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『とある魔術の禁書目録』の上条当麻さんが召喚されたお話 とある魔術の使い魔と主-01 とある魔術の使い魔と主-02 とある魔術の使い魔と主-03 とある魔術の使い魔と主-04 とある魔術の使い魔と主-05 とある魔術の使い魔と主-06 とある魔術の使い魔と主-07 とある魔術の使い魔と主-08 とある魔術の使い魔と主-09 とある魔術の使い魔と主-10 とある魔術の使い魔と主-11 とある魔術の使い魔と主-12 とある魔術の使い魔と主-13 とある魔術の使い魔と主-行間I とある魔術の使い魔と主-14 とある魔術の使い魔と主-15 とある魔術の使い魔と主-16 とある魔術の使い魔と主-17 とある魔術の使い魔と主-18 とある魔術の使い魔と主-19 とある魔術の使い魔と主-20 とある魔術の使い魔と主-21 とある魔術の使い魔と主-22 とある魔術の使い魔と主-23 とある魔術の使い魔と主-24 とある魔術の使い魔と主-25 とある魔術の使い魔と主-26 とある魔術の使い魔と主-27 とある魔術の使い魔と主-28 とある魔術の使い魔と主-29 とある魔術の使い魔と主-30 とある魔術の使い魔と主-31 とある魔術の使い魔と主-32 とある魔術の使い魔と主-33 とある魔術の使い魔と主-34 とある魔術の使い魔と主-35 とある魔術の使い魔と主-36 とある魔術の使い魔と主-37 とある魔術の使い魔と主-38 とある魔術の使い魔と主-39 とある魔術の使い魔と主-行間II とある魔術の使い魔と主-40 とある魔術の使い魔と主-41 とある魔術の使い魔と主-42 とある魔術の使い魔と主-43 とある魔術の使い魔と主-44 とある魔術の使い魔と主-45 とある魔術の使い魔と主-46 とある魔術の使い魔と主-47 とある魔術の使い魔と主-48 とある魔術の使い魔と主-49 とある魔術の使い魔と主-50 とある魔術の使い魔と主-51 とある魔術の使い魔と主-52 とある魔術の使い魔と主-53 とある魔術の使い魔と主-54 とある魔術の使い魔と主-55 とある魔術の使い魔と主-56 とある魔術の使い魔と主-57 とある魔術の使い魔と主-58
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「何で月が二つあるのですかー!?」 頭を両手で抱え、演技ではないかと思えるぐらいの驚きを放つ。 「当たり前じゃない。というか何でそこで驚くのよ?」 月が二つある事になんら疑問を沸かないルイズに、いやいやいやいやありえないですからー、と言葉に合わせるかのように片手を左右に振る。 「いや、だって月は一つしかないでしょ? それともあれですか、月がなんらかの手違いで分身しちゃいましたテヘッ、とか言っちゃうんですかあんたは!?」 「知らないわよそんなの……そんな事より貴族に対してそんな口の聞き方していいと思ってるの?」 ルイズがやや怒りを篭った口調を上条当麻は無視し、一つの確信を得た。ここは今まで暮らしてきた世界とはわけが違うのを。 あの後、歩いて城もとい学校に着いた当麻は、一緒にいたルイズに状況把握の為色々聞いた。 ここは何処なのか? あんたらは何処の魔術団体なのか? てかさっきは何の術式だったのか? それはもう沢山聞き、気付けば夜に変わっていた。 その間に、なんとなくここが別世界だと感づいたのだが、ありえない! と何度も当麻は自分に言い聞かせて来た。 そしてルイズは疲れに疲れて、今の当麻の変わりやすいテンションを半ば流すようにしないと身が持たない。一方の当麻は、必死に普段使わない頭を回転し始める。 (くそっ、ええい、まさかこういう不幸フラグが立つなんて!?) 不幸その一、異世界へと飛ばされた事。 不幸その二、自分が何やら『使い魔』とされた事。 良い子の皆はその場の幸福に騙されないように気をつけるんだぞ! いや、ホントに気をつけるべきだよ……、と当麻は体験した今素直にそう思えた。 (しかし……) 当麻はちらっと右手を見る。 幻想殺し、それが異能の力であるならば、超能力であろうが魔術であろうが神様の奇跡であろうが、触りさえすれば打ち消す力。 今まで、『御使堕し』といった神レベルの術式は、当麻の知らない間に右手が打ち消してくれた。では今回の術式に関しては何故発動しなかったのだろうか? 考えられる理由としては、『御使堕し』といった術式は、対象者は全員とされている。それと違ってルイズが行ったのは当麻だけへの術式。 言うならば当麻だけを狙った魔術、故に知らず内に右手が勝手に打ち消す事はない。そして、あろう事か当麻は右手であの契約の証の術式を触らなかった。 これならば筋が通っているであろう。術式を形成したのはルイズ自身、そして当麻は右手をずっと地面につけていたのだ。 というわけで見事ルイズの使い魔にへと変わったのでした。パチパチパチ、 (じゃねぇよ! うぉぉぉぉ、神様よ! 俺が何か悪い事をしましたか!?) 『いやカミヤン自分で神様の力打ち消しとるし』 『ホント、不幸の一言で締め括るにはもったいないぐらいだにゃー』 本日二回目の登場の青髪ピアスと土御門をほって置き、受験に失敗した三浪君レベルに落ち込むのであった。 (はぁ……なんだってこんな平民を召喚しちゃったのかなぁ……) 一方のルイズはルイズで、今更ながらも自分の使い魔に不満をもった。せっかく何回も挑戦して成功したのに、その相手がただの平民だなんてショックを受けるには大きすぎる。 人前では感情を隠せるが、こういった一人きりの時はそれが出来ない。 熱いものが目から込み上がってくる。それが流れ落ちる前に裾でササッと拭き取る。 (わかってる……、こんな所でへこたれるわけにはいかないわ) 決まった事項はもう変えられない。ならばこれからを見据えればいいだけ。ルイズは一人で決心する。決して使い魔に頼るようにしない立派なメイジになろうと。 と、気付く。自分の使い魔が極大な負のオーラを発している事を。 何やら体から出てきているように見えるのが余計に怖い。ルイズはとりあえずこのままでは自分も圧し負けてしまいそうなので、声をかける。 「とりあえず私の使い魔として恥をかかないようにしてよね」 が、決して慰めの言葉は与えない。当麻を人間として扱っていないからだ。 その時、当麻の頭にいい閃きが舞い降りた。とりあえず元の世界に戻る方法は後にして、まずは使い魔についてなんとかしよう。 とりあえず契約の証であろうこの左手にあるルーンを右手で触ればいいのでは? そうすれば幻想殺しの力で消え去って使い魔という役職から解放される! ルイズから使い魔としての仕事――掃除、洗濯、その他雑用をヤレといわれた当麻にとってこれほど幸福な事はない。 「はっはっはっ、この上条当麻まだ屈したわけじゃないですよ! こちらはあんたとの関係を断ち切る切り札があるのさ、あるんだ、あるんです三段活用!」 当麻の急激なテンションの変化とは逆に、ルイズは絶えず同じ状態で小さく首を傾げた後、 「別にしてくれるならいいけど、そしたらあんた誰に養って貰うの?」 「……………………………………………………はい?」 「言っておくけど、ただの平民を貴族が養うわけないわよ」 「…………………………………………………………」 「でもまぁ私としても使い魔を変えたい思ってるから、是非やってくれないかな?」 「ルイズ様、私が悪うございました。上条当麻は是非ともここであなたの使い魔として過ごしたいとお思いです」 良い子の皆はその場の幸福に騙されないように気をつけるんだぞ! 当麻は自分のモットーにしようか真剣に悩む事にした。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「えっと、二人は幼なじみなのか?」 当麻のその一言で、二人だけの世界から現実へと突き戻された。 ……悪い事したかなー、と当麻は自分の言った言葉に多少の罪悪感を感じた。 二人は楽しそうに昔話をしていた。一緒に悪巧みをしたり、遊んだり、笑いあったり、蚊帳の外である当麻も自然と口元が緩んだ。 当麻の知る限り、ルイズはあまり笑わない人であった。