあるんだけどね。 仕事だから仕方なくやってるけど、私本当はゆっくりが大好きだったりするんだよ?もちろん食事用って意味じゃなくてね。 子供の頃は一緒にゆっくりたちとも遊んでいたし」 「じゃあなんでその職業に就いたんですか…」 私の言葉に阿求ちゃんは驚きを通り越して呆れているようだった。 「本当は農家になりたかったんだけど、でも私が作る野菜はまったく売れないのよねぇ。 だから仕方なくって感じ。 ……よいしょ、これで最後かな?阿求ちゃんお願いね」 「あ、はい。パチンっ、と」 彼女は最後のゆっくりを箱の中に叩き込んだ。 沢山取れたからもう箱の中はパンパンだ。 「じゃあ、これもって行こうか。いっぱい取れたから結構なお金になりそうね」 「はい、わかりました」 私は彼女と一緒に市場まで行き、里に薬を売りにきた兎さんに捕まえたゆっくりを売った。 彼女は実験に使うらしいので、全部は買ってはくれなかったがそれなりの金額にはなった。 阿求ちゃんはその兎さんと知り合いのようで、今度また狩りに行きましょうねと笑いながら喋っていた。 私は残った分を加工所の人に売り、もうけたお金で彼女に手伝ってくれた御礼をした。 なにが欲しいか、とたずねたら生きたゆっくりれいむがいいです、といっていたので買ってあげたら喜んでくれた。 私と阿求ちゃんはそのゆっくりれいむをと一緒に、私の家までゆっくり帰った。 今そのゆっくりれいむは彼女の腕に抱えられ、中身のあんこを少しづつほじくり出されている。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!れいむのあんこださないでぇぇぇぇぇ!!」 「あはは!いい声で鳴きますねぇ。ここですか?ここがいいんですか?」 「ひぎぃぃぃぃぃ!?そこはだいじなどごだがらやべでねぇぇぇぇぇぇ!!?」 彼女はゆっくりれいむのあんこをまさぐりながら、場所によって変わる反応を見て遊んでいた。 私はそんな彼女を、微笑みながら眺めている。 叫び声をあげるゆっくりれいむはとてもかわいそうだったが、人が愉しんでいるところに水を刺すほど私は無粋ではない。 ゆっくりを虐めて楽しむという行為に共感は出来ないが、理解はしているつもりだ。 「ゆ゛……ゆ゛……」 そのゆっくりれいむは結局阿求ちゃんに中身をすべて穿り出され、やがて死んでいった。 そのときの阿求ちゃんのさわやかな笑顔が、少しうらやましかった。 「じゃあ、そろそろ昼食にしようかしら」 彼女の快感の余韻が去ったところで、私がそう提案する。 あれだけ働いて、その後ゆっくりれいむをあんなに虐めたのだ。 阿求ちゃんもおなかペコペコだろう。 「ああ、もうそんな時間ですか。ゆっくりを虐めていると時が経つのが早いですね」 「じゃあ何か作るから少し待ってて……」 私がそういって席から立った時、外から声が聞こえた。 「ゆゆ!こんなところにおいしそうなおやさいがあるよ!」 「やったね!まりさたちがみつけたからこれはもうまりさたちのものだね!」 「みんなでとろうね!」 私が慌てて外に出ると、ゆっくりたちが私の自家菜園の中でたむろっていた。 阿求も遅れて、何かメイスのようなものを持って表に出てきた。 ゆっくり立ちは私たちの姿を確認すると、そのうちの一匹が警戒するかのように飛び跳ねた。 「おねえさんたちだれ?これはまりさたちがみつけたおやさいだから、あげないよ!ゆっくりどっかいってね!!」 「あのね、それは私が作ったお野菜なの。だからそれは私のものなの。わかる?」 「なにいってるの?これはまりさがみつけたんだからまりさのものだよ! わたしたちからおやさいよこどりしようとするやからはさっさとしんでね!」 私はメイスを振りかぶって突撃しようとする阿求ちゃんを慌てて止め、再度ゆっくりたちに話しかける。 「ごめんね、あなた達からお野菜を横取りするつもりはないの。 ただ、私が作ったお野菜がどんな味か、あなた達に聞きたかっただけなの。 それはあなた達にあげるから、もしよかったら感想を聞かせてくれないかな?」 「ちょ、何言ってるんですか!そんなこといったら…」 「ゆー!そういうことならはやくいってね!まりさのこえたしたでゆっくりひょうかしてあげるよ!」 「ほら!付け上がってるじゃないですか!こんなやつらなぞ私のメイスで一撃…………むぎゅ」 「だからやめなさいって。あ、私たちのことはいいからゆっくり食べてね」 私は阿求ちゃんを止めつつ、ニコニコと笑いながらゆっくりたちの様子で見ていた。 阿求ちゃんは頭に青筋を浮かべながらゆっくりたちのところまで行こうとするが、私に後ろからがっちりとホールドされて動くことが出来ない。 「離して下さい!私のモルゲンがやつらを殺せといってるんです!」 「ちょっと落ち着いて見て見なさいって。ほら、あんなに幸せそうな顔して、かわいいなぁ…」 「ゆっくりたべるよ!ぐるめなまりさのひょうかをゆっくりまってね! ぱくっ!むーしゃ!むーしゃ!」 「ハンターさん今すぐこの手を離して下さいさもないとあなたも肉塊に」 おとなしい顔して怖い子というなぁ、この子。 それにだんだんと口が悪くなっている。あれだけゆっくりれいむを虐めたんだからもういいだろうに。 私がそのままの状態でまりさのお野菜の感想を待っていると、いきなりまりさがひっくり返って暴れだした。 「ゆ゛ぎがぁぁぁぁぁぁぁ!!ごれべんだよぉぉぉぉぉぉ!!」 「どう?おいしかった?」 「ぐぅぅぅぅぅ!!ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいいい!!!」 ゆっくりまりさは奇声を上げた後、ひとしきり暴れてそのまま動かなくなった。 暴れた拍子に、近くにいた子どもが二、三匹つぶれた。 その姿に他のゆっくりも、阿求ちゃんもしばし固まる。 私は、またかと一人ため息を吐いた。 死んだゆっくりまりさの仲間のゆっくりが、こちらに体当たりを仕掛けてきた。 私はそれを優しく払いのける。 「このおやさいにどくをしこんだんだね!ゆるさないよ!!」 「そんなこと無いよ。ほら、ぱくっとな」 私は暴れるのをやめた阿求ちゃんから手を放し、さきほどまりさが食べた野菜を水で軽く洗って、そのまま食べた。 「うん、おいしいわ。あなた達流で言うなら、しあわせー」 「ゆゆ!?どういうこと!?」 「れいむはかしこいからわかったよ!おみずであらったからどくがおちたんだよ!」 「じゃあやさいをあらってからちょうだいね!」 私のその様子に、ゆっくりれいむはそう結論づけた。 私は、彼女らの言うとおり野菜をきちんと洗ってからゆっくりたちに差し出す。 それを見て安心したのか、ゆっくりたちはいっせいにその野菜に噛み付いた。 「これならだいじょうぶだね!むーしゃ!むーしゃ!」 「むーしゃ!むーしゃ!」 「むーしゃ!むー………ぎぁぁぁぁぁぁ!!?」 「うげぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!?!?」 「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!????」 そしてそのまま畑の中を転げまわり、やがて絶命した。 かろうじて生きていたゆっくりもいたが、阿求ちゃんがメイスで叩き潰してしまった。 感想を聞きたかったのに。少し落ち込む。 「ど、どうなっているんですかこれは……。あ、まさかゆっくりだけを殺すハンターさんの巧妙な毒トラップですか!?」 「うーん、そんなつもり無いんだけどねぇ。阿求ちゃんもちょっと食べてみる?大丈夫、死にはしないから」 私は野菜をほんの少しちぎって、阿求ちゃんに渡す。 彼女は最初はためらっていたが、好奇心がそれを上回ったのか、そのままぱくりと食べた。 そして、目をカッと開いた後、すぐに吐き出した。 「ぺっ、ぺっ!な、なんですかこの味……!?不味過ぎですよ! 食べた瞬間に強烈な辛さと苦しみと絶望感が口中をあばれまくりましたよ! これほんとに食べ物ですか!?」 「失礼ね。私が精一杯心をこめて作ったお野菜なのに。私はおいしいと思うんだけどなぁ。 たまにゆっくりたちにも上げるんだけど、みんな何故か死んじゃうのよね」 私は残った野菜を口の中に放り込み、味わうようにゆっくりと野菜を食べた。 こんなにおいしいのに、なんでみんなまずいなんていうのか、私にはさっぱりわからなかった。 阿求ちゃんは、そんな私の様子を信じられないといった顔で見ている。 「じゃあそろそろご飯にしようね。私が腕によりをかけて作ってあげるから」 「そ、その料理は、まさかおいしいですか?」 「ええ、とっても。出来たら阿求ちゃんに感想を聞きたいわぁ」 阿求ちゃんはおびえたように私から半歩はなれると、震えた声でこういった。 「わ、わわ私はお弁当があるので、だいじょうぶです!お気になさ、なさらないで下さい!」 結局私は食事を自分の分だけ用意し、彼女と一緒に昼食をとった。 心なしか彼女の顔が少し青かったが、本人も何も言ってないようだったから、気にしないことにした。 途中でおかずを交換しないか、と聞いてみたが、遠慮させてください!と強く断られてしまった。 お野菜は沢山余っているのに、とても残念だ。 終わり 虐め分が少ないorz 初めてSS書いた結果がこれだよ! 気が向いたら続くかも? このSSに感想を付ける
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近頃巷で流行ってるゆっくりなる生物 こいつらは人の畑を荒らし、おまけに堂々と自分の家だとか抜かしやがる。そのため農民たちに嫌われていた。 もちろん、俺もこいつらは大嫌いだが感謝もしている。 理由は簡単。こいつらのお蔭で俺は生計を立てているからだ。 こいつらが大量発生する前俺はただの農民だった。少し外れに住んでいたが妖怪が襲いに来るわけでもなく、日々の糧を農業によって得ていた。 しかし、去年の秋ゆっくりどもが大量発生したとき真っ先に被害にあったのは森に近い俺の畑だった。 秋の収穫も目前のある日、俺は作物の様子を確認するために畑へ向かった。ちなみに俺が育てていたのはさつまいも今年は天候も良く豊作だと思っていた。 しかし、畑で俺を待っていたのは食い荒らされた芋とそこでぴょんぴょん跳ねるゆっくり達だった。 呆然としながら近付くとこっちに気がついたのか赤いリボンをしたゆっくりが「ゆっくりしていってね!!」と言ってくる。それにつられて周りの黒いのや「ちーんぽ!」とか抜かすゆっくり達が俺に向かって「ゆっくりしていってね!!」と言ってくる。 しばらく呆気にとられた俺だが冷静になるとさっそく目の前の赤いリボンをしたのを持っていたスコップで叩き潰す。「ゆ”っぐヴぇ!」と気持ち悪い声をあげて潰れるゆっくり 直ちに周りのゆっくりが抗議の声を上げる「ひどい!ゆっくりさせてね!」「ゆっくりあやまってね!!」 煩い 黙れゴミ ただただムカついた こんな饅頭共に俺が丹精こめてつくった芋を食われたのかと、俺はこの冬どう過ごせばいいのかと そのまま近くにいた銀髪のゆっくりを叩き潰す「ぢーんっぶぇ!!」さすがにゆっくりも危険だと気がついたらしい「ゆっくり逃げてね!!」と黒い奴の号令で一斉に逃げだした。 そのまま追いかけて何匹かつぶすが首謀者のようだった黒い奴をはじめとして何匹かには逃げられてしまった。 俺は殺したゆっくりを処分すると、そのまま情報通の友人である霖之助のもとへと向かった。 「それは災難だったね。」お茶を出しながら霖之助が言う。 「ああ、まったくもって腹立たしい。で、霖之助あれはいったいなんなんだ?」霖之助も詳しいことは知らないようだったが概要を説明してくれた。あれが突然発生したということ。一番多いのはさっきの赤いリボンのと黒い奴でそれぞれ霊夢種と魔理沙種らしいがその他にもいろいろな種類がいるらしいこと。そして、雑食性のためあちこちで被害が出ていることも。 「そうか…俺のところだけじゃないのか…」あんな奴らが人間に迷惑をかけてるのかと考えるとイライラした。 「妖怪の間でも被害にあう子が増えてるらしいよ。そのたび駆除してるけどあまりにも繁殖が早く何回も来るとか」 「どうにかできないのか?」 「僕だけじゃね…あ、でも君これからの冬仕事がいるんだろ?」 「ああ、あの糞饅頭のせいでな」 「だったらピッタリのものがある!少し待っててくれ。」というと奥の倉庫に行ってしまった。 このゆっくりの話と冬の仕事と何がつながるのだろうか?と考えていると霖之助が何やら銃のようなものを取り出してきた。 「ちょうどよかった。君確かパチンコとか得意だったよな?」 「ずいぶんと昔のことを持ち出すな。まあ、確かにお前も含めてあのころ遊んだ仲間の中では一番だったな。」 「ならちょうどいい。この銃は繚乱の対弩と言って外の世界ではモンスターを狩るために使うらしい。」 「モンスター?」 「妖怪のようなものだろう。それにこれは、虫退治とかにも使うらしい。そのうえ弾は自然の草とか魚からできているからゆっくりを処分したあとそのまま畑に埋めれば肥料になるんだ。」 「で、これと俺の仕事の話は?」 「だから、君がこれを使ってゆっくりを処分してけばいいんだよ。これからどんどんゆっくりがらみの問題は増えるだろうし新しい職業になるかもしれないぞ。」 確かにそれはいい考えだと思った。ストレス解消にもなるしみんなにも感謝される最高の仕事だ。しかし… 「でも、俺は今そんなものを買うほどの余裕はないんだが…」この銃はどう見ても高そうである。しかも珍しい物好きの霖之助のことだそんなに安くはしてくれないだろう。 「一昔前ならそうだろうけどね。なぜか今年の3月の終わりから大量にこんな銃が流れ込んできたんだ。」 「外から?何かあったのか?」 「僕のお店の常連の妖怪さんは何でも「ああ、そういえば新発売ね。ボウガンは強化できないのよねー。」とか言ってたが」 「よく意味がわからんな。」 「僕もだよ。でもそのおかげで僕の倉庫は似たようなのでいっぱいなんだ。友達のよしみもあるし、とりあえず出世払いでいいよ。」 持つべきものは良い友達だ。そのまま霖之助に使い方を教えてもらい一通りの弾を貰うと、俺は早速村の中心に行き集会所に「ゆっくり退治お任せください。詳細は○○まで」と看板を立てて置いた。 2日後早速依頼が舞い込んだ。はじめに潰したとき何でも黒大福(魔理沙種とか言ったか?)を逃がしてしまったらしくそいつが仲間を引き連れて何回か襲撃に来たらしい。 「報酬は今年の収穫の十分の一でよろしいでしょうか?」裕福そうな依頼人だ。事実ここらでは一番の地主らしい。 「はい十分です。ゆっくりが来るのはこの畑ですか?」 「はい。何箇所か畑を持っているのでこの畑にばかり構ってられないのです。」 「了解しました。では、今日はこのままここに張り込ませてもらいます。大丈夫だと思いますが巻き込まれないように近寄らないようにお願いします」 ゆっくりが来るのは夜明けらしいのでそのまま張り込む。ゆっくりは動いてないものを認識しづらいらしくこのまま動かずに来たら狙撃するのが一番効率がいいと判断したからだ。 そして、そのままそこで仮眠をとり空が少し白み始める頃、あの耳障りな声が耳に響いた。 「今日もゆっくり食べようね!!」「朝ならあの人間もいないもんね!」「ここは霊夢たちのゆっくりポイントなのにね!!」「「「「ねー!!」」」 どうやら今日の標的は3匹らしい。魔理沙種と霊夢種とパチュリー種のようだ。 俺は息をひそめて銃弾をリロードする。とりあえず今回用意してみたのは散弾と徹甲榴弾である。そしてゆっくりが範囲内に入る。そしてどう仕留めるか考える。何回かの襲撃で知恵を少しはつけたらしく人間の気配を感じたらあっという間に逃げてしまうらしい。そこで俺はとりあえず固まってる霊夢とパチュリーを散弾の連射で仕留め魔理沙を徹甲榴弾で仕留めることにした。 スコープを覗き狙いをつける。と同時に徹甲榴弾のリロードの準備を整える。 3…まだ早い2…もう少しだ1…狙いを定める 「ゆ”ぐぐぐぐっぐ?!」「む”ぎゅぐげぐぐ!」散弾の連射を急に浴びた二匹のゆっくりまだ息はあるようだがもう動けまい。と同時に、「ゆっくり死んでてね!」と薄情な言葉を吐き黒大福が一目散に逃げ出す。 俺は徹甲榴弾をリロードすると同時にただちに黒大福を追いかける。 「ゆ”ぐっり”ざぜでえ”えええ”!」「ゆっっぐりじだっがだっよお!」後ろから二匹の声が聞こえるが無視する。 「ゆっくりしていってね!!」黒大福も意外と早く距離はなかなか縮まらない。だが徹甲榴弾は距離を関係としない威力をもつ。俺は森に逃げ込む直前の黒大福に向け徹甲榴弾を撃った。命中! 「ゆ?」徹甲榴弾は当たった時には大したダメージはない。「ゆっくりしていってね!!」人を小馬鹿にしたように森へ逃げ込むゆっくり。その時の顔はまさに勝ち誇った顔であった。おそらく森の中では逃げ切れると思ったのだろう。 確かに、その推測は正しい。森に逃げ込まれたらボウガンで仕留めるのは難しい。しかし、もうすでにやることは終わっている。 もう一回黒大福が満面の笑みで飛び跳ねる。だが、それと同時に発せられたはずのお決まりの文句は最後まで言い切られることはなかった。 「ゆっくりしてっぶっ!」次の瞬間ゆっくりの体が弾け飛ぶ。徹甲榴弾は命中した後爆発する弾である。見事真ん中に命中しやわらかい餡子の真ん中で止まった弾は爆発しゆっくりの体を四散させたというわけである。 こうして、ゆっくりを仕留めた俺は畑に戻り息も絶え絶えの二匹のゆっくりを生かしたまま畑に埋める。「ゆ”っゆ”っゆ”」「む”ぐむ”ぐぐぐ」とか最早意味のわからない言葉をあげていたが畑に埋めると声がしなくなった。 「ありがとうございました。あの黒大福がリーダーで引き連れてくるらしく狙っていたのですが警戒心が強くなかなか仕留められなかったのです。」 「いえ、私もこの仕事のおかげで冬を過ごせそうです。後、なにかゆっくりで困ってる人がいたら是非私のことを紹介してください」 「ええ、もちろんですとも。集会所で広めておきましょう。」 こうして、俺の仕事はウナギ登りに増えていった。そのうちゆっくり加工所から希少種の捕獲を頼まれることも多くなった。 そして今日も俺はボウガンを片手にゆっくりを狩る。最近では俺のまねごとを始めるを始める奴も増え始め、集会所は依頼を取りまとめる場所になっている。 そして、いつしか人は俺のことをこう呼び始めた「ゆっくりハンター」と。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ あとがきのようなもの ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 元ネタは見ての通りモンスターハンターからです。今度は捕獲クエストで一本書こうと思っています
