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「魔法少女リリカルなのは」より高町なのは召喚 ルイズ×なのは(幼)-01
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前ページルイズ×なのは(幼) 煙が晴れ、ようやく姿を現した人物の顔をルイズは覗き込むようにして訊ねた。 「あんた誰?」 それは茶色の髪をツインテールに結んだ小柄な女の子だった。少女は答える。 「えっと、高町なのは。なのはだよ」 十歳くらいだろうか。少女らしい可愛らしい声だ。だが、名前だけ言われても素性がわかるわけではない。 質問の仕方が悪かったかもしれない。 「その格好、平民よね」 黄色いパーカーにオレンジ色のスカートといった格好は、貴族の間では見られない。 平民の普段の格好などよく知らないが、あまり高級感が感じられないから平民の衣服なんだろうとルイズは結論付ける。 「あのぅ、どちらさまでしょうかぁ」 「ルイズ・フランソワ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 平民は一度で覚え切れなかったようで、困ったように頬をかいた。 「えっと、それで、そのルイズさんが私になんのご用でしょうか」 周りからは平民を呼び出しただの、ゼロのルイズだのとあざ笑う声に混じって、一部ロリコンの息遣いが聞こえてくる。 ルイズは顔を真っ赤に染め、口早に状況を説明すると、まだよく飲み込めていない様子の平民にコントラクトサーヴァントを行った。 平民の左手にルーンが刻まれ、契約は無事に完了した。 「べ、別にあんたみたいな平民の使い魔で満足したわけじゃないんだからね、し、しし、進級のためよ、進級の!」 「コントラクトサーヴァントは無事に完了したようだね。珍しいルーンだからちょっとスケッチさせてもらえるかな」 コルベールが授業を終わりにすると、ほかの生徒たちが空に浮かんで飛び去っていく。 ルイズとなのはは、その場に取り残された。魔法で飛んでいく生徒たちを見上げて、なのはは尋ねる。 「ここは魔導士の訓練所かなにかなんですかぁ?」 「トリステイン魔法学院よ」 「う~ん、知らないなぁ。ねえレイジングハート、クロノ君たちと連絡とれる?」 なのはが胸元の赤い宝玉に話しかける。 マジックアイテムかなにかなのだろうか、宝石に話しかけること自体は奇異にも思わないが、ルイズは平民がマジックアイテムを持っていることに疑問を抱いた。 「あんたのそれ、なにかのマジックアイテム?」 「はい、レイジングハートっていって、インテリジェントデバイスなんですけど・・・・・・」 そう言って、なんども宝玉に話しかけてみようとするなのはだが、一向に返事が返ってくる様子はない。 まあ、平民が持っているくらいだから安物のアイテムなのだろう。 おおかた貴族が作るのに失敗したマジックアイテムの一部をたわむれに平民にくれてやったのだろう。 「壊れちゃったんじゃないの?」 レイジングハートのなのはの間に結ばれた絆の強さを知らないルイズはいとも簡単に残酷な質問を投げかける。 なのはは大きく目を見開く。 「そんなはずない、修理すればきっと直ってくれるよ!」 十歳くらいの女の子の思わぬ剣幕に圧されて、ルイズはわずかにひるみ、気まずさを感じながら答える。 「そ、そう。まあ、大事にしまっときなさい。あんまり大事そうにしてると、盗られるわよ」 貴族は平民のものなど欲しがりはしないが、なかには質の悪い連中が悪戯で隠したりするかもしれない。 最近では不思議と少なくなったが、ゼロのルイズと揶揄され始めた頃には、授業中にちょっかいを出されたり、いろいろ嫌なことがあったので、ルイズはなのはに忠告を与える。 その後、ルイズはなのはを自室に連れて行き、住んでいる土地の名前などを尋ねてみたが、あまり情報は得られなかった。 わかったのは、なのはの年齢がジクウ管理局というところと連絡を取りたがっていることと、彼女が大切そうにしているマジックアイテムがとても大切なものということだけだった。 そのジクウ管理局とやらに親が勤めているのかとルイズが訊ねると、そうではないという。 十歳の女の子を突然に親元から引き離してしまったということに罰の悪さを感じているルイズだったが、どうもなのはは普通の十歳とは違うようだ。 翌朝、早起きのなのはに起こされて食堂へ行くと、見慣れた豪勢な料理に混じって、小さな一枚の皿が自分の近くに運ばれてきた。 ルイズが昨日のうちにコック長に使い魔の料理を頼んで置いたのだが、あまり見たことのない料理だ。 薄く焼いた卵で包んで、その上にトリステインの国旗が刺さっている。 「ねえ、これの中身はなにが入ってるの?」 「これはマルトーさんが考案したオムライスっていう料理なんです。 料理長のマルトーさんが、すっかりなのはちゃんを気に入っちゃったみたいで、腕によりをかけて作ったんですよ」 なのははいつの間に仲良くなったのか、メイドと仲良さそうに話している。 シエスタが厨房に呼ばれて去った後、ルイズはなのはに小声で尋ねた。 「あんた、いつの間にあのメイドと仲良くなったの?」 「シエスタさんとは今朝、洗い場でお友達になったんです」 話によると、なのはは今朝、朝の散歩に出かけたものの学園内で道に迷ってしまい、シエスタに助けてもらったのだという。 なのはの説明にルイズは一応納得したが、平民の子供とはいえ貴族の使い魔になったのだから、きちんと自覚も持ってもらわないと困る。 「いいこと、あんたは仮にも私の使い魔になってるんだから、一人であんまり外をうろついちゃだめよ」 そう諭すルイズだが、同じ卓についていて話を聞いていた生徒の一人が彼女をあざ笑った。 「はは、さすがはゼロのルイズだ。平民のしつけが板についてるじゃないか」 その言葉を発端に、嘲笑の輪が広がっていく。 「まったくお似合いの使い魔だぜ」 「ペタンコ同士、気が合いそうだな!」 意地の悪い野次に、なかには眉を顰めるものもいるが、誰もそれを咎めようとするものはいない。 否、一人だけいた。 「なにが、おかしいんですか」 小さな呟きが卑屈な笑いを鎮める。最初、その声がどこから聞こえてきたのか誰にもわからなかった。 なのはがゆっくりと立ち上がり、もう一度告げる。 「今の言葉の、どこがそんなに面白いんですか?」 一同の視線がなのはへと向けられる。まさか平民の子供に意見されるなどとは夢にも思っていなかったのだ。 「はっ、驚いたね。まさか平民にこんな反抗的な口を聞かれるとは。ゼロのルイズ、ガキはちゃんと鞭でしつけとけよ!」 最初の発端を作った一人、金髪のキザ男ギーシュが強がりに聞こえる声音でなおも侮蔑を放った。 食堂に険悪な雰囲気が満ちる。なのはは家で喫茶翠屋の手伝いをしているから客扱いには慣れている。 こういうとき、どう対処すればいいかは自然と身につけている。だが、良くも悪くもなのはは父の背中をみて育った。 なのはは相手を威圧するように真正面からギーシュの顔を見据える。 「な、なんだ、その反抗的な目は。平民が貴族に文句をいうつもりか!」 こんなとき、父の士郎ならば言うだろう。いや、父に限らずとも、フェイトや兄の恭也でもきっとこう言うはずだ。 「表に出て話そうか」 「な、なんだとぉ!」 にわかに周りの貴族達がいろめきたつ。 なぜなら、手袋を投げつけるのが貴族間の決闘の合図であるならば、「表に出ろ」と相手に告げるのは事実上、不良貴族達のタイマンの合図であったからだ。 「おいおい、ギーシュ。平民に舐められてるぞ」 「ちょ、ちょっと、あんたみたいにちっこいのがギーシュとケンカして勝負になるわけないじゃない。今すぐに謝っちゃいなさい」 ルイズはなのはの身を案じて、袖を引く。だが、なのはは引かない。 ひとの寂しさや悲しみを放っておけない強く優しい心を持つがゆえに、伝え合うことを諦めたくない。 決闘はヴェストリ広場で行われることになった。 なのはは思い出す。 初めて会った頃、アリサやすずかとは友達じゃなかった。まだ何も話をしたことがなかったから、気持ちを知ることができなかった。 「使い魔にとってご主人様がどんなに大切か知ってるよ。いろんな人たちを見てきたから。 私はルイズさんが言葉で傷つけられるのをみたくないから、絶対に見たくないから、誰にも馬鹿にさせない。 ゼロのルイズなんて、誰にも呼ばせたりしない。そのためにぶつかり合わなきゃいけないなら、私は引かない!」 「ふん、だったら平民が貴族の前でなにができるか思い知るがいいっ」 ギーシュがバラの造花を振るう。すると、一体のゴーレムが土の中から現れた。 「これが僕の魔法、ワルキューレだ。言葉を伝えたくば、まずはこのワルキューレを倒してからにしてもらおうっ」 なのははギーシュが土から錬金してみせたワルキューレを見て、実力のほどを見定める。 