恐らく馬鹿にされ続けて、本当に心を許せる友達がいなかったんだろう。 だから、ルイズにもその許せる友達がいたのだとわかって、当麻は多少なりとも安心した。 って俺はあいつの親父か……ともちろん否定的な考えも浮かべる。 といっても、やはり会話に参加できないというのはなんか寂しい。結果、後先を考えずに思わず聞いてしまったのである。 すると、二人の視線が向けられる。アンリエッタに至っては、初めて当麻の事に気付いたのか、目を丸くしている。 「あら、ごめんなさい。もしかしてお邪魔だったかしら」 ルイズは首を傾げた。 「お邪魔? どうして?」 「彼恋人でしょ?」 アンリエッタの悪意もない素の発言に、ルイズは慌てて腕をぶんぶんに振って否定の言葉を述べる。 「ち、違います! ただの使い魔です!」 「いや待て。その言い方は果てしなく俺を侮辱してるぞ」 「なによ。事実じゃない」 「わーツンツンルイズ萌え~」 なによ! とさらに音量を上げていくルイズに、当麻は萌え~としか言わない。彼が出した結論は、ミコト=ルイズという方程式が成り立った為、彼女と同じような対処をする事になった。 そんな二人のやり取りをアンリエッタはただ見守っていた。 たまらずルイズが当麻を叩こうとするが、当麻はサッと避ける。 「何避けてんのよ!」 「主の命令よりも使い魔の命の方が大事です。こればっかりはどうしようもありません」 「う、うるさいうるさいうるさい!」 アンリエッタは思わず、ふふふと笑い出した。ルイズはその笑い声にピタッと動きを止める。 その後、一瞬の内にアンリエッタの手前に移動し、膝をついた。 「ももも申し訳ございません! 王女がこの場にいるのにも関わらず!」 「いぇ、二人共本当に仲がよくって」 アンリエッタはにっこりと笑った。しかし、すぐにそれはため息へと変わる。 そういえば、と当麻は思い出す。先ほどから、アンリエッタは時折寂しげな表情を見せた。 それらは王女という役職に不満だったり、結婚させられたり、色々不自由な生活を送られていた様子であった。 当麻はこの世界の事情はよくわからない。しかし、それでも何となくアンリエッタが辛い思いをしているのがわかる。 「ルイズ、あなたに話たい事があるの。誰にも話していけません」 言った後、当麻の方をちらっと見た。 「席、外そうか?」 「いえ、使い魔と主は一心同体。席を外す必要がありません」 そして、少し悲しげな表情のまま、アンリエッタは語り出した。 その次の朝。 当麻は廊下でシエスタとばったり出会った。 「トウマさん?」 「あぁシエスタか、朝早いんだな」 いえ……、と顔を赤くして恥ずかしがっている姿を見て、当麻は疑問符を頭に浮かべる。 「というかいつもこんなに早いのか?」 「え、あ、そんな事ないですよ。ただちょっと目が覚めてしまったからつい……」 本当は言えない。少しでも当麻に喜んでもらおうと、少ない時間を使ってまで料理の勉強をしているのだと。 「えと、トウマさんこそどうしたんですか?」 「ん? 困っている人の手助けの為これから働くのさ」 へ? と思わずシエスタは聞き返してしまった。当麻は若干困りながらも、 「いやまぁ、ようは出かけるのさ」 「え? 出かけるのですか!?」 せっかく新しい料理食べてもらおとしたのに~、と悔やむシエスタ。食べてくれる人がいなければ料理は意味を成さない。 「あぁ、といってもすぐ帰ってくるし心配すんなって」 じゃあな、と手を振ってこの場を去る当麻。 「あ……」 待って、と言おうとした時には、すでに背中を向けられていた。 「遅かったじゃないか」 「あぁ、ちょっと立ち話をな」 ギーシュに質問され、そっけなく当麻は答える。 ルイズはすでに馬に跨いでおりいつでも出発できる態勢にいた。 昨日アンリエッタに頼まれた事は簡潔に言ってしまうととんでもない内容であった。 『アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子を捜して手紙を取り戻す』 一見すると、簡単な旅行である。が、実際は見事なまでに正反対の任務であった。 現在アルビオンでは戦争が起きており、貴族派が既に王党派を追い詰めていた。陥没まで時間の問題である。 そんな中、ウェールズ皇太子にアンリエッタは何やら手紙を渡していた。それを敵に見つけられるとトリステインの将来が危ういと言う。 アンリエッタが渡してくれた支給品は水のルビーと一通の手紙。いや、支給品という程でもない。会えたら渡して欲しい手紙とお守り、だ。 当麻も、知らない内に巻き込まれたという形になっていた。といっても、王女から直々に頼み込まれたら断りようがない。 では何故ギーシュがここにいるのかと言うと、ただ単に昨日の話を聞いてしまったからである。 何と言うか、わざわざ危険な任務へよく平気でいくよな……、と当麻は思うのであった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「タバサ。今から出掛けるわよ! 早く支度しちゃって頂戴!」 「虚無の曜日」 キュルケは次の日、再びトウマにアプローチをしようと部屋を訪れたのだが、既にそこには誰もいなかった。 そして窓という枠組みから視界に入り込んできたのは、馬に乗って出ていく当麻とルイズの姿。 なによー、出かけるの? とつまらなそうに呟いたキュルケは、何か閃いたのかルイズの部屋を飛び出した。 そして、今に至る。 本当はタバサが読書に集中したくて無視し続けていた部分があるのだが…… タバサはキュルケの要求をその一言で断った。取られた本を取り返そうとしたが、キュルケは本を高く掲げる。 「わかってる。あなたにとってこの日がどんな日かあたしは痛いほどよく知ってるわよ。でも、今はね、そんなこと言ってられないの。恋なのよ、恋!」 その言葉に、タバサは本当に少しだけ眉が動いた。キュルケも気付かないレベルである。 だが、ここは首を横に振った。理屈がなければ動かない。それがタバサだ。 「あぁもう! 恋したのあたし! それでその人があのにっくいヴァリエールと出掛けたの! だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの! わかった?」 再び首を横に振る。なんでそれで自分が出て来るのか、理由がわからなかった。 「出かけたの! 馬に乗って! あなたの使い魔じゃないと追い付かないのよ! だからお願い!」 キュルケはタバサを抱きしめ、泣きついた。すると、ようやくタバサは頷いた。自分の使い魔じゃないと追い付かない。うんそういう理由か、と判断した。 「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」 二人はタバサの使い魔、風竜、シルフィードに跨がってルイズ達を追った。 「剣を買いましょ」 事の発端はルイズのその一言であった。 なんでも、ご主人様を守るのだから武器の一つは持っていた方がいいとの事。 もちろん当麻は断った。魔術師、錬金術師、超能力者などといった化け物達ととある世界で戦ってきたが、使った武器といえば『幻想殺し』のみ。後は素手で戦ってきたのだ。 が、そうは言ってもルイズが信じるか? といえば、答えはノーだった。 まぁ確かにそれ以外は普通のただの人間だから、と当麻自身理解してる為、とりあえず町へ行って剣を買いに行く事になった。 「いやまさか馬に乗るってこんなに腰が痛くなるとは……」 初めて馬に乗った当麻の感想は、もう乗りたくない、だ。 そんな様子を見たルイズは、しかめつらをして喋る。 「情けない。平民はホントダメね」 「だいったい! 町に行くといって馬に乗って! 三時間かかる時点であそこはド田舎だとわたくし上条当麻は反論を述べたいと思います!」 「はいはい、さっさと行くわよ」 当麻のシャツをズルズルと引っ張っていく。 「というか町といってもRPGに出てくる町じゃないですかー、はっ、まさか俺はゲームの世界に侵入したのか、あー待ってルイズ様、とにかく引っ張らないで―――― そんなこんなで当麻達は武器屋に着いた。 「だから時間の進み方おかしい! これじゃ俺が武器屋にたどり着くまでルイズに引っ張られて延々と喋ってたみたいではないか!」 