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ゆっくりハンターの生活 里から少し離れたところに建っている一軒屋。ゆっくりハンターである私の朝は、ここから始まる。 ゆっくりハンターである私の朝は、そんなに早くない。 いつも通りの時間に起きて、布団の上で大きく伸びをする。よく寝たから、気分がいい。 私は布団から出て、寝汗で少し湿っているパジャマを無造作に布団の上に脱ぎ捨て、普段着に着替える。 寝巻きはいつもこんな扱いだからしわくちゃだ。どうせ誰にも見せる予定は無いから別にいいけども。 「おじゃまします。ハンターさん、起きてますか?」 私が朝食を食べ終えたとき、一人の少女が入ってきた。最近私の家に出入りするようになった少女、稗田阿求だ。 何でもゆっくりに興味があるらしく、私の仕事を見学したいと数日前からここに通いつめている。 ただ見学するだけでは悪いからと、私の仕事も無償で手伝ってくれるので大助かりだ。 「おはよう、阿求ちゃん。今日は早いんだね」 「はい!朝からゆっくりたちを虐められると聞いて飛んできました!」 「そう。じゃあ早速仕事始める?」 「ぜひともお願いします!」 私は仕事用の道具をリヤカーに乗せて運び出し、彼女と一緒に家を出た。 空には雲ひとつ無く、雁たちが隊列を組んで飛んでいる。 いい朝だなぁ、と私は思った。 「ここからはやくだしてね!ここじゃゆっくりできないよ!」 「だれでもいいからはやくたすけてね!れいむはおうちにかえってゆっくりしたいよ!」 「おおー、いっぱいかかってますねー」 向かった先は、ゆっくり専用落とし穴一号。いつか4号まで作る予定だ。 穴の中心にはゆっくりが好む臭いを出すお香と、いくつかの野菜を模したゴム人形が置いてある。 えさを探しにきたゆっくりたちを中に落として捕まえるというシンプルなもの。 雨の日は使えないのが難点だが、ほかっておくだけで勝手に獲物がかかるので非常に楽だ。 穴の中には十匹前後のゆっくりたちがいる。 普段は五匹もかかればいいほうだから、大漁だと言えた。 たぶん家族の一人が穴に落ちて、それを助けようとしたゆっくりが芋づる式に入ったんだろうな。 「じゃあ阿求ちゃん、一匹私が捕まえるからちょっと見ててね?次からは手伝ってもらうから」 「はい、わかりました」 私はタモを使ってそのゆっくりのうちの一匹を拾い上げる。 掬い上げられたゆっくりは私に助けられたのかと勘違いしているのか、希望に満ちた目でこちらを見た。 「ゆ?おねーさんまりさをたすけてくれたの?ついでにまりさのかぞくもさっさとたすけてね!!」 私はその声を無視し、懐においておいたチキスでゆっくりの口をぬいとめる。 ばちんっ、という音と共にゆっくりまりさの口が強制的に閉じられる。 「ん゛!?ん゛~~~~~~!!!」 「ごめんね。痛いだろうけど、あとで業者さんが抜いてくれるだろうから我慢してね?」 そして、収穫用の箱にそのゆっくりを入れた。 外からしか入り口はあけられないように作られているので、もうそのゆっくりまりさは逃げ出すことが出来ない。 「はい。これでワンセット。阿求ちゃん,わかった?」 「もちろんですとも!この稗田阿求、一度見たものは二度と忘れません!」 彼女はこぶしを強く握り締めながら、力強くそう答えた。 「じゃあ、阿求ちゃんは私が捕まえたゆっくりの口にホチキスをして、その箱に入れる作業をしてくれるかな?」 「了解しました」 さすがにこの少女にゆっくりを掬い上げる作業は彼女には重労働すぎる。 意外にゆっくりたちは重いのだ。 彼女もそれをわかっているのだろう。素直に私の言うことに従ってくれた。 彼女は最初こそ勝手がわからずと惑うことがあったものの、すぐになれててきぱきと作業するようになった。 賢いし、元気があってとてもいい子だ。子どもがこんなにしっかりしているのだから彼女の親も鼻が高いだろう。 「そういえば、このゆっくりどうするんですか?殺すんですか?」 作業をしながら阿求ちゃんが私に質問を投げかける。 その質問の最後に、特に語気を強めていた。 「あはは…そのつもりなら中に毒エサでもまいておくわ。 このゆっくりたちは、加工場や薬屋さんに売るために、生きたまま捕獲するの」 「なるほど。でも、なんでわざわざ口をホチキスで止めるんですか?そのまま箱に入れればいいのでは?」 彼女は箱をどつきながらそういった。 箱の中にいるゆっくりたちがおびえたように飛び跳ねる。口を閉じさせられているため悲鳴を上げることも出来ない。 彼女はそのゆっくりたちの様子に少し物足りないようだった。 「だって、なんか心苦しいじゃない。ゆっくり達の悲鳴を聞いてると」 「……は?お姉さんはゆっくりハンターなのでは?」 私のその告白が衝撃だったのか彼女の作業を続ける手が一瞬止まる。 その様子に私は苦笑する。言っていることがおかしいのは自分でも重々承知している。 「まあ共食い防止っていう理由もあるんだけどね。 仕事だから仕方なくやってるけど、私本当はゆっくりが大好きだったりするんだよ?もちろん食事用って意味じゃなくてね。 子供の頃は一緒にゆっくりたちとも遊んでいたし」 「じゃあなんでその職業に就いたんですか…」 私の言葉に阿求ちゃんは驚きを通り越して呆れているようだった。 「本当は農家になりたかったんだけど、でも私が作る野菜はまったく売れないのよねぇ。 だから仕方なくって感じ。 ……よいしょ、これで最後かな?阿求ちゃんお願いね」 「あ、はい。パチンっ、と」 彼女は最後のゆっくりを箱の中に叩き込んだ。 沢山取れたからもう箱の中はパンパンだ。 「じゃあ、これもって行こうか。いっぱい取れたから結構なお金になりそうね」 「はい、わかりました」 私は彼女と一緒に市場まで行き、里に薬を売りにきた兎さんに捕まえたゆっくりを売った。 彼女は実験に使うらしいので、全部は買ってはくれなかったがそれなりの金額にはなった。 阿求ちゃんはその兎さんと知り合いのようで、今度また狩りに行きましょうねと笑いながら喋っていた。 私は残った分を加工所の人に売り、もうけたお金で彼女に手伝ってくれた御礼をした。 なにが欲しいか、とたずねたら生きたゆっくりれいむがいいです、といっていたので買ってあげたら喜んでくれた。 私と阿求ちゃんはそのゆっくりれいむをと一緒に、私の家までゆっくり帰った。 今そのゆっくりれいむは彼女の腕に抱えられ、中身のあんこを少しづつほじくり出されている。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!れいむのあんこださないでぇぇぇぇぇ!!」 「あはは!いい声で鳴きますねぇ。ここですか?ここがいいんですか?」 「ひぎぃぃぃぃぃ!?そこはだいじなどごだがらやべでねぇぇぇぇぇぇ!!?」 彼女はゆっくりれいむのあんこをまさぐりながら、場所によって変わる反応を見て遊んでいた。 私はそんな彼女を、微笑みながら眺めている。 叫び声をあげるゆっくりれいむはとてもかわいそうだったが、人が愉しんでいるところに水を刺すほど私は無粋ではない。 ゆっくりを虐めて楽しむという行為に共感は出来ないが、理解はしているつもりだ。 「ゆ゛……ゆ゛……」 そのゆっくりれいむは結局阿求ちゃんに中身をすべて穿り出され、やがて死んでいった。 そのときの阿求ちゃんのさわやかな笑顔が、少しうらやましかった。 「じゃあ、そろそろ昼食にしようかしら」 彼女の快感の余韻が去ったところで、私がそう提案する。 あれだけ働いて、その後ゆっくりれいむをあんなに虐めたのだ。 阿求ちゃんもおなかペコペコだろう。 「ああ、もうそんな時間ですか。ゆっくりを虐めていると時が経つのが早いですね」 「じゃあ何か作るから少し待ってて……」 私がそういって席から立った時、外から声が聞こえた。 「ゆゆ!こんなところにおいしそうなおやさいがあるよ!」 「やったね!まりさたちがみつけたからこれはもうまりさたちのものだね!」 「みんなでとろうね!」 私が慌てて外に出ると、ゆっくりたちが私の自家菜園の中でたむろっていた。 阿求も遅れて、何かメイスのようなものを持って表に出てきた。 ゆっくり立ちは私たちの姿を確認すると、そのうちの一匹が警戒するかのように飛び跳ねた。 「おねえさんたちだれ?これはまりさたちがみつけたおやさいだから、あげないよ!ゆっくりどっかいってね!!」 「あのね、それは私が作ったお野菜なの。だからそれは私のものなの。わかる?」 「なにいってるの?これはまりさがみつけたんだからまりさのものだよ! わたしたちからおやさいよこどりしようとするやからはさっさとしんでね!」 私はメイスを振りかぶって突撃しようとする阿求ちゃんを慌てて止め、再度ゆっくりたちに話しかける。 「ごめんね、あなた達からお野菜を横取りするつもりはないの。 ただ、私が作ったお野菜がどんな味か、あなた達に聞きたかっただけなの。 それはあなた達にあげるから、もしよかったら感想を聞かせてくれないかな?」 「ちょ、何言ってるんですか!そんなこといったら…」 「ゆー!そういうことならはやくいってね!まりさのこえたしたでゆっくりひょうかしてあげるよ!」 「ほら!付け上がってるじゃないですか!こんなやつらなぞ私のメイスで一撃…………むぎゅ」 「だからやめなさいって。あ、私たちのことはいいからゆっくり食べてね」 私は阿求ちゃんを止めつつ、ニコニコと笑いながらゆっくりたちの様子で見ていた。 阿求ちゃんは頭に青筋を浮かべながらゆっくりたちのところまで行こうとするが、私に後ろからがっちりとホールドされて動くことが出来ない。 「離して下さい!私のモルゲンがやつらを殺せといってるんです!」 「ちょっと落ち着いて見て見なさいって。ほら、あんなに幸せそうな顔して、かわいいなぁ…」 「ゆっくりたべるよ!ぐるめなまりさのひょうかをゆっくりまってね! ぱくっ!むーしゃ!むーしゃ!」 「ハンターさん今すぐこの手を離して下さいさもないとあなたも肉塊に」 おとなしい顔して怖い子というなぁ、この子。 それにだんだんと口が悪くなっている。あれだけゆっくりれいむを虐めたんだからもういいだろうに。 私がそのままの状態でまりさのお野菜の感想を待っていると、いきなりまりさがひっくり返って暴れだした。 「ゆ゛ぎがぁぁぁぁぁぁぁ!!ごれべんだよぉぉぉぉぉぉ!!」 「どう?おいしかった?」 「ぐぅぅぅぅぅ!!ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいいい!!!」 ゆっくりまりさは奇声を上げた後、ひとしきり暴れてそのまま動かなくなった。 暴れた拍子に、近くにいた子どもが二、三匹つぶれた。 その姿に他のゆっくりも、阿求ちゃんもしばし固まる。 私は、またかと一人ため息を吐いた。 死んだゆっくりまりさの仲間のゆっくりが、こちらに体当たりを仕掛けてきた。 私はそれを優しく払いのける。 「このおやさいにどくをしこんだんだね!ゆるさないよ!!」 「そんなこと無いよ。ほら、ぱくっとな」 私は暴れるのをやめた阿求ちゃんから手を放し、さきほどまりさが食べた野菜を水で軽く洗って、そのまま食べた。 「うん、おいしいわ。あなた達流で言うなら、しあわせー」 「ゆゆ!?どういうこと!?」 「れいむはかしこいからわかったよ!おみずであらったからどくがおちたんだよ!」 「じゃあやさいをあらってからちょうだいね!」 私のその様子に、ゆっくりれいむはそう結論づけた。 私は、彼女らの言うとおり野菜をきちんと洗ってからゆっくりたちに差し出す。 それを見て安心したのか、ゆっくりたちはいっせいにその野菜に噛み付いた。 「これならだいじょうぶだね!むーしゃ!むーしゃ!」 「むーしゃ!むーしゃ!」 「むーしゃ!むー………ぎぁぁぁぁぁぁ!!?」 「うげぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!?!?」 「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!????」 そしてそのまま畑の中を転げまわり、やがて絶命した。 かろうじて生きていたゆっくりもいたが、阿求ちゃんがメイスで叩き潰してしまった。 感想を聞きたかったのに。少し落ち込む。 「ど、どうなっているんですかこれは……。あ、まさかゆっくりだけを殺すハンターさんの巧妙な毒トラップですか!?」 「うーん、そんなつもり無いんだけどねぇ。阿求ちゃんもちょっと食べてみる?大丈夫、死にはしないから」 私は野菜をほんの少しちぎって、阿求ちゃんに渡す。 彼女は最初はためらっていたが、好奇心がそれを上回ったのか、そのままぱくりと食べた。 そして、目をカッと開いた後、すぐに吐き出した。 「ぺっ、ぺっ!な、なんですかこの味……!?不味過ぎですよ! 食べた瞬間に強烈な辛さと苦しみと絶望感が口中をあばれまくりましたよ! これほんとに食べ物ですか!?」 「失礼ね。私が精一杯心をこめて作ったお野菜なのに。私はおいしいと思うんだけどなぁ。 たまにゆっくりたちにも上げるんだけど、みんな何故か死んじゃうのよね」 私は残った野菜を口の中に放り込み、味わうようにゆっくりと野菜を食べた。 こんなにおいしいのに、なんでみんなまずいなんていうのか、私にはさっぱりわからなかった。 阿求ちゃんは、そんな私の様子を信じられないといった顔で見ている。 「じゃあそろそろご飯にしようね。私が腕によりをかけて作ってあげるから」 「そ、その料理は、まさかおいしいですか?」 「ええ、とっても。出来たら阿求ちゃんに感想を聞きたいわぁ」 阿求ちゃんはおびえたように私から半歩はなれると、震えた声でこういった。 「わ、わわ私はお弁当があるので、だいじょうぶです!お気になさ、なさらないで下さい!」 結局私は食事を自分の分だけ用意し、彼女と一緒に昼食をとった。 心なしか彼女の顔が少し青かったが、本人も何も言ってないようだったから、気にしないことにした。 途中でおかずを交換しないか、と聞いてみたが、遠慮させてください!と強く断られてしまった。 お野菜は沢山余っているのに、とても残念だ。 終わり 虐め分が少ないorz 初めてSS書いた結果がこれだよ! 気が向いたら続くかも?? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/175.html