本来のなのはならば決して負けることはない相手だが、今はレイジングハートが沈黙していて、補助が受けられない状態だ。使える魔法は限られてくる。 「行けっ、ワルキューレ! 小生意気な平民を懲らしめるんだ」 青銅のゴーレムが予想以上の速さで突進してくる。 なのはは左手を前に突き出し、桃色の魔法陣を展開させると堅固なバリアが出現する。 分厚い金属がぶつかり合ったような轟音を立て、ワルキューレの拳が弾かれる。 「ふ、防いだ!? なんなんだ、あの光る盾は!」 ギーシュの驚きの声が上がる。もう一度、ゴーレムを突進させ、シールドを打ち破ろうと試みる。 なのはの世界では魔法はプログラムとして準備され、自分自身やデバイスにセットして魔法の力を行使する。 それらの魔法を知るきっかけを与えてくれたのはユーノだが、戦闘のための魔法やそれを効果的に運用するための闘い方を教えてくれたのはレイジングハートである。 魔法の存在など知らずに過ごしてきたなのはが強敵と互角以上に渡り合えたのはレイジングハートの信頼と援助があってこそのものだった。 なのはは、いざというときのために自分自身に組み込んでおいたシールドをとっさに展開したが、そのシールドはワルキューレのパワーに徐々に押され始めていた。 「ま、まさか平民に魔法が使えるとは思わなかったが、しょせんは防ぐだけのもの。さあ、いつまで持つかな」 ギーシュが造花を振るい、さらにワルキューレの出力が上昇する。 「くっ、このままじゃ」 なのはシールドの限界を悟り、右手に小さな光弾を生み出す。 「ぷっ、なんだあれ、ファイアーボールか? ちっちゃすぎるだろ」 なのはが浮かべた光弾をみて、ギャラリーの一角から忍び笑いが漏れる。 バリアを展開しつつ、光弾を操作するのは難易度の高い技術なのだが、学生レベルではそのやり方を教わること自体がありえない。 それがどれほどの技術であるか、ほとんど誰にも想像がつかない。 だが、さすがにハルキゲニア有数の魔法学院、その技量の高みに気が付き、内心で戦慄するものもわずかながらいた。 決闘騒ぎを聞きつけ、遠見の鏡で見物しているオスマンとコルベール、そして間近で見ているキュルケとタバサである。 キュルケは赤い唇を噛み締め、少女の闘いを見守っていた。 (二種類の魔法を同時展開なんて、私にあんな芸当ができるかしら) キュルケとなのはでは魔法の質が違う。 そもそもの概念も違うが、自分の烈火のごとく激しい魔法や、タバサの冷徹で鋭利な魔法とは違って、なのはの放つ桃色の魔力が秘めているのは紛れもない優しさだ。 ひとを思い遣る、そのまっすぐな強さにこそ戦慄を覚える。 (負けちゃ駄目よ、なのは。ルイズのためにも、絶対に勝ちなさい) 手に汗を握り、我知らずキュルケはなのはを応援していた。 だが、左手で展開したバリアはとうとうヒビが入り始め、今にも破れそうになっている。 なのはは魔法弾を操作し、バリアを迂回させてギーシュの持っている杖に狙いを定める。 だが、そのため大きく曲線を描く進路をとった光弾は、反射的に身を守ろうとギーシュがワルキューレを自分と光弾の間に飛び込ませる時間を与えてしまい、防がれてしまう。 それでも光弾の直撃を受けたゴーレムは粉々に砕け散り、破片が草むらに散らばる。 なのはの光弾はただ小さいのではない。威力を一点に高めるために収束し、高密度の魔力を込めた弾体である。 ファイアーボールがテニスボールだとしたら、なのはの弾は研ぎ澄まされたライフル弾だ。 その威力を目の当たりにして、さすがに目の前の出来事に不審を覚えるものが出始める。 「な、なあ、まさかギーシュの奴、苦戦してるんじゃないか」 「だってよ、相手は平民だろ」 「いったい誰だよ、あれを平民って言い出したやつは。魔法をつかってるじゃないか」 「ねえ、でもあの魔法、なにか変じゃない。杖を使ってるふうもないし、あんな光の盾で防ぐ魔法なんて習ってないわよ」 ワルキューレが倒されたことで、ギャラリーがどよめき始める。 なのはは肩で息をさせ、ギーシュに話しかける。 「ギーシュさんは貴族なんだよね。魔法って確かにすごく便利だけど、使い方を間違えればひとを傷つけるんだよ。 ギーシュさんの魔法はなんのため、誰のために魔法を使うの?」 「ぼ、僕は、」 「答える必要ないぞ、ギーシュ。平民は力づくで黙らせろ!」 ギャラリーのなかから声が上がった。それは平民に地位を脅かされたと感じ始めた敏感な弱さから発せられた声でもある。 ギーシュ自身もその感情にしたがって、再びバラの造花を振るう。今度は二体だ。 一体で苦戦していたなのはは己の力量不足を痛感していた。 (帰ったら、いっぱい魔法の練習しなきゃ) すでに幾度もの戦場を経験し、エース級の戦闘能力を有するなのはだが、それはこれまでレイジングハートの支えあってのことだ。 ベルカの騎士たちとの闘いではデバイス自らがベルカ式のシステムを取り入れ、騎士たちと渡り合うことができた。 「どうだね、降参するなら今のうちだが」 「絶対にいや!」 「ならば仕方ない、トドメだ、ワルキューレ!」 二体同時に突進してきたワルキューレになのはは歯を食いしばる。瞬間、胸元で強烈な光が膨れ上がった。 《Protection》 突如として響いた声。その声にもっとも驚いたのは、なのは自身だったに違いない。 今度は先ほどのものより一層強固なバリアが展開され、ワルキューレ二体の突撃を苦もなく受け止め、二体いっぺんに弾き返す。 「レイジングハートっ!」 《ご心配おかけしました。よく頑張りましたねマスター》 聞き慣れた、待ち望んでいた声。 「もう大丈夫なの、レイジングハート」 《いつでも全力で行けます》 その心強い声に押され、なのはは中空に浮かんだレイジングハートをぎゅっと握り締める。 「じゃあ、ひさしぶりに行くよ! お願い、レイジングハート」 《all right」》 「風は空に、星は天に。 そして、不屈の心はこの胸に。 この手に魔法を。 レイジングハート、セット・アップ!」 《Stand by.....ready》 不思議な声とともに少女の全身が強い輝きに包まれる。少女の身体を覆っていた衣服が分解され、白いバリアジャケットの媒体として再構成される。 「次から次に妙な魔法を!」 「今度はこっちの、番だよ!」 《Flash Impact》 なのはの身体が一瞬にして掻き消え、立ち上がりかけていたワルキューレの前に出現すると、そのまま杖を叩きつける。 一体は吹っ飛ばされ、もう一体はその衝突に巻き込まれ、弾丸ライナーの軌道に乗って背後の塔に叩きつけられる。 ギーシュの頬を掠めて行ったワルキューレは、塔に激突した後、数秒の間をおいて地面に崩れ落ちた。 間接はあらぬ方向に折れ曲がり、青銅の腕が一体の背中を突き破って、腰半分がもげて地面に刺さっている。 それはあたかもギーシュの行く末を暗示しているかのようであった。 (あ、あんなものを生身に食らったら死んでしまう) ギーシュは身の危険に焦りながらも必死で方策を練る。先手が防がれた以上、いったん防御で凌いで、相手の隙を突く以外にない。 三度、魔法を発動させ、残りのゴーレムを全て生み出す。 これほどに魔力を消耗すれば、しばらくは魔法が使えなくなってしまうだろうが、背に腹は代えられない。 二体を防御に回し、一体を正面、最後の一体を背後に忍び寄らせて隙を窺う。 (これが大人の賢さってものさ、ガキとは違うのだよ、ガキとは!) 正面からぶつかって勝てないのなら、背面を突く。軍人の家系だけあって、ギーシュの戦術としての理論を正しく理解している。 だが、惜しむべきは実戦経験が圧倒的に不足していることだ。 いくら理論を叩き込まれたといっても、ギーシュのそれはしょせん座学にすぎない。 譲れぬもの同士がぶつかり合う激闘の最中で、幾度も傷つき、倒れながら磨いた戦闘技能の前では理論などなんの役にも立たない。 表情には出さずとも背面を警戒していたなのはは、とんぼ返りに飛翔し、翻りざまに砲撃で残りのワルキューレ全てをなぎ払う。 《divine shooter》 圧倒的火力の砲撃が空中からワルキューレの身をそぎ落としていく。 カートリッジ節約と、主の身体にかかる負担軽減を理由に威力を抑えた攻撃を提案をしたレイジングハートだが、それでもいとも簡単に青銅のゴーレムを跡形もなく消滅させていく。 「馬鹿な! 詠唱もなしに、これほどの威力が出せるはずは!」 砲撃がようやく収まった後の広場は縦横に芝生が抉れ、魔力の残滓による硝煙が立ち上っていた。 ゴーレムを失ったギーシュにはもう魔力さえも残っていない。低空で飛翔するなのはがギーシュめがけて思い切り杖で腹を抉る。 みぞおちを強打され、くの字に折れたギーシュは身体を天に突き上げられ、息を吸うこともできず、降参の声もあげられない。 意識を失いかけたそのとき、ギーシュの目に現実を疑わせる光景が飛び込んできた。 