「ほら、さっさと選びなさい」 うぉ、やべ、ホントにゲームフラグなの!? とさっきまでのテンションとは正反対に、ズラリと並ぶ武器に当麻は見入っている。 ルイズは武器にもそのようにテンションを上げる当麻にも興味なさそうに、早く選びなさいよー、と伝える。 そんな二人組を見て、店の主人の目がギラリと光った。そう、カモが来たと嬉しがるように。 武器屋の主がルイズに色々と武器を勧めている間、当麻は置かれている剣を眺め続ける。そして、ふと何気なく乱雑に積み上げられた剣を握った。 そう、握った。その右手で。 忘れてはならない。上条当麻の右手は『幻想殺し』と言い、どんな力でもそれが異能の力であるなら打ち消してしまう。 先の戦いで証明されたように魔力で作られたゴーレムは当麻の右手によって崩された。 そしてもう一つ、それは上条当麻がただならぬ『不幸属性』を持っている事。 さて、とある少年のお話なら、ここで伝説と呼ばれる剣と出会い、それから使い魔の剣として生きていく事になるのだが……。 「なっ、ちょ、まて俺の出番これだけか!? うぉぉぉおおお」 『不幸』にも、すぐにご退場にとなってしまった。 錆びていた剣は、剣先から塵へと変わっていき、ものの数秒もせず完璧にこの世から消え去った。 「………………………………………………あー」 当麻は落ち着け、と何度も言い聞かせる。何が起きたかはわからないが、とりあえずとんでもない事をしたのは確かだろう。 いや、それ以前にこの店の商品を消し去ったのだ。ばれてしまったら殺されてしまう。 ギギギギギ、とロボットのように当麻は振り向く。幸い、向こうは剣の話をしていた為、こちらがしでかした事には気付いていない。 がいつ気付かれるかわからない。そう上条当麻は『不幸』なのだから。 (ならばやる事は一つしかないだろう当麻) そう、逃げるんだ。そしてこんなのはおてのものだろ、上条当麻。 ガシッ! とルイズの手を握る。 「へ……? ってぁぁぁあああ!?」 轟! と最大速度で当麻はこの領域から脱出した。 「何してんの!? 武器は買わないの!」 「買わないんです、つかもう買っちゃったじゃ済まされない事しちゃったんですコンチクショー」 幅五メートルしかない道を、涙目になりながらも走り去っていった。 もちろんキュルケ達も武器屋に入ったが、ルイズ達が何も買っていないとわかり、そのまま帰ってしまった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「いてててて……って何処ですかここはー!?」 上条当麻は不幸だった。 とある平日の学校帰り、一人だけ小萌先生の補習を受けた結果、下校時間が遅れ、早くインデックスの夕飯を作らなければゲージ3消費の超必殺技を受けてしまうー、と思いながら駆けていたはず。 はずだった。 ヤバイヤバイ、と早足から全速力へと変わった彼の視界には、召喚の鏡など見えずに中へと華麗に突っ込んだ。 そして結果がこれである。明らかに自分が暮らしてた学園都市とは違う場所。一面に広がる草原。遠くには資料で見た中世ヨーロッパ辺りを思い出される城が建っている。 と、気付く。自分の周りに見たこともない制服を着ている人達を。 「あんた誰よ」 当麻の事を珍しい生き物だと思っているのか、ジトジトと見てくる。 その中で一番当麻に近いピンク色長髪の子が声をかけて来た。 「いや……アノそもそもなんで私がこんな所にいるのでしょーか?」 確かに、我が家に帰ろうとしたらいつの間にか知らない場所へと飛ばされたのだ。当麻の言い分は尤もであったのだが…… 彼らにとってはそんな当麻の事情はどうでもよく、むしろ別の事で笑い出した。 「ゼロのルイズが平民を召喚したぞー!」 「さすがはルイズ、俺達には出来ない事をやってくれるぜ!」 「なっ、うるさい!」 ピンク色の髪の子が頬をやや紅潮に染め、野次を飛ばす仲間であろう人達に怒鳴る。 一方の当麻は当麻で、首を傾げて?マークを頭に浮かべている。 あのー人の話を聞いてくれないでしょうかと、声をかけたいのだが、いかんせん勇気がない為ただ黙ってるしか他ない。 すると、この場で唯一大人であろう中年の男性が前へ出てくる。その男性の恰好を見て当麻はここがどのような場所か理解できた。 大きな木の杖に黒のローブ。間違いない、魔術師だ。 しかし、当麻が知っている魔術団体、ローマ正教、イギリス清教、ロシア成教といった様子には見えない。今まで味わった経験とは勝手が違いすぎる。 それにこの場所は言うなら魔術の学校だと当麻は感じる。そのような場所には出くわした事がないので、もう少し様子を見る事にした。 「あなたが最後なのです。早く契約の証を行いなさい」 「ミスタ・コルベール! もう一度やらしてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「でも平民ではないですか!」 「それでも、だ。召喚された者がいかなる者であろうと、呼び出された以上君の『使い魔』にならなければならない。さっ、早くしないと次の授業が始まります」 自然と当麻の耳に会話が流れ込んでくる。正直よくわからないのが本音だが、一つだけ言える事がある。 絶対不幸な事が起きる、と。 なんら確証もないが、これだけは断言できた。 早くしろーと野次を飛ばしてくる人を、ルイズと呼ばれた少女はキッと睨み、その後ため息をつきながらも当麻の方を見る。 「あんた、感謝してよね。こんな事平民は絶対に受けないんだから」 「って一体何をする気なんですかー!?」 この時当麻は後悔した。様子など見ずに事情を聞くべきであったと。いや、まさかこちらの話を聞く気がないとは予想外である。 しかし、もう遅い。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 小さな杖を当麻の目の前で振りながら呪文らしき言葉を紡ぐ。 「って説明無しですか!?」 未知なる行為にやや恐怖しながらも、普段当麻が戦って来た魔術師とは違うので、抵抗をしようとは考えなかった。というか考える余裕がなかった。 と、杖を当麻の額に置き、徐々に顔を近づけてくる。 ルイズフラグを立てた覚えはないぞーと叫ぼうとしたが、 「ああもぅ! じっとしてなさい」 と、怒りが篭った声の前に当麻は平伏す。 分かる。この漫画ちっくな展開はあれしかない。 当麻はルイズが何をしようとするのか直感で感じる。が、それは男にとって最高な行為、不幸の人生を生き抜いた当麻にとっては喉から出る程である。 そして予想通り、二人は唇と唇を交わした。 『だー――、カミヤンがキスをしよったで!?』 『にゃー! 他の人達のフラグを捨ててまでこの子を選ぶのかにゃー!?』 なんか聞こえてるが、当麻はルイズとのキスを喜ぶ。恥ずかしさうんぬんよりも純粋に『幸福』が奮い立たせたのだ。 だって考えて見よう。いきなり何処か知らない場所に飛ばされるという『不幸』の代わりに、女の子とキスをするという『幸福』が舞い降りたのだ。ちょっとはやられてみたいだろ健全な男なら、うん。 やがて何分経ったかわからないキスはルイズから離れる事によって終わりを告げた。顔を真っ赤にしながらも中年男性に伝える。 「終わりました。あっルーンが刻まれるから気をつけてね」 「ん? ルーンって確かステイ、アチチチチ」 ルと言い切る前に当麻の体が熱くなり痛みを伴った。 「くそっ、こういうオチがあるとはこの上条当麻、一生の不覚ってアチィィィイイイイ!?」 「あーもうすぐ終わるからちょっと我慢しなさいよ」 ルイズが呆れ気味に応える。確かに熱いのは一瞬で、体は普段の状態に戻った。 と、痛みから解放され地べたに座り込んだ当麻を、コルベールと呼ばれる男性が近寄ってくる。 なんなんですかー!? と焦る当麻を無視して左腕の甲を確かめる。 「ふむ、珍しいルーンだな。ちょっと調べてもいいかな?」 「あ……別に構いませんが」 「ありがと。わかり次第すぐに教えるからね。では皆教室に戻るぞ」 コルベールとルイズ以外の生徒たちは皆宙に浮いた。さすがの当麻もこれには動揺が隠せない。 が、生徒たちはそんな当麻に気にかけるまもなく、代わりに、 「ルイズ、お前も飛んでこいよ!」 「ゼロのルイズには無理無理」 「あなたみたいな人平民がお似合いよ!」 