近頃巷で流行ってるゆっくりなる生物 こいつらは人の畑を荒らし、おまけに堂々と自分の家だとか抜かしやがる。そのため農民たちに嫌われていた。 もちろん、俺もこいつらは大嫌いだが感謝もしている。 理由は簡単。こいつらのお蔭で俺は生計を立てているからだ。 こいつらが大量発生する前俺はただの農民だった。少し外れに住んでいたが妖怪が襲いに来るわけでもなく、日々の糧を農業によって得ていた。 しかし、去年の秋ゆっくりどもが大量発生したとき真っ先に被害にあったのは森に近い俺の畑だった。 秋の収穫も目前のある日、俺は作物の様子を確認するために畑へ向かった。ちなみに俺が育てていたのはさつまいも今年は天候も良く豊作だと思っていた。 しかし、畑で俺を待っていたのは食い荒らされた芋とそこでぴょんぴょん跳ねるゆっくり達だった。 呆然としながら近付くとこっちに気がついたのか赤いリボンをしたゆっくりが「ゆっくりしていってね!!」と言ってくる。それにつられて周りの黒いのや「ちーんぽ!」とか抜かすゆっくり達が俺に向かって「ゆっくりしていってね!!」と言ってくる。 しばらく呆気にとられた俺だが冷静になるとさっそく目の前の赤いリボンをしたのを持っていたスコップで叩き潰す。「ゆ”っぐヴぇ!」と気持ち悪い声をあげて潰れるゆっくり 直ちに周りのゆっくりが抗議の声を上げる「ひどい!ゆっくりさせてね!」「ゆっくりあやまってね!!」 煩い 黙れゴミ ただただムカついた こんな饅頭共に俺が丹精こめてつくった芋を食われたのかと、俺はこの冬どう過ごせばいいのかと そのまま近くにいた銀髪のゆっくりを叩き潰す「ぢーんっぶぇ!!」さすがにゆっくりも危険だと気がついたらしい「ゆっくり逃げてね!!」と黒い奴の号令で一斉に逃げだした。 そのまま追いかけて何匹かつぶすが首謀者のようだった黒い奴をはじめとして何匹かには逃げられてしまった。 俺は殺したゆっくりを処分すると、そのまま情報通の友人である霖之助のもとへと向かった。 「それは災難だったね。」お茶を出しながら霖之助が言う。 「ああ、まったくもって腹立たしい。で、霖之助あれはいったいなんなんだ?」霖之助も詳しいことは知らないようだったが概要を説明してくれた。あれが突然発生したということ。一番多いのはさっきの赤いリボンのと黒い奴でそれぞれ霊夢種と魔理沙種らしいがその他にもいろいろな種類がいるらしいこと。そして、雑食性のためあちこちで被害が出ていることも。 「そうか…俺のところだけじゃないのか…」あんな奴らが人間に迷惑をかけてるのかと考えるとイライラした。 「妖怪の間でも被害にあう子が増えてるらしいよ。そのたび駆除してるけどあまりにも繁殖が早く何回も来るとか」 「どうにかできないのか?」 「僕だけじゃね…あ、でも君これからの冬仕事がいるんだろ?」 「ああ、あの糞饅頭のせいでな」 「だったらピッタリのものがある!少し待っててくれ。」というと奥の倉庫に行ってしまった。 このゆっくりの話と冬の仕事と何がつながるのだろうか?と考えていると霖之助が何やら銃のようなものを取り出してきた。 「ちょうどよかった。君確かパチンコとか得意だったよな?」 「ずいぶんと昔のことを持ち出すな。まあ、確かにお前も含めてあのころ遊んだ仲間の中では一番だったな。」 「ならちょうどいい。この銃は繚乱の対弩と言って外の世界ではモンスターを狩るために使うらしい。」 「モンスター?」 「妖怪のようなものだろう。それにこれは、虫退治とかにも使うらしい。そのうえ弾は自然の草とか魚からできているからゆっくりを処分したあとそのまま畑に埋めれば肥料になるんだ。」 「で、これと俺の仕事の話は?」 「だから、君がこれを使ってゆっくりを処分してけばいいんだよ。これからどんどんゆっくりがらみの問題は増えるだろうし新しい職業になるかもしれないぞ。」 確かにそれはいい考えだと思った。ストレス解消にもなるしみんなにも感謝される最高の仕事だ。しかし… 「でも、俺は今そんなものを買うほどの余裕はないんだが…」この銃はどう見ても高そうである。しかも珍しい物好きの霖之助のことだそんなに安くはしてくれないだろう。 「一昔前ならそうだろうけどね。なぜか今年の3月の終わりから大量にこんな銃が流れ込んできたんだ。」 「外から?何かあったのか?」 「僕のお店の常連の妖怪さんは何でも「ああ、そういえば新発売ね。ボウガンは強化できないのよねー。」とか言ってたが」 「よく意味がわからんな。」 「僕もだよ。でもそのおかげで僕の倉庫は似たようなのでいっぱいなんだ。友達のよしみもあるし、とりあえず出世払いでいいよ。」 持つべきものは良い友達だ。そのまま霖之助に使い方を教えてもらい一通りの弾を貰うと、俺は早速村の中心に行き集会所に「ゆっくり退治お任せください。詳細は○○まで」と看板を立てて置いた。 2日後早速依頼が舞い込んだ。はじめに潰したとき何でも黒大福(魔理沙種とか言ったか?)を逃がしてしまったらしくそいつが仲間を引き連れて何回か襲撃に来たらしい。 「報酬は今年の収穫の十分の一でよろしいでしょうか?」裕福そうな依頼人だ。事実ここらでは一番の地主らしい。 「はい十分です。ゆっくりが来るのはこの畑ですか?」 「はい。何箇所か畑を持っているのでこの畑にばかり構ってられないのです。」 「了解しました。では、今日はこのままここに張り込ませてもらいます。大丈夫だと思いますが巻き込まれないように近寄らないようにお願いします」 ゆっくりが来るのは夜明けらしいのでそのまま張り込む。ゆっくりは動いてないものを認識しづらいらしくこのまま動かずに来たら狙撃するのが一番効率がいいと判断したからだ。 そして、そのままそこで仮眠をとり空が少し白み始める頃、あの耳障りな声が耳に響いた。 「今日もゆっくり食べようね!!」「朝ならあの人間もいないもんね!」「ここは霊夢たちのゆっくりポイントなのにね!!」「「「「ねー!!」」」 どうやら今日の標的は3匹らしい。魔理沙種と霊夢種とパチュリー種のようだ。 俺は息をひそめて銃弾をリロードする。とりあえず今回用意してみたのは散弾と徹甲榴弾である。そしてゆっくりが範囲内に入る。そしてどう仕留めるか考える。何回かの襲撃で知恵を少しはつけたらしく人間の気配を感じたらあっという間に逃げてしまうらしい。そこで俺はとりあえず固まってる霊夢とパチュリーを散弾の連射で仕留め魔理沙を徹甲榴弾で仕留めることにした。 スコープを覗き狙いをつける。と同時に徹甲榴弾のリロードの準備を整える。 3…まだ早い2…もう少しだ1…狙いを定める 「ゆ”ぐぐぐぐっぐ?!」「む”ぎゅぐげぐぐ!」散弾の連射を急に浴びた二匹のゆっくりまだ息はあるようだがもう動けまい。と同時に、「ゆっくり死んでてね!」と薄情な言葉を吐き黒大福が一目散に逃げ出す。 俺は徹甲榴弾をリロードすると同時にただちに黒大福を追いかける。 「ゆ”ぐっり”ざぜでえ”えええ”!」「ゆっっぐりじだっがだっよお!」後ろから二匹の声が聞こえるが無視する。 「ゆっくりしていってね!!」黒大福も意外と早く距離はなかなか縮まらない。だが徹甲榴弾は距離を関係としない威力をもつ。俺は森に逃げ込む直前の黒大福に向け徹甲榴弾を撃った。命中! 「ゆ?」徹甲榴弾は当たった時には大したダメージはない。「ゆっくりしていってね!!」人を小馬鹿にしたように森へ逃げ込むゆっくり。その時の顔はまさに勝ち誇った顔であった。おそらく森の中では逃げ切れると思ったのだろう。 確かに、その推測は正しい。森に逃げ込まれたらボウガンで仕留めるのは難しい。しかし、もうすでにやることは終わっている。 もう一回黒大福が満面の笑みで飛び跳ねる。だが、それと同時に発せられたはずのお決まりの文句は最後まで言い切られることはなかった。 「ゆっくりしてっぶっ!」次の瞬間ゆっくりの体が弾け飛ぶ。徹甲榴弾は命中した後爆発する弾である。見事真ん中に命中しやわらかい餡子の真ん中で止まった弾は爆発しゆっくりの体を四散させたというわけである。 こうして、ゆっくりを仕留めた俺は畑に戻り息も絶え絶えの二匹のゆっくりを生かしたまま畑に埋める。「ゆ”っゆ”っゆ”」「む”ぐむ”ぐぐぐ」とか最早意味のわからない言葉をあげていたが畑に埋めると声がしなくなった。 「ありがとうございました。あの黒大福がリーダーで引き連れてくるらしく狙っていたのですが警戒心が強くなかなか仕留められなかったのです。」 「いえ、私もこの仕事のおかげで冬を過ごせそうです。後、なにかゆっくりで困ってる人がいたら是非私のことを紹介してください」 「ええ、もちろんですとも。集会所で広めておきましょう。」 こうして、俺の仕事はウナギ登りに増えていった。そのうちゆっくり加工所から希少種の捕獲を頼まれることも多くなった。 そして今日も俺はボウガンを片手にゆっくりを狩る。最近では俺のまねごとを始めるを始める奴も増え始め、集会所は依頼を取りまとめる場所になっている。 そして、いつしか人は俺のことをこう呼び始めた「ゆっくりハンター」と。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ あとがきのようなもの ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 元ネタは見ての通りモンスターハンターからです。今度は捕獲クエストで一本書こうと思っています 選択肢 投票 しあわせー! (25) それなりー (1) つぎにきたいするよ! (4) 名前 コメント すべてのコメントを見る なんでれいむとまりさって平仮名じゃないの? -- (名無しさん) 2020-10-05 22 54 57
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※新種のゆっくり注意 「――という訳なんだ」 魔理沙はそこまで話すと卓袱台の上に置かれた湯飲みを手に取り、一口お茶を含む。 これは珍しい事だ、と魔理沙は感じた。 最近は私なんかに新茶を出す事などトンと無かったというのに、今日は何故かその無かった事が急に起こった。 今日の霊夢は機嫌が良さそうだ。 意図してかせずかは知らないが、そんな含み笑いを見せる。 対する霊夢もズズッとお茶を一飲みした後、余り興味の無さそうな顔で答えた。 「で、そのレア何とかってやつなんだけど」 「レアゆっくりハンターだぜ」 「そのレアゆっくりハンターだけど、具体的にどんな事するの?」 好し!! あのモノグサ巫女の事だ、最悪詳しい事すら聞かずに興味が無いと返される可能性も有ったが何とか成りそうだ。 「勿論、未だ見ぬ貴重なゆっくりを発見するに決まってるだろ」 「何それ、発見してどうするの?退治するの?」 一気に話を進めようと前のめりになって話す魔理沙の勢いを殺すかの如く、冷淡にそう返す。 「ハァ?何でいきなり退治する事になるんだよ?」 「だって、あれって妖怪じゃないのかしら」 またこれだ。 以前にツチノコを発見した時も、この巫女は迷う事無く退治しようとしていた。 最近、この霊夢という人間は、暫く妖怪を退治しないと死んでしまう呪いにでも掛かっているんじゃないかと疑いたくなる。 「なぁ、お前って何でそう直ぐ妖怪を退治したくなるの?死ぬの?」 「そうよ、私の前世はマグロだったから」 マグロ? その名前を聞いて直ぐにはピンと来なかったが、以前香霖が言っていた動きを止めると死ぬという魚らしい。 私自身も本で見知った程度の知識は有る、海の魚だった筈。 海の無い幻想郷だけに、滅多な事ではお目に掛かれない。 淡水魚以外の魚は、たまに三途の川に流れ着いたのがどうとかで見掛けたりするくらいだからだ。 川なのに海の魚が流れ着くとは奇妙な場所である。 はっきり言ってデタラメとしか言いようが無い。 後は、紫辺りが宴会の席で持ってくるのを期待するくらいか。 「そうですね霊夢さん。魚の様な無感情な眼をしている辺り、何処と無く似ていらっしゃる」 いつもの様に皮肉で返す。 が、魔理沙は全然話が進まない事にハッとした。 このままでは、こんなくだらないやり取りで日が暮れてしまうじゃないか――と。 もしやそれが狙いか、霊夢め。 「もう良い!!グダグダ言っていないで出掛けようぜ」 行灯とした空気を払拭するために、魔理沙は座っている霊夢の腕を半ば無理やり掴み立ち上がらせる。 「ちょっと、一体何処に出掛けようって言うのよ?」 強引な行為ではあったが抵抗する素振りも無く湯飲みを置き、しょうがないといった感じで立ち上がった。 結局はいつもの事だ。 「何処って、レアゆっくりを探す旅に決まってるじゃないか」 「そんな事言って、当ては有るの?」 「当たり前だろ、そんなの昨日の内に計画的に決めて有るぜ」 言うが早いか、魔理沙は箒を手に取るとそれに跨って空へと飛び立つ。 霊夢も呆れ顔で後に続く。 「まずは妖怪の山だ!!」 もちろん、今決めたことだ。 妖怪の山に若干入り込んだ所で、いつもの様に白狼天狗の椛が出てきた。 二人は山の上の頂上に有る神社に用が有ると言う。 半分嘘で、半分は本当である。 椛は少し困ったような反応を見せたが、余り道を外れないように。二人が尋ねてきた事は文に報告しておく。とだけ残して消えていった。 そのまま二人は頂上の守矢神社目指して飛んで行く。 「おーい、早苗。お参りに来てやったぜ」 神社に着くなり、魔理沙は大声でそう叫んだ。 境内にその声が木霊し、暫くしんとした後、奥の方から人影が出てきた。 案の定、早苗である。 だが、少し慌てた様子で息を切らしていた。 「ハァ…ハァ…。あっ、霊夢さんに魔理沙さん。こんにちは」 「こんにちは。どうしたの早苗、息なんて切らして」 その様子に霊夢はそう切り出す。 早苗は胸に手を当てて、二、三度深呼吸をした後、息を整えてこう返した。 「それが、諏訪子様が見当たらなくて。お昼ご飯になっても帰ってこないんです」 何だそんな事か。 と、神社を尋ねた二人は呆れ顔でそう思った。 子供でも有るまいし、お昼ご飯に帰ってこない程度でこんなになって探し回るとは。 「相手は神様なんだぜ、そんな……」 「でも、いつもはこの時間になったら一度は帰って来るんですよ」 「うーん、たまにはそういう日も有るだろうし……」 「そうは言っても、もし諏訪子様の身に何か有れば」 言葉を遮られ、真剣な眼差しでそう返されては無責任な発言をするのも憚られる。 しかし、あの神様の身に何か有ればとは中々に考え付かない。 妖怪の山では最早信仰の対象の一部で有る訳だし、襲う者など存在するのか? そもそも襲われた所でそこいらの魑魅魍魎どころか、名うての上級妖怪でもマトモな戦いにすら成らないのでは無いだろうか? そう思いはすれど、それを口に出すには少々場の空気が重すぎた。 「判ったぜ、それなら私達二人も探しに行ってやる」 「本当ですか!?」 魔理沙のその言葉に早苗の表情は一気に明るくなる。 実はこの後、人里に向かい神事を行わなければ成らないようで、これ以上探している時間はないらしい。 「霊夢さん達なら安心です、申し訳有りませんがお願いします。」 「困った時はお互い様よ」 「そうですか、ありがとうございます。 それと、お礼代わりといっては何ですが諏訪子様を連れ帰った後、晩御飯食べていって下さい。私は夕方には戻りますので」 矢継ぎ早に、早苗はそう言い残して人里の方へと飛んでいった。 その後姿を見送った後、霊夢は魔理沙の方へ振り返る。 やはりそうか。 「良かったわね、妖怪の山を散策する良い口実が出来て」 「何だよ、私は純粋な善意でだな……それにお前だって、「晩御飯をごちそうして貰える、しめしめ」とか考えているんだろ」 したり顔の魔理沙に霊夢が呟くと、慌てて弁解を始めた。 霊夢はやれやれといった風に、話を半分も聞かずに近くの森の中へと飛んでいった。 魔理沙も慌ててそれを追う。 何故この方向なのか? と、霊夢に問いただす事も無かった。 どうせいつもの勘だ、神通力でも篭っているんじゃないかという程度の。 早苗にしても「魔理沙さん達」ではなく「霊夢さん達」と言っていた辺り、その信頼度は伺える。 ちょっと悔しい事では有るが。 森に踏み入って半刻もしない内に、何処からか変な声が聞こえてきた。 二人は眼を合わせ、何も言わずに頷くと声のする方へと歩いて行く。 「ケロ…ケロ……」 何やら蛙の鳴き声の様なモノが聞こえる。 「諏訪子なのか?」 魔理沙は言う。 早速の目標物発見の期待に何処か嬉しげである。 流石は博麗の巫女の力だぜ。と、でも言いたげだ。 そんな様子を霊夢は横目で見ながら、 「あの神様だって、何時もケロケロ言ってる訳じゃないのよ」 と、相変わらず期待を打ち砕くような事を返す。 そのまま二人は足音も立てず茂みの中を進むと、少しばかり拓けた場所に出た。 其処には何やら黄色い帽子の様なモノが一つ落ちている。 これは怪しい。 二人は何の合図も無く、揃って足を止めた。 妖怪退治を生業とする二人だけに、こういった場面では周囲に対する警戒を怠る事は無いようだ。 「……周りには何もいないか」 数瞬、辺りの様子を伺い危険も無いと判断すると、我先にとばかりに魔理沙は歩を進め、その帽子を拾おうとする。 「これって諏訪子の帽子か?しかし何だってこんな所に……ッ!?」 その帽子に近付いて手を伸ばし掛けたその時、地面に置いて有るだけの筈であるそれが確かに動いた。 やはり、あの帽子が本体だったかッ!!? 一瞬、そんな考えが頭をよぎる。 いや、その帽子が大きかったせいでよく見えなかったが、何やら帽子の下にバレーボール大の変な丸い物体が存在していたのだ。 「ケロケロしていってね!!」 その謎の物体は急に振り返り、突然大声でそう叫びながらピョンピョンと跳ね廻る。 突然の事に肝を冷やしたのか、魔理沙は「うわぁぅ!!」などという素っ頓狂な声をあげ尻餅を付く。 それにも構わず、謎の球体は「ケロケロしていってね」と連呼しながら魔理沙に近付き、 それに対して魔理沙は腰が抜けているのか「あ、あ……」などという変な声を挙げながら後ろにズリズリと後退して行く事しか出来なかった。 その様子を少し離れた場所で見ていた霊夢ではあったが、冷やかな視線を浴びせつつも、実はその有様を楽しんでいるようでもある。 「残念ね、諏訪子じゃなかったわよ。その代わり、あなたの探していたレアゆっくりみたいだけど」 「ゆっくり……ああ、こいつゆっくりだ。ゆっくりすわこだ!!」 急にそう叫んだせいか、魔理沙に近付いていたゆっくりすわこがビクリと身を震わせ近くの木の影に飛び跳ねながら隠れていった。 何とか冷静さを取り戻した魔理沙は立ち上がると、パンパンと服に付いた砂を手で払い始める。 そして、ちょっと顔を紅くしながら「霊夢に恥ずかしい所を見られたぜ」とか「でも、いきなりあんな帽子が向かってきたら普通ビビルだろ?」などと一人言を呟く。 不測の事態なんだからしょうがないじゃないか。といった風体だ。 そんな様子を、ゆっくりすわこは木陰から不思議そうな顔で眺めている。 「あーうー、お姉さん達は何処から来たの?ケロケロ出来る人?」 大声でビックリはしたものの、余り警戒心も無く顔を覗かせてそのゆっくりは問い掛けてきた。 「ん?ああ、山の外から来たんだよ。ちなみにケロケロ出来るかは判らないが……」 「じゃあ、ゆっくりする人なの?」 「まぁ、どちらかと言えばゆっくりする方かな。」 「あーうー♪」 何が嬉しかったのか判らないが木陰から出て、魔理沙の方へと近付いていく。 魔理沙の方も嬉しそうに飛び跳ねてくるそれを抱きとめて、懐から何やらお菓子のような物を取り出す。 恐らくはゆっくりを見つけた時のために用意していた物だろう。 「やっぱりゆっくりは可愛いなぁ。霊夢、お前も触ってみろよプニプニしているぞ」 「ケーロケロ♪」 帽子が邪魔で頭を撫でる事が出来ないが、口の下の顎の辺りを撫で回すと嬉しそうな声を挙げる。 それが気に入ったのか、魔理沙が段々と速度を早めていくと「あぁううぅぅぅぅ♪」と言いながらプルプル震えている。 