杖を囲んで四つの環状魔法陣が展開し、自分の身を突き上げる杖の先端に魔力が充填されていく。 尋常でないほど膨大な魔力の収束にギーシュの全身から血の気が引いた。 (そんな、この期に及んでトドメまで刺すのか? もう魔力もないのに!) すでに勝負がついているのは誰の目にも明らかなはずなのに、なぜここにいたってトドメの一撃を食らわなければならないのか。 それも全ては、ゼロのルイズと呼んで彼女の主を傷つけたせいなのだと、ギーシュは今更になって己の発言の迂闊さに気付かされた。 「ディヴァィィィィインッ、バスター!」 はるか天空まで突き抜ける砲撃。 零距離から発射された主砲の一撃は圧倒的威力をもってギーシュの身体を飲み込み、砲撃が収束したあとにはギーシュの身体がどこにも見当たらなかった。 遠見の鏡で見ていたオスマンが呟く。 「こりゃ、グラモンのバカ息子は死んだかのう」 「のんきに構えている場合ですか、学院内で生徒が死亡したとあっては一大事ですぞ!」 コルベールが慌てて水魔法使いを広場に派遣する。 広場では生徒達が空を見上げていた。 砲撃が貫通した積乱雲が上空に漂い、常識をはるかに超えた威力に皆が放心している。 そして、上空から黒い豆粒のようなものが落ちてきて、それは見る間に接近し、人の形をあらわにする。 天空近くまで打ち上げられたギーシュがようやく地面まで堕ちてきたのだ。 なのはは空に浮かんで、ギーシュが激突する前に魔法陣をクッションにして受け止める。 ギーシュは空中を落下している間、失っていた意識をようやく取り戻す。その顔は傷つき、弱っていたがどこか晴れ晴れとしていた。 「僕の・・・・・・完敗だよ。もう指一本・・・・・・動かせない」 なのはたちの魔法とは違い、バリアジャケットもないハルケギニアのメイジは紙のように装甲が薄い。 物理ダメージを0に設定しているとはいえ、痛いものは痛い。 まともに食らえば、その痛みに失神し、数日は起き上がれなくなるのが当然だ。 それでもギーシュは最後の力を振り絞るようにして、唇を動かす。 「君に・・・・・・ひとつお願いがある・・・・・・んだ」 声は弱弱しかったが、それでもギーシュは気丈に笑みを作る。 「名前を・・・・・・教えてくれないかい?」 その言葉に、なのははギーシュと気持ちが通じ合ったのを感じた。だから元気いっぱいに答える。 「なのはだよ。わたし、高町なのは!」 前ページルイズ×なのは(幼)
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苦労の末ルイズが呼び出したのは奇妙な金色の物体だった。 形状は正四角錐をなしており、垂直断面には取っ手のように金属のリングが取り付けられている。 ルイズにはそれはただの悪趣味な置物にしか見えなかったが、教師コルベールに自らが呼び出したそれと契約を交わす様強制されてしまう。 当然ルイズは抗議するが、使い魔召喚の神聖性を理由に召喚のやり直しは認めてもらえず、しぶしぶその物体と契約を交わすルイズ。 一瞬使い魔のルーンが浮かぶものの、その物体に吸い込まれるようにして消えてしまった。 当然他に何の変化もなく、奇妙な置物でしかないそれを抱えて失意のなかルイズはとぼとぼと教室へと戻ったのだった。 拳大のそれは手で持ち歩くには面倒であったし、ポケットにも入れ辛い。 そのためリング状の突起に鎖を通してペンダントのように首から下げることにしたルイズは、部屋を出た直後キュルケに。更に教室では意地の悪い生徒たちから己の使い魔を笑われた。 悔しかったが、何も言い返せず、こんなもの部屋に置いてくれば良かったと後悔した。 錬金の授業で爆発を起こしたルイズは罰として教室の片付けをさせられ、更に不機嫌になった。 片づけが終わった後食堂へと向かったルイズは、そこで昼食を取る。 その時ルイズはギーシュがメイドへ絡むのを見かけた。 一部始終を見ていたルイズは、どう考えてもギーシュの自業自得であり、メイドにしているのは八つ当たりでしかないと思ったが、機嫌が悪かったし、平民のメイドをわざわざ庇おうなどと「ルイズは」思わなかった。 その後何事もなく一日を終えて部屋に戻ったルイズは、鎖から首を抜いてその置物を部屋の隅に乱暴に放り出した。 こんなものは持ち歩いてもしょうがない。使い魔が死ねば再召喚できるのだ。虚無の曜日にでも準備してこんなものは破壊してしまおう、と思ったのだ。 そうしてルイズは眠りに就いた。 深夜、熟睡していたはずのルイズはむくりと起き上がり、夢遊病のように部屋の片隅へふらふらと歩み寄ると、そこに投げ捨てられていた置物を取り上げ、自らの首に掛け直したのだった。 ―――同刻、ギーシュ・ド・グラモンは自室にてすやすやと眠りこけていたが、いつのまにか響き始めたノックの音で目が覚めた。 こんな夜中に何事かと思って戸を開くと、そこにいたのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢その人であった。 ギーシュは彼女を特別意識したことはなかった。 大貴族の令嬢である彼女であったが、魔法無能者の「ゼロ」として見下す家柄だけは良い劣等性、と言う程度の認識しかもっていなかったが、夜遅くに寝巻き姿で自分の部屋を訪れたとなれば話は別であった。 ギーシュは自分に、特に異性に対する自分の魅力には自身を持っていた。 ルイズは同年代の少女たちと比べれば発育は悪い方だ。 しかし、彼女の抜きん出た美少女と表現しても差し支えない容貌は、薄手の寝巻き姿が背徳的な扇情さを醸し出しており、深夜の自室であると言うことと、彼女が高貴な血筋であるということもあって若いギーシュの脳から、抑制心というものを簡単に吹き飛ばす威力をもっていた。 この時点で彼女を拒否する、と言うことは完全に思考から消えていたギーシュであったが、即座に襲い掛かるような真似は彼の美意識が許さなかった。 まずはルイズのはしたない振る舞いをたしなめ、次に彼女にそのような振る舞いをさせてしまった自分の魅力を詫び、しかるのち彼女を「いただこう」と都合の良い段取りを考えていたが、ルイズによってそれは阻まれることになった。 彼女はまず、余計なことを言われないようその愛らしい唇の前に人差し指を立て、沈黙を促すジェスチャーをする。 ギーシュがそれに頷くと、ルイズは彼の耳に唇をよせ囁く様に言う。 「ヴェストリの広場に来て」 そう言って、ギーシュが止める間もなくルイズは歩きさってしまう。 一瞬呆気に取られたギーシュだったが、ルイズはもう少しロマンスのある手順を求めているのだと思い直し自分を納得させた。 肩透かしを食らったが、あせる事はない、ほんの少しお楽しみが延びただけのことだと思って彼は広場へと着て行く服を選び始めたのだった。 彼が広場に着いたとき、ルイズは既に広場の中央で彼を待っていた。 彼女は先程の格好にマントを羽織っただけの格好で、そう寒い季節ではないとはいえ、月明かりの下でそれはいかにも頼りない。 「やぁ、待たせてしまったねルイズ。そんな格好で寒くはなかったかい?」 「良いのよギーシュ、気にしないで。それより、ねぇお願いがあるの」 「なんだい?何でも言ってくれたまえ」 「私とゲームをしましょう」 「ゲーム?」 「そうよ、ルールは簡単」 そう言って自らの杖を取り出すルイズ。 「決闘をするのよ。そして、勝った方は負けた方を好きにできる。ね、簡単でしょ?」 その突然の提案にぎょっとしたギーシュだったが、すぐに理解した。 決闘と言って杖を持ったとして、ゼロのルイズに勝ち目等あるはずがない。 つまりこれは、ただ自分を好きにしていいというのではあまりにもはしたないから、それを繕う為に言い出したゲームなのだと。 勝利の報酬を思ってギーシュは小鼻を膨らませながら、しかしがっついた印象を与えないようあえて反論をする。 「決闘だなんて、かよわい女性を相手にそんな事をする理由がないよ」 「ふふ……そう、理由が必要なの。ならこういうのはどうかしら?貴方は昼間食堂でメイドを叱っていたでしょう?私はあれは八つ当たりだと思うの。だから貴方のことが許せなくて、決闘を申し込むのよ。当然私が勝ったら貴方に罰を与えるわ。どう?」 人は本当のことを言われると怒り出すものである。 自らの所業を八つ当たりと言い表されて、不快に思ったギーシュは彼女にちょっとお灸をすえてやろうと思った。 力によって相手を屈服させてモノにするということに原始的な興奮を覚えたのも事実だった。 「良いだろう。そういうことであれば、君の思い違いを正してあげようじゃないか」 ギーシュは自らの杖である薔薇の造花を取り出す。 ルイズは一歩、二歩、しめて七歩歩いて間合いを取った。 「さ、始めましょう。貴方の番よギーシュ。貴方の手札を呼びなさい」 まったく淀みない口調でルイズは言う。 もちろんこれは勝負などでは無いのだから、彼女が怯える必要などあるわけがない。 