当麻でも理解出来るようにルイズの事を馬鹿にしながら去って行った。 残された二人、ルイズは当麻の方を向き、 「あんた、一体なんなの?」 「まぁそれ込みでゆっくり話せるっぽいな。とりあえず、歩いて行く?」 と、ルイズのこめかみに血管が浮かび上がった。 「う、うるさいっ! さっさと歩くわよ!」 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 そう、それはもう魔術と呼べる代物ではなかった。 科学で作り上げた、直径一メートルはあるであろうレーザー兵器に近い。今まで見たことがない純白の、輝かしい光が襲い掛かった瞬間、当麻は迷わず、いつもと変わらずに右手を前に突き出す。 突き出すしか彼には方法がないのだ。 じゅう、と熱した鉄板に肉を押し付けるような激突音。 しかし、痛みも熱も感じられない。幻想殺しが全てを防いでいるのだ。 それでも消し切れない。光の柱は消えるような面影が見えない。 (くっ……確か……これはっ……) じりじりと、足が後ろに下がっていく。防ごうと、全身の力を足にへと注ぐ。 もう数秒過ぎている。消しても消しても、消し去ることはない。 そう、当麻は覚えている。この魔術は幻想殺しで防げないのだ。 幻想殺しの処理能力が追い付かない程の質量を放った魔術。当麻の記憶通り、じりじりと痛みを感じて来た右手を、左手で掴む。 わかっている。この魔術は打ち消す事が出来ない。せいぜい時間稼ぎだ。 ならば……と当麻は叫んだ。 「頼む! 俺の力じゃこいつを防ぎ切れない! この間にもあいつを攻撃してくれ!」 当麻の声に、三人の意識はフーケへと降り注がれる。 再びタバサは風の魔法、キュルケは炎の魔法、遅れてルイズの失敗魔法が放たれた。 が、どれも直撃する前に本の迎撃術式が発動して防がれてしまう。 ルイズにいたってはフーケのちょっと隣の所で暴発した。 「ちょっとルイズ! ちゃんと狙いなさいよ!」 たまらずキュルケが怒鳴る。ルイズは唇を噛み締めた。 「狙ってるわよ! でも当たらないのよ!」 「当たらないのよ! じゃないわ! あなたの使い魔を見なさい!」 キュルケは当麻を指差した。いや、指さなくても既に視線は向いているのだが…… ただ、当麻の方をちゃんとよく見ていなかったのだ。 そして、その姿をはっきし見て、思わず「あ」とルイズの声が凍り付く。 『――いてててて……って何処ですかここはー!?』 出会いは最悪だった。自分が期待していたのよりも遥か下のランク外で。 『――俺も自分の主が馬鹿にされたのを黙って見ていられなかっただけさ』 だけど違う。過ごして来てその考えは変わった。 『――お前がまだ何かに対して絶対無理だと思ってるならな……まずはその幻想をぶち壊してやる!』 その少年は『強い』と純粋に思えた。 『――そういう事です。異能の力なら例えどんな事でも打ち消しちゃう右手なのです』 今でもその背中は大きい。自分達を何がなんでも守ろうとする意志がある。 が、実際はボロボロであった。自分達よりも、何倍も、ボロボロになっていた。 「わかってるの!? 私達は当てなきゃいけないのよ!」 キュルケの声は震えていた。悲しみと、恐怖が混ざり合わさった感情を表面に出しながら再び魔法を唱える。 だけど、ルイズには何が出来るのだろうか? 発動させる事も、当てる事もままならない。そんな自分が本当に必要なのだろうか? 使い魔がこんなにも頼れる存在なのに……と思っていると、 「ルイズ!」 その使い魔が主の名前を呼んだ。 (くそっ! どうすりゃいい!?) 俄然向こうの魔術は衰えず、むしろ勢いがましてゆく。 手首がグキリと嫌な音を発した。それでも、耐え続ける。耐え続けながら考える。 今が無防備であるフーケ本体にあてようにも、迎撃術式が自動で発動してしまう。 最強の盾と最強の矛を装備しているフーケ。何か、何か手は!? と必死に手掛かりを探していた当麻にある閃きが思い付いた。 最初に放った魔法。確かその時、ルイズの魔法だけ迎撃術式が発動しなかった。 今もタバサとキュルケが魔法を放っているが、ルイズはそれ一回きりだ。 実際発動しなかった理由は考えられる。事実当たらなかったとか、そもそも魔法ではないとか。 しかし、それでも百パーセント防がれてる魔法と、可能性がある未知なる魔法、比べるとしたらどちらに賭けるべきなのか言うまでもない。 ビキリと、一本の爪に亀裂が入り、血がどくどくと流れるが気にしない。 『――あんた誰よ』 出会いは最悪だった。ちなみにキスは最高であったが。 『――み、見直したなら早く片付けて頂戴! ちょっとペース落ちてるわよ!』 ゼロと呼ばれ続けて努力してきた主。それは誇るべき事。 『――何いってるの! 平民は絶対メイジに勝てないじゃない!』 自分の事を心配してくれたその少女を『強い』と思えた。 全てはその主に任せる。今回だけは、当麻はゼロである事に感謝を覚えた。 「ルイズ!」 一人の使い魔と、一人の主が交差する時、物語は始まる――! 「な、何よ!」 「お前の魔術ならあいつにダメージを与えられるかもしれない! やれるか!?」 当麻は振り向かない。今だけは、今だけは使い魔と主という関係を断ち切る。 当麻は求めている。『成功』の魔法ではなく、『失敗』の魔法を。 そしてそれはルイズにしか放てない。 「えぇ……。でも当たらないかもしれないし……」 「おぃおぃ勘弁してくれよ」 バキッ、と二本目の爪に亀裂が入ろうとも、当麻は気にせずにいつもの口調を繰り返す。 「お前は今までの努力を信じないのかよ!」 当麻は再び叫ぶ。何度でも、何度でも叫ぶ。 「大丈夫だ! お前なら出来る!」 当麻は諦めない。何が起ころうとも絶対に。 「俺を召喚したお前に! 当てられないわけないだろ!」 ルイズは気付く。この姿に憧れていたのだと。何があっても、絶対に諦めないその気持ちが。 二人の震えがいつの間にか消えている。もう、恐怖はない。 「とっくにプロローグは終わってんだ! 後は踏み込むだけだぜ! ルイズ様!」 三本目の爪に亀裂が入り、ピキッ、と骨からよろしくない音が聞こえた。 その瞬間、ルイズは再び魔法を詠唱した。一回きりのワンチャンス、祈るように杖を振った。 ボン! と小さな爆発がフーケの足元で起こった。 「なっ!?」 完全に防御の概念を捨てたフーケはバランスを崩して、放たれる方向はずらされる。その結果、光の柱は消え去った。 その隙を当麻は見逃さない。 ドン! と地面から一気に離れて跳躍する。 まだ後十何メートルは残っている。それでも、あの本を破壊するのは当麻にしか出来ない。 幻想殺しを持つ当麻にしか。 「くっ」 体勢を立て直し、再び本に魔力を込めた。 瞬ッ、と氷の風の刃が襲い掛かる。 「うぉぉぉぉおおおおッ!!」 痛みで感覚が麻痺している右手を盾にする。顔や体といった重要部分だけを打ち消したが、残りは切り刻まれる。 肩、ふともも、腕から血がブシャッ、と噴き出る。それでも、それでも止まる事を知らない。 「なっ……」 フーケの額にはいつの間にか汗が出ていた。 あれも防がれた。ならばどの魔法を放てば? 先程のでかいのはもう時間がない。 では何を優先すべき? 量? スピード? フーケはこの局面で、放つ魔法に悩んだ。全てを彼は打ち消してしまうのでは? という錯覚に陥ってしまったが故に。 その間にも二人の距離は縮まる。 (あいつがくれたチャンスを) 残り距離僅か、当麻は思いっきり文字通り、飛んだ。 (無駄に出来るかぁぁぁぁあああああッ!!) 自分の右手に全ての力を注ぎ込み、拳を握り締める。この一撃に全てを、己の生命すらも預ける。 この先にあるハッピーエンドを迎える為に、当麻は拳を振るう。 (ダメ……まにあわな――) 結局答えが出ずに何も出来ないフーケ。 その瞬間、ベキッ! と何かが破れるような音がして、ゴガン!! という壮絶な激突音が響いた。 フーケの体が数メートル吹っ飛び、さらに数メートル転がる。 シーン、とした静寂がしばらく続く。起き上がる様子はない。また、全ての力を使い切った当麻もまた倒れ込む。 この戦い、仲間と一つの武器を信じ続けた者が、勝利した。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「「幻想殺し(イマジンブレイカー)?」」 