相変わらずよく判らない生き物だと霊夢は思った。 そんな二人が楽しそうにじゃれあっているのを傍目に、霊夢は周囲を見渡し何かを探している。 「なぁ、霊夢ぅ……」 「もう五月蝿いわねぇ。何だかこの近くに諏訪子の気配が感じられるんだけど、あなた達のせいで乱れてばかりよ」 「ゆっ?諏訪子なら居るよ!!」 諏訪子という言葉に反応し、すわこは魔理沙の腕から霊夢の方へと飛び跳ねてそう答える。 霊夢は少し苦笑しつつも穏やかな声で、 「ごめんなさいね、あなたの事じゃないのよ。何て言ったら良いかしら、身体の有る諏訪子……その娘を探しているの」 ゆっくりにも出来るだけ判る様に説明する。 それを聞くと、ゆっくりすわこは少しだけ考えるように動きを止め、パッと表情を明るくするとまた飛び跳ねた。 「あーうー、その諏訪子なら知っているよ。皆とケロケロしているよ」 本当に? 霊夢は一瞬驚きの表情を見せたが、どうせ体付きの特殊なゆっくりというオチだろうと考え直して表情を戻す。 だが、魔理沙の方は「やったぜ、これで諏訪子も発見だな」と言い、ゆっくりに案内して貰えるようにお願いした。 そのまま二人は霊夢の承諾も得る事無く、もう奥の方へと進み始めている。 「どうしたんだよ、早く来いよぉ!!」 「……まぁ、別に時間も有るし、暫くゆっくりと散歩するのも良いかしらね。」 何かを諦めたような様子でポツリとそう呟くと、霊夢は二人の後を付いて行った。 「ケーロケロ♪」 「ケロケーロ♪」 ゆっくりすわこが歌い出すと、魔理沙もそれに合わせて歌い始める。 二人は山のピクニックにでも来ている気分なのだろうか。 一緒に歩く霊夢では有ったが、そのテンションには流石について行く気力は無かった。 「お姉さんも一緒にケロケロしようよ♪」 「そうだぜ霊夢、お前も歌えよ」 二人が揃ってそんな事言うものだから、何だか頭まで痛くなってくる。 そんな調子でゆっくりに合わせたゆっくりペースで歩いていると、何やら川のセセラギとでも言おうか、水の流れる音が聞こえてきた。 それに気付いたのか、ゆっくりすわこは急にその方向へと素早く飛び跳ねながら進み始める。 「こっちだよお姉さん達、ゆっくり付いて来てね」 これは速い、と二人は思った。 ゆっくりにしては異常とも思える跳躍力でピョンピョンと跳ねている。 ゆっくりすわこの言う通り、ゆっくり付いて行っては見失ってしまう程のスピードが出ている。 「ゆっくりすわこ、跳躍力が高く、それに比例してスピードも他のゆっくりより速い――と」 「何よ、それ?」 「これか?ゆっくりメモという物だぜ」 魔理沙は駆け出しながらも何やら手帳を取り出し、メモを取っていた。 ゆっくりの特徴をメモしているらしい。 ただ単にゆっくりを見つけるだけじゃなく、それなりに観察もするのね。と、霊夢にしては感心していた。 「っゆぅ~!!」 メモを取ったりと、ゆっくりから少し遅れていた二人で有ったが、その声にハッとした。 ゆっくりすわこに何か起きたのか!? スピードを上げて駆けていくと、直ぐに河川岸に辿り着き二人は止まる。 周りを見渡しても、ゆっくりすわこの姿は何処にも見えなかった。 「あっ、あそこ!!」 霊夢が指を指す方向に眼を向けると、ゆっくりすわこが川に流されている最中であった。 「あいつ、勢い余って川に落ちたか!?」 それを確認するとすぐさま肩に担いでいた箒に跨り川下の方へと飛んでいた。 霊夢も少し遅れて後を追う。 川の流れは速い、激流一歩手前のスピードだ。 だが、二人のスピードなら十分追いつけるレベルではある。 「大丈夫か、すわこ!?」 そのままゆっくりすわこの上まで追い付き、そう問い掛ける。 川の流れの中、すわこのあの変な帽子だけが顔を出していた。 本体はもう、ブヨブヨにふやけて川の中に沈んでしまったのではないか!? そんな嫌な想像が頭をよぎる。 「ケーロケロ♪」 心配を他所に、ゆっくりすわこはくるりと仰向けに反転し空を見るような体勢で笑い掛けてきた。 「……思いの他大丈夫そう。というより、結構楽しそうね」 「そうは言うがな霊夢、この先を見ろ!!」 前方に眼をやる。 何という事だ、川が途切れている。 正確にはこの先は滝になっており、近付くにつれ水が湖面に叩き付けられる音が大きくなっていく。 なるほど、水の流れが速い筈だ。 先ほどから流れは加速している。 最高速でも付いて行くのがやっとの程まで速くなっているのだ。 「早く助け無いと!!」 「でも魔理沙、助けようとして水の中に落ちちゃったらどうするのよ」 ゆっくりはアレでいて結構重いのである。 掬い取るように川面から助け出そうにも、その時にバランスを崩して水面に落ちる確率は高い。 自慢ではないが、二人とも泳ぎが得意という程でもなかった。 そこから更に、滝に差し掛かる前に空中に飛び出せる余裕が有るか判らない。 「魔理沙、あなたは川の切れ目に先回りしてあの子を受け止める準備をして!!」 突然、霊夢が指示を出した。 具体的な事は判らない、だが何かしらの考えが有るのだろう。 そう判断してすぐさま滝の方へと向かう。 耳を引き裂かんばかりの轟音が聞こえてくる。 ゆっくりが滝壷へと落ちていくのに数秒と掛からぬ地点まで差し掛かっている。 ――エクスターミネーション!! すわこが落ちるか落ちないかという地点で、そのスレスレに霊夢が何やら弾幕を放った。 それは水面にぶつかると、大きな音を立てて爆ぜる。 「あーうー!!」 その爆発によって滝つぼへと落ちずに前方へと投げ出されるゆっくりすわこ。 空中で錐揉み状に回転し、眼を廻す。 結局はそのまま落ちるかに見えたそれを、空中で捕らえる影があった。 魔理沙である。 「全く、心配させやがって」 最高速で飛翔したため乱れた帽子を直しながらそう呟くと、腕に抱えたゆっくりは子供みたいに笑い、 「ゆ~、凄いよお姉さん達、すわこお空を飛んでいたよ!!」 と、嬉しそうに語り出した。 「本当に、人の気も知らないで」 追い付いていた霊夢も、疲れた様子でそう愚痴を零す。 しかし、それは怒っている様子でも無く、何処か嬉しそうに魔理沙に抱かれていたゆっくりを見つめていた。 「……ん?」 ふと下に眼をやると、何やら滝壺の周りに変な物体が大量に蠢いている。 蛙だ、怖ろしい程の蛙が滝壺の周りに群生しているのだ。 他にも何やら――変な帽子が、というより大量のゆっくりすわこが蛙と一緒に跳ね回っているではないか。 どちらも、霊夢や魔理沙と同じ背丈はあろうかという巨大なモノまで存在している。 そして、その囲みの中央。 滝壺の水面の上に人影が見える。 「えっと、あれって……」 「ああ、諏訪子だ。間違いない。本物だぜ!!」 諏訪子を発見した後は、滝をそのまま飛んで下降し、湖面に叩きつけられ舞い上がる水飛沫が飛んで来ない場所に着地する。 近くには沢山の蛙やゆっくりすわこが居た。 魔理沙が腕に抱えた子供のゆっくりを気付いてか、親と思われるゆっくりとその子供達が近付いてくる。 「すわこ何処に行っていたのよぉ!!」 「ぁーぅー、ぉねぇちゃーん♪」 「ゆっくりけろけろちていってね」 やはり家族のようだ。 「ケーロケロ♪おかーさん、すわこお空を飛んだんだよ」 子供達を少し離れた場所で待機させ、心配して駆け寄って来た親にそう笑い掛けながら返す。 親のゆっくりすわこは見慣れない人間を少し警戒しているのか、若干距離を於いて様子を伺っているようだ。 そんな様子に気付いたのか、魔理沙はゆっくりすわこを地面に置くと「行ってやりな」と優しく語り掛ける。 すわこの方も少しだけ魔理沙の方を振り返り、意図した事に気付いたのか母親のゆっくりすわこの方へと跳ねていった。 「す”わこ”ぉぉぉ」 余程心配していたのだろうか、跳んで来た子供すわこを抱きとめると急に泣き出してしまった。 「ゆっ、おかあさん、何で泣いているの」 当の本人は、母が何故いきなり泣き出したのか理解出来ない。 いつの間にか兄弟か姉妹かは判らないが、他の子供達と思われるゆっくりすわこがその周りに集まっていた。 どれも嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねている。 そんな仲睦まじく寄り添う家族の様子を眺め、魔理沙は何処か物憂げな表情だ。 珍しく家族の事でも思い出したのかしらね。 普段は不遜で豪胆に振舞っていても、それなりには少女らしいセンチメンタルな部分は残っているらしい。 と、少し離れて一部始終を見送っていた霊夢は思った。 「麓の巫女と白黒の魔法使いか。お前達二人がこんな辺境にまでわざわざやってくるなんて、不思議な事も有るもんだね」 ふと後ろから声が聞こえたので、振り返ってみると、案の定それは守矢の神・洩矢 諏訪子であった。 あっけらかんとしたその表情に、霊夢は少し呆れた素振りで、 「不思議な事って……遠路遥々あなたを探しに来たのよ」 「私を?何か急用でもあるのかしら?」 霊夢は一部羽織りながらも、早苗が心配していた事。途中でゆっくりすわこを発見し、ここまでやってきた事を伝えた。 「そうだったの、わざわざ済まなかったね。ここの皆で、楽しく大合唱していたので時間なんて忘れていたよ。早苗は怒っているかなぁ」 「そうね、今頃は人里で大量の蛇でも集めているんじゃないかしら」 「あーうー」 思った以上に驚く諏訪子を見て、「冗談よ」とだけ返して周りを見渡す。 滝の水飛沫が霧状に舞い散る中、大量の生物が蠢いていた。 様々な色と種類、大きさの蛙・蝦蟇が。ここに連れて来た種類と同じものだけだが、大小様々のゆっくり。 「しかし、大合唱ねぇ……」 滝壺の周りに群生しているそれらは、自らを表現するかの如く思い思いの鳴き声を挙げていた。 蛙の「ゲコゲコ」やすわこの「ケロケロ」はまだ良いのだが、ウシガエルでも混ざっているのだろうか、たまに「ンモウオォォォォ」などと聞こえてくるから脱力ものだ。 霊夢であれば小一時間聞き続けていれば、余りの騒音に退治しかねないレベルである。 こんな場所でゆっくりなんて冗談じゃない。 「ふふ、可愛いものだろう」 そんな生物達の様子を見つめながら諏訪子はそう言う。 「流石にそれは無い」と、返すべく諏訪子の方を向いた霊夢は、一瞬言葉に詰まった。 楽しそうに合唱している蛙やゆっくりを見つめながら眼を細めるその横顔は、感慨深い何かを持っていたためである。 思えばこれらの蛙も、突き詰めれば諏訪子の産み出した「子供みたいなもの」なのだろう。 正直、坤や乾を創造するというのも具体的にはよく判らないし、天や地が創造できたら生物も作れるのだろうか。 そもそも何処から何処までがこの神様や神奈子の創造したものなのかは不明だ。 取り敢えずは、蛙というのは諏訪子に近い何かなのだろうというのは最近理解した。 「……そうね」 なので、社交辞令としてそれとだけ返す。 「ところであのゆっくりだけど、あれはあなたが作ったのかしら?」 「まさか……私とてあのようなモノは作り出せない。」 「そうなの?早苗曰く「坤を創造出来る」らしいからあれくらい創り出せるのかと思ったけど」 霊夢のその冗談じみた発言に、諏訪子は声を挙げて笑う。 私、何か面白い事言ったかしら? 霊夢は不思議に思った。 まぁ諏訪子が作ったとしても、ゆっくりすわこだけなら兎も角、人里周辺の森に生息するゆっくりれいむやまりさといった別種まで作る意味は無いか。 と、頭の中で勝手に納得した。 「うーん、それにしても変な生物よね。知ってるかしら?あの中身って餡子だったりするのよ?」 「ほぅ、それはまた珍妙な生物だね。幻想郷とはそのような生物まで存在するのか?」 「流石にそんな生物は他にいないわよ。 でも、そうねぇ……脳味噌の無いのに色々と思考出来たりする吸血鬼も存在するし、似たようなのは沢山居るから余り違和感は無いけど」 「ふむぅ」 水辺の手頃な石に座りながら、そんな風に、滝を降りしきるように落ちてくる滝の流れを見つめて他愛の無い会話をやり取りする。 魔理沙はというと、ゆっくりすわこに懐かれたのか、遠くの方で大量のゆっくりと戯れている。 「しかし、全てを受け入れると言われる幻想郷とはいえ、大量にあのような謎の生物が湧けば、存外に食物連鎖が狂ってしまったりするのではないか?」 「大丈夫よ、ゆっくり達は基本的に蟲や草といったものしか食べないし、幻想郷の自然もそれくらいを受け入れられない程に弱くは無いから」 「そうなのか、それならば良いのだが」 「でも彼女ら、食物連鎖的には結構下の方だけどね」 いつの間にかピョンピョンと、先程のとは別のゆっくりすわこが飛び跳ねてきた。 「ゆっゆっ♪」や「あーうー♪」などと言いながら、諏訪子の膝の上に飛び乗る。 諏訪子も笑顔でそれを迎え入れる。 「それも致し方なかろうな、強者も居れば弱者も居る。それが理というのなら、私にはそれを邪魔する道理は無い そもそも、私達自身も多くのものを喰らって生きている訳だし」 「ふーん、神様って自分の気に入ったモノには誰にも侵させない的な、傲慢な思考が有るのかと思ったけど」 「ははっ……確かに、何かを守るために禁忌を定め行動を制限する事や、巫女や預言者を使い問題を仲裁する事も有る。 時として異教との戦いが起これば、崇める者達に神徳を与え助ける事も有るが。」 膝の上に居るすわこの頭の後ろの辺りを撫でてやると嬉しそうに「ケーロケロ♪」と歌い出す。 諏訪子もそれに合わせて少しだけ「ケーロケロ♪」と歌ってやる。 「そうは言っても、何事にも限度や尺度は存在するものさ。それを間違えば悲しい事になる事を、私や神奈子は知っている。 自分を信じる者や傍に居てくれる者を守ろうとしたある昔の神は、東に病が流行れば自ら出向いて直し、西に敵が現われれば全てを自らの手で討ち果たした。 それがどういう結果を招くのかすら知らずにな……。 時が経ち、己の足で歩けなくなったその人間達の文明は滅び。そして信仰を失ったその神も同じ様に、異教徒から邪神として淘汰されて歴史の中に消えてしまったよ」 切ない事だな。 最後に諏訪子はそう付け加えた。 いつに無く真剣な話だ。と感じた。 霊夢は巫女という神と最も近い人間という立場でありながら、自堕落な事に余りそういった思案や会話をした事は無い そういった、「見守る」といった部分はやはり神としては大切なものなのかしら。 出来るのにやらないと言えば語弊が出るか――自分が行えば解決出来る。だが易々と自らが出て行く訳にもいかない。 そういったジレンマというものだろうか。兎に角、神というものは色々と抱えるものが多そうだ。 もし自分だったら、色々と我慢出来ないだろうな。 霊夢は改めて人間で良かったと思った。 「しかしまぁ、自然の摂理を外れぬのなら口出しなどはせぬが、面白がって蛙を氷付けにする何処ぞの妖精のようなのも居る事だ。」 「チルノの事ね……この前、文々新聞に大蝦蟇に飲み込まれたって書かれていたけど……」 「ふふ、そうか。因果応報、それに懲りたら行いを改めて欲しいものだな。 それに、そのような輩はそう居ないとは思うが、もし似たような命を粗末にする不届き者が身近に多く出てくるようなら……」 「出てくるようなら……?」 「……久方ぶりに、祟り神としての本領を発揮する事になるかもしれぬな」 その言葉を呟く諏訪子の横顔を見た霊夢は、背中に電流にも似た寒気を感じた気がした。 膝に乗っていたすわこも、同じく何かを感じたのか、ブルブルと震え出している。 それに気付いたのか諏訪子はその子供を持ち上げあやしだし、すわこの方も「あーうー、おねえちゃーん♪」と笑顔でそれに答える。 そして、霊夢の方を向き直ったかと思うと「冗談よ」とだけ返して、ペロリと舌を出したかと思うと、ゆっくりすわこと駆け出していった。 なるほど、先ほどのお返しらしい。 しかしながら、本人はそう言ったものの実際そんな人妖が現われれば、それは恐らく冗談では済まないだろう。 恐ろしいものである。 だが、ここは妖怪の山。それも、ここまで奥まった場所だ。 まず人間なんて入ってくる事など有り得ない。私や魔理沙、後は早苗と咲夜以外は。 妖怪にしても、こぞってゆっくりを襲うものなど、存在しないだろう。 今では人間すら怖がらそうとしない連中ばかりだからだ。 紫曰く、襲うのは駄目だが、怖がらせる程度ならそれが妖怪の存在意義なので行うべき。らしい。 私が見掛ければ、勢い余って退治してしまうかもしれないが。 まぁ取り敢えずこの周辺は、当分はゆっくりと蛙の楽園のようなものであろう。 しかし、先ほどの諏訪子の凄みは――自分に向けられたものではないというのに恐ろしいものであった。 諏訪子といい、神奈子といい、普段は接し易いロリっ娘であったりフランクな神様だったりするが、やはり神話の時代から生きる神様だ。 霊夢は、向こうの方で魔理沙と一緒に蛙やゆっくりと楽しそうに遊んでいる諏訪子の姿を見て、ふとそんな思案をしていた。 余談 日も暮れ、もう直ぐ夕食となる守矢神社の食卓 諏「お腹すいたよ~。早苗、今晩の夕食は何なの?」 早「今日は人里で頂いた物が沢山有るので豪華ですよ」 霊「へぇ、例えばどんなのが有るのかしら?」 早「前菜は鯛の軽いマリネと春の魔法の森風サラダ添え、スープには山菜乾貨(かんぶつ)で出汁を取り七草を散りばめた神の粥的なスープ。 メインには蜂蜜とグレープフルーツソースで蒸した鶏と夜雀のグラタン添えに、御柱で彩られた永夜風ヤツメウナギの赤ポルト酒ソース煮。 デザートには魔理沙さんから頂いた、ゆっくりすわこの水羊羹グラッセですね」 諏「……えっ、何だって?」 早「前菜は鯛の軽いマリネと春の魔法の森風サラダ添え、スープには山菜乾貨(かんぶつ)で出汁を取り七草を散りばめた神の粥的なスープ。 