しかしギーシュは彼女に怪我はさせないまでも、少し驚かせ、怖がらせてやろうと思った。 「では、使わせてもらおう。僕の魔法を!いでよ、ワルキューレ!」 ギーシュが薔薇を振るうと、その花弁が一枚はらりと舞って、見る間に槍を持ち鎧をまとった女戦士を形作る。 所詮箱入りのお嬢様。この槍を顔の間近まで突き出してみせればきっと怯えて止めてくれと頼んでくるに違いない、とギーシュは思った。 「呼んだわね。では私のターン」 ルイズは杖をマントの内側へとしまうと、入れ替わりにトランプのようなカードを取り出した。その数5枚。 そしてその中から1枚を引き抜いて、空中へと放りなげる。 「【エルフの剣士】を攻撃表示で召喚!」 放たれたカードが光り輝き、まるで召喚のゲートのように広がったと思うと、次の瞬間剣と盾で武装したエルフが現れた。 「な、なんだってぇーーーーっ!!!??」 ギーシュの叫びがヴェストリの広場に響き渡るが、観衆無き決闘の場でそれを聞くものはギーシュ自身と、ルイズしかいなかった。 そのルイズはギーシュの驚愕など僅かも気にかけず更に1枚のカードを手札から抜き取り、手前に置くような動作を見せると、カードは空中にぴたりと固定された。 「更に、場にカードを1枚伏せてターンエンド」 ギーシュはわけがわからなかった。 ちょっとルイズをからかって、その後は勝利の報酬が待っているだけのゲームだったはずなのに、なぜエルフが! エルフ!まさか、エルフがこの学院へと侵入し、ルイズに取り付いたのでは!? 混乱するギーシュへとルイズが促す。 「どうしたのギーシュ。貴方の番よ?何もしないのならこちらの番にうつらせてもらうけれど」 ここへ来ても一切乱れぬルイズの声とは対照的に、動揺が聞いて取れるギーシュの声が返される。 「きっ、君はっ、こんなっ、エ、エルフだなんて!」 「いやねぇ、これはゲームなのよ。そんなに怯えないで。これはあくまでゲームの駒。勝手に行動したりはしないわ」 そう言って【エルフの剣士】を見るルイズ。 その視線を追ってギーシュもそれを観察する。確かに、顔を伏せ静かに佇む其の姿はルイズの命令を待つ駒のようにも思えた。 しかしだからこそ、それを平然と従え、冷たい目でギーシュを見るルイズの異様さがここへきて恐ろしい! 「ルイズ!馬鹿なことはやめるんだ!エルフに組するなんてただじゃ済まないぞ!」 「やめるですって?それは無理よギーシュ。私も貴方も既にゲームの盤の乗ってしまった。決着がつくまでこの盤から降りることはできないの」 「なんだって!?」 辺りを見渡すギーシュ。 しかしヴェストリの広場の外は闇に包まれている。夜だから、ではない。 当然見えるはずの各塔の明かりすらいつの間にか見えなくなっていることにやっと気づいたのだ。 「わかった?貴方は無事にここから出るには、私に勝つしかないのよギーシュ」 「うぅ……」 短い間に様々なストレスに晒されたギーシュの精神は既に限界を迎えていた。 そして耐え切れなくなった心は、眼前の脅威へ全力で攻撃することを選択する。 無我夢中で薔薇を降り、更に6体のワルキューレを造り出し、ギーシュは声を張り上げた。 「ワルッッキューレッ!あのエルフを攻撃しろォォォッ!!」 7体の青銅の女戦士が、一斉にエルフの剣士へと肉薄する。 それを見たルイズは唇を歪めて微かに笑い、小さくこう宣言する。 「トラップカード発動。【聖なるバリア・ミラーフォース】」 ルイズがそう呟いた瞬間、空中に伏せられていたカードが躍り上がって光を放つ。 その光が七つに分かれ、ワレキューレ達を襲う。光が収まった時、ギーシュのワレキューレ達は唯の一体も残さず消滅していた。 「あ、あ……僕の、ワルキューレ……」 呆然と呟くギーシュを尻目にルイズはゲームを続ける。 「そして私のターン。ドロー、並びにエルフの剣士、ギーシュにダイレクトアタック!」 ルイズから初めて下された命令に、エルフの剣士は忠実に従った。 ギラリと手にした刃を光らせて、ギーシュへと襲い掛かる。 「ぎゃああああああああぁぁぁっっ!!!!!」 剣士の刃に切り裂かれたギーシュは、奇妙なことに怪我は負わず、血の一滴もでなかったが、しかし凄まじい痛みがギーシュを襲い、頬が裂けんばかりに開かれた口からは絶叫が放たれた。 「ふ、ふ、ふ、ギーシュ。貴方の負けね……」 痛みにがくりと膝を突いたギーシュに、無造作に歩み寄るルイズ。 エルフの剣士はいつの間にか姿を消している。 「負けたからには『罰』を受けてもらわなくっちゃぁね」 「あ、あ、あ、、、」 恐ろしい恐ろしい恐ろしい。 ギーシュは見た。ルイズが胸に下げたペンダントに刻まれているのと同じ文様の「眼」が、ルイズの額に浮かびあがってギーシュを見下ろしているのを。 「罰ゲーム!」 ルイズが宣告し、その指でギーシュを指し示す。 ずぶり、と音をたててギーシュの精神に穴が開き、その心が穴中に落ちて行った。 ―――次の日、ルイズが自室のベッドで眼を覚ますと、放り投げたはずの千年パズルがテーブルの上に置かれていたので、何故だろうと頭を捻ることになった。 ギーシュは意識不明の状態で発見され、その意識は数日の間悪夢の中を彷徨い、眼が覚めた時には何も覚えていなかったという。
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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは人生最大の試練に立ち向かっていた。 何せこの使い魔召喚を失敗したら進級出来ず退学もありうる。 まさに背水の陣、ルイズにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際と言っても良い。 ルイズは全身全霊を込めて呪文を唱える。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 呪文の成立とともに目の前が爆発し、煙が辺りを覆う。 すわ失敗かと落胆するルイズだが、その煙が晴れてくると、そこに何かが要る事に気づき喜色満面となるも、煙が 晴れていくにつれ当惑の表情へと変化していく。 召喚された物体は、彼女が思い描いていた使い魔とはあまりにもかけ離れていたからだ。 するとそこにいた物体、手足の生えたりんごは、その渋い顔にマッチした渋い声で言った。 「俺が神聖で美しく強力な使い魔だ」 召喚主であるルイズはおろか、周りで事態を見守っていたクラスメイト、さらには教師であり今まで数々の召喚儀 式を監督してきたコルベール出さえ、あまりの発言に言葉を失い戸惑う。 と、その使い魔は絶妙の間をおいて言い放った。 「ウソだけど」 ルイズは素早く足を上げると、思いっきり踏みおろした。 果肉と果汁が飛び散り、見るも無残な轢殺死体が出来上がる。 内心の怒りの為かさらに何度か踏みにじり、完全に粉砕すると何事も無かったように再び呪文を唱え始めた。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 見た事も無い服装をした平民の使い魔が召喚されたのは、その後しばらくたってからであった。 完 -「極楽りんご」より
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スレ住人の皆様 ドラゴンボール系単発SS 288氏 ドラゴンボール×なのは 320氏 ドラゴンボール×なのは 其の二 375氏 リリカルなのはZ 376氏 無題(仮) 377氏 無題(仮) 410氏 無題(仮) 411氏 無題(仮) 二代目スレ123氏 無題(仮) 二代目スレ147氏 無題(仮) 二代目スレ149氏 無題(仮) 二代目スレ301氏 無題(仮) 三代目スレ446氏 もうひとつの無印なのは~天下分け目の超決戦なの 同氏 次回作 リリカルなのはZ 三代目スレ546氏 劇場版リリカルなのはZ とびっきりの最強対最強なの 同氏 劇場版リリカルなのはZ 復活のフュージョン!なのはとフェイト 同氏 劇場版リリカルなのはZ 龍拳爆発!なのはがやらねばだれがやる 同氏 劇場版リリカルなのはZ 次回策予告 四代目スレ6氏 単発ネタ 同氏 単発ネタ2 四代目スレ62氏 劇場版リリカルなのはZ~極限バトル!3大スーパー魔道師 四代目スレ130氏 劇場版リリカルなのはZ~激突!100億パワーの魔道師なの 四代目スレ278氏 もうひとつのなのは~魔道師襲来編、宇宙一の強戦士魔道師目覚める 四代目スレ362氏 ベジフェイト 五代目スレ160氏 なのは感動の?最終回「さらばなのは!また会う日まで」 八代目スレ69氏 新OPとそのアニメーション 八代目スレ316氏 ヴィヴィオが拉致された後の展開 同氏 17話のギンガのシーンで何があったか 八代目スレ481氏 かっこいいシグナム 八代目スレ553氏 あれ風ななのは次回予告 十一代目スレ131氏 宇宙一の強戦士サイヤ人目覚める~ミッドチルダが終わる日~ 十一代目スレ446氏 あれ風ななのは次回予告 十七代目スレ448氏 妄想ナンバーズの次回作での活躍 五十五代目スレ241氏 魔法少女リリカルなのは。超戦士は眠れない TOPページへ このページの先頭へ