二人の女性の声――シエスタとルイズの声がシンクロする。 「そういう事です。異能の力なら例えどんな事でも打ち消しちゃう右手なのです」 その持ち主、当麻が補足として加えた。あの後ギーシュは当麻に対して降伏し、決闘は誰しもが予想出来なかった結果にへと終った。 その為、当麻の知名度は『ルイズの使い魔の平民』から『メイジを倒した使い魔の平民』へとランクが上がった。 また、あの広場でのルイズに関する発言もあってか、ルイズに向かって馬鹿にする声がかなり減った。恐らく、ギーシュのようになりたくないという思いからであろう。 そして授業が終った後、部屋へと戻った二人は、先のとある騒動の一因であったシエスタを迎えて、先のギーシュのゴーレムをどのようにして倒したかを当麻は説明したのであった。 二人はあまりの事に驚きを隠せなかったが、本人がそう言うのだから、と思って無理に納得する。と、ルイズはある事に気付く。 「待って、つまり右手で触らなかったら意味がないのよね?」 「そ、その辺がこの能力の欠点もあるんだよね」 「じゃあアンタはそれだけを頼りに決闘を挑んだの!?」 突然のお怒りのルイズに、当麻は面を食らったように目をパチパチさせ、 「え……なんかおかしい?」 と、あくまで素の疑問を浮かべた当麻。ビキィ! とルイズのこめかみから変な音がした。 「あ、当たり前じゃないの! 今回はたまたまよかったけどもしかしたら大怪我を負ったのかもしれないのよ!?」 「いやまぁその辺は上条当麻様の緻密でかつ完璧なる作戦通りの展開を行った結果がこうであり、……気にしなくてもいいんじゃね?」 「気にするわよ! アンタは私の使い魔なんだから!」 うがー、と下手したら襲い掛かってくるルイズを半ば流すようにして、先程から俯いているシエスタに話し掛ける。 「ん? シエスタ大丈夫か?」 「すみません……」 小さく泣きそうな声にルイズと当麻は耳を傾ける。 「私があの時香水を拾わなければよかったのですよね……ミス・ヴァリエール、トウマさんを怒らないで下さい。私のせいです……」 「あ、いや別に……」 どう返事をしたらいいか言葉に詰まったルイズに、当麻はため息を吐いた。 「あー気にするなって、ていうかシエスタは何も悪い事してねぇだろ? それなのに悪者扱いされる方がおかしいっての」 「でも……」 「だー! でももへちまもかかしも何でもないっての! いい事をしたの、学園長さんから表彰されちゃったよ、ラッキー、みたいないい事をしたの!」 「はい……」 「あーもう何ですかそのラストのラストでバッドエンドへいってしまったような落ち込み具合は! こっちまで悲しくなっちゃいますよ」 「トウマ、あんた言ってる意味がわからないよ」 なぬ!? はっ、ここは日本文化(オタク)ではないのかー! と二人には理解出来ない単語を発してる当麻に、シエスタは笑みを取り戻す。 「はい、そうですよね。トウマさん! ありがとうございました!」 「お、おう。というか感謝されちゃったって事はなんか不幸フラグが立てられたようなー!?」 何か起きるのではないかと危惧してる当麻に、ルイズはあ、そうだ。と思いだし、洗濯物を渡した。 ギーシュとの決闘からはや一週間が経ったとある日。 当麻はいつも通り(といっても一週間しか経っていないが)の朝を迎えた。床という最低ランクから、シエスタから貰った藁を敷いてのグレードアップを果たした当麻の寝心地は悪くない。 まぁ、彼にはとある日からの『思い出』の記憶がないのだが、硬い岩場で寝たという『感覚』を持っているので、むしろ全く苦ではなかった。 普段から当麻は学校へ早めに登校していた為、ルイズより先に起きるのはごくごく自然な事である。 軽く欠伸をして、体を覚醒させようとストレッチをした後、ネグリジェ姿でスゥスゥという、小さな吐息を立てて寝ているルイズを起こす。 当麻はここに来る前に同じような経験を毎日体験していたのだが、やはり慣れるものではない。が、これは不幸ではないのでオールOKと自分に言い聞かせる。 起こされたルイズは下着をつけ、制服を当麻に着さしてもらう。これもやはり慣れようがない。が、これもまた不幸ではないのでオールOKと自分に言い聞かせる。 その後、ルイズは朝食を食べに、当麻はルイズの洗濯物を洗う事になっている。もちろん洗濯機がないこのご時世、普通の人間なら手洗いなどしないのだが、 当麻は違った。 どういった『思い出』があったかはわからない(大方不幸の一環だろうと理解はしているが……)。しかし、これまたどのように手洗いをすべきか『知識』は得ているので、これまた苦ではならない。 くどいかもしれないが、これも女性の下着を洗う事に抵抗感はあるが、これまた不幸ではないのでオールOKと自分に言い聞かせてる。 そう、つまるところ普通に使い魔として仕事をしているのだ。この時、当麻は今までの『不幸な体験』が役立ったなーと純粋に思えた。 働かざる者食うべからず、一生懸命朝から働く当麻は、平民用の朝食では圧倒的足りなかった。また、ルイズから朝食を貰おうにも朝は時間の都合上あわない。 その為、どうしよかなーと悩みを抱えていたが、それはすぐに解決された。 どうやら、ギーシュの決闘のおかげで厨房で働いている平民から大人気を得たのだ。やはりと言うべきか、彼らも貴族に対して不満はあったらしく、スカッとしたらしい。なのでよく訪れてはご飯を貰ったりする。 その中にシエスタが作った手料理もあるが、特に気にせず当麻は食べっちゃったりする。 とまぁ厨房で本当の朝食を食べた後、当麻は授業中のルイズと合流し、お供を努める。が、補習万歳の当麻にとっては何を言っているのかさっぱりである。 時々隣にいるルイズに質問する事もあれば、簡単な昼寝をしたり、ペン回しに走ったりもする。 それが当麻の日常であった。 しかしながら、肝心の元の世界に戻る方法は見つからない。手掛かりの「て」の文字すら見つからない当麻は、内心どうやったら戻るんだーと泣いちゃったり。 尤も当麻の不幸はこんな程度では済まされない。 それは当麻の一日を紹介した今日の夜に起きた。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 とある少年のお話なら、ここでミスタ・コルベールが左手のルーンの文字を解読し、学園長室へと報告する。 が、こちらの少年のお話は、解読出来ずに話が進んでいくのであった。 「なんでこんな目にあわなきゃならないんですか!?」 「うるさいわね、早く片付けなさいよ」 あんたのせいでしょーが! と、主に不満をぶつけるが、ルイズは黙ったまま机を拭く。 授業が始まり、当麻はやる事がないため話を聞く事にした。 その途中当麻のについての話になった結果、クラス中が笑いに包まれ、ルイズが怒るというトラブルもあったが、他には問題なかった。 しかし、その講義内容に少しでもこの世界についての情報を知ろうと思い、ルイズに質問をぶつけた。 すると、話をしているのをシュヴルーズ先生に気付かれ、ルイズは『錬金』の実演をする事になった。 その結果がこうである。 呪文の対象となった石は机ごと爆発。その爆風によってシュヴァルーズ先生は失神し、辺りは一時騒然とした。 もちろん授業は中断、罰としてルイズは昼ご飯までにこの教室を片付ける事になったのだ。 といってもほとんど当麻が仕事をしているのだが…… (ゼロってそういう意味だったのか) 何かある度によく聞くゼロのルイズ。まさか魔法の成功率がほとんどゼロだから、とは思わなかった。 故に何故馬鹿にされ続けたのか納得できた当麻はルイズに話しかけてみる。 「なぁ?」 ピクッとルイズの肩が震えた。 「……何よ、馬鹿にでもする気?」 ルイズがこちらを向く。僅かばかり泣き顔に変貌していたのに当麻は言葉を詰まらせた。 「あーいや、そういうわけじゃないけど」 「ふん、口ではそう言ってるけどホントは馬鹿にしたいんでしょ?」 「違うって……、……お前の事見直したんだよ」 え? と、予想外の言葉を聞き呆然としてるルイズに当麻は続けた。 「今まではただの生意気少女だと思ってたけどさ、頑張っているんだよな」 当麻は、とある学園都市で無能力者(レベル0)という認定を受けた。 しかし、彼には『幻想殺し』という特別な力を持っていた為、周りからなんと言われても気にしなかった。