メインには蜂蜜とグレープフルーツソースで蒸した鶏と夜雀のグラタン添えに、御柱で彩られた永夜風ヤツメウナギの赤ポルト酒ソース煮。 デザートには魔理沙さんから頂いた、ゆっくりすわこの水羊羹グラッセです」 神「客人も居る事だし、豪勢にしてみたのさ」 諏「えっ、いや……」 霊「……ゆっくりすわこって」 魔「勘違いするなよ、霊夢。ゆっくりすわこの親の方から「子供を捜してくれたお礼に、少しだけゆっくり食べていってね」って言い出したんだから。 私は痛いだろうから遠慮するって言ったんだけど、「優しいお姉さん達にどうしても食べて欲しいの」とか言うものだから」 神「へぇ、よく判らないけどあの妙な生物にも恩義に対する殊勝な精神が有ったんだね」 魔「だから私はなるべく生活の支障にならない部分を切り出して、代わりに持ってきた餡子を詰め、切り出した際の皮を水で溶かした小麦粉で張り直したりしたんだぞ」 霊「ふーん、あなたにしては中々細かいのね。でも何で慌てているのかしら?」 魔「それはお前と諏訪子が怖い眼でこちらを見たからだろうが」 諏「でも、水羊羹の中に普通の餡子を混ぜても大丈夫なの?」 魔「流石にゆっくりすわこの中身なんて知らなかったから持ち合わせがなかったんだぜ。ゆっくりすわこの方は馴染めば大丈夫って言っていたんだが」 神「案外、適応能力や生命力自体は高い生物なんだね」 魔「まぁ、後日調査も兼ねて様子を見に行くさ。それにあのゆっくり、皮の周りに片栗粉のような薄い膜が有ってだな、それによって水を……」 早「みなさーん、お夕飯の準備できましたよー」 霊「残念ね、熱く語っていた所だけど、話はまた後日聞いてあげるわよ」 魔「…………」 レアゆっくりハンターMARISAのメモ ゆっくりすわこ 体格――幼体10cm~50cm 成体80~150cm(帽子含む) 補足 ゆっくりれいむやゆっくりまりさとほとんど変わらないが、帽子のため少し大きく見える。 性格――活発で明瞭。 身体能力――跳躍力が高く、それに比例してスピードも他のゆっくりより速い。水中でも活動出来る様子。 特徴的な台詞――「ケロケロしていってね♪」「あーうー」など 総評 洩矢 諏訪子を模したゆっくりの一種。 所謂、水棲種に属するらしく主に水辺に生息する。 構造事態は他のゆっくりとほとんど変わらず、中身も〔水羊羹〕と甘味物であった。 大きさにしても他のゆっくりれいむ種やゆっくりまりさ種と余り変わらずスタンダートと言ってよい。 ただ帽子の大きさのためか、見た目は若干大きく見える。 特筆すべきは二つ。 その驚異的な跳躍力と、体の周りを覆う膜状の物質である。 跳躍力に関しては、それに比例して移動スピードも速く、他のゆっくりと比べれば優秀な部類だ。 皮はゆっくりれいむ種・ゆっくりまりさ種とほぼ同じであるのに、水の中で長時間活動出来る理由は周りの膜状の物質によるものだろうか? 恐らくは粘液か何かと思われるが、ゆっくりすわこ曰く「食べても大丈夫」なものらしい。 これによって水を弾き、皮の部分をふやけさせない様にしていると考えられる。 食事は他のゆっくりと同じ様に、蟲や草花を食すようだ。 以上のような特徴でありながらも、何故かその生息範囲は限定されていて狭い。 家族だけでなく、近しい者達と一緒に共生している事が有る為、生息範囲を積極的に広げていくという部分に欠けているのかもしれない。 ちなみに幼体・成体問わず、近くを飛び跳ねる蛙を捕食しようとする個体がいなかったので、それらとも何かしらの共生関係に有るのかもしれない。 後書き 読み返せば、ほとんどゆっくりを愛でてないですね。 ゆっくりを愛でるSSの名を借りた東方二次小説みたいになっていますし。 次からはその点を気を付けます。 設定に関しては自分設定なので、今SSを書いている方は余り気にしないで下さい。 そもそも自分が見落としているだけで、新種とか希少とか言いつつ、虐待スレの他のSSに大量に出ているかもしれませんからね; 逆に持ち出すなとも言いません。 愛スレ・虐スレ問わずです。 虐待の方でも残虐なSSを結構書かせて頂いた身ですが、あれも愛ゆえにという事で。 北斗の拳っぽい事言ってスイマセン。 でも、ゆっくりは素晴らしいものと思います。 おもしろかった -- 名無しさん (2010-11-28 12 07 51) 諏訪子ちゃんますます可愛くなってる! -- なおたん (2012-02-11 00 51 39) 名前 コメント
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幻想郷。 失われた自然といまだ人が共存する地。 大地の恵み、川の恵み、風と雨に立ち向かい、その猛威を畏れ、恩恵に感謝する。 自然と対峙し、ときに糧を得るべく狩り、または育む。 人が自然の中に生きるために狩るもの…それは、ゆっくりと呼ばれる存在であった。 この村には風変わりな家がある。この家には一人の男が住んでいる。 村の規模はまだ小さく、発展の途上にあることが十分に伺える。頑丈な、これだけはまずしっかりと拵えた柵の内に村人は家を建て畑を耕し、しかし、この男と幾人かの村人は農民の生活に合わせず、 朝は遅くまでベッドの上、夜はいつ帰るともしれず、それでいて男を見る村人の眼はいつも尊敬の念にあふれていた。 そんな男の家は村の中心にあり、村長の家をしのぐ大きさを誇る。ただ、その形が異様だ。大きな台形のような外見で、二階には大きな窓が二つ、屋根は真っ黒に塗られ、天井は高く尖り、家の後ろには波打った藁のようなものが垂れていて、 近くで見るとつるつるとした壁肌が、村からゆっくり離れて、段々とその形が周辺の者なら誰でも見覚えある形にまとまって見えてくる。大きな、大きな、ゆっくりまりさの形に。 この男の家はゆっくりでできていた。 村の中で異彩を放つ、その家は庭のようにちょうど周囲を取り巻く柵を境に、ゆっくりを丸ごと家に改造したものなのだ。 かつて村を襲った脅威の一つ、10m級ドスまりさを剥製化して、職人を招き、住居として手を加えたもの。 あんぐりとあけっぱなした巨大な口には、すっぽりと豪奢な鉄のドアを嵌め込んで。 目の部分は二つの円窓を誂え。 皮は、樹脂とゆっくりの餡子を練りこんだ特製の油を塗りこみ、コンクリートのように硬化処理し。 風船のようにぷっくりと広げた内部は餡子を残らず抜き取って大黒柱と支柱を数本立て、床には絨毯を敷き詰め。 帽子と髪の毛も腐敗処理を施して屋根として利用してある。 この家はまさしく、「ゆっくりの家」だ。 そんな奇妙な家の内装もまた、あらゆるものがゆっくりで作られていた。 成体のゆっくり各種を背中から切り開き、餡子を抜いて代わりに綿を詰めて縫い合わせたゆっくり縫いぐるみ。 生きたままのゆっくりの頭部に穴をあけ、花の種を植えたゆっくり植木鉢。これはゆっゆっと掠れた声でぴょんぴょん跳ねながら、頭の花をゆらゆら揺らしている。 柱に打ち付けられたゆっくり時計。膨らんだ腹部に鳩時計と同じ仕掛けを施し、定時になると生まれたての赤ん坊ゆっくりがぽーんと転がり出てくる。 箪笥や、床に置いた道具箱などもゆっくりから拵えたものばかり。 なぜ、これほどにゆっくりにこだわるのか。男にしてみると、こだわるとかそういった問題ではなかった。ただ、生活に関わるあらゆるものが、ゆっくりであっただけで… この男の職業は、ゆっくりハンターだから。 人口は百足らず。時折訪れる行商人とのわずかな交易と狩りの成果に頼る小さな村は、つい最近の開拓によって作られた。 都市を出て郊外を離れ、ずっと森の中に分け入ったさらに先、自然の趣たっぷりな平野に新天地を求めた人々によって築かれた。 だが、そこは伝説でしか知られない不自然の脅威にさらされる地だったのだ。 大きな森や山に必ずいるという、生まれつきの素質をもつ個体が、強運と狡猾さで生き延びて、群れを支配するまでに巨大化した、ドスまりさ。 都では滅多に確認されない、ドス級の巨体に加え、鮮やかな桜色のリボンがトレードマークのれいむ種、リオれいむ。ドススパークに匹敵する火炎球を放つという。 姿かたちは元の種と変わらず、やや大きめの体に人間でも追跡できぬ異常な素早さと凶暴性を秘めた、ちぇんクック。さらに凶悪なちぇんガルルガなる種も噂に語られる。 遠目からでも、地響きと20mという巨体ゆえに目立つ、ティガれみりゃ。 それ自体が一つの山と数えられ、もはや災害そのものにまで増長し、都の防衛庁が対策を講じねばならぬという、ラオシャンみょん。 もはや伝承ですら語られることも稀な、 伝説に忘れ去られた古代の知識を身に着け、天を裂き山を揺るがし、自然現象を操る超常の種、ミラボレぱちゅ。 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 辺境の村はどこもゆっくりの脅威に晒された。ある村は蝗の様に襲いかかるゆっくりの大群に畑を食い尽くされ、ある村は見たこともない巨大なゆっくりに家を踏み潰され、村があった場所はもはやただの平原に変わったという。 ゆっくりを対処する手段が求められた。ゆっくりを研究し、ゆっくりにのみ通用する毒やゆっくりの本能を刺激して罠にかける方法が編み出された。だが、それだけでは足りなかった。 小さなゆっくりには人的手段が通用したが、災害に等しい巨大種には常人では対抗しきれない。 そうして立ち上がったのが、ゆっくり虐待派と呼ばれた青年たちだった。はじめ、彼ら彼女らは生き物を無残に遊び殺すと忌避された。しかし、ゆっくりを様々な方法で玩ぶうちに、虐待派はゆっくりのあらゆる特性を学んでいった。 彼ら彼女らはただゆっくりを殺害する手段だけではなく、生活に役立つ道具としてゆっくりを加工する手段も編み出していったのだ。 いつの間にか、森に棲むゆっくりを狩り、ゆっくりから武器や防具を加工して、仲間同士で連携して巨大種を倒す技を身につけた者を 「ゆっくりハンター」 と呼び、いまや開拓村、辺境の町ではなくてはならない存在となった。 ハンターには素質が必要だ。それはゆっくりを傷めつける虐待の精神がなにより重要とされる。 ゆっくりは極めて世代交代のサイクルが短い。また、個体自体の「進化」と他の生命体なら呼ばれるだろう環境への適応能力もまた著しく高いのが特徴である。 その最たる例が、『虐待などで過度のストレスを長期受け続けたゆっくりの餡子は非常に甘くなる』というものである。 これは殆どのゆっくりに当てはまる、環境への自己適応である。 ハンターはゆっくりを狩り殺すだけが能ではない。生業として成立するために、ゆっくりから様々な道具を作り出す知識を身につけている。ゆっくりにかける負荷の度合いや部位によって、硬度や弾力性に変化を持たせることで、 巨大種の皮や餡子、または眼球や舌などから衣服、調度品、薬品、そしてハンターがゆっくりを狩るための武具を作り出すのだ。 ゆっくりを狩る者にも色々いるが、(都では、身長を超えるような大きな玄能を嬉々として振り回す少女のハンターがいるともっぱらの噂だが)時には、胴体付きゆっくりを捕獲して調教ないし教育し、 ペットや使用人、あるいは狩りの手伝いをする助手として利用することもある。 この開拓村に、ゆっくりの家を造って暮らす男は、随一のハンターである。討伐、捕獲、採集、あらゆる依頼をこなし、かつてはラオシャンみょんの進行を阻止する要塞戦で勝利を収めたほどの猛者だ。 日が沈み、夜が訪れる頃。 男の家に客人が現れた。村長だ。曲がった腰を杖で支え、ドアをゆっくり叩いた時、男はちょうど食事の時間で、飼いゆっくり(ピンクと白の縞々帽子をかぶせたまりさ)を撫でながら、コックのれみりゃが作った小籠包を味わっていたところだった。 村長の用事はわかっていた。それは依頼だ。 「急ですまんがの。また森のほうでゆっくりがあらわれたそうじゃ。行商人が依頼を持ってきた。なんでも近く都のほうで新しい建設の計画があるそうじゃが、その付近で凶暴なゆっくりが群れをつくっとるそうじゃ。都から派遣されるハンターと共同で討伐してくれとの。」 男はそれだけ聞くと、口元の肉汁を拭い、膝の上のゆっくりを払い落して無言のまま、壁に掛けた武具を取り出し装着した。 彼が身につけるのは、かつてラオシャンみょんを討伐した際、剥ぎ取った表皮を乾燥させ、薬品に漬けこむことで銃弾の衝撃を吸収するほどの耐衝撃性をもたせたものを甲冑として鍛えた「暁丸」、 武器はラオシャンみょんの牙を削った太刀「楼観剣」である。 準備が整うと、村長が手配したゆっくり車(底部に車輪を取り付け、横長に変形した2m級のドスまりさ二体が牽引)に乗り、鞭を振るった。 ひぃっと小さく声を上げると、ドスまりさがゆっくりと移動を始めた。 地図に示された狩り場に辿り着くのは深夜。もっとも狩りに適した時間だ。それまで男は休息を取るべく目を閉じた。ハンターの習性ゆえに、男はすぐに眠りに落ちた。 目が覚めた時には、非情かつ冷酷なハンターがそこにはいるだろう… (続く) おはようとそしてこんにちは、それからこんばんは VXの人です。 どうしても書きたかった。後悔はしてはいけないと信じてる。シンジテル。 このSSに感想を付ける
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~注意書き?~ ゆっくりいじめ成分が少なめです。ないわけじゃあないですが。 この作品は、『ゆっくりハンターの生活』『ゆっくりハンターの生活2』の外伝の物語となりますが、 前述した2作品を読まなくても話がわかるように作っておりますので、見ていない方でも安心して御覧になってください。 死人が出ます。そしてゆっくり以外で少しグロテスクな表現があります。 むやみやたらと長いです。正直反省している。 以上のことを踏まえて、それでもOKな人は以下の『ゆっくりハンターの昔話』をお楽しみ下さい。 ゆっくりハンターの昔話 海かと見紛う程の巨大な川を、小船がゆったりと渡っていた。 その船には、船頭と乗客である少女が二人乗っている。 二人は顔を合わせることはなく、船頭の梶をこぐ音だけが響き渡る。 「あんた……」 「はい?なんでしょう」 唐突に船頭が乗客の方を振り向き、声をかける。 乗客もそれに反応し、二人は互いに向き合う形になる。 「向こう岸までまだ結構かかるんだ。もしよかったら、あんたの昔話でも聞かせてはくれないかい?」 船頭の少女は屈託のない笑顔で乗客の少女にそう提案した。 梶を漕ぐ音が、少し控えめになる。 「私の、ですか…?まあ、別に構いませんけど」 乗客の少女は船頭の提案に驚いたようだったが、彼女も暇だったのだろう。 特に抵抗もなくその提案を受け入れた。 船頭は「それはよかった」と言い、梶を置いて小船の中に座り込んだ。 漕がなくていいのか、と乗客が問うたが、船頭はいたづらっぽく笑って、実は漕がなくてもいいんだ、と返した。 乗客はならばなぜ梶なんか持っているんだと疑問に思ったが、どうでもよいことだったので忘れることにした。 そんなことより早く話をしよう。前に座っている船頭さんが興味津々と言ったようにこちらを見ている。 「それじゃあ、私のまだ幼かった頃の話でもしましょうか」 少女は昔を噛みしめるようにたっぷりと口の中に含ませて、ゆっくりと物語を紡ぎ始めた。 私は子供の頃、よくゆっくりたちと遊んで暮らしていた。 初めて彼女達と会ったのはいつだったかは、今はもう覚えていない。気づいたときには私は彼女達と友達になっていた。 もちろんほかに普通の友達もいたが、私にとって当時一番仲がよかったのは彼女達だった。 友達のゆっくりにご飯を上げると、自分の下手な料理でもおいしそうに食べてくれて嬉しかった。 里の人たちは私を馬鹿にしたけど、ゆっくり達だけは私を馬鹿にせず、それどころか、 「おねえさんはゆっくりしてるね!れいむたちもゆっくりみならいたいよ!」 と、褒めてくれた。 その言葉が嬉しくて嬉しくて、次の日は腕によりをかけた料理を彼女らにプレゼントした。 彼女らも私のプレゼントが嬉しかったらしく、私にきれいなお花をプレゼントしてくれた。 私は浮かれてまた彼女達に料理を持っていき、彼女達は私に森になっている果実を渡してくれた。 それからずっとゆっくりぱちゅリーが止めるまでプレゼント合戦が続いてたっけ。 今では、とても懐かしい思い出。 そんな私の子供の頃の夢は、農家になることだった。 農家になって、野菜の好きな彼女達のための食べ物をいっぱい作りたかった。 彼女達の喜ぶ様を想像しながら、私は農家の勉強に専心した。 だが、私はどうしようもなく馬鹿だった。 どれだけ周りの大人たちが教えても、私ががんばって反復して覚えようとしても、必ずどこかで失敗する。 私が必死に努力しても、作物にまともな実が成ることなど一度もなかった。 罰として、その作物は無理矢理私が食べさせられた。気が飛んでしまうほどまずかったけど、吐き出すことは許されなかった。 失敗するごとに食べさせられ、いつか私がそれをおいしいというようになると、それを大人たちはたいそう気味悪がった。 結局、私はその愚かさゆえに周りの大人たちに見放された。その子どもからも、ゆっくり未満の馬鹿だ、といじめられた。 誰も一緒に遊んでくれなくて、私はゆっくりたちと過ごすほうの時間がだんだんと増えていった。 そんなある日、事件が起きた。 雲ひとつない快晴の真昼、数え切れないほどのゆっくりまりさが人里に殺到した。 ゆっくりまりさの襲撃だ。 かつて見たこともないような大襲撃。 そのゆっくり立ちの行進で大地は揺れ、その掛け声は天にまで昇るほど大きく、里のみんなを恐怖の海へと沈めていった。 農家の人々が一生懸命耕した畑は荒らされ、もっと食べたいのを我慢して蓄えた食料は奪われ、みんなで協力して作った家屋は次々と破壊された。 