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まったく同じ言葉、あるいは名称であっても、時としてそれはまるで正反対であったり、または異なる意味となることもある。 ここに一人の少女がいる。 名をルイズという。 メイジでありながら、魔法が使えない。 成功率ゼロ。 そんなところから、ひと呼んでゼロのルイズ。 この二つ名は生涯変わることはなかったけれど、ある時期から、それはまったく異なる意味を持つようになる。 それは何かというと…………。 「……あんた、何?」 召喚した使い魔と契約を終えた後、ルイズは引きつった表情で、己の従者となった生き物に向かってつぶやいた。 珍しい生き物ですな、などと教師は言っていたが、ルイズ自身はあまり喜べずにいた。 召喚したその生き物はどこをどう見ても、すごそうには見えなかったからだ。 一言で言うなら、丸い魚チックな生き物だった。 本当に真ん丸いのだ。 よく言えば可愛いが、悪く言えば間抜けな姿だった。 ほえええ……。 鳴き声もひどく間抜けだった。 ふよふよと空中に浮かんでいるが、動きも鈍そう、というかちいとも動かない。 使い魔のルーンが刻まれている時もぬぼうっとしたままだった(ちなみにルーンは額あたりに)。 有効性を期待するのは恐ろしく不毛な予感がする。 「あんた、なんて生き物?」 ルイズはこのおかしな使い魔の顔(というか、体全体が大きな顔みたいでもあるが)をのぞきこみながらつぶやく。 ――……くーよん。 「へ?」 その時、ルイズの頭に何か声のようなものが響いた。 驚いてキョロキョロとしていると、とんでもないことが起こった。 使い魔が。 召喚したばかりの使い魔が、消えてしまったのだ。 まるで、煙か何かのように。 「……はい?」 ルイズは事態が飲み込めず、しばらくぼーぜんとしていた。 他の生徒たちから、嘲笑を投げつけられるまで。 朝になって、ルイズは重苦しい気分でベッドから目を覚ました。 気分だけでなく、体全体も重苦しい。 ベッドで泣き伏し続け、そのまま眠ってしまったようだ。 自分ではわからないが、目が真っ赤になり、その下には痛々しい隈ができている。 せっかく召喚したはずの使い魔。 それが、逃げてしまった。 というより、どこかへ消えてしまった。 そこまで思い出し、ルイズは思考を止めた。 頭の中を、毒蛇がのたくっているような、嫌な気分になってきたのだ。 胸がむかむかして、吐き気もしてくる。 そのくせ、心がざわつき、落ち着かない。 ゼロ。 成功率ゼロ。 ゼロのルイズ。 そんな言葉が頭の中でぐるぐるとまわっていた。 何だか、わけのわからない気持ちになってきた。 悔しいのか、悲しいのか、それとも情けないのか。 あるいはその全てなのか、そのどれでもないのか。 ルイズはのろりのろりと身を起こして、何気なく机の上を見た。 ペン刺しのペン。 するりと抜いてみる。 先がとがっている。当たり前だが。 ルイズは、ぼけっと手にしたペンを見ていたが、ふと妙な気持ちになった。 急に、ペンを自分の腕に突き刺してみたくなったのだ。 手の甲でも平でも、どこでもいい。 とにかく自分の体を傷つけたい衝動に駆られた。 そして、ぐいとペンを振り上げてから、そのまま動かなくなった。 (何やってんのよ……!) すんでのところで、行動を制止する。 そんなことをして何になるのか、自分が痛いだけである。 ルイズはいらだつ気持ちを抑えきれず、ペンを床に叩きつけた。 これというのも、あの忌々しいボールのせいだ。 いきなり幽霊みたいに消えやがって。 契約したご主人様を無視して。 おかげで、自分がどれだけ恥をかいたか。 覚えていろ。 もし見つけたら、 (どっかにいるってんなら、出てきなさいよ!! ただですまさないんだから!!!) ルイズは心の中で、叫んだ。 ぼうん。 「うひゃ!」 いきなり、間抜けな音がした。 ひっくり返りそうになりながら、ルイズは何事か目を凝らす。 そして、本当にひっくり返った。 そこには消えた使い魔が、相変わらずの間抜け面でふよふよ浮かんでいたからだ。 「出てきなさい」 小声でルイズは呼びかけた。 ぼうん。 音を立てて、ルイズの前に使い魔が現れる。 「うーーん……」 何回かのテストの後、ルイズは3つのことを理解した。 1、使い魔は逃げたわけでなかった。 2、使い魔はしばらくすると消えてしまう。 3、使い魔はルイズの声(正確には意思)に応えて姿を現す。 「けっこうすごい感じではあるんだけど……」 しかし、だからどうだという気もする。 呼び出せばすぐに出てくるところは便利だが、 (こいつに何ができるか、よねえ?) ただそこでぬぼっとしているだけなら、普通の猫や鼠でも召喚したほうがまだましである。 (でもまあ、ここは……) ひとまず契約は成功していたというところが大事だろう。 (このことを、ミスタ・コルベールに説明しとかないと) そう考えるとじっとしてはいられない。 ルイズは乱れた髪を簡単に整え、部屋を飛び出した。 途中でキュルケと出くわしたが、無視する。 今は相手にする気分でなかったし、そんな暇もない。 コルベールのもとに向かいながら、ルイズが先ほどと異なる棟のざわめきを感じていた。 先のそれが暗いマイナスなものなら、これはプラス。 これから、いいことが起こりそうな気がする。 そんな予感がむくむくと膨らんでいた。 ただし、そのいいことが、ルイズにとってはよくても、他の人間にはどうであるのか。 ルイズはそんなことは考えもしなかったのだけれど。 きっかけは何だったのか。 思い出せばくだらない言い争いが原因だったのかもしれない。 気がついた時には、食堂でギーシュと言い争いになっていた。 だが、決定的なスイッチとなってしまったのは、このやり取りだろう。 「君のその、丸っこい使い魔に何ができるというんだい?」 「さあね? でも、あんたの死ぬほど不細工なモグラよりは可愛いんじゃない?」 売り言葉に買い言葉とはいうけれど……。 それはギーシュをぷっつんさせるには十分すぎる威力を持っていた。 何だかかんだで、ルイズはギーシュと決闘することになってしまった。 ルイズは、不思議と負ける気はしなかった。 それは予感というよりも確信に近かった。 何故そんなことを思ったのかは、謎であるが。 決闘の前にギーシュが何か言っていたが、ルイズは聞いていなかった。 それよりも、早く使い魔を呼び出したくてうずうずしていたのだ。 そんなルイズのなめきった態度に、ギーシュはマジ切れしたのだろう、お得意の青銅ゴーレムを呼び出し、いきなり突進させてきた。 ルイズは目の前に出されたご馳走を出され、さあどうぞと言われたような気分で、 「出てきなさい!!」 使い魔を呼んだ。 主人の呼びかけに応じた使い魔は、この時通常とは異なる行動に出た。 いや、今までは呼び出しても何もしなかったのだが。 ほええええええええええええ!! 使い魔はその口から、何かきらきらと光る粒子のごときをものを吐き出したのだ。 その美しい、宝石の雪のようなものが周囲に降り注いだ瞬間、ギーシュのゴーレムはぼろりと崩れた。 「え? な? なんで??」 うそだろという顔つきで、ギーシュはまたゴーレムを出そうとする。 が、無駄だった。 形を形成する前に、ゴーレムはぼろぼろと土くれになってしまう。 しまいには、それさえも起こらなくなった。 硬直するギーシュの真横を、強烈な爆裂が通り過ぎた。 ルイズの失敗魔法。 普段ならば嘲笑の対象であるそれは、この時のギーシュには悪魔の凶器であった。 「……まいった」 「な~に~? 聞こえんな~~~」 かすれる声でいうギーシュに、ルイズは死ぬほど邪悪な笑みを浮かべながら、ゆっくりと広げた右手を突き出す。 「具合でも悪いのかしら~~? じゃ、下手糞で悪いけど、回復の魔法かけたげるわ」 煙をあげながら倒れるギーシュを見下ろしながら、ルイズは自分の使い魔の能力を理解しはじめていた。 何故、負ける気がしなかったのか。 それは、もしかすると契約を通じて、無意識ながら、使い魔の能力がルイズに伝えられたのかもしれない。 いずれにしろ、 (これはいけるかも……!!) ルイズは笑った。 ルイズが使い魔の能力の、本当の凄まじさを理解するのは、のちにフーケ事件と呼ばれる騒ぎでのことだった。 土くれのフーケと呼ばれる盗賊。 それが学園の宝物庫を狙ってきたのだ。 とはいえ、その時ルイズはそんなことなど知るよしもなかった。 