例えそのような力を持っていなかったとしても、特に変わらなかったであろう。 「周りからゼロのルイズって馬鹿にされ続けて、そいつら見返してやろうと努力し続けたんだろ?」 当麻は土御門という少年を知っている。上からの命令の為に魔術の才能を失い、超能力も無能力(レベル0)扱い、つまるところ全てを失った。 それでも戦場に身を捧げた。死に物狂いで努力し、努力しても辿り着けない領域は法則に反して得た反則技を用いて。 当麻は当夜という父親を知っている。息子である当麻の不幸をなんとかさせようと、必死にお守りやらを集めて努力していた。 「そんなお前をどうして馬鹿に出来るんだ?」 そう、自分がいかに恵まれている事を、ルイズとよく似た境遇の人物を知っているからこそ、彼は他の人とは違う言葉を吐き出す。 突き付けられた現実に抗うその姿を何回も見た当麻だからこそ言える言葉。 本心から出た言葉に、偽りなどなかった。ルイズは返す返事もなく、ただ顔を伏せる。今まで馬鹿にされ続けたが、始めて褒めてくれた人が現れた。 自分の努力を、気付いてくれた人が。 嬉しい。表情に出て来る程嬉しい。故に顔を隠す。そして一言、 「み、見直したなら早く片付けて頂戴! ちょっとペース落ちてるわよ!」 「ってどさくさに紛れてサボってんじゃねえか!? ここは主が前に出ないと使い魔は後に続きませんよ!」 「う、うるさいうるさいうるさい! お、女の子なんだからいいの!」 「男女差別を利用するのはどうかと思います!」 こういった関係なら悪くないな、と当麻は思った。 昼休みには教室の片付けが終わった(大方当麻が行った)ので食事の時間となった。 といっても当麻の昼食は安っぽいスープに固いパン二切れ、当麻にとってはおやつレベルなのがやはり辛い。と、そこに 「さっきの片付けの褒美よ」 肉を渡してくれるルイズがいた。サンキュと言い、朝ごはんへとグレードアップした食事を一瞬で平らげると、暇つぶしにと食堂を探索し始めた。 すると、左手に大きな銀のトレイを持ったメイドの恰好をした女性を見つけた。トレイにはデザートであろうケーキが並んでいる。 右手にははさみを持ち、一人で貴族達に配っていく。ぱっと見大変そうである。なのに手を貸す様子は誰からも感じられない。 当麻はそんな貴族もとい魔法使いの態度に不服に思いながら、メイドの子に声をかけた。 「あの、大丈夫ですか?」 「え……あ、はい。えっとどなたでしょうか?」 心配される事に驚きを感じている様子である。 「あ、上条当麻です」 「カミジョートウマ……あ、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になっていう」 「えっと、そうですけど有名なんですかね?」 「えぇ。召喚魔法で初めて平民を呼んだということで」 女の子はにっこり笑った。今まで味わった事のない、優しい笑顔に当麻は少しドキッとした。 「それでまぁ、大変そうだから手伝おうかな思って……」 「あ、えと……いぃんでしょうか」 女の子の顔が徐々に赤く染まっていく。 「トレイを代わりに持つぐらいしか出来ませんけどね」 上条の好意に、再び笑みを浮かべる。 「ありがとうございます! あ、私シエスタと言います」 シエスタはトレイを当麻に渡すと、再びケーキを貴族達に配るのであった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 さて、そんな風に馬鹿騒ぎしている当麻達と同じ時間、 アルビオン貴族派の皇帝クロムウェルは、ウェールズを生き返らせていたりした。 しかし、そんな事は全く予想だにしていない一行であった。 まだ物語は続く…… とある魔術の使い魔と主 魔法学院へと戻った次の朝からルイズは変わった。 一言でいうなら当麻に対して優しくなったのだ。そうはいっても、普通に人間としての扱いを受けたというレベル。 どこがどう変わったかという事で、当麻の一日を見てみよう。 まず目が覚めた当麻は、ルイズを起こす前に、水が入った洗面器を用意する。朝、顔を洗う為である。 しかし、個々の部屋に水が引いているわけがなく、下に行って水道水から冷たい水を貰っている。 そして、ようやくルイズを起こすと当麻は水を掬う。顔を洗うのも当麻の仕事なのだが…… ルイズは眠たそうに目を擦るのだが、体を動かさない。 どした? と聞く当麻に対し、ぼんやりとした表情のまま口を開いた。 「そこに置いといて。自分で洗うから、いいわ」 「そっか、自分で洗うのかー……って、え?」 当麻は、ルイズの言葉に驚きを隠せなかった。 「自分でやる」なんて使い魔に見事就任してから一度も言った事がないし、言おうともしなかったのだ。 「自分で……洗うのか?」 聞き間違いかもしれないと思い、ルイズに聞いてみる。 すると、ルイズは不機嫌そうに横を向いた。口を尖らせ、頬を赤く染めている。 「自分で洗うから、いいの。だからほっといて」 ルイズは、当麻をうんしょ、と洗面器のある所から押し出す。当麻はされるがままに身を任せた。 ルイズは洗面器に手をいれ、水を掬うと思いきり顔を振って洗った。水が盛大に飛び散る。 「お前、顔を動かして洗うタイプなんだな」 何気ない一言に、洗ったはずの顔が、赤いインクを塗られたかのように再び染まっていく。 恥ずかしながらも、ルイズは怒った。 「べ、別にいいじゃない! わたしがどう洗おうと勝手でしょ!」 「いや、まぁそうだけどさ……」 世間話のつもりで話した為怒られるとは思わず、髪をかく。 その後、クローゼットまで足を運ぶと、下着を取り出してベッドに置く。 このままルイズの着替えを見ていると、犯罪者になってバッドエンド直行になってしまうので、当麻は体ごと視線を他に向ける。 顔を洗い終わったルイズは、下着にへと着替える。その間に当麻は制服を手に持って着させる準備をした。 頃合いを見計らって、視線をルイズへと持っていくと…… なぜか下着姿のルイズは、慌てた顔になって、ベッドのシーツに包みこもった。 「服、置いといて」 ぴょこっと顔だけシーツから出して言った。 おかしい、と当麻は思う。いや、これが普通の年頃の女の子が起こす当然の反応なのだが、 なにぶん今までのルイズとは真逆だったから故に、当麻は不思議に感じる。 「あの姫さま? 自分でやるのでありましょうか?」 当麻の質問に、う~~~~と唸りながらも睨んだ。 多分、いいから置けと言っているのだろうと解釈した当麻は、制服をルイズの目の前に置いた。 「……向こうむいてて」 「ん?」 「向こうむいてなさいって言ってるの!」 ボフッ、と当麻の顔に枕が投げ付けられる。見ると、ルイズの顔は湯気が出てきそうなまでに真っ赤っ赤に染まっていた。 当麻はなんだなんだー!? とルイズの変化に驚きながらもちゃっかり背中を向けたりする。 普通ならここでルイズが異性としての意識を持ち始めたのでは? と思ってもおかしくないのだが、 (あいつ、変なものでも食ったのか?) どこまでも鈍い当麻だったりする。 もちろんこれだけで終わるはずがなかった。 朝食、今回は洗濯を後回しする事になり、先に食べる事になった。 いつも通り、指定された床に向かったのだが…… そこには食事が何一つなかった。 あれ? と当麻は首を傾げる。まさか集団いじめが起きているわけがあるまい。 それとも、使い魔という立場なので、飯抜きとなったかもしれないという。しかし、その考えはすぐに違うと断言できた。 飯抜きという事は、何かしらの罰がなければならない。しかし、当の本人はそのような事をした覚えがなかった。 事情を聞こうと、ルイズに視線を向ける。視線を感じたルイズは口を開く。 「今日からあんた、テーブルで食べなさい」 「……え?」 まただ、と当麻は思った。思いがけない発言に当麻はただ困惑するばかり。 「姫、何をわたくしに求めているのでしょうか?」 「いいから。ほら、早く座って」 いつも以上にかしこもった態度をとるが、ルイズはただ当麻を促すだけ。 仕方なく、当麻はルイズの隣に腰掛ける。普段、家で食べるときはちゃぶ台で食べていた為、居心地は良いとは言い切れない。 すると、いつもそこに座っているかぜっぴきのマリコルヌがあらわれて、主のルイズに文句を言う。 「おい、ルイズ。