太陽がゆっくりと沈み、妖怪の時間が近づいてくる時間になった頃、ようやくゆっくりたちの蹂躙は終了した。 ゆっくりたちはあまりの惨状に放心する里の人々に向かって、 「またくるから、ゆっくりおいしたべものつくってね!」 と言い去っていった。激昂した男達が群れの巣を強襲したが、ゆっくりたちの返り討ちにあって死亡した。 残された里の人々は絶望していた。 里の中でも力持ちだった男達はゆっくりに殺され、残ったのは数少ない自警団と、ひ弱な村人達だけ。 このままでは里は終わりだ。 里の知識人たちが集まって夜を徹して対策を練っていたようだったけど、状況は芳しいとはいえないようだった。 私はそんな村の様子をみていたが、ゆっくりに対する敵愾心などはまったく沸かなかった。 私の中から湧き出てくるのは諦観と暗い喜悦の念だけ。 どうせ私は役立たずだ、何も出来やしない。それに、このままだったらこの里は終わってくれるかもしれない。みんな、死んでくれるかもしれない。 みんなで一緒に天国に行けば、寂しくないんじゃないか。天国だったら農作業する必要もない。私も馬鹿にされず、みんなと一緒に遊べるかもしれない。 私は壊された自分の家の残骸に腰掛け、ずっとそんなことを考えていた。 ある村人が全員集まって知恵を出し合おうといっていたが、私は無視して数少ない食料を友人のゆっくりたちと一緒に食べた。 自分もおなかがすいていたけど、どうせすぐ死に往く自分には関係ないことだと思った。 でも、そんな考えは甘かったことを後日、私は思い知る羽目となる。 ゆっくりと一緒にご飯を食べている場面を他の子ども達に目撃されたのだ。 自分達は食べ物がなくてひもじい思いをしているのに、なんであいつはゆっくりに分けられるほどの余裕があるのだろう。 いや、あいつはなんであのにっくきゆっくりと仲良くしているんだろう。 そうだ、あいつゆっくりたちと内通しているんだ。自分だけはゆっくりに取り入って助かろうって腹なんだ。 いや、それどころか、今回のゆっくりの襲撃の首謀者はあの少女ではないか。いつもいじめられている腹いせに、ゆっくりたちを里にけしかけてきたのではないか。 もともと狭い里の上に、ゆっくり対策で大人達が一箇所に固まっていたせいで、この噂が里中に広がるのにさほど時間はかからなかった。 そして私は、太陽が出てくると同時に、里で裁判にかけられた。 もちろん被告は私。脇には私が逃げないように自警団の大人が鍬を持って固めている。 裁判長の席にはこの里の長様。 近くの裁判官の席には数人の有力者達が陣取り、証言台には先日の子ども達が立っていた。 「ぼうや、その証言は事実かな?」 「うん!俺みんなと一緒に見たんだ!あいつゆっくり達に村の情報を流してたんだ!」 傍聴席にいる里の住人から、「ふざけんなー!」「裏切り者が、死んじまえ!」といった罵声が聞こえる。 私はそんなことまでした覚えはないのだけれど、私を擁護するものは誰もいない。 お母さんは私を生んだときに死んでいたし、お父さんはこの前ゆっくり達に殺された。 もし生きていたとしても、私の味方にはなってくれることはなさそうだけど。 わき腹についた、治りかけの火傷の跡が少し痛む。 目の前では長様が木槌を叩きながら「静粛に!静粛に!」と叫んでいた。 ややあって場がひとまず静まり返ると、長様は咳払いをひとつつき、私に対する判決を下す。 「被告に対する判決を言い渡す。被告はこの里で生まれ育った恩を忘れ、あろうことかゆっくりなどという畜生どもと結託し、里を襲い村に甚大なる被害をもたらした。 この罪が簡単に償えるものではないというのは確定的に明らか。よって、被告を死刑に処す。内容は…磔の刑がよかろう」 長様の判決を聞いた途端、傍聴席から歓声と甲高い口笛の音が鳴り響く。その歓声の中、長様は一人浮かない顔で持っていた条文を置き長いため息を吐いた。 私は里の罰の中で最も重い、磔の刑となった。 磔の刑といってもどこぞの聖人のように槍で刺されて殺されるわけではない。 罪人は十字架につるされ、村人から死ぬまで弄られ続けられるのだ。 罵声、投石、火あぶりなどと、その方法は多岐にわたる。 私が昔に見た罪人は、家畜の糞尿を投げられたり、高温の鍋を体中にへばりつけられたりしていた。 熱いのは嫌だなぁ、と私が自分のわき腹をさすりがら考えていると、予期もせぬ声が傍聴席から聞こえてきた。 「ゆっくりまってね!れいむたちが、え、えーと…」 「もう!れいむったらわすれちゃったの!?」 「わかる、わかるよー」 「むきゅー。"いぎ"よ、れいむ」 「ぱちゅりーのおかげでおもいだしたよ!!れいむたちは"いぎ"をとなえるよ!」 人懐っこいゆっくりれいむに、いつも元気なゆっくりちぇん、都会派が自慢のゆっくりありす、仲間で一番物知りなゆっくりパチュリー ……間違いない、そこにいたのは私の友達のゆっくりたちだった。 なんで、どうしてこんなところに……。 私や里の人たちの混乱をよそに証言台に上がるゆっくりのみんな。 長様も例外ではないようで、目をきょとんとしながらゆっくりたちに話しかける。 「……異議、とはどういうことですかな?」 「れいむのおともだちはなにもわるいことしてないよ!あのにんげんたちのいったことはうそっぱちだよ!」 「そうよ!おねえさんがそんなことするわけないじゃない!」 「わからないけどわかるよー」 台の上で口々に騒ぎ立てるゆっくり達に、混乱が収まってきた里の住人達がいっせいに騒ぎ立てる。 「ふざけんな!ゆっくりの言うことなんざ信じられるか!」 「そうだよ!俺嘘なんかついてないよ!」 ゆっくりたちの異議に、暴動寸前にまでヒートアップする住人達 さすがにこのままではいけないと思った長様が、みんなを沈静する。 「全員静粛になさい!……どういうことか、しっかり説明してくれるかね?」 「むきゅー。おねえさんはたしかに私達のお友達だけど、ここをおそったまりさたちとはまったく関係がないの。 だからあいつらにじょうほうを伝えることなんて出来ないだろうし、それどころか近づくだけで殺されちゃうと思うわ。あいつら気性が荒いもの」 そうだそうだー、と周りの子達も呼応して叫ぶ。 長様が再び咳払いをして、彼女達に質問する。 「あいつら、ということは君達とは違うということかな?ゆっくりたちは皆同じコミュニティではないということかね?」 「そうね。ふくすうの群れに分かれているわ。一番大きなせいりょくはまりさの率いる群れで、この村をおそったのもそれ。 後はとてもしょうきぼな群れが散在しているだけで、私達もそのしょうきぼな群れのひとつよ」 「あいつらは、わるいゆっくりなんだよ!れいむたちがあつめたたべものもかってによこどりするし、むらもあいつらがかってにおそったんだよ! れいむたちはんたいしたのに!」 「そうよ!とかいはのありすにはあわない、いなかものどころかみかいのちのばんぞくみたいなやつらなのよ!」 「わかりたくもないよー」 一斉に同族のゆっくりの批判を始めた彼女らに、長様も戸惑い丘隠せない様子で、しばし呆然としていた。 誰も言葉を発さず、しん、と静まり返る法廷。 ゆっくりたちは、わかったかといわんばかりの表情で長様をじいっと見る。 長様が困った顔をして近くの有力者達を見回すが、彼らも混乱しているようで、呆けた顔で長様を見返すだけだった。 私はそれを見て、もしかしたら助かるのかなぁという思いが頭をよぎったが、やはり現実はそう甘くはない。 「ふざけんな!ゆっくりたちなんかみんな同じに決まってんだろうが!早く死んじまえこの生首どもめ!」 「そうだそうだ!こいつらは平気で嘘をつくしな!」 「さては、こいつら仲間を助けに来たゆっくりの斥候じゃないか?」 「何ーっ!?そうとわかれば生きて返すか!」 それまで黙っていた傍聴席の住人達が一人の男の言葉を合図に堰を切ったようにがなりだす。 その反応に、ゆっくり立ちも飛び跳ねながら反発し、法廷が怒声によって揺るがされる。 「ゆ!おじさんたちなにいってるの!?れいむたちはおともだちをたすけにきただけだよ!せっこうなんかじゃないよ!」 「とかいはのありすとあんなやばんなやつらをいっしょにしないでくれる!?」 「わからないよーわからないよー」 「むきゅー。みんな少し熱くなりすぎてるわ。少し冷静になって話し合いを…………むぎゅっ!」 「「「ぱ、ぱちゅりー!?」」」 一人の男が投げた石が、ゆっくりぱちゅリーに直撃する。 慌てて友達の元へ駆け寄るゆっくり達に、更なる投石が浴びせかけられる。 「ゆ゛!い、いだいよ!ゆっくりやめてね!」 「やめて!ぱちゅりーがしんじゃう!いだっ!」 「わ、わからないよー!」 「………むきゅー」 私はその様子に思わず彼女達の元へ駆け寄った。 私の脇を固めていた自警団の人もゆっくり達に集中していたので、彼女達の元へいく私をとめることはできなかった。 私は彼女たちの盾になるようにかがみこむ。 「みんなだいじょうぶ!?」 「ゆ!おねえさん!れいむはだいじょーぶだよ!」 「とかいはのアリスもだいじょうぶだけど、ぱちゅりーが……」 「わかるようでわからないよー!」 「むきゅー……むきゅー……」 さっきの投石でぱちゅりーの皮が破れ、中からあんこがはみ出ている。 早く治療しないと、もとより体が弱いぱちゅりーには致命傷となりうる傷だった。 私は急いではみ出た分のあんこを体内に戻し、傷口につばを当ててさすってやる。 その間もずっと後ろから石が飛んできたけど、私はそれを無視した。 「大丈夫!?今助けるからね!」 「むきゅー…おねえさん、私のことはいいから、そこをどいて…。石が飛んできてるよ」 「私のことは気にしなくていいから、ぱちゅりーは自分のことだけ心配して」 「ゆ!おねえさん、あぶない!」 れいむの声と同時に、後頭部に激痛が走る。 痛みは私の頭の中をかき回し、私の意識を奪っていく。 薄れゆく視界の中で見たものは、大人に掴まれながらも必死にこちらに向かって泣き叫んでいる友人達の姿だった。 ああ、なにをそんなに泣いているのだろう。またまりさたちにいじめられたのだろうか。 大丈夫、私が何とかしてあげるから。だから、お願いだから泣かないで。あのゆっくりとした笑顔を私にみせて。 痛みはやがて快楽へと変わり、そうして虚無が訪れた。 「………!………ろ!起きろ!」 耳障りなだみ声に呼ばれて目を覚ます。空高くで輝いている太陽がまぶしい。 周りには、数人の大人たちが倒れている私を囲むように立っていた。 私が体を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走る。 「っ……!」 「痛がってねぇでさっさと立て。………こら、暴れんな!さっさとこっちに来い!」 男達が嫌がる私を無理矢理引きずっていく。 私も途中で抵抗するのをやめ、なすがままに男達に引きずられていった。 そうして着いた広場には、一箇所に固まって何かをしている村人達。 向こうもこちらに気づいたようで、こちらに向かって薄気味悪い笑みを浮かべながら私を見る。 「ほれ、あれをみてみな」 私の腕を抱えている男が、広場の中心の方に指を向ける。 そこには、十字架にかけられ泣き叫ぶゆっくりたちと、それを見て愉しんでいる里の人達の姿。 「い゛や゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!ゆっくりでき゛な゛い゛い゛ぃぃぃぃ!!」 「ひぎぃぃぃぃぃ!いだいぃぃぃぃぃ!!」 「まっだぐわがらな゛い゛よお゛ぉぉぉぉ!!」 「…………………」 そこにつるされたみんなは、ハリネズミのように全身から棘が生えていた。 みんなは痛みに悶え痙攣しているが、ぱちゅりーだけはまったく動かなかった。 「みんな!なんで、どうして………」 友人達のあまりの惨状に、私はただただ泣くことしかできなかった。 膝がたっていられないほどがくがくと震えるが男達が腕をしっかりと掴むから倒れることも出来ない。 友達の悲鳴を聞きたくなくて、耳をふさごうとしても両腕は男達に捕まえられている。 どうしようもない絶望感と無力感におそわれていた私に、男の一人が私にそっとささやいた。 「あのゆっくりどもを、助けたいか?」 とめどなく溢れてくる涙のせいでまともに話すことができず、私は必死に首を縦に振ることでそれに答える。 男達は私の反応に満足したのか、薄ら笑いを浮かべながら、再びこうささやいた。 「じゃあ、おまえらの言う悪いゆっくりを殲滅して来い。お前はゆっくりのお友達なんだから、内部に侵入して崩壊させるくらいできるだろ?」 「うう…ひっぐ……そんなの、できるわけ……」 「出来ないんだったら、あいつらが死ぬだけだ」 男達が、先ほどよりも口をさらに歪ませて、私に選択を迫る。 聞こえるのは、先ほどよりも大きくなっている友人達の悲鳴。私に選択の余地はなかった。 「………わかりました。やります…………」 「そうかそうか!頑張ってゆっくりたちを殺してきてくれ!これが成功したら村の英雄だな!」 男達が私を解放する。 だが、ゆっくり立ちは開放される気配はなく、いまだ里の人達にいじめられ続けていた。 「やりますから、早くあれを止めてください…!」 「ん~?それは出来んなぁ。だってあいつらは罪人なんだから。でもまあ、今日中には殺さないから安心しな」 「……………………………」 「なんだ?こっちをじっと見て。早く行かないとお友達が死んじゃうぞ?」 男達は、心底楽しそうに笑いながら、私を見る。 「約束は、守ってくださいよ」 私は少し震えた声でそういって、私は逃げるように走っていった。 友人達の悲鳴が、どれだけ広場から離れても耳から無くならなかった。 そうして数十分ほど走って着いた先は、友人達とよく遊んだ森のある一角。 ゆっくりにとって外敵が少なく、かつ食料も適度にあるこの場所。 でも、今ここの住人であるはずのゆっくり達はいない。 私は木の上にのぼり、みんなで作った秘密基地の中に入る。 中には、非常時のために蓄えられた食糧と、みんなで遊ぶための道具、そして私の私物である手提げのカバンがある。 かばんの中には、大量のナイフにエナメル製のワイヤー。 すべて、事前に用意していたものだった。 あのゆっくりまりさたちはれいむたちが言ったように、他のゆっくりコミュニティも襲う。 幸いれいむたちは食料を献上していたためさして被害はなかったが、いつれいむたちが襲われるかわからなかった。 だから私は自衛の手段として武器を買い込み、あいつらの巣へ赴いて彼女らの行動を事細かに観察していた。 いつ襲われてもいいように。友達を守るために。 今から私がゆっくりまりさたちの巣を強襲するのは、大切な友達を助けるため。 だから今から私がやることは仕方のないことなのだ。たとえ友達と同じゆっくりを殺すこととなろうとも。 胸が痛み、涙も出てきたが、私はそれを振り払って元凶の巣へと歩きだした。 先ほどよりも太陽は西へ傾いており、私の作る影もそれに応えて大きくなっていた。 そして、ゆっくりまりさたちの巣についた私は、改めてその巨大な巣を見回した。 人でも有に入れそうな洞窟を中心に、近くの木々にはゆっくりまりさたちの家が散在している。 どうやら巣の規模は以前見たときよりより大きくなっているようだった。 私は彼女らが逃げられないように、巣を囲むようにしてワイヤーをいたるところに仕掛けた。 そして、もうワイヤーが切れかけようかとしたそのとき、一匹のゆっくりが私を発見した。 「ゆゆー!みんな、にんげんがいるゆ゛っ!!」 私に背を向いてほかのゆっくりたちを呼ぶゆっくりまりさを、私は瞬時に近づいて踏み潰す。踏みが浅かったのか、まだ死んではいなかった。 止めを刺さなければ。 そう思ったところで、私の動きが固まった。 ゆっくりを殺すなんて、本気で言っているのか?私のお友達と同じ種なんだぞ? でも友達を助けるためには殺さないと。でも殺したらあの子達は私をゆっくり殺しといって嫌うかもしれない……… ゆっくりを殺すということに、理性が拒否反応を示す。 ここでゆっくりを殺してしまっては、二度と友人達と笑って過ごせなくなる予感がした。 「ゆっくりしねぇぇぇ!」 「がっ!」 そうして迷っていたせいで、後ろにいたゆっくりの声に反応するのが遅れてしまった。 背中を強く打たれ、そのままごろごろと転がる。 痛みをこらえて振り向くと、そこには数匹の成熟したゆっくりまりさ達がいた。 その中でも一番大きな体を呪詛の言葉を吐きながら、再び私めがけ突進してくる。 「わたしのこどもをォォォ!よくもぉぉぉぉ!」 「きゃ、きゃぁぁぁァァァ!!!!」 わたしが無我夢中で突き出したナイフが、カウンターとなってまりさの顔を捉える。 ブチュリという嫌な感覚のあと、わたしの腕が生暖かいものに包まれた。 「ゆ゛!?ゆ゛うぅぅぅぅ!?」 わたしのナイフは、まりさの体を貫通していた。 痛みのために暴れようとしているのが、腕に伝わる振動からわかった。 わたしは、慌てて魔理沙を腕から離そうと、腕を何度も何度も振った。 「いやぁ!離れて!」 「ゆ゛…!ゆ゛……!」 腕からすっぽ抜けていったまりさは近くの木の幹に当たり、そして動かなくなった。 周りにいたゆっくりたちが、急いでその死骸に近寄る。 「おがあさん!おがあさぁぁん!」 「ゆっくりしてないでへんじしてよぉぉぉ!?」 「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」 ゆっくりたちはひとしきり泣いたあと、呆然としている私を睨みつけた。 「よぐも、よぐもおがあさんをごろじだなあァァァ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「このゆっくりごろしめ!」 ゆっくり達のその言葉の一つ一つが、ナイフとなって私の心を切り刻んでいく。 違う。わたしは、わたしは。わたしは? 死んだゆっくりの死骸が、わたしの頭のなかでぐるぐると回る。 混乱し、ぐにゃぐにゃと錯交する思考。何もわからない。見えない。聞こえない。 私は何故ここにいるんだっけ?友達を助けるため?それともゆっくりを殺すため?このナイフで、ゆっくりの体を貫いて。 胸が痛い。心が痛い。なんで私はこんなに苦しいの? 「こんなひどいにんげんとは、だれもゆっくりできないよ!」 「そうだよ、ゆっくりさっさとしね!」 あいつらはなにを言っているんだろう?どうして彼らは怒っているんだろう? 私は悪いことしてないのに。いきなり人の悪口を言うなんて、悪いゆっくりだ。 そうだ、友達を助けるために、悪いゆっくりを殺さないと。みんなと約束したんだ。 だから、殺さないといけないんだ。こいつらは悪いんだから。みんな消さないといけないんだ。 私の中で、はっきりと何かが破裂する音が聞こえた。 続く このSSに感想を付ける