ただ、夜散歩をしていたら、いきなりばかでかいゴーレムに出くわしたのだ。 最初はかなりびびっていた。 けれど、それだけにその後はかなりリラックスしてしまった。 使い魔の吐き出す輝く粒子。 それはあっという間に空中高く舞い上がり、ゴーレムをギーシュと時と同じように土に戻してしまった。 もっとも粒子は風の流れのせいか、宝物庫までとんでいき、防御のためにかけられている魔法も消してしまったが。 ちなみに、何か怪しい人影がいたので失敗魔法でぶっ飛ばしたらそれはミス・ロングビルだった。 ロングビルは爆発をまともに食らって全治三ヶ月の怪我をおい、ルイズはギーシュの一件もあり、謹慎処分をくらう羽目になる。 宝物庫の中は無事だったので、謹慎は短くてすんだのだが。 謹慎を食らっても、ルイズはちっともこたえてなかった。 何故ならば、自分の使い魔がどれだけすごいか、頭ではなく魂で理解できたから。 (メイジの実力を見るなら、使い魔を見ろ……か。なるほど、私にぴったりじゃない!) 部屋でじっとしてても、ニヤニヤと笑いが止まらない。 あの使い魔、原理はわからないがあれの吐き出す粒子は魔法を消去してしまう力がある。 ドットクラスのギーシュくらいのものなら、それなりでしかないだろうが、あの馬鹿でかいゴーレムさえ苦もなく無効にできるのだ。 自分の魔法が消された時の、ギーシュのあの顔! 思い出すだけでも傑作だ! 翼をもがれた鳥みたいにぶざまな姿だった。 ゼロのルイズ。 その二つ名は大嫌いだった。 でも、これから思い切り好きになれそうだ。 「そうよ、私はゼロのルイズ」 ルイズはくすくすと笑う。 (でも、ゼロなのは私じゃない……。ゼロになるのは……) 自分以外の、あらゆるメイジだ。 後年、ゼロのルイズの名は永く広く語り継がれることになる。 いかなるメイジも、彼女の前ではゼロになる。 ただ、虚無の属性をのぞいては。
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「パタリロ!」のジャック・バルバロッサ・バンコラン ルイズ!-1 ルイズ!-2 人物紹介 パタリロ 前世がパンドラ、愛読書が「人をおちょくる50の方法」、あとは本編の描写でどんな人物か判断出来るはず。一番分かりやすい言い方をすれば「両津の同類」 ジャック・バルバロッサ・バンコラン MI6のダブルオーエージェント。実際はバルバロッサの姓は家庭事情から名乗っていない。プレイボーイだが相手は必ず美少年。つまりそういう人。超能力とか信じてない割りに超能力者、ただし視線が合った相手を虜にするというはた迷惑過ぎる能力。 マライヒ・ユスチヌフ 元暗殺者の女性……的な美少年(♂)で、バンコラン(♂)の愛人。彼の子を出産(!)したことも。ナイフと格闘術に長けていて、天才的な頭脳の持ち主。嫉妬深い性格で、浮気を続けるバンコランは度々ズタズタにされている。 アーサー・ヒューイット CIAの腕利きエージェントにして射撃の名手。重度のロリコンでCIA長官の娘に手を出したり、任務中に少女に気を取られて任務に失敗するなどの失態でよく左遷させられている。それでもクビにならないのは彼がバンコランに匹敵するほど有能だから。 ミハイル S国(どう考えても旧ソ連)のエージェントで「氷のミハイル」の異名を持つ。異名の由来は自分の体温を零下32度まで自由に変えられる超能力から。有能だが危ない橋を渡るのは嫌い。意外にも家族思い。何故かパタリロをカリメロと呼んでしまう。 タマネギ タマネギみたいな髪形とひし形の口をしたマリネラ国の中枢を担う役職についた人達の総称。相当なエリート軍人しかなれない重要な人材……なんだが有給は10年に1日で普通の会社の日当並みの年収と、労働環境はピラミッドの最底辺に位置する。
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「ゼロが、一発で・・・」 「嘘、何で・・・」 ルイズが使い魔を簡単に召喚できたのがまるで奇跡としかいいようがないような感じで他の貴族たちは彼女を見つめるのであった。召喚されたのは、丸っこく青い体に、白く美しい腹部、耳、しっぽを持った愛らしい小さな生物だった。 「きゃっ、何これ?かわいーい!」 その生物を抱き上げるルイズであったが、彼女はその期待をぼろぼろにされるのだった。 「い、息してない・・・」 もしかしたらぬいぐるみなのかもと、口の中を覗きこんでみたが、そこにはリアルな舌や歯があった。正真証明の生物だ。死体だが。 「呼んでも役に立たんとは・・これぞゼロクオリティwww」 「ルイズにゼッロゼロにされちゃった」 そのころ、この生物がいた世界、渓谷の宿場からテーブルマウンテンに続く道をいく一人の冒険者がいた。その名も、人呼んで、風来のシレン! 「なるほど、この杖は吹き飛ばしか。これならマムルなんて簡単に倒せ・・・ってちっがーう!何だよあの鏡!マムルぶつけたらヒュッと吸いこまれちまったぞ!罠か!?一種の罠なのか!? 落ち着け、こういうときは、風来の書、950条、罠について。何々、罠は利用できるものです。その効果をよく考えましょう。分からなかったときは、逃げろ!?つっても、このでけー鏡が道ふさいじまってるんだよー!かくなるうえは、この鏡を持っていく!」 マムルを吸い込んだ謎の鏡、これは一体何なのか!?危険なのは承知のうえ。しかし、この鏡がダンジョン攻略に役立つと、俺は信じる!!! 轟々と水が流れる山間渓流。ここは谷に釣り橋がかけてあるだけの危険な場所だ。そこに、あの男がいた。風来のシレン!ボウヤーの打つ矢もなんのこれしき!全部鏡が吸い込んでくれるのだ! そのころルイズはというと・・・ 「痛ーい・・・何で矢なんて飛んでくるのよ!」 生物すら召喚できないルイズ。しかし、そのような物はまだまだ序の口。次に来るものに比べたらずっと・・・次に来たのは鎧のような物を見に付けた骸骨。 「また、死体かよ・・・」 「ネタの使いまわしすんなよ~」 その骸骨はよろよろと動き出す。 「あれ、動けるの?せ、成功!?」 しかし様子がおかしい。骸骨はルイズなど見向きもせず、キュルケの使い魔、サラマンダーのフレイムにゆっくりゆっくり近づいていった。頭からフレイムに吸い込まれるようにして消えていった。 「なんだったのよあれ・・・」 思わず涙ぐむルイズだったが、落ち込んでいるのもつかの間。フレイムは骸骨を吸い込んだ途端に狂ったように暴れだした。体も変色している。 「な、何!?フレイム、落ち着きなさい!」 主人のキュルケも同様を隠せない。 フレイムが元に戻ったときは、すでに一面焼けの原だった。他のみんなは被害にあいたくないといわんばかりにルイズから離れていった。結局そばにいるのは教師のコルベールだけであった。 次に召喚されたのは、泥のような生物だった。その生物と契約しようとキスをしようと思ったその瞬間、腐った液体をかけられてしまった。 もう契約なんてどうでもいい、この生物を殺す!お得意の爆発魔法でこっぱみじんにしてしまう。 今度は謎の布をかぶった緑色のトドが召喚された。そのトドは、あろうことかルイズの杖を布を使い奪っていった。 「そんな・・・杖がないと・・・」 いきなりたくさんの生物がわらわらと現れた。 「何で?!杖もないし呪文も唱えてないのに!」 その頃のシレンは、 「モンスターハウス?子供騙しだね!単に雑魚が集まっただけ!こんなやつら、この最強の鏡の敵ではないわ!」 マスターチキンもミノタウロスも、エーテルデビルでさえただただ鏡にに吸い込まれるだけ!誰か、この鏡男を止める奴はおらんのか! しかしルイズは・・・ 杖無し、呪文なしで現れた、鶏やら、牛やら、見えない何かやらにフルボッコにされる始末。ついに彼女は死んでしまった。 …と思ったら、 「・・・ここは?私の部屋・・・?」 彼女は自分の部屋のベッドで横になっていた。 「あーなんていやな夢なのかしら。現実はこうはいかないわ。エーと、杖杖」 ない。どこを探しても見つからない。彼女は探すのをあきらめコルベールに謝ろうと魔法学院の廊下をとぼとぼと歩いていた。しかし、杖はすぐ見つかった。廊下に落ちていたのだった。 なぜ廊下に落ちているのか分からぬまま、彼女は使い魔を召喚する。召喚されたのは巨大な虫の怪物だった。糸で絡められ、ルイズは洞窟の中に閉じ込められ、ついに彼女は死んでしまった。 …と思ったら、 「・・・ここは?私の部屋・・・?」 彼女は自分の部屋のベッドで横になっていた・・・の、繰り返し。 魔蝕虫もかたなしっ!byシレン