そこは僕の席だぞ。使い魔を座らせるなんて、どういうことだ」 ルイズはきっとマリコルヌを睨んだ。 「座るところがないなら、椅子を持ってくればいいじゃないの」 「ふざけるな! 平民の使い魔を座らせて、僕が椅子をとりに行く? そんな法はないぞ! おい使い魔、どけ! そこは僕の席だ。そして、ここは貴族の食卓だ!」 当麻は困る。極論を言えば床に座って食べても問題がないので、別にどけと言われたらどいてもいいのだ。 しかし、立ち上がろうとしたその時、ルイズが当麻の裾をちょんちょんと引っ張って制止をかけた。 どうやら主はそうなって欲しくはないようだ。確かに当麻はこういったタイプの男はあまり好きではない。 めんどくさいが仕方ないか……、とため息を吐くと、やや震えているマリコルヌの目の前へと立ち上がる。 「あーじゃあ決闘しますか? 席を賭けた決闘。確か平民と貴族が決闘しちゃいけない法はありませんでしたよね?」 当麻の不敵な笑みにマリコルヌは一歩下がる。 ギーシュを倒し、あのフーケをとっ捕まえた当麻はただの平民ではない、ということはすでに学院中の噂になっているのだった。 おまけに、ルイズ達と数日学院を留守にしている間に、なにかとんでもない手柄を立てたらしい、ということさえ昨日の今日なのに噂されていた。 だからマリコルヌにはそんな当麻が恐ろしく強い人間だと感じた。そんな人間に決闘を申し込まれたら勝ち目がない。 「ないけど、いい。僕が悪かったですはい」 マリコルヌはすぐに首をぶんぶんと勢いよく振って否定した。 「じゃあ早く取りに行っちゃおうぜ? もう始まるしさ」 そう言うと、マリコルヌはすっ飛んでいった。 これでいいのか? と聞く当麻にルイズはそっぽを向いて無視するだけであった。 (不思議だな……) そういえば御坂もこんな風によくわからない態度をとったりする。 (まあいっか、飯だ飯) しかし、それは当麻にとってどうでもいい事だったりしちゃったりする。 授業が始まる前、ルイズの周りにはクラスメイトで一杯であった。 この数日間、何かとんでもない冒険をして凄い手柄を立てたらしい、との噂が今一番の話題であった。 裏付け証拠に、魔法衛士隊の隊長と出発するところを何人かの生徒たちが見ていたのである。 何かがあるに違いない。そう思ったクラスメイトたちは聞きたくてしょうがなかった。 しかし、朝食の席には教師達がいるので遠慮していた為、今爆発したのだ。 「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んでいったいどこに行っていたの?」 クラスの代表者として話しかけてきたのは、香水のモンモランシーであった。 腕を組んで、いかにも偉そうな立場をとっている。彼らは既に席に座っていたキュルケやタバサに同じ質問をぶつけたが、 タバサはただ本を黙々と読むし、キュルケも優雅に化粧を直している。すなわち、何も喋らないのだ。 一方のギーシュは二人と違う。 きみたち、ぼくに聞きたいかね? ぼくが経験した秘密を知りたいかね? 困ったウサギちゃんだな! あっはっは! と呟くなり足を組み、人差し指を立てていた。 思いきり調子に乗っている。このままで何かも喋ってしまうので、ルイズは人込みをかきわけて、頭をひっぱたいた。 「なにをするんだね!」 「口が軽いと姫さまに嫌われるわよ。ギーシュ」 自分が好意を抱いているアンリエッタを引き合いに出されたギーシュは、黙るしかなかった。 そんな二人のやりとりを見て、ますます好奇心を隠せないクラスメイト。ギーシュも喋らない今、最後の希望はルイズである。 「ルイズ! ルイズ!」 「俺たちのルイズ! 教えてくれよ!」 「一体」「何があったんですか!?」 「誰だ今の腹話術!? 案外うまいぞ!」 「ル~イ~ズ~(×6)」 「待て待て、今のハモり完璧過ぎるぞおい!」 わいわいがやがや、と教室全体を巻き込むかのようにテンションが上がっていく。 しかし、ルイズは澄ました顔で「なんでもないわ。ちょっとオスマン氏に頼まれて、王宮までお使いに行ってただけよ。ねぇギーシュ、キュルケ、タバサ、そうよね」 と三人に振った。なんというか、怖いもの知らずである。 キュルケは意味深な微笑を浮かぶだけだし、タバサはじっと本を読んでいる。 ギーシュだけが頷いたが、そんな事はクラスメイトにとってはどうでもいい事である。 テンションがすっかり落ちたクラスメイト達は、やめだやめだといった感じに自分の席へと戻っていく。 ルイズの言動に腹を立てた人もいたらしく、負け惜しみを吐き捨てた。 「どうせ、たいしたことじゃないだろ」 「そうよね、ゼロのルイズだもんね。魔法のできないあの子に何か大きな手柄が立てられるなんて思えないわ! フーケを捕まえたのだって、きっと偶然なんでしょう? あの使い魔が助けただけじゃないかしら?」 見事な巻き毛を揺らして、モンモランシーが嫌味ったらしく言った。 流石のルイズにもこれにはカチンときた。しかし、実際そこまで活躍していないのも事実である。 きゅっと唇を悔しそうに噛み締めるが、それだけであった。 ちなみに手柄を立てた当麻は、不幸にも朝食で当たった腹痛の為、ベッドに寝込んでいた。 「だー、不幸だ……」 当麻はそう呟くと、藁で作られたベッドに身を預けた。 コルベール先生の授業を休んだ上に、腹痛も治って教室に戻ったら、ルイズがいつも通りやらかしたのだ。 しかも今回は油のせいで、余計に教室の中は惨劇であり、片付けにも時間がかかった。 もっとも、ルイズも以前よりかは手伝ってくれたおかげで、心なしか少し楽のように感じたが、 それは気持ちの問題で、体は正直である。 体の筋肉が悲鳴をあげる中、当麻は立ち上がる。就寝時間の為、ルイズの着替えを取り出そうとしたが、先にそのルイズが着替えを取り出したのだ。 ポカンと口を開けている当麻を他所に、黙々と作業を続ける。 ルイズはベッドのシーツを天井から吊り下げ、簡単なカーテンを作り上げた。 そして当麻の視界に隠れるような位置で、がさごそと着替え始めたのだ。 当麻としては、不幸の中の幸福だーと喜ぶだけである。その間にもカーテンが外された。 ネグリジェ姿のルイズが現れ、早速ベッドに横たわった。 机に置かれたランプの明かりを、杖を振って消す。窓から差し込む月明かりがなんともまあ綺麗であった。 少しでも体力を回復をしようと思った当麻はすぐ寝よ、と思い目を閉じる。 と、ルイズががばっ! とシーツごと身を起こし、当麻に声をかけた。 「ねえトウマ?」 「ん?」 しばらくの沈黙、ルイズは顔を赤くして言いにくそうにしているのだが、当麻にはわからない。 「どした?」 再び聞かれた当麻はビクッと体を跳ね上がらせた。 「えと、その……いつまでも、床ってのはあんまりよね。だから……その、ベッドで寝てもいいわよ?」 「全力で断らして頂きます」 当麻はピシャリと遮った。ルイズは思わず肩をずるっと落とした。 「な、な、な……べ、別に構わないのよ」 「いやまあ、ぶっちゃけちゃうと普段からこうやって床に寝慣れちゃって、ベッドとか苦手だったりそうであったり」 本当は健全な男子がそのようなエロゲ展開を望んでいると言えばそうなのだが、何とか自制心が欲望を押さえ込んだのだ。 やるな、上条当麻 「そ、そう? なら別に構わないわよ」 ルイズはおとなしく再びベッドに横たわる。そして思い出す。今の『普段』という言葉を。 「ごめんね、勝手に召喚したりして」 小さく、だが当麻に聞こえるように呟いた。 「ん? いや謝る程じゃねえーよ。気にすんな」 「きちんと帰る方法探したいけど……どうすればいいのかわかんないの。異世界なんて聞いたことないし」 「俺も異世界なんて聞いたことなかったんだ。なに帰還フラグはまだ残ってるって」 ルイズは、時々当麻の言っている意味がわからない事もあるが、その時はとりあえず話を進めるのが一番である。 「ねぇ、トウマのその右手の力って特別なの?」 「ん? 確かに特別だな。魔法とかに関しては『無敵』に近いからな」 「なんでわたしはゼロのルイズなのかしら……」 「おいおい、それは前に言ったけど――」 「違うの」 ルイズは割り込んだ。 「わたし、いつもダメだって言われた。お父さまにも、お母さまにも、わたしには何にも期待してない。