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前回のfuku1364.txt『ゆっくりハンターの生活』の続きです。 こっちだけでも読めないこともないですが、出来たら前作を見てからご覧になってください。 ゆっくりハンターの生活2 朝よりも多少雲が出てきた昼下がりの午後。 阿求ちゃんとの楽しい昼食を終えた私は、ハンターとしての仕事を再開する。 「ハンターさん、午後はどうするのですか?私は狩りに行きたいです!」 阿求ちゃんが、メイスを高々と構えてそう意気込む。 朝は比較的穏やかな作業だったから、彼女には刺激が足りなかったのかもしれない。 私は、仕事用の手提げカバンを持って彼女に笑いかける。 「ええ、今日の午後は狩りに行くわ。一緒に依頼主のところまで行きましょうね」 「了解です。私のモルゲンで叩き潰して見せます」 「……ずっと気になっていたんだけど、モルゲンってそのメイスのことかな?」 柄の先端に歪な突起を生やした鉄の塊がついているだけという、か細い少女には似合わない無骨なメイス。 鈍い光を輝かせているそれはいかにも禍々しく、今まで殺されたゆっくりたちの怨念がこめられているようだった。 彼女はそのメイスを誇らしげに構えて、うっとりした目でそれを見ている。 「ええ!数々のゆっくりのあんこを吸ってきた、私の自慢のメイスです。 モルゲンステルン(トゲ付きメイス)タイプのものだったので、モルゲンと名づけました」 「阿求ちゃん、張り切るのはいいけど室内でそれ振り回さないでね」 「すみません。でも私の内から出るパッションが止まりません」 無闇に逸る阿求ちゃんをなんとかなだめて、私達は依頼主のところへ向かった。 そこまで行く途中の道で、私の隣を歩きながら持っているメイスをぶんぶんと振り回す少女はひどく危なっかしい。 怪我させないよにしっかりと見ておく必要があるだろう。 「えーっと、……ここかしらね」 私は手に持った依頼書を見て、目的地が目の前にある家で正しいか確認する。 前に何度か依頼が来たので間違いないと思うが、念のためだ。 「おじゃまします。依頼を受けたゆっくりハンターの者ですが、誰かいませんか?」 呼び鈴を鳴らし、入り口でそう言ってから待っていると、すぐに中から男が出てきた。 小太りのおじさんで、顔が油でてかてかと光っていた。 男はしかめっ面のままこちらを見て、そして黙って部屋の奥に目を遣る。 中に入れという合図だ。 私は一度彼にお辞儀をしてから中に入り、阿求ちゃんも私に続いた。 私達は、男によって客間の一角に案内され、用意された席に座った。 案内された部屋は、なにやら賞状やらトロフィーやらが目のつきやすいところに並べてある。 ゆっくり関連のグッズもそこかしこに置かれており、私の口からは素直にかわいいなぁと言う言葉が漏れた。 一方、阿求ちゃんは手をプルプル震わせてそのゆっくりたちを見ていた。 男は終始無言で、こちらと目をあわせようとすらしない。 阿求ちゃんはそんな男の様子を訝しんでいたが、私にとってはもう慣れたものだ。 懐から依頼書を取り出し、仕事の話を始める。 「では、依頼内容の確認をしますね。 私が依頼された仕事は、昼の間にこの畑を荒らしに来るゆっくりたちから作物を防衛すること。 その際に注意することは、絶対にゆっくりたちを殺さない。 ゆっくりに怪我を与えてしまうとしても、必ず最小限にとどめること。 成功報酬は依頼書に明記されている通り、ということで。 以上でよろしいですか?」 阿求ちゃんが私の言葉に驚いたような顔をこちらを見た。 狩りに来た、といっているのにこれだから仕方ないか。 事情を先に説明しとけばよかったな、といまさらながら悔やむ。 まあいまさら悔やんでも後の祭りだ。男が黙ってうなずくのを見て、私は阿求ちゃんをつれて席を立った。 「待て」 部屋の扉に手をかけたとき、男が始めて声を上げた。 やっとか、と私がほっとして男の方に向き直る。 「なんでしょうか?」 「いいか。絶対にゆっくりちゃんたちを虐めたり、殺したりするんじゃないぞ。 彼女達を透明の箱に入れて、無闇に苦しめるるのもいかんからな。 もし私の周りでそんなことをすれば、お前にも彼女らと同じ苦しみを味わわせてやるから覚悟しておけよ」 「ええ、彼女達は、かわいいですからね」 男は私の答えにふん、と鼻を鳴らし、そして特大ゆっくり人形を抱きかかえながらまた目をそらした。 「わかったならそれでいい。私はこの子と戯れているからさっさと出ていけ」 私はそれ以上男に話しかけることは無く、阿求ちゃんを連れて男の家から出た。 阿求ちゃんはずっと怒りを抑えていたらしく、表に出るなり真っ赤な顔をしてブンブンとメイスを振り回した。 「もう!どういうことですかハンターさん!ゆっくりたちを殺すななんて、私がモルゲンを持ってきた意味ないじゃないですか! それになんですかあのジジイの態度は!そんなにゆっくりが好きなら畑ごとゆっくりに上げればいいじゃないですか!」 「落ち着いて、阿求ちゃん。これには深くないけど事情があるの。それにゆっくりを狩ることに変わりは無いから」 私の言葉に、ようやく彼女の動きが止まる。 「え?今回は追い払うだけじゃないんですか?それに殺害はNGだとあのジジイが………」 「そんな対処の仕方をしても、ゆっくりに効果は無いのは阿求ちゃんも知ってるんじゃないかな? 翌日には忘れてまた来るだろうし。それに、殺害がNGなのはあの人の近場だけよ。 追い払った後追跡して、森の中で殺しても何も言われないわ。むしろ先方もそれを望んでるわ」 「……じゃあなんであのジジイはあんなことを言ったんですか?素直に退治してくれ、と言えばいいじゃないですか」 阿求ちゃんは納得行かないような顔で私にそういった。 正直私もそう思うが、人には事情があるんだから仕方ない。 「実はねぇ……あの人、ゆっくりんピースの会員なのよ。それも結構上の方の」 「はぁ!?あの基地外集団のですか?じゃあなんでゆっくりを殺せなんていうんですか? あいつらはゆっくりを保護する団体でしょう?」 「ええ、普通の会員さんだったらブリーダーさんに頼むところでしょうけどねぇ。 でもあの人、ゆっくりにお金かけすぎてそんな余裕ないのよ。ブリーダーさんって結構お金かかるから。 かといってそれなりに上のほうの人だから、自分で殺すのも加工所にうっぱらうのも周りの目が許さないし。 ましてやゆっくりに畑を明け渡したりなんかしたら、破産しちゃうわ」 「はぁ……だからお姉さんのところに話がまわってきたと」 「ええ。ハンターは割と安めで仕事を引き受けるものだから、こういう人たちの依頼は良く来るの。 こちらとしても、そういう人種の人たちはほかの人より多くお金出してくれるから万々歳よ」 彼女は私の言葉に心底呆れた様子で、深いため息を吐いていた。 子どもにとっては、こういう大人の複雑な理由は理解できないのだろう。 まあ、私も彼らのことを理解できることなんて一生無いだろうけど。 仕事だからと折り合いを付けているだけだ。 「だったらゆっくりんピース抜ければいいと思うのは私だけでしょうか……」 「私もそう思うけどねぇ。でも、今抜けたらこれまでゆっくりたちに使ってきたお金は無駄だった、と認めるようなものだから出来ないんでしょうけど。 まったく、もっと単純に自分の思うまま生きればいいのにねぇ」 阿求ちゃんはうんうん、と頷きメイスの先で家の壁を小突く。 大きな音は出ないものの、家の壁の塗装が少し削れた。 「ゆっくりを見つけたら何も考えず叩き潰すくらいでいいと思うんですよ私は。 それなのにゆっくりがかわいそうだの保護しようだのとぐちぐちと……やっぱりゆっくりんピースは害悪ですね!」 「こらこら、人の思想に口を出しちゃあ駄目よ?向こうは向こうで考えた末の結果なんだから。 そういうのは心の中だけで考えて、口には出さないものよ?あと壁突くのやめなさい」 阿求ちゃんはまだ納得いっていないようだったが、素直に私の言葉に従ってくれた。 妹がいたらこんな風なのかもしれない、と密かに思った。 「それじゃあ、畑に行こうね。いつゆっくりたちが来るともわからないし」 「そうですね。こんなやつのことは忘れてさっさとゆっくりで遊びましょう!」 彼女はそういうと、私の手を引っ張って畑の方に歩いていく。 彼女はもう待ちきれないと言った様子で、顔は興奮しているせいか少し赤い。 私は転ばないように気をつけながら、そのまま彼女についていった。 「ここが畑ですか……なんとも無防備ですね」 男の家の裏側に回ると、一面に畑が広がっている。 それなりに耕地面積は広く、作物もよく育っているのが見て取れたが、 外側の蔓ごと抜かれていたり、ほんの少しだけかじられた野菜が捨ててあったりとひどく荒らされていた。 ゆっくり対策に作られたのだろうか、木製の柵が畑の周囲に立てられていたが、ところどころ壊されておりもう柵としては機能していなさそうだ。 ゆっくりのことを少しでも調べた農家ならあんなもの役に立たないことぐらいはわかるだろうに。 もしかしたら、ゆっくりんピースには間違った知識が蔓延しているのかもしれない。 「無駄に広いから、ここを守るのは大変ですね……。ハンターさん、どうするんですか? 柵を張りなおしたりしとかないと、危ないのでは」 「そんなめんどくさいことしなくても大丈夫よぉ。一緒に座ってゆっくり待ちましょう?」 「……え?何もしなくていいんですか?」 「別にいいわよ。どうせ今からやったってたいした柵なんか作れないし。 あ、あの雲なんかむくむくしててかわいいわよ?ゆっくりみたいで」 私は地面の上に腰をおろし、柵にもたれながら空に浮かんでいる雲を指差してそういった。 阿求ちゃんはまだなにか言いたそうだったが、私の様子を見てあきらめたのか結局は隣に座って一緒に空を眺めていた。 そこにはやわらかそうな雲が数個浮かんでいて、あそこで寝たら気持ちよさそうだ。 いかにもゆっくりたちが好みそうな場所で、もしかしたらあそこにはゆっくりたちが住んでいるのかもしれない。 そんなことを彼女に言うと、彼女は笑ってそれを否定した。 彼女が言うことには、 崖の上でゆっくりをロープに括り付けたまま降ろしたところ、そのゆっくりはショック死してしまった、という実験結果があるらしい。 だからゆっくりたちは高いところは苦手だと思われ、よってあんな高いところにある雲でゆっくりすることは無理とのこと。 「へぇ~、ゆっくりたちが高いところ苦手だなんて知らなかったなぁ。 阿求ちゃん物知りだね」 「いや、物知りだなんてそんな。ゆっくりに関してはまだ未知な部分が多くて、私にも知らないことなんてたくさんあります」 彼女は俯いて、照れたかのように頬を掻いた。 子どもなのに謙遜までするなんて、将来は大物になるかもじれない。 「……ゆっくりと言えば、ハンターさんはゆっくりが好きなんですよね?」 彼女は再び顔をあげ、思い出したようにそういった。 「うん、そうよ。あのゆっくりの笑顔を見ていると、なんだか心がホンワカしてくるのよねぇ」 「じゃあなんでまたハンターなんかに?農家になれないのわかりましたが、だからってそれじゃなくてもいいじゃないですか。 ブリーダーとか、保護委員になるとか、他にもいろいろあるでしょう」 「それも考えたんだけどねぇ。でも私、殴ってしつけるのはちょっと苦手だし。 一時期頑張ってやってみたこともあったんだけど、私がゆっくりに餌をやったら何故か死んじゃうのよ」 「ああ、あの殺人野菜のことですか……うう、思い出したら気持ち悪くなってしまいました」 「おいしいのにねぇ。だから基本的に保護系は無理だったわ。保護した片っ端から死ぬんだもの。 でもどうしても私はゆっくりにかかわる仕事をしたかったから、ハンターの職に就くことを決めたの」 「……なるほど、納得しました。お姉さんも大変なんですね……あ!」 ちょうど話に区切りがついた時、向こうから小さくて丸い塊が飛び跳ねながらこっちに向かってくるのが見えた。 言わずもがな、ゆっくりだ。 見たところ全部まりさ種のようである。 「まりさたちのゆっくりごはんをとろうね!あそこのおやさいはとってもおいしいよ!」 「ゆゆ!?にんげんたちがいるよ!だいじょうぶなの?」 「だいじょうぶだよ!ここのいえのにんげんはまりさのかわいさにめろめろだから、なにもしてこないよ!」 以前来たときに相当甘やかされたのだろう、随分な言い草である。 こうなっては言葉で止めるのはもう無理だ。なにを言ってもここはまりさのものだからさっさと出てけと言われるだけ。 それを知っていたのだろう、阿求ちゃんがメイスを構えて攻撃体制をとる。 「かかって来なさい!みんなまとめて叩き潰してあげますよ!」 メイス片手に突撃しようとする阿求ちゃんの襟を、私は慌てて掴んだ。 「ぐぇ!な、なにするんですか!?」 「駄目だよ阿求ちゃん。そんなので攻撃したらゆっくりたち死んじゃうよ」 「じゃあどうするんですか!ああもうどんどん迫ってきてます!」 私はふてぶてしくにやりと笑うと、手提げかばんの中から銀色に光る"それ"を取り出した。 太陽の光を反射してまぶしく輝くそれは―― 「じゃじゃーん!銀のナイフー!」 それは刃渡り十五センチほどの狩猟用ナイフで、私が狩りのときに良く愛用するものだった。 狩りのとき以外にも、料理のときに使ったり、収穫のときに使ったりと、私にとっては生活の必需品となっている。 「ってそんなの見ればわかりますよ!ナイフなんて使ったらやっぱりゆっくりは死んじゃないですか!」 「モノは使いようよぉ?ちょっと見てなさい」 私は突撃してくるゆっくりに向かって、思い切りナイフを投げた。 そのナイフはほぼ直線に近い軌道を描き、ゆっくりにの顔に直撃――せずに、ゆっくりのかぶる帽子を射抜いた。 「ゆゆ!?まりさのぼうしが!」 ナイフは帽子に刺さっても勢いをとどめることは無く、そのまま帽子ごと地面に突き刺さる。 慌てて帽子を取られたゆっくりが拾おうとするも、ゆっくりではナイフを抜くなんて器用なことは出来ない。 泣きながら帽子の周りを飛び跳ねるだけだ。 「す、すごい…。こんな方法があったんですね!」 「まあ、リボンとかだと結構大変なんだけどねぇ。今回はまりさ種ばっかりだから楽に済みそうだわー。 エイ、タァ、ドウリャー、トゥー、ワーワー」 私は投げる毎に気合の言葉を発しながら、突撃してくるゆっくりたちの帽子をひとつ残らず地面に縫い付けていく。 前方の惨状を見て逃げようとするゆっくりにも、きっちりナイフを投げておく。逃げられたら厄介だ。 十五匹ほどの帽子を縫い付け、防衛戦は終了した。 「うーん、あんまりいなかったわねぇ」 「結構いるように見えますが…これで少ない方なんですか?」 「これだけ畑が広いと、コミュニティ全体で来ることもあるからねぇ。 違う畑では百匹近くのゆっくりが襲ってきたこともあったっけ。今回みたいに制限は無かったけど、さすがに危なかったわぁ」 あの時は仕事中に周りの農家たちも応援に来て、さながら闘技場のようになっていたっけなぁ。 あんこまみれになった畑の周りを、みんなで仲良く掃除したのはいい思い出だ。 今回は規模が規模だし、ここの住人自体もあまり評判がよろしくないので観客は阿求ちゃんしかいないけれど、 見られることを意識するといつも以上に頑張ろうという意欲がわくものだ。 「で、どうするんですか?あれ」 「そうねぇ。まりさたちにはちょっと聞きたい事があるから、阿求ちゃんはそこでちょっと待っててくれないかしら」 阿求ちゃんが目の前の自分の帽子の前で泣き叫んでいるゆっくりたちに指を向ける。 私は彼女をそこに残し、リーダー格と思われる、一番大きいサイズのゆっくりまりさに近寄った。 「ちょっといいかな?」 呼びかけられたゆっくりまりさが、涙やらよだれやらでぐちょぐちょとなった顔をこちらに向けた。 「お゛ね゛え゛さ゛ぁ゛ぁぁぁん!!ま゛り゛さ゛のぼうし゛と゛って゛ぇ゛ぇぇぇ!!」 「いいよ。はい、これでいいかな?」 私はそのまりさが言うように、地面からナイフを引き抜いて帽子を取ってあげた。 そして私の胸の前でそれを抱えるようにして持つ。 「おねえさんありがとう!それはまりさのぼうしだから、さっさとかえしてね!」 先ほどまでの泣き顔はどこへやら、まりさはいつものふてぶてしい顔をして私から帽子をとろうと飛び跳ねている。 たぶんさっきのは嘘泣きだったのだろう。 泣けばここの住人は馬鹿だから助けてくれる、なんて計略があったに違いない。 確かにそれは有効である。昨日までならば。 あのゆっくりんピースのおじさんの金と共に、このゆっくりたちの命運も尽きてしまった。 「じゃあ、私の質問にちょっと答えてくるかな?」 