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トリステイン魔法学院の学生にして失敗ばかりの落ちこぼれ『ゼロのルイズ』。 二年生への進級をかけた『春の使い魔召喚の儀式』へと臨んだ彼女は”彼”を召喚した。 召喚されたばかりの”彼”を見たルイズはただの平民の子供だと思った。 自分よりも年下のようだが、そう年が離れているわけでもなさそうだ。 ともかく召喚自体は成功したのだから、まるでダメと言うわけではないのだとルイズは自分を元気付けた。 そして周囲を不安げに見回し、怯える犬が威嚇するように唸る”彼”を宥めながら使い魔の契約をした。 使い魔のルーンは”彼”の胸へと刻まれた。 そんな”彼”との生活が始まったのだが、それはとても多忙な日々となった。 まず、”彼”は何かしらの障害を持っているのか、言葉を話さないのだ。 ”あ~”、”う~”などの唸り声を上げるだけ。 次に好奇心が旺盛であり、感情の起伏が激しい。他の使い魔を見れば時と場合を選ばず飛び掛り、 魔法の授業の時には練金で小石が真鍮に変わったのを見るや、怯えて暴れ出した。 更に食欲も旺盛。最初に食堂に連れて行った時は野生児の如くテーブルに飛び乗り、料理を散々に食い荒らした。 その事があって食事の件は知り合いのメイドであるシエスタが何とかしてくれる事になったのだが、 結局はこれらの事実にルイズは頭を悩ませる事になった。 だが、それでもルイズは”彼”を見放そうとはしなかった。 自分が召喚できた使い魔だと言う事もあるが、何より”彼”はルイズやシエスタに懐いていたのだ。 その懐きぶりは自分が下の姉に甘える姿にとてもよく似ていたのだ。 それゆえ、無下に突き放す事も出来なかったのだ。 そんな”彼”をルイズは日が経つにつれ、ただの平民だとは思えなくなった。 …その原因は”彼”の成長にあった。どういう訳か、”彼”は常人とは比べ物にならない速度で成長していったのだ。 どんどん成長し、ついにはドラゴンなどと比べられるほどの大きさになった”彼”に、 使い魔召喚の儀式から”彼”に刻まれたルーンに興味を持っていたコルベールも驚きを隠せなかった。 そして、最初はルイズと同じか多少低い位だった”彼”の背丈は、今や二十メイルに達しようかとしていた。 最早疑う余地は無かった。”彼”の常人とは異なった言動もこれで説明がつく。 ”彼”は亜人だ――そうルイズは思い至った。 そんなある日…、学園にルイズの姉であるエレオノールがアカデミーの研究員数名と共にやって来た。 ハルケギニアに生息するどの亜人よりも巨大で異質な”彼”は王宮の、アカデミーの興味を引いたのだ。 そして実験体としてアカデミーに連れてくるように指示が出て、エレオノールらが来たのだ。 エレオノールは”彼”の引渡しを妹に伝えるが、ルイズは当然それを拒否した。 幾ら頭の上がらない姉であろうと大事な使い魔を渡せるはずが無かったのだ。 すると他の研究員が”彼”を魔法で捕縛し、強引に連れ出そうとしだした。 ”彼”は怯え、激しく抵抗し、暴れた。その結果、研究員の内二名が巻き込まれて死亡した。 そのまま”彼”は魔法学院から逃げた。一度だけ、ルイズの呼び声に振り向き、悲しそうな表情を見せて。 ルイズは”彼”を連れ戻すべく、魔法学院を飛び出した。コルベールとエレオノールもそんな彼女に付き添った。 消えた”彼”は食料となる家畜を襲いながら、トリステイン中を放浪しているようだった。 目撃情報を得ながら、ルイズ達は”彼”の姿を捜し求めた。 そんな最中、ガリア南部の山地の中に点在するアンブランと言う村が何かに襲われ、村人全員が行方不明となる事件が起きた。 その村は以前からコボルドに襲われていた為、最初はそれらの仕業かと思われたが、そうではない事が解った。 破壊された家々はコボルドとは思えない、巨大な物に叩き壊されたような物ばかりであり、 何より人の死体が一つも無い所が妙であった。 コボルドに人の死体を一々始末するような知能が無い事は、ハルケギニア中の人間は知っているのだ。 そして、この奇怪な事件の犯人が先日トリステイン魔法学院から逃げ出した亜人では無いかと、人々は噂しあった。 無論、ルイズはそんな事は信じなかった。”彼”が自分から人を襲った事など、ただの一度足りとも無いのだ。 だが、世間はそんな少女一人の気持ちなどでは動かなかった。 事件がガリアだけに止まらず、ロマリア、ゲルマニアでも起こり、”彼”を完全に危険視したのだ。 各国の王宮は討伐隊を編制し、”彼”を捜索を開始するに至った。そんな状況にルイズ達は焦った。 そして、ルイズ達は朝靄が掛かる森の中でそれと遭遇した。 突如として地面が盛り上がり、巨大な怪物が姿を現したのだ。 それを見たコルベールは、その怪物が何か解った。 それは大昔に韻竜と共に絶滅したはずの火竜の亜種『バラナスドラゴン』であった。 怪物は地面から這い出るや、ルイズ達を見つけて大きく咆哮する。 その耳まで裂けた口から赤い液体が滴り落ちている。 それが人の血液であると言う事は直ぐに解った。…口の端から”人だった物”が除いていたのだから。 ルイズは吐き気を覚えたが、それを上回る激しい怒りが頭の中を駆け巡った。 ルイズは杖を振り、失敗魔法の爆発を怪物に放ち、エレオノールとコルベールも魔法を唱えるが、 怪物はそれらに全く怯む気配を見せなかった。 ついに精神力が切れ、魔法が撃てなくなったルイズ達は怪物から逃げた。 だが、ルイズだけが躓き、地面へと倒れてしまった。そのルイズへと怪物は牙の並んだ口を開けて迫る。 もうダメだ、とルイズが絶望した時、怪物の角が何者かに掴まれた。 見上げれば、怪物の角を掴んでいるのは”彼”だった。 ”彼”が怪物と戦っている隙にやって来たコルベールがルイズを抱え上げ、その場を離れた。 ”彼”と怪物の戦いは、人間と獣の戦いだった。 怪力と知恵で戦う”彼”に対し、怪物は牙や爪、ブレスを進化させたかのような強烈な熱戦、 更には最高百メイルに達する跳躍力で持って”彼”に襲い掛かる。 そんな理性と野生の対決は壮絶な物となった。 結果的に頭脳プレーで攻める”彼”に怪物は遂に逃げ出し、地中へと逃れた。 その後、”彼”は逃げる最中に謝って足を滑らせ、崖下へと転落したエレオノールを助け出し、 ルイズとコルベールの下へと送り届けるや、再び姿を消したのだった。 トリスタニアへと戻ったルイズ達は王宮へと事の次第を報告した。 全ての事件はバラナスドラゴンの生き残りの仕業であり、”彼”は無関係だと。 しかし、絶滅したはずのバラナスドラゴンが生き残っているなど在り得ない、と否定された。 更には、使い魔だからと問題の亜人を庇っているのではないか、と言われる始末だ。 結局、何を言っても信じてはもらえなかった。 そして、バラナスドラゴンの生き残りである怪物は再び現れた。 夜闇に隠れ、シエスタの生まれ故郷であるタルブの村の人々に襲い掛かったのだ。 次々と家が壊され、村人が老若男女の区別無く食べられていく。 タルブ領主のアストン伯が慌てて討伐隊を率いたが、一人残らず熱戦に焼かれたり食物にされた。 そんな地獄の様な光景を見ながら震えるシエスタに怪物は迫った。 その時、再び”彼”が姿を現し、怪物へと立ち向かった。怪物の首を締め上げ、投げ飛ばす。 だが、怪物もやられてばかりではなかった。二度も食事を邪魔された事は怒りを爆発させるには十分だった。 怒りの所為か、威力の増した熱戦が怪物の口から迸り”彼”に命中する。 最初は耐えられたそれも、威力の増している状態では耐え切れなかった。 僅かに怯んだ”彼”の隙を突き、怪物は大きく跳躍して覆い被さる。 鋭い牙で噛み付こうとする怪物の口へ、”彼”は岩を押し込み蹴り飛ばした。 ひっくり返る怪物に”彼”は更に岩を投げつける。 怒り狂う怪物は熱戦を吐き散らしながら”彼”に襲い掛かる。 ”彼”は怪物の注意を自分に引きつけ、村から引き離していった。 遅れて村へとやって来たルイズは、”彼”の意図を理解し、馬に乗るや後を追って森へと入った。 移動を続けながら二体の戦いは激しさを増していく。 やがて森を抜け、二体はハルケギニア随一の巨大な湖『ラグドリアン湖』へと辿り着いた。 そこで遂に戦いは終わりを迎えようとしていた。 ”彼”に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた怪物はフラフラになる。 その怪物の首を”彼”は渾身の力で締め上げる。 怪物は苦しみ、激しく暴れたが、”彼”も必死に締め上げる。 やがて、怪物の鳴き声が弱々しくなっていき、大きく一声鳴くとそのまま口を閉じた。 直後、骨が折れる音が首から響いた。 不自然に首が折れ曲がった怪物は地面に力なく横たわる。 その怪物の身体を”彼”は二、三度蹴り飛ばしたが反応は無い。完全に事切れていた。 ”彼”は怪物の死骸を持ち上げると、湖に向かって力任せに放り投げた。 大きな水飛沫を上げて怪物の身体は湖底へと沈んでいった。 怪物が沈んだのを見届け、”彼”は勝利の雄叫びを上げる。 その彼の勇姿に駆けつけたルイズだけでなくエレオノールやコルベールも笑顔を浮かべた。 ――だが、事はそれで終わらなかった。 突如、ラグドリアン湖の水面から巨大な水柱が立ち上り、そこから声が辺りに響き渡る。 声の主はラグドリアン湖の水の精霊だと名乗った。 水の精霊は自らの領域を侵した”彼”へと制裁を加えると言った。 直後、水面が盛り上がり、巨大な蛸が姿を現した。それは水の精霊の使いだ。 呼吸する音が不気味な鳴き声のように聞こえ、足や胴体が動く度に粘液が嫌な音を立てる。 大ダコは八本の大蛇の様な足を振り回しながら”彼”へと襲い掛かった。 ”彼”は必死に戦ったが、怪物とは勝手が違いすぎた。 柔らかい柔軟性に長けた身体は木や岩を投げつけられても大したダメージを受けずに弾き返してしまう。 業を煮やした”彼”は肉弾戦を仕掛けたが、逆に大ダコの足に絡め捕られてしまった。 そのまま”彼”は大ダコに力任せに湖へと引きずり込まれる。 ”彼”の危機にルイズは助けようと杖を抜くが、エレオノールに止められる。 水の精霊を怒らせればどんな事になるか解らないのだ。 そんな事はルイズも解っている。だが、理屈では割り切れない事もあるのだ。 しかしエレオノールは譲らず、暴れるルイズの頬を叩いた。 そして、ルイズは気付いた。…姉もまた、自分の命の恩人の危機を見つめている事しか出来ないのに苦しんでいるのを。 結局、”彼”が大ダコによって湖底に引きずり込まれるのを見ている事しか出来なかった。 こうして、事件は一応の終わりを迎えた。 この日を境にルイズは一つの可能性を考える事となった。 それは”異種族との和解と共存”だった。 この後、ルイズはアルビオンで一人のハーフエルフの少女と出会い、 彼女と協力してエルフとの和解を実現させる事になる。 そして、彼女は和解成立のその後も毎日ラグドリアン湖へと通った。 何時の日にか”彼”が戻って来てくれる事を信じて…。 『終』
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ジャック・バルバロッサ・バンコランは現実主義者だ。 仮にもイギリス情報局秘密情報部―――いわゆるMI6所属の人間ならそれは当然である。 いかなる悪条件・想定外の事態に遭遇しようが冷静に、速やかに対処出来なければ自らの死を招くだけなのだから。 心霊・悪魔・魔術・超能力など論外。 「ただの人間には興味ありません。宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」 などと言うファンタジーは妄想の産物でしかない。そんな暇があるなら美少n……ではなく任務をこなす方が彼にとっては重要なのだ。 ただ、その『現実主義者』もちーとばかし無理があるんじゃないか?と彼の周囲の人間は思っている。 その原因は彼の(文字通り遥かなる過去から遠い未来まで断ち切りたいにも関わらず断ち切れずにいる)腐れ縁の相手である、つぶれ饅頭の、へちゃむくれの、顔面殺虫剤な一国の国王にある。 その国王が若くして有能なのは誰もが認めるところだ。齢10歳でありながら大学を卒業し、いくつもの発明をし、ダイアモンドで税金の徴収が必要ないほど国庫を潤わせ、世界一とも言える治安の良さ―――窃盗で死刑とか言う無茶な法律がそれに輪をかけているんじゃないかと思わないでもないが―――を維持し、世界平和の危機には自分の命を賭ける勇敢さも見せるのだ。これで無能なら誰が有能だというのだろうか。 だがしかし、それでもなお、にもかかわらず、 夏休みの工作が核爆弾だったり、自国に大量の宇宙人移民が定住していたり、天使と魔王の軍勢の争いに巻き込まれたり、バチカンの国宝を盗んだり、タイムワープ能力があったり、便秘が解消された「反動」で宮殿が大人が溺れるくらい黄金色のブツで満たされたり、体のツボを押すと目玉や耳が数十cmほど伸びたり、電球を咥えると目から映像・耳から音声の出せる映写機になったり、ゴキブリを食べるとあらゆる電波を受信出来たり、一国を挙げて悪霊大戦争をしたり、脱皮したり、『遊星からの物体X』を逆に吸収したり、内臓が気紛れを起こして移動したり、下半身に逃げられたり、etc…… するとなるとその評価はマイナスどころか1080°ぐらい回転して虚数空間へ向かって11次元を目指して反物質に変異しても足りないくらい下方修正するのが当然じゃないか? というか捨てろ常識、さよなら普通の日々、物理法則もあったもんじゃない。つーかどう考えてもここまでいくと非現実と現実が逆転しているだろうに。 とまあ、そんな天外魔境・魑魅魍魎・空前絶後の化け物であるマリネラ国王パタリロ・ド・マリネール8世にとっての数少ない友人(バンコラン本人は殺してでも否定したい)の癖に、現実主義者なのである。 だからというか、 「あんた誰?」 と、いきなり見たことの無い風景、2つの月のある空、そして目の前のコスプレをした(様に見える)桃色の髪の少女を認識したバンコランは、 『またパタリロが何か悪さを仕掛けてきたな』 だが妙だな、パタリロにしてはやることがあまりにも幼稚過ぎる。いや、そう思わせて何か伏兵を仕掛けているのかもしれん。あるいは目の前の少女が実はタマネギ(マリネラのエージェント)かパタリロの変装だろうか。しかしそれにしては美的センスが云々……としか思わなかった。 「ちょっと、黙ってないで質問に答えなさいよ」 「人に名前を尋ねるのなら自分から名乗るのが筋だろう」 「あんた、平民の分際で貴族の命令に逆らう気!?」 「貴族だというのならそれに相応しい態度を示してから命令してもらおうか」 パタリロを相手にするなら平静を保つのが肝心だ、と身に染みて思い知っているが故に普段と変わらぬ調子で切り返すバンコラン。ルイズとしては彼の心情を知るわけがないし、そんな態度は腹に据えかねるものだったが、貴族としてのプライドが人一倍高い彼女にとって「貴族らしい態度を示せ」というのは無視できない要求だ。 「……私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 平民に言い返されたという屈辱を堪え、努めて冷静に名乗るルイズ。 一方、名乗られたバンコランは困惑―――ポーカーフェイスなので表情は変わらないが―――していた。いかにパタリロの変装もとい変態・擬態が文字通り変態じみたものとはいえ、目の前にいるのは(CIAの友人が涎を垂らして飛び付きそうな)本物の少女としか思えなかった。パタリロの親戚関係にヴァリエールなどという姓はなかったはずだし、マリネラ王国のエージェントに女性はいないからだ。 となると、パタリロがどこかの町を買収(絶対に金を払わないだろうから口約束)したか、洗脳(5円玉でエージェントすら洗脳した)したか、ホログラフ(実際に作って部下を騙して遊んでいた)なのだろうか。可能性から考えれば一番妥当なのは買収だろう。だとすればあまり辛辣に当たるのも不憫かというものだ。ここはパタリロの尻尾を掴むまでは相手に合わせるのがベスト……そうバンコランは判断した。 「名乗られたからには答えよう。私はジャック・バンコラン。階級は少佐だ」 「少佐?あんた貴族なの?」 「? 何を言ってるんだ、何故軍属だと貴族になる?」 それを聞いて今度は逆にルイズが困惑する。少佐ということは目の前の男は衛士?だが何故杖を持っていない?しかも貴族でないとはどういうことだ? 「あなた……まさか、ゲルマニアの人間?」 「ゲルマン?違う、私はドイツ人ではなくイギリス人だ」 自分達のやりとりを聞いて同じように困惑しているギャラリーの中にキュルケを見つけて思いついた質問にも予想外の答えが返ってきてルイズは更に混乱した。 げるまん?いぎりす?それにどいつって……私は出身を聞いただけで名前をもう一度尋ねたわけじゃないのに。 いや、問題はそうではなく。 「ミスタ・コルベール、もう一度召喚をやり直させてください!」 「それはできません。この儀式は―――」 「で、でも平民……かどうかは分かりませんけど、人間を使い魔なんて!」 「どうでもいいが用件は手短に済ませてもらえないかな」 「ほら、幸い彼も君の使い魔になることに異存はないようだし」 有りまくりである。バンコランは別に同意したわけではなく単純にパタリロの用意したシナリオを見極めたいと思っているだけなのだから。 はあ、と溜息をついてルイズはバンコランに向き直り、そのままでは届かないので「しゃがんで」と近寄らせる。 ……よく見たらかなりの美形ね。子爵様ほど若くは無さそうなのが残念だけど、それでも「ナイスミドル!」って感じだからこれはこれでもしかしたらラッキーだったのかも。 「か、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生無いんだから!」 この契約、バンコランにとってはアンラッキー以外の何物でもなかった。 ……だってバンコラン菌のベクターなんだもの。