クラスメイトにもバカにされて。ゼロゼロって言われて……。 わたし、ほんとに才能がないの。魔法を唱えても、なんだかぎこちないの。自分でわかってるの。 先生や、お母さまや、お姉さまが言ってた。得意な系統の呪文を唱えると、体の中から何かがうまれて、それが体の中を循環する感じがするんだって。 それはリズムになって、そのリズムが最高潮に達したとき、呪文を完成するんだって。そんなこと、一度もないもの」 ルイズの声がだんだん弱々しく、小さくなった。 「でもわたし、せめて、みんなができることを普通にできるようになりたい。じゃないと、自分が好きになれないような、そんな気がするの」 ルイズ自分の本音を吐き出して落ち込んでしまった。 はぁ……、と当麻はため息を吐くと、頭のスイッチを切り替えした。 「確かにさ、ここでは魔法を使えないのは珍しいのかもしれねえけど。だからって悲観することはないんだぜ?」 え、とルイズは小さく零した。 「例え魔法が使えなくてもさ、おまえは助けを求めてる人に手を差し伸べたじゃねえか」 アンリエッタの時、それがどれだけ危険な任務であったのかわかっていたのにルイズは手を指し伸べた。 「あ、あれは姫さまが言ったから……」 関係ねえよ。と当麻は否定した。 「力がなくても、誰かに力を貸そうとする人間は、誰かが助けようとするもんだ。 自分が幸せになるのが当然だと思わないで、他人が幸せになる事を考えてる人間には、誰かが関わってくれる。少なくとも俺がそんな人間だったら好きになれるぜ?」 それに、ただ馬鹿にしている奴より何倍も素晴らしいはずだ。と当麻は付け加えた。 そういわれると、ルイズもなんとなく自分が少し好きになれた。 フーケの時だってワルドの時だって命懸けで頑張った自分を。 「でもやっぱり魔法は使いたいかも……」 「つか、一つ言うとさ。俺達にもそういうランクがあるんだけど、この能力を持っているが、俺はゼロの扱いを受けてるんだぜ?」 ルイズはさりげなく、喋っている当麻に視線を向けた。 「って事はだ。その四系統だったか? それに属さない特別な力を持っていると考えた方がいいんじゃねーのか?」 たった一人だけが持つ力、響きはいんじゃねーの? と少し茶化した当麻は目をつむっていた。よっぽど今日の仕事は疲れたらしい。 ルイズは口元が緩んでしまった。なるほど、そういう解釈もあるのか、と思うとやっぱり嬉しい。 不思議だった。 なんでこの少年の言葉はこんなにも力があるのだろう? 歳は全く変わらないのに、なんでこんなにも強いのだろう? 自分の考えている問題をどうしてこんなにも簡単に答えちゃうんだろう? 胸が熱くなりながらも、ルイズはずるいと思った。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「えーと、今からやらなきゃダメなの?」 「「ダメ(なの)!!」」 時刻は既に夜の時間、今日の満月はいつも通り二つ。 地球のそれより倍の大きさを持つ為、辺りは街灯がなくともそれなりに明るい。 その中で、当麻はキュルケとルイズの二人から襟を引っ張られていた。 二人は相当怒っているようで、当麻のさりげない質問にも必要以上に大きな声で返してくる。 どうしてまたこんな目に……、と泣きながら呟いていると、 「これが世の定め」 と短くタバサが答えを纏めてくれた。 さて何故このようになったのだろうか? 二人が帰ってきて、当麻が腰に手当て、イタタタタタ、と老人っぽく呻いていた時であった。 突如タバサとキュルケが乱入、普段は静かであろうルイズの部屋(正し、当麻が叱られたあの日は別)が、ちょっとした騒動へと変わる。 当麻は、寝床『ニワトリの巣』(命名ルイズ)からのんびりと二人の口論を聞いていた。 いや、その内容は当麻に関する事だとわかっているのだが、どうにも入れそうな空気ではなかった。 だから、当麻は隣で読書に夢中なタバサに二、三会話をしていると…… 「じゃあトウマに決めてもらいましょうか?」 「えぇ、いいわよ」 「え? 俺ですか?」 まさかここで振られて来るとは思わず、当麻はなんて答えるべきか悩む。 「そうよ、あんたでモメてるんだから」 ルイズとキュルケがグッ、とこちらへと視線を向けて……否、ルイズにいたっては睨んでいる。 さて、と当麻は悩む。 (うーん……、どっちを選んでも不幸だよなやっぱり) どちらを選ぶというよりも、不幸か幸かで選ぶ当麻は、何処までも鈍い奴である。 「どっち?」 いつの間にかキュルケも睨んでいる。悩みに悩んだ当麻が出した結論は…… 「まだフラグの量が少ないのでどっちも選べないなー、テヘッ、でどうですフゴロペッ!?」 言い切る前に、二人は上条のお腹の真ん中に、手加減無しの蹴りを突き刺した。ズボ!! というこの世界で間違いなくとんでもない音と共に、当麻の体がくの字に折れ曲がった。 「ごふっ。し、質問に答えただけなのに……何でこんな不幸な目に」 「自業自得」 タバサの答えに頷く二人。 その後、キュルケが魔法の決闘を提案し、ルイズがそれに了承したのだ。 嫌々している当麻を無理矢理引っ張り続けて数分。 決闘の地――本塔の中庭へとたどり着くまさにその時だった。 轟! という凄まじいな音が辺り一面鳴り響いた。 四人は一瞬何が起きたのかわからず、呆然と立ち尽くした。 が、タバサと当麻はすぐに状況を理解し動き出す。続いてキュルケ、最後にルイズ。 中庭へとたどり着くのに十秒もかからなかった。そして、そこには巨大なゴーレムが、本塔の外壁を破壊している姿があった。 「またゴーレムかよ! つーかでけぇだろおい!」 「多分トライアングルクラスのメイジね、でもおかしいわね。あそこの『固定化』の魔法なら防げるはずなのに……」 ルイズが呟いている間にも、タバサとキュルケはシルフィードに跨がり、魔法を放つ準備に入る。 そんな中、当麻はあー……、と呟いた。 確か初日、まだ『固定化』という魔法を知らなかった時、あそこに触ったような……気がしないでもない。 ていうか昨日も触っちゃったような…… 「………………………………………………」 出したくもない汗が背中にびっしょりとつく。 いやわかってる。あんな事をしてるのはもちろん盗っ人とかのたぐいってのも。 「ルイズ」 「な、何よ」 「援護頼むわ」 覚悟を決めたのか、当麻は走り出す。例え相手がどれだけでかいだろうと、その右手がある限り。 フーケは油断していた。『固定化』の魔法がなぜかかかっていなかった為、余裕で突入出来る状態にしたはいいが、予想外のお客さんが現れたのだ。 尤も、『固定化』の魔法を解除したのも、『剣』を破壊した為その話題が省られて早めに来たのも同じ少年のせいであるが…… それでもフーケには自信があった。相手は学生、このゴーレムに任せれば十分であると。 フーケはゴーレムから離れ、宝物庫へと入って行った。 「うぉぉぉおおおお!」 当麻は駆ける。イマイチ把握出来ないが、とにかく敵を倒す為に。 向こうはこちらの特性を知らない、だからゴーレム一匹で対処出来ると踏んだのだろう。 実際、空からタバサとキュルケが火と風を唱えようと、ルイズが失敗した魔法(小さな爆発)を与えようとビクともしない。 そして、当麻を第一殺害対象と見たのか視線が向けられる。 怖い。それが率直な感想だ。 (でもよ……) 己が唯一の武器、拳を握り締める。 (こっちはこれ以上の敵と戦ってきたんだ――!) ゴーレムの拳が振り下ろされる。自分の十何倍も大きい手が襲い掛かる。 それでも当麻は前に進む。周りから制止の声がかけられるが気にしない。 「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおッ!」 当麻は叫ぶ。何十倍大きいゴーレムに立ち向かう武器(拳)を突き出す。 拳と拳がぶつかり合った。 本来ならばどう考えても当麻に勝ち目のない勝負。 もちろんキュルケもルイズも目をつむる、タバサだけが表情を変える事なく見つめている。 拳と拳が交えた音がしない。ビキッ、と何かに亀裂が入ったような音がした。そう、ギーシュの時と同じように。 ルイズとキュルケが目を開くと、ゴーレムに打ち勝った当麻の姿がいた。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主