私はなるだけやさしい口調でそういった。 本当はもっと厳しく言った方がいいのだろうけど、やはりいきなりそんなことをするのも気がひける。 ゆっくりまりさは私が下手に出ている様子にこいつも自分に優しい人間だと思ったのだろう、 体を一回り大きくして見下すようにこちらを見ている。 「そんなことよりまりさのぼうしさっさとかえしてね!のろまはきらいだよ!」 案の定付け上がってしまった。 仕方がない、気は進まないけどこちらも少しだけ強硬姿勢を見せなければいけないか。 私は帽子をしっかりと抱え、ゆっくりまりさに取られないように注意しつつ、ナイフでほんの少しだけ帽子に切れ目を入れた。 自分の帽子がさらに傷を付けられていく様子を見て、ゆっくりまりさは慌てふためく。 「おねえさんへんなことはよしてね!まりさのだいじなぼうしにきずつけちゃだめだよ!」 「ごめんね?私も仕事だから。本当はこんなことしなくないのだけれど」 「だったらさっさとかえしてね!」 「じゃあ私の質問に答えてくれる?」 言外に答えなかったら帽子を引き裂くぞ、と言う脅しのニュアンスを含みつつ、私はゆっくりまりさに迫る。 ゆっくりまりさは下に見ていた人間に思わぬしっぺ返しをくらって心底悔しそうだったが、 自分の大事な帽子には変えられないのか、観念したかのように動きを止める。 「わかったよ!こたえるからさっさとしつもんしてね!」 「ふふっ。じゃあ聞かせてもらおうかしら。 あなた、ほかに仲間はいる?ここの畑を他のゆっくりに知らせたかしら?」 私が問うたのは相手の戦力の規模。 このゆっくりたちを処分するならばここから離れねばならない。その間、この畑は無防備になってしまう。 もしまだいるならばこのゆっくりたちは、このままここに縫い止めておかねばならない。 まったく、捕獲用の箱くらい使わしてくれてもよかろうに。 だが、私のそんな心配を知ってかしらずか、ゆっくりまりさの答えは私にとって理想的なものだった。 「なかまはいないよ!ここにいるみんなでぜんぶだよ!それにほかのゆっくりにもいってないよ! ここはまいさたちだけのゆっくりぷれいすだからね!」 「ありがとう。でも嘘はついちゃだめよ?そうしたら私にとってもあなたにとっても悲しいことになるわ」 「うそなんかついてないよ!まりさはしょうじきものだからしんらいしてくれていいよ!」 一応念を入れて探りを入れてみるも、ゆっくりまりさに嘘をついている様子は見受けられない。 まりさ種特有の強欲さから考えても、その話は信憑性に足るものだと思われた。 私の目標は、このゆっくりまりさだけとなった。 「おねえさん、おしえたんだからさっさとぼうしかえしてね!」 「ああ、ごめんなさい。今返すわ。でもその前に、私からもあなた達に教えたいことがあるの。 あなた達がゆっくりできるかどうかに関わる、とても大事なことなんだけど。聞いてくれる?」 「まりさはゆっくりしたいんだぜ!おねえさん、ゆっくりしないではやくおしえてね!」 ゆっくりできない、と言う言葉に本能的に恐怖を覚えたのだろうか、ゆっくりまりさが帽子のことも忘れて私の情報をせがんでいる。 私はまりさを安心させるように微笑むと、畑の方にいる阿求ちゃんを指差した。 「ねぇ、あの女の子って誰だかわかる?」 「ゆ?あんなひょろいやつなんてしらないよ!」 ゆっくりたちから見れば、彼女はそんな風に映るらしい。 私としては、線が細く、そのすらっとした体のラインはうらやましいものであるのだが。 私はこんな職業柄、どうしても少し筋肉質な体になってしまうからだ。 今度、どうやってあんな主そうなメイスを振り回すパワーを持ちながらそんな体型を維持できるのか、じっくりと聞いてみたいものである。 ……いけない、思考が脱線した。今は仕事に集中しないと。 「あの子はね、実はあなた達を捕まえに来た加工所の人なの」 「ゆゆ!?おねえさんそれほんとう!?」 「ええ、もちろんよ。彼女の持っているものが見えるでしょう?あれは、あなた達を捕まえるための道具なの」 実際は、あれは捕まえるものではなく殺すためのもの。それでも、ゆっくりたちにとって脅威であるものには変わりないのだが。 ゆっくりまりさはとりあえずあれの危険性についてはわかったのか、私に隠れながら、おびえた表情で向こうを見る。 「でも、心配しなくても大丈夫よ?あの子はあなた達が近づかない限り、何もしないから。 だから、今日はおとなしく森に帰ったほうがいいんじゃないかしら?」 「で、でもそうしたらまりさたちごはんたべられないよ!」 「それは仕方がないわ。たべものより命の方が大事でしょう? どうしても行きたいっていうんなら止めはしないけど、私はあの子からあなた達を守れるほど強くないわ」 阿求ちゃんのいる畑を見やって、ゆっくりまりさは考え込んでしまった。 お野菜は食べたいが、そこに立ちはだかるのはこわいもの構えて仁王立ちする人間。 この人数でかかればいくらかはあれを抜けられるかもしれない。だが、確実に私達の大半はゆっくりできなくなる。でも私じゃないかもしれない。 運がよくて私だけはおいしい野菜を食べながらゆっくりできるかもしれない。 どうしよう、怖いけど、お野菜は食べたい。あれはとてもおいしい。 おいしいものを食べたいと言う欲求と、死への恐怖と、もしかしたらという希望。 ゆっくりまりさの中で葛藤が渦巻いた。 ゆっくりまりさは考えに考え抜いた末、私に向かってこういった。 「おねえさん!まりさたちきょうはかえるよ!あしたあそこでゆっくりすればいいからね!」 勝ったのは死への恐怖。やはりあのメイスと、何より彼女が怖かったのだろう。 結構離れた私の場所でも、阿求ちゃんのゆっくりへの殺気がありありと感じられる。 ゆっくりまりさもそれを感じ取ったのだろう。 そうでもなければ、本能に従順なゆっくりが簡単に食への欲求を止められるものか。 私は彼女の殺気の波動から守るようにゆっくりまりさの前に屈みこんで、持っていた帽子をかぶせてやる。 「そう。命を大事にしてくれて嬉しいわ。早くみんなを連れてここから逃げてね」 「うん!おねえさんありがとう!みんなにおしえてくるね!」 ゆっくりまりさは勇んで他のゆっくり達に近づいていき――そして泣きそうな顔でまた私のところに戻ってきた。 「おねえさん!ほかのまりさたちのぼうしもとってあげてねぇぇぇぇ!!」 そういえば、まだ刺さったまんまなんだっけ。 私は地面に縫いとめられている帽子を回収し、それぞれのゆっくりまりさに被せてやる。 ゆっくりまりさたちは泣きながら私に礼をし、後ろでさっきを撒き散らす阿求ちゃんをみて恐れおののいて、そして帰っていった。 私はゆっくりたちがこちらを気にしなくなるほど離れてから、後ろにいる阿求ちゃんを呼び寄せる。 「すごいですね。どうやってあのゆっくりたちを説得したんですか? 合い辛そう簡単に畑を諦めるようなやつらじゃないのに」 「ふふっ。阿求ちゃんのおかげよぉ。 じゃあ他のゆっくりたちもいないようだから、後を付けていきましょうか。 待望の狩りの時間よ」 彼女は自分のおかげとはどういうことかと首をひねっていたようだが、 ゆっくりが狩れる聞いて俄然やる気を出したようだ。 「ほんとですか!ついにあいつらをつぶすときが来たのですね!」 「まあ、人目のつかないところまで尾行してからだけどねぇ。 ここで見失ってしまったらことだから、静かに、そして慎重に行きましょう?」 私は興奮する阿求ちゃんの唇に人差し指を押し当て、にこりと笑った。 彼女は了解です、とおでこに手をやって敬礼のポーズを取る。 まあ、ゆっくりたちは鈍感だからばれることは万が一程度しかないだろうが、念には念をだ。 そうして私達はゆっくりまりさたちの尾行を開始し、十数分後、彼女達の巣と思われる森の一角についた。 そこにはそのゆっくりまりさのほかにも、彼女の子ども達と思われる子ゆっくりもいた。 「おおー、いっぱいいますねー。もう我慢しなくてもいいんですよね?」 阿求ちゃんがメイスを構えて、満面の笑みで私の許可を請う。 私もナイフを構え、頷いた。 「いいわよ。ただ、向こうにいるリーダー格のゆっくりまりさは私に預からせてね?」 「わかりました!では行ってきます!」 彼女は弾丸のごとく疾走し、一直線にゆっくりに突撃する。 いきなりの奇襲に驚いたゆっくりは、すばやく反応することが出来ない。 「はぁーーーーっ!滅殺!」 「ゆべっ!?」 「びいっ!」 「ゆぐぅぅぅ!?」 「い゛ぃ゛ぃぃぃ!!」 彼女がメイスを振り回し、その暴風雨のような一撃に巻き込まれたゆっくりたちが内蔵物を撒き散らす。 ほんと、どこにあんな力があるのだろう。そう疑問に思いつつ、私は逃げようとするゆっくりを私がナイフを投げて縫いとめる。 今度は、帽子じゃなく本体を直接狙う。 「いだいよぉぉぉぉ!!」 「ゆぅぅぅ!!にげたいのにうごけないぃぃぃぃ!」 ナイフが刺さったごときでは致命傷には至らないが、それでもゆっくりたちの動きを止めることはできる。 動きさえ止めてしまえば、もう逃げられる心配は無い。後は阿求ちゃんに任せておけば大丈夫だろう。 私はそれを放置して、阿求ちゃんのメイスに当たらないように気を付けつつ、 目の前の惨状に呆然としているリーダー格のまりさに近寄った。 向こうも私を認識したようで、怒ったような顔で私に抗議の声を上げる。 「おねえさん、これどういうこと!!まりさたちをだましたの!!」 「ごめんね?これも仕事なの。あなた達には後で話があるから、とりあえずそこで待っててね?」 私はそのゆっくりまりさと、取り巻きにいた数匹のまりさをナイフで刺して動けないようにしておく。 ゆっくりまりさたちは体中を走る激痛に悲鳴を上げているが、私はそれを無視して阿求ちゃんのほうに向かう。 彼女のほうはあらかた片付いたようで、そこらじゅうにあんこが飛び散っている。 彼女も服をあんこだらけにしながら、恍惚の表情を浮かべてそこに佇んでいた。 「あらあら、もう終わっちゃったの?手伝おうと思ったのに」 「ああ、ハンターさん。本当はもう少しゆっくりいたぶろうかとも思ったんですが、一日中我慢していたせいで制御が利かなくて…」 「早いに越したことはないから私としては別にいいけどねぇ。って、あら?まだあそこに残っているわよ?」 そこには、あんこに埋もれていた一匹の子まりさがいた。 阿求ちゃんがまき散らかしたあんこが体中に飛んできて、運よくそれが擬態として働いたのだろう。 「ゆゆ!もうだれものこってなんかいないよ!ぜんめつしちゃったんだからゆっくりかえってね!」 自分を見つけられて焦ったのか、ゆっくりまりさが声を張り上げてそういった。 そんなことしても逆効果なのだが、ゆっくりだから仕方がない。 阿求ちゃんが頬を吊り上げながら、声のしたほうに近づいていく。 「そうですか、やっと全滅しましたか」 「そうだよ!もうだれもいないからゆっくりさっさとかえってね!」 「でもちょっと疲れましたから、ここで一休みしましょうか」 彼女は近くにあった木の根元に座り込み、隠れている子まりさの上に先端がのしかかるように、自分の持っているメイスを置いた。 「ゆぐっ!?お、おもいよ!とげがささっていたいよ!おねえさんはやくこれをどけてね!」 「おかしいですね~、全滅したはずなのにどこかからゆっくりの声が聞こえます。 幽霊でしょうかねぇ?おお、こわいこわい」 彼女はわざと子まりさと視線が合わないようにしつつ、そううそぶいた。 メイスを乗っけられた子まりさは必死に抗議の声を上げる。 「ゆゆ!ぜんめつなんかしてないよ!まりさがここにいるよ!だからさっさとこれをどけてね!」 「ええ?全滅なのではなかったのですか?でもどこにいるのでしょう。皆目見当もつきません」 彼女は周囲を探すように歩き回り、時折メイスの力を軽く踏んで子まりさの負荷を増加させる。 「いだいぃぃぃ!ふまないでね!これいじょうされたらまりさつぶれちゃうよ!」 「あらごめんなさい。でもあなたがどこにいるのか探さないと・・・ここかしら?」 そういってさっきより強くメイスの柄を踏む。 「ひぎっ!それいじょうはやめでねぇぇぇ!!あんこがでちゃうよぉぉぉぉ!!」 「あは、あはははっ!やっぱり見つからないですねぇ。ここですか?それともここ?ここかもしれませんねぇ」 彼女は興奮で顔を赤く染めながら、何度も、何度もメイスを踏む。 踏まれるたびに子まりさはビクン、ビクンと痙攣し、中のあんこをひねり出して行く。 「ああ、やっぱりたまらない!もっと、もっと聞かせてください!」 「ゆべっ!や、やべっ!!こべっ!もぶっ!だべっ!」 彼女は狂ったように笑いながら、汗が滴り落ちて妖しく光る足を上下に動かす。 子まりさはポンプのように、踏まれるたびに口から悲鳴を上げる。 そしてその声はだんだんと弱くなり、そして中のあんこがすべて飛び出ると同時にその声も聞こえなくなった。 「もう終わりですか?子どもは耐久力がないのが難点ですねー。 悲鳴は成体よりも良いのですけど」 「あらあら、あれだけ愉しんでたのに辛口ねぇ。 でもとりあえずこちらは終わったようだから、ちょっと来てくれるかしら?」 私は彼女を連れて、先ほど動けなくしておいたまりさ達の元へ向かう。 やはりまだ動けないようで、目の前の惨状に震えながらもそこから逃げられないでいた。 「お、おねえさん!まりさをたすけてね!まりさしにたくないよ! ほかのまりさたちはしなせてもいいから、まりさだけはにがしてね!」 リーダー格のまりさが私を見るなり他のやつらを見捨てて命乞いをする。 他のゆっくりまりさが慌てて自分も、自分もと命乞いを始める。 「自分だけ助かろうとは見下げた根性ですね。ハンターさん、殺しちゃっていいですか?」 「だめよぉ。この子達はみんな逃がしてあげるんだから」 私のその言葉に阿求ちゃん絶句し、ゆっくりたちは歓喜の声を上げる。 「おねえさんありがとう!まりさをゆっくりにがしてね!」 「ああ、でも私も仕事だから、ただで逃がすわけにも行かないのよ。 あなた達もう顔が割れてるから、万が一あのおじさんにあなた達のことを見つけられたら困ることになるわ」 「……ゆっくりなんて見分けつかない気がしますけど」 「あら、ゆっくりんピース舐めちゃだめよ?彼らはゆっくりたちの顔のわずかな違いでその個体を識別できるんだから」 ゆっくりたちは確かに似ているが、個々で微妙に違ってたりする。 目つき、口元、眉毛の凛々しさなど、ゆっくりんピースやブリーダーはそれを見て区別することができる。 「じゃあどうするんですか?やっぱり殺すしかないじゃないですか」 「そんなこともないのよ?ちょっと見ててね…えいっ」 私はナイフを使って、ゆっくりまりさの右目の部分だけを綺麗に刈り取る。 「ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!まりさのめがぁぁぁぁぁぁ!!」 「ごめんね?痛いだろうけど暴れちゃ駄目よ?すぐ済むから我慢してね」 私は隣のまりさも同様に同じ部分を刈り取り、それを最初に切ったゆっくりまりさの目にくっつける。 同様に先に刈り取った右目も、今切ったゆっくりまりさの目に引っ付けて、傷口をふさぐ。 これで、二匹のゆっくりまりさの右目は交換された。 「どう?これならばれなくなるでしょう?」 「はぁ、パーツの交換ですか…良く考えますねこんなの」 「ありがとう、ほめ言葉として受け取っておくわ。 まあさすがにこれだけじゃばれちゃうから、もっと色々やるんだけど」 私は再びナイフをゆっくりたちに向ける。 ゆっくりまりさたちはこれから来る痛みから逃げようとするが、体に刺さるナイフがそれを許さない。 私はそんなゆっくりたちを安心させるために、優しく微笑んであげた。 「ちょっと痛いだけだから、我慢してね?これが終わったらみんな逃がしてあげるから」 ゆっくりまりさたちは悲鳴を上げているが、私は無視してナイフで顔のパーツを切り取っていく。 その悲鳴に罪悪感が心の中でもたげたが、ゆっくりたちを生かすためなのだから、と私はそれを押さえ込んで作業を続けた。 ゆっくりたちの麻酔なしの整形手術は、一時間後にようやく終わった。 「はーい、終わったよー。みんな、良く頑張ったね」 私は痛みに耐えかねて気絶しているゆっくりたちを起こし、ナイフを抜いて野に放ってやる。 ゆっくりまりさたちはまだ痛みが抜け切っていないようだったが、それでも体に鞭打って私の元から離れていった。 そのときに私になにか言おうとしていたが、交換したばかりだったせいか口が動かなかったようで、結局そのまま何も言わず去っていった。 お礼なんて、別にいいのに。 ゆっくりまりさたちを見送りながら、阿求ちゃんが私に質問をした。 「ハンターさん、なんであんなめんどくさい事をしたんですか?やっぱり殺したくないからですか?」 「もちろんそれもあるわ。でも、あの子達明日になったら私達のことなんてすっかり忘れて、いつか群れをなしてまたあのおじさんの畑襲うと思わない?」 「まあ、ゆっくりの習性上そうなってもおかしくは……って、まさか」 「大事な収入源は、できるだけ手放したくないものよねぇ」 私達はその後依頼人の男のところにいき、ゆっくりたちを追い払ったとだけ報告してお金を受け取った。 彼は自分の畑を襲うゆっくりたちが死んだのだと喜びを隠せずにいたが、 阿求ちゃんはそんな彼を哀れむように見ていた。 男は阿求ちゃんの様子に気づくこともなく、上機嫌のまま私達を見送るために玄関まで来ていた。 私は大事な顧客である彼にしっかりとお辞儀をして、そしてこう言った。 「また、何かあったらよろしくお願いしますね」 終わり 外伝へ 読んでくださった人に感謝の念をこめて。 本当に、本当にありがとうございました。 このSSに感想を付ける